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万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 3

精神科医の「ブラックボックス」治は捕まった後に取り調べの刑事にのらりくらりと答えます。信代はいかに自分たちが悪くないかを刑事に切々と語ります。しかし、刑事たちは彼らの矛盾点を突き、思惑をすべて見破っています。ここでまた仮定の話です。治と信代が、社労士の指南のもと、精神科医に年金の診断書の作成を迫った時、精神科医はどうするでしょうか? 刑事と同じことができるでしょうか?最後に、精神科医の「ブラックボックス」を3つに分けてみましょう。(1)確かめようがない-良識年金の等級を決定付けるのは、日常生活能力がどれくらい落ちているかでほぼ決まります。これは、食事管理、清潔管理、金銭管理などの生活面で、どれくらいできないことがあるかで判定されます。ここで、患者が「できないことばかりだ」と言い張り、具体的にできないことを社労士がリストアップした「病状報告書」を持ってきたら、精神科医はどう思うでしょうか?1つ目は、確かめようがないという心理です。身体障害と違って、精神障害は、客観的な検査による根拠が基本的にありません。診断基準は、数値化されておらず、明確になっていません。どうしても、患者の訴えを根拠にするウェートが大きくなります。もちろん、明らかに矛盾した病状は却下できます。しかし、「できない」と言い張る患者に対して、「できる」と精神科医が言い返すには、実際に患者の自宅に精神科医が住み込んで、その様子を確かめるしかありません。また、患者の発言が90%の可能性で虚偽だと思っても、残りの10%で真実の可能性もあります。精神科医が責任を問われるのは、圧倒的に、患者を信じてだまされることよりも、だまされまいとして患者を信じないことです。なぜなら、患者は「弱者」だからです。そして、医師をはじめとする援助職は、基本的に「性善説」のスタンスで仕事をするべきと思われているからです。逆に言えば、これが精神科医の「弱み」です。つまり、良識的な精神科医ほど、なかなか患者の訴えを否定しないです。(2)争いたくない-平和主義精神科医は、どんな患者もどんな状況をも受容する姿勢で診療を行っています。つまり、基本的に患者の味方で、物ごとの白黒をはっきり付けないかかわりを好みます。なぜなら、それが病状を良くするからです。しかし、一方で、急に患者が社労士とタッグを組んで、障害年金を必死にとりにやって来たら、精神科医はどう思うでしょうか?2つ目は、争いたくないという心理です。なぜなら、精神科医は、白黒はっきりさせる刑事ではないからです。もともと味方に徹していただけに、年金の話になると、急に敵対的になるのは、やるせないです。そして、何より、その切り替えが難しいです。また、精神科医は、「心」を扱うだけに、明らかなウソを除いて、ウソっぽく聞こえても、表向きだけでも信じたふりをします(受容)。なぜなら、信頼関係を損ねたくないからです。そして、信頼関係が病状の安定につながるからです。とくに、開業医の場合は、「患者を失いたくない」「悪い噂を立てられたくない」「トラブルを避けたい」という心理もあるでしょう。これは開業医の「泣き所」です。つまり、平和主義の精神科医ほど、なかなか患者の訴えの真偽の白黒を付けないです。(3)時間がない-事なかれ主義精神科医は、ほかの科の医師と比べると、比較的に診療の時間に余裕があります。しかし、カルテをはじめとする書類作成は、ほかの科の医師と比べて、圧倒的に多いです。そんな中、患者と押し問答となり、何度も説明の時間を取られたり、何度も社労士から診断書の書き直しを迫られたら、精神科医はどう思うでしょうか?3つ目は時間がないという心理です。持久戦に持ち込まれると、精神科医は、これ以上時間を取られたくないので、確信犯的に「患者を信じる」という大義名分に逃げてしまうのです。なぜなら、先ほど説明した平和主義は、裏を返せば、事なかれ主義だからです。これでは社労士の粘り勝ちです。とくに、開業医は狙われます。なぜなら、もともと時間がないからです。開業医によっては、最初からスタッフに診断書の作成を任せて、最後にサインをするだけの場合もあります。この状況で、社労士から「診断書原案」が送られてきたら、ありがたくいただき、丸写しさせるでしょう。これは、社労士の「思うつぼ」です。つまり、事なかれ主義の精神科医ほど、患者の訴えを鵜呑みにしてしまいます。「障害年金ビジネス」の問題点は?精神障害年金の不正受給は、不正に年金を手に入れたい患者がいて、それを指南する社労士がいて、それに言いなりになる精神科医がいることで成り立つことが分かりました。これは、もはや「障害年金ビジネス」と呼べるでしょう。「貧困ビジネス」や「自立支援ビジネス」とからくりは同じです。これらが、表向きには「貧困をなくす」「ひきこもりを脱する」と言っておきながら、貧困者を貧困のままに、ひきこもりをひきこもりのままにすることで利益を追求します。これと同じように、「障害年金ビジネス」は、表向きには「障害者の権利を守る」と言っておきながら、障害者を「障害がある」ままにすることで利益を追求しています。このビジネスの問題点を、大きく3つあげてみましょう。(1)結局、患者のためにならない1つ目は、結局、患者のためにならないことです。たとえば、精神科医と患者の信頼関係を揺るがすことはすでに説明しました。これは、精神科医だけでなく、患者にとってもマイナスです。また、精神科医が言いなりにならなければ、その精神科医を代えるよう社労士が薦めることもマイナスです。そして何より、患者は、実は「障害がある」わけではなくなっているのに、「障害がある」ままにされることで、「病気だからしかたない」「障害があるから働かない」などと病人になりきってしまう心理を強め、その状況に甘んじて、リハビリや就労に消極的になることです(シックロール)。また、このビジネスモデルは、「もらえないはずの年金をもらえるようにしてあげますよ(だって精神科医の診断書に働きかけるから)」と患者の欲をあおることですが、実はもう1つあります。それは、「このままではもらえるはずの年金がもらえないかもしれないですよ(だって精神科医の診断書はいい加減だから)」と患者の不安をあおることです。つまり、もともと社労士の介入がなくても、もらえるはずの年金についても、あたかも社労士の介入によって「勝ち取った」という体裁にすれば、「成功報酬」を堂々と受け取ることができます。精神科医が障害年金についての理解や関心が乏しいとの指摘は、社労士による指南書に書かれています。確かに、この指摘は、精神科医が肝に命じるべきことです。しかし、両方とも、患者に揺さぶりをかけるという点では、やはり不適切であり、患者のためになりません。(2)不正で不公平である2つ目は、不正で不公平であることです。これは、当たり前の話になります。たとえば、「障害がある」ふりをする患者は、そうしない患者よりも、毎月6万5千円(基礎年金2級相当)を手にします。「障害がある」よう指南する社労士は、そうしない社労士よりも、1件あたり10万~50万円の高額報酬を手にします。そして、「障害がある」ことに言いなりになる精神科医のクリニックには、そうしない精神科医のクリニックから、不正に年金を手に入れたい患者が流れて増えていきます。これまで、社労士は、インターネットなどで知ってやってきた患者にしか介入してきませんでした。しかし、最近では、社労士が精神科クリニックに直接提携を持ちかけるという話を耳にします。これは、精神科医が年金診断書を希望する患者を社労士に紹介する見返りに、社労士が精神科医に紹介料を支払うというシステムです。そうすることで、社労士はこのビジネスの「取りこぼし」を減らすことができます。精神科医は、年金診断書の作成代行をしてもらえるばかりか、紹介料をもらえます。この提携は、精神科医が虚偽記載のリスクが高まる一方、社労士は「ノーリスクハイリターン」のままになります。これは、社労士にとって新たなビジネスモデルになりうるでしょう。(3)年金の財源を圧迫する現時点で、障害年金の受給者は、老齢年金に比べると、かなり少ないです。ただし、年金の財源が、危ういのは周知の通りです。今後、この「障害年金ビジネス」が広がったら、どうなるでしょうか?3つ目は、年金の財源を圧迫することです。端的に言えば、財源を食いつぶすことです。このビジネスの次のマーケットとして掘り起こされる可能性が高いのは、ひきこもりです。ひきこもりは、それ自体は精神障害とは認められておらず、年金の受給対象ではありません。働いていないとは言っても、日常生活に取り立てて制限はありません。ただし、社労士が指南をすれば、「うつ病」の診断で、2級(毎月6万5千円)が取れるでしょう。精神科医にとって、この「患者」の手ごわい点は、もともと就労していないこと、そして長年自宅にこもっているという状況証拠があることです。それに加えて、初診から、「うつ病」の症状を一貫して訴えられたら、そして実際には内服しないであろう抗うつ薬の処方をその「患者」が希望し続けたら、年金診断書を書かないわけには行かなくなります。つまり、このビジネスで圧倒的に損をするのは、国です。なぜなら、本来ないはずの支出が、「障害がある」ふりをした患者に支払った分(その一部はそれを指南した社労士に間接的に支払われるわけですが)、増えていくからです。また、一方で本当に「障害がある」患者は損をします。なぜなら、本来あるはずの受給金が、社労士に支払った分、減ってしまうからです。果たして、このような状況は、障害年金の制度として成り立つと言えるでしょうか? どうすれば良いの?それでは、一体どうすれば良いでしょうか? 今度は、精神科医、年金制度、社会の3つの立ち位置に分けて、それぞれの取り組みを一緒に考えてみましょう。<< 前のページへ

