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脳梗塞発症後24時間以内のtenecteplase、機能的アウトカムを改善/Lancet

 脳底動脈閉塞による虚血性脳卒中患者において、発症後24時間以内のtenecteplase投与は標準治療と比較し機能的アウトカムを改善し、症候性頭蓋内出血および死亡の発生は同程度であった。中国・首都医科大学のYunyun Xiong氏らTRACE-5 investigatorsが、同国の脳卒中センター66施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検第III相優越性試験「TRACE-5試験」の結果を報告した。脳底動脈閉塞による脳梗塞発症後24時間以内にtenecteplaseを静脈内投与した場合の有効性と安全性は十分に研究されていなかった。Lancet誌オンライン版2026年2月5日号掲載の報告。発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ投与を含む標準治療と比較 研究グループは、脳底動脈閉塞による脳卒中で、発症後24時間以内または最終健常確認から24時間以内、静脈内血栓溶解療法の適応があり、発症前の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0~6、高スコアほど障害が重度であることを示す)が3以下の18歳以上の患者を、発症後24時間以内のtenecteplase単回静脈内投与群(0.25mg/kg、最大25mg)、または標準治療群(発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ静脈内投与[0.9mg/kg、最大90mg]、抗凝固療法・抗血小板療法を含む)に無作為に割り付けた。両群とも、血管内血栓除去術の併用は可とされた。 主要アウトカムは、90日時点のmRSスコア0~1、またはベースラインのmRSスコアへの回復(脳卒中前のベースラインmRSスコアが2~3の場合)。安全性アウトカムは、症候性頭蓋内出血および死亡とした。 主要アウトカムおよび安全性アウトカムはいずれも、最初に割り付けられた群に含まれるすべての無作為化患者を対象に評価した。90日時点の機能的アウトカムの改善は38%vs.29%、tenecteplase群で有意に改善 2024年1月24日~2025年6月20日に、452例が登録され(平均年齢66.4歳[SD 11.2]、男性321例[71%]、女性131例[29%])、221例がtenecteplase群、231例が標準治療群に無作為化された。このうち222例(49%)は血栓除去術を受けた。また、標準治療群231例中80例(35%)でアルテプラーゼが使用された。 主要アウトカムを達成した患者は、tenecteplase群83例(38%)、標準治療群66例(29%)であった(補正後相対率:1.50、95%信頼区間[CI]:1.09~2.08、p=0.014)。 36時間以内に症候性頭蓋内出血が認められた患者は、tenecteplase群で4例(2%)、標準治療群で7例(3%)であった(補正後相対率:0.58、95%CI:0.17~1.99)。 90日時点の全死因死亡も両群で同程度であった(tenecteplase群65例[29%]、標準治療群71例[31%]、補正後相対率:0.87、95%CI:0.62~1.22)。90日時点でmRSスコア5~6であった患者の割合も両群で同程度であった(tenecteplase群82例[37%]、標準治療群89例[39%]、補正後相対率:0.87、95%CI:0.65~1.18)。

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GLP-1受容体作動薬が2型糖尿病患者の椎体骨折リスクを低下させる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が処方されている2型糖尿病患者は、椎体骨折のリスクが低いことを示すデータが報告された。国立成功大学(台湾)のWei-Thing Khor氏らの研究によるもので、「JAMA Surgery」に12月10日、レターとして掲載された。 近年、GLP-1RAが血糖降下以外のさまざまな副次的作用を有することを示す臨床データが報告されてきているが、2型糖尿病がリスク因子となり得る椎体骨折への影響についてはデータがまだ十分でない。この点についてKhor氏らは、世界各地の医療機関の電子医療記録を統合したリアルワールドのデータベースである「TriNetX」を用いて検討した。 2015年1月1日~2022年1月1日に2型糖尿病と診断され、診断後6カ月以内にGLP-1RA(セマグルチド、リラグルチド、デュラグルチドのいずれか)の処方記録のある患者25万9,162人と、GLP-1RA処方の記録のない患者128万9,637人を特定。その患者群から傾向スコアマッチングにより、GLP-1RA処方群と非処方群を1対1で抽出し、それぞれ19万3,563人から成るコホートを作成した。なお、2型糖尿病診断前に椎体骨折、脊椎腫瘍、椎体形成術などの既往のある患者、および、心理・社会的要因による潜在的健康リスクを有する患者は除外されている。 GLP-1RA処方群において、デュラグルチドの処方が9万2,757人、リラグルチドが9万399人、セマグルチドが3万3,187人に記録されていた。平均年齢は58.1±11.3歳、女性52.5%、BMI35.9±8.0、HbA1c8.4±2.2%であり、その他の臨床検査値、および糖尿病や骨粗鬆症に対する薬剤の処方状況も、GLP-1RA非処方群とよく一致していた。 評価項目を、椎体骨折の発生、および、椎体形成術などの外科的介入の記録とし、GLP-1RAの処方開始(非処方群については2型糖尿病の診断)から最長10年間追跡した。その結果、椎体骨折はGLP-1RA処方群で2,826件(発生率1.5%)、非処方群で3,402件(同1.8%)発生しており、オッズ比(OR)0.83(95%信頼区間0.79~0.87)と、処方群のオッズが有意に低かった。また、外科的介入についても、同順に156件(0.08%)、195件(0.10%)、OR0.80(0.65~0.99)であり、やはり処方群のオッズが有意に低かった。 著者らは、「これらの研究結果は、GLP-1RAが骨折リスク抑制作用を有する可能性を裏付けるものと言える。因果関係の検証と、この関係の根底にあるメカニズムを解明するため、前向き研究が必要とされる」と述べている。

