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ペーシング非適応患者への一次予防として二腔ICDを選択する理由は不明である/JAMA

 ペーシングの必要性がない患者への一次予防として移植する植込み型除細動器(ICD)について、デュアルチャンバー(二腔)デバイスとシングルチャンバー(単腔)デバイスとを比較した結果、二腔ICDのほうがデバイス関連合併症が高率であり、移植後1年死亡率および入院アウトカムは両デバイスで同程度であったことが示された。米国・デンバー保健医療センターのPamela N. Peterson氏らによる後ろ向きコホート研究からの報告で、「ペーシング非適応患者に対して二腔ICDを優先的に用いる理由は明らかにならなかった」とまとめている。一次予防としてのICDの有効性を検討した無作為化試験は主に単腔ICDが用いられてきた。しかし臨床の場では、ペーシングの必要性が明白でない場合でも、しばしば二腔ICDが移植されている。これまで、二腔ICDと単腔ICDのアウトカムは明らかになっていなかった。JAMA誌2013年5月15日号より。単腔ICDvs.二腔ICDの転帰を比較 研究グループは、突然死の一次予防に用いられる単腔ICDと二腔ICDのアウトカムを比較することを目的に、2006~2009年のNational Cardiovascular Data Registry's(NCDR)ICDに登録され、メディケア診療報酬の請求データにリンク可能であった入院データについて後ろ向きコホート研究を行った。対象には、一次予防でICDを受けたが、ペーシング非適応であった患者3万2,034例が含まれた。 主要評価項目は、患者・医師・病院データに基づく傾向スコアマッチングから推定された移植後1年の死亡率、全原因再入院、心不全再入院、90日以内のデバイス関連合併症の補正リスクとした。1年後死亡率、全原因再入院、心不全再入院は同程度 結果、3万2,034例の患者のうち1万2,246例(38%)が単腔ICDを、1万9,788例(62%)が二腔ICDの移植を受けていた。 傾向スコアをマッチさせたコホートにおいて、単腔ICDのほうが合併症割合は有意に低かった[3.51%対4.72%、p<0.001、リスク差:-1.20(95%信頼区間[CI]:-1.72~-0.69)]。 一方で、1年後死亡率(未調整死亡率:9.85%対9.77%、ハザード比[HR]:0.99、95%CI:0.91~1.07、p=0.79)、1年後の全原因再入院(未調整入院率:43.86%対44.83%、HR:1.00、95%CI:0.97~1.04、p=0.82)、心不全による再入院(未調整入院率:14.73%対15.38%、HR:1.05、95%CI:0.99~1.12、p=0.19)については、いずれもデバイス間の有意差はみられなかった。

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日本語版・産後うつ病予測尺度「PDPI-R-J」を開発

 産後うつ病(PPD)は世界中でみられ、日本においては出産後1ヵ月間で約20%の母親が経験している。そこで、一次予防のために、妊娠中および出産後早期にリスクを特定するスクリーニング法が必要とされていた。東京大学の池田 真理氏らは、日本語版・産後うつ病予測尺度「Japanese version of the Postpartum Depression Predictors Inventory-Revised(PDPI-R-J)」を開発し、その予測妥当性を検証した。BMC Pregnancy and Childbirth誌オンライン版2013年5月14日号の掲載報告。 PDPI-R-Jの開発と、妥当性の検証(妊娠中と出産後1ヵ月におけるその予測妥当性)は、次のような方法にて行われた。 評価項目を開発するために、2人のバイリンガル翻訳者が、PDPI-Rを日本語に翻訳した。その後、翻訳をフィードバックし、オリジナル開発者とディスカッションを行い、語意の同等性を確認した。そのようにして開発したPDPI-R-Jについて、前向きにデザインしたコホートに適用し妥当性を検証する試験を行った。被験者は妊娠8ヵ月の妊婦84例であった。このうち76例が、出産後1ヵ月のPDPI-R-J評価も完了した。被験者は出産後1ヵ月時点で、軽度あるいは重度のうつ病が認められるか、精神疾患簡易構造化面接法(MINI)を用いて診断された。この結果をROC曲線に描出し、PDPI-R-Jの予測能を評価した。 主な結果は以下のとおり。・出産後1ヵ月間にPDPI-R-J評価を完了した76例のうち、PPD診断基準に該当したのは16例(21%)であった。・妊娠中に行われたPDPI-R-J出産前版による、PPD予測は62.8%(95%CI:0.48~0.77)であった。出産後1ヵ月間に行われたPDPI-R-J出産後版による、同予測は82.0%(同:0.71~0.93)であった。・カットオフ値は、出産前版は5.5、出産後版は7.5であった。・新生児期に関する項目を含むPDPI-R-J出産後版は、PPDの予測妥当性を増大した(0.67~0.82)。・PDPI-R-Jの利用がある被験者からのコメントとして、「PDPI-R-Jの利用によって、うつ病の病歴やリスクについて研究者とオープンに語り合う機会が増えた」とあった。・以上から、著者は「PDPI-R-JはPPD予測に有用かつ有効なスクリーニングツールであることが明らかとなった。また、PPDには出産と新生児関連の因子が反映している可能性があり、出産前と出産後の両方のバージョンを連続的に適用することが必要である」と結論している。関連医療ニュース ・日本人のうつ病予防に期待?葉酸の摂取量を増やすべき ・抗うつ薬を使いこなす! 種類、性、年齢を考慮 ・うつ病の5人に1人が双極性障害、躁症状どう見つける?

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新しい血糖コントロール目標値を発表! 第56回日本糖尿病学会年次集会を開催

5月16日より3日間、熊本市で開催された第56回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:荒木栄一氏/熊本大学大学院 生命科学研究部代謝内科学分野 教授)において、新しい血糖コントロールの目標値(以下「新目標値」と略す)が発表された。新目標値は、HbA1cに集約され、次の3段階とされる。HbA1c 8%未満→治療強化が困難な際の目標HbA1c 7%未満→合併症予防のための目標HbA1c 6%未満→血糖正常化を目指す際の目標図1 「血糖コントロール目標値」改訂図画像を拡大する図2 2型糖尿病治療の目標と指針画像を拡大する新しい評価分類の策定にあたっては、従来の5段階分類が複雑な目標設定であること、EBMの理念にそぐわない「不可」などの否定的な言葉が使われていること、「優」という呼称にはリスクを考慮せずにHbA1cを下げるべきとの誤解を生む恐れがあることなどを鑑み、学会内で検討が行われた。さらに、近年発表されたACCORD、ADVANCEなどの大規模臨床試験に基づき「低血糖を起こさない血糖管理」を考慮した内容も加味され、策定されたものである。その中には、新目標値を患者と医療者が共に目指す糖尿病治療の目標とすること、HbA1cの国際標準化との整合性、非専門医にも理解・活用しやすいようにできる限り簡素化することというコンセプトが込められている。新目標値は6月1日より運用開始となる。会長の荒木氏は「早期から治療を開始し、HbA1c値7%未満を目指してほしい」と期待を語った。DPP-4阻害薬投与時は、体重増加に注意「低血糖を起こさない血糖管理」といえば、DPP-4阻害薬がすでに欠かせない存在だ。本学会でも多くの使用経験が発表され、効果的な併用薬や症例像が明らかになった。「相性の良い併用薬」への関心も高い。シンポジウム14「インクレチン関連薬の長期展望」では、BG、α-GIとの併用がSU薬と比較して血糖改善効果が高いことなどが報告された。「レスポンダー/ノンレスポンダー」という観点では、シタグリプチンの2年間の追跡調査から血糖コントロール不良群で体重が増加していたことが明らかになった。DPP-4阻害薬の治療効果を得るには、体重増加を来さないことが重要であり、体重増加が認められた際には、速やかな食事指導が有効といえそうだ。DPP-4阻害薬+インスリンで、一定の治療効果同様に、DPP-4阻害薬とインスリンの併用に関する検討結果も発表され、一定の治療効果が報告された。強化インスリン療法、混合製剤2回注射、BOT(Basal Oral Therapy)のいずれのインスリンレジメンにおいても、DPP-4阻害薬であるシタグリプチンの上乗せによりHbA1c値低下効果やCPI改善効果が高まるとの報告も挙がった。ただし、DPP-4 阻害薬がどのインスリンレジメンと相性が良いかに関してはさらなる検討が必要とされた。インスリンからの切り替えカットオフ値は?また、インスリンからGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)への切り替え試験の結果から、効果不十分な場合の主な原因として内因性インスリン分泌能低下が推測されることが明らかになった。同試験においてデルタC-ペプチド値 1.34ng/mLがカットオフ値として算出されており、今後も継続した検討が期待される。なお、会期中にGLP-1受容体作動薬のエキセナチド(同:バイエッタ)の週1回製剤「ビデュリオン」が発売となった。代表的な副作用である「嘔気・嘔吐」の発現率はバイエッタと比べて少ないとの報告も挙がっており、週1回投与によるアドヒアランス改善とともに臨床での活用が期待される。新薬も期待!SGLT2阻害薬、GPR40作動薬、GK活性化薬このほか、新規作用機序をもった薬剤も次々と登場予定だ。シンポジウム2「今後期待される新規糖尿病治療薬」においても複数の新薬が取り上げられた。原尿からのブドウ糖再吸収を減らし、ブドウ糖を尿から排泄させる、「SGLT2選択的阻害薬」は、国内申請中のイプラグリフロジン(アステラス製薬/寿製薬)、ルセオグリフロジン(大正富山)を筆頭に6品目が後期開発段階にある。その後に続く薬剤としてGPR40作動薬にも注目が集まる。G蛋白質共役型受容体(GPCR)の一つであるGPR40に作用し、グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促す特性をもつ薬剤である。GPR40作動薬は低血糖の誘発リスクが低いインスリン分泌促進薬として期待されており、現在開発中の薬剤にTAK-875(武田)がある。そのほか、膵β細胞でのインスリン分泌能増強作用と肝での糖利用亢進作用を有するGK(グルコキナーゼ)活性化薬も研究が進んでいる。編集後記インクレチン関連薬の発売、ACCORDの結果などを経て、「低血糖を来さない糖尿病治療」の重要性は臨床現場でも一般化した。今回発表されたHbA1cの新目標値も、この考えに基づいている。すでに、血糖値はひたすら下げるものではなくなった。今後は、患者さん一人ひとりに合った治療目標を設定し、薬剤を効果的に使いながら血糖をコントロールしていく必要がある。会長の荒木氏は、「あなたとあなたの大切な人のために~Keep your A1c below 7%~」を合言葉に糖尿病の予防と治療の向上に取り組む、とする「熊本宣言2013」を発表した。われわれも、医療情報メディアの一端を担う者として、最新かつ適切な情報伝達を通じ、糖尿病治療の発展に貢献していくことをあらためて宣言したい。(ケアネット 佐藤 寿美/稲川 進)

