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トラスツズマブ デルクステカン胃がん全例調査の中間解析/日本胃学会

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の胃がんにおける製造販売後調査(PMS)の初回投与後4ヵ月の中間解析の結果を第96回日本胃学会総会において近畿大学の川上 尚人氏が発表した。この発表はASCO-GI2024のアンコール発表である。 T-DXdは胃がん3次治療以降に使用される一方、間質性肺疾患(ILD)の発現が重要なリスクとして認識されている。日本においては、ILDのリスクを評価するため、すべてのT-DXd投与胃がん患者を対象に観察期間12ヵ月の多施設観察研究が行われている。日本胃学会では観察期間12ヵ月のうち最初の4ヵ月の中間成績が発表された。 主な結果は以下のとおり。・2020年9月〜2021年12月にT-DXdが投与された全1,129例が登録され、そのうち1,074例が解析対象となった。・患者の年齢中央値は70.0歳(65歳以上が71.7%)、77.3%が男性、組織型はIntestinalタイプが46.1%、Diffuseタイプが19.0%であった。・T-DXdの第1サイクルの用量は6.4mg/日が79.4%を占めた。・4ヵ月時点におけるT-DXdによる治療状況は治療中49.1%、中止50.9%であった。治療中止理由は原疾患の進行が71.3%と最も多かった。・独立ILD判定委員会の評価により判定されたT-DXd関連ILDの発現割合は5.2%(56例)で、Grade≧3が1.5%(16例)、Grade5は0.7%(7例)であった。・ILD発症患者(56例)のT-DXd投与については、中止が96.4%(54例)であった。・ILD発症患者の転帰は、回復が48.2%(27例)、軽快が14.3%(8例)、回復したが後遺症ありが3.6%(2例)、未回復が16.1%(9例)、死亡が12.5%(7例)であった。 同解析は限られた期間のデータであるが、T-DXdが投与された全胃がん症例を含むため、日本におけるリアルワールドの使用実態を反映すると考えられる。 今回の発表は、観察期間12ヵ月のうち最初の4ヵ月の中間成績であり、今後さらに有用な解析情報が提供されることが期待される。

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小児インフルワクチン接種は10月がおすすめ?(解説:栗原宏氏)

Strong point ・82万人を対象とした大規模調査・接種時期と診断率の大規模な検討は日本では非常に実施困難Limitation・国土の広い米国では、インフルエンザの蔓延ピークやワクチンの接種状況が地域によって異なる可能性がある・対象は民間保険に加入している小児であり、対象として一般化できない可能性がある・有意差があるとしても実感できるほど大きな差ではない? インフルエンザワクチン接種後の免疫獲得と持続期間を考慮し、米国では9~10月に接種することが推奨されている。 米国では民間保険に加入した小児のワクチン接種が行われており、誕生月に基づいてインフルエンザワクチンを含むワクチン接種スケジュールが組まれている。これを踏まえて本研究では、インフルエンザワクチン接種月とインフルエンザ感染率を比較し、インフルエンザワクチン接種の最適な時期を検討している。本調査では交絡の可能性はあるものの、10月生まれ(=10月にワクチン接種)群の感染率が他の月より有意に低く、推奨されている9~10月という接種時期の妥当性が裏付けられた。 日本国内におけるインフルエンザワクチン接種は任意であり、その接種の時期について公的な推奨時期は設けられていない。ワクチン接種は出荷されたワクチンが医療機関に出回り始めた10月頃から開始され、12月頃までに実施されているのが実情であろう。統計的には有意差があるとはいえ、実社会で有効性が体感できるかは不明だが、本調査を踏まえるならば、就学前の子供に関しては、10月の接種開始後なるべく早めの接種が望ましいと考えられる。※日本におけるインフルエンザワクチンは、1962年から推奨接種、1977年から予防接種法により接種が義務化され、小中学生に集団接種されるようになった。しかしながら副反応による訴訟が相次いだことから、1987年に保護者の同意を得た希望者に接種する方式に変更となり、1994年には任意接種となった。厚労省のデータによれば、1994年以降の数年は供給が激減したが、その後は増加傾向となっている。近年の小児へのインフルエンザワクチン接種率は50-60%程度とされている。

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電子タバコは本来の目的を逸脱せず禁煙目的に限定して代替タバコ(禁煙補助剤)として使用、盲目的に長期使用するのは時期尚早で危険!―(解説:島田俊夫氏)

