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潰瘍性大腸炎に対する1日1回の経口薬オザニモドを発売/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは2025年3月19日、「中等症から重症の潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得したスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬オザニモド(商品名:ゼポジア)を発売した。 オザニモドは、潰瘍性大腸炎に対する新規作用機序の治療薬である。S1P1受容体および S1P5受容体に高い親和性を持って選択的に結合するS1P受容体調節薬であり、リンパ球上に発現するS1P1受容体に結合し、S1P1受容体の内在化および分解を誘導することにより、リンパ球を末梢リンパ組織内に保持する。この作用によってリンパ球の体内循環を制御し、病巣へのリンパ球の浸潤を阻害することで、潰瘍性大腸炎の病理学的変化を改善すると考えられている。 本薬剤は、海外では再発型多発性硬化症の成人患者および中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎の患者に対する治療薬として、2020年以降に米国、欧州などの多くの国で承認されており、長期的な安全性プロファイルを有する。また、1日1回投与の経口薬であり、患者の負担を軽減し、QOLの向上に寄与することが期待されている。<製品概要>販売名:ゼポジアカプセルスターターパック、ゼポジアカプセル0.92mg一般名:オザニモド塩酸塩製造販売承認日:2024年12月27日薬価基準収載日:2025年3月19日薬価:12,313.30円(スターターパック1シート)、4,792.80円(0.92mg 1カプセル)効能又は効果:中等症から重症の潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)用法及び用量:通常、成人にはオザニモドとして1~4日目は0.23mg、5~7日目は0.46mg、8日目以降は0.92mgを1日1回経口投与する。製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社

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再発/難治性濾胞性リンパ腫に対する二重特異性抗体モスネツズマブを発売/中外

 中外製薬は、2024年12月27日に「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫」に対して製造販売承認を取得した抗CD20/CD3ヒト化二重特異性モノクローナル抗体であるモスネツズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ルンスミオ)について、2025年3月19日に薬価収載され、販売を開始したことを発表した。 本剤は、過去に少なくとも2つの標準治療が無効または治療後に再発した濾胞性リンパ腫に対する新たな治療選択肢である。効果に応じ投与期間があらかじめ定められているfixed durationの治療であり、治療に伴う患者さんの負担軽減が期待されるという。 今回の承認は、過去に2つ以上の標準治療を受けたことのある再発/難治性濾胞性リンパ腫患者を対象に実施した国内第I相試験の拡大コホート(FLMOON-1試験)および同じ患者集団を対象としたロシュ社による海外第I/II相試験の成績に基づいており、両試験で本剤の単剤投与による有効性および安全性が評価された。<製品概要>販売名:ルンスミオ点滴静注1mg、ルンスミオ点滴静注30mg一般名:モスネツズマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:再発又は難治性の濾胞性リンパ腫効能又は効果に関連する注意:・本剤による治療は、抗CD20モノクローナル抗体製剤を含む少なくとも2つの標準的な治療が無効又は治療後に再発した患者を対象とすること。・十分な経験を有する病理医により、Grade1~3Aと診断された患者に投与すること。用法及び用量:通常、成人にはモスネツズマブ(遺伝子組換え)として、21日間を1サイクルとし、1サイクル目は1日目に1mg、8日目に2mg、15日目に60mg、2サイクル目は1日目に60mg、3サイクル目以降は1日目に30mgを8サイクルまで点滴静注する。8サイクル終了時に、完全奏効が得られた患者は投与を終了し、また、病勢安定又は部分奏効が得られた患者は、計17サイクルまで投与を継続する。製造販売承認日:2024年12月27日薬価基準収載日:2025年3月19日発売開始日:2025年3月19日薬価:1mg1瓶 83,717円、30mg1瓶 2,393,055円製造販売元:中外製薬株式会社

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失明を来し得る眼疾患のリスクがセマグルチドでわずかに上昇

 2型糖尿病の治療や減量目的で処方されるセマグルチドによって、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)という失明の可能性もある病気の発症リスクが、わずかに高まることを示唆するデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ウィルマー眼研究所のCindy Cai氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に2月20日掲載された。 NAIONは、網膜で受け取った情報を脳へ送っている「視神経」への血流が途絶え、視野が欠けたり視力が低下したり、時には失明に至る病気。一方、セマグルチドはGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)という薬の一種で、血糖管理や減量のために処方される。2024年に、同薬がNAION発症リスクを高めるという論文が発表された。ただし、ほぼ同時期にその可能性を否定する研究結果も発表されたが、安全性の懸念が残されている。これらを背景としてCai氏は、複数のデータベースを統合した大規模サンプルを用いた後ろ向き研究を実施した。 解析には、医療費請求データや電子カルテなど計14件のデータを使用し、二つの手法でNAION発症リスクを検討した。一つ目は、セマグルチドが新たに処方された患者と、セマグルチド以外のGLP-1RA、およびGLP-1RA以外の血糖降下薬が処方された患者を比較する、実薬対照コホートデザインによる検討。二つ目は、同一患者内で当該薬剤を使用していた期間と使用していなかった期間とでリスクを比較する、自己対照研究デザインによる検討。 解析対象は3710万人の2型糖尿病患者であり、そのうち81万390人がセマグルチドの新規使用者だった。NAIONの発症リスクの検討には、1件の診断コードのみで定義した高感度モデルと、90日以内に2件以上の診断コードが記録されている場合で定義した高特異度モデルという2パターンを用いた。NAION発症率は、高感度モデルでは10万人年当たり14.5、高特異度モデルでは同8.7だった。 実薬対照コホートデザインの高感度モデルでは、セマグルチドはSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン、DPP-4阻害薬のシタグリプチン、SU薬のグリピジドとの比較でNAIONリスクに有意差はなかった。高特異度モデルでは、エンパグリフロジンとの比較でのみ、リスクが有意に高かった(ハザード比〔HR〕2.27〔95%信頼区間1.16~4.46〕)。 自己対照研究デザインにおいてセマグルチドは、高感度モデルで発生率比(IRR)1.32(同1.14~1.54)、高特異度モデルでIRR1.50(同1.26~1.79)と有意なリスク上昇が認められた。また、別のGLP-1RAであるエキセナチドも高特異度モデルでIRR1.62(同1.02~2.58)と有意なリスク上昇が認められた。 著者らは、「われわれの研究により、セマグルチドとNAIONリスクとの関連についての新たなエビデンスが示された。認められたリスクは先行研究に比べて小さかった。潜在的なメカニズムや因果関係の特定のために、さらなる研究が求められる」と述べている。またCai氏は、「セマグルチドは全身性の副次的効果が豊富な薬剤ではあるが、患者と医師はNAIONのリスクに留意する必要がある」としている。

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厳格な血圧管理が高齢者にもたらすベネフィットはリスクを上回る

