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無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?【とことん極める!腎盂腎炎】第15回

無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?Teaching point(1)無症候性細菌尿を有している患者は意外と多い(2)無症候性細菌尿は一部の例外を除けば治療不要である(3)無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は難しいため総合内科医/総合診療医の腕の見せ所であるはじめに本連載をここまで読み進めた読者の方は、尿路感染症をマスターしつつあると思うが、そんな「尿路感染症マスター」でも無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別をすることは容易ではない。特殊なセッティングを除けば、そもそも無症状の患者の尿培養を採取することがないため、われわれは一般的に熱源精査の過程で無症候性細菌尿かどうかを判断しなければならないからである。尿路感染症は除外診断(第1回:問診参照)であるため、発熱患者が膿尿や細菌尿を呈していたとしても尿路感染症と安易に診断せず、ほかに熱源がないか病歴・身体所見をもとに検索し、場合によっては血液検査・画像検査を組み合わせて診断することが大切である。このように無症候性細菌尿と尿路感染症の区別は一筋縄ではいかないが、本項で無症候性細菌尿という概念について詳しく知り、その誤解をなくすことで、少しでも区別しやすくなっていただくことを目標とする。1.無症候性細菌尿とは無症候性細菌尿とはその名の通り、「尿路感染症の症状がないにもかかわらず細菌尿を呈している状態」である。米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)のガイドライン1)では105CFU/mLの細菌数が尿から検出されることが、細菌尿の条件として挙げられている(厳密にいえば、女性の場合は2回連続で検出されなければならない)。無症候性細菌尿を有している割合(表)は加齢とともに上昇し、女性の場合、閉経前は1〜5%と低値だが、閉経後は2.8〜8.6%、70歳以上に限定すると10.8〜16%、施設入所者に至っては25〜50%と非常に高値となる。男性の場合も同様で、若年の場合は極めてまれであるが、70歳以上に限定すると3.6〜19%、施設入所者では15〜50%となり、女性とほぼ同頻度となることが知られている1)。また糖尿病があると無症候性細菌尿を呈する頻度がさらに上昇するとされている。さらに膀胱留置カテーテルを使用中の場合、細菌尿を呈する割合は1日3〜5%ずつ上昇するため、1ヵ月間留置していると細菌尿はほぼ必発となることも知られている2)。表 無症候性細菌尿を有する頻度画像を拡大するつまり「何も症状はないがもともと細菌尿を有している患者」は意外と多いのである。熱源精査を行う際はこれを踏まえ、「もともと無症候性細菌尿を有していた人が何か別の感染症に罹患している」のか「膀胱刺激徴候やCVA叩打痛のない腎盂腎炎を発症している」のか毎回頭を悩ませなければならない。とくに入院中の高齢者に関しては、尿路感染症と診断されたうちの40%程度が不適切な診断だったという研究3)もあり、ここの区別は総合内科医/総合診療医の腕の見せ所といえる。2.無症候性細菌尿と尿検査結論からいうと、尿検査で無症候性細菌尿と尿路感染症を区別することはできない。「第5回:尿検体の迅速検査」に記載があるように、尿中白血球や尿中亜硝酸塩は尿中に白血球や腸内細菌が存在すれば陽性になるため、無症候性細菌尿であっても、尿路感染症であっても同じ結果になってしまうのである。亜硝酸塩が陽性とならない細菌(腸球菌など)の存在や亜硝酸塩の偽陽性(ビリルビン高値や試験紙の空気への曝露)にも注意が必要である。「膿尿もあれば無症候性細菌尿ではなく尿路感染症を疑う」という誤解も多いが、実際はそんなことはなく、たとえば糖尿病患者では無症候性細菌尿の80%で膿尿も認めていたという報告がある4)。つまり、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることがあり、それが尿路感染症の診断を難しくしているのである。高齢者の発熱で尿中白血球と尿中亜硝酸塩が陽性のため腎盂腎炎として治療開始されたが、総合内科/総合診療科入院後に偽痛風や蜂窩織炎と診断される…というパターンは比較的よく経験する。尿検査所見に飛びつき、思考停止になってしまわないように注意したい。3.無症候性細菌尿の治療の原則無症候性細菌尿の治療は原則として必要ない。抗菌薬適正使用の観点からも「かぜに抗菌薬を投与しない」の次に重要なのが「無症候性細菌尿は治療しない」であると考えられている5)。無症候性細菌尿を治療しても尿路感染症のリスクは減らすことができず、それどころか中長期的には尿路感染症のリスクが上昇するとされている6,7)。また下痢や皮疹などの副作用のリスクは当然上昇し、耐性菌の出現にも関与することが知られている1,7)。不必要どころか害になる可能性があるため、原則として無症候性細菌尿は治療しないということをぜひ覚えていただきたい。4.無症候性細菌尿の例外的な治療適応何事も原則を知ったうえで例外を知ることが大切である。この項では無症候性細菌尿でも治療すべき状況を概説する。<妊婦>妊婦が無症候性細菌尿を有する割合は2〜15%とされており8)、治療を行うことで腎盂腎炎への進展リスクや、低出生体重児のリスクが有意に低下することがわかっている9)。このため妊婦ではスクリーニングで無症候性細菌尿があった場合、例外的に治療をすべきとされている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに決定すればよいが、ST合剤を避けてアモキシシリンやセファレキシンを選択するのが望ましいと考える。治療期間は4〜7日間が推奨されている1)。治療閾値は無症候性細菌尿の定義通り、尿培養から尿路感染症の起炎菌が105CFU/mL以上検出された場合となっているが、105CFU/mL未満でも治療している施設も往々にしてあると思われるためローカルルールを確認していただきたい。なお米国予防医学専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force:USPSTF)は、妊婦の尿培養からGroup B Streptococcus(S. agalactiae)が検出された場合、S. agalactiaeの膣内定着が示唆され、胎児への感染を予防するため例外的に104CFU/mLでも治療適応としていることに注意が必要である10)。<泌尿器科処置前>厳密にいうと、「粘膜の損傷や出血を伴うような泌尿器科処置前」である。これは無症候性細菌尿の治療というより、術前の抗菌薬予防投与と考えたほうがイメージしやすいだろう。経尿道的前立腺切除術や経尿道的膀胱腫瘍切除術などの術前にスクリーニングを行い、無症候性細菌尿がある場合は術後感染症の予防のため治療が推奨されている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに、できるだけ狭域なものを選択する。治療期間は術後創部感染の予防と同様に、手術の30〜60分前に初回投与し、当日で終了すればよい1)。なお膀胱鏡検査だけの場合や、膀胱がんに対するBCG注入療法のみの場合は粘膜の損傷や出血リスクが低く、感染予防効果が乏しいため無症候性細菌尿の治療は不要と考えられる1,11)。意外かもしれないが無症候性細菌尿の治療適応はこの2つだけである。厳密にいうと「腎移植直後の無症候性細菌尿の治療」などは意見が分かれるところであるが、少なくとも腎移植後2ヵ月以上経過した患者に対する無症候性細菌尿の治療効果はないとされる12)。さすがに腎移植後2ヵ月以内に患者を外来フォローすることはほぼないと思われるため、総合内科医/総合診療医が覚えておくべきなのは上述の2つだけであるといってよいだろう。5.無症候性細菌尿と尿路感染症の区別繰り返しになるが、熱源精査の過程で発見された無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は一筋縄ではいかない。とくに後期高齢者ではもともと無症候性細菌尿を有している率が高くなり、認知症などがあれば真の尿路感染症のときでも発熱以外に症状が乏しいこともあるため、両者の区別がより一層難しくなる。区別に有用な単一の検査も存在しないため、病歴・身体所見・血液検査所見・画像所見などを組み合わせ総合的な評価を行う必要があるといえる。大切なことは尿路感染症と診断する前にほかの熱源をできるだけ否定するということである。無症候性細菌尿を治療してしまう動機としては以下13)のようなものがあげられている。(1)臨床像を考慮せず検査異常を治療するという誤った考え(2)過剰な不安や警戒心という心理的要因(3)適切な意思決定を妨げる組織文化(2)や(3)に関しては状態悪化時のバックアップ体制などにも左右されると考えられるため、個人でなく科全体や病院全体で取り組んでいかなければならないテーマだといえる。1)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:1611-1615.2)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.3)Woodford HJ, George J. J Am Geriatr Soc. 2009;57:107-114.4)Zhanel GG, et al. Clin Infect Dis. 1995;21:316-322.5)Choosing Wisely. Infectious Diseases Society of America : Five Things Physicians and Patients Should Question. 2015.(Last reviewed 2021.)6)Zalmanovici Trestioreanu A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;4:CD009534.7)Cai T, et al. Clin Infect Dis. 55:771-777.8)Smaill FM, Vazquez JC. Cochrane Database Syst Rev. 2019;CD000490.9)Henderson JT, et al. JAMA. 2019;322:1195-1205.10)US Preventive Services Task Force. JAMA. 2019;322:1188-1194.11)Herr HW. BJU Int. 2012;110:E658-660.12)Coussement J, et al. Clin Microbiol Infect. 2021;27:398-405.13)Eyer MM, et al. J Hosp Infect. 2016;93:297-303.

