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統合失調症患者の認知機能改善に対するメトホルミンのメカニズム

 認知機能低下は、統合失調症の長期予後に悪影響を及ぼす病態であるが、効果的な臨床治療戦略は依然として限られている。トリカルボン酸(TCA)回路の破綻と海馬における脳機能異常が認知機能低下の根底にある可能性が示唆されているが、これらの本質的な因果関係は十分に解明されていない。とくに、ビグアナイド系糖尿病薬であるメトホルミンは、統合失調症患者のさまざまな認知機能領域を改善することが示されており、TCA回路を調節する可能性がある。中国・The Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのJingda Cai氏らは、以前、研究において、メトホルミン追加投与が統合失調症患者の認知機能を改善することを報告した。本研究では、認知機能改善とTCA回路代謝物および脳機能との関連を調査した。BMC Medicine誌2025年7月1日号の報告。 対象は、同様の状態にある統合失調症患者58例。メトホルミン1,500mgを24週間追加投与したメトホルミン群と対照群に割り付けた。液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いて統合失調症患者の血中における主要なTCA回路代謝物の濃度を検出し、MRIスキャンを実施した。臨床症状の評価には陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、認知機能の評価にはMATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)中国語版を用いた。 主な結果は以下のとおり。・メトホルミン投与24週間後、TCA回路におけるアップストリームの乳酸(24週目:−80.81μg/mL[−96.85〜−64.77])、ピルビン酸(24週目:−17.51μg/mL[−20.52〜−14.49])レベルが低下した。一方、他の7つのダウンストリームの代謝物レベルは上昇した(各々、p<0.001)。・左海馬尾部と右内腹側後頭葉皮質(12週目の群間差:−0.334)、右海馬尾部と右中前頭回(24週目の群間差:0.284)との間の機能的連結性は両群間で有意な差が認められた(p<0.001)。・メトホルミンによる認知機能(ワーキングメモリー/言語学習)および海馬機能連結性(右海馬尾部と右中前頭回)の改善は、TCA回路代謝物の変化と関連していた。 本研究の限界として、サンプル数やフォローアップ期間が不十分な点、メカニズムの詳細は検討が不十分な点が挙げられる。 著者らは「統合失調症患者に対するメトホルミン追加投与は、エネルギー代謝を調節することで、認知機能を改善する可能性が示唆された」と結論付けている。

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血液病理認定医が直面している難渋するリンパ腫診断/日本リンパ腫学会

 2025年7月3~5日に第65回日本リンパ腫学会学術集会・総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月5日、竹内 賢吾氏(公益財団法人がん研究会 がん研究所)を座長に行われた学術・企画委員会セミナーでは、「How I diagnose lymphoma」と題して、5名の病理認定医より、日常診療で直面している具体的な診断の揺らぎや分類の曖昧さに対する自身の対応や見解について共有および議論がなされた。 診断の揺らぎは、解析データの不足、診断者の力量に起因することもあるが、WHO分類におけるさまざまな病型定義や診断基準の曖昧さによる影響が大きいと考えられる。そもそも分類とは、その制定までに理解可能となった定型例により構成されており、その曖昧さは、明瞭な記載が不可能だという消極的な理由のほかに、非定型例について将来の研究に委ねたいとの観点から積極的に設けられた緩衝地帯といえる。このような緩衝地帯においては、現在の知見のみで、誰かが決断を下さなければ治療に向かうことができないことからも、知見の共有は重要である。 本セミナーでは、大石 直輝氏(山梨大学大学院総合研究部医学域人体病理学講座)、加藤 省一氏(佐賀大学医学部 病因病態科学講座 診断病理学分野)、加留部 謙之輔氏(名古屋大学 大学院医学系研究科 臓器病態診断学)、佐藤 康晴氏(岡山大学学術研究院 分子血液病理学)、百瀬 修二氏(埼玉医科大学総合医療センター 病理部)の5名の病理認定医より講演が行われた。今回は、そのうち3つの演題を取り上げる。確定診断には血液内科医と病理医の連携は不可欠 形質芽球性リンパ腫(PBL)の診断について、大石氏は発表された。PBLは、形質芽球/免疫芽球の形質、B細胞の最終分化段階の免疫学的形質を有する大細胞異常B細胞の増殖からなる高悪性度リンパ性腫瘍であり、主に節外臓器に発生する。PBLの鑑別診断は多様かつ複雑であり、情報が限られているため確定診断が難しく、形質細胞腫にとどめざるを得ないこともあるため、とくに病理医と血液内科医のチームワークが求められる。そのうえで「丁寧な臨床病理相関を検討することが必要とされる」と述べている。また「そもそも形質芽球は概念上の細胞なのか、実在するのか」「形質芽球リンパ腫はリンパ腫なのか、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)との整合性は」「形質芽球リンパ腫が形質細胞腫と診断された場合の臨床的インパクトは」「EBV陽性形質細胞腫からEBV陽性PBLへの進展はあるのか」などの疑問が今後明らかになっていくことが期待されるとしている。ダブルヒットリンパ腫とBL/DLBCL境界例診断のコツは ダブルヒットリンパ腫(DHL)を含む高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)の診断について、加留部氏が発表された。MYCとBCL2転座を有するDHLは予後不良であり、その多くはバーキットリンパ腫(BL)/びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)境界例に含まれているが、BL/DLBCLの多くがDHLというわけではなく、DHL以外のBL/DLBCLはHGBL,NOSに分類される。これらはいずれも予後不良であり、適切な治療に結びつけるためにも、正確な診断が求められる。一方で、加留部氏は「HGBL,NOSの診断は乱発するものではなく、形態診断は異なっているが、他の所見も併せて判断したほうが無難である」と述べている。また、HGBLのなかでも11qを伴う場合には、予後は良好であるため、HGBL,NOSとの鑑別は重要となる。そのため、BLが強く疑われるにも関わらずMYC転座が認められない場合には、11qのFISHを行う価値が高いと考えられる。BLとDLBCLとの鑑別は、その後の治療選択においても重要であるが、境界例ではとくに慎重な診断が求められることとなる。最後に、ダブルヒット濾胞性リンパ腫(FL)の診断は、現状DHLではなくFLとして考えるとされており、FLに準じた診断治療を行うべきであるが、形質転換により悪性度が急激に上昇するため、より慎重に検索すべきであり、広い範囲での摘出生検の必要性を強調した。LBCLで低悪性度コンポーネントをどこまで考慮すべきか 百瀬氏は、LBCLにおける低悪性度コンポーネントの存在をどこまで追求すべきかについて、考えを述べられた。LBCLの背景には、マントル細胞リンパ腫(MCL)、FL、辺縁帯リンパ腫(MZL)などの低悪性度コンポーネントがあるかどうか、標本上LBCLのみである場合にどこまで追求すべきなのであろうか。LBCLでは、最終的にCCND1陽性MCLとなる頻度は1/300〜500であり、LBCLのMCL、pleomorphicの抽出にCD5発現は向いていない。cyclin D1の発現による抽出は有効ではあるものの、cyclin D1陰性例の取りこぼしが生じる可能性があることから、SOX11での拾い上げが有効かもしれないと述べている。しかし、自験例においてもSOX11陰性MCLが一定頻度で見られる可能性があるとした。これらを踏まえ、百瀬氏は「現時点でLBCLにおけるMCLスクリーニングではcyclin D1を用いることが良いと考えている」と本発表をまとめた。

