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定期的な診察で心不全患者の全死亡リスクが低下

 心不全(HF)患者の5人に2人は、心不全の重症度にかかわりなく循環器専門医の診察を定期的に受けていないことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、専門医の診察を年に1回受けているHF患者では翌年の死亡リスクが24%低下することも示されたという。ナンシー大学病院(フランス)臨床研究センターのGuillaume Baudry氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に5月18日掲載された。 HFとは、心臓のポンプ機能が低下し、体が必要とする酸素や栄養を十分に送り届けられない状態を指す。Baudry氏は、「通常、HFを治すことはできないが、適切な治療を行えば症状を何年もコントロールできることが多い」と欧州心臓学会(ESC)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、HF患者の予後と管理を、利尿薬の使用およびHFによる入院歴(HF hospitalization;HFH)という基準で分類して調査した。対象は、過去5年間にHFの診断を受け2020年1月時点で生存が確認されたフランスのHF患者65万5,919人(年齢中央値80歳、女性48%)。これらの患者は、1)過去1年以内のHFHあり(20.4%)、2)1〜5年前にHFHあり(27.6%)、3)HFHはないがループ利尿薬の使用あり(28.3%)、4)HFHもループ利尿薬の使用もない(23.7%)、の4群に分類された。予後の指標は、全死亡、HFH、および両者の複合アウトカムとし、期間は2020年1月1日から2022年12月31日までの間とした。 その結果、2020年に循環器専門医の診察を受けた対象者の割合は59%にとどまることが明らかになった。診察を受けた割合と診察回数(中央値2回)は、4群間で似通っていた。全死亡リスクは、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群と比較して、「HFHはないがループ利尿薬の使用あり」群で1.61倍、「1〜5年前にHFHあり」群で1.83倍、「過去1年以内のHFHあり」群で2.32倍であった。HFHリスクと複合アウトカム(HFHまたは全死亡)のリスクについても同様の傾向が見られた。 また、全死亡リスクは、2019年に循環器専門医の診察を受けなかった群を基準とした場合、1回の受診で24%、2~3回の受診で31%、4回以上の受診で38%の低下という具合に、受診回数が増えるほど有意に低下した。一方で、HFHリスクは、受診回数が増えてもわずかに上昇する傾向を示した(調整ハザード比1.01~1.04)。循環器専門医を1回受診した場合と受診しなかった場合の1年間の全死亡リスクの差(絶対リスク差)は、4群間でおおむね一貫しており、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群の6.3%から「1〜5年前にHFHあり」群の9.2%までの範囲だった。 Baudry氏は、「本研究結果は、臨床的に安定して見えるHF患者においても、専門医によるフォローアップが潜在的に重要であることを浮き彫りにしている。特に、最近入院していた患者や利尿薬を使用している患者は、循環器専門医の診察を受けることを積極的に考慮してほしい」と述べている。 論文の上席著者であるナンシー大学病院のNicolas Girerd氏は、「HF患者が循環器専門医の診察を受けない理由はいくつも考えられる。本研究では、例えば、高齢者や女性、糖尿病や肺疾患といった他の慢性疾患を抱える患者は、専門医の診察を受ける可能性が低いことが示された。こうした違いは世界中の多くの国で確認されている」とニュースリリースの中で述べている。

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Amazonの想定外!【Dr. 中島の 新・徒然草】(584)

五百八十四の段 Amazonの想定外!ある日のこと。朝から曇天でしたが、昼からポツポツと小雨が降り始めました。ひょっとして梅雨が始まったのか?そう思っていたら、ちょうどこの日が近畿地方の梅雨入りと発表されました。さて、私は以前から、オンラインショッピングのAmazonを愛用しております。とくに便利だと感じるのは、リアル店舗では見つけにくい品物の購入。欲しい物がすぐに見つかり、自宅やコンビニで受け取れるのは大変ありがたいことです。ところが先日、思わぬ出来事がありました。愛用の歯ブラシが古くなったので、新しいものをAmazonで2本注文したのです。その直後、ノートを使い切ってしまったことを思い出し、それも併せて注文。このノートは2冊で1セットらしいので、2冊分注文しました。よって最終的な注文は、歯ブラシ2本とノートが2冊。私はいつも、商品の受け取りを近所のコンビニに指定しています。自宅で受け取るよりも手軽で便利そのもの。数日後、例の歯ブラシとノートをコンビニに取りに行きました。受け取ったのは、Amazon特有の茶色い大型封筒が2つです。帰宅して封筒を開封すると、中から出てきたのは歯ブラシが1本だけ。「あれれ?」と思いました。確かに私は2本注文し、2本分の代金も支払っています。そこでAmazonのカスタマーサービスへの連絡を試みました。Amazonのカスタマーサービスには大きく分けて2つの方法があります。1つは「担当者からの電話をリクエストする」方法。もう1つは「チャットで問い合わせる」方法です。時間はすでに夜遅かったので、私はチャットを選びました。ところが、このチャットがなかなか一筋縄ではいきません。「返品・交換」などの定型項目しか選択できず「商品の数が足りない」という項目が見当たらないのです。悪戦苦闘の後に自由記載欄が現れ、そこに「歯ブラシを2本注文したが、1本しか入っていなかった」と入力しました。ところが送信した途端、また最初の選択画面に戻ってしまったのです。結局、同じ手続きを3度ほど繰り返したところで私は諦めました。「ええ加減にせえよ!」と腹を立てつつ電話リクエストを試すことに……携帯電話の番号を入力すると、15秒ほどで電話がかかってきました。電話の向こうは爽やかな声の男性で、トラブルの内容を説明すると「確認いたしますので、切らずにお待ちください」とのこと。そのとき、ふと「もしや?」と思い、まだ開けていなかったもう1つの封筒を開けてみました。すると、中から出てきたのはノート2冊と、なんともう1本の歯ブラシだったのです!これは完全に想定外でした。ほどなくして電話に戻ってきたのは先ほどの爽やか青年。私は恐縮しながら、封筒を2つ開けたら問題は自然に解決した、ということを伝えました。青年によれば、発送センターが異なっていたのではないでしょうか、とのこと。つまり、1本の歯ブラシがAセンターから、ノート2冊ともう1本の歯ブラシがBセンターから発送されたのかも、というわけです。もう10年以上もAmazonを愛用しておりますが、今回のようなケースは初めて。幸い、私自身も爽やかモードで電話をしていたため、事なきを得ました。もし感情的に話を切り出していたら、大変みっともない結果になっていたに違いありません。誰に対してもとりあえず丁寧に接しておけば間違いはない、ということですね。最後に1句降り続く 雨で頭を 冷やすべし

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映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】Part 1

今回のキーワードカタルシスエモーション・フォーカスト・セラピーメタ認知マインドフルネス仲間意識友情皆さんは、演じるのは好きですか? 演じるのを見るのは好きですか? それでは、なぜ演じるのでしょうか? なぜ演じるのを見たいのでしょうか?今回は、映画「シンシン」を通して、演技の心理をテーマに、その機能を掘り下げてみましょう。なんで演じるの?-演技の機能舞台は米国ニューヨーク州の最重警備刑務所シンシン。主人公のディヴァインGは、無実の罪で25年もの期間で収監されています。そんな彼の心の支えは、更生プログラムの1つである演劇グループに所属して、日々仲間たちと演劇に取り組むことでした。ある日、シンシンいち恐れられている元ギャングのマクリンがやってきて、自分もやってみたいと言い出し…それでは、まずいくつかのシーンを通して、演技の機能を3つ挙げてみましょう。(1)感情を解き放つ-カタルシスマクリンは、エジプトの王様の役になるのですが、最初セリフに集中しすぎて、表情がいまいち冴えません。その時、ディヴァインGは、「きみはこの刑務所いちの王様だよな。そんな気分で演じてみたらどうかな?」と助言するのです。すると、マクリンは急に目の色を変えて「おれはこの刑務所の王様だ!おれがここを支配している!」とアドリブで言い出し、まさにエジプトの王様のように振舞うのです。表情が生き生きとして、気分も良さそうです。実は、彼は以前からいつも疑心暗鬼になり、常にナイフを持ち歩き、素直な感情を押し殺して生きてきたのでした。そんな彼が、演劇に出会い、自由に自己表現することの喜びを知ったのでした。1つ目の機能は、感情を解き放つ、カタルシス(浄化)です1)。これは、演技という枠組みの中で抑えていた感情を自由に出すことで、気持ちのわだかまりを洗い流し、すっきりすることです。ただ感情を爆発させるのは社会で受け入れられませんが、演技というルールのなかでは逆に好まれるというわけです。ちょうど、暴力は社会では受け入れられませんが、格闘技というルールのなかでは逆に好まれるのと似ています。このカタルシスは、その演技を見る観客も味わうことができます。それは、観客が演技する演者に共感することで、カタルシスを追体験できるからです。なお、その演劇グループに外部から来ている演出家のブレントは、「怒りの演技は簡単だ。難しいのは傷つく演技だ」と説明していました。この理由は、怒りがストレートな単一感情(一次感情)であるのに対して、傷つく感情は悲しみや怒りなどの基本感情と、恥や悔しさなどの社会的感情が織り交ざり見え隠れする複合感情(二次感情)だからです。ちょうど、その後に仮釈放委員会で却下を伝えられた時のディヴァインGの表情(この映画のなかでは演技ではなく真の表情)が当てはまります。ちなみに、このような感情に焦点を当てて気付きや受容を促す心理療法は、エモーション・フォーカスト・セラピー(感情焦点化療法)と呼ばれ、この映画の演劇グループのウォーミングアップのシーンでたびたび行われていました。次のページへ >>

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映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】Part 2

