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1.

アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

2.

DES留置術前の石灰化病変処置、オービタルアテレクトミーは予後を改善するか/Lancet

 薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行前の重度の冠動脈石灰化病変の切削において、バルーン血管形成術に基づくアプローチと比較して、アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル(Diamondback 360 Coronary Orbital Atherectomy System)によるオービタルアテレクトミーは、最小ステント面積を拡張せず、1年後の標的血管不全の発生率も減少しないことが、米国・Columbia University Medical Center/NewYork-Presbyterian HospitalのAjay J. Kirtane氏らECLIPSE Investigatorsが実施した「ECLIPSE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2025年4月12日号に掲載された。米国の無作為化試験 ECLIPSE試験は、DES留置術前の重度冠動脈石灰化病変の前処置としてのオービタルアテレクトミーとバルーン血管形成術の有効性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2023年4月に米国の104施設で参加者の無作為化を行った(Abbott Vascularの助成を受けた)。 年齢18歳以上、1つ以上の新たな冠動脈標的病変に対するPCIを受ける慢性または急性冠症候群で、血管造影または血管内画像により冠動脈に重度のカルシウム蓄積を認め、推定生存期間が1年以上の患者を対象とした。これらの患者を、DESによるPCI施行前に重度石灰化病変を切削するために、オービタルアテレクトミーまたはバルーン血管形成術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは2つで、1年後の標的血管不全(心臓死、標的血管心筋梗塞、虚血による標的血管の血行再建術の複合)と、事前に規定されたコホートにおける手技を行った後の血管内光干渉断層撮影(OCT)で評価した最大石灰化部位の最小ステント面積とし、ITT解析を行った。1年後の標的血管不全:11.5%vs.10.0% 2,005例(2,492病変)を登録し、ステント留置術の前にオービタルアテレクトミーによる病変の前処置を行う群に1,008例(1,250病変)、バルーン血管形成術を行う群に997例(1,242病変)を割り付けた。全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:64.0~76.0)、541例(27.0%)が女性であり、881例(43.9%)が糖尿病、479例(23.9%)が慢性腎臓病(112例[5.6%]が血液透析中)であった。 コアラボラトリーで血管造影により重度のカルシウム蓄積が確認されたのは、オービタルアテレクトミー群で97.1%(1,088例/1,120病変)、バルーン血管形成術群で97.0%(1,068例/1,101病変)だった。また、血管内画像ガイド下PCIは、それぞれ62.2%(627例/1,008例)および62.1%(619例/997例)で行われた。 1年後までに、標的血管不全はオービタルアテレクトミー群で1,008例中113例(11.5%[95%信頼区間[CI]:9.7~13.7])、バルーン血管形成術群で997例中97例(10.0%[8.3~12.1])に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:1.5%[96%CI:-1.4~4.4]、ハザード比[HR]:1.16[96%CI:0.87~1.54]、p=0.28)。 また、OCTコホート(オービタルアテレクトミー群276例[286病変]、バルーン血管形成術群279例[292病変])における最大石灰化部位の最小ステント面積は、オービタルアテレクトミー群が7.67(SD 2.27)mm2、バルーン血管形成術群は7.42(2.54)mm2であり、両群間に有意差はなかった(平均群間差:0.26[99%CI:-0.31~0.82]、p=0.078)。1年後のステント血栓症:1.1%vs.0.4% 1年以内に、心臓死はオービタルアテレクトミー群で39例(4.0%)、バルーン血管形成術群で26例(2.7%)に発生した(HR:1.49[95%CI:0.91~2.45]、p=0.12)。最初の30日間にオービタルアテレクトミー群で8例に心臓死が発生し、このうち2例がデバイス関連、2例がデバイス関連の可能性があると判定された。 また、1年以内の標的血管心筋梗塞は、オービタルアテレクトミー群で55例(5.6%)、バルーン血管形成術群で43例(4.4%)(HR:1.27[95%CI:0.85~1.89]、p=0.24)、虚血による標的血管の血行再建術はそれぞれ40例(4.2%)および41例(4.4%)(0.97[0.63~1.49]、p=0.88)で発現し、ステント血栓症(definiteまたはprobable)は11例(1.1%)および4例(0.4%)(2.74[0.87~8.59]、p=0.085)に認めた。 著者は、「これらのデータは、ステント留置術前の冠動脈石灰化病変の処置の多くにおいては、血管内画像ガイド下のバルーン血管形成術を優先するアプローチが支持されることを示すものである」としている。

3.

3枝病変へのFFRガイド下PCIは有効か/Lancet

 左冠動脈主幹部以外の冠動脈3枝病変を有する患者の治療では、冠動脈バイパス術(CABG)と比較してゾタロリムス溶出ステントを用いた冠血流予備量比(FFR)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、5年間の追跡調査において、死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合アウトカムの発生に関して有意差はみられないが、心筋梗塞と再血行再建術の頻度は高いことが、米国・スタンフォード大学のWilliam F. Fearon氏らが実施した「FAME 3試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2025年3月30日号に掲載された。世界48施設の医師主導型無作為化試験 FAME 3試験は、左冠動脈主幹部以外の冠動脈3枝病変を有する患者において、ゾタロリムス溶出ステントを用いたFFRガイド下PCIとCABGの有効性と安全性を比較する医師主導型の無作為化試験であり、2014年8月~2019年11月に欧州、米国、カナダ、オーストラリア、アジアの48施設で参加者を募集した(MedtronicとAbbott Vascularの助成を受けた)。 年齢21歳以上、左冠動脈主幹部には臨床的に重大な狭窄がなく、冠動脈造影所見で3枝病変を認める患者を対象とし、心原性ショックや最近のST上昇型心筋梗塞、重度の左室機能障害(駆出率<30%)、CABGの既往歴がある患者は除外した。 主要エンドポイントは、ITT集団における死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合の5年間の発生率とした。なお、1年後の解析では、FFRガイド下PCIはCABGに対して、死亡、脳卒中、心筋梗塞、再血行再建術の複合アウトカムに関して、事前に規定された非劣性の閾値を満たさなかった。死亡、脳卒中には差がない 1,500例を登録し、PCI群に757例、CABG群に743例を割り付けた。全体の登録時の年齢中央値は66歳(四分位範囲:59~71)、1,235例(82%)が男性で、428例(29%)は糖尿病、587例(39%)は非ST上昇型急性心筋梗塞であった。PCI群の724例(96%)とCABG群の696例(94%)が5年間の追跡期間を完了した。 5年の時点での死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合の発生率は、PCI群が16%(119例)、CABG群は14%(101例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.16[95%信頼区間[CI]:0.89~1.52]、p=0.27)。 主要エンドポイントの個々の項目については、死亡(PCI群7%vs.CABG群7%、HR:0.99[95%CI:0.67~1.46])と脳卒中(2%vs.3%、0.65[0.33~1.28])の発生率には両群間に差はなかったが、心筋梗塞(8%vs.5%、1.57[1.04~2.36])、再血行再建術(16%vs.8%、2.02[1.46~2.79])の発生率はPCI群で高かった。安全性のエンドポイントはCABG群で発生率が高い 一方、安全性のエンドポイントである出血、急性腎障害、心房細動/重大な不整脈、再入院の1年後の発生率は、いずれもPCI群に比べCABG群で有意に高かった。 著者は、「これらのデータは、この分野における先行研究の結果とは明らかに異なっており、医師と患者のより効果的な共同意思決定(shared decision making)の促進に資する可能性がある」としている。

4.

