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ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

 日本感染症学会は11月22日、「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」を発刊した。今回のCOVID-19に対する薬物治療の考え方の改訂ではエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ錠)の緊急承認を受け、薬物治療における注意点などが追加された。 日本感染症学会のCOVID-19に対する薬物治療の考え方におけるゾコーバ投与時の主な注意点は以下のとおり。・COVID-19の5つの症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])への効果が検討された臨床試験における成績等を踏まえ、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある者に処方を検討する・重症化リスク因子のない軽症例では薬物治療は慎重に判断すべきということに留意して使用する・重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていない・SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから遅くとも72時間以内に初回投与する・(相互作用の観点から)服用中のすべての薬剤を確認する(添付文書には併用できない薬剤として、降圧薬や脂質異常症治療薬、抗凝固薬など36種類の薬剤を記載)・妊婦又は妊娠する可能性のある女性には投与しない・注意を要する主な副作用は、HDL減少、TG増加、頭痛、下痢、悪心など このほか、抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミングの項には、「重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、エンシトレルビル等、重症化リスク因子のない軽症~中等症の患者に投与可能な症状を軽減する効果のある抗ウイルス薬については、症状を考慮した上で投与を判断すべきである」と、COVID-19に対する薬物治療の考え方には記載されている。

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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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コロナワクチン接種率の違いで死亡率に大きな差/JAMA

 2021年から2022 年にかけて、全世界で新型コロナワクチン接種が普及した一方、デルタ株とオミクロン株が流行した。米国・Brown School of Public HealthのAlyssa Bilinski氏らは、この期間におけるOECD加盟国中20ヵ国のワクチン接種率と新型コロナウイルス感染症死亡率、超過全死亡率を調査し報告した。米国については、ワクチン接種率上位10州と下位10州についても調査したところ、下位10州の新型コロナウイルス感染症死亡率は上位10州のほぼ倍だった。JAMA誌オンライン版2022年11月18日号のリサーチレターに掲載。ワクチン接種率と新型コロナウイルス感染症死亡率、超過全死亡率を調査 本研究では、ワクチン接種率は2022年1月時点で2回以上接種した人の割合とし、死亡率は2021年6月27日~2022年3月26日の死亡データを比較した。米国のデータはCDCから、その他の国のデータについては、新型コロナウイルス感染症死亡率はWHO、全死亡率はOECD データベース、ワクチン接種率はOur World in Dataからそれぞれ入手した。 ワクチン接種率と新型コロナウイルス感染症死亡率、超過全死亡率を調査した主な結果は以下のとおり。・主な国におけるワクチン接種率と、デルタ株流行期/オミクロン株流行期/全期間の人口10万人当たり新型コロナウイルス感染症死亡者数は以下のとおり。 日本      :80%、3人/7.4人/10.4人 韓国      :82%、6.1人/18.2人/24.3人 ニュージーランド:75%、0.5人/3.3人/3.7人 オーストラリア :76%、4.9人/14.2人/19.2人 イタリア    :76%、15.2人/39人/54.2人 フランス    :74%、14.6人/27.6人/42.2人 ドイツ     :71%、29.6人/22.7人/52.3人 英国      :71%、30.1人/28.9人/59人 米国全体    :63%、60.9人/50.6人/111.6人 米国(接種率上位10州):73%、28.1人/46.6人/74.7人 米国(接種率下位10州):52%、86.6人/59.4人/146人・米国全体およびワクチン接種率下位10州の超過全死亡率は新型コロナウイルス感染症死亡率より高く、全期間における他の国より高かった。・この期間にもし米国の新型コロナウイルス感染症死亡率がワクチン接種率上位10州と同じだった場合、12万2,304人の死亡を回避でき、米国の超過全死亡率がワクチン接種率上位10州と同じだった場合は26万6,700人の死亡を回避できたと推計された。 2021~22年初め、米国の新型コロナウイルス感染症死亡率および超過全死亡率は他国より有意に高かったが、この差はワクチン接種率上位10州では小さくなった。著者らは「残りの差は、他国での高いワクチン接種率、高齢者をターゲットとしたワクチン接種、医療・社会インフラの違いによって説明しうるだろう」と考察している。

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慢性B型肝炎へのbepirovirsen、第IIb相試験結果/NEJM

 B型肝炎ウイルス(HBV)のmRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドであるbepirovirsenは、300mg週1回24週間投与により、HBV表面抗原(HBsAg)およびHBV DNAの持続的な消失が慢性B型肝炎患者の9~10%で認められた。中国・香港大学のMan-Fung Yuen氏らが、無作為化非盲検第IIb相試験「B-Clear試験」の結果、報告した。bepirovirsenの第IIa相試験では、4週間の投与でHBsAgが急速かつ用量依存的に減少し、一部の患者では一過性の消失も認められていた。著者は、「bepirovirsenの有効性および安全性を評価するため、より大規模で長期的な試験が必要である」とまとめている。NEJM誌オンライン版2022年11月8日号掲載の報告。HBsAgおよびHBV DNA消失の24週間持続、3用法用量vs.プラセボ 研究グループは、18歳以上で6ヵ月以上HBV感染が持続していることが確認され、HBsAg 100 IU/mL以上の患者を、bepirovirsen 300mg 24週間投与群(第1群)、bepirovirsen 300mg 12週間投与→150mg 12週間投与群(第2群)、bepirovirsen 300mg 12週間投与→プラセボ12週間投与群(第3群)、プラセボ12週間投与→bepirovirsen 300mg 12週間投与群(第4群)に、3対3対3対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与した。4日目および11日目に、bepirovirsen 300mg(第1、2、3群)またはプラセボ(第4群)の負荷投与を行った。 試験期間は、治療期間24週間および追跡調査期間24週間を含む最大55週間であった。ヌクレオシド/ヌクレオチドアナログ(NA)を投与されていた患者は試験期間中もNA療法を継続した。 主要評価項目は、beporovirsen投与終了後、新たに抗ウイルス薬を投与することなくHBsAg値検出限界未満かつHBV DNA値定量下限未満が24週間維持された患者の割合であった。 計457例(NA療法あり227例、NA療法なし230例)が、intention-to-treat集団に含まれた。NA療法併用の有無にかかわらず、300mg週1回24週間投与が有効 主要評価項目を達成した患者は、NA療法併用集団において第1群6例(9%、95%信用区間[CrI]:0~31)、第2群6例(9%、95%CrI:0~43)、第3群2例(3%、95%CrI:0~16)、第4群0例(0%、事後CrI:0~8)であり、非併用集団においてそれぞれ7例(10%、95%CrI:0~38)、4例(6%、95%CrI:0~25)、1例(1%、事後CrI:0~6)、0例(0%、事後CrI:0~8)であった。 安全性については、1~12週目において、注射部位反応、発熱、疲労、アラニンアミノトランスフェラーゼ値上昇などの有害事象の発現率が、bepirovirsen群(第1、2、3群)でプラセボ群(第4群)より高かった。

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塩野義のコロナ治療薬ゾコーバを緊急承認/厚生労働省

 厚生労働省は11月22日、塩野義製薬と北海道大学の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(商品名:ゾコーバ錠125mg)を、医薬品医療機器等法第14条の2の2に基づき緊急承認した。緊急承認制度は2022年5月に新たに創設された制度で、薬剤の安全性の「確認」は前提とする一方で、有効性が「推定」できれば承認することができる。今回、本制度が初めて適用となった。同日開催された薬事・食品衛生審議会薬事分科会と医薬品第二部会の合同会議で、塩野義製薬が提出した第III相試験(第II/III相試験Phase 3 Part)の速報データに基づき緊急承認された。 第III相試験(第II/III相試験Phase 3 Part)では、軽症および中等症のSARS-CoV-2感染者を対象とし、オミクロン株流行期に重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無を問わず、日本、韓国、ベトナムで計1,821例が登録された。COVID-19発症から無作為割付までの時間が72時間未満の集団において、5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])が回復するまでの時間を主要評価項目とした。2022年9月末に主要目的の達成を示す結果が得られた。 主な結果は以下のとおり。・5症状が回復するまでの時間の中央値は、本剤群が167.9時間(約7日)、プラセボ群が 192.2時間(約8日)であり、本剤の投与により24.3時間(約1日)の短縮が示された。・治療開始から3日後(Day 4)のウイルスRNA量のベースラインからの変化量は、プラセボ群に対して本剤群で約30倍の差(1.47 log10[copies/mL])があり、本剤群はプラセボ群と比較して統計学的に有意な減少を示した(両側p<0.0001)。 本剤の用法・容量は、通常、12歳以上の小児および成人にはエンシトレルビルとして1日目は375mgを、2~5日目は125mgを1日1回経口投与する。SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始する。なお、重症度の高い患者に対する有効性は検討されていない。 添付文書に記載された本剤の禁忌は以下のとおり。2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)2.1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.2 次の薬剤を投与中の患者:ピモジド、キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、チカグレロル、エプレレノン、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、シンバスタチン、トリアゾラム、アナモレリン塩酸塩、イバブラジン塩酸塩、ベネトクラクス〔再発または難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〕、イブルチニブ、ブロナンセリン、ルラシドン塩酸塩、アゼルニジピン、アゼルニジピン・オルメサルタン メドキソミル、スボレキサント、タダラフィル(アドシルカ)、バルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、リファブチン、フィネレノン、リバーロキサバン、リオシグアト、アパルタミド、カルバマゼピン、エンザルタミド、ミトタン、フェニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ(St. John's Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品2.3 腎機能または肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者2.4 妊婦または妊娠している可能性のある女性 本剤は、緊急承認時において有効性および安全性に係る情報は限られており、引き続き情報を収集中。緊急承認の期限は1年とされ、正式承認を得るには再審議が必要となる。

