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乳がんT-DXd直後の抗HER2療法、効果が期待できる患者は?(EN-SEMBLE)/ESMO Open

 再発または転移を有するHER2陽性乳がん患者を対象に、日本の実臨床下においてトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の中止直後に実施した治療レジメンの分布、有効性、間質性肺疾患(ILD)の発現率を検討したEN-SEMBLE試験の結果を、名古屋市立大学の能澤 一樹氏がESMO Open誌2025年8月号で報告した。その結果、患者の73%がT-DXd中止直後の治療として別の抗HER2療法をベースとした治療を受けており、有害事象(AE)のためにT-DXdを中止した患者や奏効を得られた患者では抗HER2療法を逐次的に行うことで利益を得られる可能性があることを明らかにした。 対象は、特定使用成績調査に登録し、再発または転移を有するHER2陽性の乳がんに対して、2020年5月25日~2021年11月30日にT-DXdの投与を開始したものの中止し、後治療を開始した患者であった。評価項目は、T-DXd中止直後の治療レジメンの分布、リアルワールドにおける無増悪生存期間(rwPFS)、治療成功期間(rwTTF)、後治療までの期間(rwTTNT)、全生存期間(OS)、ILD発現率などであった。追跡期間中央値は12.0(範囲:0.3~36.2)ヵ月。 主な結果は以下のとおり。・解析には664例の患者が含まれた。・T-DXdによる治療の前に受けた全身治療は、トラスツズマブ(93.4%)、ペルツズマブ(90.5%)、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)(91.3%)などであった。前治療ライン数中央値は3であった。・T-DXdの投与期間中央値は8.1ヵ月であった。T-DXd中止理由は病勢進行が67.5%、ILDが22.0%、その他のAEが5.1%であった。・T-DXd直後の後治療開始時点の患者背景は、年齢中央値60歳、ECOG PS 0/1が86.9%、内臓転移ありが79.8%、脳転移ありが23.0%であった。・T-DXd直後の後治療として、抗HER2療法を受けたのは73.2%であり、内訳は抗HER2抗体が54.4%、HER2チロシンキナーゼ阻害薬(HER2-TKI)が17.0%、T-DM1が1.8%であった。・後治療としての(1)全体、(2)抗HER2抗体、(3)HER2-TKI、(4)T-DM1の主な結果は以下のとおり。 【rwPFS中央値】(1)4.1ヵ月、(2)4.1ヵ月、(3)4.3ヵ月、(4)2.6ヵ月 【rwTTF中央値】(1)3.8ヵ月、(2)3.9ヵ月、(3)4.2ヵ月、(4)2.0ヵ月 【rwTTNT中央値】(1)5.0ヵ月、(2)5.1ヵ月、(3)5.3ヵ月、(4)3.0ヵ月 【OS中央値】(1)16.2ヵ月、(2)17.2ヵ月、(3)16.3ヵ月、(4)9.3ヵ月 ・抗HER2抗体vs.HER2-TKIのrwPFSとOSの結果に有意差は認められなかった。・全体集団におけるT-DXdの中止理由別の転帰は、ILDを含むAEによりT-DXdを中止した患者は、病勢進行によりT-DXdを中止した患者よりも良好であった。 【病勢進行による中止】rwPFS中央値:3.5ヵ月、OS中央値:12.0ヵ月 【全AEによる中止】rwPFS中央値:7.3ヵ月、OS中央値:32.4ヵ月 【ILDによる中止】rwPFS中央値:7.2ヵ月、OS中央値:32.4ヵ月 【ILD以外のAEによる中止】rwPFS:10.2ヵ月、OS中央値:未到達・T-DXd直後の後治療でILDは664例中10例(1.5%)に発現した。T-DXd治療中にILDが発現し、後治療でILDが再発/増悪したのは155例中5例(3.2%)であった。

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無害と考えられていたウイルスがパーキンソン病に関与か

 かつては人間には無害だと考えられていた一般的なウイルスが、パーキンソン病(PD)に関連している可能性のあることが新たな研究で明らかになった。PD患者の剖検脳の半数から、C型肝炎と同じフラビウイルス科に属する血液媒介性ウイルスであるヒトペギウイルス(HPgV)が見つかったのに対し、PDではない人の脳からは検出されなかったという。米ノースウェスタン・メディシンで神経感染症およびグローバル神経学部門長を務めるIgor Koralnik氏らによるこの研究結果は、「JCI Insight」に7月8日掲載された。 Koralnik氏は、「HPgV感染症は珍しいものではなく、症状も現れないが、脳への感染が頻繁に起こることはこれまで知られていなかった。PD患者の脳でこれほど高頻度にHPgVが認められたのに対し、PDではない人では認められなかったことには驚かされた」と話している。 PDは、ドパミンと呼ばれる脳の重要な神経伝達物質を産生する脳細胞が変性・減少することで発症する。ドパミンレベルが減少すると、手足の震え(振戦)や筋肉のこわばり(筋硬直)などの運動症状が現れ、バランス維持や協調運動が障害される。米国でのPD罹患者数は100万人以上に上り、年間約9万件の新規症例が報告されている。ほとんどのPD症例は遺伝とは関連がない。そのため、ドパミンを産生する神経細胞の減少を引き起こす原因は何なのかという疑問が投げかけられている。 この研究では、PD患者10人と、年齢と性別を一致させた非PDの対照14人の扁桃体、後部被殻、および上前頭皮質の剖検脳を、全ウイルス叢を対象としたシーケンシングツールであるViroFindと定量PCRを用いて評価した。 その結果、PD患者の10例の剖検脳中の5例でHPgVが検出されたのに対し、対照群の脳では検出されなかった。またPD患者では、脊髄液からもウイルスが検出されたが、対照群の脊髄液からは検出されなかった。さらに、HPgV陽性のPD患者では、PDの病理学的変化を分類するBraakステージとシナプス関連タンパク質であるComplexin-2のレベルが高く、神経病理がより進行していることが示された。 Koralnik氏らは次に、PD研究に利用可能なバイオサンプルライブラリであるPD進行マーカーイニシアチブ(PPMI)の参加者1,393人のベースライン時の全血RNAデータを取得し、HPgV感染と免疫応答、および遺伝的背景との関連を解析した。その結果、HPgV陽性PD患者では、脳と血液の両方で重要な上流の免疫調節因子であるIL-4のシグナルが対象群と比較して低下していることが明らかになった。さらにこの傾向は、PDに関連する遺伝子LRRK2の変異の有無により異なることも示された。具体的には、LRRK2遺伝子変異を有するHPgV陽性PD患者では、HPgV量が多いほどIL-4シグナルが低下するのに対し、変異を有さないHPgV陽性PD患者では、HPgV量が多いほどIL-4シグナルも上昇していた。 Koralnik氏は、「HPgVは、われわれがまだ把握していない方法で体と相互作用する環境要因なのかもしれない。無害だと思われていたウイルスがPD患者に対して重要な影響を及ぼし、特に、特定の遺伝的背景を持つ人では、PDの発症や進行に関与している可能性がある」と述べている。 研究グループは、PD患者の間でHPgVがどの程度見られるのか、また、それがどのようにして脳障害を引き起こし得るのかを、今後も追跡調査する予定だとしている。Koralnik氏は、「われわれは、HPgVと遺伝子がどのように相互作用するかを理解することを目指している。こうした知見は、PDの発症メカニズムを解明し、将来の治療法開発に役立つ可能性がある」と話している。

