サイト内検索|page:34

検索結果 合計:33454件 表示位置:661 - 680

661.

早期の緩和ケアは死期の近い高齢者の入院を予防できない?(解説:名郷直樹氏)

 多疾患併存患者の死亡リスクを予測するGagne comorbidity score(1年時点での死亡予測のスコア:-2~26、高値ほどリスクが高い)が6点以上(1年後の死亡率が25%以上)の66歳以上を対象とし、救急外来受診時に、エビデンスに基づく多職種による教育、重大な疾患に関するコミュニケーションについての刺激に基づくワークショップ(救急外来での会話)、意思決定サポート、救急外来スタッフによる監査とフィードバックによる介入の効果を、入院をアウトカムとして検討したクラスターステップウェッジランダム化比較試験である。 クラスターステップウェッジとは、施設ごとに介入の順序をランダムに割り付け、最終的にはすべての施設が介入を受け、介入前後で効果を検討する手法である。通常のランダム化比較試験では介入群と非介入群を比較するが、この手法ではすべての対象者が介入群であり、その介入前後のアウトカムの変化を比較する。 結果は、介入前の入院率が64.4%、介入後の入院率が61.3%、入院率の差が-3.1%、95%信頼区間が-3.7~-2.5%と差を認めているが、多変量解析で交絡因子を調整後のオッズ比では1.03(0.93~1.14)と差を認めていない。差があるとしても小さい、というのが大ざっぱな理解かもしれない。ただ、この介入に関わる人や時間のコストを考慮すると、統計学的な差があっても、現場での実現は困難ではないだろうか。 この研究は2018~22年にかけて行われているが、この間にCOVID-19の流行があり、入院適応に対して大きな変化があった。末期の患者がこの時期にはホスピスなどに入院困難であったり、COVID-19による入院のために他疾患の入院が困難になったり、多くのこの時期の医療状況が結果に影響したと予想される。 さらにこのクラスターステップウェッジの手法は、非介入群との比較ではなく介入前後の研究であるため、従来のランダム化比較試験のように交絡因子がコントロールされるわけではない。その意味ではランダム化比較試験という命名は不正確だと思われる。介入時期ランダム化介入前後比較試験と呼ぶのがいいと思う。 また、この手法のメリットとしてすべての対象者に介入がなされることがあるが、効果があるかどうかわからない介入を全員に提供してしまうという非倫理性もある。可能であれば介入群と非介入群を比較するクラスターランダム化比較試験が行われるべきではなかろうか。

662.

GLP-1受容体作動薬はパーキンソン病全般にも有効か?(解説:内山真一郎氏)

 パーキンソン病患者に対するGLP-1受容体作動薬の効果を検討する第III相無作為化比較試験が英国で行われた。25~80歳でドーパミン治療を行っているHoehn & Yahrステージが2.5以下のパーキンソン病患者に、徐放型エキセナチド2mgかプラセボを96週間にわたって週1回皮下注射し、1次評価項目としてパーキンソン病の運動障害スケールであるUPDRS Part IIIを評価したところ、エキセナチド群とプラセボ群の悪化度には有意差がなく、疾患修飾薬としてのエキセナチドの有効性は証明されなかった。このエキセナチドの臨床効果の欠如は、DATスキャンの画像所見上の効果の欠如とも一致していた。 この試験結果が否定的だったのは、中枢神経へのエキセナチドの移行が不十分であったことが原因である可能性も否定できないが、2型糖尿病患者ではパーキンソン病の進行がGLP-1受容体作動薬により抑制されたという強力なエビデンスがあることを考えると、GLP-1受容体作動薬はインスリン抵抗性による神経炎症反応を抑制して効果を発揮している可能性があり、HbA1cが比較的高いサブグループのパーキンソン病患者に標的を絞った臨床試験を行う価値があるように思われる。

663.

糖尿病(8)糖尿病の食事療法(3):グリセミックインデックス【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q134

糖尿病(8)糖尿病の食事療法(3):グリセミックインデックスQ134血糖コントロールにおいて、低グリセミックインデックス(GI:Glycemic Index)食の有効性が知られているが、低GI、高GIはいくつを指すか?

664.

胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」【最新!DI情報】第33回

胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」今回は、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬「アカラブルチニブマレイン酸塩水和物(商品名:カルケンス錠100mg、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、慢性リンパ性白血病治療薬としてすでに発売されているカプセル製剤とは異なり、胃酸分泌抑制薬を服用している患者にも使用しやすいフィルムコーティング錠です。<効能・効果>慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、出血(頭蓋内血腫[頻度不明]、胃腸出血、網膜出血[いずれも0.2%]など)、感染症(肺炎[3.2%]、アスペルギルス症[0.2%]など)、骨髄抑制(貧血[5.5%]、好中球減少症[17.5%]、白血球減少症[17.5%]、血小板減少症[7.7%]など)、不整脈(心房細動[1.5%]、心房粗動[頻度不明]など)、虚血性心疾患(急性冠動脈症候群[0.2%]など)、腫瘍崩壊症候群、間質性肺疾患(いずれも0.4%)が報告されています。その他の副作用は、頭痛、下痢、挫傷(いずれも10%以上)、悪心、発疹、筋骨格痛、関節痛、疲労(いずれも5~10%未満)、浮動性めまい、鼻出血、便秘、腹痛、嘔吐、無力症(いずれも5%未満)、皮膚有棘細胞がん、基底細胞がん(いずれも頻度不明)があります。本剤は主にCYP3Aにより代謝されるので、強~中程度のCYP3A阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾールなど)、強~中程度のCYP3A誘導薬(フェニトイン、リファンピシン、カルバマゼピンなど)との併用は可能な限り避け、代替の治療薬を考慮します。また、セイヨウオトギリソウ含有食品は摂取しないように指導する必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は慢性リンパ性白血病に用いられます。2.この薬は、自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。3.セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む食品は摂取しないでください。4.この薬を服用中に発熱、寒気、喉の痛み、鼻血、歯ぐきからの出血、青あざができるなどの症状が現れたら、速やかに主治医に相談してください。5.他の医師を受診する場合や薬局などで他の薬を購入する場合は、必ずこの薬を使用していることを医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は、Bリンパ球ががん化することで発症し、多くの場合は緩徐に進行します。CLLは初期段階では無症状であることが多いですが、進行すると脱力感、疲労感、体重減少、悪寒、発熱、寝汗、リンパ節の腫れ、腹痛などの症状が現れます。CLLの初回治療にはイブルニチブもしくはアカラブルニチブ±オビヌツズマブが推奨されています。アカラブルニチブは、経口投与可能なブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害薬であり、BTKの酵素活性を選択的かつ不可逆的に阻害します。アカラブルチニブはBTKの活性部位のシステイン(Cys-481)残基と共有結合することで、B細胞性腫瘍の増殖および生存シグナルを阻害します。アカラブルニチブはカプセル製剤(商品名:カルケンスカプセル)として2021年に承認され、CLL治療薬として販売されていますが、胃内pHが4を超える条件下では溶解度が低下します。そのため、プロトンポンプ阻害薬との併用は可能な限り避け、制酸薬およびH2受容体拮抗薬と併用するときは投与間隔を2時間以上空けるなどの注意が必要です。しかし、血液がん患者の20~40%は、胃内pHを変化させる薬剤の投与を受けていると推定されているため、胃内pHの条件に左右されずに溶出する新しい薬剤の開発が望まれていました。今回承認されたカルケンス錠は、アカラブルチニブをマレイン酸水和物にすることでpH依存的溶解プロファイルを改善し、生理学的pHの範囲内で十分な溶解性を有することが確認されています。健康被験者を対象とした生物学的同等性試験(海外第I相試験であるD8223C00013試験)において、本剤およびカプセル剤を空腹時投与した結果、カプセル剤投与に対する本剤投与におけるアカラブルチニブのCmaxおよびAUC(0-last)の最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ1.00(90%信頼区間:0.91~1.11)および0.99(0.94~1.04)であり、いずれも生物学的同等性の判定基準範囲内(0.8~1.25)でした。これにより、生物学的同等性の基準を満たすことが確認できました。

666.

