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肘内障【すぐに使える小児診療のヒント】第12回

肘内障「急に片腕を使わなくなった」という小児にどのように対応しますか? 肘内障は小児の外傷でも比較的よく遭遇するため、即座に治療可能な方法をマスターしましょう。症例4歳、男児。「突然右腕を動かさなくなった」とのことで救急外来を受診した。母親によると、自宅で手を引っ張って抱き起こした直後に突然泣き出し、その後から右腕を動かさなくなったという。診察時、児は左手で右手首を支えるようにしており、動かそうとすると嫌がって啼泣した。肘内障の病態肘内障は、橈骨頭が輪状靭帯からずれることで生じる状態で、肘が伸びたまま腕に牽引力やねじれの力が加わることで起こります。好発年齢は2~6歳で、7歳を超えると少なくなります。幼児では輪状靭帯や橈骨頭周囲の構造が未熟なため、発症しやすいと考えられています。そのため、日常診療では比較的よく遭遇する外傷の1つです。小児科外来だけでなく、救急外来や当番診療でも出会う機会があり、「腕を動かさない幼児」をみたときにまず思い浮かべたい疾患です。受傷機転は「手を引っ張った」だけではない典型的には、手を引いて歩いていた、腕を引っ張って抱き起こした、転びそうになってとっさに腕を引いた、などが契機となります。ただし、腕を下にして寝返りをした、などでも起こりえます。受傷機転がはっきりしないことも少なくありません。受傷後は突然痛がって腕を動かさなくなり、肘を軽く曲げ、前腕を回内した位置で保持することが多いです。診察では、患児の自然な姿勢をよく見るだけでも多くの情報が得られ、健側の手で患側の手首を支える姿勢は典型的です。保護者からは「肘が痛い」ではなく、「肩を痛がる」「手首を痛がる」「腕がだらんとしている」と表現されることもあります。痛みの場所をうまく言葉にできない年齢の子どもも多いため、実際には訴えそのものよりも、どのように腕を使っていないかを観察することが大切です。まず大切なのは骨折を見逃さないこと肘内障を疑っても、まず骨折を除外することが重要です。明らかな腫脹や変形、限局した圧痛がある場合や、転落・強打など典型的でない受傷機転であれば、安易に整復せず画像評価を考えます。一方、典型的な受傷機転があり、腫脹や変形がなく、全体として肘内障が強く疑われる場合には、X線を撮らずに整復を試みることも多くあります。ただし、整復しても改善しない場合には、「整復できなかった」のではなく、「そもそも肘内障ではない」という可能性を考えるべきでしょう。無理な整復を繰り返さず、整形外科への相談を検討します。何度も整復操作を行うと、患児の苦痛が強くなるだけでなく、診断を遅らせることにもつながります。骨折の可能性を少しでも感じたら、一度立ち止まる姿勢が大切です。整復と確認画像を拡大する整復法としては回内法と回外・屈曲法が知られており、一般には回内法が第1選択になりやすいです。過去のランダム化比較試験では、回内法のほうが初回での成功率が有意に高いとされています。実際の整復方法をYouTubeなどで紹介しているものが多くあります。施行する前に一度確認して、イメージしてから行うとよいでしょう。整復はエコーで確認しながら行うこともあります。特徴的なエコー所見としては、輪状靭帯と回外筋が腕橈関節内に引き込まれる「Jサイン」が挙げられます。エコー下であれば、Jサインの確認・消失をもって診断と治療後の確認が可能であり、また骨折を疑うような関節内の血腫の有無を確認できるというメリットもあります。とくに好発年齢から外れる年長児や非典型的な受傷機転のときなど、臨床所見のみでは悩ましい場合に非常に重宝します。整復時に「コクッ」とした感触があることもありますが、最終的には患児が自然に腕を使うようになるかで判断します。整復後の確認では、患側でバイバイをする、おもちゃに手を伸ばすといった自然な動きが参考になります。診察者が「動かしてください」と促すよりも、好きなジュースを渡して両手で持って飲めるかなど、子どもが思わず手を使いたくなる場面を作るほうが、評価しやすいこともあります。機嫌がまだ十分に戻っていない場合には、子どものそばで保護者に立ち上がってもらうと、抱っこを求めて両手を上げる様子を確認できたりすることもあります。一方で、整復直後は痛みの余韻や不機嫌さのため、すぐには動かさないことも少なくありません。そのため慌てて判定せず、数分から10分ほど待って再評価するとよいでしょう。少し余裕をもって観察することが、結果的に正確な評価につながります。帰宅前に伝えたいこと肘内障は再発することがあるため、「腕を強く引っ張らない」「片手で急に持ち上げない」といった注意点を伝えます。また、整復後もしばらく違和感を訴えることはありますが、半日〜1日経ってもまったく使わない、腫れが出てくる、強い痛みが続く、数日経っても改善しない場合には再受診が必要です。初診時には明らかでなかった骨折が判明することもあります。肘内障は、知っていれば診断しやすい外傷であり、その場で改善すると保護者の安心につながります。一方で、「ただの肘内障」と決めつけず、骨折の除外と帰宅後の説明まで丁寧に行うことが大切です。 1) Macias CG, et al. Pediatrics. 1998;102:e10. 2) Aksel G, et al. Am J Emerg Med. 2025;88:29-33. 3) Sohn Y, et al. Pediatr Emerg Care. 2014;30:919-921. 4) 田島康介 著. 救急整形外科レジデントマニュアル第2版. 医学書院;2018.

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第58回 【解説】医療機器サプライチェーンの危機:日米が直面する「透析インフラ」の脆弱性

近年、私たちの生命維持に直結する医療インフラが思わぬ形で脅威にさらされています。現在、日本とアメリカの双方で、人工透析などに不可欠な医療機器の供給危機が表面化しています。引き金となった原因は両国で異なりますが、浮き彫りになったのは「医療物資のサプライチェーンが抱える構造的な脆弱性」という共通の課題です。本稿では、日米それぞれの現状と今後の見通しについて解説していきます。中東情勢が直撃する日本現在、日本が直面しているのは、中東情勢の悪化に端を発するプラスチック原料「ナフサ」の世界的欠乏による直接的な打撃です。日本やアジアの医療機器メーカーは、製造工程において中東産のナフサに大きく依存しています。ロイター通信の報道によると、ナフサの供給不足により、国内シェアの大部分を占める医療機器メーカーのタイやベトナム工場で生産に遅れが生じ始めています1)。影響は深刻で、人工透析に使用されるチューブなどの「透析回路」は、早いもので2026年8月ごろから国内への出荷が困難になる可能性が指摘されています。また、手術用の廃液容器に至っては4月半ばで供給が途絶える見込みとされています。日本国内には約34万人(2024年末時点)の透析患者がおり、代替品の確保や調達先の多角化は待ったなしの状況です2)。 政府も危機感を強めており、高市政権下で経済産業省などがエネルギーの安定供給を含めた対応策の整理を急いでいるようです。構造的弱点が露呈した米国一方、アメリカの状況は日本とは少し異なります。アメリカでは、国内で豊富に採れる天然ガス由来の「エタン」をプラスチックの主な代替原料としているため、今回の中東情勢を起因とするナフサ不足の直接的な影響は受けていません。しかし、それならアメリカで全く問題がないのかといえば、そうではありません。アメリカもまた透析回路をはじめとする医療機器の深刻な不足にあえいでいるのです。その原因は、サプライチェーンの「極端な寡占化」と「製造拠点の偏在」という構造的な弱点にあるようです。アメリカでは、2025年初頭に主要サプライヤーの工場で発生した製造・供給トラブルの余波が現在も長引いており、FDAのリストでも血液回路が全国的な不足状態の物品に指定されています3)。 過去にも自然災害による特定工場の被災で全米の透析液が枯渇する事態が起きており、単一の企業や地域に過度に依存するリスクが恒常的に顕在化しているのです。命をつなぐインフラを守るための課題と今後の展望「原材料の海外依存(日本)」と「サプライヤーの寡占化(米国)」。原因は違いますが、一部の供給網の乱れが即座に患者の命を脅かすというリスクは日米共通です。この危機を乗り越えるため、日米の現場では使用機材の最大限の節約と、重症患者への優先使用といった運用レベルの対応が迫られています。さらに抜本的な対策として、米国腎臓学会は政府に対し、透析関連物資を自然災害や有事に備える「国家戦略備蓄」に正式に組み込むよう強く求めています4)。日本においても、今回のナフサ不足を教訓とし、調達ルートの多角化や国内製造基盤の支援、さらには重要医療物資の国家的な備蓄体制の構築が不可欠となるでしょう。グローバル化に伴い、いわば効率化されすぎてしまったサプライチェーンを、いかに強靱なものにしていくか。日米の医療現場と政府は今、大きな岐路に立たされているといえるでしょう。 1) Reuters(ロイター通信)「ナフサ供給不足に関する報道」2026年3月27日(参照日:2026年4月17日) 2) 日本透析医学会(JSDT)統計調査委員会「わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在)」日本透析医学会ホームページ(統計調査資料)(参照日:2026年4月17日) 3) U.S. Food and Drug Administration (FDA), “Disruptions in Availability of Hemodialysis Bloodlines - Letter to Health Care Providers,” 2025 Mar 14. (参照日:2026年4月17日) 4) American Society of Nephrology (ASN), “RE: CMS-1516-ANPRM-Medicare Program; Ensuring Safety Through Domestic Security with Made in America Personal Protective Equipment (PPE) and Essential Medicine Procurement in Medicare Participating Hospitals” (comment letter), 2026 Mar 30.(参照日:2026年4月17日)

