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1.

AF治療中に脳梗塞を招く潜在的要因とは

心房細動(AF)患者における経口抗凝固薬(OAC)投与は、脳梗塞予防の中心であるが、適切に治療されていても脳梗塞を発症する事例が存在する。こうしたブレークスルー脳梗塞(breakthrough ischemic stroke)の潜在的原因や、その後の予後への影響は十分に明らかになっていない。そこで、イタリア・University of L'AquilaのFederico De Santis氏らは、AFでOAC継続中に発症した脳梗塞患者を対象に、潜在的な原因と90日転帰との関連を検討した。その結果、潜在的な原因は約半数で認められ、90日以内の脳梗塞再発リスク上昇と関連していた。本研究結果は、Journal of Neurology誌オンライン版2026年8月17日号に掲載された。本研究は、欧州、北アフリカ、中東9ヵ国の脳卒中センター35施設のデータを用いた多施設共同後ろ向き観察研究で、2020年2月~2025年2月に、AFでOAC服用中に脳梗塞を発症した成人患者を対象に解析を行った。また、対象患者は、指標となる脳梗塞発症時にOACを継続的に服用している必要があり、直接経口抗凝固薬(DOAC)服用中の場合は「指標となる脳卒中発症前の7日間、服用を中断することなく、最後の服用が脳卒中症状発症の48時間前以内であること」、ビタミンK拮抗薬(VKA)服用中の場合は「最後の服用から脳卒中症状発症までの経過時間にかかわらず、国際標準化比(INR)が1.5以上であること」と定義された。ブレークスルー脳梗塞の潜在的原因は、OACと相互作用しうる併用薬、活動性がん、心原性塞栓以外の競合する脳梗塞病因とした。主要評価項目は90日以内の新規脳梗塞で、副次評価項目は90日時点のmodified Rankin Scale(mRS)スコア分布、心筋梗塞、全死亡、血管死(致死的な虚血性または出血性脳卒中、突然心臓死、心筋梗塞、またはそのほかの血管イベントによる死亡)、安全性評価項目は中等度~重度出血および頭蓋内出血とした。主な結果は以下のとおり。・解析対象1,649例の年齢中央値は80.4歳(四分位範囲[IQR]:73.2~85.6、女性860例[52.2%])であった。発症時の服用薬剤はDOAC1,275例(77.3%)、VKA374例(22.7%)であった。・ブレークスルー脳梗塞の潜在的原因が1つ以上認められた患者は724例(43.9%)で、潜在的原因が1つのみの患者は544例(33.0%)、複数の患者は180例(10.9%)であった。・潜在的原因の内訳は、OACと相互作用しうる併用薬が469例(28.4%)、心原性塞栓以外の競合する病因が401例(24.3%)、活動性がんが72例(4.4%)であった。併用薬ではプロトンポンプ阻害薬が450例(27.3%)と大半を占め、抗てんかん薬が31例(1.9%)、H2受容体拮抗薬が3例(0.2%)、デキサメタゾンが3例(0.2%)、ケトコナゾールが1例(0.1%)と続いた。・競合する病因では、頭蓋内/頭蓋外大血管アテローム性動脈硬化が240例(14.6%)で最も多かった。・潜在的原因の有無における結果は以下のとおり(その原因を有する患者vs.原因なしの患者)。・高血圧(87.3%vs.76.3%、p<0.001)・脂質異常症(58.1%vs.45.8%、p<0.001)・糖尿病(30.1%vs.24.3%、p=0.009)・心筋梗塞既往(29.3%vs.16.6%、p<0.001)・脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の既往(28.7%vs.21.8%、p=0.001)・慢性心不全(21.1%vs.13.4%、p<0.001)・慢性腎不全(20.4%vs.13.0%、p<0.001)・末梢動脈疾患(7.3%vs.2.9%、p<0.001)・90日追跡時点で、新規脳梗塞は57例(3.5%)、心筋梗塞は21例(1.3%)、全死亡は334例(20.3%、うち血管死は215例[13.0%])、中等度~重度出血は55例(3.3%)、頭蓋内出血は28例(1.7%)に認められた。・OAC再開までの期間中央値は7日(IQR:3~12)であった。・主要評価項目である90日以内の新規脳梗塞は、潜在的原因を1つ以上有する患者で4.8%、潜在的原因なしの患者で2.4%であり、潜在的原因を有する患者でリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.04、95%信頼区間[CI]:1.18~3.53、p=0.011)。・一方、90日時点のmRSスコア分布のオッズ比は1.15(95%CI:0.97~1.37、p=0.106)で、90日以内の心筋梗塞(1.5%vs.1.1%、HR:1.70、95%CI:0.69~4.14、p=0.246)、90日以内の全死亡(22.7%vs.18.4%、HR:1.24、95%CI:0.99~1.55、p=0.057)、90日以内の血管死(13.7%vs.12.5%、HR:1.06、95%CI:0.80~1.40、p=0.697)は、潜在的原因の有無で有意差が認められなかった。・安全性評価項目についても、中等度~重度出血(4.0%vs.2.8%、HR:1.38、95%CI:0.80~2.38、p=0.245)および頭蓋内出血(2.1%vs.1.4%、HR:1.48、95%CI:0.69~3.18、p=0.310)は、潜在的原因の有無で有意差が認められなかった。・逆確率重み付け解析では、相互作用しうる併用薬あり818例となし831例が比較され、90日以内の新規脳梗塞は併用薬あり群4.3%、なし群4.0%で差はなかった(HR:1.08、95%CI:0.67~1.73、p=0.761)。一方、90日以内の心筋梗塞は併用薬あり群で2.3%、なし群で0.7%であり、併用薬あり群で有意に高かった(HR:3.26、95%CI:1.30~8.17、p=0.012)。本研究結果について著者らは、AFに対するOAC継続中に発症するブレークスルー脳梗塞では、薬物相互作用、心原性塞栓以外の脳梗塞病因、活動性がんといった同定可能で一部修正可能な潜在的原因が相当数で認められ、これらを体系的に同定し、積極的に管理することがブレークスルー脳梗塞の予防や2次予防の最適化につながる可能性があるとまとめている。

2.

ESC心不全GL改訂、HFmrEF廃止・「急性心不全」は「非代償性心不全」へ/ESC2026

 欧州心臓病学会(ESC)による新たな心不全診療ガイドライン「2026 ESC Guidelines for the management of heart failure」がEuropean Heart Journal誌オンライン版2026年8月28日号でオンライン公開され1)、8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)において改訂の要点が解説された2)。今回の改訂では、疾患の予防と早期治療の徹底、左室駆出率(LVEF)に基づく分類の簡素化、「急性心不全」から「非代償性心不全」へ名称変更、新たな治療分類(FMT・AMT・GDIT)の導入など、時代に即した大幅な再定義が行われている。 本ガイドラインにおける主な改訂のポイントは以下のとおり。【心不全の分類・定義の刷新】LVEFに基づく分類の簡素化(HFmrEFの廃止) 従来、LVEF 41~49%の病態は「軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されていたが、今回の改訂でこの分類が廃止された。HFmrEF患者は、LVEF低下例(HFrEF)と同様の病態生理を共有し、同様の治療から恩恵を受けることが明らかになったためである。これにより、心不全のフェノタイプは以下の2つにシンプル化された。新LVEF分類・LVEFが低下した心不全(HFrEF):LVEF 50%未満で、心不全の症状・徴候を有する病態。・LVEFが保たれた心不全(HFpEF):LVEF 50%以上で、心不全の症状・徴候に加え、構造的・機能的異常やナトリウム利尿ペプチドの上昇を認める病態。予防・早期介入のためのステージ分類導入 発症予防と早期治療の徹底を目的として、心不全リスク段階(ステージA)から、前心不全(ステージB)、症候性心不全(ステージC)、重症/進行性心不全(ステージD)に至る段階的なステージ分類が採用された。また、高血圧またはステージBの心不全患者において、心不全発症リスクを低減するため、収縮期血圧130mmHg未満を目指す厳格な血圧管理がクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。「急性心不全」から「非代償性心不全」への名称変更 従来「急性心不全(Acute HF)」と呼ばれていた病態は、心機能の徐々の低下に伴い代償機構が破綻した状態を正確に表現するため、「非代償性心不全(Decompensated HF:DHF)」へ名称が変更された。DHFの初期管理においては、尿中ナトリウムモニタリングに基づく利尿薬調整(クラスIIb)や、初期安定化後のSGLT2阻害薬の院内早期導入(クラスI)が盛り込まれている。【治療分類の刷新と薬物治療のアップデート】「GDMT」から動的な3分類(FMT・AMT・GDIT)への移行 長年使用されてきた「ガイドラインに基づく薬物治療(GDMT)」という用語が見直された。新規薬剤や医療デバイスの承認に合わせて動的(dynamic)に対応し、常に最新の管理を行えるよう、治療法が以下の3クラスに再定義された。治療クラスの新たな3分類・基礎的薬物治療(FMT:Foundational medical therapy):対象を限定しない心不全患者全体に対して、罹患率や死亡率の低減に関する最も強いエビデンスを持つクラスI推奨の薬物治療。 ―HFrEFのFMT:β遮断薬、ACE阻害薬/ARNI/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の4薬剤。  ―HFpEFのFMT:MRA、SGLT2阻害薬の2薬剤。・追加的薬物治療(AMT:Additional medical therapy):特定サブ集団における転帰改善、または症状・QOL改善に特化したエビデンスを持つ薬物治療(クラスIIa/IIb推奨、または特定の症状改善目的のクラスI推奨)。・ガイドラインに基づく介入治療(GDIT:Guideline-directed interventional therapy):推奨されるすべての心臓植え込み型電子デバイス(CIED)や経カテーテル治療などのインターベンション治療。FMTの主な推奨事項・全LVEF領域におけるSGLT2阻害薬とMRAの推奨 SGLT2阻害薬およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、LVEFを問わずすべての有症候性心不全患者に対し、心不全入院または心血管死のリスク低減を目的としてクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。具体的な対象薬剤は以下のとおり。・SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン・MRA ―HFrEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン、エプレレノン) ―HFpEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン)、非ステロイド性MRA(フィネレノン) なお、慢性心不全の管理において、FMTは症状やバイタルサイン、血液検査を参考に少なくとも1~2週間ごとに漸増し、目標用量に達することがクラスIで推奨された。また、無症状化やLVEF改善が得られた場合であっても、原則として最高耐容用量でのFMT継続がクラスIで推奨されている。AMTの主な推奨事項・肥満を伴うLVEF 45%以上の心不全に対するGLP-1受容体作動薬 BMI 30kg/m2以上かつLVEF 45%以上の肥満を伴う有症候性心不全患者(糖尿病の有無を問わない)に対し、体重減少、運動耐容能・QOLの改善を目的としてセマグルチドまたはチルゼパチドの投与がクラスIIa(エビデンスレベルB1)で推奨された。・慢性心不全へのAMT 最適なFMTを実施しても有症候性のHFrEF(LVEF 40%以下)患者に対し、心不全入院リスク低減目的で強心配糖体(ジゴキシンまたはジギトキシン)の追加がクラスIIaで推奨された。また同様に、FMT 治療後のHFrEF(LVEF 45%未満)患者に対してはベリシグアトの追加もクラスIIbで考慮される。GDITの主な推奨事項・経カテーテル的Edge-to-Edge修復術(TEER) 最適なFMTや適応のある心臓再同期療法(CRT)を実施しても持続する、血行動態が安定した重症二次性僧帽弁閉鎖不全症を伴う有症候性HFrEF患者に対し、心不全入院リスク低減およびQOL改善を目的としたTEERがクラスI(エビデンスレベルB1)で推奨された。【早期介入の重要性と患者参加型医療への展望】 ガイドライン作成タスクフォースの共同委員長を務めたLars Kober氏(デンマーク・コペンハーゲン大学病院)は、「高齢化や肥満などのリスク因子の増加に伴い、心不全の全体的な疾病負担は高まると予想される。今回のガイドラインで特に強調したかったのは、予防と可能な限り早期からの治療開始の重要性である」とプレスリリースで述べている。さらに新たな治療用語の導入について、「10年以上前に導入された『GDMT』という用語は治療の進歩に伴い、今日において何を指すのか曖昧になっていた。新用語(FMT・AMT・GDIT)は、今後新たな薬剤やデバイスが承認された際にも柔軟に対応し、常に時代に即した概念であり続けられるよう設計されている」と解説している。 同じく共同委員長を務めたMarianna Adamo氏(イタリア・ブレシア大学)は、LVEF分類の簡素化について「軽度低下(HFmrEF)という分類は、従来臨床試験に含まれにくかった患者に光を当てるため導入されたが、これらの患者がHFrEFと同様の病態生理を共有し、同様の治療恩恵を受けることが判明したためシンプル化した」と説明している。また、「急性」から「非代償性」への変更点については「突然悪化するのではなく、心臓が欠陥を補いきれなくなるまで徐々に機能低下していく病態を明確にするための改訂である」と付言した。 本ガイドラインには患者教育とセルフケアに関するセクションが含まれている。Adamo氏は「患者教育とライフスタイルのアドバイスは、患者自身が心不全を管理し、医療者と意思決定を共有する力を与える。患者が自身のケアのパートナーとなることを目指し、患者向けバージョンのガイドラインも公開されている3)」と結んでおり、医療者と患者が一体となった包括的な心不全管理の重要性がさらに高まると期待される。

