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CDK4/6阻害薬治療中に進行したHR+HER2-転移乳がん、生存に関連する因子は?

 ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)転移乳がんにおいて、内分泌療法+CDK4/6阻害薬による治療中に病勢進行した後の実臨床における無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)をイタリア・European Institute of Oncology IRCCSのPier Paolo Maria Berton Giachetti氏らが評価した。その結果、「若年」「de novo転移病変」「内臓転移」が独立してPFS短縮と関連し、「12ヵ月を超えるCDK4/6阻害薬投与」がOS延長と関連していた。また、内臓転移のある患者には経口化学療法が有益である可能性が示唆された。JAMA Network Open誌2025年2月3日号に掲載。 本研究は多施設後ろ向きコホート研究で、2015年4月22日~2023年1月31日にHR+HER2-転移乳がんと診断され、内分泌療法+CDK4/6阻害薬で病勢進行後に内分泌療法ベースの治療または化学療法ベースの治療を受けた506例(病勢進行後、CDK4/6阻害薬、抗体薬物複合体、免疫チェックポイント阻害薬、PARP阻害薬を投与された患者は除外)を対象とした。治療タイプ、臨床病理学的特徴、CDK4/6阻害薬の前治療期間に基づいて解析した。治療タイプについては、内分泌療法ベースの治療はエベロリムス+エキセメスタンと内分泌療法単独、化学療法ベースの治療は静注化学療法と経口化学療法に分けて解析した。主要評価項目は、実臨床におけるPFS(内分泌療法+CDK4/6阻害薬で病勢進行後の最初の薬剤治療開始から病勢進行/あらゆる原因による死亡までの期間)、副次評価項目は、実臨床におけるOS(内分泌療法+CDK4/6阻害薬で病勢進行後、あらゆる原因による死亡までの期間)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者506例(診断時年齢中央値:52.4歳、四分位範囲:44.6~62.8)において、PFS不良と関連する独立因子は、内臓転移(ハザード比[HR]:1.45、95%信頼区間[CI]:1.17~1.80、p=0.008)とde novo転移病変(HR:1.25、95%CI:1.01~1.54、p=0.04)であった。・CDK4/6阻害薬の投与期間が長いほど(OSのHR:0.55、95%CI:0.41~0.73、p<0.001)、また年齢が高いほど(PFSのHR:0.99、95%CI:0.98~1.00、p=0.03)、予後良好であった。・静注化学療法および内分泌療法の治療は、経口化学療法と比較してPFS短縮と関連していた(静注化学療法のHR:1.45、95%CI:1.11~1.89、p=0.006、エベロリムス+エキセメスタンのHR:1.38、95%CI:1.06~1.78、p=0.02、内分泌療法単独のHR:1.38、95%CI:1.05~1.89、p=0.02)。・12ヵ月超のCDK4/6阻害薬投与がOS延長と関連していた(HR:0.55、95%CI:0.41~0.73、p<0.001)。・内臓転移を有する患者では、静注化学療法は経口化学療法と比較してOS短縮と関連していた(HR:1.52、95%CI:1.03~2.24、p=0.04)。 このコホート研究の結果から、著者らは「CDK4/6阻害薬ベースの治療で得られた腫瘍制御期間と内臓転移の有無が、治療決定に影響する可能性のある主要因子として浮上した。経口化学療法は特定の患者グループに有益な可能性がある」と結論した。

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抗うつ薬の有用性比較、SSRI vs.SNRI vs.新規抗うつ薬

 うつ病は、長期にわたる薬物療法を必要とすることが多く、有病率の高い衰弱性の疾患である。うつ病の薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)が一般的に用いられるが、一部の患者では有効性および忍容性に限界がある。最近の研究でも、さまざまな経路を標的とした新しい抗うつ薬の有用性が示されている。パキスタン・Azad Jammu and Kashmir Medical CollegeのAmber Nawaz氏らは、うつ病患者に対するSSRI、SNRI、新規抗うつ薬の有効性、QOL改善、副作用プロファイルを評価するため、プロスペクティブコホート研究を実施した。Cureus誌2024年12月24日号の報告。 対象は、Abbas Institute of Medical Sciences の入院および外来うつ病患者300例。研究期間は、2024年3〜8月までの6ヵ月間。対象患者は、SSRI群、SNRI群、新規抗うつ薬群のいずれかに割り付けられた。うつ病の重症度の評価には、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、QOLの評価には、標準化されたQOLスコアを用いた。各群の比較を行うために、t検定、分散分析(ANOVA)、カイ二乗検定などの統計分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・すべての群において、HAM-Dスコアの顕著な低下が認められた。・新規抗うつ薬群におけるHAM-Dスコアの平均低下が最も高かった(17.2、p<0.001)。・すべての群において、QOLの改善が認められた。・新規抗うつ薬群におけるQOLスコアの平均上昇が最も高かった(19.7、p<0.01)。・軽度〜中等度の副作用発現率は、SSRI群で32%、SNRI群で37%、新規抗うつ薬群で25%であり(p=0.04)、重度の副作用発現率は、SSRI群で6%、SNRI群で5%、新規抗うつ薬群で2%であり、新規抗うつ薬群で最も低かった。・アドヒアランスは、SSRI群で84%、SNRI群で82%、新規抗うつ薬群で91%であり、新規抗うつ薬群が最も高かった。 著者らは「新規抗うつ薬は、SSRIやSNRIよりも有効性および忍容性が優れ、QOLやアドヒアランス向上に寄与することが確認された。これらの結果は、従来の治療で効果不十分な患者にとって、新規抗うつ薬は代替薬となりうる可能性を示唆している。より長期的な多施設研究により、これらの結果を確認する必要がある」と結論付けている。

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3月は心筋梗塞・脳梗塞に要注意!?医療ビッグデータで患者推移が明らかに/MDV

 メディカル・データ・ビジョンは、自社の保有する国内最大規模の診療データベースを用いて急性心筋梗塞と脳梗塞に関するデータを抽出し、それぞれの患者数の月別推移、10歳刻みの男女別患者数、65歳以上/未満の男女別併発疾患患者比率を公表した。調査期間は2019年4月~2024年3月で、その期間のデータがそろっていた377施設を対象とした。2~3月に急増、慢性疾患を併存する患者は要注意 本データを用いて急性心筋梗塞と脳梗塞の患者数と季節性について検証したところ、2019年度が最も高い水準で推移しており、以降の年度はやや低下傾向にあるものの、季節的な変動は共通し、冬季では2~3月に急増する傾向がみられた。「急性心筋梗塞」「脳梗塞」それぞれの患者数月別推移を見る※2020年5月の患者数の落ち込みは、コロナ禍による救急医療の逼迫や、医療機関の受け入れ制限による診断・治療の機会の減少が影響している可能性があるという。 また、65歳以上の心筋梗塞ならびに脳梗塞患者の併存疾患として、男女ともに高血圧症、食道炎を伴う胃食道逆流症、便秘、高脂血症があり、高血圧症については男女ともに6割を超えていた。 この結果を踏まえ、加藤 祐子氏(心臓血管研究所付属病院循環器内科 心不全担当部長/心臓リハビリテーション科担当部長)は、「寒暖差による血圧変動に加え、年度末のストレスや生活リズムの乱れが影響を与えている可能性がある」と指摘。「寒暖差は自律神経のバランスを乱しやすく、血管を収縮させ、血液粘稠度が高くなるなどの変化を起こしやすいと考えられる。冬場は身体活動が低下している人も多い」と説明した。また、自律神経のバランスを保ち、急な気温変化にも堪えない体をつくり、心筋梗塞や脳梗塞の最大のリスクである高血圧のコントロールのためにも、「毎日合計30分はすたすた歩き、収縮期血圧120mmHg未満(リラックスした状態で測定)を目指しましょう」とコメントを寄せている。

