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抗肥満薬としての経口セマグルチド25mgの可能性(解説:住谷哲氏)

 わが国で承認されている抗肥満薬には経口薬としてマジンドール(商品名:サノレックス)、注射薬としてセマグルチド(商品名:ウゴービ)およびチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)がある。しかしマジンドールはほとんど使用されていないので実際は2種類の注射薬しかないのが現状である。当然注射薬よりも経口薬のほうがより多くの患者に投与できるので、製薬会社としては抗肥満薬としての経口セマグルチドの承認を目指している。しかし経口セマグルチドの問題点はその吸収に個人差がかなりあることで、その結果として注射薬と比べて有効血中濃度にかなりのばらつきがあることが報告されている1)。 そこで血糖降下薬としての最大投与量である14mgを50mgまで増量して、抗肥満薬としての有効性を検討したOASIS 1試験が2年前にすでに報告されている2)。今回その投与量を25mgまで減量して実施されたのが本試験OASIS 4である。なぜ50mgで製造承認を目指さずに半分の25mgの試験を再度実施したのかの詳細は論文に記載がないので不明であるが、筆者の勝手な想像では50mgではコストがかかり過ぎてビジネスとして成立しなかったからだろうと思われる。 結果は25mgでも抗肥満薬として十分に有効であることが示された。主要評価項目である試験終了時のプラセボと比較した体重減少率は、本試験での経口セマグルチド25mg、OASIS 1での経口セマグルチド50mg、STEP 1試験3)でのセマグルチド注2.4mgはそれぞれ11.4%、12.7%および12.4%でありほとんど差がなかった。安全面でも経口セマグルチド50mgとほぼ同様であったが、OASIS 1で13%の患者に認められた異常感覚(dysesthesia)の発現率は本試験では4.9%と少なかった。 筆者の病院の肥満外来にも地域のクリニックから患者さんが紹介されてくる。しかし、コストの点で抗肥満薬の投与を諦める患者さんも散見される。おそらく近いうちにわが国でも経口セマグルチド25mgが抗肥満薬として承認申請されるだろう。どれほどの薬価になるのかに注目したい。

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第292回 歯の防御の最前線のエナメルを再生させるゲルの臨床試験がまもなく始まる

歯の防御の最前線のエナメルを再生させるゲルの臨床試験がまもなく始まる歯のエナメル質は自ずと回復せず、多くの人が虫歯で痛い思いをします。定期検査で虫歯が見つかることに怯え、歯を再生する治療の実現を願う人は少なくないでしょう。そんな願いを叶えてくれるかもしれないエナメル質修復ゲルが唾液の働きに学んで開発されました1-3)。来年2026年の早くに始まる臨床試験に成功して実用化されれば、エナメル欠損はたいてい元どおりに治るちょっとした切り傷のように手軽に治療できるようになるかもしれません。エナメルは歯の表面を薄く覆っており、脆い内側の層がすり減ったり裂けたりすることや、酸や細菌で損なわれるのを防いでいます。エナメルは防御の最前線を担い、それが破られ始めると虫歯は一気に進行します。エナメルの自然回復は見込めず、フッ素コートや再石灰化液などの今ある治療はせいぜい悪化を食い止めて症状を緩和させるのが関の山です。エナメル欠損などがもたらす歯の病気は世界のおよそ2人に1人を悩ませ、2015年の記録の解析では5,440億ドルもの負担を強いたと推定されています4)。エナメル欠損がたたって歯を失えば糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患を生じやすくもなります。たとえば就労年齢の米国成人を調べた最近の試験では、歯を失うことと複数の持病を有することの関連が示されています5)。ゆえにエナメル欠損を修復する治療が実現すればそれらの慢性疾患をも減らすことに貢献しそうです。脊椎動物の組織の中で最も硬いエナメルは、幼少期にアメロゲニン(amelogenin)タンパク質が形成する秩序立った構造を基礎とします。英国のノッティンガム大学のAlvaro Mata氏らは、アメロゲニンの構造や機能をまねてエナメルの石灰化を促す高分子入りのゲルを開発しました。ゲルはブラッシングしても数週間保たれる薄膜で歯を覆い、穴や割れ目を埋めます。その薄膜が足場の役目を担って溶液中のカルシウムとリン酸を集め、エピタキシャル結晶化と呼ばれる生来と同様の運びで新たなエナメル質が形成されるのを促します。内側の象牙質が顕わになるほど深い穴や割れ目でもエナメル質は作られました3)。10μmにも達する新たなエナメル質はその土台の生来の組織と統合して生来のような構造や特徴を再構築します。研究者によると、エナメルは一週間足らずで形成し始めます。人工的な溶液ではなく、カルシウムとリン酸をもともと含むヒトの唾液を使った検討でもゲルは同様の働きをしました3)。来年早々にヒトを対象とした臨床試験が始まる見込みです2)。Mata氏は同僚のAbshar Hasan氏とともにMintech-Bioという会社を立ち上げており、来年2026年末までに最初の製品を出すつもりです。 参考 1) Hasan A, et al. Nat Commun. 2025;16:9434. 2) New gel restores dental enamel and could revolutionise tooth repair / Eurekalert 3) Cavities could be prevented by a gel that restores tooth enamel / NewScientist 4) Righolt AJ, et al. J Dent Res. 2018;97:501-507. 5) Mohamed SH, et al. Acta Odontol Scand. 2023;81:443-448.

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新しい肥満の定義で米国人の7割近くが肥満に該当

 肥満の新しい定義により、肥満と見なされる米国人の数が劇的に増加する可能性があるようだ。長期健康調査に参加した30万人以上を対象にした研究で、BMIだけでなく、余分な体脂肪に関する追加の指標も考慮した新たな肥満の定義を適用すると、肥満の有病率が約40%から70%近くに上昇することが示された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の内分泌学者であるLindsay Fourman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月15日掲載された。 Fourman氏は、「肥満が蔓延しているだろうと考えてはいたが、これほどとは予想していなかった。現在、成人人口の70%が過剰な脂肪を持っている可能性があると考えられるため、どの治療アプローチを優先すべきかについての理解を深める必要がある」とニュースリリースで述べている。 これまで、肥満はBMIにより定義されてきた。しかしBMIでは、例えば、筋肉量の多いボディビルダーが肥満と判定されるなど、体重と脂肪や筋肉の量が区別されないため、理想的な数値とは言えないことが指摘されている。一方、ウエスト周囲径、ウエスト身長比、ウエストヒップ比などの新たに開発された指標により、人の体脂肪をより正確に評価し、肥満度を計算する動きも出てきている。 最近、Lancet Commission(ランセット委員会)が新たに提案した肥満の定義では、1)従来のBMIの肥満閾値を超え、かつウエスト周囲径やウエスト身長比などの身体測定値が1つ以上高値であるか、BMIが40超、2)BMIは肥満閾値を下回るが2つ以上の身体測定値が高値のいずれかに該当する場合、臓器機能障害や身体的制限の有無によって、肥満を臨床的肥満(過剰な脂肪が臓器や組織に悪影響を及ぼしている)と、前臨床的肥満(体脂肪は過剰だが臓器は正常に働いている)に分類する。研究グループによると、米国心臓協会(AHA)や米国肥満学会など少なくとも76団体がこの定義を支持しているという。 今回の研究でFourman氏らは、米国立衛生研究所(NIH)が主導するAll of Us Research Programの参加者データを用いた前向きコホート研究を実施し、この新しい肥満の定義が臨床上どのような意味を持つのかを検討した。対象は、2017年5月31日から2023年9月30日の間に身体測定データがそろっていた30万1,026人(平均年齢54歳、女性61.0%)であった。 その結果、肥満に分類された人の割合は、従来の定義では42.9%(12万8,992人)であったのが、新しい定義では68.6%(20万6,361人)に増えることが明らかになった。臨床的肥満に分類されたのは10万8,650人(36.1%)であった。また、肥満ではない人と比較すると、肥満者では臓器機能障害のオッズが高く、オッズ比はBMIと身体測定値に基づく肥満者で3.31、身体測定値のみに基づく肥満者で1.76であった。さらに、臨床的肥満者では肥満のない人または臓器機能障害のない人に比べて、糖尿病(調整ハザード比6.11)、心血管イベント(同5.88)、全死因死亡(同2.71)のリスクが高いことも示された。 Fourman氏は、「BMIが正常でも腹部に脂肪が蓄積している人は健康リスクが高まることが分かってきているため、過剰な体脂肪を特定することは極めて重要だ。大切なのは体組成であり、体重計の数値だけが問題ではない」と述べている。 本研究には関与していない、米サウスショア大学病院のArmando Castro-Tie氏は、「この新しい肥満の定義によって、必要な人に医療が届き、肥満関連の慢性疾患を発症する前に余分な体重を減らすことができるようになる」と述べている。同氏は、「肥満の真の定義や肥満者がどのような人なのかについての理解を深めるための研究はかなり遅れている。これらが明らかになれば、さまざまな人口集団における異なるレベルの肥満に対して本当に効果的なアプローチは何なのかを探る、より的を絞った研究ができるようになるだろう」とコメントしている。

