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人生における目的意識は脳の健康を守る?

 人生に目的意識を持つことは、充実感をもたらすだけでなく、認知症から脳を守る可能性もあることが新たな研究で明らかになった。人生に高い目的意識を持っている人では、目的意識の低い人と比べて軽度認知障害(MCI)または認知症を発症する可能性が28%低いことが示されたという。米カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)精神医学および行動科学教授のAliza Wingo氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Geriatric Psychiatry」10月号に掲載された。Wingo氏は、「われわれの研究結果は、目的意識を持つことが、年を重ねても脳の回復力を維持するのに役立つことを示している」と話している。 この研究では、2006年から2020年の間に米連邦政府のHealth and Retirement Study(健康と退職に関する調査)に参加した45歳以上の米国成人1万3,765人を追跡調査し、目的意識と認知障害の発症リスクの低下や認知障害発症の遅延との関連を検討した。この調査には、人生における目的意識を評価するウェルビーイングに関する7項目の質問票が含まれていた。質問の例は、「自分で立てた計画を積極的に実行するタイプだ」や「人生において進むべき方向性や目的意識を持っている」などで、回答者は、それぞれの質問に対してどの程度強く同意/反対するかを回答していた。 中央値8年(最長15年)に及ぶ追跡期間中に1,820人(13%)が認知障害を発症していた。性別、ベースライン時の年齢、学歴、抑うつ症状の平均スコア、人種・民族を調整して解析した結果、人生における目的意識が高い群では、低い群に比べて認知障害の発症リスクが28%有意に低いことが示された(ハザード比0.72、95%信頼区間0.63〜0.82)。この関連は、遺伝子型データを有するサブグループにおいて、共変量としてアルツハイマー病のリスク因子であるAPOE e4アリルを調整後も有意なままであった。さらに、目的意識の高い群では低い群に比べて認知障害の発症年齢が高いことも示された。 Wingo氏は、「アルツハイマー病の遺伝的リスクを持つ人でも、目的意識を持つことは認知障害の発症の遅延やリスク低下につながり得ることが示された」とUC Davisのニュースリリースの中で述べている。 研究グループはまた、目的意識が高い群では8年間で認知機能の低下が約1.4カ月遅い傾向が認められたと話す。これは年齢、学歴、抑うつ症状、遺伝的リスクを考慮した上でも認められた差であり、現在の治療と比べると意味のある結果だと研究グループは述べている。論文の筆頭著者であるUC DavisのNicholas Howard氏は、「レカネマブやドナネマブのような薬は、アルツハイマー病の認知障害の症状をやや遅らせることはできるが、リスクを伴う上に費用もかかる。一方で、人生における目的は、無料で安全、かつ誰でも手に入れられる。それは、人間関係、目標、そして意義のある活動を通して築き上げられるものだ」と述べている。 研究グループによると、目的意識を高めることができる活動の例は、家族や友人との関係を育むこと、仕事やボランティア、精神性や信仰の探求、趣味や新しいスキルなどの個人的な目標の追求、親切な行為・介護・アドボカシー活動などを通じて他人を助けることなどであるという。 論文の共著者であるUC DavisのThomas Wingo氏は、「この研究の素晴らしい点は、人々が『考える』ことで健康状態を改善できる可能性があることだ。人生の目的は、自分で育むことができる。人生に意味を与えるものについて考え始めるのに、早過ぎることも遅過ぎることもない」と述べている。

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第28回 脳や胎盤からも…体内に侵入するマイクロプラスチックの脅威

私たちが日常的に使うペットボトル、食品トレイ、合成繊維の衣類。便利さの裏側で、これらのプラスチック製品が劣化して生まれる微小な粒子「マイクロ・ナノプラスチック(MNP)」が、地球環境だけでなく、私たちの体内にまで侵入していることが、科学的に明らかになってきました。医学界で最も権威のある学術誌の一つのNature Medicine誌に掲載された最新のレビュー論文1)は、この見えない脅威に関する世界中の研究をまとめ、その健康への影響について深刻な警鐘を鳴らしています。この記事では、この論文で示された科学の最前線をわかりやすく解説し、不確実な時代の中で私たちが今日から実践できることを探ります。私たちの体はどこまで汚染されているのか?かつて、マイクロプラスチックは主に海の問題だと考えられていました。しかし、研究が進むにつれ、事態はより深刻であることがわかってきました。マイクロプラスチックは空気、水、食物を通じて私たちの体内に侵入し、もはや体の「どこにでも存在する」汚染物質となりつつあります。実際に、これまでに行われた調査では、体内の以下のような場所からマイクロプラスチックが検出されています。血液肺胎盤脳肝臓、腎臓生殖器(精巣など)実験室レベルの研究では、マイクロプラスチックが肺や腸の細胞バリアを通過し、血流に乗って全身に運ばれることが示されています。母親が曝露することで、胎盤を通じて胎児にまで到達する可能性も指摘されており、次世代への影響も懸念されているのです。これらの粒子は、自動車のタイヤの摩耗、合成繊維の衣類の洗濯、そして街に捨てられたプラスチックごみの劣化など、ごくありふれた日常の中から絶えず発生しています。私たちは、呼吸をし、食事をするだけで、知らず知らずのうちにこれらの微小なプラスチックを体内に取り込んでいるのです。健康への影響は?科学が示す「懸念すべき兆候」では、体内に侵入したマイクロプラスチックは、私たちの健康にどのような影響を与えるのでしょうか? 論文では、断定的な結論を出すのはまだ時期尚早としながらも、世界中の研究が示す「懸念すべき兆候」をいくつか挙げています。これまでの研究の中では、マイクロプラスチックの体内濃度が高い人で、特定の健康問題との関連が報告され始めています。たとえば、アテローム性動脈硬化症の患者の血管プラークからマイクロプラスチックが検出され、その存在が心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)のリスク上昇と関連していたという報告があります。そのほかにも、免疫系や生殖能力への影響などが示唆されています。動物や細胞を用いた実験レベルでは、より具体的な有害性が観察されています。酸化ストレスと炎症多くの実験で、マイクロプラスチックが細胞に酸化ストレス(体のサビ)を引き起こし、炎症反応を誘発することが確認されています。これは、さまざまな慢性疾患の引き金となりうる反応です。細胞機能の阻害細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの活動を低下させたり、細胞死を引き起こしたりする可能性が報告されています。バリア機能の破壊腸や肺のバリア機能を損なう可能性が指摘されています。バリアが壊れると、有害物質が血中に侵入しやすくなり、全身の健康に影響が及ぶ恐れがあります。ただし、これらの結果の受け止めには慎重でなければなりません。なぜなら、人を対象とした研究はまだ参加者数が少なく、分析方法が不十分な場合があると指摘されているからです。また、病気の組織で多くのプラスチックが見つかったとしても、それが「原因」なのか、あるいは病気によって組織がもろくなった「結果」なのかを判断するのは難しいという点も考慮する必要があります。不確実な時代だからこそ、私たちができること科学的な最終結論が出るまでには、まだ数年かかるかもしれません。しかし、論文の著者らは、健康への影響が不確実であるからといって、対策を待つべきではないと強調しています。なぜなら、プラスチック汚染が地球環境や野生生物に与える悪影響は、すでに疑いようのない事実だからです。環境と私たちの健康、今すぐ行動を起こすことには二重のメリットがあるのです。推奨される具体的なアクションは、マイクロプラスチックの発生源を生活から少しずつ減らしていくことです。1.衣類の見直しフリースのジャケットやポリエステルのシャツなど、合成繊維の衣類は洗濯のたびに大量のマイクロファイバーを放出します。洗濯の際は、マイクロファイバーの流出を抑える専用の洗濯ネットを使用したり、可能な範囲で綿やウールなどの天然繊維製品を選んだりすることが有効かもしれません。2.使い捨てプラスチックを減らすペットボトル飲料やテイクアウト容器の使用を減らすことは、新たなプラスチックごみを削減する上で最も基本的な一歩です。マイボトルやマイバッグを習慣づけるのもいいでしょう。3.プラスチック容器での加熱を避けるプラスチック容器に入った食品を電子レンジで加熱すると、容器の劣化が進み、食品へのマイクロプラスチックの移行を増やす可能性があります。できるだけ陶器やガラスの器に移し替えてから加熱しましょう。4.室内の掃除をこまめに室内のホコリには、カーペットや衣類、家具などから発生したマイクロプラスチックが豊富に含まれています。定期的な拭き掃除や、HEPAフィルター付きの掃除機での清掃は、粒子を吸い込むリスクを減らすのに役立ちます。これらの対策は、曝露をゼロにするものではありませんが、私たちの体に入るマイクロプラスチックの総量を減らすための、現実的で意味のある行動だと考えられます。実際には、それらがどこまで私たちの体に影響をもたらすのかについてはまだよくわかっていませんが、がんや認知症といった病気から身を守ることにつながるのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Lamoree MH, et al. Health impacts of microplastic and nanoplastic exposure. Nat Med. 2025 Sep 11. [Epub ahead of print]

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「また、にしない。まだ、にしない。」認知症早期対応のための合言葉を発表/リリー

 近年、認知症基本法の施行や、アルツハイマー病(AD)疾患修飾薬の登場などを背景として認知症診療は大きな転換期を迎え、かつての「症状が進行した後のケア」から、「MCI(軽度認知障害)を含む早期段階からの介入」へと、臨床現場の役割は大きく変化しつつある。こうした中、認知症月間である9月10日に、日本イーライリリーの主催で「『認知症に早めに対応するための合言葉』および『MCI/認知症当事者等への意識調査』に関するメディア発表会」が開催された。 本セミナーでは、古和 久朋氏(神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 教授)が、「MCIまたは認知症当事者・家族および一般生活者を対象に実施した意識調査」で明らかになった実態を踏まえ、認知症に早期に対応する重要性について解説し、続いて、井原 涼子氏(東京都健康長寿医療センター 健康長寿イノベーションセンター 臨床開発ユニット長)が、臨床現場での経験を踏まえ、このたび発表された合言葉「また、にしない。まだ、にしない。」の考案経緯について語った。早期受診の重要性、当事者と一般生活者の認識のギャップ 古和氏が監修した今回の意識調査は、MCIまたはアルツハイマー型認知症と診断された55~79歳の当事者とその家族190人、および20~79歳の一般生活者1,053人を対象に、2025年6月に実施された。 本調査の主な結果を古和氏は以下のように挙げた。・MCI/軽度認知症の当事者・家族の92%が「自分のことは自分でできる」または「誰かが支援すれば自立できる」と回答し、診断後も自立した生活をおおむね維持できていることが示された。また、45%が趣味や仕事を含めて生活を維持できていると回答した。・認知症を疑ったタイミングについて、認知症中等度以上の当事者・家族の34%(最多値)が「仕事や家事のミスが増え、同僚・家族には認知機能低下がわかる」段階であったのに対し、MCI/軽度認知症の当事者・家族の34%(最多値)が、「たまにものを置き忘れる、有名人の名前が出てこない」というより早期の段階で積極的に疑っていた。・「もの忘れ」の違和感で受診するタイミングについて、「すぐに」または「しばらく続いたら」受診すると回答したのは、MCI/軽度認知症の当事者・家族では77%だったのに対して、一般生活者では48%と低かった。もの忘れ以外の健康全般の違和感で受診するタイミングは、MCI/軽度認知症の当事者・家族では75%、一般生活者でも67%と高い水準であり、一般生活者の認知症・もの忘れに関する危機感の低さが顕著に表れた。・MCI/軽度認知症の当事者・家族の76%が、早い段階で受診できてよかったと回答した。 古和氏は本結果について、MCI/認知症の早期の気付き・対応は、当事者が「自分らしい暮らし」を維持する可能性を高める重要な要素であり、ちょっとしたもの忘れを自覚したり周囲の人が気付いたら、年のせい・気のせいにしたりせず、早めに受診することが「当たり前」となる社会を作っていくことが、認知症共生社会を目指すうえでも重要だとまとめた。40%以上が「初診の遅れ」で治療の好機を逃す 続いて登壇した井原氏は、同意識調査の結果において、臨床現場の厳しい現実を示すデータとして、MCIまたはアルツハイマー型認知症当事者・家族が、症状の異変に気付いてから初診までに1年以上を要した人が41%に上ることを提示した。井原氏は「認知症の新薬は早期のほうが効果が高いこともあり、より良い医療を提供したい思いからも早期受診をしてほしい」と述べた。認知症早期発見・対応のための新たな「合言葉」 MCI/認知症に関する異変を感じたとき、受診が面倒、あるいは、認知症と診断されてしまうのが怖いという思いから、多くの人が相談をためらい、そのまま放置してしまう現状に対して、そのような認知症のイメージを変え、誰もが早めの一歩を踏み出せるように、新たな合言葉が考案された。【認知症に早めに対応するための合言葉】『また、にしない。まだ、にしない。』“また”疲れのせい、にしない。“また”年のせい、にしない。“まだ”早い、と思わない。“まだ”大丈夫、と思わない。ご自身も、ご家族も、このように“また”、“まだ”、と気のせいにしないでください。 井原氏は、合言葉の考案プロセスについて、当事者・家族、専門医、賛同企業が協力し、多様な観点を取り入れた「インクルーシブデザイン」の手法を採用し、一般の人にもより浸透しやすい言葉になるように配慮されていることを説明した。 当事者や家族が異変を感じても、「また疲れのせい」「また年のせい」として自身を納得させて受診を先延ばしすることが問題の中心にあり、それに直接働きかけることを意図して、この合言葉が考案されている。井原氏は、誰にでもMCI/認知症の当事者になる可能性があり、それを皆が意識することで「早期の気付き・早期対応が当たり前の社会」の実現につなげていきたいと語った。また、プライマリケア医は患者が訴える些細な変化を「年のせい」と見過ごすことなく、必要に応じて検査や専門医への紹介につなげる初期対応の重要性を訴えた。絶望ではなく、希望と準備へつなげる 講演後のトークセッションでは、古和氏、井原氏に加え、花俣 ふみ代氏(認知症の人と家族の会 副代表理事/介護福祉士)、平井 正明氏(同会理事/当事者)、俳優の高畑 淳子氏が登壇した。 高畑氏は、昨年亡くなった自身の母親の認知症のサインとして「お皿がヌメヌメしていた」「几帳面な母なのに部屋が埃っぽく汚れていた」という、見過ごされがちなADL低下の具体例を挙げた。当時は母が「心臓が苦しい」と訴えていたためその受診を優先したが、今振り返るとアルツハイマー病の受診は後回しにしてしまっていたと語った。さらに、「ほかの病気は人間ドックで早期発見することが『良いこと』と認識されているのに、認知症にはその感覚が浸透していない」と指摘した。 56歳でMCIと診断された平井氏は、当事者同士で交流を持ち活動する中で、「もっと早く気付いていれば、と後悔する人がほとんど」であり、早く向き合うことで、仕事や生活を維持する環境を整えられるなど、後の人生にとって大きなプラスとなると、早期診断の重要性を語った。 支援者の花俣氏は、受診が遅れる根本的な原因として、社会に根強く残る「認知症に対する偏見や誤解」を挙げた。「認知症になったら終わり」というイメージが、本人や家族が現実から目をそむけ、受診を先送りさせてしまう。診断後の孤立を防ぎ、支援の輪につながることこそが、早期診断の最大のメリットであると強調した。【調査概要】調査主体:日本イーライリリー株式会社実査:株式会社メディリード調査手法:インターネット調査調査地域:日本全国実施期間:2025年6月13日~6月24日調査対象:【MCIまたは認知症の当事者・家族】55~79歳のMCIまたは認知症(アルツハイマー型/アルツハイマー病による認知症)と診断されている当事者もしくは家族【一般生活者】20~79歳有効回答数:MCIまたは認知症当事者・家族190人(うち、MCIまたは軽度認知症は94人)、一般生活者1,053人監修:神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 教授 同認知症予防推進センター長 古和 久朋氏

