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第165回 ノボ社のセマグルチド経口薬が注射に引けを取らない体重減少を達成

ノボ ノルディスク ファーマが開発中の経口のGLP-1受容体作動薬(以下「GLP-1薬」)セマグルチドがその注射薬(商品名:ウゴービ皮下注)に遜色ない体重減少効果を第III相試験で示しました1)。ノボ ノルディスク ファーマは今月初めの決算発表の席で経口セマグルチドの体重減少は注射薬に比肩するだろうとの見解を示しており、今回発表されたOASIS 1という名称の第III相試験結果はその期待どおりのものとなりました。OASIS 1試験には体重関連の不調(高血圧や脂質異常など)を有する肥満/過体重の成人667例が参加し、68週間の1日1回セマグルチド50mg経口服用の体重減少がプラセボを有意に上回りました。服薬遵守がどうだったかを問わない解析での経口セマグルチド投与群の体重低下率は15.1%であり、80%超(84.9%)の被験者で体重が5%以上低下しました。服薬を遵守した被験者に限ったときの経口セマグルチド投与群の体重低下率はより大きく、17.4%の低下を示しました。ノボ ノルディスク ファーマは肥満や太り過ぎの患者への経口セマグルチド使用を今年中に欧米で承認申請する予定です。2型糖尿病を治療するセマグルチド経口薬はすでに承認されており、リベルサスという商品名で販売されています。ファイザーやイーライリリーも経口GLP-1薬の開発も進むファイザーが開発する経口GLP-1薬danuglipron(PF-06882961)の第II相試験結果もノボ ノルディスク ファーマのOASIS 1試験結果速報と時を同じくして論文報告されました2)。2型糖尿病患者が対象であり、16週間のdanuglipron投与の血糖値への効果を調べることが第一の目的でしたが、体重減少効果も認められています。検討された5つの用量のうち最高用量120 mg投与群の体重はプラセボ群より4.17kg多く減少しました。danuglipronは1日2回服用であり、1日1回服用の経口セマグルチドに比べて便利さの点で分が悪いかもしれませんがファイザーはdanuglipronによる肥満治療も目指しており、その用途の開発も第II相試験段階にあります3)。イーライリリーの経口GLP-1薬orforglipron(LY3502970)は経口セマグルチドにだいぶ迫っていてすでに第III相試験に至っています。ClinicalTrials.govには3つの第III相試験が登録されており、その1つであるATTAIN-1は糖尿病ではない肥満か太り過ぎの患者が対象です4)。イーライリリーの昨年12月の資料に掲載された第II相試験結果の解説によると2型糖尿病ではない肥満患者への36週間のorforglipron投与の体重減少は14~15%と予想されています5)。また、2型糖尿病患者の体重は26週間の投与で多ければ9.6%低下し、HbA1cは多ければ2.1%低下しました。上述のATTAIN-1試験は肥満患者や体重関連合併症がある太り過ぎの患者3,000例が参加する予定で、再来年2025年9月に完了する見込みです。参考1)Novo Nordisk A/S: Oral semaglutide 50 mg achieved 15.1% weight loss (17.4% if all people adhered to treatment) in adults with obesity or overweight in the OASIS 1 trial / PRNewswire 2)Saxena AR, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e2314493.3)Pfizer Pipeline4)ClinicalTrials.gov(ATTAIN-1試験)5)2023 Guidance Call

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がん死亡率、ファストフード店の多さと関連

 住居地を選ぶ際にスーパーや飲食店へのアクセスの良さを考慮する人は少なくない。今回、米国・オーガスタ大学のMalcolm Seth Bevel氏らは米国における飲食店へのアクセス条件が肥満関連のがん死亡率と関係するのかどうかを調査した。近年、野菜などの生鮮食料品が入手困難な地域はFood Desert(食の砂漠)と呼ばれ、一方でファストフード店が多く集中し生鮮食品を取り扱う店が少ない地域はFood Swamp(食品沼)と呼ばれている。 今回の横断研究では、2012年、2014~15年、2017年、2020年の米国農務省(USDA)のFood Environment Atlasと、2010~20年の米国疾病予防管理センター(CDC)の18歳以上の成人の死亡率データを使用し、Food DesertとFood Swampの両スコアと肥満関連のがん死亡率との関連について調査した。解析には年齢調整した混合効果モデルが用いられ、Food Swampの指標として、食料品店や野菜などの直売所の数に対するファストフードやコンビニの店舗数の比率を計算しスコア化した。Food SwampとFood Desertのスコアが高ければ(20.0~58.0)、その郡は健康的な食品資源が少ないと判定された。また、肥満と関連する13種類のがん(子宮内膜がん、食道腺がん、胃噴門部がん、肝臓がん、腎がん、多発性骨髄腫、髄膜腫、膵臓がん、大腸がん、胆嚢がん、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん)による死亡率を人口10万人あたり71.8以上で「高い」とし、人口10万人あたり71.8未満で「低い」と分類した。 主な結果は以下のとおり。・米国3,142郡のうち、合計3,038郡(96.7%)がこの分析に含まれ、そのうち758郡(25.0%)で肥満関連のがん死亡率が高かった(四分位範囲[IQR]の“最も高い”範囲)。・これらの特定の郡ではほかの郡と比べ、非ヒスパニック系黒人住民の割合が高く(3.26%[IQR:0.47~26.35] vs.1.77%[IQR:0.43~8.48])、65歳以上でもその割合が高かった(15.71%[IQR:13.73~18.00] vs.15.40%[IQR:12.82~18.09])。・また、肥満関連のがん死亡率が高い郡は、低い郡と比較して以下の特徴が挙げられた。 貧困率が高い(19.00%[IQR:14.20~23.70] vs.14.40%[IQR:11.00~18.50]) 肥満率が高い(33.00%[IQR:32.00~35.00] vs.32.10%[IQR:29.30~33.20]) 糖尿病の罹患率が高い(12.50%[IQR:1:1.00~14.20] vs.10.70%[IQR:9.30~12.40])・これらの郡では、Food Desert(7.39%[IQR:4.09~11.65] vs.5.99%[IQR:3.47~9.50])およびFood Swamp(19.86%[IQR:13.91?26.40] vs.18.20%[IQR:13.14~24.00])に居住する人の割合が高かった。・相関分析の結果、Food DesertとFood Swampの両スコアが肥満関連がん死亡率と正の相関関係があり、Food Desertと肥満関連のがん死亡率との間の相関がわずかに高いことが示唆された(Food Desert:ρ=0.12、Food Swamp:ρ=0.08)。しかし、Food DesertとFood Swampの指数スコアはユニークであると決定付けられ、低い係数が与えられた。・Food Swampスコアが高い郡では、肥満関連のがん死亡のオッズが77%増加した(調整オッズ比:1.77、95%信頼区間:1.43~2.19)。また、Food DesertとFood Swampのスコアの3つのレベル(低-中-高)と肥満関連のがん死亡率との間には、正の用量反応関係も観察された。

