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世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」【下平博士のDIノート】第36回

世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」今回は、抗精神病薬「ブロナンセリン経皮吸収型製剤(商品名:ロナセンテープ20mg/30mg/40mg)」を紹介します。本剤は、統合失調症治療薬として初めての経皮吸収型製剤であり、これまで経口薬での管理が困難だった患者のアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月10日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはブロナンセリンとして40mgを1日1回貼付します。患者の状態により、1日量上限の80mgを超えない範囲で適宜増減することができます。本剤は、胸部、腹部、背部のいずれかに貼付し、24時間ごとに貼り替えて使用します。<副作用>国際共同第III相試験における安全性解析対象例521例中、臨床検査値異常を含む副作用が310例(59.5%)に認められました。主な副作用はパーキンソン症候群(14.0%)、アカシジア(10.9%)、適用部位紅斑(7.7%)などでした。また、国内第III相長期投与試験における安全性解析対象例200例中、臨床検査値異常を含む副作用が137例(68.5%)に認められました。主な副作用は適用部位紅斑(22.0%)、プロラクチン上昇(14.0%)、パーキンソン症候群(12.5%)、適用部位そう痒感(10.0%)、アカシジア(9.0%)、不眠(8.0%)などでした。なお、同成分の経口薬では重大な副作用として、高血糖(0.1%)、悪性症候群、遅発性ジスキネジア、麻痺性イレウス、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、横紋筋融解症、無顆粒球症、白血球減少、肺塞栓症、深部静脈血栓症、肝機能障害、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡(いずれも頻度不明)が認められているため、経皮吸収型製剤でも注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげます。2.毎日同じ時間を目安に、前日に貼った薬を剥がしてから、前回とは異なる場所に新しい薬を1日1回貼ってください。3.胸部、腹部、背部のいずれにも貼付可能ですが、発疹、水ぶくれ、過度の日焼けやかゆみが生じることがあるので、貼付時~2週間程度は貼付部位が直射日光に当たらないようにしてください。4.使用後は、接着面を内側にして貼り合わせ、子供の手の届かないところへ捨ててください。5.眠気、注意力・集中力・反射運動能力の低下などが起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事しないでください。6.本剤の使用により、高血糖が現れることがあります。喉の渇き、過度の水分摂取、尿の量が多い、尿の回数が多いなど、いつもとは違う症状が現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、世界で初めて統合失調症を適応として承認された経皮吸収型製剤です。本剤および同成分の経口薬(錠剤・散剤)は、非定型抗精神病薬のセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)に分類され、既存のSDAとしては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、パリペリドン(同:インヴェガなど)があります。統合失調症の治療では、アドヒアランス不良による再発・再燃率の高さがしばしば問題となります。貼付薬である本剤には、貼付の有無や投与量を視認できるため、投薬管理が容易にできるというメリットがあります。また、食事のタイミングを考慮する必要がなく、食生活が不規則な患者さんや嚥下困難などで経口服薬が困難な患者さんへの投与も可能ですので、アドヒアランスの向上が期待できます。消化器系の副作用軽減も期待できますが、一方で貼付部位の皮膚関連副作用には注意が必要です。貼付薬は激しい動きによって剥がれることもありますが、患者さん自身が剥がしてしまうこともあります。かゆみなどの不快感で剥がしていることもありますので、理由や希望を聞き取るとよいでしょう。なお、薬物相互作用については経口薬と同様となっていますが、グレープフルーツジュースとの相互作用は主に消化管で生じるため、本剤では併用注意は設定されていません。経口薬から本剤に切り替える場合、次の投与予定時刻から本剤を使用することが可能です。一方で、本剤から経口薬へ切り替える場合には、添付文書の用法・用量に従って、1回4mg、1日2回食後経口投与より開始し、徐々に増量する必要があります。患者さんが安心して治療継続できるよう、副作用や併用薬、残薬などの聞き取りを行い、しっかりサポートしましょう。

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スタチンと認知症リスク~900万人超のメタ解析

 認知症リスク低下に対するスタチンの影響については、これまで10年間にわたり議論の対象となってきたが、決定的なエビデンスは存在しない。台湾・台北医科大学のTahmina Nasrin Poly氏らは、スタチン療法と認知症リスクとの関連性を定量化するため、これに関連する観察研究のメタ解析を実施した。Neuroepidemiology誌オンライン版2019年10月1日号の報告。スタチンが認知症リスクの有意な低下と関連 スタチン療法と認知症リスクとの関連性を定量化するためのメタ解析は、2000年1月~2018年3月までに公表された関連研究を、EMBASE、Google、Google Scholar、PubMed、Scopus、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。2人の研究者により、研究の選択、データの抽出化、バイアスリスクの評価が行われた。次に、選択した研究からデータを抽出し、変量効果モデルを用いて観察研究のメタ解析を行った。サブグループ解析および感度分析も併せて実施した。 スタチン療法と認知症リスクとの関連性を定量化するためのメタ解析の主な結果は以下のとおり。・916万2,509例(認知症患者:8万4,101例)を含む30件の観察研究が適格基準を満たした。・スタチン使用患者は、スタチン未使用患者と比較し、すべての原因による認知症リスクが低かった(リスク比[RR]:0.83、95%CI:0.79~0.87、I2=57.73%)。・スタチン使用患者における全体的にプールされたRRは、アルツハイマー病で0.69(95%CI:0.60~0.80、p<0.0001)、血管性認知症で0.93(95%CI:0.74~1.16、p=0.54)であった。 著者らは「スタチン使用は、認知症リスクの有意な低下と関連していることが示唆された。このような結果を検証する今後の研究は、患者、臨床医、政策立案者にとって有用な情報となるであろう。さらなるエビデンスが確立するまでは、スタチンは心血管疾患の治療で承認されている薬剤であることを、臨床医は意識しておく必要がある」としている。

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アルコール使用障害治療におけるAlcohol Quality of Life Scale(AQoLS)日本語版の検証

 Alcohol Quality of Life Scale(AQoLS)は、西洋において健康関連QOL(HR-QoL)に対するアルコール使用障害(AUD)の影響を評価する際に有用な尺度として用いられている。久里浜医療センターの樋口 進氏らは、AQoLS日本語版の心理測定特性について評価を行った。Quality of Life Research誌オンライン版2019年10月4日号の報告。 日本においてAUDの日常的な治療を受けている患者を対象に、3ヵ月間の観察コホート研究を実施した。HR-QoLは、AQoLS日本語版(34項目、7ディメンション)を用いて評価を行った。心理測定スケールは、相関法を用いて分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・132例の患者データを分析した。・AQoLS日本語版の項目間およびスケールの相関は、中程度から強度であった。・確認的因子分析の結果では、AQoLS日本語版の仕組みはサポートされたが、いくつかの項目と因子との間に相互依存的証拠が認められた。・内的整合性は、クロンバックのα係数が0.73~0.97で比較的良好で、ベースライン時と2週間後の間のスコアの級内相関係数は、0.65~0.82であった。・収束的妥当性、弁別的妥当性、既知のグループの妥当性は、サポートされた。・グループ内での変化の評価では、AQoLS日本語版の総スコアとドメインは、経時的なHR-QoLの有意な改善を一貫して示した(すべてのケースにおいてp<0.001)。・AQoLS日本語版総スコアの臨床的に重要な最少差推定値は、グループレベルの変化で13.2~18.2、グループレベルの差で2.4~15.7であった。 著者らは「AQoLS日本語版は、HR-QoLの信頼できる有効な指標であり、日本においてAUDの日常的な治療にベネフィットを与えることができる」としている。

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統合失調症や双極性障害の認知機能に対する睡眠の影響

 精神疾患患者では、精神病性障害だけでなく睡眠障害や認知機能障害を併発し、機能やQOLに影響を及ぼす。ノルウェー・オスロ大学のJannicke Fjaera Laskemoen氏らは、統合失調スペクトラム障害(SCZ)および双極性障害(BD)において睡眠障害が認知機能障害と関連しているか、この関連性が睡眠障害のタイプ(不眠症、過眠症、睡眠相後退[DSP])により異なるか、この関連性が健康対照者と違いがあるかについて検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2019年10月5日号の報告。 対象は、ノルウェー精神障害研究センター(NORMENT)研究より抽出された797例(SCZ457例、BD340例)。睡眠障害は、うつ病症候学評価尺度(IDS-C)の項目に基づき評価した。いくつかの認知ドメインとの関連は、別々のANCOVAを用いてテストした。認知障害との関連性が睡眠障害のタイプにより異なるかをテストするため、three-way ANOVAを実施した。 主な結果は以下のとおり。・いくつかの共変量で調整した後、睡眠障害を有する患者では、睡眠障害のない患者と比較し、処理速度や認知抑制が有意に低いことが明らかとなった。・睡眠障害と認知機能との関連性は、SCZとBDで類似しており、不眠症と過眠症のいずれにおいても、処理速度や認知抑制への有意な影響が認められた。・健康対照者では、睡眠障害と認知機能に関連性は認められなかった。 著者らは「精神疾患患者における睡眠障害は、認知機能障害の一因となりうる。精神疾患患者の治療では、睡眠障害の治療が認知機能を保護するために重要であることを示唆している」としている。

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日本人高齢者のてんかん有病率は中年の約3倍、その原因は~久山町研究