第254回 「別腹」神経を発見

「別腹」神経を発見いつもの食事が済んで満腹のはずなのに砂糖が豊富な甘いものをつい食べてしまう…といういわば「別腹」をもたらす神経回路がマウスの研究で見つかりました1,2)。摂食行動は食べ物の見た目、匂い、入手しやすさなどの外的要因と、餓えや満腹感などの内的要因の影響を受けます。甘いものを欲することは哺乳類の多くで認められ、ヒトの新生児でさえ甘い溶液をより摂取することが知られています3,4)。脳の奥まったところにある視床下部は、血中を巡る栄養やホルモンの変化に反応する神経回路を備えています。視床下部の一画を占める弓状核(ARC)から別の視床下部領域の室傍核(PVH)に伸びるプロオピオメラノコルチン(POMC)発現神経は、満腹感に携わる神経回路の中心的な役割を担います。満腹だと、脂肪組織から放出されて栄養が足りていることを脳に知らせるホルモンであるレプチンがPOMCの発現を促します。POMCから生じるα-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)がPVHの神経のメラノコルチン4受容体(MC4R)に結合することで餓えが収まり、満腹感が高まって摂食が減少します。POMCはα-MSHのみならずβ-エンドルフィンの前駆体でもあります。そのβ-エンドルフィンを伝達役とする神経回路が満腹でも砂糖なら食べてしまう「別腹」を生み出すことが今回の新たな研究で判明しました。β-エンドルフィンを有するPOMC発現神経はARCからPVHではなく視床下部の外の視床室傍核(PVT)に伸びており、光で刺激したところPVTにβ-エンドルフィンを放出しました。90分間食べたマウスに砂糖の量が少ないいつもの餌か砂糖豊富な餌を差し出すと、いつもの餌を前にしたマウスに比べて砂糖豊富な餌を前にしたマウスのほうがより多く食べました。しかし、PVTに伸びたPOMC発現神経末端を光で阻害したところ砂糖豊富な餌の摂取量が減りました5)。一方、活動を開始する夜の始まりの空腹マウスのPOMC発現神経を阻害しても砂糖豊富な餌の摂取もいつもの餌の摂取も変化しませんでした。それらの結果によると、満腹でも砂糖豊富な甘いものならついつい食べてしまう摂食行動はPVTを介するPOMC発現神経回路(POMC→PVT回路)を介して生み出されるようです。新たな肥満治療の開発に向けたPOMC→PVT回路の研究が今後一層進むだろうと著者は言っています1)。参考1)Minere M, et al. Science. 2025;387:750-758.2)Dessert stomach emerges in the brain / Eurekalert 3)Maller O, et al. Symp Oral Sens Percept. 1973;4:279-291.4)Maller O, et al. J Comp Physiol Psychol. 1973;84:496-501.5)Farooqi S. Science. 2025;387:717-718.

667.

認知症リスクが高い抗コリン薬はどれ?

 これまでの研究により、抗コリン薬の長期投与は、認知機能低下や認知症発症と関連することが報告されているが、個々の薬剤によってそのリスクには差がある可能性がある。今回、過活動膀胱治療に用いられるさまざまな抗コリン薬と高齢者の認知症リスクを調べた結果、オキシブチニン、ソリフェナシン、トルテロジンが認知症の増加と関連していたことを、英国・ノッティンガム大学のBarbara Iyen氏らが明らかにした。BMJ Medicine誌2024年11月12日号掲載の報告。 研究グループは、2006年1月1日~2022年2月16日に英国のClinical Practice Research Datalink GOLDデータベースに登録された一般診療所954施設の電子健康記録を用いてネステッドケースコントロール研究を実施した。対象は研究期間中に初めて認知症の診断を受けた、および/または認知症治療薬が処方された55歳以上の17万742例(認知症群)で、年齢、性別、臨床状態、期間を基に認知症ではない80万4,385例(対照群)をマッチングさせた。 認知症の診断/処方の3~16年前(対照群は同等の日付)に過活動膀胱の治療に使用された抗コリン薬(darifenacin、フェソテロジン、フラボキサート、オキシブチニン、プロピベリン、ソリフェナシン、トルテロジン、trospium)と抗コリン薬ではない選択的β3アドレナリン受容体作動薬ミラベグロンについて、それぞれの累積投与量を標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose:TSDD)として算出し、それらと関連する認知症発症のオッズ比(OR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。●両群ともに年齢中央値は83歳、女性は63%であった。●過活動膀胱の治療として抗コリン薬を使用していたのは、認知症群17万742例のうち1万5,418例(9.0%)、対照群80万4,385例のうち6万3,369例(7.9%)であった。多く処方されていた薬剤はオキシブチニン(認知症群4.7%、対照群4.1%)、トルテロジン(4.1%、3.5%)、ソリフェナシン(2.8%、2.4%)であった。●抗コリン薬の使用に関連する認知症の調整ORは1.18(95%信頼区間[CI]:1.16~1.20)であった。男性(調整OR:1.22、95%CI:1.18~1.26)のほうが女性(調整OR:1.16、95%CI:1.13~1.19)よりも高かった。●認知症のリスクは、オキシブチニン、ソリフェナシン、トルテロジンの使用によって増大した。TSDD 0(非投与)と比較した場合の調整ORは以下のとおり。 【オキシブチニン】 ・TSDD 1~90の調整OR:1.04(95%CI:1.01~1.07) ・TSDD 91~365の調整OR:1.14(95%CI:1.07~1.21) ・TSDD 366~1,095の調整OR:1.31(95%CI:1.21~1.42) ・TSDD 1,095超の調整OR:1.28(95%CI:1.15~1.43) 【ソリフェナシン】 ・TSDD 1~90の調整OR:1.02(95%CI:0.97~1.08) ・TSDD 91~365の調整OR:1.11(95%CI:1.04~1.19) ・TSDD 366~1,095の調整OR:1.18(95%CI:1.09~1.27) ・TSDD 1,095超の調整OR:1.29(95%CI:1.19~1.39) 【トルテロジン】 ・TSDD 1~90の調整OR:1.05(95%CI:1.01~1.09) ・TSDD 91~365の調整OR:1.15(95%CI:1.08~1.22) ・TSDD 366~1,095の調整OR:1.27(95%CI:1.19~1.37) ・TSDD 1,095超の調整OR:1.25(95%CI:1.17~1.34)●darifenacin、フェソテロジン、フラボキサート、プロピベリン、trospiumの使用による認知症リスクの有意な増大は認められなかった。●ミラベグロンと認知症との関連性はTSDDカテゴリーによって異なった。これは、ミラベグロンを処方された患者の86.2%が以前に抗コリン薬を使用していたことや、TSDD 1,095超の患者が少なかったことが原因と考えられた。 研究グループは「高齢者の過活動膀胱の治療に使用されるさまざまな抗コリン薬のうち、オキシブチニン、ソリフェナシン、トルテロジンが高齢者の認知症の増加と関連していることが明らかになった。これらの結果は、長期的なリスクとその影響を臨床医が考慮し、認知症リスクがより低い可能性のある治療薬を検討する必要性を強調している」とまとめた。

668.

胃がんの術後補助化学療法、75歳超の高齢者にも有効/国立国際医療研究センターなど

 StageII/IIIの切除可能胃がん患者では、手術単独では再発リスクが高いため術後補助化学療法が標準治療となっている。しかし、臨床試験では75歳超高齢患者の参加が限られ、75歳超高齢者に対する術後化学療法に関しては、これまで明確なエビデンスが得られていなかった。 国立国際医療研究センター・山田 康秀氏らの研究グループは、日本胃学会が管理する全国胃登録のデータを用いて75歳超の高齢患者を含めた胃がん患者の特徴を解析、生存期間に影響を与える因子を特定し、術後補助化学療法の効果を検証した。本試験の結果はGlobal Health and Medicine誌オンライン版2025年1月25日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。・2011~13年に国内421施設で胃がん治療を受けた3万4,931例から、StageII/IIIの1万5,848例、腹腔細胞診が陽性でほかの遠隔転移がないCY1(StageIV)の2,052例を解析対象とした。年齢、性別、全身状態(ECOG-PS)などを用いて傾向スコアマッチングを行った。・術後補助化学療法はStageII/IIIでは全体の53.5%、75歳超の28.5%が受けており、使用された薬剤はS-1単剤が最も多かった。・術後補助化学療法群は手術単独群に比べ、全生存期間(OS)が有意に延長した(StageIIのハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.54~0.69、StageIIIのHR:0.54、95%CI:0.50~0.59)。・StageIIの患者の5年OS率は、術後補助化学療法群83.1%に対し、手術単独群は75.5%だった。75歳超の高齢者に限ると、この差は74.4%対60.5%となった。 研究者らは以下のようにまとめている。・再発予防を目的としたStageII/III胃がん患者に対する切除後の補助化学療法は、多くの臨床試験で対象となる75歳以下の患者同様、75歳超の患者にも有効であった。・術後化学療法は全年齢を通じて有効であったが、75歳超の患者は75歳以下の患者に比べて5年OS率が10ポイント程度低く、予後不良であった。・75歳以下、女性、手術前に何も症状がない、術前腎機能が正常、胃全摘術を受けていない、腹腔鏡手術を受けた患者の生存期間が長かった。・術後化学療法は、残胃がん、腹腔内以外に遠隔転移がないCY1の患者に有効であった。「胃治療ガイドライン(2021年版)」では、胃切除術後の予後が不良であるCY1胃がんに対してS-1単剤療法が推奨されているが、これまでエビデンスレベルは高くなかった。本研究の結果、CY1胃がんに対する術後化学療法の有用性が示された。・胃全摘術は術後合併症および術後補助化学療法コンプライアンス(服薬継続)低下のハイリスク因子の1つであった。今後は、幽門保存胃切除術、噴門側胃切除術に加え、胃分節切除術または胃局所切除術の検討や、その有用性を臨床試験で評価することが望まれる。

669.