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抗うつ薬は体重を増やすか?(解説:岡村毅氏)

 精神科の外来では、対話から患者さんの症状を探る。うつ病の診察で最も有効なのは「眠れてますか」「食べられてますか」であろう。頑張ったらよく眠れるとか、頑張ったら食欲が湧いてくるものではないので、かなり客観的に患者さんの状態を把握できる。 意外かもしれないが、「どういったストレスがありますか」は、最重要ではない。意味がないとは言わないが、患者さんの理解や世界観に沿った長い物語が展開することが多く、まず知りたいことではない。 さて、治療が進むと、患者さんたちは、よく眠り、よく食べるようになる。それは良いのだが、女性の患者さんからは「体重が増えて困ってます」と言われることがしばしばある。女性は体重をモニターしている人が多いからと思われる。そうなると、「抗うつ薬で体重は増えるのだろうか?」「どの抗うつ薬で増えるのだろうか?」と考えるのは自然だ。 星の数ほどある抗うつ薬のどれを使うのがよいのか、という課題に対して、今や古典ともなった2009年のLancet誌の「MANGAスタディ」では、ネットワークメタ解析を用いて「効果」と「許容性」のバランスがよいのはセルトラリンとエスシタロプラムだと喝破した。同じようなネットワークメタ解析の手法で、抗うつ薬の身体への影響を調べたものが本研究である。 結果を見ると、確かに抗うつ薬の間で身体への影響には差があることがわかる。とはいえ、個人的には体重と心拍数以外は臨床的に意味のあるものはないと感じた。 心拍数は、面白いくらいに薬理学の教科書どおりの結果だ。つまり三環系抗うつ薬では軒並み上がる。ノルアドレナリン再取り込み阻害、抗コリン、α1遮断といった効果によるものだろう。とはいえ、三環系抗うつ薬はもはや臨床では絶滅危惧種になっており、あまり影響はなさそうだ。 問題は体重である。最も体重増加が多そうなのはマプロチリン(四環系抗うつ薬、こちらも希少種になっている)であり、2kg以上の体重増加が48%に、2kg以上の体重減少は16%にみられる。現役でよく使われる抗うつ薬では、セルトラリンは増加が31%、減少41%、エスシタロプラムは増加が38%、減少40%である。マスで見たら、体重増加はなさそうだ。 ただ気を付けねばならないのは、疫学研究と個別の患者さん個人の体験は、まったく次元が異なるということだ。「エビデンス上はあまり増えませんよ」と言うだけでは大失敗するだろう。患者さんが自分の身体健康あるいは見られ方を真剣に考えて、体重が増えていることを心配している場合は、しっかり対応しないと内服を自己中断したり、通院を自己中断してしまうリスクがある。その場合、もちろん再発してしまうリスクがある。 私の場合は、適宜血液検査などをするのが前提ではあるが、・体重増加は精神科薬物治療ではとても重要な課題。あなたの心配はまったく正しい! ただね、非定型抗精神病薬とかが最も気を付けないといけない薬で、このお薬はそれほどではないのでもう少し様子を見てみよう(エビデンス重視の説明)・今はうつ病の症状としての食思不振が改善していると考えたい。クスリが合っているのだ、ともいえる。だから安心して! しっかり回復したら抗うつ薬は中止するので今はまずはうつ病のほうに取り掛かろう(治療目標を明確にする説明)・食欲が増した。ここまで良くなったということ。運動を始めても(あるいは運動強度を上げても)よい時期ですよ(運動推奨)・今のお薬は大丈夫だけど、あなたがとても心配していることは放置できないから、変更しようか(不安が大きい場合)といった対応を、患者さんによって使い分けている(あるいは組み合わせる)。 うつ病が良くなると、食べ物がおいしくなって食べ始める人もいれば、ひきこもり生活から外に出るようになって痩せる人もいる。運動をすれば、カロリー消費は増えるが、当然ご飯はおいしくなるので体重が増える人もいる。難しいものだ。一般的には人の体重なんて知ったことではないが、こちらは抗うつ薬を投与しているので、関わる必要はあろう。個人の生活や認知パターンまで配慮するのが精神科医療であり、楽しいと言うと大変語弊があるが、人の多様性をいつも感じられるので飽きないものである。

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短時間の運動“エクササイズ・スナック”で健康増進

 1回5分以内というごく短時間の運動を日常的に随時行うことで、健康状態が改善することが報告された。そのような短時間運動の繰り返しは、生活習慣として取り入れる際のハードルが低く、かつ継続率も高いことが示されたという。オビエド大学(スペイン)のHugo Olmedillas氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に10月7日掲載された。 運動に関するガイドラインでは一般的に、1週間に300分の中強度の運動、または75~150分の高強度運動を行うことが推奨されている。しかし、著者らが研究背景として記している情報によると、成人では約3分の1、10代の若年者では5人中4人が、その推奨を満たしていないという。 それに対して、この研究により“エクササイズ・スナック”と呼ばれる意図的に行う短時間の運動が、成人の心肺機能や高齢者の筋持久力を有意に向上させることが明らかになった。また、そのような運動習慣を身に付けることを研究参加者が困難と感じていないことも示された。論文の上席著者であるOlmedillas氏は、「エクササイズ・スナックは時間効率が良く、『時間がない』とか『やる気が起こらない』といった、運動に関するよくある障壁を克服するのに役立つのではないか」と述べている。 この研究では、7件の文献データベースを用いたシステマティックレビューが行われた。それぞれのスタートから2025年4月までに収載された、運動習慣のない成人を対象としてエクササイズ・スナックによる介入を行ったランダム化比較試験の報告を検索し、11件の論文を適格と判断した。なお、エクササイズ・スナックは、5分以内の運動を1日2回以上かつ週3回以上行い、2週間以上継続する計画的な運動と定義した。 11件の研究はオーストラリア、カナダ、中国、英国で行われたもので、合計参加者数は414人、女性が69.1%だった。介入期間中、若年から中年の成人はエクササイズ・スナックとして階段昇降をすることが多く、高齢者は脚を中心とする筋力トレーニングや太極拳を行っていた。 メタ解析の結果、エクササイズ・スナックは体力(成人の心肺機能や高齢者の筋持久力)を5~17%向上させることが示された。より詳しくは、成人の心肺機能については6件の研究があり、効果量(g)が1.37(95%信頼区間0.58~2.17)で有意な向上が認められ(P<0.005)、高齢者の筋持久力については4件の研究があり、g=0.40(同0.06~0.75)でやはり有意な向上が認められた(P=0.02)。 この結果を基に研究者らは、「運動の総量が現行のガイドラインの推奨より大幅に少ない場合でも、短時間の高強度運動の積み重ねが、好ましい生理学的反応を誘発することが示唆された。心肺機能がわずかに改善するだけでも、死亡リスクの低下につながる」と述べている。さらに重要なこととして、介入の遵守率が91.1%と高く、また82.8%がその運動を継続していたことが挙げられ、これらのデータを根拠として研究者らは、「公衆衛生政策においてもエクササイズ・スナックを推奨すべきではないか」と付け加えている。

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生存時間分析 その5【「実践的」臨床研究入門】第59回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子調整の実際 その2前回はわれわれのResearch Question(RQ)をCox比例ハザード回帰モデルの式に当てはめて考えました。また、Cox比例ハザード回帰モデルを適用する前提条件である「比例ハザード性」の検証に必要な二重対数プロットの描画方法を、仮想データ・セットを用いたEZR(Easy R)の操作手順を交えて説明しました(連載第58回参照)。今回は、実際に仮想データ・セットを用いて、EZRを使用したCox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整方法について解説します。まず、以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込んでください。仮想データ・セットをダウンロードする「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に、メニューバーから以下の順に選択します。「統計解析」→「生存期間の解析」→「生存期間に対する多変量解析(Cox比例ハザード回帰)」ポップアップウィンドウが開きますので、モデル名は「Cox比例ハザード回帰_透析導入」などと入力しましょう。前回までに説明したようにCox比例ハザード回帰モデルによる多変量解析では下記の3種類の変数が必要になります(連載第58回参照)。時間イベント発生までの at risk な観察期間(連続変数)→ Yearイベント末期腎不全(透析導入)発生の有無(イベント発生=1、打ち切り=0)→ Censor説明変数多変量解析に含めるすべての要因検証したい要因treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)交絡因子age(年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースライン eGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)まずは、交絡因子による調整前の単変量解析の結果を確認しましょう。時間YearイベントCensor説明変数treatのみを選択し、「OK」をクリックします。すると、単変量解析の結果が下図のように示されます。次に多変量解析を行います。前回示したCox比例ハザード回帰モデルの数式に示したように、すべての説明変数を+でつないで選択します(下図)。説明変数treat+age+sex+dm+sbp+eGFR+Loge_UP+albumin+hemoglobin画像を拡大するそれでは「OK」をクリックしましょう。EZRのRコマンダー出力ウィンドウに表示された解析結果のうち、主要なものを以下に解説します。検証したい要因であるtreat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)のみを説明変数としたモデルでは、ハザード比(hazard ratio:HR)の点推定値は1.321であり、treat群は透析導入のリスクが高いことを示していますが、95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI)は1をまたいでおり統計学的有意差はありません。多変量解析の結果は出力ウィンドウの最後に表示されています。単変量解析ではtreat群は透析導入のリスクを上げる傾向でしたが、多変量解析で交絡因子をCox比例ハザード回帰モデルに投入した結果、調整後のHRの点推定値は0.8239となり、リスクがむしろ下がる方向に変化しました。しかし、95%CI(0.5960~1.1390)は1をまたいでいるため、統計学的に有意差はありませんでした(p=2.412e-01=0.2413)(連載第51回参照)。