PCI後DAPT例の維持療法、クロピドグレルvs.アスピリン/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後に標準的な期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した、虚血性イベントの再発リスクが高い患者の維持療法において、アスピリン単剤療法と比較してクロピドグレル単剤療法は、3年時の主要有害心・脳血管イベント(MACCE)が少なく、なかでも心筋梗塞のリスクが有意に減少し、出血の発生率は両群で差がなく、上部消化管イベントのリスクはクロピドグレル群で低いことが、韓国・Sungkyunkwan University School of MedicineのKi Hong Choi氏らSMART-CHOICE 3 investigatorsが実施した「SMART-CHOICE 3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年3月30日号で報告された。韓国の無作為化試験 SMART-CHOICE 3試験は、薬剤溶出ステントによるPCI後に標準的な期間のDAPTを完了した患者における、クロピドグレル単剤とアスピリン単剤の有効性と安全性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2020年8月~2023年7月に韓国の26施設で参加者の適格性を評価した(Dong-A STの助成を受けた)。 年齢19歳以上、PCI後に標準的な期間のDAPTを完了し、虚血性イベントの再発リスクが高い患者(心筋梗塞の既往歴がある、糖尿病で薬物療法を受けている、複雑な冠動脈病変を有する)を対象とした。被験者を、クロピドグレル(75mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)を経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ITT集団におけるMACCE(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)の累積発生率とした。MACCEの推定3年発生率:4.4%vs.6.6% 5,506例を登録し、クロピドグレル群に2,752例、アスピリン群に2,754例を割り付けた。全体の年齢中央値は65.0歳(四分位範囲[IQR]:58.0~73.0)、1,002例(18.2%)が女性であった。2,247例(40.8%)が糖尿病(2,089例[37.9%]が糖尿病の薬物療法を受けていた)で、2,552例(46.3%)が急性心筋梗塞(1,330例[24.2%]が非ST上昇型、1,222例[22.2%]がST上昇型)でPCIを受けていた。PCI施行から無作為化までの期間中央値は17.5ヵ月(IQR:12.6~36.1)だった。 追跡期間中央値2.3年の時点で、MACCEはアスピリン群で128例に発生し、Kaplan-Meier法による推定3年発生率は6.6%(95%信頼区間[CI]:5.4~7.8)であったのに対し、クロピドグレル群では92例、4.4%(3.4~5.4)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.71[95%CI:0.54~0.93]、p=0.013)。 MACCEの個々の項目(副次エンドポイント)の推定3年発生率は、全死因死亡がクロピドグレル群2.4%、アスピリン群4.0%(HR:0.71[95%CI:0.49~1.02])、心筋梗塞がそれぞれ1.0%および2.2%(0.54[0.33~0.90])、脳卒中が1.3%および1.3%(0.79[0.46~1.36])であった。大出血の発生率にも差はない 出血(BARC type 2、3または5)(クロピドグレル群3.0%vs.アスピリン群3.0%、HR:0.97[95%CI:0.67~1.42])、大出血(BARC type 3または5)(1.6%vs.1.3%、1.00[0.58~1.73])のリスクは両群で差はなかった。 上部消化管イベント(クロピドグレル群2.8%vs.アスピリン群4.9%、HR:0.65[0.47~0.90])および有害な臨床イベント(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)(5.4%vs.7.3%、0.78[0.61~0.99])はクロピドグレル群で少なく、血行再建術(4.2%vs.4.5%、0.94[0.69~1.27])の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの患者において、クロピドグレル単剤療法は、出血を増加させずに全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことから、長期維持療法としてアスピリン単剤療法に代わる好ましい選択肢と考えられる」としている。

5.

包括的高度慢性下肢虚血、最も有効な血行再建術とは/BMJ

 大腿膝窩動脈領域の血行再建術(±膝下血行再建術)を要する包括的高度慢性下肢虚血患者において、薬剤を塗布していないバルーン血管形成術±ベアメタルステント留置術(PBA±BMS)と比較し、薬剤塗布バルーン血管形成術±BMS(DCBA±BMS)および薬剤溶出性ステント留置術(DES)はいずれも有意な臨床的有益性をもたらさないことが、英国・バーミンガム大学のAndrew W. Bradbury氏らBASIL-3 Investigatorsが実施した「BASIL-3試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2025年2月24日号で報告された。英国の第III相非盲検無作為化優越性試験 BASIL-3試験は、大腿膝窩動脈領域の血行再建術を要する包括的高度慢性下肢虚血患者において、臨床的に最も有効な血行再建術を明らかにすることを目的とする実践的な第III相非盲検無作為化優越性試験であり、2016年1月~2021年8月に英国の35施設で患者を登録した(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成を受けた)。 外科的血行再建術よりも大腿膝窩動脈領域の血行再建術(±膝下血行再建術)を希望する包括的高度慢性下肢虚血の患者を、初回血行再建術として、大腿膝窩動脈領域のPBA±BMS、DCBA±BMS、DESのいずれかを受ける群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは大切断回避生存とした。大切断回避生存は、対象肢の大切断(足首より上部の切断)または全死因死亡のうちいずれかが先に発生するまでの期間と定義し、生存時間分析を行った。全死因死亡、大切断にも差はない 481例(平均年齢71.8[SD 10.8]歳、女性167例[35%])を登録し、PBA±BMS群に160例、DCBA±BMS群に161例、DES群に160例(同意が得られなかった1例を除外した159例を解析に含めた)を割り付けた。全体の追跡期間中央値は2.1年だった。 ITT集団における大切断または死亡は、PBA±BMS群で160例中106例(66%)、DCBA±BMS群で161例中97例(60%)、DES群で159例中93例(58%)に発生した。補正ハザード比[HR]は、DCBA±BMS群とPBA±BMS群の比較で0.84(97.5%信頼区間[CI]:0.61~1.16、p=0.22)、DES群とPBA±BMS群の比較で0.83(0.60~1.15、p=0.20)と、いずれも有意な差を認めなかった。大切断回避生存期間中央値は、PBA±BMS群3.16年、DCBA±BMS群3.52年、DES群4.29年だった。 全死因死亡(PBA±BMS群60%、DCBA±BMS群56%、DES群50%)および大切断(14%、11%、16%)にも、PBA±BMS群との比較で有意な差はみられなかった(DCBA±BMS群vs.PBA±BMS群の死亡のHR:0.86[97.5%CI:0.62~1.20]、DES群vs.PBA±BMS群の死亡のHR:0.79[0.56~1.11])。重篤な有害事象の頻度は同程度 重篤な有害事象は、PBA±BMS群で16例(10%)、DCBA±BMS群で9例(6%)、DES群で17例(11%)に発現した。死因の多くは複数の因子によるもので、併存疾患に関連することが多かった。 著者は、「最近の系統的レビューとメタ解析により、BASIL-3試験は、包括的高度慢性下肢虚血患者に対する3種の血管内治療の臨床的有効性を比較した唯一の公的資金に基づく無作為化対照比較試験であることが確認されている」「これらの結果は、包括的高度慢性下肢虚血患者の管理では、大腿膝窩動脈領域の血管内血行再建術として、薬剤塗布バルーンおよび薬剤溶出性ステントの役割を支持しない」としている。

6.

