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音楽療法で認知症患者の抑うつ症状が軽減、レビューで示唆

 音楽療法は認知症患者の気分を高め、抑うつ症状を和らげるのに役立つ可能性のあることが、新たなエビデンスレビューにより明らかになった。また、音楽療法により行動上の問題が改善する可能性のあることも示されたという。論文の筆頭著者である、ライデン大学(オランダ)医療センターのJenny van der Steen氏は、「この調査により、音楽療法の効果についての理解が深まり、特に、介護施設での認知症ケアに音楽を取り入れることの根拠が強まった」と述べている。この研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic Reviews」に3月7日掲載された。 この研究では、総計1,720人を対象に15カ国で実施された30件の研究データがレビューされた。このうち28件の研究データ(対象者1,366人)はメタアナリシスに用いられた。目的は、認知症患者に対する音楽療法が、感情的ウェルビーイング(生活の質〔QOL〕を含む)、感情障害や否定的な感情(抑うつ症状や不安など)、行動上の問題(全体的な行動上の問題や神経精神症状、特に興奮や攻撃性)、社会的行動、認知機能に与える影響を調べることだった。対象者のほとんどは介護施設に入所しており、個別またはグループでセラピーを受けていた。 その結果、5回以上のセッションから成る音楽療法ベースの介入は、通常のケアと比べて認知症患者の抑うつ症状をわずかに改善する可能性があり(標準化平均差−0.23、95%信頼区間−0.42〜−0.04、9件の研究、エビデンスの確実性は中)、行動上の問題を改善する可能性のあることが示唆された(同−0.31、−0.60〜−0.02、10件の研究、エビデンスの確実性は低)。一方で、音楽療法は興奮や攻撃性を改善しない可能性が高いことも示唆された(同−0.05、−0.27〜0.17、11件の研究、エビデンスの確実性は中)。さらに、感情的ウェルビーイング、不安、社会的行動、認知機能についても改善しない可能性が示唆された(いずれもエビデンスの確実性は低〜非常に低い)。しかし、他の治療法と比較すると、音楽療法は社会的行動を改善し(同0.52、0.08〜0.96、4件の研究、エビデンスの確実性は低)、不安を軽減する(同−0.75、−1.27〜−0.24、10件の研究、エビデンスの確実性は非常に低)可能性が示唆された。 Van der Steen氏は、「音楽療法は、他のグループ活動以上の効果があり、認知症の後期段階であっても魅力的で利用しやすい方法で気分や行動をサポートするのに役立つ」と述べている。同氏は、「介護施設の管理者は、認知症ケアに対するパーソンセンタード・アプローチの一環として、構造化された音楽セッションを組み込むことを検討すべきだ」と付け加えている。 共著者の1人である、アートEZ芸術大学(オランダ)のAnnemieke Vink氏は、「音楽療法は、薬を使わずに悲しみや不安を和らげる方法だ。われわれは、最近の研究の質の向上とエビデンスの蓄積により、音楽療法やその他の非薬物療法にさらなる注目が集まることを期待している。効果の大きさを見ると、音楽療法は薬物療法の代替手段として妥当であり、より患者中心的だ」と述べている。 ただし研究グループは、特に介護施設以外の地域社会での音楽療法の長期的な効果については、さらなる研究が必要だとしている。

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第237回 百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省2025年に入り、百日咳の患者報告数が急増している。国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所などが統合)によると、3月23日までの1週間で全国から458人の患者が報告され、今年の累計は4,100人に達した。これは前年(2024年)の年間累計4,054人をすでに上回っている。都道府県別では、大阪府336人、東京都299人、新潟県258人、沖縄県252人、兵庫県233人の順で多く、都市部および一部地域での患者増加が顕著である。百日咳は主に小児の間で感染が拡大し、生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸発作、肺炎、脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性が高い。背景には、新型コロナウイルス感染症流行下での感染対策により百日咳の発生が抑えられていたことで、集団免疫が低下した可能性が指摘されている。また、患者の増加に伴い、従来のマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の報告も複数の地域で確認されており、日本小児科学会は注意喚起を行っている。耐性菌感染例では、標準的な治療にもかかわらず感染拡大リスクが残るため、治療薬の選択については感染症に詳しい小児科医との連携が推奨される。現行の定期予防接種には百日咳成分を含む四種混合ワクチン(DPT-IPV)があり、生後2ヵ月から接種ができる。厚生労働省および専門家は、生後2ヵ月を迎えた段階での速やかな接種を呼びかけており、とくに乳児家庭では感染拡大防止の観点からも接種率の向上が重要とされている。 参考 1) 「百日ぜき」急増 今年すでに4,100人、去年の患者数上回る(毎日新聞 ) 2) 百日せき ことしの累計患者数が4,100人に 去年1年間を上回る(NHK) 3) 百日せき「耐性菌」各地で報告 “速やかにワクチン接種を”(同) 4) 百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について (小児科学会) 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会日本救急医学会は、対話型AI「ChatGPT」による救急受診のアドバイスについて、「一般利用者が正確に理解できない可能性がある」とする研究結果を公表した。研究では、総務省消防庁の救急受診ガイドを基に466の症例(うち314例は緊急度が高い)をAIに判断させ、その回答を救急専門医7人と一般人157人が評価した。専門医の評価では、AIの回答は重症例で97%、軽症例で89%の精度で適切な判断をしているとされた。しかし、一般人は、同じ回答をみても重症例で「救急受診が必要」と解釈できたのは43%、軽症例で「不要」と判断できたのは32%に止まった。これはAIの助言が正確であっても、専門用語の受け取り方や伝わり方にズレが生じている可能性が指摘されている。さらに、AIの助言に「信頼して従った」とする人は全体の約半数に止まり、逆に不安が増したと答えた人も約13%存在した。研究を主導した東京慈恵医科大学の田上 隆教授は「AIの判断精度は高いが、解釈の誤りによる危険があるため、過度な依存は避けるべき」と述べている。学会は、体調に不安がある場合はAIだけに頼らず、医療者に相談し、わかりやすく説明を受けることの重要性を強調している。また、AIが正しく使われるためには、表現の工夫や専門家のサポートが不可欠であり、とくに緊急時には人との連携が不可欠だとしている。 参考 1) 救急受診すべきか「チャットGPT」助言、利用者が解釈誤る恐れ…「過度な依存避けるべき」(読売新聞) 2) 生成AIによる救急外来受診の推奨に関する妥当性研究-生成AIの回答に対する専門家と非医療従事者の解釈の差が明らかに-(日本救急医学会) 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省厚生労働省は4月3日に社会保障審議会の医療保険部会を開き、マイナ保険証のスマホ搭載のスケジュール案を示した。部会では、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できるようにして、2025年9月頃から希望する医療機関から順次導入を開始する方針を示した。まず、同年6~7月に全国10ヵ所程度の医療機関や薬局で実証事業を実施し、スマホでの操作性や資格確認のエラーなどを検証。問題がなければ、9月から環境の整った医療機関で本格運用を始める。スマホ保険証により、患者はマイナンバーカードを持参しなくても診療を受けられるようになるが、導入は医療機関ごとの任意対応であり、全施設への義務付けは行われない。そのため、スマホ対応していない医療機関も存在し、初めて受診する際にはマイナ保険証や資格確認書の持参が推奨される。マイナ保険証の全国利用率は2025年2月時点で26.6%と依然として低迷しており、政府は利用促進策の一環として、医療機関の診察券とマイナンバーカードの一体化、外付けリーダー導入への補助、顔認証付きカードリーダーの改善などを進めている。救急現場での活用を目指す「マイナ救急」や訪問看護ステーションへのオンライン資格確認導入も併せて推進している。また、後期高齢者医療制度の対象者には、スマホ対応やマイナ保険証の有無にかかわらず、2026年7月まで有効な「資格確認書」を交付し、受診機会の確保を図る。現役世代を中心にスマホ対応の需要は高く、今後の普及とシステム整備に向けた国の支援と広報強化が求められている。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」機能搭載のスマホでの受診 9月ごろから導入へ(NHK) 3) “スマホ保険証”9月ごろから順次運用開始へ マイナ保険証の利用底上げ策 厚労省(CB news) 4) マイナ保険証、利用率26%に(日経新聞) 5) スマートフォンへマイナ保険証機能を搭載、2025年夏頃から対応済医療機関で「スマホ保険証受診」可能に-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府2025年4月1日、感染症危機に備える新たな専門組織「国立健康危機管理研究機構」(JIHS:Japan Institute for Health Security)が発足した。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合により設立され、感染症をはじめとする健康危機への科学的かつ実践的な対応を一元的に担う。米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」として、初動対応の迅速化、研究と臨床の連携強化、情報発信の向上を目指す。JIHSでは、新型コロナウイルス流行時の教訓を踏まえ、感染症の調査・分析、ワクチン・治療薬の開発、診療支援体制の構築を平時から推進。有事の際には、病原体の特徴や患者情報の早期把握、リスク評価を政府に助言する。また、災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も機構内に設置され、現場対応力の強化が図られる。初代理事長にはNCGM前理事長の國土 典宏氏、副理事長には感染研前所長の脇田 隆字氏が就任。厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁と連携し、政策決定に科学的知見を提供する。福岡 資麿厚生労働大臣は「感染症危機管理体制の強化を着実に進める」と述べている。政府はJIHSに対し、6年間の中期目標として「初動対応の迅速化」「研究開発の強化」「有事の臨床機能の整備」「人材育成と国際連携」の4項目を掲げ、国民への平時からの情報発信にも取り組み、次なるパンデミックに向けた備えを社会全体で推進していく方針。4日には東京都内で設立記念式典が開催され、政府関係者や医療機関が参加。國土理事長は「科学と実践を融合し、次の健康危機にも即応できる体制を構築する」と意気込みを語っている。 参考 1) 国立健康機器管理研究機構 2) 日本版CDCが1日発足 感染研と国際医療センターを統合(時事通信) 3) 健康危機に備え新機構発足 略称は「JIHS」 有事の対応能力強化(産経新聞) 4) 健康危機に備え新機構「JIHS」発足 有事対応強化(日経新聞) 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省厚生労働省は、4月3日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、第3期全国医療費適正化計画(2018~2023年度)の実績を報告した。後発医薬品の数量シェアは全国平均81.2%と目標を達成した一方、特定健診・保健指導の実施率(58.1%・26.5%)およびメタボ該当者の削減率(16.1%)は未達となった。医療費は推計49.7兆円に対し、実績48.0兆円と1.7兆円削減されたが、新型コロナによる受診抑制の影響も含まれていた。新たに実施される第4期全国医療費適正化計画(2024~2029年度)では、医療費を全国で約4,336億円削減する方針であり、主な施策として、後発薬・バイオシミラー使用の促進(約2,186億円)、多剤・重複投薬の適正化(約976億円)、効果が乏しい医療(風邪や急性下痢への抗菌薬処方など)の見直し(約270億円)、白内障手術や化学療法の外来移行(約106億円)などが挙げられている。この他、特定健診・保健指導推進による効果は約120億円、生活習慣病重症化予防で約678億円を見込む。加えて、医薬品の使用標準化を進める「地域フォーミュラリ」の導入も検討されている。第4期ではコロナの影響が少ないため、施策の効果がより明確に評価される見込み。また、医療費上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論は2025年秋に持ち越された。医療費増加に直面する中、制度の持続可能性と公平性の両立が課題となっている。 参考 1) 第3期医療費適正化計画の実績評価及び第4期全国医療費適正化計画について(厚労省) 2) 後発薬数量シェア81.2%、3期計画 目標達成 メタボ健診は未達(CB news) 3) 2024-29年度の第4期医療費適正化計画、全国で約4,336億円の医療費適正化効果を見込んでいる-社保審・医療保険部会(Gem Med) 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省民間企業による唾液・尿などを用いた疾患リスク判定サービス(いわゆるDTC検査)の拡大を受け、厚生労働省と経済産業省は、「無資格者が個人に疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反に当たる」との見解を、3月28日付の事務連絡として都道府県に通知した。DTC(Direct to Consumer)検査は、消費者と事業者が直接検体や検査結果をやりとりする仕組みで、近年は遺伝子解析を用いたものも多く、市場拡大が進んでいる。一方で、サービスの品質や信頼性には課題があり、医療行為との境界線が不明確との指摘もあった。今回の通知では、無資格の民間事業者は医学的判断を下すことができないため、検査後のサービスは一般的な測定結果や基準値、測定項目に関する一般的情報の提供に止めるべきとされている。疾患リスクや罹患可能性に関する通知は、医師法に抵触する恐れがあり、今後の規制強化も視野に入る。通知は、医療・介護分野と関連する「健康寿命延伸産業」の事業活動指針の改定に伴い出されたもので、DTC検査を提供する事業者への影響が注目される。 参考 1) 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(厚労省・経産省) 2) 医師資格ない検査ビジネス、疾患リスク通知は「違法」 厚労省と経産省が事務連絡(産経新聞) 3) 疾患リスク通知は「違法」 検査ビジネスで事務連絡(東京新聞)

