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血管腫・血管奇形ガイドラインが5年ぶりに改訂

 第18回日本血管腫血管奇形学会学術集会(2022年9月16~17日)において、「血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン改訂について」(科研製薬共催)と題したセミナーが開催され、秋田班ガイドライン改訂統括委員長を務める新潟大学大学院小児外科学分野の木下 義晶氏が解説した。 今回のガイドラインは、第1版である「血管腫・血管奇形診療ガイドライン2013」、第2版である「血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017」に次いだ第3版となり、名称は「血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022」となる見込みという。本ガイドラインの作成は2020年から開始され、Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017に則して作成されている。 第2版では33個のクリニカルクエスチョン(CQ)が採用されていたが、本ガイドラインでは内容が拡充され38個のCQが採用される。そのうち、第2版から継続されたCQが20個、改訂されたCQが6個、第2版以前にはなく新たに設定されたCQが12個となる。約3分の1が新しいCQであり、とくに形成外科医により設定されたCQが多く増える見込みとなる。新しいCQの中には、リンパ管奇形に対する漢方薬の有効性に関する内容や乳児血管腫に対するプロプラノロールの使用時期に関する内容などが含まれる予定となる。また、前版からの大きな違いとして、一般向けのサマリーが各CQの解説文に追加され、患者にとってもわかりやすい言葉で記載され理解を促すことができるという。 現在はパブリックコメントの募集、ガイドラインの英文化を進めており、2022年中に公開が予定されている。

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新型コロナ後遺症、多岐にわたる症状と改善時期/東京感染症対策センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波が懸念される中で新規の陽性患者だけでなく、COVID-19の後遺症の報告も医療機関で上がっている。厚生労働省は、2021年12月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(暫定版)」を作成し、全国の医療機関に診療の内容を示したところである。 今回、東京都は、3月24日に開催された東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で「都立・公社病院の外来を受診した後遺症患者の症例分析」を発表した。これは、都の感染症に関する政策立案、危機管理、調査・分析などの感染症対策を行う東京感染症対策センター(東京iCDC)が取りまとめたもの。 分析の結果、症状では「倦怠感」「息切れ」「頭痛」などの症状が多く、出現時期も2週間未満での発症が多かった。 東京都では、HP上で後遺症の症状、体験談、相談窓口などを紹介する「新型コロナウイルス感染症 後遺症リーフレット」を作成・公開し、後遺症診療の啓発につとめている。調査の概要・対象:都立・公社病院のコロナ後遺症相談窓口から自院の外来受診につながった症例など、都立・公社病院の外来を受診した後遺症が疑われる患者の症例・期間:令和3年5月10日~令和4年1月28日に受診した症例・症例数:230例 年齢:50代、40代、30代の順 性別:男(60%)、女(40%) 重症度:軽症(54%)、不明(28%)、中等症I(8%)の順COVID-19後遺症の主訴の多くが倦怠感、息切れ、頭痛の3つ 次に調査結果の概要を示す。【1.後遺症の症状】・全症状(複数回答)倦怠感(93人)、息切れ(44人)、頭痛(38人)の順で多く、その他が128人・主症状(単一回答)倦怠感(52人)、息切れ(25人)、頭痛(23人)の順で多く、その他が49人・後遺症の症状の数(症例データ)1つ(35%)、2つ(27%)、3つ(27%)の順・訴える症状の数(相談窓口データ)2つ(34%)、1つ(30%)、3つ(19%)の順 症状は上位3つの主訴が多いが、「その他」も多く、多岐にわたる症状が多い。また、全体の65%が2つ以上の症状を訴えていたことが判明した。【2.後遺症の出現時期と改善状況】・後遺症の出現時期[発症からの期間](n=213)2週間未満(116人)、2週間以上1ヵ月未満(46人)、1ヵ月以上3ヵ月未満(40人)の順・直近受診日における改善状況(n=125)改善(68人)、症状継続(54人)、他院紹介(3人)の順 全体の約54%がCOVID-19発症から2週間未満であり、症状が継続していた。また、改善状況では全体の54%が直近受診日において改善していた。【3.治療・検査】 後遺症の治療法は確立されていないが、都立・公社病院では、症状に応じた検査・薬の処方など、対症療法を行っている。(1)倦怠感(n=52)・検査:血液検査(33人)、胸部X線(17人)、脳・頭部MRI(14人)など・治療:漢方薬(23人)、抗うつ薬(5人)、解熱鎮痛薬(4人)など(2)息切れ(n=25)・検査:胸部X線(20人)、血液検査(14人)、心電図(8人)など・治療:漢方薬(4人)、解熱鎮痛薬(4人)、咳止め薬(4人)など(3)頭痛(n=23)・検査:血液検査(16人)、脳・頭部MRI(9人)、心電図、胸部X線(ともに7人)など・治療:解熱鎮痛薬(9人)、漢方薬(4人)など 改善時期では、倦怠感が発症から1~3ヵ月、3~6ヵ月がほぼ同じ割合で多く、息切れは1~3ヵ月、頭痛は3~6ヵ月の回答が多かった。 東京iCDCは、以上の結果から「時間の経過とともに改善がみられる事例がある一方で、コロナ罹患時よりも重い症状となる事例、症状が長期に遷延し、仕事などを休まざるをえない事例もみられた。コロナ発症時から1~2ヵ月以上症状が継続するなど、後遺症が疑われる場合は、無理な活動は避け、かかりつけの医療機関や相談窓口などへ相談をしてほしい」と結んでいる。

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吸入配合剤に併用された漢方【処方まる見えゼミナール(眞弓ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(眞弓ゼミ)吸入配合剤に併用された漢方講師:眞弓 久則氏 / 眞弓循環器科クリニック院長動画解説若い女性に柴胡清肝湯が処方されました。併用薬はステロイド・β刺激配合吸入薬とアジスロマイシン。なぜ、この患者にこの薬なのか、眞弓先生こだわりの漢方薬の選択について語ります。