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加熱式タバコの使用が職場における転倒発生と関連か

 運動習慣や長時間座っていること、睡眠の質などの生活習慣は、職場での転倒リスクに関係するとされているが、今回、新たに「加熱式タバコ」の使用が職場における転倒発生と関連しているとする研究結果が報告された。研究は産業医科大学高年齢労働者産業保健センターの津島沙輝氏、渡辺一彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月6日掲載された。 転倒は世界的に重大な公衆衛生上の懸念事項である。労働力の高齢化の進む日本では、高齢労働者における職場での転倒の増加が深刻な安全上の問題となっている。この喫緊の課題に対し、政府は転倒防止のための環境整備や、労働者への安全研修の実施などの対策を講じてきた。しかし、労働者一人ひとりの生活習慣の改善といった行動リスクに着目した戦略は、これまで十分に実施されてこなかった。また、運動習慣や睡眠などの生活習慣が職場での転倒リスクと関連することは、複数の報告から示されている。一方で、紙巻タバコや加熱式タバコなどの喫煙習慣と転倒リスクとの関連については、全年齢層を対象とした十分な検討がなされていないのが現状である。このような背景を踏まえ、著者らは加熱式タバコの使用と職業上の転倒との関連を明らかにすることを目的として、大規模データを用いた全国規模の横断研究を実施した。 本研究では、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS Study)」のデータを用いた。主要評価項目は過去1年間の職場における転倒、副次評価項目は転倒関連骨折とした。発生率と95%信頼区間(CI)は、ロバスト分散を用いた2階層のマルチレベル・ポアソン回帰モデルにより推定された。 本研究の解析対象は18,440人(平均年齢43.2歳)であり、女性は43.9%含まれた。全体のうち、7.3%が過去1年間に職場における転倒を経験し、2.8%で転倒関連骨折を報告していた。年齢や性別などの交絡因子、喫煙状況、飲酒習慣、睡眠といった行動因子を調整した結果、職場における転倒発生率は、現在喫煙している人の方が、非喫煙者より高かった(IR 1.36、95%CI 1.20~1.54、P<0.05)。この傾向は、加熱式タバコのみ使用している人(IR 1.78、95%CI 1.53~2.07、P<0.05)、紙巻きたばこと加熱式タバコの両方を使用している人(IR 1.64、95%CI 1.40~1.93、P<0.05)で顕著だった。転倒関連骨折においても同様の傾向が示された。その他の生活習慣では、極端な睡眠時間(0~5時間または10時間以上)、併存疾患(高血圧、脂質異常症、糖尿病)、睡眠薬または抗不安薬の常用、などが転倒発生率の上昇と関連していた。年齢別にみると、喫煙と転倒および転倒関連骨折との関連は若年労働者(20~39歳)で顕著だった。特に加熱式タバコを使用している若年層でこの傾向がより強くみられた。 本研究について責任著者である財津將嘉氏は、「本研究では、若年労働者においても加熱式タバコを含む喫煙が職場での転倒や関連骨折と関連していることが明らかとなった。実際に観察された転倒の半数以上は若年層で発生しており、従来高齢者に焦点が当てられてきた転倒予防策を、若年層にも広げる必要性が示唆された。若年労働者は転倒リスクの高い職場に配属されやすく、年齢や職場環境の影響を考慮することが重要である。また、禁煙を促すナッジ戦略も有効と考えられる」と述べている。

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第36回 重症熱中症には“Active Cooling”を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識レベルと体温に注目し、重症度を瞬時に見極めよう!2)重症熱中症では、まず「冷やす」ことが最優先! 3)冷却しながら、見逃してはいけない背景病態にも目を向けよう!【症例】74歳女性。自宅の庭で倒れているのを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであった。●受診時のバイタルサイン意識200/JCS血圧108/54mmHg脈拍128回/分呼吸25回/分SpO296%(RA)体温40.5℃既往歴不明内服薬不明熱中症2025今年は昨年を上回る勢いで熱中症が発生しています。梅雨がいつ明けたのかわかりませんが、とにかく暑く、気温の乱高下が激しく大変ですよね。電車内や屋内は、冷房の影響で寒く、外はうだるような暑さ、この差にも身体が堪え、これまで以上に身体に負担がかかっていることと思います。救急外来にも6月後半から熱中症患者が来院し、日に日に増加しています。多くの方は帰宅可能ですが、中には入院を要する重篤な転帰を辿る方もいます。暑熱順化が大切であり、熱中症を発症しないことが何よりも大切ですが、起こってしまった場合には然るべき対応を淡々と行うしかありません。そのためには、熱中症を早期に見抜き、重症度を見誤ることなく対応することが必要不可欠です。熱中症の重症度について「第33回 熱中症、初動が大事!」でも取り上げましたが、熱中症の重症度分類は従来の3段階から4段階へと変更されました(表1、2)1)。重要なポイントは、発生場所などの病歴から熱中症を早期に疑い、重症度の高いIV度やqIV度の症例に対して、迅速に介入することです。表1 熱中症の重症度分類画像を拡大する表2 熱中症の重症度分類(最重症群)画像を拡大する“Cool First,Transport Second!”重症度の高い熱中症に対しては、何よりも冷却が重要です。もちろん、バイタルサインを安定させることが最優先ですが、それと並行して積極的に冷却を行う必要があります。冷やした輸液を投与しただけで安心してはいけません。重症例では“Active cooling”が推奨されており、冷却輸液のような“Passive cooling”では効果が不十分とされています。最も効果的な冷却手段を選択し、迅速に実施することが求められます。冷却方法『熱中症診療ガイドライン2024』(日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会編)には、「CQ3-02:熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か?」というClinical Question(CQ)が提示されています。選択肢として、以下の10の方法が挙げられています。1)冷水浸水 (Cold water immersion)2)蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling)3)胃洗浄(Cold water gastric lavage)4)膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)5)血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)6)体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation:ECMO)7)腎代替療法 (Renal replacement therapy)8)ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system)9)クーリングブランケット(Cooling blankets)10)局所冷却(Ice packs)このCQに対して、ガイドラインでは「熱中症診療における特定の冷却法について、明確な推奨は提示しない」と記載されています。その理由としては、特定の冷却法を支持する明確な根拠が乏しく、エビデンスの強さも十分ではないこと、また、それぞれの方法における有益性と有害性のバランスが明確でないと判断されたためです。では、どの冷却法を選べばよいのでしょうか。大切なのは、「安全に実施できること」および「自施設で対応可能であること」です。そうした手段を用いて最善を尽くすことが望ましいと考えられます。 私のお勧めは冷水浸潤(Cold water immersion:CWI)です。冷却効果が最も高く、スタッフが協力すれば安全に実施可能です(治療の詳細は後述します)。 たとえ体外式膜型人工肺(ECMO)や腎代替療法が理論的に有効であっても、すぐに準備できるわけではありませんし、これらは保険適用外である点も考慮が必要です。また、血管内体温管理療法は徐々に普及しつつあるものの、中心静脈穿刺が必要であり、治療コストも高いため、すべての医療機関で実施できるわけではありません。CWIの実際みなさんの施設では、CWIを実施しているでしょうか。手技自体はシンプルに見えますが、導入には意外と多くの準備や配慮が必要です。CWIとは、患者さんを水風呂のような冷水に浸し、体温を下げる方法です。 意識のはっきりしている若年者であれば、比較的容易に施行できますが、重症度の高い熱中症、とくに本症例のような高齢者の場合には、いくつか注意すべき点があります。(1)場の確保通常の診察室内での実施は困難です。CWIには専用のプールのような設備が必要であり、当院では空気で膨らませるタイプの介護用浴槽を使用しています。また、大量の水と氷を使用するため、水回りの環境も重要です。当院では、スペースと水の確保がしやすい除染室を使用しています。(2)人手の確保CWIが必要となるのは、重症度III~IV度の重篤な熱中症であり、気道管理を含む全身管理が必要となることが多く、人手を要します。医師や看護師を数名ずつ確保することが望ましいですが、手技の流れを理解しているスタッフであれば、医療職以外の協力も可能です。(3)深部体温のモニタリングqIV度では深部体温による重症度評価は必須ではありませんが、CWI中に過冷却を起こすリスクがあるため、深部体温(たとえば膀胱温など)をモニターしながらの介入が望まれます。(4)氷の確保水道水の温度は季節によっては高く、単独では十分な冷却効果が得られないことがあります。そのため、氷を用いて水温を下げる必要があります。あらかじめ準備手順を整備し、速やかに対応できるようにしておきましょう。クーラーボックスなどを常備しておくと便利です。(5)シミュレーションの実施CWIを年間に何十例も施行する施設はまれであり、個人単位でみると経験はごく少数に止まることが想定されます。そのため、実施機会に備えて事前にチーム全体でシミュレーションを行っておくことが重要です。毎年実施していても、その年の最初の1例目では混乱しやすいものです。新規スタッフの教育も兼ねて、定期的なトレーニングをお勧めします。※なお、当院ではCWIの実施に備えて定期的にシミュレーションを行っており、その様子を収めた簡易的な動画もあります。詳細な手技の解説までは含まれていませんが、実際の雰囲気をつかむには十分かと思いますので、ぜひご参考になさってください。早期に意識すべき3つの原因熱中症を疑うこと自体は比較的容易ですが、意識障害や体温の上昇が必ずしも熱中症だけを原因とするとは限りません。熱中症単独であれば、体温管理と輸液によって症状の改善が期待できますが、そもそも熱中症に至った背景に他の原因がある場合には、当然ながらその病態への介入が不可欠となります。 原因は多岐にわたりますが、まずは以下の3つを早期に意識しておくことが重要です。1)敗血症2)脳卒中3)外傷たとえば、敗血症により体動が困難となり熱中症を併発したケース、脳卒中を発症して動けなくなり熱中症を来したケース、あるいは熱中症による症状で転倒し、外傷を負った(あるいはその逆)ケースなど、救急外来ではしばしば遭遇します。これらのケースでは、抗菌薬の投与をはじめとした、それぞれの病態に応じた適切な対応が必要となります。 とはいえ、「原因検索を行ってから冷却を開始する」のでは遅すぎます。重症度の高い熱中症では、こうした原因を意識しつつも、冷却を迅速に開始することが求められます。CWIを実施することができれば、数十分のうちに目標体温に到達することも可能です。ぜひ実践してみてください。 1) 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024

