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BRAF V600E変異mCRC、1次治療のエンコラフェニブ+セツキシマブが有用(BREAKWATER)

 前治療歴のあるBRAF V600E変異型の転移大腸がん(mCRC)に対して、BRAF阻害薬・エンコラフェニブと抗EGFRモノクローナル抗体・セツキシマブの併用療法(EC療法)はBEACON試験の結果に基づき有用性が確認され、本邦でも承認されている。一方、BRAF V600E変異mCRCに対する1次化学療法の有効性は限定的であることが示されており、1次治療としてのEC療法の有用性を検証する、第III相BREAKWATER試験が計画・実施された。 1月23~25日、米国・サンフランシスコで行われた米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025)では、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのScott Kopetz氏が本試験の解析結果を発表し、Nature Medicine誌オンライン版2025年1月25日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のBRAF V600E変異mCRC、ECOG 0~1・試験群:EC群:エンコラフェニブ+セツキシマブEC+mFOLFOX6群:エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6(オキサリプラチン、ロイコボリン、5-FU)・対照群:標準化学療法(SOC)群:CAPOX or FOLFOXIRI or mFOLFOX6±ベバシズマブ・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効期間(DOR)、安全性など※試験中にプロトコルが変更され、EC+mFOLFOX6群とSOC群を比較する試験デザインとなった。今回はORRの1次解析、OSの暫定的解析が報告され、PFSをはじめとするほかの評価項目は解析中で、後日報告される予定だ。 主な結果は以下のとおり。・2021年11月16日~2023年12月22日にEC+mFOLFOX6群に236例、SOC群243例が割り付けられた。治療期間中央値はEC+mFOLFOX6群で28.1週間、SOC群で20.4週間であり、データカットオフ(2023年12月22日)時点でEC+mFOLFOX6群は137例、SOC群は82例が治療継続中だった。・ORRはEC+mFOLFOX6群60.9%、SOC群40.0%だった(オッズ比:2.44、95%信頼区間[CI]:1.40~4.25、p=0.0008)。奏効期間中央値は13.9ヵ月対11.1ヵ月であった。設定されたすべてのサブグループにおいて同様の結果が認められた。DORが6ヵ月または12ヵ月を超える患者の割合は、EC+mFOLFOX6群ではSOC群の約2倍だった。・OSデータは未成熟であったが、EC+mFOLFOX6群が優位な傾向が見られた。・重篤な有害事象の発現率は、37.7%と34.6%であった。安全性プロファイルは既知のものと同様であった。 研究者らは、「本試験では、BRAF V600E変異を有するmCRC患者を対象に、1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法がSOC療法と比較して、有意に高い奏効率を示し、その奏効が持続することが示された」とした。なお、2024年12月、米国食品医薬品局(FDA)は、本試験の結果に基づき、エンコラフェニブとセツキシマブの併用療法をBRAF V600E変異を有するmCRCの1次治療として迅速承認している。

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重大な副作用にアナフィラキシー追加、アルギニン含有製剤など/厚労省

 2025年1月29日、厚生労働省はアルギニン含有注射剤などに対して、添付文書の改訂指示を発出した。副作用の項に重大な副作用としてアナフィラキシーの追記がなされる。 対象医薬品は以下のとおり。◯プラスアミノ輸液(混合アミノ酸・ブドウ糖製剤)◯ツインパル輸液(混合アミノ酸・ブドウ糖・無機塩類製剤)◯ビーフリード輸液(その他の配合剤)◯アルギU点滴静注(一般名:L-アルギニン塩酸塩)◯アルギニン点滴静注(同) 今回、アルギニン含有注射剤についてアナフィラキシー関連症例を評価して専門委員の意見も聴取した結果、アナフィラキシーとの因果関係が否定できない症例が集積した品目について、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。 また、検討の過程で、アルギニンのみを有効成分とし、添加剤を含まない注射剤投与後のアナフィラキシー関連症例の集積を踏まえ、アルギニンによるアナフィラキシー発現の可能性に関して専門委員及び関連学会の意見を聴取したところ、アルギニンがマスト細胞を直接刺激しヒスタミンなどの化学伝達物質を遊離させる可能性1)の指摘があったことから、調査対象はアルギニン含有注射剤のうち、「副作用」の重大な副作用の項にアナフィラキシーの記載がない品目とした。しかしながら、その後の専門協議において、マスト細胞を直接刺激する機序については仮説に過ぎないとの意見があったこと、高浸透圧製剤の静脈内投与に起因する可能性があること、アルギニンは体内で生合成されるアミノ酸であることから、現時点でアルギニンそのものによりアナフィラキシーが発現し得るかは明確でないと判断し、アルギニン含有注射剤を一律に措置対象とするのではなく、措置の要否については、各品目の副作用症例の評価を基に検討された。 なお、他の品目については、専門協議にてアナフィラキシーとの因果関係が否定できないと評価された症例があるものの、集積が少なくかつこれらの症例ではアナフィラキシー発現の原因として併用薬等も考えられることから、集積がない品目も含め、現時点では使用上の注意の改訂は不要と判断されたが、アルギニンを添加剤として含有する注射剤についても、上記と同様に、添付文書の記載状況を踏まえた上で、必要に応じてアナフィラキシー関連症例の確認・評価を実施するとしている。

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「プレハビリテーション」は有効か?~メタ解析/BMJ

 運動、栄養ならびに運動を含む多要素的な手術前のリハビリテーション(プレハビリテーション)は、手術を受ける成人患者に有用で、ネットワークメタ解析およびコンポーネントネットワークメタ解析において一貫した意味のある効果推定値が得られたことを、カナダ・オタワ大学のDaniel I. McIsaac氏らが報告した。著者は、「これらプレハビリテーションを臨床ケアにおいて考慮すべきであることが示唆された。一方で、プレハビリテーションの有効性をより確実にするためには、優先度の高いアウトカムに関して適切な検出力のあるバイアスリスクが低い多施設共同試験が必要である」とまとめている。BMJ誌2025年1月22日号掲載の報告。無作為化比較試験のネットワークおよびコンポーネントネットワークメタ解析を実施 研究グループは、手術を受けた成人患者の術後合併症、入院期間、健康関連QOLおよび身体回復に及ぼす相対的な有効性を推定する目的で、無作為化比較試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析およびコンポーネントネットワークメタ解析を行った。 Medline、Embase、PsycINFO、CINAHL、Cochrane Library、Web of Scienceを2022年3月1日に検索し、2023年10月25日に再検索して対象研究を特定した。対象研究の選択基準は、待機的手術を受ける18歳以上の成人を対象にプレハビリテーション群と対照(通常ケア、標準ケア)群を比較した無作為化試験で、重要なアウトカムを報告しているものとし、術前のリスク因子管理(禁煙、貧血治療など)を単独で評価した研究や、プレハビリテーションの期間が7日未満の研究などは除外した。 評価者2人がそれぞれ対象研究を特定し、1人がデータ抽出を、他の1人が検証を行った後、研究リーダー1人と他の評価者1人がコクランバイアスリスクツールを用いてバイアスリスクを評価した。 治療レベルでの各アウトカムに関するエビデンスの確実性は、CINeMA(Confidence in Network Meta-Analysis)を用いて評価した。多要素介入は、合併症、入院期間、健康関連QOL、術後の身体的回復を改善 186件の無作為化比較試験(被験者計1万5,684例)が解析対象となった。 ランダム効果ネットワークメタ解析の結果、通常ケアと比較して以下のプレハビリテーションは合併症を減少させる可能性が高かった。・運動単独(オッズ比:0.50[95%信頼区間[CI]:0.39~0.64]、エビデンスの確実性:非常に低い)・栄養単独(0.62[0.50~0.77]、非常に低い)・運動+栄養+心理社会的ケアの併用(0.64[0.45~0.92]、非常に低い) また、次のプレハビリテーションは、通常ケアと比較して入院期間を短縮する可能性が高かった。・運動+心理社会的ケアの併用(-2.44日[95%CI:-3.85~-1.04]、非常に低い)・運動+栄養の併用(-1.22日[-2.54~0.10]、中程度)・運動単独(-0.93日[-1.27~-0.58]、非常に低い)・栄養単独(-0.99日[-1.49~-0.48]、非常に低い) 健康関連QOLおよび身体的回復の改善に有効だったのは、運動+栄養+心理社会的ケアの併用で、Short Form(SF)-36 の身体項目スコアの平均群間差は3.48(95%CI:0.82~6.14、エビデンスの確実性:非常に低い)、6分間歩行テストでの距離の平均群間差は43.43m(95%CI:5.96~80.91、エビデンスの確実性:非常に低い)であった。 コンポーネントネットワークメタ解析の結果、運動と栄養はすべての重要なアウトカムを改善する可能性が最も高かった。すべてのアウトカムに関するすべての比較のエビデンスの確実性は、試験レベルのバイアスリスクと不正確さのため、一般的に低いまたは非常に低いであったが、バイアスリスクが高い試験を除外した場合、運動と栄養のプレハビリテーションの有効性の確実性は高かった。