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中年期に食事を抜くと将来フレイルになる可能性/長寿研

 高齢者にとってフレイルによる運動機能の低下は、日常生活に重大な悪影響を及ぼす。こうしたフレイルに明確な原因はあるのであろうか。この課題に対し、国立長寿医療センターの西島 千陽氏らの研究グループは、認知症のない65歳以上の高齢者5,063例を対象に若年期(25~44歳)および中年期(45~64歳)の食事抜きの習慣と老年期のフレイルとの関連性を検討した。その結果、若年期、中年期の食事抜きは、高齢期のフレイルに関連することがわかった。この結果は、Journal of the American Medical Directors Association誌2025年10月9日号に掲載された。中年期の食事抜き習慣はフレイルに関係する 研究グループは、知多市(愛知県)で実施したコホート研究から認知症のない65歳以上の高齢者5,063例を対象に抽出。若年期・中年期の1日当たりの食事回数を評価し、1日2食以上の食事を抜くことを「食事を抜く習慣」と定義し、二項ロジスティック回帰分析により、潜在的な交絡因子を調整したうえで、老年期のフレイルに対するオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。さらに、若年期から中年期を通じて食事を抜く習慣を4群に分類した分析を実施し、その後、現在の食事状況に基づくサブグループ別に、関連性をさらに検討した。 主な結果は以下のとおり。・完全調整モデルにおいて、若年期(OR:1.64、95%CI:1.20~2.25)および中年期(OR:2.15、95%CI:1.34~3.49)に食事を抜く習慣は、老年期のフレイルと関連していた。・若年期に食事を抜いていたが、中年期にその習慣を止めた対象者は、老年期のフレイルと関連しなかった。・中年期に食事を抜く習慣を始めた者(OR:2.18、95%CI:1.07~4.71)、および若年期から中年期を通じて食事を抜く習慣を継続した者(OR:2.35、95%CI:1.53~3.70)は、食事を抜かない者と比較して、老年期のフレイル有病率が高かった。・中年期の食事を抜く習慣と老年期のフレイルとの関連は、食事を抜く習慣を止め、老年期に3食パターンにした者においても観察された(OR:2.96、95%CI:1.50~6.18)。 研究グループは、これらの結果から「老年期のフレイルを予防するには、とくに中年期において、規則的な食習慣を身に付けることが重要」と示唆している。

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糖尿病前症の生活改善、AI介入が人間に非劣性/JAMA

 糖尿病前症の過体重または肥満の成人に対する糖尿病予防プログラム(DPP)について、人工知能(AI)主導による介入は人間主導による介入に対して、体重減少、身体活動およびHbA1cに基づく複合アウトカムの達成に関して非劣性であることが示された。米国・Johns Hopkins University School of MedicineのNestoras Mathioudakis氏らAI-DPP Study Groupが、Johns Hopkins Hospital(メリーランド州ボルティモア)およびReading Hospital Tower Health(ペンシルベニア州レディング)の2施設で実施したプラグマティックな第III相無作為化非盲検非劣性試験の結果を報告した。糖尿病前症を有する人は多数に上るが、現状エビデンスに基づくライフスタイル介入は十分に活用されていない。JAMA誌オンライン版2025年10月27日号掲載の報告。12ヵ月時点での体重減少、身体活動、HbA1cの複合アウトカムを比較 研究グループは、2021年10月11日~2024年12月16日(最終追跡調査日)に、糖尿病前症と診断された過体重または肥満を有する18歳以上の成人を、AI主導DPP群と人間主導DPP群に1対1の割合で無作為に割り付け、両介入を研究チームから独立して12ヵ月間提供した。他の構造化プログラムへの参加や、血糖ならびに体重に影響を与える薬剤の使用は禁止とした。 AI主導DPP群では、モバイルアプリとBluetooth対応体重計を介し、収集されたデータに基づき体重管理、身体活動、栄養に関する指導が個別に配信された。人間主導DPP群では、4種類の生活改善プログラムのうち1つを紹介し、当初は週1回を16回、その後は隔週~月1回、集団ビデオ会議形式の遠隔指導で行った。 主要アウトカムは、試験期間を通してHbA1cが6.5%未満に維持され、かつ12ヵ月時点において(1)5%以上の体重減少、(2)4%以上の体重減少に加え週150分以上の中~高強度の身体活動、(3)HbA1cの絶対値が0.2%以上低下、のいずれかの達成で定義される複合アウトカムであった。非劣性マージンは、リスク群間差の片側95%信頼区間(CI)下限が-15%と事前に規定された。AI主導DPPは人間主導DPPに対して非劣性 427例がスクリーニングされ、このうち適格基準を満たした368例が無作為化された(AI主導DPP群183例、人間主導DPP群185例)。年齢中央値は58歳(四分位範囲[IQR]:50~65)、女性が71%、黒人27%、ヒスパニック6%、白人61%、BMI中央値32.3(IQR:28.5~37.1)であった。AI主導DPP群では183例中171例(93.4%)が、人間主導DPP群では185例中153例(82.7%)が介入を開始した。 主要アウトカムの達成割合は、AI主導DPP群31.7%(58/183例)、人間主導DPP群31.9%(59/185例)、リスク群間差は-0.2%(片側95%CI:-8.2%)であり、非劣性基準を満たした。複合アウトカムの各構成要素の達成割合および感度解析においても、結果は一貫していた。 なお著者は、非盲検試験であること、糖尿病の発症ではなく代替アウトカムが使用されたこと、人間主導DPPの提供は施設によって異なっていた可能性があることなどを研究の限界として挙げている。

