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インサイド・ヘッド(続編・その2)【意識はどうやって生まれるの?】Part 3

(3)解釈装置-「解説者」によって自分の考えと行動は自分が決めていると思い込ませる5人の小人たちは、司令部にあるホルダーに入ったコア記憶(思い出ボールのうち特に重要なもの)をスクリーンに映し出し、たびたびライリーに思い出させています。このコア記憶をエネルギー源とするのが、司令部の窓から見える5つの「性格の島」です。それぞれ「家族の島」、「正直の島」、「ホッケーの島」、「友情の島」、「おふざけの島」と名付けられ、そのシンボルが並んでいます。これらは、パーソナリティ特性(性格のビッグファイブ)の情緒安定性(神経症傾向)、誠実性、開放性、協調性、外向性の5つの要素をそれぞれモデルにしています。この5つの「性格の島」の存在によって、あたかも実況中継の解説者が解説しているように、ライリーがライリーらしくなっているのです。3つ目は、解釈装置です。意識が見ている(認識している)のは、事実そのものではなく、事実について脳(解説者)がつくった解釈であるということです。脳は、社会生活を送る中、全ての体験をそのままでは覚えきれません。そのため、ざっくりとしたイメージや言葉に置き換えています(概念化)。この解釈装置によって、自分とはこういう人間だ(アイデンティティ)、自分の考えと行動は一貫している(自己意識)、つまり自分の考えと行動は自分が決めている(自由意志はある)と思い込まされています。これは、相手(自分以外の人)についても同じです。これは、実際に、心理実験で明らかになっています。この実験では、被験者に2枚の顔写真を見せて、好みのほうを指さすよう指示します。そして、指さしたほうを被験者に渡し、その理由を質問します。ただし、数回に1回、仕掛けによって気づかれないように選ばなかったほうの顔写真にすり替えます。すると、ほとんどの場合、その選ばなかった顔写真であるにもかかわらず、選んだ顔写真の時とまったく同じように、「選んだ」理由をよどみなく答えるのです。この心理効果は、「選択盲」と呼ばれています。また、先ほどにもご説明した分離脳の研究でも、この解釈装置が判明しています。この研究実験では、分離脳の患者の右視野(左半球支配)に「鶏の足」、左視野(右半球支配)に「雪景色」の絵をそれぞれ見せて、関連する絵を選ぶよう指示します。すると、その患者の右手(左半球支配)は「鶏」、左手(右半球支配)は「ショベル」の絵をそれぞれ指さしました。続いて、それらを選んだ理由を質問されると、その患者は「鶏の足だから鶏にした」と答えました。左半球に言語中枢があるため、まず「鶏」について答えるのは当然でしょう。しかし、その後が興味深いのです。患者の左手がショベルを指さしていることを指摘すると、なんと、「鶏小屋の掃除にはショベルを使うから」と即答したのです。左半球は、「鶏の足」しか見えておらず、脳梁が切断されているため、雪景色のことは知らないです。そのため、本当は、「(左手がショベルの絵を選んだのは)分かりません」と答えるはずです。または、もし左半球が雪景色のことを知っているなら、「雪かきにショベルを使うから」と答えるはずです。このように、左半球(言語中枢)は、持てる知識を総動員して状況と一見矛盾しない後付けの答え(因果関係)をこしらえ、無意識に理由をこじつけるのです。つまり、自分が決めていると思わせる解釈装置は、主に左半球(言語中枢)で生まれるということです。この点で、先ほどご説明した半側空間無視の患者の病態失認や身体失認は、麻痺している(支配できない)から存在しないと解釈する解釈装置が働いているからであると考えることもできます。同じように考えれば、視覚中枢(後頭葉)の損傷で失明していても本人がその失明を否定する病態失認(アントン症候群)や、記憶障害から場当たり的につじつまを合わせた話を作る作話(コルサコフ症候群)もそれほど不思議な現象ではないことが分かります。また、認知症などによって、今がいつなのか分からなくなって過去と現在を混同すれば、「夫は死んでるけど明日には会える」「駅前にもう1つ同じ我が家がある」と言い張ります(重複記憶錯誤)。これらは、周りの状況と誤った時間感覚のつじつまを合わせようとする解釈装置が働いていると考えれば、それほど不思議な症状ではないことが分かります。そして、この解釈装置が過剰に作動すれば、ありえない関係付け(思い込み)をするという妄想(主に統合失調症)が出てくるでしょう。逆に、この解釈装置が作動しなければ、不要なものを含めて体験を丸ごと覚えてしまう写真記憶(主に自閉症)が出てくるでしょう。さらに、この解釈装置をビジネスに利用することもできます。それが、ブランド物のように付加価値(解釈)を生み出すブランディングです。また、心理療法に応用することもできます。それが、「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しい。だから笑うと楽しくなる(楽しいことを考えると楽しくなる)」という認知行動療法です。なお、統合失調症の詳細については、関連記事3をご覧ください。それでは、そもそもなぜこの意識は「ある」のでしょうか? そこから、私たちに自由意志があると思ってしまう原因を探ってみましょう。 << 前のページへ

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自閉スペクトラム症に対する小児精神薬理学~システマティックレビュー

 自閉スペクトラム症(ASD)は、一生涯にわたる重度の神経発達障害であり、社会的費用が高く、患者やその家族のQOLに大きな負荷を及ぼす疾患である。ASDの有病率は高く、米国においては小児の54人に1人、成人の45人に1人が罹患しているといわれているが、社会的およびコミュニケーションの欠陥、反復行動、限定的な関心、感覚処理の異常を含むASDの中核症状に対する薬理学的治療は十分ではない。イタリア・メッシーナ大学のAntonio M. Persico氏らは、ASDに対するベストプラクティスの促進、今後の研究のための新たな治療戦略を整理するため、小児および青年期のASDに対し、現在利用可能な最先端の精神薬理学的治療についてレビューを行った。Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2021年4月20日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・多動性、衝動性、興奮、気質性立腹、自己または他者への攻撃性に対する介入では、リスペリドンやアリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬が第1選択薬として用いられている。・三環系抗うつ薬は、有効性が不確実であり、重大な有害事象が懸念されるため、使用が減少している。・SSRI、とくにfluoxetineとセルトラリンは、反復行動(不安症状や強迫症状)や過敏性/興奮の治療に有効である可能性があり、ミルタザピンは睡眠に問題を抱える患者に役立つ可能性がある。・低用量のbuspironeと行動介入との併用は、限定的かつ反復的な行動に対し、ある程度の有効性が示唆されている。・精神刺激薬(程度は低いがアトモキセチン)は、ASDとADHDが合併した症例においても多動性、不注意、衝動性の軽減に効果的であるが、特発性ADHDと比較すると、有効性はやや劣り、副作用発現率は増加する。・クロニジンとグアンファシンは、多動性や情動行動に対し、ある程度の有効性が期待できる。・他の薬剤については、症例報告や非盲検試験で有効性が報告されており、ランダム化比較試験は実施されていない。 著者らは「ASDの小児精神薬理学の研究は、依然として少なく、2つの大きなハードルがあると考えられる。1つはASD患者では、臨床反応と副作用の感受性に個人差が大きい点があり、この低レベルの予測には、薬剤選択をサポートするうえで、症状固有の治療アルゴリズムやバイオマーカーが寄与する可能性がある。もう1つは、ASDの中核症状を直接的に改善する向精神薬はなく、併存症状の軽減や間接的な改善がいくつかの薬剤で報告されているにとどまっている点である」としている。

