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帯状疱疹ワクチンは心臓病、認知症、死亡リスクの低減にも有効

 帯状疱疹ワクチンは中年や高齢者を厄介な発疹から守るだけではないようだ。新たな研究で、このワクチンは心臓病、認知症、死亡のリスクも低下させる可能性が示された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の内科医であるAli Dehghani氏らによるこの研究結果は、米国感染症学会年次総会(IDWeek 2025、10月19〜22日、米アトランタ)で発表された。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国では3人に1人が帯状疱疹に罹患することから、現在、50歳以上の成人には帯状疱疹ワクチンの2回接種が推奨されている。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の既往歴がある人に発症するが、CDCは、ワクチン接種に当たり水痘罹患歴を確認する必要はないとしている。1980年以前に生まれた米国人の99%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているからだ。 水痘・帯状疱疹ウイルスは、数十年間にわたって人の免疫システム内に潜伏し、その後、再び活性化して帯状疱疹と呼ばれる痛みやチクチク感、痒みを伴う発疹を引き起こす。水痘への罹患経験がある人なら年齢を問わず帯状疱疹を発症する可能性があるが、通常は、ストレスにさらされ、免疫力が低下している50歳以上の人に多く発症する。 Dehghani氏らは、米国の107の医療システムから収集した17万4,000人以上の成人の健康記録を分析し、帯状疱疹ワクチン接種者の健康アウトカムをワクチン非接種者のアウトカムと比較した。ワクチン接種者は接種後3カ月〜7年間追跡された。 その結果、帯状疱疹ワクチンの接種により、以下の効果が得られる可能性が示された。・血流障害による認知症のリスクが50%低下・血栓のリスクが27%低下・心筋梗塞や脳卒中のリスクが25%低下・死亡リスクが21%低下 Dehghani氏は、「帯状疱疹は単なる発疹ではない。心臓や脳に深刻な問題を引き起こすリスクを高める可能性がある。われわれの研究結果は、帯状疱疹ワクチンが、特に心筋梗塞や脳卒中のリスクがすでに高い人において、それらのリスクを低下させる可能性があることを示している」とニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究でも、帯状疱疹への罹患が心臓や脳の合併症を引き起こす可能性のあることが指摘されているという。専門家は、この新たな知見は、帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹そのものだけでなく、それらの合併症の予防にも役立つ可能性があることを示唆しているとの見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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友人に対する支援は高齢者のポジティブな気分を高める

 高齢者にとって、友情は最高の薬となるかもしれない。親しい友人を車で送ったり手伝ったりするなどの実際的な支援の提供は、高齢者のポジティブな気分を高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。一方で、感情的支援の提供の場合には性差が見られ、女性ではポジティブな気分に影響しなかったのに対し、男性ではポジティブな気分が低下する傾向が認められたという。米ミシガン大学調査研究センターのYee To Ng氏らによるこの研究結果は、「Research on Aging」に9月26日掲載された。 Ng氏は、「高齢男性の場合、友人に感情的な支援を提供することがポジティブな気分の低下につながる可能性がある。このような気分の低下は、共感を示したり、感情について話し合ったりすることが男性に期待される役割と衝突し、それが不快感や精神的ストレスを引き起こすためと考えられる」と考察している。 この研究では、米テキサス州オースティン大都市圏に住む高齢者180人(平均年齢74.02歳、女性57%)を対象に調査を行った。参加者は5〜6日にわたってエコロジカル・モーメンタリー・アセスメント(EMA)を受け、3時間ごとにポジティブ・ネガティブな気分を報告した。また、友人との支援のやり取りについても毎日報告した。友人に対する支援のタイプとして最も多かったのは、相手の話を聞いたり慰めたりといった感情的な支援であり、次いで、助言、実際的な支援の順だった。 分析からは、実際的な支援を行った日にはポジティブな気分が高まることが示された。また、男性は女性に比べて、友人に感情的支援を提供することが少ない傾向が認められた。さらに男性では、感情的な支援を提供した日にはポジティブな気分が低下する傾向も認められた。一方、女性ではこのような傾向は認められなかった。 Ng氏は、「男性も女性も友情から恩恵を受けるが、男性の友情は共通の活動に重点が置かれている。これに対し、女性の友情は感情的な親密さとコミュニケーションに重点が置かれる傾向がある」と述べている。同氏はまた、「友人というのは自分で選ぶ存在であり、通常は喜びをもたらしてくれる。そのため友人は、特に、未婚、パートナーと死別、離婚、独身、または子どものいない高齢者にとっては、感情的ウェルビーイングを保つ上で非常に重要となる可能性がある」と語っている。 さらに研究グループは、実際的な支援は友人を助けるだけでなく、支援を提供した人自身が、自分は役に立っていると感じたり、社会や活動に関わっていると感じたりすることにも役立つ可能性があると述べている。他人の用事や仕事の手伝いはたいていの場合、労力を伴うことから、高齢者の目的意識の向上にもつながり得る。特に高齢男性にとっては、こうした積極的かつ実践的な支援方法を推進することが、長期的に見て大きな価値をもたらす可能性がある。 これらのことを踏まえてNg氏は、「こうした高齢者支援プログラムでは、感情的支援に加え、社会との関わり方の別の手段を模索すべきだ。あるいは、感情的支援のやりとりの中で意味付けを促すことで、高齢男性の感情的ウェルビーイングをより効果的に支援するべきだ。なぜなら感情的な支援は、少なくとも親しい友人に対して行う場合、日々の感情的負担を伴う可能性があるからだ」と述べている。 研究グループは今後の研究で、高齢者が友人の介護をする動機を探る研究を行う予定であると述べている。なお、この研究は、米国立老化研究所の支援を受けて実施された。

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心房細動患者における脳梗塞リスクを示すバイオマーカーを同定

 抗凝固療法を受けている心房細動(AF)患者においても、既知の脳梗塞リスクのバイオマーカーは脳梗塞リスクと正の関連を示し、そのうち2種類のバイオマーカーがAF患者の脳卒中発症の予測精度を改善する可能性があるとする2報の研究結果が、「Journal of Thrombosis and Haemostasis」に8月6日掲載された。 米バーモント大学のSamuel A.P. Short氏らは、抗凝固療法を受けているAF患者におけるバイオマーカーと脳梗塞リスクの関連を検討するために、登録時に45歳以上であった黒人および白人の成人3万239人を対象とし、前向きコホート研究を実施した。ベースライン時に、対象者の9種類のバイオマーカーが測定された。解析の結果、ワルファリンを内服していたAF患者713人のうち67人(9%)が、12年間の追跡期間中に初発の脳梗塞を発症していた。交絡因子を調整した後も、標準偏差1単位の上昇ごとに、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、血液凝固第VIII因子、D-ダイマー、成長分化因子-15(GDF-15)は、いずれも新規脳卒中発症と正の関連を示した。ハザード比は、NT-proBNPで1.49(95%信頼区間1.11〜2.02)、GDF-15で1.28(同0.92〜1.77)であった。ただし、D-ダイマーとGDF-15の関連は、統計学的に有意とはならなかった。 2件目の研究で、Short氏らは、以前一般集団で脳卒中リスクと関連が報告されていたバイオマーカーが、AF患者でも同様に脳卒中リスクと関連するか、さらにCHA2DS2-VAScスコアによる予測を改善できるかを検討した。13年間の追跡期間中に、AF患者2,411人のうち163人(7%)が初発の脳梗塞を発症していた。解析の結果、NT-proBNP、GDF-15、シスタチンC、インターロイキン6(IL-6)、リポ蛋白(a)の高値は、それぞれ独立して脳卒中リスクの上昇と関連していた。CHA2DS2-VAScモデルの適合度と予測能は、これらのバイオマーカーを加えることで大きく改善した。NT-proBNPとGDF-15の2種類のみを追加したモデルが、最も適合性・予測能に優れていた。 Short氏は、「今回示されたモデルにより、医師は抗凝固療法の対象となる患者をより適切に選択できるようになり、救命や医療費削減につながる可能性がある」と述べている。