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術後二次治癒創の治癒期間、局所陰圧閉鎖療法vs.通常治療/Lancet

 糖尿病などの合併症があり、下肢の術後二次治癒創(SWHSI)を有する患者において、局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)が標準的な被覆材(ドレッシング)と比較して創傷治癒までの期間を短縮するという明らかなエビデンスは確認されなかった。英国・ヨーク大学のCatherine Arundel氏らが、国民保健サービス(NHS)の29施設で実施したプラグマティックな無作為化非盲検並行群間比較試験「SWHSI-2試験」の結果を報告した。SWHSIは治療管理およびコスト面で大きな課題を抱えており、有効性の比較を基にしたエビデンスがないにもかかわらず、治療法としてNPWTが用いられることが増えている。著者は、「本研究の結果は、SWHSIの治癒促進のためにNPWTを使用することを支持しないものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年4月15日号掲載の報告。評価者盲検で創傷治癒までの期間を比較 研究グループは、16歳以上で急性SWHSI(術後6週未満に生じた創傷または創傷離開)を有し、NPWT適応と判断された患者(すなわち、デブリドマンを要しない生存組織または薄膜層が80%以上)を、中央ウェブベースシステムによりNPWT群または通常治療群に、創傷部位、創傷面積および施設で層別化して1対1の割合で無作為に割り付け12ヵ月間追跡した。 患者ならびに臨床および研究チームは非盲検であったが、盲検化された評価者が創傷部の写真を評価しアウトカムを確認した。 主要アウトカムは、創傷治癒までの期間(無作為化から完全上皮化までの日数)で、Kaplan-Meier法およびCox比例ハザードモデルを用いてITT解析を行った。NPWTは通常治療と比較し創傷治癒までの期間を短縮せず 2019年5月15日~2023年1月13日に、SWHSIを有する患者686例がNPWT群(349例)または通常治療群(337例)に無作為化され、全患者が主要解析に組み込まれた。 患者の多くは、糖尿病患者(549例、80.0%)、SWHSIが1ヵ所(622例、90.7%)、創傷部位が足または下肢(620例、90.4%)であり、血管手術後の発生であった(619例、90.2%)。 創傷治癒までの期間の中央値は、NPWT群187日(95%信頼区間[CI]:169~226)、通常治療群195日(95%CI:158~213)であり、NPWTが通常治療と比較し創傷治癒までの期間を短縮する明確なエビデンスは得られなかった(ハザード比:1.08、95%CI:0.88~1.32、p=0.47)。 有害事象は448件報告され、そのうち重篤な事象は14件(NPWT群9例、通常治療群5例)で、124件は治療に関連している可能性があると判断された。 試験内経済分析の結果、NPWTは通常治療と比較して費用対効果が高いとは認められなかった。

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アラート付き血糖モニタリングにより糖尿病患者の交通事故が軽減か

 インスリン治療を受けている糖尿病患者では、治療に起因する低血糖症が起こることがある。低血糖症が車の運転時に起こった場合、意識障害などから交通事故につながりかねない。この度、インスリン治療を受けている糖尿病患者で、アラート付きの持続血糖モニタリングシステム(CGM)の装着により、運転中の低血糖の発生率が低下するという研究結果が報告された。名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の前田龍太郎氏らが行った研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」に2月28日掲載された。 2014年の実態調査では、糖尿病治療中の患者の52%が日常生活で低血糖を経験し、そのうちの10%で運転中に低血糖エピソードを生じ、結果としてその2%が交通事故にあった、と報告されている。無自覚の低血糖を加味すれば、運転中の低血糖エピソードの頻度はさらに高い可能性があり、切迫した低血糖を予測してドライバーに警告できる信頼性の高いシステムが必要とされていた。このような背景から、研究グループは、インスリン治療を受けているドライバーを対象に、低血糖アラート機能付きのCGMの有用性を評価する単施設の非盲検ランダム化クロスオーバー試験を実施した。 対象には、2021年7月6日から2023年2月27日の間に名古屋大学医学部附属病院でインスリン治療を受け、週3回以上車を運転する成人の糖尿病患者30名が含まれた。30名の参加者は、アラート機能付きCGM群(アラート群)、アラート機能なしCGM群(非アラート群)に1対1で割り付けられた。参加者は、4週の試験期間の後、8週間おいて、群を入れ替えて再度4週間の試験期間に組み入れられた。CGMは皮膚に貼り付けるパッチ式を採用し、期間中の低血糖警告の閾値は80mg/dL(4.4mmol/L)と設定された。主要評価項目は血糖値が基準値(70mg/dL〔3.9mmol/L〕)を下回っていた時間(TBR)の割合とした。 最終的にCGMの解析に含まれた参加者は27名(平均年齢;61.9±12.6歳、女性;8名)だった。27名には、1型糖尿病8名(30%)、2型糖尿病13名(50%)、その他6名(20%)が含まれた。 2つの試験期間を統合して解析した結果、試験全体でのTBRはアラート群(中央値2.0%〔四分位範囲1.0~7.0〕)と非アラート群(同2.0%〔1.0~6.5〕)で有意な差はみられなかった(P=0.169)。しかし、事前に規定された1型糖尿病のサブグループ解析では、非アラート群と比較したアラート群のTBRは有意に減少していた(群間差-4.4%〔95%信頼区間-8.7~-0.1〕、P=0.047)。また、車を運転するときの低血糖エピソードの発生率は、非アラート群(33%)と比較し、アラート群(19%)で有意な減少が認められた(P=0.041)。 本研究の結果について、研究グループは、「今回のCGMはアラートの閾値が80mg/dL(4.4mmol/L)に設定されており、参加者は血糖が基準値以下(<70mg/dL〔<3.9mmol/L〕)になる前にブドウ糖摂取などの予防的措置をとることができた。今回示された結果は、低血糖アラート機能を備えたCGMが、インスリン治療を受けているドライバーの安全性をさらに高め、糖尿病患者の運転制限の緩和に役立つ可能性があることを示唆している」と述べた。 なお、本研究の限界については、CGMで測定した皮下組織中のグルコース濃度は、近似しているが血糖値と同一のものでないこと、CGMの使用により意識が変わり、血糖管理がより慎重になった可能性があったことなどを挙げている。

