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アルポート症候群〔AS:Alport syndrome〕

1 疾患概要1-3)■ 概念・定義アルポート症候群(Alport syndrome:AS)は、古典的には進行性の遺伝性腎症(しばしば腎炎とも呼ばれる)に難聴を伴う症候群をさすが、近年ではIV型コラーゲン遺伝子バリアントによるものとするのが一般的である2、3)。■ 疫学約8割がX連鎖型であるが、常染色体劣性・優性のものもある。頻度は欧米の報告では1/5,000~1/10,000で、人種差や地域差はないと考えられている。また、約50,000出生に1例との報告がある。■ 病因1,3)ASの原因は、IV型コラーゲンの遺伝子バリアントである。1)IV型コラーゲンとα鎖IV型コラーゲンの網目状ネットワークを形成する基本分子はモノマーと呼ばれ、3本のα鎖がらせんを巻いた構造をしている。α鎖はN末端側のGly-X-Yの繰り返し構造をもつ約1,400残基のコラーゲンドメイン(collagenous domain)と、C末端側の約230残基の非コラーゲンドメイン(NC domain)からなる。IV型コラーゲンの構成鎖はαl〜α6鎖が知られているが、α6鎖は糸球体基底膜には存在しない。生体においてらせんを形成する3本のα鎖の組み合わせは、(1)αl-α1-α2、(2)α3-α4-α5、(3)α5-α5-α6の3種類である。2つのモノマーがC末端側の非コラーゲンドメインで結合してダイマー、4つのモノマーがN末端側のコラーゲンドメインで結合してテトラマーを形成する。モノマー、テトラマーが互いに絡み合い、かつ側面で結合しIV型コラーゲンのネットワーク構造を形成する。α1、α2鎖は糸球体基底膜以外にもメサンギウム基質、尿細管基底膜、血管基底膜など、腎組織に広範に存在する。一方、α3、α4、α5鎖は糸球体基底膜、ボーマン嚢、一部の尿細管基底膜に限局して存在する。α6鎖は糸球体基底膜には存在せずボーマン嚢に発現している。2)IV型コラーゲン遺伝子1,3)IV型コラーゲン遺伝子はいずれも非常に大きく約250kbある。αl、α2鎖をコードするCOL4A1、COL4A2遺伝子は13番染色体上に、α3、α4鎖をコードするCOL4A3、COL4A4遺伝子は2番染色体上に、α5、α6鎖をコードするCOL4A5、COL4A6遺伝子はX染色体上に存在する。したがって、大部分を占めるX連鎖型ではα5鎖、常染色体性ではα3またはα4鎖の遺伝子バリアントが原因である。これらの遺伝子バリアントにより、糸球体基底膜に存在するIV型コラーゲン分子のネットワークの破綻が引き起こされる。■ 症状3)病初期には血尿が唯一の所見となる。血尿は持続性の顕微鏡的血尿に、発熱時などに肉眼的血尿を伴うことが多い。タンパク尿は進行とともに増加していき、ネフローゼ症候群を呈することもよくある。発熱時の肉眼的血尿はIgA腎症でもしばしばみられることがよく知られているが、ASでも珍しくないことに留意が必要である。特徴的な難聴や眼病変がみられれば診断上有用である。難聴は神経性(感音性)難聴で、7~10歳頃両側性に出現し、まず高周波領域における聴力低下が起こり、進行性に増悪していく。患者の約1/3に難聴がみられるが、男児に多く、女児にはまれである。本人、家族に難聴がみられなくても、本症であることがしばしばあり、注意が必要となる。眼病変としてはanterior lenticonus、posterior subcapsular cataract、posterior polymorphous dystrophy、retinal flecksなどがある。びまん性平滑筋腫症(diffuse leiomyomatosis)の合併が認められることがある。本症は良性の平滑筋細胞の増殖で、食道での報告が多い。本症合併例ではCOL4A5遺伝子5'端とCOL4A6遺伝子5'端を含む欠失が報告されており、食道にはα6鎖が多く発現していることから、本症責任遺伝子はα6鎖遺伝子と考えられている。■ 分類先述の通り、遺伝形式は80%がX連鎖型であるが、常染色体劣性(15%)・優性(5%)のものもある。常染色体優性遺伝形式を示し、複数世代で血尿を認めるが腎不全に進行しない家系において、臨床的に良性家族性血尿と呼ばれてきた。しかし、遺伝子解析の進歩・普及により、これらにおいてIV型コラーゲン遺伝子バリアントが原因となることが明らかになり、これらの家系のバリアントがペアとなって遺伝した場合に、常染色体劣性型ASになる。さらに、片方のアリルのバリアントのみでもまれに末期腎不全に進行する場合があり、この患者は常染色体優性型ASということになる。したがって、近年ではASと良性家族性血尿の境界は曖昧である2,3)。■ 予後ASの重症度は、腎機能、難聴の程度、視力により規定される。本症候群は進行性の慢性腎症であるが小児期には通常腎機能は正常で、思春期以後徐々に腎機能が低下しはじめ、男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至る例が多い。腎保護薬なしでの末期腎不全進行への自然歴は、X連鎖型男性患者で25歳までに50%、42歳までに90%とされる。X連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは少ないと考えられていたが、近年ではX連鎖型女性患者でも中年期以降腎不全に進行することも珍しくなく、蛋白尿が持続する症例では注意がいる。X連鎖型女性に関しては、40歳までに12%、60歳以降に30~40%が末期腎不全に進行するということが判明している。一方、X連鎖型では原因遺伝子バリアントを有するが無徴候の女性例が約10%存在し、本人はまったく正常であっても子供に発症する場合がある。この場合、家系内で世代間に隔たりがあるようにみえるが、それにより本症候群を否定してはいけない。また、X連鎖型女性患者が男性と同様に重症で、10代後半に末期腎不全に進行することもある。このようにX連鎖型女性患者の重症度はバリエーションに富んでおり、胎児期早期に起きるX染色体の不活化によるものと推測されている。一方、男性患者の重症度は遺伝子バリアントパターンによるところが大きい。常染色体性ASでは、症状に男女差はなく予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)3)ASの診断基準を表に示す。血尿患者をみたときに、患者やその家族が積極的に家族の検尿異常を述べるとは限らないので、必ずできる限り詳細に家族歴を聴取し、家族性の尿異常をもらさないことが重要である。家族に尿異常者がある場合は、腎不全の有無を詳細に確認し、腎不全の家族歴がある場合は腎生検を施行する。表 アルポート症候群診断基準(平成27年2月改訂)●主項目に加えて副項目の1項目以上を満たすもの。●主項目のみで副項目がない場合、参考項目の2つ以上を満たすもの。※主項目のみで家族が本症候群と診断されている場合は「疑い例」とする。※無症候性キャリアは副項目のIV型コラーゲン所見(II-1かII-2)1項目のみで診断可能である。※いずれの徴候においても、他疾患によるものは除く。たとえば、糖尿病による腎不全の家族歴や老人性難聴など。タイトルI.主項目:I-1 持続的血尿 *1II 副項目:II-1IV型コラーゲン遺伝子変異 *2II-2IV型コラーゲン免疫組織化学的異常 *3II-3糸球体基底膜特異的電顕所見 *4III 参考項目:III-1腎炎・腎不全の家族歴III-2両側感音性難聴III-3特異的眼所見 *5III-4びまん性平滑筋腫症厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「腎・泌尿器系の希少・難治性疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」班*1 3ヵ月は持続していることを少なくとも2回の検尿で確認する。まれな状況として、疾患晩期で腎不全が進行した時期には血尿が消失する可能性があり、その場合は腎不全などのしかるべき徴候を確認する。*2 IV型コラーゲン遺伝子変異:COL4A3またはCOL4A4のホモ接合体またはヘテロ接合体変異、またはCOL4A5遺伝子のヘミ接合体(男性)またはヘテロ接合体(女性)変異をさす。*3 IV型コラーゲン免疫組織化学的異常:IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型アルポート症候群の男性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、ボーマン嚢、皮膚基底膜は一部が染色される。