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米国ドラマ「24」【その1】なんでショックで記憶喪失になるの? なんで恐怖で腰が抜けるの?-「解離=ローカルスリープ」説

今回のキーワード全生活史健忘迷走神経反射ポリヴェーガル理論離人感・現実感消失症ローカルスリープ解離性神経学的症状症[目次]1.記憶喪失の特徴とは?2.なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論3.なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説ショックで自分が誰で今までどう生きてきたかの記憶すべてを急に思い出せなくなる…いわゆる記憶喪失は何とも不思議です。なぜショックで記憶喪失になるのでしょうか? また、恐怖で腰が抜けて立てなくなるのも、よくよく考えると、腰には医学的な問題はなく、脳の問題です。どうなっているのでしょうか?これらの謎を解き明かすために、今回は米国ドラマ「24(トゥエンティ・フォー)」のあるシーンを取り上げ、記憶喪失の特徴を説明します。そして、脳科学の視点から、ある仮説をこの記事で提唱し、記憶喪失や腰抜けをはじめとして意識から精神機能や身体機能が分離する病態(解離症)のメカニズムを解き明かします。さらに、進化医学の視点から、これらの病態の起源に迫ります。なお、記憶喪失の正式名称は解離性健忘です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、よく使われる通称の「記憶喪失」で表記します。記憶喪失の特徴とは?主人公は、米国の連邦捜査官ジャック・バウアー。彼が、テロリストと戦う24時間を毎回1時間ずつのドラマに分けて、時間軸に沿ってそれぞれの登場人物の視点からリアルタイムで展開していくつくりになっています。毎回のエピソードではらはらさせられて「次はどうなるの?」と気になり、私たちも視聴者という立場で「24」になってしまいそうになります。そのなかのあるシーンで、彼の妻テリーが記憶喪失になりますが、とてもリアリティがありました。そこで、彼女の言動から、記憶喪失の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)直前にトラウマ体験がある-重度ストレステリーは、娘と一緒にテロリストの隠れ家に人質として誘拐されていました。そんななか、2人で脱出して山道を車で逃走するのですが、テリーは追っ手をまいたか確かめるために、途中で車を止めて出ます。その直後、まだ娘を乗せている車が崖から滑り落ちてしまい、爆発して炎に包まれるのです。テリーは、その瞬間、テリーは娘が死んだと思い、あまりのショックで気を失います。1つ目の特徴は、直前にトラウマ体験があることです。精神医学的には、重度ストレスと言い換えられます。実際に、記憶喪失の先行要因として、災害や戦争などが指摘されています1)。(2)自分についてすべて思い出せない-全生活史健忘テリーは、数分後に目を覚まし、車道をふらふらと歩き出します。たまたま車で通りがかった女性から不審がられて、「ねえ、大丈夫? どうしたの?」と声をかけられますが、テリーは何も言えません。「名前は?」と聞かれても、「思い出せない」としか答えないのです。こうして、近くの病院まで送ってもらうことになります。2つ目の特徴は、自分についてすべて思い出せないことです。精神医学的には、全生活史健忘(全般性健忘)と呼ばれます。自分の名前や生い立ちをすべて思い出せなくなるのですが、言葉自体や一般常識は覚えていて、話は通じます。つまり、記憶障害になるのは、エピソード記憶のみであり、意味記憶は保たれています。なお、すべてのエピソード(全生活史)ではなく、特定のエピソード(トラウマ体験)だけが思い出せない場合は、選択的健忘と呼ばれます。(3)ぼうっとしている-「美しき無関心」テリーは、車に乗せてくれた女性から、「記憶喪失の人、初めて見たわ」「つらいでしょ?」と言われても返事をせず、心ここにあらずです。3つ目の特徴は、ぼうっとしていることです。精神医学的には、従来から「美しき無関心」(もうろう状態)と呼ばれてきました。自分の記憶がないことに対して、戸惑うというよりも、むしろ無関心なのです。「ここはどこ? 私は誰?」とあわてふためくことは実はなく、むしろ清々しくも見えてしまうのです。なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論テリーは、「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」と思い、そのショックから気を失いました。このような失神は、実は私たちにも身近で、歯の治療や採血などでの痛みから極度の恐怖を感じた時にも見られます。これは、迷走神経反射(神経原性ショック)と呼ばれています。それでは、なぜショックで失神するのでしょうか?このメカニズムは、ポリヴェーガル理論(多層迷走理論)から説明することができます2)。この理論を簡単に言うと、私たちの体は、恐怖がなければ、副交感神経系(主に腹側迷走神経複合体)が働いて心拍や血圧が安定して、低活動の状態です。しかし、恐怖(ストレス)があれば、交感神経系(交換神経幹)が働いて心拍や血圧が上がり、過活動になります。そして、絶体絶命なほどの極度の恐怖(重度ストレス)になると、今度は副交感神経系(背側迷走神経複合体)がより働くように切り替わり、逆に心拍や血圧が下がり、不活性化します。このように、「第3の自律神経」(背側迷走神経複合体)を含んだ自律神経系は多層的に機能していると考えられています。イメージとしては、副交感神経優位は安静モード、交感神経優位は興奮モード、そして迷走神経反射は絶体絶命モードと言えます。とくに、興奮モードと絶体絶命モードは合わせて、「戦うか逃げるか、または固まるか(”fight, flight, or freeze”)」と呼ばれています。この現象は、体の反応であると同時に、その体をコントロールする脳の反応でもあります。体だけでなく脳も全体的に不活性化するので、意識レベル(覚醒水準)はやや下がり、低覚醒の状態になります。すると、五感や体感の感度が鈍くなり、現実感がなくなった病態(離人感・現実感消失症)になるでしょう。これは、先ほどの「美しき無関心」の症状にも重なります。実際の画像研究では、この離人感・現実感消失症の人は、嫌悪感を刺激する画像への反応において、扁桃体などがある大脳辺縁系の活動性の低下が確かめられています3)。なお、厳密には右前頭葉の一部(腹側前頭前野)は逆に活動性が亢進することも確かめられています。迷走神経反射は、脳全体の活動性が低下するイメージではあるのですが、この部位に限っては、扁桃体と拮抗関係にあることから、扁桃体の活動性が低下した結果、二次的にこの部位の活動性が亢進してしまったと理解することができます。そして、この部位は自己意識を司る脳領域であることから、この二次的な影響は、自分を俯瞰して上から見ているという離人感が出てくるメカニズムを説明することができます。さらには、同じく極限状態である臨死体験でいわゆる幽体離脱をしている感覚になるメカニズムも説明することができます。つまり、極限状況では、迷走神経反射によって逆説的にも変に冷静になってしまうのです。なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説テリーが記憶喪失になったのは、明らかに「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」という重度ストレスです。それでは、実際にどのようにして記憶喪失になるのでしょうか? また、どのようにして腰抜けになるのでしょうか?先ほどのポリヴェーガル理論から、意識からすべての精神機能と身体機能が不活性化する病態(離人感・現実感消失症)のメカニズムは説明できました。しかし、意識から特定の精神機能または身体機能だけが分離して不活性化する病態のメカニズムは説明できません。これを説明できる理論がさらに必要です。そこでご紹介したいのが、ローカルスリープという概念です。これを簡単に言うと、睡眠は脳全体で一様ではなく局所で多様に行われうるということです。実際の研究では、起きている時にストレスのかかった脳の領域ほど深い睡眠になることがわかっています4)。今回の記事で、このローカルスリープの概念を使って、以下の仮説を提唱します。それは、このローカルスリープによって、重度ストレス後に特定の脳領域のニューラルネットワークが文字どおり眠ってしまい完全に不活性化してしまう(機能不全になってしまう)ということです。名付けるなら、「解離=ローカルスリープ」説です。この不活性化という点で、先ほどのポリヴェーガル理論の局所モデルがローカルスリープであると言い換えることができます。たとえば、それぞれの体の部位を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、腰を抜かす(脱力発作)、声が出なくなる(失声)、聞こえなくなる(突発性難聴)、喉にボールがあるように感じる(ストレス球)などのさまざまな病態(解離性神経学的症状症または変換症)になるでしょう。これが、腰抜けになるメカニズムです。同じように、記憶を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、特定のエピソード(トラウマ体験)だけを思い出せない(選択的健忘)、または自分の名前や今まで自分がどう生きてきたかというすべてのエピソードを思い出せない(全般性健忘)という病態になるでしょう。そしてその後に、何かのきっかけで、または何のきっかけもなく、ようやくそのニューラルネットワークがローカルスリープから脱して(再活性化して)、トラウマ体験を含めて思い出すことができると説明することができます。これが、記憶喪失になるメカニズムです。ちなみに、起きている最中に脳が局所的に不活性化してしまうローカルスリープとは対照的に、深く眠っている最中(ノンレム睡眠中)に、脳が局所的に活性化してしまう「ローカル・アウェイクニング(局所覚醒)」の状態は、睡眠サイクルを含め脳がまだ未発達な子供に見られる「夜泣き」(睡眠時驚愕症)や「夢遊病」(睡眠時遊行症)が当てはまります。 1) DSM-5-TR、p330、p352:日本精神神経学会、医学書院、2023 2) ポリヴェーガル理論入門、p23:ステファン・W・ポージェス、春秋社、2018 3) 心の解離構造、p192、p198:エリザペス・F・ハウエル、金剛出版、2020 4) 睡眠科学、p10:三島和夫、化学同人、2016