(2)自分を俯瞰する―メタ認知ディヴァインGは、マクリンに「おれたちは演技することで、人生に向き合えるんだ。おまえだってそうだ」「脱獄した気分にもなれる」「芝居でシャバの世界を味わえるんだ。頭の中で出所できる」と演劇の魅力を語ります。海賊、剣闘士、エジプトの王様などの演技を通して、心の自由を得ることができ、人間として生きている日々の喜びを実感できるということです。これは、演出家のブレントの「プロセスを信じろ」というセリフにも通じます。演劇の更生プログラムは、舞台に立ってうまい演技するという結果ではなく、そこに至るプロセス自体が彼らを救済するということです。また、マクリンは、演技中に他のメンバーが後ろを通ったことで演技に集中できなくなり、怒り出します。けんかになりそうになると、あるメンバーが、「昔おれは、怒りにつぶされてた。ある時、食堂でけんかが起こり、あるやつの喉が切られて血が噴き出てたんだ。だけど、それでも近くにいたおれは平静を装って動かなかった(助けようとしなかった)」と語り出します。そして、「おれたちはもう一度人間になるためにここにいる」と涙ながらに言うのです。2つ目の機能は、自分が自分自身を俯瞰する、メタ認知です。これは、演技というプロセスを通して、なりきる喜びを味わいつつ、日々自分の気持ちや行動を見つめ直すことです。これは、感情のセルフコントロールも促し、人間性を回復させます。人間らしく生きるには、自分の弱さや自分のありのままの感情を俯瞰して気付き、虚勢を張ったり無関心を装ったりせずに、受け入れることが必要だからです。そして、欲望や怒りに身を任せない生き方を選ぶことです。これは、アルコール依存症への心理療法にも通じます。演出家のブレントは、ウォーミングアップで「きみたちにとって最もパーフェクトな場所はどこ? パーフェクトな瞬間はいつ?」「誰かと一緒かな?」「どんな音が聞こえる?」「温度を感じる?」「私を連れて行ってくれるかな」と質問します。すると、それぞれのメンバーが語り出すのですが、あるメンバーは「自分が、(刑務所のそばを流れる)ハドソン川が見える椅子に座ると、向こう岸の山の上に母がいて、降りてくるんだ。そして、おれをずっと見てるんだ」と言います。もちろん彼が想像する母親なのですが、まさに母の視点を通して、自分を俯瞰している心のあり方が見て取れます。ちなみに、このように俯瞰を意識して気付きや受容を促す心理療法は、マインドフルネスと呼ばれます。この詳細については、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】Part 3

(3)助け合おうとする―仲間意識マクリンは、もともと一匹狼で、最初はディヴァインGたちに怒りをむき出しにして、何度も食ってかかっていました。ディヴァインGがマクリンを助けようと思い仮釈放委員会へのレポートを作っても、マクリンは断ろうとします。しかし、毎回メンバーたちが輪になって気付いた自分の弱さやありのままの感情を語り合い、一緒に演技の練習をしていくうちに、マクリンは少しずつ心を開いていきます。やがて、彼は「みんなと一緒にいれば、また自分を信じられるかもしれない」としみじみ言うのです。そんななか、ディヴァインG自身の仮釈放の申請が却下となるなど、いろいろ不遇なことが重なり、ディヴァインGはその絶望から演劇の練習中に「何も進歩していない。何が喜劇だよ。とんだお笑い草だ」と暴言を吐き、逃げ出します。すると、数日してマクリンがディヴァインGのところにやってきて、「今度はおれがおまえの力になりたいんだ。おまえがそうしてくれたように」と言い、手を差し伸べるのです。救う側と救われる側という立場がお互いに入れ替わりながら、彼らはより人間らしくなっていくのでした。3つ目の機能は、助け合おうとする、仲間意識です。これは、演技の練習など共通の目的に向かって一緒に何かをするという相互作用から、お互いに気にかけるようになることです。ここからわかることは、「最初から好きだから助け合う」のではないということです。逆です。「助け合うから好きになる」のです。そして「好きになったからさらに助け合う」のです。これが、友情の心理です。そしてこれは、アルコール依存症などの自助グループにも通じます。なお、友情の詳細については、関連記事2をご覧ください。1)「サイコドラマをはじめよう: 人生を豊かにする増野式サイコドラマ」p.25、増野肇、金剛出版、2024<< 前のページへ■関連記事「ZOOM」「RE-ZOOM」【どうキレキレに冴え渡る?(マインドフルネス)】Part 1ワンピース【チームワーク】

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外国人がやってきた【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第7回

