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若者の精神疾患の世界的負担、30年間の変化と今後の予測

 精神疾患は、世界の非致死性疾患負担の主な原因の1つであり、小児、青年、若者の間で有病率が上昇している。中国・Northwest Women's and Children's HospitalのWei Liu氏らは、GBD 2021データを用いて、9つの精神疾患について、1990~2021年の地域、年齢、性別による推定値を分析し、2050年までの負担を予測した。Frontiers in Public Health誌2025年9月16日号の報告。 年齢調整有病率(ASPR)および障害調整生存年数率(ASDR)の平均年変化率(AAPC)および年変化率(APC)を算出した。分解分析、不平等分析、フロンティア分析、比較リスク分析、ベイズ統計を用いた年齢・時代・コホート分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1990年と比較し、2021年の世界の負担は若年層で有意に増加した。【ASPR】AAPC:0.15、95%信頼区間(CI):0.14~0.16【ASDR】AAPC:0.40、95%CI:0.29~0.51・若年層における世界的負担は、2019年以降に急増した。【ASPR】APC:4.74、95%CI:4.55~4.93【ASDR】APC:6.64、95%CI:4.88~8.42・男性は女性よりも負担が大きく、年齢層によって性別特有のパターンに、ばらつきが見られた。・負担は、社会人口統計指数(SDI)により大きく異なり、SDIの高い地域では最も高かった(ASPR:1万2,913.13、95%不確実性区間[UI]:1万1,135.82~1万4,874.98、ASDR:1,750.41、95%UI:1,253.46~2,328.87)。・9つの精神疾患の負担の変化は、世界レベル、地域レベル、国レベルで異なっていた。・分解分析では、有病率と障害調整生存年数(DALY)の変化は、主に人口増加(各々、84.86%、57.92%)に起因しており、SDIの高い地域で最も顕著な改善が見られた。・フロンティア分析では、高所得国・地域では負担軽減の可能性があることが示唆された。・世界的に、不安症、うつ病、特発性発達性知的障害の主なリスク因子として、小児期の性的虐待、いじめ、親密なパートナーによる暴力、鉛曝露が特定された。・2050年までに精神疾患の負担は減少すると予測された(人口10万人当たりASPR:6,120.71、95%CI:3,973.57~8,267.85、人口10万人当たりASDR:844.71、95%CI:529.48~1,159.94)。 著者らは「2050年までに精神疾患の負担は減少すると予測されているものの、世界の精神疾患の負担は増加しており、人口間で大きな格差が認められた。近年の急増傾向により、世界的な予防の強化と公平な医療の拡充が求められている」とまとめている。

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ムコ多糖症II型、新たな酵素補充療法が有望な可能性/NEJM

 ムコ多糖症II型(MPS II、ハンター症候群)は、イズロン酸-2-スルファターゼ活性の欠損によって発生する進行性のX染色体連鎖型のライソゾーム病で、神経系を含む臓器機能障害や早期死亡をもたらす。tividenofusp alfaは、イズロン酸-2-スルファターゼと改変トランスフェリン受容体(TfR)結合Fcドメインから成る、血液脳関門の通過が可能な融合タンパク質で、MPS IIの神経学的および末梢症状の治療を目的に開発が進められている新たな酵素補充療法(ERT)である。米国・University of North Carolina School of MedicineのJoseph Muenzer氏らは、小児男性患者を対象に行った、本薬のヒト初回投与の臨床試験の結果を報告した。NEJM誌2026年1月1日号掲載の報告。国際的な非盲検第I/II相試験 研究グループは、tividenofusp alfaの安全性および中枢神経系、末梢症状に対する効果の評価を目的に、国際的な非盲検第I/II相試験を実施した(Denali Therapeuticsの助成を受けた)。年齢18歳までのMPS IIの男性患者を対象とした。 tividenofusp alfa(週1回、静脈内投与)を24週間投与した後、80週間の安全性に関する延長試験と157週間の非盲検延長試験を行った(全261週)。 47例(用量設定コホート20例、15mg/kg投与コホート27例)を登録した。年齢中央値は5歳(四分位範囲:0.3~13)だった。44例(94%)が神経症状を伴うMPS IIで、3例(6%)は神経症状を伴わないMPS IIであり、15例(32%)がERTを受けた経験があった。注入反応の頻度が高いが管理可能 47例の全例で、3段階の試験期間中に少なくとも1件の有害事象を認め、最も高い重症度は、中等度が68%、重度が28%であった。死亡例の報告はなかった。治療関連の重篤な有害事象は3例(注入反応[infusion-related reaction]2例、貧血1例)に認めたが、これらの患者はすべて治療を継続した。 41例(87%)で、試験期間中に少なくとも1件の注入反応が発現し、最も頻度の高い有害事象であった。中等度が55%、重度が6%だった。注入反応の症状では、発熱、蕁麻疹、嘔吐の頻度が高く、ルーチンに前投薬を行ったにもかかわらず40%以上の参加者に発現した。 注入反応は全般に、担当医の判断による前投薬、注入速度の減速、減量によって管理可能であった。注入反応の発生は時間の経過とともに減少し、グルココルチコイドを含む前投薬も試験の進行に伴い減少した。ヘパラン硫酸値が低下、適応行動、肝臓容積も改善 その他の一般的な有害事象として、上気道感染症(60%)、発熱(55%)、咳嗽(47%)、嘔吐(43%)、下痢(40%)、発疹(40%)、貧血(38%)、新型コロナウイルス感染症(38%)、鼻漏(38%)を認めた。ベースライン時に19%(47例中9例)で貧血がみられたが、貧血を理由に試験を中止した参加者はいなかった。また、尿中総グリコサミノグリカン(GAG)値が悪化することはなく、改善の傾向を示した。 バイオマーカーについては、ベースラインと比較した24週時の脳脊髄液(CSF)中および尿中のヘパラン硫酸が、それぞれ91%および88%減少した。ヘパラン硫酸濃度の低下は153週目まで持続し、適応行動は安定化または改善した。ベースライン時に、24%(21例中5例)で肝臓容積に異常を認めたが、24週時には、これらを含む全例(18例中18例)で正常化または正常を維持していた。 著者は、「MPS II小児男性患者に対する週1回15mg/kgの静脈内投与によるtividenofusp alfa治療では、ERTの既知のリスクである注入反応を含む有害事象が高頻度に発現した」「中央値で2年間の治療により、基質の蓄積および神経細胞損傷の、中枢神経系および末梢のバイオマーカーが減少傾向を示し、臨床エンドポイント改善の可能性が示唆された」としている。

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第278回 26年度改定「病院に手厚く配分へ」初・再診料と入院基本料を引き上げへ/厚労省

