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スマホ依存になりやすい性格とは

 近年、スマートフォンの利用頻度が急速に増加しており、スマートフォン依存(以下、スマホ依存)が問題となっている。スマホ依存は、特定の性格特性を有する人において有病率が高いことが示唆されている。イラン・Shahid Beheshti Medical UniversityのAli Kheradmand氏らは、スマホ依存と性格特性との関連を評価するため、相関研究を行った。その結果、スマホ依存者は、自己愛性パーソナリティ障害の特徴である新規性追求、損害回避、自己超越の高さ、持続および自己志向の低さの性格特性を有していることを報告した。Frontiers in Psychiatry誌2023年2月8日号の報告。 テヘラン大学の学生382人を対象に、スマートフォン中毒尺度(SAS)およびペルシャ語版Cloningerのtemperament and character inventory(TCI)の質問票に対する回答を求めた。SASによる評価後、スマホ依存者を特定し、非スマホ依存症者との性格特性の違いを評価した。 主な結果は以下のとおり。・スマホ依存の傾向が確認された学生は、110人(28.8%)であった。・スマホ依存者は、非スマホ依存者と比較し、新規性追求、損害回避、自己超越の平均スコアが統計学的に有意に高かった。・スマホ依存者は、非スマホ依存者と比較し、持続、自己志向の平均スコアが統計学的に有意に低かった。・スマホ依存者は、報酬依存が高く、協調が低かったが、統計学的に有意な差は認められなかった。・新規性追求、損害回避、自己超越が高く、持続および自己志向が低いことは自己愛性パーソナリティ障害を示すものであり、これがスマホ依存と関連している可能性が示唆された。

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AD治療薬lecanemab、ARIAやQOL解析結果をAD/PD学会で発表/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは3月31日付のプレスリリースにて、同社の早期アルツハイマー病(AD)治療薬の抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabについて、第III相試験「Clarity AD試験」における最新の解析結果を、スウェーデンのイェーテボリで3月28日~4月1日に開催の第17回アルツハイマー・パーキンソン病学会(AD/PD2023)にて発表したことを報告した。lecanemab投与群では、プラセボ群よりアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現率が増加したが、抗血小板薬や抗凝固薬の使用によるARIAの発現頻度は上昇せず、ARIA-H単独の発現パターンはプラセボ群と同様だったことが明らかとなり、QOLの結果からは、lecanemab治療が被験者と介護者に有意義なベネフィットをもたらすことが示された。 早期AD患者1,795例(lecanemab群:898例[10mg/kg体重、2週ごとに静脈内投与]、プラセボ群:897例)を対象とした第III相無作為化比較試験「Clarity AD試験」において、主要評価項目ならびにすべての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しており、その結果はNEJM誌2023年1月5日号に掲載されている1)。 AD/PD2023では、本試験における抗血小板薬/抗凝固薬使用とARIA(ARIA-E:浮腫/浸出、およびARIA-H:脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着、直径1cmを超える脳出血)の発現、ARIA-H単独の発現、介護者負担、健康関連QOLに関する最新の結果が発表された。 主な結果は以下のとおり。ARIAが発現した被験者における抗血小板薬/抗凝固薬使用の評価・lecanemab群は、プラセボ群よりARIAの発現率が増加した。・プラセボ群におけるARIA発現率は、抗血小板薬使用の場合9.7%、抗凝固薬(抗凝固薬のみまたは抗血栓薬との併用)使用の場合10.8%、未使用8.9%だった。抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、未使用と比較してわずかに高くなった。・lecanemab群におけるARIA発現率は、抗血小板薬使用の場合17.9%、抗凝固薬使用の場合13.3%、未使用21.8%だった。抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、未使用と比較して若干低くなった。・ARIA-Eの発現率は以下のとおり。 -抗血小板薬を使用した場合は、lecanemab群10.4%、プラセボ群0.84%。 -抗凝固薬を使用した場合は、lecanemab群4.8%、プラセボ群2.7%。 -未使用の場合は、lecanemab群13.1%、プラセボ群1.5%。・lecanemab群で直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告された。ARIA-H単独(ARIA-Eを伴わないARIA-H)発現事象・ARIA-H(ARIA-Eを伴うARIA-H、およびARIA-H単独)の発現率は、lecanemab群17.3%、プラセボ群9.0%だった。・ARIA-H単独の発現率は、lecanemab群8.9%、プラセボ投与群7.8%で同程度だった。・ARIA-Eを伴うARIA-Hの多くは、ARIA-E発現と同時期である治療初期に発現するが、ARIA-H単独は、lecanemab群、プラセボ群ともに、18ヵ月の治療期間中に分散して発現した。・アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)とARIA-H単独の発現の関係性については、プラセボ群では非保有者3.8%、ヘテロ接合体保有者7.3%、ホモ接合体保有者18.0%、lecanemab群では非保有者8.3%、ヘテロ接合体保有者8.4%、ホモ接合体保有者12.1%だったが、ApoEε4ステータスはARIA-Hの発現時期には影響しなかった。・lecanemab群のARIA-H単独の発現パターンは、プラセボ投与群と同様だった。健康関連QOLに関する解析結果・被験者の健康関連QOL(HRQoL)として、ベースライン時と投与開始後6ヵ月ごとに、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L)とQuality of Life in AD(QOL-AD)の指標により測定した。QOL-ADは介護者による評価も行った。6ヵ月ごとに介護者に対してZarit Burden Interviewを実施した。・lecanemab投与18ヵ月時点での被験者のEQ-5D-5LとQOL-ADのベースラインからの調整後平均変化量は、プラセボ群と比較して、それぞれ49%、56%の悪化抑制を示した。・介護者のZarit Burden InterviewとQOL-ADは、lecanemab投与18ヵ月時点でそれぞれ38%、23%の悪化抑制を示した。・これらの評価結果はApoEε4遺伝子型によらず一貫していた。

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ベンゾジアゼピンや気分安定薬の併用率低下に長時間作用型注射剤は寄与するか

 統合失調症は、再発と寛解を繰り返す慢性疾患である。治療には主に抗精神病薬が用いられ、その剤形には経口剤または長時間作用型注射剤(LAI)がある。さまざまな理由で気分安定薬やベンゾジアゼピンが補助療法として頻用されるが、国際的なガイドラインで推奨されることはめったにない。ルーマニア・トランシルバニア大学のAna Aliana Miron氏らは、慢性期統合失調症患者を対象に、抗精神病薬の剤形が気分安定薬やベンゾジアゼピンの併用に及ぼす影響を明らかにするため、観察的横断研究を実施した。その結果、安定期統合失調症患者に対する気分安定薬およびベンゾジアゼピンの長期併用率は、抗精神病薬の剤形とは関係なく高いままであることが示唆された。ただし、第2世代抗精神病薬のLAI(SGA-LAI)治療患者では、経口抗精神病薬治療患者と比較し、単剤療法で安定している可能性が高かった。Brain Sciences誌2023年1月20日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・対象は、慢性期統合失調症患者315例。・LAI抗精神病薬治療で安定していた患者は77例(24.44%)、経口抗精神病薬治療で安定していた患者は238例(75.56%)であった。・気分安定薬を併用していた患者は84例(26.66%)、ベンゾジアゼピンを併用していた患者は119例(37.77%)であった。・気分安定薬またはベンゾジアゼピンの併用率について、LAIと経口剤の間に有意な差は認められなかった。・抗精神病薬の単剤療法で安定していた患者は、全体で136例(43.17%)であった。・SGA-LAIで治療されていた患者は、経口抗精神病薬で治療されていた患者と比較し、単剤療法で安定している可能性が高かった。

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最低価格制限で、飲酒による死亡・入院が減少/Lancet