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第281回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(後編)

「批判を受けるに値する」としつつも「架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週9月11日木曜の東京の豪雨、すごかったですね。私は所用で大阪に行かなければならず、羽田空港にいました。14時搭乗予定が、「空港近辺に雷雲がある」との理由で15時搭乗に、乗ってからは「雷雲が近づいているので飛び立てない」ということで、結局2時間ほど機内に待機し、離陸したのは17時過ぎでした。今の世の中は便利なもので、スマホで「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」に行けば、ほぼリアルタイムで雨の状況が把握できます。14時の段階でチェックしたら、雨雲はまだ空港の北西5キロほどのところにあって30分以上は大丈夫そうでした。実際、空港が暴風雨の状態になったのは15時過ぎでした。管制が14時の段階から離陸を全面的にストップしていたのは果たして妥当だったのか、素人ながら疑問に感じました。その後の羽田空港の大混乱を考えると、暴風雨になる前に飛行機をもう少し飛ばしておけなかったのかと思った次第です。ちなみに、「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」は民間が提供する類似のアプリ(これらも国交省の同じデータを使っている)よりも正確で、とても役立ちます。自分のいる場所が何分後に雨になるか、どれくらい激しい雨になるかがかなり正確にわかります。ご存じない方は、一度覗いてみることをお勧めします。さて、前回に続いて、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件について書いてみたいと思います。アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断された」とアンビスが見解報告書を受けた後、アンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表しました。「お知らせ」では「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。報告書は、端的に言えば“上場企業にもかかわらず運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしていることに強い違和感を覚えたのですが、同様の違和感はマスコミの報道でも感じました。マスコミ報道も「実態ない診療報酬の請求」を問題視するグレー派と完全シロ派に二分特別調査委員の調査報告書が出ると、共同通信や全国紙の多くは、6,300万円という金額にフォーカスしてその内容を報じました。たとえば、最初にこの件をスクープした共同通信は8月8日付で「実態ない診療報酬の請求判明 医心館、訪問看護で6,300万円」と題する記事を発信、「医療保険が適用される訪問看護は原則30分の訪問が必要だが、報告書は数分程度の短時間の訪問が9,900件あったと指摘。『複数のスタッフで訪問した』と加算報酬を請求していたが、実態が認められないケースも約1,300件あった」と「実態ない診療報酬の請求」を強調する内容となっています。一方、8月11日付の現代ビジネスは「【結果はシロだった】ホスピス最大手・医心館「不正請求疑惑」…スクープ報道と『違いすぎた』調査報告書の内容」と題する記事を発信しています。この記事は、「特別調査委員会による報告書が公表された。その結果は『診療保険請求の要件を満たしていない可能性が高い案件は全体の0.05%程度であり、それ自体も、記録の不整備等に起因する事案であって、架空の事実を捏造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない』というものだった」と不正請求ではなく「シロ」だった点を強調、同社の看護職員の「報道があってから、(私たちが)悪人扱いされることも多くありました。正直、辛かったです。裏どりが甘い、放火的な報道に振り回された4ヵ月でしたが、報告書が『不正は認められない』と発表したことに心の底から安心しています」という言葉を紹介しつつ、「社内では、独自調査として報道を続けてきた共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっているようだ」と、共同通信がまるで完全な”誤報”を放ったかのような、アンビス寄りの内容となっています。共同通信は報告書公表後に「会社の見解に社員反発」と続報普通に考えれば、不正請求は意図的にやろうが、記録の不備やミスで起ころうが、「不正」に変わりはありません。「不正請求の指示」が確認されなかったとしても、記録の不備など社内体制の未熟さによってルールを逸脱した請求が行われていたのは確かなわけで、あの調査報告書をもってして「シロ」と断言するのは言い過ぎではと思っていたら、8月27日付の共同通信が続報を放ちました。「コンプライアンス部長が改ざん指示、でも「組織的不正はない」 ホスピス住宅最大手「医心館」、会社の見解に社員反発」と題された記事は、報告書公表後に取材に応じた社員の声を報じています。同記事は、「『会社の発表を見て、びっくりしました』。医心館で働く看護師、尾形 里佳さん(仮名)はそう話す。『調査報告書を読めば、「不正がなかった」と言い切るのは無理があると思う』」という声を紹介するとともに、「アンビス社の複数の現・元社員は取材に対し、こう証言した。『必要ない人まで1日3回の訪問予定表が30分単位で組まれ、短時間で済んだ場合でも、予定表通りすべて30分実施したと記録していた』『複数人での訪問対象者の中には、必要ない人もいて、1人でやった場合でも、2人で訪問したことにしていた』」と単純な記載ミスではなかったと報じています。さらに同記事は、「尾形さんら複数の現・元社員は『社長が知らなかった』とする説明に『納得できない」と口をそろえる。(中略)今も医心館で働く尾形さんはこう話した。『社長は全社員向けに『反省している』というメールを送ってきたが、『不正はなかった』と言っている時点で、とてもそうは思えない。私たち社員は大切にされていないと以前から感じていた。私を含め、辞めようと思っているスタッフは多い。経営陣が交代して、会社を変えてほしい』」と続け、報告書に対する社の対応に不満を抱いている社員の存在を報じています。現代ビジネスも共同通信も、社員の声を持ってきて、それぞれ「シロ」「グレー(あるいはクロ?)」と言わせているのが対照的で非常に興味深いです。果たして、どちらが真実なのでしょうか。有料老人ホームの経営コンサルタントがIRに記載された「医心館」の経営概要を分析ホスピス型住宅は施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフによってではなく、外部から(といっても併設した訪問看護ステーション、訪問介護事業所からですが)訪問するスタッフによって看護・介護を提供するビジネスモデルです。2000年に介護保険制度が創設され、特定施設入所者生活介護という外付けのサービス提供の仕組みができて急増した施設カテゴリーですが、そもそも訪問看護や訪問介護の「不正請求」を生みやすい事業形態として、当初から問題視されてきました。有料老人ホームの経営コンサルティングに長年携わってきたタムラプランニング&オペレーティング社長の田村 明孝氏は、同社のWebサイトに連載しているコラムの4月10日公開分(タイトル「アンビス社IRから見た「医心館」の経営とは」)に、「『医心館』の経営はどのように行われていたか、密室性が高く分かりづらい。というのは、マスコミの取材や筆者のような外部からの見学は基本的に断られるからだ。そこで、同社が発表する決算報告書などのIRから、どのような運営が行われているか窺ってみることとする」と書き、IRに記載された「医心館」の経営概要を分析した上で次のように記しています。「一般的な住宅型有料老人ホームより高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は訪問看護」「通常、有料老人ホーム事業を開設するには、(中略)どんなに急ピッチで急いでも、年に2から3ホームが限界だ。この10倍のピッチとなり、かなり荒い運営が想像される。『医心館』が、このような、なんとも恐ろしいピッチで開設されていることに驚いた。さらに驚くのは、毎月1,000名もの入居者(退院患者?)を病院や医療機関から受け入れ、800人以上の癌末期患者を新規入居させ、その後約1月で亡くなるということだ。残りの200人未満は癌末以外の入居者で、1ヵ月以上の生存率なのだろう。この入居者は別表7や8(訪問看護において「特別な取扱いの対象」となる利用者を定めた表)に該当する難病指定患者などが多いだろうかと、邪推が働く。1室あたり売上高=年間売り上げ予想額/定員数/12カ月/稼働率この計算結果は77万円となる。一般的な住宅型有料老人ホームの売り上げ(居住費・食費・光熱費等・介護報酬)が48万円(厚労省調べ)に対して、はるかに高い売り上げとなる。この売上の差は診療報酬で、高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は、訪問看護だと納得できる。驚異的なスピード感で人の死を看取ることに、怖さを感じるのは筆者だけだろうか」。6,300万円は「調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定」と田村氏田村氏はさらに調査報告書が公表された後、9月8日にも新しいコラム(タイトル「アンビス報告書による不正請求額は6,300万円?63億円の間違いでは?」)を公開、6,300万円という金額の低さに対し「調査委員会が示しているように、本来の不正請求の実調とはかけ離れた、調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定となっている。通常、看護記録がなかった、看護実態と記録が合致しないなどの事項は、不正請求とされるのが一般的であることから鑑みると、こんな低い不正請求金額で済むはずもない。本年2月、同様に訪問看護不正請求を報道されたサンウェルズの調査委員会による不正請求額が約28億円であることから鑑みても、アンビスの不正請求額が6,300万円では社会が納得するはずもない」と強い疑義を呈しています。その上で、前述した「お知らせ」について「一連の報道に対する、上場企業としての社会的責任を負った企業の回答とは程遠く、報告書をも曲解して自己弁護に走るアンビスの姿勢からは、反省するどころか、調査委員会の再発防止策の提言を受け入れる気配も見て取れない。(中略)多死化の時代を迎えて、ホスピス住宅の適切な在り方を社会全体で考えていく必要があることからも、一連の報道に基づく事実関係をはっきりさせ、社会的信用を取り戻すべくホスピス住宅の新たな制度の創設の必要がある」と、ホスピス住宅業界の健全化を強く訴えています。有料老人ホームをはじめとする高齢者住宅業界の発展と健全化に長年携わってきた田村氏だからこそ言い切れる「正論」だと感じました。多死社会はこれから本格化します。2040年まで死亡数は増加傾向でピーク時には年間170万人になると推計されています。それに伴い、ホスピス型住宅のニーズも高まっていくでしょう。サンウェルズやアンビスの不正請求や「実態ない診療報酬請求」が顕在化してくる状況は、支払基金や地方厚生局(つまり国)のチェックの甘さと、業界の自浄作用のなさの表れとも言えます。田村氏が指摘するように、ホスピス住宅の新たなレギュレーションを早急に整備する必要がありそうです。

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慢性流涎治療にA型ボツリヌス毒素が登場/帝人ファーマ

 パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの日常症状として「流涎(よだれ)」が患者のQOLを低下させるために問題となっている。これまで、この流涎に効果的な治療法が少なかったが、2025年6月、帝人ファーマは、インコボツリヌストキシンA(商品名:ゼオマイン筋注用)について、慢性流涎の効能または効果の追加承認を取得した。そこで、同社はインコボツリヌストキシンAの追加承認について、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、パーキンソン病などの疾患と流涎の関係や治療薬の効果、投与での注意点などが解説された。 同社では、「成人の流涎は、一般にあまり知られていない症状であり、患者さんに届いていない可能性もあるので、医療機関に相談をしてもらうように啓発していきたい」と抱負を語った。医師の関心も低い慢性流涎 セミナーでは、「おとなのよだれ 慢性流涎とは ~その困りごとと本邦初の治療薬~」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部神経学講座 特任教授/順天堂大学 学長補佐)が、慢性流涎の疾患概要、患者の声、新しい治療法、今後の展望などについて講演した。 唾液は、通常耳下腺から65%、顎下腺から23%が分泌されている。1日の分泌量は1~1.5L分泌されるが、無意識に飲み込んでいるために口からあふれることはない。しかし、パーキンソン病(症候群)、ALS、筋ジストロフィー、脳性麻痺などの患者では、唾液が意図せずに慢性的に口からあふれ出ることがある。これを「慢性流涎」という。 わが国の推定患者は最大で約38万例と推定され、脳神経内科などでは診療機会が多い。とくにパーキンソン病では、進行期(診断後10~15年)に出現することが知られている。 慢性流涎は、大量のティッシュやハンカチなどの消費、衣服や寝具の汚れや肌荒れなど、患者・家族のQOLを著しく低下させるだけでなく、社会的孤立を招き、介護者の負担も増加させる。 「全国パーキンソン病友の会」が行ったアンケート調査(回答:4,173例)によると回答者の約65%が「流涎を問題」と回答していた。具体的な問題点として患者からは「他人との会話でよだれが垂れる」「デスクワークで机などが汚れる」「他人の目が気になる」などの声が寄せられ、患者家族からは「着替えの最中にも服が汚れる」「頻繁な寝具の交換が大変」などの声が寄せられた。同じく欧州のパーキンソン病患者382例に行ったアンケートでは、88%が「流涎」を経験し、そのうちの45%は医療ケアチームに相談していなかった。患者などからみた医療従事者の慢性流涎に対する関心度では、5点満点で老年科(1.9)、耳鼻咽喉科(1.6)、脳神経内科(1.5)の順で高かったが、全体の関心が薄いことがうかがえた。患者さんのQOLを改善する新しい流涎治療 流涎の治療は、嚥下障害などの危険性がある場合や本症のために社会的・日常的に制限がある場合に、患者などから要望があれば開始される。 治療では、(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)、(2)放射線治療・外科治療、(3)薬物治療が行われている。(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)では、言語聴覚士が行う構音訓練や嚥下訓練などが行われるが、長期的な効果についてはいまだ不明である。(2)放射線治療・外科治療は、リハビリテーションや薬物療法で流涎がコントロールできない場合に行われる。放射線治療は効果の持続期間が数ヵ月~5年とさまざまである。外科治療は、顎下腺または耳下腺の摘出または結紮などの手術が行われるが、その数は少ない。(3)薬物治療では、抗コリン薬の投与ができるが、幻覚・幻聴など精神症状、尿閉などの副作用のためにほぼ投与されていない(2025年6月時点で保険適用なし)。また、ボツリヌス毒素製剤は、唾液腺に約4ヵ月に1回、ボツリヌス毒素を唾液腺に注射することで唾液の量を減らす治療法であり、今回追加承認された製剤である。 ボツリヌス毒素製剤は、現在、上下肢の痙縮、斜視などの10以上の適応で承認されている製剤であり、本症では、アセチルコリン放出を阻害することで副交感神経へのシグナルを抑え、唾液の分泌を減少させる。投与ではエコー下で確認しながら、左右の顎下腺・耳下腺4ヵ所に、約4ヵ月に1回の間隔で注射する。 投与後の注意点としては、唾液の量が減ることでの口渇感や喉へのつかえ感が約1~5%で現れることが報告されている。また、投与にあたっては、口腔内の衛生の保持が重要であるほか、重症筋無力症などの全身性の筋肉脱力疾患の患者や過去に同じ薬剤でアレルギー症状のあった患者には使用はできない。そのほか、すでに唾液分泌抑制作用の薬剤を使用している人、妊婦・授乳中の人には注意が必要とされている。 服部氏は最後に「医師などから流涎患者への積極的な声かけと新しい治療薬での治療を期待したい」と述べ、講演を終えた。

