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モデルナ製とファイザー製、それぞれの心筋炎・心膜炎リスク因子/BMJ

 英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnders Husby氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種と心筋炎/心膜炎との関連を調査する目的で、デンマーク住民を対象にコホート研究を行った。その結果、ワクチン未接種者と比較して、mRNA-1273(Moderna製)ワクチンは心筋炎/心膜炎の有意なリスク増加と関連しており、とくに12~39歳でリスクが高いこと、BNT162b2(Pfizer-BioNTech製)ワクチンは女性においてのみ有意なリスク増加が認められたことが示された。ただし、絶対発症率は若年層でも低いことから、著者は「今回の知見の解釈には、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種の利点を考慮すべきであり、少数のサブグループ内でのワクチン接種後の心筋炎/心膜炎のリスクを評価するには、より大規模な国際的研究が必要である」と述べている。BMJ誌2021年12月16日号掲載の報告。デンマークの12歳以上の住民約493万人について解析 研究グループは、デンマークの予防接種登録(Danish Vaccination Register)、患者登録(Danish National Patient Register)、および市民登録システム(Danish Civil Registration System)を用い、2017年1月1日~2020年10月1日のデンマーク居住者で12歳以上の493万1,775人の全個人について、2020年10月1日または12歳の誕生日(いずれか遅いほう)から、移住、死亡、イベントまたは2021年10月5日まで追跡調査した。血液検査値はRegister of Laboratory Results for Research、PCR検査結果はDanish Microbiology Databaseから情報を得た。 主要評価項目のイベントは、24時間以上の入院を要するトロポニン値上昇が認められた心筋炎/心膜炎の診断とした。ワクチン接種前の追跡期間と、1回目および2回目のワクチン接種後28日間の追跡期間を比較し、年齢を基礎タイムスケールとしたCox比例ハザードを用い、性別、併存疾患、その他の交絡因子で補正したハザード比(HR)を推定した。 なお、研究対象のワクチンは、BNT162b2(Pfizer-BioNTech製)およびmRNA-1273(Moderna製)とした。絶対発症率は低い 追跡調査期間中に269例が心筋炎/心膜炎を発症した。108例(40%)が12~39歳、196例(73%)が男性であった。 BNT162b2ワクチンを接種した348万2,295例においては、接種日から28日以内に48例が心筋炎/心膜炎を発症し、未接種者と比較した補正後HRは1.34(95%信頼区間[CI]:0.90~2.00)、接種後28日以内の絶対発症率(10万人当たり)は1.4(95%CI:1.0~1.8)であった。女性および男性別の補正後HRはそれぞれ3.73(95%CI:1.82~7.65)、0.82(0.50~1.34)、絶対発症率はそれぞれ1.3(95%CI:0.8~1.9)、1.5(1.0~2.2)であった。12~39歳の補正後HRは1.48(95%CI:0.74~2.98)、絶対発症率は1.6(95%CI:1.0~2.6)であった。 mRNA-1273ワクチンを接種した49万8,814例においては、接種日から28日以内に21例が心筋炎/心膜炎を発症し、補正後HRは3.92(95%CI:2.30~6.68)、絶対発症率は4.2(2.6~6.4)であった。女性および男性別の補正後HRは、それぞれ6.33(95%CI:2.11~18.96)、3.22(1.75~5.93)、絶対発症率はそれぞれ2.0(95%CI:0.7~4.8)、6.3(3.6~10.2)であった。12~39歳の補正後HRは5.24(95%CI:2.47~11.12)、絶対発症率は5.7(95%CI:3.3~9.3)であった。

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2021年、がん専門医に読まれた記事は?「Doctors’Picks」ランキング

 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors'Picks」(医師会員限定)は、2021年にがん専門医によく読まれた記事ランキングを発表した。がん横断的なトピックスやCOVID-19とがんに関連する記事のほか、米国腫瘍学会(ASCO)関連の話題が多くランクインしている。【1位】おーちゃん先生のASCO2021肺がん領域・オーラルセッション/Doctors'Picks 6月に行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)。4,500を超える演題から注目すべきものをエキスパート医師がピックアップして紹介。肺がん分野は山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が「CheckMate-9LA試験の2年アップデート」「IMpower130、IMpower132、IMpower150 の免疫関連の有害事象を分析」などを選定した。【2位】がん関連3学会、がん患者への新型コロナワクチン接種のQ&A公開/CareNet.com 3月末、がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)は合同で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A―患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第1版―」を公開した。【3位】ASCO 乳がん 注目演題まとめ(1)オーラル/周術期/Doctors'Picks ASCO注目演題、乳がん分野は寺田 満雄氏(名古屋市立大学)が全オーラル演題をチェックしたうえで注目すべき10演題を選定、サマリーと共に紹介した。【4位】リキッドバイオプシーを用いたがん遺伝子パネル検査が国内で初承認/日経メディカル 3月、中外製薬は血液検体を用いて固形がんに対する包括的ゲノムプロファイリングを行う検査「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」の承認獲得を発表。リキッドバイオプシーを用いたがん遺伝子パネル検査は国内初承認となる。進行固形がん患者を対象に、血液中の循環腫瘍 DNA(ctDNA)を用いて324個のがん関連遺伝子を解析する。【5位】免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象…メカニズムと緩和戦略/Nature Reviews Drug Discovery チェックポイント阻害薬(ICI)治療に関連した免疫関連有害事象(irAE)の発生と、発生を予測するバイオマーカーを特定し、発症を抑制するメカニズムを解説する論文がNature Reviews Drug Discovery誌に掲載された。6~10位は以下のとおり。【6位】ASCO 消化器がん 注目演題まとめ/Doctors'Picks【7位】固形がん患者における新型コロナワクチン接種後の抗体価/Annals of Oncology【8位】がん免疫療法患者に対するCOVID-19ワクチン接種/SITC【9位】IMpower150試験、EGFR陽性・肝/脳メタ解析の最終報告/Journal of Thoracic Oncology【10位】「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」の保険適用を了承/中医協

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大規模屋内ライブ、包括的介入でコロナ感染予防は可能か~無作為化比較試験

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)蔓延防止のため、2020年は多くの屋内で集まるイベントが禁止された。フランスにおけるSPRING研究(Study on Prevention of SARS-CoV-2 Transmission During a Large Indoor Gathering Event)グループでは、大規模な屋内集会イベントで、開催前3日以内の抗原検査、医療用マスクの着用、十分な換気などの包括的な予防的介入を実施した場合、参加者と非参加者の感染率が同等かどうかを非劣性試験で検証した。その結果、イベント参加とSARS-CoV-2感染リスクに関連は認められなかったことをThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2021年11月26日号で報告した。 2020年12月にバルセロナでの屋内ライブで実施された無作為化比較試験では、当日の迅速抗原検査とN95マスク着用が感染を予防するという予備的エビデンスが報告されたが、この試験は参加者数が少なく、またいくつかのロジスティックな問題が起こった。本試験は前向き非盲検無作為化比較試験で、2021年5月29日にパリのAccor Arenaで開催された屋内ライブコンサートにおいて検証した。専用ウェブサイトで募集した試験参加者は、18〜45歳、併存疾患なし、COVID-19症状なし、最近のCOVID-19患者との接触なし、イベント前3日以内の迅速抗原検査で陰性であった。試験参加者を、イベント参加者群と非参加者群(対照群)に2:1の割合で無作為に割り付け、主要評価項目はイベント後7日目に参加者が自己採取した唾液のRT-PCR検査におけるSARS-CoV-2陽性者数(非劣性マージン:0.35%未満)とした(per-protocol population)。 当日は、全員に会場入り口で医療用マスクとペットボトルの水を配布し、手指消毒を実施した。マスクの取り外しは飲用時のみ許可、バーは閉鎖、アルコール飲料は禁止とした。会場の総面積は5万5,000平方メートル、最大収容人数は2万人で、イベント中に入れるのはフロア(1,900平方メートル)のみとし、歌やダンスは許可された。 主な結果は以下のとおり。・2021年5月11日~25日に、専用ウェブサイトで1万8,845人が登録され、事前登録の現地参加者から1万953人が無作為に選ばれた。約束どおり検査を受けた6,968人から、無作為に6,678人が割り付けられた(イベント参加者群4,451人、非参加者群2,227人、年齢中央値28歳、女性59%)。参加者群の88%(3,917人)および非参加者群の87%(1,947人)がフォローアップ要件を順守した。・イベント後7日目のRT-PCRで、参加者群3,917人中8人(発生率:0.20%、95%CI:0.09~0.40)、非参加者群1,947人中3人(発生率:0.15%、95%CI:0.03~0.45)が陽性で、陽性率の絶対差の95%CIは-0.26~0.28%だった。

