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第203回 1ヵ月以上続くコロナ感染は結構多い

1ヵ月以上続くコロナ感染は結構多い英国を代表する9万人強の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)配列を解析した結果によると、少なくとも100人に1人ほどの感染は1ヵ月以上長引くようです1,2)。試験では被験者からおよそ1ヵ月ごとに採取した検体のSARS-CoV-2配列が解析され、3,603人は2回以上の検体の配列解析が可能でした。得られたウイルス配列を照らし合わせたところ、それら3,603人のうち381人に1ヵ月以上の同一ウイルス感染が認められました。381人のうち54人にいたっては2ヵ月以上同じウイルスに感染していました。その結果に基づくと、感染者100人に1~4人弱(0.7~3.5%)のその感染は1ヵ月以上、感染者1,000人に1~5人(0.1~0.5%)の感染は2ヵ月以上続くと推定されました。SARS-CoV-2持続感染者381人のうち3回以上のRT-PCR検査がなされた65人のデータによると、感染し続けているSARS-CoV-2の多くは複製できる力を失っていないようです。それら65人のほとんどのウイルスはいったん減り、その後再び増加するというリバウンドの推移を示しました。研究者によると、そのようなリバウンドは複製できるウイルスが居続けていることを示唆しています。また、SARS-CoV-2の感染持続はやはりただでは済まないようで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)をより招くようです。SARS-CoV-2感染が1ヵ月以上持続した人の感染後12週時点以降でのlong COVID有病率は非持続感染者を55%上回りました。SARS-CoV-2感染持続とlong COVIDの関連を示した先立つ報告や今回の研究によるとSARS-CoV-2感染持続はlong COVIDの発生にどうやら寄与しうるようです。とはいえSARS-CoV-2感染持続で必ずlong COVIDが生じるというわけではありませんし、long COVIDのすべてが感染持続のせいというわけではなさそうです。実際、long COVIDに寄与するとみられる仕組みがこれまでにいくつも示唆されており、引き続き盛んに調べられています。たとえば先月にScience誌に掲載された最近の報告では、免疫機能の一翼である補体系の活性化亢進がlong COVIDで生じる細胞/組織損傷の原因となりうることが示唆されています3,4)。参考1)Ghafari M, et al. Nature. 2024 Feb 21. [Epub ahead of print]2)Study finds high number of persistent COVID-19 infections in the general population / Eurekalert3)Cervia-Hasler C, et al. Science. 2024;383:eadg7942.4)Complement system causes cell damage in Long Covid / Eurekalert

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第183回 新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省2.アルコールは少量でも要注意、飲酒ガイドラインを公表/厚労省3.SNSが暴いた入試ミス、PC操作ミスによる不合格判定が発覚/愛知医大4.専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センターを現地調査へ/専門医機構5.医師らの未払い時間外手当、小牧市が8億円支給へ/愛知県6.診療報酬改定で人気往診アプリ『みてねコールドクター』が終了へ/コールドクター1.新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する医療費の公費支援を2024年3月末で終了し、4月から通常の医療体制に完全移行する方針を発表した。これまで、COVID-19の治療薬や入院医療費に関しては、患者や医療機関への一部公費支援が継続されていたが、4月からは他の病気と同様に保険診療の負担割合に応じた自己負担が求められるようになる。COVID-19への公費支援は、治療薬の全額公費負担が2021年10月より始まり、昨年10月には縮小された。また、患者は年齢や収入に応じ、3,000~9,000円の自己負担をしていた。4月からは、たとえば重症化予防薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)を使用する場合、1日2回5日分の処方で約9万円のうち、3割負担であれば約28,000円を自己負担することになる。また、月最大1万円の入院医療費の公費支援や、コロナ患者用病床を確保した医療機関への病床確保料の支払いも終了する。COVID-19の感染状況は改善傾向にあり、定点医療機関当たりの感染者数が12週ぶりに減少している。これらの背景から、政府は公費支援の全面撤廃と通常の診療体制への移行が可能と判断した。さらに、次の感染症危機に備え、公的医療機関などに入院受け入れなどを義務付ける改正感染症法が4月から施行される。参考1)新型コロナの公費負担、4月から全面撤廃へ…治療薬に自己負担・入院支援も打ち切り(読売新聞)2)新型コロナ公費支援 3月末で終了 4月からは通常の医療体制へ(NHK)3)新型コロナ公費支援、3月末で完全廃止 厚生労働省(日経新聞)2.アルコールは少量でも要注意、飲酒ガイドラインを公表/厚労省厚生労働省は、飲酒による健康リスクを明らかにするため、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表した。初めて作成されたこの指針では、純アルコール量に着目し、疾患別に発症リスクを例示している。大腸がんのリスクは1日20g以上の純アルコール摂取で高まり、高血圧に関しては少量の飲酒でもリスクが上昇すると指摘されている。純アルコール量20gは、ビール中瓶1本、日本酒1合、またはウイスキーのダブル1杯に相当。ガイドラインによると、脳梗塞の発症リスクは、男性で1日40g、女性で11gの純アルコール摂取量で高まる。女性は14gで乳がん、男性は20gで前立腺がんのリスクが増加する。さらに、男性は少量の飲酒でも胃がんや食道がんを発症しやすいと報告されている。とくに女性や高齢者は、体内の水分量が少なくアルコールの影響を受けやすいため、注意が必要。また、女性は少量や短期間の飲酒でもアルコール性肝硬変になるリスクがあり、高齢者では認知症や転倒のリスクが一定量を超えると高まる。ガイドラインでは、不安や不眠を解消するための飲酒を避け、他人への飲酒を強要しないこと、飲酒前や飲酒中の食事の摂取、水分補給、週に数日の断酒日の設定など、健康への配慮としての留意点も挙げている。厚労省の担当者は、「体への影響は個人差があり、ガイドラインを参考に、自分に合った飲酒量を決めることが重要だ」と強調している。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(厚労省)2)ビールロング缶1日1本で大腸がんの危険、女性は男性より少量・短期間でアルコール性肝硬変も(読売新聞)3)飲酒少量でも高血圧リスク 健康に配慮、留意点も 厚労省が初の指針(東京新聞)3.SNSが暴いた入試ミス、PC操作ミスによる不合格判定が発覚/愛知医大愛知医科大学(愛知県長久手市)は、大学入学共通テストを使用した医学部入学試験の過程で、PC操作ミスにより本来2次試験の受験資格を有していた80人の受験生を誤って不合格としていたことを発表した。この問題は、SNS上で受験生間の投稿を通じて疑問が提起され、その後の大学による確認作業で明らかになった。受験生は、自己採点結果から「自分より点数が低い友人が合格している」といった内容をSNSに投稿していた。操作ミスは、大学入試センターから提供された成績データを学内システムに転記する際に発生したもので、一部受験生の点数が実際よりも低く記録されてしまったことが原因。発覚後、同大学は該当する80人の受験生に対し、予定されていた2次試験への参加資格があることを通知し、さらに受験できない者のために別の日程も設定した。この事態を重くみた大学は、「受験生に混乱を招いたことを深くお詫びする」との声明を発表し、今後のチェック体制の見直しを約束し、2度と同様のミスが発生しないようにするとしている。参考1)令和6年度医学部大学入学共通テスト利用選抜(前期)における 第2次試験受験資格者の判定ミスについて(愛知医大)2)愛知医科大学 医学部入試で80人を誤って不合格に PC操作ミスで(NHK)3)愛知医科大、PC操作ミスで80人誤って不合格…SNSで結果疑う投稿相次ぎ大学が確認し判明(読売新聞)4)「自己採点で自分より低い友人が合格」愛知医科大、判定ミスで80人不合格に(中日新聞)4.専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センターを現地調査へ/専門医機構日本専門医機構は、2024年2月19日の定例記者会見で、2024年度に研修を開始する専攻医の採用予定数が9,496人と発表し、過去最多であることを明らかにした。2023年度の9,325人から増加し、とくに整形外科で93人、救急科で66人の増加がみられる一方、皮膚科では51人、外科では25人の減少が確認された。同機構理事長の渡辺 毅氏は、外科専攻医の減少は問題であると指摘している。専攻医数の増加は、東北医科薬科大学や国際医療福祉大学の医学部新設とその卒業生の専攻医登録が影響しているとされ、とくに医師不足が指摘されている外科は微減傾向にあるものの、救急科では増加が予想されている。また、専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センター(神戸市)でのサイトビジット(現地調査)を実施する予定であり、専攻医の心身の健康維持や時間外勤務の上限明示などの環境整備が適切に行われているかを目的に調査が行われる。渡辺氏は、「得られた知見を将来の専攻医研修プログラムや専門医制度の整備指針の改善に生かしたい」と述べている。専攻医遺族が甲南医療センター側を提訴しているため、訴訟に影響が出ないような日程での実施を目指している。参考1)2024年度専攻医、整形外科や救急科で増加(日経メディカル)2)来年度の専攻医、昨年度比150人増の9,500人(Medical Tribune)5.医師らの未払い時間外手当、小牧市が8億円支給へ/愛知県小牧市民病院(愛知県)が、医師や薬剤師を含む約277人の職員に対して、夜勤や土日祝日の当直業務で適切に支払われていなかった時間外勤務手当の差額約8億円を支給することを発表した。これは、病院の医師の働き方改革を機に勤務や手当の見直しが行われた際に、複数の医師からの指摘を受けて発覚、本来、労働実態に応じて支給されるべき時間外手当が、一律の定額で支給されていたことが問題となったもの。病院側は、2023年4月からこの問題を調査し、約4年分の差額を医師、薬剤師、放射線技師などの職員に支払うことを決定した。また、3月以降は時間外勤務手当を適切に支給する制度に改めることも発表した。これまでの誤った運用は「慣例に従っていた」との理由から起こったとしている。さらに、病院は夜間や休日の手当の見直しも発表し、2020年4月~2024年2月までの間に当直業務に従事した職員に対して、法律で定められた賃金よりも過小だった手当の差額を支給する。病院側はこれまで、労働基準法に基づいた時間外勤務手当の支給が必要な場合、特例措置として「宿日直許可」を労働基準監督署に申請する必要があることを知らなかったと述べている。この措置により、病院は正規の時間外勤務手当とこれまで支給してきた手当との差額を職員に支給し、法律に準拠した形での勤務条件の改善を目指す。差額の支払いについては、市議会定例会に補正予算案を提出し、支払いは5月下旬に行われる予定。参考1)時間外手当、差額8億円支払いへ 医師ら277人に 愛知の市民病院(朝日新聞)2)小牧市民病院、夜間・休日手当見直しへ 20年以降の差額も支給(中日新聞)6.診療報酬改定で人気往診アプリ『みてねコールドクター』が終了へ/コールドクター夜間や休日に医師の往診をWebやアプリから依頼できるサービス「みてねコールドクター」が、診療報酬の改定により条件が厳格化されるため、3月31日をもって終了することが発表された。このサービスは、子供の医療助成制度適用で都内では自己負担0円(交通費別)で利用が可能で、約400人の医師が登録・在籍し、夜間・休日の急病時に最短30分で自宅に医師を派遣し、その場で薬を渡すことができた。2022年にはミクシィとの資本業務提携を経て、サービス名に「みてね」のブランドを冠し、とくに子育て世代から高い評価を得ていた。今回の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げなどに充てるための基本報酬の引き上げが注目されていたが、往診サービスについては「普段から訪問診療を受けていない患者」への緊急往診や夜間往診の診療報酬が低下し、この変化に伴い「みてねコールドクター」はサービスの終了を決定した。同社は、今後の市場の変化を見据えての決定であると説明しており、オンライン診療や医療相談サービスは継続する。診療報酬の改定では、救急搬送の不必要な減少や医療現場の負担軽減を期待していたが、実際には小児科領域の往診が主であり、コロナ禍での特殊な状況下では多くの人にとって救いとなった。しかし、保険診療の方向性としては、緊急時のみに駆けつける医師ではなく、日常を支えるかかりつけ医の強化が求められている。参考1)往診のサービス提供終了のお知らせ(コールドクター)2)往診アプリ「みてねコールドクター」往診終了 診療報酬改定で(ITmedia NEWS)3)「みてねコールドクター」の往診サービスが終了に(Impress)4)人気の“往診サービス”が突然の終了、理由は「診療報酬改定」なぜ?(Withnews)

