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腹膜播種を伴う胃がん、腹腔内パクリタキセル追加でOS延長(DRAGON-01)

 腹膜播種を伴う胃がんは予後不良であり、1次治療として全身化学療法が行われるものの全生存期間(OS)中央値は1年未満にとどまる。中国で実施された第III相ランダム化比較試験DRAGON-01において、腹腔内パクリタキセルを静脈内パクリタキセル+S-1療法に追加することで、OSが有意に延長することが報告された。JAMA Oncology誌オンライン版2026年5月21日号掲載の報告。 パクリタキセルは腹膜腔内で高濃度を長時間維持できることから、腹腔内投与による局所制御向上が期待されてきた。DRAGON-01試験は、中国9施設で実施された多施設共同第III相比較試験であり、対象は胃腺がんかつ腹腔鏡で確認された腹膜転移を有し、腹膜外転移および既治療歴のない成人患者であった。 患者はIP群(パクリタキセル50mg/m2静注+パクリタキセル20mg/m2腹腔内+S-1)とPS群(パクリタキセル70mg/m2静注+S-1)に2対1で割り付けられた。主要評価項目はOS、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、安全性、コンバージョン手術施行率などであった。 主な結果は以下のとおり。・222例(IP群148例、PS群74例)が解析対象となった。年齢中央値は59歳、腹膜播種指数(PCI)中央値は15で、比較的進行した腹膜病変を有する集団であった。・追跡期間中央値72.2ヵ月時点で、OS中央値はIP群19.4ヵ月、PS群13.9ヵ月で、IP群で有意な延長を示した(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.50~0.90)。・PFS中央値はIP群11.2ヵ月、PS群7.2ヵ月でこちらもIP群で有意な延長を示した(HR:0.72、95%CI:0.54~0.96)。・3年OS率はIP群25.0%、PS群12.2%であり、長期生存割合にも差がみられた。・コンバージョン手術施行率はIP群50.7%に対しPS群35.1%、ベースラインで腹膜細胞診陽性だった患者の陰性化率はIP群83.6%に対しPS群52.6%と、いずれもIP群で高かった。・Grade3/4の有害事象はIP群38.5%、PS群41.9%で発生し、両群に大きな差はなかった。主な重篤有害事象は好中球減少、白血球減少、貧血などであり、治療関連死亡は認められなかった。・IPポート関連合併症は27.0%に認められたが、多くは試験初期に発生しており、施設経験の蓄積による改善が示唆された。 著者らは、「静脈内パクリタキセル+S-1療法への腹腔内パクリタキセル追加は、重篤な毒性を増加させることなく、OSを有意に改善した」と結論付けた。一方で、本試験には現在標準となりつつある免疫チェックポイント阻害薬併用療法が導入されておらず、PD-L1やMSI情報も未取得であった。今後は免疫療法との併用を含めた検証が必要とされる。

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慢性期外傷性脳損傷に初の再生医療 バンデフィテムセル発売/サンバイオ

 サンバイオが開発した細胞治療薬バンデフィテムセル(商品名:アクーゴ)が慢性期外傷性脳損傷(TBI)の治療に承認・発売された。2026年6月に行われた「アクーゴ脳内移植用注発売メディアセミナー」で紹介された基礎と臨床の専門家の知見を詳報する。不可能だと考えられていた脳神経細胞の再活性化を実現 再生医療においては幹細胞が非常に大きな役割を果たす。幹細胞には体を構成するほぼすべての組織に分化可能な多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)と一定の限られた細胞種に分化する体性幹細胞(間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞など)がある。体性幹細胞は生体組織に存在するため、選択的に増やすあるいは分離することで再生医療に活用できる。 サンバイオ創業科学者で慶応義塾大学再生医療リサーチセンターの岡野 栄之氏による、神経幹細胞マーカーであるRNA結合蛋白質Musashi-1の同定からバンデフィテムセル開発の歴史は始まる。岡野氏らはMusashi-1を活用し、ヒト成人脳に幹細胞があること、脳細胞が新たにニューロンを作っていることを見いだし、サンバイオと製品化に向けた共同研究をスタートした。 バンデフィテムセルはNotch-1細胞内ドメイン遺伝子をヒト骨髄由来の間葉系幹細胞に導入したヒト体性幹細胞加工製品。同細胞は脳内に元々存在するFGF-2などの増殖因子を分泌させることで、神経細胞が本来持つ再生能力を活性化して神経細胞の増殖・分化を促進する。STEMTRA試験が証明したバンデフィテムセルによる慢性期TBIの機能改善1) 川堀 真人氏が所属する北海道大学大学院医学研究科 脳神経外科はバンデフィテムセルの臨床試験であるSTEMTRA試験で最も多くの症例を登録した。川堀氏はTBI診療の最前線で、治らないと宣告される患者の絶望を目の当たりにしてきた。TBIは転落などの日常的な原因で発生し、多様な神経・認知機能障害を伴う疾患である。日本国内では年間約6万人発症、入院患者は1万2,000人とされる。急性期から回復期においては高次脳機能障害や運動機能障害が残る。 バンデフィテムセルを用いた国際共同治験STEMTRA試験は、日・米・ウクライナの多施設で実施された。プラセボ群に偽手術を採用した厳格な二重盲検試験である。頭部外傷後12ヵ月以上経過した患者を対象に、バンデフィテムセルを0個(プラセボ)、250万個、500万個、1,000万個投与の群に無作為に割り付けた。結果として、バンデフィテムセル(500万個)投与群ではFugl-Meyer運動機能スコア(FMMスコア)がプラセボ群に比べ6点(8.3点vs.2.3点)、有意に改善した(p=0.04)。川堀氏は「改善が目で見てわかるのはFMMスコア10点程度」だと言う。FMMスコア10点改善が見られた患者はバンデフィテムセル群で40%、プラセボ群では6%であった。 TBI後の機能改善が確認されたものの、バンデフィテムセルの効果には未解明な点も多々ある。川堀氏は「どの部位に、どの程度の細胞量を投与するのが最適か、そして高次脳機能障害への具体的な効果はどの程度か。これらは今後、実際の臨床現場で医師たちがデータを蓄積し、解明していくべき課題」と述べ、今後のエビデンス構築の重要性を訴えた。再生医療とリハビリテーションの新たな融合 慶應義塾大学リハビリテーション医学教室の川上 途行氏は、再生医療とリハビリテーションの融合が今後重要になると説く。 脳損傷において、急性期と回復期の間はリハビリテーション効果が発揮されるが、この期間を過ぎて慢性期になると治療選択肢は非常に少なくなる。多くのTBI患者は、この後どうやっていけばいいのかと不安を抱えることになる。 STEMTRA試験の成績について川上氏は「通常みられるFMMスコアの改善は2~3点程度。この数値であれば、患者さんも体が動くようになっていることを実感できるのではないか。最適なリハビリテーションを上乗せしたら、スコアはさらに上がる可能性がある」と言う。未来へのビジョン―適応疾患の拡大とグローバル展開 サンバイオ代表取締役社長である森 敬太氏は、25年にわたる開発の道のりを回顧しつつ、未来を見越す。TBIからはじまり、今後は脳梗塞、認知症、アルツハイマーなど、多くのアンメット・メディカル・ニーズに応えるべくバンデフィテムセルの疾患領域を拡大していくと表明した。また、日本だけでなく米国そして世界へと展開させる意向も示した。

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阪神ファンの認知症患者、優勝後にBPSDが大きく改善!?

 認知症は、認知機能の低下とそれに伴う行動・心理症状(BPSD)を特徴とする疾患であり、社会問題として深刻化している。大阪・脳神経内科はつたクリニックの初田 裕幸氏は、日本の関西地方に在住する認知症患者855例を対象に、プロ野球の試合結果とBPSDの変化との関連を調査するため、探索的レトロスペクティブ研究を実施した。Geriatrics & Gerontology International誌2026年5月号の報告。 主な内容は以下のとおり。・阪神タイガースファンの認知症患者19例において、2023年のセントラルリーグ優勝後、BPSDスコアの有意な低下が認められた。・さらに詳細な分析では、攻撃的・侮辱的な言葉の使用、無関心・無気力、興奮・焦燥感、昼夜逆転、抑うつ・憂鬱な気分といった症状の有意な低下が認められた。・これらの結果から、感情的に影響を及ぼすスポーツイベントが、お気に入りのチームに強い愛着を持つ認知症患者のBPSDの変化と関連している可能性が示唆された。 著者らは「サブグループの規模や研究デザインに制約はあるものの、本結果は、とくに注目度の高いスポーツイベント観戦が、認知症ケアにおける行動症状に測定可能な影響をもたらす可能性を示唆するものであり、今後のプロスペクティブ研究でさらに調査する必要があるという予備的な証拠を提供するものである」としている。

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テクリスタマブとトアルクエタマブの併用、髄外性形質細胞腫を有する再発・難治性多発性骨髄腫に承認/J&J

 Johnson & Johnson(日本における医療用医薬品事業の法人名:ヤンセンファーマ)は2026年6月19日、B細胞成熟抗原(BCMA)とCD3を標的とする二重特異性抗体であるテクリスタマブ(商品名:テクベイリ)とGタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーD(GPRC5D)とCD3を標的とする二重特異性抗体のトアルクエタマブ(商品名:タービー)との併用療法について、髄外性形質細胞腫(EMD)を有する再発または難治性の多発性骨髄腫の治療法として、製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。本併用療法の承認取得は日本が世界で初めてとなる。 今回の承認取得は、EMDを有し、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬および抗CD38モノクローナル抗体製剤の治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫患者を対象に、テクリスタマブとトアルクエタマブの併用療法の有効性と安全性を評価したRedirecTT-1試験第II相に基づく。本試験において、これら2剤の併用療法の全奏効率は79%で、54%が完全奏効以上を達成し、1年時点での無増悪生存率は61%であった。

