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筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する多剤併用試験の意義(解説:森本悟氏)-1331

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロン障害による筋萎縮、筋力低下、嚥下障害、呼吸不全等を特徴とする神経難病であり、有効な治療法はほとんど存在しない。 しかし今回、ALSの有効な治療薬として、フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)-taurursodiol合剤が報告された(Paganoni S, et al. N Engl J Med. 2020.383:919-930. )。 フェニル酪酸ナトリウムは、本邦では尿素サイクル異常症治療薬として使用されている。この薬剤は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としても働き、低分子シャペロンである熱ショックタンパク質(HSP)を増加させる。それにより、ALSの病態として重要なタンパク質(TDP-43)の異常蓄積を防ぎ、小胞体ストレスによる神経毒性を低減する。一方、taurursodiol(ウルソデオキシコール酸[ウルソジオール]のタウリン抱合体)は漢方薬の原料である熊胆の成分であり、小胞体ストレスを軽減するとともに、ミトコンドリアにおけるBax蛋白の膜移行を阻害し、細胞死を防ぐ働きがある。 従来の数多くの基礎研究により、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能不全、あるいは小胞体-ミトコンドリア接触部(MAM)の破綻などがALSにおける重要な病態であるということが提唱されてきたが、今回の臨床試験の報告により、これらの仮説が証明された。さらに本治験患者を長期観察した続報として、ALSにおける運動機能改善のみならず、投薬患者はプラセボ群と比較して6.5ヵ月長い生存期間中央値(無作為化後最大35ヵ月間のフォローアップ)を認めた(Paganoni S, et al. Muscle Nerve. 2021;63:31-39.)。 これまで、脳血管障害や結核治療のように複数の薬剤を併用することで、“multi-target”および“synergistic effect”も含めて有効性を高められる可能性が言われてきたが、今回の報告は、ALSに対する“多剤併用試験”の先駆的な成功例である。 一方で、最近の話題として、ALSを含む多くの神経変性疾患に対する治療開発戦略において、“iPS細胞創薬”が台頭してきている(Okano H, et al. Trends Pharmacol Sci. 2020;41:99-109. )。このコンセプトにより、これまでの動物モデルでは成しえなかった“孤発性疾患モデル”が現実的なものとなり、神経変性疾患の大部分を占める孤発性患者を直接的なターゲットとした創薬が可能となりつつある。 近年、ALSに対する創薬(研究)の報告が相次いでおり、一刻も早くALSが克服されることを切に願ってやまない。

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第29回 オンライン診療恒久化の流れに「かかりつけ医」しか打ち出せない日医の限界

初診も含めたオンライン診療、平時も解禁へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。コロナも少しは収まったということで、10ヵ月振りに88歳の父親が一人暮らしをしている愛知の実家に帰りました。父親の関心と愚痴はいつも自分の病気や体調のこと。今回は「最近、足が冷たく、しびれも感じる」と今までなかった不調を訴えてきました。聞くと、行きつけの近所の診療所では「それは老化ですね」と言われ、ツムラの107番(牛車腎気丸)を処方されたとのこと。107番の効きはまったく実感できずに近所の鍼灸院に通いだした、と話していました。私の見立ては下肢閉塞性動脈硬化症なのですが、医師に「老化ですね」とだけ言われ、症状も改善せずに戸惑っている90歳近い老人に息子としてどう対処したらいいものか、困ってしまいました。さて、今回は全国ニュースでも喧しい「オンライン診療」について書いてみたいと思います。この連載では、菅 義偉総理大臣が誕生したまさにその日、9月16日付で「オンライン診療めぐり日医と全面対決か? 菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと」と題して、菅政権にとってオンライン診療は規制緩和やデジタル化推進の象徴であり、日本医師会との軋轢が今後一層深まるのでは、と書きました。菅首相は政権発足初日に田村 憲久厚生労働相に「オンライン診療の恒久化」を指示しました。その後、恒久化へのシナリオは着実に進んでいます。10月7日、政府の規制改革推進会議は「議長・座長会合」を開き、オンライン診療・服薬指導について「デジタル時代に合致した制度として恒久化を行う」という方針を確認しました。そして、翌8日には田村厚労相が平井 卓也デジタル改革相、河野 太郎行政改革相と会談。初診も含めたオンライン診療の原則解禁について3大臣が合意しました。今後、厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」において、安全性を確認しながら対象などを改めて整理することになっています。「かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸に」と中川会長一方、日本医師会の中川俊男会長は先週14日の定例記者会見で、3大臣による合意に対する見解を発表しました。中川氏は、日医のオンライン診療に対する基本的なスタンスは、9月24日会見時の「解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に、対面診療を補完するもの」という考え方から変わらないとしたうえで、「安全性と信頼性をオンライン診療の必須条件として位置付けていかなければならない。さらに有効性も担保される必要がある」とし、「安全性と信頼性の確保に向けては、かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸にすべきだ」と述べました。なお、かかりつけ医機能については、7年前の2013年8月に、日医と四病院団体協議会が合同で提言した「医療提供体制のあり方」1)の中で示された定義を改めて説明した、とのことです。この時の提言では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義、具体的なかかりつけ医機能4項目も明示しています。資格もなく曖昧な「かかりつけ医」の概念オンライン診療に関する議論において、「かかりつけ医」の定義を持ち出してきた点に、全面解禁に反対する日本医師会の理論武装の弱さを感じます。「かかりつけ医」は、医療の世界でよく使われる言葉ですが、日医と四病院団体協議会が定義した内容が国民に十分に浸透、定着しているとは言えません。そもそも、この定義に合致した医師を養成する仕組みや、研修制度などをベースにきちんとオーソライズする仕組みもありません。つまり、現状で日医が定義し提唱する「かかりつけ医」とは、地域で診療する医師の一つの理想像、“絵に描いた餅”に過ぎないのです。オンライン診療の安全性と信頼性の確保に向け、「かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸すべきだ」と言われたところで、その概念が曖昧で確固たる実態がないままでは、議論を進めようがありません。コロナ収束までの時限的措置として特例的に規制緩和されたオンライン診療ですが、一定数の患者が新たにそこに流れた、ということは、かかりつけ医や主治医を持たない(あるいはかかりつけていた医師への受診にこだわらない)国民がそれだけいた、ということです。かかりつけ医というものに対しては、日医が考えているほど、国民は期待していないのかもしれません。「オンライン健康相談にも診療報酬を」オンライン診療に関連し、中川会長は「オンライン健康相談」に対するかかりつけ医の関わり方についても言及しています。これは10月7日の定例会見で話されたもので、民間企業が提供するオンライン健康相談サービスについて、国による定義付けや業界ガイドラインの作成などのルールづくりが必要だ、と提言。さらに、かかりつけ医が診療行為の一環としてオンライン健康相談を行った場合は、診療報酬で適切に評価することも提案しました。医師以外での相談業務にはオンライン健康相談ではなく「オンライン生活相談」等の名称とすることも提案しました。さらに、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、医師以外による「遠隔健康医療相談」において「受診不要の指示・助言」も可能とする点も、「原則的にできないようにすべき」と述べています(遠隔健康医療相談については、本連載「医師の質・能力、実はどうでもいい? LINEヘルスケア事件の先にある世界」を参照)。時代に逆行する考え方こうした中川会長の一連の発言を聞いていると、「健康相談すらも医師しかできない業務にしろ」と言っているように聞こえます。しかし、これはいささか時代に逆行する考え方ではないでしょうか? 現在、「医師の働き方改革」の中で、タスクシフティングが議論されています。具体的にタスクシフト、タスクシェアの対象として検討が始まった医師の業務の中に、「健康相談」は入ってはいないようですが、診療前の健康相談までを医師のルーチンワークに入れてしまったら、医師のハードワークはいつまでたっても解消されないのではないでしょうか。「かかりつけていてもかかりつけ医ではない」レギュレーションをオンライン診療恒久化の流れに対し、「対面原則」「かかりつけ医、かかりつけ医機能を基軸」を押し通すなら、ここは改めて「かかりつけ医」というものを再定義し、きちんとした専門資格として世の中に問うべきだと思いますが、皆さんはどうお考えでしょうか?中川会長自身も14日の会見ではかかりつけ医の定義について、技術革新・ICT化などが進んだことを背景に「見直し、ブラッシュアップする時期かもしれない」と述べていますが、資格化については言及していません。絵をどれだけブラッシュアップしても絵のままだと思うのですが…。私としては、88歳の老人の不定愁訴に対し、診断名も告げず「老化ですね」と言うだけで、漢方薬を適当に処方するような医師は、「かかりつけていてもかかりつけ医ではない」という、厳しめのレギュレーションを設けてもらいたい、と思う今日この頃です。参考1)医療提供体制のあり方/日本医師会・四病院団体協議会

