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ファイザー製ワクチン後の心筋炎、非接種者と比較した発症率/NEJM

 mRNAワクチン「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)接種後の心筋炎の罹患率は、低率だが、とくに若い男性の2回接種者で増大すること、また臨床症状は概して軽症であったことを、イスラエル・Hadassah Medical CenterのDror Mevorach氏らが同国保健省のモニタリングデータを分析して報告した。イスラエルでは2021年5月31日時点で、約510万人がmRNAワクチン・BNT162b2の完全接種を受けている。同国保健省は、有害事象のモニタリングにおいて心筋炎が報告された早期の段階から積極的なサーベイランスを行っていたという。NEJM誌オンライン版2021年10月6日号掲載の報告。初回接種・2回目接種後のリスク差などを評価 研究グループは2020年12月20日~2021年5月31日のイスラエル保健省のデータベースから、臨床・検査データや退院サマリー、電子カルテを後ろ向きにレビューし、全心筋炎について、Brighton Collaboration定義を用いて分類した。 心筋炎の罹患に関する分析では、ワクチン初回接種後と2回目(21日後)接種後の罹患率を、リスク差を算出して比較。診断確実性とは独立した、ワクチン初回接種後21日以内、2回接種後30日以内の、観察/予測罹患率の標準化罹患率比を算出して評価した。また、2回目接種後30日の率比を、ワクチン非接種者との比較によって求め評価した。2回目接種後の標準化罹患率比は全体では5.34 心筋炎症状が認められた304例のうち、21例は別の診断名が付いていた。それらを除く283例のうち、BNT162b2ワクチン接種後の発症例は142例で、うち136例がdefinitive/probableに分類された。 definitive/probable例のうち129例(95%)が軽症と判断されたが、劇症だった1例は死亡している。 ワクチン1回目と2回目接種後のリスク差は、全体では1.76/10万人(95%信頼区間[CI]:1.33~2.19)で、16~19歳男性で最も差が大きく13.73/10万人(8.11~19.46)だった。 過去のデータに基づく予測値と比較した2回目接種後の標準化罹患比は5.34(95%CI:4.48~6.40)で、16~19歳男性の2回目接種後が最も高く13.60だった(9.30~19.20)。 ワクチン完全接種者の2回目接種後30日の、ワクチン非接種者に対する心筋炎発症に関する率比は2.35(95%CI:1.10~5.02)で、16~19歳男性で8.96(4.50~17.83)と最も高く、6,637人中1人の割合で発症していた。

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ESMO2021レポート 消化器がん(上部下部消化管)

レポーター紹介2021年9月16日から21日にかけて、パリでESMOが開催された。「パリ」ということで楽しみにされていた先生も多かったのではないだろうか。私もその1人である。今回も新型コロナウイルスの影響で現地参加はかなわなかったが、感染は現地で比較的制御されているのかハイブリッドでの開催であり、欧米の先生の中にはリアルに参加されている方がいたのが大変うらやましく、印象的だった。今年のESMO、消化管がんの演題はpractice changingではないものの、来るべき治療の影が見え隠れする、玄人受けする(?)演題が多い印象であった。後述するように、とくに中国の躍進を感じさせる演題が多く、個人的には強い危機感を覚えている。食道がんいまや消化管がんにおける免疫チェックポイント阻害剤(ICI)のショーケースともいえるのが食道がん1st lineである。これまでに出そろったデータとして、ペムブロリズマブ+chemo(KEYNOTE-590試験)、ニボルマブ+chemo or イピリムマブ(CheckMate 648試験)、camrelizumab+apatinib(ESCORT-1st試験)がある。それにさらに加わったのが、中国発のICI、sintilimabとtoripalimabである。抗PD-1抗体sintilimabのchemotherapy(シスプラチン+パクリタキセル or 5-FU)に対する上乗せを検証したORIENT-15試験では、食道扁平上皮がん(ESCC)のみの全体集団で、主要評価項目の全生存期間(OS)における有意な延長を示した(OS median:16.7 vs.12.5 months、HR:0.628、p<0.0001)。同じく抗PD-1抗体toripalimabのchemotherapy(シスプラチン+パクリタキセル)に対する上乗せを検証したJUPITER-06試験では、ESCCのみの全体集団で主要評価項目のOS、無増悪生存期間(PFS)の両方において有意な延長を示した(OS median:17.0 vs.11.0 months、HR:0.58、p<0.00036、PFS median:5.7 vs.5.5 months、HR:0.58、p<0.0001)。胃がんCheckMate 649試験(CM 649)の成功によって、胃がん1st lineの標準治療がICI+chemotherapyとなったのは昨年のESMOであった。CM 649はそもそも3アーム試験であり、chemo±ニボルマブ(nivo)のほかにニボルマブ(1mg/kg q3w)+イピリムマブ(ipi)(3mg/kg q3w)というexperimental armがあったのだが、毒性の問題で登録中止となり主解析から外れていた。nivo+ipiにはさまざまなvariationがあるが、CM 649では高用量のipiが採用されている点は注意されたい。今回のESMOではnivo+ipiアームのデータが、chemo±nivoの長期フォローアップ、MSI解析に加えて公表された。結論から言えば、nivo+ipiはchemoに対して期待されたCPS≧5の集団において優越性を示すことはできなかった(OS:11.2 vs.11.6 months、HR:0.89、p=0.232)。MSI-Hは試験全体の3%であった。chemoとの比較において、chemo+nivoは高い有効性を示した(OS:38.7 vs.12.3 months、HR:0.38、ORR:55% vs.39%)。途中で中止となったアームなので比較はできないが、nivo+ipiはMSI-Hに対して、さらなる有効性を示唆した(OS:NR vs.10.0 months、HR:0.28、ORR:70% vs.57%)。MSI-Hに対しては5-FUがdetrimentalに作用する可能性が示唆されており、殺細胞性抗がん剤を含まないレジメンの有効性を示唆する結果であると考えている。現在、未治療のMSI-H胃がんに対するニボルマブ(240mg, fix dose, q2w)+low doseイピリムマブ(1mg/kg q6w)の有効性を探索する医師主導phase II試験(NO LIMIT, WJOG13320G/CA209-7W7)が進行中である(プロトコル論文:Kawakami H, et al. Cancers (Basel). 2021;13:805.)。nivo+ipiについてはもうひとつ、HER2陽性胃がん初回治療におけるニボルマブ+トラスツズマブにイピリムマブvs. FOLFOXの上乗せ効果を比較したランダム化phase II、INTEGA試験の結果も興味深かった。試験デザインは先進的である。つまりCM 649でnivo+ipiがchemoに対する優越性を証明でき、かつKEYNOTE-811においてchemo+トラスツズマブ+ペムブロリズマブの優越性が証明できれば、その次に浮かぶclinical questionがこのデザインだったからである。すでにHER2陰性胃がんに対して、nivo+ipiが化学療法を凌駕することがないことは、CM 649にて示されていたが、残念ながらこの試験結果もそれを追認するものであった。この結果から、HER2陽性胃がんに対する1st lineとしてのKEYNOTE-811の重要性が増した印象であり、生存データの結果公表が待たれる。HER2陽性胃がんといえば、本邦発のHER2 ADC、T-DXdの2次治療における欧米患者集団でのsingle arm phase II試験、DESTINY-Gastric02のデータが公表された。T-DXdは日本では3次治療以降の承認であるが、米国FDAにおいては2次治療ですでに承認となっている。主要評価項目を奏効率とし、トラスツズマブを含む1次治療に不応となったHER2陽性胃がん79例が登録された。有害事象は既報と変わりなかった。肝心の奏効率は38%と3次治療以降を対象としたDESTINY-Gastric01で認められた51%より低い数字であった(もちろん直接比較するものではないが)。Gastric-01と02の違いとして注意しなければならないのは、人種の違い以外(01は日本と韓国、2ヵ国の試験)に、02が2次治療すなわちトラスツズマブ不応直後の症例を対象としている、ということである。胃がんの治療開発の歴史においてトラスツズマブを含むanti-HER2 beyond PDは、これまで開発がことごとく失敗している。その原因の1つと考えられているのが、細胞表面上に発現しているHER2タンパクがトラスツズマブ治療中に欠失することにより不応となるという獲得耐性メカニズムである。複数の報告があるが、一例を挙げると、トラスツズマブbeyond PDの有効性を探索したT-ACT試験では2nd line前のHER2 statusが調べられた16症例のうち、実に11例(69%)でHER2陰性であった(Makiyama A, et al. J Clin Oncol. 2020;38:1919-1927.)。そうした背景からGastric-02試験においては、試験開始前に再度HER2陽性であることが確認されたことが適格条件となっている。こうしてみると、01試験の高い奏効率はどう説明できるのか、という疑問も生じる。現在、トラスツズマブ不応となったHER2陽性胃がんを対象としたphase III、DESTINY-Gastric04試験(weeklyパクリタキセル+ラムシルマブvs.T-DXd)が進行中である。この試験でも試験開始前に再度HER2陽性であることが確認されたことが適格条件となっており、今後注目の試験である。食道がんでもpositiveとなったsintilimabは、胃がん1次治療でもpositiveな結果であった(ORIENT-16試験)。CapeOxに対してsintilimabは、主要評価項目のOSにおいてCPS≧5(18.4 vs.12.9 months、HR:0.766、p=0,0023)および全患者集団(15.2 vs.12.3 months、HR:0.766、p=0.0090)において有意な延長を示した。中国の薬剤開発状況を「#MeToo」戦略といってばかにするのは簡単だが、昨年のESMOであればpresidential sessionに選出されたような開発を国内のみで短期間、しかも複数で成しえていること事態が驚異的である。ただ、これだけ同じような治療法が乱立した場合、どのような使い分けが中国国内で議論されるのかは知りたい気がする。しかし今回のESMOで一番衝撃を受けたのは、これからご紹介するClaudin(CLDN)18.2に対するCAR-Tである。CAR(Chimeric antigen receptor)-Tとは、患者さんのT cellに、がん細胞などの表面に発現する特定の抗原に対するキメラ受容体を人為的に発現させたものである。現在、CAR-T治療は本邦では白血病や悪性リンパ腫にのみ保険適用である一方、固形がんでの開発はまだまだ途上という印象である。CLDNは細胞間結合、とくにタイトジャンクションに関与するタンパク質で、少なくとも24種類のアイソフォームが知られている。CLDN18は、胃と肺で特異的に発現し、CLDN18.2は、タイトジャンクションが破壊された胃がん(低分化)での発現が高く、高度に選択的なマーカーと考えられている。すでにCLDN18.2を標的とする臨床開発は行われている。最も進んでいるのはCLDN18.2抗体zolbetuximabと化学療法を併用する治療戦略で、phase IIIが進行中である。そのCLDN18.2を標的とするCAR-Tの有効性と安全性に関するphase I試験の結果が報告された。対象はECOG PS-0,1、18~75歳のCLDN18.2発現陽性、既治療の胃がん症例であった。CLDN18.2陽性を背景に、42.9%がSignet ring cell carcinomaであった。前治療として抗PD-(L)1抗体が42.9%、Multi kinase inhibitorが35.7%で投与されていた。懸念された有害事象で治療中止となったものは1例のみで、忍容性が示される結果であった。有効性に関しては以下のとおりである。標的病変を有する36例中13例(48.6%)で奏効が認められた。病勢制御率は73%であった。また、少なくとも2ライン以上の治療を受けた症例(40%以上が抗PD-[L]1抗体既治療)でみると、奏効率は61.1%、病勢制御率は83.3%、median PFS 5.6ヵ月、median OS 9.5ヵ月というものであった。もちろんpreliminaryな結果ではあるが、この分野で中国の開発が一歩先に出ていることを示した重要なデータである。大腸がんMSS大腸がんに対しては、なかなか革新的な治療がなく、以前効果のあった薬を再利用するrechallengeの有効性が議論されるほど、「冬の時代」といえるのが大腸がんである。その理由としては、「大半を占めるMSSに対してICIが無効である」ことと「治療抵抗因子としてのRAS変異の存在(大腸がんの半数を占める)」が挙げられる。この大きな課題に対して、わずかずつではあるが光明が差してきていることを感じさせる結果が報告された。まずはICIについて注目した演題が2つ。1つはFOLFOXIRI+ベバシズマブ(Bmab)+アテゾリズマブ(atezo)の有効性を探索したランダム化phase II、AtezoTRIBE試験である。イタリアのGONO study groupらしく、1次治療としてFOLFOXIRI+Bmabがbackbone chemotherapyに選択された。主要評価項目をPFSとし、218例がatezo+chemo群vs.chemo群に2:1で割り付けされた。MSI-Hはそれぞれ6%、7%であった。結果として、atezo+chemo群が有意なPFSの延長を示した(mPFS:13.1 vs.11.5 months、HR:0.69、80%CI:0.56~0.85、p=0.0012)。一方で奏効率については59% vs.64%、R0 resection rateは26% vs.37%と有意差はないものの、atezo+chemo群で不良な傾向が認められた。この結果をどう捉えるか? 個人的には、この結果はby chanceの可能性が高く有効性については疑問符と考えている。この試験で気になっているのは、「客観性」が保たれていたのか、つまりblindが機能したのかということであり、それは主要評価項目PFSの確からしさに直結する。この試験にはopen labelなのかという記載がなく不明であるが、仮にblindされていたとしても経験のあるoncologistであれば、毒性からICIが投与されているかどうかは感覚的にわかる部分がある。その場合、PFSの評価が甘くなる可能性がある。つまりinvestigator PFSなのかcentral PFSなのかによって、ここが大きく揺らぐ可能性があるが、そこも明言されていない。一方、responseについては客観的な評価となるわけで、そこで優越性が示されていないことが上記の疑念をさらに増幅させる。さらなる情報の追加が求められる。もうひとつ、MSS、MGMT不活化切除不能大腸がんに対する、テモゾロミド(TMZ)、TMZ+LD-イピリムマブ+ニボルマブ併用療法の逐次治療の有効性を検討する(phase II)MAYA試験も注目した演題であるが、これも客観性に乏しいという問題があり、現時点での評価はやはり疑問符である。MSSに対するICIのチャレンジは道半ばという印象であった。一方、光明が見られたのはKRAS mutationに対してである。KRAS G12Cに対する開発が非小細胞肺がんに対するsotorasibを嚆矢に急激な発展を遂げているが、今回、既治療大腸がんKRAS G12Cを対象に、RAS G12C阻害剤adagrasib単剤もしくはセツキシマブ併用の有効性を探索したKRYSTAL-1試験の結果が報告された。個人的には、すでに基礎的に有効性が示されているセツキシマブ併用に注目していた。結果としては奏効率が単剤で22%、併用で43%と、別のRAS G12C阻害剤であるsotorasibでは見られなかった「手応え」を感じさせる結果であった。こうしたearly phaseでの良好な結果を見るとすぐに飛びつきたくなるが、Cobi Atezoの苦い経験からも、今回の結果はいずれもpreliminaryであり、まだ信じてはいけないな、と思っている(でも期待している)。したがって、1次治療不応となった症例を対象としたphase III試験KRYSTAL-10(adagrasib+セツキシマブvs.FOLFIRI/FOLFOX based)の結果を待ちたい。KRAS G12Cは大腸がんKRAS exon2変異の6~7%、つまり大腸がん全体の症例の2~3%という希少フラクションであり、その開発には少なからぬ困難が伴うが、少しずつではあるが着実に、この難しいパズルは解決に向かっていると信じている。最後に:ESMOの感想に代えて実は、筆者は6月に中国で行われた第11回CGOG(Chinese Gastrointestinal Oncology Group)総会に教育講演のinvited speakerとして参加した際に、このCLDN18.2に対するCAR-Tで実際に治療された症例報告を目にしていた。CAR-Tは血液悪性腫瘍では有効だが、消化器がんのような固形がんでの応用はまだまだ先と信じていた筆者にとって、すでに有効例が多数存在していることは衝撃的であった。さらに北京大学の若手医師たちが、この研究を通じてCAR-Tの治療経験をだいぶ積んでいる様子がディスカッションからうかがえ、言いようのない焦りを覚えた。こんな連中を相手にどんな教育講演をすればよいのか、頭が真っ白になった(会議のほとんどは中国語でやりとりされていて、急に英語で話を振られるので気が気でなかったというのもあるが)。さらに驚いたのは、「もうすでにphase Iを終えて、high impact journalへ投稿準備中である。そして新たにphase IIを計画中である」と北京大学の医師が語っていたことであった。CAR-Tは胃がんに対する新しい有望な治療の登場であり、喜ばしい報告であるのだが、正直筆者は強い危機感を覚えている。それはアジアにおける薬剤開発において、日本の優位性はもはや存在しないという事実を突き付けられたからにほかならない。胃がんに対するCAR-Tだけではない。CGOG総会で発表された基礎研究は非常にレベルが高いものが多かったが、アカデミアからだけでなく企業からのそうした発表も多く、産学連携が非常にうまく作用しているように思えた。CAR-Tはscienceであると同時にengineeringの側面が大きく、臨床のアイデアを形にするテクノロジーとの協調は必須である。この彼我の差は個々人の能力というより国を挙げての投資の結果の違いだと信じたいが、日本の基礎医学への冷淡な姿勢を見ていると、この状況はすぐには変わりそうになく暗澹たる気持ちになる。今後、薬剤開発においてこうした「格差」を感じる場面が増えてくるのではないかと思っている。個人的な話で恐縮だが、『三体』という中国発のSF小説を間もなく読了するところである(第三部は2021年5月に日本発売)。世界中で異例の大ヒットとなっている小説なのでご存じの方も多いと思うが、第一部、第二部でこの小説の世界観、想像力の大きさに圧倒され第三部を楽しみにしていた。そしてここまで読んで「中国はここまで来ているのか」と空恐ろしさを感じている。もちろん小説であり、そこに描かれているのは現実ではないが、それを感じさせる充実した内容であった。今年のESMOを見ていてふと思い出したのが、この小説『三体』であった。『三体』を読んで無意識に感じていた、まい進する中国に対する漠然とした「焦燥感」もしくは現状に対する「危機感」を、形にして突き付けられたような気がしたからかもしれない。最後に、この『三体』の単行本が中国で発売されたのが2008年1月であることを付記しておきたい。