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第21回 第8波で「風邪薬」が軒並み出荷調整へ

沖縄第7波と対照的第8波は北海道からスタートです。第7波で沖縄が壊滅的な医療逼迫に陥ったことが記憶に新しいと思います。夏の沖縄に観光に行って、そのまま新型コロナのホテル療養になるという災難な人もいました。第7波に大きな痛手を負った地域ほど今回流行がゆるやかな印象です。これまでの波の集団免疫が影響しているのかもしれません。また、北海道は一足早く紅葉シーズンと秋の味覚シーズンが到来しました。全国旅行支援の後押しもあって旅行客も多かったと聞いています。これが新規陽性者数の増加につながった可能性はあります。北海道第8波では、いとも簡単に1日の新規陽性者数1万人を超えてきました(図)。過去最多です。急峻なピークを描いて、そのまま収束してくれるとありがたいのですが、第6波のように二峰性の波になる可能性もあります。第6波は変異ウイルスによって波が2つに分離されたのですが、今回はBA.5が8割以上を占めているものの、BA.2.75、BF.7、BQ.1.1がじわじわと増えつつあります1)。かなり細分化されて報告されているため、個々の変異ウイルスが波を形成するには至らないかもしれませんが、すんなりと第8波が終わってくれるのかは神のみぞ知るです。インフルエンザとの同時流行があると、かなりやっかいなことになります。画像を拡大する図. 北海道の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)先日、北海道のクリニックの医師と電話でお話をしたのですが、風邪症状を治める薬剤に出荷調整がかかっており、厳しいという意見がありました。トラネキサム酸やトローチなどが出荷調整新型コロナやインフルエンザには抗ウイルス薬を使用しますが、症状の緩和のためには症状を治める薬剤を使用することが多いです。呼吸器内科医なので、血痰・喀血の患者さんにトラネキサム酸を使用することがあるのですが、ここ最近トラネキサム酸が処方しにくく、少し困っています。咽頭痛に対するトラネキサム酸自体もそこまでエビデンスがあるわけではないのですが、プライマリ・ケアでは結構頻用されることが多いです。今月から、デカリニウム(商品名:SPトローチ)の処方が厳しくなってきました。これもそんなにエビデンスがあるわけではないので、積極的に処方することは多くないのですが、こちらの製剤は抗がん剤などで口内炎や咽頭痛がしんどい患者さんが強く希望することもあります。処方してから初めて出荷調整がかかっていることを知ることもありますが、まあとにかく、風邪症状を治める薬剤が処方できない場面はよく経験されます。いやあ、この状況で第8波とインフルエンザシーズンを迎えるのはしんどいかもしれませんね。新型コロナの咽頭痛に対するデキサメタゾンに関しては、エビデンスは何とも言えませんが、個人的には強烈な咽頭痛でしんどそうな患者さんには、デキサメタゾンの単回投与を検討してもよいかなとも考えています。ただし、48時間以内の症状軽減でようやく有意差が付いたという、弱いエビデンスではありますが。参考文献・参考サイト1)(第107回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年11月17日)

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コロナワクチンで帯状疱疹リスクは上がるのか~大規模調査

 新型コロナワクチン接種後に帯状疱疹が発症した症例が報告されているが、ワクチンによって帯状疱疹リスクが増加するのかどうかは不明である。今回、新型コロナワクチン接種が帯状疱疹リスク増加と関係するかどうかについて、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のIdara Akpandak氏らが検討した。その結果、新型コロナワクチン接種後の帯状疱疹の発生率比が0.91であり、本研究では新型コロナワクチン接種と帯状疱疹リスクの増加とは関係していないことが示唆された。JAMA Network Open誌2022年11月16日号に掲載。コロナワクチンと帯状疱疹とは関係しなかった 本コホート研究では、自己対照リスク期間分析を用いて、新型コロナワクチン接種後30日目または2回目接種日までのリスク期間と、新型コロナワクチン最終接種日から60~90日のコントロール期間(リスク期間とコントロール期間の間に30日間を確保)における帯状疱疹の発症リスクを比較した。また、新型コロナワクチン接種後の帯状疱疹リスクを、パンデミック以前(2018年1月1日~2019年12月31日)もしくはパンデミック初期(2020年3月1日~11月30日)にインフルエンザワクチンを接種した2つのコホートにおけるインフルエンザワクチン接種後の帯状疱疹リスクと比較した。データは米国の医療請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)から入手。2020年12月11日~2021年6月30日に、ファイザー製ワクチン(BNT162b2)、モデルナ製ワクチン(mRNA-1273)、ヤンセン製ワクチン(Ad26.COV2.S)のいずれかを接種した203万9,854人のデータを分析した。 新型コロナワクチン接種と帯状疱疹リスクの増加との関係を検討した主な結果は以下のとおり。・新型コロナワクチンを接種した203万9,854人の平均年齢(SD)は43.2(16.3)歳で、女性が50.6%、白人が65.9%であった。このうち、帯状疱疹と診断された1,451人が自己対照リスク期間分析の対象で、平均年齢(SD)は51.6(12.6)歳、女性が58.2%だった。・自己対照リスク期間分析において、新型コロナワクチン接種は帯状疱疹のリスク上昇と関係しなかった(発生率比[IRR]:0.91、95%信頼区間[CI]:0.82~1.01、p=0.08)。・ファイザー製ワクチン接種では帯状疱疹リスクが低下し(IRR:0.84、95%CI:0.73~0.97、p=0.02)、モデルナ製ワクチン接種は帯状疱疹リスクとの関連は認められなかった(IRR:0.96、95%CI:0.81~1.15、p=0.67)。・新型コロナワクチン接種は、パンデミック以前のインフルエンザワクチン接種と比べて帯状疱疹リスクが低かった。 - 1回目接種のハザード比(HR):0.78、95%CI:0.70~0.86、p<0.001 - 2回目接種のHR:0.79、95%CI:0.71~0.88、p<0.001また、パンデミック初期のインフルエンザ接種とは有意差が認められなかった。 - 1回目接種のHR:0.89、95%CI:0.80~1.00、p=0.05 - 2回目接種のHR:0.91、95%CI:0.81~1.02、p=0.09

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第139回 世界の男性の精子が半減/T細胞強化コロナワクチンの試験開始