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妊娠中の抗うつ薬使用と子供の自閉スペクトラム症およびADHDリスク~メタ解析

 妊娠中のSSRIやSNRIなどの抗うつ薬使用と子供の自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如多動症(ADHD)リスクとの関連について、観察研究では一貫性が認められていない。関連を指摘する報告に対し、考慮されていない交絡因子の影響を示唆する見解も認められる。イスラエル・ヘブライ大学のRegina Leshem氏らは、この関連性を検討し、バイアス原因を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Current Neuropharmacology誌オンライン版2021年3月3日号の報告。 Medline、Embase、Cochrane Libraryより、2019年6月までに報告された妊娠中の抗うつ薬使用とASD、ADHDとの関連を調査した研究を検索した。データの選択および抽出は、PRISMA 2009ガイドラインに基づき実施した。ランダム効果モデルを用いて結果をプールし、各研究の調整済み推定値を用いてオッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・18件の研究をメタ解析に含めた。・出生前のSSRI、SNRI使用と子供のASD、ADHDリスクとの間に関連性が認められた。 ●ASD(OR:1.42、95%CI:1.23~1.65、I2=58%) ●ADHD(OR:1.26、95%CI:1.07~1.49、I2=48%)・妊娠前のSSRI、SNRI使用においても、同様の関連が認められた。 ●ASD(OR:1.39、95%CI:1.24~1.56、I2=33%) ●ADHD(OR:1.63、95%CI:1.50~1.78、I2=0%) 著者らは「妊娠中のSSRI、SNRI使用と子供のASD、ADHDリスクとの関連が認められたが、この関連は妊娠前の使用でもみられており、考慮されていない交絡因子が影響している可能性がある。今後、考慮されていない交絡因子をさらに評価し、ネットワークメタ解析が行われることが望まれる」としている。

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自閉スペクトラム症における統合失調症や気分障害の合併率

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、他の疾患を合併しているケースが少なくない。多くの研究において、ASD患者を対象に精神医学的合併症の有病率が報告されているものの、合併症の発生率は明らかになっていない。台湾・国立台湾大学医学院附設病院のYi-Ling Chien氏らは、台湾レセプトデータベースを用いて、ASD患者における主な精神医学的合併症の発生率および性別、ASDサブタイプ、自閉症関連の神経発達状態と発生率との関連について調査を行った。Autism Research誌2021年3月号の報告。ASD患者の統合失調症スペクトラム障害併発は9.7人/1,000人年 対象は、ASD患者3,837例(自閉症:2,929例、アスペルガー症候群:447例、特定不能な広汎性発達障害:461例)および年齢、性別をマッチさせた対照群3万8,370例。統合失調症スペクトラム障害、双極性障害、うつ病の発生率を調査した。 主な結果は以下のとおり。・3つのASDサブタイプすべてにわたる対照群と比較し、ASD患者の精神医学的合併症の発生率は、有意に高かった。 ●統合失調症スペクトラム障害:9.7人/1,000人年 ●双極性障害:7.0人/1,000人年 ●うつ病:3.2人/1,000人年・特定不能な広汎性発達障害は、自閉症よりも、うつ病リスクが高かった。・アスペルガー症候群の女性は、男性よりも、統合失調症スペクトラム障害リスクが有意に高かった。・自閉症関連の神経発達状態を考慮すると、合併症の発生率は大幅に低下した。 著者らは「ASD患者では、精神医学的合併症の発生率は高く、ASDサブタイプ、性別、自閉症関連の神経発達状態の影響を受けることが示唆された」としている。

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日本における自閉症の特徴を有する女性の産後うつ病と虐待リスク

 自閉症の特徴を有する女性が、出産後に母親となり、どのような問題に直面するかはあまりわかっていない。順天堂大学の細澤 麻里子氏らは、出産前の非臨床的な自閉症の特徴と産後うつ病および産後1ヵ月間の子供への虐待リスクとの関連、これらに関連するソーシャルサポートの影響について、調査を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2020年11月5日号の報告。自閉症の特徴は産後うつ病や子供への虐待のリスク増加と関連 日本全国の出生コホートである子どもの健康と環境に関する全国調査(Japan Environment and Children's Study)より、精神疾患の既往歴のない単胎児の母親7万3,532人を対象とした。自閉症の特徴は、簡易自閉症スペクトラム指数日本語版を用いて、妊娠第2三半期/第3三半期に測定した。対象者を、自閉症スコアに基づき3群(正常、中等度、高度)に分類した。産後うつ病はエジンバラ産後うつ病尺度日本語版を、子供の虐待は自己報告を用いて、出産1ヵ月後に測定した。妊娠中のソーシャルサポートは、個々に収集した。データ分析には、ポアソン回帰を用いた。 出産前の自閉症の特徴と産後うつ病および子虐待リスクとの関連を調査した主な結果は以下のとおり。・産後1ヵ月間で、産後うつ病は7,147人(9.7%)、子供への虐待は1万2,994人(17.7%)より報告された。・自閉症の特徴は、交絡因子とは無関係に、産後うつ病および子供への虐待のリスク増加との関連が認められた。 【自閉症スコア中等度】 ●産後うつ病(調整後相対リスク[aRR]:1.74、95%CI:1.64~1.84) ●子供への虐待(aRR:1.19、95%CI:1.13~1.24) 【自閉症スコア高度】 ●産後うつ病(aRR:2.33、95%CI:2.13~2.55) ●子供への虐待(aRR:1.39、95%CI:1.28~1.50)・自閉症スコアが中等度または高度の女性に対するソーシャルサポートは、産後うつ病および子供への虐待のリスクを、26~31%緩和させた。 著者らは「自己報告による評価であるため、制限がある」としながらも「中等度または高度の自閉症の特徴を有する母親は、産後1ヵ月間で、産後うつ病や新生児虐待に対する脆弱性が認められており、妊娠中のソーシャルサポートが不足している可能性が示唆された」としている。

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統合失調症スペクトラム障害患者における自閉症症状と自己スティグマの関連