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新しい肥満の定義で米国人の7割近くが肥満に該当

 肥満の新しい定義により、肥満と見なされる米国人の数が劇的に増加する可能性があるようだ。長期健康調査に参加した30万人以上を対象にした研究で、BMIだけでなく、余分な体脂肪に関する追加の指標も考慮した新たな肥満の定義を適用すると、肥満の有病率が約40%から70%近くに上昇することが示された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の内分泌学者であるLindsay Fourman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月15日掲載された。 Fourman氏は、「肥満が蔓延しているだろうと考えてはいたが、これほどとは予想していなかった。現在、成人人口の70%が過剰な脂肪を持っている可能性があると考えられるため、どの治療アプローチを優先すべきかについての理解を深める必要がある」とニュースリリースで述べている。 これまで、肥満はBMIにより定義されてきた。しかしBMIでは、例えば、筋肉量の多いボディビルダーが肥満と判定されるなど、体重と脂肪や筋肉の量が区別されないため、理想的な数値とは言えないことが指摘されている。一方、ウエスト周囲径、ウエスト身長比、ウエストヒップ比などの新たに開発された指標により、人の体脂肪をより正確に評価し、肥満度を計算する動きも出てきている。 最近、Lancet Commission(ランセット委員会)が新たに提案した肥満の定義では、1)従来のBMIの肥満閾値を超え、かつウエスト周囲径やウエスト身長比などの身体測定値が1つ以上高値であるか、BMIが40超、2)BMIは肥満閾値を下回るが2つ以上の身体測定値が高値のいずれかに該当する場合、臓器機能障害や身体的制限の有無によって、肥満を臨床的肥満(過剰な脂肪が臓器や組織に悪影響を及ぼしている)と、前臨床的肥満(体脂肪は過剰だが臓器は正常に働いている)に分類する。研究グループによると、米国心臓協会(AHA)や米国肥満学会など少なくとも76団体がこの定義を支持しているという。 今回の研究でFourman氏らは、米国立衛生研究所(NIH)が主導するAll of Us Research Programの参加者データを用いた前向きコホート研究を実施し、この新しい肥満の定義が臨床上どのような意味を持つのかを検討した。対象は、2017年5月31日から2023年9月30日の間に身体測定データがそろっていた30万1,026人(平均年齢54歳、女性61.0%)であった。 その結果、肥満に分類された人の割合は、従来の定義では42.9%(12万8,992人)であったのが、新しい定義では68.6%(20万6,361人)に増えることが明らかになった。臨床的肥満に分類されたのは10万8,650人(36.1%)であった。また、肥満ではない人と比較すると、肥満者では臓器機能障害のオッズが高く、オッズ比はBMIと身体測定値に基づく肥満者で3.31、身体測定値のみに基づく肥満者で1.76であった。さらに、臨床的肥満者では肥満のない人または臓器機能障害のない人に比べて、糖尿病(調整ハザード比6.11)、心血管イベント(同5.88)、全死因死亡(同2.71)のリスクが高いことも示された。 Fourman氏は、「BMIが正常でも腹部に脂肪が蓄積している人は健康リスクが高まることが分かってきているため、過剰な体脂肪を特定することは極めて重要だ。大切なのは体組成であり、体重計の数値だけが問題ではない」と述べている。 本研究には関与していない、米サウスショア大学病院のArmando Castro-Tie氏は、「この新しい肥満の定義によって、必要な人に医療が届き、肥満関連の慢性疾患を発症する前に余分な体重を減らすことができるようになる」と述べている。同氏は、「肥満の真の定義や肥満者がどのような人なのかについての理解を深めるための研究はかなり遅れている。これらが明らかになれば、さまざまな人口集団における異なるレベルの肥満に対して本当に効果的なアプローチは何なのかを探る、より的を絞った研究ができるようになるだろう」とコメントしている。

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抗うつ薬は体重を増やすか?(解説:岡村毅氏)

 精神科の外来では、対話から患者さんの症状を探る。うつ病の診察で最も有効なのは「眠れてますか」「食べられてますか」であろう。頑張ったらよく眠れるとか、頑張ったら食欲が湧いてくるものではないので、かなり客観的に患者さんの状態を把握できる。 意外かもしれないが、「どういったストレスがありますか」は、最重要ではない。意味がないとは言わないが、患者さんの理解や世界観に沿った長い物語が展開することが多く、まず知りたいことではない。 さて、治療が進むと、患者さんたちは、よく眠り、よく食べるようになる。それは良いのだが、女性の患者さんからは「体重が増えて困ってます」と言われることがしばしばある。女性は体重をモニターしている人が多いからと思われる。そうなると、「抗うつ薬で体重は増えるのだろうか?」「どの抗うつ薬で増えるのだろうか?」と考えるのは自然だ。 星の数ほどある抗うつ薬のどれを使うのがよいのか、という課題に対して、今や古典ともなった2009年のLancet誌の「MANGAスタディ」では、ネットワークメタ解析を用いて「効果」と「許容性」のバランスがよいのはセルトラリンとエスシタロプラムだと喝破した。同じようなネットワークメタ解析の手法で、抗うつ薬の身体への影響を調べたものが本研究である。 結果を見ると、確かに抗うつ薬の間で身体への影響には差があることがわかる。とはいえ、個人的には体重と心拍数以外は臨床的に意味のあるものはないと感じた。 心拍数は、面白いくらいに薬理学の教科書どおりの結果だ。つまり三環系抗うつ薬では軒並み上がる。ノルアドレナリン再取り込み阻害、抗コリン、α1遮断といった効果によるものだろう。とはいえ、三環系抗うつ薬はもはや臨床では絶滅危惧種になっており、あまり影響はなさそうだ。 問題は体重である。最も体重増加が多そうなのはマプロチリン(四環系抗うつ薬、こちらも希少種になっている)であり、2kg以上の体重増加が48%に、2kg以上の体重減少は16%にみられる。現役でよく使われる抗うつ薬では、セルトラリンは増加が31%、減少41%、エスシタロプラムは増加が38%、減少40%である。マスで見たら、体重増加はなさそうだ。 ただ気を付けねばならないのは、疫学研究と個別の患者さん個人の体験は、まったく次元が異なるということだ。「エビデンス上はあまり増えませんよ」と言うだけでは大失敗するだろう。患者さんが自分の身体健康あるいは見られ方を真剣に考えて、体重が増えていることを心配している場合は、しっかり対応しないと内服を自己中断したり、通院を自己中断してしまうリスクがある。その場合、もちろん再発してしまうリスクがある。 私の場合は、適宜血液検査などをするのが前提ではあるが、・体重増加は精神科薬物治療ではとても重要な課題。あなたの心配はまったく正しい! ただね、非定型抗精神病薬とかが最も気を付けないといけない薬で、このお薬はそれほどではないのでもう少し様子を見てみよう(エビデンス重視の説明)・今はうつ病の症状としての食思不振が改善していると考えたい。クスリが合っているのだ、ともいえる。だから安心して! しっかり回復したら抗うつ薬は中止するので今はまずはうつ病のほうに取り掛かろう(治療目標を明確にする説明)・食欲が増した。ここまで良くなったということ。運動を始めても(あるいは運動強度を上げても)よい時期ですよ(運動推奨)・今のお薬は大丈夫だけど、あなたがとても心配していることは放置できないから、変更しようか(不安が大きい場合)といった対応を、患者さんによって使い分けている(あるいは組み合わせる)。 うつ病が良くなると、食べ物がおいしくなって食べ始める人もいれば、ひきこもり生活から外に出るようになって痩せる人もいる。運動をすれば、カロリー消費は増えるが、当然ご飯はおいしくなるので体重が増える人もいる。難しいものだ。一般的には人の体重なんて知ったことではないが、こちらは抗うつ薬を投与しているので、関わる必要はあろう。個人の生活や認知パターンまで配慮するのが精神科医療であり、楽しいと言うと大変語弊があるが、人の多様性をいつも感じられるので飽きないものである。

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アブレーション後は抗凝固薬をやめてよい?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は自ら長年非弁膜症性心房細動を患っているので、この論文は他人事ではない。心房細動だからといって、みんなが抗凝固薬を使う必要はない。現在の抗凝固薬では年間に3%程度の症例に重篤な出血イベントが起こることが、DOAC開発のランダム化比較試験にて示されている。長期間に抗凝固薬を使用すれば重篤な出血イベントリスクは身近な問題となる。筆者は20年程度、抗不整脈薬にて自らの心房細動をコントロールしてきた。しかし、いよいよ薬剤の調節が難しくなったのでアブレーションを受けた。アブレーション後に内膜が焼灼されるので、内膜の回復までは抗凝固薬が必要と考えた。心房細動のリスクがなくなった場合に抗凝固薬をやめられることが明確に示されればアブレーション治療の価値は大きく増加する。本研究の症例数は840例と多くないが、必須であった薬剤が不要になることを示せば患者さんにとっても医療経済的にも価値が大きい。 術後に不整脈が起こらない症例に限れば、抗凝固薬の中止により血栓イベントなどが増加しないことを示した本研究の価値は大きい。抗凝固薬をやめれば出血リスクが減少する。出血が減れば、出血により抗凝固薬を比較的にやめることによるリバウンドも減る。この研究成果は心房細動の症例にとっては価値が大きいと思う。

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第268回 高市首相、補正予算で病院支援明言 賃上げ・経営改善を前倒し実施/政府