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漢方薬へのイメージはプラスか、マイナスか/アイスタット

 近年では「漢方薬」は身近なものとなり、街のドラッグストアやかかりつけ薬局などさまざまな場所で購入できるようになった。これら「漢方薬」について、一般市民が抱くイメージや利用実態を知ることを目的に、株式会社アイスタットは1月6日にアンケート調査を行った。アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy” を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員30~79歳の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年1月6日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(30~79歳)を対象アンケート調査の概要・漢方薬に興味ある人は49.3%、興味ない人は50.7%とほぼ同じ割合・医師から漢方薬を処方された場合、抵抗がないと回答した人は約6割・漢方薬は効き目があると思っている人は45%、半数を下回る・漢方薬を服用したことがある人は6割弱・漢方薬を服用したきっかけ第1位は「医師の処方」の46.4%・漢方薬のイメージの第1位は「即効性がなさそう」の34%・漢方薬を服用してみたい症状の第1位は「肩こり、腰痛」の23.3%・漢方薬を服用してみたくなるには「医師の積極的なすすめ」の39.7%が最多漢方薬の利用には医療者のすすめが必要 最初に「漢方薬について、興味や関心があるか」を聞いたところ、「やや興味がある」が39.3%で最も多く、「あまり興味がない」が30.0%、「全く興味がない」が20.7%の順だった。興味の有無別に分類すると、「興味がある」は49.3%、「興味がない」は50.7%で、ほぼ同じ割合だった。 「医師から漢方薬を処方された場合、抵抗があるか」を聞いたところ、「抵抗がない」が63.0%で最も多く、「どちらでもない」が26.7%、「抵抗がある」が10.3%と続いた。年代別では、「抵抗がない」と回答した人は70代で最も多く、「抵抗がある」を回答した人は30代と40代で最も多かった。 「漢方薬の効果(体質改善)についてどう思うか」を聞いたところ、「効き目がある」が45.0%で最も多く、「わからない」が35.3%、「効き目がない」が19.7%の順で続いた。「効き目がある」と回答している人が約4割台にとどまり、漢方にネガティブなイメージを抱かせる一因になっていると推測された。なお、年代別では、「(体質改善に)効き目がある」と回答したのは、30代・40代(49.4%)で1番多く、「効き目がない」との回答では、60代(25.9%)で1番多かった。 「漢方薬の服用状況について」を聞いたところ、「一度も服用したことがない」が44.7%で最も多く、「現在は服用していないが、過去に服用したことがある」が35.0%、「ときどき、服用している」が16.0%の順で続いた。服用状況の有無別の分類では、服用経験あり(55.3%)が服用経験なし(44.7%)を上回る結果だった。 「(漢方薬の服用経験がある回答者のみに[166名])漢方薬を服用したきっかけ」を聞いたところ、「医師の処方」が46.4%で最も多く、「薬局ですすめられて」が17.5%、「店頭(ドラッグストア、漢方専門店)で見て」が17.5%の順で続いた。 「漢方薬にどのようなイメージがあるか」(複数回答)を聞いたところ、「即効性がなさそう」が34.0%で最も多く、「にがい、くさい、おいしくない」が32.0%、「自然素材」が31.3%の順で続いた。大きくマイナスイメージが先行している結果だった。 「今後、漢方薬を服用してみたい症状、もしくはすでに漢方薬を服用した症状はあるか」(複数回答)を聞いたところ、「肩こり、腰痛」が23.3%、「疲れやすい、だるい」と「ストレス、イライラ、不安」が15.7%と同順位で続いた。回答では慢性的な症状の改善を期待する回答が上位を占めた一方、「特になし」が38.3%と最も多く、漢方薬への期待が大きくない現状がうかがわれた。 最後に「漢方薬を服用してみたくなるためには」(複数回答)を聞いたところ、「医師の積極的なすすめ」が39.7%で最も多く、「特になし」が28.7%、「漢方薬の効果をわかりやすく」が25.7%の順で続いた。医師をはじめとする医療者のすすめやくわしい患者への説明が、今後漢方薬の活躍の場を広げる可能性を示す結果だった。

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事例035 加味逍遙散エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説不定愁訴を訴えていた64歳男性が更年期障害と診断され、投与された加味逍遙散エキスがC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。医師は査定事由に思い当たることがないとのことで、査定された理由を調べるために、当該医療機関が使用している加味逍遙散エキスの添付文書をみてみました。効能または効果の欄には、「体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく(中略)、時に便秘の傾向がある次の諸症」とあり、諸症の中に更年期障害も含まれていました。傷病名の適用はあると考えましたが、文の前段に「婦人」と表現されています。主に女性に対して使用される漢方薬であって、男性への投与は適用外として判断されたものであろうと推測しました。複数他社の添付文書を参照したところ、同じ加味逍遙散エキスでも男女の区別がない場合もあるなど効能および効果の差が確認できました。男女が異なっていても加味逍遙散エキスは複数社が販売しています。添付文書の証と事例の身体状況が特徴的に一致しており、診断病名も添付文書に表示されていたため、適用があるものと考え、著効があったことを加えて再審査請求をしましたが、原審通りでした。保険診療における医薬品の使用は、療養担当規則第19条に、厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止が定められています。この表現の中には、医薬品ごとに承認された効能・効果・用法・用量なども含まれます。「など」には、性差や年齢も含まれるとして、規則が厳格に適用されたものと考えられます。薬剤システムとレセプトシステムに、男性への投与時に注意が表示されるように設定変更をして査定対策としました。(※ 販売元社名は割愛しました)

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特発性後天性全身性無汗症〔AIGA:acquired idiopathic generalized anhidrosis〕