 自己スティグマは、精神疾患患者の自尊心、QOL、自己効力感、治療アドヒアランス、寛解に悪影響を及ぼすことが知られている。自己スティグマに影響する性格特性を明らかにすることができれば、自己スティグマのマネジメントに役立つ情報が得られる可能性がある。これまでのメタ解析では、統合失調症患者は、健康対照者と比較し、自閉症スペクトラム指数(AQ)スコアが高いことが示唆されている。しかし、統合失調症スペクトラム障害患者における自閉症症状と自己スティグマとの関連はよくわかっていない。東北大学の小松 浩氏らは、この関連を明らかにするため、検討を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2020年10月29日号の報告。 対象は、統合失調症スペクトラム障害患者(統合失調症、統合失調感情障害、妄想性障害)127例。自己スティグマの評価にはInternalized Stigma for Mental Illness(ISMI)、自閉症症状の評価にはAQを用いた。患者特性によるISMIとAQスコアとの違いを調査した。AQ合計スコアとISMI合計スコアとの関連を評価するため、年齢、性別で調整した後、重回帰分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・女性患者は、男性患者よりも、自己スティグマレベルが高かった。・未婚患者は、既婚患者と比較し、AQスコアが有意に高かった。・重回帰分析では、AQ合計スコアが、統合失調症スペクトラム障害患者のISMIの全体評価に対する予測因子である可能性が示唆された。 著者らは「本研究は、統合失調症スペクトラム障害患者における自閉症症状と自己スティグマとの関連を明らかにした最初の研究である。統合失調症スペクトラム障害患者の自己スティグマを評価、マネジメントするためには、自閉症症状を考慮することが重要である」としている。

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新たに診断された成人のADHDおよびASDに併存する精神疾患

 成人の注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)に併存する精神疾患は、医療費の増大を招き、場合によっては診断遅延の原因となる。ギリシャ・国立カポディストリアコス・アテネ大学のArtemios Pehlivanidis氏らは、新たに診断された成人のADHDおよび/またはASDの有病率と精神疾患の生涯併存率を比較し、それらがもたらす臨床上の課題について検討を行った。BMC Psychiatry誌2020年8月26日号の報告。成人ADHDおよびASD患者では精神疾患の併存率が高かった 対象は、新たなADHDおよび/またはASDの診断のために臨床評価を行った、認知機能が正常な成人336例。最も頻繁に併存する10の精神医学的診断の生涯併存率を調査した。対象患者を、ADHD群(151例)、ASD群(58例)、ADHD+ASD群(28例)、非ADHD+非ASD(NN)群(88例)の4つに分類した。 成人のADHDおよびASDに併存する精神疾患を調査した主な結果は以下のとおり。・各群における精神医学的診断の生涯併存率は以下のとおりであった(p=0.004)。 ●ADHD群:72.8% ●ASD群:50% ●ADHD+ASD群:72.4% ●NN群:76.1%・すべての群において、最も頻繁に併存する精神疾患は、うつ病であった。・ADHD群と非ADHD群(ASD群+NN群)の間における精神疾患の併存パターンは、物質使用障害でのみ統計学的に有意な差が認められた(p=0.001)。・双極性障害の割合は、ASD群と比較し、NN群で有意に高かった(p=0.025)。 著者らは「成人ADHDおよび/またはASD患者では精神疾患の併存率が高かったが、その中でASD患者での併存率は最も低かった。ADHD群と非ADHD群の最も有意な差は物質使用障害で認められた」とし、「ADHDおよび/またはASDの有無にかかわらず、これらの疾患が疑われるすべての患者に対して徹底的な臨床評価を行う必要性が示唆された」としている。

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脳画像データの機械学習を用いた統合失調症と自閉スペクトラム症の鑑別

 神経精神疾患の診断は、問診による臨床症状に基づいて行われるため、難しい部分がある。ニューロイメージングなどの客観的なバイオマーカーが求められており、機械学習と組み合わせることで確定診断の助けとなり、その信頼性を高めることが可能である。東京大学のWalid Yassin氏らは、統合失調症患者、自閉スペクトラム症(ASD)患者、健常対照者から得た磁気共鳴画像(MRI)の脳構造データを用いて機械学習を行い、鑑別診断のための機械学習器の開発を試みた。Translational Psychiatry誌2020年8月17日号の報告。 統合失調症患者64例、ASD患者36例、健常対照者106例から得た脳構造データを、FreeSurferを用いて解析した。6つの機械学習器を用いて対象の分類を行った。また、精神疾患ハイリスク患者26例、初回エピソード精神疾患患者17例の脳構造データを、開発した機械学習器に当てはめた。最後に、各疾患群の臨床症状の重症度によって評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・6つの機械学習器のすべてが、比較的よく機能していた。・とくに、サポートベクターマシーン(SVM)とロジスティック回帰(LR)の2つの機械学習器が、鑑別診断により有効であることが示唆された。・皮質厚と皮質下体積は、判別に最も有効であった。・LRおよびSVMは、ASDの臨床指標と非常に一致していた。・精神疾患ハイリスク患者群、初回エピソード精神疾患患者群の脳構造データは、大部分が統合失調症と分類され、ASDとしては分類されなかった。 著者らは「今回開発した機械学習器は、統合失調症の異なる臨床病期の脳構造データを当てはめると、統合失調症または健常対照と分類され、ASDと分類されることはなかった。そのため、本研究による機械学習器は、臨床現場で必要とされる、鑑別診断や治療予測などのマーカーとしての応用が期待される」としている。

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治療抵抗性統合失調症の認知プロファイルと自閉スペクトラム症の特徴

 治療抵抗性統合失調症(TRS)の複雑な病態生理には、重度の陽性症状だけでなく、ほかの症状領域も含まれている。また、統合失調症と自閉スペクトラム症(ASD)の重複する心理学的プロファイルは、明らかになっていない。千葉大学の仲田 祐介氏らは、統合失調症とASD患者における神経発達および認知機能に焦点を当て、比較検討を行った。Schizophrenia Research. Cognition誌2020年7月27日号の報告。 対象は、TRS患者30例、寛解期統合失調症(RemSZ)患者28例、ASD患者28例。一般的な神経認知機能はMATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリーを用いて評価し、社会的な認知機能は心の理論(theory of mind)と感情表出(emotional expression)で評価した。自閉症の特徴は、自閉症スペクトラム指数(AQ)、自閉症スクリーニング尺度(ASQ)、広汎性発達障害評価尺度(PDDRS)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・TRS患者では、一般的な神経認知機能および社会的な認知機能が最も悪かった。・RemSZ患者は、3群間で最も良好であった。・自閉症の特徴は、すべての尺度において、以下のとおりであった。 ●ASD患者は、自閉症の特徴のスコアが最も高い。 ●TRS患者は、ASD患者よりもスコアが低かった。 ●全体的な傾向として、TRS患者のスコアは、ASD患者とRemSZ患者の間であった。 著者らは「TRS患者とRemSZ患者では、異なる特徴的な神経発達および認知プロファイルを有している可能性が認められた。さらに、TRS患者の社会的な認知機能障害と自閉症の特徴の程度はASD患者と似ており、TRSとASDの類似性が示唆された」としている。