常染色体劣性アルポート症候群ではα3、4、5鎖が糸球体基底膜ではまったく染色されず、一方、ボーマン嚢と皮膚ではα5鎖が正常に染色される。注意点は、上述は典型的パターンであり非典型的パターンも存在する。また、まったく正常でも本症候群は否定できない。*4 糸球体基底膜の特異的電顕所見:糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化により診 断可能である。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ、糸球体基底膜の唯一の所見の場合があり注意を要する。この場合、難聴、眼所見、腎不全の家族歴があればアルポート症候群の可能性が高い。また、IV型コラーゲン所見があれば確定診断できる。*5 特異的眼所見:前円錐水晶体(anterior lenticonus)、後嚢下白内障(posterior subcapsular cataract)、後部多形性角膜変性症(posterior polymorphous dystrophy)、斑点網膜(retinal flecks)など。ASがIV型コラーゲン異常によるものであることが判明し、特徴的な糸球体基底膜の電子顕微鏡所見やIV型コラーゲン異常が証明されれば、家族歴や難聴は診断に必須ではない。したがって、家族歴のない例ではASを念頭に置かないと正しく診断できないことがあり、注意を要する。すなわち、家族歴のない血尿症例においても突然変異例が含まれるので、原則的に血尿がみられる疾患はすべて鑑別疾患となる。したがって、非家族性血尿の症例においても腎生検をする場合には、電顕による糸球体基底膜の観察が重要である。小児期、特に10歳以下の症例では血尿が唯一の症状であることが多く、腎不全の家族歴が明らかでない場合、鑑別は困難である。家族性に血尿がみられるが腎不全の家族歴がない場合、その血尿患者の腎生検の適応は通常の腎生検の適応と同じであるが、経過中に腎不全の家族歴が確認された場合や本人に病的タンパク尿が持続するときは腎生検を施行し、糸球体基底膜の電顕による観察により鑑別することが重要である。1)ASの腎病理所見1,3)光学顕微鏡所見は非特異的である。泡沫細胞は高度タンパク尿によるもので、本症候群に特異的というわけではないが診断上参考になる。電子顕微鏡所見は特異的で、糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と緻密層の網目状変化がみられれば本症候群と診断できる。良性家族性血尿において、しばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ注意を要する。糸球体基底膜の厚さは正常では300nm以上あるが、良性家族性血尿や本症候群では150〜200nmと異常に薄い場合がみられ、糸球体基底膜が断裂して糸球体上皮細胞と内皮細胞が直接接触していることもある。本症候群の糸球体基底膜は、網目状変化のために肥厚した部分、異常に薄い部分、正常な部分が混在する。疾患の進行に伴い糸球体基底膜は肥厚し、薄い部分、正常な部分は減少していく。正確に評価された腎電顕所見により家族歴や難聴等の無い場合でも診断が可能である。2)免疫組織学的検索による診断1,3,4)IV型コラーゲン遺伝子バリアントの影響を蛋白レベル、すなわちα鎖の発現を検索し、本症候群の確定診断可能な場合がある。IV型コラーゲンα5鎖は糸球体基底膜だけでなく皮膚上皮基底膜にも存在する。抗α5鎖抗体を用いて免疫染色をすると、正常の糸球体、皮膚基底膜は線状に連続して染色される。しかし、X連鎖型ASの男性患者の糸球体、皮膚基底膜はまったく染色されず、女性患者の糸球体、皮膚基底膜は一部が染色される。X連鎖型ASの男性患者の糸球体基底膜は正常では存在するα3鎖とα4鎖も欠損し、かつ疾患の重症度と関係を認める。注意を要する点は、上述は典型的パターンであり、非典型的パターンも存在する。また、抗α5鎖抗体を用いた染色が正常でも本症候群は否定できない。X連鎖AS男性患者の糸球体基底膜では、患者の一部にα5鎖が発現している例があり、これらの患者は非発現例と比較して、軽症例であることが明らかになっている5)。3)遺伝子診断1-3)確定診断のためα3〜α5鎖遺伝子のバリアントが検索されている。ゲノムDNAを用いてすべてのエクソンとプロモーター領域をPCRで増幅し、ダイレクトシークエンスを行うことで80%を超える遺伝子バリアントの検出率が得られる。さらに、RNAを使用する方法やMLPA法(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)などによりほぼ100%原因遺伝子バリアントが検出できる。近年では、次世代シーケンサを用いたパネル解析が有用である。ASの遺伝子診断について、原因遺伝子が大きくホットスポットもなく、現時点で労力とコストの面から考えて容易とは言えないが、遺伝子解析技術の進歩に伴い診断における意義が高まると考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)3)現時点では疾患特異的治療はなく、対症療法が中心である。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与により、腎機能障害進行阻止が可能となり、末期腎不全への進行年齢を遅らせられていることが報告されている。ただし、一般的にACEIやARB使用中は容易な脱水から腎機能低下を引き起こすので、水分が十分摂取できないときは中止するなどの指示が重要である。これまでの知見では、AS患者の透析導入後および腎移植後の予後は、他疾患に存在する腎予後に影響する併存合併症が少ないために良好であると考えられる。そのため、ASに対する腎代替療法を特別視することなく、他の慢性腎臓病と同様の腎代替療法導入基準・適応でよいと考えられる。各腎代替療法における注意事項としては、血液透析ではASに特異的な注意事項はないと考えられる。腹膜透析では血管基底膜への影響により被嚢性腹膜硬化症が増加するのではないかという可能性を論じた報告があるが推測の域を出ず、大規模データの予後結果を踏まえると、腹膜透析を避ける根拠にはならないと考えられる。腎移植においては、遺伝性疾患であるため生体腎移植時の腎提供者(ドナー)の問題、また、腎移植後の再発性腎炎(新規抗糸球体基底膜抗体腎炎)の問題が存在する。4 今後の展望■ 薬物療法近年、バルドキソロンメチルの治験がASで実施され、eGFRの改善において有効な結果が示されている(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT03019185: A Phase 2/3 Trial of the Efficacy and Safety of Bardoxolone Methyl in Patients With Alport Syndrome – CARDINAL.■ 遺伝子治療遺伝子治療の1つとして、神戸大学小児科を中心にエクソンスキッピング療法の開発が進行中である(AMED:希少難治性疾患に対する画期的な医薬品医療機器等の実用化に関する研究薬事承認を目指すシーズ探索研究(ステップ0)「Alport症候群に対する新規治療法の開発」)。5 主たる診療科腎臓専門医(小児科、内科)、耳鼻科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 慢性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アルポート症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alport Syndrome Foundationホームページ(日本語の選択も可能)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nozu K, et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:158-168.2)Kashtan CE, et al. Kidney Int.2018;93:1045-1051.3)日本小児腎臓病学会編集. アルポート症候群診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.p.1-85.4)Nakanishi K, et al. Kidney Int. 1994;46:1413-1421.5)Hashimura Y, et al. Kidney Int.2014;85:1208-1213.公開履歴初回2020年02月10日