<先週の動き> 1.高市首相、補正予算で病院支援明言 賃上げ・経営改善を前倒し実施/政府 2.インフルエンザ、全国で急拡大 定点14.9人、注意報レベルに/厚労省 3.出生数減少、上半期31.9万人で過去最少 小児・産科医療は集約化へ/厚労省 4.「かかりつけ医」機能のないクリニックに初再診料減算を提案/財政制度等審議会 5.国立大病院の赤字が過去最大規模に、学長らが国に緊急要望/国立大学病院長会議 6.有料老人ホーム「登録制」へ、頻回訪問の濫用是正、囲い込みも禁止/厚労省 1.高市首相、補正予算で病院支援明言 賃上げ・経営改善を前倒し実施/政府高市 早苗首相は11月7日の衆院予算委員会で、物価高の影響により経営が悪化している医療機関や介護施設を支援するため、2026年度の診療報酬改定を待たず、今国会に提出予定の2025年度補正予算で対応する方針を示した。政府が策定する経済対策では、食材費や光熱水費の高騰に苦しむ医療・介護事業者に対し、経営改善を目的とした補助金を支給し、職員の賃上げにも充てる。あわせて産科・小児科の体制維持、電子カルテや電子処方箋の普及促進、病床削減の支援なども盛り込まれる見通し。厚生労働省によると、2024年度決算速報では民間病院の約49%が赤字に転落し、前年度比で8ポイント近く悪化した。人件費や物価上昇に報酬改定が追いつかず、医療・介護現場では他産業に比べ賃上げが遅れている。一方、四病院団体協議会は10月29日、厚労省に対し「補正予算での早急な病院支援」「26年度に10%超のプラス改定」「消費税補填のばらつき是正」を求める要望書を提出。とくに大規模急性期病院で補填不足が顕著とする調査結果を示した。また、11月5日に開かれた国民医療推進協議会総会では、日本医師会など43団体が「補正」「26年度予算」「真水による抜本対応」を政府に求める決議を採択。政府は今国会での補正予算成立を目指し、年末までに診療報酬改定率を決定する方針で、医療従事者の処遇改善が焦点となる。 参考 1) 医療介護の経営改善に補助金 食費などの高騰対応、支援策判明(共同通信) 2) 医療従事者らの賃上げ後押しへ 補正予算案に補助金調整 厚労省(NHK) 3) 病院への早急な経営支援など求める 四病協 消費税負担、補填ばらつき解消の抜本策も(CB news) 4) 令和7年度補正予算及び令和8年度予算編成で“真水”による対応を求める決議を採択(日医) 2.インフルエンザ、全国で急拡大 定点14.9人、注意報レベルに/厚労省厚生労働省によると、第44週(10月27日~11月2日)のインフルエンザ定点当たり報告数は14.90人で、前週の6.29人から約2.4倍に急増し、注意報基準(10人)を今季初めて超えた。患者報告は5万7,424人に上り、すべての都道府県で増加した。流行入りは10月3日で、昨季より約1ヵ月早い。都道府県別では宮城県で28.58、神奈川県で28.47、埼玉県で27.91、千葉県で25.04、北海道で24.99、沖縄県で23.80、東京都で23.69と続き、神奈川県・宮城県では警報基準(30人)に迫る水準に達した。すでに学校などの休校、学年・学級閉鎖は約2,300施設と、前週の2倍超に拡大している。専門家は、今季はA香港型(H3N2)の割合が高く、集団免疫の低下により高水準がしばらく続く可能性を指摘している。厚労省は、手洗い、適切なマスク着用、咳エチケットなどの基本的な感染対策を呼びかけている。とくに空気が乾燥する季節に入り、室内の換気と湿度50~60%の維持が推奨される。高齢者や基礎疾患のある人は重症化リスクが高く、早期のワクチン接種や、体調不良時の登校・出勤回避、早めの受診が求められる。なお、今年度から定点医療機関は約3,000ヵ所に減少しており、過去との単純比較には注意が必要。 参考 1) 全国インフル定点報告 前週比約2.4倍増 14.90人(CB news) 2) インフル流行「注意報レベル」前週比2倍超、全国で増加 厚労省発表(産経新聞) 3) インフルエンザの流行拡大、注意報レベルに 昨季よりも6週も早く(朝日新聞) 3.出生数減少、上半期31.9万人で過去最少 小児・産科医療は集約化へ/厚労省厚生労働省が11月4日に公表した人口動態統計(概数)によると、2025年上半期(1~6月)の出生数は31万9,079人で、前年同期比3.3%減と過去最少を更新した。外国人を除く数値であり、下半期も同様の傾向が続けば、年間出生数は2年連続で70万人を下回る見通し。2024年は68万6,173人で、1899年の統計開始以来の最少を記録していた。一方、上半期の死亡数は82万3,343人で2.9%増。出生数との差である「自然減」は50万4,264人と、前年より3万人以上増加した。婚姻件数も4.3%減の23万166件にとどまり、晩婚・非婚化の進行が出生数の減少を加速させている。政府は「次元の異なる少子化対策」として児童手当の拡充などを進めているが、現時点で効果は限定的とみられている。こうした急速な少子化を踏まえ、厚労省の「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」では、小児科・産科医療機関の集約化と連携強化を軸とした体制再編の議論が開始された。第9次医療計画(2030~35年度)を見据え、症例減少に対応しつつ、医療の質と安全を維持する方針。議論では、地域中核病院の機能強化、オンライン診療や「#8000」相談事業の活用、遠方受診時の交通費支援などの組み合わせ、アクセス低下を防ぐ方策も検討する。厚労省では、出産費用の無償化や産後ケア支援などと併せ、医療提供体制の持続性を確保する構想を進めている。 参考 1) 人口動態統計(厚労省) 2) 小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(同) 3) 上半期の出生数、31万9千人 2年連続で70万人割れの可能性(共同通信) 4) 上半期の出生数、過去最少ペース…厚労省・人口動態統計(リセマム) 5) 想定超えた少子化が進む中で、小児医療機関、産科・産婦人科医療機関の「集約化、大規模化」をさらに進めよ-小児・周産期WG(Gem Med) 4.「かかりつけ医」機能のないクリニックに初再診料減算を提案/財政制度等審議会財務省は11月5日に財政制度等審議会を開き、2026年度診療報酬改定に向けた外来改革案を提示した。柱は「かかりつけ医機能」の抜本的な見直しで、日常診療を総合・継続的に担う“1号機能”を整備していない診療所に対し、初診料・再診料の減算を求める一方、機能を十分に果たす医療機関をシンプルに高評価する設計への転換を促す。評価項目の簡素化とともに、機能強化加算(80点)は「有効性・効率性に疑義」として廃止を軸に検討、外来管理加算(52点)は即時廃止または地域包括診療料などへの包括化を提起した。制度面では、2025年度に開始となるかかりつけ医機能報告制度を踏まえた公的認定と患者の登録制、包括払い(包括評価)との連動を提案。さらに外来の受診行動の最適化として「受診時定額自己負担」の再検討を要請し、かかりつけ医療機関以外の受診では定額を上積みする二段構えの案も示した。資源配分では、経営状態の悪化している病院に重点配分するため診療所・調剤の「適正化」を主張。無床診療所の24年度経常利益率(平均)6.4%に対し、病院は0.1%と乖離があるとして、機能・病床規模に応じたきめ細かな配点を求めた。ただ、これらは財務省案であり、厚生労働省・与党協議を経て年末の大臣折衝、来年度の個別点数議論に反映される。これまでに受診時の定額負担は過去に「受診抑制」を懸念され、頓挫した経緯もあり、合意されるかは流動的な見通し。 参考 1) 財政制度分科会(財務省) 2) かかりつけ医機能報告制度(厚労省) 3) 「かかりつけ医機能」ない診療所は初再診料減算を 財務省 患者の登録制も提言(CB news) 4) 外来受診時定額負担導入の検討求める、財務省「かかりつけ」以外の受診と金額に差(同) 5) 診療所の診療報酬「適正化不可欠」 財務省主張 病院への重点的な支援を行うため(同) 6) かかりつけ医機能報告制度を、もう「過渡期扱い」した財務省の本音(日経メディカル) 5.国立大病院の赤字が過去最大規模に、学長らが国に緊急要望/国立大学病院長会議国立大学の附属病院の経営悪化が深刻化している。全国44の国立大学学長は11月7日、文部科学省と厚生労働省に対し、運営費交付金や診療報酬の大幅引き上げなどを求める緊急要望を提出した。声明では「大学病院の機能を維持できず、医学研究の停滞や地域医療の崩壊を招きかねない危機的状況」と訴えている。国立大学病院長会議(会長:大鳥 精司千葉大病院長)によると、2025年度の経常損益は全国で400億円を超える赤字となる見込みで、法人化以降で最大規模。2024年度も42病院のうち7割が赤字に陥り、赤字総額は286億円に達した。医薬品や医療機器の高騰、人件費上昇、診療報酬との乖離が要因で、「診療すればするほど赤字が増える構造」となっている。赤字補填は大学本体の財源に依存しており、学長らは「大学全体の経営にも波及する」と危機感を示している。日本記者クラブで会見した大鳥会長らは「経営改善の自己努力だけでは限界」「大学病院は最後のとりで」と強調。最先端医療の提供に加え、教育・研究、地域への医師派遣といった公益的機能を維持するために国の支援を求めた。一方、北海道大の宝金 清博総長は「物価上昇率を考えれば診療報酬を10%上げなければ赤字解消は難しい。1~2%では焼け石に水」と指摘。医療界では、地域偏在や医師の働き方改革への対応など大学病院が抱える多重課題への抜本策が急務との見方が広がっている。 参考 1) 「付属病院の赤字が急増し経営危機」 国立大学長らが国に緊急要望(朝日新聞) 2) 国立大病院の経営「危機的」、44学長らが緊急要望 文科相と厚労相に(日経新聞) 3) 日本記者クラブにて国立大学病院長会議が記者会見を行いました(国立大学病院長会議) 6.有料老人ホーム「登録制」へ、頻回訪問の濫用是正、囲い込みも禁止/厚労省厚生労働省は一部の有料老人ホームで過剰な介護サービスが提供されている問題について検討会を設けて、有料老人ホームのあり方について議論を重ねてきた結果、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会とりまとめ」を公表した。これによると、有料老人ホーム(とくに要介護3以上や医療的ケア・認知症対応など中重度者を受け入れる類型)に登録制を導入し、基準不適合時は更新拒否・事業停止も可能としている。全施設で契約書に入居可能な要介護度、医療必要度、認知症・看取り可否などの明記と公表を義務化し、職員配置・設備の法定基準、看取り指針の整備も進めるほか、資本関係のある介護事業所の利用を入居条件化する“囲い込み”を契約に盛り込む行為は禁止とする。さらに入居紹介については優良事業者の認定制度を創設し、手数料は賃貸住宅の仲介に準じた算定を促すこととした。一方、ホスピス型住宅で主治医に「頻繁な訪問看護」を一律記載させる要請が判明し、出来高払いを悪用した過剰請求疑念が浮上しており、厚労省では“頻回”は医師が必要性を明示した場合に限定する方向で審議している。現場の医師には、頻回指示の医学的根拠・目標・期間の明記、状態変化に応じた見直し、記録の整合性点検が求められることとなる。また、10月29日に開催された「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」では「在宅医療に積極的役割を担う医療機関」は病院・診療所を基本とし、地域の協力医療機関体制の実装を加速することとなった。急増する有料老人ホーム(全国1万7千超、定員約67万人)に対し、質の担保と監督強化、支払方式の見直し(包括化含む)が医療側の持続可能性を左右するとして引き続き規制が強化される見通し。 参考 1) 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会とりまとめ(厚労省) 2) 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(同) 3) 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ(同) 4) 有料老人ホーム、規制強化へ 登録制や更新拒否など導入(福祉新聞) 5) 有料老人ホーム、登録制導入へ 規制強化でサービスの質確保 厚労省(朝日新聞) 6) 有料老人ホーム検討会、取りまとめ案を大筋了承 登録制導入や紹介事業者の認定制度も提言(CB news) 7) 【在宅医療において積極的役割を担う医療機関】病院・診療所「以外」を位置づけることは好ましくない-在宅医療、医療・介護連携WG(Gem Med)