外国人がやってきたPoint自らの偏見を自覚しよう。医師である前に、人間であれ。家族の支援を上手に活かそう。外国人を迎える環境を整えよう。症例「先生、患者さんのトリアージをしてきたのですが…」と、看護師さんが険しい表情で報告に来た。何でも患者さんはブラジル出身の労働者らしく、まったく日本語が話せないという。職場の友人が付き添いに来ているが、その人の日本語も覚束ない。身振り手振りを交え、辛うじて頭痛が主訴であることを突き止めたとのことだった。それを聞いた研修医は、俄然燃えてきた。「ブラジルの人ならサッカーの話とか盛り上がるだろうな。ちょうどブラジル代表のユニフォームが手元にあるから着ていこう。そして、ブラジルといえばサンバ! 故郷の音楽で迎えればきっと喜ぶぞ。問題はポルトガル語だけど、翻訳アプリもあるし、まぁ何とかなるだろう」。準備万端で患者さんを診察室へ案内すると、面食らった様子を見せたのも束の間、すぐに悲壮な表情で何かを叫び出した。ど、どうしたんだ? 早速翻訳アプリを起動! えーっと、何々? 「片頭痛の私にどぎつい色を見せたり、騒音を聞かせたり。一体何の嫌がらせだ!」なるほどねぇ…。おさえておきたい基本のアプローチ法務省出入国在留管理庁の統計によると、2020年6月現在でわが国に居住する外国人は289万人。日本の人口の2.3%を占める。100人とすれ違えば2人は外国人という割合だから、今やどの医療機関でも外国人の診療は避けては通れぬ課題だろう。そして、必ずといっていいほど立ちはだかるのがコミュニケーションの障壁だ。しかし、そもそもなぜわれわれはコミュニケーションがとれないとストレスを感じるのだろうか? それはとりもなおさず、良質な医療を提供できないからだ。すでに多くの研究で、理解度や満足度のような短期的効果から、意思決定や自己管理のような長期的効果、さらには費用対効果に至るまで、コミュニケーションは医療の質と密接に関連することが示されている。つまり、日々外国人の診療にストレスを感じているあなたは偉い! なぜなら、それは常に良質な医療を提供しようと努めている証拠だからだ。そして、そんな課題を克服すべく、外国語や異文化を積極的に学ぼうとしているあなたは、もっと偉い!とはいえ、独りよがりな学習に陥っていないかどうか注意が必要だ。Curtisらによると、安易な異文化学習はかえって偏見を助長するという。本来、患者一人ひとりには個別の対応が必要であるにもかかわらず、付け焼刃の知識をつけてしまうと、過度に単純化した見方をしてしまうためだ。外国人診療でも、患者中心の医療を忘れてはならないとの戒めと受け止めたい。何よりもまず大事なことは、1人の人間として患者を扱うことだ。患者の立場に立って考えてみよう。すると、患者も試行錯誤を重ねていることに思い至る。まず、異国の病院という未知の空間に勇気を振り絞って足を踏み入れる。そこで症状を伝えようとするが、今ひとつニュアンスが伝わらない。身振り手振りでようやく伝わったかと安堵する間もなく、母国の慣習とは相容れない対処法を提案されて仰天する。しかし、そこをこらえて甘んじて受け入れることもあるだろう。まして入院が必要となれば、煩雑な手続きに目を回しながら、職場にどう報告したものかと悩むことになり、そのストレスたるや想像するに余りある。このような患者の煩悶に注意を払い、理解に努め、解決に向かって適切に導こうと勤しむ姿勢こそが最も重要だ。患者の努力に無頓着では、信頼関係の構築など望むべくもない。診療とは、価値観が異なる患者と医療者の歩み寄りの過程である。そこに正解もゴールもない。相互理解へのたゆまぬ努力こそが意味ある治療体験へつながる鍵なのだ。外国人のケアは骨が折れるが、素晴らしくも喜びに満ちた得難い経験にもなりうる。ぜひとも前向きに取り組んでみよう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「あの外国人、何を説明してもいちいち異論を挟むんだよ。まったく、清濁併せ呑む寛容さがあってほしいよね」はたして、寛容さが足りないのはどちらだろう。異文化に臨む態度や考え方の総体を、異文化適応力(cultural competency)という。その異文化適応力に最も必要なのは、異文化に関する知識でもなければ技術でもない。自らに内在する先入観や思い込みに気付き対処する力だ。考えてみれば、われわれは沢山の「当たり前」のなかで生きている。ただでさえ察しと思いやりの文化といわれ、数々の「当たり前」を求めることの多い日本社会。まして医療現場では、医療界独特のさまざまな「常識」を患者に強要していることは、外国人相手でなくても日々痛感していることだろう。せっかく身につけたコミュニケーション能力も、手前勝手な「当たり前」を患者に押しつけるための手段になっているようでは残念だ。患者は耐え難きを耐えながら、異国の医療と何とか折り合おうと必死なのだ。そこへ医療者が片務的な努力を押しつけているようでは相互尊重など夢のまた夢。素人の患者と専門家の医療者では、どうしても患者側の立場が弱くなりがちなのだから、医療者側がより多く譲歩すべきなのはいうまでもない。異文化よりもまず、自分の文化が及ぼす影響力を自覚すべきだ。そのためには、徹底的に自身を客観視する必要がある。自分自身が偏見を抱いていないか常に問いかけ、無自覚な「当たり前」の構造に敏感になろう。この現在進行形の内省過程が異文化適応力を醸成するのだ。Pointまず、自らの偏見に批判的であるべし「え、娘さんが近々ご結婚なさる? そんなことより、治療について説明させてください」異文化コミュニケーションで次に大事なのは、人間性だ。親切さや真摯さといった、人間として基本的な態度が欠かせない。患者を人として見ず、病のみに注目しているようでは逆効果。患者をかけがえのない1人の人間として敬い接するならば、あいさつはもちろん、笑顔を絶やさず、何気ない雑談にも共感し、文化の違いに触れた際には驚きと関心をもって傾聴したり質問したりすることになるだろう。些細な経験も共有し、患者のために時間を使い、積極的に患者から学ぼうとする。そんな医療者の心意気に触れたとき、患者は真剣に治療してもらえていると感じるものだ。Point医師である前に、人間であれワンポイントレッスン言語能力当然ながら、言語能力はコミュニケーションの重要な位置を占める。その言語能力でとくに注目すべき要素は、正確さ、明瞭さ、巧みさの3つだ。流暢に思えても内容が支離滅裂な場合もあるため、TOEFLなどの実力判定試験で客観的に正確さを評価しておくことが望ましい。明瞭さでは、ゆっくりと簡潔に話すことを心がけよう。巧みさとは、専門用語を使わずに話す、問題点を整理して説明する、さまざまな角度から表現するといった技術だ。スマホアプリの翻訳ツールを活用しようやっぱりきちんと会話したいよね。情報技術の長足の進歩により、今や手軽に翻訳ツールを利用できるようになった。スマホアプリの「Google翻訳」は100種類以上の言語を瞬時に翻訳できる代物だが、これが無料でインストールできるからありがたい。早口だったり複雑な文章だったりすると誤訳も起こりやすいが、前項で述べた明瞭さを心がければ、さほど問題なく使用できるだろう。Google翻訳話しかけてもよいし、カメラで言語に照らし合わせるだけで翻訳してくれるVoiceTra話しかけるだけで翻訳してくれる視聴ツール視聴覚に訴えるのも有効な手段だ。その場でイラストを描いて説明するのもよいし、今やインターネットを開けば、患者教育目的に有志が作成したパンフレットや動画が簡単に手に入る。これらを利用しない手はないだろう。非言語コミュニケーション表情や身振り手振りも情報伝達に欠かせない要素だ。ただ、同じ動作でも文化によって意味合いが異なることがあるので注意。たとえば適切な言葉が思い浮かばないときに宙を見上げたり手をグルグル回したりするのはわれわれ日本人にありがちな仕草だが、会話の内容と全く関係ないこれらの挙動は、外国人の目にはとても奇怪に映るという。場数を重ねて何度でも失敗しながら、少しずつ学んでは修正していきたい。teach-back患者の理解度を確かめる方法として、よく推奨されるのがteach-backだ。患者に、理解できたことを自分の言葉で説明してもらう。もし誤解があれば、その都度修正して説明し直してもらう。時間はかかるものの、効果は絶大だ。IAT(Implicit Association Test:潜在連合テスト)無意識の先入観を自覚するためのツールとして、異文化適応力の分野でしばしば取り上げられるのがIATだ。日本語版の無料サイトもあり、1テーマ当たり10分程度で判定できる。時間のあるときにでも挑戦してみてはいかが?チェックリスト残念ながら現段階では、異文化適応力のガイドラインもなければ、標準的な評価法も存在しない。しかしながら、独自のチェックリストを発案した論文があったので表に示した。ただし、これらすべてを完璧に実行するのは難しく、あくまでも努力目標だ。状況に応じて参照し、1つでも多く実践できるように頑張ろう。表 異文化適応力向上のためのチェックリスト1.まず、手を洗おう2.患者を1人の人間として扱おう3.自分自身が抱く無意識の先入観に気付こう4.患者に、自分の言葉で理解したことを説明してもらおう5.患者が自分自身の病状をより深く理解できるように支援しよう6.患者の家族・友人を歓迎しよう7.当該言語のキーフレーズを学ぼう8.可能な限り良質の翻訳をしよう9.流暢さよりも正確さを重視しよう10.翻訳者とともに働き学んでいこう11.患者の理解力に配慮しよう12.患者の権利と責任を知ろう13.質問を励行しよう14.患者の不満には真摯に向き合おう15.セカンドオピニオンを提案しよう16.異文化適応力に長けた施設環境を維持しよう17.患者満足度や転帰のデータを解析し、具体的な行動につなげよう18.患者満足度アンケートを漏れなく記入するよう励行しようWhite AA 3rd, Stubblefield-Tave B. J Racial Ethn Health Disparities. 2017;4:472-479. より作成知らなかったは落とし穴! こんな仕草はNGだところ変われば、ジェスチャー1つとっても大きく意味が変わる。誤解を生まないように、外国人との会話では、ジェスチャーは控えたほうがいいかもね。ブラジルでは親指を人差し指と中指の間にはさむ握りこぶしは「幸運を」という意味だけど、日本では性的な意味になってしまい、どっちもどっちなんだけどね。ピースサイン・逆ピースサイン「高校生か!」とツッコミを入れたくなるような写真の嬉しそうなポーズのピースサイン。日本や米国では平和のサインだけど、ギリシャでは「くたばれ!」という意味。掌を自分に向けた逆ピースサインは、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドでは「侮辱」の意味なんだ。いいねサイン親指をあげるサインはFacebookなどでも使われる「いいね」サイン。でも中南米、ギリシャ、イタリア、中東、西アフリカなどの一部では、中指を立てるのと同じ「侮辱」の意味になっちゃうのでやらないほうがいい。中東では「おまえの肛門に突っ込んでやる」という非常に下品な意味になっちゃう。親指を下向きにするのは、ブーイングのときにする侮辱の意味がある。元々は競技場で敗者を殺せの意味だったというから恐ろしい。OKサイン米国でのOKサインは、日本ではOKのみならず、お金を意味することがあるよね。ところが、ブラジル、スペイン、イタリア、ギリシャ、トルコ、ロシアなどでは、性的な侮辱になる。フランスでは「役立たず、価値がない」という意味になる。そんなぁ、知らないよねぇ。小指を立てるサイン日本では「彼女」や「恋人」の意味になるが、中国では「出来の悪い奴」という意味になってしまう。それと対比して親指は「立派な人」という意味になる。手をあげる「おーい」、「はーい」など手をまっすぐあげる動作は日本ではよくするものの、ドイツではナチスドイツを想起させるため、子供のころから絶対やってはいけないポーズなんだ。勉強するための推奨文献自治体国際化協会. 多言語指さしボード.多言語指差しボードを置いておけば、外国人がどの言語を話すのか確認できる。英語、中国語(簡体字)、韓国語、ベトナム語、ネパール語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ロシア語、タガログ語、インドネシア語、中国語(繁体字)、タイ語、ミャンマー語に対応。ピクトグラムもありわかりやすい。A4用紙にプリントアウトしておくと便利。厚生労働省. 「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」について.厚生労働省. 外国人向け多言語説明資料 一覧.厚生労働省, メディフォン. 外国人患者受け入れ情報サイト.Filler T, BMC Public Health. 2020;20:1013.Elana Curtis, et al. Int J Equity Health. 2019;18:174.Degrie L, et al. BMC Medical Ethics. 2017;18:2.White AA, Stubblefield-Tave B. J Racial Ethn Health Disparities. 2017;4:472-479.執筆

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心房細動と心電図の関係を知ろう【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第4回

心房細動と心電図の関係を知ろうQuestion以下に示す心房細動は心拍数が140回/分と、拡張時間が短く循環不全を生じる可能性があります。これは、房室結節の作用の限度を超えた状態にあるためです。画像を拡大するでは、過度の頻脈となった心房細動の心電図波形は、房室結節の心房からの刺激伝導の抑制作用を強める薬剤を投与するとどう変化するでしょうか?画像を拡大する

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第15回 身近な抗アレルギー薬に思わぬリスク?長期服用後の中止で激しいかゆみ、FDAが警告

花粉症やじんましんなど、アレルギー症状を抑えるために日常的にアレルギーの薬を服用している方は多いでしょう。その中でも広く使われている「セチリジン」(商品名:ジルテック)や「レボセチリジン」(商品名:ザイザル)を含むアレルギー治療薬について、米国食品医薬品局(FDA)が2025年5月16日、重要な安全情報を発表しました1)。長期間にわたってこうした薬を連用した後に突然中止すると、重度の激しいかゆみが発生する可能性があるというのです。これは、処方薬だけでなく、薬局などで購入できる市販薬(OTC医薬品)も対象となる話です。長期間の服用を中止した後に、耐え難い「かゆみ」が?FDAの発表によると、この「かゆみ」は、セチリジンやレボセチリジンを毎日、典型的には数ヵ月から数年にわたって服用していた人が、服用を突然中止した後に報告されています。もともとアレルギー症状の一環としてかゆみがあったわけではなく、薬を飲み始める前にはかゆみがなかった患者さんでも確認されているのが特徴です。報告された症例はまれではあるものの、中には日常生活に大きな支障を来すほど広範囲で激しいかゆみが生じ、医療機関での治療が必要になったケースもあったということです。FDAが2017年4月~2023年7月に確認した209例では、かゆみは薬の中止後、中央値2日(1~5日の範囲)で発生していました。また、報告された深刻なケースには、「深刻なかゆみで寝たきりになる」といった人や、入院、さらには自殺を考える人もいたようです。対象となる薬とFDAの対応セチリジンやレボセチリジンは、アレルギー反応の原因となる体内物質「ヒスタミン」の働きをブロックする抗ヒスタミン薬です。花粉症や通年性のアレルギー性鼻炎、慢性じんましんなどの治療に用いられます。こうした新たな報告を受け、FDAは製造業者に対し、処方薬の添付文書にこのかゆみのリスクに関する新たな警告を記載するよう指示しています。さらに、市販薬についても同様の警告を製品の医薬品情報ラベルに追加するよう要請する方針です。患者さんはどうすれば良い? 自己判断せず専門家への相談をもし、同種の薬を長期間服用していて中止した後に、経験したことのないような激しいかゆみを感じた場合は、速やかに医師や薬剤師などの専門家に相談する必要があります。FDAの調査によると、この副作用を経験した人の多くは、薬の服用を再開することでかゆみの症状が治まったと報告されています。また、再開後に薬の量を徐々に減らしていく「漸減療法」によって症状が改善した人もいたとのことです。これからアレルギーの薬を長期間(数ヵ月以上)にわたって使おうと考えている方、またはすでに内服されている方は、今後の服用のスケジュールについて、かかりつけの医師や薬剤師とよく話し合うことが重要です。また、本薬に限らず、すべての薬にいえることですが、どんなに正しく使用していても副作用は出てしまう可能性があります。また、一部の薬には、慎重に少しずつやめるべきものがあります。今回のFDAの発表は、抗アレルギー薬のような身近な薬でも、副作用や中止の仕方に配慮する必要があり、薬の取り扱いについて患者さんが薬剤師や医師と連携する重要性を改めて示すものといえるのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)FDA requires warning about rare but severe itching after stopping long-term use of oral allergy medicines cetirizine or levocetirizine (Zyrtec, Xyzal, and other trade names). 2025 May 16.

