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日本における治療抵抗性うつ病患者と医師の重要視しているポイントの違い

 福岡大学の堀 輝氏らは、抗うつ薬治療で効果不十分な日本人うつ病患者の臨床成績に対する医師と患者が重視するポイントの違いを、臨床的に意義のある最小差(MCID)の概念を適用して調査した。Frontiers in Psychiatry誌2025年3月26日号の報告。 本研究は、うつ病患者に対するブレクスピプラゾール2mg/日の増強療法を評価した52週間の非盲検多施設共同研究の事後分析として実施された。Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)スコア、シーハン障害尺度(SDS)スコア、EuroQol-5 dimension-5 level (EQ-5D-5L)から導き出された効用スコアにおけるMCIDを決定した。医師と患者の回答におけるMADRS、SDS、効用スコアの曲線下面積(AUC)との相関係数を比較した。 主な結果は以下のとおり。・患者のMCIDは、MADRSスコアで4.89〜4.94、MADRS改善率で31.15〜35.10%、SDSスコアで0.69〜2.14、効用スコアで0.045〜0.195であった。・患者視点アンカーから導き出されたSDSおよび効用スコアのMCIDは、医師視点アンカーから導き出されたMCIDの約2倍であった。・患者視点アンカーでは、効用スコアのAUCとの相関係数が最も高く、医師視点アンカーではMADRSスコアが最も高かった。 著者らは「MADRS、SDS、EQ-5D-5Lから導き出された効用スコアのMCIDが推定された。医師は、抑うつ症状に重点を置き、日常生活機能や活動性の改善よりも症状の重症度を優先する傾向があるのに対し、患者は、日常生活機能や活動性の改善を優先する傾向が示唆された」と結論付けている。

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米国では孤独感を抱える人は高齢層よりも中年層に多い

 社会的孤立は認知症、健康問題、精神障害、死亡のリスクを高めるため、老化の専門家の間では高齢者の孤独が大きな懸念事項となっている。しかし、少なくとも米国においてはその懸念はやや見当違いであり、むしろ中年層の方が高齢層よりも孤独を感じている実態が明らかになった。米エモリー大学ロリンズ公衆衛生大学院のRobin Richardson氏らによるこの研究結果は、「Aging and Mental Health」に4月21日掲載された。 Richardson氏は、「一般的に、加齢に伴い孤独感は増すと考えられているが、米国では、実際には中年層の方が高齢層よりも孤独を感じている人が多い」と同大学のニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「孤独の蔓延に対処するためのこれまでの支援活動や介入策は高齢者や青少年に焦点が当てられてきた。中年層は、重要な対象であるにもかかわらず、見過ごされている」と指摘する。 この研究は、ヨーロッパ、中東、および北米の29カ国で実施された調査データを用いて、年齢に関連した孤独感の格差に対して、性別や年齢などの人口統計学的要因や健康状態がどの程度影響しているのかを、国内および国間で検討した。調査には、50〜90歳の6万4,324人(平均年齢68歳、女性58%)が参加していた。孤独感は、改訂版UCLA孤独感尺度(3項目版)で測定された(スコアは0〜6点で、スコアが高いほど孤独感が強い)。また、年齢による孤独感の格差は、集中指数(COIN)と呼ばれる指標を用いて評価された。COINは一般的に、所得や資産など、社会経済的勾配に沿った健康格差を説明するために使用されるが、本研究では年齢という順序性の明確な変数に基づいてCOINを算出した。値が負の場合は孤独感が中年層に、正の場合は高齢層に偏っていることを意味する。 その結果、孤独感のレベルは国によって大きく異なり、最も低いのはデンマーク(0.4点)、最も高いのはキプロス(1.7点)であった。年齢による孤独感の格差も国によって大きく異なっていたが、多くの国でCOINは正の値を示し、孤独感が高齢層に偏っていることが示唆された。特に、ラトビアとスペインでは年齢による孤独感の格差が顕著だった。一方、オーストリア、ドイツ、イスラエル、ルクセンブルク、スイスでは年齢による孤独感の格差が小さかった。さらに、米国とオランダでは、COINが負の値を示し、孤独を抱えている人は高齢層よりも中年層に多いことが示唆された。 研究グループは、「中年層は、仕事、育児、年老いた親の介護を担うことが多いため、余暇の時間が減り、友人などと過ごす機会を持ちにくくなっている可能性がある」と推測している。米国では、社会的支援の不足と介護費用の高騰により、この問題がさらに悪化する可能性があるという。 このような年齢による孤独の格差に寄与する因子としては、未婚、働いていないこと、うつ病、自己評価に基づく不良な健康状態が確認されたが、それらの影響の大きさも国によって大きく異なっていた。さらに、年齢による孤独感の格差の20%は、本研究で検討された要因では説明できず、この説明できない格差は中年層に集中する傾向があることも判明した。 論文の上席著者で、マヨール大学(チリ)社会科学・芸術学部長のEsteban Calvo氏は、「われわれの研究結果は、孤独が単に高齢期の問題ではないことを示している。実際、仕事、介護、孤立の中でバランスを取ろうとしている中年層の多くは、孤独に陥るリスクが非常に高く、高齢者と同様に的を絞った介入を必要としている」と話す。 こうした状況に対する対策としてCalvo氏は、「世界レベルでうつ病の評価を中年層にまで拡大し、働いていない人や未婚の人への支援を強化すべきだ。ただし、画一的なアプローチではこの世界的な問題を解決できないため、各国の状況に合わせてこれらの取り組みを調整する必要がある」と述べている。

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カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連

 アルツハイマー病は、世界的な健康問題として深刻化しており、疾患進行に影響を及ぼす可能性のある改善可能な生活習慣因子への関心が高まっている。この生活習慣因子の中でも、カフェイン摂取は潜在的な予防因子として期待されているものの、そのエビデンスは依然として複雑であり、完全に解明されていない。パキスタン・Rehman Medical InstituteのZarbakhta Ashfaq氏らは、カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連性についてのエビデンスをシステマティックにレビューし、評価した。Cureus誌2025年3月20日号の報告。 2024年10月までに公表された研究をPubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryなどの主要データベースより、包括的に検索した。ヒトを対象にカフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関係を検証した研究をレビューに含めた。品質評価では、観察研究にはニューカッスル・オタワ尺度、その他の研究には適切なツールを用いた。 主な内容は以下のとおり。・カフェイン摂取量が多い(1日当たり200mg超)場合と認知機能低下およびアルツハイマー病進行のリスク低下との間に一貫した関連性が示唆された。・血漿カフェイン濃度が1,200ng/ml超の場合、軽度認知障害(MCI)から認知症への移行リスクの低下と顕著な関連が認められた。・メンデルランダム化試験では、遺伝的に予測される血漿カフェイン高濃度がアルツハイマー病に対する保護作用を有することが示唆された。オッズ比は0.87(95%信頼区間:0.76〜1.00)であったが、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「全体として、現在のエビデンスは、とくにMCI患者において、適度なカフェイン摂取がアルツハイマー病への移行に対し保護的に働く可能性があることを示している。この関係は、用量依存的であると考えられ、遺伝的要因や摂取時期の影響も関係している可能性がある。適切なカフェイン摂取戦略を確立し、最も効果が得られる可能性の高い集団を特定するためにも、適切に設定されたプロスペクティブ研究や臨床試験などが必要であろう」としている。

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ニンテンドースイッチを何時間プレイすれば幸福?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第282回