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第80回 「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造下で進む岸田政権の医療政策

グイグイとは進められなかった菅政権こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、NHK BSでMLB中継を1日2試合ずつ観ていたらあっという間に終わってしまいました。MLBは今、リーグチャンピオンシップシリーズの真っ最中です。ナショナルリーグは昨年同様、ロサンゼルス・ドジャースとアトランタ・ブレーブスが戦っているのですが、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督の顔が自民党の甘利 明幹事長に瓜二つなのが気になって仕方ありません。ひょっとしたら、ドジャースの勝敗と自民党の衆院選での勝敗がリンクしてくるかも…と思いながら、私は1995年からワールドシリーズ優勝から遠ざかっているブレーブスを応援しています。さて、今回は岸田 文雄新総理大臣が取るであろう医療政策について、ちょっと考えてみたいと思います。この連載では、昨年秋、菅 義偉総理大臣が誕生したときに、その医療政策の行方を予想しました(「第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)」「第24回 オンライン診療めぐり日医と全面対決か?菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(後編)」)。この時は、「公立・公的病院の再編・統合」と「オンライン診療の推進」に特に力を入れるのではないか、と書きました。概ね方向性は正しかったのですが、いかんせん菅氏は1年しか総理の座にいなかったので、その進捗状況は“グイグイ”とまではいかなかったようです。コロナ対策を担当する3閣僚が全員交代菅氏から政権を引き継いだ岸田首相ですが、9月4日の岸田内閣の組閣に当たっては、閣僚の配分が自民党内の派閥の駆け引きで決まったため、「派閥政治への先祖返り」(政治学者・原 彬久氏。朝日新聞10月5日朝刊)などと揶揄されました。私も岸田首相が自身で得意だと語る「人の話を聞くこと」とはこういうことだったのか、と得心した次第です。コロナ対策を含む医療政策を担当する3閣僚についても、派閥への配分を行ったこともあって、全員が交代しました。厚生労働大臣は田村 憲久氏から後藤 茂之氏に、緊急事態宣言に関する法律を所管する経済財政・再生担当大臣は西村 康稔氏から山際 志郎氏に、ワクチン接種推進担当大臣は河野 太郎氏から堀内 詔子氏に代わりました。重要ポストであるにも関わらず、新任の3人はいずれも初入閣です。「コロナ対応の司令塔機能が曖昧」との批判に応えた人事か初入閣の3人で大丈夫か、と心配の声も上がっているようです。しかし、菅政権でのコロナ対応については、検査や医療提供体制を担当する厚労大臣と、緊急事態宣言、ワクチン接種を担当する大臣が別で機能が分散し、司令塔機能が曖昧だったとの批判も強かったのも事実です。まだあまりキャラの立っていない初入閣3人で、仲良く結束して頑張って欲しい、という意図のようです。岸田首相は新内閣が発足した4日の記者会見で、「ワクチン、医療、検査の取り組みの強化もついて対応策の全体像を早急に国民の皆さんに示すよう、3閣僚に指示した」と語りました。そのコロナ対策ですが、政府は15日、第6波を想定した今後の新型コロナ対策の骨格を決めました。骨格は、感染力が今夏の第5波より2倍になっても対処できる医療提供体制の整備を基本とし、「幽霊病床」の実態把握と解消、国の権限で国立・公立・公的病院に専用病床確保、年内に3回目ワクチン接種開始などの施策を盛り込んでいます。11月には対策の全体像をまとめるとのことです。幸いなことに、菅前首相が辞任を表明した頃からコロナの患者数は減少傾向に入り、現在でも患者数は最低レベルで推移しています。そのため、新内閣のコロナ対策はまだドタバタを経験しないで済んでいます。岸田首相のコロナ対策については、衆院選における与野党の政策にも大きな差異はないことから、しばらくは様子見でいいと思います。岸田首相の医療政策の“ブレーン”は?むしろ、現時点で医療関係者が気にしておくべきは、岸田首相の医療政策を指南する“ブレーン”ではないでしょうか。10月5日の日本経済新聞朝刊は、「コロナ対策 初入閣3人で 『厚労省の壁』少ない3人で対処」と題した記事で、「自民党内では厚労省の新型コロナ対策に関し『従来の方針や法令の整合性を理由に、抜本的な改革に慎重だった』との見方がある」として、「菅政権でワクチン担当を別に置いたのも、官邸主導にするためだった。後藤氏は党側でコロナ対策を議論してきた。霞が関の論理を熟知する旧大蔵省出身で、厚労官僚の壁を打破させる狙いが透ける」と書いています。「厚労官僚の壁を打破」したいのは自民党だけではありません。財務省も方向性は若干異なるものの、同じスタンスと言えます。10月8日のMEDIFAX webは、「岸田政権発足、22年度改定への影響は」と題する記事で新任の鈴木 俊一財務大臣ついて、次のように書いています。「鈴木財務相は党の総務会長などを務め、厚労分野の政策を議論する党の社会保障制度調査会長なども歴任してきた。その鈴木氏は就任会見で、『社会保障の受益と負担のアンバランス』を構造的な問題として指摘。社会保障の持続可能性を担保するため、財政健全化の重要性を強調した」。財政健全化とは医療費を含む社会保障費の適正化に他なりません。こうした閣僚人事の他にも、医療関係者を驚かせた官僚人事がありました。財務省で長らく厚労予算を見てきた宇波 弘貴氏(前・財務省主計局次長)が首相秘書官になったのです。今回の首相秘書官人事では財務省から2人を起用した一方で、厚労省からはとっていません。宇波氏は、医療費を含む社会保障関係費の増大に主計局主計官(厚生労働第一担当)の頃から警鐘を鳴らし、病床の再編による効率化の必要性を強く訴えてきた人物です。地域医療構想についても「うまくいかない場合は、より強い方策を取るべき」と語ったこともありました。医療政策は財務省主導で進む可能性こう見てくると、岸田首相は医療政策を財務省主導で進めたいと考えているようです。これからの対立構造を単純化するとしたら、「首相≒財務省」 vs. 「厚労省≒日本医師会」でしょうか。では、どんな政策になるのでしょう。そのヒントになるのが、本連載の「第56回 コロナで“焼け太り”病院続出? 厚労省通知、財務省資料から見えてくるもの(後編)」「第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣(後編)」でも紹介した、財務省主計局が4月15日、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会(分科会長=榊原 定征・前経団連会長)において示した、「社会保障等」に関する資料1)です。この資料、医療については、「効率的で質の高い医療提供体制の整備」「新型コロナウイルス感染症への対応」「全世代型社会保障改革の残された課題」「薬剤費の適正化」の4項目について述べられており、中でも2022年度診療報酬改定に向けては、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」との方向性を明示しています。2022年の診療報酬改定の議論が本格化してきましたが、なかなか進まない地域医療構想や地域における病院の役割分担、そして「かかりつけ医」の制度化などを、日本医師会の反対などを押しのけながら、どこまでグイグイと推し進めることができるかが、岸田政権下での医療政策の見どころだと思います。財務事務次官が「文藝春秋」にバラマキ批判の寄稿財務省ということでは、折しも、財務省の矢野康 治事務次官が今月発売の「文藝春秋(11月号)」に寄稿した「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政が破綻する』」が各方面に波紋を広げています。寄稿は最近の与野党の政策論争について、「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話が聞こえてきます」と批判、「バラマキ合戦は、これまで往々にして選挙のたびに繰り広げられてきました。でも、国民は本当にバラマキを求めているのでしょうか」と疑問を投げかけています。コロナ対策についても、「いま日本国内で真に強く求められているのは、『金を寄越せ、ばらまけ』というよりも、いざという時の病床確保であり、速やかなワクチン接種であり、早期の治療薬の提供であり、ワクチン・パスポートなどの経済活動をうまく再起動させるためのイグニション(点火装置)の方です。これらは、カネ以前の問題であったり、すでに財政措置は終わっているものであったり、民主導でやらざるを得ないものであったりなど、巨額の財政出動(公助)を必要とするものではありません」と言い切っています。この寄稿については、与野党から猛反発が沸き起こったようですが、鈴木財務大臣は12日、閣議後の会見で、矢野氏は「麻生太郎前財務相に了解を得ていた」と話し、読んだ印象は「財政健全化に向けた一般的政策論」であり「今までの政府の方針に基本の部分で反するようなものではない」と語ったそうです。官僚が与野党の政策を批判することは極めて異例のことで、問題視する向きもあるようですが、私自身は寄稿の内容は全くの正論だと思いました。いずれにせよ、こうした正論が財務省事務次官から一般人に対して発せられ、その発信を財務大臣も岸田首相(テレビ番組で「いろんな意見が出てくる。これは当然あっていい」とコメントしています)も一応“認めた”ということは、医療を含め、今後のさまざまな政策に少なからぬ影響を及ぼすかもしれません。まずは、次期診療報酬改定での「かかりつけ医」の制度化や、外来機能報告制度の議論に注目したいと思います。参考1)財政制度分科会(令和3年4月15日開催)資料一覧/財務省