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アルツハイマー病予防に対するリチウム補充の可能性/Nature

 アルツハイマー病(AD)における最初の分子変化は、これまで十分に解明されていなかった。米国・ハーバード大学のLiviu Aron氏らは、内因性リチウムが脳内で動的に調節され、加齢に伴う認知機能の維持に寄与する可能性を報告した。Nature誌オンライン版2025年8月6日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・軽度認知障害(MCI)患者において、分析した金属のうち脳内で有意に減少していたのはリチウムのみであった。・ADでは、アミロイドの隔離によってリチウムのバイオアベイラビリティがさらに低下していることがわかった。・野生型およびADマウスモデルの食事からリチウムを枯渇させることによる、脳内の内因性リチウムの役割を調査した。皮質の内因性リチウムを約50%減少させると、アミロイドβの沈着およびリン酸化タウの蓄積が著しく増加し、炎症誘発性のミクログリアの活性化、シナプス、軸索、ミエリンの喪失、さらに認知機能低下の加速が引き起こされることが明らかとなった。・これらの効果は、少なくとも部分的に、キナーゼGSK3βの活性化を介していた。・単核RNA-seq解析では、リチウム欠乏は、複数の脳細胞種においてトランスクリプトーム変化を引き起こしており、これらはADにおけるトランスクリプトーム変化と重複することが示唆された。・アミロイド結合能を低下させたリチウム塩であるオロト酸リチウムによる補充療法は、ADマウスモデルおよび老化野生型マウスにおいて、病理学的変化および健忘症を予防することが示された。 著者らは「これらの知見は、脳における内因性リチウムの生理学的影響を明らかにし、リチウム恒常性の破綻がAD発症の初期段階である可能性を示唆している。リチウム塩によるリチウム補充は、ADの予防および治療への潜在的なアプローチとなりうる可能性がある」としている。

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レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?【外来で役立つ!認知症Topics】第33回

レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?認知症には70以上もの原因疾患があるが、レビー小体型知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)、血管性認知症に次ぎ3番目に多い。ADのMCI(軽度認知障害)の特徴はわかっていても、「MCIレベルのDLBの特徴は?」と問われると、筆者は最近まで「はて?」という状態であった。DLB研究の元祖である小阪 憲治先生の名言に「DLBを知れば知るほど、その幅広さがわかってくる」というものがある。臨床の場でこの病気の患者さんを診ていると、一言でDLBといっても、見られる症候は実にさまざまであり、この言葉はまさに至言である。また、この病気の大脳病理について経験豊かな友人が次のように教えてくれた。「レビー小体病といっても、さまざまな病変分布や病理の程度にグラデーションがあって、検査前の見込みと検査結果はしょっちゅう乖離する。ADのほうがずっと簡単」と。DLBの診断では、激しい寝ぼけ(レム睡眠行動障害)、幻視、パーキンソン症候、そして認知機能などの変動が大きいことが軸である。DLBの権威であるIan G. McKeith氏らによれば、MCIレベルのDLBには3つの表現型がある。まず「精神症状初発型」、次に「せん妄初発型」、さらに認知機能障害パターンから分類される「MCI-LB」タイプである。今回は、この3つについてまとめてみたい。1)精神症状初発型他の認知症性疾患と比べたとき、DLBの初発症状として、老年期になって初発する大うつ病や精神病は、とても際立っている。代表的な症状としては、人の姿が見えるといった幻視、家族を偽物だと思い込むような妄想や誤認がある。また、アパシー(無気力)、不安がある。こうした症状で初発する認知症性疾患は他にまずないため、これらの症状はDLBを疑う大きなヒントになる。レム睡眠行動障害(RBD)も有用な着眼点になるが、抗うつ薬を使うことによってRBDが生じることもあるので、ここは要注意である。また、DLB を疑ううえで、パーキンソン症状の中で、動作緩慢よりも振戦や筋硬直のほうが、より有用である。なお、精神病発症型のDLB発症時では、パーキンソン症候、認知機能の変動、幻視、RBDという典型症候がみられたのは、わずか3.8%にすぎなかったという報告がある1)。この数字が語るのは、目の前の患者さんは「精神疾患に間違いない、まさかDLBとは!」と誰もが思ってしまう落とし穴だろう。2)せん妄初発型認知機能の変動、意識の清明度・覚醒度の変化は、DLBの中核症状である。そのため、せん妄で初発する人も多い。これまで認知機能障害がなかった人で、いきなりせん妄が生じるのはなぜだろうか? まずDLBという病態はせん妄を来しやすい素地を持っているのかもしれないし、あるいは曇りを伴う重篤な意識の変動をせん妄とみている可能性もある。さらにはこれら両者なのかもしれないが、答えはわからない。ところで、せん妄初発のDLBの存在に留意することには別の意義もある。というのは、一般的なせん妄に対する第1選択薬は抗精神病薬とされるが、もしこの型のDLBにこうした薬剤を投与したら、症状が悪化する可能性が高いからである。なお、せん妄や意識変動はDLB患者の介護者の43%が報告するほど多く、4人に1人のDLB患者がせん妄を繰り返し、累積の回数はAD患者のそれの約4倍といわれる。また、DLBが診断される前にみられるせん妄は、ADに比べて6倍近く高い。高齢患者においてせん妄が長引く場合、実は背後にDLBが隠れていると考えるべきとされる。つまり、「病歴にせん妄が多ければDLBを想起!」である。3)MCI-LBMCIの概念は、1990年代のRonald C. Petersen氏による提唱で有名になったが、それは「アルツハイマー病前駆状態では、他の認知機能は保たれているのに記憶のみが障害される」というものであった。このオリジナルの概念に改変がなされ、現在では「記憶障害」対「非記憶の認知機能障害」、障害される認知領域が「単数」対「複数」という基準で4つのMCI亜型に分類されるようになった。Petersen氏の提唱したオリジナルMCIは、ADの予備軍における「記憶障害」+「単数」である。しかし、レビー小体型認知症の前駆状態であるMCI-LBは、「非記憶障害」が基本で、障害領域は「単数」も「複数」もある。とくに最初期には、本人も介護者も記憶障害を訴えないことが珍しくない。つまり記憶障害は比較的軽い一方で、主に注意や遂行機能障害といった前頭葉の機能障害がみられる。また錯視など、視覚認知に障害を認める例もある。いずれにせよ、記憶障害単独型MCIのADコンバートに対して、「非記憶型」のMCI-LBがADになることはまれで、その10倍もDLBになりやすい。4)その他の留意点DLBにおけるRBDの意味RBD(レム睡眠行動障害)はDLB診断において重要である。ある12年間の追跡調査では、RBDを持つ人の73.5%が、 DLBなど神経変性疾患にコンバートしたという報告もある2)。悪夢は周囲の人によって気付かれ、RBD診断の手がかりになるが、鑑別すべきものに睡眠時無呼吸症候群、睡眠中のてんかん発作などがある。確実な診断には、ポリソムノグラフィによる測定が望まれる。どんなタイプのMCIであれ、RBDを伴うときはDLBを想起すべきである。自律神経症状などDLB患者で、初診時に自律神経障害を認めることもまれではない。便秘、立ちくらみ、尿失禁、勃起障害、発汗増加、唾液増加などのどれか1つ以上が、25~50%の患者で見つかる3)。しかし、こうした症状は他のさまざまな疾患でも見られるため、それらがあるからといって必ずしもDLBだと思う必要もない。なお、無嗅覚症もDLBのMCI期によくみられるが、その原因は数多あるため(たとえば新型コロナウイルス感染症など)、診断的価値がとくに高いわけではない。1)Gunawardana CW, et al. The clinical phenotype of psychiatric-onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review. J Neurol. 2024;271:606-617.2)Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. 2019;142:744-759.3)McKeith IG, et al. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. 2020;94:743-755.

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老年医学のトビラ

何となくではなく そろそろちゃんと勉強したい皆さん 5Mでひらく高齢者診療へようこそ目の前には常に高齢の患者さんがいます。老年医学の「トビラ」は、現在の高齢者診療の複雑な問題の象徴です。本書はこのトビラを開く鍵となる「5つのM」に沿って解説しています。5つのMとは、Mobility(身体機能)、Mind(認知機能・精神的側面)、Medications(薬剤)、Multicomplexity(複雑性・多疾患併存)、Matters Most(最も大切なこと)。これを軸に、転倒やせん妄、認知症、うつ病・不眠、薬剤、フレイル、尿失禁・便秘、さらに高齢者の「見えない」「聞こえない」「においがわからない」「食べられない」の訴えにアプローチしていきます。スクリーニング・予防,事前指示、ケアのゴール設定も含めて1冊で勉強できる、これが老年医学入門の「新定番」です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する老年医学のトビラ定価4,840円(税込)判型A5版頁数276頁発行2025年8月監修山田 悠史ご購入はこちらご購入はこちら電子版はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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大脳皮質基底核変性症〔CBD:corticobasal degeneration〕