<先週の動き> 1.26年度改定「病院に手厚く配分へ」初・再診料と入院基本料を引き上げへ/厚労省 2.医療機関の倒産、2年連続で最多を更新/帝国データバンク 3.睡眠医療へのアクセス向上へ、標榜診療科に「睡眠障害」追加/厚労省 4.医師偏在対策で管理者要件厳格化、4月施行の療担規則改正/厚労省 5.人材不足で救命救急センター指定辞退へ、体制維持困難/近大奈良病院 6.地域枠「縛り」見直しへ 短時間勤務や県外転出も容認/山梨県 1.26年度改定「病院に手厚く配分へ」初・再診料と入院基本料を引き上げへ/厚労省厚生労働省は2026年度診療報酬改定に向け、中央社会保険医療協議会(中医協)で「これまでの議論の整理(案)」を示し、物価高と賃上げ、人手不足への対応を改定の最優先課題に据えた。改定率は診療報酬本体で+3.09%(2026・27年度平均)とされ、内訳は賃上げ分+1.70%、物価対応分+0.76%、食費・光熱水費分+0.09%などとされる。医療機関の資金繰り悪化で必要な医療サービスが継続できない事態は避けるべきとの認識の下、確実な賃上げと物価高騰の影響吸収を両輪で進める方針だ。具体策として、物件費負担の増加を踏まえ、初・再診料および入院基本料の「必要な見直し(引き上げ)」を行う。加えて、2026・27年度における物件費の更なる高騰に備え、医療機能も踏まえた「物価高騰に対応した新たな評価(特別な項目)」を設定し、配分は病院に手厚い設計とする。食費・光熱水費では、入院時の食費基準額を40円/食、光熱水費基準額を60円/日引き上げる(患者負担は原則同額で、低所得者や指定難病などには配慮)。嚥下調整食の新評価など、入院食の質向上も併せて検討する。賃上げの面では、医療現場の生産性向上の取組と一体で、医療関係職種の賃上げの実効性を高める仕組みを再設計する。看護職員の夜勤負担軽減計画の要件明確化、ICT・AIなどの活用を前提とした業務効率化や基準の柔軟化、医療DX関連加算(診療録管理体制加算、医療情報取得加算、医療DX推進体制整備加算など)の評価見直しも論点に入る。厚労省は、1月14~20日まで意見募集を行い、1月21日の公聴会などを経て、個別項目(短冊)の詰めに入り、2月の答申を目指す。 参考 1) 「令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(同) 3) 令和8年度診療報酬改定の基本方針(同) 4) 初診料・再診料・入院基本料を引き上げへ、診療報酬改定の骨子案了承…医療機関の経営安定化図る(読売新聞) 5) 2026年度診療報酬改定を諮問、厚労相 物価・賃金上昇や人手不足に対応(CB news) 6) 若手勤務医や事務職の賃上げ原資拡大 26年度報酬改定、病院に手厚く(日経新聞) 7) 2026年度診療報酬改定、議論の整理案を提示(日経メディカル) 2.医療機関の倒産、2年連続で最多を更新/帝国データバンク帝国データバンクの集計によると、2025年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産件数は67件となり、前年を上回って2年連続で過去最多を更新した。負債総額は248億円に達し、件数・金額ともに高止まりしている。背景には、院長の高齢化と後継者難により事業承継が行き詰まった診療所の廃業・倒産が目立つことに加え、病院経営の構造的悪化がある。医療機関の倒産件数が2023年41件、2024年63件、2025年67件と急増している一方、負債総額は年や月による振れが大きく、単発の大型倒産が全体額を押し上げる構図が読み取れる。とくに2025年は2月など一部の期間に負債額が突出しており、資金繰りが限界に達した病院の破綻が顕在化している。経営環境の悪化は財務指標にも表れている。2024年度の病院経営では約6割が営業赤字、約14%が債務超過に陥り、営業利益率の平均は2年連続でマイナスとなった。診療報酬のプラス改定があったにもかかわらず、コロナ関連補助金の終了、人件費・光熱費・医療資材費の上昇がそれを上回り、「増収減益」に陥る病院が続出した。医師の働き方改革に伴う人員増や賃上げ圧力も、固定費を押し上げている。その一方で、訪問介護など老人福祉事業の倒産も2025年は139件と高水準で推移しており、医療・介護をまたぐ提供体制全体が経営危機に直面している。地域医療を担う病院ほど採算性の低い政策医療を抱え、設備更新の先送りや投資凍結に追い込まれるケースも少なくない。倒産件数の増加は、個々の経営努力だけでは吸収しきれない構造問題を示しており、医療提供体制をどう維持するかが改めて問われている。 参考 1) 25年の医療機関倒産は67件 帝国データバンク集計(MEDIFAX) 2) 医療機関の倒産、2年連続で最多更新 25年は66件 帝国データバンク調べ(CB news) 3) 2025年12月 倒産動向データ(帝国データバンク) 3.睡眠医療へのアクセス向上へ、標榜診療科に「睡眠障害」追加/厚労省厚生労働省は、1月15日に医道審議会・診療科名標榜部会を開き、医療機関が標榜できる診療科名に「睡眠障害」を追加することを了承した。今後、内科や精神科、小児科など既存の診療科名と組み合わせた形での標榜が可能となる見通しで、3月に議論を取りまとめ、法令改正手続きに入る。背景には、睡眠障害に悩む患者の増加と、受診先がわかりにくいという課題がある。日本睡眠学会は2025年4月、睡眠医療へのアクセス向上を目的に「睡眠障害」を標榜可能な用語に追加するよう要望していた。現状では、不眠症患者の多くが内科や精神科を受診し、睡眠時無呼吸症候群の患者は内科や耳鼻咽喉科に分散して受診しているが、症状と診療科の結び付きが国民にわかりにくいとの指摘があった。標榜診療科名の追加にあたっては、独立した診療分野を形成していること、国民ニーズが高いこと、わかりやすく適切な受診につながること、診療に必要な知識・技術が医師に広く定着していること、という4つの基準を総合的に判断する。部会では、睡眠障害はいずれの要件も満たすとの認識が共有され、異論は出なかった。部会ではとくに「睡眠障害小児科」への期待も示された。小児の睡眠時無呼吸や不眠が見過ごされやすい現状があり、早期介入により発達障害様症状が軽減するとの報告もある。睡眠障害を標榜可能とすることで、潜在的な患者の掘り起こしや早期診断につながるとの見方が示された。日本睡眠学会は今後、精神科、内科、耳鼻咽喉科など関連学会と連携し、講習会やeラーニングを通じた診療体制の底上げを進める方針だ。睡眠障害の標榜化は、診療の「旗」を明確に掲げることで医療アクセスを改善し、地域間格差の是正にも寄与すると期待されている。 参考 1) 睡眠障害の標榜について(厚労省) 2) 標榜可能な診療科名に「睡眠障害」追加可能へ 医道審議会部会(MC Plus) 3) 標榜診療科名に「睡眠障害」追加を了承 3月に取りまとめへ 医道審・部会(CB news) 4.医師偏在対策で管理者要件厳格化、4月施行の療担規則改正/厚労省厚生労働省は1月16日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)で、昨年12月の医療法改正などを踏まえ、「保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)」の見直しについて厚生労働大臣に答申を行った。改正規則は2026年4月1日から施行され、保険医療機関の管理者に関する要件と責務が新たに明記される。改正の柱は、管理者要件として「臨床研修修了後、保険医として病院で3年以上診療に従事した経験」を求める点。医師偏在対策の一環として位置付けられており、診療所ではなく「病院での従事経験」に限定した点が特徴となる。その一方で、経過措置として、すでに管理者を務めている医師には同一機関で管理者を継続する限り適用しない。また、自治医科大学卒業者の義務年限中の医師や、医師少数区域でキャリア形成プログラムに基づき従事する医師、矯正医官・自衛官などとして5年以上勤務した医師、管理者の急逝など止むを得ない事情で医療機関を承継する場合などは、要件を満たすとみなされる。具体的な該当例は今後、通知などで示される予定。あわせて、管理者の責務として、診療報酬請求を含め療担規則を順守するよう従事者を監督することが明文化される。管理者の役割を法令上明確化することで、保険診療の適正化を図る狙いがある。さらに、医療法改正に伴い新設される「オンライン診療受診施設」についても規制が整備される。原則として、保険薬局との一体的な構造・経営や利益供与を禁止し、医療資源が乏しい無医地区などに限って例外的に認める。薬局と医療機関の独立性を確保し、健康保険制度の健全運営を担保するためだ。管理者要件の厳格化とあわせ、医療提供体制の質と公正性が改めて問われることになりそうだ。 参考 1) 医療法等改正を踏まえた対応について(その2)(厚労省) 2) 療担規則の見直しを答申、「管理者の責務・要件」明記(MEDIFAX) 3) 保険医療機関の管理者要件、従事経験規定へ「病院で3年以上」 療担規則に(CB news) 5.人材不足で救命救急センター指定辞退へ、体制維持困難/近大奈良病院近畿大学奈良病院(奈良県生駒市)は、人材確保が困難な状況が続いているとして、救命救急センターの指定を2026年3月31日で辞退する。本年1月14日付で奈良県に指定辞退届出書を提出した。2003年に救命救急センターの指定を受け、県内の高度救急医療を担ってきたが、全国的な救命救急医不足の影響を受け、体制の安定的維持が困難と判断した。同センターでは2025年度も12月末までに約3,300人の入院患者を受け入れてきた。近畿大学病院(大阪府堺市)からの医師派遣に依存してきた側面もあるが、大学病院側でも人員に余裕がなく、継続的な派遣が難しくなっていた。私立大学病院などに公募を行うなど人材確保に努めたものの、十分な救命救急医を確保するには至らなかったという。指定辞退後の4月以降は、ICU(集中治療室)8床を休床する一方、救命救急センターとして運用してきた24床を、継続的な高度管理を要する重症患者向けのハイケアユニット(HCU)に転換し、重症患者の受け入れ自体は継続する方針。病院として救急医療から全面的に撤退するわけではないが、24時間体制で最重症患者を受け入れる高度救命救急機能は縮小される。奈良県によると、同病院の指定辞退により、2026年4月以降、県内の救命救急センターは奈良市の県総合医療センターと橿原市の県立医科大学附属病院の2施設体制となる。生駒市の小紫 雅史市長は「指定辞退は非常に重大」としつつ、医師の働き方改革が進む中で高度救急体制の維持が難しい現実にも理解を示し、市立病院との連携などで市民への影響を最小限に抑える考えを示した。今回の事例は、救急医不足と働き方改革が地域の高度救急医療体制に直接的な影響を及ぼし始めている現実を浮き彫りにしている。 参考 1) 近畿大学奈良病院における救命救急センターのハイケアユニット(HCU)への転換について(近畿大学) 2) 救命救急センターの指定辞退へ 近大奈良病院 人材確保難で(CB news) 3) 近大奈良病院 医師不足で救命救急センターの指定辞退へ(NHK) 4) 近畿大学奈良病院、救急救命センターの指定を辞退 人材確保が困難 重症受け入れは継続(産経新聞) 6.地域枠「縛り」見直しへ 短時間勤務や県外転出も容認/山梨県山梨県は1月16日に副知事が臨時記者会見を開き、医学部地域枠医師に課している就業義務と違約金制度を見直す方針を明らかにした。地域枠は、医師免許取得後15年間のうち9年間を県内で勤務すれば修学資金の返還を免除する制度だが、県は多様な働き方やキャリア形成に十分配慮できていなかったとして、制度の柔軟化に踏み切る。具体的には、これまで就業義務としていた週31時間以上の勤務に加え、育児や介護など家庭の事情に対応するため、週31時間未満の短時間勤務や非常勤勤務も義務履行として認める。また、県内勤務の中断理由についても、従来の「災害、疾病、産休・育休」に限定していた要件を拡大し、新たに介護、留学、大学院進学、研究従事を追加する。本人に将来的な県内勤務の意思が確認できる場合、結婚や介護などで一時的に県外へ転出しても、違約金の対象外とする。背景には、地域枠医師に最大約842万円の違約金を科す条項を巡り、消費者団体から提訴され、この1月20日に判決が予定されている問題がある。山梨県は5年前、地域枠からの離脱者が出たことを受け、修学資金返還に加えて違約金を課す制度を全国で初めて導入したが、「人権侵害ではないか」「人生の変化が大きい時期に過度な拘束を課している」との批判が医学生や医療関係者から相次いでいた。全国的に地域枠は医師不足対策として拡大し、定員は医学部全体の約2割を占める。その一方で、入学時に将来の勤務を約束させる制度設計や、後出し的な義務強化に疑問の声も根強い。今回の見直しは、ペナルティー中心の運用から、医師のキャリアや生活に配慮した制度への転換を模索する動きとして注目される。 参考 1) 山梨県副知事臨時記者会見(YouTube) 2) 山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラムの違約金条項に対する差止請求訴訟の状況について(消費者機構日本) 3) 山梨県、「地域枠」医師の就業義務見直し 多様な働き方に対応(日経新聞) 4) 山梨県 医学部の地域枠制度 違約金の支払い要件見直しへ(NHK) 5) 医学部地域枠、学生へムチ「違約金」最大842万円 人権侵害の声も(朝日新聞) 6) 山梨県の医学部学費貸与、「違約金840万円は違法」 NPOが提訴(同)