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Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

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第17回 治療編(1)薬物療法・その4【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第17回 治療編(1)薬物療法・その4前回侵害受容性疼痛に対し、わが国で非麻薬系オピオイドとして使用されているトラマドール製剤とブプレノルフィン貼付薬について解説しました。今回は、さらに痛みの程度が強い患者さんに使用する麻薬系オピオイドのコデイン、モルヒネ、フェンタニルについて説明したいと思います。(1)コデイン<作用機序>コデインは、投与量の5~15%が肝臓で代謝されることで、CYP2D6により産出されるモルヒネとなり、鎮痛効果が得られます。産出されたモルヒネがオピオイド受容体と結合することで、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>モルヒネと同様に考えて使用します。コデインリン酸塩散には1%、10%、原末があります。また、コデインリン酸塩錠には5mg、20mgがあります。通常は、1回20mg錠を1日3回投与します。ただし、モルヒネ換算には幅があり、鎮痛作用を目的にする場合には、鎮咳目的の場合と異ってかなりの量が必要になります。1%散として使用する場合には、1回2g、1日3回6gの投与になりますので、漢方薬並みの用量となります。通常は麻薬扱いですが、 内容量が少ない1%散、5mg錠は、投与量と関係なく非麻薬扱いになります。副作用として、嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、口渇、ふらつき、傾眠、意識消失などがあります。(2)モルヒネ<作用機序>オピオイドの基本薬です。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>次の項に示した合成麻薬フェンタニルの基本薬物になります。錠剤は10mgですが、いきなり10mg錠剤ではなく、末として3mg、5mg、8mgと段階的に体が慣れてくるたびに増量していきます。もちろん、途中で疼痛が緩和されれば、その投与量で維持していきます。また、1日の投与量が15mgに達すれば、フェンタニル貼付剤の適応(文末の表を参照)になります。(3)フェンタニル貼付剤<作用機序>モルヒネと同様、強オピオイドに分類されます。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>フェンタニル貼付剤には、3日用の「デュロテップMTパッチ」、1日用の「フェントスパッチ」「ワンデュロパッチ」が適応されます。モルヒネ経口剤で30mgが「フェントスパッチ1mg」「デュロテップMTパッチ2.1mg」「ワンデュロパッチ0.84mg」に相当します。貼付剤なので、貼付する部位を毎回ずらしていきます。また、温度が高くなると、吸収が増えるので、入浴などの際には気を付けなければなりません。そのために、入浴が好きな患者さんでは、1日用のパッチを入浴前にいったん外し、入浴後に再度貼付される方もいます。なお、本剤の投与に際してはeラーニングの受講が必要です。モルヒネおよびフェンタニルは、医療用麻薬に分類される強オピオイドであり、乱用、依存、退薬症候、長期処方に伴う鎮痛耐性、鎮痛過敏、腸機能、性腺機能障害などに注意が必要です。貼付剤では掻痒、発赤などの皮膚症状が見られることがありますので、貼付部位をローテーションすることが重要です。以上、痛み治療の第3段階における薬物について、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。難治性疼痛患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は神経ブロックについて解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S156-S157

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事例006 漢方薬・柴苓湯エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説今回は、複数社から販売されている漢方薬全般によくある査定をお届けします。事例では瘢痕拘縮の改善に「柴苓湯」が著効したとの研究論文を参考に投与されていました。柴苓湯の添付文書を見ると、その適応には瘢痕拘縮の記載がありません。そのため、投与根拠である傷病名に適応病名が無いとして医学的に保険診療適用は認められないとA査定になったものです。多くの漢方薬では保険適用の承認時に、症状緩和を目的とした表現が多用されています。ここまでなら大丈夫と幅広く処方され、査定の対象となる事例をよく見かけます。保険診療では、共助と患者に対する医療安全を基本に、「保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「療担」)」第19条において、「厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止」が定められています。この表現の中には、「医薬品に承認された効能・効果・用法・用量など」も含まれます。それを超えた使用は、療担第18条において特殊療法等に分類され原則禁止とされています。また、傷病名に対する適応が認められていないと査定対象となります。まれに、レセプトの当初請求時に医学的必要性が詳記されている場合には、保険診療の適用から外れていても、医師の裁量権が認められることもあります。関連学会のレポートなどで、いかに良い成果発表があったとしても、必ず保険診療の適用があるか確かめてから投与されることが、査定を減らすために必要となります。

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COVID-19診療に医学書出版社が支援/日本医書出版協会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により学術集会で新刊書の購入もままならない昨今、わが国の医学書出版社で構成される「日本医書出版協会」は、同協会の会員各社がサイトで無償公開しているCOVID-19関連の書籍、雑誌の論文や記事、Web情報などを一元的に閲覧できるページ「新型コロナウイルス関連無償コンテンツ 」を開設した。 具体的に公開されているコンテンツは、書籍、論文など約60コンテンツにのぼり、初出年月の新しい順に掲載されている(一部、会員登録が必要なコンテンツもある)。 ホームページでは、COVID-19の診療に携わる医療者に感謝を述べるとともに、診療への支援に役立てほしいと述べている。掲載コンテンツ・書籍「『今日の治療指針2020年版』収載「オンライン診療の手引き」無料公開について」福井次矢(医学書院)・雑誌「おさえておきたい 新型コロナウイルスの情報と感染対策基本テクニック」清水潤三(医歯薬出版)「COVID-19は研究にどう影響しているかー小誌アンケートに寄せられた声を紹介」実験医学編集部 早河輝幸(羊土社)「PCR検査をめぐる再混乱─集団的同調圧力で決めてはいけない」岩田健太郎(日本医事新報社)・その他(Web情報など)「COVID-19緊急企画「プライマリ・ケアにおける漢方薬の新たなニーズ」」長瀬眞彦(羊土社)「「新型コロナウイルス」関連コメント特設ページ」菅谷憲夫(日本医事新報社)「NEJM日本国内版オンラインにコロナウイルス関連情報ページを公開」NEJM日本国内版(南江堂)

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第8回 新型コロナ予防・治療・メンタルヘルスへの活用が期待される漢方薬の可能性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する既存薬の活用が期待される一方、新型コロナの感染予防・軽傷者の重症化予防やメンタルヘルスに対する漢方薬の活用が注目されている。日本東洋医学会では、漢方薬などによる対症療法とその後の重症化の有無との関連を調べるため、医療機関に症例の報告を呼び掛けている1)。また、薬局・薬店からなる日本中医薬研究会は新型コロナ治療の予防・治療に対し、中国漢方である中医薬(中国伝統医薬)の有効性を探るため、日中の医師や薬剤師らによるウェブ交流会を4月に行った。振り返ると、2009年の新型インフルエンザ流行時には、麻黄湯や銀翹散、小柴胡湯などの漢方薬に抗ウイルス作用が確認されている。タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ治療薬に麻黄湯などの漢方薬を合わせて使うと一定の効果が見られたという。COVID-19に関連し、中国は3月、顕著な治療効果が見られたという「三薬三方(三つの処方と薬)」を選出し、清肺排毒湯、化湿敗毒方、宣肺敗毒方という3つの中医薬を推奨している。このうち、COVID-19用に創薬され、軽症から重症までカバーするという清肺排毒湯には麻黄湯と小柴胡湯が構成生薬の一部として使われている。新型コロナの感染確認者の91.5%が中医薬を使い、臨床治療の効果観察では、中医薬の総有効率は90%超に上っているという。日本国内においても、清肺排毒湯を日本で処方可能なエキス剤で作り、軽症者の重症者化予防に処方している医療機関がある。無症状者を含めた予防には、免疫力を高める効果が報告されている補中益気湯や十全大補湯などがある。メンタルヘルスに関しては、新型コロナによる自粛生活で、高齢者を中心に運動不足による持病悪化や、ストレスや経済的不安によるうつ病症状を訴える人が増えている。また、経済の悪化に伴う失業者の増加により、累計自殺者数が27万人増との試算もある。「コロナうつ」への対応も重要な課題だが、精神科や心療内科の受診をためらう人は少なからずいる。それに比べると、漢方薬はハードルがいくぶん低くなるようだ。ストレス緩和効果が得られる漢方薬には、加味逍遙散や柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯などがある。ただ、漢方薬は西洋薬の処方のようにはいかないのはご存じの通り。漢方薬は病名ではなく、患者個々人の体質と症状に対する処方が原則だ。漢方薬においても、現段階でCOVID-19への特効薬がない以上、予防段階では体力を付けて免疫力を上げる、感染したら発熱しないようにする、発熱したら早く治るようにするというように、段階によって使う漢方薬が異なり、患者ごとに症状を見ながら処方を判断しなければならない。ただ、新型コロナウイルスは変異の速いRNAウイルスの一種で、現在効いている新薬がいつ効かなくなるかわからない懸念がある。漢方薬を扱っている医療従事者は「免疫力の強化を本来重視する漢方薬は、変異に対してもある程度有効なのでは」と期待している。1)COVID-19一般治療に関する観察研究ご協力のお願い(日本東洋医学会)

