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ブレークスルー感染も、ワクチンが変異株の重症化を抑制か/CDC

 新型コロナウイルスの変異株であるデルタ株は感染性が高く、このほど米国でワクチン接種完了者によるブレークスルー感染が報告された。しかし、この報告からワクチンの効果がないと言えるのだろうかー。 CDC COVID-19 Response TeamのCatherine M. Brown氏らによると、マサチューセッツ州バーンスタブル群で発生した大規模クラスターの74%はファイザー製ワクチン接種完了者であったことが明らかになった。ただし、入院患者の割合は1.2%と、ワクチンが普及する前の既存株による重症化率と比較すると少ない傾向であることも示された。米国疾病予防管理センター(CDC)のMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)8月6日号での報告。 2021年7月3~17日、マサチューセッツ州バーンスタブル郡の町において、複数のイベントや大規模な集会に関連した新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)469例が確認された。この症例はマサチューセッツ州公衆衛生局(MADPH)が同州のCOVID-19監視システムを利用して7月10〜26日の旅行履歴データから特定したもので、追加症例は調査を通じて地域の保健管轄区域で特定された。クラスター関連の症例は、居住者または7月3日からバーンスタブル郡の町への旅行滞在者で、新型コロナウイルス検査(リアルタイムPCR[PT-PCR法]または抗原検査)で陽性判定が行われた。 主な結果は以下のとおり。・469件の新型コロナ症例が確認され、陽性検体の採取日付は7月6~25日までの期間だった。・感染者の大半が男性(85%)で、年齢中央値は40歳だった。・199例(42%)はバーンスタブル郡の町の居住者だった。・感染者のうち346例(74%)は新型コロナワクチンの接種完了者(ブレークスルー感染)だった。・ブレークスルー感染者346例のうち男性は301例(87%)、年齢中央値は42歳だった。・5例が入院したが、7月27日の時点で死亡例はなかった。・入院患者5例(年齢範囲:50〜59歳)のうち4例がワクチン接種完了者で、2名は基礎疾患を有していた。・ブレークスルー感染者が接種していたワクチンは、ファイザー製が159例(46%)、モデルナ製が131例(38%)、J&J製(米国ではヤンセン)が56例(16%)だった。・274例(79%)で新型コロナの感染徴候または症状を報告し、主な症状は咳、頭痛、喉の痛み、筋肉痛、および発熱だった。・ブレークスルー感染者において、ワクチン2回目接種後14日以降から症状発症までの期間中央値は86日だった(範囲:6〜178日)。・ワクチン完了者(127例)、ワクチン未接種者とワクチン1回目完了/接種状況不明者84例のリアルタイムPCRのCt値(中央値)は、それぞれ22.77、21.54だった。・133例から採取した検体を遺伝子解析したところ、119例(89%)でデルタ株関連が同定された。 以上の報告からCDCは、デルタ株は非常に感染性が高く、新型コロナワクチンの予防接種は“重度の病気や死を防ぐための最も重要な戦略”としている。また、7月27日からはすべてのワクチン接種完了者にも“新型コロナ感染が高い地域の屋内・公共の場でのマスク着用を推奨する”としている。

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コロナワクチン、1回目でアレルギー出現も2回目接種できる?

 海外では新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン接種後のアレルギー反応は2%も報告され、アナフィラキシーは1万人あたり最大2.5人に発生している。国内に目を向けると、厚生労働省の最新情報1)によれば、アナフィラキシー報告はファイザー製で289件(100万回接種あたり7件)、モデルナ製で1件(100万回接種あたり1.0件)と非常に稀ではあるが、初回投与後に反応があった場合に2回目の接種をどうするかは、まだまだ議論の余地がある。 今回、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのMatthew S Krantz氏らは、ファイザー製またモデルナ製ワクチンの初回接種時にアナフィラキシーまたは遅発性のアレルギー反応を経験した被接種者において、2回目接種の安全性を検証するため投与耐性について調査を行った。その結果、2回目の接種を受けた患者の20%で軽度の症状が報告されたが、2回目接種を受けたすべての患者が安全に一連のワクチン接種を完了したことを明らかにした。また、必要に応じて将来も新型コロナのmRNAワクチンを使用できることも示唆した。JAMA Network Open誌2021年7月26日号のリサーチレターでの報告。 本研究は、2021年1月1日~3月31日に米・マサチューセッツ総合病院、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院、ヴァンダービルト大学医療センター、イェール大学、テキサス大学サウスウェスタン・メディカル・センターが合同で後ろ向き研究を実施。ファイザー製またはモデルナ製ワクチンに対してアナフィラキシー反応を示し、(1)初回投与4時間以内に発症 (2)少なくとも1つ以上のアレルギー症状を有した(3)アレルギー/免疫専門医へ紹介された人が患者として定義づけられた。アナフィラキシーはブライトン分類およびNIAID/FAAN(米国・国立アレルギー感染症研究所/ Food Allergy and Anaphylaxis Network criteria)の基準のうち、1つ以上を満たすものとした。 主要評価項目は2回目接種の耐性で、(1)2回目の投与後アナフィラキシー症状がない(2)症状が軽度、自然治癒したおよび/または抗ヒスタミン薬のみで解消した症状、のいずれかと定義した。 主な結果は以下のとおり。・参加者は189例(平均年齢±SD:43±14歳、女性:163例[86%])だった。・評価されたmRNAワクチンの初回投与反応のうち、モデルナ製を投与したのは130例(69%)、ファイザー製は59例(31%)だった。・最も頻繁に報告された初回投与反応は、紅潮または紅斑で53例(28%)、めまい・立ちくらみは49例(26%)、接種部位のうずき・ヒリヒリ感は46例(24%)、喉の圧迫感は41例(22%)、じんましんは39例(21%)、喘鳴または息切れは39例(21%)だった。・32例(17%)はアナフィラキシーの基準を満たしていた。・参加者のうち159例(84%)が2回目の接種を受け、前投薬として抗ヒスタミン薬(30%)を投与したのは47例(30%)だった。・初回投与後にアナフィラキシーと診断された19例を含む159例が2回目の投与に耐えられた。・32例(20%)は2回目の接種によるアナフィラキシーや遅発性のアレルギーを報告したが、自然治癒・症状軽度および/または抗ヒスタミン薬のみで解決した。 研究者らは、「今回の報告は初回投与後にアナフィラキシーや遅発性のアレルギー反応を報告する患者に対し、ファイザー製またはモデルナ製ワクチンの2回目の投与の安全性を支持する。初回投与後に反応を示した多くの被接種者がすべて真のアレルギー反応ではないか、または非IgE依存性アレルギー反応だったため、症状が前投薬で軽減できた」と主張した。

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那須・ハコラ病〔PLOSLまたはOMIM221770:Polycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy〕