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事例35 フロリネフ錠の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、起立性低血圧の患者に投与したフルドロコルチゾン(商品名:フロリネフ錠)が、A事由(医学的に適応と認められないもの)を適用されて査定となりました。査定事由を調べるため、フロリネフ錠の添付文書を参照しました。傷病名に対する適応はありませんでした。病名が不足していたのではないかと医師に話をしたところ、「『失神の診断・治療ガイドライン』(日本循環器学会)に則った処方である」とのことでした。カルテを参照したところ、紹介された時点で使用されていたミドドリン塩酸塩を増量しても効果がなかったため、ガイドラインに沿ってフロリネフ錠を使用したところ、家庭血圧に改善傾向がみられるため処方継続しているとのことでした。適応外使用ではありますが、経過と検査データの写しを添えて再審査請求してみたところ復活しました。適応がないからと請求をあきらめるのではなく、一般的なガイドラインに沿って患者のために医学的に必要な医療を提供した場合には、医師と相談して必要としたコメントを添えて請求することも必要であると痛感した査定でした。

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英語で「花粉症」は?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第38回

アレルギー性鼻炎 allergic rhinitis春先や秋になると、くしゃみや鼻水、目のかゆみが止まらなくなる…、多くの人が悩まされるこの症状は、日本では「花粉症」として広く知られています。この症状の医学的な英語名はallergic rhinitis(アレルギー性鼻炎)ですが、日常会話でこの言葉が使われることはあまりないでしょう。より自然に、そして誰にでも伝わる一般的な表現は何でしょうか?講師紹介

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FLT3遺伝子変異陽性AMLに対する治療戦略/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月10日、清井 仁氏(名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)を座長に行われた会長シンポジウムでは、「FLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病(AML)に対する治療戦略」と題して、FLT3変異陽性AMLの管理についてMark James Levis氏(米国・Johns Hopkins University)、AMLにおけるFLT3阻害薬耐性に関する理解の進展についてはCatherine Smith氏(米国・University of California, San Francisco)から講演が行われた。FLT3変異陽性AMLの高齢患者に対する最適なアプローチ FLT3変異陽性AMLの管理について、Levis氏が発表した。FLT3はAMLで最も一般的な遺伝子変異であり、FLT3変異はAMLのほぼすべてのサブタイプで発生する可能性があるため、臨床医にとっての課題となっていた。近年、FLT3変異陽性AMLのマネジメントに有用な薬剤がいくつか登場した。現在、3つの異なるFLT3阻害薬が、疾患の異なるステージに対して承認されており、FLT3変異とさまざまな共変異との相互作用に関する理解および測定可能残存病変(MRD)の検出能力の向上は、FLT3変異陽性AML患者のアウトカム改善に大きく貢献している。しかし、依然として多くの疑問が残っている。では、FLT3変異陽性AML患者をどのように治療すべきか、MRDをどのように活用して治療を最適に導くべきなのであろうか。 本講演では、推奨パラダイムが提示された。FLT3変異陽性AMLのマネジメントにおいて、強力な導入化学療法および地固め療法にFLT3阻害薬を併用することで全生存期間を改善し、より深い寛解によりMRD陰性化が可能であるが、現時点でどのFLT3阻害薬が最良の選択肢であるかは明らかになっていない。また、MRDは将来の造血幹細胞移植の必要性を判断するうえで、重要な指標と位置付けられると述べている。FLT3変異陽性AMLの高齢患者に対する最適なアプローチは、まだ十分に定義されていないとしながらも、Johns Hopkins Universityでは、ベネトクラクス(VEN)+アザシチジン(AZA)による導入療法を実施し、奏効の早期評価、遺伝子検査、MRD測定、回復後の脆弱性評価の結果に基づき、VEN+AZA療法、ギルテリチニブ(GIL)単剤療法、同種造血幹細胞移植、中等量シタラビン+GILのいずれかによる治療アプローチを行っていると述べた。AMLにおけるFLT3阻害薬耐性メカニズム 続いてSmith氏が、AMLにおけるFLT3阻害薬耐性に関する理解の進展について発表した。FLT3阻害薬は、新規患者および再発・難治性のFLT3変異陽性AML患者のいずれにおいても標準治療となっているが、すべてのFLT3阻害薬において耐性は依然として問題となっている。 キザルチニブ(QUIZ)やソラフェニブなどのタイプIIのFLT3阻害薬では、これらの阻害薬が不活性なキナーゼ構造にのみ結合するため、FLT3のオンターゲット二次キナーゼドメイン変異が獲得耐性の最も一般的なメカニズムであると考えられる。最も一般的な耐性誘発変異は、FLT3ゲートキーパーF691および活性化ループD835残基に発生するが、FLT3キナーゼドメインの他の残基とも関与している。これらのキナーゼドメイン変異は、薬物結合を直接阻害するか、FLT3阻害薬との相互作用に対し活性キナーゼ構造をもたらす。 活性キナーゼ構造に結合可能なGILやcrenolanibなどのタイプIのFLT3阻害薬を用いたその後の研究では、タイプIのFLT3阻害薬はオンターゲットキナーゼドメイン変異の影響を受けにくいものの、ゲートキーパーF691残基またはその近傍の変異には依然として一定程度の相対的耐性をもたらすことが示されている。 最近では、RAS/MAPK経路の活性化変異がGILに対する耐性の共通因子であり、他のFLT3阻害薬に対する耐性にも影響を及ぼすことが明らかになっている。患者内での腫瘍固有の異質性は、FLT3阻害薬による治療選択により、FLT3変異クローンに対するクローン選択と代替ドライバー変異の出現を促進する可能性がある。この現象は、FLT3阻害薬を他の薬剤と併用した場合においても観察されることがわかっている。 たとえば、GILとBCL2阻害薬であるVENとの併用はFLT3変異クローンを迅速に抑制するが、変異やその他の手段によるRASシグナル伝達の活性化には依然として耐性を示す可能性がある。また、トランスレーショナル研究では、FGF2やFLT3リガンドなどの微小環境因子が耐性クローンの生存や増殖を促進することが示唆されている。 耐性を最小限にするための今後の戦略としてSmith氏は「耐性クローンの発生を予防し、耐性の最も一般的な新規メカニズムであるRAS/MAPKシグナル伝達の活性化を抑制するための適切な併用戦略の確立に重点を置くべきである」とし、講演を締めくくった。