世界の総人口80億人到達1)とは裏腹に、その始まりの半分の出どころ、精子が心配なことに減り続けているようです2,3)。しかも悪いことにその傾向は21世紀に入ってどうやら加速すらしています。イスラエルのヘブライ大学公衆衛生学教授Hagai Levine氏が率いる研究チームが6年前の2017年に発表したメタ解析では北米、欧州、オーストラリアでの精子の紛れもない減少が確認されました4,5)。その3年後の2020年春にLevine氏等は2014年以降に出版された試験の同定に着手し、男性1万4,233人からの精液検体を扱った38試験報告を見出しました。新たに見つかったそれらの試験と2017年のメタ解析で扱った試験は合わせて233件あり、1973~2018年の46年間に6万人近い5万7,168人の男性から採取された精液検体の検討結果を含みます。世界6大陸53ヵ国からのそれらの結果を改めてメタ解析した結果、北米、欧州、オーストラリアでの精子が減り続けていることに加えて、南/中央アメリカ、アジア、アフリカでも精子が減っていることが確認されました。世界の男性の精子減少は驚くばかりで、1973年には1mL当たり1億個を超えていたのが2018年にはその半分未満の1mL当たり4,900万個に減っていました。しかもその減少は20世紀に入って拍車がかかっているらしく、1mL当たりの精子数の年間低下率は1972年過ぎ(post-1972)からは1.16%だったのが2000年以降は2.64%へとおよそ倍増しています。日本の男性の精子もどうやら同様かもしれません。4都市(川崎、大阪、金沢、長崎)の大学構内にポスターを出して被験者を募った1999~2003年の試験の結果、中央値およそ21歳の大学生被験者1,559人の精子数の平均は1mL当たり5,900万個でした6)。今回のメタ解析報告での世界の2000年頃の精子数は(同報告のFigure 2 によると)1mL当たり平均7,000万個ほどであり、日本の大学生被験者はそれに比べると少なめです。また、パートナーが妊娠した男性、すなわち不妊ではなく受精能力がある日本人男性のみ募った試験7)での792人の1mL当たりの精子数平均は1億を超えており(1億0500万個/mL)、大学生被験者を上回っていました。それに、大学生被験者の実に3人に1人(32%)は1mL当たりの精子数が4,000万個に届いておらず、よって受精能力が低いと示唆され、パートナーの妊娠はより困難かもしれません。もっというと大学生被験者のおよそ10人に1人(9%)の1mL当たりの精子数は世界保健機関(WHO)の基準下限1,500万個8)未満でした。最初のメタ解析発表の翌年2018年、Levine氏を筆頭とする医師や科学者等一堂は精子減少を公衆衛生の一大事として認識し、人類の存続のために男性の生殖機能を重視することを求める声明を発表しています9)。各国は男性の生殖機能の衰えの原因を調べることに資源や人手を割き、その調子を把握して害されないようにする最適な環境を整えることをその声明は求めています。Levine氏に言わせれば事態は急を要します。今回発表されたメタ解析結果は男性の精子に危機が迫っていることを知らせるいわば炭鉱のカナリア(canary in a coal mine)であり、このままでは人類の存亡にかかわります。人間を含むすべての生き物にとってより健康的な環境を整えることに世界は取り組み、生殖機能を害する振る舞いや要因を減らさねばなりません3)。Pfizer/BioNTech社の“T細胞”強化コロナワクチンの試験開始新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へのT細胞反応強化を目指すPfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b4の第I相試験(NCT05541861)が始まりました10,11)。SARS-CoV-2感染症(COVID-19)予防 mRNAワクチンを少なくとも3回接種した健康なおよそ180人を募り、オミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチン併用でのBNT162b4の3用量(5、10、15 μg)の免疫原性や安全性などがオミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチンと比べてどうかが検討されます。BNT162b4はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質以外のタンパク質を作るT細胞抗原mRNAが成分であり、T細胞免疫をいっそう強化してより隈なく行き届くようにし、COVID-19予防をより持続させることを目指します。重症化や入院を少なくとも1年は予防する長持ちな抗体やT細胞免疫を引き出すCOVID-19ワクチンを世に出すことを目指していると今年中頃の決算の会見でPfizerの最高科学責任者Mikael Dolsten氏は述べています12)。今回臨床試験段階に進んだBNT162b4はそういう長持ちで手広い免疫反応を引き出す取り組みの一翼を担っています。参考1)11月15日「80億人の日」/ 国連人口基金2)Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2022 Nov 15:dmac035 [Epub ahead of print].3)Follow-up study shows significant decline in sperm Ccounts globally, including Latin America, Asia and Africa / Eurekalert4)Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2017;23:646-659.5)Comprehensive study shows a significant ongoing decline in sperm counts of Western men / Eurekalert6)Iwamoto T, et al.BMJ Open 2013;3:e002222.7)Iwamoto T, et al.BMJ Open. 2013;3:e002223.8)WHO laboratory manual for the Examination and processing of human semen / WHO9)Levine H, Basic Clin Androl. 2018;28:13.10)Pfizer and BioNTech Advance Next-Generation COVID-19 Vaccine Strategy with Study Start of Candidate Aimed at Enhancing Breadth of T cell Responses and Duration of Protection / GlobeNewswire11)Safety and Effects of an Investigational COVID-19 Vaccine as a Booster in Healthy People(ClinicalTrials.gov)12)Pfizer (PFE) Q2 2022 Earnings Call Transcript / Fool.com

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マスク要請解除で学校のコロナ感染増、職員で顕著/NEJM

 米国マサチューセッツ州のグレーターボストン地域の学区で、州全体のマスク着用方策の撤回から15週の期間に、マスク着用要請を解除した学区の小中学校はこれに応じずに着用要請を続けた学区の学校と比較して、生徒と学校職員における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患者が1,000人当たり44.9人多かったことが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のTori L. Cowger氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月9日号で報告された。グレーターボストン地域72学区の調査 2022年2月28日、マサチューセッツ州は、公立学校におけるユニバーサルマスキング方策を州全体で撤回し、その後の数週間に多くの学区で生徒や職員へのマスク着用要請が解除された。グレーターボストン地域では、ボストン地区と近隣のチェルシー地区の2つの学区だけが、2022年6月までマスク着用要請を続けた。 研究グループは、この変更された方策の実施の時間差に関して差分の差分分析を行い、グレーターボストン地域で2021~22年の学年度中にマスク着用要請を解除した地区と、この要請を継続した地区で、生徒と職員におけるCOVID-19の罹患率を比較した。 グレーターボストン地域の72学区(生徒29万4,084人、学校職員4万6,530人)が解析の対象となった。方策撤回後1週目は、要請解除が46学区、継続は26学区で、2週目にはそれぞれ63学区および9学区に、その後は70学区および2学区となった。生徒より職員で、増加分が大きかった 州全体でマスク着用方策が撤回される前のCOVID-19罹患率は、学区全体で同程度であった。 州全体のマスク着用方策の撤回から15週までに、マスク着用要請を解除した学区では、マスク着用要請を継続した学区に比べ、生徒と職員のCOVID-19罹患率が1,000人当たり44.9人(95%信頼区間[CI]:32.6~57.1)多かった。この増加分の罹患者数は推定1万1,901人(95%CI:8,651~1万5,151)で、解除学区の罹患者の33.4%(95%CI:24.3~42.5)、全学区の罹患者の29.4%(95%CI:21.4~37.5)に相当した。 要請解除による罹患リスクへの影響は、学校職員(81.7人[95%CI:59.3~104.1]/1,000人の増加)のほうが生徒(39.9人[24.3~55.4]/1,000人の増加)よりも大きかった。 マスク着用要請の延長を選択した学区は、早期解除を選択した学区と比較して、校舎の築年数が長く、周辺の環境が劣悪で、1学級の生徒数が多い傾向が認められた。また、これらの学区では、低所得家庭の生徒、障害のある生徒、英語学習中の生徒の割合が高く、黒人や中南米系の生徒や職員が多かった。 著者は、「今回の調査結果は、地域社会で感染者数が多い時期に、高品質マスクを用いたユニバーサルマスキングは、SARS-CoV-2の感染拡大と対面登校日の減少を最小限に抑えるための重要な戦略であるとの見解を支持する。また、マスク着用は、重症COVID-19のリスク、教育現場の混乱、家庭内での2次感染による健康や経済的な影響など、学校における構造的人種差別の影響を軽減するための重要な手段となる可能性が示唆された」と指摘し、「今回の知見を活用すれば、各学区は、2022~23年の学年度中に起こりうる冬のCOVID-19の波を見越して、公平な感染緩和計画を立案し、感染の波が収まった時にマスクを外すための明確な判断基準を策定できるであろう」としている。

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治療抵抗性高血圧、二重エンドセリン受容体拮抗薬が有効/Lancet

 エンドセリン経路の遮断による降圧作用が示唆されているが、現時点では治療標的とはなっていない。オーストラリア・西オーストラリア大学のMarkus P. Schlaich氏らは「PRECISION試験」において、二重エンドセリン受容体拮抗薬aprocitentanは治療抵抗性高血圧患者で良好な忍容性を示し、4週の時点での収縮期血圧(SBP)がプラセボに比べ有意に低下し、その効果は40週目まで持続したと報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月7日号に掲載された。3部構成の無作為化第III相試験 PRECISION試験は、欧州、北米、アジア、オーストラリアの22ヵ国193施設が参加した無作為化第III相試験であり、2018年6月~2022年4月の期間に参加者の登録が行われた(Idorsia PharmaceuticalsとJanssen Biotechの助成を受けた)。 対象は、利尿薬を含むクラスの異なる3種の降圧薬から成る標準化された基礎治療を受けたが、診察室での座位SBPが140mmHg以上の患者であった。 試験は連続する3部から成り、パート1は4週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の期間で、患者は標準化基礎治療に加えaprocitentan 12.5mg、同25mg、プラセボの1日1回経口投与を受ける群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。パート2は32週間の単盲検(患者)の期間で、すべての患者がaprocitentan 25mgの投与を受けた。パート3は12週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の投与中止期で、再度無作為化が行われ、患者はaprocitentan 25mg群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、パート1のベースラインから4週目までの診察室座位SBP、主な副次エンドポイントはパート3のベースライン(36週目)から4週目(40週目)までの診察室座位SBPの変化であった。そのほか副次エンドポイントには、24時間時間自由行動下SBPの変化などが含まれた。4週時の24時間自由行動下SBPも良好 730例が登録され、このうち704例(96%)がパート1を、703例のうち613例(87%)がパート2を、613例のうち577例(94%)がパート3を完遂した。730例のうちaprocitentan 12.5mg群が243例(平均年齢61.2歳、男性59%)、同25mg群が243例(61.7歳、60%)、プラセボ群は244例(62.2歳、59%)であった。 パート1の4週時におけるSBPの最小二乗平均(SE)変化は、aprocitentan 12.5mg群が-15.3(0.9)mmHg、同25mg群が-15.2(0.9)mmHg、プラセボ群は-11.5(0.9)mmHgであった。プラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-3.8(1.3)mmHg(97.5%信頼区間[CI]:-6.8~-0.8、p=0.0042)、同25mg群は-3.7(1.3)mmHg(-6.7~-0.8、p=0.0046)と、いずれも有意に低下した。 パート1の4週時における、24時間自由行動下SBPのプラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-4.2mmHg(95%CI:-6.2~-2.1)、同25mg群は-5.9mmHg(-7.9~-3.8)であった。 パート3の4週(40週)時におけるSBP(主な副次エンドポイント)は、aprocitentan 25mgに比べプラセボ群で有意に高かった(5.8mmHg、95%CI:3.7~7.9、p<0.0001)。 パート1の4週間で発現した最も頻度の高い有害事象は浮腫/体液貯留で、aprocitentan 12.5mg群が9.1%、同25mg群が18.4%、プラセボ群は2.1%で認められた。試験期間中に治療関連死が11例(心血管死5例、新型コロナウイルス感染症関連死5例、腸穿孔1例)でみられたが、担当医によって試験薬関連と判定されたものはなかった。 著者は、「本研究により、aprocitentanによる二重エンドセリン受容体の遮断は、ガイドラインで推奨されている3剤併用降圧治療との併用で、良好な忍容性とともに、診察室および自由行動下の血圧の双方に持続的な降圧効果をもたらす有効な治療法であることが確立された」としている。

