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降圧薬服用は、朝でも夜でもお好きなほうに―再び(解説:桑島巖氏)

 「降圧薬の服用は朝か夜か?」の問題については、2022年にLancet誌上で発表されたTIME studyのコメントで発表しているが、今回JAMA誌に発表されたGarrisonらのBedMed randomized clinical trial論文でもまったく同じコメントを出さざるを得ない。 TIME studyと同様、本研究でも降圧薬の時間薬理学を理解していれば、服薬は朝(6~10時)でも夜(20~0時)でもどちらも同じ結果(心血管イベント、心血管死)をもたらすというのは当然の結論である。降圧薬の心血管予防効果は24時間にわたる降圧効果の持続と相関することはすでに知られており、現在処方されている降圧薬のほとんどは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、24時間以上持続する降圧薬はアムロジピンとサイアザイド系、非サイアザイド系降圧利尿薬のみである。ACE阻害薬やARBはいずれも24時間持続性がない。 本試験はオープン試験(PROBE法:結果の評価はブラインド)であることから、診療現場では、患者の降圧が不十分であれば複数の降圧薬を併用することになる。本研究においてはACE阻害薬、ARBが各々30%前後使用されているが、カルシウム拮抗薬や利尿薬あるいは配合剤(combination pill)も高頻度で使用されていることから、これらの持続性の高い降圧薬の併用により、朝服用でも夜服用でも持続的降圧が得られたために、エンドポイントに差が認められなかった。TIME studyと同じ結果であるのは当然である。 現場では、患者さんの飲み忘れがないような選択をすることが重要である。

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既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

 切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。 今回、既治療のCLDN18.2陽性進行胃がん症例を対象として自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法(satri-cel)の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験の結果が2025年6月のLancet誌に掲載された。CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞であるT細胞に遺伝子導入して作成されたCAR-T細胞を患者に再び投与する治療法であり、日本でも2019年から悪性リンパ腫再発後の治療が保険適用となっているが、固形がんに対するCAR-T細胞療法に関するランダム化比較試験は本研究が世界初の報告である。 少なくとも2回の前治療が奏効せず、腫瘍組織がCLDN18.2陽性であった症例を対象として、CAR-T群と担当医が選択した標準治療群を比較した結果、主要評価項目のPFS中央値(3.25ヵ月vs.1.77ヵ月)およびOS中央値(7.92ヵ月vs.5.49ヵ月)は共にCAR-T群が有意に延長した。一方、安全性に関しては、CAR-T群はGrade3以上の有害事象が99%にみられ、血球減少、消化器症状、頻脈、肝障害、電解質異常、蛋白尿、皮疹、腹痛、体重減少など広範な臓器にわたり30〜90%の頻度で出現していたが、「サイトカイン放出症候群」の重篤化により死亡した症例は皆無であった。 種々の治療法によっても手術不能胃がん患者の生存率の飛躍的向上が認められていない現状では、新たな治療法であるCAR-T細胞療法に期待したいところである。しかしながら、報告された第II相試験の結果からは臨床現場における有効性と安全性を担保できるものとはいえず、今後予定されている精緻な研究デザインによる第III相試験の結果を待つ必要があると思われた。

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後発薬の供給が需要に追いつくのはなんと2029年!?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第154回

ここ数年の後発医薬品の不足問題は、薬局にとって大きな負担になっています。しかし、まだまだ後発医薬品の供給不足は続きそうです。後発薬(ジェネリック医薬品)メーカーの業界団体である日本ジェネリック製薬協会は18日、後発薬の安定供給に向けた業界の対応方針の中間報告書について報道向け説明会を開いた。川俣知己会長(日新製薬代表取締役社長)は、後発薬の供給が需要に追いつくのは2029年度になるとの予測を示した上で、「(予測より前の)27年度には供給不安の解消を目指す」と強調。加盟企業に設備投資の前倒しを要請するとした。(2025年6月18日付 日本経済新聞)後発医薬品は、医療費の増大を抑えるために2002年ごろから加算などで使用が後押しされ、市場が伸びてきました。ようやく患者さんが後発医薬品を使用することに対して抵抗がなくなってきた今、使いたいのに使えない…というなんとも皮肉な状況が続いています。「もうそろそろどうにかしてほしい」という医療者の叫びが飛び交う中、ようやく出てきた供給不足解消の予測はなんと「2029年」。まだまだこの状況は続くのだなと落胆の気持ちを隠せません。冒頭の記事でも、日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)から会員会社に対し、2027年度を目標に事業計画を見直し、増産施設への投資を前倒しするよう要請すると報じられています。しかし、これは現状の使用量がすでに頭打ちとなっていることが前提となっており、今後さらにシェアが拡大すれば供給不足の解消が後ろ倒しになる可能性もあるとのことなので、予断は許されない状況です。ただ、製薬会社は民間の会社なんですよね。各社の事業計画の見直しに関しては、あくまでGE協会からの「お願い」であって、実施に踏み切るかは各社の判断によります。各社さまざまな事情があるでしょうし、新たな借入金が発生する場合もあるでしょう。現実的に前倒しになることは期待できないように思います。一方で、製造所を変更するための一変申請は、今まで申請から承認まで1年程度かかっていたものを、1.5ヵ月で承認することができるという「医療用医薬品の品目統合等に伴う製造方法等の変更手続に係る手続の迅速化について」という通知が今年の2月に発出されるなど、製薬企業が増産を検討したり、製薬企業同士が品目を集約したりしやすくするための措置が始まっています。薬局にとっては日々の業務に直結することですので1日も早い解消を強く望みますが、期待しすぎずに供給不安の解消を待ちたいと思います。

1605.

夏至に思う【Dr. 中島の 新・徒然草】(586)

五百八十六の段 夏至に思う先週2025年6月21日は夏至でした。言うまでもなく、昼が一番長い1日です。大阪の日の入りは19時14分。これから徐々に日が短くなるわけですが、夏が始まったばかりなので変な感覚です。夏至について驚かされるのは中国。米国本土が4つの時間帯を使っているのに対し、中国は北京時間という1つの時間帯しか使っていません。そうすると、夏至の北京の日没が19時47分であるのに対し、中国の西端付近にあるカシュガル市では、日の入りが22時26分になるそうです。ということは、普通なら床に就くはずの時刻になっても外は明るいまま。これでは生活実態に合わず、さぞかし不便なことでしょう。だからカシュガルでは、北京時間と共に、2時間の時差のある新疆(しんきょう)時間を使っているとのこと。2つの時間帯を併用するとは、何と器用な人たち!ついそう思ってしまいます。が、これは日本で西暦と和暦を使い分けるみたいなものかもしれません。遠い昔、昭和の頃はもっぱら和暦を使っていました。私なんか、昭和のそれぞれの年に思い出があります。数字の末尾が5年違いだったので、西暦と和暦の換算も簡単でした。しかし、平成になると、徐々に西暦を使う機会が増えたように思います。私の記憶では、平成の前半くらいまでは、西暦を使ったり和暦を使ったり。でも、平成の後半から、西暦と和暦の換算が徐々に難しくなってきました。さらに令和の現在、診断書やカルテの本文は、もっぱら西暦を使うようになりました。あえて和暦を使うのは「令和7年度」のように、4月始まりの制度を扱う時くらい。こちらのほうは、「2025年度」と言うよりも「令和7年度」と言ったほうが、しっくりきます。気が付けば、私もいつのまにか昭和・平成・令和の3つの時代を生きてきました。昭和というと、頑固親父や根性論が幅をきかせていた時代。最近は昭和がやたらネガティブに語られがちですが、エネルギーが溢れていた時代でもありました。平成は大きな自然災害や衝撃的な事件も多く、また経済的にはバブル崩壊以降の長い不況の印象があります。一方で、デジタル化やインターネットで、知らないうちに世の中が便利になりました。そして令和も、もう7年目。新しい時代に入ったばかりだと思っていたのに、もうそんなに経つのかと驚きます。コロナ禍やAIの普及など、平成の時にはまったく予想もしていませんでした。とくに国際情勢の不安定さや流れの速さには、世界中が翻弄されっぱなし。せめて日本の社会は、少しずつでも良い方向に進んでほしいですね。そのために、私にも貢献できることがあるのだろうか。忙しい毎日ではありますが、たまにはそんなことも考えたりしているところです。最後に1句夏至が過ぎ 住み良き社会 実現へ