新PCIデバイスbioadaptor、アウトカム改善の可能性/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における、持続的なnon-plateauing(非平坦化)による有害事象の発生は依然として重要な課題とされている。スウェーデン・ルンド大学のDavid Erlinge氏らは「INFINITY-SWEDEHEART試験」において、急性冠症候群を含む冠動脈疾患患者では、non-plateauingのデバイス関連イベントを軽減するように設計された新たなPCIデバイス(DynamX bioadaptor、Elixir Medical製)は、最新の薬剤溶出ステント(DES)に対し有効性に関して非劣性であり、non-plateauingデバイス関連イベントを軽減し、アウトカムを改善する可能性を示した。研究の成果は、Lancet誌2024年11月2日号に掲載された。スウェーデンの無作為化非劣性試験 INFINITY-SWEDEHEART試験は、スウェーデンの20の病院で実施したレジストリベースの単盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年9月~2023年7月に患者の無作為化を行った(Elixir Medicalの助成を受けた)。 Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registryのデータから、18~85歳、慢性または急性冠症候群の虚血性心疾患患者で、PCIの適応があり、1つの病変につき1つのデバイスの留置に適した最大3つのde novo病変を有する患者2,399例を選出した。 これらの患者を、DynamX bioadaptorを留置する群(bioadaptor群、1,201例、1,419病変)、またはDES(Onyxゾタロリムス溶出性ステント)を留置する群(DES群、1,198例、1,431病変)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での標的病変不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的病変の再血行再建術の複合)とし、ITT解析を行った。両群の絶対リスク差の両側95%信頼区間(CI)の上限値が4.2%未満の場合に、非劣性と判定することとした。ランドマーク解析の結果は有意に良好 全体の年齢中央値は69.5歳(四分位範囲[IQR]:61.2~75.6)、575例(24.0%)が女性であった。急性冠症候群が1,838例(76.6%)含まれた。デバイス留置の成功率は、bioadaptor群が99.5%(1,411/1,417病変)、DES群は99.8%(1,429/1,431病変)であり、手技成功率はそれぞれ99.6%(1,193/1,199例)および99.9%(1,193/1,195例)だった。 12ヵ月時の標的病変不全の発生率は、bioadaptor群が2.4%(28/1,189例)、DES群は2.8%(33/1,192例)であり、両群のリスク差は-0.41%(95%CI:-1.94~1.11)と、DES群に対するbioadaptor群の非劣性の基準が満たされた(非劣性のp<0.0001)。 一方、事前に規定された6ヵ月の時点から12ヵ月時までのランドマーク解析では、Kaplan-Meier法による標的病変不全推定値は、DES群の1.7%(16/1,176例)に対し、bioadaptor群は0.3%(3/1,170例)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.19、95%CI:0.06~0.65、p=0.0079)。 また、同様の解析による標的血管不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的血管の再血行再建術の複合)(bioadaptor群0.8%[8/1,167例]vs.DES群2.5%[23/1,174例]、HR:0.35[95%CI:0.16~0.79]、p=0.011)、および急性冠症候群患者における標的病変不全(0.3%[2/906例]vs.1.8%[12/895例]、0.17[0.04~0.74]、p=0.018)も、bioadaptor群で有意に優れた。デバイス血栓症の発生率は低い 安全性のアウトカムであるdefiniteまたはprobableのデバイス血栓症の発生率は低く、両群間に差はなかった(bioadaptor群0.7%[8/1,201例]vs.DES群0.5%[6/1,198例]、イベント発生率の群間差:0.16%[95%CI:-0.50~0.83])。 著者は、「これまでに得られたエビデンスに基づくと、この新デバイスはステント関連イベントの発生を軽減可能であるとともに、de novo病変患者の治療選択肢として有望視されるものであり、今後、長期の追跡を行って確認する必要がある」としている。

7.

新規非複雑病変へのDCB、DESに非劣性示せず/Lancet

 標的血管径を問わず新規の非複雑病変を有する患者において、薬剤コーティングバルーン(DCB)血管形成術とレスキューステント留置を併用する治療戦略は、計画された薬剤溶出性ステント(DES)留置と比較し、2年後のデバイス指向複合エンドポイント(DoCE)に関して非劣性を示さなかった。中国・第四軍医大学のChao Gao氏らREC-CAGEFREE I Investigatorsが、同国43施設で実施した医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「REC-CAGEFREE I試験」の結果を報告した。新規冠動脈病変を有する患者に対するDCB血管形成術の長期的な影響はわかっていない。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。2年時のDoCE(心血管死、標的血管心筋梗塞、標的病変再血行再建術)を比較 研究グループは、急性冠症候群または慢性冠症候群で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を必要とする18歳以上の患者で、標的血管径を問わず新規の非複雑病変を有する患者を登録し、標的病変の前拡張が成功した患者を、パクリタキセルコーティングバルーンを用いたDCB血管形成術(レスキューステントオプション付き)群と第2世代のシロリムス溶出ステントを留置するDES群に、1対1の割合で無作為に割り付け、1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月および24ヵ月後に追跡評価した。 割り付けに関しては、患者および治験責任医師は盲検化されなかったが、独立した臨床事象判定委員会(CEC)の委員および解析を行った統計学者は盲検化された。 主要アウトカムは、ITT集団(無作為化されたすべての患者)における24ヵ月時のDoCE(心血管死、標的血管心筋梗塞、臨床的・生理学的に適応とされた標的病変再血行再建術)で、非劣性マージンは絶対群間リスク差の片側95%信頼区間(CI)上限が2.68%未満とした。安全性についても、ITT集団で評価した。DoCE発生率はDCB群6.4%、DES群3.4%、DCBの非劣性は認められず 2021年2月5日~2022年5月1日に2,902例が登録され、前拡張に成功した2,272例が無作為化された(ITT集団:DCB群1,133例[50%]、DES群1,139例[50%])。DCB群の1,133例中106例(9.4%)は、DCBによる血管形成術が不十分でレスキューDESを受けた(ITT集団ではDCB群に含まれる)。 計2,272例の患者背景は、年齢中央値62歳(四分位範囲[IQR]:54~69)、男性1,574例(69.3%)、女性698例(30.7%)であった。 データカットオフ(2024年5月1日)時点で、追跡期間中央値は734日(IQR:731~739)であった。 24ヵ月時のDoCEは、DCB群で72例(6.4%)、DES群で38例(3.4%)に発生し、累積イベント発生率の群間リスク差は3.04%であった(片側95%CI:4.52[非劣性のp=0.65]、両側95%CI:1.27~4.81[p=0.0008])。 インターベンション中の急性血管閉塞は、DCB群では発生しなかったが、DES群では1例(0.1%)に認められた。周術期心筋梗塞はDCB群で10例(0.9%)、DES群で9例(0.8%)発生した。 本試験は、現在、延長追跡試験が進行中である。

8.

複雑病変へのPCI、OCTガイドvs.血管造影ガイド/Lancet

 複雑病変に対し薬剤溶出ステント(DES)の留置が必要な患者において、光干渉断層撮影(OCT)ガイド下の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管造影ガイド下PCIと比較し、1年後の主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が有意に低下した。韓国・延世大学校のSung-Jin Hong氏らが、同国20病院で実施した医師主導の無作為化非盲検優越性試験「Optical Coherence Tomography-guided Coronary Intervention in Patients with Complex Lesions trial:OCCUPI試験」の結果を報告した。PCI施行中にOCTは詳細な画像情報を提供するが、こうした画像診断技術の臨床的有用性は不明であった。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。DESによるPCI施行予定患者を無作為化、1年後のMACEを評価 研究グループは、DESによるPCIが適応と判断された19~85歳の患者を登録してスクリーニングを行い、1つ以上の複雑病変を有する患者をOCTガイド下PCI群(OCT群)またはOCTを用いない血管造影ガイド下PCI群(血管造影群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 複雑病変の定義は、急性心筋梗塞、慢性完全閉塞、long lesion(ステント長≧28mm)、石灰化病変、分岐部病変、非保護の左主幹部病変、小血管疾患(血管径<2.5mm)、冠動脈内血栓、ステント血栓症、ステント内再狭窄、バイパスグラフト病変であった。 アウトカム評価者は割り付けについて盲検化されたが、患者、追跡調査の医療従事者、データ解析者は盲検化されなかった。PCIは、エベロリムス溶出ステントを用いて従来の標準的方法に従って実施された。 主要アウトカムは、PCI施行1年後のMACE(心臓死、心筋梗塞、ステント血栓症、虚血による標的血管血行再建の複合)で、ITT解析を行い、優越性のマージンはハザード比1.0とした。MACE発生率、OCT群5% vs.血管造影群7%、ハザード比は0.62 2019年1月9日~2022年9月22日に、複雑病変へのDESによるPCIを必要とする患者1,604例が無作為化された(OCT群803例、血管造影群801例)。患者背景は、1,290例(80%)が男性、314例(20%)が女性で、無作為化時の平均年齢は64歳(四分位範囲:57~70)であった。1,588例(99%)が1年間の追跡調査を完了した。 主要アウトカムのイベントは、OCT群で803例中37例(5%)、血管造影群で801例中59例(7%)に発生した。絶対群間差は-2.8%(95%信頼区間[CI]:-5.1~-0.4)、ハザード比は0.62(95%CI:0.41~0.93)であり、有意差が認められた(p=0.023)。 副次アウトカムの脳卒中、出血イベント(BARC出血基準タイプ3または5)、造影剤誘発性腎症の発生率に、両群間で有意差はなかった。 なお、著者は、追跡期間が短いこと、完全な盲検化が困難であったこと、血管造影ガイド下PCIは術者の経験に影響される可能性があること、韓国のみで実施されたことなどを研究の限界として挙げている。

9.