 地域在住の高齢者では、厳格な血圧管理による健康上の利点は潜在的なリスクを上回る可能性の高いことが、最新の大規模臨床試験により明らかにされた。試験では、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする治療を受けた高齢者の約85%で、腎障害などの潜在的なリスクと比較して、得られるベネフィット(ネットベネフィット)の方が大きいことが示されたという。米カリフォルニア大学デービス校のSimon Ascher氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に2月18日掲載された。 収縮期血圧とは、心臓が収縮して全身に血液を送り出す際の血圧のことであり、上の血圧とも呼ばれている。高血圧の高齢者、中でもより高齢の人やフレイル状態の人、多剤併用者での最適な血圧管理目標値については専門家の間で一致した見解が得られていない。 Ascher氏らは今回、SPRINT試験に参加した地域在住の65歳以上の高齢者5,143人を対象に、厳格な血圧管理のネットベネフィットを患者ごとに推定した。SPRINT試験は、収縮期血圧の厳格な管理(120mmHg未満)と標準的な管理(140mmHg未満)のどちらが心血管疾患や死亡リスクをより低減できるかを調査した大規模研究である。本研究では、それぞれの血圧管理目標値における、あらゆる原因による死亡(全死亡)、心血管イベント、認知機能の変化、重度の有害事象の絶対リスク差を算出した。さらに、算出されたそれぞれのリスクに重み付けを行い、その合計を個々の患者のネットベネフィットとし、年齢別(65〜74歳、75歳以上)、SPRINT試験に基づくフレイル状態(健康、ややフレイル、フレイル)、および多剤併用(5剤以上)別に比較した。 その結果、患者が降圧療法によりもたらされ得るベネフィット(死亡、心血管イベント、認知障害のリスク低下)の方が降圧療法に伴うリスク(急性腎障害、失神)よりもはるかに重要と考えるシナリオを想定した場合には、厳格な血圧管理によるネットベネフィットの中央値は4%ポイントとなり、100%の参加者がネットベネフィットを得られることが示された。一方、患者がリスクとベネフィットの重要度を同等と見なすシナリオを想定した場合、厳格な血圧管理によるネットベネフィットの中央値は1%ポイントであり、85%の参加者がネットベネフィットを得られることが示された。 より高齢の参加者やフレイル状態の参加者は、両シナリオにおいてより多くの有害事象が生じた一方で、厳格な血圧管理によるネットベネフィットは大きくなる傾向が認められた。さらに、多剤併用の参加者は、ベネフィットをリスクよりもはるかに重要と考えるシナリオにおいて、より大きなネットベネフィットを得ることが確認された。 研究グループは、「これらの結果は、個人の推定リスクとアウトカムに対する好みを考慮すると、SPRINT試験の対象となる高血圧を有する地域在住の高齢者の多くにおいて、厳格な血圧管理によるベネフィットがリスクを上回ることを示している。特に、厳格な血圧管理に耐えられず、またベネフィットも得られにくいと考えられがちな高リスク集団においても、その利点が認められた点は重要である」と話す。そして、「多くの米国人が血圧を適切にコントロールできていないことを考えると、この結果は非常に重要だ」と付言している。 研究グループは、問題の一因は、高齢で、フレイル状態にあり、多剤併用の高血圧患者に対する厳格な血圧管理に医師が消極的だったことにあると指摘する。「われわれの研究結果は、従来の常識に反して、年齢、フレイル、多剤併用などの要因が厳格な血圧管理に対する障害と見なされるべきではないことを示唆している」と結論付けている。

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手術中の強オピオイド鎮痛薬の使用は手術後の疼痛と関連

 手術中に強オピオイド鎮痛薬のレミフェンタニルとスフェンタニルを使用することは、手術後の望ましくない「疼痛経験」と独立して関連することが示された。「疼痛経験」とは、単なる痛みの強度だけでなく、感情的・精神的・認知的な側面を含めた包括的な概念である。ニース・パスツール病院大学病院センター(フランス)のAxel Maurice-Szamburski氏らによるこの研究は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に2月25日掲載された。 Maurice-Szamburski氏は、「オピオイド鎮痛薬は手術後の疼痛軽減に役立つことがあるが、手術中の使用、特に、強オピオイド鎮痛薬のレミフェンタニルやスフェンタニルの使用は、逆に疼痛を増大させる可能性がある」と述べている。 この研究では、フランスの5カ所の総合教育病院で、全身麻酔下で選択的手術を受けた18〜70歳の成人患者971人(年齢中央値49.6歳、65歳以下88%、男性48%)のデータの二次解析が行われた。対象者の手術前の不安は、アムステルダム術前不安・情報尺度(APAIS)により、また、疼痛、睡眠の質、ウェルビーイングは、手術の前後に視覚アナログ尺度(VAS)を用いて測定されていた。主要評価項目は、手術後1日目にEvaluation du Vecu de l'Anesthesie Generale(EVAN-G)質問票で測定した患者の疼痛経験とし、EVAN-G疼痛次元の25パーセンタイル未満の場合を「不良な疼痛経験」と定義した。手術の種類としては、整形外科または脊椎(37%)、耳鼻咽喉(29%)、消化器(15%)が多かった。 271人(27.9%)が手術後の不良な疼痛経験を報告していた。多変量解析では、手術中のレミフェンタニルとスフェンタニルの使用が、手術後の不良な疼痛経験の独立した予測因子であることが示された。これらの薬剤の使用により不良な疼痛経験が生じるオッズ比は26.96(95%信頼区間2.17〜334.23、P=0.01)と推定された。この結果について研究グループは、「これは、『オピオイド誘発性痛覚過敏』と呼ばれる既知の現象と一致している。高用量のオピオイドにさらされた患者では、痛みの刺激に対する感受性が高まる可能性がある」との見方を示している。 また、米国麻酔科学会(ASA)による全身状態分類であるASA-PS(ASA physical status)分類でクラスIIIに分類される重篤な全身疾患を有すること(オッズ比5.09、95%信頼区間1.19〜21.81、P=0.028)、手術後の抗不安薬の使用(同8.20、2.67〜25.20、P<0.001)、手術後の健忘(同1.58、1.22〜2.06、P=0.001)も、不良な疼痛経験のリスクを高める要因であることが示された。一方、手術前に鎮痛薬を使わないこと(同0.49、0.25〜0.95、P=0.035)と整形外科の手術(同0.29、0.12〜0.69、P=0.005)は不良な疼痛経験のリスクを低下させる要因であった。 研究グループは、「痛みは強さ以外の側面が見落とされがちだが、手術後の急性疼痛が慢性疼痛へ移行するリスクを予測する上ではそれらが非常に重要だ。したがって、不良な疼痛経験の要因を理解することにより、痛みの強度の管理だけにとどまらない、周術期ケアの新たな選択的ターゲットが明らかになる可能性がある」と述べている。

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超迅速遺伝子検査が脳腫瘍の手術の助けに

 慎重を要する脳腫瘍患者の腫瘍の摘出で、実験段階にある超迅速遺伝子検査が外科医の助けとなることが、米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部神経外科・病理学准教授のDaniel Orringer氏らによる新たな研究で示唆された。この検査では、組織標本中のがん細胞の量を15分以内に測定することができる。これは、患者が手術室にいる間に外科医がフィードバックを得るのに十分な速さだ。また、腫瘍辺縁部の1mm2当たり5個未満という低密度のがん細胞も検出可能であるという。詳細は、「Med」に2月25日掲載された。 Orringer氏らは、「その迅速性と正確性から、脳腫瘍の手術中にリアルタイムでがん細胞を検出できる、この種のものとしては初の実用的なツールになる」と結論付けている。Orringer氏は、「脳腫瘍をはじめとする多くのがんにおいて、がんの手術の成功と再発の予防は、できる限り安全に腫瘍とその周囲のがん細胞を切除することが前提となる」とNYUのニュースリリースの中で述べている。 この検査は、超迅速ドロップレットデジタルPCR(超迅速ddPCR)と呼ばれるものだ。ddPCRは、ターゲットとするDNAやRNAを高精度で定量化する技術であるが、通常、結果を得るまで数時間かかる。 超迅速ddPCRの開発にあたり研究グループは、標準的なddPCR検査を構成する各ステップの効率性を追求した。例えば、腫瘍標本からDNAを抽出するのに必要な時間を30分から5分未満に短縮した。また、検査に使用する化学物質の濃度を上げることで効率性を高め、一部の工程の所用時間を2時間から3分未満に短縮した。さらに、単一の反応容器でPCRに必要な2種類の温度を調整するのではなく、それぞれの温度に合わせて事前に温めた2つの反応容器を使用することで、時間の節約を実現した。このようにして開発された超迅速ddPCRでは、結果を得るまでに要する時間はわずか15分だという。 Orringer氏らは、NYUランゴン校の22人の患者から採取した75点以上の組織標本を用いて超迅速ddPCR検査を実施した。患者は全員が脳腫瘍の一種である神経膠腫の摘出手術を受けていた。検査では、低悪性度神経膠腫やメラノーマで見られることの多い2種類の遺伝子変異(IDH1 R132H、BRAF V600E)のレベルが測定された。その結果、超迅速ddPCR検査の結果は、標準的なddPCR検査による結果と一致することが確認された。 Orringer氏は、「超迅速ddPCRがあれば、外科医はどの細胞ががん化しているか、また特定の組織部位にどの程度の数のがん細胞が存在するかを、これまでにない精度で判定できるようになる可能性がある」と言う。 論文の上席著者であるNYUグロスマン医学部の人類遺伝学・ゲノム学センターのGilad Evrony氏は、「われわれの研究から、超迅速ddPCRが脳腫瘍の手術中に分子診断を行うための迅速かつ効率的なツールとなり得ることが明らかになった。この検査は、脳腫瘍以外のがんにも使用できる可能性がある」とNYUのニュースリリースの中で述べている。 次のステップは、超迅速ddPCRを自動化し、手術室での使用をより迅速かつ簡便にすることであると、研究グループは述べている。また、この検査を他の種類のがんに対応させる計画もあるという。ただし、この検査が広く利用できるようになるまでには、さらに改良を重ね、臨床試験で検討される必要があると、研究グループは注意を促している。