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線形回帰(重回帰)分析 その4【「実践的」臨床研究入門】第53回

重回帰分析の実際前回は重回帰分析の考え方を説明しました。今回は実際に仮想データ・セットを用いて、EZR(Eazy R)を使用した重回帰分析の操作手順と結果の解釈について解説します。仮想データ・セットの取り込み仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。まずは以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みましょう。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」重回帰分析の実行次に「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」の順にメニューバーを選択すると、ポップアップウィンドウが開きます(下図)。モデル名:「重回帰分析_GFR変化量」などと入力します。目的変数(1つ選択):「diff_eGFR5」を選択します。※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリアウトカム(O)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量(低下速度)(連載第49回参照)。説明変数(1つ以上選択):以下の複数の変数を選択します(連載第46回、第48回、第49回、第52回参照)。※複数の変数を選択するには、キーボードの「Ctrl」キーを押しながらクリックします。検証したい要因(E):treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)交絡因子:age (年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースラインeGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)重回帰分析結果の確認「OK」をクリックすると、EZRの出力ウィンドウに下に示したコードが表示されます。lm(diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat, da-ta=Dataset)このコードの意味は下記のとおりです(連載第52回参照)。lm:線形回帰モデル(Linear Model)関数を用いて重回帰分析を実行。diff_eGFR5~age+albumin+dm+eGFR+hemoglobin+Loge_UP+sbp+sex+treat:左辺の目的変数(diff_eGFR5)を右辺の説明変数(複数の交絡因子+E)で予測する重回帰モデルの「式」を指定。data=Dataset:解析に使用するデータ・セット名(Dataset)。重回帰分析の主要な結果である、回帰係数とその統計量は下図のように表示されます。画像を拡大するここでは、検証したい要因(E)であるtreat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)の解析結果に注目します。回帰係数推定値:2.03(以下、数値はすべて有効数字3桁で丸めています)。95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI):1.61~2.45P値:2.99e-20=2.99×10-20(連載第51回参照)※p値は通常、小数点以下3桁までの記載が推奨されます。非常に小さな値の場合、「p<0.001」と上限を示す形で表記するのが一般的です(連載第51回参照)。重回帰分析結果の解釈この結果の解釈は以下の通りです。厳格低たんぱく食遵守群(treat=1)は非遵守群(treat=0)と比較して、「diff_eGFR5」が統計学的有意(p<0.001)に2.03mL/分/1.73m2高い。したがって、厳格な低たんぱく食の遵守は、種々の交絡因子を調整したうえでもGFR低下速度を抑制する可能性を示唆する。という解釈になります。

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多発性骨髄腫に対する新たな二重特異性抗体テクリスタマブ/J&J

 ジョンソン・エンド・ジョンソン(法人名:ヤンセンファーマ)は、再発/難治性多発性骨髄腫の治療薬として本邦での製造販売承認を取得したテクリスタマブ(商品名:テクベイリ)を、2025年3月19日に発売した。これを受け、3月25日に記者説明会が開催され、石田 禎夫氏(日本赤十字社医療センター 血液内科部長/骨髄腫アミロイドーシスセンター長)が講演を行った。3剤使用後の患者にも有効なBCMA標的治療 テクリスタマブは、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38抗体を含む少なくとも3つの標準的な治療が無効または治療後再発となった患者、つまりtriple-class exposed(TCE)の患者に使用される。TCE患者の予後は不良であり、後続治療の全奏効率(ORR)は29.8%、無増悪生存期間(PFS)中央値は4.6ヵ月という報告もある1)。近年、TCE患者にも効果が期待できる治療として、B細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T細胞療法や二重特異性抗体が登場している。テクリスタマブの有効性プール解析と感染症対策 テクリスタマブはBCMAとCD3を標的とする二重特異性抗体で、海外第I/II相MajesTEC-1試験2)と国内第I/II相MMY1002試験3)の結果に基づいて承認された。MajesTEC-1試験のORRは63.0%(95%信頼区間[CI]:55.2~70.4)、PFS中央値は11.3ヵ月(95%CI:8.8~17.1)であった。一方、MMY1002試験のORRは76.9%(95%CI:56.4~91.0)、PFS中央値は未到達であった。 MajesTEC-1試験の患者登録期間は2020~21年であり、大半の患者はCOVID-19のパンデミック期に組み入れられた。患者登録期間が2021年12月以降であった中国人と日本人コホートを追加して実施されたプール解析4)では、追跡期間中央値29.2ヵ月におけるORRは66.4%(95%CI:59.7~72.6)、PFS中央値は15.1ヵ月(95%CI:10.5~19.8)と報告されている。 副作用の1つである感染症の対策として、IgG値を測定したうえでのグロブリン補充療法が推奨される。また、テクリスタマブの継続投与期に奏効が6ヵ月間持続した場合は、投与間隔を1週間から2週間に変更可能であり、2週間間隔のほうがGrade3以上の感染症発症が少なかったという報告もある5)。CAR-Tと二重特異性抗体、複数選択肢をどう使うか 石田氏は、BCMA標的治療後にCAR-T細胞療法を使用すると、有効性の低下や製造不良の増加が危惧されることから6)、個人的な見解として、可能であればCAR-T細胞療法使用を優先すると説明した。また、CAR-T細胞療法後に二重特異性抗体を使用する場合の有効性は、CAR-T細胞療法の奏効期間やT細胞の疲弊状態によって異なることが予想されると述べた。さらに、ほかの二重特異性抗体と比較した場合のテクリスタマブの特徴として、海外で先行承認されたためにさまざまなデータが蓄積されていること、体重当たりの投与量調整が可能なことなどを挙げた。 石田氏は「BCMA標的治療が登場する前はTCE患者への有効な治療がなく、治療選択に悩んでいた。今は悩まず使用できる治療が登場し、患者さんも喜んでいる。今後は、CAR-T細胞療法や二重特異性抗体を使用した後の治療が課題になるだろう」と締めくくった。【製品概要】商品名:テクベイリ皮下注30mg/153mg 一般名:テクリスタマブ(遺伝子組換え) 製造販売承認日:2024年12月27日 薬価基準収載日:2025年3月19日 効能又は効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る) 用法及び用量:通常、成人にはテクリスタマブ(遺伝子組換え)として、漸増期は、1日目に0.06mg/kg、その後は2~4日の間隔で0.3mg/kg、1.5mg/kgの順に皮下投与する。その後の継続投与期は、1.5mg/kgを1週間間隔で皮下投与する。なお、継続投与期において、部分奏効以上の奏効が24週間以上持続している場合には、投与間隔を2週間間隔とすることができる。 製造販売元(輸入):ヤンセンファーマ株式会社■参考文献・参考サイトはこちら1)Mateos MV, et al. Leukemia. 2022;36:1371-1376.2)Moreau P, et al. N Engl J Med. 2022;387:495-505.3)Ishida T, et al. Int J Hematol. 2025;121:222-231.4)Martin TG, Ishida T, et al. ASH 2024.5)Nooka AK, et al. Cancer. 2024;130:886-900.6)Sidana S, et al. Blood. 2025;145:85-97.MajesTEC-1試験第I相(Clinical Trials.gov)MajesTEC-1試験第II相(Clinical Trials.gov)MMY1002試験(Clinical Trials.gov)

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FIT大腸がんスクリーニング、返送期限の設定で受検率向上/Lancet

 免疫学的便潜血検査(faecal immunochemical test:FIT)による大腸がんスクリーニングでは、案内状に返送期限を一文追加することでFIT返送が改善し、返送期限が2週間の場合に返送率が最も高く、リマインダーレター送付の必要性が減少したことが明らかになった。英国・グラスゴー大学のKathryn A. Robb氏らが、FITへの返送期限の設定と問題解決計画ツールによる介入効果を検討した、スコットランド大腸がん検診プログラムに組み込まれた2×4要因8群無作為化比較試験「TEMPO試験」の結果として報告した。FIT検体の自己採取による大腸がん検診は、大腸がんによる死亡率を低下させることが示されているが、受検率は十分ではない。著者は、「計画ツールはFIT返送にプラスの影響を与えなかったが、返送期限の設定は日常診療で簡単に実施できる費用対効果の高い介入である」とまとめている。Lancet誌2025年3月29日号掲載の報告。4万例を8群に無作為化し行動介入の有効性を比較 研究グループは2022年6月19日~7月3日に、大腸がん検診プログラムの対象者(年齢50~74歳)連続4万例を、ブロック無作為化法を用いて次の8群に無作為に割り付けた。(1)介入なし(標準的な案内)(対照群)、(2)FIT返送期限1週間を推奨、(3)返送期限2週間、(4)返送期限4週間、(5)計画ツール(期限なし)、(6)計画ツール+返送期限1週間、(7)計画ツール+返送期限2週間、(8)計画ツール+返送期限4週間(各群5,000例)。 計画ツールによる介入群では、検査キットを使用するに当たり起こりうる問題について解決策を提示したA4用紙1枚が同封され、また返送期限付きの介入群では、スクリーニングの標準的な案内状の中央に、期限を太字で強調した文章を記載した。 主要アウトカムは、FITが個人に郵送されてから3ヵ月以内に、大腸がんスクリーニング検査機関で陽性/陰性の結果が得られるよう正しく記入されて返送された割合とした。 4万例のうち、郵便番号をデータゾーンにひも付け、社会経済的指数(Scottish Index of Multiple Deprivation)の5分位および都市・地方区分を明らかにすることができなかった266例を除外し、解析対象は3万9,734例(女性1万9,909例[50.1%]、男性1万9,825例[49.9%]、平均年齢61.2[SD 7.3]歳)であった。追跡不能者はいなかった。返送期限の設定で早期返送率が上昇、計画ツールの有効性は確認できず (1)対照群(期限なし、計画ツールなし)の3ヵ月FIT返送率は66.0%(3,275/4,965例)であった。 返送率が最も高かったのは、(3)返送期限2週間群の68.0%(3,376/4,964例)で、対照群との群間差は2.0%(95%信頼区間[CI]:0.2~3.9)であった。一方、返送率が最も低かったのは(5)計画ツールのみ群(期限なし)で63.2%(3,134/4,958例)、対照群との群間差は-2.8%(95%CI:-4.7~-0.8)であった。 2つの介入の効果が独立していると仮定した主要解析では、「期限設定」には明らかなプラス効果があることが示唆されたが(補正後オッズ比[aOR]:1.13、95%CI:1.08~1.19、p<0.0001)、「計画ツール」には効果が認められなかった(aOR:0.98、95%CI:0.94~1.02、p=0.34)。 ただし、これら2つの介入による相互作用があることが示唆された(相互作用のp=0.0041)。期限が設定された群では、計画ツールの提供による返送率への影響は認められなかった(aOR:1.02、95%CI:0.97~1.07、p=0.53)が、期限が設定されていない場合に、計画ツールの提供は返送率への悪影響がみられた(aOR:0.88、0.81~0.96、p=0.0030)。一方で計画ツールなしの場合、期限設定が返送率に何らかの影響を与えたというエビデンスはほとんど確認されなかった。 副次解析では、期限設定は早期返送率(1週間、2週間、4週間以内、とくに締め切り前後)を高め、6週間後のリマインダーレターの送付を減少させたが、計画ツールがプラスの影響を与えたエビデンスはなく、介入間の相互作用も認められなかった。