標準治療の方法は世界に1つ?(解説:後藤信哉氏)

 冠動脈インターベンション治療後の抗血小板薬併用療法を強化し続けた時代があった。心血管イベントリスクのみに注目すればアスピリンにクロピドグレル、さらに標準化されP2Y12受容体阻害効果が強化されたプラスグレル、チカグレロルと転換するメリットがあった。しかし、安全性のエンドポイントである重篤な出血合併症は、抗血小板療法の強化とともに増加した。冠動脈インターベンション後、血栓イベントリスクの高い短期間のみ抗血小板併用療法を行い、時間経過とともに単剤治療に戻す抗血小板薬治療の「de-escalation」が注目された。本研究では薬剤溶出ステント後に、2週間~3ヵ月の抗血小板薬併用療法後に抗血小板薬を「de-escalation」した症例と12ヵ月以上抗血小板併用療法を継続した症例を比較した。過去のランダム化比較試験の、個別症例あたりのメタ解析なのでエビデンスレベルは高い。 予想されたように重篤な出血イベントリスクは「de-escalation」した症例が、しない症例よりも少なかった。心血管イベントリスクには差異がなかった。臨床医の実感のように短期間の抗血小板併用療法後は、抗血小板薬単剤で十分であることが示唆された。「de-escalation」したほうが死亡すら少なくなるのは、重篤の出血イベントの抗血栓薬中止による心血管死亡、出血死亡などのためと考える。 本研究の提示するエビデンスは明確であるが、残念ながら日本では適応できない。本研究の対象とされた90mg bidのチカグレロルは日本を中心に施行されたPHILO試験ではクロピドグレルに対する優越性を示せなかった。日本では90mg bidチカグレロルは標準治療ではない。個別症例を標的とした多数のランダム化比較試験のメタ解析であっても、最初の症例選定クライテリアが異なる国には応用できない。われわれはclinical trialistsの1人として患者集団の標準治療のシステム的改善を目指した。しかし、世界に正解は多数あるのかもしれない。

10.

ACSのPCI後、短期DAPT後チカグレロルvs.12ヵ月DAPT~メタ解析/Lancet

 急性冠症候群(ACS)患者の冠動脈ステント留置後の標準治療は、12ヵ月間の抗血小板2剤併用療法(DAPT)となっている。この標準治療とDAPTからチカグレロルへと段階的減薬(de-escalation)を行う治療を比較したエビデンスの要約を目的に、スイス・Universita della Svizzera ItalianaのMarco Valgimigli氏らSingle Versus Dual Antiplatelet Therapy(Sidney-4)collaborator groupは、無作為化試験のシステマティックレビューおよび個々の患者データ(IPD)レベルのメタ解析を行った。とくにACS患者では、12ヵ月間のDAPT単独療法と比較して、DAPTからチカグレロルへの段階的減薬は、虚血のリスクを増大することなく大出血リスクを軽減することが示された。Lancet誌2024年9月7日号掲載の報告。チカグレロル単独療法の有効性と安全性をIPDレベルメタ解析で評価 研究グループは、冠動脈薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における短期DAPT(2週~3ヵ月)後チカグレロル単独療法(90mgを1日2回)について、12ヵ月DAPTと比較した有効性と安全性を評価するため、システマティックレビューおよびIPDレベルのメタ解析を行った。 対象試験は、冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬単独療法とDAPTを比較した中央判定エンドポイントを有する無作為化試験とし、Ovid MEDLINE、Embaseおよび2つのウェブサイト(www.tctmd.comおよびwww.escardio.org)を各データベースの開始から2024年5月20日まで検索した。長期の経口抗凝固薬適応患者を含む試験は除外した。 Cochrane risk-of-biasツールを用いてバイアスリスクを評価。適格試験の主任研究者から匿名化された電子データセットでIPDの提供を受けた。 主要エンドポイントは、主要有害心血管または脳血管イベント(MACCE[全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合]、per-protocol集団で非劣性を検証)、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準タイプ3または5の出血(ITT集団で優越性を検証)、および全死因死亡(ITT集団で優越性を検証)の3つとし、階層的に解析した。すべてのアウトカムは、Kaplan-Meier推定値で報告された。非劣性の検証は片側α値0.025を用い、事前規定の非劣性マージンは1.15(ハザード比[HR]スケール)であった。その後に順位付け優越性の検証を両側α値0.05を用いて行った。とくに女性で、チカグレロル単独療法にベネフィットありの可能性 合計8,361件の文献がスクリーニングされ、うち610件がタイトルおよび要約のスクリーニング中に適格の可能性があるとみなされた。その中で患者をチカグレロル単独療法またはDAPTに無作為化した6試験が特定された。 段階的減薬は介入後中央値78日(四分位範囲[IQR]:31~92)で行われ、治療期間の中央値は334日(329~365)であった。 per-protocol集団(2万3,256例)において、MACCE発生は、チカグレロル単独療法群297件(Kaplan-Meier推定値2.8%)、DAPT群は332件(3.2%)であった(HR:0.91[95%信頼区間[CI]:0.78~1.07]、非劣性のp=0.0039、τ2<0.0001)。 ITT集団(2万4,407例)において、BARC出血基準タイプ3または5の出血(Kaplan-Meier推定値0.9% vs.2.1%、HR:0.43[95%CI:0.34~0.54]、優越性のp<0.0001、τ2=0.079)および全死因死亡(0.9% vs.1.2%、0.76[0.59~0.98]、p=0.034、τ2<0.0001)は、いずれもチカグレロル単独療法群で低減した。 試験の逐次解析で、被験者全体およびACS集団におけるMACCEの非劣性および出血の優越性の強固なエビデンスが示された(z曲線は無益性の境界を越えたりnull値に近づいたりすることなく、モニタリング境界を越えるか必要な情報サイズを満たした)。 治療効果は、MACCE(相互作用のp=0.041)、全死因死亡(0.050)については性別による不均一性がみられ、女性ではチカグレロル単独療法のベネフィットがある可能性が示唆された。また、出血は臨床症状による不均一性がみられ(相互作用のp=0.022)、ACS患者ではチカグレロル単独療法にベネフィットがあることが示唆された。 これらの結果を踏まえて著者は、「チカグレロル単独療法は、とくに女性において生存ベネフィットとも関連する可能性があり、さらなる検討が必要である」と述べている。

11.

