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重症血友病BにおけるAAV遺伝子治療、13年後の有効性・安全性は?/NEJM

 アデノ随伴ウイルス(AAV)を介した遺伝子治療は、血友病Bの有望な治療法である。米国・セントジュード小児研究病院のUlrike M. Reiss氏らは、2014年に、scAAV2/8-LP1-hFIXcoを単回静脈内投与した重症血友病Bの患者において、この遺伝子治療が成功したことを報告した。しかし、臨床的ベネフィットの持続性については不確実性が残っており、またAAVを介した遺伝子導入の長期安全性は不明であった。研究グループは、治療に成功した患者集団について入手できた追跡期間中央値13.0年のデータを解析し、第IX因子の発現は持続しており、臨床的ベネフィットは維持され、遅発性の安全性に関する懸念は認められなかったことを報告した。NEJM誌2025年6月12日号掲載の報告。患者10例に低用量、中用量、高用量のいずれかで遺伝子治療 研究グループは2010年3月~2012年12月に、重症血友病Bの男性患者10例(年齢範囲22~64歳)に対して、3用量群(低用量:2×1011ベクターゲノム[vg]/kg体重、中用量:6×1011vg/kg、高用量:2×1012vg/kg)のいずれかで、scAAV2/8-LP1-hFIXcoの単回静脈内投与を行った。 低用量で2例、中用量で2例、高用量で6例がそれぞれ遺伝子治療を受けた。 有効性のアウトカムは、第IX因子活性、年間出血率、第IX因子製剤使用などであった。安全性は、臨床イベント、肝機能、画像検査などで評価した。第IX因子活性は3用量群すべてで安定 2023年12月31日の追跡期間中央値13.0年(範囲:11.1~13.8)の時点において、第IX因子活性は3用量群すべてで安定していた。平均値は、低用量群1.7 IU/dL、中用量群2.3 IU/dL、高用量群4.8 IU/dLであった。 10例中7例は、補充療法を受けていなかった。 年間出血の中央値は、14.0件(四分位範囲[IQR]:12.0~21.5)から1.5件(0.7~2.2)へと9.7(IQR:3.7~21.8)分の1に減少していた。 第IX因子製剤の使用は、12.4(IQR:2.2~27.1)分の1に減少していた。 ベクター関連の有害事象は、計15件発現し、主にアミノトランスフェラーゼ値の一時的な上昇であった。第IX因子インヒビター、血栓症または慢性肝障害は、いずれの被験者でも発現が報告されなかった。 2件のがんが確認されたが、試験担当医師と専門多職種チームによって、ベクターとは無関係であると判断された。 被験者1例で、遺伝子治療10年後の肝生検において、肝細胞中に転写活性のある導入遺伝子の発現が認められたが線維化や異形成は伴っていなかった。 追跡期間中AAV8に対する中和抗体価は高いままであり、ベクターの再投与は阻害される可能性があることが示唆された。

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第267回 ワクチン懐疑派が集結、どうなる?米国のワクチン政策

やはり、トランプ氏より危険だった嫌な予感が的中してしまった。3回前の本連載で米国・トランプ政権の保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)について言及したが、「ついにやっちまった」という感じだ。前述の連載公開10日後の6月9日、ケネディ氏は米国・保健福祉省と米国疾病予防管理センター(CDC)に対してワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員を解任すると発表したからだ。アメリカでは政権交代が起こると官公庁の幹部まで完全に入れ替わる(日本と違い、非プロパーが突如、官公庁幹部に投入される)のが常だが、1964年に創設されたACIP委員が任期途中(任期4年)で解任された事例は調べる限りない模様である。一斉に解任された委員に代わって、ケネディ氏は新委員8人を任命した。このメンツが何とも香ばしい。ある意味、粒ぞろいの人選まず、ほぼ各方面から懸念を表明されているのが、国立ワクチン情報センター(National Vaccine Information Center:NVIC)ディレクターで看護師のヴィッキー・ペブスワース氏と医師で生化学者のロバート・W・マーロン氏の2人である。ペブスワース氏については、所属が「国立」となっているので公的機関のような印象を受けるが、完全な民間団体で従来からワクチン接種が自閉症児を増やすという、化石のような誤情報を声高に主張している。同センターによると、ペブスワース氏自身がワクチン接種で健康被害を受けた息子の母親であるという。マーロン氏は1980年代後半にmRNAの研究を行っていたとされ、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するmRNAワクチンの発明者だと自称している。その後は大学で教鞭をとったり、ベンチャー系製薬企業の幹部に就任したりしている。mRNAワクチンの発明者を自称しながら、今回のファイザーやモデルナのワクチンには否定的で、「最新のデータによると、新型コロナワクチン接種者は未接種者に比べて感染、発症、さらには死亡する可能性が高くなることが示されている。そしてこうしたデータによると、このワクチンはあなただけでなく、あなたのお子さんの心臓、脳、生殖組織、肺に損傷を与える可能性があります」などと主張している人物である。どこにそんなデータがあるのか見せてもらいたいが。これ以外でも、mRNAワクチンは若年者で死亡を含む深刻な害悪があると主張するマサチューセッツ工科大学教授のレツェフ・レヴィ氏、コロナ禍中の2020年10月に全米経済研究所が若年者などは行動制限せずに集団免疫獲得を目指すべきと政策提言した「グレートバリントン宣言」の起草者に名を連ねた生物統計学者のマーティン・クルドルフ氏とダートマス大学ガイゼル医学部小児科教授のコーディ・マイスナー氏も含まれている。意味不明な選出もこれだけワクチンを含む新型コロナ対策における亜流・異端のような人物たちが過半数を占め、驚くべき状況である。ACIPはケネディ氏の“趣味”仲間の井戸端会議になり果ててしまったと言ってよいだろう。残るのは元米国立衛生研究所(NIH)の所員で精神科医のジョセフ・R・ヒッベルン氏、元救急医のジェームズ・パガーノ氏、慢性疾患患者向けの治療薬投与システムを開発するベンチャー企業の最高医療責任者(CMO)で産婦人科医のマイケル・A・ロス氏だが、ケネディ氏の志向と合致する前述の5氏と比べれば、この3氏はなぜ選出されたのかも意味不明である。ただ、もともと感染症学や予防医学や公衆衛生学などの専門家に加え、消費者代表を加えてバランスを取っていた以前のACIPとはまったく異なる組織になったことだけは確かである。これから考えれば、昨今国会でキャスティングボードを握り始めた某野党の参議院選比例代表候補者にワクチン懐疑派の候補者が1人含まれているなどという日本の状況は、まだましなのかもしれない(もちろん私自身はそれを許容するつもりはないが)。

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MASH代償性肝硬変に対するefruxiferminの有用性(解説:相澤良夫氏)

 臨床肝臓病学の関心は、HCVを含む慢性ウイルス肝炎からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の治療に移りつつある。慢性C型肝炎/肝硬変は、抗ウイルス薬の進歩により激減しHCVの根絶も視野に入っているが、わが国に相当数存在するMASHに対し直接的に作用する治療薬は、今のところ保険収載されていない。しかし、中等度以上の線維化を伴うMASHは進行性の病態であり、MASH治療薬の登場が待ち望まれている。 このアンメットニーズに対して、米国FDAは肝硬変以外の中等度から高度の肝線維化を伴うMASH に対し、食事療法や運動療法と共に使用する肝臓指向性THR-βアゴニストのresmetirom(1日1回経口投与)を承認し、MASHの成因に根差した新たな治療戦略が確立されつつある。 efruxiferminを含むFGF(線維芽細胞増殖因子)21アナログはホルモン様の作用があり、さまざまな臓器に作用して糖・脂質代謝を改善する薬剤で、resmetiromと同様にMASHに対する治療効果が期待されている。今回のMASH代償性肝硬変を対象とした36週間の臨床試験(週1回の皮下注射)では線維化改善効果は認めなかったが、より長期(96週間)に治療された症例では有害事象の増加なしに疾患活動性が制御され、線維化が改善する可能性が強く示された。今後は、エンドポイントを96週あるいはさらに長期に設定した治療研究が期待される。 C型代償性肝硬変では、HCVが排除されてから長期間(5年程度)経過すれば肝硬変の線維化が改善することが示されている。今回の試験では、同様の事象がMASH肝硬変でも生じる可能性が示され、従来は非可逆的な病変とされていた肝硬変も可逆的な病変で、病因が長期にわたって制御されれば改善しうる可逆性の病変であるという、パラダイムシフトが起こりつつあることが実感された。 なお、この研究には燃え残り(肝臓の線維化が進んで脂肪沈着が減少、消失した状態)のMASH肝硬変も20%未満含まれ、治療効果は典型的なMASHと差がなかった。この結果は、多様な薬理作用を有するefruxiferminの汎用性を示唆するものと考えられ、efruxiferminを含むFGF21アナログ製剤やTHR-βアゴニストがわが国の臨床現場でも早急に使用できるようになることが期待される。

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長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効