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「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?

天候の影響を受けやすい痛みとは天気の変わり目に痛みを訴える慢性疼痛患者は多い。痛みの程度で台風の発生や進路まで正確に予測する方もいる。天候と痛みとの関連についての統計的なデータはあまりない。テルモ株式会社が慢性疾患患者と一般人を対象に行った「健康と気候に関するアンケート調査(2004年)」では、天候や季節の変化による体調への影響を経験している人は73%いた。とくにリウマチ患者は86%が天候の変化による関節の痛みを経験している。また、愛知医科大学医学部・学際的痛みセンターが主体となって行った「尾張旭市大規模住民アンケート調査(2011年)」では、慢性疼痛を持つ人の25%が天候悪化によって痛みが強くなると回答した。欧米には、一つひとつの気象要素について統計的手法を用いて痛みとの相関を解析した研究がいくつかある。これらの研究で痛みの増悪因子とされたのは、気圧、湿度、温度の変化、降雨、雷、風である。フェーン現象でアルプスから熱風が下りてくると片頭痛が増えるという報告もある。「天気痛」の代表的な疾患は関節リウマチ、変形性関節症、線維筋痛症、片頭痛などである。上半身の痛みを訴える例が多いのが1つの特徴である。また、一人の患者さんに腰痛、膝痛、片頭痛、肩こりがあった場合、片頭痛、肩こりは天候の影響を受けるが、腰痛、膝痛は影響を受けない。また、筋肉とか関節の深部の痛みは影響を受けるが、皮膚の表面の痛みは影響を受けない、というように、影響される部位に偏りがみられることも多い。低気圧曝露試験による「天気痛」の再現愛知医科大学医学部・学際的痛みセンターで私は「天気痛外来」を開設している。当外来の受診患者に協力いただき、名古屋大学環境医学研究所で気圧と痛みの関係を調べる臨床試験を行った。大気圧からマイナス40hPa(ヘクトパスカル)の減圧環境に被験者を曝露することでどの程度の痛みが発生するかを、Pain-Vision(ニプロ製)で痛みの程度を数値化し測定した。図1の被験者は、示指の挫滅損傷後に損傷部位の疼痛、アロディニア、右上肢の深部痛としびれを訴える患者さんである。気圧を変えないで行った試験では痛みの強さに変化はみられないが、気圧を下げたとたんに痛みが増強し、元の大気圧に戻すと痛みは減弱した。図1画像を拡大する10名ほどの慢性疼痛患者にこの低気圧曝露試験を行ったが、どの被験者にも低気圧での疼痛増強現象が生じた。気圧が元に戻ったところで痛みの程度が回復する人もいれば、そのまま痛みの増強が継続してしまう人もいる。気圧の低さよりも気圧の変化による影響が大きいのではないかと推察できた。そこで、低気圧による疼痛悪化の現象が動物実験で再現できるかどうかも検証した。神経障害性疼痛モデルとして、坐骨骨神経損傷モデルと脊髄神経結紮モデルを用いた。この2種類のモデルは、疼痛が生じると痛覚過敏やアロディニアなどの疼痛行動を起こす。気圧を変動させながら疼痛行動の指標を測定したところ、坐骨神経損傷モデルでは10hPa以上の気圧低下を10hPa/時間以上の速度で行うと痛覚過敏とアロディニアの増強がみられた。脊髄神経結紮モデルでは5hPa以上、5hPa/時間以上でみられた。大型低気圧が通過する際にみられる気圧変化と同様のレベルである。ラット以外に、マウスならびにモルモットでも同様の傾向を示した。慢性疼痛と自律神経の関係気圧の低下によって慢性疼痛が増悪するメカニズムは何であろうか。慢性疼痛には交感神経が関与する「交感神経依存性疼痛」が多く含まれている。そのため、多くの患者さんはストレスが強まると痛みが増強するのである。気温、気圧、湿度などの変化は人間や動物にとってストレスになり、交感神経を興奮させることで慢性疼痛が悪化するのではないか。気圧や温度を下げると血圧や心拍数が上がり、ノルアドレナリンの分泌量も増え、交感神経が興奮することをいくつかの動物実験で確認した(図2)。その結果、交感神経を切り取ったラットで行った低気圧曝露試験では、疼痛行動の増強はみられなかった。図2画像を拡大する気圧を下げると、慢性疼痛患者では一般人より敏感に心拍数が上がる。慢性疼痛患者は自律神経、とくに交感神経が過敏になっていることが考えられる。もともと動物は気圧を感じる能力を持っているのだろう。野鳥は天気が悪くなる前に巣に帰る。そうした能力は動物には本能的行動として残っているが、人間にはなくなってしまった。しかし、慢性疼痛をきっかけとしてその本能が芽を出すとも考えられる。気圧低下時に慢性疼痛が増強するためには、生体内に気圧の変化を検出するセンサーの存在が不可欠である。センサーがどこにあるか動物で探索したが、いくつかの証拠から内耳にある可能性が高いと思われた。これについても、動物実験を行い、内耳破壊ラットでは低気圧による疼痛行動は生じないことを確認した。図3画像を拡大するなぜ「天気痛」は上半身に発生しやすいか。交通外傷によるムチ打ち損傷など首を痛めた患者さんで片頭痛、めまい、立ちくらみなどの症状を持っている場合は、天気による痛みの増強を訴える傾向が高い。首に走っている交感神経が、外傷などで傷ついたことが、天気痛の引き金になっているのではないかと推察できる。「天気痛」を訴える患者さんへのアプローチ患者さんが天候による痛みの悪化について訴えると、医師は非科学的だと軽く扱いがちだが、季節や天気の変化で症状を悪化する病態が実際に存在することを認識してほしい。その患者さんにとって、天気は非常に大きなリスクファクターなのである。天気を変えることはできないが、医師が受け止めて共感するだけでも、患者さんの痛みの程度はずいぶん違ってくるはずである。自律神経に対する介入が効果的である場合もある。本人に自律神経が乱れていることを自覚してもらう。起床と就寝のリズムを整え、昼間は日光を浴び、なるべくストレスがかからない生活をしてもらう。必要であれば漢方薬などの自律神経調整剤を服用してもらう。実際にこのような対処で気象痛がだんだん軽くなり、「最近は天気のことが気にならなくなりました」と言ってくる患者さんもしばしばみられるのである。また、患者さんに「痛み日記」を書いてもらうことも有効である。1日のうちで痛みの最も強いときと最も弱いときをVASスコアで記載してもらう。同時に天気の変化もつけてもらう。月に1回、その日記を見ながら医師と患者さんが話し合うことは、天気と痛みの関係を見直す作業として大変有用である。

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明日の記憶【アルツハイマー型認知症】[改訂版]

