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第272回 悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見

悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見ピロリ菌は身を寄せる胃の上皮細胞にIV型分泌装置を使って毒素を注入します。CagAという名のその毒素の意外にも有益な作用をカロリンスカ研究所主体のチームが発見しました1-3)。その作用とはタンパク質の凝集によるアミロイドの形成を阻止する働きです。アミロイドはアルツハイマー病、パーキンソン病、2型糖尿病、細菌感染などの数々の疾患と関連します。CagAはそれらアミロイド関連疾患の治療手段として活用できるかもしれません。ピロリ菌が住まうヒトの胃腸は清濁入り交じる細菌のるつぼです。消化や免疫反応促進で不可欠な役割を担うヒトに寄り添う味方がいる一方で、胃腸疾患や果ては精神不調をも含む数多の不調を引き起こしうる招かれざる客も居着いています。ピロリ菌は世界の半数ほどのヒトの胃の内側に張り付いており、悪くすると胃潰瘍や胃がんを引き起こします。腸の微生物に手出しし、細菌の代謝産物の生成を変える働きも知られています。ピロリ菌がヒトに有害なことはおよそ当たり前ですが、カロリンスカ研究所のチームが発見したCagAの新たな取り柄のおかげでピロリ菌を見る目が変わるかもしれません。ピロリ菌はCagAを細胞に注入してそれら細胞の増殖、運動、秩序を妨害します。ヒト細胞内でCagAはプロテアーゼで切断され、N末端側断片と病原性伝達に寄与するC末端側断片に分かれます。カロリンスカ研究所のGefei Chen氏らは構造や機能の多さに基づいてN末端側断片(CagAN)に着目しました。大腸菌や緑膿菌などの細菌が作るバイオフィルムは宿主の免疫細胞、抗菌薬、他の細菌を寄せ付けないようにする働きがあります。バイオフィルムは細菌が分泌したタンパク質がアミロイド状態になったものを含みます。ピロリ菌は腸内細菌の組成や量を変えうることが知られます。その現象は今回の研究で新たに判明したCagANのバイオフィルム形成阻止作用に起因しているのかもしれません。緑膿菌とCagANを一緒にしたところ、バイオフィルム形成が激減しました3)。アミロイド線維をより作るようにした緑膿菌のバイオフィルム形成もCagANは同様に阻止しました。CagANの作用は広範囲に及び、細菌のアミロイドの量を減らし、その凝集を遅らせ、細菌の動きを鈍くしました。ピロリ菌で腸内細菌が動揺するのは、ピロリ菌の近くの細菌がCagANのバイオフィルム形成阻止のせいで腸内の殺菌成分により付け入られて弱ってしまうことに起因するかもしれないと著者は考えています1)。バイオフィルムを支えるアミロイドは細菌の生存を助けますが、ヒトなどの哺乳類の臓器でのアミロイド蓄積は種々の疾患と関連します。病的なアミロイド線維を形成するタンパク質は疾患ごとに異なります。たとえばアルツハイマー病ではアミロイドβ(Aβ)やタウ、パーキンソン病ではαシヌクレイン、2型糖尿病は膵島アミロイドポリペプチドがそれら疾患と関連するアミロイド線維を形成します。CagANはそれらのタンパク質のどれもアミロイド線維を形成できないようにする働きがあり、どうやらタンパク質の大きさや電荷の差をものともせずアミロイド形成を阻止しうるようです。Googleの人工知能(AI)AlphaFold 3を使って解析したところ、CagANを構成する3区画の1つであるDomain IIがアミロイド凝集との強力な結合相手と示唆されました。Domain IIを人工的に作って試したところ、アルツハイマー病と関連するAβのアミロイド線維形成がきっちり阻止されました。アミロイド混じりのバイオフィルムを作る薬剤耐性細菌感染やアミロイド蓄積疾患は人々の健康に大きな負担を強いています。今回の研究で見出されたCagANの取り柄がそれら疾患の新たな治療法開発の足がかりとなることをChen氏らは期待しています2,3)。 参考 1) Jin Z, et al. Sci Adv. 2025;11:eads7525. 2) Protein from bacteria appears to slow the progression of Alzheimer's disease / Karolinska Institutet 3) A Gut Pathogen’s Unexpected Weapon Against Amyloid Diseases / TheScientist

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夏の追い込みに備えて下地を作れ【研修医ケンスケのM6カレンダー】第3回

夏の追い込みに備えて下地を作れさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年6月18日で、梅雨入りして雨が続くと思いきや、蒸し暑い日が続いています。熱中症の患者さんも全国的に増えてきたとか。みなさまいかがお過ごしでしょうか。6月にやるべきこと(ジメジメした暑い日はテラス席でシャンパン飲みながら過去問開いて、と…)先月は「急がば回れ」をテーマに実習を疎かにしないこと、マッチングの書類を準備し始めることの2つのメッセージをお伝えしました。3ヵ月目となる6月。今月も大きく次の2つのテーマを取り上げます。1.マッチングに必要な書類を仕上げて提出しよう2.夏に向け試験対策資料と情報を集めよう書類準備の天王山実習やマッチング準備に追われ、存分に卒試国試対策に時間を割くことができず、もどかしい思いをしている医学生さんが多いのではないでしょうか。ですが、慌てない慌てない。6月はマッチング応募がスタート。締め切りだって案外7月頭のところも。マッチングの面接は定番の質問もありますが、提出した履歴書、志望動機から尋ねられることがほとんどです。小論文がある場合も。そして多くの学生にとっては書き慣れない書類ばかり。なので先月号では早めに手をつけてね、とお伝えしたのです(まだ手をつけてなくても間に合うぞ!諦めない!)。すなわち、6月はマッチングにおける書類準備の天王山とも言える月なのです。すでに準備に取り掛かっている方が多いはずですが、書類準備で最後に時間をかけることができる機会になり得るのです。作成が終わっている方は必ず第三者に添削してもらいましょう。できれば先生や志望病院の先輩に見てもらうとなお良いです。また、志望する病院のホームページは必ずもう一度目を通して、提出する書類に共感した感想や意見、価値観を書き留める箇所がないかを探りましょう。7・8月の夏の追い込みに備えよ(ジェラートにかぶりつきたい!!)マッチングの観点から6月が書類準備のヤマであることはお伝えした通りです。ここからは一転、視点を変えてみます。医師国家試験対策業界として、6月は最新版の試験対策資料が発行される月です。そして、卒業試験については問題作成の締め切りまたは編集時期でもあります。1つひとつ見ていきましょう。最新版の試験対策資料を入手せよ7・8月になると、マッチングも面接試験対策に落ち着き、実習も終了することで、比較的試験対策に時間をかける余裕が生まれる方が増えると思います。模擬試験が控える方もいれば、9月以降の卒業試験や模擬試験に向けてひたすら追い込むという方もいらっしゃることでしょう。6月は最新版の試験対策教材が出揃う時期でもあるため、早めに購入しておき夏に備えましょう。少し齧っておくのもよし、敢えて焦らして、手をつけるまでの準備目的で過去問演習をもう1回、なんてのも個人的にはありだと思います。それこそ、自分自身の進捗だけでなく、勉強会メンバーでまっさらな教材として同じペースで学習を深めるのも選択肢として大いに結構です。卒業試験のヤマを探れ(「教授〜今度の卒業試験の問題作成手伝いましょうか?」なんちゃって)近年、卒業試験形態を医師国家試験に類似させる大学が増えてきました。一部の大学では解答を公開するところも。(オフレコ:個人的には解答なんて頼らず調べて…と言う意見はもう古いと思います。解答がわからないことで、自分がどこを間違えたのかわからないまま、あやふやな情報が出回って正しくない医学知識が定着してしまうデメリットの方が大きいというのが1番の理由です。今はChat GPTに投げれば正解を簡単に教えてくれるかもしれませんが…)とはいえ、大学の卒業試験は大学の先生方が作成するオリジナルの試験です。「どこが出ますか?」なんてナンセンスな質問はしないことは大前提ですが、何故か毎年ヤマ情報が出回りますよね。邪道かもしれませんが、ヤマを探ることは重要なスキルだと思います。この時期によくあるシチュエーションとしては実習先で卒業試験作成情報を仕入れる、です。「〇〇先生が5年生へのミニ講義で言ってた!」とか「今年から実習中に話すようにしたらしい」が風物詩の1つですね。そこだけ勉強しても合格はできませんが、先生方も情報をアップデートして講義や問題作成をされています。実習で回ったときには耳にしなかった最新情報を仕入れる、という観点では良い学習になると思います。実際に数年前に卒業試験で問われたことが、去年の国試に出た、ということもあります。なので、情報を集める、敏感になることは決して損ではないです。問題作成の今だからこそ、先生方も何を出そうか、出したのか覚えていらっしゃるので、今月は狙い目です。今月のまとめいかがだったでしょうか。梅雨の季節は体調を崩す方が多いです。1年の半分を駆け抜けていますし、ジメジメと暑かったり、雨が降ったりで引きこもりがちになるのもあるのでしょう。息抜きの機会が少なくなるこの時期、私のオススメは映画館に行くことです。宣伝ではありませんが、最近見た「フロントライン」という医療映画は臨場感があって良かったです。予告ですが、次回7月号は今回触れなかったマッチング攻略についてまとめます!お楽しみに!