3.

がん既往CKM症候群でもフィネレノンの効果は一貫(FINE-HEART)/Eur Heart J

心血管・腎・代謝(CKM)症候群では、共通のリスク因子や病態機序を背景にがんを併存する患者が少なくない。しかし、がん既往を有するCKM症候群患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンの有効性・安全性が同様に得られるかは明らかではない。そこで、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMihaly Ruppert氏らは、FINE-HEART統合解析を用いて、がん既往の有無別の臨床像、転帰、フィネレノンの治療反応を検討した。その結果、がん既往は全死亡および全入院リスクの上昇と関連したが、フィネレノンの治療効果はがん既往の有無にかかわらず一貫していた。本研究結果は、European Heart Journal誌オンライン版2026年8月18日号に掲載された。本研究は、FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD、FINEARTS-HFの3試験を対象とした、FINE-HEART患者レベル統合解析の事後解析である。対象は、2型糖尿病と慢性腎臓病を有する患者、または左室駆出率が軽度低下もしくは保持された心不全患者の計1万8,991例とした。3試験では、標準治療にフィネレノンまたはプラセボが追加された。がん既往は病歴記録から、追跡中の新規がんは有害事象報告から同定した。主要評価項目は心血管死(死因不明を除く)で、全死亡、心不全入院、全入院、腎複合アウトカム、主要心血管イベント(MACE)、新規心房細動なども評価した。主な結果は以下のとおり。・1万8,991例のうち、ベースライン時にがん既往を有した患者は1,389例(7.3%)であった。がん種は消化管がん18.3%、男性生殖器がん17.1%、腎・尿路がん13.3%などが多く、肥満関連がんは40.5%を占めた。・がん既往あり群はなし群と比較して高齢(72.2歳vs.66.6歳)で、eGFRが低く(52.5 vs.59.5mL/分/1.73m2)、CKMステージ3~4、心房細動、現喫煙または過去喫煙の割合が高かった。・がん既往は、全死亡リスクの上昇(16.3%vs.11.1%、調整ハザード比[aHR]:1.31、95%信頼区間[CI]:1.13~1.52)および初回全入院リスクの上昇(57.8%vs.44.6%、aHR:1.26、95%CI:1.17~1.36)と独立して関連した。・一方、心血管死、心不全入院、MACE、腎複合アウトカム、新規心房細動では、共変量調整後にがん既往による有意差は認められなかった。・ベースライン時にがん既往のない1万7,602例のうち、追跡期間中央値2.9年に915例(5.2%)で新規がんが報告された。フィネレノン投与による新規がん発症(HR:0.95、95%CI:0.83~1.08)およびがん関連死(HR:0.81、95%CI:0.63~1.03)の有意なリスク低下・増加は認められなかった。・フィネレノンの治療効果(心血管死、全死亡、心不全入院、全入院、MACE、腎複合アウトカムなど)は、がん既往の有無にかかわらず一貫していた。・安全性について、重篤な有害事象の発現率はがん既往あり群で高かったが、薬剤による差は認められなかった。高カリウム血症はフィネレノン群で多く認められたものの(がん既往あり:14.4%vs.プラセボ6.1%、がん既往なし:12.7%vs.プラセボ6.2%)、高カリウム血症による死亡はいずれの群でも認められなかった。本研究結果について著者らは、CKM症候群患者においてがん併存は比較的多く、予後不良と独立して関連したが、フィネレノンの治療利益を減弱させなかったとまとめた。また、治療開始時点で余命12ヵ月未満と見なされない場合、がん併存を理由にCKM健康改善を目的としたリスク低減治療の実施を控えるべきではないと述べている。

4.

降圧薬による認知症リスクの低下、ARB vs.Ca拮抗薬~日本人大規模データ

 降圧薬の「種類」の違いが、血圧低下とは独立して認知症リスクに影響するかについては、十分に明らかになっていなかった。今回、統計数理研究所/総合研究大学院大学の野間 久史氏らが実施した65歳以上を対象とした標的試験エミュレーションの結果、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の新規開始はカルシウム拮抗薬(CCB)の新規開始に比べて、認知症、とくに血管性認知症のリスクが低いことが示された。Alzheimer’s & Dementia誌2026年8月号に掲載。 本研究では、19自治体の医療・健診情報を統合した約505万人の大規模医療データベースであるLIFE Studyの2014年4月~2024年9月のデータから、新規にARBまたはCCBによる高血圧治療を開始した65歳以上の認知症ではない成人を対象に、標的試験エミュレーションによりARB開始群とCCB開始群の認知症リスクを比較した。打ち切りや競合する死亡イベントを考慮し、重み付け離散時間ハザードモデルを用いてintention-to-treatおよびper-protocol効果を推定した。 主な結果は以下のとおり。・最終的に5万2,019例(ARB群1万7,860例、CCB群3万4,159例)が解析対象となり、追跡期間中央値3.6年の間に3,524件の新規認知症が確認された。・達成された血圧レベルが同等であったにもかかわらず、ARB群はCCB群と比較して認知症全体の発症リスクが低かった(ハザード比[HR]:0.916、95%信頼区間[CI]:0.852~0.985)。・血管性認知症(129イベント)では、ARB群でより大きなリスク低下が認められた(HR:0.617、95%CI:0.409~0.930)。・アルツハイマー病(2,231イベント)では、ARB群で低い傾向は認められたものの、統計学的に有意ではなかった(HR:0.930、95%CI:0.849~1.018)。・5年後の認知症累積発症率は、ARB群が8.0%、CCB群が8.8%であった。・治療中の収縮期血圧および拡張期血圧は両群でほぼ同等であった。 著者らは、「これらの結果は、ARB群で認められた認知症リスクの低下が、より血圧が下がったことだけでは説明しにくいことを示している。とくに血管性認知症で強い関連がみられたことから、ARBが脳血管の老化、微小血管障害、血管内皮障害などに影響する可能性が考えられる」と考察している。

5.