 スコットランドで販売されるアルコール飲料は、2018年5月1日以降、法律で1単位(純アルコール10mLまたは8g)当たりの最低単位価格(MUP)が0.5ポンドに設定されている。これにより販売量が3%減少したことが先行研究で確認されているが、今回、英国・スコットランド公衆衛生局(Public Health Scotland)のGrant M. A. Wyper氏らは、MUP法の施行により、アルコール摂取に起因する死亡と入院が大幅に減少し、その効果はとくに社会経済的に最も恵まれない層で顕著に高いことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月21日号に掲載された。MUP法施行前後で比較した分割時系列試験 本研究は、アルコール摂取に起因する死亡と入院へのMUP法施行の影響の評価を目的に、スコットランド(人口約550万人)で行われた分割時系列対照比較試験であり、対照として同法が施行されていないイングランドのデータが使用された(スコットランド政府の助成を受けた)。 スコットランドにおける同法施行前(2012年1月1日~2018年4月30日)と施行後32ヵ月間(2018年5月1日~2020年12月31日)のアルコール摂取に起因する死亡と入院のデータを比較し、同時期のイングランドとの比較が行われた。アルコール性肝疾患や依存症による死亡を有意に抑制 スコットランドでは、MUP法施行前と比較して、同法施行後32ヵ月間でアルコール摂取に起因する死亡が13.4%(95%信頼区間[CI]:-18.4~-8.3、p=0.0004)低下し、これは年間平均156件(95%CI:-243~-69)のアルコール摂取による死亡の回避に相当した。 また、MUP法の施行は慢性的な原因に起因する死亡の低下にも寄与しており(-14.9%、95%CI:-20.8~-8.5、p<0.0001)、アルコール性肝疾患による死亡(-11.7%、-16.7~-6.4、p<0.0001)やアルコール依存症による死亡(-23.0%、-36.9~-6.0、p=0.0093)を有意に抑制した。 一方、アルコール摂取に起因する入院は4.1%低下(95%CI:-8.3~0.3、p=0.064)し、アルコール性肝疾患による入院は9.8%低下(-17.5~-1.3、p=0.023)したが、アルコール依存症による入院は7.2%(95%CI:0.3~14.7、p=0.039)増加した。 さらに、MUP法の施行により、アルコール摂取に起因する死亡は、男性(-14.8%)、女性(-12.0%)、35~64歳(-10.0%)、65歳以上(-26.7%)、社会経済的な貧困度を10段階に分けた場合の最も恵まれない上位4群(-17.5~-33.6%)で低下がみられた。また、アルコール摂取に起因する入院は、男性(-6.2%)、35~64歳(-4.8%)、最も貧困度の高い上位4群(-4.5~-6.9%)で低下がみられた。 著者は、「MUP法実施の効果は社会経済的に貧困度が高い層で最も大きく、これは、この施策がアルコール摂取に起因する健康被害において、貧困に基づく不平等に積極的に取り組んでいることを示すものである」としている。

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映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】Part 1

今回のキーワード求愛癒し同調ハンディキャップの原理サイン言語(非言語的コミュニケーション)ミラーリング音楽療法ダンスセラピーみなさんは、歌やダンスが好きですか? あるメロディが耳にこびりついて何度も頭の中を流れていたり、そのリズムが体にしみついて勝手に体が揺れていることはありませんか? なぜ私たちは歌って踊りたくなるのでしょうか? そもそも歌やダンスはいつ生まれたのでしょうか? そして、歌やダンスをもっと世の中に活かせないでしょうか?今回は、インド映画「RRR」を通して、歌とダンスの機能、起源、そして医学的な効果を考えます。さらに、この記事では「ラブソング・ラブダンス仮説」と称して、歌やダンスが人類の心の進化に大きな役割を担った納得の訳を説明します。歌とダンスの機能とは?舞台は英国植民地時代のインド。主人公であるビームとラーマは、ひょんなことから出会い、深い友情を育みます。しかし、彼らにはそれぞれ使命があり、やがて対立しなければならなくなります。それでは、まず3つのシーンを通して、歌とダンスの機能を3つ挙げてみましょう。(1)求愛2人は、英国人女性のジェニーと仲良くなり、英国公邸に招かれます。そこで、ほかの英国人男性から「ワルツ、サルサ、フラメンコ、どのダンスも知らないの?」と馬鹿にされたことで、ラーマは「ナートゥをご存じか?」と言い出し、ラーマとビームはいきなり歌って踊り始めるのです。その歌とダンスは、英国人女性たちを惹きつけ、さらに英国人男性たちも焚きつけます。そして、彼らが全員加わった耐久ダンスバトルに発展するのです。最後は、ビームが勝ち残り、彼はジェニーに気に入られます。1つ目の機能は、求愛(wooing)です。実際に、ミュージシャンやダンサーはモテます。歌やダンスには、性的な魅力を伝える要素があるわけです。(2)癒しビームがジェニーに近づいたのは、実は英国公邸に閉じ込められている幼い村娘のマッリを奪い返すためでした。彼はこっそり彼女を見つけ出しますが、檻があるため連れ出せません。見張りが迫ってくるなか、彼はまた必ず戻ってくると彼女を説得しますが、必死にしがみつかれてしまいます。そこで、彼は子守唄を歌うのです。すると、彼女は落ち着き、自分から手を離したのでした。2つ目の機能は、癒やし(healing)です。たとえば、子守唄を歌いながら優しいリズムをとって揺することで、赤ちゃんを寝かしつけすることができます。ヒーリングミュージックやヒーリングダンスというジャンルもあります。実際の研究では、歌やダンスによって、ストレスホルモン(コルチゾール)が減少することがわかっています。つまり、歌やダンスには、リラックスをもたらす効果もあるわけです。(3)同調ビームは最終的に捕らえられ、民衆の前で、ラーマによってむち打ちの刑に処せられます。しかし、彼はひざまずくことを拒み、瀕死の状態のなか、部族の歌を歌い続けます。すると、それに心を動かされた民衆たちが処刑場になだれ込み、刑は中断されてしまうのです。そして、実はインドの独立の夢を秘めていたラーマは、独立を促すのは、武器ではなくて民衆の一体感であることに気付くのです。3つ目の機能は、同調(tuning)です。これは、もともとオーケストラが演奏前にする音合わせという意味です。たとえば、私たちは調子を合わせて一緒に歌って踊ると心地良くなります。また、軍隊の行進や決まったかけ声で士気を高めることができます。実際の研究では、歌やダンスによって、快感ホルモン(ドパミン)や「脳内麻薬」(エンドルフィン)が分泌されることがわかっています。つまり、歌やダンスには、高揚をもたらす効果もあるわけです。次のページへ >>

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映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】Part 2