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難治性OABへの尿流動態検査、治療アウトカムを改善せず/Lancet

 英国国立医療技術評価機構(NICE)は、難治性過活動膀胱または尿意切迫感を主症状とする混合性尿失禁を有する女性において、ボツリヌス毒素A(BoNT-A)膀胱壁内注入療法や仙骨神経刺激療法などの侵襲的治療に進む前に、ウロダイナミクス(尿流動態)検査を行い排尿筋過活動の診断を得ることを推奨している。英国・University of AberdeenのMohamed Abdel-Fattah氏らFUTURE Study Groupは、治療前の臨床評価として包括的臨床評価(CCA)単独と比較してウロダイナミクス+CCAは、患者報告による治療成功の割合が高くなく、ウロダイナミクスは費用対効果がないことを「FUTURE試験」において示した。研究の詳細は、Lancet誌2025年3月29日号に掲載された。英国の無作為化対照比較優越性試験 FUTURE試験は、難治性過活動膀胱症状を有する女性におけるウロダイナミクス+CCAの臨床的有効性と費用対効果の評価を目的とする非盲検無作為化対照比較優越性試験であり、2017年11月~2021年3月に英国の63病院で患者を登録した(英国国立医療・社会福祉研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成を受けた)。 年齢18歳以上、難治性過活動膀胱または尿意切迫感を主症状とする混合性尿失禁と診断され、保存的治療が無効で、侵襲的治療を検討している女性を対象とした。被験者を、ウロダイナミクス+CCAまたはCCAのみを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、最終フォローアップ時の患者報告による治療成功とし、Patient Global Impression of Improvement(PGI-I)で評価した。治療成功は、「非常に改善(very much improved)」または「かなり改善(much improved)」と定義した。経済性の主要アウトカムは、1質調整生存年(QALY)獲得当たりの費用増分(増分費用効果比)とした。早期の治療成功割合はCCA単独群で優れる 1,099例を登録し、ウロダイナミクス+CCA群に550例(平均年齢59.3[SD 14.0]歳、過活動膀胱66.0%)、CCA単独群に549例(59.8[13.1]歳、66.5%)を割り付けた。 最終フォローアップ時の患者報告による治療成功(「非常に改善」または「かなり改善」)の割合は、CCA単独群22.7%(114/503例)と比較して、ウロダイナミクス+CCA群は23.6%(117/496例)と優越性を認めなかった(補正後オッズ比[OR]:1.12[95%信頼区間[CI]:0.73~17.4]、p=0.60)。 より早期の治療成功の割合は、ウロダイナミクス検査を待たずに早期に治療を受ける場合が多かったためCCA単独群で高かった(3ヵ月後の補正後OR:0.28[95%CI:0.16~0.51]、p<0.0001、6ヵ月後の同:0.68[0.43~1.06]、p=0.090)。また、ウロダイナミクス+CCA群の女性は、より個別化された治療を受けたが、患者報告アウトカムが優れたり、有害事象が少ないとのエビデンスは得られなかった。 増分費用効果比は、1QALY獲得当たり4万2,643ポンドであった。1QALY獲得当たりの支払い意思(willingness-to-pay)の閾値を2万ポンドとすると、この閾値でウロダイナミクスに費用対効果がある確率は34%と低く、患者の生涯にわたって外挿すると、この確率はさらに低下した。有害事象の頻度は同程度 有害事象は、ウロダイナミクス+CCA群で20.6%(113/550例)、CCA単独群で22.2%(122/549例)に発現した。個々のイベントの発現率は低く、両群間に明らかな差を認めなかった。最も頻度の高い有害事象は、尿路感染症(ウロダイナミクス+CCA群7.1%vs. CCA単独群7.5%)で、次いで予防抗菌薬投与(7.3%vs.6.6%)および清潔操作による間欠自己導尿法の必要(4.7%vs.5.8%)であった。 BoNT-Aの投与を受けた患者はCCA単独群で多かったため、BoNT-A関連有害事象はCCA単独群で高頻度であった。また、重篤な有害事象の頻度は低く、両群で同程度だった。 著者は、「これらの知見は、女性の尿失禁管理に関するガイドラインの変更につながり、結果として日常診療を変えることになるだろう」「難治性過活動膀胱または尿意切迫感を主症状とする混合性尿失禁を有する女性には、CCAのみの結果に基づいて、BoNT-A膀胱壁内注入療法などの侵襲的治療が行われると考えられる」「このエビデンスに基づく重要な変化は、女性の生活の質の早期改善と、不必要な侵襲的検査の回避をもたらし、英国と同様の医療制度を持つ国々では医療資源の大幅なコスト削減につながる可能性がある」としている。

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TIA/軽症脳卒中後の脳卒中リスク、10年後でも顕著に増大/JAMA

 一過性脳虚血発作(TIA)または軽症脳卒中を発症した患者は、その後10年間で脳卒中リスクが徐々に高くなり、欧州に比べ北米やアジアでリスクが高く、非選択的患者集団と比較してTIA患者で低いことが、カナダ・カルガリー大学のFaizan Khan氏らWriting Committee for the PERSIST Collaboratorsが実施した「PERSIST共同研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月26日号で報告された。コホート研究のメタ解析 研究グループは、TIAまたは軽症脳卒中発症後10年の脳卒中発生率の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2024年6月26日の時点で公表されている文献を検索した。TIAまたは軽症脳卒中を発症した患者を1年以上追跡し、この間の脳卒中リスクを報告した前向きまたは後ろ向きコホート研究を対象とした。 主要アウトカムは脳卒中の発症とした。累積発生率:1年5.9%、5年12.5%、10年19.8% 38件(欧州22件、日本を含むアジア7件、北米5件、オーストラリア1件、複数国3件)の研究に参加した17万1,068例(年齢中央値69歳[四分位範囲:65~71]、男性患者の割合中央値57%[52~60]、退院時に抗血栓薬を処方された患者の割合中央値95%[89~98])を解析の対象に含めた。38件のうち、17件がTIAまたは軽症脳卒中、20件がTIAのみ、1件が軽症脳卒中のみを対象とした研究であった。 TIAまたは軽症脳卒中後の100人年当たりの脳卒中発生率は、1年目の5.94件(95%信頼区間[CI]:5.18~6.76、38研究、I2=97%)から、2~5年目は年平均1.80件(1.58~2.04、25研究、90%)、6~10年目は年平均1.72件(1.31~2.18、12研究、84%)に減少した。 脳卒中のリスクは経時的に上昇し続け、累積発生率は1年以内が5.9%、5年以内が12.5%、10年以内は19.8%であった。長期的な脳卒中予防対策の改善が求められる 脳卒中発生率は、欧州と比較して北米(率比[RR]:1.43[95%CI:1.36~1.50])およびアジア(1.62[1.52~1.73])の研究で高く、2007年より前に参加者を募集した研究に比べ2007年以降に募集した研究で高かった(1.42[1.23~1.64])。 一方、非選択的患者集団と比較して、TIA患者(RR:0.68[95%CI:0.65~0.71])および初発のインデックスイベント(0.45[0.42~0.49])に焦点を当てた研究で、脳卒中発生率が低かった。 著者は、「多くの2次予防クリニックでは、最初の90日しか患者のモニタリングを行っておらず、長期的な予防ケアはプライマリケア医や内科医に移行していることが多いことを考慮すると、今回の結果は、最初の高リスク期以降における継続的な注意深いモニタリングとリスク低減戦略が重要であることを示している」「これらの知見は、この患者集団における長期的な脳卒中予防対策の改善の必要性を強調するものである」としている。

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急性GVHDとICANSに対する新たな診断法の開発/日本造血・免疫細胞療法学会