「おれがおれじゃなくなっても平気か?」みなさんにとって、認知症の人にかかわるのは、大変なことでしょうか?それでは、認知症になった人自身はどんな気持ちなのでしょうか?私たちは、認知症ではないので、正直なところ、実体験はありません。ただ、想像を膨らませることはできます。そのために、今回、映画「明日の記憶」を取り上げます。主人公は、忘れていくことや分からなくなっていく中で、妻に訊ねます。「おれがおれじゃなくなっても平気か?」と。この映画は、認知症になり自分が自分でなくなってしまう恐怖と受容が、主人公の目線で描かれています。そんな主人公や彼を支える妻の生き様に、私たちは強く共感し、考えさせられます。それでは、認知症が進んでいく主人公の目から見た世界を追いながら、認知症について学んでいきたいと思います。前駆期―認知症の一歩手前主人公の佐伯は、49歳の広告会社のサラリーマン。働き盛りの中年というどこにでもいそうな男性で、そして舞台はどこにでもありそうな会社と家庭です。男として仕事に油が乗ってきているさなか、身の回りで今まで決してなかったことが次々と彼の身に降りかかります。まず、会社でのシーン。「え~名前、何て言ったかな・・・」「丸メガネで、髭生やした、ほら」と、別部署の親しい知人の名前が思い出せません(語健忘)。私たちも、人の名前を度忘れすることがありますが、それはあくまであまり親しくない人が相手の場合であり、親しい人の名前が思い出せないことはあまりありません。また、佐伯は広告会社の営業部長であるにもかかわらず、有名な外国人俳優の名前が出てこなくなります。部下から「(おっしゃりたいのは)ディカプリオ?」と聞かれて、「『デカ』プリオ」と言い間違え(錯語)、周りからからかわれてしまいました。さらに、佐伯は、会社の得意先との仕事の打ち合わせをすっぽかしてしまいます。しかもその約束をしたことすら覚えていない事態が起こったのです。こんなことは今までになく、「年のせいか」「50を迎えるというのはこういうことなのか」と考え、焦りと諦めが入り混じります(病識)。このように、年齢と比べて記憶力が極端に落ちてきている(記憶力低下)、自覚がある(病識)、その他の精神活動(認知機能)や日常生活動作(ADL)に問題がない状態(軽度認知機能障害<MCI>)は、認知症の一歩手前(前駆期)と呼ばれています。初期症状―認知症のなりかけ佐伯は、車のキーを置き忘れたり、通り慣れている高速道路の出口を見過ごしてしまうなど、ぼうっとすることが目立つようになります(抑うつ)。また、頭痛、めまい、だるさなどの体の不調もあり、いら立っています(不安焦燥)。これは、認知症のなりかけの特徴です(初期症状)。もちろん、過労や飲酒の影響もありそうです。また、うつ病と誤診されることもよくあります。そんな彼の異変を身近で見ていた妻は、さらに気付きます。彼は、毎回、シェービングクリームを買ったことを覚えておらず(健忘、記憶障害)、洗面所にいくつも貯め込んでいたのです。そして、心配した妻に連れられ病院に行きます。佐伯はサラリーマンとしてのプライドがあるだけに、診察した医者の前で何の問題もないように振る舞ってしまいます。しかし、認知症のスクリーニング検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)で、ついさっき聞いたことや見たことを思い出せないことが判明します(即時記憶障害)。この検査は30点満点で20点未満であれば認知症が疑われますが、主人公は19点でした(表1)。表1 主人公・佐伯の長谷川式の結果質問内容評価項目配点(1)お歳はおいくつですか?(※2歳以内までの誤差は正解)(2)今日は何年何月何日ですか?何曜日ですか?(3)ここはどこですか?家?、病院?、施設?の問いに正解したら1点。 時間見当識場所見当識1/14/42/2(4)次の言葉を言ってください。後でまた聞きますのでよく覚えておいてください。AかBのどちらかとする。A. (a)桜(b)電車(c)猫 / B. (a)梅(b)犬(c)自動車   言語性記銘   3/3(5)100から7を引いてください(100-7=?)。そこから7を引くと? (※最初の問題が不正解→打ち切り) 計算1/11/1(6)これから言う数字を後ろから(逆に)言ってください。2-7-4 ? 8-3-5-9 ? (※最初の問題が不正解→打ち切り)逆唱注意/集中1/11/1(7)先ほどの3つ言葉を言ってください。次のヒントで正解した場合はそれぞれ1点とする。(a)植物(b)乗り物(c)動物  遅延再生1/21/21/2(8)これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言ってください。例、ハンカチ、コイン、腕時計、ペン、名刺  視覚性記銘  2/5(9)野菜の名前をできるだけ多く言ってください。5つ以下→0点、 6つ→1点、7つ→2点、8つ→3点、9つ→4点、10つ→5点  流暢性  0/5合計点19/30悪い知らせ(告知)の伝え方―間(ま)と共感その後、精密検査が進められます。頭の中の画像写真(MRI)で記憶を司る海馬を中心とした全体的な脳の縮み(全般性脳萎縮)が見られます。さらに、脳血流の検査(SPECT)では、脳のある部分(後部帯状回)が著しく血の巡りが悪くなっていることが確認できました。日常生活上の問題(臨床症状)、スクリーニング検査、精密検査を総合的に判断の上、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)と診断されます。主治医は、「アルツハイマー病で間違いありません」と、裁判官が審判を下すように、険しい表情ではっきりと言います(審判的態度)。そして、矢継ぎ早に今後の方針を早口でまくしたてています。一般的に、患者は、悪い知らせ(告知)を聞いた時、2つのパターンの反応をします。ショックの余りに呆然として人ごとのようにして話を聞いていないパターンと(否認)、「どうしておれが!?」と込み上げた怒りで主治医に八つ当たりするパターンです(怒り)。この主治医の態度は佐伯の怒りを逆なでしているのが生々しく描かれています。佐伯は、主治医に「おまえいくつなんだ?」「医者になって何年になる?」「慣れちゃったんだよな」と絡んでいきます。主治医は、律儀に質問に答え、すかさず「セカンドオピニオンを勧めるのは・・・」と話を続けます。もしかしたら、主治医は緊張していたのかもしれません。その後、佐伯は、「病気のことは分かっても、それを言われる奴の気持ちのことなんて考えたことないだろ!」と吐き捨てます。この告知のシーンから学ぶことができるのは、まずは告知された時の患者の気持ちを受け止めることの大切さです(受容)。そのために、必要なことは、2つです。1つは、間(ま)を置くことです。「とても大切な話があります」「大変残念なのですが」と前置きをして相手に心の準備をさせたり、理解が進んでいるかを相手の表情を見ながら確認することです。もう1つは、共感することです。険しい表情をするのではなく、やや申し訳なさそうな表情をして、相手の心に寄り添うことです。受容と家族の支えアルツハイマー病と告知された後も、佐伯はその現実を受け止められず、あまりのショックで取り乱し、思わず屋上に上がりフェンスを越えて、衝動的に飛び降り自殺しようとします。なぜなら、会社で大きな仕事を任された大事な時期であり、そのギャップに耐えられなかったからです。一般的に、認知症の発病年齢は、70代です。つまり、自分の子どもが巣立ち退職年齢を過ぎてしばらく経ってからというタイミングです。佐伯のように65歳未満で発症した場合(若年性)は、単に年齢が若いというだけでなく、体力的には健康であり、仕事をし、家族の中でまだまだ中心的な役割を担っており、本人にとってまだやり残したことが多すぎるのです。やれると思っていたことが、少しずつやれなくなっていく恐怖や苦しみから絶望的になるのです。追いかけてきた主治医が佐伯に言い諭します。「死ぬということは、人の宿命です」「でもだからと言って何もできないわけではありません」「僕にはできることがある」「自分にできることをしたい」と。それは、同時に佐伯にも当てはまるメッセージでもありました。まさに「できること」が刻々と限られていく佐伯にとって、その瞬間、その瞬間を精一杯生きることが自分らしさであることに気付かせてくれます。「もし今までの自分が消えてしまうのなら、何かを残したい」と。若年性での発病ならではの発想です。生きた証が欲しいのです。佐伯は妻に問いかけます。「ゆっくり死ぬんだよ」「おれがおれじゃなくなっても平気か?」と。妻は「私だって恐い」「家族だもの」「私がずうっとそばにいます」と言い、寄り添います。夫婦など家族の支えの頼もしさを感じます。病気に対して一丸となって向き合うことで、夫婦の愛と絆を確認し合い、夫婦の結束が生まれ、主人公は勇気付けられます。中核症状―中核となる症状(表2)認知症には、まず、中核となる症状(中核症状)があります。これには、主に5つのポイントがあります。佐伯の症状を例にとって、見ていきましょう。1つ目は、もの忘れ(健忘、記憶障害)です。会社のロビーを歩いていた彼は急に立ち止まり、自分が何をしているのか見当がつかなくなります。そして、ポケットの中に入っていた「10月29日(金)退社」のメモで我に返るシーンがあります。今がいつでここがどこなのかという時間や場所の見当がつかなくなってきます(見当識障害)。