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心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

 心筋梗塞患者において、退院後6ヵ月間における便秘は心不全による入院リスクの上昇と強く関連していることを、仙台市医療センター仙台オープン病院の浪打 成人氏らによる研究の結果、示唆された。浪打氏らは以前、急性心不全後に便秘のある患者は心不全による再入院リスクが高いことを報告しており、今回、便秘による心筋梗塞患者の予後への影響を心不全入院で評価し、BMC Cardiovascular Disorders誌2025年5月28日号に報告した。 本研究では、2012年1月~2023年12月に仙台オープン病院に入院した心筋梗塞患者1,324例(平均年齢:68±14歳、男性:76%)を対象とし、便秘患者は下剤を定期的に使用している患者と定義した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値2.7年)中に、115例が心不全で死亡し、99例が再入院した。・ランドマークKaplan-Meier解析の結果、0~0.5年における便秘のある患者とない患者の心不全による入院率は7.8%と2.1%(log-rank検定:p<0.0001)、0.5~3年においては4.8%と3.9%(同:p=0.17)であった。・調整Cox比例ハザード解析では、便秘のある患者はない患者と比較して、0~0.5年における心不全による入院リスクが有意に高いことが明らかになった(ハザード比[HR]:2.12、95%信頼区間[CI]:1.07~4.19、p=0.032)。0.5~3年では有意差はみられなかった(HR:0.86、95%CI:0.47~1.57、p=0.63)。 今回の結果から、著者らは「便秘が心筋梗塞後の心不全発症を予防するための新たなターゲットとなる可能性がある」としている。

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男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響

 認知症は、世界的な公衆衛生上の大きな問題であり、そのリスクは性別により異なることが知られている。女性のアルツハイマー病およびその他の認知症発症率は、男性の約2倍であるといわれている。テストステロン値は、高齢者の認知機能に影響を及ぼすと考えられているが、これまでの研究では一貫性のない結果が報告されており、性ホルモンと認知症との関係は、依然として明らかになっていない。中国・山東大学のYanqing Zhao氏らは、大規模データベースを用いて、男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響を検討した。Clinical Endocrinology誌オンライン版2025年5月11日号の報告。 英国バイオバンクのデータを用いて、検討を行った。血清中の総テストステロン値および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)値の測定には、免疫測定法を用いた。血清中の遊離テストステロン値の算出には、vermeulen法を用いた。認知症およびアルツハイマー病の発症は、入院患者のデータより抽出した。性ホルモンと認知症との関連性を評価するため、年齢およびその他の変数で調整したのち、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。用量反応関係を定量化するため、制限付き3次スプラインモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、男性18万6,296人(平均年齢:56.68±8.18歳)、閉経後女性12万6,109人(平均年齢:59.73±5.78歳)。・12.0年間(四分位範囲:11.0〜13.0)のフォローアップ調査後、認知症を発症した対象者は、男性で3,874例(2.08%)、女性で2,523例(2.00%)。・遊離テストステロン値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.56〜0.71)およびアルツハイマー病(HR:0.49、95%CI:0.60〜0.72)リスクの低下が認められた。・一方、SHBG値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(HR:1.47、95%CI:1.32〜1.64)およびアルツハイマー病(HR:1.32、95%CI:1.11〜1.58)リスクの上昇が認められた。・閉経後女性では、遊離テストステロン値が第4五分位の際、すべての原因による認知症(HR:0.84、95%CI:0.78〜0.95)およびアルツハイマー病(HR:0.76、95%CI:0.63〜0.91)リスクの低下が認められた。・更年期女性では、SHBG値の上昇は、すべての原因による認知症(HR:1.35、95%CI:1.28〜1.55)およびアルツハイマー病(HR:1.52、95%CI:1.25〜1.85)リスクの上昇との関連が認められた。 著者らは「SHBG値の上昇および遊離テストステロン値の低下は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症率上昇と関連している可能性が示唆された。これらの因果関係を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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GLP-1受容体作動薬使用時にすべき生活習慣介入の優先事項とは

 肥満症の治療にGLP-1受容体作動薬が使用される際に、その効果を維持などするために患者の食事や運動など生活習慣に引き続き介入する必要がある。米国・タフツ大学フリードマン栄養科学政策学部のDariush Mozaffarian氏らの研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際に、食事内容や生活習慣介入での優先事項をアメリカ生活習慣病医学会、アメリカ栄養学会、肥満医学協会、および肥満学会の団体とともに共同指針として策定した。この指針はThe American Journal of Clinical Nutrition誌2025年5月29日号オンライン版に掲載された。GLP-1受容体作動薬の使用でも引き続き生活習慣介入は必要 研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際、食事による栄養摂取とほかの生活習慣介入に関する事項について文献を評価し、関連するトピック、優先事項、および新しい方向性を特定した。  主な結果は以下のとおり。・GLP-1受容体作動薬は臨床試験で体重を5~18%減少させているが、リアルワールドの分析ではやや低い効果を示し、複数の臨床的な課題が示されている。・安全性などの課題では、とくに消化器系の副作用、カロリー制限による栄養不足、筋肉や骨の減少、長期的なアドヒアランスの低さとその後の体重増加、高コストによる効果の低さがある。・多くの実践ガイドラインでは、肥満成人に対しさまざまな根拠に基づく食事療法と行動療法を推奨しているが、GLP-1受容体作動薬との併用は広く普及していない。・先述の課題に対応するための優先事項には以下の項目がある。(a)体重減少と健康に関する目標を含む患者中心のGLP-1受容体作動薬の導入(b)通常の食習慣、感情要因、摂食障害、関連する医療状態を含んだベースラインスクリーニング(c)筋力、運動機能、体組成評価を含む総合的な検査(d)社会的健康決定要因のスクリーニング(e)有酸素運動、筋力トレーニング、睡眠、精神的ストレス、薬物使用、社会的つながりを含む生活習慣の評価・GLP-1受容体作動薬使用中は、消化器系副作用への栄養的・医療的管理が重要であり、変化した食事の好みや摂取量への対応、栄養不足の予防、有酸素運動と適切な食事による筋骨格量の維持、補完的な生活習慣介入も不可欠である。・サポート戦略として、グループベースでの患者訪問、管理栄養士によるカウンセリング、遠隔医療およびデジタルプラットフォーム、「食事は薬」への啓発などの介入が挙げられる。・肥満の程度にかかわらず薬剤へのアクセス、食事と栄養への不安、栄養と調理に関する知識は、GLP-1受容体作動薬を用いた者に影響を及ぼす。・今後の研究の重点領域には、内因性GLP-1の食事による調節、アドヒアランス向上の戦略、使用中止後の体重維持のための栄養上の優先事項、組み合わせまたは段階的による集中的な生活習慣管理、臨床的肥満の診断基準が挙げられる。 以上から研究グループは、「エビデンスに基づく栄養と生活習慣の介入戦略は、GLP-1受容体作動薬による肥満治療における主要課題に対処する上で重要な役割を果たし、臨床医が患者の健康向上を促進する上でより効果的になることを可能にする」と結んでいる。

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JN.1対応コロナワクチン、発症・入院予防の有効性は?(VERSUS)/長崎大

 2024年度秋冬シーズンの新型コロナワクチン定期接種では、JN.1系統に対応した1価ワクチンが採用された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2024年10月1日~2025年3月31日の期間におけるJN.1系統対応ワクチンの有効性について、国内多施設共同研究(VERSUS study)の第12報となる結果を、2025年6月11日に報告した1)。本結果により、JN.1系統対応ワクチンの接種により、発症予防、入院予防において追加的な予防効果が得られる可能性が示された。 VERSUS studyは、2021年7月1日より新型コロナワクチンの有効性評価を継続的に実施しており、2024年10月1日からはインフルエンザワクチンの有効性評価も開始している。今回の報告のうち、発症予防の有効性評価では、2024年10月1日~2025年3月31日に国内14施設を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が疑われる症状で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者を対象とした。また、入院予防の有効性評価では、同期間に国内11施設で、呼吸器感染症が疑われる症状または肺炎像を認めて入院した60歳以上の患者を対象とした。受診時に新型コロナワクチン接種歴およびインフルエンザワクチン接種歴が不明な場合は除外された。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とする検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究で、COVID-19の発症および入院に対するJN.1系統対応ワクチンの追加的予防効果を、JN.1系統対応ワクチンを接種していない場合と比較して評価した。JN.1系統対応ワクチンは、mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ、第一三共)、組換えタンパクワクチン(武田薬品工業)、レプリコンワクチン(Meiji Seika ファルマ)の5種類が使用された。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・18歳以上の4,680例(検査陽性者990例、陰性者3,690例)が対象となった。年齢中央値51歳(四分位範囲[IQR]:34~72)、65歳以上が32.7%、男性48.1%、基礎疾患を有する人33.7%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の発症予防有効性は54.6%(95%信頼区間[CI]:29.9~70.6)であった。・接種後の日数別有効性は、接種後7~60日では55.5%(95%CI:20.7~75.0)、接種後61日以上では53.5%(95%CI:12.8~75.2)。・年齢別では、18~64歳のJN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の有効性は60.0%(95%CI:11.6~81.9)、65歳以上では52.5%(95%CI:15.9~73.2)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は51.5%(95%CI:19.6~70.8)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の883例(検査陽性者171例、陰性者712例)が対象となった。年齢中央値83歳(IQR:76~89)、男性59.0%、基礎疾患を有する人98.3%、高齢者施設入所者29.9%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の入院予防有効性は63.2%(95%CI:14.5~84.1)であった。・重症度別のワクチンの有効性は、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した場合では68.3%(95%CI:1.1~89.8)、CURB-65スコア中等症以上の患者に限定した場合では53.9%(95%CI:-9.7~80.6)、入院時肺炎がある患者に限定した場合では67.4%(95%CI:7.4~88.5)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は72.9%(95%CI:22.8~90.5)であった。 本研究により、既存のワクチン接種歴の有無にかかわらず、JN.1系統対応ワクチンの追加接種が発症および入院予防に対して追加的な有効性をもたらす可能性が示唆された。本報告は2025年5月30日時点での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断され公開された。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有される予定。