ニンテンドースイッチを何時間プレイすれば幸福?今さらですが、子供たちが「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」にハマっていて、父親である私も付き合わされています。私はまだ始めてから2ヵ月の初心者ですが、カービィを主に使っており、世界戦闘力は600万くらいの平均的なところにいます。すいません、どうでもいい話ですね。ゲーム時間って、私が子供の頃は1日1時間とか2時間に限定されていましたが、最近はどうなんでしょうね。Ballou N, et al. Perceived value of video games, but not hours played, predicts mental well-being in casual adult Nintendo players. R Soc Open Sci. 2025 Mar 12;12(3):241174.この研究では、ニンテンドースイッチ(Nintendo Switch)でゲームをしている成人703人について、どれくらいゲームを遊んでいるかと、その人たちのメンタルヘルス(気分の良さ、抑うつの傾向、人生満足度など)との関係を調べました。結論から言うと、「ゲームをたくさん遊んだからといって、気分が良くなったり悪くなったりするわけではない」という結果になりました。たとえば、「ここ2週間で1日1時間多くゲームした人は、気分がどうなっていたか?」という問いに対して、何かはっきりした傾向は見られませんでした。気分が良くなってもいないし、悪くなってもいません。これは時間を長くしても同じでした。1日、1週間、1ヵ月、6ヵ月、1年と、どの時間のスパンで見ても、ゲーム時間とメンタルヘルスに明確な関係はなかったのです。ただし、1〜2時間前にゲームをしていた人については、ほんの少しだけ「気分が良かった」「抑うつが少なかった」といった傾向がみられました。でもこれは、たまたまゲームをした直後だったから、リラックスしていた可能性もあるし、因果関係があるとは言いきれません。一方で、もっとはっきり関係がみられたのは、「ゲームが自分の生活にとって価値あるものだと感じているかどうか」という点でした。これを「gaming life fit(ゲーム生活適合度)」と呼んでいます。 ゲームが日常生活に「合っている」と感じている参加者(life fitが高い者)ほど、プレイ時間にかかわらず精神的健康指標が良好であることが示されました(β=0.153~0.321、すべてp<0.001)。この相関は、プレイ時間とウェルビーイングとの関係よりもはるかに大きな効果量を示しました。任天堂の人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森」を対象に、過去2週間のプレイ時間とメンタルヘルス(ウェルビーイング)との関係が過去に調べられています1)。そしてその研究でも、「プレイ時間が長い=気分が良くなる」とは言い切れない、という結論を出しています。量より質が大事!1)Johannes N, et al. Video game play is positively correlated with well-being. R Soc Open Sci. 2021;8(2):202049.

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記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 1

今回のキーワード性的指向性自認LGBTQ+性別不合(ICD-11)、性別違和(DSM-5)性分化疾患性スペクトラムクロスドレッシング心理的特性のモザイク5月17日は、「多様な性にYESの日」ですね。正式名称は、ちょっと堅苦しいのですが、「国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日(IDAHO)」です。1990年のこの日、WHO(世界保健機関)が「同性愛」をICD(国際疾病分類)から除外したことを記念して定められました。当時、差別や偏見に苦しむ人たちがたくさんいたわけですが、現在、世の中では性の多様性を自然に受け入れる流れが加速しています。それでは、性はどのように多様なのでしょうか? そもそもなぜ性は多様なのでしょうか? 今回は、シネマセラピーのスピンオフ、「記念日セラピー」と称して、これらの性についての謎に、進化心理学の視点から迫ります。性はどのように多様なの?―LGBTQ+性のあり方(セクシュアリティ)は、大きく4つの要素が挙げられます。1つ目は、身体的性(sex)です。いわゆる生まれた時の性別で、簡単に言えば「体の性」です。2つ目は、性的指向(sexual orientation)です。性的魅力を感じる性で、簡単に言えば「好みの性」です。3つ目は、性自認(gender identity)です。自分が認識する性で、簡単に言えば「心の性」です。最後の4つ目は、性表現(sexual expression)です。ファッション、仕草、言葉遣いなど表現したい性で、いわゆる「男らしさ」「女らしさ」、簡単に言えば「らしさの性」です。つまり、性のあり方とは、この4つの要素が組み合わされたものと考えられています。それでは、実際に性はどのように多様なのでしょうか? 性的指向と性自認の組み合わせから、以下の表にまとめてみました。なお、この2つの要素は、この2つの頭文字をそれぞれ取って合わせてSOGIと呼ばれます。まず、性的指向が異性の状態はストレートと呼ばれ、人口の約92%います。一方で、これ以外の性的少数者(セクシャルマイノリティ)は約8%いて、それぞれの頭文字を取って、LGBTQ+と総称されます。性的指向が同性の状態は、女性ならレズビアン(L)、男性ならゲイ(G)と呼ばれます。両性の状態はバイセクシュアル(B)と呼ばれます。これらのL、G、Bは合わせて人口の約3%強います1)。さらに、性的指向がない状態はアセクシュアル、不明の場合はクエスチョニングと呼ばれます。次に、性自認が身体的性と同じ状態はシスジェンダーと呼ばれます。反対の場合は、トランスジェンダー(T)と呼ばれ、人口の約2%弱います1)。トランスジェンダーの性的指向の多くは、心の性(性自認)に対しての異性、体の性(身体的性)に対しての同性ですが、その逆や両性もいます。つまり、同性愛トランスジェンダー(※本人にとっては異性愛)だけでなく、異性愛トランスジェンダー(※本人にとっては同性愛)、両性愛トランスジェンダー、そして性的指向がクエスチョニングのトランスジェンダーもいます。さらに性自認が、男女どちらにもなりうる状態はジェンダーフルイド、どちらでもない状態はノンバイナリー(Xジェンダー、アジェンダー)、不明の場合はクエスチョニングと呼ばれます。これらの性的指向も、トランスジェンダーと同じく細かく分けられます。以上のうち、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を除いた残りの性的少数者(Q+)、つまりアセクシュアル、ジェンダーフルイド、ノンバイナリー、そしてクエスチョニングは、人口の約3%います1)。なお、トランスジェンダーとノンバイナリーは、本人たちが苦痛を感じている場合、性別不合(ICD-11)、性別違和(DSM-5)と精神医学的に診断され、ホルモン治療や性別適合手術の対象になります。ちなみに、遺伝子や性ホルモンの異常などの医学的な原因によって、そもそも体の性(身体的性)がはっきりしない状態は、これまでインターセックスと呼ばれていました。しかし、この疾患の当事者たちの多くが、実は性的少数者に含まれることを望んでいません。このような事情からも、インターセックスという呼び名は、ネガティブなニュアンスがあるとの理由で、現在は避けるべきとされています2)。もちろん、当事者たちが困っていたり苦痛を感じている場合、性分化疾患と医学的に診断され、ホルモン治療や外科手術の対象になります。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 2

