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化学療法誘発性末梢神経障害の克服に向けた包括的マネジメントの最前線/日本臨床腫瘍学会

 2025年3月6~8日に第22回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催され、8日の緩和ケアに関するシンポジウムでは、「化学療法誘発性末梢神経障害のマネジメント」をテーマに5つの講演が行われた。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)は、抗がん剤投与中から投与終了後、長期にわたって患者のQOLに影響を及ぼすものの、いまだ有効な治療の確立に至っていない。そこで、司会の柳原 一広氏(関西電力病院 腫瘍内科)と乾 友浩氏(徳島大学病院 がん診療連携センター)の進行の下、患者のサバイバーシップ支援につなげることを目的としたトピックスが紹介された。CIPN予防戦略の現状と今後の研究開発への期待 まず、CIPNの予防に関する最新エビデンスが、華井 明子氏(千葉大学大学院 情報学研究院)より紹介された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版』には、CIPNを誘起する化学療法薬の使用に際し、予防として推奨できるものはないと記載されている。また、抗がん剤の種類によっては投与しないことを推奨する薬剤もあり、状況に応じて運動や冷却の実施が推奨されるものの、強く推奨できる治療法はない。そのため、多くの患者が苦しんでいる現状が指摘された。 こうした中、手足を冷却または圧迫して局所の循環血流量を低下させることで、抗がん剤をがん細胞に到達させつつ、手足には到達させない戦略がCIPN予防に有効とのエビデンスが散見されており、冷却がやや優位との成績が最近示された。「ただし、冷却の効果は抗がん剤投与中に最大限発揮されるので、投与後数時間経過して出現する症状には効果がない」と、同氏は説明した。 なお、がん治療中の運動は、心肺機能や筋力、患者報告アウトカムなどを改善するとのエビデンスが確立しているため、有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されている。一方、CIPN予防における運動の実施は、本ガイドラインでは推奨の強さ・エビデンスの確実性ともに弱い。同氏は、「それでも治療前のプレハビリテーションにより体力・予備力を高めておくことは有効」とした。また、予防ではなく、CIPN発現例に対する治療であるが、バランス運動、筋力トレーニングおよびストレッチは、いずれも長期的には実施のメリットが大きいとの研究成果が紹介された。 「CIPNの頻度は抗がん剤の種類はもちろん、評価の時期・指標によっても異なり、患者の生活状況や主観が大きく影響する。そのため、評価方法の標準化がCIPN予防/治療戦略の開発につながるだろう。また、運動プログラムのエビデンスは増え続けていることから、ガイドラインの次期改訂では推奨が変わる可能性もある」と、同氏は期待を示した。CIPN治療戦略と実臨床への橋渡しに向けた取り組み 次に、CIPNの治療に関する動向が吉田 陽一郎氏(福岡大学病院 医療情報・データサイエンスセンター 消化器外科)より解説された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版』で薬物療法として推奨されている薬剤は1剤のみであり、予防ではなく治療のみでの使用が可能となっている。同氏はその根拠となった論文と共に、最新のシステマティックレビュー論文に触れ、「エビデンスが不十分で、本ガイドラインにおける推奨の強さは弱い。CIPNの予防や治療の領域では、プラセボが心理的な影響だけでなく、生理的な変化をもたらすことが知られているため、プラセボ効果を含めたデザインの下で臨床試験を実施することが望まれる」と述べた。 こうした中、わが国ではCIPN症状が出現した際に投与する薬剤のアンケート調査が、『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版』の公表前後(2015年および2019年)に実施され、使用薬剤の変化が報告されている。近く再調査が行われる予定で、より現実的なマネジメントの理解につながるとのことである。さらに同氏は、わが国の臨床試験の状況や課題点などを説明するとともに、日本がんサポーティブケア学会 神経障害部会が取り組んでいるCIPNに関する教育動画について、「詳細は日本がんサポーティブケア学会のホームページに近日掲載予定で、2025年5月に開催される同学会の学術集会でも告知予定」と紹介した。がんサバイバーのCIPNに対する鍼灸治療の可能性 わが国では年間100万例ががんに罹患し、治療後も慢性疼痛、とくにCIPNを訴える患者が増えている。石木 寛人氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)は、「乳がんの場合、年間9万例の発症者のうち、5年生存率が90%で、その半数が痛みを抱えているとすれば、毎年約4万例の慢性疼痛患者が発生する。現状では各種鎮痛薬による薬物療法が推奨されているが、痛みの原因を根本的に解決する治療ではないため、非薬物療法のニーズは高まっている」と指摘。 このような背景もあり、同氏が所属する診療科では1980年代から鍼灸治療を緩和ケアの一環として提供してきた。治療は刺入鍼、非刺入鍼、台座灸、ホットパックを組み合わせ、標治法(症状部位の循環改善を促す局所治療)と本治法(体力賦活を図る全身調整)により、CIPNでは週1回30分、3ヵ月間の施術を基本とし、施術後に患者が自宅で行うセルフケア指導も治療に含まれる。 同院では、こうした鍼灸治療の乳がん患者における有用性を検証する前向き介入試験を2022年より実施しており、「結果は2025年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表予定」と、同氏は紹介した。さらに現在、多施設ランダム化比較試験を準備中で、乳がん診療科と鍼灸治療提供施設とのネットワーク作りとして、各施設や学会、企業などと月1回のオンラインミーティングを実施。「円滑な共同研究のためには、まずは互いの人となりや専門性を理解し、強固な連携体制を築いていくことが重要」と強調した。また、鍼灸師が医療機関に出向いて技術交流を行うなど、現場レベルでの連携も進んでいるという。 これに加え、学会やWebセミナーでの交流会、学術団体同士の相互理解を深める取り組みなど、さまざまな普及活動を進めており、「CIPNに苦しむ患者への新たな治療選択肢を提供できる日は近づいている」と、同氏は意欲を示した。CIPNマネジメントにおける医療機器の現状と課題 久保 絵美氏(国立がんセンター東病院 緩和医療科)によると、CIPNのマネジメントには医療機器の活用が重要になるという。ただし、「日・米・欧のガイドラインでCIPN予防/治療における冷却療法や圧迫療法、その他治療法の推奨の強さやエビデンスの質は異なる」と指摘。米国食品医薬品局(FDA)に承認されている機器が紹介されるも一定の評価は得られず、今後も引き続き検証が必要とされた。 一方、内因性疼痛抑制系の賦活や神経成長因子の調整、抗炎症作用などにより複合的に鎮痛をもたらす交番磁界治療器の有効性が、前臨床試験と共に、同氏が研究責任医師として担当した臨床試験で検討されている。それによると、CIPNの原因となる抗がん剤投与終了後1年以上経過した症状固定患者のtingling(ピリピリ・チクチク)やnumbness(感覚の低下)に関して、一定の効果が示唆され保険収載に至っている。 同氏は、「医療機器によるCIPNマネジメントは発展途上で、エビデンス不足が課題である。そのため、前臨床データの拡充と共に、治療効果のさらなる検証は必須」と強調した。脳の神経回路の変化に起因する“痛覚変調性疼痛”の理解と治療戦略 痛みには侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に加え、これまで心因性疼痛や非器質的疼痛と呼ばれていた痛覚変調性疼痛がある。川居 利有氏(がん研究会 有明病院 腫瘍精神科)は、「痛覚変調性疼痛はCIPNに付随するものである。たとえば、3ヵ月を超えるような抗がん剤投与後からの手足のしびれ、強い倦怠感、浅眠、めまい・耳鳴り、食欲低下や、抗がん剤投与終了後も症状が改善せずに遷延・悪化すること、また、不安が強くなり、症状に執着し訴えが執拗になることがある。このような患者に遭遇したことはないだろうか」と問い掛けた。 これは脳神経の可塑的変化により発症、維持される慢性痛で、痛み過敏、睡眠障害、疲労、集中困難、破局思考などを伴う。神経可塑性とは、脳の神経が外部刺激により伝達効率を変化させる能力で、学習や記憶に深く関わる一方、慢性痛では脳の感覚-識別系が抑制され、情動-報酬系、認知-制御系が活性化する。この状態が進むと痛みに対する不安や苦痛が増すばかりか、痛みを軽減する下行性制御系、いわゆるプラセボ回路の機能が低下し、痛みへの自己調節が困難となる。これが不安症や強迫症、治療への期待感の喪失、医療への不信感などにつながるという。 同氏は、「CIPNは長期間に持続し、そこに神経の可塑的変化による痛覚変調性疼痛が追加されることで、痛みはもとより、うつ病や不安症、自律神経症状も加わり、感情調節機能不全に陥る」と説明。また、「CIPNの慢性化では過敏症状の併発に注意し、急激な症状変化の有無についての詳細な問診が大切である。この状態は単なる“気のせい”ではなく、長期間の心理社会的問題などの蓄積による機能障害が原因」とし、「治療には患者との信頼関係の構築が不可欠で、とくに慢性化したケースでは患者の背景や過去の経験に配慮する必要がある。睡眠や心理的ケアは治療上重要なため、心療内科や精神科への適切な紹介が推奨される。CIPNそのものは治らないが、QOL改善には過敏症状のマネジメントが大切」と結んだ。

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各非定型抗精神病薬の抗精神病薬関連便秘リスク〜米国FDA有害事象報告

