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特集 慢性疼痛 神経障害性疼痛 ペインクリニック学会レポート

2012年7月5日~7日、松江市のくにびきメッセにて、第46回日本ペインクリニック学会が「むすぶ」をメインテーマに開催された。この中から、プライマリ・ケアで遭遇するであろう“痛み”の演題を中心にレポートする。レポート帯状疱疹後関連痛(ZAP)のアンケート調査の結果から乳腺術後の遷延痛痛みの治療薬をどう選択するか 抗うつ薬痛みの治療薬をどう選択するか 抗てんかん薬「慢性の痛み」へのオピオイド適正使用を考える

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帯状疱疹後関連痛(ZAP)のアンケート調査の結果から

多角的痛み治療における薬物療法の現状と未来順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座 井関雅子氏ペインクリニックは痛みの総合医療であるが、帯状疱疹後関連痛(Zoster associated pain,以下ZAP)に関しては罹患期間の長短により選択される治療が変化する。また、侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛への変化、それらの混在病態など、永年の臨床的疑問がある。そのような中、痛みの専門医が選択している治療法を再確認するため、ZAPについて帯状疱疹の九世紀から神経痛にいたるまで、アンケート調査を実施した。アンケートは、日本ペインクリニック学会専門医に対し、2012年3月から行われた。回答数は536名であった。アンケートでは、ZAPの診療患者数、罹患期間別の全般的な治療法、罹患期間別・VAS別の薬物選択、最後にZAPに対するオピオイド使用について聞いた。ZAPの年間実患者数10~50人未満が半数を占めていた。発症から受診までの経過期間をみると、発症3ヵ月未満の占める割合が40%以上であり、ペインクリニックの専門医が急性期からZAPに関わっているということがわかった。罹患期間別の治療法発症2週間未満および2週間~1ヵ月未満の治療法として最も頻度の高い治療は薬物療法、その次に神経ブロック療法であった。一方、それ以外に光線療法やイオントフォレーシスも一定の割合で選ばれている。発症1ヵ月~3ヵ月未満、発症3ヵ月以上では、薬物治療が最も多く、神経ブロック療法は急性期よりかなり低い状態になっている。さらに、3ヵ月以上では、認知療法が増えていることも特徴的である。罹患期間別・VAS別の薬物療法選択(1)発症2週間未満VAS=30では、第一選択薬にはNSAIDsが選ばれている、しかし、プレガバリンも2番目に出ている。VAS=60も同様の傾向であるが、VAS=90では、それに加え、次の選択薬としてオピオイド、抗うつ薬が出てくる。(2)発症2週間~1ヵ月未満VAS=30では、やはりNSAIDsとプレガバリンが上位であるが、第二選択薬・第三選択薬には抗うつ薬、ノイロトロピンといったような薬剤が入っていきている。VAS=60 およびVAS=90でも同様であるが、抗うつ薬に加え、オピオイドが第二選択薬・第三選択薬に入ってくる。(3)発症1ヵ月~3ヵ月未満VAS=30では、プレガバリンが第一選択薬に、次に抗うつ薬が出ている。(4)発症3ヵ月以上VAS=30では、上記と結果は大きくは変わらず、プレガバリン、抗うつ薬が主体である。VAS=60およびVAS=90でもやはりプレガバリンが、最も多いが、さまざまな剤形のオピオイドや、抗うつ薬、SNRI等も選ぶ傾向がある。NSAIDsの割合は非常に少なくなっているものの一定割合の選択はある。ZAPに対するオピオイド使用使用時期については、発症初期の強い痛みに使用するとの回答が52.8%と約半数を占める。年齢制限をみてみると、高齢者には使わないという回答と、若年者には使わないという回答の2つに分かれる傾向があり、興味深いところである。さらに、弱オピオイドのみ使用とする回答が34.9%、強オピオイドも使用するという回答が34.0%あった。アンケート結果から、ペインクリニシャンは種々の治療法を組み合わせてZAPの治療を行っていることが分かった。また、ZAPの薬物療法については、この調査結果をもとに今後検討をする必要があると思われる。

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痛みの治療薬をどう選択するか 「抗てんかん薬」

「抗てんかん薬の使い方」広島大学病院 手術部 大下恭子氏鎮痛薬としての抗てんかん薬の歴史は、1960年代のジフェニルヒダントイン、カルバマゼピンの三叉神経痛に対する報告から始まっている。その後、コントロールスタディや動物実験の疼痛モデルにおいて、鎮痛効果が次々と報告されるようになった。 1998年にRCTで帯状疱疹後神経痛に対するガバペンチンの有効性が報告され、米国でもガバペンチンの帯状疱疹後神 経痛への適応が承認され、国際疼痛学会でのアルゴリズムでも第一選択薬として発表されるに至っている。本邦の日本ペインクリニック学会の薬物治療アルゴリズムにおいても、Caチャネルα2σリガンドであるプレガバリンとガバペンチンが第一選択薬となっており、ほかの抗てんかん薬も、第一選択、第二選択、第三選択で効果が出ない場合に考慮してもよいオプションとして、その他に分類されている。それらガイドラインのアルゴリズムのもとになったのは、多くのRCTとNNTの指標であるが、ガバペンチン、プレガバリンはオピオイドや三環系抗うつ薬と並んでNNTが低く、有効性の高い薬物として分類されている。しかしながら、そのガイドラインにも問題点が指摘されている。RCTの対象疾患が限られた疾患であること、2剤の効果の直接的比較研究が少ないこと、長期予後を評価したものが少ないこと、臨床を反映したコンビネーション処方による研究が少ないことである。今回、当施設麻酔科外来において、抗てんかん薬のうちプレバカリンとクロナゼパムについて3年間の処方状況調査を行った。痛みの種類を持続痛・発作痛・誘発痛の3つに分け、投薬開始直前と投薬後の2点で患者に聴取しNRSで評価、同時に痛みの性状についても別の評価を行った。まず処方状況であるが、プレガバリン処方開始前はクロナゼパムが多かったが、プレガバリン処方開始後は、プレガバリンの処方件数が伸びている。プレガバリン処方患者数は、2012年3月までで114名。そのうち73名でプレガバリン開始後に痛みの改善を自覚している。投薬疾患は、帯状疱疹後神経痛、帯状疱疹の急性期の痛み、各種の神経障害を呈する疾患が多い。プレガバリン処方全症例でのNRSの変化をみると、持続痛・発作痛・誘発痛、いずれも開始後に有意差をもって低下している。他剤との併用も含め64%の症例で鎮痛効果を認めた。プレガバリンとの併用薬は、ほかの抗てんかん薬が26%、抗うつ薬が37%、オピオイドが31%であった。痛みの性状別でみると、ほとんどの痛みの性状で軽減を示しているが、しびれるような痛みを訴える患者では有効率が低く出ている。クロナゼパムについては、他剤との併用例を含め48%、約半数の症例で鎮痛効果を認めた。クロナゼパム処方症例全体ではNRSは減少傾向にあるものの、有意な変化はみられなかった。ただし、有効症例に限って変化をみると、持続痛、発作痛、誘発痛いずれも有意にNRSの低下をみている。痛みの性状と治療効果を検討すると、灼けるような痛み、電気が走るなどの発作性痛みや誘発痛に対して高い有効性を示していた。ただ、プレガバリンと同様にしびれるような痛みに関しては有効症例が少なかった。副作用はプレガバリン、クロナゼバムともに眠気やふらつきの副作用が他剤と比較して高い頻度で出ていた。副作用による中止症例はプレガバリンで6例、クロナゼバムで2例だった。抗てんかん薬とひとくくりにいっても、さまざまな作用機序がある。今後、作用機序の異なる薬物の併用が有効である可能性が考えられる。