なんで性は多様なの?―性スペクトラムそれでは、なぜ性は多様になっているのでしょうか? 進化の視点から、身体的性、性的指向、性自認、性表現の4つの起源に迫り、その答えを解き明かしてみましょう。(1)身体的性の起源―体の性分化の進化約5億年ちょっと前、海綿のような無脊椎動物が有性生殖をするようになり、オスとメスが誕生しました。実際に、現在のメダカやカエルをはじめとする生物から性決定遺伝子が10種類以上発見されています3)。1つ目の段階は、身体的性の起源、つまり体の性分化の進化です。しかし、脳の性分化はまだ進化していません。実際の魚の実験3)では、未成熟のオスは、成熟したメスと一緒にいても性行動をしません。しかし、このオスは男性ホルモンが与えられると性行動をします。さらに、メスが男性ホルモンを与えられるとオス型の性行動をします。つまり、性的指向は、オスメスどちらにも固定化されておらず、性ホルモン(性腺の性)によって両性的であることがわかります。なお、魚類や爬虫類の多くは、受精卵の周りの温度によって性別(身体的性)が決まります4)。しかし、クロダイやクエのように年齢によって性転換する(身体的性を変える)種、カクレクマノミ(熱帯魚)のように周りの群れとの大きさの違いによって性転換する種もいます2)。つまり、魚類において、身体的性が固定化されていない種もいることから、オスとメスは連続的であり多様であることがわかります。これは、身体的性における性スペクトラムと呼ぶことができるでしょう。(2)性的指向の起源―脳の性分化の進化約3億年前に哺乳類が誕生してY染色体が進化し、約1.5億年前に哺乳類(真獣類)特有の性決定遺伝子(SRY遺伝子)が進化したと推定されています4)。この遺伝子によって、胎児期(デフォルト)はもともとメスとして誕生して、遺伝的にメスの場合はそのままメスとして生まれます。一方、遺伝的にオスの場合は、オスにあるY染色体の発現によって自分の精巣から男性ホルモンが分泌され(ホルモンシャワー)、脳を男性化させてオスとして生まれます。そして、この性的指向は一生涯変わることはありません。2つ目の段階は、性的指向の起源、つまり脳の性分化の進化です。体の性分化だけでなく、脳の性分化にも臨界期があり、出生後の性的指向は固定化されるようになります。これは、実際のネズミの実験2)が根拠になります。この実験では、出生前後(ネズミのホルモンシャワーの時期)に、メスは男性ホルモンを与えられると大人になって性周期(脳活動の1つ)は出てこず、さらに男性ホルモンを与えられるとオス型の性行動をします。つまり、オス型の脳(メスへの性的指向)になります。一方、出生前後にオスは精巣を切除されて男性ホルモンをなくしてしまい、大人になって女性ホルモンを与えられると、性周期が出てきてメス型の性行動をします。つまり、メス型の脳(オスへの性的指向)になります。しかし、出生前後の時期を過ぎてからメスが男性ホルモンを与えられても、オスが精巣を切除されて男性ホルモンをなくして女性ホルモンを与えられても、性周期や性行動に変化はありません。また、先ほど触れた性分化疾患の病態も根拠になります。たとえば、遺伝子の異常によって男性ホルモンの受容体がまったく反応しない病態(アンドロゲン不応症)では、男性の場合、胎児期に男性ホルモンが分泌されても体と脳が男性化せず女性傾向になります。性的指向は男性になり性自認は女性になることが多く、その場合の性別は女性とされます。一方、遺伝子の異常によって男性ホルモンの分泌が副腎皮質から出すぎている病態(先天性副腎過形成症)では、女性の場合、体と脳が男性傾向になります。性別は女性のままとされますが、性自認が男性になる人(トランスジェンダー)が5%(一般人は2%)に増え、性的指向が女性になる人(同性愛)が11%(一般人は3%)に増えています5)。以上を根拠として、体の性分化の不具合がなくても、胎児期に何らかの原因で、男性ホルモンが働かなかった男性の性的指向は男性(同性愛)、男性ホルモンが働きすぎた女性の性的指向は女性(同性愛)、男性ホルモンが中程度に働いた男性または女性の性的指向はともに男女どちらとも(両性愛)になると考えられています6)。なお、性的指向を司る脳部位は前視床下部間質核(INAH)であることが特定されています6)。それが何らかの原因で働かない場合、性的指向は男女どちらでもなくなる可能性が考えられます。つまり、哺乳類において、胎児期の男性ホルモンの量によって性的指向はオスとメスで連続的であり多様であることがわかります。これは、性的指向における性スペクトラムと呼ぶことができるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 3

(3)性自認の起源―社会性の進化約3億年前に哺乳類が誕生してから、単独行動ではなく群れ行動をする種が現れました。そして、近親相姦を回避するために、基本的に同性だけの群れになるように進化しました。たとえば、リス(ベルディングジリス)は、大人になるとオスは親元を離れますが、メスは親元に残り、メスだけで血縁のある群れ(母系家族)をつくります。その後に誕生した真猿類もそうです。一方、チンパンジーは、大人になると逆にメスが親元を離れて他の群れに加わり、オスは親元に残り、オスたちだけで血縁のある群れ(父系家族)をつくります。このように、同性で群れ行動をするためには、自分がどちらの性なのかの認識(性自認)をする必要があります。逆に、これができなければ、オスだけかメスだけかに偏った群れをつくることができません。3つ目の段階は、性自認の起源、つまり同性の群れ行動のための社会性の進化です。性自認とはそもそも社会的なもので、個人のなかだけでは生まれません。性的指向が出生後に固定化されるのに対して、この性自認は大人になるまで(思春期)に遅れて発達して固定化されるようになります。これは、子供の心理発達の性差が根拠になります。実際に、小学校3、4年から、男の子は男の子同士で集まって対戦や冒険をして、女の子は女の子同士で噂話などのガールズトークを好むように、自然と同性同年代の集団をつくるようになります。この時期はギャングエイジと呼ばれています。また、画像研究も根拠になります。実際に、性自認を司る脳部位(性自認中枢)は分界条床核(BSTc)であることが特定されており、これは男性ホルモンの影響を受けないことも確認されています6)。そして、とくに思春期にその変化が確認できることもわかっています7)。性自認中枢は男性ホルモンの影響を受けないことから、女性が胎児期に男性ホルモンを浴びて性的指向が変わっても、必ずしも性自認は変わらないことがわかります。実際に、先ほども触れたように、胎児期に男性ホルモンが出すぎた女性(先天性副腎過形成症)は性的指向が女性になる人は11%でしたが、そのなかで性自認が男性に変わる人は5%、変わらない人は11-5=6%いることになります。つまり、胎児期の男性ホルモンの量の変化の影響を受けて性的指向が変わっても、性自認中枢が十分に働いていればシスジェンダーのままにとどまり、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルになります。しかし、性自認中枢が十分に働いていなければ、トランスジェンダーになり、同時に同性愛(※本人にとっては異性愛)や両性愛になります。逆に、性自認中枢が十分に働いていなくてトランスジェンダーになりながらも、胎児期の男性ホルモンの量の変化の影響がなければ、性的指向は変わらずに異性愛のまま(※本人にとっては同性愛)になる可能性が考えられます。そして、性自認中枢が安定して働かないと、ジェンダーフルイドとなり、まったく働かないとノンバイナリーになる可能性が考えられます。つまり、群れ行動をする哺乳類において、性自認中枢の機能によって、性自認はオスとメスで連続的であることがわかります。これは、性自認における性スペクトラムと呼ぶことができるでしょう。なお、同性の群れ行動の詳細については、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 4

