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乳がん免疫療法中の抗菌薬投与が予後に影響?

 ペムブロリズマブによる術前治療中のHER2陰性高リスク早期乳がん患者において、抗菌薬の投与と高い残存腫瘍量(RCB)との関連が示唆された。これまで、免疫療法中の抗菌薬への曝露が、さまざまな種類のがんにおいて臨床転帰に悪影響を与えることが報告されている。米国・ミネソタ大学のAmit A. Kulkarni氏らは、ISPY-2試験でペムブロリズマブが投与された4群について、抗菌薬への曝露がRCBおよび病理学的完全奏効(pCR)へ与える影響について評価した2次解析の結果を、NPJ Breast Cancer誌2024年3月26日号に報告した。 ISPY-2試験では、ペムブロリズマブの4サイクル投与と同時にパクリタキセルを12週間投与し、その後ドキソルビシンとシクロホスファミドを2~3週間ごとに4サイクル投与した。免疫療法(IO)と同時に少なくとも1回の抗菌薬の全身投与を受けた患者が抗菌薬曝露群に、それ以外のすべての患者が対照群に割り付けられた。 RCBインデックスとpCR率は、t検定とカイ二乗検定、線形回帰モデルとロジスティック回帰モデルを使用してそれぞれ両群間で比較された。 主な結果は以下のとおり。・66例が解析に含まれ、うち18例(27%)が抗菌薬投与を受けていた。・免疫療法中の抗菌薬の投与は、より高い平均RCBスコア(1.80±1.43 vs.1.08±1.41)および低いpCR率(27.8% vs.52.1%)と関連していた。・抗菌薬の投与とRCBスコアについて、多変量線形回帰分析においても有意な関連がみられた(RCBインデックス係数:0.86、95%信頼区間:0.20~1.53、p=0.01)。 著者らは、より大規模なコホートでの検証が必要としている。

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市中肺炎、12%が「不適切な診断」

 市中肺炎は一般的な疾患だが、診断の正確性とそれに関連する有害性についてはあまり知られていない。米国ミシガン大学・アナーバー校のAshwin B. Gupta氏らは市中肺炎の不適切な診断の特徴を明らかにすることを目的に、前向きコホート研究を行った。この結果はJAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年3月25日号に掲載された。 ミシガン州の48の病院で、市中肺炎を理由に入院し、入院1日目または2日目に抗菌薬投与を受けた成人患者を対象とした。調査は2017年7月1日~2020年3月31日にカルテレビューおよび患者への電話連絡で実施され、データ解析は2023年2~12月に行われた。 不適切な診断は、市中肺炎の徴候または症状が2つ未満または胸部画像検査が陰性の患者への抗菌薬投与と定義した。不適切な診断のリスク因子を評価し、不適切な診断とされた患者については30日間の複合アウトカム(死亡率、再入院、救急外来受診、C. difficile感染、および抗菌薬関連有害事象)を記録した。交絡因子および治療傾向を調整し、抗菌薬の完全投与(3日超)と短期投与(3日以下)に層別化して評価した。 主な結果は以下のとおり。・市中肺炎の治療を受けた入院患者1万7,290例のうち、不適切な診断の基準を満たしたのは2,079例(12.0%)だった。2,079例の年齢中央値は71.8(IQR:60.1~82.8)歳、女性が1,045例(50.3%)で、このうち1,821例(87.6%)が抗菌薬の完全投与を受けた。・患者全般と比較して、不適切な診断を受けた患者は高齢であり(10年当たりの調整オッズ比[AOR]:1.08、95%信頼区間[CI]:1.05~1.11)、認知症(AOR:1.79、95%CI:1.55~2.08)、または来院時の精神状態の変化(AOR:1.75、95%CI:1.39~2.19)を有する可能性が高かった。・不適切な診断を受けた患者において、抗菌薬の完全投与と短期投与の30日複合アウトカムに差はなかった(25.8% vs.25.6%、AOR:0.98、95%CI:0.79~1.23)ものの、完全投与は抗菌薬の有害事象リスクと関連していた(31/1,821例[2.1%] vs.1/258例[0.4%]、p=0.03)。 研究者らは「このコホート研究において、市中肺炎で入院した患者では、高齢、認知症、精神状態に変化がみられた患者では不適切な診断のリスクが高く、不適切な診断がされた患者は抗菌薬の投与が長期になり、それが抗菌薬の有害事象と関連することが示唆された」とした。

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相手が退屈しない話し方をするには?【もったいない患者対応】第2回

相手が退屈しない話し方をするには?登場人物僕はどうしても話がくどくど長くなりがちで、患者さんに退屈そうにされてしまうので困っています。それは困ったねぇ。どうすれば最後までちゃんと相手に話を聞いてもらえるんでしょうか?話にメリハリをつける必要があるね。どんなに話の上手な人でも、話が一辺倒だと誰もついていけないからね。ふむふむ。ポイントがいくつかあるので、わかりやすく説明しよう。長い話は退屈なもの医師は患者さんに、専門的な内容を噛み砕いて説明しなければなりません。ときには、20分、30分と長時間一方的に話し続けてしまうこともあるでしょう。患者さんの身になってみると、これはなかなかつらいものです。たとえば、私たちが車を買いにディーラーに行き、店員から30分ぶっ通しで車の性能に関する話を聞く場面を想像してみてください。相当車に興味があって、背景知識が豊富にある場合を除いては、徐々に集中力が切れてくるのが自然ではないでしょうか。いくら自分が満足する車を買いたいと思っていても、そのうち、「もうよくわからないので、店員さんのおすすめの商品にします」と言いたくなってくるかもしれません。しかし、医療現場では患者さんが医師の話をきちんと理解していないと、大きなトラブルにつながるおそれがあります。では、集中力を切らさず、最後まで話を聞いてもらうにはどうすればいいのでしょうか?疑問を「先回り」するまず1つ目の方法として「先回り」があります。患者さんへの説明を繰り返し行っていると、患者さんが疑問に感じやすいポイントや、誤解しやすいポイントが次第にわかってきます。これを上手に先回りして伝えるのがコツです。たとえば、風邪で救急外来を受診した患者さんに対して、「風邪は抗生物質抗菌薬)では治りません」「風邪薬は風邪の症状を抑える薬で特効薬ではありません」「解熱薬は 38℃以上の熱が出たときを目安に飲んでください」という3点を伝えたいとします。このまま情報を羅列して伝えてもよいのですが、疑問や誤解を「先回り」して、「抗生物質で風邪が治ると思っている人がいるのですが、実は治らないんです」「風邪薬は風邪の特効薬だと誤解している人がいますが、症状を抑えるだけなんですよ」「解熱薬はどのくらいの熱が出たときに飲めばいいのか、と疑問に思う人が多いので、私はいつも38℃以上を目安にするようお伝えしています」といった具合に説明します。前半の「疑問」「不安」「誤解」の部分で聞き手の共感を得られるので、患者さんの興味を一層引きつけることができるのです。風邪の場合はシンプルな説明で済みますが、複雑な話のときは、とくにこの方法が有効です。たとえば私なら、胆石症の手術前に、「胆石症は手術が必要です」「胆石症の手術は胆嚢自体を切除する手術です」「胆嚢を切除しても日常生活に支障はありません」と話したいときに、あえて、「胆石を薬で治せないのか? と疑問に思う人がいますが、実は手術でしか治せないんです」「胆嚢を取らずに胆石だけ取ったらダメなのか? と思う方が多いんですが、実は胆石だけを取ることはできないので胆嚢自体を切除するんです」「胆嚢は取ってしまって大丈夫かと不安になる人がいますが、心配はいりません。胆嚢はなくても困らない臓器なんですよ」といった形で抑揚をつけて話すようにしています。重要性の高低を伝える仮に30分間、病状説明をするとしても「すべての内容が同じくらい重要」というわけではないと思います。少なくとも、「最も重要でぜひ覚えておいてほしいところ」や「専門的なので必ずしも覚えなくてもいいところ」といった“重要性の高低”はあるでしょう。これを、話す前に逐一伝えておくのがコツです。たとえば、少し専門性の高い話題で「医師として患者さんに説明はしなければならないものの必ずしも覚えておく必要はない」という程度の内容であったときには、「いまから話すことは少し難しいので、覚えなくても大丈夫なんですが…」と言ったり、説明文を見せながら説明するときに、「ここは少し専門的なので、サラッと読み流していただいてもいいのですが…」と前置きを入れたりします。学生時代を思い出してみてください。学校や塾の授業で、最初は意気込んで話を聴き始めたのに、途中で難しい話が続くと途端に集中力を維持するのが難しくなった経験があるでしょう。患者さんも、私たちの説明を聞きながら常に100%の集中力を維持しておくことはできません。そこで、「ここの重要性は低いですよ」と事前に伝えることで、少し“息抜き”をしてもらうわけです。一方で、必ず理解しておいてほしい重要なことを説明するときは、「ここからは非常に重要な話になりますので、しっかり聞いていてくださいね」と前置きを入れることも大切です。ここで前項の“アウトライン”を使って、「ここから非常に重要な話を3つお伝えします」と話し始めてもよいでしょう。短い話であれば、話し始める前に、「今日お話しすることは10分くらいで終わる簡単な内容です」というように、長さの目安を伝えるのも有効です。たとえば、私たちが何か専門的なことを調べようとGoogle検索したときに、「3分でわかる! ○○の仕組みと使い方」というタイトルがあれば、クリックしたくなりませんか?知らないことを知ろうとするときは、誰しも「難しい話で理解できなかったらどうしよう」とストレスを感じています。最初の敷居を下げ心理的ストレスを軽くできれば、スムーズに話を聞き始めてもらえるということです。質問は最後にまとめて病状説明の際に、途中で患者さんに質問されて話を何度も遮られた、という経験をお持ちの方は多いと思います。あまりに頻繁に話を遮られるので、「いま私が話しています。私の話をまず聞いてください」と怒ってしまった医師を見たこともあります。ただ、どちらかというと「話を遮る勇気のある患者さん」のほうが少ないのが現実でしょう。医師に一方的に話されて、途中で疑問を抱いても、「話を遮るのは悪い」と思って聞き続け、「結局わからないことだらけだった」という思いで病院を後にする人は多いからです。そこで、途中で、「ここまでの話で何か疑問はありますか?」と伝えるか、途中で遮られずに話すべき内容だと思ったときは、事前に、「質問は最後に聞きますので、まず私の話を聞いてくださいね」と伝えるのが得策です。あるいは、途中で遮られても話の構成上とくに問題ないというケースであれば、「質問があれば途中で遮っていただいても大丈夫です」とお伝えするのもよいでしょう。こうすることで、患者さんはどのタイミングで質問すればいいのかが事前にわかるため、安心して話を聞くことができるのです。