 2025年2月27日~3月1日に第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会が開催された。 3月1日に福田 隆浩氏(国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科)、谷口 修一氏(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 血液内科)を座長に行われたプレナリーセッションでは、井戸 健太郎氏(大阪公立大学大学院医学研究科 血液腫瘍制御学/臨床検査・医療情報医学)、瀧川 健氏(九州大学大学院 病態修復内科学)、新井 康之氏(京都大学医学部附属病院 血液内科)が講演を行い、急性移植片対宿主病(GVHD)の新たな診断法や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)の診断において脳脊髄液中のキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞をFlow cytometryで検出することの有用性などについて議論がなされた。 本稿では、井戸氏と瀧川氏の講演を紹介する。血清エクソソーム内miRNAを用いた急性GVHDの非侵襲的診断法の新たな展開 急性GVHD診断では、侵襲性の高い生検による病理診断に代わる非侵襲的診断法の開発が望まれている。 井戸氏らは、mRNAを認識・分解して翻訳を阻害し、細胞増殖や細胞分化、アポトーシス代謝を調節するmiRNA、とりわけ、体液中で安定して存在し、臓器特異性を有するエクソソーム内miRNAに注目し、血清エクソソーム内miRNAに対して網羅的なmiRNAパネルを使用して測定する急性GVHD研究を行い、全血清と血清エクソソームでのmiRNAプロファイルを比較検討することで、急性GVHDの非侵襲的診断法の開発を目指した。 大阪公立大学で同種造血幹細胞移植を受けた患者199例から移植後14日目と急性GVHD発症時の血液検体を前向きに収集し、全血清と血清エクソソームからmiRNAを抽出、miRNA 2,565種類のマイクロアレイデータを取得した。解析には、サンプルサイズに比して扱う変数が非常に多いデータに適したPrincipal component analysis-based unsupervised feature extraction(PCAUFE)を用いた。 血清エクソソームから抽出したmiRNAに対してPCAUFEを使用した結果、重症消化管aGVHD群(12例)とNo aGVHD群(12例)の判別に有用な22種類のmiRNAの組み合わせ(AUC 0.938、Violin plot p=1.37e-05)と、重症皮膚単独aGVHD群(12例)とNo aGVHD群(12例)の判別に有用な別の22種類のmiRNAの組み合わせ(AUC 0.812、Violin plot p=1.38e-03)を選定することができた。miRNA 2,565種類を測定・解析した結果、そのうち重症消化管急性GVHDと関連のあるものは22種類、重症皮膚単独急性GVHDと関連のあるものは22種類で、共通のものは19種類、うち消化管特異的なものは3種類、皮膚特異的なものは3種類であった。一方、全血清から抽出されたmiRNAからは急性GVHDと関連するmiRNAの組み合わせを選ぶことはできなかった。今回の研究でPCAUFEによって選択されたmiRNAプロファイルに含まれるmiRNAの多くは新規のものであった。 井戸氏は、血清エクソソーム内miRNAから選択されたmiRNAプロファイルは急性GVHDの非侵襲的診断に有用であり、急性GVHDの病態を動的に捉えるバイオマーカーであることが示唆されると述べ、急性GVHDにおける個々のmiRNAの働きについてのさらなる検討が必要であると締めくくった。髄液CAR-T細胞がICANS診断にもたらす有用性 B細胞リンパ腫に対するCAR-T細胞療法は適応が拡大しており、その副作用であるICANSも増加が予測される。ICANSは意識障害などの非特異的な臨床症状に加えて、画像所見も脳卒中様、脳炎様、髄膜炎様と多様で非特異的であり、客観的な指標に基づく診断は困難である。 瀧川氏らは、CAR-T細胞の特徴に注目し、Multi-color flow cytometryによる髄液CAR-T細胞の検出がB細胞リンパ腫におけるICANS診断に有用かを検討した。本研究で瀧川氏らはCAR-T細胞療法後、ICANSを発症した時点の髄液検体をMulti-color flow cytometryを用いて解析した(2021年6月~2025年2月の22検体をICANS群16例とICANS以外の原因が判明した症例や無治療で自然軽快した症例のNo ICANS群6例で比較)。評価項目は、髄液の細胞数、総蛋白、Multi-color flow cytometry、年齢・性別などの臨床情報、ICANS発症と関連があるとされるEASIX scoreといった血管内皮障害の指標などとした。 対象疾患の約9割(14検体)はB細胞リンパ腫で、サイトカイン放出症候群(CRS)のグレードはICANS群で有意に高く(p=0.0311)、神経症状発現中央値は7日(四分位範囲[IQR]:3~38)、グレード3以上の重症ICANSを3例に認めた。臨床検査値に関するバイオマーカーではLDH(289U/L[IQR:219~779]p=0.0323)やCRP(0.86mg/dL[IQR:0.34~1.93]p=0.0424)がICANS群で上昇していた。EASIX scoreや脳波所見では統計学的有意差はなかった。髄液所見では、CD3+T細胞中のCAR-T細胞はNo ICANS群では中央値が3.2%(IQR:1.3~9.6)、ICANS群では41.2%(IQR:17.1~64.8)と統計学的有意差を認めた(p=0.0089)。統計学的有意差のあった項目それぞれについてROC曲線を作成した結果、髄液CAR-T細胞のカットオフを20%としたとき、感度0.75、特異度1.00(AUC 0.88)と最も優れていたことから、Multi-color flow cytometryによる髄液CAR-T細胞の検出はICANS診断に有用と考えられた。 瀧川氏は、「LDH、CRP、CRSのグレードが、ICANS発症の原因と考えられる組織や血中へのサイトカインの放出から血液脳関門の破綻に関連し、髄液CAR-T細胞の増加は透過性が亢進した結果である可能性がある」と述べた。加えて、「Multi-color flow cytometryによるCAR-T細胞の検出はICANS診断に有用であり、原因不明の神経症状の症例に対する治療介入の指標となる」とし、「今後、CAR-T細胞の詳細なフェノタイプ評価を行うことで、ICANSの重症度との関連が明らかになる」と締めくくった。

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フィネレノン、2型DMを有するHFmrEF/HFpEFにも有効(FINEARTS-HFサブ解析)/日本循環器学会

 糖尿病が心血管疾患や腎臓疾患の発症・進展に関与する一方で、心不全が糖尿病リスクを相乗的に高めることも知られている。今回、佐藤 直樹氏(かわぐち心臓呼吸器病院 副院長/循環器内科)が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials1においてフィネレノン(商品名:ケレンディア)による、左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者の入院および外来における有効性と安全性について報告。その有効性・安全性は、糖尿病の有無にかかわらず認められることが明らかとなった。 FINEARTS-HF試験は、日本を含む37ヵ国654施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験で、40歳以上、症状を伴う心不全、LVEF40%以上の患者6,001例が登録された。今回のサブ解析において、ナトリウム利尿ペプチドの上昇、構造的心疾患の証拠、血清カリウム5.0mmol/L以下、およびeGFR25mL/分/1.73m2以上の基準が含まれた。主要評価項目は心血管死と全心不全イベントの複合で、副次評価項目は全心不全イベント、複合腎機能評価項目、全死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は72±10歳、女性は46%、NYHA心機能分類IIは69%、平均LVEFは53±8%(範囲:34~84)、平均eGFRは62mL/分/1.73m2であった。・参加者の糖尿病の既往について、2型糖尿病と報告されていたのが41%、HbA1c値で判断された糖尿病または前糖尿病状態が約80%を占めていた。・糖尿病患者のLVEFについて、約36%は50%未満、約45%は50~60%未満、19%は60%以上であった。・主要評価項目の心血管死および全心不全イベントの複合について、フィネレノン群は16%低下させた。・糖尿病患者は、前糖尿病または正常血糖値の患者と比較して、心血管死および総心不全イベントリスクが有意に高いことが示されたが、フィネレノン群はプラセボ群と比較し、HFmrEF/HFpEF患者における糖尿病の新規発生を25%低下させた。・フィネレノン群はベースラインのHbA1c値にかかわらず、心血管および全心不全イベントのリスクを一貫して減少させた。・参加者のうち、フィネレノン群の併用薬は、β遮断薬(85%)、ACE阻害薬/ARB(71%)、ARNI(約9%)、ループ利尿薬(87%)、SGLT2阻害薬(約14%)などがあり、フィネレノン群ではSGLT2阻害薬の併用にかかわらず、主要評価項目のリスクを低下させた(SGLT2阻害薬併用群のハザード比[HR]:0.83[95%信頼区間[CI]:0.80~1.16]、SGLT2阻害薬非併用群のHR:0.85[95%CI:0.74~0.98]、p=0.76)。・BMI別の解析において、BMI高値においてより効果が強く認められるものの、有意な交互作用は認められず、フィネレノン群は各BMI層(25以上、30以上、35以上、40以上)で全心不全イベントの発症を低下させた。・安全性については、フィネレノン群において血清クレアチニン値およびカリウム値の有意な上昇例が多く、収縮期血圧低下例も多かったが、糖尿病の有無による相違は認めなかった。フィネレノンにより、BMIが高い患者はBMIが低い患者と比較し、血清カリウム値および収縮期血圧の低下の程度が軽微な傾向を示したが、安全性についてBMIの相違は認められなかった。 最後に佐藤氏は、「フィネレノンによる糖尿病の新規発症リスクを減少させるメカニズムは完全には解明されていないが、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の種類による選択性および親和性、それに伴う炎症や線維化の抑制、神経体液性因子の修飾などが関与している可能性が示唆される」とコメントした。 なお、本学会で発表された『心不全診療ガイドライン2025年改訂版』において、症候性HFmrEF/HFpEFにおける心血管死または心不全増悪イベント抑制を目的とした薬物治療に対してフィネレノンの推奨(クラスIIa)が世界で初めて追加されている。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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幹細胞治療が角膜の不可逆的な損傷を修復

 実験段階にある画期的な幹細胞治療によって、視力を奪う角膜の損傷を修復できる可能性のあることが、米ハーバード大学附属マサチューセッツ眼科耳鼻科病院のUla Jurkunas氏らによる新たな研究で示された。眼球の一番外側の透明な層である角膜は、傷害や疾患などによって新しい細胞を再生する能力が失われる不可逆的な損傷を受ける可能性がある。新たな治療法は、幹細胞を使って損傷した眼球の角膜を再生させるというもの。初期段階の臨床試験では、治療後18カ月間にわたって追跡された参加者において、この治療法の実行可能性と安全性が確認されたという。詳細は、「Nature Communications」に3月4日掲載された。 この治療法は自家培養角膜輪部上皮幹細胞移植(CALEC)と呼ばれるもの。Jurkunas氏は、「14人の参加者を対象とした初の臨床試験において、CALECは安全であり、この治療法が実施可能であることが示された」とマス・ジェネラル・ブリガムのニュースリリースの中で述べている。同氏は、「今回の試験により、CALECには角膜の表面の90%以上を修復する効果のあることを裏付けるデータが得られた。この成果は、これまで治療不可能と考えられていた角膜損傷のある人にとって、意義のある変化をもたらすものだ」と言う。 今回の臨床試験の背景に関する説明によると、角膜(黒目)と眼球結膜(白目)との境界部分にあたる角膜輪部には、角膜輪部上皮幹細胞と呼ばれる健康な幹細胞が多数存在する。これらの細胞は、常に角膜を再生し、透明で滑らかな状態を保っているという。しかし、角膜が損傷すると幹細胞が減少し、その結果、眼球の表面には永久的な損傷が残る。こうした病態は、角膜上皮幹細胞疲弊症と呼ばれている。さらに悪いことに、こうした損傷によって角膜移植手術が適用できなくなる可能性もあるという。 Jurkunas氏らによると、CALECでは、健康な眼球から幹細胞を取り出し、2〜3週間を要する新しい製造プロセスによって細胞を増やして組織移植片を得る。移植片はその後、角膜が損傷した眼球に外科的に移植され、角膜の再生能力を回復させるという。 今回報告された臨床試験では、CALECによって14人の参加者の半数で3カ月以内に角膜が完全に修復されていることが確認された。さらに、1年半後にこのような治療の成功が確認された参加者の割合は77%(10人)に増加していた。部分的な回復が認められた参加者も含めると、全体的なCALECの治療成功率は92%(12人)に達していた。 また、この治療法は安全であることも確認された。参加者の幹細胞を採取した健康な目と、損傷した目のいずれにおいても、重篤な有害事象は発生しなかったとJurkunas氏らは述べている。なお、この治療法はまだ実験段階のものであり、CALECが連邦政府から認可を受けるにはさらなる臨床試験が必要である。Jurkunas氏は、「今回の試験の結果は、米食品医薬品局(FDA)による承認の取得に向けた追加の臨床試験実施の必要性を示していると、われわれは考えている」としている。 Jurkunas氏らは、今後この治療法を改良したいとの考えを示している。例えば、現時点では、損傷した角膜に移植する幹細胞を得るためには、もう片方の目が健康でなければならない。そのため、最終的には死亡したドナーから採取した幹細胞を使って、この手術を行えるようにしたいと同氏らは考えている。

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第5回 あなたのDNA情報が売られる?―米23andMeの破綻と「遺伝情報」のリスク