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認知症の予防はお口の健康から(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者最近、もの忘れが増えてきて…。それに、歯の調子も良くなくて…医師 それは心配ですね。実は、お口の健康も認知症と関連していますよ!患者 えっ、そうなんですか!?医師 はい。歯の本数が少ない人は、認知症になりやすいそうですよ。患者 えっ、どうしてですか?医師 歯の本数が減ると、ものをかむ筋肉(咀嚼筋)や歯(歯根膜)からの脳への刺激が減るそうです。画 いわみせいじそれに…(身振り手振りを加えながら)患者 それに?医師 生野菜などを摂らなくなり、ビタミンなどの栄養不足を招きます。ほかにも…。患者 まだ、あるんですか?医師 タバコを吸う人や糖尿病の人は歯周病で歯が抜けやすいですし、軽度認知障害(MCI)があると、歯磨きなどをきちんとしなくなり、歯周病や虫歯になるリスクが高くなります。患者 歯は大切にしないといけないんですね。一度、歯医者さんに診てもらいます(嬉しそうな顔)ポイントお口の健康と認知症との関連を説明した後に、対策を一緒に考えます。Copyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第9回 血液検査が切り拓く!新時代のアルツハイマー病早期発見法

現在、コレステロールに問題のある人は、コレステロールへの治療薬開始後、定期的にコレステロール値を測定され、その値をもとに治療が調整されているでしょう。あるいは、糖尿病でも同様、血糖値を見ながら、良くなった、悪くなったと議論されています。血液マーカーが拓く新時代こんなことが、アルツハイマー病の世界でもできるようになるかもしれない。今回は、そんなニュースをお届けします。アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβが蓄積して神経のシナプスを障害したり、タウ蛋白の過剰リン酸化によって神経に変化を引き起こしたりすることが、病気の成り立ちに大きく関わっていると考えられています。そうした背景から、現在アルツハイマー病の診断に当たっては、脳脊髄液の採取やPET検査によるアミロイドβの検出が主流になりつつあります。しかし、「アミロイドβがあっても認知症を発症しない」患者も一定数いることから、その立ち位置について議論があることもまた事実です。もしアミロイドβの存在証明が認知症を上手に予測できないのであれば、臨床的な意義は十分高いとはいえません。しかし、最近注目の“p-tau217“検査は、なんと発症の20年以上前から異常を検出できる優れた感度を持つというのです1)。さらに、驚くことにPET検査と同等かそれ以上の精度を示し2)、現状でも約200ドルで受けられるようになってきているということです。加えて、認知機能や認知症の重症度ともよく相関することが報告されています。つまり、ただの数値遊びではなく、臨床的な意義の高い値ではないかと期待されているのです。ペニーさんの劇的ビフォー&アフターCNNのニュースによれば3)、フロリダ州で行われた研究「BioRAND」に参加した61歳のペニーさんは、血圧管理、植物ベースの地中海式ダイエット、週数回の有酸素運動とレジスタンストレーニング、ヨガによるストレス緩和、睡眠管理、体重管理に加え、ビタミンやサプリメントの個別最適化を含む包括的な介入プログラムを実践しました。その結果、体重は約14kg減少し、筋肉量が増加。1年後の血液検査で、p-tau217が43%減少し、実際に言葉の取り出し能力や日々の体調も大きく向上しました。研究チームは「30代以降は定期的に検査を行い、異常があれば生活指導や薬物介入を行う──まさに脳のコレステロール検査のようなモデルだ」と提案しています。実用化への期待と慎重な視点ただし、現状では確固としてこのようなモデルを推奨できるものではなく、限界も数多く残されています。プラットフォーム間の検査精度のばらつき、80歳以上での有用性低下、病気が進んで自然経過でp-tau217が低下するケースも見られるなど、汎用する前に解決すべき課題も多く、「過度な期待は禁物」との慎重な見解も示されています。また、発症後に認知機能を著しく改善するような治療は知られていないことから、より早期に検出された患者さんの心理的サポートや倫理的側面など、検査ばかりが先走りしない仕組みづくりも重要です。とはいえ、血液検査でアルツハイマー病の発症予測や進行度合いを行うことができたり、一般の生活改善が血液マーカーに反映されることで、コレステロール値のような管理が可能になったりする未来を予見させる、アルツハイマー病予防の新たな可能性を提示するニュースであったともいえるでしょう。さらに、臨床的意義が確立されれば、新薬開発にも大きく貢献するものとなるはずです。今後、大規模な臨床研究・導入を経て、アルツハイマー病の世界を劇的に変えるような進歩につながることを期待したいですね。 1) Teunissen CE, et al. Alzheimers Dement. 2025;21:e14397. 2) Therriault J, et al. JAMA Neurol. 2023;80:188-199. 3) LaMotte S. ‘Amazing’ reduction in Alzheimer’s risk verified by blood markers, study says. CNN. 2025 April 7.

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帯状疱疹生ワクチン、認知症を予防か/JAMA

 米国・スタンフォード大学のMichael Pomirchy氏らは、オーストラリアにおける準実験的研究の結果、帯状疱疹(HZ)ワクチンの接種が認知症のリスクを低下させる可能性があることを示した。オーストラリアでは、全国的なワクチン接種プログラムにおいて2016年11月1日から70~79歳を対象に弱毒HZ生ワクチンの無料接種を開始。同時点で1936年11月2日以降に生まれた人(2016年11月1日時点で80歳未満)が対象で、それ以前に生まれた人(80歳になっていた人)は対象外であったことから、著者らは、年齢がわずかに異なるだけで健康状態や行動は類似していると想定される集団を比較する準実験的研究の利点を活用し、HZワクチン接種の適格基準日である1936年11月2日の前後に生まれた人について解析した。結果を踏まえて著者は、「先行研究であるウェールズでの知見を裏付ける結果であり、認知症に対するHZワクチン接種の潜在的利益には因果関係がある可能性が高いエビデンスを提供するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年4月23日号掲載の報告。誕生日で分かれたワクチン接種適格者と不適格者の、認知症新規診断率を比較 研究グループは、オーストラリアにおけるプライマリケアの電子カルテ情報を提供している医療情報会社「PenCS」のデータを用い、2016年11月1日時点で50歳以上で、1993年2月15日~2024年3月27日にプライマリケア65施設を受診した患者10万1,219例を対象に、認知症の新規診断とHZワクチン接種との関連について解析した。この65施設は、PenCSソフトウェアを使用しており、電子カルテのデータを研究に使用することに同意した施設である。 主要アウトカムは、追跡期間中(2016年11月1日~2024年3月27日)に新たに診断された認知症であった。回帰不連続(RD)デザインを用い、HZワクチン接種の生年月日適格基準である1936年11月2日以降に生まれた接種適格者と、それ以前に生まれた接種不適格者を比較した。RDデザインでは、閾値周辺の帯域に分析を制限することに加えて、閾値(1936年11月2日)に最も近い日に生まれた人に最も高い重みが割り当てられる。追跡期間7.4年間において、接種適格者で認知症診断確率が1.8%ポイント低い 10万1,219例のうち52.7%が女性で、2016年11月1日時点の平均年齢は62.6歳(SD 9.3)であった。このうち、主要解析の解析対象集団(平均二乗誤差の最適帯域である1936年11月2日の前後482週間に生まれた人)は1万8,402例で、54.3%が女性で、平均年齢は77歳(SD 4.7)であった。これら集団の接種適格者と不適格者で、ベースラインにおける過去の予防的医療の利用状況や慢性疾患既往歴に差はなかった。 追跡期間においてHZワクチン接種を受ける確率は、適格基準日後1週間に生まれた接種適格者では、基準日前の1週間に生まれた接種不適格者と比べて16.4%ポイント(95%信頼区間[CI]:13.2~19.5、p<0.001)高いと推定された。両集団は、HZワクチン接種確率を除けば、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、降圧薬またはスタチンの使用や、HZワクチン以外のワクチン接種などの他の予防医療サービス利用の確率は類似していた。 追跡期間7.4年間に新たに認知症と診断される確率は、接種適格者では不適格者より1.8%ポイント(95%CI:0.4~3.3、p=0.01)低かった。接種適格性について、他の予防医療サービスを受ける確率や、認知症以外の慢性疾患の診断を受ける確率への影響はみられなかった。