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慢性B型肝炎、bepirovirsen追加で機能的治癒の達成割合改善/NEJM

 慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者の治療において、標準治療であるヌクレオシド/ヌクレオチドアナログ(NA)療法へのbepirovirsenの追加はプラセボの追加と比較して、機能的治癒の達成割合が有意に高く、その一方でGrade3のALT値上昇の頻度が高いことが、中国・南方医科大学のJinlin Hou氏らによるB-Well 1・2試験の結果で示された。bepirovirsenは、すべてのHBVの転写産物を標的とする非結合型アンチセンス オリゴヌクレオチドであり、HBV RNAおよびB型肝炎表面抗原(HBsAg)の量を減少させるとともに、免疫細胞の活性化をもたらすとされる。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年5月28日号に掲載された。29ヵ国で実施した2つの無作為化プラセボ対照比較試験 B-Well 1試験およびB-Well 2試験は、日本を含む29ヵ国で実施した同一デザインの二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2022年12月~2025年5月に参加者を登録した(GSKの助成を受けた)。 対象は、スクリーニング前の少なくとも6ヵ月間にわたり安定したNA療法を受けており、HBsAg値100~3,000 IU/mL、HBV DNA値90 IU/mL未満で、ALT値が正常上限値の2倍以下の非肝硬変性慢性HBV感染の成人患者とした。 被験者を、bepirovirsen(300mg、週1回)を皮下投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。全例が、基礎治療として安定したNA療法を受け(24~48週目はNA療法単独期間)、48週時に中止基準を満たした例はNA療法を中止し、これを満たさない例は継続した。 主要アウトカムは、72週時の機能的治癒(HBV RNAが定量下限値[LLOQ:20 IU/mL未満または検出不能]を下回り、かつHBsAgが検出不能[定性的検査で0.05 IU/mL未満])とした。2試験の機能的治癒の達成割合、bepirovirsen群19~20%vs.プラセボ群0% 2試験の合計で1,838例を登録し、bepirovirsen群に1,224例(B-Well 1試験653例、B-Well 2試験571例)、プラセボ群に614例(同328例、286例)を割り付けた。ベースラインにおけるこれら4つの群の平均(±SD)年齢の範囲は48.7(±10.4)~50.2(±11.8)歳、男性の割合の範囲は69~73%、アジア系の割合の範囲は67~70%であった。 48週時にB-Well 1試験のbepirovirsen群の24%およびB-Well 2試験の同群の24%がNA療法を中止したが、両試験のプラセボ群でNA療法を中止した患者はいなかった。 ベースラインでHBsAg値3,000 IU/mL以下であった患者における72週時の機能的治癒の達成割合は、B-Well 1試験では、プラセボ群が0%(0/328例)であったのに対し、bepirovirsen群は20%(127/650例)であり(共通リスク群間差:17.5%ポイント、95%信頼区間[CI]:14.6~20.3、p<0.001)、B-Well 2試験では、プラセボ群の0%(0/286例)に対し、bepirovirsen群は19%(106/570例)(同13.3%ポイント、10.4~16.1、p<0.001)と、いずれもbepirovirsen群で有意に高かった。 また、主な副次アウトカムであるベースラインHBsAg値1,000 IU/mL以下の患者における72週時の機能的治癒の達成割合についても、B-Well 1試験では、プラセボ群が0%(0/214例)であったのに対し、bepirovirsen群は25%(105/426例)であり(リスク群間差:24.6%ポイント、95%CI:20.8~29.0、p<0.001)、B-Well 2試験では、プラセボ群の0%(0/179例)に対し、bepirovirsen群は28%(95/342例)(同27.8%ポイント、95%CI:23.3~32.8、p<0.001)と、いずれもbepirovirsen群で有意に良好だった。16%で、投与期間中のGrade3以上の有害事象 72週の時点の統合解析では、bepirovirsen群の91%、プラセボ群の73%で有害事象が発現し、重篤な有害事象はそれぞれ7%および4%で報告された。1~24週の投与期間中にbepirovirsen群で発現した有害事象のほとんどが「とくに注目すべき有害事象」で、このうち注射部位反応の頻度が最も高かった(53%)。 投与期間中のGrade3以上の有害事象は、bepirovirsen群の16%、プラセボ群の3%に認めた。bepirovirsen群で最も頻度が高かったGrade3の有害事象はALT値の上昇(6%)であった。同群で恒久的投与中止に至った有害事象は3%にみられ、bepirovirsenとの関連がない死亡が2例で発生した。薬剤誘発性肝障害の基準を満たした患者はいなかった。一過性のALT値上昇は、治療反応のマーカーと認識 著者は、「これらの知見は、24週という一定期間のbepirovirsen治療が、機能的治癒の達成に有効であり、標準治療としての継続的なNA療法に新たな有益性を付加することを示すもの」としている。 また、「bepirovirsenの投与開始後にみられる一過性のALT値上昇は、HBsAg値の低下と関連しており、bepirovirsenに対する治療反応のマーカーとして認識されている」「検査値の異常を定期的にモニタリングし、bepirovirsenの投与を一時的に中断することは、臨床的に意義のある有害事象の発現を抑制するために有効な戦略であり、恒久的な投与中止に至ったイベントは少なかった」と指摘している。

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多嚢胞性卵巣症候群、新名称「PMOS」に国際合意

 女性の主要な疾患の一つである多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome;PCOS)の名称を、polyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS、多内分泌代謝性卵巣症候群)へ改称することについて、国際的合意が形成された。専門家は、この名称変更が、世界中で1億7000万人以上の女性が罹患しているこの疾患の診断および治療のあり方を変える可能性があるとしている。モナシュ大学(オーストラリア)Monash Centre for Health Research & ImplementationのHelena Teede氏らがまとめたこの改称に関する国際的合意形成の経緯と理由は、「The Lancet」に5月12日掲載された。 世界で8人に1人の女性が罹患しているPCOSは、ホルモンバランスの異常、体重および代謝の問題、メンタルヘルス症状、ニキビ(ざ瘡)などの皮膚症状、月経異常、不妊などと関連することが知られている。Teede氏らは論文の中で、従来のPCOSという名称は、本疾患が卵巣の嚢胞によって生じるかのような誤解を招くものであり、実際の病態を正しく反映していないと指摘している。Teede氏は、「現在では、PCOSは卵巣に病的な嚢胞が形成される疾患ではないことが分かっている。この疾患に見られる多様な特徴は、これまで十分に理解されていなかった」と述べている。研究グループは、この誤解が多くの患者において診断の遅れや不十分なケアにつながってきたと指摘している。 今回の改称に関する合意が形成されるまでには14年を要した。56の学術・医療・患者団体が参加し、1万4,360人の患者および多職種の医療従事者を対象に世界規模の調査やデルファイ法(専門家に対するアンケート調査を繰り返し、結果をフィードバックしながら意見を集約する手法)による検討、ワークショップなどが行われた。新名称を決める際には、科学的な正確性、分かりやすさ、スティグマ回避、文化的適切性、実装のしやすさが考慮された。疾患の多系統に及ぶ病態生理を反映する用語として、「多内分泌性」「代謝性」「卵巣性」が支持され、最終的にPMOSの名称で合意に至った。 患者支援団体Verityの代表であり、PMOSの認知向上に取り組む患者擁護者であるRachel Morman氏は、「新しい名称は、この疾患の本質的な複雑性を反映している。この改称は、この疾患が長期的かつ複雑な健康問題であることを、より真剣に受け止める契機となるだろう」と述べている。 新名称は、今後3年間にわたり、世界的な教育および啓発キャンペーンを通じて段階的に導入される予定である。専門家らは、これにより世界中の女性に対して、より早期の診断、より良い治療、そして長期的により適切なケアが実現することを期待している。

