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重症化前のCOVID-19入院患者、ヘパリン介入で転帰改善/NEJM

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、集中治療室(ICU)における心血管系および呼吸器系の臓器補助なしでの生存退院の割合を改善し、この優越性はDダイマー値の高低を問わないことが、カナダ・トロント大学のPatrick R. Lawler氏らが実施した、3つのプラットフォーム(ATTACC試験、ACTIV-4a試験、REMAP-CAP試験)の統合解析で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号で報告された。中等症入院患者の適応的マルチプラットフォーム試験 研究グループは、治療量の抗凝固療法はCOVID-19による非重症入院患者の転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で、非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験を行った(ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]などによる助成を受けた)。本研究では、2020年4月21日~2021年1月22日の期間に、9ヵ国121施設で患者登録が行われた。 対象は、中等症のCOVID-19で、登録時に入院を要するが、臓器補助は必要とせずICUへの入室が不要な患者であった。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または通常の血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは臓器補助離脱日数とし、院内死亡(最も不良なアウトカム、-1点)と、最長で21日までの生存退院時における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度(ICUでの介入と生存を反映し、点数が高いほどアウトカムが良好)で評価された(21日までに臓器補助なしで生存退院した場合は22点[最良のアウトカム]と判定された)。このアウトカムの評価は、全例およびベースラインのDダイマー値別に、ベイズ流統計モデルを用いて行われた。 本研究は、1,398例の適応的解析においてDダイマー値の高値集団と低値集団の双方で、治療量抗凝固療法群が事前に規定された優越性の中止基準に到達したため、2021年1月22日、データ安全性監視委員会の勧告により患者登録が中止された。1,000例当たり大出血7件増、臓器補助なし生存退院40例増 ベースラインの平均年齢(±SD)は、治療量抗凝固療法群が59.0±14.1歳、通常血栓予防薬群は58.8±13.9歳、男性がそれぞれ60.4%および56.9%であった。最終解析には2,219例(治療量抗凝固療法群1,171例、通常血栓予防薬群1,048例)が含まれた。治療量抗凝固療法群のうちデータが得られた1,093例では、94.7%(1,035例)が低分子量ヘパリン(ほとんどがエノキサパリン)の投与を受けていた。通常血栓予防薬群は、71.7%が低用量の、26.5%が中用量の血栓予防薬の投与を受けた。 治療量抗凝固療法群で、通常血栓予防薬群に比べ臓器補助離脱日数が増加する事後確率は、98.6%(補正後オッズ比中央値:1.27、95%信用区間[CrI]:1.03~1.58)であった。21日までに臓器補助なしで生存退院した患者は、治療量抗凝固療法群が1,171例中939例(80.2%)、通常血栓予防薬群は1,048例中801例(76.4%)、補正後絶対差中央値は4.0ポイント(95%CrI:0.5~7.2)であり、抗凝固療法群で良好だった。 治療量抗凝固療法群で臓器補助離脱日数が優越する事後確率は、Dダイマー高値(各施設の基準値上限の≧2倍)の集団で97.3%、同低値(同<2倍)の集団で92.9%、同不明の集団では97.3%であった。 大血栓イベント/死亡(心筋梗塞、肺塞栓症、虚血性脳卒中、全身性動脈塞栓症、院内死亡の複合)は、治療量抗凝固療法群で8.0%(94/1,180例)、通常血栓予防薬群で9.9%(104/1,046例)に発現した。大出血はそれぞれ1.9%(22/1,180例)および0.9%(9/1,047例)、致死的出血は3例および1例にみられた。頭蓋内出血やヘパリン起因性血小板減少症は認められなかった。 著者は、「これらの知見に基づくと、治療量抗凝固療法は通常血栓予防薬と比較して、中等症COVID-19入院患者1,000例当たり、大出血イベントを7件増やす一方で、40例に臓器補助なしでの生存退院を追加的にもたらす可能性が示唆される」としている。

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重症COVID-19患者へのヘパリン介入、転帰を改善せず/NEJM

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、生存退院の確率を向上させず、心血管系および呼吸器系の臓器補助なしの日数も増加させないことが、カナダ・トロント大学のEwan C. Goligher氏らが行った、3つのプラットフォーム(REMAP-CAP試験、ACTIV-4a試験、ATTACC試験)の統合解析で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号に掲載された。重症ICU入室患者の適応的マルチプラットフォーム試験 本研究は、治療量の抗凝固療法は重症COVID-19患者の転帰を改善するとの仮説の検証を目的とする非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験であり、2020年4月21日~12月19日の期間に10ヵ国393施設で参加者が募集された(REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、重症のCOVID-19患者(疑い例、確定例)で、重症の定義は集中治療室(ICU)で呼吸器系または心血管系の臓器補助(高流量鼻カニュラによる酸素補給、非侵襲的/侵襲的機械換気、体外式生命維持装置、昇圧薬、強心薬)を要する場合とされた。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または各施設の通常治療に準拠した血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは臓器補助離脱日数とされ、院内死亡(−1点)と最長で21日までの生存退院における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度で評価された。 本研究は、適応的中間解析で治療量抗凝固療法群が事前に規定された無益性の判定基準を満たしたため、2020年12月19日に患者登録が中止された。離脱日数は95.0%、生存退院は89.2%の確率で、通常治療より劣る 1,103例が登録され、治療量抗凝固療法群に536例(平均年齢[±SD]60.4±13.1歳、男性72.2%)、通常血栓予防薬群に567例(61.7±12.5歳、67.9%)が割り付けられた。主要アウトカムのデータは1,098例(534例、564例)で得られた。 臓器補助離脱日数中央値は、治療量抗凝固療法群が1点(IQR:-1~16)、通常血栓予防薬群は4点(-1~16)で、補正後オッズ比(OR)は0.83(95%信用区間[CrI]:0.67~1.03)であり、無益性(OR<1.2と定義)の事後確率は99.9%、劣性(OR<1と定義)の事後確率は95.0%、優越性(OR>1と定義)の事後確率は5.0%であった。 また、生存退院の割合は両群で同程度だった(治療量抗凝固療法群:62.7%、通常血栓予防薬群:64.5%、補正後OR:0.84[95%CrI:0.64~1.11]、無益性の事後確率:99.6%、劣性の事後確率:89.2%)。 大血栓イベント(肺塞栓症、心筋梗塞、虚血性脳血管イベント、全身性動脈血栓塞栓症)の割合は、治療量抗凝固療法群で少なかった(6.4% vs.10.4%)が、大血栓イベント/死亡(大血栓イベント+院内死亡の複合)の割合は両群で同程度であった(40.1% vs.41.1%)。また、大出血は、治療量抗凝固療法群で3.8%、通常血栓予防薬群で2.3%に発現した。 著者は、「今回の共同研究は、個々の独立プラットフォームではありえないほど迅速に、有害な可能性のある無益性の結論に到達することを可能にした」とし、「重症COVID-19患者では、複数の臓器系で凝固活性の亢進が示されているが、重症COVID-19の発症後に治療量の抗凝固療法を開始しても、確立された疾患過程の結果を改善するには遅過ぎる可能性がある。また、肺に著明な炎症がある場合、治療量の抗凝固療法は肺胞出血の増悪をもたらし、転帰の悪化につながる可能性がある」と指摘している。

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GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用・体重減少作用はセマグルチドより優れている(解説:住谷哲氏)

 デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬として開発中のLY3298176は第3のインクレチン関連薬として有望である、とのコメントを2018年の本連載第986回で掲載した。それから3年でLY3298176はtirzepatideとして承認目前まで来ている。tirzepatideの2型糖尿病に対する臨床開発プログラムSURPASS ProgramにはSURPASS-1~6、SURPASS-AP-Comb、SURPASS-CVOT、SURPASS-J-Mono、SURPASS-J-Combの10試験があり、本論文はセマグルチドとのhead-to-head試験であるSURPASS-2についての報告である。 tirzepatide 5mg、10mg、15mgの3用量に対してセマグルチドは2型糖尿病に対する最大用量である1mgが用いられた。結果は、主要評価項目である40週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてセマグルチドに対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてセマグルチドに対する優越性が示された。さらに正常血糖と考えられるHbA1c<5.7%を達成した患者の割合は、tirzepatide 5mg、10mg、15mg、セマグルチド群でそれぞれ27%、40%、46%、19%であり、低血糖(<54mg/dL)の頻度はそれぞれ、0.6%、0.2%、1.7%、0.4%であった。 セマグルチドは、現在2型糖尿病患者に対して使用できるインクレチン関連薬の中でHbA1c低下作用、体重減少作用が最も強い。したがってtirzepatideが登場すれば最も強力なインクレチン関連薬になるのは間違いないだろう。さらにtirzepatide 10mg群でみると、投与前平均HbA1c 8.3%であった患者の40%が低血糖のリスクをほとんど伴わずに血糖正常化を達成しており、2型糖尿病患者の血糖正常化が本薬剤を使用することでさらに容易となる可能性がある。 本薬剤が米国で血糖降下薬として認可されるのはSURPASS-CVOTの結果が出る2024年以降になるだろう。SURPASS-J-Mono、SURPASS-J-Comb(JはJapanの略)はわが国での先行発売を目的としていると思われるが、その結果に基づいて、わが国での投与量のみが国際標準投与量と異なる用量に設定されることのないように望みたい。