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がん薬物療法における皮下注射剤の可能性/日本臨床腫瘍学会

 近年、がん薬物療法領域での皮下注射剤の活用が広がっている。2026年度診療報酬改定では外来腫瘍化学療法診療料への皮下注製剤の算定も認められる見通しとなった。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)では、腫瘍内科医、薬剤師、緩和ケア医、看護師、制度申請者の立場から、皮下注射の現状と課題が多角的に論じられた。がん治療の時間毒性を改善できる皮下注射 大阪大学の吉波 哲大氏は、腫瘍内科医の立場からがん薬物療法における「時間毒性」の概念を提示した。がん薬物療法においては、骨髄抑制や悪心などの薬剤毒性に加え、近年は経済毒性が注目されている。もう1つの側面として、吉波氏は時間毒性の重要性を訴える。 時間毒性は経済毒性とも無関係ではない。たとえば、通院により仕事を休むことで、給与に影響が出る。このように、時間毒性は深刻化すると経済毒性につながる。「医療者は時間毒性に対する取り組みを強く認識しなければならない」と吉波氏は説明した。 吉波氏が専門とする乳がん領域でも皮下注射は活用されている。HER2陽性乳がんでは、トラスツズマブとペルツズマブの併用療法が用いられるが、近年トラスツズマブとペルツズマブの配合皮下注製剤(商品名:フェスゴ)が登場した。フェスゴは2剤併用と同等の血中濃度と有効性を示す。投与時間に関しては、従来の2剤投与の90分超に対し、フェスゴでは最短5分と、1時間以上短縮ができる。患者に2剤投与とフェスゴ投与のどちらを選ぶかを聞いたところ、85%がフェスゴと回答している。その理由の多くは「診療における所要時間の短さ」であった。 皮下注製剤について吉波氏は「がん治療の時間毒性を軽減する可能性を十分に秘めている」と結論付ける。製剤技術の進化が皮下注射の可能性を広げる 小牧市民病院の山本 泰大氏は、薬剤師の観点から皮下注製剤の特性と今後の展開を論じた。従来、皮下投与可能な薬液量は2mLが目安とされてきたが、ヒアルロン酸を配合することで皮下組織にスペースが確保される。そのため、薬液量が増えても投与が可能になった。同院では現時点で外来化学療法患者の約20%が皮下注射を受けている。「今後もさらに増えていくであろう」と山本氏は述べた。 国内で承認されている皮下注射抗がん剤として、前述のフェスゴに加えてダラツズマブ、アミバンタマブ、モスネツズマブなどがある。海外でもいくつかの薬剤で臨床試験が進んでいるという。 「皮下注射抗がん剤は、今後もさらに広がっていくことが予想され、医療コストや患者負担軽減につながることは間違いない。これからは臨床現場での運用や副作用のエビデンスを蓄積していくべき」と山本氏は述べる。緩和ケア領域における皮下注射のメリット 広島市立広島市民病院の余宮 きのみ氏は、緩和ケアにおける皮下注射の臨床的意義を紹介した。緩和ケア領域において持続皮下注はその簡便性と安全性から世界的に普及している。日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」でも、経口困難な患者に対するオピオイドの持続皮下注が推奨される。 緩和ケアにおける皮下注射の利点として余宮氏は、ルート確保の容易さ、シリンジポンプを小さくできる可能性、経口剤に比べた鎮痛達成の早さといった点などを挙げた。 「皮下注射は緩和領域においても重要な選択肢になるであろう」と余宮氏は述べる。安全な皮下注射投与のために 国立がん研究センター東病院の市川 智里氏は、看護師の立場から発言。皮下注射は簡便ではあるものの必ずしも安全というわけではないと指摘した。抗体薬、G-CSF製剤、ホルモン薬と多岐にわたる薬剤が皮下注射として使用されており、薬剤ごとの特性と注意事項を把握しておくことの重要性を強調する。 具体的には、6R(Right Patients・Right Drug・Right Dose・Right Time・Right Route・Right Purpose)と全身状態評価の徹底を挙げた。投与部位、硬結・疼痛予防、放射線照射部位・瘢痕部位の回避といった基本を押さえるとともに、皮下脂肪層が薄い高齢者や低栄養患者に対する工夫も重要だという。 同院では薬剤別の早見表(投与間隔、使用針ゲージ、投与部位、投与前チェック項目など)を化学療法室に掲示し、スタッフが入れ替わっても一定の質を保てるよう工夫している。市川氏はまた、「投与観察時間を患者とのコミュニケーション機会として活用し、副作用や生活上の意見を聞き取ることで治療継続を支援していきたい」と話す。外来腫瘍化学療法診療料への皮下注射の算定 国立がん研究センター中央病院の下井 辰徳氏は、2026年度診療報酬改定における「外来腫瘍化学療法診療料」への皮下注射剤算定について解説した。従来、点滴・静注は外来腫瘍化学療法診療料として算定されるが、皮下注製剤は算定対象外とされていた。 算定対象外であるため、医療機関は皮下注射を積極的に選択しにくいのが現状だ。フェスゴを例にとると、外来腫瘍化学療法診療料が算定できないという理由で、4割以上の患者で使用されていないという。 こうした状況を受け、日本臨床腫瘍学会をはじめとする団体が合同で医療技術評価分科会に要望を提出した。要望で示したのは、皮下注も点滴と同様に専門的なケアと安全管理を伴う医療行為であること、算定されない現状が患者の時間毒性軽減という利益を阻害していること、財政影響が限定的であるといった点である。 中医協での審議の結果、点数は点滴・静注よりも少ないが、2026年6月から皮下注製剤に対しても算定が認められる見通しだ。「次回診療報酬改定までの2年間で、算定の活用状況、点数設計などが検討されていくと予想される」と下井氏は述べる。

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日本の実臨床におけるCGRP関連抗体の長期有効性と治療順守