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第16回 その腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)

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USMLE Step1、あなどれない基礎医学【臨床留学通信 from NY】第3回

第3回:USMLE Step1、あなどれない基礎医学今回から、USMLEのStepについてそれぞれ具体的な対策に触れていきます。まずはStep1です。この試験は基礎医学からの出題となりますが、その内容は臨床に必要な基礎医学を問うもので、いわゆる医学部低学年で基礎医学の試験を受けるのとは異なる印象でした。ただ、臨床をやりながら英語に興味があって英文の医学雑誌が読めたとしても、基礎医学の英語については馴染みがないのが普通です。そのため、Step1の問題に出てくる英語を逐一覚えていく(というより、問題を解きながら内容と共に頭に入れていく)という点で、Step2 CKとは大きく異なり、労力を要する試験と言えます。さらに私の場合、前述した通り、医学部時代の大部分をテニスに費やしたため、基礎医学の内容が日本語でもよくわかっていませんでした。早い段階で受験を考えていれば、学生のうちにStep1に挑戦する人もいますが、臨床をやりながら受験する際には、その時の忙しさ等も鑑みて、半年以上の時間を割けるタイミングでの受験となります。具体的な試験対策としては、First Aidを一度通読した後、オンライン問題集のUSMLE worldを解き始めるわけですが、1回目は辛うじて理解するのがやっとであり、各セクションの参考書で知識を補完していく形で進めることになると思います。ちなみに、USMLE worldの解説は、かなり丁寧でわかりやすいです。以下に私が使用した参考書を列挙します。Behavioral scienceこの分野は日本にはなく、Board Review Series (BRS Behavioral Science)を一読しました。Biochemistry配点が高いとされるBiochemistryについては、Lippincottで勉強はしましたが、通読はハードルが高く、わからないところは問題を解きながらその都度つぶしていくのがいいと思います。単語を覚えるのにも苦労しました。Microbiology臨床で感染症が得意であれば、さほど難しくはないと思います。日々の臨床で、Bacteria等の分類などを意識するようにしましょう。Lippincottを持ってはいましたが、どんどん問題を解いていくのがいいでしょう。PathologyこちらもBRSを一読しました。そこまで難しくない分野かと思います。Pharmacologyこちらも、薬理学的作用を日頃から意識するようにしておけば、難しくはないと思います。Lippincottを持ってはいましたが、こちらも問題をどんどん解いていくのがいいと思います。その他、physiologyなどの分野に関しては、First AidとUSMLE worldのみで勉強しました。やはり徹底した問題集研究こそが王道!とにもかくにも興味がある人は、教科書から入るのではなく、First Aidをざっと見終わったら、思い切ってUSMLE worldを解いてみるのがいいでしょう。医学部の試験も、専門医の試験も過去問から、と言われている通り、いくら教科書を読み込んでも、すぐさまアウトプットに結びつかないものなのです。Column画像を拡大する先月(9月)は、サンフランシスコでTCTというカテーテルの学会に参加してきました。ポスターではありますが、登壇し、口頭の発表と質問応答をする必要がありました1)。渡米して1年を超えましたが、まだまだ英語力が足りていないのを痛感しました。1)http://www.onlinejacc.org/content/74/13_Supplement/B305

