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新型コロナ重症例、デキサメタゾンで28日死亡率が低下/NEJM

 英国・RECOVERY試験共同研究グループのPeter Horby氏らは 、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者のうち、侵襲的人工呼吸器または酸素吸入を使用した患者に対するデキサメタゾンの投与が28日死亡率を低下させることを明らかにした。NEJM誌オンライン版2020年7月17日号に掲載報告。なお、この論文は、7月17日に改訂された厚生労働省が発刊する「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第2.2版」の“日本国内で承認されている医薬品”のデキサメタゾン投与の参考文献である。 この研究では、2020年3月19日~6月8日の期間にCOVID-19入院患者へのデキサメタゾン投与における有用性を把握するため、非盲検試験が行われた。対象者をデキサメタゾン投与群と通常ケア群にランダムに割り当て28日死亡率を評価し、人工呼吸器管理や酸素吸入の有無によるデキサメタゾン投与の有用性を検証した。デキサメタゾン群には1日1回6 mgを最大10日間、経口または点滴静注で投与した。通常ケア群には、日常臨床でデキサメタゾンを使用している患者が8%含まれていた。薬物療法として、アジスロマイシンは両群で使用(デキサメタゾン群:24% vs.通常ケア群:25%)、そのほか通常ケア群ではヒドロキシクロロキン、ロピナビル・リトナビル、IL-6アンタゴニストなどが投与された。また、レムデシビルは2020年5月26日より使用可能となり一部の症例で投与された。 主な結果は以下のとおり。・全参加者11,303例のうち、他の治療を受けるなどの理由で4,878例が除外された。残り6,425例をデキサメタゾン投与群2,104例(平均年齢±SD:66.9±15.4歳)と通常ケア群4,321例(平均年齢±SD:65.8±15.8歳)に割り付けた。・6,425例の呼吸器補助別の割り付けは、侵襲的人工呼吸器管理が1,007例、酸素吸入が3,883例、呼吸器補助なしは1,535例だった。・28日死亡率は、デキサメタゾン群が482例(22.9%)、通常ケア群は1,110例(25.7%)で、デキサメタゾン群で有意に低下した(Rate Ratio[率比]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.75〜0.93、p<0.001)。・呼吸器補助レベルを考慮した場合、侵襲的人工呼吸器管理の患者において絶対的・相対的ベネフィットが示される傾向で、デキサメタゾン群は通常ケア群より死亡発生率が低く(29.3% vs.41.4%、率比:0.64、95%CI:0.51~0.81)、酸素吸入群においても同様だった(23.3% vs.26.2%、率比:0.82、95%CI:0.72~0.94)。しかし、呼吸器補助を受けていない患者において、デキサメタゾンの効果は明らかではなかった(17.8% vs.14.%、率比:1.19、95%CI:0.91~1.55)。・副次評価項目として、デキサメタゾン群は通常ケア群より入院期間が短く(平均入院日数:12日 vs.13日)、28日以内の退院の可能性が高かった(率比:1.10、95%CI:1.03~1.17)。この最大因子は侵襲的人工呼吸器管理だった。・呼吸器補助を受けていない患者において、副次評価項目である侵襲的人工呼吸器管理や死亡の複合は通常ケア群よりデキサメタゾン群で低かった(率比:0.92、95%CI:0.84~1.01)。

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“do処方”を見直そう…?(解説:今中和人氏)-1263

 誰しもが駆け出しとして医師人生をスタートする。医療におけるさまざまな処置や処方には、往々にして歴史的な変遷や患者限定の根拠があったりして実に奥深く、駆け出しがすべてを理解して対応するのは事実上不可能だが、何でもかんでも先輩に尋ねるわけにもゆかない。まして「これは本当に必要なんですか?」なんて、一昔前の「仕分け」のような質問をすればうっとうしがられること必定だから、いわゆる“do処方”の乱発が起きる。もちろん、自分なりに意味付けをしてのことだが、世の中には実はほとんどアップデートされておらず、もはや伝統芸能の域に達しているような処置や処方も存在する。 黎明期から見れば、開心術は医療器材的にも技術的にも異次元とすらいえる進歩を遂げた。人工心肺による循環変動、コンタクト・サーフェスに由来する著明な炎症反応がサイトカイン・ストーム状態と、それに伴う臓器障害や凝固異常を惹起する、といった触れ込みで昔から使われてきたのがステロイドである。ステロイドには免疫抑制や過血糖などの作用もあるため、誰しも一度は必要性を疑ったはずだが、私が属したほぼすべての施設で人工心肺症例には一律、成人でも小児でも相当な量のステロイドが投与されていたし、それでもサイトカイン・ストームを疑う、妙にFP ratioの低い症例は存在した。だが指導的立場になった後、積極的に「伝統」を廃する決断は、「意外と効いているかも」「自分が知らないだけかも」となかなか難しく、当施設でステロイド投与をやめたのは約10年前からである。やめたところでプラスにもマイナスにも変化を感じていないが、その後2012年にDECS study、2015年にSIRS trialという成人症例対象の大規模RCTが発表され、いずれも大量ステロイド投与に便益なしと結論付けられた。2019年のEACTS等の成人対象のガイドラインでは、ステロイドの一律使用はclass IIIとなっている。 本論文は、一昔前BRICsと注目されたうちの3ヵ国・4施設における約3年間の乳児開心術394例(中央値6ヵ月、新生児5%)に対するRCTで、9割以上はロシアの2施設の症例だった。麻酔導入後、study群はデキサメタゾン1mg/kgを、control群は生食を静注した。平均人工心肺時間は各50分と46分、直腸温36℃で、術後30日以内または在院中死亡、心筋梗塞、ECMO、急性腎障害などをprimary、人工呼吸期間、カテコラミン補助、出血量などをsecondaryエンドポイントと定義した。最終的に10例が人工心肺非使用術式に変更になり、各群15%、22%が主にアレルギー疑いでステロイドを追加投与された。結論は、サブグループ解析も含め、各項目とも大量ステロイドの一発打ちに有意な便益はなかったが、感染症も各2%、1.5%と増えなかった(血糖値は論じられていない)。要するに投与してもしなくてもあまり違わなかったわけだが、小児心臓外科の世界ではステロイド投与に関して見解が割れており、昨今も54%と半数以上の患児がステロイド投与を受けているそうである。評者は、薬剤は投与必要性を吟味すべきで“do処方”は見直そう、という意見だが、最近、コロナ肺炎でサイトカイン・ストームの難治性がクローズアップされている一方、多くの症例で早めのステロイド投与が有効という、理論的に納得しやすい報告もあるので、ステロイドに関しては、相当な大量でも有害事象がほとんど増えないなら、便益も証明されてはいないが、典型的compromised hostである小児開心術患者には投与しておく、でもよいのかも…と、思わず腰が引けてしまう。 諸先生はいかがであろうか?

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マスク着用で医療者のCOVID-19抑制効果が明らかに/JAMA

 マサチューセッツ州最大の医療システムで12の病院と75,000人超の従業員を抱えるMass General Brigham(MGB)は、2020年3月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、医療従事者(HCW:health care workers )のCOVID-19の前兆に対する体系的な検査やサージカルマスクを着用した全HCWと患者に対してユニバーサルマスキングを含む多面的な感染対策の研究を実施した。その結果、MGBでのHCWのマスク着用習慣がHCW間の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性率の有意な低下に関連していたと示唆された。また、患者-HCWおよびHCW同士の感染率低下に寄与する可能性も明らかになった。JAMA誌2020年7月14日号リサーチレターでの報告。 研究者らはマスク着用の病院方針とHCW間の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率との関連性を評価するため、2020年3月1日~4月30日の期間にPCR検査を受けた患者に対して直接的または間接的ケアを行ったHCWを特定した。 1)HCWのユニバーサルマスキング実施前期間(2020年3月1〜24日)2)患者のユニバーサルマスキング実施移行期間(2020年3月25日〜4月5日)と症状発現が認められた際の追加期間(2020年4月6〜10日)3)ユニバーサルマスキング介入期間(2020年4月11〜30日) 陽性率は全HCWの最初の検査結果での陽性を分子とし、検査2回目以降での陽性は除外した。分母には検査を一度も行っていないHCWとその日に検査を行ったHCWが含まれた。解析には重み付き非線形回帰分析を使用した。 主な結果は以下のとおり。・HCW:9,850人のうち、1,271人(12.9%)がSARS-CoV-2陽性だった。・陽性者の年齢中央値は39歳、73%は女性だった。また、陽性者の職種内訳は、医師・研修医(7.4%)、看護師・医師助手(26.5%)、医療技術者・看護助手(17.8%)、その他(48.3%)だった。・介入前のSARS-CoV-2陽性率は、0%から21.32%と指数関数的に増加し、加重平均は1日あたり1.16%増加、倍加時間( Doubling Time) は3.6日だった(95%信頼区間[CI]:3.0~4.5)。 ・介入期間中の陽性率は14.65%から11.46%に直線的に減少し、加重平均は1日あたり0.49%減少した。また、 slope の傾きは1.65%変化し(95%CI:1.13~2.15%、p<0.001 )、介入前と比較して、1日あたり大きく減少した。

