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降圧薬で正常血圧者も心血管イベントリスク低下?/Lancet

 降圧薬により収縮期血圧を5mmHg低下させることで、心血管疾患の既往歴の有無を問わず、また血圧が正常値や正常高値であっても、主要心血管イベントのリスクが約10%低下することが、英国・オックスフォード大学のKazem Rahimi氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration(BPLTTC)の検討で示された。著者は、「これらの知見により、薬剤による一定程度の降圧治療は、その時点で治療の対象とされない血圧値であっても、主要心血管疾患の1次および2次予防において、治療対象の血圧値の場合と同様に有効であることが示唆される。これは、降圧治療が、主に血圧が平均値よりも高い場合に限定されている実臨床に変革を求めるものであり、降圧薬は、血圧値や心血管疾患の既往歴を問わず、心血管疾患の予防治療の選択肢と捉えるほうがよいことを示唆する」とし、「患者に降圧治療の適応を伝える際は、血圧の低下そのものに焦点を当てるのではなく、心血管リスクの低減の重要性を強調すべきである」と指摘している。Lancet誌2021年5月1日号掲載の報告。48件の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、無作為化試験の個々の参加者のデータを用いて、ベースラインの収縮期血圧別に、降圧治療が主要心血管イベントのリスクに及ぼす影響を評価する目的で、メタ解析を行った(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、薬剤による降圧治療を、プラセボまたは他の薬剤クラスの降圧薬と比較、またはより強力な治療レジメンと強力でない治療レジメンを比較した無作為化試験で、追跡期間が1,000人年以上の試験であった。心不全患者に限定された試験や、急性心筋梗塞などの急性期の患者を対象とした短期的な介入の試験は除外された。 1972~2013年の期間に公表された51件の試験のデータが収集された。データは統合され、ベースラインの心血管疾患(無作為化前での、脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患の報告)の有無、収縮期血圧の全体および7段階の分類別(<120~≧170mmHg)に、降圧治療の効果について層別解析が行われた。 51件の試験のうち48件(34万4,716例)の無作為化臨床試験が解析に含まれた。無作為化前の平均収縮期/拡張期血圧は、心血管疾患の既往のある参加者(15万7,728例、平均年齢65.7[SD 8.9]歳、女性32.9%)が146/84mmHg、既往のない参加者(18万6,988例、65.3[9.6]歳、48.7%)は157/89mmHgであった。降圧治療の相対的効果は、収縮期血圧の低下の程度と比例していた。降圧薬は心血管疾患の予防治療の選択肢と捉えるべき 追跡期間中央値4.15年(四分位範囲:2.97~4.96)の時点で、4万2,324例(12.3%)において1つ以上の主要心血管イベント(主要評価項目)(致死的または非致死的脳卒中、致死的または非致死的心筋梗塞・虚血性心疾患、致死的または入院を要する心不全の複合)が発生した。 intention to treat解析では、ベースラインの心血管疾患既往なし例における主要心血管イベントの発生率は、1,000人年当たり、比較対照群が31.9(95%信頼区間[CI]:31.3~32.5)、介入群は25.9(25.4~26.4)であった。また、心血管疾患既往あり例では、1,000人年当たり、それぞれ39.7(39.0~40.5)および36.0(35.3~36.7)だった。 収縮期血圧の5mmHgの低下による主要心血管イベントのハザード比(HR)は、心血管疾患既往なし例が0.91(95%CI:0.89~0.94)、心血管疾患既往あり例は0.89(0.86~0.92)であり、全体で主要心血管イベントのリスクが10%低減した(HR:0.90、0.88~0.92)。 ベースラインの7段階収縮期血圧分類別の主要心血管イベント解析では、心血管疾患既往歴の有無にかかわらず、降圧治療による収縮期血圧の5mmHgの低下によって、正常値、正常高値を含むいずれの段階の血圧でも、主要心血管イベントの発生が改善される傾向が認められた。 層別解析では、ベースラインの心血管疾患既往歴の有無や収縮期血圧分類の違いで、主要心血管イベントに対する治療効果の異質性に関して、信頼性の高いエビデンスは認められなかった。

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RAAS系阻害薬と認知症リスク~メタ解析

 イタリア・東ピエモンテ大学のLorenza Scotti氏らは、すべてのRAAS系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)と認知症発症(任意の認知症、アルツハイマー病、血管性認知症)との関連を調査するため、メタ解析を実施した。Pharmacological Research誌2021年4月号の報告。 MEDLINEをシステマティックに検索し、2020年9月30日までに公表された観察研究の特定を行い、RAAS系阻害薬と認知症リスクとの関連を評価した。ARB、ACE阻害薬と他の降圧薬(対照群)による認知症発症リスクを調査または関連性の推定値と相対的な変動性を測定した研究を抽出した。研究数および研究間の不均一性に応じて、DerSimonian and Laird法またはHartung Knapp Sidik Jonkman法に従い、ランダム効果プール相対リスク(pRR)および95%信頼区間(CI)を算出した。同一研究からの関連推定値の相関を考慮し、線形混合メタ回帰モデルを用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・15研究をメタ解析に含めた。・ACE阻害薬ではなくARBの使用により、認知症(pRR:0.78、95%CIMM:0.70~0.87)およびアルツハイマー病(pRR:0.73、95%CIMM:0.60~0.90)リスクの有意な低下が認められた。・ARBは、ACE阻害薬と比較し、認知症リスクの14%低減が認められた(pRR:0.86、95%CIDL:0.79~0.94)。 著者らは「ACE阻害薬ではなくARB使用による認知症リスク低下が示唆された。認知症予防効果に対するARBとACE阻害薬の違いは、独立した受容体経路に対する拮抗作用のプロファイルまたはアミロイド代謝に対する異なる影響による可能性がある」としている。

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高血圧 変わる常識・変わらぬ非常識 臨床高血圧の125年

身近な症候「高血圧」の臨床の歴史を正しく学ぶ!2021年は、コロトコフの聴診による血圧測定法が発明された1896年から125年目にあたります。現在では、高血圧は心血管病の最大のリスクであることが判明していますが、実は近年まで、血圧は高い方がよいとされていた事実もあります。当時は常識と考えられていたことも今では非常識。降圧薬の開発にもさまざまな試行錯誤がありました。本書では、臨床高血圧の125年を振り返り、時に厳しく、時にユーモアを交え、研究の道のりと最新情報をわかりやすく解説しています。現在の「常識」があれば救えたかもしれない国内外の大物政治家の話や、日本人研究者の知られざる貢献についても数多く紹介しています。事実を正しくみるという信念を貫いてきた桑島 巖氏が、臨床高血圧研究の物語に満ちた125年をわかりやすく解説しています。各時代の研究者たちがそれぞれに真摯に治療に向き合う姿に敬意を払いつつ、どこに誤りがあったのかを考察。コラムも多く記載されており、楽しみながら高血圧について学べる1冊です。高血圧診療に携わる方から学生の方、また医学史に興味のある方にもおすすめです。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    高血圧 変わる常識・変わらぬ非常識臨床高血圧の125年定価2,420円(税込)判型A5判頁数168頁発行2021年3月著者桑島 巖(J-CLEAR 理事長/東京都健康長寿医療センター顧問)Amazonでご購入の場合はこちら

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抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬セマグルチドの有効性(解説:住谷哲氏)-1375

 高血圧、高脂血症および2型糖尿病などの生活習慣病の多くは肥満と関連している。さらに肥満を改善すれば高血圧、高脂血症および2型糖尿病の改善がみられることも少なくない。高血圧には降圧薬、高脂血症にはスタチンやフィブラート製剤、2型糖尿病には血糖降下薬が使用可能であるが、肥満に対する治療薬としてわが国で認可されているのは食欲抑制剤としてのマジンドール(商品名:サノレックス)のみである。肥満大国の米国ではこれに加えて、腸管からの脂肪吸収を抑制するリパーゼ阻害薬であるorlistat(商品名:Xenical)、中枢神経系に作用するphentermine/topiramate(商品名:Qsymia)、naltrexone/bupropion(商品名:Contrave)も販売されているがいずれも副作用が問題で長期使用できる薬剤ではない。 インクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬は血糖降下薬として開発されたが、体重減少作用を有することから抗肥満薬として以前から注目されてきた。リラグルチドは抗肥満薬(商品名:Saxenda)としてすでにわが国以外の多くの国で認可されている。本論文はセマグルチドの抗肥満薬としての有効性と安全性を検討した国際第III相試験プログラムSemaglutide Treatment Effect in People with Obesity(STEP)の一つであるSTEP 1についての報告である。その結果は、セマグルチド2.4mgの週1回投与は68週後にプラセボと比較して約15%の体重減少をもたらした。head to head試験の結果を待つ必要があるが、SCALE試験1)で報告されたリラグルチド3.0mg投与による体重減少率はプラセボ群と比較して-4.5%であったのに対し、本試験ではプラセボ群と比較して-12.4%でありセマグルチド2.4mg投与による体重減少率がリラグルチド3.0mg投与より大きいと思われる。 Googleで「GLP-1ダイエット」と入力して検索すると249,000件がヒットした(2021年4月11日現在)。その多くは楽に痩せる注射としてGLP-1受容体作動薬を紹介している。この問題については2020年日本糖尿病学会が「GLP-1 受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」として警告を発している2)。現時点で2型糖尿病患者以外への投与は論外であるが、本剤を使用することが有益である肥満患者のためにも、わが国でも抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬が認可されることを期待したい。

