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片頭痛予防に有効な食事パターンは?

 片頭痛は、患者の生活の質に重大な影響を及ぼす一般的な神経疾患である。食事パターンは、片頭痛の予防とマネジメントにおいて、潜在的に重要な因子として認識されている。イラン・Kerman University of Medical SciencesのVahideh Behrouz氏らは、地中海式ダイエット、高血圧予防のための食事療法DASH食、神経発生遅延のための地中海-DASH食介入(MIND)、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエット、断食ダイエットなど、さまざまな食事パターンを比較分析し、片頭痛の予防とマネジメントにおける有効性を評価し、その根底にあるメカニズムを明らかにするため、システマティックビューを実施した。Brain and Behavior誌2025年7月号の報告。 2023年8月までに公表された観察研究および介入研究をPubMed、Web of Science、Scopusデータベースよりシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・地中海式ダイエット、DASH食、MIND、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエットなどの特定の食事パターンに従うことは、とくにグルテン過敏症の患者において、片頭痛の症状改善に有望な結果が示された。・地中海式ダイエット、DASH食、MINDといった植物性食事パターンに多く含まれる植物性ポリフェノール、野菜、食物繊維、脂肪分の多い魚、豆類、低脂肪乳製品の摂取量増加は、片頭痛の症状改善との関連が認められた。・片頭痛の臨床的特徴は、食事の脂肪の種類と量の変化に伴って改善することが示唆された。・ケトジェニックダイエットとω3脂肪酸の摂取を重視した低脂肪食は、いずれも片頭痛の臨床的特徴に対する有望な介入である可能性が示された。・断食や食事を抜くことは、片頭痛発作の悪化と関連が認められた。・全体として、これらの食事療法は、ミトコンドリア機能の改善、神経保護、血管緊張の調節、酸化ストレス/神経炎症の抑制、片頭痛の病因に関与するカルシトニン遺伝子関連ペプチドのレベルの低減など、さまざまな細胞経路において主要な役割を果たす可能性が示唆された。 著者らは「特定の食事療法を選択することは、片頭痛患者にとって実行可能なアプローチとなる可能性があり、明確なガイドラインを確立するためにもさらなる研究が求められる」と結論付けている。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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官民学で肥満対策に取り組む千葉市の事例/千葉市、千葉大、ノボ

 国民の健康維持や医療費の削減などのため、肥満や過体重に対するさまざまな取り組みが行われている。今回、千葉市とノボ ノルディスク ファーマは、官民学連携による肥満・肥満症対策の千葉モデルの実施について「肥満・肥満症対策における課題と実態調査から見る官民学連携による千葉モデルの展望」をテーマに、メディアセミナーを開催した。セミナーでは、千葉市との連携の経緯やその内容、肥満症に関する講演、肥満症に関係する課題や今後の取り組みなどが説明された。官民学で千葉市から始まる新しい健康作りの流れ 同社が2024年9月に実施した全国47都道府県9,400人へのアンケート調査「肥満と肥満症に関する実態調査」によれば、「太っていることが原因で他人からネガティブなことを言われた内容」について、「体型が好ましくない」(57.6%)、「運動不足である」(45.5%)、「だらしない、怠惰である」(34.5%)の順で多かった。また。「『肥満』を解消するために医療機関を受診しなかった理由」では、「肥満は自己責任だと思うから」(39.8%)、「医療機関に行くとお金がかかるから」(35.4%)、「相談するほどの肥満だと思っていないから」(25.0%)の順で多く、肥満や肥満症に関するスティグマ(偏見)、社会的偏見の存在が確認されたという。 そこで、こうした課題に対し、2024年10月に千葉市と肥満および肥満症に関する環境を整備し、千葉市がより健康な社会を実現するモデル都市になることを目指すことを目的に協定を締結した。具体的には、地域住民・保健医療関係者の肥満・肥満症の理解向上、関連疾患の分析、子供の健康応援などの事項について連携を行うとされている。 はじめに千葉市長の神谷 俊一氏が、千葉市は最重要政策の柱の1つに「市民一人ひとりの健康寿命を伸ばし、誰もが豊かに暮らせる地域社会を作ること」を掲げていること、そのために「市民の健康に関する意識の向上を図り、行動変容を促し、健康作りに取り組みやすい社会環境を作る行動の後押しとしたい」と語り、今後は、三者が相互に協力しながら、市民の健康増進に取り組んでいき、「千葉市から始まる新しい健康作りの流れが全国へ波及していく第一歩となることを願う」と抱負を語った。肥満者の約4割が医師に相談は不要と回答 続いて基調講演として「肥満および肥満症 千葉市民の実態調査結果を踏まえて」をテーマに千葉大学学長の横手 幸太郎氏が、肥満症診療の要点と実態調査の内容などを解説した。 「わが国では20歳以上の肥満者は男性31.7%、女性21.0%とされ、年々BMI35以上の高度肥満も増えている」と疫学を示した上で、肥満と肥満症、メタボリックシンドロームは、概念が個々で異なり、肥満はBMI25以上、肥満症は、肥満(BMIが25以上)かつ、(1)肥満による耐糖能異常、脂質異常症、高血圧などの11種の健康障害(合併症)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に肥満症と診断されている。また、肥満症は治療が必要な疾患とされ、治療では食事、運動、行動、薬物療法、外科的療法が行われている。 そして、肥満・肥満症の原因としては、自己責任だけでなく、現在の研究では、遺伝的要因、職業要因などさまざまな要因により起こることが指摘されており、肥満・肥満症になることでスティグマや経済的問題、睡眠不足やメンタルヘルスなどの疾患など課題もあると説明した。 次に2025年3月に千葉市が市民に行った「肥満および肥満症に関する実態調査」について触れ、この調査は、千葉市民の男女2,400人(年齢20~70代)にインターネットで調査したもので、肥満症の認知について、「知っている」という回答は16.9%に止まり、医師への相談意向についても「思う・やや思う」で31.0%だった。その理由としては「相談するほど肥満だと思っていない」が43.4%で1番多かった。また、「肥満の人への印象」では、「運動不足である」が45.5%で1番多かった。 これらの調査を踏まえて横手氏は、「肥満はリスクであり、肥満症は病気である。一方、肥満・肥満症は自己責任だけでなくさまざまな要因が関連している。今回実施した千葉市民の肥満・肥満症に関する実態調査でも、千葉市民における肥満・肥満症に対する正しい理解の不足、そしてスティグマが存在することが明らかになった。予防だけでなく、治療を通して長きにわたる良い管理をして健康を保つためにも、スティグマの払拭が必要。自分で抱えることなく、それを社会でサポートして、リスクを認知し、どうやってそれを乗り越えて元気で長生きを実現するかが必要であり、今千葉市でこうした動きが出ている」と語り、講演を終えた。子供の健康応援を全世界で実施 次に「プロジェクトの進捗」について、同社の広報・サステナビリティ統括部の川村 健太朗氏が、今回の連携で行われている施策を紹介した。 3月4日「世界肥満デー」に合わせた疾患啓発として、千葉市の『市政だより』やSNSで肥満や肥満予防に関する記事の発信のほか、先述の実態調査を行ったこと、市民公開講座を実施したこと、大阪万博での発表などの取り組みが紹介された。 とくに3回にわけて行われた「ロゴ・スローガンの開発ワークショップ」では、官民学連携による新しい肥満・肥満症対策の取り組みが議論され、「みんなで気づく、みんなで動く。千葉市肥満と肥満症をほっとかない! プロジェクト」のローンチとロゴが決定されたことを紹介した。 最後に「今後に向けて」をテーマに同社の医療政策・渉外本部長の濱田 いずみ氏が同社の今後の取り組みを説明した。 肥満症の克服には社会的な連携が必要であること、そして、幼児期から思春期に肥満の子供は、成人後に肥満になる可能性が5倍高く、不安障害やうつ病のリスクも高いことが研究で示されていることから、今回の連携協定では「子供の健康応援」が含まれ、子供が健康に育つために運動と食事改善、地域に根ざした多様なアプローチなど仕組み作りを行うという。この取り組みは、世界5ヵ国(カナダ、スペイン、ブラジル、南アフリカ、日本)で展開しており、千葉市もその一環であることが説明され、「今後も肥満症を始めとする深刻な慢性疾患の克服に全社を挙げて取り組んでいく」と決意を述べた。

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狂犬病予防レジメン、モノクローナル抗体は有用か/Lancet

