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睡眠不足の看護師は感染症に罹患しやすい

 夜間勤務(以下、夜勤)の影響で睡眠不足を感じている看護師は、風邪やその他の感染症への罹患リスクの高いことが新たな研究で明らかになった。研究グループは、「シフト勤務が睡眠の質に与える影響が看護師の免疫系に打撃を与え、感染症にかかりやすくさせている可能性がある」と述べている。Haukeland大学病院(ノルウェー)睡眠障害コンピテンスセンターのSiri Waage氏らによるこの研究結果は、「Chronobiology International」に3月9日掲載された。 この研究は、ノルウェーの看護師1,335人(女性90.4%、平均年齢41.9歳)を対象に、睡眠時間、睡眠負債、およびシフト勤務の特徴と自己報告による感染症の罹患頻度との関連を検討したもの。これらの看護師は、過去3カ月間における睡眠時間、睡眠負債、シフト勤務、および感染症(風邪、肺炎/気管支炎、副鼻腔炎、消化器感染症、泌尿器感染症)の罹患頻度について報告していた。 その結果、睡眠負債(1〜120分、または2時間超)が多いほど感染症の罹患リスクは上昇することが明らかになった。睡眠負債がない人と比べた睡眠負債がある人での感染症罹患の調整オッズ比は、睡眠負債が1〜120分、2時間超の順に、風邪で1.33(95%信頼区間1.00〜1.78)と2.32(同1.30〜4.13)、肺炎/気管支炎で2.29(同1.07~4.90)と3.88(同1.44~10.47)、副鼻腔炎で2.08(同1.22~3.54)と2.58(同1.19~5.59)、消化器感染症で1.45(同1.00~2.11)と2.45(同1.39~4.31)であった。 また、夜勤の有無や頻度(0回の場合と比べて1〜20回の場合)は、風邪のリスク増加と関連していた。風邪の調整オッズ比は、夜勤がない場合と比べてある場合では1.28(95%信頼区間1.00〜1.64)、夜勤が0回の場合と比べて1〜20回の場合では1.49(同1.08〜2.06)であった。一方、睡眠時間やクイックリターン(休息間隔が11時間未満)と感染症罹患との間に関連は認められなかった。 Waage氏は、「睡眠負債や、夜勤を含む不規則なシフトパターンは、看護師の免疫力を弱めるだけでなく、質の高い患者ケアを提供する能力にも影響を及ぼす可能性がある」と「Chronobiology International」の発行元であるTaylor & Francis社のニュースリリースの中で指摘している。 研究グループは、病院や医療システムは看護師が十分な睡眠を取れるようにすることで、患者により良いケアを提供できる可能性があると述べている。論文の共著者であるHaukeland大学病院のStale Pallesen氏は、「夜勤の連続勤務を制限し、シフト間に十分な回復時間を確保するなど、シフトパターンを最適化することで、看護師は恩恵を受けることができる」とニュースリリースで話している。同氏はさらに、「免疫系が正常に機能するには睡眠が重要であることに対する医療従事者の認識を高めるとともに、定期的な健康診断とワクチン接種を奨励することも役立つ可能性がある」と付言している。

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水中エアロビクスは減量とウエスト周囲径の減少に効果あり

 水中エアロビクス(有酸素運動)により、過体重や肥満の人の体重が2.7kg程度減り、ウエスト周囲径も2.75cm細くなったとする研究結果が報告された。論文の上席著者である国立釜慶大学校(韓国)のJongchul Park氏は、「10週間以上の水中エアロビクスによる介入により、試験参加者の体重とウエスト周囲径が大幅に減少した」と述べている。この研究の詳細は、「BMJ Open」に3月11日掲載された。 Park氏らは、論文データベースを用いて、過体重または肥満の人を対象に水中エアロビクスが人間の身体計測値(体重、ウエスト周囲径など)と体組成に与える影響を、他の介入や何もしない場合と比較したランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施し、10件を選出(対象者の総計286人)。これらのRCTのデータを抽出した後、メタアナリシスを行い、過体重や肥満の人における水中エアロビクスの効果を評価した。 これらのRCTで対象者は、1セッション当たり1時間程度の、水中エアロビクス、水中ズンバ、水中ヨガ、水中ジョギングなどの水中運動を、週に2〜3回、6~12週間にわたって行っていた。研究グループは、水中エアロビクスは、水の浮力により陸上での運動中に起こり得る関節へのダメージが軽減されるため、特に過体重や肥満の人には有効だと述べている。 その結果、水中エアロビクス群では対照群と比べて、介入により体重が平均2.69kg減少し(加重平均差−2.69、95%信頼区間−4.10〜−1.27、P<0.05)、水中エアロビクスが減量に有効であることが示唆された。また、水中エアロビクス群では対照群に比べてウエスト周囲径も2.75cm減少していた。(同−2.75、−4.41〜−1.09、P<0.05)。一方、BMIなど他の指標に対する水中エアロビクスの効果は認められなかった。 ただし研究グループは、本研究対象者に男性が占める割合は非常に低かったため、水中エアロビクスにより男性も同様の効果を得られるのかを判断することはできないと述べている。それでも研究グループは、本研究の全体的なエビデンスは、「肥満関連の健康リスクの管理において重要な要素である体重と中心性肥満の改善に、水中エアロビクスが効果的な介入策となることを支持するものだ」と結論付けている。 研究グループは論文の結論部分において、「水中エアロビクスは過体重や肥満の人にとって重要な運動の一つであり、体組成と全体的な健康の改善に大きな効果をもたらす」と述べている。また、水中エアロビクスの潜在的な利点をより深く理解するためには、より多くの人を対象に研究を行うことが必要だとし、「水中エアロビクスの長期的な効果を調査し、その有効性を他の運動方法と比較することで、貴重な洞察が得られるだろう」と付言している。

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第257回 フジの中居問題を医療者も教訓にしたい、組織内でのコンプラ対応