進行すると、ある出来事の一部分ではなく、丸ごと忘れてしまいます(記憶の抜け落ち)。忘れている自覚(病識)がなく、つまり「忘れていることを忘れている」状態に陥っています。「忘れたことを覚えている」という度忘れやうっかり忘れ(不注意)ではないのです。そして、忘れる内容は、最近の出来事から(近時記憶障害)、徐々に昔へと遡っていくのです(遠隔記憶障害)。2つ目は、言葉がちゃんと出なくなり、うまく話せなくなることです(失語)。主人公は会話の中で、たびたび人やものの名前が出てこなくなり、指示も「あれ」「それ」などの代名詞が多くなっていきます(語健忘)。また、前述の「『デカ』プリオ(ディカプリオ)」に加えて、ラストシーンで登場する陶芸の師匠が発した「『パラ』ライス(パラダイス)」などの言い間違え(錯語)も当てはまります。症状が進めば、やがて無言になっていきます。3つ目は、体の動かし方が分からなくなることです(失行)。彼は、携帯ストラップの先のヒモを携帯電話の本体のヒモ穴に入れられず、不器用になっています(運動失行)。また、歯磨きの仕方が分からなくなり(観念失行)、妻の歯磨きのマネをしています。症状が進めば、やがて、動くことをやめて、寝たきりになります(無動)。4つ目は、人やものごとの認識ができなくなることです(失認)。前半のシーンで、彼が部下と行った食堂で、見慣れた部下たちの顔が一時的に分からなくなっています(相貌失認)。また、通勤で使う駅付近の見慣れた街並みに違和感を抱いて、迷子になります(街並み失認)。ちょうど私たちにとって外国人の顔や外国の街並み、外国語の文字の区別がしづらいように、全てが見慣れない顔や景色として目に映ってしまうのです。症状が進めば、顔、街並み、色彩、文字などのあらゆる違いが分からなくなっていき、人やものごとが全て同じように見えていきます。5つ目は、計画を立ててやり遂げられなくなること(実行機能障害)です。彼は、電車に乗って遠出するなどの計画を立てることが自分だけでは困難になっていました。表2 主人公・佐伯の認知症の経過軽度認知機能障害認知症前駆期初期中期後期年齢49歳~51歳~55歳~病識ありなし中核症状記憶力低下記憶障害(即時記憶→近時記憶→遠隔記憶)失語(語健忘、錯誤)失行(運動失行、観念失行)失認(相貌失認、街並み失認)実行機能障害無言寝たきり(無動)周辺症状なし抑うつ不安焦燥錯覚、幻覚、せん妄、徘徊、妄想、感情失禁、攻撃性、パーソナリティ変化ADL自立部分介助全介助周辺症状―中核症状から広がっていく症状(表2)もう1つの認知症の症状は、中核症状から広がっていく症状です(周辺症状)。これは、認知症が進むことにより、脳の働きが弱まるので、全ての精神症状が起こり得ます。佐伯の症状を例にとって、見ていきましょう。佐伯は、会社の会議でプレゼンをしている、ある部下の顔が白黒で見慣れない顔に歪んで見えてしまい(錯視、錯覚)、戸惑っています。また、会社内を歩いていると、急に、見えている世界が歪んでいきます。これは、脳の働きが弱まっていることで、意識(意識の量)が落ちていき、見ている世界が暗く、曇って、もやもや濁ってしまいやすくなる状態です(意識レベルの低下)。さらに、会社の人たちが全員自分を見て何やらヒソヒソ話しているように見えたり(錯覚)、いるはずのない妻や娘の婚約者が何人も出てきたり、高校生の娘や小学生の娘が現れて話しかけられたり、自分自身が現れ、話しかけられたりします(幻覚)。これは、意識レベルの低下から、意識(意識の質)が揺らいでまどろみ、寝ぼけたように白昼夢を見ているような状態です(せん妄)。主人公の目線で描かれているため、その時の恐怖感が生々しいです。★意識(意識の量)がさらに落ちていけば、意識を失うので、せん妄はなくなります。中期の症状佐伯は、認知症が発病して2年が経った51歳の頃から、さらに様々な症状が出てきます(中期の症状)。ネクタイを締めて「今日、会議あるから」と会社に行こうとして、近所をうろうろするようになります(徘徊)。その後、生活費のために妻が働き出しますが、彼は「お前、誰と会ってるんだ?外で」「誰かいい奴、いるんだろ」と妻に迫ります。これは嫉妬の思い込みです(嫉妬妄想)。そして、「こんな男でゴメンな」と泣きじゃくります(感情失禁)。やがて、彼は、表情も乏しくなり、目つきも変わっていきます。そして、妻の前でぼやきます。「邪魔だったら言ってくれよ」「なあ、オレ、生きてるだけで迷惑なんだろ」「オレの病気が嫌だったら出てけよ」と。それに妻がつい感情的に言い返すと、気が付いた時には、彼は角皿で妻の頭を殴り、流血させてしまっていたのでした(攻撃性)。このように、病状が進むにつれて、人格(パーソナリティ)そのものが変わってしまうのです(パーソナリティ変化)。治療―かかわり方のコツ佐伯は、進行を遅らせる抗認知症薬の内服を始めました(薬物療法)。また、日記をつけたり手先を使う陶芸をしたりするなどして、脳への刺激を高めています(認知症リハビリテーション)。妻が感情的に巻き込まれてしまったために、彼が暴力を振るってしまうシーンでは、彼と妻は家では2人きりで、感情的に巻き込まれるリスクがあることが分かります。このように、感情的に接すること、抱え込むことは、本人の感情を煽って病状を悪くさせるだけでなく、家族を心理的に追い込むことにもなることということがよく分かります。その直後に、妻は彼と自分自身に「あなたのせいじゃない」「あなたの病気がやったことなの」と冷静に言い聞かせようとします(客観化)。逆に言えば、かかわる家族が客観的になれるかで、本人の病状を落ち着かせられるかが変わってきます。本人ができるという自尊心が守られ、自分の居場所があると実感することで、暴力などの周辺病状が落ち着くのです。本人が戸惑わないように、家の至るところに張り紙をして、指示を分かりやすくすることも効果があります。「おれがおれじゃなく」なった瞬間佐伯は、かつて妻にプロポーズした思い出の陶芸の窯の場所に、昔の妻の幻覚に導かれながら彷徨い着きます。昔に過ごした場所は覚えており、思い出の場所まで辿りつくことができるのでした。そこには、若かりし頃の自分や妻の幻覚がいます。そこで再会を果たした陶芸の窯主の師匠も認知症を患っており、佐伯よりも認知症の症状が進んでいました。しかし、山小屋での独り暮らしを続け、陶芸のやり方は覚えています。そして、佐伯は師匠の指導を受け、野焼きで陶器を完成させます。熱せられて醸成された器は、あたかも血流の低下により縮んでしまった主人公の脳に重なり、施設での彼の寝たきりのシーンでは、その器には妻により温かいお茶が注がれているのが象徴的でした。師匠は力強く言い放ちます。「わしはボケてなんかおらんぞ」「そんなことはおれが決める!」「生きてりゃいいんだよ」と。そして、焚き火で焼いた玉ねぎを主人公に振る舞います。主人公が焼けた玉ねぎを丸ごと食べる様子は、自然に帰り素朴に生きる力強さや喜びに溢れています。それは、主人公がかつて勤めていた会社が求めていたようなスピード、効率、生産性が求められる世界とは真反対です。現代の情報化社会で求められている価値観に警鐘を鳴らしているようです。まるで、老いることへの現代の価値観が認知症の患者を作り上げ、彼らを追いやっているような感覚にさえ囚われてしまいます。そして、ついに捜索にやってきた妻を目の前にして、もはや妻が妻であると分からず、25年間連れ添った妻に対して自己紹介します。その姿は、妻にとってまさに彼が「おれがおれじゃなく」なった瞬間でした。さらに認知症が進んだことを物語っています。悲しくもありますが、同時にまた彼が妻を立ち止まって待っている様子からすると、それは、彼の心の中では妻との思い出が丸ごとなくなり、ちょうど妻に出会う若い頃に若返り、また一から好きになり始めているということをほのめかしているようです。経過―赤ちゃん返りこの映画では、月日が経つにつれて、佐伯が、精神的に少しずつ赤ちゃんに帰っていく様子が描かれています(赤ちゃん返り)。孫娘には、すでに遊びの主導権を握られています。庭に植えられた木を見つめているシーンは、まるで彼が植物に変わりゆくのを悟っているようにも見えます。日差しが心地良く、雨が嬉しいようです。アルツハイマー型認知症の原因ははっきりとは分かっていませんが、脳細胞の変性と言われ、一度発病すると脳細胞がどんどん死んでいき、それに従って脳は縮んでいきます。進行には個人差がありますが、生存年数はだいたい5年~10年です。彼の場合は、発病から6年で、55歳にして、ほぼ寝たきりになっていました(後期の症状)。傍らに、孫娘の成長の写真が飾られていますが、孫の成長と彼の病気の進行は、絶妙なコントラストになっています。写真に映る6歳の孫がピアノ発表会で生き生きとしているのに対して、安らかな表情でほとんど動かない彼はもはや眠り続ける赤ちゃんです。もう認知症が進むことに苦悩することもありません。「明日の記憶」というタイトルは逆説的です。私たちも主人公の立場に立ち、いろいろなことを忘れて行き、自分が忘れて行くという運命を受け止めた時に、最後に忘れてはならないものを考えさせられます。記憶とは、自分だけのものではありません。それは、自分と相手とを結び付け、さらには、分かち合い信頼し合うことを通して、自分が相手の中で生き続けるものでもあります。そして、その記憶こそが、「明日の記憶」であると言えるのではないでしょうか?1)「明日の記憶」(光文社文庫) 萩原浩 20072)「標準精神医学」(医学書院) 野村総一郎 2010