1 疾患概要■ 定義・概念那須・ハコラ病(OMIM221770)は、1970年代に那須博士とハコラ博士により報告された疾患である。臨床的には、病的骨折、前頭葉症状、進行性の若年性認知症に特徴付けられる。常染色体劣性の遺伝性疾患であり、原因遺伝子はDNAX activating protein of 12 kDa(DAP12)とtriggering receptor expressed on myeloid cells 2(TREM2)である。 また、本症はpolycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy(PLOSL)とも呼ばれている1)。■ 疫学本疾患は希少疾患であり、わが国と北欧のフィンランドからの報告が多い。フィンランドでは、DAP12のExon1-4の欠失変異(c.-2897_277-1227del5265)の創始者効果のために有病率が高いと考えられており、同国の推定有病率は100万人あたり1~2人である2)。なお、わが国では平成21年度に厚生労働科学難治性疾患克服研究事業「那須・ハコラ病の臨床病理遺伝学的研究」の研究班が実施したアンケート調査の結果から、患者数は200人程度と推定されている3)。■ 病因那須・ハコラ病は、DAP12またはTREM2の機能喪失変異で発症する。DAP12とTREM2は破骨細胞やミクログリアの細胞膜表面に発現し、複合体を形成する。リガンドがTREM2と結合することで、DAP12/TREM2の複合体から下流にシグナル伝達が生じる。那須・ハコラ病は、DAP12またはTREM2の変異により、下流へのシグナル伝達が阻害されることが原因と考えられている。しかし、その他の詳細な分子生物学機序については明らかになっていない3)。■ 症状那須・ハコラ病は進行性の疾患であり、その臨床経過は4期に分けることができる。(1)特に症状が認められない無症候期(Latent stage)。(2)骨嚢胞や病的骨折が認められる骨症状期(Osseus stage)。(3)脱抑制などの前頭葉症状を中心とした精神症状などが認められる早期精神神経症状期(Early neuropsychiatric stage)。(4)認知機能障害低下が顕著となる晩期精神神経症状期(Late neuropsychiatric stage)、である。無症候期においては特に発達などに異常は認められない。20代で骨症状期に移行する。骨症状期では、軽微な事故などを契機に足関節や足に疼痛や圧痛を認めるようになる。また、最初の骨折は30歳以前で認められる。骨折は主に長管骨で認められる。30代では、早期精神神経症状期へと移行する。この時期には、性格の変化に加え、注意力や判断力の低下、多幸感や社会性の欠如などの前頭葉症状が緩徐に進行する。神経学的には、痙性などの上位運動ニューロン徴候が認められる。さらに、不随意運動としてアテトーゼや舞踏運動が認められ、30代半ばには頻繁にてんかん発作が経験される。40代で晩期精神神経症状期に移行する。この時期では、歩行などは困難となる。50代には、寝たきり、意思疎通が困難となる。これまでに明らかな骨症状を認めずに精神神経症状を呈した症例も報告されている4)。■ 予後本疾患は進行性で、50代には誤嚥性肺炎などを契機に死亡する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)那須・ハコラ病の診断には、(1)骨嚢胞、(2)中枢神経病変、(3)遺伝子変異を確認するために各種検査を実施する必要がある1-3)。骨嚢胞は長管骨の骨端部に多発する。手指や手根骨、足根骨の骨X線検査で嚢胞様病変や骨梁の菲薄化が認められる。これらの異常所見の確認にはCT検査やMRI検査も有用である。骨生検は必ず行う必要はないものの、生検組織で膜嚢胞性変化(lipomembraneous osteodysplasia)が確認できる。中枢神経病変の確認には神経症状に加えて、頭部CT検査や頭部MRI検査が有用である。CT検査では両側性に基底核の石灰化が認められる。側脳室の拡大、基底核や視床の萎縮、脳溝の開大などの萎縮所見も認められる。加えて、頭部MRI T2強調像やfluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)では、白質のびまん性高信号所見が認められる。Single photon emission computed tomography(SPECT)やpositron emission tomography(PET)検査では皮質領域、視床、基底核に血流低下が認められる場合がある。遺伝子検査ではDAP12またはTREM2の遺伝子変異が認められる。一般的にはホモ接合性変異であるが、複合ヘテロ接合性変異の症例も確認されている5)。他に進行期の脳波では徐波やてんかん性放電が確認される。なお、わが国では「那須・ハコラ病の臨床病理遺伝学的研究」研究班が作成した診断基準がある(表)3)。表 那須・ハコラ病の診断基準画像を拡大する本疾患と鑑別疾患としては、前頭側頭型認知症(ピック病など)やスフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症(hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids:HDLSまたはadult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented glia:ALSP)などが挙げられる。HDLSは常染色体優性遺伝形式の疾患で、頭部MRI検査では白質のびまん性高信号所見が認められる。原因遺伝子はcolony stimulating factor l receptor(CSFIR)である。これらの疾患では骨病変が認められない点や遺伝形式の違いが鑑別点となる1-3)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)那須・ハコラ病の根治的な治療は現時点ではない。骨病変に対しては、骨折については整形外科的な治療が行われる。加えて骨病変に対する疼痛管理や装具装着なども試みられることがある。精神症状については抗精神病薬が用いられる。てんかん発作に対しては、抗てんかん薬が用いられる。4 今後の展望現在、治験などは予定されていない。DAP12/TREM2のシグナル伝達異常がどのように病態に関わっているのかが不明な点が多く、病態の解明が望まれる。5 主たる診療科脳神経内科対症療法として、整形外科、精神科、リハビリテーション科、呼吸器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 那須・ハコラ病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Adam MP, et al.(eds). GeneReviews. Seattle.WA;2020.2)Pekkarinen P, et al. Am J Hum Genet. 1998;62:362-372.3)佐藤準一. 新薬と臨牀. 2016;65:76-81.4)Bock V, et al. J Neurol Sci. 2013;326:115-119.5)Kuroda R, et al. J Neurol Sci. 2007;252:88-91.公開履歴初回2021年8月6日

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第69回 コロナワクチン接種者の74%がブレークスルー感染!一体どんな状況だった?

現在、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の変異株であるデルタ株。従来の新型コロナウイルスの基本再生産数が1.4~3.5と言われるなか、米国疾患予防管理センター(CDC)がデルタ株に関しては水痘と同程度の5~9.5との内部資料を作成していたことが明らかになった。日本でも東京都をはじめとする首都圏を中心に過去最高を更新する感染者数の報告が続いているが、国立感染症研究所によると7月27日時点で新型コロナ陽性検体に占めるデルタ株の割合は関東地方で75%を占めると推定されている。現在、アメリカでもデルタ株による感染は急増中と伝わってきているが、そんな最中、ぎょっとする以下のようなニュースを目にした。多くの皆さんも目にしていると思われる。「米東部クラスター、ワクチン接種者が74% 当局分析 「重症化防ぐ」接種は推奨」(日本経済新聞)まず、記事から読める事実関係を箇条書きする。マサチューセッツ州バーンスタブル郡でクラスターが発生同郡では7月初旬、数千人の観光客が訪れた大規模イベントを開催報告された感染者は469人感染者のうち74%(346人)がワクチン接種を終えたブレークスルー感染ブレークスルー感染者346人のうち79%(274人)はせき、頭痛、のどの痛み、筋肉痛、熱といった通常のコロナ感染と同じ症状27日時点で死者はいないブレークスルー感染者346人の接種ワクチンはファイザー製が46%、モデルナ製が38%、J&J製が16%デルタ型に感染したワクチン接種者からは、未接種者と同等のウイルス量これらから、CDCは「ワクチン接種完了者も屋内でマスクを着用するよう推奨」をしたという。正直、私も一瞬は見出しにあった「74%」という数字の大きさにぎょっとした。そしてSNS上ではワクチン忌避者を中心に「それみたことか」とばかりにこの記事の引用が目についた。しかし、どうにもすっきりしない。そこで実際、CDCのホームページを訪れたら詳細な報告が掲載されていた。新たに分かった情報を以下に箇条書きで追記する。イベント開催は7月3~17日感染者133人から採取した検体の遺伝子解析ではデルタ株関連が89%入院者5人のうち4人はワクチン接種完了者ワクチン接種完了者の入院4人は20~70歳、うち2人は基礎疾患あり死亡例なしワクチン接種完了者127人、ワクチン未接種者・部分接種者・ワクチン接種状況不明者84人の各リアルタイムPCR(RT-PCR法)の Ct値(中央値)は22.77、21.54でほぼ同様感染者はバー、レストラン、ゲストハウス、レンタルホームなどで行われる屋内外の密集したイベントに参加症例の多くは男性(85%)で年齢中央値は40歳感染者の半数近い199人(42%)がバーンスタブル郡の町に居住ブレークスルー感染者のうち87%は男性で、年齢中央値は42歳ブレークスルー感染者346人の接種ワクチンはファイザー製が159人、モデルナ製が131人、J&J製が56人ブレークスルー感染者でのワクチン接種完了14日後以降から発症するまでの期間の中央値は86日(範囲:6~178日)ただ、そこはやはりCDCと言うべきか、この報告にはリミテーションが4つ記述されていた。 簡単に要約して記述すると(1)集団レベルでのワクチン接種率が上昇すればブレークスルー感染が新型コロナ感染者のより大きな割合を占めるようになる、(2)検出バイアスのために無症候性のブレークスルー感染が過小評価されている可能性がある、(3)成人男性を対象としたイベントで感染者の属性は一般的な市中感染の属性を反映していない、(4)RT-PCR法で得られたCt値はサンプル中に存在するウイルス量との粗い相関関係を示す可能性があり、ウイルス量以外の要因にも影響される可能性がある、というものだ。まず、私は(1)の要素は見逃せないと考える。今回、クラスターでの全感染者報告数の約4分の3(346人)がブレークスルー感染者という数字だけを見て驚いたのは私だけではないと思う。しかし、確かにワクチン接種が進むほど見かけ上のブレークスルー感染者数の絶対値が大きくなるのは確かだ。そこでこのブレークスルー感染がどの程度の頻度で起きるかだが、最近、イスラエルから報告された日本でのコミナティ筋注、すなわちファイザー製のワクチン接種完了14日後以降、PCR検査で追跡が可能だった医療従事者1,497例での研究からは、ブレークスルー感染(無症候を含む)発生率は2.6%と分かっている。もっともこの2.6%は、一般人よりも感染対策がソフィストケートされている医療従事者での数字あり、しかもアルファ株流行時のもの、さらにファイザー製に限定した結果という点は注意する必要がある。それでも仮としてこの確率を使うと、ワクチン接種完了者が100人ならばブレークスルー感染者は2~3人発生することになるが、1万人ならば260人。つまり母集団の規模によって評価は変わる。前述のように今回のマサチューセッツ州のクラスターではファイザー製ワクチン接種者でのブレークスルー感染者は159人で、ブレークスルー感染率2.6%を援用すれば、母集団のワクチン接種完了者が6,115人以上ならば何も問題はない数字である。では今回のクラスター事案は母集団がどれくらいになるかだが、前述のように全米から観光客だけで数千人が集まったことが明らかになっている。開催地のマサチューセッツ州バーンスタブル郡の人口は約21万6,000人だが、調べていくうちにこのイベントの開催地は人口約3,000人のプロビンスタウンと判明した。この町に全米から数千人が押し寄せたことになるわけで、ほぼ町全体を巻き込んだイベントだろうと考えられた。そこでまず数千人を5,000人と仮定し、ワクチン接種完了率をマサチューセッツ州の約70%、全米の約50%という数字を使って計算すると、ワクチン接種完了者はプロビンスタウン住民で2,100人、参加者で2,500人、合計4,600人となる。この数字から逆に今回のブレークスルー感染率を逆算すれば約10%となる。やや高めにも思えるが、一般人では医療従事者ほど日常的な感染対策が徹底されていない、基本再生産数から見るデルタ株の感染力が従来株の3倍弱、アルファ株との比較でデルタ株の感染力が約1.6倍と言われていること、J&J製はファイザー製やモデルナ製と比べ、有効率が低いことなどを考慮すればあり得ない数字ではない。もっともブレークスルー感染率が仮に10%だったとしても、その他大勢はワクチンによって守られていることになるし、入院以上を重症と考えた場合、今回のブレークスルー感染者での重症化率は1.2%という計算になり、一般的な新型コロナの重症化率の20%からはかなり低く、重症化予防効果は十分にある。ワクチン接種のメリットはまだまだ高いと言えるだろう。そんなこんなを考えながら、そもそもこのイベントとは何なのだという疑問が浮かんできた。答えはインターネット上の検索で容易に判明した。すでに前述した発生地の地名を見て気づいていた人もいるかもしれない。私は検索でようやく知ったのだが、プロビンスタウンは世界的にも有名なゲイ・タウンで同性婚も認められており、感染者多発の原因になったイベント自体がゲイ向けのもの。全米から駆け付ける参加者も例年は1万人超で、前述の数千人=5,000人という設定も過少かもしれない。過去の同様のイベント写真なども見つけたが、肩が触れ合うほど密集した場所で連日ダンスなどをして楽しむなど、誤解を恐れずに言えば三密・濃厚接触前提。ワクチン接種完了者全員が同一のブレークスルー感染率ならば、当然三密状態にある人はそうでない人に比べ、感染リスクは高まる。もっともCDCがリミテーションで指摘しているように無症候感染者が十分にカウントされていないため、そこまで補足すればさらにブレークスルー感染率は上昇するだろう。だが、いずれにせよこれまで指摘した諸条件から考えれば今回のクラスター発生そのものは特段不思議なものではないし、ワクチンの信頼性を低下させるようなものではないと考えられるだろう。