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「しょっちゅうこむら返りになる」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第29回

■外来NGワード「この薬さえ、飲んでおけば大丈夫です!」(運動療法に触れない)「何か、運動しなさい!」(あいまいな運動指導)「糖尿病の合併症ですよ。もっと血糖値を下げないと!」(医学的脅し)■解説 有痛性筋痙攣(muscle cramp)、いわゆる「足がつる」状態や「こむら返り」は、健康な人でも久しぶりに運動したときなどに起こります。一方、糖尿病や肝硬変の患者さんでは、ふくらはぎなどの下肢だけでなく、上肢に起こる人もいます。高齢者糖尿病ではとくに頻度が高く、日中にも症状が出現することが報告されています。また、利尿薬、スタチン、β2刺激薬(吸入薬)を使用している人は、リスクが高まるといわれています。この有痛性筋痙攣は、時に睡眠を妨げ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。しかし、この「こむら返り」をかかりつけ医に相談していない事例も多いようです。高リスクの患者さんには、よく眠れているか確認してみましょう。症状が出たときの対処法としては、膝を押さえ下腿三頭筋を他動的に伸展させる方法がよく用いられています。芍薬甘草湯などの漢方薬が汎用されますが、寝る前のストレッチや足の軽い運動なども効果があるので、運動療法と併せて治療を行うことが大切です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者最近、夜中に足がつることが多くて…。医師それは大変ですね。最近、血糖が高い状態が続いているので、何か関係しているのかも。患者やっぱり、糖尿病のせいなんですか?(やや不安そうな顔)医師影響は考えられますね。整形外科的な疾患ではないと思うので…。患者夜中に、痛くて目が覚めてしまうんです。どうしたらいいですか?医師漢方薬などもありますが、もっといい方法がありますよ。患者なるべく薬は増やしたくないので、教えてほしいです!(興味津々)医師寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?患者(実際に足を動かして)これぐらいなら、一人でもできそうです。医師お風呂上がりやテレビを見ているとき、歯磨きの後などでもいいので、寝る前にぜひやってみてください。患者はい。わかりました。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?」1)餘目千史ほか.日本糖尿病教育・看護学会誌. 2016;20:211-220.

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グレリンとがん悪液質 シリーズがん悪液質(7)【Oncologyインタビュー】第14回

近年注目されている空腹ホルモングレリンと悪液質の関係。食欲亢進にとどまらないグレリンの作用について、当分野のエキスパートである鹿児島大学大学院 乾 明夫氏に聞いた。グレリンと悪液質の関係―グレリンの作用とはどのようなものでしょうか。グレリンは1999年に日本人研究者が発見した胃から分泌される空腹ホルモンで、脳の視床下部にある神経ペプチドY(NPY)に作用して摂食行動を促進します。このグレリン/NPYという空腹系システムは、人類が長い間生き残ってきた根幹の1つといえるでしょう。―グレリンは悪液質とどう関係しているのでしょうか。悪液質における重要な2つのポイントは、食欲不振と骨格筋萎縮です。食欲不振では体重が減少しますが、体重減少には体脂肪量と骨格筋量の両方の減少があります。がん悪液質では骨格筋量の減少が主体です。グレリンは、下流のNPYを活性化して食欲を促進します。それと同時に消化管運動、とくに空腹期運動を促進します。胃内に食物があると食欲が抑制されますが、そういった食後期の消化管運動を空腹期運動に変換させることも明らかになっています。もう1つは、成長ホルモン/インスリン様成長因子-1(GH/IGF-1)分泌を促して成長を促進します。成長ホルモンの減少は骨格筋量の減少を引き起こしますので、グレリンにより骨格筋量が増加することになります。このことは一部の小人症がグレリン受容体の異常によることからも認識されていました。グレリンは、食欲を促進し、消化管運動を促進し、骨格筋量を増加する。いずれも、がん悪液質に関係するものです。がんでは飢餓への応答が破綻している―グレリンはがん悪液質に重要な役割を果たしているのですね。実際にがん悪液質では、グレリンの空腹系システムは、どのように変化しているのでしょうか。通常、飢餓になると、グレリン/NPYシグナルが亢進して食欲を促進すると同時に、基礎代謝を抑制します。食べたものを効率よく取り込む仕組みになっているわけです。この飢えに対する応答機構は非常に強力で、たとえば、ネズミを絶食させ餌を与えると、ネズミは体重が戻るまで食べ続けます。その間、食欲促進とともに基礎代謝が低下するよう視床下部で調整されており、セットポイントといわれる元の体重になるまで、その状態が続きます。このセットポイントは人間の場合も同様です。がん悪液質の定義が5%の体重減少(通常起こりえない)なのもこのためです。一方、がんの場合は食欲が十分促進されない、基礎代謝も上がったまま下がらない。つまり、飢えに対する応答が行われていない状況なのです。これにはいくつかの原因があります。がんでは、がん細胞自体や周辺の免疫担当細胞から炎症性サイトカインが出ており、実際に測定するとTNFα、IL-1β、IL-6といった炎症性サイトカインが患者さんの血中では大きく増えています。原因の1つ目は、この炎症性サイトカインがグレリンの分泌を強力に抑制し、グレリンの量が減少してしまうということです。2つ目はグレリン作用抵抗性です。炎症性サイトカインは、満腹系のコルチコトロピン放出因子(CRF)やレプチンの放出を促進します。満腹系を強化することによって、グレリン/NPYの作用を相殺してしまうことになります。3つ目は、アシル基が取れたグレリン(デスアシルグレリン)の増加です。グレリンはアシル化されることで生物活性を発揮する、つまり食欲を促進します。悪液質では、このアシル化グレリンが減少しています。つまり、グレリンが抑制されたうえに、残っているグレリンは活性型が少ない。また、グレリンの作用が満腹系システムで抑制されているわけです。―飢餓への応答破綻にグレリンが大きく関与しているわけですね。グレリンの障害は、上記以外でも起こるのでしょうか。胃がんを例にとってみます。グレリンの産生細胞は胃に多く存在しますが、がんが浸潤すると、グレリン産生細胞が破壊されます。また、手術でグレリン産生細胞を大量に取ってしまう。こういったことで、胃がんでは体重が落ちる方が多いですし、悪液質が高度に起こることがあります。また、抗がん剤も関係します。多くのがんで用いられる5FUや白金製剤は、消化管細胞からセロトニンを放出させます。セロトニンは満腹中枢を刺激し、グレリン分泌を抑制します。こういったことも悪液質につながることがあります。グレリンによるがん悪液質の改善は、その先につながるか。―グレリンの作用が改善すると悪液質も改善するのでしょうか。グレリン産生腫瘍の一例報告があるのですが、その患者さんは体重減少が起きずに経過し、終末期まで悪液質が起こらなかったそうです。これはヒトにおいてもグレリンの悪液質に対する可能性を示していると思います。また、漢方薬でも人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)、六君子湯(リックンシトウ)は、グレリン/NPYに作用します。これらも、体重減少を防ぐ作用、がん悪液質を改善させる効果が報告されています。グレリンアゴニストについても、臨床治験で、食欲促進と骨格筋量の改善が明らかになっています。―悪液質の改善によるサバイバルの結果はまだ出てませんが、どうお考えですか。ヒトでは時間がかかりますが、基本的には何らかの形でサバイバルの改善を示していくべきだと思います。抗がん剤のサバイバル、その多くは数ヵ月から半年程度と言われてまいりました。また、QOLが悪化する場合も認められます。前述の薬剤を用い、QOLを向上するとともにサバイバルが延びるということは、大きな意味があると思います。

