サイト内検索|page:43

検索結果 合計:35095件 表示位置:841 - 860

841.

胆道系疾患へのエコー(3):肝外胆管の描出【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第6回

尿路感染症へのエコー(3):肝外胆管の描出前回、エコーでの胆嚢の観察方法について解説しました。今回は、応用編として「閉塞性黄疸を疑える(肝内胆管の拡張がわかる)」「閉塞起点がわかる(肝外胆管を見分ける)」という目標を設定して、ポケットエコーで肝外胆管を描出する手技を解説していきます。これについては、ポケットエコーで観察するのは難しいことも多いのですが、条件が揃えば観察することができます。肝外胆管を描出するそれでは、早速手技を見ていきましょう。大事なことは、肝内の脈管をしっかりと見ることです。いかがでしょうか。ポケットエコーでも意外と脈管が見られるのがわかったのではないでしょうか。復習として、エコー像を動画でまとめます。基本は短軸像で観察し、観察したい箇所を特定したら、長軸像に切り替えていくことでポケットエコーでも観察できます。肝内胆管を見分けて、閉塞起点までわかると良いですね。

842.

高齢者がん診療のキホン【高齢者がん治療 虎の巻】第2回

(2)高齢者がん診療のキホン、治療開始前に患者を評価―GAの実際と活用―<今回のPoint>高齢者がん患者にはGAMが推奨されているGAは初回薬物療法前に、スタッフ誰でもが実施できる体制作りが理想GAの結果は、治療方針や介入の判断に役立つ前回は、構造化された意思決定プロセスを辿ることで、Shared Decision-Making(SDM)の質が高まり、さらにGeriatric Assessment(GA)の実施や結果の解釈にもつながることをお伝えしました。今回は、がん薬物療法を予定する高齢患者に対するGAの実際について解説したいと思います。GAはニューノーマルになっている薬物療法を予定する高齢がん患者に対するGAおよびその結果に基づく介入(GA-guided management:GAM)は、すでに国内外のガイドラインで強く推奨されています。たとえば、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインでは、「65歳以上のすべてのがん患者に対して、PSなどの従来の腫瘍学的評価だけでは把握しきれない問題点をGAで明らかにし、その結果に応じた介入を行い、意思決定に反映させるべきである」と記載されています(Evidence quality:High / Strength of recommendation:Strong)1)。また日本でも、「高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024」において、薬物療法を予定する高齢悪性腫瘍患者へのCGAの実施は、「エビデンスの強さA、推奨度1、合意率100%」で推奨されています(図1)2)。これは、GAMによって患者のアウトカムが改善されたとするランダム化比較試験が多数報告されていることが背景にあります。(図1)画像を拡大する加えて、令和5年度からはがん診療連携拠点病院の施設要件3)に「意思決定能力を含む機能評価を実施すること」という項目が追加されており、GAを導入する施設は着実に増加しています。2024年秋の調査(日本臨床腫瘍学会老年腫瘍WG)では約40%の施設がGAを実施していると報告されています。GAはいつ・誰が・どう使う?GAツールとしては、Geriatric8(G8)とCGA7が代表的です。とくにG8は栄養状態に関する評価に優れており、ある程度包括的な機能評価も可能なことから、スクリーニング目的で広く用いられている印象があります(表1)。(表1)G8スクリーニングシート画像を拡大するそして、現場でよく聞かれるのが、「GAはいつ、誰が、どのように評価し、どう活用するのか?」という点です。●いつ?GAMの有効性を示した臨床試験の多くは、初回薬物療法の前にGAを実施しています。したがって、外来または入院時にGAを行い、カンファレンスで結果を共有し、治療レジメンを検討する流れが望まれます。私自身は、病理診断確定後に患者さんへ告知したタイミングで、いったん待合へ移動していただき、その場でGAを実施することが多くあります。●誰が?GAは、医師・看護師・薬剤師など多職種で柔軟に実施できる体制を整えることが理想です。2024年のCGAに基づく診療・ケアガイドラインでは、とくに看護師による実施が強く推奨されています(図2)が、特定の職種に限定されるものではなく、関わるすべての医療者が一定のスキルをもって対応できる環境づくりが重要です。その上で、医師はGAの構成項目や評価の意義を理解しておくことが不可欠です。治療方針を決定する際に、GAの結果がどう活用できるかを判断する力は、まさに医師の重要な役割となります。●どう使う?たとえばG8で15点以上であれば「perfect health」と判断し、標準治療も検討可能です。一方、14点未満であれば、どの項目でスコアを失点しているかを確認し、追加の詳細なGAを行うか、必要な介入を検討する流れとなります。以上の話を踏まえ、前回の症例にGAを実施してみましょう。<症例>(第1回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望している。既往に高血圧症、糖尿病と軽度の認知機能低下があり、パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。告知後、看護師が待合でG8を実施したところ、スコアは10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)。改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)は20点で認知症の可能性あり。多職種カンファレンスでは、免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えることとした(次回に続く)。GAの結果がカンファレンスで患者情報の一部として共有されるだけでも、必要な介入が可視化され、治療方針の検討がスムーズになることが実感できたのではないでしょうか。次回は、老年医学の視点から見た高齢者がん診療の考え方について、さらに深掘りしてお伝えします。高齢者がん診療でよく登場するGeriatric-8(G8)とは何か?G8はもともと栄養状態の評価を目的に開発されたMNA(Mini Nutritional Assessment)をベースに、Belleraら4)により2005年に開発された高齢がん患者向けの簡便なスクリーニングツールです。CGAで2項目以上の脆弱性のある項目を有する高齢がん患者を感度82%・特異度63%で識別できると報告されており5)、簡便で臨床現場で扱いやすいことから広く用いられています。一方で、日本人やがん種別でのカットオフ値の適正化や、得られた結果をどのように利用すべきかなど、現場での課題も少なくありません。たとえば、日本人の75歳以上の高齢肺がん患者におけるG8陽性率は80%を超えるとの報告もあります。私自身は、G8スコアが15点以上の患者は“perfect health”と判断し、若年者と同様の治療を検討可能と考えています。一方、14点以下の場合は失点項目を確認し、必要な介入を加えたうえで、高齢者に特化したエビデンスのあるレジメンの選択や、full doseで若年者と同様のレジメンを選択する場合には十分な支持療法を必ず併用するなど、対応を検討するようにしています。1)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.2)老年医学会ほか編. 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024. 2024. 南山堂.3)厚生労働省:がん診療連携拠点病院等の整備について4)Bellera CA, et al. Ann Oncol. 2012;23:2166-2172.5)Bruijnen CP, et al. J Geriatr Oncol. 2021;12:793-798.講師紹介

843.

第28回 脳や胎盤からも…体内に侵入するマイクロプラスチックの脅威

私たちが日常的に使うペットボトル、食品トレイ、合成繊維の衣類。便利さの裏側で、これらのプラスチック製品が劣化して生まれる微小な粒子「マイクロ・ナノプラスチック(MNP)」が、地球環境だけでなく、私たちの体内にまで侵入していることが、科学的に明らかになってきました。医学界で最も権威のある学術誌の一つのNature Medicine誌に掲載された最新のレビュー論文1)は、この見えない脅威に関する世界中の研究をまとめ、その健康への影響について深刻な警鐘を鳴らしています。この記事では、この論文で示された科学の最前線をわかりやすく解説し、不確実な時代の中で私たちが今日から実践できることを探ります。私たちの体はどこまで汚染されているのか?かつて、マイクロプラスチックは主に海の問題だと考えられていました。しかし、研究が進むにつれ、事態はより深刻であることがわかってきました。マイクロプラスチックは空気、水、食物を通じて私たちの体内に侵入し、もはや体の「どこにでも存在する」汚染物質となりつつあります。実際に、これまでに行われた調査では、体内の以下のような場所からマイクロプラスチックが検出されています。血液肺胎盤脳肝臓、腎臓生殖器(精巣など)実験室レベルの研究では、マイクロプラスチックが肺や腸の細胞バリアを通過し、血流に乗って全身に運ばれることが示されています。母親が曝露することで、胎盤を通じて胎児にまで到達する可能性も指摘されており、次世代への影響も懸念されているのです。これらの粒子は、自動車のタイヤの摩耗、合成繊維の衣類の洗濯、そして街に捨てられたプラスチックごみの劣化など、ごくありふれた日常の中から絶えず発生しています。私たちは、呼吸をし、食事をするだけで、知らず知らずのうちにこれらの微小なプラスチックを体内に取り込んでいるのです。健康への影響は?科学が示す「懸念すべき兆候」では、体内に侵入したマイクロプラスチックは、私たちの健康にどのような影響を与えるのでしょうか? 論文では、断定的な結論を出すのはまだ時期尚早としながらも、世界中の研究が示す「懸念すべき兆候」をいくつか挙げています。これまでの研究の中では、マイクロプラスチックの体内濃度が高い人で、特定の健康問題との関連が報告され始めています。たとえば、アテローム性動脈硬化症の患者の血管プラークからマイクロプラスチックが検出され、その存在が心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)のリスク上昇と関連していたという報告があります。そのほかにも、免疫系や生殖能力への影響などが示唆されています。動物や細胞を用いた実験レベルでは、より具体的な有害性が観察されています。酸化ストレスと炎症多くの実験で、マイクロプラスチックが細胞に酸化ストレス(体のサビ)を引き起こし、炎症反応を誘発することが確認されています。これは、さまざまな慢性疾患の引き金となりうる反応です。細胞機能の阻害細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの活動を低下させたり、細胞死を引き起こしたりする可能性が報告されています。バリア機能の破壊腸や肺のバリア機能を損なう可能性が指摘されています。バリアが壊れると、有害物質が血中に侵入しやすくなり、全身の健康に影響が及ぶ恐れがあります。ただし、これらの結果の受け止めには慎重でなければなりません。なぜなら、人を対象とした研究はまだ参加者数が少なく、分析方法が不十分な場合があると指摘されているからです。また、病気の組織で多くのプラスチックが見つかったとしても、それが「原因」なのか、あるいは病気によって組織がもろくなった「結果」なのかを判断するのは難しいという点も考慮する必要があります。不確実な時代だからこそ、私たちができること科学的な最終結論が出るまでには、まだ数年かかるかもしれません。しかし、論文の著者らは、健康への影響が不確実であるからといって、対策を待つべきではないと強調しています。なぜなら、プラスチック汚染が地球環境や野生生物に与える悪影響は、すでに疑いようのない事実だからです。環境と私たちの健康、今すぐ行動を起こすことには二重のメリットがあるのです。推奨される具体的なアクションは、マイクロプラスチックの発生源を生活から少しずつ減らしていくことです。1.衣類の見直しフリースのジャケットやポリエステルのシャツなど、合成繊維の衣類は洗濯のたびに大量のマイクロファイバーを放出します。洗濯の際は、マイクロファイバーの流出を抑える専用の洗濯ネットを使用したり、可能な範囲で綿やウールなどの天然繊維製品を選んだりすることが有効かもしれません。2.使い捨てプラスチックを減らすペットボトル飲料やテイクアウト容器の使用を減らすことは、新たなプラスチックごみを削減する上で最も基本的な一歩です。マイボトルやマイバッグを習慣づけるのもいいでしょう。3.プラスチック容器での加熱を避けるプラスチック容器に入った食品を電子レンジで加熱すると、容器の劣化が進み、食品へのマイクロプラスチックの移行を増やす可能性があります。できるだけ陶器やガラスの器に移し替えてから加熱しましょう。4.室内の掃除をこまめに室内のホコリには、カーペットや衣類、家具などから発生したマイクロプラスチックが豊富に含まれています。定期的な拭き掃除や、HEPAフィルター付きの掃除機での清掃は、粒子を吸い込むリスクを減らすのに役立ちます。これらの対策は、曝露をゼロにするものではありませんが、私たちの体に入るマイクロプラスチックの総量を減らすための、現実的で意味のある行動だと考えられます。実際には、それらがどこまで私たちの体に影響をもたらすのかについてはまだよくわかっていませんが、がんや認知症といった病気から身を守ることにつながるのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Lamoree MH, et al. Health impacts of microplastic and nanoplastic exposure. Nat Med. 2025 Sep 11. [Epub ahead of print]

