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第313回 ハンタウイルス、日本の暗黒史と国内で注意したい場所とは?

INDEXハンタウイルスの最新状況旧日本軍との深いかかわり後に明らかになった2つの国内事例日本のネズミも抗体陽性、注意したい場所とは…ハンタウイルスの最新状況オランダのオーシャン・エクスペディション社が運営しているクルーズ船「MVホンディウス号」でのハンタウイルス(アンデスウイルス)感染騒動は、その後、乗員乗客の大半がスペイン領カナリア諸島で下船し、現在同号は乗員25人と彼らのモニタリングを行う医療者2人を乗せてオランダに向けて航行中である。世界保健機関(WHO)の発表では、13日までに判明している感染者が8例、感染の疑いが2例、検査結果保留(検査機関2ヵ所でそれぞれ陽性と陰性の結果のため)が1例の計11例で、うち死者3例。ちなみに、最初にWHOに状況が報告された時点で既に死亡していた2例は、いずれも疑いに分類されている。WHOは発生状況の分析から、船内でヒト-ヒト感染が起きた可能性を指摘している。前出の数字で単純に致死率を算出するならば27.3%であり、アンデスウイルスに関しては、状況次第ではかなり悲惨な結果となることが改めて示されたといえる。なお、乗客の中に含まれていた日本人1人はイギリスに移送され、現地の医療機関で隔離中。最大で45日間の健康観察下に置かれる予定と報じられている。「45日間」には驚くが、これはアンデスウイルスの潜伏期間が最大6週間であるためだ。WHOは今後、乗員乗客からの追加感染例の発生の可能性に言及しつつも、「下船した人々の隔離、新たな感染疑い例の迅速な隔離、接触者の監視といった現在の対応により、さらなる感染拡大のリスクは抑制されるだろう」との見解を示している。この件では各国が乗客の経過観察にかなり神経をとがらせている現状を考えれば、私見ながら彼らを起点にした各地でのアウトブレイク発生という最悪の状況は避けられるのではないかと予想している。旧日本軍との深いかかわりさて、前回はハンタウイルスの分離・同定がアジアで始まったことや、ウイルスの特性などの概略に触れたが、今回は日本でのハンタウイルス感染症史に触れておきたい。実はハンタウイルスと日本とのかかわりは、ウイルス同定以前の1932年、日本が中国東北部に建国した傀儡国家・旧満州国で始まっている。1938年に同国内の旧ソ連国境に近い孫呉県(現黒竜江省黒河市)付近で流行性出血熱、通称「孫呉熱」が大流行し、1940年代に旧満州国内では旧日本軍兵士を中心に約1万例の患者が発生、死者は約3,000例だったと報告されている。ここで登場するのが、旧日本軍の暗部の1つと言える関東軍防疫給水部(通称731部隊)である。同部は捕虜を使った生体実験という非人道的な活動を行っていた秘密部隊として知られているが、その1つが孫呉熱の研究である。研究の中身は、孫呉熱に感染した日本軍兵士から採取した血液を捕虜に注射して感染確認を行うなど、聞いただけで身の毛もよだつものだ。研究結果の一部は、サルを対象に行った実験と偽装して論文発表もされている。当時、孫呉熱はウイルス感染症の可能性が指摘されたが、ウイルス同定には至っておらず、自然宿主も現地に土着するセスジネズミに寄生するダニが疑われていた。しかし、前回も触れたように、後年、韓国でハンタウイルスの1種であるハンターンウイルスが同定され、過去の臨床記録、疫学記録、病理所見の再検討が行われた結果、孫呉熱がハンタウイルス感染症の1種だったと臨床的に分類されるようになった。後に明らかになった2つの国内事例また、同様に過去に遡ってハンタウイルス感染症と認定されたのが、1960年代に大阪・梅田周辺で起こった通称「梅田熱」である。約10年間にわたって断続的に報告された患者数は119例でうち2例が死亡。後に発症後7~17年経過した患者から採取した血清検体から、ハンタウイルスの1種であるソウルウイルスの抗体が検出された。ちなみにソウルウイルスはドブネズミやクマネズミが自然宿主で、セスジネズミを自然宿主とするハンターンウイルスと比較し、同じ腎症候性出血熱(HFRS)の症状もより軽度といわれている。実際、大阪の事例は単純計算なら致死率1.7%であり、過去の報告での致死率下限が5%のハンターンウイルスよりも低率だ。さらに1970~84年にかけて、ハンタウイルスに汚染された実験ラットを通じたハンタウイルス感染症が全国の研究施設で報告された。報告された患者ほぼ全員に共通していたのが、ラットの飼育やケージ交換、ラットによる動物実験実施に従事していたこと。報告された感染者数は札幌医科大学、東北大学、名古屋市立大学をはじめとした全国21施設で126例に上り、このうち1981年に札幌医科大学の動物飼育担当職員1例が死亡した。時期からわかるように、このケースはハンタウイルス同定時期をまたいでおり、後になって国内の実験用ラットの供給網が全般的にソウルウイルスに汚染されていたことが明らかになった。この事例は特定された微生物や寄生虫が存在しないSpecific Pathogen Free(SPF)実験動物や動物実験施設のバリア化の普及につながる大きな契機になったと言われている。日本のネズミも抗体陽性、注意したい場所とは…これ以降、半世紀超にわたって日本ではハンタウイルス感染症の報告はないが、完全に安全とも言えない。たとえば、1996~98年にかけて全国の18検疫所が港湾地域で行った捕獲ネズミでの調査1)では、ハンタウイルス抗体陽性率は12.9%だった。また、2000~03年に北海道大学のグループが北海道、本州、四国、九州で行ったネズミの捕獲調査2)では、ネズミの種類別の抗体陽性率はアカネズミが1.0%、エゾヤチネズミが3.6%、ドブネズミが1.1%、クマネズミが6.7%。多くはないが、国内にもハンタウイルスは存在するのである。さらにもう1つ、ぎょっとする報告がある。実は1999年に米国・メイヨークリニックのグループが急性・慢性腎炎の約26%は、ハンタウイルス感染が原因の可能性があることを指摘した研究3)を発表した。これを受けて厚生労働省の研究班が、ハンタウイルス抗体陽性のネズミが確認された大阪港・神戸港近隣の大阪府・大阪市・神戸市・広島県・岡山県地域の8施設530例の透析患者に協力を得て、ハンタウイルスの抗体価を調査1)したところ、抗体陽性率は1.5%だったことがわかったのだ。概観すると、極めてまれとは言え、国内でも水面下でハンタウイルス感染症が発生している可能性が高いことになる。繰り返しになるが、むやみやたらと怖がるべきものではないし、恐怖訴求のつもりもないが、ネズミの排せつ物による汚染の可能性がある場所には近づかない、どうしても避けられない場合はマスクや手袋を着用するなどの対策は必要だろう。「ネズミの排せつ物による汚染の可能性がある場所」と聞いてもピンとこない人もいるかもしれないが、たとえば、亡くなった身内が居住し、長らく放置されていた家屋での遺品整理、ネズミが入り込む余地がある屋外の物置やガレージの整理・清掃などは、これに該当する。意外と身近に危険は潜んでいると言えるかもしれない。1)厚生労働科学研究成果データベース:我が国におけるハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱)の疫学的検証(中間報告)2)Lokugamage N, et al. Microbiol Immunol. 2004;48:843-851.3)Patnaik M, et al. Am J Kidney Dis. 1999;33:734-737.

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全死因死亡と関連した昼寝パターンは?

 ウェアラブルデバイスを用いて客観的に測定した昼寝パターンと全死因死亡との関連を調査した前向きコホート研究により、長時間の昼寝、頻回の昼寝、そして午前中に昼寝をする傾向がある高齢者では全死因死亡リスクが高いことが、米国・Harvard Medical SchoolのChenlu Gao氏らによって示された。JAMA Network Open誌2026年4月20日号掲載の報告。 高齢者における過度な昼寝は、心血管疾患や神経変性疾患などとの関連が報告されている。しかし、これまでの研究の多くは自己申告による昼寝評価に基づいており、昼寝のタイミングや日ごとの変動性など、詳細な昼寝の特徴については十分に検討されていなかった。そこで研究グループは、ウェアラブルデバイス(手首アクチグラフ)を用いて客観的に測定した昼寝パターンと全死因死亡との関連を検討した。 本研究では、地域住民を対象としたRush Memory and Aging Project(ベースライン:2005年8月)のデータを用いて、米国・イリノイ州北部在住の56歳以上の1,338人を最長19年間追跡した。参加者の平均年齢は81.4歳で、76.0%が女性だった。昼寝は午前9時~午後7時の睡眠エピソードと定義し、最長14日間連続の手首アクチグラフのデータから評価した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、ベースライン時の昼寝の特徴(1日当たりの平均昼寝時間、平均昼寝回数、日ごとの昼寝時間の変動性、昼寝のタイミング)と追跡期間中の全死因死亡との関連を、調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)で評価した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の大多数(99.0%)は測定期間中に昼寝をしていた。年齢が高いほど昼寝時間は長く、昼寝頻度は高く、昼寝時間の変動性も大きかった。・最長19年(平均8.30年)の追跡期間中に、926人(69.2%)が死亡した。・ベースライン時の長時間の昼寝は全死因死亡リスク上昇と関連していた。昼寝時間が1時間増加するごとのaHRは1.13(95%CI:1.04~1.23)であった(p=0.005)。これはベースライン時の年齢が約1.1歳高い場合の死亡リスクに相当した。・頻回の昼寝も全死因死亡リスク上昇と関連していた。昼寝回数が1回増加するごとのaHRは1.07(95%CI:1.02~1.13)であった(p=0.003)。これはベースライン時の年齢が約0.6歳高い場合の死亡リスクに相当した。・午前中に昼寝をする群は、午後の早い時間帯に昼寝をする群に比べて死亡リスクが高かった(aHR:1.30、95%CI:1.03~1.64、p=0.03)。これはベースライン時の年齢が約2.5歳高い場合の死亡リスクに相当した。・日ごとの昼寝時間の変動性は死亡リスクと有意な関連を示さなかった。・これらの関連の多くは、夜間睡眠時間、睡眠断片化、概日リズム指標、慢性疾患、抑うつ症状、身体活動量などを調整後もおおむね維持された。 本研究は観察研究であり、昼寝そのものが死亡の原因であることを示したものではないが、研究グループは過度な昼寝や午前中の昼寝が晩年の脆弱性を反映する行動学的マーカーである可能性を示唆した。そのうえで、「ウェアラブルデバイスを用いた昼寝評価は、リスクの高い高齢者の特定に役立ち、睡眠・健康管理への応用につながる可能性がある」とまとめた。