(4)性表現の起源-社会脳の進化約700万年前に人類が誕生して、約300万年前に家族、その後に血縁でつながった部族をつくるようになりました。そして、男性たちは同性集団で狩りをして、女性たちは同性集団で子育てをするようになりました。これは、集団における性役割(性別役割分業)の起源です。この時、子供は思春期になるころ、大人の同性集団に好意を持って迎え入れてもらえるように、男の子は男らしく、女の子は女らしくして、同性の大人のまねをしたでしょう。同時にこれは、同年代の異性への性的アピールになっていたでしょう。逆に言えば、異性のまねはしなくなるということです。これは、集団でうまくやっていくための能力(社会脳)の1つと言えます。4つ目の段階は、性表現の起源、つまり社会脳の進化です。性表現とは、見た目や印象の性差を際立たせることで、集団としての生存戦略であり、個人としての生殖戦略であったというわけです。たとえば、男性なら狩りの能力の高さをほのめかす筋肉質な体型やこだわり(システム化)の仕草であり、女性なら妊娠出産や子育ての能力の高さをほのめかすふくよかな体型や共感的な仕草です。なお、システム化と共感性の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。やがて、約20万年前に言葉を話すようになってから、男性的な話し方、女性的な話し方の性差が生まれました。さらに、約7万年前に、服を着るようになってから、男性的な服装、女性的な服装の性差が生まれました。また、化粧が発明されてから、とくに女性は化粧をして、性的にアピールするようになりました。こうして、男性はより男性らしく、女性はより女性らしく振舞うようになり、この性表現は文化的に固定化されるようになりました。そんななか、現代、性自認が性別と同じで性的指向が異性のマジョリティであっても、性表現において同性ではなく異性の服を着たがる人がとくに男性でいます。サブカルチャーでは、いわゆる 「女装家」「女装子(じょそこ)」「男の娘(おとこのこ)」などと呼ばれていますが、正式にはクロスドレッシングと呼ばれています。これも、本人たちが苦痛を感じている場合、異性装障害(DSM-5)と精神医学的に診断され、精神科治療の対象になります。なお、この診断基準には、自分が女性になることへの性的な興奮(自己女性化性愛)の有無を特定する項目があり、将来的にトランスジェンダーになる可能性の高さが指摘されています1)。このことから、クロスドレッシングは、もともと性自認が中性(ジェンダーフルイド)寄りの人が無意識にも一時的にも異性になりきろうとする行動と捉えることができるでしょう。ちなみに、男性の自己女性化性愛とは対照的に、女性の自己男性化性愛も理屈としては存在するはずですが、臨床的にはまれであるため、診断基準には記載されていません。つまり、原始の時代に性別役割分業をしていた人類において、その文化によって、性表現は男性と女性で連続的であることがわかります。これは、性表現における性スペクトラムと呼ぶことができるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その1)【なんで性は多様なの?(性スペクトラム)】Part 5

男性の同性愛は女性化脳、女性の同性愛は男性化脳?性が多様である原因を、進化の視点から解き明かしました。身体的性、性的指向、性自認、性表現のそれぞれにおいて、男性らしさ(男性性)と女性らしさ(女性性)が連続してつながっているからであることがわかりました。これを踏まえると、男性の同性愛は女性化脳、女性の同性愛は男性化脳と言えそうです。実際に、パーソナリティ特性(ビッグファイブによる)の研究8)において、同性愛の男性は平均的な異性愛の女性に近くなる一方、同性愛の女性は平均的な異性愛の男性に近くなります。また、認知能力において、同性愛の男性は男性特有の知覚能力が低く女性特有の言語能力が高くなる一方、同性愛の女性は女性特有の言語能力が低く知覚能力が高くなっています。さらに、脳の画像研究9)においても、大脳の左右差、前交連や脳梁の大きさ、恐怖刺激への偏桃体の興奮パターン、性フェロモンへの視床下部の興奮パターンは、同性愛の男性は異性愛の女性に似ており、逆に同性愛の女性は異性愛の男性に似ています。しかし、その一方で、同性愛の男性のペニスは、女性化して短くなるかと思いきや、逆に異性愛の男性よりも平均的に長いことがわかっています9)。このわけは、ペニスを長くするのは、メインの男性ホルモン(テストステロン)ではなく、その一段階先の生成物であるもう1つの男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)だからです。また、同性愛の男性は平均的に性的パートナーの数がとても多く、異性愛の女性のように性的パートナーを限定するわけでないです。このことから、同性愛であるからと言って、必ずしも反対の性別の脳になるわけではなく、典型的な特徴が当てはまりつつも、当てはまらない特徴も織り交ざった心理的特性のモザイクであると考えられています8)。もちろん、個人によって、そのモザイクの「模様」は違います。この点からも、性は多様であると言えるでしょう。ちなみに、男性が同性愛になるのは胎児期に男性ホルモンが働き足りなかったわけですが、逆に働きすぎると男性らしさ(システム化)が際立ち、自閉症になります。一方、女性が同性愛になるのは胎児期に男性ホルモンが働きすぎたわけですが、逆に働き足りない(相対的に女性ホルモンが働きすぎる)と女性らしさ(共感性)が際立ち、情緒不安定性パーソナリティ障害になることが考えられます。この詳細については、関連記事3をご覧ください。このことから、同性愛の男性は、男性ホルモンが働き足りない(相対的に女性ホルモンが働きすぎる)ために共感性が高まり、情緒不安定性パーソナリティ障害になりやすいと推定できます。実際に、異性愛の男性に比べて同性愛の男性は、自傷行為(情緒不安定性パーソナリティ障害の特徴の1つ)が1.6~2倍と高くなっています10)。同じように、同性愛の女性は男性ホルモンが働きすぎるためにシステム化が高まり、自閉症になりやすいと推定できます…と言いたいところですが、よくよく考えると、自閉症は異性を含む他人への興味関心が乏しいという主症状(社会的コミュニケーションの障害)があります。つまり、自閉症になるくらい男性ホルモンが働きすぎているなら、そもそも同性愛にも異性愛にも性的指向が発達せず、むしろ無性愛(性的指向なし)になることが考えられます。この点でも、同性愛は、男性ホルモンの働き具合だけで単純化できない、心理的特性のモザイクと言えるでしょう。1)「性別違和・性別不合へ」p.61、p.106:針間克己、緑風出版、20192)「LGBTQ+ 性の多様性はなぜ生まれる?」pp.7-10、p.29、p.44、p.48、pp.82-83:小林牧人、恒星社厚生閣、20243)「オスとは何で、メスとは何か?」pp.89-91、pp.166-167:諸橋憲一郎、NHK出版新書、20224)「性の進化史」p.133、p.176、p.180:松田洋一、新潮選書、20185)「同性愛は生まれつきか?」pp.69-70:吉源平、株式会社22世紀アート、20206)「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」pp.1004-1007:精神科治療学、星和書店、2016年8月7)「進化が同性愛を用意した」p.92:坂口菊恵、創元社、20238)「進化精神病理学」p.77:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、20239)「同性愛の謎」pp.23-24、pp.138-139、pp.143-146:竹内久美子、文春新書、201210)「LGBTを正しく理解し、適切に対応するために」p.1017:精神科治療学、星和書店、2016年8月<< 前のページへ■関連記事女性誌「STORY」(その2)【そもそもなんで溺愛は気持ち悪いの?どうすればいいの?(家族療法)】Part 2海外番組「セサミストリート」(続編・その3)【だから男性はこだわり女性は共感するんだ!だから人差し指の長さが違うんだ!(自閉症と情緒不安定性パーソナリティ障害の起源)】Part 1海外番組「セサミストリート」(続編・その2)【じゃあなんでコミュニケーションの障害とこだわりはセットなの?(共感)】Part 1

