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コロナとインフル、臨床的特徴の違い~100論文のメタ解析

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの鑑別診断の指針とすべく、中国・China-Japan Union Hospital of Jilin UniversityのYingying Han氏らがそれぞれの臨床的特徴をメタ解析で検討した。その結果、患者背景、症状、検査所見、併存疾患にいくつかの相違がみられた。さらにCOVID-19患者ではより多くの医療資源を必要とし、臨床転帰も悪い患者が多いことが示された。NPJ Primary Care Respiratory Medicine誌2025年1月28日号に掲載。 著者らは、PubMed、Embase、Web of Scienceで論文検索し、Stata 14.0でランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。COVID-19患者22万6,913例とインフルエンザ患者20万1,617例を含む100の論文が対象となった。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19はインフルエンザと比較して、男性に多く(オッズ比[OR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.23~1.74)、肥満度が高い人に多かった(平均差[MD]:1.43、95%CI:1.09~1.77)。・COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、現在喫煙者の割合が低かった(OR:0.25、95%CI:0.18~0.33)。・COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、入院期間(MD:3.20、95%CI:2.58~3.82)およびICU入院(MD:3.10、95%CI:1.44~4.76)が長く、人工呼吸を必要とする頻度が高く(OR:2.30、95%CI:1.77~3.00)、死亡率が高かった(OR:2.22、95%CI:1.93~2.55)。・インフルエンザ患者はCOVID-19患者より、上気道症状がより顕著で、併存疾患の割合が高かった。

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コロナワクチン、免疫抑制患者への接種継続は必要か?/Lancet

 英国・NHS Blood and TransplantのLisa Mumford氏らは、英国の全国疾病登録を用いた前向きコホート研究において、免疫抑制状態にあるすべての人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防戦略を継続的に受ける必要があることを示した。英国では、免疫が脆弱と考えられる人々に対し、年2回のCOVID-19ワクチンブースター接種が推奨されている。著者らは、3回以上のワクチン接種を受けた免疫抑制状態にある患者において、抗SARS-CoV-2スパイク蛋白IgG抗体(抗S抗体)と感染リスクおよび感染の重症度との関連を集団レベルで調査した。結果を踏まえて著者は、「大規模に実施可能な抗S抗体の評価は、免疫抑制状態にある人々のうち最もリスクの高い人々を特定可能で、さらなる個別化予防戦略のメカニズムを提供するものである」とまとめている。Lancet誌2025年1月25日号掲載の報告。固形臓器移植、希少自己免疫性リウマチ性疾患、リンパ系悪性腫瘍患者を対象に評価 研究グループは、英国の全国疾病登録を用いて固形臓器移植(SOT)患者、希少自己免疫性リウマチ性疾患(RAIRD)患者、リンパ系悪性腫瘍患者を特定して研究への参加者を募集した。抗S抗体のラテラルフロー検査を行うとともに社会人口学的および臨床的特性に関するアンケート調査を実施した後、英国国民保健サービス(NHS)のデータを用いて6ヵ月の追跡調査を行った。 アウトカムは、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19関連入院とした。SARS-CoV-2感染は主に英国健康安全保障庁(UKHSA)のデータを用いて特定し、COVID-19による入院および治療に関する記録で補完した。COVID-19関連入院は、検査陽性から14日以内の入院と定義した。抗S抗体陽性、COVID-19の感染や入院のリスク低下と関連 2021年12月7日~2022年6月26日に登録された適格患者2万1,575例を解析対象とした(SOT患者8,466例、RAIRD患者6,516例、リンパ系悪性腫瘍患者6,593例)。 抗S抗体陽性率は、SOT患者77.0%(6,519/8,466例)、RAIRD患者85.9%(5,594/6,516例)、リンパ系悪性腫瘍患者79.3%(5,227/6,593例)であった。 抗S抗体検査後6ヵ月間のSARS-CoV-2感染は、全体で3,907例(18.1%)に認められ、COVID-19関連入院は556例(2.6%)に発生した。そのうち17例(<0.1%)が感染後28日以内に死亡した。 感染率は社会人口学的および臨床的特性によって異なるが、多変量補正解析の結果、抗S抗体の検出は感染発生率の低下と独立して関連しており、発生率比(IRR)はSOT患者集団で0.69(95%信頼区間[CI]:0.65~0.73)、RAIRD患者集団で0.57(0.49~0.67)、リンパ系悪性腫瘍患者集団で0.62(0.54~0.71)であった。 また、抗S抗体陽性はCOVID-19関連入院のリスク低下とも関連しており、IRRはSOT患者集団で0.40(95%CI:0.35~0.46)、RAIRD患者集団で0.32(0.22~0.46)、リンパ系悪性腫瘍患者集団で0.41(0.29~0.58)であった。

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ニンジンが糖尿病治療の助けになる?

 2型糖尿病の患者がニンジンを食べると、健康に良い効果を期待できるかもしれない。その可能性を示唆する、南デンマーク大学のLars Porskjaer Christensen氏らの研究結果が、「Clinical and Translational Science」に12月3日掲載された。同氏は大学発のリリースの中で、「われわれは、ニンジンが将来的には2型糖尿病の食事療法の一部として利用されるという、潜在的な可能性を秘めていると考えている」と記している。 この研究でChristensen氏らは、デンプン質の野菜に含まれる栄養素が生体に引き起こす代謝効果に着目し、マウスモデルを用いた実験を行った。特に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)に対する作用を持つことが報告されている、ニンジンの可能性に焦点を当てた。なお、PPARγは、チアゾリジン薬という経口血糖降下薬の主要な作用標的でもある。 2型糖尿病を誘発させたマウスを3群に分けて、1群は低脂肪の餌を与えて飼育。他の2群は、非健康的な人の食習慣を模して、高脂肪の餌を与えた。さらに、高脂肪食群の一方の餌には、フリーズドライのニンジン粉末を10%の割合で混ぜて与えた。このような条件で16週間飼育して、その前後で糖負荷試験を行ったほか、腸内細菌叢の組成を比較検討した。 ベースラインの糖負荷後の血糖値の推移には有意な群間差はなかったが、16週後には、低脂肪食群の血糖変動が最も少なく、高脂肪食の2群では負荷後の血糖上昇が大きいという差が生じていた。しかし、高脂肪食の2群で比較した場合、ニンジン粉末を混ぜて飼育した群のほうが、糖負荷直後の血糖上昇幅が少なかった。腸内細菌叢の分析からは、ニンジン粉末を混ぜて飼育したマウスは細菌叢の多様性が高いことが明らかになった。 では、ニンジンはヒトの健康維持にも役立つのだろうか? 著者らは、本研究の結果を直ちにヒトに適用することには慎重な姿勢を示しながらも、ニンジンがヒトの健康にも影響を及ぼし得るかを検証するため、新たな研究資金の確保を目指しているとのことだ。もし、ニンジンに含まれている化合物が、ヒトに対してもマウスと同様の作用を発揮するとしたら、米国に住む膨大な数の2型糖尿病患者に恩恵をもたらす可能性がある。また、本研究で得られた知見から、糖尿病治療薬の効果をより高める手段が見つかるかもしれない。 なお、著者らは、ニンジンの健康効果を期待して摂取する場合には、調理の手をあまり加えずに食べることを勧めている。調理の工程で、健康へのプラス作用が期待される化合物が全く失われることはないものの、量が減ってしまう可能性があるとのことだ。

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COVID-19パンデミック前後で医療の利用状況が大きく変化

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前後で、国内医療機関の利用状況が大きく変わったことが明らかになった。全国的に入院患者の減少傾向が続いているという。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートの野村周平氏、東京海洋大学の田上悠太氏、東京大学のカオ・アルトン・クアン氏らの研究の結果であり、詳細は「Healthcare」に11月19日掲載された。著者らは、「入院患者数の減少は通常の状況下では医療システムの効率化の観点からポジティブに捉えられる可能性がある一方で、パンデミック期間中には超過死亡も観測されていることから、入院患者数の減少による国民の健康への潜在的な影響も排除できない」としている。 COVID-19パンデミックが世界中の医療体制に多大なインパクトを与えたことは明らかで、影響の大きさを詳細に検証した論文も既に多数報告されている。ただし、パンデミック収束後の実態に関する研究は多くない。また、日本は他の先進国と異なり、パンデミック初期には患者数が少なかったものの、オミクロン株が主流になって以降に患者数が顕著に増加するというやや特異な影響が現れた。これらを背景として野村氏らは、パンデミック以前の2012年1月から2023年11月までの厚生労働省「病院報告」の月次データを用いて、パンデミックによって国内の医療機関の利用状況がどのように変わったかを検討した。 「病院報告」では、一般病床、精神病床、感染症病床、療養病床などの病床種類別の入院患者数や利用率、在院日数などが月ごとに報告されている。これらのうち本研究では、パンデミックが医療に与えた間接的な影響(COVID-19治療以外の医療)に焦点を当てるという意図から、一般病床と精神病床のデータを解析対象とした。解析には、準ポアソン回帰モデルという手法を用いた。 まず、一般病床に関する解析結果を見ると、入院患者数はパンデミック以前から経年的に減少傾向にあった。これは、病院から地域(在宅や療養型施設)へという政策の推進によるものと考えられる。しかし、パンデミックが始まった2020年3月以降の入院患者数は、パンデミック以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が続いていた。例えば、2023年の一般病床の1日平均在院患者数は62万6,450人で、パンデミック前の2017~2019年の67万9,092人と比較して、7.8%少なかった。月当たりの新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約10%減少していた。 病床数も2021年以降に減少傾向が見られたが、その変化は入院患者数の減少速度より緩徐であり、絶対数の減少幅は1%未満だった。病床数がわずかな減少で入院患者数は大きく減少した結果として、病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年の平均が73.5%であるのに対して、パンデミック以降の2020~2022年は67.5%と、6パーセントポイント低下していた。 次に、精神病床について見ると、一般病床と同様、パンデミック前から入院患者数が経年的に減少傾向にあったが、パンデミック発生後には以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が、ほぼ連続していた。また、新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約8%減少していた。病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年が平均85.6%であったのに対し、2023年には81.3%へと5.3パーセントポイント低下していた。 これらの解析の結果として著者らは、「COVID-19パンデミックは国内の医療機関の利用状況を根本的に変え、その影響は世界保健機関(WHO)が2023年5月に緊急事態宣言を終了した後も続いている」と総括している。また、国内においてパンデミック後期にCOVID-19以外の超過死亡が報告されていたことに関連して、入院患者数の減少が国民の健康アウトカムに潜在的な影響を及ぼしていた可能性を指摘。「脱施設化や長期ケアの地域医療への移行を進める中で、政策立案者は医療提供パターンの変化を注意深くモニタリングし、適切な医療アクセスの確保に注意を払う必要がある」と付け加えている。

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rabies(狂犬病)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第19回

言葉の由来「狂犬病」は英語で“rabies”といいます。この病名は、ラテン語の“rabies”に由来し、これは「狂気」や「激怒」を意味します。さらにさかのぼると、ラテン語の“rabere”(激怒する)という動詞に関連しており、これは狂犬病に感染した動物や人間が示す過度の攻撃性や不安定な行動を反映して付けられたとされています。また、古代ギリシャでは、この病気を“lyssa”または“lytta”と呼んでいました。これは「狂乱」や「狂気」を意味する言葉で、狂犬病ウイルスの属名である“Lyssavirus”はこのギリシャ語に由来しています。歴史的には、紀元前5世紀ごろのギリシャの哲学者デモクリトスが狂犬病について記述しており、同時代のヒポクラテスも「狂乱状態の人々は水をほとんど飲まず、不安になり、最小の物音にも震え、痙攣を起こす」と記録しています。狂犬病は致死率がきわめて高く、長年にわたって恐れられていた病気ですが、19世紀後半にフランスの化学者ルイ・パスツールによって狂犬病ワクチンが開発され、予防可能な感染症になりました。併せて覚えよう! 周辺単語神経症状neurological symptoms恐水病hydrophobia予防接種vaccination興奮状態agitationこの病気、英語で説明できますか?Rabies is a viral disease that causes inflammation of the brain in humans and other mammals. It is typically transmitted through the bite of an infected animal. Early symptoms often include fever, headache, and a tingling at the site of exposure. As the disease progresses, symptoms can include violent movements, uncontrolled agitation, fear of water, and inability to move parts of the body.講師紹介

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血液検査でワクチン効果の持続期間が予測できる?