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ACE阻害薬とARB、COVID-19死亡・感染リスクと関連せず/JAMA

 ACE阻害薬/ARBの使用と、高血圧症患者における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断率、またはCOVID-19と診断された患者における死亡率や重症化との間に、有意な関連は認められなかった。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のEmil L. Fosbol氏らが、デンマークの全国登録を用いた後ろ向きコホート研究の結果を報告した。ACE阻害薬/ARBは、新型コロナウイルスに対する感受性を高め、ウイルスの機能的受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の発現が亢進することによりCOVID-19の予後が悪化するという仮説があったが、今回の結果から著者は「COVID-19のパンデミック下で臨床的に示唆されているACE阻害薬/ARBの投与中止は、支持されない」とまとめている。JAMA誌2020年7月14日号掲載の報告。COVID-19患者の後ろ向きコホート研究と高血圧患者のコホート内症例対照研究で 研究グループは、COVID-19患者の予後を調査する目的で、2020年2月1日以降にCOVID-19と診断された患者(ICD-10の診断コードで確認)を特定し、診断日から2020年5月4日まで追跡した(後ろ向きコホート研究)。主要評価項目は死亡、副次評価項目は死亡または重症COVID-19の複合アウトカムで、ACE阻害薬/ARB使用群と非使用群を比較した。使用群は、診断日前6ヵ月間にACE阻害薬/ARBが1回以上処方された患者と定義した。 また、COVID-19の感受性を調査する目的で、デンマークのすべての高血圧症患者を2020年2月1日~5月4日まで追跡し、コホート内症例対照研究を行った。主要評価項目はCOVID-19の診断で、Cox回帰モデルによりCOVID-19との関連性のACE阻害薬/ARBと他の降圧薬で比較した。使用歴の有無で有意差なし 後ろ向きコホート研究には、COVID-19患者4,480例が組み込まれた(年齢中央値54.7歳、四分位範囲:40.9~72.0歳、男性47.9%)。1例目の診断日は2020年2月22日、最後の症例は2020年5月4日、ACE阻害薬/ARB使用群は895例(20.0%)、非使用群は3,585例(80.0%)であった。 30日死亡率は、ACE阻害薬/ARB群18.1%、非使用群7.3%であり、ACE阻害薬/ARB群で高かったものの有意な関連は認められなかった(年齢、性別、病歴で補正したハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.67~1.03)。死亡または重症COVID-19の30日発生率は、ACE阻害薬/ARB群31.9%、非使用群14.2%であった(補正後HR:1.04、95%CI:0.89~1.23)。 コホート内症例対照研究では、高血圧症の既往があるCOVID-19患者571例(年齢中央値73.9歳、男性54.3%)(COVID-19患者群)と、年齢と性別をマッチさせたCOVID-19を有していない高血圧症患者5,710例(対照群)を比較した。ACE阻害薬/ARBの使用率はCOVID-19患者群で86.5%、対照群は85.4%であった。 ACE阻害薬/ARBの使用は他の降圧薬使用と比較し、COVID-19罹患率との有意な関連は認められなかった(補正後HR:1.05、95%CI:0.80~1.36)。

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新型コロナワクチン、米の第I相試験で全例が抗体獲得/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とModerna(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン「mRNA-1273」の、第I相臨床試験の結果が発表された。全例で中和抗体が検出され、試験中止について事前に規定した安全性に関する懸念は発生しなかった。米国・カイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente Washington Health Research Institute)のLisa A. Jackson氏らmRNA-1273 Study Groupによる報告で、著者は「結果は、本ワクチンのさらなる開発を支持するものであった」とまとめている。NEJM誌オンライン版2020年7月14日号掲載の報告。25μg、100μg、250μgを28日間隔・2回投与 研究グループは2020年3月16日~4月14日にかけて、18~55歳の健康な成人45例を対象に、第I相の用量漸増非盲検試験を行った。被験者を15例ずつ3群に分け、mRNA-1273ワクチンを、25μg、100μg、250μgのいずれかの用量で28日間隔・2回投与した。2回投与後の全身性有害事象、25μg群54%、100μg・250μg群は全例 1回投与後(29日目)の抗体反応は高用量群ほど高く、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によるS-2P抗体の幾何平均抗体価(GMT)は、25μg群が4万227、100μg群が10万9,209、250μg群が21万3,526だった。 2回投与後(57日目)のELISAによるS-2P抗体のGMTは、25μg群が29万9,751、100μg群が78万2,719、250μg群が119万2,154と上昇した。これらは、SARS-CoV-2感染回復者のGMTの14万2,140を上回っていた。 また、2回接種後、評価が行われた全被験者において、血清中和抗体は2通りの方法(pseudotyped lentivirus reporter single-round-of-infection neutralization assay[PsVNA]とplaque-reduction neutralization testing[PRNT])で検出された。同検出値は、感染回復期血清検体パネルの上半分値とほぼ同等だった。 被験者の半数以上で認められた有害事象は、疲労感、悪寒、頭痛、筋肉痛、注射部位痛だった。2回投与後の全身性有害事象の頻度は高く、低用量の25μg群では7/13例(54%)、100μg、250μg群では全員(それぞれ15例、14例)と高用量群で高かった。250μg群の3例(21%)では、1つ以上の重篤有害事象が報告された。

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第16回 世界が嘱望の新型コロナ予防ワクチン試験、質が伴うスピード感?

7月に入り第2波ではないかと噂されるほど感染者が急増している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。いま、医療従事者も一般人も一番待ち望んでいるのが予防ワクチンの登場だ。そのような中、開発中のワクチンの中では最も先行していると言われるアストラゼネカ社とオックスフォード大学の第I/II相試験結果がLancet誌に掲載1)され、メディアもこれを取り上げている。オックスフォード大のワクチン、初期の治験で効果確認(朝日新聞)新型コロナ ワクチン臨床で抗体 英・中のチーム発表(毎日新聞[共同通信配信記事])コロナワクチン臨床試験、治験者95%で抗体4倍増…英製薬大手が中間発表(読売新聞)英アストラゼネカのワクチン「強い免疫反応」 初期治験(日本経済新聞)4本の記事を比べると、読売以外は「有望」「期待」という用語を使っており、この記事を読み「いよいよワクチンが登場してくるのか」と期待を膨らませる人は少なくないはずだ。今回の試験は、COVID-19ワクチン候補を髄膜炎菌ワクチンと比較した被験者1,077例の無作為化単盲検比較試験で、うち10例は無作為化の対象とせず、ワクチンのブースター(28日の間隔を置いた2回接種)投与を受けている。また、一部の被験者ではワクチンの副反応軽減目的でアセトアミノフェンの投与が行われている。この結果、投与14日後には新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)のスパイクタンパク質に特異的なT細胞反応がピークに達し(n=43)、投与28日後のSARS-Cov-2のスパイクタンパク質に対するIgG抗体量の上昇(n=127)が確認された。抗体量は一部の単回投与例とブ―スター投与例では56日後まで上昇し続けた。また、投与28日後のSARS-Cov-2のスパイクタンパク質に対する中和抗体反応は91%(n=35)で認められ、ブースター投与9例では全例で確認されたとのこと。主な有害事象は疲労感(アセトアミノフェン非投与群70%vs.アセトアミノフェン投与群71%)と頭痛(同68%vs.61%)。このほかには筋肉痛、不快感、熱感、悪寒など(発現率は50~60%前後)で、重篤なものは認められなかった。このようにしてみると、まだ第I/II相試験ということもあり、抗体量の測定などが行われたn数も少なく、個人的には前向きには捉えられるものの、まだまだプリミティブな結果だと受け止めている。ただ、この各紙を一覧すると、細かいことを書いたらそもそも読んでもらえないという一般向け紙面の限界もあり、漠然とした希望だけを持ってしまいかねない。もっともこの中でも朝日新聞は研究チームの会見コメントとして、まだ課題も多く先行き不透明なものであることを強調している。Lancet誌の論文内ではこの点について、まず被験者の年齢中央値が35歳であることを指摘している。第I/II相試験ゆえにこうした年齢中央値になるのはやむを得ないが、COVID-19で重症化、死亡リスクが高いとされる集団の一つは高齢者である。実際、米国医師会雑誌(JAMA)に中国の国立疾病予防管理センター(中国名:中国疾病預防控制中心[中国CDC])のグループが発表した新型コロナ感染者4万4,672人の解析データ2)では、40歳代までの致死率は最大でも0.4%に過ぎないが、50歳代では1.3%、60歳代で3.6%、70歳代で8.0%、80歳代以上では14.8%と右肩上がりに上昇する。このためワクチンが登場した暁には高齢者は優先接種の対象となる可能性は高い。だが、B型肝炎ワクチンに代表されるように加齢とともに抗体価を獲得しにくいワクチンもあるため、今後高齢者を対象とした試験が必要になるはずだ。また、研究グループは論文内でベクターとして使用しているアデノウイルスに対する抗体の影響評価も必要と指摘している。そして、この試験は今年の4月23日~5月21日までに行われたもので、主要評価項目は接種後6ヵ月間のCOVID-19発症抑制と重篤な有害事象の発現率である。単純計算すれば試験終了は11月末になり、データの解析はその後ということになる。ただ、従来からアストラゼネカ社は9月には供給を開始したい旨を公表している。国内外で特例承認のようなスキームを活用すると思われるが、2009年の新型インフルエンザと違い、これまでまったくワクチンのなかったコロナウイルスに対してこのスピードはすごいと思う以上に、「???」「大丈夫?」と思ってしまう。私は最近、こうした仕事柄もあり医療に無縁な人から「新型コロナのワクチンっていつぐらいまでにできる?」と尋ねられることはよくあるが、以前から「まあ極めて順調に行って、来春ぐらいじゃない? でもできない可能性も十分あるよ」と答えている。少なくとも今回の結果を見てもこの答えに変更はない。参考1)Folegatti PM, et al. Lancet. 2020 Jul 20.[Epub ahead of print]2)Wu Z,et al. JAMA. 2020 Feb 24.[Epub ahead of print]