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心筋線維化を伴う無症候性重症AS、早期介入の効果は?/JAMA

 心筋線維化を伴う無症候性重症大動脈弁狭窄症(AS)患者において、早期の大動脈弁置換術による介入は標準的な管理と比較し、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院の複合アウトカムに関して、明らかな有効性は認められなかった。英国・エディンバラ大学のKrithika Loganath氏らが、英国およびオーストラリアの心臓センター24施設で実施した前向き非盲検無作為化エンドポイント盲検化試験「Early Valve Replacement Guided by Biomarkers of Left Ventricular Decompensation in Asymptomatic Patients with Severe Aortic Stenosis trial:EVOLVED試験」の結果を報告した。AS患者では、左室代償不全に先立って心筋線維化が進行し、長期的な予後不良につながる。早期介入は、AS関連の臨床イベントリスクが高い患者において潜在的な利点が示唆されていた。著者は、「本試験では主要エンドポイントの95%信頼区間(CI)が広く、今回の結果を確認するにはさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2025年1月21日号掲載の報告。経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術の早期介入と保存的管理を比較 研究グループは、2017年8月4日~2022年10月31日に、18歳以上の無症候性重症AS患者をスクリーニングし、高感度トロポニンI値が6ng/L以上または心電図で左室肥大が認められた場合に心臓MRIを行い、心筋線維化が確認された患者を、経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術を行う早期介入群と、ガイドラインに従った保存的管理を行う対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。最終追跡調査日は2024年7月26日であった。 主要アウトカムは、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院(ASに起因する失神、心不全、胸痛、心室性不整脈、房室ブロック2度または3度を伴う)の複合とし、初回イベント発生までの時間についてITT解析を行った。副次アウトカムは、主要アウトカムの各イベント、12ヵ月時の症状(NYHA心機能分類による評価)などを含む9項目であった。複合アウトカムに両群で有意差なし 当初は356例の登録が計画されていたが、COVID-19の流行期に英国政府の指示に従い患者登録は5ヵ月間中断され、流行後も進まなかった。別の新たな2件の無作為化試験の結果から必要イベント件数が35件と推定されたことから、患者登録は早期に中止となった。 解析対象は224例(早期介入群113例、対照群111例)で、患者背景は平均(±SD)年齢73±9歳、女性63例(28%)、平均大動脈弁最大血流速度は4.3±0.5m/秒であった。 主要アウトカムのイベントは、早期介入群で113例中20例(18%)、対照群で111例中25例(23%)に発生した。ハザード比(HR)は0.79(95%CI:0.44~1.43、p=0.44)、群間差は-4.82%(95%CI:-15.31~5.66)であり、有意差は認められなかった。 副次アウトカムは、9項目中7項目で有意差が示されなかった。全死因死亡は、早期介入群で16例(14%)、対照群で14例(13%)に発生した(HR:1.22、95%CI:0.59~2.51)。ASに関連した予定外の入院は、それぞれ7例(6%)および19例(17%)確認された(0.37、0.16~0.88)。また、早期介入群は対照群と比較して、12ヵ月時のNYHA心機能分類II~IVの症状を有する患者の割合が低かった(21例[19.7%]vs.39例[37.9%]、オッズ比:0.37、95%CI:0.20~0.70)。

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血液検査でワクチン効果の持続期間が予測できる?

 幼少期に受けた予防接種が、麻疹(はしか)や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)から、われわれの身を守り続けている一方、インフルエンザワクチンは、毎年接種する必要がある。このように、あるワクチンが数十年にわたり抗体を産生するように免疫機能を誘導する一方で、他のワクチンは数カ月しか効果が持続しない理由については、免疫学の大きな謎とされてきた。米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授で主任研究員のBali Pulendran氏らの最新の研究により、その理由の一端が解明され、ワクチン効果の持続期間を予測できる血液検査の可能性が示唆された。 Pulendran氏は同大学が発表したニュースリリースで、「われわれの研究では、ワクチン接種後数日以内に現れる特徴的な分子パターンを特定することにより、ワクチン反応の持続期間を予測できる可能性が示唆された」と述べている。同氏らの研究結果は、「Nature Immunology」に1月2日掲載された。研究グループの説明によると、ワクチン効果の持続性は血液凝固に関与する巨核球と呼ばれる血小板の前駆細胞と密接な関係があることが示されたという。 この研究では、H5N1型鳥インフルエンザワクチンを接種した健常なボランティア50人を対象に追跡調査を行った。ワクチン接種後100日間の間に血液サンプルを12回採取し、各被験者の免疫反応に関連する全ての遺伝子、タンパク質、抗体を解析した。 その結果、ワクチンの接種から数カ月後の抗体反応の強さと、血小板に含まれる巨核球由来のRNA小片の量に正の相関があることが示された。血小板は、骨髄に存在する巨核球から分離された後、血流に乗って全身に運ばれる。この過程で、血小板中には巨核球由来のRNAの一部が含まれる。 研究グループはさらに、巨核球がワクチン効果の持続性に関係していることを証明するため、実験用マウスに鳥インフルエンザワクチンとトロンボポエチン(TPO)を投与した。TPOには骨髄内の活性化した巨核球の数を増やす働きがある。その結果、TPOを投与したマウスでは、2カ月以内に鳥インフルエンザに対する抗体産生量が6倍に増加したことが確認された。追加の研究で、巨核球が、抗体産生を担う骨髄細胞の生存を助ける物質を生成していることも判明した。 研究グループは、また、季節性インフルエンザ、黄熱病、マラリア、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など7種類の感染症に対するワクチンを接種した244人のデータを収集解析した。その結果、いずれのワクチンにおいても、巨核球活性化の兆候が抗体産生期間の延長と関連していることが示された。 この結果は、巨核球の活性化を評価することで、どのワクチンの効果がより長く持続するか、またどのワクチン接種者がより長期にわたり免疫反応を持続できるかを予測できる可能性を示している。研究グループは、ワクチンによる巨核球の活性化レベルの違いを解明するため、さらなる研究を予定しているという。その研究から得られる知見は、より効果的で長期間効果が持続するワクチンの開発に貢献する可能性がある。 Pulendran氏は、「巨核球の活性化をターゲットとした簡易なPCR検査法が開発されれば、追加接種が必要な時期が予測できるため、個々人に個別化されたワクチン接種スケジュールを立てることも可能になるのではないか」と述べている。また、同氏はワクチン効果の持続期間は多くの複雑な要因に影響される可能性が高く、巨核球の役割はその全体像を構成する一部分にすぎないのではないかと付言している。

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“医者”になりたいです【Dr. 中島の 新・徒然草】(565)