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自閉スペクトラム症と統合失調症の鑑別症状

 自閉スペクトラム症(ASD)と統合失調症(SZ)は、類似症状を呈する異種性の神経発達障害である。米国・イェール大学のDominic A. Trevisan氏らは、ASDとSZの重複および鑑別する症状の特定を試みた。Frontiers in Psychiatry誌2020年6月11日号の報告。 対象は、成人のASD患者53例、SZ患者39例、定型発達者40例。すべての対象者に、ASD評価のための半構造化観察検査(ADOS-2)および陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)による評価を行った。ADOSの感度と特異性は、診断カットオフ値を用いて評価した。群間の重複症状の分析には、IQと性別分布による群間差をコントロールした後、ANOVA、ROC曲線、ANCOVAを用いた。 主な結果は以下のとおり。・成人のASDとSZの鑑別にADOSは有用であったが、DSM-VでASD基準を満たさないSZ患者では、偽陽性率が高かった。・SZ患者の特異性が低い理由を特定するため、ASDとSZの症状を正の症状(異常行動あり)と負の症状(通常行動なし)に分類した。・ASDとSZでは、典型的な社会的およびコミュニケーション上の行動の欠如に関連する負の症状に重複が認められたが、疾患特有の正の症状では違いが認められた。・ASDでは、反復繰り返し行動や常同的な言語のスコアが高く、SZでは、幻覚・妄想などの精神病性症状のスコアが高かった。 著者らは「ASDとSZの鑑別では、正の症状に焦点を当てることが有用である可能性が示唆された。ASD症状を正と負に分類するための標準化された測定法は開発されていないが、実行可能な臨床ツールであると考えられる」としている。

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小児精神疾患における80種の向精神薬の安全性~メタ解析

 精神疾患は、小児期や青年期にしばしば発症する。小児精神疾患の治療に適応を有する向精神薬はさまざまあり、適応外での使用が往々にして行われる。しかし、これら向精神薬の副作用については、発達途上期間中であることを踏まえ、とくに注意が必要である。イタリア・パドヴァ大学のMarco Solmi氏らは、小児および青年の精神疾患に対する抗うつ薬、抗精神病薬、注意欠如多動症(ADHD)治療薬、気分安定薬を含む19カテゴリ、80種の向精神薬における78の有害事象を報告したランダム化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析およびメタ解析、個別のRCT、コホート研究をシステマティックに検索し、メタ解析を行った。World Psychiatry誌2020年6月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・ネットワークメタ解析9件、メタ解析39件、個別のRCT90件、コホート研究8件が抽出され、分析対象患者は33万7,686例であった。・78の有害事象について20%以上のデータを有していた薬剤は以下のとおりであった。 ●6種の抗うつ薬:セルトラリン、エスシタロプラム、パロキセチン、fluoxetine、ベンラファキシン、vilazodone ●8種の抗精神病薬:リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ルラシドン、パリペリドン、ziprasidone、オランザピン、アセナピン ●3種のADHD治療薬:メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン ●2種の気分安定薬:バルプロ酸、リチウム・これらの薬剤のうち、カテゴリごとにより安全なプロファイルを有していた薬剤は以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:エスシタロプラム、fluoxetine ●抗精神病薬:ルラシドン ●ADHD治療薬:メチルフェニデート ●気分安定薬:リチウム・入手可能な文献より、安全性の懸念が最も高かった薬剤は以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:ベンラファキシン ●抗精神病薬:オランザピン ●ADHD治療薬:アトモキセチン、グアンファシン ●気分安定薬:バルプロ酸・カテゴリごとに最も関連が認められた有害事象は以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:悪心・嘔吐、有害事象による中止 ●抗精神病薬:過鎮静、錐体外路症状、体重増加 ●ADHD治療薬:拒食、不眠 ●気分安定薬:過鎮静、体重増加 著者らは「本結果は、臨床診療、研究、治療ガイドライン作成を行ううえで役立つであろう」としている。

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統合失調症と自閉スペクトラム症の判別に~脳機能的結合からのアプローチ

 統合失調症スペクトラム障害(SSD)と自閉スペクトラム症(ASD)との関係については長年議論されてきたが、いまだに解明には至っていない。京都大学の吉原 雄二郎氏らは、ASDとSSDの関係を定量化および視覚化するために、安静時機能結合MRIに基づき健常対照群(HC)から患者を判別する両方の分類手法を用いて調査を行った。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2020年4月17日号の報告。 信頼性の高いSSD分類手法を開発するため、慢性期SSD患者を含む京都大学医学部附属病院のデータセット(170例)よりSSD固有の機能的接続を自動的に選択する高度な機械学習アルゴリズムを適応した。SSD分類手法の一般化の可能性は、2つの独立した検証コホートと初回エピソード統合失調症患者を含む1つのコホートによりテストした。SSD分類手法の特異性は、ASDとうつ病の2つの日本人コホートによりテストした。分類手法の機能的結合の加重線形総和は、疾患の神経分類の確実性を表す生物学的ディメンションを構成した。以前に開発したASD分類手法をASDディメンションとして使用した。SSD、ASD、HC群の分布は、SSDおよびASDの生物学的ディメンションで調査した。 主な結果は以下のとおり。・SSD群とASD群は、2つの生物学的ディメンションにおいて、重なり合う関係性と、非対称な関係性の両方の特性があることが示唆された。・SSD群は、ASD傾向があるのに対し、ASD群にはSSD傾向が認められなかった。 著者らは「生物学的な安静時の脳機能結合と、従来の症状や行動から規定される精神疾患の診断を基に、高度な機械学習アルゴリズムを用いてSSDの判別法を新たに開発できた」とし「各精神疾患の判別法の開発により、生物学的な側面からの各精神疾患の関係性についての解明につながることが期待でき、今後の精神疾患の個別化医療に役立つであろう」としている。

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第9回 今や54人に1人、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではない

