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第138回 コロナ薬発掘の明暗/コロナ再感染はより危険

COVID-19入院患者への抗IL-1薬anakinra使用を米国が認可既承認薬の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療効果発掘の取り組みが米国で結実し、スウェーデンを本拠とする製薬会社SobiのIL-1受容体遮断薬anakinra(アナキンラ、商品名:Kineret) によるCOVID-19入院患者治療が米国FDAに取り急ぎ認可されました1)。重度呼吸不全の恐れが大きいCOVID-19入院患者をsuPAR(可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体)血漿濃度上昇を頼りに選定したプラセボ対照第III相試験(SAVE-MORE)結果2,3)などに基づいてその試験とほぼ同様の用法が今回認可されました。COVID-19患者のsuPAR上昇は重度呼吸不全や死によりいっそう至りやすいことと関連し、C反応性タンパク質(CRP)・インターロイキン6(IL-6)・フェリチン・Dダイマーなどの他の生理指標に比べてCOVID-19進行のより早い段階で認められます。suPARが反映するのは危機を知らせる分子・カルプロテクチンやIL-1αの存在であり、カルプロテクチニンとIL-1αのどちらもCOVID-19の病的炎症の片棒をかつぐことで知られます。カルプロテクチニンは体内を巡る単球によるIL-1β異常生成を促し、IL-1αの阻害はCOVID-19マウスの強烈な炎症反応の発生を予防しました。anakinraはそれらIL-1αとIL-1βの両方の活性をIL-1受容体遮断により阻止します。そういった情報の集積に基づいてanakinraをsuPAR上昇患者に早めに投与し始めてCOVID-19を挫く治療が考案されました。その効果はまずは被験者130人の小規模な第II相試験で確認され4)、続く第III相試験SAVE-MORE2)で確立することになります。SAVE-MORE試験にはsuPAR血漿濃度6ng/mL以上のCOVID-19入院患者が参加し、anakinraは死亡や集中治療室(ICU)治療をプラセボ群に比べて少なくて済むようにしました。anakinra治療群の28日間の死亡率は約4%(3.9%)であり、プラセボ群の約9%(8.7%)の半分未満で済みました。またanakinra治療患者はより早く退院できました。FDAはSAVE-MORE試験の対象と同様の患者へのanakinra治療を取り急ぎ認めています。酸素投与を必要とする肺炎が認められ、重度呼吸不全に進展する恐れがあり、suPARが上昇しているらしい(likely to have an elevated)SARS-CoV-2検査陽性COVID-19入院患者に米国では同剤が使えます。Sobi社には宿題があります。suPAR検査販売の承認申請に必要なデータを準備し、2025年1月31日までにその申請を済ませる必要があります、また、suPAR検査に代わる患者同定手段を確立する必要があり、まずはその解析計画を来年2023年1月31日までにFDAに示し、その4ヵ月後の2023年5月31日までに解析結果を提出しなければなりません。COVID-19にコレステロール低下薬フェノフィブラート無効COVID-19へのanakinraの試験は先立つ研究の集大成として幸いにも成功を収めましたが、既存薬のCOVID-19治療効果発掘の取り組みは周知の通り必ずしも成功するとは限りません。脂質異常症の治療として世界で広く使われているコレステロール低下薬・フェノフィブラート(fenofibrate)はその1つで、国際的な無作為化試験で残念ながらCOVID-19に歯が立ちませんでした5,6)。先立つ細胞実験では試験結果とは対照的にフェノフィブラートの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染阻止効果が示唆されています。SARS-CoV-2感染した培養細胞やCOVID-19患者の肺組織では細胞内の過剰な脂肪生成が認められ、フェノフィブラートはSARS-CoV-2が引き起こす細胞代謝変化を解消し、細胞内でのSARS-CoV-2の複製を阻害することが細胞実験で確認されていました。また、フェノフィブラートの活性型であるフェノフィブリン酸はSARS-CoV-2スパイクタンパク質を不安定にしてその感染を減らすことも最近の細胞実験で示されています。COVID-19に有益そうな免疫調節効果も示唆されていました。期待した効果が惜しくも認められなかった無作為化試験はそれらの有望な前臨床実験結果に背中を押されて実施されました。試験に参加したCOVID-19患者の約半数の351人は発症から14日以内にフェノフィブラートを10日間服用しました。それらフェノフィブラート投与患者の重症度指標をプラセボ投与患者350人と比較したところ残念ながら有意差がありませんでした。死亡などの他の転帰も差がありませんでした。期待した効果が認められなかったとしてもなにがしかの有益な情報は得られるものです。今回の試験もそうで、安全性について重要な情報をもたらしました。フェノフィブラート群では胃腸有害事象が若干より多く認められたものの、大変な有害事象の過剰な発生は認められませんでした。よって脂質異常症などでフェノフィブラートを必要とするCOVID-19患者に同剤は安全に投与できるようです。すでに使っている患者は安心して使い続けられるでしょう。あいにくフェノフィブラートの効果は示せませんでしたが、細胞代謝経路を手入れする他の治療のCOVID-19への試験を引き続き実施する必要があると著者は言っています。コロナ再感染はより危険COVID-19治療薬発掘の取り組みが進むのは心強いですが、健康のために何よりも重要なのは感染しないようにすることかもしれません。COVID-19流行が始まってからおよそ3年が経ち、不運にも二度三度と感染する人もいます。米国の退役軍人医療データの解析によるとそのような再感染は脳や臓器の数々の不調をいっそう生じやすくし、はては死亡リスクも高めるようです7,8)。解析ではSARS-CoV-2感染経験がないおよそ533万人、SARS-CoV-2感染が1回の約43万人、SARS-CoV-2感染が2回以上の約4万人が比較されました。その結果、繰り返し感染した人は感染経験がない人に比べて約2倍多く死亡しており、3倍ほど多く入院していました。また、再感染した人は感染が1回の人に比べて肺、心臓、脳(神経)の不調をそれぞれ3.5倍、3倍、1.6倍生じやすいという結果が得られています。感染を繰り返すほどに健康不調の危険性は累積して上昇するようであり、すでに2回感染していたとしても3回目の回避に努めるに越したことはなく、3回感染している人も4回目をしないようにした方が無難なようです8)。参考1)FDAからSobi社への認可通知2)Kyriazopoulou E, et al. Nat Med. 2021;27:1752-1760. 3)Nature Medicine publishes phase 3 anakinra study results in patients with COVID-19 pneumonia / PRNewswire4)Kyriazopoulou E, et al.eLife.2021;10:e66125.5)Chirinos JA, et al. Nat Metab. 2022 Nov 7:1-11. [Epub ahead of print]6)After showing early potential, cholesterol medication fenofibrate fails to cut severe symptoms or death in COVID-19 patients / Eurekalert7)Bowe B, et al. Nat Med. 2022 Nov 10. [Epub ahead of print]8)Repeat COVID-19 infections increase risk of organ failure, death / Eurekalert

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ファイザーBA.4/5対応2価ワクチンの第II/III相試験、1ヵ月後データ

 米国・Pfizerは11月4日付のプレスリリースで、同社のオミクロン株BA.4/5対応の新型コロナウイルス2価ワクチンについて、追加接種から1ヵ月後の第II/III相試験データを発表した。30μgの追加接種により、同社の起源株に対する1価ワクチンよりも強固な中和免疫反応が得られたことが確認され、安全性および忍容性プロファイルは両ワクチン間で同様だった。 今回の第II/III相試験では、同社のBA.4/5対応2価ワクチンの4回目の追加接種(30μg)について、接種前と接種から1ヵ月後の血清を採取して評価した。SARS-CoV-2感染の既往がある人とない人を均等に層別化し、18~55歳(n=38)および55歳以上(n=36)のサブセットを設定した。また、同社の起源株に対応した1価ワクチン30μgを4回目接種として投与された55歳以上(n=40)を対照群として、同様に均等な層別化をしながら無作為に抽出した。2価ワクチンを接種した被験者は、前回の追加接種が約10〜11ヵ月前であったのに対し、1価ワクチンを接種した被験者は、前回の追加接種が約7ヵ月前であったが、この差にもかかわらず、4回目接種前の抗体価は両者でほぼ同様だった。 主な結果は以下のとおり。・BA.4/5対応2価ワクチン接種者全体では、BA.4/5に対する中和抗体価が接種前と比較して大幅に上昇した。・18~55歳では、BA.4/5に対する幾何平均抗体価(GMT)は606で、接種前から9.5倍(95%信頼区間[CI]:6.7~13.6)上昇した。・55歳以上の高齢者では、BA.4/5に対するGMTは896で、接種前から13.2倍(95%CI:8.0~21.6)上昇した。・55歳以上で、1価ワクチンを追加接種した被験者は、接種から1カ月後のBA.4/5に対する中和抗体反応が低く、GMTは236であり、接種前から2.9倍(95%CI:2.1~3.9)上昇した。・55歳以上のBA.4/5に対する中和抗体価は、2価ワクチンのほうが1価ワクチンよりも約4倍高くなった。・SARS-CoV-2感染歴のある人とない人で2価ワクチンの追加接種を行った場合、18~55歳と55歳以上の両群で、BA.4/5に対する中和抗体価の有意な上昇が認められた。感染歴のない人のほうで、より大きな増加が確認された。・2価ワクチンの安全性プロファイルは良好であり、1価ワクチンと一貫している。 同社は本結果について、SARS-CoV-2感染既往の有無にかかわらず、すべての集団に対して2価ワクチンが有効である可能性を強調するものだとしている。同社は本ワクチンの免疫原性のモニターを継続するとし、2022年9月には、生後6ヵ月~11歳の小児を対象に、BA.4/5対応2価ワクチンの異なる用量および投与レジメンで、安全性、忍容性および免疫原性を評価するための第I/III/III相試験を開始している。