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第66回 宿泊療養も抗体カクテル療法適用/救急搬送困難例が1ヵ月で2倍超

<先週の動き>1.宿泊療養も抗体カクテル療法が可能に、自治体に酸素ステーション配備2.救急搬送困難事案が1ヵ月で2倍増、ICU受け入れ制限も/消防庁3.コロナ患者の不適切な受け入れ拒否は病床確保料の対象外に/厚労省4.AZ製ワクチン、16日から緊急事態宣言区域にて接種開始5.コロナ対応の医療従事者、濃厚接触でも要件を満たせば出勤可能/厚労省1.宿泊療養も抗体カクテル療法が可能に、自治体に酸素ステーション配備軽症~中等症COVID-19に対して7月に特例承認された抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)について、当初は原則として入院治療を要する患者への使用に限られていたが、13日に事務連絡が改正され、宿泊療養中の患者についても適用可能となった。宿泊療養施設を「有床の臨時医療施設」と見なし、東京都では同日から投与を開始している。なお、供給量の観点から本剤の一般流通は行われず、厚生労働省が所有した上で、対象となる患者が発生した医療機関からの依頼に基づき、無償で譲渡する体制が取られている。本剤の使用を希望する医療機関は、予め「ロナプリーブ登録センター(中外製薬)」への医療機関登録が必須となる。問い合わせ先中外製薬 ロナプリーブ専用ダイヤル:0120-002-621(平日9:00~17:30)第5波の新規感染者数増加に歯止めがかからず、病院において患者受け入れ困難が発生しているため、菅首相は13日に、自治体と連携して酸素ステーションを設置して対処する方針を明らかにしている。(参考)菅首相 「酸素ステーション」「抗体カクテル療法」拠点整備へ(NHK)厚労省 抗体カクテル療法・ロナプリーブ点滴静注の宿泊療養での投与可能に 事務連絡を改正(ミクスonline)新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬「カシリビマブ及びイムデビマブ」の医療機関への配分について(質疑応答集の修正・追加)(事務連絡 令和3年7月20日、8月13日一部改正)2.救急搬送困難事案が1ヵ月で2倍増、ICU受け入れ制限も/消防庁総務省消防庁は11日、救急車が到着しても搬送先の病院がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」について、8月第1週(2~8日)で全国2,897件と、7月第2週(5~11日)の1,390件と比較して2倍以上になっていることを公表した。救急搬送困難事案は、第3波の今年1月3週目に過去最多の3,317件を記録しているが、7月から8月にかけて、それを超す増加率で推移している。全国医学部長病院長会議は10日、27つの大学病院において集中治療室(ICU)での患者受け入れ制限を発表しており、他疾患での救急搬送にも影響が出ていることが明らかになっている。(参考)救急搬送困難2897件、1ヵ月で2.5倍 コロナで医療逼迫 8月2~8日、全国で(日経新聞)新型コロナウイルス感染症第5波が大学病院診療に与える影響(声明)(全国医学部長病院長会議)各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果(総務省消防庁)3.コロナ患者の不適切な受け入れ拒否は病床確保料の対象外に/厚労省厚労省は、病床が逼迫している状況を受け、COVID-19患者の入院医療機関(重点医療機関および疑い患者受け入れ協力医療機関を含む)に対し、都道府県からCOVID-19の入院受け入れ要請があった場合は、正当な理由なく断らないよう6日の事務連絡で通知した。コロナ患者の入院医療機関において、適切な受け入れが困難な場合は、その医療機関の即応病床数の見直しを求めており、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の補助金を受け取りながら、入院要請のあったコロナ患者を受け入れない医療機関は、病床確保料の支給対象外となることが明記されている。(参考)新型コロナウイルス感染症患者等入院医療機関について(事務連絡 令和3年8月6日)コロナ入院対応拒否、病床確保料の対象外の可能性も 正当な理由なく、厚労省(CBnewsマネジメント)4.AZ製ワクチン、16日から緊急事態宣言区域にて接種開始河野規制改革相は10日の記者会見で、アストラゼネカ(AZ)製の新型コロナウイルスワクチン(商品名:バキスゼブリア筋注)を、自治体での接種開始に向けて緊急事態宣言が発令中の6都府県に16日から供給すると発表した。政府は200万回分を確保しており、それ以外の地域でも8月下旬から接種可能となる見込み。AZ製ワクチンは、原則として40歳以上が接種対象であり、2~8℃で冷所保存が可能、また2回の筋肉内注射で、標準的には27~83日の間隔を空けることとされている。副反応として、ごく稀に「血小板減少症を伴う血栓症」が起こるとされ、『アストラゼネカ社 COVID-19 ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第2版』を日本脳卒中学会と日本血栓止血学会が公開している。(参考)アストラ製ワクチン、宣言発令中の6都府県に16日から供給(読売新聞)明治系、アストラ製ワクチン配送開始 自治体接種に備え(日経新聞)アストラゼネカ社ワクチンの接種・流通体制の構築について(厚労省)5.コロナ対応の医療従事者、濃厚接触でも要件を満たせば出勤可能/厚労省厚労省は、新型コロナウイルスワクチンの接種が完了している医療従事者について、濃厚接触者になっても、新型コロナ診療に当たることを認める通知を13日、各都道府県などに通知した。該当する医療従事者は、コロナ診療に従事する者に限られ、濃厚接触の認定より前に2回のワクチンを接種後14日間が経過している必要がある。また、無症状であり、毎日業務前にPCR検査や抗原検査などで陰性を確認することなどが要件とされる。なお、当該医療従事者が感染源にならないよう細心の注意を払う必要がある。これにより、全国的な感染急拡大で逼迫する医療現場の人手不足を回避する狙いだろう。(参考)新型コロナウイルス感染症対策に従事する医療関係者である濃厚接触者に対する外出自粛要請への対応について(事務連絡 令和3年8月13日)コロナ治療の医療従事者、濃厚接触者の制限を緩和(朝日新聞)濃厚接触の医療従事者、条件つきで出勤可能に(日経新聞)

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事例032 蜂窩織炎の治療で査定【斬らレセプト シーズン2】

解説右上腕蜂窩織炎の患者に、「K001 皮膚切開術」を2回算定したところB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)として査定になりました。査定理由を確かめるために、診療録を確認しました。初診来院時に右上腕の近位と遠位の2ヵ所に腫脹と痛みの訴えがあり、「蜂窩織炎」と診断されていました。経過には、初診時に右上腕近位の切開排膿を行い、抗生物質を投与、2日後の来院時に遠位の蜂窩織炎が増悪していたため切開排膿されたことが記載されていました。会計・レセプトの担当者は、それぞれの切開の距離が離れているため、別部位として算定できると考え、念のためとして医師にコメントを記載してもらっていました。皮膚切開術の算定留意事項には「長径10cmとは、切開を加えた長さではなく、膿瘍、せつ又は蜂窩織炎等の大きさをいう」とあります。また、「多発性せつ腫等で近接しているものについては、数か所の切開も1切開として算定する」ともあります。傷病名や発生原因が同一であれば、散在している対象それぞれに治療を提供しても合算して一連として算定するというルールです。事例では、傷病名が1つでコメントも時間経過のみでした。同一傷病名に対する数日内の切開は一連の治療であり、1回が妥当としてB査定になったことが推測できます。診療録の写しを添えて再審査請求しましたが原審通りでした。ただ、同様の他事例では、複数ヵ所の切開それぞれに病名を付け、医学的にやむを得ない治療経過であったことを記載して請求したところ査定とならなかった例があります。そこで、医師と会計担当者には、同一傷病名での近接複数回の切開などは、原則として合算して1回のみの算定となることを伝え、医学上にて複数回の算定が妥当と考えられる場合には、あらかじめにそれぞれにかかる病名に加え、時間的経過と医学的必要性を補記して審査支払機関に判断を委ねていただくようにお願いしました。

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免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには? 【見落とさない!がんの心毒性】第5回