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、肺動脈圧が上昇する一連の疾患の総称である。欧州の肺高血圧症診断治療ガイドライン2022では、右心カテーテルで安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える状態と定義が変更された。さらに肺動脈性肺高血圧症(PAH)に関しても、mPAP>20mmHgかつ肺動脈楔入圧(PAWP)≦15mmHg、肺血管抵抗(PVR)>2 Wood単位(WU)と診断基準が変更された。しかし、わが国において、厚生労働省が指定した指定難病PAHの診断基準は2025年8月の時点では「mPAP≧25mmHg、PVR≧3WU、PAWP≦15mmHg」で変わりない。この数字は現在保険収載されている肺血管拡張薬の臨床試験がmPAP≧25mmHgの患者を対象としていることにある。mPAP 20~25mmHgの症例に対する治療薬の臨床的有用性や安全性に関する検証が待たれる。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。従来、特発性PAHは30代を中心に20~40代女性に多く発症する傾向があったが、最近の調査では高齢者かつ男性の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。肺血管平滑筋細胞などの血管を構成する細胞の異常増殖は、細胞増殖抑制性シグナル(BMPR-II経路)と細胞増殖促進性シグナル(ActRIIA経路)のバランスの不均衡により生じると考えられている3)。遺伝学的には2000年に報告されたBMPR2を皮切りに、ACVRL1、ENG、SMAD9など、TGF-βシグナル伝達に関わる遺伝子が次々と疾患原因遺伝子として同定された4)。これらの遺伝子変異は家族歴を有する症例の50~70%、孤発例(特発性PAH)の20~30%に発見されるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類『ESC/ERS肺高血圧症診断治療ガイドライン2022』に示されたPHの臨床分類を以下に示す8)。1群PAH(肺動脈性肺高血圧症)1.1特発性PAH1.1.1 血管反応性試験でのnon-responders1.1.2 血管反応性試験でのacute responders(Ca拮抗薬長期反応例)1.2遺伝性PAH1.3薬物/毒物に関連するPAH1.4各種疾患に伴うPAH1.4.1 結合組織病(膠原病)に伴うPAH1.4.2 HIV感染症に伴うPAH1.4.3 門脈圧亢進症に伴うPAH(門脈肺高血圧症)1.4.4 先天性心疾患に伴うPAH1.4.5 住血吸虫症に伴うPAH1.5 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)の特徴をもつPAH1.6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)2群PH(左心疾患に伴うPH)2.1 左心不全2.2.1 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)2.2.2 左室駆出率が低下または軽度低下した心不全2.2 弁膜疾患2.3 後毛細血管性PHに至る先天性/後天性の心血管疾患3群PH(肺疾患および/または低酸素に伴うPH)3.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)3.2 間質性肺疾患(ILD)3.3 気腫合併肺線維症(CPFE)3.4 低換気症候群3.5 肺疾患を伴わない低酸素症(例:高地低酸素症)3.6 肺実質の成長障害4群PH(肺動脈閉塞に伴うPH)4.1 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)4.2 その他の肺動脈閉塞性疾患5群PH(詳細不明および/または多因子が関係したPH)5.1 血液疾患5.2 全身性疾患(サルコイドーシス、肺リンパ脈管筋腫症など)5.3 代謝性疾患5.4 慢性腎不全(透析あり/なし)5.5 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTN)5.6 線維性縦郭炎5.7 複雑先天性心疾患■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。近年では5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例も一定数存在し、肺移植施設への照会、肺移植適応の検討も考慮される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、他のPHを来す疾患の除外(鑑別診断)、および重症度評価が行われる。症状の急激な進行や重度の右心不全を呈する症例はPH診療に精通した医師に相談することが望ましい。PHの各群の鑑別のためには、まず左心性心疾患による2群PH、呼吸器疾患/低酸素による3群PHの存在を検索し、次に肺換気血流シンチグラムなどにより肺血管塞栓性PH(4群)を否定する。ただし、呼吸器疾患/低酸素によるPHのみでは説明のできない高度のPHを呈する症例では1群PAHの合併を考慮すべきである。わが国の『肺高血圧症診療ガイダンス2024』に示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。図1 PHの鑑別アルゴリズム(診断手順)画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(指定難病PAHの診断基準に準拠)(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、右室拡大や左室圧排所見、三尖弁逆流速度の上昇(>2.8m/s)、三尖弁輪収縮期移動距離の短縮(TAPSE<18mm)、など2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)『ESC/ERSのPH診断・治療ガイドライン2022』を基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9,10)。図2 PAHの治療アルゴリズム画像を拡大するこれはPAH症例にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する症例には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase(sGC)刺激薬リオシグアトはPDE5-iとは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。初期治療開始に先立ち、急性血管反応性試験(AVT)の反応性を確認する。良好な反応群(responder)には高用量のCa拮抗薬が推奨される。しかし、実臨床においてCa拮抗薬長期反応例は少なく、3~4ヵ月後の血行動態改善が乏しい場合には他の薬剤での治療介入を考慮する。AVT陰性例には重症度に基づいた予後リスク因子(表)を考慮し、リスク分類に応じて3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。表 PAHのリスク層別化画像を拡大する低~中リスク群にはERA(アンブリセンタン、マシテンタン)およびPDE5-i(シルデナフィル、タダラフィル)の2剤併用療法が広く行われている。高リスク群には静注・皮下注投与によるPGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)、ERA、PDE5-iの3剤併用療法を行う。最近では初期から複数の治療薬を同時に併用する「初期併用療法」が主流となり良好な治療成績が示されているが、高齢者や併存疾患(高血圧、肥満、糖尿病、肺実質疾患など)を有する症例では、安全性を考慮しERAもしくはPDE5-iによる単剤治療から慎重に開始すべきである。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも十分留意する。初期治療開始後は3~4ヵ月以内に血行動態の再評価が望まれる。フォローアップ時において中リスクの場合は、経口PGI2受容体刺激薬セレキシパグもしくは吸入PGI2製剤トレプロスチニルの追加、PDE5-iからsGC刺激薬リオシグアトへの薬剤変更も考慮される。しかし、経口薬による多剤併用療法を行っても機能分類-III度から脱しない難治例には時期を逸さぬよう非経口PGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)の導入を考慮すべきである。すでに非経口PGI2製剤を導入中の症例で用量変更など治療強化にも抵抗を示す場合は、肺移植認定施設に紹介し、肺移植適応を検討する。2025年8月にアクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプト(商品名:エアウィン 皮下注)がわが国でも保険収載された。これまでの3系統の肺血管拡張薬とは薬理機序が異なり、アクチビンシグナル伝達を阻害することで細胞増殖抑制性シグナルと細胞増殖促進性シグナルのバランスを改善し、肺血管平滑筋細胞の増殖を抑制する新しい薬剤である11)。ソタテルセプトは、既存の肺血管拡張薬による治療を受けている症例で中リスク以上の治療強化が必要な場合、追加治療としての有効性が期待される。3週間ごとに皮下注射する。主な副作用として、出血や血小板減少、ヘモグロビン増加などが報告されている。PHに対して開発中の薬剤や今後期待される治療を紹介する。吸入型のPDGF阻害薬ソラルチニブが成人PAHを対象とした第III相臨床試験を国内で進捗中である。トレプロスチニルのプロドラッグ(乾燥粉末)吸入製剤について海外での第II相試験が完了し、1日1回投与で既存の吸入薬に比べて利便性向上が期待できる。内因性エストロゲンはPHの病因の1つと考えられており、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されている。世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められており、国内でも先進医療として薬物療法抵抗性PH対する新たな治療戦略として期待されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。とくに細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(日本循環器学会)(2025年改訂された日本循環器学会および日本肺高血圧・ 肺循環学会の合同作成による肺高血圧症に関するガイドライン)肺高血圧症診療ガイダンス2024(日本肺高血圧・肺循環学会)(欧州ガイドライン2022を基とした日本の実地診療に即したガイダンス)2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(2022年に発刊された最新版の欧州ガイドライン、英文のみ)患者会の情報NPO法人 PAHの会(肺高血圧症患者と家族が運営している全国組織の患者会)Pulmonary Hypertension Association(世界最大かつ最古の肺高血圧症協会で16,000人以上の患者・家族・医療専門家からなる国際的なコミュニティ、日本語選択可) 1) Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495. 2) Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31. 3) Guignabert C, et al. Circulation. 2023; 147: 1809-1822. 4) 永井礼子. 日本小児循環器学会雑誌. 2023; 39: 62-68. 5) Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343. 6) Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361. 7) Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506. 8) Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022;43:3618-3731. 9) 日本肺高血圧・肺循環学会. 肺高血圧症診療ガイダンス2024. 10) Chin KM, et al. Eur Respir J. 2024;64:2401325. 11) Sahay S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024;210:581-592. 公開履歴初回2013年07月18日更新2025年11月06日

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日本人男性、認知機能と関連する肥満指標は?

 地域在住の日本人中高年男性において、さまざまな肥満指標と認知機能との関連を調査した結果、腹部の内臓脂肪面積/皮下脂肪面積比(VSR)が低いと認知機能が低いことが示された。滋賀医科大学の松野 悟之氏らがPLoS One誌2025年10月23日号で報告した。 これまでの研究では、内臓脂肪組織が大きい人は認知症リスクが高く、内臓脂肪組織が認知機能低下と関連していたという報告がある一方、内臓脂肪組織と認知機能の関係はなかったという報告もあり一貫していない。この横断研究では、滋賀県草津市在住の40~79歳の日本人男性を対象とした滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis)に参加した853人のうち、Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)に回答し、CTで腹部の内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を測定した776人のデータを解析した。参加者をVSRの四分位で分け、共分散分析を用いて各四分位群のCASI合計スコアおよび各ドメインスコアの粗平均値および調整平均値を潜在的交絡因子を調整して算出した。 主な結果は以下のとおり。・776人の平均年齢は68.4歳であった。・BMI、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積の四分位群間でCASI合計スコアに有意差は認められなかったが、多変量調整モデルでは、VSRが最も低い第1四分位群(Q1)の参加者のCASI合計スコアの平均(89.5)は、第3四分位群(Q3)の参加者の平均(90.9)より有意に低く、低いVSRが低い認知機能と独立して関連していた。 著者らは「本研究の結果は、比較的肥満度の低い日本人男性においては、内臓脂肪組織と皮下脂肪組織を個別に評価するのではなく、VSRに注目する必要があることを示唆する」と結論している。

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英語プレゼン最大の壁「質疑応答」もAIで克服!【タイパ時代のAI英語革命】第12回