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ネランドミラスト、日本人IPF/PPFでもFVC低下を抑制/日本呼吸器学会

 厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会は2026年4月27日に、ホスホジエステラーゼ4B(PDE4B)阻害薬ネランドミラスト(商品名:ジャスケイド)について、特発性肺線維症(IPF)および進行性肺線維症(PPF)を効能・効果として承認することを了承した。これは、主に国際共同第III相試験「FIBRONEER-IPF試験」1)および「FIBRONEER-ILD試験」2)の結果に基づくものである。第66回日本呼吸器学会学術講演会では、両試験の日本人集団の結果が報告された。西岡 安彦氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部 呼吸器・膠原病内科学分野)が両試験の日本人集団を対象とした併合解析結果を報告し、近藤 康博氏(愛知医科大学 呼吸器・アレルギー内科)がFIBRONEER-ILD試験の日本人PPF患者サブグループ解析結果を報告した。 FIBRONEER-IPF試験は、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)が45%以上で、%DLCO(一酸化炭素肺拡散能の予測値に対する実測値の割合)が25%以上のIPF患者を対象とした。FIBRONEER-ILD試験は、IPF以外の間質性肺疾患(ILD)と診断され、HRCTで10%超の線維化を認め、%FVCが45%以上、%DLCOが25%以上のPPF患者を対象とした。両試験とも、対象患者をネランドミラスト9mgを1日2回投与する群(9mg群)、ネランドミラスト18mgを1日2回投与する群(18mg群)、プラセボ群に1:1:1の割合で割り付けた。両試験の日本人集団は281例(IPF 135例、PPF 146例)で、主要評価項目は52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量、主要な副次評価項目は治験期間中におけるIPF/ILDの初回急性増悪、呼吸器疾患による初回入院、死亡のいずれかの発生までの期間とした。【2試験の併合解析】 2試験の併合解析の主な結果は以下のとおり。・日本人集団281例の男性の割合は68.3%、平均年齢68.6歳、平均体重63.5kgで、喫煙歴ありの割合は71.2%であった。ベースライン時にニンテダニブによる治療を受けていた患者は45.2%、ピルフェニドンによる治療を受けていた患者は4.6%であった。全体集団と比較して、体重が低く、喫煙歴ありが多く、ピルフェニドン使用者が少ない傾向にあった。・日本人集団における52週時のFVCのベースラインからの変化量(調整平均値)は、プラセボ群-158.3mL、9mg群-105.9mL、18mg群-70.5mLであった。プラセボ群との差は、9mg群52.4mL(95%信頼区間[CI]:-19.1~123.9)、18mg群87.8mL(同:18.0~157.7)であり、18mg群でFVC低下抑制効果がより大きい傾向となった。・日本人集団における主要な副次評価項目のイベント発生割合は、プラセボ群37.3%(31/83例)に対し、9mg群24.7%(23/93例)、18mg群17.1%(18/105例)であり、プラセボ群に対するハザード比(HR)は、それぞれ0.71(95%CI:0.41~1.23)、0.45(95%CI:0.25~0.81)であった。・主要な副次評価項目を構成する各イベントのプラセボ群に対するHRおよび95%CIは、以下のとおりであった。<初回急性増悪または死亡>9mg群:0.62(0.29~1.31)18mg群:0.30(0.12~0.73)<呼吸器疾患による初回入院または死亡>9mg群:0.72(0.41~1.24)18mg群:0.43(0.23~0.77)<死亡>9mg群:0.66(0.25~1.78)18mg群:0.45(0.15~1.35)・主な有害事象(いずれかの群で20%以上に発現)は、下痢(プラセボ群19.3%、9mg群36.6%、18mg群38.1%)、上咽頭炎(それぞれ15.7%、23.7%、23.8%)、COVID-19(それぞれ16.9%、36.6%、38.1%)であった。投与中止に至った下痢はそれぞれ0%、1.1%、3.8%にみられた。【FIBRONEER-ILD試験】 FIBRONEER-ILD試験の日本人集団における主な結果は以下のとおり。・日本人集団146例の男性の割合は56.2%、平均年齢67.6歳、平均体重60.3kgで、喫煙歴ありの割合は50.9%であった。UIP(通常型間質性肺炎)パターン/UIP-likeパターンを有する割合は83.6%であり、ベースライン時にニンテダニブによる治療を受けていた患者は42.5%であった。全体集団と比較して、体重が低く、喫煙歴ありが多く、UIP/UIP-likeパターンが多い傾向にあった。・PPFの分類は、分類不能型特発性間質性肺炎(uIIP)32.2%、自己免疫性ILD 30.1%、特発性非特異性間質性肺炎が12.3%、線維性過敏性肺炎が11.6%、その他が13.7%であり、全体集団と比較して、uIIPが多く線維性過敏性肺炎が少ない傾向にあった。・日本人集団における52週時のFVCのベースラインからの変化量(調整平均値)は、プラセボ群-179.2mL、9mg群-68.9mL、18mg群-122.3mLであった。プラセボ群との差は、9mg群110.3mL(95%CI:9.6~211.0)、18mg群56.9mL(同:-43.5~157.2)となった。・日本人集団における主要な副次評価項目のイベント発生割合は、最終データベースロック時において、プラセボ群47.8%(22/46例)に対し、9mg群28.6%(14/49例)、18mg群27.5%(14/51例)であり、プラセボ群に対するHRは、それぞれ0.71(95%CI:0.37~1.36)、0.54(同:0.27~1.07)であった。・最終データベースロック時において、主要な副次評価項目を構成する各イベントのプラセボ群に対するHRおよび95%は、以下のとおりであった。<初回急性増悪または死亡>9mg群:0.49(0.21~1.16)18mg群:0.33(0.13~0.86)<呼吸器疾患による初回入院または死亡>9mg群:0.71(0.37~1.36)18mg群:0.54(0.27~1.07)<死亡>9mg群:0.51(0.18~1.49)18mg群:0.48(0.16~1.41) これらの結果について、西岡氏は探索的な解析であり日本人の患者数が少ないという限界を指摘しつつ「FIBRONEER-IPF試験およびFIBRONEER-ILD試験の日本人集団の併合解析において、ネランドミラスト18mg 1日2回投与は、52週時のFVC低下を抑制し、主要な副次評価項目およびその構成要素の発生リスクを抑制する傾向を示した。また、今回示したすべての評価項目で、ネランドミラスト18mg 1日2回投与がより良好な有効性を示した。日本人患者におけるネランドミラストの有効性および安全性は全体集団と一貫していた」とまとめた。また、近藤氏は「ネランドミラストはFIBRONEER-ILD試験の日本人患者において、プラセボと比較して52週時のFVC低下を抑制し、試験期間中の臨床アウトカムのリスクを数値的に抑制した。これらの結果は、FIBRONEER-ILD試験の全体集団の結果と一貫していた」とまとめた。<FIBRONEER-IPF試験の概要>・試験デザイン:国際共同第III相無作為化プラセボ対照試験・対象:%FVCが45%以上で、%DLCOが25%以上の40歳以上のIPF(12ヵ月以内のHRCTに基づく診断を受け、UIPまたはUIP-likeパターンを有する)患者1,177例試験群1(9mg群):ネランドミラスト9mg、1日2回  392例試験群2(18mg群):ネランドミラスト18mg、1日2回  392例対照群(プラセボ群):プラセボ 393例・評価項目[主要評価項目]52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量[主要な副次評価項目]初回急性増悪、呼吸器疾患による初回入院、死亡のいずれかの発生<FIBRONEER-ILD試験の概要>・試験デザイン:国際共同第III相無作為化プラセボ対照試験・対象:%FVCが45%以上で、%DLCOが25%以上の18歳以上のPPF(12ヵ月以内のHRCTに基づき10%以上の線維化が認められたIPF以外のILD)患者1,176例試験群1(9mg群):ネランドミラスト9mg、1日2回  393例試験群2(18mg群):ネランドミラスト18mg、1日2回  391例対照群(プラセボ群):プラセボ 392例・評価項目[主要評価項目]52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量[主要な副次評価項目]初回急性増悪、呼吸器疾患による初回入院、死亡のいずれかの発生

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PTSDと片頭痛との関連性は?