1 疾患概要■ 定義発汗を促す環境(高温、多湿)においても発汗がみられないものを無汗症とよぶ。そして、「後天的に明確な原因なく発汗量が低下し、発汗異常以外の自律神経および神経学的異常を伴わない疾患」を特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidrosis:AIGA)と定義する1)。■ 疫学2011年に国内の大学病院神経内科、皮膚科94施設を対象に行った調査では過去5年間のAIGA患者数は145例であった1)。男性が126例を占め、発症年齢は1~69歳まで幅広いものの、10~40歳代にかけて多くみられた。その後に報告された単施設で結果でもおおむね同様の傾向にある2-4)。また、症例報告のほとんどは本邦からの報告となっている。まれな疾患ではあるが、患者の生活環境によっては無汗に気付かれないこと、後述するようにコリン性蕁麻疹として治療されている例もあり、実際にはより多くの患者がいる可能性がある。しかし、最近ではAIGAの存在が徐々に認知されるようになってきたためか、受診・紹介患者は増えてきている印象もある。■ 病因全身無汗になる病態として次の3つがありうる。(1)交感神経の中の発汗神経の障害(Sudomotor neuropathy)(2)特発性純粋発汗不全(Idiopathic pure sudomotor failure:IPSF)(3)特発性汗腺不全(Sweat gland failure)しかし、臨床経験上(1)(3)はまれであり、またその証明も難しいことから、AIGAの多くが(2)に相当する。(2)の具体的機序としては汗腺分泌部とその周囲のマスト細胞上のアセチルコリン受容体の発現低下が推定されている5)。本病型(IPSF)には減汗性/無汗性コリン性蕁麻疹として主に皮膚科領域から報告されてきたものも含まれる。■ 症状激しい運動や暑熱環境にさらされると無汗による体温上昇のためにほてり感、顔面紅潮、めまい、悪心、動悸などの症状がみられ、容易に熱中症に陥る。手掌や足底、腋窩は障害されにくく、また、前額も発汗が保たれやすい傾向がある。四肢は無汗でも体幹は低汗にとどまっている例もみかける。患者の6~8割程度に発汗誘発時のコリン性蕁麻疹を伴う(IPSF)。明瞭な膨疹が出現せずピリピリとした痛痒さを訴えるだけのこともある。体幹・四肢の無汗のために代償性に生じた顔面の多汗が主訴となることがあり、問診に際して注意が必要となる。■ 予後長期予後に関する大規模な調査はないが生命予後は良い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別のステップと検査無汗症の分類を図1に示す6)。先天性・遺伝性には無汗性/低汗性外胚葉形成不全症、先天性無痛無汗症、ファブリー病などがある。一方、後天性には種々の神経疾患、内分泌・代謝異常症、シェーグレン症候群、薬剤性などの要因による続発性のものがある。これらを除いた特発性とせざるをえない無汗症のうち、無汗部位が髄節性(分節性)でなくほぼ全身に及ぶものがAIGAとなる。診断基準を表6)に示す。図1 無汗症の分類画像を拡大する表 特発性後天性全身性無汗症(AIGA)の診断基準A明らかな原因なく後天性に非髄節性の広範な無汗/減汗(発汗低下)を呈するが、発汗以外の自律神経症候および神経学的症候を認めない。Bヨードデンプン反応を用いたミノール法などによる温熱発汗試験で黒色に変色しない領域もしくはサーモグラフィーによる高体温領域が全身の25%以上の範囲に無汗/減汗(発汗低下)がみられる。● 参考項目1.発汗誘発時に皮膚のピリピリする痛み・発疹(コリン性蕁麻疹)がしばしばみられる。2.発汗低下に左右差なく、腋窩の発汗ならびに手掌・足底の精神性発汗は保たれていることが多い。3.アトピー性皮膚炎はAIGA に合併することがあるので除外項目には含めない。4.病理組織学的所見:汗腺周囲のリンパ球浸潤、汗腺の委縮、汗孔に角栓なども認めることもある。5.アセチルコリン皮内テストもしくはQSARTで反応低下を認める。6.抗SS-A抗体陰性、抗SS-B抗体陰性、外分泌腺機能異常がないなどシェーグレン症候群は否定する。A+BをもってAIGA と診断する。(中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経.2015;52:352-359.より引用)■ 検査1)温熱発汗試験簡易サウナ、電気毛布などを用いて加温により患者の体温を上昇させて発汗を促し、ミノール法などで発汗の有無を評価する(図2)。正常人では15 分程度の加温により全身に発汗点を認める。サーモグラフィーでは、発汗のない領域に一致して体温の上昇が認められる。無汗部の面積の評価に有用。図2  AIGA患者でのミノール法所見画像を拡大する発汗反応(黒点部分)が低下している2)薬物性発汗試験(1)局所投与5%塩化アセチルコリン(オビソート:0.05~0.1mL)を皮内注射する。正常人では数秒後より立毛と発汗がみられ、5~15 分後までに注射部位を中心に発汗を認める。汗腺自体の発汗機能を評価できる。(2)定量的軸索反射性発汗試験(QSART:quantitative sudomotor axon reflex tests)アセチルコリンをイオントフォレーシスにより皮膚に導入し、軸索反射による発汗を定量する試験。AIGAでは、発汗が誘発されない。(3)皮膚生検AIGAのうち、特発性純粋発汗不全(IPSF)では光顕上、汗腺に顕著な形態異常を認めないが、汗腺周囲にリンパ球浸潤を認めるときがある。(4)血清総IgE値測定IPSF では血清総IgE値が高値の場合がある。(5)血清CEA値測定高値の症例でその値が発汗状態と相関することから、個々の症例における治療効果の指標になりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ステロイド全身投与現存する治療法のうち最も効果が期待できる方法である。点滴パルス療法(メチルプレドニゾロン500~1000 mg/日、3日間連続投与)が用いられることが多い。後療法として30mg/日程度の経口投与を行う場合もある。また、経口内服療法(30~60mg/日)のみで開始して漸減する方法などもとられる。パルス療法の回数や後療法の適否・容量については一定の見解がない。反応がみられる例では、パルス療法直後から2週間程度までに効果が表れ、また、コリン性蕁麻疹や疼痛発作もみられなくなる。ステロイド治療によって寛解する例がある一方、部分寛解にとどまる例、症状が再燃する例、そして、ステロイドにまったく反応しない例がある。パルス療法はおおむね3回程度行われていることが多いが、まったく反応がえられない例では漫然と繰り返すよりも、他の治療法への切り替えまたは積極的に発汗トレーニングによる理学療法を取り入れる。2)抗ヒスタミン薬内服ヒスタミンがアセチルコリンによる発汗を抑制することから試みられる7)。ただし抗コリン作用のない好ヒスタミン薬を選択すること。効果が明瞭でない場合には通常量より増量してみることも必要。3)免疫抑制剤内服シクロスポリンの内服(2~5mg/kg/日)が効果を示すことが知られるが、報告症例数は少ない。4)その他の内服療法漢方薬である紫苓湯、葛根湯、または塩酸ピロカルピン(や塩酸セビメリン)などの投与も試みる価値がある。5)理学療法薬物療法に頼りがちであるが、発汗を刺激するための発汗トレーニングは補助療法として、また、再発予防として重要である。熱中症に陥らない範囲、また、コリン性蕁麻疹によるピリピリ感が苦痛にならない程度に、半身浴や徐々に運動負荷をかけるなど工夫する。5 主たる診療科皮膚科および神経内科。ただし、発汗異常を取り扱っている医療機関であることが必要。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性後天性全身性無汗症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン. 2013;50:67-74.2)柳下武士. 日本皮膚科学会雑誌. 2021;131:35-41.3)小野慧美ほか. 発汗学. 2016;23:23-25.4)中里良彦. 自律神経. 2018;55:86-90.5)Sawada Y, et al. J Invest Dermatol. 2010;130:2683-2686.6)中里良彦ほか. 特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン改訂版. 自律神経. 2015;52:352-359.7)Suma A, et al. Acta Derm Venereol. 2014;94:723-724.公開履歴初回2021年9月22日

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認知症による幻覚妄想に何を処方するべきか(解説:岡村毅氏)