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RSVのワクチン接種を受けていた妊婦は約11%/国立成育医療研究センター

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染は、乳児の下気道感染症の主要な原因であり、多大な罹患、入院、医療費の増大を引き起こす。RSV母子免疫ワクチンは近年いくつかの国では公費で提供されているが、わが国では任意接種で高額な自己負担費用がかかるため、実際の接種率や社会経済的背景による差は依然として不明確である。そこで、国立成育医療研究センター社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保 祐輔氏らの研究グループは、妊婦のRSVワクチンの接種率とその決定要因について全国調査を行った。その結果、ワクチン接種を受けていた妊婦は約11%に過ぎないことが判明した。この結果は、Journal of Infection and Chemotherapy誌2026年1月号に掲載された。妊婦のRSVワクチン接種、約9割が費用が高いと回答 研究グループは、2024年7月~2025年8月に出産した女性を対象に全国調査を実施した。質問票では、妊婦のRSVワクチンの接種状況、費用の負担感、ワクチン接種への躊躇に関する5Cモデルを含む関連意識、および人口統計学的特性を評価した。接種率を推定し、多変量修正ポアソン回帰分析を用いて接種に関連する要因を分析した。 主な結果は以下のとおり。・回答者1,279人のうち11.6%が妊婦用RSVワクチンの接種を受けていた。・世帯年収や教育歴が高いほどワクチン接種率が高い傾向が認められた。・関東圏外の地域および経産婦では接種率は低く、不妊治療歴のある妊婦、妊娠中のインフルエンザまたはジフテリア・百日咳・破傷風ワクチン接種歴のある妊婦では高かった。・5C領域では、「自信」と「集団的責任感」が高い接種率と関連し、「計算」は低い接種率と関連していた。・接種者の87.2%が費用を「高い」と評価し、未接種者が接種しなかった理由は「予防効果を知らなかった」(28.9%)と「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)であり、77.5%が「無料であれば接種をする」と回答した。 研究グループは、「わが国の妊婦向けRSVワクチン接種率は低く、接種率は社会経済的・地域的格差が認められた。主な障壁は認知度の低さと高額な自己負担費用であった。自己負担費用の軽減と医療提供者による推奨の標準化により、接種率向上と不平等緩和が期待される」と結論付けている。

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乳児のRSV関連入院予防、ニルセビマブvs.RSVワクチン/JAMA

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染は、乳児の急性下気道感染症(LRTI)による入院の主因とされる。フランス・EPI-PHAREのMarie-Joelle Jabagi氏らは、ニルセビマブ(長期間作用型抗RSVヒトモノクローナル抗体)による受動的乳児免疫は、RSV融合前Fタンパク質(RSVpreF)ワクチン母体接種後の胎盤を介した抗体移行による乳児免疫と比較して、RSV関連入院を抑制し、重度のアウトカムのリスク低下をもたらすことを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年12月22日号に掲載された。フランスのコホート研究 研究グループは、乳児のRSV関連入院の予防におけるニルセビマブによる受動免疫の有効性の評価を目的に、住民ベースのコホート研究を行った(EPI-PHAREなどの助成を受けた)。解析には、フランスのほぼ全住民の個別データを含むフランス全国保健データシステム(SNDS)のデータを使用した。 RSVpreFワクチンの母体接種は、RSV流行期である2024年9月1日~12月31日にフランス本土で出生した乳児を対象に、妊娠32~36週に実施した。ニルセビマブによる乳児への受動免疫は、退院の前に単回の筋肉内投与で行った。これら2群(RSVpreFワクチン群、ニルセビマブ群)の乳児を、産科病棟退院日、性別、在胎週数、居住地域により、1対1の比率でマッチさせ追跡評価した。 主要アウトカムは、RSV関連のLRTIによる入院とした。 合計4万2,560人の乳児(平均日齢3.7[SD 1.4]日、男児51.7%)を登録した(各群2万1,280人)。母親の出産時年齢中央値は、ニルセビマブ群でわずかに若かった(31歳vs.32歳)。追跡期間中央値は84日(四分位範囲:70~99)だった。ほとんどが細気管支炎で入院 RSV関連のLRTIによる入院(主要アウトカム)は481例で発生した。RSVpreFワクチン群が269例(55.9%)であったのに対し、ニルセビマブ群は212例(44.1%)と有意に少なかった(群間差:-11.8%、95%信頼区間[CI]:-18.1~-5.5、p<0.001、補正後ハザード比[HR]:0.74、95%CI:0.61~0.88)。 全体の入院時の平均日齢は38.9(SD 22.2)日であった。入院の原因となったRSV関連LRTIのほとんどが細気管支炎(464例、96.5%)で、気管支炎(13例)や肺臓炎(4例)はわずかだった。入院期間中央値は両群とも5日であった。 また、RSVpreFワクチン群に比べ、ニルセビマブ群は重度のアウトカムのリスクが低かった(小児集中治療室[PICU]入室:25.9%vs.37.5%、p=0.007、補正後HR:0.58[95%CI:0.42~0.80]、酸素療法:18.4%vs.28.3%、p=0.01、0.56[0.38~0.81]、人工呼吸器:24.1%vs.33.1%、p=0.03、0.57[0.40~0.81])。これは、ニルセビマブにより入院後の疾患進行が抑制されたことを示唆する。ECMO、NO吸入の使用はない 非侵襲的換気(ニルセビマブ群24.1%vs.RSVpreFワクチン群32.0%、p=0.06)や侵襲的換気(0.9%vs.1.5%、p=0.59)の頻度は、両群間に差はなかった。また、体外式膜型人工肺(ECMO)や一酸化窒素吸入療法は使用されなかった。院内死亡の報告はなかった。 サブグループ解析や感度分析は、これら主解析の結果と一貫性を示した。なお、本研究では、安全性の評価は行っていない。 著者は、「追跡期間中にニルセビマブ群で観察されたリスク低減は、RSVpreFワクチン群における母体由来抗体の減衰、あるいは初期の抗体値の不足を反映している可能性がある」「これらの結果は、RSVpreFワクチンの有効性を否定するエビデンスと解釈すべきではない。接種の条件や環境によっては、ワクチンがより現実的な場合があり得る」「本試験の知見は、フランス本土において、これらの免疫戦略を用いた最初のRSV流行期の状況を反映しており、今後の研究では、この戦略の再評価を行う必要がある」としている。