はじめにこれまでの連載ではアントラサイクリン心筋症、そしてHER2阻害薬やVEGFR-TKIといった分子標的薬による心毒性が取り上げられてきました。今回は、免疫チェックポイント阻害薬について、塩山と向井が解説します。この薬は患者さん自身の免疫系を活用することによってがん細胞を攻撃するという新しい概念の治療法です。自然免疫と獲得免疫免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の作用機序を理解するために、まずは昔に勉強した(はずの)基本的な免疫システムの復習から始めましょう。免疫系には、「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。自然免疫とは生まれつき持っている免疫反応で、細菌やウイルス、がん細胞といった異物を最初に攻撃するシステムです。病原体(抗原)を好中球やマクロファージ、NK(ナチュラルキラー)細胞といった食細胞が認識して攻撃します。それに引き続いて樹状細胞が活性化します。抗原を取り込んだ樹状細胞は、異物の断片(ペプチド)を主要組織適合遺伝子複合体(MHC :major histocompatibility complex)分子に結合してヘルパーT細胞に提示(抗原提示)します。そしてヘルパーT細胞から指令を受けたB細胞が抗体を産生し、またキラーT細胞が誘導されることで異物を攻撃するシステムが獲得免疫です(図1)。(図1)自然免疫と獲得免疫画像を拡大する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)免疫システムには免疫反応を活性化するアクセル(共刺激分子)と、抑制するブレーキ(共抑制分子)が存在します。共抑制分子は自己に対する不適切な免疫応答や過剰な免疫反応を抑制し、免疫システムが暴走することを防いでいます。T細胞上にはPD-1(Programmed cell death 1)やCTLA-4(Cytotoxic T lymphocyte- associated antigen 4)といった免疫チェックポイント分子が存在し、共抑制分子として作用しています。がん細胞に発現しているPD-L1や樹状細胞(抗原提示細胞)に発現しているB7といったリガンドがPD-1、CTLA-4にそれぞれ結合することによりT細胞の活性化が抑制され、免疫系からの攻撃を回避しています(図2:左)。ICIは免疫チェックポイント分子もしくはそのリガンドに結合してT細胞の抑制シグナル(ブレーキ)を解除することによってT細胞の活性化を誘導し、がん細胞に対する免疫応答を高めます(図2:右)。(図2)免疫チェックポイント阻害薬の作用機序画像を拡大するこの仕組みをつきとめ、がん免疫療法という新たな分野を開拓した京都大学の本庶 佑博士ならびにテキサス大学のジェームズ・アリソン博士に2018年ノーベル生理学・医学賞が授与されたことは記憶に新しいですね。現在承認されているICIには、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体の3種類があります(表1)。適応症は年々拡大しており、手術、化学療法、放射線治療に次ぐ第4の治療法として期待されています。(表1)本邦で使用可能な免疫チェックポイント阻害薬画像を拡大する免疫関連有害事象(irAE)ICIによる免疫系の活性化に伴って、自己免疫疾患に類似した副作用を引き起こすことが知られています。従来の殺細胞性抗がん剤や分子標的薬による副作用とは異なる作用機序であり、免疫関連有害事象(irAE :immune-related adverse event)と呼ばれます。irAEは、皮膚、消化器、呼吸器、内分泌、神経など、全身のあらゆる臓器に発現することが報告されています1)(図3)。(図3)ICIによる有害事象[irAE]画像を拡大する心臓におけるirAEも心筋炎、心筋症、心膜疾患、不整脈など多岐にわたりますが、中でも心筋炎は予後に影響するため注意が必要です。心筋炎の発症頻度は~1%程度と決して多くはありませんが、中には劇症化する症例が存在し、致死率は50%に達すると報告されています2)。そのため早期に発見して適切に対応することが重要です。ICIによる心筋炎の発症機序として、心筋細胞に発現しているPD-L1と、T細胞上のPD-1の結合を阻害することで過剰な免疫応答が生じている可能性が考えられますが、それ以外にもいくつかの機序が推定されており、正確なメカニズムは明らかになっていません。irAE心筋炎の診断心筋炎に特異的な症状はなく、軽微な検査値異常のみで自覚症状をまったく認めないものから、劇症型心筋炎に進行して急変する症例まで多岐にわたります。有害事象の重症度は有害事象共通用語規準(CTCAE :Common Terminology Criteria for Adverse Events) ver. 5.0に基づいてGrade 1~5に分類されています(表2)。(表2)CTCAEによる心毒性の評価画像を拡大するICI投与中には、定期的にバイオマーカー(トロポニン、BNP)、心電図、心臓超音波検査のチェックが必要です。心筋炎の発症はICI開始3ヵ月以内が多いと言われていますので、投与初期にはとくに注意する必要があります。心筋炎を発症した症例のうち、9割以上にトロポニン上昇を認めますが、約半数では左室収縮能が正常であったという報告もあり3)、心臓超音波検査はあくまで補助的な診断ツールです。現時点では心筋生検が診断のゴールドスタンダードであり、病理組織学的にCD8陽性細胞障害性T細胞(キラーT細胞)、CD68陽性マクロファージ、CD4陽性ヘルパーT細胞の浸潤が特徴とされています。ただし感度があまり高くなく、またウイルス性心筋炎との鑑別が難しいことも念頭におく必要があります。近年では心臓MRI検査によるガドリニウム遅延造影(LGE)所見やT2-STIR画像が有用とされていますが、心筋生検と同様に偽陰性が存在するため、結果の解釈には注意する必要があります4)。最終的にはこれらの所見を組み合わせて総合的に診断します5)(表3)。(表3)ICI関連心筋炎の診断画像を拡大するirAE心筋炎の治療ICI投与中にトロポニンの上昇や心電図異常が出現した場合(Grade 1)、あるいは軽微な症状の場合(Grade 2)にはICIを休薬します。休薬のみで検査値異常や自覚症状が改善すれば投与再開も考慮しますが、十分なエビデンスがあるわけではありません。息切れなどの症状が増強すれば(Grade 2-3)、ICIを休薬した上でステロイドによる治療が必要です。基本的にはプレドニゾロン1~2mg/kgで治療を行いますが、循環動態が悪化していれば(Grade 4)ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1g/日)を3日間先行します。さらに病態に応じて、心臓ペーシングや機械的な循環動態の補助が必要な症例もあります。ステロイド治療に反応しない場合には、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、インフリキシマブ、アバタセプトなどの免疫抑制剤や免疫グロブリン大量療法が有効であったという報告がありますが、エビデンスに乏しく、わが国では保険適応外です。おわりに2014年に登場したニボルマブは、がん免疫療法のブレークスルーとなり、今後もICIの開発は加速すると思われます。また2019年には患者さん自身のT細胞に遺伝子改変を行い、がん細胞を攻撃するキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor: CAR)-T細胞療法が血液がんに対して保険承認され、個別化医療への期待が高まっています。近年ではさらなる相乗効果を期待して、ICIと標準治療(手術・化学療法・放射線療法)の併用療法や、2種類のICIによる併用療法も行われています。しかし複数の薬剤を併用することでirAEが増加することが懸念されていますので、循環器内科医とがん治療医の連携が今後益々重要になってくるでしょう。1)Wang DY, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1721-1728.2)Salem JE, et al. Lancet Oncol. 2018;19:1579-1589.3)Mahmood SS, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:1755-1764.4)Zhang L, et al. Eur Heart J. 2020;41;1733-1743.5)Bonaca MP, et al. Circulation. 2019;140:80-91講師紹介

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小児に対する向精神薬の使用とリスク

 メンタルヘルスの問題と関連する自殺企図は、成人および小児において増加している。メンタルヘルスに問題を抱える患者が増加しているため、成人だけでなく小児においても向精神薬の使用が増加している。しかし、小児に対する向精神薬の使用は、潜在的な有害リスクと関連している可能性がある。米国・Le Bonheur Children's HospitalのKiley Hunter氏らは、米国中毒管理センター協会(AAPCC)の国立中毒データシステム(NPDS)に報告されたデータを用いて、小児に対する向精神薬使用の傾向とアウトカムについて、調査を行った。Clinical Toxicology誌オンライン版2021年7月1日号の報告。 2009~18年にAAPCCのNPDSに報告された18歳以下の小児のデータをレトロスペクティブにレビューした。非定型抗精神病薬、bupropion、buspirone、クロニジン、リチウム、メチルフェニデート、ミルタザピン、MAO阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、トラゾドン、三環系抗うつ薬の単回投与について、調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・小児に対する向精神薬使用に関するNPDSへの報告は、10年間で35万6,548件であった。・最も報告数が多かった薬剤はSSRI(34%)、次いで非定型抗精神病薬(17%)、メチルフェニデート(15%)であった。・0~12歳では適応外使用が多かったが(79%)、13~18歳では適応に準じた使用が多かった(76%)。・SSRI使用の68%の症例は、無症候性であった。・クロニジンおよびbupropionの使用による臨床効果では、中程度(29%)から高度(25%)の割合が高かった。・全体として以下29例の死亡が確認された。そのうち、19例(65%)は青年患者であった。 ●非定型抗精神病薬:4例 ●bupropion:10例 ●リチウム:1例 ●SNRI:1例 ●SSRI:7例 ●三環系抗うつ薬:6例 著者らは「小児に対する向精神薬の潜在的に有害な使用を防ぐために、予防戦略が求められる」としている。