 片頭痛は、QOL低下および精神疾患の併発リスクの増加と関連している。そして近年のエビデンスでは、片頭痛と心的外傷後ストレス障害(PTSD)との関連についての関心が高まっている。ドイツ・Carl von Ossietzky Universitat OldenburgのLucie Nitsche氏らは、PTSDと片頭痛との関連性の程度を評価するため、関連する研究から得られた有病率および発生率データを統合し、システマティックレビューを実施した。Headache誌2026年4月号の報告。 MEDLINE(PubMed経由)、EMBASE(Elsevier経由)、PsycInfo(EBSCOhost経由)において、2024年11月22日までに報告された研究を包括的に検索した。対象研究は、成人集団を対象にPTSD群と非PTSD群における片頭痛の有病率または発生率を報告しているものとした。研究の実施場所、言語、出版時期に関する制限は設けなかった。2人の独立したレビューアーにより、研究の選択とデータ抽出を行った。結果は、記述的に統合した。研究の質は、ジョアンナ・ブリッグス研究所のチェックリストを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・1万2,801件の研究のうち、11件(5ヵ国)の研究を対象に含めた。・研究対象集団には、軍人、一般住民、看護師、妊婦、学生が含まれた。・PTSD患者における片頭痛の有病率は、非PTSD患者と比較して高く(9研究、6.5~46.5%vs.1.4~25.8%)、発生率推定値(1研究、48.5%vs.39.5%)および発生率(1研究、5.74%vs.1.22%)も同様であった。・すべての研究において、PTSDと片頭痛の間に正の関連が報告されており、その比率は1.2~4.7の範囲であった。 著者らは「本システマティックレビューにおいて、素因のある集団に限らず、PTSDと片頭痛の間に強い関連性があることが示された。これらの知見は、慢性頭痛患者におけるシステマティックなトラウマ評価の必要性を強調するものである。今後の研究において、一般集団を対象としたサンプルを用いて、この双方向的な相互の関係をさらに検討する必要がある」と結論付けている。

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パーキンソン病患者は腎機能低下リスクが約1.9倍/慶應義塾大

 わが国の全国規模の医療保険請求データと健康診断データを用いた疫学コホート研究の結果、パーキンソン病はその後の腎機能低下リスク上昇と関連していることが、慶應義塾大学の満野 竜ノ介氏らによって示された。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年4月15日号掲載の報告。 近年、慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全(ESKD)などの腎機能低下がパーキンソン病の発症リスク上昇と独立して関連していることが示されているが、パーキンソン病発症後の腎転帰については十分に検討されていない。そこで研究グループは、大規模集団ベースコホートを用いて、パーキンソン病患者とパーキンソン病のない成人の間で腎機能低下のリスクを比較した。 研究ではDeSCデータベースを用いて、2014年4月~2024年8月に少なくとも1回の健康診断を受けた18歳以上の成人200万793人を特定した。すでにESKD既往歴または腎代替療法導入歴のある患者などを除外した165万9,421人(年齢中央値68歳、男性41.9%)を解析対象とした。 主要評価項目は、ESKDへの進行(追跡時のeGFRが15mL/分/1.73m2未満)、腎代替療法の開始、ベースラインからのeGFRの30%以上低下を含む複合腎アウトカムとした。初回健康診断から複合腎アウトカムの発生、保険制度からの脱退(死亡を含む)、2024年8月のいずれか早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体で1万1,497例(0.7%)がベースライン時点でパーキンソン病を有していた。・中央値1,092日(四分位範囲:631~1,520)の追跡期間中、複合腎アウトカムが発生したのは、パーキンソン病群361例、非パーキンソン病群3万2,974例であった。・Kaplan-Meier解析では、パーキンソン病群は非パーキンソン病群に比べて複合腎アウトカムのリスクが有意に高かった(log-rank検定のp<0.001)。・年齢、性別、高血圧、糖尿病、ベースラインのeGFRなどを調整した多変量Cox比例ハザードモデルでは、パーキンソン病は複合腎アウトカムと独立して関連していた(ハザード比:1.91[95%信頼区間:1.72~2.12])。・女性およびパーキンソン病治療薬投与群では、腎機能低下との関連がより顕著であった。・この関連性は、認知症や起立性低血圧、排尿障害などを除外した複数の感度分析でも一貫していた。 研究グループは、「今回の研究結果は、パーキンソン病が腎機能低下の臨床的に重要なリスク因子である可能性を示唆している。パーキンソン病の長期的な管理の一環として腎機能をモニタリングすることは、リスクの高い患者の特定に役立つ可能性がある」とまとめた。

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中硬膜動脈塞栓術(EMMA)併用で慢性硬膜下血腫の再発が減少/JAMA

 慢性硬膜下血腫の外科的ドレナージ後における液体塞栓物質(Onyx-18)を用いた中硬膜動脈塞栓術(EMMA)は、外科的ドレナージのみと比較して、90日後のCTに基づく片側慢性硬膜下血腫の症候性再発を有意に減少させた。カナダ・University of ManitobaのJai Jai Shiva Shankar氏らEMMA-Can investigatorsが、同国の3次医療センター9施設で実施した無作為化非盲検エンドポイント盲検臨床試験「EMMA-Can試験」の結果を報告した。慢性硬膜下血腫は、外科的ドレナージ後に再発することが多いが、EMMAの併用が再発リスクに及ぼす影響は依然として不明であった。結果を踏まえて著者は、「機能回復、生活の質および医療資源利用における影響を明らかにするため、大規模な試験と長期的な追跡調査が必要である」とまとめている。JAMA誌オンライン版2026年4月30日号掲載の報告。外科的ドレナージ後に、EMMA実施と未実施に無作為化 研究グループは、18歳以上で機能的に自立し(発症前の修正Rankinスケールスコアが2以下)、片側性で症候性の慢性硬膜下血腫(10mm以上)を有する患者を、外科的ドレナージ実施後に、標準治療とEMMAを併用する群(EMMA群)と標準治療のみ(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 EMMA群では、外科的ドレナージ実施後72時間以内にEMMAを施行することとした。 主要アウトカムは、90日以内(範囲:60~120)の慢性硬膜下血腫の再発で、中央判定によるCTスキャンで検出された慢性硬膜下血腫に起因する新たな症状または症状の悪化を伴う再発と定義された。副次アウトカムは慢性硬膜下血腫の画像診断による再発、90日死亡、重篤な有害事象などであった。EMMA追加で症候性再発が有意に減少 2021年8月~2025年4月、192例が無作為化された(最終追跡調査日2025年7月27日)。このうち、同意撤回などを除く186例(平均年齢71.8歳、男性136例[73%])が主要解析対象集団となった(各群93例)。 主要アウトカムのイベントは、EMMA群で4例(4.3%)、対照群で26例(28%)に発生した(リスク群間差:-23.7、95%信頼区間[CI]:-34.1~-13.9、p<0.001)。EMMA群93例のうち、EMMAを実施できなかった5例を除く、実際に受けた治療に基づく解析の結果も同様であった。 副次アウトカムである画像上の再発は、EMMA群では13例(14%)、対照群では46例(49.5%)に発生した(リスク群間差:-35.5、95%CI:-47.3~-22.7)。 死亡を含む重篤な有害事象はEMMA群で8例(8.6%)、対照群で5例(5.4%)に認められ、全死亡はそれぞれ4例(4.3%)、1例(1.1%)であった。

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卵巣機能抑制、閉経前早期乳がんの再発と生存に及ぼす影響は?/Lancet

 閉経前のエストロゲン受容体(ER)陽性早期乳がんの治療において、卵巣機能抑制(OFS)は、化学療法やタモキシフェンが投与された場合でも、15年再発リスクおよび死亡リスクを有意に低下させることが明らかとなった。英国・Bradford Royal InfirmaryのMuneera B. Masood氏らEarly Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)が、無作為化比較試験に参加した個々の患者データを用いたメタ解析の結果を報告した。閉経前のER陽性早期乳がん女性において、卵巣摘出または薬剤によるOFSの追加的な保護効果は、化学療法後の閉経状態やタモキシフェンの使用状況によって異なる可能性があった。Lancet誌2026年5月2日号掲載の報告。23件の無作為化比較試験に参加した約1万5,000例の患者レベルのメタ解析 研究グループは、無作為化時点で閉経前かつ55歳未満のER陽性またはER不明早期乳がん女性において、OFSの有無別に比較した無作為化試験(2010年より前に開始され、再発または死亡を主要評価項目とした試験)の個々の患者データを用いたメタ解析を実施した。 試験は、化学療法(実施された場合)後の閉経前状態が確認されたか否か、およびタモキシフェン投与の有無によって分類された。 主要評価項目は、浸潤性乳がんの再発、乳がん死、その他の死因による死亡、および全死因死亡とした。ER重み付けlog-rank法を用いて、ER陽性疾患のイベント発生率比(RR)を推定した。 適格基準を満たし、個々の患者データセットが提供された23試験における、無作為化時に閉経前でER陽性またはER不明の腫瘍を有する女性1万5,075例について解析した。OFS追加で、乳がんの再発率が有意に低下 非OFS群と比較して、OFS群で再発率が有意に低下した(RR:0.82、95%信頼区間[CI]:0.77~0.87、p<0.00001)。その効果は、化学療法後に閉経前であることが確認された(または化学療法を受けなかった)女性において、化学療法後に閉経前であることが確認されなかった女性より、大きかった(異質性のp=0.0004)。 化学療法後に閉経前であることが確認された(または化学療法を受けなかった)女性では、タモキシフェンを用いた(タモキシフェン単独投与とOFS+タモキシフェン併用療法を比較した)最近の試験(RR:0.79、95%CI:0.70~0.91、p=0.0008)より、タモキシフェンを用いない以前の試験(RR:0.61、95%CI:0.52~0.71、p<0.0001)のほうが、再発リスクの低下が大きかった。 また、これら最近の試験では、OFSによる再発リスク低下は、45歳未満女性群が45~54歳女性群よりも大きい傾向がみられた(RR:0.73[95%CI:0.63~0.86]vs.RR:0.95[95%CI:0.75~1.21]、p=0.072)。45歳未満女性群では、乳がん死亡率も同様に改善した(RR:0.74、95%CI:0.58~0.94、p=0.012)。 再発を伴わない死亡の増加は認められなかった。また、OFSの方法や、その他の患者特性、腫瘍特性により、結果が有意に異なることはなかった。