女性を悩ます第3の狭心症や循環器障害の指標とは/日本循環器協会

 日本循環器協会が主催するGo Red for Women Japan健康セミナー「赤をまとい女性の心臓病を考える2025」が、2月8日に東京大学の安田講堂で開催された。循環器疾患において、症状の違いや診断精度、治療法に対する性差がが明らかになっている昨今、日本国内でもそれらを学ぶための機会として、2024年より本イベントが始まった。本稿では、赤澤 純代氏(金沢医科大学総合内科学 臨床教授/女性総合医療センター センター長)と高橋 佐枝子氏(湘南大磯病院 副院長)の講演内容において、とくに患者に知っておいてほしい内容にフォーカスし、お届けする。循環器障害の指標となるむくみ、意識したい身体部位 まず、赤澤氏が「女性の健康と循環~むくみの鑑別と漢方~」と題し、漢方治療において重要な3本柱である気血水の“気”の生成や働き、その異常(気鬱、気逆、気虚)により生じるむくみについて解説。むくみを患者に意識してもらうことは、女性の各ライフステージの健康を考えていくうえでも重要であり、とくに更年期以降の女性の心疾患の罹患率の上昇にも影響を及ぼすことから、「たかがむくみ、されどむくみ」と強調した。むくみ改善のための血管の透過性を整えるための漢方としては、桂皮、桂枝、人参が重要で、治療薬の例として桃核承気湯の気逆への有効性などを挙げた。また、一言でむくみと言っても、その症状にはさまざまな疾患が隠れていることから、一般参加者に向けて、「スネを10秒押しても皮膚の変化が見られない場合は甲状腺機能低下症を、熱感がある場合は蜂窩織炎を、40秒以内に戻る場合は低アルブミン血症を疑う。そして、40秒以上戻らない場合には心疾患や腎疾患が発症している可能性を考慮し、一度、病院受診してほしい」と呼びかけた。このほか同氏は、舌診によりむくみや血流の悪さがわかるので舌の変化にも意識を向けること、1週間で2~3kgの体重変化がないか、などの注意すべき身体変化について啓発した。女性を悩ます第3の狭心症 続いて、高橋氏が「女性に多い微小血管狭心症」について説明した。胸痛を有する患者のうち心臓CTやカテーテル検査で狭窄や閉塞が目視できない患者が存在し、狭心症としての診断が遅れるケースが散見される。その原因が虚血性非閉塞性冠疾患(INOCA:Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)の1つの微小血管狭心症である。INOCAは2020年にESCからVijay Kunadian氏ら専門家によるコンセンサスドキュメントの発表1)などをきっかけに診断方法などが提唱され、国内でも2015年に発刊された初版が『2023年JCS/CVIT/JCC ガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療』2)にアップデートされている。胸痛があり冠動脈造影にて狭窄を認めなかったのは、男性が30%だったのに対して女性は60~70%に上り、微小血管狭心症の罹患には性差があると示唆されている。同氏は「微小血管狭心症の主な症状として、典型的な狭心症症状以外にも、発作時間が長い、ニトログリセリンの効果が薄い、症状に強弱があったり倦怠感などの訴えもあり循環器系の疾患ではないと診断されることも多い」とコメント。治療法について、「微小血管の循環障害、微小血管攣縮それぞれの治療法があるが、併存している患者も含まれるため、個々の対応が重要」とも説明した。最後に同氏は「微小血管狭心症は女性に多い疾患で、症状が非典型的であるために診断がつきにくいものの確立してきている。治療に関しては患者さんごとのカスタムメイドが必要」と締めくくった。Go Red for Womenとは Go Red for Womenは、“心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、国内では日本循環器協会が中心となり2024年よりこの活動がスタートした。今回は上記2名の医師による講演のほか、パネルディスカッションにはタレントの山瀬まみ氏を迎え、一般参加者を盛り上げた。なお、今年は東京会場のほかに大阪・梅田スカイビルでも2月22日に開催が予定されている。

670.

MCI高齢者に対するVR介入の有効性〜メタ解析

 アルツハイマー病は、根治不能な疾患であるが、軽度認知障害(MCI)の段階で仮想現実(VR)を用いた介入を行うことで、認知症の進行を遅らせる可能性がある。中国・上海交通大学のQin Yang氏らは、MCI高齢者におけるVRの有効性を明らかにするため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Medical Internet Research誌2025年1月10日号の報告。 2023年12月30日までに公表された研究をWeb of Science、PubMed、Embase、Ovidよりシステマティックに検索した。対象研究は、55歳以上のMCI高齢者の認知機能、気分、QOL、体力に対するVRベース介入を自己報告で評価したRCT。調査されたアウトカムには、一般的な認知機能、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能、言語機能、視空間能力、うつ病、日常生活能力、筋力パフォーマンス、歩行/バランスなどを含めた。2人の独立した担当者により、特定された論文と関連レビューの検索結果およびリファレンスリストをスクリーニングした。介入の構成要素と使用された実施および行動変化の手法に関するデータを抽出した。適格基準を満たした場合に、メタ解析、バイアスリスク感度分析、サブグループ解析を実施し、潜在的なモデレーターを調査した。エビデンスの質の評価には、GRADEアプローチを用いた。 主な結果は以下のとおり。・18研究、MCI高齢者722例を分析に含めた。・VR介入は、VR認知トレーニング、VR身体トレーニング、VR認知運動デュアルタスクトレーニングがさまざまな没入レベルで行われていた。・VR介入により、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能の有意な改善が認められた。【記憶力】標準化平均差(SMD):0.2、95%信頼区間(CI):0.02〜0.38【注意力/情報処理速度】SMD:0.25、95%CI:0.06〜0.45【実行機能】SMD:0.22、95%CI:0.02〜0.42・セラピストによる介入のないVR介入でも、記憶力だけでなく注意力/情報処理速度の改善が認められた。・VR認知トレーニングにより、MCI高齢者の注意力/情報処理速度の有意な改善が認められた(SMD:0.31、95%CI:0.05〜0.58)。・没入型VRは、注意力/情報処理速度(SMD:0.25、95%CI:0.01〜0.50)および実行機能(SMD:0.25、95%CI:0.00〜0.50)の改善に対し有意な影響を示した。・一般的な認知機能、言語機能、視空間能力、うつ病、日常生活能力、筋力パフォーマンス、歩行/バランスに対するVR介入効果は、非常に小さかった。・GRADEアプローチに基づくエビデンスの質は多様であり、特定の認知機能評価に対しては中程度、その他の評価では低であった。 著者らは「MCI高齢者に対するVR介入は、記憶力、注意力/情報処理速度、実行機能の改善に有効であることが示唆された。エビデンスの質は中程度〜低であったことから、これらの結果を確認し、新たな健康関連アウトカムについても検討するうえで、さらなる研究が必要とされる」と結論付けている。

671.