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学会発表に必須!英語の“filler”を上手に使いこなす【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第16回

学会発表に必須!英語の“filler”を上手に使いこなすスムーズな英会話を行うために、前回ご紹介した相槌とともに重要なのが“filler”、いわゆる「つなぎ言葉」と言われるものです。よく用いられるfillerの例日本語脳で話していると、ついつい英語の合間に「えーと」「うーん」のような日本語の“filler”を口走ってしまうかもしれません。そうした場合、英語話者の相手に“Eight?”のように聞き返されてしまう可能性もあります。また、英会話にも「適切な沈黙」というのはありますが、基本的には不用意な沈黙を嫌う文化があります。このため、適切な“filler”で沈黙を埋めることはコミュニケーションを円滑に進めるうえで重要です。学会では、質問の回答を少し考える時間が必要で、間ができてしまった場合にこれらの“filler”が有効になります。“Well…”、“Let me see…”などと言って少し間を埋められれば、自然な印象を与えます。なお、私は質疑応答で質問された際には、頻繁に“That’s a great question.”と返しています。そう言っておいて、間をとって頭の中で回答を整理するのです。これも立派な“filler”だと思います。慣れるまで、英語の“filler”を使うのが少し照れくさいかもしれませんが、すぐに慣れるものです。ぜひ多様な表現をマスターしてください。講師紹介

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砂糖代替品に体重減少効果はなく、むしろ疾病リスク高める/WHOガイドライン

 世界保健機関(WHO)は、2023年5月15日付で、非糖質系甘味料(non-sugar sweeteners:NSS)に関するガイドラインを公開し、体重コントロールや非伝染性疾患(NCD)のリスク低減を目的としてNSSを摂取しないよう勧告する、と発表した。 この勧告は、新たな研究のシステマティックレビューの結果に基づいたもので、NSSの使用は、成人および小児の体脂肪を減らすうえで長期的な利益をもたらさないことを示唆している。さらにシステマティックレビューの結果として、成人の2型糖尿病、心血管疾患、死亡率のリスク増加など、NSSの長期使用による望ましくない影響の可能性が示唆されている。 「砂糖をNSSに置き換えることは、長期的には体重コントロールに役立たない。糖の摂取を減らすためには、果物のような自然に存在する糖分を含む食品や、無糖の食品・飲料を摂取するなど、ほかの方法を検討する必要がある」と、WHO栄養・食品安全担当ディレクターのFrancesco Branca氏は述べた。 この勧告は、糖尿病を持つ人を除くすべての人に適用され、製造された食品や飲料に含まれる糖類に分類されない合成および自然発生または改変された非栄養性甘味料、または消費者が食品や飲料に添加するために単独で販売されているすべての甘味料が含まれる。一般的なNSSにはサッカリン、ステビアなどがある。 この勧告は、歯磨き粉、肌用クリーム、薬品などのNSSを含む衛生用品、またはカロリーを含む糖または糖誘導体でNSSとはみなされない低カロリーの糖および糖アルコール(ポリオール)には適用されない。

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英語で「もう一度言ってもらえますか?」は?【1分★医療英語】第81回

第81回 英語で「もう一度言ってもらえますか?」は?Could you repeat it for me, please? (もう一度言ってもらえますか?)Sure.(もちろんです)《例文1》Could you say that again for me?(もう一度言ってもらえますか?)《例文2》Could you rephrase it?(別の言い方で言ってもらえますか?)《解説》英語でのやりとりで聞き逃したり、オンライン会議で聞き取りにくかったりという状況はよくあることかと思います。相手にもう一度繰り返してほしいときの表現はたくさんあります。一番使いやすく、シンプルかつ丁寧なのは、“Could you say that again?/Could you repeat it again?”などでしょう。“I’m sorry I didn’t get it/catch it.”(すみません、よくわかりませんでした/よく聞き取れませんでした)、または“I don’t(quite)follow”(よくわかっていません)と付け加えると、より丁寧かもしれません。また、言っていることは聞き取れたものの、単語や表現がわからないときには“Could you rephrase it?”(別の言い方で言ってもらえますか?)と言って言い換えをしてもらうよう頼んでみましょう。患者さんとのやりとりでも、スラングや非医療者特有の表現で意味が理解できない、といったこともしばしばです。聞いたことを正しく理解できているか自信がない場合には、“Do you mean〜?/Does it mean〜?”と言って、自分の理解が合っているかを確認するようにしましょう。講師紹介

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SGLT2阻害薬の高齢者への処方の安全性-EMPA-ELDERLY/糖尿病学会