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ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

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本特集に寄せられたコメント

遭遇の可能性があるので、学習したい。(東京都/内科/50代)変えれる症状に気づける目の数を増やしてください。(広島県/外科/60代)自分の知識を発展させるために応援します。(鹿児島県/内科/50代)医師の常識範囲として知っておきたい(神奈川県/小児科/70代以上)希少疾患の、新たな診断、治療方法の開発に期待します。(山梨県/内科/50代)より多くの症例を診たご経験がある先生方の知見やお話を伺えることを楽しみにしています。(茨城県/呼吸器外科/50代)最新の治療指針について学習していきたいと思います。(大阪府/神経内科/60代)患者発見の糸口を学習して備えたい(東京都/小児科/60代)希少疾患は、経験値も高まりにくいですので、頑張っていただきたいです。(大阪府/内科/50代)良く知らない症状の患者に役立つことを期待している。(東京都/腎臓内科/60代)なかなか忙しくて見れないが、時間が有ったら、是非じっくり見たい。(東京都/内科/60代)難病疾患に悩む患者さんの支えに少しでもなれる医師を増やすために(大阪府/外科/50代)微力ながら、お手伝いできればと思っています。(山口県/放射線科/30代)今後遭遇する可能性があり勉強したい。(兵庫県/麻酔科/60代)知らないより知っている方が良いと思います。(東京都/精神科/60代)地方では希少疾病であっても大都市の病院に通えず,頑張っている患者さんや診療しているスタッフがいます.そのためwebは力強いアイテムです.応援します.(長野県/外科/50代)貴重な内容なので、ぜひ勉強したいです(東京都/呼吸器内科/40代)日本全体として応援したほうが良いと思う(山形県/内科/30代)学生への講義に反映させます。(愛知県/病理診断科/50代)なかなか勉強する機会が少ないので楽しみにしています(埼玉県/循環器内科/40代)知識として持っていたいと思います(奈良県/耳鼻咽喉科/50代)ぜひ最新の診断,治療を知りたい(長崎県/循環器内科/50代)診察する機会は少ないが重要な臨床課題(静岡県/消化器内科/40代)日常診療で難病を思い浮かべ難いので学習したい。(神奈川県/乳腺外科/40代)まず知ることが大事と思う。(沖縄県/臨床研修医/30代)知らない病気は診断できない(大阪府/小児科/50代)知らなければ、疑わなければ助けられない。非常に医者にとって責任の重い疾患。(山形県/小児科/50代)希少疾患に対する認知の普及に期待します(石川県/消化器内科/40代)非専門医が実臨床で役立つ情報を期待します(奈良県/内科/40代)有識者の声、患者の声を参考にしたいと思う(京都府/血液内科/30代)顧みられにくい疾患への理解が深まることを願います(福岡県/病理診断科/20代)患者数が少ないほど情報も少ない。医療に関しては需要供給バランスでなく、少数であっても情報に対して需要があるので情報発信をしていただきたい。(長野県/整形外科/30代)難解になりがちな難病の講義ですが、わかりやすい解説を期待しています。(新潟県/皮膚科/30代)今後の治療展望を明らかにしてくれることを期待します(愛知県/腎臓内科/30代)知識の獲得で応援します。(茨城県/脳神経外科/50代)知識の再構築に使用したい。(京都府/呼吸器内科/30代)これを機にぜひ知識をブラッシュアップしたいと思います(千葉県/臨床研修医/30代)最新の知見解説で学習します 動画楽しみです(群馬県/内科/30代)そもそも疾患を知らないと診療できないので、しっかり学習していきたい(北海道/内科/20代)できるだけ勉強して困っている方を助けたいです。(長崎県/内科/60代)希少疾患の知見を得て治療に役立てたい(福岡県/その他/50代)最新の知見解説等で学習したいと思います。(神奈川県/内科/50代)エビデンスに基づいた臨床的知見を勉強したいです(佐賀県/臨床研修医/20代)一般啓発活動の参考にしたい(埼玉県/小児科/60代)医師の中でも認識されていないので、是非とも。(山口県/消化器内科/50代)忘れがち、見逃しがちの疾患を思い起こしたいと思います(神奈川県/糖尿病・代謝・内分泌内科/50代)少しでも症例が蓄積して集学的治療につながっていくことを願っています。(埼玉県/呼吸器外科/60代)自身の知見が少しでも増すことを期待しています。(新潟県/内科/60代)他に勉強できる機会があまりなく、今後の診療の参考にできればと思います。(岡山県/腎臓内科/40代)少なくとも、見逃しの無いようにしたい(大阪府/リハビリテーション科/60代)治療方法を患者に示すことが出来るので、助かります。(青森県/産婦人科/40代)深く理解でき、勉強になります。有難うございます。(岐阜県/腎臓内科/60代)応援します。参考になるサイトを開設してください。(徳島県/泌尿器科/40代)希少疾患の教科書として期待しています。(京都府/内科/50代)希少疾病・難病に対する最新の知見が周知できるとよいと思います(福井県/小児科/40代)日常診療に役立つ情報を共有する機会を作りましょう!(埼玉県/内科/50代)新たな展開が始まることを期待しています(東京都/神経内科/40代)情報共有することでより理解が進むことを期待します(静岡県/心臓血管外科/40代)難病、希少疾患の原因究明および有効な治療法開発に期待します。(佐賀県/麻酔科/40代)動画などの学習は繰り返しもしやすいので期待してます(三重県/眼科/40代)何とか勉強してしかるべき疾患の発見をしたいと思います。(青森県/内科/60代)知らないでは済まされない。(愛知県/精神科/30代)インパクトのある情報提供をお願いします。(青森県/小児科/60代)最新の知見を吸収するように努力したい。(北海道/耳鼻咽喉科/40代)未経験、未知の疾患について、知識を得たい。(静岡県/脳神経外科/60代)教科書では得られない希少疾患の患者さんの実生活(どんなことに困るのかなど)を、様々なメディアを通じて知るようにしたいと思います。(東京都/内科/40代)情報発信を期待しています(宮城県/内科/60代)どうしても専門分野に偏りますが最新の知見解説で学習したい。(大阪府/内科/60代)小さい病院なので診ることがすくないのですが、勉強させてください。(千葉県/整形外科/60代)是非日常診察の参考にさせて頂きたい(静岡県/内科/50代)ケアネットの希少疾患の特集は、極めて内容が良い(福島県/神経内科/70代以上)もしかしたら身近に存在するかもしれない希少疾患です。知識を持っておきたいのでぜひ教えてください。(滋賀県/乳腺外科/40代)希少疾患・難病の患者様がhappyになると良いと思います(神奈川県/神経内科/30代)希少疾患であっても苦しんでいる患者さんへの助けになればいいと思います(福岡県/内科/50代)意外に身近にいる希少疾患の見つけ方、ぜひ応援したい。(愛媛県/内科/50代)難病疾患について、正しい情報発信に期待しています。(神奈川県/皮膚科/60代)この機会に最新の知識をしっかり勉強したいと思います(東京都/眼科/30代)普段勉強する機会がすくないので、とてもありがたいです。(福岡県/麻酔科/40代)これを機にあまり知識のない稀な疾患を勉強します。(山口県/内科/50代)ライブラリーの数が増えるのが楽しみです。(東京都/循環器内科/40代)有意義な情報提供になると確信しています。(新潟県/内科/50代)徴候を見逃さないための勉強をしたいと思います。(大阪府/消化器外科/60代)自分の分野の難病の知識を深めていきたい。(広島県/精神科/30代)難しいですが頑張ってください(京都府/泌尿器科/30代)勉強して患者さんに役立てていきたいと思います。(大分県/精神科/40代)知識を身に着けるために参考にしたいです(神奈川県/消化器外科/50代)最新の動画配信にて学習します。(京都府/消化器外科/60代)発見することが、治療の第一歩と思います。動画で勉強したいと思います。(東京都/糖尿病・代謝・内分泌内科/20代)過去の難病の中には難病でなくなっている疾患もあるので、今後に期待しながら勉強させていただきます。(静岡県/その他/50代)少しでも手伝えるよう、情報の発信を(福岡県/小児科/40代)ぜひとも。この機会にに勉強させて欲しい。特集とか、機会作って下さい。(香川県/内科/40代)様々な症例報告の蓄積をきたいします。(静岡県/消化器外科/30代)希少疾患は疑うところから知るところからですので、知識の吸収に努めます。(愛知県/血液内科/30代)治療のある病気も増えてきているので,早期診断できるよう意識します.(東京都/神経内科/40代)難病について正しい疾患知識を発信して下さい。(東京都/皮膚科/30代)動画だと知識が入りやすいのでありがたいです(愛知県/呼吸器内科/30代)こういった企画はありがたいです。勉強させていただきたいと思います。(千葉県/脳神経外科/40代)興味深い内容を期待(神奈川県/腎臓内科/30代)診断に役立つコンテンツに期待します(東京都/小児科/30代)みなさんの関心が高まることを期待(東京都/循環器内科/30代)その他のコメントはこちら

