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●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)