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「慢性の痛み」へのオピオイド適正使用を考える

非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン東京大学医学部附属病院 麻酔科・痛みセンター 住谷昌彦氏非がん性疼痛におけるオピオイド鎮痛薬の位置づけ2010年、国際疼痛学会(IASP)は「疼痛治療を受けることは基本的人権である」とするモントリオール宣言を採択している。その中でもオピオイド鎮痛薬は多くの痛みの病態に対する有効性が確立した薬剤であり、非がん性疼痛患者のQOLを大きく改善することにつながるため、その役割は非常に重要である。がん性疼痛と非がん性疼痛の治療戦略は異なる。がん終末期の侵害受容性疼痛、いわゆるがんの内臓痛に対しては、WHOが3段階除痛ラダーを提案している。第一段階は NSAIDsやアセトアミノフェンなど、中等度の痛みには第二段階の弱オピオイド、非常に強い痛みには第三段階の強オピオイド、というものである。この場合、オピオイド鎮痛薬については用量上限を決めず必要量を投与すること、疼痛が増強した場合は速放剤を投入すること、必要があれば静脈投与も実施することとなっている。だが、これはあくまでも終末期のがん性疼痛に対するストラテジーであり、非がん性の慢性疼痛に対する治療は大きく異なる。非がん性疼痛でのオピオイド鎮痛薬の使用については、用量上限を設け、頓用は行わないなどの原則がある。非がん性慢性痛に対し、WHO3段階除痛ラダーを適用するケースを見受けることがあるが、適切な治療戦略にしたがったオピオイド治療を行う必要がある。非がん性疼痛における侵害受容性疼痛変形性股関節症や変形性の膝関節症など非がん性の侵害受容性疼痛に対し、オピオイド鎮痛薬の使用はもっとも高いエビデンスレベルで認められている。日本ペインクリニック学会でもオピオイド使用が必要な患者に対して積極的に使うべきであると推奨している。今回発表された「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド処方ガイドライン」では、オピオイド鎮痛薬の上限用量は経口モルヒネ換算120mg/日以下とし、徐放剤を推奨している。一方、オピオイドの頓用、静脈投与は原則行わない事としている。これには、頓用や静脈投与によるオピオイド鎮痛薬の血中濃度が不安定な状態の繰り返しが招く依存性や耐性形成を防止するという理由がある。非がん性疼痛における神経障害性疼痛非がん性疼痛の中でも神経障害性疼痛は治療抵抗性である事が多い。2011年、日本 ペインクリニック学会が発行した「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」では、第一選択薬として三環系抗うつ薬、Caチャネルα2δリガンドであるプレカバリンやガバペンチン 、第二選択薬として、SNRI抗うつ薬デュロセキチン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含(ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン、第三選択薬として、麻薬オピオイド鎮痛薬が推奨されている。このオピオイド鎮痛薬については、非がん性疼痛としての添付文書の適応を遵守したうえで、前出の「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド処方ガイドライン」に基づき、徐放剤を推奨する、疼痛増強時の頓用および静脈投与もしないなどの原則があてはめられる。非がん性疼痛における中枢機能障害性疼痛中枢機能障害性疼痛は、central dysfunctional painといわれ、疼痛の下行性抑制系の機能減弱が原因とも考えられているが、その本態は十分解明されていない。実臨床では、治癒後も痛みが残る外傷や手術後の遷延性疼痛、線維筋痛症や慢性の腰背部痛などがこれにあたる。中枢機能性疼痛に対するオピオイド使用の是非については国際的にも統一見解はない。この疾患概念に対しては、他の代替療法が無効の場合に限り、オピオイドの使用を検討し、用量は最小用量にとどめるべきとされている。また、このようなケースでは、心理・情動的影響や精神疾患に対する評価が重要だといわれており、オピオイド鎮痛薬使用時には、より入念なフォローアップが必要である。がん終末期の神経障害性疼痛一方、がんの終末期の神経障害性疼痛、たとえば脊髄に浸潤しているような場合、麻薬性鎮痛薬を第一選択薬として使用することは妥当だと考えられる。国際疼痛学会のレコメンデーションにも、 オピオイドは神経障害性疼痛に対しても有用で、その効果の発現が早さから積極的に痛みが強い場合や終末期の場合には使っていくとある。終末期の場合、オピオイド鎮痛薬は上限を決めず必要量を投与し、疼痛増強時の速放剤頓用、必要時には静脈投与も実施するといったがん性疼痛の治療原則が支持されるが、がんの治療中あるは生命予後が十分にある場合には、痛みが非常に強くても、モルヒネ120mgの上限、徐放剤推奨など非がん性疼痛の治療原則は遵守されるべきである。今回のガイドラインのキーメッセージ今回の非がん性疼痛に対するオピオイド処方ガイドラインのキーメッセージは、(1)オピオイドを用いて患者の生活を改善すること、(2)オピオイドの乱用・依存から患者を守ること、(3)オピオイドに関する社会の秩序を守ること、である。そのためには、慢性疼痛、オピオイド、薬物依存に関する知識と経験を有する医師の育成、そして、痛みの原因理解、薬の管理、疼痛の緩和目標理解という患者側の啓発が重要である。このような資質を持つ医師と患者の信頼関係の上に、適切なオピオイド使用が成り立つ。非がん性疼痛におけるオピオイド使用はすでに特殊なこととはいえない。オピオイドを適切に用い、患者の利益につなげていくべきであると考える。

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「痛み」の種類に応じた治療の重要性~全国47都道府県9,400人を対象とした実態調査~

 痛みとは本来、危険な外的刺激から身を守ったり、身体の異常を感知したりするなど、生命活動に必要なシグナルである。しかし、必要以上の痛みや原因のない痛みは防御機能として作用しないばかりか、健康や身体機能を損なう要因となるため、原因となる疾患の治療に加えて痛みのコントロールが必要となる。 ところが、日本では痛みに対する認識や治療の必要性が十分に知られていない。そのような実態を踏まえ、47都道府県9,400人を対象とした「長く続く痛みに関する実態調査」が実施され、その結果が2012年7月10日、近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科の宗圓 聰氏によって発表された。(プレスセミナー主催:ファイザー株式会社、エーザイ株式会社)●「痛み」とは 痛み(疼痛)はその病態メカニズムにより、怪我や火傷などの刺激により侵害受容器が持続的に刺激されて生じる「侵害受容性疼痛」、神経の損傷やそれに伴う機能異常によって生じる「神経障害性疼痛」、器質的病変はないものの、心理的な要因により生じる「心因性疼痛」の3つに大別される1)。 これらは疼痛の発生機序や性質が違うため治療法は異なるが、実際にはそれぞれの要因が複雑に絡み合っており、明確に分類することは困難である。とくに神経障害性疼痛は炎症が関与しないため、消炎鎮痛剤が効きにくく難治性であることが知られている。●神経障害性疼痛の特徴と診断 神経障害性疼痛は「知覚異常」、「痛みの質」、「痛みの強弱」、「痛みの発現する時間的パターン」という4つの臨床的な特徴がみられる1)。1.知覚異常: 自発痛と刺激で誘発される痛みの閾値低下(痛覚過敏など)2.痛みの質: 電撃痛、刺すような痛み、灼熱痛、鈍痛、うずく痛み、拍動痛など3.痛みの強弱: 弱いものから強いものまでさまざまである4.痛みの発現する時間的パターン: 自発性の持続痛、電撃痛など 神経障害性疼痛の診断アルゴリズムによると、疼痛の範囲が神経解剖学的に妥当、かつ体性感覚系の損傷あるいは神経疾患を示唆する場合に神経障害性疼痛を考慮する。そのうえで、神経解剖学的に妥当な疼痛範囲かどうか、検査により神経障害・疾患が存在するかどうかで診断を進める2)。●神経障害性疼痛の薬物治療 神経障害性疼痛の治療は薬物療法が中心となるが、痛みの軽減、身体機能とQOLの維持・改善を目的として神経ブロック療法、外科的療法、理学療法も用いられる。日本ペインクリニック学会の「神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン」によると、以下の薬剤が選択されている2)。第1選択薬(複数の病態に対して有効性が確認されている薬物)・三環系抗うつ薬(TCA)  ノルトリプチン、アミトリプチン、イミプラミン・Caチャネルα2δリガンド  プレガバリン、ガバペンチン下記の病態に限り、TCA、Caチャネルα2δリガンドとともに第一選択として考慮する・帯状疱疹後神経痛―ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(ノイロトピン)・有痛性糖尿病性ニューロパチー―SNRI(デュロキセチン)、抗不整脈薬(メキシレチン)、アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット)第2選択薬(1つの病態に対して有効性が確認されている薬物)・ノイロトピン・デュロキセチン・メキシレチン第3選択薬・麻薬性鎮痛薬  フェンタニル、モルヒネ、オキシコドン、トラマドール、ブプレノルフィン なお、三叉神経痛は特殊な薬物療法が必要となり、第1選択薬としてカルバマゼピン、第2選択薬としてラモトリギン、バクロフェンが選択されている。●47都道府県比較 長く続く痛みに対する意識実態調査 調査結果 各都道府県の慢性疼痛を抱える人の考えや行動を明らかにするために、「47都道府県比較 長く続く痛みに対する意識実態調査」が実施された。 対象は慢性疼痛の条件を満たした20歳以上の男女9,400人(各都道府県200人)で、インターネットを用いて調査が行われた。主な結果は以下のとおり。・「痛みがあってもある程度、自分も我慢するべき」と考える人は74.3%(6,981人)、「痛いということを簡単に他人に言うべきではない」と考える人は55.7%(5,240人)であった。・長く続く痛みへの対処で、病医院へ通院していない人は50.1%(4,707人)であり、そのうち31.2%(1,470人)が「病院へ行くほどでもないと思った」と回答した。・痛みがあってもある程度、自分も我慢するべきと考える割合や、過去5年以内に1回でも通院先を変更した経験があったり、3回以上通院先を変更したりしている人の割合については地域差がみられた。・神経障害性疼痛を判定するスクリーニングテストの結果、20.1%(1,888人)に神経障害性疼痛の疑いがあった。・72.9%(6,849人)が「長く続く痛みの種類」を知らず、76.6%(7,203人)が「長く続く痛みの治療法を知らない」と回答した。 これらの結果より、宗圓氏は、日本では痛みを我慢することが美徳とされてきたが、痛みを我慢するとさまざまな要因が加わって慢性化することがあるため、早めに医療機関を受診することが重要であると述べた。 そして、痛みが長期間続くと不眠、身体機能の低下やうつ症状を併発することもあるため、治療目標を設定し、痛みの種類や症状に合わせて薬物療法、理学療法や心理療法も取り入れ、適切に治療を行う必要があるとまとめた。●プレガバリン(商品名:リリカ)について プレガバリンは痛みを伝える神経伝達物質の過剰放出を抑えることで鎮痛作用を発揮する薬剤であり、従来の疼痛治療薬とは異なる新しい作用機序として期待されている薬剤である。また、現在120の国と地域で承認され、神経障害性疼痛の第一選択薬に推奨されている。 さらに、2012年6月にプレガバリンは「線維筋痛症に伴う疼痛」の効能を取得した。線維筋痛症は全身の広い範囲に慢性的な疼痛や圧痛が生じ、さらに疲労、倦怠感、睡眠障害や不安感などさまざまな症状を合併し、QOLに悪影響を与える疾患である。国内に約200万人の患者がいると推計されるが3)、日本において線維筋痛症の適応で承認を受けている薬剤はほかになく、国内唯一の薬剤となる。国内用量反応試験、国内長期投与試験、外国後期第Ⅱ相試験、外国第Ⅲ相試験および外国長期投与試験において、副作用は1,680例中1,084例(64.5%)に認められた。主な副作用は浮動性めまい393例(23.4%)、傾眠267例(15.9%)、浮腫179例(10.7%)であった。なお、めまい、傾眠、意識消失等の副作用が現れることがあるため、服薬中は自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように、また、高齢者では転倒から骨折に至る恐れがあるため注意が必要である。●疼痛治療の今後の期待 慢性疼痛は侵害刺激、神経障害に加え、心理的な要因が複雑に絡み合っている。さらに「長く続く痛みに関する実態調査」によって、疼痛を我慢して治療を受けていない患者の実態が明らかとなり、さまざまな要因が加わって疼痛が慢性化し、治療が難渋することが懸念される。 抗炎症鎮痛薬が効きにくいとされている神経障害性疼痛において、プレガバリンのような新しい作用機序の薬剤の登場により、痛みの種類に応じた薬剤選択が可能となった。患者と治療目標を設定し、適切な治療方法を選択することにより、今後の患者QOLの向上が期待される。