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COVID-19、31ヵ国716例にみる皮膚科症状の特徴は?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、特徴的な皮膚科症状が認められると伝えられている。米国・ハーバード大学医学大学院/マサチューセッツ総合病院皮膚科部門のEsther E. Freeman氏らは、それらの皮膚科症状を特徴付け、根底にある病態生理の解明を促進する目的で、国際レジストリの症例集積研究を行った。その結果、多くの症状は非特異的であったが、COVID-19の病態生理における潜在的な免疫や炎症性反応の解明に役立つ可能性がある知見が得られたという。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年7月2日号掲載の報告。 研究グループは、米国皮膚科学会および国際皮膚科学会連盟の国際レジストリを用いて症例集積研究を行い、COVID-19が確認または疑われ、新規発症の皮膚科症状が認められた患者のデータを分析した。 主な結果は以下のとおり。・レジストリから、COVID-19確認/疑い症例716例が収集された。・検査でCOVID-19が確認された患者は171例であった。・そのうち最も一般的に認められた皮膚科症状の形態的特徴は、麻疹様(22%)で、次いでペルニオ様(18%)、蕁麻疹(16%)、黄斑紅斑(13%)、小胞(11%)、扁平上皮丘疹(9.9%)、網状紫斑(6.4%)であった。・ペルニオ様病変は、疾患が軽症の患者で一般的に認められた。・網状紫斑は、入院を要した患者にのみ認められた。・なお、著者らは、「本検討では発生率や有病率を推定できず、またバイアスの確認が必要という点で結果は限定的である」としている。

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COVID-19感染拡大予防に対するフィジカルディスタンスの有効性をグローバルな観点から統計学的に証明(解説:桑島巌氏)-1261

 最近、WHOは“ソーシャルディスタンス”を“フィジカルディスタンス”に言い換えた。“社会的距離”では、心理面も含めた距離を含むと誤解されやすいので、単に“物理的”な接触を避けるという適切な用語の変更であろう。 そのフィジカルディスタンスが新型コロナ感染拡大を本当に予防できるのかを統計学的に分析したのがこの論文である。「そんなこと当たり前だろう」と誰もが思っていることはしばしば実は違っていたというのはままあるので、そこは科学発祥の地、英国である。武漢や香港などでの局地的な調査報告はあったが、今回はグローバルに149ヵ国でのPD政策とcovid-19抑制効果との関連をoxford covid-19 government response tracker(OxCGRT)のデータを元に統計学的に検証した成績である。 2020年1月1日から5月30日までに行われた7日以上のフィジカルディスタンス政策の感染者の拡大予防効果を、1)学校閉鎖、2)職場閉鎖、3)イベントなどの集合禁止、4)公共移動手段の閉鎖、5)都市封鎖(ロックダウン)の5つに分けて分析した。 その結果、これらの政策は全体として、13%の統計学的に有意な感染予防に結び付いたという。これらの5項目中4項目以上が実施された国では有意な予防効果が得られたが、3項目以下では予防効果はなかった。 最初の感染者報告から政策実施までの日数と感染者数減少には関連がみられなかったという。さらに分析すると“国民1人当たりのGDPが高い国”、“65歳以上の高齢者が多い国”、“医療保険が整備されている国”ほど効果が大きかったという。全体として13%の感染抑制という数字はかなり少ないが、わが国ではこの3要件とも満たしていることから予防効果はさらに大きいと思われる。 13%という数字はあくまでも国家施策との関連をみたものであり、どの程度国民が政策を遵守したかという国民性や法的罰則の有無といった各国の事情は考慮されていない点にも注意が必要である。 5つの組み合わせのうち、学校閉鎖、職場閉鎖、集合禁止、ロックダウンの4項目が行われていれば、公共移動手段の閉鎖は、それ以上の予防効果は見いだせなかったという。 先日、尾身会長が、「3密が守られていれば旅行は問題ない」との見解を示したが、この論文を読んだからかもしれない。ただし、集合禁止や都市封鎖が実施されていれば当然移動も制限がかかっている可能性があり、統計上、移動制限によるさらなる有意な抑制効果が現れなかったのかもしれない。 いずれにしろ感染拡散防止の観点からみればフィジカルディスタンスの重要性はこの論文が示すとおりであるが、反面、経済活動が大きく停滞するという一面もあり、難しいところである。