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H.pylori有病率と関連する遺伝的要因が明らかに/JAMA

 白人集団におけるゲノムワイド関連研究(GWAS)の結果、遺伝子座Toll様受容体(TLR)1と、ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)の血清疫学的有病率との関連が明らかになった。ドイツ・グライフスヴァルト大学のJulia Mayerle氏らが、2つの独立した集団コホートからなる計1万例について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2013年5月8日号で発表した。発展途上国では、H.pyloriの有病率が90%と高率だが、高頻度の曝露にもかかわらず残り10%の人には同感染が認められないことが明らかとなっていた。そのため、H.pyloriに対する感受性には遺伝的要因が関連しているとの仮説があり、研究グループは、GWASによってその特定を試みた。2つのコホートでH.pylori血清有病率と関連する遺伝子座を分析 研究グループは、2つの独立したGWASとその後のメタ解析を行った。1997~2001年に開始された3,830例の集団コホート(Study of Health in Pomerania:SHIP)と、1990~1993年および2000~2001年の間に開始された7,108例の集団コホート(Rotterdam Study:RS-I、RS-II)を対象とし、血清中の抗H.pylori IgGを調べ、H.pylori血清有病率と関連する遺伝子座について分析した。 また、2006~2008年に開始された762例のコホート(RS-III)と、2008~2012年に開始された991例のコホート(SHIP-TREND)を対象に、全血RNA遺伝子発現様式について分析した。SHIP-TRENDの被験者961例については、便中H.pylori抗原についても分析した。便のH.pylori抗原価が高値の人はTLR1発現量が上位25% 対象者1万938例のうち56.3%(6,160例)に、H.pyloriの血清学的陽性が認められた。 GWASによって、H.pylori血清学的陽性とTLR遺伝子座4p14およびFCGR2A 1q23.3遺伝子座が関連していることを特定した(それぞれオッズ比:0.70、0.73)。また、4p14遺伝子座の3種のTLR遺伝子のうち、TLR1のみが特異的に発現していることが確認された。 さらに、便のH.pylori抗原価が高値(光学密度>1)だった人は、TLR1発現量が上位25%に属していた(p=0.01)。 細胞外ドメインでAsn248Ser置換を持つTLR1は、rs10004195一塩基多型との強い関連が認められた。 同研究グループは、今後、非白人を対象にした試験でもTLR1の遺伝性変異型とH.pyloriとの関連が確認されれば、H.pylori感染者のリスクの格差がTLR1遺伝性変異型によって説明できる可能性があると結論している。

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n-3脂肪酸、複数の心血管疾患リスクを有する患者において有益な効果なし/NEJM

 複数の心血管疾患リスクを有するプライマリ・ケア患者について、魚由来のn-3系多価不飽和脂肪酸の連日服用は、心血管死および罹患の低下に結びつかないことが、Maria Carla Roncaglioni氏ら860人の医師が参加したイタリア全国開業医ネットワークのリスク・予防研究共同研究グループによる二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、報告された。先行研究においてn-3脂肪酸は、アテローム性動脈硬化 、炎症に対する有益な効果により、心血管疾患リスクを低減する可能性が示唆され、心筋梗塞や心不全既往患者において有益であると明文化されていた。NEJM誌2013年5月9日号掲載の報告より。1万2,513例をn-3脂肪酸連日1g投与群とプラセボ群に無作為化 研究グループは、n-3脂肪酸について示されている有益な効果が、心筋梗塞非既往だが複数の心血管リスク因子あるいはアテローム性動脈硬化性疾患を有する患者においても認められるのか、評価することを目的とした。 2004年2月~2007年3月の間に、試験に参加した860人の医師の下で登録された合計1万2,513例(平均年齢64.0歳、男性61.5%)を、n-3脂肪酸投与群(連日1g、6,244例)かプラセボ投与群(オリーブオイル、6,269例)に無作為化し追跡した。 主要エンドポイントは、当初、死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の累積発生率と規定された。しかし、1年時点でイベント発生率が予想よりも低いことが判明したため、心血管系による死亡までの期間、あるいは心血管系による入院までの期間に修正された。心血管系による死亡・入院までの期間について、補正後ハザード比0.97、p=0.58 被験者の特性では、糖尿病+心血管リスク因子が≧1が最も多く、5,986例(47.9%)の患者でみられた。アテローム動脈硬化性疾患歴ありは3,691例(29.5%)で、2,602例(20.8%)は糖尿病以外に4つ以上の心血管リスク因子を有していた。 結果、フォローアップ中央値5年時点において、主要エンドポイントの発生は、1万2,505例の解析群において1,478例(11.8%)であった。n-3脂肪酸群(6,239例)における発生は733例(11.7%)、プラセボ群(6,266例)における発生は745例(11.9%)であり、補正後ハザード比は0.97(95%信頼区間:0.88~1.08、p=0.58)で、n-3脂肪酸服用による有益な効果は認められなかった。 同様の非有益効果を示す結果は、すべての副次エンドポイントにおいても認められた。

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神経障害性疼痛は過少治療もしくは未治療である可能性が高い

 神経障害性疼痛の有病率は、痛みの特徴から神経障害性疼痛の可能性を判断するスクリーニングツールを用いた研究によって推定されているが、激しいあるいは長期にわたる神経障害性疼痛を経験している患者の割合や標準治療に抵抗性の難治性疼痛患者の割合は知られていない。英国・ダンディー大学のNicola Torrance氏らは、地域の家庭医に登録している患者を対象にアンケート調査を行い、慢性疼痛を有する患者は非常に多く、難治性の神経障害性疼痛はまれであるものの、神経障害性疼痛は過少治療もしくは未治療である可能性が高いことを明らかにした。Pain誌2013年5月号(オンライン版2013年1月23日)の掲載報告。 本研究は、難治性疼痛患者における神経障害性疼痛の割合を推定し、臨床および人口統計学的特徴との関連を定量化することが目的であった。 英国5地域の一般診療所計10施設から、無作為に選択した成人患者1万例を対象に自己記入式質問票を送付した。質問内容は、慢性疼痛の同定や重症度に関する質問、痛みの原因、SF-12、EQ-5D、S-LANSS(Self-administered Leeds Assessment of Neuropathic Signs and Symptoms)、PSEQ(Pain Self-Efficacy Questionnaire)、薬物治療および医療の利用についてなどであった。 さらに、国際的な専門家のデルファイ調査によって確認されている特徴にしたがって“難治性”神経障害性疼痛の存在と特徴を調べ、これらのデータを組み合わせた。また、難治性の基準を組み入れ、神経障害性の特徴の有無による慢性疼痛のカテゴリ分類を行った。 主な結果は以下のとおり。・4,451例から回答があった(回答率47%)。・「神経障害性疼痛の特徴を有する慢性疼痛(S-LANSS陽性)」に該当した患者は399例(回答者の8.9%)で、そのうち215人(S-LANSS陽性者の53.9%)は「S-LANSS陽性+関連した既往歴あり(神経障害性疼痛の可能性が高い)」であった。・98例(慢性疼痛があると回答した患者の4.5%)は、1剤以上の神経障害性疼痛治療薬を服薬していた(神経障害性疼痛の治療を受けていると考えられる)。 ・難治性患者の大部分は、身体的健康および精神的健康が著しく不良で、痛みに対する自己効力感が低く、痛みの程度が強く、痛みに関連した障害が強く、さらに医療の利用が多かった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・腰椎圧迫骨折3ヵ月経過後も持続痛が拡大…オピオイド使用は本当に適切だったのか?  治療経過を解説・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」痛みと大脳メカニズムをさぐる・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる

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統合失調症に「サッカー療法」その効果は?

 イタリア・パレルモ大学のGiuseppe Battaglia氏らは、精神疾患を有する患者について、QOLとスポーツパフォーマンス(SP)における“サッカープラクティス”の効果を調べる無作為化介入試験を行った。その結果、サッカーで身体を動かす介入プログラムが、統合失調症患者における抗精神病薬関連の体重増加を抑制することや、自己申告の健康関連の生活の質(SRHQL)やSPを改善可能であることが示されたと報告した。身体活動は誰にとっても健康のために重要であるが、とりわけ生活習慣が不健全となりがちな精神疾患を有する患者にとって重要である。研究グループは近年、重度の精神疾患患者の健康面を改善する手段としてサッカーに注目が集まっていることから本検討を行ったという。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2013年5月号(オンライン版2013年5月3日号)の掲載報告。 試験は、統合失調症とした診断された男性患者18例を対象とした。研究グループは被験者を無作為に、12週間にわたる週2回のサーカートレーニングセッションを受けるトレーニング介入群と、試験期間中にとくに定期的なスポーツ活動を行わない対照群に割り付け、試験期間前後に、身体測定、SRHQL、30m走の記録、ドリブルのスラロームテストを行い評価した。SRHQLは、SF-12質問票の身体・精神的スコアにて評価した。 主な結果は以下のとおり。・トレーニング期間終了後、介入群は体重とBMIがベースライン時より4.6%減少した。・一方で、対照群はベースラインから試験終了までに、体重、BMIが1.8%増大した。12週間後に、対照群は介入群と比較して体重が有意に増大したことが認められた(Δ=5.4%、p<0.05)。・トレーニング期間終了後、介入群のSF-12質問票スコアはベースラインと比べて、身体的領域については10.5%、精神的領域は10.8%改善したことが認められた。また、30m走とドリブルスラロームテストの記録も、対照群と比較した場合、ベースラインから介入後に有意な改善が認められた。・“サッカープラクティス”は、統合失調症患者の身体面および精神面の健康を改善することが示唆された。関連医療ニュース ・統合失調症患者とタバコ、どのような影響を及ぼすのか? ・この25年間で統合失調症患者の治療や生活環境はどう変わったのか? ・うつ病治療に「チューインガム」が良い!?

