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2.

アルツハイマー病に伴うアジテーション、抗うつ薬併用有無でブレクスピプラゾールの有効性に違いはあるか

 抗うつ薬使用の有無により、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性に違いはあるのかを明らかにするため、米国・Connecticut Clinical ResearchのC. Brendan Montano氏らは、ブレクスピプラゾールの2つの第III相臨床試験のデータを統合し、事後解析を実施した。The American Journal of Geriatric Psychiatry誌オンライン版2026年6月30日号の報告。 ブレクスピプラゾールに関する2つの第III相試験(12週間、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照)のデータを統合した。事後解析として、抗うつ薬使用の有無により患者を層別化した。有効性はCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、安全性は治療中に発現した有害事象(TEAE)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬を使用していた患者は97例、使用していなかった患者は513例。・抗うつ薬使用の有無にかかわらず、ブレクスピプラゾール(2または3mg/日)は、プラセボと比較し、CMAI合計スコアの有意な改善が認められた。【抗うつ薬使用群】12週時点の最小二乗平均差(LSMean):-12.1(95%信頼区間[CI]:-19.1~-5.05)、t(77)=-3.4、p=0.001、Cohen's d=0.72。【抗うつ薬非使用群】12週時点のLSMean:-2.93(95%CI:-5.49~-0.37)、t(487)=-2.2、p=0.025、Cohen's d=0.20。・抗うつ薬使用群において、発現率が5%以上であったTEAEは、転倒のみであった(ブレクスピプラゾール群:6.5%、プラセボ群:5.7%)。 著者らは「本探索的事後解析において、ブレクスピプラゾールは、抗うつ薬使用の有無にかかわらず、アルツハイマー病に伴うアジテーションを改善し、忍容性も良好であった」としている。

4.

チルゼパチド、2型糖尿病治療の負担軽減に寄与か――実臨床研究で示唆

 2型糖尿病では、複数の糖尿病治療薬の併用や複雑なインスリン療法が必要となり、患者の治療負担が増すことがある。こうした中、2型糖尿病患者を対象としたリアルワールド研究で、チルゼパチドは従来のGLP-1受容体作動薬と比べ、血糖コントロールや体重を改善しながら、糖尿病治療の負担軽減につながる可能性が示された。研究は、浅ノ川総合病院内科/金沢大学大学院未来型健康増進医学分野の澤村俊孝氏らによるもので、詳細は6月30日付の「Endocrine Practice」に掲載された。 複数の薬を服用する「ポリファーマシー(多剤併用)」や複雑なインスリン療法は、2型糖尿病患者の治療負担を増大させるだけでなく、低血糖や転倒、入院などのリスクとも関連する。このため、十分な血糖コントロールを維持しつつ、治療を簡略化することが重要な課題となっている。チルゼパチドはGIPとGLP-1という2つの消化管ホルモンの受容体に作用する2型糖尿病治療薬で、優れた血糖降下作用や体重減少作用を示すことが報告されているが、これまでの研究はHbA1cや体重への効果に焦点を当てたものが中心で、治療薬やインスリンの減量といった「治療簡略化」を評価した報告は限られていた。こうした背景から著者らは、2型糖尿病患者を対象に、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬の治療簡略化効果をリアルワールドデータで比較検討した。 著者らは、日本の2施設で2023年4月~2025年3月にチルゼパチドまたはGLP-1受容体作動薬を開始した2型糖尿病患者318人(チルゼパチド群153人、GLP-1受容体作動薬群165人)を対象に、後ろ向きのリアルワールド研究を実施した。患者を最大12カ月追跡し、糖尿病治療薬が1剤以上減少した場合、インスリン注射回数が減少した場合、または1日当たりの総インスリン投与量が50%以上減少した場合のいずれかを満たし、その状態が維持されていることを「治療簡略化」と定義して評価した。解析では患者背景の違いを考慮し、傾向スコアを用いた統計学的手法で調整した。 解析の結果、チルゼパチド群では55%が治療簡略化を達成したのに対し、GLP-1受容体作動薬群では25%で、チルゼパチド群の方が有意に高かった(オッズ比〔OR〕 3.69、95%信頼区間〔CI〕 2.21~6.16、P<0.001)。絶対リスク差は30%だった。 治療簡略化は主に糖尿病治療薬数の減少によるもので、その割合はチルゼパチド群で47%、GLP-1受容体作動薬群では10%だった(OR 7.96、95%CI 4.06~15.6、P<0.001)。インスリン注射回数や総インスリン投与量もチルゼパチド群で減少する傾向がみられたが、全体では有意差はなかった。 また、HbA1cと体重はいずれの群でも改善したが、その改善幅はチルゼパチド群でより大きかった。12カ月後のHbA1cはチルゼパチド群で1.34%、GLP-1受容体作動薬群で0.78%低下し、体重はそれぞれ4.75kg、2.86kg減少した。 本研究ではチルゼパチド使用患者の56%がGLP-1受容体作動薬からチルゼパチドへ切り替えられた患者であったが、GLP-1受容体作動薬からの切り替え患者を除外したサブグループ解析では、薬剤数に加えインスリン注射回数や総インスリン投与量をアウトカムとした解析でも、有意な減少が認められた。 著者らは、「チルゼパチドは、実臨床において血糖コントロールや体重減少効果を維持しながら、2型糖尿病治療の簡略化に寄与する可能性が示された」と結論付けている。また、治療レジメンの簡略化は服薬アドヒアランスや患者負担の軽減につながる可能性があり、チルゼパチドは日常診療における治療負担を軽減する新たな選択肢となり得るとしている。 一方で著者らは、本研究が後ろ向き観察研究であることや、患者のQOLや治療満足度を評価していないことなどを限界として挙げ、前向き研究による検証が必要としている。

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世界で長寿化が進む一方で不健康な期間も拡大

 世界中で人々はこれまでになく長生きするようになったが、延長した人生の多くを健康問題を抱えながら過ごしているようだ。「The Lancet Public Health」8月号に掲載された研究で、平均寿命と健康寿命の差(morbidity gap)は、1990年の8.8年から2023年には10.7年へと約2年拡大したことが示された。 論文の上席著者である米ワシントン大学医学部のChristopher Murray氏は、「この研究結果は、今後の健康増進は、寿命の延長だけでなく、健康な状態で生きる期間を延ばすことによって実現されることを示唆している。健康的な老化の進展は、寿命だけでなく健康寿命によって評価されるべきであり、不健康な状態で過ごす期間(以下、不健康な期間)を減らすためには、予防、長期的な疾患管理、慢性疾患のケアへの投資を拡充する必要がある」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study〔GBD〕2023)のデータを用いて、1990~2023年における204カ国・地域の平均寿命と健康寿命の差の経時的な変化を解析するとともに、この差に寄与する主な疾患やリスク因子についても評価した。 その結果、世界の平均寿命は1990年の64.6歳から2023年には73.8歳へ、健康寿命は55.9歳から63.1歳へと延長した。一方で、平均寿命と健康寿命の差も、1990年の8.8年から2023年の10.7年へと1.9年増加し、不健康な期間も長くなった。世界全体で、平均寿命に占める不健康な期間の割合は、1990年の13.6%から2023年には14.5%へ上昇した。国別では、不健康な期間が最も長かったのは米国で平均14.0年、次いでオーストラリアが13.9年、カナダが13.7年だった。また、1990年から2023年にかけての不健康な期間の拡大は、人生の終末期に集中するのではなく、成人期全体で認められた。さらに、ほぼ全ての国・地域で女性は男性より長生きする一方、不健康な期間も長かった。2023年の不健康な期間は女性が平均12.1年、男性は9.3年だった。 不健康な期間の延長に最も大きく寄与していたのは、腰痛などの筋骨格系疾患で、その次に多かったのはうつ病や不安症などの精神疾患だった。加齢性難聴、転倒や不慮の外傷、その他の非感染性疾患なども主な要因として挙げられた。また、不健康な期間に関連する主なリスク因子は、空腹時の高血糖、高BMI、母子の栄養不良、喫煙であった。 保健指標評価研究所(IHME)のシニアサイエンティフィックライターであるCatherine Bisignano氏は、「世界のほぼ全ての地域で、女性は男性より長生きしているが、その延びた年月の多くを不健康な状態で過ごしている」と指摘する。同氏は、「健康的な老化を実現するためには、障害とともに生きる期間を長引かせる疾患やリスク因子への対策を強化する必要がある。これらに対して予防やより良い長期ケアを早期から行うことは、社会や医療制度、経済に大きな利益をもたらす可能性がある」と述べている。

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「よく転ぶようになった」と言う80歳女性、現処方6剤のうち見直すべきは?【高齢者処方のデザイン】第5回

【症例】患者80歳・女性80歳女性。10年前にうつ病と診断され、前医からアミトリプチリン50mg/日を継続投与されている。既往に高血圧、軽度認知機能低下、脂質異常症、変形性膝関節症、10年前からの便秘症があり、降圧にヒドロクロロチアジド(HCTZ)12.5mgとアムロジピン5mg、便秘に酸化マグネシウム 約1.0g/日、脂質異常症にアトルバスタチン10 mg、変形性膝関節症の疼痛時にアセトアミノフェン500mg 頓用が処方されている。家族に付き添われて来院し、「半年で2回転倒した」「口がいつも乾く」「便が出にくい」「立ちくらみがする」と訴える。本人は「最近忘れっぽい」と自覚するが、抑うつ症状は安定している。診察上、臥位血圧138/82に対し起立3分で108/64と起立性低血圧を認め、脈拍上昇は乏しい。eGFR 55、Na 138、K 3.9、ALT 21、補正Ca 9.2。MMSE 24/30。【Before:前医の処方箋】A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用この6剤の中で、まず見直すべき薬はどれか? 1) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 2) Boustani M, et al. Aging Health. 2008;4:311-320. 3) Coupland C, et al. BMJ. 2011;343:d4551. 4) Mori H, et al. J Clin Biochem Nutr. 2019;65(1):76-81. 5) Musini VM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD003824. 講師紹介

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GLP-1薬は骨折リスクを上げる?下げる?