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脂肪肝は心血管イベントリスクの上昇と関連

 脂肪性肝疾患(脂肪肝)は、肝臓だけでなく心臓にも悪影響を及ぼす可能性があるようだ。新たな研究で、脂肪肝を有する人では有していない人に比べて、非石灰化冠動脈プラークの量が多く、全死因死亡や心筋梗塞などを含む主要イベントの発生率が約2倍に上昇していることが明らかになった。非石灰化プラークは、石灰化していないため破裂しやすく、血栓形成を通じて心血管イベントを引き起こすリスクが高いとされている。米マス・ジェネラル・ブリガム心臓血管研究所のJan Brendel氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に5月20日掲載された。Brendel氏は、「われわれの研究結果は、脂肪肝が単なる肝臓の疾患ではなく、心血管疾患リスクの重要な指標でもあることを示している」とニュースリリースで述べている。 研究グループによれば、米国成人の最大40%が脂肪肝を有している。肝臓への脂肪蓄積は、肝線維化および肝がんのリスクを高めるが、専門家の間では、その影響がより広範な健康問題に及ぶ可能性が指摘されている。 今回の研究では、胸痛治療のために受診した患者を対象とする大規模研究(PROMISE試験)参加者のうち、3,637人(平均年齢60.6歳、女性51.4%)を対象に、脂肪肝、冠動脈プラークの定量的構成、および主要心血管イベント(MACE)との関連を検討した。MACEは全死因死亡、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症による入院が対象とされた。脂肪肝はCT画像で肝臓と脾臓の濃度差を比較する方法により判定した。一方、冠動脈はCT血管造影を用い、プラーク、石灰化プラーク、非石灰化プラーク、低濃度プラークの容積およびプラーク負荷(プラークが血管容積に占める比率)を測定して評価した。 対象者の25.5%が脂肪肝を有していた。全体として、脂肪肝患者は非脂肪肝患者と比較して、わずかに若年で、男性が多く、心血管リスク因子をより多く有しており、MACE発生率も高かった(4.1%対2.5%)。臨床的なリスク因子を調整して解析した結果、脂肪肝患者では、総プラークおよび非石灰化プラーク容積がいずれも24%大きく、低濃度プラーク容積が11%大きかった。また、総プラークおよび非石灰化プラーク負荷が15%、低濃度プラーク負荷が6%高かった。さらに、肥満や動脈硬化性心血管疾患リスクスコアなどで調整した後も、脂肪肝は心血管イベントリスクの69%の上昇と関連していた(調整ハザード比1.69)。媒介分析の結果、脂肪肝とMACEとの関連の10.9%は非石灰化プラーク負荷により説明されることが示された。 研究グループは、脂質低下作用を持つスタチンや減量効果を有するGLP-1受容体作動薬が、脂肪肝患者における心血管リスクを低減できるかどうかを今後の研究で検討すべきだと述べている。

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Mim8―次世代FVIII mimetic開発競争(解説:長尾梓氏)

 2026年4月、NEJM誌にMim8(denecimig)の第III相試験(FRONTIER2)が掲載された。血友病A診療において、エミシズマブに続く新たなFactor VIII mimeticとして注目される報告である。 しかし、本試験の意義は単に「新薬が有効だった」という点にとどまらない。むしろ、「Factor VIII mimetic」という薬剤クラスが、エミシズマブ一強時代から次のステージへ進み始めたことを示している点にある。Factor VIII mimetic 血友病Aでは第VIII因子(FVIII)が欠乏するため、FIXaとFXを橋渡しできず、十分なトロンビン産生が得られない。 エミシズマブは、この問題を「FVIIIそのものを補充する」のではなく、「FVIIIaの機能を模倣する二重特異性抗体を作る」という発想で解決し、血友病治療に革命をもたらした。皮下注射で投与でき、インヒビターの有無を問わず有効であり、従来の静脈内定期補充療法から患者を解放した。 そして今、そのコンセプトをさらに発展させた次世代FVIII mimeticの開発競争時代に入っている。Mim8(Novo Nordisk) Mim8はエミシズマブと同様に、FIXaとFXを橋渡しする二重特異性抗体であるが、FIXaとの相互作用を最適化することで、より高い凝固活性を目指して設計された。前臨床試験ではエミシズマブを上回る止血活性が示されており、FRONTIER2試験でその臨床的有効性が確認された。NXT007(Chugai/Roche) NXT007は「エミシズマブの後継分子」とも呼べる存在である。 エミシズマブは共通の軽鎖を用いる特殊な構造を有するが、NXT007ではFIXa側とFX側にそれぞれ最適化された軽鎖を導入し、さらにFc領域も改変することで薬物動態を改善した。開発目標として「非血友病レベルの止血能(hemostatic normalization)」が掲げられている点が特徴的である。現在、第III相試験が進行中である。Inno8(Novo Nordisk) Inno8はさらに新しいFVIII mimetic候補であり、現在は初期臨床開発段階にある。ナノボディを利用したなんと飲み薬である。2024年に第I相試験が開始され、まず健常成人における安全性および薬物動態が評価されている。現時点では有効性データは限定的であるが、Novo NordiskがMim8に続く次世代候補として開発を継続している点は興味深い。 エミシズマブの登場により、皮下注射による非因子製剤は血友病Aの日常診療に定着した。そして今、次世代FVIII mimeticは「正常に近い凝固能」を目指し、さらに内服薬という新たな治療概念も現実味を帯びつつある。

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第300回 従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省