844.

抗不安薬の有効性と受容性の比較〜ネットワークメタ解析

 抗不安薬の副作用と依存リスクを考えると、治療方針の決定においては、その有効性と受容性を詳細に検討する必要がある。スイス・ベルン大学のThomas J. Muller氏らは、不安症治療における抗不安薬の有効性と受容性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析(NMA)を実施した。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年8月11日号の報告。 3つのデータベースを用いて抽出した1980〜2020年の研究を対象に、システマティックレビューおよびNMAを実施した。対象患者は、全般性不安症(GAD)または関連する不安症と診断された成人、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)データが利用可能な成人とし、比較対照群(プラセボ/実薬群)も含めた。主要アウトカムは、有効性(HAM-A合計スコアのベースラインからの変化量の平均差)と受容性(すべての原因による研究中止)とした。 主な結果は以下のとおり。・100件の研究(2万8,637例)を解析した結果、ほとんどの有効薬剤がプラセボよりも不安軽減に有効であることが示唆された。・silexanは、NMAに含まれた唯一の植物性医薬品であった。・有効性が最も高かった薬剤はクロミプラミン、最も低かった薬剤はボルチオキセチンであった。・受容性に関しては、クロミプラミンは研究中止率が最も高く、クロバザムの中止率が最も低かったことから、有効性と受容性は必ずしも一致しないことが示唆された。・特筆すべきは、silexanは非常に有効でありながら、プラセボと同等の受容性を示したことである。・プラセボよりも有害事象が少なかった薬剤は、ジアゼパム、agomelatine、クロバザム、silexanの4剤のみであった。 著者らは「本NMAにより、抗不安薬の有効性と受容性に関する比較が明らかとなった。この結果は、最も包括的な報告であり、不安症成人患者の第1選択治療を導くために利用可能であろう」とまとめている。

845.

インフルワクチンの効果、若年には有意だが80歳以上で認められず/日本臨床内科医会

 日本臨床内科医会が毎年実施しているインフルエンザに関する前向き多施設コホート研究の統合解析が行われ、インフルエンザワクチンは40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方で、高齢者や基礎疾患を持つ人々では有効性が低下することが明らかになった。日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班の河合 直樹氏らによる本研究はJournal of Infection and Public Health誌2025年11月号に掲載された。 研究班は、2002~03年から2018~19年までの17シーズンにわたり、全国543施設から14万8,108例の外来患者を登録した。シーズン前に接種状況を登録、シーズン中にはインフルエンザ様症状で受診した患者の迅速抗原検査結果を登録、シーズン終了後に接種群と非接種群(対照群)における罹患率から毎年の発症予防効果(有効率)を算出した。2002~14年は3価、2015~19年は4価の不活化ワクチンが使用された。ロジスティック回帰分析による調整後、17年間におけるワクチンの発症予防効果を推定した。本解析にはCOVID-19パンデミック前のデータが使われており、超高齢化とCOVID-19後のインフルエンザ再興を背景に、年齢層、基礎疾患、ウイルスタイプ、シーズンごとのワクチン有効性評価を目的としていた。 主な結果は以下のとおり。・14万8,108例の参加者の年齢中央値は58歳、女性が58.7%だった。解析の結果、発症予防におけるワクチン有効率(調整後のシーズン別プール解析)は0~15歳で56%、16~65歳で51%と有意な有効性が示されたが、50歳以上では有効性が徐々に低下し、とくに80歳以上では有意な発症予防効果は確認されなかった。・基礎疾患を有する未接種者の罹患率は、15歳以下では基礎疾患のない患者よりも有意に高かった(p<0.001)。未接種の気管支喘息患者のインフルエンザ罹患率は、疾患なし患者より高く(10.9%対4.0%)、とくに15歳以下の小児(24.2%対12.9%)で顕著であった。気管支喘息小児における調整後ワクチン有効率は60%と疾患なし小児(47%)よりも高かった。・インフルエンザAに対する調整後のワクチンの有効性は40代まで有意であり、インフルエンザBに対しては20代まで有意であった。また、インフルエンザAの未調整のワクチン有効性は40%から15%まで低下(2002~09年と2010~19年の比較)しており、これは近年のA香港型における抗原変異や卵馴化による可能性が示唆された。 研究者らは「本研究は、季節性インフルエンザワクチンが40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方、年齢とともに有効性が低下し、80歳、とくに90歳以上では有意な発症予防効果は確認されないことを示した。これらの知見は、ワクチン応答が低下する可能性のある高齢者に対する高用量やアジュバント添加ワクチンの開発や、標的を絞った戦略の必要性を明らかにしている。とはいえ、そのメカニズムは完全には解明されておらず、今回はクリニックを受診した軽症患者を対象とした解析であることからも、ワクチン接種は依然として入院や重症化リスクを低下させる可能性がある。また、基礎疾患の有無によるワクチン有効性の差は、リスク集団に対する特別な予防戦略の必要性を示している。COVID-19パンデミック後のインフルエンザ再興を見据え、年齢層や基礎疾患に応じたワクチン接種戦略の最適化が求められる」としている。

846.

医療費適正効果額は1千億円以上、あらためて確認したいバイオシミラーの有効性・安全性

 日本国内で承認されているバイオシミラーは19成分となり、医療費適正化の観点から活用が期待されるが、患者調査における認知度は依然として低く、医療者においても品質に対する理解が十分に定着していない。2025年8月29日、日本バイオシミラー協議会主催のメディアセミナーが開催され、原 文堅氏(愛知県がんセンター乳腺科部)、桜井 なおみ氏(一般社団法人CSRプロジェクト)が、専門医・患者それぞれの立場からみたバイオシミラーの役割について講演した。医師がバイオシミラー使用をためらう理由で最も多いのは「同等性/同質性への懸念」 化学合成医薬品の後発品であるジェネリック医薬品で有効成分の「同一性」の証明が求められるのに対し、分子構造が複雑なバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーでは同一性を示すことが困難なために、「同等性/同質性」を示すことが求められる。 原氏は「同一性」が証明されたジェネリック医薬品が比較的受け入れられやすいのに対し、バイオシミラーでは「同等性/同質性」という言葉がわかりにくく、意味が浸透していないことが普及の障害になっていると指摘。実際に日本乳学会が会員医師を対象に実施したバイオシミラーに関する意識調査において、使用をためらう理由として最も多かったのは「先発品との製剤の同等性/同質性に懸念があるため(53.7%)」で、「臨床試験で評価していない有効性に対する懸念があるため(46.3%)」との回答が続いた。 「同等性/同質性」とは、「先行バイオ医薬品に対して、バイオシミラーの品質特性がまったく同一であるということを意味するのではなく、品質特性において類似性が高く、かつ、品質特性に何らかの差異があったとしても、最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できること」と定義されている1)。先行バイオ医薬品にも品質の「ばらつき」はある バイオ医薬品は、化学合成医薬品より複雑で巨大な分子を持ち、動物細胞を用いて生産されるために、同じ医薬品でも製品ごとにばらつきが生じる可能性がある。そのため先行バイオ医薬品においても、そのばらつきが有効性や安全性に影響を与えない範囲内に収まるように、ICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)のガイドライン(ICH-Q5E)により厳格に管理されている。同じガイドラインがバイオシミラーの同等性/同質性評価にも適用されており、「先発品も後発品も品質特性について一定のばらつき・ブレ幅の中で管理されている」と原氏は解説した。 がん治療においてバイオ医薬品である抗体医薬品はもはや欠かせない存在であり、今後も承認の増加が見込まれ、医療費増加の一因となることは間違いない。バイオシミラーの薬価は先行バイオ医薬品の70%とされており、バイオシミラー全体の2024年度の医療費適正効果額は1,103億円に上る。原氏は、「日本の医療保険制度を持続可能なものとするために、バイオシミラーの普及・啓発はますます重要」として講演を締めくくった。高額療養費制度の見直し議論とバイオシミラー 続いて登壇した桜井氏は、持続可能な社会保障制度におけるバイオシミラーの位置付けについて講演した。大きな議論となった高額療養費制度見直し案は「負担能力に応じた負担」を患者側に求めるものであり、一部の層(70歳未満で年収約1,650万円以上および年収約650~770万円)では現行と比較して70%以上も負担限度額が大きくなるものであった。さらに、これらの案を適用した場合、WHOが定義する破滅的医療支出(catastrophic health expenditure:自己負担額が医療費支払い能力の40%以上の状態)に全体で17.0%、年収550万円未満の世帯では36.4%が該当するという推計データを紹介した。 全国がん患者団体連合会として「高額療養費制度における負担上限額引き上げの検討に関する要望書」2)を提出した背景に、ここに手を入れる前に他にやるべきことはないのかを提起する意図があったと説明。社会保障制度を持続可能なものとしていくためには、OTC類似薬やバイオシミラーの活用も含め、さまざまな視点から国民的な議論が必要とした。 バイオシミラーに関しては、今後何も対策を講じない場合には「バイオシミラーのラグ・ロス」が起こる可能性に懸念を示し、「学会がガイドラインなどでバイオシミラーをもっと明確に位置付けていくこと」「バイオシミラーを製造する企業に対するインセンティブの仕組みなどについて議論していくこと」が必要ではないかと提起した。 なお、日本バイオシミラー協議会のホームページでは、「バイオシミラーの市販後の臨床研究に関する論文情報」や、患者説明用の動画などが公開されている。

847.