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ノババックスワクチン、安全性と有効性を確認/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンのNVX-CoV2373(Novavax製)は、COVID-19の予防に関して安全かつ有効であることを、米国・NovavaxのLisa M. Dunkle氏らが、米国およびメキシコで行われた第III相無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。NVX-CoV2373は、英国と南アフリカで行われた第IIb・III相の試験において臨床的効果が示されていたが、北米ではまだ検討が行われていなかった。NVX-CoV2373は、サポニンベースのアジュバントを添加した遺伝子組換えスパイク蛋白ナノ粒子ワクチンで、冷蔵保管(2~8℃)が可能であることから、世界的なワクチン不足に資するワクチンと目されている。NEJM誌オンライン版2021年12月15日号掲載の報告。2021年上旬、米国とメキシコで18歳以上を対象にプラセボ対照無作為化試験 NVX-CoV2373の有効性と安全性を評価する試験は、2021年上旬に、米国113ヵ所、メキシコ6ヵ所の医療拠点で被験者を募り行われた。被験者は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染していない18歳以上の成人(健康または慢性疾患症状が安定している有病者を含む)。 被験者は2対1の割合で無作為に2群に割り付けられ、NVX-CoV2373の2回接種またはプラセボを21日間隔で接種を受けた。 試験の主要目的は、2回接種後7日以降に発症がRT-PCR法で確認されたCOVID-19に対するワクチンの有効性を評価することであった。また、中等症~重症化に対する有効性およびさまざまな変異株への有効性も評価した。有効性は90.4%、中等症~重症化の予防効果は100% 2020年12月27日~2021年2月18日に2万9,949例が無作為化を受け、合計2万9,582例(年齢中央値47歳、65歳以上12.6%)がワクチンの1回以上の接種を受けた(NVX-CoV2373群1万9,714例、プラセボ群9,868例)。 2021年4月19日(約3ヵ月間)まで追跡を受けた有効性に関するper-protocol解析集団2万5,452例において、検査で確認されたCOVID-19の症例は、77例であった。内訳はNVX-CoV2373群14例(1,000人年当たり3.3例[95%信頼区間[CI]:1.6~6.9])、プラセボ群63例(同34.0例[20.7~55.9])であり、ワクチンの有効性は90.4%(95%CI:82.9~94.6、p<0.001)であった。 中等症例は10例、重症例は4例で、全例がプラセボ接種者で認められたものであり、中等症~重症化に対するワクチンの有効性は100%(95%CI:87.0~100)であった。 ゲノム解析で特定されたウイルスの大半(48/61例、79%)が、懸念または注視されている変異株で、なかでも最も多くを占めたのはB.1.1.7(アルファ株)であった(懸念変異株35のうち31、89%)。これら懸念または注視される変異株に対するワクチンの有効性は、92.6%(95%CI:83.6~96.7)であった。 反応原性は、ほとんどが軽度~中等度で一過性のものだった。発現頻度は、NVX-CoV2373群のほうがプラセボ群よりも高く、1回目接種後よりも2回目接種後に多く認められた。

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第92回 英国でもオミクロン株入院リスクが低いと判明

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株感染者の入院リスクはデルタ株感染者に比べて20~25%低いとの英国データ解析結果(Report 50)を同国の大学Imperial College Londonが先週22日水曜日に発表しました1,2)。その入院の定義はPCR検査でのSARS-CoV-2感染(COVID-19)が判明してから14日以内の事故/救急科(Accident and Emergency department;A&E)受診を含む来院記録があることです1)。オミクロン株感染者の1泊以上の入院リスクはより小さく、デルタ株感染者を40~45%下回りました。今月中旬16日の報告(Report 49)の段階ではオミクロン株感染者の入院全般(hospitalisation attendance)や症状のデルタ株との差は認められていませんでした3)。オミクロン株感染者の入院リスクがデルタ株感染者に比べてより低いことは英国政府の保健安全保障庁(UKHSA)の解析でも示されています4)。UKHSAの報告によると今月20日までのイングランドのオミクロン株感染者数は5万6,066人で、そのうち132人が病院で治療(admitted or transferred from emergency department)を受けました。14人がオミクロン株感染判明から28日以内に死亡しました。UKHSAの報告でのオミクロン株感染者の入院リスクはImperial College Londonの解析結果よりどうやらさらに小さく、デルタ株感染者より62%(95%信頼区間では50~70%)低いことが示されました。オミクロン株感染者は救急も含む入院(emergency department attendance or admission)にも至りにくく、デルタ株感染者より38%(95%信頼区間では31~45%)少ないという結果も得られています。オミクロン株感染者の入院リスクが他の変異株感染者に比べて低いらしいことは好ましい兆候だがひとまずの結果であって更なる検討が必要だとUKHSAの長Jenny Harries氏は言っています5)。オミクロン株感染がどうやら軽症らしいのはワクチン接種の普及または先立つ感染で備わった免疫のおかげかもしれません。またはウイルス自体の変化が軽症で済むようにさせている可能性もあります6)。参考1)Report 50 - Hospitalisation risk for Omicron cases in England / Imperial College London2)Some reduction in hospitalisation for Omicron v Delta in England: early analysis / Imperial College London3)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis / Imperial College London4)SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England / UKHSA5)UKHSA publishes updated Omicron hospitalisation and vaccine efficacy analysis / UK Health Security Agency (UKHSA) 6)Omicron cases at much lower risk of hospital admission, UK says / Reuters

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心血管疾患2次予防にインフルエンザワクチンは必要か

 急性冠症候群の治療期間中における早期のインフルエンザワクチン接種によって、12ヵ月後の心血管イベント転帰改善が示唆された。本研究は、スウェーデン・Orebro UniversityのOle Frobert氏らにより欧州心臓病学会(ESC 2021)にて報告された。Circulation誌2021年11月2日号に掲載。 実施された国際多施設共同二重盲検ランダム化比較試験(IAMI trial)は、2016年10月1日~20年3月1日の4シーズンに8ヵ国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ラトビア、英国、チェコ、バングラデシュ、オーストラリア)30施設で参加者を登録。急性心筋梗塞(MI)または高リスクの冠動脈疾患患者を対象に、入院から72時間以内にインフルエンザワクチンまたはプラセボを接種する群に1:1でランダムに割り付けた。 なお、過去12ヵ月間にインフルエンザワクチン接種を受けた者、入院したシーズン中にワクチン接種を受ける意思がある者は除外された。 主な結果は以下のとおり。・試験には2,571例が参加し、ワクチン群1,272例、プラセボ群1,260例に割り付けられた。 ・登録患者の平均年齢は59.9±11.2歳で、女性18.2%、男性81.8%だった。また喫煙者が35.5%含まれ、21.1%が糖尿病を合併していた。両群に有意な差はなかった。・参加者のうち、1,348例(54.5%)がST上昇型心筋梗塞、1,119例(45.2%)が非ST上昇型心筋梗塞、8例(0.3%)が安定冠動脈疾患で入院していた。・主要評価項目である12ヵ月後の全死亡、MI、ステント血栓症の複合発生率は、プラセボ群7.2%(91例)に対し、ワクチン群では5.3%(67例)と有意にリスクが低下した。(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.52~0.99、P=0.040)。・それぞれの発生率について、全死亡はワクチン群2.9%(37例)vs.プラセボ群4.9%(61例)、心血管死はそれぞれ2.7%(34例)vs. 4.5%(56例)で、いずれのリスクもワクチン群で有意に低下した(全死亡のHR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.010/心血管死のHR:0.59、95%CI:0.39~0.90、p=0.014)。・MIの発生率はワクチン群2.0%(25例)vs.プラセボ群2.4%(29例)で両群に有意な差はなかった(HR:0.86、95%CI:0.50~1.46、p=0.57)。 この結果により、研究者らは心血管疾患患者における毎年の季節性インフルエンザワクチン接種の重要性を強調している。 なお、本試験は登録患者4,400例を目標にしていたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、目標の58%が登録された時点(2020年4月7日)でデータ安全監視委員会(DSMB)により早期中止された。

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第83回 診療報酬、人件費増も全体マイナス、医療費は1.35%減

<先週の動き>1.診療報酬、人件費増も全体マイナス、医療費は1.35%減2.ノババックス製ワクチン、WHOが緊急使用許可3.来年度からリフィル処方箋導入へ、具体的ルール策定に進む4.研修医の募集枠、定員上限をさらに縮小へ/厚労省5.後発品医薬品メーカーの相次ぐ不祥事、改善を求める声1.診療報酬、人件費増も全体マイナス、医療費は1.35%減22日、厚生労働大臣と財務相の閣僚折衝が行われた。来年度の診療報酬の改定率は、医師・看護師などの人件費を見込んで本体部分を0.43%増、薬価改定率を医療費ベースで1.35%減とすることで合意した。国費削減額は1,600億円程度。全体では0.94%のマイナスとなった。中川 俊男日本医師会長はこれを受け、「厳しい国家財政の中、必ずしも満足するものではないが、プラス改定となったことについて率直に評価する」と定例記者会見で語った。(参考)令和4年度診療報酬改定率の決定を受けて―中川俊男会長定例記者会見(日医)診療報酬0.94%下げ 医師人件費はプラス―国費1320億円削減・22年度改定(時事通信)資料 診療報酬改定について(厚労省)2.ノババックス製ワクチン、WHOが緊急使用許可世界保健機関(WHO)は21日、米・ノババックス製新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認した。緊急使用が認められたワクチンは10例目。なお、同ワクチンで製造パートナーであるインド・セラム インスティチュート オブ インディアが製造するものは先立って17日に承認されている。本剤は「組み換えタンパクワクチン」に分類され、英国や米国などで行われた試験によると、有効性は90%で、WHOは18歳以上を対象に3~4週間あけて2回の接種を勧めている。冷蔵保管可能なこともあり、COVAXを通じた途上国などへの分配加速につながることが期待されている。(参考)ノババックス製のワクチン、WHOが承認…日本では武田薬品が申請中(読売新聞)WHO 米ノババックス社製ワクチンを緊急使用リストに追加(NHK)3.来年度からリフィル処方箋導入へ、具体的ルール策定に進む厚労省は22日に中医協の総会を開催し、2022年度の診療報酬改定で、一定期間内に一回分の処方箋を繰り返し利用できる「リフィル処方箋」の導入を決めた。これは、今年の6月に閣議決定された骨太方針2021で「症状が安定している患者について、医師及び薬剤師の適切な連携により、医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し、患者の通院負担を軽減する」とされていたもの。厚労省は本方針を踏まえ、「分割調剤の指示、分割調剤に係る処方箋様式の在り方」を論点として提示していた。今後、詳細についてはさらに検討し、来年4月以降の導入に向けて具体的な方針が示される見込み。(参考)処方箋の反復利用可能に 22年度から―診療報酬改定(時事通信)処方箋の反復利用導入へ 政府、医療費の膨張抑制(日経新聞)資料 経済財政運営と改革の基本方針2021(内閣府)4.研修医の募集枠、定員上限をさらに縮小へ/厚労省厚労省は、22日に第2回医道審議会医師分科会医師臨床研修部会を開催した。これまでは国が過去の受け入れ実績などによって研修医の募集枠設定を行っていたが、地域の必要数と募集定員数との乖離が指摘されたため、昨年度に定員の設定権限を都道府県へ移譲している。臨床研修が必修化されて以降、研修医の募集定員が研修希望者の1.3倍を超える規模まで拡大したため、2010年度からは募集定員について上限を設定しているが、近年は縮小の動きがある。2020年度には約1.1倍であり、今後2025年度には約1.05倍まで縮小させる見込み。(参考)資料 都道府県による令和4年度の臨床研修病院の募集定員設定について(厚労省)資料 令和3年度都道府県別募集定員上限について(同)5.後発品医薬品メーカーの相次ぐ不祥事、改善を求める声厚労省は、22日に医薬品等行政評価・監視委員会を開催し、今年はじめに発覚した小林化工の事件をきっかけに相次ぐ後発品メーカーの行政処分について触れた。承認書で規定された内容と異なる方法で製造・出荷するなど薬機法違反により業務停止、業務改善などの処分により、数多くの後発品に欠品が生じている状況を鑑み、無通告立ち入り検査の実施などを行い、適切な品質管理体制を確保し再発防止を図ることを求めた。(参考)資料 後発医薬品等の製造管理及び品質管理について(厚労省)ジェネリック医薬品が相次ぐ欠品 持病の薬が値上げも…背景に何が?(NHK)

