ファイザー製ワクチン、SARS生存者で強力な交差性中和抗体産生/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2021/08/27

 

 シンガポール・Duke-NUS Medical SchoolのChee-Wah Tan氏らは、コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス1:SARS-CoV-1)の既感染者で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するBNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech製)の接種を受けた人では、サルベコウイルス亜属(コロナウイルス科βコロナウイルス属に属するウイルスの一群で、SARS-CoV-1やSARS-CoV-2が属する)に対する強力な交差性中和抗体が産生されることを明らかにした。この交差性中和抗体は、抗体価が高く、懸念されているSARS-CoV-2の既知の変異株だけではなく、コウモリやセンザンコウで確認されヒトへ感染する可能性があるサルベコウイルスも中和でき、著者は「今回の知見は、汎サルベコウイルスワクチン戦略の実現性を示唆するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年8月18日号掲載の報告。

SARS-CoV-1既感染者、SARS-CoV-2感染者および健常者について検討

 SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは2019年12月に始まった。SARS-CoV-2は、2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARS-CoV-1と全ゲノム配列の約80%を共有している。SARS-CoV-1に感染し生存している人の多くは、感染後17年を経てもSARS-CoV-1に対する中和抗体を保有しているが、SARS患者またはCOVID-19患者の回復期血清検体は交差中和性を有していない。

 そこで研究グループは、COVID-19ワクチン接種前のSARS-CoV-1既感染者ならびにCOVID-19患者の血清検体(各10例)と、健常者でBNT162b2ワクチン2回目接種後14日目に採取した血清検体(10例)、SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチン初回接種後21~62日目に採取した血清検体(8例)、COVID-19患者でBNT162b2ワクチン2回接種後の血清検体(10例)の計5種類の血清パネルを用い、広域交差性中和抗体の産生について検討した。

SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチン接種後に広域交差性中和抗体が産生

 5種類の血清パネルのうち、SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチンを接種した群のみ、SARS-CoV-1およびSARS-CoV-2の両方に対する高抗体価の中和抗体の産生が認められた。

 また、検討した10種類すべてのサルベコウイルス(SARS-CoV-2クレードの7種[SARS-CoV-2原株、SARS-CoV-2アルファ株・ベータ株・デルタ株、コウモリコロナウイルスRaTG13、センザンコウコロナウイルスGD-1・GX-P5L]、SARS-CoV-1クレードの3種[SARS-CoV-1、コウモリWIV1、コウモリRsSHC014])に対する幅広い中和抗体を有することが認められた。

(医学ライター 吉尾 幸恵)