 5月11~13日に鹿児島で第66回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 本稿では、近年、心血管疾患への治療適応も拡大しているSGLT2阻害薬について、口演「日本人高齢2型糖尿病患者を対象としたエンパグリフロジンの製販後試験」(矢部 大介氏[岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 教授])をお届けする。SGLT2阻害薬の高齢者への有効性・安全性について検討したEMPA-ELDERLY試験 日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」によれば、SGLT2阻害薬の位置付けは、肥満の有無(インスリンの分泌不全/抵抗性)にかかわらずStep1で選択されることになっている。また、併存疾患として慢性腎臓病、心不全、心血管疾患でも選択が表記されている(Step3)。その一方、SGLT2阻害薬の使用頻度が増す中で、高齢2型糖尿病患者への安全性は十分に確立されていない現状がある。 そこで矢部氏は、高齢糖尿病患者への有効性・安全性について検討されたSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの国内第IV相臨床試験であるEMPA-ELDERLY試験の内容を報告した。 EMPA-ELDERLY試験は、わが国の2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの長期投与と血糖降下への効果、安全性、体組成・筋力などへの影響をプラセボと比較した多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間試験である。【主たる組み入れ基準】・65歳以上の日本人2型糖尿病患者・食事療法、運動療法のみ、または経口血糖降下薬(ビグアナイド、DPP-4阻害薬など)で血糖コントロール不十分な患者【評価項目】主要評価項目:ベースラインから52週間後までのHbA1c変化量副次評価項目:ベースラインから52週間後までの体組成(筋肉量、体脂肪量、徐脂肪量など)の変化量、握力の変化量など【対象患者の背景】(127例)患者数:プラセボ(63例)、エンパグリフロジン(64例)年齢平均:プラセボ(74.0歳)、エンパグリフロジン(74.2歳)平均ベースラインBMI:プラセボ(25.4)、エンパグリフロジン(25.7)(*BMI22未満の痩身者は非対象として除外)罹病歴平均:プラセボ(11.8年)、エンパグリフロジン(12.4年)HbA1c平均:プラセボ(7.6%)、エンパグリフロジン(7.6%)EMPA-ELDERLY試験で高齢者でもSGLT2阻害薬が血糖コントロールを改善 SGLT2阻害薬の高齢者への有効性・安全性について検討したEMPA-ELDERLY試験の主な結果は以下のとおり。・ベースラインから52週間後までのHbA1c変化量推移は、プラセボ群と比べエンパグリフロジン群はHbA1cの低下が52週目まで続いていた。・HbA1c調整平均変化量では、プラセボ群-0.12%に対し、エンパグリフロジン群では-0.69%(調整平均の差-0.57%)とエンパグリフロジン群が有意に低下していた(p<0.0001)。・52週後のベースラインからの体重変化では、プラセボ群が-0.90kg、エンパグリフロジン群が-3.27kg(調整平均の差-2.37kg)とエンパグリフロジン群で有意に低下していた(p<0.0001)。・体組成では、体脂肪についてプラセボ群で+0.08kg、エンパグリフロジン群で-1.77kg(調整平均の差-1.84kg)と体脂肪で大きく変化がみられた(p<0.0001)。・筋力について、握力ではプラセボ群で-0.6kg、エンパグリフロジン群で-0.9kg(調整平均の差-0.3kg)と大きな差はなかった(p<0.4208)。また、5回椅子立ち上がりテスト(秒数)でもプラセボ群で-0.9秒、エンパグリフロジン群で-0.9秒(調整平均の差0秒)と差はなかった(p<0.9276)。・有害事象としては、重症度の軽い低血糖がプラセボ群、エンパグリフロジン群で各1例ずつ報告があったが、エンパグリフロジン群では死亡などは報告されなかった。 以上のEMPA-ELDERLY試験の結果を踏まえ、矢部氏は「高齢者においても、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは血糖コントロールを有意に改善した。また、脂肪量を減らすことで体重を低下させると同時に筋肉量減少などの変化は、プラセボ群と比較し、変化が認められなかった。エンパグリフロジンは忍容性も良好で、新たな有害事象もなかった」と報告をまとめた。