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親のうつ病の特定の症状は子どもの報酬処理に影響か

 親にうつ病があると、その子どももうつ病を発症しやすいことが知られているが、こうしたリスクは、うつ病のある特定の症状に関連している可能性のあることが、新たな研究で示唆された。物事を楽しめない、あるいは物事に興味を持てないといったタイプの親の症状は、周囲で起きていることに対する子どもの反応の仕方に影響を与え得ることが示されたという。米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(SUNY-BU)気分障害研究所のBrandon Gibb氏とElana Israel氏によるこの研究の詳細は、「Journal of Experimental Child Psychology」2026年2月号に掲載された。 Gibb氏らによると、子どもの脳が肯定あるいは否定的なフィードバックにどのように反応するかには、親のうつ病が影響を及ぼすことがすでに明らかにされている。その原因に、物事に対する興味や喜びが失われる状態である「アンヘドニア(無快感症)」と呼ばれるうつ病の症状が関わっている可能性があるとGibb氏らは言う。 Gibb氏らは今回の研究で、7〜11歳の子どもとその親217組を対象に実験を行った。この実験は、親のアンヘドニアの症状が、子どもの報酬系における肯定的あるいは否定的なフィードバック処理にどのような影響を与えるのかを明らかにする目的で計画された。 Israel氏は、「この研究は、物事への興味や関心が薄れ、喜びを感じにくくなるというリスク要因がある場合、それが環境からのフィードバックに対する脳の反応の仕方に反映される可能性があるという考え方に基づいている」と説明している。また同氏は、「親に強いアンヘドニアを伴ううつ病があると、その子どもでは反応が弱くなると予想され、その一方で他のうつ病の症状は、理論的にはこの特定の脳反応にはそれほど強く関連しないはずだ」とニュースリリースの中で述べている。 実験では、子どもに2枚の扉を見せ、向こう側に賞金がある扉を当てるよう指示した。正解の扉を選ぶと賞金が得られ、間違えると失う仕組みだった。その結果、親のアンヘドニアの症状のレベルが高いほど、子どもは賞金を獲得した場合でも、逃した場合でも、その反応は鈍くなる傾向が認められた。一方、アンヘドニアを伴わないうつ病の症状レベルが高い親の場合では、子どもの反応が鈍化する傾向は見られなかった。 Israel氏は、「この結果から言えるのは、親のアンヘドニアに特有の何かが子どもの神経反応に影響を与える可能性があるということだ。さらに、うつ病の中核的特徴である興味や喜びの喪失、関心の低下に陥るリスクが高い子どもの特定につながる研究結果でもある」と述べている。 研究チームは、今後の研究課題として、アンヘドニアの症状がある親が治療を受けたり、状態が改善し始めたりした場合に、家族の相互作用がどのように変化するのかを調べることを挙げている。また、同級生からの社会的フィードバックなど他の種類のフィードバックに対する子どもの反応にも親のうつ病による影響があるのかどうかについて検討することが重要であると述べている。 Israel氏は、「前向きな気分や関心、良好な親子関係の強化を目的とした介入について検討している研究者もいる。今回の知見を活かして、そのような介入による効果が得られる可能性が最も高い家族を特定できるかどうかを検証することが重要だ」と述べている。

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抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化には反対/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、1月7日に定例の記者会見を開催した。会見では、松本氏の年頭あいさつのほか、抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化に関するパブリックコメントへの意見、赤ひげ大賞の受賞者発表などが行われた。 松本氏は年頭のあいさつとして干支の「午」に触れ、自身が年男であることから「地域医療を守るという強い決意のもと、情熱的でかつエネルギッシュな1年としたい」と語った。また、箱根駅伝の青山学院大学の連覇を例に「選手への指導体制や人材育成、サポートなどが連覇に大切であり、これは医療にもつながる」と述べた。 2025年について参議院選挙や年末の補正予算編成、そして、令和8年度の診療報酬改定について振り返るとともに「OTC類似薬や高額療養費など、未解決の課題についても医療現場の意見が表明できる場に参加していきたい」と語った。 そして、2026年の抱負については、高市 早苗総理大臣が先ごろ表明した「国民会議」の立ち上げについて、さまざまな手段で医師会の意見を主張していくこと、現在最多の会員数17万8,593人を本年さらに更新できるよう、「引き続き努力し、会員数だけではなく、会員全体の力もしっかりと伸ばしていきたい」と抱負を述べた。個人にリスクを負わせるスイッチOTC化には反対 「抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化に関するパブリックコメント」について、常任理事の今村 英仁氏(公益財団法人慈愛会 理事長)が、医師会の考えを説明した。「抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化」について、医師会は反対の意を表明すると述べた。 その理由として以下の6つの項目を挙げた。・インフルエンザは、発熱やせきなどの軽症例にとどまらず、肺炎や脳症などの重篤な合併症を引き起こしうる感染症である。そのために抗インフルエンザ薬は、発症時期や症状の経過、基礎疾患の有無、年齢などを総合的に評価した上で、医師の管理下で適正に使用されるべき医薬品である。・スイッチOTC化により、医師の診断を伴わない患者の自己判断使用が拡大すると、「インフルエンザ以外の疾患に対する誤用」「投与開始時期を誤ることによる効果低下」「受診遅れによる重症化リスクの増大」などのさまざまな事態が懸念される。・抗インフルエンザ薬の不適切使用は、耐性ウイルス出現のリスクを高め、社会全体の感染症対策を脅かす公衆衛生上の課題になる。・高齢者や小児、妊婦、基礎疾患を有する方など、重症化リスクの高い人々に対しては、抗ウイルス薬の使用可否や投与方法を慎重に判断する必要があるが、こうしたリスク評価を個人の自己判断に委ねることで、重症例の増加や救急医療などの医療資源のひっ迫を招きかねない。・インフルエンザ流行期における受診動向や急性呼吸器感染症の感染状況の把握は、医療機関を通じて行われてきたことを踏まえ、スイッチOTC化により医療機関を介さない中途半端な治療が広がれば、流行状況の把握や適切な対策立案が困難となり、わが国全体の感染症対応力を低下させる恐れがある。・医薬品供給問題について、医療用製造ラインの一部をスイッチOTC製造ラインに変更することになれば、医療用抗インフルエンザ薬が必要なときに医療現場に届かないことが懸念される。 おわりに今村氏は、「社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬やスイッチOTC化の推進は、必要なときに適切な医療を受けられない国民が増えることが危惧される。日本医師会としては、医師の診断と治療の下で国民の健康と安全を守り、国民皆保険制度を堅持する姿勢で今後も対応する」と述べた。 最後に常任理事の黒瀬 巌氏(医療法人社団慶洋会 理事長)が、第14回「日本医師会 赤ひげ大賞」として、大賞受賞者5人と功労賞受賞者20人の決定を報告し、会見を終えた。

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HPVワクチン、導入からの17年間で集団レベルでの高い有効性と集団免疫を確認

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが初めて導入された2006年から17年が経過した2023年までの調査を解析した結果、性交渉の経験がある若年女性においても、1回でも接種していれば、集団レベルでの高い有効性と明確な集団免疫が認められることが、「JAMA Pediatrics」に9月29日掲載された研究で明らかにされた。 米シンシナティ小児病院医療センターのAislinn DeSieghardt氏らは、2006年から2023年までに実施された6回の横断的な調査のデータを用いて、性交渉経験のある13〜26歳の若年女性2,335人(平均年齢18.9歳)を対象に、ワクチンの有効性および集団免疫について評価した。これら6回の調査は、2006〜2007年、2009〜2010年、2013〜2014年、2016〜2017年、2018〜2021年、および2021〜2023年に実施された。16および/または18型の感染を2価ワクチンのタイプの感染、6・11・16・18型のうち1種類以上の感染を4価ワクチンのタイプの感染、6・11・16・18・31・33・45・52・58型の1種類以上の感染を9価ワクチンのタイプの感染とそれぞれ見なし、接種者(1回以上接種)を未接種者と比較することでワクチンの有効性と集団免疫を評価した。各調査回の参加者の背景の違いは、傾向スコアによる逆確率重み付けを用いて調整した。 2,335人の参加者のうち1,195人(51.2%)に性感染症の既往があり、1,843人(78.9%)は、これまで性的パートナーとして経験した男性の数が2人以上だった。2006年から2023年にかけて、ワクチン接種率は371人中0人から402人中330人(82.1%)に増加した。接種者における傾向スコアで調整した各タイプのHPV陽性率は、2価ワクチンでは2006年の27.7%から2023年の0.4%へ、4価ワクチンでは35.4%から2.1%へ、9価ワクチンでは48.6%から11.8%へ、それぞれ減少した。同様に、未接種者における陽性率も、25.8%から7.3%、25.3%から6.1%、42.7%から31.1%にそれぞれ減少した。ロジスティック回帰モデルにより、2価および4価ワクチンのタイプの感染を起こす調整オッズ比(aOR)を推定したところ、全体では0.03(95%信頼区間〔CI〕0.01〜0.07)および0.06(同0.03〜0.10)、接種者では0.01(同<0.01〜0.05)および0.04(同0.02〜0.08)、未接種者では0.23(同0.08〜0.63)および0.19(同0.07〜0.52)と、いずれも有意な低下が見られたが、低下の幅は接種者の方が大きかった。9価のタイプの感染では全体(aOR 0.22、95%CI 0.16〜0.31)および接種者(同0.14、0.09〜0.21)において有意な低下が見られた。 論文の共著者の一人である米アルバート・アインシュタイン医科大学のJessica A. Kahn氏は、「今回の結果から、性交渉経験があり、かつ3回接種を完了していない若年女性においても、HPVワクチンは感染を予防できる力があると思われ、究極的にはこの世界から子宮頸がんを撲滅できるのではないかと考えている」と述べている。 なお、一人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報、2人の著者が関連特許を保有していることを明らかにしている。