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心停止ドナー心の新たな摘出・保存法/NEJM

 米国・ヴァンダービルト大学医療センターのAaron M. Williams氏らの研究チームは、循環が停止したドナー(DCD)から移植用の心臓を摘出する際に、従来のnormothermic regional perfusion(NRP)やdirect procurement and perfusion(DPP)を必要としない方法として、rapid recovery with extended ultraoxygenated preservation(REUP)法を開発した。本論文では、従来法の問題点、REUP法を適用した最初の3例の治療成績、この手法が今後の心臓移植に及ぼす影響について解説している。研究の詳細は、NEJM誌2025年7月17日号で短報として報告された。DPPは複雑で高価、NRPには倫理的問題 DCDからの心臓移植における心臓摘出では、通常、DPPまたはNRPのいずれかが行われる。 DPPでは、ドナーの循環停止を確認後に心臓を摘出する。市販の体外装置を使用して心臓蘇生を行うが、この装置は複雑で大きな労力を要するうえに高価で、移植心臓の機能障害のリスクが増加する可能性もある。 NRPでは、死亡宣告後に膜型人工肺などを装置し、灌流を再開して体内で心臓蘇生を行い、心機能を評価して移植の適否を決める。DPPに比べ操作が容易で、臓器の回収率が高く、心臓と腹部臓器の移植において優れたアウトカムが示されている。 その一方で、NRPは主に次の2つの倫理的な問題を抱えており、これを理由に使用を禁じる国、病院、臓器調達組織も多い。(1)ドナーの心臓を体内で蘇生させるのは、循環死の定義を否定することではないか(DPPは体外なので心臓死後の臓器摘出と判断)、(2)大動脈弓部分枝をクランプして脳循環を防止しているが、側副路を介する脳循環の再開の可能性は残るのではないか(脳が蘇生した状態での心臓摘出の可能性)。6ヵ月後も両心室機能は正常、拒絶反応は認めない REUP法は、DCDの大動脈をクランプし、平均大動脈基部圧80mmHgにコントロールされた状態で、超酸素化された冷温保存液(濃厚赤血球、del Nido心保護液などを含む)2リットルを約10~12分間で投与する方法である。この手法は簡便で安価であり、体内で心臓蘇生を行わないためNRPが許可されない状況でも使用可能とされる。 REUP法を受けた最初の3例の患者はいずれも順調に回復し、ICU入室中に合併症は発現しなかった。移植後1週目に、患者の心係数は2.8~4.4L/分/m2の範囲で推移し、3例とも移植から7日目までに強心薬の点滴から離脱した。術後の心エコー検査で、すべての患者の両心室の機能は正常であった。また、周術期に有害事象の報告はなかった。 一時的な持続的腎代替療法を行った後に間欠的血液透析を受けた1例は、その後に完全な腎機能の回復を果たした。全例がprednisone、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスを含む標準的な免疫抑制療法を受けた。移植から6ヵ月の時点で、すべての患者は両心室機能が正常な状態を維持しており、急性細胞性拒絶反応や抗体関連型拒絶反応は認めなかった。移植へのアクセスが拡大する可能性 これら3例の良好なアウトカムは、次の2点を示唆すると考えられた。(1)循環停止後から始まる細胞死のプロセスには可逆性の時間帯が存在するとの既報のトランスレーショナル研究の知見を支持する、(2)NRPまたはDPPによるドナー心臓の自己心拍の再開および生理学的評価は不要である可能性がある。 著者は、「NRPに関連した倫理的ジレンマと、市販のDPPの過大なコストを回避できることから、REUP法は、これまでDCDからの心臓移植にアクセス不能であった施設や地域において、適切に選択された心臓の摘出と移植を成功裏に行うことを可能にするとともに、提供可能であるにもかかわらず活用されない心臓を減らすことができると考えられる」としている。

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SGLT2阻害薬がCKD患者の入院リスクを総合的に低減

 SGLT2阻害薬が慢性腎臓病(CKD)の進行や心血管イベントを抑える効果はこれまでに報告されているが、あらゆる原因による予定外の入院リスクの低減効果については体系的に評価されていない。今回、大島 恵氏(オーストラリア・シドニー大学/金沢大学)らの研究により、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無、腎機能やアルブミン尿の程度にかかわらず、CKD患者の予定外の入院リスクを低減したことが明らかになった。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年7月14日号掲載の報告。 これまでのCREDENCE試験では、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが、CKDを合併する2型糖尿病患者の心・腎イベントを抑制することが明らかになっている。今回、研究グループはCREDENCE試験の事後解析を実施し、Cox比例ハザードモデルを用いてカナグリフロジンの予定外の初回および2回目以降の入院への影響を評価した。また、CKD患者を対象としたSGLT2阻害薬の3つのプラセボ対照試験について逆分散法によるメタ解析を実施し、全体およびサブグループ(糖尿病・腎機能・アルブミン尿)における効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・CREDENCE試験では、中央値2.6年の追跡期間中に、4,401例中1,543例(35%)が3,015回の入院を経験した。・カナグリフロジンは、プラセボと比較して、予定外の初回の入院リスクを12%低減させ(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.80~0.98、p=0.02)、初回および2回目以降の入院リスクを14%低減させた(HR:0.86、95%CI:0.76~0.96、p=0.007)。・CKD患者を対象とした3つのプラセボ対照試験のメタ解析では、SGLT2阻害薬はあらゆる原因による初回および2回目以降の入院リスクを15%低減させた(HR:0.85、95%CI:0.78~0.95、p<0.001)。この効果は、糖尿病の有無、ベースライン時の腎機能、アルブミン尿の程度にかかわらず一貫した。・とくに減少がみられた入院の原因は、感染症、心疾患、腎・尿路疾患、代謝・栄養障害であった。・SGLT2阻害の使用により、CKD患者1,000人年当たり36件(95%CI:13~56)の予定外の入院を予防すると推定された。

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REM睡眠中の無呼吸は記憶固定化と関連する脳領域に影響を及ぼす可能性

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に関連した低酸素血症は、前頭頭頂葉脳血管病変と関連し、この病変は内側側頭葉(MTL)の統合性低下や睡眠による記憶固定化の低下と関連するという研究結果が、「Neurology」6月10日号に掲載された。 米カリフォルニア大学アーバイン校のDestiny E. Berisha氏らは、認知機能に障害のない高齢者を対象に、実験室内での終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)および睡眠前後の感情記憶識別能力を実施し、それらを評価する観察研究を行った。PSGから導出したOSAの変数には、無呼吸低呼吸指数、総覚醒反応指数、最低酸素飽和度が含まれた。研究の早期時点で、MRIを用いて脳全体および脳葉の白質高信号域(WMH)の体積とMTLの構造(海馬体積、嗅内皮質〔ERC〕の厚さ)を評価した。 研究対象となったのは、高齢者37人(年齢72.5±5.6歳)であった。解析の結果、低酸素血症の測定値は脳全体のWMH体積を有意に予測した。この関係はREM睡眠中の低酸素血症の重症度に強く関連しており、前頭葉および頭頂葉のWMH体積も予測した。REM睡眠中の低酸素血症とERCの厚さとの関係は、前頭葉のWMH体積増加により間接的に媒介された。また、ERCの厚さ減少は夜間の記憶識別能力の悪化と関連した。 共著者であり同大学のBryce A. Mander氏は、「総合すると、われわれの研究結果は、OSAが、睡眠中の記憶固定化を支える脳領域の変性を通して、加齢およびアルツハイマー病と関連する認知機能低下にどのように寄与するのかを部分的に説明している可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、バイオ製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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肺がんに対する免疫療法、ステロイド薬の使用で効果減か

 非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対しては、がんに関連した症状の軽減目的でステロイド薬が処方されることが多い。しかし新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療開始時にステロイド薬を使用していると、ICIの治療効果が低下する可能性のあることが示された。米南カリフォルニア大学(USC)ケック・メディシンの腫瘍内科医であり免疫学者でもある伊藤史人氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer Research Communications」に7月7日掲載された。伊藤氏は、「がんの病期や進行度といった複数の要因を考慮しても、ステロイド薬の使用は特定の免疫療法で効果が得られないことの最も強い予測因子であった」と話している。 伊藤氏らはこの研究で、ICI単独、またはICIと他の治療法の併用のいずれかによる治療を受けたNSCLC患者277人(USCの患者189人、ロズウェルパーク総合がんセンターの患者88人)の医療記録を分析した。これらの患者のうちの21人(8%)は、ICI開始時にステロイド薬を使用していた。ステロイド薬はがん患者の倦怠感や嘔吐、脳の腫れ、肺の炎症といった症状を軽減するために広く使用されており、免疫系を抑制することで炎症を軽減する作用がある。 分析の結果、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していることは奏効率の低下と関連することが明らかになった。また、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していた患者では、使用していなかった患者に比べて無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が有意に短いことも示された。さらに、ICIによる治療開始時のステロイド薬の使用はPFSとOSの独立した予後不良因子であり、ステロイド使用者では非使用者と比べて、病態の進行リスクが2.7〜4.3倍、死亡リスクが2.4〜3.2倍高かった。 ステロイド薬を使用している患者では、ベースライン時にがん進行の指標となる血液中を循環する免疫のバイオマーカー(CX3CR1+CD8+T細胞)が有意に少ないことも示された。伊藤氏は、「この血中バイオマーカーがないと、がんの治療方針を判断する手がかりを得ることができず、腫瘍内科医は最適な治療を行えなくなる。その結果、患者が最善の治療を受けられなくなる可能性がある」と言う。このほか、実験用マウスを用いた検討からは、ICIによる治療前または治療中にステロイド薬を投与すると、T細胞が成熟する過程が妨げられることも示された。 伊藤氏は、「この研究結果から、ステロイド薬は体にもともと存在している免疫細胞であるT細胞の成熟を妨げることが明らかになった。その結果、T細胞は通常のようにがん細胞を攻撃することができず、患者の予後が悪化するのだ」と言う。同氏はまた、「ステロイド薬が免疫療法に干渉する可能性があることは他の研究でも示されているが、本研究は、その推定される因果関係を示した最初の研究の一つだ」と話している。 伊藤氏らは、本研究で認められた関連性をより深く理解するためには、さらなる研究が必要であるとの見解を示している。伊藤氏は、「患者によっては、がんの症状を管理する上でステロイド薬が不可欠だ。ステロイド薬が今後も肺がん治療において重要な役割を果たすことは間違いないが、その限界についても理解しておくことが重要である。自身のニーズに最も適した治療計画を立てるために、どの患者も主治医とよく話し合うべきだ」と助言している。

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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹は麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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冠動脈疾患と心房細動の合併例への薬物療法【日常診療アップグレード】第35回