ここ数日はテレビをつければ、トランプ関税のニュースが大半を占めている。そして1週間ほど前、国内はあるニュースで埋め尽くされた。フジ・メディア・ホールディングスとフジテレビが公表した、フジテレビ女性社員が元SMAPの中居 正広氏から受けた性暴力に関する第三者委員会(以下、同委員会)報告書に関する報道である。同委員会の委員となった弁護士の方々には相当強いプレッシャーがあっただろうと思う。世間が注目していた事件だけに、中途半端な結果を出せば、委員各人までもが世間から批判の嵐にさらされることが必定だったからだ。正直、この手の同委員会報告書は多くの場合、尻切れトンボのようなものであることが多い。しかし、今回公表された報告書は、資料まで含めれば実に400ページ弱という膨大な内容である。一応、私も全文を通読したが、同委員会はデジタルフォレンジック*を駆使しながらも、短期間でよくここまで調査したものだと驚いた。実際には同委員会の弁護士3人以外に総勢23人もの弁護士が調査担当として加わっており、その注力ぶりがうかがえる。*コンピューターやスマートフォンなどの電子機器に残された情報を収集・解析し、証拠を保全・分析する技術中身を報道で知っている人は多いだろうが、必ずしも報告書の全文を読んだ人ばかりでもないだろう。この報告書は何らかの形で精神を病んでしまった人に対する組織の対応に関する教訓にあふれている。その意味では、組織に所属する人にとって他人事ではないはずである。そこで今回、あえてこの内容を取り上げたいと思う。ただ、その内容は膨大なことから2回にわけてお届けする。中居氏が守秘義務解除を拒否、報告書へ被害状況は記載されずまず、報告書では今回の事案の性暴力の様態については記載がされていない。これは中居氏と被害者Aさんとの間で示談が成立し、その部分には守秘義務が課されているからである。もっとも同委員会は、調査に当たって両者に守秘義務解除を打診し、Aさん側は全面解除に応じたが、中居氏側が応じなかったため、被害の詳細な実態はわかっていない。ただ、Aさんが被害を訴えたフジテレビ社員などからのヒアリングから、同委員会は今回の事案に関してAさんが性暴力に遭ったと認定している。もっとも前述のようにかなり綿密に行われた調査ゆえに、Aさんのその後の症状やその後のフジテレビ社内の対応は生々しすぎるほど明らかにされている。以下はその後のAさんの状況を概説する。なお、フジ・メディア・ホールディングスとフジテレビの取締役、中居氏以外は同報告書で記載されていた仮名を用いることとする。被害の大筋、本件から見える課題被害発生から4日後の2023年6月6日、Aさんはフジテレビの健康相談室のC医師に電話し、泣きながら被害発生日以降の不眠などを訴え、C医師は同日午後に健康相談室の心療内科医D医師の診察を予約。AさんはC医師とD医師に対し、中居氏から受けた被害内容とその後の心身の状況について話をした。Aさんは不眠、食欲不振、身体のふらつきなどの症状を訴え、次のように語ったという。「前の自分に戻れない気がする」「みんな生きている世界と自分に大きな隔たりがあって、もう戻れない」「(事件の時に)食べていたものや流れていた音楽を聞くと辛い」「(ニュースを読んでいる際に亡くなった人の名前を読んで)私が代わりに死ねばよかったと思った」これに対しD医師は急性ストレス反応と診断。症状軽減のため治療薬を処方した。Aさんは業務継続の意向であり、C医師とD医師が弁護士への相談をAさんと検討しようとしたが、本人は精神的に非常に混乱しており、そうした判断が困難な状態だったという。また、この同日、アナウンス室長のE氏がデスクで突っ伏していたAさんに気付いて声をかけたところ、涙を流し始めたので個室に移動して面談。そこでE氏はAさんが中居氏から性暴力を受けた旨の報告を受けた。E氏はAさんに女性管理職F氏にも相談するよう伝えるとともに、事前にF氏にAさんの相談概略を伝達。翌6月7日にAさんはF氏にも被害を相談した。F氏との面談の際、Aさんは中居氏との共演は可能である旨を伝えていたが、混乱状態での話だったため、F氏は「今後何か心変わりがあれば言ってほしい」と伝えている。さらに6月8日には健康相談室のC医師から連絡があり、E氏、F氏がAさんの状況について情報を共有した。それによると、これまで各氏に対してAさんが語った内容はほぼ同じ内容だったという。以下に箇条書きする。「誰にも知られたくない」「知られたら生きていけない」「自分は元の自分に戻れない」「もう幸せになれない」「仕事も変わりなくやっていきたい、こんなことで自分の人生ダメにしたくない」「(中居氏から被害があった日の食事である)鍋の食材をスーパーで見ることができない、まったく食べられない」「(中居氏との共演は)かまわない。負けたくない」中居氏との共演に関する発言は、性暴力を受けて大きな混乱にある中でもなお泣き寝入りはしたくないということなのだろう。あまりにも痛々しい。また、この相談は過呼吸・号泣しながらの相談で心身の状況が悪いことなども共有された。この時の3氏の面談結果を受けたフジテレビのアナウンス室は▽本事案を誰かに共有する際にはAさんに確認する▽Aさんが非常に精神的に不安定なため、そのケアを最優先にする▽番組出演についてもアナウンス室の判断で勝手に取りやめさせない▽業務継続か休務かは必ず医師に相談し、医師の所見をもとに判断するとの対応方針を決めた。F氏はAさんと相談の上で、2023年6月10日頃まで番組に出演し、翌週から1週間は「体調不良」で休務することを決定。その後、一旦業務に復帰した。しかし、F氏のもとにはほかのアナウンサーからAさんについて、手の震え、歩くのもふらつく様子があると報告され、同時期に健康相談室を訪れたAさんはC医師・D医師に「食べられない」「ふらふらしている」「仕事中も手が震える」「力が入らない」「眠れない」「(被害時の)食材を見たくない・食べたくない」「身体も痛い」などと訴えた。C医師とD医師は、Aさんがかなり痩せて食欲不振も激しい状態だったため、即入院が必要と判断。すぐに都内の病院への入院調整を行い、病床が空いていた消化器内科にまず入院して精神科医師の併診とする治療体制とし、精神科のベッドに空きが出た時点で転科することが取り決められた。入院時の病院宛ての「紹介・診療情報提供書」には、傷病名を「うつ状態、食思不振」と記載され、「仕事関係者からのハラスメントによる」とも付記された。結局、当初のこの事件の情報共有範囲はAさんの意向に沿って、E氏、F氏、C医師、D医師の4名に限定されていた。しかし、Aさんの入院長期化が予想されたことなどから、2023年7月中旬にF氏がE氏に対して経営上層部への報告を要望。E氏は編成制作担当取締役、編成制作局長G氏、人事局長H氏に本事案を報告する予定であるともにAさんとの連絡窓口をF氏に一本化したい旨を伝え、実際、以後のAさんとのコミュニケーションはF氏に委ねられた。そしてE氏からはG氏、H氏への報告が行われたが、両氏ともこの件を「プライベートの問題」と認識したと報告書には記載されている。報告書では両氏にはE氏から具体的な性暴力の内容まで報告された記載がある。ちなみにG氏に関しては、「プライベートな問題」と判断した理由について、Aさんが中居氏所有のマンションで2人で会ったこと、これまでもタレントと女性アナウンサーが交際・結婚した事例もあったからと述べている。一方で、心身の状態が悪化し入院に至っているため混乱したともヒアリングに回答している。この辺はE氏の説明の仕方に起因するのか、G氏の思考に起因するのかはわからない。ただ、H氏は同委員会に対して「社員に対する安全配慮義務の問題として捉えるべきであると判断した」旨も述べている。ちなみに、この段階ではG氏の判断で役員やコンプライアンス推進室へは報告されていない。というか、すでに報道などでもご存じのように、コンプライアンス推進室へはまったく報告がされなかった。G氏は、役員へすぐ報告しなかったこと、コンプライアンス推進室への報告をしなかったことについて、「Aさんが誰にも言わないでほしいと哀願している」「コンプラにいる人間がそれを聞いて情報拡散しないか不安に思った」「フジは情報が漏れやすい会社である」「女性アナウンサーは社内からどう見られるか気にしている」などの理由を挙げている。このように、Aさんが言っていたとされる「誰にも言わないでほしい」を当事者たちが都合よく解釈しているように映るのも気になる点である。この場合、より突っ込んでAさんの真意を解釈するならば、「自分に関して何らかの責任ある判断とそれに基づく決定ができるわけでもない、単なる興味本位の人に共有をしないでほしい」ということではないだろうか。ちなみにG氏、H氏への報告が、当初アナウンス室が決めた「本事案を誰かに共有する際にはAさんに確認する」の手続きを踏んでいたかは報告書を読む限りは不明だが、これ自体はG氏やH氏の職責やAさんの事件の重大性などを考えれば、たとえ事前許諾を得ていなかったとしても、大きな問題ではないと私個人は考えている。結局、6人も対応に関与していたのにさて、ここまでが途中経過だが、これだけでもメンタルの異常が強く疑われる社員、しかも性暴力被害者への対応としては、かなり問題ありの点が多々うかがえる。登場するE氏には被害に遭ったAさんのことをかなり心配して慎重に対応していることがうかがえる。しかし、報告書でも指摘されていることだが、まず問題なのは入院に至る重篤な心身状況にあるAさんへの対応窓口をメンタルケアの専門家ではないF氏に一任したことである。E氏はおそらく「同じ女性だから」という意味で良かれと思ってそのような判断をしたのだろう。しかし、一般人はメンタルが異常をきたしている相手にやってはいけない「過剰な励ましや前向きの強要」「感情の否定や軽視」を悪気なくやってしまいがちである。つまるところF氏の采配次第で、Aさんのメンタル状況が大きく左右されることになる。もし窓口を一本化するならばC医師あるいはD医師である。実際、Aさんは真っ先に自分から健康相談室にコンタクトを取り、性被害について自らC医師やD医師に話しているのだから、窓口の役目としてF氏よりも明らかに適任といえる。また、報告書でも指摘されているが、当然ながらF氏に大きな精神的負担が生じる結果となっている。しかも、それに対するフォローアップは報告書を見る限り、皆無である。前述のようにE氏からG氏、H氏の報告の際、両氏は当初「プライベートな問題」と認識したと同委員会に回答しているが、一定以上の権限を持つこの両氏への報告の際は、欲を言えば、E氏がC医師、D医師に同席を求めるのが望ましい姿だ。ちなみに報告書の記載では両医師ともAさんとの最初の面談時点で性暴力を受けたとの認識で一致しており、これまでのAさんの病状も含め、E氏やF氏よりもより正確な情報を持っている。正直、この辺からメンタルに問題を抱える人への対応としては、ボタンの掛け違いが始まっているようにさえ思える。この上にさらに情報が上がると、ボタンの掛け違いどころか冬服と夏服の取り違えくらいの様相になるのだが…。そこは次回に触れたいと思う。