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第148回 新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省厚生労働省は、5月19日に定点把握による新型コロナウイルス感染症の感染状況データを初めて公表した。全国の約5,000の医療機関から報告された1週間の感染者数は1万2,922人で、1医療機関当たりの平均患者数は2.63人だった。東京、神奈川、埼玉、千葉の推移をみると、都道府県ごとの感染者数は増加しており、特に沖縄県が最も多い6.07人だった。厚労省はこれまでの感染者数と比較して、緩やかな増加傾向が続いていると分析している。また、新たに始められた「新規入院者数」の発表では、1週間で2,330人の新規入院があり、前週と比べてほぼ横ばい。厚労省では、今後も定点把握を通じて感染状況を把握し、対策を進める方針。(参考)新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握(国立感染症研究所)新型コロナ「緩やかな増加傾向」 厚労省が定点把握で初発表(東京新聞)コロナ定点把握 5類変更後初めて公表 新規患者数 8-14日の1週間分 厚労省(CB news)新型コロナ「定点把握」全国の感染状況データ 初の発表 厚労省(NHK)2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省感染力が強い「麻疹」の感染者が国内で複数確認され、厚生労働省が注意喚起を行っている。今月に入って確認された感染者は、インドから帰国した30代男性と、東京都在住の男女2人で、同じ新幹線の車内にいたことで感染経路が特定されている。海外との往来の増加により、国内での感染例が増加する可能性が懸念されており、厚労省は海外渡航者へ注意喚起とワクチン接種を呼びかけている。麻疹は非常に感染力が強く、免疫力のない人が感染するとほぼ100%発症する。感染経路は空気感染のため、手洗いやマスクでは予防できない。麻疹の治療は対症療法であり、ワクチン接種が有効とされている。しかし、国内でのワクチン接種率は目標の95%を下回っており、国内での流行の懸念が高まっている。加藤厚生労働大臣は、5月16日の記者会見で麻疹の症状を有する場合は麻疹を疑い、医療機関を受診のための移動の際は公共交通機関の利用を控えるよう呼び掛けている。厚労省は、自治体や医療機関に対し、麻疹に対する注意喚起を行い、同省のホームページやSNSなどで国民に向けた情報の提供をしている。(参考)加藤大臣会見概要[令和5年5月16日](厚労省)国内での麻しん流行を懸念、発熱や発疹のある者は麻しんを疑った行動・診療を!医療従事者は2回の予防接種歴確認を-厚労省(Gem Med)「麻しん疑われる時は受診前に医療機関に連絡を」相次ぐ感染者の確認を受け 加藤厚労相(CB news)はしか、国内で複数の感染者確認 同じ新幹線車両に乗り合わせ(朝日新聞)はしか相次ぎ、厚労相「症状あれば交通機関の利用控えて」…感染者が不特定多数と接触か(読売新聞)3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視糖尿病治療薬のセマグルチド(商品名:リベルサス)が「飲むだけで痩せられる薬」として処方され、健康被害が相次いでいることが5月18日に一般報道された。ダイエット目的でのGLP-1受容体作動薬の処方は、美容クリニックやオンラインクリニックで行われている。しかし、吐き気やめまいなどの副作用が出現するほか、急性膵炎で入院する人も報告されている。本来、セマグルチドは糖尿病の治療薬であり、ダイエットの薬としての厚生労働省の承認はなく、適応外使用となる。オンライン診療での医師の診察は短時間で行われ、医師とは対面もなく検査もされないまま処方薬が自宅へ配送されており、TwitterなどのSNSでも副作用の訴えが多く寄せられている。現在、美容クリニックやオンライン診療での糖尿病の薬の処方は自由診療で行われているため、現状では規制が難しい状況であり、日本医師会もこれを問題視し、繰り返しこの行為の問題を表明している。同会では今後、処方を正しく行うための法整備が必要と訴えている。(参考)「飲むだけで痩せられる」糖尿病の薬を“痩せる薬”として処方 副作用で吐き気やめまいなど健康被害相次ぐ…入院する人も(TBS)自由診療における糖尿病治療薬の不適切使用に対する見解示す(日医)自由診療におけるオンライン診療の不適切事例について(医薬品の適応外使用)(同)4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会次の感染症に備えるため、アメリカのCDC(疾病対策センター)をモデルとして、内閣感染症危機管理統括庁や厚生労働省に科学的知見を提供するため、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して新たな専門家組織「国立健康危機管理研究機構」を設立する法案が国会に提出されていた。この5月18日に衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明党などの賛成多数で可決された。今後、参議院に送付されて採決で成立すれば、法案に基づいて設立される。設立は令和7年度以降に予定されている。(参考)国立健康危機管理研究機構について(厚労省)国立健康危機管理研究機構(仮称)と地方衛生研究所等の連携強化(同)国立健康危機管理研究機構法案(衆議院)日本版CDC法、衆院通過 司令塔新設案、参院審議へ(東京新聞)5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協厚生労働省は5月17日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催した。来年度から始まる第8次医療計画のうち新興感染症を除く5事業について、診療報酬の在り方の議論を始めた。診療側が問題提起したのは救急医療。去年の診療報酬の改定では、高度急性期医療を評価する「急性期充実体制加算」の新設によって、「総合入院体制加算」(診療科として精神科、小児科、産婦人科の標榜が施設基準)から急性期充実体制加算の算定に移行するため、医療機関側が精神科や産科を廃止するなど地域の2次救急の維持・運営に支障が生じていると指摘があった。本来は100万人に1つの3次救急施設を整備する方針だったが、すでに国内には300施設存在し、さらに増加傾向が続いており、診療側は医療計画がゆがんでいないか、診療報酬以外の財政措置も考慮すべきだと主張した。また、診療報酬の評価方法を見直し、2次救急の評価を充実させる必要があると訴えた。その他、高齢者の救急患者については、急性期以外の医療機関での対応を促す仕組みを強化すべきだと指摘があった。(参考)総合入院体制加算の届け出1年間で35%減 厚労省、周産期医療への影響を注視(CB news)二次救急医療機関への評価充実要望、中医協で診療側 支払側「高齢の救急患者は急性期以外で」(同)総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!-中医協総会(Gem Med)中央社会保険医療協議会 総会[第545回](厚労省)6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府医療ビッグデータの利用を促進するため、今国会に内閣府が提出していた次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)の改正法案が、5月17日に開かれた参議院本会議で可決・成立した。この法律は、病院などから提供された医療情報を加工し、研究開発などに活用するために、個人情報保護法の特例法として平成29年に制定されていた。現行法では個人情報の保護のため制限があり、これまでの利用実績は20数件と少なく、新薬の研究開発などに活用しにくいという課題があった。このため経団連や日本製薬工業協会などからは改正を求める声が上がっていた。新たに成立した改正次世代医療基盤法では、匿名化したままでより精緻な医療データを新薬の開発などに利用に活用することが可能となる。具体的には、血圧や体重などの検査値の提供範囲を拡大し、創薬や副作用の早期把握などに活用することが期待されている。また、個人情報保護のため新たな制度が導入され、元の医療情報から患者本人を直接特定できないように、個人情報の保護と情報漏えいの防止強化にも取り組むことになる。(参考)「次世代医療基盤法」とは(内閣府)精緻な医療データを製薬利用へ 法改正、個人情報は配慮(日経新聞)医療データ活用へ 改正次世代医療基盤法 参院本会議で成立(NHK)世代医療基盤法の見直し(経団連)