 てんかんは小児期から老年期まで、すべての年齢層でみられる一般的な慢性神経疾患である。運転中にドライバーが発作を起こせば重大事故につながるリスクがあり、たびたび社会問題としても報じられている。米国・ロチェスターにおける研究では、てんかんの発生率が乳児と高齢者で高く、有病率が加齢と共に増加することが報告されているが、国内における人口ベースの研究はほとんどない。今回、京都府立医科大学の田中 章浩氏らが久山町研究で調べたところ、高齢者におけるてんかん有病率は中年の約3倍であり、症例の半数以上が高齢で最初の発作を経験していることがわかった。研究結果は、Epilepsia誌に掲載され、現在、神戸市で開催されている第53回日本てんかん学会でも報告された。 本研究は、久山町研究のサブスタディとして実施。2012年6月~13年11月の期間に、地域居住の40歳以上(4,679例)を対象に、心血管リスク因子とてんかん発作の経験の有無についての調査を実施し、このうち3,333例(居住者の71.2%)が登録された。 調査は対面のインタビュー形式で、てんかんの既往歴の有無および現在抗てんかん薬を服用しているか否かについて聞き取りが行われた。既往歴の定義は、過去5年以内に少なくとも1回の発作を起こし、神経科医の医師などによって診断された活動性てんかんのエピソードを有するか、抗てんかん薬を使用し、治療を受けていることとした。 調査の結果、23例がてんかんと診断され、有病率は1,000人あたり6.9症例(95%信頼区間[CI]:4.1~9.7)であった。この結果に有意な性差は認められなかった(p=0.23)。年齢層でみると、40~64歳の中年層(1,000人あたり3.6症例、95%CI:0.7~6.4)よりも、65歳以上の高齢層(1,000人あたり10.3症例、95%CI:5.4~15.1)で有意に高く、その差は約3倍の開きがあった(p=0.02)。てんかんの主な原因は脳血管疾患であった(n=11、てんかん症例の48%)。また、症例の半数以上が、65歳以上で初回エピソードを経験していることもわかった(n=13、同57%)。 著者らは、「今回の研究結果は、高齢者の脳血管疾患と関連して、てんかんの有病率が増加することを示唆している。将来的なてんかんリスクを軽減するためにも、脳血管疾患の予防が非常に重要である」と述べている。

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性機能に対するボルチオキセチンの影響~ランダム化比較試験

 性機能障害はうつ病患者においてよくみられるが、抗うつ薬の一般的な副作用として認められるtreatment-emergent sexual dysfunction(治療に起因する性機能障害)の評価は、一部の患者において抑うつ症状の治療と混同される可能性がある。米国・Takeda Development Center AmericasのPaula Jacobsen氏らは、ボルチオキセチンの性機能に対する影響を評価するため、健康なボランティアを対象に、性機能障害を誘発することが知られているパロキセチンおよびプラセボとの比較を行った。The Journal of Sexual Medicine誌2019年10月号の報告。 本研究は、フェーズIVランダム化多施設二重盲検プラセボ対照4アーム固定用量head-to-head試験として実施された。性機能が正常な18~40歳の健康なボランティア(自己報告によるChanges in Sexual Functioning Questionnaire Short-Form[CSFQ-14]において男性は47点超、女性は41点超)に、ボルチオキセチン(1日1回10mgおよび20mg)、パロキセチン(1日1回20mg)、プラセボを5週間投与し、性機能障害の比較を行った。治療コンプライアンス不良を調整する2つの修正された完全分析セットを事前に指定した。主要エンドポイントは、5週間後のパロキセチンと比較したボルチオキセチンのCSFQ-14総スコアの変化とした。副次エンドポイントは、プラセボと比較したボルチオキセチンのCSFQ-14スコアの変化、CSFQ-14サブスケール、患者の全体的な印象度とした。 主な結果は以下のとおり。・対象は361例(平均年齢:28.4歳)。内訳は、白人約57%、黒人またはアフリカ系米国人34%、アジア系4%であった。・ボルチオキセチン10mgでは、パロキセチンよりも治療に起因する性機能障害が有意に少なかった(平均差:+2.74点、p=0.009)。・ボルチオキセチン20mgでは、パロキセチンよりも治療に起因する性機能障害が少なかったが(平均差:+1.05点)、統計学的に有意な差は認められなかった。・とくにパロキセチンおよびボルチオキセチン20mgでは、コンプライアンス不良が結果に影響を及ぼしている可能性が示唆された。・パロキセチンは、プラセボよりも治療に起因する性機能障害が有意に多かったが、ボルチオキセチンでは認められなかった。・ボルチオキセチンは、パロキセチンよりもCSFQ-14で測定した性機能障害の3つのフェーズおよび5つのディメンションにおいて良好な結果が認められた。・本試験では、健康なボランティアを対象とすることにより、結果に影響を及ぼすうつ症状の状態などのリスクが軽減された。 著者らは「健康なボランティアにおいて、ボルチオキセチンはパロキセチンよりも治療に起因する性機能障害が少なく、性機能障害が懸念されるうつ病患者のマネジメントにおいてボルチオキセチンが選択薬となりうることが示唆された」としている。■「ボルチオキセチン」関連記事ボルチオキセチン治療中のうつ病患者における睡眠と抑うつ症状との関係

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元プロサッカー選手、神経変性疾患死3.45倍/NEJM

 元プロサッカー選手は、神経変性疾患による死亡率が高く、一般的な疾患での死亡率は低いことが示された。英国・グラスゴー大学のDaniel F. Mackay氏らによる、スコットランドの元プロサッカー選手7,676例を対象とした後ろ向き適合コホート研究の結果で、元選手は認知症関連治療薬の処方率も高かったという。神経変性疾患は、コンタクトスポーツのエリート選手で報告されている。元プロサッカー選手の神経変性疾患の発症率については明らかにされていなかった。著者は、「今回観察された結果について、前向き適合コホート研究を行い確認する必要がある」と述べている。NEJM誌オンライン版2019年10月21日号掲載の報告。スコットランドの元プロサッカー選手と適合コホートを比較分析 研究グループは、スコットランドの選手データベースから、元プロサッカー選手7,676例と、性別、年齢、社会的剥奪(social deprivation)の程度で適合した一般住民の対照コホート2万3,028例について、後ろ向きコホート研究を行い、神経変性疾患死亡率を比較した。 死因については、死亡診断書で特定した。また、認知症治療薬の処方データについても比較した。処方情報は、全国処方情報システムから入手した。アルツハイマー病死のリスクが最も高く5.07倍 中央値18年以上の追跡において、元サッカー選手群では1,180例(15.4%)が、対照群では3,807例(16.5%)が死亡した。全死因死亡率は、70歳までは元サッカー選手群が対照群よりも低かったが、その後は逆に高かった。 虚血性心疾患による死亡リスクは、元サッカー選手群が対照群に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.66~0.97、p=0.02)。また、肺がんによる死亡リスクも、元サッカー選手群で有意に低かった(同:0.53、0.40~0.70、p<0.001)。 一方で神経変性疾患による死亡率は、元サッカー選手群1.7%、対照群0.5%で有意に高率だった(虚血性心疾患死・全がん死の競合リスク補正後HR:3.45、95%CI:2.11~5.62、p<0.001)。元サッカー選手において、死亡診断書で神経変性疾患が死因・要因と記述されていた死亡は、疾患のサブタイプによってばらつきがあった。最も頻度が高かったのはアルツハイマー病で(元サッカー選手群vs.対照群のHR:5.07、95%CI:2.92~8.82、p<0.001)、最も低かったのはパーキンソン病だった(2.15、1.17~3.96、p=0.01)。 認知症関連治療薬の処方率も、元サッカー選手群が対照群に比べ有意に高率だった(オッズ比[OR]:4.90、95%CI:3.81~6.31、p<0.001)。 元サッカー選手の中で、神経変性疾患が死因・要因の割合は、元ゴールキーパーと元フィールド・プレーヤーで有意差はなかった(HR:0.73、95%CI:0.43~1.24、p=0.24)。しかし、認知症関連治療薬の処方率は、元ゴールキーパーが元フィールド・プレーヤーより有意に低率だった(OR:0.41、95%CI:0.19~0.89、p=0.02)。

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万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 1