五百六十五の段 “医者”になりたいです2025年になったばかりというのに、もう1月も終わろうとしています。何とまあ月日の経つのは早いですね。さて、私はよくYouTubeで評論家の岡田 斗司夫氏のしゃべっているのを聴いています。その岡田氏が先日「おたくの王様論」というチャンネルで面白いことを言っていました。動画のタイトルは「【岡田斗司夫と医者】※患者を救いたいと思えない..昔いじめてたやつが急患で運ばれてきた..医者の僕と高卒の彼女..【切り抜き】」という長いもの。YouTubeのタイトル画面には「患者に言えない医者の本音」とあったのでドキッとしつつ、つい聴いてしまいました。その動画の中で岡田 斗司夫氏に質問してきたのは卒後10年弱の内科医。質問者は「医学に対する知的好奇心から医学部を志し、今でも医学の勉強が楽しくて仕方がない」という立派な先生です。ところが「患者にはまったく興味がなく『患者を救いたい』という気持ちになったことがありません」というのがこの先生の悩み。とはいえ、診療に手を抜くことはなく、転勤に伴って追いかけてくる患者さんやお手紙を送ってくる人が何人もいるというくらい患者満足度の高い人です。しかし、いくら患者さんに感謝されても、やりがいや幸福感はないのだとか。そして周囲の熱意あふれるお医者さんたちをうらやましく思い、「『患者を救いたい』という、医師として当たり前の感情を抱くのに、なにか方法はありますでしょうか。“医者”になりたいです」という悩みを持っているとのことでした。これに対して岡田 斗司夫氏はいろいろと回答しているわけですが、複雑過ぎて何を言っているのか、私にはよく理解できませんでした。さて、もし私がこの先生にアドバイスするなら……今さら「患者を救いたい」という感情を持つ必要なんかない、というのが回答になりますね。自分が患者だったら、むしろこういう医師に診てもらいたいです。この先生の医学や診療に対する熱意というのは、たとえてみれば精巧なプラモデルを作るみたいなものではないでしょうか。「救いたい」という動機でも「精巧なプラモデルを完成させたい」という動機でも、患者さんにとっては同じことです。むしろ「救いたい」よりも「完璧に遂行したい」という動機のほうが、仕事に没頭できるはず。この先生、せっかく一生懸命にやって結果も良く、患者さんにも感謝されているのですから、それで十分です。「救いたい」などという邪心が入ってしまったら、むしろ結果が悪くなったりしないかな。ただ、僭越ながら一つだけアドバイスさせていただくなら……目の前の疾患にベストの治療を行うのは1つの目標ではありますが、その患者さんの人生を可能なかぎり満足感のあるものにする、というのも、もう1つの目標だと思います。この第1の目標と第2の目標に対する診療はほぼ一致するわけですが、いつも一致するわけではありません。われわれ医師が悩まされるのは、そういう時ですね。「“医者”になりたいです」などという邪念にとらわれる暇があったら、そのエネルギーをこういった悩みの解決に使ったほうがいいのでは?読者の皆さまもそれぞれに思うところがあることでしょう。私自身もいろいろと考えさせられた悩み相談でした。最後に1句若者の 邪心を払う 睦月かな

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Austrian症候群【1分間で学べる感染症】第20回

画像を拡大するTake home messageAustrian症候群は、肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つがそろった症候群。とくに脾臓摘出後の患者を中心に液性免疫低下患者では、脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)と呼ばれる致死率の高い重症感染症を引き起こすことがある。皆さんは、Austrian症候群という言葉を聞いたことがありますか。Austrian症候群は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つが、同時または短期間に発生することを特徴とする疾患です。疾患名を覚えることは必須ではありませんが、肺炎球菌による感染症はこれまで取り上げた感染症の中でも頻度が高い感染症であり、肺炎球菌は世界的にも重要な菌の1つです。今回は、Austrian症候群を入口として、肺炎球菌感染症について学んでいきます。背景Austrian症候群はRichard Heschlがドイツで最初に提唱したとの記述がありますが、正式には1881年にWilliam Oslerによって「Osler's triad(オスラーの3徴)」として報告されました。そして、1957年にRobert Austrianが詳細な臨床報告を発表したことから、その名を取ってAustrian症候群という疾患名で広く認知されています。リスク因子肺炎球菌は、市中肺炎や細菌性髄膜炎、さらに菌血症の原因菌として最も頻度が高い病原体の1つです。リスク因子を持つ患者では、通常よりも侵襲性感染症に進行する可能性が高くなります。具体的には、アルコール多飲、高齢、脾摘後や脾機能低下、免疫抑制(HIV感染者や化学療法中の患者など)が主なリスク因子として挙げられます。臨床症状近年では、Austrian症候群の「オスラーの3徴」がすべてそろうことはまれですが、3つの中で最も頻度の高い肺炎球菌による肺炎患者において、頭痛、発熱、意識障害、項部硬直など髄膜炎を疑う症状を合併する、心雑音、塞栓症状、持続的菌血症などを伴い感染性心内膜炎を疑う所見を合併する、といった場合には、血液培養のみならず髄液検査、心エコー検査(とくに経食道エコー)など、それぞれの診断のための精査を進めることが求められます。治療法、予防Austrian症候群は致死率が高いため、迅速な治療が求められます。臨床的に髄膜炎を疑った段階では、抗菌薬の髄液移行性とペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮し、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用療法をただちに開始します。とくに脾摘後患者を中心に液性免疫低下患者では、致死率が高い脾臓摘出後重症感染症を引き起こすことがあります。こうしたリスクのある患者に対しては、肺炎球菌感染症の予防のために、積極的な肺炎球菌ワクチン接種やペニシリンの予防内服が推奨されます。1)AUSTRIAN R. AMA Arch Intern Med. 1957;99:539-544.2)Rakocevic R, et al. Cureus. 2019;11:e4486.3)Rubin LG, et al. N Engl J Med. 2014;371:349-356.

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“添付文書に従わない経過観察”の責任は?【医療訴訟の争点】第8回