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ESMO2019レポート 消化器がん

レポーター紹介胃がんに対する術前化学療法の意義―PRODIGY試験とRESOLVE試験切除可能な進行胃がんに対する治療は本邦では、S-1、CapeOx、SOX、S-1+ドセタキセル(DS)による術後補助化学療法が標準的治療の位置付けである。欧州では、FLOT4試験の結果、術前術後に3剤併用療法を行うことが標準となった。今回、アジアから2つの術前治療に関する第III相試験が発表された。PRODIGY試験は、韓国で実施されたcT2-3N+M0またはcT4NanyM0に対する術前DOS療法+手術+術後S-1療法(以下、CSC群)の、手術+術後S-1療法(以下、SC群)に対する優越性を検証する第III相無作為化比較試験である。計530例が登録され、最終的な解析対象(FAS)は484例であった。年齢中央値は両群とも58歳、食道胃接合部原発が5%程度含まれていた。CSC群におけるGrade3以上の治療関連有害事象として、好中球減少12.6%、発熱性好中球減少9.2%、下痢5.0%を認め、術前治療中の治療関連死は0.8%であった。手術におけるR0切除割合は、CSC群(238例)96.4% vs.SC群(246例)85.8%(p<0.0001)であった。CSC群では病理学的完全奏効(CR)が10.4%(p<0.0001)で認められた。主要評価項目の3年無増悪生存期間(PFS)は、CSC群66.3% vs.SC群60.2%(HR:0.70、95%CI: 0.52~0.95、p=0.0230)であった。ITT解析でもHR:0.69、6ヵ月のランドマーク解析でもHR:0.71と一貫した結果であった。RESOLVE試験は、中国で行われたcT4a/N+M0またはcT4bNanyM0に対する、術後XELOX、術後SOX、術前SOX+手術+術後SOXの3群比較試験である。計1,094例が登録され、年齢中央値は59~60歳、食道胃接合部原発が35~38%含まれていた。術後化学療法実施割合は、各群66~70%であった。3年無病生存(DFS)は、術後XELOX群と比較して、術前術後SOX群で優越性が示され(54.78% vs.62.02%、HR:0.79、95%CI:0.62~0.99、p=0.045)、術後SOX群の非劣性が示された(54.78% vs.60.29%、HR:0.85、95%CI:0.67~1.07、Non-Inferiority margin:1.33)。以上、中国および韓国から2つの第III相試験が報告され、術前化学療法の優越性が検証された。試験の質も大きな問題はないと考えられ、本邦の実地臨床にも外挿できる可能性が高いと考えられる。ただ、中国の試験はcT4と局所進行症例の中でもより進行した集団が対象であること、韓国の試験は優越性を示すも、PFS曲線はほぼR0切除率の差がPFSの差につながっていることが示唆されることを考慮すれば、すべての切除可能胃がんで術前化学療法が必要とは言い切れないだろう。ただ、発表からは術前化学療法の有害事象も許容範囲内で、術後合併症の発生割合も同程度であったことから、大きなデメリットが感じられない。本邦では、JCOG1509試験、JCOG1704試験の2つの胃がんにおける術前化学療法を検討する前向き試験が実施中である。前者はcT3-4N+M0(肉眼型大型3型および4型を除く)を対象に術前S-1+オキサリプラチン(OX)療法の優越性を無治療群と比較する第III相試験、後者はBulky Nがあるものを対象にしたDOS療法を評価する第II相試験である。これらの試験の結果を待つか、中国・韓国のエビデンスを外挿するか、もう少し国内での議論が必要かもしれない。BRAF V600E変異型大腸がんに対する新規分子標的治療―BEACON試験切除不能BRAF V600E変異陽性大腸がんは、大腸がんの約5%に認められ、きわめて予後不良である。大腸がん治療ガイドラインでは、1次治療においてFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法が推奨レジメンの1つとなっているが、2次治療以降には有効な治療が乏しいのが現状である。BRAF変異陽性メラノーマや非小細胞肺がんではBRAF阻害薬+MEK阻害薬の有効性が示されており、同様の治療戦略が大腸がんでも期待されていた。BEACON試験は、BRAF V600E変異を有する切除不能・進行再発大腸がんにおいて、1次治療もしくは2次治療後に腫瘍進行を認めた患者を対象とした無作為化第III相試験である。対象患者665例は、エンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブの3剤併用療法群、エンコラフェニブ+Cmabの2剤併用療法群、FOLFIRI+Cmab療法またはIRI+Cmab療法のコントロール群の3群に、1:1:1で無作為に割り付けられた。OS期間中央値は、3剤併用療法群vs.コントロール群で9.0ヵ月vs.5.4ヵ月(p<0.0001)、2剤併用療法群vs.コントロール群で8.4ヵ月vs.5.4ヵ月(p<0.0003)、最初の331例のORRは3剤併用療法群vs.コントロール群で26% vs.2%(p<0.0001)、2剤併用療法群vs.コントロール群で20% vs.2%(p<0.0001)であり、主要評価項目を達成した。相対用量強度(RDI)は3剤併用療法群では、エンコラフェニブ 91%、ビニメチニブ 87%、Cmab 91%、2剤併用療法群では、エンコラフェニブ 98%、Cmab 93%、コントロール群では74~85%であった。Grade3以上の有害事象割合は、3剤併用療法群58%、2剤併用療法群50%、コントロール群61%であり、3剤併用療法群で下痢10%、貧血11%が高く、全Gradeの有害事象において2剤併用療法群で筋肉痛(13%)、関節痛(19%)、頭痛(19%)などの頻度がやや高かった。QOLに関してはQLQ-C30、FACT-Cにおいては差を認めなかった。以上から、3剤併用療法群において良好な有効性を認め、高いRDIを維持しながらも、管理可能な有害事象のプロファイルとQOLの維持を認めた。以上から、今後切除不能BRAF V600E変異陽性大腸がんにおいて、本併用療法は2次治療以降の標準治療として臨床導入されることが期待される。3剤併用療法で有効性がやや高く、有害事象も2剤併用療法とプロファイルが異なるだけでQOLに差がないことからまずは3剤併用でトライしてみることが勧められる。Grade3以上の消化器毒性は3剤併用療法で高いことから、その場合には2剤併用療法もオプションとなりえるだろう。今後メラノーマ同様に1次治療や補助療法での有効性にも期待したいところである。現状、臨床現場でも困っている患者さんのために、早急な薬事承認に期待したいが、まだ1年程度先になるだろう。それまでは、拡大治験の実施や患者申出制度の利用に活路を見いだしたいところである。ハイリスクStageII結腸がんに対する補助療法―ACHIEVE-2試験リンパ節転移のないStageII結腸がんでは、臨床病理学的な再発ハイリスク因子を持つ場合にのみ術後補助化学療法が推奨され、レジメンはCAPOX/FOLFOX療法やフルオロピリミジン単独療法が6ヵ月間行われる。StageIIIにおいて、IDEA collaborationの結果から、CAPOX/FOLFOX療法の3ヵ月投与が治療選択肢として確立されたことからハイリスクStageII結腸がんでも同様の検討が行われた。2019年ASCOでIDEA collaborationに参加した6つの臨床試験のうち、4つの試験(SCOT、TOSCA、ACHIEVE-2、HORG)の統合解析が発表され、主要評価項目である5年無病生存率(DFS)は非劣性が証明されず、negative studyであった。しかし、CAPOX群では3ヵ月と6ヵ月で大きな差を認めず、ハイリスクStageII症例の術後補助化学療法を行う場合でも、CAPOXなら3ヵ月への短縮が可能と結論付けていた。今回のESMOでは、本邦での試験であるACHIEVE-2試験の結果が発表された。514例が登録され、ハイリスク因子はT4 36%、低分化腺がん10~13%、郭清リンパ節転移個数不十分13%、腸閉塞発症19~20%、脈管侵襲陽性87~88%であった。観察期間中央値約36ヵ月の時点で、3年DFSは3ヵ月群88.2% vs.6ヵ月群87.9%であった(HR:1.12、95%CI:0.80~1.57)。レジメン別解析では、FOLFOX群(n=82)3ヵ月群88.6% vs.6ヵ月群85.7%、CAPOX群(n=432)3ヵ月群88.2% vs.6ヵ月群88.4%であった。サブグループ解析では、T4群では3ヵ月群76.2% vs.6ヵ月群79.7%(HR:1.28、95%CI:0.84~1.95)であった。本試験結果の解釈は非常に悩ましい。もともとIDEA collaborationは、統合解析が主体となっていることから、個々の試験の解釈をするときは、統合解析の結果と合わせて評価することが必要である。3年DFSで大きな差はないが、HRが1.12と少し1を超えている点は気になるところである。とくに、T4集団での解析では少数例の検討とはいえ、HR:1.28と1を大きく超えている。全体の3年DFSがlow risk StageIIIよりも悪いことも鑑みると、T4集団ではCAPOX 6ヵ月を選択することが妥当という印象を持った。スペシャルセッションの最後には、登壇者からStageII CCの補助療法のアルゴリズムが提案されたが、私自身はあまり納得のいくものではなかった。国内でのコンセンサス形成には少し時間がかかると思われた。まとめ今回のESMOでも、多くの新しいエビデンスに巡り合うことができた。胃がん、大腸がんでは肺がんなどに比べ新薬の登場が遅れており、その間に周術期治療の開発がトピックスとなっている印象を受けた。日本人の発表やディスカッサント登壇も多く、世界と一緒に新しい治療方針を議論している実感が得られた。腫瘍医としての矜持を持ち、目の前の患者さんにこの新しいエビデンスをどう適用させるかが肝要である。その過程で、また新たなクリニカルクエスチョンが生じ、それに答えるべく臨床試験に取り組む…この繰り返しの結果が今日までのがん治療の進歩であり、令和の時代にも継続していかねばならないだろう。

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NSCLCのALK検査、リキッド・バイオプシーも有用(BFAST)/ESMO2019

 非小細胞肺がん(NSCLC)の遺伝子変異検査で、血液を検体とするリキッド・バイオプシーの有用性を評価した前向き臨床試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Rogel Cancer Center/University of MichiganのShirish M. Gadgeel氏より発表された。 BFAST試験は、血液検体のみを用いた6つのコホートからなる国際共同の前向き第II/III相試験である。今回はその中からALK陽性コホートのみ発表された。その他のコホートはRET陽性、ROS1陽性、TMB陽性、Real World Dataなどであり、血液検査(cfDNA)はFMI社によって実施された。・対象:Stage IIIB/IVの未治療のNSCLC。試験全体で2,219例をスクリーニング、ALK陽性は119例(5.4%)で、87例が本試験に登録された。・試験群:ALK陽性コホートにおいては、アレクチニブ600mg×2回/日投与・評価項目:[主要評価項目]治験担当医評価(INV)による奏効率(ORR)[副次評価項目]INVによる奏功期間(DOR)と無増悪生存期間(PFS)。独立評価委員(IRF)によるORR、DOR、PFS[探索的検討項目]脳転移を有する患者群の主治医判定によるORR 必要症例数算定などのために、同じくアレクチニブの国際共同試験であるALEX試験の結果をリファレンスとした(ALEX試験は腫瘍組織検査)。アレクチニブの用量が日本の承認用量とは異なるため、日本からはこのコホートへの登録はなかった。 主な結果は以下のとおり。・登録患者のベースライン特性は、年齢中央値55歳、脳転移有り40%などで、既報のALEX試験と大きな差はなかった。・追跡期間中央値12.6ヵ月。・INVによるORRは87.4%(95%信頼区間[CI]:78.5~93.5)、IRFによるORRは92.0%(95%CI:84.1~96.7)であった。・脳転移を有する患者群(35例)でのINVによるORRは91.4%、脳転移なしの患者群(52例)では84.6%であった。病勢進行(PD)の症例は各群1例と0例であった。・INVによるDORは中央値未到達で、6ヵ月時点でのイベントフリーは63例でありその割合は90.4%であった。・INVによるPFSも同様に中央値未到達であり、12ヵ月時点でのPFSは78.4%(95%CI:69.1~87.7)であった。・Grade3/4の有害事象(AE)は35%、AEによる治療中止は7%、用量減量は8%であった。主なAEは便秘などの消化器症状、浮腫、倦怠感、筋肉痛などであり、既報のアレクチニブの安全性プロファイルと差はなかった。 発表者のGadgeel氏は「血液サンプルでの遺伝子検査(NGS)は、ALK陽性NSCLC患者の治療方針決定に臨床的な意味がある事を示した」と述べた。