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COVID-19死亡例、肺病理所見の特徴は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行における主な死因は進行性呼吸不全であるが、死亡例の末梢肺の形態学的・分子的変化はほとんど知られていないという。ドイツ・ヴィッテン・ヘアデッケ大学のMaximilian Ackermann氏らは、COVID-19で死亡した患者の肺組織の病理所見を調べ、インフルエンザで死亡した患者の肺と比較した。その結果、COVID-19患者の肺で顕著な特徴として、重度の細胞膜破壊を伴う血管内皮傷害がみられ、肺胞毛細血管内の微小血栓の有病率が高く、新生血管の量が多いことを確認した。NEJM誌2020年7月9日号掲載の報告。インフルエンザ例の剖検肺、非感染対照肺と比較 研究グループは、COVID-19で死亡した患者の剖検時に得られた肺の形態学的・分子的特徴を、インフルエンザで死亡した患者の肺および年齢をマッチさせた非感染対照肺と比較した(米国国立衛生研究所[NIH]など助成による)。 COVID-19で死亡した患者7例(女性2例[平均年齢68±9.2歳]、男性5例[80±11.5歳])、インフルエンザA(H1N1)感染に続発した急性呼吸促迫症候群(ARDS)で死亡した患者7例(女性2例[62.5±4.9歳]、男性5例[55.4±10.9歳])、年齢をマッチさせた非感染対照(肺移植ドナー)10例(女性5例[68.2±6.9歳]、男性5例[79.2±3.3歳])の肺組織が、解析の対象となった。 肺の評価は、7色免疫組織化学的解析、マイクロCT画像、走査型電子顕微鏡、血管鋳型法、遺伝子発現の直接多重測定法を用いて行われた。ACE2発現細胞が多い、微小血栓9倍、新生血管量2.7倍に インフルエンザ肺炎患者の肺は、COVID-19患者の肺に比べて重く(平均重量:2,404±560g vs.1,681±49g、p=0.04)、非感染対照肺(1,045±91g)はインフルエンザ肺(p=0.003)およびCOVID-19肺(p<0.001)に比べ軽かった。 1視野当たりのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)発現細胞数は、非感染対照群の肺胞上皮細胞(0.053±0.03)と毛細血管内皮細胞(0.066±0.03)ではまれであったが、これに比べCOVID-19群とインフルエンザ群の肺胞上皮細胞(0.25±0.14、0.35±0.15)、および毛細血管内皮細胞(0.49±0.28、0.55±0.11)では多く認められた。ACE2陽性リンパ球は、非感染対照群の血管周囲組織や肺胞内にはみられなかったが、COVID-19群とインフルエンザ群では認められた(0.22±0.18、0.15±0.09)。 COVID-19群とインフルエンザ群の末梢肺の組織パターンでは、血管中心性炎症所見として、血管周囲のT細胞浸潤を伴うびまん性肺胞傷害が認められた。また、COVID-19群の肺では、このほかに、内皮細胞内の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の存在と細胞膜破壊を伴う重度の血管内皮傷害に基づく特徴的な血管像が確認された。 249個の遺伝子に関して炎症関連遺伝子発現の多重解析を行ったところ、79個の炎症関連遺伝子がCOVID-19群の肺にのみ発現していたのに対し、インフルエンザ群の肺にのみ発現していたのは2つだけで、7つの遺伝子は両群で共通に発現していた。 一方、COVID-19群の肺血管の組織学的解析では、微小血管障害を伴う広範な血栓がみられた。肺胞毛細血管内の微小血栓の有病率は、COVID-19群がインフルエンザ群の9倍であった(血管腔面積1cm2当たりの平均血栓数:159±73個vs.16±16個、p=0.002)。 また、COVID-19群の肺では、重積型血管新生による新生血管の量がインフルエンザ群の2.7倍であり(1視野当たりの新生血管数:60.7±11.8 vs.22.5±6.9)、非感染対照群(2.1±0.6)と比べても密度が高かった(p<0.001)。発芽型血管新生の量も、インフルエンザ群に比べCOVID-19群で多かった。 COVID-19群では、重積型血管新生による新生血管の量は、入院期間が長くなるに従って増加した(p<0.001)のに対し、インフルエンザ群では経時的な重積型血管新生の増加が少ないか、まったく増加しなかった。同様のパターンが、発芽型血管新生でも認められた。 323個の遺伝子に関して血管新生関連遺伝子発現の多重解析を行ったところ、69個の血管新生関連遺伝子はCOVID-19群の肺にのみ発現し、26個の遺伝子はインフルエンザ群の肺にのみ発現しており、45個の遺伝子は両群で共通に発現していた。 著者は、「内皮細胞内のSARS-CoV-2の存在は、内皮傷害には血管周囲の炎症だけでなくウイルスの直接的な作用の関与が示唆される」と指摘し、「これらの知見の普遍性と臨床的意義を明らかにするには、さらなる研究を要する」としている。

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無症状者でも唾液を用いたPCR検査が可能に/厚労省

 新型コロナウイルスへの感染を調べる検査について、厚生労働省は7月17日より、無症状者に対しても、唾液を用いたPCR検査(LAMP法含む)および抗原定量検査※を活用可能とすることを発表した1)。ただし、簡易キットによる抗原検査については今後研究を進める予定で、現状唾液検体の活用は認められていない。これまで、PCR検査、抗原定量検査ともに唾液検体については、発症から9日目以内の有症状者のみ活用が認められていた。※6月25日保険適用。簡易キットよりも感度が高いが、専用の測定機器が必要2)。 今回の決定は、都内で無症状者を対象に、唾液を用いたPCR検査および抗原定量検査と、鼻咽頭拭い液PCR検査結果を比較し、高い一致率を確認したことを受け3)、7月15日開催の第44回厚生科学審議会感染症部会の審議を経て、活用可能と判断されたことに基づく。 同部会では、「研究結果および感染管理の観点から、無症状者に対し、現状の鼻咽頭検体に加えて、唾液検体を用いることは可能と考える」と結論づけたうえで、「一般的に検査について感度・特異度ともに 100%でない以上、これまでと同様に陰性であっても、感染していないことの証明にはならない点に留意が必要であることを被験者に十分説明し、被験者の検査後の行動に留意を求めていくことが必要」とまとめている4)。唾液を用いたPCR検査と鼻咽頭ぬぐい液の比較結果 唾液を用いたPCR検査およびLAMP法検査について、鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査と比較した結果、90%程度の陽性者一致率・陰性者一致率ならびに一致率が確認された:(鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査結果との)陽性者一致率 唾液を用いたPCR検査:91.9% 唾液を用いたLAMP検査:86.5%陰性者一致率 唾液を用いたPCR検査:88.9% 唾液を用いたLAMP検査:92.6%一致率 唾液を用いたPCR検査:90.1% 唾液を用いたLAMP検査:90.1% なお、鼻咽頭ぬぐい液PCR検査で陽性であり、唾液PCRまたは唾液LAMP検査で陰性となった症例については、いずれも、検査時点で鼻咽頭ぬぐい液中のウイルス量はきわめて少ないことが確認された(Ct値が39以上)。他方、鼻咽頭ぬぐい液PCR検査で陰性にもかかわらず、唾液PCRまたは唾液LAMP検査で陽性となった症例ではいずれも、検査時点での唾液中のウイルス量は少ないことが確認された(Ct値が33以上)。 唾液を用いた抗原定量検査と鼻咽頭ぬぐい液の比較結果 唾液を用いた抗原定量検査について、鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査と比較した結果、陽性者一致率は約76%、陰性者一致率は100%、一致率は約90%であった。なお、鼻咽頭ぬぐい液PCR検査で陽性であり、唾液抗原定量検査で陰性となった症例(9例)のうち、鼻咽頭ぬぐい液では9例中7例、唾液では全例について検査時点でのウイルス量が少ないことが確認された(Ct値が34以上)。

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第16回 乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議

<先週の動き>1.乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議2.健康保険証のオンライン資格確認が来年から可能に3.循環器病対策推進基本計画の骨子案、2040年までに健康寿命の3年延伸など4.生活保護受給者の医療扶助、頻回受診対策などの検討が開始5.コロナ感染拡大が続き、今後の社会経済活動はどうなる?1.乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議足立区・柳原病院の乳腺外科医が準強制わいせつ罪に問われ、13日の控訴審で言い渡された懲役2年の実刑判決をめぐって、日本医師会の今村 聡副会長は見解を示した。裁判では、独自の基準でせん妄や幻覚の可能性を否定した原告側の医師の見解を採用したこと、全身麻酔からの回復過程で生じるせん妄や幻覚は通常の医療現場でも生じていること、検察側が根拠としたDNA鑑定などの証拠がずさんな検査に基づくことなどを指摘し、控訴審の有罪判決に強く抗議した。同様に、東京保健医協会からも、「医師団体としても一般市民としても絶対に許容できない」として、抗議の見解を声明として発表している。(参考)乳腺外科医控訴審判決に関する日医の見解について(日本医師会)東京高裁 第10刑事部の乳腺外科医裁判逆転有罪判決に対する声明(東京都保険医協会)2.健康保険証のオンライン資格確認が来年から可能に厚生労働省は、オンラインで健康保険証の確認ができるように、健康保険法施行規則の改正に乗り出すことを決定し、省令案を公表した。本年10月に施行予定であり、医療機関などで療養の給付を受ける際、被保険者はマイナンバーカードをカードリーダーにかざすことで、資格確認することが可能となる見込み。なお、オンライン資格確認や特定健診情報の閲覧は2021年3月から、薬剤情報の閲覧は2021年10月から開始される予定。医療機関向けのカードリーダーは、「医療機関等向けポータルサイト」で申し込むことができる。医療情報化支援基金により補助されるため、原則医療機関の負担は生じない。(参考)医療情報化支援基金に関するポータルサイト開設のお知らせについて(厚労省)オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)(同)オンライン資格確認で健康保険法施行規則改正へ 厚労省が省令案公表、10月に施行予定(CBnews)3.循環器病対策推進基本計画の骨子案、2040年までに健康寿命の3年延伸など厚労省は、16日に第5回循環器病対策推進協議会を開催し、第1期循環器病対策推進基本計画案をとりまとめた。2019年12月に施行された「脳卒中・循環器病対策基本法」に基づいて策定され、国の循環器病対策の基本的な方向について明らかにするものである。主に「循環器病の予防や正しい知識の普及啓発」、「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」、「循環器病の研究推進」の3つの施策を実施することにより、「2040年までに3年以上の健康寿命の延伸及び循環器病の年齢調整死亡率の減少」を目指す。(参考)循環器病対策推進基本計画(案)(厚労省)循環器病対策の現状等について(同)4.生活保護受給者の医療扶助、頻回受診対策などの検討が開始厚労省は「医療扶助に関する検討会」の第1回会合を15日に開催した。これは、2019年12月に閣議決定された「新デジタル・ガバメント実行計画」において、個人番号カードを利用したオンライン資格確認について、2023年度の導入を目指し検討を進めることとなっている。このため、生活保護受給者の医療扶助資格について、オンライン資格確認導入に向けた議論が開始される。今年中に取りまとめ、年度内を目処に頻回受診対策などの議論が行なわれる見込み。(参考)第1回 医療扶助に関する検討会(厚労省)5.コロナ感染拡大が続き、今後の社会経済活動はどうなる?東京都では連日多くの新型コロナウイルス感染者が確認されており、経路不明者も多い。一方、政府は22日から開始されるGo Toキャンペーンの内容や条件について、直前に変更を発表したが、再度の緊急事態宣言については否定するコメントを出すなど、難しい状況が続いている。感染拡大の防止対策として、PCR検査の積極的な実施、保健所の体制強化、感染防止のガイドライン徹底などを事業者に求め、利用者にはガイドラインを守った店の利用を求めている。海外のように再度の規制強化には動いてはいないが、屋内のイベント開催における人数制限の撤廃などを見直す可能性もある。さらに、夜の繁華街などに立ち入り検査を行うことや、新型コロナ対策特別措置法の再改正などにより、今後新しい動きが出てくる可能性は高い。(参考)接待伴う飲食店対応 経済再生相 1都3県知事に協力要請 コロナ(NHK)コロナ感染防止図り 社会経済活動の段階的な引き上げ目指す(同)

