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2日間のオートミール食で悪玉コレステロールが低下

 果物をトッピングするか、ピーナッツバターで風味をつけるかにかかわらず、オートミールを中心とした食事はコレステロール値の低下に役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この試験では、メタボリックシンドロームの人が48時間にわたって厳格なオーツ麦ベースの食事プランを実践したところ、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール(LDL-C)が約10%低下し、その改善効果は6週間後も確認されたという。ボン大学(ドイツ)栄養・食品科学研究所のMarie-Christine Simon氏らによるこの研究結果は、「Nature Communications」に1月14日掲載された。 メタボリックシンドロームとは、過体重、高血圧、高血糖、脂質異常などの健康問題が組み合わさった状態であり、心臓病や2型糖尿病のリスクを高める。 今回の研究では、メタボリックシンドロームを有する68人の参加者を対象に短期試験と6週間の試験の2つのランダム化比較試験を実施し、オーツ麦を含む食事が脂質代謝や腸内細菌叢に与える影響が検討された。短期間の試験では、34人の参加者のうちの半数が1日300gのオートミールを3食に分けて2日間摂取した。添加できるのは少量の果物や野菜のみで、摂取カロリーは、通常の食事の約半分に制限された。対照群も同様にカロリー制限を行ったが、オートミールは摂取しなかった。2日間の食事介入を完了したのは、オートミール群17人、対照群15人の計32人であった。一方、6週間わたる食事介入では、介入群は通常の食生活を維持したまま3食の食事のうちの1食のみを80gのオートミールに置き換えた。対照群は通常の食生活を維持し、オートミールは摂取しなかった。 その結果、オートミール群ではわずか2日のオートミール食により、LDL-Cが介入前の168.94mg/dLから介入後には151.53mg/dLへと約10%低下した。対照群と比較すると、オートミール群ではLDL-Cが−16.26mg/dL、総コレステロール(TC)が−15.61mg/dL有意に低かった。この効果は、オートミール群が通常食に戻った後も持続し、6週間後でもLDL-Cはベースラインより低い傾向が認められた。一方、6週間にわたって3食のうちの1食のみをオートミールに差し替えた場合では、対照群との間にコレステロール値に有意な差は認められなかった。 さらに、オートミール群では、試験期間にかかわらず、特定の腸内細菌叢が増加したことも確認された。腸内細菌は食物の分解を助け、健康に影響する物質を生成する。今回の研究では、オートミールが細菌によるフェノール化合物の産生を促進することが分かった。論文の筆頭著者である同研究所のLinda Klumpen氏は、「フェノール化合物の1つであるフェルラ酸は、動物実験において正常なコレステロール値の維持に寄与することが示されている」と説明している。 Simon氏は、「オートミール群では、LDL-Cに約10%の低下が認められた。この減少は相当なレベルではあるが、最新の薬剤の効果と完全に同等とは言えない。そのため、この方法はここ数十年、注目されてこなかった」と話す。同氏は、「短期間のオーツ麦ベースの食事を定期的に行うことは、コレステロール値を正常範囲に維持し、糖尿病を予防するための、忍容性の高い方法となり得る」と述べている。 なお、本研究はドイツの複数の研究機関および食品業界団体の資金援助を受けて実施された。

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第308回 致死率の高いマダニ感染症、生存者を苦しめる後遺症とは

INDEX今年、マダニによる国内SFTS発生率が更新か生存者にどんな後遺症が残るのか今年、マダニによる国内SFTS発生率が更新か昨年、報告数が過去最高の191例(速報値)にのぼったダニ媒介感染症の重症熱性血小板減少症候群(略称・SFTS)。国立健康危機管理研究機構が発表する感染症発生動向調査週報の最新データ(2026年第13週[3月23~29日])1)時点でも、すでに全国7県で各1例、合計7例が報告されている。前年の同週までが2例だったことから比べれば、ハイペースである。そして報道によると、この第13週後に熊本県天草市では90代・女性の死亡後のSFTS感染が確認されたという。正直、今年も嫌な予感しかない。生存者にどんな後遺症が残るのかSFTSについては過去の本連載(第286回)でも取り上げたが、国内で確認される感染症の中でも致死率が10~30%と極めて高いのが特徴だ。しかも、病名にある検査値での顕著な血小板減少(10万/mm3未満)以外は、初期症状が発熱、倦怠感、頭痛など非特異的なものであるため、確定診断が必ずしも容易ではない点も厄介である。そして救命できたとしても、その後もしばらく後遺症が続くという研究結果2)が最近明らかにされている。これは中国・河南省信陽市にある中国融通医療健康グループの第154病院の研究チームが、2025年8月のPLOS Neglected Tropical Diseases誌に発表したSFTSサバイバーの前向きコホート研究である。同研究は2010~24年にかけて確認されたSFTSサバイバー1,197例(以下、サバイバー群)の後遺症の有無を発症後6ヵ月おきに24ヵ月目まで追跡したもので、性別・年齢をマッチングさせたSFTS陰性発熱患者188例の対照群を置いて比較したもの。ちなみにサバイバーのうち294例は11年間も追跡調査を行っている。これによると、まず何らかの後遺症が確認された割合は、サバイバー群が62.57%、対照群が51.60%であり、サバイバー群が有意に高い割合だった(p<0.05)。症状別の発症率をサバイバー群と対照群でみると、記憶障害は33.50% vs.22.87%(p=0.005)、関節痛は33.08% vs.22.87%(p=0.008)、脱毛は32.25% vs.25.00%(p=0.066)、視力低下は31.08% vs.22.34%(p=0.019)であり、脱毛を除き、サバイバー群で有意に高い割合を示した。全体として有意差が認められなかった脱毛だが、発症後6ヵ月時点では、サバイバー群33.33% vs.対照群13.75%(調整オッズ比[OR]:4.01、95%信頼区間[CI]:2.01~8.66)、12ヵ月時点では29.37% vs.8.57%(OR:3.13、95%CI:1.10~11.33)と有意差が認められている(p<0.05)。一方、全体での検査値異常については、好酸球減少が9.44% vs.3.72%(p=0.011)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)低下が6.02% vs.1.60%(p=0.018)、LDH上昇が19.38% vs.12.77%(p=0.038)となり、いずれも有意差が認められている。逆にSFTSで典型的な血小板減少は長期的には改善し、両群間で有意差は認められていない。(表)症状別発症率画像を拡大するそしてリスク因子別で見ると、サバイバー群で脳炎を発症した場合は記憶障害と血小板減少、出血症状を発症した場合は、記憶障害、視力低下、MCH低下の発症頻度が対照群と比べ有意に高く、ウイルス量(≧106コピー/mL)が高値だった場合は、多くの症状や検査異常の発症率が対照群に比べ有意に高いこともわかった。つまるところ、SFTS発症時の高ウイルス量を筆頭に、急性期の神経・出血症状の有無が重要な予後指標となるということだ。ちなみに最長で11年間の長期追跡例があることは前出の通りだが、これらの症例では、一部で視力障害や血小板数異常が残っていた事例があったという。つまりSFTSウイルスは神経向性ウイルスの性質が強いとも解釈できる。このような結果を見ると、致死率の高さだけに止まらないこのウイルスの恐ろしさを改めて実感させられる。参考1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報一覧2)Cui N, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2025;19:e0013276.

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体内CAR-T細胞生成による多発性骨髄腫治療、ESO-T01の第I相試験結果/Nat Med

 体内でのCAR-T細胞の生成は、体外培養やリンパ球除去を省略できるため、細胞療法へのアクセスを簡素化・迅速化する可能性がある。今回、再発・難治性多発性骨髄腫の成人患者を対象に、体内でCAR-T細胞を生成するレンチウイルスベクターであるESO-T01の安全性と忍容性を評価した第I相試験の結果を、中国・Huazhong University of Science and TechnologyのNing An氏らがNature Medicine誌オンライン版2026年3月25日号に報告した。 ESO-T01は、ナノボディ指向性の免疫遮蔽レンチウイルスベクターで、ヒト化抗B細胞成熟抗原(BCMA)CARをコードしている。本試験では、白血球アフェレーシス、体外培養、リンパ球除去化学療法を実施せずに、0.2×109形質導入単位を静脈内に単回投与した。前治療歴の多い男性患者5例(治療ライン中央値:3)が連続して登録され、追跡期間中央値は6.0ヵ月であった。主要評価項目は安全性、忍容性、副次評価項目は有効性、薬物動態、薬力学などであった。 主な結果は以下のとおり。・全例でGrade3以上の有害事象が認められた。・サイトカイン放出症候群が4例(Grade3が3例、Geade2が1例)に認められ、副腎皮質ステロイド、トシリズマブ、支持療法で管理された。・最も多かった毒性は一過性の血球減少および可逆的な肝酵素値の上昇で、Grade2の感染症が3例に認められた。・Grade1の免疫エフェクター細胞関連神経毒性が1例に認められ、骨髄外病変に関連する脊髄圧迫により死亡した。・5例中4例で奏効が得られ、うち3例は厳格な完全寛解であった。・評価可能な奏効例(4例)すべてで、60日目までに微小残存病変陰性(10-5)が確認された。

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初期研修を終えた今みなさんに伝えたい大切なこと【研修医ケンスケのM6カレンダー】第12回