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第123回 全国の出産費用を公表へ、妊婦の選択を支援/社会保障審議会

<先週の動き>1.全国の出産費用を公表へ、妊婦の選択を支援/社会保障審議会2.コロナワクチン接種で女性死亡、アナフィラキシーか? 県医師会が調査へ/愛知3.かかりつけ医は手上げ制へ、全世代型社会保障構築会議4.腎臓内科医が一斉退職へ、教授選考がきっかけか/島根大5.接触確認アプリ「COCOA」17日から機能停止へ/デジタル庁6.医薬品の迅速・安定供給の実現に向け財政措置を/中医協1.全国の出産費用を公表へ、妊婦の選択を支援/社会保障審議会11月11日に厚生労働省が開催した社会保障審議会において、全国の分娩医療機関での出産にかかる費用を公表することが了承された。正常分娩は、自由診療であり、価格が自由となっているため、ホームページで施設ごとに一覧できるようにし、妊婦が医療機関を選びやすくする。厚生労働省は、医療機関ごとに平均在院日数、分娩費の平均額など公表する。また、分娩費を支援する出産育児一時金の財源について、75歳以上の後期高齢者が新たに7%負担する仕組みを提案し、次回の保険料改定に合わせて2024年4月から導入する方針となった。(参考)病院ごとの出産費用を公表へ 妊婦の経済的負担軽減狙う 厚労省(毎日新聞)出産費や室料差額など公表へ、医療機関ごとに 社保審・部会が了承(CB news)75歳以上、7%分負担=出産育児一時金の財源に-厚労省(時事通信)高齢者にも「出産育児一時金」への応分負担求める! 「全国医療機関の出産費用・室料差額」を公表し妊婦の選択支援?社保審・医療保険部会(Gem Med)2.コロナワクチン接種で女性死亡、アナフィラキシーか? 県医師会が調査へ/愛知愛知県愛西市で11月5日に2価の新型コロナワクチンの接種直後に容体が急変し、死亡した事件をめぐって、愛知県医師会の医療安全対策委員会で、アナフィラキシーの有無を含め、対応について調査に乗り出すことになった。厚生労働省の第88回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会などでも検討を行っているが、遺族からは発生当初の初期対応をめぐって疑問の声が上がっている。(参考)「アナフィラキシーか」愛知県医師会が調査へ ワクチン接種後に死亡(朝日新聞)コロナワクチン接種で女性死亡 愛知県医師会が対応検証(日経新聞)ワクチン接種直後に容体急変 女性死亡 愛知県医師会が検証へ(NHK)新型コロナワクチン(コミナティRTU筋注[2価:起源株/オミクロン株BA.4-5])接種後に死亡として報告された事例の一覧[令和4年10月5日以降の報告分](厚労省)3.かかりつけ医は手上げ制へ、全世代型社会保障構築会議11月11日に開催された全世代型社会保障構築会議において、いわゆる「かかりつけ医機能」や勤労者皆保険制度について議論を行った。この中で、かかりつけ医制度について、事前の登録を義務化せずに、患者や医療機関側にそれぞれ判断を委ねる「手上げ方式」を提案した。政府は年内のとりまとめを目指しており、議論をさらに深めていく方針。一方、健康保険組合連合会(健保連)は11月8日、人口減少とさらなる高齢化により保険財政と医療資源が限界をむかえ、医療の最適化は必須であるとし、かかりつけ医師を認定する仕組みや任意の登録制度の創設を提言しており、今後、さらに議題を進め、医療の質の向上や医療機関との役割分担を明確にする狙い。(参考)第8回 全世代型社会保障構築会議(厚労省)「かかりつけ医」患者1人に複数で対応 政府有識者会議が方向性示す(朝日新聞)「かかりつけ医機能」手上げ方式検討へ 患者が選択、全世代型社会保障構築会議(CB news)かかりつけ医「登録制を」 健保連提言 実績ある医師認定(日経新聞)「かかりつけ医」の制度・環境の整備について[議論の整理](健保連)4.腎臓内科医が一斉退職へ、教授選考がきっかけか/島根大島根大学の医学部附属病院で、腎臓内科所属の医師7人が年度末までに退職する意向であることが文春オンラインで報道された。島根大学の腎臓内科の教授選は、2回の公募を行い、合計3回実施されたが、結果として落選した診療教授が退任することに合わせて、所属する腎臓専門医6人のうち2人が退職し、残りの医師も退職を検討していると報道されている。今後の島根県の腎臓医療や地域医療に影響が出る可能性があるため、関心を呼んでいる。(参考)島根大で腎臓内科医が一斉退職へ 島根の腎臓医療が崩壊危機(文春オンライン)5.接触確認アプリ「COCOA」17日から機能停止へ/デジタル庁デジタル庁は、新型コロナウイルスの陽性者との接触確認アプリの「COCOA」のサーバを11月17日から徐々に機能停止を行なっていくと発表した。これは今年9月末から全数届出が見直されたのに伴い、陽性登録が可能な人が限られるため、機能停止が決まった。今後、ユーザー全員に、11月17日より機能停止版(バージョン3.0.0)の配信を開始する。利用中のユーザーは、COCOAのアップデートを行った後に、機能停止の手続きをすることになる。(参考)接触確認アプリ「COCOA」17日から停止 “利用者は機能削除を”(NHK)COCOA、終了へのアップデートを17日に開始。必ず更新し、停止手続き後に削除を(PC Watch)コロナ接触確認アプリCOCOAの機能を停止 - 厚労省が発表、感染対策へのITツール活用で調査も(CB news)6.医薬品の迅速・安定供給の実現に向け財政措置を/中医協厚生労働省は11月9日に中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会を開き、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」での検討状況について報告を受けた。後発品のメーカーによる製造工程の問題をきっかけに生じた、医薬品の欠品問題により、医薬品の安定供給が困難となっており、さらに物価高騰や為替変動の影響もあり、早期の解決に向けて短期的に財政措置の検討が必要であると報告した。また、医薬品市場の将来予測では、先進10ヵ国中、わが国だけがマイナスまたは横ばいの成長であり、薬剤費の総額を伸ばして、革新的な医薬品の開発に対する投資を促すためにも、経済成長率以上の伸びは確保するべきではないかといった意見も出ている。今後、23年度改定にこれらの内容を盛り込むよう求める意見を含め検討を重ね、来年4月を目途にとりまとめを行う予定。(参考)中医協薬価専門部会 医薬品の安定供給は「短期的」な財政措置検討へ23年度改定の論点に(ミクスオンライン)令和5年度薬価改定について(有識者検討会における議論の状況について)(厚労省)第5回 医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会(同)

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生後6ヵ月からCOVID-19ワクチン接種推奨を提言/日本小児科学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第8波が到来しつつある今、第7波で起こった小児へのCOVID-19感染の増加、重症化や今冬のインフルエンザの同時流行を憂慮し、日本小児科学会(会長:岡明[埼玉県立小児医療センター])の予防接種・感染症対策委員会は、同学会のホームページで「生後6ヵ月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を発表した。 これは先に示した「5~17歳の小児におけるワクチンの有益性」も考慮したうえで、メリット(発症予防)がデメリット(副反応など)を上回ると判断し、生後6ヵ月以上5歳未満の小児でも推奨したもの。 なお、厚生労働省では乳幼児(生後6ヵ月~4歳)の接種は「努力義務」としている。生後6ヵ月以上5歳未満の小児でも接種の方がメリットある 同学会ではワクチン推奨の考え方の要旨として以下4点にまとめている。1)小児患者数の急増に伴い、以前は少数であった重症例と死亡例が増加している。2)成人と比較して小児の呼吸不全例は比較的まれだが、オミクロン株流行以降は小児に特有な疾患であるクループ症候群、熱性けいれんを合併する児が増加し、また、脳症、心筋炎などの重症例も報告されている。3)生後6ヵ月以上5歳未満の小児におけるワクチンの有効性は、オミクロン株BA.2流行期における発症予防効果について生後6ヵ月~23ヵ月児で75.8%、24ヵ月児で71.8%と報告されている。流行株によっては有効性が低下する可能性はあるが、これまでの他の年齢におけるワクチンの有効性の知見からは、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待される。4)生後6ヵ月以上5歳未満の小児におけるワクチンの安全性については、治験で観察された有害事象はプラセボ群と同等で、その後の米国における調査でも重篤な有害事象はまれと報告されている。なお、接種後数日以内に胸痛、息切れ(呼吸困難)、動悸、浮腫などの心筋炎・心膜炎を疑う症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診し、新型コロナワクチンを受けたことを伝えるよう指導すること。

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高齢化率世界一の日本のコロナ禍超過死亡率が低いのは?/東京慈恵医大