 広義の電子タバコは、加熱式タバコと狭義の電子タバコの総称です。わが国の特徴は加熱式タバコ使用者が多い。 “電子タバコ”は元来タバコがやめられない、いわゆる紙巻きタバコ中毒患者用の代替タバコ(禁煙補助剤)として開発。その本来の目的を逸脱して使用する傾向に、懸念を抱かざるを得ません。 タバコメーカーの広告情報から毒性が低いと信じ込んでいる喫煙者が、電子タバコを文字どおり安全だと疑うこともなく飛びつくのは危険です。 目下のところ、毒性を含む安全性確認のためのエビデンスが乏しいと考えるのが妥当ではないでしょうか。 このように毒性を含む安全性に十分なエビデンスのない状況下で、紙巻きタバコよりも電子タバコの毒性が少なく、安全だと決めつけるのは危険極まりない行為だと思います1,2)。 紙巻きタバコはスバリ言えば、“百害あって一利なし”です。電子タバコも同様に有害です。禁煙目的に限り、短期のみ使用するのが正しい使い方だと思います。最近、スイス・ベルン大学のReto Auer氏らがスイス国内の5施設で実施した無作為非盲検比較試験の結果を、電子タバコに関連する論文としてNEJM誌2024年2月15日号に掲載されたので私見をコメントします。 本研究をごく簡単に解説します。 広告により、1日5本以上の喫煙を12ヵ月以上継続し、登録後3ヵ月以内に禁煙を希望する18歳以上の成人を募集し、基準を満たしたボランティアを1:1の比率でランダムに介入群(622例:標準禁煙カウンセリング+電子タバコと電子タバコ用リキッド[無料]、オプションでニコチン代替療法[有料])と対照群(624例:標準禁煙カウンセリング+ニコチン代替療法を含むあらゆる目的で使用できるクーポンの配布)に割り当てた。・生化学的に確認された6ヵ月間の禁煙継続率は介入群28.9% vs.対照群16.3%(95%CI:8.0〜17.2)、粗相対リスク1.77(95%CI:1.43〜2.20)ともに有意であった。・6ヵ月後の受診前7日間にタバコを使用しなかったと自己申告した参加者の割合は、介入群59.6%、対照群38.5%であった。一方でニコチン(タバコ、ニコチン入り電子タバコ、ニコチン代替療法)の使用を全面的にやめた参加者割合は、介入群20.1%、対照群33.7%であった。・重篤な有害事象は介入群:25例(4.0%)、対照群:31例(5.0%)で有意差なく、有害事象は介入群:272例(43.7%)、対照群:229例(36.7%)とむしろ介入群で有意に高かった。 結論としては、日常5本以上のタバコを吸う18歳以上の禁煙希望者に、標準的禁煙カウンセリングに無料で電子タバコを追加提供することで、禁煙カウンセリング単独によるフォローアップと比較し、禁煙率が増加したが重篤な有害事象は両群で差がなく、介入群でむしろ電子タバコの利用率、有害事象が有意に増加した。電子タバコの安全性が保証されていない現況では、禁煙率の改善を素直に喜べる結果として受け入れられない(電子タバコ中毒を増加させている恐れがある)。 電子タバコは確固たる安全性保証のない限り、安易に代替タバコとして使うべきでないと考える。

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モラハラにご用心!【Dr. 中島の 新・徒然草】(520)

五百二十の段 モラハラにご用心!3月といっても雪が降る一方、クーラーを入れるくらい暑くなることもあります。三寒四温とはまさしくこのこと。そうこうしているうちに花粉の季節が忍び寄ってきました。私の場合、2回続けてクシャミが出たら、その後に鼻水が止まらなくなります。情けない!さて、先日のことです。脳神経外科外来にやってきた患者さんは50代の女性でした。診察中にふと私が「何かストレスはありますか?」と尋ねた時のこと。「ストレスはありません!」という答えが返ってきました。普通は誰でも何かしらのストレスを抱えているはず。おそらく私が困惑した表情をしていたのでしょう。彼女は「離婚してストレスがなくなりました」と続けたのです。そのあまりにもキッパリとした言い方は、むしろ素人が想像できない闇の存在を示唆しています。患者「夫が、いや元・夫が私にとっての最大のストレスだったんです」ふむふむ。患者「ああいうのをモラハラって言うんでしょうね、私のことを全否定するんです」モラハラというのは最近よく耳にする言葉ですが、いまひとつパワハラとの区別がつきません。後で調べてみると、パワハラというのはパワーハラスメント、立場の優位性を利用したハラスメントで、これはよく知られています。職場で上司が部下に対して行うものが典型的です。対してモラハラはモラルハラスメントで、立場が同等の者の間でも起こるものとされています。その性質上、家庭で起こりやすいハラスメントです。とはいえ、これではよくわかりません。するとこの患者さん、尋ねるまでもなくいくつかの例を挙げてくれました。患者「『俺が食わしてやっているんだ』とか『専業主婦は楽でいいよな』とか、ネチネチと言われるんです」中島「それ、昭和の頑固親父じゃないですか!」患者「会社では頑固でも家では優しい、とかだったら良かったんですけど」中島「たぶん僕よりもちょっと若いくらいのご主人ですよね」患者さんにご主人の年齢を確認してみると、やはり私よりも少し若いくらいでした。中島「うーん、僕も知らない間に昭和を引きずっているかもしれん」思わず言ってしまいました。患者「先生は大丈夫ですよ」中島「いやいや、人の振り見て我が振り直せと言いますからね」すると彼女は他にも例を挙げ始めました。患者「私の目の前でタバコを吸うんですけど、『やめて!』と言っても聞く耳を持たないんです」中島「せめて吸う時は家の外にしてもらいたいですね」患者「そうなんですよ。私が怒った時だけやめるけど、1週間したら元に戻ってしまうんです」なるほど。中島「参考になりました。僕も『女房に何か言われた時には聞き流してはならない』と肝に銘じておきます」医療現場でやかましく言われている患者対応と一緒です。職場でも家でも傾聴が大切!中島「でも離婚してしまったら経済的なこととか大変でしょう」患者「上の子が社会人で下が高校生ですけど、親子3人で仲良く暮らしています」それは何より。患者「養育費なんか、送ってくるのは雀の涙です。でも、せいせいしました」中島「離婚の原因といったら浮気やDVみたいなイメージがありましたが、モラハラも言葉の嫌がらせってことですか、勉強になりました」他にもアルコールやギャンブル、借金など、ネガティブなことをいろいろと聞かされるのが外来診療の常です。こういった問題について何一つ思い当たらなければ、それだけで十分に立派だと最近は思うようになりました。普通を実現するのは案外難しいことですね。読者の皆さまはどのようにお考えでしょうか?最後に1句花粉きて 鼻水垂らして 傾聴す

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3月14日 世界腎臓デー【今日は何の日?】

【3月14日 世界腎臓デー】〔由来〕腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する取り組みとして、国際腎臓学会などにより2006年から、3月第2木曜日を「世界腎臓デー」と定め、毎年、世界各地で腎臓病に関する啓発に向けてイベントが開催されている。関連コンテンツ意外と知らない薬物動態(1)Cockcroft-Gault式【臨床力に差がつく 医薬トリビア】尿中アルブミンってなあに?【患者説明用スライド】CKD患者の年間医療費はどの程度増加するのか/広島大学新規アルドステロン合成酵素阻害薬、CKDでアルブミン尿を減少/Lancet『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

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第88回 麻疹以外でもKoplik斑が出る!?