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第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

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英語で「予防」は?【1分★医療英語】第123回

第123回 英語で「予防」は?《例文1》Do you recommend initiating antibiotic prophylaxis?(抗菌薬での予防を開始したほうがいいと思いますか?)《例文2》The oncology team has decided to use neutropenia prophylaxis.(腫瘍チームが好中球減少症の予防をすることを決めました)《解説》「予防」を示す英単語は、“prevention”と習ったかと思います。患者さんとの会話の際は一般的なこの表現を使いますが、医療者同士では“prophylaxis”(プロフィラクスィス:[病気の]予防)が使われることが多く、臨床ガイドライン等でもこちらが採用されています。“PrEP”(pre-exposure prophylaxis=曝露前予防)、“PEP”(post-exposure prophylaxis=曝露後予防)など、HIV曝露前後に予防として抗HIV薬を服用する意味の単語にも使われています。“prophylaxis”は少し長いので、カルテ等では略語の“ppx”と書くこともあります。同じ薬であっても、治療目的と予防目的では異なる用量で処方することも多く、注意が必要です。“therapeutic dose”は「治療目的の用量」、“prophylactic dose”は「予防目的の用量」を指します。薬のオーダーをするときや、スタッフとの会話の際に、間違いや勘違いがないよう気を付けてください。講師紹介

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市中誤嚥性肺炎、嫌気性菌カバーは必要?

 誤嚥性肺炎の治療において、本邦では嫌気性菌カバーのためスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、海外では誤嚥性肺炎の0.5%にしか嫌気性菌が認められなかったという報告もあり1)、米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、嫌気性菌カバーは必須ではないことが記載された2)。また、2023年に実施されたシステマティックレビューにおいて、嫌気性菌カバーの有無により、誤嚥性肺炎患者に転帰の差はみられなかったことも報告されている3)。しかし、本レビューに含まれた論文は3本のみであり、サンプルサイズも小さく、結論を導くためには大規模研究が必要である。そこで、カナダ・クイーンズ大学のAnthony D. Bai氏らは、約4千例の市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させた。本研究結果は、Chest誌オンライン版2月20日号で報告された。嫌気性菌カバーで院内死亡率は改善せずにC. difficile大腸炎リスクが上昇 研究グループは、カナダの18施設において市中誤嚥性肺炎で入院した患者のうち、入院から48時間以内に抗菌薬が投与された3,999例を対象とした後ろ向き研究を実施した。セフトリアキソン、セフォタキシム、レボフロキサシンが投与された患者を非カバー群(2,683例)とした。アモキシシリン・クラブラン酸※、モキシフロキサシンが投与された患者、非カバー群の薬剤とクリンダマイシンまたはメトロニダゾールが併用された患者を嫌気性菌カバー群(1,316例)とした。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目はC. difficile大腸炎の発現、治療開始後のICU入室であった。なお、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。※:本研究が実施されたカナダではSBT/ABPCが使用できないため、SBT/ABPCに相当するものとした。 市中誤嚥性肺炎治療で嫌気性菌カバーの有無による転帰の差を評価した主な結果は以下のとおり。・市中誤嚥性肺炎患者の入院期間中央値は非カバー群6.7日、嫌気性菌カバー群7.6日であった。・市中誤嚥性肺炎患者の院内死亡率は非カバー群30.3%(814例)、嫌気性菌カバー群32.1%(422例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後の院内死亡リスクの群間差は1.6%(95%信頼区間[CI]:-1.7~4.9)であり、両群間に有意差は認められなかった。・C. difficile大腸炎の発現率は非カバー群0.2%以下(5例以下)、嫌気性菌カバー群0.8~1.1%(11~15例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後のC. difficile大腸炎の発現リスクの群間差は1.0%(95%CI:0.3~1.7)であり、嫌気性菌カバー群で有意にリスクが高かった。・治療開始後のICU入室率は非カバー群2.5%(66例)、嫌気性菌カバー群2.7%(35例)であった。 著者らは、本研究には抗菌薬を必要としない誤嚥性肺炎患者が含まれる可能性があること、院外死亡や再入院の評価ができなかったこと、多くの患者で肺炎の原因菌が特定できていなかったことなどの限界が存在することを指摘しつつ、「誤嚥性肺炎において、嫌気性菌カバーは院内死亡率を改善せず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させることから不要である可能性が高いと考えられる」とまとめた。