初期研修を終えた今みなさんに伝えたい大切なことさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。医師国家試験後1本目は研修生活が始まる前に準備すること、というタイトルで、「学生」という立場をフル活用してほしい、準備するなら初期臨床研修医向けの書籍を活用せよ、という2つのメッセージをお届けしました。2本目となる今回は、研修が始まるに当たって何を大切にしてほしいか、をテーマに進めて参ります。前提として、私が初期臨床研修を行った環境は、313床/救急車台数10台/日(もっと来ていた気がする…)の2次救急病院でした。同期は6名、2学年で合計12名の初期臨床研修医がいます。日当直は月4〜5回。総合診療科の研修を十分に行うことができること、主治医制で自分の裁量権が多いため様々なスキル獲得を見込むことができたこと、比較的自由に自分の休みをコントロールできることなどが選んだ理由でした。上記のような環境で過ごした2年間と、他の病院で研修を終えた同級生たちからの話も含めて、振り返りたいと思います!ぜひ2本目もお楽しみください!自分のバリューを意識しよう!(上手に休むこともお忘れなく!)前回も書きましたが、初期臨床研修医とは何かにつけて初期の状態です。臨床も初心者なことはもちろん、社会人としても初期の人がほとんどだと思うのですが、何科の研修であれ「自身のバリューをいかに出すか」を意識することが大事です。初期臨床研修医、というよりも社会人基礎に近い話で、よく自己啓発本にも取り上げられていることですね。初期臨床研修医は皆さんが思っている以上に大事に、重宝されていると思います。初期臨床研修は大学生活:学校生活とは異なるため、現場で実際に戦力となることが求められますが、一方で医療者として未熟な初心者であるため、何かと教えてもらえる機会に恵まれます。実感が湧きにくいかもしれませんが、実際の症例を通して、指導医からのフィードバックのみならず、同期や先輩後輩が経験した症例、そして何より他職種から学ぶことが多くあるのです。学部学生の講義や国家試験対策の中では医学を中心に学んできましたが、これから皆さんが関わることは医学を実践する場としての医療です。教科書通りに物事が進むわけでもなく、また、教科書で学んだ知識を実践するにはどれだけの人やリソースが関わるのか、それが体感できます。やや話が逸れましたが、医療は皆さん個人のみでは決して成立しません。医学部入学の際にたくさん練習したチームワークや協調性が試されます。組織やチームの一員として動くのに、自分がどんなバリューを提供できるか、を意識することは非常に重要です。例えば、転倒後の圧迫骨折の症例を担当することになったとしましょう。正直、心不全急性増悪や脳血管障害などと比較すると、医学的にできることは地道で、面白みにやや欠けるかもしれません。多くの併存疾患の慢性管理を見直す、なども、初期臨床研修医成り立ての頃は知識・スキル不足から気付けないことも多いでしょう。皆さんならこんな症例を担当した時に、チームにどのように貢献したいと思いますか?一例ですが、私なら、スムーズな退院調整を進めるのに、どんな情報が必要か、どんな連携が必要かを考えます。初期臨床研修医は指導医ほどの経験・スキルはないですが、比較的時間にゆとりがあります。研修医室で暇を持て余すのではなく、本人のリハビリの様子を見学したり、面会時間に病棟へ待機して家族から情報収集をしたり。医学的なスキル不足を、自分の足で稼いだ情報資源として還元できる余地は大いにあるはずです。上記は臨床現場の一例ですが、もともと持っているスキルを活かして研修体制を見直したり、そもそも研修医だからこそ気づくことができる研修環境へのフィードバックなど、バリューを見出す場面は探せばいくらでもあります。ぜひ積極的に自分を売り込みましょう!経験した症例からの学びを最大化する(同期、先輩後輩はプライスレスな宝物です)初期臨床研修では入院症例、外来症例、救急外来症例など、さまざまな患者さんに出会うことでしょう。そして1人1人の患者さんから学ぶことは多いです。その機会を無駄にせず、ぜひ最大化することに努めてください。最大化するには振り返る仕組みを作ることが有効です。手段は自身で運用しやすいようにカスタマイズして良いですが、どんな症例であったのか、何を意識して臨んだか、気づいたことや感想が一目で見たときに思い出すことができる症例ログを作っておくと、後々振り返りやすいです。初めのうちは医学的な視点ばかり追いかけてしまいますが、タイムマネジメントやチームワークという観点も学びになります。診察をしながら問診をする、カルテ上でショートカットを活用する、というのも立派な学びの1つです。医学的なこと以外の仕事に慣れてくると、余裕が生まれるからでしょうか、不思議と医学的な視点もより広がってきます。この病態をより早く察知するには、この疾患で入院になるならのちにこんな項目が必要になるな、など、診療の厚みが増していきます。私自身は医学的な学びと、それ以外のマネジメント術のようなことで分けてまとめていました。初めは何をまとめたら良いのか、上手くデザインすることができませんが、知識・スキルの向上とともに徐々に自分の軸が作られていくので、その都度柔軟にまとめ方も変えていけば良いです。この連載の1番初めにお伝えした内容でしたが、研修医になっても学習会をすることは非常に有用です。自分1人だと経験できる症例が限られるほか、他の人の視点も取り入れることができる分、学びが深くなるのは学生と同様です。自分で学んだことをぜひ積極的に同期や先輩後輩にもシェアしてくださいね。そして慣れてきた方はぜひ他職種にも共有して、それぞれの立場からどんなケアが必要なのか、といったことを学び合いましょう!感染症と医療安全はどの診療科に行っても必要な座学初期臨床研修医の大きな特徴の1つは、様々な診療科をローテーションすることです。専攻医以降で外科や産婦人科、はたまた眼科や耳鼻咽喉科の現場に立つことはありません。その中で、臓器横断的な感染症と医療安全の2つは、どの診療科へ行っても確実に必要なことで、医師だからこそ知っておくと、コマンダーとしての厚みが増す大事な知識です。感染症も医療安全も、単科として研修することはない、そんな病院が多いと思います。ここでは、それぞれの専門を極める、ではなく、知識を座学として学びやすく、かつ、専門家でなくてもある程度の知識は知っておく必要があることに注目していただきたいです。イメージしやすいのは感染症でしょうか。国試対策でもそうだったように、診療科ごとに感染症のカテゴリーがあったはずです。そして必ず細菌感染を鑑別する必要がありました。細菌感染症では関与する細菌の種類は多いものの、グラム染色上で分けると4つにしか分類されません。代表的な菌を覚えて、どの臓器でメジャーな感染症を引き起こすのかを押さえておきましょう。骨折の診断で整形外科に入院していても、入院期間中に肺炎を発症してしまった、なんてことは珍しくありません。医療安全は注目されにくいですが、スーパーローテーションをする初期臨床研修医という立場を大いに活かすチャンスです。医療安全の基本概念の1つですが、Human is Error、人間同士が仕事をしている限りどうしてもエラーは付きものです。その上でいかにエラーを減らすことができるか、起きたエラーから何を学ぶかが重要です。初期臨床研修医はさまざまな診療科へ足を運ぶため、その科ごとにエラーを探知することができます。どの診療科にも共通することだけでなく、この診療科ではこのフローで行うが、ここでは違う、だからコミュニケーションエラーに繋がる、という発見は、色んな診療科を経験できる初期臨床研修医だからこそ気付きやすいと思います。上記の考え方は、冒頭に述べたバリューを出す、に繋がる話ですね。勘づかれた方、鋭いです。最後に(連載をお楽しみいただきありがとうございました!)いかがだったでしょうか。初期臨床研修医は何かと板挟みになったり、スキル・経験不足で打ちひしがれることも多いですが、伸びしろが大きい分、成長が実感できたときはとても嬉しいものです。社会人として自分で稼いだお金で、自分の人生やキャリアを拡張できるのも面白みの1つです。そして、今回がこの連載の最終回です。これまで応援いただいた皆さま、制作の方々、この場をお借りしてお礼申し上げます。連載企画という初めての機会をこうしていただけたことが嬉しいですし、企画を通して自分自身の振り返りとなり、少しでも皆さまのお役に立つことができたら本望です。今後の皆さまのご活躍を心よりお祈り申し上げます。ぜひ学会やイベントでお会いしたときはよろしくお願いいたします!

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第307回 2026年4月より定期接種に加わったワクチンは?

INDEX妊婦の7割、「無料であれば接種をする」イレギュラーな定期接種ワクチン妊婦の7割、「無料であれば接種をする」4月1日から2026年度がスタートした。フリーランスの私にとって3月31日と4月1日は、単なる1日違い以上の意味はないのだが、世の中はそうではない。医療業界もこの日を境にいろいろと変わることがある。その1つがワクチンの定期接種である。2026年4月1日から妊婦に対するRSウイルスワクチン接種が予防接種法に基づくA類疾病として定期接種に加わった。これまでは任意接種だったため、約3~4万円の自己負担が必要だったが、これが原則無料となる。国立成育医療研究センターのグループが2024年7月〜2025年8月に出産した1,279例の女性を対象としたオンライン全国調査では、妊娠中のRSウイルスワクチン接種率は約11.6%(95%信頼区間[CI]:9.8〜13.3%)。同ワクチンを公費負担で接種できる米国や英国の接種率の約30〜50%と比べれば、かなり低い水準である。同調査では未接種者にその理由を尋ねているが、「予防効果を知らなかった」(28.9%)、「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)、「自費での支払額が高過ぎる」(18.7%)など。このうち77.5%は「無料であれば接種をする」と回答したことも明らかになっている。また、接種した人でも接種費用について「やや高い」または「とても高い」と回答した人は87.2%に上っており、やはり高額なワクチン接種費用は接種率向上の大きなハードルになっていることは確実と言ってよい。今後は少なくとも前出の11.6%よりは接種率が高くなると考えられる。もっともこの調査で未接種であった人の15.0%が、「無料でも受けたくない」と回答していることのほうが大きな問題かもしれない。イレギュラーな定期接種ワクチンそもそも今回のRSウイルスワクチン自体が既存の定期接種ワクチンの中では異質である。接種対象者が単なる健常者ではなく妊婦限定であることに加え、接種した妊婦の体内で産生された抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、出生直後の乳児のRSウイルス感染を防御するというやや分かりにくいものだからだ。少なからぬ人が経験しているだろうが、妊娠期間中の女性は自身だけでなく胎児の健康を慮るあまり、体内に入る薬や食品などには、平時以上に神経質になりがちである。その意味ではVaccines誌に掲載されたサハラ以南で行われた妊婦の新型コロナウイルスワクチンに関する研究1)が興味深い。同研究はアフリカのサハラ以南というやや特殊な地域で行われ、例数も少ないが、妊婦と非妊婦の年齢マッチングを行ったうえでの研究である。それによると妊婦は非妊婦に比べ有意にワクチンを受ける可能性が低いことがわかっている(オッズ比[OR]:0.12、95%信頼区間[CI]:0.06~0.27、p<0.001)。また、学歴が低いほど接種率が有意に高く(OR:0.04、95%CI:0.01~0.18、p<0.001)、一時“流行”した新型コロナワクチンにマイクロチップが含まれているという誤情報を信じる人ほどワクチン接種率が有意に低いという結果だ(OR:3.63、95%CI:1.12~11.79、p=0.032)。一瞬、これを読むと頭が混乱するかもしれないが、ここはやや補足が必要だ。まず、この研究では、いわゆる高学歴は被験者全体の92.6%を占め、低学歴者の割合は極端に低い。このため学歴による有意差は表面的な結果と受け止められる。また、たとえば新型コロナワクチンがDNAに変化を与えるという誤情報を信じる割合は、妊婦が79.6%、非妊婦が76.6%で有意差はない。むしろシンプルに妊婦のほうが非妊婦に比べ、何事も慎重になりやすい、考え過ぎるゆえにワクチンに対しても忌避傾向がみられることを示唆していると解釈したほうがいいだろう。一方、ワクチン接種については従来から医療者による推奨などが接種率に大きな影響を与えることが知られている。米国疾病予防管理センター(CDC)の「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」2023年9月29日号に掲載された妊婦に関するワクチン接種に関する調査結果2)では、2022年10月~2023年1月の間に妊娠していたと報告した1,814人の女性でのインフルエンザワクチン接種率は47.2%(95%CI:44.4~50.1)に過ぎなかったが、医師による推奨があり、その場で接種が可能だったケースでの接種率は61.4%(同:58.0~64.7)。これに対し、推奨のみでは22.7%(同:15.0~32.0)、推奨なしでは10.8%(同:7.5~14.9)で、各群間では有意差(p<0.05)が認められたとしている。その意味で新たに定期接種に加わったRSウイルスワクチンの接種率向上については、限られた診療時間内で医療者がどのように妊婦に情報提供できるかにかかっているともいえる。もちろんこの点を医療者側も重々承知しているであろうことは、日本産婦人科医会のホームページ3)にRSウイルスワクチン接種に関する医師・患者向け資材が掲載されていることからもうかがい知れる。同時に私たちメディアにもそうした責任は向けられているのだと、新年度を迎え、心新たにもしている。1)Amiebenomo OM, et al. Vaccines (Basel). 2023;11:484.2)Razzaghi H, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;39:1065-1071.3)日本産婦人科医会:RSウイルスに関するご案内

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心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響

 亜鉛欠乏症は心房細動(AF)/心房粗動(AFL)発症の重要な独立した危険因子となる可能性が、台湾・Chi Mei Medical CenterのI-Wen Chen氏らの研究から明らかになった。近年、AF/AFLの有病率が世界的に増加しており、修正可能なリスク因子の特定が喫緊の課題である。また、心血管疾患との関連が示唆されている亜鉛欠乏症について、AF/AFLの発症を関連付けるような大規模なエビデンスは依然として限られていた。Frontiers in Nutrition誌2026年2月20日号掲載の報告。 本研究は、電子健康記録(EHR)のプラットフォームであるTriNetX社のデータベースを用いて実施された多施設共同後ろ向きコホート研究。2010~23年に血清亜鉛の測定記録日(インデックス日)のある40歳以上の患者を解析した。傾向スコアマッチングにより、患者を亜鉛欠乏症群(70μg/dL未満、6万1,732例)と亜鉛正常群(70~120μg/dL、6万1,732例)に1対1に調整した。主要評価項目はインデックス日から2年以内のAF/AFL新規発症とした。副次評価項目は、肺炎(陽性対照)、AF/AFL、虚血性脳卒中リスクとした。アウトカムイベントは、それぞれ1~6ヵ月以内および6~24ヵ月以内に発症するものと定義し、早期発症と晩期発症に層別化した。 主な結果は以下のとおり。・亜鉛欠乏症は、追跡期間の早期(ハザード比[HR]:1.62、95%信頼区間[CI]:1.39~1.90、p<0.001)および晩期(HR:1.42、95%CI:1.29~1.57、p<0.001)の両方において、AF/AFL発症リスクの有意な増加と関連していた。・血清亜鉛濃度別に早期発症ならびに晩期発症の用量反応関係を調べた結果、軽度~中等度亜鉛欠乏症(50~70μg/dL、各群5万6,206例)では、早期発症(HR:1.40、95%CI:1.18~1.67)と晩期発症(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)の両方でAFリスクに対する統計学的有意差がわずかに認められた。対照的に、重度亜鉛欠乏症(50μg/dL未満、各群8,961例)では、リスクが著しく上昇し、早期発症は約3倍(HR:2.79)、晩期発症は2倍(HR:2.04)に増加した。・重度の亜鉛欠乏症(50μg/dL未満)は、対照群と比較して晩期AF/AFLリスクが約2倍であった(HR:2.04、95%CI:1.67~2.49)。一方、軽度~中等度の亜鉛欠乏症(50~70μg/dL)は、対照群と比較し、わずかだが有意な増加を示した(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)。 ・亜鉛欠乏症とAF/AFLの関連は、多様な患者サブグループにおいて、また新型コロナウイルス感染症のパンデミック前(2010~19年)とパンデミック期(2020~23年)のいずれにおいても一貫していた。・肺炎リスク(早期のHR:1.56、晩期のHR:1.40)や虚血性脳卒中リスク(早期のHR:1.19、晩期のHR:1.12)も亜鉛欠乏症患者で上昇した。ただし、心室細動/心室粗動は亜鉛欠乏症と有意な関連を示さず、心房性不整脈に特異的に影響を与えることが示唆された。 研究者らは、「血清亜鉛値を心血管リスク評価に組み込み、亜鉛補給を費用対効果の高い予防戦略として検討することに潜在的な価値がある」としている。

