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GLP-1受容体作動薬が乳がんの治療成績を改善する可能性

 血糖コントロールや肥満症の治療のために用いられているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が、一部の乳がん患者の予後改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。肥満または糖尿病のある乳がん患者では、同薬の使用の有無によって全死亡や再発のリスクに有意差が見られるという。米VCUマッセイ総合がんセンターのBernard Fuemmeler氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月11日掲載された。 これまでの研究から、肥満や2型糖尿病を有する乳がん患者は、生存率が低い傾向にあることが示されている。また、エビデンスは十分ではないものの、肥満と乳がんが併存する場合には、減量が乳がんの予後を改善させる可能性が示唆されている。他方で近年では、2型糖尿病や肥満症に対してGLP-1RAが処方される機会が増えている。ただし、GLP-1RAの使用と乳がん患者の予後との関連は明らかにされていない。以上を背景としてFuemmeler氏らは、米国内の医療機関68施設の電子医療記録が統合されたリアルワールドデータベース(TriNetX US Collaborative Network)を用いた検討を行った。 2006年4月1日~2023年4月1日に乳がんと診断された18歳以上の女性84万1,831人(平均年齢69.1±12.2歳)を対象に、傾向スコアマッチングにより、年齢、人種・民族、肥満有病率などの背景因子が調整されたコホートが3つ作成された。1つ目はBMI30以上の肥満患者を対象にGLP-1RA処方の有無で比較するコホート(各群1,610人)、2つ目は2型糖尿病のある患者を対象にGLP-1RA処方群とインスリンまたはメトホルミン処方群を比較するコホート(各群2,323人)、3つ目は2型糖尿病のある患者を対象にGLP-1RA処方群とSGLT2阻害薬(SGLT2i)処方群を比較するコホート(各群4,052人)。追跡期間を10年とし、主要評価項目は全死因死亡、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)とした。 解析の結果、1つ目のコホートにおいてGLP-1RAの処方は、全死因死亡(ハザード比〔HR〕 0.35〔95%信頼区間0.21~0.58〕)、およびRFSのリスク低下(HR 0.44〔同0.30~0.64〕)と関連していた。また、2つ目のコホートにおいてGLP-1RAの処方は、全死因死亡(HR 0.09〔0.06~0.15〕)、およびRFSのリスク低下(HR 0.33〔0.21~0.50〕)と関連していた。3つ目のコホートでのSGLT2iとの比較では有意差が認められなかった(全死因死亡はHR 0.97〔0.82~1.14〕、RFSはHR 0.91〔0.71~1.18〕)。 この結果をFuemmeler氏は、「われわれの研究はGLP-1RAが一部の乳がん患者に対して、生存率の改善および再発リスク低下と関連する可能性を示している」と総括。ただし、「この影響が、GLP-1RAが有する減量効果や心肺機能改善効果、あるいはその他の生物学的な要因と関連したものかどうかを判断するには、さらなる研究が必要だ」と同氏は付け加えている。なお、研究者らは今後、ランダム化比較試験の実施を予定している。

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非DM肥満/過体重への経口GLP-1薬elecoglipron、最大10.5%の減量効果/Lancet

 非糖尿病の肥満/過体重の成人において、elecoglipron(AZD5004)の1日1回経口投与は臨床的に意義のある体重減少を示し、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬クラスの既知の報告に合致することが確認された。英国・レスター大学のMelanie J. Davies氏らが、日本を含む7ヵ国で実施された第II相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「VISTA試験」の結果を報告した。elecoglipronは、食事や水分摂取の制限なしに1日1回経口投与可能な低分子GLP-1受容体作動薬で、これまで2型糖尿病を有する肥満/過体重の患者の体重管理を目的として開発が進められてもいる。今回の結果を踏まえて著者は、「非糖尿病の肥満/過体重成人を対象とする第III相試験でさらなる開発を進めることが支持された」とまとめている。Lancet誌2026年6月20日号掲載の報告。5~75mg、1日1回経口投与の有効性と安全性を評価 VISTA試験は、オーストラリア、カナダ、ドイツ、日本、台湾、英国、米国で実施された。対象は、18歳以上で、肥満(BMI値30以上)、または過体重(BMI値27以上)で未治療/治療中の体重関連疾患(高血圧症、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)を少なくとも1つ有する患者であった。1型または2型糖尿病の既往あり、またはスクリーニング時のHbA1cが6.5%以上などの患者は除外した。 適格患者を、elecoglipronの5mg群(用量漸増なし)、15mg群(用量漸増なし)、50mg群(4週ごとの用量漸増あり)、75mg群(週1回の用量漸増あり)、75mg群(2週ごとの用量漸増あり)、または対応するプラセボ群に、2対3対3対3対3対5の割合で無作為に割り付け、1日1回経口投与した。 試験期間は最大42週間で、スクリーニング期最大4週間、投与期最大36週間を含み、最終追跡調査は投与期の最後の受診から約2週間後に予定された。 主要エンドポイントは2つで、26週時点におけるベースラインからの体重変化率、および26週時点で体重が5%以上減少した患者の割合であった。安全性および忍容性についても評価した。elecoglipron群で体重減少は2.6~10.5%、5%以上の体重減少の達成割合は約4~9割 2024年10月8日~2025年2月18日に472例がスクリーニングを受け、162例が適格基準を満たさず、310例が無作為化された。288例(93%)が試験を完了し、231例(75%)が割り付け治療を完遂した。 ベースラインの被験者特性は、平均年齢48.4歳(SD 13.7)、女性225例(73%)、男性85例(27%)、平均体重は106.9kg(SD 24.1)、平均BMI値38.2(SD 7.2)であった。 elecoglipronの投与により、用量依存的な体重減少が認められた。26週時におけるベースラインからの体重変化率(最小二乗平均値)は、プラセボ群-0.6%に対し、elecoglipron 5mg群で-2.6%、15mg群-5.6%、50mg群-8.1%、75mg(週1回漸増)群-10.5%、75mg(2週ごと漸増)群-10.0%であった(いずれも有効性推定による評価)。 また、26週時点で体重が5%以上減少した患者の割合は、プラセボ群15.6%に対し、elecoglipron群ではそれぞれ40.4%、51.3%、72.5%、86.1%、88.8%であった。 有害事象は、elecoglipron 5mg群で84%(27/32例)、15mg群88%(43/49例)、50mg群88%(44/50例)、75mg(週1回漸増)群98%(48/49例)、75mg(2週ごと漸増)群92%(45/49例)、プラセボ群84%(68/81例)に認められた。 elecoglipron群の主な有害事象は、悪心、便秘、下痢、頭痛および嘔吐で、これらはプラセボ群より発現割合が高かった。

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睡眠時無呼吸症候群治療薬、臨床試験で症状改善を確認

 睡眠時無呼吸症候群(OSA)の治療法の一つであるCPAP(持続陽圧呼吸療法)を忍容できない患者では、毎晩1回服用する錠剤がCPAPに代わる治療法となり得ることが、第3相臨床試験で示された。実験的治療薬AD109(aroxybutynin/atomoxetine)は、上気道筋の弛緩を抑制する作用を有する。臨床試験では、この薬を服用した患者で、睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の合計数(無呼吸低呼吸指数〔AHI〕)が約44%低下したという。米ピッツバーグ大学医療センターの睡眠医療専門医であるPatrick John Strollo氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」に5月18日掲載された。 OSAは、喉の筋肉が弛緩して気道を塞ぎ、睡眠中に断続的な呼吸停止を引き起こす疾患である。CPAPはOSAの標準治療であるが、患者は騒音を伴うこともある装置に接続されたマスクを装着して眠らなければならない。Strollo氏は、「CPAPは多くの患者にとって継続が難しいものだ」と指摘する。 Strollo氏は、「心血管疾患、喘息、2型糖尿病などの多くの慢性疾患において、診断された患者の多くが未治療または治療不十分のままでいることは考えにくい。だがOSAではそれが依然として現実である」とニュースリリースで述べている。 今回の臨床試験では、軽度~重度のOSA患者646人(年齢中央値58歳、女性49.3%)をAD109群(324人)またはプラセボ群(322人)にランダムに割り付け、AD109の有効性と安全性を検討した。試験完了率はAD109群83.3%、プラセボ群85.9%だった。 その結果、26週時点までのAHI変化量は、AD109群で−3.3回/時、プラセボ群で0.7回/時であり、群間差は−4.0回/時だった。これは、AD109群でAHIが幾何平均44.1%減少したことに相当し、プラセボ群の17.6%減少を上回った。また、AD109群ではプラセボ群と比べて、26週時点の酸素飽和度低下指数(ODI)と低酸素負荷(HB)にも改善傾向が認められた。疲労指標については、全体では有意差は認められなかった。さらにAD109群では、26週時点で17.6%がAHI 5回/時未満に達し、OSAが完全にコントロールされた状態となった(プラセボ群では9.3%)。主な副作用は、口の渇き、悪心、不眠、排尿困難などで、AD109群の21.2%、プラセボ群の3.1%は副作用のため治療を中止した。 Strollo氏は、「これらの結果は、神経筋機能障害を標的とする治療が、臨床的に意義のある改善につながり得ることを示す有望な証拠であり、この疾患の病態に関する生物学的理解の進展とも一致している」と述べている。さらに同氏は、「睡眠中の気道虚脱に関与する神経筋系の制御因子を標的とする経口薬は、こうした治療格差を埋め、現在も未治療の患者に対して有効な治療選択肢を広げる可能性がある」と語っている。 AD109は、米食品医薬品局(FDA)から迅速審査を目的とする「ファストトラック指定」を受けている。開発企業であるApnimed社は、すでにFDAへ新薬承認申請を提出している。なお、本臨床試験は、Apnimed社の資金提供を受けて実施された。