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090)お薬を多めに飲んじゃう患者さん!?【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第90回 お薬を多めに飲んじゃう患者さん!?ゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆先日外来で、前の週に切開排膿した炎症性粉瘤の患者さんを、処置室で診察しました。切開部位まわりの炎症もなく、きれいになっており、あとは傷がふさがるのを待つだけ、という状態。傷がふさがるまで創部のガーゼ交換だけ続けてもらい、先週処方した抗菌薬の内服は飲みきり終了でよい旨、お伝えしました。すると、患者さんから、漫画に描いたような返答が…。「いつも多めに飲んじゃうみたいで、もう2日前には終わってしまったんですよ~!」(笑顔)とのこと。内服薬で「飲み忘れがあり、余っている」というのはよく聞きますが、「多めに飲んでしまって、早く終わってしまう」というパターン(?)もあるとは…!?たくさん飲むと安心するのか? はたまた、飲んだことを忘れて、また飲んでしまうのか…?? そう言えば以前にも、「効き目が増すだろうと思って(自己判断で)倍の量を飲んでいました」という患者さんがおられました(そのときはたしか、鎮痛薬)。あらためて、「いろんなタイプの人がいるものだなあ」と思った次第です。お薬は用法用量を守って、正しくお使いください…!?それでは、また次の連載で。

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レジオネラ症治療、キノロン系抗菌薬・マクロライド系抗菌薬・2剤併用で比較

 レジオネラ症は、レジオネラ肺炎を引き起こす。レジオネラ肺炎は市中肺炎の1~10%を占め、致死率は6.4%という報告もある1)。『JAID/JSC感染症治療ガイド2023』では、第1選択薬として、キノロン系抗菌薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、ラスクフロキサシン、パズフロキサシン)、マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン)が推奨されている2)。しかし、これらの薬剤による単剤療法や併用療法の有効性の違いは明らかになっていない。そこで、忽那 賢志氏(大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授)らの研究グループは、DPCデータを用いて、レジオネラ症に対するキノロン系抗菌薬単独、マクロライド系抗菌薬単独、これらの併用の有効性を比較した。その結果、併用療法と単剤療法には有効性の違いがみられなかった。本研究結果は、International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2024年2月15日号で報告された。レジオネラ症治療でキノロン系・マクロライド系抗菌薬を併用しても有意差なし 研究グループはDPCデータを用いて、2014年4月1日~2021年3月31日までにレジオネラ症により入院した3,560例の患者情報を分析した。対象患者を入院から2日以内に投与された抗菌薬に基づき、キノロン系単独群(2,221例)、マクロライド系単独群(775例)、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用群(564例)に分類した。傾向スコアを用いた逆確率重み付け法により、併用群を対照として院内死亡率、入院期間、入院費用を比較した。 レジオネラ症に対するキノロン系抗菌薬単独、マクロライド系抗菌薬単独、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用の有効性を比較した主な結果は以下のとおり。・調整後のレジオネラ症患者の院内死亡率は、キノロン系抗菌薬単独群4.6%、マクロライド系抗菌薬単独群3.1%、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用群4.5%であり、併用群と各単独群との間に有意差は認められなかった。・調整後のレジオネラ症患者の入院期間は、それぞれ12日、11日、13日であり、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用群と各単独群との間に有意差は認められなかった。・調整後のレジオネラ症患者の入院費用は、それぞれ53万4千円、50万9千円、55万7千円であり、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用群と各単独群との間に有意差は認められなかった。 著者らは、本研究結果について「レジオネラ症の治療において、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬を併用しても、単独療法と比較して大きな利点がないことが示唆された。副作用が増加する可能性を考慮すると、併用療法を選択する際には慎重な検討が必要である」とまとめた。

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単純性尿路感染症、新規経口抗菌薬gepotidacinが有効/Lancet

 世界219施設で実施された単純性尿路感染症の女性患者を対象とする無作為化二重盲検実薬対照第III相非劣性試験「EAGLE-2試験」および「EAGLE-3試験」において、新規経口抗菌薬gepotidacinはnitrofurantoinと比較し、治療成功率に関して非劣性(EAGLE-2試験)および優越性(EAGLE-3試験)が検証された。ドイツ・ユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのFlorian Wagenlehner氏らが報告した。gepotidacinは、新規の作用機序を有するトリアザアセナフチレン骨格の抗菌薬で、他の抗菌薬とは異なる作用機序と独自の結合部位により細菌のDNA複製を阻害し、2つの異なるII型トポイソメラーゼ酵素をバランスよく阻害する。著者は、「gepotidacinは、臨床的に重要な薬剤耐性菌を含む一般的な細菌性尿路病原体に対して有効な新規クラスの経口抗菌薬として、患者に大きな恩恵をもたらす可能性がある」とまとめている。Lancet誌2024年2月24日号掲載の報告。gepotidacin群とnitrofurantoin群に無作為化、1日2回5日間経口投与 EAGLE-2試験およびEAGLE-3試験の対象は、出生時女性で妊娠しておらず、12歳以上かつ体重40kg以上であり、排尿困難、頻尿、尿意切迫感、下腹部痛の症状のうち2つ以上を有し、さらに、亜硝酸塩または膿尿(白血球数>15/HPF、白血球エステラーゼ3+または強陽性)が認められた単純性尿路感染症患者。 対象者を、gepotidacin群(1,500mgを1日2回5日間経口投与)またはnitrofurantoin群(100mgを1日2回5日間経口投与)に、年齢区分(18歳未満、18~50歳、50歳以上)および再発歴で層別化し、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、治療開始10~13日後の治癒判定(Test-Of-Cure:TOC)のための来院時における治療成功(細菌学的消失と臨床的消失の複合)であった。解析対象集団は、nitrofurantoin感受性の細菌性尿路病原体(≧105CFU/mL)を有し、試験薬を少なくとも1回投与された患者とした。非劣性マージンは、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)のガイダンスに従って10%(片側p=0.025)とした。安全性は、無作為に割り付けられた試験薬を少なくとも1回投与された全患者を対象に評価した。10~13日後の治療成功率、gepotidacin群50.6~58.5%、nitrofurantoin群43.6~47.0% EAGLE-2試験は2019年10月17日~2022年11月30日、EAGLE-3試験は2020年4月23日~2022年12月1日に実施され、それぞれ1,531例および1,605例が無作為に割り付けられた(EAGLE-2試験:gepotidacin群767例、nitrofurantoin群764例、EAGLE-3試験:805例、800例)。両試験は中間解析の結果、有効中止となった。したがって、本報告の主要解析集団には、中間解析のデータカットオフ時点でTOC来院を満たした、または、TOC来院までに治療効果が得られなかったことが判明した患者のみが含まれた。 治療成功が得られた患者の割合は、EAGLE-2試験でgepotidacin群50.6%(162/320例)、nitrofurantoin群47.0%(135/287例)(補正後群間差:4.3%、95%信頼区間[CI]:-3.6~12.1)、EAGLE-3試験でそれぞれ58.5%(162/277例)、43.6%(115/264例)(補正後群間差:14.6%、95%CI:6.4~22.8)であった。gepotidacinは、両試験においてnitrofurantoinに対し非劣性であることが示され、EAGLE-3試験では優越性が示された。 主な有害事象は、gepotidacin群が下痢(発現率:EAGLE-2試験14%[111/766例]、EAGLE-3試験18%[147/804例])、nitrofurantoin群が悪心(発現率:4%[29/760例]、4%[35/798例])であった。ほとんどは軽度または中等度で、生命を脅かすまたは致死的な有害事象は認められなかった。

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薬歴からサルファ剤アレルギー患者の過敏症を回避【うまくいく!処方提案プラクティス】第58回