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先天性腎性尿崩症〔Congenital nephrogenic diabetes insipidus〕

1 疾患概要■ 概念・定義腎性尿崩症(Nephrogenic Diabetes Insipidus:NDI)は、腎尿細管におけるAVP(Arginine Vasopressin)の作用不足のために尿濃縮障害を呈し、そのために多尿(尿の過剰産生)と多飲(過度の口渇)を呈する疾患群である。NDIは、成因により先天性と二次性に分けられる。先天性NDIは、AVPのV2受容体やAVP依存性水チャンネルのアクアポリン-2の遺伝子異常などにより発症する。二次性NDIは、低カリウム血症、高カルシウム血症、腎泌尿器疾患、薬剤(炭酸リチウムほか)、アミロイドーシスなどに伴って発症する。先天性NDIは難病指定を受けている。本稿では主に先天性NDIについて述べる。■ 疫学わが国の関連学会会員を対象とした全国規模の腎性尿崩症の頻度調査(2009~2010年)では、173例のNDIが確認され、そのうち15例はリチウム製剤に起因する二次性NDIであった1)。■ 病因と分類NDIの原因は、先天性と二次性に大別されるが、二次性はさらに、薬剤性、腎泌尿器疾患によるもの、その他、などに区分される(表12))。表1 腎性尿崩症の原因2)1.先天性1)X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)性 AVPR22)常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性 AQP23)常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性 AQP24)その他2.電解質異常1)高カルシウム血症2)低カリウム血症3.薬剤性リチウム、デメクロサイクリン、アンホテリシン B、アミノグリコシド系薬剤、メトキシフルレンなど4.腎泌尿器疾患1)慢性腎不全2)逆流性腎症、間質性腎炎3)異形成腎、髄質嚢胞性腎疾患、ネフロン癆4)ファンコニー症候群(シスチン蓄積症、他)、バーター症候群5)尿路閉塞5.その他1)サルコイドーシス2)アミロイドーシス3)シェーグレン症候群4)鎌状赤血球症5)浸透圧利尿(糖、マンニトール、ナトリウム)6)ACEI/ARB fetopathy**は著者改変1)AVPによる集合管における尿濃縮の機序V2受容体は7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体で、腎集合管主細胞の血管膜側細胞膜に発現している。AVPがV2受容体に結合するとGタンパクとアデニル酸シクラーゼの活性化を生じ、cAMPが産生される。cAMPはプロテインキナーゼA(PKA)を介して、輸送小胞膜上にホモ4量体で水チャンネルを形成しているアクアポリン-2をリン酸化する。リン酸化されたアクアポリン-2を載せた小胞は管腔側細胞膜へ移動し、エクソサイトーシスにより細胞膜と融合することで管腔と主細胞間に水チャンネルが開通する。主細胞の血管側細胞膜上でアクアポリン-3、4により恒常的に開通している水チャンネルの作用と併せて、管腔側から血管側へ水が再吸収されて尿が濃縮される(図)。図 腎尿細管主細胞におけるV2受容体とアクアポリンによる水の再吸収(著者作成)画像を拡大する2)先天性NDI(a)遺伝形式と発症機序先天性NDIの90%以上はX連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)である。約9%の患者は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)であり、1%は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの95%にはAVPのV2受容体遺伝子AVPR2に病的バリアントを認め、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの約95%にはアクアポリン-2遺伝子AQP2に病的バリアントを認める。軽症または部分型の先天性NDIは、AVPR2遺伝子異常に報告されることが多いが、顕性遺伝(優性遺伝)形式をとるAQP2遺伝子異常によるものも報告されている。(b)AVPR2の遺伝子異常AVPのV2受容体遺伝子AVPR2はヒトではX染色体上に位置していて、3つのエクソンからなる。この遺伝子の病的バリアントによるNDIの発症は、男性100万人に4人程度の発症率で認められている。報告されている200種以上のバリアントには特定の集積部位は認められない。機能解析がなされているミスセンス例の多くは、misfoldingによるtrafficking障害によりバリアントタンパクが膜に到達できないことによる。バリアントの種類によっては、部分的にAVP作用が保たれる例も存在する。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AVPR2異常が43例を占めた1)。(c)AQP2の遺伝子異常アクアポリン-2の遺伝子AQP2はヒトでは12q13に位置し、4つのエクソンよりなる。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式と常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の双方が報告されている。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AQP2異常が5例を占めた1)。(d)ACEI/ARB fetopathy遺伝性ではないが先天性NDIが、妊娠中に降圧薬ACEI/ARBを内服した母体から出生した児に発生することが報告されている3)。薬剤による影響がその原因であるので二次性でもある。3)二次性 NDI以下の原疾患・原因により引き起こされるNDIであり、主に、年長児や成人に発症する。(a)腎泌尿器疾患慢性腎不全、間質性腎炎、慢性尿路閉塞などの腎尿細管機能低下を招来する腎泌尿器疾患は尿濃縮力を低下させ、NDIを呈する。(b)電解質異常高カルシウム血症,低カリウム血症に伴う尿濃縮障害によるNDIが知られている。(c)薬剤性 NDI躁状態治療薬(炭酸リチウム)、抗リウマチ薬(ロベンザリット二ナトリウム)、抗 HIV 薬(フマル酸テノホビルジソプロキシル)、抗菌薬(イミペネム・シラスタチンナトリウム、アムホテリシン、塩酸デメクロサイクリン)、抗ウイルス薬(ホスカルネットナトリウム水和物)などによるNDIが知られている。リチウムについては、glycogen synthase kinase 3(GSK3)を抑制することにより、AVP感受性アデニル酸シクラーゼ活性が低下して細胞内cAMP産生が低下し、AVP作用が減弱するとされている。(d)その他頻度は低いがアミロイドーシス,サルコイドーシスなどの全身疾患もNDIの原因となる。■ 症状多尿が共通した症状であるが、患者の年齢により徴候が異なる。先天性NDIの徴候を述べる。(1)胎児期:母体の羊水過多。(2)新生児期:生後数日頃から、原因不明の発熱およびけいれんを来す。高浸透圧血症、高ナトリウム血症を呈す。(3)幼児期~成人:多尿(3~20L/日、乳幼児では体表面積あたりの尿量が2,500mL/m2以上)とそれに伴う多飲を呈す。軽症例では、心因性多飲として経過観察されていたり、多尿に気付かれず夜尿のみを訴えることもある。体重増加不良、便秘を呈すこともある。■ 予後1)中枢神経系口渇に対して自らの意思で飲水できない新生児、乳幼児や意識障害を伴う例では、特に診断前には高張性脱水(高ナトリウム血症)を来し、中枢神経系の不可逆的な障害を残すことが多い。新生児では初発症状が高ナトリウム血症による痙攣のこともある。2012年の厚生労働省研究班による全国調査では、先天性NDIの約1割に精神発達遅滞を認めた。乳幼児期を過ぎれば自律的に水分摂取が可能となるので、意識障害時を除いて高張性脱水による中枢神経合併症を生じることはないとされる。2)腎泌尿器系現在のところ、NDIの多尿を適切に改善させる治療法がないので、長期間の多尿による腎泌尿器系の合併症が約半数の患者にみられる。水尿管を含む水腎症、膀胱尿管逆流症の併発により腎機能低下を招来する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先天性腎性尿崩症の診断基準は、主要症状である多尿、検査所見として尿浸透圧の低値とAVPへの無反応/反応低下、鑑別診断と遺伝学的検査よりなっている(表24))。これには軽症または部分型NDIを診断するための重症度分類も含まれている1)。先天性NDIの診断年齢は、1歳未満が半数以上を占めているが、1~4歳で診断される例も1~2割を占める。表2 先天性腎性尿崩症の診断基準4)と重症度分類1)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多尿に見合う適切な量の水分摂取、腎への溶質負荷を軽減するための塩分・蛋白質の摂取制限、サイアザイド系利尿薬や非ステロイド系抗炎症薬の投与が行われる。小児期には、まず塩分制限を行い、効果が不十分な場合に蛋白制限を追加するが、成長障害に十分な注意を払わなければならない。サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロサイアザイドで2~4 mg/kg/日)は、利尿により生じる軽度の体液量減少がレニン・アルドステロン・アンギオテンシン系や交感神経系を賦活して近位尿細管におけるNaと水の再吸収を促進することで、結果的にAVPの作用部位である集合管への水・電解質の負荷を軽減し、逆説的に尿量減少効果を呈すると考えられている。サイアザイド系利尿薬の投与により、尿量は、1/2~1/3程度に減少する。効果が不十分な場合、AVPR2遺伝子異常によるNDIではインドメタシンや選択的COX-2 阻害薬が有効とされるが、近年、長期の選択的COX-2阻害剤投与が心臓の副作用を招くことが明らかにされた。部分的NDIではAVPへの反応性が残存しているので、高容量のDDAVPとサイアザイドの併用による治療が可能な場合がある。4 今後の展望AVPR2バリアントやAQP2バリアントでは、タンパクの細胞質移送が障害されていることが明らかになっているので、種々の薬剤のシャペロン作用により、バリアント蛋白の細胞質内での滞留を解除する試みがなされているが、実用には至っていない5)。5 主たる診療科新生児科、小児科、内科、泌尿器科、腎臓内科、神経内科、神経小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先天性腎性尿崩症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報腎性尿崩症 友の会(患者とその家族および支援者の会)1)腎性尿崩症の実態把握と診断・治療指針作成に関する研究(研究代表者 神崎 晋). 平成21~23年度総合研究報告書. 2012.2)根東義明. 日腎会誌. 2011;53:177-180.3)Miura K,et al. Pediatric Nephrology.2009;24:1235–1238.4)先天性腎性尿崩症.難病医学研究財団 難病情報センター.(2021年3月1日閲覧)5)Bernier V, et al. J Am Soc Nephrol.2006;17:232-243.公開履歴初回2021年04月13日