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2つのRCT事後解析からみたカナグリフロジンの尿路感染症発症リスク

 2型糖尿病患者におけるカナグリフロジンの尿路感染症(UTI)発症リスクは尿中白血球エステラーゼ(LE)および亜硝酸塩が異常値であってもプラセボと同程度だったという研究結果が、Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年3月16日号に報告された。 SGLT2阻害薬は心腎系の有益性が確立されているものの、UTIのリスクに対する懸念から、とくに高リスク患者では使用が制限される可能性がある。 大阪大学の土井 洋平氏らは、UTIの診断に有用とされるLEおよび亜硝酸塩1)を指標にカナグリフロジンとUTIとの関連を検証した。 本研究は2型糖尿病患者を対象としたカナグリフロジンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験であるCANVAS試験およびCREDENCE試験の事後解析として行われた2,3)。主要評価項目は初回UTI発症までの時間、副次評価項目は総UTI発症数などである。 主な結果は以下のとおり。・被験者8,614例中、LEの異常は10.7%、亜硝酸塩の異常は3.5%で認められた。・調整後LE陽性率1+、2+、3+の正常群に対するハザード比(HR)はそれぞれ1.72、1.89、2.77と、LE陽性率が高いほど初回UTI発症リスクは増加した。・亜硝酸塩の異常1+、2+のHRは2.28、1.66と、正常群に対して初回UTI発症リスクが上昇していた。・LE陽性率および亜硝酸塩の異常は総UTI発症も増加させた。・全体的にみて、カナグリフロジン投与はプラセボと比べ、初回UTI発症リスク(HR:1.06、95%信頼区間[CI]:0.93~1.21)も総UTI発症リスク(HR:1.01、0.86~1.18)も増加させなかった。・LE正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.17(95%CI:1.00~1.38)、LE異常群におけるHRは0.94(0.73~1.21)であった(交互作用のp=0.10)。・亜硝酸塩正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.08(95%CI:0.94~1.24)、異常群のHRは0.92(0.59~1.43)であった(交互作用のp=0.45)。・LEおよび亜硝酸塩の変化による初回UTI発症リスクは、カナグリフロジンとプラセボで差がみられなかった。・副次評価項目である総UTIイベントのリスクについて、カナグリフロジンは、LEおよび亜硝酸塩群のいずれの異常群においてもプラセボよりも増加させなかった(各HR:0.76[95%CI:0.58~0.99]、1.18[0.79~1.76])。 LEおよび亜硝酸塩の異常値はUTIのリスク増加と関連していたものの、カナグリフロジン投与によるリスクの増加は確認されなかった。これらの結果は、膿尿や細菌尿の所見がある2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬の投与を一律に控えるものではない、という考えを支持している、と筆者らは結んでいる。

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初の人乳由来母乳強化剤が承認、超早産児の栄養管理に新たな選択肢/クリニジェン

 2026年3月18日、「極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理」を効能又は効果とする、プリミーフォート経腸用液が薬価収載され、2026年4月下旬の発売が予定されている。プリミーフォート経腸用液は、極低出生体重児等の栄養管理を目的とした人乳由来母乳強化剤の医薬品として、本邦で承認された初めての製品となる。クリニジェンは同日「超早産児の新しい栄養管理とNICUの未来~本邦初の完全人乳栄養による経腸栄養の可能性~」と題したメディアセミナーを開催。水野 克己氏(昭和医科大学小児科学講座)が登壇し、超早産児の栄養管理の考え方と同製品の役割について解説した。早産児栄養管理戦略の変遷と人乳由来母乳強化剤の位置付け 超早産児に対する母乳は、量依存性に壊死性腸炎、後天性敗血症、慢性肺疾患、未熟児網膜症、神経発達異常などの罹患率・重症度の低下、NICU退院後の再入院リスクの低下と関連することが報告されており1,2)、母親の母乳が児にとって最適なことは疑う余地がない。しかし、母乳が得られるまで静脈栄養のみを続けることは、腸管粘膜の萎縮や炎症、感染症のリスクとなる3)。一方で、いつでも使用できる人工乳は、腸管透過性、腸管粘膜の炎症、腸内細菌叢の問題から慎重な使用が求められる4)。 こうした背景を踏まえ、2019年、日本小児医療保健協議会(日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会)は、自母乳が得られるまで絶食とするNICU施設が散見される、生後早期からの経腸栄養開始による短期予後の改善が報告されているなどとして、「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」5)において、以下の3項目を提言として発表した:1.早産・極低出生体重児にとって自母乳は最適な栄養であり、NICUにおいても母乳育児を推奨し支援すべきである。2.自母乳が不足する場合や得られない場合、次の選択肢は認可された母乳バンクで低温殺菌されたドナーミルクである。3.将来的には、母乳と人乳由来の母乳強化で栄養するEHMD(完全人乳由来栄養[Exclusive Human Milk Diet])が早産・極低出生体重児に与えられることが望ましい。 提言3で将来的な実現が期待されていたEHMDが、今回初めて承認・発売に至った形となる。母乳強化が必要な理由 胎児において、脳の成長スパートは妊娠28週ころから始まり、おおよそ2歳まで続く6)。水野氏は、「23週と39週では、脳の発達状況に大きな差がある。単に生存退院を目指すのではなく、可能な限り正期産児に近い発達状態での退院を目指すべきである」として、早産児における適切な栄養介入の重要性を指摘した。 母乳強化による効果については、いくつかエビデンスが報告されている。超低出生体重児における母乳栄養下での十分なタンパク強化により、頭囲成長や2歳時の神経発達予後が改善し、静脈栄養期間および入院期間が短縮したという報告7)や、極低出生体重児にEHMDを与えることで網膜症や敗血症、慢性肺疾患が減少したという報告がある8)。 現在、本邦で販売されているのは牛乳由来強化物質のみで、牛乳アレルギーのリスクがあるほか、結石が形成された症例が報告されている。水野氏は、EHMDがとくに必要と考えられるケースとして、消化管手術後の超早産児を挙げた。また、実際の症例として、胎便関連性腸閉塞と高インスリン性低血糖を有する症例で、EHMDを与えることにより体重増加のほか低血糖の改善もみられた症例を提示し、その臨床的有用性について言及した。プリミーフォートの有効性と安全性を評価した第III相試験の結果 JASMINE(JApanese Study of an Exclusive Human MIlk Diet in Premature Neonates)試験9)は、極低出生体重児を対象としたEHMDにおける成長および安全性評価のための多施設共同無作為化比較対照試験。新生児集中治療室に入室している極低出生体重児147例を対象に、EHMD群(プリミーフォートを母乳またはドナーミルクに添加)と標準栄養群(母乳、ドナーミルク、牛乳由来の人工乳および栄養強化剤を使用)の成長速度を比較した。主な結果は以下のとおり。・試験参加者の背景は両群でおおむね同様であったが、在胎期間22~25週で出生した新生児割合は、標準栄養群27.1%に比べ、EHMD群では36.4%と多かった。・主要評価項目である出生から在胎34週0日までの体重増加速度は、標準栄養群に対しEHMD群で有意に速かった(11.96g/kg/日vs.13.44g/kg/日、p=0.0063)。・副次評価項目である出生から経腸栄養確立(160mL/kg/日)までの日数はEHMD群で有意に短く(25.90日vs.20.00日、p=0.03)、身長増加速度(0.67cm/週vs.0.83cm/週、p=0.0016)および頭囲増加速度(0.58cm/週vs.0.66cm/週、p=0.0312)はEHMD群で有意に速かった。・発現頻度の高かった試験治療下における有害事象(TEAE)は感染症で、標準栄養群8.6%、EHMD群10.4%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・重篤な有害事象および死亡に至ったTEAEはそれぞれ標準栄養群2.9%、EHMD群3.9%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・EHMD群で試験中止に至ったTEAEのうち、「母乳強化物質との因果関係あり」とされたのは、胃腸障害関連のTEAE(2例、うち1例が重度)、130mL/kg/日の栄養不耐症(1例)であった。<製品概要>・販売名:プリミーフォート経腸用液6、8、CF・効能又は効果:極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理・用法及び用量: 本剤を電子添文の表のとおり母乳と混合して強化乳を調製し、経管又は経口投与する。通常、「強化乳6」を50mL/kg/日から投与開始し、徐々に投与量を増やし、100mL/kg/日に到達後は必要に応じて強化乳の切替えを行う。栄養補給量は160mL/kg/日まで継続的に漸増する。また、必要に応じて160mL/kg/日より増量することもできる。なお、強化乳の投与開始時期、投与経路及び投与速度は、児の在胎期間、体重、症状、栄養状態等を考慮して決定する。また、強化乳の増量及び切替えは、体重増加速度、在胎期間、子宮内発育遅延の有無、補給時間、水分制限の要否、タンパク質及びエネルギーの必要量等を考慮して行う。・薬価:プリミーフォート経腸用液6(15mL1瓶29,171.30円、30mL1瓶58,199.30円)、8(40mL1瓶77,580.50円)、CF(10mL1瓶14,079.50円)・製造販売承認日:2025年12月22日・薬価基準収載日:2026年3月18日・発売日:2026年4月下旬・製造販売元:クリニジェン株式会社■参考文献・参考サイトはこちら1)Meier PP. Nestle Nutr Inst Workshop Ser. 2019;90:163-174.2)Quitadamo PA, et al. Foods. 2024;13:649.3)Quiroz-Olguin G, et al. Eur J Clin Nutr. 2021;75:1533-1539.4)Rao K, et al. Front Pediatr. 2022;10:902798.5)水野克己ほか. 日本小児科学会雑誌. 2019;123:11086)Dobbing J. Am J Dis Child. 1970;120:411-415.7)Mariani E, et al. Front Public Health. 2018;6:272.8)Assad M, et al. J Perinatol. 2016;36:216-220.9)JASMINE試験(JRCT)

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遠隔診療で医療費が対面診療の約5分の1に

 遠隔診療は単に便利なだけでなく、患者と医療システム双方の医療費削減につながることが、新たな研究で示された。特に頻度の高い症状の診療においては、遠隔診療では対面診療と比べて医療費を約5分の1に抑えられることが明らかになったという。米ペンシルベニア大学戦略的イニシアチブのシニアバイスプレジデントであるDavid Asch氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に2月9日掲載された。 Asch氏は「この研究を行う前は、遠隔診療は“応急処置”を気軽に受けられる手段の一つに過ぎず、対面診療を先延ばしにするだけで、結果的に全体の医療費を押し上げるのではないかという懸念があった」と説明。その上で、「しかし、われわれの研究から、それが事実ではないことが明らかになった。多くの患者にとって、遠隔診療は応急処置のための一時的な対応となるだけでなく、完全な解決策となり得るのだ」とニュースリリースの中で述べている。 論文の研究背景によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の緊急措置により遠隔診療へのアクセスが拡大し、その利用が急増した。例えば、ペンシルベニア大学ヘルスシステム(UPHS)での遠隔診療の件数は、2020年3月から2021年2月までの1年間で100万件に達し、2019年の1万1,000件から約90倍に増加した。 しかし、遠隔診療の有効性や費用対効果については依然として疑問が残っていたという。論文の上席著者である同大学生物統計学教授のYong Chen氏は、「遠隔診療が万能ではないことは認識している。特に精神および行動の健康問題に対しては、慎重なトリアージやフォローアップ、継続的なケアが依然として重要である。そのため、われわれは、医療資源の効率的な配分が実現されているのかを解明したいと考えた」と述べている。 研究グループは今回、2024年1月1日から4月30日までの4カ月間にわたる16万3,308件の診察データを分析した。データには、対面診療および遠隔診療の両方の診察データが含まれていた。対象はCOVID-19、呼吸器症状、神経発達障害、睡眠障害、不安症など10種類の一般的な症状や疾患の診察とし、初回受診の7日前から30日後まで追跡し、その後の受診の必要性を調べた。 その結果、遠隔診療に関連する請求額は平均で96.60ドル(1ドル158円換算で約1万5,300円)だったのに対し、対面診療では509.21ドル(約8万円)だった。また、その後の受診回数は、遠隔診療で平均3.44回であったのに対し、対面診療では平均4.44回であった。特に呼吸器症状などでは対面診療よりも遠隔診療の方が平均で800ドル(約12万6,400円)以上医療費が少なかった。一方、精神科医療については、対面診療と遠隔診療の医療費はほぼ同額であることが示された。 論文の筆頭著者である同大学応用数学・計算科学のBingyu Zhang氏は、「多くの医療システムでは、すでに精神科医療の大部分を遠隔診療によって提供している。精神科医療は、他の疾患のような検査や処置ではなく、カウンセリングや服薬管理が主体となるからだ。したがって、治療や処方の流れは診療形態にかかわらず同じようなものであり、診療エピソードにかかる費用も同程度になる。ただし、それでも遠隔診療ではその後の受診回数が少ない傾向にある」と説明している。 研究グループはまた、遠隔診療へのアクセスを拡大したコロナ禍の規制を維持するために米議会が対応する必要があると主張している。UPHSのCEOであるKevin Mahoney氏はニュースリリースの中で、「もし遠隔診療がCOVID-19以前のような制限された形に戻れば、今回われわれが明らかにした医療費削減効果は失われる可能性がある」と指摘し、「病院や医療システムが深刻な財政的逆風にさらされている今、このような節減は極めて重要だ。それによって、患者ケアへの再投資やイノベーションの推進が可能になる」と述べている。