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人工甘味料スクラロースの摂取は空腹感を高める

 スプレンダのようなカロリーなしの人工甘味料の使用により食事のカロリーが増えることはないが、体重増加につながる可能性はあるようだ。新たな研究で、砂糖の代替品は食欲と空腹感を刺激し、食べ過ぎにつながる可能性のあることが明らかになった。米南カリフォルニア大学(USC)糖尿病・肥満研究センター所長のKathleen Page氏らによるこの研究結果は、「Nature Metabolism」に3月26日掲載された。 Page氏は、「スプレンダの主成分であるスクラロースは、摂取してもその甘さから予想されるカロリーを伴わないため脳を混乱させるようだ。体が、摂取した甘さに見合うカロリーを期待しているのにそれを得られない場合、時間の経過とともに、脳がそれらの物質を求める仕組みに変化が生じる可能性がある」とUSCのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、米国人の約40%が砂糖の摂取量を減らす手段として、定期的に砂糖の代替品を摂取しているという。「しかし、このような砂糖の代替品は、本当に体重の調整に役立つのだろうか。それらの摂取は、体と脳にどのような影響を与えるのだろうか。また、その影響は人によって異なるのだろうか」とPage氏は疑問を呈する。 今回の研究では、18〜35歳の試験参加者75人(女性43人)を対象にクロスオーバー試験を実施し、スクラロースの摂取が、食欲のコントロールに関与する脳視床下部の活動、ホルモンレベル、空腹感に及ぼす影響を調査した。試験参加者は、ショ糖(砂糖の主成分)で甘くした飲み物、スクラロースでショ糖と同程度に甘くした飲み物、および水をランダムな順序で2日から2カ月の間隔を空けて摂取した。飲み物の摂取前と摂取後には、採血、MRIスキャン、空腹感の評価が行われた。 その結果、ショ糖摂取後に比べてスクラロース摂取後には、視床下部の血流が有意に増加し、空腹感も有意に高まることが示された。また、水の摂取後との比較でも、視床下部の血流は有意に増加したが、空腹感のスコアに有意な差は認められなかった。一方、ショ糖の摂取後にはインスリンやグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)など、血糖値を調節するホルモンレベルの上昇が認められたが、この上昇は視床下部の血流低下と関連していた。さらに、スクラロースの摂取後には、視床下部と動機付けや身体感覚処理に関わる脳領域との機能的な結び付きが強まることも確認された。Page氏は、「この結果は、スクラロースが渇望や摂食行動に影響を与える可能性があることを示唆している」と述べている。 Page氏は、「体はインスリンなどのホルモンを使ってカロリーを摂取したことを脳に伝え、空腹感を軽減させる。しかし、スクラロースにそのような効果は認められなかった。肥満の試験参加者では、このようなスクラロース摂取後とショ糖摂取後のホルモン反応の違いはより顕著だった」と述べている。 研究グループは、「今後の研究では、脳とホルモンの活動のこうした変化が人の体重に長期的な影響を及ぼすかどうかを調べるべきだ」と述べている。

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肥満や脂質異常症がCKDリスクを増大か/東大

 日本のメタボリックシンドロームの基準値を外れる内臓脂肪蓄積や脂質異常症、肥満は尿蛋白の発現リスクが高く、HDLコレステロール低値は腎機能低下と関連していることを、東京大学の吉田 唯氏らが明らかにした。Internal Medicine誌オンライン版2025年4月12日号掲載の報告。 高血圧や高血糖と慢性腎臓病(CKD)との関連は多く報告されているが、肥満や内臓脂肪蓄積、脂質異常症とCKDの関連に関しては見解の一致が得られていない。そこで研究グループは、大規模な職域健診データを解析し、日本のメタボリックシンドロームの基準値(ウエスト周囲径[男性≧85cm、女性≧90cm]、トリグリセライド値≧150mg/dL、HDLコレステロール値<40mg/dL)およびBMI値25以上とCKDの発症・進行との関連を調査した。 対象は、2015~22年にパブリックヘルスリサーチセンターが実施した健康診断を受け、血清クレアチニンを2回以上測定していた30万8,174人であった。eGFRの低下率とBMI、HDLコレステロール、トリグリセライドとの関連を調べるために多変量ロジスティック回帰分析を実施した。さらに、ポアソン回帰分析を使用して、ベースライン時に尿蛋白が認められなかった集団における尿蛋白の新規発現とeGFRの低下との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。●ベースライン時の年齢中央値は46歳で、男性が60%であった。 ●HDLコレステロール低値は、その後の比較的急速なeGFRの低下(≧5%/年)と関連していた(調整オッズ比[aOR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.97~0.99、p<0.0001)。●ウエスト周囲径、HDLコレステロール値、トリグリセライド値がメタボリックシンドロームの基準から外れている場合、基準内の集団よりも尿蛋白の新規発現が多かった。 ・ウエスト周囲径高値のaOR:1.36(95%CI:1.28~1.45)、p<0.0001 ・HDLコレステロール低値のaOR:1.21(95%CI:1.08~1.36)、p=0.0012 ・トリグリセライド高値のaOR:1.09(95%CI:1.02~1.17)、p<0.0001●BMI値が高いほど尿蛋白の新規発現が多かった。 ・BMI値25以上のaOR:1.40(95%CI:1.32~1.49)、p<0.0001 ・BMI値30以上のaOR:1.64(95%CI:1.49~1.80)、p<0.0001 ・BMI値35以上のaOR:1.82(95%CI:1.52~2.19)、p<0.0001 これらの結果より、研究グループは「脂質異常症と肥満のある患者では、腎機能障害の早期発見と経過観察が重要である」とまとめた。

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帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%低下/Nature