今回のキーワード年金不正受給社会保険労務士疾病利得詐欺罪モラルハザード信書開封罪ノーリスクハイリターンシックロール「年金2000万円問題」が話題になりました。かつての「消えた年金」のように、年金政策は、一歩間違えれば、政権を揺るがす大問題に発展します。それだけ年金にまつわる不祥事は、国民にとって敏感な社会問題です。そんな中、皆さんは、精神障害年金というものがあるのを知っていますか? それが今、危うい「ビジネス」になっているかもしれないということも? そして、それが年金の財源を食いつぶすかもしれないということも? 実際に、インターネットで「障害年金」と検索すると、「受給成功率を上げる」「完全成功報酬制」などとのうたい文句が並ぶ精神障害年金の相談の広告があふれ出てきます。今回のテーマは、精神障害年金の不正受給です。これは一体、何なんでしょうか?不正受給はどうやって起きるのでしょうか? そして、どうすれば良いでしょうか?これらの問いへの答えを探るために、映画「万引き家族」の登場人物を再び取り上げます。以前は「万引き」を精神医学的に解説しました。今回は、社会医学的な視点で、精神障害年金にまつわる「ブラックボックス」を明らかにします。そして、障害年金が「ビジネス」として悪用されることなく、本当に必要な人に行き届く運用のあり方とその限界について一緒に考えていきましょう。年金の不正受給とは?「万引き家族」の登場人物の1人の初枝は、月に6万円近くの年金を得ていました。これは、65歳を目安とする老齢(高齢)の時期から支給される老齢年金です。その後に、初枝は急死します。しかし、同居している治と信代はその遺体を床下に埋めて、本人が「生きている」ことにして、初枝の年金の支給を代わりに受け続けます。これが、年金の不正受給です。年金の不正受給は、老齢年金だけでなく、障害年金でもありえます。障害年金とは、その障害によって、日常生活や就労に制限が生じている場合に支給されます。この障害年金の不正受給は、本人が「障害がある」ふりをして、可能になります。なお、この記事で「障害がある」とは、日常生活や就労に制限が生じるレベルとします。ただし、身体障害の場合、その認定には、客観的な検査による根拠が必要になるため、不正受給は起こりにくいです。一方、精神障害の場合、その認定には、必ずしも客観的な検査は必要ありません。患者の訴えをもとに、精神科医が「障害がある」と判断すれば、ほぼ認定されます。ここに、不正受給の「ブラックボックス」があります。さらに、昨今ではインターネットによる精神障害年金の相談対応で、障害年金に詳しい社会保険労務士(以下、社労士)が介入することが増えています。ここに、不正受給がビジネスになりうる「ブラックボックス」があります。なお、紹介する事例については、精神科医や患者からの聞き取り調査に基づいています。不正受給はなぜ起きるの?ここから、精神障害年金の不正受給が起きる原因を、患者、社労士、精神科医の3つの立ち位置に分けて、ぞれぞれの「ブラックボックス」を明らかにしてみましょう。ただし、ここで誤解がないようにしたいのは、これから解き明かす「ブラックボックス」はすべての患者、社労士、精神科医に当てはまるわけでは決してないということです。あくまで彼らの一定数に当てはまるということです。そして、その数が今後に増えていく危うさがあるということです。 患者の「ブラックボックス」治と信代は初枝の老齢年金を不正受給する際に、葛藤ありません。その原因については、以前すでに説明しました。これは、障害年金の不正受給をする心理にも当てはまります。この心理を前回の原因の状況に重ね合わせながら、まず患者の「ブラックボックス」を3つに分けてみましょう。(1)もらえるものはもらいたい-過剰な権利主張精神障害年金の受給金額は、基礎年金2級で月に6万5千円程度です。5年前までさかのぼった請求(遡及請求)をすれば、390万円が一気に手に入ります。これは、収入としてはかなりの額です。精神障害によって日常生活能力が下がっている場合には、非常にありがたく、この経済的なサポートによって、安心が得られ、病状を安定させる一因になることもあるでしょう。しかし、問題は、薬やリハビリなどの治療により病状が改善し、日常生活への制限がなくなった場合です。さらには、就労を始めた場合です。次の更新の時に、その状況を精神科医に報告できるでしょうか? 正直に報告してしまうと、「障害がある」と判断されず、受給が減額されたり、停止してしまいます。本人は、この事実に気付きます。すると、本人にはどういう心理が芽生えるでしょうか?1つ目は、お金を減らされたくない、もらえるものはもらいたいという心理です(過剰な権利主張)。つまり、「障害がある」ままにしておこうという心理です。この心理は、意識的ではありますが、無意識的な疾病利得の心理にもつながっています。これを強めるのは、以前解説した「やってはいけないことの意味がよく分かっていない」という状況です。うそをつくことは良くないことだというモラルが働かなくなっていることです。たとえば、障害年金の診断書の更新日が近付くと、急に不調を訴えます。「お金が減らされないように書いてください」と最初から本音を言う人もいます。また、正直に病状の改善を報告してしまい、実際に受給が減額されたり停止した場合には、その時になって、本人は不調を再度訴えます。実は具合が悪すぎて、そのことすら言えなかったと苦しい理屈を言う人もいます。怒り出す人もいます。せっかく始めた就労を中断するという実力行使に出る人もいます。そして、診断書の再作成を要求します。これは、ちょうど生活保護を受給している人がなかなか就労しようとしない心理に似ています。ちなみに、2016年に障害年金の等級判定ガイドラインが改定されてから、それ以前と同じ診断書の内容でも等級が下がったり、受給期間が短くなることで次回更新が早まるようになりました。本人たちがますます警戒する事態になっています。(2)自分だけ損したくない-損失回避障害年金を受給する前はどうでしょうか? 本人は、すでに受給している知人、インターネットの案内や個人のブログなどから、障害年金についての「裏ワザ」情報を得ます。そして、自分も病状を大げさに言えば、障害年金を得ることができることに気付きます。すると、本人にはどういう心理が芽生えるでしょうか?2つ目は、みんなやっている、自分だけ損したくないという心理です(損失回避)。つまり、「自分も障害者になったんだから、もらって当然だ」という心理です。これを強めるのは、以前解説した「やってはいけないことをする親(周り)がいた」という状況です。たとえば、「自分と同じ病気の友達はもらっているのに、なんで自分はもらえないんですか?」と精神科医に迫ります。これは、ちょうど給食費の未納問題やNHKの受信料問題にも通じる心理です。(3)バレても損しない-モラルハザード障害年金を受給しながら、実は「障害がある」ふりをしていたことや、就労の事実を隠していたことがバレた場合、どうなるでしょうか? 実際は、現時点で摘発されるということはないです。また、バレたとしても、それまでの受給金額の返金は求められる場合はありますが、よほど悪質でない詐欺罪(刑法246条)には問われないでしょう。本人は、この事実に気付きます。すると、本人にはどういう心理が芽生えるでしょうか?3つ目は、バレない、バレても損しないという心理です(モラルハザード)。つまり、「言ったもん勝ち」という心理です。これを強めるのは、以前解説した「やってはいけないことを刺激する社会がある」という状況です。世の中は、格差が開くのと相まって、価値観が多様化しました。これは、個人の権利意識が強まることであり、その分、他者(社会)への配慮が弱まることでもあります。それは、周り(社会)からどう思われるかを気にしなくなり、「やってはいけない」という心理が希薄になることでもあります。本来、障害年金は、障害が原因で働けない人のためにある制度です。それが、「障害」を理由に働かない人によって悪用されるという事態が起きています。 次のページへ >>

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万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 2

社労士の「ブラックボックス」治は日雇いの建築作業員ですが、実際はほぼ働いていません。信代はクリーニング工場のパートをリストラされてからは無職のままです。ここで、仮定の話です。もし信代がリストラのストレスから不眠になり、睡眠薬をもらうために心療内科にしばらく通院しているとしましょう。そして、インターネットで精神障害年金の受給の仕方を指南する社労士の存在を知ったとしたら? 信代は治を引き連れて、一緒にその無料相談に飛びつくでしょう。次に、社労士の「ブラックボックス」を3つに分けてみましょう。(1)権利を勝ち取る-過剰な権利擁護障害年金の等級が得られるかどうかは、精神科医がどう診断書を書くかでほぼ決まってしまうのを、社労士は熟知しています。よって、年金が得られるように、社労士は精神科医に働きかけます。たとえば、本人の日常生活の困難な状況を具体的に記載した「病状報告書」と日常生活能力の判定と程度についての「診断書原案」を医療機関に送り付けます。さらに、診断書が作成され厳封されたあとの場合でも、その診断書を年金事務所に提出する前に本人に開封させ、「もっと病状が重い」との理由で、日常生活能力の判定と程度についての「診断書訂正案」を送り付けます。5年前までさかのぼった請求(遡及請求)の場合、5年前の病状について作成した診断書にも介入してきます。医療機関に直接電話をかけてきたり、患者に代行や同行をして、精神科医と直接交渉する社労士もいます。精神科医が少なくとも1年半以上継続して患者を診ているのに対して、社労士は医療関係者でも専門医でもなく、障害年金の申請前にせいぜい数回しか本人の病状を確認していないにもかかわらずです。社労士は患者にも働きかけます。たとえば、精神科医が4週間ごとの通院で良いと患者に言っても、患者は2週間ごとの通院を希望します。これは、患者が精神科医に「社労士からそう言われたから…」とうっかり漏らすことで判明します。もはやどちらが主治医か分からなくなります。ここまで徹底する社労士には、一体どういう心理があるのでしょうか?1つ目は、権利を守る、権利を勝ち取るという心理です(過剰な権利擁護)。社労士の仕事は、本来、患者の「権利を守る」ことです。しかし、この「権利を守る」は、行き過ぎれば「権利を勝ち取る」にすり替わります。さらには、「(病状が良くなることで)失うはずの権利を勝ち取り続ける」ことを目指すようになります。つまり、社労士は、年金の受給を確実にするために、あらゆる手を尽くすわけです。社労士は、権利を勝ち取ること、つまり患者に「障害がある」ことを認めさせることを目指します。その立ち位置は、弁護士と同じです。一方、医師は、病状が良くなる、つまり患者に「障害がなくなる」ことを目指します。ゴールが真逆であることを理解する必要があります。(2)一気にもうかる-ハイリターン社労士は、合格率が数%と極めて低い難関資格であるにもかかわらず、その独占業務は社会保険などの手続きの代行や企業の労務管理の作成など極めて限定的です。しかも、社会保険などの手続きについては、代行ソフトが出回っており、独占業務のニーズはますます減ってきています。つまり、「資格貧乏」です。この状況は、弁護士をはじめとする士業全般に言えます。率直に言うと、社労士は、独占業務だけでは「割に合わない」「食えない」資格になりつつあります。一方、もともと独占業務ではない障害年金の相談は、専門知識を駆使することができます。相談費用や着手金を0円として、年金の受給金額の2ヵ月分と遡及請求金額の10%~15%を成功報酬にすると、年金が通らなければ0円ですが、通った場合は1件あたり10万~50万円の高額報酬を一気に手にすることができます。そして、その後の年金の更新のたびに、その患者から相談を受けるようにすれば、事前に数回の相談を受けるだけで毎回高額報酬を手にすることができます。すると、社労士にはどういう心理が沸き起こるでしょうか?2つ目は、一気にもうかるという心理です(ハイリターン)。だからこそ、彼らが作成する「病状報告書」や「診断書原案・訂正案」には、改善した病状や、本人ができることについては一切触れません。よくよく考えると、彼らにとっては当たり前です。病状が良くなってもらっては、年金の権利が得られなくなり、自分たちの収益が減って困るからです。彼らが、患者に「主治医」のように振る舞い、精神科医にしつこく食い下がってくるのも納得がいきます。(3)責任がない-ノーリスク社労士は、病状を「盛る」だけでなく、「足す」こともあります。たとえば、患者が初診から一度も訴えたことがない病状まで、社労士が作成する「病状報告書」には記載されています。そして、その「病状報告書」は、ほかの患者のとも似通っています。まるで、専用のテンプレートが存在するかのように同じ内容が記載されています。また、患者は「社労士の先生から『年金はもらえるはずだ。でも、この診断書ではもらえない』と言われました。ひどいじゃないですか!?」と精神科医に迫ってきます。明らかに吹き込まれています。そして、もし精神科医が診断書を社労士の「訂正案」通りに訂正しないなら、社労士は患者に精神科医を代えるよう薦めます。これは、ほかの精神科医を探して、再チャレンジするためです。この方法は、社労士による指南書にも書かれています。この真の目的は、転医によって、社労士の思い通りになる診断書を手に入れるためです。転医すると、患者は病状を大げさに訴えるようになります。なぜなら、転医の目的が、より重い病状が記載された年金診断書を手に入れるためだからです。しかも、転医後は、初診から社労士がかかわっているので、抜かりないでしょう。もちろん思い通りにならなかった前医の診断書は破棄して無効にします。ここで法律的な疑問です。厳封された年金診断書を開封することは、信書開封罪(刑法133条)に当たらないでしょうか? 社労士が書いた指南書によると、当たらないと主張しています。その理由は、患者がその信書の「特定の受取人」である、患者が費用を負担している、そしてそもそも患者は自分の医療情報を見る権利があるとのことです。これは、法の解釈の間違いで、実際は信書開封罪に当たると考えられます。その理由は、まず、信書の「特定の受取人」は、厳密には提出先の年金事務所です。差出人である精神科医は、そのつもりで信書(診断書)を作成しており、患者を「特定の受取人」と認識していません。患者は信書(診断書)を運ぶだけの役割にすぎず、「特定の受取人」に当たりません。また、患者が負担する費用は、医療情報を信書(診断書)にするため精神科医の労力に当たります。そして、その信書(診断書)は公文書扱いです。費用を負担しているからといって、患者が受け取って自由にして良いものではありません。さらに、確かに患者が自分の医療情報を見る権利はありますが、それは、カルテ開示請求という正当な手続きを踏むことによって可能になります。厳封された封筒を開封することによってではないです。また、厳封する理由について考えてみましょう。社労士が書いた指南書によると、「診断書の内容を本人(患者)が見てショックを受けたり、余計な詮索をされたりすることを(精神科医が)懸念して、患者への配慮(があるから)」とのことです。確かに、そう思う精神科医もいるでしょう。しかし、それは大きな理由ではないです。なぜなら、先ほど触れたように、そもそもカルテ開示請求をすれば、患者は診断書を見ることができるからです。厳封する最大の理由は、診断書の書き換えによる不正の防止です。これは、公文書全般に言える当たり前のことです。年金診断書の原本が「丸裸」で患者に持ち運びされていること事態が、そもそも異常です。社労士は、確信犯的に「精神科医の配慮」などとのすり替えによって、厳封の理由を矮小化して患者に伝え、開封を正当化しています。なぜなら、そうしないと、彼らのビジネスが成り立たなくなってしまうからです。さらに、思い通りにならなかった前医の年金診断書を意図的に破棄して無効にすることは、実際には文書等毀棄罪(刑法258条、刑法259条)に当たると考えられます。このように、患者は社労士にそそのかされるのです。このやり口は、精神科医と患者の信頼関係を揺るがします。なぜ社労士はそこまで手を染めてしまうのでしょうか?3つ目は、責任がないという心理です(ノーリスク)。まず、診断書の内容について責任があるのは、診断書を作成する精神科医です。社労士は、あくまで「相談者」という立ち位置です。精神科医が作成する診断書は公文書扱いになりますが、社労士が作成する「病状報告書」と「診断書原案・訂正案」はあくまで一方的に送り付けた参考資料の扱いになります。また、厳封された診断書を開封したり破棄することについて責任があるのは、その行為をする患者です。社労士は、あくまで「助言者」という立ち位置です。つまり、社労士がやっていることは、違法とまでは言えないです。社労士の立ち位置は、権利を勝ち取る点では弁護士と同じですが、発言や文書に責任がない点では弁護士と違います。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 3