 今回は、化学構造式のスルホンアミド構造に目を向けて、類似構造を有する薬剤の薬剤過敏症を未然に回避した事例を紹介します。サルファ剤はスルホンアミド構造をもつ薬剤の総称1)ですが、意外な薬剤がこの構造を有していることがあります。副作用やアレルギーの記録を活用し、どのような有害エピソードがあったのかを聴取してみましょう。患者情報70歳 女性(外来)基礎疾患高血圧症、骨粗鬆症副作用歴「サルファ剤」とだけ薬歴に記載処方内容1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.カルベジロール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後4.アレンドロン酸35mg 1錠 起床時 毎週月曜日服用【新規処方】1.セレコキシブ錠100mg 2錠 分2 朝夕食後2.レバミピド錠100mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、基本動作はすべて自立していましたが、今回腰を痛めて整形外科を受診しました。そこで鎮痛薬を希望し、セレコキシブとレバミピドが処方されました。当薬局で処方箋を受け付け、鑑査のタイミングで薬歴を確認したところ、サルファ剤のアレルギーが登録されていることに気がつきました。そこで患者さんに、感染症治療の抗菌薬で副作用が出たことがあったかどうか確認しました。すると、過去に尿路感染症治療で服用したスルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠で全身に発疹と呼吸困難感が生じたと話してくれました。今回の処方薬をそのまま服用した場合、構造活性相関としてセレコキシブのスルホンアミド構造によりサルファ剤アレルギーが生じる可能性が高いため、医師に処方変更を提案することにしました。スルホンアミド骨格(セレコキシブ添付文書より)処方提案と経過医師に電話で、患者にサルファ剤によるアレルギー症状の既往があり、発疹と呼吸困難感が生じていたことを報告しました。今回処方となったセレコキシブもスルホンアミド構造を有していて、過敏症による有害反応の可能性があることを伝えました。医師より代替薬はどうしたらよいか相談があったので、安全面などを考慮してアセトアミノフェン500mg 3錠 分3 毎食後を提案し、了承を得ました。患者は、アセトアミノフェンを7日間内服して腰痛も改善し、その後はアセトアミノフェンも終了となりました。1)岡田 正人ほか. 薬局. 薬剤過敏症歴がある患者の薬物治療. 2018;69:63.2)セレコックス錠 添付文書

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A群溶血性レンサ球菌咽頭炎ってどんな病気?

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 (溶連菌感染症)ってどんな病気?• どの年齢でもみられますが、幼児期から学童期の小児で多く報告されます• のどの痛み、38度以上の発熱、倦怠感や嘔吐といった症状が多く、舌が真っ赤になり小さなブツブツができる「イチゴ舌」がみられることがあります• 多くの場合、熱は3~5日以内に下がり、症状は1週間以内に改善します• まれに重症化し、のどや舌・全身に赤み・発疹がひろがる「猩紅熱(しょうこうねつ)」に移行することがあります治療法は?他の人にうつさないようにするには?•症状があり、検査をして感染が認められた場合は、抗菌薬での治療を行います。腎炎などを防ぐため、症状が改善しても医師に指示された期間は薬を飲むことが大切です•咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる細菌を吸い込む「飛まつ感染」、細菌が付いた手で口や鼻に触れる「接触感染」、食品を介して細菌が口に入って感染する「経口感染」があります•のどの痛みがひどい場合は柔らかく薄味の食事を工夫し、水分補給を心がけましょう•感染力は病気になりはじめの時期、症状が急に現れる時期に最も高いとされます•手洗い・うがいを行いましょう•マスクの着用も有効です出典:東京都保険医療局「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 (溶連菌感染症)について」国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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グラム陰性菌血症への抗菌薬、早期経口スイッチの効果は?

 抗菌薬は多様な疾患に処方されており、経口投与は点滴投与と比較して医療者・患者負担が少ないが、その効果に違いはあるのか。合併症のないグラム陰性菌血症の患者を対象に、抗菌薬を早期に経口投与に切り替えた場合と静脈内投与を継続した場合の90日死亡リスクを比較した研究結果が発表された。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のSandra Tingsgard氏らによる本研究は、JAMA Network Open誌2024年1月23日号に掲載された。 本試験は、対象試験エミュレーションの枠組みを用いて実施されたコホート研究で、2018年~21年、デンマーク・コペンハーゲンの4病院で診療を受けた合併症のないグラム陰性菌血症の成人の観察データを対象とした。追跡期間は90日間で、初回血液培養後4日以内に経口抗菌薬に切り替えた場合と、5日以上静脈内投与を継続した場合の90日全死因死亡率を比較した。絶対リスク、リスク差(RD)、リスク比(RR)推定のため、プールロジスティック回帰を用いてintention-to-treat解析およびper-protocol解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・計914例(年齢中央値74.5歳、男性56.0%)が組み入れられ、433例(47.4%)が早期切り替え群、481例(52.6%)が長期静脈内治療群に割り付けられた。99例(10.8%)が追跡期間中に死亡した。・長期静脈内治療群は、早期切り替え群と比較して年齢が高く、菌血症の進行がより重篤で、合併症の負担が大きかった。ベースライン時にこれらの差を調整し、per-protocol解析ではベースライン時の交絡因子と時間変動交絡因子の両方を調整し、割り当てられた治療戦略からの逸脱例は除外した。・死亡率は、長期静脈内治療群のほうが高かった(69例[14.3%]対30例[6.9%])。intention-to-treat解析では、90日全死因死亡率は早期切り替え群で9.1%(95%信頼区間[CI]:6.7~11.6)、長期静脈内治療群で11.7%(95%CI:9.6~13.8)であり、RDはー2.5%(95%CI:ー5.7~0.7)、RRは0.78(95%CI:0.60~1.10)であった。per-protocol解析では、RDはー0.1%(95%CI:-3.4~3.1)、RRは0.99(95%CI:0.70~1.40)と、両群に差はなかった。 研究者らは「4日以内の早期に経口抗菌薬へ切り替えた場合の90日全死因死亡率は、静脈内治療を継続した場合と同程度であり、早期の経口投与切り替えが効果的な代替手段となる可能性を示唆している」としている。

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市中肺炎、β-ラクタム系薬へのクラリスロマイシン上乗せの意義は?

 市中肺炎に対するβ-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用の有効性が報告されているが、これらは観察研究やメタ解析によるものであった。そこで、ギリシャ・National and Kapodistrian University of AthensのEvangelos J. Giamarellos-Bourboulis氏らは、無作為化比較試験により、β-ラクタム系抗菌薬へのクラリスロマイシン上乗せの効果を検討した。その結果、クラリスロマイシン上乗せにより、近年導入された評価基準である早期臨床反応が有意に改善した。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2024年1月3日号で報告された。 本研究の対象は、18歳以上の市中肺炎患者278例であった。主な適格基準は、敗血症の評価に用いられるSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア2点以上、プロカルシトニン値0.25ng/mL以上などであった。対象患者を標準治療薬(第3世代セファロスポリン静注またはβ-ラクタム系薬+β-ラクタマーゼ阻害薬静注)で治療を行うプラセボ群、標準治療薬にクラリスロマイシン(500mgを1日2回)を併用するクラリスロマイシン群に1対1に無作為に割り付け、7日間投与した。主要評価項目は、早期臨床反応※であった。※:治療開始から72時間後において、以下の(1)と(2)を両方満たすこと。(1)呼吸器症状の重症度スコアが50%以上低下(2)SOFAスコアが30%以上低下またはプロカルシトニン値が良好(ベースラインから80%以上低下または0.25ng/mg未満) 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の解析には、プラセボ群133例、クラリスロマイシン群134例が組み入れられた。・主要評価項目の早期臨床反応を達成した患者の割合は、プラセボ群が38%であったのに対し、クラリスロマイシン群は68%であり、クラリスロマイシン群が有意に改善した(群間差:29.6%、オッズ比[OR]:3.40、95%信頼区間[CI]:2.06~5.63)。・新たな敗血症はプラセボ群24%、クラリスロマイシン群13%に認められ、クラリスロマイシン群で有意に少なかった(ハザード比:0.52、95%CI:0.29~0.93、p=0.026)。・重篤な有害事象はプラセボ群53%、クラリスロマイシン群43%に発現した(群間差:9.4%、OR:1.46、95%CI:0.89~2.35)。重篤な有害事象は、いずれも治療薬との関連は認められなかった。