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ファイザー製とシノバック製ワクチン、中和抗体価に差はあるのか

 中国・シノバック製の新型コロナワクチンの有効性について、ファイザー製やモデルナ製のmRNAワクチンより低いとする報告が多いが、免疫原性に違いはあるのか。今回、香港の医療従事者を対象に、ファイザー製のBNT162b2ワクチンまたはシノバック製の不活化ウイルス(vero細胞)ワクチンを2回接種し中和抗体価を測定したところ、ファイザー製ワクチンのほうが大幅に上昇していた。WHO協力センターである中国・香港大学のWey Wen Lim氏らが、Lancet Microbe誌オンライン版2021年7月16日号で報告した。 本研究の対象は、香港の公立および私立病院と診療所における1,442人の医療従事者。ワクチン接種前、初回接種後(2回目接種前)、2回目接種後(21〜35日後)に採血し、ELISAでスパイクタンパク質受容体結合ドメインに結合する抗体価を、また代替ウイルス中和試験(sVNT)およびプラーク減少中和試験(PRNT)で中和抗体価を測定した。ここでは、ワクチン接種前、初回接種後、2回目接種後のデータが揃っている93人における予備的な試験結果を報告した。 主な結果は以下のとおり。・93人の医療従事者のうち、ファイザー製ワクチン接種したのは63人(男性55.6%、年齢中央値37歳[範囲26〜60歳])、シノバック製ワクチン接種したのは30人(男性23.3%、年齢中央値47歳[範囲31〜65歳])であった。・ファイザー製ワクチンを接種した医療従事者では、ELISAおよびsVNTで測定した抗体価は、初回接種後に大幅に上昇し、2回目接種後に再上昇した。PRNTの結果が得られた12人のサブセットにおいて、2回目接種後のPRNT50力価の幾何平均値は269、PRNT90力価の幾何平均値は113だった。・一方、シノバック製ワクチンを接種した医療従事者では、ワクチン接種後にELISAおよびsVNTで測定された抗体価は低く、2回目接種後に中程度に上昇した。PRNTの結果も得られた12人のサブセットにおいて、2回目接種後のPRNT50力価の幾何平均値は27、PRNT90力価の幾何平均値は8.4だった。 著者らは「中和抗体価と新型コロナワクチンにおける防御との関連が提案されている。ここで示された中和抗体価の差は、ワクチンの有効性の差につながる可能性がある」と考察している。なお、本研究では、T細胞や抗体依存性細胞傷害抗体などの防御の関連については検討されていない。

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地域によっては宿泊療養強化が効率的、中等症も医師判断で入院を/日医

 8月2日、政府から感染急増地域における入院の対象を重症者や重症化リスクの高い者に重点化し、それ以外は自宅療養を基本とする方針が示されたことについて、日本医師会の中川 俊男会長は8月4日の定例会見で、入院の判断は医師によって適切に行われるべきであり、宿泊療養を強化するほうが効率的な地域もあるとの見解を示した。中等症IIおよび中等症Iのうち高リスク患者は医師判断で入院を 中等症II(呼吸不全あり:SpO2≦93%)はもちろん、中等症I(呼吸不全なし:93%<SpO2<96%)についても、現場の医師が重症化リスクが高いと判断した場合は、入院の対象とすべきとの考えを強調。8月3日に行われた政府との意見交換会においてこの見解を伝え、菅首相および田村厚生労働大臣からは、「重症化する患者さんに必要な医療が提供できることが大変重要であり、医師の判断の元に対応いただきたい」との明確な回答を得ているとした。 8月3日付けの厚労省からの事務連絡では、「入院治療は、重症患者や、中等症以下の患者の中で特に重症化リスクの高い者に重点化することも可能である」とされているが、中等症IIおよび中等症Iのうち重症化リスクが高い患者については、これまで通り医師の判断で入院治療が行われるよう、それらを明記した新たな通知あるいは事務連絡の発出を要望した。自宅療養への急激なシフトには懸念、地域の実情に応じ宿泊療養も活用を 7月30日付けの事務連絡において、自宅・宿泊療養を行っている者に対し、往診料または在宅患者訪問診療料を算定した日に救急医療管理加算1(950 点)の算定が可能となっている。意見交換会においても政府から、往診やオンライン診療強化の要請があったとし、中川会長は地域の実情に応じて健康観察の工夫を重ねており、今後も強化するとしたうえで、地域によっては宿泊療養を強化するほうがより効率的な場合もあると指摘。 政府がとくに家庭内感染のリスクのない独居者に自宅療養を基本としている点について、むしろ独居者の不安は計り知れず、また往診やオンライン診療に対応することは通常の診療よりも時間がかかり、自宅療養への急激なシフトは患者さんにとっても医療機関にとっても負担が大きくなりかねないと指摘した。 日本医師会としては、中小民間病院を含め全国の医療機関と地域医師会において、軽症・中等症患者の病状変化に即座に対応できるよう体制整備をすでに進めており、とくに自宅療養に対する体制整備を強化していると話した。抗体カクテル療法を外来でも活用可としていく方向 意見交換会では、政府から抗体カクテル療法を外来でも使用していく方向性が示されたといい、日本医師会としては、十分な供給量を確保したうえでの入院患者以外への使用に同意したと中川会長。併せて現在は特例承認の状況であり、安全性についての慎重な検討が必要であるとの見解を示し、投与後一定期間の経過観察が可能な病院などにおいて外来での使用の知見を早急に蓄積・検証し、外来や在宅でも柔軟な使用ができるように要請したことを明らかにした。

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第69回 コロナ中等症自宅療養、AZワクチン接種推進―政策転換に求められるエビデンスある説明

東京都の新型コロナウイルスの新規感染者が4,000人台を突破、自宅療養者も1万人超となる中、政府は中等症以上の患者の「原則入院」を見直し、重症以外は自宅療養を基本とする方針に突然転換した。これに対し、医療現場からは「重症化リスクを誰がどう管理するのか」「患者を見捨てる政策ではないか」といった批判の声が上がっている。中等症自宅療養で懸念される重症化新型コロナ感染者は、発症からの日数と経過を概括すると、1週間は軽症(約80%)、1週間~10日位は中等症(15%)、10日以降は重症(約5%)となる。中等症はIとIIに分かれるが、自宅療養だと、中等症I(息切れ、肺炎所見)の場合、入院していれば投与できる抗ウイルス薬「レムデシビル」が使用できなくなり、中等症II(呼吸不全)の場合、重症化を防ぐ抗炎症薬の使用が遅れると、救える命も救えなくなる可能性が出てくる。中等症感染者を見捨てないためには、入院の必要性がある人を早く見つけ、入院させる体制を構築するのが急務だ。今後、感染者が爆発的に増えて、自宅療養中に重症化する人が増加した場合、発見が遅れたり、入院先も見つからなかったりするケースも増えるだろう。実際このような状況は、第3波では東京で、第4波では大阪ですでに起きている。とくに今回の新型コロナ第5波では、若年者の中等症IIが増えている点が問題になっている。感染層として一番多い年代が中等症化しており、背景にあるのは、感染力の強いインド型変異ウイルス「デルタ株」の感染拡大である。インドでは、感染者が酸素を求めて病院に押し寄せるなど、医療用酸素の不足も深刻化しており、日本においても危機感を感じている医療人は少なくない。ある医療人は「新型コロナ第5波では、いつ重症化するかわからない中等症患者の予備軍が大勢いる。感染状況を正確に把握しないかぎり根本的に解決しない問題だ。政府はどのようなエビデンスに基づいて、方針転換したのだろうか」と疑問を呈する。AZ製ワクチンではプラス情報が不足十分な説明のない新型コロナ政策の転換は、アストラゼネカ(AZ)製ワクチン接種を原則40歳以上に進める方針にも言える。AZ製ワクチンは接種後、まれに血栓症が生じる懸念が報告され、国民の間にはマイナスイメージが強い。自治体からは「住民の接種に使わない」との声も上がっているという。接種のめどが立たない中、コロナ感染が急拡大してワクチンが不足した台湾に、日本政府はAZ製ワクチンを供給したが、一部の台湾国民からは「日本人が使わないワクチンを台湾人に使わせるのか」といった批判も出た。今後、国内においてもAZ製ワクチンの接種を進めるならば、マイナスイメージを払拭するプラスの情報が必要なはずだ。安全性のエビデンスや副反応対策を示すほか、2回目接種にAZ製ワクチンを打つと、抗体がより多くできるといった研究をスルーせず、真摯に検証してみることも必要だろう。新型コロナ政策を巡っては、休業要請や緊急事態宣言などをとってみても、論理的根拠を示せないまま国民に要請するばかり。エビデンスを示し、納得のいく説明と強いメッセージを発することで医療人や国民に行動を促すのは、なにもコロナに限ったことではない、きわめてシンプルな政治の基本だと思う。