<先週の動き> 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省厚生労働省は6月18日に開催された社会保障審議会医療保険部会で、マイナ保険証の利用状況と、従来の健康保険証に関する暫定措置を7月末で終了する方針を示した。2025年12月に従来の保険証は廃止され、マイナ保険証または資格確認書による資格確認が原則となっていたが、期限切れの保険証を持参した患者についても、医療機関側で被保険者番号などを確認できる場合は3割などの通常負担で受診を認める暫定運用が続いていた。これが8月以降は終了し、受診時にはマイナ保険証か資格確認書の持参が必須となる。4月のマイナ保険証利用率は68.15%だった。施設別では病院68.50%、医科診療所71.16%、歯科診療所71.52%、薬局63.29%で、昨年12月以降は6割台で推移している。 その一方で、加入者に占める利用登録割合は全保険制度で7割を超え、共済組合84.6%、健康保険組合83.7%、後期高齢者医療75.8%などとなった。マイナンバーカード保有率も8割を超えており、制度は移行期から本格運用の段階に入ったといえる。医療機関にとって重要なのは、8月以降の窓口混乱への備えである。厚労省は保険者、医療機関、薬局向けにリーフレットを配布し、SNSや福祉関係団体を通じて周知する。とくに高齢者、障害者、施設入所者、在宅患者では、本人がマイナ保険証を持参できない、資格確認書の所在がわからない、家族や施設職員が制度変更を十分に把握していないといった事態が想定される。外来受付だけでなく、救急外来、入退院支援、訪問診療部門でも、患者・家族への早期案内が必要である。関連して、スマートフォン搭載のマイナ保険証利用も広がっている。対応施設は約12.5万、スマホ搭載件数は約800万件に達し、訪問診療・訪問看護で用いるマイナ資格アプリでも読み取りが可能となった。さらに令和8年度からは、スマホ読み取りや音声案内、顔認証エラー低減に対応した第2世代顔認証付きカードリーダーの導入も進む。救急領域では、救急隊がマイナ保険証から受診歴や薬剤情報を確認する「マイナ救急」の本格運用が始まっている。吐血患者で食道静脈瘤手術歴を推定できた事例、意識障害患者で抗てんかん薬の処方歴を把握できた事例など、病歴聴取が困難な場面で搬送先選定や初期対応に役立つ可能性が示された。制度変更は事務手続きにとどまらず、医療安全、救急医療、地域医療DXの基盤整備として捉える必要がある。 参考 1) マイナ保険証の円滑な利用について(厚労省) 2) マイナ保険証の最新利用率68% 7月末に暫定措置の終了「早期切り替えを」厚労省(テレビ朝日) 3) 8月から「マイナ保険証」か「資格確認書」必須に 期限切れた保険証でも保険診療認める「暫定措置」終了へ(東京新聞) 4) マイナ保険証、4月の利用率は68% 従来の保険証は7月末で完全終了(日経新聞) 5) マイナ保険証、病院の利用率68.50% 4月 医科診療所は71.16%(CB news) 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省厚生労働省は、電子処方箋の導入・利用促進に向けたオンライン説明会を7月14日午後7~8時で開催する。名称は「令和8年度電子処方箋オンライン説明会~診療報酬改定でどう変わる? 業務・経営面のポイントを解説~」(視聴先URL)。医療機関や薬局を対象に、YouTubeでライブ配信し、参加登録は不要となっている。説明会後には、アーカイブ動画と説明資料を厚労省ウェブサイトに掲載する予定。説明会では、電子処方箋導入による医療安全や業務効率化のメリットに加え、導入補助金、2026年度診療報酬改定での位置付けを解説する。未導入施設だけでなく、すでに電子処方箋システムを導入した施設も対象としており、運用開始後の業務や経営上のポイントを確認できる内容となる。2026年度の診療報酬改定では、従来の医療DX推進体制整備加算などが整理され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算が設けられた。同加算では、オンライン資格確認、マイナ保険証利用率、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどが施設基準に関わる。疑義解釈では、当面の間、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいことや、院外処方では電子処方箋の発行に加え、引換番号付き紙処方箋を発行し、処方情報を登録する運用でもよいことが示されている。その一方で、電子処方箋の導入には、システムの改修、HPKIカード、電子署名環境、院内運用ルールの整備が必要となる。導入補助金を活用した準備も求められる。医師にとっては、処方入力後の確認手順、重複投薬・併用禁忌チェック、薬局との情報連携、紙処方箋との併用時の運用整理が実務上の焦点となる。電子処方箋は、単なる処方箋の電子化ではなく、医療DX関連加算や地域医療連携、薬剤情報の共有と一体で進む仕組みである。各医療機関では、説明会を機に、自院の導入状況、常勤医師の利用体制、薬局との連携、補助金活用の可否を確認しておきたい。 参考 1) 電子処方箋の運用開始や導入準備に関するオンライン説明会(厚労省) 2) 令和8年度電子処方箋オンライン説明会の実施について(同) 3) 電子処方箋オンライン説明会「改定でどう変わる?業務・経営面のポイント」(ドラビズオンライン) 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省厚生労働省は6月17日、2026年度診療報酬改定に関する疑義解釈資料(その8)を示し、新設項目を中心に算定上の取り扱いを明確化した。医療機関、とくに医師の実務に影響が大きいのは、医療DX関連加算、心不全管理、在宅医療、リハビリ・摂食嚥下、精神科、訪問看護などである。まず、電子的診療情報連携体制整備加算では、施設基準にある「地域の複数医療機関で検査結果や画像情報等を含む診療情報を共有・閲覧できるネットワーク」の考え方が整理された。厚労省は、診療情報提供料Iの検査・画像情報提供加算または電子的診療情報評価料の施設基準を満たし、電子カルテ情報を参加医療機関が随時閲覧できるネットワークであることが必要と明示した。単にチャットやメーリングリストで日々の報告や一部情報を共有するサービスでは要件を満たさないとした。さらに地域連携ツールを使っている医療機関は、実際に検査、画像、投薬、注射、退院時要約などを共有・閲覧できる体制か、アクセスログを含め確認が必要となる。電子処方箋については、当面、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいとの扱いが再確認された。常に電子処方箋を発行する必要まではなく、引換番号付き紙処方箋を発行し処方情報を登録する運用でもよい。また、電子処方箋システムを導入済みで利用申請も行ったが、HPKIカード取得待ちの場合は、当面、接続インターフェース要件を満たすとされた。心不全再入院予防継続管理料では、心不全再入院予防チームに薬剤師や理学療法士が所属してよく、研修修了が望ましいとされた。管理料1・2を届け出る病院は、地域に管理料3を算定する医療機関がない場合でも研修会を開催する必要があり、二次医療圏の医療機関に広く参加や連携を呼びかけることが求められる。在宅CPAPでは、海外赴任などやむを得ない事情で3ヵ月以上中断し、再開時期が事前にわかる場合、再開時は開始後3ヵ月以内と同様に扱える。ただし中断理由を診療録に記載する必要がある。在医総管・施設総管の新規届出では、初回届出時はいったん基準該当として差し支えないが、その後は定期的な確認と届出が必要である。このほか、身体的拘束最小化推進体制加算は2026年度中の届出に限り、講習・委員会の開催予定を添付すれば1年間要件を満たす扱いとなるが、講習会の開催などの要件を満たさない場合には、直ちに届出を取り下げることが必要になる。さらに摂食嚥下支援計画の説明者、心理支援加算の再算定、認知行動療法の医師要件、脳血管内治療やてんかん手術の適正使用指針も明確化された。訪問看護では紹介料などによる利用者誘導の禁止が明記されたため、医療機関側も連携先の選定や患者紹介の透明性に注意が必要となる。 参考 1) 疑義解釈資料の送付について(その8)(厚労省) 2) 電子的診療情報連携体制整備加算、心不全再入院予防継続管理料、物価対応料等の詳細明確化-疑義解釈8(Gem Med) 3) 診療情報の共有、「チャット」では要件満たせず 新設のDX関連加算(MEDIFAX) 4) 26年度改定・疑義解釈資料(その8)医療DXの新加算、診療情報共有でチャットは対象外(CB news) 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省厚生労働省は、医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に関する実態調査を、従来の病院中心から診療所へ拡大する。医政局医療情報担当参事官室が6月15日付で事務連絡を発出し、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を利用している診療所を対象に、7月6日~8月21日まで調査を実施する。回答は6月末時点の状況について求められ、医療情報システム安全管理責任者の設置、サイバー攻撃等を想定したBCP策定と訓練、サーバ・端末・ネットワーク機器の台帳管理、職員研修、電子カルテ利用の有無などを確認する。背景には、医療機関を狙うランサムウェア被害の増加がある。過去には徳島県の半田病院、大阪急性期・総合医療センター、岡山県精神科医療センターなどで、保守用VPNや外部委託業者の接続点を経由した攻撃により電子カルテが停止し、診療継続に大きな影響が出た。厚労省でも、中・大規模病院では外部ネットワーク接続点を網羅的に把握できていないことが課題とされ、病院調査では情報システム部門の人員不足、CSIRT未整備、二要素認証の遅れなどが明らかになっている。政府でも、AIを悪用したサイバー攻撃への警戒が強めている。高性能AIにより脆弱性の発見が高速化すれば、医療機関の未更新機器や外部接続点が狙われるリスクはさらに高まる。日本医師会も、医療機関は知識・人材・財源が不足しており、対策は自己責任ではなく地域医療を守る社会インフラ投資として支援すべきだと訴えている。医療法施行規則では、病院、診療所、助産所の管理者にサイバーセキュリティ確保のため必要な措置を講じる義務が位置付けられている。今回の診療所調査は、地域医療の足元にあるリスクを可視化し、チェックリストや安全管理ガイドラインに基づく具体的支援につなげる狙いがある。医療DXの前提として、院長・管理者主導のサイバーセキュリティ体制の確認が急務となる。 参考 1) 令和8年度診療所における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査について(厚労省) 2) 診療所のサイバー対策、実態調査へ 厚労省(MEDIFAX) 3) サイバー攻撃は激化、医療機関等は「チェックリスト」用いて自院のセキュリティ対策の再確認を-医療等情報利活用ワーキング(2)(Gem Med) 4) 医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の課題等を共有(日医オンライン) 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省人口減少と高齢単身世帯の増加を背景に、介護保険法、社会福祉法、老人福祉法などの改正法が6月19日、参院本会議で可決・成立した。今回の改正は、医療機関にも退院支援、在宅療養調整、施設入所支援に直結する内容である。柱の1つは、中山間地域など人口減少地域で介護サービスを維持するための「特定地域サービス」の創設である。介護人材の確保が難しく、訪問に時間を要する地域では、全国一律の人員配置基準や出来高払いでは事業継続が困難になっていた。改正後は、対象地域に限って職員配置基準を弾力化し、訪問系サービスでは月単位の定額報酬も選択可能とする。これでも提供体制の維持が難しい場合には、介護保険財源を用いて市町村が居宅サービスなどを実施できる仕組みも設けられる。厚労省は今後、対象地域や基準を議論し、2027年度の導入を目指す。もう1つの重要な点は、頼れる身寄りのない高齢者への支援拡充である。これまで主に判断能力が不十分な人を対象としてきた金銭管理などの支援を広げ、入院・入所手続き、日常生活支援、葬儀・納骨・家財処分などの死後事務まで、地域の支援機関が担えるようにする。国の推計では2040年に単身高齢者世帯は1,000万世帯を超える。医療現場では、保証人の不在、退院先調整、死亡後の対応が大きな課題であり、地域包括支援センターや社会福祉協議会などとの連携がより重要になる。有料老人ホームについては、住宅型有料老人ホームなどで指摘されてきた「囲い込み」対策として登録制を導入する。入居者に同一・関連法人の介護サービス利用を求めること、ケアマネジャーやかかりつけ医の変更を強いることなどを防ぎ、ケアマネジメントの独立性を確保する狙いがある。医師が施設入所後の療養方針や訪問診療先を確認する際にも、患者本人の選択権が守られているかを意識する必要がある。このほか、ケアマネジャー資格の更新制は廃止される。ただし、研修受講は義務として残り、オンデマンド化や時間短縮で負担軽減を図る。夜間対応型訪問介護は、機能が重なる定期巡回・随時対応型訪問介護看護へ統合される方向である。今回の改正は、介護サービスを「全国一律」から「地域の実情に応じて維持する」方向へ転換するものといえる。病院側には、退院支援の早期介入、身寄りなし高齢者の意思決定支援、施設紹介時の透明性確認など、医療と介護の接点での実務対応が求められる。 参考 1) 改正社会福祉法など成立 身寄りない高齢者支援拡充 参院本会議(NHK) 2) 介護保険法が成立 人口減少地域のサービス維持へ基準を緩和(朝日新聞) 3) ケアマネ資格の更新制の廃止が正式決定 改正介護保険法が成立 研修受講は義務に オンデマンド化で負担減へ(Joint) 4) 介護保険法改正で有料老人ホームの“囲い込み”や人口減少地域の介護はどう変わる?専門家に聞いた3つのポイント(ジョブメドレー) 5) 国会審議中の2027年度介護保険法改正法案のポイント(メディカルサポネット) 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を支える成年後見制度を抜本的に見直す改正民法が6月17日、成立した。現行制度では、1度利用を始めると本人の判断能力が回復しない限り原則として死亡まで継続し、後見人には包括的な代理権や取消権が与えられる。このため、本人の意思決定を過度に制限する、報酬負担が長期化する、必要な場面だけ使いにくいといった批判があった。改正後は、制度を「必要なときに、必要な範囲で」使える仕組みに改める。現在の後見、保佐、補助の3類型は、後見人と保佐人を廃止して補助人に一本化する。補助人の権限は、遺産分割、不動産売却、施設入所契約、預貯金管理など、本人に必要な個別行為ごとに家庭裁判所が判断する。必要がなくなれば途中終了でき、本人の利益のためとくに必要な場合は、不正がなくても補助人の交代が可能になる。補助人には年1回の家裁への状況報告も義務付けられる。医療現場では、認知症の高齢者や身寄りのない患者の入退院手続き、医療費の支払い、施設入所、相続・財産管理をめぐり成年後見制度が関わる場面が多い。今後は、単に「後見人を立てる」発想ではなく、患者本人の意思を確認し、どの法律行為にどの程度の支援が必要かを整理することが重要になる。退院支援では、地域包括支援センター、社会福祉協議会、法律専門職、行政との連携がより求められる。報酬面でも見直しが入る。これまでは本人の資産額が報酬判断で大きな比重を持っていたが、改正後は支援する事務の内容や難易度をより重視する方向となる。短期間・限定的な利用が可能になれば、利用者負担の軽減につながる可能性がある。その一方で、制度終了後の生活支援、金銭管理、意思決定支援を誰が担うのかは残された課題である。単身高齢者の増加を踏まえ、成年後見制度の改正は、医療と福祉が地域で本人を支える体制作りを迫るものといえる。 参考 1) 成年後見制度の見直し 改正民法などが成立 参院本会議(NHK) 2) 成年後見大改正「終われる制度」に 利用者が払う報酬どう変わる?(朝日新聞) 3) 「死ぬまで継続」廃止へ 成年後見制度見直し 背景に単身世帯増(毎日新聞) 4) 成年後見、終身利用を見直し 改正民法が成立、デジタル遺言導入(時事通信) 5) 財産管理の成年後見、途中終了・交代しやすく 改正民法が成立(日経新聞)