イメージングガイドPCIの有用性と今後の展望(解説:上田恭敬氏)

 IVUSあるいはOCTを用いたイメージングガイド、あるいはアンジオガイドのPCI(DES留置術)の成績を無作為化比較試験によって検討した22試験(1万5,964例、平均観察期間24.7ヵ月)のネットワークメタ解析の結果が報告された。 主要エンドポイントである心臓死・標的血管関連心筋梗塞・TLRの複合エンドポイントでは、イメージングガイドPCIにおいてアンジオガイドPCIに比してリスクの低下(相対リスク[RR] 0.71 [95%信頼区間[CI]:0.63~0.80]、 p<0.0001)が観察された。さらに、心臓死(0.55、0.41~0.75、p=0.0001)、標的血管関連心筋梗塞(0.82、0.68~0.98、p=0.030)、TLR(0.72、0.60~0.86、 p=0.0002)のリスク低下に加えて、ステント血栓症(0.52、0.34~0.81、p=0.0036)、すべての心筋梗塞(0.83、0.71~0.99、p=0.033)、全死亡(0.75、0.60~0.93、p=0.0091)のリスク低下も観察された。また、IVUSガイドPCIとOCTガイドPCIの成績に違いは認められなかった。 以上により、イメージングガイドPCIはアンジオガイドPCIに比して、PCIの有効性および安全性を有意に向上させることが、あらためて示されたことになる。 当然のことではあるが、イメージングをただ使うだけでは治療成績が改善するはずはなく、イメージングを使って種々の手技を実施してoptimal PCIを達成することによって、初めてPCIの成績向上につながっているといえる。バルーンによるステントの追加拡張、ロータブレーターやカッティングバルーン等によるステント留置前の病変プレパレーションに加えて、各種の新しいテクニックを駆使することによって、よりoptimalな結果が得られれば、PCIの成績はさらに向上することが期待される。このような新しいPCI手技の開発は日本の術者が得意とするところであり、日本からの情報発信に期待したい。イメージングガイドが有用であることについては、もう反論の余地はなくなったと思われる。今後は、イメージングガイドによって何をするべきかについて、臨床試験によって検討することが重要と思われる。

12.

抗血小板療法を「軽くする」時代(解説:後藤信哉氏)

 筆者の循環器内科医としてのキャリアは1980年代に始まった。心筋梗塞は入院後も突然死リスクのある恐ろしい疾病であった。抗血小板薬としてアスピリンが標準治療と確立されつつある時代であった。PCIの適応は限局的で、基本的に急性冠症候群にはPCIの選択はなかった。t-PAが急性期予後を改善する薬剤として注目されていた。心筋梗塞発症後も血栓の再発による予後悪化が常に危惧されていた。 心筋梗塞急性期のPCIの普及により、発症後の生命予後は改善した。しかし、ステント血栓症などにより、急変が数週後に起こることがあった。薬剤溶出ステントでは、数ヵ月後のlate stent thrombosisも問題とされた。滅多に起きないけれど起こると重篤な合併症であるステント血栓症の予防のために、アスピリン・クロピドグレルの併用療法が普及した。標準量のクロピドグレルよりも強力なP2Y12阻害効果を有する用量のチカグレロル、プラスグレルも開発され普及した。抗血小板併用療法により重篤な出血合併症である頭蓋内出血も増えた。しかし、臨床医は血栓の予防に注目してきた。 冠動脈ステントの形状、材質、手技も改善した。ステント血栓症のリスクなどは低下してきた。重篤な血栓イベント以上に重篤な出血イベントの低減を目指す方向となった。アスピリンでも、アスピリン・クロピドグレルでも、アスピリン・チカグレロルでも、重篤な出血合併症が増加することは臨床試験の結果から明白であった。アスピリン、クロピドグレルは特許切れしているので、長期の使用を死守したいメーカーもいない。臨床医の方向は急性冠症候群の抗血小板療法を「軽くする」方向に向いた。本研究は、抗血小板療法を「軽くする」時代背景を反映したランダム化比較試験である。 急性冠動脈疾患でもIVUSを入れてしっかりと薬剤溶出ステントを入れた症例を対象として、ステント血栓症の懸念を減らした。90mg bidのチカグレロルは東アジアでは元々多すぎるとされた用量であった。過去の強い抗血小板薬が必要であった時代背景を踏まえて、本研究ではアスピリンを抜いても全体として大きな問題が起きないことを示した。抗血小板療法を「軽くする」時代に相応しい試験であった。

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薬剤コーティングバルーンでステントは不要となるか、不射之射の境地【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第71回

PCI発展の過程急性心筋梗塞や狭心症に代表される冠動脈疾患の治療では、冠動脈の流れを回復させるために冠血行再建が決定的に重要です。その方法として冠動脈バイパス手術(CABG)と、カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)があります。PCIの発展の過程は再狭窄をいかに克服するかが課題でした。再狭窄とはPCIで治療した冠動脈が再び狭くなることです。バルーンのみで病変を拡張していた時代は、再狭窄率が約50%でした。金属製ステント(BMS)が登場してからは約30%まで減少しましたが、それでも高い再狭窄率でした。再狭窄の要因は、ステント留置後に血管内の細胞が増殖しステントを覆ってしまい内腔が狭小化することです。この新生内膜の増殖抑制を治療ターゲットとして薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。当初はステント血栓症などの問題もありましたが、DESの改良が進み再狭窄は劇的に改善されました。現在は、本邦だけでなく世界中でDESを用いたPCIが広く普及しています。「不射之射」皆さんは、「不射之射(ふしゃのしゃ)」という言葉をご存じでしょうか。小生の最も敬愛する作家である中島 敦の作品の『名人伝』に詳しく書かれています。中島 敦(1909~42年)は喘息により33歳という若さで没しています。『山月記』や『李陵』などが代表作ですが、その格調高い芸術性と引き締まった文章が魅力です。「名人伝」のあらすじを紹介します。紀元前3世紀に、中国の都で、天下第一の弓の名人を目指した紀昌(きしょう)という男がいました。伝説の弓の名人である甘蠅老師(かんようろうし)に勝負を挑みに出かけます。そこで、名人に想像を超えた境地を教えられます。弓の名人は、「弓」という道具を使わずに、「無形の弓」によって飛ぶ鳥を射落とすのです。「射之射」とは、弓で矢を射て鳥を撃ち落とすこと、 不射之射とは、矢を射ることなく射るのと同様の結果が得られることです。紀昌は、不射之射を9年かけて会得し都へ帰還します。「弓をとらない弓の名人」となった紀昌は、晩年には「弓」という道具の使い方も、名前すらも忘れてしまうという境地に到達したといいます。野球の川上 哲治氏は「打撃の神様」と言われた強打者で、日本プロ野球史上初の2,000安打を達成しました。全盛期には、ピッチャーの投げたボールが「止まって見えた」と言っていたそうです。このような境地に到達した者を名人と称賛し憧れるのが日本人です。ステントに代わる、薬剤コーティングバルーン(DCB)の登場日本におけるPCIで、注目されているコンセプトがステントレス PCIです。薬剤溶出ステント (DES) を留置するPCIは、冠動脈疾患の治療に革命をもたらし、最も行われている治療法の1つとなっています。しかし、DESは金属性のデバイスであり、その使用により冠動脈内に異物が永続的に留まるという制限があります。これを克服するために登場したのが、薬剤コーティングバルーン(DCB)です。このDCBによる治療は、金属製ステントを使用せず、バルーンに塗布されたパクリタキセルなどの薬剤を血管の壁に到達させて再狭窄を予防するものです。DCBによる、ステントレス PCI のメリットを考えてみましょう。DESを留置した後にはステント血栓症を防ぐため抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が必要ですが、抗血小板薬1剤に比べて出血が増加します。高齢の患者では出血性の合併症が問題となります。DCBで治療すれば、抗血小板薬を減弱化することが可能となります。冠動脈CTによる評価法が普及していますが、金属製ステントがあるとノイズとなり冠動脈ステントの内部がよく見えません。PCI術後に何年か経ってから病変が進行し、CABGや2回目のPCIが必要になった場合には、既存の冠動脈ステントが治療の邪魔になる可能性があります。このような利点もありDCBの使用は増加しています。一方で、金属製ステントの効能の1つである、急性冠閉塞の予防効果がDCBでは期待できないことからリスク増加も懸念されます。DCBは、冠動脈内に異物を残さない治療を実現するもので、このコンセプトを、「leave nothing behind」と呼んでいます。欧米や諸外国においてもDCBを用いたステントレス PCIが話題として取り上げられることはありますが、日本ほど注目されている訳ではありません。日本でステントレス PCIへの議論が高まってきているのは、その背景に「不射之射」を尊ぶ東洋的思想があるように思います。ステントを用いずにPCIを完遂することが、あたかも弓矢を用いずに飛ぶ鳥を射落とすが如く捉えられているのです。冠動脈疾患の予防治療が将来さらに進化して、冠血行再建を必要とする患者がゼロとなり、CABGやPCIという道具や手技の名前を忘れてしまうという、「紀昌」の境地までに到達する日を夢みております。