英語プレゼン最大の壁「質疑応答」もAIで克服!国際学会での発表において、発表後の質疑応答セッションは研究の真価が問われる重要な場面です。とくに英語での質疑応答は、日本人研究者にとって最も緊張が高まる瞬間の1つでしょう。質問に対して即座に英語で答えるのは難しく感じるかもしれませんが、ポイントは「事前準備」にあります。想定される質問とその回答をあらかじめ準備しておくことで、落ち着いて自信を持って対応することが可能になります。想定質問を考える想定質問の作成は、生成AIを活用することで大幅に効率化できます。研究抄録や読み原稿の文章を入力するだけで、専門家の視点からクリティカルで具体的な質問を生成してもらえます。以下は想定質問を作成する際のプロンプト例です。プロンプト例#役割あなたは○○領域の権威ある医師です。#命令入力した抄録に対して5つの質問を考えてください。#制約条件出力は英語で行ってください。研究を批判的に分析し、研究の弱点や欠点、改善点やさらなる調査の必要性を指摘する質問をしてください。#抄録[ここに抄録を入力]このように入力すると、研究の内容を批判的に検討したうえでバランスの取れた質問リストが得られます。さらに、発表スライドやポスターの内容、読み原稿を追加で提示すれば、より網羅的な質問を引き出すことも可能です。想定質問への回答を考える想定質問をリストアップできたら、次は想定質問への回答を考えます。プロンプト例挙げられた5つの質問に対して、英語で回答例を作成してください。質問者への感謝や尊敬の念を示しつつ、口語調でわかりやすい英語表現をしてください。AIが生成する内容は、不正確な情報を含んでいる可能性があります。あくまで回答の「型」や「表現のバリエーション」として活用し、内容そのものは、ご自身の知識、先行研究、そして正確なデータに基づいて、必ず手直ししてください。ロールプレイをする想定質問と回答の準備ができたら、いよいよ実践練習です。スムーズに、そして自信を持って回答できるよう、徹底的に練習を重ねましょう。ある程度の練習ができたら、ChatGPTを相手に実際の質疑応答をシミュレーションする「ロールプレイ」を行います。これにより、本番さながらの緊張感の中で、即座に英語で反応する力を養うことができます。プロンプト例#役割あなたは○○領域の権威ある医師です。#命令入力した抄録に関して、質疑応答のロールプレイを行ってください。#制約条件出力は英語で行ってください。研究を批判的に分析し、研究の弱点や欠点、改善点やさらなる調査の必要性を指摘する質問をしてください。質問は1個ずつ行い、全部で10個の質問をしてください。質問の後は、私が回答します。私の回答の後には、文法ミスや表現について的確なフィードバックを行い、その後次の質問に移ってください。#抄録[ここに抄録を入力]このプロンプトを入力することで、以下のような効果的な練習サイクルが実現します。1.ChatGPTから質問が提示される2.あなたが英語で回答する3.ChatGPTがあなたの回答に対し、文法や表現に関する具体的なフィードバックを行う4.ChatGPTが次の質問に移るこのサイクルを繰り返すことで、回答のブラッシュアップだけでなく、リアルタイムでの思考力と英語表現力を鍛えることができます。このロールプレイの練習では、3つの段階でステップアップしていくことがお勧めです。初期段階(キーボード入力): 慣れるまでは、あなたの回答をキーボードで入力しましょう。これにより、落ち着いて文法や語彙を確認しながら練習することができます。中級段階(音声入力): ある程度慣れてきたら、ChatGPTの音声入力機能(Dictation)を利用し、自分の回答を実際に声に出して入力しましょう。これにより口頭での応答に慣れてきます。最終段階(音声のみの会話): 最終的には、上記のプロンプトを入力した後にChatGPTの音声モードに切り替え、音声のみで質疑応答の会話を完結させます。これにより、本番の学会発表に近い状況で、リスニングとスピーキングを同時に行う実践的な練習が可能になります。音声モードのやりとりまでスムーズにできるようになれば、質疑応答対策はもう心配ありません。自信を持って本番に臨むことができるでしょう。(5章以降は2026年春に公開予定です)

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がん治療の中断・中止を防ぐ血圧管理方法とは/日本腫瘍循環器学会

 第8回日本腫瘍循環器学会学術集会が2025年10月25、26日に開催された。本大会長を務めた向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター 副所長)が日本高血圧学会合同シンポジウム「Onco-Hypertensionと腫瘍循環器の新たな関係」において、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』の第10章「他疾患やライフステージを考慮した対応」を抜粋し、がん治療の中断・中止を防ぐための高血圧治療実践法について解説した。高血圧はがん患者でもっとも多い合併症の一つ、がんと高血圧の関係は双方向性を示す がんと高血圧はリスク因子も発症因子も共通している。たとえば、リスク因子には加齢、喫煙、運動不足、肥満、糖尿病が挙げられ、発症因子には血管内皮障害、酸化ストレス、炎症などが挙げられる。そして、高血圧はがん治療に関連した心血管毒性として、心不全や血栓症などに並んで高率に出現するため、血圧管理はがん治療の継続を判断するうえでも非常に重要な評価ポイントとなる。また、高血圧が起因するがんもあり、腎細胞がんや大腸がんが有名であるが、近年では利尿薬による皮膚がんリスクが報告されている1)。 このように高血圧とがんは密接に関連しており、今年8月に改訂された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、高血圧GL)には新たに「第10章7.担がん患者」の項2)が追加。治療介入が必要な血圧値を明記するとともに、がん特有の廃用性機能障害・栄養障害、疼痛、不安などの全身状態に伴う血圧変動にも留意する旨が記載されている。 向井氏は「このような高血圧はがん治療関連高血圧と呼ばれ、さまざまながん治療で発症する。血圧上昇のメカニズムは血管新生障害をはじめ、血管拡張障害によるNO低下、ミトコンドリアの機能低下など多岐にわたる。血圧上昇に伴いがん治療を中断させないためにも、発症早期からの適切な降圧が必要」と強調した。<注意が必要な薬効クラス/治療法と高血圧の発生率>3,4)・VEGF阻害薬(血管新生阻害薬):20~90%・BTK阻害薬:71~73%・プロテアソーム阻害薬:10~32%・プラチナ製剤:53%・アルキル化薬:36%・カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン):30~60%・BRAF/MEK阻害薬:20%・RET阻害薬:43%・PARP阻害薬:19%・mTOR阻害薬:13%・ホルモン療法(アンドロゲン受容体遮断薬・合成阻害薬):11~26%*注:上記についてすべての症例が同様の結果を示すわけではない140/90mmHg以上で降圧薬開始、がん治療後も130/80mmHg未満を この高血圧GLにおいて、がん治療患者の降圧治療開始血圧は140/90mmHg以上、動脈硬化性疾患、慢性腎臓病、糖尿病合併例では130/80mmHg以上で考慮することが示され、まずは140/90mmHg未満を目指す。もし、降圧治療に忍容性があれば130/80mmHg未満を、転移性がんがある場合には予後を考慮して140~160/90~100mmHgを目標とする。 がん治療終了後については、血圧管理は130/80mmHg未満を目標とする。治療介入するには低過ぎるのでは? と指摘する医師も多いようだが、患者の血管はがんやがん治療によりすでに傷害されていることがあり、「その状況で血圧上昇を伴うと早期に臓器障害が出現してしまう」と同氏は経験談も交えて説明した。ただし、廃用性機能障害・栄養障害 を示す症例において血圧の下げ過ぎはかえって危険なため、がん治療関連高血圧マネジメントにおいては、基本的には高リスクI度高血圧およびII・III度高血圧に対する降圧薬の使い方(第8章1.「2)降圧薬治療STEP」)の遵守が重要である。同氏は「STEP1として、治療開始はまず単剤(RA系阻害薬あるいは長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)から、160/100mmHg以上の場合には両者を併用する。降圧不十分な場合にはSTEP2、3と高血圧GLに沿って降圧薬を選択していく」とし、「がん患者の病態をチェックしながら体液貯留や脱水状態そして頻拍、心機能障害などの有無などに合わせ降圧薬を選択する必要がある。さらに治療抵抗性を示す症例では選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)などの投与を考慮して欲しい」と説明した。 がん治療の中止基準となる血圧値については「180/110mmHg以上または高血圧緊急症が認められた場合、がん治療の休止/中止または治療薬変更が求められる」と説明した。 最後に同氏は「がん治療終了後も治療終了(中止)に伴う血圧変化として血圧低下に注意し、がんサバイバーにおいては晩期高血圧のフォローアップが重要となる。そのためには、がん治療が終了した後もがん治療医、循環器医、そして腎臓内科医やプライマリケア医、外来薬剤師などが連携して、患者の血圧管理を継続してほしい」と締めくくった。「大阪宣言2025」 今回の学術集会では、日本の腫瘍循環器外来発症の地、大阪での開催を1つの節目として、南 博信氏(神戸大学大学院医学研究科 腫瘍・血液内科/日本腫瘍循環器学会 理事長)による「大阪宣言2025」がなされた。これは、がん診療医と循環器医が診療科横断的に協力し合い、多職種が連携・協同し、がん患者の心血管リスクや心血管合併症の管理・対応、がんサバイバーにおける予防的介入により、がん患者・がんサバイバーの生命予後延伸とQOL改善を目指すため、そして市民啓発から腫瘍循環器の機運を高めていくために宣言された。 日本での腫瘍循環器学は、2011年に大阪府立成人病センター(現:大阪国際がんセンター)で腫瘍循環器外来が開設されたことに端を発する。その後、2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され、2023年日本臨床腫瘍学会/日本腫瘍循環器学会よりOnco-Cardiologyガイドラインが発刊されるなど、国内での腫瘍循環器診療の標準化が着実に進められている。

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左室駆出率の保たれた心不全に対するセマグルチドとチルゼパチドの比較―大規模エミュレーション研究から(解説:加藤貴雄氏)