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体は、片頭痛予防に有効である。しかし、実臨床における1年を超えるデータは限られている。獨協医科大学の鈴木 圭輔氏らは、日本における片頭痛患者における3つのCGRP関連抗体の長期有効性を評価するため、単施設レトロスペクティブ観察コホート研究を実施した。European Journal of Neurology誌2026年3月号の報告。 対象は、獨協医科大学病院の頭痛外来において、2022年4月~2025年2月にCGRP関連抗体(エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブ)を3ヵ月以上投与した片頭痛患者307例。評価項目は、1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)、50%以上の奏効率、有害事象(AE)、治療継続率とした。患者は、非治療反応患者と治療反応患者(早期治療反応患者:3ヵ月目までにMMDが50%以上減少、後期治療反応患者:4~5ヵ月目、超後期治療反応患者:6ヵ月目以降)に分類し、評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・CGRP関連抗体治療により、24ヵ月にわたるMMDの有意な減少が認められた。・50%以上の治療反応率は、3、6、12、24ヵ月時点でそれぞれ45.9%、57.0%、63.6%、71.0%であった。・AEの発生率は12.6%であり、重症度はおおむね軽度であった。・早期治療反応患者は、ベースラインのMMDおよび片頭痛障害評価(MIDAS)スコアが最も低かった。一方、非治療反応患者は、ベースラインのMMDおよびMIDASスコアが最も高く、薬剤乱用頭痛(MOH)および精神疾患の併存率が最も高かった。・早期治療反応患者と比較し、後期治療反応患者および超後期治療反応患者は、ベースラインのMMD、MIDASスコア、MOHの発現率が高く、過去に予防治療失敗を経験した患者が多かった。・さらに、超後期治療反応患者は、羞明および拍動性頭痛の発現率が最も高く、精神疾患の併存率は最も低かった。・CGRP関連抗体の有効性は、いずれの薬剤においても同程度であった。・12、18、24ヵ月時点での治療継続率は、それぞれ68.3%、58.0%、50.6%であった。 著者らは「日本人片頭痛患者に対するCGRP関連抗体による治療は、片頭痛発作頻度の長期的な減少および良好な忍容性を示す有用な治療選択肢である」と結論付けている。

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インフリキシマブとエタネルセプト、重大な副作用が追加/厚労省

 2026年4月21日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、インフリキシマブ(商品名:レミケードほか)とエタネルセプト(同:エンブレルほか)の重大な副作用の項に「自己免疫性肝炎」が追加された。自己免疫性肝炎の発生状況 各製剤における自己免疫性肝炎関連症例を評価した結果、因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意改訂が適切と判断された。[国内症例]インフリキシマブ:9例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例が2例あるが、1例は承認効能・効果外の症例)【死亡0例】エタネルセプト:4例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例2例)【死亡0例】[海外症例]インフリキシマブ:4例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例4例)【死亡0例】エタネルセプト:6例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例6例)【死亡0例】カルシウム注射薬の禁忌が削除 また、低カルシウム血症の治療などに用いるグルコン酸カルシウム水和物(同:カルチコール注射液8.5%5mLほか)と塩化カルシウム水和物(同:大塚塩カル注2%、塩化カルシウム注2%「NP」)においては、禁忌と併用禁忌が削除され、併用注意が新設された。<グルコン酸カルシウム水和物>禁忌の「強心配糖体の投与を受けている患者」→削除相互作用の併用禁忌の「強心配糖体」→削除相互作用の併用注意の「強心配糖体」→追記<大塚塩カル注2%、塩化カルシウム注2%「NP」>禁忌の「ジギタリス製剤(ジゴキシン等)を投与中の患者」→削除相互作用の併用禁忌の「ジギタリス製剤」→削除相互作用の併用注意の「強心配糖体」→追記 このほか、抗悪性腫瘍薬2剤に対しても、重大な副作用の項が新設され、アベルマブ(同:バベンチオ)には「重度の皮膚障害」が、レゴラフェニブ(同:スチバーガ)には「高アンモニア血症」が追記されている。

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重症TRへの経カテーテル三尖弁置換術、実臨床で有用性を確認/JAMA

 重症三尖弁閉鎖不全(TR)を有する患者に対する経カテーテル三尖弁置換術(TTVR)の安全性と有効性について、実臨床データで確認されたことが、米国・Cedars-Sinai Medical CenterのRaj R. Makkar氏らによって報告された。TTVRは、新規デバイスのEVOQUE(Edwards製)に関するピボタル試験である無作為化試験「TRISCEND II試験」で、薬物療法よりも優れたアウトカムが示され、2024年に米国で承認されている。しかしながら実臨床データは限定的なままであった。JAMA誌オンライン版2026年4月13日号掲載の報告。30日イベント発生率、TR軽減、健康状態の変化を評価 研究グループは、実際の使用状況におけるTTVRの30日臨床アウトカム、心エコーおよび健康状態のアウトカムを、レトロスペクティブコホート研究によって評価した。対象は、米国胸部外科学会/米国心臓病学会のTranscatheter Valve Therapy Registryに登録されていた、2024年2月~2025年3月に米国でTTVRが試みられたすべての連続患者で、最適な薬物療法にもかかわらず症候性の重症TRを有しており、心臓治療チームによってTTVR適応と判断されていた。 統計解析は2025年9月~2026年2月に行われ、30日イベント発生率(全死因死亡、脳卒中、出血、新たな植込み型心臓電気デバイス[CIED]植込み術、心不全による入院)、TR軽減、健康状態の変化(NYHA心機能分類、KCCQ-OSスコア)が報告された。サブグループ解析では、ベースラインCIEDのアウトカムへの影響を調べた。NYHA心機能分類、平均KCCQ-OSスコアに有意な改善 82施設で1,034例に対してTTVRが試みられ(平均年齢77.1[SD 10.6]歳、女性が69.1%、NYHA心機能分類III/IVが73.2%)、1,017例(98.4%)で弁置換が成功した。 術後患者の98.4%でTRが軽症以下となり、30日時点でも97.7%が軽症以下であった。30日時点の各イベント発生率は、全死因死亡3.1%、脳卒中0.2%、出血7.9%、新たなCIED植込み術(CIED未治療患者における)15.9%、心不全による入院3.1%であった。 ベースラインから30日までに、NYHA心機能分類(I/II該当患者25.6%→82.7%に、p<0.001)、平均KCCQ-OSスコア(22.4ポイント改善、p<0.001)に有意な改善が認められた。 患者をベースラインCIEDの状況によって層別化した場合の解析で、30日死亡率(p=0.47)、心不全による入院(p>0.99)、心機能アウトカム(p=0.55)に有意差は認められなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「30日アウトカムは、ピボタル試験のTRISCEND II試験の結果と一致しており、許容可能な安全性、ほぼ完全なTRの消失、および高齢で併存疾患のある患者集団において有意な健康状態の改善が示された。新たなCIED植込み術および出血の発生率は、無作為化試験の結果よりも低かった」とまとめている。

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免疫性血小板減少症、抗CD38抗体mezagitamabが有望/NEJM

 持続性または慢性の免疫性血小板減少症(ITP)を有する患者において、mezagitamabによる治療はプラセボと比較して、血小板数の増加をもたらし、安全性プロファイルは類似していたことを、米国・マサチューセッツ総合病院のDavid J. Kuter氏らMezagitamab ITP Phase 2 Trial Investigatorsが第II相試験の結果で報告した。ITPは血小板破壊の亢進と血小板産生の抑制によって特徴付けられる自己免疫疾患であり、出血リスクの増加とQOLの低下を伴う。利用可能な治療法はあるが、約20%において十分な血小板数の維持が認められない。mezagitamabは、形質細胞、形質芽細胞およびナチュラルキラー細胞などをターゲットとする抗CD38抗体である。抗CD38療法は多発性骨髄腫の治療に広く用いられているが、自己免疫疾患の治療において有望な効果が示されている。NEJM誌2026年4月9日号掲載の報告。日本を含む9ヵ国の41例の第II相試験で有害事象、血小板反応などを評価 本試験は2つのパートからなる国際共同第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、持続性または慢性のITP(平均血小板数が2回以上の測定で3万/μL未満)を有する成人に対するmezagitamab(100mg、300mg、600mg)の週1回、8週間皮下投与の安全性と有効性を評価した。 主要エンドポイントは有害事象とした。有効性に関する主要な副次エンドポイントは、16週までのいずれかの2回以上の受診時における、血小板反応(血小板数が5万/μL以上かつベースライン値より2万/μL以上増加と定義)とした。 試験は2020年11月~2024年4月に行われ、ブルガリア、中国、クロアチア、ギリシャ、イタリア、日本、スロベニア、スペイン、ウクライナの9ヵ国24施設で計41例が無作為化された。16週までに観察された血小板反応、mezagitamab 600mg群で91% mezagitamab群28例(100mg群9例、300mg群8例、600mg群11例)の平均年齢は50歳(範囲:24~88)、ITP既治療回数は平均4回(範囲:1~9)であった。プラセボ群13例の平均年齢は39歳(範囲:20~65)、ITP既治療回数は平均4回(範囲:1~13)であった。また、平均ベースライン血小板数は、mezagitamab群1万9,100/μL、プラセボ群1万7,300/μLであった。 有害事象の発現頻度は、mezagitamab群19/28例(68%)、プラセボ群9/13例(69%)であった。Grade3以上の有害事象はそれぞれ5/28例(18%)、3/13例(23%)で報告された。重篤な有害事象はそれぞれ4/28例(14%)、1/13例(8%)であった。 16週までに血小板反応が観察されたのは、mezagitamab 600mg群で10/11例(91%)、プラセボ群では3/13例(23%)であった。