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デフレの王者からインフレの賢者へ! 物価高騰から身を守るための処方箋【医師のためのお金の話】第91回

食料品の価格高騰が止まりません。2025年1月の消費者物価指数では、キャベツが前年同月比2.9倍、白菜が2.1倍、お米は70.9%増、チョコレートは30.8%増となりました。いずれも、たった1年ですごい値上がり率ですね。他の野菜、果物、魚介類などの生鮮食品も全体的に21.9%上昇しており、2004年11月以来の高水準です。毎日の食卓に欠かせない野菜やお米の価格高騰が長引いており、物価上昇を実感せざるを得ません。これらの価格上昇には、それぞれの事情があります。キャベツが高くなったのは、猛暑や雨不足による生育不良で出荷量が激減したことが原因です。チョコレートは原材料価格の高騰が影響していると言われています。背景には、気候変動による猛暑や豪雨の頻発があります。その影響で、生鮮野菜などの生育不良による供給量の減少や価格上昇につながっている可能性があります。肥料の主要生産国であるロシアによるウクライナ侵攻で価格が高騰したことも一因でしょう。しかし、これほど多くの物の値段が上がっているのは異常事態です。個別要因を鵜呑みにして、インフレによる通貨価値の下落という根本的原因から目をそらしていると、足元をすくわれる可能性があります。医師の立場でインフレについて考えてみましょう。ガリガリ君の値上げ謝罪CMが懐かしい!?数年前まで、日本はデフレの真っただ中でした。値上げなど考えられないという風潮が、生産者と消費者の双方にありました。その象徴的な出来事が、2016年に放映された「ガリガリ君の値上げ謝罪CM」でしょう。ガリガリ君の値段は、1981年の発売当時50円でした。それが10年後の1991年に60円、そして2016年には25年ぶりの値上げに踏み切り70円になりました。値上げ謝罪CMでは、赤城乳業社員たち総出のお辞儀が話題になりました。当時の感覚でも、やり過ぎ感はあったものの、値上げに対する反応にそれほど違和感はありませんでした。それほどまでに日本では物価は上がらないというデフレマインドが支配的だったのです。しかし、コロナ禍を経て状況は一変しました。当初は物価が高くなるものが少しずつ増えていきました。値上げするものは少数だったので、個別要因を説明されると納得したものです。そして、値上げの原因が解消されれば、また値段が下がると思っていました。しかし、今では値上げする物が多すぎて、とても個別要因だけでこれほど多くの商品が値上がりしているとは信じられません。確かに個別要因はありますが、根本的な部分では、通貨価値下落によるインフレが原因になっていることが誰の目にも明らかになってきました。デフレの王者・医師が生き残る道は?医師はデフレの王者でした。その理由は、医師の報酬の財源になっている社会保障費がデフレ下でも拡大し続けたからです。他の業界を尻目に、医療業界は活況を呈します。医師の報酬は下がらないので、物価が下落すると相対的に購買力が増したからです。ところが、インフレになるとこの状況が逆回転し始めます。医師の報酬は良くも悪くもほとんど変化がありません。ところが物価だけがどんどん上昇するので、相対的な購買能力が低下し始めたのです。もちろん、医師の報酬はもともと高いので、多少物価が上昇した程度では、致命的な状況にはなりません。しかし、インフレが数年間にわたって持続すると、医師といえども高額所得者から陥落する可能性が高まります。私の肌感覚では、コロナ禍以前と比べて医師は10~20%程度は貧しくなったと感じています。このまま物価上昇が収まってくれればよいのですが、残念ながら現時点で、その気配を感じることはできません。この状況に対抗する最も簡単な方法は節約でしょう。これまでの医師であれば、多少散財しても収入が多いので大勢に影響はありませんでした。しかし、今は状況が異なります。とくに携帯電話代などの固定費を中心に、無駄なものがないかを確認する必要があるでしょう。一方、根本的には収入を上げるしかありません。収入を上げる方法は千差万別ですが、これまでの医療一本足打法では立ち行かなくなる可能性が高いです。短絡的に株式投資や不動産投資を勧めるわけではありませんが、勉強ぐらいは始めても良いかもしれませんね。

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軽度認知障害の再考:MCIの時期までにやっておくべきこと【外来で役立つ!認知症Topics】第28回

MCIの現代的な意義誰しも加齢とともに物忘れをしやすくなるから、どこまでが生理現象でどこからが認知症なのかという問いは、ずっと以前からある。1962年にV. A. Kralが提唱した「良性健忘」と「悪性健忘」という概念は、このような疑問への初期の回答としてよく知られている。この後、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)が1990年代からRonald C. Petersenの定義を軸に着実に世界に浸透した。このMCIとは「認知症とはいえないが、記憶が悪くて日常生活に多少の障害があるのだが、なんとか自立しているレベル」を意味する。MCIの意義は、アルツハイマー病(AD)の早期発見と、当事者およびその介護者が将来への生活設計をする起点にあったと思う。またこの頃からADの新薬開発が加速し始め、そのターゲットとしてMCIが注目されるようになった。そして新薬はADになってからでは遅いとされ、このMCIが新薬の主たるターゲットになってきた。そしてレカネマブやドナネマブの登場により、MCIの意義が確かになった。とはいえ、従来のAD治療薬の効果が「天井から目薬」なら、筆者の実感ではこれらの薬の効果は「50センチ上から目薬」である。だから残念ながら、「早期発見」と「生活設計」が持つ意義は廃っていない。10年間で日本のMCIが1.4倍も増加さてMCI の予後に関しては、メタアナリシスで、4年で半分の人が認知症に進行することがほぼ定着している。一方で26%の人が、正常に戻ることも報告されている。わが国の認知症・MCIの疫学調査1)は、2012年と2022年に行われている。両時点の高齢者人口は3,079万人と3,603万人である。その結果概要として、認知症が462万人から443万に減少している。ところがMCIは400万人から559万人と、1.4倍も増加しているのである。画像を拡大する図. 認知症および軽度認知障害の有病率の推移(資料1より)この背景について、2つの私的推察をしてみた。まず前向きに捉えると、近年の欧米の報告と同様に、血管要因をはじめとする認知症の危険因子へ対応する人が増えてきたので認知症にはならずに、MCIでとどまる人が増えた可能性がある。つまり従来のMCI者は「4年で」半数が認知症になったのが、「5年、6年で」と変わったのかもしれない。反対も考えられる。2012年時点で認知症者の8割は80歳以上であった。Lancet誌のメタアナリシス2)によれば、認知症者は診断確定後の平均余命は5年前後である。すると2012~22年の10年間に2012年当時の認知症者の少なからぬ者が亡くなった可能性が高い。そうした死亡者数が新たに認知症になった人数より多かったから、2022年に認知症者は減少したのかもしれない。一方で2012~22年は、戦後のベビーブーマー世代が老年期に達し、さらに後期高齢者になった時代である。とすると、人数が多いこの世代におけるMCIの発生がMCI全体の数を増やしたとしても不思議でない。「太陽と死は直視できない」――エンディングノートを書けない理由ところで以前、本連載に「未来への連絡帳」くらいには言い換えて欲しいと書いたように「エンディングノート」の名は気を滅入らせる。リビングウィルに詳しい人と、その記述とMCIの関係を話し合ったことがある。エンディングノートは近年の隠れたベストセラーで、とくに敬老の日の前後は、多くの書店で山積みにされる。多くの人はこれを買っても最後まで書けないから、毎年9月になるとその売り上げは急増するのでベストセラーであり続ける由。ところでエンディングノートの難所は、介護の場、終末期医療、財産相続、そして葬儀関連の4つにあるそうだ。そしてなぜ書けないか?の「あるあるの理由」も知られる。「介護の場」では、在宅(家族)介護から施設介護にシフトすべき基準がわからないが最多だそうだ。「終末期医療」では延命治療の基本的なことも知らないし、子供たちに負担をかけたくないこと。財産相続では、子供たちが「争族」になったら困るので、財産の分け方を決めかねること。そして「葬儀関連」では、死に対する心理的抵抗が強くて考えられないとの由。要は「太陽と(自分の)死は直視できない」(ラ・ロシュフコー)ということか? だから「まあ何とかなるだろう。子供たちがどうにかやってくれるだろう」が多数派となる。「未来への連絡帳」に書き込めるのはMCIの時期までしかし認知症臨床の場では、当事者がターミナルに至った時に、また亡くなった後に、皆が困る事態に至る例が少なくない。エンディングノート(未来への連絡帳)を完成させるには、意思能力や合理的な判断能力が必要である。平たく言えば、精神活動の3要素とされる「知情意」(知は知能、情は情操、意は意志)がそろって健全でなくてはならない。しかし加齢と共に知のみならず、情・意のほころびも多くの人に忍び寄ってくる。「情」なら、腹立ち・イライラしやすくなる、お追従に弱くなりがちだ。「意」では、三日坊主、面倒臭いからやめておこう、といった具合である。私的な経験ながら、健全な情意の維持は、MCI期に至ると怪しくなると思う。だから「未来への連絡帳」に書き込めるのはMCIの時期までと意識したい。筆者自身も筆が止まる箇所がある。全部でなく「書けることは書いておく」だけでもいい。また書けない事項については、なぜそうかの箇条書きがあるだけでも、後に思いがけず役立つかもしれない。参考1)厚生労働省.認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計. 2)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

