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低LDLや低収縮期血圧と関連するgenetic variantsは生涯にわたる冠動脈疾患の低リスクと関連(解説:石川讓治氏)-1133

 高LDL血症および高血圧は冠動脈疾患の確立された危険因子である。本研究では、英国のバイオバンクに登録された43万8,952人の対象者のデータを用いて、低LDLコレステロール血症と関連するgenetic variantsが多い対象者と低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが多い対象者を評価し、これらのgenetic variantsが、独立して、相加的に冠動脈疾患発症リスク低値と関連していたことを報告していた。これらのgenetic variantsの数が増えるにつれて連続的に冠動脈疾患発症リスクは低くなっていた。同様の関連は虚血性脳梗塞においても認められていた。 本研究では、低LDLコレステロール血症や低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが少ない(つまりLDLコレステロールや収縮期血圧が高くなりやすい)対象者において、治療によるLDLコレステロールや収縮期血圧の低下度に影響を与えるかどうかは不明である。また、これらのgenetic variantsの有無によって、LDLや血圧の治療薬の選択や目標レベルを変えるかどうかも今後の課題である。サブグループ解析において、低LDL血症になりやすいgenetic variantsと低収縮期血圧になりやすいgenetic variantsの両方を持つ対象者の冠動脈疾患リスク低下度は、喫煙や肥満によって減少していた。有利なgenetic variantsの有無にかかわらず、喫煙や肥満といった治療可能な危険因子を改善することが重要であることは変わりないと思われる。

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メニューのカロリー表示、購入意欲への影響は?/BMJ

 米国南部における大規模ファストフードチェーン店では、カロリー表示メニューを導入後も、平均購入カロリー量はわずかに減少しただけで、その減少幅も1年後には小さくなっていたことが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJoshua Petimar氏らによる準実験的研究の結果、明らかにされた。米国では2018年5月からレスランチェーンでカロリー表示が義務づけられている。しかし、この政策が購入カロリー量へ及ぼす影響についてのエビデンスは混沌としており、大部分の先行研究は試験規模が小さいなど不十分であった。とくに、肥満率が高い非都市部や南部地域を対象とした適切な評価は行われていなかったという。BMJ誌2019年10月30日号掲載の報告。米国南部の大規模ファストフードチェーン104店で調査 研究グループは、大規模レストランチェーンにおけるカロリー表示メニューの導入が、平均購入カロリー量と関連したか否かを調べるため、2015年4月~2018年4月に、米国南部(ルイジアナ州、テキサス州、ミシシッピ州)で3つの異なるレストランチェーンを展開する全国規模のファストフード企業で準実験的研究を行った。 解析対象となったのは、2017年4月にカロリー表示メニューを導入(店内・ドライブスルー)し、導入前(2015年4月~2017年4月)と導入後(2017年4月~2018年4月)の1週間ごとの売上データを有していたレストラン104店。 主要アウトカムは、反事実的仮説(たとえば、介入が行われなかった場合は介入前の傾向が持続するなど)と比較した、導入後の平均購入カロリー量の全量および変化の傾向で、線形混合モデルを用いた分割時系列解析で評価した。 副次アウトカムは、食事カテゴリーごと(メイン料理、サイドメニュー、砂糖入り飲料)に評価した。サブグループ解析では、レストランがある国勢調査標準地域(国勢調査を行うための定義済み地域)の社会人口統計学的特性別による、カロリー表示の影響を推算した。カロリー表示メニュー導入後、一時的に減少するが、増加傾向は抑制されず 解析サンプルは、1万4,352店週であった。3年間に104店全体で、単位購入(transaction)発生は4,906万2,440件、食事カテゴリー購入発生は2億4,272万6,953件であった。 カロリー表示導入後、単位購入当たりのカロリー量は、60カロリー(95%信頼区間[CI]:48~72、約4%)減少したことが観察された。しかし、導入後の1年間の購入カロリー量は、0.71カロリー/単位購入/週(95%CI:0.51~0.92)と増大傾向がみられ、これは導入前のベースライン増加傾向推算値0.53(0.36~0.70)を上回っていた。これらの結果は、感度解析での異なる分析仮定にも概して確認された。 導入後の購入カロリー量減少とその後の変化傾向は、メイン料理や砂糖入り飲料と比べてサイドメニューで強かった。 また、導入後の減少は、所得中央値が高い地区と低い地区で同等であったが、その後に増加した変化傾向は、低所得地区(0.94カロリー/単位購入/週、95%CI:0.67~1.21)のほうが高所得地区(0.50、0.19~0.81)よりも大きかった。

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「酸化コレステロール」を含んだ食品は食べないのが一番/日本動脈硬化学会

 メタボリックシンドロームにしばしば合併する脂肪肝だが、実は動脈硬化リスクも伴う。自覚症状に乏しいことから、一般メディアでは“隠れ脂肪肝”などと呼ばれ、患者から質問されることも珍しくない。しかし、脂肪肝だからと言って、ただ“脂モノ”を控えるという対処は正しくないという。 先日、日本動脈硬化学会(理事長:山下 静也)が開催したセミナーにて、動脈硬化と関連の深い「脂肪肝/脂肪肝炎」と「酸化コレステロール」について、2人の専門医が解説した。脂肪肝/脂肪肝炎は、肝硬変・肝がんだけでなく心血管疾患リスクにも はじめに、小関 正博氏(大阪大学大学院 医学系研究科循環器内科)が、脂肪肝の病態とリスクについて講演を行った。アルコールの影響を受けていない脂肪肝は、脂肪が肝臓に蓄積した「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、さらに炎症や線維化を伴った「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分類される。しかし、区別が難しいため、NAFLとNASHの総称として「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とも呼ばれる。 NASHは、炎症を繰り返すうちに線維化が進み(肝硬変)、肝がんに至るケースもあるとわかってきた。20年ほど前は、「脂肪肝は、がんにならない」と言われていたが、ウイルス性肝炎由来の肝細胞がんが治療法の進歩により減り、相対的に、脂肪肝炎由来のがん症例の増加が浮き彫りになっているという。 小関氏は、「NASHがウイルス性肝炎と決定的に違うのは、虚血性心疾患のリスクを伴う点。米国において、NAFLD患者は肝がんより心血管疾患で死亡する例のほうが多いという報告1)もある。脂肪肝と脂肪肝炎は、今後さまざまな診療科が連携して診療していくべき疾患だ」と強調した。線維化の段階を評価し、NASHが疑われる場合は専門医へ NAFLDは、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病と高率に合併し、国内の有病率は、男性では40~59歳の40%以上、女性では60~69歳の30%以上との報告がある。また、NAFLD患者の生存率は、肝線維化と強く関連することがわかっている。 脂肪肝は、腹部エコーで腎皮質よりも白く映る(肝腎コントラスト陽性)所見により、健診などで発覚し、その後は『NAFLD/NASH診療ガイドライン20142)』のチャートに従って診断される。線維化の段階を評価するためには、FIB-4 index(肝線維化の進行度を非侵襲的に推測するためのスコアリングシステム/日本肝臓学会)や、MR Elastographyを用いた画像化による方法があり、NASHが疑われる場合は、専門医の受診が勧められる。動脈硬化性疾患のリスクに潜む“隠れ脂肪肝”を、今後見過ごすわけにはいかない。酸化コレステロールが「超悪玉コレステロール」のプラーク形成促進 次に、的場 哲哉氏(九州大学病院 循環器内科)が、酸化コレステロールと動脈硬化の関連性について説明した。動脈硬化は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などによってダメージを受けた血管壁に、LDLが入り込むことで進行する。 通常、LDLはコレステロールを肝臓から末梢に運んでいるが、生活習慣病の人には、血管壁に入り込みやすい、小型で密度の高いLDL(small dense LDL)が存在するという。これは、“超悪玉コレステロール”とも呼ばれ、近年注目を集めている。このsmall dense LDLが、動脈硬化を強力に誘発すると考えられ、血清脂質値が正常にもかかわらず、動脈硬化を引き起こした例も報告されている。 血管壁に入り込んだLDLは、「酸化」されることで白血球のターゲットとなり、プラークの形成をもたらす。LDLの酸化反応は、身近な食品中にも含まれる「酸化コレステロール」によって促進され、とくに、small dense LDLは酸化しやすい。 つまり、動脈硬化を防ぐためには、酸化コレステロールが多く含まれる食品を避けたほうがよい。例えとして、焼き鳥の皮の部分、インスタントラーメンの麺、マーガリンやマヨネーズの変色した部分、二度揚げされた揚げ物、漬け込み保存された魚卵、加工肉食品、するめやビーフジャーキーなどUV照射を受けた食品などが挙げられた。酸化コレステロールを含んだ食品は食べないのが一番 続いて的場氏は、酸化コレステロールと心血管疾患との関連を裏付ける研究結果を紹介した。経皮的冠動脈インターベンション後の治療薬による効果をスタチン単独とスタチン+エゼチミブでランダム比較した「CuVIC Trial3)」では、冠動脈疾患患者において、血中酸化コレステロール高値が、LDL-コレステロール高値とともに冠動脈内皮機能障害と関連することが明らかになった。この内皮機能障害は、エゼチミブのコレステロール吸収阻害作用によって軽減されることが示された。 酸化コレステロールについてはさまざまな研究が行われているが、まだ解明できていない点も多く、現行のガイドラインには記載されていない。酸化コレステロールをバイオマーカーや治療標的として利用するためには、引き続き研究を重ねる必要がある。 同氏は、「酸化コレステロールを特異的に下げる薬はまだない。まずは酸化コレステロールの摂取を避け、食事療法と運動療法を組み合せた生活習慣の改善が重要」と締めくくった。

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積極的降圧治療は通常の降圧治療よりも深部白質病変の増加を抑制するが、総脳容積の減少は大きい(解説:石川讓治氏)-1132

 SPRINT研究において、積極的降圧治療(目標収縮期血圧120mmHg)が通常の降圧治療(目標収縮期血圧140mmHg)と比較して、心血管イベントを減少させることが報告され、この積極的降圧治療の優位性は75歳以上の後期高齢者でも認められた。Montreal Cognitive Assessment(MoCA)で評価した認知機能に関しては、1次エンドポイントであるProbable dementiaの発症に関しては、有意な抑制が認められなかったが、mild cognitive impairment (MCI)への進行は有意に抑制された。これらの結果より、積極的降圧治療が通常の降圧治療よりも軽度の認知機能低下であれば抑制する可能性が示唆された。 本研究はSPRINT研究において頭部MRIが平均約4年間の追跡期間で評価された患者のサブ研究である。本研究の結果、積極的降圧治療は、深部白質病変の増加を0.54cm3大きく抑制したが、総脳容積は降圧治療で減少し、その減少度は積極的降圧治療で3.7cm3大きかった。降圧治療における深部白質病変と総脳容積の変化が乖離する原因は不明である。過去の報告では、どちらも認知機能低下と関連していたことが報告されているが、本研究におけるProbable dementiaを発症した患者におけるサブ解析でも深部白質病変と総脳容積との関連は明らかではなかった。解剖学的な脳の構造と認知機能低下の間のメカニズムについては不明な点が多い。降圧治療による総脳容積の減少度は、男女差が認められ、男性にとくに多く減少が認められている。 SPRINTの頭部MRIサブ研究は、SPRINT全体の患者よりも女性や黒人が多く、収縮期血圧が低く、心血管疾患の既往が少なく、MoCAが低かった。また、頭部MRIサブ研究に参加した670例のうち221例の患者で追跡の頭部MRIが撮影されていなかった。この頭部MRIの追跡データの欠損患者は、女性や心血管疾患の既往が多く、収縮期血圧が高く、身体的な生活の質が低下しており、MoCAの点が低かった。すなわち、頭部MRIサブ研究の患者は、SPRINT全体の患者よりも心血管リスクの低い患者が多く、心血管リスクの高い患者が多く脱落していた。解析には混合線形モデルが使用され、追跡の頭部MRIデータの脱落者の値が統計的に推測されるような解析方法を用いている。また、SPRINT研究自体からは、糖尿病、脳卒中の既往、老人施設入所者などのハイリスク患者が除外されている。そのため今回の研究の結果を、今すぐにわれわれの高齢者高血圧の日常臨床に当てはめることは困難である。 降圧治療において、深部白質病変と総脳容積のどちらが重要なのか? さらなる疑問が大きくなった。