歌とダンスの起源は?歌とダンスの機能が、求愛、癒し、同調であることがわかりました。それでは、そもそもこれらはいつ生まれたのでしょうか? ここから歌とダンスの起源を3つの段階に分けて、その答えに迫ってみましょう。なお、歌とダンスを一緒に説明する理由として、歌が聴覚を介しているのに対してダンスは視覚を介していますが、リズムによるコミュニケーションという点では本質的に同じと考えられるからです。(1)注意を引く約4億年前に最古の昆虫が陸上に誕生してから、少なくとも2億5千万年前に当時のキリギリスは音を出すように進化しました1)。そして、それ以降、昆虫だけでなく、両生類、爬虫類、哺乳類などの脊椎動物も、鳴き声によって交尾相手に求愛したり交尾ライバルや天敵を威嚇したり獲物をおびき出すようになりました。こうして、地球は、それまでの風雨や波だけの静かな世界から、色々な動物たちの鳴き声による騒がしい世界へと様変わりしていったのです。約700万年前に、アフリカの森で、二足歩行をする初期の人類が誕生しました。これは、遺跡で発掘された人類の骨格の変化から判明しています。二足歩行のきっかけは、オスが捕まえた獲物を両手で持ち帰り、メスにプレゼントをしたためであったと考えられています。そして、そのお礼としてメスはセックスをして、そのオスとの子供を育てていたと考えられています(プレゼント仮説)。ここで、あるオスがプレゼントを用意していても、同時にほかのオスたちも同じようなプレゼントを用意していたら、どうでしょうか? メスは必ずしもそのオスのプレゼントを受け取ってくれなくなる状況が想定されます。そこで、オスは自分がメスに選ばれるために、唸ったり動き回ったりして目立つようにしたのでしょう。そうしたオスが選ばれ、子孫を残したのでしょう。こうして、その唸りや動きはより洗練され複雑になるように進化していったのでしょう。これが、歌とダンスの起源です。1つ目の段階は、注意を引くことです。その練習のために余分な労力が必要になります。また、メスだけでなく、天敵の注意も引きやすくなります。このようなコストやリスクなどのハンディを背負ってでも、歌やダンスを披露する余裕があるという生存能力の高さをメスに示すことができます。これは、ハンディキャップの原理と呼ばれています2)。やがて、いったんこのメスの選り好みができると、その後は生存能力の高さとは関係なく、歌やダンスがうまいだけで選ばれるようになります。これは、暴走進化説(ランナウェイ)と呼ばれています。この詳細については、関連記事1をご覧ください。人間以外でも、たとえば、カナリアのさえずりやゴクラクチョウの求愛ダンスは有名です。また、ゴリラのドラミングは、威嚇だけでなく、求愛の意味もあることがわかっています。ミュラーテナガザルは、「歌うサル」とも呼ばれ、自己アピールをはじめいくつかのパターンの鳴き声をします。逆に、人間に最も近縁のチンパンジーは、ラブソングや求愛ダンスがみられません。その訳は、彼らの生殖が乱婚型(多夫多妻型)であるため求愛行動を積極的にする必要がないからでしょう。一方、初期の人類も乱婚型であったことが考えられていますが、彼らはオスがプレゼントをしてメスがそれを選ぶというプロセスがまずありました。だからこそ、それに伴ってラブソングやダンスが生まれたと考えられるわけです。そもそも人類のオスがメスにプレゼントをあげるようになった訳は、人類はチンパンジーのようにエサが豊富な場所を縄張りとすることができないくらいチンパンジーよりも弱く、オスとメスが助け合わなければ生き残って子孫を残せないという淘汰圧がかかっていたからであることが考えられます。ちなみに、ゴリラの生殖がハーレム型(一夫多妻型)である原因は、ゴリラの縄張りがチンパンジーと比べてエサが少なく散在していたことでオスとメスが出会いにくかったことが考えられています。ゴリラのドラミングは、あくまでほかのオスを牽制するという要素が大きく、メスに選んでもらうという要素が少なかったため、ドラミングが洗練された求愛ダンスに発展する必要がなかったと考えることができます。なお、人間、チンパンジー、ゴリラのそれぞれの生殖戦略の違いの詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)まねをし合う約300万年前、地殻変動からアフリカの東側の森が草原になるにつれて、木の実や獲物、逃げ隠れできる場所が減っていきました。とくに、赤ん坊は小さく無力であるため、猛獣の格好の餌食にされてしまいます。こうして、人類はもはや母親だけで子育てをするのが難しくなっていきました。そんななか、父親は母親と生活を共にして子育てに参加するようになっていきました。これが、人類の一夫一妻型の生殖の起源であり、家族の起源です。実際に、当時の遺跡から十数人の化石が密集して発掘されています3)。ここで、どうやって女性(母親)は特定の男性(父親)に一緒にいてほしい気持ちを伝えたのでしょうか? おそらく、その方法は、女性が男性の求愛の唸り声や動きをまねすることだったのではないでしょうか? そして、男性はその女性をさらにまねすることで、一緒にいたい気持ちを伝えたのではないでしょうか?2つ目の段階は、まねをし合うことです。つまり、まだ言葉がない当時、初期のラブソングの唸り声や求愛ダンスの動きは、表情や身振り手振りと同じサイン言語(非言語的コミュニケーション)の役割を果たすようになっていったということです。実際に、目の前の相手と同じ仕草や口癖をすると相手から好感を持たれます。これは、ミラーリングと呼ばれています。そして、このミラーリングは、夫婦の間だけでなく、家族を基本とする血縁で集まった部族の間にも広まっていったでしょう。たとえば、同じ唸り声の挨拶を交わしたり同じように足踏みをすることです。これが、同調の起源です。こうして、歌やダンスは、夫婦のつながりだけでなく部族のつながりの維持の機能も担うようになっていったのでしょう。なお、人類が草原で暮らし始めた当初、歌やダンスは、森の中とは違い、とても控えめなものであったことが想定されます。なぜなら、草原で大声で唸ったり激しく動き回ると、猛獣に見つかってしまうからです。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】Part 3

(3)リズムを取る約200万年前以降、人類の頭蓋骨は徐々に大きくなっていったことが遺跡から発掘された人骨の調査からわかっています2)。その訳は、部族のメンバーの数が増えていき、その関係を維持するための能力(社会脳)が進化したからでした。この詳細については、関連記事3をご覧ください。人類の頭が大きくなっていくと、必然的に難産になります。その打開策として、人類の出産は早産になるように進化していきました(生理的早産)。しかし、その代償として、人類の赤ちゃんは、ほかの霊長類とは違い、生まれてしばらくは寝たきりになりました。彼らは、チンパンジーやニホンザルの赤ちゃんのように生まれてすぐに母親にしがみついておっぱいをもらうことができません。そこで、人類の赤ちゃんは、おっぱいをもらうために激しく泣くように進化していったのです。赤ちゃんが泣くことは、猛獣を呼び寄せることになり、本来適応的ではありません。実際に、チンパンジーやニホンザルなどの類人猿のほぼすべての赤ちゃんは泣きません。そもそも生まれてすぐに母親にしがみついておっぱいがもらえるので泣く必要もありません。ところが、人類は、部族のメンバーをどんどん増やしていったことで、共同育児が可能になり、赤ちゃんが泣いても、猛獣を追い払って守ることができるようになっていたのです。現代でも、赤ちゃんが泣いても母親が一定時間対応しなければ、赤ちゃんは本能的に泣きやみます。対応しないということは、母親たちは近くにおらず、原始の時代は猛獣を呼び寄せるだけになってしまうからです。ちなみに、これは、夜泣きへの対策である「クライアウト」(cry it out)として、赤ちゃんに添い寝しない欧米では主流のやり方です。ちなみに、赤ちゃんは泣くだけでなく微笑むことによっても母親の関心を引くように進化しました(新生児微笑)。笑いの起源の詳細については、関連記事4をご覧ください。さらに、赤ちゃんが激しく泣く副産物として、息を止める息つぎが進化したと考えられています4)。息つぎによって呼吸をコントロールできるようになり、それまでのように一息で唸り声をあげるだけでなく、息つぎによってリズミカルに唸る、つまりハミングができるようになっていったのです。こうして、母親は赤ちゃんにハミングの子守唄を歌い、赤ちゃんが胎内にいる時に聞こえる母親の心拍数(60回/分)と同じリズムでとんとんと背中を優しく叩いたり揺することができるようになっていったのでしょう。3つ目の段階は、リズムを取ることです。実際に、人間以外でリズムを取る動物は、小鳥、イルカ、ゾウなどに限られています。その訳は、小鳥の雛は、人間の赤ちゃんと同じように親から餌をもらうためによく鳴くからです。それが可能なのは、彼らのすみかが高い木の上にあり、ほかの鳥に狙われるリスクはありつつも、猛獣たちがいる地上からはかなり離れているためです。逆に、大型の鳥の雛は鳴きません。その理由は、そのすみかが、大きくなることでその重みから高い木の上には作れず、必然的に地上に近くなるからであると考えられます。また、イルカについては、海の中にいるため、当然ながら息つぎができます。ゾウは、長い鼻で水を吸い上げることから、息つぎができます。なお、先ほどご紹介した「歌うサル」のミュラーテナガザルは、決まったパターンの鳴き声しかできないことから、息つぎでリズムを取っているかは不明です。実際の研究では、人間にも鳥にも、リズムに関する聴覚性の「ものまね神経」(ミラーニューロン)があることがわかっています4)。なんで歌やダンスがうまいとモテるの?歌とダンスの起源は、注意を引く、まねをし合う、リズムを取ることであることがわかりました。約700万年前に人類が誕生してから約20万年前に人類が言葉を話すようになるまでの約680万年の長い間、歌とダンスは、求愛、癒し、同調のためのサイン言語として、人類の心の進化に大きな役割を担いました。たとえば、歌やダンスのうまさは、結婚相手や部族の地位の主な判断基準の1つになっていたでしょう。だからこそ、歌やダンスがうまい人は、周りとうまくコミュニケーションができるため、異性だけでなく、同性や子供も含めた部族のメンバー全員から愛されるわけです。現代の社会で言語能力(知能)がもてはやされているのと同じかそれ以上に、原始の時代は歌やダンスの能力がもてはやされていたといえるでしょう。だからこそ、現代の私たちが音楽やダンスを好み、とくに男性のミュージシャンやダンサーがモテるのです。この点で、初期の人類の進化の鍵が「プレゼント仮説」であるのなら、その後の進化の鍵はラブソングと求愛ダンスといえるでしょう。これを名付けるなら「ラブソング・ラブダンス仮説」です。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】Part 4