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双極性障害に対する抗うつ薬使用の有効性および安全性評価

 双極性うつ病に対する抗うつ薬の使用は、精神薬理学の中で最も議論の余地がある問題の1つである。抗うつ薬は、双極性うつ病の一部の患者において有用ではあるが、それ以外の患者に対しては使用すべきではないと考えられる。この問題に関して、ブラジル・リオデジャネイロ連邦大学のElie Cheniaux氏らがレビューを行った。Expert Opinion on Drug Safety誌2019年10月号の報告。 本レビューでは、双極性うつ病に対する抗うつ薬使用について、公表されている臨床試験を検討し、その臨床的有効性、副作用発現率、躁転、サイクル加速、自殺行動の評価を行った。メタ解析およびレビュー記事についても検討を行った。 主な専門家の意見は以下のとおり。・双極性うつ病に対して承認されている治療選択肢は、治療反応率がそれほど高くなく、副作用発現率が高かった。・双極性うつ病に対する抗うつ薬使用の治療反応は、不均一である。・一部の患者では有意な改善が認められる。しかし、とくに治療誘発性の躁症状を有する患者またはラピッドサイクラーの患者では、躁転やサイクル加速のリスクが高まる。 著者らは「真の問題は、双極性うつ病に対し抗うつ薬を使用すべきかどうかではなく、どの患者で抗うつ薬が有用であるか、どの患者で問題が起こるのかを明らかにすることである。双極スペクトラムの概念や双極性または単極性に関するアプローチが、抗うつ薬の不均一な治療反応を理解するうえで役立つ可能性がある」としている。

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がん患者の心身緊張感とトリガーポイント/日本サイコオンコロジー学会

 患者が訴える痛み-これを医療者が少しでも受け止め間違えると、鎮痛はうまくいかない。2019年10月11~12日、第32回日本サイコオンコロジー学会総会が開催。セミナー2「医療者が共感しにくい患者の背景に何があるのか?」において、蓮尾 英明氏(関西医科大学心療内科学講座)が「葛藤の中で生じるー症状としての心身症」について講演し、痛みを抱える患者の背景に迫った。本当は痛いのに我慢するのはなぜ? 客観的に見たらとても痛そうにしているのに、問いかけると「痛みは…大丈夫です」と答える患者に遭遇したことはないだろうか? このような患者にこそ、実は本当の気持ち(甘えたい、辛さを共有してもらいたい…)を話したい、という感情が潜んでいることがある。しかし、医療者は「言ってくれないとわからない」と考えてしまいがちである。これについて蓮尾氏は「言語化できない、器用さを備えていない患者もいる」とし、心身症を抱えるがん患者の存在を強調した。 心身症とは、身体疾患のなかでその発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態である。がん疼痛は器質的要因、がん患者の一番の痛み原因と言われる筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は機能的要因に位置づけられる。実際、日本人の進行がん患者の31~45%がMPSを訴え、がん疼痛とMPSの併存率は64%に及ぶ1)。これについて、「がん疼痛をかばう動作から生じる二次的なMPSであることが多い」と、同氏は言及した。 この二次的なMPSはがん疼痛部の直上にできることが多く、がん疼痛が取れたとしてもMPSによる痛みを取り除けていない状況が生じてしまう。同氏は「MPS診断の参考基準に“ストレスによって悪化する”という項があることからも、MPSには心身症患者が含まれることが明らか」と特徴づけ、「医療者は心理的な部分に介入しがちだが、MPSを通して心と身体の緊張が関連していることを伝える」など、患者への寄り添い方を説明した。緊張感の感覚に気づいてもらうことが重要 疼痛コントロールがうまくいかない背景として、心身症の特性であるアレキシサイミア(失感情症)の存在を忘れてはならない。がん患者においてアレキシサイミアは約50%も存在することが明らかになっている2)。アレキシサイミアを疑うポイントは、1)感情・感覚をラベリングすることの困難さ、2)感情・感覚を他人に伝えることの困難さ、3)対外志向的考え方、4)空想力・想像力欠如、の4つであるが、いずれも本人の感情・感覚に対する“気づきの乏しさ”が問題である。たとえば、アレキシサイミアのあるがん患者の多くは、心の緊張感、身体の緊張感ともに気づきの乏しさがある。 このような患者にはMPSの存在を感じてもらうため、TP注射や虚血圧迫法などを用いて、一時的に緊張感の軽減を図ることが重要である。そこで、同氏はオピオイド不応の腰痛が直面化を促す時期に一致して増悪した患者にTP注射を実施した。その結果、「患者は処置後の緊張感の軽減に驚き、身体の緊張感の存在に気づいた」と、身体の緊張感の存在を気づかせるアプローチ法の有用性を報告した。さらに、「身体の緊張感の軽減が図れると、自然に心の緊張感の軽減が図れ、さまざまな感情の表出が増える(身体化→言語化)」と、付け加えた。 最後に同氏は、「心身症を疑うなかで、とくに感情を伴わず淡々と身体症状を訴える患者の場合、身体感覚を気づかせるためには、このような身体的アプローチが導入しやすい」と締めくくった。

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治療抵抗性の逆流関連の胸やけ、手術が薬物よりも有効/NEJM

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)抵抗性の胸やけで紹介された患者のうち、全身の精密検査によって、真にPPI抵抗性で胃食道逆流に関連する胸やけが判明した患者は少数であったが、このきわめて選択性の高い患者の治療では、腹腔鏡下Nissen噴門形成術が薬物療法よりも優越性を示したとの報告が、米国・ベイラー大学医療センターのStuart J. Spechler氏らによって発表された。研究の成果は、NEJM誌2019年10月17日号に掲載された。PPIによる治療を行っても持続する胸やけは、頻度の高い臨床的問題であり、考えられる複数の原因が存在する。一方、PPI抵抗性の胸やけの治療は有効性が証明されておらず、逆流を抑制する薬剤(例:バクロフェン)や逆流防止手術による胃食道逆流のコントロール、または神経修飾薬(例:デシプラミン)による内臓の過敏性の抑制に重点が置かれているという。GERD-HRQLの改善を3群で比較する無作為化試験 研究グループは、全身の精密検査で胃食道逆流症(GERD)以外の疾患と機能障害を除外し、食道内の多チャンネル管腔内インピーダンス(MII)-pHモニタリングで逆流関連と判明した患者の治療では、逆流防止手術が薬物療法よりも有効性が優れるとの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化試験を実施した(米国退役軍人省共同研究プログラムの助成による)。 PPI抵抗性の胸やけで、米国退役軍人省の消化器クリニックを紹介された患者が、オメプラゾール(20mg、1日2回、2週間)の投与を受けた。このうち胸やけが持続する患者について、内視鏡検査、食道生検、食道内圧測定、食道内MII-pHモニタリングを実施。検査により逆流関連の胸やけと判明した患者が、外科治療(腹腔鏡下Nissen噴門形成術)を受ける群、実薬(オメプラゾール+バクロフェン、症状に応じてデシプラミン追加)投与を受ける群、対照薬(オメプラゾール+プラセボ)投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは治療成功とし、1年後におけるGERD-健康関連QOLスコア(GERD-HRQL、0~50点、点数が高いほど症状が重度)の50%以上の改善(低下)と定義された。366例中288例が除外、治療成功率:67% vs.28% vs.12% 2012年8月29日~2015年12月2日の期間に366例(平均年齢48.5±12.2歳、男性280例)が登録され、無作為化前の検査により288例が除外された。 除外例の内訳は、2週間のオメプラゾール投与中に胸やけが改善(42例)、試験手順を完了せず(70例)、その他の理由(54例)、GERD以外の食道疾患(23例)、機能性胸やけ(PPI投与中のMII-pHモニタリングで食道内酸曝露が正常、症状関連確率[SAP]≦95%[逆流エピソードと胸やけに有意な関連がないことを示す])の患者(99例)であった。 残りの78例(平均年齢45.4±11.8歳、男性64例)が無作為化された。外科治療群が27例、実薬群が25例、対照薬群は26例であった。また、MII-pHモニタリングでSAP>95%(逆流性過敏)のみの患者が37例、異常な酸逆流のみの患者が15例、両者に該当する患者は25例だった(1例でデータが欠落)。 1年後の治療成功率は、外科治療群が67%(18/27例)と、実薬群の28%(7/25例、p=0.007)および対照薬群の12%(3/26例、p<0.001)に比べ、いずれも有意に優れた。実薬群と対照薬群との差は16ポイント(95%信頼区間[CI]:-5~38、p=0.17)だった。 外科治療群のうち、逆流性過敏(SAP>95%、14例)の患者の治療成功率は71%、異常な酸逆流(酸逆流のみの患者と、酸逆流+SAP>95%の患者、13例)の患者の治療成功率は62%であった。 重篤な有害事象は、外科治療群が4例で5件、実薬群が4例で4件、対照薬群は3例で5件認められた。 著者は、「食道内MII-pHモニタリングを含む全身の精密検査は、逆流防止手術が奏効する可能性のある逆流性過敏を含むPPI抵抗性胸やけの患者サブグループを同定可能である」と結論している。