 新型コロナウイルス感染症流行前の60歳平均余命が、コロナ禍超過死亡率と強く相関していたことを、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島 充佳氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2022年10月19日掲載の報告。 新型コロナウイルス感染症は高齢者において死亡リスクがとくに高いため、世界一の高齢者大国である日本ではコロナの流行によって死亡率が高くなることが予想されていたが、実際には死亡率の増加が最も少ない国の1つである。本研究は、なぜ日本が超過死亡率を最も低く抑えることができたかを明らかにするため、コロナ流行以前(2016年など)における健康、幸福度、人口、経済などの50項目の指標と、コロナ流行中(2020年1月~2021年12月)の死亡率の変動との相関を調査した。 研究グループは、超過死亡率の判明している160ヵ国を人口の60歳以上が占める割合で4グループに分け、高齢者率が最も高い40ヵ国について、コロナ流行前の各国公表データとの関係を調査した。 主な結果は以下のとおり。・高齢者率が最も高いグループには欧米諸国、旧ソビエト連邦、東欧諸国、日本、韓国などの40ヵ国が含まれていた。総じて超過死亡率は高かったが、グループ内での開きがあり、超過死亡率がマイナスであった国は、ニュージーランド、オーストラリア、日本、ノルウェーの順であった。ロシアを含む旧ソビエト連邦や東欧諸国の超過死亡率は200を超えるなど桁違いに高かった。・50項目の指標で最も相関の強かった因子は「60歳の平均余命」で、相関係数は-0.91であった。・2番目は「2021年末までのワクチン2回接種率」で、相関係数は-0.82であった。・3番目は「国民1人当たりのGDP」で、相関係数は-0.78であった。国民1人当たりのGDPが大きい国では超過死亡率が低く、この傾向はスペイン風邪のときにも認められた。・上位3因子について多変量解析を行った結果、「60歳の平均余命」だけが有意で、他の「2021年末までのワクチン2回接種率」と「国民1人当たりのGDP」の有意性は失われた。よって、後者2因子は「60歳の平均余命」と超過死亡率との関係に対して交絡因子になっていると考えられる。・「30~70歳の心筋梗塞などの心血管疾患、脳卒中、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患で死亡する人口あたりの割合」は相関係数が0.90と極めて強い相関を示した。・「5歳未満の乳幼児死亡率」との強い相関は示されなかった。 同氏らは、「本調査の結果は、高齢時の長い平均余命が、質の高い医療システムとパンデミックを含む医療脅威からの回復力に関連していることを示唆している」とまとめた。

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オミクロン株BA.4/5の病原性と増殖性、デルタ株よりも低いか/Nature

 東京大学医科学研究所の河岡 義裕氏らの研究グループは、新型コロナウイルスのオミクロン株BA.4/5について、感染した患者の臨床検体からウイルスを分離し、その性状についてハムスターを用いてin vivoで評価した。デルタ株およびBA.2と比較したところ、BA.4およびBA.5のハムスターにおける増殖性と病原性は、いずれもBA.2と同程度であったが、デルタ株と比べると低いことなどが明らかになった。本研究は、東京大学、国立国際医療研究センター、米国ウィスコンシン大学、国立感染症研究所、米国ユタ州立大学の共同で行われ、Nature誌オンライン版11月2日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。・BA.4およびBA.5をハムスターに感染させたところ、BA.2と同様に、すべての株において感染ハムスターは体重減少を示さなかった。一方、デルタ株を感染させたハムスターはすべての個体で体重が減少していた。・BA.4あるいはBA.5を感染させたハムスターでは、呼吸器症状の悪化も認められなかった。・ハムスターの肺や鼻におけるBA.4とBA.5の増殖能は、BA.2と同程度だったが、デルタ株と比べると低かった。さらに、感染動物肺の病理解析を行ったところ、BA.4/5感染ハムスターでは、BA.2感染ハムスターと同程度の軽度の炎症しか見られなかった。・新型コロナウイルスの受容体であるヒトhACE2を発現するハムスターを用いた感染実験においても、BA.4およびBA.5の病原性と増殖能はデルタ株よりも低かった。・BA.2とBA.4を同時に同じ個体に感染させ、どちらの株がハムスターの呼吸器でより増えやすいのか競合試験を行ったところ、呼吸器で検出されたそれぞれの株の割合は、同程度か、ややBA.4のほうが高い傾向が見られた。一方、BA.2とBA.5を同時に感染させたハムスターの呼吸器では、BA.5の割合が高いことがわかった。 研究グループによると、BA.2をもとに、スパイク蛋白質のみをBA.4やBA.5と置き換えた組換えウイルスを用いた感染実験では、BA.4やBA.5のスパイク蛋白質を有するウイルスの病原性がBA.2よりも高いとする報告もあるが、患者から分離したウイルスを用いた本研究では、BA.2、BA.4およびBA.5の病原性に違いがないことが明らかになったとしている。

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5~17歳の年齢別、オミクロン株へのワクチン有効性と持続性/NEJM

 カタールにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のBNT162b2(ファイザー製)ワクチンの小児・青少年への実社会における有効性を検証したところ、小児へのワクチン接種によるオミクロン変異株への保護効果は中程度で、2回目接種後は急速に低下し3ヵ月で保護効果がほぼ認められなくなっていた。青少年については、おそらく投与した抗原量が多いことから、小児よりも強力で持続性のある保護効果が認められたという。カタール・コーネル大学のHiam Chemaitelly氏らが、3つのコホートについて後ろ向き標的コホート試験を行い明らかにした。BNT162b2ワクチンは、小児(5~11歳)と青少年(12~17歳)では、投与される抗原量が異なる。NEJM誌オンライン版2022年11月2日号掲載の報告。オミクロン株流行後の5~11歳、流行前後の12~17歳のデータを解析 研究グループは、カタールの小児・青少年について、SARS-CoV-2感染に対するBNT162b2ワクチンの有効性をリアルワールドで評価した。 ワクチン接種済みの全国集団と未接種の全国集団を比較するため、3つのマッチング後ろ向き標的コホート試験を実施。1つは、B.1.1.529(オミクロン)変異株優勢後の5~11歳の小児から得たデータを評価した試験で、残る2つは、オミクロン変異株出現前と出現後の12~17歳の青少年から得たデータを評価した試験だった。 BNT162b2ワクチン接種とSARS-CoV-2感染の関連性を、Cox比例ハザード回帰モデルで推定し評価した。有効性は小児で低年齢ほど低下、オミクロン株出現前の青少年では高率 小児において、BNT162b2ワクチン(10μg)プライマリシリーズ接種の、オミクロン変異株感染に対する有効性は、25.7%(95%信頼区間[CI]:10.0~38.6)だった。有効性は、2回目接種直後が最も高く49.6%(28.5~64.5)だったが、その後は急速に低下し、3ヵ月後にはほとんど保護効果は認められなくなっていた。年齢別では、5~7歳の同有効性は46.3%(21.5~63.3)で、8~11歳は16.6%(-4.2~33.2)だった。 青少年では、同ワクチン(30μg)プライマリシリーズ接種の、オミクロン変異株感染に対する有効性は、30.6%(95%CI:26.9~34.1)だった。有効性は2回目接種後、時間経過と共に低減していた。年齢別有効性は、12~14歳が35.6%(31.2~39.6)、15~17歳が20.9%(13.8~27.4)だった。 オミクロン変異株出現前では、青少年への30μgプライマリシリーズ接種のSARS-CoV-2感染に対する有効性は、87.6%(95%CI:84.0~90.4)で、2回目接種後の有効性の低下は相対的に緩徐だった。