 認知症がある方のサイコーシス(幻覚・妄想)は、本人や介護者にとっては過酷な状況である。 本研究は、海外ではパーキンソン病認知症によるサイコーシスに使われているpimavanserinを、アルツハイマー型、前頭側頭型、血管性の認知症によるサイコーシスにも広げる試みだ。この第III相試験で良好な結果が得られたので、将来われわれが手にする可能性も高いと思われる。 認知症がある方のサイコーシスに対する医学的な対応はここ数十年で大きく変貌した。かつては抗精神病薬が安易に処方されることが多かった。これらは、強弱はあるがドパミン遮断薬でもあるのだから、パーキンソン症状のリスクが大きく、誤嚥や転倒につながる。さらにレビー小体病やパーキンソン病認知症といった新たなカテゴリーが出現し、このカテゴリーでは当然ながらドパミン遮断薬は禁忌である。 現在では、抗精神病薬はなるべく使わずに、環境調整(たとえば日中は明るい所で活動してもらう)、非薬物療法(介護スタッフへのケア方法の提案)、心理社会的な解釈の可能性の探求(その幻覚妄想には意味があるのではないか、こうすればよいのではないか)などをまずは行う。それでも改善しない場合は漢方薬を使い(ただし粉の形状が嫌われる場合もある)、最後の手段でリスクベネフィットを熟慮したうえで関係者の総意で少量の抗精神病薬を開始する、効果が得られたらすぐに撤退する、というのが一般的であろう。 とはいえ、処方者はなかなか厳しい立場にいることも自覚せねばならない。進歩的な人々からは「高齢者に抗精神病薬を使うなんて非人道的だ」と言われる。一方で、家族介護者や施設介護者からは、「私たちの生活は破綻しています」という悲鳴と共に使用の希望を頂くことが多い。「すぐに使ってくれ、でなければ入院させてくれ」と言われることもあるし、期待に沿えないとおそらく他の医療機関で処方してくれるところを探し続けるということもあろう。また減薬を提案すると反発されることが多い。臨床とはそういうものだが、柔軟さと大局観が必要だ。 このpimavanserinの強みは、パーキンソン症状がほぼないことであろう。本研究では誤嚥や転倒はみられておらず、これまでの困難を大きく解消するだろう。 以上はあくまで臨床家の経験に基づく語りである。そして以下はそれを受けた研究者としての考察である。 もちろん処方データベース等を用いた疫学研究も重要であるが(私も疫学研究者の端くれである)、現実世界の変化はとても大きく複雑なので、臨床家の生の声が意外に本質に迫っていることもある。 臨床現場は、患者の急激な高齢化(いまや100歳も普通)、一人暮らしの人の急増、地域包括支援センターの支援技術の向上(出来上がったころに比べると雲泥の差だ、そもそも昔は認知症の人は病院だといって拒否していたところもあった)、介護スタッフの技術の向上(たとえば好き嫌いはあるだろうがユマニチュードのおかげで支配的なスタッフはだいぶ減った印象だ)、家族の意識の変化(かつては親の死や弱さを受け入れない人も多かったが、いまでは自然なこととわかってくださる人が増えた)など変わり続ける。おそらく未知の変数もあるだろう。そして正解もまた変わり続ける。かつて私は、ガイドラインや疫学研究が臨床を導く光だと思っていた。いまでもそうした気持ちはあるが、おそらくガイドラインや疫学研究は、現実には臨床を追いかけているに過ぎないのだろうと思っている。 最後におとなしくまとめると、両方大事であって、どちらかだけでは視野狭窄だということだ。

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抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症の治療に関するガイダンス

 抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症のマネジメントオプションおよび治療における有効性、忍容性、薬物相互作用、禁忌、投与計画などの考慮すべきポイントについて、米国・ミズーリ大学のMatthew M. Rusgis氏らが評価を行った。American Journal of Health-System Pharmacy誌オンライン版2021年2月26日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・高プロラクチン血症は、抗精神病薬の使用により発現する副作用の1つである。・高プロラクチン血症のマネジメントにおいて、まずは以下の手段を検討する。 ●高プロラクチン血症と関連してる可能性の高い抗精神病薬の減量 ●高プロラクチン血症と関連してる可能性の高い抗精神病薬の中止 ●高プロラクチン血症リスクの低い抗精神病薬への切り替え・これらのオプションは、必ずしも実用的であるとはいえず、精神症状の再発リスクを考慮する必要がある。・その他のマネジメントオプションとして、以下の薬剤による補助療法が検討可能である。 ●アリピプラゾール ●ドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン) ●メトホルミン ●ハーブサプリメント・Embase、PubMed、Google Scholarより、高プロラクチン血症や上記治療薬などのキーワードを用いて検索したところ、入手可能なエビデンスより、次の4点が抽出された。(1)アリピプラゾールは、プロラクチンレベルを正常範囲まで低下させるうえで、安全かつ有用な薬剤である。(2)カベルゴリン、ブロモクリプチンは、プロラクチンレベルを低下させる。しかし、カベルゴリンは、心臓弁膜症などの重篤な副作用と関連している可能性がある。(3)メトホルミンは、プロラクチンレベルの軽度な低下が期待できる。(4)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に対する漢方薬(カモミール、芍薬甘草湯)の使用に関するデータは限られていた。 著者らは「抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症のマネジメントにおいて、抗精神病薬の治療レジメンを変更できない患者でも利用可能な治療方法はいくつかある。抗精神病薬を使用している患者の多くは、慢性疾患であり、長期にわたる薬剤使用が必要であることを考慮すると、高プロラクチン血症に対する治療戦略の有効性、安全性を判断するためには、短期だけでなくより多くの長期的な研究が必要であろう」としている。

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する多剤併用試験の意義(解説:森本悟氏)-1331

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロン障害による筋萎縮、筋力低下、嚥下障害、呼吸不全等を特徴とする神経難病であり、有効な治療法はほとんど存在しない。 しかし今回、ALSの有効な治療薬として、フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)-taurursodiol合剤が報告された(Paganoni S, et al. N Engl J Med. 2020.383:919-930. )。 フェニル酪酸ナトリウムは、本邦では尿素サイクル異常症治療薬として使用されている。この薬剤は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としても働き、低分子シャペロンである熱ショックタンパク質(HSP)を増加させる。それにより、ALSの病態として重要なタンパク質(TDP-43)の異常蓄積を防ぎ、小胞体ストレスによる神経毒性を低減する。一方、taurursodiol(ウルソデオキシコール酸[ウルソジオール]のタウリン抱合体)は漢方薬の原料である熊胆の成分であり、小胞体ストレスを軽減するとともに、ミトコンドリアにおけるBax蛋白の膜移行を阻害し、細胞死を防ぐ働きがある。 従来の数多くの基礎研究により、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能不全、あるいは小胞体-ミトコンドリア接触部(MAM)の破綻などがALSにおける重要な病態であるということが提唱されてきたが、今回の臨床試験の報告により、これらの仮説が証明された。さらに本治験患者を長期観察した続報として、ALSにおける運動機能改善のみならず、投薬患者はプラセボ群と比較して6.5ヵ月長い生存期間中央値(無作為化後最大35ヵ月間のフォローアップ)を認めた(Paganoni S, et al. Muscle Nerve. 2021;63:31-39.)。 これまで、脳血管障害や結核治療のように複数の薬剤を併用することで、“multi-target”および“synergistic effect”も含めて有効性を高められる可能性が言われてきたが、今回の報告は、ALSに対する“多剤併用試験”の先駆的な成功例である。 一方で、最近の話題として、ALSを含む多くの神経変性疾患に対する治療開発戦略において、“iPS細胞創薬”が台頭してきている(Okano H, et al. Trends Pharmacol Sci. 2020;41:99-109. )。このコンセプトにより、これまでの動物モデルでは成しえなかった“孤発性疾患モデル”が現実的なものとなり、神経変性疾患の大部分を占める孤発性患者を直接的なターゲットとした創薬が可能となりつつある。 近年、ALSに対する創薬(研究)の報告が相次いでおり、一刻も早くALSが克服されることを切に願ってやまない。

