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講師紹介<今回のPoint>高齢者のPSA高値では、前立腺がんの早期発見という利益だけでなく、前立腺生検の負担や過剰診断の不利益も考える必要がある。PSAが軽度〜中等度に上昇している場合には、PHIなどのバイオマーカーやMRIを活用することで、前立腺生検に進むべきかをより慎重に判断できる可能性がある。高齢者では、期待余命、フレイル、併存疾患、患者の価値観を踏まえたshared decision making(SDM)が重要である。<症例>78歳、男性。検診でPSA 6.9ng/mLを指摘され、クリニックを受診。一昨年に狭心症発作に対して冠動脈ステント留置術を受けており、糖尿病、高血圧の薬に加えて抗血小板薬を内服している。PSA高値について総合病院での精査を提案すると、「症状なんて何にもない。おしっこの悩みもないのに、精密検査は絶対に受けなければならないのか?」と話され、精査については躊躇される気持ちがあった。この患者に対して、すぐに侵襲的な検査である前立腺生検を勧めるべきでしょうか。それとも、患者と相談し、慎重に経過をみることを選択肢に持つべきでしょうか。“PSA高値=すぐ前立腺生検”でよいのか?PSA検査と、それに続く前立腺生検の目的は、前立腺がんを見つけて、必要な患者を根治に導くことです。しかし、高齢男性においては、「がんを見つけること」そのものが、必ずしも患者の利益につながるとは限りません。PSAスクリーニングの有効性を示した代表的な試験として、欧州で行われたERSPC trialがあります1)。この試験では、PSAスクリーニングにより前立腺がん死亡リスクが低下することが示されました。しかし、この16年間の追跡結果では、前立腺がん死を1人減らすためには570人にスクリーニングを行い、18人の前立腺がんを診断する必要があると報告されています。この数字を見ると、PSA検査には確かに意義がある一方で、多くの方が検査や精査の対象となることがわかります。とくに高齢者では、前立腺がんを見つける利益だけでなく、検査による負担や過剰診断の不利益もあわせて考える必要があります。さらに、PSA高値の患者に対して行われる前立腺生検は、決して無害な検査ではありません。血尿は4〜66%、直腸出血は1〜37%、発熱は0.6〜17%に認められると報告されています。多くは軽微ですが、膀胱洗浄を要する血尿は0.4%、処置を要する直腸出血は0.3%、敗血症は0.1〜3.1%とされており2)、まれながら重篤な合併症も起こり得ます。高齢者では、一度の感染や入院をきっかけにADLが低下することもあります。抗血小板薬や抗凝固薬を内服している患者では、出血リスクへの配慮も必要です。したがって、高齢者のPSA高値をみたときには、前立腺生検へ進む前に、その検査によって「本当に患者にとって利益が得られるものなのか」を一度立ち止まって考えることが大切です。高齢者では「見つけること」の不利益も考える前立腺がんには、生命予後にほとんど影響しない、いわゆる“おとなしいがん”が少なくありません。剖検研究では、ラテント前立腺がんの頻度は加齢とともに上昇し、80歳以上では約6割に認められると報告されています3)。高齢者に対するPSA検査や前立腺生検は、このような臨床的に問題とならないがんまで見つけてしまう可能性があります。ここで問題になるのが過剰診断です。過剰診断そのものは患者に症状を起こさないかもしれませんが、いったん「がん」と診断されると、不安や医療機関受診の負担、さらには将来的な過剰治療へつながることがあります。前立腺がん診療では、次回(前立腺がんに対する監視療法)で述べるように過剰治療への懸念もありますが、その前段階として「調べすぎ」「見つけすぎ」も高齢者では重要な課題です。もちろん、これは「高齢者には前立腺生検をすべきではない」という意味ではありません。臨床的に重要な生命予後に関わる前立腺がん(significant cancer)が疑われる患者では、適切な検査を進める必要があります。重要なのは、すべての前立腺がんを早期に見つけることではなく、転移性がんやsignificant cancerを見逃さず、一方で不必要な生検や過剰診断を減らすことです。PSAだけで判断せず、新規バイオマーカーとMRIも活用するこのような利益と不利益のバランスを考えるうえで、PSA値だけで判断するのではなく、PHI(Prostate Health Index)などの新規バイオマーカーやMRIを組み合わせて評価するという考え方もあります。とくにPSAが軽度〜中等度に上昇している高齢者では、すぐに前立腺生検へ進むのではなく、泌尿器科専門医のもとでリスクを段階的に評価し、前立腺生検が本当に必要かを患者と相談しながら判断することが重要です。PHIは、PSA高値患者における臨床的に意義のある前立腺がん、すなわちsignificant cancerのリスク評価に役立つ指標です4)。PHIが27未満の場合、91%が非がんまたはGleason score 6以下であったと報告されています5)。