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希少疾病ライブラリ

これらは、希少疾病に関してケアネットドットコムの会員医師から寄せられたご意見の一部です。このような先生方に少しでもお役に立てることを目指して、疾病の基本情報・診断・治療などを解説した「希少疾病ライブラリ」を立ち上げました。今後も随時、追加・更新していきますので、ぜひご活用ください。呼吸器科▼詳細はこちら循環器内科/心臓血管外科▼詳細はこちら消化器科▼詳細はこちら腎臓内科▼詳細はこちら糖尿病・代謝・内分泌科▼詳細はこちら血液内科▼詳細はこちら感染症内科▼詳細はこちら腫瘍科▼詳細はこちらアレルギー科▼詳細はこちら膠原病・リウマチ科▼詳細はこちら神経内科▼詳細はこちら精神科/心療内科▼詳細はこちら脳神経外科▼詳細はこちら外科/乳腺外科▼詳細はこちら整形外科▼詳細はこちら泌尿器科▼詳細はこちら産婦人科▼詳細はこちら小児科▼詳細はこちら皮膚科▼詳細はこちら耳鼻咽喉科▼詳細はこちら眼科▼詳細はこちら放射線科▼詳細はこちら麻酔科▼詳細はこちら救急科▼詳細はこちらリハビリテーション科▼詳細はこちら■掲載疾患についてわが国では、国内における患者数が5万人未満で、難病など重篤な疾病や医療上の必要性が高い疾病であることが、希少疾病用医薬品/医療機器の指定条件に挙げられています。本ライブラリでは、「希少疾病」について厳密には定義せず、「患者数が少なく、重篤な疾病や医療上の必要性が高い疾病」と考え、順次追加していく予定です。厚生労働省では、希少疾病などにさまざまな医療費助成の施策を行っています。代表的なものを下記に示しますが、各地方自治体の施策も用意されていますので、患者・家族等からお問い合わせがありました際は、「自治体の窓口にてご相談ください」とお伝えください。高額療養費制度を利用される皆さまへ小児慢性特定疾患情報センター先進医療の概要について

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企業による資金提供は、患者会に影響を及ぼすか/BMJ

 患者会への企業による資金提供は一般的に行われており、企業からの財政支援を抑制する指針を持つ患者会は少なく、資金提供に関する透明性も不十分であり、資金提供を受けた患者会は出資企業にとって有利となる立場を取る傾向があることが、オーストラリア・シドニー大学のAlice Fabbri氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年1月22日号に掲載された。患者会は、保健医療(消費者教育、医学研究助成、薬剤や治療法の承認および公的保障に関する決定への寄与)において重要な役割を担うが、製薬企業や医療機器製造企業を含む複数の財政支援源に依拠することが多い。利益相反および患者会の品位や独立性に関する潜在的な脅威があるため、企業と患者会の財政上の関係への関心が高まっているという。患者会への資金提供の影響をメタ解析で評価 研究グループは、製薬企業および医療機器製造企業による患者会への資金提供の影響について調査する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2018年1月までに医学データベース(Ovid Medline、Embase、Web of Science、Scopus、Google Scholar)に登録された文献を検索した。また、選択基準を満たした論文の参考文献を調査するとともに、この分野の専門家に連絡を取って情報を収集した。 対象は、患者会に関する横断研究、コホート研究、症例対照研究、分割時系列解析、前後比較研究を含む観察研究であり、以下のアウトカムのうち1つ以上を報告している研究とした。(1)企業から資金提供を受けている患者会の割合、(2)企業から資金提供を受け、当該の資金に関する情報を公開している患者会の割合、(3)企業からの資金提供と、健康や施策の問題に関する組織の立場の関係。言語や出版形態は問われなかった。 複数の研究者が独立にデータの抽出を行い、2人のレビュアーが独立に個々のアウトカムに関するエビデンスの確実性を評価した。エビデンスの質はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)システムで評価した。出資企業の利益を誘導するバイアスを防ぐ戦略が必要 2003~18年に発表された26件の研究(27論文、すべて横断研究)が解析に含まれた。ほとんどの研究は、複数の疾患領域の患者会を含んでおり、主に欧米の高所得国で行われた研究であった。 26件の研究のうち15件で、企業から資金提供を受けている患者会の割合が報告されていた。その割合は20%(12/61組織)から83%(86/104組織)にわたっていた。 企業から資金提供を受けている患者組織のうち、27%(175/642組織、95%信頼区間[CI]:24~31)がウェブサイト上で情報を開示していた。米国政府機関との協議における開示率は、2つの研究で大きく異なっており(米国疾病予防管理センター[CDC]:0%、米国食品医薬品局[FDA]:91%)、関連する政府機関の開示要項の違いを反映していることが示された。 企業による財政支援を抑制する組織方針を持つ患者会の割合は、2%(2/125組織)から64%(175/274組織)にわたっていた。 4つの研究が、議論の多いさまざまな問題に関して、企業からの資金提供と組織の立場の関係を解析しており、企業から資金提供を受けている患者会は受けていない患者会に比べ、全般的に出資企業の利益を支持していた。 潜在的な有害性に関する情報の包括性を評価した研究では、情報の項目数は、企業から資金提供を受けている患者会が3.7項目(標準偏差:3.7)、受けていない患者会は10項目(同4.2)であり、統計学的に有意な差は認められなかった(Mann-Whitney検定のp=0.1)。 著者は、「主要なアウトカムに関するデータの質が低いため、これらの結論は限定的なものとなる」と指摘し、「患者会は、患者支援や教育、研究において重要な役割を担うため、出資企業の利益に有利となるバイアスを防ぐための戦略が必要と考えられる」としている。

1948.

マッチング参加まであと一息!最後に試される“異様”な集中力【臨床留学通信 from NY】第6回

第6回:マッチング参加まであと一息!最後に試される“異様”な集中力今回はStep2CKおよびStep3についてです。構成上、CKについての話をCSより後にしておりますが、実際には、私はCKを先に受けました。Step2CKは臨床医学からの出題であり、アドバイスとしては、研修医として働いてからの受験をお勧めします。というのも、どんなに最短で留学するとしても、将来日本で働くことがないわけでないのであれば、日本の研修は終えておくべきです。そういった意味でも、CKの受験は臨床的な感覚が得られた研修医以降が良いかと思います(もちろん医学生でも受けられますが、短時間での準備で、ある程度点数が見込めるという観点で研修医以降がお勧め、という意味です)。かくいう私は、医師5年目での受験で、出題範囲の広い内科については難しくなかったのですが、すでに小児科や産婦人科といった診療科の国家試験の内容を完全に忘れてしまっていたので、可能な人はもう少し早いほうがいいでしょう。ただCKに関しては、いつ受けても恐らくそれほど難しいとは感じないと思います。とにかくFirst AidとUSMLE worldの問題集をひたすら解いて、受験に臨みました。試験は日本で受けました。試験時間はStep 1より長く、8時間のテストを合計9時間で行われます。異様な集中力が求められます。私の場合、点数は243点(99点)でした。マッチング参加は目前、気力で長時間試験に臨めStep1、2CK、2CSをクリアできれば、ECFMG certificationが取得でき、晴れてマッチングに参加することができます。最後のStep3については、渡米してからの受験でもいいのですが、Step1から7年以内に受けておく必要があります。また、「Hビザ」を取得したい人は、渡米前にあらかじめStep3を受けておかなければいけないので要注意です。Step3も、CSと同様に点数は不問で、とにかく合格すればいいので、勉強はUSMLE worldで勉強する程度です。また、Step3もオンライン試験ですが、米国内でなければ受けられません。私は、日本から時差の少ないグアムに行き、2日かけて試験を受けて来ました。この段階まで来ると、すでにECFMG certificateは取得しているので、余力(あるいは気力)で2日間の試験をこなすのみです。2日間で計16時間のオンライン試験は非常にハードで、頭がパンク寸前になりながらも、終わった後はタモン湾にプカプカ浮かんで束の間の解放感に浸りました。そうはいっても、試験が目的でグアムに行っているのに、遊びと見なされて、“夏休み”扱いとされたのがつらかった思い出です……。改めてUSMLEについてまとめます。First AidとUSMLE worldをとにかく活用する英会話が得意でない方は、受けると決めた時から最難関のCSを見据えて徹底的に英語力の底上げを図る(私はここで大変苦労しました)1回の受験で確実に合格するStep1と2CKは高得点が必要(とにかく受かればいいと思っていましたが、低い点数は後々尾を引きます)「情報戦+英語」を制する者がUSMLEを制す!私の経験談は、あくまで一例です。USMLEは情報戦でもありますから、各個人に見合った最新の勉強の仕方を、さまざまなサイト等でupdateするのが何より重要です。私の場合、医師3年目で試験勉強を始めて1年でStep1を取得、医師4年目は循環器研修に忙殺されてまったく試験対策ができず、5年目にようやくStep2のCKとCSを受け、ECFMG certificateを取得、医師6年目でStep3を取得したわけですが、振り返ってみると、受験どころではなかった医師4年目でも、英語(とくに英会話)の勉強くらいはやっておくべきだったと反省しています。それだけ当時はCSの試験のレベルを甘く見ており、自身の英語レベルを客観視できていなかったのが、苦労した要因でした。次回は、私なりの英語の勉強の仕方をご紹介したいと思います。Column画像を拡大するこちらニューヨークは、冬はマイナス15度になることもあり、休日もなかなかおいそれとは出掛けづらいのですが、そんな時は美術館で作品鑑賞です。市の居住者であれば、所定の手続きを踏むことで、世界三大美術館に無料で出入りできるのもニューヨークならではの魅力です。写真は、先日訪れたメトロポリタン美術館。今年で開館150周年を迎えるようです。

1949.