イラストレインより使用先週も麻疹について取り上げましたが、東京都で感染者が報告されたことで、とうとう全国的にも麻疹が報道されるようになりました。私、先週からずっと言ってますからね!!「2峰目」前の診断が難しい麻疹は、症状でどこまで疑えるかがポイントになります。2峰性の経過なので、2峰目の発熱と発疹で「こりゃ麻疹やで!」ということになりますが、1峰目の発熱時にKoplikが口腔内にみられることがあり(写真1)、これが特異的な所見だと思われてきました。Koplikは、この所見が麻疹にみられることを発見した130年前の医師です(写真2)。「2峰目」前の診断が難しい麻疹は、症状でどこまで疑えるかがポイントになります。2峰性の経過なので、2峰目の発熱と発疹で「こりゃ麻疹やで!」ということになりますが、1峰目の発熱時にKoplikが口腔内にみられることがあり(写真1)、これが特異的な所見だと思われてきました。Koplikは、この所見が麻疹にみられることを発見した130年前の医師です(写真2)。       写真1. Koplik斑        写真2. Henry Koplik(1858~1927年)(Wikipediaより使用)写真1. Koplik斑写真2. Henry Koplik(1858~1927年)(Wikipediaより使用)2峰目で発見する前に麻疹らしいかどうかを判断する上で、Koplik斑は100年以上にわたって小児科医や内科医の間で「定番の所見」として君臨してきました。しかしながら、Koplik斑は感度や特異度についてまとまった報告がなく、他の感染症でも観察されるのではないかという見解もありました。Koplik斑の診断精度をみた国内3,000例以上の研究日本において、2009~14年にかけて、麻疹および麻疹が疑われる3,023例の全国調査が行われました1)。診断はPCRやRT-PCRを用いて行われ、合計3,023例が登録されました。このうち、Koplik斑が観察されたのは717例(23.7%)であり、麻疹と確定した症例の28.2%、風疹と確定した症例の17.4%、パルボウイルスB19感染症と確定した症例の2.0%にみられたのです。その他、アデノウイルス、ライノウイルス、ヘルペスウイルスでもKoplik斑が観察されました。この研究によると、麻疹の診断マーカーとしてのKoplik斑の感度は48%、特異度は80%と報告されています。つまり、風疹を含めた他のウイルス感染症でもKoplik斑が観察されるというわけです。もちろん周囲に麻疹の人がいれば事前確率は高くなりますが、一般的な発熱外来におけるKoplik斑は確実な所見とは言えないのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Kimura H, et al. The Association Between Documentation of Koplik Spots and Laboratory Diagnosis of Measles and Other Rash Diseases in a National Measles Surveillance Program in Japan. Front Microbiol. 2019 Feb 18;10:269.

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診断のエントリーはパターン認識で捉える【国試のトリセツ】第31回

§2 診断推論診断のエントリーはパターン認識で捉えるQuestion〈109G53〉36歳の女性。全身倦怠感を主訴に来院した。半年前から全身倦怠感が出現し、改善しないため受診した。20歳代後半から過多月経がある。血液所見赤血球337万、Hb5.9g/dL、Ht18%、白血球6,400、血小板43万。血液生化学所見総蛋白6.8g/dL、アルブミン4.3g/dL、総ビリルビン0.5mg/dL、AST10IU/L、ALT6IU/L、LD144IU/L(基準176~353)、尿素窒素11mg/dL、クレアチニン0.4mg/dL、Fe 9μg/dL。この患者にみられるのはどれか。(a)網赤血球増加(b)フェリチン低下(c)ビタミンB12増加(d)不飽和鉄結合能低下(e)エリスロポエチン低下

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がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