 GLP-1受容体作動薬(以下「GLP-1薬」)の投与開始は、DPP-4阻害薬の投与開始と比較して、2型糖尿病患者における脆弱性骨折リスクの低下と関連することが、米国・カリフォルニア大学のChristopher D. Hamad氏らの研究で示された。一方、GLP-1薬開始群と非開始群を比較した糖尿病の有無別の感度分析では、非2型糖尿病患者においてGLP-1薬使用は骨折リスク増加と関連していた。JAMA Network Open誌オンライン版2026年7月24日号掲載の報告。 これまでの研究では、BMIと脆弱性骨折リスクとの間にはU字型の関連があり、低体重や肥満では骨折リスクが高くなること、急速または大幅な体重減少でも骨折リスクが高くなることが報告されている。GLP-1薬は臨床試験で有意な体重減少をもたらしているため、骨への影響が懸念されているものの、その影響については十分なエビデンスが得られていない。そこで研究グループは、2型糖尿病患者におけるGLP-1薬開始と脆弱性骨折リスクとの関連について、DPP-4阻害薬開始を比較対照として検討する標的試験エミュレーションを実施した。 米国の電子カルテデータベースTriNetXを用いて、2015年1月1日~2022年12月31日に新たにGLP-1薬またはDPP-4阻害薬を開始した50~90歳の2型糖尿病患者を対象とした。患者は骨折、死亡、365日を超える医療受診の中断、または3年間の追跡終了まで追跡された。主要評価項目は、立位からの転倒など低エネルギー外傷による脆弱性骨折の発生とした。糖尿病の有無による違いを検討するため、GLP-1薬開始群と非開始群を比較する感度分析を実施したほか、BMIおよびHbA1cの変化が骨折リスクとの関連を媒介するかどうかについても解析した。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、13万3,606例(各群6万6,803例)の患者が解析に含まれた。GLP-1薬開始群およびDPP-4阻害薬開始群の平均年齢は63.2歳vs.63.8歳、男性が52.7%vs.54.0%、平均BMIは33.0 vs.32.9、平均HbA1cは8.48 vs.8.40であった。・3年間の追跡調査期間中、GLP-1薬開始群2,030例とDPP-4阻害薬開始群2,484例に脆弱性骨折が発生した。・GLP-1薬の開始は、DPP-4阻害薬の開始と比較して脆弱性骨折リスクの低下と関連していた。 -ハザード比(HR):0.79(95%信頼区間[CI]:0.76~0.83) -絶対リスク減少:0.79%(95%CI:0.60~0.99) -治療必要数:126(95%CI:101~168)・骨折リスク低下との関連は1年目と2年目で有意に認められたが、3年目には有意ではなくなった。 -1年目 HR:0.72(95%CI:0.67~0.78) -2年目 HR:0.77(95%CI:0.71~0.83) -3年目 HR:0.94(95%CI:0.86~1.02)・骨折リスク低下との関連は年齢、性別、フレイルの程度にかかわらず一貫して認められた。最も大きなリスク低下は、椎骨骨折および股関節・大腿骨骨折であった。・媒介分析では、GLP-1薬使用による骨折リスク低下の大部分は、BMIやHbA1cの低下を介さない直接効果によることが示唆された(HR:0.81[95%CI:0.76~0.86])。・糖尿病の有無別にGLP-1薬開始群と非開始群を比較した感度分析では、GLP-1薬使用は2型糖尿病患者では骨折リスク低下と関連した一方、非2型糖尿病患者では骨折リスク増加と関連していた(交互作用のp<0.001)。 -2型糖尿病患者 HR:0.91(95%CI:0.88~0.95) -非2型糖尿病患者 HR:1.13(95%CI:1.04~1.23) これらの結果より、研究グループは「2型糖尿病患者へのGLP-1薬の投与開始は、DPP-4阻害薬の投与開始と比較して、BMIおよびHbA1cの変化では説明されない形で3年間の脆弱性骨折リスク低下と関連していた。因果関係を確立し、骨への長期的な影響を明らかにするためには前向き研究が必要である」とまとめた。

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損害賠償が高額となる場合って?【医療訴訟の争点】第23回