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COVID-19退院後の血栓イベント予防に、抗凝固療法が有用/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した高リスク患者において、退院後のリバーロキサバン10mg/日投与は抗凝固療法を行わない場合と比較し35日後の臨床アウトカムを改善することが、無作為化非盲検試験「MICHELLE試験」で示された。ブラジル・Science Valley Research InstituteのEduardo Ramacciotti氏らが報告した。COVID-19で入院した患者は、退院後に血栓イベントのリスクがあるが、この集団における血栓予防の効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2021年12月15日号掲載の報告。退院時にリバーロキサバン10mg/日投与と抗凝固療法なしに無作為化、35日間追跡 研究グループは、ブラジルの14施設において、COVID-19により入院し、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高い患者(VTE予防のための国際登録「IMPROVE」のVTEスコア≧4、または2~3でDダイマー>500ng/mL)を、退院時にリバーロキサバン10mg/日を投与する群(リバーロキサバン群)と抗凝固療法を行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要評価項目は、35日目における症候性または致死性VTE、両側下肢静脈超音波検査およびCT肺血管造影による無症候性VTE、症候性動脈血栓塞栓症、および心血管死の複合とし、盲検下で判定した。安全性の主要評価項目は大出血。いずれもintention-to-treat解析を行った。リバーロキサバン群で血栓イベントリスクが67%低下 2020年10月8日~2021年6月29日の間に997例がスクリーニングされ、このうち適格基準を満たした320例が登録され、リバーロキサバン群(160例、50%)または対照群(160例、50%)に無作為に割り付けられた。 全例、入院中は標準用量のヘパリンによる血栓予防を行った。165例(52%)は入院中に集中治療室に入室しており、197例(62%)はIMPROVEのVTEスコアが2~3のDダイマー高値例、121例(38%)は同スコア≧4であった。2例(各群1例)は、同意を撤回したため追跡調査ができず、解析から除外された。 有効性主要評価項目の複合イベントは、リバーロキサバン群で159例中5例(3%)、対照群で159例中15例(9%)に発生し、相対リスクは0.33(95%信頼区間[CI]:0.12~0.90、p=0.0293)であった。 両群とも大出血は認められなかった。リバーロキサバン群で2例(1%)にアレルギー反応が報告された。

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モデルナワクチン2回接種、変異株ごとの有効性/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンmRNA-1273(Moderna製)の2回接種は、デルタ変異株、ミュー変異株を含む新たに出現した変異株に対して有効性を示し、とくにCOVID-19による入院に対して高い効果が認められることが、米国・カイザーパーマネンテ南カリフォルニア(KPSC、統合型ヘルスケアシスム)のKatia J. Bruxvoort氏らにより報告された。KPSCメンバーの接種者を対象としたtest negativeケースコントロール試験の結果で、これまでmRNA-1273ワクチンの特異的変異株に対する有効性を検討した試験はほとんどなく、今回の試験を行ったという。mRNAベースのCOVID-19ワクチンについてはデルタ変異株への有効性が低く、保護効果の減弱が報告されていた。BMJ誌2021年12月15日号掲載の報告。変異株ごとに感染および入院への有効性を評価 研究グループは、2021年3月1日~7月27日に、全ゲノムシークエンスによるSARS-CoV-2陽性検査または陰性検査を受けた成人KPSCメンバーを対象に、mRNA-1273ワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性を調べ、また接種後の時間経過によるデルタ変異株への有効性を評価した。対象は、検体採取の14日以上前にmRNA-1273ワクチン2回または1回の接種者と、COVID-19ワクチン非接種者とした。 アウトカムにはSARS-CoV-2感染およびCOVID-19による入院を含み、事前規定の各変異株の解析では、年齢、性別、人種/民族、検体採取日で検査陽性例と検査陰性例を1対5の割合でマッチングし、交絡因子を補正したうえで、条件付きロジスティック回帰を用いて症例vs.対照のワクチン接種のオッズ比を算出。ワクチンの有効性は、(1-オッズ比)×100%として算出した。デルタ変異株感染への2回接種の有効性は86.7% 試験には、検査陽性8,153例(症例)が包含された。7,442例(91.3%)がワクチン非接種者で、112例(1.4%)は1回接種者であり、2回接種者は599例(7.3%)であった。また、全ゲノムシークエンスが有効であった検査陽性者は5,186例(63.6%)だった。 5,186例について変異株別にみると、デルタ変異株陽性は2,042例(39.4%)、アルファ変異株1,436例(27.7%)、イプシロン変異株590例(11.4%)、ガンマ変異株357例(6.9%)、イオタ変異株115例(2.2%)、ミュー変異株71例(1.4%)、その他575例(11.1%)であった。2回接種者では、デルタ変異株の陽性が大部分を占めていた(85.0%)。また、2回接種者では、COVID-19による入院(1.8%)はほとんどみられず、院内での死亡(0.0%)はなかった。 2回接種のワクチン有効性は、デルタ変異株の感染に対しては86.7%(95%信頼区間[CI]:84.3~88.7)、アルファ変異株に対しては98.4%(96.9~99.1)、ミュー変異株に対しては90.4%(73.9~96.5)、その他の識別された変異株に対しては96~98%であった。また、非識別の変異株(つまり、シークエンスに失敗した検体)に対しては79.9%(76.9~82.5)であった。 デルタ変異株による入院へのワクチン有効性は97.5%(95%CI:92.7~99.2)だった。デルタ変異株感染へのワクチンの有効性は、ワクチン接種後14~60日で94.1%(90.5~96.3)だったが、ワクチン接種後151~180日で80.0%(70.2~86.6)に低下していた。なお、デルタ以外の変異株では、有効性の減弱はそれほど顕著ではなかった。 デルタ変異株感染へのワクチン有効性は、65歳以上は75.2%(95%CI:59.6~84.8)で、18~64歳の87.9%(85.5~89.9)と比べて低かった。 また、デルタ変異株感染への1回接種のワクチン有効性は、77.0%(95%CI:60.7~86.5)だった。

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経口コロナ治療薬モルヌピラビルを特例承認/厚労省

 厚生労働省は12月24日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する経口抗ウイルス薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル200mg)について、国内における販売を特例承認した。日本における申請者はMSD。重症化リスク因子を有し、軽症~中等症の入院していない18歳以上の患者が投与対象となる。ただし、動物実験において胎児毒性が報告されているため、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しない旨が、モルヌピラビルの添付文書に「禁忌」として明記されている。モルヌピラビルは11月10日、メルクと日本政府との間で約160万回分を提供することですでに合意しており、今回の承認を受け、速やかに提供が開始される見通しだ。新型コロナに特化した経口治療薬の承認はモルヌピラビルが初めてとなる。モルヌピラビルを巡って各国の対応は分かれる モルヌピラビルは、経口投与が可能な強力なリボヌクレオシドアナログで、SARS-CoV-2を含むさまざまなRNAウイルスの複製を阻害する。SARS-CoV-2の予防投与、治療、感染防止などのいくつかの前臨床モデル、またSARS-CoV-1、MERSに対する活性が認められている。 モルヌピラビルを巡っては、12月23日付で米FDAが緊急使用を許可した一方、フランスでは臨床試験の結果に鑑み、政府が購入見送りを決めるなど、判断が分かれている。<製品概要>販売名:ラゲブリオカプセル200mg一般名:モルヌピラビル効能又は効果: SARS-CoV-2 による感染症用法及び用量: 通常、18歳以上の患者には、モルヌピラビルとして1回800mgを1日2回、5日間経口投与する。