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アリピプラゾール持続性注射剤の治療継続に影響する要因

 アリピプラゾール持続性注射剤(LAI)は、有効性が良好であり、臨床現場で広く用いられる薬剤である。注目すべきことに、韓国人集団におけるアリピプラゾールLAIの治療継続に及ぼす要因を検討した研究は、これまでなかった。韓国・Inha University College of MedicineのSoyeon Chang氏らは、アリピプラゾールLAIの治療継続に影響を及ぼす実臨床における要因を明らかにするため、1年間のレトロスペクティブコホート研究を実施した。Clinical Psychopharmacology and Neuroscience誌2025年5月31日号の報告。 韓国・Inha University Hospitalにおいて、アリピプラゾールLAI治療を開始した患者68例を対象に、1年間のレトロスペクティブコホート研究を実施した。患者の診療記録をレビューし、治療継続率、継続中止までの期間、継続中止理由の評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月以内にアリピプラゾールLAIを中止した患者の割合は27.9%。・主な継続中止理由は、効果不十分(42.1%)、副作用(31.6%)、経口薬の希望(21.1%)であった。・単変量解析により、継続中止と患者コンプライアンスとの関連が明らかとなった。・社会人口統計学的因子で調整した後、アリピプラゾールLAIの治療継続と関連していた因子は、患者のコンプライアンス、パリペリドンLAIからアリピプラゾールLAIへの移行であった。・社会人口統計学的因子およびコンプライアンスを調整した多重ロジスティック回帰分析では、継続中止とコンプライアンスとの間に有意な関連が認められた。 著者らは「本結果と同様のデザインで実施したパリペリドンLAIの試験結果と比較すると、アリピプラゾールLAIは1年間の継続中止率が低いことから、臨床的な有用性が支持される結果であった。LAIの継続中止に関連する因子を明確にするためには、大規模かつ長期的なプロスペクティブ研究が不可欠であろう」と結論付けている。

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産業医の組織への戦略―理想と現実の狭間で【実践!産業医のしごと】

産業医として「組織の上流から職場を変える」――。この理想と現実の壁の間で葛藤する産業医は少なくありません。とくに嘱託産業医の立場では、このギャップがより鮮明です。熱意を持ってキャリアを始めても、形骸化した衛生委員会や単調な面談に埋もれ、当初の志とのズレに悩んでいませんか?産業医は「組織を診る医師」といわれますが、実際に経営層と対話し、変革を起こせる例はわずかです。多くの場合、人事部長とさえ十分な関係構築ができない現状があります。組織浸透を妨げる要因としては、以下が挙げられるでしょう。1.組織文化の壁企業によっては、健康管理は「コスト」や「義務」と捉えられ、経営戦略の一部として位置付けられていないことがあります。2.産業医の立場の限界嘱託産業医は基本的に非常勤であり、外部専門家として認識されています。組織の主体ではないため、制約が生じることがあります。3.産業医への期待値の違い企業側と産業医側で、産業医に期待する役割が異なることがあり、このミスマッチが組織への介入を難しくすることがあります。こうした壁に直面し続け、知らず知らずのうちに、「複数企業の嘱託産業医を効率的に回す」ことが現状になっている方もいると思います。正直、私自身も「食い込めていない企業が多い」という恥ずかしい現実があります。役員や社長と直接つながれていない企業も多いのですが、この点は戦略的に考える必要があります。組織に影響を与える現実的アプローチ産業医が組織に影響を及ぼすためには、産業保健スタッフなどのチームとして、「組織を動かせる経営層の理解と協力を得る」ことが現実的な目標となります。そのためには、以下のステップが1つの参考になります。戦略的な関係構築のステップ1)関係者の信頼の確立まずは産業保健スタッフや人事担当者など、日常的に接点を持つ関係者との間で、信頼関係を構築することが重要です。丁寧なコミュニケーションを心掛け、与えられた仕事を着実に行う姿勢が大切です。それだけでも人事部の信頼を獲得することはできるでしょう。2)関係者と課題の共有課題の解決には、産業医単独では難しく、保健師や人事などの協力者が必要です。産業医の職場巡視やストレスチェックなどのデータから組織課題を「見える化」することで、現状の組織課題を、保健師・衛生管理者や人事担当者などの関係者と共有し、課題解決のゴールを共有することが重要です。3)段階的アプローチ可視化された課題は、安全衛生委員会などのテーマに挙げるなど、社内のキーパーソン(人事課長、役職者、現場リーダー等)とコミュニケーションを取り、課題の認識と理解を得るように努めます。私の例で言えば、ある製造業の企業において、職場巡視で発見した腰痛リスクについて、安全衛生委員会で関係部署の管理者を巻き込んだディスカッションを行いました。現場からの改善提案を促し、最終的に生産設備の一部を改善することで、腰痛による休業が減少しました。この成功事例が経営層にも伝わり、その後の産業医としての提案が通りやすくなりました。4)課題を経営とリンクさせる中間層の理解と支援を得られたら、徐々にトップへ接触するタイミングを探ります。人事担当経由でこのチャンスが得られることが多いです。経営層は、メンタルヘルスによる休職率や離職率の低下を目的とした取り組み、競合他社の健康経営事例などに関心を持ちやすく、とくに自社が「乗り遅れる」ことへの危機感を持っているケースが多いため、こうしたテーマが「刺さり」ます。普段からこのようなテーマを温めておくと経営層の信頼と協力を得られるチャンスとなります。タイミングよく説明できるよう、あらかじめ社内のキーパーソンに依頼しておくことも必要でしょう。産業医は、医学的知見に基づく健康リスク評価と対策を提案できることが核心的価値であり、この専門性をいかに経営層に対して翻訳して伝えられるかがカギとなります。現実的成功のためのマインドセットと向き合い方私自身の経験からは、身近な関係者との信頼構築から始め、ボトムアップからミドルアップダウンへと段階的に影響力を拡大する「複合戦略」が効果的だと考えます。私も理想と現実のギャップに悩みながらも、組織戦略の機会を常に模索しています。組織を上流から変えるのは難しくとも、地道な活動の積み重ねによって組織が変わる糸口が得られることもあります。タイミングを待つことも必要ですが、その挑戦こそが産業医の仕事の醍醐味であり、真価が問われるのです。

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第11回 コロナ感染で“脳の老化”が2年分進む?

「コロナ感染で2年分“脳の老化”が進む」――そんなことを示唆する研究報告がありました。今回はその研究の詳細をご紹介していきます。見えない敵が進行させる脳の老化今回取り上げる研究は、英国の大規模なデータ「UK Biobank」から、コロナに感染した626例と、年齢・性別・人種などを厳密にマッチングしたコロナに感染していない626例の計1,252例を対象にしています1)。その方たちからパンデミックの前後で採取した血液を比較しました。注目したのはアルツハイマー病に関連する「バイオマーカー」です。この研究で用いられた検査では、脳内に溜まるアミロイドβの前駆物質である「Aβ42」と「Aβ40」、そして「pTau-181」という値を測定しています。COVID-19感染がこれらの値にどう影響するかを調べたのです。簡単に補足をしておくと、Aβ42とAβ40は、どちらもタンパク質を切り出した産物なのですが、このAβ42とAβ40の比が小さいほど、すなわち後者の比率が多いほど、脳でタンパク質の異常な沈着が進んでいる(すなわち、アルツハイマー病で起こる変化が脳で起こっている)と解釈できることがわかっています。また、pTau-181は神経細胞内でタウ蛋白が過剰にリン酸化されたもので、こちらもアルツハイマー病の初期から上昇することが知られています。血液が教える認知機能への警告サイン本研究では、感染後にこのAβ42とAβ40の比率が平均で2.0%低下し、年齢による変化でいえば約4年分に相当することを明らかにしました。さらに、入院を要した重症例では非入院例の2倍以上(5.5%)の低下を示していました。加えて、pTau-181の増加も同様に見られており、とくに高齢者や高血圧がある方など、脳のダメージを受けるリスクの高い人ほど、感染後のpTau-181増加やAβ42とAβ40の比率の減少が顕著でした。こうした変化は、実際の認知機能にも現れています。UK Biobankの認知テストから算出された「全般的認知能力スコア」は、感染していない人と比べコロナ感染者で平均1.99%低下しており、これは年齢による低下に換算すると、約2年分に相当していました。また、自己申告による「全体的な健康状態」の評価も感染者で2.39%悪化していました。こうした研究結果は、コロナ感染とアルツハイマー病の因果関係を保証するものではありませんが、帯状疱疹ワクチンの認知症予防に関する最近の研究などとともに、「感染症が認知症を近づけ、ワクチンがそれを遠ざける」という仮説をさらに強固にするものだと思います。私たちにできること私たちが知っておくべき重要な点は、たとえ軽症や中等症のCOVID-19であっても、こうした「目に見えにくい脳の老化プロセス」が加速するリスクがある点、そしてそれが重症なほど、より認知症が近づくかもしれないという点です。それを防ぐのは、ワクチンの定期接種やマスク着用、こまめな手洗いといった感染症予防です。それが感染予防だけでなく、認知症予防にもつながる可能性があるのです。これを読んでいる多くの人にとって、認知症は「将来のことで現実味がない」かもしれません。しかし、「脳の健康」は日々のパフォーマンスの要でしょう。私たちにできることは、パンデミック後も持続可能なセルフケア・感染予防を1つでも多く取り入れ習慣にしていくことです。 1) Duff EP, et al. Plasma proteomic evidence for increased β-amyloid pathology after SARS-CoV-2 infection. Nat Med. 2025;31:797-806.