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第67回 「長生き」を買おうとする富豪たち、その方法に科学はあるのか

「死なない男」として知られる起業家ブライアン・ジョンソン氏は、2019年から、寿命を延ばす目的で、ある薬を毎日のように自分に注射し続けてきました。本来は臓器移植の拒絶反応を防ぐために使う免疫抑制薬「ラパマイシン」です。ところが2024年9月、彼はこの「実験」をやめます。皮膚の感染症や血糖値の上昇、脂質の異常などが現れ、利益よりも害が上回ると判断したからでした。彼のように、自分の体を「ハッキング(改造)」して数年でも長く生きようとするIT長者たちが増えています。そして、その試みをSNSなどで世界中に発信しています。今回は、こうした「バイオハッキング」ブームの実態を伝えたNature誌の記事1)をもとに、ご紹介します。富豪たちが試す、さまざまな「若返り術」ジョンソン氏は「ブループリント」と名づけた自己流の健康法を公開し、多くの追随者を生んでいます。彼が取り入れている方法の1つが、若い人から血液をもらう「若年血漿(けっしょう)輸血」です。これは米国食品医薬品局(FDA)が2019年と2024年に「効果の根拠がなく危険」と警告したものでした。ほかにも、別の富豪が「120歳まで生きたい」と成長ホルモンを使っていることを公言したり(医療機関は健康な大人への効果を疑問視しています)、集中力を高めるとして染料由来の物質やニコチン製品を勧めたりと、その種類はさまざまです。これらに共通するのは、効果や安全性がはっきりしないまま広まっている点です。科学的な裏づけは、どこまであるのかもちろん研究者たちは慎重です。老化そのものに働きかけて人の寿命を延ばすと明確に証明された方法は、いまのところ1つもないからです。ある専門家は、わずかなデータの中に「期待できそうな兆し」と「雑音」が入り交じり、一般の人にはその区別が難しいと指摘します。たとえば話題のラパマイシンは、マウスの寿命を23~60%延ばしたという研究があります2)。しかし、ヒトで同じことを示すのは簡単ではありません。ヒトでの研究はごくわずかで、65歳以上の200人余りでワクチンの効きがよくなったという2014年の報告3)や、高齢者の呼吸器感染症が減ったという2018年の報告4)がある程度です。研究者が333人の使用者を調べた2023年の調査では「生活の質が上がった」との声が多かったものの、本人の自己申告に頼っており、悪い経験をしてやめた人が含まれていない可能性が高いと、研究チーム自身が限界を認めています5)。一方で、糖尿病薬のメトホルミンや、肥満症で使われるGLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)のように、加齢に伴う病気を遅らせる可能性が期待され、臨床試験が進んでいる薬もあります。「自分1人のデータ」という落とし穴最大の問題は、富豪たちが自分1人の体で試した結果が、そのまま一般の人へと「正しい基準」のように広まってしまうことです。本来、薬の効果を確かめるには、数千人規模で慎重に比較する臨床試験が欠かせません。「科学は『1人(n=1)』では成り立たない」のです。しかし、健康長寿を支援するクリニックには「ブループリントをやりたい」「あの成分が欲しい」と、検査も受けないうちに名指しで求める人が増えているそうです。また、影響力のあるインフルエンサーの中には、自分のブランドのサプリメントを売る人もいますが、商売上の利害がからんでいることが、見ている側には伝わりにくい構造もあります。きちんとした臨床試験には大規模な費用がかかりますが、それは富豪たちの資産からすればごく一部にすぎません。しかし、その熱意と資金は本物の科学に向けられているとは言えない実情があります。日本でも、海外の健康トレンドはSNSを通じてすぐに入ってきます。「海外の有名人がやっているから」は、効果や安全の証拠にはまったくならない。そんな冷静な視点を、私たち一人ひとりが持っておきたいものです。1)Stokel-Walker C. Tech tycoons are biohacking for a longer life: is there science behind their methods? Nature. 2026;654:589-591.2)Miller RA, et al. Rapamycin-mediated lifespan increase in mice is dose and sex dependent and metabolically distinct from dietary restriction. Aging Cell. 2014;13:468-477.3)Mannick JB, et al. mTOR inhibition improves immune function in the elderly. Sci Transl Med. 2014;6:268ra179.4)Mannick JB, Morris M, Hockey HP, et al. TORC1 inhibition enhances immune function and reduces infections in the elderly. Sci Transl Med. 2018;10:eaaq1564.5)Kaeberlein TL, Green AS, Haddad G, et al. Evaluation of off-label rapamycin use to promote healthspan in 333 adults. GeroScience. 2023;45:2757-2768.

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セマグルチドがMASH適応を取得、国内初の治療薬に/ノボ

 2026年6月19日、ノボ ノルディスク ファーマは同社のGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ウゴービ)が、肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)のうち、中等度または高度の肝線維化を有する患者を対象とした効能・効果の追加承認を取得したことを発表した。これにより同薬は日本で初めて承認されたMASH治療薬となる。 MASHは、従来「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」として知られていた疾患概念を発展させたもので、代謝異常を背景として肝細胞障害や炎症、線維化が進行する慢性肝疾患である。初期には自覚症状に乏しい一方で、病態が進行すると肝硬変や肝不全、肝細胞がんに至る可能性があり、近年その疾病負荷が大きな課題となっている。 今回の承認は、ステージF2またはF3の肝線維化を有するMASH患者を対象に実施された第III相ESSENCE試験パート1の結果に基づくもの。同試験では、セマグルチド2.4mg週1回皮下投与群とプラセボ群を比較し、72週時点での肝組織学的改善を評価した。 主要評価項目の1つである「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」は、セマグルチド群で36.8%、プラセボ群で22.4%に認められ、統計学的に有意な改善が示された。また、もう1つの主要評価項目である「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」は、セマグルチド群で62.9%、プラセボ群で34.3%となり、セマグルチド群が有意に高い達成率を示した。安全性については、これまでの肥満症治療や糖尿病治療で蓄積されたデータと概ね一致しており、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 ESSENCE試験は総計約1,200例を対象とし、セマグルチドを240週間投与する設計となっている。今回の承認申請は、約800例を対象とした72週時点の中間解析結果に基づいて行われた。現在進行中のパート2では、240週時点における肝関連イベント発症リスクの低減効果を検証しており、試験完了は2029年を予定している。 日本におけるMASHの有病率は約3%と推計されている。肥満症や2型糖尿病との関連が強く、心血管疾患リスクの上昇に加え、大腸がんや乳がんなど肝外悪性腫瘍との関連も指摘されている。さらに、肝がんへ進展した場合には予後不良であり、早期介入と進行抑制が重要視されている。 これまでMASHに対しては体重減少を目的とした生活習慣改善が治療の中心であり、承認薬が存在しなかった。今回の承認により、疾患そのものに対する薬物治療の選択肢が初めて提供されることになる。 肥満症治療薬として広く使用されているGLP-1受容体作動薬が、MASHに対しても有効性を示したことで、代謝性疾患と慢性肝疾患を横断した包括的な治療戦略への期待が高まる。今後は実臨床における長期予後改善効果や肝関連イベント抑制効果に関するエビデンスの蓄積が注目される。【製品概要】一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)商品名:ウゴービ効能または効果:◯肥満症ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上◯肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る。

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飲食制限のない経口GLP-1薬elecoglipron、2型DM患者のHbA1cを有意に改善/Lancet

