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セマグルチド使用と脱毛リスク上昇が関連患者1,600万例から無作為に抽出した3千例強を調べたところ、糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体活作動薬(GLP-1薬)セマグルチドと脱毛が生じやすことが、女性に限って関連しました1)。GLP-1薬は世界で最も処方されている薬の類いの1つであり、米国ではおよそ8人に1人がその使用経験を有します。GLP-1薬の有害事象で調べられているのはもっぱら胃腸障害ですが、使う患者がそれだけ多いと脱毛などのまれな有害事象にも注目が集まります。米国FDAに集まる有害事象を解析した昨年9月の報告では、セマグルチド使用患者の脱毛はほかの糖尿病薬に比べてより多く認められました2)。その糸口をカナダのバンクーバーのUniversity of British ColumbiaのMahyar Etminan氏らは深掘りすべく、米国のすべての外来処方と診断記録の93%を集めるデータベースIQVIA PharMetrics Plus for Academicsを使って、セマグルチドと別の肥満薬Contrave(naltrexone HCl / bupropion HCl)使用患者の脱毛の発生率を比較しました。Etminan氏らはIQVIA PharMetrics Plus for Academicsに記録された1,600万例からセマグルチドを使い始めた患者とContraveを使い始めた患者を無作為に抽出しました。糖尿病患者や血糖降下薬を先立って使ったことがある患者は除外されました。最終的な解析対象のセマグルチド使用患者は1,926例、Contrave使用患者は1,348例となり、脱毛の発生率は1,000人年当たりそれぞれ26.5と11.8でした。男女別で比較解析したところ、女性に限ってセマグルチドと脱毛が生じやすいことが関連しました。具体的には、セマグルチド使用の女性患者は、Contrave使用の女性患者に比べて脱毛の発生率が2倍ほど高いという結果となりました(ハザード比:2.08、95%信頼区間:1.17~3.72)。全被験者と男性患者のハザード比はそれぞれ1.52と0.86で、95%信頼区間はどちらも1を跨いでいました(それぞれ0.86~2.69と0.05~14.49)。セマグルチドの臨床試験結果に改めて目を向けると、Etminan氏らの解析結果と一致する傾向が見てとれます。肥満薬としての臨床試験での脱毛の発生率は、セマグルチド投与群3.3%、プラセボ群1.4%で、セマグルチド群のほうがプラセボ群より2倍半ほど高いという結果となっています3)。また、セマグルチドで体重がより減った患者ほど脱毛をより多く被りました。セマグルチド投与で体重が2割以上減った患者は、体重減少が2割未満の患者に比べて脱毛の発生率が2倍ほど高いことが示されています(5.3%vs.2.5%)。体重を減らすためだけにセマグルチドを使おうとしている人、とくに女性にとって脱毛の有害事象はそれを思いとどまらせる要因となりうるかもしれません1)。今後の課題はいくつもありますが、一例としてセマグルチド投与患者の脱毛がどれほど重症でどれだけ続くのかを調べる必要がある、とEtminan氏は言っています4)。 参考 1) Sodhi M, et al. Risk of Hair Loss with Semaglutide for Weight Loss. medRxiv. 2025 Mar 6. 2) Nakhla M, et al. Cardiovasc Drugs Ther. 2024 Sep 12. [Epub ahead of print] 3) Wegovy Product Monograph 4) Hair Loss: Another Wegovy Side Effect? / MedpageToday