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高齢者の心不全リスク、無症状の心房細動で約3倍に上昇の可能性

 高頻度に見られるタイプの不整脈である心房細動(AF)がある人では、たとえ無症状であっても心不全(HF)リスクが有意に上昇することが、新たな研究で示された。スクリーニングで無症候性AFが検出された患者では、AFがない人と比べてHFの発症リスクが約3倍高かったという。この研究結果は、欧州不整脈学会年次集会(EHRA 2026、4月12~14日、フランス・パリ)で発表された。 この新たな知見は、AF患者におけるHFの早期発見と治療に役立つ可能性がある。本研究を主導したダンデリード病院(スウェーデン)の循環器専門医であるGina Sado氏は、「HFとAFは双方向の関係にあり、互いに進行を加速させる。そのため、AF患者では、HFを早期に見つけて治療につなげることが重要だ」とニュースリリースで述べている。 AF患者において懸念される最も深刻な問題は脳卒中である。AFでは、心房の中で血流が滞って血栓が形成されることがあり、それが心臓から外に出て脳に到達すると、脳卒中が引き起こされる可能性があるのだ。一方で、AFはHFにも関連しているとSado氏らは指摘する。HFとは、心臓が、身体が必要とする血液を十分に送り出せなくなる状態である。Sado氏は、「臨床的に明らかなAF患者のHFについて、これまで研究が重ねられてきたが、スクリーニングでAFが検出された人でのHF発症の頻度や時期については、ほとんど分かっていない」と言う。 この研究では、75~76歳の患者を、心電図(ECG)検査によるAFのスクリーニングを実施する群と実施しない対照群のいずれかにランダムに割り付けたスウェーデンの2件の臨床試験(STROKESTOP、STROKESTOP II)のデータを用いて、事後解析が行われた。 STROKESTOPでスクリーニングを受けた6,824人のうち、252人でAFが検出され、中央値6.9年の追跡期間中に57人(23%)がHFを発症した。STROKESTOP IIでは、スクリーニングを受けた6,601人のうち152人でAFが検出され、中央値5.1年の追跡期間中に31人(20%)がHFを発症した。 解析の結果、STROKESTOPでは、スクリーニングでAFが検出された参加者ではAFのない参加者と比べて、HFリスクが約3倍に高まることが示された(調整ハザード比3.19、95%信頼区間2.42~4.21)。このリスクは、既知のAF患者におけるHFリスクと同程度であった(同2.86、95%信頼区間2.34~3.50)。STROKESTOP IIの解析結果も同様であった。 Sado氏は、「スクリーニングでAFが検出された人がHFを発症するリスクはAFがない人の約3倍であり、臨床的に診断されているAF患者と同程度であった。この結果は、無症候性AFが軽視できる状態ではないことを示唆するものであり、AFとHFの双方を早期に見つける必要性を明確に示している」と述べている。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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Ca拮抗薬、ARBで降圧不十分な場合には低用量のサイアザイド系利尿薬がきわめて有効であるが、合剤は高齢者では慎重に(解説:桑島巖氏)

 TRIDENT研究は、脳出血発症後、収縮期血圧が130~160mmHgに安定した状態の1,670例(平均年齢58歳)を、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mg、インダパミド1.25mgの1つの合剤治療(ピル)群とプラセボ群に1:1にランダム化して追跡した国際試験である。 結果としては、2.5年間の追跡期間中に、主要エンドポイントである脳卒中の再発は合剤(ピル)群は38例(4.6%)であり、プラセボ群の62例(7.4%)に比して有意に少なかったというものである。追跡中の血圧値はピル群127mmHg、プラセボ群138mmHgであった。重大な有害事象には両群で差がなかったが、試験の中止の理由は合剤群で血清クレアチニンレベルが有意に上昇したためであると報じている。 本試験の結果は、以下の2点について示唆的である。1つは、脳出血の最初には積極的な降圧が重要である点。そしてそのためには、ARB、ACEなどのRA系抑制薬にサイアザイド系類似薬インダパミドを加える降圧治療がきわめて有用であることはPROGRESS試験でも証明されている。ただし、本試験の合剤は、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mg、インダパミド1.25mgであるが、わが国では1.25mgは発売されておらず、1mg・2mg錠のみである。さらに、高齢者の多いわが国では、インダパミドは高齢者では低ナトリウム血症や低カリウムなどを来すため、0.5mg(1錠の半分)で安全かつ十分な効果を発揮できる。また、本試験の中断の要因となったクレアチニン値の上昇が可逆性とはいえ使いづらい。したがって、本試験で用いられているピルは、日本人では副作用による用量調整が困難となり、適用は困難である。わが国のガイドラインで示されているように、カルシウム拮抗薬、RA系で降圧不十分な場合、積極的にサイアザイド系利尿薬を少量追加するのが妥当である。本試験のようにインダパミド1.25mgを含有する合剤をいきなり処方することは、高齢者では慎重であるべきである。まずは0.5mgから開始し、電解質異常が発生しないことを確認しながら処方すべきである。 近年、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)であるエンレストが降圧薬としてかなり処方されているというが、本来は心不全治療薬であり、欧米では降圧薬としては認可されていない。製薬会社は、心不全に比べて高血圧市場のほうが圧倒的に多いという事情から、降圧薬としての高血圧治療の認可を取得したが、最近発表された日本高血圧学会のガイドライン2025では、ステップ1段階では、カルシウム拮抗薬、ARB/ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬のみに限定し、それでも降圧不十分な場合にのみARNI、MR拮抗薬を用いるべきとの指針を示している。南江堂の『今日の治療薬』にも、エンレストは慢性心不全の治療を受けている患者に限定して用いると明記、強調されている点は立派である。 その指針に従わない場合には、保険審査により査定される可能性があることは忘れてはならない。ARB/ACE阻害薬に少量のサイアザイド系利尿薬を追加するのみで、かなりの降圧効果が得られることは念頭に置くべきである。 本試験の奇異に感じる点は、オーストラリアや英国などの先進国にスリランカ、ナイジェリアなどの発展途上国を交えた国際試験であることだが、60歳未満ですでに脳出血に罹患している例が多いことは、発展途上国では健康管理がいまだ不十分な症例が多いことをうかがわせる。

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外来での立ち往生【Dr. 中島の 新・徒然草】(631)

六百三十一の段 外来での立ち往生日が長くなってきました。考えてみれば、あと1ヵ月少しで夏至。そりゃあ、日も長くなるはずです。さて、先日の脳外科外来でのこと。若者の男性患者さんがこんなことをおっしゃっていました。 患者 「実は、こないだ救急室に運ばれたんですよ」 電子カルテを調べてみると、確かに数週間前に当院に救急搬入されています。 患者 「蕎麦を食べたら身体が赤くなって、息も苦しくなってきて」 カルテには「蕎麦を食べて15分後に皮膚の発赤、呼吸苦」とあります。これはまずい!が、この患者さんはのんびりしたものです。 患者 「でも、薬を使われるのは嫌だったんで、そのまま帰ってきました。薬っていろいろと副作用があるんでしょう」 はあ?何を言ってるの!副作用がどうとかいう屁理屈に、私は思わず説教を始めてしまいました。 中島 「それ、死にますよ。生きていたのは単にラッキーだっただけです」 カルテの記載はこうです。ご本人は生理食塩水以外の薬剤投与を拒否、入院も拒否したため帰宅とする。ただし、再び皮膚の発赤・発疹や呼吸困難などが見られたら、すぐに医療機関を受診するよう説明した。確かに昨今は、患者さんの意思に逆らってまで治療を無理強いしない傾向にあります。が、あっさりし過ぎじゃないですかね、これ。私の思いを無視して、患者さんは無邪気に尋ねてきます。 患者 「薬って、どんなのを使うんですか?」 中島 「まずはアドレナリンで、あとは抗ヒスタミン薬やステロイドですね」 患者 「救急室に着いた時にはもう症状が良くなってきていたんですが、それでも薬を使わないといけないんですか?」 中島 「えっ?」 思わぬ質問に、私は反論できなくなってしまいました。 患者 「そもそもヒスタミンって、人体にあるものですよね。どんな役割があるんですか?」 中島 「ぐぬぬ」 ヒスタミンといえば、胃潰瘍に関係したりアレルギー性鼻炎を起こしたり、悪いイメージしかありません。普段はどんな働きをしているのだったかな? 中島 「それを説明し始めたら、いくら時間があっても足りません」 患者 「そうなんですか」 中島 「あとは『アナフィラキシー』と『ヒスタミン』というキーワードで、ネットか何かを使ってご自分で調べてください」 そう強弁して終えました。でも、本当はどう答えればよかったのでしょうか?抗ヒスタミン薬やステロイドはともかく、症状が改善しつつある状況でアドレナリンまで使うべきなのか。躊躇してしまうのも無理はありません。が、後でいろいろ調べてみると「皮膚の発赤と呼吸困難という複数系統の症状がそろった時点でアナフィラキシーと判断し、症状が改善しつつある状況でもアドレナリンを使うべし」ということになっていました。その主要な理由として、蕎麦が胃の中に残っているのでアナフィラキシー症状が再燃する可能性が十分にある若さゆえの代償機構で何とか血圧を保っているものの、急変する可能性があるアドレナリンが肥満細胞からのヒスタミン放出を抑制するということがあるようです。また「ヒスタミンは普段どんな働きをしているのか?」という質問にもうまく答えられず。これも調べてみると、脳の覚醒作用、胃液を介しての食物消化作用、免疫システムの一部という働きがあることがわかりました。考えてみれば、抗ヒスタミン薬で眠くなる、H2受容体拮抗薬が胃酸分泌を抑制する、アナフィラキシーではヒスタミンが大量放出される、という常識から導き出される当然の結果でしたね。ぬかった!というわけで、外来での何げないやり取りから、あれこれ考えさせられたというお話でした。多少は自分も賢くなったと思えば、それも良しとしておきましょう。最後に1句 夏来たる 年を取っても 日々勉強