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2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

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化学眼外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第9回

今回は化学眼外傷についてです。洗顔料や洗剤、化粧品などの化学物質が目に入ったという経験は誰でも一度はあると思います。私も皿洗い中に洗剤が目に入って痛い思いをしたことがあります。私の場合は目を洗えば症状が消失しましたが、化学物質の種類や経過によっては失明の恐れがあることが知られているため、ちょっとした受傷でも恐怖を覚える患者さんは少なくありません。救急外来に化学眼外傷の患者さんが来るのはたいてい夜です。日中であれば眼科を受診するため、眼科以外の開業医の先生が診察する機会はまれかもしれません。しかし、万が一来院したときのために初療を知っておくことは重要です。今回は、化学眼外傷患者が受診した際にどのような対応が必要かを解説します。<症例>30歳、男性主訴目に殺虫剤が入った受診2時間ほど前、家に虫が入ったため殺虫剤を使用した。目を離したすきに子供が殺虫剤を使用し、それが患者の顔面にかかった。その後、目がひりひりするため電話で問い合わせをしてから受診。既往歴、アレルギー歴、内服薬、バイタル:特記事項なし両目に結膜充血ありこれは、私が近くに眼科がないとある南方の島の病院で働いていたときの症例です。眼科を受診するためには、船+車で3~4時間程度かかります。「眼科に電話で相談する」が最も適切な回答だとは思いますが今回はそれはナシにして…。眼表面の異物に対して非専門医ができる治療は「洗浄」です。とにかく洗います。上記の症例では電話で問い合わせがあったため、私は「まず10分間水道水で洗ってから来て」と伝えました。化学眼外傷の初療で重要なことは「なるべく早く洗浄して、化学物質を洗い流す」です1)。診療ストラテジー(1)視力評価視力は眼のバイタルサインと呼ばれるほど重要ですので、視力を必ず確認しましょう。視力検査のランドルト環があればよいのですが、なければ「いつもと見え方が違いますか?」と質問し、視力障害がないかを判断しましょう。(2)化学物質の評価次に、何が目に入ったか聞いてpHを調べてみましょう。目に入った成分のpHを調べる最も優れた方法はインターネットで検索することです。多くの患者は眼に入ったものが何かわかっていますので、「商品名、SDS※」もしくは「商品名、pH」と検索すれば大抵の商品のpHはわかります。※SDS:Safety Data Sheet(安全データシート)目に入ったものがわからない、もしくは商品名を調べてもわからない場合は、pH試験紙で眼表面のpHを調べて、正常範囲を逸脱しているかどうかを確認します。人間の眼のpHは大体6.5~7.0、高くて8.0で日内変動があります2,3)。これより大きく外れた場合は緊急性が高いです。眼表面のpHの測定をするには、尿試験紙のpHの部位を当ててもよいですし、pH測定用の試験紙でも構いません。pH試験紙のpHごとの色アルカリだとどす黒くなり、酸性だと明るい赤になります。試しに家にあったハイター(pH12)を試験紙に付けてみたところこんな色でした。ハイターをpH試験紙につけてみたちなみにこの患者さんの目に入った殺虫剤を検索したところ「pH 該当しない」となっていました。そのため眼表面のpHを測定したところ、pH7.0と正常範囲内でした(後日、「該当しないとはどういう意味?」と経済産業省に問い合わせたところ、「本当は掲載しなければならないそうで対応します」と返事をいただきました)。(3)pHで組織障害を推測成分が強酸(pH<4)もしくは強アルカリ(pH>10)の場合は可及的速やかに眼球の洗浄が必要となります。とくに強アルカリの場合、「水酸化イオンと陽イオンに解離し、細胞膜の脂肪酸を鹸化しながら、眼球の上皮、間質、内皮を破壊する」という事象が生じます。わかりにくいのですが、端的に言うと「傷が深い」です。この患者さんは眼表面のpHが正常範囲内なので組織障害は低いと考えました。(4)鎮痛、洗浄治療は洗浄です。とにかく洗うことが重要です。しかし、結膜や角膜に障害が強い場合は、痛みで目が開けられなかったり、水をかけられなかったりすることがあります。その場合は、オキシブプロカイン点眼薬を投与して除痛します。除痛ができたら洗浄を開始します。多くの文献では最低2Lの水道水もしくは生理食塩水での洗浄を推奨しています4,5)。瞼の裏などに洗い残しがあることがあるため、必ず上眼瞼、下眼瞼を順番に反転させて眼球を動かしながら奥まで洗浄しましょう。強酸や強アルカリの成分の場合、化学物質が洗い流されていることを確認することが重要です。洗浄後に再度pH試験紙を使用し、正常pHである6.5~8.0になっていることを確認できれば洗い流せたと判断します。強アルカリはなかなか落ちませんので注意が必要です。ハイターを触ったことがある方は、あのネトネトした感じが洗っても洗っても落ちないという経験があると思います。私は実際にアルカリ眼症の洗浄をしたことがありますが、10Lの生理食塩水で洗ってもまだpH試験紙がどす黒い色をしていました。結局眼科に相談し、さらに10Lを追加して洗いましたが、やはりどす黒く、再度眼科と相談して引き継ぎました。なお、本症例の疼痛は違和感程度であったため、鎮痛薬は使用せず2Lの水道水で洗浄して終了としました。(5)洗浄後洗浄後の対応ですが、私は強酸や強アルカリ成分による外傷、視力障害がある場合は必ず緊急で眼科に相談するようにしています。pHが逸脱していなくても、オキシブプロカイン点眼を使わなければいけないほど疼痛が強い場合は眼表面に強い障害を起こしている可能性が高いので、抗菌薬入りの点眼薬と内服の鎮痛薬を処方して後日眼科に相談しています。オキシブプロカイン点眼薬でなく、内服の鎮痛薬を処方する理由は、オキシブプロカイン点眼薬の連続使用により創傷治癒遅延が生じる可能性があるという報告があるためです。しかし、創傷治癒遅延が起こったと記載しているのは症例報告のみで、近年の複数のメタアナリシスでは有害事象の増加は認めなかったという報告もあり、今後のプラクティスは変化するかもしれません6)。オキシブプロカイン点眼薬の効果はとても良好なので、点眼して痛みがなくなったら「治った」と思い、その後眼科に行かずに悪化したという事例を聞いたことがあるので、もしオキシブプロカイン点眼薬を処方するときは必ず眼科に受診するように念押ししましょう。軽い疼痛や無症状であれば、2Lの水道水で洗浄して帰宅、何かしらの症状が生じるようなら眼科を受診するように指示します。本症例は洗浄後に症状が消失したのでとくに処方はなく、目の見えにくさや目の強い痛みが出た場合は眼科を受診するよう指示しました。化学眼外傷は非専門医にはとっつきにくいですが、なるべく早く洗浄することが重要です。万が一対処が求められたときの参考になれば幸いです。●成分がわからずpH試験紙もない場合眼に入ったものが何かわからず、pH試験紙もない場合はどうしましょう? 何があってもまずは洗浄です。先述したとおり2Lの水道水または生理食塩水で洗浄し、その後は症状に合わせて方針を決めます。軽い痛みで物もしっかり見えていれば洗浄で終了。強い痛みもしくは視力障害があれば、角膜に障害があると考えて眼科に紹介します。●オキシブプロカイン点眼薬がない場合鎮痛用の点眼薬がない施設もあるかもしれません。代替薬として比較的多くの病院にあるのがリドカイン製剤(スプレー、ゼリー、局所注射用)だと思いますが、眼球に滴下し使用することは推奨されていません。これは完全に私の見解ですが、疼痛が強いということは眼表面に強い障害が起きており、洗浄が必要な状態です。リドカイン製剤しかない場合であっても、リスク・ベネフィットを考えてその場にあるリドカインを使用して洗浄しても許容されるのではないかと考えます。●眼洗浄の裏技大量の生理食塩水などで洗い続けるのは大変ですし、洗浄のためにずっとそばにいなければなりません。そのため、ある程度洗浄したところで私は点滴の先を切り取って眼瞼の内側に当てて自然滴下で洗浄します。点滴を用いた目の洗浄1)Gelston CD. Am Fam Physician. 2013;88:515-519.2)佐々木 克哉. 日本眼科學会雜誌. 1995;99:676-682.3)Abelson MB, et al. Archives of Ophthalmology. 1981;99:301.4)Rodrigues Z. Emergency Nurse. 2009;17:26-29.5)Solim MAN, et al. Ther Adv Ophthalmol. 2021;13:25158414211030429.6)St.Louis WUSoMi. Topical Anesthetics for Corneal Abrasions.