中/遠位血管閉塞による脳卒中、血管内治療は機能障害を改善せず/NEJM

 中大脳動脈(MCA)のdominant M2区域の急性閉塞に対する血管内治療(EVT)の有効性を示唆する無作為化試験のエビデンスがあるが、現在の米国および欧州のガイドラインでは、中血管または遠位血管の閉塞を有する虚血性脳卒中に対してEVTは推奨されず、禁忌ともされていないという。スイス・バーゼル大学病院のMarios Psychogios氏らDISTAL Investigatorsは、DISTAL試験において、中血管または遠位血管の閉塞による虚血性脳卒中患者の治療では、最良の内科治療単独と比較して、これにEVTを併用しても、機能障害レベルを改善せず、重篤な有害事象や死亡率の低下をもたらさないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年2月5日号に掲載された。11ヵ国の医師主導型無作為化試験 DISTAL試験は、医師主導型の実践的な評価者盲検無作為化試験であり、2021年12月~2024年7月に、11ヵ国55病院で患者を登録した(スイス国立科学財団[SNSF]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、CT血管造影またはMRI血管造影で確認された中血管または遠位血管の孤立性閉塞(MCAのnondominantまたはcodominant M2区域、MCAのM3またはM4区域、前大脳動脈のA1、A2、A3区域、後大脳動脈のP1、P2、P3区域の閉塞)に起因する急性期虚血性脳卒中と診断され、NIH脳卒中尺度(NIHSS)スコア(0~42点、高点数ほど症状が重度)が4点以上の患者を対象とした。 被験者を、最終健常確認から24時間以内に、ETV+最良の内科治療または最良の内科治療単独を受ける群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日の時点での修正Rankin尺度(mRS)スコア(0[まったく症候がない]~6[死亡])で評価した機能障害の程度とした。mRSスコア0、1の達成、NIHSSスコア正常化にも差はない 543例(年齢中央値77歳、女性44%)を登録し、ETV+最良内科治療群に271例、最良内科治療単独群に272例を割り付けた。全体の入院時のNIHSSスコア中央値は6(四分位範囲[IQR]:5~9)であり、脳卒中発症前のmRSスコアは、0または1が436例(80.3%)、2が60例(11.0%)、3または4が45例(8.3%)であった。 発症時に97.9%が自宅におり、最終健常確認から無作為化までの時間中央値は3.9時間だった。ベースライン時の主な閉塞部位はM2区域(44.0%)、M3区域(26.9%)、P2区域(13.4%)、P1区域(5.5%)であった。静脈内血栓溶解療法は65.4%に施行されていた。 EVT+最良内科治療群の271例中229例(84.5%)で実際にEVTが行われ、画像診断から動脈穿刺までの時間中央値は70分(目標の60分をオーバーした)、再開通成功率は71.7%だった。 主要アウトカムである90日時のmRSスコア中央値は、ETV+最良内科治療群が2.0(IQR:1.0~4.0)、最良内科治療単独群は2.0(1.0~3.0)であり、スコアの分布に両群間で有意な差を認めなかった(スコア改善の共通オッズ比[OR]:0.90[95%信頼区間[CI]:0.67~1.22]、p=0.50)。 副次アウトカムの、90日時の良好な機能アウトカム(mRSスコア0または1)の達成(補正前OR:0.88[95%CI:0.61~1.25])、24時間時の神経学的欠損の重症度の改善(NIHSSスコアの正常化)(補正前平均群間差:0.02[95%CI:-0.10~0.14])、EQ-5D-5Lおよび視覚アナログ尺度などで評価した生活の質(QOL)のスコアは、いずれも両群間で有意な差はみられなかった。90日死亡率は15.5% vs.14.0% 重篤な有害事象(ETV+最良内科治療群114例vs.最良内科治療単独群88例、補正後OR:1.27[95%CI:0.84~1.97])、24時間以内の症候性頭蓋内出血(16例[5.9%]vs.7例[2.6%]、2.38[0.44~6.14])、90日時の全死因死亡(42例[15.5%]vs.38例[14.0%]、1.17[0.71~1.90])の発生は、いずれも両群間で有意差はなかった。 著者は、「71.7%という再開通成功率は当初の予測より低く、最近の大血管閉塞による脳卒中の試験の知見をも下回っており、これが本試験のあいまいな結果の主な原因と考えられる」「試験の手順(中・遠位血管閉塞の検出の難しさやインフォームドコンセントに時間を要するなど)に起因する治療開始の遅れがEVTの有効性を低下させた可能性がある」「今後、画像診断と改善される可能性のある手技やデバイス材料に基づいて、EVTが有益と考えられる患者を特定するための無作為化試験を実施する必要がある」としている。

672.

睡眠時無呼吸症候群は自動車事故につながる?

 世界保健機関(WHO)の報告によると、2010年以降、交通事故による死亡は5%減少しているとはいえ、2021年には年間119万人を数え、依然として世界的な課題となっている。 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)による睡眠障害は、高血圧、心臓病、糖尿病など多くの病気に関連していることが報告されているが、病気のほかに自動車事故との関連が加わるかもしれない。米トーマス・ジェファーソン大学シドニー・キンメル医科大学のElliott Sina氏らの最新の研究では、OSAを治療していない人は、自動車事故に巻き込まれる可能性が高いことが明らかになった。この研究結果は、「Otolaryngology-Head and Neck Surgery」に1月21日掲載された。 OSAは睡眠中に何度も呼吸が止まり、熟睡が妨げられる病気だ。その原因は睡眠中に喉の筋肉が弛緩し、気道が閉塞されることにあるとされる。現在、OSAの治療法として一般的に行われているのが持続陽圧呼吸療法(CPAP)である。この治療では、鼻に装着したマスクから空気を送り込むことによって、気道を確保し、無呼吸が発生しないようにする。また、CPAP以外の治療選択肢として、気道をふさぐ組織を切除する(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)、舌の動きを制御する舌下神経に電気刺激を与える(舌下神経刺激)といった手術療法が挙げられる。 Sina氏らの今回の研究では、CPAP療法を受けた患者(CPAP患者群;70万2,189人)、手術を受けた患者(手術患者群;1万1,578人)を含む283万4,163人のOSAの患者データが後ろ向きに解析された。患者データは、病院システムや医師の診療所から匿名化された健康情報を収集する世界的な研究ネットワークである「TriNetX」より抽出した。患者の転帰評価は、救急外来の受診、入院、診療所受診につながった自動車事故の発生率とした。 年齢、性別、BMIなどの傾向スコアをマッチングさせた後に、自動車事故の発生率を解析した結果、手術患者群で、CPAP患者群(6.072%)、無治療患者群(4.662%)よりも事故の発生率が低い(3.403%)ことが示された。 次にCPAP患者群に対する手術患者群の自動車事故発生率のオッズ比(OR)を解析した結果、手術患者群で45.5%(OR 0.545〔95%信頼区間0.480~0.618〕、P<0.0001)の減少が認められた。一方、手術患者群に対する無治療患者群の自動車事故発生率のオッズ比は21.4%(同1.214〔1.060~1.391〕、P=0.0051)増加していた。これは、無治療の患者と比べた場合、手術を受けた患者で事故発生率が低下し、CPAP療法よりも手術を受けた患者で、事故発生率が低かったことを示唆している。 さらに、自動車事故を経験したOSA患者は経験していない患者と比較し、事故発生後に高血圧、糖尿病、心不全などを併発する確率が有意に高くなることが示唆された(いずれもP<0.0001)。 Sina氏は本研究について、「この研究は、OSAの特定の患者に対する効果的な代替治療として、舌下神経刺激などの外科的介入を支持する結果となった」とコメントしている。また研究グループは本研究を、「特にOSAの症状が重い一部の患者では、手術が自動車事故のリスク低減に有効な手段なのではないか」と総括した。 また、研究グループは本研究の限界として、「TriNetXより提供されるデータの量と質は医療機関、地理ごとに異なっていた可能性がある。本研究で、無治療患者群におけるOSAの重症度が軽度であった可能性があり、この点はCPAP患者群より事故が少なかった理由になり得る」と指摘している。

673.