睡眠薬の切り替えまたは減量に関する推奨事項

 世界人口の10~30%が不眠症に罹患しているといわれている。また、睡眠薬を服用する人の4人に1人が、その薬剤に依存するようになるともいわれている。不眠症では、利用可能な薬剤の種類が多岐にわたるため、薬剤の切り替えは複雑である。しかし、これまでの推奨事項は、すべての薬剤クラスを網羅しているわけではなかった。そのため、欧州全体および各地域の診療の特性を考慮した、実践的かつエビデンスに基づいた推奨事項が求められていた。ドイツ・ケルン大学のGoran Hajak氏らは、睡眠薬の切り替えまたは減量に関する推奨事項について、ドイツ睡眠学会およびオーストリア睡眠学会の不眠症ワーキンググループによるナラティブレビューを実施した。Deutsches Arzteblatt International誌オンライン版2026年9月18日号の報告。 本ナラティブレビューは、英語およびドイツ語の6つのデータベース検索により抽出された、1953年5月~2026年2月までの文献(ガイドライン、メタ解析、システマティックレビュー、ランダム化比較試験、観察研究など)に基づいて行われた。文献レビューを行い、既存の不眠症ガイドラインを補完するための新たな推奨事項を、コンセンサス形成プロセス(コンセンサス会議およびそれに続くデルファイ法)により策定した。 主な結果は以下のとおり。・睡眠薬の短期使用(1~2週間)後、またはオレキシン受容体拮抗薬であるダリドレキサント、メラトニン、抗ヒスタミン薬、植物療法薬など、離脱症状を引き起こさない薬剤の場合は、漸減せずに治療を中止することが可能である。・ベンゾジアゼピン受容体作動薬、抗うつ薬、抗精神病薬、ガバペンチノイドについては、中長期使用(2週間超)後、週に10~25%の漸減を行い、段階的に減量すべきである。・薬剤、用量、使用期間、治療レジメン、その後の治療計画に応じて、さまざまな漸減方法を用いることが可能である。・高用量での使用(最大用量の3分の2以上)または長期使用(1年以上)後には、より時間をかけた減量が推奨される。・ベンゾジアゼピン受容体作動薬による離脱症状は、ダリドレキサントまたはエスゾピクロンによりオーバーラップ投与することで軽減できる。・非薬物療法として、行動療法の併用が推奨される(相対リスク:1.68、95%信頼区間:1.19~2.39)。 著者らは「睡眠薬の切り替えや中止を行う際には、エビデンスに基づき、かつ実践に即したプロトコールを用いた、薬剤ごとのアプローチを採用すべきである」と結論付けている。

6.

フィネレノンは非糖尿病CKDのeGFR低下を抑制する(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(non-steroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)の非糖尿病慢性腎臓病(CKD)の腎機能低下抑制効果について、最近、二重盲検無作為化比較試験(RCT)のFIND-CKD研究の2報が報告された。1報は非糖尿病CKD患者全体を対象とした解析(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026;395:533-545.)であり、もう1報は、そのうち糸球体疾患を有する患者に限定した探索的サブ解析(CLEAR!ジャーナル四天王「フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある」)である。これらの解析から、フィネレノンには、非糖尿病CKD患者全体でeGFRスロープの低下を遅延化させる腎保護効果があることが示された。CKD腎保護薬としてのフィネレノンの位置付け 糖尿病を合併するCKDに対する腎保護療法としては、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の4剤が推奨されている。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている。一方、nsMRAおよびGLP-1 RAは、これらの薬剤に上乗せして使用する薬剤として推奨されている(KDIGOガイドライン:Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。これらの推奨の根拠となったエビデンスは、糖尿病CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験、ならびに両試験の統合解析であるFIDELITYの成績である。一方、非糖尿病CKDではフィネレノンに関するRCTは実施されていなかった。今回のFIND-CKD研究で得られた非糖尿病CKDにおける肯定的な結果と、これまでに蓄積されてきた糖尿病CKDにおけるエビデンスを合わせて考えると、フィネレノンの腎保護作用は糖尿病の有無にかかわらずCKD全般で期待される可能性が示唆された。本研究の主要結果 FIND-CKD研究は、世界24ヵ国で実施された国際共同第III相二重盲検RCTである。糖尿病を合併しないCKD患者1,584例を対象とし、フィネレノン群793例とプラセボ群791例を比較した。対象患者の腎機能はCKD G3bが中心で、UACRは大部分がA3に相当する中等度~高度アルブミン尿を呈していた。また、57.0%は糸球体疾患を原疾患とするCKDであり、99.8%が最大耐用量のRAS阻害薬による治療を受けていた。 主要評価項目は、ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率である総eGFRスロープ。その結果、eGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であり、群間差は0.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.3~1.1、p<0.001)であった。 副次評価項目には、腎・心血管複合イベント、腎複合イベント、心血管複合イベントなど。腎・心血管複合イベントの発生リスクは、フィネレノン群でプラセボ群と比較して有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。腎複合イベントのHRは0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントのHRは0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 高カリウム血症の発現率は、フィネレノン群で17.0%(135例)、プラセボ群で13.3%(105例)であった。今後のCKD治療にどう影響する? CKDにおける腎保護の基本は、蛋白尿を減少させ、適切に降圧することである。加えて、糖尿病では血糖管理が重要であり、慢性糸球体腎炎・IgA腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などでは、ステロイド、扁桃摘出術、免疫抑制薬などが病態に応じて選択される。フィネレノンによるCKDの腎保護作用は、「MRの過剰活性化→炎症・線維化」という共通の経路を抑制することによる。FIND-CKDは、非糖尿病CKDにおいても同剤が腎保護作用を有するという仮説を検証したRCTである。本研究の意義と展望については、Dr. Robert TotoのEditorial(Toto R. N Engl J Med. 2026;395:600-601.)のコメントは参考になる。Totoは、「フィネレノンは、CKDや高血圧の病態の根底にあるMRの過剰活性化を抑制する可能性がある。FIND-CKD研究の成果は、フィネレノンを『糖尿病CKDの腎保護薬』から、非糖尿病CKDにおいても『MRの過剰活性化による残余リスクを抑制する薬剤』へと位置付ける可能性がある」と展望している。言い換えると、FIND-CKDはフィネレノンを、「糖尿病CKDの薬」から「CKD全般の腎保護薬」へと適応を拡大する根拠を提供した初めての研究ともいえる。もっとも、eGFR低下の遅延抑制に加えて、腎ハードエンドポイント(腎不全や透析開始など)への効果、CKD疾患別の効果、SGLT2阻害薬との併用効果など、今後検討すべき課題は残されている。 現在、国内外のガイドラインにおいて、非糖尿病CKDに対するフィネレノンの使用についての言及はない。しかし、本研究により、今後のガイドライン改訂において、同剤がCKD全般で新たな腎保護の治療選択肢として位置付けられる可能性が高い。実臨床で非糖尿病CKD患者において、フィネレノン投与を考慮すべき患者として、(1)UACRが中等度から高度、(2)eGFRが25mL/分/1.73m2以上、(3)ARBやSGLT2阻害薬による先行治療を行ってもなお残余リスクがある患者、が想定される。また、フィネレノン投与時には、高カリウム血症のリスクを念頭に入れ、血清カリウム濃度を適切にモニターすべきである。

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制吐目的のオランザピン、糖尿病患者にも厳格管理下で投与可能へ/日本癌治療学会

 2026年8月25日、日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(以下、WG)は、「制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理」について、ガイドライン速報版として公開した。同日に厚生労働省から添付文書の改訂指示が発出され、経口薬のオランザピンについては、警告が新設されると同時に禁忌の項が改訂された。 同ワーキンググループの安部 正和氏(浜松医科大学医学部産婦人科)は、本公表に至る経緯や臨床現場への期待について、以下のように本稿へコメントを寄せている。  「私と国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本 浩伸先生、矢内 貴子先生が中心となってシスプラチンレジメンを対象に行ったJ-FORCE試験、乳がんのAC療法を対象に日本で行われたJTOP-B試験、米国で行われたALLIANCE試験の3試験によって、オランザピンを含む4剤併用療法は、日本・米国・欧州のガイドラインにて、高度催吐性化学療法に対する標準制吐療法になりました。これまで日本でのみ糖尿病患者への投与が禁忌であったことから、国内の糖尿病患者さんだけがオランザピンを含む制吐療法を受けることができませんでした。  この臨床課題について、私と橋本先生は2年前に、日本がんサポーティブケア学会のCINV部会のミッションとしてオランザピンの糖尿病患者への投与禁忌解除を掲げ、活動を開始しました。CINV部会および制吐薬適正使用ガイドラインの関係者からの協力もいただき、オランザピンの治験データ、国内で行われたオランザピン5mgを含む制吐療法を検証した第III相試験の血糖値データ、オランザピンを使用した国内外のランダム化比較試験の文献、海外のオランザピンの添付文書、教科書的記載などを調査し、厚生労働省医薬局医薬安全対策課と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の方と安全な使用条件について検討を重ね、ようやく今回の添付文書に至りました。  抗がん剤に伴う悪心・嘔吐は患者さんがつらいだけではなく、コントロールが悪いと生命予後が短くなることが示されています。日本の糖尿病患者さんの制吐療法においてオランザピンが使用できることになったことは非常に喜ばしいことである一方で、安全に使用できることが非常に重要です。がん治療に関わる医療者の皆さまにおかれましては、WGが発出したガイドライン速報版の内容を十分確認の上、安全かつ適正な使用をお願いいたします」添付文書の改訂点【警告】<抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)>糖尿病又はその既往のある患者へ本剤を投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察するとともに、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。【禁忌】糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者↓<統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善>糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者厳格な血糖管理と入院管理の徹底 今回示された臨床管理の主なポイントは以下のとおり。・入院治療の適応:糖尿病またはその既往のある患者に制吐目的でオランザピンを投与する場合、血糖コントロールが安定していることを確認のうえ、入院管理で化学療法を行う。外来治療が可能な化学療法(AC療法や中等度催吐性化学療法など)であっても、高度催吐性リスクであるシスプラチンを含む化学療法と同様に入院管理で実施する。・事前コンサルト:化学療法前の検査で糖尿病が判明した場合や血糖コントロール不良例では、あらかじめ内分泌内科・糖尿病内科へコンサルトを行い、十分なコントロールを得た上で治療を開始する。・血糖管理:日常臨床で行われているスライディングスケール(毎食前±眠前の1日3〜4回の血糖測定)を用いた厳格な血糖管理を行う。・入院(投与)期間と退院基準:標準制吐療法のオランザピン投与日数(1〜4日目の4日間)を遵守し、追加投与が必要な場合も入院管理を継続して必要最低限にとどめる。オランザピンおよび併用するデキサメタゾンの投与期間・投与量に留意し、食前血糖値200mg/dL未満など血糖値が安定した状態を確認して退院を計画する。・退院後の外来管理・緊急対応:自己血糖測定(SMBG)患者での食前血糖値200mg/dL以上の継続・300mg/dL以上の高血糖時、SMBGが保険診療上できない患者での口渇・多尿・倦怠感などの発現時には、夜間・休日を問わず受診している医療機関に連絡・受診するよう指導を徹底する。カルテへの明確な記載や院内マニュアルを整備し、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の安全管理体制と同様に、多科・多職種による安全管理体制の構築を推奨する。禁忌解除の要望が実現 多元受容体拮抗薬(MARTA)で非定型抗精神病薬のオランザピンは、発売開始後の公知申請によって、2017年に抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)に対する効果的な制吐薬として承認されている。また、2023年10月に改訂された『制吐薬適正使用ガイドライン第3版』では急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった点などが反映されたことで、現在では臨床で広く浸透している。その一方で、重大な副作用として著しい血糖値の上昇や糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等が報告されていたことから、「糖尿病またはその既往のある患者には投与禁忌」とされ、糖尿病歴のある患者が化学療法を行う際に、制吐対策が限定される状況であった。しかし、これまで報告されている本薬の有効性を検証した臨床試験において、「重篤な高血糖関連事象は報告されていない」「本薬を含む4剤併用の制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスクの化学療法に対する標準制吐療法になっているが、本邦のみ本薬が糖尿病患者に対して禁忌」であることを踏まえ、WGにより禁忌解除の要望書を2026年4月9日付けで厚生労働省に提出。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価でも支持を受け、今回、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」の効能に対しては、禁忌を解除し、慎重投与可能と判断されるに至った。 今回の速報版は、ガイドライン上の既存の推奨内容を変更するものではないが、糖尿病またはその既往のある患者であっても、適切な厳格管理体制を整えることでオランザピンを制吐目的で安全に投与・活用できるようにするための具体的な管理手順および留意点を取りまとめたものである。薬物動態と臨床試験データ さらに速報版では、制吐目的での短期投与に関する薬理学的データや臨床試験成績も提示されている。オランザピンの半減期は約33時間であり、定常状態に達するには約1週間(約163時間)を要するため、標準的な4〜6日間の連続投与時点では血中濃度が上がり切っていない状態にある。また、日本国内で実施された各種ランダム化比較試験(J-FORCE試験、JTOP-B試験、肺がんカルボプラチン試験など)のデータにおいて、制吐薬としてオランザピンを短期間併用した群と対照群との間で、Grade3〜4の重篤な高血糖発現率に大きな差は認められていない。 制吐目的での短期投与における高血糖関連有害事象のエビデンスがまだ十分に集積されていない現状を踏まえ、本速報版では臨床現場でより安全にオランザピンを使用するための慎重なリスク管理体制が提示された形だ。