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第61回 クルーズ船で広がったハンタウイルス。「アンデスウイルス」の正体と私たちが知っておきたいこと

2026年4月、アルゼンチンを出港したクルーズ船で発生したハンタウイルスの集団感染が、世界中の関心を集めています。WHOによれば、これまでに少なくとも8人が感染し、うち3人が亡くなっています。原因として同定されたのは、南米で知られる「アンデスウイルス」と呼ばれるウイルスでした。この聞き慣れないウイルスは、これまで知られているハンタウイルスの中で唯一、ヒトからヒトへの感染が確認されているという、少し特殊な存在でもあります。今回はその全体像を整理してみたいと思います。ネズミからヒトへ、そしてヒトからヒトへハンタウイルスは、Hantaviridae科Orthohantavirus属に属するRNAウイルスの総称で、世界に40種以上、そのうち22種ほどがヒトに感染することが知られています。共通しているのは、いずれも野生のげっ歯類を自然宿主としている点です。アンデスウイルスの宿主は、南米南部に生息する「コリラルゴ」と呼ばれる小型のネズミで、アルゼンチンとチリのアンデス山脈周辺に広く分布しているそうです。通常の感染ルートは、ネズミの尿・糞・唾液に含まれるウイルスがエアロゾル化し、それをヒトが吸い込むことです。換気の悪い物置や山小屋の掃除など、屋内での曝露がとりわけ危険とされています。典型的には、ネズミに咬まれたり直接触れたりした記憶がなく、知らないうちに吸入してしまっていたケースが大半のようです。ここで重要になるのが、アンデスウイルスだけが備える「ヒト-ヒト感染」の能力です。アルゼンチンで起きた大規模アウトブレイクでは34人が感染し、11人が亡くなりました。家族内、とくに性的パートナー間での感染リスクが、ほかの同居者の十数倍高いことも疫学研究から報告されています。最も感染伝播しやすいのは発症前後の初期段階で、血液・唾液・呼吸器分泌物・尿からウイルスRNAが検出されるため、症状が出る前から感染源になり得るのです。とはいえ伝播には「濃厚かつ長時間の接触」が必要とされており、新型コロナウイルスのように街中で容易に広がるものではないと報告されています。今回のクルーズ船の事例で問題になっているのも、まさに長期航海という限定された空間で乗員乗客が密に過ごしたという特殊な条件です。WHOは濃厚接触者に対して、1潜伏期分にあたる約45日間の健康監視や隔離を勧告しており、複数の国にまたがる追跡調査が現在も進められています1, 2, 3)。風邪のような症状から数時間で急変する「ハンタウイルス心肺症候群」潜伏期間は感染源への曝露から2〜3週間(中央値14〜18日、最長で7週間)と長く、初期の症状はそれほど特徴的ではありません。発熱・悪寒・激しい筋肉痛(とくに大腿や腰背部)、頭痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢といった、いわゆる「胃腸症状を伴うインフルエンザのような」経過をたどります。鼻水や咽頭痛など、上気道の症状をほとんど欠くというのが、いわゆる「風邪」との区別のヒントになります。この「前駆期」は2〜8日ほど続きます。問題はその後です。「ハンタウイルス心肺症候群」と呼ばれるこの病態の本質は、血管内皮の機能不全によるびまん性の毛細血管漏出にあります。ウイルスはβ3インテグリンなどを介して血管内皮細胞や血小板に侵入し、サイトカインの放出と血管透過性の亢進を引き起こします。その結果、肺胞内に大量の血漿成分が漏れ出して非心原性肺水腫を生じ、同時に心筋抑制から心原性ショックに陥ります。乾性咳嗽と呼吸困難の出現を皮切りに、数時間という単位で肺水腫、ショック、不整脈、凝固障害へと急速に進行し、亡くなる方の多くは心肺期に入ってから最初の24時間以内に命を落としてしまいます。検査では、血小板減少、白血球増多と幼若球の出現、免疫芽球の増加、血液濃縮、LDHの上昇といった所見が鋭敏な手がかりになります。確定診断は、ELISAによる血清IgM/IgG抗体検出と、PCRによるウイルスRNA検出で行います。致死率は、アンデスウイルスなどの重症型で30〜50%、軽症型でも10〜30%と非常に高いのが特徴です。生存できた場合でも、倦怠感や息切れが数ヵ月にわたって残ることがあり、急性期を乗り越えても回復には時間がかかると報告されています1, 4)。治療の鍵は「早期搬送」、そして私たちにできる予防策ハンタウイルスに対する特効薬は、残念ながらありません。リバビリンは腎症候性出血熱には有効ですが、心肺症候群に対する効果は複数の臨床試験で否定されています。ステロイドの有用性も示されていません。したがって治療の中心は、集中治療による全身管理になります。人工呼吸器、循環作動薬、そして体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた呼吸循環補助が、命を救う鍵を握ります。毛細血管漏出が進む病態のため、敗血症と異なり「輸液は控えめに、昇圧薬は早めに」というのが治療の原則です。実際、ECMOを要する重症例でも救命率は60%を超えると報告されており、「疑った段階で、ECMOが使える施設へ早く搬送する」ことが予後を左右する最重要事項のようです。予防はまず、ネズミとの接触を断つことに尽きますが、アンデスウイルス患者を診る医療従事者には、N95マスク、ゴーグル、ガウン、手袋による空気感染予防策が推奨され、濃厚接触者は1潜伏期分(約45日)の健康監視あるいは隔離が求められます。ワクチンは現時点で承認されておらず、曝露を避けることが唯一の現実解と言ってよいでしょう2, 4, 5)。パンデミックに至るリスクをどう見るかここで気になるのが、「ハンタウイルス、とくにアンデスウイルスがパンデミックを引き起こす可能性はあるのか」という点ではないでしょうか。結論からお伝えすると、現時点でその可能性は低いと考えられています。理由は大きく2つあります。1つ目は感染経路の特性です。ハンタウイルスの主たる感染経路は、あくまでネズミからのエアロゾルです。アンデスウイルスは唯一ヒト-ヒト感染を起こしますが、それも「濃厚かつ長時間の接触」が必要で、咳やくしゃみで広がる新型コロナやインフルエンザのような効率の良い飛沫感染ではありません。実際、基本再生産数(R0)は1前後と推定されており、適切な隔離下であれば速やかに収束しやすい性質を持ちます。2つ目は、「重症度の高さ」そのものが拡大の歯止めになっているという点です。30〜50%という致死率はこのウイルスの恐ろしさを示すものですが、感染者は急速に発症し、短時間で歩行すら困難な状態に陥ります。社会の中を動き回って他人に伝播させるという、パンデミックを成立させる動線がきわめて作りにくいのです。ただし、安心しきってよいわけでもありません。発症前から感染伝播する可能性があること、気候変動や森林伐採で宿主となるネズミの分布が変動していること、そして今回のように長期クルーズや国際移動によって、本来「南米南部の風土病」だったウイルスが思わぬ場所に運ばれ得ること。これらは公衆衛生上の警戒シグナルとして決して軽視できません。今後アンデスウイルスの新たな変異の獲得により、効率的な飛沫感染能を獲得すれば、状況は一変する可能性もないわけではありません。だからこそ、WHO・CDC・各国当局による監視と早期対応が欠かせないでしょう2, 3, 5)。クルーズ船という閉鎖空間で起きた今回のアウトブレイクは、本来「南米の風土病」と思われていたウイルスが、国境を越えて広がり得ることを示す出来事です。日本国内での流行リスクは依然として低いと考えられますが、流行地への渡航歴がある発熱患者さん、とくに筋肉痛と血小板減少を伴う症例では、本疾患を鑑別の片隅に置いておきたいところです。早く疑い、早く動くこと。それが、この致死率の高い感染症と向き合うために大切なアクションです。1)Vial PA, et al. Pathogenesis, epidemiology, and diagnosis of hantavirus infections. UpToDate. 2026 May 8.2)World Health Organization. Disease Outbreak News: Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country. 2026 May 4.3)Martinez VP, et al. "Super-Spreaders" and Person-to-Person Transmission of Andes Virus in Argentina. N Engl J Med. 2020;383:2230-2241.4)Harkins M, et al. Hantavirus cardiopulmonary syndrome. UpToDate. 2026 May 8.5)Shmerling RH. Hantavirus explained: What to know after the cruise ship outbreak. Harvard Health Publishing. 2026 May 6.