 抗精神病薬に関連する便秘は、日常診療において多くの患者にみられる副作用であるが、その研究は十分に行われているとはいえない。便秘は、患者の身体的健康に影響を及ぼすだけでなく、疾患負担に対する心理的ストレスを増大させる要因となるため、一層の注意が求められる。中国・Affiliated Guangji Hospital of Soochow UniversityのSidi He氏らは、米国FDA有害事象報告システムより、抗精神病薬関連の便秘に関する潜在的なリスクを分析した。Expert Opinion on Drug Safety誌オンライン版2025年2月17日号の報告。 FDA有害事象報告システム(FAERS)データベースより、2017年1月〜2022年12月に報告された抗精神病薬関連便秘の有害事象報告を収集した。報告オッズ比(ROR)および95%信頼区間(CI)は、症例/非症例法を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・期間中に報告された便秘症例562件は、非定型抗精神病薬に起因する副作用であった。・アリピプラゾールとziprasidoneを除く他の非定型抗精神病薬は、便秘リスクと有意な関連が認められた(各々、p<0.05)。・RORは、amisulprideが最も高く(ROR:4.07)、次いでパリペリドン(ROR:2.73)、クエチアピン(ROR:1.83)、クロザピン(ROR:1.61)、オランザピン(ROR:1.50)の順であった。・リスペリドンは、便秘への影響が最も低かった(ROR:0.71)。 著者らは「クロザピン、オランザピン、amisulpride、クエチアピン、パリペリドンは、便秘リスクとの相関が認められた。一方、リスペリドンは、胃腸機能に対する影響が最も少ないことが示唆された。抗精神病薬関連便秘の継続的なモニタリングには、他のデータベースと組み合わせたFAERSデータベース分析が不可欠である」と結論付けている。

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不幸のメカニズム【Dr. 中島の 新・徒然草】(573)

五百七十三の段 不幸のメカニズム花粉がきつい!エレベーターなどで他のスタッフと顔を合わせた時にもこの話題は鉄板です。「花粉、大丈夫ですか?」「いや~、まったくダメですね」そんな会話を交わしつつ、私自身も花粉を避けて過ごしています。さて今回は「不幸のメカニズム」について。もちろん、人それぞれに考えは違うので、あくまでも「私はこう考えている」というお話です。私はずっと患者さんに「明るく、楽しく、前向きに生きましょう」とお伝えしてきました。病気を治すことはもちろん大切ですが、それと同じくらい「幸せになること」も大事だと考えているからです。ただ、どうすれば幸せになれるかとなると、これがなかなか難しい。正解があるのかもしれませんが、簡単には見つかりません。一方で「こうすると不幸になりやすい」というパターンは、確かにあると思います。たとえば、何か嫌なことが起きた時に、それを「社会のせい」や「誰かのせい」にするという思考。私の経験上、そうした姿勢は、ますます不幸を引き寄せてしまう気がします。例を挙げてみましょう。「日本はもう終わってる。こんな国に生まれたから、自分は不幸なんだ」といった声。確かに、今の日本の元気のなさは否定できません。バブル時代を知っている私としては、なおさら残念に感じます。また「自分は人間関係に恵まれないから、不幸なんだ」というのもよく耳にする話です。そういう人は、いつも周囲の誰かに腹を立てている印象があります。これは「卵が先か、鶏が先か」のような問題とも言えましょう。つまり、本当に社会や人間関係に問題があるから不幸になっているのかもしれません。その一方で、私にはその人の姿勢や考え方が、不幸を呼び寄せている面もあるように思えます。なぜそう考えるのか、その仕組みを少し説明してみましょう。不幸な状況を変えようとする時、自分でどうにかできることと、できないことがあります。たしかに、個人の力で社会を変えることが難しいのは言うまでもありません。でも、社会ばかりを責めていると、「自分で変えられる部分」に目が向かなくなるのではないでしょうか。「社会が悪いんだ」とばかり言っている人を見ると、「いや、でも変えられることもあるのでは?」と、つい言いたくなります。とはいえ、言ってもなかなか伝わらないので、黙って聞くようにしているわけですが。また「人間関係に恵まれないから不幸になる」という考え方にも、疑問を持たざるを得ません。誰の周りにも、良い人もいれば困った人もいるのが世の常。でも、立派な人ほど負のオーラに敏感な気がします。その結果、文句ばかり言っていると良い人たちが離れていき、周囲に残るのは、同じように不平不満を抱えている人ばかりになってしまうわけですね。結局のところ、「人間関係に恵まれない」という状況が、自らの手で作り出されているのではないでしょうか。逆に不幸を幸福に変えてしまう人もいます。以前、暴漢に襲われて頭を殴られた人が私の外来にやってきました。この患者さんに「頭部MRIでは外傷性の異常はありませんが、多発ラクナ梗塞がありますから生活習慣に気をつけましょうね」とアドバイスしたら「いやあ、先生に病気を見つけていただいて良かったです!」とすごくポジティブな反応。この人はなかなかのリッチマンだったのですが「さもありなん」と感心させられました。もちろん、こういった考えを患者さんに押しつけるつもりはまったくありません。ただ、もしアドバイスを求められるようなことがあったら、そのタイミングで自分の考えを伝えられたらと思いつつ、日々の診療に励んでいます。最後に1句花粉来て 文句を言っても 治らない

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その3)【だから子供の自己肯定感も自殺率も世界最悪なんだ!じゃあどうすればいいの?(ブラック教育文化)】Part 1

今回のキーワード学習指導要領同年齢同学年(学級固定化)教育の平等教育の公平人権意識異年齢教育前回(その2)、ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」のいくつかのシーンを通して、同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートがはびこる学校での生徒と教師のそれぞれの心理を解き明かしました。このような日本の学校教育の危うさを踏まえると、実はこの映画は、日本の社会問題でもある、以下の3つの現象の謎を解くための大きなヒントになりそうです。不登校の生徒数が過去最多を更新し続ける現象子供の自己肯定感が世界で最低レベルである現象1)子供の自殺率が世界でトップレベルである現象2)今回(その3)、引き続きこの映画のいくつかのシーンを通して、教師たちも不安で受け身になってしまった原因に迫ります。それを踏まえて、これからの子供が学校を楽しむ、そして人生を楽しんでいくためにどう学校制度を改革すればいいのかを一緒に考えていきましょう。なお、この映画はドキュメンタリーであり、実在する人物が登場していますが、この記事で教師個人を批判する意図はまったくありません。あくまでその教師たちすら巻き込む文化としての日本の学校教育の危うさを批判しています。そもそもなんで先生も不安で受け身になってしまったの?―「ブラック教育文化」あるさりげないワンカットでは、1年生の子供たちが自分の大きなランドセルを棚に無理やり押し込もうとする様子が映し出されます。彼らがこれから画一的な学校教育という枠組みに無理やり押し込まれる姿に重なり、痛烈な皮肉のように見えてしまいます。そして、先生たちもまたその枠組みに押し込まれていたのでした。教師たちの心理は、生徒たちと同じように、やることが多すぎて実は不安で楽しめない、やることを変えられなくて実は受け身で選べないということがわかりました。それでは、なぜ生徒たちだけでなく、教師もそうなってしまっているのでしょうか?そのわけは、戦後に学力の地域差をなくすという「教育の平等」の名のもと、学習指導要領、検定教科書、同年齢同学年(学級固定化)の教育政策が徹底されたからです。そして、教師が生徒を高度に管理するようになったからです。しかし、同時にそれは、教師も教師同士で管理される側になってしまったのでした。昭和までは、学校で生徒をコントロールするため、教師による体罰をはじめとしてさまざまな懲戒権が当たり前のように行使され、社会で受け入れられていました。そして、この記事で何度も登場する同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートも学校教育として根付いていったのでした。これを名付けるなら、「ブラック教育文化」です。このネーミングは、ブラック校則にちなんでいるわけですが、実は、日本の学校にはただ「ブラック校則」があるのでなく、その根っことなる「ブラック教育文化」が潜んでいたと言えます。しかし、時代は変わりました。令和では、情報化とあいまって個人主義の価値観が完全に広がり、人権意識が高まりました。映画では、ある先生が「(クラス全員が)チームとして一体になれ」と力説していましたが、もはや令和の社会ではそうする必要も、そうする価値も置かれなくなりました。そうしたい人だけがそうすればいいだけで、そうしたくない人を巻き込む(強制する)のは、やってはいけないことと認識されるようになったのです。こうして、ようやく人権意識が世界基準に追い付いたのです。この変化によって、体罰だけでなく、同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートを使うという手段も、社会ではアウトになりました。たとえば、学習塾、習いごと、スポーツチームなどでは、ビジネスだけに人権意識には敏感です。テレビやネットでも、人権侵害の話題はすぐにニュースになります。近所の人から怒鳴られるようなことがあれば、すぐに警察に通報するご時世です。家庭でも、少子化であることもあり、子供は大切にされています。ところが学校に限り、指導という建前のもと、少なくとも教師たちは同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートの手段はセーフだと思い込んでいるのでした。そして、その事実が、この映画で世界に発信され、明るみになってしまいました。これは、人権意識が、学校外(社会)では高まっているのに学校内では高まっていないというギャップがあるという現実です。そのギャップが開けば開くほど、子供は学校に行きたがらなくなり、自己肯定感が下がり、そして自殺率が増えていくわけです。これが、この記事の冒頭で触れた謎の答えです。逆に、昭和までは体罰などのもっと激しい人権侵害があったのに、このギャップがなかったことで、それが「当たり前」のように受け止められました。そのため、不登校は目立たず、子供の自己肯定感は問題にされず、子供の自殺率は低かったのでした。簡単に言えば、学校の外と比べて、相対的に中での自分の人権が尊重されていないために、それらの手段が「当たり前」ではなく「異常であり苦痛である」と認識するようになったのでした。これは、同僚、友人、知人などの身近な周りの人たちと比べて、自分が経済的、人間関係的に恵まれていないと不満を抱く心理(相対的貧困、相対的剥奪)と似ています。実際の研究では、令和の時代において、小学校での同調圧力が高ければ高いほど、自己肯定感は低下することがわかっています3)。なお、文化進化の視点から見た学校(学歴社会)の歴史の詳細については、関連記事1をご覧ください。また、生徒や教師が受け身である原因は、「ブラック教育文化」だけでなく、さらにその根っこには日本人ならではの「直系家族の文化」の影響が考えられます。この詳細については、関連記事2をご覧ください。次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その3)【だから子供の自己肯定感も自殺率も世界最悪なんだ!じゃあどうすればいいの?(ブラック教育文化)】Part 2