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鼻に歯が生えていた2例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第297回

鼻に歯が生えていた2例さまざまな場所に歯が生えるものですが、過去に脳内に歯が生えた事例を紹介しました。今度は鼻の中です。脳に比べるとインパクトは少ないかもしれませんが、おどろき医学論文マニアとして、紹介しなければなりません。Bergamaschi IP, et al. Intranasal Ectopic Tooth in Adult and Pediatric Patients: A Report of Two Cases. Case Rep Surg. 2019 Sep 17;2019:8351825.「先生、鼻の中に“歯”があると言われたんですけど……」。外来でこんな訴えが飛び出したら、皆さんどうされるでしょうか。「抜けた歯が鼻腔に入ったのかな? いや、でもなんで歯が鼻に?」と一瞬フリーズしたくなりますが、世の中には“鼻から歯が生える”患者さんが存在します。今回は、ブラジルの口腔外科チームが報告した「鼻腔内異所性歯」の成人例と小児例、2症例を扱った論文をご紹介します。1例目は、32歳の女性です。主訴はズバリ「鼻の中に歯がある」というものでした。この患者さんによると、この状態は痛みを引き起こし、とくに寒い日には鼻血が出るとのことでした。詳しく病歴を聴取すると、6歳のときに顔面外傷を負い、上顎前歯部に損傷を受けたことが判明しました。つまり、26年もの間、歯が鼻の中に存在していたことになります。臨床診察で鼻尖部を持ち上げてみると、なんと右鼻孔内に上顎中切歯の歯冠が観察されました。6歳といえば、ちょうど前歯の永久歯が萌出する時期であり、Nollaの発育段階では7(歯冠完成、歯根の3分の1発育)に相当します。この時期に外傷を受けたことで、本来口腔内に萌出するはずだった歯が、上方に変位して鼻腔内に迷い込んでしまったと考えられます。ここで疑問が生じます。なぜ26年間も放置されていたのでしょうか。論文によると、これは「専門家からの誤った情報提供」が原因だったとのことです。つまり、症状(痛みや鼻出血)に対する対症療法のみが行われ、その原因である鼻腔内の歯が長年見過ごされていたということです。2例目は、左側の片側性口唇口蓋裂を有する8歳の女児です。この子供は、左側鼻閉を主訴に紹介されてきました。原因は、肉芽組織に囲まれた鼻腔内の硬い組織塊でした。口腔内診察とCT検査の結果、この白色塊は左側側切歯の異所性萌出であることが判明しました。口腔内では左側側切歯が欠損しており、塊の透過性は他の歯と一致していました。興味深いことに、CT検査では、この形成異常歯の上部は軟組織内に埋入しており、骨性支持がない状態でした。母親によると、この白色塊は腸骨骨移植による口鼻瘻孔閉鎖術の3ヵ月後に出現したとのことです。口唇口蓋裂自体が多因子性の病因を持つため、異所性萌出に対する遺伝的素因も否定できませんが、手術操作による歯胚の変位も原因として考えられます。両症例とも、治療は全身麻酔下での歯の外科的摘出でした。「鼻から歯を抜く」という、一見すると大手術のように思える処置ですが、実際の手技は比較的シンプルで、無事に済んだそうです。

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第295回 3次救急で停電が当たり前、ベネズエラの悲惨な医療実態

INDEX米国の攻撃で死者100人、ベネズエラの医療体制とは無償以前に医療が成り立っていない3次救急でも停電やCT稼働停止が日常茶飯事!米国の攻撃で死者100人、ベネズエラの医療体制とは「健康は基本的な社会的権利であり、生命権の一部として国家がこれを保障する責任を負う。すべての者は健康保護の権利を有する」「健康への権利を保障するため、国家は全国的な公衆衛生システムを創設・指導・管理し、社会保障制度と統合し、無償性、普遍性、完全性、公平性、社会的統合および連帯の原則に従って運営する」これはある国の憲法の条文である。もちろん日本ではないことくらいは多くの人が気付くだろうと思う。どこのものかといえば、新年早々、大統領が拘束された南米・ベネズエラの憲法第83条、第84条である。憲法という理念・概念を示す最高法規にここまで医療について明記している国は珍しいのではないだろうか?ベネズエラは1500年代からスペインの植民地となり、1800年代に独立。1900年代から昨今まで、政治上は典型的な左右両派闘争と複数回のクーデターを経験してきた。1999年からはクーデターを経て大統領に就任したウゴ・チャベス氏の下、反米・社会主義路線の独裁体制へと移行。2013年にチャベス氏が死去すると、その腹心で今回アメリカが麻薬密輸容疑などで拘束したニコラス・マドゥロ氏が後を継いだ。このチャベス政権以降のベネズエラは野党などの反対勢力や市民デモなどを徹底的に弾圧し、議会を機能不全にした。マドゥロ氏は過去3度の大統領選挙で当選しているが、いずれも不正の疑いが強く指摘されている。また、同国は原油の推定埋蔵量世界1位という極めて恵まれた環境にありながら、チャベス氏の大統領就任以降は極端な社会主義政策に基づき企業を国有化し、その乱脈経営により、国内では物不足とインフレが常態化している。この結果、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ベネズエラからの国外難民・避難民は2025年5月時点で790万人以上との推計値を公表している。これはベネズエラの総人口の約4分の1にあたる。無償以前に医療が成り立っていないさてそのベネズエラは、冒頭で紹介した憲法条文からもわかる通り、社会主義国家に典型的な教育と医療は「無償」である。公式には国民・在住者IDと呼ばれるカードを医療機関で提示すれば、無償で医療を受けられる建前だ。ちなみに国内の医療機関数は、2001年の同国保健省の公表(かなり古いデータだが)によると、病院が214カ所、診療所が4,605カ所である。これらの国公立と私立の区分に関する正確なデータはないが、国内医療機関の5~10%が私立であるとの報告もある。また、ベネズエラ医師連盟(同国の医師会に相当)によると、2024年時点での国内の医師数は約8万人。もっともこれはチャベス政権以降の政治的混乱で4万2,000人ほどの医師が国外に脱出した結果だという。ここから試算すると、ベネズエラの人口1,000人当たりの医師数は2.81人であり、経済協力開発機構(OECD)がHealth Statistics 20231)で公表している加盟国平均の3.7人よりは少ないものの、同統計で示された日本(2.6人)やアメリカ(2.7人)をわずかに上回る。ただ、このデータは各種報道と公式人口から単純計算したものであり、世界保健機関(WHO)が公表した2017年時点のデータでは1.66人となっている。公式に公表されるデータが乏しく信用性が低いのは独裁国家の常だが、後者を信用するならば、医療アクセスはかなり悲惨な状況にあると言える。そして前述のように物不足とインフレが常態化している以上、こうした医療機関が十分に機能しているはずもない。実際、現地で活動する医師や学生によるNGO「Medicos por la Salud」(Doctors for health)が公表している「Encuesta Nacional de Hospitales(全国病院調査)」2)を見ると、その惨憺たる状況が浮かび上がってくる。ベネズエラ国内の主要な公的40病院からデータを収集した同調査の2024年中間(1~7月)報告を参照してみる。3次救急でも停電やCT稼働停止が日常茶飯事!調査対象はベネズエラ保健省がタイプIII、あるいはタイプIVと分類する病院。前者は州レベルの人口をカバーし、病床数は一般的に150〜300床程度。後者は人口100万人以上の広域エリアをカバーする300床以上の病院だ。日本で例えるならば、大学附属病院や都道府県で病床数が多い基幹病院に相当する。調査によると対象病院の各サービスが常時稼働できている割合は、ICUが73%、小児ICUが75%、臨床検査室が43%、X線撮影装置が31%、CT・MRIが12%、超音波装置が21%である。ICUですら約3割が常時稼働できていない状態であり、検査関連は惨憺たる結果だ。というか、これら検査が稼働していない状況でICUが機能できるわけもないだろう。つまるところICUの常時稼働は取りあえずマンパワーの配置だけはできている、という程度ではないだろうか?報告書によると、検査関連機器が稼働していない主な要因は、故障した機器の修理・更新費用が国から支払われていないためとしている。もし病院のCTが稼働していない場合、患者はCTが稼働している民間医療機関で撮影を行わねばならず、その費用が約90ドルであると記述している。もはやこの段階で憲法が保障する無償医療が崩壊している。ベネズエラの公務員月給は、基本給に加えてインフレによる通貨暴落に対応するためのボーナスや食糧配給クーポンなどを合わせ、米ドル連動の「包括的最低収入」という仕組みで月額160ドルが支払われる。ちなみに公務員の基本給自体は月額4ドル程度にすぎない。ここから民間医療機関でのCT撮影費用を捻出することが患者にとってどれほど大きな負担かは容易に想像がつくだろう。さらに、入院患者に1日3回の食事を提供できている病院はわずか35%であり、さらに患者の医学的ニーズに合った食事を提供できているケースは19%にとどまる。小児科の入院機能を有する病院の48%では「粉ミルクがない」と回答している。病院を支える水と電力の供給も驚くほど不安定である。毎日問題なく給水が続いている割合は、ICUで28%、手術室で30%。断続的な供給と回答している病院のうち4~5割は水道ではなく病院の貯水タンクでしのいでいるという状態だ。調査対象病院の43%が停電を経験しており、週当たりの停電発生日数は「3日未満」が68%、「3~5日」が17%、「6~7日」が16%、平均停電時間は126分である。もしかしたら「約7割は問題ないじゃないか?」と思う人もいるかもしれないが、調査対象病院は、日本で言えば停電など年1回でもあってはならない3次救急病院クラスである。実際、調査対象病院からの回答では、停電の影響で患者が死亡した事例は129例もある。加えて、手術に必要な縫合糸、鎮痛薬、生理食塩水、医師の手術ガウンなどの物品提供を患者へ求めた経験のある病院は91%に達し、手術で別途料金支払いを求めた経験のある病院は54%に上る。求めた別途料金は「100~300ドル」が最多の43%、次いで「300ドル以上」が28%である。ここでも無償医療は有名無実化している。すべての社会主義国家がこうだと言うつもりは毛頭ないが、少なくとも原油に恵まれ、反米・社会主義を掲げる独裁国家・ベネズエラの医療の実態は、違憲だけではとどまらない、もはやホラーな状態である。(表)ベネズエラの憲法と起こっている現実問題画像を拡大するもっとも、紛争や安全保障も取材領域とする私個人の意見を言わせてもらえば、チャベス政権以降のベネズエラの独裁体制には従来からかなり批判的だが、一方で今回のアメリカによる軍事作戦は明確に国際法に反する主権侵害行為とも考えている。そのため今回の事態に対しては一言では言い表せないモヤモヤしたものを感じている。ただ、もはや時計の針を巻き戻すことはできないことを考えれば、こうしたベネズエラの医療が今後少しでも改善することを願ってやまない。 参考 1) OECD:Health at a Glance 2023 2) Mid Year Report 2024