症例薬剤の添付文書には、使用上の注意や重大な副作用に関する記載があり、副作用にたりうる特定の症状が疑われた場合の処置についての記載がされている。今回は、添付文書に記載の症状が「疑われた」といえるか、添付文書に記載の対応がなされなかった場合の責任等が争われた京都地裁令和3年2月17日判決を紹介する。<登場人物>患者29歳・女性妊娠中、発作性夜間ヘモグロビン尿症(発作性夜間血色素尿症:PNH)の治療のためにエクリズマブ(商品名:ソリリス)投与中。原告患者の夫と子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成28年(2016年)1月妊娠時にPNHが増悪する可能性を指摘されていたため、被告病院での周産期管理を希望し、被告病院産科を受診。4月4日被告病院血液内科にて、PNHの治療(溶血抑制等)のため、エクリズマブの投与開始(8月22日まで、薬剤による副作用はみられず)7月31日出産のため、被告病院に入院(~8月6日)8月22日午前被告病院血液内科でエクリズマブの投与を受け、帰宅昼過ぎ悪寒、頭痛が発生16時55分本件患者は、被告病院産科に電話し、午前中にエクリズマブの投与を受け、その後、急激な悪寒があり、39.5℃の高熱があること、風邪の症状はないこと等を伝えた。電話対応した助産師は、感冒症状もなく、乳房由来の熱発が考えられるとし、本件患者に対し、乳腺炎と考えられるので、今晩しっかりと授乳をし、明日の朝になっても解熱せず乳房トラブルが出現しているようであれば、電話連絡をするよう指示した。21時18分本件患者の母は、被告病院産科に電話し、熱が40℃から少し下がったものの、悪寒があり、発汗が著明で、起き上がれないため水分摂取ができず脱水であること、手のしびれがあること、体がつらいため授乳ができないこと等を伝えた。21時55分被告病院産科の救急外来を受診し、A医師が診察。診察時、血圧は95/62 mmHgであり、SpO2は98%、脈拍は115回/分、体温は36.3℃(17時に解熱鎮痛剤服用)、項部硬直及びjolt accentuation(頭を左右に振った際の頭痛増悪)はいずれも陰性であった。22時45分乳腺炎は否定的であること、エクリズマブの副作用の可能性があること等から、被告病院血液内科に引き継がれ、B医師が診察した。診察時、本件患者の意識状態に問題はなく、意思疎通可能、移動には介助が必要であるものの短い距離であれば介助なしで歩行可能であった。血液検査(22時15分採血分)上、白血球、好中球、血小板はいずれも基準値内であった。23時30分頃経過観察のため入院となった。8月23日4時25分本件患者の全身に紫斑が出現、血圧67/46mmHg、血小板数3,000/μLとなり、敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態に陥った。抗菌薬(タゾバクタム・ピペラシリン[商品名:ゾシンほか])が開始された。10時43分敗血症性ショックとDICからの多臓器不全により、死亡。8月24日本件患者の細菌培養検査の結果が判明し、血液培養から髄膜炎菌が同定された。8月29日薬剤感受性検査の結果、ペニシリン系薬剤に感受性あることが判明した。実際の裁判結果本件では、(1)エクリズマブの副作用につき血液内科の医師が産科の医師に周知すべき義務違反、(2)8月22日夕方に電話対応した助産師の受診指示義務違反、(3)8月22日夜の救急外来受診時の投薬義務違反等が争われた。本稿では、このうちの(3)救急外来受診時の投薬義務違反について取り上げる。本件で問題となったエクリズマブの添付文書には、以下のように記載されている。※注:以下の内容は本件事故当時のものであり、2024年9月に第7版へ改訂されている。「重大な副作用」「髄膜炎菌感染症を誘発することがあるので、投与に際しては同感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血等)の観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う(海外において、死亡に至った重篤な髄膜炎菌感染症が認められている。)。」「使用上の注意」「投与により髄膜炎菌感染症を発症することがあり、海外では死亡例も認められているため、投与に際しては、髄膜炎菌感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直等)に注意して観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行う。髄膜炎菌感染症は、致命的な経過をたどることがある」この「疑われた場合」の解釈につき、患者側は、「疑われた場合」は「否定できない場合」とほぼ同義であり、症状からみて髄膜炎菌感染症の可能性がある場合には「疑われた場合」に当たる旨主張した。対して、被告病院側は、「疑われた場合」に当たると言えるためには、「否定できない場合」との対比において、「積極的に疑われた場合」あるいは「強く疑われた場合」であることが必要である旨を主張した。このため、添付文書に記載の「疑われた場合」がどのような場合を指すのかが問題となった。裁判所は、添付文書の上記記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなるという副作用を有し、髄膜炎菌感染症には急速に悪化し致死的な経過をたどる重篤な例が発生しているため、死亡の結果を回避するためのものであることを指摘し、以下の判断を示した(=患者側の主張を積極的に採用するものではないが、被告病院側の主張を排斥した)。積極的に疑われた場合または強く疑われる場合に限定して理解することは、その趣旨に整合するものではない少なくとも、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めて理解する必要がある添付文書の警告の趣旨・理由を強調すると、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるにすぎない場合)を含めて理解する余地があるその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、本件は添付文書にいう「疑われた場合」にあたるとした。『入院診療計画書』には、「細菌感染や髄膜炎が強く疑われる状況となれば、速やかに抗生剤を投与する」ために入院措置をとった旨が記載されており、担当医は、髄膜炎菌感染症を含む細菌感染の可能性について積極的に疑っていなくとも、相応の疑いないし懸念をもっていたと解されること(CRPや白血球の数値が低い点はウイルス感染の可能性と整合する部分があるものの)ウイルス感染であれば上気道や気管の炎症を伴うことが多いのに、本件でその症状がなかった点は、これを否定する方向に働く事情であり、ウイルス感染の可能性が高いと判断できる状況ではなかったといえること(CRPや白血球の数値が低いことは細菌感染の可能性を否定する方向に働き得る事情ではあるものの)細菌感染の場合、CRPは発症から6~8時間後に反応が現れるといわれており、それまではその値が低いからといって細菌感染の可能性がないとは判断できず、疑いを否定する根拠になるものではないこと。同様に、白血球の数値も重度感染症の場合には減少することもあるとされており、同じく細菌感染の疑いを否定する根拠になるものではないことそして、裁判所は「細菌感染の可能性を疑いながら速やかに抗菌薬を投与せず、また、(省略)…細菌感染の可能性について疑いを抱かなかったために速やかに抗菌薬を投与しなかったといえるから、いずれにしても速やかに抗菌薬を投与すべき注意義務に違反する過失があったというべき」として、被告病院担当医の過失を認めた。この点、被告病院は「すぐに抗菌薬を投与するか経過観察をするかは、いずれもあり得る選択であり、いずれかが正しいというものではない」として医師の裁量である旨を主張したが、裁判所は、以下のとおり判示し、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠とならないとした。「あえて添付文書と異なる経過観察という選択が裁量として許容されるというためには、それを基礎づける合理的根拠がなければならないところ、細菌感染症でない場合に抗菌薬を投与するリスクとして、抗菌薬投与が無駄な治療になるおそれ、アレルギー反応のリスク、肝臓及び腎臓の障害を生じるリスク、炎症の原因判断が困難になるリスクが考えられるが、これらのリスクは、髄膜炎菌感染症を発症していた場合に抗菌薬を投与しなければ致死的な経過をたどるリスクと比較すると、はるかに小さいといえるから、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠となるものではない」注意ポイント解説本件では、添付文書において「髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う」となっているところ、抗菌薬の投与等がなされないまま経過観察となっていた。そのため、「疑われた場合」にあたるのか、あたるとして経過観察としたことが医師の裁量として許容されるのかが問題となった。添付文書の記載の解釈について判断が示された比較的新しい裁判例である上、添付文書でもよく目にする「疑われた場合」に関する解釈を示した裁判例として注目される。「疑われた場合」の判断において本判決は、その記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなる副作用を有し、髄膜炎菌感染症は急速に悪化し致死的な経過をたどる例があり、そのような結果を避けるためであることを理由とする。そのため、本判決の判断が、他の薬剤の添付文書の解釈でも同様に妥当するとは限らない。とくに、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるに過ぎない場合)を含めて理解する余地があるかについては、生じうる事態の軽重によりケースバイケースで判断されることとなると考えられる。しかしながら、一定の悪しき事態が生じうることを念頭に添付文書の記載がなされていることからすると、添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高いと認識しておくことが無難である。また、本判決は、添付文書と異なる対応をすることが医師の裁量として許容されるかについて、生じうるリスクの重大性を比較しており、生じ得るリスクの重大性の比較が考慮要素の一つとして斟酌されることが示されており参考になる。もっとも、添付文書の記載に従ったほうが重大な結果が生じるリスクが高い、という事態はそれほど多くはないと思われるうえ、そのような重大な事態が生じるリスクが高いことを立証することは容易ではないと考えられる。このため、前回(第7回:造影剤アナフィラキシーの責任は?)にコメントしたように、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる(ただし、医師の行ったリスク説明が誤っている場合には、患者の同意があったとして免責されない可能性がある)。なお、本件薬剤の投与にあたり、患者に「患者安全性カード」(感染症に対する抵抗力が弱くなっている可能性があり、感染症が疑われる場合は緊急に診療し必要に応じて抗菌剤治療を行う必要がある旨が記載されたもの)が交付されており、診療にあたりすべての医師に示すように伝えられていたものの、このカードが示されなかったという事情がある。しかし、裁判所は、患者からは本件薬剤の投与を受けている旨の申告がされており、このカードの記載内容は添付文書にも記載されているとして、患者からカードの提示がなかったことが医師の判断を誤らせたという関係にはないとしている。医療者の視点本判決の焦点は、添付文書の記載の解釈でした。しかし、一臨床医としてより重要と考えた点は、「普段使用することが少ない薬剤であっても、しっかりと添付文書を確認し、副作用や留意点に目を通しておく必要がある」ということです。本件においても、関係した医療者がエクリズマブという比較的新しい薬剤の副作用を熟知していれば、あるいは処方した医師や薬剤師から情報共有がなされていれば、このような事態は回避できたかもしれません。エクリズマブの適応疾患は非常に限られており、使用経験のある医師は少ないと考えられます。たとえそのような稀にしか使用されることがない薬剤であっても、その副作用を熟知しておかなければならない、という教訓を示した案件と考えました。昨今は目まぐるしい速度で新薬が発表されています。常に知識・情報をアップデートしていないと、本件のようなトラブルを引き起こしかねません。多忙な勤務の中、各科の学会誌やガイドラインを熟読することは困難です。医療系のウェブサイトやSNSなどを有効的に活用し、効率よく情報を刷新していくことも重要と考えます。Take home message普段使用することが少ない薬剤であっても、その副作用や留意点を熟知しておく必要がある。添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高い。副作用と疑われる症状が発症した場合、副作用であることを念頭に添付文書の推奨に従って対応することが望ましく、もし添付文書と異なる対応をする場合、患者や家族に十分な説明を行う必要がある。キーワード添付文書(能書)の記載事項と過失との関係最高裁平成8年1月23日判決が、以下のように判断しており、これが裁判上の確立した判断枠組みとなっているため、添付文書の記載と異なる対応の正当化には医学的な裏付けの立証が必要であり、それができない場合には過失があるものとされる。「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その3)【実はこれが医療保護入院を廃止できない諸悪の根源だったの!?(扶養義務)】Part 1