「また、にしない。まだ、にしない。」認知症早期対応のための合言葉を発表/リリー

 近年、認知症基本法の施行や、アルツハイマー病(AD)疾患修飾薬の登場などを背景として認知症診療は大きな転換期を迎え、かつての「症状が進行した後のケア」から、「MCI(軽度認知障害)を含む早期段階からの介入」へと、臨床現場の役割は大きく変化しつつある。こうした中、認知症月間である9月10日に、日本イーライリリーの主催で「『認知症に早めに対応するための合言葉』および『MCI/認知症当事者等への意識調査』に関するメディア発表会」が開催された。 本セミナーでは、古和 久朋氏(神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 教授)が、「MCIまたは認知症当事者・家族および一般生活者を対象に実施した意識調査」で明らかになった実態を踏まえ、認知症に早期に対応する重要性について解説し、続いて、井原 涼子氏(東京都健康長寿医療センター 健康長寿イノベーションセンター 臨床開発ユニット長)が、臨床現場での経験を踏まえ、このたび発表された合言葉「また、にしない。まだ、にしない。」の考案経緯について語った。早期受診の重要性、当事者と一般生活者の認識のギャップ 古和氏が監修した今回の意識調査は、MCIまたはアルツハイマー型認知症と診断された55~79歳の当事者とその家族190人、および20~79歳の一般生活者1,053人を対象に、2025年6月に実施された。 本調査の主な結果を古和氏は以下のように挙げた。・MCI/軽度認知症の当事者・家族の92%が「自分のことは自分でできる」または「誰かが支援すれば自立できる」と回答し、診断後も自立した生活をおおむね維持できていることが示された。また、45%が趣味や仕事を含めて生活を維持できていると回答した。・認知症を疑ったタイミングについて、認知症中等度以上の当事者・家族の34%(最多値)が「仕事や家事のミスが増え、同僚・家族には認知機能低下がわかる」段階であったのに対し、MCI/軽度認知症の当事者・家族の34%(最多値)が、「たまにものを置き忘れる、有名人の名前が出てこない」というより早期の段階で積極的に疑っていた。・「もの忘れ」の違和感で受診するタイミングについて、「すぐに」または「しばらく続いたら」受診すると回答したのは、MCI/軽度認知症の当事者・家族では77%だったのに対して、一般生活者では48%と低かった。もの忘れ以外の健康全般の違和感で受診するタイミングは、MCI/軽度認知症の当事者・家族では75%、一般生活者でも67%と高い水準であり、一般生活者の認知症・もの忘れに関する危機感の低さが顕著に表れた。・MCI/軽度認知症の当事者・家族の76%が、早い段階で受診できてよかったと回答した。 古和氏は本結果について、MCI/認知症の早期の気付き・対応は、当事者が「自分らしい暮らし」を維持する可能性を高める重要な要素であり、ちょっとしたもの忘れを自覚したり周囲の人が気付いたら、年のせい・気のせいにしたりせず、早めに受診することが「当たり前」となる社会を作っていくことが、認知症共生社会を目指すうえでも重要だとまとめた。40%以上が「初診の遅れ」で治療の好機を逃す 続いて登壇した井原氏は、同意識調査の結果において、臨床現場の厳しい現実を示すデータとして、MCIまたはアルツハイマー型認知症当事者・家族が、症状の異変に気付いてから初診までに1年以上を要した人が41%に上ることを提示した。井原氏は「認知症の新薬は早期のほうが効果が高いこともあり、より良い医療を提供したい思いからも早期受診をしてほしい」と述べた。認知症早期発見・対応のための新たな「合言葉」 MCI/認知症に関する異変を感じたとき、受診が面倒、あるいは、認知症と診断されてしまうのが怖いという思いから、多くの人が相談をためらい、そのまま放置してしまう現状に対して、そのような認知症のイメージを変え、誰もが早めの一歩を踏み出せるように、新たな合言葉が考案された。【認知症に早めに対応するための合言葉】『また、にしない。まだ、にしない。』“また”疲れのせい、にしない。“また”年のせい、にしない。“まだ”早い、と思わない。“まだ”大丈夫、と思わない。ご自身も、ご家族も、このように“また”、“まだ”、と気のせいにしないでください。 井原氏は、合言葉の考案プロセスについて、当事者・家族、専門医、賛同企業が協力し、多様な観点を取り入れた「インクルーシブデザイン」の手法を採用し、一般の人にもより浸透しやすい言葉になるように配慮されていることを説明した。 当事者や家族が異変を感じても、「また疲れのせい」「また年のせい」として自身を納得させて受診を先延ばしすることが問題の中心にあり、それに直接働きかけることを意図して、この合言葉が考案されている。井原氏は、誰にでもMCI/認知症の当事者になる可能性があり、それを皆が意識することで「早期の気付き・早期対応が当たり前の社会」の実現につなげていきたいと語った。また、プライマリケア医は患者が訴える些細な変化を「年のせい」と見過ごすことなく、必要に応じて検査や専門医への紹介につなげる初期対応の重要性を訴えた。絶望ではなく、希望と準備へつなげる 講演後のトークセッションでは、古和氏、井原氏に加え、花俣 ふみ代氏(認知症の人と家族の会 副代表理事/介護福祉士)、平井 正明氏(同会理事/当事者)、俳優の高畑 淳子氏が登壇した。 高畑氏は、昨年亡くなった自身の母親の認知症のサインとして「お皿がヌメヌメしていた」「几帳面な母なのに部屋が埃っぽく汚れていた」という、見過ごされがちなADL低下の具体例を挙げた。当時は母が「心臓が苦しい」と訴えていたためその受診を優先したが、今振り返るとアルツハイマー病の受診は後回しにしてしまっていたと語った。さらに、「ほかの病気は人間ドックで早期発見することが『良いこと』と認識されているのに、認知症にはその感覚が浸透していない」と指摘した。 56歳でMCIと診断された平井氏は、当事者同士で交流を持ち活動する中で、「もっと早く気付いていれば、と後悔する人がほとんど」であり、早く向き合うことで、仕事や生活を維持する環境を整えられるなど、後の人生にとって大きなプラスとなると、早期診断の重要性を語った。 支援者の花俣氏は、受診が遅れる根本的な原因として、社会に根強く残る「認知症に対する偏見や誤解」を挙げた。「認知症になったら終わり」というイメージが、本人や家族が現実から目をそむけ、受診を先送りさせてしまう。診断後の孤立を防ぎ、支援の輪につながることこそが、早期診断の最大のメリットであると強調した。【調査概要】調査主体:日本イーライリリー株式会社実査:株式会社メディリード調査手法:インターネット調査調査地域:日本全国実施期間:2025年6月13日~6月24日調査対象:【MCIまたは認知症の当事者・家族】55~79歳のMCIまたは認知症(アルツハイマー型/アルツハイマー病による認知症)と診断されている当事者もしくは家族【一般生活者】20~79歳有効回答数:MCIまたは認知症当事者・家族190人(うち、MCIまたは軽度認知症は94人)、一般生活者1,053人監修:神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 教授 同認知症予防推進センター長 古和 久朋氏

848.

前立腺がん診断、bpMRIは標準検査になりうる/JAMA

 前立腺がんが疑われる男性において、短縮化されたバイパラメトリックMRI(bpMRI)検査は、提供された画像の質が十分であれば標的生検の有無にかかわらず、前立腺がん診断の新たな標準検査となりうることを、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAlexander B.C.D. Ng氏らPRIME Study Group Collaboratorsが示した。生検の有無を問わない臨床的に重要な前立腺がんの診断では、マルチパラメトリックMRI(mpMRI)が検査の標準となっているが、リソースのキャパシティが広範な導入を妨げている。ガドリニウム造影剤を使用しないbpMRIは、より短時間かつ安価な代替法で、世界中の医療システムにとって時間短縮によりキャパシティが改善される。著者は、「世界では年間400万件の前立腺MRI検査が行われていることから、bpMRIは、世界中の検査処理能力を大幅に増強しかつコスト削減を可能とするだろう」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年9月10日号掲載の報告。bpMRIのmpMRIに対する非劣性を検証 研究グループは、臨床的に重要な前立腺がんの診断において、bpMRIのmpMRIに対する非劣性を前向き多施設共同within-patient試験にて検証した。 試験は、2022年4月~2023年9月に12ヵ国22施設で、臨床的に前立腺がんが疑われる(PSA上昇および/または直腸診で異常所見)、生検未経験の男性を対象に行われた。最終フォローアップは2024年12月3日。 被験者は、T2強調画像、拡散強調画像、およびダイナミック造影(DCE)シークエンスを含むmpMRIを受けた。放射線科医は、最初に短縮化されたbpMRI(T2強調画像、拡散強調画像)に基づく診断結果を報告し、DCEシークエンスは盲検化。盲検解除後に放射線科医はDCEシークエンスを含む完全なmpMRIに基づく診断結果を報告した。 患者は、bpMRIまたはmpMRIのいずれかにおいて、臨床的に重要な前立腺がんが疑われた場合、系統的な生検の有無を問わず標的生検を受けた。 主要アウトカムは、臨床的に重要な前立腺がん(Gleason Grade Group≧2と定義)であった男性の割合。副次アウトカムは、臨床的に重要でないがんを有する男性の割合などとした。非劣性マージンは5%と定義した。臨床的に重要な前立腺がんの検出、bpMRIで29.2%、mpMRIで29.6% 登録された男性555例のうち、490例が主要アウトカムの解析に含まれた。年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:59~70)、PSA中央値は5.6ng/mL(4.4~8.0)。直腸診で異常所見が認められた被験者の割合は12.7%であった。 bpMRIはmpMRIに対して非劣性であることが示された。臨床的に重要な前立腺がんが検出されたのは、bpMRIでは143/490例(29.2%)、mpMRIでは145/490例(29.6%)であった(群間差:-0.4%ポイント[95%信頼区間[CI]:-1.2~0.4]、p=0.50)。 臨床的に重要でないがんが検出されたのは、bpMRIでは45/490例(9.2%)、mpMRIでは47/490例(9.6%)であった(群間差:-0.4%ポイント[95%CI:-1.2~0.4])。 中央画像判定により、画像検査(スキャン)の99%が質的に十分であることが示された。

849.