 2型糖尿病治療薬として開発中の1日1回経口投与の低分子GLP-1受容体作動薬elecoglipronは、プラセボと比較して、より優れた血糖降下作用を示し、安全性および忍容性プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と同様であった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のVanita R. Aroda氏らが、日本を含む9ヵ国で行われた第IIb相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SOLSTICE試験」の結果を報告した。elecoglipronは、食事や水分制限なしに投与ができる。著者は、「2型糖尿病患者を対象とする第III相試験でさらなる開発を進めることが支持された」とまとめている。Lancet誌2026年6月20日号掲載の報告。 第IIb相試験、5~75mgを1日1回26週間にわたり経口投与 第IIb相試験は、9ヵ国(カナダ、ドイツ、ハンガリー、日本、ポーランド、スロバキア、スペイン、英国、米国)の医学研究センターおよび病院で実施された。食事・運動療法のみ、あるいはメトホルミンまたはSGLT2阻害薬の単剤療法を受けている2型糖尿病患者を対象に、elecoglipron治療についてさらなる評価を行うよう設計され、5~75mgを1日1回26週間にわたり経口投与するレジメンについて評価が行われた。試験施設は、試験実施要件(規制当局および倫理委員会による承認、適切な施設設備および人員確保、対象患者集団へのアクセスほかを含む)を満たす能力に基づき選定された。 主な適格基準は、18歳以上、BMI値23以上、2型糖尿病(HbA1cが7.0%以上10.5%以下[米国は6.5%以上10.5%以下])、食事・運動療法単独あるいは安定用量のメトホルミンまたはSGLT2阻害薬の単剤療法を受けていることとした。双方向ウェブ応答システムを用いて、elecoglipronの固定用量群(5mg/日群、15mg/日群、25mg/日群)、または目標用量を50mgまたは75mgとする用量漸増群(2週間隔で50mg/日に漸増する群、2週間隔で75mg/日に漸増する群、4週間隔で75mg/日に漸増する群)、これらレジメンの適合プラセボ群、あるいは非盲検下で経口投与するセマグルチド14mg/日(4週間隔で漸増)群に、3対5対3対5対3対3対6対4の割合で無作為に割り付けられた。参加者、治療担当医、試験スポンサーは、elecoglipron群およびプラセボ群について盲検化され、セマグルチド群については盲検化されなかった。 主要エンドポイントは、26週時におけるHbA1cのベースラインからの変化量であった。プラセボと比較しHbA1cが大きく改善 2024年10月8日~2025年6月6日に、863例が試験の適格性についてスクリーニングされた。適格基準を満たしていない、または除外基準に該当した457例を除外。406例が登録され、8つの治療群のいずれか1つを受けるよう無作為化され、404例が少なくとも1回の試験治療を受けた。 404例のベースライン特性(平均[SD])は、年齢58.4歳(10.7)、HbA1cが7.9%(0.9)、体重99.8kg(22.1)、BMI値34.9(7.5)で、168例(42%)が女性、また280例(69%)が白人であった。 26週時点におけるHbA1cのベースラインからの変化量は、プラセボ群-0.15%(95%信頼区間[CI]:-0.42~0.12)に対し、elecoglipron投与群は5mg群の-0.91%(95%CI:-1.25~-0.58)から2週間隔で目標用量75mg/日に漸増する群の-1.88%(95%CI:-2.23~-1.53)の範囲にわたった。 有害事象の発現割合は、プラセボ群63%(45/71例)に対し、elecoglipron投与群は5mg群の63%(24/38例)から4週間隔で75mg/日に漸増する群の87%(33/38例)の範囲にわたった。最も多くみられたのは消化器系有害事象で、悪心、便秘、下痢、嘔吐などであった。

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フィネレノンが原因疾患や糖尿病の有無を問わずCKD患者の腎・心リスクを低減/Lancet

 原因疾患や血糖値、推算糸球体濾過量(eGFR)、アルブミン尿の程度が異なる慢性腎臓病(CKD)の患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは腎不全単独を含むCKD進行リスクを抑制し、心不全による入院、心血管死および全死因死亡リスクを低下させることが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBrendon L. Neuen氏らFIND-CKD, FIDELIO-DKD and FIGARO-DKD Investigatorsが行ったメタ解析の結果で示された。フィネレノンは、2型糖尿病合併CKDにおいて腎関連および心血管系への有益性が示されているが、広範なCKD患者集団における有効性や安全性は評価されていなかった。結果を踏まえて著者は、「フィネレノンは多岐にわたるCKD患者の基礎治療として支持される」と述べている。Lancet誌2026年6月13日号掲載の報告。3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験の患者個別データをメタ解析 研究グループは、CKD患者におけるフィネレノンについて評価した3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験(FIDELIO-DKD試験[2015年9月17日~2020年4月14日]、FIGARO-DKD試験[2015年9月17日~2021年2月2日]、FIND-CKD試験[2021年9月21日~2026年2月2日])の、被験者個々のデータを用いてメタ解析を行った。 Cox比例ハザードモデルを用いて、腎関連および心血管アウトカムへの相対的有効性を評価した。腎関連の主要アウトカムは、腎不全またはeGFRの57%以上の持続的な低下であり、心血管系の主要アウトカムは、心不全による入院または心血管死であった。腎関連複合アウトカムリスクを24%、心血管系複合アウトカムリスクを20%低下 3試験には1万4,574例が登録されており、平均年齢は63.7歳(SD 10.6)、女性4,467例(30.7%)、男性1万107例(69.3%)で、平均eGFRは56.4mL/分/1.73m2(SD 21.4)であり、尿中アルブミン/クレアチニン比の中央値は567.4mg/g(四分位範囲:233.6~1,164.7)であった。 フィネレノンはプラセボと比較して、腎関連複合アウトカムのリスクを24%低下させ(22.3 vs.28.8件/1,000患者年、ハザード比[HR]:0.76[95%信頼区間[CI]:0.68~0.86])、腎不全単独のリスクも低下させた(HR:0.85[95%CI:0.74~0.99])。 また、フィネレノンはプラセボと比較して、心血管系複合アウトカムのリスクを20%低下させた(19.1 vs.23.9件/1,000患者年、HR:0.80[95%CI:0.70~0.91])。心不全による入院のHRは0.78(95%CI:0.66~0.92)、心血管死のHRは0.82(95%CI:0.67~0.999)であった。 フィネレノンは、全死因死亡のリスクも低下させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.99)。 腎関連複合アウトカムへの治療効果は、血糖値、CKDの原因疾患、ベースラインのeGFR値、アルブミン尿およびSGLT2阻害薬の使用状況を問わず一貫していた。 フィネレノン群ではプラセボ群よりも高カリウム血症が高頻度に認められたが、入院に至る高カリウム血症の絶対的な発現頻度は低かった。

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糖尿病患者の治療薬、残歯数と周術期死亡の関連/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年、口腔内の衛生状態が糖尿病や心不全をはじめとするさまざまな疾患と関連することが知られている。糖尿病患者では、治療薬と残歯数は手術後の死亡リスクに関係するのであろうか。この課題について尾崎 邦彰氏、高橋 裕氏ら(奈良県立医科大学糖尿病内分泌内科学講座)の研究グループは、同公衆衛生学教室との共同研究により、口演52「大規模臨床試験」において「糖尿病薬の周術期死亡リスクへの影響は残歯数によって異なる:レセプトビッグデータ解析」をテーマに発表を行った。 研究グループは、大規模レセプトデータを調査・解析し、その結果、一定の糖尿病治療薬と残歯数は手術後の死亡率と相関していることが判明した。糖尿病患者の口腔ケアは周術期の死亡リスクを減らす可能性 高橋氏らの研究グループは、糖尿病と残歯数はともに周術期リスクとなるが、同一コホートで検討した報告がないことから、周術期死亡に対して糖尿病治療薬と残歯数が与える影響を検討した。 研究は後方視的研究により1,700万人登録の商用DeSCデータベース(国民健康保険、後期高齢者医療広域連合および健康保険組合より提供されたレセプト情報・特定健診情報が含まれている)を使用した。対象者は18歳以上で全身麻酔下の手術が行われた人で、主要アウトカムは術後30日以内の死亡、副次的な解析として糖尿病治療薬と手術後死亡との関連、および残歯数について検討した。糖尿病の定義は、手術前6ヵ月以内に糖尿病治療薬が処方された人。 主な結果は以下のとおり。・手術を受けた対象者は124万1,425例、そのうち歯の本数の情報がある対象者は56万1,515例だった。このうち術後30日以内の死亡は3,414例だった。・対象者のプロフィールとして、糖尿病群では高齢、男性の割合が高く、死亡割合も高かった。・残歯数について、死亡者では糖尿病群と比べて約1.7本少なく、平均では残歯数20本の人が多かった。・残歯数23本以下では糖尿病患者が多く、残歯数26本以上では非糖尿病患者が多かった。・糖尿病を有することで死亡割合は約1.85倍に増加した。・糖尿病の有無によらず、残歯数が少ないほど死亡割合も増加していた。・手術後死亡の関連因子では、インスリン使用、加齢、残歯数の減少が死亡リスクの増加と関連していた。・層別化すると残歯数20本以上の群ではビグアナイド薬の使用が、20本未満の群ではチアゾリジン薬の使用が死亡リスクの低下と関連していた。 研究グループは、これらの結果から「糖尿病の罹患が周術期後の死亡の増加と関連し、残歯数も少なくなることとも関連することが判明した。また、残歯数が少ないことが周術期後の死亡の増加と関連することも判明した。糖尿病患者には、診断時から口腔(歯)への介入が推奨されている一方で、歯科受診は半分に満たないという報告もある。そして、糖尿病患者で残歯数20本未満の68歳の死亡リスクは、糖尿病ではない残歯数20本以上の80歳の死亡リスクと同等であることが示された。加齢、糖尿病の存在、残歯本数の減少はそれぞれが関連しながらも独立して死亡リスクと関連した。これらの結果から糖尿病患者には、歯の喪失に関連して、比較的若年であっても高齢者に相当するリスクを有するため、適切な歯科的介入の重要性が示される」と述べている。

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第318回 マンジャロ問題、なぜ厚労省は“名指し”で呼びかけた?