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他者の感じ方が自分の痛みや負担感に影響

 予防接種の順番を待っているとき、接種を終わらせた人が、注射の痛さを口にしながらよろよろと出てきたとする。そのような言葉を聞くと、自分が受ける注射の痛みも強く感じるのだろうか。新たな研究で、その答えは「イエス」である可能性が示された。他者の感じ方は、身体的な痛みであれ認知的負荷の高い課題であれ、自分自身の感覚の形成に影響を与え得ることが明らかになった。米ダートマス大学心理・脳科学科のAryan Yazdanpanah氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に2月9日掲載された。Yazdanpanah氏は、「今回の研究では、人間は社会的な情報によって予期が形成されると、その予期を維持する傾向があり、その結果、自分の感じ方に持続的な影響を及ぼす可能性が示唆された」とニュースリリースで説明している。 この研究でYazdanpanah氏らは、111人の参加者を対象に実験を行い、社会的手がかりが予期や実際の感じ方にどう影響するかを検討した。実験ではまず、他の参加者10人の評価とされる視覚的な手がかりを参加者に提示した。この情報は、実はランダムに表示されたものであり、実際の評価を反映していなかった。この手がかりを見た上で参加者は、以下の3種類の課題を実施した。それらは、1)身体的痛みとして腕に熱刺激を加える課題、2)代理的痛みとして他人が痛がる動画を視聴する課題、3)認知的負荷として、頭の中で2つの3D物体を回転させて同一のものかどうかを判断する課題であった。参加者は、課題実施の前後でその課題がどれだけ痛いか、または困難かを評価した。 その結果、他者の評価が熱刺激によって極度の痛みを感じたことを示した場合、たとえ実際の熱刺激が弱くても、参加者は痛みを強く感じる傾向が示された。他者の痛みの程度を判断する場合も同様で、予期が「強い痛み」であれば、参加者もそのように判断した。 Yazdanpanah氏は、「これらの結果は、人々が他者の経験をどのように解釈するかについて理解する上で重要な意味を持つ。例えば、ある人が実際には強い痛みを感じているにもかかわらず、周囲がそれを深刻ではないと考えている場合、そのような社会的な認識によって、その人の苦しみを過小評価したり見過ごしたりしてしまう可能性がある」と指摘している。同氏はまた、「同様に、数学の問題を解くといった課題について、他者がその大変さについて話していると、同じ課題がより精神的負荷の大きなものとして感じられる可能性がある」とも述べている。  研究グループによると、これには「確証バイアス」が関与している可能性があるという。共著者であるダートマス大学心理・脳科学科のAlireza Soltani氏は、「人は自分の考えに一致する証拠を優先し、一致しない情報は無視したり軽視したりする傾向がある」と言う。さらに、知覚が予期の影響を受けると、このようなバイアスは修正が難しくなるという。Yazdanpanah氏は、「例えば、腰痛の経験がある人は、体を曲げると痛みが生じることを予期するかもしれない。たとえ身体が生理学的には回復して体を曲げることが安全であっても、そのような予期が実際に感じる痛みを強め得る。その結果、本来は安全な動作であっても痛みを感じ、こうした考えを更新するために必要なシグナルが弱まってしまうのだ」と説明している。 この研究結果は、ソーシャルネットワークやソーシャルメディアによって絶えることなく人々の認識が形成されている現代社会において重要な意味を持つ可能性があると研究グループは指摘している。上席著者であるダートマス大学心理・脳科学科のTor Wager氏は、「われわれの研究結果は、裏付けとなる証拠がなくても予期が持続する理由を解明する一助になるかもしれない」と述べている。さらに同氏は、「今回の研究で観察されたダイナミクスは自己成就的予言、すなわち慢性疼痛や疲労といったさまざまな健康状態、さらには他者に対する考え方にも影響を及ぼすフィードバックの循環を生み出す可能性がある」と説明している。

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鼻腔ブラシ生検でアルツハイマー病が検出可能に?

 将来、嗅裂と呼ばれる鼻の奥の部位から採取した検体を用いた鼻腔ブラシ生検で、アルツハイマー病(AD)の初期兆候を検出できるようになるかもしれない。米デューク・ヘルスが特許を取得した実験段階にあるこのブラシ生検によって、思考力や記憶力の問題が現れる前に神経細胞や免疫細胞の初期の変化を捉えることができたとする研究結果が報告された。この小規模ながら有望な研究は、「Nature Communications」に3月18日掲載された。責任著者である米デューク大学医学部教授のBradley Goldstein氏は、「もし早い段階で診断できれば、臨床的なADの発症を防ぐ治療の開始につなげられる可能性がある」と述べている。 Goldstein氏によると、今回の研究の目的は、「脳にダメージが蓄積する前の極めて早い段階でADを確認できるようにすること」であった。ADは脳の疾患だが、生体内の脳組織を直接調べるのは難しい。一方で、嗅覚は初期から障害されることが多く、嗅覚の神経細胞は嗅裂から採取できる。そこで研究グループは、22人の参加者の嗅裂からブラシを使って嗅上皮の検体を採取し、単一細胞RNA解析により各細胞における遺伝子発現を調べた。参加者は、健常者、脳脊髄液(CSF)バイオマーカー検査でADと診断された人、認知機能は年齢相応だがCSFバイオマーカー検査でADの前臨床段階にあると判定された人で構成されていた。採取された検体から、約22万個の細胞のそれぞれについて数千の遺伝子発現を測定することができ、得られたデータは数百万に上った。 その結果、ADの前臨床段階にある人においても、炎症に関与するT細胞やミエロイド細胞、嗅覚神経細胞の変化が見つかり、また、CD8陽性T細胞の活性化亢進がフローサイトメトリーによって裏付けられた。さらに、これらの変化を組み合わせることで、臨床的ADと前臨床段階のADを区別する一定の性能(ROC曲線下面積〔AUC〕0.81)も示された。 研究グループによると、現行のADの血液検査では、病状が進行してからでないと確認できないマーカーを検出する。一方、今回の検査は、生きた神経や免疫の活動を捉えるため、より直接的に疾患に関連する変化を見つけ、より早期段階で介入できるようになる可能性がある。 論文の筆頭著者でデューク大学医学科学者養成プログラムの学生であるVincent D’Anniballe氏は、「これまでにADについて明らかにされていることの多くは、剖検で得られた組織の解析結果に基づいていた。しかし、生きた神経組織を調べることができるようになり、診断と治療に新たな可能性が生まれた」と述べている。 Mary Umsteadさんは、若年性ADで亡くなった姉のMariah Umsteadさんのために今回の研究に参加した。Mariahさんは57歳でADの診断を受けたが、家族はそれよりはるか以前から症状に気付いていたという。Maryさんは、「研究参加のチャンスが巡ってきたとき、私はすぐに飛びつきました。Mariahを失ったときのような悲しみを、他の家族に味わってほしくないし、どの患者にも私たちが経験したようなつらい思いをしてほしくないからです」と語った。 デューク大学の研究グループは、このブラシ生検が治療の経過を追跡するのに役立つかどうかを明らかにすることを目標に、デューク大学・ノースカロライナ大学アルツハイマー病研究センター(Duke-UNC ADRC)と共同で、研究対象をより大規模な集団に拡大している。なお、今回の研究は米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。

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1型糖尿病合併CKDに対するフィネレノンの可能性と限界―FINE-ONE試験が示したもの(解説:石上友章氏)