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツ今冬のインフルエンザ診療のポイント【診療よろず相談TV】急性呼吸器感染症の5類位置付けに関するQ&A【患者説明用スライド】風邪や咳症状に対する日本での市販薬使用状況は?「風邪のときのスープ」に効果はある?風邪予防にビタミンDは効果なし?~メタ解析

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第43回 最新ゲノム解析が解き明かす、人類と牛乳の意外な歴史

「牛乳を飲むと、なんだかおなかの調子が悪くなる。」 そんな経験を持つ人は、日本人だけでなく世界中に少なくありません。実は、大人になっても牛乳に含まれる糖(乳糖)を分解できる「ラクターゼ持続性」という体質を持っているのは、人類全体で見れば少数派なのです。 なぜ一部の人だけが牛乳を飲めるように進化したのか? これまでは「牧畜を始め、ミルクを飲むことが生存に有利だったから」というシンプルな説が信じられてきました。しかし、昨年末に発表された最新の研究は、そんな定説を覆す驚きの事実を明らかにしました。南アジアの大規模なゲノム解析から見えてきたのは、遺伝子と文化、そして「ヨーグルト」が織りなす、人類の巧みな生存戦略だったのです1)。「飲める遺伝子」は、生存競争の結果ではなかった? 長年、生物学の教科書では、大人になっても牛乳を分解できる能力(ラクターゼ持続性)は、「自然選択」の代表例として語られてきました。つまり、牧畜が盛んな地域では、ミルクを栄養源として摂取できる人が生き残りやすく、その結果、「牛乳を飲める遺伝子」が爆発的に広まったというストーリーです。 実際、ヨーロッパの人々においては、この説明は正しいと考えられています。しかし、世界最大級の乳製品の生産・消費地である「南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュ)」に目を向けると、この定説に綻びが見え始めました。 米国・カリフォルニア大学バークレー校などの研究チームは、インド、パキスタン、バングラデシュの現代人および古代人、計8,000人以上というかつてない規模のゲノム解析を行いました2)。南アジアの人々は日常的にミルクや乳製品を摂取しています。ならば、ヨーロッパと同じように、ミルクを消化する遺伝子が「生存に有利だから」という理由で強く選択され、広まっているはずです。 しかし、結果は予想外のものでした。 解析の結果、南アジアの人々が持っている「ミルクを飲める遺伝子変異」は、ヨーロッパの人々が持っているものと同じタイプであることがわかりました。ところが、南アジアのほとんどの集団において、この遺伝子の頻度は「生存競争(自然選択)」によって増えた痕跡を示していなかったのです。 では、なぜ彼らはこの遺伝子を持っていたのでしょうか? 答えは「移民」でした。 研究チームは、この遺伝子の分布が、約3,500年以上前に北方からやってきた遊牧民の遺伝子の濃さと、ほぼ完全に比例していることを突き止めました。つまり、多くの南アジアの人にとって、ミルクを飲める遺伝子は、厳しい生存競争を勝ち抜くために獲得した「武器」ではなく、単に先祖が移動してきた際に一緒に持ち込まれたにすぎなかったのです。「例外」が証明する、過酷な環境とミルクの力 「ミルクを飲めること」が生存に必須ではなかった。そう結論付けられそうになった研究ですが、データの中には「例外」も存在しました。 それは、南インドの「トダ族」と、パキスタンの「グジャール族」という2つの集団です。 この2つのグループでのみ、ミルクを消化する遺伝子の頻度が異常に高かったのです。その割合は、偶然や単なる先祖の影響では説明がつかないレベルでした。統計的な分析の結果、彼らの遺伝子には、過去数千年の間に「この遺伝子を持っていなければ生き残れなかった」と言えるほど、強力な自然選択が働いた痕跡が見つかりました。 それでは、なぜ彼らだけが? その鍵は、彼らのライフスタイルにあります。トダ族もグジャール族も、伝統的にバッファローや牛を飼育し、その生活のすべてを乳製品に依存する牧畜民だそうです。 ヨーロッパの古代牧畜民と同様、厳しい環境下で、ミルク以外の食料が手に入りにくい状況にあった彼らにとって、ミルクを「生のまま」栄養にできるかどうかは、まさに生死を分ける問題だったのでしょう。この発見は、「環境が極端に厳しく、ミルクに依存せざるを得ない状況」にあって初めて、遺伝子が強力に進化することを示唆しています。「おなかがゴロゴロしない」ための人類の知恵 しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。トダ族やグジャール族以外の南アジアの人々も、日常的に乳製品をたくさん食べています。遺伝的な進化(自然選択)が起きていないのなら、彼らはおなかを壊しながら無理して食べていたのでしょうか? 研究者たちが注目しているのは、「文化的な適応」です。 南アジアの食文化の中心は、ダヒ(ヨーグルト)、パニール(チーズ)、ギー(澄ましバター)。これらはすべて、発酵や加工の過程を経た食品です。実は、ミルクを発酵させてヨーグルトやチーズにすると、おなかの不調の原因となる「乳糖(ラクトース)」が大幅に減少します。 つまり、多くの人が、自分の遺伝子(体質)を進化させるのを待つのではなく、食べ方(文化)を工夫することで、ミルクの栄養を享受してきたのです。これを「遺伝子と文化の共進化」と呼びます。つまり、乳糖を分解できない問題を遺伝子で解決した人と文化で解決した人がそれぞれいたわけです。 遺伝子で解決した人 トダ族、グジャール族、北欧の人など(生のミルクに依存せざるを得なかった) 文化(加工)で解決した人 その他の多くの南アジアの人、そしておそらく日本人の祖先も?(発酵技術で乳糖を減らした) 「牛乳が体に合う・合わない」は、単なる好き嫌いではなく、数千年にわたる先祖の移動と、厳しい環境を生き抜いた歴史の結果です。そして同時に、もし自分の体質に合わなくても、人類は「料理」や「加工」という知恵を使って、その壁を乗り越えてきました。 「スーパーでヨーグルトを買う」という何気ない行為も、実は、遺伝子の進化を「知恵」で補ってきた人類の壮大な歴史の一部なのかもしれません。そんなことを考えると、次に口にする乳製品はまたちょっと違った味わいになるかもしれません。 1) Price M. Roots of milk drinking revealed by South Asian genomes. Science. 2026 Jan;391:12-13. 2) Kerdoncuff E, et al. Revisiting the evolution of lactase persistence: insights from South Asian genomes. bioRxiv. 2025 Nov 6. [Preprint]