 幼少期に受けた予防接種が、麻疹(はしか)や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)から、われわれの身を守り続けている一方、インフルエンザワクチンは、毎年接種する必要がある。このように、あるワクチンが数十年にわたり抗体を産生するように免疫機能を誘導する一方で、他のワクチンは数カ月しか効果が持続しない理由については、免疫学の大きな謎とされてきた。米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授で主任研究員のBali Pulendran氏らの最新の研究により、その理由の一端が解明され、ワクチン効果の持続期間を予測できる血液検査の可能性が示唆された。 Pulendran氏は同大学が発表したニュースリリースで、「われわれの研究では、ワクチン接種後数日以内に現れる特徴的な分子パターンを特定することにより、ワクチン反応の持続期間を予測できる可能性が示唆された」と述べている。同氏らの研究結果は、「Nature Immunology」に1月2日掲載された。研究グループの説明によると、ワクチン効果の持続性は血液凝固に関与する巨核球と呼ばれる血小板の前駆細胞と密接な関係があることが示されたという。 この研究では、H5N1型鳥インフルエンザワクチンを接種した健常なボランティア50人を対象に追跡調査を行った。ワクチン接種後100日間の間に血液サンプルを12回採取し、各被験者の免疫反応に関連する全ての遺伝子、タンパク質、抗体を解析した。 その結果、ワクチンの接種から数カ月後の抗体反応の強さと、血小板に含まれる巨核球由来のRNA小片の量に正の相関があることが示された。血小板は、骨髄に存在する巨核球から分離された後、血流に乗って全身に運ばれる。この過程で、血小板中には巨核球由来のRNAの一部が含まれる。 研究グループはさらに、巨核球がワクチン効果の持続性に関係していることを証明するため、実験用マウスに鳥インフルエンザワクチンとトロンボポエチン(TPO)を投与した。TPOには骨髄内の活性化した巨核球の数を増やす働きがある。その結果、TPOを投与したマウスでは、2カ月以内に鳥インフルエンザに対する抗体産生量が6倍に増加したことが確認された。追加の研究で、巨核球が、抗体産生を担う骨髄細胞の生存を助ける物質を生成していることも判明した。 研究グループは、また、季節性インフルエンザ、黄熱病、マラリア、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など7種類の感染症に対するワクチンを接種した244人のデータを収集解析した。その結果、いずれのワクチンにおいても、巨核球活性化の兆候が抗体産生期間の延長と関連していることが示された。 この結果は、巨核球の活性化を評価することで、どのワクチンの効果がより長く持続するか、またどのワクチン接種者がより長期にわたり免疫反応を持続できるかを予測できる可能性を示している。研究グループは、ワクチンによる巨核球の活性化レベルの違いを解明するため、さらなる研究を予定しているという。その研究から得られる知見は、より効果的で長期間効果が持続するワクチンの開発に貢献する可能性がある。 Pulendran氏は、「巨核球の活性化をターゲットとした簡易なPCR検査法が開発されれば、追加接種が必要な時期が予測できるため、個々人に個別化されたワクチン接種スケジュールを立てることも可能になるのではないか」と述べている。また、同氏はワクチン効果の持続期間は多くの複雑な要因に影響される可能性が高く、巨核球の役割はその全体像を構成する一部分にすぎないのではないかと付言している。

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Austrian症候群【1分間で学べる感染症】第20回

画像を拡大するTake home messageAustrian症候群は、肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つがそろった症候群。とくに脾臓摘出後の患者を中心に液性免疫低下患者では、脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)と呼ばれる致死率の高い重症感染症を引き起こすことがある。皆さんは、Austrian症候群という言葉を聞いたことがありますか。Austrian症候群は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つが、同時または短期間に発生することを特徴とする疾患です。疾患名を覚えることは必須ではありませんが、肺炎球菌による感染症はこれまで取り上げた感染症の中でも頻度が高い感染症であり、肺炎球菌は世界的にも重要な菌の1つです。今回は、Austrian症候群を入口として、肺炎球菌感染症について学んでいきます。背景Austrian症候群はRichard Heschlがドイツで最初に提唱したとの記述がありますが、正式には1881年にWilliam Oslerによって「Osler's triad(オスラーの3徴)」として報告されました。そして、1957年にRobert Austrianが詳細な臨床報告を発表したことから、その名を取ってAustrian症候群という疾患名で広く認知されています。リスク因子肺炎球菌は、市中肺炎や細菌性髄膜炎、さらに菌血症の原因菌として最も頻度が高い病原体の1つです。リスク因子を持つ患者では、通常よりも侵襲性感染症に進行する可能性が高くなります。具体的には、アルコール多飲、高齢、脾摘後や脾機能低下、免疫抑制(HIV感染者や化学療法中の患者など)が主なリスク因子として挙げられます。臨床症状近年では、Austrian症候群の「オスラーの3徴」がすべてそろうことはまれですが、3つの中で最も頻度の高い肺炎球菌による肺炎患者において、頭痛、発熱、意識障害、項部硬直など髄膜炎を疑う症状を合併する、心雑音、塞栓症状、持続的菌血症などを伴い感染性心内膜炎を疑う所見を合併する、といった場合には、血液培養のみならず髄液検査、心エコー検査(とくに経食道エコー)など、それぞれの診断のための精査を進めることが求められます。治療法、予防Austrian症候群は致死率が高いため、迅速な治療が求められます。臨床的に髄膜炎を疑った段階では、抗菌薬の髄液移行性とペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮し、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用療法をただちに開始します。とくに脾摘後患者を中心に液性免疫低下患者では、致死率が高い脾臓摘出後重症感染症を引き起こすことがあります。こうしたリスクのある患者に対しては、肺炎球菌感染症の予防のために、積極的な肺炎球菌ワクチン接種やペニシリンの予防内服が推奨されます。1)AUSTRIAN R. AMA Arch Intern Med. 1957;99:539-544.2)Rakocevic R, et al. Cureus. 2019;11:e4486.3)Rubin LG, et al. N Engl J Med. 2014;371:349-356.

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“添付文書に従わない経過観察”の責任は?【医療訴訟の争点】第8回

症例薬剤の添付文書には、使用上の注意や重大な副作用に関する記載があり、副作用にたりうる特定の症状が疑われた場合の処置についての記載がされている。今回は、添付文書に記載の症状が「疑われた」といえるか、添付文書に記載の対応がなされなかった場合の責任等が争われた京都地裁令和3年2月17日判決を紹介する。<登場人物>患者29歳・女性妊娠中、発作性夜間ヘモグロビン尿症(発作性夜間血色素尿症:PNH)の治療のためにエクリズマブ(商品名:ソリリス)投与中。原告患者の夫と子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成28年(2016年)1月妊娠時にPNHが増悪する可能性を指摘されていたため、被告病院での周産期管理を希望し、被告病院産科を受診。4月4日被告病院血液内科にて、PNHの治療(溶血抑制等)のため、エクリズマブの投与開始(8月22日まで、薬剤による副作用はみられず)7月31日出産のため、被告病院に入院(~8月6日)8月22日午前被告病院血液内科でエクリズマブの投与を受け、帰宅昼過ぎ悪寒、頭痛が発生16時55分本件患者は、被告病院産科に電話し、午前中にエクリズマブの投与を受け、その後、急激な悪寒があり、39.5℃の高熱があること、風邪の症状はないこと等を伝えた。電話対応した助産師は、感冒症状もなく、乳房由来の熱発が考えられるとし、本件患者に対し、乳腺炎と考えられるので、今晩しっかりと授乳をし、明日の朝になっても解熱せず乳房トラブルが出現しているようであれば、電話連絡をするよう指示した。21時18分本件患者の母は、被告病院産科に電話し、熱が40℃から少し下がったものの、悪寒があり、発汗が著明で、起き上がれないため水分摂取ができず脱水であること、手のしびれがあること、体がつらいため授乳ができないこと等を伝えた。21時55分被告病院産科の救急外来を受診し、A医師が診察。診察時、血圧は95/62 mmHgであり、SpO2は98%、脈拍は115回/分、体温は36.3℃(17時に解熱鎮痛剤服用)、項部硬直及びjolt accentuation(頭を左右に振った際の頭痛増悪)はいずれも陰性であった。22時45分乳腺炎は否定的であること、エクリズマブの副作用の可能性があること等から、被告病院血液内科に引き継がれ、B医師が診察した。診察時、本件患者の意識状態に問題はなく、意思疎通可能、移動には介助が必要であるものの短い距離であれば介助なしで歩行可能であった。血液検査(22時15分採血分)上、白血球、好中球、血小板はいずれも基準値内であった。23時30分頃経過観察のため入院となった。8月23日4時25分本件患者の全身に紫斑が出現、血圧67/46mmHg、血小板数3,000/μLとなり、敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態に陥った。抗菌薬(タゾバクタム・ピペラシリン[商品名:ゾシンほか])が開始された。10時43分敗血症性ショックとDICからの多臓器不全により、死亡。8月24日本件患者の細菌培養検査の結果が判明し、血液培養から髄膜炎菌が同定された。8月29日薬剤感受性検査の結果、ペニシリン系薬剤に感受性あることが判明した。実際の裁判結果本件では、(1)エクリズマブの副作用につき血液内科の医師が産科の医師に周知すべき義務違反、(2)8月22日夕方に電話対応した助産師の受診指示義務違反、(3)8月22日夜の救急外来受診時の投薬義務違反等が争われた。本稿では、このうちの(3)救急外来受診時の投薬義務違反について取り上げる。本件で問題となったエクリズマブの添付文書には、以下のように記載されている。※注:以下の内容は本件事故当時のものであり、2024年9月に第7版へ改訂されている。「重大な副作用」「髄膜炎菌感染症を誘発することがあるので、投与に際しては同感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血等)の観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う(海外において、死亡に至った重篤な髄膜炎菌感染症が認められている。)。」「使用上の注意」「投与により髄膜炎菌感染症を発症することがあり、海外では死亡例も認められているため、投与に際しては、髄膜炎菌感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直等)に注意して観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行う。髄膜炎菌感染症は、致命的な経過をたどることがある」この「疑われた場合」の解釈につき、患者側は、「疑われた場合」は「否定できない場合」とほぼ同義であり、症状からみて髄膜炎菌感染症の可能性がある場合には「疑われた場合」に当たる旨主張した。対して、被告病院側は、「疑われた場合」に当たると言えるためには、「否定できない場合」との対比において、「積極的に疑われた場合」あるいは「強く疑われた場合」であることが必要である旨を主張した。このため、添付文書に記載の「疑われた場合」がどのような場合を指すのかが問題となった。裁判所は、添付文書の上記記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなるという副作用を有し、髄膜炎菌感染症には急速に悪化し致死的な経過をたどる重篤な例が発生しているため、死亡の結果を回避するためのものであることを指摘し、以下の判断を示した(=患者側の主張を積極的に採用するものではないが、被告病院側の主張を排斥した)。積極的に疑われた場合または強く疑われる場合に限定して理解することは、その趣旨に整合するものではない少なくとも、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めて理解する必要がある添付文書の警告の趣旨・理由を強調すると、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるにすぎない場合)を含めて理解する余地があるその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、本件は添付文書にいう「疑われた場合」にあたるとした。『入院診療計画書』には、「細菌感染や髄膜炎が強く疑われる状況となれば、速やかに抗生剤を投与する」ために入院措置をとった旨が記載されており、担当医は、髄膜炎菌感染症を含む細菌感染の可能性について積極的に疑っていなくとも、相応の疑いないし懸念をもっていたと解されること(CRPや白血球の数値が低い点はウイルス感染の可能性と整合する部分があるものの)ウイルス感染であれば上気道や気管の炎症を伴うことが多いのに、本件でその症状がなかった点は、これを否定する方向に働く事情であり、ウイルス感染の可能性が高いと判断できる状況ではなかったといえること(CRPや白血球の数値が低いことは細菌感染の可能性を否定する方向に働き得る事情ではあるものの)細菌感染の場合、CRPは発症から6~8時間後に反応が現れるといわれており、それまではその値が低いからといって細菌感染の可能性がないとは判断できず、疑いを否定する根拠になるものではないこと。同様に、白血球の数値も重度感染症の場合には減少することもあるとされており、同じく細菌感染の疑いを否定する根拠になるものではないことそして、裁判所は「細菌感染の可能性を疑いながら速やかに抗菌薬を投与せず、また、(省略)…細菌感染の可能性について疑いを抱かなかったために速やかに抗菌薬を投与しなかったといえるから、いずれにしても速やかに抗菌薬を投与すべき注意義務に違反する過失があったというべき」として、被告病院担当医の過失を認めた。この点、被告病院は「すぐに抗菌薬を投与するか経過観察をするかは、いずれもあり得る選択であり、いずれかが正しいというものではない」として医師の裁量である旨を主張したが、裁判所は、以下のとおり判示し、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠とならないとした。「あえて添付文書と異なる経過観察という選択が裁量として許容されるというためには、それを基礎づける合理的根拠がなければならないところ、細菌感染症でない場合に抗菌薬を投与するリスクとして、抗菌薬投与が無駄な治療になるおそれ、アレルギー反応のリスク、肝臓及び腎臓の障害を生じるリスク、炎症の原因判断が困難になるリスクが考えられるが、これらのリスクは、髄膜炎菌感染症を発症していた場合に抗菌薬を投与しなければ致死的な経過をたどるリスクと比較すると、はるかに小さいといえるから、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠となるものではない」注意ポイント解説本件では、添付文書において「髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う」となっているところ、抗菌薬の投与等がなされないまま経過観察となっていた。そのため、「疑われた場合」にあたるのか、あたるとして経過観察としたことが医師の裁量として許容されるのかが問題となった。添付文書の記載の解釈について判断が示された比較的新しい裁判例である上、添付文書でもよく目にする「疑われた場合」に関する解釈を示した裁判例として注目される。「疑われた場合」の判断において本判決は、その記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなる副作用を有し、髄膜炎菌感染症は急速に悪化し致死的な経過をたどる例があり、そのような結果を避けるためであることを理由とする。そのため、本判決の判断が、他の薬剤の添付文書の解釈でも同様に妥当するとは限らない。とくに、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるに過ぎない場合)を含めて理解する余地があるかについては、生じうる事態の軽重によりケースバイケースで判断されることとなると考えられる。しかしながら、一定の悪しき事態が生じうることを念頭に添付文書の記載がなされていることからすると、添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高いと認識しておくことが無難である。また、本判決は、添付文書と異なる対応をすることが医師の裁量として許容されるかについて、生じうるリスクの重大性を比較しており、生じ得るリスクの重大性の比較が考慮要素の一つとして斟酌されることが示されており参考になる。もっとも、添付文書の記載に従ったほうが重大な結果が生じるリスクが高い、という事態はそれほど多くはないと思われるうえ、そのような重大な事態が生じるリスクが高いことを立証することは容易ではないと考えられる。このため、前回(第7回:造影剤アナフィラキシーの責任は?)にコメントしたように、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる(ただし、医師の行ったリスク説明が誤っている場合には、患者の同意があったとして免責されない可能性がある)。なお、本件薬剤の投与にあたり、患者に「患者安全性カード」(感染症に対する抵抗力が弱くなっている可能性があり、感染症が疑われる場合は緊急に診療し必要に応じて抗菌剤治療を行う必要がある旨が記載されたもの)が交付されており、診療にあたりすべての医師に示すように伝えられていたものの、このカードが示されなかったという事情がある。しかし、裁判所は、患者からは本件薬剤の投与を受けている旨の申告がされており、このカードの記載内容は添付文書にも記載されているとして、患者からカードの提示がなかったことが医師の判断を誤らせたという関係にはないとしている。医療者の視点本判決の焦点は、添付文書の記載の解釈でした。しかし、一臨床医としてより重要と考えた点は、「普段使用することが少ない薬剤であっても、しっかりと添付文書を確認し、副作用や留意点に目を通しておく必要がある」ということです。本件においても、関係した医療者がエクリズマブという比較的新しい薬剤の副作用を熟知していれば、あるいは処方した医師や薬剤師から情報共有がなされていれば、このような事態は回避できたかもしれません。エクリズマブの適応疾患は非常に限られており、使用経験のある医師は少ないと考えられます。たとえそのような稀にしか使用されることがない薬剤であっても、その副作用を熟知しておかなければならない、という教訓を示した案件と考えました。昨今は目まぐるしい速度で新薬が発表されています。常に知識・情報をアップデートしていないと、本件のようなトラブルを引き起こしかねません。多忙な勤務の中、各科の学会誌やガイドラインを熟読することは困難です。医療系のウェブサイトやSNSなどを有効的に活用し、効率よく情報を刷新していくことも重要と考えます。Take home message普段使用することが少ない薬剤であっても、その副作用や留意点を熟知しておく必要がある。添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高い。副作用と疑われる症状が発症した場合、副作用であることを念頭に添付文書の推奨に従って対応することが望ましく、もし添付文書と異なる対応をする場合、患者や家族に十分な説明を行う必要がある。キーワード添付文書(能書)の記載事項と過失との関係最高裁平成8年1月23日判決が、以下のように判断しており、これが裁判上の確立した判断枠組みとなっているため、添付文書の記載と異なる対応の正当化には医学的な裏付けの立証が必要であり、それができない場合には過失があるものとされる。「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」