 狂犬病は、ほぼ確実に死に至る、主としてアジアとアフリカの低・中所得国で影響の大きいウイルス性疾患の人獣共通感染症である。ワクチンと免疫グロブリンによる曝露後予防(PEP)がきわめて効果的だが、狂犬病免疫グロブリン(ヒト狂犬病免疫グロブリン[HRIG]またはウマ狂犬病免疫グロブリン[ERIG])の製造・供給にさまざまな制約があり、低・中所得国の狂犬病への高リスク曝露例の大半は、狂犬病免疫グロブリンによる予防的治療を受けていないという。インド・Serum Institute of IndiaのPrasad S. Kulkarni氏らRAB-04 study groupは、同国で開発され2016年に受動的予防法として承認された世界初の狂犬病モノクローナル抗体(RmAb、Serum Institute of India製[Pune])について市販後調査を実施。RmAbは安全で忍容性は良好であり、狂犬病に対する予防効果が示されたことを報告した。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。無作為化試験で免疫グロブリンレジメンと比較 研究グループはインドの3次救急病院15ヵ所で、RmAbを含むPEPレジメンの長期安全性、免疫原性および有効性を評価する、第IV相非盲検無作為化実薬対照試験を行った。 対象は、WHOの狂犬病曝露カテゴリー3(狂犬病感染が疑われる動物による曝露)を有する2歳以上で、試験登録前72時間未満に曝露があった患者(顔、首、手、指への曝露については試験登録前24時間未満)を適格とした。 被験者を、RmAb+精製Vero細胞狂犬病ワクチン(PVRV[Rabivax-S])またはERIG(Equirab製)+PVRVのいずれかのPEPを受ける群に3対1の割合で無作為に割り付けた。さらに各群で、筋肉内投与または皮内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。各試験群には、ブロックサイズ8の並び替えブロックデザインを用いて割り付けられ、試験開始前に中央無作為化リストが作成され、双方向ウェブ応答システムを用いて無作為化された。免疫原性の検査担当者は割り付けを知らされなかった。 RmAb(3.33 IU/kg)およびERIG(40 IU/kg)は、WHO 2018推奨に従い0日目にのみ創傷内および創傷周囲に注射投与した。PVRVは、1.0mLを筋肉内投与(0日目、3日目、7日目、14日目、28日目:Essenレジメン)または0.1mL+0.1mLを皮内投与(0日目、3日目、7日目、28日目:updated Thai Red Crossレジメン)した。 主要アウトカムは予防的治療後365日までの治療関連重篤有害事象で、安全性解析対象集団(ワクチンと予防的治療を1回以上受けた全被験者)で評価した。また、狂犬病ウイルス中和抗体濃度の幾何平均値(GMC)をサブ対象集団で評価した。主要アウトカムの治療関連重篤有害事象は0件、長期の免疫応答を確認 2019年8月21日~2022年3月31日に、4,059例が登録・無作為化された。計3,994例(男性3,001例、女性993例)がPEPレジメンによる治療を受けた(RmAb+PVRV群2,996例、ERIG+PVRV群998例)。両群のベースライン特性は類似しており、平均年齢はRmAb+PVRV群30.3(SD 17.0)歳、ERIG+PVRV群30.6(17.5)歳、18歳未満の被験者がいずれも25.1%であった。また、曝露動物は犬がそれぞれ93.5%と92.6%。曝露から無作為化までの平均時間は15.1時間と15.4時間であった。 3,622例(90.7%)が1年間のフォローアップを完了した。 治療関連有害事象は、RmAb+PVRV群11件、ERIG+PVRV群で17件が報告された。ほとんどの有害事象は、軽度で一過性であった。 重篤な有害事象は、RmAb+PVRV群7例で7件報告されたが、すべて治療との関連は認められなかった。ERIG+PVRV群では治療と関連がある重篤な有害事象が1件報告された。 14日目に狂犬病ウイルス中和抗体濃度のGMCは、RmAb+PVRV群は16.05 IU/mL(95%信頼区間[CI]:13.25~19.44)に、ERIG+PVRV群は13.48 IU/mL(9.51~19.11)に上昇した(GMC比のポイント推定値:1.19[95%CI:0.82~1.72])。 1年間のフォローアップ中、狂犬病を発症した被験者はいなかった。 結果を踏まえて著者は、「RmAb+PVRVのPEPレジメンは、免疫原性が認められ、免疫応答は長期にわたり持続した」とまとめている。

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脳梗塞発症後4.5~24時間、アルテプラーゼ静注vs.標準薬物治療/JAMA

 虚血性脳卒中発症後4.5時間以降における静脈内血栓溶解療法の安全性と有効性については、いまだ十分な検討は行われていない。中国・Second Affiliated Hospital of Zhejiang University, School of MedicineのYing Zhou氏らHOPE investigatorsは無作為化試験において、灌流画像で救済可能組織が確認され、血栓除去術が当初予定されなかった急性虚血性脳卒中患者では、発症後4.5~24時間以内のアルテプラーゼ静脈内投与は、症候性頭蓋内出血は増加したが機能的アウトカムのベネフィットが得られたことを示した。JAMA誌オンライン版2025年8月7日号掲載の報告。無作為化試験で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、中国の26ヵ所の脳卒中センターで無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。2021年6月21日~2024年6月30日に、主幹動脈閉塞を問わず灌流画像で救済可能組織が確認された虚血性脳卒中を呈した患者372例を登録した。脳卒中発症(発症が不明の場合は、最終健常確認と症状確認の中間時点)が受診前4.5~24時間であり、血栓除去術が当初予定されなかった患者を適格とした。 被験者は、最小化アルゴリズムを用いて1対1の割合で、アルテプラーゼ静注(0.9mg/kg、最大用量90mg)を受ける群(186例)または標準的な薬物治療を受ける(対照)群(186例)に割り付けられた。 主要有効性アウトカムは機能的自立で、90日時点の修正Rankinスケールスコア0~1と定義した。安全性アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の全死因死亡などとした。 データ解析は2024年12月~2025年2月に行われた。機能的自立40%vs.26%、症候性頭蓋内出血3.8%vs.0.5% 登録された372例は、年齢中央値72歳(四分位範囲:64~80)、女性が160例(43%)であり、全例が試験を完了した。 主要アウトカムの機能的自立は、アルテプラーゼ群75/186例(40%)、対照群49/186例(26%)で報告された(補正後リスク比:1.52[95%信頼区間[CI]:1.14~2.02]、p=0.004、補正前リスク群間差:13.98%[95%CI:4.50~23.45])。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群(7/185例、3.8%)が対照群(1/182例、0.5%)と比べて高率であった(補正後リスク比:7.34[95%CI:1.54~34.84]、p=0.01、補正前リスク群間差:3.23%[0.28~6.19])。 90日以内の全死因死亡は、アルテプラーゼ群(20例、10.8%)が対照群(20例、10.8%)と同等であった(補正後リスク比:0.91[95%CI:0.52~1.62]、p=0.76、補正前リスク群間差:0%[-6.30~6.30])。