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重症精神疾患に対する抗精神病薬+メトホルミン併用の有用性

 メトホルミンは、重症精神疾患患者における第2世代抗精神病薬(SGA)誘発性体重増加を軽減するための薬理学的介入の候補薬剤である。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのLuiza Farache Trajano氏らは、SGAによる治療を開始する重症精神疾患患者におけるメトホルミン併用の割合、有病率、人口統計学的パターンを明らかにし、SGA開始後2年間におけるメトホルミン併用が体重変化に及ぼす影響を推定するため、コホート研究を実施した。BMJ Mental Health誌2025年4月2日号の報告。 Clinical Practice Research Datalinkのプライマリケアデータを用いて、2005〜19年にアリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンによる治療を開始した重症精神疾患患者を対象に、コホート研究を実施した。メトホルミン併用の累積割合、期間有病率を推定し、人口統計学的および臨床的因子による併用処方率の違いを調査した。交絡因子を考慮し、SGA単独またはSGA+メトホルミン併用で治療された患者の体重変化について線型回帰法を用いて比較した。 主な結果は以下のとおり。・SGA治療を開始した患者2万6,537例のうち、メトホルミン併用患者は4,652例、非併用患者は2万1,885例であった。・2年間のメトホルミン初回処方割合は3.3%であった。・SGA+メトホルミン併用群は、民族的に多様性であり、社会的貧困度が高く、合併症割合が高く、ベースライン時の体重が多かった(平均体重:90.4kg vs.76.8kg)。・SGA開始後2年間での平均体重の変化は、SGA単独群では4.16%増加(95%信頼区間[CI]:−1.26〜9.58)したのに対し、SGA+メトホルミン併用群では0.65%の減少が認められた(95%CI:−4.26〜2.96)。・交絡因子で調整したのち、SGA+メトホルミン併用群における2年間の平均体重差は、女性で1.48kg(95%CI:−4.03〜1.07)、男性で1.84kg(95%CI:−4.67〜0.98)の減少がみられた。 著者らは「メトホルミンは、SGA誘発性体重増加の軽減に有効であることがガイドラインにも示されているにもかかわらず、併用されることは少ないことが明らかとなった。1次、2次医療の連携を強化し、併用処方の障壁に対処する必要があることが示唆された」と結論付けている。

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青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾールの短期的有用性〜第III相試験

 青年期の統合失調症に対する現在の治療は、不十分であり、新たな治療オプションが求められている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのCaroline Ward氏らは、青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾール治療の短期的有効性および安全性を評価するため、10ヵ国、62施設の外来診療における国際共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。The Lancet Psychiatry誌2025年5月号の報告。 同試験の対象は、DSM-5で統合失調症と診断され、スクリーニング時およびベースライン時に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)合計スコア80以上であった13〜17歳の患者。ブレクスピプラゾール群(2〜4mg/日)、プラセボ群、アリピプラゾール群(10〜20mg/日)のいずれかに1:1:1でランダムに割り付けられた。主要有効性エンドポイントは、PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの変化とした。安全性は無作為に割り付けられ、試験薬を1回以上投与された患者について評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・2017年6月29日〜2023年2月23日にスクリーニングされた376例のうち、316例がランダム化された。内訳は、ブレクスピプラゾール群110例、プラセボ群104例、アリピプラゾール群102例。・対象患者の平均年齢は、15.3±1.5歳。女性は166例(53%)、男性は150例(47%)。・米国国勢調査局分類による人種別では、白人204例(65%)、黒人またはアフリカ系米国人21例(7%)、アメリカ先住民またはアラスカ先住民7例(2%)、アジア人2例(1%)、その他81例(26%)。・最終診察時の平均投与量は、ブレクスピプラゾールで3.0±0.9mg、アリピプラゾールで13.9±4.7mgであった。・PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの最小二乗平均値変化は、ブレクスピプラゾール群で−22.8±1.5、プラセボ群で−17.4±1.6(プラセボ群との最小二乗平均値差:−5.33、95%信頼区間[CI]:−9.55〜−1.10、p=0.014)であった。アリピプラゾール群は−24.0±1.6であり、プラセボ群との最小二乗平均値差は−6.53(95%CI:−10.8〜−2.21、p=0.0032、多重検定調整なし)であった。・治療中に発生した有害事象は、ブレクスピプラゾール群で44例(40%)、プラセボ群で42例(40%)、アリピプラゾール群で53例(52%)発現した。・発生率5%以上の有害事象は、ブレクスピプラゾール群では頭痛(7例)、悪心(7例)、アリピプラゾール群で傾眠(11例)、疲労(8例)、アカシジア(7例)。・重篤な有害事象は、ブレクスピプラゾール群で1例(1%)、プラセボ群で3例(3%)、アリピプラゾール群で1例(1%)報告された。・死亡例の報告はなかった。 著者らは「青年期統合失調症において、ブレクスピプラゾール2〜4mg/日は、プラセボと比較し、6週間にわたる症状重症度の大幅な改善に寄与することが示唆された。また、安全性プロファイルは、成人の場合と一致していた。これらの結果は、青年期統合失調症におけるブレクスピプラゾールに関するエビデンスのさらなる充実につながり、臨床現場における治療選択の参考となるであろう」と結論付けている。

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PTSDの迅速なスクリーニングと評価のための言語的特徴〜メタ解析