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BRCA変異陽性乳がん未発症者の検診と予防治療のために~クラウドファンディング開始

 BRCA変異陽性で乳がん未発症の場合、乳房MRIによる検診や予防的乳房切除には少なくない費用負担が発生し、費用が原因で検診や予防治療をあきらめてしまう患者さんがいる。そこで昭和大学病院ブレストセンターの中村 清吾氏らは、「遺伝性乳がんの“発症前”に寄り添う、検診と予防治療の臨床研究継続へ」と題したクラウドファンディングのプロジェクトを開始した(募集は4月12日午後11時まで)。 同プロジェクトでは、BRCA変異陽性乳がん未発症者の検診や予防治療の保険適用を視野に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成のもと立案・開始された臨床研究の継続・完遂を目指す。この臨床研究は、「乳がん未発症のBRCA2変異陽性の女性に対するタモキシフェンの乳がん発症予防効果と安全性を明らかにすること」、「乳房MRIによるサーベイランスおよびリキッドバイオプシーを利用した低侵襲の新規乳がん検出法の有用性の検討」を目的としている。2020年4月~2023年3月末までの研究期間が新型コロナウイルス感染症の流行時期と重なり、未発症者の来院が制限されるなどの影響を受けて目標症例の約3分の1の登録にとどまっていた。【プロジェクトの概要】BRCA2変異陽性が確認された乳がん未発症の女性(20〜70歳)を対象に、タモキシフェンの乳がん発症予防効果と安全性評価を行うため、目標症例数210例に対して、残り150例の登録を目指して研究を継続する。【到達目標】第一目標金額:1,500万円・乳がん未発症の方に対する「乳房MRI」の一部補助費(1回当たり約2万5,000円)・クラウドファンディング手数料 など第二目標金額:3,000万円(第一目標金額+1,500万円)・「乳房MRI」、「リキッドバイオプシー」による早期乳がん発見の有用性の検討に必要な症例数200例登録に向けて必要な血液解析費用・臨床試験実施にかかる諸費用(国内の多施設を研究拠点として継続するための費用を含む)・クラウドファンディング手数料 など第三目標金額:4,500万円(第二目標金額+1,500万円)・遺伝性乳がん関連遺伝子27項目の測定費用・クラウドファンディング手数料 など【研究スケジュール】2024~29年3月までの5年間を想定

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第182回 診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協

<先週の動き>1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省4. 医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協厚生労働省は、2月14日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開き、2024年度の診療報酬改定について答申を行った。今回の診療報酬改定は、医療従事者の賃上げを進めつつ、医療費抑制という2つの目標を達成しようとする「メリハリ」のある内容を特徴としている。とくに生活習慣病に関する管理料の適正化が注目されている。これにより医療費の国費負担の一部抑制が図られたが、全体抑制額は200億円に止まり、医療費全体の増大傾向に対する根本的な解決には至っていないとする声もある。今回の改定により、医療従事者への賃上げが実施され、とくに40歳未満の勤務医や看護職員、薬剤師らの待遇改善が図られている。これには、外来・在宅ベースアップ評価料の新設や初診料、再診料の増額などが含まれている。しかし、生活習慣病に関する報酬の適正化には、糖尿病や高血圧、脂質異常症を特定疾患療養管理料の対象から除外するなどの措置が含まれ、これによりプライマリケアを提供する開業医の収入に影響が出る可能性がある。また、介護報酬の改定では、訪問介護の基本報酬が削減される一方で、介護職員の賃上げを目的とした加算の設定が行われた。しかし、小規模事業者からは報酬減による経営の危機やサービス提供能力の低下が懸念されている。精神科訪問看護に関しても、報酬の取得条件が厳格化され、不正や過剰請求への対策が強化された。参考1)中央社会保険医療協議会(第584回) 総会(厚労省)2)「めりはり」ある診療報酬改定、武見厚労相が総括 生活習慣病の管理料など適正化(CB news)3)開業医の改革道半ば 診療報酬改定 医療費の国費負担12兆円 200億円抑制、生活習慣病が軸(日経新聞)4)訪問介護 異例の報酬削減 小規模事業者、撤退の危機(東京新聞)2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省2024年度の診療報酬改定のうち、入院診療では、高齢者救急患者への対応強化を目的とした「地域包括医療病棟入院料」の新設が注目されている。厚生労働省は、以前から急性期一般入院料1(旧7対1病床)の病床削減が進まないことを問題視しており、急性期病床の削減のため急性期一般入院料1の平均在院日数を16日以内にすることで、病床の再編を病院に促している。厚労省は、後期高齢者が増加するのに合わせて、病気の治療に加えて、早期のリハビリや栄養管理で身体機能の低下を抑え、退院支援を行う目的で1日当たり3,050点の「地域包括医療病棟」を新たに設けた。看護配置は「10対1」で、リハビリテーションや栄養管理、口腔管理を含む包括的なサービス提供が施設基準の条件。地域包括医療病棟の要件としては、平均在院日数は21日以内、在宅復帰率が8割以上としているほか、特定機能病院や急性期充実体制加算を届け出ている高度急性期病院は算定できないなど制限も設けられている。地域包括医療病棟の新設で、急性期医療の機能分化を促進し、中小病院などに少なくない影響が及ぶ可能性があり、地域医療への影響が大きくなると予想されている。今回の改定により、地域包括医療病棟が高齢者救急の受け皿として機能強化されることが期待されているが、急性期医療の再編や地域医療提供体制の整備と連携が今後の課題となる。参考1)令和6年度診療報酬改定について(厚労省)2)厚労省 早期のリハビリで退院を支援する病棟新設を後押しへ(NHK)3)24年度改定 急性期の機能分化へ「地域包括医療病棟入院料」新設 中小病院など地域医療への影響大きく(ミクスオンライン)4)地域包括医療病棟入院料を新設 10対1看護配置、急性期一般入院料からの転換が進むか(日経メディカル)5)地域包括医療病棟入院料は3,050点 リハ・栄養・口腔連携加算80点、24年度改定(CB news)3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを支援し、医療のデジタル化(医療DX)を推進するための複数の措置が導入された。とくに、マイナンバーカードを活用した「マイナ保険証」の利用促進が後押しされ、救急搬送時の情報確認などに活用される方針だ。しかし、このデジタル化推進は患者の負担増につながり、障害者団体からは現行の健康保険証廃止に対する懸念の声が上がっている。新たに設けられる「医療DX推進体制整備加算」により、マイナ保険証や電子処方箋の利用を促進する医療機関に対して、初診時に80円、歯科で60円、調剤で40円が加算され、患者の自己負担が増加する。また、政府は、救急搬送時にマイナ保険証を用いることで、患者かかりつけ医や服薬歴などの情報を迅速に確認し、効率的な救命活動をする計画を立てている。一方で、障害者団体は、マイナ保険証の1本化により、支援が必要な障害者が置き去りにされる恐れがあると指摘し、現行の保険証も残すべきだと訴えている。政府は、現行の健康保険証を2024年12月に原則廃止し、マイナ保険証への完全移行を計画しており、利用率の向上に努めているが、現在の利用率は4.29%と低調。今回の改定で、医療DXの推進やマイナ保険証の普及に向けた取り組みが強化されるが、患者負担の増加や障害者の利便性の問題など、新たな課題も提起されている。参考1)マイナ保険証の利用促進なども後押し 診療報酬改定 患者は負担増に(朝日新聞)2)マイナ保険証、救急搬送時に活用へ 服薬歴など確認(日経新聞)3)マイナ保険証への一本化で障害者が置き去りに…「誰のためのデジタル化か」当事者団体が国会議員に訴え(東京新聞)4.医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク2023年、医療機関の倒産件数は41件で、前年と同数だったが、負債総額は253億7,200万円と過去10年で最大となったことが、帝国データバンクの調査で明らかとなった。この負債総額の増加は、大きな負債を抱えていた「八千代病院」(八千代市)などを運営する医療法人社団心和会(負債132億円)と「東京プラス歯科矯正歯科」などを運営していた医療法人社団友伸會(負債37億円)の影響が大きい。倒産した医療機関のうち、「病院」が3件、「診療所」が23件、「歯科医院」が15件で、大部分が5億円未満の負債。帝国データバンクは、2024年も医療機関の倒産が高水準で推移すると予想しており、とくに診療所では経営者の高齢化や健康問題が影響し、過剰債務などを理由に法的整理を選択するケースが増える可能性を指摘している。参考1)病院などの「医療機関」、倒産が2年連続で40件超え 今後は診療所の動向に注目(ITmedia)2)帝国データバンク 2024年 1月報(帝国データバンク)5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪透析治療を受けていた90歳男性が、新型コロナウイルス感染で転院したにもかかわらず、必要な治療を受けられずに死亡した事件で、遺族が病院運営法人に約5,000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。男性は、大阪府内のクリニックで週3回の透析治療を受けていたが、新型コロナウイルス陽性と診断された後、同系列の医誠会病院に転院した。転院後は抗ウイルス薬のみ投与され、透析治療は一切行われなかったとされている。数日後に男性は、窒息による低酸素脳症で死亡した。遺族は病院が透析治療可能であるとクリニックに返答し、クリニックが診療情報を引き継いだにもかかわらず治療が行われなかったと主張している。問題は、過去に赤穂市民病院で医療過誤を含む複数の医療事故に関与し、依願退職した後に医誠会病院へ転職した40代の男性医師が関与した可能性があり、この医師は患者の透析治療が必要であるにもかかわらず、適切な対応を怠ったとされている。遺族は、医師の初動対応の不備と病院の管理体制の欠如が死に直結したと主張し、医療法人「医誠会」に対し約5,000万円の損害賠償を求めている。この訴訟は、医療機関の責任と医師個人の過去の問題が患者の命にどのような影響を及ぼしたかという点で、病院側の安全体制の責任を問いかけている。遺族は、真実を求めるとともに、同様の悲劇が再発しないよう医療機関の体制改善を訴えている。参考1)腎不全で透析治療の男性 新型コロナ陽性で転院するも透析治療されず死亡 遺族が約5,000万円の賠償を求め病院側を提訴 大阪地裁(MBS)2)元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か(赤穂民報)6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫神戸徳洲会病院(神戸市垂水区)で今年1月、心肺停止状態から回復した90代の男性患者が、昇圧薬が切れた直後に死亡していたことが判明した。報道によると、患者に投与していた昇圧薬が切れた直後、薬剤の補充が準備されておらず、必要な治療が提供されなかったため、薬が切れた直後に患者は亡くなった。病院側は「死期を早めた可能性がある」として家族に謝罪し、神戸市は医療安全体制に不備がなかったか調査を行っている。同院は、去年カテーテル治療後の患者死亡事案や適切な治療が行われず糖尿病患者が亡くなった事案が発覚しており、医療安全体制の問題で神戸市から行政指導を受けていた。今回の事案を受け、神戸市は改善命令を出す方針であり、病院は救急患者の受け入れを一時中止し、院内で原因調査と適切な対応を進めている。参考1)神戸徳洲会病院 投与の薬剤追加されず その後 患者死亡(NHK)2)薬剤の補充分なく、薬切れた直後に90歳代患者が死亡…神戸徳洲会病院「死期早めた可能性」(読売新聞)3)神戸徳洲会病院、薬剤の追加を怠り患者が死亡 警告音が鳴り、家族が訴えるも対応されず(神戸新聞)

