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泣かないと決めた日【フレネミー(操作性)】 

「裏切られた!」みなさんは、友達だと思っていた人に、「裏切られた!」と思ったことはありませんか?そして、残念で悔しくて、怒りがこみ上げてきたことはありませんか?昔から、そういう偽りの友達はいました。そういう人たちは、最近ではフレネミーと呼ばれています。これは、フレンド(友達)とエナミー(敵)を重ね合わせた英語の造語から来ています。今回は、このフレネミーをテーマに、2010年のテレビドラマ「泣かないと決めた日」を取り上げます。主人公は、新入社員として夢と希望に胸を膨らませて、憧れの大企業に入社します。ところが、その職場では、理不尽ないじめが彼女を待ち構えていました。さらに追い打ちをかけたのは、最初に助けてくれていた同期の友達の裏切りです。次々と可哀想すぎるシーンが続き、見ている私たちまでも辛くなります。しかし、彼女は最初にくじけそうになりましたが、やがて持ち前の強さで這い上がります。そして、彼女が職場の雰囲気を変えていくのです。このドラマでは、様々な人の心の動きが描かれています。そして、根本的な疑問が湧いてきます。それは、「なぜ人は信じるのか?」、そして「なぜ人は裏切るのか?」です。これから、これらの心理を、新しい科学の分野である進化心理学の視点から解き明かします。そして、私たちはフレネミーからどう身を守ればよいのかをいっしょに考えていきましょう。助ける心理―協力(利他性)主人公の美樹は、入社式から同期の万里香と仲良しになり、信頼します。同じ携帯のストラップを見せ合い、友情を確認し合います。同じ境遇を分かり合い、助け合おうとしています。実際に、その後、美樹が同僚からの嫌がらせで残業を押し付けられた時は、万里香は同情し手伝ってくれていました。私たちは、このような助け合いの精神を当たり前のことだと思っています。しかし、そもそもこのような助ける心理(利他性)は、なぜ沸いてくるのでしょうか?1つは、私たちは子どもの頃からそう教えられてきたという文化の要素があげられます(環境因子)。もう1つは、私たちはそういうふうに振る舞うように遺伝子にプログラムされている、つまり心の進化の要素です(個体因子)。ヒトは、700万年前にチンパンジーと共通の祖先と別れて進化してきました。そして、3、400万年前にアフリカの森から草原へ出て、その後に100人くらいの閉鎖的な集団をそれぞれ作り、長期間、協力して生き延びてきました。つながろうと強く思う種の多い共同体が子孫を残してきたわけです。つまり、ヒトの心の進化の最大の特徴は、つながりの心理(社会性)です。ここから、さらに様々な心理が芽生え、つながるための動機付けが起こりました(表1)。例えば、「好き」という好意や「かわいそうに」という同情は、助ける心理を動機付けます。「ありがとう」という感謝は、その言葉を伝えることや実際のお返しを動機づけます。だからこそ、つながりの心理が、理性的な単なる損得勘定だけではなく、情緒的なつながりの強さをもとにしていると私たちが実感できるのです。こうして、助け合い、伝え合い、文化や文明を進歩させてもきたのでした。そして、現在まで、この心理は、私たちが普遍的に直感する正しさとしての道徳心(モラル)や倫理観の土台になっています。表1 様々な心理とつながりの動機付け心理動機付け好意(友情)「好き」助ける(協力)同情「かわいそうに」感謝「ありがとう」お返し、恩返し(協力)裏切り「いただき」騙し(非協力)噂好き「あの人どう?」裏切りのあぶり出しや抑止自尊心「よく思われたい」「なめんなよ」協力のアピール裏切り(非協力)の否定騙しの心理―非協力、裏切り(1)フレネミー(偽りの友達)とは?その後、美樹が職場の嫌がらせにけなげに耐えている中、万里香は、裏で変わってしまいます。その理由は、万里香は、美樹が付き合い始めた他の部署の男性社員に目を付けたのです。その男性が載っている社内誌を見ながら浮かべる彼女の笑みが不気味です。そして、恋敵をつぶすために手段を選びません。裏で美樹を貶(おとし)めようと、同僚たちに巧みな悪口を吹き込みます。美樹のニセブログを立ち上げて、美樹になりすまし、同僚の悪口を次々と掲載します。一方、企てがばれそうになると、良いタイミングで、「間違い」を打ち明け、徹底的に無邪気な良い人を演じます。自分に思い通りになるように周りを動かすその立ち振る舞いは実に見事です。この万里香のような行動パターンを取る人は、特に女性に多いのですが、昔から「魔性の女」「悪女」と呼ばれていました。最近では、より的確なワードとして、フレネミーと呼ばれることが増えてきています。表面的には仲良しの友達を装いつつ(演技性)、裏では周りを操作します(操作性)。(2)なぜフレネミーになるのか?1.生い立ち(環境因子)どうして、このような人が昔からいるのでしょうか?2つの要素が考えられます。1つは、ドラマでも少し触れられていますが、万里香の生い立ちです(環境因子)。彼女は、裕福な家庭の一人娘として大事に育てられました。際立って恵まれています。そこで余計に育まれてしまったものは、自分が有利であることへの敏感さ(優越感)です。「今まで欲しいものは全部、手に入れてきたの」という彼女のセリフが全てを物語っています。一方、際立って恵まれなかった人が育むものは、自分が不利であることへの敏感さ(劣等感)ですが、この2人には共通する価値観があります。それは、自分が有利か不利か、つまり大切にされているかどうかに敏感になる点です(自己愛)。そこから、「自分は特別である」「だから裏技(不正)を使っても良い」という発想に陥りやすくなります。つまり、生い立ち(生育環境)が際立って恵まれていたり、逆に際立って恵まれていない場合、つまり生育環境の偏りがある場合は、フレネミーのリスクが高まるということが分かります。2.ただ乗り遺伝子(個体因子)もう1つは、「ただ乗り遺伝子」です(個体因子)。この遺伝子は、みんながお金を払って乗り物に乗っているのに、1人だけただで乗ろうとするような心理を駆り立てます。つまり、騙しの心理、裏切りです。私たちは、助ける心理を進化させる中で、実は、この困った心理も進化させてしまったのです。みんなが信頼し合い、助け合いのルールを守り、公平(公正)を保っている中で、1人だけ抜け駆けして、食料や繁殖のパートナーなどの資源を横取りする種が、「生きるか死ぬか」の過酷な生存競争の中で、生き残ったからでした。進化の本来の姿は、競争です。私たちの祖先は、信頼による協力と騙しによる競争の心理を器用に使い分けて、バランスを取りながら進化してきたのでした。つまり、私たちの心の中には、信頼の心と同時に、常に裏切りの心が潜んでいるわけです。美樹の恋人を寝取った万里香は言います。「私、謝らないから」「恋愛にルールなんてないもの」と。実際に、世の中で振り込め詐欺などの騙しの犯罪はなくなりません。この騙しの心は、つながりの心を進化させてしまった代償と言えるかもしれません。噂好きの心理―裏切り者のあぶり出し万里香は、食堂で、美樹の同僚たちのテーブルにあえて座り、さり気なく漏らします。「寿退社するまでは、(いじめを上層部に言い付けるのを)我慢するって言ってました」と。この言葉に、美樹に対しておもしろく思っていない同僚たちは食い付きます。このように、私たちは、噂、特に葛藤を抱えている集団のメンバーについての噂に敏感です。そう私たちを駆り立てるのは、何なのでしょうか?進化論的には、噂好きの心理の役割は、他人とつながる際のリスクである騙し、つまり裏切りをあぶり出すことです。このあぶり出しにより、次の裏切りによる被害を未然に防ぐことができますし、さらには裏切りに対しての抑止も働きます。噂は、20万年前に言葉を話すようになった私たちの祖先(ホモ・サピエンス)の時代から、表情を読み取ることと並んで、裏切りの有力な判断材料であったと言えます。かつては、共同体のあるメンバーの裏切りが成功したら、残りのメンバーたちの生存が脅かされる状況があったのでしょう。だからこそ、現代の私たちは良い噂よりも悪い噂に敏感で、例えば事件、ゴシップ、ワイドショーが大好きになってしまったと言えそうです。さらに、噂は、単にその時の共同体の間だけでなく、世代を超えて続くこともありました。もはやその噂は、語り継ぎ(物語)や言い伝え(伝説、神話、宗教)として、共通の意識を持つことでもあり、共同体への帰属意識を高める役割も果たしています。また、同時に、それは、共通の生きる知識や知恵(文化)として、共同体の生存の確率を高める役割も果たしていたでしょう。この噂から語り継ぎや言い伝えを好む遺伝子を持つ種の末裔は私たちです。だからこそ、私たちは、映画、ドラマ、小説などのストーリーを好むのでしょう。自尊心―裏切り者だと思われたくない万里香が成りすました美樹のブログには、同僚たちの悪口がこれでもかと書き込まれていました。それを発見した同僚たちは、美樹に激怒します。一方、美樹は、正体不明の犯人の悪意に、もはや怒りを通り越して打ちひしがれます。このように、私たちは、他人の噂以上に、自分の噂にとても敏感です。都合の悪い自分の噂、ましてや自分が裏切り者に仕立て上げられるデマなどには、怒りがこみ上げ、傷付きます。このように揺さ振られる心の動きは何なのでしょうか?それは自尊心(誇り、プライド)です。自尊心は、自らを尊ぶ心、つまり自分を大切にする気持ちです。これは、集団の中で期待に応えたい、そしてより良い評価を得たいという欲求(承認欲求)に支えられています。よって、この大きさの物差しになるのは、周りからの評判です。つまり、私たちの自尊心は、噂を含む評判によって、揺れ動いていると言えます。だからこそ、私たちは裏切り者だと思われることが最も苦痛なのです。原始の時代、集団での狩りの際、道具を作る役、追い立てる役、仕留める役などそれぞれの役割がありました。そのどの役割が自分にできるか主張することこそが、自尊心の源です。そして、この自尊心は、「認められたい」「よく思われたい」という心理から「軽くみられたくない」「なめんなよ」という心理に置き換えられます。これは、威嚇や牽制としての怒りでもあります(ディスプレイ)。このように、言われっぱなしで好き勝手にさせない、そして、はめられないようにする心の働き、つまり自尊心を持つ種が生き延びました。私たちにとって、自尊心は、集団に貢献するだけでなく、裏切り者に仕立て上げられないためにもなくてはならない心理と言えます。フレネミーから身を守るには?万里香のようなフレネミーは、集団に潜んでいます。そして、同時に、実は、フレネミーの心は、私たちのそれぞれの心の中にも潜んでいます。知らずに、フレネミーに振り回され、そして、うっかり自分が噂を流してしまいフレネミーのように振り回しているかもしれません。大事なことは、フレネミーの特徴と接し方を具体的によく知っておくことです。(1)フレネミーの特徴まず、万里香が神出鬼没であったように、フレネミーは、情報収集の能力が高く、常に嗅ぎ回り、詮索好きです。そして、フレネミーの口癖は、それほど近い間柄ではないのに連発するワード、「ここだけの話」です。これは、親密さを装うワードで(演技性)、要注意です。なぜなら、実際には「ここ」だけの話ではないからです。そして続く言葉は、「師長(リーダー)が、あなたのこと、むかつくって言ってたよ」です。あなたが知りたくないことをあえて伝えてくるのです(操作性)。聞いたあなたとしては、心を揺さ振られます。(2)フレネミーへの接し方ここでまず大事なことは、まず、この「伝言ゲーム」の罠、つまりフレネミーの意図に気付くことです。「なぜこの人はそれほど親しくないのに、私の悪い噂をあえて伝えに来たのだろうか?」と疑うことで、フレネミーであることが特定できます。そして、他人に関してでもあなたに関してでも、それほど親しくないのに悪口を言う人には手の内を見せないことです。間違っても、「教えてくれてありがとう」と感謝しないことです。ましてや、フレネミーに師長への不満をぶちまけないことです。これでは、フレネミーの思うつぼになってしまいます。安全なかわし方としては、「ええ、そうなの?」と話は聞きつつ、「私、鈍くて分からない」と言います。また、可能な限り、1対1にならないことです。あやしいと思ったら、複数で対応することが得策です。また、日々の心掛けとして、フレネミーには、噂話だけでなく自慢話もしないことです。当たり障りのない話だけにとどめ、心の間合いを取ることです(心理的距離)。特に、自慢話は、フレネミーの最も勘に触ることです。自慢話は、味付けを変えれば、いとも簡単に悪い噂に化けてしまいます。つまり、噂や自慢はそれ自体は楽しいのですが、その話をする時は、相手を慎重に選ぶ必要があります。ドラマの後半、噂を利用した万里香の悪事は、繰り返されるうちに、逆にその噂によってばれていきます。結局、繰り返す不正はやがて明るみになるものです。こうして、彼女は、職場に居づらくなってしまったのでした。このように、フレネミーは、程度にもよりますが、時間が経てば、やがていなくなることが分かります。なぜなら、噂の本来の役目である不正(裏切り者)のあぶり出しは常に働いているからです。私たち日本人は、トラブルで目立つことは迷惑になり恥ずかしいと思いがちです。しかし、万里香の悪事から学ぶことは、職場でフレネミーとトラブルが起きた時は、客観的な事実をオープンにする、つまり泣き寝入りしないことです。少なくとも、管理者に報告することです。また、注意点は、主観的な感情まではオープンにしないことです。なぜなら、そうすると自分もフレネミーになってしまうリスクがあるからです。こうすることで、フレネミーのあぶり出しや抑止がより有効になっていきます。表2 フレネミーの特徴と接し方特徴常に嗅ぎ回り、詮索好き親密さを装う(演技性)知りたくないことをあえて伝えてくる(操作性)接し方意図に気付く手の内をみせない複数で対応する噂話や自慢話はしないトラブル時は、客観的な事実をオープンにするまとめ原始の時代、私たちの祖先は、明日の食糧の確保に不安を抱えながらも、助け合い、そして裏切りを牽制し、たいした情報のない中、生きるか死ぬかの過酷な環境を生き抜いてきました。それに比べると、現代の社会は、法律によって権利が守られ、衣食住が満たされ、情報もオープンで確かなものになってきています。原始の時代の心を引き継いでいる現代の私たちの心は、時に万里香のような心になってしまうことがあります。つまり、裏切りの心は、助ける心と同じくらい人間の本質的なものだということです。この心の働きに気付き、見つめ直すことで、私たちの中に潜むこの操作性の心をコントロールし、乗り越えていくことができるのではないでしょうか。1)北村英哉・大坪康介:進化と感情から解き明かす社会心理学、有斐閣アルマ、20122)長谷川寿一・長谷川眞理子:進化と人間行動、東京大学出版会、20003)ロビン・ダンバー:友達の数は何人?、インターシフト、2011