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と言語的特徴との関連を調査し、言語的特徴がPTSDの迅速なスクリーニングや評価を行ううえで信頼できる指標として利用可能かを判断するため、中国・上海中医薬大学のZhenyuan Yu氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年3月31日号の報告。 2024年8月までに公表されたPTSDと言語的特徴との関連を調査した研究をPubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Science、Ovidデータベースより包括的に検索し、参考文献の後方トラッキングにより補強した。 主な結果は以下のとおり。・12件の観察研究、累積サンプルサイズ5,706例を分析に含めた。・言語調査や単語数(LIWC)、手動コーディング、機械学習技術などさまざまな言語分析ツールを用いた研究が行われていた。・メタ解析により、PTSD症状と有意な正の相関が認められた言語的特徴は、次のとおりであった。【死亡関連の単語】オッズ比(OR):1.32、95%信頼区間(CI):1.10〜1.59、I2=79.4%、p=0.004【ネガティブな感情の単語】OR:1.21、95%CI:1.11〜1.32、I2=30.5%、p<0.001【怒りに関する単語】OR:1.14、95%CI:1.11〜1.17、I2=0.0%、p<0.001【単語数】OR:1.20、95%CI:1.09〜1.31、I2=11.2%、p<0.001・さらに、身体に関連する単語は、PTSDの過覚醒症状、侵入症状、回避症状と正の相関が認められた。【過覚醒症状】OR:1.26、95%CI:1.15〜1.37、I2=0.0%、p<0.001【侵入症状】OR:1.40、95%CI:1.16〜1.68、I2=0.0%、p<0.001【回避症状】OR:1.29、95%CI:1.21〜1.37、I2=0.0%、p<0.001・死亡関連の単語および単語数は、PTSDの侵入症状と正の相関が認められた。【死亡関連の単語】OR:1.16、95%CI:1.08〜1.25、I2=0.0%、p<0.001【単語数】OR:1.18、95%CI:1.10〜1.27、I2=0.0%、p<0.001・悲壮感、不安、ポジティブな感情、一人称による表現、感覚、認知関連の単語とPTSD症状との間には、相関は認められなかった。 著者らは「PTSDの迅速なスクリーニングや評価に対し、死亡関連、怒り、ネガティブ、身体に関する単語および単語数は、信頼できる指標である可能性が示唆された。ただし、さまざまな文化的背景、性別、トラウマなどとPTSD症状との関係を調査するさらなる研究が必要である」と結論付けている。

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SSRI/SNRIの使用がベンゾジアゼピン依存性に及ぼす影響

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の使用とベンゾジアゼピン使用パターンとの関係、両剤併用の経時的変化について、米国・Vanderbilt University Medical Center のKerry L. Kinney氏らが調査を行った。Drug and Alcohol Dependence Reports誌2025年6月号の報告。 2020〜22年にベンゾジアゼピンを使用した患者847例を電子カルテより分析した。対象患者は、SSRI使用群、SNRI使用群、非使用群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・SSRI群(M=6.63)またはSNRI群(M=8.31)は、非使用群(M=5.08)と比較し、ベンゾジアゼピンを使用する期間が長かった。・SSRI群(M=2.41 DMEDDD)またはSNRI群(M=2.30 DMEDDD)は、非使用群(M=1.91 DMEDDD)よりも、ベンゾジアゼピンの投与量が高用量であった。・マルチレベルモデルでは、SSRI群は、初期ベンゾジアゼピン投与量が多かったが(b=0.394)、時間経過とともに有意な変化は認められなかった。・ベンゾジアゼピン使用の人口統計学的および臨床的相関を制御した場合、非SSRI群は、時間経過とともにベンゾジアゼピンの投与量増加が認められた(b=0.075)。・マルチレベルモデルでは、SNRI群は、ベンゾジアゼピンの初期用量または経時的な用量変化との関連は認められなかった。・不安症の診断、若年、非黒人/アフリカ系米国人は、ベンゾジアゼピン高用量の関連因子であった。 著者らは「SSRIまたはSNRIを使用している患者は、ベンゾジアゼピンの投与量が多く、治療期間が長引く可能性があり、ベンゾジアゼピン依存リスクが高いことが示唆された」と結論付けている。

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次々と承認される抗アミロイド抗体、有効性に違いはあるか?

 近年、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体の承認が加速している。しかし、抗アミロイド抗体の臨床的意義やリスク/ベネフィットプロファイルは、依然として明らかになっていない。他の治療法ではなく、抗アミロイド抗体を選択する根拠を確立するためにも、アルツハイマー病の異質性および抗アミロイド抗体の長期臨床データの不足は、課題である。スペイン・University of Castilla-La ManchaのDanko Jeremic氏らは、抗アミロイド抗体の有効性および安全性を評価し、比較するため、従来のペアワイズメタ解析ならびに第II相および第III相臨床試験の結果を用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施した。また、本研究の目的を達成するため、研究者や臨床医が疾患進行や有害事象のベースラインリスクに関するさまざまな事前選択や仮定を組み込み、これらの治療法の相対的および絶対的なリスク/ベネフィットをリアルタイムに評価できる無料のWebアプリケーションAlzMeta.app 2.0を開発した。Journal of Medical Internet Research誌2025年4月7日号の報告。 PRISMA-NMAおよびGRADEガイドラインに従い、エビデンスの報告および確実性を評価した。2024年9月30日までに公表された臨床試験報告書は、PubMed、Google Scholar、臨床試験データベース(ClinicalTrials.govを含む)より検索した。孤発性アルツハイマー病患者数が20例未満、修正Jadadスコアが3未満の研究は分析から除外した。バイアスリスクの評価には、RoB-2ツールを用いた。相対リスク/ベネフィットは、リスク比および標準化平均差を算出し、すべてのアウトカムにおける信頼区間、信用区間、予測区間を算出した。有意な結果を得るため、介入効果は頻度主義およびベイズ主義の枠組みで順位付けし、その臨床的意義は、1,000人当たりの絶対リスク、広範な対照群に対する治療必要数(NNT)により評価した。 主な結果は以下のとおり。・2万1,236例を対象とした7つの治療法(バイアスリスクが低い、または多少の懸念のある研究26件)のうち、ドナネマブは、認知機能および機能的指標において最も高い評価を受けた。この評価は、aducanumabおよびレカネマブの約2倍の効果を示し、認知機能および機能の全般的な臨床的認知症尺度(CDR)ボックス合計スコアにおいて他の治療法よりも有意に有益であることが示唆された(NNT=10、95%信頼区間[CI]:8〜16)。・脳浮腫および微小出血については、ドナネマブ(NNT=8、95%CI:5~16)、aducanumab(NNT=10、95%CI: 6~17)、レカネマブ(NNT=14、95%CI:7~31)において臨床的に関連する脳浮腫リスクが認められ、ベネフィットを上回る可能性も示され、とくに注意が必要であることが明らかとなった。 著者らは「抗アミロイド抗体の中では、ドナネマブが最も有効であり、安全性プロファイルはaducanumabやレカネマブと同様であることが示された。しかし、より安全性の高い治療選択肢の必要性も浮き彫りとなった。これは、対象試験において頻繁な脳浮腫および微小出血による盲検化の解除ならびにCOVID-19パンデミックの影響により、潜在的なバイアスが生じている可能性がある」と結論付けている。

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レカネマブの有効性・安全性、アジア人の特徴は?~Clarity AD試験

