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精神疾患を併存している肥満者は減量治療抵抗性/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 肥満や肥満症の患者では、うつ病、不眠などの精神疾患を併存しているケースが多い。こうした併存症は診療の際にアドヒアランスなどに影響するなど、臨床現場では治療の上で課題となっている。また、精神疾患が体重の増加などにも影響することが指摘されている。 そこで本稿では「口演153 境界型糖尿病6」から「精神疾患合併が肥満患者の体重変化および糖代謝に与える影響」(演者:石川 実里氏[国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部])をお届けする。精神疾患併存の肥満症患者にはチームで診療にあたる 石川 実里氏、浅原 哲子氏らの研究グループは、自院の「肥満・メタボリック外来」に来院した患者で、精神疾患を併存している肥満症患者の体重変化とインスリン抵抗性に与える影響を検討した。 心血管疾患のハイリスク群である肥満症患者では、精神疾患を併存していることが多く、精神疾患の併存は、その心理ストレスや精神疾患治療薬の影響から、減量治療を困難にし、同時にストレスによるコルチゾール分泌増加は、内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性増悪に寄与している可能性がある。 そこで、2004~19年に京都医療センター肥満・メタボリック外来を初診で受診した174例(減量入院実施などで14例除外)を対象に、6ヵ月後、12ヵ月後の体重・糖代謝関連指標の変化と精神疾患合併の関連を検討した。 対象の中で精神疾患を併存している患者は30例、併存していない患者は144例だった。また、合併する精神疾患の種類としては、「うつ病」「不眠症」「統合失調症」「双極性障害」の順に多くみられた。患者の39%が男性、61%が女性だった。平均BMIは33.8であった。糖尿病合併例は28.2%と約3割に見受けられた。 主な結果として、精神疾患合併群の体重減少率は12ヵ月時点で非合併群より有意に低かった。さらに、体重減少とHbA1cの改善に相関がみられ、非糖尿病合併群でも同様の結果がみられた。糖尿病非合併の肥満患者において、精神疾患非合併群のみ、6ヵ月後、12ヵ月後ともに、初診時よりHbA1cは有意に減少していたが、群間差はみられなかった。 考察として、肥満症の患者では脳内炎症が惹起され、セロトニン産生が抑制されることから、うつ状態が進み、また同時に肥満が進行する可能性が示唆されている。さらに、心理ストレスは、食欲を制御する視床下部や報酬系を介して摂食量を増加させる可能性がある。 石川氏は研究結果から、「精神疾患を併存した肥満患者は、減量治療抵抗性であることが多く、精神科などとの連携を含めたチーム医療が減量成功と患者のQOL向上に寄与すると考えられる」と述べ、口演を終えた。

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軽度・短期間のAKIでも腎機能が長期的に悪化

 急性腎障害(AKI)後の長期的な腎機能悪化リスクを調査したシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、AKIが軽度で持続期間が短い患者であっても慢性腎臓病(CKD)の発症および進行リスクは有意に高く、糖尿病や高血圧の既往、急性透析の必要があった場合などではさらにリスクが増大していたことを、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのDenise M. J. Veltkamp氏らが明らかにした。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2025年5月27日号掲載の報告。 AKIは、CKDや腎不全、主要腎有害事象(死亡、透析依存など)と関連するが、どのような患者においてリスクが増大するかは依然として不明である。そこで研究グループは、AKIのステージや持続期間、患者特性などが腎予後に与える影響を明らかにするためにシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 PubMedおよびEmbaseを用いて、AKI患者と非AKI患者を少なくとも1つの重要なアウトカムで比較検討し、最低1年間の追跡調査を行った研究を系統的に検索した。ハザード比(HR)とオッズ比(OR)はランダム効果モデルを用いて統合し、患者背景の異質性はサブグループ分析およびメタ回帰分析を用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・70件の研究の183万8,668例(うちAKI患者は16万5,715例)を解析対象とした。すべての研究の質は中~高であった。・AKI患者では、非AKI患者よりも、CKD発症および進行リスク、腎不全リスク、主要腎有害事象リスクが高かった。 -CKD発症 AKI群25.8%vs.非AKI群8.7%、HR:2.36(95%信頼区間[CI]:1.77~2.94) -CKD進行 AKI群43.1%vs.非AKI群35.6%、HR:1.83(95%CI:1.26~2.40) -腎不全 AKI群2.9%vs.非AKI群0.5%、HR:2.64(95%CI:2.03~3.25) -主要腎有害事象 AKI群59.0%vs.非AKI群32.7%、OR:2.77(95%CI:2.01~3.53)・3日未満の短期間のAKIでもCKD発症リスクが高かった(OR:2.37[95%CI:1.68~3.07])。・ステージ1の軽度のAKIでもCKD発症リスクが高かった(HR:1.49[95%CI:1.44~1.55])。・糖尿病や高血圧、冠動脈疾患の既往、心血管手術を受けた患者、急性透析を必要とした患者では、CKD発症または進行リスクが高かった。 研究グループは「これらの結果は、AKI後の腎機能低下を速やかに認識し、腎保護のための介入を開始するための個別化されたフォローアップ戦略を開発する必要性を強調している」とまとめた。

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第16回 認知症介護者は将来の認知症リスクが高い? 米国の研究が示す、介護者の見過ごされがちな健康問題

急速な高齢化が進む日本で、認知症は多くの人にとって身近な課題でしょう。家族が認知症と診断され、介護に奮闘している方も少なくないと思います。そんな中、その献身的な介護が、実は介護者自身の将来の健康、とくに「脳の老化」のリスクを高めている可能性があるとしたら…。米国から出された報告は、まさにこの事実を指摘し、警鐘を鳴らしています1)。介護者が抱える、見過ごされがちな認知症リスク要因米国・アルツハイマー協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reductionおよびミネソタ大学のPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregivingという機関が、2025年6月12日に発表した報告書によれば、認知症患者を介護する人の5人中3人近く(59%)が、自分自身の認知症発症の可能性を高めるリスク要因を少なくとも1つ抱えていることが明らかになりました。さらに、4人に1人(24%)は2つ以上のリスク要因を抱えている、ともされています。この報告書は、2021~22年に米国の47州で収集されたデータを分析したものです。その結果、認知症患者の介護者は一般の人と比べて、脳の老化に関連する5つのリスク要因を持つ割合が高いことがわかりました 。具体的な数値は以下の通り。喫煙(30%高い)高血圧(27%高い)睡眠不足(21%高い)糖尿病(12%高い)肥満(8%高い)一方、唯一「身体活動を欠く」という点については、介護者の方が一般の人より9%低いという結果でした。これは、介護そのものに伴う身体的な負担や活動が影響している可能性が高いと見られています。こうした結果は、認知症患者の介護者が家族や友人のケアに追われるあまり、自分自身の健康を見過ごしがちになってしまう傾向を表しているのかもしれません。とくに深刻な「若い世代の介護者」の健康リスクこの報告書がとくに強い懸念を示しているのが、若い世代の介護者です。若い介護者は、同世代の他の人と比べて、複数の認知症リスク要因を持つ可能性が40%も高いことがわかりました。さらに詳細に各要因を見ると、その差は驚くべきものでした。若い介護者は同世代の非介護者と比較して、喫煙する可能性が86%高い高血圧である可能性が46%高い一晩の睡眠時間が6時間未満であると報告する可能性が29%高いという結果でした。これは、仕事や子育てといったやるべきことに加えての介護負担が、心身にきわめて深刻な影響を及ぼしていることを示唆しています。介護者を社会全体で支えるために今回ご紹介した報告書は、単にリスクを指摘するだけでなく、今後の対策の方向性も示唆しています。介護者の中でどの認知症のリスク要因が多いかを知ることで、資源や介入策の優先順位付けをし、調整することができるからです。また、今回の報告書は、介護者の負担が精神的なストレスにとどまらず、身体的リスク、ひいては介護者自身の将来の認知症リスクにまでつながることを示唆した点で重要です。これはもはや、個人や家庭内の問題ではなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題といえるでしょう。介護は誰にとっても他人事ではありません。介護者が孤立せず、自分自身の健康にも目を向けることができるよう、周囲の理解とサポート、そして行政による的を絞った支援策の充実が急がれます。今回のニュースは、介護者への負担がさまざまな形で自身の健康リスクにまでつながっていることを改めて私たちに教えてくれています。参考文献・参考サイト1)Public Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction. Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers 2021-2022 Data from 47 U.S. States. 2025 Jun 12.