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発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(2)【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第7回

発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(2)Question以下の心電図波形の方にベラパミルが投与され、瞬間的に以下の波形となりました。頻脈性不整脈(心房頻拍、心房粗動、房室回帰性頻拍[AVRT]、房室結節回帰性頻拍[AVNRT]のいずれか)の可能性はあるでしょうか?画像を拡大する

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第274回  文科省「今後の医学教育の在り方」検討会と厚労省「特定機能病院あり方検討会」の取りまとめから見えてくる大学病院“統廃合”の現実味(後編)

病院の建物は新しいが臨床研究棟はボロボロの大学医学部こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3ヵ月ほど前になりますが、ある取材で私立の医科大学を3大学ほど訪れました。中部地方2大学、九州地方1大学です。驚いたのは医学部の教室が入っている建物(いわゆる臨床研究棟と呼ばれているもの)がどこもボロボロだったことです。ある大学など築50年近く経っていたのではないでしょうか。いずれの医科大学も患者が訪れる病院の建物は比較的新しく、医療機器も最新機器に更新されているようですが、教授陣以下、医学部で研究する人々の環境は“昭和”の時代のまま止まっているようでした。それだけ、医科大学の経営が厳しいということなのでしょう。加えて、どこの大学の教授室にも何のチェックもなくスルスルと辿り着けたのも気になりました。経費削減のためと思われますが、企業の取材ではほぼあり得ないことです。大学医学部は研究面だけでなく、防犯面でも課題がありそうだと感じた次第です。さて、前回、国立大学病院長会議が7月9日に発表した2024年度の決算(速報値)について書きました。全国42国立大学病院のうち、減価償却などの費用を含む2024年度経常損益では29病院が赤字であり、42大学の経常損益の合計額は過去最大の285億円マイナスという驚くべき数字でした。そして、東京科学大学病院や筑波大学附属病院など赤字の国立大学病院が、病床稼働率の向上や手術件数の増加といった、涙ぐましい経営努力をしている現状も紹介しました。そんな中、文部科学省は7月14日、「今後の医学教育の在り方に関する検討会」による「第三次取りまとめ」1)を公表しました。同検討会は2023年5月から15回にわたって議論を行い、これまでに「第一次中間取りまとめ」(2023年9月)、「第二次中間取りまとめ」(2024年6月)を公表しています。「第一次中間取りまとめ」をきっかけに、文科省は2024年3月に「大学病院改革ガイドライン」を策定、国立・私立ともに今後6年間に取り組む「改革プラン」の策定を各大学に求めました。今回の「第三次取りまとめ」は、医師の働き方改革をきっかけに激変した大学病院の経営環境を踏まえ、どう医学部・大学病院の教育研究環境を確保し、同時に大学病院の経営改善を図っていくかについて、今後の方向性を取りまとめたものです。大学病院を全国一律に捉えず、それぞれ必要とされる分野で機能・役割分化を促していく、というなかなか興味深い内容になっています。「全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」「第三次取りまとめ」でまず気になったのは、「II.医学部・大学病院を巡る状況と今後の方向性について」の章にある「大学病院の役割・機能として、診療だけでなく、教育や研究も欠かすことができないが、所在する地域の状況や医師の働き方改革等大学病院を取り巻く様々な環境の変化によって、全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」の一文です。その上で、「文部科学省が各大学病院の病院長と行った意見交換では、全ての大学病院が教育・研究・診療を担うことは重要と考えている一方で、全ての役割を一様に最大限に取り組むことには限界があり、地域の医療提供体制や各病院の財政状況、組織体制等に応じて、担うべき役割のエフォート配分を検討する必要があるとの意見も多くあった」と書かれています。つまり、「大学病院=教育・研究・診療が揃っているもの」という一律的な捉え方はもはや古く、教育に重点を置く大学病院、研究に重点を置く大学病院、診療に重点を置く大学病院というように、機能分化せざるを得ない状況だと断言しているのです。実際、今年2月に開かれた「第11回 今後の医学教育の在り方に関する検討会」で配布された「医師の働き方改革施行後の大学病院の現状と課題について」と題された資料を見ると、臨床医学分野の論文数・Top10%補正論文数や、競争的研究費の新規獲得状況などで全国の大学医学部には大きな開き、格差があることがわかります。現状、「研究」が行われているのは旧帝大や一部の私大に集中しており、それ以外の大学は教育(人材養成)と診療(地域医療)に注力しろ、というのが文科省の本音と言えそうです。「第三次取りまとめ」、地域医療構想と特定機能病院見直しにも言及そうした意味から、「第三次取りまとめ」では地域医療構想と特定機能病院見直しにも言及しています。まず、地域医療構想については、「厚生労働省の『新たな地域医療構想に関するとりまとめ』において、大学病院本院が担う『医育及び広域診療機能』を含む医療機関機能を、新たに位置付けることとしているなど、人口減少や高齢化が急速に進む中で地域の医療提供体制を維持していくために、大学病院は、都道府県に対し、地域医療構想の推進に関して様々な形で協力・貢献することが一層求められており、大学病院における組織的かつ主体的な取組が求められる」と、積極的に関わっていくことを求めています。「大学病院は、全ての診療科をそろえた総合的な医療提供体制の確保や、地域医療構想とも整合した地域貢献といった機能を担っている」「特定機能病院見直し」とは、厚生労働省の「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」で議論が進む、特定機能病院の要件見直しのことです。同検討会では、特定機能病院について、全大学病院本院が満たすべき「基礎的基準」を設定すると共に、個々の大学病院が地域の実情も踏まえて自主的に実施している取り組みを「発展的(上乗せ)基準」によって評価する案が検討中です。文科省の「第三次取りまとめ」はこの案について、「大学病院は、地域によっては、高難度の外科手術や難治性疾患の治療のような高度な医療のほか、全ての診療科をそろえた総合的な医療提供体制の確保や、地域医療構想とも整合した地域貢献といった機能を担っているものがある。このことも踏まえ、国は、大学病院の在り方の検討等を含めた取組について、特定機能病院の見直しや本取りまとめの趣旨に留意しながら、引き続き進めることが重要である」としています。つまり、大学病院は高度医療も重要だが、地域医療構想に即してほかの医療機関とも連携して地域の医療提供体制の構築に貢献することも重要な役割、と言っているのです。2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」は大学病院のリストラも迫るものとなると、これからとくに500床以上あるような地域の基幹病院と大学病院との差別化が問題となってきそうです。新たな地域医療構想では、さらなる病床の機能分化が進められ、なおかつ人口規模が小さ過ぎる構想区域は統合されることになります。人口減が急速に進む中、病院の統廃合は今まで以上に加速することになるでしょう。そうした統廃合の流れから大学病院だけが守られるとは考えられません。「構想区域の統合」はやがて「大学病院の統廃合」にもつながっていくでしょう。医師の養成機能はどうするんだ、と言われそうですが、そもそも人口減で医師の需要も減っていくわけですから(専門医の需要はとくに)、医学部の統廃合のほうが先になるかもしれません。文科省の「第三次取りまとめ」の中の「III.大学病院の機能等別の課題と対応方策等」の章の「1.運営、財務・経営改革」の項目では、持続可能な大学病院運営のため、大学全体だけではなく病院単独の貸借対照表を作成するなど、詳細な資産状況を把握する取り組みを促すことが重要だと提言しています。これは、うがった見方をすれば、「将来起こるであろう統廃合や買収の準備をしておけ」ということかもしれません。田中 角栄が50年以上も前に唱え実現した「一県一医大」は、今となっては国にとって大きな財政負担、お荷物になってきています。2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」は大学病院、医学部のリストラも迫る政策だということを、大学医学部関係者はしっかりと肝に銘ずるべきでしょう。参考1)今後の医学教育の在り方に関する検討会 第三次取りまとめ/文部科学省