症例医療訴訟の損害賠償額はどのように決定付けられるのか。腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎後方除圧術中に馬尾神経が切断され、患者に重篤な後遺障害が残存した事案についての神戸地裁姫路支部令和7年5月14日判決を紹介する。<登場人物>患者74歳・女性(令和2年当時)原告患者およびその長女被告市立病院を開設する市および執刀医事案の概要は以下の通りである。令和元年(2019年)12月20日腰痛を主訴として被告病院を受診。腰部脊柱管狭窄症が疑われた。令和2年(2020年)1月6~8日検査入院し、脊髄造影検査(ミエログラフィー)などを実施。重度の腰部脊柱管狭窄症と診断された。また、残尿も認められた。1月17日担当医(A医師)から、重度の腰部脊柱管狭窄症であり早期手術が望ましいこと、腎機能がさらに悪化すれば人工透析となる可能性があることなどの説明を受け、患者は手術に同意した。1月20日手術目的で入院。1月22日腰椎後方除圧術(本件手術)を施行。執刀医(A医師)は、第2・第3腰椎間の除圧操作中、視野が十分確保されていないにもかかわらずスチールバーによる骨切除を継続した。その結果、バーが硬膜を損傷し、逸脱した馬尾神経を巻き込んで複数本を切断した。助手医師(上級医である脳神経外科部長)が交代して馬尾神経の修復処置を行い、手術は終了した。手術後患者には、両下肢麻痺、自力での起立・歩行不能、重度の膀胱直腸障害、腰部から下肢にかけての強い神経障害性疼痛が残存した。5月頃主治医がA医師から脳神経外科部長に交代し、その後もリハビリや疼痛管理が継続された。6月病院は、本件医療事故を医療過誤と判断し、患者家族に謝罪した。10月23日神経障害は改善が見込めないとして症状固定と診断された。後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第一1級1号(常時介護を要するもの)相当と評価された。令和3年(2021年)1月28日患者は入院継続中、病室内で転倒し、右脛骨・腓骨骨折などを受傷した。患者にはそれ以前から複数回の転倒歴があり、病院では離床センサー付きベッドなどの転倒防止策を講じていたが、この転倒事故についても病院の安全配慮義務違反があったかが争われた。3月病院は代理人弁護士を通じ、本件医療事故について適正な損害賠償を行う意向を通知した。8月執刀医は病院を退職した。令和4年(2022年)病院は院内事故調査を実施し、本件を含む複数の医療事故について検証を行った。また、記者会見を開き、一連の医療事故について公表・謝罪した。さらに、医療安全管理体制等について外部機関から改善を求められた。令和5年(2023年)患者は約3年間の入院生活を経て退院し、その後は転院、自宅療養及び特別養護老人ホームへの入所を経ながら療養を継続した。 実際の裁判結果本件では、本件手術(腰椎後方除圧術)中の馬尾神経損傷について執刀医に手技上の過失があることについては被告病院側も争っていないため、以下の2点が主な争点となった。(1)本件手術により本件患者に生じた後遺障害に対する損害額、とくに後遺障害慰謝料をどの程度認めるべきか(2)長期入院中に発生した転倒事故について病院に安全配慮義務違反があったか1)本件手術により患者に生じた損害について裁判所は、本件患者につき、以下(1)~(13)の合計約8,670万円を、本件患者の娘につき、固有の慰謝料として200万円を、それぞれ損害として認めた。(1)治療関係費詳細はこちら裁判所は、(ア)本件手術に係る入院日(令和2年1月20日)から本件症状固定日(同年10月23日)までの治療関係費のほか、(イ)本件症状固定日(令和2年10月23日)以降の治療関係費について、「本件症状固定日以降も、本件医療事故による神経障害性疼痛等の症状に対する投薬治療やリハビリ等がされており、主治医は、リハビリを中止した場合、症状が増悪する可能性が高いと診断したことが認められるから、本件症状固定日以降も本件患者に対するリハビリなどの必要性は高く、主治医の判断に基づき継続された治療やリハビリであると認められる」として、これらの合計約76万円を損害として認めた。(2)入院付添費詳細はこちら裁判所は、「本件病院は完全看護で医師による付添看護の指示が明確にあったとは認められない」としつつも、[1]本件患者が、馬尾神経を切断損傷されたことにより、本件手術終了直後から神経損傷により右足が動かず、自力での起立・歩行は不可能であり、その後も腰部から両下肢にかけての激しい疼痛としびれや、膀胱直腸障害が生じるという重篤な障害を負っていること、[2]本件患者が思い詰めやすい性格であり自殺未遂をした経験があること、[3]本件医療事故の直後から、本件患者に前向きにリハビリに取り組んでもらえるよう、本件患者の娘と本件病院の職員が協力し合う方針が確認され、定期的に面談を行っていることを指摘し、「本件医療事故を境に突如として重度の障害を負った本件患者を精神的に支え、さらなる状況の悪化を避けるべくリハビリを継続させるため、本件患者の娘が本件患者に付き添う必要性があり、本件病院も、本件患者の娘の付添を許容・依頼していたものというべき」として、症状固定日前日までの付添費として、その期間の1/3の92日に相当する期間の入院付添費約60万円を損害として認めた。(3)入院雑費詳細はこちら裁判所は、本件手術日から症状固定日前日までの入院期間(275日)の入院雑費約41万円を損害として認めた。(4)休業損害詳細はこちら裁判所は、本件患者が本件手術前から、要介護4の認定を受け、ヘルパーによる入浴介助を受けており、娘及びその夫と同居し、在宅で仕事をする娘が家事や買い物をしていたことを指摘し、「本件患者が一家の家事を担っていたとはいえず、休業損害は認められない」として、休業損害を否定した。(5)入通院慰謝料詳細はこちら本件症状固定日までの入院期間や症状を考慮して、入通院慰謝料として298万5,000円が認められた。(6)後遺障害慰謝料詳細はこちら裁判所は、主に以下の3点など、本件に現れた一切の事情を総合考慮し、慰謝料3,300万円(一般的な後遺障害1級事案における慰謝料2,800万円より高額の慰謝料)を認めた。ア本件手術における執刀医の手技上の過失の重大性(出血等により視認性の確保が十分ではないのに止血をこまめにしないままスチールバーによる骨切除を進め、本件医療事故を起こしたものであり、経験のある医師において危険を感じさせる手技であったこと、及び、執刀医が本件病院に入職してから約9ヵ月の間に手術に関与した11事例が医療事故として検証の対象とされたことなど)イ患者に残存した重篤な後遺障害及び強い神経障害性疼痛ウ病院の事故後の対応に十分でない点があったこと(執刀医が本件医療事故後に原告らに対し馬尾神経を切断損傷したことを明確に説明しなかったこと、本件病院は、令和2年4月、本件医療事故が医療過誤であると判断し、同年6月に原告ら家族に口頭で謝罪したほか、令和3年3月に代理人弁護士を通じて、損害賠償をする意向を通知しているが、A医師が関与した医療事故11例についての調査を終え、記者会見を開いて一連の医療事故を謝罪したのは令和4年6月であることに加え、調査内容の開示を求める原告らの要望への対応にも時間を要したことなど)(7)後遺障害逸失利益詳細はこちら裁判所は、休業損害と同様、本件患者が一家の家事を担っていたとはいえないことを指摘し、逸失利益の損害は認められないとした。(8)退院後の治療費、施設入所費詳細はこちら裁判所は、退院後に本件患者らが治療関係費などとして支払った退院後の治療費、施設入所費合計約103万円を損害として認定した。(9)症状固定日後の入院入所付添費詳細はこちら裁判所は、本件症状固定日(令和2年10月23日)から自宅介護開始日(令和5年8月1日)までの期間の入院入所付添費につき、本件患者が重篤な後遺障害を負い、リハビリや常時介護を要した上、強い痛みやしびれに苦しみ、精神的に不安定な状態が続いて転倒リスクのある危険行動や単独行動を起こしていたため、家族の付添いによる精神的な支えが必要な状態であったこと、令和4年6月頃までは、本件患者の娘がほぼ毎日のように面会し、相当程度頻繁に本件患者に付き添ったことを指摘し、本件症状固定日(令和2年10月23日)から令和4年6月末日までの616日間の約1/3である205日分の付添費約133万円を損害として認めた。(11)装具費、自宅改造費など詳細はこちら裁判所は、以下をそれぞれ損害として認めた。本件医療事故により両足が動かなくなったことに伴い、本件患者が両下腿原発性リンパ浮腫を来たし、医師より両下肢を常時圧迫する必要があるとの装着指示を受けて購入した装具費用2万2,000円本件症状固定日から入院先病院退院日(令和5年7月12日)まで(993日間)の入院雑費約149万円自宅介護開始後の物品のレンタル及び購入費6万3,000円自宅介護の開始にあたり購入した入浴時用車いす購入費7,100円自宅介護を開始するにあたり要した自家用車改造費47万円なお、特別養護老人ホーム短期入所期間中の介護雑費については、治療やリハビリがされた様子はなく、また、おむつ代は介護保険の範囲に含まれているとみられることを踏まえれば、別途、日常生活品として必要なものを超えた雑費の支出があったと認められないとして、損害とされなかった。(11)自宅介護費用詳細はこちら裁判所は、令和5年8月1日から令和6年2月29日までの213日間の自宅介護における近親者介護費用約170万円を損害として認めた。(12)将来介護費用詳細はこちら裁判所は、以下を損害として認めた。令和6年11月1日(特別養護老人ホームに正式入所した日より後の日)から口頭弁論終結日(令和7年2月12日)の期間に支出した費用33万3,840円(日額3,210円×104日)口頭弁論終結日(令和7年2月12日)以後の期間につき、日額約1万3,000円を症状固定時の平均余命までの期間について、中間利息(一括で支払いが受けられることによる運用益)を控除した金額である約3,460万円(13)弁護士費用詳細はこちら上記(1)~(12)の合計金額の1割の約788万円。2)転倒事故の安全配慮義務違反について病室内で発生した転倒事故については、患者は事故以前から危険行動や単独行動を繰り返していたものの、事故直前には看護師がその都度訪室して危険行動がないことを確認しており、当時の病棟の人員配置なども踏まえると、看護師が患者に付き添い続ける義務までは認められないとして、病院の責任を否定した。注意ポイント解説本件は、腰椎後方除圧術中の手技上の過失により馬尾神経が切断され、患者に重度の後遺障害が残存した事案である。手技上の過失自体については当事者間に争いがなく、裁判では主として損害額が争点となったものである。医療過誤訴訟の損害賠償は、(1)治療費、介護費などの積極的損害、(2)休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、死亡慰謝料または後遺障害慰謝料などの消極的損害が賠償費目となる。そして、これらの損害は、交通事故と同様に算出されることとなり、積極的損害については実際の支出を踏まえた金額消極的損害については、入通院慰謝料については入通院期間をふまえた所定の計算式に基づいた金額死亡慰謝料や後遺障害慰謝料は、死亡の結果が生じた被害者が家庭の中で占めている役割に応じた所定の金額(2,000万円~3,000万円など)、後遺障害の場合には障害の程度に応じた金額(最も重い後遺障害等級1級の場合で2,800万円)消極的損害のうち、休業損害や逸失利益については、基礎収入に、障害の程度に応じた所定の労働能力喪失率と、就労可能期間を乗じる等して算出した金額が、それぞれ損害として認められる扱いとなっている。すなわち、医療過誤訴訟の損害は、交通事故の場合と同様に、所定の計算式に基づいての機械的計算ということとなるため、医療訴訟特有の事情により高額化するといったことはほとんどない。そしてまた、上記のような計算式により損害額が算定されるため、被害者に重度の障害が残り、介護費用が生じる場合被害者が若年者である場合(逸失利益算出にあたっての就労可能期間が長期となる場合)被害者が高額の収入を得ている場合(休業損害・逸失利益算出にあたっての基礎収入額が高額となる場合)などにより損害賠償額が高額化することとなる。本判決についても、(1)治療関係費、(2)入院付添費、(3)入院雑費、(5)入通院慰謝料、(8)退院後の治療費、施設入所費、(9)症状固定日後の入院入所付添費、(10)装具費、自宅改造費等、(11)自宅介護費用、(12)将来介護費用、(13)弁護士費用の算出は、損害賠償実務に沿った算出・認定となっている。また、本件では、(4)休業損害と(7)後遺障害逸失利益は認められていないが、事故前の就労の事実が認定されていないことからすれば、これもまた損害賠償実務の通例の判断である。このような中、本判決は、(ⅰ)患者が自力歩行不能となり、重度の膀胱直腸障害に加えて耐え難い神経障害性疼痛が残存したこと、(ⅱ)執刀医の手技上の過失が重大であったことに加え、(ⅲ)病院による事故後の説明や情報開示、院内調査などの対応が不十分な点があったことなど、本件に現れた一切の事情を総合考慮し、通常より高額の慰謝料を認定した点に特徴がある。とくに、病院は比較的早い段階で医療過誤を認めて謝罪し、適正な賠償を行う意思も表明していたにもかかわらず、裁判所は、院内調査や情報開示の進め方、医療安全体制の検証状況などを含めた事故後の一連の対応についても判断資料とし、マイナスの評価をしていることから、医療事故発生後の病院の対応全体が慰謝料額に影響し得ることを示唆した点は注目される。もちろん、本判決は、「事故後対応に問題があれば直ちに慰謝料が増額される」と判示したものではなく、事故後対応のみを独立した慰謝料増額事由としたものでもない。しかし本件のように、重大な後遺障害が残存した事案では、事故後の説明、情報提供、調査及び再発防止に向けた取組を含めた病院の対応が、患者や家族の精神的苦痛を評価する事情の1つとなり得ることが示されており、今後、事故後の対応において留意する必要がある。医療者の視点本件の判決では、手技上の重大な過失や重篤な後遺障害の残存に加え、事故後の病院側の対応(説明不足や情報開示・院内調査の遅れ)が、慰謝料増額の要因として考慮されました。実臨床の現場において、医療事故が発生した際、事実関係の正確な把握や院内事故調査委員会の開催、外部機関を交えた専門的な検証には、どうしても多大な時間がかかります。本件のように関連する複数事例の検証を併せて行う場合、年単位の時間を要することも決して珍しくありません。医療者側は「正確な原因究明を行ってから、責任をもって説明したい」と考えがちですが、患者やその家族からすれば、その空白の時間が「事実を隠蔽しようとしている」「対応が不誠実だ」と映ってしまいます。実際に裁判所も、この調査や開示に要した時間を「迅速に説明を尽くしたと評価するには不足」と判断しました。また、難易度やリスクの高い手術を多く手掛ける医師ほど合併症を経験する確率が高くなりますが、訴訟においては過去の事例が「技量不足」の根拠として扱われるリスクがある点にも注意が必要です。正確な調査には時間がかかるという実臨床ならではのジレンマはありますが、調査中であっても進捗状況をこまめに共有し、患者側との誠実なコミュニケーションを途絶えさせないことが、結果的に紛争の激化を防ぐ上で極めて重要であるといえます。Take home message医療事故の損害賠償額は、一般に交通事故実務に準じて算定されるため、医療事故であるという理由のみで慰謝料が増額されるものではない。本判決は、重大な結果が生じた事案(死亡事案、重大な後遺障害の残存事案)においては、過失の内容に加え、事故後の説明、情報開示、院内調査等を含めた病院の対応が、慰謝料額の判断事情として考慮され得る。キーワード馬尾神経損傷、後遺障害慰謝料、神経障害性疼痛、医療安全、医療事故後対応