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国内初の白内障3焦点眼内レンズ、生活の質向上に寄与

 日本アルコン株式会社(以下、日本アルコン)は10月25日、国内初承認の白内障治療向け老視矯正3焦点眼内レンズPanOptix®を発売。これは既存の多焦点眼内レンズ(2焦点)の見え方に中間距離での見やすさを加えたレンズで、“若い頃のような自然な見え方を追求したい”患者に対し、新たな選択肢となるよう開発された。 この発売に先駆け、日本アルコンは2019年10月17日にプレスセミナーを開催。ビッセン 宮島 弘子氏(東京歯科大学水道橋病院眼科 教授)が「最新白内障治療と適切な眼内レンズ選択のためのポイント」について解説した。日常の見え方と3焦点眼内レンズの特徴 人間の見え方は、近方(40cm:読書やスマートフォン使用などに適する)、中間(60cm:パソコンや料理などに適する)、遠方(5m以遠:テレビ視聴や運転、ゴルフなどのスポーツに適する)の3つに主に分類される。これまで日本で薬事承認を受けていたのは単焦点眼内レンズ(遠方あるいは近方の1か所のみ)と2焦点眼内レンズ(近方と遠方、または遠方と中間の2か所に焦点が合うレンズ)のみであったが、3焦点眼内レンズのPanOptix®が発売されたことで、より実生活での作業に適した見え方を提供できるようになったという。今回、乱視を矯正できるトーリックタイプも国内承認を受け、同時発売となった。また、PanOptix®を用いた白内障手術は、2焦点眼内レンズと同様に、厚生労働省が承認する先進医療に該当する。 3焦点眼内レンズの特徴として、“どの距離でも、安定した見え方を実現”、“手術後に眼鏡の必要性が減る”などが挙げられる。ビッセン 宮島氏は「中間距離というのはスーパーで値札を見たり、料理をしたりと生活で重要な視点」とコメント。さらに、適した利用者として「眼鏡を使用したくない人、そのための費用負担に納得できる人」を挙げた。海外と日本での利用状況 多焦点レンズの普及に積極的なESCRS(ヨーロッパ白内障屈折矯正手術学会)会員に対し、“老眼矯正を望む患者にどの眼内レンズを主に使用しているか”というアンケートを行ったところ、2018年時点で約56%が3焦点レンズを使用していた。このことからも同氏は「ヨーロッパでは2019年度に3焦点眼内レンズのシェアが70%を占めるのではないか。今後、日本でもこのレンズが主流になることが予想される」と語った。 国内においては、PanOptix®の治験として同氏の所属する施設と林眼科病院(福岡県福岡市)共同で臨床試験を実施。その結果、手術後の遠方・中間・近方の3焦点が眼鏡なしでよく見える、グレア・ハローを感じるが日常生活への不自由はなし、コントラスト感度の低下は自覚していないなどの結果が得られた。これを踏まえ同氏は、「眼鏡装用ありなしの希望やライフスタイルによって、最も適したレンズを選択する時代になった」と述べた。 最後に、レーシックを受けた患者への白内障手術について、「『レーシックを受けた方は白内障手術ができない』という情報が流布していたが、手術そのものはまったく問題なく、眼内レンズの度数決定が問題であった。テクノロジーの進化により角膜カーブ計測、術中の眼内レンズ予測などの精度向上に伴い、現在はレーシックを受けた患者への白内障手術はレーシックを受けていない方と同じレベルに達している」とコメントした。

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sacubitril-バルサルタンでも崩せなかったHFpEFの堅い牙城(解説:絹川弘一郎氏)-1126

 sacubitril-バルサルタンのHFpEFに対する大規模臨床試験PARAGON-HFがESC2019のlate breakingで発表されると聞いて、5月のESC HFのミーティングで米国の友人と食事していた時、結果の予想をした記憶がある。私はESCで出てくるんだから有意だったんじゃないの、と言い、別の人はHFpEFには非心臓死が多いからmortalityの差は出ないよね、と言ったりしたものであった。相変わらず私の予想は外れ、ただ外れ方としてp=0.059という悩ましいprimary endpointの差であった。7つイベントが入れ替わったら有意だったそうである。ただ、入れ替わりってどういうこと?とも言え、読み方としてはやはりこれだけ大規模にやって有意でないものは有意でないとしか言えない。さらに言うと、CHARM-preservedでもTOPCATでも心不全再入院だけでいうと有意に抑制しているというデータもあり、心血管死亡に対して一定の(有意でないにしても)抑制がないと、これまでカンデサルタンもスピロノラクトンもダメと烙印を押してきた経緯に反する。 PARAGON-HFでは心血管死亡はそれこそ1本の線に見えるほど2群に差がなく、やはり有効でないと結論付けるのが妥当であろう。Solomon氏は対照群にバルサルタンを選ばなきゃよかったみたいなことを言い訳がましく言っていたが、まさにそれはそのとおりかと思う。HFpEFの中にRAS阻害薬がよく効くサブグループがいるようで、それがCHARM-preservedやTOPCATの一定の結果に関係しているかもしれない。一方で対プラセボでもまったく有効性のかけらもなかったI-preserveがどうしてなのかも考える必要がある。そのヒントは平均のLVEFと虚血性心疾患の割合である。平均のLVEFはCHARM-preserved 54%、I-preserve 60%、TOPCAT 56%、PARAGON-HF 57%、虚血性心疾患の割合はCHARM-preserved 56%、I-preserve 24%、TOPCAT 58%、PARAGON-HF 35%。つまり虚血性心疾患の割合が多く、またLVEFが低めの患者が多く含まれているほど実薬の有効性が高くなっている。CHARM-preservedでHFmrEF(昔はmid-rangeを分けてなかった)はHFrEF同様カンデサルタンが有効であったと報じられているし、このPARAGON-HFでもEF<57%では有意にsacubitril-バルサルタンが有効であった。 私は、虚血性心疾患からHFrEFに至る途中のmid-rangeに近いHFpEFはRAS阻害薬が有効であろうし、そしてその場合はPARADIGM-HFと同じくACE阻害薬よりsacubitril-バルサルタンがもっと有効であると思う。真のHFpEFとは何なのか、という議論が本当は必要であるが、虚血でないLVEF>60%のHFpEFに対して、もうHFrEFに対するGDMTの外挿では歯が立たないことが決まったような気がしている。

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至適INRは?(解説:後藤信哉氏)-1128

 手術時に抗凝固療法を継続するのは勇気がいる。手術による出血を最小限としつつ、静脈血栓を予防するためにはどうすればよいか? 一般に血栓イベントリスクの低い日本人の感覚と欧米人の感覚の大きく異なる領域である。欧米のデータは心房細動の脳卒中予防であっても、本論文の静脈血栓症の予防でもINRの標的を下げることの危険性を示している。私の日常診療ではINR 1.8は、標的としては高いほうである。30年も経験を蓄積しても、日本人を診ているわれわれが血栓イベントを経験することは少ない。しかし、欧米人では標的を2.6とした場合と比較して、静脈血栓症・死亡率が標的INR 1.6では著しく高くなることを本論文は示している。本論文に示された所見はおそらく事実であろう。しかし、本論文の記載が日本人に当てはまるか否かは不明である。地域差の大きな血栓性疾患では、欧米の情報を日本に直接取り込むことは難しい。日本の実態も継続的に英文論文として発表するようなシステムの構築が重要である。