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治療抵抗性統合失調症患者の脳構造はどうなっているのか

 治療抵抗性統合失調症(TRS)は、精神科医療において大きな課題となっており、患者の約10~60%が抗精神病薬に治療反応を示さない。TRSに対する早期治療は、臨床アウトカムの改善につながる可能性があるものの、客観的なバイオマーカーが欠如しているためタイムリーな介入の妨げとなっている。一般的な脳の構造変化がTRSと関連していることが示唆されているものの、大規模なTRS症例データを得ることが困難なため、明確かつ確固たる結論はいまだ得られていない。米国・Johns Hopkins University School of MedicineのSemra Etyemez氏らは、このギャップを埋めるため、ENIGMA(Enhancing Neuro Imaging Genetics through Meta-Analysis)コンソーシアムと共同で、TRSに関連する脳の構造変化を調査した。Molecular Psychiatry誌オンライン版2026年3月28日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・複数の大陸および民族を対象とした複数の機関のデータを用いたメタ分析およびメガ分析により、十分な統計的検出力をもって、TRS患者では非TRS患者と比較し、両側被殻および両側海馬の体積、左上前頭回(SFG)表面積が有意に減少していることが明らかになった。・健康対照群(HC)のデータを取り入れたさらなる分析では、HCから非TRS患者、そしてTRS患者へと、両側海馬体積および左SFG表面積が減少傾向にあることが示された。・クロザピン投与量および抗精神病薬の累積曝露量は、両側海馬体積および左SFG表面積に有意な影響を及ぼさなかった。・一方、被殻体積は、非TRS患者でHCと比較して増加しており、TRS患者とHCとの間には有意な差は認められなかった。・抗精神病薬曝露量は、被殻体積と有意な相関関係を示したが、そのエフェクトサイズは小さかった。・結論として本研究は、海馬とSFGの体積がTRSの潜在的なバイオマーカーであることを示唆している。

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「MASLD診療ガイドライン」改訂、脂肪肝を全身疾患として再定義/日本消化器病学会

 2026年4月、「MASLD診療ガイドライン」が改訂された1)。2020年に発刊した前版の「NAFLD/NASH診療ガイドライン」から6年ぶりの改訂で、第3版となる。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、改訂ポイントを解説するパネルディスカッションが開催された。 今改訂の最大のトピックスは、疾患名の変更とその定義だ。従来、脂肪性肝疾患に用いられてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」の疾患名は国際的コンセンサスに基づき、2023年に「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」「MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)」に変更された。日本でも日本消化器病学会・日本肝臓学会がこれに賛同し、2024年8月に「MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」「MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎」との日本語名を発表している。改訂版ガイドラインでは、これらの新たな疾患名・定義を踏まえた診断・診療体系が提唱された。疾患定義:世界的な名称変更 NAFLDという名称は1980年代に提唱され、その後40年以上にわたり使用されてきた。しかし「non-alcoholic(非アルコール性)」という否定形表現や、「fatty」という言葉が患者へのスティグマにつながるとの指摘が国際的に強まっていた。これを受け、脂肪性肝疾患を「SLD(steatotic liver disease)」という1つの大きな疾患群として捉え直し、そのなかで心代謝系危険因子(CMRF)の有無、飲酒量、その他(薬物、ウイルス、遺伝子など)の要因に応じて疾患を再分類したうえで、その中心的な病態としてMASLDが位置付けられた。従来のNAFLD/NASHとMASLD/MASHの臨床像や診断アルゴリズムはおおむね一致しており、従来のエビデンスは引き続き活用される。診断フローチャート:新たに「MetALD」を設定 新たな疾患分類では、SLDを認めた患者に対し、まず、CMRFの有無を評価する。ガイドラインではCMRFとして 1)肥満:BMI≧23kg/m2 or 腹囲男性>94cm・女性>80cm 2)血糖:空腹時≧100mg/dL or 食後2時間≧140mg/dL or HbA1c≧5.7% or 2型糖尿病 or その治療 3)血圧:収縮期≧130mmHg or 拡張期≧85mmHg or 降圧薬内服 4)中性脂肪:≧150mg/dL or 脂質異常症治療薬内服 5)HDL:男性≦40mg/dL、女性≦50mg/dL or 脂質異常症治療薬内服の5項目を採用している。これらのリスク因子が1つ以上あり、かつ飲酒量が基準未満(純エタノール量:男性30g/日未満・女性20g/日未満)であればMASLDと診断される。 今回のガイドラインでは、新たな疾患カテゴリとして、CMRFが1つ以上の中等量飲酒例(男性30~60g/日・女性20~50g/日)を「MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患)」として独立して規定した。これを超える飲酒量であれば「ALD(アルコール関連肝疾患)」となる。MetALDは従来ではNAFLDから除外されていた群だが、近年、代謝異常とアルコール双方が病態進展に関与すると示されたことを背景に設定され、MASLDよりも肝関連イベントリスクが高いことが報告されている。さらに心血管イベントも増加するとの報告もあることがFRQで示され(FRQ1-1)、今後はこれらの病態に応じた治療法やサーベイランス法の開発が重要となる。診断:肝生検が「必須」から外れる BQ4-1 MASLDの診断に肝生検は必須か? MASLDの診断に肝生検は必須ではない。 今回の改訂で大きな変更点が、確定診断にあたって「肝生検は必須ではない」とされた点だ。これは近年のNIT(非侵襲的検査)の発達によるもので、NITには血液検査による肝線維化マーカー、年齢と検査値を組み合わせたスコアリングシステム(FIB-4 indexなど)、画像検査、そしてこれらの組み合わせがあり、非侵襲的かつ繰り返し評価できることが大きなメリットとなる。とくに複数の線維化マーカーが保険収載されているのは世界中で日本だけであり、この点に関するエビデンスを蓄積することも求められている。一方、肝生検を必要とするケースも依然として存在しており、高リスクMASHの確定診断、炎症の程度の把握が必要なケース、複数のNITの不一致例などが挙げられている。 今回、診断フローチャートのほかに「肝疾患高リスク症例の絞り込み・フォローアップのフローチャート」が作成された。これはNITと肝生検を組み合わせて高リスク症例を絞り込む手順と、その検査や重症度別の患者のフォローアップをかかりつけ医と専門医でどう分担すべきか、という2軸のマトリクスからなる。NITを使った2段階のハイリスク症例の絞り込み、2次リスク評価で使用できるNITのリストアップ、肝生検・超音波エラストグラフィ・MRエラストグラフィによる最終評価と治療方針の決定、その後のリスクに応じたフォローアップ体制など、診断の全体像と医師の役割分担の提唱が可視化されている。非専門医が押さえるべきポイント・従来、「飲酒歴を確認し、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害を除外した残り」としてNAFLDを診断していたが、MASLDにおいてはBMI、糖代謝異常、高血圧、脂質異常症などのCMRFの確認が診断プロセスの中心となる。・飲酒評価の重要性も増した。とくにMetALD概念の導入により、「少量飲酒であれば問題ない」と一律に扱うことは難しくなった。ガイドラインではMASLDを男性30g/日未満、女性20g/日未満、MetALDを男性30~60g/日、女性20~50g/日の飲酒群として整理しているが、実際にはMASLD基準内の少量飲酒でも線維化リスク上昇が報告されており、診療現場では飲酒量を細かく聴取することが重要になる。・「MASLD患者の消化器科へのコンサルテーション基準は?」という設問(BQ4-2)に対しては、「FIB-4 index>2.67(65歳以下の場合)」の高リスク群を紹介基準とし、同1.3~2.67の中間リスク群でも「血小板数<20万/μL」「AST値・ALT値が持続高値」「画像検査で肝硬変の所見を認める」場合には紹介が望ましいとされている。全身疾患としてのMASLD MASLDは多くの疾患と関連するが、診断基準となるCMRF関連4疾患である「2型糖尿病、脂質異常症、肥満、高血圧」についてはBQが設定され、相互補完関係にあることが示されている(BQ3-1~3-4)。さらに、慢性腎障害、内分泌異常、睡眠時無呼吸症候群など、多様な合併症との関連も整理された(BQ3-5、3-6)。また、肝臓以外の悪性腫瘍リスク上昇についても大腸がんを中心に、胃がん、食道がん、婦人科がんとの関連が解説された(BQ3-7)。中でも心血管疾患はMASLD患者の主要死因の1つであり、大規模メタ解析では、MASLD患者の心不全新規発症リスクは一般人口の約1.5倍と報告されている。一方で、肝線維化が心血管リスクを上昇させる独立した因子であるかについては現時点ではまだ明確ではなく、今後探索していくべき課題とされた(FRQ3-1、3-2)。 治療面では、生活習慣介入が中心である点は従来と変わらないが、「単純性脂肪肝だから経過観察のみ」という従来型対応は見直されつつある。肥満、糖尿病の合併例、線維化進展を伴う例では、早期から積極的介入を行う方向性がより明確になっている。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など代謝改善薬への期待も高まっており、今後の承認に向けての動きやエビデンス蓄積が注目される。

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肥満のアルコール使用障害、セマグルチドvs.プラセボ/Lancet

 肥満を有する中等度~重度のアルコール使用障害(AUD)患者において、セマグルチド週1回投与により、プラセボと比較してAUDに対する有意な治療効果が認められた。デンマーク・Copenhagen University Hospital-Bispebjerg and FrederiksbergのMette Kruse Klausen氏らが、コペンハーゲンの単施設で実施した26週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。AUDは、世界の年間死亡者の5%を占めており、新たな治療法の開発が急務となっている。GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドは前臨床試験および初期の臨床試験において、飲酒量を減少させる可能性が示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、GLP-1受容体作動薬がAUDの新たな治療選択肢となりうることを示唆するこれまでの知見を裏付けるものである」とまとめている。Lancet誌2026年5月2日号掲載の報告。主要エンドポイントは、26週時までの大量飲酒日数の変化 研究グループは、年齢が18~70歳で、『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』に基づきAUDと診断され、かつ国際疾病分類第10版(ICD-10)に従ってアルコール依存症と診断された、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)スコアが15超、BMI値30以上の患者を対象とした。AUDに対する治療を希望する被験者を、セマグルチド群(0.25mgから開始し4週ごとに増量して2.4mgを週1回皮下投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、標準的な認知行動療法とともに26週間投与した。 主要エンドポイントは、飲酒量振り返りカレンダー(TLFB)法で推定されたベースラインから26週時までの大量飲酒日の割合の変化であった。ITT集団を対象として、欠測値を多重代入法により補完した反復測定共分散分析(ANCOVA)モデルを用いて評価した。副次エンドポイントは、ベースラインから26週時までの総アルコール摂取量(g)の変化、飲酒をしなかった日数、飲酒日当たりの飲酒量、AUDITスコアなどで、安全性についても評価した。認知行動療法+セマグルチドで大量飲酒が改善 2023年6月10日~2025年2月4日に302例が予備スクリーニングを受け、スクリーニング対象となった135例中108例が登録された(女性53例、男性55例)。全例、1回以上の治療を受け、最終解析に組み込まれた。108例中88例(81%)が試験を完遂した。 主要エンドポイントである大量飲酒日の割合の変化量は、セマグルチド群で平均-41.1%ポイント(95%信頼区間[CI]:-48.7~-33.5)、プラセボ群で-26.4%ポイント(95%CI:-34.1~-18.6)とセマグルチド群で有意に減少した(平均群間差:-13.7%ポイント、95%CI:-22.0~-5.4、p=0.0015)。 副次エンドポイントについても、総アルコール摂取量、飲酒日当たりの飲酒量、AUDITスコアなど複数の項目で、プラセボ群に対するセマグルチド群の有意な効果が示された。 最も多く発現した有害事象は胃腸障害で、悪心の発現割合はプラセボ群の7%に対しセマグルチド群では57%であった。多くの胃腸障害は軽度~中等度で、一過性であった。