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スタチンとARBの併用で認知症リスクは低下するのか

 高血圧と脂質異常症は、認知症の修正可能な危険因子であり、スタチンと降圧薬の併用は保護的な効果をもたらす可能性がある。しかし、特定の薬剤の組み合わせに関するエビデンスは依然として限られている。オーストラリア・タスマニア大学のEyayaw Ashete Belachew氏らは、アンジオテンシンII(Ang-II)産生を増加させる降圧薬(Ang-II産生促進薬)とスタチンの併用と、Ang-II産生を減少させる降圧薬(Ang-II産生抑制薬)とスタチンの併用を、認知症リスクとの関連について比較検討した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2026年8月号の報告。 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の大規模な地域住民コホートである45 and Up Studyのデータを用いて、プロスペクティブに検討を行った。対象は、高血圧および脂質異常症を有し、スタチンと降圧薬を併用している45歳以上の患者であった。対象患者を、スタチンとAng-II産生促進薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、サイアザイド系利尿薬、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[DHP-CCB])の併用群と、スタチンとAng-II産生抑制薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACEI]、β遮断薬[BB]、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[非DHP-CCB])の併用群に分類した。薬剤への曝露は、服薬期間割合(PDC、80%以上)に基づき判定した。1対1の傾向スコアマッチングを用いて、両群のベースライン特性をマッチングさせた。食事、身体活動、併存疾患、併用薬で調整したハザード比(HR)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・マッチングを行った3万4,610例(各群1万7,305例、平均年齢65.8±8.8歳、平均フォローアップ期間12.4±5.1年)を対象とした解析において、スタチンとAng-II産生促進薬の併用群は、スタチンとAng-II産生抑制薬の併用群と比較し、認知症リスクの12%低下(HR:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.98)および全死亡リスクの13%低下(HR:0.87、95%CI:0.82~0.93)との関連が認められた。・ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとAng-II産生促進薬の併用は、シンバスタチンとAng-II産生促進薬の併用と比較し、より大きな有益性を示した(各々、HR:0.43[95%CI:0.36~0.50]、HR:0.74[95%CI:0.64~0.84])。・これらの効果は男女ともに一貫して認められた。しかし、保護的な関連は65~74歳の年齢層でのみ観察された。また、ARBを含む併用療法は、ACEIを含む併用療法と比較し、より優れた有益性を示した。・死亡を競合リスクとして考慮したモデルを含む感度分析においても、これらの結果は頑健であった。 著者らは「スタチンとAng-II産生促進薬の併用は、認知症リスクの低下と関連していた。とくに、ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとARBの併用で、より大きな有益性が確認された。このことは、認知機能への有益性が治療選択の判断材料となりうることを示唆している。今後は、ランダム化比較試験によってこれらの知見を検証し、その根底にあるメカニズムを解明する必要がある」としている。

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湿布と間違えた!何の中毒?【中毒診療の初期対応】第11回

<今回の症例>年齢・性別89歳・女性患者情報アルツハイマー型認知症および高血圧にて、精神科クリニックで1日あたりリバスチグミン貼付薬18mgおよびアムロジピン5mgを処方されていた。救急搬送2日前に腰痛を訴えたため、長女と整形外科クリニックを受診しケトプロフェンテープ40mg 10袋(7枚入り)、およびアセトアミノフェンが600mg分2(28日分)で処方されていた。搬送当日の16時頃、長女が買い物から帰宅すると、意識が朦朧とし嘔吐を繰り返していたため、救急要請された。初診時(17時)は気道開通、呼吸数20回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧166/94mmHg、心拍数128bpm、意識レベルJCS20、瞳孔左右1.5mm同大、対光反射±、体温36.6℃であった。傾眠状態で、嘔吐を繰り返し、発汗著明、便失禁を認めた。腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 12.40×103/mm3、Hb 12.8g/dL、Ht 36.6%、Plt 124×103/mm3、生化学検査では、TP 7.3g/dL、AST(GOT)16IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 146IU/L、CPK 68IU/L、AMY 242IU/L、Glu 124mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.7mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)52IU/L、動脈血ガス(室内気)では、pH 7.382、PaCO2 40.2Torr、PaO2 78.3Torr、HCO3- 22.4mmol/L、BE -1.2mmol/L、乳酸値2.0mmol/Lであった。頭部CTでは中等度の脳萎縮を認めた。心電図では洞性頻脈を認めた。<問題1><解答・解説はこちら>1. リバスチグミン臨床症状および血清ChE値の低下によりリバスチグミン中毒を疑って全身検索したところ、腰部にリバスチグミン貼付薬18mgが計12枚貼られていた。直ちにすべてを除去し、輸液療法のみで経過観察した。翌日の9時には気道開通、呼吸数14回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧146/82mmHg、心拍数72bpm、意識レベルJCS 0、瞳孔左右3.5mm同大、対光反射+、体温36.2℃となり、下痢、嘔吐、発汗も消失した。薬は長女が管理していたが、長女の留守中に腰痛がひどくなり、リバスチグミン貼付薬を見つけて、誤って大量に貼付したと推測された。長女に薬の管理を徹底するように促して第3病日に軽快退院となった。神経終末より遊離したアセチルコリン(ACh)はアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンと酢酸に分解される。リバスチグミンなどのカーバメートはAChEの活性部位を構成しているセリンの水酸基にカルバミル基を結合させてカルバモイル化することによってAChEを失活させる。ただし、この反応は可逆的で、しばらくすると自然に加水分解されて、カルバミル基がとれて脱カルバモイル化されるので、アセチルコリンエステラーゼの活性は、数分から長くても6時間で自然回復する。AChEが失活すると、自律神経系、神経・筋接合部、中枢神経系の神経終末でAChが蓄積してムスカリン性およびニコチン性ACh受容体が過剰刺激されて、ムスカリン様症状、ニコチン様症状、および中枢神経症状が生じる。これらは急性コリン作動性症候群(Acute cholinergic syndrome)と呼ばれている(図1)。(図1)急性コリン作動性症候群画像を拡大するただし、非可逆的にAChEを失活させる有機リンに比べて、重症度は低く、症状の持続時間は短い。また、カーバメートはAChEのみならずChEの活性も低下させるが、血清ChE値は有機リンのように著明に低下せず、低下または正常範囲である(表1)。(表1)有機リン中毒とカーバメート中毒画像を拡大する解毒薬・拮抗薬として、アトロピン硫酸塩がある。これはムスカリン受容体拮抗薬であるので、ムスカリン様症状にのみ有効である。気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴を認めれば重症度に応じてアトロピン硫酸塩2~4mg(小児では0.05~0.10mg/kg)をボーラスで静注する。その後は気管支分泌物量や喘鳴が改善するまで15分ごとに繰り返し投与する。有機リン中毒に比べて、カーバメート中毒に要するアトロピンの総投与量は少ない(表1)。なお、第4回で取り上げた有機リンのうち、基本構造P=S結合のあるものは、肝臓で代謝されてP=O結合となりAChEと反応するため、毒性の発現は遅延する。しかし、カーバメートは代謝産物ではなく、そのものがAChE阻害作用を持つので毒性の発現は速い。本症例では、縮瞳、下痢、嘔吐、発汗、腸蠕動音亢進といったムスカリン様症状、頻脈、高血圧といったニコチン様症状、傾眠といった中枢神経症状を認めた。一方で、気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴はみられなかったため、アトロピン硫酸塩を使用せずに輸液療法のみで経過観察し、翌日には中毒症状は消失した。リバスチグミン中毒の過去の症例報告でも、頻脈および高血圧といったニコチン様症状はよく見られている。 1) 上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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日本の心不全診療、2013年から転帰の改善状況は?(JROADHF)/Eur Heart J