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鳥インフルエンザによる死亡例、米国で初めて確認

 2024年12月、鳥インフルエンザにより入院していた米ルイジアナ州の住民が死亡した。米国初の鳥インフルエンザによる死亡例である。死亡した患者について同州の保健当局は、「65歳以上で基礎疾患があったと報告されている」と発表した。患者は、A型鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)に感染した野鳥や個人の庭で飼育されていた家禽との接触により感染したという。なお、同州で他にヒトへの感染例は確認されていない。 米疾病対策センター(CDC)は1月6日付の声明で、「ルイジアナ州での死亡者について入手可能な情報を慎重に精査したが、一般市民に対するリスクは依然として低いとの評価に変わりはない。最も重要なのは、ヒトからヒトへの感染は確認されていないということだ」と強調している。 死亡した患者は遺伝子型がD1.1のH5N1亜型に感染していた。これは、2024年暮れにカナダで13歳の少女が感染・重症化した原因となったウイルスと同じ亜型である。ルイジアナ州の患者に感染したウイルスの遺伝子配列を解析したところ、感染の過程で生じたと考えられる、まれな変異が確認された。しかし、この変異はウイルスを媒介したとみられる動物では確認されなかった。CDCは、「気がかりなことであり、またH5N1亜型はヒトへの感染過程で変化し得ることを再認識させる出来事であるが、こうした変化が動物宿主やヒトでの感染の初期段階で確認されれば、より懸念が強まるだろう」と12月26日付のニュースで指摘している。 CDCの以前の説明によると、これまでに報告されている鳥からヒトへの他の感染例のほとんどは大手養鶏場の従業員で発生したものであり、「ルイジアナ州の患者は、庭で飼っている家禽との接触に関連した米国初のH5N1亜型による鳥インフルエンザ症例」とされている。 またCDCは、米国でH5N1亜型による重症の鳥インフルエンザ症例の出現は、予想外のことではなかったと強調。「H5N1亜型による感染症は、他国では2024年以前からヒトでの重症化に関係しており、その中には死亡に至った症例もあった」としている。それでも、今回のケースは、鳥に接触する機会がある人は誰もが注意する必要があることを再認識させるものだとの見方を示している。 米国では2024年以来、少なくとも66人の鳥インフルエンザ感染者が確認されている。最も多くの症例が報告されているのはカリフォルニア州であり、そのほかワシントン州やコロラド州などからも報告されている。感染者は、感染した家禽や乳牛と接触したことのある労働者が大部分を占めている。現時点で、鳥インフルエンザのヒトへの伝播を示すエビデンスはなく、ほとんどの症例は軽症で、主な症状は結膜炎である。また、ヒトからヒトへの感染による死亡例は報告されていない。 2024年12月10日、CDCは、カリフォルニア州在住の子どもから検出された鳥インフルエンザウイルスの株が、乳牛と家禽、過去の感染者から検出されたH5N1亜型に類似していたことを報告した。この子どもに、感染した家畜との接触歴はないという。一方、カリフォルニア州の保健当局も12月17日、この子どもがどのように鳥インフルエンザウイルスに曝露したのかを調査中であることを明らかにしている。なお、この子どもは抗ウイルス薬の投与を受け、その後回復している。このケースでは、ヒトからヒトへの感染は確認されておらず、子どもの家族も全員、検査で陰性だった。 米ネブラスカ大学グローバル・センター・フォー・ヘルスセキュリティーのJames Lawler氏は、「New York Times」の取材に対し、「これは、現時点で大いに懸念すべき問題だといえる。パニックになるべきではないが、何が起こっているのか明らかにするために多くのリソースを投じるべきであることは確かだ」と述べている。

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第248回 自家NK細胞療法を自費で行うクリニックに改善命令、敗血症発症は「生来健康」な成人の衝撃、厚労省は新たなガイダンス作成へ

「生来健康」な成人が「免疫力のアップ」を目的に細胞療法を自費で受け、敗血症にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。キャンプインを目前にして野球が盛り上がってきました。日本のNPBでは複数の有名選手の不倫問題やトレバー・バウアー投手の横浜DeNAベイスターズ復帰が話題となっていますが、MLBでは佐々木 朗希投手(23)のロサンゼルス・ドジャース入団や、イチロー氏の米国野球殿堂入りなど、こちらも話題が盛り沢山です。個人的には中日ドラゴンズからポスティングシステムで MLBを目指していた小笠原 慎之介投手(27)のワシントン・ナショナルズ入りが興味を引きました。日刊スポーツなどの報道によれば、2年総額350万ドル(約5億4,300万円)で、今季年俸が150万ドル(約2億3,300万円)、来季年俸が200万ドル(約3億1,000万円)、中日への譲渡金はわずか70万ドル(約1億900万円)だそうです。同じくポスティングシステムで千葉ロッテマリーンズからドジャースに移籍した佐々木投手は、マイナー契約ながら契約金は今年の国際FAで最高額の6,500万ドル(約10億100万円)で、ロッテへの譲渡金は25%の約2億5,000万円だそうです。小笠原投手、中日で9年間に46勝(昨年は5勝)していますが、随分安く見られたものです。小笠原投手はまだ若く、カーブやチェンジアップを得意とする投手です。昨シーズンのシカゴ・カブス・今永 昇太投手ばりの活躍を期待したいところです。ちなみに、ワシントン・ナショナルズは2004年まではカナダが本拠地のモントリオール・エクスポズでした。現在の球場、ナショナルズ・パークはワシントンD.C.にあり、地下鉄利用でアクセスも良く、ドジャー・スタジアムのようには混まない上に、とても美しい球場です。ワシントンD.C.出張や旅行の折にはぜひ訪れてみて下さい。さて今回は、昨年10月に発生し、年末に厚生労働省が改善命令を出した東京の自由診療クリニックで起きた再生医療による敗血症事例について書いてみたいと思います。1月24日に開かれた厚生労働省の再生医療等評価部会でも、国立感染症研究所からその詳細が報告されましたが、敗血症を発症した2例ともなんと「生来健康」な成人で、「免疫力のアップ、がんの予防」を目的にクリニックを訪れていました。昨年10月にはクリニックなどに対し再生医療の提供を一時停止させる緊急命令この事例が最初の報道されたのは昨年の10月です。がん予防などを目的に都内のクリニックで自分のNK(ナチュラルキラー)細胞を採取、培養後に再び自分の体に戻す細胞療法を受けた人が重大な感染症にかかり入院したとして、厚生労働省は10月25日、クリニックなどに対し再生医療の提供を一時停止させる緊急命令を出しました。10月26日付の朝日新聞などの報道によれば、自由診療による細胞療法を提供していたのは医療法人輝鳳(きほう)会THE K CLINIC(東京都中央区)です。このクリニックで細胞療法を受けた2人が入院治療を要する重大な感染症を発症しました。細胞加工物を製造した同法人の池袋クリニック培養センター(東京都豊島区)において原因とみられる細菌が検査で検出されたとのことです。この事例については、10月24日に輝鳳会から厚労省に報告があり、同省は再生医療安全性確保法に基づいて、クリニックと培養センターに対し「悪性腫瘍の予防に対する自家NK細胞療法」の提供とその細胞加工物の製造の一時停止を命じました。調査の結果2人の細胞加工物の残液から細菌確認、12月に衛生管理体制の再検討や改善計画の提出などを求める改善命令この問題については厚労省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)、国立感染症研究所が調査を進め、12月24日に改めて、THE K CLINICの管理者・橋口 華子氏、池袋クリニックの管理者・甲 陽平氏、池袋クリニック培養センターを管理する輝鳳会(理事長・久藤 しおり氏)に対し、再生医療安全性確保法に基づいた改善命令を出しました。この時公表された調査結果によれば、患者2人がTHE K CLINICで自家NK細胞療法を受けたのは9月30日でした。その帰宅中に2人とも体調不良となり、病院に緊急搬送され、敗血症の診断でICUに入院しました。2人とも健康な成人で、池袋クリニック培養センターにおいて別々(1人は投与4ヵ月前、1人は投与1ヵ月前)に細胞採取(採血)が行われ、培養後にTHE K CLINICで投与を受けました。10月3日、細胞加工物を製造した池袋クリニック培養センターの細胞培養加工施設が、2人に投与した細胞加工物の無菌試験検体が陽性となったことを報告。その後、同検体から好気性グラム陰性桿菌(Pseudoxanthomonas mexicana)が同定されたとのことです。THE K CLINICは当該療法の計画の審査を行う認定再生医療等委員会へ本事例の発生を報告、10月24日に輝鳳会から厚労省に報告 が行われ、10月25日の緊急命令に至ったものです。厚労省、PMDA、国立感染症研究所の調査でも、2人の細胞加工物の残液から細菌(Pseudoxanthomonas mexicana)が確認され、同菌が敗血症発症の原因と考えられるとしました。汚染原因としては、採血時又は無菌試験検体準備時の汚染や、細胞培養過程での交差汚染の可能性が高いとしました。また、培養センターでは、点検整備の記録の作成が行われないなど複数の法令違反があり、無菌試験の一部を目視で行うなど不適切な体制もあったとのことです。同省は改善命令で、衛生管理体制の再検討や、改善計画の提出などを求めました。なお、この培養センターの運営は組織培養用培地の製造・販売等を行うバイオ企業に全面的に任せていたようです。不適切な温度管理下での輸送が汚染された最終投与物内の細菌増殖に影響を与えた可能性もなお、1月27日に開かれた再生医療等評価部会では、国立感染症研究所は上述したような事故の原因に加え、池袋の培養センターからTHE K CLINICへの「不適切な温度管理下での輸送が、汚染された最終投与物内の細菌増殖に影響を与えた可能性は否定できなかった」ともしました。その上で、再発防止に向けて、1.細胞培養加工施設における操作毎の手指衛生を中心とした適切な清潔操 作と環境の清掃や消毒の手順書の作成2.手順に関する定期的な職員の研修・訓練の確実な実施3.迅速かつ信頼できる無菌試験体制の確立4.搬送時の適切な温度管理5.治療後の適切な健康観察6.適切な逸脱管理、時に認定再生医療等委員会への迅速な報告7.各手順における適切な記録と保管の7項目を提言しました。厚労省はこの提言も踏まえ、こうした感染事故等の再発を防止するために、再生医療を提供する医療機関などに向け、通知やガイダンスを発出する方針とのことです。1月28日付の日経バイオテクは、「部会では、CPCにおける清潔操作の徹底や無菌試験の実施法、細胞などの温度管理、問題が発生した際の報告体制などについて、既存のガイダンスに盛り込んだり、新たにガイダンスを作成したりすることが検討された」と書いています。自家NK細胞療法は再生医療等安全性確保法で比較的リスクの低い第3種再生医療等に位置付けそれにしても、「がんにかからない(あるいは再発しないため)ために免疫力をアップさせる」という触れ込みで自家NK細胞療法を自由診療で行う医療機関(主に美容クリニックや、がん免疫療法を看板に掲げるクリニック)がなんと多いことでしょう。今回の場合、「生来健康」だった人が敗血症にかかって死にかけているわけですから、本末転倒と言えます。なお、一部の情報では、敗血症を発症したのは日本人ではなく、中国からわざわざ再生医療を受けに来た人のようです。男女の性別はわかっていません。自家NK細胞療法については、その科学的根拠は確立していないにもかかわらず、自由診療での提供が拡大しているのは、その提供自体は再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)で認められているためです。自家NK細胞療法は、同法で比較的リスクの低い第3種再生医療等に位置付けられており、その高額な治療費や曖昧なエビデンスが批判されることはありましたが、提供禁止までには至っていません。ちなみに、「第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中」で書いたエクソソーム療法も美容クリニックなどの自由診療で広がっています。しかし、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり細胞には当たらないと整理されており、今のところ、再生医療等安全性確保法の対象外です。「第189回」では、エクソソームなどの細胞外小胞は「交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」(再生医療等評価部会・岡野 栄之氏資料より)との意見を紹介しましたが、今回は、第3種再生医療等のカテゴリーにある自家NK細胞療法で、その敗血症が起こってしまったわけです。「再生医療等安全性確保法が厳しいルールを定めていようとも、クリニックが実際にそれを守らなければ、安全性も絵に描いた餅」と週刊新潮今回の敗血症事例の発生で、美容クリニックなどで行われている細胞療法やエクソソーム療法などに対する世間の目が厳しくなる可能性があります。実際、週刊新潮の2025年1月16号は、「『専門家からすると“自殺行為”』 事故多発の再生医療の闇…」と題する記事を掲載、今回のTHE K CLINICで起きた事故を報じるとともに、「安確法(再生医療等安全性確保法)が厳しいルールを定めていようとも、クリニックが実際にそれを守らなければ、当然、安全性も絵に描いた餅に終わってしまう。冒頭で紹介したクリニックはその最たる問題例といえる。(中略)安確法は事実上骨抜きになっているといってよく、一般の患者にとって『本当に安全な再生医療』を見抜くことはほとんど不可能なのである」と書いています。さらに同記事は、再生医療等安全性確保法の対象外のエクソソーム療法や幹細胞培養上清液治療にも言及、「インターネットで検索すると、アンチエイジングや傷ついた組織の修復、育毛、疲労回復に免疫調節作用など、夢のような効果がうたわれている。(中略)現実には『夢のような治療』とは程遠い劣悪な製品が横行し、命の危険にさらされる恐れすら否定できないのが実態」と書くとともに、一般社団法人・再生医療安全推進機構の代表理事を務める香月 信滋氏の「現在の日本で表立って上清液治療やエクソソーム治療を提供している約700ヵ所の医療施設のうち、患者自身の細胞を使用していると明確に公表している施設はほとんどありません。それどころか8割以上が他人の細胞由来か、下手をすれば人間の細胞由来ではない恐れすらあります。また、専門家の調査によって、エクソソームとうたいながらエクソソームが全く含まれていない“謎の液体”が使用されている悪質な例も判明した」とのコメントも紹介しています。確固たるエビデンスもないまま、美容医療やがん予防における自由診療としてマーケットを広げつつある再生医療ですが、厚生労働省には安全性確保のため今まで以上の規制強化とともに、消費者側が悪徳医療機関の“詐欺”に遭わないようにするための何らかの対策も、ぜひ講じてもらいたいと思います。