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高齢者の治療抵抗性うつ病に対して最も効果的な治療は?〜メタ解析

 高齢者のうつ病は、十分に治療されていないことがある。2011年の高齢者治療抵抗性うつ病(TRD)の治療に関するシステマティックレビューでは、プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)が1件のみ特定された。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAlice Jane Larsen氏らは、高齢者のTRD治療に対する有効性に関するエビデンスを統合し、更新レビューを行うため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BMJ Mental Health誌2025年3月3日号の報告。 対象研究は、55歳以上のTRD患者に対する治療を調査したRCT。治療抵抗性の定義は、1回以上の治療失敗とした。2011年1月9日〜2023年12月10日(2024年1月7日に検索を更新)に公表された研究を、電子データベース(PubMed、Cochrane、Web of Science)よりシステマティックに検索した。メタ解析により、寛解率を評価した。バイアスリスクの評価には、Cochrane Risk of Bias(RoB)2ツールを用いた。エビデンスの評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)基準を用いた。 主な結果は以下のとおり。・14研究、1,196例(平均年齢:65.0歳、男性:548例、女性:648例)が包括基準を満たした。・10研究はプラセボ対照試験であり、4研究は低RoBであった。・介入群の寛解割合は0.35(17アーム、95%信頼区間[CI]:0.26〜0.45)。・対照群と比較し、介入群の寛解の可能性は高かった(9研究、OR:2.42、95%CI:1.49〜3.92)。・対照群と比較し、寛解率が良好であった治療は、ケタミンが優れており(3研究、OR:2.91、95%CI:1.11〜7.65)、経頭蓋磁気刺激(TMS)はその傾向がみられた(3研究、OR:1.99、95%CI:0.71〜5.61)。単一のプラセボ対照研究では、セレギリン、アリピプラゾール増強療法、薬理遺伝学的介入(PGP)、認知機能リハビリテーション介入の有用性が認められた。 著者らは「高齢者TRD患者の寛解率向上に対する治療として、ケタミン治療およびアリピプラゾール増強療法が有効であるとする弱いエビデンスとTMS、PGP、認知機能リハビリテーションが有効であるとする非常に弱いエビデンスが特定された。日常的に使用される抗うつ薬や心理社会的介入に関するエビデンスの欠如は問題であり、臨床医は、若年層からのエビデンスを拡大することが求められる」と結論付けている。

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高感度CRP、心不全の悪化予測に有用か/日本循環器学会

 日本人の高齢化に伴い、国内での心血管疾患(CVD)の発生が増加傾向にある。このCVD発生には全身性の炎症マーカーである高感度C反応性蛋白(hsCRP)の上昇が関連しており、これが将来の心血管イベントの発症予測にも有用とされている。しかし、その関連性は主に西洋人集団で研究されており1)、日本人でのデータは乏しい状況にある。そこで今回、小室 一成氏(国際医療福祉大学 副学長/東京大学大学院医学系研究科 先端循環器医科学講座 特任教授)が日本人集団における全身性炎症と心血管リスクの関係を評価し、3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies1において発表した。 本研究は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)および心不全(HF)患者における全身性炎症に関連する長期健康アウトカム、ならびに医療費や医療資源の利活用にも注目してその特徴などを調査した観察研究である。メディカル・データ・ビジョンのデータベースの約5,000万例2)を基に、2008~23年にASCVDまたはHFと診断された18歳以上で、ASCVDまたはHF患者と診断され、hsCRP測定が適格と判断された約360万例を解析。主要評価項目は主要心血管イベント(MACE)とHF複合累積罹患率であった。 主な結果は以下のとおり。・ASCVDを有する患者集団をコホート1(10万7,807例)、HFを有する患者集団をコホート2(7万1,291例)とし、各コホートの患者をhsCRPで3群(正常低値:0.1mg/dL未満、正常高値:0.1~0.2mg/dL未満、高値:0.2~1.0mg/dL)に分類した。 ・コホート1について、hsCRPの上昇と関連する因子を特定するためにステップワイズ法を用いたロジスティクス回帰分析を実施したところ、高値群の患者特性として、男性、高齢、認知症、2型糖尿病、CKDなどがみられた。 ・コホート2も同様に解析したところ、脳卒中の既往歴を有する患者割合がコホート1よりも少ない一方で、高血圧症は約75%超の患者でみられ、COPD、2型糖尿病、心房細動、認知症と続いた。 ・HF複合累積罹患率として5年発症リスクを各群で分析したところ、正常低値群は17.6人年、正常高値群は24.0人年(調整ハザード比[HR]:1.31、95%信頼区間[CI]:1.25~1.38、p<0.0001)、高値群は27.3人年(HR:1.37、95%CI:1.32~1.44、p<0.0001)だった。 ・HF複合累積罹患率から各群の入院や全死亡を見ると、hsCRPが高くなるほどいずれも発生率が上昇した。 最後に小室氏は「本結果より、日本人のCVD患者の35%以上がhsCRP高値であった。とくに男性、高齢者、およびCKD、COPD、2型糖尿病、認知症などの特定の併存疾患が、両コホートにおいてhsCRP高値と関連していた。また、MACEやHF複合累積罹患率に影響することが明らかになったことから、炎症がASCVDだけでなくHFの悪化にも寄与する可能性が示唆された。この状態あるいは疾患における炎症関連の有害事象が、何らかの共通メカニズムを介しているのか、それともいくつかの異なるメカニズムによって引き起こされているのかは、今後の検討課題である」と締めくくった。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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子供も食事の早食いは肥満に関係する/大阪大