INDEX厚労省よ、やっと本腰入れたかSNSに商品名で言及、なぜ?本当に恐ろしい副作用は…厚労省よ、やっと本腰入れたか【マンジャロは糖尿病のお薬です】マンジャロは「糖尿病」の治療を目的に承認された薬です。ダイエットなど、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じるおそれがあり危険です。医療者から薬のリスクについて十分な説明を受け、薬について正しく理解することが重要です。上記は厚生労働省(以下、厚労省)のX(旧Twitter)アカウントが6月16日に行ったポストである。同アカウントのフォロワー数は101万3,000アカウント超だが、このポストに関しては、19日午前の表示件数は1,970万1,000件以上である。同アカウントのポストの表示件数が万単位なことはごく普通だが、これだけの表示件数はきわめてまれだ。正確な分析ツールは使用していないが、同アカウントのなかでも間違いなくトップ10に入るポストだろう。この日、厚労相の上野 賢一郎氏は閣議後の記者会見冒頭で以下のように語った。「私から冒頭1点申し上げます。マンジャロ等の適正使用についてです。マンジャロは、2型糖尿病のみを効能・効果として承認されており、臨床試験ではダイエットなどの効果は証明されておらず、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じる可能性があります。お使いになる方には正しく理解して適正に使用いただくことが必要ですので、医療者の方からのリスクについての十分な説明を改めてお願いしたいと考えています。このため、本日、XなどのSNSを通じて国民の皆様向けにも改めて注意喚起を行うとともに、マンジャロ等の治療薬の適正使用を徹底するために、改めて医療機関等に通知を発出します」実際、この日、同省は都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部(局)長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」と各製造販売業者代表取締役社長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る対応の徹底について」という2件の通知を発出した。要は2型糖尿病や肥満症の治療目的ではなく、自由診療を通じた適応外の美容、痩身目的のGLP-1受容体作動薬関連製品の使用に対して注意喚起をした通知である。そして、この日の夜の民放のニュースではやたらと「マンジャロ」という個別商品名が飛び交う、やや異常な状態となった。SNSに商品名で言及、なぜ?もはや言うまでもないが、GLP-1受容体作動薬関連薬(以下、GLP-1製剤)では、2型糖尿病治療薬として発売された当初から美容目的の適応外使用が問題視されてきた。これまで厚労省がこの問題に関連して発出した通知は、美容目的の使用が原因の1つとみられる在庫ひっ迫や自由診療での広告規制をフックにしたもので、適正使用だけにフォーカスした通知は今回が初である。この件の適応外使用について苦々しく思っていた医療者にとっては、遅きに失した対応と受け止められていることだろう(私個人も同様である)。改めて整理すると、国内で承認されている主なGLP-1製剤は以下の表のようになる。ご存じのように体重減少に重きを置いた肥満症の適応症があるのは現在2種類のみ。成分として体重減少効果が顕著とされているのは表の上位5製品だが、美容・痩身目的の自由診療では、表にあるそれ以外のGLP-1製剤も使われている。(表)国内で承認されているGLP-1製剤画像を拡大するはっきり言って、どの製剤であっても自由診療での美容・痩身目的での使用は適応外、あえて言えば「不適切使用」である。ただ今回、厚労省がわざわざマンジャロという商品名を挙げた理由は、肥満症の適応を有する同一成分のゼップバウンドが、同じく肥満症の適応を有するウゴービより体重減少効果が高いとされ、美容・痩身目的の人たちの間では人気があり、かつマンジャロは2型糖尿病のみが適応症であることを踏まえたからと考えられる。本当に恐ろしい副作用は…さて、これらの適応外使用が問題となるのは、何よりも副作用の観点からだろう。これまた周知の通り、GLP-1製剤では悪心・嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状の副作用発現率は大まかに言えば20~40%ほどとかなり高頻度である。多くの場合、これ自体が生命の危険には直結しないものの、実際私の周囲で使用している人(適応症に対して使用)のSNS投稿を見ても、相当苦しそうなことだけはよくわかる。そして副作用の中でもとくに問題なのは、実は頻度の低い重篤な副作用である。世界的に美容・痩身目的の使用がかなり広まっている現実を考えれば、ごくわずかな頻度の副作用でもそれ相応の発生件数を記録することになる。例を挙げると、GLP-1製剤による低血糖、膵炎が該当する。ゼップバウンド、ウゴービともに過去の臨床試験結果を見ると、軽症も含めた低血糖の発生頻度は5%未満であり、重度低血糖になると1%未満といわれている。もちろんこの数字は、2型糖尿病患者の場合には併用薬もある前提でのものなので、美容・痩身目的ならば理論上の発生頻度は相当低いはずである。ただ、保険診療下で定期的な受診をし、医師の管理下に置かれている人と自由診療で処方されてフォローアップがほぼなしという人では、この理論上の発生頻度も大きく異なってくるだろう。前者の場合は主治医が低血糖への最大限の警戒を行っているのに対し、後者はよほど危険な兆候を本人が自覚しない限り事実上野放しである。さらに言えば、美容・痩身目的の人の場合、自己判断による過度な食事制限をしている場合もあるだろう。となると、こうした人での真の低血糖発生頻度は掴めないということになる。発生頻度が1%に満たない急性膵炎でも、美容・痩身目的の人では膵臓機能自体が2型糖尿病や肥満症の人に比べ、より健康に近いと考えられるため、本来であれば、この発生頻度はほぼ無視できるかもしれない。とはいえ、肥満かつ2型糖尿病での事例ではあるが、米国ではGLP-1製剤の関与が否定できない重症急性膵炎による死亡例の報告1)もある。そして何よりも恐ろしいのは、まだ既知とはいえない副作用のリスクである。実際、そうした事例は報告されている。これも米国での報告で、2型糖尿病がない高度肥満患者に横紋筋融解症が出現した事例2)である。GLP-1製剤の中止で改善し、投与再開で症状が再出現したというもの。このため、GLP-1製剤の使用が因果関係の可能性として示唆されている。このようにしてみると、改めて美容・痩身目的の自由診療における安全管理の甘さに強い危機感を抱かざるを得ない。今回、厚労省は今までよりは一歩踏み込んだが、どれだけ注意喚起の通知を出したところで、現状では自由診療で処方する一部の医師による不適切な処方の横行を止める有効な手立てにはなっていない。「約2,000万回以上表示のポスト」というSNS上の数字の裏で、いつ深刻な健康被害が顕在化してもおかしくない薄氷の状況が続いている。今求められているのは、単なるアナウンスメントではなく、不適切な自由診療に対する実効性のある規制ではないか?厚生労働省:GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る 対応の徹底について1)Dagher C, et al. Cureus. 2024;16:e69704.2)Billings SA, et al. Cureus. 2023;15:e50227.