精神科医の「ブラックボックス」治は捕まった後に取り調べの刑事にのらりくらりと答えます。信代はいかに自分たちが悪くないかを刑事に切々と語ります。しかし、刑事たちは彼らの矛盾点を突き、思惑をすべて見破っています。ここでまた仮定の話です。治と信代が、社労士の指南のもと、精神科医に年金の診断書の作成を迫った時、精神科医はどうするでしょうか? 刑事と同じことができるでしょうか?最後に、精神科医の「ブラックボックス」を3つに分けてみましょう。(1)確かめようがない-良識年金の等級を決定付けるのは、日常生活能力がどれくらい落ちているかでほぼ決まります。これは、食事管理、清潔管理、金銭管理などの生活面で、どれくらいできないことがあるかで判定されます。ここで、患者が「できないことばかりだ」と言い張り、具体的にできないことを社労士がリストアップした「病状報告書」を持ってきたら、精神科医はどう思うでしょうか?1つ目は、確かめようがないという心理です。身体障害と違って、精神障害は、客観的な検査による根拠が基本的にありません。診断基準は、数値化されておらず、明確になっていません。どうしても、患者の訴えを根拠にするウェートが大きくなります。もちろん、明らかに矛盾した病状は却下できます。しかし、「できない」と言い張る患者に対して、「できる」と精神科医が言い返すには、実際に患者の自宅に精神科医が住み込んで、その様子を確かめるしかありません。また、患者の発言が90%の可能性で虚偽だと思っても、残りの10%で真実の可能性もあります。精神科医が責任を問われるのは、圧倒的に、患者を信じてだまされることよりも、だまされまいとして患者を信じないことです。なぜなら、患者は「弱者」だからです。そして、医師をはじめとする援助職は、基本的に「性善説」のスタンスで仕事をするべきと思われているからです。逆に言えば、これが精神科医の「弱み」です。つまり、良識的な精神科医ほど、なかなか患者の訴えを否定しないです。(2)争いたくない-平和主義精神科医は、どんな患者もどんな状況をも受容する姿勢で診療を行っています。つまり、基本的に患者の味方で、物ごとの白黒をはっきり付けないかかわりを好みます。なぜなら、それが病状を良くするからです。しかし、一方で、急に患者が社労士とタッグを組んで、障害年金を必死にとりにやって来たら、精神科医はどう思うでしょうか?2つ目は、争いたくないという心理です。なぜなら、精神科医は、白黒はっきりさせる刑事ではないからです。もともと味方に徹していただけに、年金の話になると、急に敵対的になるのは、やるせないです。そして、何より、その切り替えが難しいです。また、精神科医は、「心」を扱うだけに、明らかなウソを除いて、ウソっぽく聞こえても、表向きだけでも信じたふりをします(受容)。なぜなら、信頼関係を損ねたくないからです。そして、信頼関係が病状の安定につながるからです。とくに、開業医の場合は、「患者を失いたくない」「悪い噂を立てられたくない」「トラブルを避けたい」という心理もあるでしょう。これは開業医の「泣き所」です。つまり、平和主義の精神科医ほど、なかなか患者の訴えの真偽の白黒を付けないです。(3)時間がない-事なかれ主義精神科医は、ほかの科の医師と比べると、比較的に診療の時間に余裕があります。しかし、カルテをはじめとする書類作成は、ほかの科の医師と比べて、圧倒的に多いです。そんな中、患者と押し問答となり、何度も説明の時間を取られたり、何度も社労士から診断書の書き直しを迫られたら、精神科医はどう思うでしょうか?3つ目は時間がないという心理です。持久戦に持ち込まれると、精神科医は、これ以上時間を取られたくないので、確信犯的に「患者を信じる」という大義名分に逃げてしまうのです。なぜなら、先ほど説明した平和主義は、裏を返せば、事なかれ主義だからです。これでは社労士の粘り勝ちです。とくに、開業医は狙われます。なぜなら、もともと時間がないからです。開業医によっては、最初からスタッフに診断書の作成を任せて、最後にサインをするだけの場合もあります。この状況で、社労士から「診断書原案」が送られてきたら、ありがたくいただき、丸写しさせるでしょう。これは、社労士の「思うつぼ」です。つまり、事なかれ主義の精神科医ほど、患者の訴えを鵜呑みにしてしまいます。「障害年金ビジネス」の問題点は?精神障害年金の不正受給は、不正に年金を手に入れたい患者がいて、それを指南する社労士がいて、それに言いなりになる精神科医がいることで成り立つことが分かりました。これは、もはや「障害年金ビジネス」と呼べるでしょう。「貧困ビジネス」や「自立支援ビジネス」とからくりは同じです。これらが、表向きには「貧困をなくす」「ひきこもりを脱する」と言っておきながら、貧困者を貧困のままに、ひきこもりをひきこもりのままにすることで利益を追求します。これと同じように、「障害年金ビジネス」は、表向きには「障害者の権利を守る」と言っておきながら、障害者を「障害がある」ままにすることで利益を追求しています。このビジネスの問題点を、大きく3つあげてみましょう。(1)結局、患者のためにならない1つ目は、結局、患者のためにならないことです。たとえば、精神科医と患者の信頼関係を揺るがすことはすでに説明しました。これは、精神科医だけでなく、患者にとってもマイナスです。また、精神科医が言いなりにならなければ、その精神科医を代えるよう社労士が薦めることもマイナスです。そして何より、患者は、実は「障害がある」わけではなくなっているのに、「障害がある」ままにされることで、「病気だからしかたない」「障害があるから働かない」などと病人になりきってしまう心理を強め、その状況に甘んじて、リハビリや就労に消極的になることです(シックロール)。また、このビジネスモデルは、「もらえないはずの年金をもらえるようにしてあげますよ(だって精神科医の診断書に働きかけるから)」と患者の欲をあおることですが、実はもう1つあります。それは、「このままではもらえるはずの年金がもらえないかもしれないですよ(だって精神科医の診断書はいい加減だから)」と患者の不安をあおることです。つまり、もともと社労士の介入がなくても、もらえるはずの年金についても、あたかも社労士の介入によって「勝ち取った」という体裁にすれば、「成功報酬」を堂々と受け取ることができます。精神科医が障害年金についての理解や関心が乏しいとの指摘は、社労士による指南書に書かれています。確かに、この指摘は、精神科医が肝に命じるべきことです。しかし、両方とも、患者に揺さぶりをかけるという点では、やはり不適切であり、患者のためになりません。(2)不正で不公平である2つ目は、不正で不公平であることです。これは、当たり前の話になります。たとえば、「障害がある」ふりをする患者は、そうしない患者よりも、毎月6万5千円(基礎年金2級相当)を手にします。「障害がある」よう指南する社労士は、そうしない社労士よりも、1件あたり10万~50万円の高額報酬を手にします。そして、「障害がある」ことに言いなりになる精神科医のクリニックには、そうしない精神科医のクリニックから、不正に年金を手に入れたい患者が流れて増えていきます。これまで、社労士は、インターネットなどで知ってやってきた患者にしか介入してきませんでした。しかし、最近では、社労士が精神科クリニックに直接提携を持ちかけるという話を耳にします。これは、精神科医が年金診断書を希望する患者を社労士に紹介する見返りに、社労士が精神科医に紹介料を支払うというシステムです。そうすることで、社労士はこのビジネスの「取りこぼし」を減らすことができます。精神科医は、年金診断書の作成代行をしてもらえるばかりか、紹介料をもらえます。この提携は、精神科医が虚偽記載のリスクが高まる一方、社労士は「ノーリスクハイリターン」のままになります。これは、社労士にとって新たなビジネスモデルになりうるでしょう。(3)年金の財源を圧迫する現時点で、障害年金の受給者は、老齢年金に比べると、かなり少ないです。ただし、年金の財源が、危ういのは周知の通りです。今後、この「障害年金ビジネス」が広がったら、どうなるでしょうか?3つ目は、年金の財源を圧迫することです。端的に言えば、財源を食いつぶすことです。このビジネスの次のマーケットとして掘り起こされる可能性が高いのは、ひきこもりです。ひきこもりは、それ自体は精神障害とは認められておらず、年金の受給対象ではありません。働いていないとは言っても、日常生活に取り立てて制限はありません。ただし、社労士が指南をすれば、「うつ病」の診断で、2級(毎月6万5千円)が取れるでしょう。精神科医にとって、この「患者」の手ごわい点は、もともと就労していないこと、そして長年自宅にこもっているという状況証拠があることです。それに加えて、初診から、「うつ病」の症状を一貫して訴えられたら、そして実際には内服しないであろう抗うつ薬の処方をその「患者」が希望し続けたら、年金診断書を書かないわけには行かなくなります。つまり、このビジネスで圧倒的に損をするのは、国です。なぜなら、本来ないはずの支出が、「障害がある」ふりをした患者に支払った分(その一部はそれを指南した社労士に間接的に支払われるわけですが)、増えていくからです。また、一方で本当に「障害がある」患者は損をします。なぜなら、本来あるはずの受給金が、社労士に支払った分、減ってしまうからです。果たして、このような状況は、障害年金の制度として成り立つと言えるでしょうか? どうすれば良いの?それでは、一体どうすれば良いでしょうか? 今度は、精神科医、年金制度、社会の3つの立ち位置に分けて、それぞれの取り組みを一緒に考えてみましょう。<< 前のページへ