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ワクチン接種後の感染例、疫学的・ウイルス学的特徴は?/感染研

 日本国内で確認されたワクチン接種後の感染例130例について、積極的疫学調査が実施され、2回目のワクチン接種後14日以降が経過した症例でも、一部で感染性のあるウイルスが気道検体中に検出された。7月21日開催の第44回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、国立感染症研究所感染病理部の鈴木 忠樹氏が、「新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例に関する積極的疫学調査(第一報)」について報告した。 本調査の主な目的は、1)ワクチン接種後感染の実態把握、2)ワクチンにより選択された(可能性のある)変異株の検出、3)ワクチン接種後感染者間でのクラスターの探知であり、今回の報告は2021年6月30日時点における疫学的・ウイルス学的特徴の暫定的なまとめと位置付けられている。[調査方法]・2021年4月1日~6月30日までに1)医療機関・自治体からワクチン接種後感染として感染研に直接報告があった症例2)新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)に登録のあった感染者(ワクチン2回目接種日を0日として最初に検査陽性検体が採取された日まで14日以上経過)で、感染研から医療機関・自治体への問い合わせで協力が得られた症例について、患者・疫学情報や検体を収集した。・症例情報については本調査独自の症例報告書様式を作成し収集した。・気道検体は、N2領域のPCR再検での陽性例について、N501Y(アルファ株、ベータ株、ガンマ株等で認める)、E484K(ベータ株、ガンマ株等で認める)、L452R(デルタ株等で認める)変異を検出するPCRスクリーニング(変異検出PCR)およびウイルス分離試験を実施し、検体中のウイルスN2領域のPCRの結果、ウイルスRNA量が十分量あると判断された検体については、ウイルスゲノム解析を実施した。・1回目接種後14日~2回目接種後13日まで、2回目接種後14日以降について分けて解析した。※ただし現状では、集団の違い(医療従事者および高齢者の割合、接種時期、感染時期等)から、単純にこれらの2群を比較して解釈すべきではない。  主な結果は以下のとおり。・27都道府県から130例(うち2回目接種後14日以降67例)が報告された。医療従事者が106例(81.5%)を占める。・年齢中央値は44.5(20~98)歳、男性37例(28.5%)、女性93例(71.5%)であった。 ・免疫不全のある者(原発性免疫不全症、後天性免疫不全症候群など、[狭義の]免疫不全の診断を受けた者)はいなかったが、ステロイド等の免疫抑制剤の使用歴は3例(2.4%)で認めた。・接種していたワクチンは、121例(97.6%)がファイザー社製であった。・接触歴ありが92例(75.4%)を占めた(うち2回目接種後14日以降50例)。・症例報告書提出時点での重症度は、65例(50%)が無症状、60例(46.2%)が軽症、5例(3.8%)が中等症で、重症例はいなかった。・6月30日時点で、気道検体については101例(うち2回目接種後14日以降50例)が収集され、N2領域のPCR再検で68例が陽性となり、Ct値の中央値(範囲)は29.4(15.9~38.4)であった。・ウイルス分離可能であったのは分離を試行した58例中16例。変異検出PCRは68例で実施し、ウイルスゲノム解析が完了したのは39例であった。・ウイルスゲノム解析を実施した39例中、B.1.1.7系統(アルファ株)30例(うち2回目接種後14日以降12例)、R.1系統4例(0例)、B.1.617.2系統(デルタ株)4例(2例)、P.1系統(ガンマ株)1例(0例)を認めた。また、各系統特異的なスパイクタンパクの変異を除いては、免疫を逃避する可能性のあるスパイクタンパクへの新規の変異は認めなかった。 中間解析時点では、特殊な疫学的特徴はみられず 本報告では症例の大多数が優先接種対象の医療従事者であり、若年層が多く、無症状でも検査対象となる機会が比較的多いことなどもあり、多くが軽症および無症状であったと考察。高齢者への接種も現在では進んでおり、今後はそれらの知見も収集していくことが重要としている。 男女比については、内閣官房HPに公開されているワクチン接種記録システムの集計値において4月12日~4月25日の2週間で、(医療従事者が想定される)65歳未満の男女比は1:3程度と本報告の男女比と同程度であった。免疫不全や免疫抑制剤を使用している者は1割未満であった。 上記より、中間解析の時点では、特殊な疫学的特徴をもつ集団ではないことが示唆されたと考察されている。2回目接種後も感染性のあるウイルス検出 ワクチン1回目接種後のみならず2回目接種後14日以降においても、一部の症例では感染性のあるウイルスが気道検体中に検出されたことから、二次感染リスクも否定できないことがわかった。また、ワクチン接種後感染例から検出されたウイルスは、ワクチン接種により付与された免疫を回避できる新規の変異を有するウイルスではなく、同時期に国内各地域で流行しているウイルスであった。これらの結果より、ワクチン接種後であっても、その時点で流行しているウイルスに感染することがあること、および、ワクチン接種後感染例の一部では二次感染しうることが示唆され、ワクチン接種者における感染防止対策の継続は重要と考えられた。 今後は、ワクチン接種後であっても、新型コロナウイルス感染の疑いがある場合(有症状・接触者等)は積極的に検査を実施し、陽性検体の一部については、免疫逃避能を有する新たな変異ウイルスの出現の監視など、病原体解析を継続して実施していく必要があるとしている。

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中和抗体薬などについて追加、COVID-19診療の手引き/厚生労働省

 7月30日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.2版」を公開した。 今回の改訂では、以下の4点が追記・修正された。・「1 病原体・疫学」の「海外発生状況」の更新・「2 臨床像」の「合併症」に、心筋炎・心膜炎、真菌感染症について追記・「4 重症度分類とマネジメント」で「中和抗体薬カシリビマブ/イムデビマブ」を追記・「5 薬物療法」で「各種薬剤の項目」を一部追記 また、同省は7月26日、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(3.3版)」を改訂し、公開した。主に「海外在留邦人等に対するワクチン接種事業」、「ホームレス等の接種機会の確保」、「特設会場で一時的に同時期に複数種類のワクチンを使用する場合の取扱い」、「接種後の経過観察について、具体的な対応方法等」、「予防接種証明書」などが追記・修正された。 さらに、8月2日には「同(4版)」が公開され、本版では「アストラゼネカ社ワクチン用の予診票」、「接種不適当者」などが追記された。

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第65回 ワクチン完了者のコロナ感染死は0.001%未満/CDC