じゃあどうすればいいの?今後、「ブラック教育文化」で硬直化した学校は、不登校でますます生徒は減り続け、メンタルダウンや就職敬遠でますます教師も減り続けるでしょう。もはや、学級崩壊ならぬ「学校崩壊」です。それでは、この「ブラック教育文化」をホワイトにしていくために、どうすればいいのでしょうか?最後に、抜本的な改革案を、大きく2つ挙げてみましょう。(1)生活指導を減らす1つ目は、生活指導を減らすことです。生活指導は、従来から生徒を管理するという裏の目的があったこともあり、令和の時代には明らかにやりすぎています。生徒だけでなく、先生にとっても負担であり、その多くが合理的な理由のないものであることをすでにご説明しました。結局、それでも生徒たちに何とかやらせるために、先生たちは同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートという不適切な手段を使わざるをえませんでした。ただ、よくよく考えると、そうでもしなければできないことは、もはや最初からしない方がいいです。たとえば、給食当番や掃除当番などエッセンシャルな役割や、生徒たちが喜ぶ修学旅行などの行事は残します。一方で、運動会や音楽会などの行事を縮小化し、入学式、卒業式、始業式、終業式などの儀式を簡素化または廃止します。そもそも、世界的に見て、このような儀式を仰々しくやっている国は他にありません。何度も座ったり立ったりして礼をさせられるのは、信仰心(同調圧力)を高めることを目的とした宗教儀式と同じです。だからこそ、それを明らかにしたこの映画が海外から興味深く見られるのです。すでに、コロナ禍をきっかけに、行事は簡素化されましたが、もとに戻っている学校もあるようです。東京の一部の地域では、スペースの確保を理由に、上靴が廃止されました。いかにも学校らしい理由付けですが、とくに理由付けをしなくても上靴は廃止するべきです。よほど山奥の学校で、土足で土や泥を校舎に運んでしまうという問題があれば別ですが、現在日本のほとんどの通学路は舗装されており、上靴を履き替える合理的な理由はなくなっています。そうすることで、同じ靴を履くという同調の心理や、靴をきれいに揃えるかどうかの同調圧力を根本からなくすことができます。また、髪型や服装などを制限する校則は廃止します。このような校則は、昭和に同調圧力を高めるために利用されていたのですが、令和では、明らかな人権侵害です。世界でこんなことをしている国は、どこかの独裁国家ぐらいです。不適切であることを私たちが発信し続ける必要もあります。すでに、そう発信し続けるNPO団体もあります。理想的には、企業に社員が相談できるハラスメントの窓口があるのと同じように、学校に生徒や教師が相談できる人権擁護の窓口が設置されるべきでしょう。つまり、生徒や教師を監視する学校を今度は社会が監視する必要があります。(2)授業や行事を選べるようにする2つ目は、自分のレベルに合ったレベル分けの授業ややりたい行事を選べるようにすることです。逆に言えば、自分のレベルに合わない授業ややりたくない行事には参加しなくていいということです。まず、授業について、その1でもご説明しましたが、画一的な一斉授業のために、できる生徒は先に進めず、できない生徒は置いていかれていました。しかし、現在、学力の地域差が改善され、もはや「教育の平等」を図ることは一定の役目を終えました。今こそ、「教育の公平」にシフトチェンジする時です。たとえば、学習指導要領の達成目標を緩和させ、1人1人の生徒のレベルにあった授業を保護者と相談しながら選んでもらうことです。委員会活動やクラブ活動と同じです。すでに算数はレベル分けが行われている学校が多いです。次はやはり英語です。英語は、語学力だけに個人差(遺伝の違い)や家庭環境の違いの影響が大きく反映されるために、画一的に授業が進められないことから、すでに授業時間数を増やすことへの慎重論が出てしまっています。しかし逆に言えば、だからこそレベル分けが必要なのです。学習塾や習いごとでは当たり前のやり方です。むしろ、これらの教育ビジネスが日本でとくに盛んになってしまっているのは、それだけ学校の教育が機能していない証であると言えます。レベル分けをして、学校がもっと機能的になれば、必然的に学習塾に行く必要がなくなるので、これまで家計を圧迫していた教育費を減らせるでしょう。次に、行事についてですが、 運動会、音楽会などで事前に練習をする取り組みをしたいのなら、希望の生徒をまず募ることです。これは、修学旅行についても言えます。強制参加とせず、参加しない権利を尊重することです。さらに、同年齢同学年の縛りを緩和させ、小学校に入学させる年齢を6歳±1歳として幅を持たせること(異年齢教育)です。その後に、生徒のレベルに合わせて、レベル分けの授業を受けることで、早く進級する場合もあればなかなか進級しない場合も出てきます。さらに、小学校を早く卒業する生徒と遅れて卒業する生徒が出てきます。つまり、入学、進級(学年)、卒業の時期をすべて選ぶようにするのです。これは「教育の公平」のために必要なことです。もちろん、保護者と相談しながら、あえて早く進級しないという選択をすることも可能です。重要なことは、学ぶ内容やスピードを学校から押し付けられるのではなく、生徒が自分で納得して選ぶことです。こうして、進学・進級が流動的になり、生徒の年齢と学年・学級が固定化されないため、同調圧力が弱まり、必然的に入学式や卒業式などさまざまな儀式が簡素化されるでしょう。なお、教育の平等と公平の詳細については、関連記事3のページの後半をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その3)【だから子供の自己肯定感も自殺率も世界最悪なんだ!じゃあどうすればいいの?(ブラック教育文化)】Part 3

新しい「日本人のつくり方」とは?ラストシーンで、その1で登場した1年生の女子は、音楽会の本番に臨む直前、他のメンバーから「私たちは心臓のかけらで、みんなが揃ったらこんな形(両手でハート形をつくる)になる。で、1人こんなふうにずれたら、もう心臓はできない」と言われて、「私たちは過酷な楽器だよ」という名言を残します。まさに従来の「日本人」がつくられる瞬間を見ているようでした。微笑ましく見える一方で、やはり危うさもはらんでいます。それだけに、彼女の将来の行方も気になります。この映画は、「外国から見た日本の小学校とは」という視点で、海外の関係者や私たちに改めて学校教育のあり方を考えさせてくれました。それは、海外の学校としてはまだやり足りないと気付かされ、日本の学校としてはもうやりすぎだと気付かされるというギャップです。この映画をきっかけに、私たち一人ひとりが学校教育のあり方について情報発信をどんどんしていけば、小学校をより良くしようという社会的なムーブメントを起こせるはずです。その時こそ、新しい「日本人のつくり方」が見えてくるでしょう。それは、生徒たちそして先生たちが、日本人の本来の良さである規律、協調性、忍耐力を保ちつつ、同時に不安や受け身にならず、もっと学校を楽しみ、もっと自分の学び方そして生き方を選ぶことです。それは、映画で先生たちが繰り返し強調していた「自分らしさ」(アイデンティティ)と「自主性」(勤勉性)を真の意味で育むことでしょう。なお、今回は、小学校の教育改革についてまとめました。中学校の教育改革については、関連記事4をご覧ください。1)「高校生の生活と意識に関する調査」における国際比較、文部科学省、20172)こどもの自殺の状況と対策p.54:厚生労働省、20243)小学校段階における同調圧力に対する自己肯定感の影響と居場所感について:松井柚子・高平小百合、日本教育心理学会、2020<< 前のページへ■関連記事映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 2映画「クワイエットルームにようこそ」(その4)【だから家族のつながりにとらわれてたんだ!だから人権意識が乏しかったんだ!(直系家族病)】Part 4映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 3映画「かがみの孤城」(その3)【この城が答えだったんだ!(不登校への学校改革「かがみの孤城プロジェクト」)】Part 3

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不眠症が泌尿器、生殖器系疾患に及ぼす影響

 不眠症が、さまざまな泌尿器系および生殖器系の疾患に及ぼす影響や因果関係は、明らかになっていない。中国・Fifth People's Hospital of Shanghai Fudan UniversityのYougen Wu氏らは、不眠症が10種類の泌尿器系および生殖器系の疾患に及ぼす影響を調査し、この関連を評価するため、メンデルランダム化(MR)研究を実施した。Translational Andrology and Urology誌2025年1月31日号の報告。 UK Biobank、23andMe、FinnGen、遺伝子コンソーシアムより、不眠症と10種類の泌尿器系および生殖器系の疾患のデータを収集した。主なMR分析として、逆分散加重アプローチを用いた。推定値のロバストを調査するため、MR-PRESSO検定(MR多面性残差和、外れ値)、最尤法、MR-Egger法、加重中央値法を用いて感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ボンフェローニ補正後、遺伝的に不眠症と診断された場合、膀胱炎および前立腺炎のリスク上昇が認められた。 【膀胱炎】オッズ比(OR):1.81、95%信頼区間(CI):1.47〜2.24、p<0.001 【前立腺炎】OR:3.53、95%CI:1.73〜7.18、p<0.001・不眠症は、前立腺がんリスクの上昇、膀胱がんリスクの低下と関連していた。 【前立腺がん】OR:1.30、95%CI:1.00〜1.67、p=0.046 【膀胱がん】OR:0.48、95%CI:0.26〜0.90、p=0.02・腎臓がん、腎結石および尿管結石、神経因性膀胱、前立腺肥大症、男性不妊症、女性不妊症との因果関係は認められなかった。 著者らは「不眠症は、膀胱炎および前立腺炎の潜在的なリスク因子であることが裏付けられた。これらの疾患リスクを軽減するためにも、不眠症は重要な治療ターゲットとなりうる」と結論付けている。