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コロナに感染してもワクチン接種していると、コロナ入院リスクも重症化リスクも死亡リスクも低い(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による第5波の後、日本では感染者は激減して、多くの医療機関では今後押し寄せるだろう第6波に向けて、粛々と感染対策の見直しやコロナワクチンのブースター接種の業務を進めていることだろう。日本では水際対策が功を奏しているからかどうかはわからないが、世界で話題になっているSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統、通称オミクロン株の大きな流行は12月中旬現在では認められていない。ただし米国の一部の地域や英国などでは冬になりオミクロン株が猛威を振るっている状況であり、日本でも感染対策の手を緩め過ぎることのないようにされたい。 ファイザー製コロナワクチンBNT162b2の効果としては、最初に95%の発症予防効果(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)が示された。その後もリアルワールドデータが数多く報告され、感染予防効果率:92%、重症化予防効果率:92%、入院予防効果率:87%(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)と多くの臨床的有用性がすでに判明している。さらに12~15歳の若年者での報告においては、BNT162b2コロナワクチンを2回接種後にCOVID-19を発症した症例は1例も認めないという高い有効性や安全性も示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。このような高い有効性を示す新型コロナワクチンであるが、本邦では12月中旬に1回目のワクチン接種完了者が1億人を超え、2回目接種完了者も約9,800万人と、国民の78%がワクチンで守られていることも、現在日本でコロナの状況が落ち着いている1つの要因であろうと考えられる。 ワクチン接種完了者における新規感染を、ワクチン接種を突破して発生した感染であることから「ブレークスルー感染」と一般的に呼称している。ブレークスルー感染を惹起したウイルスの種類は、その国や地域のその時点で流行している背景ウイルスに規定される(山口,田中. CareNet論評-1422)。2020年12月から2021年4月に米国でワクチン接種群と非接種群を比較した研究(Thompson MG, et al. N Engl J Med. 2021;385:320-329.)では、(1)ワクチン2回接種群の感染予防効果は91%(ファイザー製コロナワクチンBNT162b2:93%、モデルナ製コロナワクチンmRNA-1273:82%)、(2)ワクチン接種後のブレークスルー感染におけるウイルスRNA量はワクチン非接種群の感染と比較して40%低く、ウイルス検出期間はワクチン非接種群より66%低下したことが示され、以前の論評で取り上げた。これらの結果からワクチン接種群では、ブレークスルー感染を起こした場合においてもウイルスの病原性はワクチン非接種群よりも低く抑えられ、ワクチン接種の重要な効果の1つと考えている。 また、最近まで世界を席巻していたデルタ株によるブレークスルー感染については、米国CDCが詳細に報告(MMWR 2021;70:1170-1176., MMWR 2021;70:1059-1062.)している。デルタ株に起因するブレークスルー感染の発生率は10万人当たり63.8人(0.06%)、入院率は10万人当たり1人(0.001%)と報告されており、ワクチン未接種者でのそれぞれ0.32%、0.03%と比較して有意に少ないことが示された。 2021年11月に南アフリカでオミクロン株(B.1.1.529系統)が検出され、WHOでも日本でも新しい懸念すべき変異株VOC(variant of concern)として位置付けている。オミクロン株に対するデータはまだ限られているが、ファイザー製コロナワクチンBNT162b2のオミクロン株におけるコロナ発症予防効果が英国から報告(UKHSA publications gateway number GOV-10645.)されている。コロナワクチン接種後24週間後にはワクチンによるコロナ発症予防効果がデルタ株においては約60%程度まで低下してしまうが、オミクロン株では約40%程度にまでさらに低下してしまうことが示されている。ただし、ワクチンのブースター接種によりオミクロン株であったとしても約80%にまで回復していることや、まだ少数例での報告のため今後の大規模な報告や実臨床での検討が待たれるところである。 今回取り上げたTenfordeらが報告した論文は、2021年3月11日~8月15日までに米国21施設で入院した4,513例を解析の対象とした症例コントロール研究である。4,513例中新型コロナ感染で入院した1,983例と他の診断で入院した2,530例が比較検討されているが、コロナ入院症例中84.2%に当たる1,669例が新型コロナワクチン未接種者であった。コロナによる入院はワクチン未接種と有意な関連(補正後オッズ比:0.15)があり、アルファ株であろうがデルタ株であろうが同様の結果であった。また3月14日~7月14日に登録された1,197例においては、28日までの死亡や人工呼吸器管理は、ワクチン接種者の12.0%に比べワクチン未接種者が24.7%と有意な関連(補正後オッズ比:0.33)があり、死亡に限ってもワクチン接種者は6.3%であるのに比べ、未接種者は8.6%と有意に関連(補正後オッズ比:0.41)があった。また本研究では退院までの日数もカプランマイヤー曲線で示されており、免疫抑制状態の症例であろうがなかろうが、高齢者であろうがなかろうが、ワクチン接種群が非接種群に比べて有意に早く回復し退院できていることも重要な結果であろうと考える。 本研究の解析は、ワクチン接種率が37.7%にとどまっている時点での報告である。コロナ感染群におけるワクチン接種済みの症例のブレークスルー感染に該当する症例は、65歳以上の高齢者、心疾患や肺疾患、免疫抑制状態の症例が多く含まれており、逆にコロナ感染者でワクチン未接種者は若年者や基礎疾患のない症例が多く含まれ、ワクチン接種群と未接種群のコロナ感染の比較をしても大きく患者背景が異なっていることを考えて解釈すべきだろう。解析では入院日の違い、年齢や性別、人種差などに関してはロジスティック回帰モデルの要素として取り上げられているが、心臓や肺の基礎疾患を併存する症例に関しては考慮されていない。ワクチン接種したコロナ感染群では心疾患を併存している症例が75.2%含まれているのに対し、ワクチン未接種のコロナ感染群では心疾患を持つ症例が48.8%にとどまっている。一般的なコロナ重症化因子として考えられている心疾患や肺疾患が多く含まれている集団なのにもかかわらず、コロナワクチンを接種していると、重症化リスクの少ない集団でのコロナ感染よりもコロナによる入院・重症化・死亡リスクが少ないということは特筆すべき結果と捉えることができる。 今回の解析はすべて入院症例のデータであり、入院を必要としない軽症者には当てはめることができない。またサンプルサイズの関係で、ワクチンの種類ごとの解析や変異ウイルス別での層別化は困難であることはTenfordeらも懸念しているところである。 現在、日本にも押し寄せるだろうオミクロン株を迎え撃つために、粛々と世の中のワクチン未接種者に対してワクチンの正しい理解を深めるような啓発活動を続けつつ、医療者のブースター接種も進めている状況である。今回ワクチンで守られていない症例群が重症化や死亡リスクに深く関わっていることを勉強したが、今後、オミクロン株に対してもワクチン未接種の危険性やブレークスルー感染での重症度や死亡リスクなどが明らかになると、さらに有効なコロナ対策ができうるものと想像している。

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コロナ最前線のナースの記録【Dr.倉原の“俺の本棚”】第49回

【第49回】コロナ最前線のナースの記録Dr.倉原の“俺の本棚”と書いておきながら、自分の書籍を宣伝するしたたかさ!これじゃあ「俺の本棚」ではなく「俺の本だぜ」になってしまいますね。ケアネット編集長、すいません!『新型コロナ病棟ナース戦記 最前線の現場で起きていたこと』倉原 優/著. メディカ出版. 2021年12月発売いや、これにはワケがあってですね。この本、そもそも私が主人公ではないんですよ。コロナ病棟の最前線にいたのって、私たち医師よりも看護師のほうが多かったんですが、彼ら・彼女らに光が当たらないのをコロナ禍でずーっと見てきたので、どうにか看護職のすばらしさを世に伝える本を出したくて、この本を執筆したわけです。これほどコロナ禍が長く続くなんて、2020年1月には予想すらしていませんでした。長くても1年くらいじゃないかと思っていました。2021年夏頃から、SNSも含め全国津々浦々120人の看護師からヒアリングを行いました。ほとんどがメールかZoomでしたが、15分程度の短いヒアリングでよいですとお伝えしても、やめられない止まらない、1時間話し続けた看護師もいました。抱腹絶倒エピソードから、号泣感動秘話までてんこ盛りに詰め込んだ53コラム、約200ページの力作です。歌舞伎町周辺の夜の街関連の新型コロナでは、「ちょマジかよ」というエピソードもあったのですが、出版規制がかかるレベルで、ボツネタになった話もありました。コロナ病棟では個人防護具(PPE)を着けているから誰が誰だかわからず、先輩に「こっちきてよ」とタメ口で話し掛けてしまった看護師。病棟から棺桶を出すときに、荷物から家族の写真が出てきて「ああ、こんな家族がいたんだな」と涙がこぼれる看護師。笑いと涙がたくさん詰まった1冊になっています。この先、変異ウイルスがどのくらい世界を苦しめるのかはわかりませんが、コロナ禍で汗を流しながら頑張ったすべての看護師に、この本を送りたいと思います。『新型コロナ病棟ナース戦記 最前線の現場で起きていたこと』倉原 優 /著.出版社名メディカ出版定価本体1,800円+税サイズA5判刊行年2021年

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第89回 忘年会シーズンに拡大狙うオミクロン株vs.エビデンス重視の日本人?

「今後、感染拡大というものが急速に進んでいくということも想定すべき状況にある」大阪府で市中感染の可能性が強く疑われる新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株感染者の報告があった12月22日夜、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード開催後の記者会見で、同座長の国立感染症研究所長・脇田 隆字氏はこう発言した。正直、私は何とも微妙な言い回しだと感じている。今回の市中感染が強く疑われる事例は海外渡航歴のない大阪府寝屋川市で働く教員とその妻子と分かっている。たぶんこの中の誰かが感染し、その後家庭内感染につながったのだろうとみられる。さて、私が微妙な言い回しだと敢えて触れたのは脇田氏の発言は「市中感染の発生」は認めているが、「市中感染が広がっている」とは認めていないからである。だが、これまで分かっているオミクロン株の性質から考えれば、もはや市中感染が広がっていると明言しなければならない状況である。まず、オミクロン株の感染力が強いであろうことはほぼ確実である。前述のアドバイザリーボードで、京都大学医学部教授の西浦 博氏が報告している最新のオミクロン株の対デルタ株の実行再生産数倍率は3.19倍。これはデンマークでの11月1日~12月9日の流行実態から算出したものだが、デンマークのこの時期の実効再生産数が1.03~1.58であることから、オミクロン株の実効再生産数はざっくりと言って3~4と考えて良い。そのうえで大阪府の感染状況を考えてみよう。大阪府での最初のオミクロン株感染者が報告されたのは以下の報道によれば12月5日の関西国際空港からの入国事例である。「新型コロナ オミクロン株8人 国内新規感染、関空で初」(毎日新聞)きわめて単純化して、この事例を起点に大阪府に流入したオミクロン株により感染が広がり、そのうちの1人が今回判明した教員だったと仮定しよう。オミクロン株の潜伏期間を5日間、実効再生産数を3~4人として計算すると、大阪府内ではこれまでにオミクロン株感染者が40~85人いることになる。これに加えて22日現在、日本国内で確認されているオミクロン株感染者が160人であることを併せて考えると、大阪府だけでなく日本全体でまだ捕捉できていないオミクロン株感染者がいる、それもかなりの数に上るのはほぼ確実だろう。つまり現下の情勢はどこをどう推定しても、もはや「市中感染が広がっている」とみて間違いないはずだ。むしろ専門家であればあるほど、そう思うのではないだろうか。にもかかわらず、脇田氏がかなり抑制的に発言しているとするならば、それはなぜだろうか?私個人は、脇田氏個人やアドバイザリーボードメンバーの意志と言うよりは「事務方(厚生労働省)が表現を抑えさせている」と推定してしまう。もし、市中感染が広がっていると公言するならば、行政は相当程度の対策を求められるコトになるからだ。ちなみにこれは厚生労働省が実態を「隠ぺい」していると言いたいのではない。公言する以上、それなりの対策を都道府県などにも呼びかけなければならず、そのための根拠、エビデンスが強固なものでなくてはならないからだ。これは時に「石橋を叩いても渡らない」中央官庁の思考様式でもある。もし、これが10月や11月のことならば、私個人はそれほどうるさく言うつもりはない。しかし、今は12月。語源を辿れば僧侶でも走り回る「師走」の皆が忙しい季節だ。そして過去2年の行動制限で人々は鬱屈し、見かけの感染状況は小康状態であるから、忘年会でもパーっとやって羽を伸ばしたい気持ちを持つ人も少なくないはず。つまり人々の気持ちが緩みがちな時期にもかかわらず、オミクロン株による潜行した感染拡大が理論上強く疑われるという極めて危険な状況がまさに今なのである。そう考えれば、本来、政治も行政も専門家もむしろ国民に対して強めのメッセージを発するべき時期ではないだろうか。今こそ目に見えるエビデンスの有無に拘泥すべきではないと思う私は、神経質過ぎるのだろうか? どうしても避けようのない外出で師走の人波を目にしながら、そのようなことを考えている。