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甘草の重複から偽アルドステロン症を疑い、ただちに医師に電話【うまくいく!処方提案プラクティス】第9回

 今回は、整形外科領域で処方頻度の高い芍薬甘草湯による副作用の初期徴候と経過を把握することがキーとなった症例を紹介します。普段から症状や併用薬を確認することが副作用の早期発見に功を奏しました。処方提案後には、副作用が軽減したかモニタリングすることも重要です。患者情報80歳、女性(外来)、体重:70kg基礎疾患:腰部脊柱管狭窄症、高血圧症、脂質異常症血  圧:おおよそ130/70台を推移月1回整形外科を受診しており、薬剤は薬袋で自己管理している。処方内容(すべて継続処方薬)1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後3.リマプロストアルファデクス錠5μg 3錠 分3 毎食後4.メコバラミン錠500μg 3錠 分3 毎食後5.芍薬甘草湯7.5g 分3 毎食後6.ロスバスタチン錠5mg 1錠 分1 夕食後7.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による下肢の痛みや冷えのため芍薬甘草湯が処方されていました。投薬対応中に普段と何か変わったことはないか確認したところ、「最近、手足がだるくて、筋肉痛やこむら返りが起きる。市販薬を購入して服用しているけれど、むしろひどくなっている気がする」と聴取しました。市販薬の内容を確認すると、こむら返りや筋肉の痙攣に良いと聞いて購入した芍薬甘草湯エキス2.4g(商品名:コムレケア)であり、処方されている芍薬甘草湯と重複(甘草として12.0g/日)していました。市販薬の名称からは同じ漢方薬であるとは思わなかったようです。処方薬の芍薬甘草湯を服用中に手足のだるさや筋肉痛、こむら返りなどの症状が生じていることから偽アルドステロン症の可能性が疑われ、さらに市販薬を追加服用したことで症状の増悪に至ったと考察しました。さらに、双方の芍薬甘草湯によって降圧コントロールで服用しているフロセミドによる低カリウム血症が生じて、筋力低下や筋肉痛が生じている可能性もあると考え、医師への連絡が必要と考えました。<偽アルドステロンの注意点>偽アルドステロン症は甘草に含まれるグリチルリチンの活性代謝物であるグリチルリチン酸が、ナトリウム貯留や血圧上昇などのミネラルコルチコイド様作用を発揮することにより生じる。主な初期徴候は、手足のだるさ、しびれ、ツッパリ感、こわばり、筋肉痛、四肢脱力など。甘草2.5g/日以上、グリチルリチン100mg以上で発生リスクが高まるが、それ未満でもリスクはあるので注意が必要。利尿薬(とくにカリウム排泄型)が投与されている場合には、低カリウム血症を生じやすく、重篤化しやすい。処方提案とその後の経過患者さんに事情を話して投薬対応を一旦待っていただき、医師へ電話連絡することにしました。継続処方されている芍薬甘草湯による偽アルドステロン症の可能性があり、市販薬の芍薬甘草湯を購入して服用したことでさらに症状を助長させている可能性について報告し、今後の対応を相談しました。また、フロセミド服用で低カリウム血症が生じている可能性も考えられるため、血清カリウムの採血も提案しました。その結果、医師より処方薬と市販薬の芍薬甘草湯を中止するよう指示があったうえで、患者さんはすぐに再診となり、血清カリウムの評価のため採血検査が行われました。その2週間後に診察フォローがありましたが、予想どおり血清カリウム値が2.6mEq/Lと低カリウム血症でした。血圧推移は安定しており、浮腫もないことからフロセミドも中止となりました。今回問題となった手足のだるさや筋肉痛、こむら返りについては、芍薬甘草湯を中止して症状は改善し、再燃なく経過しています。ポケット医薬品集2019年版重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症

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アドヒアランス不良のカリウム薬の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第3回

 今回は、長期間にわたってカリウム薬を服用していたことに着目した症例です。患者さんより聴取した不満を契機に医師へ血液検査結果を基にした中止提案を行い、中止後の検査値や自覚症状に問題がないことを医師および患者さんと確認し、無事に中止することができました。患者情報外来患者、70歳、女性、身長:154cm、体重:52kg現病歴:高血圧、骨粗鬆症投薬時に、毎食後の服薬が苦痛で、L−アスパラギン酸カリウムの服用をよく忘れるとの相談あり(医師には伝えていない)。市販薬やサプリメントの使用はなし。食事は規則正しく1日3食で、食事摂取量にむらはなし。処方内容(1、3の内科からの処方薬は10年以上服用中)1.テルミサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドールカプセル0.25μg 1カプセル 分1 朝食後3.L−アスパラギン酸カリウム錠300mg 3錠 分3 毎食後症例のポイント患者さんは上記1と3の処方薬を長年服用していますが、L−アスパラギン酸カリウムを毎食後に服用することを苦痛に感じていました。たびたびあった服用忘れを医師には伝えていなかったため、アドヒアランスが良好だということを前提に処方が継続されている可能性がありました。L−アスパラギン酸カリウムは、薬剤性低カリウム血症のカリウム補給に用いられることが多くあります。低カリウム血症の原因となる薬剤として、漢方薬(芍薬甘草湯など市販薬にも成分として含まれるので要注意)や利尿薬(とくにループ利尿薬)、グリチルリチン酸、インスリンが挙げられますが、この患者さんの処方内容からは薬剤性の低カリウム血症が生じている可能性は低いと考えられました。患者さんから聞き取った範囲では、1日3食しっかりと食事を摂取していることから、食事でカリウムが著しく不足しているとも考えにくいです。直近の血液検査結果を持参してもらうと、アドヒアランス不良であったにもかかわらず、血清カリウム値は4.5mEq/Lと充足しており、中止しても大きな影響はないと推察しました。医師に血液検査結果と患者さんの希望について話をしてみたところ、そもそもL−アスパラギン酸カリウムの処方を開始したのは前医のため処方意図がわからないこと、血清カリウムなどのL−アスパラギン酸カリウムの評価を失念されていたことが発覚し、L−アスパラギン酸カリウムの処方が中止となりました。その際、次回診察の際にカリウム値の採血を提案しました。低カリウム血症とは、血清カリウム値が3.5mEq/L未満の場合であり、2.5~3.0mEq/Lが中等症、2.5mEq/L未満は重症と定義されている。2.5mEq/L未満の重症ないし急速な低下時には、心臓(不整脈)、筋肉(筋力低下・倦怠感・麻痺・筋痙攣)、消化管(イレウス・食欲不振・嘔気)、腎臓(多尿・腎機能障害)などに症状が出現する。とくにジギタリス製剤服用中の患者では致死的不整脈が起こりやすいので、血清カリウム値のモニタリングが重要となる。処方提案と経過L−アスパラギン酸カリウムの中止から1ヵ月後に患者さんが再来局されました。血液検査で血清カリウム値は4.1mEq/Lと基準値内であり、食欲不振や倦怠感・筋力低下による症状などの低カリウム血症に基づく症状もありませんでした。患者さんは薬局に相談したことで負担となっていた薬剤を中止できたことを喜んでくださり、信頼関係の構築にもつながって血圧・血液検査の提示や相談の機会も増えました。