心不全(HF)診療では薬物療法や介入、退院後管理が進歩している一方、実臨床での診療内容の変化と患者転帰への影響は十分に明らかになっていない。米国・マサチューセッツ工科大学の遠山 岳詩氏らは、日本の2つの大規模HFレジストリを比較し、HF診療と転帰の変化を検討した。その結果、ガイドライン推奨治療や患者教育の実施率が増加し、1年死亡およびHF再入院はいずれも低下していた。本結果は、European Heart Journal誌オンライン版2026年8月8日号に掲載された。本研究は、2013年のJROADHF(1万3,238例)と2019~21年のJROADHF-NEXT(4,016例)を対象に、1:1の傾向スコアマッチングを行い、各コホートの患者転帰を比較した。比較対象は2013年コホートと2019~21年コホートで、診療内容としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、心臓リハビリテーション、栄養指導などの実施状況を評価した。主な評価項目は1年死亡およびHF再入院で、転帰改善に関連する因子も解析された。主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後の解析対象は、2013年コホート2,972例、2019~21年コホート2,972例であった。・マッチング後、RAS阻害薬の使用割合は2013年コホート70.9%、2019~21年コホート73.1%、β遮断薬はそれぞれ74.9%、80.8%であり、いずれも2019~21年コホートで高かった。・MRAの使用割合は、2013年コホート54.2%、2019~21年コホート61.1%であった。・非薬物療法・患者教育では、心臓リハビリテーションの実施割合が43.5%から88.8%へ、栄養指導が2.9%から56.1%へ増加していた。・2019~21年コホートでは2013年コホートと比較して、1年死亡率が13.5%から9.9%へ低下し、相対的に26.7%低下した。1年HF再入院率は28.0%から13.4%へ低下し、相対的に52.1%低下した(いずれもp<0.001)。・死亡リスクの低下は、RAS阻害薬(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.64~0.80、p<0.001)およびβ遮断薬(HR:0.85、95%CI:0.75~0.96、p=0.012)による薬物療法と関連していた。・患者教育では、栄養指導が死亡リスク低下と関連していた(HR:0.76、95%CI:0.64~0.89、p=0.001)。・HF再入院は、コホート効果が最も強い予測因子であり、2019~21年コホートでリスクが低かった(subdistribution HR:0.49、95%CI:0.43~0.57、p<0.001)。著者らは、「2013年から2019~21年にかけて、日本のHF患者の長期転帰は改善し、ガイドライン推奨治療は生存ベネフィットと関連していた」とする一方、「HF再入院の大幅な低下は、薬物療法のみならず退院後ケアや医療提供体制の変化を反映した可能性がある。本研究はレジストリに基づく観察研究であり、残余交絡や時代背景の影響を除外できず、因果関係の解釈には注意が必要」とまとめている。

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新規睡眠薬登場後、日本におけるBZD減量成功率は?

 不眠症に対するベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)の長期使用は、依存や認知機能低下などの有害事象と関連している。デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)やメラトニン受容体作動薬(MRA)などの新しい作用機序を持つ新規睡眠薬は、BZDよりも安全であるものの、BZDからの切り替えは簡単ではない。京都府立医科大学の綾仁 信貴氏らは、BZDの使用期間に着目し、新規睡眠薬の導入がBZDの減薬にどのような影響を与えるかを明らかにするため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。Sleep Medicine誌オンライン版2026年7月17日号の報告。 対象は、2021年5月~2022年4月、日本の2つの医療機関において新規睡眠薬による治療を開始したBZD使用中の外来不眠症患者。主要評価項目は、1年間のフォローアップ期間終了時におけるBZDの減薬(1剤以上の減量)の成功率とした。BZDの使用期間と減薬成功との関連を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・全体として3,802例に対して5,114剤の睡眠薬(うち新規睡眠薬は38%)が処方されていた。そのうち190例がBZD使用中に新規睡眠薬の投与を開始していた。・フォローアップ期間終了時、46%の患者においてBZDの減薬が達成された。・BZDの減薬成功率は、それまでのBZDの使用期間が1年未満の患者のほうが1年以上の患者よりも有意に高かった(69%vs.36%、p<0.0001)。・共変量で調整した後、定期的でないBZDの使用を基準とした場合の減薬成功のオッズ比は、BZDの使用期間が1~5年の場合で0.21(95%信頼区間:0.08~0.56)、5年以上の場合で0.16(同:0.06~0.43)であった。 著者らは「新規睡眠薬の導入が、BZDの減薬に有効である可能性が示唆された。しかし、それまでのBZDの使用期間が長くなるにつれて成功率は著しく低下することが明らかとなった。将来的なBZDの中止を可能にするためには、長期使用を避け、より安全な新規睡眠薬の使用を優先することが適切なアプローチであると考えられる」と結論付けている。

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CKM症候群の突然死リスク、フィネレノンで19%低下(FINE-HEART)

 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンの有効性と安全性を検証した3件の大規模第III相試験の統合解析「FINE-HEART」の事前規定解析の結果、フィネレノンは心血管・腎・代謝(CKM)症候群における突然死リスクの低下と関連していたことが、イタリア・IRCCS Azienda Ospedaliero-Universitaria di BolognaのAlberto Foa氏らによって示された。これまでの研究で、フィネレノンはCKM症候群の心血管系および腎転帰を改善することが報告されているが、突然死に対する影響は明らかではなかった。Journal of the American College of Cardiology誌2026年8月4日号掲載の報告。 FINE-HEART試験に含まれる3件の試験は、FIDELIO-DKD試験(対象:2型糖尿病を伴う慢性腎臓病[CKD]患者)、FIGARO-DKD試験(対象:2型糖尿病を伴うCKD患者)、FINEARTS-HF試験(対象:左室駆出率が軽度低下した心不全[HFmrEF]/左室駆出率が保持された心不全[HFpEF]患者)であり、いずれもフィネレノンまたはプラセボの投与を受ける群に1:1に無作為に割り付けられた。本解析では、多変量Cox回帰モデルを用いて突然死の臨床的予測因子を特定し、フィネレノンの突然死に対する治療効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・中央値2.9年の追跡期間中に、1万8,991例の参加者のうち2,178例が死亡した。心血管死が41%を占め、その中で最も多かったのが突然死(47%)であった。・死亡者に占める突然死の割合は、CKMステージ2/3の患者では13.9%、ステージ4の患者では20.5%であった。ステージ4ではステージ2/3と比較して突然死リスクが約2.7倍高かった(ハザード比[HR]:2.7、95%信頼区間[CI]:1.99~3.67、p<0.001)。・突然死リスクの上昇と独立して関連した因子として、高齢、心不全・心房細動・心筋梗塞の既往、尿アルブミン-クレアチニン比高値、低収縮期血圧、eGFR低下およびHbA1c高値が挙げられた。・突然死はフィネレノン群188例(2.0%)とプラセボ群230例(2.5%)に発生し、フィネレノン群でリスクが19%有意に低下した(HR:0.81、95%CI:0.67~0.98、p=0.034)。 -フィネレノン群:100患者年当たり0.69件 -プラセボ群:100患者年当たり0.85件 -絶対発生率減少:100患者年当たり0.16件 -治療必要数:216・このリスク低減効果は、突然死以外の死亡を競合リスクとして考慮した解析でも一貫して認められた。また、各サブグループ間でも効果は一貫していた。 研究グループは、「これらの知見はCKM症候群患者に対する非ステロイド型MRAの使用を支持するものであり、心血管系および腎臓の保護にとどまらず不整脈による死亡リスクの軽減をもたらす可能性を示している」とまとめた。

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GERD診療30年の変遷―PPIの時代からP-CABを軸とする時代へ【温故知新30年】