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隠れた心房細動の検出にスマートウォッチが有用

 気付かれにくく危険性の高い心臓リズム障害である心房細動(AF)を検出する医師の能力が、スマートウォッチによって大きく向上する可能性を示した臨床試験の結果が報告された。同試験でApple Watchを装着していた患者では、医師がAFを発見する頻度が4倍に増加したという。また、AFを抱えていたApple Watch装着者の半数以上には、診断前に明らかな症状はなかったことも分かった。アムステルダム大学医療センター(オランダ)の循環器専門医であるMichiel Winter氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」に1月22日掲載された。 ある世代以降のApple Watchには、心臓の健康状態の監視に役立てるために、心拍数を測定する光電式容積脈波記録法(PPG)と心臓のリズムを監視する単極誘導心電図(ECG)が搭載されている。Winter氏は、「PPGとECGの機能を備えたスマートウォッチの使用は、自分の不整脈に気が付いていない人の診断を助け、診断プロセスの迅速化につながる」と説明。また、「この研究結果は脳卒中リスクの低下につながる可能性を示唆するものであり、患者にとって有益であるだけでなく、医療システム全体にもコスト削減という形で良い影響をもたらし得る」とニュースリリースの中で述べている。 論文の研究背景によると、AFは最も高頻度に見られる不整脈の一つである。米国心臓協会(AHA)によると、AFを有する人では、AFにより血液が心臓内に滞留して血栓が形成されやすくなり、脳卒中のリスクが5倍に高まるという。しかし、AF症例のおよそ半数は発作性で自覚症状もないため、発見や診断が難しいという。この臨床試験の結果をレビューした米ノースウェル・ヘルス電気生理学部門でシステムディレクターを務めるLaurence Epstein氏は、「人々は多くの場合、診察室で心電図検査を受ける。しかし、それは断続的あるいは極めてまれにしか起こらない可能性がある異常を、3秒間だけ切り取られた人生の中で探そうとしているに過ぎない」と指摘している。 今回報告された臨床試験では、脳卒中リスクが高い65歳以上の男女219人にApple Watchを提供し(介入群)、218人に標準的なケアを受けてもらった(標準ケア群)。Apple Watchによるモニタリング期間は6カ月間で、介入群はApple Watchを1日12時間装着した。 その結果、6カ月後までに介入群では21人がAFと診断されたが、そのうち半数以上(57%)では自覚症状がなかった。一方、標準ケア群でAFと診断されたのは5人にとどまり、いずれの患者も診断につながる症状を経験していた。 臨床試験を主導したアムステルダム大学医療センターのNicole van Steijn氏は、脈拍と電気活動の両方を測定できるウェアラブル機器自体は以前から存在していたと話す。しかし、「AFのリスクが高い患者のスクリーニングにおいて、この技術がリアルワールドでどの程度有効に機能するのかについては、これまで検証されてこなかった」とニュースリリースの中で説明している。Epstein氏は、「特定の集団において、通常の方法では見逃されやすいAFの検出にスマートウォッチの使用が有効であることが示された」と述べている。さらに同氏は、大きな視点から見ると、この臨床試験から、症状が出たり消えたりする健康問題の検出にスマートウォッチのようなデバイスを活用できる可能性が示されたとも話している。 なお、Epstein氏によると、AF患者は脳卒中リスクを下げるため抗凝固薬の処方を受ける可能性があるが、最大で50%は抗凝固療法を受けていないという。同氏は、「患者のAFや心不全、冠動脈疾患などの発症リスクを高めるリスク因子の継続的なモニタリングでわれわれにできるあらゆることが、こうした長期的な転帰の一部を防ぐ可能性を高めることにつながる」と述べている。

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肥満症薬物療法の「出口戦略」なき処方への警鐘!(解説:島田俊夫氏)

1. はじめに:体重減量薬ブームの陰に潜む「不都合な真実」 GLP-1受容体作動薬などの新薬の登場により、肥満症治療は劇的な変貌を遂げました。しかし、これら「魅惑の肥満治療薬」がもたらす減量は、果たして「治癒」と言えるのでしょうか。2026年1月にBMJ誌に掲載されたOxford大学Sam West氏らの体系的レビュー/メタ解析論文は、薬物療法の中止後に待ち受ける過酷なリバウンドの現実を浮き彫りにし、現在の安易な処方ブームに冷や水を浴びせています。2. 論文が示す衝撃的なデータ:リバウンドの速度と健康指標の消失 本論文は、肥満治療薬(WMM)と行動療法(BWMP)の中止後を比較し、以下の事実を明らかにしました。・リバウンドの「速さ」:薬物療法を中止すると、月平均0.4kgという猛烈な速度で体重が戻ります。これは行動療法中止後のリバウンド速度の約4倍に相当します。・「元のもくあみ」までの期間:薬を中止してから平均1.7年で、元の体重に完全に逆戻りすると予測されています。・健康指標の消失:薬で改善した血圧、血糖値、脂質代謝などの臨床的ベネフィットも、中止から約1.4年以内にその利得のほとんどが失われます。3. 臨床的な解釈:高血圧モデルとの類似と相違 肥満症を「慢性的で再発しやすい疾患」と捉えるならば、高血圧や慢性心不全と同様に「生涯にわたる薬物管理」が必要であるという議論もあります。しかし、現実には約50%の患者が1年以内に服薬を中止しています1)。急性感染症に対する抗菌薬が「原因をたたく」ものであるのに対し、現在の肥満治療薬は、食欲という生体システムを「薬理的に強制修正」しているにすぎません。「病態生理に基づいた包括的アプローチ」を欠いたままでは、薬はやめた瞬間に生体側の強力な巻き返し(リバウンド)を招く、いわば「addiction(依存)」に近い構造を作り出しかねません。4. 内科医が取るべき「治療の王道」 論文の結論は、安易な短期的投薬に「注意喚起」を促しています。内科医が目指すべきは、以下のような戦略的治療ではないでしょうか。・「敵」と「己」を知る:薬をやめれば猛烈なリバウンドが来ること(敵)をあらかじめ認識し、薬に頼らない自己調整能力(己)をどこまで高められるかを治療の主眼に置くことを忘れない。・薬を「行動療法の窓」として活用する:薬物療法は「目的」ではなく、生活習慣を劇的に変えるための「強力な補助手段(スターター)」と位置付ける2)。体重が減少して体が動きやすくなった時期を逃さず、睡眠時無呼吸の改善、食事の質の是正、適度な運動の定着を図る。・出口戦略の同時並行:投薬開始時から「どうやって薬を減らし、薬から離脱するか」を患者と共有する。生活習慣改善の努力なしに薬による上面だけの治療の危うさを、エビデンスに基づき説明することが大事ではないでしょうか。5. 真の患者利益のためのメッセージ 「痩せればいい」という短絡的な思考は、医療費を増大させ、患者を終わりのない薬物依存へと誘うリスクをはらんでいます。この論文が真にアピールしているのは、**「薬は介入のきっかけであっても、解決そのものではない」**臨床の原点です。 臨床医は、最新の薬を賢く使いつつも、その限界を冷徹に見極め、患者が自律的に健康を維持できる「王道」へと導く伴走者であるべきではないでしょうか。

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受験の報告【Dr. 中島の 新・徒然草】(619)

六百十九の段 受験の報告雪が降ったり、暖かくなったり。不安定な気候が続いています。とはいえ、以前に比べて夕方が明るくなりました。確実に日が伸びつつあるということですね。さて、先日の脳外科外来でのこと。ある女性の通院患者さんから、こんなことを打ち明けられました。 患者 「この前、息子が附属小学校の受験に落ちてしまったんです」 中島 「どこを受けていたんでしたか?」 患者 「附属天王寺(大阪教育大学附属天王寺小学校)です」 そういえば、息子さんの受験について相談されたことがあります。昨年6月19日の本欄「猛暑と受験(第585の段)」にその経緯を書きました。その内容は、息子に国立の附属小学校を受験させようと思うけど無謀だろうか、というもの。もちろん私は「無謀なことなどありません。ぜひ受けましょう!」と背中を押しました。それで、今回に至るわけです。 患者 「受けて良かったと思います。反省することはいろいろあるけど」 中島 「何でも挑戦ですよ」 受験に失敗したって人が死ぬわけじゃなし。 患者 「地元のママ友のことを悪く言いたくはないんですけど、通っていた受験塾のお母さんたちって良い人ばっかりなんですよ」 中島 「そうなんですか」 患者 「だから息子はぜひともこっちの世界に入れたくて」 まあ、金持ち仲間に入ろうとするより、受験仲間に入るほうがはるかに簡単ですしね。 患者 「周りの人たちには馬鹿にされたり悪口を言われたりして、本当にいろいろありました」 中島 「そうでしたか」 患者 「あの時、中島先生が真面目に話を聴いて応援してくれたから、頑張ることができたんです」 私は何でも全肯定するので、きっと調子よく励ましたに違いありません。詳細は覚えていませんが。 患者 「でも中学受験のためには、小学校1年から塾に通わせるって聞いたんです」 中島 「厳しいなあ。でも、中学受験だったら参考になる本がありますよ」 患者 「えっ、ぜひ教えてください」 中島 「『下剋上受験』という小説で、桜蔭中学を受ける娘のために、中卒の父親が頑張る話です」 本欄の読者の中にも、桜蔭学園の卒業生は大勢おられるはず。きっとそれぞれにドラマがあったことと思います。 患者 「旦那も私も高卒なんで、ウチとそっくりです」 中島 「塾には入れずに、父親が勉強を教えるんですよ。『親塾』と名乗ってね」 患者 「ええーっ、すごい!」 この青春受験小説は、本当に面白いです。娘との二人三脚の受験勉強を通じて成長していく父親の話に泣かされました。もしまだ読んでいない方がおられたら、ぜひ読むことをお勧めします。 患者 「その本、もう帰りにでも買って読みたくなってきました」 書名を忘れないよう「下剋上受験 著者:桜井 信一」と紙に書いて患者さんにお渡ししました。 中島 「受験に落ちたら失敗だということはありません。真面目に努力して正面から挑戦したという経験こそが大切なんですよ」 患者 「そうですね」 中島 「大阪にいたら、中学からでも高校からでも進学校に入るチャンスはあるんだから、その強みを最大限に生かしましょう」 この息子さんの大学受験は12年後。果たして、親子の行く末を見届けることができるのか。私自身も健康に留意して診療を続けていたいものだ、と思います。最後に1句 春は来る 受かった子にも 落ちた子にも