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世界中で43秒に1人が自殺により死亡

 自殺リスクに関する新たな世界的評価において、世界中で43秒に1人が自殺により死亡していることが明らかになった。2021年の統計では、自殺による死亡者数は男性の方が女性に比べて多かったが、死亡には至らない自殺未遂の発生率は女性の方が男性よりはるかに高かったという。米ワシントン大学医学部健康指標評価研究所(IHME)のプロジェクト責任者であるEmily Rosenblad氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Public Health」に2月19日掲載された。 今回の研究でRosenblad氏らは、世界疾病負担研究(GBD 2021)の推定データを基に、1990年から2021年までの間の204の国と地域での自殺による死亡数、および年齢調整死亡率を分析し、経時的推移や年齢・性別・地域ごとの違いなどを評価した。GBD 2021では、自殺の手段を、「銃器によるもの」と「その他の特定された手段によるもの」に分類している。本研究では、自殺による死亡時の平均年齢、自殺未遂の発生率(死亡と比較した場合)、および銃器を用いた自殺による年齢調整死亡率(10万人当たり)も推定した。 その結果、2021年には世界で74万6,000人(95%不確実性区間〔UI〕69万2,000〜80万)が自殺により死亡したと推定された。これは、約43秒ごとに1人が自殺により死亡していることに相当するという。死亡者の内訳は、男性51万9,000人(同48万5,000〜55万6,000)、女性22万7,000人(同20万〜25万5,000)であり、この年における自殺の年齢調整死亡率は、男性の方が女性より2倍以上高かった(男性:12.8人、女性5.4人)。 自殺による年齢調整死亡率は、1990年の14.9人から2021年には9.0人へと経時的に39.5%低下していた。低下率は、男性の方が女性よりも低かった(男性33.5%、女性50.3%)。地域別に見て年齢調整死亡率の大幅な改善が認められたのは東アジアであり、1990年の21.1人から2021年には7.2人へと65.7%減少していた。2021年に自殺による年齢調整死亡率が最も高かったのは、東ヨーロッパ(19.2人)、サハラ以南アフリカ南部(16.1人)、サハラ以南アフリカ中央部(14.4人)だった。 自殺による死亡時の平均年齢は、1990年の42.6歳から2021年の47.0歳へと徐々に上昇していた。男女別に見ると、男性では1990年が43.0歳、2021年が47.0歳、女性では41.9歳と46.9歳だった。 2021年の自殺による死亡者数のうち、男性で9.7%、女性で2.9%が銃器を用いた自殺によるものだった。銃器を用いた自殺による年齢調整死亡率が最も高かった国は、米国(6.19人)、ウルグアイ(3.61人)、ベネズエラ(3.04人)だった。Rosenblad氏は、「男性は銃など、より暴力的で致死率の高い自殺方法を選ぶ傾向があるのに対し、女性は中毒や過剰摂取など、生存率が高い致命的ではない手段を選ぶ傾向が認められた」とIHMEのニュースリリース中で述べている。 2021年の自殺未遂の発生率と死亡率の比率(incidence-mortality ratio;IMR)を計算し、医療的処置を要するが死亡には至らなかった自殺未遂の発生頻度を評価した。その結果、女性のIMRは14.47件、男性のIMRは4.27件と女性の方がはるかに高く、この傾向は世界の21地域全てで共通していたことが示された。 健康指標評価研究所教授で上級研究員のMohsen Naghavi氏は、「自殺率の低下に向けた進展は喜ばしいが、一部の国や集団は依然として自殺の影響を他よりも大きく受け続けているのは明らかだ」と述べている。同氏はまた、「自殺に対する偏見やメンタルヘルス支援システムを受ける際の障壁をなくすことは、特に精神疾患や物質使用障害を持つ人にとって依然として重要な対策だ」と述べている。

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ビタミンBが影響を及ぼす神経精神疾患〜メタ解析

 最近、食事や栄養が身体的および精神的な健康にどのような影響を及ぼすかが、注目されている。多くの研究において、ビタミンBが神経精神疾患に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されているが、ビタミンBと神経精神疾患との関連における因果関係は不明である。中国・Shaoxing Seventh People's HospitalのMengfei Ye氏らは、ビタミンBと神経精神疾患との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)メタ解析を実施した。Neuroscience and Biobehavioral Reviews誌2025年3月号の報告。 本MRメタ解析は、これまでのMR研究、UK Biobank、FinnGenのデータを用いて行った。ビタミンB(VB6、VB12、葉酸)と神経精神疾患との関連を調査した。 主な内容は以下のとおり。・MR分析では、複雑かつ多面的な関連性が示唆された。・VB6は、アルツハイマー病の予防に有効であったが、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスク上昇の可能性が示唆された。・VB12は、自閉スペクトラム症(ASD)の予防に有効であったが、双極症リスクを上昇させる可能性が示唆された。・葉酸は、アルツハイマー病および知的障害に対する予防効果が示唆された。・メタ解析では、ビタミンBは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの特定の神経精神疾患の予防に有効であるが、不安症や他の精神疾患のリスク因子である可能性が示唆された。・サブグループ解析では、VB6は、てんかんおよび統合失調症の予防に有効であるが、躁病リスク上昇と関連していた。・VB12は、知的障害およびASDの予防に有効であるが、統合失調症および双極症のリスク上昇と関連していた。・葉酸は、統合失調症、アルツハイマー病、知的障害の予防に有効である可能性が示唆された。 著者らは「これらの知見は、ビタミンBのメンタルヘルスに対する影響は複雑であり、さまざまな神経精神疾患に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。このような複雑な関連は、神経精神疾患に対する新たな治療法の開発において、パーソナライズされた治療サプリメントの重要性を示している」と結んでいる。

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抗うつ薬は認知症患者の認知機能低下を加速させる?

 不安、抑うつ、攻撃性、不眠などの症状がある認知症患者に対しては、抗うつ薬が処方されることが多い。しかし、新たな研究で、抗うつ薬の使用は認知機能の低下速度を速める可能性があり、特に、高用量の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の使用は、重度の認知症や骨折、あらゆる原因による死亡(全死亡)のリスク上昇と関連することが明らかにされた。カロリンスカ研究所(スウェーデン)神経学分野のSara Garcia-Ptacek氏らによるこの研究結果は、「BMC Medicine」に2月25日掲載された。 この研究でGarcia-Ptacek氏らは、2007年5月から2018年10月までの間にスウェーデン認知・認知症レジストリ(Swedish Registry for Cognitive/Dementia Disorders-;SveDem)に登録された認知症患者1万8,740人(女性1万205人、平均年齢78.2歳)を対象に、抗うつ薬の使用と認知機能低下との関連を検討した。さらに、抗うつ薬のクラス、具体的な薬剤、用量ごとの重度認知症、骨折、死亡のリスクを推定した。 平均4.3年の追跡期間中に、22.8%(4,271人)が抗うつ薬を1回以上処方されていた(処方件数の総数は1万1,912件)。最も頻繁に処方されていた抗うつ薬のクラスはSSRI(64.8%)であり、そのほかは、三環系抗うつ薬(TCA、2.2%)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、2.0%)、その他(31.0%)であった。具体的な薬剤としては、特に処方の多かったシタロプラム(SSRI)、ミルタザピン(その他)、セルトラリン(SSRI)、エスシタロプラム(SSRI)、アミトリプチリン(TCA)、ベンラファキシン(SNRI)について検討した。認知機能の変化は、ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコア(30点満点)で評価した。 解析の結果、抗うつ薬の使用と認知機能の低下速度の加速との間に関連が認められ、抗うつ薬を使用している患者では、使用していない患者に比べてMMSEスコアが1年当たり0.30ポイント早く低下することが示唆された。薬剤別では、抗うつ薬を使用していない患者と比べて、セルトラリン(−0.25ポイント/年、95%信頼区間−0.43〜−0.06)、シタロプラム(−0.41ポイント/年、同−0.55〜−0.27)、エスシタロプラム(−0.76ポイント/年、同−1.09〜−0.44)、ミルタザピン(−0.19ポイント/年、同−0.34~−0.04)の使用者でMMSEスコアの有意な低下が認められた。抗うつ薬の使用と認知機能の低下速度の加速とのこのような関連は、特に、MMSEスコアが0~9点の重度認知症患者において顕著だった。また、SSRIの用量が多いほど、認知機能の低下速度が速く、重度認知症、骨折、死亡のリスクが高まることも示された。 Garcia-Ptacek氏は、「うつ症状は認知機能の低下速度を加速させ、生活の質(QOL)を損なう可能性があるため、治療が重要だ」と述べている。また同氏は、「本研究結果は、医師やその他の医療専門家が認知症患者に適した抗うつ薬を選択するのに役立つ可能性がある」とカロリンスカ研究所のニュースリリースで述べている。 一方、本研究結果をレビューした英バース大学生命科学分野のPrasad Nishtala氏は、「考慮すべき重要な限界点がいくつかある」とニュースリリースの中で述べている。具体的な限界点として同氏は、対象とされた認知症患者のうつ病の重症度が十分に考慮されていない点、シタロプラムやセルトラリンなどの抗うつ薬が重度の認知症患者に処方されることが多いことからチャネリング・バイアス(特定の治療などが特定の患者に選択的に処方されることにより生じるバイアス)が存在する可能性を指摘している。 さらにNishtala氏は、本研究でSSRIは認知機能の低下速度を加速させる可能性が示唆されたことに言及し、「SSRIが認知機能の低下速度を加速させる生物学的機序は明らかにされていない。こうした限界を踏まえると、本研究結果は慎重に解釈する必要があり、理想的には他の実臨床のデータを使用して再現する必要がある」との見方を示している。