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第32回 右脚ブロックの“魔法”に注意!~華々しさに潜む傷跡~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第32回:右脚ブロックの“魔法”に注意!~華々しさに潜む傷跡~ある日、交通外傷の患者さんが運ばれて来ました。意識レベルも悪く右足からはひどく出血し、変形もあり骨折していそうです。それだけを見て「整形外科」を案内して良いでしょうか? 皆さんなら外表からはわかりにくい頭部や内臓にも異常がないかチェックするでしょう。当たり前のことのようですが、こと心電図の話となると別物。目立つ所見にばかり気を取られ、より重要な部分に注意が及ばないことがしばしばあります。こうした状況を「右脚ブロック」を例にDr.ヒロと一緒に確認してみましょう!症例提示70歳、女性。高血圧症、脂質異常症、心臓弁膜症(大動脈弁閉鎖不全症)にて内服治療中である。定期外来で記録された心電図を以下に示す(図1)。(図1)定期外来での心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として誤っているものを2つ選べ。1)QRS電気軸:+120°2)洞(性)徐脈3)完全右脚ブロック4)PR(Q)延長5)低電位(胸部誘導)解答はこちら1)、5)解説はこちら1問目はイントロ問題。軽~中等度の大動脈弁閉鎖不全症のある70歳、女性です。いつもの通り、まずは“真っ白な心”で心電図を眺めます(第10回、第30回)。もちろん読みは「系統的判読」でね(第1回)。1)×:電気軸はQRS波の「向き」に注目します。お決まりの順番はaVL:下、I:ほぼ“トントン(第9回)”、-aVR:上、II:上、です。I(+0°)を“トントン・ポイント”(TP)と考えれば、TPに直交し(±90°)、aVFが上向きですから「+90°」を選択します(あえて消去した自動計測値は「+78°」でした)。2)○:調律の判定は、はじめの“レーサー(R3)・チェック”です。R-R間隔は整、心拍数は“新・検脈法”(第29回)を使って、胸部誘導の最後を「+0.5拍」と数えて7.5×6=45/分なので徐脈ですね。P波の向きは“イチニエフの法則”(第2回)通りで「洞調律」ですから、心拍数からは「洞(性)徐脈」です。3)○:QRS波の向き・高さ・幅を“スパイク・チェック”しましょう。幅は一番広いところで見ると3~4目盛りあり、幅広(wide)です(自動計測値も「136ms」)。QRS幅が広い時に考えるのは「脚ブロック」で、普通はまず右脚か左脚かを考えます。V1とV6誘導による“顔認証”が診断の基本で、「右脚ブロック」は以下のように特徴的な形をしたV1誘導に反応できるようになりましょう(図2)。(1)「rsR'型(ないしそのバリーエション)」や(2)「RR'型(またはrR'型)」の2つが大半を占め、これらはともに“M字”パターンのQRS波形となるのが特徴的です。ワイドで単相の(3)のようなパターンもありますがまれなので、まずは“M字”で覚えておきましょう。QRS波の命名法を意識すれば、今回は「rsR'型」となり、“M字サイン”陽性で「完全右脚ブロック」です。(図2)右脚ブロックのQRS波形(V1誘導)画像を拡大する4)○:「PR(Q)間隔」は“バランス・チェック”でしたね。P波とQRS波が“つかず離れず”と言えるのは3~5目盛りで、時間にすると120~200ms(0.12~0.2秒)です。心電図(図1)ではPR(Q)間隔はほぼ6目盛り(240ms)ですので、「第1度房室ブロック」と言えるレベルの「PR(Q)延長」でしょう。5)×:「低電位(差)」は肢誘導と胸部誘導とで診断基準が異なり、多くは肢誘導で見られます。「すべての(胸部)誘導でQRS波の振幅≦1.0mV(1cm)」が胸部誘導での基準ですが、一番大きなV4誘導に着目すれば、R波高だけでも1cm(10mm)ありますので、「低電位(差)」には該当しません。心電図診断洞(性)徐脈(45/分)完全右脚ブロック第1度房室ブロック症例提示80歳、男性。転居に伴い来院(初診)。紹介状(診療情報提供書)は持参していない。お薬手帳を確認すると、糖尿病、脂質異常症、高血圧症で内服加療されている様子。心疾患の既往を問診すると、以下の返答であった。「心臓の病気? あー、血管が詰まったよ。2~3度はカテーテルも受けたかな。今は胸には何にもないよ」血圧148/67mmHg、脈拍90/分・整。以下に心電図(図3)を示す。(図3)初診外来時の心電図画像を拡大する【問題2】心電図所見として正しいものを選べ。1)洞(性)頻脈2)右軸偏位3)完全右脚ブロック4)ST上昇5)QT延長解答はこちら3)解説はこちら転医してきた患者さんですが、皆さん、こういう状況ってままありませんか? 紹介状もない状況で、“お薬手帳”と初診時検査からある程度の推測を余儀なくされる患者さん…そんな状況でとられた心電図の読みが問われています。仮に紹介状があったとしても、心電図の読みは平坦な気持ちで眺めましょう。1)×:R-R間隔は整でおおむね太枠(マス)3.5個分くらいなので、「頻脈」ではないですね。もちろん“新・検脈法”で84/分と求めて判断してもOKです。2)×:QRS波の「向き」は、I:上、aVF:下は明らかですから、「左軸偏位」ゾーンです。“トントン法Neo”(第11回)を使えば、正味で-aVRは「+1mm」、IIが「-1mm」ですので、両者の中間(+45°)に“トントン・ポイント”はあります。IないしaVFの極性から求める電気軸は「-45°」ですよね。Dr.ヒロお得意の“左右違い”です。3)○:見た目に1問目の波形よりもQRS幅は明らかに広く、V1誘導も「rSR'型」ですから、「完全右脚ブロック」の診断で間違いありません。ちなみに、イチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)の「側壁誘導」で最後のS波が“おデブ”な感じ(slurred S-wave)になるのも、右脚ブロックの特徴ですから知っておきましょう。4)×:これは“目のジグザグ運動”ね(第14回)。V1誘導だけ微妙ですが、ギリギリ・セーフと考えて下さい。ST変化に関しては、むしろニサンエフ(II、III、aVF)の「ST低下」があるように見えます。5)×:QT間隔もPR(Q)間隔と同様に“バランス・チェック”です。心拍数が正常範囲(50~100/分)なら、R-R間隔の半分までは“セーフ”と考える(目視法)か、自動計測の「QTc間隔」*1の“カンニング”も実践的です。wideなQRS波では長く見えがちですが、今回は「QT(c)延長」はありません。*1:実は「QT(c)時間」には性差があり、男性:450ms、女性:460msを上限と考えると良い。【問題3】自動診断は「前壁梗塞の可能性」となっている。どの所見によるものか。また、早急な対処が必要か?解答はこちら V2、V3誘導の異常Q波、早急な対応はおそらく不要(陳旧性心筋梗塞)。解説はこちらボクが解説したかった本題は、コレです。人によって多少の差はあるかもしれませんが、この心電図(図3)で一番目立つ所見は「完全右脚ブロック」。次に「左軸偏位」かなぁ…? でも、それだけで終了したら、「系統的判読」の観点からは“半人前”。前問で扱ったST変化以外にもう一つ、大事な所見があります。それは前々回(第30回)に扱った「異常Q波」。これは右前胸部誘導(V1~V3)に注目して下さい!“右脚ブロックの“魔法”に注意せよ”科学的ではありませんが、「脚ブロック」には“魔力”があります。心電図を読む者に“魔法”をかけて混乱させるのです。それ自体を見つけた満足感からほかの所見を見落としてしまったり、逆にそれ以上読まなくていい所見*2で騒いでしまったり…。*2:「左脚ブロック」にも、「異常Q波」や「ST上昇」、「陰性T波」…それ自体に病的意義を求めてはいけない“魔力”所見がある。右前胸部誘導のST-T変化は「2次性変化」と呼ばれ、脚ブロックに“流されて”生じる所見と考えましょう。そのため右脚ブロックの場合、V1~V3誘導のST部分が“マスク”されて判定不能になりますが、その他の多くは「普段通り」読めるのです。“おデブ”なQRS波に心乱されないようにしてくださいね。ポイントは“クルッと”の“ク”で、「異常Q波」を指摘するプロセス。V1には1mmにも満たないですが、きちんと陽性波(r波)から始まっています*3。でも、V2とV3にはそれがなく、陰性波から始まっていますね。つまり「Q波」、しかもダメなやつです。V1~V3誘導では、「存在する」、すなわち「異常」でしたから、V2、V3誘導には「異常Q波」があり、隣り合う2つにこれがあったら…まず疑うべきは「心筋梗塞」による壊死巣の存在でしたよね(第17回、第30回)。V2~V4誘導は前胸壁のド真ん前にある誘導ですから、梗塞部位はズバリ左室「前壁」*4ですね。*3:1mmに満たないr波は「ない」と考え、「Q波あり」とする考え方も一部にあり。*4:V1誘導にもQ波ありと考えたら「前壁中隔」ですね。「そう言われるとたしかにそうだなぁ~」そうなんです! こんなに幅広く(1mm以上)、しかも深い(V2:9mm、V3:3mm)のに“見逃す”んです。あたかもwideなQRS波にすべてを包み込まれるかのように…これが右脚ブロックの“魔法”ですから、とくに注意して臨むようにしましょう。その意味では、必ず最後に「自動診断」を確認するクセをつけると良いでしょう。“カンニング”を積極的に薦める先生って、Dr.ヒロくらいかも(笑)。今回なら「前壁梗塞の可能性:V2・V3」という“ヒント”から、「異常Q波はあったっけ…」と思えたら見逃しは水際で防げるかもしれません。■右脚ブロックの“魔力”に注意!■V1~V3誘導のST低下、陰性T波「以外」は普通に読んでOK“急性か陳旧性か?”心筋梗塞は時期により、おおむね発症1週間以内が「急性期」、1ヵ月以上経ったら「陳旧性期」と呼ばれます*5。さて、心電図で心筋梗塞の所見を見た時、「部位」の次に問題にするのは「時期」、つまり“いつ”起きたかということです。皆さんも医学生時代から必死に覚えたのではないでしょうか? T波増高、ST上昇、異常Q波、ST回復、陰性T波…。それぞれが○時間、ないし○日とかね。でも、実際には各所見の有無で「発症後○○時間(日)」と推定できるほど単純ではありません*6。*5:1週間と1ヵ月の間は「亜急性期」と呼ぶ。10日~2、3週間くらいのイメージで良い。*6:来院・診断・PCIのタイミングで全然異なる。今回の症例のように「症状(胸痛)がない」、「ST上昇がない」のに“現在進行形”、つまり「急性」を疑うのは基本ナンセンスです。今回は普通の外来ですからね。ほかにすることは…? もちろん、患者さんへの問診や、過去の心電図との比較が大事です。今回の方は、病歴や心エコー所見(前壁の菲薄化)、そして後日届いた前医からの紹介状にあった数年前の心電図でも、同様な所見を確認できたので「陳旧性」と判断しました。当然、至急の対応などは不要ですよね。以上、“右足のキズ”(右脚ブロック)に潜む古い心筋梗塞の“爪痕”(異常Q波)を探す練習をしました。Take-home Message「脚ブロック」には“魔力”がある~「見落とし」や「深読み」に注意せよ右脚ブロック波形に紛れた異常Q波(とくにV1~V3誘導)を見逃すな!【古都のこと~宇治上神社~】皆さんは、宇治市には世界文化遺産が2つあることをご存じでしょうか? 一つは誰もが知る宇治平等院。もう一つはウジガミ神社、「氏神」ではなく「宇治上」と書く平等院の鎮守社*1です。平等院から宇治川を“川向こう*2”に渡って「さわらびの道*3」を行き、学問の神「宇治神社」*4にも参拝を済ませたら徒歩数分で赤鳥居に到着します。簡素な門をくぐって縋破風(すがるはふ)が美しい拝殿に対面。両横の円錐形の“清め砂”の存在感に背筋が伸びます。そして「桐原水」*5が湧き出ている手水舎側から裏手に回れば、世界遺産たる由縁の本殿(国宝)が姿を現します。平安時代後期に伐採された木材が使われ、神社建築としては現存最古になるとのこと。「一間社流造の内殿三棟*6」…素人のボクには「意外にアッサリしてるなぁ」というのが正直な感想(笑)。平等院と対照的なのは、ここ朝日山の山裾には“静”の空気が流れており、より精神が研ぎ澄まされるでしょう。最後に宮司お手製の限定御朱印をゲットすれば、秘かな宇治の魅力を堪能できます。皆さまもぜひ、平等院とともに訪れてみてください。*1:「(宇治)離宮明神」の神位を与えられており、宇治上神社の別称でもある。*2:宇治川(淀川の京都府内での名称)。*3:この辺りは光源氏の死後、薫君や匂宮を中心に描かれる『宇治十帖』の舞台にもなっている(「早蕨」は四十八帖)。*4:宇治上神社にも祀られる菟道稚郎子(うじのわきいらつこ:応仁天皇の末子)が祭神。聡明で百済で学問を究め皇太子となったが、異母兄の大鷦鷯尊(おおさざきのみこと、のちの仁徳天皇)に皇位を譲るべく自死したという美談に涙。宇治上神社と宇治神社は明治維新までは二者一体で、離宮上社・下社と呼ばれていた。*5:残存する「宇治七名水」はここのみ。三大銘茶の一つを支えた貴重な水と思われる。*6:いっけんしゃながれづくり。「一間社」は正面の柱間が一つのもの。「流造」は前面の屋根を長く伸ばしたスタンダードな神社形式の一つ。宇治上神社は内殿三棟を覆屋(後世にかけられた)が囲む様式で、一般的な神社とは異なる外観。写真では確認できないが、左右の社殿が中央よりも大きいのも特徴。