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第198回 被災地・能登半島でのコロナ感染増、その裏側にあった光景の一端

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の報告数が再び増加し始めている。2024年第5週(1月29日~2月4日)の全国定点当たりの報告数は16.15人。前週より1.22人増加し、2023年第46週(11月13日〜11月19日)の1.95人以降は増加の一途をたどっている。2022年11月から2023年2月末ぐらいまでの第8波当時を定点換算するとピーク時が30人前後、同じく2023年7~10月にかけての第9波が20人超なので、それと比べればまだマシとも言えるかもしれない。もっとも第9波以降は完全に定点観測に移行しており、検査を受けていない「隠れコロナ」の存在も考慮しなければならない。都道府県別で見ると、前週比で報告数が減少したのは6県のみ。逆に第9波レベルの定点当たり20人に到達しているのは9県で、最多は石川県の24.52人。いまだ先が見えない大地震被災地の能登半島地域も含めた石川県がこの状況というのは「泣きっ面に蜂」である。まさにこの2024年第5週は、私が輪島市門前町で活動していた日本薬剤師会の災害派遣ボランティアに同行していた時期でもあり、目にしたのはある断面に過ぎないが、確かに新型コロナ流行の兆しがあった。なんせ現地到着直後に飛び込んで来た最初の災害処方箋が新型コロナ治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)だったくらいだ。この時は輪島市門前総合支所に据え置かれていたモバイルファーマシー周辺にいた薬剤師たちが、やや緊張を帯びた表情になったことを覚えている。そのうちの1人が「あれ?患者同意書は?」と口にした。緊急承認薬でもあるエンシトレルビルでは、製造販売元の塩野義製薬が用意している患者同意説明文書1)を使用し、患者・代理人の自署が必要で、処方医は同意書原本の保管とともに、患者・代理人への写しの交付が定められている。結局、その場は災害という非常時でもあり、まずは医師の処方箋に従った調剤・配達を優先することで収まった。ちなみに塩野義製薬の広報部によると、「処方に当たって同意文書の取得・保管を必ず求めており、そのことを医療機関にもお伝えしている」とのことである。配達先に指定されたのは避難所となっていた中学校体育館。前回の連載で触れたCO2濃度を測定した場所である。この時は配達直前にここのCO2濃度測定の依頼があったため、配達と測定を兼ねて3班(1班は3人)で向かった。中学校到着後、メンバーの1人が配った個人防護具(PPE)の手袋を装着して体育館に入った。管理者に来訪目的と患者名を告げると、館内の半ガラス張りの教室のようなところに案内された。中に3つほどベッドが設けられ、感染症患者の隔離室として使用されていた。廊下で患者対応する薬剤師1人が決められ、薄いピンクのPPEのエプロンを着用して入室。ガラス越しに眺めると、処方されたのは高齢女性のようで、薬剤師が中腰で話しかけ、女性はベッドから立ち上がって後方のロッカーから取り出した束を薬剤師に差し出した。すぐに服用薬との相互作用チェックだとわかった。エンシトレルビルはご存じのように併用禁忌、併用注意の薬が多い。10分弱で出てきた当該薬剤師に話を聞くと、お薬手帳がなく、保有薬の確認で問題なしと判断したとのこと。同日夕刻、モバイルファーマシーの前に突っ立っていると、今度は目の前の調整本部から2人分のエンシトレルビルの災害処方箋が舞い込んできた。ところがモバイルファーマシー内のエンシトレルビル在庫は1人分のみ。ということで、その場にいた薬剤師の1人が庁舎内に駆け込み、事情を話してまだ6人分の在庫があったモルヌピラビル(同:ラゲブリオ)に切り替えてもらうことになった。ちなみに災害処方箋に記載された患者は女性2人で、うち1人が40代。厳密に言えば、基礎疾患がなければモルヌピラビルは適応とはならない。災害処方箋上はその点は不明だったようだ。これも非常時ではやむなしなのだろう。結局、この2人分のモルヌピラビルの配達にも同行した。薬剤師3人を乗せた車は、外浦と呼ばれる能登半島の日本海沿岸のあちこちがひび割れた道路を10分ほど進み、そこから山間部に入った。ナビに患者宅の住所は登録済みだったが、周囲は山林だらけで人家は見当たらない。運転していた薬剤師が「たぶん次を右折ですがね」と言ったところで、未舗装の道が見えた。目指す患者宅はその突き当りにあった。ナビがなければ到底見つけられないようなポツンと一軒家である。われわれが到着すると、突如、中型犬が駆け寄ってきて吠え始めた。車内で「うわー、放し飼いだよ」と戸惑いのつぶやきが漏れる。さすがにすぐに車から降りることはできない。皆が犬の吠えに気付いて、飼い主であろう患者・家族が出てくることを期待したが、2分ほど経過しても出てくる様子はなかった。1人が車内から携帯で患者宅に電話をかけながら、残る薬剤師2人と私が意を決して降車した。犬は吠えながら3人のうち、もっとも大柄な男性薬剤師のほうに駆けてきた。彼が「この子、多分怖がってますよ。尻尾下がってますもん」と言いながら、中腰で撫で始めると、急に彼の内股に頭をこすりつけ始めた。ほぼ時を同じくして患者宅からマスクをした高齢男性が出てきて、犬はそちらに走って行った。薬剤師2人が薬を渡しながら高齢男性に服薬指導の内容を伝え、一件落着。だが、帰りの車中では「あのお父さん(高齢男性)、家庭内感染してしまうのでは?」との懸念の声が漏れていた。結局、この日3人分の処方が出たこともあり、モバイルファーマシー用に石川県薬剤師会を通じてエンシトレルビル、モルヌピラビルが追加発注となった。翌日は前日のこともあり、薬剤師たちのなかでも新型コロナ治療薬の処方が急増することに対する警戒感が高まっていたが、午後までまったく動きなし。これでこの日は撤収かと思いきや、撤収時間の間際にモバイルファーマシーにモルヌピラビルの災害処方箋1枚が調整本部から手渡しで届けられた。今回同行した薬剤師に声を掛けると、昨日届けたポツンと一軒家の高齢男性への処方だった。悪い予感は不幸にも的中してしまった。再び車を走らせる。その車中で薬剤師3人が1日2回のモルヌピラビルをどのように服用してもらうかをやり取りしていた。感染症である以上、早めの服用開始が望ましいということで、3人とも男性には配達直後にまず1回分を服用することを指導する点で一致した。ただし、すでに時間は夕刻なので、問題は2回目をいつ服用してもらうか。そこで上がったのは2回目を就寝前とするか、夜中にたまたま目を覚ました時とするかだ。1人が「モルヌピラビルの血中半減期は何時間だっけ?」と言い出し、これに呼応してスマホで検索し始めたもう1人が「約2.7時間ですね」と答え、就寝前と指導することに。この時、私はある言葉を思い出した。この災害処方箋を届けに来た看護師がモバイルファーマシー内の薬剤師に「この患者さん、昨日モルヌピラビルが届けられたお宅の人で、朝にご家族に処方されたものを1回分服用したそうです」と伝えていたことだ。バタバタしたやり取りだったため、もしかしてこの情報はモバイルファーマシー内で調剤した薬剤師から配達に向かう薬剤師に伝えられていないかもしれないと思った。非医療従事者の自分が口を出すのは気が引けたが、黙っているのはもっとまずいと思い、口にした。一同、「えっ?」となり、私は「念のため患者さん宅で確認してみては?」とやや逃げを打った。現場での情報伝達の漏れはこうした何気ないところで起こるものなのだと、あらためて思い知った。そして再び前日の患者宅に到着。予定調和のごとく、犬が吠えながらお出ましになった。昨日のこともあるので、誰も怖がることなく降車。犬は後ろ足立ちになりながら、私の腰辺りで前足をガリガリ。それを撫でながら薬剤師の後に続いた。玄関先には高齢女性が姿を現した。昨日薬を渡した男性の奥さんらしい。対する薬剤師も同行チームの紅一点の女性薬剤師。彼女が高齢男性の服用状況を尋ねると、やはり朝に発熱に気付き奥さんの服用薬を1回分飲んでいたことがわかった。高齢女性が配達された薬袋を手にしながら「このお父さんの分から1回分もらわなきゃね」と笑った。その後、軽い身の上話をし始め、「こんな遠い一軒家までわざわざ来てくれてありがとう」と言いながら、女性薬剤師の手を何度も握っていた。目はやや涙ぐんでいた。被災により断水も続き、通常の生活がままならない中、山奥の一軒家で新型コロナ感染が発覚してどれだけ心細かったろう。配達が終わった女性薬剤師は「本当はハグしてあげたかったな」と漏らした。感染防御上、それは叶わない。2024年第5週の石川県定点当たりの新型コロナ報告数24.52人。その数字の裏側にあった光景の一端はこんな感じだった。参考1)SHIONOGI:患者同意説明文書

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コロナ感染拡大への祝日の影響、東京と大阪で大きな差

 祝日は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播に影響を及ぼしたのだろうか。京都大学のJiaying Qiao氏らが2020~21年の4都道府県のデータを数理モデルで検討したところ、祝日にCOVID-19伝播が増強したこと、またその影響は都道府県によって異なり、大阪で最も大きく東京で最も小さかったことが示唆された。Epidemiology and Health誌オンライン版2024年1月22日号に掲載。 本研究では、2020年2月15日~2021年9月30日における北海道、東京、愛知、大阪の4都道府県におけるCOVID-19発症と流動性のデータを収集し、祝日の感染頻度の増加を評価した。推定された実効再生産数と、調整前後の流動性、祝日、非常事態宣言を関連付けるモデルを作成した。必須の入力変数として祝日を含めた最も適合性の高いモデルを、祝日がない場合の有効再生産数の反事実を計算するために使用した。 主な結果は以下のとおり。・祝日における実効再生産数の増加率(平均)は、北海道5.71%、東京3.19%、愛知4.84%、大阪24.82%だった。・祝日の影響で増加した感染者数の合計は、北海道580例(95%信頼区間:213~954)、東京2,209例(同:1,230~3,201)、愛知1,086例(同:478~1,686)、大阪5,211例(同:4,554~5,867)だった。 著者らは「今後、適切な公衆衛生および社会対策を立案するうえで、祝日を考慮することが重要であることが明らかとなった」と結論している。