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帯状疱疹、発生率が高まる時期は?/MDV

 帯状疱疹ワクチンの65歳以上への定期接種が2025年4月よりスタートした。同年3月に「帯状疱疹診療ガイドライン2025」の初版が発刊されたほか、海外での新たな研究では、帯状疱疹ワクチン接種による認知症リスクの低下1,2)や心血管疾患リスク抑制3)も示唆されており、今注目されている疾患領域である。 その帯状疱疹の国内患者推移について、メディカル・データ・ビジョンは自社の保有する国内最大規模の診療データベースから抽出した317施設の2019年1月~2025年3月のデータを対象に調査を行い、7月15日にプレスリリースを公表した。7~10月、患者増の可能性 調査結果によると、毎年2月は患者数が減少し、3月から春先にかけて増加する傾向がみられた。また、7月から10月にかけても患者数が増加する傾向にあり、夏から秋にかけて発症が増える季節性が認められた。一方、11月から翌年1月にかけては患者数がやや横ばい、あるいは減少傾向であった。同社はこれらの理由として、気温や湿度の変化、夏季の疲労蓄積、免疫力の低下などとの関連を挙げた。さらに男女・年齢別の傾向としては、年齢とともに増加傾向となり、70代の患者数が最も多く、女性のほうがやや多い結果を示した。PHNの発症率、治療薬の処方動向 帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)の発症率については、年齢とともに増加する傾向がみられ、とくに80代が最も高く、全体を通じて男性でわずかに高い傾向であった。治療薬は、アシクロビル、バラシクロビルの順に処方量が多かったが、全体的には各薬剤とも大きな変動はなく安定した使用状況を維持。アシクロビルに関しては2021年以降やや増加傾向であったという。

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統合失調症患者の認知機能改善に対するメトホルミンのメカニズム

 認知機能低下は、統合失調症の長期予後に悪影響を及ぼす病態であるが、効果的な臨床治療戦略は依然として限られている。トリカルボン酸(TCA)回路の破綻と海馬における脳機能異常が認知機能低下の根底にある可能性が示唆されているが、これらの本質的な因果関係は十分に解明されていない。とくに、ビグアナイド系糖尿病薬であるメトホルミンは、統合失調症患者のさまざまな認知機能領域を改善することが示されており、TCA回路を調節する可能性がある。中国・The Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのJingda Cai氏らは、以前、研究において、メトホルミン追加投与が統合失調症患者の認知機能を改善することを報告した。本研究では、認知機能改善とTCA回路代謝物および脳機能との関連を調査した。BMC Medicine誌2025年7月1日号の報告。 対象は、同様の状態にある統合失調症患者58例。メトホルミン1,500mgを24週間追加投与したメトホルミン群と対照群に割り付けた。液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いて統合失調症患者の血中における主要なTCA回路代謝物の濃度を検出し、MRIスキャンを実施した。臨床症状の評価には陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、認知機能の評価にはMATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)中国語版を用いた。 主な結果は以下のとおり。・メトホルミン投与24週間後、TCA回路におけるアップストリームの乳酸(24週目:−80.81μg/mL[−96.85〜−64.77])、ピルビン酸(24週目:−17.51μg/mL[−20.52〜−14.49])レベルが低下した。一方、他の7つのダウンストリームの代謝物レベルは上昇した(各々、p<0.001)。・左海馬尾部と右内腹側後頭葉皮質(12週目の群間差:−0.334)、右海馬尾部と右中前頭回(24週目の群間差:0.284)との間の機能的連結性は両群間で有意な差が認められた(p<0.001)。・メトホルミンによる認知機能(ワーキングメモリー/言語学習)および海馬機能連結性(右海馬尾部と右中前頭回)の改善は、TCA回路代謝物の変化と関連していた。 本研究の限界として、サンプル数やフォローアップ期間が不十分な点、メカニズムの詳細は検討が不十分な点が挙げられる。 著者らは「統合失調症患者に対するメトホルミン追加投与は、エネルギー代謝を調節することで、認知機能を改善する可能性が示唆された」と結論付けている。

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血液病理認定医が直面している難渋するリンパ腫診断/日本リンパ腫学会