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80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症、レボチロキシンの効果は?/JAMA

 80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者の治療において、レボチロキシンはプラセボに比べ、関連症状や疲労を改善しないことが、オランダ・ライデン大学医療センターのSimon P. Mooijaart氏らが行った2つの臨床試験の統合解析で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2019年10月30日号に掲載された。潜在性甲状腺機能低下症(サイロトロピン[甲状腺刺激ホルモン:TSH]上昇、遊離サイロキシン[FT4]正常範囲)は、便秘、精神機能低下、疲労、うつ症状などがみられ、心血管疾患リスクの上昇との関連が指摘されている。また、加齢に伴い併存疾患やフレイルが増加するため、80歳以上の患者は、疾患管理による有益性と有害性が、若年患者とは異なる可能性がある。一方、現時点で高齢患者のエビデンスはなく、プライマリケア医による治療においてばらつきの原因となっている可能性があるという。2つの無作為化プラセボ対照比較試験の統合解析 研究グループは、80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者において、レボチロキシン治療が甲状腺関連QOLに及ぼす効果を評価する目的で、2つの二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の統合解析を行った。 Institute for Evidence-Based Medicine in Old Age(IEMO)試験は、80歳以上の患者を対象に、2014年5月~2017年5月の期間にオランダとスイスの施設で患者登録が行われた。また、Thyroid Hormone Replacement for Untreated Older Adults With Subclinical Hypothyroidism Trial(TRUST)試験は、65歳以上の患者を対象に、2013年4月~2015年5月の期間にオランダ、スイス、アイルランド、英国の施設で患者登録が行われた。 解析には、TRUST試験の80歳以上のサブグループと、IEMO試験のデータが用いられた(対象はサイロトロピン値4.6~19.9mIU/Lの患者)。 主要アウトカムは2つで、1年後の甲状腺関連QOL患者報告アウトカム(ThyPRO)質問票の「甲状腺機能低下症状」および「疲労」のスコア(0~100点、スコアが高いほどQOLが不良、臨床的に意義のある最小変化量は9点)とした。サイロトロピンは有意に低下、BMIは有意に増加 251例(平均年齢84.6[SD 3.6]歳、118例[47%]が女性)が登録され、レボチロキシン群に112例、プラセボ群には139例が割り付けられた。212例(84%)が試験を完遂した。ベースラインの虚血性心疾患が、レボチロキシン群(20.5%)に比べプラセボ群(27.3%)で多かった。 平均サイロトロピン値は、レボチロキシン群ではベースラインの6.50(SD 1.80)mIU/Lから12ヵ月後には3.69(1.81)mIU/Lへと低下し、プラセボ群の6.20(1.48)mIU/Lから5.49(2.21)mIU/Lへの低下と比較して、低下の幅が有意に大きかった(推定平均群間差:-1.9mIU/L、95%信頼区間[CI]:-2.49~-1.45、p<0.001)。 甲状腺機能低下症状スコアは、レボチロキシン群ではベースラインの21.7点から12ヵ月後には19.3点に低下したのに対し、プラセボ群では19.8点から17.4点に低下し、低下の幅に関して両群間に有意な差は認められなかった(補正後の群間差:1.3点、95%CI:-2.7~5.2、p=0.53)。 疲労スコアは、レボチロキシン群ではベースラインの25.5点から12ヵ月後には28.2点へと増加し、プラセボ群では25.1点から28.7点へと増加しており、有意差はみられなかった(補正後の群間差:-0.1点、95%CI:-4.5~4.3、p=0.96)。 EuroQol-5D indexによるQOL評価(補正後の群間差:-0.012、95%CI:-0.063~0.039、p=0.64)および握力による身体機能評価(-0.27kg、-1.79~1.25、p=0.73)にも、両群間に差はなかった。一方、BMI(0.38、0.08~0.68、p=0.01)およびウエスト周囲長(1.52cm、0.09~2.95、p=0.04)は、プラセボ群に比べレボチロキシン群で有意に増加した。 致死的/非致死的心血管イベント(補正前ハザード比[HR]:0.61、95%CI:0.24~1.50)および全死因死亡(1.39、0.37~5.19)には、両群間に差は認められなかった。73例(レボチロキシン群33例[29.5%]、プラセボ群40例[28.8%])で、1件以上の重篤な有害事象が認められた。 著者は「これらの知見は、80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症患者の治療におけるレボチロキシンのルーチンの使用を支持しない」としている。

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アルドステロン拮抗薬の死角を制する!(解説:石上友章氏)-1130

 腎ネフロンは、高度に分化した組織であり、ヒトの水・電解質の恒常性の維持に重要な働きをしている。ナトリウムの出納についての恒常性の維持機構が発達しており、尿細管の各セグメントごとに、特徴的なナトリウムトランスポーターが発現している。ナトリウムイオンは、原尿中にろ過されたのち、各セグメントのナトリウムトランスポーターにより再吸収される。NHE1(Sodiumu-Hydrogen-Exchanger)は、近位尿細管のapical membrane(頂端側)に発現し、Naイオンと、Hイオンの交換に関与している。ヘンレのループ(loop of Henle)には、NKCC:Na+-Cl--K+共輸送体が発現しており、ループ利尿薬であるフロセミドが特異的な阻害薬である。遠位尿細管の近位部(proximal DCT)には、サイアザイド感受性NCCT:Na+-Cl-共輸送体が、そして遠位部では、上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)が、ナトリウムイオンの再吸収を行っている。 ENaCの局在する、遠位尿細管遠位部(distal DCT)~結合尿細管(CNT)~皮質集合管(CCD)は、アルドステロンの核内受容体であるMR(mineralocorticoid receptor)と、コルチゾールの代謝酵素である11βHSD2が発現している。MRは、コルチゾールに強い親和性があり、11βHSD2のない上皮細胞では、アルドステロンと結合することができない。ENaCが発現している腎尿細管を、ASDN(aldosterone-sensitive distal nephron)と総称し、アルドステロンはASDNに働いて、さまざまな遺伝子の発現を調整している(AIP:aldosterone-inducible protein)。ENaCはAIPの代表的なタンパク質であるが、アルドステロンはROMK(renal outer medullary potassium channel)というカリウムチャネルの発現も制御している。 アルドステロン拮抗薬を投与するとENaCを抑制することで、ナトリウム再吸収量を抑制し、降圧を得ることができるが、ROMKをも抑制してしまうために、カリウムイオンの分泌も抑制されてしまう。これが、アルドステロン拮抗薬による、高カリウム血症の機序であると考えられている。高カリウム血症は、致死的な不整脈の誘因になることから、アルドステロン拮抗薬の内服には、細心の注意が必要である。いわばアルドステロン拮抗薬の死角ともいえる副作用である。 米国・インディアナ大学のRajiv Agarwal氏らが、10ヵ国62外来医療センターを通じて行った第II相の国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、こうした背景のもとに計画された。CKDを合併した治療抵抗性高血圧症に、アルドステロン拮抗薬と共に、ナトリウムを含まない陽イオン結合非吸着性ポリマーであるpatiromerを併用し、服薬継続率を比較検討した。 結果は、patiromer併用群で、期待どおりに服薬継続率が高率であった。アルドステロン拮抗薬の降圧作用は、ENaCの抑制だけではないが、ENaCを直接制御する薬物による降圧治療が可能であれば、このような変則的な薬物治療も必要ないのかもしれない。