長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効中国の長寿の村で見つかった細菌が、プラセボ対照無作為化試験でうつ病や鼻炎の治療効果を示しました1,2)。精神の不調の世界的な負担の主因であるうつ病と、便秘などの胃腸不調の関連が最近になって報告されています。たとえば、米国人口を代表する米国国民健康栄養調査 (NHANES)の情報を調べた試験で、慢性の下痢や便秘がうつ病患者でより多く認められています3)。うつ病患者495例の慢性の下痢と便秘の有病率はそれぞれ15.53%と9.10%で、うつ病でない4,709例のそれらの有病率(それぞれ6.05%と6.55%)より高いことが示されました。いくつかの報告によると、うつ病などの気分障害と胃腸不調の関連には腸-脳軸(gut-brain axis)と呼ばれる腸と中枢神経系(CNS)のやり取りが関係しているようです。また、胃腸の微生物が胃腸と脳の通信を促しており、その乱れはうつ病、自閉症、パーキンソン病などの神経や精神の疾患と関連するようです。そこで、ためになる細菌(プロバイオティクス)などで腸内微生物環境を手入れして精神不調を治療する試みが増えています。長寿で知られる中国南西部の村(巴馬)の1人の長寿老人(centenarian)の便から見つかったBifidobacterium animalis subsp. Lactis A6(BBA6)という細菌の研究はその1つで、BBA6が微生物-腸-脳軸を手入れして注意欠如・多動症を模すラットの海馬や記憶の障害を緩和しうることが北京農業大学のRan Wang氏らの研究で示されています4)。その後Wang氏らはBBA6の研究を臨床段階へと進め、うつ病、具体的には便秘でもあるうつ病患者へのBBA6の効き目を調べるプラセボ対照無作為化試験を実施しました。試験にはうつ病患者107例が参加し、便秘でもあるうつ病患者と便秘ではないうつ病患者がそれぞれ8週間のBBA6かプラセボを投与する群に割り振られました。BBA6投与の効果は便秘合併うつ病患者に限って認められました。それら便秘合併うつ病患者への8週間のBBA6投与後のハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)はプラセボ投与群より低くて済んでいました1)。便秘症状の評価尺度PAC-SYMもBBA6投与群のほうがプラセボ群より下がりました。便秘とうつ病の合併を模すラットで調べたところ、BBA6はうつ病患者に有害らしいキヌレニンを減らしてセロトニンを増やすことが示されました5)。便秘合併うつ病患者のBBA6投与後の血液や便にはセロトニンが多く、キヌレニンが少ないことも確認されており、ラットでの検討と一致する結果が得られています。また、BBA6が投与された便秘合併うつ病患者は先立つ研究でうつ病治療効果やセロトニン生成促進効果が示唆されているビフィドバクテリウムとラクトバチルスがより多く、トリプトファン生合成経路が盛んでした。どうやらBBA6はセロトニンやキヌレニンの出所であるトリプトファン代謝を手入れすることで便秘とうつ病の合併を緩和するようです。さて、BBA6が役立ちうる用途はうつ病治療に限られるわけではなさそうで、Wang氏らによる別のプラセボ対照無作為化試験では、アレルギー性鼻炎の治療効果が示されています2)。試験には通年性アレルギー性鼻炎患者70例が参加し、うつ病試験と同様にBBA6かプラセボが8週間投与され、ベースライン時と比べた8週時点の鼻症状検査点数低下の比較でBBA6がプラセボに勝りました。Wang氏らは便秘とうつ病の合併への長期の効果を調べる試験を予定しています5)。また、アレルギー性鼻炎治療効果のさらなる裏付け試験が必要と述べています2)。 参考 1) Wang J,et al. Sci Bull(Beijing). 2025 Apr 21. [Epub ahead of print] 2) Wang L, et al. Clin Transl Allergy. 2025;15:e70064. 3) Ballou S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17:2696-2703. 4) Yin X, et al. Food Funct. 2024;15:2668-2678. 5) Probiotic breakthrough: Bifidobacterium animalis subsp. Lactis A6 shows promise in alleviating comorbid constipation and depression / Eurekalert

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うつ病予防に対するカフェインの作用メカニズム

 疫学研究において、カフェイン摂取はうつ病と逆相関しており、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。中国・重慶医学大学のWentao Wu氏らは、うつ病と腸内細菌叢との関連に着目し、予防的なカフェイン摂取が腸脳軸に作用することでうつ病発症に影響を及ぼすかを調査するため、本研究を実施した。European Journal of Pharmacology誌2025年8月5日号の報告。 オスC57BL/6Jマウスを対照群、慢性予測不能ストレス(CUS)を負荷した群(CUS群)、カフェイン(CAF)を腹腔内投与後、CUSを負荷した群(CAF群)にランダムに割り付けた。うつ病様行動および不安様行動を評価し、腸脳軸関連分子を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較し、CUS群は、体重、スクロール嗜好、中心距離(%)が有意に低く、不動時間が長かった。しかし、対照群とCAF群では、これらの指標に差は認められなかった。・CUS群で有意な減少がみられた腸管バリア完全性関連因子(ZO-1、claudin-1、MUC2)は、CAF群では認められなかった。また、CUS群で認められた2つの血漿中炎症因子(LPS、NLRP3)の変動、4つの海馬中炎症関連因子(TNF-α、IL-1β、AC、BDNF)の変動は、CAF群では認められなかった。・対照群とCUS群との間で6つの分化遺伝子が同定されたが、対照群とCAF群との間では同定されず、これら6つの鑑別疾患のうち、5つとスクロール嗜好との有意な相関が確認された。 著者らは「これらの結果は、早期カフェイン介入が、腸内細菌叢、腸管バリアの完全性、神経炎症を調節することで、うつ病予防につながる可能性を示唆している」と結論付けている。

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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第266回 尾身氏の「コロナ総括」が話題、その裏にあるTV出演の真意とは

尾身氏、とんだところに出演!?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法の5類に移行してから2年以上が経過した。「はや2年」と考えるか、「まだ2年」と考えるのかは人それぞれだろうが、私はどちらかと言えば後者である。ただ、より具体的に言うと、「まだ2年にもかかわらず、もっと昔のことのように捉えてしまっていた」のが実際だ。そんな最中、久しぶりにここ数日、この話題にかなり引っ張られた。というのもSNSで、かつて内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議に置かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)が話題になっていたからだ。尾身氏は6月8日に放送された読売テレビの「そこまで言って委員会NP」の「新型コロナ総括」と題する番組に出演。そこでコロナ禍時代を振り返った出演者との議論に一部の人たちがかなり“過剰”反応したことがきっかけである。まず、SNS上ではどう話題になったかざっくり書くと、尾身氏が新型コロナワクチンに関して「感染予防効果がない」「若者は打つ必要がない」と言ったというのだが、これだけでは何ともわからない。実際の出演コメントをチェックそこで該当の放送が視聴できる民放公式テレビ配信サービス「TVer」で同番組を視聴した。件の発言は経済ジャーナリストの須田 慎一郎氏の「コロナワクチンの安全性はどの程度?」という疑問に対し、答えたものだ。より正確に引用すると以下のようになる。「私の私見を申し上げると、まず有効だったかどうかということを結論から言うと、感染防止効果、感染を防ぐ効果は残念ながらあまりないワクチンです。これリアリティです。だから、ワクチンをやったら絶対感染しないという保証はないし、実際に感染した人が多い。これは感染防止効果ですね。じゃあ今度もう1つの有効性の分野は、重症化・死亡をどれだけ防ぐのかってありますよね。(グラフを提示しながら)70代、80代、90代以上を見ると、グラフの縦線1回も打たなかった人。これを見ると明らかで、わかる通り、たくさん打った、5回打った人の死亡率は圧倒的に(低い)。これは埼玉県のデータですが、これは全国的に一緒」ここで示されたのは埼玉県新型感染症専門家会議で公表された資料である(同資料の「新規陽性者の致死率[ワクチン接種の有無・年齢別]」)。まず、率直に言ってこの尾身氏の発言に私はまったく違和感がない。より厳密に言えば、新型コロナに対するmRNAワクチンの感染予防効果は、デルタ株までは一定程度保たれていたがオミクロン株以降、急速に低下した。ただし、現在も“mRNAワクチンによる重症化予防効果が認められている”というのが一般的な見解であり、これ自体もごく当然の発言と言える。もっともSNS上では、変異株ごと有効性の変化や「あまりない」がすっ飛ばされ、「感染予防効果はなかった」という単純化された言説がワクチンに懐疑的な人を中心に鬼の首でも取ったように出回っているのが実態である。個人的には「今さら」感が強い話である。一方、若年者に対するワクチン接種については、どう言及したか?「それはもう私は私見だけじゃなくて、これは分科会の会長として公に何度も言っています。途中からこれは若い人は感染しても重症化しないし、比較的副反応が強いから、これについては、まあ本人たちがやりたいんならどうぞと」これについては出演者から「そのアナウンスは聞かなかったなあ」との発言が飛び出したが、尾身氏は「それはわれわれの記者会見では何度も言ってる。だけどテレビのなんとかショーでは、それをほかのほうをやるからということは結構(あった)。まあ、そのことはこれ以上言ってもしょうがないんで、ま、ファクトとして、それは私としては何度も言っている」と応じた。メディアが報じていない?発信しているメディアを見ていない?実はこちらの発言に関しては、私も出演者と同じく「えっ、言ってたっけ?」との感想である。もっとも自分自身、分科会や新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの発信内容をすべて追えていたわけではないので何とも言えない。むしろ報道あるいは情報発信の難しさを改めて思い知らされた一件でもある。私自身各所で書いたことがあるが、SNS上などでよく目にする「メディアは報じない」という事象は、実際には報じられていながら、そう発信した人が情報収集の対象とするメディアの範囲内で発信されていなかっただけということがよくある。ちなみにそれすらもない場合は、多くのメディアが報じるだけの高い価値がないと判断した場合である。もっともこの若年者のワクチン接種についての尾身氏の発言は、丁寧に読めば、若年者に対する新型コロナワクチンの必要性を否定しているわけではなく、“希望者は任意で接種すればよし”というプライオリティ的な問題でもある。ただ、これがSNS上では尾身氏が若年者に新型コロナワクチンは必要ないと認めたと喧伝されてしまっている。アウェーで情報を発信する意義「SNS上では日常茶飯事」と言えばそれまでだが、この件で私が気になったのは、一部の医療従事者が「あんな番組に出るから…」的な意見を発信していることだ。気持ちはわからなくもない。実際、今回の番組は新型コロナワクチンに懐疑的な出演者も一部おり、尾身氏にとって明らかにアウェーな場である。しかし、コロナ禍を通じ一定の社会分断が起きた現実を踏まえ、今後のパンデミック対策の在り方を考えるならば、ある程度はアウェーな場所も含め専門家が一般向けにしつこく発信を続ける必要性があると私は感じている。「言っても通じない」「○○なやつは放置」が、実は後々重大な結果を招くことを私自身は経験している。あえて具体名を出すが、故・近藤 誠氏による「がんもどき理論」である。ベストセラーとなった同氏の著書「患者よ、がんと闘うな」の出版直後、今の日本臨床腫瘍学会の前身である日本臨床腫瘍研究会に近藤氏が招かれ、当時の一線のがん専門医にパネルディスカッションでフルボッコにされるシーンを当時20代の記者だった私は目にした。これ以後、がん専門医から近藤氏の主張に真っ向から対決する意見は、私の記憶では一定期間なかったように思う。当時、私自身は複数のがん専門医に近藤氏が「がんもどき理論」を主張し続けることをどう思うか尋ねたが、皆一様に「かまうだけ無駄」との意見だった。中には「今度その名前を口にしたら出入り禁止にするぞ」とまで凄んだ専門医までいたが、私があえて尋ねたのは、若輩者ながらすでにこの時点で「ヒトは発信量が多い対象の言うことを真に受けがちである」と感じていたからだ。ナチス・ドイツの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの言葉を借りれば「嘘も百回言えば真実となる」なのだ。そして2010年代後半に突如複数の近藤氏を批判する本が出版されたことを考えれば、この間の「がんもどき理論」信者のエコーチェンバー現象が医療現場では必ずしも無視できない状況となったことを強くにおわせるし、実際、私自身そうした話を何度も耳にした。もちろんワクチンに懐疑的な人たちの中には話しても無駄な人がいるのは確かである。だが、懐疑的な人たちの周囲には一定の動揺層がいる。医療者が懐疑的な人たちを単純に放置し続ければ、将来起こるかもしれないパンデミック時に大きな障害になることは必定だ。その意味で今回の尾身氏のテレビ出演は、切り取られリスクを考慮しても英断であると個人的には考えている。