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漢方薬の学び方【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第1回

漢方薬の学び方~桔梗湯と芍薬甘草湯~このコンテンツをご視聴いただいている皆さんは、漢方薬を使えるようになりたい! でも、漢方薬を使ってもなかなか効かない!という先生方ではないかと思います。イメージとしては、期待して使うと全然効かない一方で、期待しないで使ってみるとたまに効くことがあるから漢方薬への魅力をどうも捨てきれない。そういった方が多いのではないかと勝手に想像しています。このコンテンツでは漢方薬を学びますが、挫折しないよう楽しく学んでいくことが大事だというスタンスで進めていきます。具体的には、漢方薬同士の関係性を芋づる式に解説して、なるべく各論的にならないようにする。エピソード記憶で定着できるようにストーリーで解説していこうというわけです。そのために、必要な漢方理論は説明します。また、邪道ではありますが西洋医学とのアナロジーも多用していきます。漢方薬の構成さて、漢方薬は複数の生薬によって構成されます。実際のところ、ひとつの生薬で漢方薬が成立してしまうこともあるにはあるのですが、ほとんどの漢方薬が複数の生薬でできています。そのため、漢方薬の特徴を理解するためには生薬を理解する必要がありますが、いかんせん生薬の種類が多すぎるという問題があります。そこで、このコンテンツでは構成生薬をブロック単位で解釈していこうと思います。こうすることで、複数の漢方薬同士の類似性にすぐ気が付けるようになり、違うところもわかりやすくなるわけです。それでは、さっそく例を挙げてみましょう。十全大補湯という漢方薬があります。これは名前のとおり、10種類の生薬で構成される漢方薬です。10種類の生薬の持つ薬能を示すと、図1のようになりますが、さすがにこれを見ても煩雑すぎて、漢方薬全体としての効果を把握できないわけです。図1 十全大補湯の構成生薬の薬能画像を拡大するそこで、もう少しブロック単位でまとめてみると、じつは十全大補湯は「四君子湯」という漢方薬と「四物湯」という漢方薬にプラスαしてできた漢方薬だとわかります(図2)。図2 十全大補湯=四物湯+四君子湯+α画像を拡大する今回は初回なので、大雑把に四君子湯は「気」、つまりエネルギーを補う漢方薬、四物湯は「血」、つまり血液を補う漢方薬ということにしておきましょう。そうすると、この十全大補湯は、貧血で顔色が悪くて、エネルギー不足ゆえに倦怠感も強い患者さんに使うとよさそうだぞと想像できるわけです(図3)。図3 十全大補湯の対象患者像画像を拡大する本コンテンツの到達目標この漢方薬のレクチャーでは、皆さんに漢方薬の細かい知識を覚えていただくことをあえて目標にしていません。むしろ、いまみたいに、知らない漢方薬を見かけた時に、その生薬の組み合わせのパターンをみて、それが何に効く漢方薬なのかを類推できるようになる…というのを目標にしたいと思います。なにより、私のレクチャーは勉強というよりは楽しむくらいの姿勢で軽く見ていただくのがいいでしょう。さて、漢方薬で上達するコツは、とにかく使ってみることです。使ってみて、患者さんのリアクションをみて、自分にフィードバックをかけて、そして診療を改善する。その繰り返しです。ただ、成功体験がないと、このサイクルを回すのもなかなか辛いと思います。そのため、今回は初回ということもあり、百発百中レベルで効いてくれる漢方薬を2つだけ紹介したいと思います。それが「桔梗湯」と「芍薬甘草湯」です。この2つの漢方薬はすごく単純な成り立ちをしていて、漢方理論度外視で使ってもきちんと効くありがたい処方です。桔梗湯まず、桔梗湯ですが、これは桔梗と甘草の2種類の生薬で構成されています。桔梗には膿による症状を和らげる薬能があります。この桔梗湯を飲むか、あるいはうがいに使うと、喉の痛みが一瞬で消えます。喉の痛みに対してアセトアミノフェンやロキソプロフェンなどを使う先生方もいると思いますが、その作用は疼痛の緩和です。ところが、桔梗湯は疼痛を一時的なんですけど一瞬で消失させてしまうところがすごいのです(図4)。患者さんからすごく感謝されることもあるので、もちろん危険な疾患を除外する必要はありますが、ぜひ喉の痛みが強い患者さんに使ってみていただければと思います。図4 桔梗湯の構成と特徴画像を拡大する芍薬甘草湯次に芍薬甘草湯です。名前のとおり、芍薬と甘草の2種類の生薬で構成されています。芍薬には筋肉の異常な収縮を和らげる薬能があって、芍薬甘草湯がこむら返りに対して、即座に効果を示すことをご存じの先生方も多いと思います。ただし、筋肉の異常な収縮を和らげるということは、こむら返り以外の用途にも使えそうな気がしてきませんか? たとえば、尿管結石。尿管には平滑筋がありますね。ほかには、腸炎とか過敏性腸症候群。腸管にも平滑筋があります。胆石発作。胆道系にも平滑筋があるではないですか。まとめると、横紋筋以外の筋肉の収縮に起因する疼痛にも効果があります。作用機序こそ違いますが、西洋薬でいうところのブチルスコポラミンのようなイメージで捉えるとわかりやすいかもしれません(図5)。図5 芍薬甘草湯の構成と特徴画像を拡大する桔梗湯と芍薬甘草湯の共通点ここで紹介した2つの漢方薬には共通点があります。1つ目は、甘草が含まれていることです。甘草は、偽アルドステロン症のせいで嫌われがちな生薬ですが「急迫を治す」、つまり差し迫った症状を治すのに長けているんです。加えて、甘草にはさまざまな生薬の働きを調和する薬能もあって便利なため、漢方薬の7割くらいには甘草が入っています。2つ目の共通点は、構成生薬数が両方とも2種類ときわめて少ないことです。漢方薬は一般に、構成生薬数が少ないほど即効性があって、効果のバリエーションも少なくなる傾向にあります。逆に、構成生薬数が多い漢方薬は、効くのに日~週単位で時間がかかってしまうことが多々あります。そのかわりに、効果の守備範囲が広くなります(図6)。もっとも、これはあくまで傾向で、絶対とまでは言い切れません。図6 構成生薬数と効きの早さ・用途の広さの関係画像を拡大するたとえば、さっきの十全大補湯は、10種類とたくさんの生薬で構成されているため、効き初めまで日~週単位でかかってしまうのですが、効果は倦怠感、貧血、皮膚の乾燥、食思不振、盗汗、手足の冷えといった具合に多岐に渡ります。まとめ漢方薬を理解するには生薬を知ることが大切ですが、複数の生薬から成るブロックで理解すると効率良く理解できます。今回は桔梗湯と芍薬甘草湯を紹介しましたが、これらは構成生薬数の少ない漢方薬です。こういった構成生薬数が少ない漢方薬は、用途がかなり限られていて、症状とほぼ1対1対応で使えます。加えて、即効性があるのも魅力的です。一方で、構成生薬数が多い漢方薬は幅広い症状に対応できますが、効きがゆっくりで実感しにくいのが欠点です。こういった漢方薬をどのように理解していくのかを示すところが、このシリーズでの腕の見せ所だと思っています。次回は、皆さんが大好きな葛根湯を取り上げます。お楽しみに!