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高血圧の第1選択薬、単剤での有効性を比較/Lancet

 降圧治療の単剤療法を開始する際、サイアザイド(THZ)系/THZ系類似利尿薬はACE阻害薬に比べて優れており、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は、その他の第1選択薬4クラスの降圧薬に比べ有効性が劣ることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMarc A. Suchard氏らが行った系統的な国際的大規模解析の結果、示された。残余交絡や出版バイアスなども補正した包括的フレームワークを開発し、米国、日本、韓国などの490万例の患者データを解析して明らかにしたもので、その他の第1選択薬については、現行ガイドラインに合わせて降圧治療の単剤療法を開始した場合の有効性は同等であったという。高血圧に対する至適な単剤療法については曖昧なままで、ガイドラインでは、並存疾患がない場合はあらゆる主要な薬剤を第1選択薬に推奨されている。この選択肢について無作為化試験では精錬がされていなかった。Lancet誌オンライン版2019年10月24日号掲載の報告。高血圧の第1選択薬による治療の有効性と安全性に関する55のアウトカムを比較 研究グループは、数百万の患者の観察データを含む多くの薬剤の有効性アウトカムおよび安全性評価を比較可能とする、残余交絡、出版バイアス、p値ハッキングなどを最小限に補正したリアルワールドの包括的フレームワークを開発した。同フレームワークを用いて、6つの診療報酬請求データベースと、3つの電子診療録データベースについてシステマティックに解析を行い、高血圧の第1選択薬の降圧薬について治療の有効性と安全性に関する55のアウトカムを比較した。 有効性に関する主要アウトカムは3つ(急性心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中)、副次アウトカムは6つ、安全性に関するアウトカムは46で、相対リスクを算出して比較した。高血圧の第1選択薬のうち、THZ系利尿薬はACE阻害薬に比べ良好 患者データ490万例の解析において、全クラスおよびアウトカムを比較した2万2,000の補正後・傾向スコア補正後ハザード比を得た。 高血圧の第1選択薬による単剤療法を開始する際、ほとんどの比較推算値は治療薬クラス間に差は認められないことを示すものだった。しかし、THZ系/THZ系類似利尿薬は、ACE阻害薬に比べ、主要有効性アウトカムが有意に高かった。初回治療におけるリスクは、急性心筋梗塞のハザード比(HR)0.84(95%信頼区間[CI]:0.75~0.95、p=0.01)、心不全による入院が0.83(0.74~0.95、p=0.01)、脳卒中が0.83(0.74~0.95、p=0.01)だった。安全性プロファイルも、THZ系/THZ系類似利尿薬はACE阻害薬よりも良好だった。 また、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の有効性は、その他の高血圧の第1選択薬4クラスの降圧薬(THZ系/THZ系類似利尿薬、ARB、ACE阻害薬、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)に比べ有効性は有意に劣っていた。

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第23回 病院の“日常”に潜入!? 病院探検隊の誕生【患者コミュニケーション塾】

 私たちCOMLで取り組んできた活動の一つに「病院探検隊」があります。病院探検隊とは、患者の立場であるCOMLのメンバーが医療機関に出向き、見学や受診を通して気付いたことや改善点を提言・提案する活動です。1994年に「プレ病院探検隊」を実施して方法を模索し、これまで25年間で100近い医療機関に“出動”してきました。出動は私たちの希望ではなく、あくまでも医療機関からの依頼に基づいています。受け入れ先の病院には“日常”を見せていただきたいとお伝えし、多くの病院では職員に対し、「いつか病院探検隊がやってくる」と伝えることはあっても、実施日や受診メンバーの名前や受診する診療科、あるいは受診メンバーがいることなどは一定の幹部までに情報を留めているようです。病院探検隊当日は、COMLスタッフやボランティアメンバー約10名が出向き、「案内見学」「自由見学」「受診」という3つの役割に分かれます。「案内見学」は病院の管理職に案内してもらって見学します。そばに病院管理職がいるので、徹底的に質問することが案内見学メンバーの役割です。質問で得られた回答は、自由見学や受診したメンバーが思い込みでフィードバックするのを防ぐにも役立ちます。「自由見学」は担当する役割を分担し、自由に見て回ります。受付付近で30分ほど座って患者の流れやスタッフの対応を見たり、実際に外来から採血室への動線を辿ってみたり。さらには、相談室が入りやすいか実際に入ってみて、中にいるスタッフにインタビューもします。案内表示や掲示板、投書箱の設置・回答状況なども見て回ります。許される範囲で、病院スタッフだけではなく、外来・入院患者、家族にインタビューすることもあります。そして「受診」は、まさしくほかの患者さんに交じって受診するのです。いわゆる“抜き打ちテスト”のようになってしまうので、病院側が拒否すれば無理に受診はしません。しかし、受診患者のフィードバックは管理職の最も関心があるところですから、ほぼ依頼があります。そこで、実際の持病や本当に生じている症状を使って受診します。初診受付から待合室、診察室、必要に応じて検査も受け、会計で支払いをする一連の流れを経験します。たった一度の受診でも、その医療機関の特徴や課題がかなり見えてくるものです。保険証を最初に提示して受診していますので、終了した時点で保険請求は止めてもらい、支払った医療費は返還してもらっています。このような見学と受診を午前中いっぱいかけておこなった後は、入院患者と同じ昼食をメンバー一人ひとりが実費を支払って試食します。普通食だけではなく、糖尿病食や潰瘍食、減塩食といった特別食も交えて用意してもらっています。ときにはミキサー食を試食することもあります。試食後、午後からは約2時間かけて病院管理職へのフィードバックとディスカッションをおこないます。その後、メンバー一人ひとりがリポートをまとめ、それをCOMLスタッフが総合フィードバックという10数ページに及ぶ文書にまとめ上げて、個人のリポートも資料として付けて病院に1ヵ月以内に提出、というのが一連の流れです。“虫の目”で病院のあり方を徹底チェック病院探検隊を始めるきっかけになったのは、1993年ごろ、現在の公益財団法人日本医療機能評価機構の設立が模索され、「第三者による病院の機能評価を実施しようとしているので、患者の立場から話を聴かせてほしい」という依頼が、機構の準備をおこなっている方々から届いたことです。機構はその後1995年に設立され、97年から訪問審査による病院機能評価事業を開始しています。発足する前にヒアリングを受けた際、機構で予定しているサーベイヤー(評価調査者)は事務職を含めた医療関係者で、患者の立場のサーベイヤーは予定されていないことがわかりました。私たちは当初、利用者である患者の視点を入れないことに疑問を抱き、批判していました。しかし「ほかの団体のおこなう内容を批判するのは失礼で無意味なこと。それよりも、COMLでできることを考えよう」と方向性を修正し、病院探検隊の企画につながりました。「日本医療機能評価機構が専門家の目で客観的に評価する“鳥の目”ならば、私たちは主観に過ぎないけれど、利用者の“虫の目”で病院を見て提言・提案をしよう!」と病院探検隊を始めることにしたのです。まず1994年に長野県にある諏訪中央病院でプレ病院探検隊を受け入れてもらい、頭の中で描いていた方法を修正。翌年から、知り合いの院長などに声をかけて、病院探検隊を受け入れてもらいました。その後、1999年ごろからは、まったく面識のない医療機関から依頼が入るようになり、2002年度には実に16の医療機関から依頼を受けました。この年度までは旅費交通費のみ医療機関に負担してもらっていましたが、一定の質の担保ができるようになったこともあって、2003年度からは派遣料と旅費交通費をいただいて有料化しています。次回は、具体的にどのような視点で見学、受診しているのかをお伝えします。

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第20回 脂質が多い食べ物を見直してみよう【実践型!食事指導スライド】

第20回 脂質が多い食べ物を見直してみよう医療者向けワンポイント解説外食が増えると糖質や脂質の量は、気付かないうちに増えていきます。普段、無意識に選んでいる食品をもう一度意識して見直してみることが大切です。●スナック菓子スナック菓子とは、原料にイモ、トウモロコシ、米粉や豆類といった炭水化物系を油で揚げている菓子類を指します。軽い食感のものが多いですが、高カロリー、高脂質です。●から揚げ・天ぷら揚げ物は油で揚げる料理のため、「脂質量が多い」と想像しやすい食品の一つです。衣が厚くなるほど吸油率が高くなるため、素揚げ<から揚げ<天ぷら<フリットの順に油脂量が多くなると考えると良いでしょう。また、素材によっても吸油率が変わり、とくにかき揚げやクルトン、野菜揚げは油脂量が多くなります。たとえば、かき揚げは74%、クルトンは99%の吸油率です。野菜の中でも吸油率の高いナスは、素材量に対して素揚げで14%、天ぷらで18%ほどの吸油率です。●ラーメン麺類の中では油脂が多く含まれるメニューです。動物性油脂は加熱されると溶けるため、想像以上の油脂を摂取しているかもしれません。スープを残すことは、油脂と塩分の摂取量を減らすことにつながります。また、種類によっても脂質量は変わります。塩や醤油ラーメンに比べ、とんこつラーメン、坦々麺、背脂系ラーメンなどは油脂量が高くなります。●ナッツナッツにはビタミンEなどのビタミンやミネラルが豊富に含まれるため、健康食材として食べている方も多くいますが、アーモンドオイル、くるみオイルなど搾油ができるほど高脂質です。たとえば100gあたりアーモンドは54g、くるみは68.8g、マカダミアナッツは76.7gの油脂を含みます。食べ過ぎには注意したい食材です。●チーズ種類によって脂質量が異なります。平均的には25〜35g/100gほどの脂質が含まれます。脂質が少ないチーズは、カッテージチーズ(4.5g/100g)、リコッタチーズ(11.5g/100g)などです。●フライドポテトじゃがいもを油で揚げた料理です。太いフライドポテトよりも、細いフライドポテトのほうが吸油率は高くなります。●カレー市販されているカレールゥの原材料は、動物性油脂と小麦粉が主です。●コーヒーフレッシュ「コーヒーミルク」とも呼ばれるため、牛乳から作られていると勘違いしがちですが、これは“植物性油脂食品”です。つまり“油と水と食品添加物で作られた液体”です。●ウインナー・ベーコンウインナーはひき肉などを調味加工して腸に詰めたもの、ベーコンは豚バラ肉などを塩漬けにし、燻製にしたものを指します。どちらも使用する材料に動物性脂質が多く含まれます。●アイスクリーム厚生労働省が定めた分類では、アイスクリームは乳固形分15.0%以上(乳脂肪8.0%以上)のものを指します。アイスミルクは乳固形分10.0%以上(乳脂肪3.0%以上)、ラクトアイスは乳固形分3.0%以上入っているものを指します。そのほかに氷菓があります。アイスクリームは、一番多く脂質量を含みます。●牛丼牛肉のどの部位を使っているかによって異なりますが、一般的には、ばら肉の部位を使うため脂質量が多くなります。●市販のカフェラテ・カフェオレ市販のカフェラテには生乳以外が使われていることも多く、乳脂肪を意識する必要があります。●ココナッツミルクココナッツは果実ですが、ココナッツオイルなどの原料となるほど脂質が多く含まれています。バナナの脂質は0.2g/100gに対して、ココナッツは1.9g/100gと9.5倍の脂質を含みます。1)松本仲子 編. 調理のためのベーシックデータ 第4版. 女子栄養大学出版部;2012.2)乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日) (厚生省令第52号)