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8月4日 栄養の日【今日は何の日?】

【8月4日 栄養の日】〔由来〕「えい(8)よう(4)」(栄養)と読む語呂合わせから、栄養を学び、体感することをコンセプトに、食生活を考える日とすることを目的に日本栄養士会が制定。同会では、この日を中心に「栄養週間」として、全国の管理栄養士・栄養士とともに「栄養をたのしむ」生活を応援している。関連コンテンツすぐに使える!糖尿病の食事指導スライドビタミンAってなあに?【患者説明用スライド】心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増骨折・転倒予防、CaとビタミンDに効果認めず~メタ解析/BMJ

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高齢入院患者の睡眠薬継続使用、院内転倒リスク上昇と関連

 高齢入院患者の転倒は、骨折や身体機能の低下につながり得るため、医療現場で重要な課題となっている。日本の急性期病院に入院した高齢患者6万人超を対象とした研究で、睡眠薬の継続使用は院内転倒リスクの上昇と関連することが示された。一方、ベンゾジアゼピン系・Z薬とオレキシン受容体拮抗薬/ラメルテオンとの間で、転倒リスクに有意な差は認められなかった。研究は、日本医科大学医療管理学の西野拓也氏らによるもので、詳細は6月8日付の「PLoS One」に掲載された。 高齢入院患者の転倒は、骨折や身体機能の低下、入院期間の延長などにつながる重要な問題だ。また、入院中の高齢患者では睡眠障害が多くみられるため、睡眠薬の選択は転倒予防の観点からも重要とされている。従来から使用されてきたベンゾジアゼピン系・Z薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)は転倒リスクを高めることが知られている。一方、オレキシン受容体拮抗薬やラメルテオンは代替薬として使用が広がっているものの、院内転倒との関連については結果が一致していなかった。こうした背景から著者らは、日本の急性期病院に入院した高齢患者を対象に、睡眠薬の継続使用と院内転倒との関連を検討した。 著者らは、2018~2024年に日本の急性期病院2施設へ入院した65歳以上の患者を対象に後ろ向き解析を実施した。長期入院患者では転倒や睡眠薬使用の機会が増える可能性を考慮し、入院7日目まで転倒のなかった患者6万1,663人を対象に、その後の転倒発生を追跡した。入院4~7日目に2日以上睡眠薬を使用していた患者を、ベンゾジアゼピン系・Z薬(BZ/Zs)群、オレキシン受容体拮抗薬/ラメルテオン(ORA/Ram)群、両者の併用群に分類し、持続的な睡眠薬使用がなかった患者を対照群とした。その上で、入院8~37日目に発生した初回の院内転倒を評価し、患者背景や併用薬、日常生活動作(ADL)などを調整した上で各群の転倒リスクを比較した。 対象となった6万1,663人のうち、3,884人(6.3%)が入院8日目以降に転倒を経験した。睡眠薬使用群では対照群と比べて患者背景に違いがみられた。特にORA/Ram群では、高齢でADLが低下した患者が多く、炎症反応や腎機能障害を示す検査値も高かった。 30日間の追跡期間における転倒の絶対リスクは、対照群2.3%に対し、BZ/Zs群3.5%、ORA/Ram群4.9%、併用群4.4%であった。調整後解析では、対照群と比べてBZ/Zs群で転倒発生ハザードが42%高く(調整ハザード比1.42)、ORA/Ram群でも46%高かった(同1.46)。併用群でも同様の傾向が認められた(同1.42)。この関連は競合リスク解析でも一貫していた。 さらに、傾向スコアマッチングにより患者背景をそろえてBZ/Zs群とORA/Ram群を直接比較した解析では、転倒発生ハザードに有意差は認められなかった(調整ハザード比0.98)。 著者らは、高齢入院患者における睡眠薬の継続使用は院内転倒リスクの上昇と関連していた一方、BZ/Zs群とORA/Ram群との間で転倒リスクに有意差は認められなかったとしている。その上で、睡眠薬の種類を変更するだけでは転倒予防は難しく、患者の脆弱性そのものに着目した対策が重要になる可能性があると考察している。 なお、著者らは、本研究が観察研究であるため因果関係は証明できず、睡眠薬が必要となる患者の背景因子による影響を完全には除外できない点を限界として挙げている。また、本研究は薬剤クラス間の同等性を検証するように設計された研究ではなく、BZ/Zs群とORA/Ram群の転倒リスクが同等であることを示したものではないとしている。

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夜間頻尿の背景に“夜間多尿”――排尿日誌データから見えた加齢の影響

 夜間頻尿は高齢者に多い症状であり、その背景には膀胱機能低下だけでなく夜間多尿など尿量分布の変化が関与すると考えられている。今回、日本の17施設で夜間頻尿患者875例を対象に、排尿日誌を用いて夜間多尿の実態が解析された。その結果、夜間多尿の割合は加齢とともに増加し、特に80歳以上で顕著であった。夜間頻尿は年齢や尿量分布など複数の要因が関与する多因子性の病態と考えられた。研究は、岐阜大学大学院医学系研究科泌尿器科の川瀬紘太氏、古家琢也氏らによるもので、詳細は6月12日付の「Neurourology and Urodynamics」に掲載された。 夜間頻尿は睡眠障害や転倒リスクの増加と関連し、高齢者のQOLに大きな影響を及ぼすことが知られている。その原因として夜間多尿(夜間に作られる尿の割合が多い状態)や膀胱蓄尿機能障害などが挙げられるが、加齢に伴う排尿パターンや昼夜の尿量分布の変化については十分に明らかになっていない。こうした背景から、著者らは排尿日誌を用いて年齢ごとの排尿パターンを解析し、夜間多尿の特徴と関連因子を検討した。 本研究は、2018~2022年に日本の17施設で夜間頻尿を主訴に受診した患者を対象とした多施設共同後ろ向き観察研究である。膀胱結石や尿路感染症、泌尿器系の悪性腫瘍を有する患者、およびデスモプレシン使用者を除外した。対象者には少なくとも2日間の排尿日誌の記録を求め、24時間尿量や昼夜の尿量、最大排尿量などを評価した。夜間多尿は夜間多尿指数(NPi)を用いて評価し、夜間尿量が24時間尿量に占める割合が33%を超える場合と定義した。対象者を5つの年齢群に分類し、排尿パターンや夜間多尿の頻度を比較した。 解析対象は875例で、このうち590例(67.4%)が夜間多尿に該当した。NPiは加齢とともに上昇し、80歳以上の群では他の年齢群と比べて有意に高値を示した(P<0.05)。また、夜間多尿の有病率も年齢とともに増加した。 排尿日誌の解析では、80歳以上の群は他の年齢群と比較して24時間尿量および日中尿量が有意に少ない一方、夜間多尿の割合が有意に高かった(いずれもP<0.05)。 さらに、夜間多尿群は非夜間多尿群と比べて高齢であり、過活動膀胱(OAB)の有病率も高かった。多変量解析の結果、年齢、OABの存在、最大排尿量、および24時間尿量が夜間多尿の独立した関連因子として抽出された。一方、男性を対象とした解析では前立腺肥大症(BPH)との有意な関連は認められなかった。 著者らは、「夜間頻尿患者における夜間多尿は加齢とともに増加する一方、その背景にはOABや膀胱容量の低下、尿量分布の変化など複数の要因が関与している可能性がある」と結論付けた。高齢者の夜間頻尿は加齢に伴う尿量分布の変化と下部尿路機能障害が混在した病態であり、夜間尿量のみならず排尿機能も含めた評価が重要であるとしている。 なお、本研究は後ろ向き観察研究であり、排尿日誌の自己記録による誤差や施設間の患者背景の違いが結果に影響した可能性がある。また、水分摂取量や睡眠障害、腎機能など夜間尿量に影響する因子を十分に評価できていないため、加齢と夜間多尿との因果関係については今後の検証が必要であるとしている。

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第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

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高齢患者の術後せん妄スクリーニング、病院間で実施率に大きな差