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がん専門病院が取り組む、漢方療法の最前線

 漢方薬は、エビデンスの少なさや体質や症状に応じた選択の難しさなどから処方を敬遠する医師も少なくない。神奈川県立がんセンターは、重粒子線治療施設を備えた都道府県がん診療連携拠点病院であり、なおかつ漢方サポートセンターを持つという、全国でも珍しい存在だ。2019年6月6日に行われた「漢方医学フォーラム」(漢方医学フォーラム主催)では、同院の東洋医学科部長の板倉 英俊氏が、がん治療における漢方に関する取り組みと症例を紹介した。がん患者に漢方薬を投与し、心身全体の改善を評価 板倉氏は「がん治療における漢方の役割~西洋医学と漢方医学の融合によるがん支持療法の現状と今後の展望」をテーマに講演した。同院の漢方サポートセンターは2015年に出された厚生労働省の「がん対策加速化プラン」を契機に創設された。がん治療が進化し、長くがんと共生する患者が増えたことを背景に、漢方を使い、患者のQOLを向上させることを命題とする。 がんと漢方のエビデンスとしては、胃がんの補助化学療法が食欲不振や吐き気などの副作用を理由とした中断が多いことを踏まえ、補中益気湯を併用して効果を見た京都大学などの研究がある1)。この研究では、ステージ2~3のがん患者に対し術後の補助化学療法としてS-1もしくはS-1+補中益気湯を投与した群を比較したところ、3年生存率・3年無再発生存率ともに向上は期待しにくい、という結果が出た。 このがんと漢方のエビデンスに対し、板倉氏は「研究データを詳細に見ると、ステージ3、65歳以上という悪い状態にあることが予想される患者には効果が出ている。さらに、漢方では全身を診る漢方医学的診断とそれに基づく生活指導を踏まえた服薬が重要で、この研究結果だけで漢方ががんに効果がないとは言い切れない」と主張した。 神奈川県立がんセンターでは、東洋医学専属の看護師を配置し、がん患者への生活指導をしつつ、容態に適した漢方を処方。心身全体の改善を評価するため、がん患者のQOL評価に用いられる自記式調査票の「EORTC QLQ-C30」を用い、初診時と3ヵ月後を比較した。対象は全がん患者とし、1年間調査した結果、8.4%の改善が見られた(n=34、p<0.02)。化学療法を受け、下痢・食欲不振・関節痛などを主訴とするがん患者に対して漢方薬を処方し、改善に向かった症例も紹介された。 板倉氏は、「西洋医学と東洋医学では身体や病気に対する捉え方が異なる。その違いを知った上で漢方薬をうまく治療に取り入れてほしい」と述べた。具体的には、同じ病気でも患者の身体所見や体質の違いに応じて異なった薬を使う「同病異治(どうびょういち)」の考え方、五臓は物質的な部分だけでなく精神的な部分の機能もコントロールしている「心身一如(しんしんいちにょ)」の考え方が鍵となる、とした。「漢方薬だけでがんが治る」はあり得ない 「一般患者には漢方薬だけでがんが治る、といった誤解が広まっているが、それはあり得ない。東洋医学で心身の回復を図った上で、抗がん剤や手術の西洋医学の療法を施すという、両者の融合が大切」と板倉氏は強調する。今回のがん患者への漢方による改善効果の調査は同院のみ、期間も1年と限られ参考値としての位置付けだ。一方、2007年から国内の全医学部で漢方の講義が行われ、2019年からWHOのICD-11(国際疾病分類第11版)に伝統医学が追加されるなど東洋医学への関心は高まっており、今後はがん患者への漢方による改善効果の臨床データの増加が期待される。

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ごく早期に発現するがん悪液質の食欲不振とグレリンの可能性/JSPEN

 本年(2019年)2月、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会(JSPEN2019)が開催された。その中から、がん悪液質に関する発表について、日本緩和医療学会との合同シンポジウム「悪液質を学ぶ」の伊賀市立上野総合市民病院 三木 誓雄氏、教育講演「がんの悪液質と関連病態」の鹿児島大学大学院 漢方薬理学講座 乾 明夫氏の発表の一部を報告する。前悪液質状態の前から起きている食欲不振 伊賀市立上野総合市民病院 三木 誓雄氏は「がん悪液質の病態評価と治療戦略」の中で次のように発表した。 がん悪液質の出現割合は全病期で50%、末期になると80%にもなる。また、がん患者の30%は悪液質が直接の原因で死亡する。EPCR(European Palliative Care Research Collaborative)のガイドラインでは、がん悪液質は前悪液質(Pre-Cachexia)、悪液質(Cachexia)、不可逆的悪液質(Refractory Cachexia)の3つのステージに分けられる。ESPEN(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism:欧州静脈経腸栄養学会)のエキスパートグループは、食欲不振・食物摂取の制限は前悪液質となる前から現れると述べている。 この食欲不振の原因は全身性炎症反応である。McMahon氏らの研究では、未治療の肺がん患者のCRPは、手術侵襲のピーク時を超える高値で持続するとされる。全身性炎症反応の最も大きな原因は、腫瘍から放出されるTNFα、IL-6、IL-1などの炎症性サイトカイン。「炎症性サイトカインが中枢神経に働きかけて、まず食欲が失われ、それに伴って悪液質が始まり、代謝異化に向かい体重減少し、最後にはサルコペニアに至る」という。悪液質の発現で変わるがん治療効果 全身性炎症はまた、がんの治療効果にも影響を及ぼす。全身性炎症が亢進すると、薬物代謝酵素である肝臓のチトクロームP450活性が低下する。薬の代謝が抑制されるため薬物毒性が増える。一方、代謝を受けて薬効を示すプロドラッグなどは効果が減弱する。Carla氏らの報告では、非悪液質患者の抗がん剤の毒性出現頻度は約20%だが、悪液質患者では約50%と上昇する。抗がん剤の治療成功期間(Time to progression)も、非悪液質に比べ悪液質では約400日短縮する。 三木氏らは、伊賀市立上野総合市民病院で、5%以上の体重減少があるがん化学療法施行消化器がん患者179例に対して栄養療法(EPA 1g/日含有栄養剤:300kcal)のトライアルを行った。結果、栄養支持療法なし群だけをみると悪液質(体重減少5%以上かつCRP 0.5以上)は20%に発現し、この悪液質発現群では非発現群と同様の化学療法を受けていても全生存期間が有意に短かった(p<0.01)。また、栄養支持療法あり群では、がん化学療法施行時中もCRPは上昇せず、骨格筋量、除脂肪体重は増加した。栄養支持療法なし群ではCRPは上昇し、骨格筋量、除脂肪体重は増加しなかった。がん化学療法継続日数は栄養支持療法あり群で80日延長した(388.8日 vs.308.0日)。これら栄養支持療法による生命予後改善は、悪液質患者に限ってみられた(全患者:p=0.84、悪液質患者:p=0.0096)。「栄養支持療法をすることで、悪液質患者を非悪液質患者と同じ抗がん剤治療の土俵へ上げることができたことになる」と三木氏は述べる。がん悪液質におけるグレリンの役割 鹿児島大学大学院 漢方薬理学講座 乾 明夫氏は「がん悪液質と関連病態」の中でグレリンについて次のように述べた。 グレリンは胃から分泌され、摂食促進、エネルギー消費抑制に働く。グレリンはグレリン受容体(成長ホルモン分泌促進受容体)に結合し、食欲促進ペプチドである視床下部の神経ペプチドY(NPY)に作用し食欲を増やす。また、下垂体前葉において成長ホルモンの分泌を促進しサルコペニアを改善する。 がん悪液質では、グレリンの相対的分泌低下とレプチンの相対的上昇があり、食欲抑制系が優位状態となっていることが、動物実験で示されている。そのため「外部からグレリンを投与し補充することは理論的」と乾氏は言う。動物実験では実際に、グレリンを投与すると空腹期強収縮が起こり、胃の中に食物があっても空腹期様の強収縮を起こすことも示されている。 グレリン化合物には、多くの開発品がある。anamorelinは、グレリン受容体に強力な親和性を有する経口のグレリンアゴニストである。すでに4つの第II相試験と2つの第III相試験を実施している。StageIII/IVの悪液質を有する非小細胞肺がん患者174例を対象にした第III相試験においては、主要評価項目である除脂肪体重(p<0.0001)に加え、全体重も有意に改善した(p<0.001)。握力はp=0.08で有意な改善は示さなかったものの、「悪液質の診断がついて早期に使えば、より大きな効果を期待できるであろう」と乾氏。 さらに、グレリン・NPYを活性化するものに人参養栄湯がある。グレリン分泌の促進とグレリン非依存性のNPY活性化という2つの作用を有する。食欲、サルコペニア、疲労・抑うつの改善など、重症がん患者に対する支持療法としてさまざまな効果がある。「将来はグレリンアゴニストと人参養栄湯をドッキングして使われることもあると思う」と乾氏は言う。