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新型コロナ再感染時の重症化リスク/NEJM

 新型コロナウイルスの初感染時と比較した再感染時の重症度について、カタールのNational Study Group for COVID-19 Epidemiologyが全国コホートのデータを用いて評価した。その結果、再感染時の入院/死亡リスクが初感染時に比べて90%低かったことを、Laith J Abu-Raddad氏らがNEJM誌オンライン版2021年11月24日号のCORRESPONDENCEで報告した。 カタールでは、2020年3~6月に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の第1波があり、その後人口の約40%がSARS-CoV-2の抗体を保持していた。その後、2021年1~5月に、B.1.1.7(アルファ株)およびB.1.351(ベータ株)による2つの連続した波が発生した。 本研究は、パンデミック発生以降のすべてのSARS-CoV-2関連データを収集した全国連合データベースを用いた。ワクチン接種記録のある8万7,547人を除外し、2020年2月28日~2021年4月28日にPCR検査で感染が確認された35万3,326人において、再感染による「重症」(急性期入院につながる)、「重篤」(ICU入院につながる)、「致死的」のリスクを調査し、初感染と比較した。再感染者を性別、年齢層(5歳ごと)、国籍、PCR検査日の暦週に応じて、1:5の割合で初感染者とマッチさせた。重症度分類(重症、重篤、致死的)は世界保健機関のガイドラインに従い、訓練を受けた医療関係者が評価した。 主な結果は以下のとおり。・特定された再感染1,304例のうち、413例(31.7%)はベータ株、57例(4.4%)はアルファ株、213例(16.3%)は野生型で、621例(47.6%)は不明だった。・初感染から再感染までの期間の中央値は277日(四分位範囲:179〜315)だった。・再感染時の「重篤」のオッズは、初感染時の0.12倍(95%信頼区間[CI]:0.03〜0.31)だった。「重篤」は初感染時は28例、再感染時はゼロで、オッズ比が0.00(95%CI:0.00〜0.64)だった。・COVID-19により死亡したのは、初感染時は7例、再感染時はゼロで、オッズ比は0.00(95%CI:0.00〜2.57)だった。・再感染時の「重症」「重篤」「致死的」の複合アウトカムのオッズは、初感染時の0.10倍(95%CI:0.03〜0.25)だった。・再感染時の入院/死亡リスクは初感染時よりも90%低かった。急性期入院した重症例は4例、ICUへの入院、死亡例はゼロだった。

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試験継続率向上に、クリスマスカード送付は有効?/BMJ

 無作為化比較試験の参加者へクリスマスカードを送っても、試験継続率は増加しなかったが、複数の無作為化比較試験内で同時に研究を行うstudy within a trial(SWAT)の実施は可能であることが示唆された。英国・ヨーク大学のElizabeth Coleman氏らが、幅広い領域の8つの主試験で同時に実施した“無作為化SWAT”の結果を報告した。多くの試験継続戦略が有効性のエビデンスなく使用されていることを受けて、著者は「研究の無駄を避け有効な戦略を確認するため、エビデンスに基づく戦略の評価が必要だ」と今回の検討の意義を述べている。BMJ誌2021年12月14日号クリスマス特集号の「TRADING PLACES」より。8つの無作為化試験で、参加者をクリスマスカード送付群と非送付群に無作為化 研究グループは、整形外科、消化器外科、泌尿器科、歯科、禁煙などさまざまな領域の無作為化試験8件において、これら主試験の参加者を、クリスマスカード送付群と非送付群に1対1の割合で無作為に割り付けた(各主試験が個別に割り付けを実施し、参加者は盲検化された)。 8試験は、「腹腔鏡下胆嚢摘出術と観察/保存的管理の比較」「妊娠中の禁煙支援に関するインセンティブの比較」「デュピュイトラン拘縮に対するコラゲナーゼ注射と手術の比較」「難治性膀胱症状を有する女性の管理における包括的臨床検査と侵襲的な尿流動態検査併用との比較」「65歳以上の上腕骨近位部骨折患者における3種類の手術の比較」「腎下極結石に対する経皮的腎砕石術、体外衝撃波結石破砕術および軟性尿管鏡下レーザー砕石術の比較」「高リスク高齢者における虫歯の予防・治療のためのフッ素入り歯磨き粉処方と通常ケアの比較」「術後創の二次治癒に対する陰圧閉鎖療法とドレッシングの比較」。 主要評価項目は、主試験における次回の追跡調査を完了した参加者の割合(試験継続率)、副次評価項目は追跡調査完了までの期間、カード送付1枚当たりの介入費用(人件費、印刷・郵送費など)とした。 2019年12月に、主試験8件において計3,223例が無作為化され、2020年3月31日までに追跡調査が行われた1,469例が解析対象となった。当初、試験期間は2020年12月までであったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行のため早期中止となった。クリスマスカード送付、試験継続戦略としての効果は認められず 解析対象1,469例の患者背景は、年齢16~94歳、女性が70%(1,033例)、白人が96%であった。 試験継続率は、主試験ごとの個別解析および統合解析のいずれにおいても、クリスマスカード送付群と非送付群で差は認められなかった。統合解析での試験継続率は、送付群85.3%(639/749例)、非送付群85.4%(615/720例)、オッズ比[OR]は0.96(95%信頼区間[CI]:0.71~1.29、p=0.77)であった。 クリスマスカード受領後30日以内に追跡調査がある参加者を比較した場合でも、両群間で差はなかった(OR:0.96、95%CI:0.42~2.21)。追跡調査完了までの期間も、群間差は確認されなかった(ハザード比[HR]:1.01、95%CI:0.91~1.13、p=0.80)。これらは、事後感度解析でも同様の結果が得られた。 介入費用は参加者1例当たり0.76ポンド(0.91ユーロ、1.02ドル)、カーボンフットプリントではカード1枚当たり約140gのCO2(二酸化炭素)排出量に相当した。