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腹部膨満感への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第96回

腹部膨満感への対応緩和ケア領域では、「お腹が張る」という主訴は「腹部膨満感」として議論されます。腹水が原因となることが多いですが、ほかにも便秘や消化管閉塞など、さまざまな要因が考えられます。腹部膨満感を訴える患者に対して、どのようなアプローチをすると良いのでしょうか?今回の質問終末期の肝臓がん患者の訪問診療を担当しています。先日、「お腹が張って苦しい」と相談を受けました。腹水が溜まり緊満していたので、腹水を抜いたのですが、それでもすっきりしないようです。「少しはラクになった」と言うのですが、ほかにどのようなことができるでしょうか?「腹水を抜いたが、すっきりしない腹部膨満感」。私も同じような症例を経験したことがあります。腹水を抜くと腹部膨満感が和らぐことも多いだけに、「きちんと抜けたのになぁ…」と患者さんと一緒にがっかりしました。こうした場合、腹部膨満感の“原因”に立ち返ることが重要です。冒頭でも述べたとおり、腹部膨満感は腹水だけでなく、消化管閉塞、便秘、腸管ガス貯留といった腸内容物の貯留、腹腔内腫瘍の増大といった多くの原因から生じます。そして、さらに腹水の原因を検討すると、がん患者であればがん性腹膜炎が多いものの、肝不全や腎不全などの併存症からも生じます。腹部膨満感の原因が腹水であれば、腹腔穿刺や利尿剤といった対応で解消されるはずですが、そのほかの原因によるものであれば腹水を抜いただけではラクになりません。すべての原因に対するアプローチを説明すると大変な分量になるので、私が「あまり知られていないけれど、試す価値がある」と考える対応法をいくつか紹介しましょう。1)トリアムシノロンの腹腔内注入トリアムシノロンはステロイドの注射薬です。腹水を抜いた後、腹腔内に注入することで腹腔穿刺の間隔が延長したという報告があります1)。腹部膨満が主に腹水によるもので、頻回に腹腔穿刺を要する患者の際は考慮すると良いでしょう。2)消化管閉塞への対応悪性腫瘍の場合は物理的な閉塞を解除することが難しいですが、消化管の分泌抑制効果を期待してオクトレオチドを使ってみるケースがあります。ブチルスコポラミンといった抗コリン薬での代用も可能です。ただ、必ず効果があるわけではないので、期待する効果が得られなければ中止しましょう。3)腹部の筋緊張への対応腹腔内の腫瘤が増大して刺激している、などの原因による、腹部の筋緊張を伴う腹部膨満感です。難治性になりやすく、対応が難しいのですが、腹部の緊張を取る目的でジアゼパムのようなベンゾジアゼピン系や、腹膜への刺激に対する鎮痛補助薬としてリドカインを用いることを検討します。在宅診療の場合、上記に述べたすべてに対応するのは難しいかもしれません。各施設の体制に合わせ、可能な範囲で検討いただければと思います。いずれにせよ、腹部膨満感の“原因”をしっかり考えることが重要です。今回のTips今回のTips腹部膨満感は原因を考え、原因に応じたアプローチをしましょう。1)Mackey JR, et al. J Pain Symptom Manage. 2000;19:193-199.

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第255回 “撤退戦”が始まっていることに気付かない人々(前編)病院6団体が経営の苦境訴えるも「病床利用率8割」が示す医療マーケット縮小の現実

「コロナ禍が明けても、外来患者数、入院患者数とも以前のレベルまでには戻っていない」と西日本の病院経営者こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、西日本で100床規模の病院を経営している友人(医師)が上京したので、文京区千石にある卵料理屋で一杯飲みながら情報交換をしました。友人によれば、「コロナ禍が明けても、外来患者数・入院患者数とも以前のレベルまでには戻っていない」とのこと。「大病院からの転院患者などでなんとか持ちこたえているが、連携が不得手な病院は厳しいだろう」と話していました。医療機関を訪れたり入院したりする患者数の減少は、単純に人口減少だけが原因とは言えず、医療機関の機能分化を推し進める診療報酬や、在宅医療の普及・定着などさまざまな要因がからまりあって起こっていると考えられます。しかもこの状況、この先改善していくとは考えられず、医療経営はますます難易度が増すと思われます。それでもこの友人、「子供は医者にする」とのたまっていました。彼の子供が病院を継ぐことになるだろう約20年後、まだ病院が生き残っていればいいのですが……。さて、今回は、日本において医療需要の減少が顕著となってきているにもかかわらず、そのことに気付いていない、あるいは気付こうとしない人々について書いてみたいと思います。ただ、その前に、日本病院会など病院関係6団体が2024年度の診療報酬改定後に病院がより深刻な経営難に陥っているとする緊急調査の結果を公表したので、その内容を紹介しておきます。経常利益で赤字の病院は2023年度の50.8%から2024年度は61.2%に拡大、病床利用率は2024年度80.6%とわずかながら上昇傾向日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の病院関係6団体が合同で行った「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」の調査結果が3月10日に公表され、12日には東京で6団体と日本医師会が合同会見を開き、病院経営の窮状を訴えました。調査では、全国1,700余りの病院を対象に去年6月から11月までの経営状況を調べました。それによれば、経常利益で赤字の病院は2023年度の50.8%から2024年度は61.2%に拡大しました。また、補助金などを除いた医業利益をみると69%の病院が赤字で、2023年より4.2ポイント増加していました。全体の経常利益率はマイナス3.3%、赤字病院に限るとマイナス7.4%でした。こうした背景には物価高などによる経費の増加が大きいとの分析結果でした。病院給食などの「委託費」は2023年に比べて4.2%上昇、「給与費」も2.7%増えていました。なお、病床利用率については6ヵ月平均で2023年度が79.6%、2024年度が80.6%とわずかながら上昇傾向にありました。両年度の6~11月の病床利用率はいずれも6~8月に増加し、9~10月に減少、11月にやや増加に転じる傾向でした。しかし、上昇傾向とは言うものの約8割であることに変わりはありません。端的に言えば全国の病院の20%の病床は空いてしまっているわけです。この合同会見で6団体と日本医師会は合同声明を発表、「病院をはじめとする医療機関の経営状況は、現在著しく逼迫しており、賃金上昇と物価高騰、さらには日進月歩する医療の技術革新への対応ができない。このままでは人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、病院をはじめとした医療機関が地域からなくなってしまう」と訴え、2026年度診療報酬改定に向けて「社会保障予算の目安対応の廃止」「診療報酬等について賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」を求めました。患者が来ない、ベッドが埋まらないことが経営悪化の主因とすれば、それは診療報酬上の手当とは別次元の問題賃金上昇と物価高騰に対して診療報酬上の手当を行うことは当然必要でしょう。しかし、患者が来ない、ベッドが埋まらないことが経営悪化の主因とすれば、それは診療報酬上の手当とは別次元の問題となります。病床を減らすか、病院を閉じて診療所化するかといった撤退戦略を立てなければなりません。今年1月30日、一般社団法人医療介護福祉政策研究フォーラム主催の新春座談会「医療提供体制改革の展望―医療機関の機能分化と連携、医師偏在対策を中心に―」が都内で開催されましたが、演者の多くが撤退戦略の必要性を強調していました。中でも、医師で弁護士でもある古川 俊治参議院議員は「人口減少社会と医療の撤退戦略」というそのものズバリのタイトルで講演、「日本の医療は拡充で進めてきたが、撤退戦は初めて。大きな地域差があるが、10年以内に撤退戦略を検討すべき二次医療圏が多い」と話していたのが印象的でした。古川氏よりも早い時期から講演などで「撤退戦」という言葉を用いて危機感を訴えていたのが山形県の地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネットの代表理事である栗谷 義樹氏です。酒田市の地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構日本海総合病院を中心として14の参加法人による地域医療連携推進法人を作り上げた栗谷氏は、日経ヘルスケアの2023年8月号の特集記事「活用広がる地域医療連携推進法人」のインタビューで、「医療需要は2015年をピークに既に縮小していますが、第1次団塊の世代が寿命を迎える2030年辺りを境に急激に縮小し、介護需要もこれに遅れて同様の経過を辿ると予想されます。こうした地域全体の未来図を関係者が共有して、需要減と担い手不足にどう対応するかを考えると、事業の再編・統合は不可欠です。(中略)今後は事業をどう畳んでいくかの“撤退戦”になります。地域にとって最適化された医療・介護資源、仕組みを次の世代に渡すためのツールが連携推進法人だと考えています」と語っています。このインタビューで栗谷氏は、病院単独で撤退戦略を考えるのではなく、地域のほかの医療機関や介護施設、介護事業所とともに撤退戦略を立てることの重要性を説いています。急性期病院だけが生き残っても意味はなく、そこから退院してくる患者を受け入れる慢性期の病院や在宅医療の機能、介護施設なども必要だからです。そうした視点は、これからの地域の基幹病院の経営者には欠かせないものと言えるでしょう。広島県で1,000床規模の大病院計画、建設前から運営資金不足で県が運営法人に65億円貸し付け医療界でこうした“撤退戦”論議が本格化し、実際、撤退に向けた動きも出てきている一方で、そのことに気付かない人々も少なからずいるようです。相変わらず大きな新病院を作ろうとしたり、あるいは病院の再編・統合に反対したり……。たとえば広島県では、県立広島病院(712床)、JR広島病院(275床、2025年度からは二葉の里病院)、中電病院(248床、企業立)の3病院と、広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC、広島県医師会運営)を加えた4施設を統合して新病院を作る計画が進んでいます。計画では、新病院は地上16階、地下1階で1,000床規模。JR広島病院の隣接地に全面新築予定で、総事業費は約1,300~1,400億円を見込んでいるそうです。県は4月に先行して新病院を経営する地方独立行政法人を設立、当初は県立広島病院や安芸津病院などの運営を移し、2030年度から新病院の経営を行うことになっています。しかし、3月1日付の中国新聞などの報道によれば、この地方独立行政法人は2病院の資金を引き継ぐ結果、最初から18億円の赤字になる見込みだそうです。そうした理由から広島県は2025年度の一般会計当初予算案に計65億円の貸付金を計上する計画です。新病院開設前から運営資金が不足する事態に、県議会では「見通し」の甘さを指摘する声が相次いだようです。さらに、1,300~1,400億円と試算していた総事業費も世界的な資材価格高騰に伴って大幅な増額となる可能性もあり、計画の抜本的な見直しが避けられない状況となっています。大風呂敷を広げて、結局頓挫してしまった順天堂大の埼玉新病院計画大風呂敷を広げて、結局頓挫してしまった病院計画ということでは、本連載の「第242回 病院経営者には人ごとでない順天堂大の埼玉新病院建設断念、『コロナ禍前に建て替えをしていない病院はもう建て替え不可能、落ちこぼれていくだけ』と某コンサルタント」で書いた、順天堂大の埼玉新病院建設計画が記憶に新しいところです。このケースは800床の新病院計画でした。順大のWebサイトによれば、2015年時点の総事業費は建設費709.5億円、機器・備品・システム124.3億円で計834億円。それが2024年時点では建設費1640.3億円、機器・備品・システム546.2億円で計2,186億円に膨らんでいました。9年余りで建設費は2.3倍、機器・備品・システムは4.4倍です。ちなみに建設費は昨年2023年11月予想では936.2億円と漸増程度でしたが、その後8ヵ月余で704億円も増加しています。順天堂大の埼玉新病院は800床規模で事業費が当初予定の2.6倍、2,000億円超まで総事業が膨らんでいまい、計画断念に追い込まれたわけです。建設費、機器・備品・システム費の高騰ぶりを考えると、広島県の新病院計画の行く末が案じられます。聞こえがいい超急性期機能の充実ばかりに焦点を絞った計画が相変わらず各地で頻出首長や行政の人間はなぜ財政的に大赤字になることが見えているのに、立派な病院を作りたがるのでしょうか。また、せっかく再編・統合する計画を採用したのに、なぜまた身分不相応と思われる大病院を作ろうとするのでしょうか。高度成長期やまだ人口が増加傾向だった時代ならともかく、今となっては首都圏ですらそんな計画は自殺行為です。今後、10年、20年間に地域の医療・介護マーケットがどう変化していくかは、人口統計などを見れば明らかです。地域においてどんな機能がどれくらい必要か、あるいはどんな施設、機能を残していけばいいのかも、冷静に考えればわかるはずです。にもかかわらず、聞こえがいい(あるいは住民受けが良い)超急性期機能の充実ばかりに焦点を絞った計画が各地で相変わらず頻出しているのは、県・市町村の首長や行政職が日本の医療マーケットの現状や、国が進めてきた施策「地域医療構想」を理解していないためとも言えます。ただ、そうした現実無視だった地方の現場にも少しは変化の兆しが見え始めているようです。(この項続く)