 本研究は、保険請求データベースを利用して、ランダム化比較試験(セマグルチドのSTEP-HFpEF DM試験とチルゼパチドのSUMMIT試験)の大規模エミュレーションを行った研究で、セマグルチドとチルゼパチドの直接の比較をした点が重要である。エミュレーションとは、「模倣」との意味で、観察データを用いてtarget trialを模倣する手法である。今回のランダム化比較試験2本の組み入れ・除外基準から条件を模倣したものであり、2型糖尿病がありBMI 27以上が模倣的な組み入れ基準である。心血管アウトカムに影響を及ぼさないとされているシタグリプチンを対照として、総死亡と心不全の悪化による入院の複合イベントにおけるセマグルチドとチルゼパチドの優位性を調べた後に、セマグルチドとチルゼパチドの比較も行っている。 セマグルチド対シタグリプチンのコホートには5万8,333例、チルゼパチド対シタグリプチンのコホートには1万1,257例、チルゼパチド対セマグルチドのコホートには2万8,100例が組み入れられた。このように、RCTを模倣(拡張)した形でコホート研究を利用するメリットに、多数例の組み入れがある。 プロペンシティスコアでマッチングが行われた結果、シタグリプチンと比較したセマグルチドの複合イベントの調整ハザード比(HR)は0.58(95%信頼区間[CI]:0.51~0.65)、チルゼパチドは0.42(95%CI:0.31~0.57)であった。患者背景は、年齢や薬剤などは実際のランダム化比較試験と似ているが、心不全入院既往は少ない、BMIは高め(BMI 40以上が40%前後)であるなど差がある。チルゼパチド群のイベント率は、SUMMIT試験と同程度と思われたが、SUMMIT試験と異なり早期の3ヵ月の段階で、すでにカプランマイヤー曲線が大きく開いていた。 セマグルチドとチルゼパチドの比較では、HRは0.86(95%CI:0.70~1.06)で有意差はなかった結果であった。予後を比較していないhead-to-headの比較は、NEJM誌(Aronne LJ, et al. N Engl J Med. 2025;393:26-36.)で報告されてチルゼパチド群がより非糖尿病患者において体重を減少させたことが示されたが、用量の固定の問題などが指摘されているところである。現実的にhead-to-headの比較が困難なことは多く、本研究のような手法がリアルワールドデータの活用に有用と思われる。私たちも、リアルワールドデータベースを用いて、HFpEF+2型糖尿病患者でセマグルチドとチルゼパチドの新規使用者の予後に差がなかったことを示しており(Kishimori T, et al. J Card Fail. 2025 Sep 12. [Epub ahead of print])、本研究の結果と合致する。 今後、どのような患者がより好適か、患者背景などによる薬剤選択、BMI 40以上が約40%の試験を日本人にどう適用するかなど、個別化・最適化が図られていくことが望まれる。

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抗うつ薬30種類の生理学的影響を比較~ネットワークメタ解析/Lancet

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのToby Pillinger氏らは系統的レビューとネットワークメタ解析を行い、抗うつ薬はとくに心代謝パラメータにおいて薬剤間で生理学的作用が著しく異なるという強力なエビデンスがあることを明らかにした。抗うつ薬は生理学的変化を誘発するが、各種抗うつ薬治療におけるその詳細は知られていなかった。結果を踏まえて著者は、「治療ガイドラインは、生理学的リスクの違いを反映するよう更新すべき」と提唱している。Lancet誌オンライン版2025年10月21日号掲載の報告。15のパラメータの変化をネットワークメタ解析で評価 研究チームは、2025年4月21日の時点で医学関連データベースに登録された関連文献を検索し、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成を受けた)。対象は、成人の精神疾患患者の急性期(8週目まで)単剤療法において、抗うつ薬とプラセボを比較した単盲検または二重盲検無作為化臨床試験の論文とした。 頻度論的な変量効果ネットワークメタ解析により、抗うつ薬治療による抑うつ症状の重症度の変化と、次の15の代謝パラメータの変化の相関性を評価した。体重、総コレステロール、血糖、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、補正QT間隔(QTc)、ナトリウム、カリウム、アスパラギン酸トランスフェラーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、ビリルビン、尿素、クレアチニン。 151件の研究と17件の米国食品医薬品局(FDA)の報告書が選択基準を満たした。対象は5万8,534例(抗うつ薬[30種の薬剤]群4万1,937例、プラセボ群1万6,597例)で、平均年齢は44.7(SD 15.8)歳、女性が62.0%、白人が74.8%であり、治療期間の範囲は3~12週(中央値:8週、四分位範囲:6.0~8.5)であった。4つの試験が、バイアスのリスクが高いと判定された。体重に4kg、心拍数に21bpm、収縮期血圧に11mmHg以上の差 代謝および血行動態に及ぼす影響について、抗うつ薬間で臨床的に有意な差を認めた。たとえば、(1)体重:プラセボと比較してagomelatineで2.44kg減少、同様にマプロチリンで1.82kg増加し(いずれも有意差あり)、両群間で4.26kgの差、(2)心拍数:フルボキサミンで8.18bpm低下、ノルトリプチリンで13.77bpm上昇し(いずれも有意差あり)、21.95bpmの差、(3)収縮期血圧:ノルトリプチリンで6.68mmHg低下、doxepinで4.94mmHg上昇し(いずれも有意差あり)、11.62mmHgの差が観察された。 また、パロキセチン、デュロキセチン、desvenlafaxine、ベンラファキシンは総コレステロール値の上昇(プラセボと比較してそれぞれ0.16、0.17、0.27、0.22mmol/Lの上昇、いずれも有意差あり)と関連し、デュロキセチンはさらに血糖値の上昇(0.30mmol/Lの上昇、有意差あり)とも関連しており、これら4つの薬剤は体重減少(それぞれ0.35、0.63、0.63、0.74kgの減少、いずれも有意差あり)をももたらした。 一方、デュロキセチン、desvenlafaxine、levomilnacipranについては、AST(プラセボと比較してそれぞれ2.08、1.27、1.78IU/Lの上昇、いずれも数値上の有意差あり)、ALT(同様に2.20、1.43、1.97IU/Lの上昇、有意差あり)、ALP(同様に2.29、7.25、4.55IU/Lの上昇、有意差あり)の濃度上昇の強力なエビデンスを得たが、これらの変化の程度は臨床的に有意とは見なされなかった。高齢ほど血糖値上昇幅が大きい QTcとナトリウム、カリウム、尿素、クレアチニンの濃度には、臨床的に有意な影響を及ぼすほどの抗うつ薬の強いエビデンスを認めなかった。また、ベースラインの体重が重いほど、抗うつ薬による収縮期血圧、ALT、ASTの上昇幅が大きく、ベースラインの年齢が高いほど、抗うつ薬による血糖値の上昇幅が大きかった。抑うつ症状の変化と代謝異常との間に関連はみられなかった。 著者は、「これらの知見は、個別の抗うつ薬には高頻度で多様な生理学的副作用があることを示しており、とくに体重、心拍数、血圧の生理学的変化の程度は大きい。マプロチリンやアミトリプチリンは、患者のほぼ半数に臨床的に重要な体重増加を引き起こす可能性がある」「抗うつ薬の選択は、臨床所見および患者、介護者、臨床医の意向を考慮し、個別に行うべき」としている。

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帯状疱疹後神経痛、発症しやすい人の特徴

 帯状疱疹を発症すると、帯状疱疹の皮疹や水疱消失後に帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)と呼ばれる合併症を伴う場合があり、3ヵ月後で7~25%、6ヵ月後で5~13%の人が発症しているという報告もある1)。今回、中国・Henan Provincial People's HospitalのJing Wang氏らは、PHNの独立した危険因子となる患者背景を明らかにした。Frontiers in Immunology誌2025年10月1日号掲載の報告。 本研究は、PHN高リスク患者の早期発見と予防戦略の最適化支援を目的として、PHNの独立した危険因子を特定するため、PubMed、Embase、Cochrane Libraryを検索。メタ解析にて人口統計学的特徴、臨床症状、治療計画、合併症、ウイルス学的因子などの評価を包括的に分析し、結果の堅牢性を検証するための感度分析も実施した。なお、研究間の異質性はI2統計量とコクランのQ検定を用いて評価し、閾値は低異質性(I2<30%)、中等度の異質性(I2=30~60%)、高異質性(I2>60%)と定義した。 主な結果は以下のとおり。・本システマティックレビューにて36件(前向き研究15件、症例対照研究5件、後ろ向き研究13件、システマティックレビュー3件)が特定され、そのうち24件をメタ解析した。・PHNの独立した危険因子として、以下のものが主に特定された。 ●60歳以上:オッズ比(OR) 1.16(95%信頼区間[CI]:1.15~1.17、高異質性) ●喫煙やアルコール摂取などの生活歴:OR 1.13(95%CI:1.07~1.20、高異質性) ●免疫抑制薬による治療:OR 1.94(95%CI:0.16~23.44、異質性なし) ●糖尿病:OR 1.29(95%CI:1.05~1.60、高異質性) ●慢性閉塞性肺疾患:OR 1.70(95%CI:1.23~2.35、異質性あり) ●高血圧症:OR 1.82(95%CI:1.28~2.58、異質性なし) ●悪性腫瘍:OR 1.99(95%CI:1.07~3.70、異質性なし) ●慢性腎臓病:OR 1.08(95%CI:0.99~1.17、異質性なし)・このほか、重度の発疹、前駆症状としての疼痛、アルコール乱用、検出ウイルス量の高さなども危険因子の可能性を示していた。・一方、性差および社会経済的地位はPHNの発症と有意な関連を示さず、十分なエビデンスが認められなかった(I2>50%、p>0.05)。 研究者らは「帯状疱疹の重症度が急性疼痛の強さとともにPHNの重要な危険因子であり、また、上記の危険因子以外にも新型コロナウイルスが潜在的な危険因子となる可能性があるため、さらなる調査が必要である」としている。