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米国の医療支出に大きな地域差、その要因は?/JAMA

 米国では、3,110の郡の間で医療支出に顕著なばらつきがみられ、支出が最も多い健康状態は2型糖尿病であり、郡全体では支出のばらつきには治療の価格や強度よりも利用率のばらつきの影響が大きいことが、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L. Dieleman氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月14日号に掲載された。2010~19年の米国の郡別の観察研究 研究グループは2010~19年の期間に、米国の3,110の郡のそれぞれにおいて、4つの医療費支払元(メディケア、メディケイド、民間保険、自己負担)で、148の健康状態につき38の年齢/性別グループ別に7種の治療の医療支出を推定する目的で、400億件以上の保険請求と約10億件の施設記録を用いて観察研究を行った(Peterson Center on HealthcareとGates Venturesの助成を受けた)。 38の年齢/性別グループは、男女別の19の年齢層(0~<1歳から≧85歳)で、7種の治療とは、外来治療、歯科治療、救急治療、在宅治療、入院治療、介護施設での治療、処方された医薬品の購入であった。主要アウトカムは、2010~19年の医療支出および医療利用状況(たとえば、受診・入院・処方の回数)とした。1人当たりの支出、郡間で最大約1万ドルの差 本研究では、2010~19年における個人医療支出のうち76.6%を捕捉した。これは、人口の97.3%の支出を反映している。医療支出は、2010年の1兆7,000億ドルから2019年には2兆4,000億ドルに増加した。この支出に占める割合は、20歳未満が11.5%で、65歳以上は40.5%であった。 健康状態別の支出は、2型糖尿病が最も高額で、1,439億ドル(95%信頼区間[CI]:1,400億~1,472億)であった。次いで、関節痛や骨粗鬆症を含むその他の筋骨格系疾患が1,086億ドル(1,064億~1,103億)、口腔疾患が930億ドル(927億~933億)、虚血性心疾患が807億ドル(790億~824億)だった。 総支出のうち、外来医療費が42.2%(95%CI:42.2~42.2)、入院医療費が23.8%(23.8~23.8)、処方医薬品購入費が13.7%(13.7~13.7)を占めた。郡レベルの1人当たりの年齢標準化支出は、最も低かったアイダホ州クラーク郡の3,410ドル(95%CI:3,281~3,529)から、最も高かったニューヨーク州ナッソー郡の1万3,332ドル(1万3,177~1万3,489)の範囲にわたっていた。説明のつかない支出ばらつきの調査が、医療施策の立案に役立つ可能性 郡間で最もばらつきが大きかったのは、年齢標準化自己負担額で、次いで民間保険による支出であった。また、郡全体でのばらつきは、治療の価格や強度よりも医療利用率のばらつきによって大きく影響を受けた。 著者は、「このようなばらつきを、健康状態、性別、年齢、治療の種類、支払い元の違いで地域別に理解することが、異常値の特定、成長パターンの追跡、不平等の顕在化、医療能力の評価において重要な考察をもたらす」「最も支出の多い健康状態に焦点を当てて説明のつかない支出のばらつきをさらに調査することが、コストの削減と治療へのアクセスの改善を目的とした保健医療施策の立案に役立つ可能性がある」としている。

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GLP-1RAの腎保護効果はDPP-4iを上回る

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は慢性腎臓病(CKD)進行抑制という点で、DPP-4阻害薬(DPP-4i)より優れていることを示唆するデータが報告された。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのShuyao Zhang氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に12月5日掲載され、2月10日には同大学からニュースリリースが発行された。Zhang氏は、「血糖管理におけるGLP-1RAの有用性は既によく知られていた。一方、われわれの研究によって新たに、CKDハイリスク患者におけるGLP-1RAの腎保護効果を裏付ける、待望のエビデンスが得られた」と述べている。 この研究は、米退役軍人保健局の医療データを用い、臨床試験を模倣した研究として実施された。腎機能低下が中等度(eGFR45mL/分/1.73m2未満)以上に進行したCKDを有する35歳以上の2型糖尿病患者のうち、GLP-1RAまたはDPP-4iで治療されていた9万1,132人から、傾向スコアマッチングにより背景因子の一致する各群1万6,076人から成る2群を設定。この2群はベースライン時点で、平均年齢(GLP-1RA群71.9歳、DPP-4i群71.8歳)、男性の割合(両群とも95%)、BMI(同33.5)、HbA1c(8.0%)、および併発症や治療薬なども含めて、背景因子がよく一致していた。 事前に設定されていた主要評価項目は急性期医療(救急外来の受診・入院など)の利用率であり、副次評価項目は全死亡および心血管イベントの発生率だった。このほか、事後解析として、CKD進行リスク(血清クレアチニンの倍化、CKDステージ5への進行で構成される複合アウトカム)も評価した。 2.2±1.9年の追跡で、1人1年当たりの急性期医療利用率は、GLP-1RA群が1.52±4.8%、DPP-4i群は1.67±4.4%で、前者の方が有意に低かった(P=0.004)。また、全死亡は同順に17.7%、20.5%に発生していて、やはりGLP-1RA群の方が少なかった(オッズ比〔OR〕0.84〔95%信頼区間0.79~0.89〕、P<0.001)。CKD進行についても2.23%、3.46%で、GLP-1RA群の方が少なかった(OR0.64〔同0.56~0.73〕、P<0.001)。心血管イベントに関しては有意差がなかった(OR0.98〔0.92~1.06〕、P=0.66)。 著者らは、本研究結果が糖尿病の臨床を変化させるのではないかと考えている。論文の共著者の1人である同医療センターのIldiko Lingvay氏は、「糖尿病でCKDを有する患者は、低血糖、感染症、心血管疾患などの合併症のリスクが非常に高いにもかかわらず、有効な薬剤が非常に少なく、かつ、そのような患者は臨床試験に参加する機会が限られている。われわれの研究結果は、GLP-1RAがCKDの進行の抑制や医療費の削減につながることを示している」と話す。 Zhang氏もLingvay氏と同様に、今回の研究結果が糖尿病臨床を変え得るとしている。同氏は、「歴史的に見て、糖尿病によるCKDの治療は困難なものであった」と解説。そして、「今後の研究次第では、糖尿病に伴うCKDの包括的治療アプローチの一部として、GLP-1RAを組み込んだ新しいガイドラインが策定される可能性がある。そのガイドラインに基づく治療によって、患者の長期的な転帰が改善し、生活の質の向上につながっていくのではないか」と付け加えている。

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多量飲酒と3個以上の心代謝リスク因子は肝疾患リスクを上昇させる

 腹部肥満や糖尿病、高血圧などを有する人の飲酒は肝疾患リスクを高める可能性があるようだ。飲酒量の多い人では、3個以上の心血管代謝疾患のリスク因子(cardiometabolic risk factor;CMRF)が肝線維化の進行リスクを顕著に高めることが、新たな研究で示唆された。米南カリフォルニア大学ケック医学校のBrian Lee氏らによるこの研究結果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に2月3日掲載された。 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、脂肪肝に加え、肥満や高血圧、高コレステロールなどのCMRFを1つ以上併発している状態を指す。MASLDがあり、かつアルコール摂取量が多い場合には、代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)として分類される。しかし、飲酒自体がCMRFを引き起こす可能性があることから、この定義は議論を呼んでいる。 今回Lee氏らは、米国国民健康栄養調査(NHANES)参加者から抽出した、飲酒量とCMRFの状態が判明している20歳以上の参加者4万898人を対象に、飲酒者におけるCMRFの数と肝疾患関連アウトカムとの関連を調べた。CMRFはNCEP-ATP IIIの基準に基づき、腹部肥満、中性脂肪高値、HDL-C低値、高血圧、空腹時血糖高値と定義した。対象者の飲酒量は、純アルコール量換算で男性は210g/週、女性は140g/週を基準とし、これを超える場合は「飲酒量が多い」と判断された。主要評価項目は、FIB-4インデックス>2.67とした。FIB-4インデックスは、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、血小板数、年齢の4つの指標からスコアを算出して肝線維化を予測するもので、>2.67は「肝硬変、もしくはそれに近い状態で線維化が進んでいる可能性」があることを意味する。 対象者のうち、2,282人が飲酒量の多い「多量飲酒群」、残る3万8,616人は「非多量飲酒群」とされた。多量飲酒群および非多量飲酒群において、FIB-4>2.67に該当する対象者の割合はCMRFの数が増えるにつれ増加し、常に多量飲酒群の方が高かった。具体的には、CMRFが0個の場合では多量飲酒群2.3%、非多量飲酒群0.7%、1個では3.0%と1.7%、2個では3.3%と2.1%、3個では5.9%と2.5%、4または5個では6.1%と4.0%であった。多量飲酒群においてFIB-4>2.67になる調整オッズ比(0個の場合との比較)は、1個で1.24(95%信頼区間0.41〜3.69)、2個で1.39(同0.56〜3.50)、3個で2.57(同0.93〜7.08)、4または5個では2.64(同1.05〜6.67)であり、CMRFが3個以上になるとリスクが2倍以上高くなり、特に4〜5個では統計学的に有意なリスク上昇が認められた。 Lee氏は、「この研究結果は、肝疾患リスクが高い集団を特定するとともに、既存の健康問題が、飲酒が肝臓に与える影響に大きく関与する可能性があることを示唆している」と述べている。 本研究には関与していない、南カリフォルニア大学ケック医学校のAndrew Freeman氏は、人々は自分の飲酒量を過小評価していると指摘する。同氏は、「レストランで、5オンス(150mL)に相当するワイン(米国での1杯あたりの純アルコール量〔14gm〕に相当)を注いでもらったら、量が少ないと不満に思うはずだ。人々は自分が思っているよりもずっと多くのアルコールを摂取している可能性がある」と話す。 また、Freeman氏は、高度に加工された高脂肪、高糖質の食品の摂取によりインスリンが過剰に分泌され、インスリン抵抗性が生じて血糖値が過剰になり、脂肪肝になると説明する。そこにアルコールが加わると、「リスクはさらに増大するだけだ」と語る。さらに、アルコールは単独でも肝細胞にダメージを与え、炎症や瘢痕化を引き起こし、長期的には肝硬変や肝臓がんに進行する可能性があるという。 なお、今年の1月、当時、米国公衆衛生局長官であったVivek Murthy氏は、飲酒によるがんリスクについて強い警告を発している。同氏は、「アルコールは、がんの予防可能な原因として確立されており、米国では年間約10万人のがん患者と2万人のがんによる死亡の原因となっている。これは、米国における年間1万3,500人のアルコールに関連する交通事故による死者数よりも多い。それにもかかわらず、米国人の大半はこのリスクを認識していない」と述べている。