1 疾患概要■ 定義大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)は、進行性に運動症状および皮質症状を呈するまれな神経変性疾患である。病理学的には4リピートタウ(4R tau)の異常蓄積を特徴とするタウオパチーに分類され、進行性核上性麻痺(PSP)と並ぶ代表的な非アルツハイマー型タウオパチーである。1968年にRebeizらが初めて報告し、当初は“corticodentatonigral degeneration with neuronal achromasia”と呼ばれたが、1989年にGibbらにより現在の病理診断名であるCBDの呼称が確立された。臨床的には非対称性のパーキンソニズムと皮質徴候を呈するが、この臨床像はCBD以外の病理を背景にすることも多く、臨床診断名としては「大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)」が用いられる。■ 疫学CBDは稀少疾患であり、わが国での有病率は10万人当たり約9人程度と報告されている。発症年齢は70歳代が中心で、性差については明確な傾向は認められていない。リスク因子としては、同じ4リピートが蓄積するタウオパチーであるPSPと共通するものとしてMAPT遺伝子やMOBP遺伝子が疾患感受性遺伝子として同定されているほか、CBDに特異的なものとしてInc-KIF13B-1遺伝子やSOS1遺伝子などCBDに特異的な遺伝的要因も報告されている。環境要因に関しては明らかになっていない。■ 病因CBDはタウ蛋白異常蓄積を主体とする神経変性疾患である。4R tauが神経細胞やグリア細胞に異常沈着し、神経原線維変化やアストロサイトの変性を引き起こす。とくにCBDに特徴的なのはアストロサイトの変化で、astrocytic plaqueの形成が診断上重要な所見とされる。神経細胞では神経原線維変化は少なく、プレタングル(神経原線維変化が起こる前の段階の状態)が主体である。病変分布は前頭葉・頭頂葉皮質に目立ち、しばしば左右非対称性を示す点が特徴である。クライオ電子顕微鏡にて、タウ蛋白は4層の折り畳み構造をしていることが判明した。■ 症状CBDは多彩な臨床症状を呈するが、典型例では左右非対称性の運動緩慢、固縮、ジストニア、ミオクローヌスなどの錐体外路徴候に加え、失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質徴候を示す。症状が一側から始まり、徐々に対側にも及ぶ点がCBDの重要な特徴である。認知機能障害や言語障害、行動異常も出現し得る。また、嚥下障害、構音障害など球症状も進行に伴って出現する。進行はパーキンソン病より速く、レボドパへの反応性は乏しい(表)。表 大脳皮質基底核変性症と進行性核上性麻痺の比較画像を拡大する■ 分類CBDの臨床病型は多彩であり、最も頻度の高いのはCBSであるが、全体の約40%にとどまる。その他の主要な臨床型として、PSP様症候群(Progressive Supranuclear Palsy Syndrome:PSPS)前頭葉性行動・空間症候群(frontal behavioral-spatial syndrome:FBS)非流暢/失文法型原発性進行性失語(Nonfluent/Agrammatic variant of Primary Progressive Aphasia:naPPA)アルツハイマー病様認知症が知られている。ただし、アルツハイマー病様認知症は、アルツハイマー病との鑑別が難しいため、Armstrongらによる臨床診断基準には含まれていない。また、まれに後部皮質萎縮症やレビー小体型認知症に類似した臨床像を呈する例もある。■ 予後CBDは進行性の神経変性疾患であり、発症から平均10年程度で高度機能障害に至る。多くの症例では、運動症状と認知機能障害が並行して進行し、日常生活動作は急速に低下する。レボドパなど抗パーキンソン病薬は無効あるいは効果が一時的であり、根本的治療法は存在しない。2 診断CBDの臨床診断は困難である。2013年にArmstrongらによる臨床診断基準が作成され、CBSのみならずFBS、naPPA、PSPSなど多様な臨床表現型を対象としている。ただし感度・特異度はいまだ十分でなく、臨床診断のみで確定することは難しい。画像検査では左右非対称の前頭葉・頭頂葉萎縮を認めることがあり、頭部MRIが有用である。脳血流SPECTやFDG-PETが補助的に用いられる。近年では脳脊髄液(CSF)や血液バイオマーカー、タウPETを用いた研究が進められているが、確立した診断法はまだ存在しない。最終的な確定診断は、病理診断に依存する。鑑別すべき疾患としてはPSP、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、自己免疫性パーキンソニズム(IgLON5抗体関連疾患など)がある。とくにPSPとの鑑別は臨床的に最も問題となる。CBDは難病法に基づく指定難病(指定難病7)に指定されており、厚生労働省が定める診断基準を満たした場合に医療費助成が受けられる。3 治療現在、CBDに対する根本的治療は存在しない。治療は対症的であり、薬物療法とリハビリテーションが中心となる。運動症状に対してはレボドパを試みるが、効果は限定的で持続しないことが多い。ジストニアやミオクローヌスに対しては抗てんかん薬や筋弛緩薬が用いられることがある。非流暢性失語や行動障害には言語療法、作業療法、心理社会的介入が重要である。嚥下障害が進行すれば栄養管理や誤嚥予防が不可欠となる。根本的治療としては、タウを標的とした分子標的薬の開発が進行している。抗タウ抗体(tilavonemab、gosuranemab)はPSPで第II相試験が行われたが有効性を示せなかったため、現在はタウの中間ドメインを標的とする抗体や、タウ蓄積を抑制する低分子医薬品の臨床試験が進められている。また、RNA干渉や遺伝子治療など革新的治療法も研究段階にある。CBD単独を対象とした臨床試験はあまり行われていない。4 今後の展望CBDは病理学的に定義される疾患であるため、臨床的に早期診断することはきわめて難しい。したがって、画像や体液バイオマーカーの確立が喫緊の課題である。近年の研究では、血漿やCSFにおけるリン酸化タウ(p-tau)や神経フィラメント軽鎖(NfL)が候補とされ、タウPETによる分布解析も進められている。また、わが国におけるJ-VAC研究により、CBS症例から病理診断を予測する臨床特徴の抽出が試みられており、PSPとの鑑別に一定の知見が得られている。さらにタウを標的とした疾患修飾療法の開発が進んでおり、将来的にはCBDの進行抑制が可能になることが期待される。そのためにも、早期の症例登録と臨床試験参加が重要である。5 主たる診療科脳神経内科、リハビリテーション科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 大脳皮質基底核変性症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金事業 神経変性疾患領域の基盤的調査研究班 『CBD診療マニュアル2022』(医療従事者向けのまとまった情報)Aiba I, et al. Brain Commun. 2023;5:fcad296.公開履歴初回2025年9月11日

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第27回 なぜ経済界トップは辞任したのか?新浪氏報道から考える、日本と世界「大麻をめぐる断絶」

経済同友会代表幹事という日本経済の中枢を担う一人、サントリーホールディングスの新浪 剛史氏が会長職を辞任したというニュースは、多くの人に衝撃を与えました1)。警察の捜査を受けたと報じられる一方、本人は記者会見で「法を犯しておらず潔白だ」と強く主張しています。ではなぜ、潔白を訴えながらも、日本を代表する企業のトップは辞任という道を選ばざるを得なかったのでしょうか。この一件は、単なる個人のスキャンダルでは片付けられません。日本の厳格な法律と、大麻に対する世界の常識との間に生じた「巨大なズレ」を浮き彫りにしているかもしれません。また、私たち日本人が「大麻」という言葉に抱く漠然としたイメージと、科学的な実像がいかにかけ離れているかをも示唆しているようにも感じます。本記事では、この騒動の深層を探るとともに、科学の光を当て、医療、社会、法律の各側面から、この複雑な問題の核心に迫ります。事件の深層 ― 「知らなかった」では済まされない世界の現実今回の騒動の発端は、新浪氏が今年4月にアメリカで購入したサプリメントにあります。氏が訪れたニューヨーク州では2021年に嗜好用大麻が合法化され、今や街の至る所で大麻製品を販売する店を目にします。アルコールやタバコのように、大麻成分を含むクッキーやオイル、チョコレートやサプリメントなどが合法的に、そしてごく普通に流通しています。新浪氏は「時差ボケが多い」ため、健康管理の相談をしていた知人から強く勧められ、現地では合法であるという認識のもと、このサプリメントを購入したと説明しています。ここで重要になるのが、大麻に含まれる2つの主要な成分、「THC」と「CBD」の違いです。THC(テトラヒドロカンナビノール)いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ主要成分です。日本では麻薬及び向精神薬取締法で厳しく規制されており、これを含む製品の所持や使用は違法となります。THCには多幸感をもたらす作用がある一方、不安や恐怖感、短期的な記憶障害や幻覚作用などを引き起こすこともあります。CBD(カンナビジオール)THCのような精神作用はなく、リラックス効果や抗炎症作用、不安や緊張感を和らげる作用などが注目されています。ただし、臨床的に確立されたエビデンスはなく、愛好家にはエビデンスを過大解釈されている側面は否めません。「時差ボケ」を改善するというエビデンスも確立していません。日本では、大麻草の成熟した茎や種子から抽出され、THCを含まないCBD製品は合法的に販売・使用が可能です。新浪氏自身は「CBDサプリメントを購入した」という認識だったと述べていますが、問題はここに潜んでいます。アメリカで合法的に販売されているCBD製品の中には、日本の法律では違法となるTHCが含まれているケースが少なくありません。厚生労働省も、海外製のCBD製品に規制対象のTHCが混入している例があるとして注意を呼びかけています2)。まさにこの「合法」と「違法」の境界線こそが、今回の問題の核心です。潔白を訴えても辞任、なぜ? 日本社会の厳しい目記者会見での新浪氏の説明や報道によると、警察が氏の自宅を家宅捜索したものの違法な製品は見つからず、尿検査でも薬物成分は検出されなかったとされています。また、福岡で逮捕された知人の弟から自身にサプリメントが送られようとしていた事実も知らなかったと主張しています。法的には有罪が確定したわけでもなく、本人は潔白を強く訴えている。にもかかわらず、なぜ辞任に至ったのでしょうか。その理由は、サントリーホールディングス側の判断にありました。会社側は「国内での合法性に疑いを持たれるようなサプリメントを購入したことは不注意であり、役職に堪えない」と判断し、新浪氏も会社の判断に従った、と説明されています。これは、法的な有罪・無罪とは別の次元にある、日本社会や企業における「コンプライアンス」と「社会的信用」の厳しさを物語っているのかもしれません。とくにサントリーは人々の生活に密着した商品を扱う大企業です。そのトップが、たとえ海外で合法であったとしても、日本で違法と見なされかねない製品に関わったという「疑惑」が生じたこと自体が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクとなります。結果的に違法でなかったとしても、「違法薬物の疑いで警察の捜査を受けた」という事実だけで、社会的・経済的な制裁が下されてしまう。これが、日本社会の現実です。科学は「大麻」をどう見ているのか?この一件を機に、私たちは「大麻」そのものについて、科学的な視点からも冷静に見つめ直す必要があるでしょう。世界中で医療大麻が注目される理由は、THCやCBDといった「カンナビノイド」が、私たちの体内にもともと存在する「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」に作用するためです3)。ECSは、痛み、食欲、免疫、感情、記憶など、体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。この作用を利用し、既存の薬では効果が不十分なさまざまな疾患への応用が進んでいます4)。がん治療の副作用緩和抗がん剤による悪心や嘔吐、食欲不振を和らげる効果。アメリカではTHCを主成分とする医薬品(ドロナビノールなど)がFDAに承認されています。難治性てんかんとくに小児の難治性てんかんにCBDが効果を示し、多くの国で医薬品として承認されています。その他多発性硬化症の痙縮、神経性の痛み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、幅広い疾患への有効性が研究・報告されています。このように、科学の視点で見れば、大麻はさまざまな病気の患者を救う可能性を秘めた「薬」としての側面を持っています。「酒・タバコより安全」は本当か? リスクの科学的比較「大麻は酒やタバコより安全」という言説を耳にすることもあります。リスクという側面から、これは本当なのでしょうか。単純な比較はできませんが、科学的なデータはいくつかの客観的な視点を提供してくれます。依存性生涯使用者のうち依存症に至る割合は、タバコ(ニコチン)が約68%、アルコールが約23%に対し、大麻は約9%と報告されており、比較的低いとされます5)。しかし、ゼロではなく、使用頻度や期間が長くなるほど「大麻使用障害」のリスクは高まります。致死量アルコールのように急性中毒で直接死亡するリスクは、大麻には報告されていません6)。長期的な健康への影響精神への影響大麻の長期使用、とくに若年層からの使用は、統合失調症などの精神疾患のリスクを高める可能性が複数の研究で示されています。とくに高THC濃度の製品を頻繁に使用する場合、そのリスクは増大すると考えられています7)。また、うつ病や双極性障害との関連も指摘されていますが、研究結果は一貫していません。身体への影響煙を吸う方法は、タバコと同様に咳や痰などの呼吸器症状と関連します。心血管系への影響(心筋梗塞や脳卒中など)も議論されていますが、結論は出ていません8)。一方で、運転能力への影響は明確で、使用後の数時間は自動車事故のリスクが有意に高まることが示されています6)。国際的な専門家の中には、依存性や社会への害を総合的に評価すると、アルコールやタバコの有害性は、大麻よりも大きいと結論付けている人もいます。しかし、これは大麻が「安全」だという意味ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを持っていると理解するべきでしょう。世界の潮流と日本のこれからかつて大麻は、より危険な薬物への「入り口」になるという「ゲートウェイ・ドラッグ理論」が主流でした。しかし近年の研究では、もともと薬物全般に手を出しやすい遺伝的・環境的な素因がある人が複数の薬物を使用する傾向がある、という「共通脆弱性モデル」のほうが有力だと考えられています9)。アメリカでは多くの州で合法化が進みましたが、社会的なコンセンサスは得られていません。賛成派は莫大な税収や犯罪組織の弱体化を主張する一方、反対派は若者の使用増加や公衆衛生への悪影響を懸念しています。合法化による長期的な影響はまだ評価の途上にあり、世界もまた「答え」を探している最中です。ただし、新浪氏の問題は、決して他人事ではないと思います。今後、海外で生活したり、旅行したりする日本人が、意図せず同様の事態に陥る可能性は誰にでもあります。また、この一件は、私たちに大きな問いを投げかけています。世界が大きく変わる中で、日本は「違法だからダメ」という思考停止に陥ってはいないでしょうか。もちろん、法律を遵守することは大前提。しかし同時に、大麻が持つ医療的な可能性、アルコールやタバコと比較した際のリスクの性質、そして世界の潮流といった科学的・社会的な事実から目を背けるべきではありません。今回の騒動をきっかけに、私たち一人ひとりが固定観念を一度リセットし、科学に基づいた冷静な知識を持つこと。そして社会全体で、この複雑な問題について、感情論ではなく建設的な議論を始めていくこと。それこそが、日本が世界の「ズレ」から取り残されないために、今まさに求められていることなのかもしれません。 1) NHK. サントリーHD 新浪会長が辞任 サプリメント購入めぐる捜査受け. 2025年9月2日 2) 厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部. CBDオイル等のCBD関連製品の輸入について. 3) Testai FD, et al. Use of Marijuana: Effect on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2022;53:e176-e187. 4) Page RL 2nd, et al. Medical Marijuana, Recreational Cannabis, and Cardiovascular Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2020;142:e131-e152. 5) Lopez-Quintero C, et al. Probability and predictors of transition from first use to dependence on nicotine, alcohol, cannabis, and cocaine: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2011;115:120-130. 6) Gorelick DA. Cannabis-Related Disorders and Toxic Effects. N Engl J Med. 2023;389:2267-2275. 7) Hines LA, et al. Association of High-Potency Cannabis Use With Mental Health and Substance Use in Adolescence. JAMA Psychiatry. 2020;77:1044-1051. 8) Rezkalla SH, et al. A Review of Cardiovascular Effects of Marijuana Use. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2025;45:2-7. 9) Vanyukov MM, et al. Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend. 2012;123 Suppl 1:S3-17.

