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第27回 日本のCOVID-19死亡率が低いのはα1-アンチトリプシンのおかげ?

日本、中国、韓国、タイ、ベトナム、カンボジア、マレーシア等のアジアの国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率が比較的低いことに関心が集まっていますが、理由はいまだ不明です。サハラ以南アフリカのいくつかの国でCOVID-19発症やその死亡率が低いことも注目に値します。おそらくその背景にはSARS-CoV-2の検査が広まっていないことや海外からの入国者が少ないことがあるでしょうが、それぞれの国に特有の遺伝的特徴も寄与しているかもしれません。SARS-CoV-2はヒト細胞のセリンプロテアーゼTMPRSS2の助けを借りて別の細胞表面タンパク質ACE2に結合して細胞に侵入します。セリンプロテアーゼ阻害薬・ナファモスタットやカモスタットはTMPRSS2を阻害することが分かっており、COVID-19患者へのそれら薬剤の臨床試験が進行中です。ヒトの血液中の主なセリンプロテアーゼ阻害タンパク質・α1-アンチトリプシン(AAT)もナファモスタットやカモスタットと同様にTMPRSS2を阻害することが最近の研究で確認されています1)。遺伝子変異のせいでAATが乏しい人が多いイタリアのロンバルディ地域ではCOVID-19感染率が高く2)、AAT欠乏の人の割合とCOVID-19感染率が関連するのではないかと考えられています。そこでイスラエルのテルアビブ大学の研究者3人は67ヵ国のデータを使い、AAT欠乏を招く一般的な遺伝子変異とCOVID-19流行の関連を世界規模で調べてみました。その結果イタリアでの疫学データと同様の傾向があり、AAT欠乏変異保有者が多い国ほどCOVID-19死亡率が高く、逆に少ない国ほどCOVID-19死亡率が低い事が示されました3,4)。たとえばスペインはCOVID-19死亡率が高く、100万人あたり640人がCOVID-19で死亡しており、1,000人あたり17人がPiZという主たるAAT欠乏変異を有していました。イタリアも同様で、100万人あたり620人がCOVID-19で死亡し、1,000人あたり13人に変異がありました。一方、COVID-19死亡率が世界で最も低い国々の一つ日本のPiZ変異保有は無視できるほど少なく、COVID-19死亡率はスペインの71分の1の100万人あたり9人です。興味深いことに、日本でCOVID-19が少ないことやCOVID-19重症化阻止との関連が示唆されているBCGワクチン接種は血中のAATを増やします5)。AATは抗ウイルス作用に加えて抗炎症作用もあります。副腎皮質ステロイド(コルチコステロイド)・デキサメタゾンはCOVID-19入院患者の死亡を防ぐことが示されていますが、AATの抗炎症作用はどうやら副腎皮質ステロイドの上を行きます6)。AATが生理濃度でヒト気道上皮へのSARS-CoV-2感染を阻害することも確認されており7)、COVID-19患者への吸入AAT投与の臨床試験(NCT04385836)8)がサウジアラビアで進行中です。参考1)Alpha 1 Antitrypsin is an Inhibitor of the SARS-CoV2-Priming Protease TMPRSS2. bioRxiv. May 05, 20202)Vianello A,et al. Arch Bronconeumol. 2020 Sep;56:609-610. 3)Shapira G, et al. FASEB J. 2020 Sep 22.4)Carriers of two genetic mutations at greater risk for illness and death from COVID-19 / Eurekalert 5)Cirovic B, et al. ell Host Microbe. 2020 Aug 12;28:322-334.e5. [Epub ahead of print]6)Schuster R,et al. Cell Immunol. 2020 Oct;356:104177.7)Alpha-1 antitrypsin inhibits SARS-CoV-2 infection. bioRxiv. July 02, 2020. 8)Trial of Alpha One Antitrypsin Inhalation in Treating Patient With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)(ClinicalTrials.gov)

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初回エピソード統合失調症の治療開始の遅延に対する患者の性格や家族の影響

 統合失調症では、精神疾患の未治療期間が重要な予後の指標である。韓国・全南大学校のAnna Jo氏らは、統合失調症の治療開始の遅延に対する患者の性格や家族関係の影響について調査を行った。Early Intervention in Psychiatry誌オンライン版2020年9月2日号の報告。 初回エピソード統合失調症と診断された患者169例より、データをプロスペクティブに収集した。患者の性格はビッグファイブ性格尺度(BFI-10)を用いて調査し、家族関係は家族機能測定尺度(FACES-III)を用いて評価した。患者の臨床的特徴を評価するため、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)および社会的職業的機能評定尺度(SOFAS)を用いた。未治療期間の定義は、精神症状の最初の出現から適切な抗精神病薬治療の開始までの時間とした。対象患者は、未治療期間3ヵ月(カットオフ中央値)で2つのグループに分類した。主な結果は以下のとおり。・未治療期間は、平均12ヵ月、中央値3ヵ月であった。・未治療期間の長さは、年齢の高さ、PANSSスコアの高さ、SOFASスコアの低さと関連が認められた。・自殺企図の頻度は、未治療期間が長い患者群で高くなる傾向が認められた(p=0.055)。・未治療期間が長い患者では、BFI-10の誠実性が有意に高く、FACES-IIIの凝集性と適応性が有意に低かった。・ロジスティック回帰では、未治療期間が長いほど、BFI-10における高レベルの誠実性、FACES-IIIにおける凝集性の低さとの有意な関連が認められた。 著者らは「未治療期間の長さは、家族の凝集性の低さや患者の誠実性の高さと関連していることが示唆された。精神症状が発現した際、患者のメンタルヘルスサービスへのアクセスに関して、家族が重要な役割を果たしているであろう」としている。

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心停止状態での搬送、現場蘇生法継続に比べ生存退院率が低い/JAMA

 院外心停止(OHCA)患者の心停止状態での搬送は、現場での蘇生法継続に比べ退院時の生存割合が低く、神経学的アウトカムも不良であることが、カナダ・St. Paul's HospitalのBrian Grunau氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年9月15日号に掲載された。救急医療システム(EMS)におけるOHCA患者の蘇生処置中の病院搬送に関しては、さまざまな見解が存在する。蘇生法を施行中の心停止状態での搬送が、現場での継続的な蘇生法の実施と比較して有益性が高いか否かは明らかにされていないという。北米10施設のレジストリのデータを解析 研究グループは、北米の10施設が参加した地域住民ベースの前向きレジストリのデータを用いて、心停止状態での搬送と現場での蘇生法継続による転帰の改善効果を比較した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 Resuscitation Outcomes Consortium(ROC)Cardiac Epidemiologic Registryから、EMSによる治療を受けた非外傷性の成人OHCA患者のデータを前向きに、連続的に収集した。登録期間は2011年4月~2015年6月で、フォローアップは退院または死亡まで実施された。 心停止状態で搬送された患者(曝露群)と、同時期に難治性の心停止(心停止状態での搬送のリスクがある)を発症した患者(非曝露群)を、時間依存性の傾向スコアを用いてマッチさせ、心停止状態での搬送(心拍再開[ROSC]前に開始された搬送と定義)と、現場での蘇生法継続を比較した。 主要評価項目は退院時の生存とし、副次評価項目は退院時の良好な神経学的アウトカム(修正Rankin尺度<3点)であった。傾向マッチの退院時生存:4.0% vs.8.5%、良好な神経学的アウトカム:2.9% vs.7.1% 4万3,969例が解析に含まれた。年齢中央値は67歳(IQR:55~80)、37%が女性であった。 86%は私的な場所で心停止を発症し、49%は現場にバイスタンダーまたはEMSによって目撃され、22%はショック適応で、97%は院外で2次救命処置を受けた。1万1,625例(26%)が心停止状態で搬送され、3万2,344例(74%)はROSC達成または蘇生法が終了するまで現場で処置を受けた。 全体の退院時生存割合は、心停止搬送群が3.8%、現場蘇生法群は12.6%であった(リスク差:-8.8%、95%信頼区間[CI]:-8.3~-9.3)。傾向マッチコホート(2万7,705例)の退院時生存割合は、心停止搬送群(9,406例)が4.0%、現場蘇生法群(1万8,299例)は8.5%であった(リスク差:-4.6%、95%CI:-5.1~-4.0)。 良好な神経学的アウトカムの達成割合は、全体(心停止搬送群2.6% vs.現場蘇生法群10.2%、リスク差:-7.6%、95%CI:-8.2~-7.0)および傾向マッチコホート(2.9% vs.7.1%、-4.2%、-4.9~-3.5)のいずれにおいても、心停止搬送群で低かった。 傾向マッチコホートのサブグループ解析では、ショック適応(リスク比:0.55、95%CI:0.45~0.68)、ショック非適応(0.63、0.53~0.74)、EMS目撃(0.58、0.50~0.66)、EMS非目撃(0.32、0.25~0.41)の心停止患者のすべてで、心停止搬送群は現場蘇生法群よりも退院時生存割合が低かった。 著者は、「これらの知見は、院外心停止患者に蘇生処置を施行しながらの病院への搬送を、ルーチンに行うことを支持しない。観察研究デザインの潜在的な交絡の存在により、これらの結果は限定的なものとなる」としている。