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第288回 患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省

<先週の動き> 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省厚生労働省は、3月26日に「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」を開き、少子化と専門医不足のため、小児医療の提供体制を都道府県単位から広域連携へ転換する方針を明らかにした。小児の集中治療や心臓手術など高度医療は症例減少により各都道府県単独での維持が困難となっており、県外搬送や遠隔相談を前提とした体制整備、財政支援、将来的な集約化を検討する。これらの政策は第9次医療計画への反映が見込まれ、医師不足地域では他科医との連携やオンライン診療、小児科医派遣による維持策も示された。小児がん領域でも体制見直しが進む。高度治療や研究開発を担う拠点病院は集約化しつつ、全都道府県に標準治療を提供する「県拠点病院」を新設、さらに連携医療機関を整備する三層構造へ再編する。症例数減少と分散、ドラッグ・ラグ、アクセス格差が背景にあり、質とアクセスの両立を図る。2027年から新体制が開始される予定。その一方で、人口減少は医療提供体制全体に影響を及ぼす構造問題として顕在化しており、人口減少問題を議論する「未来を選択する会議」の白書では社会保障費増大やインフラ維持への危機感が8割超に達し、出生減少の要因として経済負担や性別役割意識の影響が指摘された。人口減少は、地域差・世代差を伴いながらも全国各地で進行しており、医療政策も広域化・集約化とともに社会制度改革と不可分の課題となっている。 参考 1) 小児がん拠点病院等について(厚労省) 2) 今後の小児がん拠点病院等の指定の考え方について(同) 3) 小児医療、県またぎ連携 厚労省、心臓手術など 少子化や専門医不足で(日経新聞) 4) 小児がん診療体制を大きく見直し、「拠点病院の集約化」とともに「全都道府県に県拠点病院を指定」へ-小児がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 5) 人口減少問題 有識者団体が報告書 “社会経済全般の改革必要”(NHK) 6) 人口減に50歳以上の7割が「危機感」、未来選択会議が初の「人口問題白書」…少子化対策のヒントも(読売新聞) 7) 民間組織「未来を選択する会議」が人口問題白書を発行、人口減見据え(朝日新聞) 8) 人口問題白書2025(未来を選択する会議) 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省厚生労働省は、3月26日に社会保障審議会医療部会を開き、2040年を見据えた新たな地域医療構想のガイドラインを4月中に公表し、都道府県は2026~28年度に新構想を策定することを明らかにした。構想区域は「人口20万人以上」を基本としつつ、地域の実情に応じ柔軟に設定。区域内では医療機関の機能分担や病床再編を協議し、急性期拠点機能は人口20~30万人に1ヵ所を目安に集約化を進める方向である。社会保障審議会での議論では、ガイドラインはあくまで参考とし、地域実情を優先すべきとの意見や、老朽病院の建て替え支援、都道府県への技術的・財政的支援を求める声が相次いだ。あわせて外来医師偏在対策も具体化し、外来医師過多区域で2026年10月以降に新設される無床診療所について、地域で不足する医療機能の提供状況や要請・勧告の有無を「医療情報ネット(ナビイ)」で公表する方針が了承された。スマホ対応マイナ保険証、RSウイルスワクチン、指定難病対応などの情報も追加される。その一方で、「要請・勧告といったネガティブ情報の公開は制度趣旨とずれる」「不公平を生む」との慎重論も出た。医療機関の定期報告率は全国平均72.4%だが、都道府県差が大きく、入力負担軽減と周知徹底が課題とされた。今後、オンライン診療受診施設の広告規制や不適切広告対策の強化も進められ、外来・在宅・介護連携まで含めた医療提供体制の再構築が本格化する。 参考 1) 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会とりまとめについて(厚労省) 2) 地域医療構想「人口20万人以上」 40年見据えガイドライン骨子 厚労省(時事通信) 3) 新地域医療構想等のガイドライン、医療部会意見も踏まえて「2026年4月中」に作成・公表、急性期機能等の集約化を地域で推進(Gem Med) 4) 地域医療構想策定ガイドラインは4月に 社保審・医療部会(CB news) 5) 全国の医療機関情報掲載する「ナビイ」に外来医師過多区域での医療機能提供などの情報も公表-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med) 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協3月24日に日本医師会と四病院団体協議会は、医療・介護分野の人材紹介サービスの適正化に向け、紹介手数料の上限規制導入や返戻金制度の義務化を求める要望書を上野 賢一郎厚生労働大臣に提出した。背景には、近年の人材紹介手数料の高騰と早期離職の増加があり、医療機関の経営を圧迫している実態がある。とくに紹介手数料の総額は2023年度に1,000億円を超え、その多くが公的医療保険を原資として支払われている点が問題視されている。医療機関にとっては、診療報酬が公定価格という環境で、採用コストを価格転嫁できず、地方や中小医療機関ほど影響が大きく、地域医療提供体制の持続性にも関わる課題となっている。さらに医療・介護分野では入職後6ヵ月以内の早期離職が多く、採用のたびに高額手数料が発生する構造が経営リスクを増幅させている。要望では、早期離職時の返戻金制度を義務化し、その水準を標準化することで、紹介会社にも一定の責任を負わせる仕組みを提案した。ただし、返戻期間の単純延長では離職の後ろ倒しを招く可能性もあり、実効性ある設計が必要とされる。また、離職実態の可視化として6ヵ月超1年以内の離職データ報告義務化や、求職者が紹介手数料の実額を把握できる仕組みの導入も求めた。加えて、ハローワークやナースセンターなど無料職業紹介の活用促進も提言。民間紹介への依存が進めば人材の都市部集中や地域偏在が加速する懸念がある。これら一連の提言は、単なるコスト問題にとどまらず、人材確保と医療提供体制の持続性に直結する構造課題への対応を求めるもの。厚生労働省では、まず実態把握を進める姿勢を示しており、今後の制度設計が医療経営に与える影響は大きい。 参考 1) 高額な紹介手数料、「原資は公的医療保険」と指摘 日医会長が問題視、緊急対応を要望(CB news) 2) 医療・介護の人材紹介手数料に上限規制を 医師会と病院団体、上野厚労相へ要望書(Joint) 3) 有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(四病院団体協議会・日本医師会) 4) 有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書~医療分野における人材確保と有料職業紹介事業等の適正化に向けた提言~(同) 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省厚生労働省は、3月18日に「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループと介護情報利活用ワーキンググループの合同会議を開催し、医療と介護の情報連携を強化するため、「全国医療情報プラットフォーム(PF)」を活用し、診療情報提供書や訪問看護指示書・計画書・報告書を医療・介護関係者間で共有する方針を示した。これまで医療分野では電子カルテ情報共有サービス、介護分野では介護情報基盤の整備が進められてきたが、両分野をまたぐ情報共有の具体像は整理されていなかった。今回、標準様式が存在する文書から連携を開始し、将来的にはリハビリ計画書や入退院情報などへ拡大する方向で検討を進める。電子カルテ情報共有サービスでは、診療情報提供書や退院時サマリーなどの「3文書6情報」を全国で共有できるものとし、2027年初頭の本格運用が見込まれる。その一方で、介護情報基盤も要介護認定情報やLIFEデータ、ケアプランなどの共有を2026年度から段階的に開始する予定であり、両基盤を接続することで多職種連携の高度化が期待される。背景には、高齢化の進展に伴い医療と介護の複合ニーズを持つ患者が増加している現状がある。情報連携により入退院時の引き継ぎや在宅療養支援の質向上、災害時対応の強化などが見込まれる一方で、同意取得の在り方や情報セキュリティ、介護側のICT環境整備、標準化の難しさなど課題も多い。とくに介護情報は生活背景や主観的評価を含むため、医療情報との整合性確保が重要となる。今後、合同ワーキンググループでは、詳細設計を進め、2026年夏に開発方針を取りまとめる予定。医療・介護の分断を埋める基盤整備は、地域包括ケアの実効性を左右する鍵となる。 参考 1) 「全国医療情報プラットフォーム」における医療介護連携の進め方について(厚労省) 2) 健康・医療・介護情報利活用検討会 第30回医療等情報利活用ワーキンググループ、及び第10回介護情報利活用ワーキンググループ資料について(同) 3) 医療と介護の情報共有、診療情報提供書などから 全国医療情報プラットフォームで 厚労省案(CB news) 4) 医療・介護連携を「情報面」からも進めるため、まず【診療情報提供書】【訪問看護指示書・計画書・報告書】の電子的共有を検討(Gem Med) 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の急騰を受け、全国保険医団体連合会(保団連)は政府に対し、医療資材の供給確保と財政支援を求める緊急要望書を提出した。背景には、イランを巡る中東情勢の悪化とホルムズ海峡の機能不全による世界的な原油供給不安があり、医療現場にも直接的な影響が及び始めている。医療用ガウンやグローブ、注射器、点滴バッグ、カテーテルなど、原油由来のプラスチック製品を中心にコスト上昇と供給不安が顕在化しており、基礎的医薬品を含めた医療資材の不足は診療継続そのものに直結するリスクとなる。加えて、在宅医療では燃料費の上昇が訪問コストを押し上げ、結果として患者負担の増加につながる可能性も指摘される。医療機関の経営面でも、光熱費や材料費の高騰が収益を圧迫しており、2026年度診療報酬改定で盛り込まれた物価対応分(+0.76%)は今回の急激な原油高を想定したものではなく、十分な対応とは言えないとの批判がある。さらに改定施行が6月である点も、足元の急激なコスト上昇への対応としては遅いとされる。こうした状況を踏まえ、保団連は医療資材および基礎的医薬品の国内在庫確保と安定供給、診療報酬の期中改定や補助金の拡充による即時的な財政支援を要請した。医療機関が機能不全に陥る前の早期対応を求める内容であり、原油高は単なるコスト問題を超え、地域医療の持続性を揺るがす構造リスクとして顕在化している。今後の政策対応は、医療経営の安定のみならず、患者アクセス維持の観点からも重要な局面を迎えている。 参考 1) 【要望】原油価格高騰に伴う医療資材の不足等への緊急対応を(保団連) 2) 「原油急騰で機能不全に陥る前に…」医師団体が政府に緊急の要望書 医療資材の在庫確保など求める(弁護士JPニュース) 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市川崎市立川崎病院は、麻酔薬を自己使用し患者への投与量を改変したとして、28歳の麻酔科医を懲戒免職とした。医師は不眠に悩み、「麻酔で眠る患者を見て自分も眠りたかった」と供述している。事件は2025年12月、手術中に無断で手術室を離れ、麻酔薬プロポフォールを自己注射したことに始まる。この間、約30分間にわたり麻酔科医不在の状態で手術が継続され、後に別の医師が対応した。さらに2026年1月の復職後、患者に使用予定の麻酔薬から一部を抜き取り、自身の使用目的で持ち去ろうとした上、生理食塩水で希釈した薬剤を患者に投与する不正行為が発覚した。翌日にも同様の行為を試みたが看護師が発見し、事態が明るみになった。患者への健康被害は確認されていないものの、医療安全および倫理の観点から重大な問題と判断され、病院は懲戒免職とともに窃盗容疑で警察に被害届を提出した。この事件により、病院の薬剤管理体制の脆弱性のみならず、医師の健康管理や勤務環境の問題も浮き彫りにした。長時間手術や慢性的な睡眠不足の中で、適切なサポート体制が機能していたかが問われる。医療機関における薬剤管理、職員のメンタルヘルス対策および医療安全体制の再点検が求められる事案といえる。 参考 1) 「不眠に悩み」患者の麻酔薬一部持ち去り自己注射 28歳医師処分(毎日新聞) 2) 不眠に悩む麻酔科医「患者にこんなに効くなら…」抜き取って自分に注射、患者には薄めて 川崎市立病院、懲戒免職(東京新聞) 3) 手術室離れて麻酔薬を自分に注射 「少しでも寝たかった」医師を免職(朝日新聞)