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中硬膜動脈塞栓術で、慢性硬膜下血腫の再発リスクは軽減するか/JAMA

 慢性硬膜下血腫(CSDH)に対する開頭術後の再発リスクが高い患者において、標準的な薬物療法単独と比較して標準治療に中硬膜動脈(MMA)塞栓術を追加しても、6ヵ月後の再発率を改善せず、同側CSDH再発に対する再手術やCSDH関連の累積入院期間にも差はないことが、フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのEimad Shotar氏らが実施した「EMPROTECT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年6月5日号で報告された。フランスの無作為化試験 EMPROTECT試験は、フランスの12施設で実施した非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化試験であり、2020年7月~2023年3月に参加者を募集した(Programme Hospitalier de Recherche Clinique[PHRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、初発CSDHまたは再発CSDHで開頭術を受け、CSDHの再発リスクが高い患者を対象とした。被験者を、薬物療法に加え手術から7日以内に塞栓術(300~500μmエンボスフィア、Merit Medical製)を受ける群(介入群)、または標準的な薬物療法のみを受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、6ヵ月の時点でのCSDH再発率とし、独立審査委員会が盲検下に評価した。6ヵ月後のCSDH再発率、介入群14.8%vs.対照群21.0% 342例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:68~83]、男性274例[80.1%])を登録し、介入群に171例、対照群に171例を割り付けた。308例(90.1%)が試験を完了した。ベースラインで、237例(69.3%)が抗血小板薬または抗凝固薬の投与を受けていた。CSDHは、257例(75.1%)が片側性、85例(24.9%)が両側性だった。 6ヵ月後のCSDH再発率は、介入群が14.8%(24/162例、同側CSDH再発22例、死亡[神経学的原因または原因不明]2例)、対照群は21.0%(33/157例、32例、1例)と、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比:0.64[95%信頼区間[CI]:0.36~1.14]、補正後絶対群間差:-6%[95%CI:-14~2]、p=0.13)。塞栓術関連合併症の発現、重度1例、軽度3例 副次エンドポイントはいずれも両群間に有意差はなかった。同側CSDH再発に対する再手術は、介入群の7例(4.3%)、対照群の13例(8.3%)で行われた(p=0.14)。1ヵ月後および6ヵ月後の機能障害(修正Rankinスケールスコア≧4点)と死亡にも差はみられなかった。CSDH関連の直接または間接的な累積入院期間中央値は、介入群が10日、対照群は9日であった(p=0.12)。 また、介入群における塞栓術関連合併症は、重度が1例(0.6%[頸動脈カテーテル留置中に発生した頭蓋内中大脳動脈閉塞に対する機械的血栓回収術])、軽度が3例(1.8%[一過性神経脱落症候2例、軽度頭痛1例])に発現した。 著者は、「効果の大きさは、非接着性液体塞栓物質を用いたMMA塞栓術の有益性を示した試験など、最近の他の試験と一致しており、これらの知見を総合的に考慮することで、今後の研究や、CSDH管理におけるこの治療法の活用に役立つ可能性がある」としている。

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ドナー心の冷却保存時間の延長に新たな可能性

 ドナーから摘出された心臓を移送中のダメージから守ることにつながる新たな発見によって、今後、移植に使用できる心臓(以下、ドナー心)の数が増えるかもしれない。米メイヨー・クリニックの心臓血管外科医であるPaul Tang氏らが、冷却保存している間にドナー心が損傷を受ける生物学的なプロセスを特定したとする研究結果を、「Nature Cardiovascular Research」に5月19日発表した。 さらに喜ばしいことに、Tang氏らはすでに心疾患の治療に使用されているある薬が、ドナー心の損傷の予防にも活用できることを突き止めた。Canrenoneと呼ばれるこの薬を使用して保存されたドナー心では、同薬を使用しなかったドナー心と比べてポンプ機能が約3倍に強化されたことが示されたという。 Tang氏は、「私は心臓血管外科医として、手術室でドナー心の保存時間の1時間の延長が移植後のドナー心の回復にどれほど影響するかを目の当たりにしてきた。今回の発見によって、心臓の保存中にその機能を維持し、移植のアウトカムを向上させ、患者の命を救う移植へのアクセスを改善するための新たなツールを手に入れることができるかもしれない」とメイヨークリニックのニュースリリースの中で述べている。 Tang氏らは研究の背景情報の中で、ドナー心のうち最終的に移植に使われる心臓は半数に満たないと説明している。その主な理由の一つは、ドナーから摘出した心臓を移植可能な状態に保てる時間が比較的短いことにある。これは、冷却保存の時間が長過ぎるとドナー心の機能が低下する恐れがあるためだ。そのような心機能低下の結果として生じる合併症の一つが、移植された心臓が効率的に血液を送り出せない状態に陥る原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction)で、移植患者の最大20%に生じる。 このようなドナー心の損傷がなぜ起こるのかを明らかにするために、Tang氏らは、冷却保存プロセスに対する分子レベルの反応を個々の細胞レベルで調査した。その結果、心筋細胞内にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)と呼ばれるタンパク質がドナー心の損傷に関与している可能性が示された。具体的には、冷却保存中にはMRの産生が大幅に増加し、それらが細胞核内で集まって液滴状の構造物を形成する。タンパク質が細胞の他の部分から凝集するこのようなプロセスは、相分離と呼ばれる。研究グループは、この相分離によってMRが自己活性化され、その結果、心筋細胞へのストレスと損傷を大幅に増大させることを突き止めたのだ。 次に、このプロセスを防げるかどうかを調べるため、Tang氏らはMRの働きを阻害する薬剤であるcanrenoneをドナー心に投与した。その結果、移植された心臓のポンプ機能が大幅に向上したほか、血流の改善や細胞傷害を示す兆候の大きな減少が見られたという。 この結果を踏まえ、canrenoneはドナー心を安全に保存できる期間を延長させるのに役立つ可能性があるとTang氏らは結論付けている。なお、Tang氏らによると、これと似たようなタンパク質の凝集は、腎臓や肺、肝臓などの他のドナー臓器でも冷却保存中に起こるという。そのため、同様の戦略が他の臓器の保存時間を延ばすのにも役立つ可能性が期待されている。

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腫瘍内細菌叢が肺がんの予後を左右する

 細菌は外的因子としてがんの発生に寄与するが、近年、腫瘍の中にも細菌(腫瘍内細菌叢)が存在していることが報告されている。今回、肺がん組織内の腫瘍細菌叢の量が、肺がん患者の予後と有意に関連するという研究結果が報告された。研究は、千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学(金田篤志教授)および呼吸器病態外科学(鈴木秀海教授)において、越智敬大氏、藤木亮次氏らを中心に進められ、詳細は「Cancer Science」に4月11日掲載された。 近年、がんの予後と腫瘍内細菌叢の関係が注目されている。その中でも、肺がんに関する研究は、喀痰や気管支肺胞洗浄液に含まれる腫瘍外部の細菌に焦点を当てたものがほとんどであり、腫瘍内細菌叢とその予後への影響について検討したものは限られている。そのような背景を踏まえ著者らは、腫瘍内細菌叢が肺がん患者の予後に与える影響を評価するために、単施設のコホート研究を実施した。 本研究では、最も一般的な肺がんの2つの組織型、肺腺がん(LUAD)と肺扁平上皮がん(LUSC)が解析された。肺がんの腫瘍サンプルは、千葉大学医学部付属病院で2016年1月~2023年12月の間に手術を受けた507人(LUAD 369人、LUSC 138人)より採取された。再発手術と術前化学療法を行った症例は除外した。腫瘍内細菌叢のゲノムDNA(bgDNA)の定量はqPCR法により行い、bgDNAが大量に検出された症例については、蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)により、腫瘍組織内の局在が確認された。 腫瘍サンプルのqPCRの結果、391サンプル(77.1%)で、定量範囲下限以上のbgDNAが検出された。LUADおよびLUSCサンプルを用いたFISH解析により、組織中に細菌が存在することが示されたが、LUSCにおいては、細菌は間質に多く存在していた。 次に性別、病期(I~III)、組織型(LUAD、LUSC)などの患者特性ごとに、細菌叢のbgDNAのコピー数を調べた。その結果、他の患者特性では有意な差は認められなかったが、組織型では、LUSCと比較しLUADで有意に細菌叢のbgDNAのコピー数が多いことが分かった(P=1×10-7)。 定量化された391の検体は、bgDNAの定量値に基づき、細菌叢高容量群、低容量群、超低容量群の3群に分類し、全生存率(OS)と無再発生存率(RFS)との相関が検証された。その結果、LUADでは、細菌叢の量はOSやRFSのいずれとも有意に相関していなかった。しかしLUSCでは、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量および多変量解析の結果、OSおよびRFSと有意に関連し、病期とは独立した予後因子として特定された。 本研究について金田教授は、「腫瘍内細菌叢は組織型に差異はあるものの、多くの肺がん組織で認められた。この細菌叢の量は、予後の悪い肺扁平上皮がんを層別化する上で有用なマーカーとなる可能性がある」と述べており、鈴木教授は、「これら細菌の肺がん発症や進展への寄与については今後さらなる研究が必要である」と付け加えた。