歌とダンスの医学的な効果とは?歌とダンスが人類の進化に大きな役割を担っていることを踏まえて、その医学的な効果は何でしょうか? ここから、音楽療法5)とダンスセラピー6)として、以下の表1にまとめてみます。音楽療法やダンスセラピーは、実際にやるのではなく、見たり聞いたりするだけでも、「ものまね神経」(ミラーニューロン)によって効果が期待できるでしょう。また、音楽療法やダンスセラピーに集団療法を組み合わせれば、その同調効果から、自閉スペクトラム症の共感性の改善や不登校の予防も期待できるでしょう。タイトル「RRR」とは?この映画のタイトル「RRR」には、当時のインドの独立運動にまつわるRise(蜂起)、Roar(咆哮)、Revolt(反乱)が表示されていました。ただ実は、単に主演2人と監督の名前がみんなRから始まるからという軽いノリで最初に名付けられていただけとのことです。劇中でも、「fiRe」(ラーマの象徴である火)、「wateR」(ビームの象徴である水)、「stoRRRy」(彼らの物語)などとRを絡めた遊び心が満載でした。これに便乗すれば、この記事で名付けた「ラブソング・ラブダンス仮説」の3つのポイントに絡めて、「attRacting」(注意を引く)、「miRRoRing」(まねをし合う)、「Rhythm」(リズムを取る)と当てはめることもできます。それにしても、あの英国公邸の庭での彼らの歌とダンスのワンシーンが頭の中を繰り返し流れ続け、忘れられません。このことからも、この映画を見た方ならきっと「ラブソング・ラブダンス仮説」を提唱したくなる気持ちをおわかりいただけるのではないでしょうか?♪ナ~トゥ、ナトゥ、ナトゥ、ナトゥ、ナトゥ、ナトゥ、ナトゥ、ナ~トゥ♪…1)「特集 鳴く動物 話すヒト」P40:日経サイエンス2023年1月号、日経サイエンス社2)「進化と人間行動」P234、P123:長谷川寿一ほか、東京大学出版会、20223)「アナザー人類興亡史」P136:金子隆一、技術評論社、20114)「つながりの進化生物学」P111、P245:岡ノ谷一夫、朝日出版社、20135)「音楽療法 効果・やり方・エビデンスを知る」P22、P72、P73:高橋多喜子、金芳堂、20216)「ダンスセラピー」P70、P137、P206:平井タカネ(監)、ジアース教育新社、2012<< 前のページへ■関連記事ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 1昼顔【不倫はなぜ「ある」の?どうすれば?】Part 1映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】Part 1M-1グランプリ【実はボケってメンタルの症状!? 逆にネタから症状を知ろう!】Part 1

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双極性障害患者の肥満と脳皮質形態との関連~ENIGMA研究

 双極性障害を含む重度の精神疾患患者では、とくに肥満が顕著に認められる。双極性障害と肥満のいずれにおいても標的となりうる器官は脳であると考えられるが、双極性障害における脳皮質の変化と肥満との関係については、これまでよくわかっていなかった。カナダ・ダルハウジー大学のSean R. McWhinney氏らは、双極性障害患者の肥満と脳皮質形態との関連について調査を行った。その結果、双極性障害患者はBMIが高いほど脳の変化が顕著であることが示唆され、双極性障害とも関連する脳領域において、高BMIには大脳皮質全体で表面積ではなく皮質厚の薄さと一貫した関連があることが認められた。Psychological Medicine誌オンライン版2023年2月27日号の報告。 ENIGMA-BDワーキンググループに参加している13ヵ国より、双極性障害患者1,231例および対照群1,601例の局所脳皮質厚、局所脳表面積(MRI測定)、BMIのデータを収集した。混合効果モデルを用いて、脳構造に対する双極性障害とBMIの影響を併せてモデル化し、相互作用と媒介をテストした。また、BMIに関連する薬剤の影響についても調査した。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害およびBMIは、同じ脳領域の多くの構造に相加的に影響を及ぼしていた。・双極性障害およびBMIはともに、皮質厚との負の相関が認められたが、脳表面積との関連は認められなかった。・ほとんどの脳領域において、BMIをコントロールした場合、使用された精神科系薬剤のクラス数は、皮質厚の薄さと関連したままだった。・紡錘状回では、使用された精神科系薬剤の数と皮質厚との間に認められた負の相関の約3分の1が、薬剤数と高BMIとの関連により媒介されていた。・高BMIは、双極性障害と関連する脳領域において、大脳皮質全体で表面積ではなく皮質厚の薄さと一貫した関連があることが認められた。・双極性障害患者は、BMIが高いほど、脳の変化が顕著であることが示唆された。・BMIは、双極性障害の神経解剖学的変化や脳に対する精神科系薬剤の影響をより理解するために重要である。

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不眠症に対する認知療法、行動療法、認知行動療法の長期有効性比較

 不眠症を軽減するためには、長期的な治療が重要である。米国・カリフォルニア大学バークレー校のLaurel D. Sarfan氏らは、不眠症治療に対する認知療法(CT)、行動療法(BT)、認知行動療法(CBT)の長期的な有効性について、相対的に評価した。その結果、セラピストによるCBT、BT、CTの提供は、長期にわたり不眠症による夜間および日中の症状を改善させる可能性が示唆された。Journal of Consulting and Clinical Psychology誌オンライン版2023年2月23日号の報告。 対象は、不眠症患者188例(女性:62.2%、白人:81.1%、ヒスパニックまたはラテン系:6.5%、平均年齢:47.4歳)。対象患者を、不眠症に対するCT、BTまたはCBTの8つのセッションにランダムに割り付けた。不眠症の重症度、不眠症に対する治療反応/寛解、睡眠日誌のパラメータ、日中の機能を、治療前および12ヵ月間のフォローアップ期間に測定し評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・いずれかの治療を行った患者で、不眠症の重症度、入眠潜時、中途覚醒、総睡眠時間、睡眠効率、仕事や社会への適応、メンタルヘルスの改善が認められた(各々、p<0.05)。・各治療群において、実質的な割合で寛解や治療反応の達成が確認された。・CBTは、CTと比較し不眠症の重症度を大きく改善し、CTおよびBTと比較し、より一層の寛解や身体的健康の改善が認められた(各々、p<0.05)。・精神疾患を合併している患者では、CBTはCTと比較し、仕事や社会への適応、メンタルヘルスを大きく改善した(各々、p<0.05)。・CTには、就寝時間の変化との関連が認められず、日中の疲労の変化に関連する治療条件もみられなかった(各々、p>0.05)。・セラピストによるCBT、BT、CTの提供は、長期にわたり不眠症による夜間および日中の症状を改善させる可能性が示唆された。

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日本の食事パターンと認知症リスク~NILS-LSAプロジェクト