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パンデミック中、妊娠合併症と出産の転帰の一部が悪化

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期間中、妊娠合併症と出産の転帰の一部は悪化していたことが判明した。日本の100万件以上の出産データを調査した結果、パンデミックにより妊娠高血圧や胎児発育不全、新生児の状態などに影響が見られたという。獨協医科大学医学部公衆衛生学講座の阿部美子氏らによる研究結果であり、「Scientific Reports」に11月29日掲載された。 パンデミックによる影響については国際的にも多く研究されており、死産の増加や妊産婦のメンタルヘルスの悪化などが報告されてきた。しかし、パンデミックの状況や国・地域の制限レベルなどにより、その影響は異なるだろう。日本でのパンデミックと妊娠や出産の転帰に関しては検討結果が限られており、日本全国レベルでの大規模な研究が必要とされていた。 そこで阿部氏らの研究グループは、日本産科婦人科学会(JSOG)が管理する全国データから、2016~2020年の妊娠・出産のデータを用いて、パンデミックによる影響を評価した。妊娠合併症については、妊娠高血圧と胎児発育不全を調査。出産の転帰は、分娩時の妊娠週数、出生体重、新生児のアプガースコア7点未満の有無(7点未満は新生児仮死の可能性を示唆する)、死産などを調査した。これらに対するパンデミックの影響は、胎児数(単胎妊娠と多胎妊娠)による影響を考慮し、分けて検討された。 解析された妊娠・出産のデータは、パンデミック前(2016~2019年)が95万5,780件、パンデミック中(2020年)が20万1,772件だった。また、この5年間の単胎妊娠は108万4,724件、多胎妊娠は7万2,828件だった。この間、出産年齢が高い人(35歳以上)の割合は徐々に増加し、他の年齢層(20~34歳、19歳以下)の割合は減少していた。 妊娠合併症に関して比較すると、パンデミック前よりもパンデミック中の方が増加していた。関連因子(出産年齢、出産地域、妊娠前のBMI、不妊治療、胎児発育不全)による影響を調整した検討の結果、単胎妊娠では妊娠高血圧が有意に増えており(調整オッズ比1.064、95%信頼区間1.040~1.090)、多胎妊娠では胎児発育不全が有意に増えていた(同1.112、1.036~1.195)。 出産の転帰についても同様に比べると、単胎妊娠では、早産(同0.958、0.941~0.977)と低出生体重(同0.959、0.943~0.976)は有意に減少していた一方で、アプガースコア7点未満の新生児は、生後1分(同1.030、1.004~1.056)と生後5分(同1.043、1.002~1.086)の両方で有意に増加していた。新生児死亡や死産および妊産婦死亡に関しては、有意な影響は見られなかった。また、多胎妊娠では、これらの出産の転帰に対する有意な影響は認められなかった。これらの結果は、各年に含まれた分娩施設の影響を考慮した感度分析でも同様の傾向を示した。 結果を受けて著者らは、2021年以降の傾向が分析できていないことなどに言及した上で、「日本において、パンデミック中に妊娠合併症と分娩の転帰は悪化した」と結論付けている。パンデミック初期、感染者数はまだわずかであったにもかかわらずこのような転帰の悪化を認めたことに対し、著者らは、パンデミック初期から見られた自宅待機などの行動の変化、情報の混乱、社会的恐怖などによる影響を挙げ、「日本のように強制力のない制限であっても、パンデミック時の社会変化が、妊娠の転帰に悪影響を及ぼす可能性を示唆している」と述べている。

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新型コロナワクチンの国内での有効性評価、VERSUS研究の成果と意義

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの有効性を評価するため、VERSUSグループは国内の13都府県の医療機関24施設で2021年7月から継続的に「VERSUS研究」1)を行っている。本研究は、新型コロナワクチンの国内での有効性を評価し、リアルタイムにそのデータを社会に還元することを目的としている。今後はCOVID-19のみならず、新たな病原体やワクチンを見据えたネットワークを整備・維持していく方針だ。VERSUS研究のこれまでの成果と意義について、2024年1月20日にウェブセミナーが開催された。長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野の森本 浩之輔氏と前田 遥氏らが発表した。なお、BA.5流行期のワクチン有効性の結果は、Expert Review of Vaccines誌2024年1~12月号に論文掲載された2)。 VERSUS研究では、COVID-19を疑う症状があり病院を受診した16歳以上の患者、または呼吸器感染症を疑う症状で入院した16歳以上の患者において、新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、検査陰性者を対照群とした検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究を行い、ワクチン効果(vaccine effectiveness)を推定している。研究におけるアウトカムは、COVID-19の発症予防および入院予防とした。今回の発表では、2021年7月~9月のデルタ株流行期、2022年1月~6月のオミクロン株BA.1/BA.2流行期、2022年7月~11月のオミクロン株BA.5流行期、2022年後半~2023年前半BA.5/BQ.1流行期(オミクロン株対応2価ワクチン開始)、2023年オミクロン株XBB/EG.5.1流行期を通して、ワクチンの未接種者と比較した新型コロナワクチンの有効性が、前田氏によりまとめられた。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、2回接種により発症予防に対してワクチンの高い有効性が認められた。・オミクロン株BA.1/BA.2流行期では、2回接種による有効性は十分ではなく、3回接種が必要であった。16~64歳において、2回接種から180日以上の人での発症予防に対してワクチンの有効性が33.6%に対し、3回接種から90日以内の人では68.7%だった。65歳以上でも同様の傾向で、2回接種の有効性は31.2%に対し、3回接種では76.5%だった。・オミクロン株BA.5流行期では、ブースター接種(3回目または4回目)により、発症予防におけるワクチンの有効性は上昇したが、時間経過により有効性の低下が認められた。16~59歳において、2回接種から181日以上の人での発症予防に対してワクチンの有効性が26.1%に対し、3回目接種から90日以内の人では58.5%と再度上昇した。60歳以上でも、3回目接種181日以上の人では16.5%まで低下したが、4回目接種から90日以内では44.0%まで上昇した。・BA.5流行期の60歳以上におけるワクチンの入院予防効果について、ブースター接種の高い有効性が認められた。呼吸状態の悪い患者など、重症な患者に限定した解析でも同様に高い有効性が認められた。・BA.5/BQ.1流行期では、オミクロン株対応2価ワクチンは、発症予防に中程度の有効性が認められたが、XBB/EG.5.1流行期以降は効果が十分ではなかった。16~64歳において、BA.5/BQ.1流行期では、接種から90日以内で発症予防における2価ワクチンの有効性は56.1%だったが、XBB/EG.5.1流行期では、接種から90日以内では12.3%だった。・BA.5/BQ.1流行期およびXBB/EG.5.1流行期では、65歳以上でも、発症予防については16~64歳と同様の傾向が認められたが、入院予防ではいずれの期間でも高い有効性が認められた。2価ワクチン接種90日以内の入院予防の有効性は、BA.5/BQ.1流行期で72.6%に対し、XBB/EG.5.1流行期では69.1%だった。・いずれの期間においても、ファイザー製とモデルナ製の両mRNAワクチンで有効性の差はみられなかった。・今後XBB.1.5対応ワクチンの評価も行われる予定。 本セミナーの後半では、横浜市立大学データサイエンス研究科/東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐 中氏が、国内でのワクチンの定期接種化に向けた費用対効果の評価を行う際、日本とは医療環境の異なる海外でのデータに依拠するだけでは不十分で、国内でのデータを評価することの重要性を強調した。VERSUS研究によって、国内の有効性データの迅速推計の基盤が整備され、費用対効果やQOL評価に役立つデータの創出に貢献し、さらに、今回築かれた基盤は、今後、他のワクチンの政策決定においても継続的な情報提供が可能になるとまとめた。

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小児・思春期の2価コロナワクチン、有効性は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する2価mRNAワクチンについて、小児・思春期(5~17歳)へのSARS-CoV-2感染および症候性COVID-19に対する保護効果が認められることが示された。米国疾病予防管理センター(CDC)のLeora R. Feldstein氏らが、3つの前向きコホート試験に参加した約3,000例のデータを解析し報告した。米国では12歳以上については2022年9月1日から、5~11歳児については同年10月12日から、COVID-19に対する2価mRNAワクチンの接種を推奨しているが、その有効性を示す試験結果は限られていた。著者は、「今回示されたデータは、小児・思春期へのCOVID-19ワクチンの有益性を示すものである。対象となるすべての小児・思春期は、推奨される最新のCOVID-19ワクチン接種状況を維持する必要がある」と述べている。JAMA誌2024年2月6日号掲載の報告。米国計6ヵ所で集めたデータを統合し解析 研究グループは、米国で行った3つの前向きコホート試験(計6ヵ所で実施)の2022年9月4日~2023年1月31日のデータを統合し、5~17歳の小児・思春期におけるCOVID-19に対する2価mRNAワクチンの有効性を推定した。被験者総数は2,959例で、定期的サーベイ(人口統計学的・世帯特性、慢性疾患、COVID-19症状を調査)を行った。サーベイでは、症状の有無にかかわらず自己採取した鼻腔ぬぐい液スワブを毎週提出してもらい、また症状がある場合には追加の同スワブを提出してもらった。 ワクチン接種の状況は定期的サーベイで集め、州の予防接種情報システムや電子カルテで補完した。 採取したスワブを用いてRT-PCR検査でSARS-CoV-2ウイルスの有無を調べ、症状の有無にかかわらず陽性はSARS-CoV-2感染と定義した。検体採取から7日以内に2つ以上のCOVID-19症状がある検査陽性例を、症候性COVID-19と定義した。 COVID-19 2価mRNAワクチン接種者と、非接種者または単価ワクチンのみ接種者について、Cox比例ハザードモデルを用いてSARS-CoV-2感染や症候性COVID-19のハザード比を算出。年齢や性別、人種、民族、健康状態、SARS-CoV-2感染歴、試験地別の流行型の割合、地域ウイルス感染率などで補正を行い評価した。感染率は2価ワクチン群0.84/1,000人日、非2価ワクチン群1.38/1,000人日 被験者2,959例のうち、女子は47.8%、年齢中央値は10.6歳(四分位範囲[IQR]:8.0~13.2)、非ヒスパニック系白人は64.6%だった。COVID-19 2価mRNAワクチンを1回以上接種したのは、25.4%だった。 試験期間中、SARS-CoV-2感染が確認されたのは426例(14.4%)だった。このうち184例(43.2%)が症候性COVID-19を有した。426例の感染者のうち、383例(89.9%)はワクチン未接種または単価ワクチンのみ接種者で(SARS-CoV-2感染率1.38/1,000人日)、43例(10.1%)が2価mRNAワクチン接種者だった(同感染率0.84/1,000人日)。 SARS-CoV-2感染に対する2価mRNAワクチンの有効性は、54.0%(95%信頼区間:36.6~69.1)で、症候性COVID-19に対する同有効性は49.4%(22.2~70.7)だった。 ワクチン接種後の観察期間中央値は、単価ワクチンのみ接種者は276日(IQR:142~350)だったのに対し、2価mRNAワクチン接種者は50日(27~74)であった。

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「肉なし」食生活でコロナリスクが4割低下?