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慢性閉塞性肺疾患(COPD)への3剤配合吸入薬治療について(解説:小林英夫氏)-1255

 呼吸機能検査において1秒率低下を呈する病態は閉塞性換気障害と分類され、COPD(慢性閉塞性肺疾患)はその中心的疾患で、吸入薬による気道拡張が治療の基本であることはすでに常識となっている。その吸入療法にどのような薬剤が望ましいのか、短時間作用型抗コリン薬(SAMA)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)、短時間作用型β2刺激薬(SABA)、長時間作用型β2刺激薬(LABA)などが登場している。さらに、COPDの一種として気管支喘息要素を合併している病態(ACO)が注目されてからは吸入ステロイド薬(ICS)が追加される場合もある。そして、これら薬剤を個別に使用するより合剤とすることで一層の効果を得ようと配合薬開発も昨今の流れである。 本論文はICS+LABA+LAMAの3剤配合薬(本邦商品名ビレーズトリ)でICS含有量が異なった2タイプ薬、LABA+LAMA 2剤配合薬、ICS+LABA 2剤配合薬、の4群でのCOPD治療効果を検証している。当然とはいえ、研究スポンサーは発売元の製薬会社である。結論を簡略化すると、3剤配合吸入薬は2用量のいずれでも、2剤配合吸入薬に比べCOPD増悪頻度を有意に改善したとなっている。登録例数8,500超と大規模臨床研究で、喘息要素を交じるACO例の存在が記載されていないものの、症例背景の好酸球数や気道可逆性試験から推測すると30%程度がACOのようである。 複数の単剤を別途吸入するよりも配合薬とすることで、服薬アドヒアランス向上と治療効果上昇が期待される。2019年以降、3剤配合吸入薬として本邦ではテリルジー、ビレーズトリがCOPDの適応で上梓され、1日換算薬価は300円弱と3剤を別途処方するよりも低額になっている。また2020年8月頃にエナジアが気管支喘息の適応で販売予定である。各製剤の吸入装置や吸入回数は異なり、優劣も不明である。治療選択肢の増加は個人的には歓迎だが、配合剤では症例に応じた細やかな用量調整は難しく、ビレーズトリも本邦では1種類(欧米のICS半量タイプ)のみの販売である。

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第15回 「戦時と平時の医療体制」支えられる?国の危うい台所事情

政府の2020年度第2次補正予算では、新型コロナウイルス対策の医療提供体制の整備に1兆6,279億円が計上された。「大盤振る舞い」との声もあるが、新型コロナの感染第2波・第3波に備え、「コロナ対応の医療体制」と「通常の医療体制」の両方の整備が急務となっている中、第2次補正予算だけでは不十分であることが明らかになってきた。その根拠となるのが、健康保険加入者の6割をカバーする社会保険診療報酬支払基金が7月1日に公表した4月分の診療報酬請求件数だ。総計は7,432万件で、前年同月比22.9%減、金額は9,460億円で同10.2%減となった。金額で言うと、1,070億円のダウンだ。内訳は、いずれも前年同月比で、入院が6.3%・203億円、入院外が16.0%・645億円、歯科が12.7%・125億円それぞれ減少した。とりわけ入院外と歯科の落ち込みが大きく、医科・歯科診療所が大きく減収していることだろう。都道府県別に金額ベースで見ると、入院外では東京(23%)、福井(22%)、埼玉(21%)、神奈川(20%)などで落ち込み幅が大きく、歯科では東京(26%)、神奈川・福井(20%)、埼玉(19%)の落ち込みが目立った。しかし、第2次補正予算による医科・歯科診療所への支援は限定的だ。感染拡大防止対策への支援(2020年4月1日~21年3月31日の実費補填)の上限は、無床診療所(医科・歯科)が100万円、有床診療所(医科・歯科)が200万円にすぎない。医療従事者への慰労金は1人5万円だ。持続化給付金、家賃補助もあるが、減収5割超などと要件が厳しい。国民健康保険団体連合会はまだ発表していないが、同様の傾向が予想される。その場合、両団体を合わせると、4月だけで2,000億円ほどダウンしているのではないだろうか。4月7日~5月24日の緊急事態宣言の期間を踏まえると、7月までに1兆円近いダウンが予想される。これほどの赤字が累積し、経営が危機的な状況にある中、交付金が支払われるとはいえ、“戦時”と“平時”の医療体制を並行して整えるのは簡単な話ではない。問題は、医療機関の減収だけではない。全国保険医団体連合会(保団連)では、「受診抑制、乳幼児の予防接種・健康診断控えによって、慢性疾患の悪化、重大疾患の見落としなど、国民の健康への悪影響が危惧される」と警鐘を鳴らす。このような状況が続く先には事業縮小や廃業、倒産による医療崩壊が懸念される中、自民党の「新型コロナウイルス関連肺炎対策本部」(本部長=田村 憲久・政調会長代理)は7月6日、厚生労働省に対し、国民が従前の受診行動に戻るための方策と、それまでの間の医療機関の減収への対策を講じるように求めた。また、超党派の「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」(幹事長=増子 輝彦・国民民主党参議院議員)が翌7日、設立総会を開いた。病院だけでなく、診療所や歯科、薬局など医療関係施設を対象に、長期的な支援体制の構築を目的としている。事の重大さに気付いていないのか、あるいは知らないふりをしているのか、政府の対応にはいまひとつ危機感が感じられない。コロナ禍は一向に収まる気配がなく、地域によっては激甚災害級の豪雨に見舞われダブルパンチの状態だ。政府には、「これまで経験がない」ことを盾にせず、前例や慣例にとらわれない医療機関に対する一層の支援を求めたい。

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新型コロナ集団免疫は期待薄、感染者25万人のスペインでの調査/Lancet