 高齢患者では、手術後に混乱や見当識障害などを特徴とするせん妄が生じることが少なくないが、術後せん妄のスクリーニング実施率には病院ごとに差があることが、新たな研究で明らかにされた。米国外科学会(ACS)が開発したGeriatric Surgery Verification(GSV)プログラムの認証を取得した病院(GSV認証病院)では、ほぼ全ての術後患者にせん妄スクリーニングが実施されていたのに対し、非認証病院での実施率は50%程度にとどまったという。GSVプログラムは、せん妄、転倒、肺炎などの一般的な術後合併症の予防に重点を置いた医療品質向上プログラムである。米ロヨラ大学医療センターのSarah Remer氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に6月10日掲載された。 Remer氏は、「せん妄の多くは、特に高齢者では低活動型だ。これは患者が周囲との関わりを避けるようになったり無気力になったりする静かなタイプのせん妄だ。定期的なスクリーニングを行わなければ、こうした症例は単なる疲労と誤解され、見逃される可能性がある。しかし一部の病院では、患者に臨床的に明らかな過活動型せん妄が認められた場合にのみスクリーニングを行っている可能性がある。つまり、早期発見のためではなく、臨床的にせん妄が疑われた際の確認目的で使用しているのだ」とニュースリリースで述べている。 本研究の背景情報によると、高齢患者の約25%が術後せん妄を発症する。今回の研究では、2024年に入院手術を受けた75歳以上の患者9万7,886人(平均年齢81.7歳)のデータを解析して、術後せん妄のスクリーニング実施率およびスクリーニング陽性率をGSVプログラム認証の有無別に比較した。 その結果、術後せん妄スクリーニングの実施率は、GSV認証病院で94.3%であったのに対し、非認証病院では52.5%にとどまっていた。一方、せん妄スクリーニング陽性率は、GSV認証病院で11.3%、非認証病院で12.5%であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった。さらに、せん妄スクリーニングを受けた患者のうち、GSV認証病院の患者では、非認証病院の患者と比べて、入院期間が短く、在院日数が上位25%に該当する長期入院(以下、長期入院)の割合も低かった。一方、せん妄スクリーニングで陽性判定を受けた患者を対象にした解析では、入院期間、長期入院の割合、30日以内の再入院率について、両群間に有意差は認められなかった。 Remer氏は、「せん妄は、長期入院、患者転帰の悪化、医療費の増加と関連している。今回の結果は、GSVプログラムの大きな利点の一つが、予防、早期発見、早期回復を支える標準化された多職種連携のケア体制にあることを示唆している」と述べている。さらに同氏は、「せん妄の定期的なスクリーニングは、早期発見や介入につなげられるだけでなく、誘因となった要因を評価する機会も得られるため重要だ」と付言している。 Remer氏によると、家族も術後せん妄の発見に重要な役割を果たせるという。同氏は、「家族や介護者は、患者の思考や行動の微妙な変化に最初に気付くことが少なくない。術後に家族が混乱している様子を見るのはつらいことだが、患者が見当識を保ち、覚醒状態を維持できるよう支援し、急な変化を医療スタッフに知らせる上で家族は重要な役割を担っている。家族は患者を最もよく知っている存在であり、その観察は非常に貴重だ」と説明している。 術後せん妄の予防を支援する対策として、Remer氏は以下のことを推奨している。・補聴器や眼鏡を患者ができるだけ早く使用できるようにする。・時計やカレンダーを見やすい場所に置き、患者の見当識の維持を助ける。・病室の照明を、昼は明るく、夜は暗くするなど、自然な睡眠・覚醒リズムに合わせる。・患者が覚醒し活動的でいられるよう、家族や知人、馴染みの場所、最近の出来事などについて会話を行う。

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複数の降圧薬とGLP-1RA併用で低血圧関連イベント増加の可能性

 複数の降圧薬を服用している人がGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を併用した場合、めまいや失神、転倒などの低血圧関連イベントのリスクが高まることを示唆するデータが報告された。高齢者や2型糖尿病(T2DM)患者はそのリスクがより高い可能性があるという。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部およびノースウェスタン・メディシンのMicah Eimer氏らが、米国内分泌学会年次集会(ENDO 2026、6月13~16日、シカゴ)で発表した。 GLP-1RAは、代謝・心血管・腎疾患の治療薬として広く処方されている。その副作用の多くは消化器症状であるが、低血圧が生じたとの症例報告も存在する。Eimer氏らは、電子カルテデータを用いて、セマグルチド、チルゼパチド、リラグルチドのいずれかが処方開始された外来患者を対象とする、個人内比較による後向き観察研究を実施した。 解析対象は、18歳以上で少なくとも2種類の降圧薬が処方され、血圧測定結果が記録されていた4万2,262人とした。GLP-1RA処方開始前後での低血圧関連イベントの発生率を評価した。低血圧関連イベントは、低血圧の新規診断、失神または前失神状態、めまい、転倒、収縮期血圧90mmHg以下の記録、昇圧薬の処方、これらで構成される複合エンドポイントとして定義した。 解析の結果、GLP-1RAの処方開始後に、低血圧関連イベントの発生率が有意に上昇していた。処方開始後6カ月では、発生率が8.7%から10.2%へと増えていた(P<0.001)。同様に、開始後12カ月では、13.6%から14.3%へと増加していた(P=0.003)。開始後24カ月では、17.7%から18.1%へと増加したものの、統計学的有意差は認められなかった(P=0.061)。 また、GLP-1RAが処方された患者における低血圧関連イベントは、特に65歳以上の高齢者とT2DM患者で多い傾向が認められた。具体的には、対象集団に占める高齢者の割合は37%だったのに対し、低血圧関連イベントの53%を高齢者が占めていた。同様に、T2DM患者は対象集団の63%を占めていた一方で、低血圧関連イベントの75%を占めていた。 なお、40例を対象としたサブ解析では、GLP-1RAが処方された患者の約25%で、追跡期間中に降圧薬の処方薬剤数または投与量が減らされていた。これも、低血圧を回避するために降圧薬が調整された可能性を示唆するものと考えられた。また、GLP-1RA処方後の低血圧関連イベントの増加との関連は、体重変化を考慮しても維持された。 Eimer氏は、「GLP-1RAの効果は絶大で私もその使用を支持する1人だが、一部の患者では低血圧に注意する必要があると考えている。既に複数の降圧薬が処方されている患者の場合、医師は注意深く経過を観察する必要があるだろう」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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腎臓病には必ず腎不全用静脈栄養製剤?【ケースで学ぶ輸液オーダー】第5回

腎臓病には必ず腎不全用静脈栄養製剤?四半世紀前の筆者の研修医時代は、「腎臓が悪い患者さんの静脈栄養といえば腎不全用静脈栄養製剤」と一問一答問題集のように機械的にオーダーが出されることが多かったです。今回は、現在の腎疾患患者における静脈栄養法を再確認していきましょう。次の3例の患者さんは、いずれも来院時に血清尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)が高値であり、数日間の輸液療法の後、静脈栄養が必要と判断しました。すべてにおいて腎不全用静脈栄養製剤が必要でしょうか?症例症例189歳女性。独居。室内で転倒して腰椎圧迫骨折を受傷したが動けず、約2日後に娘が発見して救急搬送された。来院時ショック、BUN 82mg/dL、Cr 6.0mg/dL(基礎Cr 0.8)、クレアチンキナーゼ1万8,000U/L、カリウム(K) 5.8mEq/L、無尿。外液急速輸液、持続的腎代替療法(CRRT)で循環動態は改善、CRRTを離脱したが経口摂取が進まず、静脈栄養を併用することとなった。症例282歳男性。糖尿病性腎症によるCKDステージG4で外来通院中(eGFR 18mL/分/1.73m2)。年齢や本人の希望から透析導入は行わない方針となっていた。急性胃腸炎による嘔吐・下痢で入院。静脈栄養を開始することとなった。来院時BUN 88mg/dL、Cr 3.6mg/dL、K 5.0mEq/L、アルブミン2.9g/dL。症例370歳男性。糖尿病性腎症で週3回維持血液透析を行っている。黒色便と高度貧血を主訴に搬送され、上部消化管出血と診断された。絶食管理となり静脈栄養を開始することとなった。来院時ヘモグロビン6.5g/dL、BUN 76mg/dL、Cr 9.1mg/dL、K 4.7mEq/L。翌日に維持透析予定。腎臓病で必要なタンパク質の量は?一言で「腎障害の患者さん」といっても、まずはどんな腎障害なのかを推測し、分類することが重要です。病態は主に(1)急性腎障害(AKI)、(2)保存期(透析導入前)慢性腎臓病(CKD)、(3)透析期CKDに大別されます。症例1はAKI、症例2は保存期CKD、症例3は透析期CKDに該当します。疾患によらず侵襲期やエネルギー摂取不足時には異化が起こり、タンパク質が代謝された後の老廃物はBUNなどの形で体外に排泄されます。しかし、腎機能低下時には老廃物を排泄しきれずに血清BUNなどが上昇します。保存期CKDでは、老廃物による代謝性の合併症を軽減するために、タンパク摂取を制限し、主なエネルギー源を糖質や脂質といった非タンパク質でまかなう栄養療法が推奨されます。一方、AKIの腎代替療法(RRT)中や透析期CKDは老廃物を透析で除去できますが、同時に透析液にタンパク質が漏出してしまうため、保存期CKDとは逆に積極的にタンパク質を摂取しなくてはなりません。4時間のRRT 1回で12gのアミノ酸が失われるとされています1)。表1 腎臓病の分類とタンパク必要量2,3)※文献2、3を元に作成。静脈栄養よりも経口・経腸栄養を優先する。※サルコペニアやフレイル合併のCKD患者は、下記基準よりもタンパク制限を緩和することがある。画像を拡大する腎不全用静脈栄養製剤はどんな輸液?静脈栄養用の輸液製剤の基本構成は、ブドウ糖液、アミノ酸液、電解質からなり、腎不全用静脈栄養製剤はアミノ酸、電解質の構成が一般用と異なり差別化されています。腎不全用は、BUNの上昇を抑える狙いから一般用よりも窒素含有量は少なめとし、必須アミノ酸を中心に最低限の非必須アミノ酸を配し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の比率を高めています。また、体液過剰負荷や電解質異常の対策として、ナトリウム、K、リンを制限し、糖を高濃度(少ない水分で高エネルギー)とした構成になっています。図1 一般用静脈栄養製剤と腎不全用栄養輸液の構成比較(例)画像を拡大する腎不全用アミノ酸製剤を深掘りするアミノ酸の代謝過程において産生されるアンモニアは、毒性が強く生体に有害であるため、速やかに尿素へと変換されたのち排泄されます。この一連の反応を尿素サイクルといいます(図2)。尿素サイクルでは、アルギニン・シトルリン・オルニチンが基質アミノ酸として機能しており、これらのいずれが欠乏しても反応速度が低下します。 図2 尿素サイクル画像を拡大する腎不全用アミノ酸製剤は、尿素サイクルに必要なアルギニンの含有量を意図的に制限(表2)することで尿素サイクルの反応速度を低下させ、尿素産生を抑制します。腎不全患者では尿素の腎排泄障害に起因する高BUN血症を呈することが多く、本製剤による尿素サイクルの抑制はBUN上昇の緩和を主な目的としています。ここで、アルギニン含有量をゼロにすることでさらなる効果が期待できると考える向きもあるかもしれません。しかしながら、先行して開発されたアルギニン非配合アミノ酸製剤(アミユー)では、尿素サイクルが機能せずアンモニア代謝が障害されることに起因する高アンモニア血症の併発が報告4)され、販売中止に至った経緯があります。この臨床的問題点を教訓として改良・開発されたものが、キドミンおよびネオアミユーです。尿素サイクルはアンモニアの解毒に不可欠な代謝経路であり、その抑制はアンモニア代謝の遅延を意味することから、高アンモニア血症を来すリスクがある点に留意が必要です。表2 アミノ酸製剤の組成比較画像を拡大する腎不全用静脈栄養製剤の出番はいつ?AKI(RRT施行患者を含む)や透析期CKDにタンパク充足は常識! と知っていても、ひと昔前は添付文書上、重篤な腎障害のある患者に対する一般用静脈栄養製剤の投与は、アミノ酸の代謝産物である尿素などが滞留し症状が悪化する恐れがあるため「禁忌」とされており、透析患者への使用は査定の懸念がありました。しかし、日本臨床栄養代謝学会(現「日本栄養治療学会」)が厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ働きかけて、2020年に「透析又は血液ろ過を受けている患者」は禁忌から除外され、透析患者にも一般用静脈栄養製剤の使用が認められるようになりました5)。というわけで、RRTにより腎機能が回復して老廃物除去が可能となったAKIの症例1や透析期CKDの症例3は、体液過剰や電解質異常がなければ、タンパク充足の目的でいずれも一般用静脈栄養製剤を使用し、ステージ4保存期CKDの症例2のみ、老廃物蓄積を抑える目的で腎不全用静脈栄養製剤を使用するのが適しています。BUNやCrの高さだけを見て一律に腎不全用静脈栄養製剤を選ぶことは勧められません。AKIなのか、保存期CKDなのか、透析期CKDなのかを整理し、その病態に応じたタンパク必要量を考えましょう。実地医家の本音<RRT不要のAKIはどうする?>現場ではRRTの有無に関わらず、AKIにはタンパクを制限せず十分に投与しているのが現状ではないでしょうか。栄養療法は経腸栄養を優先しますので、医薬品と違い禁忌の縛りがない食品の経腸栄養剤でタンパクを充足させている先生方が多いのではないかと思います。しかし、静脈栄養の場合は医薬品を使用しますので、添付文書からの逸脱はご法度です。一般用静脈栄養製剤の禁忌とされる「重篤な腎障害患者」から透析患者は外されましたが、「重篤な腎障害患者の中にRRTをしていないAKIが含まれるのか?」「保存期CKDだけが該当するのか?」という解釈の問題が残ります。個人的には、RRTの有無に関わらずAKIにはタンパクが必要!という立場でありますので、私は一般用静脈栄養製剤をAKI栄養輸液の第一選択にします。高カリウム血症がある場合は、標準的なアミノ酸組成(アミパレン)かつカリウムなしの当院薬局自作メニューがありますのでこちらを使用します。多少のBUN上昇があり得ますが、許容するBUN値の上限を施設で決めておくのがよいでしょう。参考1)Hendriks FK, et al. J Nutr. 2020;150:1160-1166.2)日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)編.JSPENコンセンサスブック2 肺疾患/肝疾患/腎疾患. 医学書院;2023.3)日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社;2023.4)Nakasaki H, et al. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1993;17:86-90.5)今回の「使用上の注意」改訂の経緯と課題について / 日本栄養治療学会