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骨粗鬆症、予防には若年からの対策が重要/J&J

 ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニーは、10月20日の世界骨粗鬆症デーに関連し、疾患啓発イベント「親子で話す骨のこと」を開催した。慶應義塾大学 整形外科 教授の中村 雅也氏、歌手の早見 優氏が登壇し、若年期からの骨粗鬆症予防の重要性を伝えた。 骨粗鬆症の患者数は毎年増加傾向にあり、2023年のデータで受診者数は138万人、うち9割以上を女性が占める1)。中村氏は「女性は閉経後から骨密度が急速に低下し、70代以降では骨折リスクが大幅に上昇する。患者数増加は高齢化に加え、疾患への意識向上による受診増加も要因だと考えられる」と解説した。さらに中村氏は、「骨粗鬆症は進行するまで自覚症状が乏しいため、注意を払われにくい。高齢になって転倒や骨折を経験してから骨の健康を考えるのでは遅い。閉経期を迎える40~50代から骨密度変化に関心を持ち、早期に介入することが重要」と強調した。 そして、さらに早期からの介入の重要性についても言及。「骨の健康は中年~高齢期だけの問題ではない。骨密度のピークは10〜20代で形成されるが、20代で骨量が低い人は、その後の減少がより顕著になる傾向がある」と指摘。若い時期の十分な栄養、運動、日光浴によるビタミンD合成といった生活習慣が、将来の骨折リスクを左右するとした。「若い女性は過度なダイエットで十分な栄養素を摂れていないケースが多く、これが骨密度のピークを下げている可能性がある」と指摘した。さらに、運動と日光曝露の重要性も指摘、「日焼けを気にして屋内に閉じこもる人もいるが、少しの時間でも日光に当たり、体を動かすことが大切だ」とした。2人の娘の親である早見氏も「10代のしっかりとした食生活や運動による“骨貯金”が、40~50代になって効いてくるということですね」と応じた。骨粗鬆症に関する最新のエビデンスと推奨事項・40~50代では閉経後に骨密度が低下しやすくなる一方、10~20代の骨密度にも注目が集まっている。20代は骨密度のピークを迎える時期だが、生活習慣によってそのピーク値は変動し、将来の骨密度に影響を与えるとされる。若い時期の過度なダイエットや運動が骨密度低下の引き金になる可能性もある。・国内の大学による20年以上の追跡調査では、20代で骨密度が低かった人は、40代でより骨密度が低下しやすい傾向があることが明らかになっている。・骨への機械的刺激が骨形成を促進するため、骨密度を高めるためには、負荷のかかる下肢運動(階段昇降、かかと上げ、軽いジャンプなど)などが効果的。・運動環境にも注意が必要。日光を浴びない屋内ジムだけで運動していると、骨を強くするために必要なビタミンDの生成が不足する可能性がある。紫外線を気にする人が多いが、朝15分程度の日光浴でも十分な効果が期待できる。・カルシウムだけでなく、ビタミンD、ビタミンK、タンパク質、ミネラルなどをバランスよく摂取することが骨の健康維持には不可欠。 中村氏は、臨床現場での課題として「骨粗鬆症は診断の機会が限られている」ことを指摘。とくに閉経前後や長期ステロイド使用中の女性、低BMI、家族歴を有する患者など、ハイリスク群への骨密度測定(DXA)の積極的実施を推奨した。中村氏は「骨粗鬆症の予防は、家庭での会話から始まる」とし、親世代が自身の骨の健康に関心を持ち、子供世代と共に学ぶことで、ライフコースを通じた骨粗鬆症予防の文化が形成されることの重要性を訴えた。

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脳梗塞既往患者のLDL-C目標値、より厳格にすべき?/Circulation

 虚血性脳卒中の既往歴を持つ患者は、脳卒中再発およびその他の主要心血管イベント(MACE)リスクが高い。米国・ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のVictorien Monguillon氏らが、FOURIER試験のデータを用いて行った2次分析の結果、LDL-C値が40mg/dL未満まで低下すると、出血性脳卒中リスクを明らかに増加させることなく、脳卒中再発を含むMACEのリスクが低下することが示された。Circulation誌オンライン版2025年11月3日号掲載の報告より。 著者らは、安定しているアテローム動脈硬化性心血管疾患患者を対象にエボロクマブを評価したプラセボ対照無作為化比較試験FOURIER(追跡期間中央値:2.2年)およびその延長試験FOURIER-OLE(追加追跡期間中央値:5年)における虚血性脳卒中既往患者を対象に解析を実施。到達LDL-C値と、主要エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院または冠動脈血行再建の複合)の発生率、ならびに脳卒中関連アウトカムとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・虚血性脳卒中の既往歴(発症から4週間超経過)を有する5,291例が解析に含まれた。・到達LDL-C値は<20mg/dLが666例(12.6%)、20~<40mg/dLが1,410例(26.6%)、40~<55mg/dLが586例(11.1%)、55~<70mg/dLが508例(9.6%)、≧70mg/dLが2,121例(40.1%)であった。・到達LDL-C値が低いほど、主要評価項目、全脳卒中および虚血性脳卒中の発生率は単調減少した(それぞれ傾向のp<0.001、<0.002、<0.002)。・到達LDL-C値が≧70mg/dLの患者と比較した、<40mg/dLの患者における発生率比(IRR)は、主要評価項目0.69(95%信頼区間:0.57~0.84)、全脳卒中0.73(0.53~0.99)、および虚血性脳卒中0.75(0.54~1.05)であった。・出血性脳卒中はまれであり、到達LDL-C値との関連は認められなかった(傾向のp=0.85)。 著者らは、虚血性脳卒中の既往歴を有する患者に対して、より強力なLDL-C低下療法が必要であることを支持する結果とし、最適なLDL-C目標値を確立するためには無作為化比較試験が必要とまとめている。

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STEMIにおける非責任病変のPCI、即時vs.遅延/NEJM