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急性冠症候群へのPCI、血管内超音波ガイド下vs.血管造影ガイド下/Lancet

 急性冠症候群患者に対する最新の薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)において、血管造影ガイド下と比較して血管内超音波ガイド下では、心臓死、標的血管心筋梗塞、臨床所見に基づく標的血管血行再建術の複合アウトカムの1年発生率が有意に良好であることが、中国・南京医科大学のXiaobo Li氏らが実施した「IVUS-ACS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年4月8日号に掲載された。4ヵ国58施設の無作為化臨床試験 IVUS-ACS試験は、4ヵ国(中国、イタリア、パキスタン、英国)の58施設で実施した無作為化臨床試験であり、2019年8月~2022年10月に患者の登録を行った(Chinese Society of Cardiologyなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上の急性冠症候群患者3,505例(年齢中央値62歳、男性73.7%、2型糖尿病31.5%)を登録し、血管内超音波ガイド下PCIを受ける群(1,753例)、血管造影ガイド下PCIを受ける群(1,752例)に無作為に割り付けた。1年間の追跡を完了したのは3,504例(>99.9%)であった。 主要エンドポイントは標的血管不全とし、無作為化から1年時点における心臓死、標的血管心筋梗塞、臨床所見に基づく標的血管血行再建術の複合の発生と定義した。心臓死には差がない、安全性のエンドポイントは同程度 主要エンドポイントの発生は、血管造影ガイド群が128例(7.3%)であったのに対し、血管内超音波ガイド群では70例(4.0%)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.41~0.74、p=0.0001)。 心臓死(血管内超音波ガイド群0.5% vs.血管造影ガイド群1.1%、HR:0.56[95%CI:0.24~1.29]、p=0.17)には有意差を認めなかったが、標的血管心筋梗塞(2.5% vs.3.8%、0.63[0.43~0.92]、p=0.018)と標的血管血行再建術(1.4% vs.3.2%、0.44[0.27~0.72]、p=0.0010)は血管内超音波ガイド群で有意に優れた。 1年の追跡期間中、安全性のエンドポイントの発生率は両群で同程度であった。ステント血栓症(definite、probable)(血管内超音波ガイド群0.6% vs.血管造影ガイド群0.9%、HR:0.82[95%CI:0.35~1.90]、p=0.64)、全死因死亡(0.8% vs.1.5%、0.64[0.32~1.27]、p=0.20)、大出血(0.9% vs.1.5%、0.57[0.30~1.08]、p=0.09)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。 著者は、「血管内超音波ガイドは安全であったが、手技の所要時間が長くなり、必要な造影剤がわずかに多かった。これは、早期および晩期における心臓の重大な有害事象のリスクが低いこととのトレードオフとしては許容範囲内であった」としている。

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薬剤溶出ステントPCIガイド、血管内画像vs.血管造影/Lancet

 薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)では、血管造影ガイドと比較して、血管内超音波法(IVUS)または光干渉断層法(OCT)を使用した血管内画像ガイドは、PCIの安全性と有効性の両方を改善し、死亡、心筋梗塞、再血行再建、ステント血栓症のリスクを軽減することが、米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学のGregg W. Stone氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年3月2日号に掲載された。22件のネットワークメタ解析 研究グループは、薬剤溶出性ステントを用いたPCIのガイドとしての血管内画像(IVUS、OCT、これら双方)と血管造影の性能を比較する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析のアップデートを行った(米国Abbottの助成を受けた)。 医学関連データベース(MEDLINE、Embase、Cochrane databases)を用いて2023年8月30日までに発表された研究を検索し、22件(1万5,964例)を特定した。これらの研究の追跡期間の加重平均は24.7ヵ月(範囲:6~60)だった。 主要エンドポイントは、標的病変不全(心臓死[または心血管死]、標的血管心筋梗塞[TV-MI、または標的病変心筋梗塞]、虚血による標的病変血行再建の複合)とした。複合エンドポイントの3項目とも有意に優れる 標的病変不全の発生に関して、血管造影ガイド下PCIと比較して血管内画像ガイド下PCIはリスクが有意に低かった(相対リスク[RR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.63~0.80、p<0.0001、19試験、1万3,030例)。 また、標的病変不全を構成する心臓死(RR:0.55、95%CI:0.41~0.75、p=0.0001、18試験、1万2,913例)、TV-MI(0.82、0.68~0.98、p=0.030、18試験、1万2,913例)、標的病変血行再建(0.72、0.60~0.86、p=0.0002、18試験、1万2,945例)のリスクのいずれもが、血管内画像ガイド下PCIで有意に良好だった。IVUSとOCTには差がない さらに、血管内画像ガイド下PCIは、ステント血栓症(definiteおよびprobable)(RR:0.52、95%CI:0.34~0.81、p=0.0036、19試験、1万3,030例)、全心筋梗塞(0.83、0.71~0.99、p=0.033、18試験、1万2,913例)、全死因死亡(0.75、0.60~0.93、p=0.0091、18試験、1万2,913例)についても、リスクが有意に低かった。 一方、IVUSとOCTの比較(5試験、3,324例)では、上記のいずれのアウトカムの発生率とも両群で同程度だった。 著者は、「今後は、費用償還の改善や臨床医の訓練の最適化など、血管内画像の日常的な使用の妨げとなる課題の克服に関心を移す必要がある」「どの患者、どのタイプの病変が血管内画像ガイドから最も恩恵を受けるかを知り、IVUSとOCTのアウトカムの微細な違いや、血管内画像ガイド下薬剤溶出ステント留置の最適な技術と実際の手順を確立するための研究が求められる」としている。

16.

欧州で行われた臨床研究の結果は、日本の臨床に当てはめることはできない?(解説:山地杏平氏)