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高齢者の前立腺がんは、本当にすぐ治療すべき?【高齢者がん治療 虎の巻】第10回

講師紹介<今回のPoint>早期前立腺がんではPSA検査の普及に伴い「過剰診断」と「過剰治療」が問題となっている。監視療法は、低リスクから一部の予後良好中間リスク前立腺がんに対して即時の根治療法を回避し、慎重に経過観察を行いながら、患者の希望あるいは時期を逸しないタイミングで適切な治療を提案する治療戦略である。高齢者前立腺がんでは、期待余命、フレイル、患者の価値観を踏まえ、監視療法によりQOLを保ちながら過剰治療を避ける視点が重要となる。<症例>73歳、男性。健診でPSA 5.6ng/mLを指摘され、泌尿器科を受診。MRIと前立腺生検の結果、転移のない低リスク前立腺がん(cT1cN0M0)と診断された。特記すべき既往歴はなく、PSは良好。現在はシルバー人材センターを通じて地域施設の管理業務に従事し、月に1回の友人とのゴルフのラウンドを楽しみにしている。夫婦仲は良好で、患者本人は「できれば性機能は保ちたい。手術や放射線治療の体への負担が気になるので、詳しく話を聞きたい」と希望している。この患者に対して、すぐに前立腺全摘術や放射線治療を勧めるべきでしょうか。それとも、慎重に経過をみる選択肢を提示すべきでしょうか。早期前立腺がんで問題となる「治療しすぎ」前立腺がんは高齢男性に多いがんであり、国内の診断者数でみると男性がんの第1位です1)。PSA検査の普及により早期に発見される機会が増えた一方で、前立腺がんには生命予後にほとんど影響しない、いわゆる“おとなしいがん(insignificant cancer)”も少なくありません。前回(第9回「高齢者の前立腺がん疑い、本当にすぐに検査すべき?」)でも説明したように、高齢者に対してPSA検査や前立腺生検を積極的に行うことで、将来的に問題とならないinsignificant cancerまで発見してしまう可能性があります。さらに、前立腺生検は決して無害な検査ではありません。血尿、直腸出血、発熱、感染、まれには敗血症などを来すことがあります2)。高齢者では、一度の入院や感染をきっかけにADLが低下することもあります。また、根治治療として行われる前立腺全摘術や放射線治療は、がん制御の観点では有効ですが、尿失禁、排尿障害、直腸障害、性機能障害など、生活の質に関わる有害事象を伴うことがあります。また、経済的な負担も看過できる問題ではありません。とくに高齢者では、「がんを治療する利益」と「治療による不利益」のバランスを慎重に考える必要があります。近年の前立腺がん診療では、単にがんを見つけるのではなく、「治療介入が本当に必要ながんを見極めること」が重視されています2-4)。監視療法は「何もしない」治療ではないこのような過剰診断と過剰治療を回避するために確立された治療戦略が、監視療法(Active Surveillance:AS)です。監視療法は、低リスク前立腺がんを中心に、ただちに手術や放射線治療を行わず、PSA検査、直腸診、MRI、再生検などで慎重に経過を確認し、進行の兆候を認めた場合に治療へ移行する管理方法です。現在では、低リスク前立腺がんに対する標準的な治療選択肢として国内外のガイドラインで推奨されています2-4)。近年では、予後良好中間リスク前立腺がんにも適応が広がりつつあります3-5)。ただし、この場合にはMRI所見、PSA密度(PSAを前立腺体積で割った指標)、生検での陽性コア数、病理学的予後不良因子の有無などを慎重に確認する必要があります。監視療法の重要な点は、「何もしない」ことではないという点です。定期的にがんの状態を確認し、必要な時期に根治療法へ移行できるように備える、“積極的な経過観察”です。そのため、患者には、前立腺の再生検を含めた定期検査を継続する必要性と、途中で根治療法へ移行する可能性を十分に説明しておくことが大切です。また、患者の希望に合わせていつでも根治療法へ方針を変更できる点を説明しておくことも重要なポイントです。【監視療法とは】監視療法は早期前立腺がんに対してただちに治療を行わず、定期的なPSA検査、直腸診、MRI、前立腺生検などで病状を確認しながら、必要な時点で手術や放射線治療などの根治治療へ移行する治療戦略。似たような言葉に「待機療法」がありますが、両者は異なります。待機療法は、根治治療を前提とせず、症状や病勢の変化に応じて緩和的治療やホルモン療法を行う方針です。主に期待余命が限られる患者や、年齢・併存疾患などから根治治療の利益が乏しいと考えられる患者で選択されます。一方、監視療法は、根治の機会を残しながら、あらかじめ定めたスケジュールで慎重に経過をみる方法2-4)です。つまり監視療法は、「治療をしない」のではなく、「今すぐ治療しなくてもよいがんを見極め、必要なときに根治治療へ移行する」ための管理方法といえます。高齢者に監視療法を選ぶと、治療機会を逃すのか?高齢者において監視療法を選択する際、多くの医師や患者が心配するのは、「治療のタイミングを逃すのではないか」という点です。これには、高齢者前立腺がんに特化した監視療法のエビデンスが、これまで十分ではなかったという背景があります。そこでわれわれは、国際的な前向き監視療法研究PRIASの日本人コホート、PRIAS-JAPAN6)のデータを用いて、75歳以上の高齢前立腺がん患者における監視療法の成績を検討しました7)。解析対象は1,274例で、そのうち231例が75歳以上でした。その結果、高齢群では若年群と比べて全生存率は低いものの、前立腺がん特異的生存率は同等の成績でした。さらに、75歳以上の監視療法症例では、観察期間中に前立腺がん死を認めず、転移の発生も認めませんでした(図1)。(図1)画像を拡大する一方で、高齢群では監視療法後の治療選択として、前立腺全摘術や小線源療法は少なく、ホルモン療法や待機療法を選択する割合が高い傾向にありました。これは、高齢者では「根治性」だけでなく、「侵襲を避けること」「生活の質を守ること」がより重視されていることを示しています。高齢者では監視療法を一定期間行い、その後、年齢や全身状態の変化に応じて待機療法へ移行することも現実的な選択肢です。とくに、前立腺がんで亡くなるリスクよりも、他疾患や老衰による死亡リスクが高い患者では、過剰な治療を避けること自体が重要な医療判断となります(図2)。(図2)画像を拡大する監視療法を支える体制づくりへ日本では、監視療法の普及率は欧米に比べて依然として低い状況です。われわれの全国調査でも、早期前立腺がん患者における監視療法の選択率は約10%にとどまっていました8)。その背景には、患者の不安、医師側の説明負担、定期的な経過観察に対する診療報酬上の評価不足などがあると考えられます。そのような中、2026年度診療報酬改定では、前立腺がん監視療法に関連する加算が新たに認められました(がん患者指導管理料 イ*)。これは、監視療法が単なる「経過観察」ではなく、患者説明、意思決定支援、定期的な評価を要する医療行為として、制度上でも一定程度評価されたものと考えられます。*病状変化に伴い診療方針変更等の協議が必要となった場合に追加で1回算定可能(500点)高齢者前立腺がん診療では、「何歳まで治療するか」に明確な答えはありません。暦年齢だけではなく、期待余命、フレイル、併存疾患、認知機能、そして患者が何を大切にしているかを踏まえて、治療方針を考える必要があります。監視療法は、過剰治療を避けながら、将来の治療選択肢を残す戦略です。とくに高齢者前立腺がんにおいては、がんを治すことだけでなく、生活の質を守り、自分らしい時間を保つための重要な選択肢になると考えられます。 1) がん情報サービス:がん統計予測 がん罹患数予測2025年 2) 日本泌尿器科学会編. 前立腺がん診療ガイドライン 2023年版 2023. p.173-181. 3) Urology EAU. Oncology Guidelines . Prostate Cancer. 2026. 4) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology:Prostate Cancer version 5. 2026. 5) 日本泌尿器科学会編.. 前立腺がん診療ガイドライン 2023年版 2023. p.65-71. 6) Kato T, et al. Int J Urol. 2023;30:289-297. 7) Kato T, et al. BJU Int. 2026;137:650-658. 8) Kato T, et al. Int J Urol. 2024;31:1438-4140.