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抗インフル薬、非重症者で症状改善が早いのは?~メタ解析

 重症ではないインフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の効果を調査した結果、バロキサビルは高リスク患者の入院リスクを低減し、症状改善までの時間を短縮する可能性があったものの、その他の抗ウイルス薬は患者のアウトカムにほとんどまたはまったく影響を与えないか不確実な影響であったことを、中国・山東大学のYa Gao氏らが明らかにした。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年1月13日号掲載の報告。 インフルエンザは重大な転機に至ることがあり、高リスク者ではとくに抗ウイルス薬が処方されることが多い。しかし、重症でないインフルエンザの治療に最適な抗ウイルス薬は依然として不明である。そこで研究グループは、重症ではないインフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の有用性を評価するため、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った。 研究グループは、MEDLINE、Embase、CENTRAL、CINAHL、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govをデータベース開設から2023年9月20日まで検索した。対象は、重症ではないインフルエンザ患者の治療として、直接作用型インフルエンザ抗ウイルス薬をプラセボ、標準治療(各施設のプロトコールに準拠またはプライマリケア医の裁量)、他の抗ウイルス薬と比較したランダム化比較試験であった。ペアのレビュワーが独立して試験をレビューしてデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。頻度論に基づく変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析でエビデンスを要約し、GRADEアプローチでエビデンスの確実性を評価した。主要アウトカムは死亡率、入院、集中治療室入室、入院期間、症状緩和までの時間、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象などであった。 主な結果は以下のとおり。・3万4,332例が参加した73件の試験が適格となった。平均年齢の中央値は35.0歳、男性が49.8%であった。・評価された抗ウイルス薬は、バロキサビル、オセルタミビル、ラニナミビル、ザナミビル、ペラミビル、umifenovir、ファビピラビル、アマンタジンであった。・すべての抗ウイルス薬は、標準治療またはプラセボと比較して、低リスク患者と高リスク患者の死亡率にほとんどまたはまったく影響を与えなかった(エビデンスの確実性「高」)。・抗ウイルス薬(ペラミビルとアマンタジンはデータなし)は、低リスク患者の入院にほとんどまたはまったく影響を与えなかった(エビデンスの確実性「高」)。・高リスク患者の入院については、オセルタミビルはほとんどまたはまったく影響を与えず(リスク差[RD]:-0.4%、95%信頼区間[CI]:-1.0~0.4、エビデンスの確実性「高」)、バロキサビルはリスクを低減した可能性があった(RD:-1.6%、95%CI:-2.0~0.4、エビデンスの確実性「低」)。他の抗ウイルス薬は効果がほとんどないか不確実な影響である可能性があった。・バロキサビルは症状持続期間を短縮した可能性が高く(平均差[MD]:-1.02日、95%CI:-1.41~-0.63、エビデンスの確実性「中」)、umifenovirも症状持続期間を短縮した可能性があった(MD:-1.10日、95%CI:-1.57~-0.63、エビデンスの確実性「低」)。オセルタミビルは症状持続期間に重要な影響をもたらさなかった(MD:-0.75日、95%CI:-0.93~-0.57、エビデンスの確実性「中」)。・治療に関連する有害事象については、バロキサビルでは有害事象がほとんどまたはまったくなかった(RD:-3.2%、95%CI:-5.2~-0.6、エビデンスの確実性「高」)。オセルタミビルでは有害事象が増加した可能性が高かった(RD:2.8%、95%CI:1.2~4.8、エビデンスの確実性「中」)。 これらの結果より、研究グループは「この系統的レビューとメタ解析により、バロキサビルは重症でないインフルエンザ患者の治療に関連する有害事象を増加させることなく、高リスク患者の入院リスクを低減し、症状改善までの時間を短縮する可能性があることが判明した。他のすべての抗ウイルス薬は、アウトカムにほとんどまたはまったく影響を与えないか、または不確かな影響しかなかった」とまとめた。

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第251回 細菌との旧交を温めて肥満を予防

細菌との旧交を温めて肥満を予防哺乳類の進化に寄り添ってきた細菌をマウスに週1回注射することで、油や砂糖が多い現代的な食事による体重増加を防ぐことができました1,2)。哺乳類の進化に絶えず付き添ってきた非病原性マイコバクテリア、蠕虫、乳酸菌などの無害な微小生物、いわば「旧友(Old Friends)3)」との接触の減少が、脂肪や炭水化物が多くて繊維質が乏しい西洋式の食事(Western-style diet)が身近となった近代社会の炎症疾患の増加の原因かもしれないと考えられています。その説によると、繊維質を代謝して抗炎症や免疫調整作用を担う共生微生物の減少を西洋式の食事が招いています。西洋式の食事による腸微生物変動は肥満や内臓脂肪増加にしばしば先立って認められ、はては不適切な炎症や免疫代謝疾患を生じやすくなることと関連します。そういうことであれば、西洋式の食事の生理や行動への弊害を「旧友」微生物の助けを得ることで軽減できるかもしれません。牛乳や土壌に含まれるMycobacterium vaccae(M. vaccae)という名称の「旧友」細菌をマウスに接種することで、ストレスによる炎症や不調を防ぎ得ることが先立つ研究で示されています4)。その結果やその後の成果を受け、コロラド大学ボルダー校のLuke Desmond氏らは西洋式の食事が招きうる脳の炎症やその結果としての不安症のいくらかがM. vaccaeで防げるかもしれないと考えて研究を始めました。その結果は、体重増加の抑制という想定外の効果の発見をもたらしました。Desmond氏らは、人間でいえば思春期ほどの雄マウスを2群に分け、一方にはいつもの定番の餌を10週間与え、もう一方にはビッグマックとフライドポテトに相当する高脂肪で高炭水化物(半分は砂糖)の餌を与えました。また、それぞれの群の半数に熱で不活化したM. vaccaeが週1回注射されました。M. vaccae非投与で高脂肪・高炭水化物食のマウスの体重は定番の餌のマウスに比べて予想どおりより増えました。しかしM. vaccae投与の高脂肪・高炭水化物食マウスの体重増加は定番の餌のマウスと変わりなく、どうやらM. vaccaeは高脂肪・高炭水化物食による体重を防ぐ作用があると示唆されました。M. vaccaeは高脂肪・高炭水化物食に伴う内蔵脂肪蓄積も防いでいます。また、先立つ研究と一致してM. vaccaeは不安様行動を抑制する効果も示しました。今後の課題として、M. vaccaeの経口投与でも同じ効果があるかどうかを調べたいと研究チームは考えています2)。また、すでに太ってしまっていてもM. vaccaeが有効かどうかも検討したいと思っています。チームは研究成果の商業化も目指しています。体重増加を防いで健康を増進する微生物成分に取り組むKiogaという新会社が同大学の商業化部門(Venture Partners at CU Boulder)の支援を受けて設立されています。参考1)Desmond LW, et al. Brain Behav Immun. 2024;125:249-267.2)A vaccine against weight gain? It’s on the horizon / University of Colorado Boulder3)Rook GAW, et al. Springer Semin Immunopathol. 2004;25:237-55.4)Amoroso K, et al. Int J Mol Sci. 2021;22:12938.