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双極性障害に対する抗うつ薬使用の有効性および安全性評価

 双極性うつ病に対する抗うつ薬の使用は、精神薬理学の中で最も議論の余地がある問題の1つである。抗うつ薬は、双極性うつ病の一部の患者において有用ではあるが、それ以外の患者に対しては使用すべきではないと考えられる。この問題に関して、ブラジル・リオデジャネイロ連邦大学のElie Cheniaux氏らがレビューを行った。Expert Opinion on Drug Safety誌2019年10月号の報告。 本レビューでは、双極性うつ病に対する抗うつ薬使用について、公表されている臨床試験を検討し、その臨床的有効性、副作用発現率、躁転、サイクル加速、自殺行動の評価を行った。メタ解析およびレビュー記事についても検討を行った。 主な専門家の意見は以下のとおり。・双極性うつ病に対して承認されている治療選択肢は、治療反応率がそれほど高くなく、副作用発現率が高かった。・双極性うつ病に対する抗うつ薬使用の治療反応は、不均一である。・一部の患者では有意な改善が認められる。しかし、とくに治療誘発性の躁症状を有する患者またはラピッドサイクラーの患者では、躁転やサイクル加速のリスクが高まる。 著者らは「真の問題は、双極性うつ病に対し抗うつ薬を使用すべきかどうかではなく、どの患者で抗うつ薬が有用であるか、どの患者で問題が起こるのかを明らかにすることである。双極スペクトラムの概念や双極性または単極性に関するアプローチが、抗うつ薬の不均一な治療反応を理解するうえで役立つ可能性がある」としている。

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がん患者の心身緊張感とトリガーポイント/日本サイコオンコロジー学会

 患者が訴える痛み-これを医療者が少しでも受け止め間違えると、鎮痛はうまくいかない。2019年10月11~12日、第32回日本サイコオンコロジー学会総会が開催。セミナー2「医療者が共感しにくい患者の背景に何があるのか?」において、蓮尾 英明氏(関西医科大学心療内科学講座)が「葛藤の中で生じるー症状としての心身症」について講演し、痛みを抱える患者の背景に迫った。本当は痛いのに我慢するのはなぜ? 客観的に見たらとても痛そうにしているのに、問いかけると「痛みは…大丈夫です」と答える患者に遭遇したことはないだろうか? このような患者にこそ、実は本当の気持ち(甘えたい、辛さを共有してもらいたい…)を話したい、という感情が潜んでいることがある。しかし、医療者は「言ってくれないとわからない」と考えてしまいがちである。これについて蓮尾氏は「言語化できない、器用さを備えていない患者もいる」とし、心身症を抱えるがん患者の存在を強調した。 心身症とは、身体疾患のなかでその発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態である。がん疼痛は器質的要因、がん患者の一番の痛み原因と言われる筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は機能的要因に位置づけられる。実際、日本人の進行がん患者の31~45%がMPSを訴え、がん疼痛とMPSの併存率は64%に及ぶ1)。これについて、「がん疼痛をかばう動作から生じる二次的なMPSであることが多い」と、同氏は言及した。 この二次的なMPSはがん疼痛部の直上にできることが多く、がん疼痛が取れたとしてもMPSによる痛みを取り除けていない状況が生じてしまう。同氏は「MPS診断の参考基準に“ストレスによって悪化する”という項があることからも、MPSには心身症患者が含まれることが明らか」と特徴づけ、「医療者は心理的な部分に介入しがちだが、MPSを通して心と身体の緊張が関連していることを伝える」など、患者への寄り添い方を説明した。緊張感の感覚に気づいてもらうことが重要 疼痛コントロールがうまくいかない背景として、心身症の特性であるアレキシサイミア(失感情症)の存在を忘れてはならない。がん患者においてアレキシサイミアは約50%も存在することが明らかになっている2)。アレキシサイミアを疑うポイントは、1)感情・感覚をラベリングすることの困難さ、2)感情・感覚を他人に伝えることの困難さ、3)対外志向的考え方、4)空想力・想像力欠如、の4つであるが、いずれも本人の感情・感覚に対する“気づきの乏しさ”が問題である。たとえば、アレキシサイミアのあるがん患者の多くは、心の緊張感、身体の緊張感ともに気づきの乏しさがある。 このような患者にはMPSの存在を感じてもらうため、TP注射や虚血圧迫法などを用いて、一時的に緊張感の軽減を図ることが重要である。そこで、同氏はオピオイド不応の腰痛が直面化を促す時期に一致して増悪した患者にTP注射を実施した。その結果、「患者は処置後の緊張感の軽減に驚き、身体の緊張感の存在に気づいた」と、身体の緊張感の存在を気づかせるアプローチ法の有用性を報告した。さらに、「身体の緊張感の軽減が図れると、自然に心の緊張感の軽減が図れ、さまざまな感情の表出が増える(身体化→言語化)」と、付け加えた。 最後に同氏は、「心身症を疑うなかで、とくに感情を伴わず淡々と身体症状を訴える患者の場合、身体感覚を気づかせるためには、このような身体的アプローチが導入しやすい」と締めくくった。

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PTSDに対するVR療法の有効性~メタ解析

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する仮想現実を用いた治療(virtual reality exposure therapy:VRET)は、注目すべき新たな治療法であるが、その有効性および安全性は明らかになっていない。中国・安徽医科大学のWenrui Deng氏らは、PTSD患者に対するVRETの有効性を調査し、関連する潜在的な調整因子を特定するため、システマティック・レビュー、メタ解析を行った。Journal of Affective Disorders誌2019年10月1日号の報告。 各種データベース(PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、PsycInfo、Science Direct、EBSCO)より検索を行った。ランダム化比較試験(RCT)13件(654例)、単群試験5件(60例)を含む18件のPTSDに関する研究を特定した。 主な結果は以下のとおり。・主要有効性分析では、VRETは、PTSD症状コントロール状態患者と比較し、中程度のエフェクトサイズが検出された(g=0.327、95%CI:0.105~0.550、p<0.01)。・サブグループ分析では、アクティブコントロール群(g=0.017)よりもインアクティブ群(g=0.567)において、VRETの効果が大きかった。・本知見は、抑うつ症状においても一致していた。・用量反応関係が認められ、より多いVRETセッションで、より大きな効果が認められた。・PTSD症状に対するVRETの長期的な効果が認められており、フォローアップ3ヵ月(g=0.697)および6ヵ月(g=0.848)において症状の持続的な減少が認められた。・単群試験の分析では、VRETがPTSDに有意な影響を及ぼすことが示唆された。・戦争関連のPTSD患者の多くでは、メタ解析の推定値およびその後の結論において不確実性が認められた。 著者らは「VRETは、PTSD症状の有意な軽減が期待できる治療法であり、PTSD治療における実践は支持される」としている。