 植物性食品をベースにした食生活は、血圧の低下、血糖コントロールの改善、体重減少など、さまざまな健康上の利点と関連付けられているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患リスクを低減させる可能性もあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、植物性食品をベースにした食生活により、COVID-19罹患リスクが39%低下する可能性が示されたという。Hospital das Clinicas FMUSP(ブラジル)のJulio Cesar Acosta-Navarro氏らによるこの研究結果は、「BMJ Nutrition Prevention and Health」に1月9日掲載された。 この研究では、2022年3月から7月の間にソーシャルネットワークとインターネットで募集した研究参加者を対象に、食生活のパターンがCOVID-19の罹患と重症度などに及ぼす影響を検討した。調査に回答した723人のうち、702人が本研究の対象者とされた。食生活のパターンは、動物性食品と植物性食品の両方を摂取している雑食群(424人)と、植物性の食品をベースとした食事を摂取している菜食群(278人)に分けられた。菜食群は、ヴィーガン、および卵と乳製品は摂取するラクト・オボ・ベジタリアンから成るベジタリアン(191人)と、植物性食品の摂取が基本だが時に動物性食品も摂取するフレキシタリアン(87人)で構成されていた。 全体で330人(47.0%)がCOVID-19の診断を受けたことを報告した。重症度は、224人(31.9%)が軽症、106人(15.1%)が中等症〜重症だった。雑食群では菜食群に比べてCOVID-19の罹患率が有意に高かった(51.6%対39.9%、P=0.005)。COVID-19の重症度についても、雑食群で菜食群に比べて中等症〜重症の人の割合が有意に高かったが(17.7%対11.2%、P=0.005)、症状の持続期間については両群で有意な差は認められなかった(P=0.549)。 多変量ロジスティック回帰モデルによる検討の結果、菜食群では雑食群に比べてCOVID-19罹患リスクが39%低いことが示された。菜食群をベジタリアンとフレキシタリアンに分けて解析しても、罹患リスクは雑食群よりもベジタリアンで39%、フレキシタリアンで38%低かった。重症度に関しては、雑食群と菜食群の間でも、また菜食群をベジタリアンとフレキシタリアンに分けて3群間で検討した場合でも、有意な差は認められなかった。 こうした結果から研究グループは、「植物性食品をベースにした食事は免疫系の機能を高める栄養素を多く含んでおり、それが新型コロナウイルスへの感染を防ぐ要因になっているのかもしれない」との見方を示している。Acosta-Navarro氏は、「これらの知見と他の研究結果を踏まえ、またCOVID-19の発症に影響を与える因子を特定することの重要性に鑑みて、われわれは、植物性の食品をベースにした食事やベジタリアンの食事パターンの実践を推奨する」と話している。 本研究には関与していない、NNEdPro食品・栄養・健康のグローバル研究所のShane McAuliffe氏は、「この研究結果は、新型コロナウイルスへの感染のしやすさに食事が関係している可能性を示唆する既存のエビデンスに新たに加わるものだ」と評価する。一方で同氏は、「ただし、特定の食事パターンがCOVID-19罹患リスクを増加させるかどうかについて確固たる結論を出すには、より厳密で質の高い研究が必要であることに変わりはない」と述べている。

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2月14日 予防接種記念日【今日は何の日?】

【2月14日 予防接種記念日】〔由来〕1790(寛政2)年の今日、秋月藩(福岡県朝倉市)の藩医・緒方春朔が、初めて天然痘の人痘種痘を行い成功させたことから、「予防接種は秋月藩から始まった」キャンペーン推進協議会が制定した。関連コンテンツインフルエンザ【今、知っておきたいワクチンの話】肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】インフルエンザワクチン(1)鶏卵アレルギー【一目でわかる診療ビフォーアフター】コロナワクチン、2024年度より65歳以上に年1回の定期接種へ/厚労省新型コロナワクチン、午前に打つと効果が高い?

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第181回 医療DXで未来が変わる、マイナ保険証の利用率が鍵に

今回は、「まとめる月曜日」の特別編として、「マイナ保険証」に焦点をあて、今後の展望や医療機関ができること、やるべき対応について、井上 雅博氏に寄稿いただきました。マイナ保険証とは政府は団塊の世代が、すべて75歳以上の後期高齢者になる2025年までに、それぞれの地域で地域包括ケアの充実や病床再編を進めています。さらに新型コロナウイルス感染拡大が収束した今、医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとしています。今後迎える超高齢社会で、労働人口の減少に伴う労働力不足に対応しつつ、医療・介護サービスの効率化と質の向上の実現を目指しています。これらの基盤整備推進を行う上で、医療・介護分野で患者情報やさまざまな医療情報を共有する仕組みを進化させることを目的として、電子カルテの共有サービスを2025年4月に開始することを決定しています。その鍵となるのがマイナンバーカードと保険証の機能を統合した「マイナ保険証」です。医療DX推進本部が目指すもの政府は、2022(令和4)年10月の閣議決定で、医療分野でのDXを通して、サービスの効率化・質の向上を実現する基盤整備を推進するため、内閣に医療DX推進本部を設置しました。合わせて医療DX推進本部が推進する施策として、(1)「全国医療情報プラットフォームの創設」、(2)「電子カルテ情報の標準化など」、(3)「診療報酬改定DX」の3つの柱が発表されました。この中で3番の「診療報酬改定DX」は、2年ごとの診療報酬改定で発生する電子カルテの更新作業の負担を軽減するデジタル人材の有効活用やシステム費用の低減を目指していますが、1番大切な項目は「全国医療情報プラットフォームの創設」であり、オンラインによる資格確認システムのネットワークの拡充を行い、レセプト・特定健診などの情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテの医療・介護全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームを創設することを目指しています。厚生労働省は、「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループにおいて、医療や介護情報共有のための「電子カルテ情報共有サービス」について議論を進めており、本格的な稼働は2025年4月からとなっています。このサービスにより、患者さんが自分の病態を把握し、医師からアドバイスを受けたり、患者さんが他院を受診する際に医療者に情報を共有する、救急搬送時に医療機関に情報を提供することが可能となるように、電子カルテベンダーに対しても具体的な技術解説書のほか、実現に向けた工程表なども公表されています。電子カルテの情報共有で、臨床現場が変化する2025年4月に「電子カルテ情報共有サービス」が立ち上がると、マイナ保険証を介して診療現場では、お薬手帳の処方の情報以外に健診データ、病名、アレルギー歴、感染症、紹介状、入院サマリーを含む「3文書6情報」が共有されるようになります。これらについて具体的に説明します。3文書には、[1]健康診断結果報告書[2]診療情報提供書[3]退院時サマリーが含まれており、他の医療機関で入院治療を行った場合、その治療内容なども把握できるようになります。また、6情報に含まれるのは、患者さんの(1)傷病名(2)アレルギー(3)感染症(4)薬剤禁忌(5)検査(救急、生活習慣病)(6)処方(処方は文書抽出のみ)です。これらの情報は、医療機関を受診した患者さんの同意があれば、マイナ保険証を介して24時間以内は患者さん情報が閲覧可能になり、他院での病名、処方内容などもすべて把握できるようになります。今後、紹介状の内容やお薬手帳の内容を基に診察していた一人一人の医師にとって、患者さんの予診や問診以外で得られる情報が増えることになり、自院で行う検査や処方について、共有情報に基づいて行うことが必須となります。もちろん、情報セキュリティについて、医療機関側には適切な情報管理や、医療情報システムの運用や安全管理が課せられることになります。このため医療機関が扱う個人情報保護については2023年5月に出された「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」に準拠した対応が、すべての医療機関に求められることになります。このガイドラインが対象とする医療機関とは、病院だけではなく、一般診療所、歯科診療所、助産所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者なども含まれており、病院の電子カルテだけではないため、すべての医療従事者にはこのガイドラインへの対応が求められます。なお、電子カルテ情報共有サービスを用いることが不可能な場合(相手先が電子カルテ情報共有サービスを導入していない場合)は、これまで通り紙運用となりますが、多くの連携医療機関を抱える基幹病院は基本的に「電子カルテ情報共有サービス」で対応することが予想されるため、診療所レベルでも対応が必要となるでしょう。退院サマリーの早期作成が求められるように一部の高度急性期病院(湘南鎌倉総合病院など)では、「患者の退院時に退院サマリーが完成してからでないと退院許可ができない」という方式をとっている医療機関もあると聞きますが、退院時に紹介状を作成して紹介先に受診をする場合は、今後はマイナ保険証を利用して「退院サマリー」の添付が可能となります。現在、退院患者の退院サマリーについて、退院後14日以内に記載された割合が9割以上あることが診療録管理体制加算1で求められており、診療録管理体制加算がDPC病院の要件であるため、多くの急性期病院では退院サマリーの2週間以内の完成が求められています。また、卒後臨床研修評価機構(略称:JCEP)の認定を受けた臨床研修指定病院においては、退院時サマリーの作成率は、退院後1週間以内100%を常に目指すことが必要とされています。高度急性期の医療機関では、退院時までのすべてのサマリー完成は困難だと考えます。しかし、退院後に他の医療機関に紹介受診となった場合、退院時サマリー添付は必須とはなってはいませんが、診療情報提供書を「電子カルテ情報共有サービス」に保存するタイミングが退院時であることを考えると、退院サマリーについても同様の運用が今後想定されます。このため、今まで以上に勤務医は入院時から退院を意識した退院サマリーの作成が必要になると考えられます(具体的な運用方法は「医療DXについて(その3)」を参照ください)。鍵となるのはマイナ保険証の利用率厚労省は、マイナンバーカードと健康保険証との一体化をデジタル庁とともに取り組んでいますが、マイナンバーカードを発行しただけでは利用できず、マイナンバーカードの健康保険証利用の申込みが必要となります。さらに前述の「電子カルテ情報共有サービス」を利用して医療の効率化を図るためには、マイナ保険証を持参してもらわなければならないため、発行数ではなく利用率を引き上げる政策が必要となりました。これらについて、厚労省は、医療機関や薬局への支援策の詳しい運用を関係団体などにマイナ保険証の利用促進に関する通知をしました。通知によれば、「現行の健康保険証の発行については、2024(令和6)年12月2日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する、そして、マイナ保険証の利用促進のため、国が先頭に立って、医療機関・薬局、保険者、経済界が一丸となり、より多くの国民の皆様にマイナ保険証を利用し、メリットを実感してもらえるように、あらゆる手段を通じてマイナ保険証の利用促進を行っていく…」とあり、実際に利用率が上昇した医療機関には「支援金」が交付されるような仕組みまで創設しています。このほか、生活保護における医療扶助のオンライン資格確認の運用開始も今年の3月1日から開始されるなど、徐々に現場でも利用されるようなサービスの充実がはかられています。また、今年1月の能登半島地震では、マイナンバーカードを持参しなくても、本人の同意の下、薬剤情報・診療情報・特定健診など情報の閲覧が可能な措置(災害時モード)を実施することで、患者さんの薬剤情報などの閲覧により、診療に役立ったように具体的な事例でメリットを提示したり、ポスターを作成したり、啓発用の漫画を公開するなど、厚労省のプロモーションは強化されています。現在、マイナ保険証の利用率が全国で4~5%と低迷していますが、今年1~5月、6~11月の前半、後半でそれぞれ利用率の上昇率に対して2回の支援金が交付されるという前代未聞のキャンペーンが行われ、医療機関による患者さんへの働きかけが強化されると予想されます。今後、医療機関側に求められるマイナ保険証への対応はさまざまな場面で混乱する可能性もありますが、医療DXの対応で避けられない部分もあり、できるだけ政府の目指す21世紀型の医療・介護連携のために対応に乗り出すことが必要と思われます。参考1)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)2)マイナ保険証支援金セミナー&診療報酬のプチお知らせ[動画](厚労省)3)マイナ保険証利用促進のための医療機関等への補助等の支援策について(同)4)電子カルテ情報共有サービスにおける運用について(同)5)医療DXの推進に関する工程表について(同)6)医療扶助のオンライン資格確認(同)7)マイナンバーカードの保険証利用でみんなにいいことたくさん!!(同)8)電子カルテ情報共有サービス-医療機関等向け総合ポータル(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会)