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末梢静脈カテーテルの治療完了前の不成功率は36.4%【論文から学ぶ看護の新常識】第7回

末梢静脈カテーテルの治療完了前の不成功率は36.4%末梢静脈カテーテル(Peripheral Intravenous Catheter[PIVC])の感染および不成功の発生率を調査した研究の結果、感染の発生率は低い一方で、治療完了前の不成功率は36.4%であることが示された。Nicole Marsh氏らによる研究で、International Journal of Nursing Studies誌の2024年3月号に掲載された。末梢静脈カテーテルの感染および不成功:システマティックレビューとメタアナリシス研究グループは、末梢静脈カテーテルに関連する感染および不成功の発生率を調査するため、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。対象となった69の研究には、41の観察研究と28のランダム化比較試験(RCT)が含まれ、47万8,586件のカテーテルが分析対象となった。主要な評価指標は、カテーテル関連血流感染(CABSI)、局所感染、治療完了前の不成功とした。データは2022年12月までに収集され、ランダム効果モデルを用いて統合された。「不成功」の定義は、カテーテル関連血流感染や局所感染が発生した場合を除き、意図した治療が完了する前または交換が指示される前にカテーテルが早期に抜去された場合とした。研究結果は以下の通り。カテーテル関連血流感染の統合割合は0.028%(95%信頼区間[CI]:0.009~0.081)、発生率は10万カテーテル日あたり4.40件(95%CI:3.47~5.58)。局所感染の統合割合は0.150%(95%CI:0.047~0.479)、発生率は10万カテーテル日あたり65.1件(95%CI:49.2~86.2)。治療完了前の全原因による不成功の統合割合は36.4%(95%CI:31.7~41.3)、発生率はカテーテル100日あたり4.42件(78,891カテーテル日、95%CI:4.27~4.57)。主な原因は、静脈炎、閉塞、漏出、脱落などであった。末梢静脈カテーテルの不成功は、世界的に重大な問題であり、カテーテルの3本に1本が治療完了前に適切に使用できなくなっている。末梢静脈カテーテル1本あたりの感染発生率は低いものの、全世界で年間20億本以上のカテーテルが使用されているため、感染の絶対数および関連する負担は依然として大きい。末梢静脈カテーテルの感染および不成功、ならびに治療中断の後遺症、医療費の増加、患者の予後の悪化に対処するためには、大規模かつ組織全体にわたる対策が必要である。この研究は、末梢静脈カテーテルの管理における現場の課題を浮き彫りにし、看護実践における改善の必要性を示唆しています。とくに、カテーテル関連血流感染の発生率は低い一方で、治療完了前の不成功率が36.4%、つまり「3本に1本は治療完了前に適切に使用できなくなっている」という結果から、維持管理や感染予防策の徹底が不可欠であることがわかります。不成功の定義には、静脈炎や閉塞だけでなく、広範な要因が結果に影響していることが示されています。これらの要因に対応するためには、挿入技術や維持管理のスキル向上に加え、“知識“つまり、定期的な教育プログラムの実施が必要です。みなさんの病院に末梢カテーテル管理のプロトコールやバンドルは導入されているでしょうか?中心静脈カテーテルやその他のドレーンなどに比べて、末梢静脈カテーテルは看護師が挿入できることからも、管理に関しては軽視されがちですが、現場での標準化されたケアの実践により、感染や不成功のリスクをさらに低減できると考えられます。この研究では、対策として(1)挿入および維持管理手技の教育、(2)患者の評価と最適なデバイス選択によって頻回な交換を防ぎ血管の健康を維持すること、(3)臨床判断ツールを活用し使用していないカテーテルを早期に抜去することをあげています。研究結果を受けて、今後世界的に末梢静脈カテーテル管理のためのプロトコールの検討、導入が進んでいきそうです。今すぐ職場にプロトコールを導入することは難しいかもしれませんが、まずは使用していないカテーテルの早期抜去から取り組んでみてはいかがでしょうか。論文はこちらMarsh N, et al. Int J Nurs Stud. 2024;151:104673.