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COVID-19患者の26%に半年後も何らかの症状/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の遷延症状は、当初から知られており、地域によっては専門外来が設置されるなど、今後のCOVID-19診療のフォローアップとしても注目されている。 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの宮里 悠佑氏らのグループは、COVID-19罹患後の遷延症状に関して、長期的な疫学的情報に加え、遷延症状が出現・遷延するリスクを同定するために、COVID-19罹患後の患者を対象としてアンケート調査を実施し、その結果を「新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告」として発表した。 その結果、女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすいこと、若年者ややせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすいことが判明した。457例のCOVID-19患者を調査、400日以上も何らかの症状ありも【研究の背景】 国内外の報告からCOVID-19に遷延症状があることが確認され、国内の複数の調査では、中等症以上の患者512例において、退院後3ヵ月の時点で肺機能低下(とくに肺拡散能)が遷延していた。また、軽症者を含む525例において、診断後6ヵ月の時点で約80%は罹患前の健康状態に戻ったと自覚していたが、一部の症状が遷延すると生活の質の低下、不安や抑うつ、睡眠障害の傾向が強まることがわかった。嗅覚・味覚障害を認めた119例において、退院後1ヵ月までの改善率は嗅覚障害60%、味覚障害84%だった。そして、罹患後半年以上追跡した疫学調査報告や遷延症状が出現するリスク調査は少なく、また、遷延のリスク因子に関する報告はこれまでになかったことから調査を実施したものである。【研究概要】研究名:新型コロナウイルス感染症の遷延症状出現と遷延リスク因子方法:2020年2月~2021年3月までに国立国際医療研究センター病院のCOVID-19回復者血漿事業スクリーニングに参加した患者を対象として、アンケート調査を実施。調査項目は、患者背景、COVID-19急性期の重症度や治療内容、遷延症状の各症状の有無とその遷延期間。症状の出現頻度や遷延期間から、各症状を(1)急性期症状、(2)急性期から遷延する症状、(3)回復後に出現する症状の3つに分類した。また、遷延症状である(2)と(3)に関して、症状の出現リスク、症状が出現した患者における遷延リスクを探索的に調査した。【調査の結果】 対象の526例のうち457例から回答を得た(回収率86.9%)。回答者の年齢の中央値は47歳、231例(50.5%)が女性で、何らかの基礎疾患を有したのは212例(46.4%)、欠損値9例を除いた448例のうち、重症度は軽症が378例(84.4%)、中等症が57例(12.7%)、重症が13例(2.9%)だった。また、発症日からアンケート調査日までの期間の中央値は248.5日。 COVID-19の各症状は、(1)急性期症状:発熱、頭痛、食欲低下、関節痛、咽頭痛、筋肉痛、下痢、喀痰、(2)急性期から遷延する症状:倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、咳嗽、呼吸困難、(3)回復後に出現する症状:脱毛、集中力低下、記銘力障害、うつに分類された。 発症時もしくは診断時から6ヵ月経過時点で337例(73.7%)が無症状であり、120例(26.3%)に何らかの症状を認めた。また、発症時もしくは診断時から12ヵ月経過時点で417例(91.2%)が無症状であり、40例(8.8%)に何らかの症状を認めた。 倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、脱毛に関して、その出現リスクと遷延リスクを解析したところ、男性と比較して女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすいことがわかった。また、若年者、やせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすいことがわかった。抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療の有無と遷延症状の出現に関して、明確な相関は見受けられなかった。【研究結果から判明したこと】 研究グループは研究結果から次のコメントを述べている。・女性の方が倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすいことがわかった。また、味覚・嗅覚障害は若年者で多く、生活の質を著しく低下させる可能性がある。・約4例に1例(26.3%)が半年間たっても何らかの遷延症状を呈しており、軽症者であっても遷延症状が長引く人がいることが明らかになった。・最も重要な遷延症状の予防はCOVID-19に罹患しないことであり、基本的な感染対策が重要と考えられる。・抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療がCOVID-19遷延症状の出現予防に寄与しないことがわかった。 なお、この研究では、想起バイアス、アンケート調査、主観的側面、対象者の偏向が生じうること、サンプル数に限界があること、アンケート調査時に症状を有している患者は症状の持続時間を過小評価している可能性があることなど研究限界があると注意を与えている。

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新型コロナの日本初のレプリコン(次世代mRNA)ワクチン、第I相試験開始/VLPセラピューティクス・ジャパン

 新型コロナウイルス感染症に対する日本初となるレプリコン(次世代mRNA)ワクチン(VLPCOV-01)の第I相試験を開始したことを、VLP Therapeutics Japan合同会社(以下、VLPセラピューティクス・ジャパン)が12日、発表した。レプリコンワクチンとは少量の接種で十分な抗体が作られる自己増殖型mRNAワクチン レプリコン(次世代mRNA)ワクチンとは、少量の接種で十分な抗体が作られる自己増殖型のmRNAワクチン。レプリコンワクチンは現行のmRNAワクチンの10~100分の1程度の接種量となることから、短期間で日本の全人口分の製造が可能となることや、副反応の低減が期待される。現行のワクチンは新型コロナウイルス表面にある突起状のSタンパク質全体を抗原とするが、レプリコンワクチンはSタンパク質のうちウイルスが人の細胞に結合して感染する受容体結合部位(RBD)のみを抗原にしている。そのため、レプリコンワクチンは不要な抗体を作らないことによる高い安全性、多様なRBDへの抗体産生による変異株への効果も期待されるという。 第I相試験では、20~65歳の健康成人男女45名を対象とし、自己増殖型のmRNAワクチンであるレプリコンワクチン(VLPCOV-01)を2回筋肉内接種した時の安全性と免疫原性(有効性)を検討する。被験者を用量が異なる3群(各15名)に分け、0.5mLを2回、4週間隔で接種する。本試験の中間解析結果を踏まえ、2022年春に第II/III相試験および65歳以上の高齢者も対象とする第I相試験の続きを開始する予定。 VLPセラピューティクス・ジャパンは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)および厚生労働省の支援のもと、国内6機関(医薬基盤・健康・栄養研究所、大分大学、大阪市立大学、国立国際医療研究センター、国立病院機構名古屋医療センター、北海道大学)と協力し、国産コロナワクチンの研究開発・臨床試験を進めている。なお、VLPCOV-01の治験薬は富士フイルム株式会社が製造している。■VLP Therapeutics Japan合同会社(代表職務執行者:赤畑 渉)2020年に米国VLP Therapeutics, Inc.の100%子会社として設立。■米国VLP Therapeutics, Inc.(CEO:赤畑 渉)2013年に世界の「満たされていないメディカル・ニーズ」に応え、従来のワクチン療法を一変する革新的な治療法を開発するために赤畑氏が設立。

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国内2剤目の軽症~中等症COVID-19治療薬「ゼビュディ点滴静注液500mg」【下平博士のDIノート】第84回

国内2剤目の軽症~中等症COVID-19治療薬「ゼビュディ点滴静注液500mg」出典:グラクソ・スミスクライン ホームページ今回は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「ソトロビマブ(遺伝子組換え)(商品名:ゼビュディ点滴静注液500mg、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)」を紹介します。本剤は、重症化リスクを有する軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の重症化を防ぐことが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2021年9月27日に承認され、9月29日に発売されました。本剤は、臨床試験における主な投与経験を踏まえ、COVID-19の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行います。なお、本剤の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては有効性が期待できない可能性があります。<用法・用量>通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ソトロビマブ(遺伝子組換え)として500mgを単回点滴静注します。COVID-19の症状が発現してから1週間程度までを目安に速やかに投与します。なお、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症が現れることがあるため、本剤投与中はアナフィラキシーショック、アナフィラキシーに対する適切な薬物治療(アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬など)や緊急処置を直ちに実施できる環境を整え、投与終了後は症状がないことを確認します。<安全性>海外第II/III相試験(COMET-ICE試験)において、本剤投与群523例中、副作用発現数は8例(2%)でした。報告された副作用は、臨床検査値異常2件、発疹、皮膚反応、悪心、注入部位疼痛、疼痛、味覚不全、頭痛、不眠症がそれぞれ1件でした。なお、重大な副作用として、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症、infusion reactionが現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.本剤は、新型コロナウイルスに結合してヒト細胞へのウイルスの侵入を防ぐことで、重症化を防ぐ薬です。2.過去に薬剤などで重篤なアレルギー症状を起こしたことのある方は、必ず事前に申し出てください。3.投与中または投与後に、発熱、悪寒、吐き気、不整脈、胸痛、脱力感、頭痛のほか、過敏症やアレルギーのような症状が現れた場合は、すぐに近くの医療者または医療機関に連絡してください。<Shimo's eyes>本剤は、軽症を含むCOVID-19患者を対象としたモノクローナル抗体製剤です。本剤の作用機序は、すでに承認されているカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)と基本的には同じですが、標的となるスパイクタンパクの受容体結合ドメインが異なるので、変異株に対する感受性も異なると考えられます。投与対象者は「重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者(軽症~中等症I)」で、選択基準として酸素飽和度が94%以上(室内気)とされており、重症患者は対象ではありません。重症化リスクの高い軽症~中等症患者を対象としたCOMET-ICE試験において、本剤投与群の入院または死亡の割合は、プラセボ群と比較して79%低減しました。投与のタイミングは、COVID-19の症状が発現してから速やかに投与することが望ましく、症状発現から1週間程度までが目安となります。現時点では入院患者を対象に、点滴による静脈内投与を30分かけて1回行います。投与中および投与後は、ほかの抗体製剤と同様にアナフィラキシーを含む重篤な過敏症およびinfusion reactionに注意が必要です。なお、本剤は特例承認された薬剤であり、承認時におけるCOVID-19への治療効果や副作用について得られている情報が限られているため、あらかじめ患者または家族などにその旨を説明し、文書による同意を得てから本剤を使用する必要があります。現状では安定的な供給が難しいことから、当面の間は重症化リスクがあり入院治療を要する患者を投与対象者として国より配分されます。参考1)PMDA 添付文書 ゼビュディ点滴静注液500mg2)厚労省 新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬の医療機関への配分について(中和抗体薬の種類及び疑義応答集の追加・修正)