スウェーデンの多数の双子を調べた新たな試験1,2)の結果、自閉症のほとんどは生来の遺伝情報に起因しているようであり、自閉症への生来の遺伝情報と環境の関与のほどは数十年変わっておらず、自閉症の増加はおそらく環境要因によるものではないと示唆されました。今回の試験では、1982~2008年に生まれた双子22,678組と、1992~2008年に生まれた双子15,280組が調べられました。その結果、それらの2群のうち前者では約24%、後者では約30%を占める一卵性双生児のどちらもが自閉症である割合は一卵性双生児ではない双子に比べて一貫して高く、およそ93%の自閉症と61~73%の自閉症特徴は生来の遺伝情報に起因すると示唆されました。今回の結果は5ヵ国の小児200万人超を解析した最近の試験報告3,4)とほぼ一致しています。昨年9月にJAMA Psychiatry誌に掲載されたその試験では、自閉症の80%ほどが遺伝情報に起因すると推定されました。自閉症の生じやすさへの親譲りの遺伝情報の寄与は、出産時の親の年齢と子の自閉症の関連の研究などで示唆されています。東京大学のWalid Yassin氏らが昨年報告した自閉症成人39人とそうでない男性37人の死後脳解析では、生まれた時の父親の年齢がより高齢な男性には、自閉症と関連する脳白質異常がより認められました5,6)。また、今年初めにCell Stem Cell誌に掲載された研究では自閉症の特徴の一つである脳肥大に寄与するらしい神経前駆細胞(NPC)過剰増殖とDNA損傷の関連が示されています7,8)。その翌月2月のNature Neuroscience誌掲載の報告では、神経の軸索を覆って絶縁し、脳内の高速の信号伝達を可能にしている脂質の鞘・ミエリンの形成に携わる細胞・オリゴデンドロサイト(OL)成熟不良と自閉症の関連が示唆されました9,10)。自閉症はここ数年で増加しています。この3月に発表された米国疾病管理予防センター(CDC)の推定では、米国の2016年の8歳児の54人に1人が自閉症であり、2014年のその割合(59人に1人)に比べて10%ほど上昇しています11)。同時に発表された4歳児の統計結果によるとより幼くして自閉症が見つかることが多くなっていることが伺われ、その傾向が続けば8歳児の自閉症有病率はおそらく今後更に上昇します。小児の自閉症が増えていることは自閉症の成人により目を向ける必要があることも示唆しています。米国でおそらく毎年75,000人ほど増えている自閉症の成人の社会参画に取り組まなければならないと、ジョージア州アトランタ市のEmory Autism Centerの長Catherine Rice氏は言っています。Rice氏は屈指の自閉症ニュースサイトSpectrumに続けてこう言っています。「ほとんどの地域には自閉症の人の数々の苦労にあまねく対処する取り組みがない。社会の一翼を担う自閉症成人が健やかに過ごせるようにする手立てが必要だ」また、上述したような研究が進めば、自閉症の負担そのものを解消する手立てもやがて見つかるでしょう。たとえばOL成熟不良と自閉症の関連が示されたことを受け、次はミエリン形成異常を示す人工脳を使ってミエリン形成を増やす化合物探しが期待できます9)。小児の自閉症が早期診断され、治療で症状が治まるようになることを同研究の著者らは望んでいます。参考1)Environmental Factors Don’t Explain Rise in Autism Prevalence / TheScientist2)Taylor MJ, et al. JAMA Psychiatry. 2020 May 6. [Epub ahead of print]3)Bai D, et al. JAMA Psychiatry. JAMA Psychiatry. 2019 Jul 17;76:1035-1043.4)Majority of autism risk resides in genes, multinational study suggests / Spectrum5)Paternal Age Linked to Brain Abnormalities Associated with Autism / TheScientist6)Yassin W, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2019 Oct;73(10):649-659.7)DNA Damage Linked to Brain Overgrowth in Autism / TheScientist8)Wang M, et al. Cell Stem Cell. 2020 Feb 6;26:221-233.e6.9)Phan BN, et al. Nat Neurosci. 2020 Mar;23:375-385.10)Inadequate Myelination of Neurons Tied to Autism: Study / TheScientist11)New U.S. data show similar autism prevalence among racial groups / Spectrum

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ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

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統合失調症患者の多遺伝子リスクスコア

 統合失調症の遺伝的病因は、他の主要な精神疾患の遺伝的病因と重複していることが、欧州系サンプルにおいて報告されている。金沢医科大学の大井 一高氏らは、日本人統合失調症患者または発症していない第1度近親者と主要な精神疾患を有する欧州患者における民族を超えた遺伝的特徴を調査するため、多遺伝子リスクスコア(PRS)分析を実施した。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2020年1月4日号の報告。 5つの精神疾患(統合失調症、双極性障害、うつ病、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症)および統合失調症と双極性障害を区別するPRSを算出するため、大規模欧州ゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータセットをディスカバリーサンプルとして用いた。これらのGWASから得られたPRSは、日本人対象者335例について算出された。欧州精神疾患患者のPRSを入手し、日本人統合失調症患者および発症していない第1度近親者におけるリスクへの影響を調査した。 主な結果は以下のとおり。・欧州の統合失調症および双極性障害患者のPRSは、日本人健康対照者よりも、日本人統合失調症患者で高かった。・統合失調症患者と欧州の双極性障害患者を区別するPRSは、日本人健康対照者よりも、日本人統合失調症患者で高かった。・欧州の自閉スペクトラム症に関連するPRSは、日本人健康対照者または統合失調症患者よりも、発症していない第1度近親者で低かった。・自閉スペクトラム症のPRSは、統合失調症の発症年齢の若さと正の相関が認められた。 著者らは「日本人の統合失調症リスクを検討する際、欧州の統合失調症と双極性障害に関連する多遺伝子情報は、民族を超えて利用可能であると考えられる。さらに、統合失調症を発症していない統合失調症患者の第1度近親者において、自閉スペクトラム症関連の遺伝子レベルを低下させることが、統合失調症の発症予防につながる可能性が示唆された」としている。

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脳クレアチン欠乏症候群〔CCDSs:cerebral creatine deficiency syndromes〕