糞便移植で糖尿病に伴う消化器症状が改善する可能性

 1型糖尿病に伴う合併症で、吐き気、腹部膨満感、下痢などの消化器症状を来している人が、健康な人の糞便カプセルを服用すると、それらの症状が緩和するという研究結果が「eClinicalMedicine」1月号に掲載された。論文の筆頭著者である、オーフス大学(デンマーク)のKatrine Lundby Hoyer氏は、「本研究は1型糖尿病患者を対象に、糞便移植の有用性を対プラセボで検討した初の試みである。結果は非常に有望であり、糞便カプセル群に割り付けられた患者では、プラセボ群の患者で観察された変化を大きく超える、症状と生活の質(QOL)の改善が認められた」と語っている。 1型糖尿病患者の約4分の1が、合併症の糖尿病性胃腸障害を患っているとするデータがある。糖尿病性胃腸障害は、消化管の働きをコントロールしている神経が、慢性高血糖によってダメージを受けることで発症する病気であり、治療法はごく限られている。Hoyer氏らは、糖尿病性胃腸障害を来している患者の腸の状態を、糞便移植によって改善できないかを検討した。なお、糞便移植は健康な人の腸内細菌を患者に対して移植するという治療法で、重度の下痢を引き起こすことのある有害な細菌(クロストリディオイデス・ディフィシル)による感染症の治療などに応用されている。 この研究では1型糖尿病患者20人を募集し、ランダムに10人ずつの2群に分け、糞便またはプラセボのカプセルを、無糖飲料とともに摂取してもらった。なお、糞便カプセルの作成には8人の健康なドナーの糞便が用いられ、それらは混合せず、10人の患者はそれぞれ1人のドナーの糞便から作られたカプセルを摂取した。 解析の結果、糞便移植を受けた患者は、消化器症状を表すスコアが、58から35へと有意に低下していた。プラセボを摂取した患者のスコアは、64から56への変化だった。また、過敏性腸症候群のQOLへの影響の評価尺度を用いた検討では、糞便移植群のスコアは108から140に上昇していた一方、プラセボ群は77から92への変化にとどまっていた。 本研究の結果についてHoyer氏は、「この治療法は一部の患者にとって、疾患発症前の日常生活を取り戻せるほどの意味を持つ。糞便移植には大きな可能性があり、より多くの患者が恩恵を受けられるように、さらに研究を推し進めていきたい」と話している。ただ、糞便移植が糖尿病臨床における一般的な治療選択肢の一つとなるまでには、長期的な安全性・有効性の検証や、特に有用な患者群を治療前に特定するための研究などが必要とされる。論文の上席著者である同大学のKlaus Krogh氏も、「糞便移植に期待している患者に対して、この治療法を広く適用できるようにしていくために、やるべきことは少なくない」と述べている。

674.

ダラツムマブ配合皮下注、高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫に申請/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年2月14 日、ダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ダラキューロ配合皮下注)について、「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫」を効能又は効果として、製造販売承認事項一部変更承認申請を行った。 今回の申請は、高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)を対象にダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ配合皮下注単剤療法の有効性と安全性を検証した国際共同第III相AQUILA試験に基づくもの。 AQUILA試験では上記患者390例を対象に、本剤群と経過観察群が比較された。結果、観察期間中央値 65.2ヵ月で、経過観察群に比べ本剤群は主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善した(ハザード比:0.49、95%信頼区間:0.36〜0.67、p<0.0001)。この解析結果は第66回米国血液学会年次総会(ASH2024)で発表され、NEJM誌オンライン版にも掲載されている。 SMMは多発性骨髄腫の前駆状態であり、異常な形質細胞が骨髄内で検出されるものの無症状である。SMMに対する標準的アプローチでは、病勢進行または臓器障害発現まで経過観察するが、最近は多発性骨髄腫への進行リスクが高い患者には早期治療介入の可能性が示唆されている。

675.

第230回 高額療養費制度見直し、長期患者の負担据え置き/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度見直し、長期患者の負担据え置き/政府2.がん患者の10年生存率54.0% 進行がんでも長期生存の可能性/国立がん研究センター3.コンビニでの市販薬販売が可能に、薬機法改正案を閣議決定/政府4.診療所の後継者不足深刻化、診療所の承継・開業を支援/厚労省5.医療機関のセキュリティ対策に警鐘、サイバー攻撃で4万人の情報流出/岡山県6.八戸市の病院で発覚した殺人隠蔽事件、死亡診断書偽造で理事長・主治医逮捕/青森県1.高額療養費制度見直し、長期患者の負担据え置き/政府政府は、高額な医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の見直しを進めていたが、長期療養者の負担増を懸念する声を受け、一部の修正を決定した。具体的には、直近12ヵ月で3回以上制度を利用した場合、4回目以降の自己負担を軽減する「多数回該当」の負担上限額を据え置くこととした。これは、がん患者団体などからの反対意見や、少数与党となった政府が野党の批判を考慮した結果とみられる。政府は2024年末に、制度の持続性確保のため、患者負担の上限額を段階的に引き上げる案を発表。しかし、当事者の声を十分に聞かずに決定したことで批判を招き、修正を迫られた。修正案は、患者団体から一定の評価を得たものの、団体側は負担増を全面的に凍結するよう引き続き求めている。一方、政府は高齢化や医療技術の進展による医療費増大への対応として、負担増は不可避との立場を示している。社会保障費の抑制が少子化対策の財源確保にもかかわるため、今回の修正により他の分野での財源確保が求められる。今後、制度全体の見直しを巡り、さらなる議論が必要となる。参考1)高額療養費引き上げ案 長期患者の負担額を据え置き 厚労相提示(毎日新聞)2)高額療養費、患者・野党に配慮 歳出抑制は一部先送り(日経新聞)3)高額療養費 政府 長期療養の負担据え置き“修正で理解得たい”(NHK)2.がん患者の10年生存率54.0% 進行がんでも長期生存の可能性/国立がん研究センター国立がん研究センターは、2012年にがんと診断された約39~54万人の患者データを分析し、5年および10年の生存率を初めて集計した。全体の10年生存率は54.0%で、前回調査(2011年診断)とほぼ同じ水準だった。とくに進行がん(ステージ3、4)では、診断から1年を乗り切った患者の5年生存率が上昇する傾向が確認された。たとえば、ステージ4の胃がん患者の5年生存率は、診断時点では12.5%だったが、5年生存した場合には61.2%に向上した。一方、早期がん(ステージ1、2)は5年生存率がほぼ横ばいだった。乳がんについては、進行度や経過年数にかかわらず生存率に大きな変化はみられなかった。研究を主導した同センターの石井 太祐研究員は、「進行がんの患者にとって治療が奏功するケースが多いことや、合併症が少ない場合に生存率が高まる可能性を指摘。がん患者やその家族にとって希望となるデータだ」と述べている。この調査結果は、がん診療の向上や患者への前向きなメッセージとなることが期待される。参考1)院内がん登録2012年10年生存率集計 公表 サバイバー5年生存率を初集計(国立がん研究センター)2)進行期のがん、診断早期乗り切ると生存率上昇 39万人データを集計(朝日新聞)3)進行がんの5年生存率、診断から年数経つほど上昇「院内がん登録」のデータ基に初めて調査 国がん(CB news)3.コンビニでの市販薬販売が可能に、薬機法改正案を閣議決定/政府政府は2月12日、医薬品医療機器法(薬機法)の改正案を閣議決定した。この改正により、薬剤師や登録販売者がいないコンビニなどの店舗でも、市販薬(一般用医薬品)が購入できるようになる。ただし、薬剤師からオンラインで説明を受けることが条件。患者はスマートフォンなどで確認証を取得し、店舗で提示することで購入可能となる。薬局やドラッグストアと連携し、自動販売機での販売も検討されている。また、改正案では、新薬開発を支援するための基金創設や、医薬品の安定供給対策も盛り込まれた。わが国の創薬力低下が課題とされる中、スタートアップ企業の支援や研究施設の整備に国と製薬企業の資金を充てる。さらに、医薬品供給不足への対応として、製薬会社に供給管理責任者の設置を義務付け、電子処方箋を活用した需給モニタリングを進める。一方、日本医師会は、市販薬の販売拡大に伴う医療機関の受診控えや健康被害の懸念を表明。とくに「OTC類似薬の保険適用除外」には反対の立場を示し、医療費削減のみを目的としたセルフメディケーションの推進は、患者の負担増や重篤な疾患の見逃しにつながると指摘するとともに、経済的弱者や小児医療への影響が懸念されている。政府は、薬剤アクセスの利便性向上と医療費削減を狙うが、医療界からの慎重な対応を求める声も強く、今後の国会審議の行方が注目されている。参考1)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案(厚労省)2)コンビニで薬剤師不在でも薬購入可能に…厚労省方針、オンライン説明が条件(読売新聞)3)コンビニで市販薬購入、薬機法改正案を閣議決定(日経新聞)4)市販薬購入、コンビニでも可能に 医薬品医療機器法などの改正案を閣議決定(産経新聞)5)日医 「社会保険料削減」目的のOTC類似薬の保険外し、OTC化に反対姿勢露わ 「重大な危険性伴う」(ミクスオンライン)4.診療所の後継者不足深刻化、診療所の承継・開業を支援/厚労省厚生労働省は、医師が不足する地域の医療提供体制を維持するため、診療所の承継や開業を支援する事業を開始する。2024年度の補正予算で102億円が計上され、施設・設備の整備や一定期間の定着支援が行われる予定。とくに、高齢医師の引退による診療所の閉鎖が進行しており、2040年には全国の自治体の約2割で診療所が消滅する可能性があるとの試算が示されている。この事業では、都道府県が「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」を指定し、全国の医師に対して地域診療所の承継や新規開業を呼びかける。応じた医師には、建物改修や医療機器更新費用の一部補助、診療が軌道に乗るまでの一定期間、医師・看護師の人件費や消耗品の購入費の支援が提供される。また、中堅・シニア世代の医師を対象に、医師不足地域への広域マッチング支援も行われる。これは、キャリアコンサルティングや教育を提供し、医療機関とのマッチングや定着を支援する取り組みであり、1.6億円の予算が割り当てられている。厚労省の試算によると、2022年時点で診療所がない市区町村は77にのぼり、2040年には342へと増加する見込み。また、診療所が1ヵ所しかない自治体も175から249へと増えるとされる。高齢化に伴い、2024年の診療所の休廃業・解散件数は587件と過去最多を記録し、日本医師会の調査では全国の診療所の半数が「後継者不在」と回答している。現場の医師からは、「地域住民を診る医師が不足する恐れがある」との声が上がっており、経済的支援による後継者確保への期待が寄せられている。厚労省は、補助事業とともに、重点区域で働く医師の手当増額や都市部の医師が地方に赴任しやすい環境の整備も進める方針だ。参考1)令和6年度補正予算について[報告](厚労省)2)診療所の半数「後継者いない」…医師不足地域の承継や開業に補助金、偏在対策で厚労省が補正予算(読売新聞)3)令和6年度補正予算/押さえておきたい施策 医療編(医療福祉業界ピックアップニュース)5.医療機関のセキュリティ対策に警鐘、サイバー攻撃で4万人の情報流出/岡山県岡山県精神科医療センター(岡山市)が、昨年5月に受けたサイバー攻撃による患者情報流出問題で、専門家委員会は「適切な対策を講じていれば防げた人災だった」との報告書を公表した。最大約4万人分の個人情報が流出し、原因は脆弱なパスワード管理やセキュリティ対策の不備にあったと報告書では指摘している。報告書によると、病院ではID・パスワードの使い回しが常態化し、管理者権限が一般ユーザーにも付与されていた。さらに、VPN装置の脆弱性が放置され、接続元IPの制限がなかったため、外部から容易に攻撃が可能だった。これらの不備が重なり、ランサムウェア感染によるシステム障害とデータの暗号化が発生した。また、厚生労働省の医療情報セキュリティガイドラインに従っていれば、適切なパスワード設定やアクセス管理の強化により被害は防げたと指摘している。病院側は、現時点で個人情報の悪用は確認されていないとし、今後、専門家の指導の下セキュリティ強化を進める方針を示している。報告書では「このようなサイバー攻撃は他の医療機関でも発生し得る」と警鐘を鳴らし、VPNの強化、多要素認証の導入、パスワードの適正化を推奨している。参考1)患者情報等の流出について(岡山県精神科医療センター)2)岡山県精神科医療センター患者情報流出は「人災」専門家委員会(NHK)3)ID・PW使い回しなどで個人情報最大4万人分流出 岡山県精神科医療センターがサイバー攻撃報告書(CB news)6.八戸市の病院で発覚した殺人隠蔽事件、死亡診断書偽造で理事長・主治医逮捕/青森県青森県八戸市の「みちのく記念病院」において、2023年3月に発生した患者間殺人事件を巡る隠蔽工作が明らかとなり、元院長の石山 隆(61)と被害者の主治医で弟の石山 哲(60)が犯人隠避の容疑で逮捕された。病院側は、遺族に虚偽の死亡診断書を渡し、死因を「肺炎」と偽装して事件を隠蔽しようとしたとされる。事件は、同病院の入院患者であった59歳の男が、相部屋の73歳男性の目を歯ブラシの柄で複数回突き刺し、翌日に死亡が確認されたもの。逮捕された2人は、この殺人を把握しながら、県警に通報せず、死因を偽った診断書を作成した疑いが持たれている。とくに問題視されているのは、死亡診断書の署名欄に、高齢で認知症の疑いがある医師の名前が記入されていたことだ。この医師は当時入院患者であり、病院側が死亡診断を任せる形で関与させたとみられる。病院内では死因を「肺炎」とする不自然な死亡診断書が多く発行されており、県警では虚偽の診断書作成が常態化していた可能性があるとみて捜査を進めている。さらに、看護師の証言によれば、元院長の石山 隆容疑者が死亡診断書の作成を指示していたことも判明。複数の看護師を介して、認知症の疑いがある入院患者の医師に診断を担わせるよう指示が出されていた。事件当時、夜間に医師が不在であったことも問題視されており、看護師が独断で医療行為を行う状況が常態化していたとの証言もある。この事件を受けて、専門家からは行政の監視体制の強化を求める声が上がっている。現在、医療機関に対する立ち入り検査は原則として事前通告の上で行われており、強制力がないため、不正の発覚が難しいという課題がある。抜き打ち検査の実施や医療機関の監査体制の見直しが求められている。青森県は医師不足が深刻な地域であり、とくに長期入院が必要な患者を受け入れる病院が限られている。その中で、みちのく記念病院は地域医療の重要な役割を担っていたが、今回の事件を受けて病院運営の在り方が厳しく問われている。県警は今後、虚偽の死亡診断書の作成が他にも行われていた可能性を含め、詳細な捜査を進める方針である。参考1)院内殺人事件 診断書の名義人の医師は入院中で認知症の疑い(NHK)2)院内殺人事件 隠蔽疑い 元院長ら うその診断書作成指示か(同)3)「転倒した」殺人被害者遺族に看護師うその説明 偽造死亡診断書事件(朝日新聞)4)患者間の殺人、犯人隠避容疑で逮捕状…みちのく記念病院の当時の院長と主治医(読売新聞)