米国の大手遺伝子検査サービス「23andMe(トゥエンティスリー・アンド・ミー)」が2025年3月、連邦破産法第11条の適用を申請し、売却を前提とした再建手続きを開始しました。これにより、これまで同社が収集してきた1,500万人分以上の顧客の遺伝情報が、第三者の手に渡る可能性が現実のものとなっています1)。このニュースは、アメリカだけの問題ではありません。日本でも広まりつつある「民間の遺伝子検査サービス」のリスクと、個人情報保護のあり方を見直すきっかけとなるかもしれません。「面白そう」で提供したDNAが、誰かの商品になる日23andMeは、唾液を送るだけで祖先のルーツや将来的な病気リスク、食生活の適性などがわかるとして人気を集めた企業です。しかし今回の破綻により、企業そのものが売却対象となるだけでなく、個人の「遺伝情報」という非常に機微なデータも、取引の一部として扱われかねない状況です。同社はこれまで「ユーザーが同意しない限り、個人を特定できるデータは第三者に販売しない」とするプライバシーポリシーを掲げてきました。しかし、今回のように企業が他社に買収されれば、その方針が守られる保証はありません。実際、同社のプライバシーポリシーには「方針は予告なく変更される可能性がある」との記載もあります。カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官は、生命保険会社や医療保険会社がこうしたデータに興味を持っていると明言し、「ユーザーは速やかにデータを削除するべき」と警告しています。日本でも拡大中、民間遺伝子検査サービスの落とし穴日本でもここ数年、国内外発の遺伝子検査サービスが浸透してきました。「自宅で簡単」「未来の病気リスクがわかる」といった魅力的なキャッチコピーで、健康意識の高い層を中心に利用が広がっています。しかし、こうしたサービスの多くは個人情報保護法やゲノム医療推進法の対象となっている一方で、「遺伝子情報」特有のリスクに十分対応しているとは言い切れません。たとえば、DNAは文字通り「究極の個人情報」であり、名前や住所がなくても個人を特定できる可能性があります。また、データが研究開発や提携企業との連携に使われる可能性があり、どこまで情報が共有されるか把握しきれない場合があります。さらには、保険会社による査定利用といった問題も、今後浮上する可能性があります。今からでもできる「自分のDNAを守る方法」今回の23andMeの件では、すでに登録している顧客が自らデータを削除するための手続きが案内されています。具体的にはアカウント設定から「23andMe Data」→「View」→「Permanently Delete Data」と進めば、自分の遺伝情報を削除できるようです。また、保存されている唾液サンプルの破棄や、研究利用への同意撤回も同じ画面から可能だということです。今回の事件は日本企業のものではありませんが、過去に日本国内のサービスを利用された方がいれば、プライバシーポリシーに「販売しない」「第三者に提供しない」旨が明記されているか、データ削除や利用停止の手続きが簡単にできるか、国外のクラウドサーバーに保存されていないか、などといった点を確認することが重要でしょう。そして何より、「楽しそうだから」「安いから」と安易にDNAを提供しない慎重な判断が求められます。企業の広告ではそのメリットばかりが前面に出される傾向がありますから、しっかりとリスクの理解を進めておきたいものです。メールアドレスやクレジットカード番号は変更できますが、遺伝子情報は自ら修正することはできません。たとえ匿名で保存されたとしても、「誰のDNAか」を突き止めることはできてしまうというのが現実でしょう。利便性と引きかえに、自分や家族の将来のリスクを差し出していないか。今一度立ち止まって考えるリテラシーが求められています。 参考文献・参考サイト 1) Duffy C,et al. 23andMe is looking to sell customers’ genetic data. Here’s how to delete it. CNN Business. 2025 Mar 25. 経済産業省「経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン」

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メトロニダゾール処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第23回

画像を拡大するTake home messageメトロニダゾールを使用する際には、神経症状を含む5つの重要な副作用を覚えておこう。メトロニダゾールは、嫌気性菌や原虫感染症に対して広く使用される抗菌薬です。しかしその使用に伴っては、いくつかの重大な副作用が報告されています。とくに、長期間の使用に関連する神経学的副作用には注意が必要です。今回は、メトロニダゾールの代表的な5つの副作用について解説します。1. 消化器症状メトロニダゾールの副作用として一般的なものに、消化器症状があります。とくに悪心や嘔気が約12%の患者に発生します。2. 味覚変化(金属味)メトロニダゾールの服用により、口の中で金属のような味覚異常を来すことがあります。これは約15%にみられるもので、食欲低下につながる患者さんも少なくありません。3. 脳症メトロニダゾールは中枢神経系に影響を及ぼすことがあり、とくに長期使用や高用量投与において脳症を引き起こすことがあります。典型的な症状には、運動失調、構音障害、めまい、混乱などが含まれます。MRI検査では、小脳歯状核にT2高信号が認められることがあります。メトロニダゾール使用中に小脳症状を来した場合は、メトロニダゾール脳症を疑う必要があります。4. 末梢神経障害メトロニダゾールの長期使用により、末梢神経障害を引き起こすことがあります。手足のしびれが最も頻度が高い神経学的症状です。多くの場合、薬剤の中止により症状は改善しますが、不可逆的なケースも報告されており、注意が必要です。5. ジスルフィラム様反応メトロニダゾールはアルコールと併用すると、ジスルフィラム様反応(顔面紅潮、頭痛、悪心、嘔吐など)を引き起こすことがあります。メトロニダゾール服用中はアルコール摂取を避けるよう指導することが重要です。以上、メトロニダゾールは一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、上記の5つの副作用を念頭に置いておく必要があります。長期的な使用による影響はもちろんですが、なかには短期使用でも脳症や末梢神経障害を来す報告もあるため、注意が必要です。1)Daneman N, et al. Clin Infect Dis. 2021;72:2095-2100.2)Matsuo T, et al. Int J Infect Dis. 2019;89:112-115.3)Sobel R, et al. Expert Opin Pharmacother. 2015;16:1109-1115.4)Karrar HR, et al. J Pharma Res Int. 2021;33:307-317.

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PTSDに対するブレクスピプラゾール治療、単剤療法と併用療法の有効性

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するブレクスピプラゾールのセルトラリン併用療法および単剤療法の有効性、安全性、忍容性を評価するため、米国・Otsuka Pharmaceutical Development & Commercialization Inc.のMary Hobart氏らは、ランダム化比較試験を実施し、その結果を報告した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2025年2月19日号の報告。 本試験では、1週間のプラセボ導入期間とその後11週間のランダム化二重盲検実薬参照プラセボ対照並行群間治療期間(フォローアップ期間14日間を含む)で構成された。米国の48の臨床試験施設において2017年1月〜2018年11月に実施された。対象は、PTSD成人外来患者321例(DSM-V基準)。経口ブレクスピプラゾール+セルトラリン(併用群)82例、ブレクスピプラゾール+プラセボ(ブレクスピプラゾール単剤群)75例、セルトラリン+プラセボ(セルトラリン単剤群)81例、プラセボ+プラセボ(対照群)83例にランダムに割り付けられた。用量はフレキシブルドーズ(ブレクスピプラゾール:1〜3mg/日、セルトラリン:100〜200mg/日)を採用した。主要エンドポイントは、ランダム化後(1週目)から10週目までのClinician-Administered PTSD Scale for DSM-5(CAPS-5)合計スコアの変化とした。安全性評価には、有害事象を含めた。 主な結果は以下のとおり。・治験完了率は、併用群70.7%(58例)、ブレクスピプラゾール単剤群66.7%(50例)、セルトラリン単剤群72.8%(59例)、対照群77.1%(64例)。・10週目において、併用群は、セルトラリン単剤群と比較し、CAPS-5合計スコアのより大きな改善が認められた(最小二乗[LS]平均差:−5.08、95%信頼区間:−8.96〜−1.20、p=0.011)。また、ブレクスピプラゾール単剤群および対照群との比較においても、同様であった。【併用群】77例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:35.7、LS平均変化:−16.4【ブレクスピプラゾール単剤群】69例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:33.9、LS平均変化:−12.2【セルトラリン単剤群】75例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:36.5、LS平均変化:−11.4【対照群】78例、ランダム化後CAPS-5合計スコア:35.1、LS平均変化:−10.5・ブレクスピプラゾール単剤群およびセルトラリン単剤群は、対照群と比較し、統計学的に有意な差は認められなかった。・治療中に発生した有害事象のうち、発生率が10%以上であった有害事象は、併用群で体重増加(12.5%)および傾眠(10.0%)、ブレクスピプラゾール単剤群でアカシジア(13.3%)、セルトラリン単剤群で嘔気(20.3%)および口渇(12.7%)。 著者らは「ブレクスピプラゾールとセルトラリンとの併用療法は、PTSDの新たな治療法として有効である可能性があり、安全性プロファイルは、これまでのブレクスピプラゾールの報告と一致していた」と結論付けている。

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造血幹細胞移植後のLTFUを支える試み/日本造血・免疫細胞療法学会