 「早食い」は太る原因といわれている。この食べる早さと肥満の相関は、子供にも当てはまるのだろうか。この課題に対し、大阪大学有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座の高阪 貴之氏らの研究グループは、わが国の小学生1,403人の咀嚼能力および咀嚼習慣と肥満との関連を検討した。その結果、早食いや咀嚼能力の低下は、男子で肥満と関連していた。この結果は、Journal of Dentistry誌2025年3月8日号のオンライン版に掲載された。男子は早食い、満腹、噛む力が肥満に関係 研究グループは、大阪市の9~10歳の児童1,403人を対象に、咀嚼習慣を質問紙で評価し、咀嚼能力は色変化するチューインガムを用いて測定した。肥満は、身長と体重に基づく過体重の割合で判定し、多変量ロジスティック回帰分析を行い、咀嚼習慣と咀嚼能力を説明変数とし、性別、DMFT指数、ヘルマン歯発育段階を調整した肥満のオッズ比を算出した。 主な結果は以下のとおり。・ロジスティック回帰分析では、すべての参加者において、肥満と性別(オッズ比[OR]=1.54、95%信頼区間[CI]:1.08~2.17 )、早食い(OR=1.73、95%CI:1.23~2.44 )、咀嚼能力低下(OR=1.50、95%CI:1.05~2.15)との間にそれぞれ有意な関連が認められた。・男子では、早食い(OR=1.84、95%CI:1.16~2.92)、満腹(OR=1.59、95%CI:1.03~2.46)、咀嚼能力の低下(OR=1.63、95%CI:1.02~2.59)が肥満とそれぞれ有意に関連していた。・女子では、有意に関連する変数はなかった。早食いと咀嚼能力の低下を組み合わせると、肥満と有意に関連し、両方の行動を示す男子で最も強いオッズ比が観察された(OR=3.00、 95%CI:1.49~6.07)。 この結果から研究グループは、「9~10歳の児童において、早食い、口一杯の食事、および咀嚼能力の低下は、とくに男子で肥満と関連していた。さらに、肥満との関連は、早食いと咀嚼能力の低下を組み合わせた場合に高かった」と結論付けている。

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死亡リスクの高いPAH患者に対するsotaterceptの有効性/NEJM

 最大耐量の基礎療法を受けている死亡リスクの高い肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者において、sotaterceptの上乗せはプラセボと比較し、全死因死亡、肺移植またはPAH悪化による24時間以上の入院の複合リスクを低下させることが、フランス・パリ・サクレー大学のMarc Humbert氏らによる第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ZENITH試験」の結果で示された。sotaterceptは、世界保健機関(WHO)機能分類クラスIIまたはIIIのPAH患者の運動耐容能を改善し、臨床的悪化までの時間を遅らせるが、進行したPAHで死亡リスクの高い患者に対するsotaterceptの追加投与の有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年3月31日号掲載の報告。基礎療法へのsotatercept追加投与の有効性をプラセボと比較検証 研究グループは、安定した最大耐量のPAH基礎療法を受けているWHO機能分類IIIまたはIVのPAH成人患者で、REVEAL Lite 2リスクスコアが9以上、無作為化前6週間以内の肺血管抵抗が5 Wood単位(400 dyne・秒・cm-5)以上、肺動脈楔入圧または左室拡張末期圧が15mmHg以下の患者を、sotatercept群(3週間ごとに皮下投与、開始用量0.3mg/kg、0.7mg/kgまで増量)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ基礎療法に加えて投与した。 主要エンドポイントは、全死因死亡、肺移植またはPAH悪化による24時間以上の入院の複合とし、time-to-first-event解析で評価した。sotatercept追加で、複合リスクが有意に低下 2021年12月1日に登録が開始された。255例がスクリーニングを受け、172例がITT集団に組み入れられた(sotatercept群86例、プラセボ群86例)。本試験は、事前に規定された中間解析(データカットオフ日2024年7月26日)の有効性結果に基づき、早期に中止となった。 主要エンドポイントのイベントは、sotatercept群で15例(17.4%)、プラセボ群で47例(54.7%)に発生し、ハザード比は0.24(95%信頼区間:0.13~0.43、p<0.001)であった。 全死因死亡はsotatercept群7例(8.1%)、プラセボ群13例(15.1%)、肺移植はそれぞれ1例(1.2%)、6例(7.0%)、PAH悪化による入院8例(9.3%)、43例(50.0%)であった。 sotatercept群の主な有害事象は、鼻出血と毛細血管拡張症であった。

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大腸がん死亡率への効果、1回の大腸内視鏡検査vs.2年ごとの便潜血検査/Lancet

 大腸がん検診への参加率は、大腸内視鏡検査より免疫学的便潜血検査(FIT)のほうが高く、大腸がん関連死亡率について、本研究で観察された参加率に基づくとFITベースのプログラムは大腸内視鏡検査ベースのプログラムに対し非劣性であることが確認された。スペイン・バルセロナ大学のAntoni Castells氏らCOLONPREV study investigatorsが、スペインの8地域における3次医療機関15施設で実施したプラグマティックな無作為化比較非劣性試験「COLONPREV試験」の結果を報告した。大腸内視鏡検査とFITは、平均的なリスク集団(大腸がんの既往歴または家族歴のない50歳以上の人々)における一般的な大腸がんスクリーニング戦略である。中間解析でも、FIT群は大腸内視鏡検査群よりスクリーニング参加率が高いことが示されていた。Lancet誌オンライン版2025年3月27日号掲載の報告。10年時大腸がん死亡率を比較検証 研究グループが適格としたのは、大腸がん、腺腫、炎症性腸疾患の既往歴、遺伝性または家族性大腸がんの家族歴(第1度近親者が2人以上大腸がんと診断、または1人が60歳未満で大腸がんと診断)、重度の合併症、あるいは結腸切除術の既往歴がない、50~69歳の健康と推定される人であった。適格者はスクリーニングへの招待前に、1回の大腸内視鏡検査群、または2年ごとのFIT群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、10年時大腸がん死亡率、重要な副次エンドポイントは10年時大腸がん発生率などで、intention-to-screen集団で評価した。非劣性マージンは絶対差0.16%ポイント未満とした。10年時大腸がん死亡率FIT群0.24%、大腸内視鏡検査群0.22%で、FITは非劣性 2009年6月1日~2021年12月31日に、5万7,404例が大腸内視鏡検査群(2万8,708例)またはFIT群(2万8,696例)に無作為化された。intention-to-screen集団は、大腸内視鏡検査群が2万6,332例、FIT群が2万6,719例であった。intention-to-screen集団における何らかのスクリーニングへの参加率は、大腸内視鏡検査群31.8%、FIT群39.9%であった(リスク比:0.79、95%信頼区間[CI]:0.77~0.82)。 10年時大腸がん死亡リスクに関して、FITの大腸内視鏡検査に対する非劣性が認められた。大腸内視鏡検査群では0.22%(死亡55例)、FIT群では0.24%(死亡60例)であり、リスク差は-0.02(95%CI:-0.10~0.06)、リスク比は0.92(95%CI:0.64~1.32)であった(非劣性のp=0.0005)。

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精液の質が良い人は寿命が長い?