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砂糖の取り過ぎは認知症リスクと関連するか

 過剰な糖質の摂取は、認知症リスクの上昇と関連しているといわれているが、これまでの研究ではサンプル数が少なく、糖質の総量に着目しているため、特定の糖質サブタイプに関する調査は限られていた。中国・西安交通大学のYue Che氏らは、糖質の摂取量およびサブタイプと認知症リスクとの関係を評価するため、プロスペクティブコホート研究を実施した。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌オンライン版2025年7月31日号の報告。 英国バイオバンク参加者のうち、24時間食事回想法を1回以上実施した17万2,516人を対象に分析を行った。糖質の総量およびサブタイプ(遊離糖、果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、その他の糖類)について、Cox比例ハザードモデルを用いて、認知症リスクに関するハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。性別による層別化分析も実施した。 主な結果は以下のとおり。・糖類の総量(HR:1.292、95%CI:1.148〜1.453)、遊離糖の量(HR:1.254、95%CI:1.117〜1.408)が多い場合、認知症リスク上昇との関連が認められた。・乳製品以外の外因性糖類(HR:1.321、95%CI:1.175〜1.486)、ショ糖(HR:1.291、95%CI:1.147〜1.452)においても、認知症リスクとの正の相関が認められた。・これらの関連性は、女性において顕著であり、糖類の総量および遊離糖、ブドウ糖、ショ糖、乳製品以外の外因性糖類の摂取量の増加は、それぞれ独立して認知症リスク上昇との関連が認められた。一方、男性では有意な関連は認められなかった。 著者らは「糖類の総量および遊離糖、ショ糖、乳製品以外の外因性糖類の摂取量が多いと、とくに女性では認知症リスクが上昇することが示唆された」としている。

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他者を手助けする活動で認知機能の低下速度が緩やかに

 年齢を重ねても脳の健康を維持したい人は、定期的に地域や近所でボランティア活動を行うか、友人や家族を手助けすると良いようだ。そうした他者を手助けする活動を定期的に行っている人では、その活動が公式か非公式かにかかわらず、加齢に伴う認知機能の低下速度が緩やかであることが、新たな研究で示された。米テキサス大学(UT)オースティン校人間発達・家族科学分野のSae Hwang Han氏らによるこの研究の詳細は、「Social Science & Medicine」10月号に掲載された。Han氏は、「組織的なものであれ個人的なものであれ、日常的に他者を手助けすることは認知機能に永続的な影響を及ぼす可能性がある」と述べている。 この研究では、1998年から2020年の間にU.S. Health and Retirement Study(全米健康と退職研究)に参加した米国の51歳以上の成人3万1,303人のデータを用いて、他者を手助けする役割の変化やその活動時間の増減が認知機能にどのように影響するのかを検討した。他者を手助けする役割は、公式なボランティア活動と、家族や友人を手助けする個人的な援助に分けて検討した。個人的な援助の例は、友人の医療機関受診の予約を取ることや、ベビーシッターをすることなどである。 その結果、公式なボランティア活動か個人的な援助かを問わず、他者を助ける活動を始めた人では、そうした活動をしていない人に比べて認知機能が高く、加齢に伴う認知機能の低下がより緩やかであることが明らかになった。また、他者を手助けする活動を継続的に行うことは認知機能に累積的なベネフィットをもたらし、時間が経つほどその効果が大きくなることも示された。さらに、認知機能へのベネフィットを得るためには、そうした活動を行う時間が1週間に2~4時間程度と中程度の活動量で十分であることも示された。 Han氏は、「私にとって印象的だったのは、他者を手助けすることでもたらされる認知機能へのメリットが短期的なものではなく、そうした活動を継続することで経時的に蓄積されるという点だ。こうしたメリットは、公式なボランティア活動と非公式な援助の両方で認められた」とUTのニュースリリースの中で述べている。同氏は、「それだけでなく、わずか2~4時間程度の関与でも、一貫して大きなベネフィットにつながっていた」と付け加えている。 Han氏はまた、「個人的な手助けは非公式であり社会的に認知されないため、健康に対する効果が小さいと思われがちだ。しかし、そうした行為でも公式なボランティア活動に匹敵する認知機能の向上が見られたことは、嬉しい驚きだった」と語っている。 研究グループは、毎年のように他者を手助けする活動を行うことが習慣になっている人の間では、より大きなベネフィットを期待できるのではないかとみている。Han氏は、「一方で、他者を手助けする活動を完全にやめてしまうことは、認知機能の低下と関連していることが示された。これは、高齢者が可能な限り何らかの形でそうした活動に関わり続けることの大切さを示しており、そのためには適切なサポートや配慮が必要なことを示している」と述べている。 研究グループは、他者を手助けする活動によりもたらされるベネフィットは、社会的つながりの強化か、あるいは毎日の生活の中で抱えるストレスの軽減によりもたらされる可能性が高いと見ている。こうした活動は、時間の経過とともに人の認知機能を蝕むとされる孤立感や孤独感を軽減することができる可能性があるという。

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AIチャットボットによるてんかん教育介入の効果、「えぴろぼ」の実用性と今後の課題

 てんかんを正しく理解し、偏見なく接する社会をつくるには、患者本人だけでなく周囲の人々の知識と意識の向上が欠かせない。こうした中、患者やその支援者にてんかんに関する情報や心理的サポートを提供する新しい試みとして、人工知能(AI)を活用したチャットボット「えぴろぼ」が登場した。今回、「えぴろぼ」の利用によって、てんかん患者に対する態度の改善や疾患知識の向上が認められたとする研究結果が報告された。研究は、国立精神・神経医療研究センター病院てんかん診療部の倉持泉氏らによるもので、詳細は「Epilepsia Open」に7月28日掲載された。 近年、AIやデジタルヘルスの進展により、チャットボットを活用した医療支援が注目されている。てんかん患者の多くは、自身の疾患に関する知識が不十分で、治療への関与や生活の質(QoL)にも影響を及ぼしている。また、スティグマや心理的負担から、教育プログラムへの参加率も低いのが現状である。こうした課題を受けて、埼玉医科大学、埼玉大学、国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームは、患者や支援者が場所や時間を問わず情報にアクセスできる新たな教育支援ツールとして、AIチャットボット「えぴろぼ」を開発した。本研究では、「えぴろぼ」がてんかんに関する知識や意識の改善にどのように寄与するかを検討した。 本研究は2つのフェーズで構成されていた。最初に、チャットボットの内容を洗練させるための予備的な試験フェーズを実施し、その後、本介入フェーズに移行した。本フェーズでは、スマートフォンアプリを通じて「えぴろぼ」を利用するために176名(てんかん患者13名、現在支援者として関わっている者69名、将来支援者となる可能性がある者28名、その他66名)が登録した。調査では、チャットボット使用前後での、てんかんに関する知識や偏見・スティグマ、患者自身のセルフスティグマ(内在化されたスティグマ)を評価した。経時的な変化の分析には、対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。 登録した176名のうち、82名(てんかん患者9名、患者家族25名、支援者25名、医療従事者12名、その他11名)が介入前後の調査を完了した。参加者の平均年齢は41.8歳であり、ほとんどの参加者がてんかんについてある程度の知識をもっていた。約半数の参加者はてんかん発作を目撃した経験があると回答していたが、発作への対応について自信があると回答した者は半数に満たなかった。 「えぴろぼ」による介入は、てんかん患者に対する職場での平等に関する意識に有意な改善をもたらし(P<0.001)、てんかん治療に関する知識の向上にもつながった(P=0.022)。QOLやてんかんに関する一般的な知識については、統計的に有意ではなかったものの改善傾向を示した。一方で、てんかん患者(n=9)では、てんかんに関連するセルフスティグマのわずかな増加が観察された(P=0.31)。 本研究について著者らは、「今回の結果は、『えぴろぼ』がてんかんに関する教育や心理的支援において、広く活用できるデジタルツールとしての可能性を示している。その一方で、患者自身のセルフスティグマへの対応は今後の課題として残されている」と述べた。 なお、介入によりセルフスティグマが増加した理由について、著者らは評価期間が約1カ月と短いこと、また対象に含まれるてんかん患者が少数であることを限界として指摘した上で、「教育介入によって知識が増えた結果、むしろ自身が置かれた社会的立場や偏見を意識するようになり、結果として一時的にセルフスティグマが強まった可能性が考えられる」と言及している。