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う発疹の予防だけでなく、認知症の発症から高齢者を守る効果もあるようだ。新たな研究で、英国のウェールズで帯状疱疹ワクチンが利用可能になった際にワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者に比べて認知症の発症リスクが20%低いことが示された。米スタンフォード大学医学部のPascal Geldsetzer氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に4月2日掲載された。 帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスでもある水痘・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされる。このウイルスは、子どもの頃に水痘に罹患した人の神経細胞内に潜伏し、加齢や病気により免疫力が弱まると再び活性化する。帯状疱疹ワクチンは、高齢者の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫反応を高め、潜伏中のウイルスが体表に現れて帯状疱疹を引き起こすのを防ぐ働きがある。しかし、最近の研究では、特定のウイルス感染が認知症リスクを高める可能性が示唆されていることから、Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチンにも脳を保護する効果があるのではないかと考えた。 このことを検討するためにGeldsetzer氏らは、2013年9月1日に高齢者に対する帯状疱疹ワクチンの接種が開始されたウェールズに目を向けた。当時はワクチン(Zostavax)の供給量が限られていたため、このときの接種対象者は1933年9月2日以降に生まれた79歳の人に限定され、接種可能な期間も1年間に限られていた。開始時点で80歳以上だった人は、生涯にわたって接種対象外とされた。しかし、この規制が、ワクチンの影響を検証するランダム化比較試験の条件を自ずと生み出したと研究グループは指摘する。Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチン接種開始の直後に80歳に達した接種対象者(接種群)とワクチン接種直前に80歳に達した接種対象外の高齢者(1933年9月2日より前に生まれた人、対照群)を7年間追跡し、認知症の発症について比較した。 その結果、接種群では対照群に比べて、追跡期間中に新たに認知症の診断を受ける確率が3.5パーセントポイント低いことが示された。これは、接種群では対照群と比較して、認知症の相対的なリスクが20%低下したことに相当する。この効果は、教育レベルや糖尿病、心臓病、がんなどの慢性疾患など、認知症リスクに影響を与え得る因子を考慮した解析でも変わらず認められた。ワクチン接種のこのような保護効果は、男性よりも女性で顕著だった。さらに、イングランドとウェールズの合算人口を対象にした別のデータを使った検討でも同様の結果が確認された。 Geldsetzer氏は、「本研究で確認された兆候は非常に強力かつ明確な上に、持続的でもあった」と話す。ただし、なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかは明らかになっていない。研究グループは、ワクチンが免疫システム全体を強化するか、あるいは特に水痘・帯状疱疹ウイルスが脳の健康に及ぼす未知の影響を防ぐことで、脳を保護する可能性があると推測している。 さらに、研究グループは、現時点では米国でのみ入手可能な最新のワクチンであるShingrixが、今回の研究で検討されたZostavaxと同様の認知症予防効果をもたらすのかどうかも不明だと話す。Zostavaxは弱毒化された水痘・帯状疱疹ウイルスを用いた生ワクチンであるのに対し、Shingrixはウイルスの特定のタンパク質のみを利用した遺伝子組み換え不活化ワクチンである。研究グループによると、Shingrixは水痘・帯状疱疹ウイルスに対してZostavaxより効果的だが、認知症リスクへの影響はZostavaxと異なる可能性があるという。 Geldsetzer氏は、本研究で得られた知見がきっかけとなって、Shingrixの認知症予防効果を検討する研究が実施されるようになることに期待を示している。同氏は、「少なくとも、今持っている資源の一部を使って帯状疱疹ワクチンと認知症との関連に関して研究を進めることで、治療と予防の面で画期的な進歩につながる可能性がある」と話している。

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健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

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1日の心拍数を歩数で割った値がCVリスクの評価に有用

 健康増進のためにスマートウォッチを使って毎日の歩数を測定している人は少なくない。しかし、新たな研究によると、スマートウォッチは歩数だけでなく、健康にとって重要な別の指標も測定しており、それら両者のデータを用いることで、より高い精度で健康効果を予測できる可能性があるという。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のZhanlin Chen氏らの研究の結果であり、米国心臓病学会(ACC.25、3月29~31日、シカゴ)で報告された。 一般的に、健康のために1日1万歩歩くことが推奨されている。しかし実際には、研究によって、最適とされる歩数は異なる値が報告されている。一方、Chen氏らの研究結果は、単に歩数を測定するのではなく、1日の心拍数を歩数で割ると、心臓の健康状態をより高精度に評価できるというものだ。同氏は同大学発のリリースの中で、「われわれが開発した方法は、運動そのものではなく、運動に対して心臓がどのように反応するかという点に着目したものだ。身体活動が1日を通して変動する中で、ストレスが加わった時に心臓がそれに適応する能力を把握しようとする、より核心的な課題に迫る意義の高い方法である。われわれの研究は、スマートウォッチというウェアラブルデバイスでそれを捉える初の試みだ」と話している。 この研究では、米国立衛生研究所(NIH)が支援して行われている全国規模の前向き研究の参加者のうち、スマートウォッチ(Fitbit社)の記録と電子カルテ情報がそろっている約7,000人の米国成人のデータが解析に使われた。用いられたデータは合計で、580万人日、歩数にすると510億歩に及んだ。 1日の心拍数を歩数で割った値(daily heart rate per step;DHRPS)が高い人(上位4分の1)は、DHRPSが低い人に比べて、高血圧リスクが1.6倍、2型糖尿病リスクが2倍、アテローム性動脈硬化症による冠疾患のリスクが1.4倍、心不全リスクが1.7倍であることが明らかになった。また、DHRPSは歩数のみや心拍数のみよりも、心血管疾患リスクとの強い関連が認められた。ただし、脳卒中や心臓発作のリスクとの間には、有意な関連が見られなかった。 この結果に基づき研究者らは、「歩数で除した心拍数を用いることで、心臓のより詳しい検査が必要な人を抽出したり、運動療法により高い効果を期待できる人を特定したりすることが可能ではないか」と話している。またChen氏は、「この指標は誰もが容易に計算でき、スマートウォッチにアプリをダウンロードして値を求めることもできる」と、DHRPSの利点を付け加えている。 さらに研究者らは現在、1日単位ではなく、分単位で心拍数/歩数の値をモニタリングして、それが疾患の予後と関連があるか否かを確認する研究を計画している。「ウェアラブルデバイスの利用者は急速に拡大しており、1日中装着されることが多いため、短時間で変動する心臓の健康に関する情報を分単位で得ることが可能だ」とChen氏は述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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糖尿病性腎症の世界疾病負荷、1990~2021年にかけて増大

 糖尿病性腎症の世界疾病負荷は1990~2021年にかけて増大しており、2050年まで増大が続く見込みである、とする研究結果が報告された。成都市第三人民病院(中国)のXiao Ma氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に2月21日掲載された。 慢性腎臓病(CKD)は糖尿病の深刻な合併症であり、その世界的負担は徐々に増加している。米国では2000~2019年の間に、約80万人の患者が糖尿病を主因とする腎不全により透析または腎移植を受けているという報告もある。糖尿病性腎症の独立したリスク因子としては、遺伝、高血糖、高血圧などが挙げられているものの、CKDを併発した糖尿病の発生率に関する完全な統計はない。そのような背景から、著者らは、世界疾病負荷研究(GBD)に基づき、1990~2021年のデータを使用して、1型および2型の糖尿病に起因するCKDの世界的な負荷の動向および今後の予測について分析した。 本研究では、推定年間変化率(EAPC)を用いて、疾病サブタイプ別および地域別の疾病負荷の動向を推定し、糖尿病によるCKDに対する様々な年齢層および代謝因子の影響を評価した。疾病負担の推定には、死亡者数、年齢標準化死亡率、障害調整生存年(DALY)、年齢標準化DALY率が使用された。国や地域の社会経済発展の指標には社会人口統計学的特性指数(SDI)を用いた。GBDが対象とする国や地域は、その指数によって、低SDI、中低SDI、中SDI、中高SDI、高SDIの5つのカテゴリーに分類された。さらに自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルを用いて、2022~2050年までの糖尿病性腎症の疾病負担を予測した。 解析の結果、糖尿病性腎症の疾病負荷およびそのEAPCは、世界204カ国の国別および地域別のSDIサブグループによって、大幅に異なっていた。また、さまざまな年齢集団や代謝因子(腎機能障害、空腹時血糖高値、高BMIなど)が糖尿病性腎症の疾病負荷に及ぼす影響にも、大きなばらつきが見られた。代謝因子が加齢に伴う死亡者数や死亡率に及ぼす影響には、正の相関が認められた。1型糖尿病によるCKDと2型糖尿病によるCKDの死亡率には、異なる代謝因子が異なる影響を及ぼしていた。 糖尿病性腎症の世界的な負荷は、ARIMAモデルに基づく予測では、治療介入を行わなければ2022~2050年にかけて増大が続くとされた。2050年までに、死亡者数は9億5480万人、DALYs2569万1,300年、死亡率は10万人あたり8.118人、DALYsは10万人あたり196.143年になると試算された。 著者らは、「本研究から、治療介入を行わない場合、糖尿病性腎症の世界的な負荷は2022~2050年にかけて年々増大し、将来的に世界全体の医療システムをさらに圧迫する可能性が示された。今回のデータは、特に糖尿病性腎症のリスクが高い集団における、糖尿病性CKDに対する費用対効果の高い政策や個別化された介入策の開発に役立つと考える」と述べている。 また、糖尿病の負担が中程度のSDIの国々で一貫して高かったことに関しては、「特に医療資源が乏しい低・中所得国においては、糖尿病とその合併症の効果的な管理のための、より正確で費用対効果の高い診断ツールや介入が今後必要とされるのではないか」と指摘している。