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コロナ陽性になること「怖い」が7割/アイスタット

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広まり、3年が経とうとしている。この間、COVID-19陽性者も身近にいたりとすでに珍しいことではなくなった。そこでCOVID-19感染者の特徴およびワクチン接種回数との因果関係、また、COVID-19に関連する疑問解明を目的として、株式会社アイスタットは、全国で最も感染者数が多い東京都を対象にコロナウイルス陽性に関する調査を行った。 アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の東京都在住の有職者の会員20~59歳の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年10月18日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~59歳/東京都/有職者)アンケートの概要・コロナ感染者は、「20・30代」「女性」「ワクチン接種回数が0~2回」で最も多い。・感染経路は、「わからない」「家族・知人・友人・恋人の濃厚接触者」が同率1位。・感染者の重症度レベルは、「軽症」が50.8%で最多、次に「自覚症状なし」の22.2%。・陽性で困ったことは、「身体的負担の増加」「行動制限の増加」が41.3%で同率1位。・コロナウイルス陽性になることについて、現在も7割近くが「怖い」と思っている。・コロナウイルスワクチン接種が「3回以上」の人は、約6割にとどまる。・ワクチン接種4回・5回目以降を「必ず接種する」は31%、「接種しない」は25.3%。・PCR検査・抗体検査を受けたことがある人は5割近く。・37.5℃以上の熱を出し、保健所や病医院に連絡をせず完治させた人は1割。・今シーズン(2022年)、インフルエンザ予防接種を受ける人は2割。東京の若い世代ほどワクチンを接種していない 質問1で「PCR検査・抗体検査の結果で『陽性』になった経験」(単回答)を聞いたところ、「あり」が21%、「なし」が79%で、コロナウイルスに感染した人は2割を占めた。また、「あり」を回答した人の属性をみると、「20・30代」「女性」「既婚」「コロナワクチン接種回数が0~2回」で最も多かった。 質問2で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「感染経路」(複数回答)を聞いたところ、「感染経路はわからない」と「家族・知人・友人・恋人の濃厚接触者」がともに28.6%、「職場の濃厚接触者」と「身近に陽性者がいた」が14.3%の順で多かった。 質問3で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「重症度レベル」(単回答)を聞いたところ、「軽症」が50.8%、「自覚症状なし」が22.2%、「中等症」が11.1%の順で多かった。また、コロナワクチンの接種回数別では、「自覚症状なし」を回答した人は、接種が「3回以上」の人ほど多く、「重篤」と回答した人は「0~2回」の人が多かった。 質問4で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「陽性で困ったこと」(複数回答)を聞いたところ、「身体的負担の増加」と「行動制限の増加」がともに41.3%、「精神的負担の増加」が23.8%、経済的負担の増加が22.2%と多かった。「陽性者」では、経済的な面よりも行動制限されることが大きな負担になることが判明した。 質問5で「今後、コロナウイルス陽性になることについてどう思うか」(単回答)を聞いたところ、「怖い」が69%、「怖くない」が31%で、「怖い」と思っている人が7割近くいた。ちなみに「怖い」の推移を過去の本調査で比較してみると、第1波のときは7割から9割近くまで上昇したが、徐々に減少し、現在の7割弱まで下がった。また、「怖い」と回答した人の属性をみると「50代」「女性」「コロナ感染(陽性)経験なし」「ワクチン接種3回以上」で最も多かった。 質問6で「現在のコロナウイルスワクチン接種回数」(単回答)を聞いたところ、「3回」が47.7%、「受けたことがない」が21.7%、「4回」が15.7%と多かった。3回の接種を基準に接種率を分類してみると、「3回以上」は63.3%、「0~2回」は36.7%で、「3回以上」は半数を超えてはいるものの約6割にとどまった。また、年代別では、ワクチンを「受けたことがない」「1回」「2回」と回答した人は「20・30代」で最も多く、若い世代の接種が十分に進んでいない状況が浮き彫りとなった。 質問7で「今後、コロナウイルスワクチン接種4、5回目と誰でも接種可能となった場合、接種するか」(単回答)を聞いたところ、「感染者数や周囲の状況により接種する」が43.7%、「感染者数に関わらず、必ず接種する」が31.0%、「接種はしない」が25.3%の順で多かった。属性別にみると、「感染者数に関わらず、必ず接種する」を回答した人は、「50代」「女性」「既婚」「コロナ感染(陽性)経験なし」「ワクチン接種3回以上」で最も多く、一方で「接種はしない」を回答した人は、「20・30代」「女性」「未婚」「コロナ感染(陽性)経験あり」「ワクチン接種0~2回」で最も多かった。 質問8で「PCR検査・抗体検査などを受けたことがある場合、その理由」(複数回答)を聞いたところ、「発熱したため」が15.7%、「濃厚接触者だったため」が10.7%、「体調が悪かったので」が8.3%と続き、「一度も受けたことがない」が最多で51.7%だった。 質問9「コロナ禍で3年近く経つ中で、この期間37.5℃以上の熱を出し、保健所や病医院に連絡せず(診療を受けず)市販薬や安静で完治させたことはあるか」(単回答)を聞いたところ、「3年間、発熱はない」が57.7%、「まったくない」が28.0%、「ある」が14.3%の順で多かった。 質問10で「現在、自宅に常備している市販薬」(複数回答)を聞いたところ、「バファリン、EVE(イブ)、ノーシンAc」が35.3%、「風邪薬」が33.0%、「ロキソニン」が31.7%の順で多かった。一時期、ドラッグストアなどの店頭から姿を消した「アセトアミノフェン系の解熱剤」は14.7%で第6位だった。 質問11で「今シーズン、インフルエンザの予防接種を受ける予定があるか」(単回答)を聞いたところ、「受けない」が56.7%、「受ける」が23.3%、「悩み中」が20.0%だった。「受ける」を回答した人の属性をみると、「50代」「男性」「既婚」「ワクチン接種3回以上」が最も多かった。その一方で、「受けない」を回答した人の属性は、「40代」「男性」「未婚」「ワクチン接種0~2回」で最も多かった。

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第137回 コロナワクチン買い占めが130万人の命を奪った/あの飲み物でコロナ予防?

COVID-19ワクチン買い占めが130万人の命を奪った去年2021年の終わりまでに世界のおよそ2人に1人(約50%)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)ワクチンの一通り(2回)の接種を済ませました。しかしその普及率は一様ではなく、高所得国では75%近くに達しているのに対して低所得国ではわずか2%足らずです。富裕国は去年末時点でCOVID-19ワクチンを余分に貯め込み、比較的重症化し難い幼い小児への接種に取り掛かっています。かたや貧しい国はというとCOVID-19で死ぬリスクが高い人への接種も十分に行き届いていないありさまです。COVID-19ワクチン普及の世界的な格差は不必要な死をおそらくもたらしたとすでに周知されています。そのような不必要な死がどれほど生じたかを推定することは将来の不可避な疫病流行への備えの準備に役立つはずです。そこで英国ワーウィック大学の数理疫学専門家Sam Moore氏等は世界154ヵ国の死亡やワクチン普及のデータを使い、金ではなく需要に応じてCOVID-19ワクチンが隈なく世界の人々の手に渡っていたらSARS-CoV-2感染やその重症度はどうだったかを予想しました。その結果、COVID-19ワクチンが世界で完全に公平に分配されていたとしたら2021年にSARS-CoV-2感染は約3億例少なく、130万人はCOVID-19で死なずに済んだと推定されました1-4)。さらには変異株を封じる効果も期待できるようです。SARS-CoV-2オミクロン株BA.5が流行したかと思えば早くも次はBA.5から分家したBQ.1やその近縁種BQ.1.1の感染が世界的な広がりを見せており、米国では先週5日までの一週間のCOVID-19診断数のおよそ35%を占めるまでに増えています5)。その前の週のBQ.1とBQ.1.1感染の割合はおよそ23%でした。欧州でも増えており、まもなく感染の大半を占めるようになり、向こう数週間か数ヵ月の感染例増加を後押しするとみられています6)。COVID-19ワクチンをより公平に共有すれば、SARS-CoV-2感染がいっそう減少し、そのような次から次へのSARS-CoV-2変異株台頭を遅らせうることも今回の研究で示唆されました4)。金払いではなく需要に応じてワクチンを分配することで皆が恩恵を受けうるのであり1)、各国の政策決定者は今回の研究の推定結果を頼りに次の流行にもっと優れた手立てを講じることができそうです4)。コーヒーでCOVID-19予防?COVID-19ワクチンを世界に公平に広めるには各国の協力などのひと手間が今後必要ですが、すでに世界に広まるある飲み物がもしかしたらCOVID-19予防効果を担うかもしれません。その飲み物とは、それを朝飲まないことには一日が始まらないという方も多いであろうコーヒーです。その成分・5-caffeoyl quinic acid(慣用名はクロロゲン酸)がコーヒー1杯分ほどに含まれる量の濃度でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質と細胞のACE2受容体の結合を確実に阻止し、細胞感染を防ぐことがドイツのヤーコプス大学の化学者Nikolai Kuhnert氏等の生化学実験で示されました7)。実験ではコーヒー1杯を200mLと仮定しました8)。その量のコーヒーにはクロロゲン酸がおよそ100mg含まれます。コーヒーに実際のところCOVID-19予防効果があるのかないのかの判断は化学者である自分にはできないが、疫学試験でその答えが判明するだろうとKuhnert氏は言っています8)。同氏等は社会学などの他の分野の研究者に相談する予定です。参考1)Moore S, et al. Nat Med. 2022 Oct 27. [Epub ahead of print]2)Quantifying the effect of inequitable global vaccine coverage on the COVID-19 pandemic / Nature3)Daily briefing: Vaccine hoarding might have cost 1.3 million lives / Nature 4)COVID vaccine hoarding might have cost more than a million lives / Nature 5)COVID variants BQ.1/BQ.1.1 make up 35% of U.S. cases / Reuters6)Cases of BQ.1, BQ.1.1 COVID variants double in U.S. as Europe warns of rise / Reuters7)Schmidt D, et al. Food Funct. 2022;13:8038-8046.8)Research at Jacobs University: Coffee could offer protection from catching COVID-19 / Eurekalert