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降圧治療と副作用:システマティックレビューおよびメタ解析(解説:石川讓治氏)-1370

 高血圧は心血管イベント発症のリスク増加と関連し、降圧治療が心血管イベント発症を抑制することが報告されている。STRATIFY研究グループのメンバーは、降圧薬の介入試験や大規模観察研究の結果のシステマティックレビューとメタ解析を行い、降圧治療は全死亡、心血管死亡、脳卒中の発症抑制と関連し、降圧治療の副作用としては、転倒のリスク増加とは有意な関連がなく(1次評価項目:リスク比1.05、95%信頼区間0.89~1.24)、2次評価項目である急性腎障害(リスク比1.18、95%信頼区間1.01~1.39)、高カリウム血症(リスク比1.89、95%信頼区間1.56~2.30)、低血圧(リスク比1.97、95%信頼区間1.67~2.32)、失神(リスク比1.28、95%信頼区間1.03~1.59)といった副作用のリスク増加と関連していたことを報告した1)。Bromfieldら2)の以前の研究においても、降圧治療中の転倒のリスクは血圧レベルよりもフレイルの存在やポリファーマシーと関連していたことが報告されており、本研究のメタ解析においても降圧治療は転倒のリスク増加と関連していなかったことが再確認された。 日常臨床において転倒が危惧される高齢者は、多くの無作為介入試験の登録から除外されている場合が多く、本研究の結果は慎重に解釈する必要がある。また、高齢者においては下肢筋力低下による転倒と、一過性の血圧低下によるめまいや転倒を完全に区別することは困難な場合も多い。高齢者高血圧は血圧変動が大きいことが特徴であり、下肢運動機能が低下すると立位保持時に血圧が上昇し、自律神経機能低下が起こると起立性や食後低血圧が生じ、ふらつきから転倒を来すことがある。そのため急激な降圧のほうが問題となることがあり、血圧変動性亢進のリスク患者の認識をし緩徐に降圧することが、過度の血圧低下のリスクを考慮した降圧治療を行ううえで重要であると思われる。 本研究においては、降圧薬による高カリウム血症や急性腎障害は、レニン・アルドステロン系の阻害薬の使用で多かったことも報告されている。高齢者では動脈スティッフネスが亢進しており、高齢者高血圧の日常診療においてカルシウムチャネル阻害薬が選択されることが多いが、ALLHAT研究においては3)、降圧薬の種類の中でカルシウムチャネル阻害薬のアムロジピンを投与された患者で、投与開始後1年以内に転倒が多かったことも報告されており、投与開始直後には注意が必要であると思われる。

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ニフェジピンからアジルサルタンへ 変更の意外な狙いとは?【処方まる見えゼミナール(大和田ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(大和田ゼミ)ニフェジピンからアジルサルタンへ 変更の意外な狙いとは?講師:大和田 潔氏 / 秋葉原駅クリニック院長動画解説降圧薬と解熱鎮痛薬を併用する患者さんの降圧薬が変更になりました。それは、アジルサルタンの降圧効果に加えて、“ある意外な作用”を期待したものでした。先生の経験に基づいた薬の選択や使用方法を紹介します。

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Ca拮抗薬をアムロジピンからニフェジピンに変更した理由【処方まる見えゼミナール(大橋ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(大橋ゼミ)Ca拮抗薬をアムロジピンからニフェジピンに変更した理由講師:大橋 博樹氏 / 多摩ファミリークリニック院長動画解説30歳、女性。降圧薬がアムロジピン+エナラプリルマレイン酸塩からメチルドパに変更されました。しかし、メチルドパだけでは血圧コントロールができなかったのか、増量したうえで、ニフェジピンも追加されました。この女性には、どのような臨床背景があったのでしょうか。

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「薬が突然よく効いたのはなぜですか?」~線形型薬物と非線形型薬物~【ダイナミック服薬指導(1)】

ダイナミック服薬指導(1)「薬が突然よく効いたのはなぜですか?」~線形型薬物と非線形型薬物~講師佐藤 ユリ氏 / 株式会社プリスクリプション・エルムアンドパーム 企画統括部部長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾代表理事麻生 敦子氏 / 株式会社オオノ薬局業務部教育課課長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾副理事動画解説礼儀正しくきちょうめんな男性が来局。降圧剤の用量と効果の関係について薬剤師に質問するが、納得がいく回答が得られず…

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1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第70回

1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」今回は、ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬「ニラパリブトシル酸塩水和物(商品名:ゼジューラカプセル100mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後維持療法として、1日1回の服用で腫瘍細胞の増殖を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、「卵巣癌における初回化学療法後の維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌」の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはニラパリブとして1日1回200mgを経口投与します。ただし、本剤初回投与前の体重が77kg以上かつ血小板数が15万/μL以上の成人には、1日1回300mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量し、本剤投与により副作用が発現した場合は、添付文書の基準を参考にして休薬、減量、中止します。<安全性>国内第II相試験(Niraparib-2001試験、Niraparib-2002試験)において、副作用は39例中39例(100%)で報告されました。主なものは、悪心25例(64.1%)、血小板数減少23例(59.0%)、貧血17例(43.6%)、好中球数減少14例(35.9%)、嘔吐13例(33.3%)、食欲減退11例(28.2%)、白血球数減少10例(25.6%)でした。なお、国内外の臨床試験(上記とNOVA試験、QUADRA試験、PRIMA試験)において、本剤が投与された937例で発現した重大な副作用として、骨髄抑制(78.8%)、高血圧(9.8%)、間質性肺疾患(0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.卵巣がんの初回化学療法後や再発時の維持療法に使われる薬です。1日1回、連日服用します。2.薬によって血液を作る機能が低下するため、あざができやすくなる、鼻をかんだときに血が出る、顔色が悪くなる、心拍数が増える、立ちくらみや息切れ、めまいが起こることがあります。定期的に血液検査が行われますが、気になる症状があったらすぐにご連絡ください。3.血圧が高くなることがあります。自覚症状はほとんどないため、定期的に血圧や心拍数を測定しましょう。4.吐き気や嘔吐、便秘、疲労感などが現れることがあります。小まめに水分を摂り、消化の良い食事を心掛け、疲れを溜めないようにするなど、生活に工夫を取り入れることで対処できる場合もあります。強い症状が続く場合はご相談ください。5.妊娠中の方や妊娠している可能性がある方は服用できません。また、本剤服用中や服用を中止してから一定の期間は適切な方法で避妊を行い、授乳中の方は授乳を中止する必要があります。<Shimo's eyes>卵巣がんは主に閉経後の女性に多く発症するがんですが、初期段階では症状に乏しく、早期の検出が困難であるため、女性生殖器の悪性腫瘍の中では最も死亡者数の多い疾患です。一般的な卵巣がんの治療では、まず手術で可能な限りがんを取り除いてから抗がん剤による化学療法を行い、その後、再発リスクを下げるための維持療法を実施することが多いです。PARP阻害薬は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後の維持療法として用いられます。本剤は、卵巣がんに適応のあるPARP阻害薬として、国内ではオラパリブ(商品名:リムパーザ)に次ぐ2剤目であり、BRCA遺伝子変異の有無によらず使用できます。1日1回の経口投与で食事の影響を受けにくいため、生活リズムに合わせて服用タイミングを選択できるなどのメリットもあります。副作用としては、一般的な抗がん剤と同様に、骨髄抑制、血小板減少、好中球減少などが発現することが多いため、血液検査などによるモニタリングが求められます。また、『NCCN制吐ガイドライン2020年版』において、中等度~高度の嘔吐リスク(頻度30%以上)に分類されており、嘔吐を予防するため、服用前に5-HT3受容体拮抗薬の連日経口投与が推奨されています。重大な副作用として、高血圧クリーゼを含む高血圧などが報告されており、とくに降圧薬を服用中の患者さんは投与前に血圧が適切に管理されていることを確認する必要があります。本剤の貯法は、2~8℃で遮光保存です。患者さんにはPTPシートを冷蔵庫で保管するように指導しますが、持ち運ぶ必要がある場合は専用の保冷遮光ポーチがあるので、MRに相談しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ゼジューラカプセル100mg