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昭和医科大学 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

堀池 篤 氏(教授)大熊 遼太朗 氏(講師)村 英美子 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴昭和医科大学腫瘍内科は、肺がんや消化器がんはもちろん、軟部肉腫や原発不明がんといった希少がんも含め、あらゆる固形がんの治療を担う国内有数の腫瘍内科講座です。最新の薬物療法に加え、患者さんに寄り添う緩和ケア・支持療法にも力を注いでいます。腸内細菌やバイオマーカーを用いた独自の臨床研究や、医師主導治験を企画・実施するなど、学際的な活動も精力的に行っています。生成AIの活用により、診療・研究の質と効率の向上を図るとともに、週休3日制や夏季2週間の休暇など、働きやすさにも配慮した環境を整備しています。日々の診療から教育・研究へとつなげる体制を構築し、がん医療のさらなる発展に貢献しています。医師の育成方針私たちは、「がんを診る」総合診療医、そして臨床に根ざした研究者の育成を目指しています。入局1年目から主治医として診療に携わり、患者さんと向き合う中で実践力を養っていただきます。カンファレンスやCancer Boardにも主体的に参加し、若手のうちから診療の中心を担える環境が整っています。がん薬物療法専門医や総合内科専門医の取得に加え、大学院進学や海外留学など、それぞれの希望に応じた幅広いキャリア形成にも対応しています。多様な価値観や働き方を尊重し、ライフワークバランスにも配慮した体制のもと、安心してキャリアを築ける環境を整えています。がん医療に誠実に、前向きに取り組みたい方を、私たちは心より歓迎します。力を入れている治療/研究テーマ昭和医科大学腫瘍内科では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に関する研究を中心に、がん免疫のメカニズム解明や、治療効果を予測するバイオマーカーの探索、さらに新規免疫療法の開発に取り組んでいます。2022~24年にかけてフランスに留学し、子宮頸がんや悪性黒色腫を対象としたトランスレーショナル研究を遂行した経験も活かし、国内外で通用する研究の実施を目指しています。大学院進学や海外留学など、個々のキャリアに応じた柔軟な研究支援体制が整っています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科は、臓器横断的に固形がん全般の薬物療法を担う、がん診療の中核的存在です。周術期から進行・再発症例まで幅広く関わり、生命予後を延ばすだけでなく、患者さんが元気に過ごす時間や大切な人と過ごす時間を支えることを重視しています。昭和医科大学は4つの大学病院を有し、多くのがん腫・希少がんに触れられる豊富な症例経験に加え、がん診療に関する情報を統括することにより、臨床データを活用した研究活動にも積極的に関わることができる環境が整っています。診療と研究の両方をバランス良く学べる環境で、腫瘍内科医としての専門性を着実に高めることが可能です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科では、専門的な知識とともに人間性も求められる場面が多く、緩和ケアから看取りまで患者さんと深く向き合えるのが特徴です。医局内は風通しがよく、若手の意見を歓迎する文化が根付いており、丁寧な指導と柔軟なキャリア支援が受けられる点も魅力です。腫瘍内科医を目指す先生方と出会える日を楽しみにしています。これまでの経歴都内の高校を卒業後、山形大学に進学し、3年生の実習で腫瘍内科の存在を知りました。もともとがん診療や総合内科に興味があった私にとって、臓器の垣根を越えてStageIVの患者さんたちに真剣に向き合う先生方の姿は非常に印象的でした。腫瘍内科のある病院で初期研修をしようと思い、卒後は地元の昭和医科大学病院に就職しました。同医局を選んだ理由カンファレンスで若手の先生方が活躍しているのを見て、風通しの良い医局だと思いました。出身大学もさまざまで、これまでの経歴も人それぞれで多様性があるため、いろいろなロールモデルがあって魅力的に感じました。また、それほど大所帯ではないので指導医や症例を独り占めできる環境です。学びやすい環境は人それぞれですが、私にはそういった環境が合っていると思い入局を決めました。実際、2年間の研修で患者さんの治療方針の決定、副作用のマネジメント、病状説明や終末期のケアなど、非常に多くの経験を積むことができました。現在学んでいること現在は内科専門研修の一環として、連携施設での研修を行っています。通常は医局の指定した連携施設に行くことがほとんどですが、昭和医科大学病院腫瘍内科では自分の学びたい施設・診療科を自由に選ぶことができます。私はこの機会に以前から興味のあった緩和ケアと総合診療を学びたいと思い、茨城の市中病院で研修をしています。こういった自由が利くところもこの医局の良いところです。ご興味のある方はぜひ見学にいらしてください!昭和医科大学 腫瘍内科住所〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8問い合わせ先reikosawa@cnt.showa-u.ac.jp医局ホームページ昭和医科大学病院 腫瘍内科腫瘍内科プライベートサイト専門医取得実績のある学会日本内科学会(内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)研修プログラムの特徴(1)臓器横断的ながん診療と専門医資格の取得あらゆる固形がんに対する薬物療法を主軸とし、幅広いがん診療のスキルが習得できますがん薬物療法専門医の取得に必要な症例を、当院だけで網羅的に経験可能経験豊富な専門医・指導医による丁寧なサポートのもと、専門医取得を着実に目指せます(2)活発なトランスレーショナルリサーチと学位取得企業治験に加え、大学主導の医師主導治験にも積極的に取り組んでいます昭和医科大学臨床薬理研究所と連携し、臨床と基礎をつなぐ研究活動が可能な環境です大学院進学による学位取得のためのサポート体制も充実しています(3)出身や経歴を問わないオープンな職場環境昭和医科大学の中でも最も新しい科の1つであり、学閥のない自由な雰囲気です初期研修後はもちろん、他科で専門医取得後の入局実績も豊富で、多様なキャリアに柔軟に対応しています

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帯状疱疹ワクチンは心臓の健康も守る

 帯状疱疹ワクチンが、高齢者の心臓の健康を守る可能性のあることが報告された。ワクチン接種者は心臓病のリスクが23%低く、これにはワクチンによる炎症抑制、血液凝固抑制が関与していると考えられるとのことだ。慶熙大学校(韓国)のDong Keon Yon氏らが、約130万人の医療データを解析して明らかにした結果であり、詳細は「European Heart Journal」に5月5日掲載された。ワクチンによる心保護効果は最大8年間続くという。 帯状疱疹は、以前に水痘に感染したことがある人に発症する。水痘の原因ウイルス(帯状疱疹のウイルスでもある)は、神経節の細胞の中に数十年間も潜伏し続け、ある時、再び活動し始めて帯状疱疹を引き起こし、痛みを伴う発疹や水疱を出現させる。「ワクチン接種を受けない場合、生涯で約30%の人が帯状疱疹を発症する可能性がある」とYon氏は解説する。そして、「帯状疱疹は発疹に加えて、心臓病のリスク上昇とも関連のあることが示唆されている。そのため、われわれは、ワクチン接種によって心臓病のリスクが低下するのではないかと考えた」と、研究背景を語っている。 この研究は、2012~2021年の韓国内の50歳以上の成人220万7,784人の医療データを用いて行われた。傾向スコアマッチングにより、127万1,922人(平均年齢61.3±3.4歳、男性43.2%)を解析対象とした。このうち半数が、帯状疱疹ウイルスを弱毒化させた生ワクチンの接種者、残り半数が非接種者だった。 中央値6.0年間追跡した解析により、ワクチン接種群は心血管イベントリスクが低いことが示された。例えば、全心血管イベントは23%低リスク(ハザード比〔HR〕0.77〔95%信頼区間0.76~0.78〕)、主要心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞、心血管死)は26%低リスク(HR0.74〔同0.71~0.77〕)、心不全も26%低リスク(HR0.74〔0.70~0.77〕)だった。ほかにも、脳血管障害(HR0.76〔0.74~0.78〕)、虚血性心疾患(HR0.78(0.76~0.80〕)、血栓性疾患(HR0.78〔0.74~0.83〕)、および不整脈(HR0.79〔0.77~0.81〕)のリスク低下が認められた。 Yon氏は、「われわれの研究は、帯状疱疹ワクチン接種によって、既知の心臓病リスク因子がない人でも、心臓病のリスクが低下する可能性があることを示唆している。これは、ワクチン接種の健康上のメリットが、帯状疱疹の予防にとどまるものではないことを意味している」と述べている。なお、本研究では、男性、60歳未満、不健康な生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足など)の該当者は、ワクチン接種による心保護効果という恩恵を、特に受けやすいことが示唆された。 帯状疱疹ワクチンが心臓病の発症リスクを軽減し得るメカニズムについてYon氏は、「理由はいくつか考えられる。帯状疱疹ウイルスの感染によって、血管の損傷、炎症、そして心臓病につながる血栓形成が引き起こされることがある。ワクチン接種によって帯状疱疹を予防することで、それらの影響を軽減できるのではないか」と解説している。 ただし研究者らは、「今回の研究はアジア人を対象としたものであり、他の集団には当てはまらない可能性があるため、さらなる研究が必要」と述べている。