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第173回 2024年度診療報酬改定、医療従事者の待遇改善を示す/厚労省

<先週の動き>1.2024年度診療報酬改定、医療従事者の待遇改善を示す/厚労省2.医師の働き方改革、宿日直体制の維持が困難に/日本医師会3.薬価差6.0%、薬価引き下げで医療費の抑制と賃上げ実現へ/厚労省4.梅毒感染者数、3年連続で過去最多を更新、全国的に急増5.移植医療推進へ、脳死判定から臓器摘出まで医療機関を全面支援/厚労省6.医師免許を含む40資格、マイナンバーで手続き効率化/厚労省1.2024年度診療報酬改定、医療従事者の待遇改善を示す/厚労省厚生労働省は、11月29日に開いた社会保障審議会の医療部会と医療保険部会で、2024年度の診療報酬改定の基本方針の骨子案を示した。骨子案によると、人口構造の変化に伴い、医療の支え手の長期的な不足が見込まれ、人材確保のために医療従事者の賃上げを推進する方針。厚労省は、看護補助者などの給与水準が低い医療従事者の処遇改善が求められており、重点課題の医療分野での働き方改革と人材確保に対処する。看護補助者などのコメディカルの賃上げは、医療分野で他産業に比べて遅れており、人材確保が急務とされ、長時間労働の改善も含まれている。このほか、診療報酬改定の基本方針には、地域包括ケアシステムの深化、医療DXの推進、質の高い医療の提供、医療保険制度の安定性向上などが挙げられている。さらに物価高騰や賃上げの状況を踏まえ、患者が必要とする医療を受けられるよう機動的な対応が強調されている。日本医師会など医療関係団体は、診療報酬の「本体」部分の大幅な引き上げを求めているが、財務省は診療報酬の「本体」部分の引き下げを提案しており、医療機関の経営状況や利益剰余金の活用を根拠にしている。医療従事者の待遇改善は、国の財政に大きな影響を与えるため、引き続き大きな関心を呼ぶとみられる。参考1)診療報酬 引き上げ?引き下げ?来年度改定に向け調整本格化へ(NHK)2)令和6年度診療報酬改定の基本方針(骨子案の概要)(厚労省)3)診療報酬改定の基本方針、厚労省が骨子案示す 社保審の医療部会と医療保険部会に(CB News)2.医師の働き方改革で宿日直体制の維持が困難に/日本医師会日本医師会は、11月29日に定例記者会見を開き、医師会が実施した「医師の働き方改革と地域医療への影響」に関する調査の結果を明らかにした。この中で、医師の働き方改革により、約3割の医療機関が将来的に宿日直体制の維持が困難になると回答していたと報告した。調査は、医師の働き方改革の準備状況や医師派遣の動向、宿日直許可の取得状況、および改革が医療提供体制に与える影響を把握するために行われた。調査は全病院および有床診療所を対象にして、1万4,128施設のうち4,350施設から回答を得ていた。調査結果によれば、医師派遣を行う医療機関の約68.1%が派遣を継続する予定であり、医師を受け入れる医療機関の約69.0%も継続を予定している。しかし、約7割以上の医療機関が宿日直許可を取得しているものの、将来的な維持には不安を抱えている。医療機関全体でみると、約54%が「とくに変化なし」と回答しているが、約30.0%が宿日直体制の維持が困難、約25.1%が派遣医師の引き上げ、約14.4%が救急医療の縮小・撤退を懸念している。地域医療提供体制に関しては、約37.7%が「とくに変化なし」と回答している一方で、約30.0%が救急医療体制の縮小・撤退、約19.9%が専門的な医療提供体制の縮小・撤退を懸念している。この調査結果を受け日本医師会の城守常任理事は、医師の派遣・受け入れについて、現時点で縮小や未定が約3割も存在し、今後の派遣状況によっては地域医療の提供体制に大きな影響が出る可能性があると指摘している。また、医師の働き方改革が将来の地域医療提供体制に及ぼす影響を「把握できていない」と回答した割合も高かったことを危惧している。今後、都道府県別に集計したデータを都道府県医師会にフィードバックし、行政と共有して地元の医療機関支援への検討材料にする計画であり、来年2月に再度調査を行う意向を示している。なお、厚生労働省は今月に入り、「医師の働き方改革」特設サイトを開設し、働き方改革について医療機関や医療従事者だけでなく、患者さんに対しても情報発信を進めている。参考1)「医師の働き方改革」特設サイト(厚労省)2)医師の働き方改革と地域医療への影響に関する日本医師会調査結果について(日本医師会)3)「宿日直体制の維持が困難」3割 日本医師会、働き方改革調査(共同通信)3.薬価差6.0%、薬価引き下げで医療費の抑制と賃上げ実現へ/厚労省厚生労働省は、12月1日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、2023年の医薬品価格調査の速報結果を報告し、市場実勢価格の平均乖離率が約6.0%であったことを明らかにした。薬価の乖離率は、2022年度と比較して1.0ポイント低下し、過去30年間で最も価格差が小さかった。この結果を受けて、政府は2024年度の診療報酬改定で薬価を引き下げる方針を示している。また、後発医薬品の数量シェアは約80.2%に上昇しており、政府の目標を上回っていた。厚労省は薬価の引き下げにより、国費ベースで最大900億円程度の医療費抑制が可能としており、医師や看護師などの人件費や技術料に当たる本体部分の引き上げに充てられる予定。ただし、医療職の賃上げ率は全産業平均の3.58%に対して2%程度と低く、医療機関の経営が厳しい状況が指摘されている。財務省は、コロナ対策による補助金投入などを理由に、本体部分の引き下げを求めており、年末まで引き続き議論を重ね、改定率が決められる見込み。参考1)令和5年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値(厚労省)2)24年度の診療報酬改定で「薬価」引き下げ方針…仕入れ価格が6%低下受け医療費抑制図る(読売新聞)3)薬の市場価格、薬価を6%下回る 国費900億円程度抑制可能か(毎日新聞)4)医薬品は6.0%、材料は2.5%の価格乖離、「薬価の実勢価格改定」全体で1,200億円程度の国費縮減可能では-中医協総会(Gem Med)5)薬価乖離率は6.0%、厚労省速報 22年度比1.0ポイント縮小(CB News)4.梅毒感染者数、3年連続で過去最多を更新、全国的に急増日本全国で梅毒の感染者数が急増しており、とくに九州地方では人口比での報告数が多いことが明らかになった。2023年11月19日時点で全国の感染者数は1万3,251人に達し、これは前年の1万3,228人を上回り、3年連続で過去最多を更新している。大都市圏では、とくに感染者数が多く、東京都、大阪府、福岡県が多数を占めているが、長崎県や鳥取県など大都市圏以外の地域でも感染者が急増している。梅毒は性接触を主な感染経路とする細菌性の感染症で、初期には口や性器にできものができるが自然に消え、その後全身に発疹が出ることがある。適切な抗菌薬治療を受ければ完治が可能だが、放置すると重大な症状を引き起こす可能性があり、妊婦から胎児への母子感染のリスクもある。参考1)梅毒の感染者数が3年連続で過去最多を更新(NHK)2)梅毒の感染者数が急増 九州は人口比でも多め(朝日新聞)5.移植医療推進へ、脳死判定から臓器摘出まで医療機関を全面支援/厚労省厚生労働省は、国内の臓器提供者(ドナー)の不足に対処するため、移植医療の進展を妨げる要因を調査し、支援策を検討している。国内の約150病院を対象に脳死判定や臓器提供につながらなかった件数を調査し、2024年度に必要な支援を計画している。とくに、救急医療の現場で臓器提供の前提となる脳死判定について、家族への提案をためらっていることが一因とされている。わが国では、平成9年に「臓器の移植に関する法律」が施行され、平成21年に一部改正されている一方で、人口100万人当たりの臓器提供者数が米国の51分の1、韓国の9分の1と低く、臓器移植を希望する登録者約1万6,000人のうち、年間約400人しか移植を受けられていない現状。この問題に対応するため、厚労省は2024年度から、脳死判定から臓器摘出まで一貫して人材不足の病院を支援する取り組みを始める。これには、移植医療の実績が豊富な拠点病院から医師や看護師などを派遣する計画が含まれる。さらに、厚労省は拠点病院を再編し、「移植医療支援室」を持つ病院を拡充する。この拡充には、脳死ドナーからの臓器移植を実施することを条件にする。この新たなタイプの拠点病院から派遣される医療者は、臓器のチェックやドナーの全身管理、臓器摘出手術に至るまでの一連の流れに携わることとなる。参考1)脳死移植の支援拡充、「判定」から臓器摘出まで医療機関サポート(読売新聞)2)厚労省、連携体制を調査 要因探り人材面など支援 臓器提供者、米国の51分の1(日経新聞)3)法施行26年、脳死での臓器提供1,000件に 意思表示進まず海外と差 移植体制整備へ病院が連携(東京新聞)4)臓器移植医療対策のあり方に関する提言(厚労省)6.医師免許を含む40資格、マイナンバーで手続き効率化/政府政府は、令和3年1月に「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会」で取りまとめられた報告書をもとに、マイナンバー制度を活用して、医師や介護福祉士など約40の国家資格の事務手続きをデジタル化する計画を進めている。報告書によると、2024年度中に資格取得や変更などの申請手続きがオンラインで完結できるようになる。現在、資格取得時や引っ越しの際に、戸籍抄(謄)本や住民票の写しを提出する必要があるが、新システムではこれらの書類提出が省略できるようになる。この行政のデジタル化は、医療・福祉分野の31職種を含む約80の国家資格に適用される予定で、マイナンバーカードの専用サイト「マイナポータル」を通じて、資格情報とマイナンバーの連携が行われる。このシステムの稼働により、資格保有者と資格管理者の負担を軽減するほか、各種届出の漏れの防止や、個人の状況に応じたきめ細やかな就業支援を通して有資格者などの掘り起こしが可能となるなどメリットが見込まれている。参考1)社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用について(厚労省)2)「社会保障に係る資格におけるマイナンバー制度利活用に関する検討会」報告書(同)3)マイナンバーカードの普及・利活用拡大(デジタル庁)4)医師や介護福祉士など40の国家資格、24年度中に手続きデジタル化…マイナ活用(読売新聞)