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終末期の運動機能の低下は死亡と関連するか/BMJ

 高齢期初期の運動機能は死亡と強い関連があり、終末期の運動機能の減退は、全般的な運動機能の指標(椅子立ち上がり時間、SF-36の身体的側面のQOL要約スコア)では早期(それぞれ死亡の10年前と7年前)に、基本的/手段的日常生活動作(ADL)の制限では後期(死亡の4年前)に出現することが、フランス・パリ大学のBenjamin Landre氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年8月4日号に掲載された。英国のWhitehall IIのデータを用いた前向きコホート研究 研究グループは、運動機能に関する複数の客観的または患者の自己申告による指標と死亡との関連の評価を目的に、前向きコホート研究を行った(米国国立老化研究所などの助成による)。 解析には、英国のWhitehall II研究のデータが使用された。この研究は1985~88年に35~55歳であった英国の公務員を対象に開始。2007~09年に6,194人(平均年齢65.6[SD 5.9]歳、女性27.3%)を対象に運動機能の評価が導入され、その後2012~13年および2015~16年に追跡調査が行われた。 主要アウトカムは、2007~19年の期間における全死因死亡と、運動機能の客観的指標(歩行速度、握力、椅子立ち上がり時間[秒、立つ-座るの5回繰り返しに要する時間])および自己申告による指標(SF-36の身体的側面のQOL要約スコア、基本的/手段的ADLの制限)との関連とした。1標準偏差の低下で死亡リスクが14~30%増加 解析に含まれた6,194人のうち、ベースライン(2007~09年)から2019年10月の期間に654人が死亡した。死亡時の平均年齢は76.8(SD 6.2)歳だった。死亡した参加者は、追跡終了時に生存していた参加者に比べ、ベースラインの平均年齢が高く(69.7歳 vs.65.1歳)、複数の併存疾患を持つ割合が高く(27.2% vs.12.1%)、運動機能が劣っていた。 平均10.6年の追跡期間中にベースライン(2007~09年)の運動機能が1標準偏差低くなると(5,645人中610人)、死亡リスクが、歩行速度では22%(95%信頼区間[CI]:12~33)、握力では15%(6~25)、椅子立ち上がり時間では14%(7~23)、身体的側面のQOL要約スコアでは17%(8~26)、基本的/手段的ADLの制限では30%(7~58)増加した。これらの関連性は、2012~13年(平均追跡期間6.8年)および2015~16年(同3.7年)には、さらに強くなる傾向が認められた。これは、平均年齢65歳、69歳、72歳時の運動機能の低下は高い死亡率と関連し、いずれの指標も年齢が進むほど関連性が強くなることを示唆する。 一方、軌跡解析では、死亡者(484人)は生存者(6,194人)に比べ、死亡前の運動機能が劣っていた。すなわち、椅子立ち上がり時間では死亡の10年前の死亡者-生存者間の標準化平均差は0.35(95%CI:0.12~0.59、p=0.003、男性で1.2秒、女性で1.3秒の差に相当)、歩行速度では死亡の9年前の標準化平均差が0.21(0.05~0.36、p=0.01、男性で5.5cm/秒、女性で5.3cm/秒の差に相当)、握力では6年前の標準化平均差が0.10(0.01~0.20、p=0.04、男性で0.9kg、女性で0.6kgの差に相当)、身体的側面のQOL要約スコアでは7年前の標準化平均差が0.15(0.05~0.25、p=0.003、男性で1.2点、女性で1.6点の差に相当)であり、基本的/手段的ADLの制限では4年前の有病率の差が2%(0~4、p=0.03)であった。また、このうち椅子立ち上がり時間、身体的側面のQOL要約スコア、基本的/手段的ADLの制限では、死亡までに両集団間の差がさらに大きくなった。 著者は、「これらの知見は、運動機能の変化を早期に検出することで、予防および目標を絞った介入の機会が得られる可能性があることを示唆する」としている。

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米CDCが妊婦のコロナワクチン接種推奨「リスクよりベネフィット上回る」

 妊娠中および授乳中の女性にとって、新型コロナワクチン接種による副反応を含めた身体への影響は、もっとも懸念するところである。しかし、感染力が強く急激に悪化するデルタ株の世界的まん延は、接種をためらう猶予すら与えない脅威になっているようだ。米国・疾病対策センター(CDC)は8月11日付でウェブサイトを更新し、ワクチン接種によって流産などのリスクが高まる懸念は見られなかったとする新たなデータを公表した。CDCは「ワクチンによって得られるベネフィットがリスクを上回ることを示唆している」として、妊婦の接種を強く推奨している。 CDCのデータによると、妊娠20週までに、ファイザー製およびモデルナ製のmRNAワクチンを少なくとも1回接種した妊婦2,456例について自然流産(SAB)の累積リスクを評価したところ、12.8%(95%信頼区間:10.8~14.8)であった。経済水準が同等の国における一般的なSABの割合は11~16%と見られ、CDCは「妊娠中にmRNAワクチンを接種した女性において流産のリスクが高まることはなかった」とし、安全上の懸念は見られないという認識を示した。 新型コロナワクチンの接種が急ピッチで進められる中、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種の安全性と有効性に関するエビデンスも徐々に増えている。CDCは、「COVID-19ワクチンを受けるベネフィットが、妊娠中のワクチン接種の既知または潜在的なリスクを上回ることを示唆している」とし、妊娠している人を含め12歳以上のすべての人にワクチンを推奨し、1回目接種後に妊娠が判明した場合でも、2回目の接種を受ける必要があるとしている。

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新型コロナ治療薬「レムデシビル」が薬価収載、10月にも流通へ

 ギリアド・サイエンシズ株式会社は8月12日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」(一般名:レムデシビル)が、同日付で薬価収載されたと発表した。薬価は1瓶(100mg)当たり63,342円。 ベクルリーは、2020年5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では同年5月7日に特例承認された。投与の対象となるのは、ECMO装着患者、人工呼吸器装着患者、ICU入室中の患者であって除外基準や基礎疾患の有無を踏まえ、医師の判断により投与することが適当と考えられる患者、および「ECMO装着、人工呼吸器装着、ICU入室」以外の入院患者うち、酸素飽和度94%(室内気)以下または酸素吸入が必要で、除外基準や基礎疾患の有無を踏まえ、医師の判断により投与することが適当と考えられる患者、となっている。本剤は、COVID-19のパンデミック下で迅速かつ公平に配分されることを目的に、厚生労働省との供給および販売契約を締結しているが、本年10月にも一般流通を開始する予定。 なお一般流通が始まるまでの期間は、引き続き国が購入した同製品を、現状のG-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)への入力を通じた方法により配分する。<製品概要>販売名:ベクルリー点滴静注用100mg一般名: レムデシビル効能・効果:SARS-CoV-2による感染症効能又は効果に関連する注意:臨床試験等における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による肺炎を有する患者を対象に投与を行うこと。用法・用量:通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。製造販売承認日:2020年5月7日薬価基準収載日:2021年8月12日薬価:63,342円/瓶

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デルタ株(インド株)の遺伝子変異と臨床的特徴(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