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生後3ヵ月未満児の発熱【すぐに使える小児診療のヒント】第3回

生後3ヵ月未満児の発熱今回は、生後3ヵ月未満児の発熱についてお話しします。小児において「発熱」は最もよく経験する主訴の1つですが、「生後3ヵ月未満の」という条件が付くとその意味合いは大きく変わります。では、何が、なぜ違うのでしょうか。症例生後2ヵ月、女児受診2時間前に、寝付きが悪いため自宅で体温を測定したところ38.2℃の発熱があり、近医を受診した。診察時の所見では、活気良好で哺乳もできている。この乳児を前にして、皆さんはどう対応しますか? 「元気で哺乳もできているし、熱も出たばかり。いったん経過観察でもよいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この場合は経過観察のみでは不十分であり、全例で血液検査・尿検査を行うことが推奨されています。また、必要があれば髄液検査や入院も考慮すべきです。そのため、適切な検査の実施が難しい施設であれば、専門施設への紹介が望ましいです。小児科では自然に行われている対応ですが、非小児科の先生にとっては馴染みが薄いかもしれません。これは、かつて医師国家試験で関連問題の正答率が低く採点対象外となり、その後出題が避けられた結果、臨床知識として広まりにくかったという経緯が背景にあります。なぜ、生後3ヵ月未満児では対応が異なるのか?乳児期早期は免疫機能が未熟であり、とくに新生児では母体からの移行抗体に依存しているため、自身の感染防御機能が十分ではなく、全身性の感染症に進展しやすいという特徴があります。さらに、この時期の感染症は症状が非特異的で、診察時に哺乳力や活気が保たれていても、重症細菌感染症が隠れていることがあります。生後3ヵ月未満の発熱児では1〜3%に髄膜炎や菌血症、9〜17%に尿路感染症が認められると報告されています。なお「発熱」とは、米国小児科学会(AAP)が2021年に発表したガイドラインでは、直腸温で38.0℃以上が基準とされています。腋窩での測定ではやや低くなる傾向があり、腋窩温では37.5℃以上を発熱とみなすことが多いですが、施設や文献によって差があります。また、診察時に平熱であっても、自宅での発熱エピソードがあれば評価の対象になることを念頭に置く必要があります。発熱を認めたらまず血液検査+尿検査日本小児科学会やAAPでは、生後3ヵ月未満の発熱児については全例で評価を行うことを推奨しています。日齢に応じて、血液培養、尿検査、髄液検査を行い、入院加療を考慮する方針です。とくに生後28日未満の新生児では、入院による経過観察が標準対応とされています。一例として、私が所属する東京都立小児総合医療センターにおける現時点でのフローを以下に示します。0〜28日の新生児は髄液検査を含めたwork upを行って全例入院し、各種培養が48時間陰性であることを確認できるまで広域な静注抗菌薬投与、29〜90日の乳児はバイタルサインや検査で低リスクであると評価されれば帰宅可能(36時間以内に再診)、それ以外は入院としています。東京都立小児総合医療センターのフロー※ANC(好中球絶対数)は白血球分画を参考にして算出施設ごとに細かな対応は異なるとは思いますが、以下のポイントは共通しているのではないでしょうか。生後3ヵ月未満では「元気そう」は安心材料にならない発熱を認めたらルーチンで血液検査・尿検査を行う生後28日未満では髄液検査、入院を推奨まずは細菌感染症を前提に対応するどこまでのリスクに備えるか成人や高齢者の診療と同様に、場合によってはそれ以上に小児の診療でも「重い疾患を見逃さないために、どこまで検査や治療を行うべきか」という判断がシビアに求められます。目の前の小児が元気そうに見えても、ごくまれに重篤な疾患が潜んでいることがある一方で、すべての小児に負担の大きい検査を行うことが常に最善とは限りません。こうした場面で重要になるのが、「どの程度のリスクを容認できるか」という価値観です。答えは1つではなく、医学的なリスク評価に加えて、家族ごとの状況や思いを丁寧にくみ取る必要があります。AAPのガイドラインでは、医療者の一方的な判断ではなく、保護者とともに意思決定を行う「shared decision-making(共有意思決定)」の重要性が強調されています。とくに腰椎穿刺の実施や、入院ではなく自宅での経過観察を選択する場合など、複数の選択肢が存在する場面では、保護者の価値観や理解度、家庭の状況に応じた柔軟な対応が求められます。医療者は、最新の医学的知見に基づきつつ、家族との信頼関係の中で最適な方針をともに選び取る姿勢を持つことが求められます。保護者への説明と啓発の重要性現在の日本の医療では、生後3ヵ月未満の発熱児では全例に対して検査が必要となり、入院が推奨されるケースも少なくありません。しかし、保護者の多くは「少し熱が出ただけ」と気軽に受診することも多く、検査や入院という結果に戸惑い、不安を強めることもあります。このようなギャップを埋めるには、まず医療者側が「生後3ヵ月未満の発熱は特別である」という共通認識を持つことが大前提です。また、日頃から保護者に対して情報提供を行っておくことも重要だと考えます。保護者が「発熱したら、入院や精査が必要になるかもしれない」とあらかじめ理解していれば、診察時の説明もよりスムーズに進み、医療者と保護者が同じ方向を向いて対応できるはずです。実際の説明例入院!? うちの子、重い病気なんですか?生後3ヵ月未満の赤ちゃんはまだ免疫が弱く、見た目に異常がなくても重い感染症が隠れていることがあります。とくにこの時期は万が一を見逃さないように“特別扱い”をしていて、血液や尿、ときに髄液の検査を行います。検査の結果によっては入院まではせず通院で様子をみることができる可能性もありますが、入院して経過を見ることが一般的です。生後3ヵ月未満児の発熱は、「見た目が元気=安心」とは限らないという視点をもち、適切な検査の実施あるいは小児専門施設への紹介をご検討いただければ幸いです。そして、どんな場面でも、判断に迷うときこそ保護者との対話が助けとなることが多いと感じています。そうした視点を大切にしていただけたらと思います。次回は、見逃せない「小児の気道異物」について、事故予防の視点も交えてお話します。ひとことメモ:原因病原体は?■ウイルス発熱児において最も一般的な原因がウイルスです。ウイルス感染のある3ヵ月未満児は重症細菌感染症を合併していなくても、とくに新生児では以下のウイルスにより重篤な症状を来すことがあります。単純ヘルペスウイルスエンテロウイルス(エコーウイルス11型など)パレコウイルスRSウイルス など■細菌細菌感染症のうち、最も頻度が高いのは尿路感染症です。このほか、菌血症、細菌性髄膜炎、蜂窩織炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎なども重要な感染源ですが、頻度は比較的低くなります。主な病原体は以下のとおりですが、ワクチン定期接種導入により肺炎球菌やインフルエンザ菌による重症感染症は激減しています。大腸菌黄色ブドウ球菌インフルエンザ菌B群連鎖球菌肺炎球菌リステリア など参考資料 1) Up to date:The febrile neonate (28 days of age or younger): Outpatient evaluation 2) Up to date:The febrile infant (29 to 90 days of age): Outpatient evaluation 3) Pantell RH, et al. Pediatrics. 2021;148:e2021052228. 4) Leazer RC. Pediatr Rev. 2023;44:127-138. 5) Perlman P. Pediatr Ann. 2024;53:e314-e319. 6) Aronson PL, et al. Pediatrics. 2019;144:e20183604.

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コロナワクチン、デマ対策より「接種開始時期」が死亡者数に大きく影響か/東大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにおいて、世界中でさまざまな誤情報が拡散した。ワクチンの有効性や安全性に関する内容も多く、これらの誤情報がワクチン忌避につながったことが多くの先行研究で報告されている。東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの古瀬 祐気氏と東北大学大学院医学系研究科の田淵 貴大氏の研究グループは、ワクチンに関する誤情報が、日本における新型コロナワクチン接種率およびCOVID-19による死亡者数に及ぼした影響について、数理モデルを用いた反実仮想シミュレーションによって解析した。その結果、誤情報対策による接種率の変動よりも、ワクチン導入のタイミングが、死亡者数抑制により大きな影響を与えた可能性が示された。本結果はVaccine誌2025年6月20日号に掲載。 本研究では、COVID-19感染者数、年齢層別ワクチン接種率、ワクチンの有効性、SARS-CoV-2変異株の種類といったデータを用い、COVID-19による死亡者数を予測する数理モデルを開発した。次に、「ワクチン接種記録システム(VRS)」と、2021年9~10月に15歳以上の3万1,000例を対象にオンラインで実施されたアンケート調査「日本における新型コロナウイルス感染症問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS)」1)のデータを再解析した。 コロナワクチンは、2021年2月より医療従事者を対象に、4月より高齢者や基礎疾患のある人を対象に、6月より12歳以上のすべての人を対象に接種開始された。誤情報対策の失敗と成功の想定や、ワクチン導入タイミングの反事実シナリオを設定し、オミクロン株出現前の2021年1月1日~12月7日の期間において、数理モデルでCOVID-19による死亡者数の予測シミュレーションを行った。 主な結果は以下のとおり。・2021年の日本では、COVID-19による死亡者数は累計1万4,994例であった。2021年末時点での日本全体のワクチン接種率は83.4%であった。数理モデルのシミュレーションにより、実際のワクチン接種で死亡者数が3万117例回避されたことが示された。・ワクチンに関する7つの誤情報を信じているかについて、ワクチン受容者の8.5%、ワクチン忌避者の36.6%が少なくとも1つの誤情報を信じていた。・誤情報対策が失敗した場合、ワクチン接種率は83.4%から76.6%に低下し、死亡者数は1,020例増加した可能性がある。・誤情報対策が成功した場合、ワクチン接種率は83.4%から88.0%に上昇し、死亡者数は431例減少した可能性がある。・ワクチン接種開始が3ヵ月遅れていた場合、死亡者数は2万2,216例増加した可能性がある。・接種開始が3ヵ月早まった場合、死亡者数は7,003例減少した可能性がある。 著者らは本結果について、日本では2021年末までにワクチン接種率が比較的高かったため、誤情報管理を改善して接種率をさらに上昇させることによる死亡率への影響は、接種開始時期の変更による影響と比較して限定的であったと述べている。一方で、ワクチン接種開始が3ヵ月早ければ、COVID-19による死亡者数は半減した可能性も示唆された。誤情報対策による死亡者数の変動も決して無視できる数ではなく、パンデミックにおけるこれらの要因分析の重要性を強調している。