LVEF保持/軽度低下例へのβ遮断薬、死亡・MACEの複合を抑制/NEJM

 ノルウェー・Drammen HospitalのJohn Munkhaugen氏らBETAMI-DANBLOCK Investigatorsは、左室駆出率(LVEF)が保持または軽度低下していた心筋梗塞後の患者において、β遮断薬の投与は非投与の場合と比較して、死亡または主要心血管イベント(MACE)のリスク低下に結びついたことを報告した。心筋梗塞後のβ遮断薬療法を支持するエビデンスは、現代の再灌流療法や2次予防戦略が導入される以前に確立されたものであり、研究グループは、「加えて、β遮断薬療法は狭心症症状の緩和、および心室性不整脈ならびに心不全の発症率の低下と関連している」として、類似するプロトコールが用いられていた心筋梗塞後のβ遮断薬療法に関する2つの試験(ノルウェー[BETAMI試験]とデンマーク[DANBLOCK試験])を統合評価した。NEJM誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。β遮断薬療法適応あり患者を除外、長期β遮断薬療法vs.非β遮断薬療法を評価 2つの試験はいずれも非盲検無作為化エンドポイント評価者盲検にて行われ、被験者は、type 1心筋梗塞でLVEF≧40%、7日以内にインフォームド・コンセント(IC)を受けた患者(BETAMI試験)またはtype 1または2心筋梗塞でLVEF 40%超、14日以内にICを受けた患者(DANBLOCK試験)であった。両試験における主な除外基準は、心不全またはその他のβ遮断薬療法適応の診断を受けていたこと、ならびにβ遮断薬療法が禁忌であったこと。心筋梗塞前のβ遮断薬の投与は問われていなかった。 適格被験者は、1対1の割合で、イベント14日以内に長期β遮断薬療法群または非β遮断薬療法群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、全死因死亡またはMACE(再梗塞、予定外の冠動脈血行再建術、虚血性脳卒中、心不全、または悪性心室性不整脈)発生の複合であった。追跡期間中央値3.5年後、主要エンドポイント発生は14.2%vs.16.3%で有意差 計5,574例が無作為化を受け主要解析に含まれた(β遮断薬療法群2,783例、非β遮断薬療法群2,791例)。 追跡期間中央値3.5年(四分位範囲:2.2~4.6)後、主要エンドポイントのイベント発生は、β遮断薬療法群394例(14.2%)、非β遮断薬療法群454例(16.3%)であった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.75~0.98、p=0.03)。 エンドポイントを個別にみると、全死因死亡はそれぞれ4.2%と4.4%であり、再梗塞は5.0%と6.7%であった(HR:0.73、95%CI:0.59~0.92)。また、予定外の冠動脈血行再建術は3.9%と3.9%、虚血性脳卒中は1.6%と1.3%、心不全は1.5%と1.9%、悪性心室性不整脈は0.5%と0.6%であった。 安全性アウトカムに関する明らかな差は、両群間でみられなかった。 著者は、「本試験は、副次エンドポイントを統計学的に評価するようデザインされていなかったが、β遮断薬群に割り付けられた患者において再梗塞の発生率が低かったようであった」と考察している。

850.

タルラタマブ、サイトカイン放出症候群の警告追記/厚労省

 タルラタマブについて、サイトカイン放出症候群が生じて死亡に至った症例が3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例は1例)報告されていることを受け、厚生労働省は2025年9月17日に添付文書の改訂指示を発出し、「警告」の項に追記がなされた1)。 改訂後の警告の記載は以下のとおり(下線部が変更箇所)。1. 警告1.1 本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。1.2 重度のサイトカイン放出症候群及び神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)があらわれることがあり、サイトカイン放出症候群では死亡に至った例も報告されているので、本剤の投与にあたっては、以下の事項に注意すること。1.2.1 特に治療初期は入院管理等の適切な体制下で本剤の投与を行うこと。1.2.2 重度のサイトカイン放出症候群があらわれることがあるので、サイトカイン放出症候群に対する前投与薬の投与等の予防的措置を行うとともに、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、製造販売業者が提供するサイトカイン放出症候群管理ガイダンス等に従い、適切な処置を行うこと。1.2.3 重度の神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、製造販売業者が提供する免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群管理ガイダンス等に従い、適切な処置を行うこと。 なお、サイトカイン放出症候群として報告された国内副作用症例が2025年8月15日時点で268例集積し(推定使用患者数848例)、うちGrade3が8例、Grade4が1例、転帰死亡が3例報告されていることを受け、アムジェンは「適正使用のお願い『サイトカイン放出症候群』について(第2版)」を発出した2)。投与中のモニタリング、サイトカイン放出症候群に対する対処に関して、サイトカイン放出症候群管理ガイダンスに従ってサイトカイン放出症候群の症状(体温、血圧、パルスオキシメトリー等)を定期的に確認すること、症状発現後は副腎皮質ホルモン(デキサメタゾン)、トシリズマブ(遺伝子組換え)の投与を検討すべきことが注意喚起されている。

851.

GLP-1受容体作動薬は気候変動対策にも有益

 肥満症治療薬として使用されているオゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬は、単に体重を減らすだけでなく、地球環境の保護にも役立っている可能性のあることが、新たな研究で示された。これらの薬が心不全患者の減量目的で使用されると、温室効果ガス排出量の削減につながるという。米Lahey病院・医療センターのSarju Ganatra氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 Ganatra氏らは、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者(GLP-1受容体作動薬を投与された患者1,914人、プラセボを投与された患者1,829人)を対象とした4件の臨床試験のデータを統合して解析した。HFpEFとは、心臓の収縮機能は保たれているものの、心筋が硬いために十分に拡張できず、血液を十分に取り込めない状態を指す。米国心臓病学会(ACC)によれば、心不全患者のほぼ半数がこのタイプに分類される。 心不全悪化イベントの発生数は、GLP-1受容体作動薬を投与された患者では54件であったのに対し、プラセボを投与された患者では86件だった。心不全悪化イベントには入院と病院の往復を伴うと仮定して二酸化炭素(CO2)排出量を推算すると、GLP-1受容体作動薬を使用したHFpEF患者の年間CO2排出量は1人当たり9.45kgと推定され、プラセボ群の9.7kgと比べて少ないことが示された。 Ganatra氏は、「この数値をGLP-1受容体作動薬による治療の対象となる何百万人もの患者に当てはめると、20億kg以上のCO2換算量の削減につながる」と言う。同氏らによると、20億kgのCO2は、満席のボーイング747型機の長距離フライト2万便にほぼ相当し、また、この量のCO2を吸収するには、植えられてから10年が経過した約3,000万本の木が必要になるという。 Ganatra氏はさらに、ESCのニュースリリースの中で、医療廃棄物の発生量や水の使用量についても、同様の規模の削減が見られた」と述べている。その上で同氏は、「今回の研究は、個々の小さな改善の積み重ねが、集団全体として大きなインパクトをもたらすことを明確に示している」と説明している。 さらに、GLP-1受容体作動薬を使用した患者では食物の摂取量が減り、そのことが気候にも良い影響を与えると推定された。Ganatra氏らの推計によると、プラセボ群と比べてGLP-1受容体作動薬群では1日当たりの摂取カロリーが減少したことで年間およそ695kg分のCO2排出量の削減につながったという。 今回の研究結果についてGanatra氏は、「薬物治療から患者の健康状態の改善と地球環境の健全化という2つのメリットを得られる可能性を示した結果だといえる」と述べ、「将来的には政策立案者が医療技術の評価や医薬品の保険適用の決定、医薬品調達の枠組みなどにサステナビリティの指標を組み込むことを期待している」と付け加えた。 Ganatra氏らは次の段階として、実際の排出データと臨床アウトカムを用いてモデルを検証する予定だ。同氏は、「将来的には、臨床試験のデザインや医薬品の規制プロセス、処方の決定に環境への影響が組み込まれ、医療システムがプラネタリーヘルス(地球環境と人類の健康の両立)に関する目標と連携できるようになることを期待している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

852.