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亜鉛欠乏がCKD患者のAKIリスクを37%上昇、死亡リスクは約2倍に

 慢性腎臓病(CKD)患者における亜鉛欠乏が、急性腎障害(AKI)発症および死亡の独立したリスク因子であることが、台湾・Chi Mei Medical CenterのYi-Chen Lai氏らによる大規模リアルワールドデータ解析で明らかになった。Frontiers in Nutrition誌2025年9月25日号掲載の報告。 AKIはCKD患者にしばしば合併し、重症化すると生命予後を著しく悪化させるが、既知のリスク因子の多くは高齢や糖尿病などで修正が難しい。一方、動物実験では亜鉛補充が腎障害を抑制する可能性が示唆されているものの、ヒトを対象とした大規模研究は乏しい。そこで研究グループは、CKD患者を対象に、ベースラインの亜鉛欠乏がAKI発症や腎機能悪化リスクにどのように関連するかを検討するため、大規模後ろ向き解析を実施した。 TriNetX Analytics Network Platformを用いて、CKDの既往歴を有し、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛検査を受けた18歳以上の患者を特定した。患者を亜鉛欠乏群(70μg/dL未満)と対照群(70~120μg/dL)に分類し、傾向スコアマッチングを行った。マッチングは年齢、性別、併存疾患、臨床検査値、使用薬剤などの背景因子を調整して1:1で実施した。主要評価項目は追跡12ヵ月時の新規AKI発症とし、副次評価項目は全死因死亡、末期腎不全(ESRD)、集中治療室(ICU)入院、主要心血管イベント(MACE)の発生として、各ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・両群はそれぞれ5,619例で、平均年齢は亜鉛欠乏群64.0±15.7歳、対照群63.8±15.4歳。女性はそれぞれ56.6%および56.3%であった。・追跡12ヵ月時点で、亜鉛欠乏群では対照群と比べてAKI発症、ESRD進行、死亡などのリスクが有意に高かった。 -AKI発症 19.3%vs.14.9%、HR:1.37、95%CI:1.25~1.50、p<0.001 -ESRD進行 1.9%vs.1.4%、HR:1.40、95%CI:1.04~1.88、p=0.025 -死亡 9.0%vs.4.8%、HR:1.95、95%CI:1.68~2.26、p<0.001 -ICU入院 8.7%vs.5.8%、HR:1.56、95%CI:1.35~1.79、p<0.001 -MACE発症 25.0%vs.23.5%、HR:1.10、95%CI:1.02~1.19、p=0.012・亜鉛欠乏によるAKIおよびESRDのリスク上昇は、12ヵ月時点よりも6ヵ月時点でより顕著であり、早期から影響が及ぶ可能性が示唆された。・栄養失調の患者を除外しても、亜鉛欠乏群ではAKI、死亡、ICU入院のリスクが有意に高かった。・サブグループ解析では、年齢・性別・糖尿病・高血圧・肥満・貧血の有無にかかわらず一貫してAKIリスクが上昇した。・多変量Cox回帰分析でも、亜鉛欠乏(HR:1.44)は新規AKI発症の独立予測因子として確認された。このリスク上昇幅は、心不全(HR:1.51)や貧血(HR:1.57)などの既知の主要なAKIリスク因子に匹敵するものであり、亜鉛欠乏が修正可能なリスク因子である可能性が示唆された。

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過体重/肥満へのセマグルチド、心血管リスク低下は体重減少に依存せず/Lancet

 英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJohn Deanfield氏らは、41ヵ国804施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験「SELECT試験」の事前に規定されたサブ解析において、セマグルチドの心血管アウトカムに対する有益性はベースラインにおける肥満指標および体重減少に依存せず、ウエスト周囲長との関連もわずかであったことを明らかにした。SELECT試験では、心血管疾患既往で過体重または肥満であるが糖尿病の既往のない患者において、セマグルチドが主要有害心血管イベント(MACE)を減少させることが示されていた。著者は、「本解析の結果は、セマグルチドの肥満低減以外の何らかのメカニズムによる有益性を示唆するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月22日掲載の報告。SELECT試験の事前規定のサブ解析 SELECT試験の対象は、BMI値27以上の心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、症候性末梢動脈疾患)の既往を有する45歳以上の患者であり、スクリーニング時のHbA1c値が6.5%以上、1型または2型糖尿病の既往、末期腎不全、スクリーニング前60日以内の心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症による入院・一過性脳虚血発作の既往、またはNYHA心機能分類IVの心不全の患者は除外した。 適格患者を、セマグルチド群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与した。投与量は0.24mgの週1回投与より開始して4週ごとに漸増し、17週目より目標用量の2.4mgとした。 肥満指標として体重(無作為化時、20週時までは4週ごと、その後は治療終了まで13週間ごと)、およびウエスト周囲長(無作為化時、20週時、その後は治療終了まで年1回)を測定した。 主要エンドポイントは、初発のMACE(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)までの期間であり、本解析では、20週以降のMACE発生リスクを最初の20週間における肥満指標の変化に基づき患者間で評価するとともに、104週間の肥満指標の変化に基づく試験期間中の全MACEを患者間で評価した。体重減少量とは独立、ウエスト周囲長減少量がわずかに影響 SELECT試験に登録された計1万7,604例において、セマグルチドはプラセボと比較しMACE発生率を有意に減少させ、ベースラインの体重、ウエスト周囲長、BMI値およびウエスト周囲長身長比の各項目の全カテゴリーで一貫した有益性が認められた。 各治療群内では、ベースラインの肥満指標が低いほどMACEリスクが低かった。セマグルチド群内では、ベースライン体重が5kg低いごとにMACEリスクが4%低下(ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.94~0.99、p=0.001)、ウエスト周囲長が5cm短いごとにリスクが4%低下(0.96、0.93~0.99、p=0.004)した。一方、プラセボ群では、ベースラインのウエスト周囲長が5cm短いごとにMACEリスクが4%低下(0.96、0.94~0.99、p=0.007)したが、体重との関連はみられなかった(0.99、0.97~1.01、p=0.28)。 セマグルチド群では、20週時の体重減少量とその後のMACEリスクとの間に線形傾向は認められなかったが、20週時のウエスト周囲長減少量はその後のMACEリスクの低下と関連しており、104週時のウエスト周囲長減少量は試験期間中のMACEリスク低下と関連した。 セマグルチド群において、後期のMACEリスク低下の33%は早期のウエスト周囲長の変化を介したものであることが推定された(ウエスト周囲長を時間依存共変量とした補正後のHR:0.86、95%CI:0.77~0.97)。

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胎児~2歳の砂糖摂取制限と成人期の心血管リスクの関係/BMJ

 英国における受胎後1,000日間(胎児~2歳)にわたる砂糖配給制への曝露は、成人期の心血管リスク低下および心機能指標のわずかな改善と関連しており、胎児期~生後早期の砂糖摂取制限が心血管への長期的な有益性をもたらす可能性があることが、中国・香港科技大学のJiazhen Zheng氏らによる自然実験研究で示された。受胎後1,000日間は、栄養が生涯にわたる心代謝リスクを形成する重要な時期であるが、多くの乳幼児は母体の食事、人工乳、離乳食を通じて添加糖類を過剰に摂取している。胎児期~生後早期の砂糖摂取制限の成人期の心血管リスクに対する影響について、エビデンスは限られており間接的なものであった。BMJ誌2025年10月22日号掲載の報告。UK Biobankの約6万3,000人について、砂糖配給制への曝露の有無で解析 研究グループは、UK Biobank(2006~10年に40~70歳の一般住民を募集)の参加者のうち、1951年10月~1956年3月生まれの6万3,433人(心血管疾患・心不全・心房細動の既往、多胎妊娠、養子縁組、英国外出生者を除く)のデータを解析した。1953年の砂糖配給制終了時点における出生日に基づくと、砂糖配給制を受けた(砂糖配給)群は4万63人、受けなかった(非配給)群は2万3,370人であった。さらに砂糖配給群を砂糖配給制への曝露期間に基づいて分類し、主要解析では「子宮内のみ」と「子宮内+1~2年」に分けた。 主要アウトカムは、心血管疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中および心血管疾患死で、リンクされた各種登録、医療記録を用いて特定した。砂糖配給制と主要アウトカムとの関連について、人口統計学的・社会経済的要因、生活習慣、親の健康状態、遺伝的要因および地理的要因を調整したCox回帰モデルおよびパラメトリックハザードモデルを用いてハザード比(HR)を推定した。砂糖配給制への曝露期間が長いほど、成人期の心血管リスクが低下 砂糖配給制への曝露期間が長いほど、成人期の心血管リスクは漸減した。非配給群と比較し子宮内+1~2年曝露群ではHRが、心血管疾患は0.80(95%信頼区間[CI]:0.73~0.90)、心筋梗塞は0.75(95%CI:0.63~0.90)、心不全は0.74(0.59~0.95)、心房細動は0.76(0.66~0.92)、脳卒中は0.69(0.53~0.89)、心血管疾患死は0.73(0.54~0.98)であった。 糖尿病および高血圧の新規発症は、砂糖配給制が心血管疾患に及ぼす影響のそれぞれ23.9%と19.9%を占め、両者を合わせた場合の影響は31.1%を占めると見なされたのに対し、出生体重の影響はわずか2.2%であった。 さらに、砂糖配給制への曝露は、左室1回拍出量係数(0.73mL/m2、95%CI:0.05~1.41)および駆出率(0.84%、95%CI:0.40~1.28)の軽度上昇とも関連していた。