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非がん性慢性疼痛へのオピオイド、副作用対策と適切な使用のポイント~ガイドライン改訂

 慢性疼痛はQOLを大きく左右する重要な問題であり、オピオイド鎮痛薬はその改善に重要な役割を果たす。一方、不適切な使用により乱用や依存、副作用が生じる可能性があるため、適切な使用が求められている。そこで、2024年5月に改訂された『非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第3版』1)の作成ワーキンググループ長を務める井関 雅子氏(順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 教授)に、本ガイドラインのポイントを中心として、オピオイド鎮痛薬の副作用対策と適切な使用法について話を聞いた。新規薬剤が追加、特殊な状況での処方や副作用対策などが充実 2017年に改訂された前版の発刊以降に、非がん性慢性疼痛に対して新たに使用可能となった薬剤・剤形が複数登場したことなどから、時代に即したガイドラインの作成を目的として『非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第3版』が作成された。井関氏は、今回の改訂のポイントとして以下を挙げた。1.新しい薬剤・剤形の追加 前版の発刊以降に慢性疼痛に使用可能となった薬剤として、トラマドール速放部付徐放錠(商品名:ツートラム)、オキシコドン徐放錠※(商品名:オキシコンチンTR錠)が追加され、オピオイド誘発性便秘症に対して使用可能となった薬剤として、ナルデメジン(商品名:スインプロイク)が追加された。 ※:非がん性慢性疼痛に適応を有するのはTR錠のみ2.特殊な状況でのオピオイド鎮痛薬処方の章の追加 妊娠中の患者、高齢患者、腎機能障害患者、肝機能障害患者、睡眠時無呼吸症候群患者、労働災害患者、AYA世代患者へのオピオイド鎮痛薬処方に関するクリニカルクエスチョン(CQ)を新設した(CQ9-1~9-7)。3.構成の変更 オピオイド鎮痛薬は慢性疼痛の管理に幅広く使われることから、オピオイド鎮痛薬への理解を深めてから使用してほしいという願いをこめ、第1章に「オピオイドとは」、第2章に「オピオイド鎮痛薬各論」を配置し、内容を充実させた。なお、オピオイド鎮痛薬の強さは「弱オピオイド(トラマドール、ブプレノルフィン、ペンタゾシン、コデイン)」「強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)」に分類し(CQ1-4、p32表6)、使い方や考え方の違い、副作用についてまとめた。4.オピオイド誘発性便秘症への末梢性μオピオイド受容体拮抗薬の追加 オピオイド誘発性便秘症に対し、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンが使用可能となったことから、CQを追加した(CQ5-5)。便秘の管理が重要、ナルデメジンの使用を強く推奨 オピオイド鎮痛薬による治療中には、悪心・嘔吐、便秘、眠気などの副作用が高頻度に出現する。ただし、井関氏は「悪心・嘔吐はオピオイド鎮痛薬の使用開始・増量から2週間以内に発現することが多いため、制吐薬などを使用することで管理可能である」と述べる。本ガイドラインでも、耐性が形成されるため1~2週間で改善することが多いこと、オピオイド鎮痛薬による治療開始時や増量時には制吐薬を予防的に投与することを検討してよいことが記載されている。 一方で、「便秘についてはオピオイド鎮痛薬による治療期間を通してみられるため、管理が重要である」と井関氏は話す。オピオイド誘発性便秘症については、新たに末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンが使用可能となっている。そこで、本ガイドラインではCQが設定され、一般緩下薬で改善しないオピオイド誘発性便秘症に対して、ナルデメジンの使用を強く推奨している(CQ5-5)。ナルデメジンを使用するタイミングについて、井関氏は高齢者ではオピオイド鎮痛薬の使用前から、酸化マグネシウムなどの一般緩下薬を使用している場合も多いことに触れ、「まずは酸化マグネシウムなどの一般緩下薬を少量使用し、効果が不十分であれば、増量するよりもナルデメジンの併用を検討するのがよいのではないか」と考えを述べた。突然増強する痛みにオピオイド鎮痛薬は非推奨 非がん性慢性疼痛を有する患者において、突然増強する痛み(がん性疼痛でみられる突出痛とは管理が異なることから区別される)が生じることも少なくない。この突然増強する痛みに対して、本ガイドラインでは「安易にオピオイド鎮痛薬を使用すべきではない。オピオイド鎮痛薬による治療中にレスキューとしてオピオイド鎮痛薬を使用することは、使用総量の増加や乱用につながる可能性が高く、推奨されない」としている。これについて、井関氏は「オピオイド鎮痛薬に限らず、突然増強する痛みに対して即時(数分以内など)に効果がみられる薬剤は存在しないため、痛みの期間と薬効のタイムラグが発生してしまう。なかなか薬で太刀打ちできるものではないため、患部を温める、さすってみるなど、非薬物療法を考慮してほしい」と述べた。また、井関氏は「突然増強する痛みに対して、慢性疼痛に適応のない短時間作用性のオピオイド鎮痛薬をすることは、治療効果が出ないだけでなく、依存や副作用が生じるため避けなければいけない」と指摘した。 井関氏は、オピオイド鎮痛薬の適切な使用に向けて、がん患者のがん性疼痛と非がん性慢性疼痛をしっかり区別することが重要であると話す。がん患者の場合、がん性疼痛以外にも術後の痛み、化学療法後の痛み、放射線治療後の痛みなどさまざまな非がん性慢性疼痛が存在するが、これらを区別せずに強オピオイド鎮痛薬が使用されることが散見されるという。これについて、井関氏は「非がん性慢性疼痛に適応のない強オピオイドの速放性製剤を用いると、血中濃度の変動も大きく、依存になりやすいため非常に危険である」と指摘した。また、がん患者に限らず、たとえば帯状疱疹による痛みに対して「痛いと言われるたびにどんどん増量してしまうのも不適切使用である」とも語った。井関氏は、適切な使用のために「オピオイド鎮痛薬の特性と慢性疼痛という病態をしっかり理解したうえで、オピオイド鎮痛薬を使ってほしい」と述べた。適切な使用のために心がけるべき4つのポイント 最後に、オピオイド鎮痛薬の適切な使用に向けて心がけるべきポイントを聞いたところ、井関氏は以下の4点を挙げた。1.長期投与・高用量を避ける 投与期間は6ヵ月までとし、強オピオイドの場合は標準的にはモルヒネ換算で60mgまで、最大でも90mgまでとする。疼痛が改善して減薬する場合には、短いスパンで観察することなどにより退薬症状を出さないようにする。2.不適切使用を避ける たとえば、がん患者の非がん性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、これまでがんに直接起因する痛みへの処方の経験があったとしても、非がん性慢性疼痛に処方するための正規のステップを踏んで、企業のeラーニングを受講して慢性疼痛の知識を持ち、処方資格を得るべきである。がん患者であっても、非がん性慢性疼痛に適応のない速放性製剤を非がん性慢性疼痛に用いることは、依存を招くため許容されない。3.若年患者への処方は慎重に判断する 若年患者では依存症のリスクが高いため、できるだけオピオイド鎮痛薬以外の治療法を検討する。4.QOLを低下させない 眠気が強いようであれば減量する、便秘の対策をしっかりと行うなど、QOLを下げない工夫をする。

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患者のAI信頼度は約半数、救急の重症度判断における注意点/日本救急医学会