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小児てんかん患者、最大の死因は?

 米国・ルリー小児病院(シカゴ)のAnne T. Berg氏らは、小児てんかん患者の死因とリスクについて検討を行った。その結果、神経障害または脳の基礎疾患を有するてんかんの場合は一般人口に比べて死亡率が有意に高いこと、発作関連の死亡よりも、むしろ肺炎または他の呼吸器疾患による死亡のほうが多いことを報告した。Pediatrics誌オンライン版2013年6月10日号の掲載報告。 本研究は、小児てんかん患者の死因とリスク(とくに発作関連)の推定、および発作関連の死亡とその他の主な死因による死亡リスクを比較することを目的とした。新規にてんかんと診断された小児患者4コホートにおける死亡実績を統合した。死亡原因を、発作関連(突然の予期しない死亡:SUDEP)、自然要因、非自然的要因、不明に分けて検討した。また、神経障害または脳の基礎疾患を有する場合を「合併症・基礎疾患あり」とした。 主な結果は以下のとおり。・被験者2,239例について、3万例を超える観察人年において、死亡は79例であった。なお、致死的な神経代謝疾患のある10例は最終的に除外した。・全死因死亡率は、10万人年当たりの228例であった(合併症・基礎疾患あり:743例、なし:36例)。・発作関連の死亡は、13例(SUDEP:10例、その他:3例)で、全死亡の19%であった。・発作関連死亡率は、10万人年当たり43例であった(合併症・基礎疾患あり:122例、なし:14例)。・自然要因による死亡率は、10万人年当たり159例であった(合併症・基礎疾患あり:561例、なし:9例)。・自然要因による死亡48例中37例は、肺炎または他の呼吸器疾患によるものであった。・若年のてんかん患者において、発作関連が最大の死因ではないことが示された。・合併症・基礎疾患のある小児てんかん患者の死亡率は、一般人口に比べ有意に高かった。・SUDEPの割合は、乳幼児突然死症候群と同程度またはそれ以上であった。・合併症・基礎疾患のない若年性てんかん患者におけるSUDEPの割合は、事故、自殺、殺人などその他の原因の場合と同程度またはそれ以上であった。・今回得られた知見を踏まえて著者は、「てんかんの死亡リスクが、ありふれたリスクであるということは、患者や家族とのてんかん発作関連の死亡に関する話し合いを容易なものとするだろう」と述べている。関連医療ニュース てんかん患者の頭痛、その危険因子は?:山梨大学 自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か? 抗てんかん薬によりADHD児の行動が改善:山梨大学