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NSTEMIは、高齢者だからこそ積極的に治療を!(解説:中川義久氏)-1287

 皆さんもご存じのように、急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は、不安定狭心症(unstable angina:UA)、非ST上昇型心筋梗塞(Non ST-segment elevation myocardial infarction:NSTEMI)、ST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)の3つに分類される。可能な限り早急なprimary PCIが有効なSTEMIに対して、NSTEMIでは治療のタイミングについて判断が必要である。PCI施行を含む積極的な治療を施行するタイミングは2つに大別される。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し侵襲的治療のルーチンとしての実施を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。TIMIリスクスコアやGRACE ACSリスクモデルなどの、リスク評価法に基づいて治療戦略を決定することが推奨されている。このように選択肢がある中でも、早期に侵襲的治療を施行する有用性が高いとの報告が増加していた。しかし、高齢者はこれらのエビデンスを構築するための臨床試験から除外されることが常であり、明確な方針は明らかではなかった。 80歳以上のNSTEMI患者においても、侵襲的治療が非侵襲的治療と比べて優れていることを示した「SENIOR-NSTEMI試験」の結果が、Lancet誌2020年8月29日号に掲載された。累積5年死亡率は、侵襲的治療で36%、非侵襲的治療55%と、ハザード比:0.68、(95%CI:0.55~0.84)で侵襲的治療戦略が有意に優れていた。さらに、侵襲的治療は、心不全による入院発生頻度も有意に低下させていた。5年時の死亡を3割以上も減少させる意義は大きい。高齢者だからこそ積極的な戦略をとるべきともいえ、高齢者であれば保存的治療が一番という安易な選択を戒めるものであろう。 この試験はランダマイズ研究ではなく、日常の診療のデータを登録した中から、プロペンシティ・スコア(傾向スコア)を用いて解析している。ここでプロペンシティ・スコア解析を復習しよう。多変量解析の1つである、ロジスティック回帰法を用いて全患者に対して、その患者が侵襲的治療を受ける確率を計算する。この確率の値が、「プロペンシティ・スコア」であり0から1の間の数値をとる。侵襲的治療を受ける確率が同じ「0.6」という値であっても、実際には侵襲的治療を受けた患者も存在すれば、非侵襲的治療を受けた患者も存在する。これをペアにして比較することによって、あたかも患者をランダマイズしたかのように背景因子をそろえて比較することができる。「SENIOR-NSTEMI試験」のmethodには興味深い記載がある。侵襲的治療を受ける確率が非常に高い患者と、非常に低い患者は、解析から除外したというのだ。議論の余地なく、誰がみても侵襲的治療が良いと思われる患者が存在することを事前に了解しているのである。逆に、誰がみても侵襲的治療がそぐわない患者の存在も同様に認定している。この試験の結果から侵襲的治療が優れているという結論が導かれたように思う方もいるかもしれないが、この試験を実施するまでもなく、侵襲的治療に適した患者や、適していない患者が存在するのである。 ランダマイズ試験では、いずれかの治療に割り付けられれば従わねばならない。このため、どちらの選択肢に割り付けられても支障の少ない患者が多く参加する。ある治療法が適していると皆が考える患者の参加は少ない。このようにランダマイズ試験の弱点もあることを知る必要がある。高齢者という、ランダマイズ試験の難しい患者であるからこそ、プロペンシティ・スコア解析の意義を感じた「SENIOR-NSTEMI試験」であった。

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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外傷性脳損傷への入院前トラネキサム酸投与開始は有益か/JAMA

 中等度~重度の外傷性脳損傷(TBI)患者において、受傷2時間以内の入院前トラネキサム酸投与は、プラセボ投与と比較して6ヵ月後の神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedで測定)を有意に改善しないことが示された。米国・オレゴン健康科学大学のSusan E. Rowell氏らが、米国とカナダの外傷センターおよび救急医療機関で行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した。TBIは、外傷性の死亡および障害をもたらすが、早期のトラネキサム酸投与がベネフィットをもたらす可能性が示唆されていた。JAMA誌2020年9月8日号掲載の報告。受傷2時間以内のトラネキサム酸投与開始の有益性を対プラセボで評価 研究グループは、中等度~重度TBI患者において、受傷2時間以内に院外にて開始するトラネキサム酸治療が、神経学的アウトカムを改善するかを検討した。試験は2015年5月~2017年11月に、米国およびカナダの外傷センター20ヵ所と救急医療機関39ヵ所で実施した。 適格患者は、Glasgow Coma Scaleスコア12以下および収縮期血圧90mmHg以上である15歳以上のTBI入院前患者(1,280例)で、受傷2時間以内に治療を開始する以下の3つの介入について評価した。(1)入院前にトラネキサム酸(1g)をボーラス投与し、入院後に同薬を8時間点滴投与(ボーラス継続群、312例)、(2)入院前にトラネキサム酸(2g)をボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(ボーラスのみ群、345例)、(3)入院前にプラセボをボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(プラセボ群、309例)。 主要アウトカムは、両トラネキサム酸投与群とプラセボ群を比較した、6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedスコア4超[中等度障害または良好な回復])であった。非対称有意性の閾値は、有益性が0.1、有害性は0.025とした。 副次エンドポイントは18項目で、本論ではそのうち5つ(28日死亡率、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア[0:障害なし~30:死亡]、頭蓋内出血の進行、発作の発生、血栓塞栓症イベントの発生)を報告している。6ヵ月時の良好な神経学的アウトカム、トラネキサム酸群65% vs.プラセボ群62% 主要解析に包含された1,063例のうち、割り付け治療が行われなかった96例とその他1例(登録時に収監)が除外され、解析集団は966例(平均年齢42歳、男性255例[74%]、平均Glasgow Coma Scaleスコア:8)であった。このうち819例(84.8%)について、6ヵ月フォローアップ時に主要アウトカム解析のデータが入手できた。 主要アウトカムの発生は、トラネキサム酸群65%、プラセボ群62%であった(群間差:3.5%、有益性に関する90%片側信頼区間[CI]:-0.9%[p=0.16]、有害性の97.5%片側CI:10.2%[p=0.84])。 副次エンドポイントの28日死亡率(トラネキサム酸群14% vs.プラセボ群17%、群間差:-2.9%[95%CI:-7.9~2.1]、p=0.26)、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア(6.8 vs.7.6、-0.9[-2.5~0.7]、p=0.29)、頭蓋内出血の進行(16% vs.20%、-5.4%[-12.8~2.1]、p=0.16)について、有意差はみられなかった。

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EGFR変異肺がんに新規抗HER3抗体薬物複合体U3-1402が有望/ESMO2020

 濃厚な治療歴を有するEGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、HER3を標的とする抗体薬物複合体(ADC)が、臨床的に意義のある効果と管理可能な安全性を示した。この第I相試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのHelena A. Yu氏より発表された。・対象:EGFR変異陽性の転移を有するNSCLC患者57例(用量漸増パートから12例+用量拡大パートから45例)。PSは 0〜1・試験群:Patritumab Deruxtecan(U3-1402)を用量漸増パートでは3.2mg/kg~6.4mg/kg、用量拡大パートでは5.6mg/kgを3週間ごと点滴・評価項目:[主要評価項目]抗腫瘍効果(盲検下中央判定での奏効率、奏効期間など)[副次評価項目]安全性と忍容性 主な結果は以下のとおり。・症例の年齢中央値は65歳、女性が63%、アジア人が47%、白人が44%だった。脳転移も47%の症例で認められた。・前治療ライン数の中央値は4。全員がEGFR TKIの治療を受けており(オシメルチニブ86%含む)、90%でプラチナ化学療法が、40%で免疫チェックポイント阻害薬の投与歴があった。・追跡期間中央値は5ヵ月で全奏効率25%(CR 2%、PR 23%)、3例の未確定PR例があった。・病勢コントロール率は70%、奏効期間中央値は6.9ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TEAE)は、血小板減少28%、好中球減少19%、倦怠感9%、貧血9%であった。・TEAEによる治療中止は9%で、その要因は、倦怠感、食欲低下、間質性肺疾患、肺臓炎などであり、治療関連死はなかった。 最後に演者は「この抗HER3の新規ADCはEGFR C797S変異、MET増幅、HER2変異、BRAF融合、PIK3CA変異などのさまざまなEGFR-TKI耐性にも有効性を示した。次の第II相試験も計画されている」と結んだ。