 日本救急医学会の救急医療における先端テクノロジー活用特別委員会は、大規模言語モデル(LLM)が回答した救急外来受診の要否判断の正確性、回答内容に対する利用者(非医療者の一般人)の理解度について検証を行った。その結果、医学知識を持つ専門家側はLLMが救急外来受診の判断を高精度でアドバイスしていると評価した一方で、一般人側は同じ回答を見ても専門家と異なる解釈をする傾向があることが明らかになった。これにより、AIが生成する医療アドバイスに関する理解や解釈において、専門家と一般人の間に大きな隔たりがあることが示唆された。Acute Medicine & Surgery誌2025年3月12日号掲載の報告。 本研究では、LLMとしてGPT-3.5を使用し、『緊急度判定プロトコルver.3 救急受診ガイド(家庭自己判断)』1)に基づき、計466件のシナリオ(緊急度が高いもの:314件、緊急度が低いもの:152件)について、救急受診の必要性に関する推奨を生成。その回答を、救急科専門医を含む7人の医療者が医学的観点から評価したうえで、一般人157人がどのように受け取るかをアンケート方式で検証した。 主な結果は以下のとおり。・専門家の評価では、LLMの回答は緊急度の高いケースの96.5%において「救急受診が必要」と適切に判断されていた。・軽症例についても、LLMの回答は88.8%のケースで「救急受診は不要」と適切に判断されていたと専門家は評価した。・一般人の評価では、同じLLMの回答を見ても、緊急度の高いケースについて「救急受診が必要」と解釈したのは43.0%のみで、軽症例についても「救急受診は不要」と解釈したのは32.2%だった。 ・緊急受診時のLLMの回答に対する一般人の態度について、53.5%が出力結果を信頼して従ったが、27.4%は信頼したものの推奨事項には従わず、5.7%は出力結果を信頼しなかったものの推奨事項に従った。・一般人の36.9%がLLMの提案に安心したのに対し、12.7%は相談後に不安が増したと報告した。 研究者らは、「本結果より、LLMの回答に対し、専門家は救急外来受診の必要性を高精度で正しく判定していると判断した。一方で、一般人にはその意図を正しく解釈できないケースが多く見られたり、生成AIの推奨事項に対して相反する感情を抱いている可能性が示唆された。スマートAIは信頼できる仲間として機能することもあるが、ユーザーの期待に応えられないこともあることから、AIが提供する情報を活用する際には、医療者によるサポートや平易な言葉への置き換えなど、誤解を防ぐ工夫が求められる。とくに緊急の判断を要する場面では、AIのみに頼るのではなく専門家との連携や追加確認が重要」とし、「本研究はGPT-3.5のモデルを使用した研究であり、最新モデルでは異なる結果となる可能性がある」としている。

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慢性不眠症に対する睡眠薬の切り替え/中止に関する臨床実践ガイドライン

 現在のガイドラインでは、慢性不眠症の第1選択治療として、不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が推奨されている。欧州ガイドラインにおける薬理学的治療の推奨事項には、短時間または中間作用型のベンゾジアゼピン系睡眠薬・Z薬(エスゾピクロン、zaleplon、ゾルピデム、ゾピクロン)、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA:ダリドレキサント)、メラトニン受容体拮抗薬(徐放性メラトニン2mg)などの薬剤が含まれている。不眠症は慢性的な疾患であり、一部の治療に反応しない患者も少なくないため、さまざまな治療アプローチや治療薬の切り替えが必要とされる。しかし、現在の欧州では、これらの治療薬切り替えを安全かつ効果的に実践するためのプロトコールに関して、明確な指標が示されているわけではない。イタリア・ピサ大学のLaura Palagini氏らは、このギャップを埋めるために、不眠症に使用される薬剤を切り替える手順と妥当性を評価し、実臨床現場で使用可能な不眠症治療薬の減量アルゴリズムを提案した。Sleep Medicine誌2025年4月号の報告。 不眠症治療薬の切り替え手順の評価には、RAND/UCLA適切性評価法を用いた。PRISMAガイドラインに従い実施された文献をシステマティックにレビューし、いくつかの推奨事項を作成した。 主な結果と結論は以下のとおり。・選択された文献は21件。・ベンゾジアゼピン系睡眠薬およびZ薬の中止は、段階的に行う必要があり、1週間当たり10〜25%ずつ減少すること。・マルチコンポーネントCBT-I、DORA、エスゾピクロン、メラトニン受容体拮抗薬は、必要に応じて減量期間を延長可能なクロステーパプログラムにより、ベンゾジアゼピン系睡眠薬およびZ薬の中止を促進することが示唆された。・DORA、メラトニン受容体拮抗薬は、特別な切り替えや処方中止のプロトコールは不要であった。

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鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、depemokimabの年2回追加投与が有効/Lancet

 depemokimabは、インターロイキン(IL)-5を標的とするモノクローナル抗体であり、IL-5への高度な結合親和性と高い効力を有し、半減期の長い初の超長時間作用型の生物学的製剤で、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)患者において2型炎症の持続的な抑制と年2回の投与が可能であることが確かめられている。ベルギー・Ghent UniversityのPhilippe Gevaert氏らANCHOR-1 and ANCHOR-2 trial investigatorsは「ANCHOR-1試験」および「ANCHOR-2試験」において、depemokimabの年2回投与はCRSwNP患者における標準治療への追加薬として、プラセボと比較し内視鏡的鼻茸総スコアと鼻閉スコアの変化量を有意に改善し忍容性も良好であることを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年3月15日号に掲載された。16ヵ国の無作為化プラセボ対照反復第III相試験 ANCHOR-1試験とANCHOR-2試験は、CRSwNPの治療におけるdepemokimab追加の有益性の評価を目的とする同一デザインの二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較反復第III相試験であり、2022年4月~2023年8月に日本を含む16ヵ国190施設で患者を登録した(GSKの助成を受けた)。 年齢18歳以上、コントロール不良のCRSwNP(両側鼻腔の内視鏡的鼻茸スコア[片側鼻腔当たり0点:鼻茸なし~4点:鼻茸により完全閉塞、両側で合計8点]が5点以上[片側2点以上])で、重篤な症状がみられ、CRSwNPに対する手術歴または全身性コルチコステロイド治療・不耐の少なくとも1つを有する患者を対象とした。 これらの患者を、26週ごとにdepemokimab(100mg)またはプラセボを皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 複合主要エンドポイントは、最大の解析対象集団(FAS)における内視鏡的鼻茸総スコアのベースラインから52週時までの変化量と、鼻閉スコア(言語式評価スケール[0~3点、リッカート尺度])のベースラインから49~52週の平均値までの変化量とした。個々の試験、統合解析とも良好な結果 ANCHOR-1試験とANCHOR-2試験に合計540例を登録し、528例がFASとなった。depemokimab群272例(平均年齢[SD]52.4[13.27]歳、男性69%)、プラセボ群256例(51.6[13.27]歳、70%)。depemokimab群はANCHOR-1試験143例、ANCHOR-2試験129例、プラセボ群はそれぞれ128例および128例であった。 複合主要エンドポイントのベースラインからの変化量は、以下のとおり、プラセボ群に比べdepemokimab群で統計学的に有意な改善を示した。 内視鏡的鼻茸総スコアの群間差は、ANCHOR-1試験で-0.7(95%信頼区間[CI]:-1.1~-0.3、p<0.001)、ANCHOR-2試験で-0.6(-1.0~-0.2、p=0.004)、2つの試験の統合解析で-0.7(-0.9~-0.4、名目上のp<0.001)であった。また、言語式評価スケールによる鼻閉スコアの群間差は、ANCHOR-1試験で-0.23(-0.46~0.00、p=0.047)、ANCHOR-2試験で-0.25(-0.46~-0.03、p=0.025)、2つの試験の統合解析で-0.24(-0.39~-0.08、名目上のp=0.003)であった。有害事象、重篤な有害事象の頻度は同程度 投与期間中および投与後の有害事象の頻度は、depemokimab群(ANCHOR-1試験74%[106例]、ANCHOR-2試験76%[98例])とプラセボ群(79%[101例]、80%[102例])で同程度であった。また、重篤な有害事象の頻度も、depemokimab群(3%[5例]、5%[6例])とプラセボ群(5%[6例]、8%[10例])で類似していた。死亡例は、2つの試験とも両群で報告はなかった。 52週の投与期間中に、ANCHOR-1試験とANCHOR-2試験のdepemokimab群で、それぞれ7%(10例)および9%(11例)に抗薬物抗体の発現を認めた。プラセボ群の1例が、中和抗体陽性であった。 著者は、「これらの知見は、depemokimabがCRSwNP患者にとって有益な治療選択肢であることを支持するものである」「年2回の投与により、投与スケジュールが簡素化されるため、アドヒアランスが改善し治療負担が軽減する可能性がある」としている。