 冠動脈の責任病変に対する初回経皮的冠動脈形成術(primary PCI)に成功した多枝病変を有するST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の非責任病変への対処として、瞬時拡張期冠内圧比(iFR)ガイド下の即時PCIは、心臓負荷MRIガイド下の遅延PCIと比較して3年後の全死因死亡、心筋梗塞の再発、心不全による入院の複合エンドポイントに関して優越性がないことが、オランダ・Radboud University Medical CenterのRobin Nijveldt氏らiMODERN Investigatorsによる国際的な臨床試験「iMODERN試験」の結果で示された。NEJM誌オンライン版2025年10月28日号掲載の報告。41施設で実施、心臓負荷MRIガイド下の遅延PCIと比較 iMODERN試験は、41施設で実施した国際的な研究者主導型の非盲検無作為化対照比較優越性試験であり、2017年12月~2022年2月に参加者を募集した(Philips Volcanoなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上、STEMIと診断され、発症から12時間以内の梗塞責任病変へのprimary PCIに成功し、非梗塞関連動脈に狭窄度>50%でPCI適応の非責任病変を1つ以上有する患者1,146例(平均年齢63[SD 11]歳、男性78%)を登録した。 被験者を、非責任病変に対しiFRガイド下に即時PCIを行う群(558例)、または心臓負荷MRIガイド下に遅延PCIを行う群(588例)に無作為に割り付けた。iFR群では、虚血を示すiFR≦0.89のすべての非責任病変に即時PCIを行った。MRI群では、primary PCIから6週間以内に非責任病変に対しPCIを施行した。 主要エンドポイントは、3年の時点での全死因死亡、心筋梗塞の再発、心不全による入院の複合とした。主要複合エンドポイントの発生、iFR群9.3%vs.MRI群9.8%で有意差は認められず iFR群は、556例中237例(42.6%)(739病変中281病変[38.0%])に非責任病変への即時PCIを行った。MRI群は、primary PCIから中央値27日(四分位範囲:15~37)の時点で、587例中110例(18.7%)に遅延PCIを施行した。 追跡期間3年の時点で、主要エンドポイントのイベントはiFR群で536例中50例(9.3%)、MRI群で562例中55例(9.8%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.65~1.40、p=0.81)。 3年時の全死因死亡は、iFR群で4.1%、MRI群で3.9%(HR:1.04、95%CI:0.58~1.88)、心筋梗塞の再発はそれぞれ5.4%および5.5%(0.99、0.59~1.64)、心不全による入院は0.6%および2.3%(0.24、0.07~0.84)に発生した。心臓死、標的病変不全、大出血の頻度は同程度 3年時の心臓死(iFR群1.9%vs.MRI群2.0%、HR:0.95、95%CI:0.40~2.23)、標的病変不全(心臓死、心筋梗塞、標的血管の再血行再建のいずれかの発生と定義、10.2%vs.10.5%、0.98、0.68~1.42)、大出血(1.9%vs.1.1%、1.73、0.63~4.76)、不安定狭心症(3.3%vs.3.9%、0.84、0.44~1.59)の発生率は両群で同程度であった。 また、3年時の脳卒中または一過性脳虚血発作は、iFR群で1.3%、MRI群で3.7%(HR:0.36、95%CI:0.15~0.86)に、総ステント血栓症(責任病変+非責任病変)は、それぞれ1.7%および0.6%(3.12、0.84~11.51)に発生した。 重篤な有害事象は、iFR群で145例、MRI群で181例に発現した。 著者は、「2025年版ACC/AHA/ACEP/NAEMSP/SCAIガイドラインは、STEMI患者における非責任冠動脈病変へのPCIをクラス1Aの適応としているが、完全な再灌流PCIを行う至適なタイミングは不明である」「2021年版ACC/AHA/SCAIガイドラインは、staged PCIをクラス1A適応、初回イベント時のPCIをクラス2B適応としていたが、2025年版ACC/AHA/ACEP/NAEMSP/SCAIガイドラインではこれを更新し、staged PCIよりもprimary PCI時の非責任病変PCIが好ましい可能性を示唆する」としている。

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生化学的再発前立腺がん、エンザルタミド併用でOS改善(EMBARK)/NEJM

 去勢感受性前立腺がんで生化学的再発リスクが高く、従来型の画像検査で転移の証拠を認めない患者において、エンザルタミド+リュープロレリン併用療法はリュープロレリン単独療法と比較して、8年後の全生存期間(OS)を有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現は認められなかった。また、エンザルタミド単独療法はリュープロレリン単独療法と比較して、OSに関する優越性は認められなかった。米国・START CarolinasのNeal D. Shore氏らが、第III相試験「EMBARK試験」の最終解析の結果を発表した。すでに、エンザルタミド+リュープロレリン併用療法およびエンザルタミド単独療法は、リュープロレリン単独療法と比較して、無転移生存期間(主要評価項目)を有意に延長し、前立腺特異抗原(PSA)進行、新たながん治療薬の使用開始、遠隔転移、症候性の病勢進行までの期間も有意に優れることが報告されている。今回は、主な副次評価項目であるOSと共に長期の安全性の最終解析の結果が公表された。NEJM誌オンライン版2025年10月19日号掲載の報告。17ヵ国244施設で実施した国際的な無作為化試験 EMBARK試験は、17ヵ国244施設で実施した無作為化試験であり、2015年1月~2018年8月に参加者を募集した(PfizerとAstellas Pharmaの助成を受けた)。 前立腺がんと診断され、生化学的再発のリスクが高く(PSA値の倍加時間≦9ヵ月など)、去勢感受性病変を有し、従来型の画像検査で転移の証拠がなく、血清テストステロン値が150ng/dL以上で、前立腺全摘除術または放射線療法(あるいはこれら双方)を施行後にPSA値の上昇を認めた患者1,068例を登録した。 これらの患者を、エンザルタミド+リュープロレリン併用群(355例、二重盲検下)、リュープロレリン単独群(358例、二重盲検下)、エンザルタミド単独群(355例、非盲検下)に無作為に割り付けた。8年OS率:併用群78.9%、単独群それぞれ69.5%、73.1% OSは、リュープロレリン単独群に比べ併用群で有意に延長した。8年OS率は、リュープロレリン単独群が69.5%(95%信頼区間[CI]:64.0~74.3)であったのに対し、併用群は78.9%(95%CI:73.9~83.1)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.44~0.80、p<0.001)。また、エンザルタミド単独群の8年OS率は73.1%(95%CI:67.6~77.9)であり、リュープロレリン単独群との間に有意差を認めなかった(0.83、0.63~1.10、p=0.19)。 他の副次評価項目の最新データの解析では、新たながん治療薬の使用開始については、リュープロレリン単独群と比較した併用群のHRは0.37(95%CI:0.29~0.49)、リュープロレリン単独群と比較したエンザルタミド単独群のHRは0.57(0.45~0.72)であった。 また、症候性骨関連イベントの発生については、リュープロレリン単独群と比較した併用群のHRは0.40(95%CI:0.22~0.72)、リュープロレリン単独群と比較したエンザルタミド単独群のHRは0.49(0.28~0.86)であり、初回の後治療の無増悪生存期間については、それぞれの比較のHRは0.56(0.42~0.76)および0.76(0.58~1.00)だった。安全性所見は主解析時と一致 安全性に関する所見は、無転移生存期間の主解析時と一貫性を認め、新たな安全性シグナルの報告はなかった。乳房関連有害事象はエンザルタミド単独群で多く、このうち女性化乳房は併用群の8.8%、リュープロレリン単独群の9.0%、エンザルタミド単独群の46.0%で報告された。試験薬関連の有害事象は、それぞれ87.0%、80.8%、89.3%に発現した。 重篤な有害事象は、併用群の40.5%、リュープロレリン単独群の37.6%、エンザルタミド単独群の43.5%で発生した。このうち試験薬関連は、それぞれ8.5%、2.5%、7.6%であった。また、有害事象による投与中止は、27.5%、12.7%、20.6%に認めた。死亡に至った有害事象は、2.8%、1.4%、3.4%で発生したが、いずれも試験薬との関連はなかった。 著者は、「これらの知見は、生化学的再発のリスクが高い前立腺がん患者の標準治療として、エンザルタミドとリュープロレリンの併用を支持するもの」「エンザルタミド単独は、リュープロレリン単独とOSに有意差がなかったが、先行研究では主な副次評価項目が優れていることから、とくに性機能の保持に懸念を持つ患者の治療選択肢として残されるだろう」としている。

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日本における認知症診断、アイトラッキング式認知機能評価の有用性はどの程度か

 認知機能低下および認知症に対する効率的なスクリーニングツールは、多くの臨床医や患者に求められている。大阪大学の鷹見 洋一氏らはこれまで、アイトラッキング技術を用いた新規認知機能評価ツールの認知症スクリーニングにおける有用性について報告している。今回、アイトラッキング式認知機能評価(ETCA)アプリのタブレット版を開発し、プログラミング医療機器(SaMD)としての臨床的有用性を検証するための臨床試験を実施し、その結果を報告した。GeroScience誌オンライン版2025年10月20日号の報告。 対象は、認知症患者および非認知症者。2020年12月〜2021年7月に参加者を募集した。参加者は、ETCAアプリを使用し、現在に最も広く用いられているスクリーニング検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)も併せて実施した。主要アウトカムは、ETCAとMMSEのスコア間の相関とした。主要副次的アウトカムは、ETCAの実施時間、検査関連負担に関する質問票による評価、各サブスコア間の相関とした。認知症検出精度は、探索的に評価した。 主な内容は以下のとおり。・全解析対象者での解析結果から、両検査の合計スコア間に強い正の相関が認められた(r=0.831、95%信頼区間:0.743〜0.891、p<0.0001)。・ETCAの実施時間中央値は254.0秒であり、参加者の70%超がMMSEと比較し、ETCAアプリによる検査関連負担が少ないまたは同程度であると回答した。・すべてのサブスコアにおいて有意な相関が認められた。・ETCAは、認知症患者の検出においてAUC 0.864を達成した。 著者らは「ETCAアプリのタブレット版は、迅速な認知機能評価ツールであり、臨床的に有用であることが示された」とし、これらの結果に基づき、ETCAアプリは日本においてSaMDとして薬事承認されるに至った。