講師紹介H2受容体拮抗薬(H2RA)が中心であった1980年代胃食道逆流症(GERD)診療の変遷を振り返る際には、わが国における酸関連疾患全体の変化を抜きにして語ることはできない。1980年代の消化器診療において、酸関連疾患の中心は胃潰瘍・十二指腸潰瘍であった。H. pylori感染率は現在よりはるかに高く、胃粘膜萎縮を背景に加齢とともに胃酸分泌が低下する症例が多く、GERDは日常診療のなかで大きな位置を占める疾患ではなかった。胸焼けや呑酸など逆流症状を訴える患者は存在していたが、主な治療対象は内視鏡でびらんや潰瘍を認める逆流性食道炎であり、内視鏡所見に乏しい症例をどのように診断し、治療するかについては整理されていなかった。非びらん性胃食道逆流症(NERD)、食道知覚過敏、機能性胸焼けという概念は、診療現場でほとんど浸透していなかったのである。治療の中心は、生活指導と1980年に登場したH2RAであった。H2RAは、外科的治療が中心であった消化性潰瘍診療を内科的治療へと大きく変えた薬剤であり、当時の臨床的意義は大きかった。しかし、逆流性食道炎(とくに重症例や再発例)に対しては、酸分泌抑制の強さと持続性に限界があった。PPIの普及により、大きな変化を迎えた1990年代今から30年前に感じた最大の進歩は、プロトンポンプ阻害薬、すなわちPPIの普及である。PPIはH2RAより強力かつ持続的に胃酸分泌を抑制し、逆流性食道炎の治癒率を大きく改善した。とくに中等症から重症の逆流性食道炎において、PPIは標準治療としての地位を確立した。PPIの登場に伴って、全国GERD研究会が立ち上がり、GERD診療が大きく標準化された。逆流症状を訴える患者にPPIを投与し、症状の改善を確認する。内視鏡で逆流性食道炎の重症度を評価し、必要に応じて維持療法を行う。こうした診療の流れが一般診療に定着したことはGERD診療の歴史における大きな転換期といえる。同じ時期に、保険収載されたH. pylori除菌治療の普及により消化性潰瘍の再発が大きく減少した。これは酸関連疾患の交代を意味していた。H. pylori感染率の低下、除菌後患者の増加などで胃粘膜萎縮の少ない高齢者が増え、胃酸分泌が保たれる日本人が多くなってきた。その結果、GERD(とくに逆流性食道炎)は、日常診療でより頻繁に遭遇する疾患となった。PPIの普及は新たな課題も明らかにした。PPIを適切に投与しても症状が十分に改善しない患者が一定数存在すること、内視鏡では食道炎が治癒しているにもかかわらず強い症状が残る症例、夜間の逆流症状や再発を繰り返す症例もみられた。PPIはGERD診療を標準化したが、同時に「酸を抑えればすべて解決するわけではない」という事実が私たちに突きつけられた時代であった。P-CABの登場で変わる治療:2015年〜この10年のGERD診療で重要な変化は、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の登場である。わが国で開発されたボノプラザンは、従来のPPIと異なる機序でプロトンポンプを阻害し、速やかで強力かつ持続的な酸分泌抑制を示す。GERD診療は、PPIの時代から、P-CABをどう位置付けるかを考える時代に入った。臨床的意義が大きかったのは、重症逆流性食道炎、再発を繰り返す症例、夜間酸逆流が問題となる症例、PPIで十分な効果が得られない症例に対する有効性であった。従来は、PPIを増量する、投与タイミングを工夫する、就寝前にH2RAを併用するなどの対応が行われてきた領域に、より強力な酸分泌抑制という新たな選択肢が加わった。この変化は、GERD診療の治療設計そのものを変える可能性を持っていた。初期治療でどの患者にP-CABを用いるのか、治癒後の維持療法をどうするのか、軽症例ではどの時点で休薬やオンデマンド療法を検討するのか、NERDではPPIとP-CABをどう使い分けるのか。これらの問いが、GERD診療の中心課題となっている。一方で、P-CABは強力であるがゆえに、漫然と使用すべき薬剤ではない。酸分泌抑制が強いほどよい、という単純な時代ではない。長期投与に伴う高ガストリン血症、胃底腺ポリープなど胃粘膜の変化、さらに病理組織学的変化をどう評価するかは、今でも重要な検討課題となっている。私にとってのパラダイムシフト従来、内視鏡所見や組織学的所見、胃酸分泌能および消化管ホルモンを研究してきた私にとって、GERD診療における第1のパラダイムシフトはPPIの登場であった。PPIによる酸分泌抑制は、組織学的胃炎とガストリン動態に影響するとともに、逆流性食道炎を確実に治癒が目指せる疾患とした。H2RAの時代には難しかった重症例の治癒、再発抑制、維持療法が可能になり、GERD診療は大きく進歩した。第2のパラダイムシフトはP-CABの登場である。P-CABは、従来のPPI治療で残されていた課題に正面から向き合う薬剤である。すなわち、酸抑制の立ち上がり時間、夜間酸分泌抑制、重症食道炎の治癒、再発抑制、PPI抵抗性症状に対する対応である。症状が残る患者の中には、真の酸逆流が主因ではなく、逆流に対する過敏性や機能性胸焼け、機能性ディスペプシア、心理的社会的因子が関与する症例もあり、P-CABによってGERD診療のすべてが解決するわけではない。むしろ重要なのは、強力な酸分泌抑制が必要な患者を正しく選択し、投与期間および用量を適切に判断することである。この点で、P-CABはGERD診療の成熟を促している。従来は「PPIで効かなければ難治例」と考えていた症例の一部に、より強力な酸分泌抑制で対応していたが、P-CABでも改善しない症例では、そもそも酸逆流が症状の主因なのかを再検討すべきである。P-CABの登場により、酸抑制治療の限界が押し広げられると同時に、GERDの精緻な病態診断の重要性が増したのである。次の5年、GERD診療はP-CABを中心に再編される? 内視鏡的治療の普及も?今後5年のGERD診療では、P-CABの位置付けがさらに明確になるだろう。重症逆流性食道炎、再発リスクの高い症例、PPIで十分な効果を得られない症例では、P-CABをより早期から用いる診療が広がる可能性がある。GERD治療は、PPIを基本としながら必要時にP-CABを追加する時代から、病態に応じて最初からPPIとP-CABを使い分ける時代へと移行していくと考えられる。一方で、軽症例やNERDでは、過剰な酸分泌抑制を避ける視点も重要である。症状が軽く、再発リスクが低い患者では、短期間治療、休薬、間欠療法、オンデマンド療法を組み合わせる。P-CABを使う場合でも、初期治療後にどのように減量・中止・維持へ移行するかを考える必要がある。今後のGERD診療では、「強く抑える」ことと同じくらい、「適切にやめる」「必要最小限にする」こと、さらにはアルギン酸製剤やプロバイオティクスの併用による酸分泌抑制薬中止後のリバウンド抑制なども課題となると思われる。P-CAB中心の診療になるほど、長期安全性の評価は避けて通れない。ボノプラザンは発売から11年が経過し、H. pylori陰性者を対象としたVISION研究など長期維持療法に関するエビデンスも蓄積されつつある。今後は、実臨床での長期使用データ、病理組織学的変化、血清ガストリン値の推移、胃粘膜の変化、患者背景別の安全性を丁寧に評価していく必要がある。さらに、P-CABでも改善しない症例への対応が、専門医療の質を左右する。食道インピーダンス、pHモニタリング、食道内圧検査を適切に用い、真のGERD、逆流過敏、機能性胸焼けを区別することが求められる。今後のGERD診療は、薬剤治療の効果が乏しい症例、長期投与が必要な若年症例に対して内視鏡的逆流防止術が選択される時代が到来する可能性もある。過去30年で、GERDの薬物診療はH2RAからPPIへ、そしてP-CABへと進歩してきた。これからの課題は、P-CABという強力な治療選択肢を、いかに過不足なく使いこなすかである。必要な患者には十分な酸抑制を行い、不要な患者には漫然投与を避ける。長期安全性を見据えながら、症状、内視鏡所見、再発リスク、患者の生活背景を総合的に判断し、内視鏡的治療にも目を向ける。GERDはありふれた疾患である。しかし、ありふれているからこそ、治療の質が問われる。P-CABの登場は、GERD診療を新しい段階へ押し上げた。次の5年は、その力を最大限に活かしながら、患者一人ひとりに適したGERD治療を設計する時代になる。

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非糖尿病CKDへのフィネレノン、eGFR低下を有意に抑制/NEJM

 非糖尿病の慢性腎臓病(CKD)成人患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンはプラセボと比較して、32ヵ月間にわたる推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を抑制したことが示された。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のHiddo J. L. Heerspink氏らFIND-CKD Investigatorsが、国際共同第III相二重盲検無作為化試験の結果を報告した。先行の無作為化試験において、フィネレノンは2型糖尿病およびCKDを有する患者における腎・心血管アウトカムを改善したが、糖尿病を伴わないCKD患者への効果は明らかになっていなかった。NEJM誌2026年8月6日号掲載の報告。ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率を評価 研究グループは、糖尿病を伴わないCKD(eGFR:25mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満かつ尿中アルブミン/クレアチニン比[UACR]:200~500mg/g、またはeGFR:25mL/分/1.73m2以上90mL/分/1.73m2未満かつUACR:500~3,500mg/g)を有し、レニン・アンジオテンシン系阻害薬を服用している成人を対象に、フィネレノンの有効性と安全性を検証した。 被験者を、フィネレノン(10mgまたは20mgを1日1回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、総eGFRスロープ(ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率と定義)で、2スロープ線形スプライン混合効果モデル(ベースラインから3ヵ月時点までの効果[すなわち急性eGFRスロープ]と3ヵ月時点から治療中止までの有効性を区別する[両者は異なると予想された]ためのモデル)で評価した。副次評価項目は、腎・心血管複合イベント(eGFRのベースラインからの持続的低下が57%以上、腎不全、心不全による入院または心血管死)、腎複合イベント、心血管複合イベントなどであった。eGFR年間変化率、フィネレノン群-3.3mL/分/1.73m2/年で有意に抑制 2021年9月21日~2023年5月12日に1,584例が無作為化された(793例がフィネレノン群、791例がプラセボ群)。両群のベースライン特性は類似しており、平均年齢は54.7歳、535例(33.8%)が女性で、UACR中央値は818.9mg/gであった。 ベースラインのeGFRは、フィネレノン群46.8±16.2mL/分/1.73m2、プラセボ群46.6±16.0mL/分/1.73m2であった。ベースラインから3ヵ月時点までのeGFRの平均変化量は、フィネレノン群(-2.0mL/分/1.73m2)がプラセボ群(-0.8mL/分/1.73m2)よりも1.2mL/分/1.73m2大きかったが、3ヵ月以降、フィネレノン群のeGFR低下率は緩徐になった。 主要評価項目のベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であった(群間差:0.7、95%CI:0.3~1.1、p<0.001)。 事前に規定された階層的検定で、腎・心血管複合イベントリスクは、フィネレノン群でプラセボと比較して低いことが示された(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。HRは、腎複合イベントについては0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントについては0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 最も多くみられた有害事象は高カリウム血症であった(フィネレノン群135例[17.0%]、プラセボ群105例[13.3%])。高カリウム血症により、それぞれ12例(1.5%)と1例(0.1%)で試験治療が中止され、7例(0.9%)と5例(0.6%)が入院に至った。

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アトピー性皮膚炎への抗ヒスタミン薬、ルーチン使用を支持せず/BMJ