一方で、PHIが36以上ではGleason score 7以上のsignificant cancerのリスクが高まるとされています6)。これらの報告を踏まえると、PSAが軽度に上昇している高齢者、とくに複数の併存疾患を有しているケースでは、PHIが低い場合には慎重なPSAフォローを選択し、PHIが高い場合にはMRIなどの追加評価を検討するという段階的な考え方が成り立ちます。この段階的な評価において、MRIは前立腺生検へ進むべきかを判断するうえで重要な役割を担います。PI-RADSに基づくMRI評価は、significant cancerの検出を高める一方で、生命予後に大きく影響しにくい前立腺がんの過剰診断を減らすことにも役立ちます7)。PROMIS trialでは、significant cancerの検出において、mpMRIの感度は93%、特異度は41%、陰性的中率は89%と報告しています8)。また、MRIを先行することで約27%の患者が前立腺生検を回避でき、生命予後に大きく影響しにくい前立腺がんの診断を減らしながら、significant cancerの検出精度を高められる可能性が示されました。したがって、PSAが軽度〜中等度に上昇している高齢者では、「PSA高値だからすぐ生検」ではなく、PHIなどの新規バイオマーカーでリスクを見積もり、必要に応じてMRIを行い、その結果を踏まえて前立腺生検を検討するという段階的なアプローチも選択肢の1つとなり得ます。高齢者のPSA高値で考えるポイントさらに、高齢者のPSA高値を見たとき、最初に考えるべきことは「前立腺がんがあるか」だけではありません。期待余命はどのくらいかフレイルや認知機能低下はないか併存疾患や内服薬はどうか仮に前立腺がんが見つかった場合、生検やその後の治療に耐えられるか患者本人はどこまで検査や治療を望んでいるかこれらを踏まえたうえで、PHIやMRIを活用し、前立腺生検へ進むべきかを患者と相談しながら判断することが大切です。PSA値に応じて考える、高齢者への段階的アプローチ高齢者にPSA検査を行った後の対応としては、次のような段階的アプローチもあります。<PSA 4ng/mL未満の場合>日本泌尿器科学会の検診ガイドラインの考え方を参考に、PSA値に応じて1〜3年ごとの再検を検討します。ただし、再検を勧める際にも、その時点での期待余命やフレイルを再評価することが大切です。(図1)PSA<4ng/mLのフォローアップ戦略画像を拡大する<PSA 4〜10ng/mL、軽度PSA高値の場合>PHIでリスク層別化を行い、PHI高値であればMRIを検討します。MRIでPI-RADS3以上の病変があれば前立腺生検を考慮し、PI-RADS2以下で臨床的な疑いが低い場合にはPSAフォローを継続する、という流れも一つの選択肢になります。(図2)PSA 4〜10ng/mLに対するフォローアップ戦略画像を拡大する<PSA 10〜20ng/mL、中等度PSA高値の場合>MRIをより積極的に検討し、MRI所見やPSAの推移、患者の全身状態を踏まえて前立腺生検の要否を判断します。(図3)PSA10〜20ng/mLに対するフォローアップ戦略画像を拡大するもちろん、これらはあくまで一つの考え方であり、すべての患者に機械的に当てはめるものではありません。大切なのは、前立腺生検を避けること自体が目的なのではなく、本当に生検が必要な患者を見極めることです。終わりに高齢者の前立腺がん疑いでは、PSA高値をみたときにすぐ前立腺生検へ進むのではなく、期待余命、フレイル、併存疾患、患者の価値観を踏まえて、検査の利益と不利益を慎重に考える必要があります。PHIなどの新規バイオマーカーやMRIを活用し、significant cancerを見逃さず、不必要な前立腺生検や過剰診断を減らすことが重要です。高齢者のPSA高値では、患者と相談しながら、一人ひとりに合った検査戦略を考えることが大切です。 1) Hugosson J, et al. Eur Urol. 2019;76:43-51. 2) 日本泌尿器科学会編. 前立腺がん検診ガイドライン2018年版. 2018. p.111-116. 3) Bell KJL, et al. Int J Cancer. 2015;137:1749-1757. 4) Catalona WJ, et al. J Urol 2011;185:1650-1655. 5) Tosoian JJ, et al. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2017;20:228-233. 6) White J, Shenoy BV, et al. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2018;21:78-84. 7) 高橋 哲. 臨床泌尿器科. 2022;76:770-777. 8) Ahmed HU, et al. Lancet. 2017;389:815-822.