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第82回 コロナ感染後の後遺症にワクチンが有効

今月はじめに世界保健機関(WHO)が定義した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症をワクチンが予防のみならずその発生後の投与で治療しうることもフランスでの試験で示されました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に確かにまたは恐らく感染した患者のその発症か無症状感染の診断確定からたいてい3ヵ月間に、代替診断が不可能な疲労・息切れ・認知機能障害などの症状が生じて少なくとも2ヵ月間続くことをWHOはCOVID-19後遺症(post COVID-19 condition)と定義しました1)。症状はCOVID-19の発症初期からひと続きのこともあればCOVID-19がいったん収まってから新たに発生することもあり、たいてい日常生活に影響を及ぼします。また、症状は小康と悪化を繰り返すか再発するかもしれません。COVID-19患者のほとんどは感染発覚時の症状が済めば感染前の健康を取り戻します。しかしCOVID-19患者の10人に1人、ともすると5人に1人はWHOが定義したような数週間から数ヵ月にも及ぶ後遺症に陥ることがこれまでの試験で示唆されています1)。先月にLancet Infectious Diseases誌に発表された英国での試験によるとワクチンを接種済みであればたとえSARS-CoV-2に感染してもそういう後遺症を生じ難くなるようです。試験ではワクチン接種済みの97万1,504人のうち2,370人(0.2%)がSARS-CoV-2に感染し、ワクチン接種済みだと28日以上の後遺症の発現率が約半分で済んでいました2,3)。ワクチンの効果はその予防にとどまりません。COVID-19後遺症に陥ってからの接種でその症状がより改善することがLancet誌掲載予定の試験結果で示されました4)。試験には恐らくまたは確かにSARS-CoV-2感染して症状が3週間を超えて続くフランスの患者910人が参加しました。それらの半数の455人は試験の観察期間の開始から60日以内に最初のSARS-CoV-2ワクチンを接種し、残り455人は接種しないままでした。観察期間の開始から120日後時点のワクチン接種群の後遺症は非接種群に比べてより緩和しました。また、17%の患者の後遺症は解消に至っており、非接種群のその割合8%をおよそ2倍上回りました。受け入れがたい症状の患者の割合はワクチン非接種群では46.4%と半数近かったのに対してワクチン接種群では5人に2人ほど(38.9%)で済んでいまいた。ワクチン接種群で入院を要した深刻な有害事象の発生率はわずか0.4%であり、COVID-19後遺症患者へのワクチン接種の安全性も確認されました。結論としてワクチンがCOVID-19後遺症の症状を改善することを示したことに加え、COVID-19後遺症が体内のどこかに居続けるウイルスや体内をめぐるウイルス断片に起因しうるという仮説も支持されました4)。参考1)A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, 6 October 2021 / WHO 2)Antonelli M,et al. Lancet Infect Dis. 2021 Sep 1;S1473-3099.00460-6. [Epub ahead of print] 3)Double vaccination halves risk of Long COVID / King’s College London4)Efficacy of COVID-19 Vaccination on the Symptoms of Patients With Long COVID: A Target Trial Emulation Using Data From the ComPaRe e-Cohort in France. pre-prints with THE LANCET. 29 Sep 2021.

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コロナ感染による抗体持続、飲酒とARB服用で差/神奈川県内科医学会

 神奈川県内科医学会は、新型コロナウイルス感染後の抗体の有無について、無症候性感染者を対象として、抗体の獲得とその継続について調査を行った。2020年5月18日~6月24日に県内65施設において医師・看護師、通院患者、検診受診者など1,603例を対象に抗体検査を行い、検査結果が陽性かつ無症候性であった参加者を対象に、2、4、6ヵ月後に再度抗体検査を行った。 主な結果は以下のとおり。・1,603例中、無症候性感染が認められた33例が追跡調査の対象となった。抗体陽性継続者は、2ヵ月後11/32(34.4%)、4ヵ月後8/33(24.2%)、6ヵ月後8/33(24.2%)であり、これまでに報告されている症候性感染者の抗体継続率よりも低かった。・2、4ヵ月後に抗体陰性になった群、6ヵ月後も抗体陽性が継続した群に分け、背景情報を比較した結果、「飲酒習慣なし」「降圧剤アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)服用歴あり」が、抗体継続の要因である可能性が示唆された。 今回の調査を中心となって行った神奈川県内科医学会の松葉 育郎氏らは、今回は無症候性感染者を対象としており抗体陽性判明後からの追跡となるため、これまでの症候性感の報告と単純な比較はできないとしつつ、無症候性感染者が短期間で抗体が検出されなくなった背景には症状の重篤度が関係していることが推察され、これまでも重症度の高い患者ほどサイトカイン・ケモカイン産生量が多いことも報告されていることから、無症候性ゆえに獲得した抗体価も小さいと考えられる、としている。 本調査の結果は、日本内科学会英文誌Internal Medicineに受理されており、追って掲載されるという。

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第74回 年内承認となるか?コロナ経口治療薬と抗体カクテルの予防適応

<先週の動き>1.年内承認となるか?コロナ経口治療薬と抗体カクテルの予防適応2.3回目ワクチン、12月からファイザー製で開始/厚労省3.第6波に向け、入院患者受け入れ体制2割増を/厚労省4.コロナ受け入れ病床確保の補助金の検証を/財務省5.コロナ特例診療報酬の廃止で補助金を交付、日医も評価6.行き届かない交付金、医師の働き方改革にも活用を/厚労省1.年内承認となるか?コロナ経口治療薬と抗体カクテルの予防適応米国食品医薬品局(FDA)は14日、米・メルクが開発中のCOVID-19経口治療薬モルヌピラビルについて、11月末に諮問委員会の会合を開き、効果や安全性を検証すると発表した。この結果を踏まえて緊急使用許可の可否が判断され、承認されれば、世界初の新型コロナ経口治療薬となる。メルクは承認を前提に、米政府に170万回分を供給する契約を結んでおり、日本政府も年内の特例承認を見据え、在庫を調達する方向で同社側と協議している。また、中外製薬は11日に、「カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)」を用いた抗体カクテル療法について、予防薬および無症状の感染者に対する治療薬として適応拡大申請を行ったことをプレスリリースで公表した。こちらも年内の特例承認を目指す。(参考)コロナ飲み薬、年内にも登場 ウイルス増殖防ぐ―米メルクや塩野義が開発(時事ドットコム)コロナ飲み薬、米FDAが11月末に安全性検証…日本政府は調達する方向で協議中(読売新聞)【速報】コロナ予防と「無症状」にも 抗体カクテルの適用拡大申請(FNNプライムオンライン)2.3回目ワクチン、12月からファイザー製で開始/厚労省堀内 詔子ワクチン担当相は15日、3回目接種に使用する分として来年1月までに412万回分のファイザー・ビオンテック社「コミナティ筋注」を全国に配分することを決定し、都道府県に割り当てる量や配送スケジュールなどを通知した。接種は年内に開始する見込み。岸田 文雄首相は12日の衆参両院代表質問で、3回目のブースター接種も全額公費で負担する方針を示した。(参考)3回目の接種に向け約412万回分の配分決定 堀内ワクチン相(NHK)3回目ワクチン412万回分、11月に自治体へ配送 ファイザー製(毎日新聞)ワクチン3回目接種も全額公費負担へ 感染者は減少、人出は増加(東京新聞)新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)に使用するファイザー社ワクチンの配分(3回目第1クール)について(厚労省)3.第6波に向け、入院患者受け入れ体制2割増を/厚労省政府は15日に新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、今冬に予想される第6波の感染拡大に向けた対策の骨子をまとめた。変異株の感染力が2倍となったことを想定し、今夏ピーク時の1.2倍の患者を受け入れられる入院医療体制の整備を行う。また、感染力が3倍になったときには国民に強い行動制限を求め、一般診療を制限して病床を確保する方針も明らかにした。病床確保に当たっては、現行法の下での国・都道府県知事に与えられた権限を最大限活用する。国立病院機構法・地域医療機能推進機構法に基づく「要求」を始め、大学病院や共済病院などへの要請も含め、国の権限を発動し、公的病院の専用病床をさらに確保する見込み。(参考)冬の感染対策、政府が骨格 入院受け入れ、第5波の1.2倍に(毎日新聞)第6波、感染力2倍想定 首相、「幽霊病床」の改善指示(日経新聞)資料 第79回 新型コロナウイルス感染症対策本部(内閣府)4.コロナ受け入れ病床確保の補助金の検証を/財務省11日、財務省は財政制度等審議会の財政制度分科会を開催し、COVID-19患者向け病床確保の補助金を受け取った医療機関の収支状況について検討した。感染拡大によって、2020年の医業収益は前年度に比べ平均で3.6億円減少していたが、新型コロナ関係の補助金によって、黒字幅は6.6億円と前年度の0.2億円より大きく改善した。これについて出席した委員からは、受け入れ実態を調べるために病床利用率のデータ公開を求める意見や、医療の提供体制の見直しを議論すべきといった意見が出された。(参考)コロナ病床確保の病院、補助金で黒字拡大…実際には受け入れ困難なケースも(読売新聞)“コロナ病床確保の医療機関への補助金 検証を” 財務省審議会(NHK)コロナ補助金で病院利益増 20年度平均6億円、財政審「検証必要」(毎日新聞)資料 医療機関に対する新型コロナ関連補助金の『見える化』(財務省)5.コロナ特例診療報酬の廃止で補助金を交付、日医も評価厚労省は、特例で認められていた医療機関における新型コロナウイルス感染防止に対する診療報酬の廃止に伴い、新たな補助金についての通知を都道府県に発出した。対象となる経費は、10月1日~12月末までに新型コロナ感染拡大防止対策に要した賃金、謝金、会議費、旅費や医療材料などの消耗品費、備品購入費など。以前から勤務している人や通常の医療提供に対する人件費は対象外となった。上限額は病院・有床診療所は10万円、無床診療所は8万円。11月1日から厚労省ホームページで電子申請を受け付ける。これについて、日本医師会は医療側の要望が受け入れられたとして評価している。(参考)「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」のご案内(厚労省)令和3年10月以降の政府の新型コロナウイルス感染症に関する医療機関への支援策に一定の評価(日本医師会)6.行き届かない交付金、医師の働き方改革にも活用を/厚労省厚労省は、11日に医療介護総合確保促進会議を開催し、2020年度における地域医療介護総合確保基金の交付状況を公表した。医療従事者の確保・養成に関する事業や地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設の整備に関する事業には759億円が交付されたが、2020年度にスタートした勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備に関する事業は28億円の交付で、中にはゼロ%の自治体があることが指摘された。医師の働き方改革が実行される2024年度に向けて勤務医の労働時間短縮を進めるために、一層の活用を求める意見が出された。(参考)勤務医の労働時間短縮にも医療介護総合確保基金の活用を、2024年度からの新医療計画等に向け総合確保方針を改正―医療介護総合確保促進会議(Gem Med)医師の労働時間短縮事業、29都道府県が未交付(日経メディカル)資料 第15回医療介護総合確保促進会議(厚労省)

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お蔵入り研究を論文化できる本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第47回