<先週の動き>1.ワクチン完了者のコロナ感染死は0.001%未満/CDC2.AZ製ワクチン、40歳以上などを対象に接種開始へ/厚労省3.医師働き方改革、宿日直許可のフローなど公表/厚労省4.マイナンバーカード保険証、9月末までに導入を/厚労省5.日本人の平均寿命、コロナ下でも延長し男女とも最高に/厚労省1.ワクチン完了者のコロナ感染死は0.001%未満/CDC米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国内で新型コロナウイルスワクチンの接種を完了した人のうち、コロナ感染により死亡した例は0.001%未満、重症化した例は0.004%未満に留まっていることを、最新データで明らかにした。各地からの報告によれば、新規感染者や入院患者の大半は未接種のグループに集中しているという。なお、世界中で感染が急拡大している変異株「デルタ株」については、接種済みでも感染を広げる可能性を指摘。7月27日、CDCはワクチン接種者に対するガイダンスを更新し、ワクチン接種の有無にかかわらず、感染率の高い地域の屋内公共施設では全員がマスクを着用することを推奨している。(参考)コロナ感染死、ワクチン接種済みなら0.001%未満 米CDC(CNN.co.jp)Statement from CDC Director Rochelle P. Walensky, MD, MPH on Today’s MMWR(CDC)When You’ve Been Fully Vaccinated How to Protect Yourself and Others(同)2.AZ製ワクチン、40歳以上などを対象に接種開始へ/厚労省厚生労働省は30日に、第23回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会を開催し、アストラゼネカ(AZ)製の新型コロナウイルスワクチンについて、予防接種法に基づき、国内でも接種開始することを決めた。接種対象者は、原則40歳以上とするとともに、海外でAZ製ワクチンを1度打って帰国した人などとするが、他社製のワクチンでアレルギー反応が生じた場合や、他ワクチンの流通がストップした場合は、18歳以上40歳未満の人も対象となる。AZ製ワクチンは、今年5月に特例承認されたが、海外で接種後の血栓事例が報告され、国内での使用は見送られていた。血小板減少症を伴う血栓症は、イギリスにおいて1回目接種で100万回当たり14.8件と、アナフィラキシーの発症頻度(100万件当たり16.5件)とほぼ同程度であり、診断・治療の手引きを日本脳卒中学会と日本血栓止血学会が作成し、公表している。(参考)アストラ製ワクチン接種対象、40歳以上に決定(産経新聞)アストラゼネカワクチン 公的接種に追加 40歳未満は原則対象外(NHK)新型コロナワクチンの接種について[アストラゼネカ社ワクチン](厚労省)アストラゼネカ社COVID-19ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第2版(日本脳卒中学会、日本血栓止血学会)3.医師働き方改革、宿日直許可のフローなど公表/厚労省厚労省・医師等医療従事者の働き方改革推進室は、2024年度より勤務医に対する時間外労働上限規制が施行されることを踏まえ、医療機関における労働時間管理を適正に行うため、宿日直許可に関する必要書類やフローなどを公表した。申請前チェックシートもあり、医療機関の管理者らが、宿日直許可の取得申請を行う際の事務手続き等の参考になるだろう。(参考)宿日直許可、必要書類やフローなど周知 厚労省(キャリアブレインマネジメント)宿日直関係資料について(周知依頼)(厚生労働省)4.マイナンバーカード保険証、9月末までに導入を/厚労省厚労省は、29日の社会保障審議会医療保険部会で、「オンライン資格確認等システム」の導入準備状況について、カードリーダーなどの専用機器を導入し対応可能となった施設は1,664施設と、全体の1%未満に留まっていることを明らかにした。内訳は、病院159施設、医科診療所535施設、歯科診療所439施設、調剤薬局531施設。顔認証などによる手続きの自動化で待ち時間を短縮できるものの、院内システムの改修も必要であり、それらの準備が完了しているのは7,411施設。顔認証付きカードリーダーの申し込みは約13万施設(約6割)が行っており、そのうち約8割の施設が今年9月末までに導入予定であると回答している。このため、10月からの本格的な稼働に向け、医療関係団体や公的医療機関等に対して、導入加速を働きかける。なお、マイナンバーカードを保険証として使うには、利用者側でも事前登録が必要だが、登録者数は約470万人とカード発行の1割に留まり、更なる広報活動も必要だ。(参考)マイナ保険証への対応1%未満 医療機関、準備遅れ 10月開始、デジタル化基盤整わず(日経新聞)資料 オンライン資格確認等システムについて(厚労省)5.日本人の平均寿命、コロナ下でも延長し男女とも最高に/厚労省厚労省が30日に発表した「令和2年簡易生命表の概況」によれば、2020年の日本人の平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳と、それぞれ2019年と比較して男性が0.22歳、女性は0.30歳延長し、過去最長を更新したことが明らかになった。男性、女性とも全年齢で平均余命は前年を上回っており、新型コロナウイルスにより、男性は-0.03歳、女性は-0.02歳の影響があったものの、男女とも悪性新生物、心疾患(高血圧性を除く)、脳血管疾患、肺炎および不慮の事故などの死亡率の減少によって、全体の平均寿命は延長した。同年の世界順位(香港を除く)は、男性では1位スイス(81.9歳)、2位日本(81.6歳)、3位シンガポール(81.5歳)、女性では1位日本(87.7歳)、2位韓国(86.3歳)、3位シンガポール(86.1歳)となった。なお、香港の平均寿命は男性が82.71歳、女性が88.14歳となっている。(参考)日本人の平均寿命 女性87.74歳、男性81.64歳 過去最高更新(毎日新聞)2020年の平均寿命、男女とも最高に 厚労省まとめ(日経新聞)令和2年簡易生命表の概況(厚労省)

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第68回 コロナ感染数の報道に「いたずらに不安を煽るな」発言した人へ、返したい一言

先週、たまたま日本を代表する「夜の街」である新宿・歌舞伎町に、まさに夜に繰り出す機会があった。このように書くと「けしからん!」と言われそうだが、別に飲食をするために行ったわけではない。この町で夜を中心に活動する医療従事者に私が関係する組織での講演を依頼するための挨拶に行ったのだ。挨拶は無事終了したが、私は目の前に広がる光景に驚きを隠せなかった。あちこちで居酒屋やいわゆる「接待を伴う飲食店」と非常に分かりにくい言い回しをされるキャバクラやホストクラブなどが盛大に営業をしていたのだ。実は別な用件で1月の緊急事態宣言中にも歌舞伎町を通り過ぎたことはあった。街中に客引きがいることを見れば、キャバクラやホストクラブの一部が営業しているのは確かだったが、居酒屋などの営業はかなり限定的。この時と比べれば、現在はほぼ通常営業といってもいいほどだ。そして東京都で7月28日の新型コロナウイルス感染症の感染者報告数が過去最高の3,000人超えの3,177人となった現状には溜息しか出てこない。ここでは何度も繰り返し言っているが、それでも敢えて言うと6月に新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言からまん延防止等重点措置に移行したことは、痛恨の政治判断ミスだったと改めて思う。中には「そのまま緊急事態宣言を続けていても、みな営業再開したのではないか?」との意見もあるかとは思うが、それでも一旦解除しながら再発出するよりは、状況ははるかにましだったのではないかと個人的には思っている。そんな最中、以下の報道で頭の中にクエスチョンマークがいくつも浮かんでしまった。東京都 福祉保健局長「いたずらに不安あおらないで」(NHK)まあ、端的に言えば、感染者は増加しているものの、高齢者のワクチン接種も進んで重症者はそれほど増加しておらず、過去の流行とは中身が違うということらしい。報道は数の多さに騒ぐなということだろう。この発言については、小池 百合子都知事もフォローアップしている。小池都知事、感染者最多に「数だけの問題ではない」(日本経済新聞)もちろん、ワクチン接種の進展のなか報告される感染者の中身が従来とは異なっていることは同意する。だが、報道に向けた「いたずらに不安を煽るな」というのは福祉保健局長自身のほかの発言と矛盾する。具体的には局長発言の「30代以下は重症化率が極めて低く、100人いたら、せいぜい十数人しか入院しない」という発言だ。それだけ入院者が発生してしまうならば十分すぎるほど問題である。7月28日の感染者報告数3,177人のうち20代は1,078人、 30代が680人。局長の発言に沿えば、この中から200人弱は入院することになる。もちろん若年者は入院後の回復も早いだろう。とはいえ、現在の東京都のコロナ対応病床は6,406床。今の感染状況が10日も続けば、30代以下だけで軽く1,000床以上の病床を占有することになる。そして中等症以上などで入院に至るのは別に30代以下だけではない。この状況は医療現場に十分負荷をかけていると思うのだが。従来から感染者数を報じることについては否定的な意見もあるのは承知している。しかし、現在進行形で何が起きているのかを最も端的に表し、一般市民も理解しやすいファクトなのは間違いなく感染者数であり、メディアにとってはこれを報じないという選択肢は存在しない。「初の3,000人台」という言葉で「うわ、怖い」と思う市民が出て、感染制御に必要な外出自粛に向かう人が増える可能性は十分にあるからだ。むしろ、これまでほぼ確実に感染者数の減少効果が認められたはずの「緊急事態宣言」が、経済を横目で眺めながら中途半端な強度でダラダラと行われ過ぎたために十分な効果を示さなくなった今、ワクチン接種以外に感染者減少効果が見込めそうなものは、現在進行形で感染者が急増しているという感染者数の報道である。その意味では東京都福祉保健局長の発言には「いたずらに事態を軽視しないで」と返したい。

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カナキヌマブ、重症COVID-19入院患者の生存を改善せず/JAMA

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者の治療において、抗インターロイキン(IL)-1β抗体カナキヌマブはプラセボと比較して、29日の時点での侵襲的機械換気(IMV)を要さない生存の可能性を向上させず、COVID-19関連死を抑制しないことが、米国・テンプル大学のRoberto Caricchio氏らが実施した「CAN-COVID試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年7月20日号で報告された。欧米39施設の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、重症COVID-19入院患者の治療におけるカナキヌマブの有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年4月30日~8月17日の期間に、欧州と米国の39施設で参加者の登録が行われた(スイス・Novartis Pharma AGの助成による)。 対象は、年齢12歳(米国)または18歳(欧州)以上で、低酸素症が認められるがIMVを必要とせず、直近7日以内に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)感染と診断、直近5日以内にX線またはCT検査で肺浸潤を伴う肺炎と診断され、全身性過剰炎症(血清C反応性蛋白[CRP]値≧20mg/Lまたは血清フェリチン値≧600μg/L)がみられる患者であった。 被験者は、カナキヌマブ(体重40~<60kgの患者:450mg、同60~80kg:600mg、同80kg超:750mg)を1回、2時間で静脈内投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、投与後3日から29日までのIMVなしの生存とされた。副次アウトカムは、COVID-19関連死、安全性などであった。有害事象の多くは基礎疾患関連 454例(年齢中央値59歳、女性187例[41.2%])が登録され、カナキヌマブ群に227例、プラセボ群に227例が割り付けられた。417例(91.9%)が29日間の試験を完了した。ベースラインで、患者の約半数が肥満(BMI>30)で、炎症性バイオマーカー(CRP、フェリチン、Dダイマー)が上昇しており、約7割が低流量酸素吸入を受けていた。 投与後3日から29日までIMVなしで生存した患者の割合は、カナキヌマブ群が88.8%(198/223例)と、プラセボ群の85.7%(191/223例)より高かったが、群間差は3.1%(95%信頼区間[CI]:-3.1~9.3)で、オッズ比(OR)は1.39(95%CI:0.76~2.54)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.29)。 また、COVID-19関連死は、カナキヌマブ群が4.9%(11/223例)、プラセボ群は7.2%(16/222例)であり、群間差は-2.3%(95%CI:-6.7~2.2)、ORは0.67(0.30~1.50)であった。 29日までに発現した有害事象のほとんどが基礎疾患に関連しており、試験薬との関連はみられなかった。重篤な有害事象は、カナキヌマブ群で16.0%(36/225例)、プラセボ群で20.6%(46/223例)に認められた。致死的な有害事象(COVID-19との関連の有無は問わない)は、カナキヌマブ群で7.6%(17/225例)、プラセボ群で9.4%(21/223例)に発現した。 著者は、「本試験は、重症COVID-19肺炎患者では、IL-1の阻害によりサイトカインの放出が抑制されるとの仮説に基づいて行われた。世界的流行の発生早期のプロトコール作成時に、主要アウトカムの15%の差を臨床的に意義のある最小の利益と定義したが、本試験ではこれは達成されなかったことから、得られた効果量とCIに基づいてこれらの結果を解釈すべきと考えられる」としている。