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日本人の頭内爆発音症候群の有病率は1.25%で不安・不眠等と関連―忍者睡眠研究

 目覚める直前に、頭の中で爆発音のような音が聞こえることのある頭内爆発音症候群(exploding head syndrome;EHS)の有病率が報告された。EHSが、不安や不眠、疲労感などに影響を及ぼす可能性も示された。滋賀医科大学精神医学講座の角谷寛氏らの研究によるもので、詳細は「Sleep」に1月10日掲載された。 EHSは、睡眠から覚醒に近づいている最中に、頭の中で大きな音が知覚されるという症状で、睡眠障害の一つとして位置付けられている。この症状は通常自然に消失するため良性疾患と考えられているが、EHSを経験した本人は不安を抱き、生活の質(QOL)にも影響が生じる可能性が指摘されている。しかし、EHSには不明点が多く残されており、有病率についても信頼性の高いデータは得られていない。角谷氏らは、日本人のEHS有病率の推定、およびEHSと不安や不眠等との関連について、「Night in Japan Home Sleep Monitoring Study;Ninja Sleep study(忍者睡眠研究)」のデータを用いて検討した。 忍者睡眠研究は、滋賀県甲賀市の市職員2,081人を対象とする睡眠に関する疫学調査で、今回の研究ではデータ欠落者、および、てんかんの既往のある人を除いた1,843人(平均年齢45.9±12.9歳、女性61.7%)を解析対象とした。EHSの有無は、「睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3)」に準拠して作成したアンケートにより判定した。具体的には、(A)覚醒から睡眠への移行時または夜間の覚醒時の、突然の大きな音または頭の中での爆発感覚、(B)その事象の後に覚醒して多くの場合は恐怖感を伴う、(C)激しい痛みは伴わない――という3項目の全てが該当する場合を「EHS」群、(A)のみが該当する場合を「爆発音のみ」群とした。 調査の結果、(A)が該当するのは46人(2.49%)であり、その半数(各23人、1.25%)ずつが、EHS群および爆発音のみ群に分類された。EHS群とその他の群(非EHS群〔爆発音のみ群も含む〕)を比較した場合、年齢、性別の分布、BMI、現喫煙・飲酒習慣、睡眠時間、睡眠薬の服用、睡眠時無呼吸の既往などに有意差はなかった。 続いて、EHSとメンタルヘルス状態やQOLとの関連を検討。するとEHS群は、抑うつや不安、不眠、疲労といった症状が有意に多く認められた。詳しく見ると、抑うつについてはPHQ-9という評価指標が10点以上の割合がEHS群50.0%、非EHS群16.4%、不安についてはGAD-7が10点以上の割合が同様に47.4%、12.7%、不眠はAISが10点以上の割合が33.3%、12.1%、疲労はCFSが22点以上の割合が47.8%、22.0%だった。また、QOLの評価指標のうち、メンタル面のQOLが良好(SF-8MCSが50点以上)な割合は、21.7%、42.2%でEHS群が有意に少なかった。身体面のQOLは有意差がなかった。 年齢、性別、BMI、および睡眠時間の影響を調整した解析でも、EHS群は非EHS群に比べて、抑うつ(オッズ比〔OR〕1.197〔95%信頼区間1.125~1.274〕)、不安(OR1.193〔同1.114~1.277〕)、不眠(OR1.241〔1.136~1.355〕)、疲労(OR1.112〔1.060~1.167〕)が多く認められた。なお、EHS群と爆発音のみ群を合わせて1群として、その他の群と比較した解析の結果も、ほぼ同様だった。 著者らは本研究を、「日本人のEHS有病率に関する初の研究」と位置付けている。一方、調査対象が1自治体の公務員のみであり一般化が制限されること、横断研究であるためEHSとメンタルヘルス状態との関連の因果関係は不明であることなどの限界があるとし、さらなる研究の必要性を指摘している。 なお、本研究で示されたEHSの有病率1.25%という数値は、海外での先行研究に比べてかなり低い値だという。この乖離の理由として、先行研究の多くは睡眠関連疾患の患者を対象としていたりオンライン調査であったりするため、EHS既往者が多く含まれている集団で調査されていた可能性が高いこと、および、本研究のようなICSD-3の定義に準拠した方法ではなく、EHSの有無を一つの質問のみにて判定していることによる精度差などが考えられるとのことだ。

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肥満患者における鎮静下消化器内視鏡検査中の低酸素症発生に対する高流量式鼻カニュラ酸素化の有用性(解説:上村直実氏)

 消化器内視鏡検査は苦痛を伴う検査であると思われていたが、最近は多くの施設で苦痛を軽減するため、検査時に鎮静薬や鎮痛薬を用いた鎮静法により大変楽に検査を受けられるようになっている。しかし、内視鏡時の鎮静に対する考え方や方法は国によって大きく異なっている。米国では、内視鏡検査時の鎮静はほぼ必須であり、上下部消化管内視鏡検査受検者のほぼすべてが完璧な鎮静効果を希望するため、通常、ベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせを使用して実施される。具体的には、ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬のミダゾラムとオピオイド鎮痛薬のフェンタニルの組み合わせが、最も広く利用されている。保険診療システムが異なるわが国でも、日本消化器内視鏡学会のガイドラインにおいて「経口的内視鏡の受容性や満足度を改善し、検査・治療成績向上に寄与する」ことから検査時の鎮静が推奨されると明記されており、多くの施設においてミダゾラムの使用が一般的になっている。 一方、内視鏡検査時の鎮静に関して最もよくみられる有害事象は、呼吸抑制、気道閉塞、胸壁コンプライアンスの低下に伴う低酸素血症である。とくに肥満者に多くみられる合併症であり、時に重篤になる場合もあるため注意が必要である。今回、中国・上海の大学病院3施設でBMIが28以上の肥満者を対象として鎮静を伴う検査時の低酸素血症を予防する手段として、加湿・加温された高濃度の酸素を最大60L/minという高流量で供給する高流量式鼻カニュラ(HFNC)を介した酸素投与の有用性を検証する目的で、通常の鼻カニュラを対照として施行された多施設ランダム化比較試験の結果が、2025年2月のBMJ誌において報告された。 本試験で使用された鎮静法は、麻酔科医師の指導の下にsufentanilと静脈麻酔薬のプロポフォールが用いられているが、日本では「消化器内視鏡診療におけるプロポフォールの不適切使用について ―注意喚起―」が日本消化器内視鏡学会から提起されているように、本剤は麻酔科医師の監視の下に使用することが義務付けられている点に注意が必要である。非常に強い鎮静効果を有する鎮静法における肥満者の低酸素血症予防が重要であると思われるが、本試験の結果では通常の鼻カニュラに比べて低酸素血症を引き起こす頻度が20%から2%に劇的に減少し、HFNCの有用性が明らかにされたものであり、将来的にはわが国にも導入されることが期待される。 最後に、消化器内視鏡検査を受ける患者さんにとって検査時の鎮静は賛否両論あるようで、「楽に検査を受けられる」「苦しい検査は受けたくない」とする鎮静賛成派と「検査の最中に意識がなくなるのは嫌」「内視鏡の画像を見たいので」という否定派に分かれている。内視鏡医にも肯定派と否定派がいて、最近では肯定派の医師が多くなっているが、鎮静に用いる薬剤の有用性とリスクに熟知することが重要であることは言うまでもない。

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構造的心疾患の手技と研究ができる最高の環境へ【臨床留学通信 from Boston】第9回