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短時間の運動“エクササイズ・スナック”で健康増進

 1回5分以内というごく短時間の運動を日常的に随時行うことで、健康状態が改善することが報告された。そのような短時間運動の繰り返しは、生活習慣として取り入れる際のハードルが低く、かつ継続率も高いことが示されたという。オビエド大学(スペイン)のHugo Olmedillas氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に10月7日掲載された。 運動に関するガイドラインでは一般的に、1週間に300分の中強度の運動、または75~150分の高強度運動を行うことが推奨されている。しかし、著者らが研究背景として記している情報によると、成人では約3分の1、10代の若年者では5人中4人が、その推奨を満たしていないという。 それに対して、この研究により“エクササイズ・スナック”と呼ばれる意図的に行う短時間の運動が、成人の心肺機能や高齢者の筋持久力を有意に向上させることが明らかになった。また、そのような運動習慣を身に付けることを研究参加者が困難と感じていないことも示された。論文の上席著者であるOlmedillas氏は、「エクササイズ・スナックは時間効率が良く、『時間がない』とか『やる気が起こらない』といった、運動に関するよくある障壁を克服するのに役立つのではないか」と述べている。 この研究では、7件の文献データベースを用いたシステマティックレビューが行われた。それぞれのスタートから2025年4月までに収載された、運動習慣のない成人を対象としてエクササイズ・スナックによる介入を行ったランダム化比較試験の報告を検索し、11件の論文を適格と判断した。なお、エクササイズ・スナックは、5分以内の運動を1日2回以上かつ週3回以上行い、2週間以上継続する計画的な運動と定義した。 11件の研究はオーストラリア、カナダ、中国、英国で行われたもので、合計参加者数は414人、女性が69.1%だった。介入期間中、若年から中年の成人はエクササイズ・スナックとして階段昇降をすることが多く、高齢者は脚を中心とする筋力トレーニングや太極拳を行っていた。 メタ解析の結果、エクササイズ・スナックは体力(成人の心肺機能や高齢者の筋持久力)を5~17%向上させることが示された。より詳しくは、成人の心肺機能については6件の研究があり、効果量(g)が1.37(95%信頼区間0.58~2.17)で有意な向上が認められ(P<0.005)、高齢者の筋持久力については4件の研究があり、g=0.40(同0.06~0.75)でやはり有意な向上が認められた(P=0.02)。 この結果を基に研究者らは、「運動の総量が現行のガイドラインの推奨より大幅に少ない場合でも、短時間の高強度運動の積み重ねが、好ましい生理学的反応を誘発することが示唆された。心肺機能がわずかに改善するだけでも、死亡リスクの低下につながる」と述べている。さらに重要なこととして、介入の遵守率が91.1%と高く、また82.8%がその運動を継続していたことが挙げられ、これらのデータを根拠として研究者らは、「公衆衛生政策においてもエクササイズ・スナックを推奨すべきではないか」と付け加えている。

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肝疾患患者の「フレイル」、独立した予後因子としての意義

 慢性肝疾患(CLD)は、肝炎ウイルス感染や脂肪肝、アルコール性肝障害などが原因で肝機能が徐々に低下する疾患で、進行すると肝硬変や肝不全に至るリスクがある。今回、こうした患者におけるフレイルの臨床的意義を検討した日本の多機関共同後ろ向き観察研究で、フレイルが独立した予後不良因子であることが示された。研究は、岐阜大学医学部附属病院消化器内科の宇野女慎二氏、三輪貴生氏らによるもので、詳細は9月20日付けで「Hepatology Reseach」に掲載された。 CLDは進行すると予後不良となることが多く、非代償性肝硬変患者では5年生存率が約45%と報告されている。このため、将来的な疾患進行や合併症のリスクを減らすには、高リスク患者の早期特定が重要である。一方、最近の研究では、フレイルもCLD患者の予後に影響する独立因子であることが示されており、肝機能だけでなく身体全体の脆弱性を考慮した評価の重要性が指摘されている。Clinical Frailty Scale(CFS)は2005年に開発され、米国肝臓学会もCLD患者のフレイル同定に推奨する評価ツールであるが、これまで日本人CLD患者においてCFSを用いた評価は行われておらず、その臨床的意義は明らかでなかった。こうした背景から、著者らはCFSを用いて日本人CLD患者のフレイルの有病率、臨床的特徴、ならびに予後への影響を明らかにすることを目的とした。 本研究では、2004年3月~2023年12月の間に岐阜大学医学部附属病院、中濃厚生病院、名古屋セントラル病院に入院した成人CLD患者とした。CFSスコアは、入院当日の情報に基づき、併存疾患、日常生活動作、転倒リスクに関する質問票を後ろ向きに評価し、スコアが5以上(CFS 5~9)の場合をフレイルと定義した。本研究の主要評価項目は全死亡とした。群間比較には、カテゴリ変数に対してはカイ二乗検定、連続変数に対してはマン・ホイットニーU検定を用いた。生存曲線はカプラン-マイヤー法で推定し、群間差はログランク検定で比較した。フレイルが死亡に与える予後影響はCox比例ハザードモデルで評価し、結果はハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)で示した。フレイルと関連する因子は多変量ロジスティック回帰モデルで解析した。 最終的に、本研究には715人のCLD患者(中央値年齢67歳、男性49.5%)が含まれた。最も多かった病因はウイルス性(38.7%)であり、続いてアルコール性(22.2%)、代謝機能障害関連(9.5%)であった。Child-Pugh分類およびModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアの中央値はそれぞれ7と9であり、CFSスコアの中央値は3であった。これらの患者のうち、フレイルは137人(19.2%)に認められた。フレイル患者のCFSスコア中央値は6であり、年齢が高く、BMIが低く、肝予備能も低い傾向にあった。 中央値2.9年の追跡期間中に221人(28.0%)が肝不全などで死亡した。フレイル患者は、非フレイル患者に比べて有意に生存期間が短かった(中央値生存期間:2.4年 vs. 10.6年、P<0.001)。多変量Cox比例ハザード解析の結果、フレイルはCLD患者における独立した予後不良因子であることが示された(HR:1.75、95%CI:1.25~2.45、P=0.001)。 また、フレイルの決定因子に関して、多変量ロジスティック回帰解析をおこなったところ、高齢、肝性脳症、低アルブミン血症、血小板減少、国際標準比(INR)の延長がフレイルと関連していることが示された。さらにフレイルの有病率はChild-Pugh分類の悪化とともに有意に増加し、Child-Pugh A群では4%、B群では22%、C群では55%の患者にフレイルが認められた。 著者らは、「本研究から、CLD患者ではフレイルが高頻度に認められ、独立した予後不良因子としての役割を持つことが示された。予後への影響を考慮すると、CLD患者ではフレイルを日常的に評価し、転帰改善を目的とした介入を検討することが望ましい」と述べている。

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ベルイシグアトはHFrEF治療のファンタスティック・フォーに入れるか?―VICTOR試験(解説:原田和昌氏)

 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるベルイシグアトは、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者で、かつ、直近の心不全増悪があった患者に対するVICTORIA試験で、心血管死ならびに心不全入院からなる複合エンドポイントを10%有意に減少させた。しかし、心血管死単独、心不全入院単独では有意差を認めなかった。そのため、心不全のガイドラインでは、十分なガイドライン推奨治療にもかかわらず心不全増悪を来したNYHA心機能分類II~IVのHFrEF患者の心血管死または心不全入院の抑制を目的として、ベルイシグアトの使用が認められている(クラスIIa)。 VICTOR試験は、6ヵ月以内の入院歴や3ヵ月以内の外来での利尿薬静注といった直近の心不全増悪の認められない、NT-proBNP 600~6,000pg/mLのHFrEF患者に対するベルイシグアトの有効性を調べた二重盲検ランダム化比較試験である。ベルイシグアトの適応をより安定した外来患者に広げることを目的としたものであったが、複合エンドポイント(心血管死または心不全入院までの期間)は有意に低下しなかった。 6,105例が無作為化され、2,899例(47.5%)には心不全による入院歴がなかった。β遮断薬(94.5%)、ARNI(56.0%)、SGLT2阻害薬(59.1%)、MRA(77.8%)、CRT(14.8%)が導入されており、追跡期間中央値18.5ヵ月において主要エンドポイントは、ベルイシグアト群549例(18.0%)、プラセボ群584例(19.1%)で、両群間に統計学的有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.83~1.04、p=0.22)。そのため、副次エンドポイントは名目上の値として報告された。心血管死は、ベルイシグアト群292例(9.6%)、プラセボ群346例(11.3%)であった(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97)。心不全による入院は、ベルイシグアト群348例(11.4%)、プラセボ群362例(11.9%)であった(HR:0.95、95%CI:0.82~1.10)。全死因死亡は、ベルイシグアト群377例(12.3%)、プラセボ群440例(14.4%)であった(HR:0.84、95%CI:0.74~0.97)。有害事象に差はなかった。 著者らは、これだけファンタスティック・フォーが処方されたうえで、心血管死、全死因死亡などの副次エンドポイントも十分な統計学的パワーと観察期間を有することから、探索的ではあるが有意な結果としてもよいのではないかと述べている。また、VICTOR試験とVICTORIA試験の事前規定された統合解析が報告され、主要エンドポイントの心血管死または心不全入院は、ベルイシグアト群で低く(HR:0.91、95%CI:0.85~0.98)、心血管死・全体および初回心不全入院、全死亡の副次エンドポイントも低かった。ベルイシグアトの臨床的有用性を否定するものではないが、主として心血管死、全死因死亡を減らす「目に見えない治療」という位置付けでは、ガイドラインの推奨レベルは上がらないかもしれない。