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【GET!ザ・トレンド】ニューモシスチス肺炎の今日的意義(前編)

ニューモシスチス肺炎(PCP)は、かつて「カリニ肺炎」と呼ばれHIVの合併症として注目を集めていました。しかし今日のPCPはもはや、HIV感染例に特異的な疾患ではありません。HIV例のPCP(HIV-PCP)と表現型や病態、予後がまったく異なる、非HIV感染例が発症するPCP(non-HIV PCP)の特徴と対策についてご紹介したいと思います。HIVとは無関係のPCPが著増よく知られているとおり、PCPはHIVに限らず、「免疫不全」を基礎とする呼吸器疾患です。そのため、ステロイド、あるいは臓器移植後の免疫抑制薬使用頻度の増加、さらに新規の抗がん剤やリウマチ治療薬などの登場に伴い、この免疫不全を引き起こす状態はHIVに限られることなく、多岐にわたるようになりました。その結果、著明に増加したのが、HIV感染を伴わないnon-HIV PCPです。英国のデータでは、HIV PCP例の入院数が経時的に減少を続けているにもかかわらず、PCP入院例の総数は逆に増え続けています(図1)[Maini R, et al. Emerg Infect Dis. 2013;19:386-392.]。この増加のほとんどは、non-HIV PCPと考えられます。図1.英国におけるニューモシスチス肺炎患者数の推移non-HIV PCPは病態進行が早く予後は悪いnon-HIV PCPの表現型は、HIV PCPとまったく異なります。最大の相違点は「病態の進行速度」です。緩徐に進行するHIV PCPと対照的に、non-HIV PCPは「日~週単位」で病態が増悪します。さらに予後も良くありません。台湾からの報告によれば、診断後30日間の死亡率は、HIV PCP例の6.7%に対し、non-HIV PCPでは50%という高値でした[Su YS, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2008;41:478-482.]。したがって、早期の診断と治療開始が必要となります。HIV PCP例を診るのと同じ感覚で経過観察していると、取り返しのつかない事態に追い込まれかねません。診断は困難、まず患者背景からリスクを評価しかし困ったことに、「診断が困難」なのもnon-HIV PCPの特徴です。すなわち、HIV PCPのような定型的臨床像や画像を示す患者はきわめてまれです。また、HIV PCPと異なり菌体量が少ないため、検出も困難です。では、non-HIV PCPをどのように診断すればいいでしょう? 最も重要なのは、「鑑別疾患としてnon-HIV PCPを想起する」という点につきます。最初に注目すべきは「患者の背景因子」です。先述のとおり、non-HIV PCPも背景にあるのは免疫不全です。したがって、免疫を低下させるステロイドや免疫抑制薬、ある種の抗がん剤など、特定の薬剤(表1)を用いている場合、「高リスク」と認識します。また、non-HIV PCP発症率の高い疾患も明らかになっています。フランスにおける1990年~2010年までのnon-HIV PCP患者データの解析からは、小・中血管炎、血液がん、固形臓器移植(とくに腎移植)、関節リウマチ例における高い発症率が報告されています[Fillatre P, et al. Am J Med. 2014;127:1242.e11-7.]。これらの背景因子からまず、non-HIV PCP高リスクを否定できるか考えます。表1.ニューモシスチス肺炎の発症と関連が示唆されている薬剤「傍証」を集め、総合的に判断背景因子からnon-HIV PCPを除外できなければ、迅速に検査を始めます。「血清β-d-グルカン濃度」は、non-HIV PCPを疑う良い指標となります。高値を示す場合、その理由が説明できないならば、non-HIV PCPを疑います。ただし、除外診断には必ずしも有用とは言えません。発症からしばらく経過しないと、低値が維持されるケースがあるためです。そのうえで、疑いがあれば、気管支肺胞洗浄液(BAL)や誘発喀痰を用いて、Diff-Quik染色、ギムザ染色(栄養体の検出)、あるいはグロコット染色(嚢子の検出)をします。PCR法は定着菌を判断している可能性が否定できないため、血清検査や画像など傍証を集めて総合的に判断する必要があります。また染色やPCR法では「偽陰性」の可能性もかなりありますので、陰性であっても、それだけではnon-HIV PCPを除外できません。問題は、施設内でグロコット染色ができない場合です。外注の場合、結果を待っている間に、non-HIV PCPならば症状は著明に増悪します。そのような場合、先述の「高リスク例」であればnon-HIV PCPであるという前提で治療を開始するのも(見切り発車)、予後を考えれば選択肢の1つとなるかもしれません。

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PTSDに対するVR療法の有効性~メタ解析

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する仮想現実を用いた治療(virtual reality exposure therapy:VRET)は、注目すべき新たな治療法であるが、その有効性および安全性は明らかになっていない。中国・安徽医科大学のWenrui Deng氏らは、PTSD患者に対するVRETの有効性を調査し、関連する潜在的な調整因子を特定するため、システマティック・レビュー、メタ解析を行った。Journal of Affective Disorders誌2019年10月1日号の報告。 各種データベース(PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、PsycInfo、Science Direct、EBSCO)より検索を行った。ランダム化比較試験(RCT)13件(654例)、単群試験5件(60例)を含む18件のPTSDに関する研究を特定した。 主な結果は以下のとおり。・主要有効性分析では、VRETは、PTSD症状コントロール状態患者と比較し、中程度のエフェクトサイズが検出された(g=0.327、95%CI:0.105~0.550、p<0.01)。・サブグループ分析では、アクティブコントロール群(g=0.017)よりもインアクティブ群(g=0.567)において、VRETの効果が大きかった。・本知見は、抑うつ症状においても一致していた。・用量反応関係が認められ、より多いVRETセッションで、より大きな効果が認められた。・PTSD症状に対するVRETの長期的な効果が認められており、フォローアップ3ヵ月(g=0.697)および6ヵ月(g=0.848)において症状の持続的な減少が認められた。・単群試験の分析では、VRETがPTSDに有意な影響を及ぼすことが示唆された。・戦争関連のPTSD患者の多くでは、メタ解析の推定値およびその後の結論において不確実性が認められた。 著者らは「VRETは、PTSD症状の有意な軽減が期待できる治療法であり、PTSD治療における実践は支持される」としている。

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薬物中毒搬送者、カフェイン致死量摂取が原因/日本救急医学会