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第31回 先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第31回:先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~連載をはじめた当初、“2週に1回”の連載タイミングで、心電図の話題をいつまで続けられるかなぁ?…正直そう思っていましたが、気づけば前回で30回の“壁”を越えました。心電図って、本当に話題が尽きないんです(笑)。今回は、一見“なんてことない”状況が心電図と真正面から向かい合うことで一変する…そんな共体験をDr.ヒロとしましょう!症例提示89歳、女性。高血圧などで通院中。20XX年6月末、食事や入浴も平素と変わりなく、22時頃に就寝した。深夜1:30に覚醒し、強い悪心を訴え数回嘔吐した。下痢なし。嘔吐後、再び床に着くも喉元のつかえ感と悪心がおさまらず、早朝5:00に救急要請した(病着5:20)。前日の晩は家族と自宅でお好み焼きやキムチ、チャンジャを食べたが、同居家族に同様の症状の者はいない。来院時バイタルサイン:意識清明、顔色不良、体温36.2℃、血圧107/38mmHg、脈拍50~80拍/分・不整、酸素飽和度98%。来院時心電図を示す(図1)。(図1)救急外来時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しくないものを2つ選べ。1)心室内伝導障害2)ST低下3)ST上昇4)低電位(肢誘導)5)第1度房室ブロック解答はこちら1)、5)解説はこちら今回の症例は、悪心と嘔吐を主訴にやって来た高齢女性です。救急外来では“よくある状況”で、「感染性胃腸炎」や「食中毒」と判断してもおかしくない病歴かもしれません。でも、問題は心電図の読みです(笑)。救急外来の“ルーチン”か、はたまた「吐いた後にも喉のつかえ感が残る」という訴えがあったためか、いずれにせよ記録した以上はきちんと読む-これを徹底してください。もちろん「系統的判読」(第1回)を用いてね。1)×:「心室内伝導障害」(IVCD*1)とは「脚ブロック」をはじめ、QRS幅が幅広(wide)となる波形異常の総称です。後述するST-T部分が紛らわしいですが、今回はQRS幅としては正常(narrow)です。2)○:ST部分のチェックは、基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)とJ点(QRS波の切れ目)の比較でしたね。肢誘導ではI、aVL、そして胸部誘導ではV1~V5で1mm以上の「ST低下」が見られます。目を“ジグザグ運動”させることができたら、異常を漏れなく抽出できるはずです(第14回)。ちなみに自動診断では誘導が正しく拾い上げられていないことにも注目してください。3)○:この心電図では、広汎な誘導で「ST低下」が目立ちますが、ニサンエフ(II、III、aVF)では「ST上昇」が見られます。これも見逃してはなりません。4)○:「低電位(差)」は肢誘導と胸部誘導とで診断基準が異なります*2。「すべての肢誘導で振幅≦0.5mV」これが肢誘導の基準です。QRS波が5mm四方の太枠マスにすっぽり入れば該当し、今回は満たしています。5)×:これは、ボクの語呂合わせでは“バランスよし!”の部分に該当します。「PR(Q)間隔」とはP波とQRS波の“つかず離れず”の適度な距離感、これが“バランス”と表記した意味になります。上限値は200ms(0.2秒)ですが、「第1度房室ブロック」と診断するのは240ms(0.24秒)以上、すなわち小目盛り6個以上で、とボクは推奨しています。ただし、「P:QRS=1:1」である必要があり、普通、R-R間隔は整ですので、今回は該当しません。詳細は次問で解説します。*1:Intraventricular Conduction Disturbance*2:胸部誘導では2倍の1.0mV(1cm)がカットオフ値だが、肢誘導よりも圧倒的に少ない。【問題2】自動診断では「心房細動」となっている。これは正しいか?解答はこちら正しくない解説はこちらまた出た! Dr.ヒロの“自動診断いじり(笑)最近の心電計の診断精度は上がっているんですよ。ただ、時に機械は間違います。そんな時に信じられるのはただ一つ。そう、自分、人間の目です。“目立つ所見だけ言えてもダメ”心電図(図1)を見て目に飛び込んでくる華々しい「ST変化」…これだけに気をとられて、「調律」が何かを意識できなかった人はいますか? それじゃ、帽子をかぶって上着を着て、ズボンもはかずに外出するようなもの(下品な例えでスイマセン)。目立つものだけ指摘して、ほかの心電図所見を見落とすということは、それくらい“不十分”なことなんです。“レーサー(R3)・チェック”を活用すれば不整脈のスクリーニングにもなるんです*3。*3:1)R-R間隔:整、2)心拍数:50~100/分、3)洞調律のいずれか1つでも満たさなければ、その心電図には「不整脈」があると認識するのだった。R-R間隔は不整、心拍数は新・検脈法で60/分(第29回)。そして残りは“イチニエフの法則”ですね(第2回)。P波に注目です。QRS波ちょっと手前の“定位置”にP波がいない…?P波が「ある」ように見える部分と「ない」部分が…?「PR(Q)間隔」も伸びたり縮んだりしている…?イチニエフ…と見ていく過程で、こう感じた人は少なくないのではと思います。こういう時、まず当たりをつけるのに適した誘導はV1誘導です。右房に正対する位置で、距離的にも前胸壁で一番近くP波が見やすいです。さらに、この特徴に加え、二相性(陽性-陰性)のことが多く波形的にも目を引きやすいのもオススメな理由です。“P波探し”は不整脈の解析の肝であり、ちょっと慣れたら、次のようにビシッと指摘できるでしょう(図2)。(図2)V1誘導のみ抽出画像を拡大する大事なことですので、ぜひ拙著などでご確認ください(笑)。P波がコンスタントにある時点で「心房細動」ではないですよね? 実は、P波の間隔はほぼ一定で、1個目や5個目で「P-QRS」の順番が途切れており、これだけで「第2度房室ブロック」の「ウェンケバッハ(Wenckebach)型」と呼ばれるタイプだと指摘できる人は素晴らしい。5秒だと短いので、こういう時には、「手動(マニュアル)記録モード」にして長く記録すると良いでしょう。R-R不整が強く、心電計は「心房細動」と考えましたが、われわれはそれに釣られてはいけませんね。【問題3】来院後、再び嘔吐した。混血はなく、食物残渣・胃液様であった。心筋トロポニンT(cTnT):陰性、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP):陽性であった。対応について正しいものを選べ。1)消化器症状が強いため、「“おなかの風邪”か“食あたり”でしょう」と説明して帰宅させる。2)制吐剤を含む点滴と内服処方を行い、後日外来での上部消化管内視鏡を薦める。3)H-FABPは偽陽性と考え、cTnTが陰性なことから急性冠症候群(ACS)は否定的と考える。4)救急外来で数時間待ってから採血と心電図を再検し、日中の通常業務の時間帯に入ってから循環器科にコンサルトする。5)自院で緊急心臓カテーテル検査が可能なら循環器医をコール、不可能なら即座に専門施設へ転送する。解答はこちら5)解説はこちら今回の高齢女性の主訴は悪心・嘔吐です。来院直後にベッドの上で嘔吐しました。90歳近い高齢であることを除けば“あるある”的な救急患者ですし、症状だけならば胃腸疾患と思えなくもありません。ただし、心電図を見てしまったらそうはならないはずです。「ST上昇」と「ST低下」が特定のコンビネーションで認められたら、何を考えますか? また、心筋バイオマーカーはどうでしょう?「ラピチェック® H-FABPなどの検査では偽陽性も多いし、トロポニン陰性だから大丈夫でしょ」そう考えるのもまたアウト。「何のために心電図をとったの!」ということになってしまいますね。“心電図をどう解釈するか”われわれ人間の性か、現行の心電図教育の関係かはわかりませんが、症状ごとに胸痛ならST変化に一点集中とか、心疾患っぽくなかったら心電図は見なくていいとか…さまざまな“決め打ち”や先入観が“心電図の語る真実”を見逃す原因になります。“とるなら見よ”、しかもきちんと―これがボクからのメッセージです*4。心電図を眺める時、いったんすべて忘れ去り、真っ白な心で読むのでしたね(第10回)。心電図(図1)で最も目立つのはST変化で、肢誘導ではII、III、aVF誘導の「ST上昇」、そしてI、aVL誘導の「ST低下」が認められます。ここで久しぶりに“肢誘導界”の円座標を登場させましょう。まずスタートは、aVLとIIIとが正反対に近い位置関係にあるということ(図3)。(図3)位置的に対側関係にある誘導は?画像を拡大する“大きな心”でとらえてくださいね。ST上昇のあるニサンエフ(II、III、aVF)とイチエル(I、aVL)って、心臓をはさんで反対の位置関係にありますよね? こうした真逆の2方向の組み合わせでST上昇・低下が見られた場合*5、“発言力”があるのは「ST上昇」のほうで、ほぼ確実にSTEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断となります。もちろん、できたら以前の心電図と比較して、過去にない「変化」が起きているのを確認できれば、なお確実性が高まります。今回の例は「下壁梗塞」疑いです。エフ(aVF)は“foot”ですから、何も覚えることなく「下壁」ですよね。加えて右冠動脈の近位部閉塞に伴う下壁梗塞の場合、時に房室ブロック(今回は第2度)を伴うという事実とも合います。ですから、心電図をとってDr.ヒロ流でキチンと読みさえすれば選択肢の5)が正しいとわかるでしょう。「STEMI=即、心カテ」はガイドラインでも銘記されています。ちなみに、選択肢3)は心筋バイオマーカーに関するものですが、汎用されるcTnTが陰性だから、ACSの可能性を否定してしまう選択肢4)のような対応もよくある誤りです(心電図を苦手にする人ほどこうしたミスを犯しがち)。STEMIでも発症後数時間のごく初期の段階ではトロポニン陰性も珍しくないんです。*4:その逆で“見ないならとるな”は間違い。さらに“見られないからとらない”は厳禁!…ちまたでは見かけるのも事実だが。*5:V1~V5の「ST低下」についても、V5はイチエルと“ご近所”(側壁誘導)、V1~V4は心臓の“前”で、II・III・aVFは“下≒後”と考えると対側性変化の一環として説明・理解できる。“「読めるか」より「とれるか」”心電図(図1)は波形異常と不整脈が混在し、それなりに読み甲斐のある心電図だと思います。ただ、この症例で一番難しいのは、心電図を「読めるか」より「とれるか」という点です。「気持ち悪い、吐きそう、吐いた、ノドのあたりがむかむか…」そんな訴えから胃腸疾患と決めつけてしまったり、看護師さんに「先生、これで心電図とるの?」と言われて“場の雰囲気”を重視したりすると痛い目にあいます。心筋梗塞の患者は、皆が皆、「強い前胸部痛」という典型症状で来院される方ばかりではありません。非典型例をいかに漏らさず拾えるかが、“できる”臨床医の条件の一つだとボクは思います。代表的な非典型的症状は、肩や歯の痛みですよね。また、今回の症例のように悪心や嘔吐なんかの消化器症状が目立って、心筋梗塞でテッパンの胸部症状がかすんでしまうこともあります。下壁梗塞の多くは、灌流域に迷走神経終末の多い右冠動脈の閉塞が原因であることから、胃部不快や嘔吐が多いと説明されています。心筋梗塞と嘔吐の関係を調べた古い文献によると、貫壁性(transmural)心筋梗塞の43%に嘔吐を伴い、前壁:下壁=6:4*6だったとのこと。時代やお国の違いこそあれ、さすがに普段の印象には合わない感じもしていますが…どうでしょう、皆さま?*6:重症の前壁梗塞によるショック状態で嘔吐が見られることがある。■非典型症状をきたす3大要因■(1)高齢者(2)女性(3)糖尿病今回の症例が難しいのは“何でもあり”の「高齢者」であること以外に「女性」であるわけです。女性の心筋梗塞は男性よりもわかりにくい症状なのは有名で、この連載でも扱ったことがあります(第6回)。“救急では心電図のハードルを下げよ”以上、消化器症状が強く出た高齢者の非典型的STEMI症例でした。『患者さんの訴えが心窩部より上のどこかで、それに対して“深刻感”を感じたならば心電図をとる』これをルーチンにすれば“見落とし”が少しでも減ると思います。とは言え、多忙な救急外来ではとかく“ハイ、胃腸炎ね”と片付けてしまい、ボク自身も反省すべき過去がないとは言えません。12誘導心電図は保険点数130点ですから、『3割負担の方でも“ほか弁”ないし“スタバのコーヒー”くらいの値段で大事な検査が受けられますよ』、と患者さんにも普段から説明するようにしています。多少は手間ですが、患者さんには無害な検査です。“空飛ぶ心電図”で谷口先生にお話を伺った際、「顎と心窩部にはさまれた部分」で一定の症状があったら、心電図を“とりにいく”姿勢の大事さを学びましたよね(第27回)。とくに救急現場では心電図はバイタルサインの次くらいに軽い気持ちでとるほうが無難です。くれぐれも心電図の苦手意識から「心電図をとるの、やめとこかな…」は“なし”にしましょう!! Take-home Message1)対側性変化で説明できるST上昇・低下が共存したらSTEMIと診断せよ。2)非典型症状に潜む“隠れ心筋梗塞”に注意せよ!~時に悪心・嘔吐が前面に出ることも~3)下壁梗塞では房室ブロックを合併することあり。1)杉山裕章. 心電図のはじめかた. 中外医学社;2017.p.128~137.【古都のこと~勧修寺雪見灯篭~】山科区の勧修寺(山号:亀甲山)は、前回・前々回と紹介した随心院からも徒歩10分圏内です。お恥ずかしながら、最近訪れるまでは「かんしゅうじ」と呼んでいましたが、実は「かじゅうじ」です*1。真言宗山階派の大本山で、醍醐天皇の母、藤原胤子(ふじわらの たねこ/いんし)の菩提を弔うため、平安中期の昌泰3年(900年)に創建されました。母方の実家である宮道(みやじ)家邸宅を寺に改め、父・藤原高藤*2の諡(おくりな)から「勧修寺」と命名されました。白壁の築地塀を横目に歩き山門から入って程なく、書院の庭には水戸光圀*3の寄進とされる「雪見灯籠」*4があります。周囲が樹齢約700年とも言われるハイビャクシンの枝葉に覆われているので、ボクは二、三度通り過ぎてようやくどれかわかりました(笑)写真はちょうど真裏から眺めた様子で、本当に前からは見えない! この灯籠のフォルムは「勧修寺型」と呼ばれ、灯籠の代表的パターンの一つらしいです。「京都へ来られたら見て通(トオ)ろう」というジョークが書かれた看板に微笑したのでした。*1:この辺りの住所は「かんしゅうじ○○町(ちょう)」というからややこしい。*2:高藤が山科で鷹狩りをした際、偶然雨宿りに訪れた宮道弥益(いやます)宅で娘の宮道列子を見初め、一夜の契りを交わした。後に列子を正室(妻)として迎え、娘の胤子は宇多天皇の女御(后)となって後醍醐天皇を産んだ。当時、中下流一家から皇族に入ることはあり得ず、『今昔物語』に記されたこの列子(「たまこ」とも読む)の成功譚が“玉の輿”の語源の一つともされる。ちなみに藤原高藤は紫式部の祖先であり、『源氏物語』に登場する光源氏と“明石の君”との恋バナは列子と高藤の話がモチーフだという話も。どれだけ奥深いんだ!…歴史って。*3:TVなどでお馴染みの“水戸黄門”とはその人。*4:「笠に積もった雪を鑑賞して楽しむためのもの」「笠の形に雪が積もった傘ように見える」「灯りを点すと(近江八景の)浮見堂に似ており、それが訛った」など諸説あるよう。