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高齢者のポリファーマシー対策啓発資材が完成/厚労省

 さまざまな疾患を併存していることが多い高齢の患者では、処方された治療薬の副作用や相互作用などが大きなリスクとなるケースもある。そこで、厚生労働省では2018年に『高齢者の医薬品適正使用の指針』を公開し、いわゆる「ポリファーマシー対策」を示した。今回、高齢者のポリファーマシー対策を進めるための医療従事者向けの普及啓発資材が完成。厚労省は6月24日より公開、配信を行っている。処方の一元管理がポリファーマシー対策の鍵 ポリファーマシー啓発資材の利用対象者は、医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの多職種を対象とするもので理解しやすいように図表やイラストが多用されている。 主な目次と内容は以下のとおり。【1.ポリファーマシーの概念】 「ポリファーマシーの概念」として「多剤服用の中でも害をなすものをとくにポリファーマシーと呼び、本指針でも両者を使い分けた。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態」と定義し、服用薬剤数が6種類以上で発生が多いことが示されている。【2.多剤服用の現状】 高齢になるに伴い服用薬剤数が多くなる傾向があること、有害事象が発生しやすくなることが示されている。また、処方が一元管理されていないとポリファーマシーが形成されやすいことが示されている。【3.薬剤見直しの基本的な考え方およびフローチャート】 処方見直しのフローチャートを示し、実施する際の考え方やポイント、注意点、他職種との連携の重要性などが記載されている。【4.多剤服用時に注意する有害事象と診断、処方見直しのきっかけ】 有害事象として、「ふらつき・転倒」「せん妄」「食欲低下」「排尿障害・尿失禁」「記憶障害」「抑うつ」「便秘」が示されている。【5.多剤服用の対策としての高齢者への薬物投与の留意事項】 多剤服用の対策では、加齢による腎機能などの低下を考慮し、「少量開始」「徐々に増量」などの注意が記載され、相互作用の影響や重複処方への注意、OTC医薬品などとの併用への注意、急性期・療養期・慢性期での見直しが示されている。【6.服薬支援】 服薬アドヒアランス低下の要因として「視力低下」「認知機能の低下」「独居」などの例示とともに、処方や服薬支援の工夫が記載されている。【7.多職種・医療機関および地域での協働】 多職種連携の重要性だけでなく、地域の薬局、介護サービスとの協働の必要性が示されている。【8.国民的理解の醸成】 薬剤の適正な使用法の啓発について記載されている。【9.参考資料】 薬剤別の高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意の詳細、とくに慎重な投与を要する薬物のリスト、加齢に伴う薬物動態および薬力学の変化などが詳細に記載されている。

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第301回 高齢者のポリファーマシー対策、医療従事者向け資材を公表/厚労省