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ガリレオ【システム化、共感性】 

ドラマ「ガリレオ」みなさんは、「なんであの人は気遣いができないの?」と思ったことはありませんか?特に、医療の現場では気遣いが求められる状況が多くあります。気遣いがうまくできていないスタッフを、どう考えたらよいのでしょうか?そして、どうしたらよいのでしょうか?これらの疑問を、今回、2007年と今年に放送されたドラマ「ガリレオ」の主人公をモデルに、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。システム化―パターンを見つける能力主人公の湯川先生は、大学の准教授で、世間から天才物理学者と呼ばれています。彼の口癖は「実におもしろい」「実に興味深い」「さっぱり分からない」で、好奇心の赴くままに突き進みます。そんな彼を衝き動かしている信念は、「全ての事象には必ず理由がある」です。これは、「~すれば・・・になる」という原因と結果のパターン(因果関係)を探り出そうとする衝動でもあります。このような心の働きは、システム化と呼ばれています。知的レベルによって、同じ動きを好む傾向(常同症、こだわり)から、法則や普遍性を見いだす能力(論理的思考)までと幅広くあります。そして、話し方はとても理屈っぽくなります。共感性―気遣いする能力その一方、湯川先生は言動があまりにも風変わりで、彼の同期や研究室の学生たちから「変人ガリレオ」と呼ばれています。彼は、初対面でいきなり女性で新人の内海刑事の顔を覗き込み、まるで実験対象を見るような目つきで「知らない顔だ」とつぶやきます。人としての配慮のかけらもなく、大変に失礼です。その後も湯川先生は、毎回、内海刑事を振り回し、何度も怒らせています。そんな内海刑事は、喜怒哀楽の表情が豊かです。そして、事件当事者に感情移入しやすいです。対照的に、湯川先生はいつも無表情で無感情です。事件に協力しますが、犯行の実証性(=システム化)だけに興味があり、犯人の特定や犯人の動機には一切興味を持ちません。さらに、彼は子ども嫌いです。実際に、子どもと見つめ合ってじんましんが出るというシーンもありました。子ども嫌いの理由は、「子どもは非論理的だ」からです。そして、彼は「(非論理的であるため)人間の感情に興味はない」と断言します。確かに、人、特に子どもの感情は、微妙に揺れ動くため、法則通りにならず、簡単に予測できません。しかし、わたしたちは、その時その時の微妙な顔の表情や声のトーンから、自然に相手の気持ちを察しています。同情して、場合によってはもらい泣きをすることもあります。このように、表情やしぐさから直感的に相手の気持ちになれる心の働きは、共感性と呼ばれています。共感性は気遣いをする1つの能力とも言えます。ちょうど、先ほどのシステム化の能力や、その他の語学力(言語能力)、運動能力、絵画の能力、音楽の能力などと同じです。そして、共感性にも、高い人や低い人の個人差があることが分かります。湯川先生は共感性がとても低いようです。社会性―人とうまくやっていく能力湯川先生は、「学者は世の中の役に立ちなさい」という高圧的な女性の岸谷刑事の「説教」に対して、「僕は僕の興味の惹くものに対してのみ興味を持つ」と言い放ちます。このこだわりも、彼のシステム化の心の働きから来ています。「世の中の役に立つ」「人のために何かする」などのつながりの心理や、人とうまくやっていく能力は、社会性と呼ばれます。人が集団で生きていくためにとても必要な心の働きであり能力です。この能力は、主にシステム化の能力と共感性の能力から成り立ちます。共感性の低い湯川先生は、この社会性がとても危ういのです。しかし、彼は社会性が保たれています。その大きな理由を、2つあげてみましょう。(1)高いシステム化―低い共感性をカバーする1つ目は、高いシステム化の能力で、低い共感性をカバーしていることです。よくよく彼の言動を追うと、最低限の共感的な接し方を実践しているのです。例えば、内海刑事の「悲惨」な身の上話に同情する態度を示したり、彼女が落ち込んでいる時は、気遣いの言葉も投げかけます。事件の犯人やその動機には興味がないと言いつつも、犯人の心理をよく理解しています。厳密には、共感性は、狭い意味での共感性(=感情的要素)とシステム化の心の働きも借りた広い意味での共感性(=感情的要素+認知的要素)があります。湯川先生の共感的な接し方は、感情というよりは理屈(認知、システム化)で考えてやっていると言えます(マインドリーディング)。彼は、共感性をシステム化の心の働きでカバーしていたのです。(2)共感性のある周り―理解とサポート2つ目は、共感性のある周りの理解とサポートです。湯川先生は、栗林助手を始めとする周りの理解者に恵まれています。だからこそ彼には居場所があり、研究も思う存分にできるのです。また、彼に捜査協力をお願いする刑事たちは、彼が食い付く「ありえない」というキーワードを出して、興味を持たせようとしています。こうして、湯川先生は、物理学の研究だけでなく、警察の捜査協力までしています。彼は、自分の興味で突き進んでいる割に、結果的に、世の中の役に立ち、社会性は保たれているのです。反社会性―人を傷付けても何とも思わない湯川先生と同業のある若き研究者が登場します。なんと彼は、自分の実験のために密かに殺人を繰り返していたのです。彼は、実験のために、人を殺めても何とも思いません。とても共感性が低いことが分かります。湯川先生は、犯行のトリック解明に挑み、この若き研究者と対決します。湯川先生もこの若き研究者も、システム化が高く共感性が乏しい点では似ているのですが、決定的に違うことがあります。それは、モラルです。若き研究者が湯川先生にあきれるシーンがあります。「湯川先生がモラルに縛られるなんてがっかりですね」と。この若き研究者には、モラルが全くないのでした。モラルとは、共感性を下地にしていますが(個体因子)、その上にはやはり子どもの頃から教わる「みんなと仲良くする」「ルールを守る」という価値観から生まれるものです(環境因子)。この価値観が育まれていないと、人とうまくやっていく気がない心理から、人を傷付けても何とも思わない心理へと暴走していきます(反社会性パーソナリティ障害、サイコパス)。湯川先生は、最低限のマナーや彼なりのモラル(倫理観)を、システム化の心の働きによってよく理解し、実践しています。コミュニケーションのコツ―表1もし湯川先生が、あなたの職場で仕事をするとしたら何が起きるでしょうか?どうしたらよいでしょうか?彼のようにシステム化が高く共感性が低い人は、実際に私たちの職場にもいます。私たちは、湯川先生のキャラクターをじっくり見ることで、この気遣いがうまくできていない人へのコミュニケーションのコツを導き出すことができます。それは、大きく3つあります。(1)客観化―問題点を具体的に目に見える形にする1つ目は、問題点を具体的に目に見える形に示すことです(客観化)。共感性がお互いに高ければ、そんなに言葉にしなくても、「空気」を読んで分かり合えます。ところが、共感性が低い人には、何が問題なのかをなるべく具体的な言葉にして細かく指摘することが必要です。例えば、あなたが湯川先生に「患者さんには丁寧に接するように」と指導したとしても、「丁寧」の中身が伝わりにくいのです。この場合は、「あの時、あの場所で、あの患者に対して、あのように接したのは、こういう理由でだめです」「次からはこういう時は、こうしましょう」と言います。さらに、文字や絵・イラストにして渡すのも効果的です。仰々しいように見えるかもしれませんが、目に見える形にすること(視覚化)は、システム化の心の働きを大いに刺激します。ドラマでも、湯川先生は、閃いた時は、数式を書き出し、目に見える形にしています。視覚に訴えるのが大事なのです。(2)構造化―枠組みを作る2つ目は、枠組みを作ることです(構造化)。これは、すでに湯川先生がある程度実践していることでした。共感性の低さから、暗黙の了解や常識に気付きにくいので、システム化の心の働きを借りて、問題が起こる前にあらかじめ細かい具体的な指示を出し、パターン認識やパターン学習をさせることです。例えば、あなたが湯川先生に指示することの1つとして、目の前で患者さんが泣き出した時は、不思議がって顔を覗き込むのではなく、そっとハンカチやティッシュを渡し、見守るという行動のパターンです。これらのパターンをたくさん蓄積し、引き出しを持っていれば、ある程度のコミュニケーションはスムーズに行うことができるようになります。(3)限界設定―限界を示す3つ目は、限界を示すことです(限界設定)。湯川先生なら、高いシステム化の能力で、共感性をカバーしつつ、病棟業務を行うことができるでしょう。しかし、私たちの身近にいる気遣いができない人は、彼ほどシステム化の能力が高くないかもしれません。また、わがまま、思い上がり、ひねくれなどの性格(パーソナリティ)の問題が重なっている場合もありえます。その場合は、やるべきこと(到達目標)をはっきりさせて(客観化)、試験的な期間(1年以内)を経て、それでもうまく行かない場合はその職場には向いていないことを、本人も職場の上司も納得する形に持っていくことです。また、周りのサポートも大事ですが、どこまで助けるかの線引きもあらかじめ決めておくことです(限界設定)。もちろん、その人を職場が抱え込むことを皆が良しとするなら、それは職場組織の1つのあり方(企業文化)です。しかし、情にほだされたり、とにかく何とかしなければという義務感からの上司の個人的な抱え込みは、本人も上司もお互いを不幸にしてしまうと言えます。例客観化何が問題なのかをなるべく具体的な言葉にして細かく指摘する文字や絵・イラストにして渡す構造化パターン認識やパターン学習をさせる行動パターンの蓄積をさせる構造化試験的な期間の期限を設けるどこまで助けるかの線引きもあらかじめ決めておくジョブマッチング―何に向いている?―表2それでは、気遣いがうまくいかない人、つまりシステム化が高くて共感性が低い人に向いている職種は、具体的に何があるのでしょうか?一般職については、まさに、湯川先生が携わっている研究職(専門職)です。研究は、システム化が発揮できて、共感性はあまり求められません。また、私たちが携わっている医療職については、システム化も共感性も両方必要ですが、科によってそのバランスは変わってきます。このように、その人その人の向き不向き(適性)を見極めていく必要があります(ジョブマッチング)。システム化が強い共感性が高いモデル湯川先生男性に多い内海刑事、栗林助手女性に多い特徴こだわり(職人気質)対物的気回し(商人気質)対人的例一般職専門職(研究者、学者)、製造業、事務職サービス業(営業、接客、窓口)医療職急性疾患、救命救急、手術室慢性疾患、精神疾患、リハビリテーション性差―原始の時代は?男性はシステム化が高く共感性が低い傾向があり、女性はシステム化が低く共感性が高い傾向にあります。もちろん、男性でも共感的な人はいますし、女性でもシステム化的な人はいます。これはあくまで傾向です。この性差はなぜあるのでしょうか?答えは、進化心理学的に考えることができます。それは、原始の時代から男女で性役割がはっきりしていたことです。(1)男性―システム化―自閉症スペクトラム男性は、狩猟のための追跡や自然環境を通してパターンを見つけ出し、より多くの獲物を捕まえ、住まいを居心地良くするシステム化の能力が進化していきました。そこから、外界を支配したいという闘争的で攻撃的な心理も進化したようです。その分、共感性は女性ほど進化しませんでした。さらに、システム化が高く共感性が低いこの遺伝子が、日常生活で支障を来たすほどに際立って発現する場合があります。それが、自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)です。最近の研究では、胎児期の男性ホルモン(テストステロン)の過剰分泌が、原因として指摘されています。湯川先生は、大学准教授として、社会生活をむしろ華麗に送っています。医療機関にかかるような障害のレベルには至っていませんが、「障害」が付かない「自閉症スペクトラム」に入っている可能性は高いです。(2)女性―共感性―共依存、情緒不安定一方、女性は家にいて、子育てや近所付き合いなどを通して、人間関係をスムーズにする共感性の能力が進化しました。そこから、母性、感受性も進化したようです。その分、システム化は男性ほど進化しませんでした。さらに、システム化が低く共感性が高いこの遺伝子が、日常生活で支障を来たすほどに際立って発現する場合があります。特に、幼少期の家族関係が不安定であったなど、偏った生い立ちによる刺激(環境因子)が加わった場合です。女の子の方が男の子よりも、人間関係の不安定さにより敏感なため、より研ぎ澄まされていきます。それが共依存や情緒不安定などの性格(パーソナリティ)の問題です。共感とは、相手の気持ちになることですが、そこからすぐに相手の言うことに揺さ振られ感化されてしまったり(同調、感応)、感情的に流されやすくなったり(依存)、自分のことのように一生懸命になって心理的な距離が保てなくなったりするなど(共依存)、抱え込みや巻き込みの問題をはらんでいます。また、感受性の豊かさは、裏を返せば、情緒の不安定さでもあります(情緒不安定)。よって、高すぎる共感性も、システム化である程度カバーする必要があります。例えば、「これ以上はやりすぎ」「これ以上は近付きすぎ」という限界設定です。「水を得た魚」―その「水」とは?もちろん、みなさんは、システム化も共感性も両方とも高ければ良いと思うでしょう。しかし、どうやら人間の脳はそう簡単に欲張ることをさせてくれないようです。それは、人間の頭がい骨の大きさによって、脳の容量の限界がすでに決まっているからです。そして、そのために人間の能力自体にもトータルでは限界があるからです。人間の個性は様々です。まれに勉強もスポーツも両方とも際立って優れている人もいますが、たいていはどちらかが得意でどちらかが苦手なものです。これと同じように、システム化が高い人は共感性が低く(マインド・ブラインド)、共感性が高い人はシステム化が低いようです(システム・ブラインド)。能力を足したら一定なわけですから、あとは一方が高ければもう一方が低くなるという理屈です(ゼロサム説)。ドラマに登場する栗林助手は、共感性が高いためかシステム化はさっぱりのようで、研究者としてのうだつが上がらないようです。システム化と共感性のバランスがとれている人は、管理職などの集団のリーダーに向いているでしょう。部下たちの心を読みつつ(=共感性)、こうあるべきというビジョン(=システム化)を示し、帳尻を合わせるバランス感覚が必要だからです。そして、まれにシステム化と共感性が両方とも高い人がいます。そのような人は人の話をよく聞きそして話がうまいので、きっとカリスマ性のあるリーダーになるでしょう。大事なのは、本人が自分の良さ(適性)、つまりシステム化や共感性の能力がどれくらいあるのかを知り、自分の能力をなるべく発揮できる職種、つまり「水を得た魚」のその「水」を見つけることです。そして、周りはその見極めや方向付けをしてあげることであると言えるのではないでしょうか。1)サイモン・バロン=コーエン:共感する女脳、システム化する男脳、NHK出版、20052)北村英哉・大坪康介:進化と感情から解き明かす社会心理学、有斐閣アルマ、2012