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医療者の不足する地域は死亡率が高い/BMJ

 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ―「すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」(厚生労働省)―を2030年までに達成するには、健康を促進または改善するさまざまな職業の保健医療人材(Human Resources for Health:HRH)が重要であるが、HRHの不平等は過去30年間で世界的に減少しているものの依然として残っており、全死亡率およびほとんどの死因別死亡率は、医療従事者が限られている、とくにHIV/AIDS・性感染症、母体・新生児疾患、糖尿病、腎臓病といった、優先疾患におけるいくつかの特定のHRHが限られている国・地域で相対的に高いことが、中国・北京大学のWenxin Yan氏らの調査で示された。著者は、「本結果は、2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成するために、公平性を重視した医療人材政策の策定、医療財政の拡大、不十分なHRHに関連した死亡を減少するための標的型対策の実施に向けた政治的取り組み強化の重要性を浮き彫りにしている」とまとめている。BMJ誌2023年5月10日号掲載の報告。172の国・地域のHRHの傾向と不平等を評価し、全死亡率と死因別死亡率を解析 研究グループは、2019年版の世界疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study)のデータベースを用い、172の国・地域を対象として、1990~2019年までの各国・各地域の総HRH、特定のHRH、全死亡率、死因別死亡率に関する年次データを収集するとともに、国連統計(United Nations Statistics)およびOur World in Dataのデータベースから、モデルの共変量として用いる人口統計学的特性、社会経済的状態、医療サービスに関するデータを入手し、解析した。 主要アウトカムは、人口1万人当たりのHRH密度に関連する人口10万人当たりの年齢標準化全死亡率、副次アウトカムは年齢標準化死因別死亡率とした。HRHの傾向と不平等を評価するため、ローレンツ曲線と集中指数(concentration index:CCI)を用いた。HRHの不平等は過去30年間で減少も、総HRHレベルと全死亡率に負の相関 世界的に、人口1万人当たりの総HRH密度は、1990年の56.0から2019年には142.5に増加した。一方で、人口10万人当たりの年齢標準化全死亡率は、1990年の995.5から2019年には743.8に減少した。ローレンツ曲線は均等分布線の下にあり、CCIは0.43(p<0.05)であったことから、人間開発指数で上位にランクされている国・地域に医療従事者がより集中していることが示された。 HRHのCCIは、1990~2001年の間、約0.42~0.43で安定していたが、2001年の0.43から2019年には0.38へと低下(不平等が縮小)していた(p<0.001)。 多変量一般化推定方程式モデルにおいて、総HRHレベル(最低、低、中、高、最高の五分位)と全死亡率との間に負の相関が認められた。最高HRHレベル群を参照群として評価すると、低レベル群の発生リスク比は1.15(95%信頼区間[CI]:1.00~1.32)、中レベル群は同1.14(1.01~1.29)、高レベル群は1.18(1.08~1.28)であった。 総HRH密度と死亡率との負の相関は、顧みられない熱帯病やマラリア、腸管感染症、母体および新生児疾患、糖尿病や腎臓病など、いくつかの死因別死亡率でより顕著であった。医師、歯科スタッフ(歯科医師と歯科助手)、薬剤スタッフ(薬剤師、調剤補助者)、緊急援助および救急医療従事者、オプトメトリスト、心理学者、パーソナルケアワーカー、理学療法士、放射線技師の密度が低い国・地域の人々は、死亡リスクがより高くなる可能性が高かった。

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5月17日 高血圧の日【今日は何の日?】

【5月17日 高血圧の日】〔由来〕日常的な血圧測定や定期健診を促すことで、高血圧による疾病リスクを低減するために「世界高血圧デー」に准じ、2007年に日本高血圧学会と日本高血圧協会によって制定された。また、毎月17日は、高血圧の原因となる食塩の過剰摂取を防ぐために「減塩の日」として諸活動を行っている。関連コンテンツ降圧目標【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧:脳心血管疾患の危険因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧の人では、コーヒーと緑茶のどちらが危ない?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】体重増加は糖尿病や高血圧のリスク【患者説明用スライド】降圧薬使用とアルツハイマー病との関連~メタ解析

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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早期妊娠糖尿病への即時治療、児と母体の予後は?/NEJM

 妊娠20週以前の妊娠糖尿病女性において、即時治療は治療を延期または行わない場合と比較して、新生児の有害なアウトカムの複合の発生をある程度は抑制するものの、妊娠関連高血圧や新生児の除脂肪体重には差がないことが、オーストラリア・ウエスタンシドニー大学のDavid Simmons氏らが実施した「TOBOGM試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年5月5日号で報告された。4ヵ国の無作為化対照比較試験 TOBOGM試験は、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、インドの17病院が参加した無作為化対照比較試験であり、2017年5月~2022年3月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、高血糖のリスク因子を有し、2013年のWHO基準で妊娠糖尿病の診断を受けた妊娠4週~19週6日の女性が、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による反復検査の妊娠24~28週時の結果に基づき、妊娠糖尿病に対する即時治療を行う群、または治療を延期あるいは行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは次の3つであった。(1)新生児の有害なアウトカム(妊娠37週未満での出生、分娩外傷、出生体重4,500g以上、呼吸窮迫、光線療法、死産/新生児死亡、肩甲難産)の複合、(2)妊娠関連高血圧(preeclampsia[妊娠高血圧腎症]、eclampsia[子癇]、妊娠高血圧)、(3)新生児の除脂肪体重。新生児の呼吸窮迫に大きな差 793例が解析に含まれ、即時治療群に400例(平均[±SD]32.1±4.8歳)、対照群に393例(32.6±4.9歳)が割り付けられた。初回OGTTは、平均で妊娠15.6±2.5週に実施された。 新生児の有害なアウトカムの複合は、即時治療群では378例中94例(24.9%)で認められ、対照群の370例中113例(30.5%)に比べて発生率が低かった(補正後群間リスク差:-5.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-10.1~-1.2)。 妊娠関連高血圧は、即時治療群では378例中40例(10.6%)、対照群では372例中37例(9.9%)で発生した(補正後群間リスク差:0.7ポイント、95%CI:-1.6~2.9)。また、新生児の平均除脂肪体重(副次アウトカムに変更)は、即時治療群が2.86±0.34kg、対照群は2.91±0.33kgだった(補正後群間平均差:-0.04kg、95%CI:-0.09~0.02)。 新生児の呼吸窮迫は、即時治療群では376例中37例(9.8%)で発生したのに対し、対照群では365例中62例(17.0%)で発生した(補正後群間リスク差:-7ポイント、95%CI:-12~-3)。スクリーニングや治療に関連した重篤な有害事象に関しては、両群間に差はみられなかった。 著者は、「WHO基準で早期の妊娠糖尿病と診断された女性の3分の1は反復OGTTで妊娠24~28週時に妊娠糖尿病ではなかったが、この知見は先行の観察研究と一致する」としている。

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日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」【下平博士のDIノート】第120回