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中年期の体重減少の維持は将来の慢性疾患の予防となる

 中年期の体重増減とその後の糖尿病をはじめとする慢性疾患の発症、死亡について、どの程度の関連があるのだろうか。この課題について長期的な観点からの研究報告は少なかった。このテーマについて、フィンランド・ヘルシンキ大学のTimo E Strandberg氏らの研究グループは、約2万3,000人を対象に中年期の体重減少の維持が、その後の健康障害に与える影響について複数のコホート研究から解析した。その結果、中年期の持続的な体重減少は、薬剤などの介入がなくとも長期的に2型糖尿病以外の慢性疾患のリスクの低下や心疾患などの死亡率の低下に寄与することがわかった。この報告は、JAMA Network Open誌2025年5月1日号に掲載された。体重減少を維持できれば心血管疾患やがん、喘息の予防につながる可能性 研究グループは、中年期(40~50歳)の健康な時期におけるBMIの変化と、後年の疾患発症率および死亡率との長期的な関連性を検討することを目的に、英国のホワイトホールII研究(WHII:1985~1988年)、フィンランドのヘルシンキ・ビジネスマン研究(HBS:1964~1973年)、フィンランド公共部門研究(FPS:2000年)の3つのコホート研究のデータ解析を行った。 この3つの研究で参加者の最初の2回の体重測定結果に基づき、中年期のBMIの変化について「BMIが25未満を持続」「BMIが25以上から25未満へ変化」「BMIが25未満から25以上へ変化」「BMIが25以上の持続」の4つのグループに分類した。疾患発症率と死亡率のアウトカムを追跡調査し、データ解析は2024年2月11日~2025年2月20日に行われた。 WHIIとFPSでは、2型糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、がん、喘息、または慢性閉塞性肺疾患を含む新規発症の慢性疾患が評価され、HBSでは全原因の死亡率が評価された。 主な結果は以下のとおり。・3つのコホートの総参加者は2万3,149人。・WHIIからは4,118人(男性72.1%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(四分位範囲:IQR)は39(37~42)歳だった。・HBSからは男性2,335人が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は42(38~45)歳だった。・FPSからは1万6,696人(女性82.6%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は39(34~43)歳だった。・追跡期間の中央値(IQR)は22.8(16.9~23.3)年で、初回評価時の喫煙、収縮期血圧、血清コレステロールを調整した後、WHIIの参加者で体重減少を経験した群は、持続的に肥満していた群と比較し、慢性疾患の発症リスクが低下していた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.35~0.78)。この結果は、アウトカムから糖尿病を除外した後も再現された(HR:0.58、95%CI:0.37~0.90)。・FPSでは追跡期間中央値(IQR)は12.2(8.2~12.2)年で、HRは0.43(95%CI:0.29~0.66)だった。・HBSで体重減少に関連した延長した追跡期間中央値(IQR)は35(24~43)年で、HRは0.81(95%CI:0.68~0.96)であり、死亡率の低下と関連していた。 これらの結果から研究グループは、「手術や薬物療法による体重減少介入がほとんど存在しなかった時代に実施された調査である。中年期の体重減少の維持は、持続的な肥満と比較し、2型糖尿病以外の慢性疾患のリスク低下および全死亡率の低下と関連していた」と結論付けている。

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2型DMとCKD併存、フィネレノン+エンパグリフロジンがUACRを大幅改善/NEJM

 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者の初期治療について、非ステロイド性MR拮抗薬フィネレノン+SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの併用療法は、それぞれの単独療法と比べて尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の大幅な低下に結び付いたことを、米国・Richard L. Roudebush VA Medical CenterのRajiv Agarwal氏らCONFIDENCE Investigatorsが報告した。同患者における併用療法を支持するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2025年6月5日号掲載の報告。併用療法と各単独療法のUACR変化量を無作為化試験で比較 研究グループは、CKD(eGFR:30~90mL/分/1.73m2)、アルブミン尿(UACR:100~5,000mg/gCr)、2型糖尿病(レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用)を有する患者を、(1)フィネレノン10mg/日または20mg/日(+エンパグリフロジンのマッチングプラセボ)、(2)エンパグリフロジン10mg/日(+フィネレノンのマッチングプラセボ)、(3)フィネレノン+エンパグリフロジンを投与する群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、対数変換した平均UACR値のベースラインから180日目までの相対変化量であった。安全性も評価した。180日時点で併用群のUACRは単独群より29~32%低下 ベースラインで、UACRは3群で同程度であった。UACRのデータが入手できた被験者(フィネレノン単独群258例、エンパグリフロジン単独群261例、併用群265例)におけるUACR中央値は579mg/gCr(四分位範囲:292~1,092)であった。 180日時点で、併用群のUACRは、フィネレノン単独群よりも29%有意に大きく低下し(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比:0.71、95%信頼区間:0.61~0.82、p<0.001)、エンパグリフロジン単独群よりも32%有意に大きく低下した(0.68、0.59~0.79、p<0.001)。 単独群または併用群のいずれも、予期せぬ有害事象は認められなかった。 試験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度は、3群とも5%未満だった。症候性低血圧の発現は併用群の3例で報告され、急性腎障害の発現は合計8例(併用群5例、フィネレノン単独群3例)であった。高カリウム血症の発現は併用群25例(9.3%)、フィネレノン単独群30例(11.4%)で、相対的に併用群が約15~20%低かった。この所見は、重度の高カリウム血症のリスクがSGLT2阻害薬により抑制されることが示されている先行研究の所見と一致していた。

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セマグルチドは代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の予後を改善する(解説:住谷哲氏)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)へ、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)へと呼称が変更されてから約2年が経過した。“alcoholic”および“fatty”が不適切な表現であるのが変更の理由らしい。この2年間に米国のFDAは甲状腺ホルモン受容体β作動薬であるresmetiromをMASHの治療薬として条件付きで承認している。わが国でresmetiromの承認に向けて治験が開始されているか否かは寡聞にして筆者は知らないが、本論文で用いられたセマグルチドはわが国でも使用可能であり臨床的意義は大きい。 本試験ESSENCEはpart1およびpart2から構成されており、本論文はセマグルチド投与72週後のMASHの組織学的変化を主要評価項目としたpart1についての報告である。part2の主要評価項目は240週後のcirrhosis-free survivalとされており、part1はESSENCEの中間解析の位置付けである1)。 これまでにMASHへの薬物介入を試みた試験としては、ピオグリタゾンまたはビタミンEの有効性を検討したNASH-CRNがある2)。本論文と同じく組織学的変化を主要評価項目としたが、ビタミンEはプラセボに比較して有意な組織学的改善を認めたがピオグリタゾンでは認めなかった。しかしこの試験では2型糖尿病患者は対象から除外されており、試験の結果が2型糖尿病患者に適用できるかは不明であった。一方、本試験では患者の56%と半数以上が2型糖尿病を合併しており、Supplementにあるサブグループ解析では2型糖尿病の有無で有効性に差はない。したがって、2型糖尿病を合併したMASHでもセマグルチドは有効と考えられる。 組織学的改善は代替エンドポイントであり、厳密にはpart2終了後のcirrhosis-free survivalの結果を待つ必要がある。しかし、MASH患者の予後を決定する要因として心血管イベントは無視できない。これまでのセマグルチドの臨床試験の結果から、おそらくMASH患者の心血管イベントもセマグルチドの投与により有意に減少する可能性は高い。したがって、代替エンドポイントではあるがMASH治療薬としてのセマグルチドは現時点で正当化されると思われる。わが国でも早期の承認が期待される。

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災害時にLINEを活用し糖尿病患者の命を守る/糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 地震や洪水などの自然災害が発生した場合、糖尿病患者、とくにインスリン依存状態の患者はインスリンの入手などに困難を来し、生命の危機に直面するケースが予想され、災害時に患者の様子や不足する薬剤をいかに把握するかが、課題となっている。 そこで本稿では「口演62 災害医学」から「糖尿病患者に対するLINEによる双方向性の情報伝達システムの構築」(演者:西田 健朗氏[熊本中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科])をお届けする。災害時に困る患者の居場所、健康状態の把握の一助となるLINE 2016年に発生した熊本地震を経験した熊本中央病院の西田氏が JADEC DiaMAT推進委員会を代表して、災害時に役立てることができるLINEを利用した双方向情報伝達システムの構築について口演を行った。 日本糖尿病協会(JADEC)と日本糖尿病学会は協働して、自然災害などから糖尿病患者を守る取り組みを強化している。具体的には、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT:Diabetes Medical Assistance Team)を創設し、災害発生時に災害派遣医療チーム(DMAT)などの後方支援や被災者への直接支援などを行う体制の構築を目指している。 この災害時の情報伝達体制構築の一環として、わが国で普段から広く使用されている通信アプリ“LINE”を基盤にしてシステムを構築した。システムでは、アカウント管理の簡便性からJADEC本部のアカウントのみを作成し、患者が登録していく方式で双方向の情報伝達を行っている。LINEにはインスリン依存状態の患者などから登録をしてもらい、氏名や住所などの個人情報や自分の病状、かかりつけ医療機関や処方薬局などを細かく入力してもらうようにした。 2025年5月28日現在で1,517人の患者などが登録しており、登録に際しては使用しているインスリンの入力ができる。災害時には、必要なインスリンやデバイスなどの情報をJADEC事務局に連絡することができ、JADEC事務局は位置情報で患者の位置を把握、インスリンやデバイスの搬送での活用が期待されている。 実際にこうした情報システムが稼働するのか、患者のニーズを満たしているのかの検証を西田氏らは、2024年9月1日(防災の日)に訓練として行った。 LINE登録者約300人中87人、医師5人が訓練に参加し、登録者が事務局との双方向通信を行った。訓練では、登録者のLINE操作や事務局の内容確認が行われたほか、必要により個別の質問には医師が対応した。 訓練後のアンケートについて、「登録者の満足度」は5点中4.15点であり、「このLINEを紹介したい」は5点中4.44点であり、肯定的な意見が多数を占めていた。また、登録者の自由記載では、「使われている言葉が難しい」「インスリンの入手について安心材料になった」などの課題や感想を聞くことができた。 西田氏は、「今後はさらにLINEシステムを向上させ患者の位置情報から、災害時に患者へ必要なインスリンや治療薬を届けることができるようにシステム構築を進めていく」と展望を語った。

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多疾患併存はうつ病リスクを高める?