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第259回 脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定

脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定脳がとりわけ早く老化することと7つの遺伝子がどうやら強く関連し、それらの影響を抑制しうる薬やサプリメントが見出されました。生まれてからどれだけの月日が過ぎたかを示す実年齢とMRI写真を人工知能(AI)技術で解析して推定しうる脳年齢の乖離、すなわち脳年齢のぶれ(brain age gap)は、脳がどれだけ健康かを示す指標として有望視されています。中国の浙江大学のZhengxing Huang氏とそのチームは、脳年齢のぶれを指標にして脳老化の原因となりうる遺伝子を見つけ、それら遺伝子を標的として抗老化作用を発揮しうる薬やサプリメント13種を同定しました1)。Huang氏らはUK Biobankの3万人弱(2万9,097人)のMRI情報を利用してAI技術の一種である深層学習の最新版7つをまず比較し、それらの1つの3D-ViTが脳年齢をより正確に推定しうることを確認しました。3D-ViTが同定しうる脳年齢加速兆候はレンズ核と内包後脚にとくに表れやすく、脳年齢のぶれが大きくなるほど被験者の認知機能検査の点数も低下しました。レンズ核は注意や作業記憶などの認知機能に携わり、内包後脚は大脳皮質の種々の領域と繋がっています。続いて脳年齢のぶれと関連する遺伝子を探したところ、手出しできそうな64の遺伝子が見つかり、それらのうちの7つは脳の老化の原因として最も確からしいと示唆されました。先立つ臨床試験を調べたところ、薬やサプリメントの13種がそれら7つの遺伝子の相手をして抗老化作用を発揮しうることが判明しました。ビタミンD不足へのサプリメントのコレカルシフェロール、ステロイド性抗炎症薬のヒドロコルチゾン、非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナク、オメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸(doconexent)、ホルモン補充療法として使われるエストラジオールやテストステロン、子宮頸管熟化薬のprasterone、降圧薬のmecamylamine、赤ワインの有益成分として知られるレスベラトロール、免疫抑制に使われるシロリムス、禁煙で使われるニコチンがそれら13種に含まれます2)。特筆すべきことに、サプリメントとして売られているケルセチンと白血病治療に使われる経口薬ダサチニブも含まれます。ダサチニブとケルセチンといえば、その組み合わせで老化細胞を除去しうることが知られており、軽度認知障害があってアルツハイマー病を生じる恐れが大きい高齢者12例が参加したSTAMINAという名称の予備調査(pilot study)では有望な結果が得られています。結果はこの2月にeBioMedicine誌に掲載され、ダサチニブとケルセチンが安全に投与しうることが示されました3)。また、遂行機能や認知機能の改善が示唆されました。結果は有望ですが、あくまでも極少人数の試験結果であって、たまたま良い結果が得られただけかもしれません。その結果の確かさや老化細胞除去治療の可能性のさらなる検討が必要と著者は言っています4)。参考1)Yi F, et al. Sci Adv. 2025 Mar 14;11:eadr3757.2)The 13 drugs and supplements that could slow brain ageing / NewScientist 3)Millar CL, et al. eBioMedicine. 2025;113:105612. 4)Pilot study hints at treatment that may improve cognition in older adults at risk for Alzheimer’s disease / Eurekalert

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うつ病の予防や治療に対するメトホルミンの可能性

 うつ病は、最も大きな障害をもたらす精神疾患の1つであり、その病態生理は、いまだ完全に解明されていない。中国・Nantong Stomatological HospitalのYuan-Yuan Cheng氏らは、メトホルミンの抗うつ薬治療としての可能性を検討するため、うつ病の発症と進行に対するメトホルミンのメカニズムなどに関する研究をレビューした。Biochemical Pharmacology誌2025年3月号の報告。 主な内容は以下のとおり。・うつ病の予防や治療に対するメトホルミンの可能性を検討した前臨床研究数は増加しており、血糖降下薬の第1選択薬であるメトホルミンがうつ病に多面的な影響を及ぼす可能性が強調されている。・さらに、メトホルミンは抗うつ作用を示しており、うつ病げっ歯類モデルにおいて、抑うつ症状を改善することを示唆する新たなエビデンスが報告されている。・しかし、うつ病におけるメトホルミンの正確な役割および根本的なメカニズムは依然として不明であり、さらなる調査が求められる。・最近の研究では、メトホルミンは、海馬の神経損傷および構造的可塑性を改善し、さらに抗うつ薬の抗うつ効果を増強することが示唆されている。・いくつかの研究を検討した結果、メトホルミンは、神経伝達物質の調整、神経新生の促進、抗炎症効果、腸内細菌叢の変化など、複数の経路をターゲットとすることで、抑うつ症状の軽減に役立つ可能性が示唆された。 著者らは「本レビューにより、メトホルミンの作用機序をより深く理解し、うつ病の予防や治療における新たな洞察に役立つことが望まれる」としている。

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第235回 日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大