今回のキーワード家族の権利家族の義務保守政党扶養義務者扶養義務の呪縛扶養圧力前回(その2)は、医療保護入院制度の問題点を明らかにして、強制入院ビジネスの不都合な真実に迫りました。これだけ問題点が明らかなのですから、今後にこの制度の廃止は容易でしょうか? 現実は、まだ厳しいです。どういうことでしょうか?今回(その3)は、映画「クワイエットルームにようこそ」を通して、逆に医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由を明らかにします。そして、医療保護入院が廃止できない諸悪の根源を突き止めます。逆になんで医療保護入院制度は必要とされてしまうの?まず、医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由を、家族、社会、国の3つ立場から迫ってみましょう。(1)権利として必要だと家族が思っているからその2でも触れましたが、母親と絶縁していた明日香のように、関係が希薄になっている家族は増えています。一方で、関係が希薄になっていない家族はいまだに多いです。たとえば、「ブルジョア部屋」(一泊2万円)に5年間入院しているサエちゃんがそうでした。このような家族は、とくに親子関係において、子供は成人しても親の言うことを聞くべきであり、困ったら親を頼るべきであると考えます。つまり、親は子供を良くも悪くも、「子供扱い」し続けます。そして、その子供に問題が起きたら、親が解決すべきであると考えます。1つ目の理由は、家族(親)が自分に責任があり、権利として必要だと思っているからです。わかりやすく言うなら、子供は親の「体の一部」です。よって、強制入院させるかどうかを決めるのは親の権利である、だからこそ強制入院に家族の同意を得るのは当然と考えます。そして、入院費を支払うのも当然の義務と考えます。まるで、自分のことを決めるかのように、子供の強制入院に介入します。だから、退院についても、家族が慎重になれば、その意向が反映され、長期化してしまうのです。逆に、医療保護入院制度が廃止されたら、どうなるでしょうか? たとえば、映画に登場していた摂食障害の患者たちのほとんどは、入院できなくなります。入院するとしても、身体的な危機を脱するのが主な目的となり、欧米並みの短期間になるでしょう。すると、たいていは同居して、家族が家で抱え込むことになります。「子供は親の言うことを聞く」はずなのに、もちろん摂食については言うことを聞きません。親は、「手に負えない」と思い、結局家族が困るという事態を招きます。ちなみに、昨今は、成人したひきこもりの子供に手を焼いた親が、「引き出し屋」(民間救急会社)に依頼して、精神科病院に「発達障害」の診断で医療保護入院させるケースもあるようです1)。次のページへ >>

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その3)【実はこれが医療保護入院を廃止できない諸悪の根源だったの!?(扶養義務)】Part 2

(2)家族の義務として必要だと社会が思っているから現代は、核家族化しており、子供は成人したら家を出て、親と別居することが多いです。それでも、その子供に何か問題が起きたら、職場やアパート管理会社などから緊急連絡先として親に連絡が行きます。このように、まず親が解決すべきであるとの社会からの圧力があります。この感覚から、子供に障害があれば、たとえ成人していても、親のせいにされます。つまり、社会的には、親も「親扱い」され続けます。2つ目の理由は、社会が家族(親)に責任があり、義務として必要だと思っているからです。強制入院させるかどうかを決めるのは、親の義務である、だからこそ強制入院に家族の同意を得るのは当然と考えます。そして、入院費を支払うのも当然の義務と考えます。逆に、医療保護入院制度が廃止されたら、どうなるでしょうか? たとえば、映画に登場していた摂食障害の患者たちが、入院せずに親と同居または別居している時、万が一死んでしまったら、家族がその責任を親族や世間から問われるでしょう。少なくとも、そう思い込んでいる家族は多いです。一方で、強制入院させていたら、より管理されているため、死亡リスクは低くなる上に、たとえ死亡したとしても、専門的な治療をしても難しかったと捉えられ、少なくとも家族の責任は免れます。そもそも、摂食障害で体重を減らすことは、アルコール依存症で飲酒をやめないこと、もっと言えば宗教上の理由で輸血拒否をすることと本質的には同じ、つまり本人の生き方(嗜癖)の問題です。 治したくないなら、本人の生き方として、死亡リスクも含めて、親ではなく本人がその責任を取るだけの話です。そして、その問題に向き合い、本人が治したいと決意するなら、任意入院すればいいだけの話です。そのはずなのに、それを家族や社会が放っておけないのです。ちなみに、有名人が問題を起こした時、その家族が謝罪会見をしたり、メディアがその家族の家にレポート取材をする風習は、日本独特です。世間に迷惑をかけたら、家族のせいにもされてしまう文化があります。(3)家族の義務として必要だという社会に国が合わせているから実は、2009年の民主党(当時)政権では、国連の障害者権利条約に批准するにあたって、家族(保護者)の同意による強制入院をなくすことが検討されていました。ところが、その後に自公政権が返り咲いたことで、家族の同意をなくすのではなく、逆にそれまでにあった同意する家族の優先順位をなくしてしまい、本人の強制入院に家族が誰でも同意できるように改悪をしてしまったのでした2)。そして、だからこそなおさら国連から改善勧告を受けるという始末になってしまったのでした。なぜ自公政権はそこまでしたのでしょうか?3つ目の理由は、家族の義務として必要だという社会に国が合わせているからです。自民党や公明党は、保守政党であるだけに、これまでの家族同意の権利や義務を重んじる保守的な民意を汲み取るでしょう。これは、介護や育児と同じく、なるべく家族に丸抱えさせようとする考え方です。もちろん、一大巨大産業である精神科病院が所属する団体のロビー活動の影響も大きいでしょう。逆に、医療保護入院制度が廃止されたら、どうなるでしょうか? 医療保護入院による医療費を大きく削減できるというメリットはあります。一方で、その分の入院患者がいなくなってダウンサイジングを余儀なくされる精神科病院とその患者を家で抱え込む家族は国に不満を抱くでしょう。また、その患者たちが戻ってきた地域社会では、治安が不安定になると懸念されるでしょう。少なくとも、そう思う保守的な人は多いでしょう。さらには、厚生労働省の天下り先の1つである強制入院ビジネスがなくなってしまうと懸念されている可能性も考えてしまいます。ちなみに、保守政党である自公政権だからこそ、国民の6割が賛成している選択的夫婦別姓の法整備にも積極的に動こうとしないこともわかります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その3)【実はこれが医療保護入院を廃止できない諸悪の根源だったの!?(扶養義務)】Part 3

その義務感に絡まる諸悪の根源とは?医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由は、権利として必要だと家族が思っているから、家族の義務として必要だと社会が思っているから、そして家族の義務として必要だという社会に国が合わせているからであることがわかりました。さらに、この義務感に絡まる、ある決定的な「事情」があります。それは、明日香のように関係が希薄になっている家族をも巻き込みます。それは、扶養義務です。扶養義務とは、扶(たす)け養う務め、つまり、家族は、経済的に自立できない家族の一員を経済的に援助する義務が法的にあるということです。つまり、家族の誰かが精神障害者となり、入院などの治療をして経済的にも自立してくれなければ、最終的にはそのツケを家族が支払わなければならないことを意味します。家族は助け合わなければならないというモラルや社会的な圧力だけでなく、法的なお金の問題も絡んできます。それが薄々気になっているからこそ、家族の同意にとらわれてしまうのです。つまり、いくら医療保護入院制度を廃止しようとしても、結局扶養義務があるため、治療をしなかったら、そのしわ寄せが家族に来て、家族を追い詰めるだけになります。また本来、家族関係がもともと希薄なら、本人が問題を起こしていればいるほど、精神障害があってもなくても家族は関わりたくないはずです。しかし、扶養義務によって無理やり最終的な負担を強いられると思うために、逆説的にも家族は関わらずにはいられなくなるのです。この状況は、さらなる家族関係の悪化を招きます。これは、扶養義務の呪縛と言えます。実際に、2012年に人気お笑い芸人の母親が生活保護を受給していたことが明るみになり、「不正受給」バッシングが巻き起こりました。この世論から、2013年には生活保護法が改正され、扶養義務者に対する通知義務と報告請求の規定が新設され、国による家族への扶養圧力が強化されてしまいました。これは、「家族と絶縁」という形を取った明日香も逃れられないことをほのめかしています。このように、医療保護入院を廃止できない諸悪の根源が厳然と立ちはだかっているのです。1)「ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う」p.108:風間直樹、東洋経済、20222)「医療保護入院」p.4-p.5、p.41、p.57、p.80:精神医療、批評社、2020<< 前のページへ■関連記事映画「クワイエットルームにようこそ」(その2)【家族の同意だけでいいの?その問題点は?(強制入院ビジネス)】Part 1