小児双極性障害患者の不安症合併率~メタ解析

 不安症は、成人の双極性障害への合併や経過に対し影響を及ぼすことが知られている。しかし、小児の双極性障害における不安症の合併に関する研究は限られている。トルコ・コチ大学のHale Yapici Eser氏らは、小児双極性障害と不安症合併に関するメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2020年1月3日号の報告。 PRISMAガイドラインの定義に基づき、2019年5月までに公表された関連文献をシステマティックに検索した。不安症の関連する特徴および有病率を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・データ分析に用いた研究は、37件であった。・不安症の生涯合併率は44.7%であった。各不安症の内訳は以下のとおり。 ●パニック症 12.7% ●全般不安症 27.4% ●社交恐怖 20.1% ●分離不安症 26.1% ●強迫症 16.7%・小児期の研究では、全般不安症と分離不安症の合併率が高かった。・青年期の研究では、パニック症、強迫症、社交恐怖の合併率が高かった。・小児双極性障害と各不安症の合併には、発症年齢、性別およびADHD、物質使用障害、反抗挑発症、素行症の合併が異なる影響を及ぼしていた。 著者らは「小児双極性障害は不安症が合併していることが多く、早期発症患者では、不安症リスクが上昇する。合併や経過の生物心理社会的側面についてのさらなる評価が求められる」としている。

1950.

思春期のB群髄膜炎菌ワクチン接種、予防効果は?/NEJM

 オーストラリアの思春期児(15~18歳)に対するB群髄膜炎菌ワクチン4CMenBの接種は、B群を含む病原性髄膜炎菌の保菌に対して、識別可能な効果はないことが示された。オーストラリア・アデレード大学のHelen S. Marshall氏らが、237校の学生、約3万5,000例を対象に行った無作為化試験で明らかにした。4CMenBは、侵襲性B群髄膜炎菌疾患を予防するとして承認された新規の組み換え型蛋白ベースのワクチンだが、伝播を予防する役割、さらには住民(集団)免疫効果があるのかについては明らかになっていなかった。NEJM誌2020年1月23日号掲載の報告。接種群と対照群の病原性髄膜炎菌の保菌率を比較 研究グループは2017年4月~6月に、サウスオーストラリアの学校237校で、10~12年生(15~18歳)の生徒を対象にクラスター無作為化試験を開始した。試験の対象を、学校単位で無作為に2群に分け、一方には4CMenBをベースラインで接種し(接種群)、もう一方の群にはベースラインから12ヵ月時点で接種した(対照群)。 主要アウトカムは、10および11年生の時点の病原性髄膜炎菌(A群、B群、C群、W群、X群、Y群のいずれか)の口腔咽頭保菌率とし、PorA(ポリン蛋白Aをコード)および病原性髄膜炎菌の遺伝子群のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査により同定した。副次アウトカムは、すべての病原性髄膜炎菌および各病原性遺伝子群の保菌率や感染などとした。また、ベースライン時に保菌のリスク因子を評価した。保菌率は同等、接種群2.55%、対照群2.52% 試験登録者は、10、11年生が合計2万4,269例、12年生が1万220例だった。 12ヵ月時点で、病原性髄膜炎菌の保菌率は、接種群2.55%(1万2,746例中326例)、対照群2.52%(1万1,523例中291例)で差はみられなかった(補正後オッズ比[OR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.80~1.31、p=0.85)。 副次アウトカムの保菌率についても、両群で有意差は認められなかった。 なお、ベースライン時の病原性髄膜炎菌保菌のリスク因子として、高学年であること(12年生の10年生に対する補正後OR:2.75、95%CI:2.03~3.73)、上気道感染症に罹患していること(補正後OR:1.35、95%CI:1.12~1.63)、喫煙(1.91、1.29~2.83)、水タバコ(1.82、1.30~2.54)、パブまたはクラブに通っていること(1.54、1.28~1.86)、濃厚キス(1.65、1.33~2.05)などが明らかになった。 ワクチンの安全性に関する懸念は特定されなかった。

1951.

小児がんサバイバー、心臓放射線照射減少でCADリスク減/BMJ

 小児がんの成人サバイバーでは、心臓放射線照射への曝露の歴史的な減少により、冠動脈疾患のリスクの低減がもたらされたことが、米国・セントジュード小児研究病院のDaniel A. Mulrooney氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年1月15日号に掲載された。小児がんの成人サバイバーは過去の治療に関連した合併症を有し、心筋症、心臓不整脈、冠動脈や弁膜、心膜の疾患などの心血管疾患は、晩期の健康アウトカム負担の主要な寄与因子とされる。一方、心毒性を有する治療への曝露パターンは時代とともに変化しており、現在のがん治療プロトコールは治癒率の改善に重点を置きつつ、長期的な有害作用の最小化に注力しているという。治療プロトコールが心アウトカムに及ぼす影響を評価するコホート研究 研究グループは、心毒性への曝露を最小化し長期的な健康を保持するようデザインされた現在のがん治療プロトコールの経時的な修正が、小児がんの成人サバイバーの重篤な心アウトカムに及ぼす影響を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 1970年1月1日~1999年12月31日の期間に、21歳未満で、白血病、脳腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、腎腫瘍、神経芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫と診断され、5年生存を達成した患者2万3,462人(1970年代に治療を受けた患者6,193人[26.4%]、1980年代に治療を受けた患者9,363人[39.9%]、1990年代に治療を受けた患者7,906人[33.6%])が、解析の対象となった。診断時の年齢中央値は6.1歳(範囲0~20.9)で、最終フォローアップ時の年齢中央値は27.7歳(8.2~58.3)であった。比較群として、がんサバイバーの同胞5,057人を含めた。 10年の治療時期別の心不全、冠動脈疾患、心臓弁膜症、心膜疾患、不整脈の累積発生率と95%信頼区間(CI)を算出した。イベントの重症度判定は、NCIのCTCAE基準に準拠した。多変量部分分布ハザードモデルを用いて10年ごとのハザード比(HR)を推算し、媒介分析で心毒性治療への曝露の有無別のリスクを評価した。とくにホジキンリンパ腫サバイバーで冠動脈疾患リスク低減 全体として、がんの診断から15年間の心不全の累積発生率は、1970年代(0.69%)および1980年代(0.74%)と比較して、1990年代(0.54%、いずれもp=0.01)で有意に低下した。また、がんの診断から20年間の冠動脈疾患の発生率も同様に、3つの年代を通じて低下した(1970年代0.38%、1980年代0.24%、1990年代0.19%、1970 vs.1980年代のp=0.02、1970 vs.1990年代のp=0.01)。 一方、心臓弁膜症(1970年代0.06%、1980年代0.06%、1990年代0.05%)、心膜疾患(0.04%、0.02%、0.03%)、不整脈(0.08%、0.09%、0.13%)の累積発生率には、年代による有意な変化は認められなかった。 1970年代に診断を受けたサバイバーに比べ、1980年代および1990年代に診断を受けたサバイバーは、心不全、冠動脈疾患、心臓弁膜症の発生率が低下したが、有意差が認められたのは冠動脈疾患のみであった(1970 vs.1980年代のハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.45~0.92、1970 vs.1990年代のHR:0.53、95%CI:0.36~0.77)。 全体の冠動脈疾患のリスクは、心臓放射線照射で補正すると低下する傾向がみられ(HR:0.90、95%CI:0.78~1.05)、とくにホジキンリンパ腫のサバイバーでリスクが低減した(補正前HR:0.77、95%CI:0.66~0.89、心臓放射線照射で補正後HR:0.87、95%CI:0.69~1.10)。 著者は、「小児がんの治療を適切に修正し、健康調査を進める取り組みが、サバイバーに利益をもたらすことが示されつつある」と指摘し、「他の心臓アウトカムのリスク低下を評価するには、さらなるフォローアップを要する」としている。

1952.