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ヘパリン橋渡し療法・・・それは正しい経験則だったのか?(コメンテーター:山下 武志 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(101)より-

経口抗凝固療法を服用している脳卒中ハイリスク患者では、侵襲的治療に伴う出血と抗凝固療法中断に伴う脳梗塞のリスクを考えることがいつも難しい。 抜歯や白内障の手術では抗凝固療法継続のまま行うことが常識となっているが、それ以外の侵襲的治療ではワルファリンの中断とヘパリンによる橋渡し治療が行うことが多いだろう。しかし、この方法にはエビデンスがなく、単なる経験的な方法にすぎないことを知っている人がどれぐらいいるだろう。 本研究はこの課題に対する初めての無作為化比較試験であり、貴重な知見を与えた。(1) ヘパリン橋渡し療法には出血性事象が多く伴う、(2) デバイス手術はワルファリン継続下で十分安全に可能である、という事実は、今後の診療に大きな影響を及ぼすだろう。「目に見える範囲の侵襲的治療はワルファリン継続下で可能である」との想定が、デバイス手術にもあてはまる。 今後の課題は、消化管内視鏡的操作などの目に見えない部位の侵襲的治療ではどうすべきかということになるだろう。なお、本研究でもアスピリンの併用は独立した出血の危険因子であった。侵襲的治療の際には、抗血小板療法が併用されているかどうかにも十分に注意を払いたい。

30012.

チオトロピウム投与がコントロール不十分な喘息患者の重度喘息増悪までの期間を延長

 吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β刺激薬(LABA)による併用療法にもかかわらず、コントロール不十分な喘息患者において、チオトロピウム投与(レスピマットソフトミスト吸入器使用)は、初回の重度喘息増悪および喘息悪化までの期間を延長させることが、米国フィラデルフィアで開催されている2013年5月21日ATS(米国胸部疾患学会年次総会)で発表された。  これは第3相試験PrimoTinA-asthmaTMの結果であり、この改善効果は年齢、アレルギーの有無、喫煙の有無、気管支拡張薬への反応にかかわらず認められた。また、試験参加患者は、COPDを合併しない喘息患者である。 PrimoTinA-asthmaTM試験は2つの二重盲検並行群間比較試験(反復投与)からなる臨床試験。対象は、40歳前に喘息と診断され5年以上の喘息歴を有し、喫煙歴なし、あるいは10パック・年未満の喫煙歴があるものの試験1年以上前に禁煙した18~75歳の喘息患者で、ICSとLABAの併用療法を受けていながら、コントロール不十分であった。 912人がチオトロピウム5μg投与群(n=456)とプラセボ投与群(n=456)に割り付けられ、48週間の追加投与を受けた。結果、チオトロピウムの追加投与により初回重度喘息増悪までの期間が延長した(RR 21%、HR 0.79、p=0.03)。 現在のあらゆる治療選択肢をもってしてもなお、成人喘息患者の少なくとも40%がコントロール不十分であり、時には致命的な喘息発作が起きる可能性があるという。ベーリンガーインゲルハイム(Boehringer Ingelheim GmbH)のプレスリリース

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基準通り抗がん剤を投与したにもかかわらず副作用で急死した肺がんのケース

・腫瘍最終判決判例時報 1734号71-82頁概要息切れを主訴としてがん専門病院を受診し、肺がんと診断された66歳男性。精査の結果、右上葉原発の腺がんで、右胸水貯留、肺内多発転移があり、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術を行ったのち、シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用化学療法が予定された。もともと軽度腎機能障害がみられていたが、初回シスプラチン、塩酸イリノテカン2剤投与後徐々に腎機能障害が悪化した。予定通り初回投与から1週間後に塩酸イリノテカンの単独投与が行われたが、その直後から腎機能の悪化が加速し、重度の骨髄抑制作用、敗血症へといたり、化学療法開始後2週間で死亡した。詳細な経過患者情報12年前から肥大型心筋症、痛風と診断され通院治療を行っていた66歳男性経過1994年3月中旬息切れが出現。3月28日胸部X線写真で胸水を確認。細胞診でclass V。4月11日精査治療目的で県立ガンセンターへ紹介。外来で諸検査を施行し、右上葉原発の肺がんで、右下肺野に肺内多発転移があり、がん性胸膜炎を合併していると診断。5月11日入院し胸腔ドレナージ施行、胸水1,500mL排出。胸膜癒着の目的で、溶連菌抽出物(商品名:ピシバニール)およびシスプラチン(同:アイエーコール)50mgを胸腔内に注入。5月17日胸腔ドレナージ抜去。胸部CTで胸膜の癒着を確認したうえで、化学療法を施行することについて説明。シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法を予定した(シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2を第1日、その後塩酸イリノテカン60mg/m2を第8日、第15日単独投与を1クールとして、2クール以上くり返す「パイロット併用臨床試験」に準じたレジメン)。医師:抗がん剤は2種類で行い、その内の一つは新薬として承認されたばかりでようやく使えるようになったものです。副作用として、吐き気、嘔吐、食欲低下、便秘、下痢などが生じる可能性があります。そのため制吐薬を投与して嘔吐を予防し、腎機能障害を予防するため点滴量を多くして尿量を多くする必要があります。白血球減少などの骨髄障害を生じる可能性があり、その場合には白血球増殖因子を投与します患者:新薬を使うといわれたが、具体的な薬品名、吐き気以外の副作用の内容、副作用により死亡する可能性などは一切聞いていない5月23日BUN 26.9、Cre 1.31、Ccr 40.63mL/min。5月25日シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2投与。5月27日BUN 42.2、Cre 1.98、WBC 9,100、シスプラチンによる腎機能障害と判断し、輸液と利尿薬を継続。6月1日BUN 74.1、Cre 2.68、WBC 7,900。主治医は不在であったが予定通り塩酸イリノテカン60mg/m2投与。医師:パイロット併用臨床試験に準じたレジメンでは、スキップ基準(塩酸イリノテカンを投与しない基準)として、「WBC 3,000未満、血小板10万未満、下痢」とあり、腎機能障害は含まれていなかったので、予定通り塩酸イリノテカンを投与した。/li>患者:上腹部不快感、嘔吐、吃逆、朝食も昼食もとれず、笑顔はみせるも活気のない状態なのに抗がん剤をうたれた。しかもこの日、主治医は学会に出席するため出張中であり、部下の医師に申し送りもなかった。6月3日BUN 67.5、Cre 2.55、WBC 7,500、吐き気、泥状便、食欲不振、血尿、胃痛が持続。6月6日BUN 96.3、Cre 4.04、WBC 6,000、意識レベルの低下および血圧低下がみられ、昇圧剤、白血球増殖因子、抗菌薬などを投与したが、敗血症となり病態は進行性に悪化。6月8日懸命の蘇生措置にもかかわらず死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与当時は副作用について十分な知識がなく、しかも抗がん剤使用前から腎機能障害がみられていたので、腎毒性をもつシスプラチンとの併用療法はするべきではなかった2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与前は、食欲がなく吐き気が続き、しかも腎機能が著しく低下していたので、漫然と再投与を行ったのは過失である。しかも、学会に出席していて患者の顔もみずに再投与したのは、危険な薬剤の無診察投与である2.インフォームドコンセント塩酸イリノテカン投与に際し、単に「新しい薬がでたから」と述べただけで、具体的な薬の名前、併用する薬剤、副作用、死亡する可能性などについては一切説明なく不十分であった。仮にカルテに記載されたような説明がなされたとしても、カルテには承諾を得た旨の記載はない病院側(被告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与シスプラチン、塩酸イリノテカンはともに厚生大臣(当時)から認可された薬剤であり、両者の併用療法は各臨床試験を経て有用性が確認されたものである。抗がん剤開始時点において、腎機能は1/3程度に低下していたが、これは予備能力の低下に過ぎず、併用投与の禁忌患者とされる「重篤な腎障害」とはいえない2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン研究会の臨床試験実施計画書によれば、2回目投与予定日に「投与しない基準」として白血球数の低下、血小板数の低下、下痢などが記載されているが、本件はいずれにも該当しないので、腎機能との関係で再投与を中止すべき根拠はない。なお当日は学会に出席していたが、同僚の呼吸器内科医師に十分な引き継ぎをしている2.インフォームドコンセント医師は患者や家族に対して、詳しい説明を行っても、特段の事情がない限りその要旨だけをカルテに記載し、また、患者から承諾を得てもその旨を記載しないのが普通である裁判所の判断1. 腎機能悪化の予見可能性抗がん剤投与前から腎機能障害が、シスプラチンの腎毒性によって悪化し、その状態で塩酸イリノテカンの腎毒性によりさらに腎機能が悪化し、骨髄抑制作用が強く出現して死亡した。もし塩酸イリノテカンを再投与していなければ、3ヵ月程度の余命が期待できた。2. 塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与時、腎機能は併用療法によって確実に悪化していたため、慎重に投与するかあるいは腎機能が回復するまで投与を控えるべきであったのに、引き継ぎの医師に対して細かな指示を出すことなく、主治医は学会に出席した。これに対し被告はスキップ基準に該当しないことを理由に再投与は過失ではないと主張するが、そもそもスキップ基準は腎機能が正常な患者に対して行われる併用療法に適用されるため、投与直前の患者の各種検査結果、全身状態、さらには患者の希望などにより、柔軟にあるいは厳格に解釈する必要があり、スキップ基準を絶対視するのは誤りである。3. インフォームドコンセント被告は抗がん剤の副作用について説明したというが、診療録には副作用について説明した旨の記載はないこと、副作用の説明は聞いていないという遺族の供述は一致していることから、診療録には説明した内容のすべてを記載する訳ではないことを考慮しても、被告の供述は信用できない。原告側合計2,845万円の請求に対し、536万円の判決考察本件のような医事紛争をみるにつけ、医師と患者側の認識には往々にしてきわめて大きなギャップがあるという問題点を、あらためて考えざるを得ません。まず医師の立場から。今回の担当医師は、とてもまじめな印象を受ける呼吸器内科専門医です。本件のような手術適応のない肺がん、それも余命数ヵ月の患者に対し、少しでも生存期間を延ばすことを目的として、平成6年当時認可が下りてまもない塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用療法を考えました。この塩酸イリノテカンは、非小細胞肺がんに効果があり、本件のような腺がん非切除例に対する単独投与(第II相臨床試験;初回治療例)の奏効率は29.8%、パイロット併用試験における奏効率は52.9%と報告されています。そこで医師としての良心から、腫瘍縮小効果をねらって標準的なプロトコールに準拠した化学療法を開始しました。そして、化学療法施行前から、BUN 26.9、Cre 1.31、クレアチニンクリアランスが40.63mL/minと低下していたため、シスプラチンの腎毒性を考えた慎重な対応を行っています。1回目シスプラチンおよび塩酸イリノテカン静注後、徐々に腎機能が悪化したため、投与後しばらくは多めの輸液と利尿薬を継続しました。その後腎機能はBUN 74.1、Cre 2.68となりましたが、初回投与から1週間後の2回目投与ではシスプラチンは予定に入らず塩酸イリノテカンの単独投与でしたので、その当時シスプラチン程には腎毒性が問題視されていなかった塩酸イリノテカンを投与することに踏み切りました。もちろん、それまでに行われていたパイロット併用試験におけるスキップ基準には、白血球減少や血小板減少がみられた時は化学療法を中止しても、腎障害があることによって化学療法を中止するような取り決めはありませんでした。したがって、BUN 74.1、Cre 2.68という腎機能障害をどの程度深刻に受け止めるかは意見が分かれると思いますが、臨床医学的にみた場合には明らかな不注意、怠慢などの問題を指摘することはできないと思います。一方患者側の立場では、「余命幾ばくもない肺がんと診断されてしまった。担当医師からは新しい抗がん剤を注射するとはいわれたが、まさか2週間で死亡するなんて夢にも思わなかったし、副作用の話なんてこれっぽっちも聞いていない」ということでしょう。なぜこれほどまでに医師と患者側の考え方にギャップができてしまったのでしょうか。さらに、死亡後の対応に不信感を抱いた遺族は裁判にまで踏み切ったのですから、とても残念でなりません。ただ今回の背景には、紛争原因の一つとして、医師から患者側への「一方通行のインフォームドコンセント」が潜在していたように思います。担当医師はことあるごとに患者側に説明を行って、予後の大変厳しい肺がんではあるけれども、できる限りのことはしましょう、という良心に基づいた医療を行ったのは間違いないと思います。そのうえで、きちんと患者に説明したことの「要旨」をカルテに記載しましたので、「どうして間違いを起こしていないのに訴えられるのか」とお考えのことと思います。ところが、説明したはずの肝心な部分が患者側には適切に伝わらなかった、ということが大きな問題であると思います(なお通常の薬剤を基準通り使用したにもかかわらず死亡もしくは後遺障害が残存した時は、医薬品副作用被害救済制度を利用できますが、今回のような抗がん剤には適用されない取り決めになっています)。もう一つ重要なのは、判決文に「患者の希望を取り入れたか」ということが記載されている点です。本件では抗がん剤の選択にあたって、「新しい薬がでたから」ということで化学療法が始まりました。おそらく、主治医はシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法がこの時点で考え得る最良の選択と信じたために、あえて別の方法を提示したり、個々の医療行為について患者側の希望を聞くといった姿勢をみせなかったと思います。このような考え方は、パターナリズム(父権主義:お任せ医療)にも通じると思いますが、近年の医事紛争の場ではなかなか受け入れがたい考え方になりつつあります。がんの告知、あるいは治療についてのインフォームドコンセントでは、限られた時間内に多くのことを説明しなければならないため、どうしても患者にとって難解な用語、統計的な数字などを用いがちだと思います。そして、患者の方からは、多忙そうな医師に質問すると迷惑になるのではないか、威圧的な雰囲気では言葉を差し挟むことすらできない、などといった理由で、ミスコミュニケーションに発展するという声をよく聞きます。中には、「あの先生はとても真剣な眼をして一生懸命話してくれた。そこまでしてくれたのだからあの先生にすべてを託そう」ですとか、「いろいろ難しい話があったけれども、最後に「私に任せてください」と自信を持っていってくれたので安心した」というやりとりもありますが、これほど医療事故が問題視されている状況では、一歩間違えると不毛な医事紛争へと発展します。こうした行き違いは、われわれすべての医師にとって遭遇する可能性のあるリスクといえます。結局は「言った言わないの争い」になってしまいますが、やはり患者側が理解できる説明を行うとともに、実際に患者側が理解しているのか確かめるのが重要ではないでしょうか。そして、カルテを記載する時には、いつも最悪のことを想定した症状説明を行っていること(本件では抗がん剤の副作用によって死亡する可能性もあること)がわかるようにしておかないと、本件のような医事紛争を回避するのはとても難しくなると思います。・腫瘍