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第29回 オンライン診療恒久化の流れに「かかりつけ医」しか打ち出せない日医の限界

初診も含めたオンライン診療、平時も解禁へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。コロナも少しは収まったということで、10ヵ月振りに88歳の父親が一人暮らしをしている愛知の実家に帰りました。父親の関心と愚痴はいつも自分の病気や体調のこと。今回は「最近、足が冷たく、しびれも感じる」と今までなかった不調を訴えてきました。聞くと、行きつけの近所の診療所では「それは老化ですね」と言われ、ツムラの107番(牛車腎気丸)を処方されたとのこと。107番の効きはまったく実感できずに近所の鍼灸院に通いだした、と話していました。私の見立ては下肢閉塞性動脈硬化症なのですが、医師に「老化ですね」とだけ言われ、症状も改善せずに戸惑っている90歳近い老人に息子としてどう対処したらいいものか、困ってしまいました。さて、今回は全国ニュースでも喧しい「オンライン診療」について書いてみたいと思います。この連載では、菅 義偉総理大臣が誕生したまさにその日、9月16日付で「オンライン診療めぐり日医と全面対決か? 菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと」と題して、菅政権にとってオンライン診療は規制緩和やデジタル化推進の象徴であり、日本医師会との軋轢が今後一層深まるのでは、と書きました。菅首相は政権発足初日に田村 憲久厚生労働相に「オンライン診療の恒久化」を指示しました。その後、恒久化へのシナリオは着実に進んでいます。10月7日、政府の規制改革推進会議は「議長・座長会合」を開き、オンライン診療・服薬指導について「デジタル時代に合致した制度として恒久化を行う」という方針を確認しました。そして、翌8日には田村厚労相が平井 卓也デジタル改革相、河野 太郎行政改革相と会談。初診も含めたオンライン診療の原則解禁について3大臣が合意しました。今後、厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」において、安全性を確認しながら対象などを改めて整理することになっています。「かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸に」と中川会長一方、日本医師会の中川俊男会長は先週14日の定例記者会見で、3大臣による合意に対する見解を発表しました。中川氏は、日医のオンライン診療に対する基本的なスタンスは、9月24日会見時の「解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に、対面診療を補完するもの」という考え方から変わらないとしたうえで、「安全性と信頼性をオンライン診療の必須条件として位置付けていかなければならない。さらに有効性も担保される必要がある」とし、「安全性と信頼性の確保に向けては、かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸にすべきだ」と述べました。なお、かかりつけ医機能については、7年前の2013年8月に、日医と四病院団体協議会が合同で提言した「医療提供体制のあり方」1)の中で示された定義を改めて説明した、とのことです。この時の提言では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義、具体的なかかりつけ医機能4項目も明示しています。資格もなく曖昧な「かかりつけ医」の概念オンライン診療に関する議論において、「かかりつけ医」の定義を持ち出してきた点に、全面解禁に反対する日本医師会の理論武装の弱さを感じます。「かかりつけ医」は、医療の世界でよく使われる言葉ですが、日医と四病院団体協議会が定義した内容が国民に十分に浸透、定着しているとは言えません。そもそも、この定義に合致した医師を養成する仕組みや、研修制度などをベースにきちんとオーソライズする仕組みもありません。つまり、現状で日医が定義し提唱する「かかりつけ医」とは、地域で診療する医師の一つの理想像、“絵に描いた餅”に過ぎないのです。オンライン診療の安全性と信頼性の確保に向け、「かかりつけ医やかかりつけ医機能を基軸すべきだ」と言われたところで、その概念が曖昧で確固たる実態がないままでは、議論を進めようがありません。コロナ収束までの時限的措置として特例的に規制緩和されたオンライン診療ですが、一定数の患者が新たにそこに流れた、ということは、かかりつけ医や主治医を持たない(あるいはかかりつけていた医師への受診にこだわらない)国民がそれだけいた、ということです。かかりつけ医というものに対しては、日医が考えているほど、国民は期待していないのかもしれません。「オンライン健康相談にも診療報酬を」オンライン診療に関連し、中川会長は「オンライン健康相談」に対するかかりつけ医の関わり方についても言及しています。これは10月7日の定例会見で話されたもので、民間企業が提供するオンライン健康相談サービスについて、国による定義付けや業界ガイドラインの作成などのルールづくりが必要だ、と提言。さらに、かかりつけ医が診療行為の一環としてオンライン健康相談を行った場合は、診療報酬で適切に評価することも提案しました。医師以外での相談業務にはオンライン健康相談ではなく「オンライン生活相談」等の名称とすることも提案しました。さらに、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、医師以外による「遠隔健康医療相談」において「受診不要の指示・助言」も可能とする点も、「原則的にできないようにすべき」と述べています(遠隔健康医療相談については、本連載「医師の質・能力、実はどうでもいい? LINEヘルスケア事件の先にある世界」を参照)。時代に逆行する考え方こうした中川会長の一連の発言を聞いていると、「健康相談すらも医師しかできない業務にしろ」と言っているように聞こえます。しかし、これはいささか時代に逆行する考え方ではないでしょうか? 現在、「医師の働き方改革」の中で、タスクシフティングが議論されています。具体的にタスクシフト、タスクシェアの対象として検討が始まった医師の業務の中に、「健康相談」は入ってはいないようですが、診療前の健康相談までを医師のルーチンワークに入れてしまったら、医師のハードワークはいつまでたっても解消されないのではないでしょうか。「かかりつけていてもかかりつけ医ではない」レギュレーションをオンライン診療恒久化の流れに対し、「対面原則」「かかりつけ医、かかりつけ医機能を基軸」を押し通すなら、ここは改めて「かかりつけ医」というものを再定義し、きちんとした専門資格として世の中に問うべきだと思いますが、皆さんはどうお考えでしょうか?中川会長自身も14日の会見ではかかりつけ医の定義について、技術革新・ICT化などが進んだことを背景に「見直し、ブラッシュアップする時期かもしれない」と述べていますが、資格化については言及していません。絵をどれだけブラッシュアップしても絵のままだと思うのですが…。私としては、88歳の老人の不定愁訴に対し、診断名も告げず「老化ですね」と言うだけで、漢方薬を適当に処方するような医師は、「かかりつけていてもかかりつけ医ではない」という、厳しめのレギュレーションを設けてもらいたい、と思う今日この頃です。参考1)医療提供体制のあり方/日本医師会・四病院団体協議会