新型肺炎で緊張高まる中、感染症予防連携プロジェクトが始動

 東京オリンピック・パラリンピックを迎える年となる2020年1月、日本感染症学会・日本環境感染学会は感染症予防連携プロジェクト「FUSEGU(ふせぐ)2020」を発足、発表会を行った。年頭から中国での新型コロナウイルス感染がニュースとなり、図らずとも感染症への一般の関心が高まる中でのスタートとなった。 挨拶に立った日本感染症学会理事長の舘田 一博氏は、本プロジェクトの意義を「オリンピックイヤーを迎え、マスギャザリング(一定期間、限定された地域において同一目的で多人数が集まること)に向けた注意喚起が重要。既に各学会・団体がさまざまな取り組みをしているがそれを連携させ、産官学が協働して一般市民を巻き込んで情報提供をしていく必要がある」と述べた。 東京オリンピックを昨年行われたラグビーW杯と比較すると、参加国・ボランティア数において約10倍の規模となり、政府は2020年の来日外国人旅行者数を過去最高の4,000万人と見込む。これまでもマスギャザリングにおける集団感染は頻繁に発生しており、前回のリオオリンピックではジカ熱、昨年のラグビーW杯では髄膜炎菌感染症の患者が出た。会期中のすべての感染症発生を防ぐことは難しくとも、予防と早期発見によりアウトブレイクにまで至らせないことが重要となる。 「FUSEGU」の具体的な活動として、昨年夏には患者の症状から考えられる感染症を解説する医療者向けサイト「感染症クイック・リファレンス」を開設したほか、一般市民/医療関係者/大会関係者/メディア関係者に区分けしたうえで「事前に受けておきたいワクチン」の推奨度を示す一覧表を作成し、メディア側にも発信を求めた。今後は「感染症に関する意識調査」をはじめ、大学生を対象にした感染症カレッジ、市民公開講座などを行っていく予定だ。 舘田氏は「1学会ができることには限界がある。各学会に連携を呼びかけたところ、すでにほかの9学会、製薬企業を中心とした12社から賛同表明をいただいた。今後もさらに各団体との連携を図っていきたい」とまとめた。

1953.

2月4日は「風疹の日」、風疹排除のために医療者ができること

 2月4日は日本産婦人科医会などが定めた「風疹(予防)の日」。長年、感染症対策に取り組んでいる多屋 馨子氏(国立感染症研究所 感染症疫学センター[感染研]第三室 室長)に「風疹排除のために医療者ができること」をテーマに話を聞いた。子供の風疹はワクチン接種により激減――風疹の流行は、国のワクチン接種戦略と密接に関わりあっています。風疹の定期接種が始まったのは1977年のことで、対象は女子中学生でした。妊娠中の胎児への影響、いわゆる先天性風疹症候群(CRS)予防を最大の目的としたためです。しかし、女性限定の接種では流行をコントールできず、定期接種の開始後も数年ごとに大きな流行を繰り返しました。このため、1995年4月からは1~7歳半の男女を対象にワクチン接種が行われるようになり、接種歴のない中学生男女への経過措置もとられました。こうした施策によって、長く風疹患者の多数を占めていた小児の感染は激減したのです。今では風疹患者の95%が成人――ここ20年ほどのあいだ、小児に代わって風疹患者の大半を占めているのは成人です。中でも、ワクチン接種制度の狭間となり、1回もワクチンを接種したことのない「1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性」が新規罹患者の大きな割合を占めています。この世代の男性は、自身がワクチンを受ける機会がなかったうえ、同世代の女性はワクチンを受けているために、上の世代に比べ風疹の罹患を免れた人が多く、十分な抗体価を有しないままの人がほかの年代よりも多いのです。具体的には、この世代の男性の約20%、5人に1人が十分な抗体価を持ちません。女性の6%と比べるとその比率の高さがわかりますいったん減少も2018年から再度増加――抗体価の低い成人が中心となった風疹の流行は繰り返し起こっています。とくに2012~2013年は計1万6,730人の患者を出す大流行となり、45人のCRSが報告される事態になりました。厚労省と感染研は「次の流行はなんとしても食い止めたい」と対策を講じ、2014年以降の患者数は減少を続けました。しかし、2018年に再び増加に転じ、2019年も約3,000人と再び増加の傾向にあり、この事態を憂慮しています。患者の内訳を見ると95%が成人、男性が女性の4倍近くと2013年の大流行時から状況は何ら変わっていないことを歯がゆく感じます。 こうした状況を受け、2019年に厚労省は「風しんの追加的対策」を発表しました。これまで「抗体検査のみ無料」としていたターゲット世代に対し、ワクチン接種まで公費で賄う、という内容です。 以下、今回の対策の具体的な内容です。・対象:1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性・期間:2019年~2022年3月末・方法:居住自治体から、抗体検査とワクチン接種が無料で受けられるクーポン券を郵送。医療機関の混雑を避けるため、クーポン発送は年齢別に2回に分けて実施。但し、クーポンが届かなくても自治体に請求することで入手可。2019年度/1972年(昭和47年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれ2020年度/1962年(昭和37年)4月2日~1972年(昭和47年)4月1日生まれ「全額無料」でも伸びない受診率――数千円の抗体検査と1万円程度のMRワクチンを全額無料にするのですから、「今度こそ受診率が一気に伸びるだろう」と期待していたのですが、残念ながらまだそこまでの成果は出ていません。 2019 年度内にクーポン券を発送予定の約 646 万人のうち、2019年4~11月に抗体検査を受けた人は 97万8,422 人(対象者の約 15.1%)、ワクチン接種を受けた人は 19万7,572 人(同約 3.1%)でした。厚労省は東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年7月までに現状79%程度のターゲット世代の抗体保有率を85%に、2022年3月までに90%程度に引き上げることを目標としていますが、このままの受診ペースでは難しいのが現状です。患者に「クーポン来るから受けてね」と伝えてください――この状況を踏まえ、医療者の皆様にお願いです。診療した男性患者さんの生年月日を見て、対象世代の男性であれば「風疹のクーポンは来ましたか? ぜひ抗体検査を受けてくださいね」と一言伝えていただきたいのです。もちろん、医療者の皆さん自身も率先して抗体検査とワクチン接種をお願いします。私は仕事でもプライベートでも、男性と会うたびクーポン券の紹介をしています。受診率が低い理由は、ひとえに風疹の怖さと今回の対策が知られていないことに尽きるかと思います。信頼する医療者から聞いた情報であれば、患者さんも「それなら行ってみようか」と考えることでしょう。国の予算を割いて実施された今回の対策が成果に結びつくよう、ぜひともご協力をお願い致します。成人男性に多い誤解について――成人男性の皆さんと風疹について話していると、よく出てくる誤解があります。誤解1)風疹は子供のときにかかったから大丈夫だよ すでに風疹にかかったとの記憶のある人達に血液検査を行ったところ、約半分は抗体陰性で、風疹は記憶違い、または風疹に似た他の病気にかかっていたという調査結果があります。風疹はよく似た症状の病気が非常に多いです。「かかったから」と言う方にこそ、「過去の記憶に頼らず、しっかり抗体検査を受けて」とアドバイスしてください。誤解2)風疹って死ぬような病気じゃないからいいんじゃない? 風疹は通常あまり重くない病気ですが、まれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの軽視できない合併症を起こすことがあり、実際、毎年入院する人も出ています。そして、もっとも怖いのがCRSです。感染者が免疫の不十分な妊娠初期の女性と飛沫が飛ぶ範囲(1~2m以内)で接触することで感染が生じ、高確率でお腹の赤ちゃんに障害を負わせてしまいます。この「自分が加害者になる怖さ」をしっかり説明することで、納得して受診くださる方が多くいます。誤解3)風疹になったら家にいるから他人には伝染させないよ 風疹は発症する1週間前から他人に感染します。自覚症状のないまま職場や公共の場に出ることがどれだけ危険なことか、これも直接伝えると理解していただけます。 最近は、企業単位で風疹対策取り組む例も出ています。先日、ある企業で全社員対象に風疹の講演をしてきました。こうした企業からの発信もぜひ広げていただきたいと思います。ターゲット世代の男性が多く集まる場所、たとえば献血ルームなどの場所での情報提供や予防啓発にも力を入れていきたいと考えています。志を同じくする医療者の方のご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