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砂糖入り飲料は1杯/日でもCKDリスク上昇

 砂糖入り飲料または人工甘味料入り飲料を1日1杯(250mL)以上摂取することで、慢性腎臓病(CKD)の発症リスクが上昇し、それらの飲料を天然果汁ジュース(natural juice)または水に置き換えるとCKD発症リスクが低下したことを、韓国・延世大学校医科大学のGa Young Heo氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年2月5日号掲載の報告。 砂糖や人工甘味料の摂取と2型糖尿病や心血管系疾患との関連を示すエビデンスは増えているが、腎臓に及ぼす影響については不明な点が多い。そのため研究グループは、英国バイオバンクのデータを用いて、3種類の飲料(砂糖入り飲料、人工甘味料入り飲料、天然果汁ジュース)の摂取量とCKDの発症リスクとの関連、およびこれらの飲料を別の飲料に置き換えた場合の関連を調査するために前向きコホート研究を行った。 対象は、2006~10年に英国バイオバンクに登録し、食事アンケートに回答したCKDの既往歴のない参加者で、最長で2022年10月31日まで追跡された。主要アウトカムはCKDの発症で、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて3種類の飲料とCKD発症との関連を推定した。飲料を別の飲料に置き換えた場合の影響の評価には代替分析法を用いた。 主な結果は以下のとおり。●合計12万7,830人(平均年齢[SD]:55.2[8.0]歳、女性:51.8%)が解析に組み込まれた。追跡期間中央値10.5年(IQR:10.4~11.2)時点で、4,459例(3.5%)がCKDを発症した。●砂糖入り飲料を1日1杯以上摂取している群では、砂糖入り飲料を摂取していない群と比較してCKDの発症リスクが有意に高かった(調整ハザード比[aHR]:1.19、95%信頼区間[CI]:1.05~1.34、p=0.01)。●人工甘味料入り飲料を1日1杯以上摂取している群でも、人工甘味料入り飲料を摂取していない群と比較してCKDの発症リスクが有意に高かった(aHR:1.26、95%CI:1.12~1.43、p<0.001)。●天然果汁ジュースの摂取とCKD発症との間に有意な関連はみられなかった(aHR:0.99、95%CI:0.87~1.11、p=0.90)。●1日1杯分の砂糖入り飲料および人工甘味料入り飲料を、天然果汁ジュースまたは水に置き換えることは、CKDの発症リスク低下と関連していた。 ・砂糖入り飲料→天然果汁ジュース HR:0.93、95%CI:0.87~0.97、p=0.04 ・砂糖入り飲料→水 HR:0.93、95%CI:0.88~0.99、p=0.03 ・人工甘味料入り飲料→天然果汁ジュース HR:0.90、95%CI:0.84~0.96、p=0.03 ・人工甘味料入り飲料→水 HR:0.91、95%CI:0.86~0.96、p=0.001●砂糖入り飲料を人工甘味料入り飲料に置き換えても、CKD発症との有意な関連は認められなかった。逆も同様であった。

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カフェインは片頭痛を引き起こすのか

 カフェイン摂取は、片頭痛の要因であると考えられており、臨床医は、片頭痛患者に対しカフェイン摂取を避けるよう指導することがある。しかし、この関連性を評価した研究は、これまでほとんどなかった。習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度、持続時間、強さとの関係を調査するため、米国・Albany Medical CollegeのMaggie R. Mittleman氏らは、発作性片頭痛成人患者を対象としたプロスペクティブコホート研究を実施した。Headache誌オンライン版2024年2月6日号の報告。 2016年3月~2017年8月に発作性片頭痛と診断された成人患者101例を対象に、カフェイン入り飲料の摂取に関する情報を含むベースラインアンケートを実施した。対象患者は、頭痛の発症、持続時間、痛みの強さ(スケール:0~100)に関する情報を1日2回、6週間、電子的日誌で報告した。年齢、性別、経口避妊薬の使用で調整した後、ベースライン時の習慣的なカフェイン摂取と6週間の頭痛との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・データ収集が完了した対象患者は97例。・調整後の平均頭痛日数は、習慣的なカフェイン摂取のない患者20例、カフェイン摂取1~2回/日の患者65例、カフェイン摂取3~4回/日の患者12例で同様であった。【習慣的なカフェイン摂取のない患者】7.1日、95%信頼区間(CI):5.1~9.2【カフェイン摂取1~2回/日の患者】7.4日、95%CI:6.1~8.7【カフェイン摂取3~4回/日の患者】5.9日、95%CI:3.3~8.4・推定値は不正確であったものの、平均頭痛継続時間、痛みの強さにおいても、カフェイン摂取レベルによる差は認められなかった。●平均頭痛継続時間【習慣的なカフェイン摂取のない患者】8.6時間、95%CI:3.8~13.3【カフェイン摂取1~2回/日の患者】8.5時間、95%CI:5.5~11.5【カフェイン摂取3~4回/日の患者】8.8時間、95%CI:2.3~14.9●痛みの強さ【習慣的なカフェイン摂取のない患者】43.8:95%CI、37.0~50.5【カフェイン摂取1~2回/日の患者】43.1:95%CI、38.9~47.4【カフェイン摂取3~4回/日の患者】46.5:95%CI、37.8~55.3 著者らは「本研究では、習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度、持続時間、痛みの強さとの関連は認められなかったことから、発作性片頭痛患者に対するカフェイン摂取制限は推奨されない」としながらも、「通常のカフェイン摂取量から逸脱した場合、片頭痛発作が引き起こされるかどうかを明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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心臓病患者の “ニーズ見える化”へ、クラウドファンディング開始/日本循環器協会