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医師数公表、人口当たり医師数が最も多い県・少ない県/厚労省

 厚生労働省は、2025年12月23日に令和6(2024)年12月31日現在における医師数を公表した。報告によると全国の届出「医師数」は34万7,772人で、「男性」は26万2,801人(75.6%)、「女性」は8万4,971人(24.4%)だった。令和4(2022)年と比べると4,497人(1.3%)増加していた。また、人口10万人当たりの医師数は280.9で、前回に比べ6.2増加していた。 年齢階級別では「30~39歳」が6万7,729人(20.5%)と最も多く、次いで「50~59歳」が6万5,939人(19.9%)、「40~49歳」が6万5,264人(19.7%)の順で多かった。 また、男女の構成割合を年齢階級別にみると、すべての年齢階級で「男性」の占める割合が多くなっていたが、「女性」の割合は、年齢階級が低くなるほど高く、「29歳以下」では36.8%だった。全体の95%の医師が医療施設で従事 施設・業務の種別では、「医療施設の従事者」は33万1,092人(総数95.2%)で、前回に比べ3,648人(1.1%)増加していた。「介護老人保健施設の従事者」は3,337人(同1.0%)で、前回に比べ39人(1.2%)増加し、「医療施設・介護老人保健施設・介護医療院以外の従事者」は9,403人(同2.7%)で222人(2.4%)増加していた。 施設の種別では、「病院(医育機関附属の病院を除く)」が16万1,113人と最も多く、「診療所」が11万1,699人、「医育機関附属の病院」が5万8,280人となっており、昭和61(1986)年以降「病院(医育機関附属の病院を除く)」が最も多い結果となった。また、施設の種別に年齢階級をみると、「病院(医育機関附属の病院を除く)」「医育機関附属の病院」では「30~39歳」、「診療所」では「60~69歳」が最も多かった。平均年齢は「病院(医育機関附属の病院を除く)」が47.9歳、「医育機関附属の病院」が39.7歳、「診療所」が60.1歳だった。診療科別平均年齢では「美容外科」が41.2歳と低い 従事する主たる診療科別では、「内科」が6万2,161人(18.8%)と最も多く、「整形外科」が2万2,630人(6.8%)、「小児科」が1万8,009人(5.4%)の順で多かった(臨床研修医1万8,257人を除く)。少数診療科では「気管食道外科」が94人(0.0%)、「アレルギー科」が170人(0.1%)、「肛門外科」が431人(0.1%)の順で少なかった。 主たる診療科別で平均年齢をみると、「肛門外科」が60.5歳と最も高く、「臨床研修医」を除くと「美容外科」が41.2歳と低くなっていた。 主たる診療科を施設種別にみると、病院では「内科」が2万1,865人(10.0%)と最も多く、「整形外科」が1万4,659人(6.7%)、「精神科」が1万2,364人(5.6%)の順で多かった。また、診療所では「内科」が4万296人(36.1%)と最も多く、「眼科」が8,597人(7.7%)、「整形外科」が7,971人(7.1%)の順で多かった。埼玉県の医師不足、専門医不足が顕著に 医療施設に従事する都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数は、徳島県が345.4と最も多く、長崎県が333.8、京都府が333.2の順で多かった。その一方で、埼玉県が189.1と最も少なく、茨城県が198.1、千葉県が213.3の順で少なかった。 また、近年医師数の減少などで問題となっている「小児科」「産婦人科」「外科(心臓血管外科、呼吸器外科など)」について都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数は次のとおりだった。・主たる診療科が「小児科」の医師数は、鳥取県が187.3と最も多く、千葉県が101.5と最も少なかった。また、専門性資格の「小児科専門医」は、鳥取県が146.0と最も多く、山口県が58.0と最も少なかった。・主たる診療科が「産婦人科・産科」の医師数は、福井県が66.4と最も多く、埼玉県が35.1と最も少なかった。また、専門性資格の「産婦人科専門医」は、島根県が60.0と最も多く、埼玉県が29.0と最も少なかった。・主たる診療科が「外科」の医師数は、長崎県32.3と最も多く、埼玉県が14.6と最も少なかった。また、専門性資格の「外科専門医」は、鳥取県が21.7と最も多く、埼玉県が12.3と最も少なかった。

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新生児に対するビタミンK投与を拒否する親が増加傾向

 米国では、1961年に全ての新生児に対するビタミンKの筋肉内投与が開始されて以来、ビタミンK欠乏性出血症がほぼ解消された。ビタミンKは、血液凝固を助ける目的で投与される薬剤であり、ワクチンではない。しかし新たな研究で、近年、新生児へのビタミンK注射を拒否する親が増えていることが明らかにされた。研究グループは、注射の拒否により新生児が深刻な出血リスクにさらされる可能性があると警告している。米フィラデルフィア小児病院の新生児専門医であるKristan Scott氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」に12月8日掲載された。 この研究でScott氏らは、2017年から2024年の間に米国50州にある403カ所の病院で、妊娠35〜43週で生まれた509万6,633人の新生児の医療記録を調べた。その結果、全体の3.92%に当たる19万9,571人がビタミンKの注射を受けていないことが明らかになった。注射を受けていない新生児の割合は、2017年の2.92%から2024年の5.18%へと有意に増加しており、特に新型コロナウイルス感染症パンデミック以降に急増していた。この結果についてScott氏は、「増加自体は驚くことではないが、増加の大きさには驚いた」とNBCニュースに語っている。 新生児のビタミンK体内濃度は非常に低い。米疾病対策センター(CDC)によると、ビタミンKの投与を受けない場合、危険な出血を起こす可能性が80倍以上高くなるという。出血は、生後6カ月までの間にあざや内出血などの形で現れる可能性があり、最も重篤な場合には障害や死亡につながる脳出血が生じることもある。 このことを踏まえてScott氏は、「われわれは、出血リスクのある新生児の集団を作り出しているに等しい。本当に心配なのは脳出血、つまり脳卒中だ。脳出血が起こると、最終的には死に至る可能性がある」と話している。 専門家らは、オンライン上の誤情報やビタミンK注射とワクチンの混同が、こうした傾向の根底にあるのではないかと疑っている。この研究には関与していない米テキサス小児病院の新生児科医であるTiffany McKee-Garrett氏は、「親は、ビタミンK注射をワクチン接種と同等に捉えている」とNBCニュースに語っている。 一部の国では、新生児に経口ビタミンKを投与している。しかし医師らは、経口ビタミンKは信頼性が低く、場合によっては複数回投与する必要があるのに対し、ビタミンKの注射は1回の投与で効果があるとしている。 米NYC Health + Hospitalsの新生児科医であるIvan Hand氏は、「ビタミンK欠乏性出血症は予防可能であり、そもそも発生していること自体が問題だ」と話す。医師らは、現状のようなビタミンK投与が拒否される状態が続けば、出血イベントの発生数が増加する可能性が高いとの見方を示している。Hand氏は、「ビタミンK投与は極めて効果的であるが、人々はそのことを十分に理解していない。重度の出血を起こした乳児を見たことがないため、そのようなことは起こらないと思っているのだ。しかし、それが見られないのは、われわれがそうした乳児の治療をしているからだ」と話している。

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小児にも使用しやすい脳腱黄色腫症治療薬「フジケノン粒状錠125」【最新!DI情報】第54回