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郷に入っても郷に従わず その4 ~食事の心理学

ハーバード大学リサーチフェロー大西 睦子 2012年5月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 ※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。 前回のコラムで、人工甘味料と肥満や糖尿病の関係は、体の生理的反応と人間の行動的、心理的な要素が関与していることをお伝えしました。そこで今回は、『食べる』という行動が起こるまでの心理的な状況を、さらに深く考えたいと思います。例えば、みなさんが5人のお友達とレストランに行くことを想像してみてください。おそらく、5人とも違うメニューを選ぶことが多いと思います。私は和風パスタとチーズケーキを選んだのに、あなたはサラダにステーキを選んだ理由、それはなぜでしょうか。けっこう深い理由があるのです。1)嗜好最近の科学雑誌に、様々な文化の異なるヨーロッパ諸国において、1600人以上の子供たちを対象に、食事の嗜好と肥満の関係についての報告がありました。結果は、肥満の子供たちは、脂肪や糖分の多い食事を好んだということでした。動物実験で、食欲を抑制するホルモンであるレプチンが、空腹感を抑えるだけではなく、食べ物の嗜好にも関与していることがわかってきました。例えば、レプチン濃度が低いと、空腹感が増強するだけではなく、食べ物による喜びも増加します。●ということは、人種や文化の違いにかかわらず、肥満の子供は、高脂肪で甘い食べ物を摂取することによる喜びが強いと考えられますね。2)学習私たちは生後まもなく、食に対する行動的、感情的な反応を覚えます。この頃、親は重要な役割を果たします。なぜなら母親の食事は母乳に移行し、後の子供の嗜好に大きく影響するためです。従って、特に母親の食の影響は強いと思われます。離乳後、子供は自分で食べ始めますが、新しい食べ物に拒否反応を示し、少なくとも繰り返し10回以上経験して、ようやく受け入れます。このころの経験も、後の好き嫌いに影響します。さらに、食べることは、罪と報酬の意味もあります。食事の量や食べるスピードも、親の影響が大きいと考えられています。『ぐずぐずしないで、早く残さず食べなさい。』なんて、親に叱られた経験はありませんか?子供は食べ物を残すことに罪を覚え、出されたものは全部食べる習慣がつきます。3)再学習私たちの食事の好みは幼少期の経験に決まると考えられていますが、大人になって、再学習することによって好みを変えられることも報告されています。●これは、いいニュースです。子供の頃の悪い習慣を、大人になって変えるチャンスがあるのですから。4)食欲ドーパミンは、連続した学習による行動の動機付け(associative learning)と関係している神経伝達物質です。食事開始後、ドーパミンの分泌が上昇し、食欲が増強します。重要なのは、連続した学習によって、食べ物を想像するだけで、ドーパミンが分泌されるようになるのです。例えば、食べ物の写真、料理の音やにおいでドーパミンが分泌され、食欲が増加します。ストレスでもドーパミンの分泌が増え、過食になります。コカイン、覚せい剤は、ドーパミン分放出させ快感を起こします。セロトニンはドーパミンをコントロールする神経伝達物質です。食欲を抑えるには、ドーパミン分泌を抑制し、セロトニンを放出することとなります。最近、インスリンやレプチンもドーパミンに影響を与えることも報告されています。●やる気、ご褒美、学習などに関わるドーパミンは、脳の『快楽物質』とも呼ばれています。ドーパミンをたくさん増やしたい!と思いがちですが、やはりバランスが大切と思います。それは、5)の中毒に関係するからです。5)習慣、依存、中毒これは大トピックです。習慣、依存、中毒には、行動(心理的)問題が大きく影響します。2010年に、動物実験により、過食による肥満の脳内の分子経路が、麻薬中毒者のものと同じだとする報告があり、大変な話題になりました。米国フロリダ州のポール・ケネディ准教授の研究チームは、コカイン中毒者の脳内ではドーパミンが大量に放出され、ドーパミン2受容体が過剰に刺激されていることは明らかになっていましたが、同様な変化を「食事中毒」のラットで証明したのです。●食に限らず、人生において、喜び、幸せは大切ですが、実際はそれだけではないと思います。苦しみ、悲しみを克服しつつ得る喜びを経験することが、人間の成長につながるのではないでしょうか。私もそうなりたいと思います。6)感情感情、例えば、喜び、怒り、悲しみ、不安も肥満に影響します。肥満のひとでは、食事摂取による感情の変化に違いがあるとも言われています。肥満の人は、食べることで報酬を得ます。●誰でも美味しい物を食べると嬉しくなりますが、嬉しさの度合いが肥満の人は強いようです。7)決定意思決定は、自動的に即座にされる経路(これはかなり訓練されています)と、ゆっくりですが、コントロールした上で行われる経路と2種類あります。食べる行為に、この決定は重要な役割があると思いますが、残念ながら、動物実験モデルをつくることが難しく、まだまだ不明な点が多い分野です。●例えばみなさんが飲み物を注文するとき、『とりあえず生ビール(メニュー見ずに注文する人もいると思いますが)』という人もいますし、メニューをよく読んで『このカクテル下さい。』という人もいます。自分で決められず『お勧めは何ですか。』と店員に聞く人もいます。どうしてこんなに人は最終的な意志決定が違うのでしょうか?最後に、肥満には、環境の影響も大きな問題になってきます。環境とは、車など、便利な社会になったため、人々が動かなくなった点、スーパーマーケット、コンビニなどで、高カロリーの食品を消費者が買いやすくしている点(そういった商品が増えた、安くなった、目に留まる位置に置いてある)などです。駅のキヨスクで、大根やキュウリが売っているのは見かけたことはありませんが、お菓子はすぐに買って、すぐに食べることができますよね。『不便、面倒』という言葉は、売り文句にはなりにくいですが、思っているほど悪くはないかもしれません。