 日本循環器協会は、心臓病に関わる患者・家族、医療者、企業を繋ぐホームページ作成を実現させるため、3月12日にクラウドファンディング『心臓病患者さんの声を届けたい 心臓病に関わる方々を繋ぐHP作成へ』を開始した。本協会は患者と医療者が持つ双方のニーズの“見える化”を目指すことを使命とし、この取り組みを始めた。  “心臓病は複雑かつ、年齢層もさまざま。関係者も多岐にわたり、患者の悩みやニーズが共有されにくい”という循環器領域の現状を踏まえ、本協会は「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」の第1弾として、心臓病患者の声を集めるためのホームページ作成に動き出した。今回はこのホームページを通じて患者ニーズを集め、心臓病のより良いケアを探求する医療者や企業に情報を届けるのが狙いだ。なお、本プロジェクトは All or Nothing 方式を採用しているため、第1目標金額に満たない場合、支援金は全額、支援者へ返金となる。 「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」への支援はこちらから。女性に起こりやすい循環器疾患とその対処法 このほかにも、日本循環器協会は新たな取り組みとして、女性特有の循環器疾患の啓発にも注力すべく、「Go Red for Women JAPAN」(ワーキンググループ委員長 東條 美奈子氏[北里大学医療衛生学部 教授])の活動を開始した。「Go Red for Women」とは “心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、日本でもこの活動のキックオフとなる公開セミナー「健康セミナー 女性のココロと心臓のはなし」を2月2日に行ったことを皮切りに、今後も国内独自のイベントを企画していく予定だという。 上述の健康セミナーにおいて、「女性のこころとからだの話」について講演した高尾 美穂氏(女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道)は、「社会的性差は解決可能も生物学的性差は縮めていくことはできない。骨格が異なることで病気にも性差が生じる。たとえば、男性には高尿酸血症、糖尿病、心筋梗塞が起こりやすい一方で、女性ではQOLに直接的に影響するような骨格筋の痛み・変化、うつ病の発症率の多さが課題として挙げられる。このように疾患にも性差があることから、双方の病態を理解し合うことが必要」と性差による疾患リスクを指摘するとともに、「女性の生殖器は期間限定であることを社会に出る前に知っておくことが必要」と、女性自身が自身の身体のことを学ぶ機会の少なさについても訴えた。 また、坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科分子生理学)は女性に多い循環器疾患として、微小血管狭心症、心筋梗塞(閉経後女性)、不整脈、たこつぼ型心筋症、肺高血圧症、心不全(高齢女性)などを挙げ、「たこつぼ型心筋症の場合、男性は外傷が影響するのに対し、女性はストレスで生じやすい。自律神経を整え、有酸素とレジスタンスの両方を兼ね備えた運動であるヨガを行うことで、ストレス軽減効果、心拍や血圧を健康に維持する効果が期待できる」と発症原因の1つを示し、その予防策を解説した。

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オマリズマブ、複数の食物アレルギーに有効/NEJM

 複数の食物アレルギーを持つ1歳以上の若年者において、抗IgEモノクローナル抗体オマリズマブの16週投与は、ピーナッツやその他の一般的な食物アレルゲンに対するアレルギー反応の閾値の上昇に関して、プラセボよりも優れていることが示された。米国・ジョンズ・ホプキンス大学のRobert A. Wood氏らが、180例を対象に行った無作為化比較試験の結果を報告した。米国では小児の最大8%、成人の最大10%が食物アレルギーを有し、その多く(30~86%)が複数の食物アレルギーを有しているという。一方で、唯一承認されている治療法は、ピーナッツアレルギーに対する経口免疫療法であった。NEJM誌2024年2月25日号掲載の報告。ピーナッツほか2つ以上の食物アレルギーがある患者を対象にプラセボ対照試験 本試験で研究グループは、オマリズマブが複数の食物アレルギーを有する患者に対する単剤療法として、有効かつ安全であるかどうかを評価した。被験者は、ピーナッツとその他の少なくとも2つ以上の試験指定食物(カシューナッツ、牛乳、卵、クルミ、小麦、ヘーゼルナッツ)にアレルギーを持つ1~55歳で、食物負荷試験でピーナッツ蛋白100mg以下、その他2つの食物は300mg以下の摂取でアレルギー反応を呈する患者を包含した。 被験者を2対1の割合で無作為化し、オマリズマブまたはプラセボを2~4週に1回16~20週間、体重とIgE値に基づく用量で皮下投与した。その後、負荷試験を再度行った。 主要エンドポイントは、ピーナッツ蛋白を1回600mg以上、用量制限を要する症状なしに摂取することとした。重要な副次エンドポイントは3つで、カシューナッツ、牛乳、卵をそれぞれ1回1,000mg以上、用量制限を要する症状なしに摂取することとした。 この第1段階の評価を完了した最初の60例(うち59例が小児または思春期児)は、24週間の非盲検延長試験に登録された。主要エンドポイント達成、オマリズマブ群67% vs.プラセボ群7% 462例がスクリーニングを受け、180例が無作為化された。解析には、小児・思春期児(1~17歳)177例が含まれた。 主要エンドポイントを達成したのは、オマリズマブ群79/118例(67%)、プラセボ群4/59例(7%)だった(p<0.001)。 重要な副次エンドポイントの結果も主要エンドポイントの結果と一致しており、カシューナッツ摂取ではオマリズマブ群41% vs.プラセボ群3%、牛乳はそれぞれ66% vs.10%、卵は67% vs.0%だった(すべての比較でp<0.001)。 安全性のエンドポイントは、オマリズマブ群がプラセボ群に比べ注射部位反応が多かったことを除き、群間差は認められなかった。