 1型糖尿病合併CKDに対する腎保護は、2型糖尿病合併CKDとは景色が異なる。2型ではSGLT2阻害薬が腎・心血管保護の中核に位置付けられ、そこにフィネレノンをどう上乗せするかが論点になりやすい。一方、1型では今なおインスリンを基盤とした良好な血糖管理が治療の根幹であり、KDIGOも1型では血糖管理の基盤をインスリンと整理している。さらにDCCT/EDICは、早期からの強化血糖管理が腎症を含む合併症の発症・進展抑制につながることを示しており、1型糖尿病合併CKDではまず血糖管理の質そのものが腎保護の出発点である。近年はCGM活用の重要性も一段と高まっている。 そのうえでFINE-ONE試験は、RAS阻害薬投与下の1型糖尿病合併CKD患者において、フィネレノンが6ヵ月時点のUACRを有意に低下させた点で意義深い。もっとも、その効果は手放しでは評価できない。高カリウム血症は増加し、eGFRは治療中により低下した一方、washout後にはeGFR差が縮小し、UACR改善もやや減弱した。したがって本剤の効果の少なくとも一部は、糸球体内圧変化を含むhemodynamicな機序を介した可逆的・機能的変化である可能性がある。これはRAS阻害薬や従来のステロイド性MRAにも通じる現象であり、本試験だけで長期腎予後や構造的腎保護を断定するのは早い。ただし、1型糖尿病合併CKDで新たな上乗せ治療の選択肢を示した意義は小さくない。 SGLT2阻害薬との比較では、2型糖尿病の経験をそのまま1型に持ち込めない点にも注意が必要である。FINE-ONE試験では、少なくともスクリーニング前8週間以内のSGLT2/1阻害薬またはGLP-1受容体作動薬使用例が除外されており、1型糖尿病合併CKDでフィネレノンとSGLT2阻害薬の優劣を直接論じられる設計ではない。加えて米国では、ダパグリフロジンは1型糖尿病の血糖管理適応を有しておらず、DKAリスク増加への注意喚起がなされている。欧州でも1型糖尿病適応は撤回されている。したがって現時点での本試験の位置付けは、「1型糖尿病合併CKDでは血糖管理とRAS阻害薬が主軸であり、そのうえにフィネレノンという新たな腎保護オプションが加わった」とみるのが最も妥当だろう。なお、民族差やアジア人集団での解釈は、今回の試験規模では探索的にとどまると受け止めたい。

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認知症の病理を叩く「表街道」、脳を育む「援護射撃」――Lancetの14の危険因子を読み解く(その3)【外来で役立つ!認知症Topics】第40回

前回、私はLancet誌の提唱する認知症の修正可能な14の危険因子1)を、「疾患・障害リスク」と「生活・環境リスク」とに分ける考え方を述べた。前者は従来のアミロイド仮説を軸に、そこから派生した慢性炎症や抗酸化などの病理から説明しやすいもので、糖尿病や高LDLコレステロール(LDL-C)が代表的だ。これはいわば、アルツハイマー病の病理進行をくい止めようという「表街道」の予防法である。一方、後者はアミロイド仮説とは異なり、脳内ネットワークや認知予備能といった考え方で説明される。健常な神経細胞を増やす、あるいは減少させないという、側面からの「援護射撃」ともいえる。この考え方をイラストに示した。以下に示す個々の危険因子について、それが「表街道」と「援護射撃」のどちらに属するかを述べていく。画像を拡大する筆者作成若年期の教育:脳の「控え選手」を育てる援護射撃若年期の危険因子だが、これは「教育」が中心となる。ここで作る大脳の基礎力が十分でなかったとしても、後年これを育み続けることが予防につながると考えればいい。この考え方の基本は、以前から知られる「認知予備能」に関連する。ざっくり言えば、人は生まれ持った脳細胞の一部しか使わないうちに一生を終える。これまで使ってこなかった「控え選手の神経細胞(予備能)」に働きかけるのである。具体的な方法としては、新たな社会交流が勧められる。とくにインターネットリテラシーが低い人こそ、ここで情報を得る習慣を持てば大きな成果が期待できる。教育は、まさに一生続く「援護射撃」なのである。中年期の危険因子:再発とうっかり事故を防ぐ表街道中年期の危険因子のトップは、第38回で述べたとおり難聴と高LDL-Cだが、続いて「うつ病」に触れたい。うつ病経験者は、そうでない者と比べ認知症の危険性が2倍とされる。背景には、神経炎症や、脳由来栄養因子を介した神経の可塑性障害、コルチゾール過剰分泌による海馬体積の減少説などがある。臨床的に大切なのは、うつ病は何度も繰り返しやすく、その再発自体が認知症発症の危険性を高める点だ。だからこそ再発予防が重要であり、主治医と共にフォローを欠かさないことが、病理を抑える「表街道」の対策となる。次に「頭部外傷」については、中等度のもので認知症リスクを2.3倍、重度で4~4.5倍にも増大させる2)。ボクシングなどによる頭部外傷が、50年以上も後にリスクとして現れる。なお高齢者では「転落が脳挫傷原因の3分の2以上」とされるだけに、住環境への配慮が重要になる。照明の改善、手すりやレールの設置、段差の除去や滑りにくい床への改善などが望ましい。身体機能面からは、運動機能の維持、視力や聴力の調整も重要となる。そして、単純ながら基本となるのが「適切な履物」の着用だ。屋内でスリッパなど履かないほうがよい人は多い。これもまた、脳への物理的ダメージを回避する「表街道」の予防といえる。運動不足:座りっぱなしを解消する援護射撃運動不足という危険因子は、従来からいわれてきた運動の予防効果の裏返しである。最近は、単に「たくさん運動すればよい」というより、「身体活動をしない者が運動すれば効果が生まれる」という考え方に変化してきた。最近、老年医学の分野では「座りがちな」という意味の英語で「sedentary」という言葉をよく見かける。そこですべき運動は、有酸素運動の一辺倒ではなく、レジスタンス運動やバランス運動を組み合わせることが重要だ。腰や膝の障害で運動が難しい人の場合でも、皿洗いや掃除、洗濯物干しなどの家事労働を長時間行えば、運動不足をかなり補える。こうした活動の積み重ねが、脳を支える「援護射撃」となる。糖尿病と高血圧:血管から病理を断つ表街道の王道糖尿病は認知症リスクを60%高めるとされるが、アルツハイマー病以上に、血管性認知症の危険性を高める。生物学的メカニズムとしては、直接的な血管障害や神経障害のほかにインスリン分解酵素(IDE)の影響が指摘されている。インスリンとアミロイドβ(Aβ)は同じIDEで分解されるため、高インスリン血症になるとAβの分解が滞り、蓄積していくと考えられる。なお低血糖発作は深刻な危険因子だと強調されている。食事による対応では、地中海食、そこに減塩を超えたダッシュ食、低炭水化物が推奨される。運動では、有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動を組み合わせた「表街道」の包括的な管理が求められる。そして、高血圧こそ認知症発症における最重要な修正可能リスクだろう。40~65歳の中年期の高血圧は、認知症リスクを61~69%増加させるが、降圧薬による治療により、認知症全体で12%、アルツハイマー病で16%のリスクを低減できるとされる3)。高血圧が認知症の危険因子となる理由として複数の説がある。まず脳血管損傷経路、また酸化ストレスと神経炎症経路、血液脳関門破壊経路、さらに脳構造変化と脳萎縮などである。これらをみると、アルツハイマー病の病理が形成されていくプロセスに関わる仮説の多くが高血圧と関連すると改めてわかる。治療面では、とくに血流の改善と脳構造の保護が重要である。わが国のガイドラインでは、年齢別、個人差を考慮した段階的な血圧管理を推奨している。また、いわゆる白衣高血圧の多さを考慮してか、最近では家庭用血圧計における継続的な測定結果が重視される。診察室での血圧よりも、自宅でリラックスして測定した値こそ「真の値」と考えるからだ。『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、全年齢の降圧目標が、「診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満」に定められている4)。なお言うまでもないが、血圧コントロールのみならず糖尿病や脂質異常症などの関連疾患の包括的な管理を通して、大きな予防効果が期待できる。これも「表街道」の予防法だ。認知症の修正可能な危険因子に関する今回の解説は以上である。14の危険因子のうちあと6つ、主にライフスタイルに関連するものが残っているが、これについては次回に述べることにしよう。参考文献・参考サイト1)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.2)Gottlieb S. Head injury doubles the risk of Alzheimer's disease. BMJ. 2000;321:1100.3)Ding J, et al. Antihypertensive medications and risk for incident dementia and Alzheimer's disease: a meta-analysis of individual participant data from prospective cohort studies. Lancet Neurol. 2020;19:61-70.4)日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. ライフサイエンス出版; 2025.