【第47回】お蔵入り研究を論文化できる本珍しい疾患を後ろ向きに20例集めたけど、解析できるどころの症例数ではないし、ケースシリーズにしたらアクセプトされにくいし、「もう論文化ダメポ…」とあきらめてしまって、長年放置している研究はないでしょうか。実は私はそういうテーマが1つあって、10年前に数十例集めたものの、当時は解析の意義が見出せませんでした。残念ながら、そのままお蔵入りになってしまったのです。もうこの蟲毒(こどく)の蓋は一生開けまい、と当時誓ったものです。『労力を無駄にしないための 臨床研究テーマの選び方:論文執筆マニュアルを開く前に読みたい没ネタ回避術』藤岡 一路/著. メディカ出版. 2021年9月発売医学論文の書き方や読み方に関する書籍は増えていますが、この本は最初のテーマ選びに主眼が置かれており、「ダメポ」と思っているテーマでもボツが回避できるという光明を示してくれるものです。もちろん到底論文化できない材料は仕方ないですが、世に送り出せるはずのテーマなのに、切り口がイマイチなだけで、お蔵入りになっているものを掘り起こせる希望が湧いてきます。実はこの書籍を読んだ直後、封印していた先ほどのテーマの蓋を再び開きました。すると、数十例だった先ほどの疾患が100例を超えており、後ろ向きにデータを集めるのは大変でしたが、解析がものすごく信頼性を帯びてきたのです。お陰で1つ論文を仕上げることができました。ありがとうございます(新型コロナの診療が忙しいという理由をつけて、まだ投稿していないんですけど)。この書籍は、筆者自身が経験した多くの論文作成の実例が、「ねころんで読める」シリーズでおなじみの藤井 昌子先生のイラストと共に紹介されており、どうやって論文化したらいいのかな……と悩む若手医師にとってベストな一冊に仕上がっています。当初、タイトルに「スタンフォード式」を冠するか悩まれたようですが、こちらのほうが若手医師に寄り添う感じになっているので、よかったと思います。前向き研究でも後ろ向き研究でも、研究計画書を書いたり、IRB申請書類を書いたりする必要がありますので、事務的な作業に少々時間は掛かりますが、この本を読めばお蔵入り研究を論文化できる打率は必ず上がることでしょう。『労力を無駄にしないための 臨床研究テーマの選び方:論文執筆マニュアルを開く前に読みたい没ネタ回避術』藤岡 一路 /著.出版社名メディカ出版定価本体3,000円+税サイズA5判刊行年2021年

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ファイザー製ワクチン、6ヵ月後の抗体価が著明に低下した人は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)は、2回目接種6ヵ月後時点で、とくに「男性」「65歳以上」「免疫抑制状態にある人」で中和抗体価が著しく低下していた。イスラエル・テルアビブ大学のEinav G. Levin氏らが、医療従事者を対象とした6ヵ月間の前向き横断研究の結果を報告した。イスラエルでは、ワクチン接種率と有効性が高いにもかかわらず、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の症候性感染の発生率が増加しており、この増加がBNT162b2ワクチン2回接種後の免疫低下に起因するかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2021年10月6日号掲載の報告。2回目接種後、6ヵ月間、毎月抗体価を測定 研究グループは、ワクチンを接種した医療従事者を対象に、抗スパイクIgG抗体および中和抗体の検査を毎月、6ヵ月間実施した。線形混合モデルを用いて抗体価の動態を評価し、6ヵ月後の抗体価の予測因子を検討した。 本研究には4,868例が参加し、解析対象集団は3,808例であった。中和抗体価は男性、65歳以上、免疫抑制状態にある人で著明に低下 IgG抗体価は一定の割合で減少した。一方、中和抗体価は、最初の3ヵ月間は急激に減少し、その後は比較的ゆっくり減少した、IgG抗体価は中和抗体価と高い相関性を示したが(スピアマン順位相関0.68~0.75)、IgG抗体値と中和抗体価の回帰関係は2回目のワクチン接種後の時間に依存していた。 2回目のワクチン接種から6ヵ月後の中和抗体価は、女性と比較して男性が低く(平均比:0.64、95%信頼区間[CI]:0.55~0.75)、18~44歳と比較して65歳以上が低く(0.58、0.48~0.70)、免疫抑制を伴わない参加者と比較して免疫抑制を伴う参加者で低かった(0.30、0.20~0.46)。 なお、著者は、健康な医療従事者を対象としており一般集団を反映していない可能性があることを、研究の限界として挙げている。

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医療クラウドファンディング、コロナ対応スタッフの苦境を救え

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、クラウドファンディングを利用して医療材料などの資金調達を行う医療施設や大学が増加している。先月3日にREADYFOR主催の記者会見を行った医療法人社団 悠翔会もその1つだが、なぜこのような支援方法を選択したのだろうか。同施設は首都圏や沖縄に拠点を設け在宅診療にあたっている。新型コロナ患者対応においては、かかりつけ医を持たず、なおかつ自宅療養を余儀なくされる患者を保健所紹介のもとで積極的に対応しているが、その責任者である佐々木 淳氏(悠翔会理事長・診療部長)が語る、在宅におけるコロナ対応の現状や自施設スタッフのリスク管理とはー。新型コロナ×在宅医療、突きつけられる現実 在宅専門である同施設が在宅コロナ患者への往診を始めたのは東京都医師会と連携した2021年8月11日のこと。当初は通常の在宅チームのみで各地域の保健所からの依頼により対応していたが、徐々にその業務は逼迫、より多くの対応要請に迅速かつ確実に対応したいと考え8月24日より『コロナ専門往診チーム』が結成され、東京23区におけるコロナ患者の最終セーフティネットの役割を担い稼働した。 同施設の場合、通常診療は医師・看護師・ドライバーが3人1組で約10~13件/日(施設診療の場合は半日で30人ほどの診察が可能)の訪問診療を行っているが、コロナ診療の場合は、「同じ体制でも1日に多くて6件程度と、通常診療の半分しか対応することができない。この診療を支えるためのフォローアップチーム(毎日70~100人の患者に対し、1~3回/日の電話にて状況確認などを行う)や酸素濃縮器の集配チームなどを含め、約20名ものコメディカルを要する非常に負担の大きな仕事」と述べ、「にも関わらず、実際の診療報酬で評価されるのは“往診する医師の業務だけ”なので、施設経営は逼迫する一方だ」と話した。スタッフのリスク管理 また、コロナ診療と通常業務において大きく異なる点はやはり感染対策だが、悠翔会では以下の対策をスタッフのリスク管理として設けている。1)毎日の体調確認を確実に行う2)特定のスタッフを連続勤務させない3)余裕をもって診療ができるよう、十分な診療スタッフ数を確保する4)診療スタッフがコロナ診療に専念できるよう、診療外業務をバックアップチームが担う体制を作る5)感染防御具を毎度、きちんと使い捨てができるよう、潤沢に確保する6)感染防御が確実にできるスタッフだけでチームを組成する これは、往診を目的ではなく手段と捉えて患者に確かな安全・安心を提供し、助けを求めるすべての人に確実に医療が届けられるようにという『患者のニーズが最優先』の観点があっての対策なのだろう。通常業務にコロナ対応、賞与に報償を反映 上記のような対策が必要であればおのずと人員確保による人件費もかさむ。病院施設においては、コロナ禍による受診控えが影響しスタッフへの報酬を減額せざるを得ないところもあったが、本施設での影響を尋ねると、「日常診療における感染防御、クラスターへの対応(大規模PCR検査の実施など)、ワクチン接種、新型コロナ患者への往診対応など、通常の診療業務に多数の業務がアドオンされており、年末の賞与にてそれらへの報償を反映させる予定」と佐々木氏はコメント。このようなスタッフへの感謝の気持ちを添える対応をするためにも、クラウドファンディングの活用が欠かせなかったと言える。クラウドファンディング、地域限定から全国への呼びかけに 本施設のクラウドファンディングは開始1週間で早くも目標金額の1,200万円を達成。この支援費用は在宅中等症患者の命を繋ぐために必要な人件費として充てられるという。達成後も次の目標に向けて募集を行い、10月13日現在、支援者2,296人から約3,360万円の支援が集まっている。これに対し、佐々木氏は「目下のコロナ専門往診チーム体制、フォローアップ体制の更なる強化に加え、新たに計画されている新型コロナ療養施設での活動資金等に充当する」とコメントしている。 この取材時点では在宅診療での使用が認められていなかった抗体カクテル療法についても、9月17日に大阪府で解禁になったのを筆頭に東京都でも9月24日から始まった。もし、今後、第6波が到来して中等症II以上の自宅療養者が増えた場合、在宅診療の業務逼迫も今以上のものになることは想像に難くない。クラウドファンディング活用という先手の行動がきっと雨過天晴になるだろう。 クラウドファンディング(crowdfunding)とは、『群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して自分の活動や夢を発信することで、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募るしくみ』1)のこと。今回のように寄付金を募るタイプのものは寄付型クラウドファンディングとも呼ばれている。そのほか、物を購入して作り手を応援する購入型、ふるさと納税を寄付金に充てるタイプなどがある。 これまでも地域住民、患者やその家族がお世話になっている病院に「寄付」するという行為は存在していたが、それが地域住民版だとしたら、クラウドファンディングは共感を得た全国各地の人から募るという意味で寄付の全国版とも言える。 本プロジェクト「緊急:新型コロナが“災害医療”となった今、第五波を乗り切るご支援を」は10月29日(金)午後11:00まで、支援を募集している。<医療法人社団 悠翔会>・2006年創設・首都圏:17拠点、沖縄:1拠点・医師数:96名(常勤:40名)・在宅患者数:6,400名

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なぜ、働き方改革は「現場主体」でないといけないのか?【今日から始める「医師の働き方改革」】第4回