原著論文【Lancet】SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness 2019年12月末に中国・武漢で発生した新型コロナ感染症の原因ウイルスを武漢原株(第1世代)と定義する。ウイルスは2.5塩基/月の速度で変異を繰り返し(Meredith LW, et al. Lancet Infect Dis.2021;20:1263-1271.)、2020年2月下旬にはS蛋白614位のアミノ酸がアスラギン酸(D)からグリシン(G)に置換されたD614G株(第2世代、従来株)が発生した。D614G株は変異を繰り返し、D614G株から数多くの変異株が形成されたが2020年の秋口まではD614G株自体が世界を席巻する主たるウイルスであった。しかしながら、2020年の秋以降、D614G株のS蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置換されたN501Y株ならびにN501Y変異を有さない非N501Y株がD614G株を凌駕し、コロナ感染症は第2世代から第3世代変異株の時代に突入した。WHOは、第3世代の変異株にあってAlpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類をVOC(Variants of Concern)と定義し、世界的な監視/警戒を呼び掛けている。 Alpha株は2020年9月以降、Beta株は2020年11月以降、Gamma株は2020年12月以降に世界的播種が始まった。インド株は2020年10月にインドにおいて初めて検出されたN501Yを有さない第3世代変異株であるが、初期には、S蛋白にE484QとL452Rという2つの液性免疫回避作用の原因となる遺伝子変異を有するB.1.617.3が主流を占めていた。しかしながら、2021年4月末以降、B.1.617.3の頻度が低下、代わってB.1.617.1とB.1.617.2による感染頻度が増加した。5月に入り、B.1.617.1が衰退し、現在ではB.1.617.2がインド株の中心的ウイルスとして世界に播種している(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 May 11.)。 Delta株のS蛋白には遺伝子変異が8ヵ所認められ(T19R、G142D、157/158欠損、L452R、T478K、D614G、P681R、D950N)、L452R変異が強力な液性免疫回避作用を発現する。157/158欠損、T478Kも液性免疫回避作用を有するがL452Rほど強力ではない。P681R変異はS2領域のFurin切断部位近傍に存在し、ウイルスと生体膜との融合を強めウイルスの感染性を上昇させる。Delta株は変異/進化を続け、現在、B.1.617.2から派生したAY.1、AY.2、AY.3も検出されるようになった(B.1.617.2のSublineage、Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。AY.1、AY.2はB.1.617.2にK417T変異が加わったもの、AY.3はB.1.617.2にI1371V(ORF1aの変異)変異が挿入されたものである。2021年5月以降、Alpha株からDelta株への置換が進行し、2021年7月20日現在、インド、英国、米国、南アフリカ、ロシア、中国など世界の多くの国/地域で直近1ヵ月における新型コロナ感染の75%をDelta株が占めるようになっている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 20.)。本邦にあっては、3月初旬より第2世代のD614G株から第3世代のAlpha株への置換が始まり、5月末には感染ウイルスの85%をAlpha株が占めるようになった。しかしながら、6月初旬よりAlpha株感染の低下が始まり、7月中旬にはDelta株感染が新規感染の50%に達するものと予測されている。6月28日現在、関東圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)においては新規感染者の30%、関西圏(大阪、京都、兵庫)においては新規感染者の5%がDelta株に起因すると推定されている(国立感染症研究所. 2021年7月6日)。 本論評で取り上げたSheikhらの論文は、スコットランドにおけるPfizer社のBNT162b2(RNAワクチン)ならびにAstraZeneca社のChAdOx1(Adeno-vectoredワクチン)のAlpha株、Delta株に対する発症/重症化予防効果を解析したものである。解析施行時(2021年4月1日~6月6日)のスコットランドでは、背景ウイルスがAlpha株からDelta株に置換されつつあった時期であり、コロナ感染者の39.5%、入院患者の35.5%がDelta株感染であり、Delta株感染による入院リスクはAlpha株感染の1.85倍であった。スコットランドにおける解析終了時点でのワクチン完全接種率(2回のワクチン接種終了)は65歳以上の高齢者で88.8%、国民全体で39.4%であり、Alpha株感染の75%、Delta株感染の70%はワクチン非接種者に認められた。Pfizer社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して92%、Delta株に対して79%、AstraZeneca社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して73%、Delta株に対して60%であり、両ワクチンともDelta株に対する予防効果が有意に減弱していることが示された。他のワクチンを含めた各種ワクチンのVOC変異株に対する中和抗体価、予防効果に関しては次の論評で詳細に検討する予定であるので、それを参照していただきたい。本論文の興味深い点は、5月1日から5月27日までの約1ヵ月間におけるAlpha株とDelta株感染の推移が具体的に提示されていることであり(論文の補遺参照)、スコットランドでは1ヵ月という非常に短い期間でAlpha株はDelta株にほぼ置換されたことを示している。本論文で明らかにされたDelta株の感染性、病原性の増強ならびにワクチン抵抗性は、Delta株のS蛋白における複数の遺伝子変異から説明可能である。 本論文ならびに他の論文で明らかにされた、Delta株に対するワクチンの効果以外の臨床的特徴について考察する。感染性の指標である実効再生産数(Rt)の野生株あるいは従来株に対する比は、Alpha株で1.41倍、Beta株で1.36倍、Gamma株で1.11倍である(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 March 21.)。一方、Delta株のRtは野生株・従来株の1.97倍、Alpha株の1.55倍になると報告された(Campbell F, et al. Euro Surveill. 2021;26:2100509.)。すなわち、Alpha株、Beta株では発生から75%の感染率に達するまでには約3ヵ月の期間を要するのに対し、Delta株ではスコットランドの研究で示されたように約1ヵ月で75%の感染率に達する。一方、Gamma株では約6ヵ月を要して75%の感染率に達する。 Delta株感染時の生体へのウイルス負荷量は野生株/従来株感染時の1,200倍にも達し、ウイルス感染からPCRが陽性になるまでの潜伏期間は6日から4日に短縮される(Li B, et al. medRxiv. 2021;2021.07.07.21260122.)。その結果、野生株/従来株感染に比べ、Delta株感染では一般的入院リスクが1.2倍、ICU入院リスクが2.9倍、死亡リスクが1.4倍上昇すると報告されている(Fishman DN, Tuite AR. medRxiv. 2021;2021.07.05.21260050.)。別の論文では、野生株/従来株感染に比べてDelta株感染ではウイルス陽性期間が長く、肺炎発症リスクが1.9倍、ICU入院/死亡リスクが4.9倍に達すると報告された(Ong SWX, et al. Social Science Research Network. 2021.)。 Delta株感染の年齢分布、性差の影響に関する確実な報告は現時点では存在しない。これは、ワクチン接種という人為的要因が加わったためにDelta株の自然感染時のデータ集積が困難になっているためである。Delta株の感染性、病原性は野生株/従来株、Alpha株より強いものであることは間違いないが、それに対して年齢、性差が影響するという科学的根拠はない。それ故、Delta株の自然感染における年齢分布、性差の影響は、ワクチン接種が始まる前に集積された野生株/従来株、Alpha株に対する影響と質的に同じと考えるべきであろう。もしこの考えが正しいならば、性差によってDelta株感染に著明な差を認めず、感染者数の年齢分布はダイヤモンド型を呈するものと推察される。すなわち、Delta株感染者数は、小児、高齢者で少なく、活動度の高い20~50代で多い(Public Health England)。Delta株感染者数がこのダイヤモンド形態から外れる場合には、各世代のワクチン接種率の差が人為的要因として関与しているものと考えるべきである。

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ガチの総合診療科マンガ【Dr.倉原の“俺の本棚”】第45回

【第45回】ガチの総合診療科マンガ最近マンガの書評ばかり書いているのですが、気のせいでしょうか。最近、医療マンガが急増しましたね。医療マンガオタクの私にとっては、ありがたいことです。『19番目のカルテ 徳重晃の問診』富士屋 カツヒト/著. コアミックス. 2020年~「内科」「産科」「放射線科」など、18領域のスペシャリストが活躍する病院に、19番目の新領域である「総合診療科」を専門とする医師がやってきたという話で、設定自体はややありがちなのですが、原案と画力が素晴らしい。私は、初期研修時代に「総合診療科」を何度かローテートしていたので、非常にすんなりこのマンガを受け入れることができました。読んでいて面白いのは、やはり「ドクターG」的なエピソードと思います。全身の疼痛を訴える若年女性が、どの診療科を受診しても診断がわからないという話。泌尿器科と産婦人科が「うちの診療科じゃない」といって押し付け合っていたが、実は両診療科にまたがる疾患をかかえていて、互いに看過していたという話。こういうテーマのとき、ちょっと性格に難があるスーパードクターのほうが話が盛りやすいのですが、TVドラマ『Dr.HOUSE』のようなネジが外れてぶっ飛んだ雰囲気はなく、終始にこやかな優しい先生で、院内に敵を作りません。サージカルマスクがたまに顎マスクになっているのも、ご愛嬌。専門科と総合診療科の対立構造を描くほうが、マンガとしては描きやすいと思うのですが、これはむしろ両者の融和を描いた平和的な内容になっていて、とくに若手医師は「こういう鑑別疾患もあるのか」とアハ体験もできるため、一読に値します。また、私のようにくたびれた中堅医師にとっても、患者さんの社会背景から家族関係までを問診で掘り下げていくテクニックは、目からウロコです。ハラハラドキドキというスリルはありませんが、読後感がとにかく良い。雰囲気としては「Dr.コトー診療所」に近く、幅広いというテーマでは「ゴッドハンド輝」も近いのですが、外傷や救急疾患が多い離島の診療とは異なり、臨床推論的な話の進め方はオリジナリティが溢れており、令和時代の診療に即していると言えます。『19番目のカルテ 徳重晃の問診』富士屋 カツヒト /著・文、川下 剛史 /企画・原案出版社名コアミックス定価本体600円+税サイズB6判刊行年2020年~

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第70回 五輪然りPCR検査済みなら修学旅行はOK?大阪府教育委員会の見解は…