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第49回 コーヒー好きの脳は老けにくい!? 13万人・40年の調査で判明した「理想の飲み方」

あなたは、コーヒーや紅茶を毎日飲む習慣がありますか? 何を隠そう、著者の私は1日3~4杯、あるいはそれ以上飲む日も珍しくありません。そんなコーヒー好きのあなたには、心躍るニュースになるかもしれません。もしコーヒーを飲んでいるだけで、認知症のリスクが下がるとしたら…? とくにコーヒーを愛してやまない私のような人間にとっては、豆を挽く手がいつもの2倍速になってしまうような話です。しかし、先走ってはいけません。物事には、常に「適量」や「条件」が伴います。それではここから、膨大なデータが指し示した、脳を守るための「理想的な飲み方」やその背景にあるメカニズムを、ひもといていきましょう。40年以上の追跡が明かした「一杯」の長期的メリット今回ご紹介する研究1)の特筆すべき点は、その調査期間の長さにあります。1980年代から2023年までという、人生の半分以上にも及ぶ歳月をかけて、看護師や医師といった医療従事者たち約13万人の食習慣と健康状態を克明に記録し続けてきました。それほど長い期間、多くの人を追いかけたからこそ、短期的な話ではない「本物の傾向」が見えてきたのです。分析の結果、カフェイン入りのコーヒーや紅茶を習慣的に飲んでいる人は、ほとんど飲まない人に比べて、将来的に認知症を発症するリスクが有意に低いことが示されました。最も多くコーヒーを飲んでいたグループ(1日4杯以上)では、ほとんど飲まないグループに比べて認知症のリスクが18%低下していたのです。これは単に「目が覚める」といった一時的な刺激の効果ではなく、数十年にわたる習慣が脳の構造的な老化に対して、何らかの保護的な役割を果たしたことを示唆するものだと思います。脳の若さを保つ「理想のライン」とカフェインの正体では、飲めば飲むほど脳は若返るのでしょうか。今回のデータが示唆したのは、必ずしもそうではなく、リスクの低下効果が最大化される「ちょうどよい量」が存在するかもしれないということです。研究チームの詳細な分析によれば、認知症リスクが最も低くみられていたのは、カフェイン入りコーヒーであれば1日に2~3杯程度、紅茶であれば1~2杯程度を嗜む層でした。それ以上たくさん飲んでもリスクは低いままでしたが、さらなる低下はみられず、効果は頭打ちになっていました。画像を拡大するまた、ここで注目したいのは、カフェインを除去した「デカフェ」のコーヒーでは、こうした明確なリスク低下との関連が認められなかった点です。このことから、脳を守る立役者の一人はやはりカフェインであると推察されています。カフェインには、アルツハイマー病の原因の一つとされるゴミ(アミロイドβ)が脳に溜まるのを防いだり、脳内の炎症を鎮めたりする働きがあることが以前から指摘されてきました。また、コーヒーに含まれるポリフェノールなどの成分が、血管の健康を保つことで間接的に脳を守っている可能性もあります。自身の感覚とテストが一致する、認知の衰えへの防御策今回の研究がさらに踏み込んだのは、医師に診断される「認知症」という段階に至る前の、より日常的な変化についても調査している点です。参加者本人が感じる「最近、以前より物忘れが気になるようになった」という主観的な衰えの感覚についても、コーヒーを飲む習慣がある人ほど、その不安を感じる割合が15%も低いという結果が示されています。さらに、電話を通じた客観的な知能テストにおいても、コーヒーや紅茶を好むグループは高いスコアを維持しており、その差は加齢による衰えを約0.6年分押し戻している計算になりました。わずかな時間に思えるかもしれませんが、1年近くも「聡明な自分」でいられる時間が延びる可能性があると考えれば、その積み重ねは計り知れません。私たちコーヒー愛好家が、一杯の香りに包まれて「頭がさえる」と感じるあの感覚は、単なる気のせいではなく、実際に脳のパフォーマンスを支える一助となっている証なのかもしれません。期待しすぎは禁物? 賢い付き合い方コーヒー好きにはたまらないこの結果ですが、冷静に受け止めるべきポイントも忘れてはなりません。この研究はあくまで「観察」に基づいたものであり、コーヒーが直接的に認知症を治したり完全に防いだりすることを証明した「因果関係」とは言い切れない部分があります。たとえば、もともと脳が健康的で活動的な生活を送っている人だからこそ、毎日コーヒーを楽しむ余裕があるという、原因と結果が逆転している可能性もゼロではないからです。また、カフェインへの耐性は体質によって大きく異なります。「健康に良いから」といって無理に飲み、睡眠の質を下げてしまったりしては、かえって健康を損なうことになりかねません。私たちはこの研究結果を、毎日の楽しみをより肯定するための材料にするのがいいでしょう。何気ない日常の習慣が、数十年後の自分を支える大切な「脳の習慣」になっている。そんな風に考えながら、今日も最高の一杯をお楽しみください。1)Zhang Y, et al. Coffee and Tea Intake, Dementia Risk, and Cognitive Function. JAMA. 2026 Feb 6. [Epub ahead of print]

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抗精神病薬誘発性体重増加に最も有効な介入は〜ネットワークメタ解析

 統合失調症は、思考、感情、行動に影響を及ぼす重篤な精神疾患であり、世界人口の0.32%が罹患していると報告されている。抗精神病薬による治療は統合失調症の症状管理に不可欠であるが、患者の約半数が体重増加を経験しており、治療アドヒアランスの低下やさらなる健康合併症につながる可能性がある。エジプト・Zagazig UniversityのMohamed Ezzat M. Mansour氏らは、抗精神病薬誘発性体重増加に対する薬理学的および非薬理学的介入の安全性および有効性を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年12月24日号の報告。 本研究は、PRISMAステートメントに基づき実施した。公表された研究をPubMed、Scopus、Web of Science、Cochrane Libraryから2025年7月まで検索した。対象研究は、ランダム化プラセボ対照試験のみとした。身体測定値と安全性プロファイルに焦点を当て評価した。主要アウトカムは体重変化とし、副次的アウトカムはウエスト/ヒップ比、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径とした。 主な結果は以下のとおり。・55件(2,977例)の研究をメタ解析に含めた。・通常治療群と比較し、体重減少に最も効果的な治療法である可能性が高い上位3つの介入は、セマグルチド(平均差[MD]:-13.5、95%信頼区間[CI]:-17.3~-9.57)、メトホルミン+NutriEx(MD:-6.34、95%CI:-9.85~-2.9)、ニザチジン(MD:-5.46、95%CI:-7.77~-2.76)であった。・非薬理学的介入では、すべての介入において有意な体重減少が認められた(p<0.05)。 著者らは「体重増加とBMIの減少において、セマグルチドが最も効果的な治療法である可能性が高いことが明らかとなった。リラグルチドは、軽度の副作用との関連が認められた。非薬理学的アプローチにより焦点を当てた追加試験が今後求められる」としている。