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BRACE-CORONAにより“COVID-19とRA系阻害薬問題”はどこまで解決されたか?(解説:甲斐久史氏)-1360

 2020年9月、欧州心臓病学会ESC2020で発表され、論文公表が待たれていたBRACE-CORONAがようやくJAMA誌に報告された。COVID-19パンデミック拡大早期から危惧された「レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が、新型コロナウイルス感染リスクおよびCOVID-19重症化・死亡に悪影響を与えるのではないか?」というクリニカル・クエスチョンに基づく研究である。2020年4月から6月の間に、ブラジル29施設に入院した軽症および中等症COVID-19患者のうち、入院前からアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を服用していた659例がRA系阻害薬中止群(他クラスの降圧薬に変更)と継続群にランダム化され、入院後30日間の臨床転帰が比較検討された。主要評価項目は、30日間の生存・退院日数。副次評価項目は、入院日数、全死亡、心血管死亡、COVID-19進行(COVID-19悪化、心筋梗塞、心不全の新規発症または増悪、脳卒中など)であった。主要評価項目およびいずれの副次評価項目についても両群間に差はなかった。また、年齢、BMI、入院時の症状・重症度などのサブグループ解析でも主要評価項目に差はみられなかった。以上から、軽症/中等症COVID-19入院患者において、RA系阻害薬をルーチンとして中止する必要はないと結論付けられた。 本研究は、“COVID-19とRA系阻害薬問題”に関する初めての多施設ランダム化臨床試験(RCT)である。これによって、何らかの症状を有した急性期COVID-19の重症化・予後悪化に関してのRA系阻害薬悪玉説は否定されたと考えてもよいだろう。ただし、本研究の対象は高血圧患者で、心不全は約1%(1年以内に心不全入院を有するものは除外)、冠動脈疾患は約4.5%しか含まれないことには注意したい。とはいえ、心不全や冠動脈疾患はCOVID-19重症化・予後悪化の危険因子であり、また、パンデミック下での臨床経験から重症COVID-19による心不全治療においてもRA系阻害薬は有用とされる。したがって、これらの病態を対象に、あえてRA系阻害薬を中止するRCTを行う必要は、理論的さらには倫理的観点からもないであろう。一方、ARB新規投与がCOVID-19入院患者および非入院患者の急性期予後を改善するかについて、感染拡大早期からそれぞれRCTがなされていた。今年2月にようやく症例登録が終了したようである。RA系阻害薬善玉説の観点からの検討であり、その公表が待たれる。 しかし、われわれが最も知りたいことは、このような急性効果ではない。高血圧、腎疾患、さらには心不全や冠動脈疾患といった心疾患に対して、日頃から長期間処方しているRA系阻害薬により、患者さんを感染や重症化のリスクに曝していないかということである。ワクチンや抗ウイルス薬とは異なり、従来の大規模な多施設RCTによる検証は、RA系阻害薬長期服用の感染予防・重症化予防に関してはなじまないであろう。この命題に関しては、中国での感染拡大初期から、単施設や小規模コホートでの後ろ向き登録研究が多くなされた。中にはRA系阻害薬の有用性を強調した報告もみられる。しかし、欧州・米国さらにわが国からの大規模な後ろ向きおよび前向き登録研究、それらを含めた観察研究のメタ解析が次々に報告され、感染確認前のRA系阻害薬服用は、SARS-CoV-2検査陽性、COVID-19重症化や死亡のリスクを増大させることも抑制させることもなく、明らかな影響を与えないことが示されている。有用性評価には依然検討の余地があるが、RA系阻害薬は感染性増大や重症化・予後悪化といった有害事象を増加させないという点では、コンセンサスが得られるのではなかろうか。 そもそも、“COVID-19とRA系阻害薬問題”は、ACE2に関する基礎研究において、「RA系阻害薬がACE2発現を増加させる」「SARSなど急性肺障害モデルにおいてRA系阻害薬が臓器保護的に働く」といった一部の報告が強調され、それぞれ、悪玉説と善玉説の根拠とされている。しかしながら、別稿で詳述したように、これまでの基礎研究を網羅的かつ詳細に検討すると、いずれの主張もその根拠はどうも薄弱なようである(甲斐. 心血管薬物療法. 2021;8:34-42.)。急性期COVID-19に関しては、両仮説ともその妥当性から見直す必要があるかもしれない。最近、急性期に無症候性であった患者も含めて、味覚・嗅覚異常、脱毛、倦怠感、brain fogといった精神症状、息切れなどの症状が数ヵ月間持続するlong COVIDに注目が集まっている。心臓MRIで慢性的な心筋炎症がみられるなど、long COVIDには全身の慢性心血管炎症が関与する可能性が示唆されている。今後、long COVIDの発症予防・治療に対するRA系阻害薬を含めスタチンなどの薬剤の有用性についてRCTを含めた検証を進める意義があろう。 “COVID-19とRA系阻害薬問題”を通じて、質の高い観察研究・ビッグデータ解析の必要性が痛感された。実際にCOVID-19パンデミックをきっかけに、電子診療データやAIを活用したデータの収集、スクリーニング、解析などの各分野に目覚ましい革新が引き起こされている。災い転じて、臨床疫学によるエビデンス構築の新時代を迎えようとしているようである。ちなみに、BRACE-CORONAは、ブラジル全国規模のCOVID-19 registryに基づくregistry-based RCTである。電子診療データなどのリアルワールドデータシステムの枠組み内にRCTを構築することにより、膨大かつ検証可能なデータプールから、自動的に対象症例を抽出し、経時的にデータを収集することができるのみならず、1つのシステム内に複数のRCTを走らせることも可能となる。わが国も遅れをとらないように、情報インフラ・診療情報データベース構築を推し進めなければならない。

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家庭におけるオンラインでの血圧管理は血圧コントロール率を改善する(解説:石川讓治氏)-1358

 家庭血圧は診察室血圧よりも優れた心血管イベント発症の予測因子であることが報告されており、わが国においては、高血圧患者の血圧評価において家庭血圧測定が広く行われている。家庭の安定した環境で毎日繰り返し測定された血圧値は、診察時の不安定な血圧値よりも正確な血圧であることがその理由の1つであると考えられている。 その一方で、家庭血圧を指標とした血圧管理が、診察室血圧を指標とした血圧管理よりも心血管イベントや高血圧性臓器障害の抑制効果が優れていたことを示した研究は今のところない。家庭血圧と診察室血圧を指標とした血圧管理を比較し、24時間自由行動下血圧モニタリングにおける到達血圧レベルを評価した研究においては、その差はそれぞれの目標血圧レベルの差(家庭収縮期血圧135mmHg vs.診察室収縮期血圧140mmHg:その差5mmHg)に依存していた1)。 家庭血圧測定を行いながら降圧治療する利点は、従来の診察機会ごとの血圧管理よりも、患者の服薬アドヒアランスの改善、食事やライフスタイルに関する行動変容、血圧上昇時の受診の動機付け、薬剤師や患者自身による降圧薬投与量の調節(欧米において)などを行うことで、血圧コントロール率を改善することであると思われる。これらの効果が加わった場合に、家庭血圧測定を行った降圧治療が、従来の診察室血圧による血圧管理より優れているといえると思われる2)。 MacManus RJら(BMJ. 2021;372:m4858.)3)は、家庭血圧をオンラインで管理を行った群と、通常の診察室血圧で管理した群を比較し、家庭血圧をオンラインで管理した群で収縮期血圧が3.4mmHg低く、費用対効果も優れていたことを報告した。家庭血圧のオンライン管理群では、患者が入力した家庭血圧値を評価しながら、降圧薬の投与量の自己調節の指導や、ライフスタイルの改善の指導(食事、身体活動、減量、塩分摂取、アルコール摂取)を行っており、これらの介入は血圧コントロール率を改善するのに有用な方法であったと思われる。本研究における介入方法は、医師が家庭血圧をチェックしフィードバックし続ける手間と労力が大変であったことが容易に想像できる。12か月間の追跡期間で評価されているが、日常臨床ではこの血圧管理を生涯続けなければならない。オンラインでの家庭血圧管理の有用性はとくに67歳未満の非高齢者、併存疾患のない患者に認められていた。インターネットに不慣れであることが予想される67歳以上の高齢者においては、収縮期血圧の到達度は両群に差が認められなかった。 多忙な日常診療における医師の負担の増大と、心血管リスクの高い高齢者において有効性が低い(継続率も低い)ことが、家庭血圧のオンライン管理の現在の課題であると思われる。将来的にウエアラブル血圧計を用いて、AIなどで自動的に患者指導し、在宅で薬剤師や看護師が降圧薬の投与量を調節したりできる日が来れば、日本でも広く普及するのかもしれない。また、現代のスマートホンやインターネットを使いこなしている非高齢者の世代が高齢者になる時代には、超高齢者でも難なく家庭血圧のオンライン管理ができる日が来るのであろうか?血圧管理方法も時代とともに変遷していくようである。