<先週の動き>1.日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大2.がん医療の集約化へ、高度治療の質向上と医療資源の有効活用を目指す/厚労省3.iPS細胞による脊髄損傷治療で世界初の回復/慶大4.政府、病院船の整備を閣議決定 2026年1月までに運用開始へ/政府5.美容医療の違法広告が急増、ネットパトロールを強化/厚労省6.有料老人ホームの不正是正へ、運営透明化に向け検討会設置/厚労省1.日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大慶應義塾大学と米ワシントン大学の研究グループは3月21日、過去30年間の日本人の健康状態を分析し、2015年以降、認知症が死因の第1位になったと発表した。高齢化が進む中、医療技術の向上で脳卒中などの死亡が減少したことが要因。2021年の認知症による死亡は10万人当たり約135人と、世界的にみても高い水準。研究によると、2021年の平均寿命は85.2歳と延びたが、健康上の問題なく生活できる健康寿命との差は11.3年に拡大。健康を損なってから亡くなるまでの期間が長期化している。都道府県別では、平均寿命の差は1990年の2.3年から2.9年に拡大。滋賀県が最長で青森県が最短であり、医療アクセスや生活習慣の違いが影響しているとみられる。また、高血糖や肥満といった生活習慣病のリスク増加も明らかになった。これらは認知症の発症リスクと関連しており、生活習慣の改善が重要。専門家は、認知症予防や医療体制の強化、患者が安心して暮らせる環境整備の必要性を指摘。厚生労働省の推計では、2050年には認知症高齢者が586万人に達する見込み。研究グループは、健康寿命の延伸と地域格差の是正に向け、生活習慣病対策を含めた総合的な取り組みが不可欠としている。この研究成果は、ランセット・パブリック・ヘルス誌に掲載され、日本の健康政策の指針となる可能性がある。参考1)Three decades of population health changes in Japan, 1990?2021: a subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2021(Lancet Public Health)2)認知症、死因首位に 医療技術進み脳卒中減少 慶大など30年分析(日経新聞)3)寿命の地域格差30年で拡大 都道府県間最大2.9年に 医療、生活習慣影響か 慶応大など分析(東京新聞)4)全国47都道府県の30年間の健康傾向を包括分析 平均寿命延長も「健康でない期間」長期化、地域格差の拡大も明らかに-認知症が死因1位に、健康改善の鈍化、糖尿病・肥満リスク増、心の健康悪化も判明-(慶大) 2.がん医療の集約化へ、高度治療の質向上と医療資源の有効活用を目指す/厚労省厚生労働省は、3月21日に「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」を開催し、がん医療の質向上と医療資源の有効活用を目的に、高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療の「集約化」の必要性について議論した。少子高齢化の進行により、医療従事者の確保が困難になる中、がん診療の質を維持しつつ持続可能な体制を整えるため、拠点病院の役割分担を強化する方針が示された。検討会では、医療の集約化を「医療需給の観点」と「医療技術の観点」の2軸で分類。医療需給の面では、需要と供給のバランスを考慮し、高度な治療を特定の施設に集約することで医療の効率化を図る。医療技術の面では、新規治療や特殊設備が必要な治療を対象とし、症例の集積による技術向上を目指す。具体的には、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本放射線腫瘍学会が手術療法、薬物療法、放射線療法の各分野で集約化すべき治療法を提案。たとえば、食道がんや膵がんの高度手術、小児がんの薬物療法、粒子線治療などを対象とする案が示された。とくに手術療法については、高度な治療を国立がん研究センターや大学病院本院などで実施することが望ましいとされた。ただし、がん医療の集約化には、患者や地域住民、医療現場の理解と納得が不可欠である。治療のための長距離移動や費用負担の問題も考慮し、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められる。今後、2025年6月に議論を整理し、夏頃に厚労省が「がん医療提供体制の均てん化・集約化」に関する通知を都道府県に発出する予定。これに基づき、各自治体での具体的な議論が進められる見込み。参考1)第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省)2)高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療は「集約化」を検討せよ、その際、患者・地域住民・医療現場の理解も重要-がん診療提供体制検討会(Gem Med)3.iPS細胞による脊髄損傷治療で世界初の回復/慶大慶應義塾大学などの研究チームは、iPS細胞から作製した神経細胞のもとを脊髄損傷患者に移植する臨床研究を実施し、4例中2例で運動機能の回復がみられたと発表した。これはiPS細胞を用いた脊髄損傷治療で、症状の改善が確認された世界初の事例となる。今回の臨床研究では、脊髄を損傷し、体を動かせなくなった4例の患者に、iPS由来の神経細胞200万個を移植。その後1年間、免疫抑制剤を投与しながらリハビリを実施した。その結果、1例は3段階改善し、支えなしで立てるようになり歩行訓練を開始。もう1例は2段階改善し、補助具を使って食事ができるようになった。残る2例はスコアに変化はなかったが、筋力の向上がみられた。重篤な副作用は確認されなかった。脊髄損傷の患者は国内に10万人以上おり、年間6,000人が新たに診断されている。しかし、現在、確立された治療法はなく、リハビリによる改善が期待できるものの、最重度の「完全まひ」から2段階以上回復する例は約10%に止まる。今回の研究では、4例中2例が2段階以上改善し、従来の回復率を上回ったが、症例数が少ないため、iPS細胞の効果とリハビリの影響を区別することは難しいとされる。今後、研究チームは、治療の有効性を確認するための治験を行い、移植細胞の数を増やすことや、損傷から時間が経過した慢性期患者への適用も検討する。参考1)iPS細胞使った脊髄損傷治療で機能改善 慶応大学などのグループ(NHK)2)脊髄損傷の患者にiPS由来の細胞移植、4人中2人で一部回復 慶大(朝日新聞)3)iPS細胞で脊髄損傷治療「2人の重症度が改善」 慶応大など発表(毎日新聞)4.政府、病院船の整備を閣議決定 2026年1月までに運用開始へ/政府政府は3月18日、大規模災害時や感染症の拡大時に医療を提供する「病院船」導入に向けた整備推進計画を閣議決定した。石破 茂首相は関係閣僚に対し、2026年1月までに船舶を活用した医療提供体制を整備するよう指示した。病院船の運用は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの大規模災害発生時に、陸上医療の補完を目的とする。計画では、患者を被災地外の医療機関へ搬送する「脱出船」と、被災地付近に停泊し、医療を提供する「救護船」の2種類を想定。これらの病院船は災害派遣医療チーム(DMAT)や日本赤十字社の協力のもと運用される。政府は、多額の費用を要する専用病院船の新造には慎重な姿勢を示しており、当面は民間の既存船舶を活用する方針を採る。とくに、医療スペースを確保しやすいカーフェリー型船舶が候補とされ、民間事業者との協定締結や必要な資機材の調達を進める。実際の運用を通じて実績を重ねた後、国が病院船を保有する可能性も検討されている。今後は、医療従事者や船舶職員の確保、実地訓練の実施、運用ガイドラインの策定などが課題となる。坂井 学防災担当相は「船舶活用医療の実効性を高めるため、1つ1つ着実に進めていく」と述べ、関係機関と連携しながら運用開始に向けた準備を進める方針を示した。参考1)病院船運用体制、来年1月までに整備 政府が推進計画閣議決定(時事通信)2)政府が海上治療できる「病院船」整備へ 災害時に活用(毎日新聞)3)災害時に船舶で医療提供 来年までに体制整備を指示 石破首相(NHK)4)来年1月までに災害時の病院船活用体制構築へ 閣議決定、民間船で運用しDMATなど従事(CB news)5.美容医療の違法広告が急増、ネットパトロールを強化/厚労省美容医療クリニックの競合が高まる中で、違法な広告がネット上で急増している。厚生労働省の調査によると、2023年度に美容医療関連の違反広告は362サイト、計2,888件確認され、とくにSNSでの「ビフォーアフター」動画や主観的な「体験談」の広告が問題視されている。こうした広告は、施術の効果を誇張し、リスクを十分に説明していないため、患者に誤解を与える可能性が高い。厚労省は、この状況を受け、ネットパトロールを強化。違反広告を掲載した医療機関に通知し、修正を促すとともに、悪質なケースについては自治体を通じた行政処分を検討する方針を明らかにしている。また、日本美容外科学会などの業界団体もガイドラインを策定し、適切なクリニック選びを支援する仕組みを構築しようとしている。違反広告の影響で、施術後にトラブルを抱えるケースも増えている。SNSの広告をみて美容整形を受けた20代女性は、施術後に鼻の穴が狭まり、呼吸困難に陥ったが、クリニックの対応は不十分だったという。患者は「リスクをもっと重く受け止めるべきだった」と語り、違法広告に対する警戒が必要だと訴えている。厚労省は、違反広告の横行を受け、「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」を今年3月に改訂し、SNS広告の規制を強化。とくに動画広告内での体験談掲載を明確に禁止し、違反広告の具体例を示すことで、患者の誤認防止を図る方針。美容医療は本来、医学的根拠に基づいた安全な治療を提供するものであり、広告の適正化が求められる。今後、行政と業界の双方が協力し、患者が正しい情報に基づいて治療を選択できる環境を整備することが急務となっている。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第5版](厚労省)2)美容医療で法令違反の広告 厚労省 取り締まり強化へ(NHK)3)二重整形や医療脱毛などの美容広告 何が違反?(同)4)SNS・動画の医療広告、注意点を追記 「解説書」改訂、医政局(MEDIFAX)6.有料老人ホームの不正是正へ 運営透明化に向け検討会設置/厚労省厚生労働省は、有料老人ホームにおける高額な紹介料の支払いや過剰な介護サービス提供といった問題を受け、施設の運営透明性とサービスの質の向上を目的とした有識者検討会を設置する。検討会では、施設運営の適正化や不適切な慣行の是正に向けた具体策を議論し、2025年夏頃までに対策を取りまとめる予定。有料老人ホームは近年急増し、2023年6月時点で全国に1万6,543施設と、この10年でほぼ倍増した。しかし、施設は届け出制が中心であり、入居者の要介護度やサービス実態の把握が自治体に任されているため、運営の実態を十分に把握できていない状況が続いていた。その結果、施設を紹介する業者が、入居者の要介護度に応じて高額な紹介料を請求し、施設側が過剰な介護サービスを提供し、より多くの介護報酬を得る「囲い込み」の実態が指摘されている。厚労省の検討会には、学識経験者、事業者、消費者団体、自治体関係者のほか、国土交通省もオブザーバーとして参加し、有料老人ホームの運営基準や指導・監督の強化策について議論する。具体的には、(1)施設紹介事業の適正化、(2)施設のケアプランが利用者のニーズに即しているかの検証、(3)届け出制の改善と監督の強化が論点となる見込み。今回の対策は、2023年12月の社会保障改革方針や2024年の「骨太の方針」において、有料老人ホームの「囲い込み」防止や不適切な人材紹介手数料の是正が求められたことを受けたもの。介護保険部会では、不適切な事業者への立ち入り調査の実施や、「囲い込み」の明確な定義を求める声も上がっている。検討会の結果は、社会保障審議会の介護保険部会に報告され、2027年度に予定される介護保険制度改正にも反映される見通し。参考1)有料老人ホームの“質の確保”へ 厚労省 有識者の検討会設置(NHK)2)有料老人ホームの「囲い込み」対策具体化へ 新たな検討会で夏までに 厚労省(CB news)3)有料老人ホームの高額な紹介料問題受け 検討会立ち上げへ 厚労省(朝日新聞)4)ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所「医心館」(東京新聞)

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英語で「耳鳴り」、医療者or患者向けの2つの表現を解説【患者と医療者で!使い分け★英単語】第10回

医学用語紹介:耳鳴り tinnitus医療現場で「耳鳴り」について伝える際、医療者同士であればtinnitusと表現します。では、患者さんに対しては、どのような言葉を使うと通じやすいでしょうか? 講師紹介

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緑茶の認知機能予防効果、アジアと欧州で違いあり

 世界中で広く消費されているお茶に関する複数の研究において、緑茶には認知機能低下に対する潜在的な保護効果があることが示唆されている。この効果は、緑茶に含まれるポリフェノールと神経保護特性に起因すると考えられている。Shiyao Zhou氏らは、緑茶の摂取と認知機能低下リスクとの関連に関する最近の観察研究をシステマティックにレビューし、メタ解析を行った。Neuroepidemiology誌オンライン版2025年2月13日号の報告。 2004年9月〜2024年9月に公表された観察研究を、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索した。緑茶の摂取と認知機能低下との関連について、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。さらに、サブグループ解析、異質性評価、出版バイアス評価、感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・18研究、5万8,929人の参加者をメタ解析に含めた。・ニューカッスル・オタワ尺度(NOS)で評価されたこれらの研究の質は、全体として高かった。・ランダム効果メタ解析では、緑茶の摂取と認知機能低下との間に逆相関が認められた(OR:0.63、95%CI:0.54〜0.73)。・緑茶の摂取と認知機能低下との関連は、50〜69歳で最も大きな効果が観察された。・サブグループ解析では、認知症に対する保護効果のORは0.75(95%CI:0.60〜0.92)、軽度認知障害(MCI)に対する保護効果のORは0.64(95%CI:0.43〜0.96)であることが示された。・アジア集団では、認知機能低下リスクの有意な減少が認められたが、欧州集団では、認められなかった。・女性(OR:0.51、95%CI:0.28〜0.95)、男性(OR:0.47、95%CI:0.28〜0.80)共に有意な関連が認められた。・緑茶の摂取量が多かった人では、認知機能低下リスクの低減が認められた(OR:0.63、95%CI:0.50〜0.82)。 著者らは「緑茶の摂取は、認知機能低下リスクの低減と関連しており、認知機能に対し潜在的なベネフィットをもたらすことが示唆された。ただし、用量反応関係や長期的な影響を明らかにするためにも、大規模な縦断的研究が求められる。今後の研究において、緑茶の長期的な影響、遺伝的因子に基づくパーソナライズされた緑茶の役割についても調査する必要がある」と結論付けている。