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コロナワクチンの血栓症リスク、種類別比較を定量化/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンのうち、アデノウイルスベースのワクチンであるChAdOx1-S(アストラゼネカ製)はmRNAベースワクチンのBNT162b2(ファイザー製)と比較して、初回接種から28日以内の血小板減少症のリスクが30%以上高く、アデノウイルスベースのワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン製)はBNT162b2に比べ、血小板減少症を伴う血栓症候群(TTS)の中でも静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向にあることが、英国・オックスフォード大学のXintong Li氏らが行った欧米6ヵ国のデータセットの解析で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月26日号で報告された。欧州5ヵ国と米国のネットワークコホート研究 研究グループは、COVID-19に対するアデノウイルスベースのワクチンとmRNAベースのワクチンとで、TTSまたは血栓塞栓イベントのリスクの定量的な比較を目的に、国際的なネットワークコホート研究を実施した(欧州医薬品庁[EMA]の助成を受けた)。 解析には、欧州の5ヵ国(フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、英国)の各1つのデータセットと、米国の2つのデータセットが使用された。 対象は、2020年12月から2021年の半ばまでの期間に、2つのアデノウイルスベースのCOVID-19ワクチン(ChAdOx1-S、Ad26.COV2.S)または2つのmRNAベースのCOVID-19ワクチン(BNT162b2、mRNA-1273[モデルナ製])のいずれかの接種を少なくとも1回受け、初回接種時に年齢18歳以上の集団であった。 主要アウトカムは、ワクチン接種から28日以内のTTS(深部静脈血栓症、血栓塞栓症など)または静脈・動脈血栓塞栓イベント(深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳静脈洞血栓症、心筋梗塞など)とされた。 傾向スコアマッチング後に罹患率比が推算され、陰性コントロールのアウトカムを用いて較正が行われた。変量効果によるメタ解析で、データベースごとの推算値が統合された。今後の予防接種キャンペーンの際に考慮すべき ドイツと英国のデータの解析では、血小板減少症は、ChAdOx1-Sの初回接種を受けた集団で862件、BNT162b2の初回接種を受けた集団で520件発生した。 ドイツと英国のデータのメタ解析では、ChAdOx1-S初回接種はBNT162b2初回接種と比較して、28日後の血小板減少症のリスクが高く、較正後の統合罹患率比は1.33(95%信頼区間[CI]:1.18~1.50)であり、較正後罹患率の差は1,000人年当たり1.18(95%CI:0.57~1.8)、絶対リスク差は10万人当たり8.21(95%CI:3.59~12.82)であった。 TSSはきわめてまれであった。米国とスペインのデータのメタ解析では、Ad26.COV2.SはBNT162b2に比べ、TTSのうち静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向が認められ、較正後の統合罹患率比は2.26(95%CI:0.93~5.52)であった。不確実性はより高いものの、TTSの深部静脈血栓症にも同様の傾向がみられた(較正後統合罹患率比:1.83、95%CI:0.62~5.38)。 著者は、「罹患数はきわめて少ないが、アデノウイルスベースのワクチン接種後に観察された血小板減少症のリスクは、今後、予防接種キャンペーンやワクチン開発を計画する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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第122回 感染症法改正案、衆議院厚生労働委員会で可決、法案成立へ/国会

<先週の動き>1.感染症法改正案、衆議院厚生労働委員会で可決、法案成立へ/国会2.かかりつけ医機能、8項目を3項目に整理を求める提言提出/日本病院会3.燃料費、物価高騰で、病院・介護事業者の経営悪化一段と/四病協4.大阪急性期・総合医療センター、ランサムウェア攻撃で電子カルテ障害/大阪府5.在宅医療やオンライン診療でもマイナンバー活用へ/厚労省6.医師不足対策で、埼玉医科大学と群馬大学が人材育成で協定/埼玉医大・群馬大1.感染症法改正案、衆議院厚生労働委員会で可決、法案成立へ/国会11月4日に衆議衆院厚生労働委員会が開催された。今後の感染症の流行に備え、規模の大きな公立・公的病院や特定機能病院、地域医療支援病院に対して、感染症患者向けの病床を事前に確保を義務付ける感染症法改正案を、自民党、公明党のほか立憲民主党、日本維新の会など賛成多数で可決した。11月8日にも衆議院本会議で可決され、参院に送付され、今月中に成立の見通し。(参考)感染症法改正案、衆院委で可決=大病院の病床確保義務付け(時事通信)中核病院に病床確保義務付け 感染症法改正案、衆院委可決(産経新聞)感染症法等の一部を改正する法律案について(厚労省)2.かかりつけ医機能、8項目を3項目に整理を求める提言提出/日本病院会日本病院会は、「かかりつけ医機能」について提言書をまとめ、厚生労働省に提出した。現状、「かかりつけ医」に求められる機能について、地域包括診療加算の届出、地域包括診療料の届出、小児かかりつけ診療料の届出、機能強化加算の届出のほか、日常的な医学管理および重症化予防や地域の医療機関などとの連携、在宅医療支援、介護などとの連携の8項目について医療機能情報提供制度で報告が求められていた。今回、かかりつけ医機能について見直しを求め、特定の領域に偏らない広範囲にわたる全人的医療の提供、診療時間内外を問わず地域住民に自院で対応、もしくは他の医療機関と連携して対応、総合的な医学的管理を行なうの3機能に整理する必要があるとした。11月2日に日本医師会も「かかりつけ医機能」について提言をまとめ公表しており、患者さんのフリーアクセスを維持しつつ、地域の役割分担や連携で発揮するよう求めている。(参考)「かかりつけ医機能」に関する提言(日本病院会)地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)(日本医師会)かかりつけ医機能、広範囲の全人的医療など提言 日病、3項目に整理を(CB news)日医、かかりつけ医機能への評価の強化を目指す(日経メディカル)3.燃料費、物価高騰で、病院・介護事業者の経営悪化一段と/四病協団体協議会今年に入って、光熱費、燃料代の上昇による物価高騰によって病院や介護事業者の経営が圧迫されている報道が相次いでいる。11月2日に開催された四病協団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の総合部会にて、入院患者に提供する食事の材料費や燃料光熱費が高騰しているため、1食当たり640円の入院時食事療養費では食事提供が十分にできなくなってきているとし、このままでは食事提供が困難になるため、入院時食事療養費の引き上げを求めていく考えを示した。通常の入院時食事療養費の引き上げは2024年度の診療報酬改定時であり、補助金の支給など早急な対応を求めていく。また、今年に入って1月~9月までの介護事業者の倒産が100件となり、去年の51件の2倍近くと、過去最多のペースとなっている。これも物価高騰や人件費の上昇、さらにはコロナウイルス感染拡大による利用控えなどが影響しているとみられている。(参考)物価高騰・円安により「病院での食事提供」が困難を極めている! 政府に緊急の対応を要望へ-四病協(Gem Med)入院患者の食事療養費、見直しを再度働き掛けへ 四病協(CB news)円安、資源高騰で「地域医療が崩れる」 JA厚生連病院も経営圧迫(日本農業新聞)介護事業者の倒産 過去最多ペース コロナで利用控えや物価高も(NHK)4.大阪急性期・総合医療センター、ランサムウェア攻撃で電子カルテ障害/大阪府10月31日、大阪市住吉区にある大阪急性期・総合医療センター(865床)は、電子カルテのサーバーにランサムウェアによる攻撃を受け、電子カルテが使用できない障害が発生した。このため同院では緊急以外の手術や外来診療の一時停止など通常診療ができない状況となり、救急患者の受け入れを停止している。同院によれば11月4日から前立腺がん手術など予定手術については一部再開しているが、全面的な復旧はまだ目処が立っていないため、システムが復旧するまで、救急や災害対応については近隣の病院に依頼している。同院は、大阪府の基幹災害医療センターであり、災害対応に24時間備えられるなど大阪市南部の中核的医療機関であるが、近年、急増している医療機関を狙うサイバー攻撃を受けた形。今年はランサムウェアによるサイバー攻撃が国内で合計8件と過去最悪のペースで報道が続いている。厚生労働省は今年3月に医療機関などを対象とするセキュリティリスクが顕在化していることへの対応して「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の第5.2版を改定し、医療機関に対応を求めている。(参考)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第5.2版(厚生労働省)カルテ人質に、狙われた病院 大阪でもサイバー攻撃(日経新聞)電子カルテには治療・投薬履歴など記録…「診療の質落ちる」攻撃受けた病院、診療停止続く(読売新聞)大阪急性期・総合医療センター、一部手術再開 外来診療は引き続き停止(CB news)5.在宅医療やオンライン診療でもマイナンバー活用へ/厚労省厚生労働省は10月28日に開催した社会保障審議会医療保険部会において、オンライン資格確認のシステムを訪問診療や訪問看護など在宅医療現場にも導入する方針を示した。また、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」の利用をオンライン診療にも導入する方針を厚生労働省は明らかにしており、今後、マイナンバーカードの取得を促進することが狙い。 一方、紙レセプトの使用している医療機関については、23年4月以降もオンライン資格確認システムの導入は強制されないが、政府はマイナンバーカードの利用によって資格過誤によるレセプト返戻が減るなど窓口業務が削減されるメリットをアピールしている。(参考)訪問診療や訪問看護にもオンライン資格確認導入へ 厚労省方針(CB news)オンライン診療でも「マイナ保険証」、政府が24年導入の方針(読売新聞)オンライン資格の導入で事務コスト削減とより良い医療の提供を~データヘルスの基盤として~(厚労省)マイナンバーの利活用拡大による国民の利便性向上に向けて(経済財政諮問会議)6.医師不足対策で、埼玉医科大学と群馬大学が人材育成で協定/埼玉医大・群馬大11月4日、埼玉県の人口10万人当たりの医師数が全国一少なく、医師不足が深刻であるとして、埼玉医科大学と群馬大学は、埼玉県北部と群馬県南部で活躍する医師を育成する目的で、相互に連携・協力する協定を締結した。この協定は、今年の6月に文部科学省の「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」に採択され、埼玉医科大学と群馬大学以外にも、埼玉県立大学や両県の医師会、埼玉県内7病院と群馬県内6病院とも締結しており、将来この地域で活躍し続ける医師の育成を目指して令和10年度まで実施する。(参考)医療人材育成で協定 埼玉医大や群馬大、両県境域で連携(日経新聞)埼玉医大、群大などと医療人材育成へ協定 医師不足対応(産経新聞)「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」(文部科学省)

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認知症患者のインフルエンザワクチン接種の抗体反応に対する光曝露の影響