<先週の動き> 1.高齢者のポリファーマシー対策、医療従事者向け資材を公表/厚労省 2.OTC類似薬の追加負担、対象外患者を定め2027年3月施行へ/厚労省 3.小児がん拠点病院を集約化、症例集積で医療の質確保へ/厚労省 4.高齢者の窓口負担3割化を提言、包括払い・病院再編も/財政審 5.ドクターヘリ運休相次ぐ、安定運航へ検討会設置/厚労省 6.長崎大病院など3病院、不急の救急搬送に選定療養費7,700円を徴収/長崎市 1.高齢者のポリファーマシー対策、医療従事者向け資材を公表/厚労省厚生労働省は6月24日に開いた「高齢者医薬品適正使用検討会」で、高齢者のポリファーマシー対策を進めるため、医療従事者向けの普及啓発資材を公表した。多剤服用に伴う薬物有害事象、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などを防ぐため、「高齢者の医薬品適正使用の指針」や病院・地域での業務手順書の内容を分かりやすく整理したもの。主な対象は医師、歯科医師、薬剤師だが、看護師や介護職など多職種での活用も想定している。資材は指針の総論編、各論編のほか、病院向け、地域向けの計4種類。これまで本格的に取り組んでいなかった医療機関でも導入しやすいよう、イラストを多用し、文字量を抑えた構成としている。資材では、「ポリファーマシーとは、単に薬剤数が多い状態(多剤服用)ではなく、多剤服用に関連して有害事象や服薬困難などの問題が生じている状態を指す」としている。高齢者では、加齢に伴う腎機能低下や薬物動態の変化、複数医療機関の受診、処方カスケードなどにより形成されやすい。病院向け資材では、対策開始時の留意点として、剤数だけに着目せず、安全性や治療効果、患者の生活状況を踏まえて処方内容を適正化する必要性を強調した。対象患者を優先順位付けし、小規模から始めること、担当者を明確にして情報を一元化すること、多職種の役割分担を整理することが実践の鍵となる。薬剤服用後の体調不良が疑われる外来患者には受診や相談を促す。実務上は、「お薬手帳」を活用した処方・調剤情報の一元管理に加え、患者の日常生活動作や認知機能、栄養状態、生活環境、服薬管理能力などを総合的に評価することが重要となる。併せて、腎機能や薬物相互作用、同効薬の重複、一般用医薬品やサプリメントの使用状況も確認する。ふらつき、転倒、せん妄、食欲低下、便秘、排尿障害などが出現した場合は、薬剤起因性も疑う。薬剤を見直すときは、中止・減量・変更後の病状悪化や代替薬による有害事象にも注意が必要となる。2026年度の診療報酬改定では、病棟薬剤業務実施加算の見直しにより、ポリファーマシー対策や退院時薬剤情報連携が一層重視されている。薬剤総合評価調整加算などの実績向上にもつながる可能性があり、薬剤部門だけでなく、入退院支援、病棟看護、地域薬局、かかりつけ医を含めた組織的な取り組みが求められる。資材では、剤数だけに着目せず、安全性確保などを踏まえた処方内容の適正化が必要であると強調されている。 参考 1) 第22回 高齢者医薬品適正使用検討会 資料(厚労省) 2) 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)(同) 3) 高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編の概要 普及啓発資材(同) 4) ポリファーマシー対策 普及啓発資材を公表 適正使用指針などの説明で活用 厚労省(CB news) 5) ポリファーマシー対策の始め方と進め方の普及啓発ツールが公表。薬剤総合評価調整加算等の実績向上が期待される(HCナレッジ) 2.OTC類似薬の追加負担、対象外患者を定め2027年3月施行へ/厚労省厚生労働省は6月25日、市販薬と成分や効能が似る「OTC類似薬」について、患者に薬剤費の一部追加負担を求める新制度の具体化に向けた有識者検討会の初会合を開いた。新制度は2027年3月の施行を想定し、対象薬剤の薬剤費の4分の1を保険給付から外し、「特別の料金」として通常の1~3割負担に上乗せする。対象は、ロキソニン錠やアレグラ錠、保湿剤、湿布などを含む77成分、1,066品目を機械的に選定した案が示されており、今後効能・効果を踏まえて整理される。制度の目的は、OTC医薬品で対応している患者との公平性を確保し、現役世代を中心とする保険料負担の上昇を抑えることにある。ただし、必要な受診を妨げないよう、追加負担を求めない患者や療養の範囲が大きな論点となる。厚労省案では、高校生年代までの子供、低所得者、入院患者、がん患者や指定難病患者など配慮が必要な慢性疾患患者は対象外とする方向。入院中の処方は退院時処方を含めて追加負担を求めない。がんについては、治療中または治療開始に向け継続診療中の患者や、副作用対策に用いる薬は除外する一方で、治療終了後の経過観察のみの場合や、がんと直接関係しない症状への処方は追加負担を求める方向である。長期使用が医療上必要なケースも除外候補で、内服薬は年間処方日数がおおむね50週以上、外用薬は、塗布剤・貼付剤・点眼剤・点鼻剤・吸入剤などについて、医師が毎日の塗布や貼付など日常的使用を指示している場合を目安とする。厚労省は今後、77成分ごとに医療用医薬品とOTC医薬品の効能・効果の違いを整理し、代替性の有無を検討する。検討会は8月ごろに中間整理を行い、医療保険部会や中医協での議論、患者団体ヒアリングを経て、秋ごろの取りまとめを目指す。医療現場では、対象外となる医学的必要性をどのように判断・記録するかが実務上の焦点となる。 参考 1) 一部保険外療養の施行に向けて(厚労省) 2) 負担対象OTC類似薬議論 除外条件も、厚労省(東京新聞) 3) OTC類似薬の追加負担、がん・通年処方は対象外 厚労省が案提示(日経新聞) 4) 日常使用の湿布は負担対象外 OTC類似薬の新制度-厚労省会議(時事通信) 3.小児がん拠点病院を集約化、症例集積で医療の質確保へ/厚労省厚生労働省は6月23日に開かれた「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」で、小児がん診療提供体制の見直し案を示し、大筋で了承を得た。少子化に伴い小児がん患者数の減少が見込まれる中、高難度医療、希少がん診療、再発・難治例への集学的治療、国際共同治験などを担う施設に症例を集積し、医療の質を維持・向上させる狙い。現在全国15ヵ所の「小児がん拠点病院」は、10ヵ所程度に集約化する方針で、8月上旬までに整備指針を改定する。新たな小児がん拠点病院は、高度専門医療に加え、ドラッグ・ラグ/ロスの解消や新規治療開発への貢献も求められる。診療実績要件は、再発時の紹介を含む年間新規症例数30例以上に加え、年間手術数10例程度を新設する。放射線療法については、自施設で提供できない場合も他施設と連携して提供できる体制を要件化する。医師以外のスタッフの配置も見直し、細胞診断業務に携わる人員について「1人以上必要な数」の配置を求める方向。国立成育医療研究センターと国立がん研究センターは、引き続き小児がん中央機関として、中央診断体制や国際共同治験、医療技術開発を牽引する。その一方で、集約化による患者・家族の医療アクセス低下を防ぐため、新たに「都道府県小児がん拠点病院」を各都道府県に原則1ヵ所整備する。小児がん拠点病院と連携しながら標準的治療を提供し、標準治療が確立していないがんや再発・難治例では診療情報を共有し、必要に応じて専門施設へ紹介する。専門治療後や病状安定後には、地域医療機関へ円滑に逆紹介する体制も求められる。指定要件は、年間新規症例数20例以上、または都道府県内の小児がん年間新規症例の原則半数以上を診療していることとする。現行の小児がん連携病院145ヵ所は「小児がん連携医療機関」に見直され、病院だけでなく診療所も参加可能となる。標準的治療、特定がん種への対応、長期フォローアップ、移行期医療、在宅医療などを担う体制を整える。今後、全国小児がん拠点病院等連絡協議会と都道府県小児がん診療連携協議会を設け、広域・地域双方の課題を協議する。新たな指定類型は2027年4月から適用される見通し。 参考 1) 第5回 小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ(厚労省) 2) 小児がん拠点病院を集約化して医療の質を確保し、患者・家族の医療アクセス確保にも配慮する-小児がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 3) 小児がん拠点病院 10ヵ所程度に集約化へ 8月上旬までに整備指針改定 厚労省(CB news) 4) 「小児がん拠点病院」集約化へ 患者減見据え10ヵ所程度に(MEDIFAX) 4.高齢者の窓口負担3割化を提言、包括払い・病院再編も/財政審財務省の財政制度等審議会は6月26日、「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」と題する建議を片山 さつき財務相に提出した。建議は、日本経済がデフレ型から供給制約型へ移りつつあるとし、「強い経済」には未来投資と実質賃金上昇による投資と賃上げの好循環が不可欠とした。その一方で、金利上昇局面では財政資源も制約下にあり、補正予算依存から脱却し、恒常的施策は当初予算で措置する改革の実効性と財政規律の両立を求めた。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」や、債務残高対GDP比の安定的低下を中核目標とする方針についても、成長頼みでは市場の信任を損ないかねないとして、利払い費を含む財政収支の管理を促した。医療・介護分野では、現役世代の保険料負担を抑えるため、社会保障負担率に数値目標と年限を設け、改革工程表を作成すべきだと提言した。医療では「患者アクセスの保障」と「負担抑制」のバランスを掲げ、70歳以上の患者自己負担を可及的速やかに原則3割へ引き上げることを求めた。70~74歳を一律に高齢者扱いする現行の線引きの見直し、75歳以上への経過措置、外来特例の廃止、特定疾病制度の検証・見直しも論点とした。さらに、建議では、医療機関を受診する際の窓口業務のコスト(保険証確認や会計など)について、診療行為そのものではなく、初・再診料で評価する必然性は乏しいとして、保険給付外サービスとして患者に請求できる仕組みの検討を求めた。医療の提供体制については、小規模分散型の病院・診療所では人材不足下の効率化に限界があるとして、病院の集約・再編、地域医療連携推進法人の活用、外来機能の統合・大規模化、かかりつけ医機能強化を提起した。診療報酬についても、入院・外来診療ともに、出来高払い中心からアウトカム評価と包括払い中心へ移行し、医療DXで少ない人員でも質を保つ体制を後押しすべきだとした。あわせて、医療法人の経営情報の見える化、医療機関の職員の職種別給与・人数の提出義務化、医療法人の業務範囲拡大、2027年度薬価改定の完全実施、後期高齢者医療制度の都道府県化や金融所得を含む応能負担の徹底も盛り込んだ。医療界にとっては、患者負担増だけでなく、報酬体系、病院再編、経営情報開示まで含む包括的な制度転換の予告と受け止める必要がある。 参考 1) 人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営(財務省) 2) 「強い経済」へ投資と賃上げ循環 予算編成改革、実効性確保を-財政審建議(時事通信) 3) 70歳以上の医療費窓口支払い「速やかに3割負担を」財制審が意見書(日経新聞) 4) “高齢者も病院窓口負担を原則3割に” “大学は現在の半分程度まで縮減を” 財政制度等審議会が片山さつき財務大臣に意見書(TBS) 5) 診療報酬をアウトカム評価中心の包括払いに 財政審、入院・外来共に(CB news) 5.ドクターヘリ運休相次ぐ、安定運航へ検討会設置/厚労省厚生労働省は、東京や関西などでドクターヘリの運休が相次いでいることを受け、安定的な運航体制の確保に向けた検討会を7月中に立ち上げる。上野 賢一郎厚生労働相が6月26日の閣議後記者会見で明らかにした。検討会には医療関係者、航空関係者、自治体担当者、有識者などが参加し、救急医療搬送体制の在り方や国の関与、財政支援、人材確保策について議論する。ドクターヘリは、救急医療機器を搭載し、専門医と看護師が搭乗して現場に向かうことで、重症患者への早期医療介入と迅速搬送を担う。上野厚労相は「全国各地の救急医療体制を確保する上で極めて重要な役割を果たしている」と述べ、持続可能な運航体制の構築が急務との認識を示した。運休の背景には、運航事業者における整備士不足がある。東京や兵庫などでは昨年以降、整備士を確保できないことによる運航停止が発生しており、自治体からも国の対応を求める声が上がっている。加えて、公共ヘリの操縦には高度な技量と経験が必要で、操縦士の高齢化も課題となっている。ドクターヘリの操縦士は50歳以上が7割超を占め、2030年以降には毎年10人以上が不足するとの見通しもある。国土交通省も航空大学校を活用した若手操縦士の養成や、シミュレーター活用による飛行経験要件の見直し、養成費支援を進める方針。検討会では、医療現場と航空運航の双方の実情を踏まえ、財政支援、人材育成、整備士・操縦士の確保を含めた具体策を検討する。 参考 1) ドクターヘリ検討会設置へ 運休受け、安定運航議論(共同通信) 2) 整備士不足で運休相次ぐ「ドクターヘリ」 安定運航へ厚労省が検討会を立ち上げ(テレビ朝日) 3) 関西などドクターヘリ運休 7月中にも検討会立ち上げ 厚労省(NHK) 4) ドクター・防災ヘリ念頭…国交省、航空大で操縦士養成の背景(ニュースイッチ) 6.長崎大病院など3病院、不急の救急搬送に選定療養費7,700円を徴収/長崎市長崎市内の3病院は7月1日から、緊急性が認められない症状で救急搬送された患者に対し、選定療養費7,700円を徴収する。対象は長崎みなとメディカルセンター、長崎大学病院、日赤長崎原爆病院で、いずれも200床以上の急性期病院として脳卒中、心筋梗塞、重症外傷などに対応する役割を担う。これまで救急搬送では紹介状なし受診に伴う選定療養費の徴収対象外としていたが、救急車要請時の緊急性が医師により認められない場合に負担を求める運用へ改める。背景には、救急搬送件数の増加と大病院への軽症患者集中がある。長崎市消防局管内では、2022年度以降の救急搬送が2万5,000件超で高止まりし、医療機関の応需率は2019年度の80.7%から、近年は60%台前半まで低下している。長崎みなとメディカルセンターでは2023年度の救急搬送3,987人のうち36%が軽症だった。市消防局が病院へ11~20回問い合わせた搬送事例も、2019年度の2件から2024年度には109件へと急増しており、搬送先選定の長期化が問題となっている。同センター救命救急センターは年間約4,200台の救急車と約4,500人のウォークイン患者を受け入れる。輪番日の夜間は救急医1人、研修医4人、看護師5人で対応する体制だが、午後5~7時ごろに搬送が集中し、初療室5床が短時間で埋まることもある。早川 航一センター長は、安易な救急車利用の抑制により、真に緊急性の高い患者の治療時間と病床を確保する必要性を強調している。その一方で、制度運用には課題も残る。第三者が救急車を呼んだ場合や観光客でも、緊急性がないと判断されれば徴収対象となる一方で、警察など公的機関からの要請は原則対象外とされる。徴収判断は医師がガイドラインに基づき行うが、病院間で判断に差が出れば不公平感につながりかねない。救急車の有料化ではなく、救急医療資源を守る施策として位置付けつつ、個別事例の検証や市民への周知が不可欠となる。救急車を呼ぶか迷う場合は、救急安心センター「#7119」の活用も促されている。 参考 1) 救急搬送における選定療養費について(長崎市) 2) 不急の救急搬送に長崎市内の3病院が7月から特別料金、救急車の適正利用が狙い…「緊急性」線引きに課題も(読売新聞) 3) 「これ以上は危うい…」長崎県内最多の救急搬送患者を受け入れる救命救急センター、切迫する最前線の現状(長崎新聞) 4) 「とりあえず救急車」の前に…7月1日~長崎市の3病院で「救急搬送における選定療養費徴収」スタート 迷ったときは?(長崎放送)