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AIは眼科医の緑内障診断に影響を与える

 近年、人工知能(AI)による画像診断アルゴリズムは眼科疾患の診断精度を向上させているが、医師の判断に影響を及ぼし、バイアスを引き起こす可能性もある。今回、眼底写真に基づく緑内障診断において、AIの診断結果は医師の判断に影響を及ぼすという研究結果が報告された。特に、経験の浅い医師ほどAIの診断結果の影響を受けやすいことが示されたという。研究は、山梨大学医学部眼科学教室の柏木賢治氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月16日掲載された。 緑内障は自覚症状が少ない場合が多く、疾患による障害は不可逆的であるため、早期発見が極めて重要だ。近年、緑内障の診断においてAIが有用であることを示す研究報告が多数発表されている。しかし、AIの利用が拡大するにつれ、眼科医の診断がAIの結果に影響を受け、診断を誤ってしまう可能性も懸念される。実際、皮膚病変の診断においてAIが誤診した際、その診断に異議を唱える皮膚科医は少なかったとの報告がある。一方、緑内障に関しては、AIの診断が医師の判断に及ぼす影響について十分な検証が行われてこなかった。こういった背景を踏まえ、著者らは眼底写真を用いた緑内障の検出および重症度評価に対するAIの影響を検討した。 本研究では、2021年1~6月の間に山梨大学医学部附属病院眼科を受診した40~70歳の患者の眼底写真が用いられた。画像は各30枚ずつ正常眼、軽度緑内障眼、中等度緑内障眼、重度緑内障眼の4つの重症度に振り分けられた。画像評価には45名の眼科専門医(臨床経験5年以上)および眼科研修医(臨床経験2年以内)が参加した。 45名の眼科医は、まず4つの重症度分類に属する画像(各分類30枚、計120枚)をランダムに提示され、その重症度を評価した。この試験より少なくとも1週間後に、2回目の試験を行った。2回目の試験では眼底画像の横に「AIによる診断結果」を追記し、同様に重症度の評価を行った。この「AIによる診断結果」には意図的に誤った情報が30%含まれた。群間比較の有意水準はP<0.05とした。 全参加者の1回目の試験の正答率は48.4±24.8%だったが、2回目の試験では59.6±20.3%となり、その正答率は大幅に改善された(P<0.001)。正答率の改善は、専門医(8.6±11.4%)よりも研修医(14.2±19.0%)で大幅に大きくなっていた(P=0.04)。 次に、「AIによる診断結果」の正誤別の正答率を比較した。全参加者のAI診断が正しかった場合の正答率(63.9±20.6%)は、誤っていた場合(47.9±26.6%)よりも大幅に高くなっていた(P<0.0001)。研修医と専門医に分けて比較したところ、研修医では、AI診断が正しかった場合の正答率(66.5±18.5%)は、誤っていた場合の正答率(41.5±18.5%)よりも大幅に高かった(P<0.0001)。一方専門医では、AI診断が正しかった場合と誤っていた場合の正答率の変化は研修医よりも軽度であった(62.3±22.4% vs 52.7±27.1%、P=0.017)。 また参加者の画像診断にかかる時間を調べたところ、参加者全体で1回目の試験(10.8±4.3秒)よりも2回目の試験(9.0±2.5秒)で有意に短縮されていた(P=0.0005)。この傾向は、専門医より研修医で顕著に認められた。AIが正答を示した場合(8.2±2.0秒)に比べて誤答を示した場合(9.7±2.7秒)の方が回答時間は有意に長かった(P=0.003)。 本研究の結果について著者らは、「今回の結果から、AIによる診断が眼科医の診断に影響を与える可能性が示唆された。AI診断の正誤に関わらず、研修医の診断にかかる時間は専門医よりも短かった。これは、研修医がAIの判断に頼りがちになることを示しているのかもしれない。医師は、AIの診断システムが完全ではないことを十分に理解したうえで、適切に活用することが重要である」と述べている。

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わが国における単剤療法を考えるにはもう一段の考察も必要か?(解説:野間重孝氏)

 本論文は、PCI後の抗血小板療法において、DAPT終了後の維持戦略としてP2Y12阻害薬単剤療法がアスピリン単剤と比較して虚血イベント抑制において優れ、出血リスクも同等に保たれる可能性を、個別患者データ(IPD)を用いたメタ解析によって明らかにしたものである。対象データはいずれも信頼できるRCTに基づいており、解析の設計と手法も洗練されている。近年積み重ねられてきたP2Y12阻害薬単剤療法の有効性に関する知見を、統合的かつ精緻に再検討した意義は十分に評価できると考える。 ただ、評者のような臨床の現場に長く関わってきた者の立場から見ると、今回示された結果は、すでに多くの医師たちが経験的に感じ取っていた傾向とおおむね一致しており、新たな方向性を提示するというよりは、既存の流れを整理・追認した印象を受けた。もちろん、エビデンスを体系的に裏付ける作業は臨床指針の基盤として欠かせないが、現場感覚としては「やはりそうだったか」と静かにうなずくような感覚に近いのではないだろうか。 一点、気になったのは、本研究においてP2Y12阻害薬が薬剤クラスとして一括りに扱われており、クロピドグレルとチカグレロルの違いが十分に掘り下げられていない点である。とりわけわが国においては、チカグレロルを巡ってPHILO試験などで有効性や忍容性に関する慎重な議論がなされてきた経緯があり、現在もその使用には一定の留意が払われている。P2Y12阻害薬の使用傾向にも、欧米と日本では明確な差があり、欧米ではACSを中心にチカグレロルの使用が広く浸透しているのに対し、わが国ではクロピドグレルとプラスグレルが主流であり、チカグレロルは限定的に用いられるにとどまっている。このような背景を踏まえると、クロピドグレルを中心とした国内のエビデンスを、そのままチカグレロルに拡張してよいかについては、やや議論の余地があるように感じた。 また、本研究が今後の治療方針やガイドラインの改訂に影響を与える可能性があることは容易に想像される。大規模なメタ解析が、科学的意義のみならず制度的な検討材料としても参照されるのは自然なことであり、それ自体は否定されるべきではない。しかし、抗血小板療法の選択は、患者の病態、出血リスク、服薬アドヒアランス、社会的背景など多くの要素を踏まえたうえでの個別最適化が求められる分野であり、1つの方向性のみが過度に強調されることで、現場の柔軟性が損なわれるようなことがあってはならないと思う。 本論文は、DAPT終了後の戦略としてP2Y12阻害薬単剤療法を考慮する妥当性をあらためて丁寧に確認した点で、診療上の安心感を与える結果であると同時に、制度設計を視野に入れたエビデンス整理の1つとしても受け止められるべきものだろう。大切なのは、このような研究成果を、現場の実感と折り合いをつけながら活用していく姿勢であり、形式的な統一に回収されることのない実践的知性こそが、今後の抗血小板療法の在り方を形作っていくことを評者は願うものである。

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第248回 骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府