 2025年7月3~5日に第65回日本リンパ腫学会学術集会・総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月5日、竹内 賢吾氏(公益財団法人がん研究会 がん研究所)を座長に行われた学術・企画委員会セミナーでは、「How I diagnose lymphoma」と題して、5名の病理認定医より、日常診療で直面している具体的な診断の揺らぎや分類の曖昧さに対する自身の対応や見解について共有および議論がなされた。 診断の揺らぎは、解析データの不足、診断者の力量に起因することもあるが、WHO分類におけるさまざまな病型定義や診断基準の曖昧さによる影響が大きいと考えられる。そもそも分類とは、その制定までに理解可能となった定型例により構成されており、その曖昧さは、明瞭な記載が不可能だという消極的な理由のほかに、非定型例について将来の研究に委ねたいとの観点から積極的に設けられた緩衝地帯といえる。このような緩衝地帯においては、現在の知見のみで、誰かが決断を下さなければ治療に向かうことができないことからも、知見の共有は重要である。 本セミナーでは、大石 直輝氏(山梨大学大学院総合研究部医学域人体病理学講座)、加藤 省一氏(佐賀大学医学部 病因病態科学講座 診断病理学分野)、加留部 謙之輔氏(名古屋大学 大学院医学系研究科 臓器病態診断学)、佐藤 康晴氏(岡山大学学術研究院 分子血液病理学)、百瀬 修二氏(埼玉医科大学総合医療センター 病理部)の5名の病理認定医より講演が行われた。今回は、そのうち3つの演題を取り上げる。確定診断には血液内科医と病理医の連携は不可欠 形質芽球性リンパ腫(PBL)の診断について、大石氏は発表された。PBLは、形質芽球/免疫芽球の形質、B細胞の最終分化段階の免疫学的形質を有する大細胞異常B細胞の増殖からなる高悪性度リンパ性腫瘍であり、主に節外臓器に発生する。PBLの鑑別診断は多様かつ複雑であり、情報が限られているため確定診断が難しく、形質細胞腫にとどめざるを得ないこともあるため、とくに病理医と血液内科医のチームワークが求められる。そのうえで「丁寧な臨床病理相関を検討することが必要とされる」と述べている。また「そもそも形質芽球は概念上の細胞なのか、実在するのか」「形質芽球リンパ腫はリンパ腫なのか、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)との整合性は」「形質芽球リンパ腫が形質細胞腫と診断された場合の臨床的インパクトは」「EBV陽性形質細胞腫からEBV陽性PBLへの進展はあるのか」などの疑問が今後明らかになっていくことが期待されるとしている。ダブルヒットリンパ腫とBL/DLBCL境界例診断のコツは ダブルヒットリンパ腫(DHL)を含む高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)の診断について、加留部氏が発表された。MYCとBCL2転座を有するDHLは予後不良であり、その多くはバーキットリンパ腫(BL)/びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)境界例に含まれているが、BL/DLBCLの多くがDHLというわけではなく、DHL以外のBL/DLBCLはHGBL,NOSに分類される。これらはいずれも予後不良であり、適切な治療に結びつけるためにも、正確な診断が求められる。一方で、加留部氏は「HGBL,NOSの診断は乱発するものではなく、形態診断は異なっているが、他の所見も併せて判断したほうが無難である」と述べている。また、HGBLのなかでも11qを伴う場合には、予後は良好であるため、HGBL,NOSとの鑑別は重要となる。そのため、BLが強く疑われるにも関わらずMYC転座が認められない場合には、11qのFISHを行う価値が高いと考えられる。BLとDLBCLとの鑑別は、その後の治療選択においても重要であるが、境界例ではとくに慎重な診断が求められることとなる。最後に、ダブルヒット濾胞性リンパ腫(FL)の診断は、現状DHLではなくFLとして考えるとされており、FLに準じた診断治療を行うべきであるが、形質転換により悪性度が急激に上昇するため、より慎重に検索すべきであり、広い範囲での摘出生検の必要性を強調した。LBCLで低悪性度コンポーネントをどこまで考慮すべきか 百瀬氏は、LBCLにおける低悪性度コンポーネントの存在をどこまで追求すべきかについて、考えを述べられた。LBCLの背景には、マントル細胞リンパ腫(MCL)、FL、辺縁帯リンパ腫(MZL)などの低悪性度コンポーネントがあるかどうか、標本上LBCLのみである場合にどこまで追求すべきなのであろうか。LBCLでは、最終的にCCND1陽性MCLとなる頻度は1/300〜500であり、LBCLのMCL、pleomorphicの抽出にCD5発現は向いていない。cyclin D1の発現による抽出は有効ではあるものの、cyclin D1陰性例の取りこぼしが生じる可能性があることから、SOX11での拾い上げが有効かもしれないと述べている。しかし、自験例においてもSOX11陰性MCLが一定頻度で見られる可能性があるとした。これらを踏まえ、百瀬氏は「現時点でLBCLにおけるMCLスクリーニングではcyclin D1を用いることが良いと考えている」と本発表をまとめた。

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心停止ドナー心の新たな摘出・保存法/NEJM

 米国・ヴァンダービルト大学医療センターのAaron M. Williams氏らの研究チームは、循環が停止したドナー(DCD)から移植用の心臓を摘出する際に、従来のnormothermic regional perfusion(NRP)やdirect procurement and perfusion(DPP)を必要としない方法として、rapid recovery with extended ultraoxygenated preservation(REUP)法を開発した。本論文では、従来法の問題点、REUP法を適用した最初の3例の治療成績、この手法が今後の心臓移植に及ぼす影響について解説している。研究の詳細は、NEJM誌2025年7月17日号で短報として報告された。DPPは複雑で高価、NRPには倫理的問題 DCDからの心臓移植における心臓摘出では、通常、DPPまたはNRPのいずれかが行われる。 DPPでは、ドナーの循環停止を確認後に心臓を摘出する。市販の体外装置を使用して心臓蘇生を行うが、この装置は複雑で大きな労力を要するうえに高価で、移植心臓の機能障害のリスクが増加する可能性もある。 NRPでは、死亡宣告後に膜型人工肺などを装置し、灌流を再開して体内で心臓蘇生を行い、心機能を評価して移植の適否を決める。DPPに比べ操作が容易で、臓器の回収率が高く、心臓と腹部臓器の移植において優れたアウトカムが示されている。 その一方で、NRPは主に次の2つの倫理的な問題を抱えており、これを理由に使用を禁じる国、病院、臓器調達組織も多い。(1)ドナーの心臓を体内で蘇生させるのは、循環死の定義を否定することではないか(DPPは体外なので心臓死後の臓器摘出と判断)、(2)大動脈弓部分枝をクランプして脳循環を防止しているが、側副路を介する脳循環の再開の可能性は残るのではないか(脳が蘇生した状態での心臓摘出の可能性)。6ヵ月後も両心室機能は正常、拒絶反応は認めない REUP法は、DCDの大動脈をクランプし、平均大動脈基部圧80mmHgにコントロールされた状態で、超酸素化された冷温保存液(濃厚赤血球、del Nido心保護液などを含む)2リットルを約10~12分間で投与する方法である。この手法は簡便で安価であり、体内で心臓蘇生を行わないためNRPが許可されない状況でも使用可能とされる。 REUP法を受けた最初の3例の患者はいずれも順調に回復し、ICU入室中に合併症は発現しなかった。移植後1週目に、患者の心係数は2.8~4.4L/分/m2の範囲で推移し、3例とも移植から7日目までに強心薬の点滴から離脱した。術後の心エコー検査で、すべての患者の両心室の機能は正常であった。また、周術期に有害事象の報告はなかった。 一時的な持続的腎代替療法を行った後に間欠的血液透析を受けた1例は、その後に完全な腎機能の回復を果たした。全例がprednisone、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスを含む標準的な免疫抑制療法を受けた。移植から6ヵ月の時点で、すべての患者は両心室機能が正常な状態を維持しており、急性細胞性拒絶反応や抗体関連型拒絶反応は認めなかった。移植へのアクセスが拡大する可能性 これら3例の良好なアウトカムは、次の2点を示唆すると考えられた。(1)循環停止後から始まる細胞死のプロセスには可逆性の時間帯が存在するとの既報のトランスレーショナル研究の知見を支持する、(2)NRPまたはDPPによるドナー心臓の自己心拍の再開および生理学的評価は不要である可能性がある。 著者は、「NRPに関連した倫理的ジレンマと、市販のDPPの過大なコストを回避できることから、REUP法は、これまでDCDからの心臓移植にアクセス不能であった施設や地域において、適切に選択された心臓の摘出と移植を成功裏に行うことを可能にするとともに、提供可能であるにもかかわらず活用されない心臓を減らすことができると考えられる」としている。

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SGLT2阻害薬がCKD患者の入院リスクを総合的に低減

 SGLT2阻害薬が慢性腎臓病(CKD)の進行や心血管イベントを抑える効果はこれまでに報告されているが、あらゆる原因による予定外の入院リスクの低減効果については体系的に評価されていない。今回、大島 恵氏(オーストラリア・シドニー大学/金沢大学)らの研究により、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無、腎機能やアルブミン尿の程度にかかわらず、CKD患者の予定外の入院リスクを低減したことが明らかになった。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年7月14日号掲載の報告。 これまでのCREDENCE試験では、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが、CKDを合併する2型糖尿病患者の心・腎イベントを抑制することが明らかになっている。今回、研究グループはCREDENCE試験の事後解析を実施し、Cox比例ハザードモデルを用いてカナグリフロジンの予定外の初回および2回目以降の入院への影響を評価した。また、CKD患者を対象としたSGLT2阻害薬の3つのプラセボ対照試験について逆分散法によるメタ解析を実施し、全体およびサブグループ(糖尿病・腎機能・アルブミン尿)における効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・CREDENCE試験では、中央値2.6年の追跡期間中に、4,401例中1,543例(35%)が3,015回の入院を経験した。・カナグリフロジンは、プラセボと比較して、予定外の初回の入院リスクを12%低減させ(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.80~0.98、p=0.02)、初回および2回目以降の入院リスクを14%低減させた(HR:0.86、95%CI:0.76~0.96、p=0.007)。・CKD患者を対象とした3つのプラセボ対照試験のメタ解析では、SGLT2阻害薬はあらゆる原因による初回および2回目以降の入院リスクを15%低減させた(HR:0.85、95%CI:0.78~0.95、p<0.001)。この効果は、糖尿病の有無、ベースライン時の腎機能、アルブミン尿の程度にかかわらず一貫した。・とくに減少がみられた入院の原因は、感染症、心疾患、腎・尿路疾患、代謝・栄養障害であった。・SGLT2阻害の使用により、CKD患者1,000人年当たり36件(95%CI:13~56)の予定外の入院を予防すると推定された。