 認知症受け入れ施設の照明条件を改善すると、患者の睡眠、概日リズム、健康状態の改善がみられる。スイス・Ecole Polytechnique Federale de LausanneのMirjam Munch氏らは、日中に明るい光を浴びると、認知症患者のインフルエンザワクチン接種に対する免疫応答がサポートされる可能性について報告を行った。この結果は、毎日より多くの光を浴びることで、認知症患者の免疫応答が上昇することを示唆しており、今後の研究において、定期的な光曝露がヒトの免疫系に対し直接的または安定した概日睡眠覚醒リズムを介して良い影響を及ぼすかが明らかになることが期待される。Brain, Behavior, & Immunity - Health誌2022年9月20日号の報告。 施設に入所している認知症患者80例を対象に、光曝露と休息および活動サイクルとの関係を評価するためアクティビティトラッカー活動量計を8週間使用した。毎年のインフルエンザワクチン接種前と接種4週間後に採血した血液サンプルを用いて、患者の免疫反応を分析した。3つのインフルエンザウイルス株(H3N2、H1N1、IB)に対する抗体濃度は、赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition)アッセイで定量化した。 主な結果は以下のとおり。・個々の光曝露プロファイル(日光を浴びるを含む)を定量化し、照度392.6ルクスを中央値として低光曝露群と高光曝露群に分類した。・両群間で、認知機能障害の重症度、年齢、性別に違いは認められなかった。・高光曝露群は、低光曝露群と比較し、ワクチン接種前の濃度が同等であったにもかかわらず、H3N2ワクチンに対する抗体価が有意に増加し、概日活動の振幅が有意に大きかった(日中の活動量が多く、夜間の活動量が少ない)。・全対象者の75%以上で、3つのインフルエンザウイルス株に対する十分な血清保護応答が確認された。

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イベルメクチン、軽~中等症コロナ患者の回復に寄与せず/JAMA

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、イベルメクチン400μg/kgの1日1回3日間投与はプラセボと比較し回復までの期間を改善しないことが、米国・デューク大学のSusanna Naggie氏らが実施した無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV-6試験」の結果、示された。著者は、「軽症~中等症のCOVID-19患者に対して、イベルメクチンの使用は支持されない」とまとめている。JAMA誌2022年10月25日号掲載の報告。外来患者で、持続的回復までの期間をイベルメクチンvs.プラセボで評価 ACTIV-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた、進行中の完全遠隔法による分散型臨床試験である。 研究グループは、米国の93施設において、SARS-CoV-2感染が確認されCOVID-19の症状発現後7日以内の30歳以上の外来患者のうち、2つ以上の症状(疲労、呼吸困難、発熱、咳、吐き気、嘔吐、下痢、体の痛み、悪寒、頭痛、喉の痛み、鼻の症状、味覚・嗅覚の異常のいずれか)を有する患者を、イベルメクチン(400μg/kgを1日1回3日間投与)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、持続的回復までの期間(少なくとも3日間連続して症状がないことと定義)、副次評価項目は28日目までの入院または死亡の複合を含む7項目とした。持続的回復までの期間は12日vs.13日、有意差なし 2021年6月23日~2022年2月4日の期間に、計1,800例が無作為化された(平均[±SD]年齢48±12歳、女性932例[58.6%]、SARS-CoV-2ワクチンを2回以上接種753例[47.3%])。このうち、1,591例(イベルメクチン群817例、プラセボ群774例)が試験を完遂し、解析に含まれた。 持続的回復までの期間の中央値は、イベルメクチン群12日(四分位範囲[IQR]:11~13)、プラセボ群13日(IQR:12~14)であり、持続的回復までの期間の改善に関するハザード比(HR、HR>1が有益であることを示す)は1.07(95%信用区間[CrI]:0.96~1.17、事後解析のp=0.91)であった。 28日目までの入院または死亡は、イベルメクチン群で10例、プラセボ群で9例確認された(1.2% vs.1.2%、HR:1.1、95%CrI:0.4~2.6)。 最も多く報告された重篤な有害事象は、COVID-19肺炎(イベルメクチン群5例、プラセボ群7例)と静脈血栓塞栓症(1例、5例)であった。

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モデルナのBA.4/5対応2価ワクチンを特例承認/厚労省

 厚生労働省は11月1日、モデルナのオミクロン株BA.4/5に対応した新型コロナウイルス2価ワクチン「スパイクバックス筋注」(2価:起源株/オミクロン株BA.4/5)について、承認事項の一部変更の特例承認をしたことを発表した。 一部変更申請の概要として、起源株およびオミクロン株BA.4/5のスパイクタンパク質をコードする mRNAを含む2価ワクチンが追加された。有効成分のエラソメランはSARS-CoV-2の起源株を、イムエラソメランはオミクロン株BA.1を、ダベソメランはオミクロン株BA.4/5のスパイクタンパク質をコードするmRNAだとしている。 本剤の接種対象者は、過去に初回免疫または追加免疫としてSARS-CoV-2ワクチンの接種歴のある18歳以上であり、追加免疫として、1回0.5mLを筋肉内に接種する。接種間隔は通常、前回のワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種を行うことができる。

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第133回 『かかりつけ医』制度化は骨太ならぬ“骨抜き”方針か!?

『かかりつけ医』は、たぶん一般にはある程度聞き慣れた言葉になっているだろうが、その定義はかなり曖昧と言って良いかもしれない。慢性疾患を有する患者の場合は、その主治医がいわゆる『かかりつけ医』だと思っているはずだ。しかし、ここでは釈迦に説法だが、厚生労働省や日本医師会が考える「かかりつけ医」の定義は異なる。厚生労働省(以下、厚労省)では「健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」となる。ちなみに日本医師会の考える『かかりつけ医』は、同会ホームページで、この厚労省の定義をさらに詳しく説明したような内容になっている。というか、そもそも厚労省のホームページの説明の下にわざわざ「参考」として日医へのリンクが張られているのは、今風に言うと、なんとも「もにょって」しまう。さて、この定義に厳密に沿えば、前述の慢性疾患の主治医は実は多くの場合、かかりつけ医とは言えない。ちなみに日本医師会総合政策研究機構の「日本の医療に関する意識調査 2022 年臨時中間調査」によると、一般生活者1,152人に聴取した結果では「かかりつけ医がいる」との回答は55.7%で50代以降になると50%を超えるものの、20代では30%弱だ。前述の厚労省、日医の『かかりつけ医』の定義を見て「もにょる」を通り越して、やや言葉は悪いが「ウソつけ」と言いたくなる部分がある。それは厚労省のホームページの「『かかりつけ医』はご自身で選択できます」と日医の「『かかりつけ医』とは、患者さんが医師を表現する言葉です」である。文字上で言えばそうだろう。だが、現実にはそうなっていない。この問題を顕在化させたのは、今般の新型コロナウイルス感染症のワクチン接種開始時である。同ワクチンは超低温冷凍による保管が必要だったことから、当初は自治体主導の大規模接種会場での接種がモデルとして考えられたが、それが突如として多くの自治体で地域医師会の協力を得て個別医療機関での接種が中心となった。その先鞭が東京都練馬区の作成した「練馬区モデル」である。先日、ある自治体のワクチン接種担当の職員が、「練馬区モデルが出る前の自治体向けマニュアルを見ると、どう考えても大規模接種を前提としているようにしか読めないので、その路線での接種計画を組んでいたが、突如練馬区モデルの話が厚労省から出てきて驚いた」と聞かされた。これが全国での接種計画を一変させたのは間違いないようだ。かく言う私は練馬区民。この話を聞いた時は、「いやいや練馬区住民でよかった」と思っていたのだが、以前の本連載でも書いたように、いざ接種開始となって送付されてきた案内を見てややのけぞった。接種医療機関リストは白とオレンジの2色刷りで、色付きの医療機関は「かかりつけの患者のみ」という区分だったのである。しかも、誰でもが接種できる白色の医療機関は全体の3分の1程度。あの当時は「これは絵に描いた餅?」と思いもしたが、mRNAワクチンの接種自体が初の試みだったので、まあやむを得ないのだろうとくらいに捉えていた。後に区内在住の知人から「過去に急に体調が悪くなった時に2、3回受診した医療機関にワクチン接種の申し込み連絡をしたら、“申し訳ないですが、かかりつけは一定頻度で定期的に受診している方を指しています”と断られた」と聞かされた。ワクチンマニアを自認する私にも、先日ようやくオミクロン株対応ワクチンの4回目接種の接種券が届いた。だが、まだ接種はしていない。というのも「マニア心」で、より抗体価が上がりやすいモデルナの2価ワクチンの承認を待っていたからである。今月半ば過ぎには、たぶん安定的な供給も開始されるだろう。そして再び個別接種医療機関リストを見て、ため息が出てしまった。相変わらずオレンジ色の「かかりつけの患者のみ」が多いばかりではなく、逆にかつては誰でも受けられるはずだった白色のリスト分類だった医療機関の一部がオレンジ色に変更されていたからである。アナフィラキシーに対する懸念が今よりも強かった初期ならまだしも、もう最多では5回接種者がいる状態である。にもかかわらず、逆にかかりつけ患者のみに新たに限定してしまう理由とは何だろう? まったく意味不明である。前述の知人の体験である「医師から選ばれたかかりつけ患者」という現状も併せると、まったく納得できない。さてそんな昨今、話題になっているのは「『かかりつけ医』を制度上、どのように位置付けるか?」である。これは政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」で、「かかりつけ医機能の制度整備」が謳われたからである。該当部分を抜粋する。また、医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化については、今後の医療ニーズや人口動態の変化、コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。敢えて太字にしたが、かかりつけ医機能にかかっているのが上の太字部分である。もっと言えば、「コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ」の意味するところが大である。端的に言ってしまえば、前述のワクチン接種問題や、政府の呼びかけにもかかわらず発熱外来が思ったように増えなかった経験を踏まえ、「もう制度的に縛っちゃいますよ」と言っているのだ。そもそも岸田 文雄首相は就任当初からコロナ対策として、非常時の診療体制整備に国が関与を明言していたので、特段驚きはない。国が考える「かかりつけ医機能の制度整備」には、ヨーロッパやオーストラリアやカナダの家庭医登録制度に近いものが念頭にあると思われる。これまでフリーアクセスを維持しつつ、患者の受診行動を変えるために選定療養費制度などの政策誘導を行ったものの、ほぼ目的を達成できていない現実を考えればさもありなんだろう。そしてこうした家庭医制度を念頭に置くなら、当然ながら最終的な診療報酬は人頭払いと疾患別包括払いが視野に入る。もちろん開業医中心の日医は経営環境が激変するため、議論の入口から反対姿勢を示している。もっともヨーロッパの家庭医制度をモデルとした場合、日本への制度導入には大きなハードルが2つある。1つは今さっき触れた診療報酬の抜本的な改定である。これはかなり難儀な話であるのだが、DPC制度の前例を踏まえれば完全に不可能なことではない。現にこれを匂わす診療所向けの診療報酬点数は現時点でも存在する。その意味では家庭医への登録に基づく人頭払いをどのように導入していくかだが、そこは行政お得意の最初は日医などが受け入れしやすい軽い縛りを設け、徐々に真綿で首を締めるが如く浸透させていくのではないだろうか?むしろ最大の問題は家庭医の質の担保だろう。日医には会員の『かかりつけ医』機能の強化に向けて生涯教育制度はあるが、これは連続した3年間の単位数とカリキュラムコード数(同一コードは加算不可)の合計数が60以上の者に「日医生涯教育認定証」を発行するというもので、一部の人にはお叱りを受けるかもしれないが、はっきり言えば形式だけ整えたようなものだ。これに対してヨーロッパの家庭医制度は、世界家庭医機構(WONCA)が認証した研修プログラムがあり、日医の生涯教育制度よりもはるかに上位レベルの研修内容である。とくにWONCAの家庭医プログラムは医師と患者・家族、地域との関係性についてはかなり重点的なプログラムがあり、この点は日医の生涯教育制度はかなり薄め。かつ、そもそも海外の家庭医とは、日本でかかりつけ医と見なされる診療所の多くを占める一般内科とは異なり、軽度の外科や産科、手術以外の耳鼻咽喉科、眼科領域までも網羅的に最新のエビデンスに基づく診療に対応できることが原則である。このWONCAの国際認証を受けた日本プライマリ・ケア連合学会の研修プログラムを終了し、家庭医療専門医として認定された医師は現時点で1,000人を超えたぐらいである。日医が生涯教育制度に変えて、こうした制度を利用してかかりつけ医機能を強化するが、その代わりに国による“過度な”介入はご免こうむりたいと言うならばまだしも、そうした妥協はこれまでの日医の姿勢からは期待できないだろう。もちろん一部の日医会員の中には日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医研修を受けたいという人もいるだろうが、すでにかかりつけ医を自認している市中の開業医の多くはむしろ敬遠するだろう。国、日医、日本プライマリ・ケア連合学会という3者を当事者として、落しどころを探ろうにしても、たぶんWONCAの国際認証を受けている日本プライマリ・ケア連合学会は過度な妥協はしないだろうし、それは国民のためにしてはならない。もし国がかかりつけ医を海外の家庭医制度に寄せていくなら、それこそ大きな政治的な決断が必要になる。しかし、日医による後ろ盾が選挙を勝ち抜く大きな武器になっている与党・自民党にとってそれは無理だろうし、それ以前にかかりつけ医の定義ですら日医への忖度丸出しの厚労省が政治へのけん制に入ってしまうのは目に見えている。とくに今、支持率低迷にあえぐ岸田首相にとってはそんな危険な決断は無理と断言しても良い。その意味では一瞬威勢が良いように読める「骨太方針2022」も間もなく「骨抜き方針2022」になるという構図が見えてくる。私たちは不幸な歴史の証人になるだけなのだろうかと暗澹たる気持ちになってしまう。