 スペインで6万人超の国民を対象に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の血清疫学調査を行ったところ、感染蔓延(ホットスポット)地域でさえも大部分の人が血清反応陰性で、PCR検査で確認された大半の症例で検出可能な抗体が認められる一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した症状を有するかなりの人がPCR検査を受けておらず、血清反応陽性者のうち3分の1以上の人が無症状であることが明らかにされた。スペイン・National Centre for EpidemiologyのMarina Pollan氏らが、約3万6,000件の家庭を対象に行った調査の結果で、著者は、「スペインでは、COVID-19の影響が大きいにもかかわらず推定有病率は低いままで、集団免疫の獲得には明らかに不十分である。獲得には多くの死亡者や医療システムへの過度な負担なしにはなし得ない状況にある」と述べ、「今回の結果は、新たなエピデミックを回避するためには、公衆衛生上の対策を継続していく必要性を強調するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年7月3日号掲載の報告。スペイン6万1,075人を対象に調査 スペインは、ヨーロッパ諸国の中でCOVID-19のパンデミックによる影響が最も大きな国の1つであるが、無症状のケースが存在し、診断テストへのアクセスがほとんどないことから、エピデミックの程度の評価に有用なツールである血清学的調査を行った。全国的な住民ベースの調査によって、SARS-CoV-2の国および地域レベルの血清有病率を推定することを目的とした。 地方自治体名簿を基に、州および市の規模により層別化した2段階無作為抽出法を用いて3万5,883世帯を選択し、各世帯すべての住民に同調査への参加を促した。 2020年4月27日~5月11日にかけて、6万1,075人(選択世帯住民の75.1%)がCOVID-19に関連した症状の履歴やリスク因子に関する質問票に回答し、ポイント・オブ・ケア(POC)の抗体検査を受けた。さらに同意が得られた場合には、採血を行い化学発光微粒子免疫測定法(CMIA)を行った。IgG抗体の有病率は、サンプリング重み付け・事後層別法で補正を行い算出し、年齢群や性別、国勢統計区の所得に基づく非回答率の格差は許容した。 両方の検査結果から、特異度(両検査ともに陽性)または感度(いずれかの検査が陽性)を最大化する血清有病率の範囲値を求めた。各検査による血清有病率は5%前後、地域差大 血清有病率はPOC検査では5.0%(95%信頼区間[CI]:4.7~5.4)、CMIAでは4.6%(4.3~5.0)、特異度-感度の範囲値は3.7%(3.3~4.0、両検査陽性)~6.2%(5.8~6.6、いずれかの検査陽性)だった。性差は認められず、また10歳未満の子供の血清有病率は低かった(POC検査で3.1%未満)。 地域による差は大きく、マドリード周辺では10%超だったのに対し、沿岸部では3%未満だった。調査開始の14日以上前にPCR検査で陽性だった195人の血清有病率は、87.6%(95%CI:81.1~92.1、両検査陽性)~91.8%(86.3~95.3、いずれかの検査陽性)だった。 嗅覚消失または3つ以上の症状が認められた7,273人の血清有病率は、15.3%(95%CI:13.8~16.8、両検査陽性)~19.3%(17.7~21.0、いずれかの検査陽性)だった。 血清反応陽性者のうち約3分の1が無症状者で、21.9%(95%CI:19.1~24.9、両検査陽性)~35.8%(33.1~38.5、いずれかの検査陽性)だった。症状が認められた者のうち、POC抗体検査、CMIAともに血清反応陽性だったのは、わずかに19.5%(95%CI:16.3~23.2)だった。

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身体活動ガイドライン順守で、全死因・原因別死亡リスク減/BMJ

 米国では、「米国人の身体活動ガイドライン2018年版(2018 Physical Activity Guidelines for Americans)」で推奨されている水準で、余暇に有酸素運動や筋力強化運動を行っている成人は、これを順守していない集団に比べ、全死因および原因別の死亡リスクが大幅に低いことが、中国・山東大学のMin Zhao氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年7月1日号に掲載された。本研究の開始前に、身体活動ガイドラインの推奨を達成することと、全死因死亡や心血管疾患、がんとの関連を評価した研究は4件のみで、その結果は一致していなかった。また、身体活動ガイドラインと他の原因別の死亡(アルツハイマー病や糖尿病などによる死亡)との関連を検討した研究は、それまでなかったという。推奨順守で4群に分け、全死因と原因別の死亡を評価 研究グループは、米国の成人を代表するサンプルを用いて、米国人の身体活動ガイドラインの2018年版で推奨されている身体活動と、全死因死亡および原因別死亡の関連を評価する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(責任著者は山東大学から研究支援を受けた)。 国民健康聞き取り調査(National Health Interview Survey)の1997~2014年のデータと、国民死亡記録(National Death Index)の2015年12月31日までのデータを関連付けた。成人(年齢18歳以上)47万9,856人が解析に含まれた。 調査参加者の自己申告に基づき、1週間の余暇時間のうち有酸素運動および筋力強化運動に費やした時間を集計し、身体活動ガイドラインに従って、4つの群(運動不足、有酸素運動のみ、筋力強化運動のみ、有酸素運動+筋力強化運動)に分類した。 主要アウトカムは、国民死亡記録から得た全死因死亡と原因別死亡とした。原因別死亡には、8つの疾患(心血管疾患、がん、慢性下気道疾患、事故/負傷、アルツハイマー病、糖尿病、インフルエンザ/肺炎、腎炎/ネフローゼ症候群/ネフローゼ)が含まれた。有酸素+筋力強化運動で、死亡リスク40%減 47万9,856人中7万6,384人(15.9%)が有酸素運動+筋力強化運動群、11万3,851人(23.7%)が有酸素運動群、2万1,428人(4.5%)が筋力強化運動群、26万8,193人(55.9%)は運動不足群に分類された。 ガイドライン2018年版の推奨を完全に満たした成人の割合は、男女とも年齢が上がるに従って低下した。ベースラインの背景因子のすべてで、4つの群に有意な差が認められた。ガイドラインの推奨を満たさなかった運動不足群に比べ、これを満たした3群の参加者は、年齢が若く、男性や白人、未婚者、非喫煙者、少量~中等量の飲酒者が多く、学歴が高く、正常体重者が多く、慢性疾患を有する者が少なかった。 追跡期間中央値8.75年の期間中に、5万9,819人が死亡した。このうち、1万3,509人が心血管疾患、1万4,375人ががん、3,188人が慢性下気道疾患、2,477人が事故/負傷、1,470人がアルツハイマー病、1,803人が糖尿病、1,135人がインフルエンザ/肺炎、1,129人が腎炎/ネフローゼ症候群/ネフローゼで死亡した。 全死因死亡のリスクは、ガイドラインの推奨を満たさなかった運動不足群と比較して、筋力強化運動群が11%(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.85~0.94)、有酸素運動群が29%(0.71、0.69~0.72)低く、有酸素運動+筋力強化運動群(0.60、0.57~0.62)では、さらに大きな生存に関する利益が認められ、リスクは40%減少していた。 また、同様の関連が、心血管疾患死(筋力強化運動群のHR:0.82[95%CI:0.74~0.92]、有酸素運動群:0.65[0.62~0.69]、有酸素運動+筋力強化運動群:0.50[0.46~0.56])、がん死(0.85[0.77~0.95]、0.76[0.73~0.80]、0.60[0.56~0.65])、慢性下気道疾患死(0.76[0.62~0.93]、0.42[0.37~0.47]、0.29[0.23~0.37])で観察された。 著者は、「これらのデータは、ガイドラインで推奨されている身体活動の水準が、重要な生存上の利益と関連していることを示唆する」としている。

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アビガン、ウイルス消失傾向も有意差示せず/多施設無作為化試験

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の無症状および軽症患者に対するファビピラビル(商品名:アビガン)のウイルス量低減効果を検討した多施設非盲検ランダム化臨床試験の最終結果の暫定的な解析から、通常投与群(1日目から投与)は遅延投与群(6日目から投与)に比べて6日までにウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたが、統計学的に有意ではなかったことを、7月10日、藤田医科大学が発表した。本研究の詳細なデータを速やかに論文発表できるよう準備を進めるという。 本研究は、藤田医科大学を代表機関とし全国47医療機関で実施している「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」(研究責任医師:藤田医科大学医学部感染症科 教授 土井 洋平氏)。 3月上旬~5月中旬にCOVID-19患者89例が参加し、うち44例がファビピラビルの通常投与群、45例が遅延投与群に無作為割り付けされた。遅延投与群のうち1例が割り付け直後に不参加を希望したため、臨床的評価は通常投与群44例、遅延投与群44例を対象とした。またウイルス量に関する評価は、研究参加時に既にウイルスが消失していたことが後日判明した19例を除外し、通常投与群36例、遅延投与群33例を対象とした。研究参加中に重症化または死亡した患者はいなかった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は、通常投与群66.7%、遅延投与群56.1%で、調整後ハザード比(HR)は1.42(95%信頼区間[CI]:0.76~2.62、p=0.269)であった。・副次評価項目である「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は、通常投与群94.4%、遅延投与群78.8%で、調整後オッズ比は4.75(95%CI:0.88~25.76、p=0.071)であった。・探索的評価項目である「37.5℃未満への解熱までの平均時間」は、通常投与群2.1日、遅延投与群3.2日で、調整後HRは1.88(95%CI:0.81~4.35、p=0.141)であった。・ファビピラビル投与に関連する有害事象については、血中尿酸値上昇が84.1%、血中トリグリセライド値上昇が11.0%、肝ALT上昇が8.5%、肝AST上昇が4.9%に見られた。これらの異常値は、内服終了後(16日目または28日目)に再度採血された患者(38例)のほぼ全員で平常値まで回復していた。また、痛風発症例はいなかった。