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ASCO2025 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど、肺がんに関しては当たり年であった2024年のASCOとは異なり、2025年のASCOは肺がんのPlenary演題もないなど、やや小ぶりな前評判であった。ただ、実際に演題が発表されてみると、DeLLphi-304試験では小細胞肺がん(SCLC)の二次治療において初めて全生存期間(OS)を延長したタルラタマブの成績が報告され、肺がんのコミュニティとしてはPlenaryセッションでもよかったのではとの声も聞こえてきた。さらに日本では未承認であるが、進展型SCLC(ES-SCLC)の維持療法として、lurbinectedinが、無増悪生存期間(PFS)、OSともに延長を示したIMforte試験にも注目が集まった。IMforte試験の演者はスペインのLuis Paz-Ares先生で、くしくもPARAMOUNT試験において非小細胞肺がん(NSCLC)におけるペメトレキセドの維持療法をASCOで発表したのもPaz-Ares先生であり、印象的であった。これらの日常診療を変えうる発表に加え、将来につながる発表が、周術期領域、抗体医薬品の開発に関連して複数発表されている。周術期領域においては、EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対してNeoADAURA試験の結果が、ALK遺伝子転座陽性肺がんに対してALNEO試験の結果が報告された。抗体医薬品の開発は引き続き盛んであり、抗体薬物複合体(ADC)、T-cell Engager(TCE)、さらにはCAR-T療法など、今後に期待が持たれる発表が、とくに中国から続いた。そんななか、新薬を使うのでも、手術をするのでもなく、免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングにより、治療効果に大きな違いをもたらした臨床試験の結果が中国から発表された。免疫チェックポイント阻害薬の奥の深さを感じるとともに、このようなタイムリーな研究成果が中国から報告されることに、新規薬剤の開発だけでなく、臨床試験の実施体制としても中国の成熟が感じられた。[目次]DeLLphi-304試験IMforte試験NeoADAURA試験ALNEO試験CheckMate 816試験HERTHENA-Lung02試験抗体医薬品の展開Time-of-Day試験最後にDeLLphi-304試験再発SCLCに対する治療選択肢の1つとして期待されているDLL3とCD3を標的としたTCEであるタルラタマブの有効性と安全性を評価した第III相試験がDeLLphi-304試験である。本試験は、プラチナ製剤ベースの初回化学療法を終了後、病勢進行を経験した再発SCLC患者を対象に、タルラタマブ(0.3mgで開始後、10mgを2週ごと投与)と化学療法(トポテカン、lurbinectedin、アムルビシン)を比較する国際共同多施設無作為化比較試験で、全体で509例が登録された。主要評価項目はOS、副次評価項目にはPFSや奏効割合(ORR)、安全性が設定された。主要評価項目であるOSにおいて、タルラタマブ群は化学療法群と比較して有意な生存期間延長を示し、OSの中央値はタルラタマブ群で13.6ヵ月、化学療法群で8.3ヵ月であり、ハザード比は0.60(95%CI:0.47~0.77)、p<0.001と統計学的に有意であった。PFSについても良好な傾向が認められ、中央値は4.2ヵ月と3.7ヵ月、ハザード比は0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。ORRについても40%と17%とタルラタマブ群で良好であった。安全性の観点では、タルラタマブ群に特徴的なサイトカイン放出症候群(CRS)は56%にみられたが、大半はGrade1~2で管理可能であり、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)などの神経学的有害事象も既知のプロファイルと一致した。治療関連死亡はなかった。今回のDeLLphi-304試験の成功により、20年以上にわたって進展のなかった再発SCLC治療において、新たな標準治療の登場が視野に入った意義深い試験結果である。DLL3はSCLCに特異的かつ高発現する治療標的として注目されており、新たなモダリティとしてTCEが治療の基軸になる状況が現実となった。今後、初回治療や限局型への展開、あるいは他がん腫への応用など、免疫系を活用した治療開発の広がりが期待される。IMforte試験ES-SCLCでは一次治療後の病勢進行率が高く課題とされてきた。lurbinectedinはアルキル化作用を持つ転写阻害剤であり、プラチナ製剤ベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者において抗腫瘍活性が示されてきた。IMforte試験は、ES-SCLC患者において一次導入化学療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド)後に病勢進行しなかった患者を対象として、アテゾリズマブによる維持療法にlurbinectedinを上乗せすることの意義を検証する国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者はlurbinectedin(3.2mg/m2)とアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに併用投与する試験治療群、またはアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに単独投与する標準治療群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はIRF-PFS(独立画像判定によるPFS)およびOSとされた。試験治療群には242例、標準治療群には241例が登録された。試験治療群はIRF-PFSにおいて標準治療群に対して、PFS中央値5.4ヵ月と2.1ヵ月、ハザード比0.54(95%CI:0.43~0.67)、pNeoADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なNSCLCに対する術前治療として、オシメルチニブ単剤または化学療法併用の有効性と安全性を検証する第III相試験がNeoADAURA試験である。本試験は、StageII~IIIB(N2)に相当する切除可能EGFR遺伝子変異陽性(Exon19delまたはL858R)NSCLCを対象に、術前オシメルチニブ単剤群、オシメルチニブ+化学療法併用群、化学療法単独群を比較する国際共同無作為化試験で、全体で358例が登録された。主要評価項目はmajor pathologic response(MPR)であり、副次評価項目には無イベント生存期間(event-free survival;EFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、ORR、手術実施率、R0切除率、安全性などが含まれた。MPRにおいては、化学療法群で2%であったのに対して、オシメルチニブ単剤、併用群では25%、26%であり、オシメルチニブ併用による統計学的な優越性が確認された。pCRにおいては、化学療法群が2%であったのに対して、併用群で4%、オシメルチニブ単剤群で9%という結果であった。R0切除率はいずれの群でも90%以上と高率であり、手術遅延や手術不能例も少なく、安全に根治切除に導ける治療であることが示唆された。まだイベント数が少ない状態ではあるがEFSについても報告され、化学療法群に対して、ハザード比は併用療法群で0.50、オシメルチニブ単剤群で0.73であった。術後治療としては全例にオシメルチニブによる補助療法が予定されており、長期予後の追跡が期待される。ADAURA試験で術後オシメルチニブの有効性が示されて以来、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療パラダイムは大きく変化したが、本試験は術前段階からEGFR-TKIを導入することの意義を検討している。免疫チェックポイント阻害薬において病理学的奏効割合は高めだが画像上の奏効は50%程度にとどまっているという課題を有しており、画像上の高い奏効割合が期待できるEGFR-TKIの立ち位置については、今後さまざまな議論が展開されることになる。ALNEO試験ALNEO試験では、アレクチニブ600mgを1日2回術前に投与し、手術後も術後療法として継続することの有効性と安全性を検討する第II相試験である。主要評価項目はBICRによるMPRとされた。本試験にはイタリアの20施設が参加し、2021年5月から2024年7月にかけて患者が登録された。33例が登録され、全例が術前治療を完了し、28例が手術を受け、26例が術後療法を開始した。手術を受けなかった5例のうち、2例は患者の拒否、2例は臨床的判断、1例は臨床的進行のためであった。術後療法を受けなかった2例は、いずれもR0切除が得られなかったことがその理由であった。主要評価項目であるBICRによるMPRは42%(95%CI:28~58)であり、信頼区間の下限が事前に設定された閾値の20%を超えたことから、統計学的にも有意な結果であった。pCRは12%であった。副次評価項目として、ORRは67%であった。特筆すべきは、同時に報告されたNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療において、pCRが0~10%未満にとどまっているのに対して、アレクチニブにおいては若干高めのMPRやpCRが報告されており、同じドライバー陽性肺がんにおいても標的や薬剤によって病理学的奏効に違いがあることが示唆されている点にある。