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第306回 「清潔な国」日本、なぜノロウイルス集団食中毒が起こるのか

INDEXノロウイルスによる大規模集団食中毒が発生食品管理に対する姿勢、日本は甘い?ノロウイルスによる大規模集団食中毒が発生大阪府熊取町で3月17日に小中学校向けの給食で提供されたパンに混入したノロウイルスを原因とする集団食中毒事件が発生した。最新の報道によると、同町教育委員会が3月24日までに把握した体調不良者は633人。原因であるパンを食べてからノロウイルスの潜伏期間内に発症したとみられるのは、うち302人だったという。2025年の食中毒統計(速報値:2026年3月2日までの報告)1)によると、同年の食中毒報告件数は1,176件、総患者数は2万4,854件。このうち発生件数の39.2%に当たる462件、患者数の74.7%に当たる1万8,566例の原因がノロウイルスである。同統計によれば、食中毒件数とそれによる患者数ともに4年連続で増加し、ノロウイルスによる患者割合が最も多い。ちなみに2025年のノロウイルスによる食中毒で最大規模だったのは、同年2月に兵庫県で発生した仕出し弁当を原因とした2,307例もの患者が発生した事例である。今回の熊取町の事例は、給食パンが原因の食中毒と断定される可能性が高く、302例に限定しても、昨年のワースト5に入る規模だ。これだけノロウイルスによる食中毒が多いのは、ご存じのようにこのウイルスが10~100個というごく少量で感染が成立してしまうことに加え、二枚貝を中心とする食品、感染した調理者を介した食品、接触・飛沫を通じたヒト・ヒト感染という感染経路の多様さ、アルコール消毒が効きにくいエンベロープ(脂質膜)を持たないウイルスであることなどが影響しているといわれる。熊取町のケースは、パン製造業者の従業員の便からノロウイルスが検出されていることから、前出の「感染した調理者を介した食品を通じた感染」に当たると考えられる。そして現状、ノロウイルス感染症には特異的な治療薬もワクチンも存在しない。これもノロウイルスの特性が影響している。そもそもこのウイルスは成熟したヒトの腸管上皮細胞でしか増殖しないため、実験室レベルでの培養がきわめて難しく、結果として動物モデルによるデータも乏しい。これではウイルスの増殖機構の解明、薬剤スクリーニング、ワクチン評価のいずれも入口からつまずいてしまうのだ。ここに22種類もの遺伝子型*があることで汎用ワクチンを開発しにくいという特徴も加わる。*遺伝子群GIIの場合結局のところ最大の対策は、汚染された食品を回避するという意味での“予防”となってしまう。しかし、これも実は一般人にとっては対策が事実上困難である。というのも、報告されているノロウイルス食中毒のほとんどは、仕出し屋を含む飲食店や給食施設から提供された飲食物、あるいは今回の熊取町の事例のような製造事業者が提供する食品・食材であるからだ。食品管理に対する姿勢、日本は甘い?こうなると、ノロウイルスによる食中毒を減らすためには、川上の事業者への規制を強化するしか方法がない。日本ならば、食品衛生法に基づく規制となる。実はこの点、日米欧ではかなり基準が異なり、欧米のほうが基準は厳しい。食品などを取り扱う事業者は、自ら食中毒の原因微生物による汚染や異物混入などのリスク要因を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程のリスク要因の除去・低減するため、とくに重要な工程を管理し、製品の安全性を確保する手法「HACCP(ハサップ)」に基づく衛生管理が求められている。これは米国で開発された国際的な食品衛生管理手法で、日米欧ともに義務付けられている。しかし、法令やそれに基づく実態としての衛生管理は、日本の食品衛生法はかなり曖昧である。たとえば、同法第5条では「食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列及び授受は、清潔で衛生的に行われなければならない」とし、それを受けて通知・ガイドラインで下痢・嘔吐のある従業員を調理に従事させないことや手洗い・消毒の徹底、嘔吐物の適切処理を謳っている。これに対し、EUでは「食品取扱者で疾病・感染の疑いがある者は食品を取り扱ってはならない」旨を事業者の義務として明記している。米国になると、米国食品医薬品局(FDA)の食品規則により、ノロウイルスをはじめ具体的な病原体を明記し、それに伴う症状(ノロウイルスの場合は嘔吐・下痢症状)がある場合は現場からの即時排除とより強力な文言で規定している。また、同規則では該当する病原体の有症状者の復帰基準についても、症状消失後24時間以上(州により48時間)経過とし、さらには、食品施設で誰かが嘔吐または下痢などをした場合のクリーンアップ手順も具体的に定めているほどの念の入れようだ。ちなみにFDAの食品規則は法律ではなく、あくまでモデル規則であるため米国内の各州が採用して初めて法的拘束力を持つものだが、実際にはほぼ全州で採用されているため、事実上の全国標準として法的拘束力を有している。(表)食品衛生規制における日米欧の比較画像を拡大するさらに追加すると、ノロウイルスによる汚染の可能性のある二枚貝の代表格のカキの出荷に対する考え方も日本と欧米では異なる。日本ではスーパーなどの店頭に並ぶカキには「生食用」「加熱用」の2種類があるのはご存じだろう。これは保健所が海域の海水に含まれる大腸菌の量を検査し、生で食べても問題ないとされる海域でとれたカキを生食用、それ以外の海域でとれたカキを加熱用と分類している。これに対し、欧米では同じように大腸菌を指標とした海域検査を行い、海域ごとに出荷可否までも規制している。端的に言えば、日本の加熱用カキに該当するものの一部は、欧米では出荷すら認められない。日本がここまで厳格でないのは、あくまで推測になるが、「従来から日本の法規制などが緩やかな条文による包括規定に行政指導を組み合わせる柔軟運用を軸としているから」だと考えられる。しかしながら、前出のように最近の食中毒統計での件数増加を見る限り、そろそろ欧米型の規制に乗り出すべき時期に差し掛かっているようにも思えるのだが…。参考1)厚生労働省:食中毒統計資料

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急性低酸素性呼吸不全、高流量酸素療法vs.標準酸素療法/NEJM

 急性低酸素性呼吸不全において、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)は標準酸素療法と比較して28日死亡率を有意に低下しなかった。フランス・Centre Hospitalier Universitare de PoitiersのJean-Pierre Frat氏らが、同国42ヵ所のICUで実施した無作為化非盲検試験「SOHO試験」の結果を報告した。急性低酸素性呼吸不全患者において、標準的な酸素療法と比較したHFNCの気管挿管および死亡率に関するデータが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。主要アウトカムは28日死亡率 研究グループは、急性低酸素性呼吸不全によりICUに入院した18歳以上の成人患者連続症例を、HFNC群または標準酸素療法群に無作為に割り付けた。適格基準は、呼吸数25回/分以上、胸部画像検査での肺浸潤影、10L/分以上の酸素投与下での動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比200以下で、主な除外基準は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)>45mmHg、慢性閉塞性肺疾患またはその他の慢性肺疾患の増悪、心原性肺水腫、抜管後または腹部・心臓胸部手術後7日以内の呼吸不全などであった。 HFNC群では、加温加湿器を介して50L/分以上、目標酸素飽和度92~96%で、48時間以上酸素を投与した。標準酸素療法群では、10L/分以上で酸素飽和度92~96%を目標に、48時間以上、回復または挿管まで継続した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間の全死因死亡、主な副次アウトカムは無作為化後28日間の気管内挿管、無作為化から挿管までの期間、無作為化から28日間の人工呼吸器非使用日数などであった。28日死亡率は両群とも14.6%、副次アウトカムの28日挿管率は42.4%vs.48.4% 2021年1月~2024年10月に計1,116例が無作為化された。このうち、同意撤回5例を含む計6例を除く1,110例(HFNC群556例、標準酸素療法群554例)が解析に含まれた。 28日死亡率は、HFNC群14.6%(81/556例)、標準酸素療法群14.6%(81/554例)(群間差:-0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.21~4.10、p=0.98)であった。 28日までの挿管率は、HFNC群42.4%(236/556例)、標準酸素療法群48.4%(268/554例)(群間差:-5.93%、95%CI:-11.78~-0.08)、無作為化から気管挿管までの期間の中央値はそれぞれ24時間(四分位範囲[IQR]:10~67時間)、23時間(IQR:10~47時間)(絶対群間差:0.4時間、95%CI:-6.8~6.5)、人工呼吸器非使用日数の中央値は28日(IQR:11~28日)、26日(IQR:10~28日)(絶対群間差:2.0日、95%CI:0.0~4.0)であった。 安全性については、自発呼吸中の重篤な有害事象(心停止または気胸)はHFNC群で13例(2.3%)(心停止3例、気胸10例)、標準酸素療法群で6例(1.1%)(それぞれ2例、4例)に発生した。 なお、著者は、COVID-19のパンデミック下でウイルス性肺炎患者の割合が高かったこと、挿管されなかった患者では順守状況のデータが前向きに収集されなかったことなどを研究の限界として挙げ、「今後の研究では、HFNCを対照群として、個別化された非侵襲的アプローチを含む呼吸補助戦略の評価が望まれる」とまとめている。

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呼吸器感染症やアレルギーに対する点鼻ワクチン、動物実験で有望な結果

 注射を何本も打たれるのが嫌でワクチン接種を避けてきた人にとって、希望の持てるニュースがある。米国の主要5大学の科学者たちが、将来的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、細菌性肺炎、さらには一般的なアレルギーにまで効果を発揮し得る点鼻スプレー型ワクチンの開発に大きな一歩を踏み出したのだ。このワクチンのマウスでの実験に携わった米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授であるBali Pulendran氏は、「これは医療のあり方を一変させる可能性がある」と語っている。この研究の詳細は、「Science」に2月19日掲載された。 現行のワクチンは、病原体の一部をあらかじめ免疫に提示することで、実際の感染に備えさせるものだ。しかし、多くのウイルスは瞬く間に変異してしまうため、追加接種やインフルエンザワクチンのような毎年の接種が必要とされている。Pulendran氏は、「ヒョウが模様を変えるように、ウイルスは表面の抗原を容易に変えてしまう」と説明する。 一方、「GLA-3M-052-LS+OVA」と名付けられた今回のワクチンは、感染時に免疫細胞同士が交わすシグナルを模倣することで体の主要な防御機構を総動員し、より長く続く協調的な免疫反応を引き起こすように設計されている。具体的には、この点鼻ワクチンは、脂質から成る粒子であるリポソームを用いて、免疫を強く刺激するTLR4(Toll様受容体4)およびTLR7/8のリガンドと、モデル抗原である卵白由来のタンパク質、オボアルブミンを組み合わせたもので、鼻腔に投与することで気道や肺の免疫系を直接活性化する。 実験では、マウスの鼻腔にワクチンを滴下投与し、一部のマウスには1週間おきに複数回投与した。その後、呼吸器系ウイルスに曝露させた。その結果、これらのマウスは、新型コロナウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、コウモリ由来のSARS関連コロナウイルスであるSHC014-CoVなどの複数のウイルスだけでなく、黄色ブドウ球菌やアシネトバクター属菌などの細菌、さらにはダニなどのアレルゲンに対しても3カ月以上続く防御効果を示した。一方、未接種のマウスでは著しい体重減少と重症化が認められ、死亡例も多く確認された。 Pulendran氏は、「最初は突拍子もないアイデアに思えた。こんなことが可能だと本気で考えていた人はほとんどいなかったと思う」と話す。しかし、実際に成果は得られた。同氏は、「ワクチンを投与された肺の免疫システムは、ウイルスに対処する準備が万全であり、通常は2週間程度かかるウイルス特異的T細胞や抗体による適応免疫反応をわずか3日で起こすことができるのだ」と述べている。 とはいえ、すぐに現行のワクチン接種をやめられるわけではない。動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、GLA-3M-052-LS+OVAについても、これからヒトを対象にした試験が必要である。しかし、ヒトでも同様の結果が得られれば、将来は毎年必要な複数の注射をこの1本の点鼻ワクチンに置き換えられる可能性がある。また、新たに出現したパンデミックを引き起こし得るウイルスに対して迅速に防御を提供できる可能性もあるという。研究グループは、ヒトでの試験が成功すれば、5〜7年以内に「呼吸器系ウイルスに対するユニバーサルワクチン」が利用可能になる可能性があるとしている。 なお、今回の研究には、スタンフォード大学のほか、エモリー大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ユタ州立大学、アリゾナ大学の研究者も参加した。