冠動脈疾患と心房細動の合併例への薬物療法問題78歳女性。定期検査のため来院した。無症状である。既往歴に高血圧症と脂質異常症があり、冠動脈疾患のため3年前にステントを留置している。アスピリン、カルベジロール、ロサルタン、アトルバスタチンを内服している。心拍の不整を除きバイタルサインに異常を認めない。その他の所見は特記すべきものはない。腎機能は正常である。心電図で心房細動を認めた。アスピリンを中止し、アピキサバンを開始した。

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群馬大学医学部 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

高張 大亮 氏(教授)櫻井 麗子 氏(助教)山田 真紀子 氏(助教)大崎 洋平 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴群馬大学腫瘍内科では、外来化学療法センター、緩和ケアセンター、がんゲノム外来を一体的に運用し、がんとともに生きる患者さんを包括的に支える体制を整えています。治療に伴う身体的・精神的な負担にも丁寧に対応し、患者さん一人ひとりに最適ながん医療を提供しています。また、日常診療に加えて、企業治験や臨床試験、ゲノム医療にも積極的に取り組み、最先端のがん治療を実践できる環境を備えていることが、私たちの大きな強みです。地域のがん診療における医局の役割当科は群馬県内のがん薬物療法の中核として、院内の各診療科や地域の医療機関と緊密に連携し、がん医療の質の向上に取り組んでいます。さらに、がんゲノム医療連携病院として、がん研有明病院をはじめとする中核拠点病院と協力しながら、北関東全体の高度ながん医療を支える役割も担っています。地域におけるアクセス格差や情報格差の解消にも力を注ぎ、患者さんが適切な医療につながるための支援体制を整えています。医師の育成方針診療・研究・教育のすべてにバランスよく関わることができる環境の中で、腫瘍内科医としての専門性だけでなく、人間性をも高めていける医師の育成を目指しています。技術や知識に加え、患者さんに寄り添う姿勢を大切にすることを重視しています。内科専門医やがん薬物療法専門医の取得はもちろん、大学院進学、基礎研究、がん専門病院への国内外の留学、企業での薬剤開発、医系技官としての医療行政への参画など、多彩なキャリアパスを提案できる点も当科の魅力です。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力臨床試験・治験を行うことにより今後の標準治療を確立するための一助を担うこと、日常診療では他科と連携して最新の治療を行っていくこと、がんゲノム医療連携病院として県内の患者さんへのゲノム治療へ貢献すること、緩和ケアにて疼痛コントロールや気持ちのサポートをすることといった、個々の患者さんにとって最善最適ながん診療を提供していけることが当医局のやりがい・魅力であり、かつ私たちの最大の使命と考えております。医局の雰囲気、魅力それぞれの得意とする専門性から活発な意見交換がされ、また他の診療科や多職種との関わり合いからも、臓器横断的に集学的に、がん診療について多くのことが学べる環境です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科学の分野は、免疫チェックポイント阻害薬・遺伝子異常に基づいたがん分子標的治療・がんゲノム医療の開発とその臨床導入など大きく進歩してきており、今後もさらに発展していく分野です。その担い手になる皆さんをお待ちしています。まずは見学から! お待ちしています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科に設置されている緩和ケアセンターで、緩和ケアの担当医をしております。院内のさまざまな診療科から痛みや嘔気などの体のつらさや気持ちのつらさに対してコンサルテーションをいただきます。「まさか自分ががんになるなんて」とがん診断時の心理的つらさを抱えた状態から、がん治療がスムーズに進んでいくための心と体を整えるサポートを緩和ケア認定看護師さんたちと提供しています。現在、がん治療にはさまざまな選択肢があり、またがん薬物療法にも本当にたくさんの治療薬があり、患者さんに適した治療を提供するには高い専門性が必要となります。そのための腫瘍内科において、治療の副作用を和らげる対応や治療を頑張っていこうとする患者さんのお気持ちを支えるサポートに非常にやりがいを感じています。がん治療を総合的に提供できる当医局は非常に魅力的なところです。医学生/初期研修医へのメッセージ私は現在子供3人を育てつつ、仕事と育児の両立、研究活動やキャリアアップを目指しながら日々取り組んでいます。やりがいを感じ、自己実現していくための選択肢の1つとして当医局にまずは見学に来ませんか? お待ちしております。医学生/初期研修医へのメッセージ私は血液内科を専門として医師の道をスタートして、がん薬物療法専門医を取得、現在に至ります。昨今のがん薬物療法の進歩は目覚ましく、より複雑化・高度化しています。がんゲノム医療も現場に導入され、特定のがん種だけではないがん薬物療法の専門家への需要は今後益々高まっていくと考えます。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力当院では、各診療科とのキャンサーボードに腫瘍内科医師が参加し、複雑な合併症を持つ症例や、新薬の登場時などは腫瘍内科が薬物療法を担当するといった協力体制が整っています。そのため、多様ながん種の多様なレジメンを経験することができます。薬物療法をメインに行っていますが、受け持った患者さんが手術をすることもあれば、放射線療法が適応となる場合もあります、患者さんを通じて、臓器横断的・集学的ながん診療を学ぶことができるのは、当科の特徴です。医局の雰囲気、魅力2024年に設立された新しい診療科です。僕自身も子育てをしながらの毎日を過ごしていますが、子育てに限らず、ライフイベントをサポートしながらのキャリア形成にはとても理解の深い医局だと思っています。ぜひ、一度見学にお越しください!群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍内科住所〒371-8511 群馬県前橋市昭和町三丁目39番15号問い合わせ先医会長 大崎洋平(yosaki@gunma-u.ac.jp)医局ホームページ群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(総合内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)日本がん治療認定医機構(がん治療認定医)臨床遺伝専門医制度委員会(臨床遺伝専門医)研修プログラムの特徴(1)地域に根差した一貫した医療の実践県内の医学科を有する大学は群馬大学のみであり、大学での教育・診療が、地域の医療にダイレクトに結びついているのは群馬県の特徴の1つです。県下から集まる一人ひとりの患者さんの診断から治療、治験や臨床試験に至るまでを一貫して経験することができます。(2)学位取得、研究のサポート本学にはさまざまな学位取得に向けたプランがあり、在学中、初期研修、後期研修と並行した学位取得が目指せます。研究資金の獲得、臨床試験の立案から運営、研究発表まで、当科スタッフがサポートします。現在は、在学中の学生とアピアランスケアに関連した臨床研究、がん患者さんのQOLを上げる商品開発を企業と共同で行っています。(3)多様なキャリア形成、ライフイベントのサポート当科で腫瘍内科医としてのキャリアをスタートした後、現場で働く医師としてのキャリアアップだけでなく、国内国外企業における創薬への挑戦、医系技官として医療行政へと携わる道などさまざまな進路を選択、提示が可能です。またライフイベントに合わせた働き方の調整にも柔軟に対応いたします。

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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第277回 グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない

グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない過敏性腸症候群(IBS)患者28例が完遂したカナダでのクロスオーバー無作為化試験の結果によると1-3)、グルテンや小麦に過敏と自覚している人の多くは実際のところそれらを食べても平気かもしれません。小麦は数多の食品を作るのに使われており、言わずもがな魅惑のスイーツの数々をあつらえるのに必要とされる材料の1つです。多くの人にとって小麦がもたらす食の楽しみは大きいに違いなく、小麦を食べられるならそうするにこしたことはなさそうです。それに未精製の全粒小麦を使った食品は炭水化物、食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラル、その他の植物に特有な成分(ファイトケミカル)の重要な供給源であり、世界の人々の日々のエネルギー摂取や食事を健康的にするのに大いに貢献しています。小麦などの全粒穀物の摂取が健康に有益なことも示されており、たとえば肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、死亡を減らすことが疫学試験で裏付けられています。一方、食品がたいていそうであるように小麦にも負の側面があり、セリアック病や小麦アレルギーなどの有害な免疫反応をもたらしうることが示されています。小麦の摂取で具合が悪くなるとのことで、セリアック病や小麦アレルギーでなくとも小麦摂取を減らすか避けるグルテンフリー食を選ぶ人も多いようです。そういう不調は非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)と呼ばれ、小麦のタンパク質成分のグルテンがしばしばその誘引成分とみなされます。NCGSの人はもっぱら腹部の痛みや違和感、膨満感、排便周期の変化などの胃腸の症状を訴えます。より少ないながら、疲労や頭痛などの消化管以外の症状が生じることもあります。NCGSの生理指標はなく、その診断にはしばらくのグルテンフリー食の後にグルテンをあえて摂取してもらう検査を必要とします。普段の診療で決まってできる類いのものではありません。これまでの報告に基づくNCGSの有病率は自己申告が頼りゆえか相当まちまちで0.5~13%ほどです4,5)。NCGS患者はIBS様の症状を呈して受診することが多く、IBSも患うNCGS患者は多いようです。たとえば英国の成人1千人ほどを調べた試験では、NCGS患者がほとんど(93%)を占めるグルテン過敏症患者の5人に1人はIBSの診断基準を満たしました6)。他の試験結果も考慮すると、IBSとNCGSはかなり重複するようであり、IBS患者の多くがグルテンや小麦がその症状の引き金であると信じています。そこでカナダのマクマスター大学のPremysl Bercik氏らは、単なる思い込みではなく実際にそれらがIBS症状を誘発するかどうかを調べるべく試験を実施しました。試験ではグルテンフリー食で病状が良くなった経験を有するIBS患者を募りました。集まった被験者はまずグルテンフリー食を3週間続け、点数が大きいほど重症なことを意味する0~500点のIBS重症度尺度(IBS-SSS)でIBS症状がどれほどかが測定されました。その平均値は183でした。続いて全粒小麦入り、グルテン入り、そのどちらも非含有の3種類の固形食品(シリアルバー)のどれかをどれも2週間の間を挟んで1週間食べてもらいました。被験者にはそれらを食べることで症状が悪化する恐れがあると伝えました。ただし、シリアルバーに何が入っているかは知らせませんでした。症状が悪化するかもしれないと告げられているだけに、食べたのが小麦もグルテンも含まないシリアルバーであっても28例中8例(29%)がIBS-SSS点数の50点以上の悪化を示しました。小麦入りやグルテン入りのシリアルバーを食した後の悪化患者の割合はさぞ高かろうと思いきやそうはならず、小麦もグルテンも含まないシリアルバーを食した後と有意差がなく、それぞれ39%(11/28例)と36%(10/28例)でした。グルテンや小麦が正真正銘のIBS症状の引き金となることはあるでしょうが、悪化するという思い込みが実際にそうさせるノセボ効果の関与もあるようです2,3)。NCGS患者を募った欧州での最近の無作為化試験でも同様に胃腸症状へのノセボ効果の寄与が示唆されています7)。今回の試験の被験者の便を調べたところ、何人かはシリアルバーを指示どおりに食べておらず、グルテンや小麦がIBS病状に影響するほどそれらを摂取していなかったかもしれません3)。また、試験の種明かしをしたところで被験者のほとんどは考えや食事を変えはしませんでした2)。IBS患者のいくらかは心理的支援も含む手当てが必要かもしれない、と試験を指揮したPremysl Bercik氏は言っています2)。 参考 1) Seiler CL, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Jul 1. [Epub ahead of print] 2) Despite self-perceived sensitivities, study finds gluten and wheat safe for many people with IBS / McMaster University 3) Gluten may not actually trigger many irritable bowel syndrome cases / NewScientist 4) Cabrera-Chavez G, et al. Gastroenterol Res Pract. 2016;2016:4704309. 5) Molina-Infante J, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;41:807-820. 6) Aziz I, et al. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2014;26:33-39. 7) de Graaf MCG, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:110-123.