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抗てんかん薬によりADHD児の行動が改善:山梨大学

 抗てんかん薬治療による脳波(EEG)改善と、注意欠陥多動性障害(ADHD)児における行動改善が高い関連を示す可能性が、山梨大学小児科助教の金村 英秋氏らによる検討の結果、報告された。ADHD児46例を対象とした検討で、34.8%にEEGの突発性異常(PA)が認められたが、そのうち62.5%がバルプロ酸ナトリウム治療後にEEGの改善を示し、前頭部PAの頻度とADHD評価スケール改善との間に高い関連性があったという。Epilepsy & Behavior誌オンライン版2013年4月17日号の掲載報告。 研究グループは、ADHDとPAの両方を有する小児における神経心理学的障害と突発性EEG異常、バルプロ酸ナトリウムによる治療との関連を調べることを目的とした。神経心理学的障害は、機能の全体的評価(GAF)とADHD評価スケール(ADHD-RS)を用いて行われた。PAについてはスパイク発生頻度を測定してスコア化された。被験者は、ADHDを有するが明らかなてんかんはみられなかった小児で、2003年4月1日~2008年3月31日の間に集められた46例を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・小児の被験者46例のうち、16例でPAが認められた。そのうち3例はEEGのフォローアップが不可能となり除外された。・前頭部PAを有した8例のうち5例で、またローランド領域でPAを有した5例のうち3例で、バルプロ酸ナトリウム治療後にEEGが改善した。・両方の評価で改善を示した患者のうち、83.3%が前頭部PAを有していた患者であった一方、ローランド領域PAを有していた患者では16.7%のみであった。・前頭部PAを有していた患者はローランド領域PAを有していた患者と比べて、PA頻度とADHD-RSの改善に有意に高い関連がみられた。・ADHD患児に関する本検討において、抗てんかん薬治療によるEEG改善は、ADHD-RSおよびGAFスコアによって示される行動改善と高い関連がみられた。・しかし、本検討は住民ベースの研究ではなく、ADHDにPAを検出し治療することの相対的重要度については未検討のままである。関連医療ニュース ・自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か? ・ADHDに対するメチルフェニデートの評価は? ・双極性障害とADHDは密接に関連

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妊娠中のバルプロ酸使用、子どもの自閉症リスクが増大/JAMA

 妊娠中の母親が抗てんかん薬バルプロ酸(商品名:デパケンほか)を使用すると、子どもの自閉症スペクトラム障害および小児自閉症のリスクが上昇することが、デンマークAarhus大学病院のJakob Christensen氏らの検討で明らかとなった。妊娠中の抗てんかん薬の使用により子どもの先天性奇形や認知発達遅滞のリスクが上昇することが示されているが、他の重篤な神経心理学的異常のリスクについてはほとんど知られていないという。バルプロ酸は妊娠可能なてんかん女性にとって唯一の治療選択肢となる場合がある一方で、出生前の胎児が曝露すると自閉症のリスクが増大する可能性が指摘されていた。JAMA誌2013年4月24日号掲載の報告。出生前バルプロ酸曝露と自閉症リスクの関連をコホート試験で評価 研究グループは、出生前のバルプロ酸曝露が子どもの自閉症リスクに及ぼす影響を評価する地域住民ベースのコホート試験を実施した。 デンマークの住民登録システムのデータを用いて、1996年1月1日~2006年12月31日までにデンマークで生産児として出生したすべての新生児を調査した。母親の妊娠中にバルプロ酸に曝露した子どもおよび自閉症スペクトラム障害[小児自閉症(自閉性障害)、アスペルガー症候群、非定型自閉症、その他または特定不能の広汎性発達障害]と診断された子どもを同定した。 データはCox回帰モデルを用いて交絡因子(妊娠時の両親の年齢、両親の精神医学的病歴、妊娠期間、出生時体重、性別、先天性奇形、経産回数)の調整を行った。子どものフォローアップは出生から自閉症スペクトラム障害の診断、死亡、国外への転出、2010年12月31日のいずれかまで行った。自閉症スペクトラム障害のリスクが約3倍、小児自閉症は約5倍に 調査期間中に65万5,615例の生産児が確認され、2,067例の小児自閉症を含む5,437例の自閉症スペクトラム障害の子どもが同定された。フォローアップ終了時の子どもの平均年齢は8.84(4~14)歳だった。 14年のフォローアップが行われ、推定絶対リスクは自閉症スペクトラム障害が1.53%(95%信頼区間[CI]:1.47~1.58)、小児自閉症は0.48%(95%CI:0.46~0.51)であった。 バルプロ酸曝露小児508例における推定絶対リスクは自閉症スペクトラム障害が4.42%(95%CI:2.59~7.46)(調整ハザード比[HR]:2.9、95%CI:1.7~4.9)、小児自閉症は2.50%(95%CI:1.30~4.81)(調整HR:5.2、95%CI:2.7~10.0)であった。 てんかん女性から生まれた子ども6,584例のうち、バルプロ酸非曝露群(6,152例)の推定絶対リスクは自閉症スペクトラム障害が2.44%(95%CI:1.88~3.16)、小児自閉症は1.02%(95%CI:0.70~1.49)であったのに対し、バルプロ酸曝露群(432例)ではそれぞれ4.15%(95%CI:2.20~7.81)(調整HR:1.7、95%CI:0.9~3.2)、2.95%(95%CI:1.42~6.11)(調整HR:2.9、95%CI:1.4~6.0)と、有意な関連が認められた。 著者は、「妊娠中の母親のバルプロ酸の使用により、子どもの自閉症スペクトラム障害、小児自閉症のリスクが有意に上昇し、母親のてんかんで調整後もリスクの有意な上昇が維持されていた」とまとめ、「てんかんのコントロールにバルプロ酸を要する妊娠可能女性では、治療のベネフィットとリスクのバランスを十分に考慮する必要がある」と指摘している。

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妊娠中の抗うつ薬服用は出生児の自閉症リスク増大と関連/BMJ

 妊娠中の抗うつ薬服用(SSRIと非選択的モノアミン再取り込み阻害薬)は、出生児の自閉症リスク増大と関連していたことを、英国・ブリストル大学のDheeraj Rai氏らによる住民ベースのネスティッドケースコントロール研究の結果、報告した。知的障害との関連はみられなかったという。しかし著者は、今回示された関連性について、妊娠中の重度のうつ病が自閉症リスクを増大する原因なのか、あるいは反映しているのかについてはさらなる研究が必要だとまとめている。また、「自閉症が認められたのは、服用者の1%未満の子どもについてであったことから、妊娠中の抗うつ薬服用が有意にリスクの増大に関与した可能性は低いと思われる」と言及している。BMJ誌オンライン版2013年4月19日号掲載の報告より。出生児59万例を対象にネスティッドケースコントロール研究 本研究は、父親のうつ病歴および母親の妊娠中の抗うつ薬使用と出生児の自閉症との関連を調べることを目的としたものであった。 研究グループは、2001~2007年のスウェーデン、ストックホルム住民の0~17歳児58万9,114例を対象に、自閉症例と年齢・性でマッチさせた対照群を特定しネスティッドケースコントロール研究を行った。症例群は4,429例(知的障害あり1,828例、なし2,601例)、対照群は4万3,277例であった(うち自閉症例1,679例、妊娠中の抗うつ薬使用データがある対照1万6,845例)。 主要評価項目は、知的障害ありなしでみた自閉症診断例とした。 父親のうつ病歴とその他の特性は小児の出生前のレジスターで前向きに記録された。1995年以降に生まれた子どもについては、母親の妊娠中の抗うつ薬使用の記録(出産前の初回面談時に記録)が利用可能であった。妊娠中に抗うつ薬服用、自閉症リスクは3.34倍、ただし発生ケースの割合は0.6%未満 結果、子どもの自閉症リスク増大と、母親のうつ病歴との関連が認められた(補正後オッズ比:1.49、95%信頼区間:1.08~2.08)が、父親のうつ病歴とは関連がみられなかった(同:1.12、0.69~1.82)。 服用薬について得られたデータに基づく解析の結果、この関連は妊娠中に抗うつ薬を服用していたと報告した母親のみに認められ(同:3.34、1.50~7.47、p=0.003)、SSRIか非選択的モノアミン再取り込み阻害薬の種類は問わなかった。 またすべての関連は、知的障害はみられない自閉症のケースで高く、知的障害を伴う自閉症のリスクが増大するというエビデンスはなかった。 因果関係があると仮定しても、妊娠中の抗うつ薬服用における自閉症の発生ケースは0.6%であった。