 アトピー性皮膚炎患者において、ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)の追加投与は、重症度およびかゆみについて臨床的に意義のある改善には至らない可能性があり、睡眠障害やアトピー性皮膚炎の増悪も軽減しないことが示唆された。また、第1世代の同薬剤は認知機能障害の増加および有害事象による治療中断を増加させる可能性があり、第2世代の同薬剤では認知機能障害リスクに差異があることも示された。カナダ・マクマスター大学のAlexandro W.L. Chu氏らが無作為化試験のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析の結果を報告した。著者は、「これらの知見は、アトピー性皮膚炎の治療における抗ヒスタミン薬のルーチンな使用を支持しないことの根拠となり、臨床ガイドラインの改訂に資するものである」と述べている。BMJ誌2026年7月29日号掲載の報告。システマティックレビューおよびネットワークメタ解析で評価 アトピー性皮膚炎(湿疹)患者の治療における経口抗ヒスタミン薬の使用は、近年の英国では5人に1人、米国では約半数に上ると推定されている。研究グループは、これらのOTC薬の有益性と有害性を調べ、アトピー性皮膚炎の患者にとって重要なアウトカムに対処するために包括的な解析が必要であり、最適な治療には経口抗ヒスタミン薬の科学的根拠に基づく評価が必要として本検討を行った。 開設から2025年5月5日までのMedline、Embase、CENTRALおよび米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)のデータベースを検索し、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を行った。 適格試験は、抗ヒスタミン薬、H2受容体拮抗薬、肥満細胞膜安定化薬(nedocromil sodium、クロモグリク酸ナトリウム)あるいはそれらの併用の追加投与を評価した無作為化試験とした。2人のレビュアーがそれぞれ、記録のスクリーニング、データの抽出および改訂Cochrane Risk of Bias 2ツールを用いたバイアスリスクの評価を行った。 ベイズ流ランダム効果ネットワークメタ解析により、アトピー性皮膚炎の重症度(oSCORAD、客観的スコア:0~83点、臨床的に意義のある最小差は8.2点、低スコアほど良好)、かゆみの重症度(数値評価スケール:0~10、臨床的に意義のある最小差は3、低値ほど良好)、睡眠障害、アトピー性皮膚炎に関連した生活の質(QOL)、および有害事象の統合解析を行った。エビデンスの確実性(質)の評価には、ネットワークメタ解析のためのGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)およびCore GRADEアプローチが用いられた。第1世代抗ヒスタミン薬は認知機能障害を増加 解析には、主に中等症~重症の小児および成人6,230例(報告された平均年齢の中央値20歳[平均値の範囲:1~43])が登録された47試験が組み入れられた。27試験(57%)が小児を対象に含んでおり、31試験(66%)はプラセボ対照試験で、37試験(79%)は並行群間比較試験であった。また、36試験(77%)が全被験者に基礎的な併用治療(保湿剤または外用コルチコステロイド)が行われていた。 中程度のエビデンスの確実性があるものとして、プラセボと比較し、第1世代または第2世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、アトピー性皮膚炎の重症度(平均群間差:-1.87、95%信用区間[CrI]:-3.47~-0.27)およびかゆみの重症度(平均群間差:-0.89、95%CrI:-1.41~-0.37)を、わずかに軽減したに過ぎない可能性が示唆された。統計的検出は可能であったが、これらの効果は、確立された意義のある最小差(患者が重要だとするアウトカムの最小変化量)を大きく下回るものであった。 エビデンスの確実性は低かったが、すべての試験で検討された介入は、睡眠障害の改善やアトピー性皮膚炎増悪の軽減にはつながらない可能性が示唆された。 第1世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、認知機能障害を増加させ(リスク差は被験者1,000人当たり66人増、95%CrI:0~231、エビデンスの確実性は中程度)、有害事象による治療中断も増加(リスク差は被験者1,000人当たり29人増、95%CrI:1~131、エビデンスの確実性は低い)させる可能性が示唆された。 第2世代の抗ヒスタミン薬の追加投与は、認知機能障害のリスクについて差が認められた。平均的な影響の範囲は、ロラタジンが1,000人当たり0人増、レボセチリジンが1,000人当たり16人増、セチリジンが1,000人当たり17人増であった。

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実臨床におけるレカネマブとAChE阻害薬の有用性比較

 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は、アルツハイマー病の症状を緩和する。一方、レカネマブは、アルツハイマー病の進行を修飾する可能性が示されている。しかし、レカネマブの安全性や臨床的影響に関するリアルワールド・エビデンスは、依然として限られている。台湾・Mackay Medical UniversityのChuo-Yu Lee氏らは、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病の患者を対象に、レカネマブ投与を開始した場合とAChE阻害薬を投与した場合の安全性および有効性を比較するため、本研究を実施した。Alzheimer's Research & Therapy誌オンライン版2026年6月22日号の報告。 2023年7月〜2025年9月にMCIまたはアルツハイマー病と診断された患者を対象に、米国の電子カルテネットワークであるTriNetXを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。標的試験エミュレーションの手法を用いて、傾向スコアマッチング(1:1)およびCox比例ハザードモデルによってリスクの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・レカネマブ群は、AChE阻害薬群と比較し、神経画像上の異常所見の発生率が5倍高いことが示された。しかし、治療継続率(1年間)は同程度であった(53.4%vs.52.5%)。・マッチング後、各コホートには589例が含まれた。・AChE阻害薬群と比較し、レカネマブ群は、認知症の行動・心理症状(BPSD)のリスク(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.36〜0.77)および救急受診のリスク(HR:0.66、95%CI:0.51〜0.85)が有意に低かった。一方、入院のリスクは高かった(HR:1.31、95%CI:1.03〜1.67)。・レカネマブの使用は、抗精神病薬(HR:0.47、95%CI:0.32〜0.70)、抗うつ薬(HR:0.60、95%CI:0.43〜0.85)、メラトニン受容体作動薬/オレキシン受容体拮抗薬(HR:0.61、95%CI:0.42〜0.88)、抗菌薬(HR:0.61、95%CI:0.44〜0.86)、抗真菌薬(HR:0.57、95%CI:0.37〜0.88)の使用頻度の低下と関連していた。一方、ステロイドの使用頻度は、レカネマブ使用者において高い傾向が認められた(HR:2.19、95%CI:1.55〜3.10)。 著者らは「レカネマブの投与開始は、AChE阻害薬を中心とした従来の治療戦略と比較し、同等の治療継続率を有していたほか、探索的解析において、BPSDや救急受診のリスク低下、精神神経用薬や感染症関連薬の使用減少が認められた。ただし、レカネマブに関連する神経画像上の異常所見の発生率が高かったことや入院およびコルチコステロイド使用のリスクが増加したことは、アミロイド関連画像異常(ARIA)に対する積極的な臨床モニタリングおよびマネジメントを反映している可能性が高い。残存交絡の可能性を排除できず、結果の解釈には慎重を期す必要があるものの、これらの探索的知見は、バイオマーカーで確認されたコホートや直接比較による無作為化試験により、さらなる検証に値するものである」としている。