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HER2陽性胃がん、T-DXdの効果予測因子は?/名大など

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、2020年9月にHER2陽性の切除不能進行・再発胃がん患者に対して承認された。日本のリアルワールド研究により、T-DXd治療効果を予測する複数の因子が明らかになった。名古屋大学の中西 香企氏らによる本研究成果は、ESMO Gastrointestinal Oncology誌2025年6月号に発表された。 EN-DEAVOR研究は、胃がん患者におけるT-DXdの有効性と安全性を評価する多施設共同後ろ向き観察研究として実施された。対象は20歳以上のHER2陽性(IHC3+またはFISH陽性)の胃・胃食道接合部腺がん患者307例で、2020年9月~2021年9月にT-DXdを3次治療以降に投与された。今回は実臨床無増悪生存期間(real-world PFS:rwPFS)と奏効率(ORR)の予測因子を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった307例のうち、75.6%が男性、69.1%が65歳以上であった。前治療でのトラスツズマブ投与期間の中央値は6.5ヵ月(範囲:0~81.5ヵ月)であった。・多変量解析の結果、rwPFSの良好な予測因子として、以下が特定された。●HER2 IHC3+(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.49~0.86)●腸型病変(HR:0.59、95%CI:0.43~0.79)●改訂Glasgow予後スコア(mGPS:CRPとアルブミン値に基づく)0および1(HR:0.71、95%CI:0.53~0.95)●前治療のトラスツズマブ投与期間延長(中央値以上)(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)・また、前治療でのトラスツズマブ投与期間延長は、ORRの良好な予測因子でもあった(オッズ比[OR]:2.02、95%CI:1.13~3.63)。 研究者らは、「トラスツズマブ治療から長期間の臨床的利益を得た患者は、T-DXdからも利益を得る可能性が高かった。同様にHER2 IHCスコア3+、腸型病変、良好なmGPSは、より長いrwPFSと関連していた。しかし、これらの因子を持たない、前治療でのトラスツズマブ投与期間が最短の群においても、rwPFS中央値3.4ヵ月の効果は認められており、T-DXd投与を控えるべきではないと考える。この結果は、HER2陽性胃がんにおけるT-DXdの治療選択において、効果予測因子を考慮した個別化医療の重要性を示唆している」とまとめている。

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初めて治療ゴールを示した「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン」

 骨粗鬆症は、社会的認知も上がり、高齢者の診療では考慮しなければならない疾患となった。日本骨粗鬆症学会と日本骨代謝学会、骨粗鬆症財団の3団体は2025年8月に『骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン 2025年版』(編集:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会)を10年ぶりに刊行した。 今回の改訂では「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」の作成方法を採用して作成され、新たにClinical Question(CQ)を設定してシステマティックレビューを行い、エビデンスの評価・統合をして推奨文が作成された。治療薬では新しい治療薬が追加されたほか、「治療アルゴリズム(初期治療選択)」が盛り込まれた。 本稿では、本ガイドラインの作成委員である萩野 浩氏(独立行政法人 労働者健康安全機構 山陰労災病院 院長)に改訂のポイントや骨粗鬆症予防の意義、今後の展望について聞いた。骨粗鬆症診療を充実させるリエゾンサービス——今回のガイドライン改訂でとくに読んでもらいたい点について 大きく3点ある。 1つ目は、新たにゾレドロン酸、アバロパラチド、ロモソズマブの治療薬が加わったことである。また、従来の薬剤の評価も新しくなったので、確認してもらいたい。 2つ目は、骨折のリスクについてである。骨折の既往やその既往の部位や回数、骨折からの期間でリスクが異なる。このリスクをどのように評価するかが加わり、骨折のリスクに応じて薬剤を選択することが示された。とくに「骨折リスクが高い患者には、骨形成促進薬を最初に投与する」という項目が新しく追加された。 3つ目は、「治療のゴールが設定された点」である。骨粗鬆症の治療において、薬物療法をどの程度まで継続するのか、治療薬を変更するのか、そして、休薬するのかが新たに記載された。——骨粗鬆症の予防について 骨粗鬆症の最終像としては大腿骨骨折や椎体骨折が起こり、寝たきりとなり生命予後に影響するリスクとなる。そのために、予防としては骨粗鬆症そのものを予防するとともに、骨粗鬆症の患者に骨折が起こることを予防すること、起きてしまった骨折箇所などが再度骨折することを予防する3つの予防が必要となる。 骨粗鬆症は、自覚症状や病状が少ない「沈黙の疾患」と呼ばれていて、「骨粗鬆症の検診」をきちんと実施しようということがガイドラインに記載されている。検診については、「健康日本21」の中で骨粗鬆症の検診率を15%(現在5%前後)まで引き上げようと目標が掲げられている。今後、そのためにガイドやマニュアルを整備し、検診を充実させて、早期発見・早期治療介入をしようという動きがある。 もう1つ今回のガイドラインでは、主な診療科である整形外科医へのつなぎとして骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)も明記された。これは骨粗鬆症に起因する骨折の治療と予防を含めて、看護師や理学療法士が骨粗鬆症の患者と医師の仲立ちをして、骨密度の検査や薬物療法を医師に依頼するサービスであり、より多くの医療者の目で骨粗鬆症の患者の診療を充実させようという狙いがある。1年に1回投与の新治療薬も登場——追加された新しい治療薬について 今回の改訂では「ゾレドロン酸」「アバロパラチド」「ロモソズマブ」の3つの治療薬が追加された。 ゾレドロン酸は点滴製剤で、1年に1回投与の骨吸収を抑える骨吸収抑制薬であり、経口での服用に問題のある患者やアドヒアランスに問題がある患者などにメリットとなる。 また、今回のガイドラインでは、「骨折リスクが非常に高い患者には、まず治療薬として骨形成促進薬を処方する」ということが明記され、新しい治療薬のアバロパラチドとロモソズマブは、この骨形成促進薬となる。この使い分けについては、まだ明確なコンセンサスがないので、今後臨床研究を積み上げていくこととなる。 そのほか既存薬のテリパラチドも「骨折リスクが非常に高い患者に使用すること」が示されている。その理由の1つとして何も治療していない患者のほうが、骨形成促進薬の治療効果が非常に高いというエビデンスがあり、国内外の専門家のコンセンサスも得られている。——次回のガイドラインへの課題や今後の展望について 今回のガイドライン改訂は2015年版のガイドラインから10年を要した。その理由としては、Minds診療ガイドラインに準拠した作成に変更したために、論文などの評価や解析に時間を要したからである。次回の改訂ではもう少し早くできるようにしたいが、新しい骨粗鬆症治療薬の発売などの予定がないので作成時期は今後検討されることになる。 また、今回のガイドラインは上梓してから、治療のゴール設定や治療薬の選択の目安などの記載が医師・医療者から評価された一方で、治療薬の選択が「推奨する」や「提案する」になり、少しわかりにくいという声もあった。 そのほか、米国骨代謝学会と米国骨粗鬆症財団が2024年に発表した「初期治療の治療アルゴリズム」が盛り込まれたが、「治療の目安ができた」という評価がある一方で、わが国の保険適用と異なる点もあるので、この点は気を付ける必要がある。主な改訂点と目次【今回の主な改訂点】・新たにCQを設定、システマティックレビューを行い、エビデンスの評価・統合をして推奨文を作成・新しい骨粗鬆症治療薬として、ゾレドロン酸、アバロパラチド、ロモソズマブを追加・「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023」「治療関連骨減少症(CTIBL)診療マニュアル」を反映【目次】 第1章 骨粗鬆症の定義・疫学および成因 第2章 骨粗鬆症の診断とリスク評価 第3章 骨粗鬆症の予防 第4章 骨粗鬆症の管理および治療の基本方針 第5章 骨粗鬆症の薬物治療 第6章 続発性骨粗鬆症 第7章 骨粗鬆症管理の向上に向けた取組みとリエゾンサービス    資料/付表/QOL評価質問表/索引