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Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

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第17回 治療編(1)薬物療法・その4【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第17回 治療編(1)薬物療法・その4前回侵害受容性疼痛に対し、わが国で非麻薬系オピオイドとして使用されているトラマドール製剤とブプレノルフィン貼付薬について解説しました。今回は、さらに痛みの程度が強い患者さんに使用する麻薬系オピオイドのコデイン、モルヒネ、フェンタニルについて説明したいと思います。(1)コデイン<作用機序>コデインは、投与量の5~15%が肝臓で代謝されることで、CYP2D6により産出されるモルヒネとなり、鎮痛効果が得られます。産出されたモルヒネがオピオイド受容体と結合することで、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>モルヒネと同様に考えて使用します。コデインリン酸塩散には1%、10%、原末があります。また、コデインリン酸塩錠には5mg、20mgがあります。通常は、1回20mg錠を1日3回投与します。ただし、モルヒネ換算には幅があり、鎮痛作用を目的にする場合には、鎮咳目的の場合と異ってかなりの量が必要になります。1%散として使用する場合には、1回2g、1日3回6gの投与になりますので、漢方薬並みの用量となります。通常は麻薬扱いですが、 内容量が少ない1%散、5mg錠は、投与量と関係なく非麻薬扱いになります。副作用として、嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、口渇、ふらつき、傾眠、意識消失などがあります。(2)モルヒネ<作用機序>オピオイドの基本薬です。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>次の項に示した合成麻薬フェンタニルの基本薬物になります。錠剤は10mgですが、いきなり10mg錠剤ではなく、末として3mg、5mg、8mgと段階的に体が慣れてくるたびに増量していきます。もちろん、途中で疼痛が緩和されれば、その投与量で維持していきます。また、1日の投与量が15mgに達すれば、フェンタニル貼付剤の適応(文末の表を参照)になります。(3)フェンタニル貼付剤<作用機序>モルヒネと同様、強オピオイドに分類されます。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>フェンタニル貼付剤には、3日用の「デュロテップMTパッチ」、1日用の「フェントスパッチ」「ワンデュロパッチ」が適応されます。モルヒネ経口剤で30mgが「フェントスパッチ1mg」「デュロテップMTパッチ2.1mg」「ワンデュロパッチ0.84mg」に相当します。貼付剤なので、貼付する部位を毎回ずらしていきます。また、温度が高くなると、吸収が増えるので、入浴などの際には気を付けなければなりません。そのために、入浴が好きな患者さんでは、1日用のパッチを入浴前にいったん外し、入浴後に再度貼付される方もいます。なお、本剤の投与に際してはeラーニングの受講が必要です。モルヒネおよびフェンタニルは、医療用麻薬に分類される強オピオイドであり、乱用、依存、退薬症候、長期処方に伴う鎮痛耐性、鎮痛過敏、腸機能、性腺機能障害などに注意が必要です。貼付剤では掻痒、発赤などの皮膚症状が見られることがありますので、貼付部位をローテーションすることが重要です。以上、痛み治療の第3段階における薬物について、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。難治性疼痛患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は神経ブロックについて解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S156-S157

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事例006 漢方薬・柴苓湯エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説今回は、複数社から販売されている漢方薬全般によくある査定をお届けします。事例では瘢痕拘縮の改善に「柴苓湯」が著効したとの研究論文を参考に投与されていました。柴苓湯の添付文書を見ると、その適応には瘢痕拘縮の記載がありません。そのため、投与根拠である傷病名に適応病名が無いとして医学的に保険診療適用は認められないとA査定になったものです。多くの漢方薬では保険適用の承認時に、症状緩和を目的とした表現が多用されています。ここまでなら大丈夫と幅広く処方され、査定の対象となる事例をよく見かけます。保険診療では、共助と患者に対する医療安全を基本に、「保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「療担」)」第19条において、「厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止」が定められています。この表現の中には、「医薬品に承認された効能・効果・用法・用量など」も含まれます。それを超えた使用は、療担第18条において特殊療法等に分類され原則禁止とされています。また、傷病名に対する適応が認められていないと査定対象となります。まれに、レセプトの当初請求時に医学的必要性が詳記されている場合には、保険診療の適用から外れていても、医師の裁量権が認められることもあります。関連学会のレポートなどで、いかに良い成果発表があったとしても、必ず保険診療の適用があるか確かめてから投与されることが、査定を減らすために必要となります。

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COVID-19診療に医学書出版社が支援/日本医書出版協会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により学術集会で新刊書の購入もままならない昨今、わが国の医学書出版社で構成される「日本医書出版協会」は、同協会の会員各社がサイトで無償公開しているCOVID-19関連の書籍、雑誌の論文や記事、Web情報などを一元的に閲覧できるページ「新型コロナウイルス関連無償コンテンツ 」を開設した。 具体的に公開されているコンテンツは、書籍、論文など約60コンテンツにのぼり、初出年月の新しい順に掲載されている(一部、会員登録が必要なコンテンツもある)。 ホームページでは、COVID-19の診療に携わる医療者に感謝を述べるとともに、診療への支援に役立てほしいと述べている。掲載コンテンツ・書籍「『今日の治療指針2020年版』収載「オンライン診療の手引き」無料公開について」福井次矢(医学書院)・雑誌「おさえておきたい 新型コロナウイルスの情報と感染対策基本テクニック」清水潤三(医歯薬出版)「COVID-19は研究にどう影響しているかー小誌アンケートに寄せられた声を紹介」実験医学編集部 早河輝幸(羊土社)「PCR検査をめぐる再混乱─集団的同調圧力で決めてはいけない」岩田健太郎(日本医事新報社)・その他(Web情報など)「COVID-19緊急企画「プライマリ・ケアにおける漢方薬の新たなニーズ」」長瀬眞彦(羊土社)「「新型コロナウイルス」関連コメント特設ページ」菅谷憲夫(日本医事新報社)「NEJM日本国内版オンラインにコロナウイルス関連情報ページを公開」NEJM日本国内版(南江堂)