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令和6年度コロナワクチン接種方針を発表、他ワクチンと同時接種が可能に/厚労省

 厚生労働省は2月7日の「新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会」1)にて、令和6年度(2024年度)の接種方針を発表した。2月5日に開催された第55回生科学審議会予防接種・ワクチン分科会2)の議論を踏まえ、2024年3月末まで特例臨時接種が実施されている新型コロナワクチンは、4月以降、インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症と同じ定期接種のB類疾病に位置付け、高齢者等に対して個人の発病または重症化を予防し、併せて蔓延予防に資することを目的とした接種を実施することとした。対象は65歳以上、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓、呼吸器のいずれかの機能の障害、またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者。定期接種開始は9月以降となる。他ワクチンとの同時接種も可能に 新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの接種間隔については、特例臨時接種となっている現在は、インフルエンザの予防接種は同時接種可能であるが、その他の予防接種との間隔は13日以上空けることとされている。4月以降は定期接種実施要領の規定どおり、注射生ワクチン以外のワクチンにおいては接種間隔を定めず、医師がとくに必要と認めた場合は同時接種を行うことが可能とした。この方針は、諸外国における新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの同時接種を可能とする状況も参考にされた。秋冬接種はWHO推奨株を基本に 接種に使用するワクチンについて、これまでは流行株の状況やワクチンの有効性等に関する知見に加え、諸外国の動向も踏まえて決定し、その後、ワクチンの製造販売業者による薬事申請等がなされ供給されていた。また、世界保健機関(WHO)は2023年以降、株構成に関する専門家会議を少なくとも年2回開催する方針を示している。直近では2023年12月に開催された3)。これらを踏まえ、令和6年度の秋冬接種に用いられるワクチンの検討については、最新のWHOの推奨株を用いることを基本とした。選択肢の確保の観点から、mRNAワクチン以外にもさまざまなモダリティのワクチンを開発状況に応じて用いることとし、具体的な対応株の検討などは、インフルワクチン同様に、研究開発及び生産・流通部会にて行われる。

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自殺未遂者の身体損傷、精神疾患のない人ほど大きい

 精神疾患は自殺の主な危険因子の一つであり、自殺予防対策では精神疾患のある人への支援が重要視されている。秋田大学大学院看護学講座の丹治史也氏らが秋田市内の自殺未遂者のデータを分析した結果、精神疾患の既往のない人は、その既往がある人と比べて、致死性の高い自殺企図の手段を選ぶ傾向があり、身体所見の重症度も高いことが分かった。同氏らは、精神疾患のある人だけでなく、精神疾患のない人にも配慮した自殺予防対策が重要だとしている。詳細は「Journal of Primary Care & Community Health」に11月19日掲載された。 日本の自殺率は近年減少傾向にあったが、新型コロナウイルス感染症の流行が影響して増加に転じている。自殺の主な危険因子には自殺未遂歴と精神疾患が挙げられる。自殺企図者の9割以上が精神疾患を有するとの報告もあり、精神疾患のある人は自殺リスクが高いと言われている。一方で、精神疾患のない人は致死性の高い自殺手段を選ぶ傾向のあることが報告されているが、精神疾患の有無と自殺未遂者の身体所見の重症度との関連は明らかになっていない。そこで、丹治氏らは今回、秋田市のデータを用い、自殺未遂者における精神疾患の既往の有無と救急搬送時の身体所見の重症度との関連を調べる二次データ解析を実施した。 この研究は、秋田市内5施設で収集した自損患者診療状況シートのデータを用い、2012年4月から2022年3月の間に救急搬送された自殺未遂者806人を対象に実施したもの。精神疾患の既往を曝露変数とし、主要評価項目は、自殺未遂者の身体所見の重症度(中等症または重症)とした。対象者のうち女性が67.6%を占め、76.4%(616人)は1つ以上の精神疾患の既往を有していた。 年齢と性、自殺企図の回数および支援者の有無で調整した解析の結果、自殺未遂者において、精神疾患の既往と身体所見の重症度との間に有意な負の関連が認められた〔有病割合比(PR)0.40、95%信頼区間0.28~0.59〕。つまり、自殺未遂者において、精神疾患の既往がない人は身体所見の重症度が高いことが分かった。この関連には年齢や性による差は認められなかった。また、自殺企図の手段に関する分析では、精神疾患の既往がある人は薬物過剰摂取などの致死性の低い方法を選ぶケースが多かったのに対し、既往のない人は、首つりや手首の深い損傷など致死性の高い方法を選ぶ傾向にあった。 以上から、著者らは「致死性の高い自殺企図の手段を選択するということは、自殺死亡に至るリスクが高まることを意味する。今回の研究は、精神疾患の診断がつく前に自殺を企図する可能性は高いことを考慮することの重要性を強調するものだ」と述べ、「精神疾患がなくても精神科を受診したり、社会的な支援を得られたりしやすい環境を整えることが自殺率の低下につながる可能性がある」と付言している。

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自宅で受ける病院レベルの医療の安全性と有効性を確認

 自宅で病院レベルの医療を受けた人は、入院して治療を受けた人と同程度に良好な経過をたどる可能性のあることが、米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のDavid Michael Levine氏らによる研究から明らかになった。同研究では、自宅で病院レベルの医療を受けた人の死亡率は低く、すぐに救急外来受診を必要とする状態に陥る可能性も低いことが示されたという。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月9日掲載された。 Levine氏は、「患者の自宅で提供される病院レベルの医療は非常に安全で質も高いようだ。本研究では、患者の生存期間が延び、再入院の頻度も抑えられることが示された」と話した上で、「もし、自分の母親や父親、きょうだいがこのような形で医療を受けるチャンスがあるならば、そうすべきだ」と付け加えている。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対する対応として、米国のメディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)は、2020年にAcute Hospital Care at Home Waiver initiative(在宅急性期医療の規制免除イニシアチブ)を発足し、メディケア認定病院が、患者の自宅で病院レベルの医療を提供できるようにした。これを受け、米国37州、300施設の病院の数千人の患者が、病院ではなく自宅で医療を受けた。ただし、現行の規制免除プログラムは2024年12月に終了する見通しだ。 米国病院協会(AHA)によると、技術の進歩により病院は幅広いサービスを患者の自宅で提供できるようになった。例えば、X線検査や最新の心臓画像検査、静脈注射による治療や検査のための検体の採取が可能であり、ベッドサイドまで食事や薬を届けることもできる。 Levine氏らは今回の研究で、自宅で病院レベルの医療を受けた患者の状態を評価するため、出来高払い制のメディケアパートAの2022年7月1日から2023年6月30日の間の請求データを用いて、在宅急性期医療の規制免除プログラムによる医療を受けた患者5,858人(女性54%、白人85.2%、75歳以上61.8%、身体障害あり18.1%)のデータを分析した。対象患者のうち、42.5%が心不全、43.3%が慢性閉塞性肺疾患(COPD)、22.1%ががん、16.1%が認知症を抱えていた。 解析の結果、対象患者の死亡率は0.5%であり、24時間以内に病院に戻ることになった患者の割合も6.2%に過ぎないことが示された。さらに、自宅での急性期医療の終了から30日以内に介護施設への入所が必要となった患者の割合は2.6%、同期間に死亡した患者の割合は3.2%、病院への再入院が必要となった患者の割合は15.6%だった。 Levine氏は、「病院レベルの医療を自宅で受けることが良好な転帰につながる理由と思われるものは数多くある」と説明する。例えば、「医療専門家は、患者の自宅で患者にどのように自身のケアをすべきかを教えることができる上に、自宅という環境は、患者にとって病院よりも起き上がって動き回りやすい」ため、治療後の移行がスムーズなのだという。また、患者の自宅で医療を提供することを通じて、医療専門家が患者の生活を垣間見ることができるため、患者の健康状態の悪化につながり得る要因などに気付くことができるのも理由だという。 さらに今回の研究では、患者の人種や民族、あるいは障害の有無によって自宅で病院レベルの医療を受けた場合のアウトカムに差はないことも明らかになった。Levine氏は、「従来の入院治療ではアウトカムに大きな格差があることが分かっているだけに、社会的に疎外されている集団で臨床的に意味のある差がなかったことは心強い。このことは、自宅での急性期医療が多様な患者や家庭に対応できることを示唆している」と述べている。

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第180回 ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省