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がん患者のワクチン接種率を上げるカギは医療者からの勧め/日本がんサポーティブケア学会

 第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会において、国立がん研究センター東病院の橋本 麻子氏は「がん患者を対象としたワクチン接種に関する2年間のアンケート調査」の内容をもとに、がん患者におけるワクチン接種の実態と課題について発表した。低い肺炎球菌、帯状疱疹のワクチン接種率 がん患者は、治療や疾患の進行に伴って免疫機能が低下していることが多く、感染症予防は非常に重要である。そのため、学会などでも季節性インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスワクチンの定期接種が推奨されている。 2023年および2024年に実施されたアンケート調査の結果から、がん患者のワクチン接種状況が明らかになった。がん種は乳がん、肺がん、大腸がん、その他さまざまながん患者が含まれていた。 ワクチン接種率(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスのいずれかを接種したことがある患者)は2023年、2024年とも約9割にのぼる。しかし、内訳を見ると、インフルエンザワクチンは約50%、新型コロナワクチンは約60%の接種率を示しているものの、肺炎球菌ワクチンは約20%、帯状疱疹ワクチンは5%以下にとどまっている。医療者からの推奨が、がん患者のワクチン接種行動につながる 医療者からワクチン接種推奨があったかについて尋ねたところ、2023年、2024年とも約20%の患者が推奨があったと回答した。推奨者は、がん担当医が6〜7%、かかりつけ医が9〜10%で、かかりつけ医のほうが多かった。 ワクチンを推奨された患者が、その後ワクチン接種に至った割合は全体で80〜100%であった。インフルエンザワクチンを推奨された患者の接種率は76.2%、推奨されていない患者の接種率は10.4%であった。肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンともに推奨されていない患者に比べ、推奨された患者で高く、医療者からのワクチンの推奨は接種行動につながることが明らかになった。 また、家族など同居者の感染は患者の感染症発症に影響するため、同居者のワクチン接種も重要である。今後は多職種が連携し、がん患者および家族へのワクチン接種を推奨できるよう、医療者の教育の啓発継続も課題である。

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軽症~中等症COVID-19、40種の薬物療法を比較/BMJ

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する40種の薬物療法のうち、ニルマトレルビル/リトナビルとレムデシビルは入院を減少させる可能性が高く、コルチコステロイド全身投与とモルヌピラビルは、この2剤ほどではないが同様の効果を有する可能性があり、アジスロマイシンなどは、症状の解消までの時間を短縮する可能性が高いことが、カナダ・McMaster UniversityのSara Ibrahim氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年5月29日号に掲載された。薬物療法の無作為化試験のネットワークメタ解析 研究グループは、軽症または中等症COVID-19の治療薬の有効性を比較する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 データの収集には、Epistemonikos Foundationが運営するCOVID-19 Living Overview of Evidence Repository(COVID-19 L-OVE)の、2023年1月1日~2024年5月19日のCOVID-19関連論文の公開・更新型のリポジトリを用いた。また、WHOのCOVID-19データベース(2023年2月17日まで)と中国の6つのデータベース(2021年2月20日まで)も検索した。 解析には、COVID-19の疑い例、その可能性が高い例、あるいは軽症または中等症のCOVID-19と確定された例を対象とし、薬物療法または標準治療かプラセボに割り付けた無作為化試験を含めた。アジスロマイシンで症状解消が4日短縮 軽症または中等症COVID-19患者において薬物療法の有効性を評価した259件(16万6,230例)の無作為化試験のうち、187件(72%)を解析の対象とした。 標準治療と比較して、次の2つの薬剤で入院を減少させる可能性が高かった。入院患者数を最も強く抑制したのはニルマトレルビル/リトナビル(1,000例当たり24.99例減少[95%信頼区間[CI]:-27.86~-20.19]、エビデンスの確実性:中)であり、次いでレムデシビル(20.93例減少[-27.79~-6.69]、中)であった。 コルチコステロイド全身投与(1,000例当たり15.99例減少[95%CI:-23.93~-2.63]、エビデンスの確実性:低)とモルヌピラビル(9.82例減少[-16.66~-2.28]、低)でも、入院数を減少させる可能性が示唆された。 また、標準治療に比べ、症状解消までの時間を最も大きく短縮させる可能性が高かったのはアジスロマイシン(平均群間差:4.060日短縮[95%CI:-5.270~-2.580]、エビデンスの確実性:中)であった。モルヌピラビル(2.340日短縮[-3.450~-1.070]、高)、コルチコステロイド全身投与(3.480日短縮[-5.320~-1.050]、中)、ファビピラビル(2.170日短縮[-3.150~-1.080]、中)、umifenovir(2.410日短縮[-3.850~-0.710]、中)でも、症状の持続時間を短縮する可能性が高かった。 ドキシサイクリンは、入院日数を標準治療より1.33日(95%CI:-2.63~-0.03)短縮する可能性が高かった(エビデンスの確実性:中)。異なる変異株の影響は考えにくい 標準治療と比較して、ロピナビル/リトナビル(1,000例当たり41.46例増加[95%CI:15.1~68.29])のみが、投与中止に至った有害事象のリスクが高かった。また、ロピナビル/リトナビルでは、入院日数を標準治療より1.77日(95%CI:0.340~3.190)延長するリスクがみられた。 他のアウトカム(死亡、機械換気導入、静脈血栓塞栓症、臨床的に重要な出血)への影響に関しては、いずれの薬剤もエビデンスが不確実で、標準治療と比較して明確な有益性を示す薬剤は認めなかった。 著者は、「本研究は、COVID-19の世界的流行のさまざまな段階における試験を対象としており、その多くはワクチン導入前の、COVID-19のアウトカムがより不良な時期に実施されている」「解析の対象となった試験には、COVID-19の異なる変異株に感染した患者が含まれているが、われわれの知る限り、ウイルスの亜型が本研究に含まれる薬剤の効果修飾因子であるという十分なエビデンスはないため、これが今回の結果に重大な影響を及ぼしたとは考えられない」としている。

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口唇ヘルペスウイルスがアルツハイマー病リスクと関連か

 単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染がアルツハイマー病(AD)発症リスクと関連しており、抗ヘルペス薬の使用がそのリスクを低減する可能性が、米国の大規模リアルワールドデータを用いた後ろ向き症例対照研究で示された。本研究は、米国・ギリアド・サイエンシズのYunhao Liu氏らにより実施された。BMJ Open誌2025年5月20日号に掲載。 本研究では、米国の大規模民間保険請求データベース「IQVIA PharMetrics Plus」を用い、2006~21年の間にADと診断された50歳以上の患者34万4,628例を特定し、年齢、性別、地域、データベース登録年、医療機関受診回数でマッチングした同数の対照者を1対1の割合で抽出し、後ろ向きマッチング症例対照研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・AD症例群と対照群はともに、平均年齢は73±5歳、女性が65.11%であった。・AD症例群ではHSV-1感染の診断歴がある人の割合が0.44%(1,507例)だったのに対し、対照群では0.24%(823例)であった。・多変量解析で調整後、HSV-1感染の診断歴はAD発症リスクの有意な上昇と関連していた(調整オッズ比[aOR]:1.80、95%信頼区間[CI]:1.65~1.96)。・層別解析ではとくに高齢者で顕著であり、75歳以上の年齢層ではaORが2.10(95%CI:1.88~2.35)であった。・HSV-1感染の診断歴のある患者群(2,330例)において、抗ヘルペス薬を使用した人(931例、40%)は、使用しなかった人と比較してAD発症リスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%CI:0.74~0.92)。・抗ヘルペス薬による同様の保護効果は、AD関連認知症の解析でも認められた。・本研究において、HSV-2(単純ヘルペスウイルス2型)および水痘・帯状疱疹ウイルス感染の診断歴もADとの関連が認められたが、サイトメガロウイルスでは有意な関連はみられなかった。 著者らは、「これらの知見は、ヘルペスウイルスの予防を公衆衛生上の優先事項として捉えることの重要性をさらに強調するものであり、神経親和性ウイルスの抑制がADおよびAD関連認知症の自然経過を変えるかどうかを判断するためのさらなる研究が必要だ」と結論付けている。

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第14回 新型コロナ「NB.1.8.1」を世界各地で確認、症状や重症化リスクは?