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第8回 新型コロナ予防・治療・メンタルヘルスへの活用が期待される漢方薬の可能性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する既存薬の活用が期待される一方、新型コロナの感染予防・軽傷者の重症化予防やメンタルヘルスに対する漢方薬の活用が注目されている。日本東洋医学会では、漢方薬などによる対症療法とその後の重症化の有無との関連を調べるため、医療機関に症例の報告を呼び掛けている1)。また、薬局・薬店からなる日本中医薬研究会は新型コロナ治療の予防・治療に対し、中国漢方である中医薬(中国伝統医薬)の有効性を探るため、日中の医師や薬剤師らによるウェブ交流会を4月に行った。振り返ると、2009年の新型インフルエンザ流行時には、麻黄湯や銀翹散、小柴胡湯などの漢方薬に抗ウイルス作用が確認されている。タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ治療薬に麻黄湯などの漢方薬を合わせて使うと一定の効果が見られたという。COVID-19に関連し、中国は3月、顕著な治療効果が見られたという「三薬三方(三つの処方と薬)」を選出し、清肺排毒湯、化湿敗毒方、宣肺敗毒方という3つの中医薬を推奨している。このうち、COVID-19用に創薬され、軽症から重症までカバーするという清肺排毒湯には麻黄湯と小柴胡湯が構成生薬の一部として使われている。新型コロナの感染確認者の91.5%が中医薬を使い、臨床治療の効果観察では、中医薬の総有効率は90%超に上っているという。日本国内においても、清肺排毒湯を日本で処方可能なエキス剤で作り、軽症者の重症者化予防に処方している医療機関がある。無症状者を含めた予防には、免疫力を高める効果が報告されている補中益気湯や十全大補湯などがある。メンタルヘルスに関しては、新型コロナによる自粛生活で、高齢者を中心に運動不足による持病悪化や、ストレスや経済的不安によるうつ病症状を訴える人が増えている。また、経済の悪化に伴う失業者の増加により、累計自殺者数が27万人増との試算もある。「コロナうつ」への対応も重要な課題だが、精神科や心療内科の受診をためらう人は少なからずいる。それに比べると、漢方薬はハードルがいくぶん低くなるようだ。ストレス緩和効果が得られる漢方薬には、加味逍遙散や柴胡加竜骨牡蛎湯、酸棗仁湯などがある。ただ、漢方薬は西洋薬の処方のようにはいかないのはご存じの通り。漢方薬は病名ではなく、患者個々人の体質と症状に対する処方が原則だ。漢方薬においても、現段階でCOVID-19への特効薬がない以上、予防段階では体力を付けて免疫力を上げる、感染したら発熱しないようにする、発熱したら早く治るようにするというように、段階によって使う漢方薬が異なり、患者ごとに症状を見ながら処方を判断しなければならない。ただ、新型コロナウイルスは変異の速いRNAウイルスの一種で、現在効いている新薬がいつ効かなくなるかわからない懸念がある。漢方薬を扱っている医療従事者は「免疫力の強化を本来重視する漢方薬は、変異に対してもある程度有効なのでは」と期待している。1)COVID-19一般治療に関する観察研究ご協力のお願い(日本東洋医学会)

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「しょっちゅうこむら返りになる」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第29回

■外来NGワード「この薬さえ、飲んでおけば大丈夫です!」(運動療法に触れない)「何か、運動しなさい!」(あいまいな運動指導)「糖尿病の合併症ですよ。もっと血糖値を下げないと!」(医学的脅し)■解説 有痛性筋痙攣(muscle cramp)、いわゆる「足がつる」状態や「こむら返り」は、健康な人でも久しぶりに運動したときなどに起こります。一方、糖尿病や肝硬変の患者さんでは、ふくらはぎなどの下肢だけでなく、上肢に起こる人もいます。高齢者糖尿病ではとくに頻度が高く、日中にも症状が出現することが報告されています。また、利尿薬、スタチン、β2刺激薬(吸入薬)を使用している人は、リスクが高まるといわれています。この有痛性筋痙攣は、時に睡眠を妨げ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。しかし、この「こむら返り」をかかりつけ医に相談していない事例も多いようです。高リスクの患者さんには、よく眠れているか確認してみましょう。症状が出たときの対処法としては、膝を押さえ下腿三頭筋を他動的に伸展させる方法がよく用いられています。芍薬甘草湯などの漢方薬が汎用されますが、寝る前のストレッチや足の軽い運動なども効果があるので、運動療法と併せて治療を行うことが大切です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者最近、夜中に足がつることが多くて…。医師それは大変ですね。最近、血糖が高い状態が続いているので、何か関係しているのかも。患者やっぱり、糖尿病のせいなんですか?(やや不安そうな顔)医師影響は考えられますね。整形外科的な疾患ではないと思うので…。患者夜中に、痛くて目が覚めてしまうんです。どうしたらいいですか?医師漢方薬などもありますが、もっといい方法がありますよ。患者なるべく薬は増やしたくないので、教えてほしいです!(興味津々)医師寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?患者(実際に足を動かして)これぐらいなら、一人でもできそうです。医師お風呂上がりやテレビを見ているとき、歯磨きの後などでもいいので、寝る前にぜひやってみてください。患者はい。わかりました。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?」1)餘目千史ほか.日本糖尿病教育・看護学会誌. 2016;20:211-220.

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グレリンとがん悪液質 シリーズがん悪液質(7)【Oncologyインタビュー】第14回

