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左室駆出率(LVEF)が50%以上に保たれ、β遮断薬のほかに適応がない心筋梗塞後の患者において、β遮断薬の投与は非投与の場合と比較して、全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合の発生率を低減しないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のAnna Meta Dyrvig Kristensen氏らBeta-Blocker Trialists’ Collaboration Study Groupが行ったメタ解析の結果で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年11月9日号で発表された。5つの無作為化試験の約1万8,000例を解析 研究グループは、心筋梗塞後のβ遮断薬の有効性の評価を目的とする、5つの研究者主導型非盲検無作為化優越性試験(β遮断薬群と非β遮断薬群を比較)の参加者の個別データを用いたメタ解析を実施した(Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIなどの助成を受けた)。 5つの試験から、心筋梗塞を発症し、LVEFが50%以上に保持され、β遮断薬以外に適応がない参加者の個別患者データを収集した。 主要エンドポイントは、全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合とした。1段階固定効果Cox比例ハザードモデルを用いてイベント発生率を解析した。 REBOOT(7,459例)、REDUCE-AMI(4,967例)、BETAMI(2,441例)、DANBLOCK(2,277例)、CAPITAL-RCT(657例、日本の試験)の各試験に参加した合計1万7,801例を解析の対象とした。β遮断薬群が8,831例、非β遮断薬群が8,970例であった。主要エンドポイント個々の発生率にも差はない 全体の年齢中央値は62歳(四分位範囲[IQR]:55~71)、女性が20.7%で、8.1%に心筋梗塞の既往歴があり、2.0%が心房細動を有していた。また、45.7%がST上昇型心筋梗塞で、94.4%が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けていた。 追跡期間中央値3.6年(IQR:2.3~4.6)の時点で、主要エンドポイントのイベントは、β遮断薬群で717例(8.1%)、非β遮断薬群で748例(8.3%)に発生し、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.87~1.07、p=0.54)。 主な副次エンドポイントである主要エンドポイントの3つの構成要素の発生率にも、両群間で有意な差はなかった(全死因死亡:β遮断薬群3.8%vs.非β遮断薬群3.6%[HR:1.04、95%CI:0.89~1.21]、心筋梗塞:4.1%vs.4.5%[0.89、0.77~1.03]、心不全:0.8%vs.1.0%[0.87、0.64~1.19])。安全性エンドポイントも同程度 安全性のエンドポイントである虚血性脳卒中は、β遮断薬群で115例(1.3%、0.37件/100人年)、非β遮断薬群で94例(1.0%、0.30件/100人年)に発生した(3年追跡時の制限付き平均無イベント生存期間の群間差:2.6日、95%CI:-0.73~4.4)。また、高度房室ブロックが、それぞれ69例(0.8%、0.23件/100人年)および68例(0.8%、0.23件/100人年)にみられた(HR:1.03、95%CI:0.73~1.44)。 著者は、「心筋梗塞患者では、LVEF低下例に比べLVEF保持例は、梗塞範囲が小さく、心筋瘢痕も少ない可能性があり、心室性不整脈や突然死に対する脆弱性が低いと考えられるため、この患者集団では、心筋梗塞後のβ遮断薬の薬理学的効果は、重要性が低い可能性がある」「本研究では、β遮断薬の種類による明らかな差異は認めなかったが、非選択的β遮断薬(カルベジロール、プロプラノロールなど)を処方された患者は少なかった。また、5つの試験のすべてで、全般にβ遮断薬の用量は低く、これは現在の実臨床を反映したものと考えられる」としている。