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歯周病とMASLDの関連、女性で顕著――閉経前後で差

 歯周病は口腔内の慢性炎症として知られ、全身の代謝異常との関連も指摘されている。今回、健診受診者を対象に歯周病と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の関連を検討した結果、女性では両者に有意な関連が認められ、特に閉経前後の年代でその傾向が顕著であることが示された。研究は愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の齋藤瑞季氏、嶋崎義浩氏らによるもので、詳細は4月8日付で「Clinical and Experimental Dental Research」に掲載された。 脂肪性肝疾患は、一部で肝硬変や肝細胞がんへ進行する可能性があるほか、脳卒中や虚血性心疾患など心血管疾患リスクの上昇とも関連することが知られている。MASLDは従来「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていたが、近年、代謝異常との関連性をより反映した名称へと改訂された。その診断には肥満や糖尿病、高血圧などの代謝異常の有無が考慮される。生活習慣とMASLDの関連は広く報告されており、MASLDの発症や進展に歯周病が関与する可能性も示唆されている。しかし、近年までは主にNAFLDを対象とした研究が中心であり、MASLDとの関連や性差を含めた検討は十分ではなかった。こうした背景のもと、本研究では健診受診者を対象に、歯周病とMASLDの関連および性差について検討が行われた。 本研究は、愛知県の健康診断受診者を対象とした横断研究である。2014年4月~2015年3月に一般社団法人愛知健康増進財団の健康診断を受けた40~74歳を解析対象とした。肝疾患既往、B型肝炎表面抗原(HBs抗原)陽性、摂取アルコール量が20g/日以上の参加者などは除外した。脂肪肝は腹部超音波で判定し、心代謝リスク因子の基準を満たす例をMASLDと定義した。歯周病は地域歯周疾患指数(CPI)で評価し重症度別に分類した。喫煙や運動習慣などを調整し、MASLDとの関連をロジスティック回帰分析で検討、男女別解析や女性の年齢層別解析、性差の交互作用も評価した。 解析対象は6,184人で、このうち1,431人(23.1%)がMASLDと診断された。女性では、歯周病が中等度および重度の群で、歯周病がない群に比べてMASLDのオッズ比がそれぞれ1.40(95%信頼区間:1.04~1.89)、1.64(同1.04~2.59)と有意に高かった。 一方、男性では歯周病とMASLDの関連は調整後に有意ではなかった。女性では50~59歳でのみ有意な関連が認められ、他の年齢層では認められなかった。さらに、非飲酒者に限定した解析でも同様に女性で有意な関連が確認された。 また、性別と歯周病の影響には乗法的交互作用が認められたが、加法的交互作用は認められなかった。これは、歯周病とMASLDの関連の強さには性差があったが、リスクそのものには明確な差は認められなかったことを示す。 著者らは、こうした性差の背景として女性ホルモンの影響を挙げている。特に50~59歳は閉経移行期に相当し、エストロゲンの低下が代謝機能や炎症反応に影響を及ぼす可能性があるとされ、この時期に関連がより強く認められた可能性が示唆されている。 なお、本研究の限界として、横断研究であるため因果関係を明らかにできないことに加え、歯周病評価の精度や超音波による脂肪肝診断の限界、社会経済因子の未調整、単施設データによる一般化可能性の制約などを挙げている。

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第66回 SNSが広げる「合成ペプチド」ブーム。米国で何が起きているのか

筋肉を付けたい、けがを早く治したい、若さを保ちたい。そうした願いに応える「特効薬」として、いま米国で急速に広がっているのが、注射で使う「合成ペプチド」です。BPC-157やipamorelinといった成分が、SNSを通じて若者を中心に人気を集めています。2026年5月時点で、ペプチド関連の投稿はInstagramで13万件を超え、TikTokでは2億3,000万回も再生されているといいます1)。しかし、その大半は有効性も安全性も十分に確かめられていません。2026年6月、JAMA誌に掲載された論考は、この現象の裏にある「規制の穴」を指摘しています1)。今回は、その内容をかみ砕いてご紹介します。揺れ動く規制が、かえって混乱を生んでいるまず押さえておきたいのは、これらのペプチドの多くが、効果のはっきりした根拠を欠いているという点です。逆に、動物実験などからは、異常な血管新生(本来できるべきでない血管がつくられること)や、毒性をもつ代謝産物の発生といったリスクも指摘されており、ヒトでの安全性データはほとんどないのが現状です2)。それにもかかわらず、米国の規制は一貫していません。米国食品医薬品局(FDA)は安全性への懸念からBPC-157などを「調剤」の対象から外す動きを見せる一方3)、政界からは規制を緩めようという声も上がっています。ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の掲げる「Make America Healthy Again」には、ペプチドへのアクセスを広げる提案も含まれているのです4)。こうした「締めては緩める」の繰り返しが、医師にも消費者にも混乱をもたらしています。そして規制が厳しくなっても需要そのものは消えず、むしろ管理の及ばない闇ルートへと利用者を押しやってしまう。これが大きな問題だと論考の著者は警鐘を鳴らします1)。「薬」と「サプリ」の境界が溶けているペプチドのやっかいさは、その立ち位置の曖昧さにあります。たとえば肥満症治療で広く使われるセマグルチドやチルゼパチド(GLP-1受容体作動薬)のように、正式に承認された医薬品もペプチドの1種です。その一方で、まったく同じ「ペプチド」という言葉のもとに、オンライン専門のクリニックや「研究用試薬」を称する業者が、未承認の製品を売りさばいています。つまり、承認薬・調剤品・健康増進グッズ・違法な増強薬が、すべて「ペプチド」として地続きにつながってしまっているのです。販売サイトは「高純度」「即日発送」「まとめ買い割引」といった宣伝文句を並べ、用途別に商品を並べています。これでは、どこからが医療でどこからが違法なのか、その線引きがきわめて難しくなります。とりわけ心配なのが若い世代です。SNSで理想の体型をあおられた10代の男の子や若い男性が、リスクを軽く見たまま、こうした商品に出会ってしまう。従来の規制は製造や流通の一点を狙い撃ちするだけで、需要を生み出すデジタル空間そのものには手が届いていないのです。いま求められる「しなやかな」対策禁止や輸入規制といった従来型の手法だけでは不十分でしょう。必要なのは、システム全体を見据えた柔軟な対応です。具体的には、FDAによる承認前の評価基準の強化、根拠の乏しい成分の調剤制限、違法な業者への警告や輸入差し止め、そしてインフルエンサーの誇大広告への取り締まりなどが挙げられています。販売後の副作用を追う監視体制の拡充も欠かせません。加えて見過ごせないのが、研究の不足です。これらの物質は比較的調べやすいにもかかわらず、利用実態や健康被害についてのデータがほとんどありません1)。この問題は米国だけのものではありません。オーストラリア5)やカナダ6)でも、オンラインで購入した未承認ペプチドへの安全性勧告がすでに出されています。日本でも、SNS発の健康情報が国境を越えて入ってくる時代です。「みんなが使っているから安全」とは限らない。この視点は、私たち一人ひとりが持っておきたいものです。1)Piatkowski T, et al. Illicit injectable peptides and regulatory gaps. JAMA. 2026 Jun 15. [Epub ahead of print]2)McGuire FP, et al. Regeneration or risk? a narrative review of BPC-157 for musculoskeletal healing. Curr Rev Musculoskelet Med. 2025;18:611-619.3)US Food and Drug Administration. Certain bulk drug substances for use in compounding that may present significant safety risks. 2026 Apr 22.4)Jewett C, Blum D. Heeding Kennedy's wishes, FDA is expected to lift restriction on peptides. New York Times. 2026 Mar 31.5)Australian Government Therapeutic Goods Administration. Understanding your responsibilities when importing, compounding and supplying unapproved peptide products. 2026 Apr 13.6)Government of Canada. Think twice before injecting peptides bought online: unauthorized products can seriously harm you. 2026 Apr 9.

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糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

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糖尿病性足潰瘍の骨髄炎評価【日常診療アップグレード】第58回

糖尿病性足潰瘍の骨髄炎評価問題72歳男性。なかなか治らない右足親指の傷を主訴に受診した。この創傷は2ヵ月前からあり改善がみられない。既往歴は2型糖尿病と高血圧である。かかりつけ医からデュラグルチド、エンパグリフロジン、ロスバスタチン、リシノプリルを処方されている。バイタルサインは正常である。身体所見は右第1中足骨の足底に直径2cmの潰瘍が認められる。潰瘍底に膿性分泌物があり、潰瘍周囲には軽度の紅斑が認められる。潰瘍底にプローブを挿入しても骨には達しない。両足底および足背は、足関節の高さまで感覚が低下している。骨髄炎の評価を行うため、足部のX線検査を行った。

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J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」

J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といったインクレチン関連薬をめぐり、肥満症治療における副作用などの安全性を軽視した自由診療や個人売買が多発し、厚生労働省も注意喚起を強める事態になっています。そのため、医療者は処方が適切とされる患者像や、論文で報告されている有効性・安全性などを改めて理解・整理することが求められています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、糖尿病専門医4名がインクレチン製剤の歴史的背景、現時点での適正使用と実処方における課題など、さまざまな問題に踏み込んだディスカッションを展開します。なお、この番組は2026年5月19日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って出演    吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長住谷 哲 氏大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 部長小川 大輔 氏おかやま内科 糖尿病・健康長寿クリニック 院長永井 聡 氏NTT東日本札幌病院 糖尿病内分泌内科 部長オブザーバー桑島 巌 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長