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せん妄経験と退院後の認知症発症との関連

 高齢者の急性疾患におけるせん妄発症は、退院後の認知症発症と関連があるかについて、ブラジル・サンパウロ大学のFlavia Barreto Garcez氏らが調査を行った。Age and Ageing誌オンライン版2019年9月30日号の報告。 2010~16年に3次医療の大学病院老年病棟に連続的に入院した60歳以上の急性疾患高齢者を対象に調査を行った。包括基準は、入院時のベースライン認知機能に低下が認められず、退院後12ヵ月間の臨床的フォローアップを実施した患者とした。すべての患者について標準化された包括的な高齢者評価結果を含む入院データは、ローカルデータベースより収集した。事前の認知機能低下は、病歴、CDR、IQCODE-16に基づき特定した。せん妄の評価には、簡易版CAMを用い、退院後12ヵ月後の認知症発症は、医療記録のレビューに基づいて特定した。せん妄と退院後の認知症発症との関連は、競合リスク比例ハザードモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は309例(平均年齢:78歳、女性:186例[60%])、そのうち66例(21%)でせん妄が発症していた。・24ヵ月(フォローアップ中央値)後、認知症を発症した患者は、せん妄経験患者で21例(32%)、せん妄未経験患者で38例(16%)であった(p=0.003)。・可能性のある交絡因子で調整した後、せん妄は、退院後の認知症発症と独立して関連が認められた(サブハザード比:1.94、95%CI:1.10~3.44、p=0.022)。 著者らは「入院中にせん妄を経験した急性疾患高齢者の3人に1人は、退院後のフォローアップ期間中に認知症を発症していた。せん妄は、予防可能な認知機能低下の独立したリスク因子であり、せん妄予防の重要性が示唆された」としている。

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急性期統合失調症患者に対するブレクスピプラゾール切り替え療法

 他の抗精神病薬からブレクスピプラゾールへの切り替え時のクロスタイトレーションスケジュールの忍容性および有効性を評価するため、米国・ザッカーヒルサイド病院のChristoph U. Correll氏らは、ブレクスピプラゾール試験のデータを用いて比較検討を行った。CNS Spectrums誌2019年10月号の報告。 対象の統合失調症患者は、1~4週間の非盲検期間中に、他の抗精神病薬からブレクスピプラゾールへクロスタイトレーションされ、その後、単盲検ブレクスピプラゾール治療試験に移行した。切り替え期間に応じて、対象患者を4群に分類した。中止率、治療により発生した有害事象(TEAE)、効果(PANSS)について、群間比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール治療を行った404例のうち、72%は切り替え期間が22~33日であった。・効果不十分または有害事象による中止率は、いずれの切り替え期間においても低かった。・8週間のブレクスピプラゾール治療へ切り替えが完了した292例における切り替え期間の内訳は、1~7日が2.4%、8~14日が6.5%、15~21日が11.0%、22~33日が80.1%であった。・8週間のTEAE発生率は、22~33日で切り替えを行った群(44.4%)が他群(62.5~84.2%)よりも低かった。しかし、切り替え期間の短い群は症例数が少ないため本知見は制限される。・各群において、PANSS合計スコアの改善が認められた。 著者らは「ブレクスピプラゾールへの切り替えは、多くの患者において22~33日間かけて行われていた。患者のニーズに対する最適な切り替え方法を選択するうえで、短期切り替えに関する追加データが役立つと考えられる」としている。

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ソシオパスの告白【Dr. 中島の 新・徒然草】(295)