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医師の自殺は多いのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第278回

医師の自殺は多いのか?医師は過労によって自殺リスクが高いといわれていますが、デリケートな話題でもあり、あまりエビデンスが豊富ではありません。そんな中、アメリカから大規模なコホート研究が示されたので紹介したいと思います。Makhija H, et al. National Incidence of Physician Suicide and Associated Features. JAMA Psychiatry. 2025 Feb 26. [Epub ahead of print]この後ろ向きコホート研究では、2017年1月~2021年12月までの米国の25歳以上の医師および非医師の自殺を調査しました。男性医師、女性医師のそれぞれの自殺の国内発生率を推定し、関連要因を分析し、調査結果を一般人口と比較しました。アメリカ30州+ワシントンD.C.のNational Violent Death Reporting System(NVDRS)というデータベースが使用されました。年齢または性別が不明な死者は発生率から除外され、人種や婚姻状況が不明な死者も詳細な分析から除外されました。これらの因子で調整された自殺の発生率比(IRR)と調整オッズ比(aOR)を使用して、医師と非医師の死亡率を比較しました。合計448人の医師(男性354人[79%]、女性94人[21%]、平均年齢60±16歳)と9万7,467人の一般住民(男性7万6,697人[79%]、女性2万770人[21%]、平均年齢51±17歳)の自殺が確認されました。女性医師の自殺率は、2017年(IRR:1.88、95%信頼区間[CI]:1.19~2.83)および2019年(IRR:1.75、95%CI:1.09~2.65)において女性の非医師よりも高く、2017~21年の自殺リスクは全体的に高いという結果でした(IRR:1.53、95%CI:1.23~1.87)。男性医師の2017~21年の自殺リスクは、男性の非医師よりも低いという結果でした(IRR:0.84、95%CI:0.75~0.93)。一般人口と比べて、医師は、自殺に先立つ抑うつ気分(aOR:1.35、95%CI:1.14~1.61、p<0.001)のオッズが高かったほか、メンタルヘルスの問題(aOR:1.66、95%CI:1.39~1.97、p<0.001)、職業に関連した問題(aOR:2.66、95%CI:2.11~3.35、p<0.001)、法的問題(aOR:1.40、95%CI:1.06~1.84、p=0.02)を抱えるリスクも高かったです。また、毒物(aOR:1.85、95%CI:1.50~2.30、p<0.001)や鋭利器具(aOR:4.58、95%CI:3.47~6.06、p<0.001)を自殺手段として用いやすいことも示されました。以上の結果から、アメリカの女性医師の自殺率が非医師よりも高いことがわかりました。この論文の著者は、女性医師は男性医師と比べると、業績に対して過小評価を受けやすいこと、昇進しにくいこと、セクハラなどのリスクが影響しているのでは…と考察しています。

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幼少期の好奇心が成人期のうつ病と強く関連

 うつ病は世界的な公衆衛生上の大きな問題であるが、これまでの研究で、幼少期の性格が成人期のうつ病に及ぼす影響については、ほとんど調査されていない。中国・吉林大学のChengbin Zheng氏らは、成人による自己評価の観点から、幼少期の好奇心が成人期のうつ病に及ぼす影響およびそのメカニズムの性差について調査した。Journal of Psychiatric Research誌2025年3月号の報告。 2020年の中国家庭追跡調査(China Family Panel Study)より抽出した成人1万7,162人のデータを用い、幼少期の好奇心、将来に対する自信、主観的な社会的地位、成人期のうつ病を評価した。PROCESS 4.1ソフトウエアプログラムを用いて、調整済み仲介モデルを分析した。 主な結果は以下のとおり。・幼少期の好奇心は、成人期のうつ病と強い関連が認められた。・男性では、将来に対する自信が、幼少期の好奇心と成人期のうつ病との関連を部分的に仲介していた。・女性では、将来に対する自信が、幼少期の好奇心と成人期のうつ病との関連を完全に仲介していた。・主観的な社会的地位は、将来に対する自信と成人期のうつ病との関連を緩和することが示唆された。 著者らは、「幼少期の好奇心は成人期のうつ病に対する保護因子であると考えられる。このプロセスにおいて将来に対する自信は重要な媒介因子の役割を担っており、その影響は男女間で異なることが示唆された。さらに、主観的な社会的地位が高い人と比べて、それが低い人では、将来に対する自信と成人期のうつ病との関連に及ぶ影響がより大きいことが明らかとなった」としている。

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その2)【なんで生徒も先生も楽しくなさそうなの?なんで先生はそこまでしてしまうの?】Part 1

今回のキーワード不安受け身アイデンティティ勤勉性べき思考学習性無力感不登校教師のメンタルダウン皆さんが小学生だった時、学校は楽しかったですか? 皆さんに小学生のお子さんがいるなら、お子さんは学校に楽しく行っているでしょうか?前回(その1)、ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」のいくつかのシーンを通して、日本の学校教育の良さが、ルールを守る規律、周りに合わせる協調性、努力する忍耐力であることがわかりました。一方で、その裏返しでもある危うさは、周りと同じことをやらせすぎる同調圧力、言いなりにさせるモラルハラスメント、吊し上げをするスケープゴートであることがわかりました。今回(その2)、引き続きこの映画のいくつかのシーンを通して、そこまでされてしまった生徒たちの心理、そこまでしてしまう教師たちの心理に迫ります。なお、この映画はドキュメンタリーであり、実在する人物が登場していますが、この記事で教師個人を批判する意図はまったくありません。あくまでその教師たちすら巻き込む文化としての日本の学校教育の危うさを指摘しています。そこまでされると生徒たちはどうなってしまうの?放送係の6年生の男子と女子が、卒業式を間近にして、放送室でおしゃべりをしています。彼女から「卒業、嬉しい?」と聞かれると、彼は「悲しいと寂しい」と答えます。さらに彼女から「もっといろんなことに責任を持たなきゃいけない? 大人になるって感じちゃう?」と核心を突かれると、「感じちゃうから嫌だ。子供のままでいたい」と正直に答えていました。決して楽しみにはしていないようです。彼のなかにはどんな心理があるのでしょうか?ここで、大きく2つ挙げてみましょう。(1)楽しめない―不安になりやすい彼らは「責任」という言葉を意識していました。この映画に登場する先生たちもたびたび使っていました。つまり、責任という名の、やらなければならないことやダメ出しをされることが先々にどんどん増えていくとプレッシャーを感じ、萎縮してしまっています。不安そうで、決して楽しみにはしていません。1つ目の心理は、楽しむことができず、不安になりやすいことです。この原因として、もともと不安になりやすい気質(遺伝)が考えられますが、それと同じかそれ以上に校則や役割があまりにも多すぎる学校環境が考えられます。その1でもご説明しましたが、そんな学校環境のなかでの生徒同士の同調圧力によって自分らしさ(アイデンティティ)が削がれていくために、自分はこうなりたいというワクワクした将来像が見えてこず、漠然とした不安があるだけなのでした。心理学では、これをべき思考と呼んでいます。こうであるべき、こうでなければならないという規律や役割などの多数派(主流秩序)が求める価値観にとらわれてしまうということです。また、先生たちは、頑張ればできると思い込んでいるため、「責任」という言葉を通して「頑張ること」を最優先にしていることも要因です。逆に、できていても頑張っていなければ、認めようとしません。また、楽しめているかどうかにについてはいっさい触れられず、むしろ最初から楽しもうとすると頑張っていないと見なされ、「不真面目だ」という圧までかけられます。楽しむことができるのは、頑張って何かができたあとだけのようです。確かに、その1でも登場した1年生の女子のように、頑張ればある程度できるようになります。しかし、不安のなりやすさと同じように、頑張るという忍耐力(パーソナリティ)やできるという認知能力にも、遺伝的な違いがグラデーションのようにあります。たとえば、頑張って伸びる人と潰れる人、走って速い人と遅い人がいるのと同じです。さらに言えば、楽しんで伸びる人と伸び悩む人もいます。つまり、生徒の個性(遺伝)によって頑張ることと楽しむことのバランスを取り、何よりも生徒を不安にさせなくする必要があります。先生たちが遺伝についての知見を先入観なく受け入れることができていない時点で、やはり時代遅れになっています。なお、認知能力(知能)とパーソナリティへの遺伝、家庭環境、学校環境(家庭外環境)のそれぞれの影響の度合いについては、関連記事1の後半以降をご覧ください。次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その2)【なんで生徒も先生も楽しくなさそうなの?なんで先生はそこまでしてしまうの?】Part 2