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造血器腫瘍患者への予防的血小板輸血戦略は出血の減少に結びつく/NEJM

 造血器腫瘍患者に対して、出血予防を目的とした血小板輸血戦略は、予防的血小板輸血を行わない場合と比較して出血の減少に結びつき、有用であることが、英国・オックスフォード大学のSimon J. Stanworth氏らによる無作為化試験の結果、明らかにされた。これまで、造血器腫瘍患者における予防的血小板輸血のベネフィットは明らかになっていなかった。一方で、最近の予防的血小板輸血に関する試験では、以前のように輸血量ではなく、臨床アウトカムとしての出血に重点を置くようになっており、研究グループは、造血器腫瘍患者のための時代に即した治療戦略を検討するため、予防的輸血を行わないとする指針が、行うとする指針に対して出血の頻度に関して非劣性であるのか試験を行った。NEJM誌2013年5月9日号掲載の報告より。幹細胞移植後の血小板減少例を無作為化 研究グループは、イギリスとオーストラリアの14施設で無作為化非盲検非劣性試験を行った。朝の血小板数が10×109/L未満である患者を、予防的血小板輸血を受ける群と受けない群に無作為に割り付けた。適格患者は16歳以上で、化学療法または幹細胞移植を受けた患者で、血小板減少症をすでに発症したか、発症が予測される症例とした。 主要エンドポイントは、無作為化の30日後までに起きた、世界保健機関(WHO)グレード2、3、4の出血とした。出血日数、出血までの日数ともに予防的輸血を支持する結果 2006年~2011年にかけて、合計600例(非予防的血小板輸血群301例、予防的血小板輸血群299例)が無作為化の対象となった。 試験の結果、WHOグレード2、3、4の出血は、非輸血群300例中151例(50%)で発生し、輸血群では298例中128例(43%)であった(補正後の比率の差:8.4ポイント、90%信頼区間:1.7~15.2、非劣性のp=0.06)。 非輸血群の患者は輸血群の患者と比べて、出血した日数が多く、初回出血事例までの期間も短かった。また、非輸血群では血小板の使用が顕著に減少していた。 事前に特定したサブグループ解析の結果、自家幹細胞移植を受けた両試験群の患者の出血発生率は同程度であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「血小板の予防的輸血を継続的に行う必要性を支持する所見が示された」と述べ、「予防的血小板輸血を行わない場合と比較して、予防的血小板輸血は出血の減少にとって有用であることが示された」と結論している。一方で最後に、予防的血小板輸血群の出血例は非輸血群よりも7%低かったが、それでも有意な数の患者において出血がみられたことにも言及している。

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ICDのVT検出インターバル、長期vs.標準設定/JAMA

 植込み型除細動器(ICD)について、心室不整脈(VT)検出インターバルを30~40に設定すると、標準設定の18~24と比べ、ATPやショック発生リスク、不適切なショック発生リスクのいずれもが、有意に減少することが明らかになった。一方で、死亡率については両者で有意差はなかった。イタリア・Humanitas Clinical and Research CenterのMaurizio Gasparini氏らによる無作為化単盲検試験「ADVANCE III」の結果で、著者は、「標準設定よりも長期インターバルの設定とする戦略は、適正な選択肢となりうる可能性がある」と結論している。JAMA誌2013年5月8日号掲載の報告より。ATPとショックの発生回数を主要エンドポイントに Gasparini氏らは2008~2010年にかけて、虚血性・非虚血性病因により、一次・二次予防を目的にICDを初めて装着した1,902例について、無作為化単盲検試験を開始した。一方の群(長期インターバル群:948例)は、突発性fast VTが発生した際、ICDのVT検出インターバルを30~40とし、もう一方の群(標準インターバル群:954例)は、同インターバルを18~24に設定した。 被験者の平均年齢は65歳(標準偏差:11)、一次予防のためにICDを装着した人は全体の75%だった。 主要エンドポイントは、抗頻拍ペーシング(ATP)とショックの発生回数とし、不適切なショック数、死亡率、失神発生率を副次エンドポイントとした。ATP/ショック発生リスクは長期インターバル群でおよそ4割減 追跡期間の中央値は12ヵ月だった。標準インターバル群では、ATPまたはショックの回数は557回(67回/100人・年、95%信頼区間:62~73)だったのに対し、長期インターバル群は346回(42回/100人・年、同:38~47)であり、発生率比は0.63(同:0.51~0.78、p<0.001)だった。 ATP回数は、標準インターバル群37回/100人・年に対し、長期インターバル群では23回/100人・年であり、罹患率比は0.58(同:0.47~0.72、p<0.001)だった。 また、ショック数は、標準インターバル群30回/100人・年、長期インターバル群19回/100人・年であり、発生率比は0.77(同:0.59~1.01、p=0.06)だった。 不適切なショックの初回発生リスクについては、長期インターバル群の標準インターバル群に対する発生率比は0.55(p=0.008)とおよそ半減した。 一方、死亡率と失神発生率については、いずれも両群で有意差はみられなかった。