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コロナで日本の未成年者の自殺率とその理由が変化

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に、日本の若年者(10~19歳)の自殺率はパンデミック前と比較して増加し、家族問題や人間関係の問題に起因する自殺が増加していたことを、東京大学医学部附属病院の後藤 隆之介氏らが明らかにした。パンデミックにより学校閉鎖などの前例のない感染防止対策が講じられ、若年者に多くのメンタルヘルスの課題をもたらしたが、これまでパンデミック中の若年者の自殺の傾向やその理由を調査した研究はほとんどなかった。The Lancet regional health. Western Pacific誌2022年8月10日掲載の報告。 調査は、厚生労働省発表の2016~20年の月別自殺率と、警察庁発表の2018~20年の自殺原因を用いて行われた。ポアソン回帰モデルを使用して変動を推計したイベントスタディデザインと分割時系列解析により、パンデミック前(2016年5月~2020年3月)とパンデミック中(2020年5月~2021年4月)の月別自殺率の変化を比較するとともに、自殺の原因(家族問題、精神疾患、人間関係の問題、学校問題)の変化を調査した。 主な結果は以下のとおり。・10~19歳の若年者の自殺率は、パンデミック前と比較してとくに2020年8月から11月にかけて増加した。2020年11月の自殺率は前年比1.86倍(95%信頼区間[CI]:1.30~2.66)であった。・自殺率は、2020年12月にはパンデミック前と同水準に近づいたが、2021年に入ってもわずかに上昇したままであった。・分割時系列解析によると、自殺率は2020年5月から8月にかけて上昇(+0.099件/10万人の若年者/月、95%CI:0.022~0.176)し、2020年9月から12月にかけて減少(-0.086件/10万人の若年者/月、95%CI:-0.164~-0.009)した。・すべての主な原因による自殺が2020年夏から秋にかけて増加しており、とくに家族問題や人間関係の問題に起因する自殺が増加していた。・精神疾患に起因する自殺率は、パンデミック前の水準よりも2020年12月まで高いままであった。 これらの結果より、同氏らは「パンデミック中は若年者にメンタルサポートを提供するだけでなく、定期的な社会的交流の機会の提供が有益である可能性がある」とまとめた。

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デルイソマルトース第二鉄、心不全入院/心血管死を抑制か/Lancet

 左室駆出率(LVEF)低下と鉄欠乏を伴う幅広い心不全患者において、デルイソマルトース第二鉄の静脈内投与は通常治療と比較して、心不全による入院および心血管死のリスクを低下させる可能性があり、重篤な心臓有害事象が少ないことが、英国・Portsmouth Hospitals University NHS TrustのPaul R. Kalra氏らが実施した「IRONMAN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月5日号で報告された。英国のイベント主導型無作為化試験 IRONMAN試験は、英国の70施設が参加した医師主導による非盲検エンドポイント評価盲検化のイベント主導型前向き無作為化試験であり、2016年8月~2021年10月の期間に患者のスクリーニングが行われた(英国心臓財団とデンマーク・Pharmacosmosの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、症候性の心不全で、LVEF≦45%、鉄欠乏(トランスフェリン飽和度<20%または血清フェリチン値<100μg/L)がみられ、心不全により現在入院中または過去6ヵ月以内の入院歴のある患者も含まれた。 被験者は、デルイソマルトース第二鉄の静脈内投与または通常治療を受ける群に無作為に割り付けられた。デルイソマルトース第二鉄の用量は、体重とヘモグロビン値によって患者ごとに決められた。通常治療は鉄剤静注療法を受けないこととされ、通常治療群では担当医の裁量で経口鉄剤の服用は許容されたものの、積極的な推奨は行われなかった。 主要エンドポイントは、心不全による再入院および心血管死とされた。感染症入院、感染症死には差がない 1,137例(年齢中央値73歳[四分位範囲[IQR]:63~79]、女性26%)が登録され、デルイソマルトース第二鉄群に569例、通常治療群に568例が割り付けられた。14%が心不全で入院中の患者、18%が過去6ヵ月以内に入院歴のある患者、67%は外来クリニックからの登録でNT-proBNP値またはBNP値の上昇がみられる患者であった。追跡期間中央値は2.7年(IQR:1.8~3.6)だった。 心不全による入院および心血管死は、デルイソマルトース第二鉄群が336例(100人年当たり22.4例)、通常治療群は411例(100人年当たり27.5例)で発現した(率比[RR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.66~1.02、p=0.070)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を考慮した感度分析では、心不全による入院および心血管死はそれぞれ210例(100人年当たり22.3例)および280例(100人年当たり29.3例)で認められた(RR:0.76、95%CI:0.58~1.00、p=0.047)。 事前に規定された安全性のエンドポイントである感染症による入院(11.7例/100人年 vs.14.2/100人年、RR:0.82、95%CI:0.62~1.08、p=0.16)および感染症による死亡(6% vs.5%、ハザード比:1.22、95%CI:0.74~2.02、p=0.43)には、両群間に有意な差は認められなかった。また、重篤な心臓有害事象(36% vs.43%、群間差:-7.00%、95%CI:-12.69~-1.32、p=0.016)は、デルイソマルトース第二鉄群で有意に少なかった。 著者は、「本試験とAFFIRM-AHF試験の結果には一貫性が認められた。両試験とも主要エンドポイントを満たさなかったが、エビデンスの総体として鉄剤静注療法は心不全による入院を低下させることが示唆された」とし、「鉄欠乏を伴う幅広い心不全患者において、鉄剤静注療法は全般的に有益で、使用する鉄複合体の種類とは無関係の可能性がある」と指摘している。

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第135回 もはや “ワクチンガチャ”、追加接種はBA.1かBA.4/BA.5の明示必要なし