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直腸が爆発した1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第171回

直腸が爆発した1例pixabayより使用肛門のケガについては、過去にイノシシに突き破られた1例を紹介したことがありました。(参考記事:【第156回】イノシシに肛門を突き破られた男性)しかししかーし、世の中にはもっと不思議な肛門外傷が存在するもので。論文のタイトルは、「直腸爆発」!!比喩でもなんでもなく、本当に爆発した症例がチェコから報告されました。Hejna P, et al.Rectal explosion: a strange case of autoerotic death.Int J Legal Med. 2020 Jun 26. doi: 10.1007/s00414-020-02344-7.これは、性的倒錯によって肛門に致死的な外傷を負った35歳男性の症例報告です。ある日、彼は空気を入れることができるゴムストッパー(長い風船のようなもの)を肛門に入れました。ここまではよくある肛門異物。ここで取り出せなくなって救急搬送されるケースがあるわけですが、彼は一味違います。彼は自動的に空気が出てくる空圧システムにそのゴムストッパーを接続し、だんだんゴムが膨らむようにしたのです。空気を出し続け、膨らむゴムストッパー。当然ながら肛門は次第に悲鳴を上げ始めます。そして……そして……、とうとう直腸が爆発しました!いやぁぁぁぁあ!!直腸がバルーンの圧に耐えられず、ボカンと破裂したのです。肛門周囲の爆発により、大量出血を来し、救急搬送されるまでもなく、彼は死亡することとなりました。生前、彼はインターネットで異常性癖に関するウェブサイトにいろいろな投稿をしており、今回の1件も自分なりに考えて快楽を求めた結果だったのかもしれません。快楽を求めて死に行き着くなんて、一体何がどうなっているのか……。ご冥福をお祈りします。

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第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響はQ1 高齢者の肥満、若年者とはちがう特徴とは?最近、高齢糖尿病患者でも肥満症が増えています。我が国の65歳以上の高齢糖尿病患者でBMI 25㎏/m2以上の頻度は2000年から2012年で28.4%から33.0%に増加したという報告もあります1)。こうした高齢者の肥満症の増加は1)加齢に伴う身体活動量の低下2)基礎代謝量の低下3)高齢者の食習慣の欧米化などが関係しているのでないかと思われます。高齢者の肥満症にはいくつかの特徴があります。加齢とともに内臓脂肪は増加し、除脂肪量(骨格筋量)が低下するという体組成の変化が起こり、BMI高値を伴わない腹部肥満、いわゆる隠れ肥満やメタボリックシンドロームが増加します。また、高齢者のBMIは体脂肪量を正確に反映しないことがあります。身長が低下することで、BMIは見かけ上増加することもあります。したがって、高齢者の肥満症の評価にはBMIだけでなく、ウエスト周囲長も測ることが大切です。ウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比の高値の方がBMIよりも死亡のリスクの指標となることも知られています。また、高齢期の肥満症では死亡や心血管疾患のリスクが逆に減少するというobesity paradoxがみられる場合があります。これは、BMI低値の方が悪性疾患、サルコペニア、慢性感染症などの併存疾患によるリスクが増加することで、BMI高値におけるリスクが相対的に小さくなることが原因として考えられます。加齢とともに、肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増えます2)。サルコペニア肥満は糖尿病やメタボリックシンドロームの発症リスクも高いので、高齢者糖尿病でも注意すべきです。サルコペニア肥満では筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性、炎症、ビタミンD低下などが骨格筋量や筋力の減少をもたらし、身体機能低下をきたすと考えられ考えられています。サルコペニア肥満は、単なる肥満症と比べ、フレイル、ADL低下、転倒、骨粗鬆症、認知機能低下、および死亡をきたしやすいことが特徴です3)。サルコペニア肥満の定義は定まっていませんが、肥満の方は体脂肪%、ウエスト周囲長などで定義しています。われわれの調査では高齢糖尿病患者におけるDXA法による四肢骨格筋量と体脂肪量で定義したサルコペニア肥満の頻度は16.7%という結果でした2)。Q2 高齢者の肥満は身体機能や認知機能、死亡にどのような影響を及ぼしますか?高齢者のBMI 30kg/m2以上の肥満や腹部肥満は、ADL低下、歩行困難、フレイル、易転倒性などの身体機能低下と関連しています。Study of Osteoporosis Fracturesにおける高齢糖尿病患者でも家事や2~3ブロックの歩行が約2~2.5倍障害されると報告されています4)。また、高齢糖尿病患者がフレイルをきたしやすいことも腹部肥満によって一部説明できると報告されています5)。BMI 25kg/m2以上の肥満がある糖尿病患者では複数回の転倒を約3.5倍起こしやすくなります6)。とくにインスリン治療と過体重が重なると、何度も転倒しやすいとされています。中年期の肥満は認知症発症リスクになりますが、高齢期の肥満は認知症発症リスクに抑制的に働くことが知られています。しかしながら、高齢者の肥満患者の体重変化と認知症発症とはJカーブの関連が見られ、体重減少と体重増加の両者がリスクとなっています(図1)。画像を拡大する高齢糖尿病患者でも、BMI低値、体重減少(10%以上)と体重増加(10%以上)が認知症発症の危険因子であると報告されています7)。高齢糖尿病患者ではそれ自体が認知症発症のリスクですが、認知症発症のリスクとなる4つの肥満の中で、体重減少を伴った高齢者の肥満、メタボリックシンドローム(腹部肥満)、サルコペニア肥満に注意する必要があります(図2)。画像を拡大する一方、12の論文のメタ解析により、生活習慣の改善による意図的な体重減少は記憶力と注意力・遂行機能を改善することが明らかになっています8)。 Look Ahead研究では高齢者を含む2型糖尿病患者でもエネルギー制限と運動療法による介入によって、過体重の患者で認知機能の改善が見られています9)。糖尿病初期の肥満症患者を対象にリラグルチド1.8㎎/日を4ヵ月間投与した介入群と対照群で認知機能の変化を検討したRCTでは、両群とも7%の体重減少が得られたが、リラグルチド投与群では短期記憶と記憶複合スコアの有意な増加を認めたと報告されています10)。減量自体の効果よりも、GLP-1の脳のブドウ糖代謝の改善、可溶性AβによるIRS-1のセリンのリン酸化阻害によるインスリン情報伝達障害の改善などによる認知機能の改善効果の可能性もあります。いずれにせよ、高齢者の肥満症の患者では体重減少が意図的か否かに注意する必要があります。高齢糖尿病患者における肥満症と心血管疾患の発症や死亡に関しては、一致した結果が得られていません。肥満症合併の高齢糖尿病患者を対象に生活習慣改善と体重減少の介入を行ったLook AHAED研究では心血管疾患発症の減少は見られなかったと報告されています11)。我が国のJDCS研究とJ-EDIT研究の糖尿病患者のプール解析では、BMI 18.5未満の群で死亡リスクが上昇し、BMI 25㎏/m2以上の群では死亡リスクは増加していませんでした12)。とくに75歳以上ではBMI18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べてさらに高くなり、最も死亡リスクが低いBMIは25前後となりました。すなわち、低栄養による死亡リスクの方が増加し、肥満による死亡リスクが相対的に低下したと考えられます。1)Miyazawa I, et al. Endocr J. 2018;65:527-536.2)荒木 厚、周赫英、森聖二郎:日本老年医学会雑誌.2012;49:210-213.3)Batsis JA, et al. J Am Geriatr Soc. 2013;61:974-980.4)Gregg EW, et al. Diabetes Care. 2002; 25: 61-67.5)Volpato S, et al. J Gerontol A BiolSci Med Sci.2005; 60: 1539-1545.6)García-Esquinas E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16:748-754.7)Nam GE, et al. Diabetes Care. 2019;42:1217-1224.8)Siervo M, et al. Obes Rev. 2011;12:968-983.9)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:1101-1108.10)Vadini F, et al. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44:1254-1263.11)Wing RR, et al. N Engl J Med. 2013;369:145-154.12)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 99: E2692-2696, 2014.