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がん免疫療法の効果に自己抗体が影響か

 がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(CPI)を用いた治療は、一部の患者では非常に高い効果を示す一方でほとんど効果が得られない患者もおり、その理由は不明である。しかし、その解明につながる可能性のある知見が得られたとする研究結果が報告された。患者自身の自己抗体(自分の細胞や組織の成分を標的として産生される抗体)が、CPIに対する反応に極めて大きな影響を及ぼしている可能性のあることが示されたという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターの免疫療法学科長であるAaron Ring氏らによるこの研究結果は、「Nature」に7月23日掲載された。 Ring氏は、「われわれの研究は、体内で自然に産生される自己抗体が腫瘍を縮小させる可能性を劇的に高め得ることを示している。自己抗体によって患者がCPIに反応する確率が5~10倍も高まるケースがいくつか確認された」と同センターのニュースリリースで述べている。 CPIは、メラノーマや特定の種類の肺がんを含む幅広いがんの治療に革命をもたらしたが、全ての患者がこれらの薬剤に反応するわけではない。そこでRing氏らは今回、CPIによる治療を受けたがん患者374人と健康な対照者131人から採取した血液サンプルを用い、Rapid Extracellular Antigen Profiling(REAP)法によって、6,172種類の細胞外および分泌タンパク質に対する自己抗体の結合パターンを調べた。Ring氏は、「長年、自己抗体は自己免疫疾患の原因となる悪玉と見なされてきた。しかし近年では、体内に備わった強力な治療薬として作用する可能性も明らかにされつつある。われわれの研究室では、自己抗体のこのような薬理作用を解明し、これらの天然分子をがんなどの疾患に対する新たな治療薬として応用することを目指している」と話す。 その結果、がん患者の血液では、健康な人に比べて自己抗体のレベルが著しく高いことが示された。また、特定の自己抗体が患者の予後改善と関連していることも判明した。例えば、サイトカインの一種であるインターフェロン(IFN)のシグナル伝達を遮断する自己抗体は、CPIによる抗腫瘍効果の改善と関連していた。この知見は、IFNが多過ぎると免疫系が疲弊し、CPIによる治療効果が制限される可能性があることを意味すると研究グループは説明している。 Ring氏は、「一部の患者では、免疫系が自ら併用薬を作り出したかのようだ。その自己抗体がIFNを中和することでCPIの効果を増強している。この発見は、全ての患者に対し、IFNのシグナル伝達経路を意図的に調節する併用療法を考案するための明確な指針となるだろう」と述べている。 一方で、いくつかの自己抗体は患者の予後悪化と関連していた。これは、がんと闘うために不可欠な免疫系の重要な経路を自己抗体が阻害するためだと考えられた。研究グループは、「こうした自己抗体を排除したり、その作用を打ち消したりする方法を見つけることでCPIの有効性を高められる可能性がある」と述べている。 Ring氏は、「これはまだ始まりに過ぎない。現在われわれは、他のがんや治療法にも対象を広げ、自己抗体を活用あるいは回避することで、より多くの患者に免疫療法を届けられるよう取り組んでいるところだ」と話している。

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胎児超音波検査での医療者の言葉が親子関係に影響か

 もうすぐ親になるという人たちにとって、初めてわが子の姿を目にする機会は超音波検査であることが多い。こうした超音波検査で病院のスタッフがお腹の中の子どもについて発した言葉が、その後の育児に良い影響を与えたり、逆に悪い影響を与えたりする可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ノートルダム大学心理学分野のKaylin Hill氏らによるこの研究の詳細は、「Communications Psychology」に5月5日掲載された。 Hill氏らはまず、妊娠11~38週の妊婦320人を対象に聞き取り調査を実施し、その時点でお腹の赤ちゃんがどんな子であると感じているかを尋ねた。その後、生後18カ月の時点で、子どもの行動面や情緒面の問題について評価してもらった。173人が生後18カ月の追跡調査を完了した。 その結果、妊娠中に赤ちゃんに対してポジティブな見方を持っていた母親は、生後18カ月の時点で子どもに情緒的な問題や行動的な問題が少ないと評価する傾向が認められた。一方で、親の評価が妊婦健診での経験と関連している場合には、評価のトーンがネガティブになりがちであった。また、ネガティブな評価は子どもの将来の行動的・情緒的問題と関連していた。ただし、そうしたネガティブな評価が妊婦健診に由来するかどうかはこの関連に影響していなかった。 次にHill氏らは、161人の研究参加者を対象に実験を行い、妊婦健診での超音波検査中に聞いた言葉が、これらの傾向に関係している可能性を検討した。実験では、検査技師から妊婦に超音波画像の質の悪さについて、1)技術的な問題が原因でうまく撮れなかった、2)胎児が「協力的でない」ために画像がうまく撮れなかった、3)心配する必要はなく、その後の超音波検査で良い画像を得られるだろう、のいずれかの言い方で伝えられた。その結果、胎児が「協力的でない」と言われた母親は、他の2つのパターンの説明を受けた母親と比べて、その後、子どもに対して否定的な見方をしがちになる傾向が認められた。 こうした結果を受けてHill氏は、「胎児の発達に関する専門家であると見なされている超音波技師などが検査中に使った言葉はそのまま親に受け止められ、赤ちゃんが生まれる前から『自分の子どもはこういう子だ』という認識に影響を与える」と言う。Hill氏によれば、このような早い段階に自分の子に対して抱いた印象は、女性の産後うつのリスクにも、わずかではあるが重要な影響を及ぼす可能性があるという。 Hill氏は、「もちろん、われわれは親をサポートしたいと考えている。この研究が示しているのは、妊婦との重要なやり取りの中で使われる、一見些細に思われる言葉の選び方の違いがいかに大きく影響するかということであり、その点について、まずは医療従事者と話し合うことが大事だということだ」と話している。 Hill氏は「産前産後の時期は身体的にも心理的にも、また社会的にもさまざまなレベルで変化が起こる時期であり、抑うつリスクが最も高まる時期の一つだ。もし超音波検査での経験が子どもに対する見方に影響を与えるのであれば、それによって親子関係のさまざまな面にも影響が及ぶ可能性がある。このことは親と子の双方の将来にとって極めて重要だ」と述べている。

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高齢期も自由を失い管理される時代になるのだろうか?(解説:岡村毅氏)

 20世紀の人々は、○○を食べると認知症にならない、という夢物語をよく語っていた。例の○○オイルなどだ。その背景には、人々は認知症のこともまだあまり知らず、よくわかんないけど、なりたくないよね、恐ろしいよね、という無垢な認識であったことが挙げられる。大学病院でも、認知症と精神疾患の人はオペ室には入れるべからず、などといわれていた。こういう時代だからこそ「実は○○がよい」みたいな魔法の杖のような話が受ける。何も知らない人同士が無責任に話している世間話にすぎないからだ。これをハイデガーなら頽落と呼ぶかもしれない。 21世紀になり、もうすぐ日本人の10人に1人が認知症か軽度認知障害という時代である。人々も、医療関係者も認知症のありのままの姿をよく知っている。入院患者だって、こども病院以外は高齢者ばかりじゃないか。こう書いている私も、読んでいるあなたも、すべての存在者が、年をとれば向かっていく状態なのだ。 認知症を予防する魔法の杖なんてないことも薄々わかってきた。大変つまらない話ではあるが、まともな食事を食べること、大酒を飲まないこと、煙草を吸わないこと、運動をすること、頭を使うこと、生活習慣病をきちんと管理すること、などは認知症のリスクを微妙に減らすことは常識だ。そこで次に来たのが、たくさんの介入を「全部のせ」にしてしまうというものである。FINGER研究とかUS POINTER研究といったものである。 さてこの論文は、高齢者に、スパルタ的な(?)構造化したプログラムをさせると、テキストなどを渡して勝手にさせるといった、いわば「放牧した」場合に比べると、認知症予防の効果はあったと報告している。 この結果はあまりにも当たり前すぎて論じるほどの価値はないが、精神科医としては、別のアングルから論じてみよう。こういうエビデンスの積み重ねが、高齢期の私たちのあり方をジリジリと変えていくのではないかという視点だ。 20世紀後半は「成人するまでは学校に行く、成人したら働く、子供を作り、60歳ごろまで働き、その後だいたいすぐ死ぬ」という人生であった。その後は高齢期がどんどん延びており、「暇で仕方ない」「やることがない」などと言いながら人々はのほほんと高齢期を暮らしている。基本的に高齢期は、年金もまがりなりにもあるし、仕事は多くの人はしておらず、かなり自由が許されている。昔から高齢者の自由人はいたが、非常にまれだった。こんなライフステージを同時期にたくさんの人が過ごしている現代は、稀有な時代である。 しかし、本論文のような管理された介入を行っている高齢者は、認知症になるリスクが減り、身体疾患のリスクが減り、また社会から完全に離れてしまい、何しているのかわかんなくなってしまうリスクも減るだろう。社会を管理する側から考えるといいことしかなさそうだ。ということは、高齢者はこういったプログラムをすることを義務にしよう、という考え方が出てこないだろうか? FINGERやUS POINTERの研究者がそんなことを考えていると言っているのではなく、100%の善意で研究していることはわかっているが、精神科医とは常に長い時間軸で、俯瞰的に、常識を疑って思考してしまうことが宿命なのでお許しいただきたい。あくまで思考実験である。 高齢期に放牧されていた時代が終わり、高齢期にも学校のようなところに行き、健康に資する生活をすることを強制される(何らかのインセンティブもある。たとえば学校に行っていれば年金が1%増額とか、医療費が多少安くなるとか)という未来もあり得るかもしれない。インドの古来の説でいう「林住期」のように、高齢期には世俗を離れ自由に生きたい、と思っている人にとってはディストピアかもしれない。一方で、認知症のリスクを少しでも下げたい、と願う個人が自主的に参加するということであれば文句を言う筋合いでもなかろう。私は健康でいたいが、同時に自由でいたい。認知症フォビアと多因子介入と全体主義の悪魔合体は、できれば見たくないものである。