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第227回 救急搬送が逼迫、現場到着は10分超と過去2番目の長さ/消防庁

<先週の動き>1.救急搬送が逼迫、現場到着は10分超と過去2番目の長さ/消防庁2.医学部定員、2027年度以降削減へ、医師偏在対策と並行し適正化/厚労省3.電子処方箋の導入低迷、病院導入わずか4%、普及目標を見直し/厚労省4.医療崩壊の危機迫る、物価高騰で7~8割の病院が赤字に/日本医師会5.出生数70万人割れに、少子化対策は根本的な見直しへ/厚労省6.栗原市の3病院で1,300万円超未払い 給与計算の誤り/宮城県1.救急搬送が逼迫、現場到着は10分超と過去2番目の長さ/消防庁救急搬送体制の逼迫が深刻化している。総務省消防庁が1月24日発表した2023年の救急車現場到着時間は、全国平均で約10分と過去2番目の長さとなった。一方、横浜市消防局の発表によると、2024年の市内の救急出動件数は25万6,481件、搬送人員は20万7,472人と、いずれも過去最多を更新。高齢化の進展と救急隊員不足が影を落としている。同庁によると、2023年の全国の救急出動件数は763万8,558件、搬送人員は664万1,420人でいずれも過去最多。現場到着時間が10分以上20分未満だったケースは全体の39.9%、20分以上かかったケースも4.2%に上った。同庁では「出動件数の増加で、最寄りの救急隊が現場に向かえないケースが増えている」と分析。救急車を呼ぶべきか迷った場合は、電話相談窓口「#7119」の利用を呼びかけている。先の横浜市でも状況は深刻だ。2024年の救急出動は1日平均701件で、市民15人に1人が救急車を利用した計算になる。搬送人員を年代別にみると、65歳以上の高齢者は12万1,349人と増加傾向にある一方、65歳未満は減少。高齢者の転倒や、体温変化に気付きにくいことなどが要因とみられる。市消防局は「高齢化社会の影響で、今後も同様の傾向が続くと見込まれる」と警鐘を鳴らす。救急搬送の遅れは、一刻を争う患者の救命に影響を及ぼす可能性がある。横浜市では、救急車の適正利用を促すため、緊急性や受診の必要性をチェックできる「横浜市救急受診ガイド」の活用や、「#7119」への相談を推奨している。専門家は「救急隊員の増員や病院の受け入れ態勢強化など、抜本的な対策が必要だ」と指摘。高齢化社会が進む中、救急搬送体制の充実が喫緊の課題となっている。参考1)令和6年版 救急・救助の現況(消防庁)2)救急車の到着平均10.0分 23年、過去2番目の長さ(日経新聞)3)横浜市内で2024年 救急出場、搬送人員ともに3年連続で最多更新(タウンニュース)2.医学部定員、2027年度以降削減へ、医師偏在対策と並行し適正化/厚労省厚生労働省は、2027年度から大学医学部の入学定員を削減する方針を固めた。将来的に医師過剰が予測される一方、地域間の医師偏在は依然として深刻な状況だ。定員削減による地域医療への影響を抑えつつ、医師需給バランスの適正化と地域偏在の解消を両立させるという難しい舵取りが求められる。1月21日に行われた厚労省の検討会では、2027年度の医学部定員について、「地域における医師確保への大きな影響が生じない範囲で適正化を図る」方向性が了承された。背景には、少子高齢化に伴う人口減少がある。現在の医学部定員は、2008年度以降増加を続け、2024年度は9,403人に達している。これは、主に地方の医師不足を解消するために設けられた「臨時定員」によるものだ。しかし、このまま推移すると、将来的には医師が過剰となり、医療費の増加や医師の給与減、医療の質低下などが懸念される。一方で、地域によっては依然として医師不足が深刻で、とくに地方では病院の医師不足が深刻化している。厚労省は、地域医療への影響を最小限に抑えながら定員削減を進めるため、医師の地域定着を促進するための対策を強化する方針だ。具体的には、卒業後に一定期間、医師不足地域で働くことを義務付ける「地域枠」を、各大学の恒久定員に組み込むように促す。また、地域枠以外の学生に対しても、地域医療の重要性を啓発する教育や、地域医療現場での研修機会の提供などを通して、地域定着を促す。2025年度の医学部定員は、2024年度比10人減の9,393人となる。2026年度は、2024年度の定員を超えない範囲で設定される。2027年度以降の具体的な削減規模は、今後の検討会で議論される。医学部定員の削減は、大学の経営や地域医療に大きな影響を与える可能性があり、厚労省では、関係者と連携し、慎重に進めていく必要がある。参考1)第9回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)医学部臨時定員、25年度は10人減の975人 群馬・新潟のみ増加(CB news)3)2027年度の医学部入学定員、医師の地域定着進めながら、「地域に大きな影響が生じない」範囲で適正化(漸減)を図る-医師偏在対策検討会(Gem Med)3.電子処方箋の導入低迷、病院導入わずか4%、普及目標を見直し/厚労省厚生労働省は、1月23日に社会保障審議会医療保険部会を開き、医療機関における電子処方箋の導入が大幅に遅れていることを受け、2025年3月末としていた導入目標の見直しを決定した。新たな目標は、今年夏をめどに設定される予定だ。電子処方箋は、マイナンバーカードを活用し、医療機関と薬局の間で薬の処方情報を電子的に共有するシステム。政府は、2023年1月の運用開始以降、普及促進を図ってきたが、医療機関側の導入は低調に推移している。厚労省によると、1月12日時点の導入率は、病院で3.9%、医科診療所で9.9%、歯科診療所で1.7%にとどまる。一方、薬局では63.2%と比較的普及が進んでいる。導入が遅れている要因としては、医療機関側のシステム改修に伴う費用負担や、電子処方箋のメリットに対する認識不足などが挙げられる。また、周辺の医療機関や薬局で導入が進まない「お見合い状態」も普及を阻害する一因となっているようだ。厚労省は、導入促進に向けた取り組みを強化するため、医療機関への個別フォローアップや導入支援策の拡充、システムベンダーへの早期導入・開発要請などを実施する方針。電子処方箋は、患者の過去の処方薬をデータ上で確認できるため、重複投薬や飲み合わせによる副作用のリスクを低減できる。また、災害時などでもオンライン診療と組み合わせることで、薬の受け取りをスムーズに行えるなどのメリットがある。その一方で、昨年12月には、薬局側で医薬品名が誤表示されるトラブルが発生し、システムが一時停止する事態も起きた。厚労省は、システムの安全性確保にも取り組みながら、電子処方箋の普及促進を目指していく考えだ。参考1)第192回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)電子処方箋、病院導入4% 「ニーズ感じない」 厚労省、目標見直し(朝日新聞)3)電子処方箋の導入率、医療機関では2025年3月末でも「1割に届かない」見込み、目標を見直し、診療報酬対応も検討へ-社保審・医療保険部会(Gem Med)4.医療崩壊の危機迫る 物価高騰で7~8割の病院が赤字に/日本医師会医療機関の経営危機が深刻化し、2024年の倒産・廃業件数は過去最多の786件に達したことが帝国データバンクの調査で明らかになった。背景には、物価高騰や人件費上昇に対し、診療報酬の改定が追いついていない現状がある。日本医師会の松本 吉郎会長は、「今期は7~8割の病院が赤字になるか、赤字がさらに拡大する」と危機感を表明。2025年の春闘で「賃上げ率5%以上」が目標とされている中、「とても5%を出せる状況にはない」と指摘し、26年度の診療報酬改定で物価・賃金上昇への対応を求めた。病院団体も、厚生労働大臣に対し、「緊急的な財政支援や物価・賃金上昇に対応できる診療報酬制度の導入」などを要望。物価高騰や人件費上昇により病院の収支は大幅に悪化しており、このままでは経営破綻が続出すると警鐘を鳴らしている。医療機関の倒産・廃業増加は、医療提供体制の崩壊に繋がりかねない。とくに地方では、病院の休廃業により地域医療が逼迫するケースが増加。医師不足や高齢化も深刻化しており、地域住民の医療へのアクセスが困難になる可能性も懸念されている。政府は、病院建設向けローンの返済期間を最長39年に延長するなどの支援策を打ち出しているが、抜本的な解決には至っていない。医療機関の経営安定化には、診療報酬制度の見直しや、医療費負担の適正化、病院経営の効率化など、多角的な対策が必要となる。参考1)医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)(帝国データバンク)2)日医・松本会長「7、8割の病院が恐らく赤字に」骨太に「報酬改定で対応」記載目指す(CB news)3)病院経営は危機に瀕しており、「緊急的な財政支援」「物価・賃金上昇に対応できる診療報酬」などを実施せよ-5病院団体(Gem Med)4)医療機関の倒産や休廃業、昨年最多786件…コロナ禍後の行動変化や物価高騰・経営者の高齢化で(読売新聞)5.出生数70万人割れに、少子化対策は根本的な見直しへ/厚労省厚生労働省が1月24日発表した人口動態統計速報値によると、2024年1~11月の出生数は前年同期比5.1%減の66万1,577人となり、年間出生数が初めて70万人を割り込む可能性が強まった。少子化は近年加速しており、2019年に90万人を、2022年に80万人を割り込んだ。2023年は統計開始以来最少の72万7,277人を記録し、このままのペースで推移すると、2024年の出生数は70万人を下回ると予想される。この深刻な状況は、物価高による子育てへの経済的不安や未婚化・晩婚化の進行、新型コロナウイルス禍による結婚減少などが要因とみられる。さらに、ニッセイ基礎研究所の分析によると、少子化の進行速度は地域によって異なり、とくに東北地方などの地方圏では深刻化している。少子化対策として、これまで多くの自治体が出生率向上を目標に掲げてきたが、同研究所は「出生率の低さと少子化速度に相関関係はない」と指摘する。背景には、東京圏への若年女性の流出による「社会減」がある。地方圏では、雇用機会の不足や賃金の低さなどから、若い女性が就職を機に都市部へ流出。その結果、地方では結婚や出産の機会が減少し、少子化が加速するという悪循環に陥っている。このため、少子化の根本的な原因に対処する必要があることを強調している。具体的には、若年女性の雇用問題や、結婚・出産を希望する人々への経済的支援、子育てしやすい環境作りなどが課題として挙げられる。政府は少子化対策に力を入れているものの、出生数の減少に歯止めがかからない状況だ。社会構造の変化に対応した、より効果的な対策が求められている。参考1)人口動態統計速報[令和6年11月分](厚労省)2)2013~23年 都道府県出生減(少子化)ランキング/合計特殊出生率との相関は「なし」(ニッセイ基礎研究所)3)出生数、初の70万人割れへ 24年、1~11月は66万人(共同通信)6.栗原市の3病院で1,300万円超未払い 給与計算の誤り/宮城県宮城県栗原市の3つの市立病院で、医師や看護師らに対する時間外手当などの未払いが明らかになった。2024年4~10月分の未払い額はのべ720人、総額1,343万円に上る。同様の事案は、昨年8月に大崎市民病院で発覚しており、公立病院における給与計算の誤りが改めて浮き彫りとなった。栗原市によると、時間外手当などを算出する際、診療手当や研究手当などを基礎賃金から除外していたことが原因。これは、国家公務員の給与体系を参考にしているためとみられる。しかし、国家公務員には適用されない労働基準法が地方公務員には適用されるため、今回の未払いは法令違反となる。栗原市は未払い分を12月にすでに支給し、11月分からは正しい算出方法で支払っているという。また、合併した2005年から算出方法に誤りがあったとして、今後、労働基準監督署と相談し、過去の未払い分についても検討していく方針。大崎市民病院の事案を受け、大分県立病院でも同様の未払いが発覚している。全国的に国家公務員の給与体系を参考にしている地方自治体は少なくないとみられ、未払い問題が他地域にも広がる可能性がある。専門家は、地方公務員への労働基準法の適用について、周知徹底の必要性を指摘。また、給与計算システムの見直しや、担当職員の研修など、再発防止に向けた取り組み強化を求めている。参考1)栗原市の3つの市立病院で時間外勤務手当など未払い(NHK)2)公立病院でまた残業代の未払い発覚 国家公務員の制度参照が原因か(朝日新聞)

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第246回 WHOが封じ込めてきた“ある感染症”、アメリカの脱退で水の泡か?

1月20日、アメリカではドナルド・トランプ氏がついに第47代大統領に就任した。就任前から大統領令を乱発するだろうと予想されていたが、就任当日いきなり世界保健機関(WHO)から脱退することを定めた大統領令に署名した。もっともご存じのように、トランプ大統領のWHO脱退宣言は今回が初めてではない。前回の第45代大統領期(2017~2021)の2020年4月、新型コロナウイルス感染症に関連し、WHOが意図して中国寄りの姿勢をとっていると批判。その姿勢が対応の遅れと全世界的なパンデミックを招いたとして同年7月、1年後の2021年7月にWHOから脱退する大統領令に署名した。だが、この年に行われた大統領選でジョー・バイデン氏に敗退し、翌2021年1月にバイデン大統領が就任すると、トランプ氏によるWHO脱退の大統領令は即刻撤回され、実現には至らなかった。ちなみに、なぜトランプ氏の大統領令が1年後の脱退だったかというと、1948年に米国連邦議会上下両院合同会議で採択されたWHOからの脱退については、1年前の通告と分担金の支払いを終えることが条件となっていたからだ。さすがのトランプ氏も過去の決議を破ることまではできなかったということだ。しかし、今回はこれから4年の大統領任期があるため、脱退が現実のモノとなるのは必至の情勢である。トランプ大統領が新型コロナ対応でWHOの姿勢を非難した根拠となったのが、2019年12月末という早い段階で台湾当局がWHOに提供していた中国・武漢での新型コロナ発生状況の文書だ。2020年4月に台湾当局はこの文書を公開したが、そこには確認された患者が隔離措置を受けていると記述されていた。これについてWHOは「ヒトからヒトへの感染について言及はなかった」とし、一方の台湾当局は「隔離措置を受けているという情報からヒト・ヒト感染は容易に想像できたはず」と主張。ほぼ水掛け論となっている。結果責任だけを問うならば、少なくとも3月までパンデミック宣言を行わなかったWHOの危機意識は適切でなかったと言えるが、実のところ当時のトランプ大統領も新型コロナの脅威を意図的に軽視していたことは、後に米紙ワシントン・ポストの編集委員であるボブ・ウッドワード氏が本人にインタビューして出版した書籍で明らかにされている。そもそも2020年2月段階では中国の対応を半ば評価していたトランプ大統領が“豹変”するのは、アメリカに感染が拡大して大混乱となった2020年4月以降で、どうみても他責である。アメリカのWHO脱退が招く問題さて今回、アメリカのWHO脱退が現実になると、まず予算が直撃を受ける。WHOの予算は各国の分担金と任意の拠出金などから構成されているが、アメリカから提供された資金は22~23年時を見ると予算総額の約15%にあたる12億8,400万ドル(日本円でおよそ2,000億円)。これがなくなると多方面に影響が出ると考えられるが、その際たるものとして個人的に危惧するのが、「ポリオウイルス封じ込めのための世界的行動計画(GAP)」への影響である。GAPはWHOでもっとも多くの予算がつぎ込まれている事業の1つだ。すでにポリオ撲滅に関しては、ほぼ最終段階にきている。現時点で野生株ポリオウイルス(1型)の常在国はアフガニスタンとパキスタンの2ヵ国のみ。2022年の両国での野生株による発症確認はアフガニスタンが2例、パキスタンが20例で、ほかにこの地域から伝播したとみられる症例がアフリカのモザンビークやマラウイでごく少数確認されたのみ。むしろ全世界的に見ると、現在は生ワクチン由来のウイルス株による感染確認のほうが多く報告されている。このため現在のポリオ撲滅作戦は常在2ヵ国での封じ込めと各国での不活化ワクチンへの切替えや保管中の不要なウイルス株の廃棄に移行している。しかし、ここでの不安要素は少なくない。まず、常在国のアフガニスタンは今も政情不安定で、疫学データの信頼性にも疑問符が付く。さらにワクチン株の感染者が多数報告されている中部・南部アフリカの各国は、公衆衛生関連の行政機関はまだ脆弱である。その意味でいずれも先進国が提供する資金と人材は欠かせない。こうした最終局面でアメリカの資金がWHOに入らなくなれば、GAPが行う事業は先細りしかねない。そんなこんなもあり、私自身は胸騒ぎがしてならないし、今後ポリオの感染動向は今まで以上に注視していこうと考えている。