今後、術前治療にドライバー遺伝子変異に伴うTKIを中心とした治療が導入されていくことが期待されているが、他の標的、他の薬剤による病理学的効果を含む効果についても注目したい。CheckMate 816試験すでに実臨床に導入されているCheckMate 816試験は、切除可能なStageIB(腫瘍径4cm以上)~IIIAのNSCLC患者(TNM分類第7版による)を対象とした第III相試験で、既知のEGFR遺伝子変異またはALK転座がない患者が登録された。患者はニボルマブ360mgと化学療法を3週間ごとに3サイクル併用するニボルマブ群、または化学療法単独を3週間ごとに3サイクル行う化学療法群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、独立中央病理審査(BIPR)によるpCRおよびEFSで、OSは有意水準αも割り付けられた主要な副次評価項目として設定され、今回、最低5年間の追跡期間で最終解析が行われた。ニボルマブ群は化学療法群に対して、ハザード比0.72(95%CI:0.523~0.998)、p=0.0479と統計学的に有意なOSの改善を示し、5年OS割合も65%と55%であり、10%の上乗せを示した。ニボルマブと化学療法の併用は、肺がん特異的生存期間においても化学療法単独と比較して継続的な効果を示した。安全性プロファイルはこれまでの報告と一貫していた。CheckMate 816試験は、切除可能な固形がんにおいて、術前化学免疫療法のみ(3サイクル)が統計学的に有意なOSのベネフィットを示すことを検証した唯一の第III相試験であり、術前+術後化学免疫療法によるKEYNOTE-671試験に続いて、周術期免疫チェックポイント阻害薬においてOSの延長を示した重要な試験となった。術前のみ、術前+術後いずれの免疫チェックポイント阻害薬による補助療法においてもOSの延長が示された状況は肺がんにおいてのみであり、術前+術後の治療方法しか存在しない他のがん腫との明らかな違いが生じている。今後その違いに基づき、さらなる議論が展開されることは間違いないと考えられる。HERTHENA-Lung02試験HERTHENA-Lung02試験は、第3世代EGFR-TKI後に病勢進行した局所進行または転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者は、HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと)群または標準治療(シスプラチンまたはカルボプラチンを3週ごとに4サイクル投与後、ペメトレキセド維持療法実施)群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、BICRによるPFSとされ、主要な副次評価項目はOS、それ以外の副次評価項目として安全性、頭蓋内PFS、HER3タンパク発現と有効性の関連性評価とされた。本試験には586例の患者が登録され、HER3-DXd群に293例、標準治療群に293例が割り付けられた。HER3-DXd群のPFS中央値は5.8ヵ月であったのに対し、標準治療群は5.4ヵ月であり、ハザード比は0.77(95%CI:0.63~0.94)、p=0.011で、統計学的に有意な結果であった。ただ、中央値での差異は0.4ヵ月にとどまっていた。さらに、今回OSの解析結果として、OSの中央値がHER3-DXd群、標準治療群それぞれで16.0ヵ月、15.9ヵ月、ハザード比0.98(95%CI:0.79~1.22)であり、OSについてはNegative trialであることが明らかになった。ポジティブな結果が多かった今年のASCOにおいて、期待されていたADCについてNegativeな結果が報告されたことのインパクトは大きかった。DXd(デルクステカン)ベースのADCとしては、昨年TROP2-ADCであるDato-DXdが、同様の肺がん二次治療において、全体集団でのOSでNegativeであったことが報告されている。Dato-DXdについてはTROP2の発現についてAIも用いたタンパク発現の評価方法TROP2 QCS-NMR(Normalized Membrane Ratio of TROP2 by Quantitative Continuous Scoring)が効果予測になりうることが報告されている。そのため、HER3-DXdにおいても、HER3の発現について今後同様の試みがされることに期待したい。抗体医薬品の展開BL-B01D1(iza-bren)は、EGFRとHER3の二重特異性ADCであり、新規のトポイソメラーゼI阻害薬(Ed-04)をペイロードとしている。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しては、63.2%のORRを示したことがすでに報告されている。今回は、上記以外のドライバー遺伝子変異を持つNSCLC患者83例が登録され、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation(14例)、HER2変異(19例)、ALK/ROS1/RET融合(24例)、KRAS/BRAF/MET変異(26例)を有する患者が登録された。全患者のORRは46.2%、PFS中央値は7.0ヵ月であった。ORRはそれぞれ、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation 69.2%、HER2変異52.9%、KRAS/BRAF/MET変異40%、KRAS G12C変異44.4%、ALK/ROS1/RET融合34.8%であった。ABBV-400(Telisotuzumab Adizutecan、Temab-A)はc-Met標的抗体(Telisotuzumab)とトポイソメラーゼIペイロードを組み合わせたものである。今回、プラチナベース化学療法およびTKIによる治療を受けた進行固形がん患者を対象とし、3ライン以上の治療歴のあるEGFR変異非扁平上皮NSCLCコホートのデータが報告された。その結果、ORRは63%であり、耐性変異の有無にかかわらず幅広い効果が確認された。ABBV-706は、高悪性度神経内分泌腫瘍(NENs)に発現しているSEZ6(Seizure-Related Homolog Protein 6)を標的としたTop1阻害薬をペイロードとしたADCである。NEN全体を対象としたコホートでは、ORRが36.9%、PFS中央値が7.62ヵ月であり、LCNECに限定した解析結果では、ORRが33.3%、PFS中央値が5.78ヵ月であることが報告された。低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法の再発NSCLCに対する第I相試験についても報告された。ORRは47%、DCRは87%であり、一定の効果が示されたが、奏効期間(DoR)中央値は2ヵ月であり、この点についてはまだまだ改善の余地があることが示された。PRを達成した患者では、ベースライン血清CEAレベルが有意に高いなどのサブグループ解析も報告された。Time-of-Day試験Time-of-Day(ToD)試験は、進行NSCLC患者における化学免疫療法を、早めの時間(15:00より前)と遅い時間(15:00以降)で投与した場合の比較を行った無作為化第III相試験である。概日リズムは睡眠、疾患、治療に影響を与えることが知られており、前臨床試験では概日リズムと免疫細胞機能・分布の関連性、および免疫療法の有効性への影響が示唆されていた。また、20報以上の後ろ向き研究のメタ解析では、免疫チェックポイント阻害薬の投与が「遅い時間」よりも「早い時間」に行われた場合に効果の改善が示されている。StageIIIC~IV期のNSCLC患者210例が、標準化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブまたはsintilimab)の初回4サイクルについて、早めの時間(15:00より前)または遅い時間(15:00以降開始)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はBICRによるPFS、副次評価項目はOS、BICRによるORR、全血リンパ球サブセット解析であった。早い時間に投与した場合のPFS中央値は11.3ヵ月であったのに対し、遅い時間では5.7ヵ月であり、ハザード比は0.42(95%CI:0.31~0.58)、p<0.0001で、統計学的に有意に早い時間に投与することの優越性が示された。OSにおいても、中央値がNot reachedと16.4ヵ月、ハザード比は0.45(95%CI:0.30~0.68)、p<0.0001であり、明らかに早い時間の投与で延長することが示された。有害事象発現割合については、若干の違いは認めるものの大きな違いは認められなかった。循環T細胞の解析では、早い時間群でCD8+T細胞とCD4+T細胞の有意な増加が示された一方で、遅い時間群では減少傾向がみられ、今回の試験結果を裏打ちする情報として示された。高額の薬剤を用いて新たな治療方法が模索されるなかで、投与時間の調整のみで大きなPFS、OSの違いをもたらした結果が、中国で実施された臨床試験から得られたことを会場の参加者は驚きをもって受け止めた。今後おそらくいくつかの追試が実施されるとともに、最適な投与時間のカットオフ(15時が最適か)についても検討が進められる見込みである。最後に今年のASCOは、肺がんによるPlenary演題はなかったものの、Plenaryであってもおかしくないインパクトを有する演題は複数発表された。注目すべきは、抗体医薬品を中心とした新たな薬剤の発表が続いたことだけでなく、周術期や免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングなど、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で展開していることである。引き続き目が離せない状態が続くと考えられる。