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RAS変異陽性既治療膵管腺がん、daraxonrasibが有効か/NEJM

 RAS遺伝子変異を有する既治療膵管腺がん(PDAC)患者において、daraxonrasib(RMC-6236、GTP結合型変異および野生型RASを標的とする経口のRAS(ON)マルチ選択的阻害薬)は、300mg用量の投与により抗腫瘍活性が示され、Grade3以上の治療関連有害事象は約3割で認められた。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のBrian M. Wolpin氏らRMC-6236-001 Investigatorsが、同国の16施設で実施した第I/II相試験「RMC-6236-001試験」の結果を報告した。PDACに対する現行治療法は有効性が限定的である。PDACの90%以上で活性化RAS遺伝子変異が認められることから、これを治療標的とした新たな治療法が期待されていた。NEJM誌2026年5月7日号掲載の報告。米国16施設で第I/II相試験を実施 RMC-6236-001試験の対象は、コドン12、13または61でのKRAS、NRASまたはHRAS遺伝子変異を有する進行固形腫瘍の成人患者で、PDACについては、5-FUまたはゲムシタビンを含む化学療法後に病勢進行または許容できない有害事象が生じた患者が対象となった。 研究グループは、用量漸増期において固形腫瘍患者に10~400mgのdaraxonrasibを1日1回経口投与した。用量拡大期ではPDAC患者に120mg、200mgまたは300mgを投与した。 主要評価項目は安全性、副次評価項目は抗腫瘍効果および薬物動態であった。 本論では、PDAC患者を対象とした解析結果が報告された。第III相試験の推奨用量は300mg、Grade3以上の有害事象の発現は約30% 2022年6月22日~2025年6月30日に、RAS遺伝子変異を有する既治療のPDAC患者168例が登録され、daraxonrasibを投与された(300mg群83例、160~220mg群51例、120mg以下群34例)。 治療関連有害事象は、全Gradeについて168例中161例(96%)に認められ、Grade3以上の事象は50例(30%)で報告された。死亡に至った事象はなかった。 主な全Gradeの治療関連有害事象(発現割合20%以上)は発疹88%、下痢46%、悪心42%、口内炎または粘膜炎40%、嘔吐31%、疲労20%であった。 daraxonrasibの抗腫瘍効果は各用量で観察され、奏効率は総じて300mg群で高く、第III相試験の推奨用量として300mgを選択することが支持された。 2次治療としてdaraxonrasib 300mgの投与を受けたRAS G12変異を有する26例のサブグループ解析では、確定奏効率35%(95%信頼区間[CI]:17~56)、奏効期間中央値8.2ヵ月、無増悪生存期間(PFS)中央値8.5ヵ月、全生存期間(OS)中央値13.1ヵ月であった。 また、RAS G12、G13またはQ61変異を有し2次治療としてdaraxonrasib 300mgを投与された38例では、確定奏効率29%(95%CI:15~46)、奏効期間中央値8.2ヵ月(95%CI:3.8~8.8)、PFS中央値8.1ヵ月、OS中央値15.6ヵ月であった。

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TN乳がん1次治療のDato-DXd、QOL悪化までの期間を延長(TROPION-Breast02)/ESMO BREAST 2026

 免疫チェックポイント阻害薬の適応とならない局所進行切除不能または転移を有する未治療のトリプルネガティブ乳がんを対象とした第III相TROPION-Breast02試験において、抗TROP2抗体薬物複合体であるダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)は、化学療法と比較してQOL悪化までの期間を延長したことを、英国・Barts Cancer InstituteのPeter Schmid氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2026、5月6~8日)で報告した。 これまでの解析では、Dato-DXdが治験責任医師選択化学療法(パクリタキセル、nab-パクリタキセル、カペシタビン、エリブリン、カルボプラチン)と比較して、主要評価項目である全生存期間および無増悪生存期間において統計的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示したことが報告されている。今回報告された患者報告アウトカム(PRO)解析では、全般的健康状態/QOL(GHS/QoL)、身体機能、疼痛、乳房症状、上肢症状について、初回悪化までの期間(time to first deterioration:TTFD)および悪化が確認されるまでの期間(time to confirmed deterioration:TTCD)などを評価した。PROは主としてEORTC QLQ-C30、EORTC Item Library(IL146、IL116)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・合計644例がDato-DXd群または化学療法群に1対1で無作為に割り付けられた。・GHS/QOL悪化までの期間は、Dato-DXd群のほうが化学療法群よりも有意に長かった。中央値とハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -TTFD 23.5ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.64[95%CI:0.46~0.88]) -TTCD 未到達vs.29.0ヵ月(HR:0.61[95%CI:0.41~0.91])・身体機能についてもDato-DXd群で悪化リスクの有意な低下が認められた。 -TTFD 10.4ヵ月vs.4.1ヵ月(HR:0.67[95%CI:0.51~0.90]) -TTCD 24.9ヵ月vs.9.0ヵ月(HR:0.59[95%CI:0.42~0.83])・上肢症状についてもDato-DXd群で悪化リスクの有意な低下が認められた。 -TTFD 未到達vs.12.5ヵ月(HR:0.51[95%CI:0.35~0.75]) -TTCD 両群とも未到達(HR:0.48[95%CI:0.30~0.76])・疼痛および乳房症状についてもDato-DXd群で悪化リスクの低下傾向がみられたものの、統計学的有意差は認められなかった。・患者報告による症候性有害事象および治療忍容性は、主解析における医師報告の安全性プロファイルとおおむね一致していた。

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睡眠時無呼吸症候群、日ごとの重症度変動も心血管リスクに影響

 睡眠時無呼吸症候群(OSA)は心疾患、高血圧、脳卒中のリスクを高めることが知られているが、その重症度が日ごとに大きく異なることも、リスクに影響する可能性がある。新たな研究で、OSAの重症度の日ごとの変動が大きい人では、小さい人に比べて、非致死的な主要心血管・脳血管イベント(MACCE)のオッズが34%高いことが示された。フリンダース大学(オーストラリア)のBastien Lechat氏らによるこの研究の詳細は、「Sleep」に3月26日掲載された。 OSAでは、睡眠中の呼吸停止とそれに伴う覚醒が一晩中繰り返され、睡眠の質に悪影響を及ぼすことが知られている。Lechat氏は、「多くの人は、OSAの症状は一定していると考えがちであるが、実際は、ある夜は他の夜よりも著しく悪化するなど日ごとに大きく異なる。このような重症度の上下の繰り返しは心臓にさらなる負荷をかける可能性がある」とニュースリリースで述べている。 本研究では、米食品医薬品局(FDA)承認の市販のマットレス下センサーを用いてOSAの重症度を連日測定した3,159人の成人(女性19%、平均年齢49±13歳)のデータが解析された。OSAの重症度は、1時間当たりに起こる無呼吸と低呼吸の回数を示す指標である無呼吸低呼吸指数(AHI)で評価された。非致死的なMACCE(心筋梗塞、脳卒中、狭心症、うっ血性心不全など)の診断の有無について質問票により確認し、これらとOSAの重症度およびその変動との関連を検討した。 その結果、中等度から重度のOSAを有する人は、OSAのない人と比較して、MACCE発生のオッズが45%高い傾向が認められた(オッズ比1.45、95%信頼区間0.93~2.25)。また、OSAの重症度の変動が大きい人(AHIの75パーセンタイル:8.0回/時)は小さい人(AHIの25パーセンタイル:2.8回/時)と比較して、OSAの重症度や他の交絡因子とは独立して、MACCE発生のオッズが34%高かった(オッズ比1.34、95%信頼区間1.04~1.72)。 研究グループによると、OSAの検査は多くの場合、1晩のみの呼吸測定で行われる。Lechat氏は、「1晩の睡眠検査だけでは一部の患者に誤った安心感を与える可能性がある。平均的には軽症であっても、日ごとの変動が大きい場合にはリスクが高い可能性があるためだ」と指摘している。 研究グループは、OSA患者における心血管リスクの予測が困難である理由の一端は、本結果により一部説明可能であるとの見方を示している。論文の上席著者である同大学のDanny Eckert氏は、「身体は酸素レベルの変動や睡眠の分断の繰り返しに適応することが困難である可能性がある。こうした日ごとの変動は、標準的な検査では捉えられないまま、時間をかけて心臓や血管に徐々に負荷をかける」とニュースリリースで述べている。その上で同氏は、医師が糖尿病や血圧と同様に、OSAについても継時的に評価することを検討すべきだと主張している。 一方、Lechat氏は、OSAには対処法が存在することを強調する。「いびきをかく、あるいは睡眠後も疲労感が残る場合には、医療専門職に相談することで、心血管リスクが見つかる可能性がある。そうしたリスクに対する治療の選択肢は多数存在する」と述べている。

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歯の減少や噛み合わせの低下は体重増加につながる?