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降圧薬の有害事象メタ解析、急性腎障害や失神が関連か/BMJ

 降圧薬による高血圧治療は、転倒との関連はないものの、軽度の有害事象として高カリウム血症および低血圧と関連し、重度の有害事象として急性腎障害および失神との関連が認められることが、英国・オックスフォード大学のAli Albasri氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月10日号に掲載された。降圧治療の有効性を評価した無作為化対照比較試験のメタ解析は多いが、潜在的な有害性を検討したメタ解析はほとんどない。また、既存のメタ解析は、降圧治療とすべての有害事象の関連に重点を置き、特定の有害事象との関連は明らかにされていないという。降圧治療と特定の有害事象の関連をメタ解析で評価 研究グループは、降圧治療と特定の有害事象との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を実施した(英国Wellcome Trustなどの助成による)。 成人(年齢18歳以上)で、降圧薬とプラセボまたは無投与、降圧薬数が多い群と少ない群、降圧目標値の高値と低値を比較した無作為化対照比較試験を対象とした。小規模な初期段階の試験を回避するために、試験はフォローアップ期間が650人年以上であることが求められた。 2020年4月14日の時点で、4つの学術データベース(Embase、Medline、CENTRAL、Science Citation Index)に登録された文献を検索した。 主要アウトカムは、試験のフォローアップ期間中の転倒とした。副次アウトカムは、急性腎障害、骨折、痛風、高カリウム血症、低カリウム血症、低血圧、失神であった。また、死亡や主要心血管イベントと関連する追加アウトカムのデータを抽出した。 バイアスのリスクはCochrane risk of bias toolで評価した。変量効果メタ解析で、試験の異質性(τ2)を考慮してすべての試験の率比(RR)、オッズ比(OR)、ハザード比(HR)を統合した。死亡、心血管死、脳卒中を抑制、心筋梗塞との関連は不明確 58件の無作為化対照比較試験(28万638例、フォローアップ期間中央値:3年[IQR:2~4])に関する63本の論文が解析に含まれた。多くの試験(40件[69%])はバイアスのリスクが低かった。 転倒のデータを報告したのは7件の試験(2万9,481例、1,790イベント)で、降圧治療との関連を示すエビデンスは認められず(要約RR:1.05、95%信頼区間[CI]:0.89~1.24)、この関連に関する試験間の異質性はほとんどなかった(τ2=0.009、I2=31.5%、p=0.372)。 一方、降圧薬は、急性腎障害(要約RR:1.18、95%CI:1.01~1.39、τ2=0.037、15試験)、高カリウム血症(1.89、1.56~2.30、τ2=0.122、26試験)、低血圧(1.97、1.67~2.32、τ2=0.132、35試験)、失神(1.28、1.03~1.59、τ2=0.050、16試験)との関連が認められた。 降圧治療と骨折(要約RR:0.93、95%CI:0.58~1.48、τ2=0.062、I2=53.8%、5試験)、および痛風(1.54、0.63~3.75、τ2=1.612、I2=94.3%、12試験)との関連のエビデンスは明確ではなく、CIの幅の広さは試験の異質性が大きいことをある程度反映すると考えられた。 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系拮抗薬に限定すると、急性腎障害と高カリウム血症のイベントを評価した試験間の異質性は低くなった。また、個々の試験で投与中止の原因となった有害事象に焦点を当てた感度分析では、結果の頑健性が示された。 さらに、降圧治療は、全死因死亡(HR:0.93、95%CI:0.88~0.98、τ2=0.008、I2=50.4%、32試験)、心血管死(0.92、0.86~0.99、τ2=0.011、I2=54.6%、21試験)、脳卒中(0.84、0.76~0.93、τ2=0.013、I2=44.8%、17試験)のリスク低減と関連したが、心筋梗塞(0.94、0.85~1.03、τ2=0.013、I2=40.7%、19試験)との関連は明確ではなかった。 著者は、「これらのデータは、降圧治療の開始や継続について医師と患者が協働意思決定を行う際に、とくに有害事象の既往歴や腎機能低下により有害性のリスクが高い患者にとって、有益な情報となるだろう」としている。

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高血圧DNAワクチンの第I/IIa相試験で抗体産生確認/アンジェス

 アンジェスが開発している高血圧DNAワクチンの第I/IIa相臨床試験(オーストラリアで実施中)において、投与後の経過観察期間を経た初期の試験結果から、重篤な有害事象はなく安全性に問題がないこと、また、アンジオテンシンIIに対する抗体産生を認められたことを、2月4日、アンジェスが発表した。今後、安全性、免疫原性および有効性を評価する試験を継続的に行っていく予定。 高血圧DNAワクチンは、アンジオテンシンIIに対する抗体を体内で作り出し、その働きを抑えることで高血圧を治療するために開発が進められている。現在、多く使用されている経口降圧薬は毎日忘れずに服用する必要があるが、注射剤であるDNAワクチンは一度の投与で長期間にわたって効果が持続することが期待されている。とくに経口剤の服用が難しい高齢者を中心に利便性が向上する。 今回の第I/IIa相試験は、安全性、免疫原性および有効性の評価を目的としたプラセボ対照二重盲検比較試験で、対象は高用量のアンジオテンシンII受容体拮抗薬による血圧のコントロールが必要な高血圧患者24例(高血圧ワクチン18例、プラセボ6例)。観察期間は12ヵ月である。

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GERDを増悪させる薬剤を徹底見直しして負のスパイラルから脱出【うまくいく!処方提案プラクティス】第32回