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ワクチン回数と感染歴、オミクロン感染予防効果の高い組み合わせは?/NEJM

 米国・スタンフォード大学のElizabeth T. Chin氏らは、感染ハイリスク集団である刑務所の収容者とスタッフ合計約7万6,000例を対象に行った後ろ向きコホート試験で、COVID-19のmRNAワクチン接種および既感染は、SARS-CoV-2のB.1.617.2(デルタ)変異株優勢前の感染予防効果は低かったが、B.1.1.529(オミクロン)変異株に対しては感染予防効果を有していたことを明らかにした。また、既感染者も含め、ワクチン3回接種が2回接種よりも感染保護効果が顕著に大きかったことも示されたという。NEJM誌オンライン版2022年10月26日号掲載の報告。米国カリフォルニア州刑務所の収容者・スタッフ対象に試験 研究グループは、米国カリフォルニア州立刑務所35ヵ所の収容者5万9,794例とスタッフ1万6,572例を対象に、mRNAワクチン接種と既感染のSARS-CoV-2オミクロン変異株感染への保護効果を評価した。 オミクロン変異株優勢時の2021年12月24日~2022年4月14日に集めたデータを用いて後ろ向きコホートデザインにより解析。加重Coxモデルを用いて、ワクチン接種歴(mRNAワクチンの接種回数により層別化)と感染歴(なし、またはデルタ変異株優勢前または優勢中に感染あり)の組み合わせ別にみた、ワクチン接種と既感染の有効性(1-ハザード比[HR]で算出)を比較した。 副次解析では、ローリング適合コホートデザインを用いて、ワクチン2回接種と比較した3回接種の有効性を評価した。ワクチン3回接種、2回接種に比べ有効性は25%以上増大 オミクロン変異株感染予防に関する推定有効率は、ワクチン未接種でデルタ変異株優勢前感染者では16.3%(95%信頼区間[CI]:8.1~23.7)だったが、ワクチン未接種でデルタ変異株優勢中感染者では48.9%(41.6~55.3)だった。 オミクロン変異株感染予防に関するワクチン接種の推定有効率は、感染歴で大きく違いがあり、2回接種では未感染18.6%(95%CI:7.7~28.1)~デルタ変異株優勢中感染83.2%(77.7~87.4)、3回接種では未感染40.9%(31.9~48.7)~デルタ変異株優勢中感染87.9%(76.0~93.9)にわたっていた。 ワクチン3回接種(ブースター)による有効性の推定増加幅は、未感染者の25.0%(95%CI:16.6~32.5)~デルタ変異株優勢前感染者57.9%(48.4~65.7)にわたっていた。

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第18回 もう個人防護具(PPE)を緩和していますか?

新型コロナの致死率は低下新型コロナの致死率は当初よりも低下しました1)。単純計算では、現在0.12%まで低下しています(図1)。季節性インフルエンザと同じレベルじゃないかという議論も出てきていますね。図1. 各波の新型コロナ死亡者数(左軸)と致死率(右軸)(厚生労働省のデータをもとに筆者作成)いつかはこういう楽観フェーズが来るだろうと思っていましたが、新興感染症の過渡期の対応は本当に難しい。とくに、どのように国民に説明していくのかというところで、かなりのコミュ力が問われます。現実的には全然説明が成されていないんですが…。こうなってくると、新型コロナとどのように医療従事者が向き合うかも考える必要が出てきます。ただ、現時点では多くの病院では「フルPPE」対応で新型コロナを診療していると思われます。個人的には、キャップとかもう要らないと思っているのですが、どうでしょう。「過渡期」の感染対策分科会メンバーらの有志による「『感染拡大抑制の取り組み』と『柔軟かつ効率的な保健医療体制への移行』についての提言」2)では、専用病棟でなくてもよい、個人防護具(PPE)の着用を少し緩和させる、などの策が紹介されています(図2)。これ結構現場に即した感じで、よい資料だと思います。ただ、こういう「少しずつ緩和していこうね」って日本人は苦手なんですよね。実際、病棟ゾーニングもやむなしとしている病院もあるでしょう。たとえば重症病床がメインの病院で、院内クラスターが出ても、それを他の軽症病床に転院させることはできませんので、自施設で患者をコホートせざるを得ません。図2の「ステップ2」のところ、「N95マスクは大事」いうのが強調されていますが、接触感染についてはそこまで重要視していません。確かに、飛沫・エアロゾルによる感染よりも、伝播リスクは低いとされていますが、院内クラスターや施設内クラスターをみていると、どう考えてもこれは接触感染だろうという場面はいまだによく見かけます。ベタベタ触って、その手で目や鼻などの粘膜を触れば、そりゃ感染するだろうとは思います。画像を拡大する図2. 「感染拡大抑制の取り組み」と「柔軟かつ効率的な保健医療体制への移行」についての提言 医療対応(参考資料2)どこかのモデル病院が、「うちはこうやっていますよ」みたいな啓発をしてくださるとよいかもしれませんね。あるいは学会レベルでのガイドラインをちゃんと出すとか(他力本願)。日本の病院は、周囲の動向を伺いながらおずおずと緩和していくことになるのですが、病院同士がそこまで連携を取っていないと、我流のままで「まだこんなことやってんの」みたいな病院が出てくるかもしれません。参考文献・参考サイト1)Horita N, et al. J Med Virol. 2022 Oct 17. [Epub ahead of print]2)第93回(令和4年8月3日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 「感染拡大抑制の取り組み」と「柔軟かつ効率的な保健医療体制への移行」についての提言