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?Q1 ABIだけで十分? それとも他の検査も行うべき?頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)は簡便であり、後述の通り冠動脈スクリーニングの意味もあるので、糖尿病の患者であれば一度は行っておくとよいと思います。頸動脈狭窄やABI低下はいずれも冠動脈疾患とよく合併します1)。頸動脈内膜剥離術(CEA)を行った頸動脈狭窄症例での冠動脈疾患合併は約40%みられるとの報告があります2)。ABI低下がなくても無症候頸動脈狭窄と冠動脈狭窄を呈する症例もあるので、やはり頸動脈エコーは行っておくべきでしょう。また頸動脈エコーを行うとQ2で述べる不安定プラークの有無を知ることができるので有意義です。Q2 頚動脈エコーの結果と治療法選択の判断について教えてくださいIMT肥厚がその後の心血管疾患の発症予測に使えることが知られていますが、軽度のIMT肥厚は糖尿病患者では高頻度で認められるため、これらの患者においては一般的な動脈硬化のリスク因子の介入を行っています。すなわち、禁煙の他、適切な血糖・血圧・脂質のコントロールです。この段階での抗血小板薬の投与は行いません。高度の肥厚があるものについては、冠動脈病変をスクリーニングしています(後述)。無症候頸動脈狭窄の患者への抗血小板薬の投与で、脳梗塞一次予防の介入エビデンスはありません。しかし観察研究では、≧50%あるいは≧70%狭窄のある患者で抗血小板薬投与が同側の脳卒中発症抑制に関連したという報告があり、2015年の脳卒中ガイドラインでも、中等度以上の無症候頸動脈狭窄では他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で、必要に応じて抗血小板療法を考慮してよいとしています3)。われわれもこれに準じ、通常50%以上(NASCET法)の狭窄例では抗血小板薬を投与していることが多いです。一方、無症候頸動脈狭窄や高度のIMT肥厚は冠動脈疾患を合併していることが多いので、これらの症例では通常の12誘導心電図だけでなく、一度循環器内科を紹介し、心エコーの他、冠動脈CTや心筋シンチグラムなどを考慮しています(高齢者ではトレッドミルテストが困難なことが多いため)。2型糖尿病患者で冠動脈インターベンションやバイパス術を必要とするような、高度な冠動脈病変を伴う患者を検出するために適正なIMT最大値(Max IMT)のカットオフ値としては2.45mmという報告があり、参考になると思います4)。冠動脈病変が疑われれば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)を投与する意義はさらに大きくなります。抗血小板薬による消化管出血リスクは年齢リスクとともに増加し、日本人では海外の報告より高いといわれます。胃十二指腸潰瘍の既往があるものや、NSAIDs投与中の患者ではとくに消化管出血に注意を払わなければなりません。冠動脈疾患をともなわない無症候頸動脈狭窄でとくに出血リスクが高いと考えられる症例には、患者に説明のうえ投与を行わないこともあります。あるいは出血リスクが低いといわれているシロスタゾールに変更することもありますが、頭痛や頻脈などの副作用がありえます。とくに頻脈には注意が必要で、うっ血性心不全患者には禁忌であり、冠動脈狭窄のある患者にも狭心症を起こすリスクがあることから慎重投与となっています。このため必ず冠動脈病変の評価を行ってから投与すべきと考えます。なお、すでに他の疾患で抗凝固薬を投与されているものでは、頸動脈狭窄に対しての抗血小板薬の投与は控えています。なお、無症候性の頸動脈狭窄が認知機能低下5)やフレイル6) に関連するという報告もみられます。これらの患者では認知機能やフレイルの評価を行っておくことが望ましいと考えられます。頚動脈エコー所見で低輝度のプラークは、粥腫に富んだ不安定プラークであり脳梗塞のリスクとなります7)。潰瘍形成や可動性のあるものもリスクが高いプラークです。このような不安定プラークが観察されれば、プラーク安定化作用のあるスタチンを積極的に投与しています。糖尿病治療薬については、頸動脈狭窄症のある患者に対し、とくに有効だというエビデンスをもつものはありません。SGLT2阻害薬は最近心血管イベントリスクを低下させるという報告がありますが、高齢者では脱水をきたすリスクがあるので、明らかな頸動脈狭窄症例には慎重に投与すべきと考えます。Q3 専門医への紹介のタイミングについて教えてください脳卒中ガイドラインでは高度無症候性狭窄の場合、CEAやその代替療法としての頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮してよいとされています3)。脳神経外科に紹介し、手術になることは高齢者では少ないように思いますが、内科治療を十分行っていても狭窄が進展したり、不安定プラークが残存したりする症例などはCASを行うことが多くなっています。また、TIAなどの有症状症例で50%以上狭窄の症例では紹介しています。手術は高齢者のCEAやCASに熟練した施設で行うことが望まれます。最近、CEAやCASを行った症例において認知機能の改善が認められたという報告がみられており、エビデンスの蓄積が期待されます8)。末梢動脈疾患では跛行や安静時痛のある患者や、ABIの低下があり下肢造影CTを撮影して狭窄が疑われる場合に血管外科に紹介しています。腎機能が悪い患者については下肢動脈エコーや非造影MRAで代用することが多いですが、エコーは検査者の技量に左右されることが多く、またいずれの検査も造影CTよりは精度が劣ると考えられます。最近炭酸ガスを用い、造影剤を使用しない血管造影がありますが9) 、施行している施設は限られます。このような施設で検査を受けるか、透析導入のリスクを説明のうえ造影剤検査を行うか、しばらく内科治療で様子をみるかは、外科医と患者さんで相談のうえ、決めていただいています。 Q4 頚動脈エコー検査の頻度は? 何歳まで検査を行うべき?頚動脈エコーのフォロー間隔についてのエビデンスはありませんが、われわれは通常1年に1回フォローしています。無症候の頸動脈狭窄や不安定プラークが出現した場合、内科治療の強化や冠動脈のスクリーニングの検討が必要と考えますので、80~90代でも冠動脈インターベンションを行う今日では、このような高齢の方でも評価を行っています。IMTは年齢とともに健常者でも肥厚しますが、平均IMTは90歳代でも1mmを超えないという報告もあり10)、高度の肥厚は異常と考えます。また上述のように、無症候頸動脈狭窄に対して内科治療を十分行っていても病変が進展した際には、外科医に紹介する判断の一助となります。一方、頸動脈狭窄あるいは冠動脈CTで石灰化がある方でも、すでにしっかり内科的治療が行われており、かつ冠動脈検査やインターベンションの希望がない場合は検査の頻度は減らしてもよいかもしれません。 1)Kawarada O. et al. Circ J .2003;67; 1003-1006. 2)Shimada T et al. J Neurosurg. 2005;103: 593-596.3)日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応].pp88-89.協和企画;2017.4)Irie Y, et al. Diabetes Care. 2013;36: 1327-1334.5)Dutra AP. Dement Neuropsychol. 2012;6:127-130.6)Newman AB, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56: M158–166.7)Polak JF, et al. Radiology. 1998;208: 649-654.8)Watanabe J, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:1297-1305.9)Merz CN, et al. Angiology. 2016;67:875-881.10)Homma S, et al. Stroke. 2001; 32: 830-335, 2001.

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世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」【下平博士のDIノート】第36回

世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」今回は、抗精神病薬「ブロナンセリン経皮吸収型製剤(商品名:ロナセンテープ20mg/30mg/40mg)」を紹介します。本剤は、統合失調症治療薬として初めての経皮吸収型製剤であり、これまで経口薬での管理が困難だった患者のアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月10日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはブロナンセリンとして40mgを1日1回貼付します。患者の状態により、1日量上限の80mgを超えない範囲で適宜増減することができます。本剤は、胸部、腹部、背部のいずれかに貼付し、24時間ごとに貼り替えて使用します。<副作用>国際共同第III相試験における安全性解析対象例521例中、臨床検査値異常を含む副作用が310例(59.5%)に認められました。主な副作用はパーキンソン症候群(14.0%)、アカシジア(10.9%)、適用部位紅斑(7.7%)などでした。また、国内第III相長期投与試験における安全性解析対象例200例中、臨床検査値異常を含む副作用が137例(68.5%)に認められました。主な副作用は適用部位紅斑(22.0%)、プロラクチン上昇(14.0%)、パーキンソン症候群(12.5%)、適用部位そう痒感(10.0%)、アカシジア(9.0%)、不眠(8.0%)などでした。なお、同成分の経口薬では重大な副作用として、高血糖(0.1%)、悪性症候群、遅発性ジスキネジア、麻痺性イレウス、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、横紋筋融解症、無顆粒球症、白血球減少、肺塞栓症、深部静脈血栓症、肝機能障害、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡(いずれも頻度不明)が認められているため、経皮吸収型製剤でも注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげます。2.毎日同じ時間を目安に、前日に貼った薬を剥がしてから、前回とは異なる場所に新しい薬を1日1回貼ってください。3.胸部、腹部、背部のいずれにも貼付可能ですが、発疹、水ぶくれ、過度の日焼けやかゆみが生じることがあるので、貼付時~2週間程度は貼付部位が直射日光に当たらないようにしてください。4.使用後は、接着面を内側にして貼り合わせ、子供の手の届かないところへ捨ててください。5.眠気、注意力・集中力・反射運動能力の低下などが起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事しないでください。6.本剤の使用により、高血糖が現れることがあります。喉の渇き、過度の水分摂取、尿の量が多い、尿の回数が多いなど、いつもとは違う症状が現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、世界で初めて統合失調症を適応として承認された経皮吸収型製剤です。本剤および同成分の経口薬(錠剤・散剤)は、非定型抗精神病薬のセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)に分類され、既存のSDAとしては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、パリペリドン(同:インヴェガなど)があります。統合失調症の治療では、アドヒアランス不良による再発・再燃率の高さがしばしば問題となります。貼付薬である本剤には、貼付の有無や投与量を視認できるため、投薬管理が容易にできるというメリットがあります。また、食事のタイミングを考慮する必要がなく、食生活が不規則な患者さんや嚥下困難などで経口服薬が困難な患者さんへの投与も可能ですので、アドヒアランスの向上が期待できます。消化器系の副作用軽減も期待できますが、一方で貼付部位の皮膚関連副作用には注意が必要です。貼付薬は激しい動きによって剥がれることもありますが、患者さん自身が剥がしてしまうこともあります。かゆみなどの不快感で剥がしていることもありますので、理由や希望を聞き取るとよいでしょう。なお、薬物相互作用については経口薬と同様となっていますが、グレープフルーツジュースとの相互作用は主に消化管で生じるため、本剤では併用注意は設定されていません。経口薬から本剤に切り替える場合、次の投与予定時刻から本剤を使用することが可能です。一方で、本剤から経口薬へ切り替える場合には、添付文書の用法・用量に従って、1回4mg、1日2回食後経口投与より開始し、徐々に増量する必要があります。患者さんが安心して治療継続できるよう、副作用や併用薬、残薬などの聞き取りを行い、しっかりサポートしましょう。