 慢性疾患との闘いは人を疲弊させ、うつ病になりやすくするようだ。新たな研究で、長期にわたり複数の慢性疾患を抱えている状態(多疾患併存)は、うつ病リスクの上昇と関連することが明らかにされた。リスクの大きさは慢性疾患の組み合わせにより異なり、一部の組み合わせでは特にリスクが高くなることも示されたという。英エディンバラ大学一般診療学分野教授のBruce Guthrie氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に5月13日掲載された。 Guthrie氏らは、UKバイオバンク研究参加者のうち、ベースライン時に1つ以上の慢性疾患を有していた37〜73歳の成人14万2,005人のデータを、69種類の慢性疾患の有無に基づき分類した。次いで、4種類のクラスタリング手法を比較検討し、最適と判断されたモデルを選定した。その後、ベースライン時にうつ病の既往のなかった14万1,011人(うち3万551人はベースライン時に身体疾患のなかった対照)を対象に、多疾患併存の特徴による分類(クラスター)ごとに、その後のうつ病発症との関連を比較検討した。 平均6.8年に及ぶ追跡期間中に、5,904人(4.2%)がうつ病を発症していた。心疾患や糖尿病などの心代謝疾患を多く含むクラスターは全対象者に占める割合が特に高く、全体の15.5%、女性では19.7%、男性では24.2%に上った。うつ病発症のハザード比は、加齢黄斑変性・糖尿病での1.29から、極めて多岐にわたる慢性疾患での2.42(女性2.67、男性2.65)までの範囲であり、ほとんどのクラスターで身体疾患のない人と比べて高かった。対象者全体で顕著なリスク上昇が見られたのは、片頭痛(同1.96)、呼吸器疾患(同1.95)、心血管疾患・糖尿病(同1.78)などであった。男女別で分けて見ると、セリアック病などの消化器疾患は男女の双方で(男性:同2.06、女性:同1.83)、心血管疾患・慢性腎臓病・痛風は男性において(同1.87)うつ病リスクを大幅に上昇させていた。一方、女性では、関節や骨の健康問題がうつ病リスクを大幅に上昇させていた(同1.81)。 Guthrie氏は、「医療では身体的健康と精神的健康を全く別のものとして扱うことが多いが、この研究は、身体疾患を持つ人におけるうつ病の発症をより適切に予測し、管理する必要があることを示している」と述べている。 一方、論文の筆頭著者であるエディンバラ大学のLauren DeLong氏は、「身体的健康状態とうつ病の発症の間には明確な関連が見られたが、この研究はまだ始まりに過ぎない。本研究結果が他の研究者にも刺激を与え、身体的健康状態と精神的健康状態の関連性を調査・解明するきっかけになることを期待する」と述べている。

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第86回 相関と回帰って?【統計のそこが知りたい!】

第86回 相関と回帰って?医療の現場で臨床試験の結果を解釈する上で、統計学の知識は不可欠です。とくに、「相関」と「回帰」という2つの基本的な統計手法は、臨床デ-タの分析において重要な役割を果たします。今回は、基本的な統計の道具である「相関」と「回帰」をはっきり区別して、理解しておきましょう。これらの概念を簡潔に解説し、その臨床現場での応用例についても解説します。■相関とは?相関は、「2つの変数間の関係の強さと方向を示す統計的尺度」です。この尺度は、一方の変数の変化が他方の変数の変化とどのように関連しているかを示します。主に相関は、変数間に直線的な関連性があるかどうかを調べるために用いられます。■相関係数相関関係の度合いは、相関係数によって数値化されます。この係数は、-1~+1までの範囲で表され、+1は完全な正の相関を意味し、-1は完全な負の相関を意味します。係数が0に近いほど、変数間の相関は弱いことを示します。正の相関一方の変数が増加すると、もう一方の変数も増加します。負の相関一方の変数が増加すると、もう一方の変数が減少します。無相関 2つの変数間には関連性はみられません。■相関の見方と限界相関は関係の存在を示すものであり、因果関係を意味するものではありません。「相関関係は因果関係を示さない」という原則は、デ-タ解析において非常に重要です。つまり、2つの変数が相関しているからといって、一方が他方を引き起こしているわけではない可能性があります。■相関の利用例医療分野では、さまざまな生理的指標や病状の間に相関を見つけ出すことで、潜在的な健康リスクを予測する手がかりを得ることができます。たとえば、体重と糖尿病のリスクとの間には正の相関があることが知られています。相関分析は、医療研究だけでなく、経済学、社会科学、工学など幅広い分野で応用されています。これにより、研究者は複雑なデ-タセットの中から意味のあるパタ-ンを抽出し、有効な介入策の策定に役立てることが可能です。このように、相関はデ-タの関連性を理解する上で基本的かつ強力なツ-ルですが、その解釈には慎重な分析が必要です。相関が高いからといって、それが直接的な原因と結び付くわけではなく、第三の変数や他の多くの要因によって影響を受けることがあります。■回帰とは?回帰分析は、「従属変数と1つまたは複数の独立変数の間の関係をモデル化して分析する統計的方法」です。回帰の主な目的は、独立変数の値に基づいて従属変数の値を予測することです。この方法は、医学を含むさまざまな分野で広く使用されており、結果を理解し予測するために重要です。■回帰の種類1)線形回帰これは最も単純な形式の回帰で、従属変数と独立変数の間に線形関係を仮定します。従属変数が連続的で正規分布している場合に使用されます。線形回帰の方程式はY=a+bXです。ここで、Yは従属変数、Xは独立変数、aは切片、bは傾きです。このモデルは、デ-タにみられる線形関係に基づいてYを予測します。2)ロジスティック回帰従属変数がカテゴリ-デ-タで、通常は二値です(例:病気の有無)。ロジスティック回帰は、独立変数に基づいて二値反応の確率を推定します。リスクモデリングや診断テストにおいて、臨床現場でとくに有用です。3)重回帰1つ以上の独立変数を含み、複数の予測因子を扱うことができる、より複雑なモデルを提供します。臨床研究において、結果は多くの要因によって影響を受けるため、非常に関連性が高いです。■臨床研究での応用回帰分析は、どの因子が結果の重要な予測因子であり、これらの異なる因子がどのように相互作用するかを理解するのに役立ちます。たとえば、臨床試験では、研究者は重回帰を使用して、さまざまな人口統計学的およびライフスタイルの変数が新薬の有効性にどのように影響するかを決定することがあります。■回帰が重要である理由1)予測と意思決定回帰モデルは予測のための強力なツ-ルです。変数がどのように相互接続されているかを理解することにより、医療専門家は患者ケアに関する情報に基づいた決定を下すことができます。2)リスク要因の特定疾患のリスク要因を特定し、定量化するには回帰分析が不可欠です。たとえば、ロジスティック回帰を使用して、喫煙が肺がんのリスクをどの程度増加させるかを研究者が見つけ出すことができます。3)治療効果の向上回帰を使用して臨床試験デ-タを分析することにより、研究者は治療プロトコルを最適化し、反応パタ-ンに基づいて患者のサブグル-プに治療を調整することができます。4)資源の配分予測因子を理解することで、医療設定での効率的な資源配分が可能になります。たとえば、高リスク患者をより集中的なケアやフォロ-アップのために優先するなどです。回帰分析は、このように医療研究の分野で欠かせないツ-ルです。これにより、臨床医と研究者はデ-タから意味のある結論を導き出すことができ、ケアの質と治療の効果を高めることが可能になります。■相関と回帰の臨床での応用臨床現場では、これらの統計手法を用いて、さまざまな健康指標間の関連を明らかにし、効果的な治療法を導き出します。たとえば、高血圧患者における薬剤の効果を評価する際に回帰分析が用いられることがあります。また、相関分析を通じて、特定の症状と生活習慣の間の関連を探ることができます。■統計の理解が臨床に役立つ理由統計手法を理解することは、臨床試験の結果を正確に解釈し、それを基に適切な医療判断を下すために不可欠です。相関や回帰分析によって、デ-タからより確かな情報を引き出し、患者さん一人一人に最適な治療を提供するための強力な道具となります。このように、相関と回帰は単なる統計的概念に止まらず、臨床医が日々直面する課題を解決するための重要なツ-ルです。統計学が提供する洞察を活用することで、より質の高い医療を実現することが可能となります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問12 重回帰分析とは?質問18 ロジスティック回帰分析とは?統計のそこが知りたい!第42回 相関分析とは?第46回 単相関係数とは?第48回 単回帰式の求め方は?

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コンサルテーション―その1【脂肪肝のミカタ】第4回

コンサルテーション―その1Q. プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション基準は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は本邦で2,000万人以上と対象が多い疾患のため、医療経済面からも全症例に詳細な検査を行うことは困難である。消化器専門家の立場からは、肝がんの高危険群である肝臓の線維化進行が疑われる症例の拾い上げをすることが重要である1-3)。プライマリ・ケアにおいては、肝臓の線維化進展の簡便な指標としてFibrosis-4(FIB-4) indexや血小板数による消化器科へのコンサルテーションが勧められている1-3)。FIB-4 index1.3未満はかかりつけ医、1.3以上で消化器科へのコンサルテーションとしているが、高齢者では線維化進行度に寄らず全体的にFIB-4 index高値を示す傾向がある。欧州、米国共にガイドラインで65歳以上は2.0以上をコンサルテーションとしており1,2)。高齢者の多い本邦においても、消化器科コンサルテーション基準を変えていく必要がある(図)。(図)プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.