 今回は、胃食道逆流症(GERD)を悪化させる薬剤を中止することで症状を改善し、ポリファーマシーを解消した事例を紹介します。GERDは胸焼けや嚥下障害などの原因となるほか、嚥下性肺炎、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、慢性咳嗽などの呼吸器疾患を発症・増悪させることもあるため、症状や発症時期を聴取して薬剤を整理することが重要です。患者情報70歳、女性(外来患者)基礎疾患発作性心房細動、慢性心不全、高血圧症、逆流性食道炎診察間隔循環器内科クリニックで月1回処方内容<循環器内科クリニック(かかりつけ医)>1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.ビソプロロール錠2.5mg 1錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.ニフェジピン徐放錠40mg 1錠 分1 朝食後(1ヵ月前から増量)5.エソメプラゾールマグネシウム水和物カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後<内科クリニック>1.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前(2週間前に処方)2.テオフィリン徐放錠100mg 2錠 分2 朝食後・就寝前(2週間前に処方)本症例のポイントこの患者さんは、なかなか胸焼けが治らないことを訴えて、半年前にGERDの診断を受けました。プロトンポンプ阻害薬による治療によって症状は改善したものの、最近はまた症状がぶり返しているとお悩みでした。患者さんの生活状況を聴取したところ、喫煙や飲酒はしておらず、高脂肪食なども5年前の心房細動の診断を機に気を付けて生活していました。心不全を併発していますが、体重は47.5kg程度の非肥満で増減もなく落ち着いていて、とくにGERD増悪の原因となる生活習慣や体型の問題は見当たりませんでした。さらに確認を進めると、最近の変化として、血圧が高めで推移したため1ヵ月前にニフェジピン徐放錠が20mgから40mgに増量になっていました。また、2週間前に咳症状のため、かかりつけの循環器内科クリニックとは別の内科クリニックを受診し、喘息様発作でモンテルカストとテオフィリンを処方されていました。GERDにおける食道内への胃酸の逆流は、嚥下運動と無関係に起こる一過性の下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)弛緩や腹腔内圧上昇、低LES圧による食道防御機構の破綻などにより発生します1)。また、GERDを増悪させる要因として、Ca拮抗薬やテオフィリン、ニトロ化合物、抗コリン薬などのLES弛緩作用を有する薬剤、NSAIDsやビスホスホネート製剤、テトラサイクリン系抗菌薬、塩化カリウムなどの直接的に食道粘膜を障害する薬剤があります1,2)。Ca拮抗薬は平滑筋に直接作用してCaイオンの流れを抑制することで、LES圧を低下させるとも考えられています3)。上記のことより、1ヵ月前に増量したCa拮抗薬のニフェジピン徐放錠がGERD症状の再燃に影響しているのではないかと考えました。その食道への刺激によって乾性咳嗽が生じて他院を受診することになり、そこで処方されたテオフィリンによってさらにLESが弛緩してGERD症状が増悪するという負のスパイラルに陥っている可能性も考えました。かかりつけ医では他院で処方された薬剤の内容を把握している様子がなかったため、状況を整理して処方提案することにしました。処方提案と経過循環器内科クリニックの医師と面談し、別の内科クリニックから乾性咳嗽を主体とした症状のためモンテルカストとテオフィリンが処方されていることと、患者さんの胸焼けや咳嗽がニフェジピン増量に伴うLES弛緩により出現している可能性を伝えしました。医師より、ニフェジピン増量がきっかけとなってGERD症状から乾性咳嗽に進展した可能性が高いので、ニフェジピンを別の降圧薬に変更しようと回答をいただきました。そこで、ACE阻害薬は空咳の副作用の懸念があったため、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を提案し、医師よりニフェジピンをオルメサルタン40mgに変更する指示が出ました。また、現在は乾性咳嗽がないため、心房細動への悪影響を考慮してテオフィリンを一旦中止し、モンテルカストのみ残すことになりました。変更した内容で服用を続けて2週間後、フォローアップの電話で胸焼け症状は改善していることを聴取しました。その後の診察でモンテルカストも中止となり、患者さんは乾性咳嗽や胸焼け症状はなく生活しています。1)藤原 靖弘ほか. Medicina. 2005;42:104-106.2)日本消化器病学会編. 患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド. 2018.3)江頭かの子ほか. 週刊日本医事新報. 2014;4706:67.

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オンライン血圧管理で、良好な収縮期血圧コントロール/BMJ

 コントロール不良の高血圧患者において、デジタル技術を用いた介入による「家庭オンライン血圧管理・評価(Home and Online Management and Evaluation of Blood Pressure:HOME BP)」は通常治療と比較して、1年後の収縮期血圧のコントロールが良好で、費用の増分も低いことが、英国・オックスフォード大学のRichard J. McManus氏らが実施した「HOME BP試験」で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2021年1月19日号に掲載された。これまでの自己モニタリングと自己管理の試験では、血圧低下に関する有効性が示されているが、効果を得るには比較的高価な技術や時間がかかる一連の訓練を必要とすることが多い。また、デジタル介入の短期試験では、血圧コントロールの改善の可能性が示唆されているが、広く実施するための十分なエビデンスは得られていないという。プライマリケアでの無作為化対照比較試験 研究グループは、血圧の自己モニタリングと生活様式の自己管理を統合した高血圧管理のためのデジタル介入の、プライマリケアにおける有用性を評価する目的で、非盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 この試験には英国の76の総合診療施設が参加した。対象は、治療を行っても血圧コントロールが不良(>140/90mmHg)で、インターネットが使用可能な環境にある患者622例であった。 被験者は、HOME BPによる血圧自己モニタリングとデジタル介入を受ける群(介入群、305例)または通常治療(ルーチンの高血圧治療、受診の予約、総合診療医の裁量による薬剤の変更)を受ける群(317例)に無作為に割り付けられた。 デジタル介入では、患者と医療従事者に血圧測定の結果がフィードバックされ、生活様式への助言や動機付けを高めるための支援を受ける選択が可能であった。高血圧、糖尿病、80歳以上の人々の目標血圧は英国の国のガイドラインに準拠した。 主要アウトカムは、ベースラインの血圧、目標血圧、年齢、診療内容で補正した1年後の収縮期血圧(2回目と3回目の測定値の平均値)の差とされた。欠測値は多重代入法で補完された。用量・薬剤の変更が多く、1mmHg低下の増分費用は11ポンド ベースラインの平均年齢は、介入群が65.2(SD 10.3)歳、通常治療群は66.7(10.2)歳で、女性はそれぞれ47.5%および45.0%であった。1年後に552例(88.6%)のデータが得られ、残りの70例(11.4%)のデータは補完された。 平均血圧は、介入群がベースラインの151.7/86.4mmHgから1年後には138.4/80.2mmHgへ、通常治療群は151.6/85.3mmHgから141.8/79.8mmHgへと低下した。収縮期血圧の両群間の平均差は-3.4mmHg(95%信頼区間[CI]:-6.1~-0.8)、拡張期血圧の平均差は-0.5mmHg(-1.9~0.9)であった。また、完全ケース分析では同様の結果が得られた(収縮期血圧の平均差:-3.5mmHg[95%CI:-6.2~-0.9]、拡張期血圧の平均差:-0.5mmHg[-1.8~0.9])。 頻度の高い有害事象として、関節のこわばり(介入群56.8%、通常治療群55.6%)、疼痛(47.5%、46.8%)、睡眠困難(45.7%、51.2%)、疲労(46.3%、43.3%)、咳嗽(34.6%、37.5%)などが認められたが、両群間に有意差があるものはなかった。また、高血圧に特異的な症状(下肢/くるぶしの腫脹、ほてり感、胃のむかつき、めまい、インポテンス)の頻度にも両群間に差はなかった。 介入群は通常治療群に比べ、試験期間中に降圧薬の投与を受ける患者の割合が高かった。また、用量の変更(相対的リスク:2.0、95%CI:1.5~2.7)および薬剤の変更(1.5、1.1~1.9)の割合が高かった。 試験期間中のQOL(EuroQoL5D-5L)には両群間に差はみられなかった。また、介入群の1例の増分費用は38ポンド(95%CI:27~47)であり、収縮期血圧の1mmHg低下当たりの増分費用は11ポンド(95%CI:6~29)(15ドル、12ユーロ)だった。 著者は、「HOME BPをプライマリケアで実施するには、臨床ワークフローへの統合と、デジタル技術を使用しない人々への配慮が求められる」としている。

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FIDELIO-DKD試験-非ステロイド系選択的鉱質コルチコイド受容体拮抗薬finerenoneに、心腎保護効果あり!(解説:石上友章氏)-1340

 慢性腎臓病(CKD)診療の究極のゴールは、腎保護と心血管保護の、両立にある。腎機能低下・透析を回避して、長生きできる治療法が、待ち望まれている。高血圧、糖尿病は、CKDのリスクであり、降圧薬、血糖降下薬には、高血圧・糖尿病を修正・軽快することで、間接的にCKDないしDKDの進展抑制が可能である。しかし、降圧薬であるACE阻害薬・ARBの確たる『降圧を超えた臓器保護作用』については、議論の余地があった。 レニン・アンジオテンシン(RA)系は、重要な創薬標的であり、これまでさまざまな薬剤が上市されてきた。RA系の最終産物であるアンジオテンシンIIは、腎内作用と、腎外作用があり、副腎を刺激してアルドステロンの分泌を促進することは、主要な腎外作用である。アルドステロンは、11βHSD2存在下でコルチゾールが不活化することで、核内にある鉱質コルチコイド受容体(MR)と結合し、アルドステロン誘導性タンパク質(AIP:aldosterone inducible protein)の遺伝子発現を通して、アルドステロン作用を発揮する。 第1世代(スピロノラクトン)、第2世代(エプレレノン)の抗アルドステロン薬は、ステロイド骨格を有し、第3世代(エサキセレノン)は非ステロイド骨格であり、前者をMRA(鉱質コルチコイド受容体拮抗薬)、後者をMRB(鉱質コルチコイド受容体遮断薬)と呼称する。FIDELIO-DKD試験1)では、新規第3世代MRBであるfinerenoneを試験薬として、RA系阻害薬を用いた治療中のCKD合併2型糖尿病患者を対象に行われた。 結果は、finerenoneに心腎保護効果があることが証明された。1次エンドポイントである、腎複合エンドポイントは楽々と(HR:0.82、0.73~0.93、p=0.001)、2次エンドポイントである心血管複合エンドポイントは辛うじて(HR:0.86、0.75~0.99、p=0.03)統計学的有意差をつけることができた。これまで、多くの基礎研究の成果から、鉱質コルチコイド受容体の活性化が、心血管・腎の組織・細胞レベルでの障害をもたらすことが示唆されている。FIDELIO-DKD試験は、セオリーを臨床試験で証明したことから、トランスレーショナル・リサーチの成果と言える。著者らはDiscussionにおいて、軽度の血圧低下を伴った、アルブミン尿・心血管イベントに対する効果が早期に認められることから、一部の作用はナトリウム利尿効果に由来するとしている。一方、SGLT2阻害薬カナグリフロジンを試験薬にしたCREDENCE試験と比較して、1次エンドポイントの群間差のmagnitudeが少ないことに言及しており、両薬剤の薬効をもたらす作用点を比較するうえで興味深い。