最近の中国での感染者急増に関与しているとされる新型コロナウイルス(COVID-19)の新たな変異ウイルス「NB.1.8.1」が、米国内の複数箇所で確認されたと報道されています1)。米国での最初の症例自体は、2025年3月下旬から4月上旬にかけて、空港の国際線到着客を対象としたスクリーニング検査で検出されていました。米国疾病予防管理センター(CDC)は、中国でのNB.1.8.1の症例報告を認識しており、国際的な連携を取り合っていると述べています。NB.1.8.1の症状と感染伝播新たな変異ウイルスNB.1.8.1に関連する症状は、これまでのコロナで見られたものと「広範に類似している」とされています。具体的には、咳や喉の痛みといった呼吸器系の問題や、発熱、倦怠感などの全身症状が一般的に報告されています。喉の痛みがこれまでより強いと伝える医師たちもいます。気になる重症化リスクについては、「NB.1.8.1が以前の変異ウイルスと比較して、より重篤な疾患を引き起こすというデータはないが、感染がより容易に広がる可能性が示唆されている」と指摘されています。香港の保健当局も、この変異株が従来の株よりも重症であるという証拠はないとしています。中国や香港などでみられる入院患者数の増加については、病原性の高さというより、夏季の感染者の急増が入院患者の絶対数を増やした可能性が高いとの見方を示していますが、データはまだ予備的なものだとしています。米国の2025年ブースター接種の方針と専門家の懸念このような話題がある一方で、トランプ政権はブースター接種の対象を一部の人に制限する方針を計画していると報じられています。先週、米国食品医薬品局(FDA)は、高齢者や基礎疾患を持つ人に対するワクチンは引き続き承認するものの、それより広範な層への使用承認には、企業に大規模な新しい臨床試験の実施を義務付けると発表しました。これにより、基礎疾患のない多くのアメリカ国民は、この秋に最新のワクチンを接種できない可能性があります。米国の専門家らは、こうした変更が公衆衛生に重大な影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしています。さらに、FDAによる追加臨床試験の要件は、低リスク者のブースター接種を遅らせ、一部の人がワクチン接種をためらう原因となる可能性があり、ワクチン接種率を低下させる可能性がある、とも指摘されています。加えて、今年のワクチンにどの変異ウイルスが含まれるのか、どのような臨床試験が許可されるのかという点も不明確です。なお、これらの新しいCOVID-19ワクチン接種の要件は、ワクチンに対して公に疑問を呈してきたロバート・F・ケネディJr.保健福祉長官が率いるFDAの新指導部によって提示されたものです。私たちにできる予防策とは米国内では一般の人のワクチン接種に疑問符がつく中、引き続き私たちにできることは、咳やくしゃみエチケット、手洗い、体調が悪い場合は他の人にうつさないために家にいること、などです。また、先んじて流行が起こっている香港の当局は、感染者数の増加に伴い、公共交通機関や混雑した場所でのマスク着用を住民に呼びかけています。日本においても、海外の感染状況や新たな変異ウイルスの動向に応じて、感染予防策を強弱することが重要になるでしょう。参考文献・参考サイト1)Moniuszko S. COVID variant NB.1.8.1 hits U.S. What to know about symptoms, new booster vaccine restrictions. CBS NEWS. 2025 May 27.

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添付文書改訂:サイアザイド系やアセタゾラミドを含む利尿薬に急性近視など眼系副作用追加/リオシグアトとアゾール系抗真菌剤が併用禁忌から併用注意に ほか【最新!DI情報】第40回

2025年5月20日に、厚生労働省より「使用上の注意」の改訂指示が発出されました。この通知に基づき、以下の医薬品の添付文書の改訂が行われました。サイアザイド系利尿薬、アセタゾラミドを含む利尿薬<対象薬剤>利尿薬のうちスルホンアミド構造を有する炭酸脱水酵素阻害薬(経口剤、注射剤)、サイアザイド系利尿薬(アセタゾラミド、アセタゾラミドナトリウム、インダパミド、メフルシド、ヒドロクロロチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド、カンデサルタン シレキセチル・ヒドロクロロチアジド、テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド、テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド、バルサルタン・ヒドロクロロチアジド、ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド、イルベサルタン・トリクロルメチアジド)<改訂年月>2025年5月<改訂項目>「重要な基本的注意」や「副作用」などの項に「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」の記載または追記<ここがポイント!>海外(米国、EU、カナダなど)においては、サイアザイド系利尿薬(サイアザイド類似利尿薬含む)およびアセタゾラミドを含む利尿薬に関して、急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出に関するリスク評価や安全対策が行われています。また、スルホンアミド構造を有する医薬品とこれらの有害事象との関連性を示唆する報告も複数存在しています。これらの情報を踏まえ、国内外の副作用症例および公表論文を評価した結果、該当する医薬品については「使用上の注意」の改訂が適切であると判断されました。なお、フロセミドについては、閉塞隅角緑内障または脈絡膜滲出との因果関係が否定できないと評価された症例が各1例であること、トラセミドおよびアゾセミドについては急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出との因果関係が否定できない症例が認められていないことから、現時点での使用上の注意の改訂は不要と判断されています。リオシグアト<対象薬剤>リオシグアト<改訂年月>2025年5月<改訂項目>アゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール、ボリコナゾール)を禁忌および併用禁忌から削除し、イトラコナゾール、ボリコナゾールとして併用注意に記載<ここがポイント!>リオシグアトは、初回審査時には臨床薬物相互作用試験の成績は得られていませんでしたが、複数のCYP分子種(CYP1A1、CYP3Aなど)によって代謝され、またP糖タンパク/乳がん耐性タンパク(P-gp/BCRP)の基質であることが知られていました。このため、アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、ボリコナゾール)やHIVプロテアーゼ阻害薬(リトナビル、アタザナビルなど)との併用は禁忌とされていました。しかし、2022年9月には、HIVプロテアーゼ阻害薬の併用について、「併用注意」へと変更されました。今回、リオシグアトとアゾール系抗真菌剤との薬物動態学的相互作用を検討したin vitro試験の結果から、イトラコナゾールまたはボリコナゾールの併用時のリオシグアトの曝露量の増加は、ケトコナゾールやHIVプロテアーゼ阻害薬併用時と同程度であると推定されました。加えて、リオシグアトは低用量から開始し、患者の状態に応じて用量調整することや開始用量・維持用量の減量、低血圧の症状および徴候のモニタリングなどが実施されるため、イトラコナゾールまたはボリコナゾール併用時の安全性は確保できると考えられました。このため、イトラコナゾールおよびボリコナゾールとの併用は禁忌から削除され、併用注意への記載に改訂されました。なお、欧米などの海外添付文書においてもイトラコナゾールおよびボリコナゾールはリオシグアトとの併用禁忌とされていません。ドンペリドン<対象薬剤>ドンペリドン<改訂年月>2025年5月<改訂項目>「禁忌」から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」を削除し、「妊婦」の項に「妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」の注意喚起を記載<ここがポイント!>ドンペリドンは、開発段階におけるラット胎児の器官形成期投与試験において、臨床用量の約65倍(200mg/kg)の用量で胎児に内臓および骨格異常などの催奇形性が認められたことから、「妊婦または妊娠している可能性のある女性」への投与は禁忌とされていました。しかし、70mg/kg/日の用量(最大推奨臨床用量の23倍に相当)では母動物に毒性および胎児に軽度の毒性が認められたものの、催奇形性は認められませんでした。さらに、妊娠初期における本剤の曝露に関する疫学研究では、先天異常のリスク増加を示唆する結果は得られていません。また、国内ガイドラインにおいても、本剤は「妊娠初期のみ使用された場合、臨床的に有意な胎児への影響はないと判断してよい医薬品」の一覧に記載されています。加えて、海外添付文書においても、本剤の妊婦への使用は禁忌とされていません。これらの情報から、本剤の添付文書における「禁忌」から「妊婦または妊娠している可能性のある女性」が削除されました。一方、海外添付文書の記載状況を踏まえて、「妊婦」の項に「妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」との注意喚起が記載されました。ベネトクラクス、セリチニブ<対象薬剤>ベネトクラクス、セリチニブ<改訂年月>2025年5月<改訂項目>ベネトクラクス:「禁忌」の項の「用量漸増期における強いCYP3A阻害剤」にセリチニブを追記。「併用禁忌」の項にセリチニブを追記セリチニブ:「禁忌」の項に「次の薬剤を投与中の患者:ベネトクラクス」を追記。「併用禁忌」の項にベネトクラクスを追記<ここがポイント!>セリチニブの強いCYP3A阻害作用により、ベネトクラクスの血中濃度が上昇し、腫瘍崩壊症候群の発現が増強される恐れがあるため、使用上の注意を改訂することが適切と判断されました。エプレレノン、ボリコナゾール、ポサコナゾール<対象薬剤>エプレレノン、ボリコナゾール、ポサコナゾール<改訂年月>2025年5月<改訂項目>エプレレノン:「禁忌」および「併用禁忌」の項にボリコナゾール、ポサコナゾールを追記ボリコナゾール、ポサコナゾール:「禁忌」および「併用禁忌」の項にエプレレノンを追記<ここがポイント!>強力なCYP3A4阻害薬であるケトコナゾールとの併用による臨床薬物相互作用試験において、エプレレノンの曝露量(AUC)は約5.4倍に増加することが確認されています。この結果を踏まえ、エプレレノンの承認時より、ケトコナゾールと同程度のCYP3A阻害作用を有する薬剤(イトラコナゾールなど)は併用禁忌とされています。一方、エプレレノンとボリコナゾールまたはポサコナゾールの臨床薬物相互作用試験の結果はありませんが、これらの薬剤もCYP3Aを強力に阻害することが知られています。そのため、これらの薬剤と併用した場合、エプレレノンの血漿中濃度が著しく上昇し、副作用のリスクが高まる可能性が懸念されます。以上の知見を踏まえ、使用上の注意を改訂し、両剤の併用を禁忌とすることが適切と判断されました。

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第269回 糖尿病黄斑浮腫患者の視力が経口薬ラミブジンで改善