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スタチンと認知症リスク~900万人超のメタ解析

 認知症リスク低下に対するスタチンの影響については、これまで10年間にわたり議論の対象となってきたが、決定的なエビデンスは存在しない。台湾・台北医科大学のTahmina Nasrin Poly氏らは、スタチン療法と認知症リスクとの関連性を定量化するため、これに関連する観察研究のメタ解析を実施した。Neuroepidemiology誌オンライン版2019年10月1日号の報告。スタチンが認知症リスクの有意な低下と関連 スタチン療法と認知症リスクとの関連性を定量化するためのメタ解析は、2000年1月~2018年3月までに公表された関連研究を、EMBASE、Google、Google Scholar、PubMed、Scopus、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。2人の研究者により、研究の選択、データの抽出化、バイアスリスクの評価が行われた。次に、選択した研究からデータを抽出し、変量効果モデルを用いて観察研究のメタ解析を行った。サブグループ解析および感度分析も併せて実施した。 スタチン療法と認知症リスクとの関連性を定量化するためのメタ解析の主な結果は以下のとおり。・916万2,509例(認知症患者:8万4,101例)を含む30件の観察研究が適格基準を満たした。・スタチン使用患者は、スタチン未使用患者と比較し、すべての原因による認知症リスクが低かった(リスク比[RR]:0.83、95%CI:0.79~0.87、I2=57.73%)。・スタチン使用患者における全体的にプールされたRRは、アルツハイマー病で0.69(95%CI:0.60~0.80、p<0.0001)、血管性認知症で0.93(95%CI:0.74~1.16、p=0.54)であった。 著者らは「スタチン使用は、認知症リスクの有意な低下と関連していることが示唆された。このような結果を検証する今後の研究は、患者、臨床医、政策立案者にとって有用な情報となるであろう。さらなるエビデンスが確立するまでは、スタチンは心血管疾患の治療で承認されている薬剤であることを、臨床医は意識しておく必要がある」としている。

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新型タバコの発がんリスク【新型タバコの基礎知識】第11回

第11回 新型タバコの発がんリスクKey Points1件のモデル研究で、発がんリスクが大きい順に“紙巻タバコ>>加熱式タバコ>>電子タバコ”と推定されたが、解釈には注意が必要。日本で大流行している加熱式タバコのリスクは、欧米で流行している電子タバコよりもかなり大きいと考えられる。新型タバコの健康リスクのうち、データがないことを理由として評価が先送りにされそうなのが発がんリスクです。通常、がんの発症までには数10年の年月がかかる場合が多く、リスクの正確な評価には時間がかかるからです。しかし、タバコの健康リスクを考えるうえで重大なリスクである発がんリスクに関する考察を、先送りにするわけにはいかないのではないでしょうか。化学物質による発がんリスクを評価する標準的な手法として、個々の化学物質のユニットリスク(単位濃度μg/m3に生涯曝露された際の発がん確率)とその摂取量(濃度)の積からリスクを推定するという方法があります。タバコの煙に含まれる有害化学物質の情報(第5回参照)に基づき、紙巻タバコ、加熱式タバコ、電子タバコなど各種のタバコ製品による発がんリスクをモデル式により推定した研究があります1)。この研究では、発がんリスクが大きい順に、“紙巻タバコ>>加熱式タバコ>>電子タバコ”と推定されました。紙巻タバコを1日15本吸った場合の生涯の発がんリスクは10万人当たり2,400人であったのに対し、加熱式タバコを1日15スティック吸った場合には10万人当たり57人の発がんリスク、電子タバコを1日30L(平均的吸入量)吸った場合には10万人当たり9.5人の発がんリスクだと推定されました。つまり、新型タバコに替えると発がんリスクが大きく減るとの結果です。ただし、この結果を鵜呑みにはできません。そもそも、紙巻タバコと比較することは正しいことなのか? という点がありますが、これについては後述します。鵜呑みにできない理由としては、少なくとも3つあります:[理由その1]この研究では、タバコ会社が選択的に報告したデータが主に使用されています。過去の紙巻タバコに関する研究結果から、一部の有害物質だけの情報を用いて推定したタバコのリスクは、実際よりも非常に少なく見積もられてしまう可能性があると考えられます。タバコ会社は、加熱式タバコの方が少なかったという化学物質を選択的に報告している可能性も否定はできません(第6回参照)。加熱式タバコには、発がん性があると考えられる物質も含め、推定モデルに含まれていない未知の成分が多く存在しているのです。[理由その2]リスクを少なく見積もってしまう原因となる、有害物質の複合曝露の影響がこの推定モデルでは考慮されていません。複合曝露の影響を完全に解明することは不可能です(図)。そのため、タバコから出る特定の有害物質の量を測定するというリスクの推定方法には、どうしても解決できない限界として複合曝露の問題が残り続けます。画像を拡大する[理由その3]現実世界でのタバコの吸い方は単純ではありません。紙巻タバコを1日15本吸っていた人が、モデルの設定で想定しているように、加熱式タバコにスイッチしたら1日15スティック吸うようになるとは限りません。加熱式タバコにスイッチすると紙巻タバコの時よりも吸う回数が増えるとの報告もあります2)。また、そもそもスイッチできるとも限りません。2017年に日本で実施したインターネット調査では、加熱式タバコを吸っている人の約70%は紙巻タバコとの併用でした3)。こういった理由から、現実世界における加熱式タバコによる発がんリスクは、冒頭のモデル研究が推定するよりもかなり大きい可能性があると考えています。過去の紙巻タバコの研究から、1日の喫煙量が多いことよりも、喫煙期間が長いことの方が、より大きな肺がんリスクになると考えられます4,5)。加熱式タバコにスイッチして有害物質の量を仮に減らせたとしても、長期間吸っていたら発がんリスクは大きくなると推測されるのです。さらには、新型タバコの発がんリスクを考える上でキーになる物質は、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類の可能性があります。前述の推定モデルには、この観点も抜けています。動物実験および細胞実験の結果から、タバコ煙の発がん性物質のなかでも、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等を含むアルデヒド類が、他の発がん性物質よりも発がんに強く関与していると報告されています6)。もともとアルデヒド類はタバコ煙のタールに占める比重が高いため、煙に多く含まれるアルデヒド類の関与が大きいとする結果は妥当だろうと考えられます。紙巻タバコと比べ、新型タバコでどれだけリスクを低減できる可能性があるのか推定する場合には、もともと多く含まれていて有害性の高い物質であるアルデヒド類に注目していく必要があります。加熱式タバコや電子タバコでは他の有害物質と比べて、アルデヒド類が比較的多く検出されていることから、加熱式タバコや電子タバコではアルデヒド類を介した有害性が大きいだろうと考えられるのです。また、有害化学物質の絶対量が重要だとも考えられます。紙巻タバコと比べた相対的なデータ、すなわち%だけをみていては、絶対量の問題に気付かないかもしれません。もともと非常に少なく、リスクの程度の小さい化学物質であれば、量が2倍になっても半分になってもたいした影響はないでしょう。気を付けないと、そういう数字のマジックにも騙されてしまう可能性があります。ただし、今回取り上げたモデル研究から分かることで、とくに日本で重要な観点があります。日本で大流行している加熱式タバコの発がんリスクは、欧米で流行している電子タバコよりもかなり大きいと推計された、という点です。そもそもの問題:新型タバコのリスクを何と比較するか本連載では、新型タバコのリスクについてみてきましたが、そもそもの問題として、加熱式タバコがタバコ製品でなければ、市場に出てくることすらなかったはずです。タバコ製品だけはたばこ事業法のもと“タバコ”として扱われ、発がん性物質などの有害物質が検出されても、問題になるわけでもなく、それはタバコだから、となるわけです。新型タバコで検出される有害物質の量は紙巻タバコと比べて低いかもしれませんが、それは有害物質の塊である紙巻タバコと比較するからです(第10回参照)。新型タバコを、化粧品や食品などタバコ以外の商品と比較すれば、明らかに新型タバコの方が有害だと考えられます。タバコ会社は紙巻タバコから加熱式タバコへスイッチすることを積極的に勧めていますが、せっかく紙巻タバコをやめるなら、新型タバコもやめて、もっと安全な選択をしてもらいたいと願っています。第12回は、「新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと」です。1)Stephens WE. Tob Control. 2018; 27: 10-17.2)Simonavicius E, et al. Tob Control.2019;28:582-94.3)Tabuchi T, et al. Tob Control.2018;2:e25-e33.4)Leffondre K, et al. Am J Epidemiol. 2002; 156: 813-823.5)Flanders WD, et al. Cancer Res. 2003; 63: 6556-6562.6)Weng MW, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018; 115: E6152-E6161.

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第16回 その腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)

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国内初の白内障3焦点眼内レンズ、生活の質向上に寄与

 日本アルコン株式会社(以下、日本アルコン)は10月25日、国内初承認の白内障治療向け老視矯正3焦点眼内レンズPanOptix®を発売。これは既存の多焦点眼内レンズ(2焦点)の見え方に中間距離での見やすさを加えたレンズで、“若い頃のような自然な見え方を追求したい”患者に対し、新たな選択肢となるよう開発された。 この発売に先駆け、日本アルコンは2019年10月17日にプレスセミナーを開催。ビッセン 宮島 弘子氏(東京歯科大学水道橋病院眼科 教授)が「最新白内障治療と適切な眼内レンズ選択のためのポイント」について解説した。日常の見え方と3焦点眼内レンズの特徴 人間の見え方は、近方(40cm:読書やスマートフォン使用などに適する)、中間(60cm:パソコンや料理などに適する)、遠方(5m以遠:テレビ視聴や運転、ゴルフなどのスポーツに適する)の3つに主に分類される。これまで日本で薬事承認を受けていたのは単焦点眼内レンズ(遠方あるいは近方の1か所のみ)と2焦点眼内レンズ(近方と遠方、または遠方と中間の2か所に焦点が合うレンズ)のみであったが、3焦点眼内レンズのPanOptix®が発売されたことで、より実生活での作業に適した見え方を提供できるようになったという。今回、乱視を矯正できるトーリックタイプも国内承認を受け、同時発売となった。また、PanOptix®を用いた白内障手術は、2焦点眼内レンズと同様に、厚生労働省が承認する先進医療に該当する。 3焦点眼内レンズの特徴として、“どの距離でも、安定した見え方を実現”、“手術後に眼鏡の必要性が減る”などが挙げられる。ビッセン 宮島氏は「中間距離というのはスーパーで値札を見たり、料理をしたりと生活で重要な視点」とコメント。さらに、適した利用者として「眼鏡を使用したくない人、そのための費用負担に納得できる人」を挙げた。海外と日本での利用状況 多焦点レンズの普及に積極的なESCRS(ヨーロッパ白内障屈折矯正手術学会)会員に対し、“老眼矯正を望む患者にどの眼内レンズを主に使用しているか”というアンケートを行ったところ、2018年時点で約56%が3焦点レンズを使用していた。このことからも同氏は「ヨーロッパでは2019年度に3焦点眼内レンズのシェアが70%を占めるのではないか。今後、日本でもこのレンズが主流になることが予想される」と語った。 国内においては、PanOptix®の治験として同氏の所属する施設と林眼科病院(福岡県福岡市)共同で臨床試験を実施。その結果、手術後の遠方・中間・近方の3焦点が眼鏡なしでよく見える、グレア・ハローを感じるが日常生活への不自由はなし、コントラスト感度の低下は自覚していないなどの結果が得られた。これを踏まえ同氏は、「眼鏡装用ありなしの希望やライフスタイルによって、最も適したレンズを選択する時代になった」と述べた。 最後に、レーシックを受けた患者への白内障手術について、「『レーシックを受けた方は白内障手術ができない』という情報が流布していたが、手術そのものはまったく問題なく、眼内レンズの度数決定が問題であった。テクノロジーの進化により角膜カーブ計測、術中の眼内レンズ予測などの精度向上に伴い、現在はレーシックを受けた患者への白内障手術はレーシックを受けていない方と同じレベルに達している」とコメントした。