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禁煙と睡眠障害との関係

 喫煙と睡眠障害は密接に関連しているといわれている。スウェーデン・ウプサラ大学のShadi Amid Hagg氏らは、睡眠障害が禁煙の予測因子であるか、喫煙の継続が睡眠障害の発症と関連しているかについて、検討を行った。Respiratory Medicine誌2020年8~9月号の報告。睡眠障害の治療には禁煙プログラムの導入を検討すべき 北欧の男女を対象に、1999~2001年にランダムにアンケートを実施し(RHINE II)、その後2010~12年にフォローアップのアンケートを実施した(RHINE III)。ベースライン時に喫煙者であり、フォローアップ時に喫煙に関するデータを提供した2,568人を分析した。不眠症は、3回/週以上の入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒の発現と定義した。オッズ比(OR)の算出には、多重ロジスティック回帰分析を用いた。 睡眠障害が禁煙の予測因子であるか、喫煙の継続が睡眠障害の発症と関連しているかについて検討した主な結果は以下のとおり。・年齢、BMI、pack-years、高血圧症、糖尿病、慢性気管支炎、鼻炎、喘息、性別、BMI差で調整した後、長期禁煙を達成する可能性が低かった因子は以下のとおりであった。 ●入眠障害(調整OR:0.6、95%CI:0.4~0.8) ●中途覚醒(調整OR:0.7、95%CI:0.5~0.9) ●早朝覚醒(調整OR:0.6、95%CI:0.4~0.8) ●不眠症(調整OR:0.6、95%CI:0.5~0.8) ●日中の過度な眠気(調整OR:0.7、95%CI:0.5~0.8)・いびきと禁煙には、有意な関連が認められなかった。・ベースライン時に睡眠障害でない人では、喫煙を継続すると、フォローアップ中に禁煙した人と比較し、入眠困難リスクの増加が認められた(調整OR:1.7、95%CI:1.2~2.3)。 著者らは「不眠症状や日中の過度な眠気は、禁煙にマイナスに働くと考えられる。また、喫煙は、入眠障害のリスク因子であることが示唆された。睡眠障害の治療には、禁煙プログラムの導入を検討すべきである」としている。

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免疫療法、胃/食道がんに有望な成績/ESMO2020

 欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)において、胃がん食道がんに対する免疫療法の有益性を示す新たなデータが報告された。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が、2020年9月21日に発表している。CheckMate-649 CheckMate-649試験は 、HER2陰性の進行胃・胃食道接合部がん、食道がん(すべて腺がん)の 1次治療において、ニボルマブ+化学療法と化学療法単独を比較した試験。結果、PD-L1陽性(CPS≧5)の患者において、ニボルマブ+化学療法 は全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を改善した。 ATTRACTION-4  ATTRACTION-4は、アジアの患者のみを対象にしたこと、 主要エンドポイントが全集団である点を除き、CheckMate 649試験に近い研究である。結果、ニボルマブ+化学療法の1次治療は複合評価項目の1つであるPFSを改善したが、OSの改善は確認されなかった。KEYNOTE-590 KEYNOTE-590は、食道扁平上皮がん、食道腺がん、またはSiewert1型胃・食道接合部腺がんの1次治療における化学療法+ペンブロリズマブの有用性を評価した試験。結果、ペムブロリズマブ+化学療法は、CPS≧10の食道扁平上皮がんのOSを改善し、全食道扁平上皮がん、CPS≧10の全集団、全試験集団ではPFSも改善した。  当試験において、腺がん患者は少なく、腺がんのサブグループは探索的分析であるが、OS中央値は11.6ヵ月対9.9ヵ月(HR:0.74)、PFS中央値は6.3ヵ月対5.7ヵ月(HR:0.63)であった。 腺がんサブグループにおいても全集団と同じく、OSとPFSの改善が示された。

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統合失調症に対する抗精神病薬の維持療法

 統合失調症の症状や徴候は、脳の辺縁系に代表される特定の領域における高レベルのドパミンと関連している。抗精神病薬は、脳内のドパミン伝達をブロックし、統合失調症の急性症状を軽減させる。本レビューの元となる2012年発表のレビューでは、抗精神病薬が再発防止にも有効であるか調査された。今回、イタリア・ブレシア大学のAnna Ceraso氏らは、統合失調症患者に対する抗精神病薬の維持療法の効果について、薬剤を中止した場合と比較し、検討を行った。The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2020年8月11日号の報告。 臨床試験を含むコクラン統合失調症グループのレジストリより検索した(2008年11月12日、2017年10月10日、2019年9月11日)。統合失調症または統合失調症様精神疾患の患者を対象とし、抗精神病薬とプラセボによる維持療法の比較を行ったすべてのランダム化比較試験(RCT)を選択した。独立してデータを抽出した。2値データの場合、ランダム効果モデルに基づくITT分析により、リスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。連続データの場合、ランダム効果モデルに基づき、平均差(MD)または標準化平均差(SMD)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、抗精神病薬とプラセボを比較したRCT 75件(9,145例)を含めた。・1959~2017年に公開された研究で、対象者の規模は14~420例の範囲であった。・多くの研究において、ランダム化、割り付け、盲検化の手法は、あまり報告されていなかった。また、分析をバイアスリスクが低い研究に限定した場合でも、同様の結果であった。・これらの潜在的なバイアスにより全体的な研究の質は限定されたが、統合失調症の維持療法に対する抗精神病薬の有効性は明らかであった。・抗精神病薬の維持療法は、プラセボと比較し、7~12ヵ月の再発予防に効果的であった(再発率:24% vs.61%、30 RCT、4,249例、RR:0.38[95%CI:0.32~0.45]、NNTB[number needed to treat for an additional beneficial outcome]:3[95%CI:2~3]、エビデンスの確実性:高い)。・入院リスクは、ベースライン時が低リスクであったものの、プラセボと比較し減少が認められた(入院率:7% vs.18%、21 RCT、3,558例、RR:0.43[95%CI:0.32~0.57]、NNTB:8[95%CI:6~14]、エビデンスの確実性:高い)。・抗精神病薬の維持療法よりもプラセボのほうが、すべての原因による治療中止(7~12ヵ月時点の中止率:36% vs.62%、24 RCT、3,951例、RR:0.56[95%CI:0.48~0.65]、NNTB:4[95%CI:3~5]、エビデンスの確実性:高い)および効果不十分による治療中止(7~12ヵ月時点の中止率:18% vs.46%、24 RCT、3,951例、RR:0.37[95%CI:0.31~0.44]、NNTB:3[95%CI:3~4])が多かった。・抗精神病薬の維持療法は、QOL(7 RCT、1,573例、SMD:-0.32[95%CI:-0.57~-0.07]、エビデンスの確実性:低い)および社会的機能(15 RCT、3,588例、SMD:-0.43[95%CI:-0.53~-0.34]、エビデンスの確実性:中程度)に対しても良好な影響を及ぼす可能性がある。・不十分なデータではあるものの、プラセボと比較し、自殺による死亡(0.04% vs.0.1%、19 RCT、4,634例、RR:0.60[95%CI:0.12~2.97]、エビデンスの確実性:低い)および就労の割合(9~15ヵ月の就労率:39% vs.34%、3 RCT、593例、RR:1.08[95%CI:0.82~1.41]、エビデンスの確実性:低い)についての差は認められなかった。・抗精神病薬の維持療法は、薬剤や期間に関係なく、運動障害(1つ以上の運動障害:14% vs.8%、29 RCT、5,276例、RR:1.52[95%CI:1.25~1.85]、NNTH[number needed to treat for an additional harmful outcome]:20[95%CI:14~50])、鎮静(8% vs.5%、18 RCT、4,078例、RR:1.52[95%CI:1.24~1.86]、NNTH:50[95%CI:有意差なし])、体重増加(9% vs.6%、19 RCT、4,767例、RR:1.69[95%CI:1.21~2.35]、NNTH:25[95%CI:20~50])の発生率がプラセボよりも高かった。 著者らは「統合失調症患者に対する抗精神病薬の維持療法は、約2年間のフォローアップ調査において、プラセボよりもはるかに高い再発予防効果が示唆された。ただし、この効果と副作用のバランスを検討する必要がある。今後の研究によって、薬剤に関連する長期的な副作用発現率や死亡率をより明らかにする必要がある」としている。

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論文執筆した若手医師には超特急対応で応援だ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第28回