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コロナワクチン接種後の中和抗体価、ウイルス株や年齢での違いは?/JAMA

 ファイザー製ワクチン(BNT162b2)を2回接種すると、有効率は約95%だと言われている。その一方で、患者の年齢が新型コロナウイルス感染症の発生率や重症度のリスクに寄与することも知られている。そこで、オレゴン健康科学大学のTimothy A Bates氏らはファイザー製ワクチン2回接種後のUSA-WA1/2020株とP.1系統の変異株(γ株、以下、P.1変異株)に対する年齢と中和抗体価の関係を調べた。その結果、USA-WA1/2020株に対するワクチン接種後の中和抗体価は年齢と負の相関が見られた。一方で、P.1変異株に対する中和抗体価はすべての年齢で減少したが、年齢による差は小さく、全体的にワクチンの有効性に寄与する要因として年齢を特定することができなかった。JAMA誌オンライン版2021年7月21日号リサーチレターでの報告。 研究者らは、2020年12月~2021年2月、オレゴンワクチン接種ガイドラインに従って実施されたワクチン接種の参加者を対象に調査を行った。参加者はファイザー製ワクチン1回目接種の時点で本研究に登録され、血清サンプルはワクチン1回目を受ける前と2回目を受けてから14日後に収集された。SARS-CoV-2スパイク受容体結合ドメイン特異的抗体レベルを酵素免疫測定法で測定し、中和抗体50%効果濃度(EC50、ウイルス中和アッセイで50%の感染を阻害する血清希釈)を計算した。新型コロナウイルスの50%中和力価は、USA-WA1/2020株とP.1変異株の生きた臨床分離株を使用した焦点還元中和試験(FRNT50、焦点減少中和検査で50%のウイルスを中和する血清希釈)で決定した。 主な結果は以下のとおり。・50例がこの研究に登録された(女性:27例[54%]、年齢の中央値[範囲]:50.5歳[21~82])。・すべての参加者において、ワクチン接種前のEC50は事前曝露がないことを示す定量限界未満だった。・ワクチン接種後のEC50は、年齢と有意な負の関連を示した(R2=0.19、p=0.002)。・USA-WA1/2020株に対しては、全参加者で中和抗体の強い活性が観察され、幾何平均抗体価(GMT:geometric mean antibody titer)は393(95%信頼区間[CI]:302~510)だった。一方、P.1変異株に対しての免疫応答は低く、GMTは91(95%CI:71~116)で、76.8%の減少を示した。・USA-WA1/2020株とP.1変異株の両方において、年齢はFRNT50と有意に負の相関があった(p<0.001およびp=0.001)。・USA-WA1/2020株の場合、年少参加者ら(20~29歳、n=8)のGMTは938(95%CI:608~1447)に対し、年長参加者ら(70~82歳、n=9)のGMTは138(95%CI:74~257)と85%の減少を示した(p<0.001)。・P.1変異株の場合、年少参加者らのGMTは165(95%CI:78~349)に対し、年長参加者らのGMTは66(95%CI:51~86)と60%の減少を示した(p=0.03)。 研究者らは「中和抗体価は感染からの保護と強く相関していると考えられる。ただし、今回の研究ではサンプル数が少ないこと、閾値がまだ正確に決定されないことを踏まえ、今後の研究では、ワクチン接種を受けた高齢者に見られる抗体レベルの低下が、同時に防御機能の低下につながるかどうかを具体的に取り上げる必要がある」としている。

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COVID-19入院患者、60歳未満も男性では約半数で合併症/Lancet

 COVID-19入院患者は、若年者や既往歴がない患者も含めて院内合併症の発生率が高く、神経学的合併症は退院時のセルフケア能力の低下と関連していた。英国・エディンバラ大学のThomas M. Drake氏らが、COVID-19の合併症の程度や影響を明らかにする目的で、英国の医療機関302施設にて実施した多施設共同前向きコホート研究の結果を報告した。COVID-19は多臓器疾患で、生存患者は院内合併症を発症する可能性があるとされる。著者は、「COVID-19の合併症は、今後数年間、医療および社会的サポートにおいて大きな負担となる可能性がある。今回のデータは、COVID-19による入院患者の退院後のケアを目的としたサービスの設計や提供に役立つだろう」とまとめている。Lancet誌2021年7月17日号掲載の報告。COVID-19入院患者約8万例について前向きに院内合併症の発生を調査 研究グループは、International Severe Acute Respiratory and Emerging Infections Consortium(ISARIC)WHO Clinical Characterisation Protocol UK(CCP-UK)に登録された患者のうち、2020年1月17日~8月4日の間に入院し、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が確定または強く疑われた19歳以上の成人患者について解析した。 主要評価項目は、院内合併症の発生(COVID-19の特徴に加えて、単独または追加で発生した臓器別の診断と定義)とし、これらのアウトカムと院内合併症、年齢、既往症・併存疾患との関連をマルチレベルロジスティック回帰および生存モデルにて検討した。 期間中にCCP-UKに登録された入院患者は8万388例、このうちSARS-CoV-2感染が確定または強く疑われる19歳以上の患者は7万5,276例で、アウトカムに関するデータがある7万3,197例が解析対象となった。約半数が合併症を発症 7万3,197例の背景は、平均年齢71.1歳(SD 18.7)、男性が56.0%で、81.0%(5万9,289/7万3,197例)が併存疾患を有していた。 全体の死亡率は31.5%(2万3,092/7万3,197例)、合併症発生率は49.7%(3万6,367/7万3,197例)であった。合併症発生率は、年齢とともに上昇し、女性よりも男性のほうが高率で、最も発生率が高かったのは60歳以上の男性であった(60歳以上:男性54.5%[1万6,579/3万416例]、女性48.2%[1万1,707/2万4,288例]、60歳未満:男性48.8%[5,179/1万609例]、女性36.6%[2,814/7,689例])。 頻度が高い合併症は、腎臓系が24.3%(1万7,752/7万3,197例)、複雑な呼吸器系合併症18.4%(1万3,486/7万3,197例)、および全身性の合併症が16.3%(1万1,895/7万3,197例)であった。そのほか、心血管系が12.3%(8,973/7万3,197例)、神経系が4.3%(3,115/7万3,197例)、消化管・肝臓系が0.8%(7,901/7万3,197例)報告された。 若年者では合併症の存在が死亡リスクの増加と関連していたが、高齢者では合併症の存在による死亡率の増加は非常に小さかった。生存患者5万105例では、26.6%(1万3,309例)がCOVID-19罹患前に比べセルフケア能力が低下しており、この低下は年齢、男性、重症患者で増加した。合併症の存在は、年齢、性別、貧困、病院を調整後も退院後のセルフケア能力低下のリスク増加と関連する独立した因子であり、神経学的合併症は機能的アウトカムの悪化と最も強く関連していた。

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妊婦への新型コロナワクチン、有効性と安全性/JAMA

 妊婦において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)の接種は、ワクチン非接種と比較してSARS-CoV-2感染リスクを有意に低下させることが確認された。イスラエル・テルアビブ大学のInbal Goldshtein氏らが、妊婦を対象とした後ろ向きコホート研究の結果を報告した。妊婦におけるBNT162b2ワクチンの有効性と安全性については、第III相試験において妊婦が除外されたためデータが不足していた。JAMA誌オンライン版2021年7月12日号掲載の報告。ワクチン接種妊婦vs.非接種妊婦、各7,530例でSARS-CoV-2感染を比較 研究グループは、イスラエルの健康保険組織Maccabi Healthcare Servicesのデータベースを用い、2020年12月19日~2021年2月28日に、妊娠中に1回目のBNT162b2 mRNAワクチン接種を受けた妊婦を特定し、2021年4月11日まで追跡した。また、ワクチン接種妊婦と年齢、妊娠週数、居住地域、民族、経産歴、インフルエンザ予防接種状況などについて1対1の割合でマッチングさせたワクチン非接種妊婦を対照群とした。 主要評価項目は、初回ワクチン接種後28日以降におけるPCR検査で確定したSARS-CoV-2感染であった。 解析対象はワクチン接種群7,530例、対照群7,530例で、妊娠第2期が46%、妊娠第3期が33%、年齢中央値は31.1歳(SD 4.9)であった。初回ワクチン接種後28日以降のSARS-CoV-2感染が約80%低下 主要評価項目の追跡期間中央値は37日(四分位範囲:21~54、範囲:0~70)であった。ワクチン接種群で追跡期間が21日以上の妊婦は、ほとんどが追跡期間終了までに2回目の接種を受けていた。 追跡期間終了時までのSARS-CoV-2感染者は、合計でワクチン接種群118例、対照群202例であった。感染者で症状を有していたのは、ワクチン接種群で105例中88例(83.8%)、対照群で179例中149例(83.2%)であった(p≧0.99)。 初回ワクチン接種後28~70日にSARS-CoV-2感染が確認されたのは、ワクチン接種群10例、対照群46例であった。感染のハザードはそれぞれ0.33%および1.64%、絶対群間差は1.31%(95%信頼区間[CI]:0.89~1.74)であり、ワクチン接種群は対照群と比較して統計学的に有意にハザード比が低下した(補正後ハザード比:0.22、95%CI:0.11~0.43)。 ワクチン接種群におけるワクチン関連有害事象は68例報告され、重篤な副反応はなかった。68例中3例は、ワクチン接種の直近にSARS-CoV-2に感染しており、症状はワクチンではなく感染に起因する可能性が示唆された。主な症状は、頭痛(10例、0.1%)、全身の脱力感(8例、0.1%)、非特異的な疼痛(6例、<0.1%)、胃痛(5例、<0.1%)であった。