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H. pylori検査と除菌後胃がん、知っておくべき7つのQ&A

 胃がんの罹患者・死亡者数は減少傾向にあるものの、依然として日本人の主要ながんであり、2022年の罹患数は約12万例、死亡数は約4万例と報告されている1)。胃がんはその大部分がHelicobacter pylori(H. pylori)感染に起因するとされ、H. pyloriの診断と除菌治療は胃がんの1次予防として極めて重要である。日本では2013年より陽性判定者の除菌治療が保険適用となり、広く行われるようになっている。そして、H. pylori感染診断・除菌治療が一般的になった今、H. pylori検査や胃がんを巡る新たな問題が生じているという。H. pylori研究の第一人者である大分大学・兒玉 雅明氏に、今医療者が知っておくべきポイントを聞いた。Q1. 日本においてH. pylori感染率は低下しているか? 若年層においてH. pylori感染率は著しく低下している。30代でも20%を下回り、さらに10歳未満では10%を下回るなど欧米並みの水準だ。これは親世代も未感染または除菌済みであること、衛生状態の改善などによるものと考えられる。一方、60代以上では除菌例を含めた陽性率は7~8割と非常に高率で、2極化が進んでいる2)。Q2. H. pylori検査はどの方法を選ぶべきか? H. pylori感染検査には多くの方法があるが、目的に応じて使い分ける。 感染診断: 尿素呼気試験(UBT)、便中抗原測定法、迅速ウレアーゼ検査(RUT)、抗H. pylori抗体検査、血清ペプシノゲン検査(PG:補助的)など 除菌判定:UBT、便中抗原測定法、PG(補助的)など このうち、UBT、RUT、PGはPPI服用による偽陰性の可能性があるので検査の2週間前から休薬する必要がある。逆に言えばほかの検査ではPPI休薬の必要はない。この点は近年エビデンスが更新されており、昨年刊行した「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会 編)にも明記された。Q3. H. pylori除菌治療は全員に必要か? 基本的に、陽性判定者全員に除菌治療が推奨される。日本では2013年以降、陽性者全員に保険適用で除菌治療ができるようになった。高齢であっても併存疾患により薬剤が服用できないなどの事情がない限り、除菌治療が推奨される。若年者の場合、何歳から除菌治療をすべきかについてはエビデンスが少なく、現時点で確定した推奨はできない。すでに複数の自治体が独自に中学生を対象に感染検査、除菌治療を行っている例もあり、こうした研究のエビデンスが蓄積されてゆけば、若年者の推奨年齢も定まってくるだろう。Q4. 除菌治療はどのレジメンを使うべきか? 現在の標準治療は、PPIもしくはPCAB(例:ボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシン、2次除菌はPPIもしくはPCAB+アモキシシリン+メトロニダゾールの3剤併用療法となっている。PPIは現在4種類が存在しているが、直接比較で除菌率に差がないことが報告されている。一方で、PCABはPPIと比較して酸分泌抑制効果が有意に高いことが報告されており3)、こちらを優先して使っている医師が多いと考えられる。Q5. 除菌すれば胃がんリスクはなくなるか? 除菌が胃の活動性胃炎を抑え、胃粘膜萎縮と腸上皮化生を改善し、胃がん抑制効果を示すことは明らかになっている。しかし、リスクは低下するものの、ゼロにはならない。すでに萎縮や腸上皮化生が進行している場合、除菌後も発がんリスクが残存する。除菌後に胃がんが抑えられる割合は3分の1から4分の1という研究報告がある4)。よって、除菌後も定期的に内視鏡検査を受けることが必要だ。医師側も、除菌後の患者には除菌後も胃がんリスクがあることを説明し、定期的な受診を促してほしい。Q6. 除菌後胃がんのリスク因子は? ここ5年ほどで、胃がんにおけるH. pylori陽性胃がんと除菌後胃がんの割合が逆転し、すでに除菌後胃がんが大半を占めるようになっている。とくに除菌時に萎縮が認められた例、萎縮が強かった例において、除菌後胃がんのリスクが高いことがわかっている5)。除菌後10年が経過しても軽度から中等度の萎縮の症例において、悪性度の高いびまん型(diffuse-type)症例のリスク増も報告されている。しかし、萎縮の認められない症例であっても胃がんリスクを排除することはできないため、「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」では除菌後の全症例に対し、長期的なサーベイランスを行うことを推奨している。私の行った研究でも、フォローアップをしていなかった症例は、悪性度の高い胃がんの罹患リスクが高いことがわかっている6)。Q7. 除菌後胃がんの特徴は? H. pylori菌感染で胃粘膜にメチル化異常が生じる。除菌によりある程度低下するものの、完全にはなくならず、残ったメチル化異常の程度が発がんリスクと相関すると考えられる。時間が経ってからがん化した症例には、悪性度の高いものも含まれる。また、除菌後の胃がんは病変が小さく表層の胃炎様所見、腫瘍の境界が不明瞭など、内視鏡診断が難しいという特徴もあり、経験のある内視鏡医による診断が必要になる。まとめ・メッセージ H. pyloriの感染診断、除菌治療が一般化し、胃がんを取り巻く状況は大きく変わっている。年齢調整後の胃がんの罹患数・死亡数は減少傾向にあるものの、患者の多数を占める高齢者が増える状況においては、まだまだ油断のできない疾患だ。「除菌後」の時代を見据え、メチル化などのバイオマーカーを使ったリスク層別化、耐性菌対策、AIによる画像診断補助などの関連研究も進んでいる。ぜひ、ガイドラインや学会で、最新の情報をキャッチアップいただきたい。■参考文献 1)がんの統計2024/公益財団法人がん研究振興財団 2)Inoue M, Gastric Cancer. 2017;20:3-7. 3)Murakami K, et al. Gut. 2016;65:1439-1446. 4)Fukase K, et al. Lancet. 2008;372:392-397. 5)Take S, et al. J Gastroenterol. 2020;55:281-288. 6)Kodama M, et al. PLoS One. 2023;18:e0282341.

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早期TN乳がんの術前療法、SG+ペムブロリズマブでpCRが32%(NeoSTAR)/ASCO2025

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前サシツズマブ ゴビテカン(SG)+ペムブロリズマブ併用療法を評価した初の試験である第II相NeoSTAR試験において、SG+ペムブロリズマブ 4サイクルによる病理学的完全奏効(pCR)率は32%であり、非アントラサイクリン系レジメンを用いた術前化学療法が追加された患者を含めると50%がpCRを達成した。米国・Massachusetts General Hospital Cancer CenterのRachel Occhiogrosso Abelman氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 SGは転移TNBCおよびHR+HER2-転移乳がんに承認されており、ペムブロリズマブは早期TNBCおよびPD-L1陽性転移乳がんに承認されている。本試験のArm A1では、早期TNBCへのSG単剤療法4サイクルにより、30%のpCR率が得られたことが確認されている。今回は、Arm A2において早期TNBCへのSG+ペムブロリズマブ併用を評価した結果が報告された。・対象:T2以上もしくはリンパ節転移陽性の早期TNBC患者・方法:SG(1、8日目に投与、開始用量10mg/kg)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg)を21日ごと4サイクル投与→ 画像診断で残存病変が疑われなかった患者は手術を実施、疑われた患者は生検を実施し、担当医の裁量で術前化学療法を追加し手術を実施→ pCRを達成した患者は術後補助療法としてペムブロリズマブ+タキサン/カルボプラチンを4サイクル投与し、達成しなかった患者は担当医の裁量で術後補助化学療法を実施・評価項目:[主要評価項目]術前SG+ペムブロリズマブ後のpCR[副次評価項目]術前化学療法追加の必要性、放射線学的奏効、安全性および忍容性、無イベント生存期間(EFS)など 主な結果は以下のとおり。・2023年5月19日~2024年8月13日に50例(年齢中央値:57歳)が登録された。診断時、96%がStageIIで、生殖細胞系列BRCAの病的バリアントが5例(10%)に認められた。・50例がSG+ペムブロリズマブを完了し、うち24例が完了後に残存病変が疑われず、16例はSG+ペムブロリズマブのみでpCRを達成した。26例は残存病変が疑われ、術前化学療法が追加された。うち9例はSG+ペムブロリズマブおよび追加の術前化学療法(アントラサイクリン含有レジメンなし)後にpCRを達成した。・SG+ペムブロリズマブのみでの術後のpCR率は32.0%(95%信頼区間[CI]:19.5~46.7)であり、術前化学療法を追加した患者を含めると50%(50例中25例)であった。・BRCAの病的バリアントを有する5例のうち、3例がSG+ペムブロリズマブ後にpCRが得られ(pCR率60%)、1例が術前化学療法追加後にpCRが得られた。・18ヵ月EFS率は90.6%(95%CI:89.2~100)で、放射線学的奏効(完全または部分奏効)率は66%(95%CI:50~78)であった。・予期せぬ毒性や新たな毒性は認められず、88%が試験レジメンを完了した。  現在、SGとペムブロリズマブへの反応に関連するメカニズムとバイオマーカーを同定するため、本試験のトランスレーショナル解析が進行中という。