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小児の双極I型障害、アリピプラゾール有用性の定義は

 先行研究において、成人と小児の双極性障害に関する治療反応について複数の異なる定義が用いられている。米国・ノースカロライナ大学のEric Youngstrom氏らは、小児の双極I型障害と関連する躁病あるいは混合エピソードに関するアリピプラゾールの臨床的に意義のある治療効果について、異なる評価尺度の結果を対比し有効率の定義付けを行った。その結果、ヤング躁病評価尺度(YMRS)の50%スコア低下などが臨床的に意義のある治療効果であると認められたことを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌2013年3月23日号(オンライン版2013年3月12日号)の掲載報告。 本検討は、小児および青年期若者の大規模サンプルにおいて、臨床的に意義のある改善の有効率を定義することを目的とした。4週間にわたる複数施設でのプラセボ対照試験のデータを探索的に解析した。被験者は10~17歳の急性躁病もしくは混合エピソードを呈した双極I型障害患者296例。アリピプラゾール(10あるいは30mg/日)とプラセボに無作為化され評価を受けた。主要有効性エンドポイントは、4週時におけるベースラインからのYMRS総スコアの変化の平均値とした。また、Clinical Global Impressions-Bipolar Disorder(CGI-BP)Overall and Mania scales、Child Global Assessment Scale(CGAS)、General Behavior Inventoryの上位および下位項目の評価も解析に組み込み、有効性の比較は、7つの定義について行われた。さまざまな治療反応の定義またはアウトカム評価における変化と、臨床的に意義のある改善(CGI-BP Overall改善スコア1または2で定義)との関連に関する検証は、Cohen's κ係数およびスピアマン相関係数にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・有効率は定義によって異なったが、スコアの変化に関する95%確度変化(既存評価からの個々の変化を評価するための統計的手法)は高値であった。YMRS総スコアは、≧33%の低下がみられた。・臨床的に意義のある改善を予想するという観点に立った最も妥当な有効率は、次のように定義された。 YMRSスコアが≧50%低下(κ=0.64)、 複合尺度による定義[YMRS<12.5、Children's Depression Rating Scale-Revised (CDRS-R)≦40、CGAS≧51(κ=0.59)、CGASおよびYMRSスコア33%低下の95%変化確度(κ=0.56)]・また、症状の下位項目は症状改善時の評価において、上位項目よりも概して良好であった(CGI-BP Overall改善スコアとの比較時のκ=~0.4-0.5vs.~0.2)。症状改善の評価は、下位項目による評価が信頼できるようであった。関連医療ニュース ・小児双極I型障害に対するアリピプラゾールの効果は? ・自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か? ・治療抵抗性の双極性障害、認知機能への影響は?

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自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か?

 米国・マサチューセッツ総合病院のLaura C. Politte氏らは、自閉症および広汎性発達障害患者への非定型抗精神病薬の使用に関する文献をレビューした。その結果、自閉症および広汎性発達障害にみられる興奮性に対し、現時点におけるファーストライン薬は非定型抗精神病薬であることを示唆した。Psychopharmacology誌オンライン版2013年4月4日号の掲載報告。 自閉症および広汎性発達障害(PDD)は、社会性とコミュニケーションの障害、興味・関心の偏り、常同的かつ画一的な行動パターンなどの特徴がみられる。PDD患者はしばしば興奮性を示し、かんしゃく、自傷行為、攻撃などの破壊的行動に出る。非定型抗精神病薬は、PDDに関連する興奮性の治療に適用可能な、現在最も効果的な薬物的介入とされる。本研究では、PDD患者への非定型抗精神病薬の使用に関する文献をレビューした。PubMedにおいて、「自閉症」「広汎性発達障害」「非定型抗精神病薬」「リスペリドン」「アリピプラゾール」「クエチアピン」「ジプラシドン」「オランザピン」「クロザピン」「パリペリドン」「イロペリドン(国内未承認)」「アセナピン(国内未承認)」「ルラシドン(国内未承認)」をキーワードとして検索を行った。検索用語は英語、試験対象はヒトに限定し、1999年以降現在までに報告された文献を検索対象とした。抽出された記事に関連する参考資料についてもレビューした。 主な結果は以下のとおり。・自閉症にみられる興奮性に対する治療として、リスペリドンおよびアリピプラゾールの有効性と忍容性は、多地域の無作為化対照試験により確立されていた。・その他の非定型抗精神病薬の使用を支持する研究は範囲が限られ、その知見は確固たるものではないが、ジプラシドンやパリペリドンのような新規薬剤は有望であることが示された。・小児PDDの興奮性とそれに関連する行動の治療において、非定型抗精神病薬は現時点におけるファーストラインの薬剤であった。・しかし、これら薬剤の大半について、その有効性と忍容性を明らかにするための、さらなるプラセボ対照試験が必要である。また、長期副作用プロファイルがより良好な新規標的薬の開発も求められる。関連医療ニュース ・小児双極I型障害に対するアリピプラゾールの効果は? ・ADHDに対するメチルフェニデートの評価は? ・摂食障害、成人期と思春期でセロトニン作動系の特徴が異なる!

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5つの重大精神疾患に共通する遺伝的リスク因子を特定/Lancet

ゲノムワイド関連解析の結果、5つの重大な精神疾患自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、双極性感情障害、大うつ病性障害、統合失調症]に共通する遺伝的なリスク因子を特定したことを、米国・マサチューセッツ総合病院のJordan W Smoller氏ら精神科ゲノム協会(Psychiatric Genomics Consortium:PGC)のCross-Disorder Groupが報告した。精神疾患の発症メカニズムは大部分が明らかになっておらず、そのため鑑別を困難なものとしている。一方で発症に関して遺伝的なリスク因子が重視され、遺伝的な重複の評価などが行われるようになり、家族研究や双子の先行研究において精神疾患間で共通する遺伝子の存在などが報告されていた。Lancet誌オンライン版2013年2月27日号掲載報告より。ヨーロッパ人3万3,332例のSNPデータをゲノムメタ解析 PGCは2007年に、19ヵ国の上記5つの疾患のデータを集約してゲノムメタ解析を行うことを目的に立ち上げられた。本検討では、これまでに統合失調症と双極性障害、双極性障害と大うつ病などの疾患間で報告されていた遺伝的な重複について、5つの疾患間でゲノムメタ解析を行った場合に、遺伝的に共通する特異的な異型が認められるかを目的とした。 解析は、ヨーロッパ人3万3,332例の5つの疾患に関するSNPデータと、対照群2万7,888例のデータについて行われた。カルシウムチャネル活性遺伝子の変異が多様性に影響か 主要解析の結果、5つの疾患間で重複するSNPの4つの領域が特定された(p

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(66)〕 脳と精神の世紀は始まったばかり

死後脳の大規模(33332 cases and 27888 controls)解析により、5つの精神疾患(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、双極性感情障害、大うつ病性障害、統合失調症)に共通の(cross-disorder)、いくつかの一塩基多型との関連が見いだされたという報告である。 著者らはサマリーでの「解釈」で「精神医学における記述的症候群を超えて、疾患の原因に基づく診断学というゴールに向けたエビデンスをもたらした」と高らかに宣言している。確かに、これにより精神医学は科学として確実に一歩前進した。しかし、著者らはゴールまでの気の遠くなるような距離を知っているに違いない。 医師の皆さんはご承知かと思うが、他職種の方や学生さんも読者におられると聞いているので背景を説明しよう。 精神疾患は現代においても検査値のような生物学的指標が存在しないため、古典的な記述診断学がいまだに重要である、というより生命線である。したがって極度の論理的厳密性が要求されるし、人間という存在を包括的に捉えることが求められるため関心領域が広く、診断学は小宇宙のごとき知の体系である。また解離性障害(米国で文化現象として解離性同一性障害―俗にいう多重人格―が激増したり、幼少期の性的虐待に関する偽記憶をめぐる論争が起こったりした)や昨今の成人発達障害などの例を紐解くまでもなく、現実の社会と大きく相互作用を持つため、静的ではなく動的な、あえて言えば生きている体系なのである。 だが、診断学は病因から説明するものではないため、精神疾患がなぜ発症するのかという疑問は残される。そこで昔から生物学的要因(遺伝子)か後天的要因(たとえばストレス)かという、俗にいう「氏か育ちか」という論点がある。 筆者の専門とする認知症領域は、比較的生物学的指標が明らかになってきた領域である。アルツハイマー型認知症の新しい診断基準では、研究的カテゴリーにおいてアミロイドβとタウ蛋白等が取り入れられているが、原文を読めばわかるが所詮は参考所見であり、「臨床診断に勝るものなし」というのが現状である。今回の一塩基多型も、おそらく診断や治療には直接結びつくものではないだろう。 つまり、脳と精神の世紀は始まったばかりなのである。おそらくこれから大航海時代が訪れ、想像もつかないようなイノベーションが起こるかもしれない。著者らの言うように、記述診断学の絶対性は少しは揺らぐだろうが消えることはないだろうし、今後は社会学や生物学と関連して、われわれ精神科医が知らなければならないことが激増しそうだ。なかでも近年発展の著しい遺伝学は、どこまで私たちの精神を解き明かすのだろうか・・・めまいを禁じ得ない。 最後にこのような巨大なコンソーシアムを作り上げるために大変なご苦労をされた著者らを心から賞賛したい。ここから先は内輪のことだが、それにしても、これら5つの疾患に共通の基盤を探すとは、いかなる仮説を立てているのだろうか?(とりあえずこの論文ではカルシウムチャネル云々と書いてはある)。この論文は実は面白い論文で、改めて素直に眺めると新しい局在論にも思えるし、単一精神病理論の回帰にも見えなくもない(通常は統合失調症と双極性感情障害までなのだが)。精神科医の同僚たちと医局でおしゃべりをするネタが増えたようだ。

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結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の治療に新たな選択肢