第4回 なぜ、働き方改革は「現場主体」でないといけないのか?私たちは、これまで1,000以上の組織の働き方改革を支援してきました。うまく進む働き方改革は、長崎大学病院での働き方改革も含め、「誰かに言われているからやる」のではなく「現場がやりたいと思うことを実現していく」を主眼に取り組みを進めていることが特徴です。今回は私たちが「現場主体」を重視する、その理由を紹介します。1)人口動態とマネジメント手法の変化表1は、ハーバード大学David E. Bloomが1990年に提唱した「どの国にも人口ボーナス期と人口オーナス期が存在する」という考え方を表しています(表1)。「人口ボーナス期」とは、若者が多数を占め、高齢者人口の割合が低い国の状態を指します。日本では1960年代~90年代半ばまでがこの時期に当たります。働き手が多く、市場にはまだモノが不足していたので1分1秒でも長く働き、隣の会社と同じ製品であっても早く安く大量に作って提供することが求められました。こうした時代、意思決定はトップダウンが合理的で、それに文句なく従う従業員が大勢いる組織が有利でした。賃金は現在より低く、労働時間の労働規制も厳しくなかったので、労働者をたくさん働かせてもしっかり利益が残ったのです。一方、現在の日本は「人口オーナス期」にあります。高齢者人口の割合が高く、若年の労働者が少ない人口構造です。経済成長は停滞し、市場は飽和状態にあります。早く安く大量に生産するやり方ではなく、市場から求められる、吟味された商品しか売れない時代になりました。こうした商品を生み出すにはトップダウンでは限界があり、現場発想をいかに速く商品・サービスに落とし込み、改良を続けるかが勝負を分けます。医療現場において少子高齢化による働き手不足と患者数増加によって、現場マネジメントの難易度は高まっています。男女ともに高学歴化が進み、男性が大半を占めていた医師の世界も今では医学部合格者の3割以上が女性です。結婚・育児にキャリアを阻まれることが少ない男性医師で成り立ってきた医療機関も、女性を含めた多様な人材が活躍できる環境整備を行わなければ経営が成り立たない状況です。このように人口ボーナス期・オーナス期は人口構造だけでなく、組織の勝ち筋、マネジメント手法にも大きな影響を与えます。つまりは、人口オーナス期に合わせた経済成長のルールに従い、現場の裁量を増やし、仕事のやり方を変えることが重要なのです。2)高まる不確実性今は「VUCAの時代」といわれます。VUCAとは「Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性」の頭文字で、「予測不可能な出来事が次々と起こる時代」を指します。2020年から続く新型コロナウイルス感染症の拡大は、まさしくそれを証明したといえるでしょう。これだけ急激な変化が起きると、トップが現場の情報を収集して、意思決定して、現場に展開するだけの十分な時間がありません。現場の意思決定の質を高め、スピーディーに変化する。それを促すための工夫が不可欠です。3)「やらされ感」の排除もうひとつ、職場の変革を現場主体で行うメリット、それは「持続性」です。どんな組織においても、対象者が「やらされている」と感じる取り組みは定着しにくいものです。やらせる人がいなくなったり何らかの理由で強制力がなくなったりした瞬間、元に戻る力が働きます。元に戻るだけならまだしも「忙しい中で無理やりやらされた」という不満が、上司や経営層への不信感や人材流出につながります。チームが集まって「ありたい姿」を作成するこうした理由から、私たちは「現場が主体となった働き方改革」を提唱しています。そのための第一歩が「ありたい姿」の作成です。働き方改革を始める際に、まずは「プロジェクトチーム」をつくる必要があります。日常業務とのつながりを確保するために同じ業務をしているメンバーで、人数は3~10人までがよいでしょう。10人は全員が議論に参加できる限界です。お互いの意見を尊重し、小さな意見も出せるようなメンバー選びも重要です。部門トップが入ると若手が萎縮するのであれば、トップはメンバーに入れないのも一手です。メンバーを選んだら、初回ミーティングのテーマは「働き方改革を行った結果、どうなりたいのか=ありたい姿の設定」です。用意するもの:大きめの付箋、ホワイトボード3~5人程度に分かれるファシリテーター役と付箋に記入する係を決める長崎大学の初回ミーティングの樣子1)問い掛けと意見出しファシリテーターは、次の問い掛けをします。「このチームのいいところはどこですか?」「もったいないな、と感じるところはどこですか?」「もっとよい時間の使い方をするためには、何の時間を増やし、何を減らしたいですか?」1つの問い掛けに対して3分ほど使ってファシリテーターも含めた意見出しを行い、出たそれぞれの意見を記入係が付箋に書き出します。「勤務時間短縮の要素を入れる」といった指定は不要です。チームのメンバーから「もっと早く帰りたい」といった言葉が出れば入れますが、強制や忖度が起きないように気を付けます。2)付箋をまとめる出た付箋を持ち寄り、ホワイトボードに貼り出します。ファシリテーターが内容の近いものをまとめてグルーピングします(KJ法と呼ばれる方法です)。付箋を使うのは意見をフラットに取り扱うためです。職位や年次によらず、どの意見も公平に扱うことが重要です(表2)。3)まとめて文章化する付箋をグループごとに整理し、それをつなげて参加者全員にとって納得感の高い「ありたい姿」を文章にします。チームのいいところは活用し、もったいないところを克服する、その結果○○に割く時間を増やす/○○という成果を出す、といった流れがよいでしょう。「みんなで早く帰る!」といった短い文章ではメンバー間でイメージがブレやすくなるため、「属人化を解消し、助け合うチームになることで、早く帰れる体制をつくる」など、アクションをイメージできる具体的なキーワードが入った文章にします(表3)。できた文章は、忘れないようにどこかに貼り出します。これは「一度決めたら変えられない」ものではなく、達成できたときや違和感が出たときなどに都度見直します。全員の意見を1つにまとめるのは難しいこともあるので、この作業はチームメンバー以外の取りまとめの上手な人や、私たちのような外部サポーターを入れることもお勧めです。このチームの「ありたい姿」を決める話し合いを観察していると、いくつか気付くことがあります。最初はどのチームも「そんなこと、考えたこともない」という沈黙が続きます。「組織のありたい姿なんて、経営者や教授が決めるものでしょう」と戸惑う方もいます。それでも、「どんな意見でもどうぞ」と促し続けると、ぽつりぽつりと意見が出てきます。はじめに出た意見を「なるほど、○○なんですね」としっかりと認めることで、次の意見が出るようになります。少し時間はかかりますが、この「ありたい姿」を決めるプロセスは非常に重要なので、チーム全員の納得感を確認しながらつくりましょう。「働き方改革=早く帰ること」というイメージを持つ方が多くいます。ベテランの方からは「若いうちは必死にやらないと。今さぼってどうする」「自分の時間を削ってきた若いころの努力やキャリアを否定された気になる」と不満や不安の声も上がります。また「医師の働き方改革によって、提供する医療の質が落ちることだけは避けねばならない」というのは、年齢にかかわらず、多くの医療者に共通した意見です。医師の働き方改革は「労働時間を減らす」という単純なものではありません。提供する医療の質を落とさないことは大前提です。あくまでも、提供する医療の質を上げつつ、チームの総労働時間を短縮する、そのための取り組みです。ありたい姿をどう現場に落とし込むのか、その方法は次回以降にご紹介します。

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第79回 与野党の政策を党別分析、ツッコミどころ満載なその政策とは?(後編)

ついに岸田 文雄首相は10月14日の衆議院で解散を行い、19日公示、31日投開票のスケジュールで4年ぶりの衆院選が行われることになった。前回から自民党以外の与野党各党の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)を含む医療・社会保障政策を紹介し、独断と偏見ながらその評価をしている。今回は前回紹介した公明党、立憲民主党、国民民主党以外の各政党についてである。野党二番目の議席数、日本共産党実は与党の自民党、公明党、野党第一党の立憲民主党に次いで衆議院で議席を有しているのが日本共産党(12議席)である。その共産党は11日に「総選挙政策 なにより、いのち。ぶれずに、つらぬく」を公表した。まず、新型コロナ対策として(1)ワクチンと一体で大規模検査、(2)医療・保健所への支援、(3)まともな補償、の3本柱を訴えている。ただ、このうちの(1)は「『いつでも、誰でも、無料で』という大規模・頻回・無料のPCR検査実施」、「職場、学校、保育所、幼稚園、家庭などでの自主検査を大規模かつ無料で行えるように国が思い切った補助」とのことで、ややため息が出てしまう。パンデミック当初の検査能力不足に起因した検査抑制は確かに問題だったが、今は検査が不足しているとは必ずしも言えない。また、どんなに検査の自動化やプール方式などの効率化を進めても検査に要するリソースが有限であることを考えれば、現状の検査能力の使い方こそが最重要である。その中で医療従事者や介護従事者、警察・消防などのエッセンシャルワーカーに比較的頻回な定期検査を行うならば、リソースの有効活用にはなるだろうが、いつでも誰でも無料は大衆受けするがかなり非科学的といえる。また、今回の教訓を踏まえた医療などのキャパシティ向上を謳って「感染症病床、救急・救命体制への国の予算を2倍にするとともに、ICU病床への支援を新設して2倍」「保健所予算を2倍にして、保健所数も、職員数も大きく増やす」「国立感染症研究所・地方衛生研究所の予算を拡充し、研究予算を10倍」などの定量目標を掲げているが、正直財源も含め、いずれも現実味を感じない。ボリューミィ政策、日本維新の会野党第3党の日本維新の会。同党は衆院選向けの公約は発表していないが政策提言「維新八策2021」という8領域339項目の政策を公表している。医療・社会保障に関してはこのうち「2.減税と規制改革、日本をダイナミックに飛躍させる成長戦略」「3.『チャレンジのためのセーフティネット』大胆な労働市場・社会保障制度改革」、「4.多様性を支える 教育・ 社会政策、将来世代への徹底投資」に集中的に登場する。まず、成長戦略項目で訴えていることは、(1)ITによる医療・介護の産業化・高度化、(2)診療報酬点数に需給バランスを通じた調整メカニズム導入、(3)混合診療解禁、(4)医療法人などの経営・資金調達方法の大幅に規制緩和、(5)OTC販売時の対面販売規制見直し、であり、端的に言えば医療での規制緩和・市場原理導入ということだ。社会保障制度の項目では、数多くの政策が並んでいるが根幹として医療費の自己負担割合について「年齢で負担割合に差を設けるのではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける仕組みに変更」と訴えている。これについては一見すると合理的に見えるが、ここで考えるべきはまず低所得者と高所得者でどちらのほうが一般的に考えて健康不安があるかという点だ。答えはおおむね低所得者に行くはずだ。生活の基本である衣食住に対するものも含め可処分所得が低いため、健康維持に使えるお金も減るからである。つまり健康不安の少ない高所得者が高い自己負担割合になれば、結果として彼らは過少給付となるので不公平感が否めない。ちなみに後段の項目では「定期的な検診受診者や健康リスクの低い被保険者などの保険料を値引きする医療保険に保険料割引制度導入」と訴えているため、高所得者はこの点では得をして前述の過少給付分を補填できるかもしれない。しかし、逆に相対的に健康リスクが高いとみられる低所得者はこの制度では恩恵を受けがたくなり、一部の低所得者と高所得者との間で格差が広がる危険性もある。その一方で「国民健康保険でのスケールメリットを活かせる広域的運営の推進」や「レセプトチェックのルール統一を行い、国民皆保険制度の元で AIやビッグデータを活用することで、医療費の適正化と医療の質の向上を同時に実現」は個人的には一考に値すると感じている。とくに後者のレセプト審査基準が地域によって幅があることは、患者目線に立てばこれまでも内外から疑問視されていた点である。新型コロナ対策についても12本の提言を挙げているが、その多くに新味はない。さらに、「人員配置や設備面で急性期の受け入れ能力がない中小病院が過多になっている現状を精査し、医療提供体制の再編を強力に推進」という点については、やや「???」とも思う。そもそも高齢化が進む日本の将来を見据えた場合、急性期医療以外を担う病院の必要性は高い。もっとも医療機関数や病床数が多めであることは確かだが、ほぼ民間病院だらけの中小病院をどのようにして「再編を強力に推進」するのかと思ってしまう。後述する社民党の政策に出てくる国公立病院の統廃合も含めた機能点検ですらあれだけ揉めたのだから、こうした維新の提言が実現するとは思えないのだが…残る社民党、れいわ新選組、NHK党は…さて前編分も含め、ここまでが現状で衆議院に議席を持つ政党の政策についてだが、参議院に議席を有し、公職選挙法や政党助成法での政党要件を満たし、なおかつ今回の衆議院選に候補者を立てている政党がいくつかある。社民党、れいわ新選組、NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で(公職選挙法上の略称・NHK党)の3政党である。この各党についても触れておきたい。これは政治・選挙取材を得意とする私の友人で「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山 理仁(みちよし)氏が実践しているすべての候補の主張に耳を傾け、すべての候補を公平に扱うべきという主張に共鳴しているからだ。まずは社民党。かつては最大野党として衆参両院で最盛期に3分の1以上の議席を占めたこともある旧日本社会党を前身とする社民党は現在、衆参両院で議員各1人にまで凋落している。その社民党の「2021年重点政策」を見ると、社会保障・医療関連でまず触れられているのが、「1.新型コロナ感染症災害からの生活再建」の中の「医療機関、介護・医療従事者を支援。地域医療を守る」の項目。具体的には2019年に厚生労働省「医療計画の見直し等に関する検討会」の「地域医療構想に関するワーキンググループ」が急性期医療機能の観点から424(現在は436)の公立・公的等医療機関について統廃合も含めた機能再検証を求めた件をあげ、新型コロナの病床確保の観点からこの方針の撤回を求めるというもの。確かにこの一件はいきなり該当病院が名指しされたことで当該病院関係者や自治体に大混乱を与えたことは事実だ。しかし、従来から国内の医療機関が極端に急性期医療に軸足を置いてきた結果、超高齢化社会の進行に伴う将来的な慢性疾患対応の増加とミスマッチになっていたこともまた事実である。単純に将来の新興感染症を見越して現行のままの急性期病床配置を維持すれば良いものではない。この政策項目の中では「削減してきた保健所、保健師の数を増やし、公衆衛生の強化に取り組みます」とも訴えているが、それならば新興感染症対策の最前線である保健所の在り方も含めた急性期病床の配置までもう少し踏み込んだ提言があってほしいと思うのは要求のレベルが高すぎるだろうか?「2.格差・貧困の解消」では「75歳以上の高齢者医療費負担2倍化反対」として、今年6月に成立した健康保険法改正により、75歳以上の単身高齢者で年収200万円以上であれば医療費の自己負担額が2割に引き上げられる法改定が成立したが、その撤回を求めている。ただ、この高齢者の自己負担引き上げは長らく議論されてきたもので、実際の引き上げも慎重にかつ段階的に行われている。そもそも少子高齢化と経済低成長の時代に現役世代のみで現在の社会保障制度を支えることが困難なことは社民党も知らぬはずはない。その意味ではこの主張・政策は手垢まみれのポピュリズムとさえ言えるかもしれない。一方、代表である山本 太郎氏の出馬選挙区問題でドタバタが起きた、れいわ新選組(参議院2議席)だが、その新型コロナ対策は他党と比べ医療対策よりも経済対策が中心。その中で「PCR検査最大能力を100万回/日に向上へ」という政策を掲げている。正直、必要な検査数はその時々の流行状況などにもなど左右されるため、数値目標を掲げるのは必ずしも適切ではない。ただ、同党の主張は「医療者はもちろんのこと、バス・タクシードライバー、駅員、保育・介護職等のエッセンシャルワーカーやその家族、濃厚接触者、コロナウイルス感染の疑いのある者が、定期的に優先し、複数回検査できる体制の構築」と具体的に記述している。要は感染の疑いがある者や濃厚接触者といった日常診療でベーシックに必要とされる検査分を前提にエッセンシャルワーカー分を上乗せした数値目標らしい。その意味では一定程度ロジックは成立している。また、こうしたエッセンシャルワーカーに対して1日当たり2万4,000円の危険手当の給付を訴えている。2万4,000円というのは、アフリカの新興国・南スーダンに展開した国連南スーダン共和国ミッション (UNMISS) に、2012年1月から2017年5月まで自衛隊を派遣した際、非常時に小規模な戦闘が起こることも念頭に行う「駆け付け警護」まで実施した際の隊員の1日当たりの「国際平和協力手当」が原点だ。要は最も危険な公務員の任務での手当と同額ということだ。この背景として同党は、こうしたエッセンシャルワーカーが通常人口に比べて新型コロナでの死亡リスクが2倍以上にのぼることを例示している。考え方として悪くはないが、給付が実現しても死亡リスクそのものが低下するわけではないので、その点の対策がなければアンバランスである。さらに基本政策の中では、「障がい者福祉と介護保険の統合路線は見直し」を訴えている。これは障害者総合支援法の第7条の自立支援給付での「介護保険優先原則」の見直しである。同党はこの条文により障害者が充実した重度訪問介護などのサービスを利用できず、65歳以上では利用時の原則一割負担とサービスの幅も狭い介護保険の利用を求められる点を是正すべきとしている。これは障害者議員を擁する同党ならではと言えるかもしれない。で、最後はNHK党(衆参両院で各1議席:衆院の1議席は日本維新の会を除名された丸山穂高氏が入党したことによる)となるが、もともとNHKと対決するシングル・イシューの政党であり、新型コロナ対策や医療・社会保障に関する政策は同党の公式ホームページでは一切見当たらなかった。さて月末の衆議院選の結果はいかなるものになるだろう?