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高齢者の内服薬がわからないとき、避難所の医師が迫られる判断【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第4回

災害現場の声「薬を自宅に忘れた、どうすれば?」大規模災害発生から2日目。避難所では、生活環境が破壊され、多くの高齢者が「普段飲んでいる薬がない」と訴えていました。お薬手帳もなく、内服薬の種類も不明。病院も被災し、通常受診は困難です。被災者からは「せめて、普段飲んでいる薬を少しでも欲しい」と切実な声が聞かれました。近年、大規模地震や水害など、インフラが寸断される自然災害が頻発しています。こうした災害時には医薬品の供給が滞り、とくに高齢者は被災ストレスに加え、普段から内服する薬を失うことで健康被害のリスクと不安が著しく高まります。このような切迫した状況下で、医療者はどう対応すべきなのか、以下に対応例と、その際に知っておくと役立つかもしれない内容を解説します。実際にどう対応したか? 限られた情報で判断高齢者の多くは慢性疾患を抱え、日常的な内服薬が必要ですが、大規模災害発生時には、避難するのが精一杯で、内服薬を持参する余裕がなく、自宅に忘れることがあります。実際の現場では、電子お薬手帳を使いこなす高齢者はまれで、紙のお薬手帳なしでは飲んでいる薬剤名を特定することが困難です。こうした被災者の状況を理解し、「薬がないので、薬が欲しい」という訴えに対応するため、内服薬の特定と代替薬の検討を進める必要があります。お薬手帳や口頭で薬剤名が特定できれば代替薬の調整は容易ですし、内服薬が不明でも、既往症が判明した場合(高血圧、糖尿病、心疾患など)、応急的に代替薬を提供することができます。しかし、内服薬・既往症ともに不明なことが大半です。糖尿病や高血圧の既往、ステロイド服用などは生命に直結する可能性もあるため、かかりつけ医に連絡を取るなど、情報を得る努力が必要です。災害時特有のストレスによるリスクと薬剤選択の原則災害時には、薬の中断により急性増悪のリスクがあることに加え、災害時特有のストレスが加わるため、いくつかの注意点があります。循環器系疾患では、災害発生後には急性心不全やたこつぼ型心筋症など、交感神経の活性化によるストレス誘発性の疾患が増加します1~3)。また、糖尿病患者においては、米国での2005年のハリケーン・カトリーナ後の調査でHbA1c上昇が報告されており4)、避難所の炭水化物中心の食事により高血糖が起こりやすくなることが指摘されています。さらに、食欲低下によるシックデイも想定され、血糖管理には注意が必要です5,6)。次に、災害時の薬剤選択も重要です。処方や在庫、服薬管理の煩雑化を防ぐため、可能な限り単純な治療計画を立て、多剤併用を避ける必要があります。長時間作用型で安全性の高い薬を選ぶことも重要です。たとえば高血圧に対しては、頻回服薬が困難な避難所環境に適した、長時間作用型カルシウム拮抗薬が有用です。そして、物資が限られる中では、「少ない薬で最大の効果を狙う」処方が求められるため、薬剤の種類は絞り、個別の患者状態を見ながら調整が必要です。災害時の慢性疾患管理、限られた状況下での判断力と実践力災害時の慢性疾患管理は、日本に限らず世界的にも共通の課題です。薬を忘れて避難した高齢者への対応は、災害発生後の緊急状況における医療者の判断と具体的な行動が重要になります。災害時には物資の供給が滞るため、薬剤不足は命に直結するリスクがあることを留意しておく必要があります。だからこそ、限られた資源の中で最大限の対応ができるよう、目の前の患者から得られる情報に基づき、迅速かつ実践的な判断を下す能力が、災害対応を担う医療者には不可欠です。日常から、外来に通う患者さんには、お薬手帳と内服薬は災害時に必ず一緒に持って避難するように指導し、可能ならば数日分の備蓄を避難用バッグに入れておくように勧めるのもよいでしょう。 1) 循環器病研究振興財団. 災害時における循環器病~エコノミークラス症候群とたこつぼ心筋症~. 2) 坂田泰彦, 下川宏明. 災害と心不全. 心臓. 2014;46:550-555. 3) Babaie J, et al. Cardiovascular Diseases in Natural Disasters; a Systematic Review. Arch Acad Emerg Med. 2021;9:e36. 4) Fonseca VA, et al. Impact of a natural disaster on diabetes: exacerbation of disparities and long-term consequences. Diabetes Care. 2009;32:1632-1638. 5) 日本糖尿病教育・看護学会. 改訂版 災害時の糖尿病看護マニュアル. 2020年. 6) 日本糖尿病協会. インスリンが必要な糖尿病患者さんのための災害時サポートマニュアル. 2012年.

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ChatGPTで英語革命! 生成AI、Chat GPTとは?【タイパ時代のAI英語革命】第2回

Generative AI(生成AI)とは生成AIとそれにまつわる言葉が、ここ数年で急速に一般化しつつありますが、それと同時に混乱しやすい状況も起こっています。似た概念の多くの用語が飛び交うので、多くの人が「AIって具体的に何?」「機械学習とディープラーニングは何が違うの?」「生成AIとLLMの違いは?」といった疑問を抱くのも無理はありません。医療英語という専門分野でAIを活用するためには、皆が用語を正しく理解しておくことで混乱や誤った使い方を防ぐことができます。本章では、ChatGPTをはじめとする「Generative AI(生成AI)」の位置付けを明確にするために、周辺の用語を階層構造にして、整理しながら解説します。画像を拡大する人工知能(AI:Artificial Intelligence)人工知能とは、「人間のように知的にふるまうことを目指す技術」の総称です。最も広義な概念です。AIと聞くとつい最近のことかと思われますが、AIという言葉自体は1956年に生まれており、実は70年もの歴史があります。特化型AI(Narrow AI)AIには大きく「汎用型AI(Strong AI とSuper AI)」と「特化型AI(Narrow AI)」というカテゴリーがありますが、現在実用化されているAIは特定のタスクに特化した特化型AIといわれます。人間が指示したことに対して応えてくれる画像解析、音声認識、チャットボットなどがこれに当たります。汎用型AIとは、いわゆる人間と同じく自分で考え動き、宗教観や価値観などの複雑な感情を持つことができるものですが、まだ実現化されていません。機械学習(Machine Learning)Narrow AIのカテゴリーの中でテクノロジーの中核を担うのが機械学習です。人間がルールを一つひとつ書くのではなく、データからパターンを学習させて判断や予測を行う仕組みです。ディープラーニング(Deep Learning)機械学習の中でも、とりわけ人工ニューラルネットワーク(ANN)を構成したモデルがディープラーニングです。簡単にいうと、より複雑な機械学習のモデルです。たとえば、画像を読み込む、パターンを認識して解析する、それを音声で伝えるといった、目、脳、言語という人間のさまざまな感覚を組み合わせたような複雑な処理を指します。ディープラーニングは、昨今のAIの性能が大幅に向上するきっかけとなりました。生成AI(Generative AI)ディープラーニングのサブカテゴリーに当たる生成AI(Generative AI)は、与えられた情報を基に新しいコンテンツ(文章、画像、音声など)を生成するものです。従来のAIは「分類」や「予測」が主でしたが、Generative AIは「創造する」という点で大きく異なります。名前の知られたChatGPTやGemini、Copilotといったチャットボットはすべて生成AIに当たります。大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)Generative AIの中でも、とくに言語(テキスト)を扱うモデルがLLM(日本語では大規模言語モデル)です。膨大なテキストデータを基に文脈を理解し、自然な文章を生成することができます。ChatGPTの中核はLLMです。GPT(Generative Pre-trAIned Transformer)GPTとは、OpenAIという会社が開発したLLMのうちの1つです。LLMを「クルマ」という大きなカテゴリーだとすると、Open AIはそのうちの超大手会社「トヨタ自動車」、GPTはその会社が作っているクルマに当たります。ChatGPTようやく皆さんが最も身近に聞き慣れているものが出てきましたが、多くの人が日常的に使用しているChatGPTは、先ほどのGPTという頭脳(最新バージョンはGPT-4)を使って作られた対話型アプリのことです。この図と説明でAIに関わるさまざまな用語を階層的に整理できたのではないでしょうか。最後に、ChatGPTを含む「生成AI」でできることを確認しておきましょう。生成AIの力前段で生成AIとは、「コンテンツを創造するAI」であると説明しました。しかし、具体的に何ができるのかを理解するには、実際の分類を見ていくことが重要です。本章では、Generative AIの機能を人間の能力に例えて、以下の3つに大別してご紹介します。1)言語能力これはChatGPTが最も得意とする分野で、人間でいえば「読む」「話す」「書く」といった言語力(脳)、発声(口)、筆記(手)を司ります。自然言語を理解し、意味のある文章として出力するタスクです。以下のような応用が含まれます。質問応答例:医師が「COVID-19の現在の治療指針は?」と尋ねると、ガイドラインを基に要約された回答が返ってきます。感情分析例:自分の打った文章の内容やSNSの投稿から、「満足」「不満」「怒り」といった背後にある人間の感情を読み解くことができます。指示応答例:「5歳の子供にもわかるように糖尿病を説明して」と入力すれば、年齢に応じた表現で文章を生成します。2)感覚・知覚能力生成AIは人間でいう目、耳といった感覚器官の働きも司ります。画像の説明例:病理画像やX線画像を入力すると、「肺の右下葉に浸潤影が見られます」などと自動で解説を生成することができます。視覚質問への応答例:画像と質問を同時に入力し、「このMRI画像に異常はあるか?」と聞くと、それに対して回答を返すことが可能です。知的処理これは人間の「考える」「要約する」といった知能(脳)を司るものです。情報抽出例:カルテ内の大量のデータから患者の病名・検査値だけを自動抽出します。要約例:論文やガイドラインの長文を、数行に簡潔に要約できます。構造化データ解析例:データから傾向を読み取り、「この患者群におけるA薬の副作用発現率は?」といった分析を行います。このように生成AIは、人間が生み出せるもののほとんどの機能を、人間からの的確な指示によって代替します。医療英語分野では生成AIの「言語機能」の面で主にサポートを受けますが、「知的処理」に関しても触れていきます。それでは、今までの知識を踏まえながら、次回から医療英語のためのChatGPTの使い方を見ていきましょう!