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第17回 米国10代で肥満症治療薬「セマグルチド」使用が50%急増、期待と懸念が交錯

アメリカの若者の間で深刻化する肥満。この問題に対し、新しい治療の選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬の肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ[Wegovy])の使用が、10代の若者たちの間で急増しています。ロイター通信が報じた最新のデータによると、その使用率は昨年1年間で50%増加しました1)。これは、長年有効な対策が限られていた若年層の肥満治療における大きな転換点であると同時に、専門家の間では期待と懸念の意見が交錯しています。深刻化する肥満と「最後の手段」としての新薬このニュースの背景には、米国の若者をめぐる深刻な健康問題があります。現在、米国の12~19歳の約23%、約800万人が肥満であるとされ、この割合は1980年の5%から大幅に増加しています。肥満は将来の糖尿病や心臓病のリスクを高めるため、長年、食事療法や運動といったライフスタイルの改善が推奨されてきましたが、それだけでは効果が不十分なケースが少なくありませんでした。こうした状況の中、製薬大手ノボ ノルディスク ファーマの開発したセマグルチドが、2022年後半に12歳以上の青少年への使用を承認されました。この薬には強力に食欲を抑える効果があり、臨床試験で高い有効性が示されています。米国小児科学会(AAP)も2023年1月に、12歳以上の肥満の子供に対し、生活習慣の改善と並行して減量薬を使用することを推奨するガイドラインを発表しています2)。こうした流れが、医師や患者家族の間でセマグルチドに対する信頼感を高め、使用の拡大につながったとみられています。50%増でも「氷山の一角」、使用率が示す現実ロイターが報じた分析によれば、セマグルチドの処方率は2023年の青少年10万人当たり9.9件だったのが、昨年(2024年)には14.8件と50%増加し、今年(2025年)の最初の3ヵ月では17.3件にまで伸びています。このデータは、全米130万人の12~17歳の電子カルテを分析したものです。しかし、この数字はまだ「氷山の一角」にすぎないという指摘もあります。実際、肥満の青少年は10万人当たり推定2万人いるとされており3)、現在の処方率はそのごくわずかにすぎません。残る長期的な安全性への懸念使用が拡大する一方で、懸念の声も上がっているのは事実です。とくに、体の発達において重要な時期にある青少年への長期的な影響については、まだデータが十分ではないという懸念です。また、これらの薬は使用を中止すると体重が元に戻る可能性があり、長期にわたって使い続ける必要があるかもしれないという課題も指摘されています。製造元のノボ ノルディスク ファーマは、臨床試験においてセマグルチドが「成長や思春期の発達に影響を与えるようにはみえなかった」として、その安全性と有効性に自信を示していますが、十分なエビデンスがあるとはいえません。確かにセマグルチドの登場は、これまで有効な手段が乏しかった青少年の肥満治療に大きな希望をもたらしています。しかし一方で、長期的な安全性や費用、そして「痩せ薬」として安易に使用されている現状への懸念など、社会が向き合うべき課題は少なくありません。この新しい治療法が、今後どのように若者たちの健康に影響を与えるのか、慎重に見守っていく必要があるでしょう。 参考文献・参考サイト 1) Terhune C, et al. Wegovy use among US teens up 50% as obesity crisis worsens. Reuters. 2025 Jun 4. 2) Hampl SE, et al. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Treatment of Children and Adolescents With Obesity. Pediatrics. 2023;151:e2022060640. 3) CDC. Childhood Obesity Facts. 2024 Apr 2.

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片頭痛に有効な運動介入は?

 トルコ・Ege UniversityのYunus Emre Meydanal氏らは、さまざまな種類の運動およびその組み合わせが、片頭痛発作および併存疾患に及ぼす影響を検討するため、パイロット研究を実施した。これまで、有酸素運動とレジスタンス運動との組み合わせは、片頭痛患者においてより顕著な症状改善が得られる可能性が示唆されていた。Headache誌オンライン版2025年5月20日号の報告。 本研究は、Ege University Hospitalにおいて、2022年9月〜2024年3月にかけて片頭痛患者24例を対象に、並行群間ランダム化比較試験のパイロット研究として実施した。対象患者は、有酸素運動群、複合運動群(有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせ)、対照群にランダム化した。ベースライン期間に1ヵ月間の頭痛日誌による調査を行った後、両介入群とも同じ有酸素運動を週3日、12週間行った。複合運動群には、有酸素運動に加え、首、背中上部、肩の筋肉をターゲットとした5種類のレジスタンス運動を行った。測定は、ベースライン時、3ヵ月の介入期間後、2ヵ月のフォローアップ期間後に実施した。主要アウトカムは、1ヵ月当たりの片頭痛日数とした。副次的アウトカムには、不安および抑うつレベル、有酸素能力、身体活動レベル、片頭痛関連の生活の質(QOL)とした。 主な結果は以下のとおり。・介入期間後、有酸素運動群および複合運動群(各々、p<0.001)では、1ヵ月当たりの片頭痛日数の有意な減少が認められたが、対照群(p=0.166)では変化が認められなかった。・片頭痛の頻度は、複合運動群において、有酸素運動群と比較し、統計学的に有意な減少が認められた(p=0.027)。・介入期間後、両介入群ともに有酸素運動能力(各々、p<0.001)および身体活動レベル(有酸素運動群:p<0.001、複合運動群:p=0.001)の有意な改善が認められたが、対照群(有酸素運動能力:p=0.747、身体活動レベル:p=0.05)では認められなかった。・両介入群において、抑うつスコアに対する有意な影響は認められなかったが、複合運動群では、介入前後で不安スコアの有意な減少が認められた(p=0.037)。・両介入群において、片頭痛関連QOLの有意な改善が認められたが(有酸素運動群:p=0.018、複合運動群:p=0.001)、両群間で差は認められなかった(p=0.934)。・対照群では、抑うつスコア(p=0.593)、不安スコア(p=0.438)、片頭痛関連QOL(p=0.081)の有意な変化は認められなかった。 著者らは「片頭痛患者に対する有酸素運動群および複合運動群は、副作用なしに1ヵ月当たりの片頭痛日数を減少させ、複合運動群ではその減少がより大きいことが示唆された」と結論付けている。