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第308回 地域の医療機関の共倒れを防ぐために、日本病院会会長、元日本医師会長の病院も取り組む地域医療連携推進法人

コロナ禍を経て2024年度から連携法人の認定数急増こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2026年度診療報酬改定の全体像が明らかになり、また新たな地域医療構想策定ガイドラインもまもなく発出されるということで、地域における医療機関の役割分担、棲み分けが活発化していきそうです。とくに今改定では「第303回 病院と診療所で『メリハリ』に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ」で書いた、「急性期病院一般入院基本料」の新設と「地域包括医療病棟入院料」の再編、「救急患者連携搬送料」の大幅見直し(搬送の受け入れ側も新たに評価)などによって、地域における医療機関連携の様相も大きく変わっていくでしょう。診療報酬による経済的インセンティブの有無に関係なく、自発的に取り組む医療連携も着実に広がっています。そうした動きの1つが「地域医療連携推進法人」(以下、連携推進法人)の設立です。連携推進法人については、本連載でも、「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」、「第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景」などで度々取り上げてきましたが、コロナ禍を経て2024年くらいから認定数が急増しています。これまで59法人が認定、最多は大阪府で9法人、次いで北海道と静岡県が4法人連携推進法人とは、地域での医療機能の分担や連携を進める目的で、母体の異なる複数の医療機関や介護事業者などが参加して共同でさまざまな連携業務を行う事業体です。「競争よりも協調」を重視し、「地域医療構想達成のための一つの選択肢」として2015年の医療法改正で制度化が決まり、2017年4月から認定がスタートしました。制度創設から約9年が経過し、2026年1月末現在、全国でこれまでに59法人が連携推進法人として認定されています。注目されるのは昨年の2024年度から認定数が急増している点です。2023年度はわずか3法人の認定でしたが、2024年度は13法人、2025年度は8法人が認定されました。都道府県別に見ると、一番多いのは大阪府で9法人、次いで北海道と静岡県が4法人、秋田県、滋賀県、高知県が3法人となっています。人口減少、医療人材不足、コロナ禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃この連携推進法人について、日経ヘルスケアは「地域医療連携推進法人の現在地」と題する記事を2025年11月号と12月号に前後編に分けて掲載、急増の理由を分析するとともに最近設立された連携推進法人のトレンドについてレポートしており、参考になります。同記事は、連携推進法人が急増している理由・背景として、「制度が創設された10年前の医療法改正時よりも、医療機関を取り巻く経営環境が厳しさを増したことが挙げられる。人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃している」と分析、「そんな中、地域の医療機関の多くが、単独ではなく、地域の複数の医療機関、介護施設、介護事業所などとともに、機能の分担、集約化、連携強化を図り、この難局を乗り切ろうと考えるようになった。そのためのツールとして、連携推進法人制度に今まで以上に注目が集まっている」と書いています。「経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に重点を置き取り組んでいく」と日病会長同記事には、地域で高度急性期機能を担う大病院が主導して地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」のケース、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、大学病院が取り組むケースなどが紹介されていますが、とくに興味深かったのは、日本病院会会長を務める相澤 孝夫氏が理事長を務める社会医療法人財団慈泉会・相澤病院(長野県松本市、456床)が中心となって、地域の民間病院、診療所、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど6法人を参加法人として2025年10月に設立された「信州松本ヘルスケアネットワーク」です。同記事で相澤氏は「制度ができた当初も設立を検討したが、今ほど医療機関経営の状況も悪くはなく、地域の医療機関経営者の関心を呼び起こすことができず断念した。しかし新型コロナウイルスの感染拡大を経て、経営状況も厳しくなってきたため、周辺の医療機関の要望も聞きながら設立を決断した。まずは経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に重点を置き取り組んでいく」と語っています。“強い”急性期病院が1つだけが生き残っても、慢性期・回復期に入った患者を受け入れる後方病院や介護事業所が地域になければ経営は行き詰まります。相澤氏の言葉からは、地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段として連携推進法人に早くから着目していたことがわかります。元日本医師会長の病院も連携推進法人の設立準備日本病院会会長自らが連携推進法人設立に動いたということで、同制度に改めて大きな注目が集まることとなったわけですが、今年になって元日本医師会長の横倉 義武氏が理事長を務める、社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院(福岡県みやま市、199床)も、地域の医療法人、診療所、社会福祉法人などとともに連携推進法人の設立準備をしている、というニュースも入ってきています。2015年に連携推進法人の制度化が決まった当時は、一部の県では連携推進法人の設立に県医師会が猛反対し、設立計画が潰されることもありました。制度誕生の元々の発端が、安倍 晋三政権時代の2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に記された「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」だったため、大規模法人が中小を吸収合併していくイメージが先行し、中小病院や診療所の経営者などに警戒感が芽生えたことなどがその背景にはありました。しかし、時代は大きく変わりました。なにせ日本病院会会長や、元日本医師会会長までもが取り組むようになったのですから。ところで、連携推進法人の取り組みには、王道とも言える垂直連携型以外にも、ユニークな事例が数多くあります。次号ではそうしたケースについて紹介します。(この項続く)

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爪白癬治療薬の推奨度に変化「皮膚真菌症診療ガイドライン2025」

 新たな白癬菌抗原キットの保険収載、爪白癬に対する経口抗真菌薬のエビデンスの蓄積、耐性株の出現などを背景に、6年ぶりの改訂版となる「皮膚真菌症診療ガイドライン2025」が2025年12月に公開された。ガイドライン策定委員会の委員長を務めた福田 知雄氏(埼玉医科大学総合医療センター)に、改訂のポイントと実臨床での活用について話を聞いた。足白癬・爪白癬の患者数は70代にピーク、80代以上の患者が増加 現在、日本人の7人に1人が足白癬、13人に1人が爪白癬に罹患していると推測される。このデータは16年ぶりに実施された足白癬・爪白癬の潜在罹患率調査(Foot Check 2023)1)によるもので、前回調査(Foot Check 2007)と比較すると減少傾向にある。この減少については、2023年の調査がより厳しい確定診断の条件を課していたことによる影響、新規抗真菌薬の治療効果により潜在罹患率が減少した可能性が考えられるという。 また、5年ごとに実施される全国調査の最新結果(2021年)2)では、足白癬・爪白癬の患者数はともに70代にピークがみられ、80代以上の足白癬患者は前回調査と比較して12.1%から16.7%に、爪白癬患者は17.6%から21.9%へ増加している。福田氏は、同調査結果のこれまでの経年変化をみても、足白癬・爪白癬ともに患者の高齢化傾向が続いていると指摘した。新たな白癬菌抗原キットの使いどころ 2022年、新たな白癬菌抗原キット(商品名:デルマクイック爪白癬)が保険収載された。同キットは、抽出液で爪甲中の白癬菌抗原を抽出し、免疫クロマトグラフィーの原理で検体中の白癬菌抗原を検出するもの。福田氏は「真菌検査の主軸はKOH直接顕鏡と真菌培養であることに変わりはない」とし、ガイドラインでも同キットはKOH直接鏡検の補助検査として位置付けられている。 KOH直接顕鏡は簡便で繰り返し検査可能な優れた検査であるが、経験豊富な医師では検出率が高くなる一方、不慣れな医師の場合は検出率が低くなる傾向がある。福田氏は、「同キットは検体採取の熟練度や菌の特性によらず検出が可能なため、併用することで不慣れな医師は誤診を減らすことができ、経験豊富な医師にとっても偽陰性を防ぐために活用できる」と話した。顕微鏡のない施設や訪問診療などでも、迅速なスクリーニングのための活用が期待される。爪白癬へのイトラコナゾールは推奨度Bに、ホスラブコナゾールはエビデンス増 爪白癬に対する内服薬として、前版ではテルビナフィン、イトラコナゾール、ホスラブコナゾールの3剤がいずれも推奨度A(行うよう強く勧める)と判定されていた。3剤を直接比較したデータはないものの、テルビナフィンとの比較においてイトラコナゾールはやや有効性が劣るという報告があること、併用禁忌・併用注意薬が非常に多いことから、今回は推奨度B(行うよう勧める)に引き下げられた。 2018年に発売されたホスラブコナゾールについては、前版発行後にいくつかのリアルワールドデータが報告され、いずれも臨床試験と同等あるいは上回る有効率が確認された。75歳以上の高齢者を対象とした試験、難治性・再発症例への追加投与・再投与について検討した試験においても有効性と安全性が確認されている。福田氏は、「他の薬剤にもいえることだが、推奨期間の投与を終えても治癒しない症例がある。ホスラブコナゾールの場合、12週の投与で治癒が期待できる症例は6割程度とされる。治りきらない症例においてどのような対応をすればよいのかがエビデンスとして示された点は大きい」と話す。テルビナフィンとの比較においては、薬価が大きく異なる点にも留意が必要となる。内服可能な症例には、まず内服薬でしっかり治すことが原則 現在爪白癬に対する外用薬として選択できる2剤については、ともに有効率は15%前後とされるが、実臨床では外用薬が優先して使われている。外用薬はリスクが低く使いやすいが、有効率は内服薬のほうが明確に高いことが示されており、福田氏は「外用薬と内服薬どちらも投与可能な患者さんに対しては、まず内服薬を使うことを推奨したい」と話した。ただし、高齢患者が増えている中で、多剤併用の観点などから外用薬を選択するケースもあるとし、「外用薬で治療を開始して、治癒が得られなかった場合に内服薬に切り替えるという選択もありえる」とした。ペット由来など、近年注意が必要な原因菌 現状、耐性株の出現率は日本では低く、実臨床では1~3%と推定される。注意が必要なのはテルビナフィンに対する耐性株だが、アゾール系(イトラコナゾール、ホスラブコナゾール)に対する耐性株も今後出てくる可能性はあり、福田氏はその可能性を認識しておくことが重要とした。今回のガイドラインでは各CQで耐性株に対するコメントも記載されている。 原因菌に関して、近年分類法が変更・精度が向上し、名称や分類が一部変更されている。今回のガイドラインでは、「留意すべき皮膚真菌症」として以下の4項目について記載が追加された。1.動物から感染する皮膚真菌症 ペットの多様化などにより、ヒトからヒトへの感染だけでなく、動物からの感染もあるということを認識しておく必要がある。例:ペットのデグーに由来するTrichophyton benhamiae var. luteum、ネコからのSporothrix globosaなど(本邦での報告はなし)2.Trichophyton tonsurans感染症 本邦では2000年頃より柔道、レスリングなどの格闘技選手間での集団発生が多発した。近年報告症例は減少しているものの、撲滅はできていない。3.耐性菌の中心となる可能性のあるTrichophyton indotineae 本邦に在留中のインド人の体部白癬から分離された。海外で安価で入手されるステロイド外用薬と抗真菌薬、抗菌薬配合のOTC外用薬の乱用が感染拡大に関与している可能性が指摘されており、本邦でもTrichophyton indotineaeによる体部白癬を繰り返す症例の報告が徐々に増加している。4.死亡率の高い侵襲性医療関連感染症を引き起こすCandida auris 本邦で見つかった株だが、世界的に急速に拡大している。現在は本邦では少数ではあるが分離はされており、認識しておく必要がある。

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第287回 医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省