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第277回  いよいよ本格化するOTC類似薬の保険外し議論、日本医師会の主張と現場医師の意向に微妙なズレ?(前編)

日経新聞と日経メディカルが 「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という調査結果公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さん、夏休みはどう過ごされたでしょうか。私は、山仲間と2023年に復旧された北アルプスの伊藤新道(長野県側、高瀬ダム上流の湯俣川を三俣蓮華岳に突き上げる沢沿いの登山道。1983年より崩落等により40年間廃道でした)に行く予定でした。しかし、天候や沢の状況(復旧されたものの、落石と増水で吊橋や桟道が何ヵ所か破損し、すでに使用不能に)を勘案し、今年は断念することにしました。来年夏に再び挑戦しようと山仲間と話しているのですが、自分たちの年齢、体力、気力との相談になりそうです。さて、三党合意(自民・公明・維新)によるOTC類似薬の保険外しに関する議論がまもなく本格化します。この動きに反対する日本医師会など、医療団体の動きも活発になってきました。日本医師会は8月6日の記者会見で、改めてOTC類似薬の保険外しの動きに対し強い反対の意向を表明しました。ところが、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で今年7月に行った調査では、「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という意外な結果が出ています。日本医師会の主張と現場の医師の意向にはどうも微妙なズレがあるようです。予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定だがOTC類似薬の保険外しの政策は、2025年6月11日に基本方針が三党で合意され、6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)に「OTC類似薬(市販薬と成分や用量が同等の処方薬)を段階的に保険給付から除外する」という方針が盛り込まれました。本連載でも「第270回 『骨太の方針2025 』の注目ポイント(後編) 『OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し』に強い反対の声上がるも、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?」で、「骨太の方針2025」に対する日本医師会の松本 吉郎会長の「OTC類似薬を保険適用から除外した場合、たとえば院内での処置等に用いる薬剤、薬剤の処方、在宅医療における薬剤使用に影響することが懸念されるが、これは絶対に避けなければならない」というコメントを紹介しつつ、「『セルフメディケーションを推進すれば、健康被害が増える』というロジックはいかがなものでしょう。(中略)OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害が頻発している状況をさておいて、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体がパターナリズムに近いものを感じます」と書きました。今後の日程は、2025年末までの予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定です。今秋以降、本格的な項目選定や実施方法などの議論が進むとみられますが、現時点ではどの薬剤が除外対象となるかは確定していません。日医の反対理由は「経済的負担の増加」と「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」ということで、議論が本格化する直前の今、日本医師会による牽制も始まりました。8月6日に開いた記者会見で日本医師会は、OTC類似薬の保険外しの動きに対して、改めて強い反対の意向を示しました。m3.comなどの報道によれば、江澤 和彦常任理事は「適切な医療は保険診療により確保するという国民皆保険の理念を堅持すべきで、給付範囲を縮小すべきではない」と話し、反対の理由として、第1に患者の「経済的負担の増加」、第2に「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を挙げました。「経済的負担の増加」について江澤氏は、一般用医薬品は医療用医薬品に比べ高額なことが多く、自己負担と比較すると「30倍以上となる」とし、「経済的理由で治療アクセスが絶たれるという大きな問題が生じる」と指摘。また、OTC類似薬は軽症の病気から難病まで幅広く使用されている基礎的な医薬品であるとして、「院内や在宅医療の処方にも大きな支障を来すことから、保険適用を外すことは断固反対」と述べました。また、疾患により保険適用のあり方を変えてはどうかという意見があることに対しては、「医療用医薬品と一般用医薬品では効能や効果の表記が異なっており、単純に適応できるものではない」としました。もう1つの反対理由「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」については、患者が服用量や継続の判断、重複や禁忌などを自己判断することは極めて困難だとして、「受診無しの服薬だけで症状が軽くなったことを治癒と勘違いしたり、服用を中途半端に繰り返したりすることで、悪化や重症化を来たすことも危惧される」と述べました。そして、実臨床では処方のみならず、必要な場合に適切な検査のほか、食事や運動など生活習慣の指導を行いながら治療を行っているとして、「仮にOTC類似薬であっても、購入して服用するだけでは適切な治療とはならない」と述べました。医師は一般用医薬品の服用状況が確認できない点も問題視、「OTC類似薬の保険適用除外は、重複投与や相互作用の問題等、診療に大きな支障を来たす懸念がある」と保険適用除外の危険性を指摘しました。そして最後に、OTC類似薬の保険適用除外に賛成する医師の意見も少なくないとの一部報道に言及、「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と苦言を呈しました。診療所開業医でも36%が保険適用除外に賛成江澤氏が苦言を呈した一部報道とは、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で調査を行い、7月30日に公表した、医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否に関する調査の結果の報道だと思われます。日本医師会の記者会見の1週間前の7月30日、日本経済新聞朝刊は「風邪薬・湿布などの保険適用 医師6割『除外に賛成』」という記事を一面に掲載、同日、日経メディカル Onlineは、「医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否」という記事を配信しました。それらの記事によれば、調査に回答した医師たちの過半数である62%が「OTC類似薬の保険適用除外」に対し賛成(「賛成」20%、「どちらかと言えば賛成」42%の合計)だったとのことです。立場別では、病院勤務医が「賛成」の率が最も高く(69%)、次いで診療所勤務医(54%)、病院経営者(51%)の順でした。診療所開業医は36%と、反対の立場を取る医師が多数派だったものの、それでも約4割が保険適用除外に賛成という結果は、日本医師会をある意味震撼させる結果であったと言えるでしょう。翌週に開かれた日本医師会の記者会見も、この調査結果に対する”火消し”の意味もあったかもしれません。それにしても、日本医師会の主張と現場の医師の意向にズレがあるということについてどう考えればいいのでしょうか?(この項続く)

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「術後にアニメ」だけで効果あり?小児の覚醒時せん妄ケア【論文から学ぶ看護の新常識】第27回