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頻回の献血によるクローン性造血への影響は?/Blood

 頻回の献血が健康や造血幹細胞に及ぼす影響についてはほとんど解明されていない。今回、ドイツ赤十字献血センターのDarja Karpova氏らが100回超の献血者と10回未満の献血者を調べた結果、前がん病変であるクローン性造血の発生率には差はなかったが、DNMT3Aに明らかに異なる変異パターンがみられることがわかった。Blood誌オンライン版2025年3月11日号に掲載。 本研究では、100回超の献血歴を有する高齢男性の頻回献血者217人と10回未満の散発的献血者212人のデータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・頻回献血者は散発的献血者と比較して、クローン性造血の全発生率に有意差は認められなかった。・クローン性造血で最も影響を受ける遺伝子であるDNMT3Aの変異を詳細に分析したところ、頻回献血者のコホートと年齢・性別をマッチさせた対照ドナーのコホートとの間に明らかに異なる変異パターンがみられた。・CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)で編集したヒト造血幹細胞を用いて調べた頻回献血者に濃縮されたDNMT3A変異体の機能解析では、エリスロポエチン(失血に反応して増加する)で刺激すると競合的に伸長する可能性が示された。対照的に、白血病を誘発するDNMT3A R882変異を持つクローンはインターフェロンγ曝露により増加した。・プライマリーサンプルの変異と免疫表現型の同時プロファイリングを単一細胞レベルで行った結果、がんになる可能性の高いR882変異を持つ造血幹細胞では骨髄バイアスが見られたが、エリスロポエチンに反応するDNMT3A変異を持つ造血幹細胞では有意な系統バイアスは観察されなかった。後者は、CRISPRで編集したヒト造血幹細胞異種移植片に持続的な赤血球産生ストレスを加えると、選択的赤血球分化を示した。 われわれのデータは、体性幹細胞レベルで微妙に進行するダーウィンの進化を示しており、エリスロポエチンが特定のDNMT3A変異を持つ造血幹細胞に有利な新たな環境因子であることが特定された。

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進行乳がんでのT-DXdの効果と関連するゲノム異常/日本臨床腫瘍学会

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の効果に関連するゲノム異常の影響については十分に解明されていない。今回、進行乳がん患者の組織検体における包括的ゲノムプロファイリング(CGP)検査データの後ろ向き解析により、CDK4およびCDK12異常がT-DXdへの1次耐性に寄与する可能性が示唆された。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)にて、国立がん研究センター中央病院の山中 太郎氏が発表した。 本研究では、2019年6月~2024年8月に組織検体のCGP検査を受け、国立がん研究センター・がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録された進行乳がん患者のデータを後ろ向きに解析した。CGP検査には、NCCオンコパネルシステム、FoundationOne CDx、GenMineTOPが含まれる。T-DXd投与前の検体を用いてCGP検査を受けた患者を対象とし、actionableな遺伝子異常はpathogenic/oncogenicバリアントまたはlikely pathogenic/likely oncogenicバリアントに分類された場合にカウントした。 主な結果は以下のとおり。・進行乳がん5,229例のうち、最終的に437例が抽出された。年齢中央値は54歳、HER2は陽性が35.7%、陰性が56.3%、不明が8.7%、エストロゲン受容体は、陽性が62.7%、陰性が32.5%、不明が4.8%であった。最も多かったCGP検査はFoundationOne CDxで89.7%であった。・actionableな遺伝子異常の頻度が高かったのは、HER2陽性ではTP53異常(71.4%)、ERBB2増幅(70.1%)、PIK3CA異常(50.0%)、MYC異常(28.6%)、HER2陰性ではTP53異常(53.9%)、PIK3CA異常(36.3%)、MYC異常(20.4%)、FGFR1異常(18.8%)、GATA3異常(18.8%)であった。・無増悪生存期間(PFS)は、ERBB2増幅例で非増幅例より有意に長く(p<0.001)、HER2陽性例では陰性例より有意に長かった(p<0.001)。・多変量解析の結果、HER2の状態はPFSの延長と有意に関連(ハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.22~0.50、p<0.001)し、CDK4異常(HR:2.18、95%CI:1.06~4.51、p=0.035)およびCDK12異常(HR:2.28、95%CI:1.08~4.79、p=0.030)はPFSの短縮と関連していた。 山中氏は、「本研究の結果を裏付け、新たな戦略的アプローチを開発するためにさらなる研究が必要」としている。

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“オゼンピック・フェイス”が美容外科のトレンドに

 米国顔面形成外科学会(AAFPRS)が行った調査により、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)による肥満治療後の顔のたるみを引き締める手術が、急速に増加していることが明らかになった。この調査の結果は、AAFPRSのサイトに2月4日公開された。 GLP-1RAは、当初は2型糖尿病患者対象の血糖降下薬としてのみ使用されていたが、近年は減量目的での処方が広がっている。GLP-1RAによる減量に伴い、顔の皮膚がたるんでくることがある。このような特徴が現れた顔は、肥満目的で処方されることの多いGLP-1RAであるセマグルチドの商品名がオゼンピックであることから、“オゼンピック・フェイス”と呼ばれる(なお、肥満治療の適応を有するセマグルチドの商品名はウゴービであり、オゼンピックは血糖降下薬としてのみ認可されているが、実際には医師の裁量でオゼンピックが肥満治療に使われるケースも多い)。 AAFPRSは、同学会会員を対象に毎年、顔面形成術に関する調査を実施している。今回公表された2024年の調査結果では、鼻形成術(鼻整形)、フェイスリフト、アイリフトが依然として人気の高い手術リストのトップを占めていた。しかし、オゼンピック・フェイスに対する外科的処置の急増という変化も認められた。 この傾向について同学会会長のPatrick Byrne氏は、「GLP-1RAは速やかな減量効果を発揮するが、脂肪の減少によって皮膚のたるみなどの問題を引き起こすことが多い。その結果、顔面形成術を希望する患者が増えている」と解説している。具体的には、GLP-1RAによる減量に伴うものと推測される顔面脂肪移植術の件数が、2024年の1年間で50%増加していた可能性があるという。 同学会会員の10人に1人の医師が、患者に対して減量薬を処方しているという実態も明らかになった。また、会員医師の多くが、今後もオゼンピックやその同効薬が減量目的で使われるケースが増加し、それに伴い、顔面注入充填剤などを用いた非外科的な処置の人気も高まると予想している。 一方、伝統的な手術も人気が衰えていない。鼻整形を受ける患者数は依然として最多であり、フェイスリフトを受ける患者は若年化している。ただし、複雑で侵襲の大きい外科手術を受ける患者はそれほど多くはなく、ボツリヌス毒素などの注射や充填剤による治療法の方がはるかに人気であり、会員の9割以上がこうした治療を定期的に行っていると回答していた。 このほかに今回の調査では、会員の大半(92%)が、鼻整形、フェイスリフト、アイリフト、ボトックス注射、その他の治療を求める患者の中に、男性が少なくないことを指摘した。特に植毛手術に関しては、男性患者が女性患者を凌駕していることが分かった。 同学会のCEO兼副会長であるSteven Jurich氏は、「調査結果として示されたトレンドの多くは、ソーシャルメディア(SNS)を通じて生じた変化ではないか」と話している。同氏は、「SNSなどには詐欺や誤った情報も少なくないため、治療を受けることに同意する前に、術者の資格やどのようなトレーニングを受けた医師かを確認すべき」とアドバイスしている。

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強度を徐々に上げる歩行運動は脳卒中後の患者の転帰を向上させる