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PCI後DAPT例の維持療法、P2Y12阻害薬が主要有害心・脳血管イベント抑制に有効/BMJ

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終了した患者では、アスピリン単剤療法と比較してP2Y12阻害薬単剤療法(チカグレロルまたはクロピドグレル)は、大出血のリスク増加を伴わずに、心筋梗塞と脳卒中のリスク低下に基づく主要有害心・脳血管イベント(MACCE)の発生率の低下をもたらすことが、イタリア・University of CataniaのDaniele Giacoppo氏らによるメタ解析で明らかになった。研究の成果は、BMJ誌2025年6月4日号で報告された。5件の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、PCI施行後のDAPTを終了した患者におけるP2Y12阻害薬単剤療法とアスピリン単剤療法の有効性の比較を目的に、無作為化臨床試験の個々の参加者のデータを用いてメタ解析を行った(スイス・Cardiocentro Ticino Instituteなどの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、冠動脈疾患患者でPCI施行後の虚血性イベントの2次予防として、P2Y12阻害薬またはアスピリンの単剤療法について検討した無作為化試験を検索した。 主要アウトカムはMACCE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)とし、主要複合アウトカムとして大出血(BARC type 3または5)も評価した。副次アウトカムは有害心・脳血管イベントの複合(NACCE、主要アウトカムと主要複合アウトカムの組み合わせ、および個々のアウトカム[全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、definiteまたはprobableステント血栓症、消化管出血など])とした。 PCI施行後に、推奨されたDAPTレジメン(期間中央値12ヵ月)を終了した患者を、P2Y12阻害薬単剤療法またはアスピリン単剤療法に割り付けた5件(ASCET、CAPRIE、GLASSY、HOST-EXAM[韓国の37施設5,438例]、STOPDAPT-2[日本の90施設3,009例])の無作為化試験(合計1万6,117例)を解析の対象とした。治療必要数は45.5例 ベースラインの年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~73)、23.8%が女性、28.6%が糖尿病、14.6%が中等症~重症の慢性腎臓病を有していた。P2Y12阻害薬は、58.7%がクロピドグレル、41.3%がチカグレロルであった。また、患者の48.9%が欧州または北米の試験の参加者で、51.1%は東アジアの試験の参加者だった。 追跡期間中央値1,351日(IQR:373~1,791)の時点で、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群はMACCEのリスクが有意に低かった(混合効果モデルよる1段階解析のハザード比[HR]:0.77[95%信頼区間[CI]:0.67~0.89、p<0.001]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:0.77[0.67~0.89、p<0.001]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.77[0.67~0.89、p<0.001])。有益性を得るための治療必要数は45.5例(95%CI:31.4~93.6)だった。NACCEのリスクも有意に低い 大出血は両群間で有意な差を認めなかった(混合効果モデルよる1段階解析のHR:1.26[95%CI:0.78~2.04、p=0.35]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:1.12[0.74~1.70、p=0.60]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:1.15[0.69~1.92、p=0.59])。 また、NACCE(変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.84[95%CI:0.73~0.98]、p=0.03)、心筋梗塞(0.69[0.55~0.86]、p=0.001)、脳卒中(0.67[0.51~0.88]、p=0.003)は、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群で発生リスクが低かった。 著者は、「これらの結果は、複数の感度分析で確認され、P2Y12阻害薬単剤群の有効性は心筋梗塞と脳卒中の有意な減少に起因していた」「大出血と全出血は、両群間で有意差を認めなかったが、試験間で著明な異質性が検出された」としている。

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定期的な診察で心不全患者の全死亡リスクが低下

 心不全(HF)患者の5人に2人は、心不全の重症度にかかわりなく循環器専門医の診察を定期的に受けていないことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、専門医の診察を年に1回受けているHF患者では翌年の死亡リスクが24%低下することも示されたという。ナンシー大学病院(フランス)臨床研究センターのGuillaume Baudry氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に5月18日掲載された。 HFとは、心臓のポンプ機能が低下し、体が必要とする酸素や栄養を十分に送り届けられない状態を指す。Baudry氏は、「通常、HFを治すことはできないが、適切な治療を行えば症状を何年もコントロールできることが多い」と欧州心臓学会(ESC)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、HF患者の予後と管理を、利尿薬の使用およびHFによる入院歴(HF hospitalization;HFH)という基準で分類して調査した。対象は、過去5年間にHFの診断を受け2020年1月時点で生存が確認されたフランスのHF患者65万5,919人(年齢中央値80歳、女性48%)。これらの患者は、1)過去1年以内のHFHあり(20.4%)、2)1〜5年前にHFHあり(27.6%)、3)HFHはないがループ利尿薬の使用あり(28.3%)、4)HFHもループ利尿薬の使用もない(23.7%)、の4群に分類された。予後の指標は、全死亡、HFH、および両者の複合アウトカムとし、期間は2020年1月1日から2022年12月31日までの間とした。 その結果、2020年に循環器専門医の診察を受けた対象者の割合は59%にとどまることが明らかになった。診察を受けた割合と診察回数(中央値2回)は、4群間で似通っていた。全死亡リスクは、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群と比較して、「HFHはないがループ利尿薬の使用あり」群で1.61倍、「1〜5年前にHFHあり」群で1.83倍、「過去1年以内のHFHあり」群で2.32倍であった。HFHリスクと複合アウトカム(HFHまたは全死亡)のリスクについても同様の傾向が見られた。 また、全死亡リスクは、2019年に循環器専門医の診察を受けなかった群を基準とした場合、1回の受診で24%、2~3回の受診で31%、4回以上の受診で38%の低下という具合に、受診回数が増えるほど有意に低下した。一方で、HFHリスクは、受診回数が増えてもわずかに上昇する傾向を示した(調整ハザード比1.01~1.04)。循環器専門医を1回受診した場合と受診しなかった場合の1年間の全死亡リスクの差(絶対リスク差)は、4群間でおおむね一貫しており、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群の6.3%から「1〜5年前にHFHあり」群の9.2%までの範囲だった。 Baudry氏は、「本研究結果は、臨床的に安定して見えるHF患者においても、専門医によるフォローアップが潜在的に重要であることを浮き彫りにしている。特に、最近入院していた患者や利尿薬を使用している患者は、循環器専門医の診察を受けることを積極的に考慮してほしい」と述べている。 論文の上席著者であるナンシー大学病院のNicolas Girerd氏は、「HF患者が循環器専門医の診察を受けない理由はいくつも考えられる。本研究では、例えば、高齢者や女性、糖尿病や肺疾患といった他の慢性疾患を抱える患者は、専門医の診察を受ける可能性が低いことが示された。こうした違いは世界中の多くの国で確認されている」とニュースリリースの中で述べている。

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GLP-1RAで飲酒量が3分の1に減る

 肥満症治療における減量目的でも処方されることのあるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬(GLP-1RA)の使用によって、アルコール摂取量が大きく減少するとする研究結果が報告された。ダブリン大学(アイルランド)のCarel le Roux氏らの研究によるもので、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に論文が1月2日掲載され、また欧州肥満学会議(ECO2025、5月11~14日、スペイン・マラガ)でも発表された。習慣的飲酒者では、GLP-1RA使用開始後約4カ月で飲酒量がほぼ3分の1に減少したという。 GLP-1は、血糖降下作用のほかに、食欲を抑えたり、胃の内容物の排出を遅延させたりする消化管ホルモン。Le Roux氏によると、GLP-1による食欲抑制作用の一部は脳への直接的な働きかけによるものと考えられていて、その作用はアルコールへの欲求を抑えるようにも働く可能性があるという。このような作用を有するため、「本研究に参加し飲酒量が減った肥満患者の多くは節酒をほとんど意識することなく、『楽に』飲酒量を減らせたと報告した」と同氏は述べている。 世界中で飲酒は死亡原因の約4.7%を占めている。問題のある飲酒に対する治療介入は、短期的には高い効果を期待できるが、患者の約70%は1年以内に再発する。一方、これまでにも動物実験などから、GLP-1のアナログ製剤(類似薬)であるGLP-1RAが、アルコールへの渇望を抑える効果のあることが示唆されてきている。しかし、ヒトを対象とした研究は「まだ緒に就いたばかり」だと、研究者らは述べている。 この研究は、BMI27以上でGLP-1RA(セマグルチドまたはリラグルチド)による肥満治療を受けている成人患者262人(平均年齢46歳、女性79%)を対象に実施された。治療開始前の自己申告により、全体の11.8%が非飲酒者、19.8%が機会飲酒者、68.3%が習慣的飲酒者に分類された。 262人中188人が3~6カ月(平均112日)後の追跡調査にも参加した。この約4カ月の間に飲酒量が増加した患者はなく、習慣的飲酒者の場合、飲酒量が68%減少していた。研究者らはこの減少幅を、「アルコール依存症の治療目的で使用される薬剤(ナルメフェン)の効果に匹敵する」としている。 Le Roux氏は、「GLP-1RAは肥満治療に有効であり、肥満に関連するさまざまな合併症のリスクを低減することが示されている。さらに今回の研究では、アルコール摂取量の抑制という、肥満改善とは異なる面での有益な側面についても有望な結果が得られた」と解説。ただし一方で、本研究は参加者数が少数であること、GLP-1RAを使用しない比較対照群を設けていないことなどを、解釈上の留意事項として挙げている。