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症状のない亜鉛欠乏症に注意、亜鉛欠乏症の診療指針改訂

 「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が2025年1月に発行された。今回の改訂は7年ぶりで、きわめて重要な8つの改訂点が診療指針の冒頭に明記され、要旨を読めば最低限の理解がカバーできる構成になっている。だが、本指針内容を日常診療へ落とし込む際に注意したいポイントがある。そこで今回、本指針の作成委員長を務めた脇野 修氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科分野 教授)に、亜鉛欠乏症の現状や診断・治療を行う際の注意点などについて話を聞いた。<2018年度版からの改訂点>・診断基準と検査について、アルカリフォスファターゼ低値を削除・採血タイミングについて言及・薬物治療について、亜鉛製剤の記述が追加・小児科、内科疾患に関する臨床的意義について、近年のエビデンスに基づき大幅改訂・摂取推奨量は、日本人の食事摂取基準2025年版を引用・国内での発生頻度について追記・リスクファクターとなる疾患について、メタアナリシスで証明されたもののみ記載・亜鉛過剰症について、耐用上限量を記載し、血清膵酵素の上昇に関する記載を削除症状がない潜在性亜鉛欠乏への診断・治療 国内の亜鉛欠乏潜在患者は全人口の10~30%と予想され、亜鉛不足が心筋梗塞の発症、COVID-19の発症/死亡、子癇症、骨粗鬆症、味覚異常のリスクファクターであることが疫学研究から明らかになっている。そのため、近年では症状を有する患者への治療のみならず、症状が顕在化していない患者の診断も喫緊の課題となっている。 亜鉛の血清/血漿基準値は80~130μg/dLで、亜鉛欠乏症と診断するには、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)、潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL未満)の評価と共に、臨床症状・所見の有無、原因となる他疾患が否定されることが必要である。同氏は「亜鉛欠乏症状(皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡、食欲低下、発育障害、性腺機能不全、易感染性、味覚異常、貧血、不妊症)がない場合には亜鉛投与の適応にはならない点は注意が必要。一方、症状がある場合には積極的に投与してほしい」と強調した。しかし、実際には症状がみられない亜鉛欠乏症への亜鉛投与の価値が証明されつつあるため、「慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全のようにしばしば血清亜鉛低値を認める患者(潜在性亜鉛欠乏も含む)では、亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがあるため、“亜鉛欠乏症状が認められていなくても、亜鉛補充を考慮してもよい”と治療指針の項に示した」とし、「食欲が低下している、貧血、感染の疑いが見られた場合、原疾患の治療に難渋している場合にも低亜鉛の可能性があることから、亜鉛測定を検討してほしい」と説明した。 現在、亜鉛製剤には2024年3月に発売されたヒスチジン亜鉛(商品名:ジンタス錠)、酢酸亜鉛、ポラプレジンク(商品名:プロマックD錠ほか)があるが、低亜鉛血症で保険適用になっているものは、ヒスチジン亜鉛と酢酸亜鉛のみである。「ヒスチジン亜鉛は良好なコンプライアンスが期待でき、酢酸亜鉛よりも消化器症状が少ない特徴を持っている」と説明した。採血は1~2ヵ月を目処に、銅も考慮を 今回の改訂では、採血タイミングも盛り込まれた。これについて「現状、実臨床で血中濃度の評価が正しくされていないため、1~2ヵ月ごとに亜鉛を、数ヵ月に1回は銅を測定して薬剤継続可否の判断を行ってほしい。また、貧血症状を有している患者ではすでに鉄や銅を測定しているが、それでも改善しない場合には亜鉛測定に踏み込んでもらいたい」と述べた。亜鉛投与による有害事象の観点からも、「銅欠乏や鉄欠乏性貧血をきたすことがあるので、ルーチンで測定する必要はないが、数ヵ月に1回は血清亜鉛とともに、血算、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン、血清銅を測定してほしい。亜鉛投与が適応となる患者であっても、投与数ヵ月のなかで症状の変化がみられない場合には、臨床症状が亜鉛欠乏によるものではないと判断し、亜鉛投与を中止する」といった判断が必要なことも強調した。極端な健康志向の食事療法は亜鉛不足のリスク 健康を意識した食事として、心血管疾患や糖尿病、認知症などに予防効果があるとされる地中海食やDASH食を想像するだろう。ところが、これらの食事療法で推奨される玄米や全粒粉、大豆などの植物由来製品には、亜鉛とキレートを形成するフィチン酸が多く含まれるため、亜鉛の吸収を阻害してしまうという。一方、亜鉛含有量が高い食材として牛赤身肉が推奨されるが、赤身肉の摂取はがん発症リスク、腎臓病などに悪影響を及ぼすことも報告されている。これらを踏まえて、同氏は「バランスのよい食事を心がけることが重要。実際にベジタリアンやヴィーガンでの亜鉛欠乏症が報告されている。そして、亜鉛は生体のなかでも筋肉に60%ほど分布していることを考慮すると、海産物(牡蠣、ホタテ、魚、海藻類)の摂取を意識するのが望ましい。その点で和食や地中海食はよいかもしれない」とコメントした。 最後に同氏は、「亜鉛は300種以上もの酵素や機能タンパクの活性中心に存在し、その意義が詳細に明らかにされている必須微量元素である。1961年に亜鉛欠乏症が報告されて以来、研究にも長い歴史を有しているが、その一方で“未完の大器”のような可能性を秘めている。7年ぶりの改訂では疫学研究や観察研究ではなく、さまざまな介入研究の結果を反映させることができたが、今後の課題として、糖尿病や腎不全、肝障害の発症抑制、慢性疾患に対する抗炎症作用としての亜鉛の効果(抗酸化酵素、増殖等)などに関する研究結果を発信していきたい」と締めくくった。 亜鉛などの微量元素は人間に内在する病的な因子として、決して忘れてはいけない存在である。なお、微量元素の恒常性の観点から、加齢や炎症疾患において近年注目されているセレンについても、「セレン欠乏症の診療指針2024」が同時に発刊されているので、合わせて一読されたい。