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第132回 出生者数が戦後最低、もう手遅れか

異次元で急減する出生数2024年の日本の出生数が70万人を初めて割る可能性が高まっています。これは厚生労働省が公表した人口動態統計の速報値に基づいており、2024年11月までの出生数は前年同期比5.1%減の66万1,577人という結果でした(※)1)。2023年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した計画では、2043年に出生数は69.2万人、2044年に68.3万人と予測されていたものの2)、残念ながら現実はこれを大きく上回るペースで減少が進んでいます。あまりにも事前予測が楽観的過ぎました。※この数字には外国人も含まれており、日本人のみの出生数は通年で約69万人と見込まれています。日本の出生数が減少し続ける理由は複合的ですが、未婚化・晩婚化の進行が挙げられます。結婚しない人が増えることで、結果的に子どもを持つ人が減少しています。COVID-19も、この未婚を後押ししてしまった気がします。社会的な後遺症まで残すとは、なんという感染症だ。また、都市部では、キャリア志向や経済的理由から結婚を躊躇する人も増えています。結婚しても子どもを持たない選択をする人も増加しています(図)。この背景には、教育費や住宅費などの子育てコストの上昇、さらには将来の年金不安などが影響しています。画像を拡大する図. 「結婚したら、子どもは持つべきだ」に肯定的な未婚者(国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」(2021年)をもとに筆者再作成)3)さて、政府は「異次元の少子化対策」を掲げています。しかし、皮肉なことに現実は約10年前から「異次元」で出生者が急減しています。対策は打っているが対策の多くはすでに子育てをしている家庭への支援に集中しています。児童手当の拡充や保育施設の整備が進められていますが、未婚者や結婚を考えている若者にとっての直接的な恩恵は少ないのが現状です。結婚を促進する政策や未婚者への支援が不足しているため、少子化対策が十分に効果を発揮していません。地方では若者が減少し、結婚や子育ての機会が減少しています。反面、都市部では高い生活コストが子育てを躊躇させています。地域ごとの課題に対応した政策も必要です。そして、医師の世界でも進められている「働き方改革」ですが、これはどこの業界でも同じ。子育てとキャリアを両立できる社会にしないといけません。テレワークの普及やフレックスタイム制度の導入が進めば、仕事と家庭の両立がしやすくなるのに、そのフレキシビリティが全然進まない。うちの会社はこれまでうまくやってきたから、今まで同じやり方でどうにかなるっしょーと思っている企業も多いです。24~32歳の人口は減少しておらず、ワンチャンこの層に子どもを産んでもらえるよう働きかけるしかないわけです。おそらく2030~35年あたりが最後の勝負どころになりますが、現段階で当該対策が功を奏していないということは、たぶん別のやり方を考えないといけないのでしょう。このフェーズで出生数を増やせないと、日本の人口は加速度的に減少していくと思われます。起死回生の手として、移民政策が挙げられますが、これは国民の反対意見も多いかもしれません。とはいえ、こんなことは政府の皆さんもわかっていることなので、私がこんなところで何を書いても豆腐にかすがい。社会全体で出生数を増やす機運が高まればよいですね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省. 人口動態統計速報(令和6年11月分)(2025年1月24日発表)2)国立社会保障・人口問題研究所. 日本の将来推計人口 令和5年推計(2023年8月31日発表)3)国立社会保障・人口問題研究所. 第16回出生動向基本調査 結果の概要(2021年)

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日本人の認知症予防に有効な緑茶やコーヒーの摂取量は

 緑茶やコーヒーには認知機能低下の予防効果があることが報告されているが、認知機能に対する長期的な影響は、よくわかっていない。慶應義塾大学の是木 明宏氏らは、中年期における緑茶やコーヒーの摂取が認知症予防に及ぼす影響を調査した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2025年1月8日号の報告。 JPHC佐久メンタルヘルスコホートには、1,155人(1995年時点の年齢:44〜66歳)の参加者が含まれた。参加者の緑茶およびコーヒーの摂取量は、1995年と2000年のアンケートにより評価した。認知機能レベルは、2014〜15年に神経心理学的評価を行った。有意な認知機能低下(マルチドメイン認知機能低下およびより重篤な状態と定義)を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。性別および年齢による層別化解析も行った。 主な結果は以下のとおり。・毎日2〜3杯の緑茶を摂取した人は、潜在的な交絡因子で調整した後、認知機能低下リスクの有意な減少が認められた(オッズ比[OR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.35〜0.91)。・4杯以上の緑茶の摂取により、統計学的に有意な差は消失した。・緑茶による認知機能保護効果は、とくに男性で確認された(OR:0.38、95%CI:0.19〜0.76)。・完全に調整された同モデルにおいて、高齢者(1995年時点の平均年齢:53歳以上)では、毎日1杯以上のコーヒー摂取により認知機能低下リスクの有意な減少が確認された(OR:0.54、95%CI:0.34〜0.84)。ただし、サンプル全体では、有意な差は認められなかった。 著者らは「中年期における適度な緑茶摂取は、とくに男性において、認知症予防に有効である可能性が示唆された。また、コーヒーによる認知症予防効果は、高齢者においてより有益であろう」と結論付けている。

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小児の急性単純性虫垂炎、抗菌薬は切除に非劣性示せず/Lancet

 小児の急性単純性虫垂炎に対する治療について、抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性は示されなかった。米国・Children's MercyのShawn D. St. Peter氏らが、カナダ、米国、フィンランド、スウェーデンおよびシンガポールの小児病院11施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験の結果を報告した。合併症のない虫垂炎に対して、手術治療よりも非手術的治療を支持する文献が増加していることから、研究グループは抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性を検討する試験を行った。Lancet誌2025年1月18日号掲載の報告。抗菌薬群vs.虫垂切除術群、1年以内の治療失敗率を比較 研究グループは、X線検査の有無にかかわらず単純性虫垂炎と臨床診断された5~16歳の小児を、抗菌薬群と虫垂切除術群に、性別、試験施設、症状持続時間(48時間以上vs.48時間未満)で層別化し、1対1の割合で無作為に割り付けた。 抗菌薬群では、観察のため入院した患児に、各施設の虫垂炎に対する標準治療に基づき選択した抗菌薬を最低12時間点滴静注にて投与し、通常食を摂食でき疼痛コントロールが良好でバイタルサインが正常範囲内であれば退院可とした。入院翌日に改善がみられない場合は、抗菌薬をさらに1日投与するか虫垂切除術を予定した。退院後は経口のアモキシシリン・クラブラン酸またはシプロフロキサシンおよびメトロニダゾールを10日分処方し、患児がこれらを7日間以上服用した場合に試験完了とした。家族には、1年以内に虫垂炎が再発した場合、虫垂切除術を行うことが事前に説明された。 虫垂切除術群では、輸液と抗菌薬の点滴を開始した後、腹腔鏡下虫垂切除術を行った。穿孔が認められなければ術後の抗菌薬投与は行わず、当日を含み可能な時点で退院とした。 主要アウトカムは、無作為化後1年以内の治療失敗。抗菌薬群では1年以内の虫垂切除、虫垂切除術群では陰性虫垂切除または1年以内の全身麻酔を要する虫垂炎関連合併症と定義した。 非劣性マージンは、治療失敗率の両群間差の90%信頼区間(CI)の上限が20%とした。治療失敗率、抗菌薬群34% vs.虫垂切除術群7% 2016年1月20日~2021年12月3日に9,988例がスクリーニングを受け、978例が登録された。このうち936例が抗菌薬群(477例)または虫垂切除術群(459例)に無作為に割り付けられた。 12ヵ月時点で、主要アウトカムのデータが得られたのは846例(90%)であった。このうち、治療失敗率は抗菌薬群34%(153/452例)、虫垂切除術群7%(28/394例)、群間差は26.7%(90%CI:22.4~30.9)であり、90%CIの上限が20%を超えており、抗菌薬群の非劣性は検証されなかった。 虫垂切除術群の治療失敗例は、1例を除きすべて陰性虫垂切除の患児であった。抗菌薬群で虫垂切除術を受けた患児のうち、13例(8%)は病理所見が正常であった。 いずれの群でも死亡や重篤な有害事象は認められず、抗菌薬群の虫垂切除術群に対する、治療に関連した有害事象発現の相対リスクは4.3(95%CI:2.1~8.7、p<0.0001)であった。

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骨髄線維症、移植後30日目の変異消失が予後に関連/NEJM