「術後にアニメ」だけで効果あり?小児の覚醒時せん妄ケア「麻酔から覚めた直後にアニメを見せる」だけで、幼児の覚醒時せん妄の発生率が有意に低下することが示された。Chen Wen氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年6月7日号に掲載された。術後のカートゥーン視聴が幼児の覚醒時せん妄に与える影響:ランダム化比較試験研究チームは、手術後麻酔からの覚醒時にカートゥーン(子供向けアニメーション)を視聴することが、幼児の覚醒時せん妄の発生率を低下させるかを調査することを目的に単施設ランダム化比較試験を実施した。対象は、セボフルラン麻酔下で扁桃摘出術および/またはアデノイド切除術を受ける2歳から7歳の小児138例。術後回復室(PACU)で麻酔から覚醒した後、カートゥーンを視聴する群(カートゥーン群)と、標準的なケアを受ける群(標準ケア群)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、覚醒時せん妄の発生率。副次評価項目には、PAEDスケール、Watchaスケール、FLACCスケール(表情、下肢、活動性、啼泣、安静度)のスコア、副作用、滞在期間、PACUで測定された前頭部脳波の非対称性の差、外来手術後の退院後行動質問票のスコアが含まれた。主な結果は下記の通り。覚醒時せん妄発生率:カートゥーン群(69例)の発生率が8.7%であったのに対し、標準ケア群(69例)は26.1%と、カートゥーン群で有意に低かった(p=0.012)。せん妄の重症度(PAEDスケールのスコア):PAEDスケールのスコアも、カートゥーン群の方が標準ケア群よりも有意に低かった。覚醒5分後:中央値差=2(95%信頼区間[CI]:1~3、p<0.001)覚醒15分後:中央値差=1(95%CI:0~2、p<0.001)覚醒25分後:中央値差=1(95%CI:0~1、p<0.001)最大スコア:中央値差=2(95%CI:1~3、p<0.001)脳波所見:80例の脳波データから、覚醒前後での前頭部脳波の非対称性の差が明らかになった。その差はカートゥーン群(39例)よりも標準ケア群(41例)の方が小さく(中央値差=−1.208、95%CI:−1.450~−0.965、p<0.001)、覚醒時せん妄と中等度の負の相関を示した(r=−0.30、p=0.014)。セボフルラン麻酔からの覚醒後にPACUでカートゥーンを視聴した幼児は、覚醒時せん妄の発生率がより低いことが示された。この効果は、前頭部脳波の非対称性における大きな差によって説明できる可能性がある。本研究は、セボフルラン麻酔を受けた幼い子どもにおける覚醒時せん妄に対し、アニメ視聴というシンプルで安全な介入の有効性を検証した、非常に示唆に富む内容です。研究の結果、術後のアニメ視聴が覚醒時せん妄の発生率を有意に減少させることが明らかになりました。この介入の大きな利点は、薬物療法と異なり、副作用のリスクが非常に少ない点です。さらに、アニメ視聴が前頭部脳波非対称性の差を増加させ、この変化が覚醒時せん妄と負の相関を示した点は、この非薬理学的介入の神経生理学的メカニズムを理解するための新たな視点を提供するものです。これまで、せん妄予防策の多くは術前の準備に焦点が当てられてきましたが、本研究は覚醒直後の介入だけで効果があることを示しました。このシンプルで安全、かつ実用的なアプローチは、臨床現場の業務の流れを大きく変えることなく導入できる可能性を秘めています。単一施設での実施や特定の外科手術と麻酔に限定されているという限界はあるものの、その成果は注目に値します。今後、この知見をきっかけに、看護師が日常的に行っている遊びの提供などの非薬理学的介入の効果を実証する研究が、さらに進むことが期待されます。論文はこちらChen W, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Jun 7. [Epub ahead of print]

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死亡診断のために知っておきたい、死後画像読影ガイドライン改訂

 CT撮影を患者の生前だけではなく死亡時に活用することで、今を生きる人々の疾患リスク回避、ひいては医師の医療訴訟回避にもつながることをご存じだろうか―。2015年に世界で唯一の『死後画像読影ガイドライン』が発刊され、2025年3月に2025年版が発刊された。改訂第3版となる本書では、個人識別や撮影技術に関するClinical Questionや新たな画像の追加を行い、「見るガイドライン」としての利便性が高まった。今回、初版から本ガイドライン作成を担い、世界をリードする兵頭 秀樹氏(福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野 教授)に、本書を活用するタイミングやCT撮影の意義などについて話を聞いた。死亡診断にCTを活用する 本書は全55のClinical Question(CQ)とコラムで構成され、前版同様に死後変化や死因究明、画像から得られる状態評価に関する知見を集積、客観的評価ができるよう既発表論文の知見を基に記述が行われている。また、「はじめに」では死後画像と生体画像の違いを解説。死後画像では生体画像でみられる所見に加え、血液就下、死後硬直、腐敗などの死体特有の所見があること、心肺蘇生術による変化、死後変化などを考慮する点などに触れている。また、本ガイドラインに係る対象者は、院外(在宅)での死亡例、救急搬送後の死亡例、入院時の死亡例であることが一般的なガイドラインと異なっている。以下、実臨床における死亡診断に有用なCQを抜粋する。―――CQ2 死後CT・MRIで血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?(p.7)CQ10 死後CT・MRIは死因推定に有用か?(p.34)CQ11 死後CTは院外心肺停止例の死因判定に有用か?(p.38)CQ14 死後画像を検案時に用いることは有用か(p.49)CQ33 死後CTで死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?(p.119)CQ35 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?(p.127)―――死者の身体記録を行う意義と最も注意すべきポイント 日本における死後画像読影や本書作成については、2012年の「医療機関外死亡における死後画像診断の実施に関する研究」に端を発する。死後画像読影が2014年に「死因究明等推進計画」の重要施策の一環となり、2020年に「死因究明等推進基本法」が施行されたことで、本格的に稼働しはじめた。現在、院外死亡例の死後画像読影は法医学領域に限定すると全国約50ヵ所での実施となるが、CT画像装置があれば解剖医や放射線診断医の在籍しない病院やクリニックでも行われるようになってきている。その一方で、本書の対象に含まれる“入院中に急変などで亡くなった方”については、「“CT撮影から解剖へ”という理解が進んでいない」と兵頭氏は指摘する。「解剖を必要としないような例であっても、亡くなった段階の身体の様子を記録に残すことは医療訴訟の観点からも重要」と強調。「ただし、全例を撮ることが実際には可能だが、CTを撮れば必ず死因がわかるわけではない」ことについても、過去に広まった誤解を踏まえて強調した。 撮影する意義について、「死後画像読影は、その患者にどのような治療過程があったのかを把握するために実施する。生前は部位を特定する限定的な撮影を行うが、死後は全体を撮影するため見ていなかった点が見えてくる。併せて死後の採血や採尿を実施することで、より死因の確証に近づいていく」と説明した。そのうえで、死後画像読影の判断を誤らせる医療行動にも注意が必要で、「救急搬送された患者にはルート確保などの理由で生理食塩水(輸液)を投与することがあるが、その生理食塩水の投与量がカルテに入力されていないことがよくある。輸液量は肺に影響を及ぼすことから、海外では医療審査官が来るまでは、点滴ルートを抜去してはいけないが、国内ではすぐにエンゼルケアを実施してしまう例が散見される。そうすると、適切な医療提供の是非が不明瞭になってしまう。家族へ患者を対面させることは問題ないが、エンゼルケア後の死後画像を実施すると真の死因解明に繋がらず、医療訴訟で敗訴する可能性もある」と強調した(CQ19:心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?」)。 そして、多くの遺族は亡くなった患者のそばにいたい、葬儀のことも考えなくてはいけないといった状況にあるため、懲罰的なイメージを連想させる解剖を受け入れてもらうのはなかなか難しい。だからこそ「遺族には死後画像読影と解剖を分けて考えてもらい、一緒に死因を確認する方法として提案することが重要である。入院患者の死亡原因を明らかにするためと話せば、撮影に協力してもらいやすい」とコメントした。実際に解剖に承諾してくださる方が減少する一方で、画像読影のニーズは増加しているという。他方、在宅など院外で亡くなった方においては、「感染症リスクなどを排除する観点からも、CT撮影せずに解剖を行うのは危険を伴う」とも指摘している。医師も“自分の身は自分で守る”こと 医療者側のCT撮影・読影のメリットについて、「万が一、遺族が医療訴訟を起こした場合、医療施設がわれわれ医師を守ってくれるわけではない。死後画像読影は死者や遺族のためでもあるが、医師自らを守るためにも非常に重要な役割を果たす。遺族に同意を得てCT画像として身体記録を残しておくことは、医療事故に巻き込まれる前段階の予防策にもつながる」と強調した。このほかのメリットとして、「医師自身が予期できなかった点を発見し、迅速に家族へ報告することもできる。きちんとした医療行為を行ったと胸を張って提示できるツールにもなる」と話した。 なお、撮影技術に関しては、放射線技師会において死後画像撮影に関するトレーニングが実施されており、過去のように、生きている人しか撮らないという医療者は減っているという。死後画像撮影の課題、院外では診療報酬が適用されず 同氏は本ガイドライン作成のもう1つの目的として「都道府県ごとの司法解剖の均てん化を目指すこと」を掲げているが、在宅患者の死後画像撮影を増やしていくこと、警察とかかりつけ医などが協力し合うことには「高いハードルがある」と話す。近年では、自宅での突然死(院外での死亡)の場合には、各都道府県の予算をもって警察経由で検視とともに画像撮影の実施が進み、亡くなった場所、生活環境・様式(喫煙、飲酒の有無など)を把握、病気か否かの死因究明ができる。ところが、「かかりつけの在宅患者が亡くなった際に実施しようとすると、死者には診療報酬が適用されないのでボランティアになってしまう。CT撮影料以外にも、ご遺体の移動、読影者、葬儀会場へのご遺体の持ち込み方法など、画像撮影におけるさまざまな問題点が生じる」と現状の課題を語った。死後画像が生きる人々の危険予測に 本書の作成経緯や利用者像について、同氏は「2015年、2020年と経て、項目の整理ができた。エビデンスが十分ではないため、新たな論文公開を基に5年ごとの更新を目指している。法医学医はもちろんのこと、放射線技師や病理医など読影サポートを担う医療者に対して、どこまで何を知っておくべきかをまとめるためにガイドラインを作成した」とし、「ガイドラインの認知度が上がるにつれて利用者層が増え、今回は救急科医にも作成メンバーとして参加してもらった」と振り返る。 最後に同氏は「本書は他のガイドラインとは趣が少々異なり、読影の現状を示すマイルストーンのような存在、道しるべとなる書籍だと認識いただきたい。エビデンスに基づいた記述だけでは国内の現状にそぐわないものもあるため、それらはコラムとして掲載している。今年、献体写真がSNSで大炎上したことで、死後画像読影に関する誤った情報も出回ってしまったが、海外をリードする立場からも、死後画像読影によって明らかになっていない点を科学的に検証し、今を生きる人々の危険回避に役立つ施策を広めていきたい」と締めくくった。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール、最大何週目までの忍容性が確認されているか