 脳卒中後の標準的なリハビリテーションに1日30分の強度を徐々に上げる歩行運動(以下、漸増負荷歩行運動)を加えることで、退院時の患者の生活の質(QOL)と運動能力が著しく改善したとする研究結果が報告された。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)理学療法学教授のJanice Eng氏らによるこの研究は、米国脳卒中学会(ASA)の国際脳卒中会議(ISC 2025、2月5〜7日、米ロサンゼルス)で発表された。Eng氏は、「ガイドラインでは、脳卒中後には体系的なリハビリテーション(以下、リハビリ)や運動療法を段階的に進めることを推奨しているものの、十分な強度を持つこうしたアプローチがリハビリプログラムに広く採用されているとは言えない」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースで述べている。 この研究は、カナダの12カ所の病院でリハビリ中の脳卒中患者306人を対象に実施された。試験参加者は、平均で1カ月前に脳梗塞または出血性脳卒中を発症し、リハビリのために入院しており、その時点で標準的な6分間歩行テストで歩くことができた距離は平均152mであった。 参加者は、標準的な理学療法を受ける群(162人)と新しいプロトコルに基づく理学療法を受ける群(144人)にランダムに割り付けられた。新しいプロトコルは、週5日、最低30分の理学療法セッションにおいて、中強度の運動強度を維持しながら2,000歩を歩くことを目標とするもので、強度は、参加者の最初の状態に基づき段階的に上げられた。参加者には心拍数と歩数を測定できる腕時計型の活動量計(ウェアラブルデバイス)を装着させ、それにより運動強度を評価した。運動能力、認知機能、QOLは、研究開始時と退院時(約4週間後)に評価された。 その結果、新しいプロトコルに基づく理学療法を受けた参加者では、標準的な理学療法を受けた参加者に比べて、退院時の6分間歩行テストで歩くことのできた距離が平均43.6m長いことが明らかになった。また、新しいプロトコルに基づく理学療法を受けた参加者では、QOL、バランス能力、可動性、歩行速度についても有意な向上を示した。 Eng氏は、「体系的な漸増負荷歩行運動は、ウェアラブルデバイスの助けを借りることで安全な強度を維持しやすくなる。安全な強度の維持は脳の治癒力と適応力である神経可塑性にとって極めて重要な要素だ」と話す。同氏は、「脳卒中後の数カ月は、脳の変化を最も期待できる時期だ。本研究結果は、この初期のリハビリ段階において、好ましい結果を示すことができた」と話している。 Eng氏はまた、この研究は、脳卒中患者のリハビリにおける歩行運動の利点を示しただけでなく、脳卒中治療ユニットが、新しい運動を既存のプログラムに簡単に組み込めることも示していると指摘する。同氏は、「われわれの研究は、実臨床の非常に成功した実験と言える」と語っている。 一方、この研究をレビューした米ジョンズ・ホプキンス大学理学療法・リハビリテーション科准教授のPreeti Raghavan氏は、「この研究は、脳卒中後の脳の可塑性が最も高い重要な時期に、入院リハビリ病棟で、新たなプロトコルを既存のプログラムに組み込むことが可能なことを示している」と述べ、「このプロトコルにより、患者の持久力が高まり、脳卒中後の障害が軽減された。これは脳卒中後の回復にとって非常に前向きなデータだ」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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小児・青年期の肥満の有病率は上昇傾向で今後も増加が予想される。対策が急務だが、経済発展の背景にある格差拡大が問題ではないか(解説:名郷直樹氏)

 180ヵ国の5~24歳の小児・青年期の男女を対象として、1990年から2021年にかけての過体重、肥満の有病率データから、2022年から2050年にわたる過体重、肥満の有病率を予想した論文である。 いずれの年代、いずれの地域においても、1990年から2021年までの過体重、肥満の有病率が上昇している。南北アメリカ、ヨーロッパで有病率が高く、アジア、アフリカでは有病率は前者ほど高くはないが、高い増加率が認められる。 実際の数字を見てみると、全体の集計の青年期では1990年の過体重が8.0%、肥満が1.9%、2021年にそれぞれ13.7%、6.6%へと増加。小児期でも過体重が6.7%から11.2%、肥満が2.0%から6.9%に増加している。日本が含まれる東南アジア、東アジア、オセアニアでは、青年期の過体重が5.2%から11.6%、肥満が0.8%から4.7%に増加、小児期では過体重が4.6%から9.7%、肥満が1.2%から5.9%にそれぞれ増加している。絶対値で見ればアジアの肥満の有病率は西欧より低いものの、30年間の増加率でみると西欧を上回り、青年期の肥満が470%、小児期では404%の増加である。 小児・青年期の肥満は将来の心血管疾患、肝疾患、腎疾患などのリスクであり、いったん肥満になると改善が困難なこともあり、その予防が重要である。しかし、この論文でも示されているように、高収入の集団で最も肥満の有病率が高く、肥満は経済発展の印でもある。ただ、これは高収入ほど肥満が多いというよりは、高収入の社会で格差が大きいことが問題なのかもしれない。経済の発展に伴う格差の拡大により、高収入集団の低所得者が栄養の偏りから肥満を来す面がある。格差の是正が肥満対策に対して重要なポイントだろう。 また日本の現状を考えたとき、この格差是正は喫緊の問題だろう。貧困率の上昇や少子化対策にも重なる。さらに日本での問題を考えた場合、肥満だけでなく、やせの問題もある。肥満は健康上の問題としてだけでなく、見た目の問題もある。とくに見た目を重視し過ぎる極端なやせはもっと問題にされてもいいのではないか。健康の面で見れば、BMI 18未満は30以上に匹敵する不健康な状態だ。体重減少をもたらすGLP-1作動薬が肥満でもないやせを希望する人に対して大量に使われることで、糖尿病患者に薬が届かないという異常な状態が出現している。日本においては肥満だけでなく、やせの有病率と健康との関連を調べるのも重要ではないだろうか。

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AIで論文執筆、そこに愛はあるんか!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第82回

AI活用で英語論文投稿に挑戦英語は、世界中で最も普及している言語です。日本語で論文を執筆しても、それを読むのは日本語を理解できる限られた人だけです。世界言語ともいえる英語で論文を書くことにより、爆発的に多くの人に向けて情報を発信することができます。英語で学術論文を執筆することは、若手の医師にとって大きな挑戦です。母国語ではない言語で正確かつ明瞭な文章を書くことは、多くの時間と労力を要します。これに比べ、英語を母国語とする者は、自らの思考をそのままの言語で表現すればよいので、圧倒的に有利な立場にあります。英語圏の人に「君たち、日本語で学術論文を書いてみなさい」と言ったら、その難しさのあまり投げ出して挫折することは間違いないでしょう。このような言語の壁を乗り越えるために、AI(人工知能)の活用が注目されています。とくにAI翻訳ツールの進化は著しいものがあります。近年DeepLやChatGPTのような高度な翻訳技術が登場していることはご存じと思います。これにより、英語に不慣れな者でも、より容易に国際学術誌への投稿に挑戦できる環境が整ってきました。上手く活用すれば、若手医師とその指導医の負担を大幅に軽減してくれます。しかしながら、AIを用いた翻訳には慎重な対応も求められます。多くの学術雑誌では、AIの使用に関するガイドラインを設け始めています。論文投稿についての規定を記した「Instructions for Authors」にも、AIを用いた執筆や翻訳の許容範囲の記載が増えています。AI翻訳のみに頼った執筆は、正確性に問題が生じる可能性があり、倫理的な問題を引き起こすリスクもあります。意図せず他論文と酷似した表現になっている可能性もあります。AIを適切に活用しながらも、指導医を含めた人間によるチェックを怠らないことが重要です。AI翻訳の後に、さらにネイティブスピーカーや専門の校閲者による確認を受けることも、質の高い英語論文に仕上げるために有効です。単純にAIを敵対視するのではなく、このようなプロセスを確立することで、日本人が国際的な学術界でより活躍しやすい環境を整えることが大切と考えます。「そこに愛(AI)はあるんか!」「そこに愛はあるんか!」とは、TVのコマーシャルでよく耳にするフレーズです。この愛とAIが同じ韻を踏む掛詞(かけことば)であることに妙があります。これが活用されている場面を紹介しましょう。それは結婚披露宴です。司会者が、新郎新婦の馴れ初めを紹介する場面で、『2人はアイの導きにより出会い』と紹介するのは、愛もあるでしょうがAIを活用したマッチングアプリを通じて結ばれた2人です。マッチングアプリは、出会いの機会を提供するサービスとしてすっかり一般的になっています。ある生命保険会社が2023年に行った調査では、同年に結婚した夫婦のうち、4組に1組がマッチングアプリで出会ったという結果もあります。以前は、アプリを通じて結婚した場合には、「共通の友人を通じて」などと紹介される事例が多かったそうです。私が司会者ならば、「広遠なデジタル空間で運命的な邂逅を果たした」と紹介したいところですが、時代とともにマッチングアプリに対する認識が変化し、アプリ婚を隠す必要など感じないそうです。マッチングアプリを使う中で思わぬトラブルに遭う場合もあります。マッチングアプリで出会った女性に誘われたバーで高額な請求をされたなどの、犯罪まがいの出来事に巻き込まれた話もあるようです。しかし、現状すでにマッチングアプリは若者に普及し、多くの出会いをサポートしているのです。今後も利用者が増えていくことが予想されるマッチングアプリと、その導きによるアイの成就です。AI翻訳ツールにしてもマッチングアプリにしても、新規導入のシステムの普及の過程では、是正されるべき問題点があぶりだされるのが常です。これを克服して進化していくのでしょう。指導医にとって、若手医師へのアイの成就は、英語論文が無事に採択され掲載されることです。若手医師にとって、英語での学術論文執筆は依然として高いハードルでしょうが、人工知能としてのAIという強力なツールを適切に活用することで、その壁を乗り越えてもらいたいです。日本人の若手医師や研究者がより自由に、そして正確に自身の研究成果を世界に発信できる時代が来ることを期待しています。

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