近年注目されている空腹ホルモングレリンと悪液質の関係。食欲亢進にとどまらないグレリンの作用について、当分野のエキスパートである鹿児島大学大学院 乾 明夫氏に聞いた。グレリンと悪液質の関係―グレリンの作用とはどのようなものでしょうか。グレリンは1999年に日本人研究者が発見した胃から分泌される空腹ホルモンで、脳の視床下部にある神経ペプチドY(NPY)に作用して摂食行動を促進します。このグレリン/NPYという空腹系システムは、人類が長い間生き残ってきた根幹の1つといえるでしょう。―グレリンは悪液質とどう関係しているのでしょうか。悪液質における重要な2つのポイントは、食欲不振と骨格筋萎縮です。食欲不振では体重が減少しますが、体重減少には体脂肪量と骨格筋量の両方の減少があります。がん悪液質では骨格筋量の減少が主体です。グレリンは、下流のNPYを活性化して食欲を促進します。それと同時に消化管運動、とくに空腹期運動を促進します。胃内に食物があると食欲が抑制されますが、そういった食後期の消化管運動を空腹期運動に変換させることも明らかになっています。もう1つは、成長ホルモン/インスリン様成長因子-1(GH/IGF-1)分泌を促して成長を促進します。成長ホルモンの減少は骨格筋量の減少を引き起こしますので、グレリンにより骨格筋量が増加することになります。このことは一部の小人症がグレリン受容体の異常によることからも認識されていました。グレリンは、食欲を促進し、消化管運動を促進し、骨格筋量を増加する。いずれも、がん悪液質に関係するものです。がんでは飢餓への応答が破綻している―グレリンはがん悪液質に重要な役割を果たしているのですね。実際にがん悪液質では、グレリンの空腹系システムは、どのように変化しているのでしょうか。通常、飢餓になると、グレリン/NPYシグナルが亢進して食欲を促進すると同時に、基礎代謝を抑制します。食べたものを効率よく取り込む仕組みになっているわけです。この飢えに対する応答機構は非常に強力で、たとえば、ネズミを絶食させ餌を与えると、ネズミは体重が戻るまで食べ続けます。その間、食欲促進とともに基礎代謝が低下するよう視床下部で調整されており、セットポイントといわれる元の体重になるまで、その状態が続きます。このセットポイントは人間の場合も同様です。がん悪液質の定義が5%の体重減少(通常起こりえない)なのもこのためです。一方、がんの場合は食欲が十分促進されない、基礎代謝も上がったまま下がらない。つまり、飢えに対する応答が行われていない状況なのです。これにはいくつかの原因があります。がんでは、がん細胞自体や周辺の免疫担当細胞から炎症性サイトカインが出ており、実際に測定するとTNFα、IL-1β、IL-6といった炎症性サイトカインが患者さんの血中では大きく増えています。原因の1つ目は、この炎症性サイトカインがグレリンの分泌を強力に抑制し、グレリンの量が減少してしまうということです。2つ目はグレリン作用抵抗性です。炎症性サイトカインは、満腹系のコルチコトロピン放出因子(CRF)やレプチンの放出を促進します。満腹系を強化することによって、グレリン/NPYの作用を相殺してしまうことになります。3つ目は、アシル基が取れたグレリン(デスアシルグレリン)の増加です。グレリンはアシル化されることで生物活性を発揮する、つまり食欲を促進します。悪液質では、このアシル化グレリンが減少しています。つまり、グレリンが抑制されたうえに、残っているグレリンは活性型が少ない。また、グレリンの作用が満腹系システムで抑制されているわけです。―飢餓への応答破綻にグレリンが大きく関与しているわけですね。グレリンの障害は、上記以外でも起こるのでしょうか。胃がんを例にとってみます。グレリンの産生細胞は胃に多く存在しますが、がんが浸潤すると、グレリン産生細胞が破壊されます。また、手術でグレリン産生細胞を大量に取ってしまう。こういったことで、胃がんでは体重が落ちる方が多いですし、悪液質が高度に起こることがあります。また、抗がん剤も関係します。多くのがんで用いられる5FUや白金製剤は、消化管細胞からセロトニンを放出させます。セロトニンは満腹中枢を刺激し、グレリン分泌を抑制します。こういったことも悪液質につながることがあります。グレリンによるがん悪液質の改善は、その先につながるか。―グレリンの作用が改善すると悪液質も改善するのでしょうか。グレリン産生腫瘍の一例報告があるのですが、その患者さんは体重減少が起きずに経過し、終末期まで悪液質が起こらなかったそうです。これはヒトにおいてもグレリンの悪液質に対する可能性を示していると思います。また、漢方薬でも人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)、六君子湯(リックンシトウ)は、グレリン/NPYに作用します。これらも、体重減少を防ぐ作用、がん悪液質を改善させる効果が報告されています。グレリンアゴニストについても、臨床治験で、食欲促進と骨格筋量の改善が明らかになっています。―悪液質の改善によるサバイバルの結果はまだ出てませんが、どうお考えですか。ヒトでは時間がかかりますが、基本的には何らかの形でサバイバルの改善を示していくべきだと思います。抗がん剤のサバイバル、その多くは数ヵ月から半年程度と言われてまいりました。また、QOLが悪化する場合も認められます。前述の薬剤を用い、QOLを向上するとともにサバイバルが延びるということは、大きな意味があると思います。

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甘草の重複から偽アルドステロン症を疑い、ただちに医師に電話【うまくいく!処方提案プラクティス】第9回

 今回は、整形外科領域で処方頻度の高い芍薬甘草湯による副作用の初期徴候と経過を把握することがキーとなった症例を紹介します。普段から症状や併用薬を確認することが副作用の早期発見に功を奏しました。処方提案後には、副作用が軽減したかモニタリングすることも重要です。患者情報80歳、女性(外来)、体重:70kg基礎疾患:腰部脊柱管狭窄症、高血圧症、脂質異常症血  圧:おおよそ130/70台を推移月1回整形外科を受診しており、薬剤は薬袋で自己管理している。処方内容(すべて継続処方薬)1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後3.リマプロストアルファデクス錠5μg 3錠 分3 毎食後4.メコバラミン錠500μg 3錠 分3 毎食後5.芍薬甘草湯7.5g 分3 毎食後6.ロスバスタチン錠5mg 1錠 分1 夕食後7.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による下肢の痛みや冷えのため芍薬甘草湯が処方されていました。投薬対応中に普段と何か変わったことはないか確認したところ、「最近、手足がだるくて、筋肉痛やこむら返りが起きる。市販薬を購入して服用しているけれど、むしろひどくなっている気がする」と聴取しました。市販薬の内容を確認すると、こむら返りや筋肉の痙攣に良いと聞いて購入した芍薬甘草湯エキス2.4g(商品名:コムレケア)であり、処方されている芍薬甘草湯と重複(甘草として12.0g/日)していました。市販薬の名称からは同じ漢方薬であるとは思わなかったようです。処方薬の芍薬甘草湯を服用中に手足のだるさや筋肉痛、こむら返りなどの症状が生じていることから偽アルドステロン症の可能性が疑われ、さらに市販薬を追加服用したことで症状の増悪に至ったと考察しました。さらに、双方の芍薬甘草湯によって降圧コントロールで服用しているフロセミドによる低カリウム血症が生じて、筋力低下や筋肉痛が生じている可能性もあると考え、医師への連絡が必要と考えました。<偽アルドステロンの注意点>偽アルドステロン症は甘草に含まれるグリチルリチンの活性代謝物であるグリチルリチン酸が、ナトリウム貯留や血圧上昇などのミネラルコルチコイド様作用を発揮することにより生じる。主な初期徴候は、手足のだるさ、しびれ、ツッパリ感、こわばり、筋肉痛、四肢脱力など。甘草2.5g/日以上、グリチルリチン100mg以上で発生リスクが高まるが、それ未満でもリスクはあるので注意が必要。利尿薬(とくにカリウム排泄型)が投与されている場合には、低カリウム血症を生じやすく、重篤化しやすい。処方提案とその後の経過患者さんに事情を話して投薬対応を一旦待っていただき、医師へ電話連絡することにしました。継続処方されている芍薬甘草湯による偽アルドステロン症の可能性があり、市販薬の芍薬甘草湯を購入して服用したことでさらに症状を助長させている可能性について報告し、今後の対応を相談しました。また、フロセミド服用で低カリウム血症が生じている可能性も考えられるため、血清カリウムの採血も提案しました。その結果、医師より処方薬と市販薬の芍薬甘草湯を中止するよう指示があったうえで、患者さんはすぐに再診となり、血清カリウムの評価のため採血検査が行われました。その2週間後に診察フォローがありましたが、予想どおり血清カリウム値が2.6mEq/Lと低カリウム血症でした。血圧推移は安定しており、浮腫もないことからフロセミドも中止となりました。今回問題となった手足のだるさや筋肉痛、こむら返りについては、芍薬甘草湯を中止して症状は改善し、再燃なく経過しています。ポケット医薬品集2019年版重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症

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