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経口PCSK9阻害薬enlicitide、LDL-C値を有意に低下/NEJM

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントの既往/初回リスクを有する患者において、経口PCSK9阻害薬enlicitideはプラセボと比較して、24週時点でLDL-C値を有意に低下させたことが示された。米国・University of Texas Southwestern Medical CenterのAnn Marie Navar氏らCORALreef Lipids Investigatorsが、日本を含む14ヵ国168施設で実施した国際共同第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験「CORALreef Lipids試験」の結果を報告した。第II相試験において、enlicitide decanoateはLDL-C値を低下させることが示され、より長期のデータが求められていた。NEJM誌2026年2月5日号掲載の報告。24週時点におけるLDL-C値の平均変化率を対プラセボで評価 CORALreef Lipids試験の対象は、主要なASCVDイベント既往でLDL-C値55mg/dL以上、または初回ASCVDイベント発症リスクが中等度~高度でLDL-C値70mg/dL以上の18歳以上の成人。 被験者は、enlicitide 20mg 1日1回投与群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けられ、52週間投与を受けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週時点におけるLDL-C値の平均変化率であった。重要な副次エンドポイントは、52週時点におけるLDL-C値の平均変化率、24週時点におけるnon-HDL-C値およびアポリポ蛋白B(APOB)値の平均変化率、リポ蛋白(a)[Lp(a)]値の変化率であった。平均変化率はenlicitide群-57.1%、プラセボ群3.0% 2023年8月~2025年7月に、2,909例が無作為化された(ITT集団:enlicitide群1,940例、プラセボ群969例)。このうち試験薬を投与されなかった5例を除く2,904例(enlicitide群1,935例、プラセボ群969例)が主要および副次の有効性エンドポイントと安全性の解析に包含された。 被験者の平均(±SD)年齢は62.8±10.7歳、39.3%が女性、53.9%が白人で、主要なASCVDイベント既往者は58.3%であった。ベースラインで96.6%がスタチンを服用しており、25.8%がエゼチミブまたはhybutimibeの投与を受けていた。ベースラインの平均(±SD)LDL-C値は96.1±38.9mg/dLであった。 24週時点における平均LDL-C値は、enlicitide群38.7±35.6mg/dL、プラセボ群98.6±42.5mg/dLで、主要エンドポイントのLDL-C値の平均変化率は、enlicitide群-57.1%(95%信頼区間[CI]:-61.8~-52.5)、プラセボ群3.0%(95%CI:0.9~5.1)であり、補正後群間差は-55.8%ポイント(95%CI:-60.9~-50.7)で有意な差が認められた(p<0.001)。 52週時点におけるLDL-C値の平均変化率、24週時点におけるnon-HDL-C値およびAPOB値の平均変化率、Lp(a)値の変化率は、いずれもenlicitide群がプラセボ群より有意に大きかった(すべての比較のp<0.001)。 有害事象の発現は、両群間で差はみられなかった。

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HIV-1感染症、ARTからドラビリン+islatravir切り替えによる有効性・安全性を確認/Lancet

 HIV-1感染症治療においてドラビリン/islatravir配合錠は、有効かつ良好な忍容性を示す、初となる非インテグラーゼ阻害薬(INSTI)ベースの2剤併用療法として有望であることが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のChloe Orkin氏らによる第III相無作為化実薬対照非盲検非劣性試験で示された。すべての国際ガイドラインでは、INSTIを含むレジメンが第1選択薬として推奨されているが、INSTI耐性の出現を示すWHOのデータが示されたことから懸念が生じている。ドラビリン/islatravir配合錠は、2つの強力な抗ウイルス薬からなる開発中の1日1回投与の配合錠で、相補的な作用機序および耐性プロファイルを有する。著者は、「広範なINSTI耐性の出現に対する懸念が高まる中、抗レトロウイルス療法(ART)の変更を必要とするHIV-1感染者にとって、この1日1回の配合錠は有望な選択肢となりうるだろう」と述べている。Lancet誌2026年2月7日号掲載の報告。ドラビリン/islatravir固定用量配合錠への切り替え、有効性と安全性を評価 研究グループは、成人HIV-1感染者において錠剤経口ARTの切り替え薬として、ドラビリン(100mg)/islatravir(0.25mg)の固定用量配合錠の有効性と安全性を評価した。 試験は、8ヵ国(オーストラリア、カナダ、コロンビア、日本、南アフリカ共和国、スイス、英国、米国)53ヵ所の研究・地域・病院ベースのクリニックで行われた。対象は、18歳以上の成人で、2剤または3剤の経口ARTレジメンを3ヵ月以上受けており、ウイルス量がHIV-1 RNA 50コピー/mL未満、治療失敗歴なし、ドラビリンに対する既知の耐性なし、活動性B型慢性肝炎でないこととした。 被験者をコンピュータ生成無作為化スケジュール法(ブロックサイズは3)で、ドラビリン(100mg)/islatravir(0.25mg)配合錠を1日1回投与する群またはベースラインARTを継続する群に2対1の割合で無作為に割り付け、48週間投与した。無作為化では、ベースラインレジメンの中心となる抗レトロウイルス薬のクラス(INSTI、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬)によって層別化した。 主要エンドポイント(治療を受けたすべての被験者で評価)は、48週時点でウイルス量50コピー/mL以上の患者の割合であった。非劣性は、治療群間差の多重性補正後95%信頼区間(CI)の上限が4%未満の場合と定義した。安全性の解析は、無作為化され試験薬を少なくとも1回服用した被験者を対象に行われた。48週時のウイルス量50コピー/mL以上の患者割合で非劣性 2023年2月20日~10月24日に、614例が適格性についてスクリーニングされ、553例がドラビリン/islatravir群(368例)またはベースラインART群(185例)に無作為化された。551例が割り付け治療を少なくとも1回服用した(ドラビリン/islatravir群366例、ベースラインART群185例)。 551例のうち、出生時男性332例(60%)、出生時女性219例(40%)で、年齢中央値51歳(四分位範囲:41~59)、250例(45%)が自己申告に基づく黒人またはアフリカ系米国人などだった(アジア人は両群ともに5%)。 48週時点でウイルス量50コピー/mL以上の患者の割合は、ドラビリン/islatravir群1.4%(5/366例)、ベースラインART群4.9%(9/185例)で、ドラビリン/islatravir群の非劣性が示された(群間差:-3.6%、多重性補正後95%CI:-7.8~-0.8)。 治療関連有害事象は、ドラビリン/islatravir群(44/366例[12.0%])がベースラインART群(9/185例[4.9%])よりも多く観察された(群間差:7.2、95%CI:2.2~11.6)。両群(ドラビリン/islatravir群vs.ベースラインART群)の発現率は、あらゆる有害事象(79.5%[291/366例]vs.83.8%[155/185例]、群間差:-4.3[95%CI:-10.7~2.8])、重篤な有害事象(6.3%[23/366例]vs.4.9%[9/185例]、1.4[-3.2~5.2])、有害事象による試験中止(0.5%[2/366例]vs.2.2%[4/185例]、-1.6[-4.9~0.2])で同等であった。 死亡が1例報告されたが(ベースラインART群)、治療とは無関係と見なされた。プロトコールで規定されたCD4陽性細胞数または総リンパ球数の減少により治療を中止した被験者はいなかった。 著者は、「安全性および有効性の知見は、長期作用型の可能性のある薬剤としてのislatravirの開発を進めることを支持するものである」とまとめている。