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マイコプラズマ市中肺炎児、皮膚粘膜疾患が有意に多い

 かつて、その流行周期から日本では「オリンピック肺炎」とも呼ばれたマイコプラズマ肺炎について、ほかの起炎菌による市中肺炎(CAP)児と比べた場合に、皮膚粘膜疾患が有意に多く認められることを、スイス・チューリッヒ大学小児病院のPatrick M. Meyer Sauteur氏らが明らかにした。現行の診断検査では、肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)の感染と保菌を区別できないため、皮膚粘膜疾患の原因としてマイコプラズマ感染症を診断することは困難となっている。今回の検討では、M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患は、全身性の炎症や罹患率および長期にわたる後遺症リスクの増大と関連していたことも示されたという。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年12月18日号掲載の報告。 研究グループはCAP児を対象に、改善した診断法を用いてM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床的特性を調べる検討を行った。 2016年5月1日~2017年4月30日にチューリッヒ大学小児病院で登録されたCAP患者のうち、3~18歳の152例を対象に前向きコホート研究を実施。対象児は、英国胸部疾患学会(British Thoracic Society)のガイドラインに基づきCAPと臨床的に確認された、入院または外来患者であった。 データの解析は2017年7月10日~2018年6月29日に行われた。主要評価項目は、CAP児におけるM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床特性とした。マイコプラズマ肺炎の診断は、口咽頭検体を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で行い、ほかの病原菌によるCAPキャリアとM. pneumoniae感染患者を区別するため、酵素免疫測定法(ELISA)で特異的末梢血中IgM抗体分泌細胞の測定を行い、確認した。 皮膚粘膜疾患は、CAPのエピソード中に発生した、皮膚および/または粘膜に認められたあらゆる発疹と定義した。 主な結果は以下のとおり。・CAP児として登録された152例(年齢中央値5.7歳[四分位範囲:4.3~8.9]、84例[55.3%]が男子)において、PCR法でM. pneumoniae陽性が確認されたのは44例(28.9%)であった。・それら44例のうち、10例(22.7%)で皮膚粘膜病変が認められ、全例が特異的IgM抗体分泌細胞の検査結果で陽性であった。・一方、PCR法でM. pneumoniae陰性であったケースのうち、皮膚症状が認められたのは3例(2.8%)であった(p<0.001)。・M. pneumoniae誘発皮膚粘膜疾患は、発疹および粘膜炎(3例[6.8%])、蕁麻疹(2例[4.5%])、斑点状丘疹(5例[11.4%])であった。・2例に、眼粘膜症状(両側性前部ぶどう膜炎、非化膿性結膜炎)が認められた。・M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患を有する患児は、M. pneumoniaeによるCAPを認めるが皮膚粘膜症状は認めない患児と比べ、前駆症状としての発熱期間が長く(中央値[四分位範囲]:10.5[8.3~11.8]vs.7.0[5.5~9.5]日、p=0.02)、CRP値が高かった(31[22~59]vs.16[7~23]mg/L、p=0.04)。また、より酸素吸入を必要とする傾向(5例[50%] vs.1例[5%]、p=0.007)、入院を必要とする傾向(7例[70%]vs.4例[19%]、p=0.01)、長期後遺症を発現する傾向(3例[30%]vs.0、p=0.03)も認められた。

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第18回 冬の救急では、これを忘れずに!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)冬の救急では一酸化炭素中毒を鑑別に!2)疑ったら血液ガスで評価し酸素投与を!3)心電図も忘れずにチェック!【症例】34歳男性。ベトナムからの留学生で、飲食店のバイト中に気分が悪くなり休んでいた。控え室で症状は改善傾向にあったため仕事を再開していたが、嘔気、頭痛を認め同僚が救急要請。テキスト●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧124/75mmHg脈拍102回/分(整)呼吸22回/分SpO299%(RA)体温36.5℃瞳孔2.5/2.5mm+/+既往歴、内服薬:定期内服薬なし忘れた頃にやってくる一酸化炭素中毒(CO中毒)CO中毒は冬に多い中毒で、急性中毒死亡原因の第1位、自殺遂行手段の第2位です。一酸化炭素は不完全燃焼の結果発生し、酸素の240倍もヘモグロビンと結合しやすいのが特徴です。CO-Hbを形成し、Hbの酸素運搬能を障害するため、低酸素血症となり呼吸困難をはじめとしたさまざまな症状を引き起こします1)。ピットフォールとして、通常のパルスオキシメーターでは見逃され、SpO2は保たれているように表示されます(CO-Hbを測定できるものもあります)。一般的な症状は表のとおりです。息切れや呼吸困難以外に、頭痛、嘔吐、めまい、意識障害など多彩な症状で来院するため、頻度が高くなる冬場には、常に意識して病歴を聴取する癖を持っておくとよいでしょう。表 CO中毒の症状画像を拡大するCO中毒かな?と思ったら火災現場からの搬送など疑わしい場合には、酸素を投与しつつ、血液ガスを確認します。環境が改善されていれば、時間とともにCO-Hbの数値は低下するため、絶対的な指標にはなりませんが、上昇が認められる場合には有用な所見となります。成人の正常時は0.1~1.0%程度、喫煙者では6%以上となり、ヘビースモーカーの場合には15%前後まで上昇します。妊婦や胎児では生理的に増加することが知られています。一般的に、非喫煙者では3%を超える場合、喫煙者では10~15%を超える場合にはCO中毒と診断します2)。CO中毒を疑った場合には高流量酸素の開始です。通常の空気ではCOの半減期は300分程度ですが、高流量酸素マスクを使用すると90分、100%高圧酸素では30分とされています1)。高圧酸素は施行できる施設が限られるため、高流量酸素マスクを取りあえず開始すればOKです。血液ガスだけでなく心電図もチェックCO中毒で心筋虚血を認めることがあります。中等症以上の症例の30%程度に心電図やトロポニンの上昇を認めることがあり、非侵襲的な検査でもあるため、中等症以上の症状を認める場合には、心電図を確認し、異常がないかをみておくとよいでしょう。CO中毒は、遅発性脳症など曝露後1~2週間ごろから記憶障害や失認などの症状を認めることがあります。過度に心配する必要はありませんが、経過を見ることも大切であり、何より早期に疑い対応する必要があります。鑑別に挙がらず、再度同様の環境に曝露されることは避けなければなりません。CO中毒、その原因は?今回の症例のように、火の取り扱いに伴う環境の問題のみであれば、換気などで再発を防止すればよいですが、その背景に練炭自殺などの希死念慮が関与している場合には、そちらの介入を行う必要があります。冒頭で述べたように自殺遂行手段として頻度が高く、症状が軽いから大丈夫といって帰すのではなく、うつ病など患者背景を意識した対応を行いましょう。1)Clardy PF, et al : Carbon monoxide poisoning. Post TW(Ed), UpToDate, Waltham, MA[Online] Available at: https://www.uptodate.com/contents/carbon-monoxide-poisoning(Accessed on December 14, 2019.)2)Ernst A, et al. N Engl J Med. 1998;339:1603-1608.

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幼少期のペットとの生活とその後の統合失調症や双極性障害のリスク

 統合失調症や双極性障害などの重篤な精神疾患には、幼少期の環境が関連しているといわれている。幼少期に猫や犬などの家庭用ペットと生活することが、これらの環境要因に影響を及ぼす可能性がある。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のRobert Yolken氏らは、生まれてから12年間における猫や犬などの家庭用ペットとの生活と、その後の統合失調症または双極性障害の診断との関連について調査を行った。PLOS ONE誌2019年12月2日号の報告。 本研究は、統合失調症患者396例、双極性障害患者381例、対照群594例を対象としたコホート研究。猫や犬などの家庭用ペットとの生活に関連する統合失調症または双極性障害の発症リスクは、社会人口統計学的共変量を用い、Cox比例ハザードモデルおよび多変量ロジスティック回帰モデルを使用し算出した。 主な結果は以下のとおり。・家庭内での犬との生活は、その後の統合失調症診断リスクの有意な低下と関連が認められた(ハザード比:0.75、p<0.002)。・さらに、出生時および出生から最初の数年間での犬との生活において、統合失調症の相対リスクの有意な低下が認められた。・家庭内での犬との生活は、双極性障害リスクとの有意な関連は認められなかった。・家庭内での猫との生活は、その後の統合失調症または双極性障害の診断リスクと有意な関連は認められなかったが、両疾患ともにリスクの増加傾向が認められた。 著者らは「幼少期および小児期の家庭用ペットとの生活は、その後の精神疾患発症に変化を及ぼす可能性があることが示唆された」としている。