 アルツハイマー病(AD)は高齢者における主要な健康問題の1つであり、アジア地域においては、急速な高齢化によりADの有病率が上昇すると予想されている。早期AD治療薬であるレカネマブ(商品名:レケンビ)は、複数の臨床試験において忍容性が良好であると示されているものの、アミロイド関連画像異常(ARIA)およびインフュージョンリアクション(IRR)の発現率が高いことが懸念されている1,2)。シンガポール国立大学のChristopher Chen氏らは、Clarity AD試験で無作為に割り付けられた1,795例のうち、アジア地域に居住する294例についてサブグループ解析を行った。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌2025年5月号掲載の報告。 Clarity AD試験は、早期AD患者を対象としてレカネマブの有効性や安全性を評価した試験である。多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間試験(コア試験)終了後、非盲検長期継続投与試験(OLE)も実施された。対象患者は、レカネマブ10mg/kg投与群と、プラセボ群に1:1で無作為に割り付けられ、隔週で18ヵ月間投与された。 主な結果は以下のとおり。・アジア地域集団における人口統計学的および疾患関連のベースライン特性は、平均体重が低いこと、ADによる軽度認知障害およびCDR-GS=0.5の割合がわずかに高いことを除き、全体集団と類似していた。・アジア地域集団におけるレカネマブの有効性は、主要評価項目、副次評価項目ともに全体集団と同様の傾向を示した。主要評価項目:CDR-SB(調整平均差:-0.349[95%信頼区間[CI]:-0.773~-0.076]、24%の進行抑制率)副次評価項目:アミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積(調整平均差:-72.2[95% CI:-84.1~-60.4])、ADAS-Cog14(調整平均差:-1.37[95%CI:-2.89~0.14])、ADCOMS(調整平均差:-0.05[95%CI:-0.10~-0.00])、ADCS-MCI-ADL(調整平均差:1.31[95%CI:-0.47~3.09])・有害事象の全体的な発現率は、プラセボ群とレカネマブ投与群で類似していた。有害事象のほとんどは軽度~中等度であり、主に、ARIA-H(脳出血)、ARIA-E(脳浮腫)、IRRであった。・アジア地域集団において、ARIA-E、IRR発現率はプラセボ群と比較しレカネマブ投与群で高く(ARIA-E:1.4%vs.6.2%、IRR:1.4%vs.12.3%)、全体集団と同様の傾向を示した。一方、ARIA-H発現率は、プラセボ群と比較しレカネマブ投与群で低かった(16.2%vs.14.4%)。・レカネマブ投与群において、ARIA-H、ARIA-E、IRR発現率は全体集団と比較しアジア地域集団で低かった(ARIA-H:17.3%vs.14.4%、ARIA-E:12.6%vs.6.2%、IRR:26.4%vs.12.3%)。 著者らは、「このアジア地域集団において、レカネマブの全体的な有効性、バイオマーカーの変化、安全性プロファイルは全体集団と一致しており、ベネフィット・リスクプロファイルは良好で、リスク管理も容易だった。アジア地域集団では、レカネマブ投与によるARIAおよびIRRの発現率は全体集団よりも低かったことが示された」と結論付けている。

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統合失調症の新たなアプローチとなるか? ムスカリン受容体作動薬KarXTのRCTメタ解析

 統合失調症は、陽性症状、陰性症状、認知関連症状を特徴とする複雑な精神疾患である。xanomelineとtrospiumを配合したKarXTは、ムスカリン受容体を標的とし、ドパミン受容体の遮断を回避することで、統合失調症治療に潜在的な有効性をもたらす薬剤である。エジプト・ Assiut UniversityのHazem E. Mohammed氏らは、KarXTの有効性および安全性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BMC Psychiatry誌2025年3月31日号の報告。 2024年10月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)をPubMed、Scopus、Web of Science、Cochraneデータベースより、システマティックに検索した。KarXTによる治療を行った成人統合失調症患者を対象としたRCTを分析に含めた。エビデンスの質の評価はGRADEフレームワーク、バイアスリスクはCochrane Risk of Bias 2.0ツールを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・4つのRCT、690例をメタ解析に含めた。・KarXTは、プラセボと比較し、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計スコアの有意な低下(平均差:−13.77、95%信頼区間[CI]:−22.33〜−5.20、p=0.002)、陽性症状および陰性症状のサブスケールスコアの有意な改善を示した。・PANSSスコアの30%以上低下の割合も有意な増加が認められた(リスク比:2.15、95%CI:1.64〜2.84、p<0.00001)。・さらに、KarXTは良好な安全性プロファイルを有しており、嘔吐や便秘などの副作用は、軽度かつ一過性であった。・注目すべきことに、KarXTは、従来の抗精神病薬で頻繁に認められる体重増加や錐体外路症状との有意な関連が認められなかった。 著者らは「KarXTの独特な作用機序および忍容性は、統合失調症治療における満たされていないニーズを解決する可能性を示唆している。今後の研究において、KarXTの長期的有効性、遅発性の副作用、既存治療との有効性比較を検討していく必要がある」と結論付けている。

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ADHD治療薬は心臓の健康に有害か?

 注意欠如・多動症(ADHD)の治療薬が心臓の健康に悪影響を及ぼす可能性が心配されている。こうした中、英サウサンプトン大学小児・青少年精神医学部門のSamuele Cortese氏らが実施したシステマティックレビューとネットワークメタアナリシスにおいて、ADHD治療薬が収縮期血圧(SBP)や拡張期血圧(DBP)、脈拍に及ぼす影響はわずかであることが確認された。この研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」5月号に掲載された。 Cortese氏らは、12の電子データベースを用いて、ADHD治療薬に関する短期間のランダム化比較試験(RCT)を102件抽出し、結果を統合して、ADHD治療薬がDBP、SBP、脈拍に与える影響をプラセボや他の薬剤との比較で検討した。これらのRCTで対象とされていたADHD治療薬は、アンフェタミン、アトモキセチン、ブプロピオン、クロニジン、グアンファシン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート、モダフィニル、ビロキサジンであった。追跡期間中央値は7週間で、参加者として小児・青少年1万3,315人(平均年齢11歳、男子73%)と成人9,387人(平均年齢35歳、男性57%)の計2万3,702人が含まれていた。 解析の結果、小児・青少年では、アンフェタミン、アトモキセチン、メチルフェニデート、ビロキサジンがSBPやDBP、脈拍の有意な上昇と関連することが示された。なかでも、アンフェタミンによるDBPの平均上昇量1.93mmHg(95%信頼区間0.74〜3.11)と、ビロキサジンによる脈拍の平均上昇量5.58回/分(同4.67〜6.49)は、いずれもエビデンスの質が「高」と評価された。 一方、成人では、アンフェタミン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート、ビロキサジンが、SBPやDBP、脈拍の上昇と関連していたが、いずれの指標においてもエビデンスの質は「非常に低い」と評価された。 さらに、小児・青少年においても成人においても、SBP、DBP、脈拍の上昇について、メチルフェニデートやアンフェタミンなどの中枢神経刺激薬とアトモキセチンやビロキサジンなどの非中枢神経刺激薬との間に有意な差は認められなかった。 Cortese氏は、「他の研究では、ADHD治療薬の使用が死亡リスクを低下させ、学業成績の向上に寄与することが示されている。また、高血圧のリスクがわずかに増加する可能性は示唆されているが、他の心血管リスクの増加については報告されていない。総合的に見て、ADHD治療薬使用のリスクとベネフィットの比率は安心できるものだと言えるだろう」とサウサンプトン大学のニュースリリースで述べている。 一方、論文の筆頭著者であるサンパウロ大学(ブラジル)医学部のLuis Farhat氏は、「われわれの研究結果は、中枢神経刺激性であるか否かに関わりなくADHD治療薬使用者の血圧と脈拍を体系的にモニタリングする必要性を強調するものであり、将来の臨床ガイドラインに反映されるべきだ。中枢神経刺激薬だけが心血管系に悪影響を及ぼすと考えている医療従事者にとって、これが意味することは非常に大きいはずだ」と述べている。 研究グループは、さらなる研究でADHD治療薬の長期的な影響について理解を深める必要があるとしている。Cortese氏は、「現時点では、リスクの高い個人を特定することはできないが、精密医療のアプローチに基づく取り組みが将来的に重要な洞察をもたらすことを期待している」と述べている。

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