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第312回 救急患者争奪戦が激化の予感(前編) 新設の「急性期病院一般入院基本料」が“なんちゃって急性期病院”に迫る「急性期現場からの退場」

急性期病院の経営層が救急搬送受入件数や手術が必要な患者数を増やすことを今まで以上に重要視こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月の本連載で心配していたシカゴ・ホワイトソックスの村上 宗隆選手、トロント・ブルージェイズの岡本 和真選手ですが、絶不調から脱する兆しが見えてきました。とくに村上選手は4月19日(現地時間)、3試合連続となる8号本塁打を放ちました。同日に岡本選手は4打数2安打3打点(3号ソロ含む)と2試合連続でマルチ安打を記録しました。2人とも速球に加え、チェンジアップなどの変化球に苦労していましたが、対応できるようになってきたようです。考えるに、村上選手はアメリカン・リーグ最弱のホワイトソックスに入団してよかったのかもしれません。エリート揃いの有名球団ならすぐに控えに回されていたでしょう。「最初から背伸びをしすぎない」ことが異質の環境に適応するうえでの秘訣だということが、村上選手の例からもわかります。さて今回は、2026年度診療報酬改定を機に、各地で救急患者や急性期患者の獲得競争が今まで以上に激化しそうな気配ですので、それについて書いてみたいと思います。地域の急性期病院で働いている方は、経営層が救急搬送受入件数や手術が必要な患者数を増やすことを、今まで以上に重要視しはじめたことに気付いたのではないでしょうか。その大きな原因は、2026年度診療報酬改定で新設される「急性期病院一般入院基本料」です。医療メディアも各地の急性期病院の対応について詳細に報じるようになってきました。「新たな地域医療構想」での「急性期拠点機能」を想定した「急性期病院A一般入院料」「第303回 病院と診療所で『メリハリ』に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ」でも書きましたが、「急性期病院一般入院基本料」について、改めておさらいしておきましょう。2026年度改定の病院に関する項目の最大の注目点は、2027年度からの新たな地域医療構想を見据え、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったことです。中でも、地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1、1日1,930点、同B:看護配置10対1、1日1,643点)が新設されたことで、地域の病院機能の役割分担の動きが加速しています。2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数と言えます。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。救急搬送件数と全身麻酔手術件数が要件に「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められません。一方、「急性期病院B一般入院料」の主な要件は、第二次救急医療機関または認定救急病院で、以下の4要件のうちいずれかを満たす必要があります。1.救急搬送件数:年間1,500件以上2.救急搬送500件以上かつ全身麻酔手術500件以上3.人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上4.離島医療圏で最大の救急搬送件数地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(地域包括ケア病棟入院料との併存は可能)。従来からある急性期一般入院基本料1〜6は今後整理が進むとの見方も最大のポイントは、これまでの入院料のように病棟単位ではなく、医療機関の機能に着目した病院単位での入院料となっていることです。さらに、病院内で多様な機能の病棟を併存させるケアミックスにも制限がかけられています。ちなみに、厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要」資料の中の「急性期における評価の見直し」の項には、「地域で病院が果たしている救急搬送の受入や手術等の急性期機能に着目し、地域ごとの急性期の病院機能を確保する観点から、病院の機能に着目した急性期病院一般入院基本料を新設」と記されています。「新たな地域医療構想」の医療機関機能を想定した点数であることは、この文面からもわかります。新しい診療報酬が適用される6月から、急性期病院は実績などに応じて「急性期病院一般入院基本料」または従来の「急性期一般入院基本料」を選ぶことになります。ただ、新たな地域医療構想を推し進めていく上で、病院単位での入院料の普及・定着が必要なことから、次期改定以降に急性期一般入院基本料1〜6は整理が進む、という見方が専らです。つまり、今後、急性期病院として生き残っていくためには、「急性期病院A一般入院料」か「急性期病院B一般入院料」の選択は必須と言えるのです。「急性期病院B一般入院料」は「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージ「急性期病院A一般入院料」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における急性期拠点機能を想定していると考えられます。一方、「急性期病院B一般入院料」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージと言えるでしょう。なお、「急性期病院B一般入院料」の基本点数は1,643点(看護10対1)と低めですが、新設の看護・多職種協働加算(255点)を取ることで収益性が向上し、従来の「急性期一般入院料1」(1,874点、看護7対1)を上回って1,898点となる設計です。“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”は急性期医療の現場から退場へ「急性期病院一般入院基本料」の要件からも明らかなように、救急搬送件数が取得のカギとなります。A/Bいずれも多数の救急患者が必要となり、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が繰り広げられることになります。とくに競争が厳しくなりそうなのが、人口20万人以下の医療圏です。「急性期病院B 一般入院料」の要件の中には「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、この場合、搬送件数最大の1病院のみが対象となるからです。圏域内に同等の病院が2病院以上あり、どこも救急搬送件数が1,000件に達していなければ、争奪戦は避けられません。なお、救急患者数は入院料の施設基準の肝でもある重症度、医療・看護必要度の指数算出のために新たに設けられた「救急患者応需係数」(1床当たり年間救急件数×0.005)にも影響します。そうしたことも競争に拍車をかけるでしょう。「急性期病院一般入院基本料」の新設と、従来からの「急性期一般入院料」の整理によって、これまで“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”」はほどなく淘汰され、急性期医療の現場から退場を余儀なくされるでしょう。では実際に、今ある各地の急性期病院はどんな動きを見せ始めているのでしょうか。(この項続く)

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座っている時間が1日何時間以上でうつ病リスクが上昇するか

 これまでの研究では、1日の座位時間と抑うつ症状との関連性が検討されてきた。しかし、具体的な用量反応関係は依然として明らかになっていなかった。中国・Shenzhen Second People's HospitalのZhimao Cai氏らは、1日の座位時間と抑うつ症状との用量反応関係を調査した。Behavioural Neurology誌2026年号の報告。 本研究では、2007~18年に実施された米国国民健康栄養調査(NHANES)の参加者2万9,691例のデータを分析した。1日の座位時間とうつ病との非線形関連の可能性を探るため、平滑曲線フィッティングと閾値効果分析を用いた。1日の座位時間は、質問票を用いて収集し、うつ病の症状は、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いて測定した。 主な結果は以下のとおり。・完全調整モデル3では、座位時間が1時間増加するごとに、抑うつ症状リスクが5%増加することが示された(95%信頼区間[CI]:1.02~1.07、p=0.0002)。・1日の座位時間で分類したところ、1日8時間以上座っている人は、すべてのモデルにおいてうつ病リスクが有意に高いことが示唆された。・モデル3では、1日8時間以上座っている人のオッズ比(OR)は、1日4時間未満の人と比較し、1.37(95%CI:1.12~1.69、p=0.0039)であった。・閾値効果分析では、7時間が変曲点であることが特定された。この閾値以下では、有意な相関は認められなかった。・一方、1日の座位時間が閾値を超えると、うつ病リスクの有意な増加が認められた(OR:1.07、95%CI:1.01~1.12、p=0.0184)。 著者らは「米国成人において、1日の座位時間とうつ病リスクの間に非線形な関連が認められた。これらの知見をさらに検証するためには、追加の研究が必要とされる」としている。

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医療者の携帯電話が多剤耐性菌を広める!?