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第72回 中国依存型から脱して、「ペニシリン危機」を乗り越えろ!

中国への原薬依存Unsplashより使用2018年に突如セフェム系抗菌薬の供給が危ぶまれる状況になったことを覚えているでしょうか。また、呼吸器内科では、とくにカルバペネム系抗菌薬の不足が一部の抗酸菌感染症で「標準治療ができない」という事態を引き起こしました。当時、ほとんどが中国に原薬の製造を依存してしまっており、何らかのトラブルで流通が懸念されると、日本のβラクタム系抗菌薬が壊滅的な事態に陥ってしまうのです。原薬に使われている化学物質は、2000年頃までは国内の供給だったのですが、コスト削減のため安価な中国製にスイッチされています。しかし、中国における原薬価格のダンピングによって、国内の原薬工場はほとんど閉鎖となりました。2015年1月に施行された環境保護法の全面改正により、原薬の値段がこの数年間で2倍以上に高騰しています。さらに、ジェネリック医薬品の台頭や医療費抑制もあって、抗菌薬の薬価は全体的に値下げが進んでいます。そのため、現在抗菌薬は製薬会社にとって儲からない製品になりつつあるわけです。2019年に、関連4学会が政府に要望書を提出し、とくに欠かせない薬剤の安定供給を要請しています。そして、2022年12月に、国民の医療において重要な抗菌薬としてペニシリン系抗菌薬およびセフェム系抗菌薬の原薬が国産化される方向になりました1)。ようやく、といったところです。公益財団法人日本感染症医薬品協会に「βラクタム系抗菌薬原薬国産化委員会」も設置されました。これによって原薬を国内で作っていこうという方向に舵が切られました。製造可能なメーカーは限られているペニシリン系では6-APAという原薬がカギを握っていますが、この生産には、菌株、大型培養設備、大量の水、廃水処理設備が必要になります。これが可能な医薬品メーカーは限られています。また、早くても2025年くらいから6-APAの製造が本格的に稼働することになりますので、原薬が日本で恒常的に流通するのはもっと先になるかもしれません。こういった施策が可能な大きな母体のメーカーは限られていますが、日本の感染症の未来のために、今こそ中国依存型を脱するときです。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく抗菌性物質製剤に係る安定供給確保について

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3日間のアミカシン吸入、長期挿管患者の人工呼吸器関連肺炎発生を軽減(解説:栗原宏氏)