構造的心疾患の手技と研究ができる最高の環境へボストンの冬は-15度を記録する日が続き、雪も週に1、2回降るため、屋外での運動は難しい状況です。幸い、借りているアパートには各住戸専用の地下物置があり、そこに運動用のバイクを置いて運動不足を解消しようとしています。さて、私の2025年7月からの進路が決まりましたので、ご報告いたします(アメリカの病院は7月始まり、6月終わりの1年をAcademic Yearと呼びます)。2025年7月からは、同じボストンのBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)/Harvard Medical Schoolに移り、Structural Heart Disease(構造的心疾患)のフェローをすることになりました。実はこの決定には相当な葛藤がありました。そもそも、私が渡米した理由の1つはStructural Heart Disease Interventionを学ぶことでした。日本でもこの分野の技術は確立されつつありますが、私が渡米を決意した2010年前後は欧米に遅れをとっている状況でした。現在でも、新しいデバイス、とくに三尖弁閉鎖不全症のカテーテル治療は米国では認可されているものの、日本では未認可の状況です。そのため、米国で学ぶメリットがあると考えました。また、冠動脈の治療はすでに成熟しており、新たな伸びしろが少ないとも思いました。ただ、フェローとしての安月給のまま、さらに1年を費やすことへの迷いもありました。実際、MGH(Massachusetts General Hospital)のカテーテル治療部門ではフェローより上位のアテンディングポジションに空きがあり、採用される可能性がありました。そのため、MGHのStructural Heart Diseaseのフェローの応募締め切りが8月下旬だったこともあり、フェローには応募せずに、他の場所も含めてアテンディングポジションにアプライしていました。ただし、以前BIDMCのStructural Heart Diseaseフェローの担当者と6月にやりとりしていた際、私は応募を考えており、その時は12月の締め切りに間に合えばよいと認識していました。ところが、締め切りが実際には10月であったことを後から知り、再び迷いが生じました。締め切りは過ぎていましたが、「12月が締め切りと聞いていました」と主張し、急遽面接を受けることになりました。幸い、BIDMCには25名ほどの応募者がいたものの、同じハーバード関連病院ということもあり、応募さえすれば私を採用する意向だったようです。平日にMGHを抜け出して車で20分ほどの距離にあるBIDMCへ面接に行くと、病院の概要説明と簡単な質疑応答がありました。その際、MGHのアテンディングポジションと迷ってることも正直に伝え、理解を得ました。決定まで5日の猶予をいただき、家族と相談した結果、最終的に2025年7月からの1年間、さらなる研修を受けることに決めました。BIDMCでは、TAVR 450件以上、MitraClip 120件以上、左心耳閉鎖や三尖弁閉鎖不全症に対するクリップ術・弁置換術、ASDやPFOといった先天性心疾患の治療を学ぶ予定です。また、研究面でもBIDMCは非常に活発で、NCDR(National Cardiovascular Data Registry)の統計解析施設の1つとなっています。一方、MGHのインターベンション部門の研究はそれほど活発ではなく、一部の医師がBIDMCと共同研究をしている程度です。そのため、フェローとしての最終年を迎えるに当たり、最適な場所を見つけたと感じています。

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第232回 高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府石破 茂首相は2月28日、衆院予算委員会で高額療養費制度の負担上限額引き上げを8月から実施すると明言した。一方で、2026年8月以降のさらなる引き上げについては患者団体の意見を聞いた上で再検討し、今秋までに結論を出す方針を示した。この発表に対し、立憲民主党の野田 佳彦代表は「1年間凍結し、患者と対話をするべきだ」と主張。患者団体からも「治療を諦めざるを得ない人が出る」「命に関わる問題」と強い反発の声が上がっている。政府の方針では、年収370~770万円の患者は月額負担上限が約8,000円増の8万8,200円に、年収770~1,160万円では2万円増の18万8,400円、年収1,160万円以上は約4万円増の29万400円となる。さらに2026年以降は区分を細分化し、年収650~770万円では最終的に13万8,600円、年収1,650万円以上は44万4,300円に引き上げる予定だったが、見直しの可能性が示された。負担増の背景には高齢化と高額薬剤の普及による医療費の増加がある。政府は「制度を持続可能にするため」と説明するが、患者団体や専門学会は「がん患者の治療継続が困難になる」「経済的理由で適切な治療を受けられなくなる」と強く批判。日本臨床腫瘍学会などは「上限額の引き上げ幅が大きすぎる」と慎重な検討を求める声明を発表した。高額療養費の見直しは、子育て支援や医療財源確保の観点から避けられないとする意見もあるが、患者の命に関わる制度であるため、慎重な議論が求められている。参考1)石破首相、医療費の負担アップ「実施したい」と表明 非難集まる「高額療養費の負担上限引き上げ」8月から(東京新聞)2)高額療養費制度 負担上限額引き上げ方針で自己負担はどうなる?年収別に詳しく2025年8月から開始 2026年8月以降は再検討へ(NHK)3)高額療養費の負担増、一部凍結を首相表明 今夏は実施して「再検討」(朝日新聞)4)高額療養費引き上げ凍結に応じぬ石破首相、立民「不十分」と反発 予算案採決へ溝埋まらず(産経新聞)5)高額療養費制度における自己負担上限額引き上げに関する声明(日本臨床腫瘍学会・日本学会・日本治療学会)6)高額療養費制度上限額引き上げに関する緊急声明(日本乳学会)7)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する声明(日本胃学会)8)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する緊急声明(日本緩和医療学会)2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁総務省消防庁は2025年度より、全国の全消防本部で「マイナ救急」を本格導入する。「マイナ救急」とは、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急搬送時に患者の通院歴や服用薬などの医療情報を確認するシステム。昨年実施された実証事業では約1万1,000件の情報閲覧が行われ、迅速な病院選定や適切な処置に貢献した。救急隊員からは「搬送先決定の迅速化」「意識不明者の病歴把握の容易化」といったメリットが報告され、病院側からも「診療開始の時間短縮」「独居高齢者の正確な医療情報の把握ができた」との評価が寄せられた。具体的な事例として、持病の糖尿病がマイナ保険証で判明し、搬送中に適切な処置が行われたケースや、意識のない患者の服薬状況が即座に確認できた事例などがあった。一方で課題も残り、救急隊員には患者の所持品を確認する法的根拠がなく、意識を失った傷病者がマイナ保険証を提示できない場合、情報閲覧が困難となる。また、従来の医療機関専用システムでは情報閲覧に時間を要する問題があり、消防庁はタブレット端末を活用した新システムを開発し、3月に実装する予定という。消防庁は将来的に、マイナ保険証をスマートフォンに搭載し、救急隊がロック解除なしで必要な医療情報を閲覧できる仕組みの検討も進める方針。救急医療の効率化を図る一方、個人情報保護や法整備の必要性が問われており、今後の運用方法に注目が集まる。参考1)マイナンバーカードを活用した救急業務(マイナ救急)の全国展開に係る検討(消防庁)2)マイナ保険証を活用する「マイナ救急」とは 全国の消防本部に導入へ(NHK)3)マイナ救急の実証事業、全720消防本部で来年度実施へ 情報閲覧の新システムを構築 総務省消防庁(CB news)4)マイナ救急、意識障害の急病人の早期回復などにつながる-4月から全国で実施(ケータイWatch)3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省厚生労働省は2月26日、高度な医療を提供する「特定機能病院」の基準を見直し、大学病院には「医師を派遣する機能」を追加する方針案を公表した。大学病院は、これまで高度な医療の提供、研究、教育といった役割を担ってきた。しかし、医療の高度化に伴い、大学病院以外の病院も高度な医療を提供できるようになり、大学病院の役割が見直されている。そこで、厚労省は、大学病院にしか担えない役割を明確にすると同時に、特定機能病院の基準を見直すこととした。新基準案では、大学病院に対し、地域医療を守るための医師派遣機能を強化することを求めている。具体的には、大学病院が地域に一定数の医師を派遣することを求めるほか、移植医療やゲノム医療、充実した研究や教育体制、都道府県と連携した医師派遣の取り組みなどを評価する。将来的には、積極的に取り組む大学病院には、経済的な報酬などのメリットも検討している。参考1)第23回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会資料(厚労省)2)大学本院「基礎的」と「上乗せ」の基準設定へ 特定機能病院の承認要件、厚労省が見直し案(CB news)3)大学病院に「医師派遣機能」追加へ 厚労省、特定機能病院の新基準案(朝日新聞)4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省厚生労働省が、2月27日に発表した2024年の人口動態統計速報によると、わが国の出生数は72万988人と過去最少を更新し、9年連続で減少した。死亡数は161万8,684人と過去最多となり、出生数を上回る「自然減」は過去最大の89万7,696人に達した。人口減少はさらに加速し、少子化の進行が政府の想定よりも15年早まった結果となった。少子化の主な要因として、未婚化・晩婚化の進行、経済的な不安、子育てと仕事の両立の困難さなどが挙げられる。とくに、出産・育児による女性の賃金低下が顕著で、男女間の格差が拡大している。社会全体に根付いた「子育ては女性の役割」といった価値観や長時間労働の慣行も影響しており、単なる経済支援策だけでは効果が限定的である。政府は2024年度から3年間で「異次元の少子化対策」を進め、児童手当の拡充や育児休業給付の改善を行っている。しかし、今回の統計はこうした施策の初年度に当たりながらも、出生数の増加にはつながらなかった。加えて、婚姻数は49万9,999組と戦後2番目に低い水準にあり、少子化対策の根本となる婚姻の増加も実現できていない。こうした状況に対し、石破 茂首相は「出生数の減少に歯止めがかかっていない。地方の出生率の高さに注目し、若者や女性の定着を進める」と述べた。また、政府は社会保障制度の維持のために、高齢者中心だった給付と負担の構造を転換し、現役世代の負担を軽減する方針を示した。しかし、現役世代の減少は避けられず、今後の社会保障制度の安定性にも懸念が広がる。専門家は「少子化を前提とした社会の仕組みを構築し、男女ともに働きやすく、安心して子育てができる環境を整備することが急務」と指摘している。少子化対策には時間がかかるため、政府は短期的な経済支援だけでなく、社会全体の意識改革や労働環境の抜本的な見直しを進める必要がある。参考1)人口動態統計速報[令和6年12月分](厚労省)2)24年の死亡数・人口減が過去最多 厚労省、約90万人の自然減(CB news)3)少子化の進行、想定より15年早く…昨年の出生数は過去最少72万988人で9年連続最少(読売新聞)4)24年出生数は最少72万人 10年で3割減、現役世代に負担(日経新聞)5)「異次元の少子化対策」初年度は不発 婚姻数も最低水準(同)5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省東証プライム上場企業「サンウェルズ」が、入所者紹介業者に対し1人当たり100万円の高額な紹介料を支払っていたことが発覚した。同社は現在、こうした高額紹介を受けない方針に転換するとしているが、老人ホーム業界では要介護度に応じた紹介料の設定が横行しており、公平性が問題視されている。この問題を受け、日本医療ソーシャルワーカー協会は、全国の医療ソーシャルワーカーを対象に紹介業者との関係実態を調査開始。元紹介業者の証言によれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)への接待を通じて、入所者を紹介させるケースもあったという。また、厚生労働省は要介護度に応じた紹介料を「不適切」と認定し、昨年12月に有料老人ホームの設置運営標準指導指針の改正を行い、有料老人ホームに対し、入居希望者の介護度や医療の必要度に応じて手数料を設定しないよう求めているが、さらなる規制を検討している。さらに厚労省は自治体に対しては、施設側の指導を強化するよう求めている。高齢者施設の紹介ビジネスが、医療・介護保険を利用した営利目的の手段と化している実態が浮き彫りとなり、制度の見直しが急務となっている。参考1)老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞)2)医療ソーシャルワーカー協会、紹介業者との関係を調査 高額紹介料で(同)3)要介護度に応じた高額紹介料「不適切」 老人ホームビジネスで厚労相(同)4)高額な紹介料は不適切 厚労省 有料老人ホーム指導指針を改正(シルバー新報)5)有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(厚労省)6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県岐阜県海津市の精神科病院「養南病院」で、2024年10月に男性看護師が女性入院患者に暴行を加えたにもかかわらず、病院が義務付けられている通報を怠っていたことが明らかになった。暴行の内容は、患者が指示に従わなかったことに腹を立て、押し倒して首をつかむなどの行為であり、院内カメラにも映像が残されていた。病院側は患者からの訴えを受け、事態を把握していたが、加害者である看護師は自主退職したため、懲戒処分も行われなかった。病院の関谷 道晴理事長は「通報義務が頭から抜け落ちていた」と釈明している。2024年4月の精神保健福祉法改正により、精神科病院で虐待が疑われる事案を発見した場合、都道府県への通報が義務化されている。しかし、病院は「職員がすぐに退職したため、判断に迷い通報をためらった」と説明。匿名通報を受けた岐阜県が11月に立ち入り調査を実施し、今回発覚に至った。病院側も「隠蔽と受け取られてもやむを得ない」と認めている。また、昨年12月には別の女性看護師が患者に対し乱暴な対応をしたことも判明。この件については県に通報され、現在調査が進められている。同病院では、過去にも看護師による不適切な言動が複数報告されており、県が継続的に監視を行う方針だ。この問題を受け、病院は「再発防止と信頼回復に努める」としているが、精神科病院の通報体制の不備や虐待の隠蔽体質が浮き彫りになった。厚生労働省の指導の下、精神医療の透明性向上と、虐待防止策の徹底が求められている。参考1)精神科病院で虐待、隠蔽 改正法で義務化の通報せず(共同通信)2)義務付けられた県への通報せず…精神科病院で男性看護師が女性患者に暴行 言うことを聞かず立腹し押し倒す(東海テレビ)3)海津市の精神科病院 虐待疑われる事案を県に通報せず(NHK)