 日本食の順守が健康に有益である可能性が示唆されている。しかし、認知症発症との関連は、あまりよくわかっていない。国立長寿医療研究センターのShu Zhang氏らは、地域在住の日本人高齢者における食事パターンと認知症発症との関連を、アポリポ蛋白E遺伝子型を考慮して検討した。その結果、日本食の順守は、地域在住の日本人高齢者における認知症発症リスクの低下と関連しており、認知症予防に対する日本食の有益性が示唆された。European Journal of Nutrition誌オンライン版2023年2月17日号の報告。 本研究データはNILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)プロジェクトの一環として収集され、愛知県在住の認知症でない高齢者1,504人(65~82歳)を対象とした20年間のフォローアップコホート調査が実施された。これまでの研究に基づき、3日間の食事記録データにより日本食インデックス(9-component-weighted Japanese Diet Index:wJDI9)のスコア(範囲1~12)を算出し、日本食の順守の指標として用いた。認知症発症は、介護保険制度の認定証で確認し、フォローアップ開始後5年以内に認知症を発症した場合は除外した。wJDI9スコアの三分位(T1~T3)に従い、多変量調整Cox比例ハザードモデルを用いて認知症発症のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出し、認知症でない期間の差を推定するため、ラプラス回帰を用いて認知症発症年齢のパーセンタイル差(PD)および95%CIを算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間の中央値は11.4年(四分位範囲[IQR]:7.8~15.1)であった。・フォローアップ期間中に認知症発症が確認された高齢者は225例(15.0%)であった。・T3群は、認知症発症率が最も低く10.7%であった。・T1群とT3群の間の認知症発症年齢のPDは11番目(11th PD)と推定された。・wJDI9スコアが高いほど、認知症発症リスクが低く、認知症でない期間が長かった。・T1群に対するT3群の認知症発症年齢の多変量調整HRは0.58(95%CI:0.40~0.86)、11th PDは36.7ヵ月(95%CI:9.9~63.4)であった。・wJDI9スコアが1ポイント上昇するごとに、認知症発症リスクは5%低下し(p=0.033)、認知症でない期間が3.9ヵ月(95%CI:0.3~7.6)延長した(p=0.035)。・ベースライン時の性別または喫煙状況(現在の喫煙者/非喫煙者)で差は認められなかった。

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第156回 コロナ感染後の脳のもやもやがADHD薬グアンファシンで改善

日本で承認済みの注意欠如・多動症(ADHD)治療薬「グアンファシン(商品名:インチュニブ)」が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとして知られる脳のもやもや(brain fog)に有効かもしれないことが12例への投与試験で示唆されました1)。脳のもやもやは頭の働きの低下が続くことの俗称であり、脳の前頭前皮質(PFC)が担う実行・記憶・注意力、やる気を損なわせ、仕事や日常生活を妨げます。COVID-19患者の脳ではNMDA受容体(NMDAR)を阻害するキヌレン酸が多いことが知られています。脳のもやもやに似た症状を呈する外傷性脳損傷(TBI)の治療薬として検討されているN-アセチルシステイン(NAC)はキヌレン酸生成酵素を阻害してNMDAR伝達を回復させるらしく、グアンファシンはその伝達を後押ししてPFCの神経連結を強化する働きが期待できます。幸いにもグアンファシンとNACはどちらも忍容性が良好であり、long COVIDへの可能性を見出したエール大学の精神神経科医Arman Fesharaki-Zadeh氏らはそれら2剤を脳のもやもやを訴える患者に投与することを試みました。その結果、コロナ感染から3~14ヵ月経つものの認知障害が治まらず、複数作業の同時遂行(multi-tasking)・専念・集中などの遂行機能が低下していた12例のうち8例の脳のもやもやが投与の甲斐あって軽減しました。ただし、両剤の忍容性は良好とはいえ無害というわけではなく、2例はグアンファシンで生じうることが知られる低血圧症やめまいで服用を止める必要がありました。また、追跡が不可能になった患者が2例いました。残りの8例は作業記憶、集中、遂行機能の改善を示し、何例かは日常をいつもどおり過ごせるほどに回復しました。long COVIDのせいで看護師の仕事時間を大幅に短縮せざるを得ずにいた女性被験者1例の経過は示唆に富んでいます。彼女の作業記憶、遂行機能、頭の回転の速さ(cognitive processing speed)はグアンファシン治療でだいぶ良くなっていつもの仕事をこなせるようになりました。しかし急な低血圧症事象(めまい)の発生を受けてその治療を止めたところ認知機能や集中が悪化しました。そこでグアンファシンを再開したところ脳のもやもやが首尾よく再び治まり、めまいの再発なく同剤の服用を無事続けることができました。多くの患者を募ってグアンファシンとNACを検討するプラセボ対照試験の資金が今回の12例の治療報告を契機にして集まることをFesharaki-Zadeh氏らは望んでいます2)。long COVIDの治療手段の検討は他にもあり3)、たとえばファイザーの飲み薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)の運動、認知、自律神経症状への効果を調べている試験があります4)。また、脳のもやもやや疲労に対する気分安定薬リチウムの試験5)、動悸や慢性疲労を引き起こす体位性起立性頻拍症候群(POTS)に対する重症筋無力症治療薬エフガルチギモド アルファ(日本での商品名:ウィフガート)の試験6)が進行中です。参考1)Fesharaki-Zadeh A, et al. Neuroimmunology Reports. 2023;3: 1001542)Yale Researchers Discover Possible 'Brain Fog' Treatment for Long COVID / Yale Medicine3)Long COVID Clinical Trials May Offer Shortcut to New Treatments / MedScape4)PASC試験(Clinical Trials.gov)5)Effect of Lithium Therapy on Long COVID Symptoms(Clinical Trials.gov)6)POTS試験(Clinical Trials.gov)

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うつ、不安、苦痛に対する身体活動介入の有効性~アンブレラレビュー

 オーストラリア・南オーストラリア大学のBen Singh氏らは、成人のうつ病、不安、精神的苦痛に関する症状に対する身体活動の影響を明らかにするためアンブレラレビューを行った。その結果、身体活動は、幅広い成人に対しうつ病、不安、精神的苦痛の改善に有益であることが確認された。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年2月16日号の報告。 2022年1月1日までに公表された適格研究を、12件の電子データベースより検索した。成人を対象に、身体活動によるうつ病、不安、精神的苦痛を評価したランダム化比較試験のメタ解析によるシステムを適格基準とした。研究の選択は、2人の独立したレビュアーによる重複チェックにより実施した。 主な結果は以下のとおり。・91件のレビュー(1,039試験、12万8,119例)を検討に含めた。・対象には、健康成人、精神疾患を有する成人、さまざまな慢性疾患を有する成人が含まれていた。・77件の研究は、システマティックレビューの方法論的な質を評価するための測定ツール(AMSTAR)のスコアが非常に低かった。・身体活動は、通常ケアと比較し、うつ病、不安、精神的苦痛に対する中程度の効果が認められた。 ●うつ病 エフェクトサイズ中央値:-0.43、四分位範囲[IQR]:-0.66~-0.27 ●不安 エフェクトサイズ中央値:-0.42、IQR:-0.66~-0.26 ●精神的苦痛 エフェクトサイズ:-0.60、95%CI:-0.78~-0.42・うつ病、HIV、腎臓病の成人、妊娠中または産後の女性、健康成人において、最大の効果が認められた。・高強度の身体活動は、症状の大幅な改善と関連が認められた。・身体活動介入の有効性は、介入期間が長くなるほど減少していた。・身体活動は、うつ病、不安、精神的苦痛のマネジメントにおいて主要なアプローチであることが示唆された。

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統合失調症患者の体重増加や代謝機能に対する11種類の抗精神病薬の比較