676.

「詰んだ」と言われた株主優待がなぜ復活? 医師のための最新投資戦略【医師のためのお金の話】第89回

一時は「詰んだ」と思われていた株主優待。2022年4月に東証再編と上場維持基準の変更が行われ、企業にとって株主優待制度の必要性が低下しました。その影響で廃止や縮小に踏み切る企業が増加したため、株主優待を楽しんでいた私も意気消沈していました。ところが最近、株主優待に復活の兆しがみられます。廃止する企業は3年連続で増加しているものの、2021年から新設する企業が増加したため、2024年には純増に転じました。株主優待制度を導入している企業は減っていると思いきや、意外にも増加傾向にあるのです。株主優待制度が拡充されるのは、個人投資家にとって朗報です。とくに、私のように株主優待を楽しみにしている投資家にはありがたいかぎりです。一方で、この制度は日本特有の文化であり、海外投資家には理解されにくい側面があります。それでも株主優待制度が堅調に推移している理由は何なのでしょうか。その背景を探ることで、私たち個人投資家が株主優待に取り組むべき投資戦略がみえてきます。最近の株主優待制度をめぐる状況を考えてみましょう。株主優待制度が再び注目を集める理由とは株主優待制度が再び注目を集める背景には、さまざまな要因があります。主な理由として挙げられるのは、以下の3つです。新NISAの開始株式の持ち合い解消アクティビストの台頭上場企業を取り巻く環境は、激変しつつあります。最もインパクトが大きいのは、企業による株式の持ち合いを解消する動きでしょう。また、経営に積極的に関与しようとするアクティビストの影響を緩和して、企業経営を安定させたいと考える企業も増えています。これらの変化により、企業は個人投資家を新たな安定株主として迎え入れることを重視するようになっています。ちょうど、新NISAを通じて市場に参入する個人投資家が増えており、株主優待への関心が高まっています。株主優待は、株式投資の実感を得やすい仕組みとして、新規の個人投資家を引きつける役割を果たしています。実際、多くの企業が個人投資家に魅力を感じてもらうための施策として、株主優待制度を復活・拡充しているのです。また、個人投資家の増加は株価の安定にも寄与しています。たとえば、暴落時に機関投資家はリスク管理の観点から買い出動をためらいますが、個人投資家は株主優待を目的に株を購入するケースが珍しくありません。実際、私もそのような逆張り投資家の1人です。株主優待のトレンドは安定株主による長期保有株主優待制度にはコストが伴うため、費用対効果が求められます。その中で注目されるのが「長期保有優遇制度」です。この制度は、一定期間株を保有した株主に優待を提供することで短期取引を抑えて、長期的な投資を促す役割も果たしています。さらに、長期保有期間が長くなるほど、優待内容をより魅力的にする企業も増えています。たとえば、保有3年目以降には増額するといった形で、長期保有を推奨する仕組みがみられます。このようなステップアップ型の優待は、株主の継続的な投資を促します。長期保有優遇制度の導入により、企業は安定した株主基盤を確保でき、経営の安定性を高めることが可能です。一方、個人投資家にとっても、企業の成長を見守りながら株主優待を受ける楽しみがあり、長期的な視点での資産形成にメリットがあります。個人株主がとるべき投資戦略とはここまで株主優待制度の現状をみてきました。それでは私たち個人投資家は、どのような戦略をとるべきなのでしょうか。ここでは、私が実践している株主優待の投資手法をご紹介します。最初におすすめしたいのは、長期保有優遇制度を導入している企業を投資対象にすることです。この戦略は、株主優待を「掠め取る」目的で、現物株の買いと信用売りを組み合わせるクロス取引とは正反対のアプローチです。通常、株主優待を「すぐ手に入れたい」と思うものですが、なぜあえて1~3年以上も待つのでしょうか? その理由は、長期保有優遇制度を導入している企業は株主優待制度を長期間維持する可能性が高いと考えられるからです。長期保有優遇制度では、クロス取引が通用しにくいため、企業側がクロス取引投資家のコストを負担する必要がありません。招かれざる投資家を排除することで、株主優待制度の継続性が期待できるのです。次におすすめしたいのは、郵送費の負担が少ない株主優待を選ぶことです。最近の郵送料値上げは記憶に新しいですが、今後もさらに上昇する可能性があります。そのため、かさばる株主優待はコストがかさみ、長期間維持されにくくなるでしょう。狙い目は、自社製品のポイントや金券、割引カードといった、郵送コストが小さいものです。一方、QUOカードのような自社と関係のない金券を株主優待にしている企業は、業績悪化で廃止する可能性があります。このため避けた方が無難でしょう。企業は、長期間保有してくれる安定株主を欲しています。私たち個人投資家も企業のニーズに乗っかって、長期目線で株主優待制度を楽しむ姿勢が大切です。株主優待を通じて、じっくり資産形成していく喜びを噛みしめたいものです。