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クラスター発生の飲食店と発生していない飲食店、違いはどこに?/厚労省アドバイザリーボード

 7月14日開催の第43回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいて、飲食店における国推奨の感染対策チェックリストの遵守状況とクラスター発生との関連についての調査結果が公表された。感染対策の遵守率はクラスター発生店で低く、個別の感染対策としては、アクリル板の設置や他グループと1m以上の距離をとること、トイレ等への消毒設備の設置のほか、就業時の検温などスタッフ側の対応もクラスター発生防止との関連性が高いと考えられた。[調査概要] 2020年10月~2021年5月に国内でクラスター(※1)の発生した12施設(和歌山県8施設、岐阜県2施設、沖縄県[宮古島]2施設)および対照群(※2)19施設(すべて宮古島)に対し、有症者・接触・飛沫・エアロゾル感染対策を中心として、計18問(※3)の質問アンケート調査を実施。※1:クラスターは、上記期間中に8人以上の感染者が生じた施設とする。※2:対照群は、同期間中に感染者数2人以下の施設で、クラスターの発生した施設と規模や業務形態が同程度の施設を抽出した。※3:有症者対策3項目、接触感染対策6項目、飛沫感染対策5項目、エアロゾル感染対策4項目の計18項目[クラスターの有無における感染対策の遵守率]・18項目のうち、対策を行っていると答えた割合(感染対策遵守率)は、クラスター発生群44.4%に対し、対照群では85%であった(p<0.001)。[18項目のうちクラスターとの関連性が考えられた感染対策]・トイレなど公共の場に消毒設備を設置:クラスター発生群(該当対策を行っていた施設の割合)50% vs. 対照群100%(p<0.001)・他のグループとの距離を1メートル以上とっている:18.2% vs.94.7%(p<0.001)・他のグループとの間にアクリル板が設置されている:9.1% vs.89.5%(p<0.001)・スタッフは就業時に体温測定と体調確認をしている:54.5% vs.100%(p=0.001)・飲食時以外はマスクを着用するよう客に促している:33.3% vs.89.5%(p=0.001)・客が入れ替わるタイミングでテーブル等を消毒している:60% vs.100%(p=0.003)・スタッフは客が触れた物を扱ったあと手指衛生を行っている:60% vs.100%(p=0.003)・スタッフは常にマスクを着用して接客している:50% vs.94.7%(p=0.004)・カラオケを提供していない:16.7% vs.68.4%(p=0.005)・窓やドアを開けて定期的に換気している:60% vs.94.7%(p=0.019)・スタッフに症状を認めるときは検査を受けさせている/保健所の指示に従っている/休ませている:40% vs.90.9%(p=0.040)・トイレにペーパータオルを設置している:80% vs.100%(p=0.043)

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新型コロナ外来患者へのbamlanivimab+etesevimab、第III相試験結果/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高い外来患者において、bamlanivimab+etesevimab併用療法はプラセボと比較して、COVID-19関連入院および全死因死亡の発生率を低下し、SARS-CoV-2ウイルス量の減少を促進することが示された。米国・ハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院のMichael Dougan氏らが、同併用療法の第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「BLAZE-1試験」の結果を報告した。基礎疾患を有するCOVID-19患者は重症化リスクが高い。ワクチン由来では時間をかけて免疫がつくのに対し、中和モノクローナル抗体は即時に受動免疫をもたらし、疾患の進行や合併症を抑制できる可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2021年7月14日号掲載の報告。軽症~中等症外来患者、bamlanivimab 2,800mg+etesevimab 2,800mgをプラセボと比較 研究グループは、12歳以上で重症化リスクが高い軽症~中等症のCOVID-19外来患者を、SARS-CoV-2陽性判明後3日以内に中和モノクローナル抗体bamlanivimab(2,800mg)とetesevimab(2,800mg)の併用療法群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、単回静脈内投与した。 主要評価項目は、29日目までのCOVID-19に関連した入院または全死因死亡であった。29日目までのCOVID-19関連入院および全死亡は併用療法群で有意に減少 計1,035例が無作為化を受けた(併用療法群518例、プラセボ群517例)。患者の平均(±SD)年齢は53.8±16.8歳で、52.0%が女性であった。 29日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡は、併用療法群で11例(2.1%)、プラセボ群で36例(7.0%)に認められ、絶対リスク差は-4.8%(95%信頼区間[CI]:-7.4~-2.3、相対リスク差:70%、p<0.001)であった。 併用療法群では死亡例の報告がなく、プラセボ群のみ10例が報告され、そのうち9例は治験責任医師によりCOVID-19関連死と判定された。 7日目におけるSARS-CoV-2ウイルス量(log)のベースラインからの減少は、併用療法群がプラセボ群より大きかった(ベースラインからの変化量のプラセボ群との差:-1.20、95%CI:-1.46~-0.94、p<0.001)。

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第67回 例外だらけのコロナ治療、薬剤費高騰と用法煩雑さの解消はいずこへ?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するワクチン接種の進行状況が注目を浴びている陰で、治療薬開発もゆっくりではあるが進展しつつある。中外製薬が新型コロナの治療薬として6月29日に厚生労働省に製造販売承認申請を行ったカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)が7月19日に特例承認された。この抗体は米国のリジェネロン・ファーマシューティカルズ社が創製したものを提携でスイス・ロシュ社が獲得、ロシュ社のグループ会社である中外製薬が日本国内での開発ライセンスを取得していた。両抗体は競合することなくウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に結合することで、新型コロナウイルスに対する中和活性を発揮する薬剤。日本での申請時には、昨年11月に米国食品医薬品局(FDA)で入院を要しない軽度から中等度の一部のハイリスク新型コロナ患者に対する緊急使用許可の取得時にも根拠になった、海外第III相試験『REGN-COV 2067』と国内第I相試験の結果が提出されている。「REGN-COV 2067」は入院には至っていないものの、肥満や50歳以上および高血圧を含む心血管疾患を有するなど、少なくとも1つの重症リスク因子を有している新型コロナ患者4,567例を対象に行われた。これまで明らかになっている結果によると、主要評価項目である「入院または死亡のリスク」は、プラセボ群と比較して1,200mg静脈内投与群で70%(p=0.0024)、2,400mg静脈内投与群で71%(p=0.0001)、有意に低下させた。また、症状持続期間の中央値は両静脈内投与群とも10日で、プラセボ群の14日から有意な短縮を認めた。安全性について、重篤な有害事象発現率は1,200mg静脈内投与群で1.1%、2,400mg静脈内投与群で1.3%、プラセボ群で4.0%。投与日から169日目までに入手可能な全患者データを用いた安全性評価の結果では、新たな安全性の懸念は示されなかったと発表されている。今回の承認により日本国内で新型コロナを適応とする治療薬は、抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイド薬のデキサメタゾン、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブに次ぐ4種類目となった。従来の3種類はすべて既存薬の適応拡大という苦肉のドラッグ・リポジショニングの結果として生み出されたものであったため、今回の薬剤は「正真正銘の新型コロナ治療薬」とも言える。「統計学的に有意に死亡リスクを低下させる」とのエビデンスが示されたのはデキサメタゾンについで2種類目であり、これまでに行われた臨床試験の結果からは、なんと家族内感染での発症予防効果も認められている。発症予防効果は米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で実施した第III相試験『REGN-COV 2069』で明らかにされた。本試験は4日以内に新型コロナ陽性と判定された人と同居し、新型コロナウイルスに対する抗体が体内に存在しない、あるいは新型コロナの症状がない1,505例が対象。プラセボと1,200mg単回皮下注射で有効性を比較したところ、主要評価項目である「29日目までに症候性感染が生じた人の割合」は、プラセボ群に比べ、皮下注射群で81%減少したことが分かった。また、皮下注射群で発症した人の症状消失期間は平均1週間以内だったのに対し、プラセボ群の3週間と大幅な期間短縮が認められている。死亡率低下効果に予防効果もあり、なおかつ限定的とはいえ軽度や中等度の患者にも使用できるというのは、やや手垢のついた言い方だが「鬼に金棒」だ。もっとも冷静に考えると、そう単純に喜んでばかりもいられない気がしている。まず、そもそも今回の抗体カクテル療法も含め、新型コロナを適応として承認された治療薬は、いずれも従来の感染症関連治療薬とは毛並みが異なり、現実の運用では非専門医が気軽に処方できるようなものではない。今後承認が期待される薬剤も含めてざっと眺めると、もはや従来の感染症の薬物治療からかけ離れたものになりつつある。もちろん現行では非専門医がこうした薬剤を新型コロナ患者に処方する機会はほとんどないが、専門医でも慣れない薬剤であるため、それ相応に臨床現場で苦労をすることが予想される。その意味では治療選択肢の増加にもかかわらず、新型コロナの治療自体は言い方が雑かもしれないが、徐々にややこしいものになりつつある。一方、隠れた問題は治療費の高騰である。現在、新型コロナは指定感染症であるため、医療費はすべて公費負担である。そうした中でデキサメタゾンを除けば、薬剤費は極めて高額だ。レムデシビルは患者1人当たり約25万円、バリシチニブも用法・用量に従って現行の薬価から計算すると最大薬剤費は患者1人当たり約7万3,900円。今回の抗体カクテル療法は薬価未収載で契約に基づき国が全量を買い取り、その金額は現時点で非開示だが、抗体医薬品である以上、安く済むわけはない。しかも、これ以前の3種類がいずれも中等度以上であることと比べれば、対象患者は大幅に増加する。本来、疾患の治療は難治例の場合を除き、疾患の解明が進むほど、選択肢が増えて簡便さが増し、時間経過に伴う技術革新などで薬剤費や治療関連費は低下することが多い。ところが新型コロナでは世界的パンデミックの収束が優先されているため、今のところ治療が複雑化し、価格も高騰するというまったく逆を進んでいる。そうした現状を踏まえると、やはりワクチン接種のほうがコストパフォーマンスに優れているということになる。こうした時計の針がどこで逆に向くようになるのか? 個人的にはその点を注目している。