 認知症高齢者は、抗精神病薬の副作用に対しとくに脆弱である。非定型抗精神病薬ブレクスピプラゾールは、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する治療薬として、多くの国で承認されている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのAlpesh Shah氏らは、認知症患者に対するブレクスピプラゾールの安全性と忍容性を評価するため、3つのランダム化試験と1つの継続試験の統合解析を行った。CNS Drugs誌オンライン版2025年7月19日号の報告。 アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する認知症患者を対象とした、3つの12週間ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験と、1つの12週間実薬継続第III相試験のデータを統合した。安全性アウトカムには、治療関連有害事象(TEAE)、体重変化、自殺念慮、錐体外路症状、認知機能障害を含めた。検討対象となったデータセットは2つ。1つは、ブレクスピプラゾール0.5〜3mg/日とプラセボを投与した3つのランダム化試験のデータを統合した12週間のデータセット。もう1つは、ブレクスピプラゾール2〜3mg/日の親ランダム化試験と継続試験のデータを統合した24週間のデータセット。 主な結果は以下のとおり。・12週間で1件以上のTEAEが報告された患者は、ブレクスピプラゾール群で655例中335例(51.1%)、プラセボ群で388例中178例(45.9%)であり、投与を中止した患者は、それぞれ41例(6.3%)、13例(3.4%)であった。・発現率が5%以上の唯一のTEAEは頭痛であった(ブレクスピプラゾール群:50例[7.6%]、プラセボ群:36例[9.3%])。・脳血管性TEAE(ブレクスピプラゾール群:0.5%、プラセボ群:0.3%)、心血管性TEAE(ブレクスピプラゾール群:3.7%、プラセボ群:2.3%)、錐体外路症状関連TEAE(ブレクスピプラゾール群:5.3%、プラセボ群:3.1%)、および傾眠/鎮静関連TEAE(ブレクスピプラゾール群:3.7%、プラセボ群:1.8%)の発現率は、両群間でおおむね同程度であった。・死亡例は、ブレクスピプラゾール群で6例(0.9%)、プラセボ群で1例(0.3%)であり、死亡原因はブレクスピプラゾールとは関連がないと考えられ、アルツハイマー病で予想されるものとおおむね一致していた。・24週間で1件以上のTEAEが報告された患者は、ブレクスピプラゾール群で226例中110例(48.7%)であり、そのうち19例(8.4%)は投与を中止した。・頭痛は、発現率が5%以上の唯一のTEAEであった(18例[8.0%])。・継続試験中の死亡例はみられなかった。・12週間および24週間にわたる体重、自殺傾向、錐体外路症状の平均変化は、最小限であり、認知機能の悪化は認められなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾールまたはプラセボを投与された1,000例を超える対照患者の統合データを考慮すると、アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する認知症患者において、ブレクスピプラゾールは24週間までおおむね忍容性が高いと考えられる」と結論付けている。

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透析前の運動は透析中の運動と同様に心筋スタニングを抑制

 透析中の運動療法が血液透析誘発性心筋スタニングを軽減することが報告されているが、日常診療での実施には設備やスタッフ配置など多くの課題がある。今回、透析前の運動療法でも透析中の運動療法と同等の心保護効果があることが、フランス・Avignon UniversityのMatthieu Josse氏らによって明らかになった。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年8月12日号掲載の報告。 本研究は非盲検ランダム化クロスオーバー試験として実施され、末期腎不全患者25例を対象に、(1)運動療法を伴わない標準的な血液透析を実施(標準透析)、(2)血液透析中に運動療法を実施(透析中運動)、(3)運動療法を終えてから血液透析を実施(透析前運動)の3種類の介入をランダムな順序でそれぞれ実施した。2次元心エコー検査と全血粘度の測定は、透析開始直前と透析中負荷ピーク時に実施した。心血管血行動態は30分ごとにモニタリングした。 主な結果は以下のとおり。・左室局所壁運動異常は、標準透析と比較して、透析中運動および透析前運動で有意に減少した。 -透析中運動:1.60セグメント減少(95%信頼区間[CI]:0.09~3.10、p=0.04) -透析前運動:1.72セグメント減少(95%CI:0.21~3.22、p=0.02)・心筋スタニング抑制効果は、透析中運動と透析前運動で差はなかった(p=0.86)。・血行動態は、運動期間を除けば透析中運動と標準透析で類似しており、透析前運動と標準透析では完全に同様であった・透析中運動では全血粘度低下が抑制され、高せん断速度での全血粘度変化と左室局所壁運動異常の減少に有意な関連が認められた(p=0.006およびp=0.04)。・透析前運動では、左室局所壁運動異常の改善と血行動態変化との有意な関連は認められなかった(p>0.42)。 これらの結果より、研究グループは「血液透析前の運動療法は、透析中の運動療法と同等の心保護効果をもたらした。この効果は、血行動態の変化によるものではなく、運動そのものに由来する可能性が高い」とまとめた。

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45~49歳の大腸がん検診、受診率を上げるには/JAMA