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高齢糖尿病患者へのインスリン イコデク使用Recommendation公開/糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])は、4月18日に「高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」(高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会作成)を公開した。 週1回持効型インスリン製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ注)は、注射回数を減少させ、持続的なインスリン作用をもたらすことから、ADLや認知機能の低下により自己注射が困難な高齢患者に血糖管理が可能になると期待される。 その一方で、週1回投与という特徴から、投与調節の柔軟性には制限があり、一部の患者では低血糖が重篤化する懸念がある。 学会では使用に際し、高齢者における使用に際してはカテゴリー分類を行った上で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」に基づき目標値を設定すること、さらに高齢者では低血糖の症状が乏しく重症低血糖を来しやすいことから『高齢者糖尿病治療ガイド』『インスリン イコデク投与ガイド』などを参考に、下記の5つの事項に留意するように示している。【高齢糖尿病患者への使用でのRecommendation】(1)適切な治療目標を設定する ADLや認知機能が低下した高齢者においては、高血糖緊急症や低血糖を避けることが優先的な目標となる。低血糖になった場合、遷延することが予想されるため、HbA1c値の治療目標は厳格すぎないよう柔軟に設定する。(2)適切なタイミングで血糖モニタリングを実施する 安全性の確保のため何らかの血糖測定が必要である。家族や介護者への教育を徹底し、低血糖時の対応や投与スケジュールの管理を習得してもらう。投与量が安定するまでの期間や、シックデイなど血糖の変動が予想される場合には持続血糖測定(CGM)や遠隔血糖モニタリングも検討する。投与後2~4日目の食前血糖値が最も下がりやすいことから、この日の血糖測定は用量調整の参考になる。(3)訪問看護や介護環境では慎重に計画する 週1回~数回の訪問看護などに依存する患者では、血糖変動を把握する機会が限られるため、慎重な投与計画が必要である。訪問看護師や介護者との連携を強化し、緊急時の対応手段を準備する。(4)感染症、術前の血糖管理など 適宜(超)速効型インスリンを併用する。連日投与のBasalインスリンに変更する場合、最後にイコデクを打ってから1~2週間の間で、朝食前血糖が180mg/dLを超えた時点でイコデクの1/7量を開始する。(5)低血糖予防の注意事項と対応 低血糖時の対応方法に習熟してもらう(必要に応じグルカゴン投与も含む)。予定外の運動をした後は低血糖に注意する。低血糖症状が1度おさまっても再発や遷延の可能性がある。食事量や質にむらがある高齢者では慎重に適応を検討する。持効型インスリンからの切り替え投与時のみ1.5倍に増量することが推奨されているが、この場合は2回目以降も増量を続けないよう注意する。高齢者においては1.5倍の初回投与を必ずしも行わない、という選択肢も考慮される。

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分娩後出血の最大原因、子宮収縮不全と特定/Lancet

 英国・バーミンガム大学のIdnan Yunas氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、分娩後出血の原因で最も多くみられたのは子宮収縮不全であることを明らかにした。著者は、「この所見は、すべての出産した女性に対して予防的に子宮収縮薬を投与すべきという世界保健機関(WHO)の推奨を裏付けるものである」と述べている。分娩後出血の原因を明らかにすることは、適切な治療およびサービスの提供に必要であり、分娩後出血のリスク因子を知ることは、修正可能なリスク因子への対応を可能とする。研究グループは、分娩後出血の原因とリスク因子の特定および定量化を目的に本検討を行った。Lancet誌オンライン版2025年4月3日号掲載の報告。分娩後出血の発生率、リスク因子を評価 研究グループは、MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Google Scholarにより、1960年1月1日~2024年11月30日に行われた分娩後出血のコホート研究を言語を問わず検索。2人以上の試験研究者が独立して、試験の選択、データ抽出、質の評価を行い、英語で入手できた住民ベースコホート研究を適格とした。 分娩後出血の発生率ならびにリスク因子に対する粗オッズ比(OR)および補正後ORを、ランダム効果モデルを用いて統合した。リスク因子は統合ORに基づき、関連性の強さ(弱い[OR>1~1.5]、中程度[OR>1.5]、強い[OR>2])で分類し評価した。子宮収縮不全70.6%、複数原因7.8% 年齢、人種または民族を問わない女性8億4,741万3,451例を対象とした327件の研究データを組み入れた。ほとんどの研究は方法論的な質が高かった。 分娩後出血の原因として報告された統合割合上位5つは、子宮収縮不全(70.6%[95%信頼区間[CI]:63.9~77.3]、83万4,707例、14研究)、産道損傷(16.9%[9.3~24.6]、1万8,449例、6研究)、胎盤遺残(16.4%[12.3~20.5]、23万5,021例、9研究)、胎盤の異常(3.9%[0.1~7.6]、2万9,638例、2研究)、血液凝固障害(2.7%[0.8~4.5]、23万6,261例、9研究)であった。 また、分娩後出血の原因を複数有する女性の統合割合は7.8%(95%CI:4.7~10.8、666例、2研究)であった。 分娩後出血の原因との関連性が強いリスク因子は、貧血、分娩後出血既往、帝王切開、女性器切除、敗血症、産前受診なし、多胎妊娠、前置胎盤、生殖補助医療の利用、出生体重4,500g超の巨大児、肩甲難産などであった。 分娩後出血の原因との関連性が中程度のリスク因子は、BMI値30以上、COVID-19、妊娠糖尿病、羊水過多、妊娠高血圧腎症、分娩前出血などであった。 分娩後出血の原因との関連性が弱いリスク因子は、黒人およびアジア人、BMI値25~29.9、喘息、血小板減少症、子宮筋腫、抗うつ薬の使用、分娩誘発、鉗子分娩、前期破水などであった。 これらの結果を踏まえて著者は、「分娩後出血との関連性が強いリスク因子に関する知識は、分娩後出血リスクの高い女性を特定するのに役立ち、それらの女性は強化された予防および治療の恩恵を受けることができるだろう」とまとめるとともに、分娩後出血の原因は複数で多重的に存在すると示されたことについて、「治療バンドルの活用が重要であることを裏付けるものである」と述べている。

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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医師の子供の約6割が中学受験または予定している/医師1,000人アンケート

 2023年の調査によると、東京都では5人に1人が中学受験をして進学するなど、大都市圏では中高一貫校に人気がある。「公立学校よりも豊かな学習環境で学ばせたい」や「来るべき大学受験のために進学校で学ばせたい」など理由はさまざまである。 では、大都市圏の医師の子供は中学受験を行っているのであろうか。また、受験の動機や合格するための対策、受験までの費用などどのくらい支出しているのだろうか。 CareNet.comでは、3月21~27日にかけて、関東圏(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)の会員医師1,000人に「中学受験」の実状について聞いた。中学受験の動機は「親の希望」がトップ 質問1で「中学受験をしたか。あるいは、受験する予定か」(単回答)を聞いたところ、「受験した/する予定」と回答した医師が64%、「受験しなかった/しない予定」が36%と半数以上の医師の子供が中学受験をしていた。地域別の比較では、わずかだが関西圏(66%)で受験したあるいは予定の人が多かった(関東圏62%)。 質問2で「中学受験の動機」(3つまで選択/複数回答)を聞いたところ、「親の希望」が70%、「子供本人の希望」が50%、「進学実績」が25%の順で高かった。地域別で5%以上差があった項目は「学校の設備」で、関東圏が9%に対し関西圏では4%だった。 質問3で「中学受験対策」(複数回答)を聞いたところ、「塾」が92%、「親など家族が勉強をサポート」が27%、「家庭教師」が12%の順で高かった。地域別では関東圏で「家庭教師」(16%)が関西圏(9%)よりも高かった。 質問4で「小学6年生のときに支出した教育費(塾・家庭教師・通信教育などの費用のみ、受験費用などは含まない)の合計」(単回答)について聞いたところ、「50万円以上100万円未満」が30%、「100万円以上150万円未満」が23%、「50万円未満」が18%の順で高かった。地域別では、100万円未満だった家庭の割合は、関西圏(55%)が関東圏(49%)よりも高い傾向がみられた。 質問5で「中学受験に関する意見や受験でのエピソード」を自由回答で聞いたところ、次のコメントが寄せられた。【受験動機や家族のサポートなど】・ある程度自由な校風で、自然も多く、本人に合っていて良かった。おかげで、国公立大学医学部に現役で合格した(60代/内科)・子供をやる気にさせるのに毎日苦労した(40代/放射線科)【受験勉強や受験日当日のハプニングについて】・連日受験で親子ともども大変だったので、早い段階で1つ合格校を確保しておくと、精神的に楽になる(40代/糖尿病・代謝・内分泌内科) ・子供が第1志望の受験日にインフルエンザになった(60代/精神科)【受験後の様子や中学受験への見解について】・親子で同じ目標に向かうという体験はとても貴重だった(50代/麻酔科)・小学生のうちにやれることがいっぱいあるのに、今の子供達は時間がないのがかわいそう(60代/小児科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の子の中学受験率は約6割