徐々に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の第8波の足音が忍び寄っている。現在に至ってもその感染対策の基本は、手洗い、マスク、三密回避、ワクチンであることは不変だ。しかし、新型コロナパンデミックからもう丸3年が経過しようとしている中で、いくつかの変化はある。まず、流行の主流ウイルス株がBA.4/BA.5と5世代目になり、多くの国民が2回はワクチンを接種していることもあってか、見かけ上の重症化率は低下している。一方で当初から使われてきたワクチンの効果が以前よりも低下し、新たな2価ワクチンが登場したものの、国民の側も頻回なワクチン接種にややうんざりしている。実際、首相官邸のホームページで公表されているワクチン接種実績も2価ワクチンに関しては、11月14日時点で10.4%と低調である。これについては、(1)第7波時の感染者の接種待機、(2)4回目接種からの接種待機、(3)BA.4/BA.5対応の接種待ち、という要素もあるだろうが、それにしても接種率の低さは否めない。そうした中でやや気になるのが現在のワクチン接種体制である。日本では9月12日にオミクロン株BA.1対応2価ワクチン(以下、BA.1対応ワクチン)を承認したが、米国食品医薬品局(FDA)はそれより一足早く8月31日にオミクロン株BA.4/BA.5対応2価ワクチン(以下、BA.4/BA.5対応ワクチン)の緊急使用許可を下した。そして日本では10月5日にファイザー製、10月31日にモデルナ製のBA.4/BA.5対応ワクチンをそれぞれ承認した。前者については私が見る限り、すでにほとんどの自治体に行き渡っていると見られ、後者については厚生労働省(以下、厚労省)の発表によると11月28日から各自治体への配送が始まるという。さてここで問題。2杯のラーメンがあり、うち一杯はチャーシューが3枚、もう一杯はチャーシューが5枚、ただし料金は同一。あなたはどちらを選びますか? チャーシューの好き嫌いやカロリーを気にする人を除けば、多くは5枚のほうを選ぶのではないだろうか?なぜこのような話をしたのかというと、現在、市中に流通しているファイザー製2価ワクチンはBA.1対応ワクチンとBA.4/BA.5対応ワクチンが混在している。そして現在の流行の主流はBA.4/BA.5である。最低限の知識があり、新型コロナワクチンの接種を希望する人がどちらを選びたがるかは自明ではないだろうか?もちろんBA.1対応ワクチンでもBA.4/BA.5に一定の効果はあるのは確かだ。しかし、限定的とはいえ、公表されているデータを見れば、ファイザー製ワクチンのBA.4/BA.5に対する中和抗体価は、明らかにBA.4/BA.5対応ワクチンのほうが高い。にもかかわらず「どちらでも良いから接種してください」は国民感情の観点からは無理があり過ぎると思うのだ。百歩譲って、感染拡大が急速に進行し、供給量がBA.1対応ワクチンのほうが潤沢な一方、BA.4/BA.5対応ワクチンがかなり心もとない状況ならば、私も「どちらでも良い」とは言うだろう。しかし、現在はBA.4/BA.5主流の第8波に入り始めている中、少なくともファイザー製ワクチンに関しては、大都市圏では予約システムで問題なくBA.4/BA.5対応ワクチンが選択でき、一部の地方自治体ではBA.4/BA.5対応ワクチンに切り替えて一本化する方針を打ち出している事例もある。それでもなお「どちらでも良い」で国民の納得が得られるとは到底思えない。これに対して厚労省は何と言っているのか? 10月20日付事務連絡「オミクロン株に対応した新型コロナワクチンの接種体制確保について(その6)」から気になった以下の2点を原文のまま抜粋する。「BA.4-5対応型ワクチンの使用開始後においても、有効期限内のBA.1対応型ワクチンを廃棄してBA.4-5対応型ワクチンに切り替えるといった対応は行わず、BA.1対応型ワクチンを含め、接種可能なワクチンを使用して、速やかにオミクロン株対応ワクチン接種を進めること」「なお、予約枠の提供に際しては、使用するワクチンがBA.1対応型ワクチンであるかBA.4-5対応型ワクチンであるかを明示する必要はない」貴重な血税を投入して確保したワクチンであることを考えれば、BA.1対応ワクチンをなるべく使い切って無駄を防ぎたいのは、別に官僚でなくともわかる。こうした国の方針を忖度したのかどうかはわからないが、大阪府知事の吉村 洋文氏や千葉県知事の熊谷 俊人氏のように自身のBA.1対応ワクチンの接種を公開してアピールする御仁もいる(吉村氏のほうは記事内でBA.1対応ワクチンであることを本人が公言しているわけではないが、記事中にあるように府の接種センターがモデルナ製を使用している以上、現下ではBA.1対応であることは明白)。さらに言えば、事務連絡の後段は、さすがに言い過ぎではないだろうか? 前述のラーメン話に例えれば、目隠しした客にチャーシューが3枚になるか、5枚になるかは運次第と言っているようなもの。ラーメンなら多少の遊び心でそれも良いかもしれないが、ことは公衆衛生に関わることであり、国民にとっては自分個人の健康にかかわることである。こんなところで“無作為化”の必要はないはずだ。もっとも多くの自治体では事務連絡は事実上見て見ぬ振りをして、どのワクチンを使用するかは明示している。しかし、中には国に忖度したのか巧みな戦略を導入している自治体もある。これを知ったのは、時々本連載に登場させている(本人たちは知らない 笑)私の両親を通じてである。先日、母親からLINEが来た。敢えてそのやり取りを一部伏字にしながら抜粋する。母5回目のコロナ接種(オミクロン対応)二人共終了。私BA.5用?母BA.1モデルナ。私なんでよ。BA.5待てばよかったのに。それ在庫処分セールみたいなものだよ。事前に相談してほしかった。母お父さん(注:すでに軽度認知障害あり)を連れて行く事で頭一杯で、気が回らない!!事前に教えてくれる事(注:新たなワクチン接種などがある時は母から尋ねられなくとも自発的に私から情報提供せよという意味)を今後考えてくれると、ありがたい。私わかったよ。だから事前に相談して。効果がないわけじゃないけど、BA.5に対してはどうしてもBA.1用では効果が劣るので感染対策を入念にしてください。母いや、情報はそちらからお願いします。年寄りは××(注:現在受験生のわが娘)の事で忙しいと思ってかなり遠慮しています。私いつ打つかもわからないのに事前に情報出せないでしょ。自治体によって接種スケジュールも違うし、そもそも△△町(注:わが故郷)がBA.1用をまだ使っているなんて思いもしなかったよ。ここでドタバタの親子のやり取りは終わりのはずだった。ところが日付が変わった深夜に再び母親からLINEが到着した。午前3時過ぎだ。通常なら母親は完全に寝入っている時間だ。母反省している。必死の思いで受けたのに残念で眠れない。私どうしたのよ急に。まあ、無効なわけじゃないのであまり気にしないで。ちょっと私も言い方がきつかった。まさか△△町がまだBA.1用を使っていると思わなかったのよ。ほとんどの自治体で切り替えているからさ。幸いだったのはモデルナだったこと。母わかった。私モデルナのほうが抗体がより高く上がる。ファイザーよりね。中途半端に医療知識がある息子の心ない言動だと、多くの医療従事者からはお叱りを受けるかもしれない。しかし、基礎疾患がある80代半ば過ぎの老老介護の両親を遠く離れた故郷に残している自分としては、少しでも感染・発症リスクは避けたいと願うのだ。さて「巧みな戦略」と言ったのは、わが故郷の自治体のことである。母親から話を聞いた後、自治体のホームページをのぞいて溜息が出た。なんとわが故郷の自治体は、11月と12月に個別接種医療機関で使用するワクチンを週ごとにBA.1対応ワクチンとBA.4/BA.5対応ワクチンに交互に切替をしていたのだ。国からすれば模範的な対応と言えるかもしれない。そして両親は“BA.1対応ワクチン在庫一掃処分セール(嵐のように批判されようとも、敢えてこの言葉を使う)”の週にたまたま当たっていたのである。ここでちょっと原点に戻りたい。そもそもこのようなドタバタが存在するのはワクチンの承認審査過程に起因する。前述のように日本では米・FDAがBA.4/BA.5対応ワクチンの緊急使用許可後にBA.1対応ワクチンを承認するというタイムラグがあった。これについては、米・FDAが早くも6月段階で追加接種用ワクチンの申請に当たっては、BA.4/BA.5対応ワクチンを推奨したからである。この推奨がなかった日本とヨーロッパでは、ファイザー、モデルナともにBA.1対応ワクチンを承認申請し、そのまま承認された。当初、この日本の対応を私はかなり批判的に捉えていたが、今はその見解を撤回している。ご存じのようにFDAのBA.4/BA.5対応ワクチンの承認は、ほぼ前例のない動物実験データのみでの承認だったことを日本でのBA.1対応ワクチン承認後に知ったからである(言い訳をすると当時はかなり多忙を極め、FDAの緊急使用許可の中身までは吟味できていなかった)。少なくとも日本の承認審査制度の細かさ(保守性?)を考えれば、たとえ製造方法や原料の同等性はあったとしても、申請時にヒトの中和抗体価データのみしかないBA.1対応ワクチンの承認もなく、一足飛びに動物実験データのみでBA.4/BA.5対応ワクチンを承認することを素直に肯定はできなかっただろう。これは私個人の見解(感情)もそうだ。さらに言えば、感情的には「もにょる」ものの、「まあ製法や原料は同じだしな」となんとか納得させている部分はある。ただし、BA.4/BA.5対応ワクチンのヒトでの中和抗体価データが明らかになりつつある今は、この「もにょる」感情も薄れつつある。さて、そのうえで私はもう思い切って新型コロナワクチンの公的接種はBA.4/BA.5対応ワクチンに一本化しても良いのではないかと思っている。岸田 文雄首相自らが国民にいくらワクチン接種を呼びかけようとも、周回遅れワクチンを接種したいと思う人は多くないはずである。もちろんこのことはBA.1対応ワクチンにかかった税金を事実上ドブに捨てることになる可能性は大である。強いて取れる戦略があるとするならば、一本化後もBA.1対応ワクチンを有効期限内は保持して、BA.4/BA.5対応ワクチンの供給不安と感染拡大が重なった時に利用するという形である。徐々に市中の様相はかつての日常に戻りつつあるとはいえ、今も準緊急事態であることは多くの国民が認識しているはずである。そして今回のワクチンの費用負担は強大な国が負っている。いくら血税とはいえ、いまBA.1対応ワクチンが無駄になったとしても国民が直接損害を被ることはない。ならば公衆衛生という観点からは大胆な「損切り」も必要なのではないだろうか?

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がん患者のCOVID-19、免疫抑制と免疫療法の両方で重症化