<先週の動き>1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省厚生労働省は、1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、2024年度の診療報酬改定で急性期一般入院料1の平均在院日数を現行の18日から16日に短縮することを決定した。この決定は診療側と支払側の意見は大きく分かれていたため、公益裁定により行われた。これまで厚労省が進めてきた病床機能分化推進を目的としている。また、重症度や医療・看護必要度の基準も見直され、とくにB項目は廃止される方向で固まった。今回の改定では、急性期入院治療が必要な患者の集約化を進め、医療資源の適切な配分を促すために行われる。公益委員は、地域包括医療病棟の新設や入院基本料の見直しを踏まえ、該当患者割合の基準を高く設定することが将来の医療ニーズに応える上で重要だと指摘した。一方、診療側は、新型コロナウイルス感染症の特例終了後の経営の厳しさを理由に、平均在院日数の基準変更に反対し、影響の小さい見直しを求めた。また、支払側は、急性期病床の適切な集約を進めるために、より厳しい基準の採用と該当患者割合の引き上げを主張した。最終的に、公益裁定により平均在院日数の「16日以内」への短縮と、重症度・医療看護必要度の基準見直しが決定された。今回の改定により、地域医療の質の向上と効率化を目指し、急性期病床の機能分化と連携強化を推進することが望まれている。参考1)中医協 個別改定項目(その2)について(厚労省)2)1月31日の中医協の公益裁定で決定 急性期一般入院料1の平均在院日数は「16日」に短縮(日経ヘルスケア)3)24年度診療報酬改定 急性期の機能分化推進へ 急性期一般入院料1の平均在院日数「16日」に短縮(ミクスオンライン)2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁新型コロナウイルス感染症の長期化により、わが国の救急医療体制が逼迫していることが総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」から明らかになった。救急出動件数と搬送人数は共に増加傾向にあり、救急車の要請から病院受け入れまでの時間が延長し、搬送先病院をみつけるまでの照会件数も増加している。この状況は、救急現場の負担増加とともに、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。2022年中の救急出動件数は723万2,118件で前年比16.7%の増加、搬送人員は621万9,299人で13.2%増加した。搬送は救急自動車が大部分を占め、消防防災ヘリによる搬送もわずかに増加していた。救急出動の主な原因は急病で、とりわけ呼吸器系、消化器系、心疾患、脳疾患のケースが多くみられた。また、軽症者の割合も増加しており、救急搬送の要請が重症患者や重篤患者に限定されるべきであるとの国民意識のシフトが必要とされている。救急搬送の過程で、119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間は全国平均で10.3分、病院に収容されるまでの時間は47.2分となり、コロナ禍の影響で時間が延伸している。医療機関への受け入れ照会回数の増加や、搬送先病院のみつけにくさは、コロナ禍における救急医療提供体制の逼迫を示している。この状況に対応するため、厚生労働省は発熱外来や相談体制の強化、かかりつけ医を持つことの重要性を自治体に要請している。また、救急隊による応急処置の重要性が高まっており、医師の現場出動も広がっている。さらに、救急救命士が、病院前で重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置を救急外来でも実施できるよう法律改正が行われている。参考1)新型コロナ感染症の影響で救急医療体制が逼迫、搬送件数増・病院受け入れまでの時間延伸・照会件数増などが顕著―総務省消防庁(Gem Med)2)「令和5年版 救急・救助の現況」(総務省消防庁)3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省厚生労働省は、2024年4月より製薬会社による医師への研究資金提供に関する規制を強化する。製薬会社が、自社製品の臨床研究を大学病院などで行う医師に対して提供する資金の公表を義務付ける臨床研究法の施行規則を改正することにより、透明性を高めることを目的としている。改正後は、製薬企業が提供する研究資金のほか、医師への接待費用や説明会、講演会にかかった費用と件数も公表対象となる。これにより、医師が所属する大学などへの寄付金、講演会の講師謝金、原稿執筆料に加え、これまで公表対象外だった接待費用なども含めた透明性の確保が図られる。今回の規制強化は、高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受けて制定され、2018年に施行された臨床研究法に基づくもの。この法律は、製薬会社から研究を実施する大学側に寄付金が提供されていた事実を背景に、研究の透明性を高めることを目的としている。また、日本製薬工業協会は、2011年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、2022年にも改定している。このガイドラインでは、製薬企業と医療機関、医療関係者の産学連携における透明性と信頼性の向上を目指し、製薬企業の活動が倫理的かつ誠実なものとして信頼されるための取り組みを強調している。臨床研究法との関係においても、ガイドラインは臨床研究に関連する資金提供の情報公開を義務付け、国民の信頼確保に寄与することを目指している。今回の規制強化により、製薬企業と医療機関の資金提供について透明性を高め、医療機関・医療関係者が特定の企業・製品に深く関与することによる利益相反の問題を解消し、患者の健康を最優先にした倫理的かつ誠実な医療の提供を目指している。参考1)医師への接待費、公表義務化へ…研究資金提供の製薬会社に対し4月から(読売新聞)2)企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(日本製薬工業協会)4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省糖尿病治療薬をダイエット目的で使用する不適切な医療広告が増加している問題に対し、厚生労働省は医療広告ガイドラインの見直しを行うことを決めた。とくに、GLP-1受容体作動薬を「ダイエット薬」として処方する事例が問題視され、関係学会から有効性や安全性が確認されていないとの警鐘が鳴らされている。GLP-1受容体作動薬は、食欲や胃の動きを抑える効果があるため、糖尿病治療以外にもダイエット目的で使用されている。厚労省は、1月29日に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使用する場合、公的な救済制度の対象外であることを明示するなど、ガイドラインの「限定解除要件」に新たに項目を追加する方針を明らかにした。また、美容医療サービスなどの自由診療でのインフォームド・コンセントの留意事項も見直される。ダイエット目的での不適切な医療広告によって、糖尿病患者が必要とする薬が手に入らない事態を引き起こしており、健康被害の報告も増加している。ダイエット目的で使用した場合の副作用には、吐き気、気分の低下、頭痛、胃のむかつきなどがあり、使用者からは苦しんだとの声が上がっている。厚労省は、不適切な医療広告に対処する都道府県に対して、実施手順書のひな形を提供し、指導、対応を促す方針。さらにネットパトロール事業を通じて違反が確認された医療機関には通知され、多くは6ヵ月以内に改善されているが、一部では改善が遅れているケースもあるため、厳格な対応が求められており、医療広告に関する全国統一ルールの検討や、医療機関のウェブサイトだけでなく、SNSや広告への対処も検討されている。また、一般国民への正しい情報提供と理解促進の強化が必要とされている。参考1)第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会(厚労省)2)医療広告ガイドライン改正へ 厚労省「未承認薬は救済制度の対象外」明示、限定解除要件に(CB news)3)「糖尿病治療薬を用いたダイエット」などで不適切医療広告が目に余る、不適切広告への対応を厳格化せよ-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4)「糖尿病治療薬」“ダイエット目的”での使用相次ぎ健康被害が続出 薬不足で糖尿病患者が薬を手にできないケースも…(FNNプライムオンライン)5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省2024年12月に現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証への完全移行が予定されている。この移行に向けて、厚生労働省は医療機関や薬局に対してマイナ保険証の利用促進策を通知した。支援策には、利用促進、顔認証付きカードリーダーの増設、再来受付機・レセプトコンピューターの改修コストの補助が含まれる。利用促進に関しては、利用率の上昇に応じて1件当たり最大120円の支援金が提供される予定。具体例として、国家公務員の利用率は4.36%と低迷し、とくに防衛省では2.50%と最も低い利用率を記録している。同様に電子処方箋の普及も伸び悩んでおり、導入率は約6%に留まっている。これには、システム導入費の負担が大きな障壁となっていることが原因の1つとされている。さらに、マイナ保険証の導入に対する現場の反発も広がっている。大阪府保険医協会のアンケートでは、回答した医療機関の約7割が現行の保険証の存続を支持しており、マイナ保険証の利用に際してのトラブルも多く報告されている。医療現場からは、マイナ保険証の導入による受付業務の負担増や患者の待ち時間の増加が懸念されている。政府はマイナ保険証の利用促進とデジタル化の推進を図っているが、現場の声や患者の不安に十分考慮した取り組みが求められる。専門家は、マイナ保険証のメリットが十分に理解されていない現状を指摘し、デジタル化に適応できない人たちへの配慮や現場の声を反映したスケジュールの見直しが必要だと提言している。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)3)マイナ保険証、国家公務員も利用低迷 昨年11月は4.36%(朝日新聞)4)「トラブル多い」「利用は少ない」 マイナ保険証、広まる現場の反発(同)6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取鳥取県立中央病院の救命救急センターの医師が、消防の救急救命士に対してパワーハラスメント行為を行っていた問題について、病院は6件のパワハラ、またはパワハラの恐れがある行為を認めた。これに対し、12件はパワハラには当たらないと判断された。問題の行為には、救急救命士への高圧的な口調での対応や、一方的に電話を切るなどの行為が含まれている。病院側は、救急救命士からの医療行為に必要な指示を出すよう要請されたにもかかわらず、指示を拒否したり、救急救命士の発言が終わる前に電話を切ったりするなど、救急救命士を指導したいという思いが行き過ぎた行為があったと認めた。この問題について、病院長は記者会見を開き、パワーハラスメントに該当する言動があったことを発表し、今後は研修会などを通じて医師と救急救命士との信頼関係の醸成を図ると述べた。同病院は、消防局に対して謝罪し、関係回復に努めるとしている。また、県病院局はハラスメント防止委員会を立ち上げ、医師らの処分を検討する方針を示している。参考1)県立中央病院医師の救急救命士へのパワハラ6件と発表(NHK)2)救命士に電話ガチャ切りパワハラ 鳥取県立中央病院の救急医(産経新聞)3)「それってぼくが助言しなきゃいけないことですか」「一方的に電話を切られた」医師から救急隊員へのパワハラさらに判明 鳥取県立中央病院(山陰放送)

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COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている1,2)。 同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験3)等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。 本研究では、30歳以上でCOVID-19発症から7日以内の外来患者を、高用量のフルボキサミン群とプラセボ群に無作為に割り付けて比較した。結果は、主要アウトカムである症状改善までの期間短縮は認めず(調整ハザード比:0.99、95%信頼区間:0.89~1.09、有効性のp=0.40)、副次アウトカムの28日以内死亡例は両群ともに0例で、入院や救急外来/救急診療部受診ではフルボキサミン群14例(2.4%)に対してプラセボ群21例(3.6%)とフルボキサミン群での医療介入イベントは3分の1程度少なかったが、事前に定めた基準を満たすほどの差はなかった4)。 また、忍容性の観点では、「調子が悪いため、薬を飲むつもりはない」と報告した患者は、フルボキサミン群6.4%に対してプラセボ群は2.1%と、以前から想定されていた高用量フルボキサミンにおける忍容性の低さが示されたと考える。以上より、昨年の論文に続き、本研究でもCOVID-19に対するフルボキサミン投与の有効性は示されなかった。 今回の主要アウトカムであるCOVID-19の症状改善までの期間短縮では、有意差を示した過去の報告は乏しく、COVID-19に対して死亡率低下や重症化予防効果を示したニルマトレルビルやモルヌピラビルでさえほとんどない。 統計学的に有意な症状改善効果を示した薬剤にはエンシトレルビルがあり、プラセボに比較して症状消失までの時間を約24時間短縮させている5)。本邦で重症化リスクは低いが症状の強い患者から対症療法以外の薬剤も処方希望がある場合は、フルボキサミンを処方するよりもエンシトレルビルを処方するほうが理にかなっているだろう。 ただし、昨今のCOVID-19診療では、流行株の変化やワクチン接種の効果により、死亡率や重症化率は低下傾向で、外来患者の症状もデルタ株流行時よりも軽減しているように感じている。流行株が変遷した現在において、症状改善までの期間短縮のメリットが薬価や副作用・ウイルス耐性化のリスクといったデメリットに勝る薬剤を発見・開発することは、今後もなかなか難しいかもしれない。 さて、現在の医療現場でCOVID-19に関する問題として残っていることには、施設入所や入院中の患者で発生するCOVID-19クラスターがある。執筆時点で、COVID-19に対する発症予防効果が期待されている薬剤は、ワクチンや抗体療法を除くと証明されておらず、現在の流行株によるクラスター対策で即時に有用な薬剤はない。COVID-19は、重症化リスクの乏しい患者においては、インフルエンザウイルスなどと近い重症度になりつつある6)が、現在でも感染力は強く、施設内・院内感染におけるクラスターはいまだに施設や医療機関に負荷をかける原因となっている。 しかし、COVID-19に対して重症化予防が証明された抗ウイルス薬でも、発症予防効果が証明された薬剤はなく、症状改善までの期間短縮の薬剤よりも発症予防効果のある薬剤のほうが医療現場でのニーズは高いかもしれない。■参考1)McCarthy MW, et al. JAMA. 2023;329:269-305.2)CareNet.comジャーナル四天王「フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA」(2023年1月30日)3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)CareNet.comジャーナル四天王「コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA」(2024年1月12日)5)日本感染症学会 COVID-19治療薬タスクフォース「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版」(2023年2月14日)6)Xie Y, et al. JAMA. 2023;329:1697-1699.