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腋窩リンパ節郭清省略はどこまで進むのか~現状と課題/日本乳学会

 乳がん治療においては、近年、術前化学療法(NAC)の高い完全奏効率から手術のde-escalationが期待されるようになり、なかでも腋窩リンパ節郭清(ALND)省略はQOLを改善する。第33回日本乳学会学術総会で企画されたパネルディスカッション「腋窩リンパ節郭清省略はどこまで進む?」において、昭和医科大学の林 直輝氏が腋窩リンパ節郭清省略の現状と課題について講演した。最近のトピック、SNB省略とASCOガイドライン ALNDのde-escalationは、リンパ浮腫などの合併症を減らすメリットと、不十分な局所コントロールが予後を悪化させるリスクがあるため、そのバランスが非常に大事である。その対応は、手術先行かNAC実施か、臨床的腋窩リンパ節転移陰性(cN0)か陽性(cN+)か、さらにそれが消失したかどうかによって変わるため、非常に複雑である。 手術先行の場合は、最近、ホルモン受容体(HR)陽性例において、cN0の場合はセンチネルリンパ節生検(SNB)そのものを省略可能であることが示された(SOUND試験、INSEMA試験)。また、SNBを実施する場合、病理学的リンパ節転移陽性(pN+)でも、センチネルリンパ節転移が2個以下の場合はALNDを省略可能であることが示唆されている(ACOSOG Z0011試験)。 SOUND試験およびINSEMA試験に基づいて、ASCOの早期乳がんにおけるSNBに関するガイドラインが2025年4月に改訂され、腫瘍径2cm以下、術前超音波検査でN0、50歳以上、閉経後、グレード1~2、HR陽性、HER2陰性で、乳房温存術後に放射線治療を受ける予定の患者はSNBを省略できるという選択肢ができた。自施設(昭和医科大学)においても、ASCOガイドラインに準じて、腫瘍径2cm以下、50歳以上の閉経女性、グレードの低いHR陽性、放射線治療を伴う部分切除予定の患者に対してSNB省略を開始している。ただし、適応を絞ったうえで、患者とよく相談し実施しているという。ALNDのde-escalationの2つのコンセプト、TASとTAD 次に林氏は、N+症例にNACを実施してALNDを省略するde-escalationの方法としてTailored axillary surgery(TAS)とTargeted axillary dissection(TAD)を解説し、これらによる試験を紹介した。TASはNAC後に最小限の転移リンパ節を摘出して腫瘍量を減らす方法で、TADはNAC後に事前にクリップを留置しておいた転移リンパ節の摘出とSNBを行う方法である。 手術先行の場合、cN+症例に対してALNDとTASの選択肢があり、TASについてはTAXIS試験のほか、JCOGでも現在HR陽性乳がんにおける試験が進行中で、結果が待たれる。 一方、NACによる腫瘍消失はHER2陽性やトリプルネガティブ乳がんで意味があるという。NACでycN0になった場合はTADとSNB単独の選択肢があるが、SNB単独では偽陰性率が高い。TADによる効果を検証したSenTa試験では、3年無浸潤がん生存率がTAD群91.2%、腋窩郭清群82.4%、腋窩再発率がTAD群1.8%、腋窩郭清群1.4%と同様であった。わが国でも、林氏らのN+患者におけるNAC後ALND省略を検討する多施設共同LEISTER試験が進行中である。SNB単独においても、前向き試験のSENATURK OTHER-NAC試験、後ろ向き試験のKROG21-06試験とI-SPY2試験の結果、SNB単独でも予後が良好である結果も出ている。また、前向き試験のSenTa試験でTADをSNBと実施した場合に治療効果が大きいことが報告されている。ALNDのde-escalationにおけるポイントと臨床での課題 林氏は、ALNDのde-escalationで重要なポイントとしてエビデンスとなる試験のデザインを挙げ、前向き試験なのか、無作為化されているか、サンプルサイズ、適応のサブタイプが非常に大事であると述べた。また、ベースラインでのリスクが重要であることから、NAC前のリンパ節のステータスが正確に評価されているか、また、もともとたくさんのリンパ節に転移していた患者を同じように扱っていくのか、という点を挙げた。 最後に林氏は、de-escalationにおける臨床での課題として、長期予後への影響、適切なフォローアップ頻度と方法(どのモダリティで、何ヵ月おきに、いつまでフォローするか)が確立されていないことを挙げ、さらに、保険が適用されないことやTAS/TADの方法の標準化ができていないことを指摘し、「患者さんが何を求めるのか、何をしてあげるべきかをバランスよく考えたうえで、エビデンスをしっかり積み重ねて評価していく必要がある」と述べた。

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コーヒーに認知症予防効果を期待してよいのか

 コーヒーおよびカフェインの摂取が高齢者の認知機能に及ぼす影響について、中国・Inner Mongolia Medical UniversityのJinrui Li氏らは、とくにアルカリホスファターゼ(ALP)の潜在的な役割に焦点を当て、調査を行った。Nutrition Journal誌2025年7月1日号の報告。 2011〜14年の米国国民健康栄養調査(NHANES)データより抽出した60歳以上の2,254人を対象に分析を行った。認知機能の評価には、老人斑の病理診断のCERADテスト、言語の流暢性を評価するAnimal Fluency test、神経心理検査であるDSSTを用いた。コーヒー摂取、カフェイン摂取、ALPレベルと認知機能との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)、タンパク質量的形質遺伝子座解析、タンパク質間相互作用ネットワークなどの手法を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー摂取と認知機能に関する重要な知見が明らかとなった。・コーヒーを480g/日以上飲む人は、飲まない人と比較し、低CERADスコアのオッズが有意に低く、完全調整モデル4による調整オッズ比(OR)は0.58(95%信頼区間[CI]:0.41〜0.82)であった。・同様に、カフェイン入りのコーヒーを477.9g/日飲む人のORは0.56(95%CI:0.34〜0.92)。・ALP摂取量の最低四分位と最高四分位の比較では、ORは1.82(95%CI:1.16〜2.85)であり、認知機能との負の相関が認められた。・MR研究では、コーヒー摂取量の増加は、認知機能障害の進行と関連していることが示唆された。しかし、コーヒー摂取はレビー小体型認知症の発症を予防する可能性が示された(OR:0.2365、95%CI:0.0582〜0.9610)。・コーヒー/カフェインの摂取は、血清ALP(OR:0.86、95%CI:0.79〜0.93)および認知機能(OR:0.95、95%CI:0.92〜0.98)に対する予防的作用が認められた。・IGFLR1遺伝子は、ALPと中程度の共局在を示しており、潜在的な治療的意義が認められた。 著者らは「高齢者におけるコーヒー/カフェインの摂取と認知機能との間には正の相関があり、ALPがこの関連に関与している可能性が示唆された。これらの結果は、高齢者の認知機能維持において食事介入を考慮することの重要性を表しており、具体的なメカニズムを明らかにするためにも、さらなる研究の必要性が示された」と結論付けている。