第28回 論文執筆した若手医師には超特急対応で応援だ!初めて何とか英語で書いた論文原稿を、指導してくださる先輩医師に手渡した時の緊張感は今も忘れられません。論文といっても症例報告です。興味深い経過をとった担当例があり、生意気にも症例報告したいと志願したのです。先輩医師もサポートを快諾してくれました。1日に1行書くことを自らへの課題として執筆しました。英語を書くのは大変な苦労を伴います。「なるべく早く目を通しておくから」そう言って受け取ってくれました。その10分後に廊下で出会ったときには、もう修正を完了した原稿が返ってくるのではないかとドキドキしている自分がいました。その翌日の朝です。「少し手直ししておいたからね」「ありがとうございます」見事に赤ペンが入り、ことごとく修正されています。自分の書いた英語らしきものは、英語に変身していました。論旨も明確になり、何より半分近くに短くなっています。疑問点やコメントも記されています。何と、24時間もかからずに返ってきたのです。そんな短時間で完了する修正作業でないことは明白です。昨夜は遅くまで、もしかすると徹夜で読みこんで修正してくださったのかもしれません。ありがたいことです。自分もこのスピード感に応える以外にありません。翌朝には、再修正版の原稿を手渡しました。何度かのやりとりの後に、完成版ができあがり投稿です。メールが普及する前の時代ですから、国際郵便での「submission:投稿」です。ちゃんと届くいてれよ! 待つこと1ヵ月半、「revise:修正」の返事でした。この返事が届くまでの時間は、無限にも感じられました。「reject:却下」でないだけでも感謝すべき祝報なのですが、当時の自分は生意気にも、修正すべきという編集部からの返答に憤っていました。若さゆえと恥ずかしく思い起こされます。ここからの修正作業にも先輩の力添えをいただき、見事に「accept:採択」され、「publication:出版」されました。紙媒体として届いた英文の別刷を見た時の感激は言いようのないものでした。「Author:著者」としてローマ字で書かれた自分の名前が輝いているようでした。人生の紆余曲折を経て、不思議なことに若手医師から論文原稿を手渡される立場になりました。手渡しではなくメールですが、その若手の心情は痛いほど伝わってきます。自分が受けた先輩からの御恩を、次世代の医師に返さなければなりません。最優先事項として手直し作業に着手します。24時間以内は無理でも、数日内には修正したものを返却したいところです。とくに初めての英語論文の執筆者には、超特急のレスポンスが肝要です。ここで待たせるようでは、育つべき人材も芽が出ません。待たせていけません。人間は期待して待つときには時間を長く感じます。英文の医学雑誌に投稿しようとすると、要項には「impact factor」だけでなく、必ず「submission to first decision」つまり、投稿から最初の掲載可否の判断までの平均の日数が記載されています。投稿してから返事が来るまでの時間は長く感じるのです。待つことが苦手なのは洋の東西を問わないようです。世界中の医学雑誌の中でも頂点に位置するNEJM誌は、「reject:却下」の場合には1週間以内で返答があります。たとえダメでも短時間で決着するのならば挑戦してみようと、良い投稿が集中する仕組みです。膨大な投稿量の論文を読みこむ編集部の医学的な判断力は賞賛に値します。誰でも待たされることにはイライラします。病院を受診する際にイライラしながら待っている人は大勢います。部下からの報告を待ってイライラしている人もいます。論文、それも英語論文を執筆しようという者には、イライラ感を持つことが無いように応援してあげたいものです。イライラせずに待つことができる素晴らしい生き物が猫様です。いつも慌てず泰然自若としています。野生時代の猫は獲物を確実に捕まえられるように、機会をうかがってじっと待っていたそうです。飼い猫は、飼い主を待っていれば期待に応えてくれることを知っています。遊んでほしい、甘えたい、キャットフードが欲しい、いろいろの期待で一杯です。上目遣いにいじらしい姿で待つ猫には、つい優しくしてしまいます。では、猫に邪魔される前に、若手の英語論文の修正作業に取り掛かることにします。

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高齢入院患者のせん妄予防に対する薬理学的介入~メタ解析

 入院中の高齢患者に対するせん妄予防への薬理学的介入の効果について、スペイン・Canarian Foundation Institute of Health Research of Canary IslandsのBeatriz Leon-Salas氏らがメタ解析を実施し、包括的な評価を行った。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2020年9~10月号の報告。 2019年3月までに公表された、65歳以上の入院患者を対象としたランダム化比較試験を、MEDLINE、EMBASE、WOS、Cochrane Central Register of Controlled Trialsの電子データベースよりシステマティックに検索した。事前に定義した基準を用いて研究を抽出し、それらの方法論的な質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・各データベースより抽出された1,855件から重複を削除し、1,250件の評価を行った。・メタ解析には、以下の25件のランダム化比較研究が含まれた。 ●抗てんかん薬(1件、697例) ●抗炎症薬(2件、615例) ●抗精神病薬(4件、1,193例) ●コリンエステラーゼ阻害薬(2件、87例) ●催眠鎮静薬(13件、2,909例) ●オピオイド(1件、52例) ●向精神薬・認知機能改善薬(1件、81例) ●抑肝散(1件、186例)・プラセボや通常ケアと比較し、せん妄の発生率を減少させた薬剤は、以下のとおりであった。 ●オランザピン(RR:0.36、95%CI:0.24~0.52、k=1、400例) ●リバスチグミン(RR:0.36、95%CI:0.15~0.87、k=1、62例) ●デクスメデトミジン(RR:0.52、95%CI:0.38~0.71、I2=55%、k=6、2,084例) ●ラメルテオン(RR:0.09、95%CI:0.01~0.64、k=1、65例)・デクスメデトミジンのみが、せん妄期間の短縮(0.70日短縮)、抗精神病薬の使用量低下(48%)と関連が認められた。・死亡率、有害事象、尿路感染症、術後合併症への影響は認められなかった。 著者らは「本メタ解析では、デクスメデトミジンが入院中の高齢患者におけるせん妄の発生率減少と期間短縮に有用であることが示唆された。各研究において、ラメルテオン、オランザピン、リバスチグミンの効果が報告されているが、確固たる結論を導き出すにはエビデンスが不十分である」としている。

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経口可逆的DPP-1阻害薬brensocatibが気管支拡張症の増悪を抑制/NEJM

 気管支拡張症患者において、brensocatib投与による好中球セリンプロテアーゼ活性の低下は気管支拡張症の臨床アウトカムを改善することが、英国・Ninewells Hospital and Medical SchoolのJames D. Chalmers氏らが行った、投与期間24週の第II相無作為化プラセボ対照用量範囲試験で示された。気管支拡張症患者は、好中球性炎症に関連すると考えられる増悪を頻繁に起こす。好中球エラスターゼなどの好中球セリンプロテアーゼの活性と数量は、ベースラインで気管支拡張症患者の喀痰中で増加し、さらに増悪によって増大することが知られる。brensocatib(INS1007)は、開発中の経口可逆的ジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)阻害薬で、DPP-1は好中球セリンプロテアーゼの活性に関与する酵素である。NEJM誌オンライン版2020年9月7日号掲載の報告。brensocatib治療群とプラセボ投与群で初回増悪までの期間を評価 試験は14ヵ国116施設で行われ、被験者は、前年に少なくとも2回の増悪を呈した18~85歳の気管支拡張症患者であった。 研究グループは被験者を、プラセボ投与群、brensocatib 10mg群、brensocatib 25mg群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回、24週間投与した。 初回増悪までの期間(主要エンドポイント)、増悪頻度(副次エンドポイント)、喀痰中の好中球エラスターゼ活性、および安全性を評価した。brensocatib治療群は初回増悪までの期間を有意に延長した 256例が無作為化を受け、87例がプラセボを、82例がbrensocatib 10mgを、87例が同25 mgをそれぞれ投与された。 初回増悪までの期間の25パーセンタイル値は、プラセボ群67日、brensocatib 10mg群134日、同25mg群96日であった。brensocatib治療群は、プラセボ群と比較して初回増悪までの期間が有意に延長した(10mg群対プラセボのp=0.03、25mg群対プラセボのp=0.04)。 brensocatib群とプラセボ群を比較した増悪に関する補正後ハザード比は、10mg群で0.58(95%信頼区間[CI]:0.35~0.95、p=0.03)、25mg群で0.62(95%CI:0.38~0.99、p=0.046)であった。プラセボ群と比較した発生率比は、10mg群0.64(95%CI:0.42~0.98、p=0.04)、25mg群0.75(95%CI:0.50~1.13、p=0.17)であった。 24週の治療期間中、brensocatib群はいずれの用量群とも喀痰中の好中球エラスターゼ活性のベースラインからの低下が認められた。なお、とくに注目される歯および皮膚の有害事象の発生は、プラセボと比べてbrensocatibの両用量群で高かった。

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第26回 悪玉細菌を減らす常在細菌ロゼオモナスの塗布でアトピー性皮膚炎が改善