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SGLT2阻害薬は糖尿病薬から心不全治療薬に進化した(解説:絹川弘一郎氏)-1125

 ESC2019にはPARAGON-HF目当てで参加を決めていたが、直前になってDAPA-HFの結果が同じ日に発表されることとなり、パリまでの旅費もむしろ安いくらいの気持ちになった。もう少し発表まで時間がかかると思っていたのでESCでの発表は若干驚きであったが、プレスリリースで聞こえてきたprimary endpoint達成ということ自体は想定内であったので、焦点は非糖尿病患者での振る舞い一点といってもよかった。 なぜ、HFrEFに有効であることに驚きがなかったか、それはDECLAREのACC.19で発表された2つのサブ解析による。1つが陳旧性心筋梗塞の有無による層別化、もう1つがHFrEF/HF w/o known EF/no history of HFの3群間の比較である。ともに心血管死亡と心不全再入院というDECLAREのco-primary endpointに対する解析である。陳旧性心筋梗塞を有する群で明らかに早期からイベント抑制効果が認められ、EMPA-REG OUTCOMEやCANVASで心血管疾患の既往を有する患者で知られてきたSGLT2阻害薬の心不全予防効果が投与早期から現れるということは、言い換えると大半が虚血性心疾患であり、そしてそれは陳旧性心筋梗塞の患者であるということである。 心筋梗塞からHFrEFへ至る遠心性リモデリングは以前から研究された心不全モデルであり、β遮断薬やRAS阻害薬、MRAの有効性の根拠を与えるものである。そして、それはもう1つのサブ解析でHFrEFの患者だけ取り出すとより明確な形で示された。HFrEF患者のイベント発生数は他と比較して群を抜いて多く、そしてダパグリフロジンはHFrEF患者でやはり早期からきわめて明確にイベント抑制を果たした一方で、HFrEF以外の群では早期からカプランマイヤーが分離することはなかった。 この2つのサブ解析を見ると、今まで報じられてきたSGLT2阻害薬の投与初期からのイベント抑制は、実は大半陳旧性心筋梗塞またはHFrEFあるいはその両方を有する患者からの導出とすら言えるのではないかと思われる。DECLAREのサブ解析ではno history of HFの患者の、すなわちstage A/Bの患者ではほとんどイベントが起きておらず、また(とてもたくさんの患者がエントリーされて比較的長期間フォローされているにもかかわらず)ダパグリフロジンの効果は目に見えないほどである。EMPA-REG OUTCOMEでは心不全の既往がある患者でエンパグリフロジンの有効性が有意でなかったが、その後のCANVASではむしろ心不全の既往がある患者のほうでカナグリフロジンがはっきり有効であった。DECLAREの結果を合わせたメタ解析の結果を見れば、心不全患者に対する治療効果はすでに異論のないところであろう。 ここまで見てくると、SGLT2阻害薬はβ遮断薬やRAS阻害薬と同じカテゴリーで論じる必要がある薬剤と考えるべきであるし、そのメカニズムについていまだ明確ではないものの心筋梗塞から虚血性心筋症に至るHFrEFモデルでの解析が待たれる。こうして、ESC2019の前からHFrEFでは間違いなくダパグリフロジンが効くという確信があった。そして事実そうなったのであるが、これが糖尿病患者に限定した効果でないことも今回DAPA-HFで示されたことの意義は絶大である。非糖尿病患者でもSGLT2は近位尿細管に存在するわけで、とくにup-regulateされていない状況でもSGLT2阻害薬による浸透圧利尿効果は有用であるということのようである。 一方で、これまでの結果からやや予想し難いデータがあり、それは腎保護作用である。DAPA-HFにおいてはworsening renal functionについてプラセボより少なめではあったが有意差がなかった。これまでSGLT2阻害薬による腎保護作用は一貫して認められてきたところであり、ここは糖尿病性腎症の進展予防という観点で腎保護作用があると考えれば非糖尿病患者ではその有効性が認め難いのかもしれず、この辺りに関しては今後出てくるサブ解析を待ちたい。いずれにせよ、わが国の心不全ガイドラインのHFrEF治療薬にsacubitril-バルサルタンとイバブラジンと、そしてSGLT2阻害薬を書き加える日が近い。この余勢を駆ってHFpEFまで攻め込めるかどうか、今までのデータからは微妙であるが、これも今後続々と出てくる結果に期待したい。陳旧性心筋梗塞を有するEF<60%くらいまでは、PARAGON-HFと同様にSGLT2阻害薬が有用であろうと予想する。

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180)なかなか覚えられない薬の名前【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:飲んでいる薬の名前は?説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師では、「〇〇(薬の名前)」を出しておきますね。患者えっ、それは何ですか?医師いつものお薬ですよ。(薬の名前をメモに書いて渡す)患者糖尿病の薬か。薬の名前ってカタカナばかりだから、なかなか覚えられなくて…。医師好きな車やお酒の名前は、カタカナでも覚えているでしょ?患者なるほど。たしかに、好きなものは覚えられますね。医師災害時のことを考えると、飲んでいる薬の名前は覚えたほうが安心ですよ。患者そう言われると、そうですね…。医師それに、いろいろな薬の名前を覚えるのは、脳トレにもなるかもしれません。患者…スラスラ言えたら、なんかかっこいいですね。医師覚えるときは、薬の名前を声に出して言うと、記憶によく残りますよ。患者わかりました。やってみます!●ポイント薬の名前についての会話をきっかけに、自分が飲んでいる薬を覚えておく意義を理解してもらいましょう。