二百九十五の段 ソシオパスの告白最近読んで面白かった本の1つが、『ソシオパスの告白』です。著者はM・E・トーマスという米国人で、30代の女性弁護士。御自身がソシオパスなので、いわゆる当事者研究になります。ソシオパスとは、良心を持たず、他人に対する共感という感情が全くない人です。よく言われるサイコパスとほぼ同義語です。彼女が、あえて自分のことをソシオパスと呼んでいる理由は、サイコパスには否定的な意味があるからだということです。つまり、彼女自身はサイコパスを必ずしも否定的にとらえていないのです。さて、ソシオパスといえば、平気で嘘をついたり人を殺したりする乱暴者、というイメージがあります。トーマス嬢によれば、これはとんでもない誤解です。良心がなくても、社会的に成功しているソシオパスが沢山いるのだとか。彼女の勤めていた法律事務所にも、どうみてもソシオパスとしか思えない同僚弁護士がいたそうです。では、なぜソシオパスに悪いイメージがつきまとうのか? それは、ソシオパス研究の多くが刑務所に入っている囚人を対象にしたものだからです。つまりは、サンプリングバイアスですね。ある統計によれば、刑務所の中にいるソシオパスの割合はわずかに20%に過ぎず、この数字は、一般社会に占めるソシオパスの割合である1~4%よりも多いものの、囚人の全員がソシオパスではない、ということがわかります。良心を持っていながら犯罪に手を染める人が多い一方、どんなに良心を持っていなくても、損得勘定ができれば刑務所に行く羽目にはなりません。トーマス嬢のお仲間のソシオパスが、次のような意味の事を言っています。「俺は人を殺しても良心の呵責とやらに悩まされることはない。だからといって人を殺したりはしないよ。人を殺したって何の得にもならないし、それがバレたら大変な罰が待っている。法律を守っている方がこの世は楽しく暮らせるんだ」とはいえ、ソシオパスには良心がないので、社会における善悪をいちいち学ばなくてはならない、という不自由さはあるようです。普通の人には良心があるので、自分の良心に従ってさえいれば、罪を犯す可能性は極めて低いわけですから。さて、トーマス嬢の分析によれば、ソシオパスはリスクに対する感覚が人とは大きく違っているそうです。彼女自身もバイクの運転や素手の喧嘩、バンジージャンプなんかが大好きで、恐怖心というものが全くないのだとか。なので、ソシオパスが向いている仕事として、兵士(特に爆弾処理班)、スパイ、ヘッジファンド運用者、政治家、パイロット、水中溶接工、消防士などを挙げていますが、なんと外科医もソシオパスが能力を発揮できる仕事の1つに入れられていました。確かに、外科医はリスクテイカーのほうが成功しているような気がします。もちろん、リスクを完全に無視してしまったら単なるアホウであり、外科医にもある程度の慎重さは必要です。この本の著者は、仮名で出版したにもかかわらず本名がバレてしまい、法律を全く破っていないのに、教鞭をとっていた大学から追放されたばかりか、キャンパスの1,000ヤード以内に接近することが禁止されてしまいました。この接近禁止エリアの中には、自分の銀行の支店、ジム、よく使う公共交通機関の停留所の半分が含まれているといって著者は憤慨しています。面白いのは、生活が不自由になったのが著者の不平の理由であって、自分が差別されて悲しんでいるのでもなさそうなところです。ちょっとズレていますね。ということで、この『ソシオパスの告白』。ソシオパス本人の視点で見た世界が面白く、また彼らの独特の考え方を知っておくのも役に立ちそうなので、皆さまにもお勧めする次第です。ぜひ読んでみて下さい。最後に1句ソシオパス 理屈が人と 違うだけ

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魚類や多価不飽和脂肪酸摂取と産後うつ病リスク~JECS縦断研究

 妊婦は、胎児の成長に必要なn-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)のレベルを高める必要がある。母親の魚類やn-3 PUFAの摂取が、産後うつ病リスクを低下させることを示唆するエビデンスが報告されているが、その結果に一貫性はない。富山大学の浜崎 景氏らは、日本人女性における妊娠中の魚類やn-3 PUFAの摂取と産後うつ病リスクとの関連について調査を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2019年9月19日号の報告。 日本人集団において、出産後6ヵ月までの母親の産後うつ病リスクおよび1年間の重篤な精神疾患リスクの低下に、妊娠中の魚類やn-3 PUFAの食事での摂取が関連しているかについて調査を行った。JECS(子どもの健康と環境に関する全国調査)の10万3,062件のデータより除外と重複処理を行った後、出産後6ヵ月は8万4,181人、1年間は8万1,924人について評価を行った。リスク低下の評価には、多変量ロジスティック回帰および傾向テストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月間では、産後うつ病リスクの低下が認められ(魚類およびn-3 PUFA摂取の五分位:第2~第5五分位)、傾向テストでも有意な線形関連が認められた。・1年後では、重篤な精神疾患リスクの低下が認められ(魚類の五分位:第2~第5五分位、n-3 PUFAの五分位:第3~第5五分位)、傾向テストでも有意な線形関連が認められた。 著者らは「魚類やn-3 PUFA摂取量の多い女性では、出産後6ヵ月間の産後うつ病リスクおよび1年間の重篤な精神疾患リスクの低下が認められた」としている。

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アルツハイマー病の症状を抑制する初の薬剤となるか~aducanumab第III相試験の新たな解析結果

 バイオジェンとエーザイは2019年10月22日、早期アルツハイマー病(AD)患者に対する第III相試験において無益性解析に基づき中止となったaducanumabについて、中止後に新たに利用可能となったデータを追加し解析した結果から、米国食品医薬品局(FDA)との協議に基づいて、2020年に承認申請を予定していることを発表した。aducanumabが承認された場合、早期アルツハイマー病の臨床症状悪化を抑制する最初の治療薬となるとともに、アミロイドベータ(Aβ)の除去が臨床上のベネフィットをもたらすことを実証する世界初の薬剤となるという。 臨床第III相試験であるEMERGE試験(1,638例)および ENGAGE試験(1,647例)は、aducanumabの2つの投与量群について有効性と安全性を評価する多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験。両試験は、事前に計画したより早期で小さなデータセットでの無益性解析の結果に基づき、2019年3月に中止された。 その後、新たに利用可能となったデータを追加し、18ヵ月間の試験期間を完了した2,066例を含む、合計3,285例の被験者のデータを解析した。その結果、ENGAGE試験については主要評価項目を達成しなかったが、EMERGE試験については、aducanumabの高用量投与群が主要評価項目であるClinical Dementia Rating-Sum of Boxes(CDR-SB)において、78週でのベースラインからの臨床症状悪化について、プラセボ投与群に比較して統計学的に有意な抑制を示した(23%抑制、p=0.01)。副次評価項目についても、プラセボ投与群に比較して、Mini-Mental State Examination(MMSE)が15%抑制(p=0.06)、AD Assessment Scale-Cognitive Subscale 13 Items(ADAS-Cog13)が27%抑制(p=0.01)、AD Cooperative Study-Activities of Daily Living Inventory Mild Cognitive Impairment Version(ADCS-ADL-MCI)が40%抑制(p=0.001)と、それぞれ一貫した抑制傾向を示した。また、アミロイドプラーク沈着のイメージングにより、aducanumab低用量群および高用量群の両群において、投与26週および投与78週でプラセボ投与群と比較して、アミロイドプラーク沈着の減少が確認された(p<0.001)。 両試験において報告された最も一般的な有害事象は、アミロイド関連画像異常(ARIA-E(浮腫))と頭痛であった。ARIA-Eが発症した被験者群のほとんどは、無症候性であり、ARIA-Eは4週から16週間以内にほとんど解消し、長期間におよぶ臨床的後遺症もなかった。 バイオジェンは、2019年12月に開催されるアルツハイマー病臨床試験会議(CTAD2019)で、EMERGE試験およびENGAGE試験の本解析に関する、より詳細な結果を発表予定。

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統合失調症の治療反応とグルタミン酸およびGABAレベルとの関連

 ドパミン作動性抗精神病薬に対する治療反応不良は、精神疾患の治療における大きな課題であり、初発時に治療反応不良患者を特定するマーカーが求められている。これまでの研究で、初発時の治療反応不良患者では治療反応患者と比較し、グルタミン酸(Glu)およびγ-アミノ酪酸(GABA)レベルが増加していることがわかっている。しかし、健康対照群の参照レベルを用いて、治療反応不良患者を特定できるかはよくわかっておらず、デンマーク・コペンハーゲン大学のKirsten B. Bojesen氏らが検討を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2019年9月16日号の報告。 抗精神病薬未使用の初回エピソード精神疾患患者群39例、マッチさせた健康対照群36例を対象に、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)および3T磁気共鳴分光法を用いて、繰り返し評価を行った。Glu/総クレアチニン(Cr)レベルは、前帯状皮質(ACC)および左視床で測定し、GABA/CrレベルはACCで測定した。6週間後、アリピプラゾール単独療法患者群32例および健康対照群35例を再検査し、26週間後に、自然主義的な抗精神病薬治療患者群30例および健康対照群32例を再検査した。治療反応不良の定義には、Andreasenの基準を用いた。 主な結果は以下のとおり。・治療前では、患者群全体において視床におけるGlu/Crレベルが高かったが、治療後には正常化した。・ACCにおけるGlu/CrおよびGABA/Crレベルは、すべての評価時で低く、治療による影響は認められなかった。・健康対照群と比較すると、6週目(19例)および26週目(16例)の治療反応不良患者は、ベースライン時の視床におけるGlu/Crレベルが高かった。・さらに、26週目の治療反応不良患者は、ベースライン時のACCにおけるGABA/Crレベルが低かった。・治療反応患者と健康対照群では、ベースライン時のレベルに違いは認められなかった。 著者らは「抗精神病薬未使用の精神疾患患者におけるGlu作動性およびGABA作動性の異常は、抗精神病薬に対する治療反応不良を引き起こすと考えられる。このことは、初回エピソード精神疾患患者の臨床的予後を予測するために役立つ可能性がある」としている。

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