糖尿病黄斑浮腫患者の視力が経口薬ラミブジンで改善専門家の手を必要とする目への注射ではなく経口投与で事足りる抗ウイルス薬のラミブジンが、小規模ながら歴としたプラセボ対照無作為化試験で糖尿病黄斑浮腫(DME)患者の視力を改善しました1,2)。網膜に水が溜まることで生じるDMEは糖尿病患者の失明の主な原因であり、糖尿病患者の14例に1例ほどが被ると推定されています。DMEの鉄板の治療といえば目への血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬の定期的な注射ですが、高価であり、世界的には多くの患者がしばしば手にすることができていません。DMEをラミブジンのような経口薬で治療できるなら、たいてい毎月1回の投与が必要な注射薬に比べて格段に便利であり、DME治療を飛躍的に進歩させることができそうです。月20ドルかもっと安価なラミブジンは核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)の類いの1つで、ウイルスのポリメラーゼ(逆転写酵素)を抑制するもともとの効果に加えて、免疫系の一員のインフラマソームを阻止する作用があります。インフラマソームは感染の感知に携わりますが、悪くするとどうやらDMEの発現に手を貸してしまうようです。ゆえにインフラマソーム阻害作用を有するラミブジンはDMEに効くかもしれないと米国のバージニア大学の研究者Jayakrishna Ambati氏らは考えました。Ambati氏はブラジルの大学と協力して無作為化試験にDME成人患者24例を組み入れ、10例にはラミブジン、あとの14例にはプラセボを8週にわたって1日2回服用してもらいました。また、4週目にはVEGF阻害薬ベバシズマブが眼内に注射されました(わが国では眼病変に対する投与は適応外)。ベバシズマブの効果が及ぶ前の4週時点で、ラミブジン投与群の視力検査の成績はもとに比べて約10文字(9.8文字)改善していました。一方プラセボ群は逆に2文字ほど(1.8文字)悪化していました。ラミブジンはベバシズマブの効果をも高めうるようで、ベバシズマブ眼内注射後4週時点での視力検査成績は17文字ほど(16.9文字)改善していました。プラセボ群のベバシズマブ眼内注射後4週時点の視力改善はわずか5文字ほど(5.3文字)でした。より大規模な試験でのさらなる裏付けが必要ですが、今回の試験結果によるとラミブジンは単独投与とベバシズマブ眼内注射との組み合わせのどちらでも効果があるようです。専門医に診てもらうことがままならない、定期的な診療を受ける余裕や交通手段がない世界の多くの患者をラミブジンが劇的に生きやすくしうる可能性があるとAmbati氏は言っています。NRTIを作り変えて逆転写酵素には手出ししないようにしたKamuvudineと銘打つインフラマソーム阻害薬も生み出されており3)、その1つのKamuvudine-9(K9)がDME患者相手の第I相試験段階に至っています4)。Ambati氏を共同設立者の1人とするInflammasome Therapeutics社が試験に協力しています。 参考 1) Pereira F, et al. Med. 2025 May 23. [Epub ahead of print] 2) HIV drug can improve vision in patients with common diabetes complication, clinical trial suggests / Eurekalert 3) Narendran S, et al. Signal Transduct Target Ther. 2021;6:149. 4) ClinicalTrials.gov / Evaluation of K9 in Subjects With Diabetic Macular Edema (DME)

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日本人大腸がんの半数に腸内細菌が関与か、50歳未満で顕著/国がんほか

 日本を含む11ヵ国の大腸がん症例の全ゲノム解析によって発がん要因を検討した結果、日本人症例の50%に一部の腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異シグネチャーが認められた。これらの変異シグネチャーは50歳未満の若年者において高頻度に認められ、高齢者と比較して3.3倍多かった。この報告は、国立がん研究センターを含む国際共同研究チームによるもので、Nature誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。 本研究は、世界のさまざまな地域におけるがんの全ゲノム解析を行うことで、人種や生活習慣の異なる地域でがんの発症頻度に差がある原因を解明し、地球規模で新たな予防戦略を進めることを目的としている。今回は、大腸がん症例の全ゲノム解析データから突然変異を検出し、複数の解析ツールを用いて変異シグネチャーを同定した。その後、地域ごと、臨床背景ごとに変異シグネチャーの分布に有意差があるかどうかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・大腸がんの発症頻度の異なる11ヵ国から981例のサンプルを収集した。内訳は、日本28例、ブラジル159例、ロシア147例、イラン111例、カナダ110例、タイ104例、ポーランド94例、セルビア83例、チェコ56例、アルゼンチン53例、コロンビア36例であった。日本人症例28例は、男性が18例、50歳以上が20例であった。・国別の変異シグネチャーの比較では、腸内細菌由来のコリバクチン毒素による変異シグネチャー(SBS88またはID18)は日本人症例の50%で検出され、他の地域の平均と比較して2.6倍多かった。・国別の大腸がん発症頻度は変異シグネチャーの量と正の相関を示し、11ヵ国で最も大腸がんの発症頻度が高い日本人症例において最もSBS88およびID18の量が多かった。・SBS88およびID18は、若年者症例(50歳未満)のほうが高齢者症例(70歳以上)よりも3.3倍多く検出された。・ドライバー変異と変異シグネチャーとの関連の検討では、大腸がんにおいて最も早期に起こるドライバー異常であるAPC変異の15.5%がSBS88またはID18のパターンと一致し、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がんの発症早期から関与していることが示唆された。・変異シグネチャーの有無とコリバクチン毒素産生菌の量には有意な相関は認められず、早期からの持続的な暴露が大腸がんの発症に関与している可能性が考えられた。 これらの結果より、研究グループは「本研究によって、大腸がんの遺伝子変異には地域や年齢による違いがあることが明らかになった。コリバクチン毒素産生菌への早期からの曝露が、若年発症大腸がんの増加に関与している可能性が示唆される」とまとめた。

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第245回 医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に