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膵臓がんの発症リスク、血糖と生活習慣で予測可能か

 膵臓がんは早期発見が難しく、診断時にはすでに進行していることが少なくない。今回、静岡県の健診データとレセプトデータを統合した約64万人規模の解析により、血糖指標であるHbA1cや生活習慣が膵臓がんリスクと関連することが明らかになった。研究は、静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏(現・名古屋医療センター臨床研究センター)、静岡社会健康医学大学院大学の田中仁啓氏らのグループによるもので、その詳細は4月6日付で「Pancreatology」に掲載された。 膵臓がんは予後不良ながんとして知られる。一方で、早期に発見できれば5年生存率は80%を超えるとされるが、実際には多くの患者が進行期で診断される。これは、初期には自覚症状に乏しく、血液検査や画像検査でも小さな病変を捉えにくいためである。そのため、症状出現前に発見するには、高リスク者を特定し、重点的に経過観察する戦略が重要となる。しかし、これまでのリスク因子研究では、単独の因子に着目したものが多く、生活習慣や代謝指標を含めて包括的に評価した報告は限られていた。日本では全国規模の健診制度により、血圧、BMI、血液検査、HbA1cなどの情報が広く収集されているが、これらをレセプトデータと統合して膵臓がんリスクを検討した研究は多くない。そこで本研究では、健診データを活用して膵臓がんに関連する因子を再評価し、高リスク者の抽出や将来の早期発見につなげることを目的とした。 著者らは、静岡県国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用い、後ろ向き地域住民コホート研究を実施した。対象はコホート期間中に健診を受診した成人で、インデックス日はコホート登録から1年以上経過後に受けた初回健診日とした。膵臓がんまたは他の悪性腫瘍の既往がある者、観察期間が1年未満の者は除外した。主要アウトカムはICD-10コードに基づく膵臓がん発症とし、生活習慣、BMI、血圧、薬剤使用、併存疾患は、健診データ、質問票、処方情報、ICD-10コードをもとに定義した。膵臓がん発症との関連はcause-specific Coxモデルで評価し、モデルの妥当性や多重共線性も確認した。さらに、逆因果の影響を減らすため、インデックス日から2年以内の発症例を除外した感度解析と、年齢・性別によるサブグループ解析も行った。 解析対象は64万1,979人で、追跡期間中央値6.8年の間に4,313人が膵臓がんを発症した。年間発症率は1000人年あたり1.124(95%信頼区間 1.091~1.158)だった。解析の結果、膵臓がんリスクは男性で高く、加齢とともに大きく上昇していた。さらに、代謝異常、膵疾患関連因子、生活習慣のそれぞれが膵臓がん発症と関連していた。特に高血糖との関連では、糖尿病の診断の有無そのものよりも、HbA1c値が膵臓がんリスクとより明瞭な用量反応関係を示した。HbA1c 8%以上ではハザード比(HR)2.85(95%信頼区間 2.29~3.56)に達し、HbA1c 6.0~6.5%程度でもHR 1.37とリスク上昇が認められた。加えて、慢性膵炎、膵嚢胞性病変、高血圧、鉄欠乏性貧血、AST高値、習慣的喫煙も独立したリスク因子だった。一方、脂質異常症やLDLコレステロール高値は膵臓がんリスクと逆相関を示した。 その一方で、糖尿病の診断自体、BMI、大量飲酒は多変量解析では有意な関連を示さなかった。代謝関連因子や生活習慣因子の影響は60歳以上でより顕著であり、インデックス日から2年以内の発症例を除外した感度解析でも、結果は概ね一貫していた。 著者らは、行政請求データと健診データを統合した大規模解析により、日本の一般住民において、代謝因子、生活習慣、膵疾患関連因子が膵臓がん発症に関与することが示されたと述べている。特に、糖尿病の有無そのものではなくHbA1cがリスクと関連したことから、血糖管理の状態がより重要な指標となる可能性が示唆された。また、膵嚢胞性病変は特に強い関連を示しており、画像検査で偶然発見された膵嚢胞もサーベイランス対象として重要である可能性がある。こうした因子を組み合わせてリスク層別化を行うことで、膵臓がんの早期発見戦略の構築につながることが期待される。 ただし、本研究には限界もある。保険請求データに基づく解析であるため診断誤分類の可能性があり、また潜在する膵臓がんそのものによる代謝変化など、逆因果の影響を完全には排除できない点が挙げられる。

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不眠症と心房細動の関連、全国178万人データで検証

 不眠症は多くの人が経験する身近な症状であり、生活の質の低下に加え、さまざまな健康リスクとの関連も指摘されている。今回、日本の全国規模データを用いた解析から、不眠症は心房細動の発症リスク上昇と有意に関連することが示され、特に若年層や女性でその傾向が強いことが明らかになった。睡眠の状態が心臓のリズム異常と関連する可能性を示した研究として注目される。研究は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科学分野の増田拓郎氏、江尻健太郎氏、東京大学医学部附属病院循環器内科先進循環器病学講座の金子英弘氏らによるもので、詳細は4月20日付の「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に掲載された。 不眠症は臨床現場で頻繁にみられる疾患の一つで、死亡リスクの増加や幅広い慢性疾患との関連が指摘されている。一方、心房細動は高齢者に多くみられる代表的な不整脈で、脳梗塞や心不全などのリスクにもつながる重要な疾患だ。不眠症と心血管疾患との関連を検討した研究は多いものの、心房細動との関連を検討した研究は比較的少なく、一般集団における影響は十分に明らかになっていない。そこで著者らは、日本の全国規模のリアルワールドデータを用いて、不眠症とその後の心房細動発症との関連を検証した。 解析対象は、2014年4月~2023年8月にDeSCデータベースへ登録された、心房細動を含む心血管疾患の既往がない約178万人で、不眠症と診断されていた人とそうでない人に分けて、その後の新規心房細動の発症リスクを比較した。DeSCデータベースには、診療報酬請求情報に加え、健診データや処方情報などが含まれる。主要評価項目は心房細動の新規発症とし、不眠症の有無による発症リスクをCox比例ハザードモデルで比較した。解析では、年齢や性別に加え、高血圧や糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、喫煙、飲酒、身体活動などの影響も調整した。 対象者178万764人のうち、21万6,919人(12.2%)に不眠症が認められた。追跡期間中央値3.7年の間に、2万5,779人(1.4%)が新たに心房細動を発症した。不眠症のある人では、ない人に比べて心房細動発症率が高く(10,000人年当たり57.8 vs 35.4)、各種因子を調整した解析でも、心房細動の発症リスクは有意に高かった。調整後ハザード比は1.14(95%信頼区間1.10~1.18)で、リスクは14%上昇していた。サブグループ解析でも全体と同様の傾向がみられたが、65歳未満および女性では、不眠症と心房細動発症との関連がより強い傾向が示された(P for interaction=0.01、0.03)。 著者らは、本研究により、不眠症を単なる睡眠の悩みにとどまらず、心房細動のリスク因子として捉える重要性が示されたと述べている。その上で、心房細動予防の観点から睡眠管理にも目を向ける必要があり、さらなる研究が求められるとしている。また、不眠症に伴う自律神経の乱れや炎症、ホルモンバランスの変化が、心房細動発症に関与する可能性も指摘している。 本研究の限界点として、日本人中心の保険・健診データを用いた観察研究であり、診断がICD-10コードに依存している点や残余交絡の可能性などが挙げられる。

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第299回 子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連