<先週の動き> 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府政府は、医療費削減の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分・効果が類似する医療用医薬品)」の保険適用見直しを検討しており、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」にその方針が盛り込まれた。自民・公明・日本維新の会の3党が合意し、社会保障費抑制と現役世代の保険料軽減を目的としている。見直し対象は、花粉症薬や解熱鎮痛薬、保湿剤、湿布などで、最大で7,000品目とされる。仮に保険給付から除外されれば、患者の自己負担は数千円~数万円単位で跳ね上がる。とくに慢性疾患や難病患者、小児、在宅患者への影響が懸念されている。日本医師会の松本 吉郎会長は18日の記者会見で、「医療提供が可能な都市部と異なり、へき地では市販薬へのアクセスも困難。経済性を優先しすぎれば、患者負担が重くなり、国民皆保険制度の根幹が揺らぐ」と指摘。医療機関での診療や処方の自由度が制限されることにも懸念を示した。また、現場の開業医からも、「処方薬が保険適用外となれば、治療選択肢が狭まり、医師としての判断が制限される」「市販薬への誘導が誤用や副作用を招きかねない」との声が上がっている。とくに皮膚疾患やアレルギー疾患、疼痛管理においては、治療の中核となる薬剤が影響を受けるとされる。6月18日には、難病患者の家族らが約8万5千筆の署名とともに厚生労働省に保険適用継続を要望。厚労省は「具体的な除外品目は未定で、医療への配慮を踏まえて議論する」としているが、今後の制度設計次第で現場への影響は甚大となる可能性がある。次期診療報酬改定との整合性も含め、制度の動向を注視しつつ、患者支援の観点から声を上げていくことが求められる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府) 2) 市販薬と効果似た薬の保険外し、患者に懸念 医療費節約で自公維合意(日経新聞) 3) 日医会長、3党合意のOTC類似薬見直しに懸念 骨太方針は高評価、次期診療報酬改定に期待(CB news) 4) 「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出(弁護士JPニュース) 5) 「OTC類似薬」保険適用の継続を 難病患者家族が厚労省に要望書(NHK) 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種の効果と課題が、複数の研究から改めて浮き彫りになっている。東京大学の古瀬 祐気教授らの推計によれば、2021年に国内で行われたワクチン接種がなければ、死者数は実際より2万人以上増えていたとされる。ワクチン接種の開始が3ヵ月遅れた場合、約2万人の追加死亡が生じた可能性があり、接種のタイミングが公衆衛生に与える影響の大きさが示された。一方、接種を妨げた要因として「誤情報」と「孤独感」の影響が注目されている。同チームの調査では、誤情報を信じた未接種者が接種していれば、431人の死亡を回避できたとの推計もなされている。さらに、東京科学大学らの研究では、若年層のワクチン忌避行動に「孤独感」が強く影響していたことが判明した。都内の大学生を対象とした調査では、孤独を感じる学生は、感じない学生と比べてワクチンをためらう傾向が約2倍に上った。社会的孤立(接触頻度)とは異なり、孤独感という主観的要因がワクチン行動に与える心理的影響が独立して存在することが示された。東京都健康長寿医療センターの研究でも、「孤独感」はコロナ重症化リスクを2倍以上高めるとの結果が示されており、孤独感が接種率の低下だけでなく、重症化リスクの増大にも寄与している可能性がある。今後の感染症対策では、誤情報対策だけでなく、心の健康や社会的つながりを強化する施策が、接種率の向上および重症化予防の両面において重要になると考えられる。次のパンデミックに備えるためにも、若年層に対する心理的支援や信頼形成のアプローチが不可欠である。 参考 1) 若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響(東京科学大学) 2) ワクチン接種をためらう若者 孤独感が影響 東京科学大など調査(毎日新聞) 3) 接種遅れればコロナ死者2万人増 21年、東京大推計(共同通信) 4) 「孤独感」はコロナ感染症の重症化リスクを高める、今後の感染症対策では「心の健康維持・促進策」も重要-都健康長寿医療センター研究所(Gem Med) 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協厚生労働省は、6月18日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、2026年度の診療報酬改定に向け、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価の見直しについて検討した。今年の医療法改正により医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能など)報告制度が始まったことを踏まえ、「機能強化加算」や地域包括診療料などの体制評価が現状に即しているかが問われている。厚労省は6月に開かれた「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で、医療機関が報告する「介護サービス連携」「服薬の一元管理」などの機能は診療報酬で評価されているが、「一次診療への対応可能疾患」など一部機能は報酬上の裏付けがない点を指摘。これに対し支払側委員からは、既存加算は制度趣旨に適さず、17領域40疾患への対応や時間外診療など実態に即した再評価を求める声が上がった。また、診療側からは、看護師やリハ職の配置要件など「人員基準ありきの報酬」が現場に過度な負担を強いており、患者アウトカムや診療プロセスを評価軸とすべきとの意見も強調された。とりわけリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は基準が厳しく、取得率が1割未満に止まっている現状が報告された。今後の改定論議では、「構造(ストラクチャー)」評価から「プロセス」「アウトカム」重視への段階的な移行とともに、新たな地域医療構想や外来機能報告制度との整合性が問われる。かかりつけ医機能の再定義とそれを支える診療報酬のあり方は、地域包括ケア時代における制度の根幹をなす論点となる。 参考 1) 第609回 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」の診療報酬見直しへ 機能強化加算など、法改正や高齢化踏まえ(CB news) 3) 診療側委員「人員配置の要件厳し過ぎ」プロセス・アウトカム重視を主張(同) 4) 2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ-中医協(Gem Med) 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省2025年4月時点でオンライン診療を厚生労働省に届け出た医療機関数が1万3,357施設に達し、前年より2,250件増加したことが厚労省の報告で明らかになった。届け出数は、初診からのオンライン診療が恒久化された2022年以降増加傾向にあり、対面診療全体に占める割合も2022年の0.036%から2023年は0.063%に上昇した。厚労省の分析によれば、オンライン再診では精神疾患の割合が高く、2024年7月の算定データでは「適応障害」が最多で8,003回(9.1%)、次いで高血圧症や気管支喘息、うつ病などが続いた。とくに対面診療が5割未満の施設では、再診での適応障害(22.2%)やうつ病、不眠症など精神科領域の算定が顕著だった。この結果から中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会では、「オンラインと対面での診療内容の差異を調査すべき」との指摘もあった。こうした中、日本医師会は6月18日、「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を発足。郵便局などを活用した地域支援型の導入モデルを想定し、医療関係4団体や自治体、関係省庁、郵政グループとともに初会合を行った。松本 吉郎会長は「利便性や効率性のみに偏らず、安全性と医療的妥当性を担保した導入が不可欠」と強調し、とくに医療アクセスに困難を抱える地域、在宅医療、災害・感染症時の手段としての有効性に言及した。郵便局のインフラを活用した実証事業も一部地域で始動しており、診療報酬制度の課題、患者負担への配慮、医師会・自治体との連携が今後の焦点となる。 参考 1) オンライン診療に1.3万施設届け出 厚労省調べ、4月時点(日経新聞) 2) オンライン再診、精神疾患の割合が高く 厚労省調べ(CB news) 3) オンライン診療で医産官学の協議会発足 郵便局など活用で連携を強化(同) 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省厚生労働省は6月19日、医療療養病床から介護施設などへの転換を支援する「病床転換助成事業」の今後の在り方について、社会保障審議会・医療保険部会で実態調査結果を報告した。2008年度に開始され、これまでに7,465床の転換に活用されたが、今後の活用予定医療機関は2025年度末時点で1.4%、2027年度末でも3.0%に止まり、活用実績も病院7.3%、有床診療所3.7%と低迷している。事業延長については委員の間で意見が分かれ、健康保険組合連合会の佐野 雅宏委員らは既存支援策との重複や利用率の低さを理由に廃止を主張。一方、日本医師会の城守 国斗委員は、申請手続きの煩雑さや認可の遅れがネックとなっていると指摘し、当面の延長と支援対象の拡大を提案した。今後、厚労省は部会の意見を整理し、年度内に方針を提示する見通し。地域医療の再編を進める上で、同事業の位置付けと実効性が改めて問われている。 参考 1) 病床転換助成事業について(厚労省) 2) 病床転換の助成事業、活用予定の医療機関1-3% 事業の延長に賛否 医療保険部会(CB news) 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省痩身やリフトアップ目的で人気を集めるHIFU(高密度焦点式超音波)による美容医療で、違法施術により重篤な被害を受けた事例が再び注目を集めている。2021年に東京都内のエステサロンで医師免許のない施術者からHIFUを受け、重度のやけどを負った女性が損害賠償を求め提訴。2025年6月、エステ側が謝罪し、解決金を支払う形で和解が成立した。厚生労働省は2024年6月、「HIFU施術は医師による医療行為であり、非医師が行うことは医師法違反」と明確化したにもかかわらず、違法施術による健康被害は依然として後を絶たない。美容医療に起因する健康被害の相談件数は2023年度に822件と、5年前の1.7倍に増加。熱傷、重度の形態異常、皮膚壊死などの深刻な合併症が報告されている。こうした背景から、東京・新宿の春山記念病院では、美容医療トラブル専門の救急外来を本格的に開始。美容クリニックと施術情報の事前共有を行うなど、連携体制を整備している。厚労省も、美容医療を提供する医療機関に対し、合併症時の対応マニュアル整備や他院との連携構築、相談窓口の報告を義務化する方向で検討を進めている。医師が美容医療に携わる場合は、医療行為の厳密な定義のもと、適切な説明責任とアフターフォロー体制の構築が不可欠である。また、美容分野に参入する無資格者の排除に加え、トラブル患者の受け皿となる救急医療体制との連携も、今後の制度整備における重要課題となる。 参考 1) 「やせる」美容医療でやけど、エステ店側と和解 被害「氷山の一角」(朝日新聞) 2) 医師以外の「ハイフ施術」でやけど エステサロンと被害女性が和解(毎日新聞) 3) “美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立(NHK) 4) 美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿(同)

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事例026 粘(滑)液嚢穿刺注入(片側)の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、「J116-2 粘(滑)液嚢穿刺注入(片側)」にC事由(医学的理由による不適当)が適用され、「J116-3 ガングリオン穿刺術」へ減額査定になりました。病名欄をみるとガングリオンと皮下血種のみが表示されています。表示された病名からは、ガングリオンへの穿刺が行われたものと考えられます。したがって、粘(滑)液嚢穿刺注入の手技は適当ではなく、ガングリオン穿刺術が妥当としてC事由が適用され、査定となったものと推測できます。同じような処置や手術を行っても、病名によって適用となる手技は異なります。病名と手技が不一致の場合は、事例のように病名とレセプト内容に合わせた手技に変更もしくは認められないと判断されてしまいます。もしも、粘(滑)液嚢穿刺注入が実際に行われた手技であれば、レセプトの病名不足が考えられます。レセプトチェックシステムには、チェックがかかるよう粘(滑)液嚢穿刺注入に該当する病名を登録して査定防止対策としました。また、粘(滑)液嚢穿刺注入は、「注入」との文言がついていますが、薬液注入がなくても算定できることを申し添えます。