 結節性硬化症は、遺伝子(TSC1、TSC2)の異常により、全身に良性の腫瘍が形成され、それに伴い、さまざまな症状が引き起こされる遺伝性の希少疾患である。胎児期から成人まで、年齢に応じて特徴的な腫瘍がさまざまな部位に発生するため、それぞれの腫瘍に対してすべて1つの科で診療することはできず、小児から成人に至る過程で発生する腎血管筋脂肪腫などを見逃す可能性がある。その現状と課題について、ノバルティス ファーマ メディアフォーラム(2013年2月26日開催)にて、大阪大学泌尿器科 教授 野々村 祝夫氏が講演した。その内容をレポートする。■結節性硬化症は症状の個人差が大きい 結節性硬化症は、脳(上衣下巨細胞性星細胞腫、脳室上衣下結節、大脳皮質結節、てんかん発作、発達遅延、自閉症など)、眼(網膜過誤腫)、心臓(心横紋筋腫)、肺(肺リンパ脈管筋腫症など)、腎臓(腎血管筋脂肪腫、腎嚢胞など)、皮膚(白斑、顔面血管線維腫など)など、全身性に腫瘍が形成され、さまざまな症状が現れる疾患である。潜在患者数は、日本では1~2万人とされる。問題となる症状の発症時期は年齢期ごとに異なり、心臓や脳の腫瘍は10歳未満、腎臓の腫瘍は10~40歳、肺の腫瘍は20歳以上に注意する必要がある。また、症状の個人差が大きく、多くの症状が現れる場合もあれば、生涯を通じて症状が現れない場合もある。 これまで対症療法しかなかったこれらの腫瘍のうち、腎血管筋脂肪腫と上衣下巨細胞性星細胞腫に対して、2012年11月、mTOR阻害薬であるエベロリムス(商品名:アフィニトール)が承認された。■結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の治療 腎血管筋脂肪腫は浸潤・転移をしない良性腫瘍であるが、次第に大きくなること、出血などのさまざまな症状が出現すること、腎機能が低下することが問題となる。腫瘍径が4cmを超えると出血や側腹部痛などの臨床症状が呈することが多く、また、破裂した腫瘍は4cmをすべて超えていたという報告がある。 腎血管筋脂肪腫のマネージメントの基本方針は、腎機能を温存しつつ出血のリスクを減らすことであり、出血した場合は速やかに止血する必要がある。 治療は、腫瘍径が4cm以上であれば症状が出る前に予防的に、4cm未満なら症状が出てから行う。この治療介入の必要性を判断するために、野々村氏は、定期的なモニタリングの重要性を指摘した。治療には、血管内治療である塞栓術と手術(腎摘、腎部分切除)が施行されている。塞栓術は効果的でよく施行されるようになってきたが、壊死に伴う発熱や痛みなどの合併症や、再発(約30%)の問題がある。■薬物治療が治療選択肢の1つに このような状況のなか、昨年、初めて薬物治療としてエベロリムスが承認され、新たな選択肢が加わった。結節性硬化症においては、TSC1またはTSC2遺伝子の変異によりmTORの活性を制御するTSCタンパクが抑制され、mTORが過剰に活性化することにより腫瘍の形成や症状が発生する。エベロリムスはmTOR活性を阻害することにより、腫瘍の増大や症状を抑制する。 結節性硬化症あるいは孤発性リンパ脈管筋腫症における腎血管筋脂肪腫患者に対するエベロリムスの効果をプラセボと比較したEXIST-2試験では、エベロリムス群(79例、うち日本人7例)の奏効率が41.8%(95%信頼区間:30.8~53.4)と、プラセボ群(39例、うち日本人3例)の0%(95%信頼区間:0.0~9.0)に対して、有意(p<0.0001)に高い結果が得られた。 有害事象は、口内炎、ざ瘡、高コレステロール血症などがエベロリムスに特徴的であり、これまでの忍容性プロファイルと一致していた。また、野々村氏は、22歳女性の症例で腫瘍の縮小とともに自閉症の症状も改善したことを紹介し、結節性硬化症の他の症状にも効果が期待できることを示した。■どのように組み合わせて治療するかが課題 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の今後の治療戦略として、野々村氏はまず、4cm以上の腫瘍では症状がなくても、動脈瘤などからの出血リスクが高い場合には、エベロリムスあるいは塞栓術による積極的治療を実施することを提唱し、どちらを先に行うかはこれから解決すべき課題であると述べた。また、4cm以下の腫瘍でも症状があれば、エベロリムスあるいは塞栓術による何らかの治療が必要であり、手術は、塞栓術あるいはエベロリムスが無効な場合に考慮するとした。 一方、エベロリムスが治療の選択肢に加わったとはいえ、課題として、長期投与のデータが乏しいこと、高価(約70万円/月)であること、投与方法に関する工夫の必要性などを挙げ、今後、実際の臨床の場で情報を出して行く必要があると述べた。 最後に野々村氏は、結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の治療に薬物療法という選択肢が増えたが、今後、これをどのように組み合わせて治療していくか、課題として投げかけられていると述べ、講演を締めくくった。関連ページ ケアネット 希少疾病ライブラリ(毎週木曜日更新)

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ADHDリスクファクターは「男児」「母親の就労」

 注意欠陥多動性障害(ADHD)は学習障害や自閉症などの他疾患を併発することが多く、ADHD単独の関連因子は明らかになっていない。Malek氏らはADHDの危険因子を調査し、Arch Iran Med誌オンライン版2012年9月号で報告した。 対象はタブリーズ大学(イラン)の児童思春期精神科クリニックを受診したADHD患児164例。コントロール群として健常な小中学生166名をランダムに抽出した。診断はK-SADSを用い、DSM-IV-TRに基づき行った。分析はカイ二乗検定、二項ロジスティック回帰分析を行った。主な結果は以下のとおり。・ADHDの罹患には、男児(OR 0.54、95%信頼区間: 0.34~0.86)と母親の就労(OR 0.16、95%信頼区間: 0.06~0.86)が関連していた。・出生季節、家族の人数、出生順位、親戚関係はADHDの危険因子とはいえなかった。関連医療ニュース ・メチルフェニデート使用で“喫煙”が加速 ・日本人薬物乱用者の自殺リスクファクターは「低年齢」「女性」 ・成人トゥレット症候群に対するアリピプラゾール治療成績(100例報告)

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『ボストン便り』(第41回)「世界の主流としての当事者参画」