(2)選べない―受け身になりやすい彼は、「子供のままでいたい」と言っていました。一方で、6年生の教室で先生が「中学校に言ったら提出物が多くなる。このまま(提出物を忘れる状態)じゃかなり危険だぞ」と忠告していました。確かにその通りです。しかし、そんな脅し文句ばかり言われていると、彼のように、早く大人になって好きなことをしたい、つまり自分の生き方を選びたいという期待や夢が膨らみません。2つ目の心理は、選ぶことができず、受け身になりやすいことです。この原因として、もともと受け身になりやすい気質(遺伝)が考えられますが、それと同じかそれ以上に校則や役割があまりにも多すぎる学校環境が考えられます。その1でもご説明しましたが、そんな学校環境のなかでの教師たちによるモラルハラスメントによって自主性(勤勉性)が育まれないために、自分からこうしたいというエネルギーが沸いてこず、ただ指示待ち人間になっているだけなのでした。心理学で、これは学習性無力感と呼ばれています。できないことを繰り返し強いられることによって、自分はできない(無力である)と学習してしまうのです。また、「責任」という言葉が便利に使われて、「やるべきこと」が限りなく多いことも要因です。逆に、やりたいことを選び、やりたくないことを選ばないという選択の自由がほとんどなく、自由にしようとすると先生の言うことを聞いていないと見なされ、「偉そうだ」という圧までかけられます。確かに、給食当番と掃除当番は、日々の社会的な活動として意味づければ「やるべきこと」でしょう。そして、学校の勉強ももちろん「やるべきこと」です。しかし、運動会、卒業式などの行事の練習を生徒全員が揃って数週間前からすることは、どうでしょうか? ある先生は「運動会の表現を通して、殻を破ってほしい」と言い、運動会の練習を必死に取り組む理由を力説していました。しかし、それは参加するという選択を自らしてこそです。強制されている限り、そうなる根拠はありません。つまり、実はこのような行事を強いるのには合理的な理由がなく、決して「やるべきこと」ではありません。また、先ほど触れたように認知能力には個人差(遺伝的な違い)があるのに、授業内容はすべて画一的で詰め込まれています。レベル分けもほとんどされていないので、自分のレベルに合わない授業を選ばない(自分のレベルに合う授業を選ぶ)という選択肢がないです。あえて選ばないとしたら、すべてを選ばない、つまり不登校の一択しかありません。よくよく考えると、本来の責任の意味は、自分が自由に選んだものに対して負うものです。自由と責任はセットです。つまり、最初の時点で選ばない権利(拒否権)があるはずです。自分で納得して選ぶからこそ、その行動への責任感が芽生えます。しかし、学校で使われる「責任」の多くは、一方的に押し付けられたタスクであり、選ばない権利がありません。しかも、その1でもご説明した通り、その多くが合理的な理由がないものです。つまり、学校で使われる「責任」の正体とは、生徒にとって「責任」という名の衣をかぶった「強制労働」であり、生徒を「奴隷」として逃がさないための都合の良い美辞麗句であったことがわかります。そんななかで、この真実にいち早く敏感に気付いて逃げ出した生徒が、不登校と呼ばれるのです。そしてそんな生徒たちは、学校には絶対に行きたがらないのに、学習塾や習いごとには抵抗なく行くのです。つまり、不登校の原因は、生徒だけでなく、このような学校の時代遅れのやり方にもあったというわけです。これが、不登校が増え続ける最大の原因でしょう。なお、不登校の心理の詳細については、関連記事2をご覧ください。そもそも責任とは、大人になるにつれて自由とセットでだんだんと増えていくものです。なぜなら、大人になる(自立)とは、自分の行動を自分で決めて、自由に生きていくことだからです。そこには、楽しみがあり喜びがあります。その自由に対して責任があるのです。つまり、小学生の時からむやみに、しかも一方的に押し付つけるものではないです。そんなことをしてしまったら、自分が自由に選んで責任を取るという大人になるための練習ができなくなります。なお、実際に、国際比較において、日本人は最も不安になりやすく、最も受け身になりやすい国民性であることがわかっています。この詳細については、関連記事3のページの後半をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その2)【なんで生徒も先生も楽しくなさそうなの?なんで先生はそこまでしてしまうの?】Part 3

なんで教師はそこまでしてしまうの?生徒たちの心理は、楽しむことができずに不安になりやすい、選ぶことができずに受け身になりやすいということがわかりました。それでは、なぜ先生たちはそこまでしてしまうのでしょうか?ある先生が本音を打ち明けます。「ちょっと油断すると大変で、日々戦いですね。自由と制限のバランスって。平均台の上を歩いてるような。すごいバランスの上で仕事やってるなって思うんです」と。どうやら先生たちも生徒たちをもっと自由にさせてあげたいようですが、なかなかできないようです。なぜでしょうか?ここから、その事情を大きく2つ挙げてみましょう。(1)やることが多すぎる―実は教師も不安で楽しめない給食のシーン。黒板前のモニターの大画面に残り時間がデジタルでカウントダウンされ、0になったらタイマーが鳴っていました。その間、生徒たちは、コロナ禍でもあるため、黙々と食べていました。まるで、オリンピックのタイムトライアルです。時間に追われており、あまりおいしく食べられそうにないです。ここにも厳しい規律があると思いつつ、先生がそこまでするのは、次にやることが決まっているという現実にも気付きます。1つ目の事情は、教師はやることが多すぎることです。実は、生徒たちだけでなく、その生徒たちの相手をする先生たちも、学習指導要領とその学校の習わしという厳しい規律に縛られています。それをこなせないということは、教師失格を意味します。つまり、生徒だけでなく、実は教師も「自分らしさ」を発揮できずに不安になりやすく、教えることを純粋に楽しめない職場環境に身を置いていたのでした。実際に映画では、自分にも厳しくてつらそうにしている先生はいても、楽しそうにしている先生は見つけられませんでした。そんな先生たちを間近に見ている生徒たちが、楽しくできるわけがありません。そして、そんなふうにしかならないなら、早く大人になりたいと思うわけがありません。(2)やることを変えられない―実は教師も受け身で選べないある先生は、生徒たちを体育館に集めて、「自分の殻を破る」ことについて熱弁していました。なんと、わざわざセラミックの大きな殻を用意して、自ら自分の頭に当てて割るパフォーマンスまでしていました。そのせいで、おでこから少し血が出てしまい、生徒たちは大騒ぎします。このパフォーマンスの狙いは、実は「殻を破る」ことを伝える以上に、このパフォーマンスを通して、生徒たちが盛り上がり、気持ちが1つになること(同調)でしょう。ここにも熱血(熱血風?)という同調圧力があることが確認できるわけですが、彼がそこまでするのは、このパフォーマンスをはじめ同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートを利用しないと、生徒に「やるべきこと」をやらせられないという現実にも気付きます。つまり、先生たち自身もどうしようもなく、最初の先生が言っていた「ちょっと油断すると大変」なのでした。2つ目の事情は、教師はやることを変えられないことです。生徒にとって負担である学校行事は、実は同じかそれ以上に先生たちにとっても負担です。あるシーンでは、先生たちだけで、運動会のかけっこの順位付けとその後の誘導の練習までもしていました。しかし、だからと言って、「そこまでやらなくてもいいこと」として、行事内容を簡素化しようにも、他の学校ではやっているのに自分たちの学校だけ変えるわけにはいかないという先生たち同士の同調圧力が働いています。職員室のシーンで、副校長は「鎌倉幕府は、外(敵)からは守れたけど、内(味方同士の不満)から壊れた」「副校長はボロ雑巾ですから、何でも言ってください」と受容的に話していました。しかし、いくら個別に不満を受け止めても、管理職の立場で行事内容を簡素化する決断は、「自分たちだけ楽してる」と対外的に思われたくないので、避けたいでしょう。それでも主張する教師がいるなら、その人は周りから「他の先生方は頑張っているのに(自分は頑張っていない)」などと言われ、仲間外れ(スケープゴート)にされるでしょう。それを見越して誰も言い出せないという空気もありそうです。また、生徒たちがついてこなかったり学級崩壊しようものなら、その先生は指導力がなく、頑張っていないとみなされます。実際に、先ほど頭から少し出血した先生は、せっかく「自分らしく」体を張ったのに、そのあとに生徒たちが興奮して騒いでいて困ったと別の先生から細かく指摘され、謝るはめになっていました。先ほどの「自由と制限」の「日々戦い」は、生徒たちだけでなく、先生たちも直面していることがわかります。生徒を自由にさせてしまっては先生にそのツケが回ってくる、そして先生を自由にさせてしまっては他の先生にそのツケが回ってくるという理屈です。つまり、実は教師も「主体性」を発揮できずに受け身になりやすく、教育を変えるという選択ができない職場環境に身を置いているのでした。そんななかで、あえて状況を変えるとしたら、それは教師を辞めることです。生徒が不登校になるのと構図は同じです。実際に、教師のメンタルダウンによる休職率がいかに高いかはすでに社会問題になっています。そして、そんな状況が見透かされ、ますます教師になりたいと思う人が減っています。そんな先生たちを間近に見ている生徒たちが、自分の行動を自分で選んでいけると思うわけがありません。そして、そんなふうにしかならないなら、早く大人になりたいと思うわけがありません。それでは、どうすればいいのでしょうか?(次回に続く)<< 前のページへ■関連記事ドラマ「ドラゴン桜」(中編)【実は幻だったの!? じゃあ何が問題?(教育格差)】Part 1映画「かがみの孤城」(その1)【結局なんで学校に行けないの?(不登校の心理)】Part 1苦情殺到!桃太郎(後編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1

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