<先週の動き> 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連健康保険組合連合会は6月3日、全国の20~80代3,000人を対象に2026年1月に実施した「医療・介護に関する国民意識調査」の速報版を公表した。医療費・介護費の増加と支え手の減少が進む中、保険料負担を「非常に重い」「やや重い」と感じる人は62.7%に上り、健保連は保険料のさらなる引き上げには限界感があるとみている。医療保険の給付と負担のあり方では、「給付を大幅に絞り込み、負担を軽減」が15.0%、「給付を絞り込み、負担の水準を維持」が25.0%で、給付範囲の見直しを求める回答が計40.0%となった。増加する医療費を賄う方法としては、「自己負担の増加(患者本人の窓口負担)」を選んだ人が30.2%に上り、税金の引き上げまたは新設(12.0%)や保険料の引き上げ(10.8%)を上回った。ただし「わからない」が44.1%と最多で、制度や財源構造への理解不足も示された。世代間負担では、「高齢者の負担増はやむを得ない」が37.1%で、「高齢者負担増は難しく、現役世代の負担増はやむを得ない」の18.1%を大きく上回った。75歳以上でも40.0%が高齢者自身の負担増を容認していた。高齢者医療では、70~74歳の原則2割負担の対象年齢を5歳引き上げる案に賛成35.7%、反対22.5%。将来的に高齢者の窓口負担を原則3割に見直す案も賛成34.2%が反対29.9%を上回ったが、60代以上では慎重姿勢が目立った。その一方で、軽度の体調不良時の受診行動では、大人で「まず医療機関を受診する」は30.6%にとどまるのに対し、18歳未満の子どもでは69.2%に達した。自治体の子供医療費助成について、自己負担が無料でも残りの多くは保険料で賄われることを「知らない」は全体で67.1%、子育て世帯でも54.4%だった。小児の軽症受診には不安軽減という側面がある一方で、時間外受診や小児科・救急外来の負荷にもつながる。健保連は、「無償化の下でも必要性に応じた適切な受診を考えて欲しい」としている。2026年度の健保組合収支は2,890億円の赤字見通しで、約7割の組合が赤字とされる。現役世代の保険料負担、高齢者医療への拠出、子供・子育て支援金の上乗せが重なる中、制度改革には国民への丁寧な説明が欠かせない。医療現場には、単なる受診抑制ではなく、救急性の見極め、家庭での観察、市販薬の活用、適正受診を患者・家族に伝える役割が一段と求められる。 参考 1) 医療・介護に関する国民意識調査-速報版-(健保連) 2) 医療費が増加する中で「患者の窓口負担増で対応すべき」「高齢者の負担増もやむなし」と考える国民が比較的多い-健保連(Gem Med) 3) 体調不良、子ども7割すぐ受診 「無償でも適切利用を」-健保連(時事通信) 4) 健康保険組合 2026年度は「2,890億円赤字」の見通し 加盟組合の約7割が赤字 高齢者医療費への拠出増などで 健保連が集計(TBSテレビ) 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省厚生労働省は、2023年度の「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果」を公表した。対象は全国8,138病院で、7,587病院に検査を実施。実施率は93.2%と前年度から5.4ポイント上昇し、コロナ禍前に近い水準まで回復した。検査は、病院が医療法上の人員、構造設備、管理体制を満たしているかを確認するものだ。その一方で、医療法に基づく医療従事者の標準数への適合率は、主要職種でそろって低下した。医師数は97.9%で前年度比0.4ポイント減、看護師・准看護師数は99.4%で0.1ポイント減、薬剤師数は97.7%で0.4ポイント減だった。医師数では、北海道・東北が94.2%、北陸・甲信越が97.1%と低く、東海99.0%、近畿99.6%との差が目立った。病床規模別では、20~49床の一般病院で医師95.3%、看護師など98.1%、薬剤師93.9%と、小規模病院ほど人材確保の厳しさが示された。医師と看護師などの双方が標準数を満たした病院は全体の97.0%で、前年度の97.5%から低下。医師のみ不足する病院は155施設、看護師などのみ不足する病院は65施設、双方不足は5施設だった。薬剤師は中国地方95.2%、九州96.2%などで低く、病院薬剤師不足の地域差も浮き彫りとなった。管理面では、最も適合率が低かった項目が「サイバーセキュリティの確保」の91.1%だった。次いで職員の健康管理92.1%、医療法許可事項の変更92.7%が低かった。医療情報システムへの攻撃が診療継続を脅かす中、サイバー対策は医療安全上の重要課題として、立入検査でも確認が強まっている。人員不足と情報セキュリティの遅れは、地域医療提供体制と病院運営の持続性に直結する論点となる。人員適合率は医師の働き方改革、地域医療構想、薬剤師確保計画とも重なる課題として、各病院には自院だけでなく地域単位での人材配置と安全管理の再点検が求められる。 参考 1) 医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果について[令和5年度](厚労省) 2) 医療法に基づく人員の適合率、医師、看護職員、薬剤師とも低下-23年度病院立入検査(日本医事新報) 3) 病院の医師配置適合率は97.9%、看護師等は99.4%に低下、サイバーセキュリティ確保が遅れている-2023年度立入検査結果(Gem Med) 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省厚生労働省は6月6日、高額療養費制度の見直しに伴う健康保険法施行令等の改正案について、パブリック・コメントの募集を開始した。意見提出の期限は7月6日で、政令案と省令案の双方が対象となる。改正案は、2026年8月から月額負担上限額を1人当たり医療費の伸びに応じて見直し、2027年8月からは応能負担の観点で所得区分を細分化する内容で、公布は2026年7月、施行は同年8月1日を予定している。高額療養費制度は、重い疾病や高額な治療を受ける患者にとって、医療費負担を一定範囲に抑える公的医療保険の中核的なセーフティネットである。今回の見直しでは、低所得者や長期療養者への配慮として、多数回該当の限度額は原則維持し、年収約200万円未満の課税世帯では2027年8月から引き下げる。また、2026年8月から新たに年間上限を設け、長期にわたり継続治療を受ける患者への負担軽減を図るとしている。見直しを巡っては、2025年3月に当時の石破 茂首相がいったん実施見合わせを表明し、その後、社会保障審議会医療保険部会の専門委員会で患者団体、保険者、医療者、有識者へのヒアリングを重ねてきた経緯がある。その一方で、患者団体や保険医協会からは、月額上限の引き上げが治療継続や生活に与える影響を懸念する声が出ている。全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会の共同声明は、制度の一定の見直し自体には理解を示しつつ、月ごとの限度額については十分に抑制されていないと指摘している。例として、70歳未満で年収約650~770万円の区分では、現行の月額8万100円に医療費超過分の1%を加える水準から、見直し案では11万400円となり、37%増になるとしている。医療現場では、高額薬剤、がん治療、難病治療、透析、免疫疾患治療など、継続的に高額医療を必要とする患者への説明が重要になる。制度変更は、単なる「上限額の引き上げ」にとどまらず、月額負担、多数回該当、年間上限、所得区分の変更を組み合わせて患者ごとの実負担が変わる点に注意が必要となる。受診抑制や治療中断を避けるため、医療機関には、医療ソーシャルワーカーや医事課と連携し、限度額適用認定証、付加給付、自治体制度、分割払い相談などを含めた支援体制の再確認が求められる。 参考 1) 健康保険法施行令等の一部を改正する政令案に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案に関するご意見の募集について(同) 3) 高額療養費見直し、厚労省が意見募集 7月5日まで(CB news) 4) 今年8月からの高額療養費「値上げ」 厚労省が意見募集開始(保団連) 5) 【募集】高額療養費制度の見直しについてのパブリック・コメント(日本難病・疾病団体協議会) 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか九州大学は6月10日、九州大学病院の患者43人分の氏名と手術動画データが外部に流出した可能性が否定できないと発表した。病院キャンパス内の研究室が管理する研究用端末1台が5月25日に不正アクセスを受け、ランサムウェアに感染したとみられる。教員が端末を起動した際、金銭を求める脅迫文が表示され、大学は直ちにネットワークから遮断した。端末は診療用ネットワークとは分離されており、電子カルテや診療業務への影響は確認されていない。情報の公開や悪用も現時点では確認されておらず、対象患者には個別に連絡し、謝罪している。大学では福岡県警とも連携し、侵入経路や被害範囲を調査する。その一方で、国立病院機構は6月8日、北海道医療センターと北海道がんセンターで廃棄処理を委託したハードディスクがインターネットオークションに転売され、患者や職員の個人情報が流出した可能性があると発表した。回収した90点のうち、31点が北海道医療センター、2点が北海道がんセンターで電子カルテシステムなどに使われていた。少なくとも約18万6,900人分、最大で約51万人分の氏名、住所、疾患名などが含まれる可能性がある。現時点で不正利用は確認されていないが、同機構は処分を受託した石狩市の産業廃棄物処理業者を廃棄物処理法違反の疑いで刑事告発した。2つの事案は、医療情報の漏えいリスクが電子カルテ本体へのサイバー攻撃だけではないことを示す。研究室端末に保存された手術動画、廃棄予定媒体に残った電子カルテ情報のいずれも、診療・研究・教育・廃棄の周辺工程で発生した。医療機関には、端末のアクセス管理、研究データの匿名化、ネットワーク分離、外部記録媒体の暗号化、廃棄時の物理破壊確認、委託先監査まで含めた情報管理体制の再点検が求められる。 参考 1) 九州大学 病院の患者データ 外部流出の可能性否定できない(NHK) 2) 手術動画流出の可能性、九大病院患者43人分 ランサムウェア感染か(朝日新聞) 3) 不正アクセスで手術動画データなど流出か 九州大病院 診療業務は通常通り(CB news) 4) 北海道がんセンターなどの患者情報が流出、最大51万人分…処分予定のHDDがネットオークションに転売(読売新聞) 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー日本イーライリリーは6月10日、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)の不適切使用に関する声明を公表した。SNSや広告で、美容・痩身・ダイエット目的の使用を推奨していると受け取れる情報が拡散し、さらに許可なく同薬を売買した疑いで男女3人が書類送検されたことを受けた対応。上野 賢一郎厚生労働大臣も、個人間売買は違法であり、適応外使用では思わぬ副作用につながる可能性があるとして、適正使用を呼びかけている。同社は、「国内で承認されているチルゼパチドの効能・効果は『2型糖尿病』のみであり、医師の診断、管理、指導のもと、電子添付文書に則って使用される処方箋医薬品だ」と強調した。2型糖尿病以外の人が美容目的などで使用した場合の有効性・安全性は医学的に確認されていない。また、医薬品を許可なく個人間で売買・転売する行為は薬機法違反であり、管理されていない流通経路で入手した製品は品質や安全性が担保されず、本来の効果が得られないだけでなく、重篤な健康被害を招くリスクがあると警告した。その一方で、同一成分のチルゼパチド製剤には、肥満症治療薬「ゼップバウンド」もある。ただし、対象は高血圧、脂質異常症、耐糖能障害などを伴い、食事療法・運動療法で十分な効果が得られない肥満症患者などに限られ、単なる美容目的の減量とは異なる。医師による客観的診断と適切な処方プロセスが前提となる。報道では、使用済み注射針の不適切廃棄も問題化している。公共トイレなどへの投棄は清掃員らの針刺し事故や血液媒介感染のリスクにつながる。医療機関には、適応、禁忌、副作用説明に加え、入手経路や廃棄方法まで含めた患者教育が求められる。GIP/GLP-1受容体作動薬の需要が急拡大する中、適正使用、違法流通対策、供給管理は、糖尿病診療と肥満症治療の信頼性を守る医療安全上の課題となっている。 参考 1) 当社製品の適正使用に関する取り組み(日本イーライリリー) 2) 美容目的「マンジャロ」使用、製造元日本法人が警告 不適切使用や違法売買「容認できず」(J-CASTニュース) 3) 2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の適正使用を推進 日本イーライリリーが不適切使用や違法転売に注意喚起(糖尿病ネットワーク) 4) 「マンジャロ注射針」不法投棄が横行で感染リスクへの懸念も…東京メトロが明かした“針刺し事故”の実例(女性自身) 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県埼玉県立小児医療センターは6月12日、白血病患者が抗がん剤の髄腔内注射後に神経症状を発症し、1人が死亡、2人が重体となった問題で、医療事故調査委員会の報告書概要を公表した。センターでは2025年1~10月、髄腔内化学療法を受けた患者5人に発熱、四肢疼痛、意識障害、呼吸障害などの神経症状が出現。死亡した10代男性を含む一部症例の保存髄液から、髄腔内に投与されるはずのない抗がん剤ビンクリスチンが検出された。委員会は、ビンクリスチンが通常の静脈内投与で中枢神経系へ移行する可能性は限定的であることなどから、「髄注薬に混入した状態で投与された可能性が極めて高い」と判断した。その一方で、混入経路を直接示す客観的証拠は確認されず、具体的な工程の特定には至らなかった。搬送、病棟保管、投与の各工程では、専用接続部品が注射筒に装着されていたことなどから、混入は極めて考えにくいと評価した。焦点となったのは無菌調製室での薬剤調製工程だ。報告書は、髄注薬とビンクリスチンが同じ空間に存在し得る運用で、空間的・時間的分離が十分とは言えなかったと指摘。調製完了時刻を客観的に確認できる記録や映像記録がなく、複数名によるリアルタイムの相互確認体制も整備されていなかったため、「調製時に混入した可能性を否定できない」と結論付けた。再発防止策として、髄注薬とビンカアルカロイド系抗がん剤の空間的・時間的分離、薬剤師2人によるダブルチェック、在庫・廃棄管理の強化、監視カメラ設置、マニュアル改定、投与前確認や廃棄工程の標準化、シリンジ払い出し廃止とミニバッグ化、定期監査、継続的な安全教育の9項目を提言した。センターは現在、髄腔内化学療法を中止しており、岡 明病院長は「まずは再発防止策を徹底して安全確保を図る」と述べ、再開時期は県や保健所と協議して検討する考えを示している。 参考 1) 使われるはずない薬「調製時混入の可能性」 埼玉・小児医療センター(朝日新聞) 2) 劇薬管理強化へ9項目 事故調報告書 小児医療センター(毎日新聞) 3) 埼玉の病院の医療死亡事故、調査報告「調剤時の混入否定できず」(日経新聞)