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米国でサマータイムを廃止すれば脳卒中や肥満が減少する可能性

 米国では夏季に時計を1時間早めるサマータイムが実施されているが、それを廃止することによって、脳卒中や肥満を減らせる可能性があるとする論文が、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に9月15日掲載された。 この研究は、米スタンフォード大学のLara Weed氏、Jamie M. Zeitzer氏によるもので、仮に標準時間(夏季以外の時間)に固定した場合、1年間で約30万件の脳卒中が予防され、260万人の肥満が減少する可能性があるという。また、サマータイムのままとした場合にも、影響は3分の2程度に減るものの脳卒中や肥満の抑制効果が見込まれるとのことだ。研究者らは、「これを別の言葉で表現するなら、現在実施されている年2回の時計の切り替えは、米国民の健康にとって最悪の政策である」と述べている。 この研究では、時間政策が概日リズム(多くの生理活動を調整する体内時計)にどのような影響を与えるかを推定した。Zeitzer氏によると、「朝に光を浴びると概日リズムが速まり、夕方に光を浴びると遅くなる。通常、24時間周期にうまく同調するには、朝の光曝露を多く、夕方の曝露を少なくする必要があり、そうでないと概日リズムが乱れがちになって、代謝や免疫システムが不調になりやすい」という。 今回の研究では、標準時間で固定した方が、多くの人にとって概日リズムへの負担が減ることが示された。そしてその影響を、米疾病対策センター(CDC)の地域ごとの疫学データと結び付けて、時間政策が人々の健康にどのようなインパクトを与えるかを推定した。その結果、標準時間を恒久化することで、米国全体で肥満が0.78%、脳卒中が0.09%減少すると計算された。パーセントの値としては小さなものだが、人口に換算すると、肥満者が260万人、脳卒中が30万件減少することになる。また、サマータイムを恒久化した場合にも、肥満者が0.51%減少し、脳卒中が0.04%減ると推計された。Zeitzer氏は、「標準時間とサマータイムのどちらであっても、それを恒久化することが米国国民の健康増進に役立つだろう」と述べている。 現在、米国においてサマータイムは年に7カ月実施されている。サマータイムの恒久化を提案する法案は、2018年以来ほぼ毎年議会に提出されているが、一度も可決されていない。それに対して、米国の医師会、睡眠医学会、睡眠財団などの医療関連団体は、標準時間を恒久化することを支持している。Zeitzer氏によると、時間政策に関する主張はしばしば、主張する政策の方が人々の健康全般に良いということを根拠として語られるという。ただし、「問題はその主張の根拠がデータのない理論だということだ」と同氏は述べ、「一方でわれわれは今回、それらの主張を検討し得るデータを手にした」と付け加えている。 なお、研究者らが論文の中で取り上げている先行研究によると、夏時間への移行は心臓発作や交通事故の増加と関連があり、標準時間に戻す際にはそのような悪影響は生じないという。

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「若者は管理職になりたがらない」は医師にも当てはまる?/医師1,000人アンケート

 「最近の若手は出世意欲がない」「管理職になりたがらない」と言われることがあり、20〜40代の会社員を対象とした調査1)では、約71%が出世を望んでいなかったという報告もある。これは医師にも当てはまる傾向なのだろうか?若手医師が管理職になりたいのかどうか、また仕事で重視することは何かを調査するため、CareNet.comでは20~30代の会員医師1,006人を対象に、管理職への昇進・昇格意向に関するアンケートを行った(実施:2025年9月18日)。なお、本アンケートにおける「管理職」とは、講師以上、医長以上(または相当)のポジションを指すこととした。管理職になりたい派は35.8%、なりたくない派は60.8% Q1では、将来的に管理職になりたいかどうかを聞いた。その結果、「とてもなりたい」が8.8%、「どちらかといえばなりたい」が27.0%、「どちらかといえばなりたくない」が35.6%、「まったくなりたくない」が25.2%であり、「とてもなりたい」と「どちらかといえばなりたい」を合わせた管理職になりたい派(35.8%)が少数派となった。なお、「すでに管理職に就いている」は3.3%で、すべて30代の医師であった。 年代別では、20代では管理職になりたい派が41.4%と多かったが、30代では34.5%に減っていた。病床数別では、20~99床の施設では管理職になりたい派は22.7%、100~199床は26.6%、20床以上は36.8%と、病床数が増えるほど管理職を志望する割合が高まった。管理職になりたい理由第1位「収入や待遇が改善する」 Q2では、Q1で「とても/どちらかといえばなりたい」と回答した管理職になりたい派(361人)に、管理職になりたい理由を聞いた。全体では、第1位が「収入や待遇が改善する(19.4%)」、第2位が「後進を育てたい(15.3%)」、第3位が「名誉や社会的評価が得られる(14.5%)」、第4位が「キャリアの安定につながる(12.8%)」、第5位が「研究や学会活動に有利(11.6%)」であった。 年代別では、20代では「名誉や社会的評価が得られる」が突出して多く第1位で、第2位が「収入や待遇が改善する」、第3位が「後進を育てたい」であった。30代では、「収入や待遇が改善する」「後進を育てたい」「キャリアの安定につながる」の順番であった。なお、「人脈形成ができる」を選んだ割合は20代のほうが30代よりもかなり多かった。管理職になりたくない理由第1位「業務量が増える」 Q3では、Q1で「どちらかといえば/まったくなりたくない」と回答した管理職になりたくない派(612人)に、管理職になりたくない理由を聞いた。全体では、第1位「業務量が増える(20.5%)」、第2位「ストレスが増える(20.0%)」、第3位「責任が増える(19.5%)」、第4位「収入と釣り合わない(15.8%)」、第5位「プライベートを重視したい(10.6%)」であった。20代・30代ともに上位3項目は「業務量が増える」「ストレスが増える」「責任が増える」が占めた。世代・出世意向で異なる「仕事で重視すること」 Q4では、全員を対象に仕事で重視することについて聞いた。全体では、第1位「収入が多いこと(20.7%)」、第2位「自分の専門や知識・技術を生かせられること(17.2%)」、第3位「休みをとりやすいこと(13.6%)」、第4位「医師として成長できること(12.3%)」、第5位「子育てや介護との両立がしやすいこと(11.1%)」であった。 年代別では、第1位は20代・30代ともに「収入が多いこと」であったが、20代の第2位は「医師として成長できること」、第3位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」、第4位は「多くの臨床経験が積めること」とモチベーションの高さがうかがわれた。30代の第2位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」であったが、第3位が「休みをとりやすいこと」、第4位が「子育てや介護との両立がしやすいこと」であり、ライフステージの変化を感じた。 出世意向別では、管理職になりたい派の第1位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」、第2位「収入が多いこと」、第3位「医師として成長できること」であった一方、なりたくない派の第1位は「収入が多いこと」、第2位「休みをとりやすいこと」、第3位「自分の専門や知識・技術を生かせられること」であった。 Q5では、フリーコメントとして、出世に関するご意見、理想の管理職像やキャリアパスなどを聞いた。管理職になりたい人のご意見(抜粋)・外科医を続けるためにはポジションが必要であり、後輩のためにも自分がポジションを確保しておくべきだと考える(30代・外科)・まだ不明確だが、後進の育成には興味があるので、ある程度の役職は必要だと思っている(30代・放射線科)・医師の待遇悪化がささやかれる今日この頃、自分の立場を守るためには、ある程度出世して社会的信用を得たり実績を出したりして、特定分野のプロフェッショナルになる必要性がある(30代・眼科)・まずは医師として自らの臨床力を極め、将来的には管理職として地域社会の医療を担える立場になりたい(20代・産婦人科)・多くの症例を経験して、実践的で全体を把握出来る管理職を目指したい(30代・耳鼻咽喉科)・収入よりも家族との時間の方が本当は重視したい思いはある(30代・精神科)管理職になりたくない人のご意見(抜粋)・管理職になるより一兵卒が性にあっている(30代・呼吸器内科)・出世は収入につながらないためあまり魅力に感じない(30代・乳腺外科)・大学病院での出世はまったく考えていない。収入が釣り合わないため。今後医師の収入が上がることは見込めないため、業務量が増えるだけになってしまう可能性がある(30代・脳神経外科)・それなりに時間的、経済的に余裕のある生活を送れるだけの給料がもらえるならそれで満足。それ以上は望まず、出世したいとはまったく思わない(20代・小児科)・出世希望は0ではないが、臨床以外の仕事が増えるのは望まない(30代・消化器内科)・以前は出世にこだわっていた時期もあるが、子どもが生まれてから優先順位ががらりと変わった(30代・呼吸器内科)・管理職は育児と両立できる気がしない(30代・小児科)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。出世願望のある若手医師は何割?/医師1,000人アンケート

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