 昭和時代には農薬による中毒事故が多発していたが、近年では、手軽に入手できる一般用医薬品(OTC)の過量服用や違法薬物の蔓延などが問題視されている。2019年10月2~4日、第47回日本救急医学会総会・学術集会が開催され、シンポジウム8「不断前進、中毒診療」において、廣瀬 正幸氏(藤田医科大学病院薬剤部 災害・外傷センター)が「急性薬物中毒患者に対する救急常駐薬剤師の活動と役割」について講演。薬物中毒で搬送される患者像や病院薬剤師の病院外での活動について報告した。搬送者の摂取薬物、総合感冒薬が最多? 廣瀬氏は救急病棟専任薬剤師の立場からOTC薬による薬物中毒の現状と問題点を検討。同氏の所属する施設において、2011年5月~2018年12月に緊急搬送された急性薬物中毒者475例のうちOTC薬を摂取した85例(18%)を抽出し、患者背景や摂取した薬物の種類、購入経路、服用理由について調査した。その結果、対象患者は若年者に多く増加傾向、OTC薬中毒患者のうち致死量摂取は28例、摂取したOTC薬の内訳は総合感冒薬32例、解熱鎮痛薬25例、眠気防止薬18例(延べ数)であった。さらに、致死量摂取症例の原因薬物はカフェインが主成分の眠気防止薬が最多で、インターネットだけでなく量販店などでも購入していた。致死量摂取患者に服用理由を尋ねたところ、全員が自殺目的の使用であり、眠気予防や興奮欲求のためではないことも明らかとなった。OTC薬による薬物中毒の背景にある問題-各国の販売方法と比較 今回の調査では、OTC薬中毒患者全体が摂取した薬物の80%にカフェインが含まれていたことから、カフェインが薬物中毒の成分として最も問題であると判明した。しかし、カフェインを含む解熱鎮痛剤や総合感冒薬、眠気防止薬などのOTC薬は薬剤師による情報提供が義務となる第1類医薬品ではなく、第2類医薬品や第3類医薬品に分類される。また、カフェインの過量摂取は危険なため、解熱鎮痛薬や総合感冒薬では無水カフェインの1日最大分量が定められている。しかし、問題となる眠気防止薬は「最大分量の定めがなく安価で販売されている」と同氏は警告した。 日本では手軽に購入できてしまうOTC薬だが、世界を見渡してみると各国の現状や対策はさまざまで、日本より厳しく規制されている。たとえば、米国ではプソイドエフェドリン含有製剤は対面販売、デンマークではインターネット販売しているものの受け取りは薬局で対面販売、リトアニアではカフェイン含有飲料の未成年者への販売禁止などの措置を講じている。これを踏まえ同氏は「日本におけるOTC薬の販売制度の見直しが必要ではないか」と、問題提起した。過量摂取や救急搬送の未然防止策がカギ このようなOTC薬による中毒患者を減らすために、同氏ら救急常駐薬剤師は精神科救急領域にも積極的に参加し、患者への再発防止指導のみならず地域の薬剤師に対して中毒情報の発信も行っている。病院内の情報を近隣の調剤薬局などと共有するための勉強会を開催するなかで、「近郊の薬剤師会と連携することで、薬物中毒の背景にある新たな問題点も明らかとなった」とし、「地域の薬剤師会と連携しアンケートを行った。その結果、薬物依存や中毒を疑う患者に遭遇した薬剤師は半数いるものの、そのような患者に対して“薬剤師として対応をとる自信がある”、あるいは“薬局内で対策している”と回答したのは約10%にとどまった」と危機感を募らせた。 この現状を踏まえて同氏は「医薬品の乱用・依存には薬剤師の意識や規範が大きく関わっており、販売者である薬剤師の責任は大きい。薬剤師による『中毒患者への声かけ』は過量摂取の大きな抑制力になるのではないか。救急常駐薬剤師として地域薬局への情報提供の継続は重要な役割」と、締めくくった。

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日本の胃がん患者における悪液質の実態/日本治療学会

 がん悪液質は体重減少と食欲不振を主体とした複雑な病態の疾患概念である。日本の胃がんにおいて悪液質を発症した場合の予後や経過についての報告は少ない。 久留米大学病院の深堀 理氏らは、久留米大学病院および静岡がんセンター病院で化学療法を受けた進行胃がん患者を対象に、体重減少に焦点を当て、悪液質との相関を調べる後ろ向き観察試験を実施。第57回日本治療学会学術集会(10月24~26日)で発表した。主要評価項目は、化学療法導入から悪液質発症までの期間、副次評価項目は悪液質と血液検査結果、全生存期間(OS)、副作用との関連。悪液質の定義は、5%を超える体重減少、BMI 20kg/m2未満の場合は2%以上の体重減少とした。 主な結果は以下のとおり。・2010年9月1日~2016年8月31日、131例が登録された。患者の年齢中央値は68.0歳、男性76.3%、BMI中央値は21.2、PS0~1が90%超であった。・化学療法開始から悪液質発症までの期間は、12週以内が53.4%であった。その後12~24週で16.0%、24~36週で7.6%であった。48週間の時点で87.7%の患者が悪液質を発症した。・OS中央値は、48週時点で悪液質を発症した患者群では459日、悪液質非発症群では851日で、発症群で有意に予後不良であった(p=0.002)。12週(p=0.0167)と24週(p=0.0017)でも同様に発症群で予後不良であった。・悪液質発症の有無と、胃がんの予後不良因子とされる、PS、転移臓器個数、ALP値で調整解析を行ったところ、PSが独立した予後不良因子であった。しかしながら、悪液質発症はHR 1.39(95%CI:0.95~2.0)であり、予後不良の傾向は示していた。・悪液質発症の有無と副作用の関連をみると、食欲低下と疲労のいずれも、悪液質あり患者群では発現頻度が高く、重症度も高かった。 進行胃がんにおける悪液質は、治療開始12週以内に半数以上の患者に発症していた。また、悪液質を発症した患者群は、発症時期によらず予後不良であることを示した。さらに、悪液質を発症した患者群の化学療法の副作用(食欲低下・疲労)の発現頻度が高く、重症化していることが示された。

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CABG後のグラフト不全の予防に、抗血小板薬2剤併用が有効/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者では、アスピリンへのチカグレロルまたはクロピドグレルの追加により、アスピリン単独に比べ術後の大伏在静脈グラフト不全の予防効果が大きく改善されることが、カナダ・ウェスタン大学のKarla Solo氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年10月10日号に掲載された。アスピリンは、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防に推奨される抗血小板薬である。一方、アスピリンへのP2Y12阻害薬または直接経口抗凝固薬の追加の利点については不確実性が残るという。グラフト不全と出血を評価するネットワークメタ解析 研究グループは、CABGを受けた患者の大伏在静脈グラフト不全の予防における経口抗血栓薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2019年1月25日現在、医学関連データベース(Medline、Embase、Web of Science、CINAHL、the Cochrane Library)に登録された文献を検索した。 対象は、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防として、経口抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)の投与を受けた年齢18歳以上の患者が参加する無作為化対照比較試験であった。 有効性の主要エンドポイントは大伏在静脈グラフト不全、安全性の主要エンドポイントは大出血とされた。副次エンドポイントは、心筋梗塞と死亡であった。2種の抗血小板薬2剤併用で、中等度の確実性を有するエビデンス 1979~2019年に発表された20件の無作為化対照比較試験に関する21編の論文が、ネットワークメタ解析に含まれた(4,803例、9種の介入[8種の実薬とプラセボ])。8種の実薬は、クロピドグレル、アスピリン、ビタミンK拮抗薬、チカグレロル、リバーロキサバン、アスピリン+チカグレロル、アスピリン+リバーロキサバン、アスピリン+クロピドグレルであった。 アスピリン単独と比較して、アスピリン+チカグレロル(オッズ比[OR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.31~0.79、治療必要数[NNT]:10例)、アスピリン+クロピドグレル(0.60、0.42~0.86、19例)の2種の併用療法は、大伏在静脈グラフト不全を有意に抑制することを支持する、中等度の確実性を有するエビデンスが得られた。 大出血、心筋梗塞、および死亡については、アスピリン単独と個々の抗血栓療法の差に関して、強力なエビデンスは認められなかった。 非推移性(intransitivity)の可能性を排除できないものの、試験間の異質性(heterogeneity)と非整合性(incoherence)は、すべての解析で低かった。また、グラフトごとのデータを用いた感度分析では、有効性の推定値に変化はなかった。 著者は「CABG後の抗血小板薬2剤併用療法は、重要な患者アウトカムへの安全性と有効性プロファイルのバランスをみながら、患者に合わせて調整する必要がある」とし、「今後のガイドラインの改訂では、CABGを受けた患者の抗血栓療法による管理を最適化する必要があり、2種の抗血小板薬2剤併用療法は、多くの患者で考慮されるべきであろう」と指摘している。

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卵巣がん、オラパリブ+ベバシズマブ維持療法の第III相試験(PAOLA-1/ENGOT-ov2)/ESMO2019