プラセボ群なしの非盲検第I/II相試験の結果、健康なヒトの皮膚に備わっていることが多いグラム陰性細菌・Roseomonas mucosa(以下、ロゼオモナス)を塗布した軽度~重度のアトピー性皮膚炎小児20人中18人が病状指標EASIの半減(EASI-50)を達成しました1~3)。中等~重度の小児に限ると9人全員(100%)がEASI-50に至りました。Science Translational Medicine誌に掲載された今回の総ざらい報告に先立ち、2年前の2018年には途中結果が報告されています4,5)。2年前の報告では、健康なヒトの皮膚から集めたロゼオモナスを塗布した9~14歳の小児5人と成人10人のアトピー性皮膚炎改善効果が認められました。また、ロゼオモナスはアトピー性皮膚炎の進展に寄与するらしい黄色ブドウ球菌を減らしました。その後小児15人がさらに加わり、3~16歳の小児全部で20人にロゼオモナスが投与された最終結果が今回報告され、2018年の発表と同様に病状は改善し、効果は投与を終えてから長ければ8ヵ月後の観察時点まで持続しました。皮膚の黄色ブドウ球菌の減少も確認されました。また、ロゼオモナスが作る脂質がどうやらアトピー性皮膚炎治療効果に寄与していることが新たに判明しています。ロゼオモナス治療の権利は米国カリフォルニア州拠点のForte Biosciences社に付与され、同社はFB-401という名称でその治療の開発を進めています。間もなく今月中には軽~中等度のアトピー性皮膚炎を患う2歳以上の小児や成人が参加するプラセボ対照第II相試験がいよいよ始まります1)。ロゼオモナスの効果はアトピー性皮膚炎のみに限定されるわけではなさそうで、他の皮膚疾患へのFB-401の試験もやがて実施されるかもしれません。たとえば、顔の皮膚の炎症を特徴とする酒さの患者の皮膚のロゼオモナスもアトピー性皮膚炎患者と同様に乏しいことが最近の試験6)で確認されており、FB-401を試してみる価値がありそうです。アトピー性皮膚炎の治療効果を担いうる細菌は他にもあり、スタフィロコッカス ホミニス(S. homini)はロゼオモナスと同様にアトピー性皮膚炎患者皮膚の黄色ブドウ球菌を強力に抑制しうることが確認されています7)。それらの有益と思しき細菌を減らす恐れがある環境要因の検討によると、スキンケア製品におなじみの防腐剤パラベンは健康な皮膚のロゼオモナスを増えにくくします4)。また、保湿剤はアトピー性皮膚炎に使うことが一般的に推奨されていますが、それらの幾つかも健康な皮膚のロゼオモナスの増殖をより阻害しました。それらの製品はアトピー性皮膚炎の悪化を招いたりロゼオモナスなどの微生物塗布治療の効果を妨げてしまうかもしれません5)。実際、パラベンとアトピー性皮膚炎の関連が東京の国立成育医療研究センターの小児患者138人を調べた研究で示されています8)。ほとんどの小児(85%;117/138人)はパラベン含有製品を使っており、それら製品の使用とアトピー性皮膚炎が関連し、アトピー性皮膚炎小児の尿中にはパラベンがより多く含まれていました。これまでの前臨床実験や臨床試験成績を総括するに黄色ブドウ球菌を減らすロゼオモナスやS. hominiなどの常在細菌によるアトピー性皮膚炎治療の検討の価値は大いにあり9)、Forte社が今月中に始めるプラセボ対照試験はアトピー性皮膚炎の細菌治療の力量を示すひとまずの試金石となるでしょう。参考1)Forte Biosciences, Inc. Announces Full Publication of Phase 1/2 Data in Science Translational Medicine / BUSINESS WIRE2)Probiotic skin therapy improves eczema in children, NIH study suggests / Eurekalert3)Myles IA,et al. Sci Transl Med. 2020 Sep 9;12 [Epub ahead of print]4)Myles IA,et al.JCI Insight. 2018 May 3;3. [Epub ahead of print]5)Bacteria Therapy for Eczema Shows Promise in NIH Study6)Rainer BM, et al. Am J Clin Dermatol. 2020 Feb;21:139-147. 7)Nakatsuji T, et al. Sci Transl Med. 2017 Feb 22;9: [Epub ahead of print]8)Mitsui-Iwama M, et al. Asia Pac Allergy. 2019 Jan 21;9:e5. [Epub ahead of print]9)Paller AS, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019 Jan;143:26-35.