 動いている精子の総数が多い人は、少ない人に比べて生殖能力が高いだけでなく、寿命も長い可能性のあることが、新たな研究で示唆された。50年にわたり7万8,000人以上の男性を追跡調査した結果、総運動精子数(1TMSC)が多い男性は、少ない男性に比べて3年近く長生きする可能性が示唆されたという。コペンハーゲン大学病院(リグスホスピタレット、デンマーク)のLærke Priskorn氏らによるこの研究は、「Human Reproduction」に3月5日掲載された。 世界保健機関(WHO)の基準に基づくと、サンプル中の精子の少なくとも42%が効果的に泳ぐことができる場合、精子の運動性は正常だと判断される。研究グループは、精子濃度が1mL当たり500万個未満の場合は、男性不妊症と関連付けられていると説明している。 この研究では、1965年から2015年の間に不妊症を理由に精子の質の評価を受けた7万8,284人(精液採取時の平均年齢32歳)の男性を対象に、精液の質と全死亡との関連を検討した。精液の質として、精液量、精子濃度、運動性と形態が正常な精子の割合を調べ、さらに総精子数とTMSCを算出した。対象者の寿命を精液の質別に算出し、全死亡率の相対的な差をCox回帰分析により推定した。 中央値で23年にわたる追跡期間中に、8,600人が死亡していた。TMSCの分類ごとに見ると、TMSCが1億2000万超の男性では平均余命が80.3歳と推定されたのに対し、無精子症の男性では78.0歳、TMSCが0〜500万の男性は77.6歳であり、これらの男性ではTMSCが1億2000万超の男性と比べて、平均余命がそれぞれ2.3年と2.7年短縮する可能性が示された。また、全ての精液の質に関する指標は全死亡と負の関連を示し、精液の質が低いほど死亡率が高くなるという量反応関係が認められた。ただし、無精子症の人よりも、精子が少しだけ(TMSCが0〜500万)存在する人の方が死亡率が高かった。例えば、TMSCが1億2000万超の男性の死亡のハザード比(HR)を1とした場合、無精子症の男性では1.28(95%信頼区間1.12〜1.46)、TMSCが0〜500万の男性では1.46(同1.35〜1.59)であった。 この研究結果をレビューした米スタンフォード大学医学部泌尿器学分野のMichael Eisenberg氏は、「精液の質と寿命の間に関連があるという事実は重要な発見だ」とCNNへの電子メールで語り、「これまでの研究でも、生殖の健康と全般的な健康の間にこの関連があることは示唆されている」と付け加えた。また、本論文の付随論評を執筆したニューカッスル大学(オーストラリア)名誉教授で生殖保健の専門家でもあるJohn Aitken氏は、「男性の場合、将来の健康とウェルビーイングに関する最も重要な情報を提供するのは精液プロファイルの可能性がある」と述べる。 専門家は、精液の質と寿命の間の関連には酸化ストレスが関わっている可能性があることに同意している。酸化ストレスとは、フリーラジカルと呼ばれる不安定な分子が体内に蓄積し、精子を含む細胞やDNAにダメージを与える現象のことをいう。Aitken氏は、「酸化ストレスの全体的なレベルを高めるあらゆる要因(遺伝的、免疫学的、代謝的、環境的、またはライフスタイル)が、精液プロファイルとその後の死亡率のパターンに変化を引き起こすとするのは合理的な考え方だ」と記述している。

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鼻の軟骨で膝の損傷を修復できる可能性

 ランニングやスキーなどスポーツをしているときの転倒により生じた膝の損傷は、選手が一線から退かざるを得なくするだけでなく、将来的に関節炎のリスクを高める可能性がある。しかし新たな研究で、そのような転倒で損傷することはほとんどない鼻が、膝修復の鍵になる可能性を示唆する研究結果が報告された。研究グループは、鼻の中で左右の気道を隔てる壁となっている鼻中隔軟骨から作られた人工軟骨を、最も複雑な膝の損傷の修復にも使用できるとしている。バーゼル大学(スイス)生物医学部長のIvan Martin氏らによるこの研究の詳細は、「Science Translational Medicine」に3月5日掲載された。 膝の損傷した軟骨は自然治癒しないため、活動的な人に長期的な問題を引き起こす可能性がある。軟骨は骨と骨の間でクッションの役割を果たしており、軟骨の喪失は最終的に関節炎を引き起こす。Martin氏らが開発した膝の修復プロセスは、患者の鼻中隔の小さな断片から採取した軟骨細胞を柔らかい繊維でできた足場上で培養する。その後、新たにできた軟骨を必要な形に切断し、膝関節に移植するというもの。初期の研究では有望な結果が示されていた。Martin氏は、「鼻中隔軟骨細胞は、軟骨の再生に理想的な特性を持っている」とバーゼル大学のニュースリリースの中で述べている。例えば、鼻中隔軟骨細胞は関節の炎症を抑えることが示されているという。 今回の第2相臨床試験は、4カ国、5カ所のクリニックの膝軟骨全層欠損患者108人(30〜46歳)を対象に実施された。対象者は、実験室で2日間だけ培養した未成熟の軟骨を移植する群と、2週間かけて成熟させた軟骨を移植する群にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、手術後24カ月時点の膝損傷と変形性関節症の転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score;KOOS)とした。KOOSは0〜100点で算出され、スコアが高いほど膝の状態が良いことを意味する。 その結果、いずれの方法でも移植手術を受けた患者には明らかな改善が認められた。ただ、より長い期間をかけて成熟させた軟骨が移植された群の方が、未成熟の軟骨を移植された群よりも膝の状態は良好であり、24カ月時点のKOOSは、前者で85点、後者で79点であった。MRI検査からは、成熟期間が長かった軟骨移植片は、より良好な移植部位の組織構成をもたらすだけでなく、周囲の元からある軟骨にも良い影響を与えることが確認された。 研究グループのリーダーでバーゼル大学のAndrea Barbero氏は、「損傷が大きい患者が成熟期間の長い軟骨の移植によって効果を得られるという点は注目に値する」と同大学のニュースリリースの中で述べている。Barbero氏はまた、他の技術を用いた軟骨の治療が奏効しなかったケースにもこの方法は有効だとしている。 研究グループは今後、膝の軟骨の変性によって起こる変形性膝関節症に対するこの治療法の有効性を検証する予定である。「試験により有効性が裏付けられれば、この治療法が人工膝関節置換術の代替となり得る」と研究グループは話している。