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コロナ治療でイベルメクチン適応外使用に注意喚起/MSD

 MSDは10月12日、医療関係者向けの情報サイトで「COVID-19に対するイベルメクチンの処方について」と題した文書を掲載。腸管糞線虫症または疥癬の経口治療薬として国内承認されているイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)は、COVID-19の治療薬としては承認されていないため適応外使用となることを注意喚起した。イベルメクチンはコロナ治療薬として承認されていない イベルメクチンを巡っては、同剤を開発した米・メルク社が9月、COVID-19治療薬としての有効性と安全性のエビデンスについて分析した結果をステートメントとして発表。▽前臨床試験では新型コロナウイルス感染症に対する治療効果を示す科学的な根拠は示されていない▽新型コロナウイルス感染症患者に対する臨床上の活性または臨床上の有効性について意義のあるエビデンスは存在しない▽大半の臨床試験において安全性に関するデータが不足している―とし、「規制当局によって承認された添付文書に記載されている用法・用量や適応症以外におけるイベルメクチンの安全性と有効性を支持するデータは、現時点では存在しない」との見解を示した。 さらに世界保健機関(WHO)は、COVID-19に対する治療薬としてイベルメクチンを使用することは、臨床試験以外では推奨されないとする声明を発表している。 日本国内におけるイベルメクチンの製造販売元であるMSDは今回の文書で、「本剤は COVID-19の治療薬として承認されていない」と改めて強調し、COVID-19に対して適応外使用された際の安全性情報の監視を継続するとしている。イベルメクチンの添付文書が改訂、重大な副作用に「意識障害」追記 PMDAは、10月12日付でイベルメクチンの添付文書を一部改訂。重大な副作用として「意識障害」の項を追加し、「昏睡、意識レベルの低下、意識変容状態等の意識障害が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行う」こと、および「意識障害があらわれることがあるので、自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事する際には注意するよう患者に十分に説明する」旨の記載が加えられた。

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第79回 新型コロナ巡る多大な犠牲者の陰に見え隠れするカネとポストの争い

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数は急減しているとはいえ、死者は現在約1万8,000人に及ぶ。コロナ対策の原則は早期発見、早期隔離、早期治療だが、対策を講じてもなお、これほどの人が亡くなったことに疑問を抱かざるを得ない。PCR検査を幅広く行い、陽性者を隔離し、重症化すれば専門施設で集中治療する―。本来ならPCR検査数を増やすことは最優先課題のはずだったが、厚生労働省は当初から抑制し続けてきた。そこには、いくつかの理由があるようだ。首相の検査拡大指示も無視した医務技監昨年8月まで、医系技官のトップの医務技監だった鈴木 康裕氏(現・国際医療福祉大学副学長・教授)は、安倍 晋三首相(当時)の指示にもかかわらず、PCR検査の拡大を行わなかった。鈴木氏は偽陽性の頻度を理由に「陽性と結果が出たからといって、本当に感染しているかを意味しない」とメディアのインタビューに応えている。また、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員の岡部 信彦氏(川崎市健康安全研究所所長)も、PCR検査の精度管理を理由に検査拡大に反対した。検査抑制の理由は何か。上 昌広氏(NPO法人医療ガバナンス研究所理事長)らは、保健所を守るためだと指摘する。感染症法により、保健所長が感染の疑いがあると判断した場合、検査は不可避で、陽性の場合は入院させる。人権にかかわる措置であるため、手順は法令で細かく規定されている。こうした事情により、実質的にPCR検査は保健所の独占状態となった。しかし保健所は、PCR検査だけでなく、積極的疫学調査や入院調整なども担っていたため、業務過剰に陥った。幾度かの感染者急増の波もあり、PCR検査への対応が追い付かない上に、自宅療養者に対する入院判断ミスや情報管理の不備なども度重なり、感染者が死亡するケースが相次いだのは、さまざまなメディアが報じた通りだ。「独占」体制で生じる利権の構造コロナに関する保健所の業務独占体制は変える必要がある。しかし、そこが一筋縄ではいかないのは、関係者の利権の喪失にかかわるからだという。例えば、保健所が積極的疫学調査として集めたデータは、国立感染症研究所(感染研)に送られ、“感染症ムラ”が独占する。現在の体制下では、保健所長は医系技官、地方衛生研究所(地衛研)所長は感染研幹部経験者の“専用ポスト”なっているという。検査の独占はカネとポストにつながるため、COVID-19を1・2類感染症から5類感染症にダウングレードする議論にもおのずと関連してくる。COVID-19を巡っては、ウイルスそのものの脅威により、多大な社会的損失と生命の犠牲を余儀なくされた。これは紛れもない事実だが、医療政策をつかさどる人や組織の在り方によって被った人為的影響も計り知れないのではないだろうか。

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ワクチンパスポート賛成は過半数を超える/アイスタット

 国民のワクチン対象成人の約6割超が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種を終え、これからCOVID-19との新しい日常が送られようとしている。ワクチン接種先進国では、接種を終えた人々にさまざまな証明書を発行することで、日常行動の制限解除にむけた動きも散見される。こうした「ワクチン接種証明書」について、社会はどのように考えているのだろう。 「ワクチンパスポート」をテーマに、株式会社アイスタットは10月4日にアンケートを行った。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~79 歳の300人が対象。調査概要 形式:WEBアンケート方式 期日:2021年10月4日 対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~79歳の会員)アンケート結果の概要・ワクチンパスポートの申請・発行に賛成の割合は54%で半数を超える・ワクチンパスポート所有・提示による規制緩和・特典に賛成の割合は51.3%・ワクチンパスポートの申請意向がある割合は46.3%で半数を下回る・ワクチンパスポート提示による特典の第1位は「旅行・移動」の45.3%・ワクチンパスポート活用により生じる問題の第1位は「ワクチン接種有無による差別問題」・ワクチンパスポートが経済活動再開につながると思う割合は54.3%・コロナワクチンを2回接種した割合は66.7%。接種予定を含めると約8割が接種意向ありワクチンパスポートは賛成だけど活用法は限定的 質問1として「ワクチンパスポート(新型コロナワクチン接種証明書)の申請・発行について、どう思うか」(単一回答)を聞いたところ、「やや賛成」が31.7%で最も多く、「どちらともいえない」が28.7%、「非常に賛成」が22.3%の順であった。大きく2つに分類したところ「賛成」は54%、「それ以外」は46%で、賛成が半数を超える結果だった。 質問2で「ワクチンパスポートの所有・提示による規制緩和・特典について、どう思うか」(単一回答)聞いたところ、「やや賛成」が31.7%、「どちらともいえない」が30.7%、「非常に賛成」が19.7%の順で多かった。大きく2つに分類したところ「賛成」は51.3%、「それ以外」は48.7%で質問1と同様の傾向が見受けられた。 質問3で「ワクチンパスポートを申請するか」(単一回答)を聞いたところ、「申請する予定」が43.0%、「現時点では、まだ決めていない」が31.3%、「ワクチン接種をしないので、申請できない」が11.7%の順で多かった。大きく2つに分類したところ「申請」は46.3%、「それ以外」は53.7%で、活用法の情報が少ない中で申請意欲が少ない結果だった。 質問4で「どのような場面でワクチンパスポート提示による入場規制緩和・特典があった方が良い」(複数回答)を聞いたところ、「旅行・移動」が45.3%、「宿泊施設」が41.3%、「飲食店」が40.3%の順で多かった。また、「特になし」の回答も28.3%あるなど、今後の活用法の拡大が望まれることが示唆された。 質問5で「ワクチンパスポートが導入・活用されることによって、どのような問題が生じるか」(複数回答)を聞いたところ、「ワクチン接種有無による差別問題」が55.3%、「ワクチン接種後のブレークスルー感染の増加」が27.7%、「無症状・軽症感染者による他人への感染リスク」が26.7%の順で多かった。 質問6で「ワクチンパスポートは経済活動再開につながるか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえば、つながると思う」が38.7%、「かわらないと思う」が27.3%、「非常につながると思う」が15.7%の順で多かった。 質問7で「政府や自治体がお願いしているコロナ禍対策『外出・旅行・帰省・外食・酒禁止・時短営業の規制・制限』についてどう思うか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらでもない」が22.7%、「かなり限界」が22.0%、「やや限界」が14.7%の順で多かった。回答を大きく2つに分類すると「限界」が49%、「それ以外」は51%で約半分の人が「限界」を感じていた。 質問8で「コロナワクチン接種状況」(単一回答)について聞いたところ、「2回目接種完了」が66.7%、「意図的に接種しない」が11.3%、「これから1回目を接種する」が9.7%の順で多かった。大別すると「接種あり・予定」が82%、「接種しない」が18%という結果だった。今後のさらなる接種率の向上という課題がうかがえる結果となった。