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新生児マススクリーニングでみつかる長鎖脂肪酸代謝異常症/ウルトラジェニックス

 希少疾病の分野に特化し、多様な治療薬の研究・開発を行うウルトラジェニックスは、希少疾病啓発事業の一環として、「長鎖脂肪酸代謝異常症」をテーマにメディアセミナーを開催した。 長鎖脂肪酸代謝異常症は、運動や空腹などで体内のエネルギー需要が増加するような状況で突然発症することが多い疾患で、わが国では毎年数十人の新患が発生していると推定されている。セミナーでは、専門医からの疾患説明と患者会から患者の現状などについての講演が行われた。心筋症、横紋筋融解症、色素性網膜症などを呈する希少疾病 「長鎖脂肪酸代謝異常症(long-chain fatty acid oxidation disorders:LC-FAOD)」をテーマに大石 公彦氏(東京慈恵会医科大学小児科学講座 主任教授)が、疾患の病態と診療について説明した。 LC-FAODは、長鎖脂肪酸の輸送や分解が障害されることでミトコンドリアでのエネルギー産生不足が生じる疾患。脂肪酸は、心臓、肝臓、骨格筋にとって主要なエネルギー源であり、ミトコンドリアでの脂肪酸酸化は、空腹時や代謝ストレス時の重要なエネルギー供給源となる。これがうまくできないことで、入院、緊急治療、さらには突然死を生じる可能性が出てくる(乳幼児では乳幼児突然死症候群[SIDS]と間違われることがある)。 LC-FAODは、常染色体潜性遺伝疾患であり、父親と母親から変異遺伝子を受け継いだ場合に発症する。患者数は、米国で毎年約100例が、わが国では毎年約10~50例の新生児が本症と診断されている。 LC-FAODは、脂肪によるエネルギー代謝に依存する臓器からさまざまな症状を示すが、主に次の5つの症状がある。(1)心筋症 左心室の筋肉の肥厚が初期に観察されることがあり、拡張型心筋症に進行する可能性がある。また、時には心嚢液貯留を伴う場合もあり、不整脈が心筋症の有無に関わらず発生することがある。(2)横紋筋融解症/骨格筋障害 筋肉痛、筋緊張低下、運動不耐性、ミオグロビン尿、反復性横紋筋融解症がみられることがある。また、これらの症状は持久力を要する運動によって誘発されることが多いが、麻酔やウイルス感染後にもみられることもある。(3)非ケトン性低血糖 時には、けいれん、昏睡、脳損傷を引き起こすことがある。また、肝機能障害(トランスアミナーゼ上昇、肝腫大、高アンモニア血症)と組み合わさって観察されることがよくある。(4)末梢神経障害 とくに三頭酵素欠損症(TFP欠損症)ではより頻繁にみられる(80%以下の患者が何らかの末梢神経障害を持つ)。また、LCHAD単独欠損症の患者では、5~10%が不可逆的な末梢神経障害を発症する。(5)色素性網膜症 LCHAD単独欠損症の患者でよくみられ、30~50%以上の患者が不可逆的な網膜症を発症する。また、約50%で2歳までに網膜に色素変化がみられる。 LC-FAODの臨床表現型は時間とともに変化し、成人期に診断された場合と小児期に診断された場合で異なることがある。また、急激に発生し、入院、救急受診、緊急治療、さらには突然死を引き起こす可能性があり、同じ種類の疾患、さらには同じ疾患を持つ家族内でも、徴候や症状の多様性がみられるのが特徴的である。 心筋症は新生児期から成人期を通じてみられ、低血糖・肝障害は新生児期~青年期に、筋力低下・横紋筋融解症は青年期~成人期でみられる。 LC-FAODの診断について新生児スクリーニング(NBS)では、生後数日以内に乾燥血液スポットを採取し、タンデムマススクリーニングでアシルカルニチンプロファイルを分析。血漿アシルカルニチンの測定により診断ができる。一方で、アシルカルニチン結果が正常な場合や診断確認のために遺伝子検査を実施するが、酵素アッセイなどの生化学的検査などでは、技術的に困難であり時間がかかる場合がある。 とくに新生児では、非典型的な症状が多いためにマススクリーニングが本症の早期発見・早期介入のためには重要となる。実際、多くの研究報告で、NBSによりLC-FAOD患者の予後が改善したこと、NBSで発見された患者の死亡率は、症状発現後に診断された患者よりも低かったことなどが報告されている。 LC-FAODの治療では、現在中心として行われているのは、「空腹を避けること」と「長鎖脂肪酸の摂取量を制限すること」である。また、急性期には、早期入院によるグルコース点滴も行われる。そのほか、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)を含んだ食品の摂取も行われ、最近では、米国でトリヘプタノイン治療の研究が行われている。 最後に大石氏は、患者が直面している課題として、「長期間、原因不明の症状に苦しんでいる患者さんの存在」、「適切な治療に辿り着けない問題」、「困難な食事療法と社会的な孤独感」、「社会的・心理的負担」、「疾患認知度の低さと医療資源の限界」などがあると示し、講演を終えた。社会認知度の低い希少疾病にも関心を 「患者家族からみた長鎖脂肪酸代謝異常症をテーマに、柏木 明子氏(有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会 ひだまりたんぽぽ 代表)が、患者・患者家族視点からの課題や悩み、医療などへの要望を語った。 自身の子供が「メチルマロン酸血症」を発症しており、そのことで患者会を設立した経過を説明。患者会に寄せられた声から新生児マススクリーニングの重要性などを訴えた。また、LC-FAODなどのCPT2欠損症などの疾患で発症を予防するために「哺乳を含め食事間隔を空けないこと」と「シックデイはすぐに点滴を」と家族などが注意すべき事項を説明した。その他、特殊ミルクやMCTについて「治療食の入手が簡単ではないこと、コストが高いこと、質の信頼性が担保されていないこと」などの現在の問題点を指摘した。 最後に柏木氏はまとめとして「医療従事者に病気の理解が十分浸透していないことを感じている」、「発症の予防などには主治医一人ではなく多職種の連携体制が必要である」、「社会的認知のない疾患では、子供の預け先や保育園をみつけることが困難である」、「生命予後は改善したが、成人診療科が存在しない」など課題と要望を述べ、講演を終えた。

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高齢患者の抗菌薬使用は認知機能に影響するか

 高齢患者の抗菌薬の使用は認知機能の低下とは関連しないことが、新たな研究で明らかにされた。論文の上席著者である米ハーバード大学医学大学院のAndrew Chan氏は、「高齢患者は抗菌薬を処方されることが多く、また、認知機能低下のリスクも高いことを考えると、これらの薬の使用について安心感を与える研究結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Neurology」に12月18日掲載された。 研究グループは、人間の腸内には何兆個もの微生物が存在し、その中には認知機能を高めるものもあれば低下させるものもあると説明する。また、過去の研究では、抗菌薬を使用すると、腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性のあることが示されているという。Chan氏は、「腸内細菌叢は、全体的な健康の維持だけでなく、おそらくは認知機能の維持にも重要とされている。そのため、抗菌薬が脳に長期的な悪影響を及ぼす可能性が懸念されている」と話す。 今回の研究でChan氏らは、低用量アスピリンの毎日の使用が健康に与える影響を検証する臨床試験のデータを用いて、抗菌薬の使用と認知機能との関連を検討した。対象は、最初の2年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった70歳以上の健康なオーストラリア人高齢者1万3,571人(平均年齢75.0歳、女性54.3%)。Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)コードを基に、対象者の追跡期間中における抗菌薬の使用を特定したところ、約63%が2年間に少なくとも1回は抗菌薬を使用していた。 2年間の追跡調査終了後、対象者は中央値で4.7年間追跡された。その間に、461人が認知症を発症し、2,576人が認知機能障害はあるが認知症ではない状態を指すCIND(cognitive impairment, no dementia)と診断されていた。社会人口統計学的特徴やライフスタイル因子、認知症の家族歴、試験開始時の認知機能、認知機能に影響を与えることが知られている薬剤の使用を考慮して解析した結果、抗菌薬使用者では非使用者に比べて、認知症リスク(ハザード比1.03、95%信頼区間0.84〜1.25)やCINDリスク(同1.02、0.94〜1.11)の有意な上昇や認知機能スコアの有意な低下は認められなかった。また、抗菌薬の累積使用頻度、長期使用、特定の抗菌薬クラス(β-ラクタム系、テトラサイクリン系、サルファ剤など)や、リスク因子に基づき分類されたサブグループにおいても、抗菌薬の使用と認知機能との間に有意な関連は認められなかった。 このような結果が示されたとはいえ、Chan氏および付随論評の著者である米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のWenjie Cai氏とAlden Gross氏は、「さらなる研究で、抗菌薬の使用と認知機能低下との間に関連性はないことを確かめる必要がある」と述べている。Chan氏は、今回の研究の限界点として、対象者の追跡期間が短期間であった点を挙げ、より長期間の研究を実施して、抗菌薬の使用が長期的に脳の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する必要があるとしている。 また、Cai氏らは、「この研究は処方箋の記録に依存しているため、対象者の実際の抗菌薬の使用状況を正確に追跡することはできなかった」ことを別の限界点として挙げている。その上で同氏らは、今後の研究では、抗菌薬の正確な投与量と使用期間を記録し、潜在的な用量反応関係を調査すること、また、異なるクラスの抗菌薬とその相互作用が認知機能に与える影響を調査することの必要性を強調している。

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抗インフルエンザ薬は今いずこ?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第143回

インフルエンザが猛威を振るうなか、患者の増加に伴って各所で抗インフル薬不足の悲鳴があがっています。そろそろピークは越えたかなという気もしてきましたが、薬不足はいつまで続くのでしょうか?厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は1月9日、抗インフルエンザウイルス薬の適正な使用と発注に関する協力依頼を都道府県宛に事務連絡した。インフルエンザ流行に伴い抗インフル薬の需要が急増していることから、過剰な発注を控えるよう求めた。(中略)とくに経口薬が供給不安に陥っており、吸入薬の利用が可能な5歳以上の患者に対しては吸入薬の処方も検討するように促した。(2025年1月10日付 RISFAX)インフルエンザは昨年11月ごろから全国的な流行シーズンに入りました。12月29日からの1週間に全国約5,000の定点医療機関で報告されたインフルエンザ患者数は1医療機関当たり64.39人となり、現行の統計開始の1999年以降で最多となりました。年明けには減りましたが、今後はB型の流行も懸念されています。このような中、厚生労働省は1月9日の事務連絡で、医療機関は必要量に見合う量のみを購入すること、吸入薬の利用が可能な5歳以上のインフルエンザ患者にはドライシロップではなく吸入薬の処方を検討することなどを求めています。しかし、タミフルやその後発医薬品が出荷停止や限定出荷となるだけでなく、イナビルやゾフルーザも限定出荷となるなど、薬不足は長引いています。以前、タミフルカプセルとタミフルドライシロップは長期保存試験の結果に基づいて使用期限が10年に延長され、在庫しやすくなり廃棄は減ったはずです。それでも供給が不足しているというのですから、本当に爆発的な感染拡大だったのでしょう。ここでも後発医薬品の供給不足が影響しており、やはり根本的な薬価などの対策が必要と思わざるを得ません。なお、厚生労働省によると、今年度の予定供給量は前年度を上回っていることや、メーカーや卸には在庫があることなどから、現時点では備蓄を開放する予定はないようです。患者さんのために抗インフルエンザ薬を入手してあげたいと思う気持ちは全国どこの薬局でも同じです。過剰な発注は控え、入手できたかどうかであまり一喜一憂せず、基本的な手洗い・うがいの励行、マスクの着用、周りに2次感染させない対策といった基本的なことを伝えていきたいと思います。