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眠気の正体とは?昼間の眠気は異常?/日本抗加齢医学会

 突然襲いかかる眠気。実はこの正体、いまだに明らかになっていないらしい―。睡眠学の世界的権威である柳沢 正史氏(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 WPI-IIIS)が、日本抗加齢医学会主催のメディアセミナーにて「睡眠の謎に挑む~基礎研究から睡眠ウェルネスへ~」と題し、現時点でわかっている眠気の正体、われわれが誤解している睡眠の実態などについて解説した。なぜ、動物は危険を冒してまで眠るのか そもそも“睡眠”とは、脊椎動物などに特有の行動と考えられていたが、2017年に報告されたクラゲの研究1)から「睡眠が脳(中枢神経系)より先じて発明された」ことが明らかになったという。クラゲは脳の代わりに散在神経系と呼ばれる神経細胞を有する刺胞動物門の生物で、そんな彼らでも眠ることから、「生物の進化の過程からも、睡眠がいかに根源的なものであるかが証明された」と柳沢氏はコメントした。一方で、「意識が薄れる行動をなぜ危険を冒してまで行わなければならないのか、睡眠によって(脳内で)どのようなメンテナンスが行われているのか、眠気が睡眠中に解消されるメカニズムはなんなのか。これらの疑問については、現代でもよくわかっておらず、基礎医学での最大のブラックボックスである」と、睡眠の機能や調節の謎は今も解明中であることを説明した。昼間の眠気は“異常”で日本人特有 ヒトなどの哺乳類の睡眠状態は、脳波測定により(1)覚醒、(2)ノンレム睡眠、(3)レム睡眠(夢を見る状態)と3つに分けることができる。睡眠の質・安定性の崩れは、高齢者に限らず30~40代から始まる健常な加齢現象であり、多くの人が気にしている“朝型・夜型”についても「生物学的なもので、年齢でも大きく変化する」とコメントした。なお、レム睡眠を「浅い睡眠」と間違って表現される事例が見受けられるが、「それは間違い。レム睡眠も深い睡眠の1種で、心身の健康のために重要」と同氏は強調した。 ここで注意したいのが、昼間の眠気は健常ではなく“異常”だということだ。昼間に眠そうな人を見かけることは、日本人にとってはごく当たり前のことだが、欧米の人々は体調不良とみなす。そして、日本人の平均睡眠時間は単に短いだけではなく、「外れ値で特異」なのだという。経済的に豊かな国では平均睡眠時間が長い傾向にあり、60年前の日本人はちゃんと睡眠時間を8時間13分も確保できていたが、現在では平均睡眠時間が1時間も減少している。この原因は、日本人のストイックな国民性や睡眠時間の確保に対する優先順位の低さが影響している可能性があり、就寝時間を優先する意識が強い欧米諸国の人々と睡眠の重要性が相反するのだという。また、男女別では、生物学的特性として女性のほうがやや長く眠る傾向にあり、世界的にも男性より女性のほうが睡眠時間は長い。だが、ここでも日本人は特異で、「女性のほうが睡眠時間がずっと短い。おそらく家事分担の負荷が影響しているのではないか」と同氏はコメントした。 では仮に、6時間睡眠を10日ほど続けると、われわれの活動レベルはどうなるのか。これについては「徹夜と同じ程度のパフォーマンス低下が認められ、感情制御が効かなくなり利他的行為の抑制2)などの問題点が生じる。睡眠時間のみならず、質の低下(不規則な睡眠)でも循環器疾患の増加、認知症リスクの上昇3)、が報告されている。重症の睡眠時無呼吸症候群を放置した場合には、20%近くが12年以内に致命的な心血管疾患を発症する4)」と指摘した。眠気と覚醒の関係性 脳内には、覚醒させる神経細胞グループと睡眠を促進する神経細胞グループがそれぞれ複数存在し、シーソーのような関係で覚醒と睡眠を切り替える。同氏は覚醒神経細胞の親玉とも言えるオレキシン産生細胞を発見し、中枢性過眠症の1つであるナルコレプシーがオレキシン欠乏によるものであることを明らかにした。その研究が実用化され、不眠症治療薬のオレキシン受容体拮抗薬3剤(スボレキサント[商品名:ベルソムラ]、レンボレキサント[商品名:デエビゴ]、ダリドレキサント[商品名:クービビック])が国内で販売されている。一方、オレキシン欠乏を認めるナルコレプシーあるいは他の原因による過剰な眠気の治療薬として、オレキシン受容体作動薬oveporexton(TAK-861、武田薬品工業)の臨床試験も進められており、関連化合物の第IIb相試験での安全性・忍容性に対する報告がNEJM誌2025年5月15日号に掲載された。半数近くが睡眠誤認している “眠気の正体”はいまだ明らかになっていないものの、恒常性による制御(徹夜明けによる眠気)と脳の視床下部視交叉上核にある体内時計による制御(時差ボケによる眠気)という2つのプロセスで眠気をコントロールしていること、眼(網膜)に入る光、とくにブルーライトが体内時計を狂わし睡眠に影響を及ぼすことはわかっている。「夜間の明るい光は体内時計を遅らせるだけでなく、夜のホルモンと呼ばれるメラトニン分泌を抑制し、直接の覚醒作用もあるため、睡眠のためには有害」とし、「夜の照明は100lux未満が睡眠学的に推奨される」と日本のリビング・ダイニングルームの照明が明る過ぎる(約500lux)点にも触れた。また、睡眠前のスマートフォンの利用については、「厳しい意見もあるが、画面の小ささを考慮するとスマートフォンの制限よりも天井の光の強さのほうが有害。睡眠前に自身が眠くなる(スマートフォンで見られる)コンテンツを見つけ、それを習慣化することは1つの手である」とも話した。 2017年に株式会社S’UIMIN(スイミン)を起業し、在宅睡眠脳波測定サービス(インソムノグラフ)*を実用化している同氏は、「多くの利用者の測定結果を検証した5)ところ、自覚している睡眠時間や睡眠の質は当てにならないことが明らかになった。十分に寝ていると言っている人でも45%は無自覚な睡眠不足で、不眠を訴える人の66%は客観的には健やかに眠れていた。さらに、自分の睡眠の質に満足している人の40%に睡眠時無呼吸の疑いがみられた」と述べ、「睡眠脳波測定は睡眠習慣の改善や睡眠障害の早期発見に役立つ可能性がある」と締めくくった。*睡眠時の脳波を測定してAIで解析し、専門家による改善アドバイスを加えて受診者にフィードバックする睡眠計測サービス

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2025年版 心不全診療ガイドライン改訂のポイント(後編)【心不全診療Up to Date 2】第2回

