アルツハイマー病(AD)における最初の分子変化は、これまで十分に解明されていなかった。米国・ハーバード大学のLiviu Aron氏らは、内因性リチウムが脳内で動的に調節され、加齢に伴う認知機能の維持に寄与する可能性を報告した。Nature誌オンライン版2025年8月6日号の報告。
 主な内容は以下のとおり。
・軽度認知障害(MCI)患者において、分析した金属のうち脳内で有意に減少していたのはリチウムのみであった。
・ADでは、アミロイドの隔離によってリチウムのバイオアベイラビリティがさらに低下していることがわかった。
・野生型およびADマウスモデルの食事からリチウムを枯渇させることによる、脳内の内因性リチウムの役割を調査した。皮質の内因性リチウムを約50%減少させると、アミロイドβの沈着およびリン酸化タウの蓄積が著しく増加し、炎症誘発性のミクログリアの活性化、シナプス、軸索、ミエリンの喪失、さらに認知機能低下の加速が引き起こされることが明らかとなった。
・これらの効果は、少なくとも部分的に、キナーゼGSK3βの活性化を介していた。
・単核RNA-seq解析では、リチウム欠乏は、複数の脳細胞種においてトランスクリプトーム変化を引き起こしており、これらはADにおけるトランスクリプトーム変化と重複することが示唆された。
・アミロイド結合能を低下させたリチウム塩であるオロト酸リチウムによる補充療法は、ADマウスモデルおよび老化野生型マウスにおいて、病理学的変化および健忘症を予防することが示された。
 著者らは「これらの知見は、脳における内因性リチウムの生理学的影響を明らかにし、リチウム恒常性の破綻がAD発症の初期段階である可能性を示唆している。リチウム塩によるリチウム補充は、ADの予防および治療への潜在的なアプローチとなりうる可能性がある」としている。
      
      
            (鷹野 敦夫)