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リンパ腫Expertsが語る、診断・治療のTips/日本リンパ腫学会

 2025年7月3~5日に第65回日本リンパ腫学会学術集会・総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月5日、三好 寛明氏(久留米大学医学部 病理学講座)、丸山 大氏(がん研究会有明病院 血液腫瘍科)を座長に行われた教育委員会企画セミナーでは、「Expertsに聞く!リンパ腫診断と治療のTips」と題して、低悪性度B細胞リンパ腫(LGBL)の鑑別診断を高田 尚良氏(富山大学学術研究部 医学系病態・病理学講座)、T濾胞ヘルパー細胞(TFH)リンパ腫の診断と変遷について佐藤 啓氏(名古屋大学医学部附属病院 病理部)、悩ましいシチュエーションにおけるFL治療の考え方を宮崎 香奈氏(三重大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)、二重特異性抗体療法の合理的な副作用マネジメントについては蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)から講演が行われた。CD5陽性/CD23陽性だからといってCLL/SLLとは限らない LGBLは、臨床的には緩やかに進行するB細胞由来のリンパ腫であり、病理組織学的には小〜中型のリンパ腫細胞で構成され低増殖能を呈する腫瘍で定義される。このLGBLは、主に慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、脾臓原発悪性リンパ腫/白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)が含まれる。高田氏は、いくつかの症例について病理所見を提示しながらLGBL鑑別のコツを紹介した。まず、免疫組織化学のパネルとしてCD10、BCL6、cyclinD1、LEF1までは初回時の染色で行い、必要に応じてIRTA1、MNDA、SOX11などを追加することを推奨した。CD5陽性の場合には、CLL/SLLやMZL(稀にFL)も念頭に置き鑑別診断を行うと良い。また、CLL/SLLの診断では、CD5陽性およびCD23陽性であれば必ずしも診断できるわけではなく、鑑別診断ではLEF1、IRTA1、MNDAなどが必要になることがあり、場合によってはIGH::BCL2の転座の確認が必要となる。さらに、LGBL, NOSは、LGBL全体の5%程度であるが、治療選択肢を考慮し、できるだけ亜型分類を行うことが重要であると述べた。nTFHL診断時に病理医が着目する所見は Nodal TFHリンパ腫(nTFHL)はWHO分類第5版において、nTFHL, angioimmunoblastic type(nTFHL-AI)、nTFHL, follicular type、nTFHL-NOSへ名称変更が行われた成熟T細胞リンパ腫の1つである。これら3型に共通する特徴として、臨床像が類似しており、60代以降に多く、全身リンパ節腫脹、肝脾腫、B症状、胸腹水がみられ、自己免疫疾患様の症状および検査所見を呈し、一般的に予後不良であるなどが挙げられる。免疫染色においては、PD-1、ICOS、CXCL13、BCL6、CD10などのTFHマーカーのうち2〜3個以上が陽性で、濾胞樹状細胞の増生が特徴となる。TFHマーカーの免疫染色で覚えておきたいポイントとして、PD-1、ICOSは「感度は高いが、特異度が低い」、CXCL13、CD10、BCL6は「特異度は高いが、感度が低い」点を挙げている。また、70〜95%の症例で非腫瘍性B細胞にEBER陽性を示すことも重要なポイントである。近年、次世代シークエンサーを用いた解析でも、3型において類似した遺伝子プロファイルが報告されており、ひとくくりにすることが支持される裏付けともなっている。最後に、とくに鑑別の難しいHodgkin/Reed-Sternberg(HRS)-like cellsの出現を伴うnTFHLと古典的ホジキンリンパ腫(CHL)との鑑別では、PD-L1、STAT6、pSTAT6の免疫染色が有用であることも紹介した。免疫細胞療法でFL治療は新たなステージに向かうのか 宮崎氏は、FL治療における悩ましいシチュエーションとして、初発低腫瘍量、初発高腫瘍量、POD24の具体的な3症例を取り上げ、解説を行った。低腫瘍量の初発FLに対する治療は、造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版において、未治療経過観察またはリツキシマブ単剤が推奨されているが、どちらを選択すべきなのか。経過観察は1つの選択肢であるとしながらも、リツキシマブ導入のメリットが大きいと述べている。その理由として、リツキシマブ単剤療法後、15年間の間に次の治療を行っていない患者が48%であり、次の治療の効果を減弱させない点、低腫瘍量であっても無イベント生存期間(EFS)が良好である点などを挙げられた。また、高腫瘍量の初発FLに対する維持療法の必要性に関しては、抗CD20抗体併用化学療法により奏効が得られた場合には、抗CD20抗体維持療法は、無増悪生存期間(PFS)の延長が期待できるとして推奨した。最後に、形質転換が高頻度でみられる予後不良なPOD24患者に対する治療について、さまざまなエビデンスを用いて解説した。CAR-T細胞療法、二重特異性抗体などの免疫細胞療法や新たな化学療法が治療選択肢として導入されつつあり、今後、至適治療が明らかになっていくことが望まれると述べた。二重特異性抗体登場で臨床医に求められるCRSマネジメント B細胞リンパ腫の治療では、CAR-T細胞療法の登場により、これまで治療困難であった殺細胞性抗がん剤に抵抗性を示す患者に対して持続的な奏効が得られるようになった。その一方で、CAR-T細胞療法は認定施設の少なさから多くの患者が容易にアクセスできる治療法ではないことが課題の1つとなっていた。より多くの患者がアクセス可能な免疫療法として、いくつかの抗CD3×CD20二重特異性抗体の開発が進められており、現在、4つの薬剤が承認あるいはまもなく承認される状況にある。また、二重特異性抗体の一次治療導入を検討したランダム化比較試験も進行中であり、B細胞リンパ腫における二重特異性抗体の位置付けは、今後ますます重要になると予想される。二重特異性抗体の使用に際しては、サイトカイン放出症候群(CRS)や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)のマネジメントが求められる。蒔田氏は「CRSマネジメントは、原則CAR-T細胞療法と同様である。発症のタイミングには個人差があるため、慎重なモニタリングを実施できる体制を構築し、速やかに支持療法を実施できるように整えておく必要がある。また、予防には比較的多量のステロイドが使用されるため、感染症や発熱を伴わないCRSにも注意する必要がある」とまとめた。

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非HIVニューモシスチス肺炎、全身性ステロイドの有用性は?