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コロナによる認知障害、症状持続期間による違いは?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へ感染し、症状が消失・回復しても、症状の持続期間にかかわらず軽度の認知機能障害が認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAdam Hampshire氏らが、オンライン評価による大規模コミュニティのサンプル調査(14万例超)の結果を報告した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の認知機能障害はよく知られているが、客観的に測定可能な認知機能障害が存在するか、またどのくらいの期間持続するかは不明だった。NEJM誌2024年2月29日号掲載の報告。イングランドの成人を対象に認知機能のオンライン評価を実施 研究グループは、イングランドの試験に参加した成人80万例に対し、認知機能のオンライン評価の実施を依頼し、8タスクの全般的認知機能スコアを推定した。 感染発症後に12週間以上持続する症状を有した患者は、客観的に測定可能な全般的認知機能障害があり、とくに直近の記憶力低下または思考や集中困難(ブレインフォグ)を報告した患者では、実行機能と記憶の障害が観察されるだろうと仮説を立て、検証した。起源株感染者は、変異株感染者より認知機能障害の程度が大きい オンライン認知機能評価を開始した14万1,583例のうち、11万2,964例が評価を完了した。重回帰分析の結果、COVID-19症状が4週間未満で消失・回復した患者や12週以上症状が持続するも消失・回復した患者は、非COVID-19群(SARS-CoV-2に非感染または感染が不確定)と比較し、同程度に軽度の全般的認知機能障害を有していた(それぞれ、-0.23 SD[95%信頼区間[CI]:-0.33~-0.13]、-0.24 SD[-0.36~-0.12])。 一方、12週以上症状が持続し、認知機能評価時点においても消失していなかった患者は、非COVID-19群と比較し、認知機能障害の程度が大きかった(-0.42 SD、95%CI:-0.53~-0.31)。 起源株やB.1.1.7変異株が優勢の期間にSARS-CoV-2に感染した患者は、その後の変異株感染者より認知機能障害の程度が大きかった(たとえばB.1.1.7変異株vs.B.1.1.529変異株:-0.17 SD、95%CI:-0.20~-0.13)。また、入院した患者のほうが、入院しなかった患者より認知機能障害の程度が大きかった(たとえばICU入院患者:-0.35 SD、95%CI:-0.49~-0.20)。 解析結果は傾向スコアマッチング解析を実施しても同様だった。症状が持続する患者は非COVID-19群に比べて、記憶、推理、実行機能のタスクで障害が大きく(-0.33~-0.20 SD)、これらのタスクは、記憶力低下、ブレインフォグなどの最近の症状と弱い相関が認められた。 今回の結果を踏まえて著者は、「認知機能障害の長期的な持続の有無および臨床的影響は、依然として不明である」と述べている。

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3Dプリントで「会話」する脳組織の作成に成功

 ニューロン(神経細胞)が互いにネットワークを形成して「会話」する脳組織を3Dプリンティング技術で作成することに成功したという研究結果を、米ウィスコンシン大学マディソン校の研究グループが発表した。研究グループは、「研究室における神経学的プロセスの研究を進歩させる画期的な成果だ」と述べている。同大学マディソン校ワイズマンセンターのSu-Chun Zhang氏らによるこの研究の詳細は、「Cell Stem Cell」2月号に掲載された。 Zhang氏は、「これは、ヒトの脳細胞や脳の部位がどのようにコミュニケーションを取っているのかを理解する上で、非常に強力なモデルになる可能性がある」と述べ、「この3Dプリントの脳組織は、幹細胞生物学、神経科学、そして多くの神経疾患や精神疾患の発症機序に対する見方を変える可能性がある」と付け加えている。 Zhang氏らによると、脳研究の分野では、すでに脳組織の一部を再現した有機モデル(脳オルガノイド)が作成されている。しかし、脳オルガノイドの成長の仕方は、3Dプリンティング技術で作成した脳組織と比べると、細胞の組織化や相互結合能力の点ではるかに劣るという。 3Dプリンティング技術を用いて脳組織を作成する以前の試みでは、ニューロンやグリア細胞を含む層を垂直方向に積み重ねるアプローチが取られていた。これに対してZhang氏らは今回、iPS細胞(誘導多能性幹細胞、人工多能性幹細胞)から成長させたニューロンを従来よりも柔らかい「バイオインク」ゲルに配置し、これを水平方向に並べるアプローチを採用した。Zhang氏は、「この組織は、構造を保つのに十分な強度と、ニューロンが互いに成長し、ネットワークを形成するのに必要な柔軟性を兼ね備えている」と説明する。同センターの一員で論文の筆頭著者であるYuanwei Yan氏はさらに、「このアプローチでは、細胞が比較的薄い層の中に置かれるため、周囲の培地から必要な栄養素や酸素を効率的に吸収できる」と補足している。 この方法で組織を培養した結果、細胞は、神経伝達物質を使って互いに信号を送り合い、組織内だけでなくそれぞれの組織を越えて、本物の脳に匹敵するようなネットワークを形成することが確認された。 Zhang氏は、「われわれは、大脳皮質と線条体を3Dプリントしたが、驚くべき結果が得られた。脳の異なる部位に属する別々の細胞同士でも、非常に特殊な方法で互いにコミュニケーションを取ることができたのだ」と話す。 Zhang氏は、「われわれの研究室は優れた技術を持ち合わせており、いつでもあらゆるタイプのニューロンを作成できるし、それらをほぼ自在に組み合わせることができる」と話す。同氏はさらに、「組織をデザインしてプリントすることができるので、ヒトの脳のネットワークがどのように機能しているのかを、明確なシステムの中で調べることができる。つまり、ほしいものを正確にプリントできるため、特定の条件下で神経細胞が互いにどのように会話しているのかを具体的に観察することが可能なのだ」と強調している。 研究グループは、今回作成された3Dプリント組織は、特別な装置を必要とせず、標準的な顕微鏡で神経学的プロセスを調べることができるため、ほとんどの研究室で簡単に使用できると考えている。また、この組織がダウン症、アルツハイマー病、脳の発達に対する理解を深めるための研究や、実験薬の開発に活用できる可能性を示唆している。 Zhang氏は、「これまでの研究は一つのことに注目することが多かったので、重要な構成要素が見逃されがちだった。しかし、脳というものはネットワークの中で働いているのであって、細胞単独で働いているわけではない。細胞同士は互いに話し合っているのだ。脳のこのような機能の仕方を真に理解するには、脳を一つのまとまりとして研究する必要がある」と話している。