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プロバイオティクスはCOVID-19の発症を遅らせる?

 プロバイオティクス、特に乳酸菌の摂取は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した同居家族を持つ新型コロナワクチン未接種者のCOVID-19発症を遅らせ、発症した場合でも症状を軽減する効果のあることが、新たな臨床試験で明らかにされた。米デューク大学医学部麻酔科学分野のPaul Wischmeyer氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Nutrition」1月号に掲載された。Wischmeyer氏は、「この研究結果は、COVID-19や将来流行する可能性のある他の疾患との闘いにおいて、共生微生物が貴重なパートナーになり得るという考えに信憑性を与えるものだ」と話している。 プロバイオティクスは、主に消化管に生息する有益な細菌や酵母を増やすように設計されている。「プロバイオティクスに呼吸器感染症を予防する効果があることを示す強力なエビデンスは、COVID-19が発生する前からあった」とWischmeyer氏は説明する。 この研究では、プロバイオティクスの摂取が、COVID-19のリスクを低減するための低リスクで低コスト、かつ導入の容易な方法となり得るかどうかが、二重盲検化ランダム化比較試験で検討された。対象者は、過去7日間で家庭内にCOVID-19罹患者がいた1歳以上の新型コロナワクチン未接種者182人で、新型コロナワクチンが広範に接種されるようになる前の2020年6月から2021年6月の間に試験に登録された。これらの対象者は、曝露後予防として28日間、プロバイオティクス(Lacticaseibacillus rhamnosus GG)を摂取する群(プロバイオティクス群)と、プラセボを摂取する群(プラセボ群)に1対1でランダムに割り付けられた。このうち135人(プロバイオティクス群66人とプラセボ群69人)が治療を開始した。主要評価項目は、COVID-19曝露から28日間でのCOVID-19の発症であった。 その結果、プロバイオティクス群ではプラセボ群に比べて、COVID-19の発症リスクが有意に低いことが明らかになった(26.4%対42.9%、P=0.02)。全体的なCOVID-19罹患率は、プロバイオティクス群で8.8%、プラセボ群で15.4%と前者の方が低かったが、統計的に有意な差は認められなかった(P=0.17)。ただし、プロバイオティクス群では、COVID-19の診断を受けるまでの時間が有意に長かった(P=0.049)。 こうした結果についてWischmeyer氏は、「プロバイオティクスは免疫系を強化し、炎症に関わる体内の化学物質を減少させ、感染に対する肺の防御能を高めることが知られている」と指摘。その上で、「今回の試験で得られた結果は、われわれにとっては驚きではなかった。インフルエンザなどの呼吸器感染症に対するプロバイオティクスの強い有効性を実証した先行研究がいくつかあったからだ」と話している。 Wischmeyer氏は、「プロバイオティクスは、ワクチン接種が受けにくい低所得国や、『ワクチン疲れ』で新型コロナワクチンのブースターの接種率が低い米国の地域では特に有用な可能性がある」との見方を示す。米疾病対策センター(CDC)によると、2023年に改良版の新型コロナワクチンを接種した人は、米国の人口の20%以下であるという。

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コロナ第10波、今のXBB.1.5対応ワクチン接種率は?/厚労省

 2024年1月26日付の厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染は、1月15~21日の1定点当たりの報告数が12.23人となり、前週の8.96人から約1.36倍増加している。都道府県別で多い順に、福島県(18.99人)、茨城県(18.33人)、愛知県(17.33人)となっている。COVID-19による入院患者数は3,462人で、すでに第9波のピーク時(2023年8月21~27日)の水準を上回っており1)、第10波が到来したと考えられる。 一方、首相官邸サイトの1月30日付の発表によると、新型コロナワクチンの令和5年秋開始接種(XBB.1.5対応ワクチン)の接種率について、65歳以上の高齢者では51.6%、全年代では21.5%と、低い水準にとどまっている2)。全額公費負担の特例臨時接種は2024年3月末で終了し、4月以降は、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳を対象に、秋冬に自治体による定期接種が原則有料で行われる。対象者以外の接種希望者は、任意接種として、時期を問わず全額自費で接種することとなる。 厚労省は1月26日に、予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会・医薬品等安全対策部会安全対策調査会が実施した、「オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの初回接種および追加接種にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)」の結果を発表した3)。本調査では、ファイザーおよびモデルナのXBB.1.5対応ワクチンについて、最終接種から4週間後までの安全性を評価する前向き観察研究であり、順天堂大学、国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)が共同で実施した。 主な結果は以下のとおり。・ファイザーのワクチンは、2023年9月29日~2024年1月5日に1,943人が追加接種した。モデルナのワクチンは、2023年10月13日~2024年1月5日に237人が追加接種した。・ファイザーのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた1,751人では、37.5℃以上の発熱が16.5%(38.0℃以上は6.5%)にみられ、局所反応は疼痛が87.5%にみられた。・モデルナのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた971人では、37.5℃以上の発熱が39.9%(38.0℃以上は21.7%)にみられ、局所反応は疼痛が93.4%にみられた。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチンは、2回目から令和4年秋開始接種に比べて発熱の頻度が低く、倦怠感、頭痛は2回目から4回目接種より頻度が低かった。1回目接種に比べて発熱、倦怠感、頭痛は頻度が高く、局所の疼痛は1回目から4回目接種よりも頻度が低かったが、全体的に大きな違いは認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチンは、3回目接種に比べて頭痛の頻度が低く、令和4年秋開始接種より発熱、倦怠感、頭痛の頻度が高かったが、局所疼痛の頻度は全体的に大きな違いは認めなかった。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチン接種者862人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗ヌクレオカプシドタンパク質抗体(抗N抗体)価が陰性者は接種前7,821U/mL、接種1ヵ月後1万7,971U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前2万3,860U/mL、接種1ヵ月後4万6,106U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチン接種者307人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗N抗体価が陰性者は接種前6,749U/mL、接種1ヵ月後2万1,797U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前1万9,851U/mL、接種1ヵ月後3万8,136U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・ファイザーとモデルナのXBB.1.5対応ワクチンのいずれも、PMDAへの副反応疑い報告は認められていない。ファイザーのワクチンにおいては因果関係を問わない重篤な有害事象(SAE)は認められていない。モデルナのワクチンにおいて3件の因果関係を問わないSAEが認められている。 なお、現在主流となっているオミクロン株JN.1に対しても、XBB.1.5対応ワクチンは入院や死亡といった重症化の予防に有効だとする見解が、JAMA誌オンライン版2024年1月12日号で示されている4)。

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第199回 コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見/コロナ感染でドーパミン神経が老化する

コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染でよく生じる症状の1つ、くしゃみを誘発する仕組みが見つかりました。SARS-CoV-2は手持ちのプロテアーゼPLpro(パパイン様プロテアーゼ)を頼りに複製します。そのPLproが感覚神経の一員である侵害受容神経を活性化してくしゃみを誘発することがマウスを使った検討で明らかになりました1)。ウイルス感染の別の主な症状である咳をPLproが促すかどうかは検討されませんでした。というのもマウスの咳を確かめようがなかったからです2)。しかしPLproが咳も引き起こしている可能性はありそうです。PLproは侵害受容神経で発現するイオンチャネルTRPA1を介した作用により、くしゃみや痛みを誘発することが今回の研究で示されました。TRPA1活性化の咳誘発作用が先立つ研究で知られており3)、PLproが咳も誘発するかどうかを調べることは価値がありそうです。PLproはSARS-CoV-2の複製に不可欠なことから、その阻害薬の開発が進んでいます。たとえばビタミンA誘導体イソトレチノンにPLpro阻害作用があると示唆されており、Clinicaltrials.govには同剤による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の臨床試験がいくつか登録されています。また、米国・Sound Pharmaceuticals社の開発品ebselenもどうやらPLpro阻害作用があるらしく、COVID-19患者を対象にした2つの第II相試験が進行中です。今回の結果によるとそれらPLpro阻害薬はこれまでの見込み以上の症状緩和作用や感染の拡大を防ぐ作用を担いうるかもしれません。くしゃみを誘発するウイルスはほかにもありますが、そもそもウイルス感染のくしゃみの原因はこれまでわかっていませんでした。今回見つかった仕組みはSARS-CoV-2のみならず、そのほかのウイルス感染の症状や感染の伝播を減らす手段の開発にも役立ちそうです2)。コロナ感染でドーパミン神経が老化する続いて、SARS-CoV-2が神経に支障を来す仕組みを同定し、COVID-19患者のパーキンソン病症状の発生に注意する必要があることを示唆した研究成果を紹介します。COVID-19の嗅覚/味覚障害や頭痛などの神経異常はますます広く知られるようになっています。神経のSARS-CoV-2感染のしやすさは一様ではないらしく、たとえばiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作ったドーパミン放出(DA)神経はSARS-CoV-2感染を許し、皮質神経はそうでないことが先立つ研究で示されています。新たな研究の結果、SARS-CoV-2感染したiPS細胞由来DA神経はパーキンソン病と関連する老化状態に陥ることが示されました4,5)。SARS-CoV-2感染で老化経路の活性化がみられたのはDA神経細胞のみで、肺を模す組織(肺オルガノイド)、膵臓細胞、肝臓オルガノイド、心臓細胞のSARS-CoV-2感染では老化経路遺伝子の有意な働きは認められませんでした。そういう神経老化を防ぎうる手段も早くも同定されました。検討されたのは米国FDA承認薬一揃いで、まずそれらをiPS細胞由来DA神経に与え、次にSARS-CoV-2を加えた後に細胞老化の生理指標βガラクトシダーゼ(β-gal)活性が測定されました。その結果やほかの検討により、3つの薬・リルゾール、イマチニブ、メトホルミンがDA神経へのSARS-CoV-2感染を阻止してその老化を防ぐことが判明しました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療に使われるリルゾールとSARS-CoV-2感染の関わりは知られていませんが、イマチニブのSARS-CoV-2阻止作用は肺オルガノイドを使った先立つ研究で確認されています。メトホルミンといえばSARS-CoV-2感染した肥満や2型糖尿病患者の死亡率低下と同剤使用の関連が示されており、COVID-19治療効果を担いうることが知られています。それら薬剤がSARS-CoV-2感染に伴う神経病変を解消しうるかどうかは今後調べる価値がありそうです。また、SARS-CoV-2感染した人にパーキンソン病関連症状が発生していないかどうかを注意して観察する必要がありそうです。パーキンソン病で損傷を受けやすいのが脳の黒質のDA神経A9型であるのと同様に、そのA9型はSARS-CoV-2にどうやらとくに影響を受けやすいことが今回の研究で示唆されています。参考1)Mali SS, et al. bioRxiv. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)Why does COVID-19 make you sneeze? / Science3)Grace MS, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2011;24:286-288.4)Yang L, et al. Cell Stem Cell. 2024 Jan 10. [Epub ahead of print]5)SARS-CoV-2 Can Infect Dopamine Neurons Causing Senescence / Weill Cornell Medicine

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