2025年版 心不全診療ガイドライン改訂のポイント(後編)Key Point予防と早期介入の重視:心不全リスク段階(ステージA)に慢性腎臓病(CKD)を追加し、発症前の予防的アプローチを強化薬物療法の進展:SGLT2阻害薬が左室駆出率を問わず基盤治療薬となり、HFpEF/HFmrEFや肥満合併例への新薬(フィネレノン、インクレチン関連薬など)推奨を追加包括的・患者中心ケアへの転換:地域連携・多職種連携、急性期からのリハビリテーション、患者報告アウトカム評価、併存症管理を強化し、より統合的なケアモデルを推進前回は、改訂の背景、心不全の定義の変更、薬物治療について解説した。今回は、新規疾患概念とその治療や評価法にフォーカスして改訂ポイントを紹介する。4. 原疾患(心筋症)に対する新たな治療心不全の原因となる特定の心筋症に対して、近年の治療の進歩を反映した新たな推奨が追加された。とくに、肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy:HCM)、心アミロイドーシス、心臓サルコイドーシスに関する記載が更新されている1)。肥大型心筋症(HCM)症候性(NYHAクラスII/III)の閉塞性HCM(HOCM)に対して、心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンが新たな治療選択肢として推奨された。日本循環器学会(JCS)からはマバカムテンの適正使用に関するステートメントも発表されており、投与対象(LVEF≥55~60%、有意な左室流出路圧較差)、注意事項(二次性心筋症除外など)、投与中のモニタリング(LVEF低下時の休薬基準など)、併用薬(β遮断薬またはCa拮抗薬との併用が原則)、処方医・施設の要件が詳細に規定されている。マバカムテンはHCMの病態生理に直接作用する薬剤であり、その導入には厳格な管理体制が求められる。トランスサイレチン型心アミロイドーシス (ATTR-CM)ATTR-CMに対する新たな治療薬として、ブトリシラン(RNA干渉薬)およびアコラミジス(TTR安定化薬)の推奨が追加された。これらの推奨は、HELIOS-B試験(ブトリシラン)2)やATTRibute-CM試験(アコラミジス)3)などの臨床試験結果に基づいたものである。これらの新しい治療法の登場は、特定の心筋症に対して、その根底にある分子病理に直接介入する標的療法の時代の到来を告げるものである。マバカムテンはHCMにおけるサルコメアの過収縮を、ブトリシランはTTR蛋白の産生を抑制し、アコラミジスはTTR蛋白を安定化させる。これらは、従来の対症療法的な心不全管理を超え、疾患修飾効果が期待される治療法であり、精密医療(Precision Medicine)の進展を象徴している。この進展は、心不全の原因精査(特定の心筋症の鑑別診断)の重要性を高めるとともに、これらの新規治療薬の適正使用とモニタリングに関する専門知識を有する医師や施設の役割を増大させる。遺伝学的検査の役割も今後増す可能性がある。表2:特定の心筋症に対する新規標的治療薬(2025年版ガイドライン追記)画像を拡大する5. 特殊病態・新規疾患概念心不全の多様な側面に対応するため、特定の病態や新しい疾患概念に関する記述が新たに追加、または拡充された1)。心房心筋症心房自体の構造的、機能的、電気的リモデリングが心不全(とくにHFpEF)や脳卒中のリスクとなる病態概念であるため追加中性脂肪蓄積心筋血管症細胞内の中性脂肪分解異常により心筋や血管に中性脂肪が蓄積する稀な疾患概念であり、診断基準を含めて新たに記載高齢者/フレイル高齢心不全患者、とくにフレイルを合併する患者の評価や管理に関する配慮が追加腫瘍循環器学がん治療(化学療法、放射線療法など)に伴う心血管合併症や、がんサバイバーにおける心不全管理に関する記述が追加これらの項目の追加は、心不全が単一の疾患ではなく、多様な原因や背景因子、そして特定の患者集団における固有の課題を持つことを反映している。6. 診断・評価法の強化心不全の診断精度向上と、より包括的な患者評価を目指し、新たな診断・評価法に関する推奨が追加された。遺伝学的検査特定の遺伝性心筋症や不整脈が疑われる場合など、適切な状況下での遺伝学的検査の実施に関する推奨とフローチャートが追加ADL/QOL/PRO評価日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)、生活の質(QOL)、患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcomes:PROs)の評価が、単なる生活支援の指標としてだけでなく、予後予測因子としても重要であることが位置付けられた。Barthel Index、Katz Index(ADL評価)、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire(KCCQ)、Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire(MLHFQ[PRO評価の1つ])などの具体的な評価ツールの活用を推奨リスクスコア予後予測のためのリスクスコアの活用に関する項目が追加BNP/NT-proBNPスクリーニングステージAからステージBへの進展リスク評価のためのBNP/NT-proBNP測定を推奨これらの診断・評価法の強化は、従来の心機能評価(LVEF、バイオマーカーなど)に加え、遺伝的背景、実際の生活機能、そして患者自身の主観的な評価を取り入れた、より多面的で患者中心の評価へと向かう流れを示している。とくにADL、QOL、PROの重視は、心不全治療の目標が単なる生命予後の改善だけでなく、患者がより良い生活を送れるように支援することにある、という考え方を反映している。臨床医は、これらの評価法を日常診療に組み込み、より個別化された治療計画の立案や予後予測に役立てることが求められる。7. 社会的側面への対応:地域連携・包括ケアの新設心不全患者の療養生活を社会全体で支える視点の重要性が増していることを受け、「地域連携・地域包括ケア」に関する章が新たに設けられた。これは今回の改訂における大きな特徴の1つである。この章では、病院完結型医療から地域完結型医療への移行を促すため、以下のような多岐にわたる内容が盛り込まれている。多職種連携医師、看護師(とくに心不全療養指導士1))、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、ソーシャルワーカーなど、多様な専門職が連携し、患者中心のケアを提供する体制の重要性を強調4)。地域連携病院、診療所(かかりつけ医)、訪問看護ステーション、薬局、介護施設、行政などが緊密に連携し、情報共有や役割分担を通じて、切れ目のないケアを提供するネットワーク構築の必要性を明示4)。デジタルヘルス・遠隔モニタリングスマートフォンアプリ、ウェアラブルデバイス、植込み型デバイスなどを活用した遠隔モニタリングやオンライン診療が、患者の状態のリアルタイム把握、早期介入、再入院予防、治療の最適化、医療アクセス向上に貢献する可能性のあるツールとして正式に位置付け1)社会復帰・就労支援患者の社会生活への復帰や就労継続を支援するための情報提供や体制整備の必要性についても言及この新設された章は、心不全管理が単なる医学的治療に留まらず、患者の生活全体を地域社会の中で包括的に支えるシステムを構築する必要があるという、パラダイムシフトを明確に示している。これは、心不全を慢性疾患として捉え、急性期治療後の長期的な安定維持とQOL向上には、医療、介護、福祉、そしてテクノロジーが一体となった支援体制が不可欠であるとの認識に基づいている。8. 急性非代償性心不全の管理急性非代償性心不全(Acute Decompensated Heart Failure:ADHF)の病態評価と治療に関して、より精緻な管理を目指すための改訂が行われた。WHFとDHFの定義追加心不全の悪化に関する用語として、心不全増悪(Worsening Heart Failure:WHF)と非代償状態(Decompensation:DHF)の定義が明確化。WHF既知の心不全患者において、症状や徴候が悪化する状態。LVEF低下やBNP上昇などの客観的所見を伴う場合もある。慢性心不全の進行や治療反応性の低下を示唆する。DHF慢性的に代償が保たれていた心不全が、何らかの誘因により急激に代償不全に陥り、体液貯留や低心拍出症状が顕在化する状態。緊急治療を要することが多い。ADHFは、このDHFの中でもとくに緊急性の高い重症病態(呼吸不全、ショックなど)を指す。移行期管理の推奨追加ADHFによる入院治療後、安定した代償状態へと移行する期間(移行期)の管理に関する知見と推奨が新たに追加。とくに、退院後90日間は再入院リスクが非常に高い「脆弱期(vulnerable phase)」と定義され、この期間における多職種による集中的な介入(心臓リハビリテーション、服薬指導、栄養指導、訪問看護、ICT活用など)の重要性を強調する。これらの改訂は、急性増悪時の病態をより正確に把握し(WHF/DHF/ADHFの区別)、とくに退院後の不安定な時期(脆弱期)における管理を強化することで、再入院を防ぎ、長期的な予後改善を目指す戦略を明確にしている。これは、急性期治療の成功を入院中だけでなく、退院後のシームレスなケアへと繋げることの重要性を示唆しており、後述する急性期リハビリテーションや前述の地域連携・多職種連携の強化と密接に関連している。臨床現場では、標準化された定義に基づいた病態評価と、脆弱期に焦点を当てた構造化された退院後支援プログラムの導入が求められる。9. 急性期リハビリテーションの推奨強化心不全診療におけるリハビリテーションの重要性が再認識され、とくに急性期からの早期介入に関する包括的な記述と推奨が大幅に強化された。早期介入の意義入院早期からの運動療法を含む心臓リハビリテーションが、「切れ目のないケア」の中核として位置付けられた。ACTIVE-ADHF試験などの国内エビデンスも引用され4)、早期介入が運動耐容能、ADL、認知機能、QOLの改善に寄与し、予後を改善する可能性が示されている。この改訂は、リハビリテーションを、従来の外来での安定期患者向けサービスという位置付けから、急性期入院時から開始されるべき心不全治療の不可欠な構成要素へと転換させるものである。心不全による身体機能低下やフレイルの進行を早期から抑制し、円滑な在宅復帰と地域での活動性維持を支援する上で、リハビリテーション専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)の役割が極めて重要であることを示している。今後は、急性期医療チームへのリハビリテーション専門職の積極的な参画、早期離床・運動療法プロトコルの標準化、そして退院後の継続的なリハビリテーション提供体制(遠隔リハビリ含む)の整備が課題となる。10. 併存症管理の重点化心不全患者においては多くの併存疾患が存在し、それらが予後やQOLに大きな影響を与えることから、主要な併存症の管理に関する記載と推奨が強化された。とくに重要視される併存症として、以下のものが挙げられ、それぞれの管理戦略に関する最新の知見が盛り込まれている。慢性腎臓病(CKD)・心腎症候群心不全とCKDは密接に関連し、相互に悪影響を及ぼす。腎機能に応じた薬物療法(用量調節)の必要性とともに、SGLT2阻害薬やフィネレノンなど心腎保護効果を有する薬剤の積極的な活用を推奨。肥満とくにHFpEFにおいて、肥満は重要な治療ターゲットであり、GLP-1受容体作動薬などの抗肥満薬が症状改善に寄与する可能性が示唆。糖尿病SGLT2阻害薬は心不全と糖尿病の両方に有効な治療選択肢である。GLP-1受容体作動薬も考慮される。血糖管理だけでなく、心血管リスク低減を考慮した薬剤選択が重要となる。高カリウム血症RAS阻害薬やMRA使用時に問題となりうるため、モニタリングと管理(食事指導、カリウム吸着薬など)に関する注意喚起がなされている。貧血・鉄欠乏鉄欠乏は心不全症状や運動耐容能低下に関与し、診断と治療(経静脈的鉄補充療法など)が推奨される。抑うつ・認知機能障害・精神心理的問題これらの精神神経系の併存症はQOL低下やアドヒアランス不良につながるため、スクリーニングと適切な介入(精神科医との連携含む)の重要性が指摘されている。おわりに2025年版心不全診療ガイドラインは、近年のエビデンスに基づき、多岐にわたる重要な改訂が行われた。とくに、心不全発症前のリスク段階(ステージA/B)からの予防的介入、CKDの重要性の強調、LVEFによらずSGLT2阻害薬が基盤治療薬となったこと、特定の心筋症に対する分子標的治療の導入、急性期から慢性期、在宅までを見据えたシームレスなケア体制(急性期リハビリテーション、移行期管理、地域連携、多職種連携、デジタルヘルス活用)の重視、そして併存症や患者報告アウトカム(PRO)を含めた包括的・患者中心の管理へのシフトは、本ガイドラインの根幹をなす変化点と言える。全体として、本ガイドラインは、心不全診療を、より早期からの予防に重点を置き、エビデンスに基づいた薬物療法を最適化しつつ、リハビリテーション、併存症管理、患者のQOLや社会的側面にも配慮した、包括的かつ統合的なモデルへと導くものである。本邦の高齢化社会という背景を踏まえ、実臨床に即した指針を提供することを目指している。心不全管理は日進月歩であり、今後も新たなエビデンスの創出が期待される。臨床現場の医療従事者各位におかれては、本ガイドラインの詳細を熟読・理解し、日々の診療にこれらの新たな知見を効果的に取り入れることで、本邦における心不全患者の予後とQOLのさらなる向上に貢献されることを期待したい。 1) Kitai T, et al. Circ J. 2025 Mar 28. [Epub ahead of print] 2) Fontana M, et al. N Engl J Med. 2025;392:33-44. 3) Gillmore JD, et al. N Engl J Med. 2024;390:132-142. 4) Kamiya K, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:912-922.