677.

第82回 臨床試験における「外れ値」の取り扱いは?【統計のそこが知りたい!】

第82回 臨床試験における「外れ値」の取り扱いは?日々の業務でデータ収集を行っていると、他のデータと比較して極端に大きい(もしくは小さい)データを目にすることがあるのではないでしょうか。他のデータと比べて極端な値のデータのことを「外れ値」と呼びます。外れ値を含んだままデータ分析を行うと、外れ値に引っ張られて、分析結果や傾向が変わってしまう場合があるため、取り扱いには注意を要します。しかし、場合によっては外れ値を分析することで、重要な知見が得られることもあるため、一概にすべて除けばよいとも言い切れません。本シリーズの第41回「外れ値とは」において外れ値の意味や判定方法について解説していますので、本稿では、「臨床試験や医療統計の分野」に限定して、「外れ値」の取り扱いについて解説します。■外れ値(outlier)臨床試験や医療統計の分野では、データの外れ値を扱うことは非常に重要な課題です。外れ値を単純に除外してしまうと、試験の結果が実際の状況を正確に反映していない可能性があるため、多くの論文で外れ値の扱いについては、慎重なアプローチが推奨されています。それでは、なぜ外れ値を除外してはいけないのか、主として以下の3つがあります。1)代表性の喪失臨床試験のデータは、対象とする集団を代表するものであるべきです。外れ値を除外することで、特定の症例や反応を無視することになり、集団の実際の特性を反映しない結果になる恐れがあります。2)バイアスの導入外れ値を除外することで、結果にバイアスが導入され、誤った結論に至る可能性があります。これは、とくに小さいサンプルサイズの研究で顕著になります。3)重要な情報の損失外れ値は、時に予期しない重要な発見や異常値の原因を示す可能性があります。これらを除外することで、重要な医学的洞察を見逃す可能性があります。■除外しない場合の臨床試験の結果の論文のまとめ方それでは、外れ値を除外しない場合、臨床試験の結果をどのように論文でまとめていくのでしょうか。1)データの詳細な記述外れ値を含めたすべてのデータを詳細に記述し、データの分布や特性を読者が理解できるようにします。2)感度分析の実施外れ値の影響を評価するために、外れ値を含むデータと除外したデータの両方で分析を行い、結果の差異を報告します。3)外れ値の探索的分析外れ値が発生した理由や背景を探求し、それが結果に与える影響を評価します。ICH-E9(臨床試験のための統計的原則)にも「外れ値の取り扱い」については、次のように記載があります。実際の値を用いた解析のほかに、外れ値の影響を除くか小さくする別の解析を少なくとも1つ行うべきであり、それらの結果の間の差異を議論すべきである。外れ値と思われるデータを含めた場合と除外した場合の解析の2つの間で差異がない場合には、その解析結果は「頑健」であると言えます。たとえ違いがあったとしても、それが薬剤の影響ではないということを、いろんな視点から論述することができれば、問題ありません。大切なことは「なぜそのような値が出てきたのか」を考察することにあります。■外れ値を除外してもよいケース外れ値を除外できる具体的なケースは限られていますが、以下のような状況では除外が許容されることがあります。1)データの記録や入力の明らかな誤りデータが明らかに誤って記録または入力された場合、それは除外してもよいと考えられます。2)プロトコル違反臨床試験のプロトコルに従わなかった参加者からのデータは、場合によっては分析から除外されます。3)機器の故障や操作ミスによるデータ測定機器の故障や操作ミスにより、誤ったデータが得られた場合、これを除外することがあります。それぞれのケースで外れ値をどのように扱うかは、研究のコンテキスト(context)や目的に応じて慎重に決定しなければなりません。また、外れ値を単純に除外してしまうことはできません。データの除外を行う場合には、その理由と方法を論文に明記し、データ除外が結果に与える可能性のある影響についての詳細な説明を述べることが重要です。データを除外する場合などの注意事項や配慮する事項を下記に4つ示します。1)除外の正当性の説明なぜ特定のデータポイントが外れ値とみなされ、除外されたのかについて、明確な根拠をもって記述します。これは、他の研究者が同様の状況でどのように対処すべきかを理解するのにも役立ちます。2)分析への影響の評価外れ値を除外することが結果にどのような影響を与えるかを評価し、記述します。これには、外れ値を含めた場合と除外した場合の分析結果を比較することが含まれることがあります。3)透明性の確保研究の再現性と透明性を確保するために、外れ値を特定し、除外するために使用した基準や手法を詳細に記述します。4)補足分析の提供可能であれば、外れ値を含む分析と除外する分析の両方を実施し、結果の違いを報告することで、外れ値が研究結果に与える影響を読者が理解できるようにします。これらのプロセスを通じて、研究者はデータの外れ値を適切に扱い、その結果、信頼性が高く、再現可能であり、透明性のあるものにするために努めなければなりません。データの除外は、研究の信頼性を損なわないように慎重に行われるべきということになります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第41回 外れ値とは?第56回 正規分布とは?第78回 4種類あるエラーバーについて

678.

在宅で痙攣に対応する【非専門医のための緩和ケアTips】第94回

在宅で痙攣に対応する脳腫瘍や脳転移をはじめとして、痙攣は進行がん患者の緩和ケアでよく遭遇する症状です。前回の髄膜播種の回でも触れました。緊急対応が必要となる症状なので、しっかり理解して、準備をしておくことが重要です。今回の質問脳転移のある肺がん患者さん。自宅で痙攣していると訪問看護師から連絡がありました。薬剤を持っていくにも時間がかかる状況で、救急搬送せざるを得ませんでした。もう少しできることがあったかと思うのですが、どう対応すれば良かったのでしょうか?脳転移のように中枢神経に病変がある場合、痙攣発作が生じることがあります。すでに脳転移がある場合は、抗けいれん薬を使用していることが多いかと思います。ただ、訪問診療で診ている状況では、病状がさらに進行することや内服が安定しなくなることがあり、入院中はコントロールできていた痙攣が在宅で再発することも珍しくありません。緩和ケアで遭遇する痙攣で難しいのは、「重積状態になりやすい」ことです。考えてみれば当然で、脳腫瘍や脳転移のように器質的な病変が中枢神経にあるのですから、痙攣の原因を除去することができません。痙攣がなかなか止まらないのも納得です。もう1つ難しい点は、「静脈路が確保しにくい」ことです。とくに在宅医療の状況下では、事前準備がないと静脈路確保に時間がかかってしまいます。また抗がん剤治療を長く頑張ってきた患者は血管がもろくなっており、ルート確保をしたくてもできないことがあります。そういった観点からは、筋肉注射などの投与経路の代替手段を多く知っておく必要があります。在宅緩和ケアで痙攣を生じやすい患者に対応するためには、事前の準備が重要です。具体的には、痙攣時に備えた薬剤の準備と、家族や訪問看護師との情報共有を大切にしましょう。痙攣時に備え、私は前もって小児用の坐薬のジアゼパムを処方しておくことがあります。一般的には成人に対して使用することは少ないのですが、痙攣が発生して訪問看護師に連絡をし、到着を待つ時間は家族にとって不安なものです。在宅医療の特性上ある程度は仕方ないものの、医療者が到着するまでに何らかの対応ができることは、本人や家族の安心につながります。家族でも投与しやすい坐薬を自宅に置き、痙攣が起こった時はまずはそれを家族に使ってもらい、その間に自宅に向かうのです。痙攣重積となり、単発の抗けいれん薬の投与では痙攣が止まらない時には、注射での持続投与が必要です。この時点で入院を勧めるかどうかは、予想される予後や患者本人・家族の状況や希望によるでしょう。ただ、痙攣は多くのご家族が在宅療養を継続することは難しいと感じる症状であり、在宅の医療者にとっても対応困難である場合も多いものです。ですので、私は「入院を検討してもよいと感じている」と率直にお伝えしながら、何が本人と家族にとっての最善かを話し合うようにしています。在宅緩和ケアで難しい対応を迫られる痙攣ですが、皆さまの経験はいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsがん患者の痙攣には、事前の「薬剤」と「話し合い」が大切。