日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」今回は、肥満症治療薬「セマグルチド(遺伝子組換え)(商品名:ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は肥満症を適応として承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬であり、高血圧などを有し、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症患者の体重減少効果が期待されています。<効能・効果>肥満症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、あるいはBMIが35kg/m2以上の患者に処方されます。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射します。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射します。患者さんの状態に応じて適宜減量します。<安全性>日本人被験者が参加した第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験、NN9536-4382試験)において、2,008例中1,359例(67.7%)に副作用が発現しました。主なものは、悪心(36.4%)、下痢(23.5%)、嘔吐(19.1%)、便秘(19.0%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎(0.1%)、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸が設定されています(発現率の記載のないものは頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬には、脳に作用して食欲を抑えることで、体重を減らす作用があります。2.血糖値を下げる作用があるため、脱力感、倦怠感、高度の空腹感、めまいなどの低血糖症状が現れた場合は糖質を含む食品を取ってください。また、高所作業、自動車の運転などに注意してください。3.1週間に1回、同一曜日に皮下に注射してください。適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんまたはご家族は自己注射することができます。注射は、腹部、ふともも、上腕に行います。注射箇所は毎回変更し、少なくとも前回の場所から2~3cm離して注射してください。4.1回使い切りの注射薬です。5.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などの症状が現れた場合は、使用を中止して速やかに医師の診察を受けてください。6.次回の投与日を忘れないように、カレンダーなどに書き留めることをお勧めします。7.凍結を避けて冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。<Shimo's eyes>本剤は、肥満症治療薬として承認された唯一のGLP-1受容体作動薬です。固定注射針付きシリンジを注入器にセットした単回使用のコンビネーション製品で、週1回皮下投与します。名称の「SD」は、単回投与を意味するSingle Doseの頭文字に由来します。GLP-1は小腸のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンであり、血糖降下作用のほか、中枢における摂食抑制作用を有するため、体重を減少させる効果があります。本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、2型糖尿病を有する患者において両剤が併用された際の有効性および安全性は確認されていません。投与する対象患者については厳しい条件が課せられていて、(1)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有していること、(2)食事療法・運動療法を行っても効果が不十分であること、(3-1)BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有していること、または(3-2)BMIが35kg/m2以上であることが求められます。日本人が参加した国際共同第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験)および国際共同第III相試験(NN9536-4382試験)において、投与68週時までの体重変化率および5%以上の体重減少達成率でプラセボに対する優越性を示しました。重大な副作用として、低血糖、急性膵炎が現れることがあります。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、使用を中止して速やかに医師の診察を受けるように指導しましょう。本剤と同じセマグルチドを有効成分とする薬剤として、週1回投与の注射剤であるオゼンピック皮下注が2018年3月に、1回使い切りの同SD製剤が2020年3月に、1日1回投与の経口薬であるリベルサス錠が2020年6月に、それぞれ2型糖尿病を効能・効果として承認されています。自由診療において、これらの薬剤がダイエット・美容目的で適応外処方されることが問題となっています。ウゴービ皮下注の臨床試験では、BMIならびに肥満に関連する健康障害の参加基準が厳格に定められていたことから、これらの薬剤の不適正使用について日本糖尿病学会から注意喚起されており、健康被害の防止と適正使用の推進が求められています。なお、本剤は「最適使用推進ガイドライン対象品目」であり、処方には条件が付く可能性があります。関連サイトGLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

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第163回 GLP-1薬でがん予防? / アルツハイマー病アジテーション治療薬を米国が初承認

GLP-1受容体作動薬は肥満患者のがん予防効果も担いうるGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)が肥満患者の体重を減らすことに加えて、ともするとがん予防効果も担いうることが被験者20例の免疫細胞を調べた試験で示唆されました1)。肥満成人は今や世界で6億人を超えます。肥満は2型糖尿病、心血管疾患、多くのがん(乳房・腎臓・大腸がんなど)と関連します。また、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の害を被りやすくします。ナチュラルキラー(NK)細胞は体内を巡るリンパ球の約10%を占める免疫細胞であり、病原体の侵略を食い止め、がんの発現を防ぐ役割を担います。しかし肥満はどうやらNK細胞を害するらしく、その数を減らし、機能を妨げることが先立つ研究で示されています。たとえばマウスの実験によると肥満のNK細胞は代謝が行き詰まっていて腫瘍と戦えず、腫瘍増殖を食い止めることができません2)。また、肥満小児のNK細胞を調べたところ合図に応じる能力が劣っており、増殖して腫瘍を除去するという本来の働きを全うできませんでした3)。すなわち肥満だとNK細胞は目当ての細胞に取り付いて除去することができなくなるようであり、肥満患者はそれゆえがんや感染症を被りやすいのかもしれません。先立ついくつかの研究でGLP-1薬はマクロファージやT細胞などの免疫細胞に手を加えることが知られています。アイルランドの2人の研究者・Andrew Hogan氏やDonal O’Shea氏などが携わった2016年の報告はそれらの1つで、脂肪組織のインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)の活性化作用がGLP-1薬の体重減少効果に寄与しうることが示唆されました4)。その両氏が率いるチームは続いてNK細胞へのGLP-1薬の作用の検討にも乗り出し、体重管理のためにGLP-1薬投与を始める肥満患者を募ってNK細胞の変化を調べました。投与されたGLP-1薬はノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドで、うれしいことに同剤投与はNK細胞のサイトカイン生成や目当ての細胞を壊す効果の向上と関連しました。リラグルチドでNK細胞機能が改善するのは体重減少のおかげというわけではなさそうで、同剤はNK細胞の代謝を底上げすることで体重減少とは関係なく直接的にその働きを回復させるようです。世界保健機関(WHO)の推定によると世界の成人の13%が肥満です5)。上述のとおり肥満は種々のがんを生じやすくし、たとえば米国で毎年診断されるがんの40%が太り過ぎや肥満と関連します6)。今回の発見はGLP-1薬を使う肥満患者を勇気づけるものであり、それら薬剤ががんを生じ難くするという効果さえ担うことを示唆しているとO’Shea氏は言っています7)。アルツハイマー病患者の行動障害治療薬を米国FDAが初めて承認アルツハイマー型認知症患者の暴言、暴力、錯乱などの行動障害(アジテーション)治療のFDA承認を抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)が先週11日に取得し、米国でその用途を有する初めてにして唯一の薬剤となりました8)。大塚製薬のアルツハイマー型認知症アジテーション治療の取り組みはブレクスピプラゾールにとどまりません。10年ほど前の2014年に発表されたAvanir社買収で大塚製薬の手に権利が渡った別の薬剤AVP-786のその用途の第III相試験が進行中であり、来年2024年4月に完了する見込みです9)。参考1)De Barra C, et al. Obesity. 2023 May 9. [Epub ahead of print]2)Michelet X, etal. Nat Immunol. 2018;19:1330-1340.3)Tobin LM, et al. JCI Insight. 2017;2:e94939.4)Lynch L, et al. Cell Metab. 2016;24:510-519.5)Obesity and overweight / WHO6)Cancers Associated with Overweight and Obesity Make up 40 percent of Cancers Diagnosed in the United States / CDC7)Maynooth University research reveals cancer-killing benefits of popular obesity treatment / Eurekalert8)FDA Approves First Drug to Treat Agitation Symptoms Associated with Dementia due to Alzheimer's Disease / PRNewswire9)大塚ホールディングス株式会社 2022年度決算説明会