Strong point ・多施設二重盲検ランダム比較試験で結果の信ぴょう性が高い・手技が簡便かつ重篤な副作用の発症が少ない・治療効果が臨床的に有意義研究デザイン上の限界・ICU、入院期間全体を短縮するかの評価は試されていない 人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、気管挿管後48~72時間以上経過して発生する肺炎を指す。報告によって幅があるが全挿管患者の5~40%に発生するとされ、ICUでしばしばみられる感染性合併症である。死亡率は約10~30%と院内肺炎の中でもかなり高い。 気管チューブから侵入した細菌が気管チューブ、気管支肺胞系、肺実質で増殖することがVAPの原因となる。抗菌薬吸入療法はこれらの部位に直接高濃度の抗菌薬投与が可能であり、小規模試験のメタ解析によればVAP予防に有効であることが示されている。これを踏まえて、著者らは人工呼吸器導入後3日目以降に、1日1回3日間、理想体重1kg当たり20mgのアミカシン吸入療法を行い、VAPの発生率が減少するかを検討した。 VAPの発症は肺検体の定量的細菌培養で陽性、および白血球増多、白血球減少、発熱、胸部X線撮影で新たな浸潤影を伴う化膿性分泌物のうち、少なくとも2つを満たすと定義され、期間も28日間と実臨床に即した判定法といえる。 主要アウトカムは以下のとおりで、臨床的にも意義があると考えられる。・VAP発症:アミカシン群62例(15%) vsプラセボ群95例(22%)・VAP発症までの境界内平均生存期間(RMST)の群間差:1.5日(95%信頼区間[CI]:0.6~2.5、p=0.004)・侵襲的人工呼吸管理1,000日当たりのVAP初回エピソード発生頻度:アミカシン群16 vsプラセボ群23(発生率比:0.68、95%CI:0.49~0.94) ※RMSTは、「境界時間内のイベント発現までの時間に対する平均値」と定義され、短い観察期間でも生存曲線の要約情報を得ることができる。従来用いられていたCox比例ハザードモデルが厳密には適用できない場合があるため、新たな生存時間解析の指標として広まりつつある。 治療に起因する重篤な副作用(気管チューブの閉塞、気管支痙攣、呼気リンパフィルターの抵抗増加)はみられたが、1.7%(417例中7例)程度かつプラセボ群との有意差もなく、治療自体のリスクは低いと考えらえる。 本調査のアミカシン吸入療法によってVAP発症率を改善することが示されたが、デザイン上、28日間でのVAP発症の有無自体をエンドポイントとしており、ICU、入院期間全体の短縮に寄与するかは不明である。この点に関して今後の調査が期待される。 VAPの高い死亡率、治療の簡便さ、治療自体の危険性を総合的に考えると、長期の挿管が予想される患者に対して予防的なアミカシン吸入療法の実施は検討に値すると思われる。

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プライマリケアでの女性の尿路感染症への抗菌薬処方、介入で有意に減少/BMJ

 プライマリケアにおけるマルチモーダル(複数の方法による)介入が、女性の単純性尿路感染症(UTI)に対する第二選択の抗菌薬処方率および全抗菌薬処方率を有意に減少したことが、ドイツ・ブレーメン大学のGuido Schmiemann氏らが、同国5地域の一般診療所を対象に行った並行群間クラスター無作為化試験の結果で報告した。ドイツの総合診療医(GP)向け等のガイドラインでは、受診機会の多い女性のUTI治療について、抗菌薬投与の回避が望ましい軽症~中等症UTIでは対症療法を優先し、第一選択の抗菌薬も推奨薬が明確に示されている。この明確な推奨にもかかわらず、フルオロキノロンなどの第二選択の抗菌薬が依然としてよく用いられ(地域の一般処方率38~54%)、抗菌薬以外の治療をGPが選択することはまれだという。教育プログラムや処方のフィードバックなどの介入が不適切処方を減少することは示されているが、ガイドラインを推奨する介入プログラムについては、これまで検討されていなかった。BMJ誌2023年11月2日号掲載の報告。ドイツの128の一般診療所を、介入群vs.対照群に無作為化し評価 研究グループは、プライマリケアでのマルチモーダル介入によって、女性における単純性UTIへの第二選択の抗菌薬処方率および全抗菌薬処方率が減少するかどうかを調べた。 データは、2021年4月1日~2022年3月31日に、ドイツの5地域の、128の一般診療所で収集された。 一般診療所は介入群と対照群に、地域で層別化をして、ブロック法により1対1の割合で無作為化された(ブロックサイズは4つ、SAS ver9.4を使用)。 マルチモーダル介入は、(1)各診療所から参加したGPおよび患者に対するガイドラインの推奨、(2)抗菌薬耐性に関する地域データの提供および年4回のフィードバック(個々の第一選択と第二選択の抗菌薬処方率、地域内または地域を越えたベンチマークについての情報、および電話カウンセリングを含む)から構成された。対照群には介入に関する情報は提供されなかった。 主要アウトカムは、1年後の単純性UTIに処方された、全抗菌薬に対する第二選択の抗菌薬の割合とし、介入群と対照群の平均処方率の絶対差を算出して評価した。副次アウトカムは、1年後のUTI治療に対する全抗菌薬の処方率で、介入群と対照群の全抗菌薬処方率の平均値の絶対差を算出して評価した。 有害事象は、探索的アウトカムとして評価した。第二選択の抗菌薬処方率、全抗菌薬処方率とも有意に減少 無作為化された一般診療所128施設のうち、ベースライン(Qb:研究開始1年前の2020年の第1四半期のデータ)および各四半期(Q1~Q4)のデータが完全に入手できた110施設(介入群57施設[GP103人]、対照群53施設[100人])を最終解析の対象とした。一般診療所やGPの特性は両群で類似しており、地域差は若干みられたが、患者数(四半期当たり平均数)やGPの性別(両群とも男性48%、女性52%)、平均年齢(介入群50歳、対照群53歳)、職歴、雇用形態などに差はなかった。 全四半期(Qb~Q4の15ヵ月)において1万323症例が特定された。 12ヵ月後の第二選択の抗菌薬の平均処方率は、介入群0.19(SD 0.20)、対照群0.35(0.25)であり、介入前の処方率を調整後の平均処方率の群間差は-0.13(95%信頼区間[CI]:-0.21~-0.06、p<0.001)であった。 12ヵ月間のUTIに対する全抗菌薬処方率は、介入群0.74(SD 0.22)、対照群0.80(0.15)であり、平均処方率の群間差は-0.08(95%CI:-0.15~-0.02、p<0.029)であった。 両群間で合併症(腎盂腎炎、入院、発熱など)の症例数に差はみられなかった。

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第71回 セフトリアキソンとランソプラゾール併用で死亡リスク上昇?

にわかに話題となった併用Unsplashより使用X(旧Twitter)で「セフトリアキソンとランソプラゾールを併用すると死亡リスクが上昇する」という話が注目を集めました。なぜバズったかというと、この組み合わせが結構臨床で多いからです。セフトリアキソンは、呼吸器系などで頻繁に使用されるβラクタム系抗菌薬です。もともと内服していたり、消化器系の症状があったり、ステロイドが併用されていたりすると、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が併用されることが多くなります。代表的なPPIが、ランソプラゾールです。バズり元の論文は、カナダのオンタリオ州からの後ろ向き研究です1)。すでにセフトリアキソンとランソプラゾールの併用により、心電図上の補正QT間隔が延長することが示されているため、これが実臨床的にどう影響するかという検証になります。傾向スコア重み付け(IPTW法)を用いて解析したところ、ランソプラゾール群とその他のPPI群の調整後リスク差は、心室性不整脈または心停止で1.7%(95%信頼区間[CI]:1.1~2.3)、院内死亡で7.4%(95%CI:6.1~8.8)でした。NNH(number needed to harm)に換算すると、それぞれ58.8、13.5という結果でした(表)。表. セフトリアキソンとPPIの併用リスク(文献1より引用)結局どうする?セフトリアキソンとランソプラゾールがhERGカリウムチャネルを阻害してQT延長を起こす、というメカニズムとされています2)。これが心筋細胞の活動電位時間を規定する因子であることが知られています。今回の報告は、質の高いランダム化比較試験ではなく、後ろ向きコホート研究である点は解釈に注意が必要です。ランソプラゾールは各病院のフォーミュラリの推奨度が高い薬剤でもあるので、今後の動向には注意したいところです。参考文献・参考サイト1)Bai AD, et al. Ceftriaxone and the Risk of Ventricular Arrhythmia, Cardiac Arrest, and Death Among Patients Receiving Lansoprazole. JAMA Netw Open. 2023;6(10):e2339893.2)Lorberbaum T, et al. Coupling data mining and laboratory experiments to discover drug interactions causing QT prolongation. J Am Coll Cardiol. 2016;68(16):1756-1764.

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