新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が東京都に発令され、東京都だけでなく全国各地で過去最高の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者数を記録し続ける最中に開催された東京オリンピック2020が8月8日に終了した。原則無観客開催であったことも幸いしてか、今のところオリンピックを直接のきっかけとする感染拡大は起きてはいないとみられる。そのせいか、菅 義偉首相も丸川 珠代東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣もオリンピックが感染拡大につながっていないと繰り返し強調している。「菅首相“オリンピック 感染拡大 つながっているわけではない“」(NHK)「『五輪開催 感染拡大の原因にはなっていない』丸川五輪相」(NHK)少なくとも現時点ではこの見解を覆すエビデンスはないが、過去に例を見ない感染状況の最中に本来感染対策に向けるべきリソースをオリンピックの円滑な開催に振り向けたであろうことは、これまた疑いの余地がないのではないかと思っている。この感染状況にもかかわらずオリンピックを開催したことは紋切り型の表現で恐縮だが、「国民に適切な感染対策を取るよう求めるメッセージが伝わりにくくなる」という現実もある。そうした最中、私が注目したのは以下のニュースだ。「緊急事態でも修学旅行実施 大阪市長『五輪やっている』」(朝日新聞)簡単に要約すると緊急事態宣言中ではあるが、8月に予定されている大阪市立の中学校4校の修学旅行は、生徒に事前のPCR検査を受けさせて陰性の生徒のみで予定通り実施するというニュースだ。記事の見出しにもある「五輪やっている」は、実はこの記事だけだと真意が分かりにくいが、大阪市のホームページにある市長会見の全文を見ればより理解がしやすい。松井 一郎市長が言っていることを要約すると、「大会期間中も定期的なPCR検査を実施して陰性者のみでオリンピックを開催できているのだから、修学旅行も事前のPCR検査実施で陰性者のみで実施するならばそれは構わないのではないか」という見解だ。松井市長はこれに関連して「僕も悩みましたけども」「子どもたちの一生の思い出に残るような事業、行事についてはできる限り実施をしたい」と発言しているように少なくとも短絡的に決めたわけではなさそうだ。かくいう私もコロナ禍で娘の修学旅行中止を経験している。昨春に予定されていた娘の修学旅行はコロナ禍により初冬に日程を短縮したうえで延期。ところがその時期に第3波の感染拡大が始まったことで、実施1週間前に突如中止となった。娘は表面上ヘラヘラしていたが、どれだけ辛かったろうと今でも思っている。その意味では本音ではあまり無粋なことは言いたくない。ただ、どうしてもPCR検査に対する過剰な期待と陰に隠れた危険性を認識していないのではないかと思ってしまうのだ。まず、読者の皆様には明らかに釈迦に説法なのだが、PCR検査は万能ではない。感染から4日以内ならば感度は50%に満たない。結果として参加者に偽陰性者が紛れ込む可能性があり、修学旅行中に生徒内や滞在先の関係者に感染させてしまう恐れがある。また、当然ながら出発時に陰性だったとしても滞在先で感染してしまうケースもある。だが、私がそれ以上に気になったのは、事実上「修学旅行不参加=新型コロナ感染者」と丸わかりになってしまう怖れだ。松井市長は記者との質疑応答内で感染していれば修学旅行に行けないのは「インフルエンザでも一緒ですよね」とあっさり言っている。しかし、ワクチンが登場したとはいえ、一般人からすれば新型コロナはまだまだ未知の感染症のイメージだ。インフルエンザに罹ったことで周囲から白眼視されることはほぼないが、新型コロナ感染では白眼視も含め不利益を被る可能性はまだ十分にあることを念頭に置かねばならない。そもそも同じ感染症でもインフルエンザとは状況が異なるから、わざわざ事前にPCR検査をすると言っているわけだからこの例えは問題をやや矮小化している。また、事前のPCR検査で陽性と判明した生徒と濃厚接触者の認定を受けた生徒が発生した場合どうするのか? これについても松井市長と記者との質疑応答がある。以下、その部分を引用する。記者そこで一部、陽性の方が出てしまったっていう場合には、当然その陽性の方は行けないだろうというのは分かるんですが。市長だから、それ何度も言うけどインフルエンザも駄目でしょそれは。記者濃厚接触者の特定というのは保健所を通じてやって、そういう方については行けないということになるわけですかね。市長うん、申し訳ないけどね。だから行けない子どもはそら本当に可哀想や思うよ。でもそのことをもってね、全て行事中止かといえば、それはちょっと違うでしょと思ってます。もちろん松井市長の考え方も一つだ。しかし、PCR検査で陽性となった生徒も濃厚接触となった生徒も罪はない。だが、双方の生徒ともその後も続くかもしれない心理的傷を負う可能性はあるし、とりわけ友人に感染させた可能性を持つ生徒の心痛は計り知れない。大阪市教育委員会に電話をし、指導部の担当者に尋ねてみた。―報道でも発表があった8月の市立中学校4校の修学旅行(行先は岐阜県の学校と長野県の学校がある)の実施は予定通りですか?担当者現時点では岐阜のほうに関しては調整中なので、行くことは行くけれども延期ということになっています。―4校すべて延期ですか?担当者いえ、岐阜県を行き先とした学校は延期ということです。―延期というのは受け入れ先の要望ですかね?担当者受け入れ先と言いますか、県ですね。―念のため確認をしたいのですが、報道ではPCR検査で陰性となった生徒のみが修学旅行に参加できると伺っていますが、間違いありませんか?担当者はい、そうですね。―ちなみに陽性と分かった生徒と学校内で濃厚接触と認定された生徒についてはどうなりますか?担当者今は夏季休暇中でもあるので、もしあるとするならば部活動ですかね。その場合は個別にどのような状況だったかを確認したうえで保健所などとの調整になるかとは思うのですが、授業とかをやっているわけではないので、その辺の可能性は低いのではないかと考えています。―修学旅行への不参加ということでPCR検査陽性者が特定できる可能性はありますよね?担当者すでに過去にさまざまな形で感染の例を経験しています。そのうえで誰がということではなく、さまざまな事情でお休みすることがあったりはするので、その都度の個別の対応で結果として感染者が誰かが分かることはあるかもしれません。そのことでマイナスイメージを持たれる、あるいはトラブルになることも想定できますし、正直避けては通れない問題であることは確かですので、従来から学校のほうで慎重に取り扱うことにはなっています。―過去の感染発生のケースも含め、個人情報の扱い方や対応について何か市ではマニュアル等の作成は行っているのでしょうか?担当者そもそも感染が判明した場合だけでなく、感染が怖いため登校を見合わせるケースなどさまざまなケースが考えられるため、それらも含めて慎重に対応するよう昨年度から大阪市教育委員会でも「学校園における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」を策定しており、完全に学校任せにはしていません。―ちなみに、延期により9月以降の修学旅行を実施する学校もありますよね?その場合は生徒内で濃厚接触者も発生する可能性もあります。自分が行けなくなってしまっただけでなく、友達を行けなくさせてしまったことで心理的に相当つらい思いをする生徒も発生する可能性があります。その場合を想定した対策は考えていらっしゃいますか?担当者基本的には従来と対応は変わりません。というのも、それぞれ個々の感染状況があると思うので一概に決められるものではないからです。また、今回のPCR検査については基本的に業者に依頼するもので、陽性になった場合でもさらに保健所と対応を協議することを念頭に余裕も持たせたスケジュールで行う予定で、その上で修学旅行自体は延期をベースにしつつも、内容を変えた実施も含めて検討します。誰かのせいで行けなかったということが極力ないような形で実施したいと思っています。この回答を聞いて単なる官僚答弁というつもりはない。むしろ当初はこのPCR検査の結果の運用次第で生徒に与える影響についてほとんど考えていないのではないかとやや斜に構えた見方をしていたのだが、思ったよりは教育委員会もさまざまなケースを想定していたのだと感じている。よどみなくしかも嫌がらずに答える担当者の対応にもそうした空気を感じた。私がこの問題にこだわったのは自分の娘の経験もあるが、ある医師から修学旅行にまつわるエピソードを聞き、そのことが頭からは離れなかったためである。この医師はある中学校の先生から「修学旅行を何とか実施したい、ついては生徒全員にPCR検査をし、全員が陰性だった場合のみ実施しようと思うがどう考えるか?」との相談を受けたという。医師は次のように答えたという。「PCR検査は感染性が失われた隔離解除期間後も陽性となることがある。つまり流行中に中学生たちに一斉に検査をするとリアルに感染性がある子どもたちを発見する可能性がある一方で、治癒後の生徒たちもかなり見つかる。では治癒後と思われる子は修学旅行に行かせないのでしょうか? 行かせないだけならまだしも、陽性の生徒が発生したクラスや部活はどうするんですか?濃厚接触者ならば、同じクラスの生徒や同じ部活の生徒も行かせることはできないですよね。しかもどの子が陽性だったからみんなが行けなくなったのか分かります。その時に『お前が感染してたからみんなが修学旅行に行けなくなったんだ』ということをその子に背負わせることができますか?」この医師が示唆する対応、すなわち修学旅行を実施しないは最も誰も傷つかない、あるいはみな平等に傷つく対応といえ一つの解と言える。その一方でギリギリの判断をする前述の大阪市教育委員会の解も完全に的外れではないと思う。ただ、一つだけ言えることはPCR検査も含めその結果がもたらす医学的確からしさ、科学的確からしさは時に極めて残酷な結論をもたらし、かつその影響を長期にわたって引きずることになるかもしれないということを、この件を通じて改めて思い知った次第である。

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術前スケッチを活用!効率的なオペレコ作成テクニック【誰も教えてくれない手術記録 】第5回

第5回 術前スケッチを活用!効率的なオペレコ作成テクニックこんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。皆さん、オペレコはたくさん描けていますか? 日々の業務に追われ、なかなか時間をかけて取り組めないことも多いですよね。今回は、忙しいときでもきっと描く気になれる、術前スケッチを活用した時短テクニックを紹介します!術前スケッチをオペレコ作成に役立てるには?多くの外科医は、手術前のシミュレーションとして、臓器の位置関係や血管走行などを「術前スケッチ」にまとめています。この術前スケッチ作成もそれなりに時間がかかるものなので、もしそのまま術後のオペレコ作成に使えたら、かなりの時短になると思いませんか? では、僕が描いた「腹腔鏡下S状結腸切除術」の術前スケッチを例に、さっそくオペレコを作成してみましょう。術前スケッチには、CT画像を基に臓器の構造、位置関係、血管走行などをまとめていきます。基本的には、手術内容と関連のある部分を中心に描きます。腹腔鏡下S状結腸切除術では腫瘍の位置、リンパ節転移の様子、S状結腸の長さ、血管走行などが重要なポイントとなります。手術前に頭の中のイメージを可視化することで、実際の手術の助けになりますし、そこから腹腔内や術野を思い浮かべられるくらい描けたのなら、より自信を持って手術に挑めるはずです!見本:腹腔鏡下S状結腸切除術の術前スケッチオペレコは、術前スケッチに描き加えていくだけ!さて、手術が終わったら、オペレコ作成に進みましょう。手術後の数ある業務の中でも、オペレコ作成はできるだけ早めに済ませたいですよね。念のため、術前スケッチのコピーを作成してから、新しく描き込んでいきます。まずは十分な余白を確保するため、イラストの位置や大きさを調整し、細かい手術内容や手術中に得られた情報を描き加えていきます。この作業は、簡単に複製や修正ができるデジタルイラストだからこそなせる業ですね。画像を拡大する術前スケッチをコピー&位置調整⇒オペレコを仕上げた図はい、完成です! 術前スケッチを活用して、比較的短時間に仕上げることができました。僕の体感ですが、1枚当たり60分⇒30分と、半分ほど時間短縮ができている印象です。この方法は、必然的に術前スケッチを見直すことになります。オペレコ作成時に術前スケッチを振り返り、整合性を確かめることができるので、自身へのフィードバックとしても効果的です。やはり、時間がたつと記憶が薄れてしまうので、手術直後の一番細かく覚えている段階で、オペレコ作成に取り組みたいものです。前回までのコラムのように、「下書き→線画→色塗り→仕上げ」とゼロから描き上げるのもいいですが、疲れた体にはなかなか骨が折れる作業です。術前スケッチがしっかり描けているときは、それを使ってオペレコを仕上げてしまいましょう!いかがでしたか? デジタルイラストの特徴をフルに活用して、オペレコ作成の効率化を目指していきましょう。また次回も、オペレコ作成のちょっとしたテクニックを紹介したいと思います!