<先週の動き> 1.医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に 2.「宿直医の遠隔兼務」を検討へ、ICT活用で実現へ/政府 3.地域医療の“最後の砦”は誰が担う? 特定機能病院制度に再編の兆し/厚労省 4.「骨太の方針2025」で開業医狙い撃ち? 報酬適正化と負担増の両刃政策/政府 5.B型肝炎の既往歴を主治医が見落とし、リウマチ患者が死亡/名古屋大学 6.フランスで「死の援助」法案が下院可決、終末期医療の転換点に 1.医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に新型コロナウイルス感染拡大の時期に、メディアを通じて医療現場の実情やワクチンの有効性を発信してきた医師たちが、SNS上で激しい誹謗中傷にさらされたことをきっかけにネットでの医師の情報発信について法的対応が必要になってきた。埼玉医科大学総合医療センター教授の岡 秀昭医師は、SNSでの発信を始めた2020年以降、匿名アカウントからの罵詈雑言や容姿・家族への攻撃、自宅住所の晒し行為、さらには殺害予告まで受けた。岡医師は弁護士らと相談の上、2022年10月に制度化された「発信者情報開示命令」を活用し、人格攻撃に該当すると判断された投稿約50件について情報開示を申し立て、これまでに20人超を特定。投稿削除や謝罪、最大100万円の和解金支払いに至ったケースもある。その一方で、一部の対象者には民事訴訟や刑事告訴も進行中だ。投稿者の中には「感情的になり軽率だった」とする謝罪文を送る者もいたが、「殺意」などの過激な投稿もあり、深刻さは増している。同様に、コロナワクチン情報サイト「こびナビ」の元副代表・木下 喬弘医師も中傷被害に遭い、自宅住所の晒しや虚偽情報拡散を受け、法的対応を決断した。だが、情報開示には半年以上を要し、証拠収集や投稿精査に膨大な労力がかかったという。木下医師は「施策実行の妨げになる」との危機感から提訴に踏み切ったと述べる。発信者情報開示制度は、従来の二段階手続きを簡素化し、原則1件数千円・約100日で開示に至る。しかし、SNS事業者側が必要情報を持たない場合や、投稿者の支払い能力がない場合には、費用回収も困難となる。また、開示の可否は投稿が名誉毀損や人格攻撃に該当するか否かで左右されるため、慎重な証拠収集が求められる。投稿日時やURL入りのスクリーンショットの保存が有効とされる。最高裁判所によると、開示命令の申立件数は2023年で前年比1.7倍の6,779件に上るなど急増しており、社会に「反撃」意識が浸透しつつあることが背景にあるとみられる。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口 真一准教授は、法制度だけでなくSNS運営会社による速やかな削除対応や、投稿者への啓発が今後の課題と指摘している。医師による科学的情報発信が敵意にさらされる現実に、医療従事者自身も直面する可能性がある。SNS上の発信には正確さと冷静さを求められると同時に、攻撃への備えとして法的手段や証拠の保存を知ることが、自身と社会を守る手段となり得る。 参考 1) テロリスト、戦犯…女性がXに不穏な投稿を続けた理由を語った 標的は「コロナ対策を呼びかける医師」(東京新聞) 2) ネットリンチ…1時間に30件の暴言にさらされ続けた岡秀昭医師 「発信者」たちを特定しようと決意した経緯(同) 3) コロナ解説きっかけ、SNS中傷5,000件被害の医師「萎縮すれば正しい情報伝わらない」(読売新聞) 4) SNSひぼう中傷受けた医師 投稿者20人超を特定した秘策(NHK) 2.「宿直医の遠隔兼務」を検討へ、ICT活用で実現へ/政府医師の宿直義務について、政府は今後、オンラインを活用した「遠隔兼務」を正式に制度化する方向で検討を開始する。規制改革推進会議の答申(5月28日付)では、2025年度上期から要件の検討を始め、遅くとも2027年度中に結論を得て、措置を講じると明記された。これは、とくに医師不足が深刻な地方病院において、夜間帯の宿直体制を効率化し、昼間の診療体制を確保する狙いがある。宿直対応を1人の医師が複数の病院で遠隔的に担うという新たな勤務モデルが導入されれば、医療資源の最適配置に大きく貢献できる可能性がある。この議論の背景には、谷田病院(熊本県甲佐町)をはじめとする慢性期医療機関の現場からの強い要望がある。谷田病院では2024年の平日夜間、宿直1回当たりの平均対応件数が0.78回と非常に少なく、大半のケースは電話やカルテ確認によるオンコール対応で済んでいた。実際に、夜間の発熱や軽度高血圧などに対しては、解熱剤処方や経過観察の指示で十分対応可能だったという。こうした現場の実情を踏まえ、厚労省は2025年に医療法第16条とその施行規則に基づく「宿直医義務」の例外規定について解釈の明確化を図る。これまで「電話による指示」に限定されていた部分を、「オンライン等の情報通信機器」による対応も含まれることを明確にし、ICT技術の進展を制度に反映させる。加えて、医療提供体制を維持する観点から、電子カルテの情報共有などを含めた技術的要件と、医師の駆け付け可能な距離・対応時間などの勤務条件を整備することが検討されている。地域間格差の拡大を避けるため、「ローカルルール」の発生を防ぐことも留意事項に盛り込まれている。今後の焦点は、実際に「遠隔兼務」が可能となる医療機関の条件整備と、緊急時対応の安全性確保にある。とりわけ、死亡診断や蘇生処置など現地での対応が必要なケースとの線引きが課題となる。少子高齢化が進行し、医療需要が高まる中、限られた人材で地域医療を維持するために、「常駐」から「最適配置」への転換が求められている。今回の制度改革は、そうした時代の要請に応える第一歩となるだろう。 参考 1) 宿直医、複数病院の掛け持ち可能に 人手不足解消へ厚労省が容認(日経新聞) 2) 宿直医のオンライン活用による「遠隔兼務」、遅くとも2027年度中に結論へ(日経メディカル) 3) 資料「地域における病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直し」について(規制改革推進会議) 4) 規制改革推進に関する答申(同) 3.地域医療の“最後の砦”は誰が担う? 特定機能病院制度に再編の兆し/厚労省厚生労働省は5月29日、「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」を開き、大学病院本院以外の特定機能病院の承認要件の見直しに着手した。現在、88の特定機能病院のうち79が大学病院本院である一方、それ以外の9病院は総合型(国立国際医療研究センター病院、聖路加国際病院)と特定領域型(がん・循環器など)に分類され、実績や機能にばらつきがあることが厚労省から示された。厚労省は、大学病院本院に対しては「基礎的基準」と「発展的(上乗せ)基準」の二段階で評価し、「高度医療・研究・教育・医師派遣」の4本柱を求める方針を提示。一方で、大学病院本院以外の施設は医師派遣や臨床研修医の受け入れが想定されておらず、実績も限定的であることがデータから明らかとなった。検討会では、こうした実態に配慮しつつ、大学病院本院以外を特定機能病院と同一に扱うべきか、あるいは「別枠」で評価すべきかが論点として浮上。構成員からは、要件満たさなくなる医療機関について経過措置の必要性や、従来の投資や安全体制への配慮を求める声も上がった。また、地域医療構想や医師偏在対策との整合性も重視され、都市部に集中する大学病院本院以外の施設が「地域の最後の砦」として機能していない現状を踏まえ、特定機能病院制度そのものの再定義も視野に入る。新承認要件の具体化と並行して、次回以降の検討会では該当病院からのヒアリングも行われる予定だ。2026年度の診療報酬改定への影響も見込まれる中、制度設計は医療提供体制の構造的見直しに発展する可能性がある。高機能病院の役割とその評価のあり方が、今、改めて問われている。 参考 1) 大学附属病院本院以外の特定機能病院の現状及びあり方等について(厚労省) 2) 第24回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会 資料(同) 3) 大学本院以外の特定機能病院、承認要件見直し論点に 要件満たさなくなる医療機関の取り扱い慎重に 厚労省(CB news) 4) 大学病院本院「以外」の特定機能病院、大学病院本院とは異質で「特定機能病院と別の枠組み」での評価など検討へ-特定機能病院等あり方検討会(Gem Med) 4.「骨太の方針2025」で開業医狙い撃ち? 報酬適正化と負担増の両刃政策/政府政府は5月26日に経済財政諮問会議を開き、今年度の「骨太の方針」の骨子案を提示した。これをもとに6月に「骨太の方針2025」が閣議決定されるが、この中に医療・介護分野の職員の賃上げを明記するとともに、診療報酬や介護報酬など公定価格の引き上げが検討されている。一方で、社会保障制度の持続性確保の名の下に、医療界にとって見逃せない複数の構造改革も盛り込まれる方向となっている。民間議員や財政審は、診療報酬を用いて医療・介護現場の確実な賃上げに繋げる一方で、医療資源の偏在や無駄な医療提供の是正も主張。病床の適正化や外来機能の集約、さらには医師の開業シフトを抑制する報酬体系の再設計も求められている。また、医療法人に対する職種別給与情報の開示や経営情報の「見える化」も強化され、経営の透明性向上と報酬配分のメリハリが焦点になる。さらに、医療費の適正化策として薬剤の自己負担見直しやOTC薬へのスイッチ促進、市販品類似薬の保険外化などが検討されている。これらは高額療養費制度見直しとセットで実施される可能性があり、患者負担が現場の診療にも影響を及ぼす恐れが危惧されている。診療所の利益率が高いという財政審の分析を背景に、今後は病院と診療所の費用構造の違いを踏まえた報酬の差別化も想定される。医学部定員増世代の開業適齢期到来を踏まえ、診療所の過剰供給を防ぐ対策も検討課題に挙げられた。一方、医療界からは物価・人件費の高騰に即応できない診療報酬制度に対して強い危機感が示され、診療報酬の期中改定や柔軟な財政支援の必要性が訴えられている。財政審はこれに対し「どれだけ国民の理解があるか」と慎重な姿勢を崩していない。医療界にとって、「賃上げ」を名目とした制度改変が、実質的には財政再建と歳出抑制の手段と化すリスクも孕んでいる。制度の持続性と現場の実情をいかに調和させるかが、今後の診療報酬議論の中核となる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025骨子案 (内閣府) 2) 政府、骨太方針の骨子案に「公定価格の引き上げ」明記 医療・介護の賃上げ具体化を検討(JOINT) 3) 諮問会議で民間議員 診療報酬で「現場の確実な賃上げに」 薬剤自己負担見直しなど改革が「一層重要」(ミクスオンライン) 4) 財政審 基礎的財政収支の黒字化 “来年度にかけ早期に”(NHK) 5) 診療報酬の「適正化」求める建議、財政審 社会保障は「秋が主戦場」 増田氏(CB news) 6) 26年度予算の概算要求、最重要事項1項目のみ要望 物価・人件費高騰に対応できる報酬体系創設を 四病協(同) 7) 経営安定化や幅広い職種の賃上げに対応 厚労相 次期診療・介護報酬改定などで(同) 5.B型肝炎の既往歴を主治医が見落とし、リウマチ患者が死亡/名古屋大学名古屋大学医学部附属病院は5月28日、過去にB型肝炎ウイルス(HBV)感染歴のあった70代女性患者が、リウマチ治療中にHBV再活性化による急性肝不全を発症し、2021年に死亡した事例について、医療ミスを認め記者会見で謝罪した。女性は2008年に関節リウマチと診断され、免疫抑制療法が開始された。初診時の検査でHBV感染歴が判明しており、定期的なウイルス量測定および肝機能検査が予定されていたが、主治医は検査異常を薬剤性肝障害と誤認。2016年8月以降は患者の既往歴を失念し、一部の検査を中止していた。その結果、HBV再活性化を見逃し、2021年4月の肝機能悪化時にも詳細な評価を行わず、薬剤減量のみの対応に留めたことで病状が進行。同年6月に急性肝不全で死亡した。外部の事例調査委員会は、主治医が既往歴を考慮せず、肝障害の緊急性を正しく評価しなかったことを問題視。さらに、HBV再活性化リスクに関する病院内の情報共有体制や注意喚起機能の不備も指摘された。名古屋大学病院は遺族に謝罪し、損害賠償について協議している。再発防止策として、電子カルテへの感染歴表示、検査未実施時の警告アラート導入などを進めるとした。丸山 彰一病院長は会見で「当院の医療行為が不幸な結果を招いたことを深くおわび申し上げる」と述べた。今回の事例は、免疫抑制療法下におけるHBV再活性化対策の徹底と、診療科横断での患者情報共有の重要性を改めて浮き彫りにした。定期的な検査の実施や既往歴の把握、さらに肝機能障害時の鑑別診断が求められる。 参考 1) 関節リウマチの治療中、免疫抑制剤等によりB型肝炎ウイルスが 再活性化し、肝不全から死亡に至った事例について(名古屋大学) 2) 名大病院、誤診で女性死亡 肝炎患者に適切な治療せず(産経新聞) 3) 名古屋大附属病院 B型肝炎ウイルス感染の患者 医療ミスで死亡(NHK) 4) 名古屋大病院でB型肝炎の悪化見逃し70代女性死亡 医療ミス、遺族に謝罪(中日新聞) 6.フランスで「死の援助」法案が下院可決、終末期医療の転換点に5月27日、フランス国民議会(下院)は、終末期患者に対し致死薬の投与を認める「死の援助」法案を賛成305票、反対199票で可決した。本法案は、安楽死や自殺ほう助を禁じてきたフランスの政策を大きく転換するもので、今秋の上院審議を経て成立を目指す。対象は、「治癒不可能で耐え難い苦痛を抱える終末期の成人患者」に限定され、フランス国籍またはフランス在住の18歳以上に限定される。本人による致死薬の自己投与が原則で、身体的に不可能な場合に限り、医師や看護師による投与が例外的に認められる。マクロン大統領は2022年に市民会議を設置し、「死を迎える権利」に関する国民的議論を主導。その結果、多数の市民が死の援助に賛同し、今回の法案提出に至った。一方、カトリック教徒の多い同国では、宗教界や一部医療関係者の強い反対も根強く、国民投票の可能性も指摘されている。法案が成立すれば、フランスはドイツ、スペイン、スイスなどと並び、終末期医療において「死の援助」を制度的に認める欧州の少数国の1つとなる。 参考 1) フランス下院、「死の援助」法案を可決(AFPB) 2) フランス下院、終末期患者への「死の援助」法案を可決(毎日新聞) 3) 終末期「死の援助」法可決 仏下院、秋に上院審議へ(共同通信) 4) フランスで終末期患者に対する「死への援助」導入する法案が可決 フランス在住の18歳以上の成人のみ可能…患者自身で致死量の薬を投与(FNN) 5) フランス下院が自殺幇助法案を可決 妨害行為には禁錮、罰金刑も(産経新聞)

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