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エビナクマブに続けるか?抗ANGPTL4抗体薬の可能性(解説:興梠貴英氏)-1971

 ANGPTL(angiopoietin-like)タンパク質は1から8までのファミリーをなしており、その中で3、4、8はリポ蛋白リパーゼ活性を阻害することで中性脂肪(TG)の血清濃度を上げる作用がある。したがって、ANGPTL3、4、8を阻害することでTGを低下させ、ひいては動脈硬化性疾患の減少につながることが期待されている。すでにANGPTL3に対するモノクローナル抗体医薬であるエビナクマブは2021年にFDAおよびEMAにより承認され、本邦においても2024年1月18日に承認されている。抗ANGPTL4抗体薬についても開発が進められていたが、REGN1001という抗体薬は前臨床のマウス投与実験において副作用が多発したため、開発中止となった。 一方、本論文で用いられているMarea Therapeutics社が開発する抗ANGPTL4抗体医薬であるMAR001については、非ヒト霊長類に対する投与実験を行い、重大な副作用を起こすことなく、TGやApoB等を低下させることが示された。この結果を受けて、本論文では初めてヒトに対して投与した第I相および第Ib/IIa相試験を施行した結果が報告されている。第I相試験では健康な被験者に対して皮下注射によるMAR001投与を行い、最大450mgまでの用量における安全性が確認された。第Ib/IIa相試験においては、高TG血症や糖尿病等の代謝異常を有する被験者に対して150mg、300mg、450mgの用量でプラセボとのランダム割り付けで投与され、450mg投与の場合に重大な副作用が発生することなく、TGが52.7%、レムナントコレステロールが52.5%低下することが示された。今後治験が順調に進めば、また新たな脂質異常症治療薬が誕生するかもしれない。

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糖尿病患者の認知症リスク低減、GLP-1薬とSGLT2阻害薬に違いは?

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)およびSGLT2阻害薬と2型糖尿病患者のアルツハイマー病およびアルツハイマー病関連認知症(ADRD)のリスクを評価した結果、両剤はともに他の血糖降下薬と比較してADRDリスクの低下と関連しており、GLP-1薬とSGLT2阻害薬の間には有意差は認められなかったことを、米国・University of Florida College of PharmacyのHuilin Tang氏らが明らかにした。JAMA Neurology誌2025年4月7日号掲載の報告。 GLP-1薬およびSGLT2阻害薬とADRDリスクとの関連性はまだ確認されていない。そこで研究グループは、2型糖尿病患者におけるGLP-1薬およびSGLT2阻害薬に関連するADRDリスクを評価するために、2014年1月~2023年6月のOneFlorida+ Clinical Research Consortiumの電子健康記録データを使用して、無作為化比較試験を模倣するターゲットトライアルエミュレーションによる検証を実施した。対象は50歳以上の2型糖尿病患者で、ADRDの診断歴または認知症治療歴がない者とした。ADRDは臨床診断コードを用いて特定した。 2型糖尿病患者39万6,963例のうち、(1)GLP-1薬と他の血糖降下薬の比較コホートが3万3,858例(平均年齢:65歳、女性:53.1%)、(2)SGLT2阻害薬と他の血糖降下薬の比較コホートが3万4,185例(65.8歳、49.3%)、(3)GLP-1薬とSGLT2阻害薬の比較コホートが2万4,117例(63.8歳、51.7%)であった。潜在的な交絡因子を調整するため逆確率重み付け(IPTW)を用いたCox比例ハザード回帰モデルで、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。(1)GLP-1薬開始群のADRD発症率は、他の血糖降下薬開始群よりも低かった。・発症率差(RD):1,000人年当たり-2.26、95%CI:-2.88~-1.64・HR:0.67、95%CI:0.47~0.96(2)SGLT2阻害薬開始群のADRD発症率は、他の血糖降下薬開始群よりも低かった。・RD:1,000人年当たり-3.05、95%CI:-3.68~-2.42・HR:0.57、95%CI:0.43~0.7(3)GLP-1薬開始群とSGLT2阻害薬開始群の間にはADRD発症率の差は認められなかった。・RD:1,000人年当たり-0.09、95%CI:-0.80~0.63・HR:0.97、95%CI:0.72~1.32 これらの結果より、研究グループは「2型糖尿病患者では、GLP-1薬とSGLT2阻害薬はどちらも他の血糖降下薬と比較してADRDのリスク低下と統計学的に有意に関連しており、両薬剤間に差は認められなかった。本研究の結果は、GLP-1薬とSGLT2阻害薬による神経保護を支持するものであり、2型糖尿病患者のADRD予防戦略における役割を示唆するものである」とまとめた。

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第246回 医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協