星槎大学共生科学部教授ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー細田 満和子(ほそだ みわこ)2012年8月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。紹介:ボストンはアメリカ東北部マサチューセッツ州の州都で、建国の地としての伝統を感じさせるとともに、革新的でラディカルな側面を持ち合わせている独特な街です。また、近郊も含めると単科・総合大学が100校くらいあり、世界中から研究者が集まってきています。そんなボストンから、保健医療や生活に関する話題をお届けします。(ブログはこちら→http://blog.goo.ne.jp/miwakohosoda/)*「ボストン便り」が本になりました。タイトルは『パブリックヘルス 市民が変える医療社会―アメリカ医療改革の現場から』(明石書店)。再構成し、大幅に加筆修正しましたので、ぜひお読み頂ければと思います。●マサチューセッツ慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎と繊維筋痛症(CFIDS/ME and FM)の会「この夏、ME/CFSの研究は大きく前進するための舵を切った」と、半年ぶりに再会したナンシーは、いつものように低いトーンの落ち着いた声で静かに言いました。彼女は、「マサチューセッツ CFIDS/ME and FMの会」の理事の一人です。この病気に30年以上も罹っていて、病気についての専門知識は深く、医学研究の進捗状況や医師たちの動向、さらにアメリカ内外の他の患者団体の動きにも精通しています。ナンシーは患者のための地域活動もしていて、地区患者会の例会の場所をとったり、会員に連絡したりしています。例会当日の会場設営もしていて、会員に和やかな楽しい時間を過ごしてもらおうと、スーツケース2つにお茶やお菓子を準備し、季節にちなんだ飾りつけもします。私が同行させて頂いた2月のバレンタインの月の例会は、ピンクと赤がテーマで、テーブルクロスは赤、紙皿や紙コップやナプキンはハートの模様で、ハート形の置物も用意されていました。ナンシーから手渡された、最近のアメリカ政府のME/CFS対策についての書類には、次のようなことが書かれていました。2012年6月13日と14日に、HHS(The Health and Human Services)は、慢性疲労症候群諮問委員会(The Chronic Fatigue Syndrome Advisory Committee: CFSAC)を開催しました。委員には10人のメンバーが選ばれましたが、臨床の専門家、FDA(食品医薬品局)代表を含む7人の元HHSメンバーのほかに、患者アドボケイトもメンバーとして入りました。そして、3時間にわたる公聴会が行われました。その他にも7つの患者団体の代表が報告をする機会が設けられました。さらに、このCFSACとは別に、HHSは所属を越えて協働できるために慢性疲労症候群の特別作業班(Ad Hoc Working Group on CFS)も結成しました。そこには、CDC(疾病予防管理センター)、NIH(国立健康研究所)、FDA(食品医薬品局)など各部局の代表も含まれています。こうした委員会や作業班が作られた背景には、オバマ大統領の意向があるといいます。インディアナ・ガジェットというオンライン新聞によると、ネバダ州のリノに住むME/CFS患者の妻は、2011年5月にオバマ大統領に、ME/CFS患者の救済、特にこの病因も分からず治療法もない病気の解明の為に、研究予算を付けて助けて欲しいという手紙を出しました。これに対してオバマ氏は、NIHを中心に研究を進めるための努力をすると回答しました。また、オバマ氏は、偏見を呼ぶCFSという病名にも配慮を示し、MEと併記したとのことでした。新聞記事は「これでオバマは新しい友人を何人か作った」と結ばれています。全米で約100万人いると推計されているこの病気の患者が味方になるなら、目前に大統領選を控えたオバマ氏にとって政治的に大きな力になることでしょう。●スウェーデンにおける自閉症とアスペルガーの会スウェーデンのストックホルム県に住むブルシッタとシュレジンは、ふたりとも「自閉症とアスペルガーの会」の有給職員です。ブルシッタには33歳になる自閉症の息子さんがいて、シュレジンには20歳になる自閉症と発達障害の息子さんがいます。8月に発達障害児・者への施策や医療を視察するためにスウェーデンを訪れたのですが、その際にこの二人にお会いしました。「自閉症とアスペルガーの会」は、患者も患者家族も、医療提供者も社会サービス提供者も学校関係者も、関心がある人がすべて入れる会です。親が中心になって1975年に設立され、ストックホルム県内では会員が3,000人います。全国組織もあって、こちらは会員が12,000人います。活動としては、メンバーのサポートをしたり、子どもたちの合宿を企画したりしています。ホームページがあり、機関誌も出しています。ブルシッタによれば現在の会の中心的な活動は、政治的な動きだといいます。確かに会の活動が様々な施策を実現してきたことは、色々なところで実感しました。今回、ストックホルム県内の、様々な制度を見聞したり施設(発達障害センター)を訪れたりしました。その際に、こうした制度や施設をコミューン(地方自治体)に作らせるように働きかけてきたのは、「自閉症とアスペルガーの会」のような親たちや専門職が加入している自閉症や発達障害の患者会だったということを、何人もの施設の長の方々から聞きました。さらには、自閉症に対する大学の研究にも、こうした患者会は大きな役割を果たしています。カロリンスカ研究所に付属する子ども病院における自閉症研究グループであるKIND(発達障害能力センター)は、企業やEU科学評議会などからの資金援助を受けていますが、その時大きな後押しになったのが、「自閉症とアスペルガーの会」だったといいます。KINDのディレクターのスティーブン・ボルト氏は、会からの大きな支えを強調していました。スウェーデンでは1980年代にハビリテーションのシステムが作られ、生きてゆくうえで支援が必要な人々に対する支援が整えられてきましたが、十分とは言えないままでした。それが1994年に施行されたLLS(特別援護法)によって、支援の制度は大きく前進しました。この法律の制定にも、患者団体などの利益団体の働き掛けが大きな後押しになったそうです。2004年にスタートした自閉症のハビリテーションセンターや、2007年にスタートしたADHD(注意欠陥・多動性障害)センターでも、責任者の方は口々に、患者会が政治家に働きかけることでセンターが誕生したと言っていました。そして、このような支援を受けることは、ニーズのある人々の権利なのだと繰り返していました。●各国での患者会の現状スウェーデンに先立って訪れたアルゼンチンで開かれた国際社会学会でも、各国で患者会が医療政策決定において重要な役割を担っていることが報告されました。私が発表した医療社会学のセッションでは、イギリスからは「当事者会・患者会とイングランドのNHS(National Health Service:筆者挿入)の変化」、イタリアからは「トスカーナ地方における健康保健サービスの向上と社会運動の役割」と題される研究成果が紹介されました。それぞれ、地域におけるヘルスケア改革に、当事者団体や患者団体のアドボカシー活動が大きな役割を果たしたことに関する実証研究でした。最後に私の発表の番となり、「日米における患者と市民の参加」と題した、日本とアメリカの合わせて7つの患者会に対する、アンケート調査とインタビュー調査の結果を報告しました。この調査は、2010年から2011年にかけて行われたもので、患者会の意味と役割について、メンバーに意識を尋ねたものです。アンケートに対しては、日本では132票、アメリカでは109票の有効回答が寄せられ、インタビューの方では23人の方が対象者になってくださいました。患者会は、脳障害、脳卒中、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、ポストポリオ症候群、卵巣がんなどでした。当初は、アメリカの患者会の方が日本よりも、政治的問題に発言してゆくアドボカシー活動への関心が高く、実際に活動も行っているという仮説を立てましたが、どちらの国も同程度に関心が高く、活動をしているという結果が認められました。ただし日米とも、患者会がアドボカシー活動を積極的に行うようになってきたのは、ここ10年から20年のことだといいます。それまでは、患者や親たちは問題を個人で抱え込むしかなかったといいます。患者や親たちは、病気による身体的あるいは生活上の苦しさを理解されず、ましてや支援など受けることもできませんでした。そして逆に、病気のことをよく知らない一般の人や医療者から、非難するような言葉や態度を浴びせられてきたといいます。30年以上も筋痛性脳脊髄炎の患者であったナンシーの言葉を借りれば、「社会からは理解されず、医療者から虐待されてきた」というのです。それは発達障害を持つ子や親も同様でした。スウェーデンでも80年代くらいまでは、ADHDや自閉症を持つこども達は、さまざまな失敗をしては親や教師から叱られ、親の方も育て方が悪いと周囲から非難されてきたといいます。●日本の患者会昨年9月に、東京で開催されたランセットの医療構造改革に関するシンポジウムでは、タイからの登壇者に「日本では患者会との協働はどのようになっているのですか」と聞かれ、「患者会は、自分たちの半径5メートルしか見ていない」ので意見を聞いても仕方ないというようなことを権威ある立場の日本人医師が答え、椅子から転げ落ちるほどびっくりしました。ランセットの会議に招待されるような方が、そのようなことを国際社会の場で発言するとは、日本の医師をはじめとする医療界の認識の浅さや遅れではないか忸怩たる思いがしたものです。このことは、以前にMRICにも書きましたが、この状況は今後変わってゆくでしょうか。日本でも、いくつかの患者会はアドボカシー活動をしています。例えばNPO法人筋痛性脳脊髄炎の会(通称、ME/CFSの会)は、偏見に満ちた病名を変更させるために患者会の名前を変えました。そして、この病気の研究を推進してもらいように、厚労副大臣や元厚労大臣を始め、何人もの国会議員や厚労省職員に面会し、研究の重要性と必要性を訴えかけました。さらに、ME/CFS患者が適切な社会サービスを受けられるようにするため、いくつもの地方自治体の長や議会に要望書を提出し、複数において採択されてきています。さらにME/CFSの会は、この病気の世界的権威ハーバード大学医学校教授のアンソニー・コマロフ氏に、会が11月4日に開催するシンポジウムに向けてのメッセージも頂きました。ME/CFSは、未だに日本では医療者からも家族からも想像上の病気や精神的なものと誤解され、患者が苦しんでいることをご存知のコマロフ氏は、この病気が器質的なものであることを繰り返し、日本でも研究が進められるように呼びかけました。実際に研究が進んだり、社会サービスが受けられるようになったりといった具体的な成果はなかなか上がって来ていませんが、この様に患者会は、様々な活動を行い、続けていればいつか実現すると信じて続けられています。●当事者参画の可能性アルゼンチンの国際社会学会で同じセッションに参加していらしたシドニー大学教授のステファニー・ショート氏は、「私たち社会学者は、特に私の世代は、マルクス主義の影響が大きかったから、体制批判とか、社会運動とか、っていう視点で見ちゃうのよね。でも、今は時代が変わったわね」、とおっしゃっていました。彼女はまた、私の行った日米調査の調査票を使って、今度はオーストラリアでやろうという共同研究の話を持ちかけてくれました。もちろんぜひ調査を実施してみたいと思っています。次の国際社会学会の大会は横浜で開催されます。ちょうど私の所属する星槎大学も横浜に事務局がありますので、医療社会学の面々のパーティ係を任命されました。会場探しもしますが、その時までに、日本の行政や医療専門職が患者会の役割を重視し、患者のための医療体制ができてきたという報告をこの学会で発表できるようになればいいと思いました。謝辞:スウェーデンの患者会は、セイコーメディカルブレーンの主催する研修で知り合いました。研修を企画して下さった同社会長の平田二郎氏、研修参加を推奨し財政的支援をして下さった星槎グループ会長の宮澤保夫氏に感謝いたします。また、日米患者会調査の実施に当たって、資金の一部を助成して下さった安倍フェローシップ(Social Science Research Councilと日本文化交流基金)に感謝の意を表します。<参考資料>インディアナ・ガジェット オバマ、CFSについて応えるhttp://www.indianagazette.com/b_opinions/article_75b181eb-bd88-5fe4-bc90-f7b09f869ffd.html略歴:細田満和子(ほそだ みわこ)星槎大学教授。ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー。博士(社会学)。1992年東京大学文学部社会学科卒業。同大学大学院修士・博士課程の後、02年から05年まで日本学術振興会特別研究員。コロンビア大学公衆衛生校アソシエイトを経て、ハーバード公衆衛生大学院フェローとなり、2012年10月より星槎大学客員研究員となり現職。主著に『「チーム医療」の理念と現実』(日本看護協会出版会)、『脳卒中を生きる意味―病いと障害の社会学』(青海社)、『パブリックヘルス市民が変える医療社会』(明石書店)。現在の関心は医療ガバナンス、日米の患者会のアドボカシー活動。

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ドネペジル「新たな抗血管新生治療」の選択肢となりうるか?

 ドネペジルは可逆的アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であり、アルツハイマー病(AD)患者に使用される。最近の研究では、ドネペジル治療により末梢血単核球(PBMC)で炎症性サイトカインの産生を抑制することが報告されている。また、筋組織に由来する炎症性サイトカインが、下肢虚血モデルにおいて血管新生に重要な役割を果たすとの報告もある。九州大学 宮崎氏らは片側大腿動脈結紮にて作成した下肢虚血モデルマウスを用い、ドネペジルの虚血下肢での血管新生に及ぼす影響を検証した。Clin Sci (Lond)誌2012年8月号の報告。主な結果は以下のとおり。・2週間後の血流量回復とCD31陽性細胞の毛細血管密度は、コントロール群と比較してドネペジル群では有意に減少した。フィゾスチグミンでも同様に有意な減少がみられた。・ドネペジル群では、インターロイキン-1β(IL-1β)と血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現が減少した。・IL-1β筋肉内注射により、ドネペジルによって誘発されたVEGFダウンレギュレーションと抗血管新生作用が逆転した。・C2C12筋芽細胞における低酸素で誘導されるIL-1βの発現は、アセチルコリン、LY294002、PI3Kのプレインキュベーションよって阻害された。・ドネペジルは虚血下肢でAkt(プロテインキナーゼB:PI3K下流キナーゼ)のリン酸エステル化を阻害した。・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬によるコリン作動性刺激がPI3Kにより媒介されるIL-1β誘導抑制を通じて、VEGF発現の減少、血管新生を抑制することが示唆された。関連医療ニュース ・新たな選択肢か?!「抗精神病薬+COX-2阻害薬」自閉症の治療 ・せん妄対策に「光療法」が有効! ・検証「グルタミン酸仮説」統合失調症の病態メカニズム

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新たな選択肢か?!「抗精神病薬+COX-2阻害薬」自閉症の治療 

 社会性やコミュニケーション能力に問題が生じる発達障害の一種である自閉症。日本の推定患者数は36万人ともいわれている。自閉症の発症メカニズムは明らかになっていないが、炎症性の反応異常と関係していると考えられている。Asadabadi氏らは自閉症患者に対するCOX-2阻害薬であるセレコキシブの使用が、補助療法として有用であるかをランダム化二重盲検プラセボ対照試験にて検討した。Psychopharmacology (Berl)誌オンライン版2012年7月11日号の報告。 小児の外来自閉症患者40例を対象にプラセボ群(リスペリドン+プラセボ投与)とセレコキシブ群(リスペリドン+セレコキシブ投与)に無作為に割り付け、10週間の治療を行った。リスペリドンは3mg/日、セレコキシブは300mg/日を投与した。主要評価項目は異常行動チェックリスト(ABC-C)のサブスケールのうち興奮の変化とした。ABC-Cスケールは試験開始前および2、4、6、10週目に測定した。主な結果は以下のとおり。・各サブスケールにおける時間と治療の相互作用は、興奮(F[1.658、63.021]=13.580、 p