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第31回 先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第31回:先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~連載をはじめた当初、“2週に1回”の連載タイミングで、心電図の話題をいつまで続けられるかなぁ?…正直そう思っていましたが、気づけば前回で30回の“壁”を越えました。心電図って、本当に話題が尽きないんです(笑)。今回は、一見“なんてことない”状況が心電図と真正面から向かい合うことで一変する…そんな共体験をDr.ヒロとしましょう!症例提示89歳、女性。高血圧などで通院中。20XX年6月末、食事や入浴も平素と変わりなく、22時頃に就寝した。深夜1:30に覚醒し、強い悪心を訴え数回嘔吐した。下痢なし。嘔吐後、再び床に着くも喉元のつかえ感と悪心がおさまらず、早朝5:00に救急要請した(病着5:20)。前日の晩は家族と自宅でお好み焼きやキムチ、チャンジャを食べたが、同居家族に同様の症状の者はいない。来院時バイタルサイン:意識清明、顔色不良、体温36.2℃、血圧107/38mmHg、脈拍50~80拍/分・不整、酸素飽和度98%。来院時心電図を示す(図1)。(図1)救急外来時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しくないものを2つ選べ。1)心室内伝導障害2)ST低下3)ST上昇4)低電位(肢誘導)5)第1度房室ブロック解答はこちら1)、5)解説はこちら今回の症例は、悪心と嘔吐を主訴にやって来た高齢女性です。救急外来では“よくある状況”で、「感染性胃腸炎」や「食中毒」と判断してもおかしくない病歴かもしれません。でも、問題は心電図の読みです(笑)。救急外来の“ルーチン”か、はたまた「吐いた後にも喉のつかえ感が残る」という訴えがあったためか、いずれにせよ記録した以上はきちんと読む-これを徹底してください。もちろん「系統的判読」(第1回)を用いてね。1)×:「心室内伝導障害」(IVCD*1)とは「脚ブロック」をはじめ、QRS幅が幅広(wide)となる波形異常の総称です。後述するST-T部分が紛らわしいですが、今回はQRS幅としては正常(narrow)です。2)○:ST部分のチェックは、基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)とJ点(QRS波の切れ目)の比較でしたね。肢誘導ではI、aVL、そして胸部誘導ではV1~V5で1mm以上の「ST低下」が見られます。目を“ジグザグ運動”させることができたら、異常を漏れなく抽出できるはずです(第14回)。ちなみに自動診断では誘導が正しく拾い上げられていないことにも注目してください。3)○:この心電図では、広汎な誘導で「ST低下」が目立ちますが、ニサンエフ(II、III、aVF)では「ST上昇」が見られます。これも見逃してはなりません。4)○:「低電位(差)」は肢誘導と胸部誘導とで診断基準が異なります*2。「すべての肢誘導で振幅≦0.5mV」これが肢誘導の基準です。QRS波が5mm四方の太枠マスにすっぽり入れば該当し、今回は満たしています。5)×:これは、ボクの語呂合わせでは“バランスよし!”の部分に該当します。「PR(Q)間隔」とはP波とQRS波の“つかず離れず”の適度な距離感、これが“バランス”と表記した意味になります。上限値は200ms(0.2秒)ですが、「第1度房室ブロック」と診断するのは240ms(0.24秒)以上、すなわち小目盛り6個以上で、とボクは推奨しています。ただし、「P:QRS=1:1」である必要があり、普通、R-R間隔は整ですので、今回は該当しません。詳細は次問で解説します。*1:Intraventricular Conduction Disturbance*2:胸部誘導では2倍の1.0mV(1cm)がカットオフ値だが、肢誘導よりも圧倒的に少ない。【問題2】自動診断では「心房細動」となっている。これは正しいか?解答はこちら正しくない解説はこちらまた出た! Dr.ヒロの“自動診断いじり(笑)最近の心電計の診断精度は上がっているんですよ。ただ、時に機械は間違います。そんな時に信じられるのはただ一つ。そう、自分、人間の目です。“目立つ所見だけ言えてもダメ”心電図(図1)を見て目に飛び込んでくる華々しい「ST変化」…これだけに気をとられて、「調律」が何かを意識できなかった人はいますか? それじゃ、帽子をかぶって上着を着て、ズボンもはかずに外出するようなもの(下品な例えでスイマセン)。目立つものだけ指摘して、ほかの心電図所見を見落とすということは、それくらい“不十分”なことなんです。“レーサー(R3)・チェック”を活用すれば不整脈のスクリーニングにもなるんです*3。*3:1)R-R間隔:整、2)心拍数:50~100/分、3)洞調律のいずれか1つでも満たさなければ、その心電図には「不整脈」があると認識するのだった。R-R間隔は不整、心拍数は新・検脈法で60/分(第29回)。そして残りは“イチニエフの法則”ですね(第2回)。P波に注目です。QRS波ちょっと手前の“定位置”にP波がいない…?P波が「ある」ように見える部分と「ない」部分が…?「PR(Q)間隔」も伸びたり縮んだりしている…?イチニエフ…と見ていく過程で、こう感じた人は少なくないのではと思います。こういう時、まず当たりをつけるのに適した誘導はV1誘導です。右房に正対する位置で、距離的にも前胸壁で一番近くP波が見やすいです。さらに、この特徴に加え、二相性(陽性-陰性)のことが多く波形的にも目を引きやすいのもオススメな理由です。“P波探し”は不整脈の解析の肝であり、ちょっと慣れたら、次のようにビシッと指摘できるでしょう(図2)。(図2)V1誘導のみ抽出画像を拡大する大事なことですので、ぜひ拙著などでご確認ください(笑)。P波がコンスタントにある時点で「心房細動」ではないですよね? 実は、P波の間隔はほぼ一定で、1個目や5個目で「P-QRS」の順番が途切れており、これだけで「第2度房室ブロック」の「ウェンケバッハ(Wenckebach)型」と呼ばれるタイプだと指摘できる人は素晴らしい。5秒だと短いので、こういう時には、「手動(マニュアル)記録モード」にして長く記録すると良いでしょう。R-R不整が強く、心電計は「心房細動」と考えましたが、われわれはそれに釣られてはいけませんね。【問題3】来院後、再び嘔吐した。混血はなく、食物残渣・胃液様であった。心筋トロポニンT(cTnT):陰性、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP):陽性であった。対応について正しいものを選べ。1)消化器症状が強いため、「“おなかの風邪”か“食あたり”でしょう」と説明して帰宅させる。2)制吐剤を含む点滴と内服処方を行い、後日外来での上部消化管内視鏡を薦める。3)H-FABPは偽陽性と考え、cTnTが陰性なことから急性冠症候群(ACS)は否定的と考える。4)救急外来で数時間待ってから採血と心電図を再検し、日中の通常業務の時間帯に入ってから循環器科にコンサルトする。5)自院で緊急心臓カテーテル検査が可能なら循環器医をコール、不可能なら即座に専門施設へ転送する。解答はこちら5)解説はこちら今回の高齢女性の主訴は悪心・嘔吐です。来院直後にベッドの上で嘔吐しました。90歳近い高齢であることを除けば“あるある”的な救急患者ですし、症状だけならば胃腸疾患と思えなくもありません。ただし、心電図を見てしまったらそうはならないはずです。「ST上昇」と「ST低下」が特定のコンビネーションで認められたら、何を考えますか? また、心筋バイオマーカーはどうでしょう?「ラピチェック® H-FABPなどの検査では偽陽性も多いし、トロポニン陰性だから大丈夫でしょ」そう考えるのもまたアウト。「何のために心電図をとったの!」ということになってしまいますね。“心電図をどう解釈するか”われわれ人間の性か、現行の心電図教育の関係かはわかりませんが、症状ごとに胸痛ならST変化に一点集中とか、心疾患っぽくなかったら心電図は見なくていいとか…さまざまな“決め打ち”や先入観が“心電図の語る真実”を見逃す原因になります。“とるなら見よ”、しかもきちんと―これがボクからのメッセージです*4。心電図を眺める時、いったんすべて忘れ去り、真っ白な心で読むのでしたね(第10回)。心電図(図1)で最も目立つのはST変化で、肢誘導ではII、III、aVF誘導の「ST上昇」、そしてI、aVL誘導の「ST低下」が認められます。ここで久しぶりに“肢誘導界”の円座標を登場させましょう。まずスタートは、aVLとIIIとが正反対に近い位置関係にあるということ(図3)。(図3)位置的に対側関係にある誘導は?画像を拡大する“大きな心”でとらえてくださいね。ST上昇のあるニサンエフ(II、III、aVF)とイチエル(I、aVL)って、心臓をはさんで反対の位置関係にありますよね? こうした真逆の2方向の組み合わせでST上昇・低下が見られた場合*5、“発言力”があるのは「ST上昇」のほうで、ほぼ確実にSTEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断となります。もちろん、できたら以前の心電図と比較して、過去にない「変化」が起きているのを確認できれば、なお確実性が高まります。今回の例は「下壁梗塞」疑いです。エフ(aVF)は“foot”ですから、何も覚えることなく「下壁」ですよね。加えて右冠動脈の近位部閉塞に伴う下壁梗塞の場合、時に房室ブロック(今回は第2度)を伴うという事実とも合います。ですから、心電図をとってDr.ヒロ流でキチンと読みさえすれば選択肢の5)が正しいとわかるでしょう。「STEMI=即、心カテ」はガイドラインでも銘記されています。ちなみに、選択肢3)は心筋バイオマーカーに関するものですが、汎用されるcTnTが陰性だから、ACSの可能性を否定してしまう選択肢4)のような対応もよくある誤りです(心電図を苦手にする人ほどこうしたミスを犯しがち)。STEMIでも発症後数時間のごく初期の段階ではトロポニン陰性も珍しくないんです。*4:その逆で“見ないならとるな”は間違い。さらに“見られないからとらない”は厳禁!…ちまたでは見かけるのも事実だが。*5:V1~V5の「ST低下」についても、V5はイチエルと“ご近所”(側壁誘導)、V1~V4は心臓の“前”で、II・III・aVFは“下≒後”と考えると対側性変化の一環として説明・理解できる。“「読めるか」より「とれるか」”心電図(図1)は波形異常と不整脈が混在し、それなりに読み甲斐のある心電図だと思います。ただ、この症例で一番難しいのは、心電図を「読めるか」より「とれるか」という点です。「気持ち悪い、吐きそう、吐いた、ノドのあたりがむかむか…」そんな訴えから胃腸疾患と決めつけてしまったり、看護師さんに「先生、これで心電図とるの?」と言われて“場の雰囲気”を重視したりすると痛い目にあいます。心筋梗塞の患者は、皆が皆、「強い前胸部痛」という典型症状で来院される方ばかりではありません。非典型例をいかに漏らさず拾えるかが、“できる”臨床医の条件の一つだとボクは思います。代表的な非典型的症状は、肩や歯の痛みですよね。また、今回の症例のように悪心や嘔吐なんかの消化器症状が目立って、心筋梗塞でテッパンの胸部症状がかすんでしまうこともあります。下壁梗塞の多くは、灌流域に迷走神経終末の多い右冠動脈の閉塞が原因であることから、胃部不快や嘔吐が多いと説明されています。心筋梗塞と嘔吐の関係を調べた古い文献によると、貫壁性(transmural)心筋梗塞の43%に嘔吐を伴い、前壁:下壁=6:4*6だったとのこと。時代やお国の違いこそあれ、さすがに普段の印象には合わない感じもしていますが…どうでしょう、皆さま?*6:重症の前壁梗塞によるショック状態で嘔吐が見られることがある。■非典型症状をきたす3大要因■(1)高齢者(2)女性(3)糖尿病今回の症例が難しいのは“何でもあり”の「高齢者」であること以外に「女性」であるわけです。女性の心筋梗塞は男性よりもわかりにくい症状なのは有名で、この連載でも扱ったことがあります(第6回)。“救急では心電図のハードルを下げよ”以上、消化器症状が強く出た高齢者の非典型的STEMI症例でした。『患者さんの訴えが心窩部より上のどこかで、それに対して“深刻感”を感じたならば心電図をとる』これをルーチンにすれば“見落とし”が少しでも減ると思います。とは言え、多忙な救急外来ではとかく“ハイ、胃腸炎ね”と片付けてしまい、ボク自身も反省すべき過去がないとは言えません。12誘導心電図は保険点数130点ですから、『3割負担の方でも“ほか弁”ないし“スタバのコーヒー”くらいの値段で大事な検査が受けられますよ』、と患者さんにも普段から説明するようにしています。多少は手間ですが、患者さんには無害な検査です。“空飛ぶ心電図”で谷口先生にお話を伺った際、「顎と心窩部にはさまれた部分」で一定の症状があったら、心電図を“とりにいく”姿勢の大事さを学びましたよね(第27回)。とくに救急現場では心電図はバイタルサインの次くらいに軽い気持ちでとるほうが無難です。くれぐれも心電図の苦手意識から「心電図をとるの、やめとこかな…」は“なし”にしましょう!! Take-home Message1)対側性変化で説明できるST上昇・低下が共存したらSTEMIと診断せよ。2)非典型症状に潜む“隠れ心筋梗塞”に注意せよ!~時に悪心・嘔吐が前面に出ることも~3)下壁梗塞では房室ブロックを合併することあり。1)杉山裕章. 心電図のはじめかた. 中外医学社;2017.p.128~137.【古都のこと~勧修寺雪見灯篭~】山科区の勧修寺(山号:亀甲山)は、前回・前々回と紹介した随心院からも徒歩10分圏内です。お恥ずかしながら、最近訪れるまでは「かんしゅうじ」と呼んでいましたが、実は「かじゅうじ」です*1。真言宗山階派の大本山で、醍醐天皇の母、藤原胤子(ふじわらの たねこ/いんし)の菩提を弔うため、平安中期の昌泰3年(900年)に創建されました。母方の実家である宮道(みやじ)家邸宅を寺に改め、父・藤原高藤*2の諡(おくりな)から「勧修寺」と命名されました。白壁の築地塀を横目に歩き山門から入って程なく、書院の庭には水戸光圀*3の寄進とされる「雪見灯籠」*4があります。周囲が樹齢約700年とも言われるハイビャクシンの枝葉に覆われているので、ボクは二、三度通り過ぎてようやくどれかわかりました(笑)写真はちょうど真裏から眺めた様子で、本当に前からは見えない! この灯籠のフォルムは「勧修寺型」と呼ばれ、灯籠の代表的パターンの一つらしいです。「京都へ来られたら見て通(トオ)ろう」というジョークが書かれた看板に微笑したのでした。*1:この辺りの住所は「かんしゅうじ○○町(ちょう)」というからややこしい。*2:高藤が山科で鷹狩りをした際、偶然雨宿りに訪れた宮道弥益(いやます)宅で娘の宮道列子を見初め、一夜の契りを交わした。後に列子を正室(妻)として迎え、娘の胤子は宇多天皇の女御(后)となって後醍醐天皇を産んだ。当時、中下流一家から皇族に入ることはあり得ず、『今昔物語』に記されたこの列子(「たまこ」とも読む)の成功譚が“玉の輿”の語源の一つともされる。ちなみに藤原高藤は紫式部の祖先であり、『源氏物語』に登場する光源氏と“明石の君”との恋バナは列子と高藤の話がモチーフだという話も。どれだけ奥深いんだ!…歴史って。*3:TVなどでお馴染みの“水戸黄門”とはその人。*4:「笠に積もった雪を鑑賞して楽しむためのもの」「笠の形に雪が積もった傘ように見える」「灯りを点すと(近江八景の)浮見堂に似ており、それが訛った」など諸説あるよう。

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