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癌疼痛治療用注射剤「オキファスト注10mg/50mg」発売

塩野義製薬は28日、癌疼痛治療用注射剤「オキファスト注10mg」「オキファスト注50mg」(一般名:オキシコドン塩酸塩水和物、以下:オキシコドン)を同日発売したことを発表した。同社では、中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛を適応として、2003年にオキシコンチン錠(オキシコドン塩酸塩徐放錠)、2007年にオキノーム散(オキシコドン塩酸塩散)を発売した。しかし、従来は、経口投与が不可能になった場合には、他のオピオイド製剤に切り替える必要があったが。2007年に日本緩和医療学会より厚生労働省へ単味のオキシコドン注射用製剤の開発要望が出され、未承認薬使用問題検討会議で「開発する必要がある医薬品」との審議結果を受け、同社はオキファスト注の開発を開始した。今回、オキファスト注が発売されたことにより、経口投与ができなくなった場合もオキシコンチン錠、オキノーム散と同一成分であるオキシコドンで治療を続けることが可能になった。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.shionogi.co.jp/ir/news/detail/120528.pdf

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戸田克広 先生の答え

麻薬の使用法治療としていわゆる麻薬はどのような状況、症状の時に使うべきなのでしょうか。また、投与中止はどのようにおこなうべきでしょうか。非癌性慢性痛に麻薬を使用することは依存を引き起こすのではないかと危惧する意見があります。しかし、痛みがある患者さんに適切に使用する限りは、依存は起こらないと考えられています。後者の仮説には明確なデータはないため麻薬の使用は慎重におこなうべきです。しかし、適切な治療を1年以上おこなっても鎮痛効果が不十分な場合や、初診時に激烈な痛みがあり、自殺の恐れがある場合には麻薬を使用してもよいと思います。喫煙者などの物質依存者や約束を守らない人格と判断される場合には麻薬を使用しないことが望ましいと思います。モルヒネには「天井効果がないため上限量はない」という考えもありますが、「200mg / 日を超える場合にはさらに十分な評価が必要」という意見もあります。ペインクリニック専門医ではない場合には200mg / 日を超えるモルヒネは査定される可能性が高いという非公式の制度があるため注意が必要です。ブプレノルフィン、ペンタゾシンは使用すべきではありません。トラマドール塩酸塩〔トラムセット〕またはコデイン、モルヒネ、フェンタニル〔デュロテップパッチ〕の順で使用することが一般的です。モルヒネは薬価が高いため、1回量が20mgになれば薬価の安い散剤にした方が良いと思います。麻薬が有効な場合、その他に有効な薬を見つけて麻薬を減量または中止する努力が必要です。減量とは1回量の減量であって、投与間隔を延長してはいけません。モルヒネであれば1回量を2-4週間ごとに10mgずつ減量し、痛みが悪化すれば再び増量することが望ましいと思います。※〔 〕内の名称は商品名です 中枢性過敏についてこの概念と定義はどなたが提唱したものなのでしょう。概念をもう少し詳しくお聞かせください。御多忙中とは存じますが、どうぞ宜しくお願いいたします。Woolfが中枢性過敏(central sensitization: CS)を提唱しました。CSにはさまざまな定義があります。Woolfは「侵害受容刺激により中枢の侵害受容経路のシナプス効果と興奮性が長期間ではあるが可逆的に増加すること」と定義していますが、国際疼痛学会は「正常あるいは閾値下の求心性入力に対する中枢神経系内の侵害受容ニューロンの反応性の増加」と定義しています。私は次のように考えています。侵害受容性疼痛や末梢性神経障害性疼痛という痛み刺激のみならず、精神的ストレスなどの刺激が繰り返し脳に送られ続けると、中枢神経に機能障害が起こってしまいます。機能障害ではなく器質的障害なのかもしれませんが、現時点の医学レベルではよくわかっていません。中枢神経に機能障害が起こるとさまざまな刺激に対して過敏になり、痛みを感じない程度の刺激が中枢神経に入っても痛みを感じさせてしまいます。また、中枢神経に起こった機能障害の部位そのものが痛みなどの症状の原因になる、つまり機能障害の部位から痛みなどの情報が流れてしまうと推測しています。一方、Yunusが中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome: CSS)を提唱しました。CSSの主な原因はCSと推測されています。CSは主に痛みに関する理論ですが、CSSには痛みを主訴とするFM以外にも、慢性疲労症候群、異常感覚を主訴とするむずむず脚症候群、化学物質過敏症、うつ病、外傷後ストレス障害なども含まれます。CSSの代表疾患の一つがFMなのです。CSは日本でも知られていますが、CSSはFM以上に日本では知られていません。CSSに含まれる疾患は定まっていません。不安障害、皮膚掻痒症、機能性胃腸障害、更年期障害、慢性広範痛症、慢性局所痛症などもCSSに含まれると私は考えています。(日本医事新報No4553, 84-88, 2011)FMの症状について口の中が痛くて、硬いものがかめない症状や、下肢痛があり車や電車に乗ると悪化するような症状はFMに該当するでしょうか?口の症状はFMの症状です。FMでは身体のどこにでもアロジニア(通常痛みを引き起こさない程度の刺激により痛みが起こること)が起こります。口腔内にそれが起これば、硬いものをかめない症状が生じます。口の症状のみがある場合には舌痛症と診断すべきかもしれませんが、舌痛症はFMの部分症状と考えることも可能です。自動車や電車に乗ると下肢痛が悪化すると訴えるFM患者を私は知りませんが、FMの症状と考えても矛盾はありません。FMでは、歩行時より下肢を動かさない状態の時に痛みが強い場合が多いからです。自動車や電車に乗ると下肢痛が悪化する場合には、むずむず脚症候群の可能性もあります。むずむず脚症候群では歩行時よりも安静時に下肢のむずむず感が強くなるため、自動車や電車に乗るとそれが強くなる場合があります。むずむず感などの違和感を痛みと表現する患者さんもいます。FMとむずむず脚症候群はしばしば合併するため注意が必要です。者の性差について患者で女性が8割を占める理由について病態の解明は進んでおりますでしょうか。現在わかっている範囲でお教えください。FMの原因は脳の機能障害という説が定説ですが、厳密にはわかっていません。そのため、女性が8割を占める理由も当然わかっていません。FMの原因解明が進めば、その理由もわかるのではないかと期待しています。FMを含むFMよりも広い概念の慢性広範痛症においては双子を用いた研究により半分が遺伝要因、半分が環境要因と報告されています。性ホルモンはFMに影響を及ぼす要因の一つと考えられています。ただし、性ホルモンは遺伝子により大きな影響を受けるため、性ホルモンの差と遺伝子の差を厳密に区別することは困難です。なお、FM患者の中で女性と男性でどちらの症状が強いかに関しては、男女差はないという報告、女性の症状が強いという報告、男性の症状が強いという報告があり、何ともいえません。治療選択について非薬物療法を患者さんが選択し、希望する場合、一番効果的なものはどれでしょうか。先生の私見でも結構ですのでご教示願えますか。非薬物療法の中では禁煙、有酸素運動、認知行動療法、温熱療法、減量、患者教育が有用です。激しい受動喫煙を含めた喫煙者では、禁煙が一番有効と考えていますが、非喫煙者では有酸素運動が一番有効と考えています。患者本人の喫煙継続は論外ですが、間接受動喫煙防止のため配偶者には禁煙、その他の家族には屋外喫煙が必要です。有酸素運動は、技術や人手が不要、安価で、誰でもできるという長所があるため、非喫煙者では最も有効と考えています。散歩や水中歩行のみならずヨガ、太極拳も有効です。歩行すると痛みが悪化する人では、深呼吸で代用も可能です。安静が有効な場合もありますが、これは痛みが起こらない程度の安静を保つことを意味するのであって、過度な安静は逆に有害です。痛みに対する認知行動療法は、論文上有効なのですが、実際に何をすれば良いのかよくわからないこと、適切な治療を行う施設が少ないこと、費用が高いことが欠点です。欧米を中心にしたインターネットによる調査では約8%の人しか認知行動療法を受けておらず、患者さんが自己評価した有効性もあまりよくありませんでした。温熱療法には、温泉療法、温水中の訓練、遠赤外線サウナ、近赤外線の照射などが含まれます。FMは心因性疼痛ではなく、恐らく脳の機能障害が原因であろうことの説明や痛いときには無理をしないことの説明などが患者教育です。星状神経節ブロックを含む交感神経ブロックが有効という根拠はありません。対照群のない研究では鍼は有効なのですが、適切な対照群のある研究では鍼の有効性が証明されていません。交感神経ブロックも鍼も、5回行って一時的な鎮痛効果しかなければ、それ以上継続しても一時的な効果しかないと私は考えています。