アルドステロンの心血管系に対する直接作用は?(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎臓におけるNa再吸収亢進作用などにより体液量増大、Na貯留、昇圧作用などを介して心臓を含む臓器障害を発症・増悪させる。重症腎機能障害を有さない症例において、スピロノラクトンを中心とした鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は心不全や心血管死を有意に減少させることが、いくつかの臨床試験で明らかになっている。 一方、透析療法を受けている症例での心保護作用は明らかではなく、安全性も確立されていない。本年8月号のLancet誌では同一研究グループの2つの論文が掲載された。1つは3,689例を対象とし、スピロノラクトン25mg使用群と対照群に2分したRCTのACHIEVE試験(Walsh M, et al. Lancet. 2025;406:695-704.)で、もう1つはこの試験を含む4,349例を対象としたメタ解析(Pyne L, et al. Lancet. 2025;406:811-820.)である。この2論文の解説はCareNet.com(ジャーナル四天王2025年8月28日配信、9月3日配信)に詳述されており、ぜひ一読願いたいが結果はいずれも有意な効果を示さなかった。また、安全性に関しては実薬群で高K血症と女性化乳房が有意に多かった。 腎作用を期待できない症例ではMRAの心保護効果は証明できなかったわけであるが、この研究グループは2016年に先行メタ解析研究(Quach K, et al. Am J Kidney Dis. 2016;68:591-598.)の結果を報告している。その結果は、実薬群の高K血症は有意に多かったが、心血管死や全死亡が対照群の34~40%に有意に抑えられていた。しかし採用された9試験の合計症例は829例にとどまっており、またバイアス・リスクが低いものは5〜6試験で、かつ半数以上の試験が1年以内の短期試験であり、著者らも小規模試験で質が高くないものであることから、より十分な試験期間と規模の大きい質の高い試験で再度検討する必要があるとの考察であった。 今回のACHIEVE試験は大規模で質の高い試験であり、メタ解析もACHIEVE試験に644症例で検討したALCHEMIST試験が加わっており、症例数や質の部分でも高い試験の解析であったが、MRAの有意性は示されなかった。MRは腎臓のみならず、心筋や血管にもあり、また心筋局所からアルドステロン生成・分泌が明らかとなっており、心肥大や線維化などの作用が報告されている。腎作用が期待できない透析例では心作用の意義は大きくないとの解釈もできるが、これらの成績はステロイド骨格を有するMRAでの検討である。これらのMRAは他のステロイド受容体への作用が無視できない。事実、女性化乳房の発症が有意に多かった。 また、ACHIEVE試験での1次エンドポイントは女性ではHR:1.23(0.91~1.67)、男性では0.81(0.66~0.99)で性差があり、かつ、男性では19%有意なイベント抑制効果の可能性も示された。今後は非ステロイド骨格MRAでの検討や、性別での検討も必要になろう。また、透析例の心機能の評価も、より厳密な評価条件が必要であろう。UCGでの評価は体液量の変化でEFは大きく異なる。2群間比較試験では、群分けの段階で一定の条件下での評価が必要である。

853.

米国ドラマ「24」【その1】なんでショックで記憶喪失になるの? なんで恐怖で腰が抜けるの?-「解離=ローカルスリープ」説

今回のキーワード全生活史健忘迷走神経反射ポリヴェーガル理論離人感・現実感消失症ローカルスリープ解離性神経学的症状症[目次]1.記憶喪失の特徴とは?2.なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論3.なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説ショックで自分が誰で今までどう生きてきたかの記憶すべてを急に思い出せなくなる…いわゆる記憶喪失は何とも不思議です。なぜショックで記憶喪失になるのでしょうか? また、恐怖で腰が抜けて立てなくなるのも、よくよく考えると、腰には医学的な問題はなく、脳の問題です。どうなっているのでしょうか?これらの謎を解き明かすために、今回は米国ドラマ「24(トゥエンティ・フォー)」のあるシーンを取り上げ、記憶喪失の特徴を説明します。そして、脳科学の視点から、ある仮説をこの記事で提唱し、記憶喪失や腰抜けをはじめとして意識から精神機能や身体機能が分離する病態(解離症)のメカニズムを解き明かします。さらに、進化医学の視点から、これらの病態の起源に迫ります。なお、記憶喪失の正式名称は解離性健忘です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、よく使われる通称の「記憶喪失」で表記します。記憶喪失の特徴とは?主人公は、米国の連邦捜査官ジャック・バウアー。彼が、テロリストと戦う24時間を毎回1時間ずつのドラマに分けて、時間軸に沿ってそれぞれの登場人物の視点からリアルタイムで展開していくつくりになっています。毎回のエピソードではらはらさせられて「次はどうなるの?」と気になり、私たちも視聴者という立場で「24」になってしまいそうになります。そのなかのあるシーンで、彼の妻テリーが記憶喪失になりますが、とてもリアリティがありました。そこで、彼女の言動から、記憶喪失の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)直前にトラウマ体験がある-重度ストレステリーは、娘と一緒にテロリストの隠れ家に人質として誘拐されていました。そんななか、2人で脱出して山道を車で逃走するのですが、テリーは追っ手をまいたか確かめるために、途中で車を止めて出ます。その直後、まだ娘を乗せている車が崖から滑り落ちてしまい、爆発して炎に包まれるのです。テリーは、その瞬間、テリーは娘が死んだと思い、あまりのショックで気を失います。1つ目の特徴は、直前にトラウマ体験があることです。精神医学的には、重度ストレスと言い換えられます。実際に、記憶喪失の先行要因として、災害や戦争などが指摘されています1)。(2)自分についてすべて思い出せない-全生活史健忘テリーは、数分後に目を覚まし、車道をふらふらと歩き出します。たまたま車で通りがかった女性から不審がられて、「ねえ、大丈夫? どうしたの?」と声をかけられますが、テリーは何も言えません。「名前は?」と聞かれても、「思い出せない」としか答えないのです。こうして、近くの病院まで送ってもらうことになります。2つ目の特徴は、自分についてすべて思い出せないことです。精神医学的には、全生活史健忘(全般性健忘)と呼ばれます。自分の名前や生い立ちをすべて思い出せなくなるのですが、言葉自体や一般常識は覚えていて、話は通じます。つまり、記憶障害になるのは、エピソード記憶のみであり、意味記憶は保たれています。なお、すべてのエピソード(全生活史)ではなく、特定のエピソード(トラウマ体験)だけが思い出せない場合は、選択的健忘と呼ばれます。(3)ぼうっとしている-「美しき無関心」テリーは、車に乗せてくれた女性から、「記憶喪失の人、初めて見たわ」「つらいでしょ?」と言われても返事をせず、心ここにあらずです。3つ目の特徴は、ぼうっとしていることです。精神医学的には、従来から「美しき無関心」(もうろう状態)と呼ばれてきました。自分の記憶がないことに対して、戸惑うというよりも、むしろ無関心なのです。「ここはどこ? 私は誰?」とあわてふためくことは実はなく、むしろ清々しくも見えてしまうのです。なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論テリーは、「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」と思い、そのショックから気を失いました。このような失神は、実は私たちにも身近で、歯の治療や採血などでの痛みから極度の恐怖を感じた時にも見られます。これは、迷走神経反射(神経原性ショック)と呼ばれています。それでは、なぜショックで失神するのでしょうか?このメカニズムは、ポリヴェーガル理論(多層迷走理論)から説明することができます2)。この理論を簡単に言うと、私たちの体は、恐怖がなければ、副交感神経系(主に腹側迷走神経複合体)が働いて心拍や血圧が安定して、低活動の状態です。しかし、恐怖(ストレス)があれば、交感神経系(交換神経幹)が働いて心拍や血圧が上がり、過活動になります。そして、絶体絶命なほどの極度の恐怖(重度ストレス)になると、今度は副交感神経系(背側迷走神経複合体)がより働くように切り替わり、逆に心拍や血圧が下がり、不活性化します。このように、「第3の自律神経」(背側迷走神経複合体)を含んだ自律神経系は多層的に機能していると考えられています。イメージとしては、副交感神経優位は安静モード、交感神経優位は興奮モード、そして迷走神経反射は絶体絶命モードと言えます。とくに、興奮モードと絶体絶命モードは合わせて、「戦うか逃げるか、または固まるか(”fight, flight, or freeze”)」と呼ばれています。この現象は、体の反応であると同時に、その体をコントロールする脳の反応でもあります。体だけでなく脳も全体的に不活性化するので、意識レベル(覚醒水準)はやや下がり、低覚醒の状態になります。すると、五感や体感の感度が鈍くなり、現実感がなくなった病態(離人感・現実感消失症)になるでしょう。これは、先ほどの「美しき無関心」の症状にも重なります。実際の画像研究では、この離人感・現実感消失症の人は、嫌悪感を刺激する画像への反応において、扁桃体などがある大脳辺縁系の活動性の低下が確かめられています3)。なお、厳密には右前頭葉の一部(腹側前頭前野)は逆に活動性が亢進することも確かめられています。迷走神経反射は、脳全体の活動性が低下するイメージではあるのですが、この部位に限っては、扁桃体と拮抗関係にあることから、扁桃体の活動性が低下した結果、二次的にこの部位の活動性が亢進してしまったと理解することができます。そして、この部位は自己意識を司る脳領域であることから、この二次的な影響は、自分を俯瞰して上から見ているという離人感が出てくるメカニズムを説明することができます。さらには、同じく極限状態である臨死体験でいわゆる幽体離脱をしている感覚になるメカニズムも説明することができます。つまり、極限状況では、迷走神経反射によって逆説的にも変に冷静になってしまうのです。なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説テリーが記憶喪失になったのは、明らかに「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」という重度ストレスです。それでは、実際にどのようにして記憶喪失になるのでしょうか? また、どのようにして腰抜けになるのでしょうか?先ほどのポリヴェーガル理論から、意識からすべての精神機能と身体機能が不活性化する病態(離人感・現実感消失症)のメカニズムは説明できました。しかし、意識から特定の精神機能または身体機能だけが分離して不活性化する病態のメカニズムは説明できません。これを説明できる理論がさらに必要です。そこでご紹介したいのが、ローカルスリープという概念です。これを簡単に言うと、睡眠は脳全体で一様ではなく局所で多様に行われうるということです。実際の研究では、起きている時にストレスのかかった脳の領域ほど深い睡眠になることがわかっています4)。今回の記事で、このローカルスリープの概念を使って、以下の仮説を提唱します。それは、このローカルスリープによって、重度ストレス後に特定の脳領域のニューラルネットワークが文字どおり眠ってしまい完全に不活性化してしまう(機能不全になってしまう)ということです。名付けるなら、「解離=ローカルスリープ」説です。この不活性化という点で、先ほどのポリヴェーガル理論の局所モデルがローカルスリープであると言い換えることができます。たとえば、それぞれの体の部位を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、腰を抜かす(脱力発作)、声が出なくなる(失声)、聞こえなくなる(突発性難聴)、喉にボールがあるように感じる(ストレス球)などのさまざまな病態(解離性神経学的症状症または変換症)になるでしょう。これが、腰抜けになるメカニズムです。同じように、記憶を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、特定のエピソード(トラウマ体験)だけを思い出せない(選択的健忘)、または自分の名前や今まで自分がどう生きてきたかというすべてのエピソードを思い出せない(全般性健忘)という病態になるでしょう。そしてその後に、何かのきっかけで、または何のきっかけもなく、ようやくそのニューラルネットワークがローカルスリープから脱して(再活性化して)、トラウマ体験を含めて思い出すことができると説明することができます。これが、記憶喪失になるメカニズムです。ちなみに、起きている最中に脳が局所的に不活性化してしまうローカルスリープとは対照的に、深く眠っている最中(ノンレム睡眠中)に、脳が局所的に活性化してしまう「ローカル・アウェイクニング(局所覚醒)」の状態は、睡眠サイクルを含め脳がまだ未発達な子供に見られる「夜泣き」(睡眠時驚愕症)や「夢遊病」(睡眠時遊行症)が当てはまります。 1) DSM-5-TR、p330、p352:日本精神神経学会、医学書院、2023 2) ポリヴェーガル理論入門、p23:ステファン・W・ポージェス、春秋社、2018 3) 心の解離構造、p192、p198:エリザペス・F・ハウエル、金剛出版、2020 4) 睡眠科学、p10:三島和夫、化学同人、2016

854.