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オミクロン株時代における未成年者に対するRNAワクチン接種の意義は?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本邦にあっては、2022年4月1日をもって民法第4条で定められた成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それ故、2022年4月以降、他の多くの先進国と同様に本邦においても18歳未満を未成年者と定義することになる。未成年者の内訳は複雑で種々の言葉が使用されるが、児童福祉法第4条と旅客及び荷物運送規則第9条の定義に従えば、1歳未満は乳児、1~6歳未満は幼児、6~12歳未満(小学生)は小児、6~18歳未満(小学生、中学生、高校生)は包括的に児童と呼称される。しかしながら、12~18歳未満(中学生、高校生)に該当する名称は定義されていない。未成年者に対するRNAワクチンの海外治験は生後6ヵ月以上の乳児を含めた対象に対して施行されている。これらの海外治験では、本邦の幼児、小児の定義とは少し異なり5歳児は小児として取り扱われている。そこで、本論評では、海外治験の結果を正しく解釈するため、5~12歳未満を小児、12~18歳未満を(狭義の)児童と定義し、オミクロン株時代におけるこれらの世代に対するRNAワクチン2回接種ならびに3回目Booster接種の意義について考察する。小児、児童に対するRNAワクチン2回接種の予防効果 Pfizer社のBNT162b2(コミナティ筋注)の12~16歳未満の児童に対する感染予防効果は米国においてD614G株とAlpha株が混在した時期(2020年10月15日~2021年1月12日)に検証された(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。接種量、接種間隔は16歳以上の治験の場合と同様に30μg筋注、21日間隔2回接種であった。結果は、2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価が16~25歳の思春期層での値に対して1.76倍であった(非劣性)。感染予防効果も100%と高い値が報告された。 BNT162b2の5~12歳未満の小児に対する治験は米国を中心に世界4ヵ国で施行された(Walter EB, et al. N Engl J Med. 2021 Nov 9. [Epub ahead of print])。治験施行時期は2021年6月7日~9月6日であり背景ウイルスはDelta株が中心の時期であった。ワクチン接種量は12歳以上の場合と異なり1回10μgの筋注(接種間隔は21日)であった。2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価は思春期層で得られた値の1.04倍であった(非劣性)。感染予防効果は90.7%であり、心筋炎、心膜炎などの特異的副反応を認めなかった。 Moderna社のmRNA-1273(スパイクバックス筋注)の12~18歳未満の児童に対する感染/発症予防効果は背景ウイルスとしてAlpha株が主流を占めた2020年12月9日~2021年2月28日の期間に米国で観察された(Teen COVE Trial)(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021;385:2241-2251.)。ワクチン接種は成人と同量の100μg筋注が28日間隔で2回接種された。児童の中和抗体価は思春期層の1.08倍であり(非劣性)、有症候性の感染予防効果(発症予防)は93.3%でBNT162b2と同様に非常に高い有効性が示された。 6~12歳未満の小児に対するmRNA-1273の有効性は50μg筋注(成人量の半量)を28日間隔で2回接種する方法で検証された(Kid COVE Trial)。結果は正式論文として発表されていないがModerna社のPress Releaseによるとワクチン2回接種後の小児の中和抗体価は思春期層の1.5倍であった(非劣性)(Moderna Press Release. 2021年10月25日)。 以上の小児、児童におけるワクチン接種による中和抗体価と予防効果は2回目接種後2~3ヵ月以内のものであり、中和抗体価、予防効果の最大値を示すものと考えなければならない。今後、小児、児童にあっても接種後の時間経過によって中和抗体価、予防効果がどのように変化するかを検証しなければならない。オミクロン株感染の疫学、遺伝子変異、臨床的特徴 2021年11月9日に南アフリカ共和国において初めてオミクロン株(B.1.1.529)が検出されて以来、この新型変異株はアフリカ南部の国々を中心に世界的播種が始まっている。WHOは、11月26日、この新たな変異株をVOC(Variants of Concern)の一つに分類し、近い将来、Delta株を凌駕する新たな変異株として警戒を強めている(WHO TAG-VE. 2021年11月26日)。南アフリカ共和国では第1例検出からわずか1ヵ月の間にオミクロン株はDelta株を中心とする従来の変異株を凌駕する勢いで増加している(CoVarints.org and GISAID. 2021年12月10日)。南アフリカ共和国での感染発生初期の感染者数倍加速度(Doubling time)はDelta株で1.9日であったのに対しオミクロン株では1.5日に短縮されていた(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。12月14日、WHOはアフリカ南部、欧州、北米、南米、東アジア、豪州に位置する世界76ヵ国でオミクロン株が検出されていることを報告した(WHO COVID-19 Weekly Epidemiological Update. 2021年12月14日)。米国では、12月1日にオミクロン感染第1例が報告されて以来、海外からの旅行者以外に市中感染例も認めている。米国CDCは12月8日までに集積された43名のオミクロン株感染者の疫学的特徴を報告しているが、感染者のうち20名(46.5%)は米国が承認しているワクチンの2回接種を、14名(32.6%)はワクチンの3回目Booster接種を終了していたという驚愕の事実が浮かび上がっている(CDC. MMWR Early release vol. 70. 2021年12月10日)。すなわち、オミクロン株感染者の79%までがワクチン接種者であり、Breakthrough infection(BI)あるいはDecreased humoral immune response-related infection(DHIRI)が非常に高い確率で発生していることを示唆した。BI、DHIRIは初感染者のみならず再感染者の数を増加させる。この原因は、下述したごとく、オミクロン株が有する高度の液性免疫回避変異のためにワクチン接種後の中和抗体価の上昇が従来の変異株に較べて有意に抑制されているためである。 本邦では、12月15日までに空港検疫において海外渡航者32名にオミクロン株感染が確認されている(国立感染症研究所. 2021年12月15日)。これらの症例のうち入院した16名にあって1歳未満の1名を除く15名全員がワクチン2回接種を終了していた。感染と経済の両立を考えた場合、海外渡航者を永久に締め出すことはできず医療体制が整った所で水際での“鎖国”を緩和していかなければならない。それ故、2022年の冬場から春にかけて欧州、米国などに遅れること数ヵ月で本邦でもオミクロン株の本格的播種が始まるものと覚悟しておかなければならない。この場合、オミクロン株の単独播種以外にDelta株との共存播種の可能性も念頭に置く必要がある。 オミクロン株は今までの変異株に較べ多彩な遺伝子変異を有することが判明しており、ウイルス全長での遺伝子変異は45~52個、S蛋白での遺伝子変異は26~32個と想定されている(WHO Enhancing Readiness for Omicron. 2021年11月28日)。オミクロン株ではウイルスの生体細胞への侵入を規定するS1、S2領域に従来の変異株よりも多い5種類以上の変異が確認されている(N501Y、Q498R、H655Y、N679K、P681Hなど)(米国CDC Science Brief. 2021年12月16日)。これらの変異の結果、オミクロン株の感染性/播種性はDelta株を含めた従来の変異株をはるかに凌駕する。 オミクロン株にあっては、液性免疫回避を惹起するReceptor binding domain(RBD)の複数個の遺伝子変異が報告されており、特に重要な変異はK417N、T478K、E484Aの3つである。417、484位の変異はBeta株、Gamma株にも認められ、478位の変異はDelta株でも確認されているが、Delta株を特徴づける452位の変異はオミクロン株では存在しない。いずれにしろ、従来の変異株よりも多い液性免疫回避変異の結果、オミクロン株はワクチン、Monoclonal抗体薬に対して高い抵抗性を示し、オミクロン株感染におけるBI、DHIRIの発生機序として作用する。 コロナ感染症の重症化(入院/死亡)は主としてCD8-T細胞に由来する細胞性免疫の賦活によって規定される(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。T細胞性免疫の発現に関与するウイルス全長に存在するEpitope(抗原決定基)数は500以上であり(Tarke AT, et al. bioRxiv. 2021;433180.)、遺伝子変異の数が多いオミクロン株(45~52ヵ所)でもCD8-T細胞反応を惹起するEpitopeの78%は維持されている(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE 2021年12月8日)。ウイルスに感染した細胞は賦活化されたCD8-T細胞によって処理され、その後の免疫過剰反応の発現を抑制する。細胞性免疫は液性免疫とは異なり変異株の種類によらず少なくとも8ヵ月以上は維持される(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021;385:951-953.)。それ故、オミクロン株感染においても有意な細胞性免疫回避は発生せず重症化が従来の変異株感染時を大きく上回ることはない。以上の遺伝子学的事実より、オミクロン株時代における現状ワクチンの第一義的接種意義は”感染予防”から”重症化予防”にシフトしていることを理解しておくべきである。オミクロン株時代にあって未成年者全員にワクチン接種は必要か? ワクチン接種後の中和抗体価に代表される液性免疫とそれに規定される感染予防効果が2回接種後の時間経過に伴い低下することが明らかにされた結果(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021;385:e84. , Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021;385:e83.)、Delta株抑制を目的としてRNAワクチンの3回目Booster接種が世界各国で開始されている。イスラエルの解析ではBNT162b2の2回接種後に比べ3回目接種後(2回目接種から5ヵ月以上経過)のDelta株に対する感染予防効果は8.3倍、重症化(入院/死亡)予防効果は12.5倍と著明に上昇することが報告された(Barda M, et al. Lancet. 2021;398:2093-2100.)。しかしながら、3回目接種以降の経過観察期間は2ヵ月にも満たず、3回目ワクチン接種の効果がどの程度持続するかは不明である。さらに、これらの観察結果は現在問題となりつつあるオミクロン株を対象としたものでないためReal-Worldでの意義は不明である。 Pfizer社の記者会見によると、BNT162b2の2回接種後のオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/25まで低下したものの3回目接種によってオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/2まで回復した(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE, 2021年12月8日)。一方、英国での暫定的検討によると、BNT162b2の2回接種4~6ヵ月後のオミクロン株に対する発症予防効果は35%と低いが3回目Booster接種2週後には75.5%まで上昇した(UKHSA Technical Briefing 31)。ただし、3回目Booster接種によって底上げされたオミクロン株に対する発症予防効果がどの程度の期間持続するかは解析されていない。また、重症化予防効果についても解析されていない。 米国FDAはDelta株感染の拡大を阻止するために16歳以上の年齢層に対するBNT162b2の3回目Booster接種を認可している(Moderna社のmRNA-1273のBooster接種は18歳以上)。本邦でも18歳以上の成人に対するBNT162b2、mRNA-1273の3回目Booster接種が特例承認され、12月初旬より医療従事者からBNT162b2を用いた3回目Booster接種が開始されている。では、オミクロン株時代に、18歳未満の未成年者(児童、小児、幼児、乳児)に対してはいかなるワクチン政策を導入すべきなのであろうか? 現状では、海外治験によって、オミクロン株ではないが従来の変異株に対する児童、小児におけるワクチン2回接種の効果が報告されている。幼児、乳児におけるワクチン接種に関しては現在Pfizer社、Moderna社主導で治験が進行中である。未成年者におけるコロナ感染症の71%までは家族内感染、幼稚園/保育所/学校/塾での感染が12%と報告されている(日本小児学会 デ-タベ-スを用いた国内発症小児COVID-19症例の臨床経過に関する検討)。未成年者がオミクロン株に感染しても重症化する可能性は低いが児童、小児にあっては家から離れた学校などで感染する機会が存在する。それ故、オミクロン株時代にあっても少なくとも2回のワクチン接種を、また、必要に応じて3回目以降のBooster接種を考慮すべきであろう(米国は、10月29日、5歳以上の小児に対するPfizer社ワクチン10μgの2回接種を認可)。一方、幼児、乳児に関しては、彼らに対する直接的ワクチン接種を考える前に親/年長の家族ならびに保育所職員など大人に対する3回目のBooster接種を含めたオミクロン株感染予防対策を徹底すべきであろう。

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第89回 コロナ検査費の大幅引き下げで医療機関の撤退、検査体制弱体化の懸念