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アジアにおける新薬早期開発/日本臨床腫瘍学会

 アジアが、がん新薬開発の“最初の一歩”を担う時代が到来するかもしれない。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(2026年3月26~28日)では、「アジアにおける新薬早期開発」をテーマとしたシンポジウムが開催され、第I相試験やトランスレーショナルリサーチの潮流が、従来の米国中心からアジア太平洋地域へと急速に移行している現状が示された。早期がん治験の進化と国立がん研究センター中央病院の取り組み 初めに、勝屋 友幾氏(国立がん研究センター中央病院 先端医療科)は、アジア視点から早期がん薬剤開発の現状と進展について解説した。第I相試験は従来、安全性の評価や最大耐用量の決定を主な目的としており、奏効率(ORR)は10%程度にとどまっていた。しかし近年では、バイオマーカーに基づく患者選択や多様なモダリティの導入により、ORRは18%まで向上しているという。とくに中国の創薬力とアウトライセンスの拡大が国際的競争環境を変化させる一方、日本は国民皆保険、充実したゲノム基盤、先駆け審査指定制度や治験効率化のプラットフォームなどの仕組みを背景に、早期治験の誘致力を高めている。 国立がん研究センター中央病院では2016年以降の8年間で1,642例が治験に登録され、その数は年々増加し2023年の登録者数は250例を超えた。さらに、ヒト初回投与(FIH)試験50件のうち、70%で初回コホート登録、25%で世界初症例登録を達成した。2019年の包括的ゲノムプロファイリング(CGP)保険収載後、CGP検査実施率は82.8%に上昇。これに伴いORRは12.6%から15.9%へ改善、ゲノム適合試験でのORRは29.1%と、非適合の約10%を大きく上回る成果が示された。 モダリティ別では、抗体薬物複合体(ADC)や免疫療法が増加している。治験のデザインは用量漸増段階からバイオマーカー選択を組み込んでおり、日本国内でのアクセスも拡大している。 さらに、勝屋氏は同院におけるトランスレーショナル研究基盤の強化(生検成功率94%以上、迅速検体処理、高度解析、患者由来オルガノイドライブラリーと縦断的サンプリングの完備)について紹介した。2030年代に向けた「築地バイオクラスター構想」を推進しており、多施設連携の重要性を強調した。米国第I相試験ネットワークとの連携による早期開発基盤の構築 次に、清水 俊雄氏(関西医科大学附属病院 新薬開発科)は、米国の第I相治験専門医療機関であり世界的ネットワークを有するNEXT Oncologyと学校法人関西医科大学が連携した国際合弁型の早期がん臨床開発基盤の構築について概説した。近年、がん領域の第I相試験は複雑化しており、拡大コホート設計の不備や過剰実施、予算配分の非効率、治験の長期化によって開発生産性が低下している。2023年にはメガファーマ(大手製薬企業)以外の新興バイオテック企業が全体の65%以上を担い、中国企業の台頭で競争も激化している。 ADCや多重特異性抗体、細胞療法など新規モダリティの登場により、高品質かつ迅速な治験体制の整備が不可欠となる一方、アジアでは規制や標準治療、償還制度の差異が障壁となっている。さらに、施設間競争や手続きの煩雑さ、電子カルテや標準業務手順書(SOP)の分断、IT連携の制約、倫理審査委員会(IRB)の審査遅延など、運営面での課題も顕在化している。 関西医科大学附属病院は、2024年11月に大学病院では国内初のがん新薬第I相治験に特化した専門診療科である新薬開発科を新設し、さらには米国NEXT Oncologyと学校法人関西医科大学が2026年1月にNEXT Oncologyのアジア拠点となるNEXT Oncology KMU JAPANを設立し、恒常的にファーストインマンPhase 1治験が実施可能な体制を整備した。米国型の高効率運営モデルを導入しつつ、日本の規制や個人情報保護に適合したインフラ、SOP、IT、IRBの高度化を推進している。加えて、東京などの首都圏に偏在する第I相治験実施施設・医療機関を西日本にも拡張し、患者さんのがん新薬治験アクセスに関する地域格差の是正を目指す点にも意義があると清水氏は指摘する。 今後は、定量指標による施設評価の標準化や多職種連携、人材育成などを通じ、国際競争力のある開発ネットワークの確立が求められる。この国際連携モデルは、日本におけるがん新薬へのアクセス向上と創薬エコシステムの強化に資する重要なモデルケースとなることが期待される。中国グレーターベイエリア(GBA)における初期臨床試験の統合運用と規制改革の動向 アジア太平洋地域は世界の臨床試験の約35%を担い、2028年には被験者登録の40%以上を占めると予測されている。中国では研究開発投資が年間約5,300億ドル規模に達し、従来の医薬品だけでなくADCや二重特異性抗体、細胞治療などの分野における開発の発展が目覚ましい。また、規制面でも迅速承認制度やバイオマーカーに基づく治験の審査加速により上市までの期間が短縮されている。こうした背景がある中、Aya El Helali氏(中国・香港大学)は、香港・マカオ・広東省を中心としたGBAにおける初期臨床試験の統合的・多施設運用と規制改革について講演した。 人口約8,600万人を有するGBAは、年間約39万例の新規がん患者を有し、バイオ・AI基盤も集積していることから、希少分子集団の迅速な患者登録が可能となっている。香港では、未収益のバイオ企業の上場を促進する制度や、他国規制当局の承認にローカルデータを組み合わせたワンプラス制度により治験環境が強化されており、さらには新たな規制機関の設立も計画されているという。加えて、GBA国際臨床試験研究所や香港ゲノム研究所の取り組みにより、地域横断的な早期臨床試験の同時実施体制が整備されつつある。 こうした背景からHelali氏は、従来の「地域ごとに段階的に進める試験モデル」から、「複数地域で、同時並行で実施する統合型モデル」への転換が重要であると指摘した。さらに、規制の調和と国際連携の強化が、精密医療の成果を実臨床へ迅速に届けるうえで不可欠であることを強調した。マレーシアにおける早期相試験体制の構築と発展 Pei Jye Voon氏(マレーシア・サラワク総合病院)がマレーシアにおける早期相試験の発展について報告した。世界的に臨床試験のグローバル化が進む中、人口規模や遺伝的多様性、市場性を背景にアジアの重要性が増している。マレーシアでも2024年までの12年間で企業主導の臨床試験が2,572件実施され、約3,000人の高度人材雇用が創出された。 一方で、早期相試験はこれまで十分に実施されていなかったが、2017年から2020年にかけて第I相試験エコシステムプロジェクトが実施され、第I相試験ガイドラインや危機管理マニュアル、科学審査体制などが構築された。サラワク総合病院の臨床研究センターはFIH試験実施拠点として中核的役割を担い、2023年にはKRAS G12C変異を標的とした分子標的薬のFIH試験を開始した。現在までの過去5年間で早期相試験は41件まで拡大した。また、臨床試験のエコシステムをさらに強化するため、763例の患者さんを対象とした臨床試験に対する理解や参加意欲に関するアンケート調査研究など、患者中心のアプローチに基づく研究も実施されている。 今後は、創薬研究基盤の強化、患者参画の制度化、規制・倫理審査の迅速化、政府およびアカデミアとの連携強化・維持が、マレーシアにおける早期相試験の持続的発展の鍵となるとVoon氏は結んだ。

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EGFR exon20挿入変異陽性進行NSCLCの初回治療、経口sunvozertinibが有効(WU-KONG28)/NEJM

 EGFR exon20挿入変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療として、sunvozertinibはプラチナベースの化学療法よりも有効性に優れることが示された。中国・Shanghai East HospitalのCaicun Zhou氏らWU-KONG28 Investigatorsが、15ヵ国154施設で被験者を募り実施した海外第III相無作為化試験の結果を報告した。sunvozertinibは、WU-KONG1B試験およびWU-KONG6試験の結果に基づき、米国および中国で、既治療のEGFR exon20挿入変異陽性の進行NSCLC患者に対する治療薬として迅速承認された経口薬。早期相の試験において、初回治療の選択薬としてもベネフィットをもたらす可能性が示唆され、有効性および安全性の検証が求められていた。NEJM誌オンライン版2026年5月29日号掲載の報告。主要評価項目はPFS 研究グループは、EGFR exon20挿入変異陽性の進行非扁平上皮NSCLC患者を、sunvozertinib群または化学療法群(カルボプラチン+ペメトレキセド)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。ベースラインの脳転移の有無で層別化した。 sunvozertinib群の患者には、プロトコールで定義した病勢進行またはその他の投与中止基準に該当するまで、sunvozertinibが1日1回300mg経口投与された。化学療法群の患者は、治験担当医師の判断で最長4または6サイクルのカルボプラチン(AUC5)+ペメトレキセド(500mg/m2)投与を受け、その後に病勢進行またはその他の投与中止基準に該当するまでペメトレキセドの投与を受けた。化学療法は3週ごとの静脈内投与とした。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)であった。化学療法群は、病勢進行確認後にsunvozertinibへのクロスオーバーが許容された。 副次評価項目は、全生存期間(OS)、治験担当医師評価のPFS、奏効率(ORR)、腫瘍径の変化、奏効期間(DOR)などとした。化学療法群よりも、PFSが有意に延長 2022年12月~2025年5月に449例がスクリーニングされ、324例が無作為化された(sunvozertinib群163例、化学療法群161例)。両群の人口統計学的および臨床的な特性は、sunvozertinib群で男性が多く、ベースラインで腫瘍病変を認める臓器数が4つ以上の患者が多かったことを除き、バランスが取れていた。被験者のうち約31%が、北米(米国、カナダ)または欧州からの登録であった。 sunvozertinib群では化学療法群よりも、PFSが有意に延長した(PFS中央値:10.3ヵ月vs.7.5ヵ月、病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.50~0.85、p<0.001)。 12ヵ月PFS率は、sunvozertinib群46.1%、化学療法群26.7%であった。OSのデータは未成熟であった(成熟度38.9%)。ORRは、sunvozertinib群58.9%、化学療法群31.1%。腫瘍径の最良変化率中央値はそれぞれ-42.1%と-24.7%、DOR中央値は11.2ヵ月と7.1ヵ月であった。 Grade3以上の有害事象は、sunvozertinib群75.5%、化学療法群56.7%の患者で報告された。sunvozertinib群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、血清クレアチンキナーゼ値上昇、下痢、貧血であった。治験担当医師がsunvozertinibに関連すると判定した死亡例はなかった。