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今こそ風邪診療を見直す時【Dr.倉原の“俺の本棚”】第14回

【第14回】今こそ風邪診療を見直す時最近、TwitterなどのSNSで「風邪診療に抗菌薬を処方する医師はいかがなものか」みたいな論調が高まっていて、風邪診療を見直すブームがまたやってきそうな気がします。こういうのって1年おきくらいに流行がありますね。風邪に抗菌薬をやみくもに処方する医師は、ヤブといわれても仕方がない時代になりました。『かぜ診療マニュアル 第2版』山本 舜悟/編著. 日本医事新報社. 2017私が風邪診療において最も推薦している本が、この『かぜ診療マニュアル』です。群を抜いてコレ。何がなんでもコレ。絶対コレ。私の研修医時代の指導医だった山本 舜悟先生が編著をされていますが、別に山本先生をヨイショしようとかそんな意図はありません。落ち着いた立ち居振る舞いの中に熱い闘志がみなぎっている先生で、右も左もわからぬヒヨコ研修医にとってアレが一般的な医療だと思っていました。しかし、音羽病院でかなりレベルの高い診療を目の当たりにしていたことを後から知り、タイムマシンに乗って過去に戻れないものかと悔やんだものです。風邪ってエビデンスがないようで、ある程度わかっているところもあるモヤっとした疾患で、我流で診療している医師も多いと思います。しかしこの本は、どの診断・治療にエビデンスがあるのか・ないのか、という観点を示してくれており、実臨床に即座に応用できるのです。漢方薬の代表的な使い方も明記されており、私みたいな漢方素人には助かる一冊に仕上がっています。小児の風邪が別項目で記載されているため、子供も大人も診るクリニックドクターにとってはバイブルみたいな本になるんじゃないですかね、コレ。市中肺炎のことをレクチャーしてくれる指導医はいても、風邪のことをレクチャーできる指導医はなかなかいません。この本は、風邪診療のノウハウを惜しみなく出しているレクチャーが200回分くらい詰まった一冊です。なんとなく総合感冒薬やレスピラトリーキノロンを処方している医師は、これを読まなければこの先も間違った医師人生を送りかねません。この本を読んで、己の診療を見直しましょう。2013年に第1版、2017年に第2版が出ているので、2021年に第3版をぜひとも期待したいところです。『かぜ診療マニュアル 第2版』山本 舜悟/編著出版社名日本医事新報社定価本体4,000円+税サイズA5判刊行年2017年■関連記事Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー

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メマンチンと抑肝散との薬物相互作用に関する基礎研究

 アルツハイマー病の治療においては、コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチン(MEM)、または抑肝散(YKS)などの認知症患者の行動と心理症(BPSD)治療に用いられる伝統的な漢方薬が使用される。株式会社ツムラのTakashi Matsumoto氏らは、MEMとYKSとの薬物相互作用(DDI)を明らかにするための研究の一環として、いくつかの基礎的な薬物動態学的および薬理学的研究を実施した。Molecules誌2018年12月29日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・薬物動態学的研究では、MEM単独とMEM+YKSで治療したマウスにおいて、血漿、脳、尿中のメマンチン濃度に統計学的に有意な差が認められなかった。・YKSの有効成分に関して、YKS単独マウスまたはMEM+YKSマウスにおいて、血漿、脳、尿中のゲイッソシジンメチルエーテル濃度、血漿中のグリチルレチン酸濃度、尿中のイソリキリチゲニン濃度に統計学的に有意な差が認められなかった。・薬理学的研究では、初代培養ラットの皮質ニューロンにおいて、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗作用を有するイソリキリチゲニンは、NMDA誘導細胞内Ca2+流入に対するMEM阻害作用に影響を及ぼさなかった。・YKSは、マウスにおけるNMDA誘発性学習・記憶障害に対するMEMの改善効果またはMEMによる活動性の低下のいずれにも影響を及ぼさなかった。 著者らは「本結果は、マウスにおいてMEMとYKSとの間に薬物動態学的または薬理学的相互作用がないことを示唆しているが、今後さらなる研究が必要とされる」としている。■関連記事日本人アルツハイマー病に対するメマンチンのメタ解析アルツハイマー病治療薬メマンチンの有効性と安全性治療抵抗性統合失調症に対する漢方薬「抑肝散」の有用性:島根大学

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在宅医療で使う漢方薬の役割と活用法

 2018年10月24日、漢方医学フォーラムは、都内で第138回目のプレスセミナーを開催した。当日は、在宅医療における漢方薬の役割について講演が行われた。在宅医療は患者のレジリアンスを高める 講演では、北田 志郎氏(大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 准教授/あおぞら診療所 副院長)を講師に迎え、「地域包括ケアシステムと漢方~“暮らしのなかでいのちを支える” 在宅医療で発揮される漢方薬の役割~」をテーマに講演が行われた。 同氏は、内科ローテートを修めた病院で東洋医学を専攻。以降、精神医学の診療に従事するとともに、中国に短期留学をし、漢方専門外来に従事するなど、漢方薬には深い造詣を持つ。 講演では、少子高齢化、多死化、高齢者の独居化が増加する日本社会で、地域包括ケアの重要性を強調。最新の治療機器、治療薬などで医療を提供し、健康長寿国であるにも関わらず、受益者である患者の医療制度への満足度は低く、提供している医療者は疲弊しきっていることに言及し、その原因を医療需要(患者の思い)と供給(医療者の思い)のミスマッチにあると指摘する。たとえば、終末期の患者を病院で看取ることは、本当に患者が望んでいることなのか、医療者の思いだけで医療の提供をしているのではないかと疑問を呈した。 具体的例として、80代の認知症患者を挙げ、自宅での終末期の過ごし方が患者の病状緩和やQOLの向上に役立ったと自験例を説明した。これを同氏は「レジリアンス(復元力・打たれ強さ)」と呼び、古い記憶をたどる傾向のある認知症では自宅だからこそ医療・介護に役立つ利点があると語る(ただし、在宅医療に拘泥することなく、病の軌跡の局面に応じて使い分けるべきだとも指摘する)。 また、在宅医療では、先端医療の導入が困難であり、治療手段も限定される中で、患者の暮らしと乖離しない技術として伝統医学との親和性を提案する。とくに高齢者の在宅診療では、「虚弱に対する補法」として、代替医療が真価を発揮する場になるという。高齢者への5つの漢方薬の使い方 『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015』(日本老年医学会 編集)では、「漢方薬・東アジア伝統医薬品」と別章を作り、クリニカルクエスチョンとして5剤について有効と記載している。 ガイドラインでは、「半夏厚朴湯」につき、「誤嚥性肺炎の既往をもつ患者における嚥下反射を改善させ、肺炎発症の抑制に有効である」とされている。また、エビデンスについても「有意に肺炎発症を減少させただけでなく、自力経口摂取維持にも有効」とされる。その他の方剤として、「抑肝散」が(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性)に伴う行動・心理症状のうち易怒、幻覚、昼夜逆転、興奮、暴力など、いわゆる「陽性症状」に、「大建中湯」は脳卒中後遺症における機能性便秘ならびに腹部術後早期の腸管蠕動運動促進に、「麻子仁丸」は高齢者の便秘に、「補中益気湯」は慢性閉塞性肺疾患における自他覚症状、炎症指標および栄養状態の改善にそれぞれ有効とされている。 在宅医療で漢方を用いる意義について同氏は「老いること、死ぬことは生活に属し、現代医学による管理を緩めつつ、医療者に見放されることなく、在宅の生をまっとうする契機を得ることができる」と説明し、最後に「在宅医療における漢方の導入は『医療の根幹部とは何か』を模索する思考につながる」と思いを語り、レクチャーを終えた。