年末年始の宴会や帰省ラッシュなどで人の動きが活発になり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)変異株「オミクロン株」の感染急拡大が懸念される中、政府は12月17日、「予防・検査・早期治療」の3本柱による包括強化策を発表した。検査の体制強化に関しては、ワクチン接種を受けられない人を対象に、全都道府県で予約不要の無料検査を実施できる準備を進めている。一方で、突然ともいえる検査費の大幅引き下げが提案され、医療現場からは反発の声が上がっている。中医協での了承から実施まで1ヵ月弱の拙速さ12月8日の厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)で突然、「新型コロナウイルス感染症の検査に係る保険収載価格の見直し」が提案された。これに先立つ11月12日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部において、検査について「実勢価格を踏まえて保険収載価格の検証を行い、その結果を踏まえて、年内を目途に必要な見直しを行う」との決定が行われていた。これを受け厚労省は「検査の価格の見直しについては、通常、診療報酬改定時(令和4年4月1日)であるが、本件については、政府方針を踏まえ、臨時的に本年12月31日に前倒しして引き下げを行う」として、検査の点数を12月31日から大幅に引き下げる案を提示、中医協で了承されたというわけだ。引き下げ案は以下の通りである。核酸検出(PCR)検査(委託)/現行1,800点→見直し(案)700点核酸検出(PCR)検査(委託以外)/現行1,350点→見直し(案)700点抗原検出検査(定性)/現行600点→見直し(案)300点抗原検出検査(定量)/現行600点→見直し(案)560点※「核酸検出(PCR)検査(委託)」については、激変緩和のための経過措置として、令和3年12月31日から令和4年3月31日まで1,350点とし、感染状況や医療機関での実施状況を踏まえた上で、令和4年4月1日に700点とする。諸経費を考えると逆ザヤになる医療機関も12月8日の中医協で出された改定案を31日から実施というのは、あまりに拙速ではないか。PCR検査を外部委託する場合は、来年4月1日までの経過措置が設けられたが、それ以外には経過措置がない。このような決定に対し、大阪府保険医協会は12月17日に発表した緊急談話で、「保健所での検査体制が追い付かない中、日常診療との調整をしながら検査を行ってきた診療・検査医療機関が果たしている役割は非常に大きく、そうした医療機関に対して鞭打つ政策は容認できない。現に、PCR検査を行っている医療機関にとっては特に負担の大きい改定」と批判した。会員からは「試薬を6千円程度ですでに仕入れてしまい、諸経費を考えると逆ザヤになって困っている」など、怒りや戸惑いの声が寄せられているという。検査医療機関からは救済策を求める声今回の期中改定は、地域医療を担うためにCOVID-19検査を拡充してきた医療機関の“梯子を外す”ものと言える。協会は緊急談話の中で、「検査にかかるコスト(試薬やキットなどの材料費、検査時のPPE、および検査に伴うリスク)に見合わない、このような大幅な点数引き下げにより、検査から撤退する医療機関が増えることは必至」と指摘。コロナ禍が収束していない中で、検査体制の弱体化に繋がることが危惧され、第6波に備えて十分な検査体制が求められていることとも逆行する。経過措置が委託のみに設けられている点も大きな問題だ。第6波に備えて検査体制を進めた医療機関が、大きな損害を被ってしまうことは絶対避けるべきだ。協会は、委託以外の医療機関についても何らかの救済策を講じるよう強く求めている。

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医療機関でのブレークスルー感染事例の共通点は/感染研

 国立感染症研究所は、12月16日に同研究所のホームページで「ブレイクスルー感染者を含む医療機関、福祉施設などでのクラスター調査から得られた知見(簡略版)」を公開した。オミクロン株の拡大が懸念されている現在、クラスター抑止の観点からも参考にしていただきたい。11のブレークスルー感染事例で共通した事項とは 今回公開された知見は、2021年8月以降、医療施設や福祉施設などにおいて、ワクチン接種後一定の期間を経過した者のうち、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患する、いわゆるブレークスルー感染者を多数含むクラスターが報告されるようになったことに鑑み、「ブレークスルー感染者を多数含む複数の国内各地で発生したクラスターの各調査結果(計11事例)から得られた、共通すると思われる代表的な所見、および共通する対策に関する提案について、迅速性に重きを置いた形で簡略に紹介する」としている。 また、基となった調査における陽性者の全検体の遺伝子情報は分析されていないが、分析されたウイルスについてはすべてデルタ株であったこと、この11事例全体を通して、2回目の接種日から発症までの週数の中央値は、職員については17.1週(範囲5.1-22.6週)、入所者・入院患者については7.3週(範囲0.1-19.6週)だったことも触れられている。【代表的な所見】・集団として高いワクチン接種率を達成していても、COVID-19陽性者が集団に入り込むと、濃厚な接触を必要とする介護度の高い方、マスク着用、手指衛生などが実施できないご高齢な方、またそのような方たちを介護する職員を中心に感染伝播が起こっていた。・施設におけるブレークスルー感染者を含むクラスターの発生前、発生中にその施設周辺地域においてCOVID-19の流行が認められていた。・ワクチン既接種者が感染した場合の症状は軽度であり、健康観察(特に37.5℃以上の発熱)が十分に行われていても検査に至らなかったケースが多く、事例の探知が遅れた。そのため、真の発端例の特定やウイルスの侵入経路については不明な場合が多かった。・陽性者数が多くても、これまでのクラスターと比較し、収束までの期間が短縮化されていた。・ワクチン接種以前のクラスターでは重症化していたと思われる方たち(高齢者、基礎疾患を有する方など)も比較的軽症で改善していた。ただし、経時的にブレークスルー感染事例における重症度が変動していく可能性はあり、今後も厳重に監視していく必要がある。【共通する対策に関する提案】・職員や患者、入所者のワクチン接種歴を把握し、未接種者に対してはワクチンの効果、安全性、副反応等を十分説明し、接種について再度働きかけていただく。・ワクチン接種の有無にかかわらず、COVID-19の感染経路に基づいた適切な予防法、消毒法について、特に医療従事者や施設職員は正しく実践する。・ブレークスルー感染者の症状は軽症であることが多いため、健康管理(観察と記録)の強化とともに、軽症(発熱なく上気道症状のみなど)でも申告すること、感染リスクの高い行動などを避けること、などCOVID-19予防策について今一度周知徹底していただく。・ブレークスルー感染における重症度の推移については厳重に監視していく。

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新型コロナ予防接種実施の手引き(6版)を公開/厚労省

 厚生労働省は、12月17日に全国の市町村に「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(6版)」を発出するとともに、同省のホームページでも公開した。本手引きは2020年12月17日の初版以来、十数回の更新を行い、その時どきの臨床知見、行政施策を反映した内容に改訂されている。 今回の改訂では、武田/モデルナ社ワクチンに関する記述、他施設へのワクチンの融通、ワクチンの移送に関する記述が大幅に追加された。主な改訂点【第4章2(5)ア(エ) ファイザー社ワクチンをシリンジに充填して移送する場合の留意点について追記】在宅療養患者等に対して在宅において接種を行う場合は、希釈したファイザー社ワクチンをシリンジに充填した状態で移送することを可能としているが、以下の点に留意すること。・シリンジの充填作業は1ヵ所で行うこと。・ワクチンを充填したシリンジは、添付文書の記載に従い、2~30℃で管理し、揺らさないよう慎重に取り扱うとともに、直射日光および紫外線が当たらないようにすること。・希釈後は6時間以内に使用すること。・シリンジに充填した状態のワクチンを他施設へ融通しないこと。【第4章2(5)イ 武田/モデルナ社ワクチンの移送に関する温度の要件等について、修正】【第4章2(6) ワクチンを別の接種施設へ融通する場合の留意事項について、武田/モデルナ社ワクチンを追加】原則、直接配送を受ける接種実施医療機関などにおいて接種を行うこととしているとしながらも、「地域の実情やワクチンの保管期限を踏まえ、ファイザー社ワクチンおよび武田/モデルナ社ワクチンについては、直接配送を受ける接種実施医療機関などから他の医療機関に対してワクチンを分配することができる。さらに、再融通も可能であることから、直接配送を受けない接種実施医療機関などからさらに別の医療機関などに対してワクチンの分配を行うことができる」とした。別接種施設へ融通する場合の留意事項は以下のとおり。・移送先施設は、原則としてワクチンの分配を受ける移送元施設と同一市町村内に所在すること。・ワクチンの管理の観点から、専任の担当者を配置して管理を厳格に行う場合には、1ヵ所の移送元施設に対する移送先施設の箇所数は、地域の実情に応じて定めることができる。それ以外の場合は、1ヵ所の移送元施設に対する移送先施設の箇所数は、数ヵ所までを目安とする。・管理体制とワクチンの効率的使用の両面から、大規模な自治体においては接種施設1ヵか所当たりの人口が数千人を下回らないことが望ましい。ただし、高齢者施設入所者への接種や離島・へき地での接種に必要な場合については、この限りでない。・移送先施設の施設数が増えると、端数になりうるワクチンの総量が増える可能性があるため、必要なタイミングで必要数を送る、配送の頻度を高く保ち使用量が見込みと異なった場合は次回の移送量を調整するなど、移送先でのワクチンの余剰を最小化すること。・移送先施設などは、あらかじめ移送元施設とワクチンの分配について合意すること。・ワクチンの分配を受ける移送元施設を変更することは、一定の条件の下で可能であるが、一時点において、複数の移送元施設からワクチンの分配を受けることはできない。・ワクチンの移送に要する時間は原則3時間以内とし、一定の要件を満たす保冷バッグを用いて移送を行うこと(離島などの特殊な事情がある場合でも12時間を超えることはできない)。なお、国が提供する保冷バッグを用いて、途中で開閉して移送する場合は、離島などの特殊な事情がある場合でも、保冷バッグの仕様上、6時間を超えて移送することはできない。【第4章3(8) 同一医療機関などにおいて複数種類の新型コロナワクチンを取り扱う際の留意点について追記】【第4章3(11)、第5章1(3)、3(4)イ(ウ) コビシールドについて追記】【第4章3(19)、第5章3(3) 接種券が届いていない追加接種対象者に対して接種を実施する場合の例外的な取扱いについて追記】接種券を保有していない者に接種する場合は、例えば、本人確認書類などで、氏名、生年月日、住民票上の住所、連絡先などの情報を記録しておくといった工夫を行う。なお、追加接種において、接種券が届いていない追加接種対象者に対して接種を実施する場合の例外的な取扱いについては、「第5章3(3)ア 接種を実施する際の注意点」を参照すること。【第4章9 予防接種証明書の電子交付が開始になったことに伴い修正】【第5章1(4) 使用するワクチンの種類に武田/モデルナ社ワクチンを追加】【第7章2(2) 武田/モデルナ社ワクチンの追加接種について追記】 詳細は本手引きを参照いただきたい。なお、本手引きの内容は、「今後の検討状況により随時追記していくものであり、内容を変更する可能性もある」と注意を述べている。

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第89回 がんが大変だ!線虫がん検査に疑念報道、垣間見えた“がんリスク検査”の闇(後編)