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2型DM長期管理、週1回insulin icodec vs. 1日1回インスリン グラルギン/Lancet

 長期にわたり基礎・追加インスリン(basal-bolus)療法を受けている2型糖尿病(DM)患者において、週1回投与のinsulin icodec(icodec)は1日1回投与のインスリン グラルギン100単位と比較して、血糖コントロールの改善は同等であるが、ボーラス投与量は減り、低血糖の発現率を上昇させないことが示された。ベルギー・ルーベン・カトリック大学のChantal Mathieu氏らが、試験期間26週の第IIIa相無作為化非盲検多施設共同治療目標設定非劣性試験「ONWARDS 4試験」の結果を報告した。結果について著者は、「今回の試験の主な長所は、マスクされた連続血糖モニタリングの使用、高い試験完了率、大規模で多様な国際的集団を対象としている点であるが、比較的短い試験期間および非盲検デザインという点では結果が限定的である」としている。Lancet誌オンライン版2023年5月5日号掲載の報告。9ヵ国80施設で試験 ONWARDS 4試験は、9ヵ国(ベルギー、インド、イタリア、日本、メキシコ、オランダ、ルーマニア、ロシア、米国)の80施設(外来クリニックおよび病院診療部門)で、2型DM(糖化ヘモグロビン[HbA1c]7.0~10.0%)の成人患者を登録して行われた。 被験者は1対1の割合で無作為に、週1回icodecまたは、1日1回インスリン グラルギン100単位+2~4回/日インスリン アスパルトのボーラス注射、いずれかの投与を受けるよう割り付けられた。 主要アウトカムは、ベースラインから26週目までのHbA1cの変化量(非劣性マージン0.3ポイント)であった。主要アウトカムは全解析セット(無作為化を受けた全被験者)で評価した。安全性は、安全性解析セット(割り付け治療薬を少なくとも1回受けた全被験者)で評価した。26週時点で、血糖コンロトール改善は同等 2021年5月14日~10月29日に、746例が適格性のスクリーニングを受け、582例(78%)が無作為化された(icodec群291例[50%]、グラルギン群291例[50%])。被験者の2型DM罹病期間は平均17.1年(SD 8.4)。 26週時点で、推定HbA1cの平均変化量は、icodec群-1.16ポイント(ベースライン8.29%)、グラルギン群-1.18ポイント(8.31%)で、icodec群のグラルギン群に対する非劣性が示された(推定群間差:0.02ポイント[95%信頼区間[CI]:-0.11~0.15]、p<0.0001)。 有害事象の発現は、icodec群171/291例(59%)、グラルギン群167/291例(57%)であった。重篤な有害事象は、icodec群22/291例(8%)の35件、グラルギン群25/291例(9%)の33件が報告された。 全体として、低血糖のレベル2および3の複合発生率は、両群で類似していた。icodecに関する安全性の新たな懸念は確認されなかった。

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日本人は低炭水化物食で糖尿病リスクが上がる?下がる?~JACC研究

 低炭水化物食(LCD)スコアと2型糖尿病発症リスクの関連を検討したメタ解析では、LCDスコアが高い(炭水化物が少なくタンパク質と脂質が多い)ほど2型糖尿病発症リスクが高い傾向がみられたことが報告されている1)。しかし、メタ解析の対象となった研究のほとんどがアジア人以外での研究である。今回、日本の大規模な全国コホート研究であるJACC(Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk)研究の約2万人のデータを用いて、北海道大学の八重樫 昭徳氏らが前向きに検討したところ、日本人ではLCDスコアが高い食事で2型糖尿病リスクが上昇する可能性は低いことが示唆された。Journal of Nutritional Science誌2023年4月14日号に掲載。 本研究は、1988~90年にJACC研究に登録した参加者のうち、糖尿病ではない40~79歳の日本人1万9,084人(男性7,052人、女性1万2,032人)を解析対象とした。食事摂取量は食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価した。炭水化物、タンパク質、脂質からの摂取エネルギーの割合により参加者を11カテゴリーに分類し、全体、動物性、植物性のLCDスコアを算出した。動物性LCDスコアは炭水化物、動物性タンパク質、動物性脂質に由来するエネルギーの割合から、また植物性LCDスコアは炭水化物、植物性タンパク質、植物性脂質に由来するエネルギーの割合から計算した。2型糖尿病発症率は自記式質問票を使用して評価した。多変量ロジスティック回帰分析により、各LCDスコアの五分位における2型糖尿病発症のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・5年間に490人(男性247人、女性243人)が2型糖尿病を発症した。・LCDスコアの最低五分位を基準とした最高五分位における2型糖尿病発症の多変量調整ORは、全体LCDスコアでは男性が0.64(95%CI:0.42~0.99)、女性が0.78(同:0.51~1.18)であり、動物性LCDスコアでは男性が0.83(同:0.55~1.27)、女性が0.84(同:0.57~1.24)だった。・植物性LCDスコアは男性において2型糖尿病発症リスクの低下と関連していた(OR:0.51、95%CI:0.33~0.77)。 本研究では、動物性LCDスコアは男女共に2型糖尿病発症リスクと関連せず、植物性LCDスコアは男性で発症率が低いことに関連していた。この結果から、八重樫氏らは「日本人のように魚と肉の摂取量が少ない集団では、炭水化物が少なく脂肪とタンパク質が多い食事で2型糖尿病リスクが上昇する可能性は低いことが示唆される」と考察している。