トリガーポイントブロックの長期成績は不明です。非薬物治療は組み合わせて行うことが望ましく、さらに言えば、非薬物治療は薬物治療と併用することが望ましいと報告されています。線維筋痛症の患者とうつ病同症の患者では精神疾患(特にうつ病)を併発されている方も多いと聞きます。その場合のケアと薬剤の処方のポイントについてご教示ください。抑うつ症状あるいはうつ病に痛みが合併した場合、痛みはうつ病の一症状であるという理論は捨てる必要があります。痛みと、抑うつや不安症状は対等の症状と見なすことが重要です。FMとうつ病(または不安障害)が合併した場合、当初はより重症な症状のみを治療することをお勧めします。一方の症状がある程度軽減した後に、他方の症状を治療した方が治療は容易です。抗うつ作用がまったくない薬で痛みが軽減しても、抑うつ症状が軽減することはありふれたことです。しかし、両症状とも強い場合には、両方を同時に治療せざるを得ないこともあります。その場合には抑うつ症状に対する治療と、痛みに対する治療は分けた方がよいと思います。SSRIと短期間の抗不安薬を抑うつ症状に対する治療と考え、その他の薬は痛みに対する治療と考えた方がよいと思います。三環系抗うつ薬とSNRIは抑うつにも痛みにも有効ですが、痛みのみに有効と見なし、抑うつがついでに軽減すれば「儲け物」という程度に考えた方がよいと思います。なお、三環系抗うつ薬では鎮痛効果を発揮する投与量より抗うつ効果を発揮する投与量の方が多いのですが、SNRIでは両効果を発揮する投与量は同程度です。SSRIも痛みに対する薬も通常漸増する必要があります。それらを同日投与や同日増量すると副作用が生じた場合に、原因薬物の特定が困難になる場合があります。そのため、投与開始や増量は少なくとも中2日は空けたほうがよいと思います。抗不安薬は、SSRIが抗うつ効果や抗不安効果を発揮するまでの一時しのぎとして抗不安薬を使用すべきです。抗不安薬を半年以上投薬する場合には、転倒や骨折の増加、運動機能の低下、理解力の低下、認知機能の低下、抑うつ症状の悪化、新たな骨粗鬆症の発症、女性での死亡率の増加を説明する必要があります。抗不安薬を半年以上使用すると常用量依存が起こりやすく、その場合中止が困難になります。薬物療法とガイドライン解説の中で薬物療法について「ガイドラインでは科学的根拠がない」と記されていますが、近々に発表される、または欧米のものが翻訳される見込みはございますか。教えていただける範囲でお願いします。「線維筋痛症のガイドライン」は、アメリカ、ドイツ、ヨーロッパ、カナダ、スペインから発表されています。日本語に翻訳されて発表される見込みは現在不明です。日本のガイドラインの改訂版は今後発表される予定ですが、いつになるのか未定です。アメリカ、ドイツ、ヨーロッパのガイドラインは各治療方法の有効性のエビデンスを記載しています。カナダのガイドラインはエッセイ様式です。スペインと日本のガイドラインはサブグループに分けています。スペインのガイドラインは修正デルフィ法(参加者の匿名のアンケートとそれに対する評価を繰り返し一つの結論を出す方法)によりGieseckeらの分類方法を採用しています。日本のガイドラインの最大の特徴はFMをサブグループに分けて、サブグループごとに治療方法を変える点です。世界では、FMのサブグループ分けは多くの研究者により行われています。痛み、抑うつ状態などのさまざまな指標により得られたデータによりサブグループ分けが行われていますが、報告により異なるサブグループに分けられています。ただし、日本のガイドラインに含まれる「筋付着部炎型」は私が知る限り、報告された分類方法のどのサブグループにも存在しません。また、前回と今回の日本のガイドラインでは同じサブグループの推奨薬物が異なっていますが、その変更の根拠が記載されていません。「分類の根拠、およびサブグループごとに推奨する薬物が異なる根拠は論文化されていない」由が、今回のガイドラインに記載されています。日本のガイドラインでは各執筆者は自分自身の執筆した部分のみに責任を持つことも特徴の一つです。睡眠薬との関連痛みがひどくて眠れない患者さんに睡眠薬を処方することもあるかと思います。その場合、注意する点などご教示ください。FMに限らず、痛みのために不眠の患者さんの睡眠改善目的にまず処方する薬は、睡眠薬ではなく鎮痛薬です。もちろん非ステロイド性抗炎症薬ではなく神経障害性疼痛に対する鎮痛薬です。鎮痛薬が主で、睡眠薬は従の関係です。当初は睡眠薬を処方せず、鎮痛薬を私は処方しています。三環系抗うつ薬、ガバペンチン〔ガバペン〕、プレガバリン〔リリカ〕は鎮痛効果が強い上に、眠気の副作用が強いのでその副作用を睡眠改善に使用することも可能です。しかし、眠気の副作用がほとんどないワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕やデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物〔メジコン〕により痛みが改善すれば、結果的に睡眠が改善することもあります。FMの不眠に有効な睡眠薬はゾピクロン〔アモバン〕、ゾルピデム酒石酸塩〔マイスリー〕ですが、副作用報告の少ないゾピクロンを私は優先使用しています。FMの睡眠障害に対して抗不安薬を使用することは避けるべきです。常用量依存を作りやすいからです。特に、作用時間が短く抗不安作用が強いため常用量依存を作りやすいエチゾラム〔デパス〕を睡眠薬として使用することは避けるべきです。※〔 〕内の名称は商品名です。日本での患者数わが国における患者の推定数はどのくらい見積もられておりますでしょうか、また、欧米の患者数、人種差、性差なども合わせてお教え下さい。日本における地域住民の有病率は約1.7%と報告されていますが、その報告には調査人数や具体的な調査方法が記載されていません。今後、科学的根拠の高い日本人の有病率が世界に知られることを期待しています。日本の病院敷地内での女性就労者の2.0%、男性就労者の0.5%がFMと報告されています。アジア、欧米を中心とした報告によるとFMの有病率は約2%、そのグレーゾーンの有病率は約20%と推測されます。圧痛点の数は経時的に変動することや論文上の有病率は一時点の有病率であることを考えると、真の有病率は約2%、日本では250万人程度のFM患者がいると推測しています。中国での有病率は0.05%という報告がありますが、調査方法や診断能力に原因があるのかもしれません。同一の研究チームが異人種を調べた研究は3つあり、ブラジル(非白人2.65%と白人2.26%)とイラン(Caucasians0.6%とトルコ人0.7%)では人種差がなく、マレーシア(マレー系1.19%、インド系2.58%、中国系0.33%)では人種差がありました。そのため有病率に人種差があるのかどうかは不明です。FM患者の約8割は女性であり、性比には大きな人種差はないようです。医師以外の関与線維筋痛症について、ナースやコメディカルが介入できる余地はありますでしょうか。例えば理学療法士がストレッチを指導する、ナースが話を聞くなどで患者の日常生活から改善していくなどです。その際の保険点数など参考になるものがございましたらご教示お願いします。薬物治療以外では、コメディカルが介入できる余地がたくさんあります。ただし、FMという病名では保険点数はつきません。理学療法士や作業療法士は、有酸素運動、筋力増強訓練、ストレッチ、水中訓練などを指導できます。しかし、FMなどの痛みを引き起こす疾患では保険点数は取れません。関節の変性疾患、関節の炎症性疾患、運動器不安定症などが合併していれば運動器リハビリテーション料を請求することができます。ナースが患者の話を聞いたり、患者の痛みや生活の質を評価するアンケートの記載方法の説明を行うことができます。ただし、ナースが患者の話を聞いても保険点数を請求できません。うつ病に対する認知行動療法に対して、厳しい条件はあるものの2010年から保険点数が取れるようになりました。しかし、FMなどの痛みに対する認知行動療法では保険点数を請求できません。総括FMが知られていない日本医学は世界の標準医学から大きく乖離しています。FM以上に中枢性過敏症候群は、日本では知られていません。FMのみならず中枢性過敏症候群を認めて世界の標準医学に追いつく必要があります。FMの治療はFMのみならずそのグレーゾーン、つまり人口の約20%に有効です。グレーゾーンにもFMの治療を行うのですから、臨床の観点ではFMの診断は厳密に行う必要はありません。心因性疼痛、仮面うつ病、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)と診断するより、FMやそのグレーゾーンと診断する方が、有効な治療方法が多いためほぼ間違いなく治療成績が向上します。異なる医学理論が衝突した場合には、「脚気論争」と同様に治療成績がよい医学理論を採用すべきです。自分が長年信じていた医学理論を捨てることは困難ですが、臨床医は自分が信じる医学理論を守ることより、よりよい治療成績を求めるべきです。戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