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子宮摘出後なのに妊娠した1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第293回

子宮摘出後なのに妊娠した1例「子宮がなければ妊娠は起きない」。多くの人が当然だと思うこの前提に、現実は例外を突きつけます。子宮摘出後であっても卵巣が残っていれば、まれに妊娠が成立することがあります。ただ、それは子宮内ではなく、卵管や腹腔といった本来の場所以外で起き、命に関わる出血を招くことがあります。Onwugbenu NM. Ectopic Pregnancy after Hysterectomy: A Case Report of Ectopic Pregnancy 7 Years after Postpartum Hysterectomy. R I Med J (2013) . 2020;103:50-52.まず「なぜ起きるのか」を平易に整理しましょう。ポイントは、卵巣が残存しているという事実です。子宮摘出しても、卵巣が残っていれば排卵は続きます。問題は精子がどうやって卵子にたどり着くかですが、2つの道筋があります。ひとつは手術のタイミングの問題で、子宮摘出の直前にすでに受精が成立していた場合です。妊娠検査が陰性でも、受精卵がまだ着床していない時期は反応が出ないことがあります。この場合、術後まもなく卵管などで異所性妊娠として発覚します。もうひとつは、術後しばらくしてから起きるパターン。腟の断端と腹腔側のどこかに瘻孔ができると、腟から入った精子が腹腔内に到達し、そこで卵子と出合います。この論文の主人公は、32歳女性です。過去に子宮摘出と片側の卵管切除を受け、慢性的な骨盤痛が続いていました。年に1度の定期受診で「右下腹部が痛む」と訴えたものの、経過観察となりました。ところがその16日後、性交の直後に激しい腹痛と吐き気が出現し救急搬送されました。内診で強い圧痛があり、念のため行った尿妊娠反応が陽性となりました。経腟エコーでは、左側の付属器に約8週相当の胎芽と心拍、骨盤内に血液とみられる液体が確認され、「左卵管妊娠」と診断されました。すぐに腹腔鏡手術が行われ、左卵管を切除して腹腔内の血液を除去しました。ポイントは、「子宮摘出後でも卵巣が残っていれば妊娠はゼロではない」ことです。先入観にとらわれず、妊娠年齢の女性が急な下腹部痛や出血を訴えたら、まず妊娠反応を確認することが重要です。

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第287回 新鮮味はないが現実味を帯びてきた!?自維連立の社会保障政策

INDEX自維連立合意による社会保障政策の中身最も現実味を帯びている施策自維連立合意による社会保障政策の中身公明党の連立離脱と日本維新の会(以下、維新)との新たな連立により先月ようやくスタートした高市 早苗政権。その行方次第では医療・介護業界は大きな影響を受ける。とくに今回新たに連立入りした維新は、現役世代の社会保険料負担軽減を錦の御旗に、従来の医療業界の慣習からすれば“ありえない”政策を数多く掲げているからだ。長くなるが、今回の自維連立合意の社会保障政策関連を改めて全文引用する。● OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、金融所得の反映などの応能負担の徹底等、令和7年通常国会で締結したいわゆる「医療法に関する三党合意書」及び「骨太方針に関する三党合意書」に記載されている医療制度改革の具体的な制度設計を令和7年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す。● 社会保障関係費の急激な増加に対する危機感と、現役世代を中心とした過度な負担上昇に対する問題意識を共有し、この現状を打破するための抜本的な改革を目指して、令和7年通常国会より実施されている社会保障改革に関する合意を引き継ぎ、社会保障改革に関する両党の協議体を定期開催するものとする。● 令和7年度中に、以下を含む社会保障改革項目に関する具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行い、順次実行する。(1)保険財政健全化策推進(インフレでの医療給付費の在り方と、現役世代の保険料負担抑制との整合性を図るための制度的対応)(2)医療介護分野における保険者の権限及び機能の強化並びに都道府県の役割強化(i:保険者の再編統合、ii:医療介護保険システムの全国統合プラットフォームの構築、iii:介護保険サービスに係る基盤整備の責任主体を都道府県とする等)(3)病院機能の強化、創薬機能の強化、患者の声の反映及びデータに基づく制度設計を実現するための中央社会保険医療協議会の改革(4)医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現(5)年齢に関わらず働き続けることが可能な社会を実現するための「高齢者」の定義見直し(6)人口減少下でも地方の医療介護サービスが持続的に提供されるための制度設計(7)国民皆保険制度の中核を守るための公的保険の在り方及び民間保険の活用に関する検討(8)大学病院機能の強化(教育、研究及び臨床を行う医療従事者として適切な給与体系の構築等)(9)高度機能医療を担う病院の経営安定化と従事者の処遇改善(診療報酬体系の抜本的見直し)(10)配偶者の社会保険加入率上昇及び生涯非婚率上昇等をも踏まえた第三号被保険者制度等の見直し(11)医療の費用対効果分析に係る指標の確立(12)医療機関の収益構造の増強及び経営の安定化を図るための医療機関の営利事業の在り方の見直し(13)医療機関における高度医療機器及び設備の更新等に係る現在の消費税負担の在り方の見直し● 昨今の物価高騰に伴う病院及び介護施設の厳しい経営状況に鑑み、病院及び介護施設の経営状況を好転させるための施策を実行する。ざっと見ればわかる通り、1番目と2番目の●で語られていることはほぼ理念的なものである。そして3番目の●については、引用通り13項目の記載事項がある。これを独断と偏見で評価してみよう。最も現実味を帯びている施策まず、俯瞰的に見ると、どれも今年度末に骨子をまとめるのは難しいものばかりだ。診療報酬改定の議論中に(3)を行うのが難しいことは明らかであり、(5)の高齢者定義の見直し、(7)の医療での民間保険活用や(2)(10)(11)(12)(13)は法制度の根本的な見直しが必要な項目であり、いずれにせよ今年度残り5ヵ月で議論できるものではない。(1)(6)(8)は、強いて言うならば理念的な方向性を示すくらいは可能だろう。その意味では法制度のマイナーチェンジで対応可能なのは(4)と(9)くらいだろうか?最後の●は(9)に通じるものがあり、高市氏は総裁選公約や首相就任会見と所信表明演説で医療機関と介護施設の支援は繰り返し表明しているので、これは何らかの形で手当てするだろうと思われる。ただ、これについて以前の本連載でも触れたように財務省が無条件で認めるはずはない。では、どのような“条件”となるのか? 実は高市氏の所信表明演説の以下の発言にヒントが隠されていると個人的には推察している。「新たな地域医療構想に向けた病床の適正化を進めます」つまりは病院については、病床削減あるいは病床転換などを条件に補助金を支給する可能性が考えられる。実は自民党として病床適正化について、初めて言及したのは高市氏ではない。これも以前、参院選直前の各党マニフェストの変化について本連載で触れた時(第270回、第271回)に紹介したが、石破政権期に新たに自民党の政策としてひっそり盛り込まれたものだ。しかも、これは維新が参院選マニフェストで掲げた「人口減少等により不要となる約11万床の病床を不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減」と方向性は同じだ。さすがに一気に11万床の削減を進めるとは思えないが、いつどのくらいの規模で進めるかが焦点と言えるだろう。一方、(4)の応能負担は、従来からの維新の核心の主張とも言えるが、高市氏が内閣発足とともに新たに厚労相に就任した上野 賢一郎氏に渡した指示書では「全ての世代で能力に応じて負担し支え合い、必要な社会保障サービスが必要な方に適切に提供される『全世代型社会保障』を構築する」となっている。一見すると、応能負担推進ともとられかねないが、「全世代型社会保障」の概念では以前から言われていることであり、新鮮味があるわけではない。もっともこの自維政権成立に水を得た魚のごとく対応しているのが財務省である。11月5日に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会では、現在原則2割である70~74歳の高齢者の医療費の自己負担割合を、現役世代と同じ3割にすることを提案してきた。この辺は今年10月から後期高齢者の中でも一定以上所得がある人について、介護保険の1割負担を2割負担に変更した経緯を見れば、法制度改正の議論に1~2年、法制度改正から完全実現に2~3年はかかるテーマである。このようにしてみると、高市政権下で社会保障制度改革がどこまで進むのかは、まだなかなか見通せないと感じている。

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