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3月3日 耳の日【今日は何の日?】

【3月3日 耳の日】〔由来〕「3(み)月3(み)日」との語呂合わせ、数字の「3」が耳の形にみえること、電話の発明家で音声学と聾唖教育で活躍したグラハム・ベルの誕生日であることから、日本耳鼻咽喉科学会の提案により1956(昭和31)年に制定。同会では、都道府県ごとに難聴で悩んでいる方々の相談のほか、一般の方にも耳の病気や健康な耳の大切さの啓発活動を行っている。関連コンテンツ生きた○○が耳の中に侵入【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】日本のメモリークリニックにおける聴覚障害や社会的関係とBPSDとの関連性加齢性難聴予防に「聴こえ8030運動」を推進/耳鼻咽喉科頭頸部外科学会日本人高齢者の難聴と認知症との関係オセルタミビルの新たな才能、難聴予防効果を発掘【バイオの火曜日】

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コーヒーに入れても糖尿病リスクが上がらないものは?

 コーヒー摂取は、一貫して2型糖尿病のリスク低下と関連しているが、砂糖やクリームを添加することによってこの関連が変化するかどうかは不明である。今回、スペイン・ナバーラ大学のMatthias Henn氏らが、コーヒーに砂糖や人工甘味料を加えるとコーヒーの摂取量増加と2型糖尿病リスクとの逆相関が大幅に弱まるものの、クリームを使用しても逆相関は変わらないことを示唆した。American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2025年1月18日号掲載の報告。 研究者らは、コーヒー摂取と2型糖尿病のリスクとの関連について、砂糖、人工甘味料、クリーム、または非乳製品のクリーム(コーヒーホワイトナー)の添加を考慮して分析を行った。調査には看護師健康調査(Nurses' Health Study:NHS、1986~2020年)、NHS II(1991~2020年)、医療者追跡調査(HPFS、1991~2020年)の3つの大規模前向きコホートを用い、質問表でコーヒーの消費量、添加の有無、2型糖尿病の発症状況などを確認。時間依存Cox比例ハザード回帰モデルを使用し、多変量調整してハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・366万5,408人年の追跡期間中に、1万3,281例が2型糖尿病を発症していた。・多変量調整後の3コホートの統合解析では、無添加のコーヒーを1杯追加するごとに2型糖尿病のリスクが10%低下した(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.89~0.92)。・クリームを加えたコホートでは逆相関の変化はみられなかった。・コーヒーに砂糖を加えたコホート(コーヒー1杯あたり平均で小さじ1杯)では、相関は有意に弱まった(HR:0.95[95%CI:0.93~0.97]、交互作用項のHR:1.17[95%CI:1.07~1.27])。・人工甘味料を使用していたコホートでも同様のパターンがみられた(HR:0.93[95%CI:0.90~0.96]、交互作用項のHR:1.13[95%CI:1.00~1.28])。・コーヒーホワイトナーを使用したコホートでは、コーヒー摂取と2型糖尿病リスクとの関連性が弱まったものの、交互作用は有意ではなかった(HR:0.95、95%CI:0.91~1.00、交互作用項のHR:1.16、95%CI:0.66~2.06)。