<先週の動き> 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(医薬品公取協)は5月30日、講演会や情報提供における飲食提供のルールを13年ぶりに見直し、明確な金額基準と提供形態の規定を導入する新運用基準を発表した。来春の2026年4月1日から実施。新基準では、医師への飲食提供の上限は「飲酒を伴う飲食」で2万円、「飲酒を伴わない食事」で3,000円に統一された。講演会の役割者や医療機関から委託された業務に伴う飲食は上限2万円まで許容されるが、施設外でのMR活動における飲食は廃止され、食事のみ・上限3,000円に厳格化された。これは「飲酒を伴う情報提供は適切でない」との判断による。また、社内研修会の講師への慰労飲食は“乱用の恐れが大きい”として禁止され、従来1万円以下で認められていた着席型の懇親会も認めない方針とした。懇親行事は原則として立食形式に限定される。この見直しは、2012年の改定以降の社会変化-コロナ禍、情報提供のデジタル化、働き方改革など-を反映したもの。従来、飲食に関する基準は不明瞭で違反リスクも高かったことから、公務員倫理規程を参考に「国民・患者からの理解」重視で簡素化と整合性を図った。あわせて2024年度には、病院長への10年以上にわたる社有車送迎による規約違反が「指導」対象となるなど、透明性向上と規律強化が求められている。医薬品公取協の新会長には安川 健司氏(アステラス製薬)が就任し、改定ルールの周知と規約遵守、業界全体の信頼向上に取り組む姿勢を表明した。 参考 1) 飲食提供ルールを改定へ-施設外での酒席認めず、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(薬事日報) 2) メーカー公取協 飲食や食事の提供に関する運用基準見直し 上限額明記 社内研修会の慰労会は許容せず(ミクスオンライン) 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府政府は2026年度から、医療費削減策として「OTC類似薬」の一部を医療保険の適用外とする方向を正式に打ち出した。風邪薬や湿布薬、胃薬など、効能が市販薬と類似する処方薬が対象で、維新の会の試算では最大3,500億円の医療費削減が見込まれる。これにより、現役世代の保険料軽減が期待される一方で、高齢者や慢性疾患患者への影響は避けられず、日本医師会は「健康被害のリスクがある」として強く反発している。このような制度改革と並行して、製薬業界でもOTC市場への展開が活発化している。2025年6月、エーザイは国内で初めてPPI(プロトンポンプ阻害薬)のOTC化を実現し、「パリエットS」を発売した。同剤は医療用と同量のラベプラゾールナトリウムを含み、要指導医薬品として薬剤師の対面販売が義務付けられている。今後はアリナミン製薬(タケプロンS)や佐藤製薬(オメプラールS)も参入予定であり、OTC胃薬市場に構造変化をもたらす可能性が高い。さらにED治療薬「タダラフィル」のスイッチOTC化も動き出した。エスエス製薬が申請を進めており、薬剤師による問診と適正使用指導、医療機関との連携体制を構築する方針だ。偽造薬の蔓延や未受診者の多さ(ED患者の88%が未治療)を背景に、正規ルートでの治療アクセス拡充が期待されている。こうした変化により、軽症疾患の自己管理が推奨される一方で、診断機会の喪失や副作用管理の困難性が課題となる。医師にとっては、患者のセルフメディケーションを前提にした服薬管理の支援や、重症化リスクの早期発見の啓発がより重要となる。 参考 1) OTC類似薬、保険除外へ 26年度から一部、骨太明記 政府、患者負担配慮(共同通信) 2) “OTC類似薬見直し”で風邪薬や湿布が保険適用外に? 膨張する医療費の削減目的が背景「健康被害広まる」と医師会は反発(FNNプライムオンライン) 3) 国内初、OTCのPPI「パリエットS」が発売(日経ドラッグインフォメーション) 4) 緊急避妊薬のOTC化「面前服用は必要」意見多数(同) 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府政府が6月6日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」に加え、自民・公明両党と日本維新の会の三党合意により、医療業界にとって重大な政策転換が進もうとしている。今回の合意では、全国で約11万床の病床削減と、電子カルテ普及率100%に向けた医療DXの加速が明記され、医療提供体制と経営構造に抜本的な変革が迫られることになる。三党は人口減少によって将来的に不要とされる病床が11万床にのぼると推定し、2040年を見据えた新たな地域医療構想の開始時期である2027年度までに、調査を踏まえて削減を図る方針。維新の試算では、この病床削減により年間約1兆円の医療費抑制効果が見込まれるとされるが、自民党側はこの数字への責任を明言せず、合意文書では「一定の合理性のある試算」との曖昧な表現に止まっている。他方、「骨太方針2025」では医療・介護給付費の対GDP比の上昇に対して制度改革を進める方針が打ち出されており、医師の地域偏在是正、在宅医療体制の整備、ICT活用の推進が重点項目となっている。とくに地方では医療・介護の維持そのものが課題となっており、病床の削減は地域医療体制の崩壊リスクを伴う。電子カルテ普及率の5年以内の実質100%実現も明記され、医療DXが急速に進む見通しである。医療情報の共有による効率化が期待される一方で、初期投資やシステム整備の負担が中小病院や診療所に重くのしかかる可能性がある。これに加え、介護分野でも人材確保と処遇改善、公的制度の見直しがセットで進められる。このような一連の改革は、医療の質の担保と地域格差の是正を両立させる必要があり、数値目標ありきで進めれば、現場の疲弊や医療難民の増加を招く恐れもある。全国自治体病院協議会も声明で「数字ありきではなく、適正な病床再編を」と強調している。現場の声を踏まえつつ、持続可能な医療・介護体制をどう築くか。今回の合意は社会保障改革の一里塚であると同時に、医療現場への重大な問いかけでもある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 自公維 “病床削減などで国民負担軽減”社会保障改革 合意(NHK) 3) 人口減で全国11万床が不要に…自公と維新が病床削減で合意、医療法改正案の年内成立目指す(読売新聞) 4) 自公維・社会保険料の負担軽減協議 余剰病床の削減で合意 11万床で1兆円の医療費削減(FNNプライムオンライン) 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府政府は6月6日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」の原案において、「外国人との秩序ある共生社会の実現」を掲げ、外国人による医療費の「タダ乗り」対策を中心とする制度見直しを明記した。外国人による社会保障の不適正利用や滞納への懸念が高まる中、入国審査の厳格化、在留資格更新への制限、情報基盤整備など、多方面からの対策が進められる。厚生労働省の調査では、外国人世帯主の国民健康保険納付率は全国平均で63%に止まり、日本人世帯の93%と比べて大きな差がある。政府はこれを受け、医療費の未払い履歴を入国管理や在留資格の審査に反映させる仕組みを構築し、保険制度の適用範囲の見直しも検討する。また、医療費未払いを理由とした外国人観光客の再入国拒否や、社会保険料滞納者への在留資格更新の不許可も新たな対応策として盛り込まれた。制度の実効性を高めるため、内閣官房に新たな司令塔組織を設置し、「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」を中心に、法令順守や情報の透明性向上に取り組む方針。さらに、2028年度導入を目指す電子渡航認証制度や入国・出国情報の一元管理により、出入国管理の強化も進める。急増する外国人観光客や就労者との共生を前提に、制度の整合性と持続性が問われる中、国民の不安を背景にしたこの一連の対策は、今後の外国人政策全体の方向性を左右する転機となる可能性がある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 外国人医療費「タダ乗り」対策強化 政府「骨太の方針」原案 外国人関連部分の全容判明(産経新聞) 3) 医療費未払い、入国審査を厳格化 外国人材受け入れで司令塔組織-政府(時事通信) 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁デジタル庁は6月6日、2025年6月24日からiPhoneにマイナンバーカード機能を搭載可能とする方針を発表した。これにより、iPhoneユーザーは物理カードを持ち歩かなくても、マイナポータルへのログインや、住民票などの証明書の取得が可能となる。ウォレットアプリへの登録後、顔認証や指紋認証で本人確認を行い、各種行政手続きに対応できる。医療現場にとって注目すべきは、9月以降に「マイナ保険証」機能もiPhone上で利用可能になる点だ。現在はAndroid端末のみが先行対応していたが、今後はiPhoneでも対応となる予定で、保険証確認がスマートフォン1台で完結する時代が到来する。厚生労働省は7月から一部の医療機関で実証実験の開始を予定。従来のカードリーダーにスマホ読取用アタッチメントを追加する形で運用される見込みだ。セキュリティ対策として、AppleのFace IDやTouch IDで保護されており、医療情報や銀行口座情報はスマホに保存されない設計。万が一の紛失時も24時間体制のフリーダイヤルやAppleの「探す」アプリから即時利用停止が可能となる。iPhoneへの対応により、患者側の利便性が大幅に向上する一方で、医療機関としては新たな読み取り機器や受付対応の見直しが求められる可能性がある。今後の制度設計や導入指針に注目が集まる。 参考 1) 2025年6月24日から「iPhoneのマイナンバーカード」を開始予定です(デジタル庁) 2) iPhoneにマイナ機能搭載、24日から…カードが手元になくても行政手続き可能に(読売新聞) 3) 「iPhoneのマイナンバーカード」6月24日開始(Impress Watch) 4) iPhoneへのマイナンバーカード搭載は6月24日から-秋には保険証にも 運転免許証対応は?(CNET Japan) 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省厚生労働省が公表した2023年度の「特定健康診査・特定保健指導」の実施状況によると、特定健診の実施率は59.9%、保健指導の実施率は27.6%となり、いずれも制度開始(2008年度)以来で過去最高となった。ただし、国が掲げる2023年度の目標値(健診70%以上、保健指導45%以上)には届かず、2029年度までの達成が継続課題となっている。健診の実施率は、健康保険組合や共済組合が80%超と高い一方で、市町村国保は38.2%に止まり、保険者間の格差が大きい。年代別では40~60代前半で60%を超えたが、高齢層では実施率が低下傾向にある。一方、東京都が行った2024年度「都民の健康と医療に関する実態と意識」調査によれば、健康意識は高まっているものの、特定健診の受診率は66%とコロナ前の72.3%には戻っておらず、保健指導の未実施者も多い。指摘内容は、「脂質異常」「高血圧」「肥満」が中心で、保健指導を受けた人のうち約7割が「おおむね」または「一部」実行していると回答した。生活習慣の改善意欲を持つ人は9割近くに上ったが、特定保健指導を「案内されていない」とする人が約4割おり、対象者への確実な情報提供や参加促進策が課題とされる。今後は、対象者の掘り起こしや、働き盛り世代・高齢層への個別アプローチの強化、保険者間の格差是正が、生活習慣病予防と医療費抑制に向けた鍵となる。 参考 1) 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診実施率は59.9% 23年度、保健指導は27.6%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率59.9%、23年度 過去最高も国の目標未達(CB news) 4) 「都民の健康と医療に関する実態と意識」の結果(東京都)

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片頭痛の原因は、ベーコンに生息していたアレ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第283回

片頭痛の原因は、ベーコンに生息していたアレアメリカ在住の52歳男性が主人公です。慢性片頭痛、2型糖尿病、脂質異常症、肥満の既往歴があり、これまで月に1~2回程度であった片頭痛が4ヵ月間で週1回程度に増加し、後頭部両側を中心とした強い痛みを訴えるようになりました。とくに懸念すべきことは、これまでトリプタン製剤などの頓服の鎮痛薬に良好に反応していた片頭痛が、治療抵抗性を示すようになったことです。生活に困りますよね。Byrnes E, et al. Neurocysticercosis Presenting as Migraine in the United States. Am J Case Rep. 2024;25:e943133.ただ、新しい神経症状はなく、神経学的所見も非局在性でした。―――ふぅむ、やはり片頭痛なのか。ここは、主治医の問診力が問われます。病歴聴取を重ねたところ、なんだか変なエピソードが出てきました。患者「軽く火を通しただけのカリカリとは到底いえないベーコンを、長年にわたって食べる習慣があります」…あー、なんかそれ、怪しそうやん!実施した頭部CTでは、大脳半球全体の深部皮質および脳室周囲白質実質内に多数の嚢胞性病巣が両側性に認められました。MRIでは、これらの嚢胞性病変の周囲にT2/FLAIR高信号での浮腫が確認されました。ブルっと震えるような所見です。「これは…神経嚢虫症かもしれないッ!」この寄生虫感染症が鑑別診断に挙がる主治医もスゴイですが、やはり生焼けベーコンのエピソードがこの疾患を疑うポイントなのでしょうね。徹底的な感染症検査が行われ、血液・尿培養、HIV抗体、クリプトコッカス抗原、トキソプラズマ抗体はすべて陰性でしたが、嚢虫症IgG抗体が陽性となり、神経嚢虫症の診断が確定しました。 発作予防と脳浮腫軽減のためのデキサメタゾンに加え、経口アルベンダゾールとプラジカンテルが、計14日間投与されました。患者は治療に良好に反応し、病変の退縮と頭痛の改善がみられました。いやー、よかったよかった。神経嚢虫症は、有鉤条虫(Taenia solium)による感染症です。人間は偶発的な中間宿主に過ぎず、これに感染した豚肉や糞便中の嚢胞を摂取することで感染することが知られています。開発途上国で風土病となっていますが、現代における海外渡航や移民の増加により、先進国でも診断されることも増えています。低温調理やジビエが一時期流行って、変な感染症が話題になったことがあります。グランピングもまだまだ流行っているので、豚肉を摂取する場合は十分に加熱しましょう。

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