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酔っ払い? ン? 元酔っ払い?【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第2回

酔っ払い? ン? 元酔っ払い?Point外傷の病歴や、疑う所見を入念に確認すべし。時間経過で症状の改善が確認できるか?普段の飲酒後とは異なる腹部症状や、意識変容がないか?症例45歳男性。夜中の1時に歓楽街の路地裏で嘔吐を繰り返し、体動困難となっていたところを通行人に発見され救急搬送された。来院時は吐物まみれで臭いも酷かったが、本人は本日の飲酒は大した量でないという。頭部CTで頭部内病変がないことのみ確認し、外来の診察室で寝かせておくことにした。数時間後に様子を伺いに行くと嘔気・嘔吐が改善していないどころか頻呼吸、頻脈も認め、強い腹痛を訴えていた。慌てて施行した血液検査でアニオンギャップ開大のアシドーシスを認め、速やかにビタミンB1と糖の補充、補液を開始した。半年前に妻に捨てられてから自暴自棄となりアルコール漬けの日々を送っていたが、来院3日前から食欲不振があり、景気付けにと繁華街に繰り出したとのことだった。入院時のスクリーニングでCAGE 3点とアルコール依存症が疑われため、ベンゾジアゼピンの予防内服も開始し、本人に治療希望あったため精神科受診の手配もすすめられた。おさえておきたい基本のアプローチ酔っ払い患者だから、と門前払いしたり先入観をもったりするのは避け、むしろ普段より検査も多めにして、慎重に診察にあたり表1に挙げた疾患の可能性を評価しよう。表1 急性アルコール中毒を疑った際の鑑別疾患実際の診療現場では、患者は指示に応じないどころか悪態をつくなど、とても診察どころではない状況も多々あるが、モニター装着のうえ人目につく場所でこまめに様子を観察しよう。意識レベルの経時的な改善がなければ、ほかの原因を考慮すべきだ1)。図1にERでの対応の流れの一例を提示する。図1 ERでの対応の流れの一例画像を拡大する救急の原則はABCの確保にあり、泥酔患者に対してもまずは気道、呼吸、循環が安定していることを確認するようにしたい。外傷診療で生理学的異常、その後解剖学的異常を評価する流れに似ている。アルコール自体で呼吸抑制を来すには血中アルコール濃度(blood alcohol level:BAL)が400mg/dL以上とされ、めったに出くわさないが、吐物などによる窒息の危険は高く、気道確保の必要性について常に考慮しておく。友達が酔っぱらっていたら仰臥位に寝かさずに、昏睡体位をとろう。意識障害の対応の基本である血糖checkも忘れないようにする。糖尿病や肝硬変が背景になければアルコール自体による低血糖の発症は多くないのだが、小児ではその危険性が増すため2)、誤って口にしてしまった場合などではとくに注意したい。血糖補正の際は、ウェルニッケ脳症予防のために、ビタミンB1の同時投与も忘れずに。酔っ払いにルーチンに頭部CTをとっても1.9%しかひっかからない3)。したがって表2のように、外傷の病歴や、頭部外傷、頭蓋底骨折を疑う所見を認める際に頭部CTを施行するようにする。中毒患者では頸椎骨折の際に頸部痛や神経所見があてにならないケースがあるので、頸部もあわせてCTで評価してしまおう。表2 頭部CTを早期に施行すべき場合頭蓋底骨折を示唆する所見がある(raccoon's eye、バトル徴候、髄液漏、鼓膜出血)頭蓋骨骨折が触知できる大きな外力(転倒などではない)による外傷歴があり、意識変容を認めるBALで予測されるよりも意識状態が悪い意識レベルが著明に低下(GCS※≦13)しており、頭部外傷の病歴や懸念があるGCSが低下していく神経局在症状がある※GCS(Glasgow Coma Scale)落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsBALはルーチンで測定しないアルコール中毒自体の診断にBALを測定する意義は限定的で、そもそも筆者の施設では測定ができない。GCSの低下をきたすのはBAL≧200mg/dLであったという前向き研究の結果があり4)、前述のように意識障害の鑑別としてアルコール以外の要因を考慮するきっかけにはなる。PointBAL測定は意識障害にほかの鑑別を要するときに直接の測定が困難な場合、浸透圧ギャップ(血清浸透圧-計算上の浸透圧:通常では体内に存在していない物質分の浸透圧が上昇しているため、ギャップが開大する)から算出が可能であり、とくにエタノール以外のアルコール属中毒の際に参考となる。くれぐれも飲酒運転を警察に密告するために用いてはならない。直接治療に関連のない行為を行い、その結果を本人の同意なく第三者に伝えることは守秘義務違反に抵触する。酔い覚ましに…だけの補液は推奨されない二日酔いの朝イチは3号液+ビタミン剤の点滴に限る…なんて先輩からアドバイスを受けたことがある者は少なからずいるだろうが、アルコールの代謝を担うアルコール脱水素酵素は少量のアルコールで飽和状態になってしまうため、摂取した量にかかわらず、体内では20〜30mg/dL/時程度の一定の速度でしかアルコールを代謝できない。Point補液は泥酔患者のER滞在時間を短縮しないアシドーシスや膵炎合併、脱水症など、それ以外に補液を施行すべき病態があれば別だが、泥酔患者でアルコールの代謝を早める目的のみで補液を施行することに効果はなく、ER滞在時間を短縮する結果とはならないことが報告されている5)。アルコール常習犯への対応は慎重に急性アルコール中毒にルーチンで血液検査を行う必要はないが、とくにアルコール依存患者や肝不全合併患者では、血液検査で肝機能や電解質(低マグネシウム血症や低カリウム血症)を確認する。合併症の1つであるアルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis:AKA)は、アニオンギャップ開大のアシドーシス所見が決め手ではあるが、嘔吐による代謝性アルカローシス、頻呼吸による呼吸性アルカローシスを合併し、解釈が単純ではない場合がある。ここ数日経口摂取できていない、嘔気・嘔吐、腹痛があるなどの臨床症状から積極的に疑うようにしたい。AKAの治療は脱水の補正と糖分の補充であり、それ自体では致死的な病態とならない。経過でアシドーシスが改善してこないようなら表3の鑑別疾患も念頭に置きたい。なお、ケトン体の存在の確認に試験紙法による尿検査を使用しても、血中で増加しているβヒドロキシ酪酸は反応を示さないので注意されたい。表3 アルコール性ケトアシドーシス(AKA)の鑑別疾患糖尿病性ケトアシドーシス重症膵炎メタノール、エチレングリコール中毒特発性細菌性腹膜炎ワンポイントレッスンアルコール離脱症候群アルコール常用者で、飲酒から6時間以上間隔が空いた際に出現する交感神経賦活症状(発汗、頻脈など)、不眠、幻視、嘔気・嘔吐、手指振戦、強直間代性発作で鑑別に挙げる。診断基準はDSM-5で定められているので参照いただきたい。慢性的なアルコール飲酒は脳内のGABAA受容体の感受性低下とNMDA受容体の増加を起こしており、アルコール摂取の急激な中止により興奮系であるNMDA受容体が活性化して症状が出現する。図26)のような時間経過で振戦せん妄へと移行していくが、早期に治療介入することで予防できる。図2 アルコール離脱症候群の重症度と時間経過画像を拡大する軽症症状は見逃がされやすく、またけいれんは飲酒中断後早期から生じ得るため注意が必要だ。治療の基本はベンゾジアゼピン系で、アルコールと同様にGABAA受容体に作用させ興奮を抑制させる。けいれん発作中ならジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)5〜10mgの静注を行うが、ルート確保困難な際はこだわらず、ミダゾラム(同:ドルミカム)10mgの筋注・口腔内・鼻腔内投与を行う。内服投与の際には、より作用時間の長いジアゼパム(代謝産物まで抑制効果を有する)やクロルジアゼポキシドを選択すればよい。アルコールの嗜好歴がある患者が入院する際には、アルコール依存のスクリーニングに有用7)なCAGE質問スクリーニング(表4)8)を用いて離脱予防の適応を判断しよう。表4 CAGE質問スクリーニング画像を拡大するウェルニッケ・コルサコフ症候群、脚気心慢性のアルコール摂取状態ではアルコール代謝においてビタミンB1が消費されるようになり、まともな食事を摂らなくなることも合わさりビタミンB1欠乏症を生じる。このうち神経系異常を引き起こしたものがウェルニッケ・コルサコフ症候群(dry beriberi)、心血管系異常を引き起こしたものを脚気心(wet beriberi)で、両者のオーバーラップも起こり得る。ウェルニッケ脳症は急性で可逆的とされる脳症のため積極的に疑い治療介入をしたいところだが、古典的3徴とされる眼球運動障害(眼球麻痺・眼振)、意識変容、失調のすべてを満たすものは16%だったとの報告もあり9)、これにこだわると見逃しやすい。Caineらが報告した診断基準(表5)は感度85%、特異度100%と報告されており10)、ぜひとも押さえておきたい。ビタミンB1は水溶性で必要以上の量は腎排泄されるので、疑えば治療doseである高用量チアミンで治療開始してしまおう。表5 ウェルニッケ脳症診断基準勉強するための推奨文献Sturmann K, et al. Alcohol-Related Emergencies: A New Look At An Old Problem. Emergency Medicine Practice. 2001;3:1-23.Muncie HL, et al. Am Fam Physician. 2013;88:589-595.参考1)Nore AK, et al. Tidsskr Nor Laegeforen. 2001;121:1055-1058.2)Lamminpaa A. Eur J Pediatr. 1994;153:868-872.3)Godbout BJ, et al. Emerg Radiol. 2011;18:381-384.4)Galbraith S, et al. Br J Surg. 1976;63:128-130.5)Homma Y, et al. Am J Emerg Med. 2018;36:673-676.6)Kattimani S, Bharadwaj B. Ind Psychiatry J. 2013;22:100-108.7)Fiellin DA, et al. Arch Intern Med. 2000;160:1977-1989.8)Ewing JA. JAMA. 1984;252:1905-1907.9)Harper CG, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1986;49:341-345.10)Caine D, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997;62:51-60.執筆

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第250回 エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いている

エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いているエムポックスに適応を有する抗ウイルス薬tecovirimatをこの年末に日本が承認したことに専門家が驚いています1)。というのも、昨年に結果が判明した無作為化試験2つ・PALM007試験とSTOMP試験のどちらでもエムポックス治療効果が認められなかったからです。東京の日本バイオテクノファーマが先月12月27日に日本でのtecovirimatの承認を手にしました2,3)。日本での商品名はテポックスで、適応にはエムポックスに加えて、痘そう、牛痘、痘そうワクチン合併症の治療を含みます。コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)での無作為化試験であるPALM007試験の結果は昨夏2024年8月に発表され、クレードIのエムポックスの小児や成人の病変消失の比較で残念ながらtecovirimatはプラセボに勝てませんでした4)。PALM007試験で対象としたクレードIはコンゴ民主共和国やコンゴ共和国(Republic of the Congo)などの中央アフリカのいくつかの国で多く5)、感染の病状はより重く、西アフリカで広まるクレードIIに比べて死亡率が高いことが知られます(クレードIIの死亡率は約4%、クレードIは約11%6))。先月12月に結果が速報されたもう1つの無作為化試験であるSTOMP試験はクレードIIのエムポックス患者を対象とし、病変消失までの期間がtecovirimat群とプラセボ群でやはり差がありませんでした7)。ヒトへ安全に投与しうるが効果のほどはわかっていなかった2022年に、欧州連合(EU)と英国は男性と性交する男性(MSM)におけるエムポックス蔓延を受けてtecovirimatを承認しています。その承認時にEUは新たな試験結果が判明したらその扱いを見直すとしており、実際PALM007試験とSTOMP試験の結果を俎上に載せると欧州医薬品庁(EMA)の部門長Marco Cavaleri氏は言っています1)。また、ブラジル、スイス、アルゼンチンで進行中の試験結果も検討されます。そういう状況で日本がtecovirimatを承認したことはなんとも不可解だとCavaleri氏は話しています。エムポックスの疫学、ワクチン、治療、政策に関する論文8)を昨年11月に発表したメリーランド大学の薬理学者John Rizk氏は、承認の経緯が不可解なことが多いのは承知しているが、それでも日本のtecovirimat承認には驚愕した(shocker to me)と言っています。EUと同様に2022年にtecovirimatを承認した英国はというと、異例な事態の下で承認された薬すべてを毎年見直すことにしているとScienceに伝えています1)。米国FDAはエムポックスへのtecovirimat使用を承認していません。しかし、生物兵器として悪用される恐れがある痘そう(smallpox)への使用を日本と同様に承認しています。tecovirimatのエムポックスと痘そうに対する効果の仕組みは同じであり、痘そうへの同剤の承認も再考が必要かもしれません。生物兵器の襲来に備えた治療は必要だと思うが、tecovirimatに頼るのは気乗りしないとSTOMP試験リーダーTimothy Wilkin氏は言っています1)。参考1)In a ‘shocker’ decision, Japan approves mpox drug that failed in two efficacy trials / Science 2)新医薬品として承認された医薬品について / 厚生労働省3)テポックスカプセル 200mg(Tecovirimat)製造販売承認を取得 / 日本バイオテクノファーマ株式会社4)NIH Study Finds Tecovirimat Was Safe but Did Not Improve Mpox Resolution or Pain / NIH 5)Epidemiology of Human Mpox ‐ Worldwide, 2018-2021 / CDC 6)Bunge EM, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2022;16:e0010141.7)The antiviral tecovirimat is safe but did not improve clade I mpox resolution in Democratic Republic of the Congo / NIH8)Rizk Y, et al. Drugs. 2025;85:1-9.