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日本人高齢者の脳Aβ沈着に対するDHAの保護効果

 アルツハイマー病は、アミロイドベータ(Aβ)プラークの蓄積により引き起こされるが、そのメカニズムはいまだに解明されていない。オメガ3(ω3)脂肪酸、とくにドコサヘキサエン酸(DHA)には、保護作用があるといわれているが、Aβ蓄積との関係は、完全に解明されているとはいえない。米国・ピッツバーグ大学の関川 暁氏らは、ω3脂肪酸の摂取量が多いことで知られている日本人において、認知機能が正常な日本人高齢者を対象に画像診断の6〜9年前に測定した血清DHAおよびエイコサペンタエン酸(EPA)濃度が、脳Aβ沈着と逆相関を示すかを調査しました。PETに基づくAβ陽性と判定されたアルツハイマー病進行リスクの高い高齢者に焦点を当て、DHAが早期アミロイド病変を軽減する可能性を評価した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2025年5月8日号の報告。 対象は、吹田研究に参加した高齢者97例(75〜89歳)。血清中のDHAおよびEPA濃度は2008〜12年にかけて評価し、アミロイドPETは2016〜19年にかけて実施した。年齢、性別、APOE4遺伝子変異、心血管代謝疾患で調整した後、重回帰分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・97例(男性の割合:49%、APOE4遺伝子保有者:8.2%)のうち、心血管代謝疾患が36例(37.1%)、Aβ陽性が29例(29.8%)で認められた。・年齢、性別、APOE4レベルに関わらず、Aβ陽性の高齢者では、血清DHA濃度の上昇とAβ沈着量の減少との有意な関連が認められた(標準化β:−0.423、p=0.030)。・この関連は、心血管代謝疾患を追加して調整した後では、有意差が消失した(β:−0.382、p=0.059)。・EPAとAβ沈着量との間に有意な関連は認められなかった。 著者らは「長期にわたるDHA濃度の上昇は、アルツハイマー病リスクを有する高齢者のAβ蓄積を減少させる可能性があり、アルツハイマー病の早期予防におけるDHAの潜在的な役割が裏付けられた」と結論付けている。

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非小細胞肺がん、術後アテゾリズマブの5年成績(IMpower010)/JCO

 切除後の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における化学療法+アテゾリズマブ術後補助療法の5年追跡結果が発表され、ベストサポーティブケア(BSC)に対する無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)の改善が示された。DFSは最終解析、OSは2回目の中間解析の結果で、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年5月30日号での報告。・対象:StageIB~IIIA(AJCC7)で手術後にシスプラチンベースの補助化学療法(最大4サイクル)を受けたNSCLC・試験群:アテゾリズマブ1,200mgを3週ごと16サイクルまたは1年 (507例)・対照群:BSC(498例)・評価項目[主要評価項目]治験医師評価による階層的DFS:(1)PD-L1≧1% StageII~IIIA集団、(2)StageII~IIIA全集団、(3)ITT(StageIB~IIIA全無作為化)集団[副次評価項目]ITT集団のOS、PD-L1≧50% StageII~IIIA集団のDFS、全集団の3年・5年DFS 主な結果は以下のとおり。[DFS]・ITT集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群65.6ヵ月、BSC群47.8ヵ月と、有意差は認められなかったもののアテゾリズマブ群で良好な傾向であった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.71~1.01、p=0.07)。・StageII~IIIA全集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群57.4ヵ月、BSC群40.8ヵ月であった(HR:0.83、95%CI:0.69~1.00)。・StageII~IIIAでPD-L1≧1%集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群68.5ヵ月、BSC群37.3ヵ月とアテゾリズマブ群で良好であった(HR:0.70、95%CI:0.55~0.91)。・StageII~IIIAでPD-L1≧50%集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群未到達、BSC群42.9ヵ月とアテゾリズマブ群で良好であった(非層別HR:0.48、95%CI:0.32~0.72)。[OS]・ITT集団でのDFSが有意な差に至らなかったため、OS検証は公式とはならなかった。・ITT集団のOS中央値はアテゾリズマブ群、BSC群とも未到達でHRは0.97(95%CI:0.78~1.22)、StageII~IIIA全集団のOS中央値はアテゾリズマブ群、BSC群とも未到達でHRは0.94(95%CI:0.75~1.19)、StageII~IIIAでPD-L1≧1%集団のOS中央値はアテゾリズマブ群未到達、BSC群87.1ヵ月でHRは0.77(95%CI:0.56~1.06)、StageII~IIIAでPD-L1≧50%集団のOS中央値はアテゾリズマブ群未到達、BSC群87.1ヵ月で非層別HRは0.47(95%CI:0.28~0.77)であった。・5年以上の長期追跡調査においても新たな安全性シグナルは報告されなかった。 これらの結果から、アテゾリズマブを加えた術後補助療法は化学療法のみに比べ、PD-L1陽性のStageII~IIIAの切除後NSCLCに持続的な臨床的ベネフィットをもたらすことが示された。

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プラチナ抵抗性卵巣がん、relacorilant+nab-PTXでPFS・OS改善(ROSELLA)/Lancet

 プラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者において、relacorilant+nab-パクリタキセル併用療法はnab-パクリタキセル単独療法と比べて無増悪生存期間(PFS)を延長し、中間解析において全生存期間(OS)の改善も示された。米国・ピッツバーク大学のAlexander B. Olawaiye氏らが第III相非盲検無作為化試験「ROSELLA試験」の結果を報告した。relacorilantはファーストインクラスの選択的グルココルチコイド受容体拮抗薬であり、コルチゾールのシグナル伝達を抑制することで化学療法に対する腫瘍の感受性を高める。著者は、「示されたPFS、OSの結果は、プラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者において、relacorilant+nab-パクリタキセル併用療法が新たな標準治療として有望であることを支持するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。nab-パクリタキセル単独と比較、主要評価項目は2つでPFSとOS ROSELLA(GOG-3073/ENGOT-ov72)試験は、14ヵ国(オーストラリア、欧州、中南米、北米および韓国)の117施設(病院および地域のがん治療センター)で行われた。18歳以上、プラチナ製剤抵抗性(最終投与から6ヵ月未満で病勢進行と定義)の上皮性卵巣がん(高悪性度の漿液性がん、類内膜がんまたはがん肉腫が上皮組織の30%以上)、原発性腹膜がんまたは卵管がんの確定診断を受けており、1~3ラインの抗がん剤治療歴およびベバシズマブ投与歴あり、病勢進行または直近の治療不耐、病変はRECIST 1.1に基づく測定が可能で、ECOG performance status 0または1、および十分な臓器機能を有する患者を対象とした。 被験者は、relacorilant(nab-パクリタキセルの投与前日、当日、翌日に150mgを経口投与)+nab-パクリタキセル(28日サイクルで1日目、8日目、15日目に80mg/m2を静脈内投与)併用群またはnab-パクリタキセル単独(併用群と同一スケジュールで100mg/m2を静脈内投与)群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は2つで、RECIST 1.1に基づく盲検下独立中央判定で評価したPFSとOSであり、無作為化された全患者(ITT集団)を対象に評価した。安全性は、割り付け治療を少なくとも1回受けた全患者を解析対象集団として評価した。PFS、OSとも併用群が有意に改善、有害事象はnab-パクリタキセルで既知のもの 2023年1月5日~2024年4月8日に、381例が無作為化された(併用群188例、単独群193例)。 PFSに関して、併用群(中央値6.54ヵ月[95%信頼区間[CI]:5.55~7.43])は単独群(5.52ヵ月[3.94~5.88])と比較して、統計学的に有意な改善が示された(ハザード比[HR]:0.70[95%CI:0.54~0.91]、層別log-rank検定のp=0.0076)。 事前に規定されたOSの中間解析で、併用群(中央値15.97ヵ月[95%CI:13.47~未到達])は単独群(11.50ヵ月[10.02~13.57])と比較して、臨床的に意義のある差が示された(HR:0.69[95%CI:0.52~0.92]、層別log-rank検定のp=0.0121)。 有害事象は、nab-パクリタキセルについて補正後は両群間で同等であった。Grade3以上の有害事象、すべての重篤な有害事象、Grade3以上の好中球減少症、貧血、疲労の全体的な発現頻度は併用群のほうが数値的には高かったが、併用群は単独群と比べてnab-パクリタキセルの投与期間中央値が30%長かった。また、併用群で多くみられた有害事象(好中球減少症、貧血、疲労、悪心)は、nab-パクリタキセルの既知の有害事象であり、モニタリングおよび管理が容易で可逆的であった。 安全性に関する新たな懸念は観察されなかった。

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HER2陽性胃がん2次治療、T-DXd vs.ラムシルマブ+PTX(DESTINY-Gastric04)/NEJM