ChatGPTでロールプレイを行う【タイパ時代のAI英語革命】第6回

ChatGPTでロールプレイを行う学んだ英語を「使えるスキル」へと昇華させるためには、もう一歩進んだトレーニングが不可欠です。それが「ロールプレイ」です。ロールプレイは、特定の役割になりきって対話する練習法で、これにより、学んだ単語や表現を実際の文脈の中で使う練習ができ、英語での思考回路と瞬発力を効果的に鍛えることができます。何より、AIが相手であれば、失敗を恐れる必要はありません。納得がいくまで、何度でも同じ場面の練習を繰り返すことができます。ここでは、テキストベースで行う「チャット機能でのロールプレイ」と、より実践的な「音声モードでのロールプレイ」の2つの方法について、具体例を交えて解説します。チャット機能でロールプレイを行うまずは、キーボードで文字を打ち込みながら行う、テキストベースのロールプレイです。こちらは、自分のペースでじっくり考えながら、正確な語彙や文法を使って応答する練習に適しています。プロンプト例#役割あなたはレストランの店員です。#命令レストランの客である私と、英語でロールプレイを行ってください。すると、以下のようなロールプレイが可能です。ServerGood evening, and welcome! My name is Jamie, and I’ll be taking care of you tonight. Can I start you off with something to drink ― perhaps still or sparkling water, or would you like to see our wine list?自分Hi, Jamie. We would like to have still water.ServerAbsolutely, still water it is. I’ll bring that right out for you.In the meantime, would you like a few more minutes to look over the menu, or are you ready to hear about our chef’s specials for the evening?自分We'll look over the menu, thanks.ServerOf course ― take your time. If you have any questions about the menu or dietary preferences, just let me know.I’ll be back shortly with your water.このようにして会話を続けることで、よく使われる表現をインプット・アウトプットすることができます。もし、自分の返答に詰まったり迷ったりしたときは日本語で「答え方の例を教えてください」と質問したり、「『何がお勧めですか』と聞きたいのですが、英語で何と言えばいいですか?」と質問したりすれば、すぐに適切な表現を教えてくれます。また、前回紹介した“Read Aloud”の機能を使えば、ChatGPTが作成した英文を音読してくれるので、リスニング強化につながります。また、“Dictation”の機能を利用すれば音声で入力することができるため、スピーキングの練習を行うこともできます。さらに、一通りの会話が終わった後に、「文法ミスや、より適切な表現があればフィードバックしてください」と入力すれば、復習ができます。このようなやりとりを繰り返し、まずはよく使われる表現に慣れていきましょう。音声モードでロールプレイを行うテキストでのロールプレイに慣れてきたら、次はぜひ「音声モード」でのロールプレイに挑戦してみてください。前回紹介した音声会話機能を使うことで、よりリアルな会話に近い状況で瞬発力を鍛えるトレーニングが可能です。音声モードでのロールプレイは、その場で即座に聞き取り、応答する必要があるため、リスニング力とスピーキング力が同時に、そしてより実践的に鍛えられます。テキストベースで行っていたチャット画面で、音声モードのアイコンをタップし「最初から英語でロールプレイをしてください」などと話し掛けると、音声モードでの会話が可能です。英語のレベルを設定する音声モードで英会話の練習をすると、ChatGPTがネイティブスピーカーのペースで話すため、「英語が速すぎて聞き取れない」「話している途中に割り込まれる」といったストレスを感じることが少なくありません。そうした場合には、あらかじめ英語のレベルや話すスピードを指定しておくことをお勧めします。たとえば、「なるべくゆっくり話してください」「簡単な英語で話してください」などと伝えると、より自分に合ったペースで会話を進めることができます。また、自分の練習したい英語レベルについては、より客観的かつ明確に難易度を示すために、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)の基準を活用することをお勧めします。CEFRでは、英語力をA1(初心者)からC2(熟練者)まで6段階に分類しており、各レベルに応じた語彙や表現の難易度が定められています。現在の自分の実力に近いレベル、あるいは1つ上のレベルを指定することで、無理なく効率的に学習を進めることができます。以下にCEFRのレベルを簡単にまとめました。表:CEFRのレベル画像を拡大する以下は、音声モードでの練習時に活用できるプロンプトの例です。プロンプト例#役割あなたはレストランの店員です。#命令レストランの客である私と、英語でロールプレイを行ってください。#制約条件CEFR A2レベルの英語を使用してください。できるだけゆっくり、はっきり話してください。私が話し終わるまでは返答せず、待ってください。話が止まっている場合は相づちだけ打ってください。このように、役割やレベル、話す速度、会話のタイミングなどの詳細な指示をあらかじめ設定することで、より自分に合った練習ができる音声会話モードになります。ストレスなくリスニングやスピーキングのトレーニングを続けるために、ぜひ積極的に活用してください。

856.

急性期こそ、漢方!【急性期漢方アカデミア】第1回

急性期に漢方を応用するというと、何の冗談!? と思われるかもしれない。しかし、急性期こそ漢方は劇的な効果を実感でき、それが今後の日本の医療の光明となるという信念をもって活動するグループが存在する。今回から3回にわたって、急性期における漢方の有効性と可能性を啓発・研究するグループである急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)の活動と、展望について紹介したい。急性期こそ漢方漢方(漢方薬・鍼灸)というと、不定愁訴や慢性疾患の部分症状に使われているというイメージかもしれない。しかし、江戸時代までの日本では漢方が正式な医学であり、現在の西洋医学が対応している疾病や病態こそ漢方も挑み続けてきた歴史がある。とくに、医療のニーズがまずは急性期の対応であることは洋の東西は問わない。したがって、漢方の多くの方法論は急性期の対応の中から確立してきたものである。もちろん、現代の急性期診療において、循環・呼吸器管理や組織の再建、病巣の切除、病原体の排除のための薬物療法は西洋医学が優先されることは論を待たない。一方で、漢方には西洋医学が未だ届かない生体反応の調整や、回復の促進などのさまざまな方法が存在している。AKAの始動漢方を急性期に応用すると、その劇的な効果が実感され、さらなる予後の改善が十分に期待される。また、漢方は安全性が高く、安価な治療法であり、現在の医療の最大の課題である医療費の高騰に対して、最も医療資源が集中投下されている急性期領域において医療経済的なメリットがある可能性が示唆される。このような急性期における漢方の叡智の活用を啓発・普及するため、急性期での漢方活用のエキスパートである加島 雅之(熊本赤十字病院 総合内科部長)、中永 士師明(秋田大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学講座 教授)、鍋島 茂樹(福岡大学医学部 総合診療学 教授)、熊田 恵介(岐阜大学医学部附属病院医療安全管理室 室長・教授/高次救命治療センター)、入江 康仁(聖隷横浜病院救急科 部長)、吉永 亮(飯塚病院漢方診療科 診療部長)(敬称略)の6名が結集した。急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)と銘打って、2023年から活動開始。2024年12月に初めてのOn Lineでの公開セミナーを開催した。急性期の“むくみ”急性期の“むくみ”の西洋医学的病態第1回AKAセミナーでは、ゲスト講師に日本の総合診療・総合内科領域で著名な徳田 安春先生(群星沖縄臨床研修センター長)を迎えて、急性期の浮腫の西洋医学的病態と、その臨床診断のポイント、また治療法の概説と問題点をセミナーの冒頭でレクチャーしていただいた。そこで問題となったのは、急性期の浮腫の治療薬は利尿剤が主体になるが、電解質異常や腎機能への影響、さらに血管透過性亢進などによって起こる血管内脱水を伴う浮腫の治療の難しさであった。急性期の“むくみ”の漢方薬医療用漢方製剤の148処方の内で、急性の“むくみ”に応用できる処方は数多くある。その中でもとくに急性期病院でも使用しやすい五苓散(ごれいさん:17)、柴苓湯(さいれいとう:114)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう:28)、真武湯(しんぶとう:30)の4処方に絞って、処方の基本的な作用と使用上の注意点について、以下のとおり解説する。(1)五苓散漢方では最も頻用される浮腫の処方全身・局所のいずれでも使用可能単独では、急性の浮腫で、血管内脱水と間質の浮腫の混在、血管透過性の亢進がある場合に最も適合する腸管の浮腫や脳・神経系の浮腫にも応用できるアクアポリンの阻害作用が確認されている慢性化した浮腫では他の漢方薬との併用が効果的甘草が含まれていない(2)柴苓湯五苓散と小柴胡湯の合方五苓散の適応症で発症後4~5日程度経過した炎症の合併例で効果がある黄芩含有:肝炎・間質性肺炎に注意甘草含有:偽アルドステロン症に注意(3)越婢加朮湯浮腫を呈している部位の熱感・発赤が強い場合に適合とくに皮膚・関節・眼・口などの体表の局所浮腫に向く(肺/気道にも効果的)麻黄含有:消化管粘膜障害・エフェドリン作用に注意甘草含有:偽アルドステロン症に注意(4)真武湯末梢循環不全があり、手足が冷えている全身の浮腫/消化管の浮腫を伴う場合に効果的弁膜症などがある心腎症候群などに向く単独では利尿効果が弱いため、利尿効果をはかる場合は少量の利尿剤または五苓散との併用が効果的甘草が含まれていない

857.