大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暮も押し迫ってまいりました。週末は大掃除の合間を縫って、東京・新宿の紀伊国屋ホールに演劇を観に行ってきました。演出家、横内 謙介氏が主催する劇団扉座の創立40周年記念公演、「ホテルカリフォルニア」です。最近、テレビでもよく見るようになった六角 精児氏が所属する劇団で、演目はカリフォルニアとはほぼ無関係、横内氏や六角氏らが卒業した神奈川県立厚木高校を舞台とした、1970年代後半の高校生を描いた青春群像劇です。60歳前後となった劇団員が真面目に高校生を演じるのがバカバカしく、笑えました。個人的には、劇中劇として一瞬演じられた、つかこうへい氏の代表作「熱海殺人事件」の場面がオリジナルかと見紛うほどの完コピぶりに感心しました。横内氏のつか氏への深いリスペクトが伝わってきました。さて、先週に続き今週もがんの検査について書いてみたいと思います。前回書いたように、日本のがん検診は今、深刻な状況に置かれています。そんな中、週刊文春12月16日号が、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE (エヌノーズ)」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道、医療界のみならず、大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃を与えています(同社のCMに出ている、ニュースキャスター・東山 紀之氏も驚いたことでしょう)。線虫ががん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用「N-NOSE」は九州大学助教だった広津 崇亮氏が設立したHIROTSUバイオサイエンスが2020年1月に実用化したがんのリスク判定の検査です。がんの「診断」ではなく「リスク判定」と言っている点が、この検査の一つの肝とも言えます。「N-NOSE」は、すぐれた嗅覚を有する線虫(Caenorhabditis elegans)が、がん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用、わずかな量の尿で15種類のがんのリスクを判定する、というものです。これまでに約10万人が検査を受けているとのことです。健康保険適用外で、料金は検体の回収拠点を利用した場合で1万2,500円(税込)です。事業スタート当初は同社と契約した医療機関で検査受付を行っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に、利用者に直接検査キットを送り、検体を運送業者に回収してもらうか拠点に持ち込むシステムが中心となっています。最近の報道では、今年10月、九州各地にこの持ち込み拠点を増設したそうです。また、同社は11月に記者会見を開き、膵がんの疑いがあるかどうかを調べる手法を開発したと発表しています。カウンターを使って手作業で線虫の数をカウント週刊文春の報道では、線虫がん検査で「がんではない」と判定された女性で乳がんが見つかったケースなど、同検査で陰性でもがんと診断される患者が何人もいた事実を紹介、その上で検査方法や、同社が公表している感度(がんのある者を陽性と正しく判定する割合)、特異度(がんのない者を陰性と正しく判定する割合)の信憑性に疑問を投げかけています。検査方法について同誌は、「寒天を敷いたシャーレの左側に薄めた尿を置き、真ん中に線虫を50匹程度置く。するとがん患者の尿には線虫がよってくとされる。(中略)検査員がカウンターを使って手作業で線虫の数をカウント。左右に分かれた線虫の数を比べ、がんか否かの判定をする」と書いています。私も知らなかったのですが、「手作業」とは驚きです(最近、オートメーション化が始まったそうです)。同社のホームページや同社を紹介するさまざまなメディア報道では、線虫の集団ががん患者の尿に集まっている写真がよく使われていますが、週刊文春は「『こんなにはっきりと分かれるのをみたことがない』、こう断言するのは、H社(同社)の社員だ」と書いています。「20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分しかがん患者と特定できず」さらに同誌は、ある医療機関から提供された尿検体の実験で「線虫が50匹の場合、左右に分かれた線虫の差は、300回以上行われた検査の中で、1回を除き10匹以下」であった事実や、ブラインド(がんかどうか結果がわからない状態)で検査した場合、「感度は90%だったが、(中略)特異度はわずか10%だ」とも指摘、「ある検査員が健常者の尿をブラインドで検査した場合は陽性と出たが、非ブラインドで同じ尿を検査すると健康であるという判定もされている」という元社員の声も紹介しています。極めつけは、「陽性率もコントロールしている。今年1月に作成された『判定ルール』を見てみると、<陽性率15%以内>との記載がある」として、倉敷市の病院が20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分、15%しかがん患者と特定できなかったと伝えている点です。17人のがんが見過ごされていたことになります。それが事実とするなら、がんの診断ではなくリスク判定とは言え、医療に使う以前の問題と言えそうです。線虫がん検査に3つの疑問ということで、「N-NOSE」という線虫がん検査について、医学的な側面から疑問点を少し整理してみました。1)検査と言えるレベルのものなのか?臨床検査には、「分析学的妥当性」「臨床的妥当性」「臨床的有用性」という3つの評価基準があります。分析学的妥当性とは、検査法が確立しており、再現性の高い結果が得られることを言います。「N-NOSE」の場合、週刊文春報道を読む限り、分析学的妥当性があるとは思えません。そもそも、線虫が尿の中の何の成分に反応してがんを嗅ぎ分けているのか、HIROTSUバイオサイエンスは公表していません。ひょっとしたら、彼らもわかっていないのかもしれません。これでは第三者が再現することができず、分析学的妥当性を評価できません。臨床的妥当性とは、検査結果の意味付けがしっかりとなされているかどうかです。「N-NOSE」で言えば、「線虫が何匹集まった場合に、がんである可能性は何%〜何%である」という評価法が確立していて、その検査をやる意義があるということです。しかし、そもそも分析的妥当性も曖昧なのに、臨床的妥当性を求めるのは酷と言えるかもしれません。2)臨床的に役に立つものなのか?最後の臨床的有用性は、その検査の結果によって「今後の疾患の見通しについて情報が得られる」「適切な予防法や治療法に結び付けることができる」など、臨床上のメリットがあることを指します。「N-NOSE」について言えば、特異度が非常に低い値を示すことは、がんの検査として偽陽性を多く出し過ぎる危険性があります。週刊文春の報道では「見落とし」の数も相当あるようです。また、被験者としては、15種類のがんのうち「何かのがんがありそうだ」と言われても、そこから通常のがん検診に行けばいいのか、内視鏡検査やCT検査を受ければいいのか戸惑うばかりではないでしょうか。現状では臨床的有用性についても大きな疑問符が付きます。そもそも、分析学的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性を証明するデータを、きちんとしたプロトコールによって行った臨床試験等で出し、それが評価されれば、保険診療において使用が認められますし、海外でも用いられるかもしれません。しかし、こうした「がん(病気)のリスクを判定する」と喧伝する検査の多く(類似のものに「アミノインデックス」や「テロメアテスト」などがあります)は、お金と時間が膨大にかかる臨床試験を敢えて避け、日本だけの一般向け検査でお茶を濁しているようで、気になります。3)がんリスク判定は「判定」できているのか?臨床的有用性の話と関連しますが、「がんのリスク判定」とは一体何なのでしょう。検査会社は、医師が行う「診断」を業として行うことはできないので、リスク判定という曖昧な表現になっていると思われますが、これも無責任です。同社のホームページには、「N-NOSEは、これまでの臨床研究をもとに検査時のがんのリスクを評価するもので、がんを診断する検査ではありません。そのため、検査で『がんのリスクが検出されなかった方』でもがんに罹患していないとは言い切れませんし、 検査で『がんのリスクが高いと判定された方』でも、必ずしもがんに罹患していることを示すものではありません」と長々とエクスキューズが書かれています。また、ある人の実際の「N-NOSE」の結果を見せてもらったことがあるのですが、留意事項として、「体調がすぐれないとき」「疲労が激しいとき」「長期の睡眠不足や徹夜明けのとき」「アルコール摂取時やアルコールの影響が残っているとき」など、8つの項目の時に「正確な評価を行うことができない可能性がある」と書かれていました。これでは、いったいいつ検査をすれば、正確な評価をしてもらえるのかわかりません。とくに私を含め中高年はだいたい体調がすぐれず、疲れているのでほぼ判定は不可能ではないかと思ってしまいます。このようにエクスキューズの連発となってしまうのは、先に述べた分析学的妥当性が曖昧で、検査の再現性が低いからだと考えられます。もう一つ気になったのは、人の体調で検査結果がこれだけ変動するというのだから、線虫の“体調”によっても変動するのではないか、という点です。線虫の1匹1匹の診断能力の質の担保は、しっかりと行われているのでしょうか。ちなみに同社が根拠とする臨床研究ですが、ホームページにはそれらしき関連論文が海外文献も含めて列挙されています。しかし、ダブルブラインドにより、がんの有無を明確に見分けた、というような決定的とも言える成果を発表した論文はないようです。線虫が尿の中の何の成分に反応し、がんを判別するかについての論文もありません。健常者をまどわせ、がん患者のがんを見落とす危険性代表取締役の広津氏は週刊文春の取材に対し、「この検査を作ったのは五大がん検査を受ける人を増やしたかったからです」と話しています。五大がん検査とは、国が推奨する5つのがん検診のことです。しかし、がん検診を受けるきっかけを与えるにしては、無用の心配を被験者にさせたり、見落としによって手遅れになったりと、リスクが多過ぎます。また、検査を受けた人がアコギな医療機関に食いものにされる危険性もあります。提携医療機関の中には、「N-NOSE」陽性の人に対し、自費でのPET-CT検査を勧めるところもあると聞きます。「N-NOSE」はあくまでリスク判定であるため、そこで陽性の判定が出ても、すぐに保険診療とはなりません。一度、自費検査を挟み、病気が見つかってはじめて保険診療となるわけです。「N-NOSE」は手軽なように見えて、医療機関において保険診療を受けるまで、2度手間、3度手間となってしまいます。そう考えると、健常者を惑わせるだけの検査では、と思えてきます。「N-NOSE」は、医療機器でもなく診断薬でもありません。医師が診断のために使う検査でもなく、保険診療にも使われていません。つまり、薬機法や医師法、健康保険法など、厚生労働省所管の法律外にある検査法なのです。宗教団体などが売る、“ありがたい壺”のように、何か大きな問題が起こるまで行政が口を挟むことはないかもしれません。自費でわざわざがんのリスク検査を受けて、「リスクが低い」という結果からがんを見落とす人が出ないことを願います。そして何よりも、がん検診の受診者が増えるよう、国や自治体はもっと知恵を絞ってほしいですし、日本医師会の言うところの“かかりつけ医”は自分の患者にがん検診を勧めるアクションを起こしてほしいと思います。

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