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体がだるくて横になりたい【漢方カンファレンス2】第5回

体がだるくて横になりたい以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 30代男性 主訴 全身倦怠感、頭痛、めまい、微熱 既往 特記事項なし 生活歴 医療従事者、喫煙なし、機会飲酒 病歴 X年8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患。咽頭痛や38℃台の発熱があったが、合併症はなく2日後には解熱した。 その後、全身倦怠感、頭痛、ふらふらとするめまいが出現、夕方になると37℃台の微熱がでる日が続いた。疲労感が強く仕事に支障が出るようになり、休息をとったり、欠勤したりしないと体が動かない。 総合診療科で精査を受けたが明らかな異常なし。11月に漢方治療目的に受診。 現症 身長174cm、体重78.5kg。体温37.2℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整 経過 初診時 「???(A)」エキス+「???(B)」エキス3包 分3で治療を開始。 2週後 少し動けるようになった。まだ仕事を休むことがある。 寒くなって体が冷えるようになった。 ブシ末エキス1.5g 分3を併用。 1ヵ月後 めまいや頭痛が改善した。まだ体が冷える。 「???(B)」を「???(C)」エキスに変更した。(解答は本ページ下部をチェック!) 2ヵ月後 冷えと全身倦怠感が軽くなった。 5ヵ月後 普通に働けるようになり、残業もできるようになった。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 感染してから寒がりになって体が冷えるようになりました。 いつも厚着をしています。 体全体が冷えます。 きつくていつも横になりたいです。 微熱はどのくらいですか? いつ出ますか? 熱っぽさはありますか? 37℃前半です。 夕方に出ることが多いです。 体熱感はありません。 熱が出る前はぞくぞくと体が冷えます。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 入浴で温まると体は楽になりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴時間は長いです。 温まると少し楽になるのですが、入浴後はすぐに体が冷えてしまいます。 冷房は嫌いです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きません。 温かい物を飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 味覚はありますか? 1日1Lくらいです。 食欲はあります。 味覚は異常ないです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は4〜5回/日です。 布団に入ってからはトイレに行きません。 下痢気味で1日2〜3回です。 便の臭いは強いですか? 弱いですか? 嘔気はありませんか? 便の臭いは強くありません。 嘔気はありません。 <ほかの随伴症状> 頭痛やめまいはどのような感じですか? 雨や低気圧で悪化しませんか? 頭痛は頭全体が重い感じがします。 歩くとふらふらとめまいがします。 雨が降ると頭痛やめまいはひどい気がしますが、天気がよくても頭痛はあります。 全身倦怠感はとくにいつが悪いですか? とくにきついときはいつですか? 横になると楽になりますか? 日中きついですが朝がとくにぐったりします。 仕事をしたり、動いたりすると悪化します。 仕事もきつくて休みがちです。 よく眠れますか? 中途覚醒や悪夢はありませんか? 眠れますが熟睡感はありません。 中途覚醒や悪夢はありません。 咳や痰はありませんか? 昼食後に眠くなりませんか? のどのつまりはありませんか? 抜け毛が多いですか? 集中力がなかったりしませんか? 皮膚は乾燥しますか? 咳や痰はなくなりました。 昼食後は眠くなります。休みの日はほぼ1日中寝ています。 のどのつまりはありません。 抜け毛が多いです。 集中できずに、頭が働かない感じがあります。 皮膚は乾燥します。 意欲の低下や不安はありませんか? 体がきつくてやる気が出ません。 このまま治らないのではと不安です。 【診察】診察室でも厚手の上着を羽織っている。脈診では沈で反発力の非常に弱い脈。また、舌は暗赤色、湿潤した薄い白苔、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力はやや充実、両側胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、腹直筋緊張、両臍傍の圧痛を認めた。下肢の触診では冷感あり。カンファレンス 今回は30代男性のCOVID-19罹患後症状の症例です。 頻度は高くないものの、コロナ感染後にいわゆる後遺症といわれるような全身倦怠感を中心としたさまざまな症状が持続する方がいます。現代医学的にも確立された治療法がないので漢方という選択肢があるのはよいですね。 漢方治療でもCOVID-19罹患後症状は症状が多彩でまだ確立された治療があるとはいえませんが、こんなときこそ漢方診療のポイントに沿った治療が大事です。今回の症例は、全身倦怠感以外にも、頭痛、めまい、微熱、集中力の低下と症状がたくさんあります。 どこから手をつけるべきか悩ましいですね。全身倦怠感、めまい、頭痛ということで気虚や水毒が目立つ気がします。 漢方診療のポイントに沿って全体像を捉えていくことが大事だよ。 わかりました。では漢方診療のポイント(1)病態の陰陽ですが、本症例は37℃台前半の熱があることから陽証で、さらに夕方に熱が出るという病歴から少陽病の往来寒熱(おうらいかんねつ)が考えられます。 よく覚えていますね。胸脇苦満もありますし、少陽病の往来寒熱と合致しますね。 体温をそのまま熱ととってはいけないよ。漢方では体温計で測定した温度でなく、あくまで患者の自覚的な熱や冷えを重視するんだ。陰証で発熱するときに用いる漢方薬があるよ。覚えているかい? えっと、少陰病の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。寒が主体の陰証の風邪に用いるのでした。 そのとおり。発熱はあってもゾクゾクと冷えて倦怠感が強いことが特徴でしたね。 ほかには?? …わかりません。 同じく少陰病の真武湯(しんぶとう)、さらに四逆湯(しぎゃくとう)でも発熱がみられることがあるんだ。陰証の最後のステージである厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあり、それを裏寒外熱(りかんがいねつ)とよぶよ。だから、一見すると陽証にみえることもあるんだ。 厥陰病でも発熱がみられることがあるのですね。アイスクリームの天ぷらのような状態ですね。 裏寒外熱がある場合は通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)が典型だけど、真武湯や四逆湯の適応例でも発熱する場合があるとされているよ。これらは、真の熱ではなく、見せかけの熱といった意味で虚熱(きょねつ)というよ。 患者の自覚的な熱感や冷えのほかに鑑別する方法はありますか? 入浴や飲み物などの寒熱刺激に対する情報や四肢の触診などの所見も大事だけど、最終的には脈の浮沈や反発力が頼りになるね。陰証の場合の脈は沈・弱が特徴だからね。 もう一度、本症例の漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からみていきましょう。 微熱がありますが体熱感がなく、感染後から寒がりで体が冷えるようになった、厚着、入浴時間は長い、入浴後にすぐに体が冷えるなどから陰証が揃っていますね。それに脈も沈ですから少陽病とは考えにくいですね。 そうだね。入浴で温まってもすぐに冷える、下肢の触診でも冷感があり、冷えの程度が強そうだね。六病位はどうだろう? 横になりたいほどの倦怠感からは少陰病が示唆されます。本症例の微熱を裏寒外熱とすれば、厥陰病の可能性もありますか? そうですね。脈の力が非常に弱いので厥陰病で四逆湯の適応も考えられます。ですからこの症例は少陰病〜厥陰病、虚証でよいでしょう。 「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような」軟弱無力な脈は四逆湯の診断に重要だね。当科の回診でもこの脈が四逆湯の適応だ! と強調して必ず研修に来た先生に触れてもらっているよ。 本症例の虚実ですが、脈は弱ですが、腹力は中等度より充実と一致していません。どう考えたらよいでしょうか? 脈のほうが変化が早く、現在の状態を表しているといえるので、脈の所見を重視したほうがよいだろうね。それも軟弱無力な典型的な四逆湯の脈だからね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 全身倦怠感、昼食後の眠気は気虚です。頭痛やめまいがありますが、雨天と関連があるので水毒です。 気虚と水毒がありますね。下痢や尿の回数が4〜5回と少ないのも水毒です。ほかはどうでしょうか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥は血虚です。 頭が働かない感じで集中できないというのも血虚を示唆するよ。血虚は皮膚、筋肉、髪だけの問題ではないからね! COVID-19罹患後症状のブレインフォグは血虚や腎虚と考えるとよい印象があるね。 覚えておきます。とくに朝調子が悪い、やる気が起きないというのは気鬱でしょうか。 そうだね。これだけきつそうだと気鬱もあるよね。ほかにはどうだろう? 舌下静脈の怒張、臍傍圧痛は瘀血です。今回の症例は気血水の異常もたくさんありますね。 なかなか手強い症例ですね。また精査で明らかな異常はなく、30代と働き盛りなのにこれだけきつがっているのは非常につらい倦怠感で煩躁(はんそう)と考えてよさそうですね。 ハンソウ? どこかで聞いたような? 非常に苦しがっている状態を煩躁というのでしたね。煩躁といえば、考えられる処方は? …。 陽証だと大青竜湯(だいせいりゅうとう)、陰証だと呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)が代表でした。インフルエンザの症例で、麻黄湯(まおうとう)のように無汗、多関節痛に加えて、非常に苦しがっている場合に大青竜湯、頭痛で非常に苦しがっている場合に呉茱萸湯、冷えて非常につらい倦怠感を訴える場合に茯苓四逆湯が適応になるのでした。 ここはキモだから覚えておかないといけないね。その他エキス剤にはないけど、小青竜加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが煩躁に適応する処方だよ。 本症例をまとめます。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?厚着、寒がり、体が冷える、下肢の冷感、横になりたいほどの倦怠感、脈:沈→陰証(少陰病〜厥陰病)×微熱、往来寒熱、胸脇苦満→脈や冷えから少陽病ではなさそう(2)虚実はどうか脈:非常に弱い、腹:やや充実→虚証(脈を優先)(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気→気虚意欲の低下、朝調子が悪い→気鬱頭痛、めまい、雨天に悪化→水毒抜け毛、皮膚の乾燥、集中力の低下→血虚舌下静脈の怒張、臍傍圧痛→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む非常につらい倦怠感、脈が軟弱無力解答・解説【解答】本症例は、茯苓四逆湯の方意でA:真武湯+B:人参湯(にんじんとう)で治療開始しました。また経過中に人参湯からC:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)に変更しました。【解説】四逆湯は少陰病〜厥陰病に用いられる漢方薬で附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)で構成されます。四逆湯を現代医学で例えると、敗血症性ショックで低体温をきたした症例に保温しながら急速補液とノルアドレナリンで昇圧するイメージです。動物実験で出血性ショックモデルに対して茯苓四逆湯を投与すると心拍出量の増加と体温保持作用を示したという研究1)や四逆湯類がエンドトキシンショックに対して、血圧上昇、好中球数の上昇の抑制などによりショック予防効果を示したとする報告2)があります。現代は四逆湯を重篤な急性疾患に用いることはまれですが、慢性疾患で冷えや全身倦怠感がともに高度な場合に活用します。通脈四逆湯も四逆湯と同じく附子、乾姜、甘草で構成されますが、乾姜の比率が多くなります。乾姜はとくに消化・呼吸に関連する臓器を温めて賦活する作用が主体で、通脈四逆湯は体の中心を温めて元気をつけていくような漢方薬です。茯苓四逆湯は四逆湯に補気作用のある茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)を加えたものです。茯苓四逆湯や通脈四逆湯はエキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスで代用できます。今回のポイント「少陰病・厥陰病」の解説陰証は寒が主体の病態で、少陰病になってくると寒が強く全身に及び、陰証のまっただ中になります。新陳代謝が低下して体力が衰えていることが特徴です。そのため少陰病は、生体の闘病反応が乏しく実証(じっしょう)であることはなく虚証(きょしょう)のみになります。脈も沈んで反発力が弱くなります。疲れやすくてすぐに横になりたがることが多く、「横になるところがあれば横になりたいですか?」「座るところがあったら座りたいですか?」と問診して、少陰病でないか確認します。さらに陰証の最後のステージである厥陰病に進行すると、冷えと全身倦怠感の程度が一段と強くなり、「極度の虚寒」、「極虚(きょくきょ)」といわれます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような、緊張感のない脈」とたとえられます。厥陰病は急性感染症ではショック状態に陥ったような危篤状態ですが、慢性疾患では冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と捉えて治療します。また厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあります(裏寒外熱)。そのため一見すると陽証にみえることもあります。少陰病や厥陰病の治療では、代表的な熱薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)を含む漢方薬を用いて治療します。少陰病では真武湯や麻黄附子細辛湯が代表です。さらに進行すると附子とともに乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)を用いて強力に体を温める治療を行います。附子、乾姜、甘草の3つの生薬から構成される漢方薬は四逆湯が基本となり、茯苓四逆湯や通脈四逆湯を用いて治療します。今回の鑑別処方附子と乾姜はそれぞれ温める力の強い熱薬といわれる生薬です。それぞれ温める部位や作用に違いがあって附子は先天の気を貯蔵する腎とかかわりが強く、そのほかに関節痛などに対する鎮痛作用があります。乾姜は消化や呼吸にかかわる消化管や肺を温める作用があります。また温め方にも違いがあり、附子はバーナーで炙ったり、電子レンジで温めたりするような急速に体全体を温めるイメージですが、乾姜は炭火でコトコトじっくり内臓を温めるイメージです。表に附子や乾姜が含まれる代表的な漢方薬を示しました。乾姜を含む漢方薬の場合、漢方薬が合っている場合は乾姜の辛みを感じずに甘く感じることがあります。逆に乾姜を含む漢方薬を必要としない症例では、辛くて飲みづらいと訴えます。人参湯には乾姜が含まれ、さらに附子を加えると附子理中湯になります。同様に大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)も冷えが強ければ附子を加えて治療します。四逆湯は附子と乾姜を両方とも含みます。本症例のように茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスを併用するとエキス製剤で代用が可能です。通脈四逆湯には乾姜が多く含まれています。ちょっと苦しいですが、エキス剤のなかで比較的乾姜の量の多い苓姜朮甘湯にブシ末を併用することで代用することもあります。また実際の附子の漸増の方法として、慎重に行う場合、(1)最も気温が低下する朝1包(0.5g)増量、(2)朝夕に1包ずつ増量(1.0g)、(3)毎食後3包 分3に増量(1.5g)と順を追ってするとよいでしょう。慣れてくれば本症例のように、常用量のブシ末を一度に3包(1.5g)分3で増量することも可能です。参考文献1)木多秀彰 ほか. 日東医誌. 1995;46:251-256.2)Zhang H, et al. 和漢医薬雑誌. 1999;16:148-154.