 前治療歴のある切除不能または転移のあるHER2陽性胃がんまたは胃食道接合部腺がんの患者において、2次治療としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はラムシルマブ+パクリタキセル(RAM+PTX)と比較して全生存期間(OS)を有意に延長した。有害事象は両群で多くみられ、既知のリスクであるT-DXd投与に伴う間質性肺炎または肺臓炎は、主として低グレードであった。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏らDESTINY-Gastric04 Trial Investigatorsが、国際非盲検無作為化第III相試験「DESTINY-Gastric04試験」の結果を報告した。T-DXdは第II相試験に基づき、トラスツズマブベースの治療を含む2ライン以上の治療歴を有する進行・再発のHER2陽性胃がんまたは胃食道接合部腺がん患者に対する投与が承認されている。DESTINY-Gastric04試験では、2次治療としてのT-DXdの有効性と安全性をRAM+PTXと比較した。NEJM誌オンライン版2025年5月31日号掲載の報告。主要評価項目はOS 研究グループは、2021年5月21日~2024年10月7日に152施設で、トラスツズマブベース治療中の病勢進行後の生検(各治験施設または中央施設)で、HER2陽性が確認された切除不能または転移のある胃がんまたは胃食道接合部腺がん患者を適格として登録した。 被験者を、T-DXd(21日サイクルの1日目に6.4mg/kg)またはRAM(28日サイクルの1日目と15日目に8mg/kg)+PTX(28日サイクルの1日目、8日目、15日目に80mg/m2)を静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化では、トラスツズマブベース治療後のHER2発現状況(IHC 3+ vs.IHC 2+およびISH陽性)、試験地(アジア[中国大陸除く]vs.西ヨーロッパvs.中国大陸と世界のその他の地域)、1次治療中の病勢進行までの期間(6ヵ月未満vs.6ヵ月以上)により層別化した。 治療は、病勢進行、被験者の同意取り下げ、医師の判断、許容できない有害事象の発現まで続けられた。 主要評価項目はOSとした。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR、少なくとも4週間以上の完全奏効[CR]または部分奏効[PR])、病勢コントロール率(DCR、6週間以上の奏効または安定[SD])、奏効期間(DOR、試験担当医師によるRECIST 1.1に基づく判定)および安全性などであった。OS中央値はT-DXd群14.7ヵ月、RAM+PTX群11.4ヵ月でT-DXd群が有意に延長 494例が無作為化された(T-DXd群246例、RAM+PTX群248例)。人口統計学的およびベースラインの臨床特性は両群でバランスが取れていた。年齢中央値はT-DXd群63.2歳とRAM+PTX群64.3歳、男性が76.0%と82.7%、原発がんは胃がんが62.2%と60.1%、また、HER2発現状況はIHC 3+が84.1%と83.9%、試験地がアジア(中国大陸を除く)は23.2%と24.2%、1次治療中の病勢進行までの期間は6ヵ月以上が75.2%と75.4%などであった。 中間解析のデータカットオフ日(2024年10月24日)時点で、T-DXd群は18.9%、RAM+PTX群は18.5%が治療を継続していた。 OSは、T-DXd群(中央値14.7ヵ月[95%信頼区間[CI]:12.1~16.6])がRAM+PTX群(11.4ヵ月[9.9~15.5])より有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.70[95%CI:0.55~0.90]、p=0.004)。 PFSも、T-DXd群(中央値6.7ヵ月[95%CI:5.6~7.1])がRAM+PTX群(5.6ヵ月[4.9~5.8])より有意に延長し(病勢進行または死亡のHR:0.74[95%CI:0.59~0.92]、p=0.007)、ORRについても、T-DXd群(44.3%[95%CI:37.8~50.9])がRAM+PTX群(29.1%[23.4~35.3])より有意に改善した(群間差:15.1%ポイント、p<0.001)。 治療期間の中央値はT-DXd群が5.4ヵ月、RAM+PTX群が4.6ヵ月であった。安全性解析集団(T-DXd群244例、RAM+PTX群233例)において、あらゆるGradeの薬剤関連有害事象の発現は、T-DXd群93.0%、RAM+PTX群91.4%で報告され、うちGrade3以上は50.0%と54.1%であった。 独立した委員会で薬剤関連と判定された間質性肺炎または肺臓炎は、T-DXd群13.9%(33例がGrade1/2、1例がGrade3)、RAM+PTX群1.3%(2例がGrade3、1例がGrade5)であった。

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GLP-1RAで飲酒量が3分の1に減る

 肥満症治療における減量目的でも処方されることのあるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬(GLP-1RA)の使用によって、アルコール摂取量が大きく減少するとする研究結果が報告された。ダブリン大学(アイルランド)のCarel le Roux氏らの研究によるもので、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に論文が1月2日掲載され、また欧州肥満学会議(ECO2025、5月11~14日、スペイン・マラガ)でも発表された。習慣的飲酒者では、GLP-1RA使用開始後約4カ月で飲酒量がほぼ3分の1に減少したという。 GLP-1は、血糖降下作用のほかに、食欲を抑えたり、胃の内容物の排出を遅延させたりする消化管ホルモン。Le Roux氏によると、GLP-1による食欲抑制作用の一部は脳への直接的な働きかけによるものと考えられていて、その作用はアルコールへの欲求を抑えるようにも働く可能性があるという。このような作用を有するため、「本研究に参加し飲酒量が減った肥満患者の多くは節酒をほとんど意識することなく、『楽に』飲酒量を減らせたと報告した」と同氏は述べている。 世界中で飲酒は死亡原因の約4.7%を占めている。問題のある飲酒に対する治療介入は、短期的には高い効果を期待できるが、患者の約70%は1年以内に再発する。一方、これまでにも動物実験などから、GLP-1のアナログ製剤(類似薬)であるGLP-1RAが、アルコールへの渇望を抑える効果のあることが示唆されてきている。しかし、ヒトを対象とした研究は「まだ緒に就いたばかり」だと、研究者らは述べている。 この研究は、BMI27以上でGLP-1RA(セマグルチドまたはリラグルチド)による肥満治療を受けている成人患者262人(平均年齢46歳、女性79%)を対象に実施された。治療開始前の自己申告により、全体の11.8%が非飲酒者、19.8%が機会飲酒者、68.3%が習慣的飲酒者に分類された。 262人中188人が3~6カ月(平均112日)後の追跡調査にも参加した。この約4カ月の間に飲酒量が増加した患者はなく、習慣的飲酒者の場合、飲酒量が68%減少していた。研究者らはこの減少幅を、「アルコール依存症の治療目的で使用される薬剤(ナルメフェン)の効果に匹敵する」としている。 Le Roux氏は、「GLP-1RAは肥満治療に有効であり、肥満に関連するさまざまな合併症のリスクを低減することが示されている。さらに今回の研究では、アルコール摂取量の抑制という、肥満改善とは異なる面での有益な側面についても有望な結果が得られた」と解説。ただし一方で、本研究は参加者数が少数であること、GLP-1RAを使用しない比較対照群を設けていないことなどを、解釈上の留意事項として挙げている。

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帯状疱疹ワクチンは心臓の健康も守る

 帯状疱疹ワクチンが、高齢者の心臓の健康を守る可能性のあることが報告された。ワクチン接種者は心臓病のリスクが23%低く、これにはワクチンによる炎症抑制、血液凝固抑制が関与していると考えられるとのことだ。慶熙大学校(韓国)のDong Keon Yon氏らが、約130万人の医療データを解析して明らかにした結果であり、詳細は「European Heart Journal」に5月5日掲載された。ワクチンによる心保護効果は最大8年間続くという。 帯状疱疹は、以前に水痘に感染したことがある人に発症する。水痘の原因ウイルス(帯状疱疹のウイルスでもある)は、神経節の細胞の中に数十年間も潜伏し続け、ある時、再び活動し始めて帯状疱疹を引き起こし、痛みを伴う発疹や水疱を出現させる。「ワクチン接種を受けない場合、生涯で約30%の人が帯状疱疹を発症する可能性がある」とYon氏は解説する。そして、「帯状疱疹は発疹に加えて、心臓病のリスク上昇とも関連のあることが示唆されている。そのため、われわれは、ワクチン接種によって心臓病のリスクが低下するのではないかと考えた」と、研究背景を語っている。 この研究は、2012~2021年の韓国内の50歳以上の成人220万7,784人の医療データを用いて行われた。傾向スコアマッチングにより、127万1,922人(平均年齢61.3±3.4歳、男性43.2%)を解析対象とした。このうち半数が、帯状疱疹ウイルスを弱毒化させた生ワクチンの接種者、残り半数が非接種者だった。 中央値6.0年間追跡した解析により、ワクチン接種群は心血管イベントリスクが低いことが示された。例えば、全心血管イベントは23%低リスク(ハザード比〔HR〕0.77〔95%信頼区間0.76~0.78〕)、主要心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞、心血管死)は26%低リスク(HR0.74〔同0.71~0.77〕)、心不全も26%低リスク(HR0.74〔0.70~0.77〕)だった。ほかにも、脳血管障害(HR0.76〔0.74~0.78〕)、虚血性心疾患(HR0.78(0.76~0.80〕)、血栓性疾患(HR0.78〔0.74~0.83〕)、および不整脈(HR0.79〔0.77~0.81〕)のリスク低下が認められた。 Yon氏は、「われわれの研究は、帯状疱疹ワクチン接種によって、既知の心臓病リスク因子がない人でも、心臓病のリスクが低下する可能性があることを示唆している。これは、ワクチン接種の健康上のメリットが、帯状疱疹の予防にとどまるものではないことを意味している」と述べている。なお、本研究では、男性、60歳未満、不健康な生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足など)の該当者は、ワクチン接種による心保護効果という恩恵を、特に受けやすいことが示唆された。 帯状疱疹ワクチンが心臓病の発症リスクを軽減し得るメカニズムについてYon氏は、「理由はいくつか考えられる。帯状疱疹ウイルスの感染によって、血管の損傷、炎症、そして心臓病につながる血栓形成が引き起こされることがある。ワクチン接種によって帯状疱疹を予防することで、それらの影響を軽減できるのではないか」と解説している。 ただし研究者らは、「今回の研究はアジア人を対象としたものであり、他の集団には当てはまらない可能性があるため、さらなる研究が必要」と述べている。