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コーヒーから見つかった新たな成分が2型糖尿病のコントロールに有望

 コーヒーの中から、2型糖尿病の血糖コントロールに役立つ新たな成分が見つかった。糖の吸収を遅くする作用があり、糖尿病の治療に用いられている薬剤よりも効果が優れている可能性もあるという。中国科学院昆明植物研究所のMinghua Qiu氏らの研究の結果であり、詳細は「Beverage Plant Research」2025年発行号に掲載された。 コーヒーについてはこれまでにも、エネルギー消費を増やしたりインスリンの感受性を高めたりする作用のあることが報告されてきている。今回の研究では新たに、焙煎したコーヒー豆に含まれている特定の成分が、食品中の糖が吸収されて血糖になるまでの速度を抑制することを示唆するデータが得られた。 血糖値は食後に高くなる。これは摂取した炭水化物食品が消化されてブドウ糖となり、それが吸収されて血液中に流れ込むためだ。炭水化物食品が消化される過程では、α-グルコシダーゼという酵素が必要とされ、これが炭水化物の分解を促進する。この作用に着目して開発された、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)という薬があり、糖尿病の治療薬として長く使われてきている。α-GIはα-グルコシダーゼの作用を阻害する(妨げる)ことで、食後の血糖上昇を抑制する。 Qiu氏らの行った今回の研究では、焙煎コーヒーの中にα-グルコシダーゼを強力に阻害する、これまで知られていなかった3種類の成分が含まれていることが明らかになった。この研究結果は、コーヒーが単に嗜好を満たすことにとどまらず、人々に健康効果をもたらす可能性があるというエビデンスを、さらに裏付けるものと言える。 食品には極めて多くの成分が含まれていて、それらが互いに関連して作用することがあるために、食品の中から人々の健康に有益な成分を見つけ出す作業は一筋縄ではいかない。Qiu氏らの研究チームはこの課題に取り組むため、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)や核磁気共鳴分析(NMR)などの高度な分析ツールを用いて、焙煎したアラビカコーヒー豆を分析した。なお、アラビカコーヒーは味や香りが良く、世界で最も親しまれている品種。 研究では3段階のスクリーニングプロセスを経て、コーヒー抽出物の中で最も化学的な活性の高い部分を絞り込み、さらに精製を重ねた結果、これまで見つかっていなかった3種類の新たな成分の単離に成功した。カファルデヒド(caffaldehyde)と名付けられた新規成分は、A、B、Cと3種類あり、いずれもα-グルコシダーゼを強力に阻害した。 阻害作用の強さを表すIC50という値(作用が強いほど値が小さい)は、カファルデヒドA、B、Cの順に、45.07±3.16μM、24.40±0.33μM、17.50±2.86μMだった。これらの値はいずれも、α-GIの一種であるアカルボースという薬剤(60.71±16.45μM)よりも低値(作用が強力)だった。 この結果は、コーヒー由来成分が将来的には、血糖コントロールをサポートするために利用される可能性を示唆している。研究者らは今後、これらの成分の生体での安全性と有効性を検証することを計画している。

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男女のストレスの差異:女性は日々の運動からより多くの恩恵を受ける

 運動はどんな人にもメリットがあるが、ストレス軽減効果という点では、男性よりも女性の方がより多くの恩恵を受けられることが、米ギャラップ社が発表した健康・幸福指数に関する調査報告書で明らかになった。毎日運動している女性は、運動していない女性に比べてストレスを自覚する割合が20%低く、このストレス軽減効果は男性の約3倍に上るという。 米国の成人約1万7,000人を対象に昨年行われた調査に基づくと、30分以上の運動を週に6日間以上行っている女性は、全く運動していない女性に比べてストレスレベルが顕著に低いことが分かった。例えば、運動をしていない女性の56%が強いストレスを感じていると回答したのに対して、毎日体を動かしている女性はその割合が45%だった。つまり、ストレスを感じる程度が相対的に20%低かった。 一方、女性に比べて男性の場合、運動の効果が限られていた。運動をしていない男性の43%がストレスを感じていると回答し、毎日運動している男性でもその割合は40%であり、その差は3パーセントポイント(相対的には7%)に過ぎなかった。 このような性差が生じる原因として研究者らは、女性の方がベースラインのストレスレベルが高いために、運動によって改善できる範囲が大きいからではないかと考えている。なお、運動習慣そのものには性別による大きな差はなく、男性の14%と女性の12%が週に6~7日運動し、男性の26%と女性の28%が全く運動していなかった。 年齢も、ストレスに対する運動の軽減効果に影響を及ぼしていた。18~44歳の女性の場合、ストレスを感じるとの回答は、運動をしていない人では68%、毎日運動している人では54%という差であった。これに対して65歳以上の高齢女性では、その差が12パーセントポイント(39%と27%)であった。しかし、高齢男性では運動習慣による差がほとんど見られなかった(25%と24%)。 報告書によると、運動で汗をかくことと気分が改善することの関連には、体内での化学反応が関係しているという。運動は体内の主要なストレスホルモンであるコルチゾールの影響を抑制する一方、ドーパミンやエンドルフィンなどの“気分を良くする”物質を増やし、ホルモンバランスの調節にも役立つ。 ギャラップ社の研究者らは、社会的要因もストレスの性差に影響している可能性があると指摘している。女性は友人と一緒に運動したり、グループレッスンに参加したりする傾向が強く、そのことが社会的なサポートとなって不安を和らげるように作用する。また、女性は男性に比べて睡眠の悩みを抱えていることが多く、運動の睡眠改善効果が女性にとってはより強い恩恵となって、ストレスが解消されやすくなる可能性があるとのことだ。研究者らはさらに、「労働環境もストレスの性差に影響している可能性があり、長時間の労働をしている人は自分の裁量で労働時間を加減できる立場の人よりもストレスが多く、かつ、運動に充てる時間が少ないのではないか」と付け加えている。 なお、本調査では、米国成人の46%が調査前日に強いストレスを感じたと回答していた。そして、運動日数が多いほどストレスが少ないという明確な傾向が認められた。

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PD-L1陽性転移TNBC1次治療におけるADC+ICI(解説:下村昭彦氏)