 免疫療法を受けたがん患者は、免疫系の活性化により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるサイトカインストームがより多く発生する可能性がある。今回、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのZiad Bakouny氏らが、がん患者におけるベースラインの免疫抑制と免疫療法、COVID-19の重症度およびサイトカインストームとの関連を調べた。その結果、COVID-19を発症したがん患者において、免疫抑制と免疫療法のどちらか片方のみでは重度の感染症やサイトカインストームのリスクは増加せず、ベースラインで免疫抑制のあるがん患者に免疫療法を実施すると、COVID-19の重症化やサイトカインストームの発生につながるリスクが高いことが示唆された。JAMA Oncology誌オンライン版2022年11月3日号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、対象は2020年3月~2022年5月にCOVID-19 and Cancer Consortium(CCC19)レジストリ(現在または過去にがん診断を受けたCOVID-19患者の国際的な多施設集中型レジストリ)に報告された1万2,046例。解析対象は、PCRまたは血清学的所見でSARS-CoV-2感染が確認されたactiveながん患者もしくはがん既往のある患者で、COVID-19診断前3ヵ月以内に免疫療法(PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害薬、二重特異性T細胞誘導抗体、CAR-T細胞療法)を含むレジメンで治療された免疫療法群、免疫療法以外(細胞傷害性抗がん剤、分子標的療法、内分泌療法)のレジメンで治療された非免疫療法群、未治療群に分けた。主要評価項目は、COVID-19の重症度(合併症なし、酸素を要しない入院、酸素を要する入院、ICU入院/機械的人工換気、死亡の5段階)、副次評価項目はサイトカインストームの発生とした。 主な結果は以下のとおり。・全コホートの年齢中央値は65歳(四分位範囲:54~74)、女性が6,359例(52.8%)、非ヒスパニック系白人が6,598例(54.8%)であった。免疫療法群は599例(5.0%)、非免疫療法群は4,327例(35.9%)で、未治療群は7,120例(59.1%)であった。・全コホートでは、免疫療法群はCOVID-19重症度(調整オッズ比[aOR]:0.80、95%CI:0.56~1.13)およびサイトカインストーム発生(aOR:0.89、95%CI:0.41~1.93)で未治療群と差が認められなかった。・ベースラインが免疫抑制状態で免疫療法を受けた患者では、未治療群と比較し、COVID-19重症度(aOR:3.33、95%CI:1.38~8.01)およびサイトカインストーム発生(aOR:4.41、95%CI:1.71~11.38)が悪化していた。・ベースラインが免疫抑制状態で非免疫療法を受けた患者も、未治療群と比較し、COVID-19重症度(aOR:1.79、95%CI:1.36~2.35)およびサイトカインストーム発生(aOR:2.32、95%CI:1.42~3.79)が悪化していた。

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サル痘、発症前の症例から感染の可能性も/BMJ

 英国健康安全保障庁(UKHSA)のThomas Ward氏らは、英国でのサル痘の感染動態を調べる目的で接触追跡研究を実施した。英国では、サル痘の流行は2022年7月9日時点でピークとなりその後に低下。発症間隔は潜伏期間より短い場合が一般的であったことから、症状発現前のサル痘症例からの感染伝播があったことが示唆されたとしている。また、症状発現前に感染が検出されたのは最大4日間であったことから、感染の可能性がある人々の95%を検出するためには16~23日の隔離期間が必要と考えられたこと、発症間隔の95パーセンタイル値は23~41日間であり、感染期間が長いことが示唆されたとしている。BMJ誌2022年11月2日号掲載の報告。サル痘症例2,746例の接触追跡を行い、潜伏期間と発症間隔を推定 研究グループは、UKHSAの症例質問票からデータを収集し、サル痘症例の接触追跡研究を実施した。対象は、2022年5月6日~8月1日の期間にPCR検査でサル痘と確定診断された症例2,746例で、接触追跡により症例と接触者のペアを特定した。 主要評価項目は、サル痘感染症の潜伏期間と発症間隔(1次感染者の症状発現日と2次接触者の症状発現日の間隔)で、2つのベイジアンモデル(区間打ち切り補正[ICC]、区間打ち切り右側切り捨て補正[ICRTC])を用いて推定した。また、サル痘ウイルス感染が確認されUKHSAに報告された日ごとの症例数の増加率について、一般化加法モデルを用いて推定した。発症間隔中央値は潜伏期間より短く、発症前の症例から感染伝播する可能性あり 2,746例の平均年齢は37.8歳で、95%がゲイ・バイセクシャル・男性間性交渉者であると報告した(1,160/1,213例)。 平均潜伏期間はICCモデルで7.6日(95%信用区間[CrI]:6.5~9.9)、ICRTCモデルで7.8日(6.6~9.2)、平均発症間隔はそれぞれ8.0日(95%CrI:6.5~9.8)、9.5日(7.4~12.3)と推定された。 両モデルとも平均発症間隔は潜伏期間より長かったが、短期発症間隔の頻度が短期潜伏期間よりも多く認められ、発症間隔の25パーセンタイル値および中央値は潜伏期間の同値より短かった。ICCとICRTCモデルにおいて、25パーセンタイル値は推定1.8日(95%CrI:1.5~1.8)~1.6日(1.4~1.6)短く、中央値は推定1.6日(1.5~1.7)~0.8日(0.3~1.2)短かった。 発症間隔と潜伏期間の連携データのある症例13例のうち、10例で発症前の感染が記録されていた。 症例の倍加時間は、英国で最初のサル痘症例が報告された5月6日には9.07日(95%信頼区間[CI]:12.63~7.08)と推定されたが、症例の増加率は7月9日までのアウトブレイク中に減衰し、その後は症例の半減期へと転じ、試験終了時の8月1日には半減期が29日(38.02~23.44)にまで減少していた。

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第20回 長野県が「医療非常事態宣言」を発出

オミクロン株の対応の新レベル分類全国的に、じわじわと病床使用率が上昇しています。長野県、群馬県、北海道などでやや逼迫傾向で、換気不良がその一因ではないかと考えられています。ただ、換気との相関性は確認されても、第8波との因果関係まではわからないのが現状です。さて、長野県は4日連続で病床使用率が50%を超えたことから、医療提供体制の逼迫が懸念されるとして、11月14日に「医療非常事態宣言」を発出しました。第8波では、長野県が初めての発出となります。11月11日の新型コロナウイルス感染症対策分科会において、「オミクロン株の対応の新レベル分類」が示されています(図)1)。病床使用率ごとにレベル1~4に分類を設け、レベル3以上になった場合に自治体が自粛等を呼びかける「対策強化宣言」を発出できるようにし、さらに悪化した場合には「医療非常事態宣言」を発出できるようにしました。図. オミクロン株の対応の新レベル分類(筆者作成)ただ、自治体ごとに発出基準には差があり、長野県も定義上はまず「対策強化宣言」があってしかるべきですが、もともと県独自の「医療特別警報」を発出していたため、今回の感染拡大で次の手として「医療非常事態宣言」を発出したものと推察されます。すべての医療機関が入院で診られるようにすべきか?インフルエンザとの同時流行が本当に起こるのか? あるいは、新型コロナ第8波とどのくらい時期を合わせて到来するのか、いろいろな要因で第8波のピークの時期・規模は変わってくるでしょう。病床使用率は、基本的に確保病床に対する使用率を見ているわけですが、「母数が少ないから医療が逼迫する」という批判をよく目にします。つまり、新型コロナを診られる病床を増やせ、ということです。すべての医療機関が新型コロナを新たに入院させるようになれば、万事解決する問題ですが、たとえ「5類感染症」あるいは「新型インフルエンザ等感染症の5類相当」にしたとしても、新型コロナ陽性とわかっている患者さんを入院させる場合、医療従事者は慎重にならざるを得ません。オミクロン株以降、致死率はかなり下がりました。しかし、高齢者の新型コロナには、いまだに亡くなられる方がいます。たとえ、「院内感染した後に亡くなられましたが、原疾患が重篤だったので」と説明があったとしても、家族としては「新型コロナを院内感染させられて死亡した」と解釈する可能性もあるわけですから、医療機関においてはこうしたトラブルも想定しておく必要があるかもしれません。また、「すべての医療機関で診なさい」という強力な要請が出せるのは、「新型インフルエンザ等感染症」のような法に基づく措置が基本です。一気に「5類感染症」にしたら、このような強力な要請は出せなくなるかもしれません。参考文献・参考サイト1)令和4年11月11日 第20回新型コロナウイルス感染症対策分科会 今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合に想定される対応

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職場へのお土産の予算は?/医師1,000人アンケート

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めた頃、出張や旅行は自主的に制限され、また学術集会もオンラインで開催されるなど、外出への機会は失われ、お土産を買ったり、もらったりということは減少した。しかし、最近では、コロナワクチンの普及や治療薬の登場により、COVID-19以前の生活に戻りつつある。 出張や学術集会が再開されて気になるのは、残してきた家族や医局の同僚などへの「お土産」である。実際、医師がどの範囲の集団に、どの程度の予算でお土産を購入しているのか、今回会員医師1,000人にアンケート調査を行った。 アンケートは、10月13日にCareNet.comのWEBアンケートにて全年代、全診療科に対して実施した。職場へのお土産の予算、最も多いのは「2,000~3,000円」 質問1で「お土産を買うか」(単回答)を尋ねたところ「必ず買う」が439人(43.9%)と一番多く、「ときどき買う」なども含めると全体で895人(89.5%)の会員医師がお土産を購入していた。 質問2で「職場用のお土産の全体予算」(単回答)を尋ねたところ「2,000~3,000円」が325人(32.5%)、「3,000~4,000円」が157人(15.7%)、「1,000~2,000円」が154人(15.4%)の順で多かった。 質問3で「お土産を買う範囲」(複数回答)を尋ねたところ、「家族」が763人、「職場の上司・同僚・部下」が686人、「自分」が302人の順で多かった。 質問4で「よく買うお土産」(複数回答)を尋ねたところ、「地元のお菓子」が814人、「地方限定販売のお菓子」が283人、「地元特産の食品」が221人の順で多かった。 質問5で「もらったとき最もうれしいお土産」(単回答)を尋ねたところ、「地元のお菓子」が557人(55.7%)、「地元特産の食品」が151人(15.1%)、「地元のお酒」が117人(11.7%)の順で多かった。以上からおおむね欲しいものと提供されたものが合致していたが、「地元特産の食品」や「地元のお酒」などを所望する声が多かった。人気のお菓子は「博多通りもん」 具体的にもらってうれしかったお土産では「博多通りもん」、「ご当地のお酒」、「萩の月」の順番で多く、有名な銘菓や現地でないと入手できないもの、運搬にかさばるため簡単に入手できないものに人気があった。 また、寄せられたコメントでは、「医局にお土産が置いてあると和みます(20代・麻酔科)」、「地域限定の食品(保存ができるもの)が一番ありがたい(30代・糖尿病・代謝・内分泌内科)」、「有名なお菓子がうれしいです。マイナーなものだと結局おいしくないものが多い(30代・眼科)」、「子供が鉄道好きなので、それを踏まえたローカルなグッズをもらったこと(30代・耳鼻咽喉科)」など人間関係を円滑にする事例のコメントが寄せられていた。