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REM睡眠中の無呼吸は記憶固定化と関連する脳領域に影響を及ぼす可能性

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に関連した低酸素血症は、前頭頭頂葉脳血管病変と関連し、この病変は内側側頭葉(MTL)の統合性低下や睡眠による記憶固定化の低下と関連するという研究結果が、「Neurology」6月10日号に掲載された。 米カリフォルニア大学アーバイン校のDestiny E. Berisha氏らは、認知機能に障害のない高齢者を対象に、実験室内での終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)および睡眠前後の感情記憶識別能力を実施し、それらを評価する観察研究を行った。PSGから導出したOSAの変数には、無呼吸低呼吸指数、総覚醒反応指数、最低酸素飽和度が含まれた。研究の早期時点で、MRIを用いて脳全体および脳葉の白質高信号域(WMH)の体積とMTLの構造(海馬体積、嗅内皮質〔ERC〕の厚さ)を評価した。 研究対象となったのは、高齢者37人(年齢72.5±5.6歳)であった。解析の結果、低酸素血症の測定値は脳全体のWMH体積を有意に予測した。この関係はREM睡眠中の低酸素血症の重症度に強く関連しており、前頭葉および頭頂葉のWMH体積も予測した。REM睡眠中の低酸素血症とERCの厚さとの関係は、前頭葉のWMH体積増加により間接的に媒介された。また、ERCの厚さ減少は夜間の記憶識別能力の悪化と関連した。 共著者であり同大学のBryce A. Mander氏は、「総合すると、われわれの研究結果は、OSAが、睡眠中の記憶固定化を支える脳領域の変性を通して、加齢およびアルツハイマー病と関連する認知機能低下にどのように寄与するのかを部分的に説明している可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、バイオ製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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肺がんに対する免疫療法、ステロイド薬の使用で効果減か

 非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対しては、がんに関連した症状の軽減目的でステロイド薬が処方されることが多い。しかし新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療開始時にステロイド薬を使用していると、ICIの治療効果が低下する可能性のあることが示された。米南カリフォルニア大学(USC)ケック・メディシンの腫瘍内科医であり免疫学者でもある伊藤史人氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer Research Communications」に7月7日掲載された。伊藤氏は、「がんの病期や進行度といった複数の要因を考慮しても、ステロイド薬の使用は特定の免疫療法で効果が得られないことの最も強い予測因子であった」と話している。 伊藤氏らはこの研究で、ICI単独、またはICIと他の治療法の併用のいずれかによる治療を受けたNSCLC患者277人(USCの患者189人、ロズウェルパーク総合がんセンターの患者88人)の医療記録を分析した。これらの患者のうちの21人(8%)は、ICI開始時にステロイド薬を使用していた。ステロイド薬はがん患者の倦怠感や嘔吐、脳の腫れ、肺の炎症といった症状を軽減するために広く使用されており、免疫系を抑制することで炎症を軽減する作用がある。 分析の結果、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していることは奏効率の低下と関連することが明らかになった。また、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していた患者では、使用していなかった患者に比べて無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が有意に短いことも示された。さらに、ICIによる治療開始時のステロイド薬の使用はPFSとOSの独立した予後不良因子であり、ステロイド使用者では非使用者と比べて、病態の進行リスクが2.7〜4.3倍、死亡リスクが2.4〜3.2倍高かった。 ステロイド薬を使用している患者では、ベースライン時にがん進行の指標となる血液中を循環する免疫のバイオマーカー(CX3CR1+CD8+T細胞)が有意に少ないことも示された。伊藤氏は、「この血中バイオマーカーがないと、がんの治療方針を判断する手がかりを得ることができず、腫瘍内科医は最適な治療を行えなくなる。その結果、患者が最善の治療を受けられなくなる可能性がある」と言う。このほか、実験用マウスを用いた検討からは、ICIによる治療前または治療中にステロイド薬を投与すると、T細胞が成熟する過程が妨げられることも示された。 伊藤氏は、「この研究結果から、ステロイド薬は体にもともと存在している免疫細胞であるT細胞の成熟を妨げることが明らかになった。その結果、T細胞は通常のようにがん細胞を攻撃することができず、患者の予後が悪化するのだ」と言う。同氏はまた、「ステロイド薬が免疫療法に干渉する可能性があることは他の研究でも示されているが、本研究は、その推定される因果関係を示した最初の研究の一つだ」と話している。 伊藤氏らは、本研究で認められた関連性をより深く理解するためには、さらなる研究が必要であるとの見解を示している。伊藤氏は、「患者によっては、がんの症状を管理する上でステロイド薬が不可欠だ。ステロイド薬が今後も肺がん治療において重要な役割を果たすことは間違いないが、その限界についても理解しておくことが重要である。自身のニーズに最も適した治療計画を立てるために、どの患者も主治医とよく話し合うべきだ」と助言している。

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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹は麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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冠動脈疾患と心房細動の合併例への薬物療法【日常診療アップグレード】第35回

冠動脈疾患と心房細動の合併例への薬物療法問題78歳女性。定期検査のため来院した。無症状である。既往歴に高血圧症と脂質異常症があり、冠動脈疾患のため3年前にステントを留置している。アスピリン、カルベジロール、ロサルタン、アトルバスタチンを内服している。心拍の不整を除きバイタルサインに異常を認めない。その他の所見は特記すべきものはない。腎機能は正常である。心電図で心房細動を認めた。アスピリンを中止し、アピキサバンを開始した。

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群馬大学医学部 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