 PD-L1陽性転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の初回治療は、IMPassion130試験(Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018;379:2108-2121.)、KEYNOTE-355試験(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;387:217-226.)の結果に基づき、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(ICI:抗PD-L1抗体アテゾリズマブ、もしくは抗PD-1抗体ペムブロリズマブ)が標準治療として用いられている。IMPassion130試験では全生存期間(OS)延長の可能性が示され、KEYNOTE-355試験では統計学的有意にOSが延長された。一方、2次治療以降では抗体薬物複合体(ADC)の開発が活発に行われており、TNBC全体に対するサシツズマブ ゴビテカン(SG)(Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-1541.)やHER2低発現TNBCに対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)(Modi S, et al. N Engl J Med. 2022;387:9-20.)が用いられており、いずれもOS延長が示されている(T-DXdは探索的)。そのため、TNBCの1次治療としてADC製剤とICIの併用は大きな期待をもって開発されている。 ASCENT-04試験はPD-L1陽性転移TNBCの初回治療として、SG+ペムブロリズマブ併用療法と化学療法+ペムブロリズマブを比較した第III相試験である(Tolaney SM, et al. N Engl J Med. 2026;394:354-366.)。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)中央値において11.2ヵ月vs.7.8ヵ月(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.51~0.84、p<0.001)と統計学的有意にSG+ペムブロリズマブ併用群で良好であった。一方、OS中央値は未成熟であり両群で未到達であったが、HRは0.89(95%CI:0.62~1.29)とややSG+ペムブロリズマブ併用群で良さそうな傾向を認めた。なお、本試験ではクロスオーバーが許容されており、治療を中止した化学療法+ペムブロリズマブ群の81%が後治療としてSGによる治療を受けていた。 本試験はPD-L1陽性転移TNBCに対するADC製剤とICIの併用療法の有効性を示した初の試験である。PD-L1陽性転移TNBCに対してはこれ以外にもダトポタマブ デルクステカンとICI併用の試験も行われている(NCT06954480)。いずれもOSを延長することが期待される薬剤であり、今後の試験結果が待たれる。TNBCはPD-L1陽性/陰性にかかわらず、化学療法を中心とした治療が行われてきた。今後も化学療法の重要性は変わらないものの、ADC製剤をはじめとした作用機序の明確な薬剤を用いた治療がより早いラインで使用されるようになっていくだろう。

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がん関連症状:がん疼痛(脊柱管内浸潤によるしびれと痛み)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第7回

今回はがん疼痛についてです。がん診療において、疼痛は日常診療で頻繁に遭遇する症状の1つです。初診の段階ですでに約半数のがん患者が疼痛を自覚しており、治療中では55%、進行がんでは66%が疼痛を有していると報告されています。そのため紹介元であるかかりつけ医を受診した際に疼痛について相談するというケースもあると思いますが、それらの中には迅速な対応を要する緊急性の高い症例も含まれます。とくに、疼痛に神経症状を伴う場合には鎮痛薬の調整のみでは不十分であり、病勢の進行を念頭に置いた迅速な判断と専門医との連携が求められます。今回は、脊柱管内浸潤によるがん疼痛を例に、患者さんがかかりつけ医を受診した際に押さえておきたい判断のポイントと初期対応について解説します。【症例1】53歳、男性主訴背部痛、両側大腿のしびれ病歴進行大腸がん(StageIV)に対する緩和的化学療法を実施中。1ヵ月前のCTで腰椎(L2、L3)への骨転移を指摘されていた。今朝起床時より背部の疼痛が増悪し、両側大腿のしびれが出現。歩行は可能ではあるが右下肢の動かしにくさを自覚したため、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見意識清明、血圧138/86mmHg、発熱なし、背部痛Numeric Rating Scale(NRS10/10)、両側大腿外側および前面に感覚障害あり、右下肢不全麻痺あり。ステップ1 この症例をどうアセスメントするか本症例はすでに腰椎(L2、L3)への骨転移が指摘されている患者さんで、起床時からの背部痛の急激な増悪に加え、両側大腿のしびれと右下肢の動かしにくさが出現しています。がん患者の疼痛は頻度が高く、外来で鎮痛薬の調整を行う場面も少なくありませんが、疼痛に神経症状を伴う場合には、単なるがん疼痛の増悪として対応することは危険と言えます。とくに、本症例のように感覚障害と運動障害が短時間のうちに出現している点は重要で、脊柱管内への腫瘍浸潤による神経圧迫が進行している可能性が強く示唆され、いわゆる「オンコロジックエマージェンシー」に該当する状況と判断できます。このような脊柱管内浸潤の症例では、治療開始時に歩行可能であるかどうかが重要な予後因子とされています。歩行可能な状態で治療を開始した場合の治療後歩行可能率は良好(治療前自立歩行可能例:93.8%、治療前支持歩行可能例:62.8%)である一方、歩行不能となってから治療を開始した場合の治療後歩行可能率は不良(不全運動麻痺例:38.0%、完全運動麻痺例:12.5%)です。症状出現から48時間以内は神経機能の回復や進行抑制が期待できる「ゴールデンタイム」とされており、この期間内に適切な治療介入が行われるかどうかが、その後の機能予後を大きく左右します。したがって、疼痛コントロールを優先するよりも、まず病勢の評価と迅速な対応が求められます。なお、「まだ歩行可能である」「排尿障害がない」といった情報から経過観察を選択してしまいがちですが、脊髄圧迫ではこれらの症状が出現した時点ですでに病勢が進行していることも多くあります。歩行可能であることや排尿障害の有無は緊急性を否定する根拠にはなりません。脊柱管内浸潤を疑うポイント画像を拡大する上記のいずれか1つでも認められた場合は、オンコロジックエマージェンシーを疑い、迅速な対応を検討する必要があります。ステップ2 外来での対応と判断本症例のような状況に遭遇した際、かかりつけの先生方には外来で可能な範囲の疼痛コントロールだけでなく、症状の緊急性を患者さんおよびご家族と共有し、早期に病院へつなぐためのご判断・ご対応をお願いしたいです。当日中に脊椎MRIなどの画像評価が可能な医療機関への紹介が望ましいものの、地域や時間帯によってはただちに検査を行うことが難しい場合もあります。そのような場合であっても、「様子をみる」判断に戻るのではなく、救急外来受診を含めた形で病院側に相談いただくことが重要です。外来での対応としては、鎮痛薬の大幅な増量による経過観察は避け、まず必要最小限の鎮痛対応(非オピオイド鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬のレスキューなど)を行います。また、診療情報提供書には、神経症状の出現時期と部位、痛みやしびれの性質、症状の進行スピードを具体的に記載していただけると、病院側での評価や対応がより円滑になります。まとめがん患者の疼痛相談は日常診療でよく遭遇する一方、経過の中で急な変化を伴うことも少なくありません。疼痛に神経症状が加わった場合には、外来での対応に悩まれる場面も多いと思います。本稿で示したような所見がみられる場合、病院側と早期に情報を共有することで、より適切な評価や対応につなげることが可能になります。外来での気付きや違和感は診療の質を高めるうえで非常に重要です。かかりつけ医と病院がそれぞれの役割を生かしながら連携することで、がん患者にとってより安全で安心な診療が実現できると考えています。1)Isaac T, et al. Pain Res Manag. 2012;17:347-352.2)Snijders RAH, et al. Cancers(Basel). 2023;15:591.3)Loblaw DA, et al. J Clin Oncol. 2005;23:2028-2037.講師紹介

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