 歯を失うと体重が増える可能性がある――そんな研究結果が報告された。歯の本数が少ないこと、噛み合わせ(咬合機能)や歯周の状態が悪いことは体重増加と有意に関連していることが示されたという。研究グループは、歯の喪失が咀嚼能力に影響し、それが健康的な食事の選択を制限する可能性があると指摘している。ペロタス連邦大学(ブラジル)のNatalia Pola氏らによるこの研究結果は、「Journal of Periodontology」に3月6日掲載された。 この研究では、ペンシルベニア州ピッツバーグとテネシー州メンフィスを拠点とする長期健康調査プロジェクト(Health ABC)の参加者903人を追跡して、口腔状態と体重の変化との関連が検討された。参加者は研究開始時に口腔検査を受け、歯の本数、咬合機能、歯周状態が評価された。咬合機能は機能歯ユニット(Functional Tooth Unit;FTU)により、歯周状態は、プロービングデプス(歯肉辺縁から歯周ポケット底部までの距離)または臨床的アタッチメントレベル(Clinical Attachment Level;CAL)により評価された。 参加者は、2年時点と6年時点の体重の変化により、変化なし(568人、62.9%)、5%以上の体重減少(231人、25.6%)、5%以上の体重増加(104人、11.5%)の3群に分類された。解析の結果、体重減少については、歯の本数、咬合機能、歯周状態のいずれの指標とも有意な関連は認められなかった。一方、体重増加については、歯の本数が少ないこと、咬合機能が悪いこと、歯周の状態が悪いことが体重増加と有意に関連していた。特に、咀嚼に重要な役割を果たす臼歯が失われた場合には、体重増加のリスクが17%高かった。 こうした結果について研究グループは、「歯の喪失は、果物や野菜などの食物繊維が豊富で健康的な食品を避け、柔らかくて高カロリーな食品を選ぶ傾向につながる可能性がある」と指摘している。また、Pola氏は、「特に臼歯など、機能的な歯の単位の喪失は、高齢者において4年間の体重増加リスクの上昇と関連していた」と結論付けている。 本研究には関与していない、米国歯周病学会会長で歯周病専門医であるAna Becil Giglio氏は、「これらの結果は、特に高齢期においては、歯周の健康が全身の健康に重要な役割を果たすという、これまでの知見をさらに裏付けるものだ。健康な歯と歯茎を維持することは、より良い栄養状態や生活習慣、高齢期の生活の質(QOL)の向上をサポートする」とニュースリリースで述べた。 研究グループは、健康的な体重の維持や減量を目指す人にとっても、口腔の健康管理は重要な要素となり得ると示唆している。ただし、歯の欠損と体重増加の関係をより正確に理解するためには、さらなる研究が必要だとも付け加えている。

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ある種の抗うつ薬がLong-COVIDの疲労改善に有効か

 抗うつ薬の一種が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に持続する疲労の改善に有効な可能性が報告された。マクマスター大学(カナダ)のEdward Mills氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に3月31日掲載された。同時に評価された血糖降下薬のメトホルミンに関しては、有効性が示されなかったという。 COVID-19の急性期以降にさまざまな症状が遷延化する、いわゆる「Long COVID」は、いまだ世界中の多くの人の生活の質(QOL)を低下させている。特に疲労は、最も一般的で生活機能に大きな影響を及ぼす症状とされる。Long COVIDの治療手段としてこれまでに、抗うつ薬のフルボキサミンと血糖降下薬のメトホルミンが有効な可能性が、観察研究などで示唆されている。ただし、ランダム化比較試験(RCT)による確固たるエビデンスは確立されていない。これを背景にMills氏らは、Long COVIDに伴う代表的な症状である疲労に焦点を当てRCTを実施した。 研究参加者は、ブラジル国内の医療機関の外来患者のうち、新型コロナウイルスに感染後90日以上経過しても疲労が持続している成人399人だった。フルボキサミン群、メトホルミン群、およびプラセボ群の3群にランダムに割り付けて、各薬剤を60日間投与した。 その結果、フルボキサミン群では、60日後の疲労がプラセボ群より改善しており(疲労重症度尺度〔FSS〕の平均差-0.43〔95%信用区間-0.80~-0.07〕)、優越性の事後確率(プラセボより優れている可能性)は99.0%と計算された。また90日後にもその効果が持続しており(同-0.58〔-0.98~-0.16〕)、優越性の事後確率は99.7%と計算された。 一方、メトホルミンに関しては、60日後のFSSの平均差が-0.03(-0.42~0.37)で優越性の事後確率が56.0%、90日後は-0.04(-0.47~0.38)で同57.8%であり、プラセボとの差が示されなかった。なお、フルボキサミン群の有害事象の発生率は20.0%であり、メトホルミン群の28.8%やプラセボ群の29.7%より低かった。 論文の上席著者であるMills氏は、「本研究はエビデンスに基づく治療法につながる重要な前進だ。フルボキサミンとメトホルミンは、どちらも比較的安価で入手しやすく、かつLong COVIDによる疲労に有効な可能性が報告されていたが、その有効性の検証を目的とした厳格な臨床試験はこれまで行われていなかった」と述べている。 また、論文の責任著者であるブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のJamie Forrest氏は、「今回の試験結果はLong COVIDに伴う疲労を軽減する薬物治療に関する初めての有力なエビデンスと言える。患者は今すぐに試すことのできる薬剤を求めており、われわれの発見によってその実現に近づいた」としている。 なお、研究者らは、フルボキサミンが最も有効と考えられる患者の特徴を明らかにすること、および、疲労改善のメカニズムを理解するために、今後のさらなる研究の必要性を強調している。

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下落時こそ絶好の仕込み時!インフレ時代に医師が取るべき資産形成の最適解とは?【医師のためのお金の話】第104回

2026年2月28日。米国とイスラエルによるイランへの軍事介入という衝撃的なニュースとともに、世界経済は新たな激動のフェーズに突入しました。この地政学リスクは、原油価格の急騰という形でダイレクトに私たちの家計や市場を直撃しています。戦況の推移に一喜一憂して、原油価格が乱高下を繰り返す中で、株式市場もまたボラティリティ(変動率)がきわめて高い状況です。医師風に言うと、バイタルサインがきわめて不安定な状態でしょうか。このような先行きの見えない不透明な状況下で、私たち投資家、とりわけ多忙をきわめる医師は、株式投資でどう振る舞うべきなのでしょうか。日本経済の構造的変化から、株式投資の最適解を導き出してみたいと思います。デフレという長い冬の戦術を振り返るかつて、私たちが長く経験してきたデフレ時代。この局面において、株価は一定のレンジを行き来する「ボックス圏」での動きが定石でした。実際に、2000年代の日本市場はこの傾向が顕著であり、投資戦略もそれに準じたものでした。デフレ下では、現金の価値が相対的に維持、あるいは上昇します。消費者の心理としては「今日買うよりも、明日、明後日のほうが安くなっているかもしれない」という期待がはたらくため、積極的な消費や投資を抑制して、現金を抱え込むようになります。このマインドが社会全体に蔓延すると、景気は停滞して、株価も低迷を余儀なくされます。こうしたデフレ経済下では、安値で拾い、ある程度上がったところで利益を確定させる出口戦略(売却)を前提とした短期・中期の戦術がきわめて合理的でした。インフレ経済という「新しい日常」しかし、コロナ禍という世界的なパラダイムシフトを経て、日本は明確にインフレ経済へと舵を切りました。今回のイラン情勢に伴う原油高は、このインフレ傾向をさらに加速させる強力なアクセルとなる可能性があります。歴史を紐解けば、インフレ局面における株価は、長期的には右肩上がりの軌跡を描きます。インフレとは、裏を返せば「現金の価値が目減りしていくこと」にほかなりません。資産価値を維持するには、現金を株式などにシフトさせるインフレヘッジが不可欠です。また、通貨価値が下落し続ける局面では「今、この瞬間が最も現金の価値が高い」ことになります。そのため、貯蓄から消費・投資へという心理的バイアスが働き、経済全体が活性化しやすくなります。このような経済構造下では、株価が長期的に上昇していきます。私たち個人投資家が取るべき最も確実性の高い戦略は、短期的な値幅取りではなく、どっしりと構えたバイ&ホールドだと言えるでしょう。多忙な医師こそバイ&ホールドもちろん、短期のチャート分析と売買を繰り返して、資産を爆発的に増やす才能を持った人もまれに存在します。しかし、現実にそのような特殊な技能を持ち合わせている人は、投資人口の数パーセントにも満たないでしょう。何より、私たち医師は、毎日のように患者さんの生命や健康と向き合う、きわめて多忙な職種です。日々の外来、手術や検査、病棟管理、そして絶え間ない自己研鑽。株式市場の細かなノイズに一喜一憂して、貴重な時間を投資に割き続けることは、現実的ではありません。だからこそ、多忙な医師は投資戦略を吟味しなければいけません。今回のような一時的な急落時に優良資産を仕込み、あとは忘れて持ち続けるバイ&ホールド戦略が最も合理的でストレスの少ない最適解ではないでしょうか。機会損失という最大のリスクを診断するデフレ時代は、いかに上手く売るかという出口戦略が重要でした。しかし、インフレ時代では、必ずしも売却を急ぐ必要はありません。むしろ、長期的な上昇トレンドの中で、一時的なショックによる下落は、後から振り返れば千載一遇の好機であることが多いです。今の状況において、あえてリスクを指摘するならば、株価の下落そのものではありません。下落を恐れるあまり、投資の判断を先延ばしにして、結局何も買えないまま好機が過ぎ去ってしまう機会損失こそが、長期的な資産形成における最大のリスクと言えます。勇気を振り絞って、安値になった株式を購入して長期保有する。これこそが、インフレ時代を生き抜くための最も効果的な投資戦略だと私は信じています。

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