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フィネレノン、HFpEFの心血管死・心不全入院リスク減~プール解析(FINE-HEART)

 米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJohn W Ostrominski氏らが、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノン(商品名:ケレンディア)の3件の大規模試験(FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD、FINEARTS-HF)をプール解析した「FINE-HEART」から、フィネレノンは左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)の心血管死または心不全による入院を13%減少させることを示唆した。JACC:Heart Failure誌2025年8月号掲載の報告。 本研究は3試験をプール解析し、LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)あるいはHFpEF患者におけるフィネレノンの安全性・有効性を評価した。主要評価項目は、フィネレノンとプラセボの心血管死または心不全による入院に対する治療効果で、試験別に層別化したCox比例ハザード回帰モデルを用いた。副次評価項目は、心血管死、心不全による入院、新規発症心房細動、および全死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象1万8,991例のうち、7,008例(36.9%)がHFmrEF/HFpEF(平均年齢71±10歳、女性44%)であった。・追跡期間中央値2.5年において、フィネレノン群はプラセボ群と比較し、心血管死または心不全による入院を減少させた(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.78~0.96、p=0.008、試験全体の交互作用のp=0.24)。・主要なサブグループおよびベースラインの推定糸球体濾過量(交互作用のp=0.47)、尿アルブミン/クレアチニン比(交互作用のp=0.62)、HbA1c(交互作用のp=0.93)において、フィネレノン群で一貫した効果が認められた。・フィネレノン群は、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)および新規発症の心房細動(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を減少させたが、心血管死および全死亡率の統計学的に有意な減少は認められなかった。・フィネレノン群ではプラセボ群と比較して高カリウム血症の発生率が高く、低カリウム血症は低かった。・重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であった。 研究者らは、「HFmrEFまたはHFpEFの参加者データをプール解析したことで、高リスクで不明瞭な点が多いHFpEF患者に対するフィネレノンの安全性と有効性に対する理解が深まる可能性がある。心血管・腎臓・代謝リスクと広範囲にわたり、HFmrEF/HFpEF患者へのフィネレノンの使用が支持される」としている。

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デスモプレシン、重大な副作用にアナフィラキシー追加/厚労省

 厚生労働省は2025年6月24日、男性の夜間頻尿や中枢性尿崩症治療薬として使用される脳下垂体ホルモン薬のデスモプレシン酢酸塩水和物(以下、デスモプレシン)と甲状腺・副甲状腺ホルモン薬のチアマゾールに対して、添付文書の改訂指示を発出した。副作用の項に重大な副作用を新設し、デスモプレシンの経口剤と点鼻剤の両剤形においてアナフィラキシーの追記が、チアマゾールには急性膵炎の追記がなされた。なお、デスモプレシンの点鼻剤には、合併症・既往歴等のある患者の項にもアナフィラキシーの発現について追記がなされた。 対象製品は以下のとおり。デスモプレシン酢酸塩水和物(経口剤) ミニリンメルトOD錠25μg、同50μg ミニリンメルトOD錠60μg ミニリンメルトOD錠120μg、同240μg<重大な副作用> アナフィラキシーデスモプレシン酢酸塩水和物(点鼻剤) デスモプレシン点鼻スプレー2.5μg「フェリング」 デスモプレシン・スプレー10協和 ほか<合併症・既往歴等のある患者> 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。アナフィラキシーが発現するおそれがある。<重大な副作用> アナフィラキシー 本剤のアナフィラキシー関連症例を評価した結果、デスモプレシン(注射剤)とアナフィラキシーとの因果関係が否定できない症例が集積したこと(令和7月4月8日改訂指示通知)から、経口剤および点鼻剤の使用上の注意を改訂することが適切と判断された。ただし、中枢性尿崩症の効能を有する点鼻剤(デスモプレシン点鼻スプレー2.5μg「フェリング」)については代替薬がなく、禁忌を設定した場合に医療現場で不利益を被る可能性が考えられたため、点鼻剤については「禁忌」の項への追記は行わず、「合併症・既往歴等のある患者」の項にのみの追記とし、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない旨の注意喚起を追記することが適切と判断された。チアマゾール メルカゾール錠2.5mg、同5mg メルカゾール注10mg<重大な副作用> 急性膵炎 上腹部痛、背部痛、発熱、嘔吐などの症状、膵酵素異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。 急性膵炎関連症例および疫学文献などを評価した結果、本剤と急性膵炎との因果関係が否定できない症例が集積したこと、本剤と急性膵炎との関連を示唆する疫学文献が複数報告されていることから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。

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進行肛門扁平上皮がん、標準治療vs. retifanlimab上乗せ/Lancet

 プラチナ製剤化学療法中に病勢進行した進行肛門管扁平上皮がん(SCAC)において、retifanlimabは抗腫瘍活性を示すことが報告されている。英国・Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのSheela Rao氏らPOD1UM-303/InterAACT-2 study investigatorsは、本疾患の初回治療における、カルボプラチン+パクリタキセル療法へのretifanlimab上乗せを前向きに評価する、第III相の国際多施設共同二重盲検無作為化対照試験「POD1UM-303/InterAACT-2試験」を行い、臨床的ベネフィットが示され、安全性プロファイルは管理可能であったことを報告した。著者は、「結果は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法が、進行SCAC患者に対する新たな標準治療と見なすべきであることを示すものであった」とまとめている。Lancet誌2025年6月14日号掲載の報告。日本を含む12ヵ国70施設で試験 POD1UM-303/InterAACT-2試験は、EU、オーストラリア、日本、英国、米国の12ヵ国70施設で行われた。対象者は、18歳以上、切除不能の局所再発または転移のあるSCACでECOG performance status が0または1、全身療法歴なし、HIVのコントロール良好(CD4陽性Tリンパ球数200/μL超、ウイルス量検出限界未満)な患者を適格とした。 被験者は、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセルに加えてretifanlimab 500mgまたはプラセボを4週ごと静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、最長1年間投与された。プラセボ群の被験者は、病勢進行が確認された場合にretifanlimab単独投与への切り替えが可能であった。 主要評価項目は、RECIST 1.1に基づく独立中央判定の無増悪生存期間(PFS、すなわち無作為化の日から最初に記録された病勢進行またはあらゆる原因による死亡の日まで)とした。有効性はITT集団で評価した。PFS中央値はretifanlimab群9.3ヵ月、プラセボ群7.4ヵ月、HRは0.63 2020年11月12日~2023年7月3日に、376例が適格性の評価を受け、308例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)またはプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)に無作為化された。222/308例(72%)が女性で、86/308例(28%)が男性であった。 PFS中央値は、retifanlimab群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)、プラセボ群7.4ヵ月(7.1~7.7)であった(ハザード比[HR]:0.63[95%CI:0.47~0.84]、片側p=0.0006)。 重篤およびGrade3以上の有害事象は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(47.4%および83.1%)がプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(38.8%および75.0%)より発現頻度が高かった。最も多かったGrade3以上の有害事象は、好中球減少症(それぞれ35.1%vs.29.6%)および貧血(19.5%vs.20.4%)であった。 致死的有害事象4例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群で発現したが、治療に関連したものは1例(汎血球減少症)のみであった。また、プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群では致死的有害事象が1例発現したが、治療に関連していなかった。