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1日100mg以上のオピオイド処方、過剰摂取による死亡リスクを4.5~12倍に増大

オピオイドの処方量と過剰摂取による死亡リスクとには関連があり、1日100mg以上処方した場合は、1日1~20mg未満処方した場合と比べて、過剰摂取による死亡リスクが4.5~12倍に増大することが明らかになった。投与の指示(「定期的に服用」と「必要に応じて服用」)と死亡リスクに関しては、差は認められなかったという。米国・ミシガン大学のAmy S. B. Bohnert氏らが明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月6日号で発表した。米国ではここ10年ほどの処方オピオイドの過剰摂取による死亡が増大しており(1999~2007年で124%)、処方パターンと死亡リスクとの関連の可能性が指摘されていた。オピオイド過剰摂取による死亡率、0.04%と推定Bohnert氏らは、がん、慢性疼痛、急性疼痛、物質使用障害(substance use disorders)でオピオイドを使用していた患者において、1日の処方量や服薬スケジュール(必要に応じて服用、定期的に服用、両者)と過剰摂取による死亡リスクとの関連を評価することを目的に試験を行った。退役軍人健康庁(Veterans Health Administration;VHA)のデータを基に、2004~2008年までに故意ではなく過剰摂取により死亡した750人と、2004~2005年に診察を受けたオピオイド服用者から無作為に抽出した15万4,684人について検討した。主要評価項目は、年齢、性、人種、共存症で補正後の、処方量・スケジュールと死亡との関連とした。結果、オピオイド過剰摂取による死亡率は0.04%と推定された。がん患者への1日100mg以上投与、過剰摂取による死亡リスクは12倍故意ではないオピオイド過剰摂取による死亡リスクは、1日の最大処方量と直接的な関連が認められた。1日1~20mg未満投与に比べ、1日100mg以上投与のオピオイド過剰摂取による死亡に関する補正後ハザード比は、物質使用障害患者で4.54(95%信頼区間:2.46~8.37、絶対リスク差:0.14%)、慢性疼痛患者で7.18(同:4.85~10.65、同:0.25%)、急性疼痛患者で6.64(同:3.31~13.31、同:0.23%)、がん患者で11.99(同:4.42~32.56、同:0.45%)だった。服用に関する指示については、「定期的服用」と「必要に応じて服用」との補正後リスクに有意差はなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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注射薬物使用者におけるHIV対策の普及率は世界的に極めて低い

注射薬物使用者におけるHIVの予防、治療、ケアサービスの世界的な普及率は極めて低いことが、オーストラリアNew South Wales大学薬物・アルコール研究センターのBradley M Mathers氏らによる系統的なレビューで明らかとなった。2007年現在の全世界の注射薬物使用者数は1,100~2,120万人にのぼり、そのうち80~660万人がHIVに感染したと推定される。これまで、注射薬物使用者におけるHIV対策の実態調査は行われていたが、普及状況の量的な検討はなされていなかったという。Lancet誌2010年3月20日号(オンライン版2010年3月1日号)掲載の報告。注射薬物使用者におけるNSPs、OST、ARTの普及率を算出研究グループは、注射薬物使用者におけるHIVの予防、治療、ケアサービスの普及状況について系統的なレビューを実施した。2004年以降に発行された審査論文(Medline、BioMed Central)、インターネット、灰色文献(grey-literature)のデータベースを系統的に検索した。国連機関や各国の専門家に当たってデータの提供依頼や照合を行った。各国のデータは、注射薬物使用者に対する主要な介入[注射針および注射器プログラム(NSPs)、オピオイド補充療法(OST)、その他の薬物治療、HIV検査と診察、抗レトロウイルス療法(ART)、コンドームプログラム]の規定の範囲内で取得した。注射薬物使用者集団の規模の予測値に基づいて、NSPs、OST、ARTの普及率を算出した。普及率には地域、国レベルで大きな差、世界的には極めて低い2009年までに、NSPsが82ヵ国で、OSTが70ヵ国で実施され、両方の介入が導入されたのは66ヵ国であった。地域および国レベルの普及率には実質的な差が認められた。注射針と注射器の配布は、オーストラリアが注射薬物使用者1人当たり年間に202と圧倒的に高かったのに対し、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国は0.3、中東および北アフリカは0.5と低く、最低はサハラ以南のアフリカの0.1であった。注射薬物使用者100人当たりのOSTの施行数は、中央アジア、ラテンアメリカ、サハラ以南のアフリカの1以下から、西ヨーロッパの61までの差が認められた。HIV陽性の注射薬物使用者100人当たりのART施行数は、チリ、ケニア、パキスタン、ロシア、ウズベキスタンが1以下であり、6つのヨーロッパ諸国は100以上であった。世界全体では、注射薬物使用者1人当たりの月間の注射針と注射器の配布数は2(範囲1~4)、100人当たりのOSTは8(範囲6~12)であり、HIV陽性者100人当たりのART施行数は4(2~18)であった。著者は、「注射薬物使用者におけるHIVの予防、治療、ケアサービスの世界的な普及率は極めて低い」とし、「この高リスクの集団に対し、早急にこれらのサービスの拡充を図る必要がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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過敏性腸症候群の治療剤「アシマドリン」に関するライセンス契約を締結

 小野薬品工業株式会社は2日、タイオガ社(米国カリフォルニア州サンディエゴ市)が過敏性腸症候群の治療剤として米国で開発中のアシマドリン(一般名)を、日本・韓国・台湾で独占的に開発・販売する権利を取得したと発表した。 アシマドリンは経口投与が可能な低分子化合物で、3 種類あるオピオイド受容体(μ、κ、δ)のうち消化管の痛みや運動に関与していると言われるκ受容体に選択的に作用し、腹痛をはじめとする種々の腹部症状を改善する薬剤。 過敏性腸症候群の患者(約600 名)を対象に米国で実施されたフェーズIIb 試験では、アシマドリンは中等度以上の腹痛を訴える下痢型の過敏性腸症候群の患者の腹痛・腹部不快感、便意切迫感を改善し排便回数を減少させるなど、統計学的にも有意な治療効果を示したとのこと。また、これまでに安全性上、特に問題となるような有害事象は認められていないという。 なお、タイオガ社は来年の第1 四半期に米国でフェーズIII試験を開始する予定。また、小野薬品工業は来年の上半期中にも国内においてフェーズI試験を開始する予定とのこと。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.ono.co.jp/jpnw/PDF/n09_0902.pdf

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帝國製薬とテルモ、がん性疼痛緩和領域における医療用麻薬製剤の業務提携に向け基本合意

テルモ株式会社は31日、帝國製薬株式会社と、がんなどの痛みを和らげる医療用麻薬製剤において、国内の開発・製造・販売についての包括的な業務提携を行うことに基本合意したと発表した。同社は今回初めてがん性疼痛緩和領域に本格事業参入することになる。一方、帝國製薬は従来より麻薬製剤の開発・製造などの事業展開を行っていた。詳細はプレスリリースへhttp://www.terumo.co.jp/press/2009/022.html