 2025年2月27日~3月1日に第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会が開催され、2月28日のシンポジウム「未来型LTFU:多彩なサバイバーシップを支える次世代のケア」では、がん領域におけるデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics:DTx)の有用性および造血幹細胞移植治療におけるDTx開発の試みや、移植後長期フォローアップ(Long Term Follow Up:LTFU)の課題解決のためのICT(Information and Communication Technology)活用と遠隔LTFUの取り組み、さらに主に小児・思春期・若年成人(Children, Adolescent and Young Adult:CAYA)世代の造血幹細胞移植における妊孕性温存と温存後生殖補助医療についての話題が紹介された。造血器腫瘍は多彩なサバイバーシップケアの重要性が増しており、次世代ケアの試みが着々と進められている。同種造血幹細胞移植後のDTx DTxは、治療用アプリによるデジタル技術を用いて、個々の患者の病状に見合った情報をリアルタイムで提供し、患者の行動変容を促して医療効果や医療プロセスの改善を得ることである。新たな介入手段であり情報薬ともいわれ、次回の外来受診までの治療空白をアプリの使用によりフォローし、治療効果を狙う考え方である。 DTxアプリの使用は、QOL、全生存期間(OS)の改善効果が多数報告されており、ドイツではヘルスリテラシーや家族の負担軽減などの改善効果も認められれば薬事承認される。日本では2020年ごろからニコチン依存症や高血圧症、アルコール依存症などを対象疾患としたDTxアプリの使用効果が認められ、薬事承認されている。 固形がん領域では患者の健康状態をアンケート方式で電子的に収集するelectronic Patient Reported Outcome(ePRO)アプリの使用が疾患再発の早期発見・治療につながり、QOL・生命予後の改善が複数のランダム化試験で報告されている。欧州臨床腫瘍学会では2022年のガイドラインでePROアプリのがん診療への導入をGrade 1Aで推奨し、重症や悪化症状に対する臨床医への自動アラート機能を有するePROシステムの使用も推奨している。 岡村 浩史氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 血液腫瘍制御学/臨床検査・医療情報医学)らは、2021年に移植患者用アプリを開発し、同種造血幹細胞移植(allogeneic Hematopoietic stem Cell Transplantation:allo-HCT)後の外来通院中患者99例にHCTアプリを導入し、和歌山県立医科大学と共にPilot Studyを実施した。その結果、体温、脈拍数、SpO2、体重、修正Leeスコア(ePRO)、およびこれらの最近の悪化傾向などが移植後重症合併症を早期に予測しうる因子であった。移植後合併症での緊急入院例では入院約10日前から脈拍、SpO2、修正Leeスコアが悪化する体調の変化がみられ、早期探知が可能と考えられた。岡村氏らはHCTアプリのsecond stepとして重症化モデルの精度改善を行い、データ入力1週以内の合併症緊急入院予測モデルの開発を構築する多施設移植後見守りアプリ研究(第II相)を行っている(2025年9月まで約200例を登録する見込み)。患者が装着しているスマートウォッチで収集された身体情報およびePRO(22項目・週1回)への入力データと、医療機関からの診療情報(今後マイナポータルから提供の予定)を集約し、患者の同意の下にデータを解析している。 岡村氏は患者入力によるePROに基づき、将来的には個別症状に合わせた生成AIの利用や、電子カルテとの情報連携、地域医療連携ネットワーク(Electronic Health Record:EHR)、パーソナルヘルスレコード(Personal Health Record:PHR)としての情報連携の強化(病診連携や成人移行時の病院間の連携など)も可能であると考えており、「病院診療情報やePRO、ウエアラブルデバイスによる情報を研究利用し、HCT診療の質を向上させる連携を深めたい」と述べた。医療情報連携、PHRを用いた遠隔LTFUの未来 allo-HCT後の長期生存者の増加に伴い、LTFUの重要性が高まっている。しかし移植実施施設への通院や、非移植実施施設の医療スタッフ教育、移植後合併症に対する総合的な診療体制の構築、小児からのトランジションと継続的フォローアップなど課題は多い。ICTアプローチはLTFUの課題解決において不可欠であり、遠隔医療、およびEHR、PHRをいかに活用するかが重要である。 遠隔医療はICTを用いたリアルタイムのオンライン診療を活用した医療であり、Doctor to Doctor(D to D:専門医→主治医)、Doctor to Patient(D to P:主治医→患者)、Doctor to Patient with Nurse(D to P with N:主治医→患者・看護師)、Doctor to Patient with Doctor(D to P with D:専門医→患者・主治医)の4つのカテゴリーがある。 EHRは、患者同意の下に、患者の基本情報、処方・検査・画像データ等を電子的に共有・閲覧できる。病院間での診療情報の共有が可能になれば、近医での検査結果をあらかじめ医療情報連携で参照してもらい、自宅でD to PのオンラインLTFU受診が可能になる。また紹介先の医療機関から移植実施施設の診療情報にアクセスできることで転医や就職で他県に引っ越す場合、成人科へのトランジションでも切れ目のない医療が提供できる。 全県単位の医療情報ネットワークとして、和歌山県では2013年から、きのくに医療連携システム「青洲リンク」を運用している。平時は、参加病院の電子カルテ、参加診療所の検査結果、参加薬局の調剤情報、画像をインターネットで情報共有し診療を支援する。災害時は、県外にバックアップしている共有情報を活用し災害医療を支援する。参加医療機関は2024年12月25日現在、病院11施設、診療所49施設、同意患者数は約2,700例であり、青洲リンクを利用して相互にデータを参照しながら医療連携を取っている。 和歌山県立医科大学では2020年から紀南病院(和歌山県)とテレビ会議システムで接続する遠隔LTFU外来を開始した。患者は、紀南病院(地域基幹病院)で診察を受け、問診票の記入やバイタルサイン測定、各種検査を行い、その結果を診療情報提供書と共に和歌山県立医科大学(移植実施施設)にFAXで送付する。大学病院の医師はFAXの情報、および青洲リンク活用による紀南病院の診療情報(検査結果、処方、画像)を参照したうえで診療を行う。EHRで診療情報を共有するこの形式は、D to P with Dに該当する。連携先にも医師がいることで対面と遜色ない診察ができ、患者満足度も高く、質の高い遠隔LTFU達成が可能となる。 PHRはスマートウォッチなどデバイスから収集できる日常的な医療情報(脈拍、体重、運動量など)と医療機関での診療情報(検査結果、処方、画像など)、および患者自身が入力する健康情報(血圧、食事量など)を一元化し、デジタルデータとして患者が管理するものである。 青洲リンクではEHRに加えPHRの取り組みも進めており、参加医療機関の診療情報を提供し、患者がスマートフォンで病院の検査結果や処方情報をいつでも見ることが可能なアプリを導入した。PHRを利用した情報提供は、スマートフォンにダウンロードした近隣クリニックでの診療データを、移植実施施設への通院時に見てもらうことができ、またオンライン診療でデータを共有することで遠隔LTFUも可能になる。 西川 彰則氏(和歌山県立医科大学附属病院 医療情報部)は今後、自治体の医療情報連携を基盤としたPHR、移植後ePRO、医療情報、バイタル情報を統合的に集約提供するプラットフォームの構築が望ましいと考えており、allo-HCT後の患者にとっては、利便性が高く連続的なLTFUの体制構築が必須であり、ICTの活用は未来のLTFUにつながる可能性があるとした。妊孕性温存から次のステップへ―がん・生殖医療との協働で目指す造血幹細胞移植後の妊娠・出産 造血器腫瘍は小児がんの約40%を占め、AYA世代では約7%と、成人がんの増加に伴い全体の割合が低下する。CAYA世代の造血器腫瘍の生命予後は改善傾向にあり、長期生存例が増えることで、相対的に妊孕性を含むサバイバーシップケアの重要性が増している。 LTFUのテーマでもある晩期合併症(Late effects)としての性腺障害や不妊はAYA世代にとってがん治療中・治療後の大きな課題であり、2023年の「第4期がん対策推進基本計画」では取り組むべき施策として、CAYA世代の妊孕性温存療法を取り上げている。 がん治療前の妊孕性温存については、2022年8月から対象となる患者への情報提供や意思決定支援ががん診療連携拠点病院の必須要件となった。2024年12月に改訂された『小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』でも造血器腫瘍治療前のすべての患者に情報提供・意思決定支援を行うことが推奨され、GnRHアゴニストによる卵巣保護や未授精卵子の体外成熟、移植前処置の全身放射線治療時の卵巣・精巣遮蔽についても記載されている。 妊孕性温存における患者の負担は大きく、2021年・2022年には妊孕性温存・温存後生殖補助医療を対象とする助成金制度が全国で均てん化され、研究助成事業も運用されている。全国レジストリである日本がん・生殖医療登録システム(Japan OncoFertility Registry:JOFR)では、本邦におけるがん生殖医療の有効性や実態を調査する目的で、スマートフォン向け患者用アプリFSリンク(Fertility & Survivorship Linkage)をPatient Reported Outcome(PRO)として用い、パートナーシップの状況や挙児の状況を患者自身に提供・更新してもらっている。ただ、AYA世代は身体的・心理的・社会経済的に未自立であり、温存した生殖子の管理やFSリンクの管理は、子供の成長過程のさまざまなトランジションの一環として、成人を迎える頃合いを見計らい親から子へ移行する必要があり、生殖医療担当医と小児がん治療に携わる医師が協働して移行を支援している。妊孕性温存やFSリンクの周知はYouTubeで解説動画を配信し、AYA世代にはLINEを用いて情報提供を行っている。 がん治療後の妊娠可能時期については、厚生労働省から抗がん剤など遺伝毒性のある医薬品の最終投与後の避妊期間に関してのガイダンスが発出されている。造血幹細胞移植後のさまざまな薬剤も妊娠・出産に関わるため、妊娠可能時期についてがん専門薬剤師と共に症例ごとに情報提供している。 移植後の安全な妊娠・出産を検討する際には、胎児や母体のリスクへの対処として適切なワクチン接種と共に移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)の管理が必要である。治療薬や放射線治療による合併症にも注意し、妊娠希望例ではLTFUからプレコンセプションケア(妊娠前相談)外来につなげることが重要である。妊孕性喪失後のケアでは、看護師、心理士など多職種による心理・社会的支援を行う。近年、雄のマウスiPS細胞からの卵子生成、またヒトiPS細胞由来の受精卵作製など、生命倫理学的な課題も含め生殖子生成研究の進展が注目されている。 セクシュアリティとパートナーシップ、性機能障害など、患者のさまざまなニーズや悩みに対応するには、地域や院内で患者・家族と生殖医療をつなぐ窓口の一元化が必要である。大阪国際がんセンターではAYA世代サポートチームが妊孕性温存や温存後生殖補助医療の相談窓口になり、効率的な意思決定の支援を行っている。意思決定支援にたけた医療従事者の配置や育成も必要であり、日本がん・生殖医療学会認定ナビゲーター制度も開始された。多田 雄真氏(大阪国際がんセンター 血液内科・AYA世代サポートチーム)は、「日進月歩の生殖医療や移植を受けたサバイバーのアンメットニーズにつなげるために、生殖医療の医師との連携は血液内科移植医やLTFUの看護師にとって重要であり、全国のがん・生殖医療ネットワークを通して顔の見える関係を構築していきたい」と述べた。 allo-HCTではLTFUが不可欠であり、ICTのアプローチをいかに活用するかが重要である。また、移植を受けたサバイバーのニーズはより高度になり、QOLを保ち生きることを目標とした治療が求められている。

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ARDSの鎮静、セボフルラン対プロポフォール/JAMA

 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の管理では機械換気が重要とされ、多くの場合鎮静を要するが、至適な鎮静法は依然として不明だという。フランス・Universite Clermont AuvergneのMatthieu Jabaudon氏らSESAR Trial Investigatorsは「SESAR試験」において、中等症~重症のARDS患者では、プロポフォール静脈内投与と比較してセボフルラン吸入による鎮静は、28日の時点での換気を必要としない日数(無換気日数)が少なく、90日生存率が低いことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年3月18日号に掲載された。フランスの無作為化第III相試験 SESAR試験は、ARDS患者の鎮静におけるセボフルラン吸入の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の非盲検評価者盲検無作為化第III相試験であり、2020年5月~2023年10月にフランスの37の集中治療室(ICU)で患者を登録した(French Ministry of Healthなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上の中等症~重症の早期ARDS患者(PaO2/吸入酸素分画<150mmHg、呼気終末陽圧≧8cm H2Oと定義)を対象とした。これらの患者を、鎮静管理としてセボフルラン吸入療法を受ける群(介入群)またはプロポフォール静脈内投与療法を受ける群(対照群)に無作為に割り付け、最長で7日間投与した。 主要エンドポイントは28日までの無換気日数とし、主な副次エンドポイントは90日生存率であった。無換気日数、生存率ともに不良 687例(平均[SD]年齢65[12]歳、女性30%)を登録し、セボフルラン群に346例、プロポフォール群に341例を割り付けた。総鎮静期間中央値は両群とも7日間(四分位範囲[IQR]:4~7)であった。 28日までの無換気日数は、セボフルラン群0.0日(IQR:0.0~11.9)、プロポフォール群0.0日(0.0~18.7)であり、セボフルラン群で短かった(群間差中央値:-2.1[95%信頼区間[CI]:-3.6~-0.7]、標準化ハザード比[HR]:0.76[95%CI:0.50~0.97])。 また、90日生存率は、セボフルラン群47.1%、プロポフォール群55.7%と、セボフルラン群で低かった(HR:1.31[95%CI:1.05~1.6])。7日死亡率、ICU非入室日数も劣る 4つの副次エンドポイントのうち、セボフルラン群はプロポフォール群と比較して、7日死亡率が高く(19.4%vs.13.5%、相対リスク:1.44[95%CI:1.02~2.03])、28日までのICUに入室していなかった日数が少なかった(日数中央値:0.0日[IQR:0.0~6.0]vs.0.0[0.0~15.0]、群間差中央値:-2.5日[95%CI:-3.7~-1.4])。 著者は、「セボフルラン群における臨床アウトカムの悪化を説明する仮説がいくつか考えられ、たとえば長期使用と急性腎障害の増加の関連が知られていることから、その影響の可能性も考慮する必要があるだろう」「吸入鎮静法は、ARDSやそのリスクのあるICU患者において注目を集めているため、今回の知見は臨床的に重要な意味を持つ可能性がある」としている。

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日本人へのbempedoic acid、LDL-C20%超の低下を認める(CLEAR-J)/日本循環器学会

 スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐の高コレステロール血症の日本人患者に対する12週後のbempedoic acidの安全性と有効性が明らかになった―。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Studies2において山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が発表し、Circulation Journal誌2025年3月28日号に同時掲載された。 本研究は、bempedoic acid 180mgを12週投与した場合のプラセボに対する優位性を確認したプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間第III相試験(NCT05683340)。高コレステロール血症患者のうち、18~85歳、スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクを有し2017年のLDLコレステロール(LDL-C)基準を達成していない、日本人患者を対象(ホモ接合体家族性高コレステロール血症[FH]、妊娠または授乳中、3ヵ月以内にASCVDを発症した患者は除外)とし、国内28施設の96例をbempedoic acid群あるいは対照群に1:1に割り付けた。主要評価項目はベースラインから12週のLDL-Cの変化率。副次評価項目は有効性(非HDLコレステロール[non-HDL]、総コレステロール[TC]、apoB、高感度C反応性蛋白[hsCRP]の12週の変化率、およびLDL-C目標達成率)と安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・両群の患者特性は、平均年齢64歳、約50%が男性、平均BMIは約24kg/m2、約20%はヘテロ接合体FH、約30%がASCVDであった。また、スタチンで効果不十分な患者は75%、スタチン不耐は25%であった。・12週時のLDL-C変化率はbempedoic acid群で-25.25%、対照群で-3.46%となり、その群間差(95%信頼区間[CI])は-21.78%(-26.71~16.85)で統計学的に有意差が認められ(p<0.001)、その変化は投与2週目から有意な低下が認められ、12週まで持続した。・スタチン効果不十分例(-20.17%[95%CI:-25.82~-14.53])とスタチン不耐例(-25.77%[-36.61~-14.92])のいずれにおいてもその効果が認められた。・副次評価項目の1つであるhsCRPの群間差(95%CI)は-26.6%(-47.8~-5.4)で統計学的に有意差が認められた。これは既知の報告と一貫性のある結果となった。・安全性について、治療中に発現した有害事象(TEAE)はbempedoic acid群で3例、対照群で2例が報告されたが、両群で死亡または重篤なTEAEはみられなかった。bempedoic acid(ベムペド酸)とは bempedoic acidは肝臓中のクエン酸分解酵素であるATPクエン酸リアーゼに作用することでコレステロール合成経路を阻害してLDL-Cを低下させる。この薬剤を活性化体へ変化させるACSVL1は、主に肝臓に発現し、筋肉への発現がないことから、スタチンのように筋症状が出現しない点が特徴である。日本国内では、2024年11月26日に大塚製薬が「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」の適応で製造販売承認申請を行っており、国内での承認・発売が待たれるところである。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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5価髄膜炎菌ワクチン、単回接種で良好な免疫応答/Lancet

 生後9~15ヵ月の乳幼児における通常小児ワクチンに併用接種する髄膜炎菌ワクチンについて、血清型A、C、Y、W、Xを標的とする5価髄膜炎菌結合ワクチン(NmCV-5)の併用接種は、承認済みの4価髄膜炎菌結合ワクチン(MenACWY-TT)の併用接種と比較して安全性に問題はなく、非劣性の免疫応答が惹起されたことが、マリ・Centre pour le Developpement des Vaccins-MaliのFatoumata Diallo氏らNmCV-5 EPI study teamによる第III相単施設二重盲検無作為化対照非劣性試験の結果で示された。侵襲性髄膜炎菌感染症は、アフリカのセネガルからエチオピアにかけて広がるmeningitis belt(髄膜炎ベルト)と呼ばれる国々において、壊滅的な被害をもたらす公衆衛生上の問題となっている。2020年の世界保健総会(World Health Assembly)で導入・承認された「2030年までに髄膜炎を克服するための世界的なロードマップ」では、蔓延している髄膜炎菌血清群に対する予防拡大の必要性が、5つの血清型に対する手頃なワクチンを導入するための戦略目標とともに示されていた。Lancet誌2025年3月29日号掲載の報告。NmCV-5 vs. MenACWY-TTの免疫応答を比較 試験は、マリの首都で最大都市のバマコにあるワクチン開発センター(Centre pour le Developpement des Vaccins)で、現地乳児拡大予防接種プログラム(Expanded Program on Immunization:EPI)を完了した生後9~11ヵ月の乳児を募集して行われた。 参加者は9-month EPI受診時に、髄膜炎菌ワクチンを9-month EPI受診時(9ヵ月時接種群)または15-month EPI受診時(15ヵ月時接種群)に接種するよう無作為に1対1.2の割合で割り付けられ、それぞれの指定接種群でNmCV-5またはMenACWY-TTのいずれかの接種を受けるように無作為に割り付けられた。 試験ワクチンと指定されたEPIワクチンは、割り付けを盲検化されていない試験担当者によって準備・接種された。親または保護者、研究者およびその他すべての試験スタッフは、髄膜炎菌ワクチンの割り付けを盲検化された。 髄膜炎菌ワクチンは、生後9ヵ月で麻疹・風疹ワクチン(1回目)および黄熱病ワクチンと同時に接種、または生後15ヵ月で麻疹・風疹ワクチン(2回目)と同時に接種された。 主要エンドポイントの免疫応答(seroprotective response)はウサギ補体血清殺菌抗体価が8以上と定義し、ワクチン接種後28日目にこの反応を示した5つの髄膜炎菌血清群それぞれの参加者割合の差を推定した。評価はper-protocol集団で行った。 事前に規定した非劣性マージンは、両年齢群の5つの血清群すべてで-10%とした。血清型X群に関するNmCV-5の免疫応答の非劣性は、MenACWY-TTの最も低い血清型群(A群、C群、W群、Y群間で)の免疫応答と比較し評価した。安全性は副次エンドポイントであり、修正ITT集団(無作為化された髄膜炎菌ワクチンを接種された全参加者)で6ヵ月間にわたり評価した。NmCV-5の5つの血清型すべてでMenACWY-TTに対して非劣性 2022年3月24日~8月15日に1,325例が登録され、9ヵ月時接種群に602例が、15ヵ月時接種群に723例が無作為化された。髄膜炎菌ワクチンは、9ヵ月時接種群では602例のうち600例が同一期間に接種された。15ヵ月時接種群600例への髄膜炎菌ワクチンは、2022年9月27日~2023年2月6日に接種された。また両群で、400例がNmCV-5を、200例がMenACWY-TTの接種を受けた。 非劣性を評価したper-protocol集団には、9ヵ月時接種群564例(NmCV-5接種373例、MenACWY-TT接種191例)と15ヵ月時接種群549例(NmCV-5接種367例、MenACWY-TT接種182例)が含まれた。9ヵ月時接種群のper-protocol集団において、NmCV-5接種とMenACWY-TT接種の免疫応答率の差は、血清型A群で0.0%(95%信頼区間[CI]:-1.0~2.0)、C群で-0.5%(-2.3~1.9)、W群で-3.0%(-6.3~0.8)、Y群で-3.0%(-5.4~-0.4)であった。X群については、MenACWY-TT接種のW群との比較で非劣性が評価され、免疫応答率の差は2.3%(95%CI:0.3~4.7)であった。 15ヵ月時にNmCV-5接種を受けた参加者とMenACWY-TT接種を受けた参加者の免疫応答率の差は、血清型A群で0.8%(95%CI:-0.6~3.7)、C群で-0.8%(-3.3~2.5)、W群で0.3%(-1.8~3.5)、Y群で1.4%(-0.6~4.8)であった。X群については、MenACWY-TT接種のY群との比較で非劣性が評価され、免疫応答率の差は1.9%(95%CI:0.0~4.4)であった。 両群のNmCV-5の免疫応答率は、5つすべての血清型について、MenACWY-TTの免疫応答率に対して非劣性であった。 6件の重篤な有害事象が記録されたが、ワクチン接種に関連するものとはみなされなかった。

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母乳育児は子どもの血圧低下に関連

 母乳育児には、子どもの血圧を下げる効果があるようだ。最新の研究で、生後1週間と1カ月時点で腸内細菌の多様性が高く、特にビフィズス菌に代表されるBifidobacterium属が多く存在する場合、6カ月以上にわたる母乳育児が6歳時の血圧に対して保護的に働く可能性のあることが明らかになった。米コロラド大学アンシュッツメディカルキャンパスのNoel Mueller氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association」に2月27日掲載された。Mueller氏は、「われわれの研究結果は、幼児期の腸内細菌叢が小児期の心血管の健康に潜在的に重要な意味を持つことを示唆している」と話している。 この研究でMueller氏らは、デンマークの小児喘息に関する研究(Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010)に参加した526人の子どもを対象に、乳児期の腸内細菌の多様性や組成と小児期の血圧との関連と、その関連に母乳育児が与える影響について検討した。生後1週間、1カ月、1年時点に対象児から採取された便検体の分析により腸内細菌に関するデータを得た。また血圧は、3歳時と6歳時に測定した。 解析の結果、全体的には腸内細菌の多様性と血圧との間に関連は認められなかったが、母乳育児の期間が関連に大きく影響することが示された。具体的には、腸内細菌の多様性が高い場合、母乳育児期間が6カ月以上だった子どもでは血圧が低くなる傾向が認められたのに対し、6カ月未満だった子どもでは血圧が高くなる傾向が認められた。また、生物の多様性の指標であるシャノン指数が1上昇するごとに、母乳育児期間が6カ月以上だった子どもでは6歳時の収縮期血圧が1.86mmHg低下していたのに対し、6カ月未満だった子どもでは0.73mmHg上昇していた。さらに、生後1週間および1カ月の時点で2種類のBifidobacterium属(Bifidobacterium-a976、Bifidobacterium-78e)の量が多い場合、6カ月以上の母乳育児は、6歳時の収縮期血圧の低下と関連していることも示された。 研究グループは、腸内細菌が、特に母乳で育てられた子どもの血圧を改善する可能性のあることに対しては、いくつかの理由が考えられると話す。例えば、特定の腸内細菌は、乳児の母乳の消化を助けるように進化したことが考えられるという。これらの細菌は、分解する母乳がなければ、代わりに乳児の腸の内壁を餌にしてしまうことがあり、その場合、細菌や脂肪が血流に入りこむ「リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)」と呼ばれる症状を引き起こす可能性があるという。また研究グループは、リーキーガットは、成人の血圧上昇や炎症と関連があると指摘する。 研究グループは、「小児期の血圧が成人期まで持続するパターンは明らかになっており、それが長期的には健康に影響することを考えると、この発見は公衆衛生にとって重要な意味を持つ」と話す。その上で、「われわれの研究結果は、腸内細菌叢の最適な発達のためだけでなく、生涯にわたる心血管の健康を改善するためにも、乳児期を通して母乳育児を促進することの重要性を強調している」と付言している。

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腸管GVHDの発症・重症化および予防・治療における腸内細菌叢の役割/日本造血・免疫細胞療法学会