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CLLの1次治療、I-V併用vs.イブルチニブ単独vs.FCR/NEJM

 慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、イブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)併用療法はイブルチニブ単独またはフルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ(FCR)療法と比較して、測定可能残存病変(MRD)陰性および無増悪生存期間(PFS)延長の達成割合が高かったことが示された。英国・Leeds Cancer CentreのTalha Munir氏らUK CLL Trials Groupが第III相の多施設共同非盲検無作為化試験「FLAIR試験」の結果を報告した。同試験のPFSの中間解析では、MRDに基づいて投与期間を最適化するI-V併用療法はFCR療法に対する優越性が示されていたが、イブルチニブ単独と比較した有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年6月15日号掲載の報告。2年以内の骨髄MRD陰性、PFSなどを評価 FLAIR試験は英国の99病院で行われ、18~75歳、未治療のCLLまたは小リンパ球性リンパ腫(SLL)で、治療担当医師によりFCR療法の適応と判定された患者を対象とした。 被験者は、I-V群、イブルチニブ単独群、FCR群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、追跡評価を受けた。 主要評価項目は、イブルチニブ単独群と比較したI-V群の2年以内の骨髄MRD陰性、およびFCR群と比較したI-V群のPFSであった。 検出力のある副次評価項目は、イブルチニブ単独群と比較したI-V群のPFSとした。その他の副次評価項目は全生存期間などであった。I-V群の2年以内の骨髄MRD陰性率はイブルチニブ単独群と有意差 2017年7月20日~2021年3月24日に、786例が無作為化された(I-V群260例、イブルチニブ単独群263例、FCR群263例)。被験者の人口統計学的および臨床特性は3群間でバランスが取れていた。被験者の年齢中央値は62歳(四分位範囲:56~67)、65歳以上の割合が31.4%で、男性が71.1%であった。 2年以内の骨髄MRD陰性を達成した患者は、I-V群172/260例(66.2%)に対し、イブルチニブ単独群0/263例(p<0.001)、FCR群は127/263例(48.3%)であった。 追跡期間中央値62.2ヵ月で、病勢進行または死亡の報告は、I-V群18例(6.9%)であったのに対し、イブルチニブ単独群59例(22.4%)であり(ハザード比[HR]:0.29、95%信頼区間[CI]:0.17~0.49、p<0.001)、FCR群112例(42.6%)であった(0.13、0.08~0.21、p<0.001)。5年PFS率は、I-V群93.9%、イブルチニブ単独群79.0%、FCR群58.1%だった。 死亡は、I-V群11例(4.2%)であったのに対し、イブルチニブ単独群26例(9.9%)であり(HR:0.41、95%CI:0.20~0.83)、FCR群39例(14.8%)であった(0.26、0.13~0.50)。突然死は、I-V群3例、イブルチニブ単独群8例、FCR群4例で報告された。

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スマホ画像からAIモデルがアトピー性皮膚炎の重症度を評価

 アトピー性皮膚炎患者は近い将来、スマートフォン(以下、スマホ)のアプリに自分の皮疹の画像を投稿することで、その重症度を知ることができるようになるかもしれない。慶應義塾大学医学部皮膚科学教室・同大学病院アレルギーセンターの足立剛也氏らが、患者が撮影した画像からアトピー性皮膚炎の重症度を評価するAIモデル「AI-TIS」を開発したことを発表した。この研究結果は、「Allergy」に5月19日掲載された。 足立氏は、「多くのアトピー性皮膚炎患者が、自分の皮疹の重症度を評価するのに苦労している。われわれが開発したAIモデルを使えば、スマホだけで疾患をリアルタイムで客観的に追跡することが可能になり、病状管理の改善につながる可能性がある」と慶應大学のニュースリリースで述べている。 研究グループによると、アトピー性皮膚炎は再発を繰り返す傾向があり、長期にわたる監視と治療の調整が必要になる。しかし、患者から報告される皮膚のかゆみや睡眠不足などの症状は、肉眼で見た皮疹の状態と必ずしも一致するわけではないという。 足立氏らは、皮疹の重症度を解析・評価するAIモデルを構築するために、日本のアトピー性皮膚炎患者2万8,000人以上が使用している投稿型アプリに蓄積された5万7,429枚の画像データから、自己申告のかゆみスコアが記録された9,656枚(900人分)の画像を抽出した。まず、身体部位の検出、皮膚病変の検出、および重症度の評価のアルゴリズムを880枚の画像セットで学習させて統合した。このモデルは、全身画像ではなく代表的な皮疹画像を解析対象とするため、紅斑、浮腫/丘疹、ひっかき傷を基に局所的な重症度を0〜9点で評価する3項目重症度(Three Item Severity;TIS)スコアが採用された。次に、別の220枚の画像セットでモデルの性能を評価した。 その結果、このモデルの身体部位の同定率は98%、皮疹部位の同定率は100%であり、重症度評価についても認定皮膚科医やアレルギー専門医によるスコアと強い相関を示した。一方、残る8,556枚の画像を用いて、AIモデルと患者の自己評価によるかゆみスコア(Itch-NRS-5)との関係を検討したところ、相関は低いことが示された。研究グループは、「これは、AI-TISによる皮疹の重症度の客観的評価とItch-NRS-5によるかゆみの主観的評価が、必ずしも一致しないことを示唆する結果である」としている。 足立氏らは今後、より多様なスキンタイプ(肌の色や質)と年齢層のデータに加え、皮疹の他の臨床スコアリングシステムからの追加機能も組み込んで、AIモデルをトレーニングする予定であるという。同氏らは、「本研究で開発されたAIモデルは、アトピー性皮膚炎患者が皮膚の状態を客観的に評価し、適切なタイミングで適切な治療を受けることを促進する可能性を秘めている。本研究は、AIを活用した皮膚評価の今後の進歩の基盤となり、患者ケアと臨床研究の両方を向上させるだろう」と述べている。

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社会との関わりが高齢者の寿命を延ばす?

 長生きしたいのなら、社会と関わりを持ち続けることが大切なようだ。新たな研究で、他者との交流、スポーツや趣味のグループへの参加、慈善活動などを通して社会的関わりを持っている高齢者では、孤独な高齢者に比べて死亡リスクの低いことが明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のAshraf Abugroun氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に5月21日掲載された。 Abugroun氏は、「社会的関わりを持つことは単なるライフスタイルの選択ではなく、健康的な老化と長寿に密接に関連している」と同誌の発行元であるWiley社のニュースリリースの中で述べている。 社会的関わりは健康的な老化に寄与することが知られているが、社会的関わりと死亡リスクをつなげるメカニズムは十分に解明されていない。この研究では、現在も継続中の健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)に参加している60歳以上の米国人2,268人を追跡調査し、両者の関係を媒介する因子について検討した。HRS参加者は2016年に、心理社会的側面とライフスタイルに関する質問票に回答するとともに血液サンプルを提供していた。社会的関わりは、9項目の「HRS社会参加質問票」を用いて評価され、「低い」「中程度」「高い」の3つのカテゴリーに分類された。 解析の結果、社会的関わりが高い群と中程度の群では低い群と比べて、4年間の追跡期間における死亡リスクがそれぞれ42%(調整ハザード比0.58)と47%(同0.53)低いことが明らかになった。有意な死亡リスクの低下と関連していた具体的な社会的関わりは、ボランティアや慈善活動(51%の低下)、社交クラブやスポーツクラブへの参加(28%の低下)、孫と頻繁に遊ぶこと(18%の低下)の3つだった。また、社会的関わりが高い群は中程度の群や低い群と比較して、生物学的年齢の中央値が低く、抑うつ症状のある人の割合が有意に低く、運動や喫煙などの健康的な行動の指標が有意に良好だった。社会的関わりが死亡リスクを低下させる効果は、定期的な身体活動(16%)と生物学的年齢の遅延(15%)によって部分的に媒介されていた。一方、抑うつ症状の強さや過度の飲酒、喫煙などの因子は有意な媒介効果を示さなかった。 Abugroun氏は、「これらの結果は、地域社会との関わりの維持が高齢者の健康増進にいかに寄与するかを強調している」と述べている。