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高血圧予防には、リスクを低下する6つの生活習慣を:女性

米国ハーバード医科大学/ブリガム&ウィメンズ病院腎臓病部門のJohn P. Forman氏らは、女性における、高血圧症発症と食事・生活習慣との関連を評価した。高血圧は、女性において重要な、死が予防可能なリスク因子である。しかし高血圧症発症のための改善可能なリスク因子が特定される一方で、それらリスク因子の組み合わせや配分に関しては評価が行われていなかった。JAMA誌2009年7月22・29日合併号より。27~44歳女性83,882例の6つの生活習慣と高血圧発症との関連を評価Forman氏らは、第2次「Nurses’Health Study」の参加者で、1991年時点で高血圧、心血管疾患、糖尿病、がんの病歴がなく、正常血圧(収縮期血圧120mmHg、拡張期血圧80mmHgと定義)だった27~44歳83,882例を対象に前向きコホート研究を行った。追跡期間は2005年までの14年間。高血圧に関する6つの改善可能な(高血圧リスクを低下する)生活習慣を定め、それら生活習慣の組み合わせと高血圧発症との関連を調べた。リスクを低下する生活習慣とは、(1)BMI:25未満、(2)毎日平均30分の運動、(3)ダイエット食(DASH:Dietary Approaches to Stop Hypertension)の高摂取、(4)適度(10g/日)な飲酒、(5)週1回未満の非麻薬性鎮痛薬の服用、(6)葉酸サプリ(400μg/日以上)の服用で、3つ〔(1)~(3)〕、4つ〔(1)~(4)〕、5つ〔(1)~(5)〕、6つ〔(1)~(6)〕の各組み合わせと高血圧発症との関連が検討された。主要評価項目は、自己申告に基づく高血圧発症の補正ハザード比、および母集団寄与率(PARs)。高血圧症の報告は、合計12,319例だった。追跡期間における、全6つの改善可能なリスク低下因子(生活習慣)は、高血圧症発症のリスクと独立して相関していた。年齢、人種、高血圧症の既往歴、喫煙状態、経口避妊薬服用で補正後も変わらなかった。最も強力な予測因子はBMI全6つのリスク低下因子を有していた女性(母集団の0.3%)の、高血圧症発症のハザード比は、0.22(95%信頼区間:0.10~0.51)だった。推定PARは、78%(同:49%~90%)。これは、もし全女性が6つのリスク低下因子を実行していていた場合、高血圧症の新規発症が回避される人は、推定78%に上ることを示す。発症率の絶対差(ARD)は、1,000人・年当たり8.37例であった。5つのリスク低下因子を有している女性(母集団の0.8%)のPARは、72%(95%信頼区間:57%~82%)、ARDは1,000人・年当たり7.76例だった。4つのリスク低下因子を有している女性(母集団の1.6%)のPARは、58%(同:46%~67%)、ARDは1,000人・年当たり6.28例だった。3つのリスク低下因子を有している女性(母集団の3.1%)のPARは、53%(同:45%~60%)、ARDは1,000人・年当たり6.02例だった。高血圧症の最も強力な予測因子はBMIで、BMIが25以上だった人の補正後PARは25未満の人との比較で40%(同:38%~41%)だった。Forman氏は「リスクを低下する生活習慣は、高血圧症の低下と有意に関連していた。これら習慣を取り入れることは、若い女性の高血圧の新規発症を、相当数予防できることにつながるだろう」と結論している。(朝田哲明:医療ライター)

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がん性疼痛治療剤KW-2246の第III相臨床試験結果

協和発酵キリン株式会社は、オレクソ社(本社:スウェーデン・ウプサラ)から導入し、がん性疼痛の持続的疼痛管理時に起こる急激な痛み(突出痛)に対する治療剤として開発中のKW-2246(フェンタニルクエン酸塩舌下錠)の第III相臨床試験の結果を発表した。試験は、中等度から高度のがんの痛みに対してオピオイド鎮痛薬が定時投与されており、かつ、突出痛に対してモルヒネ製剤を使用しているがん患者を対象に、プラセボとの二重盲検比較試験およびモルヒネ製剤との非盲検比較試験として、クロスオーバーデザインにて実施された。その結果、本剤のプラセボに対する統計学的な有意差が示され、臨床効果が確認されたという。さらに、モルヒネ製剤に対する非劣性も確認されたとのこと。なお、安全性に関しては、本試験期間中に忍容できない副作用の発現は認められなかった。詳細はプレスリリースへhttp://www.kyowa-kirin.co.jp/news/2009/20090723_01.html

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HIV-1対策は予防と治療をセットで議論すべき段階を迎えている

HIV-1感染症の拡大予防対策は、危険な性行為や麻薬の常用といったリスク行動対策とは別に、高活性抗レトロウイルス療法(HAART・多剤併用療法)の予防的観点での投与が、近く本格化するかもしれない。British Columbia Centre for Excellence in HIV/AIDS(カナダ)のEvan Wood氏らは、これまで未報告だった地域ベースでの血漿HIV-1 RNA濃度とHIV-1発症率との関連について前向きコホート研究を行い、「リスク行動とは独立した関連が見られ、血漿HIV-1 RNA濃度との関連でHIV-1発症を予測することができた」ことを明らかにした。BMJ誌2009年5月16日号(オンライン版2009年4月30日号)より。地域の血漿HIV-1 RNA濃度と、麻薬(注射)常用者におけるHIV-1発生率との関連を調査HIV-1感染拡大予防の観点からのHAART活用が議論されるようになり、有効性を示す統計的データが次々と発表されても、「リスク行動を助長するものだ」との意見に抑え込まれ活用は進んでいないが、最近になってWHOもHAARTの予防的投与の研究を認めるコンセンサス文書を発表し、また関連学会で中心的トピックを占めるなど世界的関心が高まっている。そうした中で行われたWood氏らの調査は、カナダ・バンクーバーのダウンタウンを対象とし、同地域の血漿HIV-1 RNA濃度と、麻薬(注射)常用者におけるHIV-1発生率との関連が調べられた。被験者の麻薬常用者はHIV-1陽性・陰性にかかわらず登録され、1996年5月1日~2007年6月30日の間、6ヵ月ごとに追跡調査が行われた。抗体陽転時期はウイルス量の増加から予測可能研究期間中に追跡調査されたHIV-1陽性の麻薬常用者は622例(女性40.2%、年齢中央値37歳)で、血漿HIV-1 RNA濃度の測定値は12,435例[1患者当たり中央値17例(8~31)]が集められた。 一方、HIV-1陰性の麻薬常用者は1,429例[女性32.5%、年齢中央値36.1歳、追跡調査回数中央値8(3~16)]。このうちHIV-1抗体陽転したのは155例で、発生率は2.49/100人年(95%信頼区間:2.09~2.88)だった。研究期間11年の動向を見たところ、HIV-1の血漿濃度と発生率とは相関関係を示していた。未調整コックス回帰分析の結果、HIV-1陰性患者が抗体陽転した時期と、前回(6ヵ月前)調査時の推定血漿HIV-1 RNA濃度とが関連していることが見出された(ハザード比:3.57)。この関連は、危険な性行動や注射器共用などで調整後も維持された(ハザード比:3.32)。またHIV-1の血漿濃度と発生率との関連に関して、事後解析の結果、研究期間以前(1988年1月以降の血漿HIV-1 RNA濃度中央値が

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経口そう痒症改善剤「レミッチ カプセル2.5μg」新発売

東レ株式会社と日本たばこ産業株式会社および鳥居薬品株式会社は、3社で共同開発し、東レが2009年1月21日に国内における製造販売承認を取得した血液透析患者における経口そう痒症改善剤「レミッチカプセル2.5μg」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)について、3月24日より鳥居薬品が販売を開始すると発表した。血液透析患者におけるそう痒症は炎症などを伴わない全身性の強い痒みで、はっきりとした原因は不明。従来の止痒薬(抗ヒスタミン薬など)では十分に抑えられないこともあった。「レミッチカプセル2.5μg」は、血液透析患者の既存治療抵抗性の痒みを抑える世界初の選択的オピオイドκ(カッパ)受容体作動薬となる。詳細はプレスリリースへhttp://www.torii.co.jp/release/2009/090323.html