 非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎は、死亡率が30~50%と高く予後不良である。HIV患者のニューモシスチス肺炎では、全身性ステロイドが有効とされるが、非HIV患者における有用性は明らかになっていない。そこで、フランス・Hopital Saint-LouisのVirginie Lemiale氏らの研究グループは、非HIVニューモシスチス肺炎に対する早期の全身性ステロイド追加の有用性を検討する無作為化比較試験を実施した。その結果、主要評価項目である28日死亡率に有意な改善はみられなかったものの、90日死亡率や侵襲的機械換気の使用率が低下した。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年7月10日号に掲載された。 本試験は、フランスの27施設で実施された。対象は、急性呼吸不全を呈する18歳以上の非HIVニューモシスチス肺炎患者で、すでに抗菌薬による治療が開始されており、その治療期間が7日未満であった226例とした。対象患者を、メチルプレドニゾロンを21日間投与する群(ステロイド群:112例)、プラセボを投与する群(プラセボ群:114例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。ステロイド群は、1~5日目はメチルプレドニゾロン30mgを1日2回、6~10日目は30mgを1日1回、11~21日目は20mgを1日1回投与した。主要評価項目は28日死亡率とし、副次評価項目は90日死亡率、侵襲的機械換気の使用、安全性などとした。解析対象はITT集団(ステロイド群107例、プラセボ群111例)とした。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である28日死亡率は、ステロイド群21.5%、プラセボ群32.4%であったが、両群間に有意差はみられなかった(群間差:10.9%、95%信頼区間[CI]:-0.9~22.5、p=0.069)。・90日死亡率は、ステロイド群28.0%、プラセボ群43.2%であり、ステロイド群が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.37~0.93、p=0.022)。・無作為化時点で非挿管であった患者のうち、28日以内に侵襲的機械換気を要したのは、ステロイド群10.1%、プラセボ群26.1%であり、ステロイド群が有意に低かった(HR:0.36、95%CI:0.14~0.90、p=0.020)。・2次感染(ステロイド群23.4%、プラセボ群34.2%)やインスリン需要増加(30.8%、22.5%)などの有害事象の発現率に、両群間で有意差は認められなかった。 著者らは「非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎に対する全身性ステロイドの追加により、28日死亡率の有意な改善は得られなかったが、有害事象の増加はみられず、90日死亡率や侵襲的機械換気の使用を低下させたことから、有用性が示唆された。全身性ステロイドの追加によってベネフィットが得られる集団や、最適な治療期間を明らかにするために、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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ミトコンドリアDNA変異の児への伝播、ミトコンドリア置換で低減/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)に病原性変異を有する女性から生まれた子供は、mtDNA病と総称される一連の臨床症候群の発症リスクがある(母系遺伝)。前核移植(PNT)によるミトコンドリア提供(mitochondrial donation)は、病変を有する女性から採取した受精卵の核ゲノムを、病変のない女性(ドナー)から提供され、核を除去した受精卵に移植する方法である。英国・Newcastle upon Tyne Hospitals NHS Foundation TrustのLouise A. Hyslop氏らは、PNTはヒト胚の成育能力と両立可能であり、PNTと着床前遺伝学的検査(PGT)の統合プログラムは母親の病原性mtDNA変異の子供への伝播を低減することを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年7月16日号に掲載された。PNTの臨床応用と、統合プログラムの有効性を評価 研究グループは、ヒト受精卵で確立されたPNTの手法の臨床応用と、mtDNA病におけるPNTとPGTの統合プログラムの有効性の評価を行った(イングランド国民保健サービス[NHS]などの助成を受けた)。 病原性mtDNA変異を有し、これらの変異が子供に伝播するリスクを低減したいと希望する女性を対象とした。これらの女性のうち、ヘテロプラスミー(mtDNAのコピーの一部に変異がある)の患者にはPGT、ホモプラスミー(mtDNAのコピーのすべてに変異がある)または変異が高度なヘテロプラスミーを有する患者にはPNTを提案した。 PNTでは、mtDNA変異を有する患者の卵子を卵細胞質内精子注入法(ICSI)で受精させ、この受精卵から採取した前核を、除核したドナー受精卵の細胞質へ移植し、培養後に子宮内に移植した。患者の前核を採取後の受精卵の細胞質は、子供のmtDNA変異の値と比較するために解析に使用した。 PNT群(年齢中央値34歳[範囲:22~40])では、25例で採卵が行われ(ドナーも25例[年齢21~37歳]で採卵)、22例がICSIを受けた。PGT群(34歳[25~40])では、39例で採卵が行われ、39例がICSIを受けた。新生児のmtRNA変異が、除核受精卵に比べ大幅に低下 PNT群の8例(36%)とPGT群の16例(41%)で臨床的妊娠を確認した。PNT群では、生児出生の新生児は8人(男児4人、女児4人、1組の一卵性双生児を含む)で、1人は妊娠継続中である。PGT群では、生児出生の新生児は18人(男児9人、女児9人、1組の二卵性双生児を含む)だった。 PNT群の患者から生まれた新生児8人における、パイロシークエンシング法で定量的に測定した患者由来の病原性mtRNA変異の血中ヘテロプラスミーの値は、5人が検出不能で、1人が5%、1人が12%、1人が16%であった。この検出不能の5人のうち3人で次世代シークエンシング法による評価を行ったところ、血中ヘテロプラスミー値はそれぞれ0.06%、0.09%、0.17%だった。 また、患者の核を採取後の受精卵の細胞質と比較して、8人の新生児における患者由来の病原性mtRNA変異の値は、6人では95~100%低下しており、他の2人では77~88%低かった。臨床的な追跡調査が不可欠 PGT群では、新生児18人のうち10人でヘテロプラスミーのデータが得られ、9人が検出不能、1人は7%であった。 PNT群の変異が高度なヘテロプラスミーを有する患者の除核受精卵の解析と、先行研究の知見(除核受精卵の4.5%がヘテロプラスミー30%未満、67.2%が同60%超[症状発現のリスクが高いレベル])を考慮すると、PNT群の患者はPGTから利益を得られない可能性が高いと考えられた。 著者は、「これらの結果は、PGTとPNTを組み合わせたプログラムは多様な病原性mtDNA変異の伝播を減少させる有効な方法であることを示している」「ホモプラスミー変異を有する女性から生まれた新生児におけるヘテロプラスミー値の低さは、楽観的な見通しの根拠となるが、この有効性に関する多くの疑問点が解明されるまでは、ミトコンドリア提供はリスク低減戦略と位置付けるべきで、この方法の安全性と有効性の監視には、ミトコンドリア提供後に生まれた子供の臨床的な追跡調査が不可欠と考えられる」としている。

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家畜の糞尿は薬剤耐性遺伝子の主要なリザーバー

 基本的な抗菌薬が効かない細菌が増える中、薬剤耐性の問題は世界的に喫緊の公衆衛生上の脅威となっている。こうした中、家畜の糞尿が、人間の健康を脅かす可能性のある薬剤耐性遺伝子の主要なリザーバー(貯蔵庫)となっていることが、新たな研究で明らかになった。米ミシガン州立大学微生物学教授のJames Tiedje氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に6月27日掲載された。 農業での抗菌薬の過剰な使用が薬剤耐性菌の拡大を招く一因となっている可能性に対する懸念が広がりつつある。研究の背景情報によると、毎年9万3,000トン以上の抗菌薬が家畜に使用されている。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌への感染例は毎年280万件以上発生しており、3万5,000人以上が死亡している。しかし、薬剤耐性菌の農場から人間への感染経路については不明点が多い。 Tiedje氏は、「いくつかの薬剤耐性遺伝子は、土壌や水、糞尿の中のDNAに広く存在することが知られているが、それらは本当に危険なDNAなのだろうか。われわれはさらに一歩踏み込んで、これらの遺伝子が可動性を持ち、健康を悪化させる有害な細菌に取り込まれるのかどうかについて調べた」と説明している。 Tiedje氏らはこの研究で、14年間にわたって26カ国で採取されたブタやニワトリ、ウシの糞尿サンプル4,017点を対象にメタゲノム解析を実施し、家畜由来の薬剤耐性遺伝子(ARG)とメタゲノム再構築ゲノム(MAG)の包括的なカタログを作成した。 その結果、家畜の糞便中には、既知の2,291のARGサブタイプに加え、潜在的なサブタイプとして新たに3,166が同定され、家畜の糞便がARGの主要なリザーバーとなっていることが示唆された。また、家畜由来のARGに臨床的に重要なARGも多く含まれており、抗菌薬の使用状況がそれに影響を及ぼしている可能性も示された。 これらの結果を基に研究グループは、家畜におけるARGの世界的な分布パターンと臨床的に重要なARGの分布状況を可視化した世界地図を作成した。さらに、ARGの可動性や治療困難度、病原性細菌における現時点での保持状況に基づき、人間の健康に対するリスクの大きさに応じて遺伝子を順位付けする新たなランク付けシステムも開発した。 論文の上席著者である西北農林科技大学(中国)のXun “Shawn” Qian氏は、「本研究結果は、主要な畜産国における標的を絞った薬剤耐性のモニタリングとリスク管理の必要性を強調するものだ。例えば、世界最大の牛肉生産国である米国では、他国と比べてウシの糞尿中のARGの量と多様性が高いことが分かった。同様に、世界最大の豚肉生産国である中国では、ブタの糞尿中の細菌の量や多様性、そして全体的な耐性リスクが他の全ての国を上回っていた」と説明している。 研究グループはまた、この結果によって家畜への抗菌薬使用の制限の有効性を裏付けるエビデンスがさらに増えたと述べている。抗菌薬は、病気の治療よりも成長を速める目的で家畜に使用されることが多いが、それが薬剤耐性が生じる可能性を高める。 一方で、勇気付けられる結果も得られた。農業での抗菌薬使用削減に向けた早期の取り組みが効果を上げている兆しが確認されたのだ。これは抗菌薬の使用を制限する政策が有効であることを示しているが、Tiedje氏はさらなる対策が必要であると主張している。同氏は、「問題は極めて深刻であり、国連は世界中の政府に対して薬剤耐性の問題に対応するための国家行動計画を策定するよう求めている。今回の研究から得られたデータは、各国が自国にとって何が最も重要か、またどこに注力すれば最大の効果が得られるかを判断する一助となるはずだ」と述べている。

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乳製品や甘いものを食べて寝ると悪夢を見る?