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TSLPを標的とした重症喘息の新たな治療選択肢

 2022年10月24日、アストラゼネカは、都内にて「テゼスパイアによる重症喘息治療への貢献」をテーマにメディアセミナーを開催した。TSLPは喘息の重症化や呼吸機能低下に関与 現在の重症喘息治療における課題は複雑な炎症経路である。ウイルスやアレルゲン、ハウスダストなど環境因子の刺激により、気道上皮から上皮サイトカインが産生され、その結果、アレルギー性炎症や好酸球性炎症、気道のリモデリングなど、複数の経路から喘息が増悪すると考えられている。 上皮サイトカインのなかでも、炎症カスケードの起点となっているのが胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)である。TSLPは、喘息の重症化や呼吸機能低下だけでなく、気道のリモデリングやステロイド反応性の低下、ウイルス感染に対する過剰な2型炎症にも関与していると考えられている。TSLPを標的とした生物学的製剤がテゼスパイア テゼスパイア皮下注210mgシリンジ(一般名:テゼペルマブ[遺伝子組換え]、以下「テゼスパイア」)はTSLPを標的とした生物学的製剤である。セミナーでは第III相国際共同試験(検証的試験)、NAVIGATOR試験について、昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 相良 博典氏が詳しく説明した。 対象は、コントロール不良な重症喘息(国際的な喘息診療指針Global Initiative for Asthma:GINAに基づく)を有する成人および12歳以上の小児患者1,061例。対象患者を地域および年齢によって層別化した後、テゼスパイア群およびプラセボ群に1:1で無作為に割り付け、52週間投与した。 主要評価項目である年間喘息増悪率はテゼスパイア群で0.93、プラセボ群で2.10であり、テゼスパイアの有効性が示された(プラセボ群に対する比:0.44、95%信頼区間[CI]:0.37~0.53、p<0.001)。また、その他の副次評価項目である血中好酸球数、FeNO、血清総IgE値のベースラインからの変化量について、テゼスパイア投与後、早期から低下する傾向が見られた。 安全性に関して、有害事象の発現率はテゼスパイア群で77.1%(407/528例)、プラセボ群で79.5%(422/531例)であった。主な有害事象(発現率>10%)は、テゼスパイア群(528例)で上咽頭炎が112例(21.2%)、上気道感染が58例(11.0%)、プラセボ群(531例)で上咽頭炎が113例(21.3%)、上気道感染が84例(15.8%)、喘息が56例(10.5%)に認められた。TSLPを阻害することでテゼスパイアは複雑な炎症経路を同時に抑制 テゼスパイアは、これまでの喘息治療薬とは異なる作用機序を有するため、新たな治療選択肢となる。「2型喘息患者では、いまだに増悪を来す患者が多く存在する。TSLPはさまざまな病態と関連しており、増悪・呼吸機能低下だけでなく、ステロイド抵抗性の獲得や粘液産生、気道リモデリング、神経炎症と、多岐にわたって影響を及ぼす。テゼスパイアは炎症の起点となるTSLPを阻害することで、複雑な炎症経路を同時に抑制し、優れた臨床的改善効果をもたらすことが期待される」と相良氏はまとめ、セミナーを終了した。

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コロナ流行で糖尿病関連死が30%増加、とくに若年で顕著

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、米国における2021年および2022年の糖尿病関連の死亡が、パンデミック以前と比べて30%以上増加したことを、中国・西安交通大学のFan Lv氏らが報告した。糖尿病は新型コロナ感染症の重症化の重大なリスク因子であるとともに、新型コロナウイルス感染は血糖コントロールの悪化につながることが報告されている。同氏らは、パンデミックによって糖尿病患者の治療の提供が混乱したことから、パンデミック中の糖尿病関連の死亡の傾向を調査した。eClinicalMedicine誌9月23日掲載の報告。 調査は、米国人の出生と死亡に関する人口データベース「National Vital Statistics System(NVSS)」を用い、2006年1月1日~2021年12月31日に25歳以上であった死亡者のデータを解析した。糖尿病関連の死亡は、死亡診断書に記載された原死因と関連死因に糖尿病が記録されていた場合とした。超過死亡率は、2006~19年の死亡率より、年齢調整死亡率の観測値と期待値を線形および多項式回帰モデルで比較して推定した。 主な結果は以下のとおり。・2006~21年の間に、25歳以上の糖尿病関連の死亡は424万3,254例あった。その多くは、65歳以上の高齢者グループ(76%)、男性(54%)、非ヒスパニック系白人(71%)であった。・10万例あたりの年齢調整死亡率は、2006年(116.1)から2015年(103.9)にかけて減少し、2019年(106.8)にかけてわずかに増加した後、2020年(144.1)および2021年(148.3)に大きく増加した。・糖尿病関連の死亡の超過死亡率は、2020年が33.3%(95%信頼区間[CI]:30.5~36.2)、2021年が35.3%(同:31.7~39.0%)であった。この超過死亡率の増加は、25~44歳、女性、ヒスパニック系において著しかった。・米国全人口の全死因の超過死亡率は2020年が15.3%(同:13.2~17.4)、2021年が17.8%(同:15.2~20.6)であり、糖尿病関連死の超過死亡率のほうが高かった。・糖尿病関連の超過死亡例の約3分の2が、パンデミック中の新型コロナウイルス感染症に関連していた。

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コロナ軽症でも、高頻度に罹患後症状を発症/BMJ

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染症の急性期後6~12ヵ月の時期における、患者の自己申告による罹患後症状(いわゆる後遺症、とくに疲労や神経認知障害)は、たとえ急性期の症状が軽症だった若年・中年の成人であってもかなりの負担となっており、全体的な健康状態や労働の作業能力への影響が大きいことが、ドイツ・ウルム大学のRaphael S. Peter氏らが実施した「EPILOC試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月13日号に掲載された。ドイツ南西部住民270万人ベースの研究 EPILOC試験は、ドイツ南西部バーデン・ビュルテンベルク州の4つの地域(人口計約270万人)で行われた住民ベースの研究で、2020年10月1日~2021年4月1日にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でSARS-CoV-2陽性と判定された18~65歳の集団が解析の対象となった(バーデン・ビュルテンベルク州Ministry of Science and Artの助成を受けた)。 1万1,710人が解析に含まれた。平均年齢は44.1(SD 13.7)歳、6,881人(58.8%)が女性であった。既存の慢性疾患として、筋骨格系疾患(28.9%)、心血管疾患(17.4%)、神経・感覚障害(16.2%)、呼吸器疾患(12.1%)などがみられた。 SARS-CoV-2による感染症の急性期には、77.5%は医療を必要とせず、19.0%が外来治療を受け、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院を要したのは3.6%であった。平均追跡期間は8.5ヵ月だった。 主要アウトカムとして、症状の頻度が感染症の急性期後6~12ヵ月と急性期以前で比較され、症状の重症度とクラスタリング、リスク因子、全体的な健康の回復や労働の作業能力との関連の評価が行われた。胸部症状、嗅覚/味覚障害、不安/抑うつも20%以上で発現 急性期前にはみられず、急性期後6~12ヵ月の時期に発現した症状クラスターでは、疲労(急激な身体的消耗、慢性疲労など、37.2%[4,213/1万1,312人、95%信頼区間[CI]:36.4~38.1])と、神経認知障害(集中困難、記憶障害など、31.3%[3,561/1万1,361人、30.5~32.2])の頻度が高く、いずれも健康回復や労働能力の低下に最も強く寄与していた。 また、胸部症状(呼吸困難、胸痛など、30.2%[95%CI:29.4~31.0])、不安/抑うつ(睡眠障害、抑うつ気分、不安など、21.1%[20.4~21.9])、頭痛/めまい(19.9%[19.2~20.6])も高頻度にみられ、労働能力に影響を及ぼしていたが、性別や年齢別で多少の差が認められた。 嗅覚/味覚障害(嗅覚の変化、味覚の変化)は23.6%(95%CI:22.9~24.4)、筋骨格系の疼痛(筋肉痛、関節痛、四肢痛)は16.8%(16.1~17.5)、上気道症状(咳嗽、咽頭痛、嗄声)は13.9%(13.3~14.6)で発現した。 日常生活を少なくとも中程度に低下させる新たな症状が発現し、健康回復や労働能力を80%以下に低下させたと考えると、post-COVID症候群の全体の推定値は28.5%(3,289/1万1,536人、95%CI:27.7~29.3)であった。一方、これに該当しない参加者は完全に回復したと仮定すると、post-COVID症候群の発生の推定値は6.5%(3,289/5万457人)で、このうち男性は4.6%(1,145/2万4,959人)、女性は8.4%(2,144/2万5,483人)であった。真の値は、これらの推定値の間と考えられる。 著者は、「このようなcovid後の後遺症(post-covid sequelae)の個人的、社会的な負担の大きさを考えると、適切な治療選択肢を確立し、有効なリハビリテーション法を開発するために、その基礎となる生物学的異常と原因を早急に明らかにする必要がある」としている。

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