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ASCO2026 レポート 老年腫瘍(前編)

レポーター紹介ここ数年、ASCO Annual Meetingでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)や、GAで明らかになった脆弱性に対するサポートの有用性を検証する研究が発表され、老年腫瘍学の領域を大いに盛り上げてきた。ASCO2026では、日常診療を大きく変えるような重要な試験(pivotal study)は多くなかったものの、高齢患者をどのように評価して治療選択に結びつけるか、GAを忙しい日常診療の中でどう使える形にするか、さらに、がんを患う高齢者(以下、高齢がん患者)に多い老年症候群にどのように介入するか、という観点から興味深い研究が報告されていた。その中から、筆者が興味深いと感じた研究を抜粋して紹介する。高齢がん患者をどう評価するか - 「fitかどうか」ではなく「どこが脆弱か」をみる高齢がん患者の診療で最も悩ましいのは、「この患者さんに標準的ながん治療を行ってよいのか」という問いである。暦年齢だけで判断すべきではないことは、すでに多くの医療者が理解している。しかし、では何をもって積極的治療に適していると判断し、何をもって慎重な治療選択が必要と考えるべきなのか。この問いに答えるのは、日常診療でも臨床試験でも、いまだに簡単ではない。この問いに答えるために、欧州の老年腫瘍学では、GAを用いて高齢がん患者を、fit、vulnerable、frailと分類することがある。しかし、もともとfitやfrailは老年医学の用語であり、腫瘍学の用語ではない。老年医学では、『自立度』を軸として、「健常(fit)」、「要介護状態(disability)」、その中間を「フレイル(frailty)」と分類することが多い(注:老年医学の領域でも定義は定まっていない)。一方、腫瘍学では、『がん治療の適応』を軸として、「若年者と同じ標準治療ができる(fit)」、「非常に弱い治療や緩和・支持療法ならできる(frail)」、その中間を「用量などを調整した弱い治療ならできる(vulnerable)」と分類することが多い(図)。図 日常診療における高齢者の分類方法画像を拡大する脆弱な高齢者に対するエプコリタマブ+R-mini CVP(#7002)この問題を考えるうえで、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有する脆弱な高齢者を対象としたエプコリタマブ+R-miniCVPに関する試験は興味深かった1)。脆弱な高齢者を対象として、アントラサイクリンを抜いたR-miniCVP(リツキシマブ+減量シクロホスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾロン)に抗CD3/CD20二重特異性抗体であるエプコリタマブを併用する治療の有用性を評価した第II相試験が実施された。特筆すべきは、脆弱な高齢者を定義する際に、simplified Geriatric Assessment(sGA)というツールを用いたところである。sGAでは、年齢(閾値:80歳)、日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL)、併存症(CIRS-Gを使用)を組み合わせて、患者をfit、unfit、frailに分類する。DLBCL患者に用いられてきた簡便なツールであり、予後と関連することが示されている2)。本試験の中間解析において、この集団におけるエプコリタマブ+R-miniCVPの有望な結果が示されたが、老年腫瘍学的には、高齢者機能評価の一種であるsGAを用いて対象集団を定義したという点が興味深い。すなわち、この試験におけるunfit/frailとは、漠然と「高齢で弱っている患者」を指す言葉ではなく、標準的なアントラサイクリンを含んだレジメンに適しているかどうかを高齢者機能評価で規定したという点で興味深いのである。一方で、sGAは実用的である反面、分類は大まかであると言える。たとえば80歳以上であれば、ADL、IADL、併存症に大きな問題がなくてもfitには分類されない。より多面的に高齢がん患者を評価する試みも必要である。高齢がん患者をより多面的に分類するツール(FI-CGA-10)の検討(#1656)このような問題意識に対して、日本から高齢がん患者をより多面的に分類するツールの有用性を評価する研究が報告された3)。治療方針決定前にGAを実施された高齢者1,630例を対象として、日本の研究グループが開発したツール「FI-CGA-10」が、予後を予測するかを評価した前向きコホート研究である。FI-CGA-10は、認知機能、気分、コミュニケーション能力(視力+聴力)、移動能力、転倒、栄養、ADL、IADL、社会支援の有無、併存症の10領域から構成される。その合計点数に基づき、患者をfit、pre-frail、frailに分類する4)。本研究の結果、fit群をreferenceとすると、pre-frail群の死亡ハザード比は2.26、frail群では5.06であった。また、年齢、性別、がん種、病期を含むモデルにFI-CGA-10を加えることで、1年全生存率の予測精度を示す指標(C-index)は、0.70から0.76に改善した。ここまでは単なる予後因子解析にみえるが、重要なのは、FI-CGA-10が「どのような患者が脆弱なのか」を、単一の指標ではなく複数の領域から評価している点である。高齢患者の評価では、Performance Statusや年齢だけでは不十分であり、身体機能、日常生活機能、栄養状態、認知・心理面、社会的背景などを含めて総合的に捉える必要があることは以前から指摘されてきた。FI-CGA-10は、そのようなGAの考え方を、実際に予後予測に利用できる形に整理した試みといえる。すなわち、「どのような評価を用いれば高齢患者を分類できるのか」という問いに対して、本研究はGAを基盤とした多面的評価が有力な選択肢であることを示している。前編まとめこのようにASCO2026では、高齢患者をどのように分類し、治療判断に結びつけるか検討する演題が複数報告されていた。ただし、ここで重要なのは、「予後が悪い患者」と「治療から利益が得られない患者」は同じではないという点である。FI-CGA-10でfrailと分類されたからといって、必ずしも治療強度を下げるべきとは言えず、G8低値だからといって、特定の治療を控えるべきとも限らない。高齢がん患者の評価は、治療の可否を機械的に決めるための「線引き」ではなく、患者の医学的・機能的状況を整理し、奏効率や生存期間中央値だけでは捉えきれない治療の利益と負担を共有するための「対話の土台」と捉えるべきである。治療によって何を得たいのか、どの程度の有害事象や通院負担を許容できるのか、残された時間をどのように過ごしたいのかによって、適切な選択は大きく異なる。どの高齢患者が積極的治療に適しているのか。その問いに対する明快な答えはまだない。しかし、ASCO2026で報告された一連の研究は、fit、unfit、frailなどの分類で単純に線を引くのではなく、患者の脆弱性を多面的に評価し、その人にとって意味のある治療選択を考えるShared Decision Makingにつなげることの重要性を示していたと言える。後編に続く1)Chihara D, et al. Phase 2 trial of epcoritamab in combination with rituximab-mini CVP for older unfit/frail or anthracycline-ineligible adult patients with newly diagnosed diffuse large B-cell lymphoma: Interim futility analysis.2)Merli F, et al. Simplified Geriatric Assessment in Older Patients With Diffuse Large B-Cell Lymphoma: The Prospective Elderly Project of the Fondazione Italiana Linfomi. J Clin Oncol. 2021;39:1214-1222.3)Nishijima TF, et al. Validation of a 10-item frailty index based on a comprehensive geriatric assessment (FI-CGA-10) for predicting survival in older adults with cancer.4)Nishijima TF, et al. A 10-Item Frailty Index Based on a Comprehensive Geriatric Assessment (FI-CGA-10) in Older Adults with Cancer: Development and Construct Validation. Oncologist. 2021;26:e1751-e1760.

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