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第45回 右室肥大と右脚ブロック~似て非なる病態を嗅ぎ分けよ(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第45回:右室肥大と右脚ブロック~似て非なる病態を嗅ぎ分けよ(後編)「右脚ブロック」と「右室肥大(RVH)」って心電図の波形が“似てるよね”という話を前回しました。基本は“似て非なる”両者ですが、この2つが合併した時に心電図はどうなると思いますか? そもそも「右脚ブロック」かつ「右室肥大」という診断を正しく下せるのでしょうか。ある程度勉強が進んだ人なら一度は気になるこの“難問”につき、Dr.ヒロが解説します。最終結論は“感動”か、はたまた“絶望”かー。では、レクチャーのスタートです!【問題1】53歳、男性。増悪傾向を示す労作時息切れの精査目的にて他院より紹介受診した。心電図所見に関して、最も適切なものを一つ選べ。(図1)53歳、男性の心電図画像を拡大する1)完全右脚ブロック2)右室肥大3)両方とも該当しない4)完全右脚ブロックかつ右室肥大5)その他解答はこちら4)解説はこちらさて、第42回からお送りしてきた右心系の“チラ見”、とくに「右室肥大」に関するレクチャーは今回で完結です。普通の教科書などではここまで詳しく説明されることはないと思うので、『もうお腹一杯~(泣)』という方もいるでしょう。このラスト1回を頑張りましょう。さて、この問題をどう考えますか? なんか選択肢がややこしいでしょ。前回に「右脚ブロック」と「右室肥大」の心電図は似ていてややこしいという話をしましたが、(図1)はどちらに見えますか? パッと見、QRS幅はかなりワイド(wide)ですし、波形的にはただの「完全右脚ブロック」のように見えます。でも、「右脚ブロック」と「右室肥大」は“似たもの同士”なので、注意が必要です。では、この心電図に「右室肥大」 所見があるかどうかを調べましょう。前々回示した「右室肥大」の診断フローチャートの項目をチェックしますか? いいえ、残念ながら、QRS幅が広い時点であのフローチャートを使っちゃダメなんです。フローチャートに「個別に条件を設定」という注意書きを入れたので、気になっていた方もおられるのではと思っています。「右脚ブロックの心電図で、右室肥大の合併をどう見抜くか?」これが今回のメインテーマです。以下のレクチャーを読む前に完璧な解答ができるのならば、既にあなたは心電図に関してセミ・プロレベルです! ただ、多くの方は悩むと予想されるので、話を続けましょう。“「右脚ブロック」はここでもクセモノ”まずは、普段通りに心電図(図1)を読みましょう。“いつも通り”が一番大事なんです(第1回)。心拍数は、最後の“見切れ”たQRS波を0.5個と数えると81/分であり(“新・検脈法”)、P波の様子から「洞調律」であることも間違いありません(“イチニエフの法則”)。ニサンエフのP波がツンッと立ってて、「右房拡大」かなぁ…「異常Q波」はなくって、次は“スパイク・チェック”で、「向き」(電気軸)は、Iが下向き、IIが上向きですね。トントン法Neoを使えば「+100°」と求まるので、「右軸偏位」で良さそうです。QRS幅はかなりワイドで、胸部誘導でV1が「rSR'型」なので、「完全右脚ブロック」と予想することができます(第44回)。残りのST部分を読めば、II、III、aVF、V1~V5誘導で「ST低下」と「陰性T波」を考えますね。そうそう、素晴らしい。皆さん、だいぶ読み“型”(第1回)が板についてきたのではないでしょうか? 拾った所見のうち「右房拡大」「右軸偏位」「完全右脚ブロック」がそろった場合、“右つながり”で「右室肥大」が気になるという方はセンス良しです。とそんな時、ほかに絶対確認すべきマスト所見がありましたよね? そう、V1誘導の「高いR波」です(第43回)。具体的な数値は「7mm」、それを確認しようとしても最初の「r波」か2番目の「R'波」のどちらで“7mm基準”を確認すべきか悩んでしまうのではないでしょうか? ここでエイヤッと割り切って後半成分の「R'波」でチェックするのは間違いです。以前、「R>S(V1)」も「高いR波」の表現の代わりになることをお伝えしましたが、これも2つのうちどちらのR(r)波を使うのかとか、後半のR波なら大概「R>S」になるので、ホントにそれでいいのかって思ってしまうのではないでしょうか。そして、まだまだ参考にすべき補助所見がありました。ただ、ストレイン型の「(2次性)ST-T変化」やR peak timeの遅れも「右脚ブロック」ではほぼ全例で満たされてしまいます。また、「時計回転」ともとれる「R<S(V5)」所見も、軸偏位を合併した場合などで高率に見られます。つまり、「右脚ブロック」なだけで、「右室肥大」の条件をほどよく満たしてしまい、通常の診断条件が“あり”というのが「右室肥大」の肯定所見とは見なせず、結局のところ「wide QRS」な時点、とくにそれが「右脚ブロック」な時点で、例のフローチャートは当てにならないのです。先般示したフローチャートに用いた診断項目は主にMyer1)や“そこのライオン”で有名な、Sokolowら2)が指摘した内容ですが、これらは2つ目の「R'波」のある「右脚ブロック」系統には適応できないのです。この点は知っておくべきです。■ポイント■「右脚ブロック」の場合は通常の「右室肥大」の診断基準は使えない!では逆に、“完全“にしても“不完全”にしても「右脚ブロック」も立派に右心系負荷を示唆するサインの一つですから、ほかの所見と併せて「右室肥大」と言っちゃいましょうか? いいえ、これも誤りです。そうするとエセ右室肥大が世の中に溢れてしまうことになります。「異常Q波」の時にもクセモノぶりを発揮していた「右脚ブロック」ですが(第32回)、ここでもまたやってくれたわけです。“絶望の淵に光はさすのか?”ここまで聞いただけで気分が暗くなりますが、現実はさらに厄介な状況があるんです。心電図の世界では“似たもの同士”な「右脚ブロック」と「右室肥大」ですが、現実問題として意外と両者の病態がバッティングするのです。これはどういうことを意味するのでしょうか? 頻度的には「右脚ブロック」のほうが多いため、普通だと「右脚ブロック」と診断した時点で安心してしまいます。そのため、まさかそこに「右室肥大」所見が“重なっている”かなど考えが及ばず、心電図の発する“RVHサイン”がうまく届かない状況が生まれてしまうんです。「右脚ブロック」が存在する場合、「右室肥大」の診断は不可能なのでしょうか? 結論だけ言うと、不可能だというのが真実に近いかもしれません。実際、主に学童を対象とした日本循環器学会ガイドライン3)には、「WPW症候群」とともに、「右脚ブロック」がある場合には「右室肥大」の診断は困難と銘記されています。ガイドラインにまで記載されてしまうと、さすがに萎えますね。ただ、やはり、人一倍、十、いや百倍、心電図を愛するボクからすると、“モッタイナイ”と感じてしまいます。ただでさえ分の悪い「肥大」の心電図診断に、またひとつ“Impossible”を作ることに抵抗感があるのかもしれません。この苦難を何とか乗り越えたい…非才のボクでは解決できない問題には“先人の知恵”をお借りしましょう。前回示したフローチャートも参考にしつつ、「右脚ブロック」の“霧”を晴らすため、「右脚ブロックに合併した右室肥大」に関して集められた代表的な知見を以下に示します。■ポイント:右脚ブロック“専用”の「右室肥大」基準■【Milnor基準】QRS幅:0.12秒(120ミリ秒[ms])以下でいずれかを満たす場合QRS電気軸:+110~+270°*1R(またはR')/S >1(V1誘導)かつ R(またはR')>5mm(0.5mV)【Barker & Valencia基準】R'V1>10mm(不完全右脚ブロック)R'V1>15mm(完全右脚ブロック)*1:原著の表現(QRS軸:+110~±180°または-90~±180°)がわかりにくいため改変して示した。意味的には「+110°以上の右軸偏位」または「高度の(右)軸偏位」を意味する。皆さんの中には、「えっ? また外人の名前? そんなのもう覚えられないよー」という方も多いと思うので、「誰の」基準かは覚えなくとも、「どんな」条件なのかを優先して覚えてください。“見るな!と言いたくなるMilnor基準”一つ目はMilnorらによる診断基準です。これは、“よりシンプルさ”を追求した研究報告で、基準中に「R'」という文字が含まれており、われわれの期待をふくらませます。…ところが、その期待はもろくも崩れ去ります。なぜなら、前提条件に「QRS duration less than 0.12 second」と表記されているからです。“使えない”とまでは言いませんが、これを適用するとしても「不完全右脚ブロック」のほうだけ。しかも、この基準は「右脚ブロック」例だともっぱら“overdiagnosis”するとされています4)。そんな訳でDr.ヒロ的には、もう“見るな!”の基準です(笑)。もちろん、今回の心電図には適用しちゃダメですよ。バッチリ「QRS幅≧0.12秒」ですから。でも、「右脚ブロック」つながりなので一応は紹介しました。“もう一つも実はイマイチ-Barker-Valencia基準”次に紹介するのは、“バッグにオレンジ”基準。これは勝手にボクが決めたゴロ合わせで、オレンジはバレンシア産(笑)。これはBarkerとValenciaらによる基準で、文献として確認できるのは「不完全右脚ブロック」を扱った1949年のものです5)。そして、実は本題でもある「完全右脚ブロック」のほうは、かなり入念に調べたのですが、原典が書籍でした6)。もし読者の方で原著論文などをご存じであれば、教えてもらえると嬉しいです。この基準は実にシンプルです。「右脚ブロック」のV1-QRS波形には「rsR'(rSR')」や「RR'」などがありますが、通常「r(R)<R'」でなくてはならないという暗黙のルールがあるので、後半の“第2波”(R'波)の高さだけで勝負する方式です。「不完全」でも「完全」でも、右脚ブロックになると、もともと「R'波」は“盛られる”傾向にあるため、通常の「7mm」ではなく、厳しめの基準で判定しましょうという考えなんだと思います。「10mm」も「15mm」も共に切りの良い数字ではありますが、やや記憶力の衰えたボクの場合、「不完全~」なら1.5倍、「完全~」なら2倍しただけの基準だと考えるようにしています。もちろん“7mm基準”をベースとしてね。早速、心電図(図1)で適用してみましょう。V1誘導に着目し、心拍ごとにやや差はありますが、小ぶりな2拍目、ないし5拍目で見ても「R'>15mm」を満たします。つまり、やはり「右室肥大」の合併を疑うべきということになり、問題の正解は4)が該当します。実際、この中年男性は、その後に「肺動脈性肺高血圧症」と診断され、心エコーでも顕著な「右室肥大」が確認されました。ですから、心電図にもやはり“暗号”が隠れていたわけです。しかし、このBarker-Valencia基準が完璧かと言うと、基本的に「右脚ブロック」と「R'波高」だけで判定するので、完璧とは言いがたいようです4)。次の心電図(図2)はどうでしょう?(図2)71歳、女性、肺高血圧症の心電図画像を拡大する71歳、女性で、肺高血圧症の診断で加療されています。「右軸偏位」(+110°)と「時計回転」(RV5<SV5)の所見はあるようですが、ワイドなQRS波で「完全右脚ブロック」に典型的な波形ですが、肝心なV1誘導ではR'波は15mmには足りません。そのためBarker-Valencia基準を適用すると、「右室肥大」ではないと判定されてしまいます。ただ、実際にはバッチリ「右室肥大」が心エコーその他で確認されていることから、この考え方は通じないということです。ちなみに“お隣”のV2誘導だと基準に合致しますが、原著にその記載はありません。さらに心電図(図2)をよく見ると、「148cm、41kg」と表示されていますが、欧米人対象の研究で得られた知見を、人種や体格差の明らかな日本人にそのまま適応していいのかという当然に疑問にぶち当たります。また、逆に“健康的な”「右脚ブロック」の一部に「右室肥大」の“濡れ衣”を着せてしまうことが少なくないというのも“バッグにオレンジ”基準の弱点でもあります。どちらかと言うと、後天性よりは先天性の心疾患の方がよく当てはまるようです。最近では、小児期に修復手術が行われた方を成人患者として迎え入れるケースも増えていると思います。そうした方の多くは今回に似た心電図であり、その場合は「右室肥大」の合併を正確に診断できる確率が高くなるわけです。“Dr.ヒロの所感と全体まとめ”上記2つ以外にも、血まなこになって教科書やガイドライン、そして文献を探し、最終的には「完全右脚ブロック」の心電図の場合、完璧な「右室肥大」診断基準はない、という考えに着地しました…。先述のガイドラインも、こうした流れを汲んでのコメントなのかもしれません。しかし、ボクは普段どうしているのか、それを最後に述べたいと思います。■ポイント:Dr.ヒロ流!右脚ブロックと右室肥大の合併病態に対する考え方■1)「右脚ブロック」を見たら一瞬でも「右室肥大」の合併を考慮2)Barker-Valencia基準:「R'>10 or 15mm」をチェック3)「右軸偏位」(できれば「+110°」以上)と「右房拡大」を確認4)臨床背景を確認する―「右室肥大」を呈する病態か?「右脚ブロック」と「右室肥大」の合併を見落とさないためには、「右脚ブロック」を見た時、ほんの一瞬でも“似たもの”な「右室肥大」に思いをはせること。そして“バッグにオレンジ”基準を割と大事にしつつ、QRS電気軸と右房の情報を取りにいきます。ズルいのかもしれませんが、最後に病歴やその他の検査所見などを総合して考えていくようにします。これがDr.ヒロ流心電図の判読法。一つの心電図だけでは勝負せず、“+α情報”を確認する意識をつけることで心電図の能力は一段と磨かれると信じているからです。ちなみに、「完全左脚ブロック」の場合には「右室肥大」と診断するための“決定打”はなく、よく言われるのは「左脚(ブロック)なのに右軸(偏位)」というものだと思います。ただ、これもかなり“ドンブリ”的な見方ですので、 あまり執着せずに、「完全左脚ブロック」なら細かな波形診断は諦めるスタンスでも良いかもしれません。現実的な話では、心電図は決して「心室肥大」の診断に長けているわけではありません。その上で、「右脚」にせよ「左脚」にせよ、QRS幅が広くなる「心室内伝導障害」では、ただでさえ不得手な「右室肥大」の診断精度をより低下させてしまうという現実を知っておくべきだと思います。今回の内容はまあまあハイレベルな内容ですので、非専門医の先生ですと必ずしも要求されない知識かもしれませんが、知っておくと診断の幅がだいぶ広がると思います。それでは、4回にわたってだいぶ詳しく扱った「右室肥大」の話題はここで終了。次回はこれまでの知識を総動員させたクイズを出しますよ。それではまた!Take-home Message「右脚ブロック」の存在は「右室肥大」の心電図診断の感度・特異度をさらに低下させる!“後半成分”(R’波)がより“強調”された「右脚ブロック」では「右室肥大」の合併を疑え―“不完全”は1.5倍、“完全”なら2倍1)Myers GB, et al. Am Heart J. 1948;35:1-40.2)Sokolow M, Lyon P. Am Heart J. 1949;38:273-294.3)日本循環器学会/日本小児循環器学会編. 2016年版学校心臓検診のガイドライン.4)Booth RW, et al. Circulation. 1958;18:169-176.5)Barker JM, Valencia F. Am Heart J. 1949;38:376-406.6)Barker JM. The Unipolar Electrocardiogram. 1st ed. Appleton-Century-Crofts;1952.【古都のこと~天ヶ瀬ダム】この連載では寺社について扱うことが多いですが、今回はダムに目を向け、天ヶ瀬ダム(宇治市)について話しましょう。平等院から宇治川沿いに車で登って10分ほどで到着します。改めて京都が山に囲まれていることを実感できます。1964年に竣工した多目的ドーム型アーチ式コンクリートダム*1で、規模は堤高73m・堤頂254m・堤体積16万4,000m3。総貯水量2,628万m3は東京ドーム20杯分です。休憩がてら下流域を散策していると、歓声が上がり、振り向くとコンジット(放流管)ゲートから放流です! その迫力の眺めにしばらく圧倒され、その後、なぜかスッキリとした気分になったのでした。当日はかないませんでしたが、次回来るときは必ず「天端(てんば)」(堤頂通路)に上がってアーチの曲線美に酔いしれようと思います。現在は「宇治川の渓谷と調和する放水設備」の再開発工事中*2ですが、皆さんも“大人の社会見学”をぜひ!*1:ダムカードに記載された「目的記号」は“FWP”。洪水調整(F:flood control)、上水道(W:water supply)、発電(P:power generation)。*2:2022年2月末まで。