 医療従事者の多くが勤務時間中に仕事関連と個人的な目的の両方で携帯電話を使用しており、患者との接触とデバイスの操作を頻繁に切り替えている。しかし、感染予防の観点からみた高頻度接触表面としての携帯電話の役割については、十分に解明されていない。ドイツ・Goethe University FrankfurtのDaniel Hack氏らは、大学病院で医療従事者が使用する携帯電話上の多剤耐性菌の保有率および分子疫学を評価し、非医療従事者が使用する端末との比較検討を行った。Antimicrobial Resistance & Infection Control誌2026年4月4日号掲載の報告。 30ヵ月間にわたる横断研究において、医療従事者の携帯電話232台および非医療従事者の携帯電話241台を対象に、多剤耐性菌の保有率および総細菌数を評価した。医療従事者は患者と直接接する者(医師、看護師およびその他の医療者)、非医療従事者は患者と直接接触しない者(臨床実習前の医学生、事務職)と定義された。一部の端末については、アルコール含有ワイプによる清拭消毒の前後で評価を実施した。クローナルクラスターを同定するため、全ゲノム解析およびそれに続くcore genome multilocus sequence typing(cgMLST)解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・多剤耐性菌の保有率は、非医療従事者の携帯電話と比較して、医療従事者の携帯電話で有意に高かった(0.4%vs.15.1%、p<0.001)。・医療従事者間でのサブグループ解析の結果、一般病棟よりも集中治療室(ICU)で使用される端末(11.9%vs.23.4%)、個人用よりも共有の端末(9.1%vs.23.0%)において保有率が有意に高かった(p<0.05)。・医師と看護師の間およびスマートフォンとキーパッド式携帯端末の間で、多剤耐性菌の保有率に有意な差は認められなかった。・バンコマイシン耐性Enterococcus faeciumおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が、それぞれ11.2%および4.7%の端末から検出された。一方で、多剤耐性グラム陰性菌(MDRGN)は検出されなかった。・cgMLST解析により、クローナルな多剤耐性菌株は主として同一病棟内で認められ、病棟間を越えて認められることはまれであった。・総細菌数は多剤耐性菌検出の予測因子ではなかった。・アルコール含有ワイプによる清拭により、評価を実施したすべての端末から多剤耐性菌が確実に除菌された。 著者らは、携帯電話は多剤耐性菌伝播における重要なリザーバーとなりうるとし、とくに共有端末およびICUの端末に対する標準化されたルーチン消毒を感染予防策として組み込むことが検討されるべきとしている。

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高齢者のがん薬物療法GLの改訂ポイント【泌尿器】/日本臨床腫瘍学会

 『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』が2026年3月25日に発刊され、第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)のシンポジウムで全17項目のクリニカルクエスチョン(CQ)が解説された。初版には泌尿器領域のCQはなかったため、すべて新規で尿路上皮がん(CQ15)、前立腺がん(CQ16)、腎がん(CQ17)の3つのCQが設定された。CQ15 転移性尿路上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬単剤療法や併用療法は、高齢者や超高齢者に対して推奨されるか?推奨:転移性尿路上皮がんに対して免疫チェックポイント阻害薬単剤療法や併用療法を、高齢者や超高齢者に対して弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:D  転移尿路上皮がんの標準治療は長らくシスプラチンを中心としたプラチナ製剤併用化学療法であったが、近年では免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性や安全性が複数のランダム化比較試験(RCT)によって示されている。しかし、高齢者におけるエビデンスは十分に確立されておらず、実臨床では個別に適応を判断しているのが現状である。そこで本CQでは、転移尿路上皮がんの高齢者(75歳以上と定義)・超高齢者(80歳以上と定義)に対して、ICIの投与を開始した群(介入群)と無治療あるいは化学療法の投与を開始した群(対照群)のアウトカムを評価した。RCTにおいて、全体集団ではICIによる全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)、奏効率の優越性が示されているが、高齢者や超高齢者に限定しているものではなかった。2件の後ろ向き研究において、ICIを投与した75歳以上と未満の群間におけるOSに有意差は認めなかったが、設定した対照群に合致しなかった。75歳以上のPFSと治療中断・延期に関するデータを示した第II相試験が存在するが、75歳未満のデータは示されていない。コホート研究において高齢者でも同様の有効性が期待され、観察研究において高齢者での重篤な有害事象は示されなかったものの、RCTの結果を高齢者にそのまま適用できるかどうかの明確なエビデンスはないと判断された。CQ16 転移性ホルモン感受性前立腺がんに対してタキサン系抗がん薬は、高齢者や超高齢者に対して推奨されるか?推奨:転移性ホルモン感受性前立腺がんに対して、タキサン系抗がん剤を高齢者または超高齢者に使用することは、患者の全身状態、併存疾患、価値観、生活背景を総合的に考慮したうえで行うことが望ましい。推奨のタイプ:当該介入または比較対照のいずれかについての条件付きの推奨エビデンスの強さ:C 転移性ホルモン感受性前立腺がんの1次治療として、アンドロゲン除去療法(ADT)を基盤としたドセタキセル併用療法やアンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)の併用が推奨されている。第III相のRCTであるCHAARTEDやSTAMPEDEにおいて、ADTへのドセタキセル上乗せによる有意なOSの延長が示され、ARASENSによりADT+ドセタキセルへのダロルタミド上乗せの有用性が示されている。しかし、転移性ホルモン感受性前立腺がんは高齢者に多い疾患であるにもかかわらず、高齢者を対象としたドセタキセルの有効性や安全性に関するエビデンスは十分に確立されていない。そこで本CQでは、タキサン系抗がん剤の治療適応のある転移性ホルモン感受性前立腺がん患者を対象に、高齢者(75歳以上と定義)・超高齢者(80歳以上と定義)に対してタキサン系抗がん剤の投与を開始した群(介入群)とタキサン系抗がん剤の投与を減量あるいは行わない群(対照群)のアウトカムを評価した。OSについては、CHAARTEDの70歳以上においてタキサン併用群ではADT単独と比較して有意な改善を認めた一方で、STAMPEDEの70歳以上では有意な延長は示さなかった。75歳以上を対象とした観察研究でもOSの有意差は認められなかった。PFSは、75歳以上を対象とした観察研究において、ADT+ドセタキセル併用群ではADT+アビラテロン併用群よりも有意に短縮した。1件のRCTでOS延長の優越性が示されたため一定の望ましい効果は期待でき、各RCTに高齢者・超高齢者は一定数含まれているため、適切な症例を選べば毒性は許容範囲内と評価された。CQ17 転移性腎がんに対して免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法は高齢者や超高齢者に対して推奨されるか? 進行腎がんの薬物療法では、9種の分子標的薬と4種のICIが保険適用となっており、1次療法として複合免疫療法(ICIを含む併用療法)が有効である。しかし、高齢者に限定した前向き試験は存在せず、後ろ向き研究も限定的であり、日常診療では若年者のエビデンスを高齢者に外挿しているのが現状である。そこで本CQでは、65歳以上を高齢者、75歳以上を超高齢者と定義し、それぞれの年代におけるICIを含む併用療法のアウトカムを評価した。高齢者に特化したICIを含む併用療法の有用性を検討した介入試験は存在しなかったため、高齢者サブグループ解析の結果をもとにシステマティックレビューとメタ解析を施行した。(1)65歳以上の高齢者推奨:65歳以上の高齢者の転移性腎がん患者に対して、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法を行うことを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C メタ解析の結果、OS、PFS、奏効率のいずれにおいても、ICI併用群ではTKI単剤群と比較して有意に良好な結果が示された。重篤な有害事象については、両群で大きな差は認められなかった。ICIを含む併用療法は高齢者においても十分な有効性と許容可能な安全性を示しており、若年者と同様に標準治療として推奨できるが、エビデンスの確実性は低いと評価された。(2)75歳以上の超高齢者推奨:75歳以上の高齢者の転移性腎がん患者に対して、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法は、エビデンスが乏しく、明確に推奨することはできない。個別の病状や価値観を考慮して行うことが望ましい。推奨のタイプ:推奨なしエビデンスの強さ:D OSとPFSはICI併用による明確な改善効果は示されなかったものの、奏効率はICI併用群で有意に良好であった。有害事象の発現頻度に有意差はなかった。75歳以上の高齢者については患者数が少なく、OS・PFSにおける明確な有効性があると結論付けることは難しく、「推奨なし」と評価された。

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GERD診療ガイドライン改訂へ、P-CABの位置付け見直しなどが柱/日本消化器病学会