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第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)

アンビス運営のホスピス型住宅で起きていたと報道された診療報酬の不正請求について特別調査委員会が報告書を公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末はいろいろなことがありました。石破 茂首相が突然、退陣表明をしました。各紙報道を読む限り、どうやら参院選大敗の責任をとったのではなく、自民党内の権力闘争に敗れた結果ということのようです。自民党は相変わらず国民の生活そっちのけで、旧態依然とした党内抗争を続けています。そのこと自体が参院選の敗北含めた国民離れを招いていることに気付いていないのでしょうか。謎です。ロサンゼルス・ドジャースの山本 由伸投手が、ノーヒット・ノーランを最後のワンアウトで逃したのも残念な結果でした。なぜ山本投手はあそこでカットボールを投げたのでしょう(この日結構投げていたので狙われた可能性も) 。素人考えですが、スプリットを低めに落としておけば楽に三振を取れたような気もします。こちらも謎です。さて、2025年8月8日、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)は、同社子会社運営のホスピス型住宅で診療報酬の不正請求があったとの報道に関し、特別調査委員会の報告書を公表しました。報告書は「通知に係る法的認識の不十分さや記録の不整備」により、診療報酬請求の要件を満たしていなかった事案があったとする一方で、「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と結論付けました。この報告書によって、「不正請求はなかった」と一件落着したように見えますが、なかなかどうして、その後も不正行為の存在を報じる報道もあり、問題の収束にはまだ時間がかかりそうです。「医心館」併設の訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求していた疑いがあると共同通信が報道アンビスホールディングスの子会社のアンビス(東京都中央区)は、末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」を全国で運営しています。同社は名古屋大学出身の医師、柴原 慶一氏が2013年に設立。末期がんや難病の人を最期まで看取る施設が少ないことから急成長し、8月末日現在、全国で約130ヵ所を展開するまでになっています。ホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。今年3月、共同通信がこの「医心館」において併設する訪問看護ステーションで不正に診療報酬を請求した疑いがある、と報じたことをきっかけに、医心館のケア内容に注目が集まることになりました。訪問看護だけでなく訪問介護についても不正があったようだとの続報も「【独自】ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所『医心館』」と題された3月23日付の共同通信の記事は次のように書いています。「『医心館』のうち複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった。元社員らは、必要ないのに訪問して過剰に報酬を請求する行為も常態化していたと指摘している」。さらに、「末期がんなどの患者への訪問看護では、必要があれば1日3回まで診療報酬を請求でき、複数人での訪問には加算が付く。訪問時間は原則、30分以上と定められている。関東のそれぞれ別の地域で働いていた複数の看護師によると、医心館では併設のステーションの看護師らが入居者の居室を巡回。いずれも『必要性に関係なく全員、最初から1日3回訪問と決まっていた』と証言した。『実際には大半が数分間の訪問だったが『30分』と記録していた』『1人で訪問した場合でも複数人での訪問として、報酬を請求していた』などと口をそろえた」と具体的な請求方法について元職員の証言をベースに報じました。さらに共同通信は4月27日、「医心館、訪問介護でも不正請求か ホスピス最大手、会社ぐるみ疑い」と題するニュースを発信、「『医心館』を巡り、訪問介護でも不正・過剰な介護報酬を請求していたとみられることが27日、複数の現・元社員の証言で分かった。共同通信が入手した社内のオンライン会議の動画では、会社ぐるみで不正を行っていた疑いも判明した」と報じ、「医心館では看護・介護とも入居者への訪問予定表が1日ごとに作成される。『予定表通りに実施した』として記録を作り、報酬を請求していたが、実際には予定通り訪問しないことが多かった」などという元職員の証言を紹介しています。「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こうした不正請求疑惑に対し、アンビスホールディングスは、3月27日に社外の弁護士や会計士で構成された特別調査委員会を設置、報道内容に関わる事実関係として、(1)1日3回の訪問看護を設定する必要性の有無、(2)短時間訪問の実態、(3)複数名での訪問看護を設定する必要性および複数名訪問看護の実態、(4)(1)~(3)の検討結果等を踏まえたアンビスによる診療報酬請求の当否、(5)類似事案の有無、について調査を進めてきました。8月8日に公表された調査の結果では、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想が認められること、訪問看護におけるルートの設定及び人員配置の問題性、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制が不十分であったこと、社内におけるコミュニケーションの不足など、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。厚労省通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案は診療報酬額で約5,300万円に相当調査の結果、明らかに短時間の訪問と見なされた訪問看護記録は6万5,227件で、そこから複数名の訪問看護を要すると判断される記録を除く9,990件は、通知に定める「訪問看護」の実態を欠く事案であると判定、診療報酬額で約5,300万円に相当するとしました。加えて、訪問看護記録上は複数名訪問となっていたが実態が認められなかったと判定したのは1,352件(約359万円)でした。この他、調査の過程で、本社コンプライアンス部の運営指導対策の一環として、タイムカードの写しが書き換えられていたことも判明しています。職員の勤怠記録と訪問看護記録の食い違いがあった訪問看護または訪問介護業務について、ほかの資料などからも、サービス提供の実態があったと確認できなかった事案が970件(約514万円)あったとしました。 特別調査委員会は、正確な記録を残していなかった、通知との適合性確認を十分行わないなど法令順守の意識が低かった、現場任せの運用で適切な訪問看護業務を遂行するための組織体制が整備されていなかった、などの点が訪問実態に疑義のある事案が発生した原因になったと分析。再発防止策として、正確な記録作成の徹底、適正な訪問ルートの作成とそれに見合った人員配置、内部統制の再構築などを提言しています。アンビスホールディングスは「影響額は僅少なもの」と発表調査報告書を受けた後、8月8日にアンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表、「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。そして、訪問看護の提供実態の根拠となる資料の記載が不十分であるとの指摘には、「調査報告書の指摘を真摯に受け止め、改善に努める」「組織構造の変更・人員配置の適正化で記録の不備が起きにくい体制を構築するとともに、少額ではあるものの誤謬が発生したことに対し、より一層ミスが起きにくい組織体制を実現するよう取り組んでいく」としました。気になった報告書の内容とアンビスの解釈のズレ特別調査委員会の報告書は、端的に言えば”上場企業にもかかわらず、運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしています。加えて、業績に対する影響の話とはいえ「6,300万円は売上総額の0.05%程度で僅少」という捉え方にも違和感を覚えます。株主対策として「僅少」と言いたいのかもしれませんが、診療報酬には税金も入っており、単なる企業の売上とは意味合いが異なります。普通、医療機関が6,300万円も不正請求をしたら、保険医療機関取り消しとなるでしょう。ズレ、違和感は、マスコミの報道でも感じました。共同通信や全国紙の多くが「実態のない診療報酬の請求額が6,300万円あった」ことにフォーカスしていた一方で、「結果はシロ」「共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっている」と、真逆ともとれる報道をするメディアもありました。一体、どちらの解釈が正しいのでしょうか?(この項続く)

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心房細動と動脈硬化、MRIで異なる脳血管病変示す/ESC2025

 心房細動(AF)とアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)は、一般集団と比較して脳血管病変の発生率を高める。今回、AF患者は動脈硬化患者と比較して、非ラクナ型脳梗塞、多発脳梗塞、重度の脳室周囲白質病変の発生頻度が高いことが明らかになった。本研究結果はカナダ・マクマスター大学のTina Stegmann氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)の心房細動のセッションで発表し、European Heart Journal誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 本研究は、AF患者と動脈硬化患者の脳MRIによる血管性脳病変の有病率と分布を比較するため、スイスの心房細動コホート研究(Swiss-AF、AF患者を対象)とCOMPASS MIND研究(COMPASS MRIサブ解析、AFのない動脈硬化患者を対象)を実施。ベースライン時点の臨床データと標準化された脳MRIを使用して、ラクナ梗塞と非ラクナ型脳梗塞、脳室周囲および白質高信号(WMH)、微小出血(CMB)の発生率をグループ間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は3,508例(AF群:1,748例、動脈硬化群:1,760例)であった。・平均年齢±SDはAF群73±8歳、動脈硬化群71±6歳、女性比率はそれぞれ28%と23%であった。・AF群の90%は抗凝固療法が行われ、動脈硬化群の93%は抗血小板療法が行われていた。・AF群は動脈硬化群と比較し、非ラクナ型脳梗塞の発生率が高く(22%vs.10%、p<0.001)、一方で動脈硬化群ではラクナ梗塞の発生率が高かった(21%vs.26%、p=0.001)。・AF患者では脳室周囲白質病変の重症度が高く(49%vs.37%、p<0.001)、CMBは、動脈硬化群でより多く認められた(22%vs.29%、p<0.001)。・多変量解析では、AF群は動脈硬化群と比較して、非ラクナ型脳梗塞のオッズ比(OR)が高く(OR:2.28、95%信頼区間[CI]:1.86~2.81、p<0.001)、ラクナ梗塞では低かった(OR:0.66、95%CI:0.56~0.79、p<0.001)。また、重度の脳室周囲白質病変はOR1.42と高かった(95%CI:1.22~1.67、p<0.001)。 研究者らは「これらの知見は、心血管疾患患者での血管性脳病変の発症における疾患特異的なメカニズムを裏付けている」としている。

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事例31 メマンチン塩酸塩錠の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、院外処方箋にて投与した「メマンチン塩酸塩錠」が、A事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。この通知は「突合点検結果連絡書」にて届きました。同連絡書は、医科と調剤のレセプト内容を照らし合わせて薬剤などが査定対象となる場合に使用されます。「当院に責がある場合には、調剤薬局にて調剤済みの薬剤料を当院の診療報酬から相殺する」との連絡書です。当院に責がないと判断できる場合は、同文書を「処方箋内容不一致連絡書」として異議申し立てを行います。異議申し立てが認められれば、医療機関からの診療報酬の相殺は行われません。そのために、この帳票で連絡があった場合には、必ず査定原因を調べることにしています。最初に「メマンチン塩酸塩錠」の添付文書を調べてみました。添付文書に記載された効能または効果には、「中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」とあります。レセプト傷病名欄には、「アルツハイマー型認知症」とあり、レセプト内にコメント記載はありませんでした。また、支払基金が公表している査定情報の「一般的取り扱い」にヒントはないかと調べてみました。276番に「メマンチン塩酸塩錠」の記載があり「アルツハイマー型認知症」は認められない病名には該当していませんでした。一見、問題はないようにみえます。同じく277番には、「維持量(有効用量)まで増量しない継続投与は、原則として認められる」とあり、投与も適正と考えられます。もう一度、添付文書をみてみました。効能または効果に「中等度及び高度」の文字があります。レセプト記載は「アルツハイマー型認知症」のみでした。これでは「重症度」の判断がつきません。そのために、「解釈上、補足がない場合は一番軽いものとみなす」という原則が適用され、「中等度及び高度」の状態にはないとみなされ、適応外になったものと推測ができます。医師には「メマンチン塩酸塩錠」の投与時には、病名に「重症度」の記載をお願いしました。今回は、「中度」であったことがわかるカルテ記載を添付して再審査請求を行ったところ復活しています。査定対策として、レセプトチェックシステムに「メマンチン塩酸塩錠」処方時には「重症度」の入力がないと指摘があるように登録しました。

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英語で「MRI」を説明するには?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第32回

医学用語紹介:MRI「MRI」は医療現場では頻繁に行われる画像検査です。日本でもMRIと言って患者さんに通じる場合もありますが、ぴんとこない方もいますよね。では、英語の場合、どのように説明すればよいでしょうか?講師紹介

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男女間におけるレビー小体とアルツハイマーにおける認知機能低下の違い

 カナダ・Sunnybrook Research InstituteのMadeline Wood Alexander氏らは、アルツハイマー型認知症(AD)とレビー小体型認知症(LBD)の神経病理および認知機能低下に対する性別や閉経年齢の影響を調査した。Annals of Neurology誌オンライン版2025年7月11日号の報告。  Rush Alzheimer's Disease Centerの3つのコホート(Religious Orders研究、Rush Memory and Aging Project、Minority Aging Research研究)およびNational Alzheimer's Coordinating Centerの神経病理データセットを用いて、分析を行った。LBD(大脳新皮質/辺縁系型vs.非大脳新皮質型)とADの神経病理学的評価には、神経斑(ジストロフィー性神経突起により囲まれているβアミロイド斑)と神経原線維変化を含めた。各データセットにおいて、LBDと性別が神経斑、神経原線維変化、認知機能低下に及ぼす相互の影響を検証した。さらに、Rushデータセットを用いて、女性の自然閉経年齢がLBDと神経斑、神経原線維変化、認知機能低下との関連を変化させるかを検証した。 主な結果は以下のとおり。・Rushデータセットより女性1,277人、男性579人、National Alzheimer's Coordinating Centerデータセットより女性が3,283人、男性3,563人を対象とした。・両データセットにおいて、男性はLBDの可能性が高く、女性は神経斑と神経原線維変化の負荷がより大きかったことが示唆された。・性別は、LBDと神経原線維変化との関連性を変化させたが、神経斑との関連は認められなかった。女性では、男性よりも、LBDと神経原線維変化負荷の増加とのより強い関連が認められた。・併存する病態(神経斑、神経原線維変化、LBDのいずれかが該当する場合)で調整後、男性ではLBD関連の認知機能低下が速く、女性では神経原線維変化関連の低下がより速かったことが示唆された。・女性では、閉経年齢の早さがLBDと神経原線維変化負荷およびエピソード記憶の低下との関連性を悪化させることが示された。 著者らは「性別は、ADおよびLBDの神経病態に影響を及ぼす可能性があり、認知症の予防や介入に対するより精密なアプローチの必要性が示唆された」と結論付けている。

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