 米国の45~49歳の大腸がん検診において、既定の郵送型免疫化学的便潜血検査(FIT)と比較して参加者自身の能動的選択(FITまたは大腸内視鏡検査を3種類のアウトリーチ戦略で選ぶ)に基づく検査はいずれも、6ヵ月後の検診の受診率が劣ることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のArtin Galoosian氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月4日号に掲載された。能動的選択と既定の検査を比較する無作為化試験 米国では、2021年、大腸がんの検診開始年齢が45歳に引き下げられたが、この年齢層における最適な受診促進法は明らかでない。研究グループは、45~49歳の年齢層における大腸がん検診の受診を促進するための、集団健康施策(population health)上の最も効果的なアウトリーチ戦略を決定する目的で、研究者主導の無作為化臨床試験を行った(UCLA Melvin and Bren Simon Gastroenterology Quality Improvement Programなどの助成を受けた)。 本研究は、南カリフォルニア地方の都市部の大規模な学術的統合保健システムであるUCLA Health(患者42万例超、50ヵ所の外来プライマリケア施設が参加)において、2022年5月2~13日に行われ、同年11月13日まで追跡調査を実施した。 平均的な大腸がんリスクを有する45~49歳の集団を対象とし、大腸がん検診の受診を促す次の4つのアウトリーチ戦略を受ける群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。検査法の選択肢として、(1)FIT、(2)大腸内視鏡、(3)FITまたは大腸内視鏡の提示を受ける、または(4)通常の既定の郵送型FIT。 各群の適格者に、参加者ポータルを介して受診を促す案内を送付した。(1)(2)(3)の参加者は、当該の検査を受けるか、今回は検診を受けないかを能動的に選択してその旨を返信し、(4)はこのような選択肢なしにFITの検査キット一式を郵送で受け取った。(1)と(4)の唯一の違いは、(1)が自発的にFITを選択したのに対し、(4)はFITを自ら選んでいない点である。 主要アウトカムは、受診案内を受けてから6ヵ月の時点での検診(FITまたは大腸内視鏡)の受診であった。1種類よりも2種類からの選択で、受診率が高い 2万509例(平均[SD]年齢47.4[1.5]歳、女性53.9%、黒人4.2%、非ヒスパニック系白人50.8%、アジア系13.7%)の参加者を登録した。このうち3,816例(18.6%)が検診を受けた。 受診率は、通常FIT群が26.2%(1,342/5,126例)であったのに対し、FIT群は16.4%(841/5,131例)(受診率の通常FIT群との群間差:-9.8%[95%信頼区間[CI]:-11.3~-8.2]、p<0.001)、大腸内視鏡群は14.5%(743/5,127例)(-11.7%[-13.2~-10.1]、p<0.001)、FIT/大腸内視鏡群は17.4%(890/5,125例)(-8.9%[-10.5~-7.4]、p<0.001)と、3つの能動的選択群のいずれもが有意に低かった。 1種類の検査法のみを選択する群(FIT群と大腸内視鏡群)の受診率が15.4%(1,584/1万258例)であったのに比べ、2種類の検査法から選択する群(FIT/大腸内視鏡群)の受診率は17.4%(890/5,125例)であり、有意に高かった(受診率の群間差:-1.8%[95%CI:-3.0~-0.1]、p=0.004)。FITから大腸内視鏡へのクロスオーバーが多い 2種類の検査法から選択する群(FIT/大腸内視鏡群)の5,125例では、FITを受診した参加者(5.6%[288例])よりも、大腸内視鏡を受診した参加者(12.0%[616例])のほうが多かった(受診率の群間差:-6.4%[95%CI:-7.5~-5.3]、p<0.001)。 また、FITから大腸内視鏡へのクロスオーバーが多かった(FIT群の9.8%[502/5,131例]、通常FIT群の9.8%[501/5,126例])のに対し、大腸内視鏡からFITへのクロスオーバーは少なかった(大腸内視鏡のみ群の2.7%[137/5,127例])。 著者は、「45~49歳で最も効果的な集団健康施策上の大腸がん検診戦略は、従来の既定の郵送型FITであった。全体として検診の受診率は低く、この年齢層の受診率の向上には、より効果的な戦略の導入が必要と考えられる」「今後は、多様な集団や他の医療環境において検診への参加を促進するために、郵送型FITアウトリーチのいっそうの最適化と個別化を進める必要がある」としている。

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ビタミンDはCOVID-19の重症化を予防する?

 血中のビタミンDレベルが低い人では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時に重症化するリスクが高まるようだ。新たな研究で、ビタミンD欠乏症の人は新型コロナウイルス感染により入院する可能性が36%高くなることが示された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のKerri Beckmann氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に7月18日掲載された。 2022年に報告された研究によると、米国人の約5人に1人(22%)はビタミンD欠乏症であるという。この研究では、UKバイオバンク参加者のデータを用いて、血中のビタミンDレベルと新型コロナウイルス感染およびCOVID-19による入院との関連を検討した。対象は、2006年から2010年のベースライン時にビタミンDレベルを1回以上測定し、新型コロナウイルスのPCR検査結果が記録されている15万1,543人である。ビタミンDレベルは、欠乏(0〜<24nmol/L)、不足(25〜50nmol/L)、正常(>50nmol/L)の3群に分類した。 対象者のうち、2万1,396人がPCR検査で陽性と判定されていた。解析からは、ビタミンDレベルが正常な群を基準とした場合の新型コロナウイルス感染に対する調整オッズ比は、ビタミンDレベルが不足している群で0.97(95%信頼区間0.94〜1.00)、欠乏している群で0.95(同0.90〜0.99)であり、わずかながらも感染リスクは低い傾向が認められた。一方、COVID-19の重症化の調整オッズ比については、ビタミンDレベルが不足している群で1.19(同1.08〜1.31)、欠乏している群で1.36(同1.19〜1.56)であり、リスクが有意に高いことが示された。 Beckmann氏は、「この研究では、ビタミンDが欠乏しているか不足している人では、ビタミンDレベルが正常な人と比べてCOVID-19で入院する可能性は高いものの、新型コロナウイルスに感染するリスクが高いわけではないことが示された」と述べている。その上で同氏は、「ビタミンDは免疫システムの調整に重要な役割を果たすため、ビタミンDレベルが低いと、COVID-19のような感染症に対する体の反応に影響を及ぼす可能性がある」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Beckmann氏はまた、「COVID-19はかつてほどの脅威ではなくなったかもしれないが、依然として人々の健康に影響を与えている。最もリスクが高くなるのはどういう人なのかを理解することで、リスクの高い人のビタミンDレベルをモニタリングするなど、さらなる予防策を講じることが可能になる」と述べている。ただし同氏は、「現時点では、ビタミンDサプリメント自体がCOVID-19の重症度を軽減できるかどうかは不明である。新型コロナウイルスとの共存が続く中で、この点については、今後の研究で検討する価値が十分にあるだろう」と話している。

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週末にまとめて行う運動でも糖尿病患者の死亡リスク低下

 平日は多忙などの理由で運動できず、週末にまとめて運動を行う、いわゆる“週末戦士”と呼ばれる身体活動パターンであっても、糖尿病患者の死亡リスク抑制につながることを示すデータが報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のZhiyuan Wu氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 糖尿病でない一般集団においては、週末戦士のような身体活動パターンも死亡リスクの低下と関連していることが既に示されている。しかし糖尿病患者でも同様の関連があるのかは、これまで不明だった。そこでWu氏らは、前向きコホート研究により、週末戦士に該当するパターンを含む成人糖尿病患者のさまざまな身体活動パターンと、死亡リスクとの関連を検討した。 研究には、1997~2018年の米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを利用。成人糖尿病患者5万1,650人を身体活動の頻度と量に基づき、中~高強度運動(MVPA)を行っていない「非運動群」、MVPAが週150分未満の「運動不足群」、MVPAの頻度が週1~2回で150分以上の「週末戦士群」、MVPAの頻度が週3回以上で150分以上の「習慣的運動群」の4群に分類して、中央値9.5年間追跡した。 追跡期間中に1万6,345人の死亡(心血管死5,620人、がん死2,883人を含む)が記録されていた。非運動群を基準として比較すると、週末戦士群も含めて他の3群はいずれも全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低かった(多変量調整後のハザード比〔HR〕と95%信頼区間が、運動不足群0.90〔0.85~0.95〕、週末戦士群0.79〔0.69~0.91〕、習慣的運動群0.83〔0.78~0.87〕)。心血管死のリスクについては、運動不足群を除く2群で有意なリスク低下が認められた(運動不足群0.98〔0.89~1.07〕、週末戦士群0.67〔0.52~0.86〕、習慣的運動群0.81〔0.74~0.88〕)。 つまり、週末戦士は全死亡リスクが21%、心血管死リスクが33%低いことが示された。なお、がん死に関しては、習慣的運動群でリスク低下が認められた(運動不足群0.88〔0.78~1.00〕、週末戦士群0.99〔0.76~1.30〕、習慣的運動群0.85〔0.75~0.96〕)。 この結果についてWu氏らは、「示されたデータは、毎日ではなく柔軟にアレンジしたパターンで行う運動であっても、糖尿病患者に好ましい影響を及ぼすことを示している。運動を習慣として日々実践するのが困難な人にとって、この知見は重要である」と述べている。 著者らは研究背景の中で、「運動ガイドラインでは健康維持のために、毎週少なくとも150分の中強度運動を行うことを推奨している。中強度運動には、早歩き、ゆっくりした速度でのサイクリング、アクティブなヨガ、社交ダンス、庭仕事などが含まれる。しかし、これらの運動を実施する時間を確保することは、必ずしも容易ではない」とし、週末戦士の意義を指摘。また、「今後の研究では、仕事中や通勤での移動による運動なども含め、人々の日常の身体活動をより包括的に評価する必要がある」と付け加えている。

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運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

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