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便潜血検査にH. pylori抗原検査追加が有益/JAMA

 2年ごとに行う免疫学的便潜血検査(FIT)スクリーニングに1回限定で便中ヘリコバクターピロリ(H. pylori)抗原検査を追加した場合、FITスクリーニング単独の場合と比べて、生涯にわたる健康上のベネフィットをもたらし、費用対効果も優れることが、国立台湾大学のYi-Chia Lee氏らCollaborators of the Taiwan Community-Based Integrated Screening Groupによって示された。検討は順守状況が不確実なリアルワールド設定下で行われた。H. pylori感染は胃がんの主な原因であることが示されているが、集団検診および除菌治療による経済的効果は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2026年6月1日号掲載の報告。プラグマティックな無作為化試験データから、生涯にわたる費用対効果分析を実施 研究グループは、台湾の彰化県で行われたH. pylori抗原検査+FIT vs.FIT単独のプラグマティックな無作為化試験に基づき、マルコフ決定分析モデルを用いてコホートをシミュレートし、生涯にわたる費用対効果分析を行った。 モデルは30年間にわたり、胃がんおよび大腸がんによる死亡、質調整生存年数(QALY:平均余命および健康関連の生活の質を含む)、医療費などの長期アウトカムを評価するものであった。費用は社会的観点から評価し、一次元感度分析と確率的感度分析を実施。すべての費用は2024年の為替レートを用いて米ドル換算し、将来コストとQALYは現在価値を求めるため年率3%で割り引かれた。 主要アウトカムは、H. pylori抗原検査+FIT vs.FIT単独の費用対効果比増分で、1QALY獲得/人に必要な追加費用として測定した。副次アウトカムは、純金銭便益(net monetary benefit)および費用便益比(benefit-cost ratio)などであった。FIT単独と比較して併用検査は効果的で費用削減をもたらす FIT単独と比較して、H. pylori抗原検査+FIT(併用検査)への招待は0.0038(95%信頼区間[CI]:0.0025~0.0053)QALY獲得増分と、1人当たり8ドルの費用削減をもたらし、費用削減(優位性を示す)の費用対効果比増分は、2,094ドル/QALY獲得(95%CI:1万2,359ドル~7,291ドルの追加コスト削減)であった。 この結果、純金銭便益はプラスとなり、健康上のベネフィットが費用を上回ったことが示され、費用便益比は5.08と、台湾国民に約5倍以上の投資効果が得られたことが示された。 1QALY当たりの支払い意思額(willingness-to-pay)を台湾GDPの1倍(3万3,365ドル)とした場合で、併用検査への招待により、シミュレーションの65.7%で費用削減効果が維持された。 米国コストの観点からは、併用検査への招待により費用は削減されなかったが、試験ベースのH. pylori有病率において費用対効果が維持された。感度解析の結果、H. pylori有病率は主要な要因であり、有病率が21.9%を下回ると併用検査の費用対効果は10万ドル/QALYの閾値を上回った。

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初回エピソード精神疾患の抗精神病薬誘発性体重増加に対する介入比較〜メタ解析

 初回エピソード精神疾患(FEP)の発症後、急速な体重増加がよくみられる。これは、心血管代謝疾患につながる。FEPにおける体重増加の多くは、治療開始後3ヵ月以内に起こるため、この間は予防のための重要な期間となる。しかし、これまでの抗精神病薬誘発性体重増加の予防を目的とした研究の多くは、慢性疾患患者や抗精神病薬の長期投与を受けている患者を対象としていた。アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのBrian William O'Mahony氏らは、抗精神病薬誘発性体重増加の予防を目的とした介入に関する文献を統合、分析することを目的とし、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌2026年4月10日号の報告。 PsycInfo、MEDLINE、CINAHL、EMBASEの各データベースより、FEPにおける抗精神病薬誘発性体重増加の予防介入の効果を検討した研究をシステマティックにレビューした。体重増加およびさまざまな心血管代謝マーカーに対するこれらの介入効果を検討した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた2,092件の研究のうち13件が適格基準を満たした。・行動介入(3件すべてが多職種チームによるアプローチ)は、通常治療と比較し、平均3.05kgの体重増加抑制効果を示した(95%信頼区間:1.36〜4.73)。・薬物介入は、臨床的および統計的に著しい異質性を示し、成人を対象とした7件の試験では、それぞれ異なる薬物療法が用いられていた。・代謝の健康に関する包括的なデータを収集した研究は少なかった。・2010年以降に発表された薬物療法に関する研究は、わずか2件であり、全体では5件のみであった。 著者らは「FEPにおける体重増加の予防は重要であるにもかかわらず、このテーマを調査した近年の研究は少なかった。本研究結果は、多職種チームによる介入がFEPにおける体重増加の予防に効果的であり、すべての患者に提供されるべきであることを示している」と結論付けている。

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心血管代謝リスク因子は女性でより強く肝線維化のオッズ上昇と関連

 特定の心血管代謝リスク因子を有する女性では、同じリスク因子を持つ男性と比較して、肝線維化のオッズ上昇の程度が大きいとする研究結果が、「JAMA Network Open」に3月9日掲載された。 米南カリフォルニア大学(USC)のSomaya Albhaisi氏らは、心血管代謝リスク因子と有意な肝線維化との関連に性差があるかを検討した。解析には、2017~2020年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した米国成人5,981人のデータが含まれた。 その結果、有意な肝線維化の有病率は女性で6.9%、男性で10.7%であった。有意な肝線維化との関連について、ウエスト周囲径高値(調整オッズ比は女性で13.45、男性で4.44)、耐糖能異常(同2.94、1.51)、2つ以上の心血管代謝リスク因子の存在(同10.22、2.87)において、女性の方が男性より点推定値が有意に高かった。 共著者である同大学のJennifer Dodge氏は、「肝疾患を発症した場合、女性は男性よりも肝線維化への進行が速いことが示されている。今回の研究結果は、その背景の一部として心血管代謝リスクが関与している可能性を示唆するものである。この知見は、これらの心血管代謝リスク因子の管理が、心疾患のみならず肝疾患の観点からも重要であることを、臨床医および一般の人々に改めて認識させるものである」と述べている。 なお、1人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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医師の早期離職、主因はバーンアウトや職場ストレス

 近年、医師が医療現場を離れる理由に変化が生じていることが、新たな研究で明らかになった。現代の医師は、燃え尽き症候群(バーンアウト)、慢性的な職場ストレス、煩雑な業務負担、患者からの非現実的な要求を、臨床を早期に離れる主な理由として挙げたことが示された。米国医師会の放射線腫瘍医兼診療継続支援部門ディレクターを務めるSea Chen氏らによるこの研究の詳細は、「The Permanente Journal」に5月7日掲載された。 Chen氏らは、これは2000年代後半とは異なる傾向だと指摘している。当時は、個人的な健康問題、医療過誤、保険料の上昇、煩雑な業務に対する不満、そして仕事に対する満足感の欠如などを離職理由にする医師が多かったという。Chen氏は、「医師らがなぜ臨床現場を離れたのかをより深く理解することで、医師の職務満足度や定着率の向上につながる有意義な示唆を得られることを期待している」とニュースリリースで述べている。 Chen氏らは、2000年から2022年の間に研修期間を終え、医師としてのキャリアが25年未満のあらゆる診療科の医師に対し、2024年5〜6月にアンケート調査を実施した。調査内容は、年齢・性別などの属性、教育歴、臨床研修歴、離職理由などだった。 調査に回答した971人(平均年齢45.8歳、女性63.9%)のうち、11.0%は研修修了後に一度も臨床医として働いた経験がなかった。解析の結果、離職理由として特に多かったのは、煩雑な業務負担(44.7%)とストレス過多(44.5%)で、その他に、患者からの非現実的な要求の増大(41.1%)、仕事に対する満足感の欠如(38.4%)なども多かった。自由記述から判明した離職理由のテーマとしては、過重労働、臨床以外への転向、医療システム(組織運営を含む)に対する不満、職業に関連する個人的事情(バーンアウト、精神的消耗、裁量の欠如など)の4つが浮上した。性差も見られ、女性医師は男性医師に比べて、他の家族の介護(7.9%対0.6%)、育児(21.7%対4.2%)、健康問題(13.8%対3.8%)、ストレス過多(31.7%対12.9%)を理由に離職する人が多かった。さらに女性医師は男性医師より短いキャリア期間で離職していた(中央値9年対12年)。 研究グループは、現代の医師が医療を離れる理由は、バーンアウトの構成要素と一致していると話す。バーンアウトとは、慢性的な職場ストレスに長期間さらされることで生じる反応であり、精神的消耗、離人感、達成感の欠如を特徴とする。 Chen氏は、「今回の研究では、女性医師は男性医師よりも早い段階で臨床現場を離れており、離職理由として育児や家族の介護などを挙げる割合が男性より高かった。育児支援の充実や柔軟な勤務制度、公平な待遇などを通じてこうした問題に対処することができれば、より多くの女性医師を医療現場にとどめる助けになる可能性がある」と述べている。 さらに、研究グループは、今回の結果は、医師を確保したいのであれば医療システム側が戦略を転換する必要があることを示していると指摘している。Chen氏は、「医療システムは新設医学部の開設や研修枠の拡大によって医師の数を増やそうとしているが、すでに訓練を受けた現役の医師の支援にも目を向けるべきではないかを問う価値がある」と述べている。