<先週の動き> 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省厚生労働省は2026年3月16日、第120回医師国家試験の合格者を発表した。受験者9,980人のうち合格者は9,139人で、合格率は91.6%と前回から0.7ポイント低下した。合格者数は前年より347人減少し、とりわけ新卒合格者は8,716人(合格率94.7%)と313人減少となり、3年ぶりに9,000人を下回った。医師供給動向に変化が生じている可能性が示唆される。試験は2026年2月に実施され、合格基準は必修問題で200点満点中160点以上、一般・臨床問題で300点満点中224点以上、禁忌肢3問以下とされた。近年と同様の基準であるが、合格率の微減と新卒者数の減少が今回の特徴となっている。大学別では、自治医科大学が新卒・既卒ともに合格率100%を達成したほか、北海道大学、京都大学も新卒で100%を記録した。平均合格率は国立93.0%、公立93.5%、私立92.5%と大きな差はないものの、既卒者を含むその他区分では54.8%と低水準にとどまった。男女別では女性92.4%、男性91.1%と女性が上回った。合格者数はコロナ禍以降、回復傾向にあったが、今回の減少は医学生数の変動や受験動向の影響が考えられる。医師偏在や地域医療構想の議論が進む中、今後の医師供給の量と質のバランスが一層重要となる。とくに新卒者数の減少は初期研修医確保にも影響を与える可能性があり、今後もこの傾向が続けば、各医療機関や自治体にとっても注視すべき事態となる。 参考 1)第120回医師国家試験の合格発表について(厚労省) 2)第120回医師国家試験の学校別合格者状況(同) 3)第120回医師国家試験合格者の状況(大学別合格者数)-9,139人が合格、合格率は91.6%(医事新報) 4)医師国家試験、合格率91.6%-新卒合格者は3年ぶりに9千人下回る(CB news) 5)2026年医師国家試験大学別合格率…合格率100%は自治医科大学(リセマム) 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省国内の麻疹(はしか)報告数が増加し、厚生労働省は注意喚起を強めている。2026年第9週までの累計報告数は87例、第10週時点では100例に達し、新型コロナ禍以降で最多となった。前年同期の22例を大きく上回る水準で、感染拡大の兆しがみられる。近年、わが国では土着株による感染は確認されておらず、2015年には世界保健機関(WHO)から排除状態と認定されている。現在の流行は、海外から持ち込まれたウイルスを起点に、国内で2次感染が広がる構図となっている。事例として、愛知県の高校での集団感染をはじめ、各地で散発的な発生が報告されており、都市部を中心に感染が拡大している。患者の約7割は10~30代で、ワクチン接種歴の不十分な層の影響が示唆されている。麻疹は空気感染を起こす極めて感染力の高い疾患であり、同一空間にいるだけで感染する可能性がある。発熱、咳、鼻水に続き発疹を呈し、重症例では脳炎を合併するリスクもある。その一方で、予防の柱であるMRワクチンの接種率は低下傾向にある。2024年度の接種率は1期92.7%、2期91.0%と、目標の95%を下回った。コロナ禍以降の接種控えが影響しているとみられ、集団免疫の維持に懸念が生じている。厚労省は、渡航前の接種歴確認や帰国後の健康観察を呼びかけるとともに、疑わしい症状がある場合は事前連絡のうえ医療機関を受診するよう求めている。感染再拡大を防ぐには、早期診断とワクチン接種率の回復が急務である。 参考 1)麻疹報告数、コロナ禍以降最多 厚労省が注意喚起(MEDIFAX) 2)はしか患者数、2026年累計100人に 25年同期22人を上回る(日経新聞) 3)感染症発生動向調査週報 2026年第9週第9号(国立健康危機管理研究機構) 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省厚生労働省は、脳死下臓器提供の増加を背景に、移植医療の集約化と体制強化に舵を切った。今回の診療報酬改定で、多くの移植手術を担う施設を「拠点病院」として位置付け、人的・設備面の支援を検討する方針を打ち出している。臓器提供数は近年増加し、2025年には150例を超えたが、心臓や肺、肝臓など複数臓器の同時対応が求められるため、実施可能な施設は一部大学病院に限られている。その一方で、突発的な手術対応により手術室や看護師の確保が困難となり、受け入れ断念例も生じている。こうした現場の逼迫は深刻で、東京大学病院では移植件数が年間100例を超える中、ICUベッドに余裕があっても人員不足で受け入れられない状況や、病院経営への負担が指摘されている。実際、移植医療は従来、手術準備や人員確保のコストが大きく、病院側の持ち出しが問題となっていた。このため2026年度診療報酬改定では、臓器移植実施体制確保加算が新設され、手術料の実質4倍相当の評価が行われる。大学病院の試算では、従来は肺移植1例当たり約400万円の赤字だったが、新加算によりほぼ解消可能とされる。また、ドナーコーディネーターの業務も評価対象とし、院内での同意取得体制強化を促す。背景には、体制不足により移植を受けられなかった患者が2024年に延べ662人に上った現状がある。国立大学病院全体でも今回の改定により年間443億円の増収が見込まれ、赤字解消に寄与すると評価されている。しかし、紹介・逆紹介要件の厳格化による減収も予測され、経営改善には引き続き対応が求められる。移植医療は高度化・集約化が不可避な領域であり、今後は拠点化と財政支援を軸に、持続可能な提供体制の構築が問われる局面に入ったと言える。 参考 1)臓器移植支援へ一部病院を拠点化 厚労省、東大病院「経営苦しく」(朝日新聞) 2)脳死者の臓器移植に診療報酬加算へ…ドナーコーディネーターの働きも評価、報酬を手厚く(読売新聞) 3)国立大学病院長会議 26年度診療報酬改定年間443億円増収で赤字解消へ 外科医療確保や臓器移植加算を評価(ミクスオンライン) 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」のとりまとめ案を示し、2028年度末までに各医療機関の「主たる機能」を明確化する方針を打ち出した。従来の病床機能報告に加え、新たに医療機関機能報告を導入し、各病院が担う役割を整理することで、再編・集約化と病床削減を一層進める構えである。新構想では、「医療機関の機能を急性期拠点」「高齢者救急・地域急性期」「在宅医療等連携」「専門等機能」の4区分に整理し、各施設が2040年に向けて担う機能を選択・報告する。複数機能の併存は認めつつも、急性期拠点については手術件数や救急対応などの実績要件を設け、実質的に高度急性期病院の集約を図る。人口20~30万人に1施設程度とする考え方が示され、全国では400~600施設に集約される見通しである。また、人口減少地域では構想区域の広域化を求め、より広い圏域で医療資源を維持する方向性も示された。その一方で、急性期以外の救急医療や夜間手術機能についても集約が検討されており、地域によってはアクセス低下への懸念が指摘されている。病床数の算定では、在宅医療の強化や早期リハビリによる在院日数短縮、医療DXによる効率化を前提に必要病床数を低く見積もる仕組みが採用される。急性期病床の稼働率も78%から84%へ引き上げられ、将来的な病床削減圧力が強まる見通しである。さらに、リハビリテーションでは、入院から在宅までの連続的な提供体制を支える「地域インフラ」として位置付けられ、栄養管理や口腔ケアとの一体的な取り組みも明記された。2026年10月からの機能報告を経て、各都道府県が調整を行い、医療機関ごとの役割分担が具体化する。医療提供体制の再構築が本格化する中、地域医療への影響が注視される。 参考 1)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 2)新たな地域医療構想とりまとめ案 28年度末までに病院の「主な機能」を決定(保団連) 3)「新たな地域医療構想」とりまとめを了承、リハビリテーションは「地域のインフラ」へ(PT-OT-ST.NET) 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省厚生労働省は、2026年3月18日に開催した「医道審議会医師専門研修部会」で、2027年度に専門研修を開始する専攻医の採用上限、いわゆるシーリング数案を了承した。新たに加算対象となった都道府県診療科から提出された指導医派遣実績を踏まえ、日本専門医機構が算定したもので、委員から大きな異論は出なかった。今後、6月下旬以降に都道府県へプログラム情報を提供し、各都道府県知事の意見や厚生労働大臣の要請を反映した修正を経て、11月の募集開始を予定している。今回のシーリングでは、最新の必要医師数と足下の医師数を用いて対象都道府県を設定し、特別地域連携プログラムと都道府県限定の連携プログラムを統合した点に特徴がある。特別地域連携プログラムの受け入れ可能数は全領域で採用上限を上回り、地域偏在是正に向けた受け皿整備は一定程度進んだ。その一方で、通常プログラム加算は実績に応じて付与されるが、加算上限を下回る領域もあり、制度運用はなお調整段階にある。あわせて部会では、2040年を見据えた医療需要の変化に対応する専門医養成も論点となった。85歳以上人口の増加、高齢者救急の拡大、生産年齢人口の減少を踏まえ、各基本領域学会に対し、将来重要となる疾患や患者像、専門医制度上の課題を尋ねるアンケート調査を実施する方針が示された。専攻医以降のキャリアチェンジやリカレント教育の必要性も指摘された。さらに、医師偏在対策では都道府県、大学医学部、大学病院の連携強化が不可欠とされた。地域枠、広域連携型臨床研修、専門研修連携プログラム、総合診療医育成などを医師確保計画に明確に位置付け、地域定着を後押しする方向で議論が進む。専攻医シーリングは、単なる採用枠調整にとどまらず、地域医療を支える医師養成全体を再設計する局面に入った。 参考 1)令和7年度第5回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省) 2)2027年度の専攻医シーリング数が決定、募集開始に向けた調整進む(日経メディカル) 3)医師偏在是正策の強化に向け「都道府県・大学医学部・大学病院の連携」をこれまで以上に強化せよ-医師偏在対策検討会(Gem Med) 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県愛知県の西尾市民病院で診療を受けた70代女性が、薬剤アレルギー既往のある薬を処方・服用後に死亡したとして、遺族が市と調剤薬局を相手取り約2,541万円の損害賠償を求め提訴した。訴状によれば、女性は2025年2月に受診し、処方箋を受け取り、院外薬局で調剤された薬剤を服用後、約41日後に死亡した。遺族側では、医療機関はアレルギー既往歴を把握可能であったにもかかわらず看過したと主張している。その一方で、市側はアレルギー薬剤の処方自体は認めつつも、死亡との因果関係には争いがあるとしている。この事件は単なる確認漏れが原因ではなく、電子カルテおよびオーダリングシステムにおけるアレルギー情報の管理・共有体制が問題の根幹にある。日本医療機能評価機構は、医療安全情報の分析レポートで、アレルギー情報が「登録されているが参照されない」「画面上で視認性が低い」「更新が不十分」といった要因により、処方時に活用されない事例が発生していることを繰り返し指摘している。また、院内で把握されていた情報が院外薬局に十分伝達されないケースや、薬局側での最終確認が機能しなかった事例も報告されている。院外処方が一般化してから、医療機関と薬局の間の情報連携不足は構造的リスクとなっており、患者申告に依存した運用には限界がある。電子カルテ上のアレルギー情報については、入力の標準化、警告アラートの強化、処方時の確認が不可欠である。このためマイナ保険証の活用のほか、2重3重のチェック体制をどのように実効性ある形で運用するかが問われている。今回の訴訟は、医療安全について「情報があること」と「実際に使われること」の乖離を改めて浮き彫りにした。現場での確認フローの見直しなど再発防止策が求められる。 参考 1)「薬のアレルギーで死亡」70代女性遺族、愛知県西尾市などを提訴(中日新聞) 2)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構) 3)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構)

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血糖や肥満、虚血管理を阻むリスク記憶とは、AGEから紐解く