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第6回 アルツハイマー病遠隔診療の可能性と落とし穴

米国の大手製薬企業イーライリリー(以下、リリー)が、アルツハイマー病患者を遠隔診療の医師につなぐ新たな取り組みを始めたことが報じられました1)。これは、従来から糖尿病や肥満などの疾患を対象にリリーが提供してきた患者向けプラットフォーム「LillyDirect」の一環として行われるもので、同社が販売している薬の服用機会を促すD to C(Direct-to-Consumer)のアプローチともいえます。ただし、今回のアルツハイマー病の場合には、実際に点滴を行う医療機関に患者を紹介する形をとっていて、患者本人がウェブ上で直接処方薬を購入する仕組みにはなっていません。しかし、リリーがアルツハイマー病の新薬ドナネマブをはじめとする治療薬を持つことから、患者との接点を増やし、診断から治療への流れを後押しする目的があるとみられています。この新しい取り組みでは、患者がアルツハイマー病専門の神経内科医に遠隔で診断を受けられる体制が注目されています。とくに地方や遠隔地に住む高齢者にとっては、通院負担の軽減というメリットが考えられる一方、老年科専門医の視点からは複数の懸念もあります。以下に、その要点を整理していきます。遠隔診療での早期診断と治療選択の可能性今回リリーが提携したのは、遠隔で神経内科医とつなぎ、必要に応じて脳の画像検査(MRIやPETなど)の手配、さらに点滴治療が可能な医療機関を紹介する企業「Synapticure」です。昨今早期診断が重視されるアルツハイマー病において、専門医が不足する地域でも、患者が遠隔で診療にアクセスできることは一定の意義があるでしょう。とくに新規抗アミロイド薬(脳内アミロイド斑を標的とする薬剤)は、早期の患者さんでの効果が示唆されていて、こうした治療機会に迅速につなげる意義は、否定はできません。また、Synapticure側も「遠隔診療での認知機能評価」「遺伝子検査(APOE4の有無など)」「点滴センターの紹介」を一元的にサポートすることを強調していて、患者家族の負担軽減や、専門医へのアクセスが困難な地域の課題解決を目指しています。すでに糖尿病や肥満などの領域で同プラットフォームが実績を積んでいることもあり、技術的な面や運用面での利便性が高いと期待されています。老年科専門医から見た遠隔診療の懸念一方、老年科専門医の立場からは、このニュースに関連していくつかの懸念を指摘できます。1)診断の複雑さまず、アルツハイマー病の診断には、長時間にわたる問診や認知機能検査、家族からの聞き取り、脳の画像検査、血液検査など多角的なアプローチが求められます。とりわけ高齢者の場合、合併症(心不全や腎機能低下、うつ病など)が認知機能に影響を与えることもあり、短時間のオンライン診療だけでは十分な評価が難しい場合が多いと思います。そのような点はどうカバーされるのでしょうか。遠隔でも専門医が対応するとはいえ、実際に対面での総合的な評価が必要になる場面は多いのではないかと考えられます。2)治療薬のリスク管理リリーを含め最近承認された抗アミロイド薬には、脳浮腫や脳出血などの副作用リスクが指摘されています。とくにAPOE4という遺伝子を持つ患者ではリスクが高まる可能性があり、投与後の定期的なMRIによるモニタリングや症状観察が欠かせません。遠隔診療で治療を開始する流れが加速すると、十分な副作用管理体制が整わないまま投薬が行われる懸念があります。3)利害関係の不透明さ患者がリリーの運営するプラットフォームを通じて専門医にアクセスし、最終的にリリーの薬を使用する流れが生じると、患者側としては「その治療選択が本当に中立的なのか」不安を覚えるかもしれません。会社側は「処方行為に対するインセンティブはない」と説明していますが、遠隔診療業者にとって製薬企業との連携が宣伝効果を高める構造的インセンティブが否定できない以上、処方バイアスのリスクはないとは言えないでしょう。これは大きな懸念点です。4)緊急対応や長期フォローの問題アルツハイマー病は長期的な経過観察が重要で、緊急時には認知症状以外の内科的問題や精神行動症状への対処も必要となります。遠隔で専門医にアクセスできるメリットはあるものの、高齢者の多様な問題に総合的に対応するには地域の医療・介護リソースとの連携が欠かせません。こうしたフォローアップの体制が不十分なまま遠隔診療が進むと、患者・家族の緊急時の混乱を増やす恐れもあります。今後の展開に注視をリリーの取り組みは、アルツハイマー病の早期発見・早期治療を支援するという一定の意義がある一方で、「複雑な認知症診療をどこまでオンラインでカバーできるか」「薬剤のリスク管理は十分か」「利益相反の透明性をどう担保するか」といった懸念もあります。遠隔医療の普及は、地域格差の是正や受診機会の拡大に貢献する期待がある反面、高齢者の多面的な健康問題や治療のリスクを考慮すると、そのリスクにもしっかりと目を向ける必要があるでしょうし、対面診療とのハイブリッド型のフォロー体制が不可欠でしょう。まして当該薬の効果が劇的なものではないと知られている中、ただ製薬会社や遠隔診療企業が利益を得るための過剰治療が行われるような構図にならないことを願うばかりです。また、こうした構図は将来的に日本でも構築される可能性があり、そうした意味でも注視していくべきプラットフォームではないかと思います。参考文献・参考サイト1)Chen E, et al. In a first, Eli Lilly to connect patients to telehealth providers of Alzheimer’s care. STAT. 2025 Mar 27.

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米と逆走【Dr. 中島の 新・徒然草】(575)

五百七十五の段 米と逆走米の価格が高騰中!以前は5キロで2,500円ほどだったのが、今では4,500円を超えることも珍しくありません。実は、4,000円前後で売られていた頃に「もうすぐ下がるだろう」と思って買わずにいたのですが、今となっては「あの時に買っておけばよかった」と思ってしまいます。もし米を買って値段が下がったとしても「ああ、値段が下がって良かった」と思えたでしょうし、逆に上がったなら「安いうちに買っておいて良かった!」と満足できたはず。どちらに転んでも「良かった!」と言えるなら、やはり買っておくべきだったのでしょうね。と、前置きが長くなってしまいました。今回は、コミュニケーションのちょっとした心掛けについて述べようと思います。先日、米を買った帰りに、近所のパン屋に立ち寄りました。そこはバス通りから左折で駐車場に入る仕組みで、出るときは駐車場の反対側の裏道へ出ていく仕組みになっています。つまり、入口と出口が分かれている一方通行なわけですね。その日、バス道から駐車場に入ろうと左折したところ、なんと入口から車が出てきました。逆走です。一瞬クラクションを鳴らそうかと思いましたが、そういう行為はエネルギーの無駄遣いなので、やり過ごすことにしました。運転していたのは中年の女性で、車の後部には初心者マーク。おそらく、一方通行であることに気付かなかったのでしょう。いつもなら、制服姿の係員が誘導しているはずなのですが……なんと、駐車場係の初老男性は、入口に背中を向けてスマホを触るのに夢中でした。これは一言、注意したほうがいいかもしれない。そう思って、駐車した後にその男性に後ろから声をかけました。 中島「すみません、こちらのパン屋さんの駐車場係の方ですか?」係員「はい、そうですけど……」中島「こちらが入口、あちらが出口ですよね?」係員「ええ、皆さんにはご協力をお願いしていますが……」どうも話の趣旨が伝わっていないようです。 中島「さっき、ここから車が出て行きましてね」係員「ええっと……」中島「危うく衝突しそうになったんですよ」係員「あの、できればご協力を……」まだピンときていない様子。 中島「そういうことではなくて、ですね。逆走する車が出ないよう、見張っておいてほしいんですけど」係員「ええっ!」ようやく、状況を理解してくれたようです。 中島「たぶん、逆走した方も悪気はなかったんでしょうけどね」係員「すみません」中島「間違える人が出ないよう、目を離さないほうがいいと思いますよ」係員「ご迷惑をおかけしました!」どうやら、根は真面目な人のようで、何度も頭を下げられました。こうした注意の仕方も、一種のコミュニケーション技術だと思います。「ちゃんと見張っとかんかい!」とか「スマホばっかり見とったらアカンがな!」などと言っても、相手が逆ギレする可能性もあるし、その後ちゃんと誘導してくれるかは疑わしいものです。できるだけ相手の気分を害さず、しかし言うべきことは言う。そういうことが大切なのだと思います。ちなみに、パンを買って駐車場に戻ったときには、係員は一生懸命誘導していました。ほんの一言で、その人の行動が変わったということです。簡単なことではありますが、実はとても大切なことですね。われわれが相手にする患者さんやスタッフもまた人間。丁寧でありつつ、意図の伝わるコミュニケーションを心掛けたいものだと思います。最後に1句陽春に パンを買うのも ひと苦労

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海外番組「セサミストリート」(続編・その2)【じゃあなんでコミュニケーションの障害とこだわりはセットなの?(共感)】Part 1