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がん診断後の運動習慣が生存率と関連

 がんと診断された後の運動習慣が、生存率と関連しているとする研究結果が報告された。年齢やがんのステージなどの影響を考慮しても、運動量が多いほど生存率が高いという。米国がん協会(ACS)のErika Rees-Punia氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the National Cancer Institute」に5月21日掲載された。 運動が健康に良いことは古くから知られている。しかしがん診断後には、がん自体や治療の影響で体力が低下しやすく、運動が困難になることも少なくない。たとえそうであっても習慣的な運動が予後にとって重要なようだ。Rees-Punia氏は、「われわれの研究結果は、がん診断後に活動的に過ごすことが生存の確率を有意に高める可能性を示唆する、重要なエビデンスだ」と述べている。 この研究は、米国を拠点として行われた6件のコホート研究のデータを統合し、がんサバイバー9万844人(診断時の平均年齢67±10歳、女性55%)を対象として実施された。習慣的な運動量は、がん診断後1年以上経過した時点で評価されていた。10.9±7.0年の追跡期間中に4万5,477人が死亡。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、喫煙・飲酒状況、がんのステージ・治療内容)は、統計学的に調整した。 解析の結果、運動を全くしていない人に比べ、ある程度の運動を行っている人の死亡リスクは平均約29%低いことが明らかになった。また、ガイドラインで推奨されている運動量(週に中強度運動を150分、または高強度運動を75分)を満たしている人ではリスクが平均約42%低く、さらに推奨量の2~3倍の運動をしている人は約57%低リスクだった。なお、米疾病対策センター(CDC)は、中強度の運動の例として、早歩き、社交ダンス、軽い庭仕事、ヨガなど、高強度運動の例として、ランニング、水泳、高速でのサイクリング、土の掘り起こしといった庭仕事などを挙げている。 運動により死亡リスクが抑制される可能性のあるがんは10種類あり、ガイドラインが推奨する運動を行っていた場合のリスク低下の程度(ハザード比〔95%信頼区間〕)は以下のとおり。口腔がん(0.44〔0.27~0.73〕)、子宮内膜がん(0.50〔0.34~0.76〕)、肺がん(0.51〔0.38~0.68〕)、直腸がん(0.51〔0.36~0.71〕)、呼吸器がん(0.51〔0.29~0.72〕)、膀胱がん(0.53〔0.40~0.72〕)、腎臓がん(0.53〔0.37~0.77〕)、前立腺がん(0.60〔0.49~0.74〕)、結腸がん(0.61〔0.50~0.76〕)、乳がん(0.67〔0.55~0.81〕)。なお、これら10種類のがんのうち8種類については、追跡開始後の最初の2年以内に死亡した参加者を除外した解析でも有意なリスク低下が認められた。 Rees-Punia氏はこの結果に基づき、「がん治療によって肉体的・精神的な消耗を来しやすいため、運動は大変だと感じられるかもしれない。しかし、全く運動をしないよりは少しでもした方が良い。自分が楽しめる運動を見つけたり、友人と一緒に運動してみたりすると良いのではないか」とアドバイスしている。

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臨床区域麻酔科学書

区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポート!超音波ガイド下区域麻酔を行うにあたり、各区域麻酔がどのような外科手術に適応となるのか、穿刺手技はどうしたら良いかなど、必要な解剖、適応、穿刺法、起こりうる合併症とその対策について解説。また神経生理や薬理、必要機器の基本的知識、抗凝固療法、および区域麻酔の応用として小児区域麻酔、無痛分娩、Awake craniotomy、心臓血管麻酔についても取り上げた。安全な区域麻酔の実臨床に必須の1冊。【特長】1)区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポートする。2)手技の理解や実践に役立つアドバイス、注釈、コラムなどの補足情報が充実。3)最新のエビデンス、最近の傾向や注意点を的確にフォロー。4)紙面の二次元コードから端末機器で穿刺動画等を見ながら手技の実際を学べる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する臨床区域麻酔科学書定価14,300円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年6月編集日本麻酔科医会連合出版部編集主幹廣田 和美(日本麻酔科医会連合理事/青森県立中央病院 院長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第269回 「骨太の方針2025」の注目ポイント(前編) 社会保障関係費は「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という“目安”対応が見直され、「経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分も加算」と明記