第26回日本抗加齢医学会総会が2026年6月26日(金)~28日(日)の3日間、パシフィコ横浜ノースにて開催される。今回のテーマは『「人新世」のアンチエイジング 食事、運動、睡眠、美容による統合医療』。大会長である山岸 昌一氏(昭和医科大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門 主任教授)が長年の研究で培ってきた糖尿病学と老年医学の関係、本総会のテーマの意味、大会長が力を入れる演題について話を聞いた。「人新世(じんしんせい)」とはまず、今大会のテーマである「人新世」についてお話ししましょう。人新世とは、新しく設定された地質学的な時代区分のことで、人間の活動が地球環境や生態系に多大な影響を及ぼす「現代」を示す言葉です。この時代におけるアンチエイジングを私なりに解釈いたしますと、単に若返りを求めるのではなく、持続可能な地球環境との共生や社会との調和を目指し、究極的な統合医療や健康の探求を目指すことだと思います。とりわけ、食事・運動・睡眠・美容は個人の健康を支える最も基本的な要素であると同時に、医療資源として科学的に評価・活用されるべき対象であるとも考えています。そこで、本大会ではこれらを統合医療の視点から捉え、予防・診断・治療、生活支援にまでつなぐ多角的な議論を展開していきたいと考えています。なお、このテーマに多くの先生が賛同してくださり、過去8年間で最多数の一般演題を応募いただいたようです。糖化×老化、たどり着いた30年の軌跡私の専門とする糖尿病は、患者さんの健康寿命が健康な方と比べて10~15年短く、死亡リスクは1.8倍、さらに老化が加速しやすい疾患であることが過去の研究1)から明らかになっています。また、2024年に米国心臓協会(AHA)が提唱したLife’s Essential 8の中でも糖尿病の有無が寿命を大きく左右することが明らかになってきました。では、なぜ糖尿病が実寿命や健康寿命に悪影響を及ぼすのでしょうか? そのメカニズムにはどうやら“記憶”が関与しているようです。私が医師になった37年前、糖尿病の合併症として教科書に挙げられていたのは、大小血管合併症、感染症、皮膚病くらいでした。しかし、多くの患者さんの診療に当たっていると、認知症やがん、骨粗鬆症などの老年病も糖尿病で合併しやすいことに気が付きました。そこで、糖尿病に一番特徴的な血管合併症である網膜症の病態生理を解明していくことで、最終的には「なぜ、糖尿病で老化が進むのか?」といった課題を明らかにすることができるのではないかと思ったのです。糖尿病網膜症では、内皮細胞の外側を取り囲む周皮細胞が選択的に死滅し、病期が進行していきます。そして、この周皮細胞の消失は、糖尿病でしか観察されません。しかしながら、周皮細胞は、短期間の高血糖の曝露ではなかなか死滅しません。長期間、高血糖に曝露されて初めて周皮細胞は死んでいきます。その後の研究で、年余にわたる高血糖により生体内タンパク質が糖化、変性を受け、AGE(Advanced Glycation End Products、終末糖化産物)と呼ばれる老化物質が体に蓄積していくことで初めて周皮細胞が死んでいくことがわかりました(図1)。ほかの研究者らは、長い年月にわたって糖尿病患者の経過を見ていく中で、過去の高血糖の曝露歴がその後の糖尿病合併症の進展を左右することを見いだしました。そして、現在の血糖コントロールが良好でも、過去長期間にわたり高血糖に曝露していたような患者は、臓器合併症の進展リスクが高く治療が難渋しやすいことから、この現象は「高血糖の記憶(Metabolic Memory)」と呼ばれるようになり、“過去のツケ”のごとく体内に残存する物質、AGEが「高血糖の記憶」に関わることが明らかになっていったのです2)。その後、約20年前に世界で初めて血液中からいろいろなタイプのAGEを簡便に測定する手段を開発することに成功しました。(図1)AGEの蓄積過程画像を拡大する悪い過去を記憶するAGE、どうやって除去する?AGEは「タンパク質と糖が加熱されてできた物質」の総称で、老化を進める原因物質とされています。これらは高血糖状態の体内で作られたり、食べ物から体内に入ったりすることで蓄積が進み、シワやたるみの原因、動脈硬化や心血管疾患の発症リスクの上昇、骨粗鬆症や寝たきりへの発展、大腸がん、乳がんなどのがん発症リスクとの関連も報告されています3)。とくにAGEが問題とされるのは、血糖値が基準値に戻ったとしても、AGE化して一度変性したタンパク質はなかなか元に戻らないこと、加齢に伴いこの蓄積が加速するということです(図2)。(図2)画像を拡大するAGEのうち3分の1は外因性で食事由来によるものです。AGEはどんな食品にも含まれているので、日頃の予防法として重要なのは、調理法のアドバイスです。たとえば、焼き鳥とかステーキなどは茶色の焼き目が付きますが、その部分がAGEなのです。同じ食材でも低温調理などのように調理法を変えるだけでAGE摂取を抑えることができます。私の診察では、「(肉を食べる場合は)焼くよりも茹でるのはどうですか?」といった提案をしています。このように同じ食事でも、調理法や付け合わせを変えることによってAGEの生成量を低減できることが知られています。この食事に由来するAGEに関しては、米国・マウントサイナイ医科大学教授のJaime Uribarri氏をお招きし、最先端のデータをご解説いただく予定です。また、食事由来AGEに予防法があるように、加齢に伴い蓄積するAGEの制御も可能とされ、老化のプロセスとして介入できれば多くの老年病を包括的に制御できると考えられます。私は、AGEを体から除去するAGEアプタマーと呼ばれる医薬品の開発に動物モデルで成功しています。そこで、本大会ではAGEに焦点を当てつつ、老科学仮説の概念に基づきながら、食事・運動・睡眠などの観点からもアンチエイジングを考えていきたいと思っています(図3)。(図3)画像を拡大する会長企画、5つのシンポジウム今回の総会では、認知症、フレイル、睡眠、腸内細菌などの講演が組まれておりますが、AGEに関連のある記憶という概念からもシンポジウムを設定いたしました。新たな抗加齢医学の観点を理解いただくためにも、5つの会長企画シンポジウムにぜひご注目ください。(1)「リスク記憶の分子メカニズム」リスク記憶について(低酸素の記憶、肥満の記憶、コレステロールの記憶)(2)老化治療の最前線老化細胞除去法「セノリシス」や老化細胞阻害薬などの最前線を紹介(3)女性の生涯の健康課題に寄り添う―基礎的研究から支援体制の構築まで―女性の生涯の健康課題に寄り添う治療や研究の最前線について解説(4)AI技術人工知能が抗加齢医学に果たす役割について、診断、サポート、遠隔診療・治療、創薬などの切り口で講演を予定(5)インナービューティーを目指した統合医療身体の内側から健康を担保するため、統合医療の観点からヨガやピラティスをテーマに講演を予定このほか、中野 京子氏(作家・ドイツ文学者)による特別講演「“美”の裏に潜む真実―芸術と老いをめぐる想像力」と題し、同氏の代表著書『怖い絵』から人の心と身体を捉えることで新たなアンチエイジングの発想についてお話しいただく予定です。また、鍋島 陽一氏(京都大学医学研究科健康加齢医学講座)による招待講演では、「Klotho(老化ホルモン)の研究の総括と新たな展望(仮)」と題し、抗加齢医学の最新データをご紹介いただく予定です。一人ひとりがその人らしく年を重ねられる健やかな社会の実現に向けて、本大会が皆さまと共に考える場となることを願っています。一人でも多くの皆さまのご参加をお待ちしております。参考1)Seshasai, S. R. K, et al. N Engl J Med. 2011;364:829-841.2)Yamagishi S, et al. J Diabetes. 2017;9:141-148.3)Si C, et al. Food Funct. 2024;15:1553-1561.

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子宮頸がん検診、受診率は制度で変わる? 東京都51自治体解析

 日本では子宮頸がんの罹患が増加する一方、検診受診率の低さが課題となっている。今回、東京都内の51自治体を対象とした研究で、検診受診率には大きな地域差があり、医療機関数や予約制度、HPV検査導入などの制度的要因が関連していることが示された。研究は、東京科学大学公衆衛生看護学分野の原田伊織氏、月野木ルミ氏らによるもので、詳細は1月21日付で「The Asian Pacific Journal of Cancer Prevention」に掲載された。 日本では1990年代半ば以降、子宮頸がんの罹患率・死亡率が上昇しているにもかかわらず、検診受診率は欧米に比べ低い状況が続いている。子宮頸がんは前がん病変の段階で発見・治療すれば予防可能であり、細胞診やヒトパピローマウイルス(HPV)検査による検診は有効な予防手段とされるが、日本では自治体や職域など複数の仕組みが混在し、地域ごとの運用差が受診率の格差につながっている可能性がある。また、子宮頸がん検診への参加に影響する地域レベルの要因を明らかにすることは、参加率を改善し、全体の受診率向上および地域間格差の縮小につながる介入策の開発に寄与する可能性がある。そのような背景から、本研究は、東京都内における子宮頸がん検診受診率の地域差を明らかにし、それに関連する地域要因を検討することを目的とした。 本研究は後ろ向きの生態学研究として、東京都内51自治体のデータを用いて実施された。主要評価項目は検診受診率とし、データは2018年の東京都保健医療局のがん検診統計、人口統計、ならびに各自治体の公式ウェブサイトから収集した。各自治体について、就業女性の割合、検診申し込みの必要性(あり/なし)、子宮頸部細胞診とHPV検査の併用の有無など、地域要因の候補となる項目を収集した。検診受診率とこれらの要因との関連は、重み付き最小二乗法による線形回帰モデルを用いて検討した。 東京都における子宮頸がん検診の平均受診率は18.6%であり、自治体間で大きなばらつきが認められた(範囲8.1%〜85.8%)。自治体間で検診体制には差があり、就業女性割合は平均38.9%で、検診実施医療機関数にも大きなばらつきがみられた。無料検診は約6割の自治体で提供されていた一方、細胞診とHPV検査の併用はごく少数に限られた。また、約4割の自治体では保健センター等で検診申し込みが必要であった。 次に、検診受診率と地域要因候補との関連を線形回帰モデルにより解析した。その結果、対象女性1万人あたりの検診実施医療機関数(β=41.51、95%信頼区間〔CI〕:23.66〜59.36、P<0.001)、就業女性の割合(β=1.03、95%CI:0.43〜1.63、P<0.001)、検診申し込みの必要性(検診申し込み不要を基準)(β=−5.56、95%CI:−9.57〜−1.62、P=0.01)、およびHPV検査併用の導入(未導入を基準)(β=12.89、95%CI:5.42〜20.36、P<0.001)が検診受診率と有意に関連していた(βは各要因と受診率との関連の強さを示す回帰係数)。 本解析から医療機関数の多さやHPV検査導入は受診率の高さと関連していた一方、検診申し込みが必要な場合は受診率が低い傾向が示された。 著者らは、「子宮頸がん検診の受診率向上には、医療機関へのアクセス改善、検診受診手続きの簡略化、HPV検査併用の実施が関連している可能性が示された。これらの知見は、地域の子宮頸がん検診体制や公衆衛生政策の検討に役立つと考えられる」と述べている。 なお、本研究は東京都の自治体による子宮頸がん検診のみを対象としており、全国への一般化には限界がある。また、職域での任意の子宮頸がん検診は考慮されていない。 検診を受けない理由は「意識」だけではなく、「仕組み」にもある可能性が示された。検診を受けやすい環境づくりが、子宮頸がん予防の第一歩となりそうだ。(HealthDay News 2026年3月2日)

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無症候性細菌尿か判断しにくい患者、治療要否はどう考える?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第23回

Q23 無症候性細菌尿か判断しにくい患者、治療要否はどう考える?寝たきり、認知機能障害、膀胱機能低下などで、無症候か否か判断しにくい患者における細菌尿の治療の要否について教えてください。

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日本人の腸内細菌叢、世界と異なる特徴は?

 ヒトの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は、宿主の免疫や代謝、健康状態と密接に関わっている。東京大学の西嶋 傑氏らの研究グループは、日本人5,000人以上の腸内メタゲノムデータを解析し、世界37ヵ国と比較した。その結果、日本人の腸内細菌叢にはビフィズス菌が豊富であり、9割が海藻の分解酵素を持つという独自の特徴や、腸内細菌叢の構成には特定の薬剤が大きく影響することなどが判明した。Proceedings of the Japan Academy, Series B誌2026年2月号に掲載。 本研究では、疾患(Disease)、薬剤(Drug)、食習慣(Diet)、アルコール、喫煙、睡眠などの生活習慣(Daily life)、などの詳細な情報と腸内細菌データを統合して収集した大規模オミクス研究基盤である「Japanese 4Dマイクロバイオームコホート」を用いて、日本人5,466人(平均年齢65.9±13.2歳、男性56.9%)の腸内メタゲノムデータを、世界37ヵ国3万1,695人のデータを比較解析し、日本人の独自性を特定した。さらに、1,500項目以上の変数を用いて、細菌叢の多様性に寄与する要因を評価した。 主な結果は以下のとおり。・日本人の腸内には、他の高所得国と比較してビフィズス菌(Bifidobacterium属)が豊富に存在することが認められた。これは日本人に乳糖不耐症が多く、乳製品を摂取して消化されない乳糖が腸に到達し、ビフィズス菌の増殖を促進する可能性が示唆されている。・日本人において、ノリやワカメなどの海藻に含まれる多糖類を分解する酵素遺伝子を持つ個人の割合が約90%に達し、欧米諸国(0~16.7%)より圧倒的に多かった。・腸内細菌叢の構成には、生活習慣よりも薬剤の影響が大きかった。関連の強い順に、胃腸薬、糖尿病薬、抗菌薬/抗ウイルス薬であった。・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は腸内細菌の多様性を上昇させる一方で、口腔内に多い細菌(レンサ球菌[Streptococcus属]、Lactobacillus属など)が腸内で増加し、日和見感染症の原因となる多剤耐性菌(肺炎桿菌[Klebsiella pneumoniae]、Enterococcus faecium、肺炎球菌[Streptococcus pneumoniae]など)の定着を促進するリスクが示された。・5種類以上の多剤併用により、有益な短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌(Roseburia属、Dorea属、Faecalibacterium属、Alistipes属、Coprococcus属、Eubacterium属など)が減少し、日和見病原菌が増加して、腸内細菌叢の多様性が低下することが示された。 本研究により、日本特有の文化的・遺伝的背景によって形成された、集団特異的な腸内細菌叢の特徴が示された。著者らは、とくに高齢者における不要な薬剤の使用中止を含む薬物療法の最適化が、腸内環境の健全性を維持するうえで不可欠だと指摘し、国際的な腸内細菌叢データセットの構築は、精密医療(プレシジョンメディシン)を推進する鍵となるだろうとまとめている。

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