第281回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(後編)

「批判を受けるに値する」としつつも「架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週9月11日木曜の東京の豪雨、すごかったですね。私は所用で大阪に行かなければならず、羽田空港にいました。14時搭乗予定が、「空港近辺に雷雲がある」との理由で15時搭乗に、乗ってからは「雷雲が近づいているので飛び立てない」ということで、結局2時間ほど機内に待機し、離陸したのは17時過ぎでした。今の世の中は便利なもので、スマホで「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」に行けば、ほぼリアルタイムで雨の状況が把握できます。14時の段階でチェックしたら、雨雲はまだ空港の北西5キロほどのところにあって30分以上は大丈夫そうでした。実際、空港が暴風雨の状態になったのは15時過ぎでした。管制が14時の段階から離陸を全面的にストップしていたのは果たして妥当だったのか、素人ながら疑問に感じました。その後の羽田空港の大混乱を考えると、暴風雨になる前に飛行機をもう少し飛ばしておけなかったのかと思った次第です。ちなみに、「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」は民間が提供する類似のアプリ(これらも国交省の同じデータを使っている)よりも正確で、とても役立ちます。自分のいる場所が何分後に雨になるか、どれくらい激しい雨になるかがかなり正確にわかります。ご存じない方は、一度覗いてみることをお勧めします。さて、前回に続いて、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件について書いてみたいと思います。アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断された」とアンビスが見解報告書を受けた後、アンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表しました。「お知らせ」では「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。報告書は、端的に言えば“上場企業にもかかわらず運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしていることに強い違和感を覚えたのですが、同様の違和感はマスコミの報道でも感じました。マスコミ報道も「実態ない診療報酬の請求」を問題視するグレー派と完全シロ派に二分特別調査委員の調査報告書が出ると、共同通信や全国紙の多くは、6,300万円という金額にフォーカスしてその内容を報じました。たとえば、最初にこの件をスクープした共同通信は8月8日付で「実態ない診療報酬の請求判明 医心館、訪問看護で6,300万円」と題する記事を発信、「医療保険が適用される訪問看護は原則30分の訪問が必要だが、報告書は数分程度の短時間の訪問が9,900件あったと指摘。『複数のスタッフで訪問した』と加算報酬を請求していたが、実態が認められないケースも約1,300件あった」と「実態ない診療報酬の請求」を強調する内容となっています。一方、8月11日付の現代ビジネスは「【結果はシロだった】ホスピス最大手・医心館「不正請求疑惑」…スクープ報道と『違いすぎた』調査報告書の内容」と題する記事を発信しています。この記事は、「特別調査委員会による報告書が公表された。その結果は『診療保険請求の要件を満たしていない可能性が高い案件は全体の0.05%程度であり、それ自体も、記録の不整備等に起因する事案であって、架空の事実を捏造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない』というものだった」と不正請求ではなく「シロ」だった点を強調、同社の看護職員の「報道があってから、(私たちが)悪人扱いされることも多くありました。正直、辛かったです。裏どりが甘い、放火的な報道に振り回された4ヵ月でしたが、報告書が『不正は認められない』と発表したことに心の底から安心しています」という言葉を紹介しつつ、「社内では、独自調査として報道を続けてきた共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっているようだ」と、共同通信がまるで完全な”誤報”を放ったかのような、アンビス寄りの内容となっています。共同通信は報告書公表後に「会社の見解に社員反発」と続報普通に考えれば、不正請求は意図的にやろうが、記録の不備やミスで起ころうが、「不正」に変わりはありません。「不正請求の指示」が確認されなかったとしても、記録の不備など社内体制の未熟さによってルールを逸脱した請求が行われていたのは確かなわけで、あの調査報告書をもってして「シロ」と断言するのは言い過ぎではと思っていたら、8月27日付の共同通信が続報を放ちました。「コンプライアンス部長が改ざん指示、でも「組織的不正はない」 ホスピス住宅最大手「医心館」、会社の見解に社員反発」と題された記事は、報告書公表後に取材に応じた社員の声を報じています。同記事は、「『会社の発表を見て、びっくりしました』。医心館で働く看護師、尾形 里佳さん(仮名)はそう話す。『調査報告書を読めば、「不正がなかった」と言い切るのは無理があると思う』」という声を紹介するとともに、「アンビス社の複数の現・元社員は取材に対し、こう証言した。『必要ない人まで1日3回の訪問予定表が30分単位で組まれ、短時間で済んだ場合でも、予定表通りすべて30分実施したと記録していた』『複数人での訪問対象者の中には、必要ない人もいて、1人でやった場合でも、2人で訪問したことにしていた』」と単純な記載ミスではなかったと報じています。さらに同記事は、「尾形さんら複数の現・元社員は『社長が知らなかった』とする説明に『納得できない」と口をそろえる。(中略)今も医心館で働く尾形さんはこう話した。『社長は全社員向けに『反省している』というメールを送ってきたが、『不正はなかった』と言っている時点で、とてもそうは思えない。私たち社員は大切にされていないと以前から感じていた。私を含め、辞めようと思っているスタッフは多い。経営陣が交代して、会社を変えてほしい』」と続け、報告書に対する社の対応に不満を抱いている社員の存在を報じています。現代ビジネスも共同通信も、社員の声を持ってきて、それぞれ「シロ」「グレー(あるいはクロ?)」と言わせているのが対照的で非常に興味深いです。果たして、どちらが真実なのでしょうか。有料老人ホームの経営コンサルタントがIRに記載された「医心館」の経営概要を分析ホスピス型住宅は施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフによってではなく、外部から(といっても併設した訪問看護ステーション、訪問介護事業所からですが)訪問するスタッフによって看護・介護を提供するビジネスモデルです。2000年に介護保険制度が創設され、特定施設入所者生活介護という外付けのサービス提供の仕組みができて急増した施設カテゴリーですが、そもそも訪問看護や訪問介護の「不正請求」を生みやすい事業形態として、当初から問題視されてきました。有料老人ホームの経営コンサルティングに長年携わってきたタムラプランニング&オペレーティング社長の田村 明孝氏は、同社のWebサイトに連載しているコラムの4月10日公開分(タイトル「アンビス社IRから見た「医心館」の経営とは」)に、「『医心館』の経営はどのように行われていたか、密室性が高く分かりづらい。というのは、マスコミの取材や筆者のような外部からの見学は基本的に断られるからだ。そこで、同社が発表する決算報告書などのIRから、どのような運営が行われているか窺ってみることとする」と書き、IRに記載された「医心館」の経営概要を分析した上で次のように記しています。「一般的な住宅型有料老人ホームより高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は訪問看護」「通常、有料老人ホーム事業を開設するには、(中略)どんなに急ピッチで急いでも、年に2から3ホームが限界だ。この10倍のピッチとなり、かなり荒い運営が想像される。『医心館』が、このような、なんとも恐ろしいピッチで開設されていることに驚いた。さらに驚くのは、毎月1,000名もの入居者(退院患者?)を病院や医療機関から受け入れ、800人以上の末期患者を新規入居させ、その後約1月で亡くなるということだ。残りの200人未満は末以外の入居者で、1ヵ月以上の生存率なのだろう。この入居者は別表7や8(訪問看護において「特別な取扱いの対象」となる利用者を定めた表)に該当する難病指定患者などが多いだろうかと、邪推が働く。1室あたり売上高=年間売り上げ予想額/定員数/12カ月/稼働率この計算結果は77万円となる。一般的な住宅型有料老人ホームの売り上げ(居住費・食費・光熱費等・介護報酬)が48万円(厚労省調べ)に対して、はるかに高い売り上げとなる。この売上の差は診療報酬で、高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は、訪問看護だと納得できる。驚異的なスピード感で人の死を看取ることに、怖さを感じるのは筆者だけだろうか」。6,300万円は「調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定」と田村氏田村氏はさらに調査報告書が公表された後、9月8日にも新しいコラム(タイトル「アンビス報告書による不正請求額は6,300万円?63億円の間違いでは?」)を公開、6,300万円という金額の低さに対し「調査委員会が示しているように、本来の不正請求の実調とはかけ離れた、調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定となっている。通常、看護記録がなかった、看護実態と記録が合致しないなどの事項は、不正請求とされるのが一般的であることから鑑みると、こんな低い不正請求金額で済むはずもない。本年2月、同様に訪問看護不正請求を報道されたサンウェルズの調査委員会による不正請求額が約28億円であることから鑑みても、アンビスの不正請求額が6,300万円では社会が納得するはずもない」と強い疑義を呈しています。その上で、前述した「お知らせ」について「一連の報道に対する、上場企業としての社会的責任を負った企業の回答とは程遠く、報告書をも曲解して自己弁護に走るアンビスの姿勢からは、反省するどころか、調査委員会の再発防止策の提言を受け入れる気配も見て取れない。(中略)多死化の時代を迎えて、ホスピス住宅の適切な在り方を社会全体で考えていく必要があることからも、一連の報道に基づく事実関係をはっきりさせ、社会的信用を取り戻すべくホスピス住宅の新たな制度の創設の必要がある」と、ホスピス住宅業界の健全化を強く訴えています。有料老人ホームをはじめとする高齢者住宅業界の発展と健全化に長年携わってきた田村氏だからこそ言い切れる「正論」だと感じました。多死社会はこれから本格化します。2040年まで死亡数は増加傾向でピーク時には年間170万人になると推計されています。それに伴い、ホスピス型住宅のニーズも高まっていくでしょう。サンウェルズやアンビスの不正請求や「実態ない診療報酬請求」が顕在化してくる状況は、支払基金や地方厚生局(つまり国)のチェックの甘さと、業界の自浄作用のなさの表れとも言えます。田村氏が指摘するように、ホスピス住宅の新たなレギュレーションを早急に整備する必要がありそうです。

858.