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ファイザー製ワクチン、デルタ株への有効率の経時変化/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンBNT162b2(トジナメラン、Pfizer-BioNTech製)の、SARS-CoV-2デルタ変異株感染の入院に対する有効性は高く、完全投与後6ヵ月までの全年齢の有効性は93%だった。また、SARS-CoV-2感染への有効性については、時間とともに低下することが示され、デルタ変異株に対しては完全接種後1ヵ月は93%だったが、4ヵ月後は53%に低下していた。米国・カイザーパーマネンテ南カリフォルニアのSara Y. Tartof氏らが、343万例超を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果で、感染への有効性が時間とともに低下することについて著者は、「デルタ変異株がワクチン保護効果を逃れるというよりは、おそらく時間とともに免疫力が低下したことが主な要因だろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2021年10月4日号掲載の報告。12歳以上を対象に接種後6ヵ月までの予防効果を検証 研究グループは、カイザーパーマネンテ南カリフォルニアに、加入後1年以上経過した12歳以上の加入者を対象に試験を行い、BNT162b2のSARS-CoV-2感染や、COVID-19関連の入院に対する接種後6ヵ月までの予防効果を検証した。 アウトカムは、PCR検査結果によるSARS-CoV-2陽性とCOVID-19関連の入院で、ワクチン有効性は補正後Coxモデルによるハザード比に基づき算出した。感染予防効果は時間とともに低下、デルタ株感染予防効果は4ヵ月後には53%に 2020年12月14日~2021年8月8日に、適格性を評価した加入者492万549例のうち、343万6,957例を対象に試験を行った。被験者の年齢中央値は45歳(IQR:29~61)、女性の割合が52.4%だった。 BNT162b2ワクチン完全接種者の、SARS-CoV-2感染に対するワクチン有効性は73%(95%信頼区間[CI]:72~74)、COVID-19関連の入院に対する有効性は90%(同:89~92)だった。 一方で、SARS-CoV-2感染に対するワクチン有効性は、完全接種後1ヵ月は88%(95%CI:86~89)と高かったが、同5ヵ月後には47%(43~51)に低下した。SARS-CoV-2デルタ変異株への感染予防効果についても、完全接種後1ヵ月は93%(85~97)と高かったものの、4ヵ月後は53%(同:39~65)に低下した。 SARS-CoV-2非デルタ変異株に対する感染予防効果についても、完全接種後1ヵ月は97%(95%CI:95~99)と高かったのに対し、4~5ヵ月後には67%(45~80)に低下した。 BNT162b2ワクチン完全投与後6ヵ月までの、デルタ変異株によるCOVID-19関連の入院に対する予防効果は、全年齢で93%(95%CI:84~96)と高率だった。

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第79回 茨城・偽造医師免許事件で思い出した、鶴瓶主演の医療映画の佳作

老健施設の施設長になるため偽造医師免許を使用こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は用事があって、江東区・森下と世田谷区・三軒茶屋に出かけました。東京の東と西、どちらも飲み屋が多い街です。のぞいてみると、先週末と同じく、どちらの街の飲み屋も夕方から満員です。緊急事態宣言下、人々に胸の奥に溜まっていた“飲み”への渇望が、爆発したような感じです。この勢いで皆飲み狂い、仮に第6波が来ないとしたら、それはそれでコロナ収束の原因を再考しなければならないな、と思いました(まあ、来るとは思いますが)。ということで、今回はコロナからちょっと離れて、夏から気になっていたある事件を取り上げます。9月に入ってその背景が詳しく報道されたこの事件は、ある医療映画の佳作を思い出させるものでした。今年6月28日、愛知県警は、茨城県水戸市に住む70歳の女性を偽造有印公文書行使の疑いで逮捕しましました。中日新聞などの報道によれば、逮捕された女性は、茨城県笠間市の老人保健施設「オリーブ友部館」で施設長として働くため、管理者の条件である医師免許を保持していないにもかかわらず、偽造された医師免許の写しを同県の長寿福祉推進課に郵送で提出して使用したとのことです。さらに翌29日、愛知県警はこの女性が使った医師免許を偽造した疑いで、中国籍で大阪市中央区在住の30代男性を再逮捕しています。同県警は今年2月、大阪市中央区道頓堀にあった在留カードなどの「偽造工場」とみられる雑居ビルを家宅捜索、中国籍の男性はこの捜索をきっかけに逮捕されています。運転免許証や健康保険証などの偽造を依頼した顧客データの中にこの女性も含まれていたことから、今回の医師免許偽造が発覚したとのことです。なお、女性は医師免許を取得したことはなく、医学部入学の経験もないとのことです。ワクチン接種の際の医療行為で再逮捕この老健施設を経営者する医療法人 鳳香会側は、この女性が偽造医師免許を使用していたとは知らなかったとみられます。女性は老健施設の施設長、すなわち医師として働いていたわけですから、当然、簡単な医療行為も行っていたに違いありません。案の定、7月26日、愛知県警はこの女性を、医師免許がないのに新型コロナウイルスのワクチン接種の問診などを行ったとして、医師法違反の疑いで再逮捕しました。中日新聞等の報道によれば、再逮捕容疑では、5月26日~6月23日までの間、老健施設の施設長として、高齢の入所者83人に対して計108回にわたり、新型コロナウイルスのワクチン接種前の問診や接種の可否判断などをしていたとされます。女性は問診後、施設の看護師に接種を指示していたそうです。入所者83人が接種を受けましたが、健康被害は確認されていません。この女性が施設長として勤めていた間の老健施設での医療行為については、医師法違反の罪は問われていません。何も医療行為を行わなかったのか、あるいは軽微な医療行為のため罪は問わなかったのかは不明ですが、ニセ医者が施設長をしていた間、入所者の健康状態は大丈夫だったのか、心配になります。なお、元介護施設長の女性はその後、有印公文書偽造・同行使罪で起訴されています。精巧なつくりが評判となり日本人も上客になかなか興味深く、謎が多い事件です。9月に入ると続報が出て、事件の背景がわかってきました。9月18日、日本経済新聞(東京版)の夕刊に、「大阪で摘発『偽造工場』、精巧さ売り医師免許も」というタイトルの記事が掲載されました。今回のニセ医者事件で表沙汰になった大阪の偽造工場の実態に迫った記事です。記事によれば、逮捕された中国人の偽造工場は、「偽の在留カードを求める不法滞在の外国人が主な対象だったが、精巧なつくりが売りとなり、日本人も上客に」なっていたとのことです。笠間市の老人保健施設は新しい施設長を探しており、「医師免許を持ちながら、フリーの立場で働いている」と聞いていた女性に就任を依頼。この時、医師免許を持っていないこの女性が頼ったのが、大阪市内で偽造工場を営んでいた中国籍の男性だったとのことです。茨城在住の女性がどういうルートで大阪の偽造工場を知ったのかは不明です。記事には、愛知県警は「ベトナム人が手にしていた偽の在留カードの入手経路を捜査する中で、この拠点を突き止めた」と書かれています。この時の摘発で、「医師免許や約20ヵ国の外国人の在留カードに加え、英語検定試験TOEICの成績証明書の偽造品やその元データも押収」しています。依頼は「ブローカーを通じて受注し、専用の印刷機で作製」しており、偽造品はどれも目視では偽物だと分からないレベルだったそうです。どうやら、この業者には多くの外国人、日本人がさまざまな文書の偽造を依頼していたようです。世間的にインパクトが大きい医師免許の偽造が明るみに出たため、愛知県警はこのケースをとくにフィーチャーするかたちで、中国人男性と水戸の女性の逮捕に踏み切ったとみられます。愛知県警には偽造工場摘発のプロチーム茨城県に提出された偽造医師免許は様式や書体は本物とほぼ同じでしたが、取得時期が1970年代にもかかわらず、発行者が「厚生大臣」ではなく、今の「厚生労働大臣」となっていたそうです。ただ、このミスに茨城県の担当者は気づきませんでした。この事件を受け、茨城県は医籍番号を厚生労働省のデータで照会し、偽造が疑われる場合は電話で問い合わせるという運用を始めたそうです。なお、愛知県警は来日外国人犯罪の温床となっている不法滞在の取り締りとその支援組織の摘発に15年近く前から積極的で、これまでも外国人登録証明書や旅券、運転免許証等の偽造工場を摘発してきた実績があります。調べてみると、2005年度の『警察白書』の「警察活動の最前線」の項にも同県警による偽造工場摘発の事例が紹介されています。どうやら愛知県警には、この分野を得意とするプロチームが組織されているようです。ニセ医者と言えば『ディア・ドクター』ところで、70歳の女性は、なぜ老人保健施設の施設長になりたいと思ったのでしょうか。施設長の高報酬に目がくらんだのでしょうか。施設長は医師でなければならないので、当然医療行為をしなければなりません。看護師にバレる可能性はとても高いでしょう。ネット上では、「東大医学部卒」と偽っていたとの情報もありました。そのあたりの事件の背景も知りたかったのですが、新聞等では、女性の動機などについては詳しく報道されていません。勝手に想像を巡らす中、私が思い出したのは、2009 年に公開された日本映画『ディア・ドクター』です。西川 美和監督が原作、脚本も手掛けたこの映画は、笑福亭 鶴瓶演じる僻地の診療所院長がニセ医者であることから起こるドタバタを描いています。全編ユーモラスな雰囲気を漂わせながらも、僻地医療、医師不足、終末期医療など、現代のさまざまな医療問題を丁寧に描いています。映画の後半、永山 瑛太演じる若手研修医が鶴瓶のニセ医者に心酔し、「研修が終わったら、診療所に戻ってきたい」と語るシーンは、黒澤 明監督の名作映画『赤ひげ』で青年医師(加山 雄三)が赤ひげ(三船 敏郎)に「小石川療養所に骨を埋める」と決意を述べるシーンへのオマージュとも受け取れます。しかし、『ディア・ドクター』の主人公はニセ医者です。なかなか皮肉が効いていて、医師というプロフェッションのありようについても考えさせられます。もし観ていない方がおられましたら、秋の夜長、2009年のキネマ旬報ベスト・テンで日本映画1位を獲得した『ディア・ドクター』を鑑賞されることをお薦めします。テレビで放映されている昨今の医療ドラマよりも、観る価値はあると思います。ところで、『ディア・ドクター』の脚本の取材で得た材料を基に、西川監督が書き下ろした短編集『きのうの神さま』(ポブラ文庫)も出版されています。ここでは、映画の登場人物たちの過去が語られています。外科医の父にあこがれ、医学部を目指そうとしたニセ医者の屈折した人生を描いた短編『ディア・ドクター』が出色の出来で、こちらもお薦めです。

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コロナ治療薬「ロナプリーブ」、発症予防と無症状感染者治療に適応拡大申請/中外

 中外製薬は10月11日付のプレスリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ロナプリーブ」について、濃厚接触者の発症予防および無症状感染者への治療薬として適応拡大を申請したと発表した。本剤は点滴静注で承認されているが、今回、皮下注射を可能とする用法追加も併せて申請。より汎用性が高まることが期待される。 ロナプリーブは、SARS-CoV-2に対する2種類のウイルス中和抗体(カシリビマブ+イムデビマブ)を組み合わせ、COVID-19に対する治療および予防を目的として、米・リジェネロン社などが開発。軽度~中等度COVID-19外来患者への治療薬として、7月に厚生労働省が特例承認した。 今回の申請は、▽COVID-19 の予防および無症状の感染者を対象とした海外第III相臨床試験(REGN-COV 2069)の成績▽投与量・投与方法の検討を目的とした海外第II相臨床試験(REGN-COV 20145)の成績▽日本人における安全性と忍容性、薬物動態を評価する国内第I相臨床試験(JV43180)の成績に基づくもの。 このうちREGN-COV 2069試験では、COVID-19の家庭内濃厚接触者を対象に予防コホートを実施。ロナプリーブ投与により、試験開始時に感染していなかった人の症候性感染の発症リスクが81%減少することを示した。一方、新規感染が確認された無症候性患者を対象に実施した治療コホートでは、ロナプリーブ投与により、症候性COVID-19に進行するリスクが31%減少することを示した。有害事象は、ロナプリーブ群の20%(265/1,311例)、プラセボ群の29%に発現し、重篤例はロナプリーブ群の1%(10例)、プラセボ群の1%(15例)で認められた。 中外製薬は、迅速な審査を求め、このたびの申請も特例承認の適用を希望している。

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