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もっと気軽に使う漢方薬のススメ

 2018年9月20日、Kampo academiaは第5回となるプレスセミナーを都内で開催した。今回は、「『風邪には葛根湯!?』漢方医学の視点から診る風邪治療 漢方って何だろうー和漢と中医学、そして風邪」をテーマに、身近な漢方薬の使い方について講演が行われた。年齢別の風邪への漢方薬処方 セミナーでは新見 正則氏(愛誠病院 顧問/帝京大学医学部外科 准教授/帝京大学大学院医学研究科移植免疫学/同 東洋医学 指導教授)を講師に迎え、前述のテーマでレクチャーが行われた。 わが国での漢方の概念は、大きく分けて「フローチャート」「和漢」「中医学」と3つがあると同氏は私見としつつ示した。「フローチャート」では西洋医学的に症状から漢方薬を決める。「和漢」では症状、腹診、舌診などから漢方薬を決める。「中医学」では症状、望診、聞診などの四診の次に証候名を決め、さらに治法を決め、方剤の決定にいたるというおのおの異なるプロセスだと説明した。 そして、漢方薬を使うのであれば、簡単なやり方、つまり「フローチャート」から使用する漢方薬処方を同氏は薦めている。同氏は、この考え方を「モダン・カンポウ」と名付けて、現在広く啓発を行っているという。 モダン・カンポウの特徴として、漢方特有の診療ではなく、西洋医学的な診断をすること、漢方薬を気軽に使い、効果がない、有害な場合はすぐ止めることができること、患者の満足度が高いことなどを挙げる。たとえば、風邪症状を訴える患者に対して「葛根湯(カッコントウ)」は広く使われているが、本当に風邪かどうかの試薬にもなる。効果があれば風邪症状の改善に、なければ風邪以外の診断へと進むことができるとし、診断の助けになる漢方薬の使い方を説明した。また、患者年齢ごとの使用例として、若年女性には「麻黄湯(マオウトウ)」、中年男性には「葛根湯」から「柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)」そして「小柴胡湯(ショウサイコトウ)+麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)」へ、中年女性には「麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)」から「桂枝湯(ケイシトウ)+麻黄附子細辛湯」そして「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)+麻黄附子細辛湯」、高齢女性には「香蘇散(コウソサン)」から「参蘇飲(ジンソイン)」などを紹介した。 そのほか、漢方薬の臨床研究についても言及し、「補中益気湯」のインフルエンザへの予防効果について、内服群(n=179)と非内服群(n=179)に分けて8週間観察したところ、内服群では1例が、非内服群では7例がインフルエンザに罹患し、「補中益気湯」で予防できる可能性があるという1)。漢方薬使用の5つの効用 伝統漢方とモダン・カンポウの違いについて、同氏は次のように説明する。 伝統漢方では、漢方医が処方し、おもに煎じ薬を用いている。すべての疾患を対象に、膨大な古典の知識に基づき漢方診療を行い、長年の経験が必要とされるが、有効性は比較的高いのが特徴である。 一方、モダン・カンポウでは、西洋医が処方し、エキス剤を使用する。西洋医学で治療効果のないものをターゲットに、古典を参考にしつつ、漢方診療を行う(しかし漢方診療は必須ではない)。明日からでも処方ができ、効果がみられなければ順次処方変更ができるのが特徴という。 実際、「伝統漢方を行うとなると、膨大な知識・学習量が必要であり、漢方薬を使うことに二の足を踏んでしまう」と同氏は私見としながらも指摘する一方で、「漢方薬を使うことで『患者が喜ぶ』『外来が楽しい』『患者が離れない』『医療費の削減になる』『リスク管理になる』などの理由で漢方薬を使われた先生で止めた人はいない。漢方薬に身構えず使ってほしい」と自身の経験も含めて、漢方薬処方への思いを語った。 おわりに同氏は、「漢方薬は、西洋医学以外で唯一保険適用されている薬。問題があればすぐ止めることができる。生薬の足し算の英知である漢方薬を気軽に処方してもらいたい」と期待をのべ、講演を終えた。■参考1) Niimi M. BMJ. 2009;339:b5213.

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続々と選択肢増、慢性便秘症治療の最新事情

 相次いで新薬が登場している慢性便秘症治療で、各治療薬はどのように使い分けていけばよいのか。9月11日、都内で慢性便秘症治療の最新事情をテーマとしたプレスセミナーが開催された(主催:アステラス製薬株式会社)。演者として登壇した三輪 洋人氏(兵庫医科大学 内科学消化管科 主任教授)は、「便秘は治療満足度に対する医師と患者側のギャップが大きい。単純に排便回数を改善するだけでなく、症状を改善していく治療が求められている」と話し、便秘治療の考え方や各治療薬の特徴について解説した。慢性便秘症の診断で医師は排便回数の減少を、患者は腹部の膨満感を重視 慢性便秘症の診療を行っている医師400人と、症状が6ヵ月以上あり通院あるいは市販薬を服用している患者700人を対象とした2017年の調査1)で、医師が慢性便秘症の診断にあたり重視する項目は多い順に、「排便回数の減少」「便の硬さ」「排便困難」であった。一方、患者側は「腹部の膨満感」「排便回数の減少」「便の硬さ」の順に回答が多く、特に腹部症状を改善したいと感じていることが明らかになった。 また、慢性便秘症治療の各薬剤(上皮機能変容薬は含まれていない)について満足度を尋ねたところ、浸透圧性下剤で80%以上など医師の満足度がおおむね高かったのに対し、患者側では全薬剤で50%以下となり、医師と比較すると圧倒的に低い傾向がみられた。 三輪氏は、「われわれはつい、“週2回だった排便が4回になりましたか、よかったですね”と排便回数を慢性便秘症治療の目安としてしまいがちだが、患者さん側は症状を改善したいと感じている。漫然と治療を続けるのではなく、どうしたら症状がとれるのかという観点からも治療を考えていかなければいけない」と話した。慢性便秘症の薬物療法、ガイドラインでの推奨は? 慢性便秘症の薬物療法について、まず前提として、骨盤底筋の機能障害に起因する便排出障害型の便秘には効果がなく、リハビリ療法の一種であるバイオフィードバック療法の有効性が確立されていることに三輪氏は言及。「2時間以上もトイレにこもる、手でかき出さないと出せないなど、排便の困難感が極度に強い患者さんは、便排出障害型の可能性がある」と話した。 2017年10月発行の「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では、複数ある薬剤の中で、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース、ソルビトールなど)と上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチドなど)に、「強い推奨(1)」と「最も高いエビデンスレベル(A)」が示されている。 しかし、兵庫医科大学の関連病院で2017年10月~2018年2月にかけて薬剤の使用状況を調べたところ、酸化マグネシウムと刺激性下剤の使用が90%以上を占めており、上皮機能変容薬の使用は数%に留まっていた。「市販薬や一部の漢方薬(“大黄”が含まれるもの)を含む刺激性下剤は、一時的な効果はあるが習慣性や依存性があるため、短期間の投与とすることがガイドラインでも推奨されている」と三輪氏。酸化マグネシウムについては、慢性便秘症治療において「今後も第一選択であることは変わらないだろう」としたうえで、副作用(高マグネシウム血症)が報告されており高齢者や腎機能低下患者では定期的な血清マグネシウム濃度の測定が求められていることから2)、「とくに高齢者などでは、慢性便秘症治療に漫然と酸化マグネシウムを投与するのではなく、効果や症状の改善がみられない場合は上皮機能変容薬に切り替えていくという考え方がいいのではないか」と話した。新薬と既存薬をどのように使い分けるか 2018年に入り、4月に胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバットが発売、8月には便秘型過敏性腸症候群の治療薬として発売されていたリナクロチドが慢性便秘症に適応拡大された。リナクロチドは2012年発売のルビプロストンと同じく、腸管上皮に直接作用して管腔内への水分分泌を促進する上皮機能変容薬だが、作用機序は異なる。 リナクロチドは腸管上皮に存在するグアニル酸シクラーゼC(GC-C)を活性化させ、サイクリックGMP(cGMP)を増加させることで、水分分泌を増加させる。このcGMPには求心性神経の痛覚過敏を抑制するはたらきがあり、便秘治療薬の中で唯一、大腸痛覚過敏改善作用が示されている。三輪氏は「上皮機能変容薬の使い分けは非常に難しいが、それぞれ特徴はある」と話し、「リナクロチドは薬物相互作用が比較的少ないため、他剤を併用している高齢者などでも使いやすく、また腹痛などの症状が強い人に向いているのではないかと考えている」と期待感を示した。 今後も新薬ラッシュは続く見込みで、ポリエチレングリコール(PEG)製剤が近く発売予定となっている。PEGは酸化マグネシウムと同じ浸透圧性下剤で、欧米では慢性便秘症治療の第一選択薬として広く使われている。「直接比較したデータはないのでどちらがいいと明言するのは難しいが、PEGは水に溶かして飲む形状なので、その点が日本の患者さんたちにどの程度受け入れられるかという部分もある」と話した。