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薬物過剰摂取による死者の90%以上がオピオイド使用

米国ウエストバージニア州で薬物乱用が原因で死亡した人のうち、90%以上がオピオイドを使用、その4割超が処方箋なしで不正入手していたことが明らかになった。これは、米国疾病予防管理センター(CDC)のAron J. Hall氏らの調べによるもので、JAMA誌2008年12月10日号で発表した。同州は1999~2004年にかけて、薬物過剰摂取による死亡率が全米で最も増加した地域だった。薬物過剰摂取死亡者のうち6割強が処方薬を不正入手Hall氏らは、2006年に同州で薬物の過剰摂取で死亡した295人について、その薬の種類や処方箋の有無などについて調査した。調査対象となった死者のうち、198人(67.1%)が男性で、271人(91.9%)が18~54歳で、平均年齢、年齢の中央値ともに39歳だった。医師からの処方箋がなく処方薬を不正入手し、使用していたのは、全体の63.1%にあたる186人だった。また、死亡した前年に、5人以上の医師から規制薬物の処方箋を入手した、“ドクター・ショッピング”をしていた人は、21.4%、63人だった。ドクター・ショッピングの傾向は女性に多く、調査対象の女性の30.9%(30人)に上ったのに対し、男性では同16.7%(33人)、また年齢別では35~44歳のグループが30.7%(23人)と最も高率だった。8割が複数種の薬物を使用オピオイドを使用していたのは、275人(93.2%)に上った。そのうち、同種の薬を医師から処方してもらったことがなく、不正に入手していた人は、122人(44.4%)だった。また、調査対象者の279人(94.6%)で、故意に間違った投与法で薬を使用していたり、違法薬を使用するなど、薬物乱用の兆候が見られた。さらに234人(79.3%)が複数種の薬物を使用していた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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オピオイド依存症の治療には、ブプレノルフィンとナロキソンの長期投与が短期より有効

オピオイド依存症の治療には、ブプレノルフィンとナロキソンの12週にわたる長期投与のほうが、短期投与よりも効果的のようだ。米Pennsylvania大学のGeorge E. Woody氏らが、15~21歳のオピオイド依存症の152人について調べ、明らかにしたもので、JAMA誌2008年11月5日号で公表された。投与後4、8週目の尿中オピオイド検出率、長期投与群が有意に低率同氏らは、被験者を2グループに分け、一群にはブプレノルフィンを1日最大24mgまで、ナロキソンと一緒に9週間にわたって投与し、12週間までに徐々に量を減らし投与を中止した(長期投与群)。もう一方の群には、ブプレノルフィンを1日最大14mgまで、ナロキソンと一緒に投与し、14日目までに徐々に量を減らして中止した(短期投与群)。両群に対して、個人とグループのコンサルテーションが毎週行われ、4週目、8週目、12週目に、それぞれ尿中のオピオイドの有無が調べられた。その結果、4週目に尿中オピオイドが検出された割合は、短期投与群が59人と61%(95%信頼区間:47~75%)だったのに対し、長期投与群では58人と26%(同:14~38%)にとどまった。8週目の同割合も、短期投与群が53人と54%(同:38~70%)だったのに対し、長期投与群は52人と23%(同:11~35%)だった。12週目については両群に有意差はなく、同割合は短期投与群が53人と51%だったのに対し、長期投与群では49人と43%だった。治験終了後のオピオイド使用も長期投与群が低率短期投与群では、12週目に治療を継続していたのは20.5%だったが、長期投与群ではその割合は70%と高かった。そして12週間中、オピオイドの使用や注射剤の使用は、長期投与群で短期投与群より有意に少なく、治療離脱が進んでいることがうかがえた。また、治験を始めてから6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月後にそれぞれ、尿中オピオイド濃度の検出割合を調べたところ、長期投与群のほうが低率である傾向が見られた。ただしその割合は両群ともに低くはなく、短期投与群で平均72%、長期投与群では同48%であった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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オピオイド誘発性便秘にmethylnaltrexoneは有効

モルヒネなどオピオイド鎮痛薬の治療は癌など進行疾患の疼痛緩和に有効な半面、患者を苦しめる副作用として便秘を伴う。本論は、そうしたオピオイド誘発性便秘を改善するために開発されたmethylnaltrexoneの、第III相試験の報告。皮下投与の安全性と効果を検証した米国サンディエゴ・ホスピス・緩和医療研究所のJay Thomas氏らは、「methylnaltrexoneは速やかに排便を誘発し、オピオイドの鎮痛作用への影響もないようだ」としている。NEJM誌2008年5月29日号より。末期患者133例を対象にプラセボ対照試験methylnaltrexoneは末梢のμオピオイド受容体拮抗剤で、血液脳関門を通過しにくいため、中枢神経でのオピオイドの鎮痛効果に影響しないとされている。試験では、オピオイドを2週以上投与されてオピオイド誘発性便秘となり、安定用量オピオイドと応急的な緩下薬服用を3日以上続けても便通のない末期患者133例を、2週間にわたり1日おきにmethylnaltrexone(0.15mg/kg)皮下投与またはプラセボを投与するよう無作為に割り付けた。共通主要転帰は、試験薬の第1回服用後4時間以内の便通(排便)と、初回服用から4回のうち2回以上で4時間以内に便通があったこととした。この段階を完了した患者は、その後3ヵ月の非盲検延長試験に進んだ。初回投与で4時間以内に48%が便通再開第1回服用後4時間以内に便通があったのは、methylnaltrexone群の48%に対してプラセボ群では15%だった。また最初の4回の服用のうち2回以上で、4時間以内に応急的な緩下薬なしで便通があったのは、methylnaltrexone群の52%に対してプラセボ群は8%だった(両群間比較のP

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平成20年4月1日から「がん性疼痛緩和指導管理料(100点)」が算定可能に

平成20年度診療報酬改定で、がん性疼痛の緩和を目的に医療用麻薬オピオイド鎮痛薬)を投与しているがん患者に対して、WHO方式のがん性疼痛治療法に従って、計画的な治療管理と療養上必要な指導を継続的に行い、麻薬を処方することに対して「がん性疼痛緩和指導管理料(100点)」が算定できるようになった。保医発第0305001号(平成20年3月5日付)の「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」で通知された(下欄参照)。WHO方式がん性疼痛治療法とは、世界標準のがん性疼痛治療のガイドライン。1986年、「がんの痛みからの解放(Cancer Pain Relief)」においてWHOが推奨する治療法が公表され、その後、疼痛治療の進歩や新知見が取り入れられ、1996年に第2版(改訂版)が刊行された。本治療法は、70~90%のがん患者で痛みを消失させる鎮痛薬の使用法であり、その有効性が実証され、次の5点に要約される。 1.経口的に(by mouth)  鎮痛薬は、できる限り経口投与とすべきである。2.時刻を決めて規則正しく(by the clock)  痛みが持続性であるときには、時刻を決めて規則正しく投与する。  頓用方式の投与を行ってはならない。 3.除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)  鎮痛薬を除痛ラダーにしたがって順次選択していく。4.患者ごとの個別的な量で(for the individual)  鎮痛薬の適切な投与量とは、治療対象となった痛みが消える量である。5.そのうえで細かい配慮を(attention to detail)  患者にとって最良の鎮痛が得られ、副作用が最小となるように  治療を進めるには、治療による患者の痛みの変化を監視し  続けていくことが大切である。 (世界保健機関編. 武田文和訳. がんの痛みからの解放-WHO方式がんの疼痛治療法-.第2版. 金原出版株式会社; p.16-41.)今後は、WHO方式がん性疼痛治療法の5原則に従ってオピオイド鎮痛薬を投与し、副作用等を含めて計画的に治療を行うことで、管理料の算定が可能となる。 【参考】「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」保医発第0305001号B001 特定疾患治療管理料22 がん性疼痛緩和指導管理料(1) がん性疼痛緩和指導管理料は、医師ががん性疼痛の症状緩和を目的として麻薬を投与しているがん患者に対して、WHO方式のがん性疼痛の治療法(がんの痛みからの解放-WHO方式がんの疼痛治療法-第2版)に従って、副作用対策等を含めた計画的な治療管理を継続して行い、療養上必要な指導を行った場合に、月1回に限り、当該薬剤に関する指導を行い、当該薬剤を処方した日に算定する。なお、当該指導には、当該薬剤の効果及び副作用に関する説明、疼痛時に追加する臨時の薬剤の使用方法に関する説明を含めるものであること。(2) がん性疼痛緩和指導管理料を算定する場合は、麻薬の処方前の疼痛の程度(疼痛の強さ、部位、性状、頻度等)、麻薬の処方後の効果判定、副作用の有無、治療計画及び指導内容の要点を診療録に記載する。

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