高張 大亮 氏(教授)櫻井 麗子 氏(助教)山田 真紀子 氏(助教)大崎 洋平 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴群馬大学腫瘍内科では、外来化学療法センター、緩和ケアセンター、がんゲノム外来を一体的に運用し、がんとともに生きる患者さんを包括的に支える体制を整えています。治療に伴う身体的・精神的な負担にも丁寧に対応し、患者さん一人ひとりに最適ながん医療を提供しています。また、日常診療に加えて、企業治験や臨床試験、ゲノム医療にも積極的に取り組み、最先端のがん治療を実践できる環境を備えていることが、私たちの大きな強みです。地域のがん診療における医局の役割当科は群馬県内のがん薬物療法の中核として、院内の各診療科や地域の医療機関と緊密に連携し、がん医療の質の向上に取り組んでいます。さらに、がんゲノム医療連携病院として、がん研有明病院をはじめとする中核拠点病院と協力しながら、北関東全体の高度ながん医療を支える役割も担っています。地域におけるアクセス格差や情報格差の解消にも力を注ぎ、患者さんが適切な医療につながるための支援体制を整えています。医師の育成方針診療・研究・教育のすべてにバランスよく関わることができる環境の中で、腫瘍内科医としての専門性だけでなく、人間性をも高めていける医師の育成を目指しています。技術や知識に加え、患者さんに寄り添う姿勢を大切にすることを重視しています。内科専門医やがん薬物療法専門医の取得はもちろん、大学院進学、基礎研究、がん専門病院への国内外の留学、企業での薬剤開発、医系技官としての医療行政への参画など、多彩なキャリアパスを提案できる点も当科の魅力です。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力臨床試験・治験を行うことにより今後の標準治療を確立するための一助を担うこと、日常診療では他科と連携して最新の治療を行っていくこと、がんゲノム医療連携病院として県内の患者さんへのゲノム治療へ貢献すること、緩和ケアにて疼痛コントロールや気持ちのサポートをすることといった、個々の患者さんにとって最善最適ながん診療を提供していけることが当医局のやりがい・魅力であり、かつ私たちの最大の使命と考えております。医局の雰囲気、魅力それぞれの得意とする専門性から活発な意見交換がされ、また他の診療科や多職種との関わり合いからも、臓器横断的に集学的に、がん診療について多くのことが学べる環境です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科学の分野は、免疫チェックポイント阻害薬・遺伝子異常に基づいたがん分子標的治療・がんゲノム医療の開発とその臨床導入など大きく進歩してきており、今後もさらに発展していく分野です。その担い手になる皆さんをお待ちしています。まずは見学から! お待ちしています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科に設置されている緩和ケアセンターで、緩和ケアの担当医をしております。院内のさまざまな診療科から痛みや嘔気などの体のつらさや気持ちのつらさに対してコンサルテーションをいただきます。「まさか自分ががんになるなんて」とがん診断時の心理的つらさを抱えた状態から、がん治療がスムーズに進んでいくための心と体を整えるサポートを緩和ケア認定看護師さんたちと提供しています。現在、がん治療にはさまざまな選択肢があり、またがん薬物療法にも本当にたくさんの治療薬があり、患者さんに適した治療を提供するには高い専門性が必要となります。そのための腫瘍内科において、治療の副作用を和らげる対応や治療を頑張っていこうとする患者さんのお気持ちを支えるサポートに非常にやりがいを感じています。がん治療を総合的に提供できる当医局は非常に魅力的なところです。医学生/初期研修医へのメッセージ私は現在子供3人を育てつつ、仕事と育児の両立、研究活動やキャリアアップを目指しながら日々取り組んでいます。やりがいを感じ、自己実現していくための選択肢の1つとして当医局にまずは見学に来ませんか? お待ちしております。医学生/初期研修医へのメッセージ私は血液内科を専門として医師の道をスタートして、がん薬物療法専門医を取得、現在に至ります。昨今のがん薬物療法の進歩は目覚ましく、より複雑化・高度化しています。がんゲノム医療も現場に導入され、特定のがん種だけではないがん薬物療法の専門家への需要は今後益々高まっていくと考えます。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力当院では、各診療科とのキャンサーボードに腫瘍内科医師が参加し、複雑な合併症を持つ症例や、新薬の登場時などは腫瘍内科が薬物療法を担当するといった協力体制が整っています。そのため、多様ながん種の多様なレジメンを経験することができます。薬物療法をメインに行っていますが、受け持った患者さんが手術をすることもあれば、放射線療法が適応となる場合もあります、患者さんを通じて、臓器横断的・集学的ながん診療を学ぶことができるのは、当科の特徴です。医局の雰囲気、魅力2024年に設立された新しい診療科です。僕自身も子育てをしながらの毎日を過ごしていますが、子育てに限らず、ライフイベントをサポートしながらのキャリア形成にはとても理解の深い医局だと思っています。ぜひ、一度見学にお越しください!群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍内科住所〒371-8511 群馬県前橋市昭和町三丁目39番15号問い合わせ先医会長 大崎洋平(yosaki@gunma-u.ac.jp)医局ホームページ群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(総合内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)日本がん治療認定医機構(がん治療認定医)臨床遺伝専門医制度委員会(臨床遺伝専門医)研修プログラムの特徴(1)地域に根差した一貫した医療の実践県内の医学科を有する大学は群馬大学のみであり、大学での教育・診療が、地域の医療にダイレクトに結びついているのは群馬県の特徴の1つです。県下から集まる一人ひとりの患者さんの診断から治療、治験や臨床試験に至るまでを一貫して経験することができます。(2)学位取得、研究のサポート本学にはさまざまな学位取得に向けたプランがあり、在学中、初期研修、後期研修と並行した学位取得が目指せます。研究資金の獲得、臨床試験の立案から運営、研究発表まで、当科スタッフがサポートします。現在は、在学中の学生とアピアランスケアに関連した臨床研究、がん患者さんのQOLを上げる商品開発を企業と共同で行っています。(3)多様なキャリア形成、ライフイベントのサポート当科で腫瘍内科医としてのキャリアをスタートした後、現場で働く医師としてのキャリアアップだけでなく、国内国外企業における創薬への挑戦、医系技官として医療行政へと携わる道などさまざまな進路を選択、提示が可能です。またライフイベントに合わせた働き方の調整にも柔軟に対応いたします。

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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第277回 グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない

グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない過敏性腸症候群(IBS)患者28例が完遂したカナダでのクロスオーバー無作為化試験の結果によると1-3)、グルテンや小麦に過敏と自覚している人の多くは実際のところそれらを食べても平気かもしれません。小麦は数多の食品を作るのに使われており、言わずもがな魅惑のスイーツの数々をあつらえるのに必要とされる材料の1つです。多くの人にとって小麦がもたらす食の楽しみは大きいに違いなく、小麦を食べられるならそうするにこしたことはなさそうです。それに未精製の全粒小麦を使った食品は炭水化物、食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラル、その他の植物に特有な成分(ファイトケミカル)の重要な供給源であり、世界の人々の日々のエネルギー摂取や食事を健康的にするのに大いに貢献しています。小麦などの全粒穀物の摂取が健康に有益なことも示されており、たとえば肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、死亡を減らすことが疫学試験で裏付けられています。一方、食品がたいていそうであるように小麦にも負の側面があり、セリアック病や小麦アレルギーなどの有害な免疫反応をもたらしうることが示されています。小麦の摂取で具合が悪くなるとのことで、セリアック病や小麦アレルギーでなくとも小麦摂取を減らすか避けるグルテンフリー食を選ぶ人も多いようです。そういう不調は非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)と呼ばれ、小麦のタンパク質成分のグルテンがしばしばその誘引成分とみなされます。NCGSの人はもっぱら腹部の痛みや違和感、膨満感、排便周期の変化などの胃腸の症状を訴えます。より少ないながら、疲労や頭痛などの消化管以外の症状が生じることもあります。NCGSの生理指標はなく、その診断にはしばらくのグルテンフリー食の後にグルテンをあえて摂取してもらう検査を必要とします。普段の診療で決まってできる類いのものではありません。これまでの報告に基づくNCGSの有病率は自己申告が頼りゆえか相当まちまちで0.5~13%ほどです4,5)。NCGS患者はIBS様の症状を呈して受診することが多く、IBSも患うNCGS患者は多いようです。たとえば英国の成人1千人ほどを調べた試験では、NCGS患者がほとんど(93%)を占めるグルテン過敏症患者の5人に1人はIBSの診断基準を満たしました6)。他の試験結果も考慮すると、IBSとNCGSはかなり重複するようであり、IBS患者の多くがグルテンや小麦がその症状の引き金であると信じています。そこでカナダのマクマスター大学のPremysl Bercik氏らは、単なる思い込みではなく実際にそれらがIBS症状を誘発するかどうかを調べるべく試験を実施しました。試験ではグルテンフリー食で病状が良くなった経験を有するIBS患者を募りました。集まった被験者はまずグルテンフリー食を3週間続け、点数が大きいほど重症なことを意味する0~500点のIBS重症度尺度(IBS-SSS)でIBS症状がどれほどかが測定されました。その平均値は183でした。続いて全粒小麦入り、グルテン入り、そのどちらも非含有の3種類の固形食品(シリアルバー)のどれかをどれも2週間の間を挟んで1週間食べてもらいました。被験者にはそれらを食べることで症状が悪化する恐れがあると伝えました。ただし、シリアルバーに何が入っているかは知らせませんでした。症状が悪化するかもしれないと告げられているだけに、食べたのが小麦もグルテンも含まないシリアルバーであっても28例中8例(29%)がIBS-SSS点数の50点以上の悪化を示しました。小麦入りやグルテン入りのシリアルバーを食した後の悪化患者の割合はさぞ高かろうと思いきやそうはならず、小麦もグルテンも含まないシリアルバーを食した後と有意差がなく、それぞれ39%(11/28例)と36%(10/28例)でした。グルテンや小麦が正真正銘のIBS症状の引き金となることはあるでしょうが、悪化するという思い込みが実際にそうさせるノセボ効果の関与もあるようです2,3)。NCGS患者を募った欧州での最近の無作為化試験でも同様に胃腸症状へのノセボ効果の寄与が示唆されています7)。今回の試験の被験者の便を調べたところ、何人かはシリアルバーを指示どおりに食べておらず、グルテンや小麦がIBS病状に影響するほどそれらを摂取していなかったかもしれません3)。また、試験の種明かしをしたところで被験者のほとんどは考えや食事を変えはしませんでした2)。IBS患者のいくらかは心理的支援も含む手当てが必要かもしれない、と試験を指揮したPremysl Bercik氏は言っています2)。 参考 1) Seiler CL, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Jul 1. [Epub ahead of print] 2) Despite self-perceived sensitivities, study finds gluten and wheat safe for many people with IBS / McMaster University 3) Gluten may not actually trigger many irritable bowel syndrome cases / NewScientist 4) Cabrera-Chavez G, et al. Gastroenterol Res Pract. 2016;2016:4704309. 5) Molina-Infante J, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;41:807-820. 6) Aziz I, et al. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2014;26:33-39. 7) de Graaf MCG, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:110-123.