 BIOSTEMI試験の5年生存追跡結果が、TCT 2023で発表され、Lancet誌に掲載されました。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)症例において、生分解性ポリマーを用いた超薄型シロリムス溶出性ステントであるOrsiroとエベロリムス溶出性ステントのXienceを比較した試験の追跡期間を5年に延長した試験になります。 第2世代の薬剤溶出性ステントであるXienceは、第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusと比較し有意に優れていることが多くの試験で示されてきました。その一方で、Xience以降に新たに発売された薬剤溶出性ステントは、Xienceに対して非劣性は示されてきたものの、優越性が示されたものはありませんでした。2014年にLancet誌で発表されたBIOSCIENCE試験でも、これまでの試験と同様に、OrsiroはXienceと比較して非劣性であることが示されましたが、そのサブグループであるSTEMI症例において、有意にOrsiroが優れていることが示唆されました。 この結果を受けて始められたのが、BIOSTEMI試験で、BIOSCIENCE試験と同じく、ベルン大学が中心となって行われた多施設共同の無作為化比較試験です。STEMI症例においては、BIOSCIENCE試験のサブグループ解析と同様に、Orsiroが心筋虚血に伴う再血行再建が有意に少なかったことが2019年にLancet誌で報告されています。そしてさらに今回報告されたのが、追跡期間を5年まで延長したものであり、その結果はきわめて穏当で、初期の差が維持され、とくに“late catch-up phenomenon”が見られず、遠隔期のイベントにおいても変化がないと報告されています。 スイスでは、IVUSやOCTといった冠動脈イメージングデバイスは、臨床研究以外ではほとんど用いられておらず、日本で行われている手技と比べ、やや控えめなサイズのデバイスが選択されることが多いように思います。そのような環境においては、STEMI症例を治療するのであれば、より薄い金属でできているOrsiroのほうが、Xienceと比較して優れていることは間違いなさそうです。一方で、冠動脈イメージングデバイスを用いて、積極的に後拡張を行う日本の手技では、OrsiroがXienceと比較して有意に優れているかはわからないように思いますし、BIOSTEMI試験の結果を受けて使用するステントが大きく変わることはないようにも思います。ただし、少なくともOrsiroはその他の第2世代の薬剤溶出性ステントと比較して、劣ってはいないことは間違いない事実であることは認識しておいてよいのではないでしょうか。 BIOSTEMI試験および、BIOSCIENCE試験はいずれも私が留学していたベルン大学が中心となって行われており、TCTでは本試験のprincipal investigatorであるThomas Pilgrim先生や、その上司であるStephan Windecker先生に久しぶりにお会いできました。Stephan Windecker先生を一躍有名にしたのが、2005年にNew England Journal of Medicine誌に報告された第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusを直接比較したSIRTAX試験です。以後も長期にわたってエビデンスを出し続けているベルン大学ですが、現在も日本からの留学生を受け入れてもらっています。われこそはと思われる方がおられましたら、ぜひベルン大学留学を考えてみてください!

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生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。 冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。その危険因子としては4大危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられるが、腎透析が独立した危険因子であることは付け加えておく必要があるだろう。 そのLEADの中でとくに下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染など肢切断リスクを持ち、早急な治療介入が必要な下肢動脈硬疾患がとくに「chronic limb-threatening ischemia :CLTI」と呼称され、「包括的高度慢性下肢虚血」と訳される。ガイドラインにもあるように速やかに血行再建術が施行される場合がほとんどであるため、その自然歴の報告は大変少ないものの、血行再建術が非適応ないし不成功だったCLTI患者の6ヵ月死亡率は、20%に上ることが報告されている。 今回の他施設共同研究では主要エンドポイントがスキャフォールド群で173例中135例、血管形成群で88例中48例となっているが、これは研究の対象患者が膝窩動脈疾患とはいってもCLTI例ばかりではなく、有症状ながらもそれほどの重症例ではないものも組み入れられていたためと考えられる。この結果は生体吸収型のステントにかなり有利なものになっているが、一方で批判的な見方も忘れてはならないと思う。 血管内治療に携わったことのある医師ならば、以前生体吸収型の冠動脈ステントがやはり今回のスポンサーであるアボットから発売されて一時話題になったが、血栓症のリスクが高いことが問題となり、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態になっていることをご存じだと思う。 一方足の血管において、とくに膝窩動脈の治療においてはステントが血管内に残留していることによる足の可動制限が大きな問題となる。膝窩動脈の治療は、下肢動脈の他の部位の治療とは違った見方がされる必要があるのである。さらに足の血管は冠動脈に比して血流が遅く、血管内の炎症が進行しやすいため、血栓症のリスクが高まると考えられている。その点生体吸収型ステントは、一定期間で分解・吸収されるため、血管内に留まる時間が短く血栓症のリスクを下げるばかりでなく、可動制限が一定期間で解消されるのではないかと期待が持たれている。 しかしその一方、生体吸収性ステントは、金属製ステントよりも血栓の発症そのものは起こりやすく、また金属ステントに比して厚みのある構造になっていることから、留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じ、これがさらに血栓症の危険を高めるのではないかとも危惧されている。 評者は今回の試みを評価するものではあるが、もうしばらくフォローアップ期間を置いて判断する必要があるのではないかと思う。また、重症例に絞った結果も知りたいところである。そして何といっても、外科的な治療との比較が行われることが重要なのではないかと考えるものである。評者は内科医であるから外科領域について軽々に言及することは控えなければならないが、あえていえば、最近末梢血管治療を手掛ける外科医(下肢の血管は血管外科医だけでなく形成外科でも一部手掛けられている)が、どんどん減少していること、それもあってか新しい術式の開発が積極的になされていないことが気になるところである。 なお、今回の研究は動脈硬化性狭窄を対象としているが、はっきり動脈瘤を形成している場合は、現在でも外科手術が第一選択であることは付け加えておかなければならないだろう。

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膝下動脈疾患によるCLTI、エベロリムス溶出BVS vs.血管形成術/NEJM

 膝下動脈疾患(infrapopliteal artery disease)に起因する包括的高度慢性下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia:CLTI)の患者の治療において、エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールド(Esprit BTK、Abbott Vascular製)は標準的な血管形成術と比較して、1年後の有効性に関する4つの項目(治療対象肢の足首より上部での切断など)の発生がない患者の割合が有意に優れ、6ヵ月後の主要下肢有害事象と周術期死亡は非劣性であることが、オーストラリア・Prince of Wales HospitalのRamon L. Varcoe氏らが実施した「LIFE-BTK試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年10月25日号に掲載された。6ヵ国の無作為化対照比較試験 LIFE-BTK試験は、6ヵ国50施設で実施した単盲検無作為化対照比較試験であり、2020年7月~2022年9月に参加者の適格性の評価を行った(Abbottの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、虚血性安静時疼痛(Rutherford-Becker分類4)または軽度の組織欠損(同分類5)がみられ、膝下動脈の狭窄または閉塞を有するCLTI患者とし、被験者を、エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールドの留置または血管形成術を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、1年後の次の4つの項目の非発生とした。(1)治療対象肢の足首より上部での切断、(2)標的血管の閉塞、(3)臨床所見に基づく標的病変の再血行再建、(4)標的病変のバイナリー再狭窄(血管造影で血管径の>50%の狭窄またはデュプレックス超音波検査で収縮期最大血流速度比[PSVR]≧2.0)。 安全性の主要エンドポイントは、6ヵ月時の主要下肢有害事象(治療対象肢の足首より上部での切断、主要再介入[新規の外科的バイパス移植術、グラフト置換術、血栓回収療法、血栓溶解療法)および周術期の死亡(初回処置から30日以内の全死因死亡)の非発生であった。重篤な有害事象の頻度は同程度 261例を登録し、スキャフォールド群に173例(179標的病変)、血管形成術群に88例(92標的病変)を割り付けた。全体の平均(±SD)年齢は72.6±10.1歳、32%が女性であった。Rutherford-Becker分類4(虚血性安静時疼痛)は135例(52%)、Rutherford-Becker分類5(軽度の組織欠損)は126例(48%)で認めた。治療対象肢の創傷は130例(50%)にみられ、平均(±SD)足関節上腕血圧比は0.88±0.32だった。 1年時の有効性の主要エンドポイント(イベントが発生しなかった患者)の達成患者は、血管形成術群が88例中48例(Kaplan-Meier法による推定割合44%)であったのに対し、スキャフォールド群は173例中135例(同74%)と有意に優れた(絶対群間差:30ポイント、95%信頼区間[CI]:15~46、優越性の片側p<0.001)。 1年後までに、スキャフォールド群では、治療対象肢の足首より上部での切断が4例、標的血管の閉塞が18例、臨床所見に基づく標的病変の再血行再建が11例、標的病変のバイナリー再狭窄が35例で発生した。 また、6ヵ月時の安全性の主要エンドポイント(イベントが発生しなかった患者)の達成患者は、血管形成術群が90例中90例(Kaplan-Meier法による推定割合100%)であったのに比べ、スキャフォールド群は170例中165例(同97%)であり、スキャフォールド群の血管形成術群に対する非劣性(非劣性マージン:-10ポイント)が示された(絶対群間差:-3ポイント、95%CI:-6~0、非劣性の片側p<0.001)。 6ヵ月後までに、スキャフォールド群では、主要下肢有害事象が3例、周術期の死亡が2例発生した。 1年後までに、創傷治癒は、スキャフォールド群が83例中37例(45%)で得られ、治癒までに要した平均(±SD)期間は196.7±130.1日であった。血管形成術群では、45例中25例(56%)で創傷治癒が得られ、治癒までの平均(±SD)期間は187.6±122.7日だった。また、初回処置に関連する重篤な有害事象は、スキャフォールド群が2%、血管形成術群は3%で発現した。 なお著者は、「当初、有効性の主要エンドポイントは4項目のうちの3つ(1~3)の非発生であった。これを副次エンドポイントとして解析したところ有意差を認めた(p=0.03)。これにバイナリー再狭窄を加えた4項目の非発生に関する主解析では、スキャフォールド群の有効性が増強した。この変更は登録期間中に行われ、担当医や試験の関係者は治療群の割り付け情報を知らされていなかった」としている。