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英語で「肉離れ」は?馴染のある動詞を使って表現!【患者と医療者で!使い分け★英単語】第23回

医学用語紹介:肉離れ muscle strain「肉離れ」のことを英語でmuscle strainといいますが、肉離れについて説明する際、患者さんにstrainと言っても通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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ASCO2025 レポート 消化器がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日に、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)が米国・シカゴで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。高知大学の佐竹 悠良氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。胃がんMATTERHORN試験:周術期FLOTにおけるデュルバルマブ追加の意義(LBA5)切除可能II~IVA期の胃がん・食道胃接合部腺がんを対象に、欧米における標準治療である周術期FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法に対する抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ追加(D-FLOT療法)の有用性を検証したMATTERHORN試験。D-FLOT療法により病理学的完全奏効の改善がすでにESMO2023で報告され(19%vs.7%、オッズ比:3.08、p<0.00001)、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)における統計学的優越性もプレスリリースされていたが、今回学会にて正式に報告され、同時にNEJM誌でpublishされた。患者は術前・術後に2サイクルずつFLOT療法+プラセボもしくはD-FLOT療法を受け、その後プラセボもしくはデュルバルマブを10サイクル(術後補助化学療法として1年間)受けた。主要評価項目のEFS中央値はD-FLOT群未到達vs.プラセボ群32.8ヵ月であり、統計学的優越性を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。24ヵ月EFS率はD-FLOT群67%vs.プラセボ群59%であった(観察期間中央値:D-FLOT群31.6ヵ月vs.プラセボ群31.4ヵ月)。副次評価項目である全生存期間(OS)においても改善傾向(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)がみられたが、現時点では統計学的有意差には至っていない(観察期間中央値:D-FLOT群34.6ヵ月vs.プラセボ群34.6ヵ月)。免疫介在性有害事象はGrade3/4をD-FLOT群7%vs.プラセボ群4%に認めた。胃がん周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、KEYNOTE-585試験およびATTRACTION-5試験において有意な結果を示すことができなかったが、本試験において主要評価項目であるEFSでの有意な改善を認め、今後の標準治療となることが見込まれる。一方、本邦では周術期FLOT療法の経験は十分とは言えず、大型3/4型胃がんに対する術前FLOT療法およびDOS(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)療法を検討する第II相試験であるJCOG2204が進行中であり、結果が期待される。DESTINY-Gastric04試験:HER2陽性胃がんの2次治療におけるT-DXdの有効性を確立(LBA4002)HER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がんに対し、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、6.4mg/kgを3週ごと)が、現在の標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル併用(RAM+PTX)療法と比較してOSを有意に延長することが国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏から報告され、こちらも同時にNEJM誌でpublishされた。本試験は前治療のトラスツズマブ不応後の生検によるHER2陽性例が対象であり、1,088例に腫瘍組織検体スクリーニングが実施され、450例(41%)は組織スクリーニングで脱落し、最終的に494例が1:1に割り付けされた。前治療としてICIの投与歴がある患者は両群ともに15%程度であり、後治療として抗HER2治療を受けた割合はT-DXd群3.2%vs.RAM+PTX療法群25.8%であった。主要評価項目のOS中央値は、T-DXd群14.7ヵ月vs.RAM+PTX療法群11.4ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.70、p=0.0044)。副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)においてもT-DXd群で有意に改善を示した(PFS中央値:6.7ヵ月vs.5.6ヵ月、HR:0.74、p=0.0074、ORR:44.3%vs.9.1%、p=0.0006)。Grade3以上の薬剤関連有害事象の割合も両群で同等であった(T-DXd群50.0%vs.RAM+PTX療法群54.1%)。ただし、間質性肺疾患はT-DXd群で13.9%(Grade3は1例のみ、0.4%)と、重篤例は多くないものの注意が必要である。今後、HER2陽性かつCPS陽性の進行・再発胃がんに対しては、KEYNOTE-811試験の結果から初回治療よりペムブロリズマブ併用が見込まれるが、本試験のサブグループ解析においては前治療ICI投与の有無にかかわらず、一貫してT-DXdによる生存改善傾向を認めており、HER2陽性胃がんにおける2次治療としてT-DXdが今後の標準治療の位置付けとされた。一方、本結果は試験組み入れ時のHER2再確認(再生検)により結果が導かれているが、40%前後は前治療不応時にHER2 lossが生じている可能性が示唆された。大腸がんATOMIC試験:StageIII dMMR大腸がん術後補助療法におけるアテゾリズマブ追加の意義(LBA1)StageIIIのdMMR結腸がんに対する術後補助療法として、mFOLFOX6化学療法にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを追加することで、無病生存期間(DFS)を有意に延長することが国際第III相試験ATOMIC試験により示された。試験治療群は術後補助化学療法としてmFOLFOX6+アテゾリズマブ併用療法を6ヵ月受けた後にアテゾリズマブ単剤を6ヵ月(計12ヵ月)投与され、対照群はmFOLFOX6療法を6ヵ月投与された。主要評価項目である3年DFS率はアテゾリズマブ併用群86.4%vs.対照群76.6%(HR:0.50、95%CI:0.34~0.72、p<0.0001)であり、統計学的有意差を認めた。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は併用群72.3%vs.対照群59.2%とアテゾリズマブ併用群でやや多く、免疫関連有害事象として高血糖や甲状腺機能低下、大腸炎に伴う下痢や皮膚炎を認めたが、重篤なものは少なかった。本試験により、StageIIIのdMMR結腸がんにおいて術後免疫療法導入が長期予後を改善することが明らかとなり、補助療法の新たな標準となる可能性を示した。現在、本邦を含め切除可能なStage IIIまたはT4N0のdMMR/MSI‑High陽性結腸がん患者に対する周術期dostarlimabの有効性を検証する第III相試験であるAZUR-2試験が進行中である。同薬剤はすでに直腸がん領域で良好な有効性が確認されており、新しい治療ストラテジー確立が期待される。BREAKWATER試験:BRAF V600E変異陽性大腸がんに対する1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法(#3500)進行・未治療のBRAF V600E変異陽性大腸がん患者を対象に、BRAF阻害薬エンコラフェニブ(E)+抗EGFR抗体セツキシマブ(C)に化学療法(mFOLFOX6)を加えた3剤併用療法(EC+mFOLFOX6)の標準治療(FOLFOX/FOLFOXIRI/CAPOX±BEV)に対するORRおよびOS(初回中間解析)における良好な結果は、一足先にASCO-GI 2025で発表されていたが、今回主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告され、PFS、ORR、OSにおける改善が明らかとなり、同時にNEJM誌でpublishされた。主要評価項目であるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月vs.標準治療群7.1ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.53、95%CI:0.407~0.677、p<0.0001)。OS中央値(2回目の中間解析)はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月vs.標準治療群15.1ヵ月(HR:0.49、p<0.0001)だった。もう1つの主要評価項目であるORRの追加報告もあり、EC+mFOLFOX6群65.7%vs.EC群45.6%vs.標準治療群37.4%と良好であった。TRAE(Grade3/4)はEC+mFOLFOX6群76.3%vs.EC群15.7%vs.標準治療群58.5%であり、関節痛(29%)、皮疹(29%)に注意が必要である。本試験により、BRAF V600E変異大腸がんの1次治療として、EC+mFOLFOX6が新たな標準と位置付けられた。また、EC療法はmFOLFOX6療法などの抗がん剤治療が適応とならないフレイル症例に対する治療選択肢となる可能性が示唆された。AGITG DYNAMIC-III試験:術後ctDNA陽性は高リスク再発マーカー(#3503)術後StageIII結腸がん患者を対象に、circulating tumor DNA(ctDNA)の有無による再発リスクを評価した第II/III相試験であるDYNAMIC-III試験において、ctDNA陽性が強力な再発予測因子であることが示された。StageIII結腸がん患者を対象に術後4週時点でctDNAを評価し、ctDNA結果に基づいたマネジメント群(ctDNA-informed群、ctDNA陰性例ではde-escalation、ctDNA陽性はescalation[より強力な術後補助療法]を実施)と標準マネジメント群(主治医選択によるマネジメント、ctDNA結果は盲検)に無作為化して割り付けされた。全体で1,002例が登録され、それぞれctDNA-informed群502例vs.標準マネジメント群500例に割り付けられ、ctDNA陽性は各群129例(27%)vs.130例(27%)であった。ctDNA陽性例のうち、ctDNA-informed escalation群では3ヵ月以上のFOLFOXIRI実施が50%、6ヵ月のオキサリプラチンダブレット(FOLFOX/CAPOX)が44%に実施され、一方の標準マネジメント群では3ヵ月FOLFOX/CAPOXが45%、6ヵ月FOLFOX/CAPOXが41%に術後補助療法として実施された。3年無再発生存期間はctDNA-informed escalation群48%vs.標準マネジメント群52%であり、ctDNA結果に基づいた術後補助化学療法強化による再発抑制改善は認めなかった(HR:1.11、p=0.57)。後解析としてFOLFOXIRIとFOLFOX/CAPOXの無再発生存比較がなされたが、差を認めず(HR:1.09、p=0.662)、ctDNAクリアランス割合も同等であった(60%vs.62%)。術後補助化学療法終了時点におけるctDNAクリアランスの有無(HR:11.1)および術後ctDNA測定時のctDNA量が再発と相関することが示唆された(p<0.001)。既報と同様に、術後ctDNA検査のバイオマーカーとしての有用性および術後ctDNA量と再発リスクとの相関やctDNA陽性例に対する術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの重要性が報告された。一方で、 ctDNA陽性例に対してはオキサリプラチン併用レジメンからFOLFOXIRIへの治療強化では不十分である可能性も示唆され、今後さらなる治療開発の必要性が示唆された。本邦における臨床実装が待たれる。NCCTG N0147後方解析:ctDNAによるMRD評価が術後再発リスクを鋭敏に予測(#3504)術後StageIII結腸がんに対する術後補助FOLFOX±セツキシマブを検証した第III相試験であるNCCTG N0147試験におけるctDNAの後解析により、ctDNA評価は再発リスクを高精度に層別化できることが明らかとなった。術後補助療法開始前10週以内に血漿ctDNAをGuardant Reveal/Guardant360で測定(中央値42日)。 ctDNAは20.4%で検出可能であり、より進行例(T/Nステージ)やBRAF変異例、閉塞例や穿孔例などの術後再発高リスク例において検出されることが示唆された。ctDNA陽性例は陰性例に比し、DFS、OSともに大きく劣っていた(DFS-HR:3.74、p<0.0001、OS-HR:3.17、p<0.001)。一般的に術後予後良好とされているdMMR症例においても、ctDNA陽性例はpMMR例と比較してもDFSおよびOSが不良であった(DFS-HR:1.54、p=0.0114、OS-HR:1.77、p=0.0026)。術後病理評価による再発リスクとctDNA検出の有無による層別化ならびにctDNA検出量とDFSの相関性も示唆された。既報と同様に、術後ctDNA MRD評価の有用性が再確認され、早期の再発予測や治療強度決定に活用できる可能性を示した。TRIPLETE試験:初回治療でのmFOLFOXIRI+パニツムマブがOSを有意に延長(#3512)切除不能なRAS/BRAF野生型転移を有する大腸がん(mCRC)初回治療において、mFOLFOX+パニツムマブに対しmFOLFOXIRI+パニツムマブは、主要評価項目のORRおよびPFSは改善を認めないことがすでに報告されていた。一方、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)においては、RAS/BRAF野生型かつ左側原発例においてmFOLFOXIRI+セツキシマブ療法のmFOLFOXIRI+BEVに対する治療成績改善が示唆されていた。今回TRIPLETE試験におけるOSが報告され、mFOLFOXIRI+パニツムマブによる有意な生存期間延長が報告された(観察期間中央値:60.2ヵ月)。OS中央値はmFOLFOXIRI+パニツムマブ群41.1ヵ月vs.mFOLFOX6+パニツムマブ群33.3ヵ月であり、有意に改善を認めた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.049)。一方で、アップデートされたORRやPFS、奏効期間(DoR)、早期腫瘍縮小(ETS)およびR0切除割合は群間差を認めなかった。PPS(病勢進行後生存)はmFOLFOXIRI群で有意に延長(HR:0.73、p=0.012)しており、OS延長の主因と考えられた。トリプレット+抗EGFR抗体はDEEPER試験と同様にTRIPLETE試験でも、標準治療に対する良好な生存延長効果が示唆され、RAS/BRAF野生型mCRCの治療戦略においてトリプレット療法を選択肢の1つとして再評価する根拠と考えられる。ただし、PFSやORRに差がなかったことから、有効性の本質はPPSの改善に依存している可能性があり、治療強度と毒性のバランスに配慮した個別化治療が求められる。胆道がんGAIN試験:胆道がんに対する周術期GC療法の有効性が示唆(#4008)切除可能局所進行胆道がんに対して、本邦ではASCOT試験により切除後のS-1補助化学療法が標準治療とされているが、今回ドイツより術前・術後にゲムシタビン+シスプラチン(GC)を用いた周術期治療が、標準治療(手術+術後補助療法)と比較してOSおよびEFS、R0切除率を大きく改善する可能性が報告された。ドイツの21施設による第III相試験であり、登録数不足により68例の登録時点で早期終了となった。NEO群(周術期GC群)は術前GC 3サイクル後に切除がなされ、その後3サイクルの術後補助GC療法がプロトコール治療として規定されており、標準治療群は切除後に術後補助化学療法24週(主治医選択)が規定されていた。早期中止のためNEO群(32例)、標準治療群(30例)での報告。NEO群の術前GC療法平均投与コース数は2.8サイクルだが、術後補助療法の平均投与コース数は1.4サイクルであった。一方の標準治療群における術後補助療法はカペシタビン20%、ゲムシタビン3.3%、GC療法3.3%であった。OS中央値はNEO群(周術期GC群)27.8ヵ月vs.標準治療群14.6ヵ月と周術期GC療法による良好な結果が示唆された(HR:0.463、95%CI:0.222~0.964、p=0.0395)。 EFS(HR:0.351、p=0.0047)や R0切除率(NEO群83.3%vs.標準治療群40.0%)も大きな差を認めた。本試験は登録数の制限から統計的限界があるものの、術前GC療法が切除率や生存期間の向上に寄与しうる可能性を示した点で意義深く、今後の大規模前向き試験の展開が強く期待される。一方で現在、本邦では進行・再発胆道がんに対してGC+S-1(GCS)療法とGC+ICI併用療法の治療効果を検討するKHBO2201-YOTSUBA試験が進行中であり、周術期治療への応用が期待される。膵がんPANOVA-3試験:切除不能局所進行膵がんにおける腫瘍治療電場(TTFields)の有効性と安全性(LBA4005)切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)に対する新たな治療戦略として、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)の有効性が注目を集めた。PANOVA-3試験は、TTFieldsをGEM+nab-PTX(GnP)に追加することで、標準治療単独(GnP)と比較し全生存期間(OS)を有意に延長することを示した初の第III相試験である。本試験は本邦を含む20ヵ国198施設、571例を対象に1対1に割り付けて実施。主要評価項目であるOS中央値はTTFields群16.2ヵ月vs.GnP群14.2ヵ月であり、優越性を示した(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.039)。副次評価項目では、無痛生存期間(HR:0.74)、遠隔転移PFS(HR:0.74)、QOLにおいてもTTFields群が有意に良好な結果を示した。安全性に関しては、TTFields群で局所の皮膚関連有害事象が多くみられたが、主にGrade1/2で管理可能であり、有害事象でTTFieldsが中止となったのは8.4%であった。TTFieldsは非侵襲的かつ局所的な電場療法であり、がん細胞の分裂阻害効果や抗腫瘍免疫増強効果が報告されている。膠芽腫や悪性胸膜中皮腫・非小細胞肺がんに続く膵がんへの応用が今回初めて本格的に示され、遠隔転移制御効果も示唆された。今後の膵がん治療における集学的治療の一環として、TTFieldsの位置付けが期待される。