1 疾患概要■ 概念・定義脳クレアチン欠乏症(cerebral creatine deficiency syndromes:CCDSs)は、脳内クレアチンが欠乏することにより発症し、知的障害、言語発達遅滞、痙攣、自閉症スペクトラム、筋緊張低下を特徴とする遺伝性疾患である。CCDSsは、クレアチン産生障害によるアルギニン:グリシンアミジノ基転移酵素(AGAT)欠損症(MIM#612718)と、グアニジノ酢酸メチル基転移酵素(GAMT)欠損症(MIM#612736)、およびクレアチン輸送障害によるクレアチントランスポーター(SLC6A8)欠損症(MIM#300352)の3疾患からなる。とくに、AGAT欠損症、およびGAMT欠損症はクレアチン投与が症状改善に有効であり、治療法のある知的障害として、見逃してはいけない疾患である。 本症は2018年4月に小児慢性特定疾病に登録されている。■ 疫学SLC6A8欠損症は、男性の知的障害(IQ<70)の0.3〜3.5%の原因と推定され、知的障害の単一遺伝子疾患として頻度の高い疾患の1つであるが、国内における症例の報告は10家系未満であり、わが国では未診断症例が多いと推測されている。AGAT欠損症は、世界でも極めてまれである。GAMT欠損症は、SLC6A8欠損症についで頻度が高く、110例以上の報告があるが、国内では1例のみ報告されている。■ 病因クレアチンは、グアニジノ基(HN=C(NH2)2)を持つグアニジノ化合物の1つである。クレアチンとATPは、クレアチンキナーゼにより可逆的にクレアチンリン酸とADPに変換する。脳におけるクレアチンの役割は不明な点も多いが、脳の機能や発達においてATPを的確に供給するための貯蔵庫としての機能以外に、神経修飾物質、神経伝達物質、抗酸化作用、細胞保護作用、骨や筋の成長促進作用、神経保護作用、視床下部に働き食欲や体重を調節する作用が報告されている。クレアチンは、食事の摂取によるものと、体内で生成されるものとがある。体内でのクレアチン生成は、グリシンアミジノ基転移酵素(L-arginine:glycine amindinotransferase:AGAT)とグアニジノ酢酸メチル基転移酵素(guanidinoacetate methyltransferase:GAMT)の2つの酵素により生成される。グリシン(glycine)はAGATによりアルギニン(L-arginine)のグアニジノ基を受け取り、グアニジノ酢酸(guanidinoacetate)とオルニチンになり、グアニジノ酢酸はGAMTによってメチル化され、クレアチンとなる。血液中のクレアチンの組織への取り込みやクレアチンの尿細管での再吸収はクレアチントランスポーター(SLC6A8)を介している(図1)。AGATとGAMTはそれぞれ、GATM遺伝子(15q21.1)とGAMT遺伝子(19p13.3)にコードされ、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で男女とも発症する。SLC6A8は、SLC6A8遺伝子(Xq28)にコードされ、X連鎖性遺伝形式で主に男性に発症する。女性も男性に比べると一般に軽症ではあるが、さまざまな程度の症状を呈する。図1 クレアチン代謝経路画像を拡大する■ 症状知的障害(軽度〜重度)を主症状に、言語発達遅滞、痙攣、自閉症スペクトラム、筋緊張低下を特徴とする。運動異常(錐体外路症状)や行動異常を呈することもある。■ 予後合併症の程度によるが、生命予後は悪くないと推測される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)プロトン-MRスペクトロスコピー(1H-MRS)(図2)3疾患に共通の所見として、Crピークの低下を認める。2)尿・血清・髄液中のグアニジノ酢酸、クレアチン、クレアチニンの測定(表)スクリーニングとして有用である。とくに、知的障害のある男性患者では、尿中クレアチン/クレアチニン比上昇(mg/dL換算で、2以上)により、SLC6A8欠損症が強く疑われる。尿・血清のクレアチン、クレアチニンは検査会社で測定可能である。LC-MS/MSあるいはGC-MSを用いたグアニジノ酢酸を含めたグアニジノ化合物の代謝産物は研究室レベルで測定可能である。図2 脳クレアチン欠乏症候群の診断画像を拡大する表 脳クレアチン欠乏症の診断画像を拡大する3)遺伝子検査検査会社(かずさDNA研究所など)で解析可能である(本稿公開の時点では、保険収載されておらず、自費診療となる)。とくに、女性のSLC6A8欠損症では、唯一の診断方法である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)AGAT欠損症およびGAMT欠損症には、クレアチン補充療法が有効である。後者では、神経細胞毒性のあるグアニジノ酢酸の産生を抑えるために、オルニチン、安息香酸ナトリウムの併用、アルギニン摂取制限を行う。SLC6A8欠損症に対しては、クレアチン投与は有効ではないが、酵素活性が残存している可能性がある患者(とくに女児)ではクレアチン単独、あるいはアルギニンやグリシンとの併用が有効であるかもしれない。4 今後の展望SLC6A8欠損症に対しては、海外においては、サイクロクレアチンの臨床研究が始まっている。ホスホクレアチン、クレアミド(クレアチルグリシンメチルエステル)、クレアチンエチルエステル、ドデシルクレアチンエステル、S-アデノシルメチオニンなども可能性がある。また、タンパクの折りたたみに影響を与える遺伝子変異の場合、シャペロン療法が有効な可能性がある。5 主たる診療科小児科(小児神経内科)、児童精神科、神経内科、遺伝子診療部門(遺伝カウンセリング)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病 脳クレアチン欠乏症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)遺伝子医療実施施設検索システム(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会認定小児神経専門医(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ATR-X症候群研究班&脳クレアチン欠乏症候群研究班(医療従事者向けのまとまった情報)Association for Creatine Deficiencies(クレアチン欠乏症協会の英文による医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(「遺伝性疾患情報サイト」英文による医療従事者向けのまとまった情報)Treatable Intellectual Disability(「治療できる知的障害について」英文による医療従事者向けのまとまった情報)1)van de Kamp JM, et al. J Med Genet. 2013;50:463-472.2)Kato H, et al. Brain Dev. 2014;36:630-633.3)野崎章仁ほか. 脳と発達. 2015;47:49-52.4)Mercimek-Mahmutoglu S, et al. GeneReviews. December 10;2015.5)Curt MJC, et al. Biochimie. 2015;119:146-165.公開履歴初回2019年09月10日

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万引き家族(後編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 2