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頭痛が自殺リスクに及ぼす影響

 これまでの研究では、片頭痛と自殺リスクとの関連が示唆されているが、さまざまな頭痛疾患と自殺企図および自殺リスクとの関連を評価した研究は限られている。デンマーク・オーフス大学のHolly Elser氏らは、片頭痛、緊張性頭痛、外傷後頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(TAC)と自殺企図および自殺リスクとの関連を調査した。JAMA Neurology誌オンライン版2025年2月3日号の報告。 1995〜2020年にデンマーク国民を対象に人口ベースコホート研究を実施した。デンマークの人口は約560万人。対象は、頭痛と診断された15歳以上の患者および性別、生年月日に基づき1:5の比率でマッチさせた対照者。2023年5月〜2024年5月にデータ分析を行った。頭痛患者は、入院、救急外来、専門外来クリニックにおいてICD-10に基づき、初めて頭痛と診断された患者。主要アウトカムは、自殺企図および自殺リスクとした。自殺企図は、ICD-10診断コードを用いてデンマーク国立患者レジストリおよびデンマーク精神医学中央研究所レジストリより特定した。自殺は、デンマーク死因レジストリより特定した。自殺企図および自殺の絶対リスク(AR)とリスク差(RD)は、累積発生率関数を用いて算出した。頭痛診断と関連する自殺企図および自殺のハザード比(HR)は、年齢、性別、年、教育、収入、ベースラインの併存疾患で調整した後、競合する死亡リスクを考慮して算出した。主な結果は以下のとおり。・対象は、頭痛と診断された患者11万9,486例(女性の割合:69.5%[8万3,046例])と対照群59万7,430例(女性の割合:69.5%[41万5,230例])。・年齢中央値は、40.1歳(四分位範囲[IQR]:29.1〜51.6)。・自殺企図の15年ARは、頭痛患者で0.78%(95%信頼区間[CI]:0.72〜0.85)、比較コホートで0.33%(95%CI:0.31〜0.35)であった(RD:0.45%、95%CI:0.39〜0.53)。・自殺の15年ARは、頭痛患者で0.21%(95%CI:0.17〜0.24)、比較コホートで0.15%(95%CI:0.13〜0.16)であった(RD:0.06%、95%CI:0.02〜0.10)。・自殺企図および自殺の危険性は、比較コホートと比較し、頭痛患者で有意に高かった。 【自殺企図の危険性】HR:2.04、95%CI:1.84〜2.27 【自殺の危険性】HR:1.40、95%CI:1.17〜1.68・これらの結果は、頭痛の種類を問わず一致しており、TACおよび外傷後頭痛との関連性はより強力であった。 著者らは「頭痛の診断と自殺企図および自殺との間に、強力かつ持続的な関連性が確認された。これは、頭痛患者における行動健康評価および治療の重要性を示唆している」と結論付けている。

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ALSへのσ1受容体作動薬pridopidineは有効か?/JAMA

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療標的として、運動ニューロンに発現しているσ1(シグマ1)受容体(S1R)が注目を集めている。米国・Barrow Neurological InstituteのJeremy M. Shefner氏らは、「HEALEY ALS Platform試験」において、ALSの治療ではプラセボと比較してS1R作動薬pridopidineは疾患の進行に有意な影響を及ぼさず、有害事象や重篤な有害事象の頻度に臨床的に意義のある差はないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年2月17日号で報告された。米国の無作為化第II/III相試験 HEALEY ALS Platform試験は、第III相試験に進む有望な新規ALS治療薬を迅速かつ効率的に特定することを目的とする二重盲検無作為化第II/III相試験であり、プラセボ群の共有と継続的な参加者登録が可能な方法を用いて複数の試験薬を同時に評価可能である。pridopidineは4つ目の試験薬として選択され、2021年1月~2022年7月に米国の54施設で参加者を登録した(AMG Charitable Foundationなどの助成を受けた)。 ALS患者162例(平均年齢57.5歳、女性35%)を登録し、pridopidine 45mg(1日2回)を経口投与する群に120例、プラセボ群に42例を無作為に割り付け、24週の投与を行った。また、プラセボ群に他の3つのレジメンの試験でプラセボの投与を受けた122例を加えた合計164例を共有プラセボ群とした。 有効性の主要アウトカムは、ALSの疾患重症度のベースラインから24週目までの変化とした。疾患重症度は、機能(ALS機能評価スケール改訂版[ALSFRS-R]の総スコア[0~48点、点数が低いほど機能が低下])と生存の2つの要素で評価し、これらを統合して疾患進行率比(DRR、生存期間を考慮した疾患進行の評価指標)を算出した。DRRが1未満の場合に、プラセボ群に比べpridopidine群で疾患の進行が遅いことを示す。解析には、ベイズ流のアプローチによる共有パラメータモデルを用いた。 有効性の主要アウトカムの解析の対象となった162例のうち136例(84%)が試験を完了した。5つの主な副次アウトカムにも有意差なし 主要アウトカムは、pridopidine群とプラセボ群に有意な差を認めなかった(DRR:0.99[95%信用区間[CrI]:0.80~1.21]、DRR<1の確率0.55)。ALSFRS-Rスコアの1ヵ月当たりの変化率は、pridopidine群で-0.99ポイント(95%CrI:-1.14~-0.84)、共有プラセボ群で-1.00ポイント(-1.14~-0.87)であった。また、死亡イベントの1ヵ月当たりの発生率は、pridopidine群、共有プラセボ群とも0.012件だった。 以下の5つの主な副次アウトカムにも、pridopidine群とプラセボ群で有意な差はなかった。(1)ベースラインで球麻痺を有する患者におけるALSFRS-R総合スコアが2点以上低下するまでの期間、(2)ベースラインで球麻痺を有する患者における静的肺活量(SVC)の低下率、(3)ALSFRS-Rの球麻痺スコアが悪化しなかった患者の割合、(4)ALSFRS-Rの球麻痺スコアが1点以上変化するまでの期間、(5)死亡または永続的な換気補助(PAV)までの期間。忍容性は良好、転倒と筋力低下が多い pridopidineの忍容性は良好であった。有害事象および重篤な有害事象の頻度に、両群間で臨床的に意義のある差はみられなかった。最も頻度の高い有害事象は、転倒(pridopidine群28.1%、共有プラセボ群29.3%)と筋力低下(24.0%、31.7%)だった。pridopidine群では、Fridericia式による心拍数補正QT(QTcF)間隔が臨床的に意義のある変化を示した患者はいなかった。 著者は、「最大の解析対象集団(FAS)の探索的解析では、pridopidine群で発話速度の障害と構音障害に関して名目上有意な進行の抑制がみられ、このpridopidine群における発話の改善は、関連する脳幹領域にS1Rが高密度に分布することを反映している可能性がある」「本研究で実現されたプラセボ群の参加者の共有は、より効率的な試験の実施につながると考えられる」としている。

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米国、オピオイド使用障害への救急医によるブプレノルフィン処方増加/JAMA

 米国では、オピオイド使用障害(OUD)とOUD関連死亡率が依然として高く、その抑止対策の1つとして、有効性が確認されているオピオイド受容体の部分作動薬であるブプレノルフィンの投与を救急診療科にも拡大しようという取り組みが全国的に進められている。米国・カリフォルニア大学のAnnette M. Dekker氏らはこの取り組みの現況を調査し、2017~22年にカリフォルニア州の救急医によるOUDに対するブプレノルフィン処方が大幅に増加しており、患者の約9人に1人は1年以内に継続処方を開始していることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月19日号に掲載された。カリフォルニア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、米国・カリフォルニア州における、OUDに対する救急医(emergency physician)によるブプレノルフィン処方状況の経時的変化を明らかにする目的で、後ろ向きコホート研究を行った(Korein Foundationなどの助成を受けた)。 California Controlled Substance Utilization Review and Evaluation System(CURES)データベースを用いて、2017年1月1日~2022年12月31日にブプレノルフィンの初回の処方を受けたカリフォルニア州の郵便番号を持つ年齢18~79歳のすべて患者のデータを抽出し、その同州の処方医のうち救急医を同定した。救急医による処方、2%から16%に増加 2017~22年に、カリフォルニア州では2万1,099人の臨床医から、34万5,024人のOUD患者が378万765件のブプレノルフィンの処方を受け、処方件数は2017年の50万499件から2022年には73万1,881件に増加した。ブプレノルフィン初回処方時の患者の平均年齢は37(SD 12)歳で、8,187人(67%)が男性であった。 ブプレノルフィン処方医のうち救急医は、2017年の2%(78人)から2022年には16%(1,789人)に増加しており、有意差を認めた(p<0.001)。また、すべてのブプレノルフィン初回処方のうち救急医による処方は、2017年の0.1%(53件)から2022年には5%(4,493件)へと有意に増加した(p=0.001)。この間の救急医によるブプレノルフィン処方件数は1万5,908件で、このうち初回処方は1万823件、非初回処方は5,085件であった。OUD患者の約3人に1人は40日以内に2回目の処方 2017~22年に、3,916人のOUD患者が、救急医によるブプレノルフィンの初回処方から40日以内に2回目の処方を受け、継続率(continuation ratio)は2.8(1万823人/3,916人、約3人に1人)であった。また、救急医によるブプレノルフィン初回処方から40日以内に、180日以上の継続処方を開始した患者の継続率は18.3(1万823人/593人)、1年以内に同様の継続処方を開始した患者の継続率は9.1(5,989人/655人[2017~21年のデータ]、約9人に1人)であった。 著者は、「これらの結果は、依存症の治療システムにおける救急診療科の役割を強く訴えるものであり、救急診療科を確実に利用できるようにし、維持期の外来治療に円滑に移行できるよう、さらなる努力が求められる」としている。