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第226回 インフルエンザ流行深刻化、医療現場は逼迫 子供の脳症にも注意/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ流行深刻化、医療現場は逼迫 子供の脳症にも注意/厚労省2.新型コロナ感染拡大に歯止めかからず、5年間で死者13万人、高齢者が96%/厚労省3.民間病院に300億円超の財政支援、物価高騰や人件費上昇に対応/東京都4.東京女子医大元理事長を逮捕 1億円超の背任容疑で/東京女子医大5.カテーテル治療後死亡の10件、病院側は医療事故を否定/神戸徳洲会病院6.2度の救急受診も適切な対応取らず後遺障害、病院に5,000万円賠償命令/彦根市立病院1.インフルエンザ流行深刻化、医療現場は逼迫 子供の脳症にも注意/厚労省現在、全国的にインフルエンザが流行し、医療現場は逼迫した状況にある。国立感染症研究所のデータによると、2024年12月29日までの1週間の感染者数は、1医療機関当たり64.39人と過去最多を記録した。年末年始を挟んで感染者数は減少したものの、依然として高い水準で推移しており、予断を許さない状況となっている。今冬の流行の要因として、コロナ禍でインフルエンザの流行が抑制されていたことにより、集団免疫が低下していることが考えられている。とくに、コロナ禍の間に生まれた0~4歳の抗体保有率が低いという調査結果も出ており、今後の感染拡大が懸念されている。現在流行しているウイルスは、2009年に「新型」として流行した「A型」(H1N1)だが、2月以降は「B型」が広がる可能性もあり、型が異なると再度感染する恐れもある。インフルエンザの感染拡大を受け、厚生労働省は治療薬の在庫状況を公表した。1月12日時点で、全国の医療機関における治療薬の在庫は約1,110万人分あり、当面の需要に対応できる見込み。ただし、インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(商品名:タミフル ドライシロップ)は供給不足の状態が続いており、厚労省は、同カプセルを調整して使用する場合には「院内製剤加算を算定できる」という見解を示している。インフルエンザの流行により、救急搬送が困難な事例も増加している。群馬県では、1月第2週(6~12日)の救急搬送困難事案が過去最多の159件に上った。また、インフルエンザ患者の増加により、多くの医療機関で病床が逼迫しており、東京都や島根県では、一部の病院で入院制限を行うなど、医療体制に影響が出ている。小児では、インフルエンザ脳症の発症に注意が必要である。けいれんや意識障害、異常行動などがみられる場合は、速やかに医療機関を受診する必要がある。また、高齢者や基礎疾患を持つ患者においても、インフルエンザは重症化のリスクが高いため、注意が必要。インフルエンザの流行は、今後もしばらく続く可能性があり、専門家は、今からでもワクチン接種などを推奨している。参考1)インフルエンザ流行レベルマップ 第2週(国立感染症研究所)2)2025年1月17日 直近1ヶ月間の通常流通用抗インフルエンザウイルス薬の供給状況について[1月12日時点](厚労省)3)インフルエンザ感染者、2週ぶり増加…現在流行の「A型」に続き2月以降は「B型」広がる可能性(読売新聞)4)子どものインフルエンザ脳症に注意を 意識障害や異常行動、重症化も(朝日新聞)5)「一気に増えた」インフル入院 コロナも増加、病院「高齢者に脅威」(同)6)インフルで病床逼迫 救急搬送困難最多159件、状況深刻 群馬県内(上毛新聞)7)インフル流行でタミフルドライシロップ等不足、タミフルカプセル調整使用で【院内製剤加算】等認める(Gem Med)2.新型コロナ感染拡大に歯止めかからず、5年間で死者13万人、高齢者が96%/厚労省新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が再び増加傾向にある。厚生労働省によると、1月12日までの1週間における定点1医療機関当たりの患者報告数は7.08人で、前の週から1.33倍に増加した。新規感染者数が増加するのは2週ぶりで、全国的な流行期に入ってから患者数が増加するのは4週連続。都道府県別では、岩手県が12.82人と最も多く、次いで宮城県(11.99人)、徳島県(11.51人)と続いている。1月12日までの1週間に、新たに入院した患者数は2,889人で、前の週と比べて295人増えた。厚労省は、冬休みが終わったことで、学校などで感染がさらに広がる恐れもあるとして、引き続き対策の徹底を呼びかけている。COVID-19の感染者が国内で初めて確認されてから、1月15日で5年になる。この5年間で、感染者数は7,000万人以上、死者は13万人に上ると推計され、このうち96%が高齢者となっている。専門家は、COVID-19は依然として脅威であり、高齢者や基礎疾患を持つ人にとってはとくに危険であると指摘している。また、若い人でも後遺症のリスクがあることから、引き続き感染対策を継続する必要があると呼びかけている。具体的には、手洗い、マスクの着用、咳エチケットなどの基本的な感染対策に加え、ワクチン接種も有効な予防策となる。参考1)新型コロナ患者数 前の週の1.33倍に 厚労省“対策徹底を”(NHK)2)新型コロナ患者が前週比1.6倍増 約3.5万人に-定点報告数は3割増の7.08人 厚労省(CB news)3)新型コロナ国内初確認から5年、死者13万人・高齢者が96%(読売新聞)3.民間病院に300億円超の財政支援、物価高騰や人件費上昇に対応/東京都東京都は、2025年度予算案に、都内の全民間病院を対象とした総額321億円の財政支援を盛り込む方針を固めた。コロナ禍後の病院経営は、物価高や人件費の上昇、患者数の減少により厳しさを増しており、医療提供体制の安定確保が課題となっている。都は、都内に約600あるすべての民間病院に対し、入院患者1人当たり1日580円を給付するほか、高齢患者の受け入れや小児科、産科、救急医療の体制確保に対する支援を行う。1病院当たりの給付額は最大で2億円に達する見込みで、いずれの支援も1~3年間の時限措置となる。小池 百合子知事は、「本来は国が診療報酬の改定などで対応すべきものだが、緊急的、臨時的な対応として都内の物価を考慮した支援を行う」と述べている。病院経営は、物価高騰による光熱費や食材費の増加、人手不足による人件費の上昇、コロナ禍の収束後も続く患者の受診控えなどにより、悪化の一途をたどっており、都病院協会のアンケート調査によると、2023年度上半期に赤字だった都内の病院は49.2%に上り、前年同期より17.2ポイント上昇していた。こうした環境を踏まえ都は、安定的な医療体制を支えるには、民間病院への早急な財政支援が不可欠と判断し、今回の財政支援を決定した。高齢化が進む中、医療需要は増加が見込まれる一方、医療従事者の不足や病院の経営難など、医療提供体制の維持には多くの課題がある。都では、今回の財政支援により、医療機関の経営安定化を支援し、都民への医療提供体制の確保を目指すとしている。参考1)東京都 物価高騰対策等で民間病院に321億円支援 来年度予算は約9兆1,500億円(テレビ朝日)2)東京都、都内の全民間病院に総額300億円超の財政支援へ…医療提供体制の安定確保へ(読売新聞)4.東京女子医大元理事長を逮捕 1億円超の背任容疑で/東京女子医大東京女子医科大学元理事長の岩本 絹子容疑者(78)が、大学の資金約1億1,700万円を不正に流用したとして、1月13日に背任容疑で警視庁に逮捕された。岩本容疑者は、2014年に副理事長に、2019年には理事長に就任し、大学病院で起きた医療事故の影響で赤字に転落した大学の経営再建を主導した。しかし、その過程で、人事や経理などの権限を集中させ、「女帝」と呼ばれるほどの強権的な体制を築き、不透明な資金運用を行っていた疑いが持たれている。具体的には、2018年7月~2020年2月にかけて、新校舎建設工事を巡り、1級建築士の男性に実態のないアドバイザー業務の報酬として、大学に約1億1,700万円を支払わせ、その一部が岩本容疑者に還流していたとみられている。警視庁は、2023年3月に大学関係者から告発を受け捜査を開始し、2024年3月には大学本部や岩本容疑者の自宅などを家宅捜索した。その後、押収した資料などを分析した結果、今回の逮捕に至った。大学側は、岩本容疑者の逮捕を受け、謝罪し、再発防止に努めるとしている。警視庁では、岩本容疑者が、大学に他にも損害を与えた疑いがあるとみて、捜査を進めている。参考1)元理事長の逮捕について(東京女子医大)2)東京女子医大の岩本絹子元理事長を逮捕、新校舎工事で不正支出疑い 費用の一部還流か(産経新聞)3)東京女子医科大 元理事長 足立区の病院建設でも5,000万円還流か(NHK)4)岩本絹子容疑者が「5,000万円狙い」で東京女子医大理事会で「工作」(東京新聞)5)東京女子医大元理事長、不正資金送金用の専用口座作らせる…3,700万円自身に還流(読売新聞)5.カテーテル治療後死亡の10件、病院側は医療事故を否定/神戸徳洲会病院神戸徳洲会病院は、カテーテル治療後に患者が死亡した事例など10件について、外部専門家を含む院内検証の結果、医療事故には該当しないと発表した。同病院では2023年1月以降、カテーテル治療後に患者が死亡するなどの事例が12件発生し、うち3件は医療過誤と認められていた。今回検証された10件のうち9件は死亡事例だったが、病院側は「カテーテル検査や治療が死亡の原因になったものはない」と結論付けた。また、治療中に冠動脈損傷の合併症を引き起こした1件についても、処置は適切だったとしている。その一方で、患者や家族への説明が不十分だったことや、医師1人で治療方針を決めていた体制などについては問題があったと認めた。また、残る2件については、第三者による調査などを行い、引き続き医療事故に当たるかどうか検証を進めるとしている。検証対象のうち、唯一の生存例である80代女性は、カテーテル手術後に血管損傷が起こり、術後は息苦しさに襲われたと証言している。病院側は報告書で、血管損傷について「合併症として想定されるもの」と結論付けたが、女性は病院の説明に納得していない様子。カテーテルの専門医は、女性の血管損傷について「合併症は非常にまれで、あっても血がにじむ程度。医師は明らかに訓練不足」と指摘し、報告書でその点への言及がないことを問題視している。神戸徳洲会病院では、2023年7月に循環器内科の男性医師が関わったカテーテル治療後、複数の患者が死亡していたことが発覚し、神戸市から改善命令を受けていた。その後、病院側は改善計画を提出しているが、今回の検証結果を受け、さらなる改善が必要となる可能性もある。参考1)調査報告 循環器内科カテーテル治療・検査に関する事例(神戸徳洲会病院)2)神戸徳洲会病院_カテーテル検査治療個別検証報告(同)3)神戸徳洲会病院 カテーテル治療10件“医療事故にあたらず”(NHK)4)死亡など10件「事故あたらず」…神戸徳洲会がカテーテル報告書公表(読売新聞)5)神戸徳洲会病院、10件「医療事故該当せず」患者死亡問題で見解公表(産経新聞)6.2度の救急受診も適切な対応取らず後遺障害、病院に5,000万円賠償命令/彦根市立病院彦根市立病院(滋賀県彦根市)で2019年、頭痛を訴えて2度にわたり救急受診した高齢女性に対し、医師が適切な検査を行わなかったため、慢性硬膜下血腫の診断が遅れ、女性に高度意識障害などの後遺症が残ったとして、大津地裁は1月17日、彦根市におよそ5,000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。女性は2度の受診時に「今までに経験したことがない頭痛」などと訴えていたが、医師は鎮痛剤などを処方し、帰宅させていた。2度目の受診の翌日、女性は意識障害を起こして救急搬送され、慢性硬膜下血腫などと診断されて手術を受けたが、後遺症が残ったという。判決で、大津地裁の池田 聡介裁判長は、女性が訴えていた症状や服用していた薬などから、医師は脳の病気などを疑うべきだったと指摘。遅くとも2度目の受診時にCT検査などを行っていれば、後遺症を回避できた可能性が高いとして、病院側の過失を認めた。女性は提訴後の2022年に老衰で死亡しており、遺族が訴訟を引き継いでいた。彦根市立病院は、「判決文が届いていないため、現時点ではコメントを差し控えます」としている。参考1)頭痛で受診した高齢女性めぐり病院運営する市に賠償命令 大津地裁「後遺症、回避できた可能性高い」(京都新聞)2)市に5,000万円賠償命令 彦根市立病院、診断ミスで重い後遺症 地裁(毎日新聞)

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