万引きをしないためにはどうすれば良いの?「万引き」(反社会的行動)の遺伝を「なかったこと」にしたいのは、差別になる、不平等になる、懲らしめられなくなるという私たちの思いがあることがわかりました。そして、その思いの根底にあるのは、私たちはもともと「善」であり、「同じ」であり、「意思」があるという心理でした。ただし、これらの心理は、原始の時代の村で進化してきたものです。その村は、血縁関係でつながり、共通点が多く、お互いのことをよく知っていて、助け合って、信頼できる平等社会です。一方、現代の国家ではどうでしょうか? 多様化して共通点が少なく、お互いのことをよく知らず、直接助け合っておらず、信頼できるかわからない格差社会です。私たちの心はほとんど原始の時代のままなのに、現代の社会構造(環境)があまりにも変わってしまっています。「万引き」(反社会的行動)の「芽」がより出やすくなっているように思えます。だからこそ、私は、犯罪と遺伝の関係という「不都合な真実」を伝える必要があると思います。そして、その「真実」を踏まえてこその対策があると思います。それでは、万引きをしないためにはどうすれば良いでしょうか? 遺伝、家庭環境、家庭外環境にわけてそれぞれ考えてみましょう。(1)遺伝-本人の特性を強みとして生かす-ストレングスモデル家族団らんのシーンで、亜紀の気に入っている客が無口だったと聞いた信代は「あー男は無口なくらいがちょうどいいよ。おしゃべりはダメ」と言って、遠くから治を箸で指し、からかいます。すると、治は、「何?おれのこと呼んだ?」とツッコミを入れて、祥太とじゅりに手品を披露します。ここで分かるのは、治の良さは、おしゃべりでノリが良いこと、観察力があり器用であることです。これは、万引きの手際の良さから言うまでもありません。その後、信代が罪をすべてかぶったため、治は、罰を逃れました。しかし、定職に就くこともなく、一人暮らしをしているようです。治は、これで良いのでしょうか?1つ目の対策は、もともとの本人の特性を強みとして生かすことです(ストレングスモデル)。治は、抽象的思考が苦手なため、相手の指示の意図や段取りがわからないです。よって、建築作業員や事務員などは向いていないと言えます。また、飽きっぽさから、信代がやっていたようなクリーニング工場での単純機械作業も向いていないでしょう。向いているのは、単純な接客など、対人的でその場のやり取りに限定した仕事でしょう。もちろん、知的障害が判明すれば、障害者枠就労も現実的でしょう。もちろん、治に反省を促すことはできます。しかし、すでに説明した通り、抽象的思考が苦手なため、その反省は表面的で一時的でしょう。そもそも治には前科があるということが後に判明します。このように、ポイントは、犯罪歴があり再犯リスクのある個人に対して、懲らしめとして社会から疎外して、ひたすら反省を促すのではありません(ソーシャルエクスクルージョン)。一定の制限は設けつつも、むしろ社会復帰をするリハビリテーションを促すことです(ソーシャルインクルージョン)。行動遺伝学的に言えば、反社会性の「芽」が出てしまっていても、対極の社会性の「芽」には「水やり」をし続けることです。それは、社会への信頼と誇りを育むことです。これをしないと、結局、反社会性の「芽」が出たままで、行動化という「花」をまた勝手に咲かせるかもしれません。つまり、反社会性の「芽」が出てしまっている人にこそ、社会から疎外して放置するのではなく、またその「花」を咲かせないような予防介入をすることが重要になります(個別的予防介入)。そもそも、「万引き」(反社会的行動)をする人たちだけが、その「種」を持っているわけではありません。私たち一人一人の心の中にも、量の差はあれ、その「種」を持っており、あるきっかけで「芽」が出てくるかもしれません。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、差別になるという発想は出てこないでしょう。つまり、私たちは、もともと「善」でも「悪」でもないと冷静に理解する必要があります。(2)家庭環境-親が子育てを勉強する-ペアレントトレーニング信代がじゅりに洋服を買ってあげようとした時、じゅりから「叩かない?」「あとで、叩かない?」と繰り返し確認されます。その瞬間、信代は、じゅりの母親が毎回服を買った後に叩いていたことを確信し、「大丈夫、叩いたりしないよ」と優しく言います。じゅりの母親もまた夫からDVを受けており、じゅりの家庭では暴力がコミュニケーションの1つの形になっています。じゅりの母親は、体罰をしつけの一環としており、虐待の自覚がないようです。2つ目の対策は、親が子育てを勉強することです。かつて大家族で、見守ってくれる周りの目がたくさんありました。そして、教えてくれる先輩の親がいました。しかし、現在は、核家族化が進んでおり、見守る目はあまりなく、ママ友はいたとしても、家に一緒にいて教えてくれたり、助けてくれる先輩ママはなかなかいません。すると、子育てが独りよがりになってしまいます。それが、じゅりの家庭の暴力、治と信代の家庭の万引きです。このような反社会的モデルにならないという子育てのやり方をまず親が勉強する社会的な仕組み作りが必要です。たとえば、自閉症やADHDをはじめとする発達障害で、療育に並んで早期に行われる親への心理教育(ペアレント・トレーニング)と同じです。行動遺伝学的に言えば、反社会性の「種」を多く持っている可能性がある子どもにこそ、社会性の「種」への「水やり」を丁寧にする必要があることをまずその親が自覚することが重要になります(選択的予防介入)。そもそも、「万引き」(反社会性)に限らず、私たちは、それぞれ違う「種」を持っています。生まれながらにして、私たちは、心も体も「不平等」です。ただし、生まれてから、教育や福祉によって、将来的になるべく不平等にならないような社会の仕組み作りをすることはできます。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、不平等になるという発想は出てこないでしょう。つまり、私たちは、もともと「同じ」ではないと冷静に理解する必要があります。(3)家庭外環境-社会とのつながりを持つ-社会的絆理論刑事は、祥太から「学校って、家で勉強できない子が行くんじゃないの?」と聞かれて、「家だけじゃできない勉強もあるんだ」「(友達との)出会いとか」と答えています。その後、祥太は「国語のテストで8位になった」と喜ぶシーンもあります。祥太の人生が、大きく開けてきています。3つ目は、社会とのつながりを持つことです(社会的絆理論)。祥太にとって、その初めての「出会い」は、駄菓子屋のおじいさんでした。さらに、学校に行くというかかわり(インボルブメント)や勉強や部活動をがんばるという目標(コミットメント)です。さらに、マクロな視点で考えてみましょう。初枝は訪問に来た民生委員を追い払っていました。このように、治、信代、初枝は、こそこそと暮らし、孤立していました。そこには、行き詰まり感も描かれています。つながりの希薄さは、ちょうど非正規雇用、非婚、ひきこもりなどの昨今の社会問題にもつながります。そうではなくて、役所をはじめ、周りに相談し、福祉サービスを受けることです。たとえば、初枝は、治と信代と世帯分離をすれば、持ち家があっても生活保護の受給が可能になります。治は、就労支援や障害者枠雇用が可能になります。信代は、ハローワークを介して再就職が可能になります。このような社会とのつながりや援助によって格差が減ることで、彼らの社会への復讐心は減っていくでしょう。行動遺伝学的に言えば、反社会性の「種」があっても、「芽」が出ていても、「花」が咲かないように、その「水やり」をしない取り組みを社会全体ですることが重要になります(全体的予防介入)。そもそも、「万引き」(反社会性)に限らず、「種」から「芽」が出て、「花」が咲くかどうかは、それまでの「水やり」の加減次第です。そういう意味では、私たちたちの行動は、遺伝だけでなく、やはり環境によっても決まっていると言えます。ある行動に対しての「意思」は、私たちが思っている以上に、周りによって揺れているのかもしれないと思えてきます。つまり、「万引き」(反社会的行動)は、他人事ではないということです。原始の時代は、その極限状況から、「万引き」をした人の排除という手段しか残されていなかったわけです。排除すれば、死んでしまう可能性が高いため、再犯リスクはほぼ0です。しかし、現代は違います。「万引き」をした人は生き続けると同時に、彼らの教育や福祉にコストをかける社会の余裕があります。懲らしめることが全てではないです。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、懲らしめられなくなるという単純な発想は出てこないでしょう。つまり、私たちの「意思」は、思っているよりも流されやすいと冷静に理解する必要があります。「本当の社会」とは?刑事が祥太に「本当の家族だったらそういうことしないでしょ」と言うシーンがありました。祥太をはっとさせると同時に、私たちをもはっとさせるインパクトのあるセリフです。同じように考えれば、「本当の社会」だったら、どうでしょうか? その「不都合な真実」と向き合うでしょう。なぜなら、その社会は、本当に「万引き」(反社会的行動)が減ってほしいと願うからです。そして、より良い社会になってほしいと願うからです。これは、すでに行われている犯罪加害者の教育政策や福祉政策を支持するものです。犯罪に対して厳しい目で見たり、排除したくなる気持ちは、私たちの心の中に、もちろんあります。ただし、同時に私たちが、その「不都合な真実」に向き合った時、そして、排除することが次の犯罪を誘発するという逆説に気付いた時、その逆説を踏まえた対策を理解することができるでしょう。その時、「不都合な真実」は「都合がつけられる事実」であったと納得できるのではないでしょうか?■関連記事ムーンライト【マイノリティ差別の解消には?】積木崩し真相アイアムサム【知能】告白【いじめ(同調)】Part 1■参考スライド【パーソナリティ障害】2019年1)万引き家族:是枝裕和、宝島社文庫、20192)犯罪心理学 犯罪の原因をどこに求めるのか:大淵憲一、培風館、20063)遺伝マインド:安藤寿康、有斐閣Insight、20114)言ってはいけない:橘玲、新潮新書、2016<< 前のページへ