 抗精神病薬の投与量と代謝機能関連副作用との関係を明らかにするため、スイス・ジュネーブ大学のMichel Sabe氏らは、統合失調症患者を対象に抗精神病薬を用いたランダム化比較試験(RCT)の用量反応メタ解析を実施した。その結果、抗精神病薬ごとに固有の特徴が確認され、アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬において、体重増加との有意な用量反応関係が認められた。著者らは、利用可能な研究数が限られるなどの制限があったものの、本研究結果は、抗精神病薬の用量調整により、体重や代謝機能に対する悪影響を軽減するために有益な情報であるとしている。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年2月8日号掲載の報告。 2021年2月までに英語で公表された研究をMEDLINE、Embase、PubMed、PsyARTICLES、PsycINFO、Cochrane Database of Systematic Reviewsおよび各トライアルレジストリより検索した。第1世代または第2世代抗精神病薬を用いたフィックスドーズのRCTを特定した。RCTの質は、Cochrane's Risk of Bias toolを用いて評価した。主要アウトカムは体重の平均変化とし、副次的アウトカムは代謝パラメータの平均変化とした。抽出したデータを用いて、用量反応メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・52件のRCT(2万2,588例)が抽出された。・アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬において、体重増加との有意な用量反応関係が認められた。・体重増加と抗精神病薬の用量との関連は、準放物線上の曲線関係(ルラシドン、RCT:9件、95%推定有効用量[ED95:59.93mg/d]:0.53kg/6週間)から用量の増加とともに増加を続ける曲線関係(オランザピン、RCT:1件、[ED95:15.05mg/d]:4.29kg/8週間)までが認められた。・すべての曲線は、準放物線、定常、上昇のいずれかに分類可能であった。・有効用量の中央値が比較的低い場合において体重増加が認められることが多く、さらに増量した場合では、一部の薬剤において体重増加が顕著となる可能性が示唆された。

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ドキュメンタリー「WHOLE」(後編)【自分の足を切り落とすことが健全!?(健康の定義)】

今回のキーワード身体完全性違和(身体完全同一性障害)性別違和(性同一性障害)満たされた状態治療ガイドライン社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)診断ガイドラインの表記変更前編では、身体完全性違和(身体完全同一性障害)の特徴や原因などを掘り下げました。それを踏まえて、どうしたら良いでしょうか? 健康な足を切り落としてあげるのが良いのでしょうか? さらには、健康であるとはどういうことなのでしょうか? 今回は、引き続き、ドキュメンタリー「WHOLE」を取り上げ、健康の定義を再確認し、健康の概念を捉え直します。そして、身体完全性違和の治療ガイドラインを、世界に先駆けて(!)、この記事で発表します。治療としての四肢切断を私たちは受け入れられる?身体完全性違和は、その原因を踏まえると、その特徴は先天的、限定的、そして固定的であることがわかります。これは、ちょうど性別違和(性同一性障害)と似ています。性別違和は、もはや多くの国で受け入れられており、日本でも性別適合手術は可能です。なぜなら、それがその人にとっての幸せであると理解できるからです。WHOでも健康の定義は「身体的、精神的、そして社会的に満たされた状態(a state of well-being)」とされています。それでは、身体完全性違和はどうでしょうか? 私たちは四肢切断することをすんなり受け入れられるでしょうか? 性別違和と同じという理屈で考えれば、確かに本人が望むのであれば止めることはできないことになります。しかし、「健康な足をわざわざなくして身体障害者になるなんて考えられない」と感情的になってしまい、なかなか受け止められないのではないでしょうか? 身体完全性違和を知ってしまったことによって、私たちの健康の概念が揺さぶられます。健康とは?身体完全性違和と診断された人が、心理学者から「もしその足の違和感が消える薬があったら、飲みますか?」と質問されたところ、「若い時だったらそうしたかもしれないけど、今は飲まないと思う」「身体完全性違和は、私が誰でどんな人間かという核心になっているから」と答えています。そして、彼らは、四肢切断をやり遂げてはじめて「まっとうになった(I’ve become whole)」と言っています。まさにこのドキュメンタリーのタイトルの「WHOLE」(健全)です。実際に、彼らの中で四肢切断をして後悔をした人は1人もいないと報告されています2)。つまり、身体完全性違和は、性別違和と同じアイデンティティの問題が根っこにあるわけです。性別違和の人が性別の違和感が消える薬を飲まないと言っているのと同じです。もっと言えば、身体完全性違和の人は、違和感のある足をなくしたいだけです。それが結果的に身体障害になってしまっているのです。最初から身体障害になりたいとは思っていないです。もっと言えば、彼らにとって足がないことが「健康」であるため、足があることは「不健康」であり、違和感がある足を持っている状態は逆に「身体障害」であると言えます。極端な話、もしも身体完全性違和の人が世の中の多数派ならば、足を切断しない人が「身体障害」になってしまうという理屈も成り立ちます。 そして、「健康である」とは、多数決で決まっており、相対的な概念であることに気付かされ、「障害」の概念の根底が覆されます。どうすればいいの?健康の概念を捉え直すと、身体完全性違和の治療はやはり四肢切断をすることであるように思えてきます。しかし、現時点で身体完全性違和の治療は、世界的にも確立されていません。ただ、この診断名がICD-11に新設された流れから、今後は治療ガイドラインが求められます。そこで、この記事では、治療ガイドラインを世界に先駆けて(!)、作ってみましょう。まず、身体完全性違和の評価についてです。原因の視点に立てば神経疾患、鑑別の視点に立てば精神疾患、治療の視点に立てば外科疾患です。よって、神経内科医、精神科医、外科医の連携(リエゾン)が必要になります。検査としては、脳画像検査や皮膚コンダクタンス反応(SCR)が必要です。次に、実際の治療の計画についてです。これは、性別違和に準じます。ちなみに、性別違和の治療の流れは、実生活体験、薬物(ホルモン療法)、外科手術の3つのステップを踏みます。(1)実生活体験1つ目のステップは、実生活体験です。ドキュメンタリーに登場した人のように、片足を膝で折り曲げて固定し、松葉杖を使う生活を少なくとも半年送るのです。(2)薬物による疑似体験2つ目のステップは、薬物による疑似体験です。これは、脊髄硬膜外麻酔によって、下肢の運動麻痺と感覚麻痺を人工的につくり、擬似的な四肢切断の状態にします。この状態で違和感がなくなるかを厳正に判定するのです。(3)外科手術3つ目のステップは、外科手術です。このように、最初から手術をするのではなく、ステップを踏む必要があります。なぜなら、当然ながら、手術をするまでは元の状態に戻れますが、手術をした後は元に戻れないからです。「WHOLE」な社会とは?治療ガイドラインの確立によって、ICD-11の診断ガイドラインは表記の変更が必要になってきます。たとえば、「その身体障害によって、重大な社会機能の障害を認める、または健康の危機にさらす」という項目は、適切な外科手術がなされ、社会的なサポートを得ることが可能になれば不要です。また、「特定の身体障害を求める」という抽象的な表記は、健常者の視点です。身体完全性違和の人たちの視点にも立つならば、「機能的に問題のない体の一部分の切除を求める」と中立的で具体的な表記にすることが適切です。そして、その代わりに、性別違和の「生物学的性と性自認(ジェンダー)の不一致」という項目と同じように、「生物学的な身体と身体認識の不一致」という項目を新しく設けることが適切です。身体完全性違和という状態は、個人として「WHOLE」(健全)になるだけでなく、社会としても「WHOLE」(健全)になることを私たちに問いかけています。これは、社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)の考え方につながります。それは、この多様化した現代で、何が健全か、つまり何が望ましいか、そして何が幸せかはますます人によって違うという現実をよく理解して受け入れていくことではないでしょうか?1)精神医学(3)「ICD-11のチェックポイント」P285「身体苦痛または体験症群」:山田和男、医学書院、20192)私はすでに死んでいる ゆがんだを生み出す脳P100、P104、P142:アニル・アナンサスワーミー、紀伊國屋書店、2018「足を切り落としたい…」自ら障害者になることを望む人々の実態:美馬達哉、現代ビジネス、2018