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小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022

コロナ感染流行も踏まえた、6年ぶりの改訂版本書は、日本小児呼吸器学会および一般社団法人日本小児感染症学会が構成した委員会により作成され、前版から約6年ぶりの改訂となります。この間、新型コロナウイルス感染症の出現や検査法の発展など、小児呼吸器感染症の診療を取り巻く環境は大きく変化しました。クリニカルクエスチョン(CQ)などを通じて近年の知見にも触れることで、小児の呼吸器感染症を診療する一般医師だけでなく、感染症を専門としない専門性の高い医師(免疫不全担当医、小児神経医)や対象疾患に対して専門性の高い医師(小児感染症科医、小児呼吸器科医、小児集中治療医)の診療にも資する内容となっています。【特長】呼吸器感染症の各疾患を、部位(咽頭・扁桃~肺)、病原体(マイコプラズマ、百日咳、インフルエンザなど)、患者背景(基礎疾患別、院内肺炎など)の各視点から、CQで具体的にまとめています。CQについては、どのような対象集団に対して、どのような方法で成果を調査したのかを、一般医師にもわかりやすいように記載しています。判型をA4判とすることで見やすさの向上を図っています。また、本書購入者向けに電子書籍版(Web閲覧)を用意し、CQ論文の検索は電子書籍版で行う仕組みとすることで、本書のスリム化および検索の利便性を図っています(電子書籍版オリジナルとした約40ページ分のスリム化を実現)。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022定価4,950円(税込)判型A4判頁数174頁発行2022年10月監修石和田 稔彦/新庄 正宜作成小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会

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第135回 大阪急性期・総合医療センターにサイバー攻撃、「身代金受け取った」報道の町立半田病院の二の舞?

約2週間経っても一部の診療が可能になっただけこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも完全に終わってしまったこの週末は、原稿書きをしながらネットの“ストーブリーグ”のニュースを読んで時間を潰しました。今ホットなのは、福岡ソフトバンクホークスの千賀 滉大投手、オリックス・バファローズの吉田 正尚選手、阪神タイガースの藤浪 晋太郎投手など、MLBへの挑戦を宣言している日本人選手たちがどこのチームと契約するかのニュースです。そんな中、個人的に気になったのはオリックスの吉田選手です。それなりの高評価を受けているとのことですが、本当でしょうか?私は吉田選手を何度か球場で観たことがあるのですが、バッティングはともかく、守備能力はプロ野球選手の平均以下で、とてもMLBで通用するようには見えませんでした。外野手ですが肩は弱く(だから左翼を守っているのでしょう)、走力も今ひとつで守備範囲も広くありません。かといって、DHのポジションを取れるほどの桁外れのパワーがあるわけでもありません。広島に帰って来た秋山 翔吾選手や、未だ来季の所属チームが決まっていない筒香 嘉智選手の二の舞を踏まないことを願うばかりです。さて今回は、10月31日に大阪の災害拠点病院で起きた電子カルテへのサイバー攻撃の事件について書いてみたいと思います。約2週間経った11月15日現在も、やっと一部の診療が可能になっただけで、全面復旧は来年1月頃になるとのことです。昨年起きた徳島県つるぎ町の町立半田病院のサイバー攻撃の事件を上回りそうな被害状況です。全国の医療機関の経営者は、自院のセキュリティ体制や、外部事業者との契約等について改めて調べ、検討し直す必要がありそうです。患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算もできない状態地方独立行政法人 大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)は10月31日夜に記者会見を開き、ランサムウェア(身代金ウイルス)によるサイバー攻撃を受けたと発表しました。記者会見の席で岩瀬 和裕病院長らが事件の概要を説明しました。それによると、31日午前6時40分ごろ、職員がサーバーの障害に気づき、同8時半ごろ、業者の調査でランサムウェアの攻撃と判明したとのことです。サーバー上の画面には、英語で「全てのファイルは暗号化された。復元したければ、指定のアドレスにメールを送りビットコインで支払え。金額はメールを送る時間で変わる」と、データに対する「身代金」を要求するメッセージが表示されていたそうです。同センターは「金銭を支払う考えはない」として大阪府警に相談、同日夜の記者会見となりました。システム障害によって、患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算もできない状態に陥り、31日は午前9時からの外来診療を中止し、緊急以外の予定手術は延期となりました。この日だけで最大1,000人の患者に影響が出たとのことです。復旧は遅々として進まず、全面復旧は来年1月ころに同センターは地方独立行政法人 大阪府立病院機構が運営する救急医療や災害医療の拠点病院で36診療科865床を有しています。府内の唯一の基幹災害医療センターであり、かつ府内に3ヵ所ある高度救命救急センターの1つでもあります。救急搬入数は府内に16ヵ所ある救命救急センターの中でもトップクラスとのことです。これまでサイバー攻撃を受けた病院と同様、サイバー攻撃からの復旧は2週間たった現在も遅々として進んでいません。各紙報道等によると、同センターは翌日以降も外来診療を含む通常診療を休止、紙のカルテを用いた手術の一部再開は11月4日、新規の手術や予約済みの外来診療が可能となったのは、電子カルテの一部が復旧した11月10日でした。元々カルテなどのデータのバックアップは取っていたとのことですが、閲覧するには攻撃を受けたシステムへの接続が必要で、安全性が確認できるまで閲覧できない状態が続きました。7日までに、攻撃を受ける直前の電子カルテのバックアップが確認でき、参照できる環境が整ったことで、10日から新規の手術や予約済みの外来診療が可能になったとのことです。同センターは一部復旧について、感染を免れた約1,000台(感染したサーバーや端末は約1,300台で全体の6割を占める)の端末のうち20台を使って、サーバーと切り離していたバックアップデータを参照できるようにした、と発表しています。診察内容の書き込みや担当部署への検査の発注などは10日時点でまだできていません。引き続き検査や新規の外来診療は停止しており、CTやMRIなどの画像診断システムも含めた全面復旧は来年1月ころになりそうだとのことです。ウイルスは給食の委託事業者のシステムから侵入そんな中、とても興味深い報道もありました。同センターが7日に開いた記者会見で嶋津 岳士総長が、障害の原因となったコンピューターウイルスは、給食の委託事業者のシステムから侵入した可能性が高い、と発表したのです。各紙報道等によれば、政府から派遣された専門家チームが調査した結果、患者の給食を納入している事業者の調理施設「ベルキッチン」(堺市)から、病院のサーバーに大量の不正なアクセスが確認されました。事業者側のシステムも病院と同様、ランサムウェアの感染が確認されました。脅迫文の内容などから、サイバー犯罪集団「Phobos」による攻撃の可能性があるそうです。事業者のシステムは、配食数や食事内容を管理するもので、病院のネットワークや電子カルテシステムと常時つながっており、病院はこのネットワークを利用し、糖尿病などの患者の食事内容を事業者に伝えていました。ベルキッチンを運営する社会医療法人・生長会の発表では、給食提供のためのシステムに障害が発覚したのは10月31日午前6時頃で、病院の電子カルテシステムの障害が発覚したのはこの約40分後だったそうです。ちなみに、事業者のVPN(仮想プラベートネットワーク)機器は、昨年10月にサイバー攻撃を受けた徳島県つるぎ町立半田病院と同じ製品で、ソフトウェアが更新されていませんでした。一方、病院側は最新のセキュリティ対策ソフトを導入するなどしていました。病院は「事業者のシステムに脆弱性があり、そこからウイルスの侵入を許し、こちらに入ってきた」との見方を示しています。病院自体はセキュリティ対策をしっかりしてきたつもりなのに、ネットワークにつながっていた外部の業者からウイルスが侵入してきたわけで、改めてハッカー対策の難しさが浮き彫りになった形となりました。つるぎ町の町立半田病院のサイバー攻撃から1年目に起きた事件サイバー犯罪集団のランサムウェアを用いた病院攻撃については、本連載でも徳島県つるぎ町の町立半田病院(120床)のケースを昨年のちょうど今頃、「第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う」で書きました。町立半田病院のケースは、2021年10月31日に起きました。病院システムのメインサーバーとバックアップサーバーが、「LockBit2.0」と名乗るロシア拠点の国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアに感染。同病院ではこの攻撃で患者約8万5,000人分の電子カルテが閲覧不能となり、急患や新患の受付ができなくなるなど、大きな被害が出ました。最終的にサーバーが復旧し、通常診療に戻ったのは2ヵ月後の2022年1月でした。本連載では、同病院のケースの調査報告書がまとめられた今年6月にも、「第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」で、その内容について書き、外部事業者に任せきりになっている医療機関のセキュリティ対策のずさんさを指摘しました。4つの興味深い共通点私はコンピューターウイルスの専門家ではないので細かなことはわかりませんが、素人目線で2つの事件を眺めると、いくつかの興味深い共通点があることがわかります。主な点を列挙してみます。1)どちらも10月31日に感染している。2)一度電子カルテシステムが感染すると紙のカルテに戻り、全面普及には2〜3カ月かかる。3)ソフトウェアの更新を怠っていたVPN経由で攻撃された。4)表向き「身代金は払わない」「身代金は払っていない」としている。1)はまったくの偶然でしょうが、ひょっとしたら何か理由があるかもしれません。皆さん、31日や来年の10月31日は気をつけたほうがいいかもしれません。2)紙のカルテについては、現在、ほとんどの病医院で運用していないと思いますが、こうした事態に備え、紙のカルテの使い方の練習もしておく必要があるかもしれません。東日本大震災の津波の被害の時も、紙のカルテに戻っていました。3)町立半田病院のVPN機器は、過去に認証情報の流出が問題になった米国フォーティネット社のもので、ソフトウェアが更新されていませんでした。報道によれば、大阪のケースでは、患者給食を納入している事業者のVPN機器がその機種で、やはりソフトウェアの更新がされていなかったようです。町立半田病院事件、「身代金受け取った」報道の謎そして、4)はなかなかセンシティブでグレーな問題です。報道等によると、今回の大阪のケースでは、身代金の支払いの「期限」が切れたとみられる1日午後4時過ぎ現在、支払いの指示に関する連絡はなかったそうです。このまま身代金を支払わず、全面復旧が実現すればいいのですが、気になるニュースもあります。10月26日付の共同通信によれば、町立半田病院の事件を巡り、「LockBit2.0」(現在は「LockBit3.0」と名称変更)が「データの『身代金』として3万ドル(約450万円)を受け取った」と主張していることがわかったのです。警察庁などは身代金を払うべきでないとしており、つるぎ町も払わないと表明していましたが、「復元を依頼されたIT業者の関係者が交渉した可能性がある」と共同通信は書いています。ランサムウェアの暗号を解除してデータを復元するのは技術的にほぼ不可能と言われています。だからこそ身代金要求が成立すると言えるでしょう。復元を依頼された IT業者が実際に身代金を払っていたかどうかは不明ですが、一部には、身代金の受け渡しを否定した町立半田病院に代わって、この業者が秘密裏にLockbit側と交渉、同病院(つるぎ町)から支払われた復旧費用(7,000万円だそうです)から身代金を捻出し支払うことで復元プログラムを入手し、電子カルテの復旧を実現したとの情報もあります。「身代金は払わない」と言っていた町立半田病院に内緒でこっそり450万円を支払い、7,000万円の売上を得ていたとしたら、それはそれで「契約違反」なわけでとても大きな問題です。なお、この件については、雑誌『選択』11月号が、「サイバー被害者『救済商法』に要注意 『半田病院事件』驚きの真相」という記事を掲載しています。そう考えると、医療機関のセキュリティ対策は、まず医療機関自身が自発的に取り組むことに加え、信頼に足る(そして暴利を貪らない)IT業者と組むことも重要と言えそうです。なお、厚生労働省は大阪急性期・総合医療センターの事件や、町立半田病院の身代金報道を受け、11月10日に「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について(注意喚起)」と題する事務連絡を発出しています1)。事務連絡は「医療機関を攻撃対象とする同種攻撃は近年増加傾向にあり、その脅威は日増しに高まっています」として、リスクを低減するための措置、インシデントの早期検知、インシデント発生時の適切な対処・回復、金銭の支払いへの対応などについて注意喚起しています。金銭の支払いについては、「金銭を支払ったからと言って、不正に抜き取られたデータの公開や販売を止めることができたり、暗号化されたデータが必ず復元されたりする保証がない」、「一度、金銭を支払うと、再度、別の攻撃を受け、支払い要求を受ける可能性が増える」といった理由を挙げ、サイバー攻撃をしてきた者の要求に応じて金銭を支払うことは、犯罪組織に対して支援を行うことと同義であり厳に慎むべきである、としています。大阪急性期・総合医療センターはかつて「某毒院」「大阪駆黴院」と呼ばれ、梅毒の検査・治療施設だったそうです。同センターは果たして、現代の病院の“感染症”を克服し、無事身代金を払わずに全面復旧までこぎつけることができるのでしょうか。幸いバックアップが生きているようで、先行きは明るそうですが、「全面復旧は来年1月」と少々先過ぎる点が、実はダメージは深刻なのではないかと気になります。今後の展開を注視したいと思います。参考1)医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について(注意喚起)/厚生労働省