679.

岐阜大学医学部 消化器外科・小児外科(附属病院消化器外科・乳腺外科・小児外科)【大学医局紹介~がん診療編】

松橋 延壽 氏(教授)田中 善宏 氏(准教授)佐藤 悠太 氏(講師)大川 舞 氏(特任助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴主治医制ではなくチーム制を敷くことで、夜間の呼び出し対応や休日の当番制などを行い、できるだけ拘束のない夜間・休日を過ごせるように心掛けています。ロボット手術も若い医師が執刀できるようにcertificate取得を順次行っています。また学会発表および誌上報告などは上級医の指導体制のもとで行い、出張費および投稿費は全額教室運営費で支援しています。また基本的に大学院への入学を推奨し、多種多様な研究を行いながら視野の広い外科医に成長できるような指導体制を構築しています。地域のがん診療における医局の役割若者の都会志向により、ハイボリュームセンター病院での研修が好まれるようになり、地方での研修を好む医師の減少は、地域外科医療を担うわれわれにとっては大きな問題となっています。地域では外科医に求められるがん診療に、救急医療、抗がん剤治療、がん緩和医療などがあり、スペシャリストでなくジェネラリストとしての人材も求められるため、幅広い外科診療を教育することが重要な役割と考えています。今後医局をどのように発展させていきたいか若い医師がそれぞれの領域でやりがいを持ち働き、人が集まる教室に発展させていきたいと考えます。医師の育成方針医は仁術という言葉のように、驕ることなく常に自分自身に謙虚であること。患者さんには常に優しく接し、患者さん個々にとって最高かつ最適な医療を提供できるよう日々自己研鑽を行える医師を育成したいと思っています。力を入れている治療/研究テーマ消化器外科では、解剖の座学・手術シュミレーション機器・キャダバー実習や臨床経験を通じてスキルを身に付け、内視鏡・ロボット手術に取り組んでいます。がんの系統的な手術手技・管理を学ぶことは、ひいては外傷・救急医療において自信につながります。小児外科でも、積極的に内視鏡手術を取り入れ、手術を行うだけでなく子供たちとその家族への心のケアも大切にしています。乳腺外科では、診断から治療、ラジオ波焼灼療法や乳房再建術などを体系的に学ぶことができます。すべてのチームが日本の臨床研究グループに参加し、多くのエビデンス創出に関わっています。本医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力トランスレーショナルリサーチとは、臨床現場での疑問を基礎研究し、その知見を実際の治療に活かすプロセスです。腫瘍の生物学的特性(糖鎖研究やゲノム解析など)に切り込み、新規医療体制の実現に向けた新しい治療法の開発に取り組んでいます。Baseとなる知識獲得のためには、限られた時間を有意義に! をモットーにオンラインでの抄読会を行っています。エビデンスを創出し海外に発信することは、みなさんの一生のレガシーです!医局の雰囲気、魅力外科医にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 私たちはがんと戦う患者さんの命を預かり、その後の一生に関わっていきます。自らの手で患者さんの身体に傷を作る代わりに、体内に巣食う諸悪の根源の周りに、綺麗な切り取り線を描いて根治に挑みます。手術に限らず周術期管理や集学的治療にはチームワークも極めて重要です。ですから外科医は、石橋をたたいて渡る慎重派のアテンダントであり、相手の気持ちの機微を読み解くメンタリストであり、芸術家であり、職人であり、そして向上心を持ったチームの一員なのです。私たちの医局は岐阜大学以外の出身者が大半を占めながらも、医局に代々流れる「和を以て貴しとなす」、互助の精神に溢れています。女性外科医も多く所属しており、ライフワークバランスを尊重しながら、みな一線で活躍しています。医学生/初期研修医へのメッセージ外科はとても「楽しい」科です。手術はもちろん、外科学には数多の分野が存在し、そのすべてに無限の可能性があります。人生をかけて本気でやりたいと思える事が見つかるはずです。それを見つけた私たちが、次は皆さんの夢の続きをサポートします。本医局を選んだ理由出身大学かつ初期研修も県内で行っていたこともあり、医局選択には迷いませんでした。大学時代の実習では、手術参加から外来見学まで濃厚に指導いただきました。糸結び・縫合の手技や、第2助手での手術参加など、研修医と遜色ないくらい充実した実習でした。初期研修は当医局の関連施設でもある岐阜市民病院で行いました。外科での研修は多忙ではありましたが、優しく熱心な先生方ばかりでストレスなく充実感に満ちたものでした。乳腺外科はもちろんですが、消化器外科も含め、この先生方のもとで学びたいと思い、当医局に入局を決めました。現在学んでいること外科専攻医期間を終え、現在は乳腺外科診療を行っています。手術件数も多く、昨年度は83件の手術執刀機会をいただきました。乳房再建手術や、遺伝性乳がん卵巣がん症候群のリスク低減乳房切除術など、多彩な術式を経験できています。外来診療では、KEYNOTEレジメンや臨床試験参加など最新のトピックスを、臨床を通じて勉強しています。最近は臨床研究課題に取り組んでいます。まだ力不足ですが、ご指導いただきながら楽しく勉強させていただいています。岐阜大学大学院医学研究科医科学専攻外科学講座 消化器外科・小児外科(附属病院消化器外科・小児外科・乳腺外科)住所〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1-1問い合わせ先tajima.jesse.yu.s4@f.gifu-u.ac.jp(田島 ジェシー雄)医局ホームページ岐阜大学大学院医学研究科医科学専攻外科学講座 消化器外科・小児外科専門医取得実績のある学会日本外科学会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会、日本消化管学会、日本大腸肛門病学会、日本食道学会、日本胸部外科学会、日本肝胆膵外科学会、日本救急医学会、日本腹部救急医学会、日本小児外科学会、日本周産期・新生児医学会、日本小児泌尿器科学会、日本乳学会、日本人類遺伝学会、日本遺伝性腫瘍学会、日本栄養治療学会、日本麻酔科学会、他多数研修プログラムの特徴(1)専門性の高い医療経験により、プロフェッショナルへの最短距離を提案します!臓器別に特化した専門医療を経験することは、一人前への近道です。将来目指すべき道、自分が本気でやりたいと思える事を、少しでも早く見つけるチャンスがたくさんあります。(2)一般病院に負けない場数を踏み、一般病院では得られない症例が経験できます!豊富な症例数があり、研修医でも執刀機会があります。珍しい術式や高難度手術、希少疾患を経験できる機会に溢れています。(3)研修が将来の資格獲得に直結します!外科医が最初に目指す資格は日本外科学会の外科専門医です。1ヵ月あれば、最低でも消化器15~20例、乳腺8~10例、小児外科5~10例、資格のための症例数を集められます。詳細はこちら岐阜大学医学部附属病院・医師育成推進センター

680.

英語で「腋窩」、医療者or患者向けの2つの表現を解説【患者と医療者で!使い分け★英単語】第5回

医学用語紹介:腋窩 axilla「腋窩(えきか)」は医療の専門用語ではaxillaといいますが、腋窩について説明する際、患者さんにaxillaと言って通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

検索結果 合計:33454件 表示位置:661 - 680