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腋窩リンパ節郭清省略はどこまで進むのか~現状と課題/日本乳学会

 乳がん治療においては、近年、術前化学療法(NAC)の高い完全奏効率から手術のde-escalationが期待されるようになり、なかでも腋窩リンパ節郭清(ALND)省略はQOLを改善する。第33回日本乳学会学術総会で企画されたパネルディスカッション「腋窩リンパ節郭清省略はどこまで進む?」において、昭和医科大学の林 直輝氏が腋窩リンパ節郭清省略の現状と課題について講演した。最近のトピック、SNB省略とASCOガイドライン ALNDのde-escalationは、リンパ浮腫などの合併症を減らすメリットと、不十分な局所コントロールが予後を悪化させるリスクがあるため、そのバランスが非常に大事である。その対応は、手術先行かNAC実施か、臨床的腋窩リンパ節転移陰性(cN0)か陽性(cN+)か、さらにそれが消失したかどうかによって変わるため、非常に複雑である。 手術先行の場合は、最近、ホルモン受容体(HR)陽性例において、cN0の場合はセンチネルリンパ節生検(SNB)そのものを省略可能であることが示された(SOUND試験、INSEMA試験)。また、SNBを実施する場合、病理学的リンパ節転移陽性(pN+)でも、センチネルリンパ節転移が2個以下の場合はALNDを省略可能であることが示唆されている(ACOSOG Z0011試験)。 SOUND試験およびINSEMA試験に基づいて、ASCOの早期乳がんにおけるSNBに関するガイドラインが2025年4月に改訂され、腫瘍径2cm以下、術前超音波検査でN0、50歳以上、閉経後、グレード1~2、HR陽性、HER2陰性で、乳房温存術後に放射線治療を受ける予定の患者はSNBを省略できるという選択肢ができた。自施設(昭和医科大学)においても、ASCOガイドラインに準じて、腫瘍径2cm以下、50歳以上の閉経女性、グレードの低いHR陽性、放射線治療を伴う部分切除予定の患者に対してSNB省略を開始している。ただし、適応を絞ったうえで、患者とよく相談し実施しているという。ALNDのde-escalationの2つのコンセプト、TASとTAD 次に林氏は、N+症例にNACを実施してALNDを省略するde-escalationの方法としてTailored axillary surgery(TAS)とTargeted axillary dissection(TAD)を解説し、これらによる試験を紹介した。TASはNAC後に最小限の転移リンパ節を摘出して腫瘍量を減らす方法で、TADはNAC後に事前にクリップを留置しておいた転移リンパ節の摘出とSNBを行う方法である。 手術先行の場合、cN+症例に対してALNDとTASの選択肢があり、TASについてはTAXIS試験のほか、JCOGでも現在HR陽性乳がんにおける試験が進行中で、結果が待たれる。 一方、NACによる腫瘍消失はHER2陽性やトリプルネガティブ乳がんで意味があるという。NACでycN0になった場合はTADとSNB単独の選択肢があるが、SNB単独では偽陰性率が高い。TADによる効果を検証したSenTa試験では、3年無浸潤がん生存率がTAD群91.2%、腋窩郭清群82.4%、腋窩再発率がTAD群1.8%、腋窩郭清群1.4%と同様であった。わが国でも、林氏らのN+患者におけるNAC後ALND省略を検討する多施設共同LEISTER試験が進行中である。SNB単独においても、前向き試験のSENATURK OTHER-NAC試験、後ろ向き試験のKROG21-06試験とI-SPY2試験の結果、SNB単独でも予後が良好である結果も出ている。また、前向き試験のSenTa試験でTADをSNBと実施した場合に治療効果が大きいことが報告されている。ALNDのde-escalationにおけるポイントと臨床での課題 林氏は、ALNDのde-escalationで重要なポイントとしてエビデンスとなる試験のデザインを挙げ、前向き試験なのか、無作為化されているか、サンプルサイズ、適応のサブタイプが非常に大事であると述べた。また、ベースラインでのリスクが重要であることから、NAC前のリンパ節のステータスが正確に評価されているか、また、もともとたくさんのリンパ節に転移していた患者を同じように扱っていくのか、という点を挙げた。 最後に林氏は、de-escalationにおける臨床での課題として、長期予後への影響、適切なフォローアップ頻度と方法(どのモダリティで、何ヵ月おきに、いつまでフォローするか)が確立されていないことを挙げ、さらに、保険が適用されないことやTAS/TADの方法の標準化ができていないことを指摘し、「患者さんが何を求めるのか、何をしてあげるべきかをバランスよく考えたうえで、エビデンスをしっかり積み重ねて評価していく必要がある」と述べた。

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コーヒーに認知症予防効果を期待してよいのか

 コーヒーおよびカフェインの摂取が高齢者の認知機能に及ぼす影響について、中国・Inner Mongolia Medical UniversityのJinrui Li氏らは、とくにアルカリホスファターゼ(ALP)の潜在的な役割に焦点を当て、調査を行った。Nutrition Journal誌2025年7月1日号の報告。 2011〜14年の米国国民健康栄養調査(NHANES)データより抽出した60歳以上の2,254人を対象に分析を行った。認知機能の評価には、老人斑の病理診断のCERADテスト、言語の流暢性を評価するAnimal Fluency test、神経心理検査であるDSSTを用いた。コーヒー摂取、カフェイン摂取、ALPレベルと認知機能との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)、タンパク質量的形質遺伝子座解析、タンパク質間相互作用ネットワークなどの手法を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー摂取と認知機能に関する重要な知見が明らかとなった。・コーヒーを480g/日以上飲む人は、飲まない人と比較し、低CERADスコアのオッズが有意に低く、完全調整モデル4による調整オッズ比(OR)は0.58(95%信頼区間[CI]:0.41〜0.82)であった。・同様に、カフェイン入りのコーヒーを477.9g/日飲む人のORは0.56(95%CI:0.34〜0.92)。・ALP摂取量の最低四分位と最高四分位の比較では、ORは1.82(95%CI:1.16〜2.85)であり、認知機能との負の相関が認められた。・MR研究では、コーヒー摂取量の増加は、認知機能障害の進行と関連していることが示唆された。しかし、コーヒー摂取はレビー小体型認知症の発症を予防する可能性が示された(OR:0.2365、95%CI:0.0582〜0.9610)。・コーヒー/カフェインの摂取は、血清ALP(OR:0.86、95%CI:0.79〜0.93)および認知機能(OR:0.95、95%CI:0.92〜0.98)に対する予防的作用が認められた。・IGFLR1遺伝子は、ALPと中程度の共局在を示しており、潜在的な治療的意義が認められた。 著者らは「高齢者におけるコーヒー/カフェインの摂取と認知機能との間には正の相関があり、ALPがこの関連に関与している可能性が示唆された。これらの結果は、高齢者の認知機能維持において食事介入を考慮することの重要性を表しており、具体的なメカニズムを明らかにするためにも、さらなる研究の必要性が示された」と結論付けている。

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