今年の骨太のキャッチコピーは「『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は話題の映画、『国宝』(監督:李 相日)を観てきました。都内の映画館、土曜・日曜のお昼の回はどこもほぼ満席で、中央中段の席が空いていた日本橋の映画館までわざわざ足を運びました。1年半稽古をしたという吉沢 亮、横浜 流星の歌舞伎の演技もさることながら、吉田 修一の長編小説をうまく刈り込んで、3時間の映画にまとめあげた李監督の力量に感服しました。おそらく今年度の映画賞(ひょっとしたら海外も)を総なめにすることでしょう。映画のジャンルとしては昔からある「芸道もの」で、古くは溝口 健二監督の『残菊物語』、成瀬 巳喜男監督の『芝居道』などが有名です。李監督もそうした「芸道もの」の定石に法って、女性を踏み台(あるいは犠牲)に、芸の道を極めようとする主人公を描いています。今なら批判が出てもおかしくないようなシチュエーションや描写に対して今のところ大きな批判が出ていないのは、美男2人の迫真の演技ゆえかもしれません。DVD発売や配信を待つのではなく、できるだけ大きなスクリーンの映画館での鑑賞をお薦めします。さて、今回は、6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025~『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ~」(骨太の方針2025)について書いてみたいと思います。『今日より明日はよくなる』とは、どこかで聴いた歌謡曲の歌詞のようなベタなコピーですが、それぐらい国民の経済状況が“悪い”と政府が実感している証とも言えます。医療・介護など社会保障関連の予算については、従来の「高齢化による増加分に相当する伸び」に加えて、「経済・物価動向等」を踏まえた増額を行う方針が明示され、日本医師会はじめ医療関係団体もいつになく「骨太の方針」に対し「評価」のコメントを出しています。「経済・物価動向等を踏まえた対応」という文言が原案の脚注から本文に格上げ「骨太の方針2025」において医療や社会保障関連の内容は、主に「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「2.主要分野ごとの重要課題と取組方針」の中の「(1)全世代型社会保障の構築」に書かれています。全体の章立ては基本、「骨太の方針2024」と同じで、「重要課題」の筆頭が「全世代型社会保障の構築」になっている点も変わっていません。昨年の「骨太の方針2024」では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備、新たな地域医療構想、医師の偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージなどが明記され、それぞれ制度の創設等が2024年度内に決定したことを考えると、「骨太の方針」に何がどのように記述されるかは依然、重要な意味を持っています(「第218回 2040年に向けさまざまな改革が本格始動、「骨太の方針2024」から見えてくる医療提供体制の近未来像」参照)。まず、最重要と考えられる2027年度の予算編成に向けての方針ですが、社会保障関係費については「医療・介護等の現場の厳しい現状や税収等を含めた財政の状況を踏まえ、これまでの改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」とされ、続いて「具体的には、高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と記されました。この「具体的に…」以降の一文の内容は、6月6日に公表された「骨太の方針2025(原案)」では脚注に記されていたものです(文言は一部変更)。日本医師会をはじめとする医療関係団体は、かねてから「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という従来からあった社会保障予算の“目安”対応の見直しを求めていましたが、今回、原案に「経済・物価動向等を踏まえた対応」という文言が脚注として入り、さらにその内容が正式な「骨太の方針2025」の本文に格上げされたわけで、来年度の診療報酬改定率などの方向性を考えると、その意味はとても大きいと言えるでしょう。「社会保障費の増加は高齢化による伸びだけに抑える」というこれまでの“目安”の対応を見直し社会保障予算の“目安”対応とは、「骨太の方針2021」に記述された「社会保障関係費については、基盤強化期間においてその実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること、経済・物価動向等を踏まえ、その方針を継続する」という文言に基づいて政府が継続してきた対応のことで、「社会保障費の増加は高齢化による増加分に相当する伸びだけに抑える」という方針を指します。2021年段階では物価高がここまで進むとは政府も考えていなかったのでしょう。現実と乖離し、医療機関経営にも大きな影響を与えてきたと考えられる“目安”対応に医療関係団体は大きな不満を抱いてきたわけです。2021年度以降続いたこの方針は、「骨太の方針2024」では全体の予算編成に関して、「歳出改革努力を継続しつつ、経済・物価動向等を踏まえ、各年度の予算編成において適切に反映する」と記述され、「経済・物価動向」という文言が入りました。しかし、具体的な社会保障関係費についての記述にこの文言はなく、“目安”対応の方針は継続中であると捉えられていました。今回、社会保障関係費について、「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と明記され、“目安”対応が正式に見直されることになったことで、2026年度診療報酬改定からは高齢化による伸びに加え、経済・物価対応による増加分も考慮されることが期待されます。「年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなった」と日医会長なお、以上の“目安”対応の方針変更を踏まえ、「(1)全世代型社会保障の構築」の項では、「医療・介護・障害福祉等の公定価格の分野の賃上げ、経営の安定、離職防止、人材確保がしっかり図られるよう、コストカット型からの転換を明確に図る必要がある。このため、これまでの歳出改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、次期報酬改定を始めとした必要な対応策において、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」と記述されています。日本医師会の松本 吉郎会長は6月18日の定例記者会見で「骨太の方針2025」について「歳出改革の中での引き算ではなく、物価・賃金対応分を加算するという足し算の論理となり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなった」と評価するコメントを出しています。「骨太の方針2025」のその他の注目点は、「骨太の方針2025」(原案)の段階では言及がなかった、自民党・公明党・日本維新の会の「3党合意」の内容がどの程度反映されるかでした。個人的には、「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」、「新たな地域医療構想に向けた病床削減」がどの程度詳細に記述されるかが気になっていました。では、どんな形で盛り込まれたのでしょうか。(この項続く)

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術後の吐き気、AI解析による最大のリスク因子は「総出血量」【論文から学ぶ看護の新常識】第20回

術後の吐き気、AI解析による最大のリスク因子は「総出血量」人工知能(AI)を用いて術後悪心・嘔吐(Postoperative nausea and vomiting:PONV)のリスク因子を解析した研究で、最大のリスク因子は「総出血量」である可能性が示されました。星島 宏氏らの研究で、PLOS One誌2024年8月号に掲載された。人工知能を用いた成人の術後悪心・嘔吐のリスク因子の特定研究チームは、人工知能(AI)を用いて術後悪心・嘔吐(PONV)のリスク因子を特定することを目的に、2010年1月1日から2019年12月31日までに東北大学病院で全身麻酔下手術を受けた成人患者37,548例のデータを分析した。PONVの評価は術後24時間以内に悪心・嘔吐を経験、または制吐薬を使用した患者とし、術後の診療録および看護記録から抽出した。機械学習アルゴリズムの1つである勾配ブースティングツリーモデルを用いて、PONVの発生確率を予測するモデルを構築した。モデルの実装にはLightGBMフレームワークを使用した。主な結果は以下の通り。最終的に、データが利用可能であったのは33,676例であった。総出血量がPONVへの最も強力な寄与因子として特定され、次いで性別、総輸液量、患者の年齢が続いた。その他に特定されたリスク因子は、手術時間(60~400分)、輸血なし、デスフルランの使用、腹腔鏡手術、術中の側臥位、プロポフォールの不使用、腰椎レベルの硬膜外麻酔であった。麻酔時間、およびセボフルランまたはフェンタニルの使用は、PONVのリスク因子として特定されなかった。術中総出血量は、手術時間や循環血液量不足と相関する可能性はあるものの、PONVと最も強く関連する潜在的なリスク因子として特定された。今回ご紹介する研究は、AIを使ってPONVのリスク因子を分析し、予測モデルを構築した興味深い論文です。研究では、LightGBMという機械学習モデルを使用し、各因子が予測にどれだけ「貢献」したかを評価するためにSHAP値(SHapley Additive exPlanations)を用いています。SHAP値が0より大きい場合、その因子はPONVのリスクを高める方向に影響した、つまりリスク因子として働いたと解釈されます。PONVのような多様な要因が複雑に絡みあう事象では、このような機械学習での評価が、従来の統計的手法よりも各因子の影響を適切に示せる可能性があります。このSHAP値を用いた分析から、従来のリスク因子として報告されている「女性」、「若年(20~50歳)」、「デスフルランの使用」、「プロポフォールの不使用」なども本研究でリスク因子として確認されました。そして、今回の解析でPONVの予測に最も強く貢献した因子は「術中の総出血量」であることが特定されました。研究では、とくに総出血量が1~2,500mlの範囲でPONVのリスクが高まる関連が示されています。これは、出血による循環血液量不足や術中低血圧がPONVに関与している可能性を示唆しています。また、従来リスク因子とされている「麻酔時間」、「セボフルランの使用」や「フェンタニルの使用」は、今回のAI分析ではリスク因子として特定されませんでした。その一方で、「手術時間(60~400分)」はリスク因子であることが示されています。この結果は、麻酔そのものの時間よりも、手術侵襲などといった手術自体の身体的負担がPONVに関与している可能性を示唆しています。これらの知見を踏まえて、侵襲が多い手術では全身管理がもっとも大事ですが、同時にPONVの発生にも一層の注意が必要です。頭部付近への防水シーツの設置、ガーグルベースンなどの嘔吐物を受ける容器の準備、いつでも制吐剤が投与できるような事前準備をしておきましょう。最後に、本研究は単施設の研究であるため、一般化できるかは今後さらなる検証が必要です。しかし、今回のPONVのように、今後AI解析によって既存の報告以外のリスク因子が報告される可能性があります。常に最新の知識をアップデートしていきましょう!論文はこちらHoshijima H, et al. PLoS One. 2024;19(8):e0308755.

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