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STEMI-PCIへの長期的有効性、BP-SES vs. DP-EES/Lancet

 初回経皮的冠動脈インターベンション(プライマリPCI)を受けるST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において、生分解性ポリマー・シロリムス溶出ステント(BP-SES)は耐久性ポリマー・エベロリムス溶出ステント(DP-EES)と比較して、5年の時点での標的病変不全の発生が少なく、この差の要因は虚血による標的病変の再血行再建のリスクがBP-SESで数値上は低いためであったことが、スイス・ジュネーブ大学病院のJuan F. Iglesias氏らが実施した「BIOSTEMI ES試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2023年10月25日号で報告された。スイスの無作為化試験の延長試験 BIOSTEMI ES試験は、STEMI患者に対するプライマリPCIにおけるBP-SES(Orsiro、Biotronik製)とDP-EES(Xience Prime/Xpedition、Abbott Vascular製)の有用性を比較した前向き単盲検無作為化優越性試験「BIOSTEMI試験」の、医師主導型延長試験である(Biotronikの助成を受けた)。BIOSTEMI試験では、2016年4月~2018年3月にスイスの10施設で患者の無作為化を行った。 BIOSTEMI試験の参加者のうちBIOSTEMI ES試験への参加の同意を得た患者を対象とした。 主要エンドポイントは、5年時点での標的病変不全(心臓死、標的血管の心筋梗塞再発、臨床所見に基づく標的病変の再血行再建の複合)であった。率比(RR)が1未満となるベイズ事後確率(BPP)が0.975より大きい場合に、DP-EES(対照)に対してBP-SESは優越性があると判定した。解析はITT集団で行った。全死因死亡やステント血栓症には差がない 1,300例(1,622病変)を登録し、BP-SES群に649例(816病変)、対照群に651例(806病変)を割り付けた。平均年齢は、BP-SES群が62.2(SD 11.8)歳、対照群が63.2(SD 11.8)歳で、それぞれ136例(21%)および174例(27%)が女性であり、73例(11%)および82例(13%)が糖尿病を有していた。 5年時点で、標的病変不全の発生は対照群が72例(11%)であったのに対し、BP-SES群は50例(8%)と少なく、優越性を認めた(群間差:-3%、RR:0.70、95%ベイズ信用区間[BCI]:0.51~0.95、BPP:0.988)。 5年時の標的病変不全の3つの項目の発生については、心臓死がBP-SES群5%、対照群6%(RR:0.81、95%BCI:0.54~1.23、BPP:0.839)、標的血管の心筋梗塞再発がそれぞれ2%および3%(0.76、0.41~1.34、0.833)、臨床所見に基づく標的病変の再血行再建が3%および5%(0.68、0.40~1.06、0.956)であり、5年時の主要エンドポイントの差は標的病変の再血行再建のリスクがBP-SES群で数値上低かったためであった。 また、5年時の標的血管不全(心臓死、標的血管の心筋梗塞再発、臨床所見に基づく標的血管の再血行再建)の発生は、対照群に比べBP-SES群で有意に低く(10% vs.13%、RR:0.74、95%BCI:0.55~0.97、BPP:0.984)、この差は臨床所見に基づく標的血管の再血行再建(4% vs.6%、0.59、0.34~0.98、0.979)のリスクがBP-SES群で有意に低かったことによるものであった。 5年時の全死因死亡(BPP:0.456)、ステント血栓症(definite)(0.933)、ステント血栓症(definiteまたはprobable)(0.887)、出血イベント(BARC type3~5)(0.477)の発生は、いずれも両群で同程度だった。 著者は、「新世代の生分解性ポリマー薬剤溶出ステントは、STEMI患者へのプライマリPCIにおいて、早期だけでなく長期的な臨床アウトカムの改善をもたらすことが明らかとなった」とまとめ、「本試験の結果は、BP-SESにはSTEMI患者におけるlate catch-up現象がないことを示している」としている。

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ハイリスク患者のPCI後のフォローアップ、定期心機能検査vs.標準ケア/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた高リスク患者において、PCI後1年時点で定期心機能検査を行うフォローアップ戦略は、標準ケアのみの場合と比較して、2年時点の臨床アウトカム改善に結び付かなかったことが、韓国・ソウルアサン病院のDuk-Woo Park氏らが1,706例を対象に行った無作為化試験の結果、示された。冠血行再建後のフォローアップ方法を特定するための無作為化試験のデータは限定的であり、今回検討したフォローアップ戦略については、明らかになっていなかった。NEJM誌2022年9月8日号掲載の報告。1,706例を対象に無作為化試験 研究グループは、PCIが成功した19歳以上で、虚血性または血栓性イベントのリスク増大と関連する、高リスクの冠動脈の解剖学的特性または臨床特性を1つ以上有する患者を適格とし試験を行った。 被験者を無作為に2群に割り付け、一方にはPCI後1年時に心機能検査(負荷核医学検査、運動負荷ECG、負荷心エコー)を行い、もう一方には標準ケアのみを行った。 主要アウトカムは、2年時点の全死因死亡、心筋梗塞または不安定狭心症による入院の複合であった。主な副次アウトカムには、侵襲的冠動脈造影および再血行再建術が含まれた。 2017年11月15日~2019年9月11日に、韓国11地点で合計2,153例が適格評価を受け1,706例が無作為化を受けた(定期心機能検査群849例、標準ケア群857例)。2年時点の主要複合アウトカム発生に有意差なし 両群のベースライン患者特性は均衡がとれ類似していた。被験者の平均年齢(±SD)は64.7±10.3歳、男性が79.5%を占め、21.0%が左主幹部病変を、43.5%が分岐部病変を、69.8%が多枝病変を、70.1%が病変長が長いびまん性病変(病変長30mm超またはステント長32mm超となる病変)を有し、38.7%が糖尿病を併存し、96.4%が薬剤溶出ステント治療を受けていた。 2年時点で、主要アウトカムの発生は、定期心機能検査群46/849例(Kaplan-Meier推定値5.5%)、標準ケア群51/857例(同6.0%)であった(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.61~1.35、p=0.62)。主要アウトカムを項目別にみても両群間で差は認められなかった。 2年時点で、侵襲的冠動脈造影を受けていた被験者の割合は定期心機能検査群12.3%、標準ケア群9.3%(群間差:2.99ポイント、95%CI:-0.01~5.99)、また再血行再建術を受けていた被験者の割合はそれぞれ8.1%、5.8%だった(2.23ポイント、-0.22~4.68)。

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