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バイオレットライト透過レンズで学童期の近視進行を抑制/近視研究会

 10月23日に近視研究会が開催された。鳥居 秀成氏(慶應義塾大学医学部 眼科学教室)が「近視進行抑制におけるバイオレットライトの可能性」と題し、学童期の近視増加への警鐘とその予防策について講演した(共催:株式会社JINS)。バイオレットライトを含む短波長側の光は近視進行を抑制すると報告 世界中で近視人口が増えているなか、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)流行による活動自粛が近視進行に拍車をかけている。鳥居氏が示した新型コロナによる活動自粛前後の6~13歳の6年間の屈折値の変化を調査した論文1)によると、とくに6~8歳での近視化が顕著だという。近視予防のためには、これまでも屋外の光環境が重要であることが示唆されてきたが、近年では高照度(10万lux)でなくとも1,000lux台でも効果があることが報告2)され、光の波長に注目が集まっている。たとえば、動物実験において、一部を除けばほとんどの動物種においてバイオレットライト(Violet light)を含む短波長側の光は近視進行を抑制し、長波長側の光は近視進行を進めるというレビュー論文が報告3)されている。近年、学童期の近視の進行抑制治療としてRed light therapyも注目を集め有効性の報告があるものの、効果を発揮するメカニズムが不明であり、中止後3ヵ月でリバウンドを認め、脈絡膜厚はベースラインにまで戻ってしまったという報告4)もあることから、光の波長と近視進行抑制については今後さらなる研究成果が待たれるところである。 一方でバイオレットライトは近視進行抑制効果を発揮するメカニズムがOPN5ノックアウトマウスを用いた研究から明らかになってきており、非視覚光受容体OPN5を介すことで脈絡膜厚を維持し、眼軸長伸長を抑制することが報告5)された。さらには小児では水晶体の分光透過率で長波長側は変わらないものの短波長側の透過率が成人よりも高いことが報告6)され、屋外活動による近視抑制効果が低年齢児で得られやすいという疫学研究結果と矛盾しないことも報告された。バイオレットライト透過眼鏡で近視の抑制効果を認めた 近年の眼鏡は紫外線(UV)カットが多く、UVカットレンズはバイオレットライトも一緒にカットしてしまうため、UVはカットするもののバイオレットライトは透過させることで近視進行抑制効果を高めるレンズをJINSと共同開発。バイオレットライト透過眼鏡を使用することでバイオレットライト透過率が65%までに増加するという。この有効性を評価するために特定臨床研究として『バイオレットライト透過眼鏡によるランダム化比較試験』を実施した。本研究の対象者は近視(-1.50D~-4.50D)と診断された学童113例で、バイオレットライト透過眼鏡装用群と通常眼鏡装用群に割り付け、2年間の経過観察を行い有効性の検証をした。平均年齢(±SD)は9.4(±1.5)歳で、平均眼軸長は24.5mm、屈折値は約-2.7Dだった。バイオレットライトは室内にはほとんど存在しないため、本眼鏡が効果を発揮するには太陽光が存在する屋外に行かないと得られない。そのため全体では屋外活動時間が1時間未満のため、さらに必要症例数(140例)を満たすことができなかったため、バイオレットライト透過眼鏡装用群では近視進行抑制傾向ではあったが有意差を認めなかった。そこでサブグループ解析を実施したところ、屋外活動時間が1時間未満にもかかわらず、2年間で約20%の近視進行抑制効果を認めたことを報告7)した。 最後に同氏は「バイオレットライトをより積極的に室内にいても享受する方法として、現在バイオレットライトを眼鏡フレームから照射することができる眼鏡『バイオレットライト照射眼鏡』を坪田 一男氏(坪田ラボ/慶應義塾大学眼科学教室 名誉教授)らと開発中である」と述べ、「現在はバイオレットライト照射眼鏡の探索治験が終了し、短期安全性については問題がなく、探索的に解析を行ったことで関連が期待される層があったことも報告8)したことから、さらに今後の検証治験で1年間以上の有効性・安全性を評価していく」と締めくくった。■参考1)Wang J, et al. JAMA Ophthalmol. 2021;139:293-300.2)Wu PC, et al. Ophthalmology. 2018;125:1239-1250.3)Thakur S, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2021;62:22.4)Chen H, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022 Aug 17. [Epub ahead of print]5)Jiang X, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2021;118:e2018840118.6)Ambach W, et al. Doc Ophthalmol. 1994;88:165-173.7)Mori K, et al. J Clin Med. 2021;10:5462.8)Torii H, et al. J Clin Med. 2022;11:6000.

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