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生後3ヵ月未満児の発熱【すぐに使える小児診療のヒント】第3回

生後3ヵ月未満児の発熱今回は、生後3ヵ月未満児の発熱についてお話しします。小児において「発熱」は最もよく経験する主訴の1つですが、「生後3ヵ月未満の」という条件が付くとその意味合いは大きく変わります。では、何が、なぜ違うのでしょうか。症例生後2ヵ月、女児受診2時間前に、寝付きが悪いため自宅で体温を測定したところ38.2℃の発熱があり、近医を受診した。診察時の所見では、活気良好で哺乳もできている。この乳児を前にして、皆さんはどう対応しますか? 「元気で哺乳もできているし、熱も出たばかり。いったん経過観察でもよいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この場合は経過観察のみでは不十分であり、全例で血液検査・尿検査を行うことが推奨されています。また、必要があれば髄液検査や入院も考慮すべきです。そのため、適切な検査の実施が難しい施設であれば、専門施設への紹介が望ましいです。小児科では自然に行われている対応ですが、非小児科の先生にとっては馴染みが薄いかもしれません。これは、かつて医師国家試験で関連問題の正答率が低く採点対象外となり、その後出題が避けられた結果、臨床知識として広まりにくかったという経緯が背景にあります。なぜ、生後3ヵ月未満児では対応が異なるのか?乳児期早期は免疫機能が未熟であり、とくに新生児では母体からの移行抗体に依存しているため、自身の感染防御機能が十分ではなく、全身性の感染症に進展しやすいという特徴があります。さらに、この時期の感染症は症状が非特異的で、診察時に哺乳力や活気が保たれていても、重症細菌感染症が隠れていることがあります。生後3ヵ月未満の発熱児では1〜3%に髄膜炎や菌血症、9〜17%に尿路感染症が認められると報告されています。なお「発熱」とは、米国小児科学会(AAP)が2021年に発表したガイドラインでは、直腸温で38.0℃以上が基準とされています。腋窩での測定ではやや低くなる傾向があり、腋窩温では37.5℃以上を発熱とみなすことが多いですが、施設や文献によって差があります。また、診察時に平熱であっても、自宅での発熱エピソードがあれば評価の対象になることを念頭に置く必要があります。発熱を認めたらまず血液検査+尿検査日本小児科学会やAAPでは、生後3ヵ月未満の発熱児については全例で評価を行うことを推奨しています。日齢に応じて、血液培養、尿検査、髄液検査を行い、入院加療を考慮する方針です。とくに生後28日未満の新生児では、入院による経過観察が標準対応とされています。一例として、私が所属する東京都立小児総合医療センターにおける現時点でのフローを以下に示します。0〜28日の新生児は髄液検査を含めたwork upを行って全例入院し、各種培養が48時間陰性であることを確認できるまで広域な静注抗菌薬投与、29〜90日の乳児はバイタルサインや検査で低リスクであると評価されれば帰宅可能(36時間以内に再診)、それ以外は入院としています。東京都立小児総合医療センターのフロー※ANC(好中球絶対数)は白血球分画を参考にして算出施設ごとに細かな対応は異なるとは思いますが、以下のポイントは共通しているのではないでしょうか。生後3ヵ月未満では「元気そう」は安心材料にならない発熱を認めたらルーチンで血液検査・尿検査を行う生後28日未満では髄液検査、入院を推奨まずは細菌感染症を前提に対応するどこまでのリスクに備えるか成人や高齢者の診療と同様に、場合によってはそれ以上に小児の診療でも「重い疾患を見逃さないために、どこまで検査や治療を行うべきか」という判断がシビアに求められます。目の前の小児が元気そうに見えても、ごくまれに重篤な疾患が潜んでいることがある一方で、すべての小児に負担の大きい検査を行うことが常に最善とは限りません。こうした場面で重要になるのが、「どの程度のリスクを容認できるか」という価値観です。答えは1つではなく、医学的なリスク評価に加えて、家族ごとの状況や思いを丁寧にくみ取る必要があります。AAPのガイドラインでは、医療者の一方的な判断ではなく、保護者とともに意思決定を行う「shared decision-making(共有意思決定)」の重要性が強調されています。とくに腰椎穿刺の実施や、入院ではなく自宅での経過観察を選択する場合など、複数の選択肢が存在する場面では、保護者の価値観や理解度、家庭の状況に応じた柔軟な対応が求められます。医療者は、最新の医学的知見に基づきつつ、家族との信頼関係の中で最適な方針をともに選び取る姿勢を持つことが求められます。保護者への説明と啓発の重要性現在の日本の医療では、生後3ヵ月未満の発熱児では全例に対して検査が必要となり、入院が推奨されるケースも少なくありません。しかし、保護者の多くは「少し熱が出ただけ」と気軽に受診することも多く、検査や入院という結果に戸惑い、不安を強めることもあります。このようなギャップを埋めるには、まず医療者側が「生後3ヵ月未満の発熱は特別である」という共通認識を持つことが大前提です。また、日頃から保護者に対して情報提供を行っておくことも重要だと考えます。保護者が「発熱したら、入院や精査が必要になるかもしれない」とあらかじめ理解していれば、診察時の説明もよりスムーズに進み、医療者と保護者が同じ方向を向いて対応できるはずです。実際の説明例入院!? うちの子、重い病気なんですか?生後3ヵ月未満の赤ちゃんはまだ免疫が弱く、見た目に異常がなくても重い感染症が隠れていることがあります。とくにこの時期は万が一を見逃さないように“特別扱い”をしていて、血液や尿、ときに髄液の検査を行います。検査の結果によっては入院まではせず通院で様子をみることができる可能性もありますが、入院して経過を見ることが一般的です。生後3ヵ月未満児の発熱は、「見た目が元気=安心」とは限らないという視点をもち、適切な検査の実施あるいは小児専門施設への紹介をご検討いただければ幸いです。そして、どんな場面でも、判断に迷うときこそ保護者との対話が助けとなることが多いと感じています。そうした視点を大切にしていただけたらと思います。次回は、見逃せない「小児の気道異物」について、事故予防の視点も交えてお話します。ひとことメモ:原因病原体は?■ウイルス発熱児において最も一般的な原因がウイルスです。ウイルス感染のある3ヵ月未満児は重症細菌感染症を合併していなくても、とくに新生児では以下のウイルスにより重篤な症状を来すことがあります。単純ヘルペスウイルスエンテロウイルス(エコーウイルス11型など)パレコウイルスRSウイルス など■細菌細菌感染症のうち、最も頻度が高いのは尿路感染症です。このほか、菌血症、細菌性髄膜炎、蜂窩織炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎なども重要な感染源ですが、頻度は比較的低くなります。主な病原体は以下のとおりですが、ワクチン定期接種導入により肺炎球菌やインフルエンザ菌による重症感染症は激減しています。大腸菌黄色ブドウ球菌インフルエンザ菌B群連鎖球菌肺炎球菌リステリア など参考資料 1) Up to date:The febrile neonate (28 days of age or younger): Outpatient evaluation 2) Up to date:The febrile infant (29 to 90 days of age): Outpatient evaluation 3) Pantell RH, et al. Pediatrics. 2021;148:e2021052228. 4) Leazer RC. Pediatr Rev. 2023;44:127-138. 5) Perlman P. Pediatr Ann. 2024;53:e314-e319. 6) Aronson PL, et al. Pediatrics. 2019;144:e20183604.

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第267回 NHKが医療問題を徹底特集、日本医師会色を廃した番組編成から見えてきたものは?(前編)  元厚労官僚・中村秀一氏の「入院医療と外来医療の配分を考えてもらう必要がある」発言の衝撃