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睡眠の時間や質とうつ病リスク~コホート研究

 睡眠の時間や質およびその変化が抑うつ症状リスクに及ぼす縦断的な影響は、よくわかっていない。韓国・Hallym University Dongtan Sacred Heart HospitalのYoo Jin Um氏らは、睡眠の時間や質およびその変化が抑うつ症状の発症にどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、検討を行った。その結果、睡眠の時間や質およびその変化は、若年成人の抑うつ症状と独立して関連しており、不十分な睡眠や睡眠の質の低下がうつ病リスクと関連していることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年2月14日号掲載の報告。 ベースライン時にうつ病を発症していない韓国人成人22万5,915人(平均年齢:38.5歳)を対象に平均4.0年間のフォローアップ調査を実施した。睡眠の時間や質の評価には、ピッツバーグ睡眠質問票を用いた。抑うつ症状の評価には、うつ病自己評価尺度(CES-D)を用いた。フレキシブル・パラメトリック比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)および95%信頼区間[CI]を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に抑うつ症状が認められた人は、3万104人であった。・睡眠時間7時間の人と比較したうつ病の多変量調整HRは、以下のとおりであった。 【5時間以下】HR:1.15、95%CI:1.11~1.20 【6時間】HR:1.06、95%CI:1.03~1.09 【8時間】HR:0.99、95%CI:0.95~1.03 【9時間以上】HR:1.06、95%CI:0.98~1.14・睡眠の質が不良な人においても、同様の傾向が認められた。・睡眠の質が持続的に良好な人と比較し、持続的に不良な人(HR:2.13、95%CI:2.01~2.25)または低下した人(HR:1.67、95%CI:1.58~1.77)では、抑うつ症状発症リスクが高かった。・本研究の限界として、睡眠時間の報告が自己申告によるものである点が挙げられる。・睡眠の時間や質およびその変化は、若年成人の抑うつ症状と独立して関連しており、不十分な睡眠量や睡眠の質の低下がうつ病リスクと関連していることが示唆された。

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統合失調症の入院リスクと日照時間の関連性に対する建築環境の影響

 統合失調症と日照時間との関係を検討した研究では、関連性を明らかにすることができていない。要因の1つとして、統合失調症患者の日照時間に対する建築環境の影響が考えられる。中国・安徽医科大学のLi Liu氏らは、統合失調症と日照時間の関連性に対する建築環境の影響について調査を行った。その結果、さまざまな建築環境において、日照時間は統合失調症による入院リスクに影響を及ぼすことが明らかとなった。著者らは、「本結果は、特定の地域居住で脆弱性を有する患者の識別に役立ち、医療資源の合理的な割り当てや悪影響の適時な回避によって、統合失調症発症リスク低減のための助言を政策立案者が提供することを示唆するものである」と述べている。The Science of the Total Environment誌オンライン版2023年2月8日号の報告。 中国・合肥市の主要都市部において、2017~20年の毎日の統合失調症入院データおよび、それに対応する気象要因や環境汚染に関するデータを収集した。都市部における統合失調症入院期間での日照時間の影響を評価するため、分布ラグ非線形モデルと組み合わせた一般化加法モデルを用いた。さらに、建築物の密度や高さ、正規化植生指数、夜間の光が、統合失調症と日照時間の関連性に及ぼすさまざまな影響も調査した。 主な結果は以下のとおり。・不十分な日照時間(5.3時間未満)は、統合失調症による入院リスク増加と関連しており、最大相対リスクは、2.9時間での1.382(95%信頼区間:1.069~1.786)であった。・適切な日照時間は、統合失調症による入院リスク低下と関連が認められた。・サブグループ解析では、女性と高齢者において、とくに脆弱性が認められた。・日照時間が不十分な場合、建築物の密度が高く夜間の光が多いほど、統合失調症リスクに有意な好影響が認められた。・正規化植生指数が高いほど、また、建築物の高さが高いほど、統合失調症のリスク低下と関連が認められた。

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オールシングスマストパス~高齢者の抗うつ薬の選択についての研究の難しさ(解説:岡村毅氏)

 従来のRCTの論文とはずいぶん違う印象だ。無常(All Things Must Pass)を感じたのは私だけだろうか。この論文、老年医学を専門とする研究者には、突っ込みどころ満載のように思える。とはいえ現実世界で大規模研究をすることは大変であることもわかっている。 順に説明していこう。2種類の抗うつ薬に反応しないものを治療抵抗性うつ病という。こういう場合、臨床的には「他の薬を追加する増強療法」(augmentation)か「他の種類の薬剤への変更」(switch)のどちらを選択するべきかというのは臨床的難問だ。これに対して、うつ病一般においてはSTAR*Dなどの大規模な研究が行われてきた。本研究はOPTIMUM研究と名付けられ、やはりNIH主導で大規模に行われた。 結果であるが、アリピプラゾールの増強療法が比較的優れた効果を示した。とはいえ、ステップ1で比較されているbupropionは本邦未承認であるから日本の臨床家への示唆はあまりない。なおステップ2で比較対象となっているのはリチウムの増強療法とノルトリプチリンへの変更であるが、これらは本邦でも使用できる。 以下は、この論文を批判的に眺めた感想である。 第1にプロトコルがまったく安定していない。途中までステップ2への直接参加が可能になっているが、途中から禁じられた。参加基準も当初PHQ-9で6点以上であったのが、途中から10点以上になっている。さまざまな横やりがあったことが推測される。 第2に参加者は普通に薬局で薬をもらっているので、増強(追加)されているのか変更されているのかがわかってしまう。単純化すると、前者は錠剤が1錠増えるし、後者は増えない。プラセボで良くなる高齢者が多いから、この点は重要だ。 第3に認知機能の検査は一応しているが(supplementaryの隅まで読んでようやく書いてあったが、これは最も重要な点ではないか?)、Short blessed testで10点以上はダメというあまりにも粗い基準だ。さまざまな認知機能の人が含まれているに違いない。 第4に脳梗塞に伴う治療抵抗性うつ病も含まれているはずだが、これはdepression-executive dysfunctionともいい、高齢期のうつ病の難問の一つである。生活障害が大きく、むしろ非薬物治療が効果的とされる。この群は何をやっても変わらないだろうが、期間中に良いデイケアに行き始めたら劇的に回復することだろう。この議論が抜け落ちている。 第5に、アウトカムは「健やかさ」(wellbeing)になっている。これは当事者団体の意見等を反映させたということである。「症状は外から見ると減ったようです、でも本人は苦しいです」というのでは意味がないのだから良いことともいえる。薬剤の効果を症状だけで見るのは「古い」医学者であり、リカバリーのようなより主観的なものが現在好まれる。しかし薬剤の効果をwellbeingで見ることは、拡大した医療化であり、危険をはらんでいると個人的には思っている。というのは、高齢者ではとくにそうだが、さまざまな出来事(人間関係、出会いと別れ、とくに死別、体調、他の疾患の状態など)によりwellbeingは大きく影響を受けるのだ。公平を期すために、この研究でも「社会参加」も測定されていることは述べておく。 第6に、結果的には、bupropion変更組とリチウム増強組では、きちんと定められた分量までいって寛解している者は10%もいないとのことであり、とても低いところで比較しているというのは否めまい。 第7に転倒が多い。対照がないので、高齢者とはそういうものだと言われればそれまでだが、良い結果の治療でも3人に1人は転倒しているし、最も悪い群は55%が転倒している。この研究は増強vs.変更を比較しているので、これを言ってしまうとちゃぶ台返しになってしまうが…「この人はうつ病で、薬で治すべし」という大前提がここでは間違っているんじゃないか。この際、漢方薬に変えて、生活も変えてみてはどうかと提案する(たとえば地域の集まりや運動に行くとか、それこそお寺に行ってみるとか)というのが日本の小慣れた臨床医の対応ではないだろうか。 第8に…これくらいでやめておこう。 僕らはRCTで少しでも科学的に妥当な知見を手に入れて、患者さんにより妥当な治療を提案し、結果的に多くの患者さんを幸せにしたいという根源的な欲求がある。しかし高齢者を対象にしたこの論文を読むと、さまざまな現実のノイズにより、非常に読みにくく、苦しい印象を受けた。RCT、メタアナリシス、さらにネットワークメタアナリシスに心躍らされた時代はもしかしたら、長い歴史の中のそよ風なのかもしれず(Times They Are A-Changin)、無常(All Things Must Pass)を感じる。一方で、批判だけするつもりはない。医療者の主観や勘に頼った時代に戻ってよいわけはない。なんか苦しいなあと思いながら、批判的に読み、そしてこのような大規模研究を苦しみながら遂行した仲間に最大の敬意を払いつつも、この知見が目の前の患者さんに適応できるかどうかを考え続けるしかないのではないか。 考えてみれば、この薬が一番いいですという単純な世界(うつ病ですか、じゃあエスシタロプラムかゾロフトでしょうみたいな)なら、医師なんていらないではないか。目の前の患者さんが、医療の対象にするべきことが何割で、医療が対象にしてはいけないことが何割かを判断する必要があるし、どの見方を採用するか(たとえば高齢者の抑うつ症状なら、感情障害、認知機能障害、脳血管障害といったさまざまな次元がある)を常に選択する必要がある。患者の高齢化に伴い、臨床はより頭を使う仕事になってきたように感じる。