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学習障害の有無によるメチルフェニデートの有用性を検証

注意欠陥/多動性障害(AD/HD)児は学習障害(LD)を合併していることが少なくない。Williamson氏らは浸透圧を利用した薬剤放出制御システム(OROS)を用いたメチルフェニデート徐放製剤について、LDの有無からみたAD/HD治療反応性を検証した。J Atten Disord誌オンライン版2012年5月24日掲載の報告。2ヵ所の実験校において、メチルフェニデート徐放製剤による6週間プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験よりLDの有無に関わらず抽出された135例(9~12歳)を対象に認知および行動テストを行った。主な結果は以下のとおり。 ・メチルフェニデート徐放製剤群 ではLDの有無に関わらずAD/HD評価尺度スコアの改善が認められた。・認知スキル、学業、教室での行動においてメチルフェニデート徐放製剤はプラセボより有用であった。・メチルフェニデート徐放製剤はLDの有無に関わらずAD/HD児の行動やパフォーマンスを改善する。(ケアネット 鷹野 敦夫) 関連医療ニュース ・境界性人格障害患者の自殺予防のポイントはリハビリ ・10代うつ病患者の治療はファンタジーゲームで? ・米国では自閉症は5歳まで診断されないケースが多い

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ADHDの遺伝学的なエビデンスが全ゲノム解析で示された

注意欠陥・多動性障害(ADHD)では巨大なコピー数多型(copy number variant:CNV)が増加していることを示す遺伝学的なエビデンスが、イギリス・カーディフ大学のNigel M Williams氏らによる全ゲノム解析によってもたらされた。ADHDは高い遺伝性を示すが、特異的な感受性遺伝子は同定されていないため、疾患ではなく主に社会的構成概念であるとする主張も消えていない。ADHDに類似の神経発達障害では、CNVとして知られる巨大で希少な染色体の欠失や複製の関連がすでに確認されているという。Lancet誌2010年10月23日号(オンライン版2010年9月30日号)掲載の報告。ADHD患児410例と対照1,156人の全ゲノム解析を実施研究グループは、ADHDの発症におけるCNVの影響を評価し、同定されたCNVがすでに自閉症や統合失調症で同定されている遺伝子座に及ぼす影響について検討した。ADHD患児410例および1958 British Birth Cohortから人種をマッチさせて抽出した対照1,156人について全ゲノム解析を行った。地域の小児精神病および小児科外来クリニックから、5~17歳の白人イギリス人家系の子どもで、ADHDあるいは多動性障害の診断基準を満たすが、統合失調症や自閉症ではない患児が登録された。ADHD群および対照群の一塩基多型(SNP)の遺伝子型を二つのアレイを用いて決定した。CNV解析は二つのアレイに共通のSNPに限定し、高品質のデータを持つサンプルだけを対象とした。ADHD群のCNVはcomparative genomic hybridization(CGH)法で確定した。全ゲノムにおける巨大で(>500kb)、希少な(集団当たりの頻度<1%)CNVの負荷は、サンプルごとのCNV数の平均値に従って評価し、有意性の評価はpermutation法で行った。同定された全CNVおよび自閉症や統合失調症との関連が確認されている20の遺伝子座の確定された領域において、特異的な関連性の検査を行った。得られた結果につき、アイスランド人のAHDH患児825例および対照3万5,243人で検証した。ADHDは単なる社会的構成概念ではないすべての解析用のデータが得られたのは、ADHD群366例および対照群1,047人であった。巨大で希少なCNVは、ADHD群で57が、対照群では78が同定され、その頻度はADHD群が対照群よりも有意に多かった(0.156 vs. 0.075、p=0.000089)。このCNVの増加は、特に知能障害がみられる患児で大きかった(0.424、p=0.000002)が、このような障害がない場合でも有意差が認められた(0.125、p=0.0077)。ADHD群では、すでに統合失調症で同定されている染色体16p13.11の過剰な複製がみられ(複数の検査で補正後のp=0.0008)、アイスランド人のサンプルでも同様の知見が得られた(p=0.031)。ADHD群で同定されたCNVは、自閉症および統合失調症の双方で報告されている遺伝子座で有意に増強されていた(それぞれp=0.0095、p=0.010)。著者は、「本研究により、ADHDでは巨大なCNVが増加していることを示す遺伝学的なエビデンスがもたらされた。これは、ADHDが単なる社会的構成概念ではないことを示唆する」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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自閉症児に対する親によるコミュニケーション介入は症状を改善するか?

コアな自閉症の患児に対して、通常の治療に加え親によるコミュニケーションに焦点を当てた介入を行っても、症状の改善はわずかしか得られないことが、イギリス・マンチェスター大学精神科のJonathan Green氏らが行った無作為化試験で示された。自閉症は、その中核をなす患者のおよそ0.4%、広範な自閉症スペクトラムに属する患者の約1%が重篤で高度に遺伝性の神経発達障害をきたすと推察され、社会的な相互関係や意思疎通、行動の障害が、小児から成人への発達に多大な影響を及ぼすため、家族や社会に大きな経済的な負担が生じることになる。小規模な試験では、社会的コミュニケーションへの早期介入が自閉症児の治療に有効なことが示唆されているという。Lancet誌2010年6月19日号(オンライン版2010年5月21日号)掲載の報告。PACTによる介入群と非介入群を比較する無作為化試験研究グループは、中核的な自閉症の患児を対象に社会的コミュニケーションへの早期介入の有効性について検討する大規模な無作為化試験を実施した。イギリスの三つの専門施設(ロンドン、マンチェスター、ニューカッスル)に2歳~4歳11ヵ月の自閉症児が登録され、親によるコミュニケーションに焦点を当てた介入(Preschool Autism Communication Trial;PACT)を行う群あるいは通常の治療を行う群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。PACT群の患児には通常の治療も施行された。主要評価項目は、治療13ヵ月後の自閉症症状の重症度[Autism Diagnostic Observation Schedule-Generic(ADOS-G)の社会的コミュニケーションに関するアルゴリズム項目の総スコア(スコアが高いほど重症度が高度)]とし、補足的な副次評価項目として親子間の相互応答、患児の言語能、学校での適応能を測定した。親子間のコミュニケーションには明確なベネフィットが152例が登録され、PACT群に77例(ロンドン:26例、マンチェスター:26例、ニューカッスル:25例)、通常治療群には75例(ロンドン:26例、マンチェスター:26例、ニューカッスル:23例)が割り付けられた。13ヵ月の時点における症状の重症度の改善効果は、施設、性別、社会経済的状況、年齢、言語能、非言語能で補正後のADOS-Gスコアが、PACT群で3.9点低下し、通常治療群では2.9点低下しており、両群とも症状の改善効果が認められた。各群間の効果量(effect size)は-0.24(95%信頼区間:-0.59~0.11)であり、PACTによる介入の症状改善効果は小さいと推察された。親の子どもへの同期的応答(効果量:1.22、95%信頼区間:0.85~1.59)、子どもからの親への応答(同:0.41、同:0.08~0.74)、親子の配慮の共有(同:0.33、同:-0.02~0.68)にはPACTによる改善効果が認められた。言語能や学校での適応能に対するPACTによる改善効果は小さかった。これらの知見に基づき、著者は「自閉症児の症状の低減を目的に、通常治療にPACTを併用するアプローチは推奨されない。その一方で、親子間の社会的コミュニケーションには明確なベネフィットが認められた」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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MMRワクチン再びの推進突破口はどこにあるか

 英国でMMRワクチン接種が導入されたのは1988年。生後13ヵ月までの接種が推奨され1995年には2歳児までの接種率が92%に達したが、1998年にワクチン接種が自閉症や腸疾患と関連するとの調査報告がされ79%(2003年)まで落ち込んだ。その後、報告は根拠のないものと証明されたが、一部の親はいまだに否定的で最新接種率(2007年7~9月)は85%にとどまっている。英国UCL 小児保健研究所のAnna Pearce氏らは、ワクチン接種推奨のターゲットを絞り込むため、接種に影響している因子について検証した。BMJオンライン版2008年2月28日付、本誌2008年4月5日号より。英国ミレニアムコホート14,578例の接種状況と背景因子を解析 本研究では、MMRワクチン接種と単一抗原ワクチン接種とを評価し、MMRが選択されない因子を探った。対象は2000~2002年に生まれた「英国ミレニアムコホート」で、ワクチン免疫のデータが入手できた小児14,578例について、3歳時点で「MMR接種を受けた」「単一抗原ワクチン接種を受けた」「接種を受けていない」を主要評価項目に解析された。「単一ワクチン接種」派は「高収入」「高齢出産」「高学歴」 対象で「MMR接種を受けた」は88.6%(13,013例)、「単一抗原ワクチン接種を受けた」は5.2%(634例)だった。 「MMR接種を受けていない」因子として浮かび上がったのは、「きょうだいが3人以上いる」「片親」「母親の出産時年齢が20歳以下」「母親の出産時年齢が34歳以上」「母親が高学歴(学士取得)」「母親が無職」「母親が自営業」。 「単一ワクチン接種」派の因子として浮かび上がったのは「高収入世帯(52,000ポンド以上;ユーロ換算69,750、ドル換算102,190)」「母親の出産時年齢が40歳以上」「母親が高学歴(学士取得)」だった。 逆に「単一ワクチン接種」派ではない因子として浮かび上がったのは、「きょうだいが3人以上いる」、母親が「インド人」「パキスタンもしくはバングラディッシュ人」「黒人系」、そして「母親の出産時年齢が25歳以下」だった。 MMR接種をしなかった親の4分の3(74.4%、1,110例)が「意図的な選択」で 接種を拒否したことも明らかとなった。理由としては「危険すぎる(24.1%)」「子どもに合わない(18.6%)「自閉症との関連への懸念(14.1%)」「ネガティブ報道」(9.5%)となっていた。 Pearce氏らは「ミレニアムコホートのMMR接種率は高率だが、主に親の『意図的な選択』で、かなりの小児が感染しやすい状況に置かれている。接種格差の実態は、接種推進の介入目標を明らかにすることができた」と結論している。

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