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日本人双極I型うつ病に対するルラシドン単剤療法~二重盲検プラセボ対照試験

 主に米国と欧州で実施されたこれまでの研究において、双極I型うつ病に対するルラシドン(20~120mg/日)の有効性および安全性が報告されている。理化学研究所 脳神経科学研究センターの加藤 忠史氏らは、日本人を含む多様な民族的背景を有する患者において、双極I型うつ病に対するルラシドン単剤療法の有効性および安全性を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2020年8月22日号の報告。 対象患者を、ルラシドン20~60mg/日群(182例)、同80~120mg/日群(169例)、プラセボ群(171例)にランダムに割り付け、6週間の二重盲検治療を実施した。主要評価項目は、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)のベースラインから6週目までの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・ルラシドン20~60mg/日群で、プラセボと比較し、ベースラインから6週目までのMADRS合計スコアの有意な減少が認められた。しかし、ルラシドン80~120mg/日群では、有意な差は認められなかった。 ●ルラシドン20~60mg/日群:-13.6(調整後p=0.007、エフェクトサイズ:0.33) ●同80~120mg/日群:-12.6(調整後p=0.057、エフェクトサイズ:0.22) ●プラセボ群:-10.6・ルラシドン20~60mg/日群では、MADRS治療反応率、機能障害、不安症状の改善も認められた。・ルラシドン治療による体重増加、脂質、血糖コントロール値に対する影響は、最小限にとどめられた。 著者らは「ルラシドンは、高用量ではなく20~60mg/日の単剤での使用で、双極I型うつ病患者のうつ症状や機能を有意に改善した。この結果は、これまでの研究と全体的に一致しており、日本人を含む多様な民族において、ルラシドン20~60mg/日による治療は有効かつ安全であることを示唆している」としている。

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大手術時の術中換気、低容量vs.従来換気量/JAMA

 大手術を受ける成人患者において、術中の低容量換気(low-tidal-volume ventilation)は従来の1回換気量と比較し、同一の呼気終末陽圧(PEEP)下では、術後7日以内の肺合併症の有意な減少は認められなかった。オーストラリア・オースティン病院のDharshi Karalapillai氏らが、単施設での評価者盲検無作為化臨床試験の結果を報告した。手術中の人工換気は旧来、超生理学的1回換気量が適用されてきたが、低容量換気に比べ有害で術後合併症を引き起こす懸念が高まっている。しかし、手術中に人工呼吸器を使用する患者における理想的な1回換気量は不明であった。JAMA誌2020年9月1日号掲載の報告。手術予定患者1,236例で手術中の低容量換気と従来の1回換気量の有効性を比較 研究グループは、2015年2月~2019年2月にオーストラリア・メルボルンの三次医療機関において、2時間以上の全身麻酔下で大手術(心臓胸部手術、頭蓋内手術を除く)を受ける予定の40歳以上の患者1,236例を登録し、低容量換気群(1回換気量が予測体重1kg当たり6mL)または従来換気群(1回換気量が予測体重1kg当たり10mL)に無作為に割り付け、2019年2月17日まで追跡調査した。両群とも、すべての患者でPEEPは5cmH2Oとした。 主要評価項目は、肺炎、気管支痙攣、無気肺、肺うっ血、呼吸不全、胸水、気胸、予定外の術後の侵襲的/非侵襲的人工換気などを含む術後7日以内の術後肺合併症である。副次評価項目は、入院中の肺塞栓症、急性呼吸促迫症候群を含む術後肺合併症、全身性炎症反応症候群、敗血症、急性腎障害、創傷感染(表層部/深部)、術中昇圧剤の必要率、予定外の集中治療室(ICU)入室、院内迅速対応チーム呼び出し、ICU在室期間、入院日数、院内死亡率とした。術後7日以内の術後肺合併症の発生は両群とも38~39%で有意差なし 無作為化された患者1,236例のうち、1,206例(低容量換気群614例、従来換気群592例)が試験を完遂した。平均年齢は63.5歳、女性が494例(40.9%)、腹部外科手術が681例(56.4%)であった。 主要評価項目である術後7日以内の術後肺合併症は、低容量換気群で608例中231例(38%)、従来換気群で590例中232例(39%)に発生した(群間差:-1.3%[95%信頼区間[CI]:-6.8~4.2%]、リスク比:0.97[95%CI:0.84~1.11]、p=0.64)。また、いずれの副次評価項目も、両群間に有意差は確認されなかった。 なお、著者は研究の限界として、単施設の試験で、治療の特性上盲検化できなかったこと、両群の患者数がわずかに不均衡であったこと、胸部X線画像が体系的に評価されていないことなどを挙げている。

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