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不眠を訴える高齢者。反射的なベンゾジアゼピン処方をどうデザインし直すか【高齢者処方のデザイン】第2回

以下の症例に対する前医での処方箋には「替えるべきポイント」が2つ隠れています。あなたは見抜けますか?【症例】患者75歳・男性高血圧、糖尿病、軽度アルツハイマー型認知症で通院中。数ヵ月前から入眠困難と夜間頻尿による中途覚醒があり、前医でエチゾラムが追加された。以後、日中のふらつきが出現し、中途覚醒は良くならなかったため、エチゾラムは自己中断した。夜間頻尿について詳しく尋ねると、頻尿は夜間のみで日中はないという。また近頃、頻尿に加えて悪夢で目が覚めることも多いという。診察上、両下肢に軽度の浮腫を認める。【Before:前医の処方箋】A)アムロジピン5mg 1日1回 朝食後B)メトホルミン500mg 1日2回 朝・夕食後C)ドネペジル10mg 1日1回 就寝前D)エチゾラム1mg 1日1回 就寝前(すでに自己中断)A)アムロジピン5mg 1日1回 朝食後B)メトホルミン500mg 1日2回 朝・夕食後C)ドネペジル10mg 1日1回 就寝前D)エチゾラム1mg 1日1回 就寝前(すでに自己中断) 1) Eisai Co., Ltd. Aricept (donepezil hydrochloride) package insert. Tokyo: Eisai Co., Ltd. 2) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 講師紹介

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学会抄録のかたちにまとめる その2【「実践的」臨床研究入門】第64回

前回、これまでの連載で取り上げてきたクリニカル・クエスチョン(CQ)からリサーチ・クエスチョン(RQ)への変換とEZR(Easy R)による統計解析の総まとめとして、われわれの仮想研究を学会抄録のかたちにしました。その際にIMRAD形式と構造化抄録の違いを概説し、構造化抄録の典型的な構成要素として、Background、Objective、Design、Setting、Patients/Participants、Intervention/Exposure、Measurements、Results、Conclusionsの9つを挙げました。この9つに加えて、Limitation(研究の限界)を独立した見出しとして掲げる構造化抄録のパターンもあり、Annals of Internal Medicineをはじめとする一部のトップジャーナルが推奨する様式に採用されています。研究結果を批判的に吟味するうえでは、研究の限界を本文だけでなく、抄録の段階から明示しておくことが重要だと考えられています。では、Limitationには何を書けば良いのでしょう。「サンプル数が小さい」「単施設研究である」と一般論を並べるだけでは不十分です。読者が「研究結果をどの程度信用できるのか」「どの集団・どのセッティングに一般化できるのか」を判断する材料として、研究結果に系統的な歪み(バイアス)をもたらす要因を、その方向性や大きさの推定とともに示す必要があります。そこで、今回は「誤差」と「バイアス」の概念を整理して解説します。誤差とバイアス誤差(error)とは、観察された値と真の値(神のみぞ知る)との違いを指します。誤差は、その性質によって偶然誤差(random error)と系統誤差(systematic error、広義のバイアス)に分けられます(図1)。両者の違いは、誤差の方向性に一貫した偏りがあるかどうかにあります。偶然誤差はランダムに、つまり方向性はなく発生しますが、系統誤差は一定の方向性をもって発生します。身近な例として、聴診法による血圧測定を考えてみましょう。検者・時間・血圧計を一定にしても、被験者の血圧そのものが変動するため、測定値はばらつきます。これが偶然誤差です。一方、検者の聴力に難があったり、血圧計が故障していて常に低めに表示するのであれば、測定値は一定の方向に偏ります。これが系統誤差です。図1.誤差とバイアス画像を拡大する系統誤差と偶然誤差は、精度(信頼性)と正確度(妥当性)という概念と対応します。偶然誤差が小さい研究は精度が高く、系統誤差が小さい研究は正確度が高い、と整理できます。図2は射的の的を用いてこの関係を図示したものです。弾痕の散らばりが小さければ精度が高く、弾痕が的の中心(真の値)に近ければ正確度が高い、ということを示しています。臨床研究で目指すべき理想像は、精度も正確度もともに高い、図の右端の状態です。図2.精度(信頼性)と正確度(妥当性)の関係画像を拡大する精度は統計学的に評価できます。サンプルサイズを大きくすれば信頼区間が狭くなり、精度が向上します。一方、正確度は統計だけでは評価できません。研究デザインの段階から、対象者の選定、測定方法、測定条件を慎重に設計する必要があります。広義のバイアス(系統誤差)は、さらに「狭義のバイアス」と「交絡」とに分けて考えることができます。狭義のバイアスには、選択バイアスと情報バイアスが含まれます。両者の違いは、データ取得後の解析段階で制御できるかどうかです。交絡は、調整に必要な変数が測定されていれば多変量解析などによって解析段階でも制御可能です。しかし、狭義のバイアスは解析段階では制御不能であり、研究計画時に十分な対策を講じる必要があります。それでもなお残る限界については、論文のLimitationで誠実に開示するほかありません。なお交絡因子とその制御については、詳細は別稿に譲ります(連載第45回など参照)。

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