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フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)であり、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性を抑制する。従来、本剤は糖尿病性慢性腎臓病(CKD)を適応とし、心・腎保護を目的に使用されてきた。 今回のFIND-CKD試験では、新たに非糖尿病性CKD患者を対象として、フィネレノンの腎保護効果が評価された。FIND-CKD試験の結果は、非糖尿病性CKD患者全体を対象とした主要解析を報告したNEJM論文(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026 Jun 4. [Epub ahead of print])と、糸球体疾患を有するCKD患者を対象に事前規定された探索的サブグループ解析を報告したJAMA論文(本論文)の2報として公表されている。 NEJM論文では、主要アウトカムとしてフィネレノンによるeGFRスロープの有意な改善が示された。一方、本JAMA論文では、糸球体疾患を有するCKD患者においても、先行するNEJM論文の結果を支持する腎保護効果が示された。MRAによる腎保護療法の流れ 現在、糖尿病性CKDに対する腎保護を目的とした薬物療法として推奨されているのは、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nonsteroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬である。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている一方、nsMRAはこれら2剤に追加して使用する薬剤として位置付けられており、推奨度はやや低い(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。 nsMRAであるフィネレノンは、糖尿病性CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験、および両試験の統合解析であるFIDELITYにおいて、心血管アウトカムおよび腎複合アウトカムの改善効果が示されている。これらのエビデンスを踏まえ、2024年KDIGOガイドラインでは、RAS阻害薬およびSGLT2阻害薬に追加する治療薬として、糖尿病性CKDの早期から心・腎保護を目的に使用することが推奨されている。 今回報告されたFIND-CKD試験は2報から構成されており、NEJM論文では非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの腎保護効果が検証された。一方、JAMA論文(本論文)では、その対象集団のうち糸球体疾患を有するCKD患者に限定した事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。FIND-CKD試験(JAMA論文)の結果の概要 FIND-CKD試験は、24の国・地域で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、非糖尿病性CKD患者を対象とした。本試験の結果は2報として報告されており、NEJM論文では登録された全1,584例を対象とした主要解析が、一方、本JAMA論文では、そのうち糸球体疾患由来のCKDと診断された903例を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。 対象患者の平均年齢は51.1歳、女性は40.1%、アジア人は61.9%を占め、平均eGFRは48.8mL/min/1.73m2であった。また、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)も評価された。約80%の患者では腎生検により組織学的診断が確定しており、その内訳はIgA腎症46.1%、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)23.8%、膜性腎症10.0%、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)1.8~3.9%で、一部は高血圧性腎硬化症であった。 全例で試験開始前に最大忍容量のRAS阻害薬が4週間以上投与されており、その上乗せ治療としてフィネレノンの有効性が検討された。その結果、ベースラインから32ヵ月までのeGFRスロープは、フィネレノン群で−3.50mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で−4.23mL/min/1.73m2/年となり、群間差は0.73mL/min/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.22~1.24)であった。また、フィネレノン群ではベースラインから12ヵ月までのUPCRが42%(95%CI:35~48)低下した。さらに、腎不全への進行またはeGFRが40%以上低下する複合腎アウトカムの発生リスクは、プラセボ群と比較して26%低下した(100患者年当たり7.42件vs.9.60件、ハザード比:0.74、95%CI:0.57~0.97)。 以上より、フィネレノンは糸球体疾患を有する非糖尿病性CKD患者において、腎機能低下の抑制、蛋白尿の減少、および腎アウトカムの改善を示し、腎保護作用を有する可能性が示唆された。FIND-CKDから学ぶこと 本研究の最大のポイントは、非糖尿病性CKD患者を対象としたFIND-CKD試験において、糸球体疾患サブグループでもフィネレノンの腎保護効果を支持する結果が得られた点である。 まず留意すべき点は、既報のFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験と同様に、FIND-CKD試験もRAS阻害薬による標準治療にフィネレノンを上乗せした治療の有効性を検証した試験であり、フィネレノン単独の効果を評価したものではないことである。また、NEJM論文は、非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの有効性を検証するために計画された確証的試験である。一方、本JAMA論文は、試験計画時から糸球体疾患患者を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析として実施されたものである。したがって、その結果は仮説的・補足的な位置付けであり、統計学的な確証的結論を導くものではないことを明記しておく必要がある。 そのような制約があるにもかかわらず、本JAMA論文では、主要評価項目であるeGFRスロープの改善に加え、事前に設定された腎複合エンドポイントおよび心血管エンドポイントについても、一貫してフィネレノンに有利な傾向が認められた。したがって、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者においても、フィネレノンの腎保護作用を支持する結果が得られたと解釈することは妥当と思われる。ただし、その有効性が確立されたと結論付けるには、今後の独立した確証試験による検証が必要である。 MRA投与時の高カリウム血症について、糖尿病性CKDと非糖尿病性CKDで差異があるかどうかも興味深い点である。高カリウム血症の発現率は、糖尿病性CKDを対象としたFIGARO-DKD試験では10.8%(プラセボ群5.3%、群間差5.5%)、FIDELIO-DKD試験では18.3%(同9.0%、群間差9.3%)であった。一方、非糖尿病性CKDを対象としたFIND-CKD試験では17.0%(同13.3%、群間差3.7%)であり、プラセボ群との差は3試験中で最も小さかった。各試験の平均eGFRは、FIGARO-DKD試験で約68、FIDELIO-DKD試験で約44、FIND-CKD試験で約49mL/min/1.73m2であった。これらの試験間比較からは、(1)高カリウム血症の発現頻度は腎機能低下の程度と関連する可能性、(2)非糖尿病性CKDでは糖尿病性CKDと比べてフィネレノン投与に伴う高カリウム血症の増加幅が小さい可能性、の2点が示唆される。ただし、これらは異なる試験間の比較から得られた知見であり、患者背景や試験デザインの違いによる影響を受ける可能性があるため、これには慎重な解釈が必要である。一般に、糖尿病性CKDでは低レニン性低アルドステロン症(hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)、インスリン作用不足、代謝性アシドーシスなどが高カリウム血症の誘因となりやすいことが知られている。今回のFIND-CKD試験の結果は、糸球体疾患を主体とする非糖尿病性CKDでは、nsMRA投与に伴う高カリウム血症の頻度が少ない可能性を示唆しており、副作用の観点からも注目される。 今後は、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者に対し、フィネレノンが真に腎保護作用を有するかどうかを検証する独立した確証試験の実施が期待される。

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高リスクIgA腎症へのエンドセリンA受容体拮抗薬の腎機能低下抑制効果?(解説:浦信行氏)

 エンドセリンA受容体拮抗薬の蛋白尿改善効果はIgA腎症をはじめとして、慢性腎臓病(CKD)や巣状糸球体硬化症等で次々に報告されるようになった。本研究(ALIGN研究)は高リスクIgA腎症を対象とし、エンドセリンA受容体拮抗薬atrasentanが36週での尿蛋白を36.1%有意に減少させたとすでに報告しているが、今回は136週までの最終評価(Lancet誌2026年6月13日号)においても尿蛋白抑制効果に関しては有意であった。 主要評価項目のeGFR減少抑制効果は残念ながらp=0.057と傾向にとどまり、後付けである追跡期間を除く132週ではp=0.039であった。しかしeGFRの年間変化量が-2.5であり、IgA腎症の長期腎予後を考えると、末期腎不全は避けられない。さらに、32週では対象になかったSGLT2阻害薬併用群がなぜか追加されており、その集団だけで評価するとatrasentan群ではeGFRの年間変化量は-0.6程度となり、腎機能低下抑制効果が期待できるが64例の少数例の成績でしかも後付けである。 今までもエンドセリンA受容体・アンジオテンシンII受容体デュアル拮抗薬のsparsentanの報告(PROTECT研究)があり、110週までのeGFRのスロープを対比しており、6週から110週までのそれに有意差があったが、1日目から110週までの全スロープでは残念ながらp=0.058と傾向にとどまっており、同様の成績であった。IgA腎症に対する治療薬として、現時点では2年間にわたる腸管に限定的に作用するグルココルチコイドのブデソニドが有意に腎機能低下を抑制した。さらに、投与期間は9ヵ月でその後の15ヵ月は観察期間の研究である。eGFRの年間変化量は-1.24にとどまっており、これを上回る薬剤の報告はいまだに見ない。

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高齢入院患者の睡眠薬継続使用、院内転倒リスク上昇と関連

 高齢入院患者の転倒は、骨折や身体機能の低下につながり得るため、医療現場で重要な課題となっている。日本の急性期病院に入院した高齢患者6万人超を対象とした研究で、睡眠薬の継続使用は院内転倒リスクの上昇と関連することが示された。一方、ベンゾジアゼピン系・Z薬とオレキシン受容体拮抗薬/ラメルテオンとの間で、転倒リスクに有意な差は認められなかった。研究は、日本医科大学医療管理学の西野拓也氏らによるもので、詳細は6月8日付の「PLoS One」に掲載された。 高齢入院患者の転倒は、骨折や身体機能の低下、入院期間の延長などにつながる重要な問題だ。また、入院中の高齢患者では睡眠障害が多くみられるため、睡眠薬の選択は転倒予防の観点からも重要とされている。従来から使用されてきたベンゾジアゼピン系・Z薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)は転倒リスクを高めることが知られている。一方、オレキシン受容体拮抗薬やラメルテオンは代替薬として使用が広がっているものの、院内転倒との関連については結果が一致していなかった。こうした背景から著者らは、日本の急性期病院に入院した高齢患者を対象に、睡眠薬の継続使用と院内転倒との関連を検討した。 著者らは、2018~2024年に日本の急性期病院2施設へ入院した65歳以上の患者を対象に後ろ向き解析を実施した。長期入院患者では転倒や睡眠薬使用の機会が増える可能性を考慮し、入院7日目まで転倒のなかった患者6万1,663人を対象に、その後の転倒発生を追跡した。入院4~7日目に2日以上睡眠薬を使用していた患者を、ベンゾジアゼピン系・Z薬(BZ/Zs)群、オレキシン受容体拮抗薬/ラメルテオン(ORA/Ram)群、両者の併用群に分類し、持続的な睡眠薬使用がなかった患者を対照群とした。その上で、入院8~37日目に発生した初回の院内転倒を評価し、患者背景や併用薬、日常生活動作(ADL)などを調整した上で各群の転倒リスクを比較した。 対象となった6万1,663人のうち、3,884人(6.3%)が入院8日目以降に転倒を経験した。睡眠薬使用群では対照群と比べて患者背景に違いがみられた。特にORA/Ram群では、高齢でADLが低下した患者が多く、炎症反応や腎機能障害を示す検査値も高かった。 30日間の追跡期間における転倒の絶対リスクは、対照群2.3%に対し、BZ/Zs群3.5%、ORA/Ram群4.9%、併用群4.4%であった。調整後解析では、対照群と比べてBZ/Zs群で転倒発生ハザードが42%高く(調整ハザード比1.42)、ORA/Ram群でも46%高かった(同1.46)。併用群でも同様の傾向が認められた(同1.42)。この関連は競合リスク解析でも一貫していた。 さらに、傾向スコアマッチングにより患者背景をそろえてBZ/Zs群とORA/Ram群を直接比較した解析では、転倒発生ハザードに有意差は認められなかった(調整ハザード比0.98)。 著者らは、高齢入院患者における睡眠薬の継続使用は院内転倒リスクの上昇と関連していた一方、BZ/Zs群とORA/Ram群との間で転倒リスクに有意差は認められなかったとしている。その上で、睡眠薬の種類を変更するだけでは転倒予防は難しく、患者の脆弱性そのものに着目した対策が重要になる可能性があると考察している。 なお、著者らは、本研究が観察研究であるため因果関係は証明できず、睡眠薬が必要となる患者の背景因子による影響を完全には除外できない点を限界として挙げている。また、本研究は薬剤クラス間の同等性を検証するように設計された研究ではなく、BZ/Zs群とORA/Ram群の転倒リスクが同等であることを示したものではないとしている。

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J-CLEAR特別座談会(10)「慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点」

J-CLEAR特別座談会(10)「慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点」糖尿病や心不全の治療薬としても用いられるSGLT2阻害薬、非ステロイド型選択的MR拮抗薬フィネレノン、GLP-1受容体作動薬は、今や慢性腎臓病(CKD)治療を大きく変革する腎保護薬として主役を担っています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、非糖尿病患者を含むCKDへの効果、IgA腎症の最新動向、脱水や高カリウム血症など、臨床現場での注意点と使い分けを専門医が多角的に議論します。なお、この番組は2026年6月10日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点司会    桑島 巖 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長、東都クリニック 高血圧専門外来出演    栗山 哲 氏東京慈恵会医科大学 客員教授石上 友章 氏横浜市立大学 特任教授浦 信行 氏札幌西円山病院 名誉院長オブザーバー吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長

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