今回のキーワード知的障害社会的コミュニケーション症強迫性パーソナリティ障害情緒不安定性パーソナリティ障害超女性脳依存性パーソナリティ障害共依存折れ線型経過前回(その1)、自閉症の主な症状はコミュニケーションがうまくできないこと(社会的コミュニケーションの障害)とこだわりが強すぎること(反復性)であることがわかりました。そして、それぞれの脳機能は、共感性が低いこととシステム化が高いことであることがわかりました。さらに、その原因は、胎児期に男性ホルモンが多すぎていたからであるという有力な仮説(胎児期アンドロゲン仮説)をご紹介し、自閉症は超男性脳であることを説明しました。それでは、そもそもなぜ自閉症はコミュニケーションの障害とこだわりがセットで出てくるのでしょうか? また、定型発達においては、男の子よりも女の子の方が言語や心の理論の発達が早いです。それは、そもそもなぜなのでしょうか? さらに、自閉症は最初から言葉の遅れがあるのが典型的なのですが、いったん話していた言葉を途中から話さなくなるタイプもあります。なぜこのような奇妙な経過を辿るのでしょうか?今回(その2)も、海外番組「セサミストリート」のジュリアという自閉症のキャラクターを取り上げ、さらにある仮説をご紹介します。この仮説はこれらの謎を説明できてしまうと同時に、これらの謎はこの仮説の根拠にもなります。その仮説とは、共感性とシステム化は、それぞれ独立した脳機能でありながら、トレードオフ(一得一失)の関係になっているということです1)。これは、ゼロサム説と呼ばれています。ゼロサムとは、一方が増えた分、他方はその分減って、総和(サム)は一定(ゼロ)であるという意味です。だからコミュニケーションの障害とこだわりがセットなんだジュリアは、中等度の社会的コミュニケーションの障害と中等度の反復性の両方の症状が揃っており、典型的な自閉症です。実際の臨床でも、重度であればあるほど、両方の症状がほぼ一緒に見られます。この現象は、先ほどの仮説から説明することができます。まず、この2つの脳機能の総和を100とすると、ジュリアは共感性20とシステム化80と表されます。そして、重度の場合は、共感性10とシステム化90と表されます。ここで、総和が100を超える病態を仮定してみましょう。たとえば、共感性50(平均)とシステム化90のような重度のこだわりだけある病態です。しかし、実際の臨床でこのような病態は見かけません。つまり、総和が100を超える病態が存在しないことは、この仮説の根拠になります。それでは、逆に共感性10とシステム化50(平均)のような重度のコミュニケーションの障害だけの病態はどうでしょうか? 実は、この病態は、知的障害の診断でよく見かけます。つまり、総和が100を下回る場合は、全般的な脳機能の低下として、自閉症とは無関係に起こりうるため、この仮説には当てはまりません。一方で、症状が軽度の場合、片方だけはよく見かけます。たとえば、こだわりが軽度で日常生活に困るほど目立たず、コミュニケーションの障害だけが軽度でやや目立つというケースは、自閉症ではなく社会的コミュニケーション症と診断されます。逆に、コミュニケーションの障害が軽度で社会生活に困るほど目立たず、こだわりだけが軽度でやや目立つというケースは、自閉症ではなく強迫性パーソナリティ障害と診断されます。これら2つのケースとも、共感性30とシステム化70と表され、総和が100となり、この仮説に当てはまります。以上より、この仮説によって、こだわりが強くなればなるほど、連動してコミュニケーションがうまくできなくなることがわかります。だからこそ、コミュニケーションの障害とこだわりはセットになるわけです。以上から、この仮説に従い、共感性を横軸Xとしてシステム化を縦軸Yとしてグラフ化すると、グラフ1のように、X + Y = 100と表されます。そして、定型発達の男性は共感性40とシステム化60、女性は共感性60とシステム化40と表されます。重度の自閉症は、左上の端っこに位置づけられます。社会的コミュニケーション症と強迫性パーソナリティ障害は、やや左上の位置に位置づけられます。次のページへ >>

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海外番組「セサミストリート」(続編・その2)【じゃあなんでコミュニケーションの障害とこだわりはセットなの?(共感)】Part 2

だから男の子よりも女の子のほうが言語や心の理論の発達が早いんだ定型発達において、言葉を話し始める時期は1歳ですが、男の子よりも女の子のほうが1、2ヵ月早いです。また、相手の考えを推し量ること(心の理論)ができるようになる時期は4歳とされていますが、実は女の子は1歳早く3歳です。この性差も、先ほどの仮説から説明することができます。まず、自閉症は重度になればなるほどコミュニケーションをしようとしないことから言葉の遅れが出てきます。このことから、定型発達の男性を基準にすると、超男性脳の自閉症とは逆の方向にある定型発達の女性は、よりコミュニケーションをしようとするので言葉が早く出てきて、より相手の気持ちを推し量ろうとすると説明することができます。だからこそ、男の子よりも女の子のほうが言語や心の理論の発達が早くなるわけです。さらに考えれば、逆に共感性90とシステム化10でもう一方の右下の端っこにある、自閉症とは真逆の病態は何でしょうか?それは、情緒不安定性パーソナリティ障害(境界性パーソナリティー障害)という診断でよく見かけます。この障害の80%は女性であり、圧倒的に女性が多いという性差の点でも、この位置づけは整合性があります。そして、これは、超女性脳と呼ばれています2)。なお、この障害の詳細については、関連記事1をご覧ください。また、社会的コミュニケーション症や強迫性パーソナリティ障害とは対照的に、共感性70とシステム化30でやや右下の位置にある病態は、依存性パーソナリティ障害や共依存という診断でよく見かけます。社会的コミュニケーション症と強迫性パーソナリティ障害は女性よりも男性がかなり多いのに対して、依存性パーソナリティ障害と共依存は逆に男性よりも女性がかなり多いという性差の点でも、やはりこれらの位置づけは整合性があります。さらに、X + Y = 100の直線上において、それぞれの有病率をZ軸として、別にグラフ化すると、グラフ3のように男性と女性のそれぞれの正規分布で模式的に表すことができます。定型発達は当然ながら最も多いです。そして、システム化または共感性が高ければ高いほど、つまり超男性脳または超女性脳が極端であればあるほど、性差の偏りが出てきて、有病率が低くなっていくことを説明することができます。なお、共依存は、精神医学の正式な診断名ではないですが、臨床的にはよく見かけます。この詳細については、関連記事2をご覧ください。また、それぞれのパーソナリティ障害の基盤となるそれぞれのパーソナリティ特性の詳細については、関連記事3をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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海外番組「セサミストリート」(続編・その2)【じゃあなんでコミュニケーションの障害とこだわりはセットなの?(共感)】Part 3

だからいったん話していた言葉を途中から話さなくなるタイプがあるんだ自閉症の20~25%で、1歳半から2歳頃に「ママ」「バイバイ」などいったん覚えた言葉を話さなくなり、コミュニケーションをしようとしなくなって自閉症と診断されるタイプがあります。これは、折れ線型経過と呼ばれています。知的障害のように、ただ発達の遅れがあるわけではないのです。いったん獲得した言語能力が失われてしまうので、一見奇妙に思われるのですが、この現象も先ほどの仮説から説明することができます。それは、共感性とシステム化がトレードオフの関係にあることから、発達の過程で両者の脳領域(ニューラルネットワーク)の奪い合いが起きており、そのせめぎ合いのさなか、システム化が途中から勢いを増して共感性の「領土」を奪ってしまったと説明することができます。男性ホルモン(テストステロン)の放出が高まるのは、胎児期(8~24週目)、乳児期(生後5ヵ月)、そして思春期の3つの時期です。乳児期の放出は、言葉を発する1歳前なので、その放出が多すぎてシステム化が高まり共感性が低くなるにしても、ただ愛着行動や言葉の発達が遅れているように見えるだけです。しかし、この放出が1歳を過ぎて遅れた場合、いったん言葉を話していたのに、その言葉を失ってしまうように見えてしまうのです。この現象の経過は、以下のグラフ4のように表すことができます。男女とも定型発達は真っすぐ伸びています。知的障害は、定型発達の数値には届きませんが、基本的に真っすぐです。一方の折れ線型は、途中までは定型発達と同じなのですが、その後にシステム化が90まで伸びきっていく分、その代償として共感性が20から10に落ちてしまいます。同じように考えれば、当然逆パターンもあります。当初、愛着行動や言葉の発達の遅れが見られて自閉症と診断されていたのに、その後に男性ホルモンの放出が下がったことで、システム化の発達が鈍くなる一方、共感性が伸びていき、最終的には定型発達と同じになるタイプです。実際の臨床では少なからず見られます。この記事では、これは「回復型」(グラフ4を参照)と名付けます。ただし、この現象は、折れ線型と違って臨床的にはほとんど注目されていません。その理由は、日常生活で困らなくなり、専門医療や療育の相談に来なくなるため、把握されにくいからです。それでは、そもそもなぜ男性はシステム化が高く、女性は共感性が高いのでしょうか?(次回に続く)1)ザ・パターン・シーカーp.84、p.88:サイモン・バロン・コーエン、化学同人、20222)愛着崩壊p.139:岡田尊司、角川選書、2012<< 前のページへ■関連記事私は「うつ依存症」の女【情緒不安定性パーソナリティ障害】だめんず・うぉ~か~【共依存】ちびまる子ちゃん【パーソナリティ】

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