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HIV感染症患者は新型コロナウイルスに罹りにくいのか?【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。1年半ぶりに復活! 今回も少数精鋭の読者に向けてと何事もなかったかのように普通に冒頭を書き出してみましたが(正確に言うと前回の文章をコピペした)、実に1年半ぶりの再開です。この1年半、いろいろなことがありました…。「ピエール瀧の逮捕」、「沢尻エリカの逮捕」、そして「新型コロナウイルスの流行」…。ピエール瀧と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を並べて書いたのは私が世界初ではないでしょうか。そんなわけで、「新興再興感染症」という誰も興味のなさそうなテーマの連載でしたが、よく考えたら「今しか注目されるときはないんちゃうか」というタイミングであり(むしろ若干タイミングを逃した感あり)、「医療界の冨樫」がついに重い腰を上げたわけです。というわけで、冨樫義博先生(漫画家)を見習って10回くらいの予定で(打ち切られなければ)、新型コロナウイルスに関する話題を皆様にご提供したいと考えております。ときどき「Yahooの記事とほぼ同じやないか!」と思われる回が登場するかもしれませんが(予言)、それはご愛嬌ということでよろしくお願いします。でもね、Yahooの記事って「いつも読んでます!」とかめっちゃ言われるんですが、この連載でそんなこと言われたことほとんどないんですよ、悲しいことに。たぶん5人くらいしか読んでないんじゃないでしょうか。まあどっちにしても原稿料はもらえるし、別に5人でも構いません。少人数制で頑張っていきましょう。HIV治療薬とCOVID-19の治療薬?の関係それでは5人の読者の皆様、お待たせいたしました、新型コロナシリーズ第1回は「HIVとコロナ」です。HIV感染症と言えば世界3大感染症の1つであり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することでCD4陽性リンパ球が減少し、細胞性免疫不全が起こる疾患です。日本でも約3万人の感染者がおり、今もなお年間1,000人以上が新規患者として診断されています。CD4数が低下すると「日和見感染症」と呼ばれるニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス網膜炎などの感染症に罹患しやすくなり、また、一般の感染症に罹患した際も重症化しやすいとされます。しかし、一般的にHIV感染症の患者さんも“ART(Antiretriviral Therapy)”と呼ばれる抗HIV薬を組み合わせた治療を行えば、CD4数は正常の範囲を保つことができることが多く、その場合は日和見感染症に罹るリスクはほとんどなくなります。では、HIV感染症の患者がCOVID-19に感染した場合、重症化するのでしょうか。「COVID-19の悪化にはサイトカインストームが関与しており、免疫反応が弱いHIV感染症患者では重症化しないのではないか」という仮説を唱えている人もいるようですが、この辺はまだ結論が出ていません。まだプレプリントですが、HIV感染症患者はHIV-negativeの人と比べて死亡リスクが高いという南アフリカの大規模コホート研究があります。その前に、そもそもHIV感染症の患者はCOVID-19に感染するのでしょうか? 答えはもちろんイエスであり、国内最初のHIV感染症患者のCOVID-19症例は我々が診断しています(てへん)1)。しかし、「HIV感染症の患者でART中の方はCOVID-19に罹患しにくいのではないか」という説がまことしやかに囁かれていました。正確には私自身が囁いていました。なぜならば、一部の抗HIV薬はin vitroでは新型コロナウイルスに活性があるためです。一時期、国内でもCOVID-19症例の治療にカレトラが使用されていましたが、これはリトナビルというプロテアーゼ阻害薬がSARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスにin vitroで活性があるためでした2)。しかし、リトナビル/ロピナビルの合剤であるカレトラはRCTで有効性を示せず3)、現在カレトラはCOVID-19の治療では積極的に使用されなくなっています。しかし、今度は核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTIs)が新型コロナウイルスに動物実験系では有効性を示したという報告も出てきており4)、「何だやっぱりARTはCOVID-19に効くんじゃないか」という揺り戻しが起こっていました。最新の臨床研究からみてみたさて、そんな中、ついに「実際にARTを受けているHIV感染症患者はCOVID-19に罹っているのか」という命題に応える臨床研究が出ました5)。概要としては、スペインでARTを受けている77,590人のコホート研究で、このうち236人がCOVID-19と診断され、151人が入院し、15人がICUに入院し、20人が死亡した。COVID-19の診断および入院のリスクは、男性および70歳以上の高齢者で高かった。1万人あたりのCOVID-19の入院リスクはテノホビル アラフェナミド/エムトリシタビン(TAF/FTC)投与群で20.3(95%CI、15.2~26.7)、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩//エムトリシタビン(TDF/FTC)投与群で10.5(CI、5.6~17.9)、アバカビル/ラミブジン(ABC/3TC)投与群で23.4(CI、17.2~31.1)、その他のレジメン投与群で20.0(CI、14.2~27.3)であった。1万人あたりのCOVID-19罹患(診断)リスクは、それぞれTAF/FTC投与群で39.1(CI、31.8~47.6)、TDF/FTC投与群で16.9(CI、10.5~25.9)、ABC/3TC投与群で28.3(CI、21.5~36.7)、その他のレジメン投与群で29.7(CI、22.6~38.4)であった。TDF/FTCを受けた患者でICUに入院した患者や死亡した患者はいなかった。比較対象として、同期間のスペインの20~79歳の一般集団では、COVID-19の診断リスクは1万人あたり41.7人(医療従事者を除くと1万人あたり33.0人)であり、死亡リスクは1万人あたり2.1人であった。というものであり、このコホート研究からはやはり「ART中、特にTDF/FTCを飲んでいるHIV感染症患者ではリスクが多少低くなるかもしんまい!」ということが言えそうです。現在、TDF/FTCを内服していた患者は腎臓や骨への副作用が少ないTAF/FTCへの切り替えが行われていることが多いと思いますが、思いがけずTDF/FTCの方が優れた結果になっていますが、これはTDFの方がTAFよりも血漿中および細胞外濃度が高いためではないかと考えられます(もともとTAFはTDFよりも効率的にリンパ球などの標的細胞に取り込まれるというのがTAFのメリットだったわけですが)。ARTを受けていない患者では、非HIV感染者と比較してどうかはこの研究からはわかりません。結論はまだ出ていないこうなってくると、HIV感染症じゃない人もCOVID-19予防効果を期待してTDF/FTCを内服したいという人が出てきそうですが、これはあくまでコホート研究ですので、一時期のトランプ大統領のように結果的に「ヒドロキシクロロキン、やっぱ効果ありませんでした」みたいな結果にならないとも限りませんし、スペインの単施設の研究ではテノホビルを内服していた方がCOVID-19に罹患しやすかったという真逆の結果の報告も出ています6)ので、とりあえず今行われているRCTの結果を待ちましょう。ちょっと1年半ぶりで気合が入りすぎてしまったかもしれません。次回からはもう少し適当に書きたいと思います。それでは(たぶん)また2週間後にお会いしましょう!1)Nakamoto T, et al. J Med Virol. 2020;10.1002/jmv.26102. doi: 10.1002/jmv.26102.2)de WildeAH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2014;58:4875-4884.3)Cao B, et al. N Engl J Med. 2020;382:1787-1799. 4)Park SJ, et al. mBio. 2020;11:e01114-20.5)Del Amo J, et al. Ann Intern Med. 2020. doi: 10.7326/M20-3689.6)Vizcarra P, et al. Lancet HIV. 2020;S2352-3018(20)30164-30168.