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HPVワクチンの接種推進の取り組み

 11月30日・12月1日に開催された「第23回 日本ワクチン学会学術集会」(会長:多屋馨子〔国立感染症研究所〕)では、「サーベイランスから対策へ 有効性と安全性の両輪で考えるワクチン元年」をテーマに、臨床、疫学、製造開発、行政関係などから参加者が一堂に会して開催された。 同集会では、インフルエンザやMRワクチンはもちろん、来年10月より定期接種化される予定のロタワクチンなどに関する発表も行われた。 本稿では、2013年より積極的接種勧奨が差し控えられているHPVワクチンについて取り上げる。HPVワクチン接種のコツは丁寧な情報提供 HPVワクチンは、将来発生する子宮頸がんの予防として接種が行われるワクチンである。子宮頸がんは、予防接種で防げる病気(Vaccine Preventable Diseases:VPD)として先進国では広く接種が行われ、その有効性、安全性も確認されている。わが国では、2013年に定期接種化されたが、全国で慢性疼痛などの症状が報告され、現在に至るまで積極的接種勧奨は差し控えられている。 こうした状況に対し、地域における取り組みとして「静岡県小児科医会 予防接種協議会によるHPVワクチン接種推進プロジェクト」について、田中 敏博氏(静岡県小児科医会 予防接種協議会/静岡厚生病院 小児科)がレポートした。 同協議会は、県内の予防接種地域差の均てん化と情報交換のために設立され、重点課題として2017年はB型肝炎とおたふくかぜワクチンを、2018年にはHPVワクチンを取り上げて、その推進に取り組んできた。 HPVワクチンに関しては主な活動として、医療者向けの勉強会・講演会の実施、シンポジウムの開催(録画DVDの配布)、各種調査研究を行っている。 同協議会が運営し、一般公開している接種件数データベースを紹介した。静岡県内ではHPVワクチンの接種件数は回復しつつあることがわかるという。また、このデータベースでは、記載された各症例のエピソードがコメント共有として閲覧可能で、接種に臨むにあたっての思いや副反応情報などを把握することができる。 こうした活動を踏まえて、外来では、HPVワクチン接種対象者に対し、「積極的な呼びかけ」「見える化したデータ紹介」「接種機会の的確な把握」「接種後の細かいフォロー」などを行うことで、子宮頸がんとその予防のためのワクチンに対する意識を高めていくことができると説明した。 最後に同氏は、「定期接種であるHPVワクチンの接種推進には、医療者が積極的に働きかけを行うことが出発点である。接種を躊躇しているのはむしろ医師の側である」と指摘した。

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血圧に差がついてしまっては理論検証にならないのでは?(解説:野間重孝氏)-1165

 マルファン症候群は細胞外基質タンパクであるfibrillin 1(FBN1)の遺伝子変異を原因とする遺伝性の結合織疾患であり、種々の表現型、重症度がみられるが、大動脈瘤(とくに大動脈基部)とそれに伴う大動脈弁閉鎖不全症が生命予後の決定因子としてとくに重要であるため、その発生予防が種々議論されてきた。近年、FBN1変異下においては炎症性サイトカインの1つである形質転換増殖因子β(TGFβ)の活性が亢進していることが明らかにされ、この活性亢進が結合織疾患の発生に関与している可能性が示され、動脈瘤の発生予防法として、シグナル伝達系でTGFβの上流に位置するアンジオテンシンII受容体1型活性をアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)によってブロックする治療法が有効である可能性が示唆され、注目を集めるに至った。 この概要が明らかになったのは、2011年にジョンズ・ホプキンズ大学のグループによって発表された2つの実験論文による(Holm TM, et al. Science. 2011;332:358-361. Habashi JP, et al. Science. 2011;332:361-365.)。本論文評は総説ではないので詳説は避けるが、概要を述べるならば、大動脈瘤の形成にはTGFβのシグナル伝達系の1つであるnon-canonical pathwayを介する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(ERK)、部分的にはMAPキナーゼ系に属するJNKが関与するが、FBN1変異下ではこの活性が亢進状態にある。ここでAT1刺激がERK活性を亢進させるのに対し、AT2受容体刺激はTGFβによるERK活性化を抑制する。ARBはAT1受容体を選択性にブロックするため、残ったAT2によりERK活性が強力に抑制され動脈の拡大が防止されるという機序が考えられ、動物実験により証明された。これに対し、ACE阻害薬はAT2の抑制作用まで抑えてしまうため、大動脈瘤の形成予防にARBは有効だがACE阻害薬は無効であることが考えられ、これも証明された。この研究は、遺伝子の異常そのものを直すことはできなくても、その下流のシグナル異常を抑制することにより遺伝子病の発症を防ぐことができる可能性を提示した研究として注目された。 一方、臨床面でもARBの有効性を示唆するデータが上記研究よりも早い時期から提出されていたのだが、症例数も少なく非盲検試験であったことから本格的な二重盲検試験による治験が期待されていた(Starzl TE. N Engl J Med. 358;2008:407-411.)。しかしその後ロサルタンとβブロッカーの併用による無作為化試験がいくつか行われたが、いずれにおいても有意なデータは得られなかった。ロサルタンはARBとしては強力な薬剤とは言えず、また血中半減期が6~9時間と短いこと、生体利用率が比較的低いことに鑑み、これらがいずれも優れたイルベサルタン(半減期11~15時間)を使って計画された二重盲検試験が本試験である。 前置きが長くなってしまったが、本論文は確かに有意なデータを提示することに成功したが、著者らの意気込みとは相違して、評者はこれがARBの効果によるものなのかどうかを断定することは早計なのではないかと考える。両群の間で大きくはないとはいえ、有意な血圧差が生じているからである。マルファン症候群は結合織疾患であり、結合織疾患に対してはたとえわずかな差とはいえ、持続的な血圧差は大きな影響を与える可能性が考えられるからである。 これはこの種の盲検試験の原則なのだが、主要検査項目以外の項目はそろえられていなければならないものである。とくに血圧は重要項目であり、これでは理論検証にはならないのではないかと考えるのは評者の偏見ではなく、統計の基礎だと思う。少々乱暴な提案にはなるが、そもそもARBは降圧薬として開発されたという経緯を考えると、このような理論検証型のモデルを組む以前に、何種類かの機序の違う降圧薬を用意して盲検のかたちで血圧をある一定レベルに降下させて一定期間観察するといった研究が、まず先行するかたちで行われるべきではないのだろうか。そうした治験でARBがとくに優れた結果を出したとすれば、機序はともかくとして確かに効果があったと立証されたといえる。もちろんこれは一案にすぎないが、臨床において理論検証型のモデルを組むことは非常に難しいのが通例なのである。血圧については著者らも気になったものとみえて、discussionの3分の1くらいをこの議論に当てているが、素直にうなずけるものではないように感じられた。とくに、何回も盲検試験の失敗が続いているにもかかわらず、「こうした結果はARBのclass effectである」とまで言い切っている根拠が理解できない。たとえそうであったとしても、それはもっと検証が重ねられたうえで言われるべきことではないのだろうか。 もう1つ気になる点を付け足すとすると、本研究だけではなく、一連の研究者たちが薬剤の1日1回投与にこだわっているように思われてならないことである。利便性より以前にまず安定的な薬剤血中濃度の動的平衡をつくることを考えるべきなのではないだろうか。ARBはそういう性格の薬ではないなどと反論する前に、まずオーソドックスな方法を取るべきだと思う。その後に、徐放剤をつくるなり半減期の長い薬剤を使用するなり(たとえばこの場合テルミサルタンなら半減期20~25時間)を考えればよいのではないかと思う。 TGFβ仮説は分子生物学分野の研究者たちにとって魅力的な仮説であることは十分理解できるが、まだ仮説の域を出てはいないのではないかと思う。まず、なぜFBN1異常下ではTGFβ活性が亢進するのかについても定説はないのである。臨床研究では動物実験のように種々の条件を正確にそろえて検証を行うことは無理である以上、もっと泥臭いアプローチが行われてもよいのではないかと感じたのだが、これは少し言い過ぎだろうか。

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