 フランス・レオンベラールセンターのIsabelle Ray-Coquard氏は、進行卵巣がんでプラチナ製剤+タキサン系抗がん剤+ベバシズマブでの1次治療が奏効した患者に対するPARP阻害薬オラパリブとベバシズマブの併用とベバシズマブ単剤での維持療法を比較した第III相PAOLA-1(ENGOT-ov2)試験の結果を発表。オラパリブ・ベバシズマブ併用はベバシズマブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長すると報告した。PAOLA-1(ENGOT-ov2)は無作為化二重盲検比較。・対象:FIGO臨床病期分類でStage III~IVの高グレード漿液性がん、類内膜がん卵管がん、腹膜がんと診断され、プラチナ製剤+タキサンベースの化学療法にベバシズマブ3サイクル以上を施行し、完全奏効(CR)あるいは部分奏効(PR)と判定された患者806例・試験群:オラパリブ(300mg×2/日)+ベバシズマブ(15mg/kg、3週ごと)(537例)・対照群:プラセボ+ベバシズマブ(同上)(269例)・評価項目:[主要評価項目]研究グループ判定のPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、無作為化から2度目の増悪または死亡までの期間(PFS2)、最初の後治療開始から死亡までの期間(TFST)、2度目の後治療開始から死亡までの期間(TSST)、QOL、安全性および忍容性。患者は1次治療における効果とBRCA変異の状態で層別化された。 主な結果は以下のとおり。・治験担当医評価によるPFS中央値(ITT集団)は、試験群が22.1ヵ月、対照群が16.6ヵ月で、試験群で有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]0.49~0.72、p<0.0001)・暫定PFS2中央値は試験群が32.3ヵ月、対照群が30.1ヵ月であった(HR:0.86、95%CI:0.69~1.09)、OS中央値は未到達。・TFST中央値は試験群が24.8ヵ月、対照群が18.5ヵ月であった(HR:0.59、95%CI:0.49~0.71、p<0.0001)。・予め定めた年齢、Stage、PS、腫瘍減量手術時期、腫瘍減量手術の結果、1次治療の反応性のサブグループ解析ではいずれも試験群が優位であった。・BRCA遺伝子変異を有する症例でのPFS中央値は試験群が37.2ヵ月、対照群が21.7ヵ月(HR:0.31、95%CI:0.20~0.47)、BRCA遺伝子変異なしの症例では試験群が18.9ヵ月、対照群が16.0ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.58~0.88)であった。・BRCA変異を含む相同組換え修復異常(HRD)を有する症例でのPFS中央値は試験群が37.2ヵ月、対照群が17.7ヵ月であった(HR:0.33、95%CI:0.25~0.45)。・BRCA変異を含まないHRDを有する症例でのPFS中央値は試験群が28.1ヵ月、対照群が16.6ヵ月であった(HR:0.43、95%CI:0.28~0.66)。・HDRなしあるいは不明の症例でのPFS中央値は16.9ヵ月、対照群が16.0ヵ月であった(HR:0.92、95%CI:0.72~1.17)。・治療関連有害事象発現率は試験群が99%、対照群が96%、Grade3以上は試験群が57%、対照群が51%であった。主な項目は試験群が疲労感/無力症、悪心、高血圧、対照群が高血圧、疲労感/無力症、関節痛であった。・健康関連QOLのスコアは両群で差を認めなかった。

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大腸がん術後補助化学療法、ctDNAによる評価(A GERCOR-PRODIGE)/ESMO2019

 フランス・European Georges Pompidou HospitalのJulien Taieb氏は、StageIIIの結腸がんでの術後補助化学療法では血液循環腫瘍DNA(ctDNA)が独立した予後予測因子であり、ctDNAが陽性か否かにかかわらず、術後補助化学療法は6ヵ月のほうが無病生存期間(DFS)が良好な傾向が認められたと欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で報告した。 今回の結果はIDEA FRANCE試験に参加した患者の血液検体を用いたA GERCOR-PRODIGE試験に基づくもの。IDEA FRANCE試験は、大腸がんの術後補助化学療法としてのFOLFOX療法またはCapeOX療法の投与期間について、3ヵ月間と6ヵ月間を比較した6つの前向き第III相無作為化試験を統合解析したIDEA collaborationに含まれる試験の1つ。 IDEA collaboration では全体として6ヵ月投与群に対する3ヵ月投与群の非劣性は確認されなかった。とくにCapeOX療法の患者の低リスク群では、3ヵ月投与は6ヵ月間投与と同様の有効性を示した。ただ、FOLFOX療法の患者の高リスク群では、6ヵ月間投与群でより高いDFSが得られたという結果になっている。 A GERCOR-PRODIGE試験の対象はIDEA FRANCE試験参加者のうち805例。検体採取は化学療法施行前にEDTA採血管を用いて行われている。検体の解析はWIF1遺伝子と神経ペプチドY(NPY)のメチル化マーカーをデジタルPCRによって解析した。最終的に805例のうち、ctDNA陰性群は696例、ctDNA陽性群は109例であった。 主な結果は以下のとおり。・2年DFS率はctDNA陽性群が64.12%、ctDNA陰性群が82.39%でctDNA陽性群は予後不良であった(ハザード比[HR]:1.85、95%信頼区間[CI]:1.31~2.61、p<0.001)。・多変量解析では、ctDNA陽性(HR:1.85、95%CI:1.31~2.61、p=0.0005)、N2(≧4)(HR:2.09、95%CI:1.59~2.73、p<0.0001)は予後不良因子であった。・治療期間別にみると、6ヵ月投与は3ヵ月投与に比べ予後が良好だった(HR:0.6、95%CI:0.45~0.78、p=0.0002)・ctDNA陽性・陰性別と治療期間の関係では、ctDNA陽性群で治療期間3ヵ月間でのDFS率が最も低かった(p<0.0001)。・T4またはN2(≧4)あるいはその両方を有する高リスクStage IIIではctDNA陽性群のDFS率が有意に低かった(p<00001)。・T1-3かつN1(1-3)の低リスクStage IIIではctDNA陽性群とctDNA陰性群の間でDFS率に有意差は認めなかった(p=0.07)。 今回の結果についてTaieb氏は「術後補助化学療法の3ヵ月間はとりわけctDNA陽性結腸がん患者では不十分なアウトカムに関連している可能性がある」と述べている。

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またも敗北した急性心不全治療薬―血管拡張薬に未来はないのか(解説:絹川弘一郎氏)-1124

 急性心不全に対する血管拡張薬は、クリニカルシナリオ1に対しては利尿薬も不要とまで一時いわれたくらい固い支持があるクラス1の治療である。シナリオ2でもほどほど血圧があればafterloadを下げることは古くから収縮不全に悪かろうはずがないと考えられてきて、そもそもV-HeFT IやV-HeFT IIはvasodilatorがHFrEFの長期予後を改善するのではないかという(今では顧みられない)コンセプトで始まり、レニンアンジオテンシン系にたどり着いた歴史的経緯がある。 現在は急性心不全の血行動態改善に血管拡張薬が強く推奨されてはいるものの、予後改善効果は期待しないというのが硝酸薬に対する立ち位置である。ASCEND-HFでnesiritideが、急性期の呼吸困難感がprespecifiedの有効性基準に達しなかったからダメというのも厳しい見方であったと思うが、それはそれで急性期の効果を1次エンドポイントにしていた。しかし、その後の臨床試験では結局6ヵ月程度の予後改善効果を求めるというスタンスにいつの間にか変化してきていて、ularitideは予後改善効果がないということでボツになったようである。それで唯一残っていた急性心不全に対する血管拡張薬がserelaxinである。 serelaxinは妊娠中に働くrelaxinの遺伝子組み換え製剤であり、血管拡張作用以外にこれでもかというくらい心血管系に対するベネフィットが報告されてきた。カルペリチドとその辺はよく似ているが、それはさておきRELAX-AHFという580/581例をエントリーした決して数が少ないとは言えない試験で、実は急性期の呼吸困難感をLikert scaleで評価した、どちらかというと客観性がより高いと思われる項目で有意差を達成できていなかった。ただ、180日までの死亡が少ないようだということで、RELAX-AHF-2というこの試験で再評価することになった。今回は3,274/3,271例という本当の大規模で施行され、180日の心血管系死亡を減らせるかを1次エンドポイントにした(後で5日までの心不全悪化も加えている)。残念ながら、より大規模にしてprimaryにセットすると予後改善効果が消えてしまうという心不全あるあるの罠にはまったようで、この薬も終わってしまった。もともとLikert scaleで有意差がない時点で予後改善をいう資格なしと思っていた。同時期にわが国においてもRELAX-AHF-Asiaという試験が走っていたのであるが、これも露と消えてしまった。 要するに硝酸薬で大抵なんとかなっているんだから、それよりずっと高い薬を承認してくれというなら、硝酸薬は予後改善しなくてもいいけど高い薬は予後改善してくれということのようであるが、私見ではそもそも最初の2~3日の治療が半年後の予後を変えるというコンセプトになじめないので、このようなコンセプトで急性心不全の新薬を開発することはやめたほうがいいのではないかと思っている。いずれにせよ、わが国のカルペリチドを残して世界中から硝酸薬以外の急性心不全に対する血管拡張薬は消滅しつつあるし、今後の期待も当面ない。

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