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周産期うつ病に対する心理学的介入の有効性~メタ解析

 周産期うつ病は、心身に重大な影響を及ぼすメンタルヘルスの問題であり、非常にまん延している疾患である。周産期うつ病の治療において、効果的な心理学的介入に関するエビデンスは増加しているものの、これらの調査結果は、包括的に評価されていない。ポルトガル・コインブラ大学のMariana Branquinho氏らは、周産期うつ病に対する心理学的介入の有効性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌2021年8月1日号の報告。 成人女性の周産期うつ病(妊娠中および産後12ヵ月間)の治療における心理学的介入の有効性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。2020年5月までに公表された文献を、各種データベース(MEDLINE[PubMed]、PsycINFO、Cochrane Library、Web of Science、Prospero)より検索した。独立した2人の研究者により、データの抽出、統合および方法論的な質の評価(AMSTAR-2)を行った。 主な結果は以下のとおり。・7つのシステマティックレビューが抽出された。・全体として、周産期女性の抑うつ症状軽減に対する、短期および長期の心理学的介入の有効性が示唆された。・認知行動療法(CBT)は、最も効果的な介入であることが明らかとなった。これは、治療様式とは無関係に認められた。・方法論的な質は、低いと評価された。・本分析には、灰色文献は含まれておらず、一部の研究はシステマティックレビュー間で重複している可能性がある。 著者らは「周産期うつ病に対する最もエビデンスに基づいた心理学的介入は、CBTである。CBTは、個人またはグループ、対面またはインターネットベースなどさまざまな様式で実践可能である。今後は、第3世代CBTなどの他の心理学的介入を用いた、質の高いシステマティックレビューを含む研究が必要とされる」としている。

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COVID-19、心筋梗塞・脳梗塞リスクが大幅に上昇/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急性心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク因子であることが、スウェーデンにおけるCOVID-19の全症例を分析した自己対照ケースシリーズ(SCCS)およびマッチドコホート研究で示唆された。スウェーデン・ウメオ大学のIoannis Katsoularis氏らが報告した。COVID-19は多臓器を標的とした複雑な疾患であり、これまでの研究で、COVID-19が急性心血管系合併症の有力なリスク因子であることが浮き彫りになっていた。Lancet誌オンライン版2021年7月29日号掲載の報告。スウェーデンのCOVID-19全患者約8万7千例を解析 研究グループは、2020年2月1日~9月14日の期間にスウェーデンでCOVID-19を発症したすべての患者の個人識別番号を特定し、入院、外来、がんおよび死因に関する登録とクロスリンクした。対照群は、年齢、性別、スウェーデンの居住地域でマッチングさせた。SCCSではCOVID-19全患者、マッチドコホート研究ではCOVID-19全患者とマッチングした対照者の入院原因は、急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の国際疾病分類コードによって特定された。 SCCS研究では、COVID-19発症後の初回急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の発生率比(IRR)を算出し対照期間と比較。マッチドコホート研究では、COVID-19発症後2週間以内における初回急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の発症リスク増加を、マッチングし対照群と比較した。 解析対象は、SCCS研究でCOVID-19全患者8万6,742例、マッチドコホート研究でマッチングされた対照者34万8,481例であった。急性心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスクはCOVID-19発症後1週以内で約3倍 SCCS研究における初回急性心筋梗塞のIRRは、COVID-19発症日をリスク期間から除外した解析(解析1)では、COVID-19発症後1週間以内(1~7日)で2.89(95%信頼区間[CI]:1.51~5.55)、2週目(8~14日)で2.53(1.29~4.94)、3~4週目(15~28日)で1.60(0.84~3.04)、COVID-19発症日をリスク期間に含めた解析(解析2)では、それぞれ8.44(5.45~13.08)、2.56(1.31~5.01)、1.62(0.85~3.09)であった。 また、初回虚血性脳卒中のIRRは、解析1では、それぞれ2.97(95%CI:1.71~5.15)、2.80(1.60~4.88)、2.10(1.33~3.32)、解析2では6.18(4.06~9.42)、2.85(1.64~4.97)、2.14(1.36~3.38)であった。 マッチドコホート研究では、解析1の場合、COVID-19発症後2週以内の初回急性心筋梗塞のオッズ比(OR)は3.41(95%CI:1.58~7.36)、虚血性脳卒中は3.63(1.69~7.80)、解析2の場合、それぞれ6.61(3.56~12.20)、6.74(3.71~12.20)であった。

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高用量オピオイドの長期投与、用量漸減のリスクは?/JAMA

 高用量オピオイドを長期にわたり安定的に処方されている患者において、用量漸減は、過剰摂取およびメンタルヘルス危機のリスク増加と有意に関連することが、米国・カリフォルニア大学のAlicia Agnoli氏らによる後ろ向き観察研究の結果、示された。オピオイド関連死亡率の増加や処方ガイドラインにより、慢性疼痛に対してオピオイドを長期間処方された患者における用量漸減が行われている。しかし、過剰摂取やメンタルヘルス危機など、用量漸減に伴うリスクに関する情報は限られていた。JAMA誌2021年8月3日号掲載の報告。高用量オピオイドの長期投与患者約11万4千例を後ろ向きに解析 研究グループは2008~19年のOptumLabs Data Warehouseデータベースから、匿名化された医療費・薬剤費および登録者のデータを用いて後ろ向き観察研究を実施した。解析対象は、ベースラインの12ヵ月間に高用量オピオイド(モルヒネ換算平均50mg以上)を処方され、2ヵ月以上追跡された米国の成人患者11万3,618例。 オピオイドの用量漸減については、7ヵ月の追跡期間中の6つの期間(1期間60日、一部期間は重複)のいずれかにおいて、1日平均投与量が少なくとも15%相対的に減量された場合と定義し、同期間中の最大月間用量減量速度を算出した。 主要アウトカムは、最長12ヵ月の追跡期間中の(1)薬剤の過剰摂取または離脱、(2)メンタルヘルス危機(うつ、不安、自殺企図)による救急受診。統計には、離散時間型の負の二項回帰モデルを用い、用量漸減(vs.用量漸減なし)および用量減量速度に応じた2つのアウトカムの補正後発生率比(aIRR)を推算して評価した。用量漸減で過剰摂取やメンタルヘルス危機が約2倍増加 解析対象11万3,618例のうち、用量漸減が行われた患者は2万9,101例(25.6%)、行われなかった患者は8万4,517例(74.4%)で、患者背景は、女性がそれぞれ54.3% vs.53.2%、平均年齢57.7歳 vs.58.3歳、民間保険加入38.8% vs.41.9%であった。 用量漸減後の期間(補正後発生率は9.3件/100人年)は、非漸減期間(5.5件/100人年)と比べて過剰摂取イベントの発生との関連がみられた(補正後発生率の差:3.8/100人年[95%信頼区間[CI]:3.0~4.6]、aIRR:1.68[95%CI:1.53~1.85])。 用量漸減は、メンタルヘルス危機イベントの発生とも関連していた。補正後発生率は同期間7.6件/100人年に対して、非漸減期間3.3件/100人年であった(補正後発生率の差:4.3/100人年[95%CI:3.2~5.3]、aIRR:2.28[95%CI:1.96~2.65])。 また、最大月間用量減量速度が10%増加することで、過剰摂取のaIRRは1.09(95%CI:1.07~1.11)、またメンタルヘルス危機のaIRRは1.18(95%CI:1.14~1.21)増加することが認められた。 これらの結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、用量漸減の潜在的な有害性に関する問題を提起するものであるが、観察研究のため解釈は限定的なものである」との見解を述べている。

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重症COVID-19入院患者への新たな治療薬検証する臨床試験開始へ/WHO