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HFpEFに対するsGC刺激薬の効果―VITALITY-HFpEF試験を読み解く(解説:安斉俊久氏)-1329

 VITALITY-HFpEF試験では、6ヵ月以内に心不全増悪の既往を有する左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)を対象にして、可溶型グアニリル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬であるvericiguat 10mg/日あるいは15mg/日を24週間投与した際の生活の質(QOL)ならびに運動耐容能に対する効果が、多施設共同第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験として検証された。結論としてvericiguatの有効性は示されず1)、HFpEFに対する臨床試験としては、またしてもネガティブな結果に終わった。 本研究に先立って行われたSOCRATES-PRESERVED試験では、HFpEFに対するvericiguatの12週間投与がN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値および左房容積に及ぼす効果について検証された。プライマリエンドポイントにvericiguat投与群とプラセボ群間で有意差を認めなかったが、探索項目として調査されたカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)によるQOL評価値が、vericiguat 10mg/日投与群においてプラセボ群に比べ有意に改善した2)。このことにより、より長期の24週間にわたって10~15mg/日の高用量を投与する本研究はQOLを改善させ、同時に運動耐容能を改善するのではないかと考えられた。しかしながら、今回の研究においてKCCQの身体制限に関するスコアや6分間歩行距離に有意な結果が得られなかっただけでなく、JAMA誌の同号に掲載されたCAPACITY HFpEF試験(Phase II)でも、sGC刺激薬であるpraliciguatは、HFpEFにおける最大酸素摂取量をはじめとした運動耐容能を改善するには至らなかった3)。 HFpEF患者の心筋生検標本を用いた検討においては、環状グアノシン3’,5’-1リン酸(cGMP)ならびにプロテインキナーゼG(PKG)活性の低下が報告されており4)、加齢や、糖尿病、高血圧、肥満などのHFpEFに多く認める併存症によって血管内皮機能が障害され、一酸化窒素(NO)の生物学的利用能が低下することが原因と考えられてきた5)。PKGの活性低下は左室の肥大・線維化を介して拡張機能障害をもたらすことから、NO-cGMP-PKG経路が治療標的として着目されるに至った。 しかしながら、HFpEFの左室における圧容積曲線の特性上、血管拡張作用を有する薬剤は、過降圧や一回拍出量低下などを来すことにより、むしろ血行動態を悪化させてしまう可能性が指摘されており6)、これまでの血管拡張作用を有する薬剤を用いた大規模臨床試験では、いずれも有意な結果が得られていない。本試験においても、症候性低血圧の出現頻度は、vericiguat 15mg/日、10mg/日、プラセボの各群で、6.4%、4.2%、3.4%とvericiguat高用量投与群において高率に発生している。血行動態にまで悪影響をもたらしたかどうかは不明であるが、QOL改善に至らなかった一因と考えられる。 NO-cGMP-PKG経路の障害は、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者の全身ならびに冠動脈における血管平滑筋細胞に生じており、前・後負荷増大とともに心筋虚血を悪化させている7-9)。cGMPを増加させるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)やsGC刺激薬はHFrEFの予後を改善することが報告されているが10,11)、冠動脈疾患の合併が比較的少なく、血管拡張薬によって血行動態の改善が得られにくいHFpEFでは、sGC刺激薬の効果が十分に得られなかった可能性が考えられる。また、sGC刺激薬以外にも、経口硝酸薬やホスホジエステラーゼ5阻害薬、ARNIを用いた研究が過去に行われているが、いずれも有意な結果が得られていない12-15)。PKG活性の低下から心筋肥大・線維化を呈し、すでに症候性となっている段階では、NO-cGMP-PKG障害が治療標的とはなり得なかった可能性もある。ただし、病態によっては有効な可能性も否定できず、多様な病態を持つHFpEFに対しては、ディープフェノタイピングに基づいた精密医療が今後は必要になるものと考えられる。引用文献1)Armstrong PW, et al. JAMA. 2020;324:1512-1521.2)Pieske B, et al. Eur Heart J. 2017;38:1119-1127.3)Udelson JE, et al. JAMA. 2020;324:1522-1531.4)Komajda M, et al. Eur Heart J. 2014;35:1022-1032.5)Emdin M, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;76:1795-1807.6)Schwartzenberg S, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;59:442-451.7)Kubo SH, et al. Circulation. 1991;84:1589-1596.8)Ramsey MW, et al. Circulation. 1995;92:3212-3219.9)Katz SD, et al. Circulation. 2005;111:310-314.10)Armstrong PW, et al. N Engl J Med. 2020;382:1883-1893.11)McMurray JJ, et al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.12)Redfield MM, et al. N Engl J Med. 2015;373:2314-2324.13)Borlaug BA, et al. JAMA. 2018;320:1764-1773.14)Redfield MM, et al. JAMA. 2013;309:1268-1277.15)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.

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第36回 無罪のままのディオバン事件関係者、これからの行方は?