 寝る前にアイスクリームやチーズなどの乳製品を食べて悪夢を見たことがあるだろうか。1,000人以上を対象に、食生活と睡眠習慣を調査した新たな研究により、乳糖不耐症の症状が重い人は悪夢をより頻繁に見る傾向のあることが明らかになった。モントリオール大学(カナダ)精神医学教授のTore Nielsen氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Psychology」に7月1日掲載された。 この研究は、2015年に実施された食事と夢の関係に関する研究の続編であるという。Nielsen氏は、「以前の研究では、被験者は悪夢の原因を常にチーズのせいにしていた。今回の研究では、その点についてより良い答えが得られたと思う」と話している。 今回の研究では、大学の心理学の授業の一環として実施された詳細なオンライン調査に対する1,082人の回答を用いて、「食べ物は夢に影響を与える」と人々が考える理由についての仮説を検証した。具体的に検討されたのは、特定の食品が夢に直接影響を与えるのか、生理学的症状を介して影響するのか、あるいは睡眠の質の変化を介して影響するのかである。調査は、特定の食べ物が夢に与える影響に関する自己認識に絞った質問のほか、食生活や食物不耐症およびアレルギーに関する質問、性格に関する質問票や睡眠の質の指標(ピッツバーグ睡眠質問表)、および悪夢障害指数で構成されていた。 その結果、調査参加者の40.2%が特定の食品が睡眠に影響すると回答した。内訳は、睡眠を悪化させるが24.7%、睡眠を改善するが20.1%であった。また、5.5%は食品が夢に影響すると回答した。食品が夢に影響するという回答は、悪夢の想起頻度や悪夢障害指数スコアの上昇と関連しており、主にデザートなどの甘いもの(31%)や乳製品(22%)がその原因として挙げられていた。このような食品の影響に関する認識は、食物アレルギーとグルテン不耐症とも関連していた。一方で、睡眠の質の悪化に関する認識は乳糖不耐症と関連し、悪夢障害指数スコアは食物アレルギーおよび乳糖不耐症と強く関連し、さらに乳糖不耐症との関連は胃腸症状の重症度により媒介されていることも示された。 本研究には関与していない米コロンビア大学睡眠・概日リズム研究卓越センター所長のMarie-Pierre St-Onge氏は、「さまざまな夢に関連する睡眠障害の多くは消化器症状に起因している可能性がある」と話す。また、同じく本研究には関与していない、米ボストン大学の神経学者であるPatrick McNamara氏は、「乳糖不耐症の引き金となる食品を摂取すると、ミクロ覚醒と呼ばれる睡眠障害を引き起こす可能性がある」とNBCニュースに対して語っている。このような影響により、悪夢がより強烈なものに感じられる可能性はある。 ただし専門家らは、この研究により乳製品が悪夢を直接引き起こすことが証明されたわけではないと述べ、慎重な解釈を求めている。研究グループは、他の集団を対象にさらなる調査研究を行い、洞察を深めたいとの考えを示している。

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クールな人に共通する6つの特徴とは?

 どこの国の人であれ、「クール(イケてる)」と見なされる人には共通の特徴があるようだ。チリや米国などの国際研究グループによる新たな研究で、クールと思われる人には、6つの重要な特徴が共通していることが示された。アドルフォイ・バニェス大学(チリ)マーケティング分野のTodd Pezzuti氏らによるこの研究結果は、「Journal of Experimental Psychology」に6月30日掲載された。 Pezzuti氏は、「中国、韓国、チリ、米国など国を問わず、人々は限界を押し広げ、変化を起こす人を好ましく感じる。誰かを『クール』と形容するとき、それは『クール』という表面的なラベルの意味を超えた、より根本的な価値を表していると言えるだろう」と述べている。 Pezzuti氏らは、2018年から2022年にかけて、オーストラリア、チリ、中国、ドイツ、インド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカ、韓国、スペイン、トルコ、米国からの参加者を含む5,943人を対象に調査を実施した。回答者には、自分の知っている「クールな人」と「かっこ悪い人」、また「善良な人」と「善良でない人」を思い浮かべてもらい、それらの人について、性格と価値観を測定する2つの科学的尺度に基づいて評価してもらった。 その結果、クールと見なされる人は、外向的、快楽主義的、パワフル(力強い)、冒険好き、オープン、自律的の6つの特徴のあることが明らかになった。一方、「善良な人」は、協調的、伝統的、安定志向、温厚、博愛的、誠実、落ち着いている、などの特徴と関連付けられていた。これらの特徴は、年齢、性別、教育歴に関係なく一貫していたことから、「クール」の意味は世界的に共通した価値観や性格特性に基づいて定着していることが示唆された。さらに、有能と見なされる人は、クールな人と善良な人の両方が当てはまる場合が多いことも示された。 Pezzuti氏は、「クールさの特徴はおそらくその人の性格の一部であり、簡単に教えられるものではない。これらの特徴は生得的なものであり、6つの特徴のうちの5つは性格特性だ。性格特性は、比較的安定している傾向がある」と話す。 論文の共著者である米アリゾナ大学マーケティング分野のCaleb Warren氏は、「クールな人はたいていの場合、多少の好感を持たれるが、だからといって必ずしも道徳的に良い人であるとは限らない。クールな人は快楽主義的であったり力を持っていたりなどの、道徳的な意味では必ずしも『良い』とは見なされない特徴も併せ持っていることが多い」と指摘する。 この研究で示された「クール」の特徴に当てはまる実在の人物の例を尋ねられたPezzuti氏は、「私が思い浮かべる人物は、物議を醸す人物ではあるが、イーロン・マスク氏だ」と語った。  本研究結果をレビューした。米コロンビア大学心理学教授のJon Freeman氏は、CNNへの電子メールの中で、「クールさ」には肯定的な意味と否定的な意味の両方がこめられていると語った。同氏は、「現実世界では、クールは肯定的な意味合いを持つことがある一方で、特定の社会的文脈においては否定的な意味合いを持つこともある。好ましいクールさと好ましくないクールさについて検証することは、今後の研究にとって有益な可能性がある。今回の研究のアプローチは、その素晴らしい基礎を提供するものだ」と述べている。 Freeman氏はさらに、「人をクールと形容するのは、複雑な推論を簡潔に表す手段であり、地位、所属、アイデンティティといったシグナルを、瞬時にかつ極めてステレオタイプ化された形で要約する。科学的な観点からは、クールさを研究することは、特にソーシャルメディアやインフルエンサー文化が広まっている現代においては、人が他者の特性を迅速かつ図式的に推論する仕組みが行動や社会のダイナミクスにどのような影響を与えるかを明らかにするため、極めて重要である」と述べている。

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第253回 消化器外科医は 4割減見通し、地域別がん医療再編が急務/厚労省