看護師の感情と家族への認識が、ケアの抜け漏れと関係【論文から学ぶ看護の新常識】第31回

看護師の感情と家族への認識が、ケアの抜け漏れと関係看護師の感情と家族への認識が、ケアの提供にどのような影響を与えるかを調べた研究が行われ、その関係性が明らかになった。Mirit Cohen氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年8月15日号に掲載。社会的情報の手がかりとしての感情:看護師の患者家族に対する認識が、患者の「看護ケアの未実施」経験にどう影響するかを説明するマルチソースダイアリー研究研究チームは、感情の社会情報(EASI)モデルを用いて、看護師の感情と患者家族に対する認識が、患者から報告される看護ケアの未実施にどのように影響するかを調査する目的で、マルチソース・ネスト化・ダイアリー研究を実施した。638組の看護師-患者ペア(正看護師142名、患者638名)が対象となった。3〜5回の日勤シフトにわたり、看護師は「家族への認識」と「自身の感情」を、患者は「経験した看護ケアの未実施」をそれぞれ記録し、データは線形混合モデルで分析された。主な結果は以下の通り。以下において、有意な交互作用が見られた。看護師が高いポジティブな感情を持ち、家族を「資源」と認識した場合、看護ケアの未実施は増加した(β=0.028、p<0.05)。看護師が高いネガティブな感情を持ち、家族を「負担」と認識した場合、看護ケアの未実施は増加した(β=0.086、p<0.05)。看護師が高いネガティブな感情を持ち、家族を「自分自身の資源」と認識した場合、看護ケアの未実施は減少した(β=−0.235、p<0.01)。この研究結果は、医療機関が看護師の感情管理を支援し、家族の関与を最適化することで、ケアの提供と患者満足度を高める必要性を強調している。安心感を生むはずのポジティブな感情が、思わぬケアの抜け漏れの引き金になり得ることを示している点が、本研究の興味深いところです。和やかな場面で「この家族なら大丈夫だろう」と家族にケアを任せる範囲が広がると、基本ケアの確認や記録が抜けるリスクがあります。一方、看護師がネガティブな感情を持っていても、家族を「自分を助けてくれる存在」と認識した場合には、看護ケアの未実施が減少したという結果が示されています。適度な緊張感と、どちらがケアを行うかを明確にした役割分担は手順遵守を促し、ケアの抜け漏れを防ぐと考えられます。家族はケアの提供者でありながらも自律した当事者であり、「任せるケア」と「看護師が責任をもって実施するケア」を事前に言語化して共有する姿勢が重要といえるでしょう。とくに高齢患者では口腔ケアや体位変換といった、外から見えにくい基本ケアが抜けやすいため、看護師も意図的にこの点は気を付ける必要があります。ネガティブ感情はよくないですが、“親しき仲にも礼儀あり”も忘れずに関わりましょう。論文はこちらCohen M, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Aug 15. [Epub ahead of print]

859.

20歳以降の体重10kg増加が脂肪肝リスクを2倍に/京都医療センター

 20歳以降に体重が10kg以上増えた人は、ベースライン時のBMIにかかわらず5年以内に脂肪肝を発症するリスクが約2倍に上昇し、体重変動を問う質問票は脂肪肝のリスクが高い人を即時に特定するための実用的かつ効果的なスクリーニング方法となり得る可能性があることを、京都医療センターの岩佐 真代氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年8月6日号掲載の報告。 脂肪性肝疾患は、心血管疾患や代謝性疾患、慢性腎臓病のリスク増大と関連しており、予防と管理のための効果的な戦略の開発が求められている。脂肪肝に関連する質問票項目を特定することで、脂肪性肝疾患の高リスク者の早期発見につながる可能性があることから、研究グループは一般集団の健康診断データベースから収集した生活習慣情報を縦断的に分析し、脂肪肝リスクの高い個人を特定する質問票の有用性を検討した。 対象は、2011~15年にかけて、武田病院健診センターの健康診断受診者のうち、ベースライン時には脂肪肝は認められず、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肝疾患などの既往歴もない20歳以上の1万5,063人であった。ベースライン時のBMIに基づいて、BMI値22未満群、22〜25未満群、25以上群の3つのグループに分類した。食習慣と生活習慣に関する質問票項目は、厚生労働省が特定健康診査事業のために提供している標準質問票に基づいて作成され、(1)食習慣・行動、(2)喫煙・飲酒習慣、(3)運動習慣、(4)体重変動、(5)睡眠の23項目で構成されていた。Cox比例ハザードモデルを用いて、ベースライン時の質問票データと5年間の追跡期間における脂肪肝発症率との関連性について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,063人のうち、女性は8,294人(55.1%)、平均年齢は47.1歳、平均BMIは21.4であった。・追跡期間中央値4.2年で、1,889例(12.5%)が脂肪肝を発症した。脂肪肝の発症率は、ベースライン時のBMI値が高いほど有意に高かった(傾向のp<0.001)。 -BMI値22未満群 551/9,270例(5.9%) -BMI値22〜25未満群 898/4,519例(19.9%) -BMI値25以上群 440/1,274例(34.5%)・年齢、性別、代謝性疾患および肝障害に関連する因子を調整した後、脂肪肝発症の最も強い危険因子は20歳以降の10kg以上の体重増加であり、とくにBMI値22未満群で顕著であった。 -全体集団 調整HR:2.11、95%CI:1.90~2.34、p<0.001 -BMI値22未満群 調整HR:2.33、95%CI:1.86~2.91、p<0.001 -BMI値22〜25未満群 調整HR:1.43、95%CI:1.25~1.63、p<0.001 -BMI値25以上群 調整HR:1.41、95%CI:1.12~1.77、p=0.003・すべてのBMI群に共通する脂肪肝リスクの低減に関連する質問票項目は特定されなかったが、22未満群では牛乳および乳製品の日常摂取(調整HR:0.75、p=0.001)、22〜25未満群では海藻およびきのこの日常摂取(調整HR:0.63、p=0.006)、25以上群では睡眠満足度(調整HR:0.80、p=0.039)がそれぞれ脂肪肝リスクの低減と最も強く関連していた。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、脂肪肝発症のリスクを同定し、低減させるための質問票の潜在的な有用性を強調するものである。質問票に基づいて健診当日にリスクを伝え、生活習慣改善につなげる即日フィードバックのアプローチは、脂肪肝発症のリスクを低減させ、脂肪性肝疾患の予防に貢献する可能性がある」とまとめた。

860.

慢性流涎治療にA型ボツリヌス毒素が登場/帝人ファーマ

 パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの日常症状として「流涎(よだれ)」が患者のQOLを低下させるために問題となっている。これまで、この流涎に効果的な治療法が少なかったが、2025年6月、帝人ファーマは、インコボツリヌストキシンA(商品名:ゼオマイン筋注用)について、慢性流涎の効能または効果の追加承認を取得した。そこで、同社はインコボツリヌストキシンAの追加承認について、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、パーキンソン病などの疾患と流涎の関係や治療薬の効果、投与での注意点などが解説された。 同社では、「成人の流涎は、一般にあまり知られていない症状であり、患者さんに届いていない可能性もあるので、医療機関に相談をしてもらうように啓発していきたい」と抱負を語った。医師の関心も低い慢性流涎 セミナーでは、「おとなのよだれ 慢性流涎とは ~その困りごとと本邦初の治療薬~」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部神経学講座 特任教授/順天堂大学 学長補佐)が、慢性流涎の疾患概要、患者の声、新しい治療法、今後の展望などについて講演した。 唾液は、通常耳下腺から65%、顎下腺から23%が分泌されている。1日の分泌量は1~1.5L分泌されるが、無意識に飲み込んでいるために口からあふれることはない。しかし、パーキンソン病(症候群)、ALS、筋ジストロフィー、脳性麻痺などの患者では、唾液が意図せずに慢性的に口からあふれ出ることがある。これを「慢性流涎」という。 わが国の推定患者は最大で約38万例と推定され、脳神経内科などでは診療機会が多い。とくにパーキンソン病では、進行期(診断後10~15年)に出現することが知られている。 慢性流涎は、大量のティッシュやハンカチなどの消費、衣服や寝具の汚れや肌荒れなど、患者・家族のQOLを著しく低下させるだけでなく、社会的孤立を招き、介護者の負担も増加させる。 「全国パーキンソン病友の会」が行ったアンケート調査(回答:4,173例)によると回答者の約65%が「流涎を問題」と回答していた。具体的な問題点として患者からは「他人との会話でよだれが垂れる」「デスクワークで机などが汚れる」「他人の目が気になる」などの声が寄せられ、患者家族からは「着替えの最中にも服が汚れる」「頻繁な寝具の交換が大変」などの声が寄せられた。同じく欧州のパーキンソン病患者382例に行ったアンケートでは、88%が「流涎」を経験し、そのうちの45%は医療ケアチームに相談していなかった。患者などからみた医療従事者の慢性流涎に対する関心度では、5点満点で老年科(1.9)、耳鼻咽喉科(1.6)、脳神経内科(1.5)の順で高かったが、全体の関心が薄いことがうかがえた。患者さんのQOLを改善する新しい流涎治療 流涎の治療は、嚥下障害などの危険性がある場合や本症のために社会的・日常的に制限がある場合に、患者などから要望があれば開始される。 治療では、(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)、(2)放射線治療・外科治療、(3)薬物治療が行われている。(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)では、言語聴覚士が行う構音訓練や嚥下訓練などが行われるが、長期的な効果についてはいまだ不明である。(2)放射線治療・外科治療は、リハビリテーションや薬物療法で流涎がコントロールできない場合に行われる。放射線治療は効果の持続期間が数ヵ月~5年とさまざまである。外科治療は、顎下腺または耳下腺の摘出または結紮などの手術が行われるが、その数は少ない。(3)薬物治療では、抗コリン薬の投与ができるが、幻覚・幻聴など精神症状、尿閉などの副作用のためにほぼ投与されていない(2025年6月時点で保険適用なし)。また、ボツリヌス毒素製剤は、唾液腺に約4ヵ月に1回、ボツリヌス毒素を唾液腺に注射することで唾液の量を減らす治療法であり、今回追加承認された製剤である。 ボツリヌス毒素製剤は、現在、上下肢の痙縮、斜視などの10以上の適応で承認されている製剤であり、本症では、アセチルコリン放出を阻害することで副交感神経へのシグナルを抑え、唾液の分泌を減少させる。投与ではエコー下で確認しながら、左右の顎下腺・耳下腺4ヵ所に、約4ヵ月に1回の間隔で注射する。 投与後の注意点としては、唾液の量が減ることでの口渇感や喉へのつかえ感が約1~5%で現れることが報告されている。また、投与にあたっては、口腔内の衛生の保持が重要であるほか、重症筋無力症などの全身性の筋肉脱力疾患の患者や過去に同じ薬剤でアレルギー症状のあった患者には使用はできない。そのほか、すでに唾液分泌抑制作用の薬剤を使用している人、妊婦・授乳中の人には注意が必要とされている。 服部氏は最後に「医師などから流涎患者への積極的な声かけと新しい治療薬での治療を期待したい」と述べ、講演を終えた。

検索結果 合計:35095件 表示位置:841 - 860