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統合失調症の認知機能低下に影響を及ぼす向精神薬

 認知機能低下は、統合失調症でみられる中心的な病態の1つであるが、確立された薬理学的治療法は、いまだ存在しない。統合失調症治療では、主に抗精神病薬が用いられるが、統合失調症患者の認知機能に及ぼす影響については、実臨床における日常的な研究は行われていなかった。米国・The Stanley Research Program at Sheppard PrattのFaith Dickerson氏らは、統合失調症患者を対象としたリアルワールドコホート研究における、向精神薬と認知機能との関連を評価した。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2025年5月8日号の報告。 対象は、地域社会ベースのケアを受けている統合失調症患者869例。認知機能は、神経心理検査アーバンズ(RBANS)を用いて評価した。機械学習ツールであるLASSO回帰を用いて、関連する人口統計学的、臨床的、環境的共変量で調整した後、RBANS総スコアおよびインデックススコアと各向精神薬の服薬状況との独立した関連性を検証した。薬剤の投与量および併用の影響も、併せて検証した。 主な結果は以下のとおり。・クロザピン、クエチアピン、benztropine、経口ハロペリドールの4剤は、これらの薬剤を服薬していない患者と比較し、それぞれ独立して認知機能スコアの有意な低下との関連が認められた。・これら4剤のうちクエチアピンを除く3剤は、認知機能総スコアとの有意な用量相関関係を示した。・これらの薬剤の併用投与を行った患者では、認知機能がさらに低下したことも確認された。・とくに、クロザピン投与患者では、記憶力の低下との最も強い関連が認められた。 著者らは「臨床医は、特定された薬剤の投与量を最小限に抑え、併用を制限することを検討する必要がある。統合失調症患者に認知機能や生活の質(QOL)を改善するためにも、新たな介入の開発が求められる」とまとめている。

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治療法が大きく変化、アミロイドーシス診療ガイドライン8年ぶりに改訂