世の中は相変わらず新型コロナウイルス感染症に関する話題で持ちきりだが、先日ふと「もう2年が経ってしまったか」と思った事件がある。一時世間をにぎわした、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)・バルサルタン(商品名:ディオバン)の旧薬機法違反事件の検察による上告の件である。ここで改めて事件を振り返りたい。バルサルタンは日本国内だけで一時年間売上高1,000億円を超えたトップクラスの医薬品。そもそもARBを含む降圧薬は血圧を低下させることで脳心血管疾患の発症を予防することが服用目的だ。このため、降圧薬を擁する製薬各社はプロモーション活動を有利にするため、市販後に心血管疾患の発症予防効果を確認する大規模な臨床研究を行う。ご多分に漏れずバルサルタンでもそうした臨床研究が国内で複数行われ、いずれもバルサルタンでのポジティブな結果だったことから、製造販売するノバルティス社のプロモーション資材などで大々的に紹介された。ところが2012年に当時の京都大学医学部附属病院循環器内科助教の由井 芳樹氏がLancetなど複数の学術誌で、国内で行われたバルサルタンにポジティブな結果を示した臨床研究である、京都府立医科大学による「Kyoto Heart Study」、東京慈恵医科大学による「Jikei Heart Study」、千葉大学による「VART」の統計処理の不自然さを指摘したことをきっかけに問題が顕在化した。そしてこの件に加え、この3つの臨床研究の共同研究者として名を連ねていた大阪市立大学の研究者が実際にはノバルティス社の社員であることが発覚。前述の3研究以外にもこの社員が共同研究者として参加したことが判明した、バルサルタン関連の研究である滋賀医科大学の「SMART」、名古屋大学の「Nagoya Heart Study」にも不自然な点があることも分かった。各大学は調査委員会を設置し、データの人為的な操作がうかがわれる、あるいはデータ管理がずさんという調査結果が公表し、いずれの研究も既に論文は撤回されている。この件については厚生労働省も2013年に検討会を設置して関係者などをヒアリング。2014年1月にはバルサルタンに有利な形に研究データを操作して掲載に至った論文をプロモーションに用いた行為が薬事法(現・薬機法)第66条に基づく誇大記述・広告違反に該当するとしてノバルティス社を東京地検に刑事告発。この結果、同年6月に東京地検は大阪市立大学教官を名乗っていた前述のノバルティス社員を逮捕し、社員と同時に同法第90条に定める法人の監督責任に伴う両罰規定に基づき法人としてのノバルティス社も起訴した。一審で元社員、ノバルティス社はともに一貫して無罪を主張。2016年12月、検察側は元社員に懲役2年6ヵ月、ノバルティス社に罰金400万円を求刑したが、2017年3月16日の一審の判決公判で、東京地裁は両者に無罪の判決を言い渡し、これを不服とする検察側が控訴した。しかし、控訴審判決で、東京高裁は2018年11月19日、一審の無罪判決を支持し、検察側の控訴を棄却。これに対して東京高検は同年11月30日に最高裁に上告していた。それから何の判断も下らず2年が経過したのであるそもそもなぜこの事件では現時点まで無罪という判断が下っているのか?実は一審判決では、起訴事由となった研究論文作成の過程で元社員がバルサルタンに有利になるようなデータ改ざんを行っていたことは認定している。しかし、判決で裁判長は薬事法第66条で言及する「虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布」は、(1)医薬品の購入意欲を喚起・昂進するもの、(2)特定医薬品の商品名の明示、(3)一般人が認知できる状態、の3要件すべてを満たすものと指摘。この件はこのうちの(2)、(3)を満たすものの、(1)については一般的な査読のある学術誌に掲載された研究論文は、「購入意欲を喚起・昂進するもの」との要件を満たしているとは言い難いとして、第66条が規定する「広告」「記述」「流布」のいずれにも当たらず、違法とはならないとの判断だった。法的解釈、あるいは製薬業界内の論理で考えれば、この判決は妥当との判断もできるかもしれない。しかし、一般社会に向けて「保険薬のプロモーションに利用された論文に改ざんはあれども違法ではない」と言われても、にわかには納得しがたいはずだ。一審判決時、裁判長が無罪判決を言い渡した直後、法廷内は数秒間静まり返り、その後「フー」とも「ホー」とも判別できない微かな声が広がった様子をやはり法廷内にいた私は今でも覚えている。顔見知りの記者同士は互いに無言のまま目を大きくして顔を見合わせた。意外だという反応の表れだった。東京地検は即座に控訴するが、その理由の中でノバルティス社側には論文の執筆・投稿に明確な販促の意図があり、査読のある学術誌への掲載という外形的な事実のみで「広告」に当たらないとするのは事実誤認であると主張していた。これに対して控訴審判決では、学術論文は客観的に顧客誘引性を有しておらず、論文を宣伝に用いようとしていた被告らの行為も顧客誘引の準備行為と言えるものの直接的に顧客誘引の意図があったとは認められないとして控訴を棄却した。また、66条の規制に学術論文を認めた場合、論文内に不正確性などがあった場合は、その都度、故意の有無を問わねばならず、「学問の自由」への侵害ともなりかねないと指摘。虚偽の学術論文による宣伝行為に関しては「何らかの対応が必要だが、66条1項での対応は無理があり、新たな立法措置が必要」とした。簡単に言えば、「問題のある行為だが、今の法律では裁けない」ということだ。確かに控訴審の判断まで聞けば、ある意味無罪もやむなしなのかと個人的には思った。しかし、何ともモヤモヤした思いが残る。そして東京高検は上告に踏み切った。当時、東京高検周辺を取材した際に上告理由として浮上してきたのは、「経験則違反」と「著反正義」の2点である。経験則違反は判例などに照らして事実認定すべきものを怠った場合を指し、著反正義は控訴審判決を維持した場合に、著しく社会正義が損なわれるという考え方。東京高検が経験則違反に当たる事実認定をどの部分と考えているかは不明だ。控訴審での検察の主張と判決を照らし合わせると、論文の作成過程に関してノバルティス社が深く関与したにもかかわらず、判決ではあくまで広告の準備段階としてこの行為そのものに顧客誘引性は認定しなかったことを指すと思われる。著反正義はまさに地裁判決で認定された元社員によるデータ改ざんがありながら、罪には問えない点が該当するとみられる。さてそこで上告から2年経つわけだが、そもそも直近のデータでは刑事事件で上告されたケースの8割は上告棄却になり、2割弱は上告が取り下げられる。最高裁が下級審の原判決を破棄して判決を下す「破棄自判」、下級審での裁判のやり直しを命じる「破棄差戻・移送」は極めて稀である。しかも上告棄却の場合は約95%が上告から半年以内に行われる。もちろん今回のバルサルタン事件のように上告から2年以上音沙汰なしだったものが、最終的に上告棄却となったものもあるが、その確率は直近で0.4%。ちなみに最新データによると、上告事件で破棄自判となったものはそれまでに2年超、破棄差戻・移送では1年超が経過している。バルサルタン事件がいずれの判断になるかは分からない。だが、どうなろうとも現時点で極めて異例な事態となっているのだ。そして、もし原判決が覆ることになれば、おそらく「製薬企業の資金支援がある研究論文≒広告」という決着になるだろう。その場合、医療用医薬品情報提供ガイドラインの登場、コロナ禍によるリモートプロモーションの増加と同等あるいはそれ以上のインパクトを製薬業界に与えることは間違いないと思っている。

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スタチン+降圧薬のポリピル、アスピリン併用で心血管イベント抑制/NEJM

 心血管疾患がなく、中等度以上の心血管リスクを有する集団において、スタチンと3つの降圧薬の合剤であるポリピル(polypill)とアスピリンの併用療法はプラセボ+プラセボと比較して、心血管イベントの発生率が約3割低いことが、カナダ・マックマスター大学のSalim Yusuf氏らが行ったTIPS-3試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号に掲載された。世界では毎年、心血管疾患による死亡が約1,800万件発生しており、その80%以上を低~中所得国が占めるという。血圧上昇とLDLコレステロール値上昇は、心血管疾患の最も重要な修正可能なリスク因子であり、降圧薬と脂質低下薬を組み合わせたポリピルが有益な可能性が示唆されている。一方、アスピリンは、心血管疾患患者に対する有用性が証明されているが、心血管疾患の1次予防における単独での役割、あるいはポリピルに含まれる1剤としての役割は明らかにされていない。ポリピル単独とアスピリン単独とポリピル+アスピリン併用を比較 本研究は、2×2×2ファクトリアルデザインの二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、9ヵ国(インド、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、コロンビア、カナダ、タンザニア、チュニジア)の86施設が参加し、2012年7月~2017年8月の期間に患者登録が行われた(Wellcome Trustなどの助成による)。 対象は、心血管疾患がなく、INTERHEARTリスクスコア(0~48点、点数が高いほど心血管リスクが高い)で中等度または高リスクの50歳以上の男性および55歳以上の女性であった。被験者は、ポリピル(シンバスタチン40mg、アテノロール100mg、ヒドロクロロチアジド25mg、ramipril 10mgを含有)またはプラセボを毎日、アスピリン75mgまたはプラセボを毎日、ビタミンDまたはプラセボを毎月投与する群に無作為に割り付けられた。 今回は、ポリピル単独とプラセボ、アスピリン単独とプラセボ、ポリピル+アスピリンとダブルプラセボの比較の結果が報告された。 ポリピル単独およびポリピル+アスピリンとそれぞれのプラセボとの比較における主要アウトカムは、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心停止への蘇生術、心不全、動脈血行再建)の複合とした。アスピリンとプラセボの比較における主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合であった。ポリピル+アスピリン併用群の主要アウトカム:4.1% vs.5.8% 5,713例が無作為化の対象となり、平均フォローアップ期間は4.6年であった。参加者はインドが47.9%と最も多く、次いでフィリピンが29.3%であった。ベースラインの平均年齢は63.9歳、52.9%が女性で、高血圧/血圧上昇が83.8%、糖尿病/血糖値上昇が36.7%で認められ、平均収縮期血圧は144.5mmHg、平均心拍数は77.0拍/分、平均LDLコレステロール値は120.7mg/dL(3.1mmol/L)だった。 試験期間中、ポリピル単独とポリピル+アスピリン併用を合わせた群はプラセボ群と比較して、平均収縮期血圧が5.8mmHg低く、平均心拍数が4.6拍/分少なく、平均LDLコレステロール値が19.0mg/dL(0.50mmol/L)低かった。 ポリピル比較の主要アウトカムは、ポリピル群(2,861例)が126例(4.4%)、プラセボ群(2,852例)は157例(5.5%)で発生した(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~1.00)。また、アスピリン比較の主要アウトカムは、アスピリン群(2,860例)が116例(4.1%)、プラセボ群(2,853例)は134例(4.7%)で発生した(HR:0.86、95%CI:0.67~1.10)。 ポリピル+アスピリン比較の主要アウトカム(初発)は、ポリピル+アスピリン群(1,429例)が59例(4.1%)、ダブルプラセボ群(1,421例)は83例(5.8%)で発生した(HR:0.69、95%CI:0.50~0.97)。初発と再発を合わせた主要アウトカムは、ポリピル+アスピリン群が64例、ダブルプラセボ群は93例で発生した(HR:0.68、95%CI:0.48〜0.96)。 副作用により試験を中止した参加者数は、ポリピル+アスピリン群とダブルプラセボ群で同程度であった(筋肉症状:5例、7例、消化管出血:3例、1例、胃腸症[dyspepsia]:3例、3例、胃炎:19例、22例、消化性潰瘍:3例、3例)。また、低血圧およびめまいの発生率は、ポリピルを投与された群が、それぞれに対応するプラセボ群に比べて高かった。低血圧およびめまいにより試験薬を中止した参加者は、ポリピル+アスピリン群が45例、ダブルプラセボ群は22例だった。大出血は、ポリピル+アスピリン群が9例、ダブルプラセボ群は12例で報告された。 著者は、「併用群の心血管イベントに関する有益性は、LDLコレステロール値と血圧の適度な低下に、アスピリンによる有益性が加わった場合に予測されたものと一致していた」としている。

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