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モデルナ製ワクチン後の急性期副反応に備えた、予診票の確認ポイント/自衛隊中央病院

 自衛隊東京大規模接種センターにおける「COVID-19 ワクチンモデルナ筋注」接種者約20万人のデータについて、急性期副反応の詳細を速報としてまとめたデータを自衛隊中央病院がホームページ上で公開した。本解析では急性期副反応を「同センター内で接種後経過観察中(最大30分間)に、何らかの身体的異常を自覚し、同センター内救護所を受診したもの」と定義し、得られた経験・知見を可能な限り医療従事者と共有することで、今後のCOVID-19ワクチン接種の対応向上に資することが目的としている。<解析の対象と方法>・2021年5月24日~6月15日に行われたワクチン接種者20万8,154人を対象(すべて1回目接種)。・ワクチン接種者の基礎的臨床情報は、厚生労働省より配布される「新型コロナワクチン予診票」を用いて収集・解析。・急性期副反応発症者については全件調査を行い、非発症者についてはランダムサンプリングによる調査を行った。非発症者の母集団平均値の95%信頼区間の許容誤差が2%以下になるよう、サンプルサイズを設定した(n=3,000)。・急性期副反応に関する詳細は、同センター救護所で使用した医療記録を用いて収集・解析を行った。アナフィラキシーの診断は、ブライトン分類に基づき2名の医師(内科医および救急医)により判定した。 主な結果は以下のとおり。・急性期副反応は、合計395件(0.19%)確認された。センター内における急性期副反応発生者のうち、合計20件(0.01%)が他医療機関へ救急搬送された。ブライトン分類を用いてアナフィラキシーと診断されたのは0件であった。・急性期副反応発症者の平均年齢は70才、非発症者数の平均年齢は69才で、両群において年齢分布に統計学的有意差は認めなかった(p=0.867)。・発症者の72.9%が女性であり、非発症者(44.6%)と比較し有意に高値であった(オッズ比[OR]:3.3、95%信頼区間[CI]:2.7~4.2、p<0.001)。・甲状腺疾患(OR:2.8、95%CI:1.6~5.0、p<0.001)、喘息(OR:3.6、95%CI:2.2~5.7、p<0.001)、悪性腫瘍(OR:1.9、95%CI:1.1~3.3、p=0.02)、食物または薬剤に対するアレルギーの既往(OR:7.9、95%CI:6.1~10.2、p<0.001)、過去ワクチン接種時の副反応の既往(OR:2.0、95%CI:1.4~2.9、p=0.001)がある接種者については、急性期副反応の発症リスクが高い傾向にあった。一方、抗凝固薬/抗血小板薬の使用中の接種者は、発症リスクが低い傾向にあった(OR: 0.4、95%CI:0.3~0.8、p=0.003)。・急性期副反応として観察された最も多い症状は、めまい・ふらつき(98 件、24.8%)であり、続いて動悸(71 件、18.0%)であった。発赤・紅斑・蕁麻疹等などの皮膚症状は 58 件(14.7%)に認めた。呼吸困難感を訴えたものは 17 件(4.3%)であった。ブライトン分類を用いてアナフィラキシーと診断されたのは、0 件であった。・発症者395件中、バイタルサインが観察された発症者は203件。バイタルサイン異常として最も高率に観察されたのは、接種後の高血圧で、収縮期血圧180mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上を伴う高血圧は、34件(16.7%)に認めた。低血圧は4件(2.0%)に認め、いずれもアナフィラキシーの基準は満たさず、発症エピソードや徐脈の合併から迷走神経反射と診断された。・救急搬送が実施された20件の急性期副反応の症状としては、6件(30.0%)に頻呼吸を認め、5件に持続する高血圧(収縮期血圧>180mmHgまたは拡張期血圧>110mmHg)を認めた。いずれもアナフィラキシーの基準は満たさなかった。 本解析の結果から、急性期副反応を予測するための予診票確認時におけるポイントは、性別(女性)、基礎疾患の有無(甲状腺疾患、喘息、悪性腫瘍)、食物または薬剤に対するアレルギーの既往、過去ワクチン接種時に体調不良を起こした既往と考えられる。また、急性期副反応発生者の16.7%に高血圧を認めた点について、迷走神経反射による低血圧よりも高率に認められていると指摘。mRNAワクチン接種後経過観察中に二次性高血圧が発生するとの報告1)があることに触れ、とくに高齢者では心血管病の既往がある場合も少なくないため、ワクチン接種に伴うアナフィラキシーや迷走神経反射における低血圧のみならず、接種後高血圧に関しても、十分な注意と対策が必要としている。 本報告における全接種者の平均年齢が69歳と比較的高齢であることに留意を求め、今後若年者についても解析を続けていく予定とされている。また同報告では、遅発性皮膚副反応についても、自験例について提示している。

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PTEN欠損mCRPC、ipatasertib+アビラテロンでPFS延長/Lancet

 未治療で無症候性/軽度症候性の転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)へのipatasertib+アビラテロン併用投与は、アビラテロン単独投与に比べ、PTEN欠損を有する患者において無増悪生存(PFS)期間を有意に延長したことが示された。ただしITT集団における有意差は認められなかった。安全性プロファイルは既知のものだったという。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のChristopher Sweeney氏らが、1,100例超を対象に行った第III相多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果を報告した。mCRPCでは、PI3K/AKTおよびアンドロゲン受容体経路の調節不全が認められ、PTEN欠損を有する腫瘍ではAKTシグナル伝達の過剰な活性が知られている。こうしたことから研究グループは、AKT阻害薬ipatasertib+アビラテロンによる二重の経路阻害はアビラテロン単独よりも効果が大きい可能性があるとして検討を行った。Lancet誌2021年7月10日号掲載の報告。26ヵ国、200ヵ所で試験 検討では、PTEN欠損を問わず未治療mCRPC患者を対象に、併用vs.単独を比較することを目的とし、26ヵ国、200ヵ所の医療機関を通じて試験を行った。 被験者は、18歳以上、未治療の無症候性/軽度症候性mCRPCで進行性、ECOGパフォーマンスステータス0/1だった。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはipatasertib(400mg、1日1回)+アビラテロン(1,000mg、同)+プレドニゾロン(5mg、1日2回)を(併用群)、もう一方にはプラセボ+アビラテロン(同用量)+プレドニゾロン(同用量)を(単独群)、それぞれ経口投与した。病勢進行や不耐容の毒性、試験からの離脱や試験終了まで追跡した。 層別化は、ホルモン感受性前立腺がんに対するタキサン療法歴、進行のタイプ、内臓転移、免疫組織染色による腫瘍PTEN欠損の有無によって行った。患者、研究者、試験スポンサーは、治療割り付けを知らされなかった。 主要エンドポイントは2つで、免疫組織染色に基づく腫瘍PTEN欠損患者とITT集団における、試験担当医が評価した画像診断によるPFS期間だった。PTEN欠損でのPFS期間中央値、併用群18.5ヵ月、単独群16.5ヵ月 2017年6月30日~2019年1月17日に患者1,611例に対して適格性のスクリーニングが行われ、うち1,101例(68%)が被験者として登録された。併用群は547例(50%)、単独群は554例(50%)。2020年3月16日のデータカットオフ時点で、追跡期間中央値は19ヵ月(範囲:0~33)だった。 PTEN欠損患者(521例[併用群260例、単独群261例]、47%)におけるPFS期間中央値は、併用群18.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.3~22.1)、単独群16.5ヵ月(13.9~17.0)だった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.61~0.98、p=0.034、α=0.04で有意)。 一方ITT集団では、PFS期間中央値は、それぞれ19.2ヵ月(95%CI:16.5~22.3)、16.6ヵ月(15.6~19.1)だった(HR:0.84、95%CI:0.71~0.99、p=0.043、α=0.01で非有意)。 Grade3以上の有害事象は、併用群386/551例(70%)、単独群213/546例(39%)で発生した。治療中断に至った有害事象の発生は、それぞれ116例(21%)、28例(5%)だった。治療に関連すると考えられる有害事象による死亡は、両群ともに2例ずつ(<1%)報告された。死亡の内訳は、併用群が高血糖症1例と化学性肺炎1例、単独群は急性心筋梗塞1例と下気道感染症1例だった。 著者は、「これらのデータは、ipatasertib+アビラテロンによるAKTとアンドロゲン受容体シグナル伝達経路の阻害は、予後不良集団であるPTEN欠損mCRPC男性患者への潜在的な治療法であることを示唆するものである」とまとめている。

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