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強迫症患者の統合失調症リスク~コホート研究

 統合失調症患者では、強迫症(OCD)を併発する頻度が高いことが報告されている。OCDと統合失調症発症のシークエンスにより、両疾患の根底にある病態生理学的関係が明らかとなる可能性があるが、利用可能なエビデンスは限られている。台湾・嘉義長庚紀念病院のYu-Fang Cheng氏らは、新規でOCDと診断された患者における統合失調症リスクについて、集団ベースのコホートを用いて調査を行った。Schizophrenia Research誌オンライン版2019年5月24日号の報告。 2000~13年に新たにOCDと診断された患者を、縦断的健康保険研究データベースより抽出した。非OCD群はランダムに抽出し、OCD群と性別、年齢、都市レベル、所得でマッチングした。潜在的な交絡因子で調整し、Cox比例ハザードモデルおよび競合リスクモデルを用いて、統合失調症リスクを推定した。 主な結果は以下のとおり。・OCD群2,009例、非OCD群8,036例が抽出された。・統合失調症発症リスクは、OCD群で876.2/10万人年、非OCD群で28.7/10万人年であった。・調整後、OCD群では、統合失調症リスクが大いに高かった(ハザード比[HR]:30.29、95%信頼区間[CI]:17.91~51.21)。・男性、20年前のOCD発症、抗精神病薬投与が、統合失調症と関連していた。・自閉症を併発していた患者では、統合失調症リスクがより高かった(HR:4.63、95%CI:1.58~13.56)。 著者らは「OCDの診断、男性、20年前のOCD発症、自閉症の併発、抗精神病薬の使用は、統合失調症リスクの高さと関連が認められた。精神科医は、OCDが統合失調症の初期症状である可能性に注意する必要がある」としている。

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小児自閉スペクトラム症に対するメマンチンの有効性と安全性~第II相多施設共同研究

 小児自閉スペクトラム症に対するメマンチン徐放性製剤(ER)治療の有効性と長期安全性を評価するため、米国・スタンフォード大学のAntonio Y. Hardan氏らは、3つの第II相試験(MEM-MD-91、MEM-MD-68、MEM-MD-69)を実施した。Autism誌オンライン版2019年4月26日号の報告。 MEM-MD-91(50週間のオープンラベル試験)は、MEM-MD-68(12週間のランダム化二重盲検プラセボ対照治療中止試験)への登録のため、メマンチンER治療反応患者を同定した。MEM-MD-69(オープンラベル延長試験)では、MEM-MD-68とMEM-MD-91、MEM-MD-67(オープンラベル試験)の参加者に対し、メマンチンERで約48週間治療を行った。 主な結果は以下のとおり。・MEM-MD-91では、対人応答性尺度(SRS)による治療反応患者が12週目で517例(59.6%)であった。平均SRS合計スコアは、臨床的に重要な最小ポイント差(10点)の2~3倍改善していた。・MEM-MD-68では、メマンチンはプラセボと比較し、主要な有効性パラメータ、治療効果喪失(SRS合計スコアがベースラインから10倍増加)患者の割合において、差は認められなかった。・MEM-MD-69の探索的分析では、最初の導入研究のベースラインからSRS合計スコアが32.4(26.4)の平均標準偏差の改善が認められた。・新たな安全性の懸念は、認められなかった。 著者らは「二重盲検試験の先験的に定義された有効性の結果には到達しなかったものの、オープンラベル試験におけるベースラインからの平均SRSスコアの大幅な改善は、臨床的に重要であると考えられる」としている。

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自閉スペクトラム症におけるADHD症状とインターネット依存

 いくつかの研究報告によると、自閉スペクトラム症(ASD)患者では、インターネット依存(internet addiction:IA)がより多く認められるという。しかし、IAを伴う青年期のASD患者の特徴は、よくわかっていない。愛媛大学・河邉 憲太郎氏らは、青年期ASDにおけるIAの有病率を調査し、IA群と非IA群の特徴を比較した。Research in Developmental Disabilities誌オンライン版2019年3月13日号の報告。ADHD症状がインターネット依存と強く関連 対象は、愛媛大学医学部附属病院および愛媛県立子ども療育センターの外来ASD患者55例(10~19歳)。患者およびその両親に対し、Youngのインターネット依存度テスト(IAT)、子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)、自閉症スペクトラム指数(AQ)、ADHD Rating Scale-IV(ADHD-RS)を含む質問を行った。 主な結果は以下のとおり。・総IATスコアに基づき、55例中25例がインターネット依存を有していた。・インターネット依存群は、非依存群と比較し、SDQおよびADHD-RSにおけるADHD症状の高スコアが認められたが、AQおよび知能指数においては有意な差が認められなかった。・インターネット依存群は、非依存群と比較し、携帯ゲームの使用頻度が高かった。 著者らは「青年期ASDでは、ADHD症状がインターネット依存と強く関連していた。ADHD症状を有する青年期ASD患者では、インターネット依存に対する、より強固な予防と介入が必要である」としている。

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