 腸管移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における特徴的な合併症で、予後を左右するだけでなく、移植後の生活の質も低下させる。近年、腸管GVHDと腸内細菌叢との関連に注目した研究は増えているが、まだ不明な点も多い。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「腸内細菌叢とGVHD:治療への新たな道を切り開く」と題したシンポジウムが行われ、腸内細菌叢とGVHDとの関連についての研究が4名から報告された。急性GVHDのpathobiontの同定とファージ由来酵素を用いた新規治療法 植松 智氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野)らのグループは同種移植患者46例の腸内細菌叢の16SrRNA解析を行い、30例でEnterococcus属細菌が増加していることを確認した。また、患者糞便由来のE. faecalisを単離し、これが外分泌毒素サイトライシンを産生する強毒株で、バイオフィルム関連遺伝子群を豊富に有する系統と明らかにした。さらに、マウスを用いた実験で患者糞便由来E. faecalisが急性GVHD関連死亡を増加させることを確認した。 植松氏らのグループは以上の結果から、E. faecalisがGVHDの発症と関わるpathobiontであり、前処理で他の細菌が死滅するなか、サイトライシンを産生する強毒株のE. faecalisがバイオフィルムを形成することによって腸管に濃縮し、増殖した後、産生されたサイトライシンによる上皮細胞障害が腸管GVHDの増悪に寄与していると考え、E. faecalisの排除によりGVHD関連死亡を抑えられるのではないかと推測した。 そこで、患者糞便由来E. faecalisのゲノムを網羅的に解析し、E. faecalisに特異的に感染するバクテリオファージ由来のエンドライシン配列を抽出した後、多種類の株で共通に検出されたエンドライシンを合成。このE. faecalis特異的エンドライシンの溶菌効果とバイオフィルム溶解作用をin vitroで確認した後、マウスを用いた実験でGVHD関連死亡率が大幅に改善すること、さらに患者糞便を移植したマウスでもGVHD関連死亡率が大幅に改善することを確認した。 植松氏はこうした結果について、「実臨床でも使えるようなデータが得られたと感じた」と述べ、「今後、E. faecalis特異的エンドライシンは、GVHDの新規治療薬として期待される」とまとめた。造血幹細胞移植患者の移植早期から長期における腸内細菌叢に関する解析結果 福島 健太郎氏(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は、造血幹細胞移植領域で近年行われた腸内細菌叢と予後の関連についての複数の研究に関し、「既報の多くは移植後のある一時点において多様性を評価していて、菌叢を構成する菌成分の違いや経時的な菌叢の変化についてはあまり着目した研究がなかった」と指摘した。 福島氏らのグループは、大阪大学医学部附属病院で造血幹細胞移植を行った患者から糞便を連日採取して16SrRNAメタゲノム解析を行った。その結果、移植前後で腸内細菌叢に変化がなく、多様性が保持された群は予後良好、菌叢に変化があり多様性が失われた群は予後不良であることが明らかになった。「菌叢の安定化が非常に重要である」ことがわかってきたと福島氏は述べ、とくに移植後1ヵ月のEnterococcus増加が予後の悪化に関連すると報告した。 また、移植後長期にわたって生存し、日常生活に戻った患者群の腸内細菌叢は健常人に近づいているという仮説を立てたが、移植後長期生存者の腸内細菌叢を実際に調べたところ、移植後3年未満、3~10年、10年以上のいずれでも、菌叢の多様性が回復しないということがわかったと報告した。 さらに、同種移植後にクローン病様の病変が認められた患者に糞便移植(FMT)を実施し、3ヵ月後に粘膜が正常化した症例を紹介したほか、移植前に腸内においてEnterococcusが優勢であった患者はFMT後1日目にドナーと同様の菌叢になるが、その後にEscherichiaなどが優勢になるという非常に興味深い結果となったと報告した。また、プロバイオティクスにも注目していると述べ、進めている研究について紹介した。 最後に、腸内細菌叢への介入として、先に講演した植松氏のファージについて「非常に魅力的な選択」と述べたほか、「FMT、プロバイオティクスなどさまざまなアプローチの可能性があって、産学連携が重要と考えている」とまとめた。移植前の口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながる可能性 藤原 英晃氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科)らのグループは、自院において2010~15年に造血細胞移植を行った273例を解析し、重症口内炎は慢性GVHDの発症率を上昇させるという関連を認めたほか、PTCyハプロ移植の71例のみの解析でも同様の関連を認めた。さらに、こうした患者の移植前後の口腔粘膜検体31例の解析で、慢性GVHD発症群では移植前から菌叢の多様性が低下し、生着後もそれが継続していたことがわかったと報告した。 そこでマウスによる検討のために、マウスの歯間に糸を留置して口腔内に歯周炎を引き起こすOLPという手法で口腔内dysbiosisを誘発し、骨髄移植を行った。その結果、慢性GVHDに関してはOLPマウスで慢性GVHDスコアが明らかに悪くなり、PTCyを用いたマウスモデルでも同様の結果が認められた。こうしたOLPマウスでは移植後における口腔内細菌叢の多様性が低下し、口腔内および糞便中細菌量の増加が認められ、とくにEnterococcusは移植前から口腔内・糞便中ともに増加していたと述べ、口腔内のEnterococcusが腸管に流れていき、定着するのではないかと指摘した。 また、OLPマウスでは移植前から所属リンパ節(頸部リンパ節)における抗原提示細胞の活性化が認められ、頸部リンパ節の免疫染色および培養検査によりEnterococcusの影響が強いことが明らかになったと述べた。さらに、OLP後にEnterococcusを塗布したマウスで移植後に慢性GVHDが悪化したこと、OLPを除去し歯周炎が改善した状態で移植を行うとOLPを維持した群より重症度が低下したことを示し、OLPの除去による口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながると述べた。なお、抗生剤による口腔炎症の改善で一定の効果が期待できることも実験で明らかになったと報告した。 最後に、「口腔内でdysbiosisが起きる状況にあると局所(頸部リンパ節)での反応が増幅し、それが全身の慢性GVHDに影響する。同様に腸管にも影響することにより長期的な予後に影響するのではないか」とまとめ、「移植前後の徹底した口腔ケアや歯科介入の重要性を確認することができた」と述べた。炎症記憶と腸内細菌によるGVHD重症化のメカニズム 橋本 大吾氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)は、免疫寛容の破綻後に組織の恒常性を維持するメカニズムとして概念的に提唱されている「組織寛容」について冒頭で紹介し、豊嶋 崇徳氏(北海道大学)らのグループの研究から、腸幹細胞が腸の組織寛容を維持しているシステムではないかと指摘した。一方、GVHD回復後のFlareで腸管GVHDの発症が増加することが示されており、炎症後の組織幹細胞にエピジェネティックな変化が生じて炎症記憶として残るからではないかと考えられている。 そこで橋本氏らのグループは、同系造血細胞移植(syn-HCT)または同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後のマウスの陰窩から作成したオルガノイド(「Syn」または「Allo」)のクロマチン構造をATACシーケンスで解析し、アクセシビリティに関してAlloがSynより有意に高い遺伝子457個を特定した。橋本氏は、この中で重要な領域として抗原処理と提示(とくにMHCクラスII[MHC-II])に関与する遺伝子とインターフェロン(IFN)-γに対する反応に関与する遺伝子を挙げ、転写の準備ができているこれらのプロモーター領域が判明したことについて「まさに炎症記憶が本当にできていると知った瞬間だった」と述べた。なお、フローサイトメトリーによるタンパク質レベルでの確認でも、IFN-γ刺激による腸管上皮MHC-II発現が炎症記憶により亢進したうえ、オルガノイドを継代しても記憶が継承されることが明らかになったと述べた。 さらに、小山 幹子氏(米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センター)のマウスを用いた研究で、レシピエントの腸管上皮MHC-IIの欠損でGVHDが軽減すること、腸内細菌がIFN-γ産生を誘導し、腸管上皮MHC-IIを発現させること、MHC-II誘導性細菌と抑制性細菌が存在し、抑制性細菌のマウスへの経口投与で上皮MHC-II発現が低下することなどが示されたと紹介した。 最後に、腸管のMHC-II発現は、腸内細菌叢の差により定常状態である程度の差があるうえ、GVHD後には炎症記憶の存在によりIFN-γ刺激によるMHC-II発現がさらに高まり、GVHD Flareにつながると考えられるとまとめた。今後は「組織寛容を上げて急性GVHDや慢性GVHDを起こさないようにし、移植片対白血病/リンパ腫(GVL)効果を誘導するのが究極的な目標」だと述べた。

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閉塞性肥大型心筋症へのmavacamten、長期有効性・安全性の中間解析(HORIZON-HCM)/日本循環器学会

 閉塞性肥大型心筋症(HCM)治療薬の選択的心筋ミオシン阻害薬mavacamten は、3月27日にブリストル マイヤーズ スクイブが製造販売承認を取得し、年内の国内販売が見込まれる。今回、泉 知里氏(国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 部門長)が、mavacamtenの54週での有効性・安全性・忍容性について、3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials1で報告した。 日本人における症状を有する閉塞性HCM患者の治療効果検証のため、第III相非盲検単群試験HORIZON-HCMが実施されており、昨年の同学会において北岡 裕章氏(高知大学医学部老年病・循環器内科学 教授)が30週の短期有効性・安全性を報告している。今回の報告では、108週の長期試験の中間解析として54週時点の効果が示された。 本研究は、NYHA心機能分類II/III、左室駆出率(LVEF)≧60%、安静時または誘発時の左室流出路(LVOT)最大圧較差≧50mmHgの日本人成人38例を対象に、54週時点の評価を行ったもの。評価項目は、安静時およびバルサルバ法によるLVOT圧較差、カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)、心臓バイオマーカー(NT-proBNP、心筋トロポニンI[cTnI]、心筋トロポニンT[nTnT])、NYHA心機能分類、安全性のベースラインからの変化であった。主な除外基準は、スクリーニング前6ヵ月以内の侵襲的中隔縮小治療(外科的筋切除術または経皮的alcohol septal ablation[ASA])の既往あるいは予定を有する、閉塞性HCMに似た心肥大を引き起こす既知の浸潤性または蓄積性障害の有無など。開始用量は1日1回2.5mg経口投与で、LVOT最大圧較差およびLVEFのエコー評価に基づき、6週目、8週目、14週目、20週目と個別用量調整が行われた。 主な結果は以下のとおり。・対象者38例の平均年齢は65歳で、66%は女性であった。患者の約90%はベースラインでβ遮断薬による治療を受けており、21%はCYP2C19の代謝活性が低かった。また、13%はNYHA心機能分類IIIの症状を有し、NT-proBNPの中央値は1,029pg/mLであった。今回、全38例のうち、54週の投与が可能であった36例を解析した。・ベースラインで73.6mmHgおよび91.4mmHgであった安静時およびバルサルバLVOT圧較差の平均は、mavacamten投与後減少し、54週まで持続した。・ベースラインの平均LVEFは78%で、54週目までに7.9%減少したが、どの計測タイミングでも70%を下回っていなかった。・KCCQスコアは治療開始後6週間以内に急速な改善がみられ、54週目まで持続した。・NYHA心機能分類は、25例がベースラインから54週までに1以上改善した。・NT-proBNPの急速な低下がベースラインから6週までにみられ、NT-proBNPは6週から30週にかけて改善が続き、54週目まで持続した。この傾向はcTnIとcTnTでもみられた。・54週までの長期試験期間中の安全性について、心血管関連の有害事象は報告されなかった。6例が54週間の治療中に重篤な有害事象を経験したが、いずれもmavacamtenに関連するものではなかった。また、13例はmavacamtenが中断され、そのうち10例ではプロトコルで定義された基準により治療が中断された。その主な理由は、mavacamtenの血漿濃度が高かったことが原因とされた。 本結果から泉氏は「日本人の患者集団において、mavacamtenは54週間にわたりLVOT圧較差の持続的な改善と心臓バイオマーカーの減少をもたらし、NYHA心機能分類およびKCCQスコアの改善にもつながった。mavacamtenは忍容性が高く、54週間を通じて新たな安全性シグナルや安全性に関する懸念は確認されず、全体として54週目に観察された安全性および有効性の結果は、30週のデータと一致している」とコメントした。 なお、世界でのmavacamtenの状況として、MAVA-Long-Term Extension試験(NCT03723655)において、最長3.5年(180週)に及ぶ継続治療の安全性・有効性が2024年9月に示されている。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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