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早食いは身長が縮みやすい?~日本人での研究

 早食いは体重増加の独立したリスク因子であり、また先行研究で過体重が身長低下の独立したリスク因子であることが報告されている。では、早食いと身長低下は関連するだろうか。今回、大阪健康安全基盤研究所の清水 悠路氏らによる日本人労働者での後ろ向き研究の結果、早食いが過体重と関連し、過体重は身長低下と関連していたが、早食いと身長低下については、過体重の人とそうでない人で異なっていた。すなわち、過体重でない人は食べるのが速い人が、過体重の人では食べるのが遅い人が、身長が低下する確率が高かった。PLOS ONE誌2023年4月26日号に掲載。 本研究の対象は、日本人労働者8,982人で平均年齢は50.6歳(標準偏差8.3歳)だった。過体重はBMI 25.0kg/m2以上、身長低下は1年当たりの身長低下が最高五分位と定義した。 主な結果は以下のとおり。・既知の交絡因子にかかわらず、食べる速度と過体重には正の相関が認められ、遅いグループを基準とした場合、過体重の完全調整後オッズ比(OR)は、中程度に速いグループで1.96(95%信頼区間[CI]:1.54~2.50)、速いグループで2.92(同:2.29~3.72)だった。・過体重でない人は、食べる速度が速い人のほうが身長低下のオッズが高かった(完全調整後OR:1.34、95%CI:1.05~1.71)。一方、過体重の人は、食べる速度が速い人のほうが身長低下のオッズが低かった(完全調整後OR:0.52、95%CI:0.33~0.82)。・過体重は身長低下と有意に関連していた(完全調整後OR:1.17、95%CI:1.03~1.32)。 この結果から、著者らは「早食いの人の身長低下の主な原因が体重増加ではないことを示唆している」とした。また「早食いは過体重と関連し、過体重は身長低下と関連していた。中年期以降の身長低下は心血管疾患による死亡の独立した危険因子であるため、食べる速度を遅くすることは身長低下と心血管疾患の予防に有用な可能性がある」と述べている。

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2型糖尿病の薬物療法で最適な追加オプションは?(解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の登場により、近年2型糖尿病の薬物療法が大きく変わった。既存の糖尿病治療薬では認められなかった、心血管イベントや腎不全を抑制する効果が数多く報告されたからだ。さまざまな糖尿病治療薬の中からどの薬剤を選択するか、その判断の一助になるネットワークメタ解析の論文がBMJ誌に発表された1)。 この論文の背景として、2年前の2021年に同じBMJ誌に掲載された論文について少し触れたい。この当時すでにGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬のエビデンスは集積しており、これら2製剤がこれまでの糖尿病治療薬と比較して全死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全、体重減少などのベネフィットがあることがネットワークメタ解析により明らかになった2)。また桑島 巖先生(J-CLEAR理事長)がこの論文に対するコメントを執筆しているのでご一読いただきたい3)。 今回の論文の新しい点は、従来治療薬に追加するオプションとして、最近登場したGIP/GLP-1受容体作動薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)の2製剤が加わったことである。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、MR拮抗薬を含む13種類の薬剤の中から追加投与した場合の、死亡や心血管系および腎臓系の有害アウトカムの減少、体重減少などについてシステマティックレビューとネットワークメタ解析が実施された。 解析の結果、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬については全死亡、心血管死、非致死性心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全の抑制に有効であることが示されたが、これまでのRCTやネットワークメタ解析の結果と同様であり新規性はない。一方、MR拮抗薬のフィネレノンが全死亡、心不全による入院、末期腎不全の減少に効果的である可能性が示された点は新しい知見である。MR拮抗薬は糖尿病治療薬ではないが、腎臓系の有害アウトカムについてはSGLT2阻害薬より劣るものの効果がある可能性があり、心不全による入院や全死亡も低下させる可能性が示されたため、今後日常診療で使用される頻度が増えるだろう。 今回の解析で、13種類の製剤の中でGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が心血管系および腎臓系の有害アウトカムや死亡の減少、さらにQOLの改善に最も効果があることが確認された。一方、GIP/GLP-1受容体作動薬については、体重減少効果は最も大きかったが、GLP-1受容体作動薬で認められる死亡や心血管・腎イベントの抑制効果は認められなかった。新しい薬剤のため解析対象となった試験が少ないことが影響しているのかもしれない。今後のGIP/GLP-1受容体作動薬の臨床研究に期待したい。 有害事象については、SGLT2阻害薬では性器感染症、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬では胃腸障害、MR拮抗薬では入院を要する高カリウム血症のリスクが高かった。いずれも薬剤クラス固有のものであり、とくに目新しい有害事象の報告はなかった。 近年、ネットワークメタ解析を用いた臨床研究の論文が増えていると感じる。従来のメタ解析では2種類の治療薬の比較しかできないが、今回の論文のように3種類以上の比較を行うことができるのがネットワークメタ解析のメリットである。しかし、このネットワークメタ解析により、新たに大きなエビデンスが生み出されるというわけではないことに注意しなければならない4)。ネットワークメタ解析は、RCTよりエビデンスレベルは下がるものの、今回のように比較したい糖尿病治療薬が多数あるような場合には、治療の「次の一手」を選択する際に参考となるデータを提供してくれる手法である。

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