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第15回 医師過労死の長崎みなとメディカル、控訴から一転和解へ

<先週の動き>1.医師過労死の長崎みなとメディカル、控訴から一転和解へ2.日本医師会、「骨太の方針2020」(原案)に対する3つの懸念3.情報ギャップを解消し、信頼できる医療情報へのアクセスを支援/Google4.コロナに直面する医療機関の経営支援を!超党派議連が発足5.がん疑い3例、診断遅れによる死亡を旭川医科大学病院が公表1.医師過労死の長崎みなとメディカル、控訴から一転和解へ長崎市立病院機構・長崎みなとメディカルセンターに勤務して過労死した医師の遺族が損害賠償を求めていた裁判で、病院側に1億7,000万円の支払いを命じた1審判決に対し、控訴を取り下げ、和解することとなった。今回、過労死を認めないとの方針を大きく変えたのは、理事長、病院長の交代を機にメンバーが一新された理事会において、当時、過労死水準をはるかに超える異常な長時間労働に当該医師が従事していたことを大学側が認め、遺族との和解に至った。医師の働き方改革により、2024年4月以降は医師の時間外労働の上限規制が強化される。病院の勤務医に限らず、労働者の働き方改革については大きな関心が寄せられており、今回の動きはほかの医療機関にも大きく影響を与えると考えられる。(参考)当院の医師の過労死事案について(長崎みなとメディカルセンター)医師の働き方改革について(厚生労働省医政局 医療経営支援課)2.日本医師会、「骨太の方針2020」(原案)に対する3つの懸念日本医師会の中川会長は、政府が現在取りまとめに動いている「骨太方針2020」の原案について、「薬価調査・薬価改定」、「医療機関経営」、「オンライン診療」の主に3点に関する見解を10日に取りまとめた。薬価調査・薬価改定については、新型コロナで予断を許さない状況下、製薬企業や医薬品卸の営業が医療機関にほとんど訪問できていないため、薬価調査を実施できる環境ではないとしている。また、医療機関の経営状態については、コロナ感染拡大に伴い、受診抑制など深刻な影響が出ており、新型コロナウイルス感染症重点医療機関などを支えるための支援も不可欠とし、追加支援を求めている。最後に、オンライン診療についても、原文に「診察から薬剤の受け取りまでオンラインで完結する仕組みを構築する」とあることに対し、ただちに現状と平時の対面診療とを比較できるわけでないため、合意形成しながらの仕組み構築を要望した。(参考)「経済財政運営と改革の基本方針2020(仮称)」(原案)について(日本医師会)3.情報ギャップを解消し、信頼できる医療情報へのアクセスを支援/Google検索エンジン大手Googleは、信頼できる医療情報へのアクセスを支援するために、新たなツール「Question Hub (クエスチョンハブ)」を設け、7日から運用を開始した。これは、ユーザーが適切な情報にたどり着けていないと考えられる検索キーワードを自動的に収集し、表示するもの。今回はβ版として、新型コロナウイルス感染症に関する未回答のキーワードを集め、医療従事者および専門家、メディカルノート、メドレーのプロジェクトチームと協力することで、情報ギャップの解消を目指す。(参考)より信頼できる医療情報へのアクセスを(Google Japan Blog)4.コロナに直面する医療機関の経営支援を!超党派議連が発足7日、有志の国会議員による「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」の設立総会が開かれた。新型コロナウイルス感染拡大により、経営が悪化している医療機関への財政的な支援を求める目的で設立された。当日は会場に100名以上の国会議員、秘書などが集まった様子が、参加した議員などから報告されている。今後は日本医師会、日本病院協会からヒアリング、病院の視察など実施し、具体的には省庁予算概算要求の前の8月までに提言の形で政府に申し入れをする見込み。メンバーは自民党、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会以外にも超党派のメンバーにより形成され、共同代表に中谷 元氏(自民党)、富田 茂之氏(公明党)、羽田 雄一郎氏(国民民主党)が選ばれ、幹事長には増子 輝彦氏(国民民主党)が就いた。(参考)超党派「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」(仮称)の設立趣意書(案)5.がん疑い3例、診断遅れによる死亡を旭川医科大学病院が公表10日に、旭川医科大学病院が開催した記者会見において、がんが疑われた8人の患者のうち、診断が遅れて3人が死亡していたことが発表された。大学側によると「がん疑い」の画像診断報告書がありながら、主治医に共有されていなかったことが原因であったとし、今後は医師の確認漏れを防ぐために、未読の報告書があれば、自動的に通知が届く新たなシステムを導入するなど再発防止に努めるという。日本医療機能評価機構によれば、医師が画像診断の報告書などを確認しないまま、病気を見逃して治療が遅れたケースは、2012年から8年間で125件報告されている。厚労省は、2019年12月に「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」として、「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」の事務連絡を医政局総務課医療安全推進室より発出している。(参考)旭川医大病院 診断遅れで陳謝(NHK)「画像診断報告書の確認不足(第2報)」(医療安全情報No.138)(日本医療機能評価機構)「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」報告書資料(厚労省)

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肺炎小児へのアモキシシリン推奨は妥当か/NEJM

 5歳未満の非重症肺炎小児の治療において、治療失敗の頻度はアモキシシリンよりもプラセボのほうが高く、この差はプラセボの非劣性マージンを満たさないことから、現在の世界保健機関(WHO)の推奨は有効であることが、パキスタン・アガカーン大学のFyezah Jehan氏らが実施した「RETAPP試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年7月2日号に掲載された。WHOは、頻呼吸を伴う肺炎患者に経口アモキシシリンを推奨している。一方、この病態の治療にアモキシシリンを使用しなくても、使用した場合に対して非劣性である可能性を示唆するデータがあるという。プラセボを試験レジメンとする無作為化非劣性試験 研究グループは、パキスタン・カラチ市のHIV感染がなく、マラリアの発生率が低い低所得地域の1次医療施設を受診した小児を対象に、頻呼吸を伴う肺炎の管理におけるプラセボのアモキシシリンに対する非劣性を検証する目的で、二重盲検無作為化対照比較試験を行った(英国国際開発省、英国医学研究評議会[MRC]、ウェルカム・トラストの共同グローバルヘルス試験計画[JGHT]などの助成による)。 対象は、頻呼吸を伴う非重症肺炎がみられ、WHOの基準を満たす生後2~59ヵ月の患児であった。被験者は、アモキシシリンシロップ(実薬対照)またはプラセボ(試験レジメン)を投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 アモキシシリンは、WHOの総合的小児疾患管理(WHO-IMCI)の体重別の用量に従って、3日間投与された(体重4~<10kg:500mgを12時間ごと、10~<14kg:1,000mgを12時間ごと、14~<20kg:1,500mgを12時間ごと)。14日間のフォローアップが行われた。 主要アウトカムは、3日間の投与期間中の治療失敗とした。治療失敗は、患者が死亡またはWHOの定義による危険な徴候や下部胸壁の陥凹が発生した場合、患者が入院した場合、新規感染症や重篤な有害事象のため担当医が試験薬を変更した場合とされた。事前に規定された非劣性マージンは1.75ポイントだった。PP解析とITT解析で、ほぼ同様の結果 2014年11月9日~2017年11月30日の期間に、4,002例が無作為化され、プラセボ群に1,999例(平均年齢16.5±13.9ヵ月、男児53.9%)、アモキシシリン群には2,003例(16.4±14.0ヵ月、51.1%)が割り付けられた(intention-to-treat[ITT]集団)。このうち、プラセボ群の1,927例(96.4%)およびアモキシシリン群の1,929例(96.3%)がper-protocol(PP)解析に含まれた。 PP解析では、治療失敗はプラセボ群が1,927例中95例(4.9%)、アモキシシリン群は1,929例中51例(2.6%)で発生した(群間差:2.3ポイント、95%信頼区間[CI]:0.9~3.7)。非劣性マージンを超えていることから、プラセボ群のアモキシシリン群に対する非劣性は示されなかった。この95%CIは、アモキシシリン群の優越性を示唆するものであった。ITT解析でも、同様の結果だった(4.8% vs.2.5%、群間差2.3ポイント、95%CI:0.9~3.6)。 探索的解析では、アモキシシリン群はプラセボ群に比べ治療失敗のリスクが低かった(オッズ比[OR]:0.52、95%CI:0.37~0.74)。治療失敗の他の独立の予測因子として、呼吸数(45回/分以上)、喘鳴、発熱、発熱の既往歴、下痢の既往歴、室内空気の質の悪さが挙げられた。 14日目までに、再発はプラセボ群40例(2.2%)、アモキシシリン群58例(3.1%)で認められた(平均群間差:0.9ポイント、95%CI:-2.1~0.3)。3日目までに、有害事象はプラセボ群63例(3.3%)、アモキシシリン群43例(2.2%)で発現した(1.0ポイント、-0.2~2.2)。両群1例(<0.1%)ずつが死亡した。また、1件の治療失敗の予防に必要な治療数は44例(95%CI:31~80)だった。 著者は、「これらの知見は、現行のWHOの推奨が妥当であることを示唆する」とまとめ、「1件の治療失敗を防ぐのに必要な治療数(44例)は比較的高く、この数値は多くの小児は抗菌薬の投与が不要である可能性を示唆するが、その一方で抗菌薬治療を必要とする重症のサブグループも存在する。これらを判別して標的治療を行うことで、不必要な抗菌薬使用を抑制できると考えられる」と指摘している。

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