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中等度~重症の尋常性乾癬へのインフリキシマブ長期療法、継続的vs.間欠的

 中等度~重症の尋常性乾癬患者に対するインフリキシマブ(商品名:レミケード)治療について、間欠的投与よりも継続的投与のほうが効果的である可能性が、長期延長無作為化試験の結果、報告された。ドイツ・Dermatologikum HamburgのK. Reich氏らによる報告で、「間欠療法群では注射投与に関する重大反応の発生が認められた。中等度~重症の尋常性乾癬患者においては間欠療法を回避すべきであることを示唆するものである」と結論している。British Journal of Dermatology誌オンライン版2013年4月30日号の掲載報告。 長期延長無作為化試験RESTORE2は、RESTORE1の延長試験で、ベースラインで26週間のインフリキシマブ治療を完了し、PASI75(PASIのベースラインスコアから75%以上改善)を達成した患者を組み込んで行われた。 被験者を無作為に1対1の割合で、継続療法群(インフリキシマブ5mg/kgを8週ごと)または間欠療法群(PASI改善率>50%損失までインフリキシマブを投与しない)に割り付け、有効性と安全性について評価した。 主な結果は以下のとおり。・継続療法群には222例が、間欠療法群には219例が割り付けられた。・数量的にいうと、注射投与関連の重大反応は、継続療法群(1/222例、<1%)よりも間欠療法群(8/219例、4%)で多く認められた。・継続療法群のインフリキシマブ曝露の平均期間は40.12週(SD 27.55)、平均投与回数は5.8回(範囲:0~16)であった。間欠療法群は、同22.78週(SD 22.98)、3.4回(0~16)であった。・フォーマルな有効性解析は行われなかったが、数的には52週時点でのPASI 75達成者は継続療法群のほうがより多かった(継続療法群:81/101例・80%、間欠療法群:39/83例・47%)。また、その他いくつかの有効性評価において、同様の傾向が認められた。

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高齢の遅発統合失調症患者に対する漢方薬の効果は?

 統合失調症の発症年齢には個人差があるが、遅発性および超遅発性の統合失調症に関する研究は不十分であり、治療のさまざまな問題点は未解決のままである。島根大学の宮岡 剛氏らは、認知機能障害のない超遅発性統合失調症様精神障害の高齢患者に対する抑肝散(TJ-54)単独療法の有効性と安全性を評価した。Phytomedicine : international journal of phytotherapy and phytopharmacology誌2013年5月15日号の報告。 本試験は、最近の超遅発性統合失調症様精神病のコンセンサス基準およびDSM-IV-TR診断基準の両方を満たす患者(平均年齢73.1±4.8歳)40例を対象としたオープンラベル試験。簡易精神症状評価尺度、臨床全般印象重症度(CGI-SI)、PANSSについて、ベースライン時と抑肝散(2.5~7.5g/日)投与4週間後のスコアの変化量を評価した。加えて、異常不随意運動は、Scale Simpson-Angus 錐体外路系副作用評価尺度、Barnesアカシジア尺度、異常不随意運動評価尺度(AIMS)にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者において、精神症状の有意に高い改善が認められた(p<0.001)。・抑肝散の忍容性は良好であり、臨床的に有意な有害事象は認められなかった。・すべての異常な不随意運動に関するスコアは、抑肝散の投与前後で有意な差は認められなかった。・超遅発性統合失調症様精神病患者に対する抑肝散による治療は、有用かつ安全であることが示された。関連医療ニュース 統合失調症患者に対するフルボキサミン併用療法は有用か?:藤田保健衛生大学 統合失調症治療にベンゾ併用は有用なのか? 統合失調症患者の社会的認知機能改善に期待「オキシトシン」

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プライマリ・ケアでの肺炎診断、症状と徴候による診断がベスト/BMJ

 プライマリ・ケアにおいて、急性の咳症状から肺炎を予測するには、軽度あるいは重度の患者では症状と徴候に基づくクリニカルルールが最も適していることが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのSaskia F van Vugt氏らによる検討の結果、示された。また、CRP>30mg/Lの至適カットオフ値の情報は診断情報を改善するが、プロカルシトニン(PCT)値は診断には役立たないことも示された。BMJ誌オンライン版2013年4月30日号掲載の報告。肺炎の診断については症状と徴候の精度を検討した試験はあるが、プライマリ・ケアでの適用のエビデンスは乏しかった。一方で、CRPやPCTの検査値を加味した場合の診断精度は不明であった。炎症マーカーは役立つのか予測診断精度を定量化し検証 研究グループは、症状と徴候に選択的炎症マーカーの情報を加えた場合の肺炎の予測診断精度を定量化することを目的とし、2007~2010年にかけて診断的試験を行った。 被験者は、病歴が確認でき、初回診察日に、身体的診察とCRPおよびPCT検査を受けており7日以内に胸部X線を受けていた急性咳症状で来院した患者とした。試験はヨーロッパ12ヵ国のプライマリ・ケアセンターで行われた。 主要評価項目は、その他の臨床情報については知らされなかった放射線専門医により、X線写真のみで肺炎と診断された場合とした。 試験適格患者は3,106例で、そのうち286例は胸部X線写真が紛失または不鮮明等により除外された。残る2,820例の患者について検討された。CRP>30mg/Lは役立つがプロカルシトニン値は役に立たない 2,820例(平均年齢50歳、男性40%)のうち、肺炎を有していたのは140例(5%)であった。1,675例について胸部X線写真の再評価を行った結果、94%(κ:0.45、95%信頼区間[CI]:0.36~0.54)で結果が一致した。 6つの公表されている“症状と徴候のモデル”によってそれらの識別は異なった[ROC曲線下面積範囲:0.55(95%CI:0.50~0.61)~0.71(同:0.66~0.76)]。 本研究患者から導き出された予測のための最適な組み合わせは、「鼻汁は認めない」「息切れがある」「聴診でのクラックルと呼吸音減弱」「頻脈」「発熱」で、ROC曲線下面積は0.70(95%CI:0.65~0.75)であった。 CRP>30mg/Lのカットオフ値情報を加味した場合、ROC曲線下面積は0.77(95%CI:0.73~0.81)に上昇し、診断分類が改善された(ネット再分類改善率28%)。症状、徴候、CRP>30mg/Lで肺炎の“低リスク”(<2.5%)と分類した1,556例において、肺炎の有病率は2%であった。一方、“高リスク”(>20%)と分類した132例における肺炎の有病率は31%であった。肺炎の低・中・高リスクの陽性尤度比はそれぞれ、0.4、1.2、8.6であった。 PCT値の情報は、付加的な診断情報とはならなかった。 症状、徴候、CRP>30mg/Lに基づく簡略化診断スコアと肺炎が結びついた割合は、低・中・高リスク群においてそれぞれ0.7%、3.8%、18.2%であった。

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統合失調症・双極性障害患者は「痛み」を抱えている

 統合失調症および双極性障害患者では非がん性疼痛の発生頻度が高いことが、米国・退役軍人ヘルスケアシステムのDenis G. Birgenheir氏らによる断面調査の結果、明らかになった。結果を踏まえて著者は、「さらなる研究により、重度の精神疾患患者において十分な疼痛治療の障壁となりうる要因を調べる必要がある。同時に、慢性疼痛が精神疾患からの回復に与える影響についても調べる必要がある」と提言している。General Hospital Psychiatry誌オンライン版2013年4月29日号の掲載報告。 研究グループは、統合失調症および双極性障害の患者における非がん性慢性疼痛の発生状況を評価することを目的に、退役軍人健康管理局(VHA)システム登録者を対象とした断面調査を行った。VHA治療記録から2008年にVHAサービスを受けた個人診療データを抽出し、重度の精神疾患(統合失調症、双極性障害)と慢性疼痛(関節炎、腰痛、慢性疼痛、片頭痛、頭痛、精神・神経性障害)との関連について、ロジスティック回帰分析を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症および双極性障害を有する退役軍人は、有さない退役軍人と比べて、全体的に慢性疼痛を有する傾向が有意に高かった。オッズ比は、統合失調症を有する退役軍人が1.21、双極性障害を有する退役軍人が2.17であった。・上記の関連は、同一サンプルにおける、うつ病と疼痛の関連(オッズ比:2.61)よりもわずかであるが低かった。・特異的精神疾患との関連が最も強かった疼痛症状は、慢性疼痛、頭痛、心因性疼痛であった。関連医療ニュース ・検証!「痛み」と「うつ」関係は?:山口大学 ・「片頭痛の慢性化」と「うつ」の関係 ・慢性腰痛患者におけるオピオイド療法の効果はうつや不安に影響される

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