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サルコペニア、カヘキシア…心不全リスク因子の最新知識【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、従来はわからなかった心不全とリスク因子の関係が解明されつつある。最近注目されるサルコペニア、カヘキシアに焦点を当て、心不全との関係を東京大学循環器内科 石田 純一氏に聞いた。近年の心不全リスク因子に関する研究の動向を教えてください。従来、心不全に併存するリスク因子、予後増悪因子としては動脈硬化の素因以外に慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、貧血、炎症が知られていました。画像を拡大するその中で、過去約20年で体組成の変化、とくに体組成減少が新たな心不全のリスク因子、予後増悪因子として注目を集め始めています。いわゆるサルコペニア、カヘキシア(悪液質)と呼ばれるものです。「サルコペニア」はギリシャ語が語源で、肉や筋肉を意味する「サルクス」と減少を意味する「ペニア」を合わせて筋肉減少を指します。一般に加齢に伴う筋肉減少が一次性サルコペニア、活動低下あるいは慢性疾患に伴うものが二次性のサルコペニアと分類されています。画像を拡大する「カヘキシア」も語源はギリシャ語の「カコス」と「ヘキス」で、英語で言えばバッド・コンディション、これを日本語にすると悪液質となります。最近の定義としては、骨格筋だけではなく、体組成全体の減少を意味します。いわゆる心不全やがんなどの慢性疾患に合併する全身性の消耗状態と捉えられます。サルコペニアの場合、従来は加齢に伴う筋肉減少はある種当然のことと考えられていましたが、実際には減少する人としない人がいます。そしてサルコペニア、カヘキシアともに心不全患者で併存する場合は、併存しない場合と比較して心不全の予後が悪いということがわかりました。サルコペニア、カヘキシアはどのように診断をするのでしょうか?サルコペニアは1989年に提唱された新しい概念である一方で、カヘキシアは用語としては長らく存在していましたが、病態としての概念ができたのは近年のことなので、まだ必ずしも統一された診断基準はありません。サルコペニアについては、2つ重要な要素があるといわれています。1つは筋肉の量的減少、もう1つが筋力あるいは身体能力の低下です。実はこの2つは同じ意味と捉えられがちですが、筋肉量減少とそのまま相関して筋力低下に反映されるものではないので、2つをそれぞれ評価することが重要だといわれています。カヘキシアについてもガイドラインなどはありませんが、心不全に併存する場合、論文などでは、過去の6~12ヵ月以内に5%以上の体重減少と定義している場合が多いと思います。ただ、カヘキシアの診断では要注意点があります。心不全やがんの場合は水分貯留による浮腫が発生しがちです。しかし、浮腫はカヘキシアの定義である体重減少とは逆の体重増加ファクターです。つまり、実際には筋肉や脂肪は減少しているのに、浮腫でそれがマスクされてしまっている可能性もあるのです。そのため前述の体重減少5%以上は、この浮腫分を含まない状態として評価しなければならない困難さがあります。これが、カヘキシアに対する取り組みを困難にしている理由の1つにもなっています。心不全に併存するサルコペニア、カヘキシアの割合はどのくらいなのでしょうか。この数字も報告によってさまざまですが、概説するとサルコペニアの併存率は30~50%、カヘキシアが5~20%といわれています。しかもこの2つはどこに着目するかという違いなので、双方が併存するケースもありえます。サルコペニア、カヘキシアが心不全の予後悪化につながる機序はどのように解釈されているのでしょうか。現在は疫学的に予後悪化因子と捉えられているのみで、まだ詳しい機序は解明されていません。そもそもサルコペニアの場合、サルコペニア自体の機序が十分に解明されていないという事情もあります。一般論的には心筋の量と働きが正常ならば血液循環も正常なので、骨格筋が減少するサルコペニアやカヘキシアでは、心筋も減少することで心臓が正常に機能しなくなり、心不全が悪化すると推定されていますが、エビデンスがあるわけではありません。ただ、がんに伴うカヘキシアでは心臓萎縮を疑わせる心臓重量低下の報告があるので、骨格筋減少と心筋減少に一定の相関があると推察されています。近年では欧米を中心に、心不全患者で肥満あるいは肥満傾向の患者のほうが、予後が良いという“obesity paradox”が報告されています。もともと肥満は心不全発症のリスク因子として確定していますが、ひとたび心不全を発症した場合は、極度の肥満は論外ですが、体重がやや多めの患者さんのほうが予後は良好とのデータがあるのは確かです。このため以前は、肥満がある心不全患者では体重減少を図るべきとされていましたが、最近の欧州でのコンセンサスではBMI 35超でなければ無理に痩せる必要はないと記述しています。しかし、人種差なども考慮すれば、これを日本人に機械的に適用することはできません。日本で欧州のコンセンサスを反映させるならば、どの程度のBMIが許容できるのかは今後の課題だと思います。一方、obesity paradoxのような現象が認められてしまうのはBMIの限界ともいえます。BMIは指標としては使いやすいのですが、筋肉と脂肪の比率や代謝状況を反映していません。心不全でBMIを考慮する際には、より多面的な視点も必要だと考えています。サルコペニア、カヘキシアへの対処、治療法の現状を教えてください。画像を拡大する現在、サルコペニアやカヘキシアでの筋肉減少は、タンパク質の分解(異化)と合成(同化)のバランスの中で、分解亢進あるいは合成低下のいずれか、またはその双方が同時に起きていると考えられています。そこで、タンパク質分解の亢進に関与しているマイオスタチンの働きを抑制する物質を治療へ応用しようとの検討が、がんのカヘキシアで行われましたが、ヒトでの臨床試験で筋肉量増加は認められたものの筋力増強は認められず、開発は頓挫しました。もう1つ注目されているのが、タンパク質の合成を促進するアナモレリン(anamoreline)です。この薬剤は、欧州で臨床の無作為比較試験まで行われています。日本でも肺がんのカヘキシア患者を対象に無作為化比較試験まで実施されています。結果、筋肉量を増加することが明らかになっています。筋力増強は明らかになっていないものの、本邦での開発は継続中です。もっとも私が知る限り、心不全に併存するサルコペニア、カヘキシアでこうした化合物の臨床試験が行われた形跡はありません。心不全で臨床試験を行えば、がんとは違った結果が出る可能性はあると思います。結局、こうした化合物は、非常に多面的な要素が大きいサルコペニアやカヘキシアのシグナリングの中の1つにアプローチするにすぎないのが、際立った臨床成績が得られない理由とも推察されています。その意味では、すでに消化器外科などで多用され、食欲増進ホルモンのグレリンに作用するほか、比較的多面的な効果も示唆されている漢方薬の六君子湯(リックンシトウ)なども、今後のサルコペニアやカヘキシアの治療に対する可能性を秘めているかもしれません。薬剤開発以外ではいかがでしょう?現時点ではまだエビデンスが十分とはいえないのですが、運動療法、いわゆる有酸素運動はサルコペニアやカヘキシアの有無にかかわらず、心不全の予後、身体能力、QOLの改善にも効果的と指摘されています。ことサルコペニアやカヘキシアに関していえば、運動療法が前述の異化・同化のバランス崩壊に効果を示しているのだろうと推測されています。ただ、激しい運動は心不全ではリスクとなりますので、安全性・有効性の観点から、従来からある心臓リハビリの法則にのっとって、個々の患者さんごとに適した運動量、運動強度を考える必要があります。プライマリケアの先生方にお伝えしたいことがあれば教えてください。サルコペニアについては、2016年に、世界保健機関(WHO)が公表している「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)」に入るようになりましたが、カヘキシアとともにまだ認知度は高くはないと思われます。その意味では、まずはサルコペニア、カヘキシアという病態があり、慢性心不全に併存した場合に予後悪化因子になるということを知っていただきたいと思います。現時点で打てる対策は、安全な運動療法になりますが、心臓を中心に考えたトータルケアで、サルコペニアやカヘキシアへの注意は欠いてはならないことを念頭に置いていただければ幸いです。講師紹介

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