 骨髄線維症患者において、移植後30日目におけるドライバー遺伝子変異の消失は、その種類に関係なく再発および生存に良好な影響を及ぼすことを、ドイツ・ハンブルグ・ エッペンドルフ大学医療センターのNico Gagelmann氏らが明らかにした。同種造血幹細胞移植は骨髄線維症に対する唯一の治癒的治療法である。この疾患の病態生理学的特徴はドライバー遺伝子変異であるが、移植後の変異の消失の影響は不明であった。NEJM誌2025年1月9日号掲載の報告。ドライバー遺伝子変異をモニタリング、予後との関連を評価 研究グループは、2000~23年にハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターにて初回移植を受けた原発性骨髄線維症または二次性骨髄線維症(真性多血症または本態性血小板血症に続発)の患者324例を対象に、移植前および移植後30日目、100日目、180日目にドライバー遺伝子変異をモニタリングし、変異の消失と再発および生存に及ぼす影響を検討した。 全例、移植の前処置には低強度ブスルファン+フルダラビンを用い、移植片対宿主病の予防は移植前に抗Tリンパ球グロブリン、移植後にカルシニューリン阻害薬(シクロスポリンAまたはタクロリムス)とミコフェノール酸モフェチルまたはメトトレキサートの併用投与を行った。 主要エンドポイントは、再発および無病生存期間(DFS)の2つとした。副次エンドポイントは全生存期間(OS)であった。移植後30日目の変異消失が予後に関連 患者背景は、年齢中央値が60歳、62%が原発性骨髄線維症であった。また、ドライバー遺伝子変異は、JAK2変異238例(73%)、CALR変異73例(23%)、MPL変異13例(4%)に認められ、58%の患者が移植前にJAK阻害薬による治療を受けていた。 移植後30日目には、JAK2変異の42%(101/238例)、CALR変異の73%(53/73例)、MPL変異の54%(7/13例)が遺伝子変異の消失を認めた。移植後100日目の変異消失はそれぞれ63%(117/185例)、82%(60/73例)、100%(13/13例)であり、移植後180日目はJAK2変異が79%(134/169例)、CALR変異が90%(62/69例)であった。 再発の1年累積発生率は、移植後30日目に変異が消失した患者で6%(95%信頼区間[CI]:2~10)、消失しなかった患者で21%(15~27)であった。 6年DFS率および6年OS率は、移植後30日目に変異が消失した患者でそれぞれ61%および74%、消失しなかった患者で41%および60%であった。 移植後30日目の変異消失は従来のドナーキメリズムよりも奏効の指標として優れ、再発や進行のリスク低下と独立して関連していることが示唆された(ハザード比:0.36、95%CI:0.21~0.61)。多変量解析の結果、移植後30日目の変異消失の影響は、ドライバー遺伝子変異の種類(JAK2、CALR、MPL)よりも大きいことが示唆された。

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鳥インフルエンザによる死亡例、米国で初めて確認

 2024年12月、鳥インフルエンザにより入院していた米ルイジアナ州の住民が死亡した。米国初の鳥インフルエンザによる死亡例である。死亡した患者について同州の保健当局は、「65歳以上で基礎疾患があったと報告されている」と発表した。患者は、A型鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)に感染した野鳥や個人の庭で飼育されていた家禽との接触により感染したという。なお、同州で他にヒトへの感染例は確認されていない。 米疾病対策センター(CDC)は1月6日付の声明で、「ルイジアナ州での死亡者について入手可能な情報を慎重に精査したが、一般市民に対するリスクは依然として低いとの評価に変わりはない。最も重要なのは、ヒトからヒトへの感染は確認されていないということだ」と強調している。 死亡した患者は遺伝子型がD1.1のH5N1亜型に感染していた。これは、2024年暮れにカナダで13歳の少女が感染・重症化した原因となったウイルスと同じ亜型である。ルイジアナ州の患者に感染したウイルスの遺伝子配列を解析したところ、感染の過程で生じたと考えられる、まれな変異が確認された。しかし、この変異はウイルスを媒介したとみられる動物では確認されなかった。CDCは、「気がかりなことであり、またH5N1亜型はヒトへの感染過程で変化し得ることを再認識させる出来事であるが、こうした変化が動物宿主やヒトでの感染の初期段階で確認されれば、より懸念が強まるだろう」と12月26日付のニュースで指摘している。 CDCの以前の説明によると、これまでに報告されている鳥からヒトへの他の感染例のほとんどは大手養鶏場の従業員で発生したものであり、「ルイジアナ州の患者は、庭で飼っている家禽との接触に関連した米国初のH5N1亜型による鳥インフルエンザ症例」とされている。 またCDCは、米国でH5N1亜型による重症の鳥インフルエンザ症例の出現は、予想外のことではなかったと強調。「H5N1亜型による感染症は、他国では2024年以前からヒトでの重症化に関係しており、その中には死亡に至った症例もあった」としている。それでも、今回のケースは、鳥に接触する機会がある人は誰もが注意する必要があることを再認識させるものだとの見方を示している。 米国では2024年以来、少なくとも66人の鳥インフルエンザ感染者が確認されている。最も多くの症例が報告されているのはカリフォルニア州であり、そのほかワシントン州やコロラド州などからも報告されている。感染者は、感染した家禽や乳牛と接触したことのある労働者が大部分を占めている。現時点で、鳥インフルエンザのヒトへの伝播を示すエビデンスはなく、ほとんどの症例は軽症で、主な症状は結膜炎である。また、ヒトからヒトへの感染による死亡例は報告されていない。 2024年12月10日、CDCは、カリフォルニア州在住の子どもから検出された鳥インフルエンザウイルスの株が、乳牛と家禽、過去の感染者から検出されたH5N1亜型に類似していたことを報告した。この子どもに、感染した家畜との接触歴はないという。一方、カリフォルニア州の保健当局も12月17日、この子どもがどのように鳥インフルエンザウイルスに曝露したのかを調査中であることを明らかにしている。なお、この子どもは抗ウイルス薬の投与を受け、その後回復している。このケースでは、ヒトからヒトへの感染は確認されておらず、子どもの家族も全員、検査で陰性だった。 米ネブラスカ大学グローバル・センター・フォー・ヘルスセキュリティーのJames Lawler氏は、「New York Times」の取材に対し、「これは、現時点で大いに懸念すべき問題だといえる。パニックになるべきではないが、何が起こっているのか明らかにするために多くのリソースを投じるべきであることは確かだ」と述べている。

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肥満症治療薬、減量効果が特に高いのはどれ?

 GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬などの肥満症治療薬のうち、肥満や過体重の人の減量に最も効果的なのはどれなのだろうか? マギル大学(カナダ)医学部教授のMark Eisenberg氏らにより「Annals of Internal Medicine」に1月7日掲載された新たな研究によると、その答えは、デュアルG(GIP〔グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド〕/GLP-1)受容体作動薬のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)、GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(商品名ウゴービ)、および開発中のトリプルG(GLP1/GIP/グルカゴン)受容体作動薬のretatrutide(レタトルチド)であるようだ。これに対し、GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(商品名サクセンダ)の減量効果は、これら3種類ほど高くないことも示された。 GLP-1受容体作動薬は、食物を摂取したときに小腸から分泌されるホルモンのGLP-1の作用を模倣した薬剤で、もともと糖尿病の治療薬として開発された。GLP-1は、胃の内容物の排出を遅らせることで食後の血糖値の急上昇を抑えるとともに、中枢神経に作用して満腹感を高める効果を持つ。これにより、食物の摂取量が減り、それが体重減少につながる。デュアルGやトリプルG受容体作動薬は、GLP-1受容体に加え、GIP受容体やグルカゴン受容体などをターゲットにすることで、血糖値上昇を抑制したり満腹感を促進したりする効果を高めようとするもの。 今回Eisenberg氏らは、総計1万5,491人(女性72%、平均BMI 30〜41、平均年齢34〜57歳)を対象にした26件のランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて、糖尿病のない肥満者に対する肥満症治療薬の有効性と安全性を検討した。これらのRCTでは、3種類の市販薬(リラグルチド、セマグルチド、チルゼパチド)およびretatrutideなど9種類の承認前薬剤の計12種類の効果が検討されており、治療期間は16週間から104週間(中央値43週間)に及んだ。 その結果、プラセボ投与と比較して、72週間のチルゼパチド(週1回15mg)投与により最大17.8%、68週間のセマグルチド(週1回2.4mg)投与により最大13.9%、48週間のretatrutide(週1回12mg)投与により最大22.1%の体重減少が確認された。また、これらの効果に比べると控え目ではあるものの、26週間のリラグルチド(1日1回3.0mg)投与によっても最大5.8%の体重減少が認められた。安全性の点では、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などが一般的な副作用として報告されていたが、薬の服用を中止しなければならないほどひどい副作用はまれだった。 論文の上席著者であるEisenberg氏は、「われわれの調査で対象とした12種類の肥満症治療薬のうち、RCTにおいて最も大きな減量効果が報告されていたのは、retatrutide、チルゼパチド、セマグルチドであることが判明した」と結論付けている。 研究グループは、これらの肥満症治療薬の欠点の一つは、治療効果を維持するために継続的な服用が必要な点であると指摘し、「われわれが実施したシステマティックレビューでは、治療期間が長いRCTでは、追跡期間の短いRCTと同様の減量結果が示されている。この結果は、継続的な治療の必要性を裏付けている」と述べている。なお、retatrutideは、イーライリリー社により開発が進められている薬剤で、現在、臨床試験が進行中である。