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高齢の大動脈弁狭窄症、TAVI後のダパグリフロジン併用で予後を改善/NEJM

 重症の大動脈弁狭窄症で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受け、心不全イベントのリスクが高い高齢患者において、標準治療単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンを併用すると、全死因死亡または心不全悪化の発生率が有意に改善することが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのSergio Raposeiras-Roubin氏らDapaTAVI Investigatorsが実施した「DapaTAVI試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年4月10日号に掲載された。スペインの無作為化対照比較試験 DapaTAVI試験は、TAVIを受けた大動脈弁狭窄症の高齢患者におけるダパグリフロジン併用の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2021年1月~2023年12月にスペインの39施設で参加者の無作為化を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成を受けた)。 重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受け、心不全の既往歴に加え腎不全(推算糸球体濾過量[eGFR]25~75mL/分/1.73m2)、糖尿病、左室駆出率(LVEF)<40%のうち少なくとも1つを有する患者1,222例(平均[±SD]年齢82.4±5.6歳[72%が80歳以上、7%以上が90歳以上]、女性49.4%)を対象とした。これらの患者をTAVI施行後に、標準治療に加えダパグリフロジン(10mg、1日1回)の経口投与を受ける群(605例)、または標準治療のみを受ける群(618例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、追跡期間1年の時点における全死因死亡または心不全の悪化(心不全による入院または心不全で緊急受診し利尿薬静脈内投与を受けたことと定義)の複合とした。主要アウトカムを有意に改善 全体の43.9%が糖尿病、17.0%がLVEF<40%、88.6%がeGFR 25~75mL/分/1.73m2で、平均eGFRは56.2±16.4mL/分/1.73m2であった。追跡期間中にダパグリフロジン群の103例(17.0%)が投与中止となり、標準治療単独群の43例(7.0%)が心不全以外の理由でダパグリフロジンの投与を開始した。標準治療単独群の1例が追跡不能となり主解析から除外された。 主要アウトカムのイベントは、標準治療単独群で124例(20.1%)に発生したのに対し、ダパグリフロジン群では91例(15.0%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.95]、p=0.02)。 全死因死亡はダパグリフロジン群47例(7.8%)、標準治療単独群55例(8.9%)(HR:0.87[95%CI:0.59~1.28])、心不全悪化はそれぞれ57例(9.4%)および89例(14.4%)(サブHR:0.63[95%CI:0.45~0.88])で発生した。性器感染症、低血圧症の頻度が高い 非外傷性四肢切断(ダパグリフロジン群0.8%vs.標準治療単独群0.6%、p=0.72)、重症低血糖症(0.7%vs.1.3%、p=0.26)、がん(5.0%vs.3.6%、p=0.23)の発生率は両群で同程度であった。両群とも糖尿病性ケトアシドーシスの報告はなかった。 一方、性器感染症(1.8%vs.0.5%、p=0.03)および低血圧症(6.6%vs.3.6%、p=0.01)はダパグリフロジン群で高頻度だった。ダパグリフロジン群の37例(6.1%)が、有害事象により投与中止となった。 著者は、「これらの結果は、高齢患者においてSGLT2阻害薬は安全で、臨床的有益性をもたらすことを裏付けるものと考えられ、高齢患者へのSGLT2阻害薬の処方が少ない現状を考慮すると重要な知見といえるだろう」としている。

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テレビを消すと糖尿病になりやすい人の心血管リスクが低下する

 2型糖尿病になりやすい遺伝的背景を持つ人は、心臓発作や脳卒中、末梢動脈疾患などのアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクも高い。しかし、そのリスクは、テレビのリモコンを手に取って「オフ」のスイッチを押すと下げられるかもしれない。香港大学(中国)のMengyao Wang氏らの研究によると、テレビ視聴を1日1時間以下に抑えると、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDリスクの上昇が相殺される可能性があるという。この研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に3月12日掲載された。 Wang氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」参加者のうち、遺伝子情報のデータがある成人34万6,916人(平均年齢56±8.0歳、女性55.4%)を対象に行われた。2型糖尿病に関連する138の遺伝子情報を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出し、低位(PRSの下位20%)、中位(低位・高位以外)、高位(PRSの上位20%)の3群に分類。また、テレビ視聴時間は自己申告に基づき、1日1時間以下の群(20.7%)と2時間以上の群(79.3%)の2群を設定した。 中央値13.8年間追跡したところ、2万1,265件のASCVDイベントが記録されていた。ASCVDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、就業状況、肉・魚・果物・野菜などの摂取量、経済状況ほか)を調整後、テレビ視聴時間が1日2時間以上の群はPRSにかかわらず、1日1時間以下の群よりもASCVDリスクが12%高かった(ハザード比1.12〔95%信頼区間1.07~1.16〕)。またPRSが中位および高位の群でも、テレビ視聴時間が1日1時間以下である限り、ASCVDリスクの上昇は認められなかった。 その一方で、PRSが低位であっても2時間以上テレビを視聴している群は、向こう10年間のASCVDリスクが2.46%であり、この数値は、PRSが高位ながらテレビ視聴時間が1時間以下の群のASCVDリスクである2.13%よりもやや高かった。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究結果は、テレビ視聴時間を減らすことが、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDを予防するための、重要な行動目標となる可能性を示唆している」と総括。また、「疾患を予防し健康を増進するために、特に2型糖尿病の遺伝的リスクが高い人々に対しては、テレビを見る時間を減らして健康的な習慣を身に付けることを奨励すべきだ」と付け加えている。論文の上席著者である同大学のYoungwon Kim氏も、「2型糖尿病および長時間の座位行動は、ASCVDの主要なリスク因子である。そして、座位行動の多くをテレビ視聴が占めており、それが2型糖尿病とASCVDのリスク上昇につながっている」と解説している。 米国心臓協会(AHA)の身体活動委員会の委員長である、米バージニア大学シャーロッツビル校のDamon Swift氏は、「この研究は、テレビの視聴を減らすことが、2型糖尿病のリスクが高い人にも低い人にも有益であることを示唆している」と論評。また「健康増進におけるライフスタイル選択の重要性を示している」と語っている。なお、同氏は本研究には関与していない。

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