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在胎不当過小に関わる胎盤の異常をドプラ超音波検査で検出

 胎盤と胎児の血流を超音波で測定することで、在胎不当過小(small for gestational age;SGA)に関連する胎盤の異常を見つけられる可能性のあることが、アムステルダム大学メディカルセンター(オランダ)産科学准教授のWessel Ganzevoort氏らの研究から明らかになった。詳細は、「British Journal of Obstetrics & Gynaecology」に2月5日掲載された。 Ganzevoort氏らの説明によると、胎児の約10%は母親の胎内にいる時点で超音波検査によりSGAと判定される。SGAは、同じ在胎期間で生まれた新生児の標準的な体重分布の10パーセンタイル未満に該当する新生児の状態を指す。SGAであっても健康であれば、特別な介入は必要ない。しかし、胎盤に異常がある場合には対処する必要があり、分娩誘発が必要となることもある。Ganzevoort氏は、「こうしたことから、胎盤異常を原因とするSGAの胎児は、追跡が極めて重要だ」と言う。 胎児の成長は通常、超音波検査で確認・追跡されるが、今回の研究では、臍帯(へその緒)の中の血管の抵抗性をより詳細に観察するためにドプラ超音波が用いられた。Ganzevoort氏らによると、ドプラ超音波によって医師は胎盤の状態について重要な手がかりを得ることができるとともに、胎児の脳の血流を捉えることもできる。脳への血流量の異常は胎盤の機能に異常がある可能性を示唆する。Ganzevoort氏らは、「ドプラ超音波を用いることで、医師は胎児がより緊密なモニタリングを必要とするかどうかの判断が可能になる」と説明している。 19施設の二次および三次医療センターで実施されたこの研究では、SGA児における中大脳動脈と臍帯動脈の血流速度の比(umbilicocerebral ratio;UCR)と不良な周産期アウトカムとの関連を検討し、早期分娩がアウトカムに与える影響が調査された。対象者は、1)ドプラ超音波検査でUCRが2回連続で異常値を示し、推定胎児体重(EFW)が妊娠35週目で3パーセンタイル以下、または妊娠36週目で10パーセンタイル以下、2)UCRが一度または断続的に異常値を示した、3)UCRに異常なし、に分類された(ドプラ分類)。1)に分類された妊婦はさらに、妊娠34週で分娩を誘発する群と妊娠37週目まで経過観察する群にランダム化されたが、その途中でランダム化される対象者の数が少な過ぎるため、試験は打ち切られた。ランダム化された妊婦を対象にした解析からは、EFWの中央値倍数(MoM)、妊娠高血圧腎症、およびドプラ分類が、不良な周産期アウトカムの複合と独立して関連することが示された。 Ganzevoort氏は、「こうした体格の小さな胎児のケア計画にドプラ超音波検査を組み込むことで、出産に関わる問題のリスク上昇を検出しやすくなり、モニタリングにつなげやすくなる」と同医療センターのニュースリリースの中で述べ、「ドプラ超音波検査の測定結果が正常な低体重の胎児には、それほど集中的なモニタリングは必要ないという判断ができるため、必要最低限の介入だけで自然分娩を行える可能性が高まる」としている。 なお、Ganzevoort氏らは今回の研究の中で、胎盤機能の異常によって危険な状態にさらされていると考えられる胎児の転帰が、妊娠37週未満での分娩誘発により改善するかどうかについても検討したが、転帰は改善されないことが明らかになった。そのため、同氏らは、こうした胎児は胎内により長い期間とどまることが健康の点では最善なのではないかとの見解を示している。

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認知症になる前に頭の中で何が起きているのか(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー型認知症になる前に頭の中で何が起きているのだろうか? もうすぐ新学期だから、医学生・看護学生に話すつもりでわかりやすく説明しよう。 かつてはアルツハイマー型認知症のことは何もわかっていなかったが、亡くなった人の脳を調べることで、重症になればなるほどアミロイドが溜まり、タウが溜まり、脳が小さくなっている(萎縮という)ということがわかっていた。しかし脳は、たとえば肝臓のように、バイオプシーができないため、実際に生きている人の脳の中で何が起きているのかはわからないという大問題があった。診断に関しても、血液検査や画像検査(こういうのをバイオマーカーという)ではわからないので、臨床診断しかなかったのだ。われわれがいつも使ってきたDSM4やICD10はバイオマーカーを用いない臨床診断である。 しかしアミロイドペットによってアミロイドを見える化できるようになったことで、革命的な変化が始まった。第一にバイオマーカーを用いた新たな診断体系が出来上がった。National Institute on Aging-Alzheimer’s Association group(NIA/AA)の診断基準である。新しい「望遠鏡」ができたのだ。第二に脳の画像やバイオマーカーを追っていく大規模研究が世界規模で行われた。これがAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)であり、わが国のADNIはJ-ADNIという。これにより脳内に何が起きているのかが「見えてきた」。第三にバイオマーカーについてさらにわかってきた、アミロイド⇒タウ⇒神経損傷という順番がわかり、がんのTNM分類のようにATN分類が出来上がった。アミロイド(A)タウ(T)神経損傷(N)である。見えるだけではなく「わかってきた」といったところか。 という大きな流れを見てみると、中国で上記のバイオマーカーの進展を調べたというのがこの研究である。やはりアミロイドが先に動いていることがわかる。この論文の価値は十分に認めたうえで記載するが、大局的には「追試」を行ったともいえる。 さて、時代はすでにアミロイドへの先制介入へと移っている。初期のアルツハイマー型認知症に抗体が進展抑制効果を持つことがわかり、今後はプレクリニカル期へと延びていくだろう。この後の未来のシナリオは3つある。 シナリオ1は、アルツハイマー型認知症が完全に予防できるようになり、認知症の人が減るという未来だ。もし認知症が完全に発症予防できるようになれば人間は神に近づいていくともいえよう。シナリオ2は、アルツハイマー型認知症はある程度ゆっくりになるので、逆に患者が増えていくという未来である。共生がより重要になる。シナリオ3は、実はアルツハイマー型認知症以外にも多数の認知症が隠れており(専門家ならよく知っているのだが)、アルツハイマー型認知症の薬剤が社会に広がることで、むしろ他の治らない認知症が増えていくように見えるという未来である。共生は重要だが、予防もまだまだ最先端課題だ。 どのシナリオになりそうかはここでは私はあえて述べない。私のような精神科医ではなく脳神経内科医なら、もっと正確な未来予測もできるかもしれないことも付記しておく。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(1)【臨床留学通信 from NY】第57回