NHKが「どう守る 医療の未来」をテーマに様々な番組で医療問題を特集こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。相変わらずお米の話題が喧しいですね。小泉 進次郎農林水産大臣が随意契約による政府備蓄米の流通・販売で、全国組織のJA全中を差し置いてコンビニなどの大手小売り事業者に全面的に協力を要請し、瞬時に店頭に並ぶ様をマスコミに大々的に報道させた一件は、一般の人にもある種のカタルシスをもたらしたようです。小泉農水相は10年前、自民党農林部会長時代にJAグループ(とくにJA全中、JA全農)の改革を強く主張、農産物の販売手数料や流通構造の見直しを求めました。改革は志半ばに終わってしまいましたが、農水相就任を機に、改めてJAグループの権限縮小を進めようとしています。一方で、地域の個々の農協には一定の配慮を示す発言をしているあたり、なかなかの策士とも言えます。業界の全国組織の旧態依然とした体制やその弊害はどの分野でも聞かれることです。日本の医療界にも「JA全中のような組織」があります。しかし、いかんせん、こちらも選挙の票と直結しているためか、小泉農水相のような「全国組織の権限縮小」を目指す大臣はなかなか現れないようです。さて、今回は先月末から6月頭にかけてNHKが「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げたので、いくつかの番組を見た感想を書いてみたいと思います。診療所ではなく病院の経営の現状に焦点が当てられたこと、そのためか日本医師会という全国組織の存在感がなかったことなど、それなりの”こだわり”と”冒険”を感じた一連の番組編成でした。議論を病院経営に集中するために敢えて日医を外した?まず、6月1日の朝にNHK総合で放送された『日曜討論』です。「どうする?医療のこれから」のテーマで、慶應義塾大学教授の伊藤 由希子氏、日本医療法人協会副会長で社会医療法人名古屋記念財団理事長の太田 圭洋氏、秋田県横手市立大森病院長で日本地域医療学会理事長の小野 剛氏、国際医療福祉大学大学院教授で元厚生労働省審議官の中村 秀一氏、ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口 育子氏の5人が討論を行いました。現場の医療経営者は太田氏と小野氏の2人。日本医師会からの出席者がいないことに、最初は「おや?」と感じました。とくに苦境に陥っているのは病院経営であり、議論をそこに集中させるため敢えて日医を外したのか、あるいは日医側が出席を拒んだのかはわかりませんが、「病院経営」の今を雑音なく論ずるためには、適切な人選だったように思います。ただ、病院の代表者を日本病院会や全日本病院協会の幹部ではなく、日本医療法人協会副会長の太田氏と、地域の病院の代表として小野氏としたあたりは、人選の苦労も感じられました。ちなみに太田氏は、昨年から中央社会保険医療協議会の委員も務める、目下”売り出し中”の若手病院経営者です。病院経営はコロナ前にすでにカツカツ、コロナ補助金で経営改善などの問題解決が先送りに前半は「医師偏在」、後半は「病院経営」、最後に「地域医療構想」をテーマに討論が行われました。中でも注目は後半の「病院経営」に関する部分でした。太田氏が「元々病院経営がかなり厳しかったところに、ここ最近の物価高、賃金上昇が起こっているが、診療報酬が追いついていない。地域の中核病院ですら赤字に転落している。20年以上病院経営に携わっているが、ここまで厳しい状況は初めて」と訴えました。これに対し伊藤氏は、「病院の経営危機はもっと早く来てもおかしくなかった。しかし、コロナになって病床確保の補助金がかなり医療機関に配られ、一時的に黒字となったため長期的な病院の経営改善といった問題の解決が先送りされ、今になって出てきた」と指摘しました。中村氏も「病院経営はコロナ前にカツカツの状況だった。コロナで(補助金により)経営的に改善したが、毎年続く賃上げ、ウクライナ戦争以後の物価上昇に耐えられなくなってきている。賃上げの原資は診療報酬なので、今のところ診療報酬で対応するしかない」と付け加えました。「先進国の中でこれだけ入院医療の比率が低く抑えられているのは珍しい。入院医療と外来医療の配分も考えてもらう必要がある」ただ、その診療報酬について伊藤氏は「広く薄くではなく、必要な医療に傾斜配分をするメリハリのある予算付けが必要。効率化しているところとしていないところの区別も重要。今のままの医療に今のままの単価を乗せるというやりかたでは限界が来る」と指摘、中村氏も「これは医療界の方には嫌われる意見かもしれない」と前置きした上で、「入院医療に対するお金の配分は相対的に外来医療に対する分より小さい。先進国の中でこれだけ入院医療の比率が低く抑えられているのはちょっと珍しい。その意味で、医療界全体として自分たちも協力する部分は協力するということで、入院医療と外来医療の配分も考えてもらう必要がある」と付け加えました。おそらくこの日の「日曜討論」の核心部分はこの中村氏の発言で、一部の医療関係者には衝撃的だったのではないでしょうか。この発言を”翻訳”すれば、「外来、すなわち診療所の診療報酬を抑え、病院の入院医療に回すことも検討するべきだ」という意味であり、その矛先は日本医師会に向けられていたからです。「診療所は儲かり過ぎている」という財務省の主張ほど過激ではありませんが、元厚労省幹部の発言なのでそれなりの重みがあります。この場に日医の幹部がいたなら激怒していたかもしれません。あるいは、中村氏にこれを言わせるために、NHKは討論に日医を呼ばなかったとも考えられます。中村氏はまた、前半の「医師偏在」の討論の中でも、外科や産婦人科を志望する医師が激減し、一方で研修修了後すぐに美容外科を目指す「直美」問題について、現在の抑制的で各診療科に平等な診療報酬も原因の一つだとして、「リスクが高くて労働時間も長い、たとえば外科や産科の報酬を手厚くするなどの対策をまずやるべき」とも語っていました。なお、こうした診療報酬の配分に関する発言に対し、病院経営者の2人からとくにコメントはありませんでした。太田氏は中医協の委員であるにもかかわらず、です。「診療報酬の配分」については、当事者ではない”学者から発言”に留めておこうと事前打ち合わせで決まっていたのかもしれませんね。『NHKスペシャル』に対し、日本医師会が医療の正しい情報を報道するよう求める要請文書さて、もう1本の番組は同じく6月1日にNHK総合で夜放送された『NHKスペシャル ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で』です。島根県の済生会江津総合病院を舞台に、「ミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるを得ないほど現場は追い詰められている」実態をカメラで赤裸々に追ったドキュメンタリーですが、なんと日本医師会はこの番組に対し「不適切と思われる部分があった」として、医療の正しい情報を報道するよう求める要請文書を送付したそうです。『日曜討論』に日医の役員が出ていなかったのも気になりますが、番組内容に対し「正しい情報を報道するよう求める」というのも穏やかではありません。一体何が日医を怒らせたのでしょうか?(この項続く)

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歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下【論文から学ぶ看護の新常識】第18回

歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下歯磨き(歯ブラシを用いた口腔ケア)を行うことで、院内肺炎(HAP)のリスクが約33%、集中治療室(ICU)での死亡率が約19%低下することが、Selina Ehrenzellerらの研究により示された。JAMA Internal Medicine誌2024年2月号に掲載された。毎日の歯磨きと院内肺炎の関連性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、毎日の歯磨きが、院内肺炎(HAP)の発生率低下およびその他の患者関連アウトカムと関連しているかを明らかにすることを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。入院中の成人患者を対象に、歯ブラシによる毎日の口腔ケアと、歯ブラシを用いない口腔ケアを比較したランダム化比較試験を分析対象とした。PubMed、Embaseを含む6つの主要医学文献データベースと、3つの臨床試験登録システムを、各データベース創設時から2023年3月9日まで検索した。メタアナリシスには、ランダム効果モデルを用いた。主要アウトカムをHAPとし、副次アウトカムには、院内および集中治療室(ICU)の死亡率、人工呼吸器装着期間、ICU滞在期間および入院期間、ならびに抗菌薬の使用を含めた。サブグループ解析の項目には、侵襲的人工呼吸管理を受けた患者と受けなかった患者、1日2回の歯磨きとそれ以上の頻度の歯磨き、歯科専門職による歯磨きと一般看護スタッフによる歯磨き、電動歯ブラシと手用歯ブラシ、そしてバイアスリスクが低い研究と高い研究が含まれた。主な結果は以下の通り。合計15件の研究(対象患者10,742例)が選択基準を満たした(ICU患者2,033例、非ICU患者8,709例であり、非ICU患者における1件のクラスターランダム化試験を考慮して統計的に調整した有効サンプルサイズは2,786例)。歯磨きの実施は、HAPリスクの有意な低下(リスク比 [RR]:0.67 、95%信頼区間[CI]:0.56~0.81)、およびICU死亡率の低下(RR:0.81 、95%CI:0.69~0.95)と関連していた。肺炎発生率の減少は、侵襲的人工呼吸管理を受けている患者において有意であったが(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82)、侵襲的人工呼吸管理を受けていない患者では有意な差を認めなかった(RR:0.32、95%CI:0.05~2.02)。ICU患者における歯磨きは、人工呼吸器装着日数の短縮(平均差:−1.24日、95%CI:−2.42~−0.06)、およびICU滞在期間の短縮(平均差:−1.78日、95%CI:−2.85~−0.70)と関連していた。1日2回の歯磨き(RR:0.63)と、それ以上の頻度で歯磨きを行った場合(1日3回歯磨きRR:0.77、1日4回歯磨きRR:0.69)では、効果の推定値は同程度であった。これらの結果は、バイアスリスクの低い7つの研究(1,367例)に限定した分析でも一貫していた。非ICUの入院期間および抗菌薬の使用については、歯磨きとの関連は認められなかった。毎日の歯磨きが、とくに人工呼吸器管理を受けている患者におけるHAPの発生率の大幅な低下、ICU死亡率の低下、人工呼吸器装着期間の短縮、およびICU滞在期間の短縮と関連している可能性が示唆された。毎日の歯磨きは効果的ですね!とくに人工呼吸器を使用している患者では、その効果が大きいようです。ただ、「リスク比」って何?と思う方もいらっしゃると思います。この論文の結果では、リスク比が0.67と報告されています。これは、「歯磨きをすることでHAPの発生リスクが0.67倍になる」言い換えれば「HAPの発生リスクを約33%減少させる」と解釈できます。また計算すると人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防するために必要な治療数(治療必要数[NNT])は12人でした。つまり、人工呼吸器を使用している患者12人に歯磨きを実施することで1例のVAPを予防できる計算になります。12人歯磨きしたらVAPを予防できたと考えると、自分の業務のやりがいが一層感じられるかもしれません。推奨される口腔ケアの頻度は報告によってさまざまですが、少なくとも1日1~2回は必要とされています。多くの施設では、ケアの目標として食事に合わせて1日3回以上を設定しているかもしれません。しかし、多忙な業務の中でこの目標を常に達成するのが難しい現状もあるのではないでしょうか。目標が高すぎると、達成できなかった際にネガティブな印象が残り、ケアへの負担感につながってしまう可能性も考えられます。ここで大切なのは、無理なく継続できる目標を設定し、確実に実施することです。例えば、まずは「人工呼吸器を使用している患者さんには、1日1~2回歯ブラシを用いた口腔ケアを実施する」ことをチームの共通目標にしてみてはいかがでしょうか。日勤帯での実施が難しければ、夜勤帯や早朝など、部署の状況に合わせて実施できる時間帯を検討し、職場内で実現可能なルール作りや手順の見直しを行うことが大切です。このような論文の知見を参考に、この機会に現実的で継続可能なケア方法について、一度チーム内で話し合ってみるのもよいかもしれませんね。論文はこちらEhrenzeller S, et al. JAMA Intern Med. 2024;184(2):131-142.

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