 WHOは、8月11日付で発表したプレスリリースにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した重症患者に対し、マラリアやがん治療などに使われている既存薬3種の治療効果を検証する臨床試験(Solidarity PLUS trial)を開始することを明らかにした。臨床試験は52ヵ国600超の病院から数千人規模の入院患者を登録し、実施される見通し。 WHOは、既存候補薬のCOVID-19入院患者への有効性を検証するため、オープンラベルのランダム化比較試験(Solidarity trial)を2020年3月から実施。単一のプロトコルを使用して同時に複数の治療法を評価するもので、試験の過程を通じて効果のない薬剤については評価を打ち切る一方、新たな候補薬を逐次追加できるデザインだ。これまでに、レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル、インターフェロンβ-1aの4剤について評価が行われ、いずれも有効性が確認されず、すでに試験が打ち切られている。 今回、評価の対象となる1つ目の候補薬は、抗マラリア薬のアルテスネートで、本試験では重症マラリア治療に推奨される標準的な用量で7日間静脈内投与される。2つ目の候補薬は、慢性骨髄性白血病などのがん治療に使用されるイマチニブで、本試験では1日1回、14日間経口投与される。3つ目の候補薬は、クローン病など免疫疾患の治療に使用されるインフリキシマブで、本試験では、単回で静脈内投与される。これらはいずれも独立した専門家パネルによって選択された候補薬だという。 COVID-19を巡っては、感染力の強さと急激な症状悪化が見られるデルタ株のまん延により、人口の多くでワクチン接種が進んだ国においても感染制御に苦慮している。WHOのテドロス事務局長は、「COVID-19患者に対する、より効果的でアクセス可能な治療法を見つけることは依然として重要なニーズだ」とコメントしている。

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ワクチン突破新規感染(Breakthrough infection)の原因ウイルスは病原性の高い変異ウイルスが中心?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 新型コロナ感染症に対する主たるワクチン(Pfizer社のBNT162b2、Moderna社のmRNA-1273、AstraZeneca社のChAdOx1、Johnson & Johnson/Janssen社のAd26.COV2.S、Novavax社のNVX-CoV2373)の予防効果は、播種する主たるウイルスが野生株(武漢原株とそれから派生したウイルスの機能に影響を与えない株を含む:第1世代)からD614G変異株(従来株:第2世代)に置換されつつあった2020年の夏から秋にかけて施行された第III相試験の結果を基に報告された(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.; Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416.; Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.; Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021;384:2187-2201.; Heath PT, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 30. [Epub ahead of print])。 各ワクチンの第III相試験の結果は満足いくもので、有症候性感染に対する発症予防効果は、BNT162b2で94.8%、mRNA-1273で94.1%、ChAdOx1で81.5%、Ad26.COV2.S(単回接種)で72%、NVX-CoV2373で85.6%であった。さらに、無症候性感染予防効果、重症化(ICU入院/死亡)予防効果においても臨床的に満足いく結果が報告された。しかしながら、2021年の1月以降、世界を席巻する主たるウイルスはD614G株からさらに変異/進化を遂げた第3世代のウイルスに置換されつつある。第3世代変異株は、従来株に比べ感染性、病原性が高く、WHOは広範囲の地域に播種し世界レベルで多大な健康被害をもたらす可能性がある変異ウイルスをVariants of Concern(VOC)と定義した(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 April 27.)。 VOCとして定義された変異株には、Alpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類が含まれる。7月27日現在、Alpha株は世界182ヵ国、Beta株は131ヵ国、Gamma株は81ヵ国、Delta株は132ヵ国で検出されており(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 27.)、7月13日現在、本邦を含む世界41ヵ国で4種のVOCすべてが共存することが確認されている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 13.)。さらに、WHOは局地的に蔓延している4種類の変異株をVariants of Interest(VOI)、13種類の変異株をVariants of Alert(VOA)に分類し、今後の持続的注意を呼び掛けている(Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。VOC、VOI、VOAに分類された21種類の変異株は、感染性増強、ウイルス複製増加、あるいは、液性免疫回避を惹起する変異を有し、武漢原株のS蛋白を原型として作成された現状ワクチンの予防能力を減弱させる。すなわち、ワクチンの効果は地域/国によって異なり、その地域にあっていかなる変異株が優勢的に蔓延しているかを背景因子として考えておかなければならない。ワクチン接種後の新規感染は、Breakthrough infection(ワクチン突破新規感染)と呼称されるが、このBreakthrough infectionを形成する原因ウイルスも、その地域/国に蔓延しているウイルスの種類によって規定されることを念頭に置く必要がある。 本論評で取り上げたThompsonらの論文は、米国でワクチン接種が開始された2020年12月14日から2021年4月10日までの期間に集積されたReal-world settingにおけるワクチン接種の効果をワクチン非接種群と比較検討したものである。RNAワクチン(BNT162b2:67%、mRNA-1273:33%)の1回目接種後14日以上で2回目接種後14日未満の対象をワクチン不完全接種群、2回目接種後14日以上経過した対象をワクチン完全接種群と定義し、両者の感染予防効果(症状とは無関係に鼻腔拭い液のPCR陽性患者に対する予防効果)とワクチン接種に抗して発生したBreakthrough infectionの動態について解析している。 本論文で明らかにされた重要な事項は、(1)ワクチン完全接種群の感染予防効果は91%(BNT162b2:93%、mRNA-1273:82%)、不完全接種群の感染予防効果は81%(BNT162b2:80%、mRNA-1273:83%)、(2)ワクチン接種後のBreakthrough infectionのウイルスRNA量はワクチン非接種群の新規感染者に較べ40%低く、ウイルス検出期間はワクチン非接種群より66%低下していたという事実である。以上の結果は、ワクチン接種群では、たとえBreakthrough infectionが発生したとしても原因ウイルスの病原性はワクチン非接種群における同じウイルスの病原性よりも低く抑えられていることを意味し、これもワクチン接種の重要な効果の1つと考えることができる。本論文から推測できるワクチン完全接種による疑似感染後の新規感染率は0.19%であり、この値は新型コロナ自然感染後の再感染率(0.2%)と一致した(Rosemary RJ, et al. Lancet. 2021;397:1161-1163.)。以上の事実は、mRNAワクチン接種による疑似感染後の液性・細胞性免疫反応と自然感染後のそれらには質的な差が存在するにもかかわらず(Arunachalam PS, et al. Nature. 2021 Jul 12. [Epub ahead of print])、両者の感染予防効果はほぼ同等であることを示唆する。 Thompsonらの論文は、2021年4月初旬までの期間に集積されたワクチン接種群と非接種群における新規感染者の解析結果であり、背景ウイルスは7月現在の状況とは異なる。Thompsonらの論文に添付された補遺によると、ワクチン非接種群から判定される解析時点で米国を席巻していた背景ウイルスは、本論評で定義した第1世代に相当する野生株が90%を占め、WHOが定義したVOC(B.1.1.7)とVOA(B.1.427、B.1.429、P.2)が10%を占めた。一方、ワクチン接種群におけるBreakthrough infectionの原因ウイルスは、野生株が70%、VOA(B.1.429)が30%を占めた。ワクチン接種群と非接種群におけるVOC、VOA感染率が有意な差であるか否かは解析されていないので正確なところは不明であるが、Thompsonらの報告は、ワクチン接種後には、ワクチン抵抗性であるが故に高病原性のVOC、VOAの感染率が相対的に高くなる可能性を示唆している。 Thompsonらの論文では、5月以降、米国で感染が急上昇しているWHO分類のVOCの1つであるDelta株(インド株:B.1.617.2)が一例も検出されていないことに注意する必要がある。New York Times紙は、(1)米国では、新規感染者におけるDelta株の占める割合が5月初旬に数%であったものが2.5ヵ月後の7月14日時点では85%に達し、VOCにあってAlpha株から病原性の高いDelta株への置換が急速に進行している、(2)大規模なワクチン接種の励行によって一度低下した重症患者数が7月に入り再度増加に転じている、(3)Delta株による自然感染はワクチン接種率が低い州でより著明である、と報じた(The New York Times. 2021 July 17.)。2021年7月30日、米国CDCは、ワクチン接種率(接種ワクチン:BNT162b2、mRNA-1273、Ad26.COV2.S)が69%であったマサチューセッツ州のバーンスタブル郡で、ワクチン完全接種群においてDelta株感染のクラスターが発生したことを報告した(Brown CM, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1059-1062.)。CDCの報告によると、7月中に上記の地域で469例の新規コロナ感染者が検出され、うち346例(74%)がワクチン完全接種者におけるBreakthrough infectionであり、その90%がDelta株感染であった(B.1.617.2:89%、AY.3:1%)。この報告は衝撃的で、代表的な3つのワクチンに対するDelta株の高い抵抗性と、その結果として、ワクチン接種後のDelta株感染率が相対的に上昇する可能性を示唆している。 本邦における2021年4月1日から6月30日までのBreakthrough infectionの実態については、国立感染症研究所が報告している(国立感染症研究所. 2021年7月21日)。この時期、本邦を播種していたウイルスの主体はAlpha株であり、Delta株感染は上昇傾向を示していたものの主たるウイルスには至っていない。報告によると、27都道府県から130例のBreakthrough infectionが検出されたとのことである。原因ウイルスはAlpha株が77%、Delta株が10%、R.1株が10%、Gamma株が2.6%であった。Breakthrough infectionを形成する原因ウイルスは、その地域/国に蔓延しているウイルスの種類によって規定されるので、本邦においても背景ウイルスのさらなる厳密なモニターを念願するものである。

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