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高齢者のコレステロール値の変動は脳の健康に関与

 コレステロール値が年ごとに急上昇したり急降下したりする高齢者は、認知症や認知機能低下のリスクが高い可能性のあることが、新たな研究で示唆された。モナシュ大学(オーストラリア)のZhen Zhou氏らによる同研究で、コレステロール値の変動幅が最も大きい高齢者では、最も小さい高齢者と比べて認知症のリスクが60%高いことが示されたという。詳細は、「Neurology」に1月29日掲載された。Zhou氏は、「毎年測定したコレステロール値の変動幅は、ある時点で測定されたコレステロール値よりも多くの情報をもたらし、認知症リスクのある人を特定するための新たなバイオマーカーとなり得ることを示唆する研究結果だ」と米国神経学会(AAN)のニュースリリースで述べている。 Zhou氏らは本研究の背景について、中年期の高コレステロール値は、その後の認知機能の低下や認知症のリスク因子であることが示されていると説明する。しかし、コレステロールが高齢者の脳の健康状態に与える影響に関しては、何も影響しないとする研究がある一方で、コレステロール値が低いと認知症リスクが高まる可能性があるとする研究があるなど一貫していないという。 Zhou氏らは今回、研究開始時には認知症やその他の記憶障害がなかったオーストラリアと米国の65歳以上の男女9,846人(年齢中央値73.9歳、女性54.9%)の脳の健康状態を追跡調査した。研究参加者のコレステロール値は、研究開始時に加え、開始から3年後まで年1回の受診時に測定された。また、参加者は記憶力の検査も毎年受けた。開始から3回目の受診後、参加者は、認知症の発症について中央値で5.8年、認知症の前段階を表す概念の一つであるcognitive impairment with no dementia(CIND)について中央値5.4年にわたり追跡された。追跡期間中に認知症発症例が509例、CINDイベント発生が1,760件記録されていた。参加者は、総コレステロール(TC)、LDL-C(悪玉コレステロール)、HDL-C(善玉コレステロール)、トリグリセライドの変動幅に応じて、Q1群からQ4群に分類された。 その結果、研究開始時から最後の測定時までの間のTCの変動幅が最も大きいQ4群では、認知症の発症率が最も高く(1,000人年当たり11.3人)、変動幅が最も小さいQ1群(1,000人年当たり7.1)と比べてリスクが60%増加することが明らかになった(ハザード比1.60、P=0.001)。LDL-C値の変動についても、変動幅が大きい群ほど認知症リスクが高くQ2群、Q3群、Q4群のハザード比はそれぞれ、1.17、1.26、1.48であった(P=0.002)。さらに、CINDについても同様の傾向が認められ、TCとLDL-Cの変動幅が最も大きいQ4群ではCINDリスクが最も高く、Q1群と比べたハザード比はそれぞれ1.23と1.27であった。 ただしZhou氏らは、この研究でコレステロール値の変動と認知症には因果関係があることが証明されたのではなく、あくまでも両者が関連することが示されたに過ぎないと説明している。 Zhou氏らは、コレステロール値の変動が認知症リスクを高める理由として、変動が動脈壁の脂質プラークの組成を変化させることで脳に損傷を与え、脳細胞への血流を妨げたり、脳卒中を引き起こしたりするリスクを高める可能性があるとの推測を示している。また、こうしたコレステロール値の変動は、認知機能の低下を引き起こす真の要因となっている他の慢性疾患の副次的な影響である可能性も考えられるとの見方を示している。 Zhou氏は、「認知機能低下や認知症のリスクがあり、介入の効果を期待できそうな人を特定するため、高齢者のコレステロール値の経時的な変動を監視すべきである。具体的な介入法としては生活習慣の是正やスタチンの使用開始または使用継続に確実につなげることなどが考えられる」と話している。

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尿を用いた遺伝子検査で進行性前立腺がんを高精度で検出

 前立腺がんの診断を受けた場合には、どうすればよいのだろうか。がん自体が命に関わるものではない場合でも、治療の結果として失禁や勃起不全に悩まされることは少なくない。患者によっては、不安を抱えはするが、がんとともに生きながら経過観察を続ける方が良い場合もある。 こうした中、尿サンプルを用いた遺伝子解析に基づく新しい検査が、早期死亡につながる可能性の高い進行性の前立腺がんの特定に役立つ可能性が示された。研究グループは、この検査が、前立腺がんを治療すべきか、経過観察すべきかを判断する際に役立つ可能性があるとしている。米ミシガン大学泌尿器科学分野のGanesh Palapattu氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Urology」に1月21日掲載された。 MyProstateScore 2.0(MPS2)と呼ばれるこの検査は、尿サンプルから抽出したRNAを用いて解析を行い、進行性前立腺がんに関連する18種類の遺伝子(高悪性度がん特異的遺伝子4種類、がん特異的遺伝子13種類、リファレンス遺伝子1種類)の発現レベルを評価する。MPS2のグレードグループ(GG)≧2(前立腺がんの悪性度の評価で用いられる指標であるグリソンスコアで7点以上に相当)の前立腺がんに対する検出精度は過去の研究ですでに検証済みであるが、その際には、直腸内触診(DRE)後に採取された尿サンプルが用いられていた。DREでは前立腺が押しつぶされるため、腫瘍からのDNAの破片が患者の尿サンプルに混入する可能性が高くなるという。 今回の研究では、検査の利便性を高めるために、DREを受けていない対象者から提供された起床後最初の尿(初尿)サンプルを用いてMPS2の性能を検証し、また臨床的影響を前立腺特異抗原(PSA)検査および前立腺がん予防試験リスク計算ツール(Prostate Cancer Prevention Trial risk calculator;PCPTrc)と比較した。対象者は、PSAの中央値が6.6ng/mLの男性226人で、うち103人(39%)は生検でGG≧2の前立腺がんが確認されていた。 その結果、GG≧2の前立腺がんの検出精度(AUC〔曲線下面積〕)は、PSA検査で57%、PCPTrcで62%であった。一方、MPS2では、バイオマーカーのみを使用するモデルで71%、バイオマーカーと臨床要因を含むモデルで74%、バイオマーカー、臨床要因に前立腺体積を含めたモデルで77%であることが示された。「GG≧2の前立腺がんの90%超の検出」という基準で比較した場合、MPS2検査では36〜42%の生検を回避できるのに対し、PCPTrcではわずか13%の回避にとどまると見積もられた。さらに、過去に生検で陰性だった患者においては、MPS2検査を使用すれば44~53%の再生検を回避できるのに対し、PCPTrcではわずか2.6%の回避にとどまると推定された。 Palapattu氏は、「この検査の最大の利点は、進行性前立腺がんの発症リスクを正確に予測できるため、患者と医師の双方に安心感をもたらす点だ」と話す。現在の前立腺がん検査のゴールドスタンダードはPSA検査である。しかし、MPS2検査の製造元であるLynx Dx社によると、PSA値が上昇した男性のうち、実際に早急な治療が必要なのは25%未満に過ぎないという。 本研究で、DREを受けなくてもMPS2検査により進行性の前立腺がんを正確に予測できることが示されたことから、Lynx Dx社は、MPS2検査で使う尿サンプルを自宅で採取し送付する仕組みを整える予定だとしている。同社の最高医療責任者であるSpencer Heaton氏は、「自宅で尿サンプルを採取できるようにすることは、前立腺がんのリスク評価と患者中心のケアに対する当社の取り組みにおいて大きな進歩だ」と述べている。 研究グループは、MPS2検査により低リスク前立腺がんを検出できるかどうかを調べる予定であるとしている。

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GLP-1受容体作動薬は目に悪影響を及ぼす?