<先週の動き> 1.消化器外科医は4割減見通し、地域別がん医療再編が急務/厚労省 2.AI+医師1人読影が標準に? 自治体がん検診の体制再設計へ/政府 3.日本人の女性の平均寿命87.13歳で40年連続世界一、男性は6位/厚労省 4.専攻医は過去最多だが、地域偏在は解消せず、シーリング制度見直しへ/厚労省 5.来年度改定に向け、診療報酬“物価連動”の仕組み求める声強まる/全自病ほか 6.マイナ保険証、医療DX推進体制整備加算10月から新基準に/中医協 1.消化器外科医は4割減見通し、地域別がん医療再編が急務/厚労省厚生労働省は、がん診療提供体制のあり方に関する検討会で、2040年に向けたがん医療提供体制の提言を取りまとめ、都道府県に対し「手術・放射線・薬物療法ごと」、「技術の難易度ごと」、「地域特性ごと」に集約化と均てん化の検討を求める方針を示した。2040年には、がん患者数が3%増加して105.5万人に達する一方で、消化器外科医は39%減少すると推計され、手術療法の継続が困難になる恐れがある。とくに手術療法は、患者数が5%減少する中で医師数も大幅に減少し、症例の集約による技術維持が必要とされている。その一方で、放射線療法は需要が24%増と見込まれるが、高額な装置の効率的配置が課題となり、需要が少ない地域では装置維持が難しくなる可能性がある。薬物療法は15%増が見込まれ、拠点病院以外でも提供できるよう均てん化が望まれる。さらに、希少がんや小児がん、粒子線治療、高度薬物療法などは都道府県単位での集約化が求められ、がん検診や内分泌療法、緩和ケアは地域医療機関での提供を推進すべきとされた。また、がんゲノム医療の体制整備も進行中で、エキスパートパネル運用の柔軟化やデータベース(C-CAT)の改善が報告された。都道府県と協議会は、地域の実情を踏まえた具体的な体制構築と、住民への丁寧な説明を行い、医療資源の最適化と質の高いがん医療の維持を図る必要がある。厚労省は、今後、各都道府県に正式通知を行い、地域の検討を促進する予定。 参考 1) 第19回がん診療提供体制のあり方に関する検討会[資料](厚労省) 2) がん診療提供体制のあり方に関する検討会 とりまとめ案(同) 3) がん医療体制、集約化を提言 手術や放射線療法、外科医不足で-検討会まとめ・厚労省(時事通信) 4) 学会の消化器外科医40年に4割減、「集約化を」がん手術で 厚労省検討会が取りまとめ(CB news) 5) がん医療の集約化、「地域ごと」「手術・放射線・薬物の療法ごと」「技術の難易度ごと」に各都道府県で検討せよ-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 2.AI+医師1人読影が標準に?自治体がん検診の体制再設計へ/政府政府は、医師不足や読影精度のばらつきへの対応策として、自治体が実施するがん検診におけるAI活用を正式に検討し、2025年度内にも指針を改定する方針を明らかにした。現行の指針では肺がんや乳がん、胃がん検診に原則2人以上の医師による読影が求められているが、今後はAIと医師1人による組み合わせで対応可能とする案が有力視されている。これにより、とくにX線診断医不足の深刻な地方での対応力向上と検診精度の両立が期待される。さらに政府は、がん検診データ、健診情報、医療レセプトなどを統合した包括的データプラットフォームを構築し、AIを用いたリスク層別化や個別介入を推進する。江戸川区や神戸市など先進自治体では、AIによるがんリスク予測と個別化勧奨によって未受診層の受診率や早期発見数を大幅に改善した実績が報告されている。また、2025年6月には、胃内視鏡AI支援の有効性を評価する大規模疫学研究も開始され、北海道・東北の6医療機関で実施。AIを用いた1次読影による負担軽減と発見率向上の可能性が検証されている。加えて厚生労働省は、企業などで実施される職域がん検診の情報を市町村が把握可能とする仕組み整備も進めており、検診データの統合的管理体制を強化する構え。今後は、エビデンスに基づく新規検診項目の全国展開も、モデル事業を経て段階的に行われる見通しである。国はこうした技術・制度両面の改革により、がん検診の質と効率を飛躍的に高め、住民主体のがん対策を再構築しようとしている。 参考 1) 自治体がん検診にAI 政府、指針改定へ(日経新聞) 2) がん検診(行政情報ポータル) 3) 胃カメラがん検診、AI活用で医師の負担軽減なるか 疫学研究開始へ(朝日新聞) 3.日本人の女性の平均寿命87.13歳で40年連続世界一、男性は6位/厚労省厚生労働省が2025年7月に公表した2024年の簡易生命表によると、日本人の平均寿命は女性が87.13歳、男性が81.09歳となり、前年からほぼ横ばいだった。女性は0.01歳減、男性は変化なしで、女性は40年連続で世界1位を維持。男性は前年の5位から6位に後退した。国別では、男性の平均寿命トップはスウェーデン(82.29歳)、次いでスイス、ノルウェー。女性は日本に次いで韓国(86.4歳)、スペイン(86.34歳)が続いた。死因別にみると、2023~24年にかけて心疾患や新型コロナ感染症による死亡は減少した一方、老衰や肺炎による死亡が増加。これにより、平均寿命は全体として伸び悩んだと考えられる。新型コロナによる死亡者数は男女とも2年連続で減少し、2024年の死亡者数は約3万5,865人と推定された(前年比約2,200人減)。また、2024年に生まれた人が将来、がん・心疾患・脳血管疾患で死亡する確率は女性40.29%、男性45.41%でいずれも前年より低下。老衰による死亡は女性で20.75%、男性で8.39%、肺炎による死亡はそれぞれ4.35%、5.89%だった。コロナ禍による影響で2021~22年は平均寿命が縮小傾向となったが、2023年に回復傾向をみせ、2024年は横ばいで推移。厚労省は、長期的には医療水準や健康意識の向上により、平均寿命の延伸は続くとの見方を示している。 参考 1) 令和6年簡易生命表の概況(厚労省) 2) 日本人平均寿命、24年は横ばい 女性は世界1位を維持(日経新聞) 3) 日本人の平均寿命 女性は87.13歳で40年連続1位 男性81.09歳(NHK) 4) 日本人の平均寿命、前年とほぼ同じ 女性は世界首位の87.13歳(朝日新聞) 4.専攻医は過去最多だが、地域偏在は解消せず、シーリング制度見直しへ/厚労省厚生労働省は、7月24日に第2回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会を開き、2025年度の専攻医採用と2026年度の専攻医募集について議論した。この中で、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人に達したが、日本専門医機構は、地域・診療科偏在の是正という観点では「シーリング制度と特別地域連携プログラムの効果は限定的」と総括した。大都市圏の抑制は一定成果を見せた一方で、増加分は周辺県に集中し、真の医師少数地域への効果は薄かった。特別地域連携プログラムも採用は41人と低迷している。これを受け、2026年度からの専攻医採用枠(シーリング)は見直される。新たな算定式では、各診療科の全国採用実績と都道府県人口を基に基本枠を算出、小児科は15歳未満人口で補正する。さらに、医師少数地域への指導医派遣実績に応じて、基本枠の最大15%まで加算可能となる。この加算は人年ベースで計算され、派遣の量と質が問われる。ただし、実績に基づく加算と制度上限との乖離が大きく、都道府県別に1~3枠の追加調整が議論されている。一方、日本専門医機構は、医師のキャリアには「若年期に専門性を追求し、高齢期には総合的な診療に従事する」という2面性があるとし、この移行に対応するリカレント教育の必要性を提唱。総合診療や一般内科、救急領域などで“Generalist”として機能する医師と、臓器別・疾患別に特化した“Specialist”との役割と必要数を区分し、中長期的な人材構造の再設計を進めている。今後は「集約化すべき領域」と「均てん化すべき領域」の見極め、ならびにライフステージに応じた教育設計が焦点となる。9月には必要医師数ワーキンググループの中間報告も予定されており、専門医制度の将来像が問われる転換点を迎えている。同機構では、若手時代に専門性を深め、後年には総合的診療へ移行する医師のライフサイクルを見据え、リカレント教育やリスキリングを含む教育体制の整備も進行中である。機構は“Generalist(総合診療医など)”と“Specialist(臓器別専門医)”の必要数を区別して算出する研究も開始し、9月のシンポジウムで中間報告する予定。 参考 1) 令和7年度第2回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省) 2) 令和7年度の専攻医採用と令和8年度の専攻医募集について(日本専門医機構) 3) 2025年専攻医は過去最多も、シーリングの効果は「不十分」(日経メディカル) 4) 医師の「若手時代は専門性を追求し、高齢になると総合的な診療を行う」との特性踏まえたリカレント教育など研究-日本専門医機構・渡辺理事長(Gem Med) 5.来年度改定に向け、診療報酬“物価連動”の仕組み求める声強まる/全自病ほか2026年度診療報酬改定に向け、医療現場から「病院をなおし、支える」視点での抜本的見直しを求める声が相次いでいる。7月23日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)では、日本医師会の江澤 和彦委員が、急激な物価・人件費上昇と過小な診療報酬設定により病院経営が破綻寸前にある現状を訴え、「今の制度では入院患者を抱えたまま倒れる病院も出かねない」と警鐘を鳴らした。とくに包括期(地域包括ケア病棟等)を担う入院医療については、必要なコストを踏まえた入院料の適正化を早急に進める必要があるとの意見が強調された。人員確保が困難な中、医療の質を維持するには、成果(アウトカム)評価の導入や人員基準の柔軟化も不可欠とされている。この背景には、全国自治体病院協議会(全自病)の緊急調査による「85%が経常赤字」「95%が医業赤字」という異常事態がある。補助金が減った2024年度決算では、コロナ前を大きく上回る赤字比率となり、診療報酬の6~10%引き上げが必要とする見解も示された。また、全国知事会も医療機関の経営安定化を重視し、「物価・賃上げを適時に反映できる診療報酬制度の確立」や期中改定を含む財政支援の恒常化を政府に要望。公立病院支援を強化すべきとの意見も相次いだ。一方で、「骨太方針2025」では「病床削減」や「OTC類似薬の保険給付見直し」といった効率化策も盛り込まれており、現場では「拙速な施行は混乱を招く」として丁寧な議論と制度設計を求める声が強まっている。医療の持続性確保のため、制度の根幹からの見直しが焦点となっている。 参考 1) 医療経営「なおし支える報酬改定を」診療側(CB news) 2) 24年度赤字の自治体病院が85% 暫定値 全自病会長「記憶にないくらい高い数字」(同) 3) 2024年度の自治体病院決算は85%が経常赤字、95%が医業赤字の異常事態、診療報酬の大幅引き上げが必要-全自病・望月会長(Gem Med) 4) 2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言(全国知事会) 5) 地域医療の医師の確保目指す「知事の会」が提言取りまとめ 『医師不足に関する』ものと『医療機関の経営安定に向けた』ものの2つ(青森テレビ) 6.マイナ保険証、医療DX推進体制整備加算10月から新基準に/中医協厚生労働省は、7月23日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)で、2024年度に新設された「医療DX推進体制整備加算」について、マイナ保険証利用率の実績要件を段階的に引き上げる見直しを提示し、了承された。2025年10月~2026年2月までは、利用率要件を加算区分に応じて現行より15~20ポイント引き上げ、さらに2026年3~5月までは最大70%まで引き上げる。加算1・4は45→60→70%、加算2・5は30→40→50%、加算3・6は15→25→30%と段階的に強化される。一方で、小児患者の多い医療機関については、小児科特例として要件を3ポイント緩和する措置を継続。6歳未満の外来患者が全体の3割以上を占める医療機関では、たとえば加算3・6の要件が22→27%とされる。子供のマイナ保険証利用率が成人より依然として低いための配慮とされる。また、医療DXの柱である「電子カルテ情報共有サービス」への参加要件については、関連法案の未成立と現場の整備状況を踏まえ、2026年5月末まで経過措置の延長が決定された。これにより、参加体制が未整備でも一時的に加算算定が可能とみなされる。委員からは、診療報酬でDXを推進する方針自体は評価されつつも、「利用率は医療機関の努力だけでは改善できない」、「国による周知や環境整備が不可欠」との指摘が相次いだ。とくに、2025年下期には保険証の有効期限切れによる混乱や、スマートフォンによるマイナ保険証の利用開始も控えており、国民・医療現場双方の負担軽減に向けた準備が急務となっている。今後、2026年度の診療報酬改定に向けては、マイナ保険証・電子処方箋・電子カルテ連携の進捗を踏まえた評価方法の再検討が重要課題となる見通しである。 参考 1) 医療DX 推進体制整備加算等の要件の見直しについて(厚労省) 2) DX加算実績要件見直し-マイナ保険証利用率上げ(薬事日報) 3) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を2段階で引き上げ、電子カルテ情報共有サービス要件の経過措置延長-中医協総会(Gem Med)

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