 現在、胃食道逆流症(GERD)診療ガイドラインの改訂作業が進行中であり、2026年4月にはパブリックコメント版が公開された。改訂版の刊行に先立ち、第112回日本消化器病学会総会(2026年4月16日~18日、福井・石川)においてGERD診療ガイドラインに関するパネルディスカッションが行われた。改訂の基本方針 本改訂では、診療の実用性向上を重視し、治療戦略や疾患概念の整理が図られている。基本方針は“シンプルで使いやすいガイドラインへ”である。2021年版ガイドラインでは、軽症・重症の区分に加え、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の併用的な位置付けにより、フローチャートが複雑化していた。今回の改訂では、フローチャートを一本化することで、消化器専門医以外の医師にも理解しやすいシンプルな構成にすることを目指している。最重要課題はP-CABの位置付け見直し 本改訂の最重要課題は、P-CABであるボノプラザンの位置付けの再評価である。その背景として、ボノプラザン発売から10年が経過したことによるエビデンスの蓄積、ボノプラザン自体の強力な酸分泌抑制効果などが挙げられる。 これらを踏まえ、GERD治療をP-CAB中心に再編することや「第一選択薬は何か」というCQの再設定が提案されている。 一方、非びらん性胃食道逆流症(NERD)については保険適用の観点からPPIを中心とする方向性が示されている。治療期間と維持療法の明確化 薬物療法の長期使用に伴う有害事象への懸念を踏まえ、投与期間の明確化も重要な論点となっている。軽症例では4〜8週で休薬を検討するなど、具体的な目安が提示される見込みである。また、漸減やアルギン酸製剤の併用によるリバウンド抑制などは、今後の課題として整理される予定である。新規トピックと診療領域の拡張 今回の改訂では、保険適用拡大に対応するため、内視鏡的逆流防止術や胃上性おくび、PPI抵抗性GERDの診断戦略なども注目領域として取り上げられる予定である。とくに内視鏡的治療は独立した章として詳述される見込みであり、注目度の高さがうかがえる。今後の予定 改訂作業は2025年1月に開始され、相互査読、コンセンサス形成、評価委員会レビューを経て、現在はパブリックコメント段階にある。多くのステートメントは高い合意率を得ており、パブリックコメントを踏まえ、より実用性の高いガイドラインが完成することが期待される。

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中等度リスク肺塞栓症、超音波補助カテーテル血栓溶解療法が有望/NEJM

 中等度リスクの肺塞栓症において、抗凝固療法への超音波補助カテーテル血栓溶解療法の併用により、抗凝固療法単独と比較して、7日以内の肺塞栓症関連死、心肺の非代償状態または虚脱、肺塞栓症の症候性再発の複合のリスクが有意に低下し、大出血のリスクには差がないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKenneth Rosenfield氏らHI-PEITHO Investigatorsが行った「HI-PEITHO試験」の結果で示された。中等度リスクの急性期肺塞栓症の治療では、静脈内血栓溶解療法は循環虚脱を予防するが、大出血や脳卒中のリスクを増加させることが、大規模無作為化試験で示されている。高周波・低出力の超音波エネルギーは血栓溶解作用を増強する可能性があり、tPA(アルテプラーゼ)によるカテーテル血栓溶解療法の補助として超音波を用いるデバイスは、有効性を保持しつつアルテプラーゼの投与量を減らし、注入時間を短縮する可能性が示されていた。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月28日号で報告された。米国と欧州の無作為化試験 HI-PEITHO試験は、米国と欧州の59施設で実施したアダプティブデザインを用いた市販後非盲検(主要アウトカムの評価は盲検下)無作為化試験であり、2021年8月~2025年7月に参加者を登録した(Boston Scientificの助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、中等度リスク肺塞栓症(右室拡張末期径/左室拡張末期径の比が1.0以上、かつトロポニン値の上昇)と診断され、心肺機能の指標(収縮期血圧110mmHg以下、心拍数100回/分以上、呼吸数20回/分超)のうち2つ以上満たす患者であった。 被験者を、アルテプラーゼを用いた超音波補助カテーテル血栓溶解療法(EkoSonic血管内システム[Boston Scientific製])+抗凝固療法を受ける群(介入群)または抗凝固療法のみの通常治療を受ける群(対照群)に、1対1の比率で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、7日以内の肺塞栓症関連死、心肺の非代償状態または虚脱、肺塞栓症の症候性再発の複合とした。主に心肺非代償状態/虚脱のリスクが低下 ITT集団として544例(平均[±SD]年齢58.2[±13.5]歳、女性42.6%)を登録し、介入群に273例、対照群に271例を割り付けた。急性期肺塞栓症関連症状の平均持続期間は3.7(±3.4)日だった。 7日の時点での主要アウトカムのイベントは、対照群で28例(10.3%、95%信頼区間[CI]:7.2~14.5)に発現したのに対し、介入群では11例(4.0%、95%CI:2.3~7.1)と有意に少なかった(相対リスク:0.39、95%CI:0.20~0.77、p=0.005)。 主要アウトカムの構成要素別の解析では、主に心肺非代償状態/虚脱(介入群3.7%vs.対照群10.3%、相対リスク:0.4[95%CI:0.2~0.7])のリスクが介入群で大きく低下しており、肺塞栓症関連死(1.1%vs.0.4%、3.0[0.3~28.5])および肺塞栓症の症候性再発(0.4%vs.0.4%、1.0[0.1~15.8])については両群間に差を認めなかった。重篤な有害事象にも差はない 無作為化後7日以内の大出血は、介入群で11例(4.1%)、対照群で6例(2.2%)にみられた(p=0.32)。また、30日以内に大出血を認めたのは、それぞれ11例(4.1%)および8例(3.0%)であった(p=0.64)。 無作為化後30日までの重篤な有害事象(介入群14.8%vs.対照群16.2%、相対リスク:0.9[95%CI:0.6~1.3]、p=0.64)の発生率についても、両群間に有意な差を認めなかった。また、両群とも、頭蓋内出血は発生しなかった。長期アウトカムの追跡調査が進行中 著者は、「参加施設の試験プロトコルの順守状況がきわめて優れていたことを踏まえると、本試験の結果は、この介入法が中等度リスクの患者集団において良好な有効性と安全性プロファイルを有することを示唆する」「肺塞栓症後の長期アウトカムへの超音波補助カテーテル血栓溶解療法の潜在的な影響を評価するために、現在、12ヵ月間にわたる追跡調査が進行中である」としている。 また、「イベントの発生頻度が全体的に低かったため、本試験では、特定の患者サブグループにおいて治療効果を比較したり、2つの治療群間の出血性合併症の差異について確固たる結論を導き出すのに十分な統計学的検出力は得られなかった」と付言している。

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ツカチニブ、化学療法歴のあるHER2+手術不能/再発乳がんの適応で発売/ファイザー

 ファイザーは2026年4月21日、「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳」の治療薬として、抗悪性腫瘍薬/HER2チロシンキナーゼ阻害薬ツカチニブ(商品名:ツカイザ)を発売した。本剤は2020年4月に米国食品医薬品局(FDA)、2021年2月に欧州医薬品庁(EMA)からすでに承認を取得している。 本剤の製造販売承認は、海外第II相試験のHER2CLIMB試験および日本を中心とした国際共同第II相HER2CLIMB-03試験の結果に基づく。HER2CLIMB試験は、トラスツズマブ、ペルツズマブおよびトラスツズマブ エムタンシンの治療歴のある切除不能な局所進行または転移・再発乳がん患者を対象として、トラスツズマブおよびカペシタビンとの併用で、ツカチニブまたはプラセボを投与する二重盲検試験。ツカチニブ群はプラセボ群と比較して、主要評価項目である盲検下独立中央判定の評価に基づく無増悪生存期間、重要な副次評価項目である全生存期間、脳転移を有する患者集団における無増悪生存期間および奏効率を統計学的に有意に改善した。ツカチニブ群で認められた主な有害事象は、下痢、手掌・足底発赤知覚不全症候群、悪心、嘔吐、口内炎、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加、関節痛および血中クレアチニン増加であり、管理可能な安全性プロファイルであると判断された。 HER2CLIMB-03試験では、HER2CLIMB試験と同様の患者集団において、ツカチニブ、トラスツズマブならびにカペシタビンの併用を単群で評価。全体および日本人部分集団において、HER2CLIMB試験と類似した有効性と安全性の結果が得られた。【製品概要】商品名:ツカイザ錠50mg、同150mg一般名:ツカチニブ エタノール付加物効能又は効果:化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳用法及び用量:トラスツズマブ(遺伝子組換え)及びカペシタビンとの併用において、通常、成人にはツカチニブとして1回300mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。製造販売承認取得日:2026年2月19日薬価収載日:2026年4月8日発売年月日:2026年4月21日製造販売元:ファイザー株式会社

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