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見直されるガバペンチンの転倒リスク、安全性に新知見

 ガバペンチンは、オピオイド系鎮痛薬の代替薬として慢性疼痛や神経痛の緩和に広く用いられているが、高齢者に投与した場合、転倒リスクを高めるという報告もある。このような背景から高齢者へのガバペンチンの処方には慎重になるべき、という意見もある。しかし、米ミシガン大学医学部内科のAlexander Chaitoff氏らの最新の研究で、この鎮痛薬が当初考えられていたよりも高齢者にとって安全である可能性が示唆された。 研究を主導したChaitoff氏は、「ガバペンチンは、軽度の転倒による医療機関への受診回数を減少させる傾向を示したが、重症度のより高い転倒関連事象(股関節骨折や入院など)リスクとの関連は確認されなかった」と述べている。同氏らの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に1月7日掲載された。 ガバペンチンの処方件数は2020年には5000万件近くに達したが、この薬が高齢者の転倒リスクを高める可能性を指摘した複数の研究の影響で、2022年には処方件数が20%減少した。しかし、研究グループは、適応となる疼痛疾患自体も転倒リスクを高めることから、ガバペンチンによる転倒リスクが誇張されている可能性があると考えた。このような背景から、研究グループは、ガバペンチンと、転倒リスクを高めるとの報告がない神経痛治療薬デュロキセチンの転倒リスクを比較検討することとした。 この研究では、2014年1月から2021年12月の間に糖尿病、帯状疱疹、線維筋痛症に関連する神経痛のためにガバペンチンまたはデュロキセチンを処方された65歳以上の高齢者5万7,086人(ガバペンチン5万2,152人、デュロキセチン4,934人)のデータを収集・分析した。主要評価項目は、薬剤の投与開始後6カ月以内の、あらゆる転倒による受診リスクとした。副次評価項目は重度の転倒関連イベント(転倒による股関節骨折、救急外来受診、または入院と定義)の発生リスクとした。 その結果、ガバペンチンを処方された患者では、デュロキセチンを処方された患者に比べて、あらゆる転倒のリスクが全体で48%(ハザード比0.52、95%信頼区間0.43~0.64)低いことが判明した。しかし、重度の転倒関連イベントの発生リスクに関しては、両群に違いは認められなかった。 研究グループは、「高齢者において、ガバペンチンが転倒リスクを高めないとは断言できない。しかし、ガバペンチンの投与開始から6カ月間における転倒リスクは、他の代替薬と比較して高いわけではなく、むしろ安全性の面ではより適している可能性がある」と結論付けた。 また、研究グループは、今回の研究の限界点として、対象者にフレイルの高齢者が少なかったため、転倒件数が過小評価された可能性があることを挙げている。

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65歳以上の全女性に骨粗鬆症スクリーニングを推奨――USPSTF

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は1月14日、65歳以上の全ての女性に対して、骨折予防のための骨粗鬆症スクリーニングを推奨するという内容のステートメントを発表した。また65歳未満であってもリスク因子のある女性は、やはりスクリーニングの対象とすべきとしている。一方、男性に対するスクリーニングに関しては、まだ十分なエビデンスがないとした。これらの推奨の詳細は、USPSTFのサイトに同日掲載された。 USPSTFのEsa Davis氏は、「骨粗鬆症患者に現れる最初の症状が骨折であることが非常に多い。このことが、その後の深刻な健康障害を引き起こしている」と、未診断の骨粗鬆症患者が少なくないという問題を指摘し、スクリーニング対象基準を明確にすることの意義を強調。また、「この基準の明確化によって、65歳以上の女性だけでなく、リスクが高い場合は65歳未満の女性も、骨折を来す前にスクリーニングを受けることで骨粗鬆症を早期に発見でき、女性の健康、自立、生活の質の維持につなげられる」と話している。 骨も体のほかの組織と同じように、新陳代謝を繰り返している。しかし加齢とともに、骨の吸収と形成のバランスが負になりやすく、吸収された骨が十分に補充されなくなっていく。骨粗鬆症の多くはこのような加齢の影響により進行し、徐々に骨密度が低下していき骨折のリスクが上昇してくる。米クリーブランドクリニックのデータによると、骨粗鬆症による骨折が生じやすい部位は、股関節、手首、脊椎などと報告されている。 USPSTFは予防医学関連のさまざまなステートメントを策定するとともに、それらを定期的に見直し、最新の医学的知見に準拠した内容を維持している。今回のUSPSTFのステートメントに関しては、2011年および2018年に発表された以前のバージョンと基本的には一致する内容だが、スクリーニングのための検査手法として、「二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による骨密度(BMD)測定が含まれる」とされた。 推奨項目は以下のとおり。65歳以上の女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。骨粗鬆症の危険因子を一つ以上有する65歳未満の閉経後女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。男性の骨粗鬆症による骨折を予防するためにスクリーニングを行うことのリスク/ベネフィットのバランスを評価するには、現在のエビデンスは不十分。 男性のスクリーニングについてUSPSTF副委員長のJohn Wong氏は、「検査によって骨粗鬆症の男性を特定することは可能。しかし、検査とそれに続く治療が、男性の骨折を抑制するかどうかについては、さらなるエビデンスが必要な段階だ。USPSTFは現在、男性に対する研究を奨励している」と述べている。 なお、USPSTFは全米の予防医学に関する専門家で構成される独立したボランティア委員会で、USPSTFのステートメントが医療保険制度に変化をもたらすこともある。同国の医療保険制度改革法(Affordable Care Act)では、USPSTFの推奨度が高い検査は無料で受けられるようにすべきとしている。

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活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性(解説:上村直実氏)

 中等症~重症の活動期クローン病(CD)の寛解導入療法および寛解維持療法における抗IL-23p19抗体ミリキズマブ(商品名:オンボー)の有用性と安全性を、プラセボと実薬対照である抗IL-12/IL-23p40抗体ウステキヌマブ(同:ステラーラ)と同時に比較検討した結果、ミリキズマブが寛解導入および維持療法においてプラセボと比べて有意な優越性を示し、さらに、ウステキヌマブと同等の有用性を示したことが2024年11月のLancet誌に掲載された。 わが国におけるクローン病に対する治療は、経腸栄養療法、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド、アザチオプリンなど従来の薬物療法が行われてきたが、難治例に対してインフリキシマブやアダリムマブなどTNFα阻害薬が使用されるケースが増えている。しかし、以上のような治療を適切に行っても、寛解導入できない症例や寛解を維持できなくて再燃する症例がいまだ多くみられるのが現状であるため、さらに新たな薬剤が次々と開発されている。 新たな生物学的製剤としてミリキズマブと同じ抗サイトカイン抗体であるウステキヌマブ、リサンキズマブ(商品名:スキリージ)やJAK阻害薬のウパダシチニブ(同:リンヴォック)および抗インテグリン抗体であるベドリズマブ(同:エンタイビオ)がクローン病に対する保険適用を有している。なお、対象として日本人も参加している本試験の結果から、今後近いうちに、ミリキズマブもクローン病に対して保険適用となることが予想される。 今回の研究デザインで特徴的なのは、ミリキズマブの有効性を検証するために寛解導入試験の開始時にプラセボ群および実薬対照のウステキヌマブ群の3群に無作為割り付けして、治療開始12週時点での臨床的奏効率を比較した後、そのまま同じ薬剤の投薬を継続して52週時点での臨床的有効率および内視鏡的奏効率により比較検討した方法(treat-through study)という点である。従来、プラセボ対照試験として寛解導入できた症例を寛解維持療法の試験にエントリーして寛解維持率を比較検討する方法が多かったのであるが、今回のデザインはより臨床現場における治療方針の参考になるものと考えられる。 最後に、同じ抗サイトカイン抗体であるが、IL-23のp19サブユニットを標的とするミリキズマブとIL-12とIL-23を抑制するウステキヌマブの実薬同士の比較は非常に興味深いものと思われた。本研究結果からは両者間に有意な違いは認められなかったが、今後、IL-23p19のみを抑制するミリキズマブやリサンキズマブと、IL-12も同時に抑制するウステキヌマブとの長期的な有用性や安全性を比較する検証が期待された。

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