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高い心肺フィットネス、心房細動リスク上回る健康効果

 若い男性では、心肺フィットネスレベルが高いほど心房細動(AF)リスクが上昇するとされてきたが、そのリスクは従来考えられていたほど大きくない可能性があるようだ。112万人超のスウェーデン人男性を対象とした新たな研究で、心肺フィットネスレベルが高い男性ではAFリスクの上昇が認められたものの、AF以外の心血管疾患(CVD)リスクの低下はAFリスクの上昇を上回ることが示された。研究グループは、「今回の研究は、高い心肺フィットネスレベルやレースへの参加が心血管の健康に大きなリスクをもたらすとする見方について、より慎重な解釈が必要であることを示している」と述べている。ウプサラ大学(スウェーデン)のMarcel Ballin氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation」に5月21日掲載された。 この研究でBallin氏らは、1972~1995年に徴兵検査を受け、心肺フィットネス検査を完了した112万4,049人(平均年齢18.3歳)のスウェーデン人男性のデータを解析した。評価項目はAFおよびAF以外のCVD(脳卒中、虚血性心疾患など)とし、それぞれについて、診断または死亡から成る複合エンドポイントを2023年12月31日まで追跡した。 追跡期間中に4万5,179人(4.0%)がAF、9万6,404人(8.6%)がAF以外のCVDを発症していた。発症時の年齢中央値は、AFで54.8歳、AF以外のCVDで54.4歳だった。心肺フィットネスレベルをその高低に応じて10段階のグループに分けて解析した結果、成人期初期では、レベルが最も低い群と比較して最も高い群でAFリスクに軽度の上昇が認められた一方で、AF以外のCVDリスクには低下が認められた。この利益とリスクの関係は、40歳まではAFリスクの上昇による影響がCVDリスクの低下による利益を上回っていたが、45歳以降ではCVDリスクの低下による利益がAFリスクの上昇による影響を上回るようになった。 さらに研究グループは、対象者の約半数を占めていた兄弟ペアを対象に解析を行った。兄弟は、遺伝的背景や幼少期の環境、社会経済的要因などを共有しているため、これらの交絡因子の影響をより正確に評価できると考えられるからだ。その結果、35歳時点ですでにAFリスクの上昇を上回るCVDリスクの低下が認められた。また、主解析で見られた、年齢依存的に利益とリスクの関係が逆転する現象は認められなかった。 こうした結果から研究グループは、「これまで報告されてきた心肺フィットネスレベルとAFとの関連は、兄弟間で共有される遺伝的要因や環境要因によって、少なくとも一部は説明される可能性がある」と結論付けている。また、生涯にわたって見れば、高い心肺フィットネスレベルが健康にもたらす利益は、AFリスクの上昇による不利益を上回ると言えると述べている。

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女性アスリートの月経不順増加、婦人科受診拡大後も続く傾向

 女性アスリートでは、利用可能エネルギー不足(LEA)に伴い月経周期異常が生じ、健康や競技力に影響することが知られている。今回、日本の女性オリンピック選手を対象とした12年間の調査で、月経不順が増加傾向にある一方、婦人科受診率も大幅に上昇していたことが報告された。婦人科受診率は向上したものの、なお残る健康管理上の課題が浮き彫りとなった。研究はハイパフォーマンススポーツセンター・国立スポーツ科学センター産婦人科医の能瀬さやか氏らによるもので、詳細は4月12日付の「Women’s Health」に掲載された。 女性アスリートでは月経関連症状や月経周期異常が高頻度にみられ、競技活動やパフォーマンス、回復過程にも影響することが報告されている。また、LEAによって健康への影響がみられた状態であるスポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)は月経周期異常と関連し、長期的には骨・心血管系など多方面に影響し得る。しかし、既存研究の多くは横断的かつ欧米中心であり、長期的な変化や地域差は十分に検討されていない。そこで本研究では、日本の女性オリンピック選手を対象に、12年間・7大会にわたるデータを用い、月経関連症状と月経周期異常の有病率および婦人科受診率の経時的変化を検討した。 日本の女性オリンピック選手を対象に、2008年北京大会から2020年東京大会(2021年開催)までの夏季・冬季計7大会に参加した選手のデータを解析した。対象は女性954人で、このうちホルモン製剤を継続使用していた選手を除いた786人を主な解析対象とした。婦人科に関する自己記入式アンケートを用い、月経周期の状態、月経関連症状、薬剤使用状況などを評価した。解析では大会ごとの経時的変化をロジスティック回帰分析で検討し、さらに同一選手が複数大会に出場することによる影響を考慮するため、一般化推定方程式(GEE)を用いた補正解析も行った。以上の方法により、本研究は反復横断研究デザインで長期的な傾向を評価した。 月経周期異常は全体の約22.5%に認められ、その内訳は月経不順13.9%、続発性無月経5.3%、初経遅延1.5%、原発性無月経1.8%などであった。12年間の経時的変化をみると、月経不順の有病率は有意に増加していた(オッズ比〔OR〕 1.24、95%信頼区間 1.13~1.37、P<0.001)。この傾向は同一選手の反復参加を考慮した解析(GEE)でも確認された(OR 1.25、P<0.001)。一方、続発性無月経では増加傾向が示唆されたものの統計学的有意差には至らず、原発性無月経や初経遅延には明確な変化は認められなかった。 月経随伴症状では、月経困難症が24.3%、月経前症候群(PMS)が66.9%、過多月経が9.2%に認められた。PMSは最も高頻度にみられた症状であったが、いずれも経時的な有意な変化は認められなかった。一方で月経困難症は主解析では増加傾向にとどまったものの、GEE解析では有意な増加が確認された(OR 1.11、P=0.005)。さらにPMSの個別症状では、怒りっぽさ、むくみ、体重増加などに明確な変化はみられなかった一方、乳房の張りは有意に減少していた。 また、月経周期異常の割合は競技特性によって差がみられ、特に新体操や器械体操、フィギュアスケート、陸上長距離などの審美系や持久系競技で無月経の割合が高い傾向にあった。婦人科受診歴については、全対象で解析した結果、受診率は12.4%から65.3%へと約5倍に増加していた(OR 1.42、P<0.001)。 著者らは、婦人科受診率が上昇した一方で月経不順や月経困難症の増加傾向が持続していることから、医療アクセス改善のみでは十分な健康管理につながらない可能性があると指摘している。月経周期異常は骨や心血管系を含む長期的健康リスクとも関連することから、早期対応と選手・指導者双方の理解と連携が重要と述べている。 本研究の限界として、症状評価が自記式質問票に基づくため想起バイアスの可能性があることに加え、月経周期異常の原因を特定できないこと、対象が日本人エリート女性選手に限られる点を挙げている。

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「下半身切断術」が行われた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第308回

「下半身切断術」が行われた1例ご存じでしょうか。hemicorporectomy(下半身切断術)という術式が存在することを。腰椎を離断し、脊髄を切り、骨盤と両下肢をまるごと外科的に取り去る。文字にするだけで戦慄が走るこの術式、世界での報告例はわずか79例です。今回その伝説の術式の報告が、トルコから届きました。読み始めた瞬間に「えっ、これ本当にやったの?」と声が出てしまう1例です。Saglam F, et al. Hemicorporectomy: a case report on a last-resort surgical procedure. World J Surg Oncol. 2026;24:105.主人公は67歳男性、診断は脱分化型仙骨脊索腫。2年前に「お尻が痛い、尿便失禁する」と他院を受診し、S1から発生した巨大腫瘍を指摘されたものの、初回生検が非診断的だったところで本人が音信不通になります。2年後、今度はイレウスで他院に緊急搬送。開腹したら骨盤いっぱいに腫瘤がぎっしり詰まっていて手も足も出ず…という状況でした。膀胱・下行結腸・直腸への直接浸潤、両側内腸骨動静脈への浸潤、両側仙腸関節の破壊、臀部への浸潤、後腹膜進展はL4まで到達。多職種カンファレンスの結論は、こうです──「もう、下半身ごと取るしかない」。そして11時間の手術。途中で循環血液量減少性ショックと神経原性ショックが1回ずつ起こりますが、さまざまな診療科が協力して無事終了。出血520mLというのが、もはやどこを基準に多寡を語ればよいのかわからなくなります。驚くのは術後の経過です。創部感染で2回のデブリードマンと肺水腫を乗り越え、術後3ヵ月で退院。ベッド上で座位がとれ、車椅子で移動できるレベルまで戻りました。泌尿器科・形成外科・心臓血管外科・麻酔科・集中治療・精神科・リハビリ・感染症科──この症例の背後には、数えきれないほどの専門家の手が重なっています。「最後の砦」と呼ばれる術式が成立すること自体が、現代医療の総力の結晶なのだと感じさせられる1例でした。…しかしその後は残念な経過でした。断端陰性だったにもかかわらず、術後6ヵ月で両側肺転移が出現し、9ヵ月後に永眠されているのです。日本で行われることはないでしょうが、こんな術式があったのですね…。

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