第57回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(1)医師の働き方改革が2024年4月から施行されます。私は米国にいるため情報に疎いのですが、働き方のみの形状を変えたところで、当直を働く時間にカウントしないといった姑息な手段が取られるのみではないかと危惧します。形だけの働き方改革にならないために、医者の働く時間を少なくしても同等の給料が得られるような、財源の確保が必要です。今回から3回にわたって、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考えてみたいと思います。日本とは対照的な米国の医療システム日本の国民皆保険は世界がうらやむ制度です。誰もが平等に最良の医療を受けられ、それが同じ価格で、かつ1人当たりの負担額も安いからです。それとは対照的な米国の医療システム。貧富の差が激しい米国においては、ある一定の収入以下の人が入れるMedicaid(メディケイド)という保険がありますが、それがカバーする内容はかなり制限されています。具体的に挙げるのは難しいのですが、たとえば今話題のセマグルチドを肥満症に処方するのは、新しい薬で高額であるためできないと思います。同様に、65歳以上が入れる保険のMedicare(メディケア)も一見よさそうなのですが、それだけしか入っていない場合、セマグルチドはカバーされないでしょう。そのため、いろいろな会社が提供するプライベート保険などに入らなければなりませんが、プランはさまざまです。といっても、たとえば4人家族で保険料を払おうとすると年間100万~150万円以上は必至。よく聞くポスドク留学は最低賃金が一般的に5万ドル(約740万円)程度といわれていますが、それに保険のプランを追加するかどうかもよく交渉しないと大変になってしまいます。その点、臨床留学は病院勤めのため、当初の給料は6万ドル(約890万円)余りでしたが、かかれる病院の縛りはあれど(このプランでは自分が所属する病院のみにしかかかれない)、保険もカバーされていたため、家族帯同の渡米には一定の安心がありました。無保険者も一定数いる米国5万~6万ドル程度の収入の場合、Medicaidには入れず、年間1万ドル(約150万円)近くかかる健康保険にも入らない人がいるため、米国には無保険の人がいることになります。予防医療を声高に叫んでいる米国において、そもそも病院に行けない未治療高血圧、脂質異常症、糖尿病の人が、心筋梗塞になって病院に来て、命は助かったがお金がない、ということもあります。実際には緊急Medicaidに入ってなんとかなるようなのですが、詳しくはちょっとわかりません。また、私が働いている病院の1つであるJacobi Medical Centerはニューヨーク市の公的病院であるため、無保険でも最低限の治療や投薬は受けられるようになっています。米国のそんな医療を受けたくはない、というのも日本人なら感じることですが、日本人が今まで受けてきた恩恵も、医師の働き方改革と並行して変えていく必要がありそうです。次回には、米国で行われている医療費を制限するための膨大な方法を説明したいと思います。Column先月、子供の冬休みに合わせて、4泊5日でアリゾナ州のグランドキャニオン国立公園とセドナに行ってきました。アメリカの国立公園はすごいと聞いておりましたが、西側にたくさんあるため、訪れたのは今回が初めてでした。壮大で息を呑むような景色でした。2009年発売のLeica M9で撮影した写真ですが、綺麗に撮れました。画像を拡大する画像を拡大する

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gout(痛風)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第1回

言葉の由来痛風は英語にすると“gout”です。この“gout”、語源は諸説あるようですが、フランス語の“goute”ないし、中世ラテン語の“gutta”という言葉から来ているようです。これらの言葉にはともに“drop”(落とす)という意味があるそうです。「痛風」と「落とす」…。一瞬つながりがわかりにくいですが、痛風という病気は、古くは「血液中の原因物質が関節に“落っこちる”」ことで起きると信じられてきたそうです。ここから、この言葉が当てられたようです。そして、この由来は当たらずといえども遠からずで、痛風とは、尿酸が結晶となって関節内に“落っこちる”ことで起こるのですよね。実際に、“gout”を“drop”(落とす、滴る)という古典的な意味合いで用いるケースも、読み書きでは残っているようです。口語で耳にすることはありませんが、“gouts of phlegm”と言うと、「痰の塊」の意味となり、“drop”に近い意味合いだと思われます。日本語の「痛風」という病名の由来も諸説あるようですが、「風が当たっただけでも痛い」ところから来ている、というのが定説ですね。そう考えると、痛風は英語と日本語でまったく語源が異なるようです。併せて覚えよう! 周辺単語痛風発作gout attack尿酸urate/uric acid結晶crystalプリン体purine関節炎arthritisこの病気、英語で説明できますか?Gout is a common, painful form of arthritis. It causes swollen, red, and stiff joints. It occurs when uric acid builds up in the blood and causes inflammation in the joints.講師紹介

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