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日本人の認知症タイプ別死亡リスクと死因

 近年の認知症に対する医療および長期ケアの環境変化は、疾患の予後を改善している可能性がある。そのため、認知症の予後に関する情報は、更新する必要があると考えられる。そこで、医薬基盤・健康・栄養研究所の小野 玲氏らは、日本における認知症のサブタイプ別の死亡率、死因、予後関連因子を調査するため、クリニックベースのコホート研究を実施した。その結果、日本における認知症サブタイプ別の死亡リスクや死因の重要な違いが明らかとなった。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2023年2月6日号の報告。 国立長寿医療研究センターの予防老年学研究部におけるもの忘れ外来受診者の予後調査研究(NCGG-STORIES)で収集した患者の臨床および予後データを分析した。2010年7月~2018年9月に当センターもの忘れ外来を受診した患者またはその近親者を対象に、郵便調査で死亡状況の確認を行った。対象患者3,229例を6つの認知機能タイプ(認知機能正常[NC]、軽度認知障害[MCI]、アルツハイマー病[AD]、血管性認知症、レビー小体型認知症[DLB]、前頭側頭型認知症)に分類した。認知機能タイプ別の死亡率を比較するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・NC群と比較し、すべての認知症サブタイプおよびMCI群の死亡率は高かった(ハザードリスク:2.61~5.20)。・最も多かった死因は肺炎であり、次いでがんであった。・MCI、AD、DLB群における予後因子は、高齢、男性、認知機能低下であり、アポリポ蛋白Eℇ4対立遺伝子との関連は認められなかった。・本調査により、認知症のサブタイプ別に死亡リスクと死因の違いが認められたことから、今後の高度な認知症ケア計画や政策立案に役立つことが望まれる。

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第155回 コロナ罹患後症状をメトホルミンが予防 / コロナで父親の顔がわからなくなった女性

long COVIDを糖尿病治療薬メトホルミンが予防昔ながらの糖尿病治療薬メトホルミンの新型コロナウイルス感染症罹患後症状(long COVID)予防効果が米国の無作為化試験で認められ1)、「画期的(breakthrough)」と評するに値する結果だと有力研究者が称賛しています2)。COVID-OUTと呼ばれる同試験では駆虫薬として知られるイベルメクチンとうつ病治療に使われるフルボキサミンも検討されましたが、どちらもメトホルミンのようなlong COVID予防効果はありませんでした。COVID-OUT試験は2020年の暮れ(12月30日)に始まり、被験者はメトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミン、プラセボのいずれかに割り振られました。被験者、医師、その他の試験従事者がその割り振りを知らない盲検状態で実施されました。また、被験者をどこかに出向かせることがなく、試験従事者と直接の接触がない分散化(decentralized)方式の試験でもあります。募ったのは肥満か太り過ぎで年齢が30~85歳、コロナ発症から7日未満、検査でコロナ感染が判明してから3日以内の患者です。箱に入った服用薬一揃いは試験参加決定の当日または翌日に被験者に届けられ、結果的に試験参加同意から最初の服用までは平均して1日とかかりませんでした。メトホルミンの服用日数は14日間で、用量は最初の日は500mg、2~5日目は500mgを1日に2回、6~14日目は朝と晩にそれぞれ500mgと1,000mgです。メトホルミン投与群とプラセボ群合わせて1,125例がlong COVIDの検討に協力することを了承し、1ヵ月に1回連絡を取ってlong COVIDの診断があったかどうかが300日間追跡されました。その結果、およそ12例に1例ほどの8.4%がその診断に至っていました。肝心のメトホルミン投与群のlong COVID発生率はどうかというと約6%であり、プラセボ群の約11%に比べて40%ほど少なく済んでいました。発症からより日が浅いうちからのメトホルミン開始はさらに有効で、発症から4日未満で開始した人のlong COVID発現率は約5%、4日以上経ってから開始した人では約7%でした。上述のとおりイベルメクチンやフルボキサミンのlong COVID予防効果は残念ながら認められませんでした。COVID-OUT試験のlong COVID結果報告はまだプレプリントであり、The Lancet on SSRNに提出されて審査段階にあります。メトホルミンの効果はlong COVIDの枠にとどまらずコロナ感染の重症化予防も担いうることが他でもないCOVID-OUT試験で示されています。その結果はすでに査読が済んで昨夏2022年8月にNEJM誌に掲載されており、第一の目的である低酸素血症、救急科(ED)受診、入院、死亡の予防効果は認められなかったものの、メトホルミン投与群のED受診、入院、死亡は有望なことにプラセボ群より42%少なくて済みました3)。さらに試験を続ける必要はあるものの、値頃で取り立てるほど副作用がないことを踏まえるにメトホルミンが用を成すことは今や確からしいことをCOVID-OUT試験結果は示していると米国屈指の研究所Scripps Research Translational Instituteの所長Eric Topol氏は述べています2)。Topol氏はbreakthroughという表現を安易に使いませんが、安価で安全なメトホルミンのCOVID-OUT試験での目を見張る効果はその表現に見合うものだと讃えています。メトホルミンの効果を重要と考えているのはTopol氏だけでなく、たとえばハーバード大学病院(Brigham and Women's Hospital)の救急科医師Jeremy Faust氏もその1人であり、「コロナ感染が判明したらすぐにメトホルミン服用を開始する必要があるかと肥満か太り過ぎの患者に尋ねられたら、COVID-OUT試験結果を根拠にして “必要がある”と少なくとも大抵は答える」と自身の情報配信に記しています4)。コロナ感染で顔がわからなくなってしまうことがあるコロナ感染で匂いや味がわからなくなることがあるのはよく知られていますが、顔が区別できなくなる相貌失認(prosopagnosia)が生じることもあるようです。神経系や振る舞いの研究結果を掲載している医学誌Cortexに相貌失認になってしまった28歳のコロナ感染女性Annie氏の様子や検査結果などをまとめた報告が掲載されました5,6)。Annie氏は2020年3月にコロナ感染し、その翌月4月中ごろまでには在宅で働けるほどに回復しました。コロナ感染してから最初に家族と過ごした同年6月に彼女は父親が誰かわからず、見た目で叔父と区別することができませんでした。そのときの様子をAnnie氏は「誰か知らない顔の人から父親の声がした(My dad's voice came out of a stranger's face)」と説明しています。相貌失認に加えて行きつけのスーパーまでの道で迷うことや駐車場で自分の車の場所が分からなくなるという方向音痴のような位置把握障害(navigational impairment)もAnnie氏に生じました。また、long COVIDの主症状として知られる疲労や集中困難などにも見舞われました。Annie氏のような症状はどうやら珍しくないようで、long COVID患者54例に当たってみたところ多くが視覚認識や位置把握の衰えを申告しました。脳損傷後に認められる障害に似た神経精神の不調がコロナ感染で生じうるようだと著者は言っています。参考1)Outpatient Treatment of COVID-19 and the Development of Long COVID Over 10 Months: A Multi-Center, Quadruple-Blind, Parallel Group Randomized Phase 3 Trial. The Lancet on SSRN :Received 6 Mar 2023.2)'Breakthrough' Study: Diabetes Drug Helps Prevent Long COVID / WebMD3)Carolyn T, et al. N Engl J Med. 2022;387:599-610.4)Metformin found to reduce Long Covid in clinical trial. Jeremy Faust氏の配信5)Kieseler ML, et al. Cortex. 9 March 2023. [Epub ahead of print]6)Study Says Long COVID May Cause Face Blindness / MedScape

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