 減量薬として広く使用されているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、まれに視力障害を引き起こす可能性のあることが分かってきた。しかし、新たな小規模研究によると、現時点では、そのような目の合併症の原因がGLP-1RAであるのかどうかについての結論は出せないという。米ユタ・ヘルス大学のジョン・A・モラン・アイセンターのBradley Katz氏らによるこの研究は、「JAMA Ophthalmology」に1月30日掲載された。 この研究を実施するきっかけとなったのは、論文の筆頭著者であるKatz氏が、ある患者において、GLP-1RAのセマグルチドの使用開始後に片方の目の視力が突然、痛みもなく低下したことに気付いたことだったという。患者は一時的にセマグルチドの使用を中止したが、使用を再開したところ、もう片方の目にも視力低下が起こったという。不安を感じたKatz氏は、メーリングリストを通じて他の眼科医に同じようなことが起きていないかを尋ねた。その結果、GLP-1RAの使用後に目の視神経周辺の血管の機能障害など視力を低下させるような問題が起こった症例として、9例の報告が寄せられた。 そこでKatz氏らは、これらの9人の症例(平均年齢57.4歳、範囲33〜77歳、女性56%)について検討した。症例はいずれも、肥満や糖尿病の治療薬としてセマグルチド(商品名ウゴービ、オゼンピック)やチルゼパチド(商品名マンジャロ、ゼップバウンド)などのGLP-1RAを使用していた。 その結果、9人のうち7人は非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)として知られる疾患を発症していた。これは、視神経に十分な血液が供給されないことで起こる疾患だ。NAIONでは、視神経の損傷から視野の部分的な欠損が突然起こり、それが恒久的に残る可能性がある。他の1人はGLP-1RAの使用後に視野の一部が見えにくくなる傍中心窩急性中間層黄斑症を、残る1人は視神経の端に炎症が起こる両側性視神経乳頭炎を発症していた。 Katz氏らは、これまでに、極めてまれではあるが勃起不全治療薬や不整脈治療薬の使用に関連してNAIONを発症した例が報告されていると指摘している。その一方で、糖尿病や心臓病などの慢性疾患や肥満も視力障害を引き起こす可能性のあることが知られている。したがって、視力障害に関連しているのがGLP-1RAなのか、あるいは患者が抱えていた基礎疾患の一つなのかについては不明であるとKatz氏らは述べている。また、論文の共著者である米ニューヨーク州立大学バッファロー校神経学分野のNorah Lincoff氏は、「まれなケースではあるが、GLP-1RAの使用に伴う突然の急激だが正常範囲内の血糖値の低下が目を脆弱にすることもある」と話す。 Lincoff氏は、「患者へのメッセージとしては、これらの薬が虚血性視神経障害のリスクを高めるかどうかに関しては、まだ調査中の段階にあるということだ」と述べている。また、医師に対しては、「GLP-1RAを使用中の患者から目のかすみや視力低下があるとの連絡があった場合には、できるだけ早く眼科医に診てもらうようにしてほしい。目の症状は、グルコースの変動のせいかもしれないが、より深刻な問題の兆候である可能性もある」と助言している。 一方、すでにGLP-1RAを使用している人に対して研究グループは、この薬剤による視力障害の発生は極めてまれであり、パニックに陥る必要はないが、万一、問題が起こった場合には主治医に確認する必要があるとしている。

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第251回 医療保険の国民負担軽減は夢のまた夢?この30年を振り返る

2024年10月の衆議院選挙の敗北で少数与党に転落した自民党・公明党の下で2025年度予算案成立は不透明と評されてきたが、2月25日、高校教育無償化を訴える野党・日本維新の会の主張を受け入れる形で3党合意が成立。これにより2025年度予算案の年度内成立はほぼ確実となった。だから何だと思う人もいるかもしれないが、実はこの合意内容は4項目あり、2番目に掲げられた「現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減」は、まさに医療に直接関わる合意内容なのである。端的に言うと、(1)OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し(2)現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底(3)医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現(4)医療介護産業の成長産業化について、3党の協議体を設置して「令和7年末までの予算編成過程(診療報酬改定を含む)で論点の検討を行い、早期に実現が可能なものについて、令和8年度から実行に移す」というものだ。加えてこの検討に当たって、政府与党が策定した「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、公明党が策定した「公明党 2040 ビジョン(中間とりまとめ)」、日本維新の会が策定した「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」を念頭に置くとも明記した。日本維新の会の「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」の大枠は、国民医療費総額を年間で最低4兆円削減することにより、現役世代一人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げる」というもので、これを実現するための政策は前述した3党合意の(1)~(4)の内容とほぼ同じである。日本維新の会が国会に議席を有して以来、与党の予算案に賛成するのは初となる。今回の3党合意について、同党幹事長の岩谷 良平氏(衆院大阪13区)は翌2月26日の記者会見で次のように評した。やや長くなるが、その発言を引用する(なお、話し言葉ゆえに趣旨を変えずに一部修正)。<日本維新の会、幹事長コメント>「ある意味、歴史的な合意が締結された。日本の成長を阻害している過度に進行している少子化、現役世代の手取りが減少と負担増加という2大要因に対処していくため、維新は解決策として教育を無償化すること、社会保障改革を行い現役世代の社会保険料負担を下げることの2つを掲げてきた。今回、教育の無償化は大幅に前進し、結果を出すことができたと考えている。社会保険料の軽減に関しては大変重い扉ではあったが、ようやくその扉が開いた。合意で決定した自公維のハイレベルの協議体の中で、国民医療費を年間4兆円下げ、1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げるというわれわれの考えをしっかり主張し、結果を出していきたいと考えている」30年前と同じことを言っているだけ?さてこの自信満々(のふり?)とも言える日本維新の会への世間の評価は分かれるだろう。私の評価は「空手形」あるいは「取らぬ狸の皮算用」である。とくに(1)と(2)については強くそう思わざるを得ない。まず、OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しについては、この業界の経験が長い人ほど「またか?」と思うのではないだろうか?この問題は、医療保険制度改革の検討事項として1990年代前半から繰り返し議論されてきたことである。1993年に公表された旧厚生省医療保険審議会の建議書では、保険給付のあり方などについて検討を要する旨が記載され、1996年の旧大蔵省財政制度審議会・財政構造改革特別部会が取りまとめた1997年度の医療保険制度改革の最終報告書では露骨に保険給付除外にまで言及した。その後もこの件は厚生労働省や財務省の審議会などで何度も論点となっている。にもかかわらず、過去30年間でこのテーマについて目立った進展がない大きな理由の1つは、“日本医師会が実施に強く反対している”からであるのは、多くの関係者にとって周知のことだろう。実際、維新が前述のたたき台を公表したのと同じ2月13日、日本医師会の定例会見で常務理事の宮川 政昭氏が、「社会保険料の削減を目的にOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化を進めることには重大な懸念が伴う」と反対の姿勢を明確にしている。この際の宮川氏の発言では、「医療機関の受診控えによる健康被害」と「経済的負担の増加」を反対の主な理由に挙げた。また、維新のたたき台にも含まれる高齢者の医療費3割負担の対象拡大についても日本医師会は従来から慎重な姿勢を示している。私個人は一律にOTC類似薬を保険適用除外にすることは決して賛成ではないし、前述の日本医師会の主張にも一理あると思っている。しかし、医療保険財政のひっ迫が明らかな今、この問題は日本医師会の懸念などを基に一律現状維持で良いものとは思っていない。そして、部分的には医療保険適応外にしても差し支えのない部分はあるだろうと思っている。たとえば保険適応での自己負担額とOTC購入による自己負担額との差が少ない領域、かつ疾患として重篤ではないものなどでは検討の余地があるはずである。もっと言えば、その前提に立てばこの30年間にそれが可能かどうかのエビデンスを収集する時間もあったはずだ。結局、政府・与党、厚生労働省、日本医師会とも本格的議論を避けてきたに過ぎない。さて今回の合意について、日本維新の会は自らが主張する「国民医療費4兆円削減」「1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げ」が合意文書に明記されたことを前述のように自画自賛している。もし、日本維新の会が本気で大きな成果だと考えているならば、楽観的過ぎると言わざるを得ない。なぜなら、合意はあくまで「論点の検討を行い、早期に実現が可能なものについて実行に移す」であり、その主張の実現が確約されたものではない。検討を行った結果、ほぼすべてが実現不可能と判断されれば、何も実行されないことも十分想定できる。前述したように過去30年間のこの問題に関する議論がそうだったからだ。また、「3党合意」ではあるものの、自民党は支持率低調な“石破政権下の自民党”の合意である。自公与党体制が今後3年程度続くとしても石破政権が崩壊すれば、党としての合意など紙切れで終わることさえ、まったくの非常識にならないのが魑魅魍魎うごめく政界の常である。百歩譲って石破政権が存続するとしても、そのためには今夏の参議院選挙を勝ち抜くことが絶対条件である。だとするならば、自民党の有力支持組織である日本医師会が反対する政策を選挙公約で掲げることなぞ無理筋。そこまでしなくとも今後の政権運営を考えれば、実現に向けて動くことなど石破政権にできるはずもない。どこをどう突いても現下の情勢では、維新のたたき台が実現に向かう可能性は低いのである。長らく政権を担い続け、しがらみだらけの自民党は、とりわけ若年層には「古き悪しき存在」」に映るだろう。しかし、「悪しき存在」であっても「古き存在」であるということは、理屈ではどうにもならないことですら、なりふり構わず切り抜けてきた結果でもある。それを頭でっかちのまま切り崩すのは容易ではない。結局、維新は自民党のしたたかさに丸め込まれただけに映るのだ。もっとも維新の側では内心、「そんなことは百も承知だが、半歩でも前進するためにあえて“毒”を飲んだ」という思惑があるかもしれない。しかし、それならば国民の前で「教育無償化を実現した」という爪痕を見せたい党利党略のため、形だけの医療保険制度改革を示したとの批判は免れないだろう。

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