 『アミロイドーシス診療ガイドライン2025』が2024年12月に発刊された。2017年版から8年ぶりの改訂となるが、この間にアミロイドーシスの各病型の病態解明が進み、診断基準をはじめ、トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシスに対する核酸医薬、ALアミロイドーシスに対する抗CD38抗体薬、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害および軽度の認知症に対する抗アミロイドβ抗体薬の発売など、治療法も大きな変化を遂げている。そこで今回、本ガイドライン作成委員長であり、アミロイドーシスに関する調査研究班1)を率いる関島 良樹氏(信州大学医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授)にアミロイドーシスの現状や診断方法、本書の改訂点などについて話を聞いた。次々と上市された薬剤、最新の診断フローチャートが疾患に光を灯す アミロイドーシスとは、アミロイドの沈着により臓器障害を引き起こす疾患群であり、その原因となる前駆蛋白質についてはヒトでは42種類が同定されている。また、前駆蛋白質の産生部位とアミロイドの沈着部位との関係により、全身性と限局性に分類される。このほかにも病型によって有病率や診断方法、患者・家族へのアドバイスなどが異なることから、本書を「第I章 アミロイドーシスの診断の基礎知識」「第II章 病型別アミロイドーシス最新診療ガイドラインとCQ」の2本柱で章立て、各々が必要なページにたどり着けるような構成になっている。第I章では各冒頭に要約を示しながらアミロイドーシスの基礎知識を解説。第II章では代表的なアミロイドーシスをピックアップし、各病型(診療科別)のClinical Question、それぞれの患者数・有病率、どんな症例で疑うべきか、診断や治療について言及している。 本書の大きな改訂点の1つとして、関島氏は「2017年版は学会承認を得たものではなかったが、今回は5学会(日本アミロイドーシス学会、日本神経学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本血液学会)の承認を得て作成した」と説明。これまでは各学会で個別のガイドラインを作成していたが、アミロイドーシスはアミロイドがさまざまな臓器に沈着し、特異的な所見に乏しい症例も少なくない。「全診療科の先生方に、本症を疑って鑑別診断にあたることが求められるため、全臓器横断的なガイドラインを目指した」ともコメントした。本書のp.17~18には、研究班で作成した最新版の診断基準を反映したアミロイドーシス診断のためのフローチャートが示されているので、患者のどこか(心臓、腎臓、消化管、手根管、関節・靭帯、眼、皮膚、各臓器の腫瘤性病変など)にアミロイドーシスの疑いを持ったら、このフローチャートをぜひ思い出してほしい。 また、診断や治療におけるこの8年の発展は目まぐるしく、各疾患の治療項目も充実した。治療において最も大きな変貌を遂げたのはATTRアミロイドーシスである。ATTRアミロイドーシスは遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)に分類され、主な障害は末梢神経障害(ATTR-PN)と心筋症(ATTR-CM)である。たとえば、タファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)は、ATTRvアミロイドーシスによる末梢神経障害(ATTRv-PN)の進行抑制に加え、2019年にATTR型心アミロイドーシス(ATTR-CM、野生型および変異型)に適応が拡大。核酸医薬(siRNA)であるパチシラン(同:オンパットロ)やブトリシラン(同:アムヴトラ)はATTRv-PN(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)治療薬として承認されている。さらに、ADによる軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制に対する抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ[同:レケンビ]、ドナネマブ[同:ケサンラ])も2023年以降に相次いで承認された。患者を“見て診る”、全医師が特徴をつかみ潜在患者発掘へ しかし、これらの治療薬をうまく使いこなしていくには、診断に至るまでの問診や身体診察が鍵となる。アミロイドーシス自体はさまざまな臓器や血管に沈着することから、すべての診療科に関わる病気であり、とくにADや近年注目を浴びているATTRwtアミロイドーシスは日本国内に数百万人が潜在患者として存在することから、「アミロイドーシスはコモンディジーズである」と話す。「10年前の全国調査1)では、ATTRwtアミロイドーシスの患者数は50人程度だったのが、今は約3,000人に上る。疾患別にみると、心不全患者の中には5万人以上の潜在患者がいると言われ、手根管症候群300万人のうち100万人以上がATTRwtが原因ではないかとわれわれは推測している。ATTRwtは50歳以上の男性、60歳以上の女性で多いため、整形外科領域では該当患者の手根管症候群の手術の際にアミロイド沈着の有無を検査することが浸透し始めている」と説明した。 このような状況を踏まえ、同氏は専門性に応じた理解が必要であるとし、「一般内科医の皆さまには、心不全、脊柱管狭窄症、手根管症候群といったよくある疾患にアミロイドーシスが潜んでいること、息切れや動悸などの心不全症状を生じる前から手足のしびれや痛み、物がつまみにくいなどの運動障害が先行していることがある点に注意してほしい。そして、認知症の約7割がAD2)であることを踏まえ、抗アミロイドβ抗体薬の適応となる軽度認知機能障害(MCI)から軽度の認知症の時期に脳神経内科などの専門科への紹介をしていただくことが重要」とコメントした。 一方、専門医に向けては診療科ごとに以下のような特徴を示した。――――――――――――――――――〇循環器:心アミロイドーシス(ATTRv、ATTRwt、AL)のうち、ATTRwtはとくに頻度が高く男性に多い。〇血液内科:ALアミロイドーシスでは、眼の周囲の出血によるラクーンアイサインがみられる。〇腎臓内科:蛋白尿の原因疾患としてALアミロイドーシスを鑑別に挙げる。長期透析患者で、手根管症候群,ばね指、破壊性脊椎関節症などの骨関節症状を呈する場合、Aβ2Mアミロイドーシスを考慮する。〇神経内科:成人発症の多発ニューロパチーの鑑別にアミロイドーシス(ATTRvおよびAL)を挙げる。高齢者の手根管症候群の主要な原因疾患としてアミロイドーシス(とくにATTRw)を考慮する。〇膠原病:関節リウマチなどで慢性炎症が持続する患者において、下痢や蛋白尿が認められた場合、血清アミロイドA(SAA)を前駆蛋白とするAAアミロイドーシスを鑑別に挙げる。―――――――――――――――――― このほかの特徴的な臨床所見として、「巨舌、上腕二頭筋の断裂(ポパイサイン)などがある。ポパイサインは、腱・靭帯アミロイドーシスによって上腕二頭筋の腱断裂が起こり、これにより上腕二頭筋が短縮して力こぶのように見える。ATTRwtアミロイドーシスで高頻度に見られるので注意してもらいたい」と説明した。 最後に同氏は「現在、アミロイドーシスは治療薬開発も世界的に盛んで、国内では今夏にSiRNA製剤ブトリシランにATTR-CMの適応追加が予定されているなど、目が話せない領域だ。ゲノム編集薬を用いた治療においてもアミロイドーシスが先駆けとなっていることから、3年後に予定している次回改訂ではこれらの知見を盛り込みたい」と締めくくった。

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精神疾患を併存している肥満者は減量治療抵抗性/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 肥満や肥満症の患者では、うつ病、不眠などの精神疾患を併存しているケースが多い。こうした併存症は診療の際にアドヒアランスなどに影響するなど、臨床現場では治療の上で課題となっている。また、精神疾患が体重の増加などにも影響することが指摘されている。 そこで本稿では「口演153 境界型糖尿病6」から「精神疾患合併が肥満患者の体重変化および糖代謝に与える影響」(演者:石川 実里氏[国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部])をお届けする。精神疾患併存の肥満症患者にはチームで診療にあたる 石川 実里氏、浅原 哲子氏らの研究グループは、自院の「肥満・メタボリック外来」に来院した患者で、精神疾患を併存している肥満症患者の体重変化とインスリン抵抗性に与える影響を検討した。 心血管疾患のハイリスク群である肥満症患者では、精神疾患を併存していることが多く、精神疾患の併存は、その心理ストレスや精神疾患治療薬の影響から、減量治療を困難にし、同時にストレスによるコルチゾール分泌増加は、内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性増悪に寄与している可能性がある。 そこで、2004~19年に京都医療センター肥満・メタボリック外来を初診で受診した174例(減量入院実施などで14例除外)を対象に、6ヵ月後、12ヵ月後の体重・糖代謝関連指標の変化と精神疾患合併の関連を検討した。 対象の中で精神疾患を併存している患者は30例、併存していない患者は144例だった。また、合併する精神疾患の種類としては、「うつ病」「不眠症」「統合失調症」「双極性障害」の順に多くみられた。患者の39%が男性、61%が女性だった。平均BMIは33.8であった。糖尿病合併例は28.2%と約3割に見受けられた。 主な結果として、精神疾患合併群の体重減少率は12ヵ月時点で非合併群より有意に低かった。さらに、体重減少とHbA1cの改善に相関がみられ、非糖尿病合併群でも同様の結果がみられた。糖尿病非合併の肥満患者において、精神疾患非合併群のみ、6ヵ月後、12ヵ月後ともに、初診時よりHbA1cは有意に減少していたが、群間差はみられなかった。 考察として、肥満症の患者では脳内炎症が惹起され、セロトニン産生が抑制されることから、うつ状態が進み、また同時に肥満が進行する可能性が示唆されている。さらに、心理ストレスは、食欲を制御する視床下部や報酬系を介して摂食量を増加させる可能性がある。 石川氏は研究結果から、「精神疾患を併存した肥満患者は、減量治療抵抗性であることが多く、精神科などとの連携を含めたチーム医療が減量成功と患者のQOL向上に寄与すると考えられる」と述べ、口演を終えた。

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