高齢者の消化器がん外科手術において、日本と米国の全国データベースを比較すると、年齢に伴う術前合併症や術後転帰の変化パターンは類似しているものの、移動能力や機能面では両国間に差があることが明らかになった。福島県立医科大学の小船戸 康英氏らによる本研究はAnnals of Gastroenterological Surgery誌2025年4月21日号に掲載された。
がんは日米両国における主要な死因の1つであり、生涯に少なくとも一度はがんを経験する人口の割合は日本で5割超、米国で4割弱と推定されている。外科治療は依然としてがんの根治的治療の主軸であり、世界的な高齢化のなか、併存疾患や虚弱状態を多く有する高齢がん患者を対象とした研究の重要性が増している。
研究者らは、日本の臨床データベース(National Clinical Database:NCD)と米国の米国外科学会全国外科品質改善プログラム(American College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Program:NSQIP)から、65歳以上で消化器がん(食道、胃、大腸、十二指腸、肝臓、膵臓、胆道)の外科手術を受けた患者のデータを収集し、65~74歳、75~84歳、85歳以上に分け、術前の併存疾患、認知機能、移動機能、術後合併症などを比較した。
主な結果は以下のとおり。
・日本(NCD)から2,703例、米国(NSQIP)から1,342例が対象となった。
【手術の内訳】
上部消化管手術(食道切除:日本12.6%/米国2.1%、幽門側胃切除:28.3%/1.9%、胃全摘:10.6%/0.4%)は日本のほうが多く、下部消化管手術(結腸右半切除:13.4%/50.5%、低位前方切除:14.0%/25.9%)は米国のほうが多かった。肝切除(8.9%/7.6%)および膵頭十二指腸切除(12.2%/11.6%)の頻度は同様だった。
【術前の併存疾患】
両国とも加齢に伴い、呼吸困難、高血圧、出血性疾患、緊急手術が増加したが、肥満率と緊急手術の頻度は米国でより高かった。慢性疾患に対するステロイドの使用や術後48時間以内の敗血症の頻度も米国では高齢群のほうが頻度が高かったが、日本ではこの傾向はみられなかった(慢性疾患に対するステロイド/日本:65~74歳1.7%、75~84歳1.3%、85歳以上0.6%、米国:4.7%、6.5%、10.4%、48時間以内の敗血症/日本:0.3%、0.1%、0.6%、米国:4.7%、7.2%、13.0%)。
【認知機能】
両国とも、年齢と共に認知症の既往、代理人による同意、術後せん妄の頻度は上昇し、両国で類似した傾向を示した。
【移動能力/機能】
両国とも、年齢と共に歩行補助器具の使用、転倒歴、高転倒リスク、新たな歩行補助具の使用、術後の移動機能低下などが増加した。これらの変数および術後の機能依存低下の頻度は米国のほうが高かった。
【術後合併症】
多くの術後合併症は年齢との関連を示さなかったが、術後敗血症、長時間の人工呼吸器使用、新たな歩行補助具使用や移動機能低下、自宅以外への退院は米国のほうが多かった。
研究者らは「米国と日本の両国において、消化器がんの外科手術を受ける65歳以上の高齢者では、年齢の上昇に伴って術前併存症の増加や認知機能低下、術後の移動能力/機能が低下することは共通していた。しかし、移動機能の低下や自宅以外への退院などの項目では両国間で大きな差がみられ、米国のほうがより重篤で頻度が高い傾向があった。日本では、術前からの回復可能性や退院先・介護体制を見据えた手術適応や統合的なケアが比較的整っている可能性がある。今後、高齢患者の手術適応、術前準備、術後リハビリ、退院調整などを、国や地域の実情に応じて最適化することが求められる」とした。
(ケアネット 杉崎 真名)