小児にも使用しやすい脳腱黄色腫症治療薬「フジケノン粒状錠125」今回は、脳腱黄色腫症治療薬「ケノデオキシコール酸(商品名:フジケノン粒状錠125、製造販売元:藤本製薬)」を紹介します。脳腱黄色腫症は小児期からの継続した治療が必要ですが、わが国ではこれまで本疾患を効能・効果とするケノデオキシコール酸(CDCA)製剤がなく、開発が望まれていました。<効能・効果>脳腱黄色腫症の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得し、11月21日より販売されています。<用法・用量>成人:通常、ケノデオキシコール酸として1日量250mgより投与開始し、250mgずつ増量した後、維持量として1日量750mgを1日3回に分けて連日経口投与します。患者の状態により適宜増減しますが、1日量として1,000mg、1回当たりの投与量として375mgを超えないこととします。小児:通常、ケノデオキシコール酸として1日量5mg/kgより投与開始し、5mg/kgずつ増量した後、維持量として1日量15mg/kgを1日3回に分けて連日経口投与します。患者の状態により適宜増減しますが、1日量として15mg/kgおよび750mg、1回当たりの投与量として250mgを超えないこととします。<安全性>副作用として、肝機能異常、鼓腸(いずれも5%以上)、ALT上昇、AST上昇、ALP上昇、ビリルビン上昇、下痢、軟便、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、胸やけ、腹部不快感、腹部膨満感、発疹、そう痒、倦怠感、めまい、顔のむくみ(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳腱黄色腫症の治療に用いられます。血中コレスタノールを低下させることで症状を改善します。2.かまずに服用してください。3.制酸薬などと併用すると作用が弱まることがあるので、他の薬を使用するときは薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous xanthomatosis:CTX)は、ステロール27位水酸化酵素をコードするCYP27A1遺伝子の変異により、その酵素活性が著しく低下する常染色体劣性遺伝疾患です。27位水酸化酵素は、肝臓における一次胆汁酸の合成に必須の酵素であり、この酵素が欠損するとケノデオキシコール酸(CDCA)の合成が著減し、血清中のコレスタノールが上昇します。また、CDCAは胆汁酸合成経路の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素の発現を抑制する役割も担っています。しかし、CDCAが減少すると、このネガティブフィードバックが抑えられ、血清中のコレスタノールがさらに上昇します。上昇したコレスタノールは、脳、脊髄、腱、水晶体、血管など全身の臓器に沈着し、進行性の神経障害(知能低下・錐体路症状・小脳症状など)、皮膚・腱黄色腫、若年性白内障、早発性心血管疾患など、さまざまな臓器障害を引き起こします。治療は、胆汁酸プールの補充を目的としたCDCA製剤の投与が中心となっており、コレステロール7α-水酸化酵素へのネガティブフィードバックを正常化することで、コレスタノールの産生・蓄積を抑制します。しかし、国内で承認されているCDCA製剤の適応は「外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解」に限られており、CTXを効能・効果とするCDCA 製剤は承認されていませんでした。そのため、日本神経治療学会は、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議に対し、CTXを効能・効果とするCDCA製剤の開発要望書を提出していました。本剤は、一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸を有効成分とするCTX治療剤であり、成人および小児に使用できます。CTXは遺伝性疾患であり、小児期から継続した治療が必要と考えられるため、小児でも服用可能な用量調節が容易な粒状錠となっています。また、苦みをマスキングするため、フィルムコーティング錠を採用しています。日本人CTX患者を対象とした国内第III相試験(FPF1011-03-01試験:非盲検非対照試験)において、主要評価項目である血清コレスタノール濃度(平均値±標準偏差)の推移は、診断時22.25±12.66μg/mL、投与52週時は6.73±5.67μg/mLでした。※2026年1月27日に一部内容の修正を行いました。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その4】そもそもなんで多重人格は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離性同一症の起源

今回のキーワード記憶喪失知らないふり乳幼児の生存戦略慕うふり産業革命病理化適応度可塑性[目次]1.なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる2.「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」3.参考記事前回(その3)、多重人格になるメカニズムを、脳科学の視点から仮説を使って解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか?この謎の答えに迫るために、今回も引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、進化精神医学の視点から、多重人格の起源に迫ります。なお、多重人格の現在の名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる片岡さんは、安先生に「こんな病気(多重人格)になったんは、私が弱いからですよね」とたずねます。すると、安先生は「違うよ。とても耐えられんような苦しさと悲しさの中で、それでも生き延びる方法を見つけようとしたんや。生きる力が強いんや」と力強く答えます。確かに片岡さんが言うように、多重人格になるのはその脆弱性があるからとその3で説明しました。しかし、進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、「生き延びる方法」として「生きる力が強い」と言えます。どういうことでしょうか? そもそもなぜ多重人格は「ある」のでしょうか?まず多重人格の起源は、記憶喪失の起源を土台にして考えることができます。そこで、記憶喪失の進化の起源を理解する必要があります。この詳細については、関連記事1をご覧ください。記憶喪失の起源とは、約300万年前に人類が助け合いの集団をつくるようになってから、トラウマ体験を「知らないふり」(記憶喪失)で生き延びるという、新しい環境に適応するための生存戦略であると説明しました。ここで、多重人格は大人ではなく子供、とくに乳幼児期のトラウマ体験によって発症することを踏まえると、原始の時代、人類の乳幼児がどんな環境に身を置いていたかに着目する必要があります。その環境とは、現代社会のような人権という概念すらなく、子供、とくに乳幼児の命はとても軽かったでしょう。病気ですぐに死んでしまうので、たくさん子供がつくられました。よくよく考えると、つい近世まで、飢餓の時は、捨て子さえも珍しくありませんでした。児童労働もごく当たり前でした。つまり、現代で禁止されている虐待は、原始の時代ではごくありふれた現象であったことが想定されます。そんななか、親から虐待された子供は、そのトラウマ体験によって記憶喪失になるだけだと、その親の顔を思い出せないのでその親に後追いや抱き着きなどの愛着行動を示すことができません。すると、親はたくさんいる他の兄弟に目をかけるようになり、その子供は構ってもらえなくなります。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は死(淘汰)を意味します。一方で、人格部分として再び現れてでも、その親の顔を認識して愛着行動を示すことができれば、虐待されるにしても、食料は分け与えられるなどの一定の保護が得られます。たとえば、幼児の人格部分が出ていた片岡さんのように、「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と泣くことです。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は生き残るでしょう。そして、主人格は、当初親の顔については記憶喪失になっているわけですが、人格部分が代わりに親との愛着関係をつなぎ留めていてくれたおかげで、やがて成長するにつれていつも一緒にいる大人がおそらく親であると再認識するようになるでしょう。これは、乳幼児の生存戦略です。つまり、大人と違って子供は、「知らないふり」(記憶喪失)だけでは不十分で、「知ってるふり」「慕うふり」(人格部分による愛着行動)もして、何とか親(愛着対象)に食らいついて生き延びるよう進化したでしょう。これが、多重人格の起源と考えられます。大人と違って子供の場合、虐待する親であっても一定の養育行動を引き出さなければ生き延びられないので、親の顔の記憶を喪失して愛着行動を示さない主人格の代わりに、愛着行動を示す人格部分が積極的に出てくる必要があったというわけです。なお、大人になった片岡さんは、気味が悪いと避難所から追い出されるなどのトラブルを起こしていました。しかし、原始の時代は、多重人格として大人になってもそれほど困らなかったと考えられます。なぜなら、原始の社会では、言葉さえなく、その日暮らしでその瞬間を生きているだけであり、人格は1つであるという概念すらなかったからです。ちなみに、言葉を話すようになったのは約20万年前、人格などの概念を用いるようになったのは約10万年前以降、そして人格は1つであり変わらないという合理主義や個人主義の価値観が広がったのは約200年前の産業革命以降です。そしてまさに産業革命以降に、多重人格が病気として認識(病理化)され、報告されるようになったのでした1)。以下のグラフは、「24」、「エクソシスト」、そして今回に論じてきた解離症のすべての起源をまとめたものです。「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、多重人格が「ある」のは、「弱いから」ではなく、子供が「生き延びる方法」(生存戦略)として「生きる力が強い」と言えます。これは、発達心理学の視点では可塑性、進化精神医学の視点では適応度と言い換えられます。つまり、安先生の言葉は、小さい子供の時の片岡さん自身だけでなく、私たちの祖先の人類にも当てはまることだったのです。この点で、このドラマのタイトルである「心の傷を癒すということ」とは、私たち人類が「生き延びるということ」でもあると言えるのではないでしょうか?なお、多重人格の治療については、関連記事2をご覧ください。参考記事ちなみに、虐待を含む不適切な養育(マルトリートメント)における子供の愛着の反応パターンとしては、今回の「知ってるふり」(多重人格)だけでなく、「馴れ馴れしいふり」(脱抑制型対人交流症)や「よそよそしいふり」(反応性アタッチメント症)も挙げられます。これらも、乳幼児の生存戦略であると言えます。多重人格は、脱抑制型対人交流症や反応性アタッチメント症と比べて、幼少期は目立たず潜在しており、その後に顕在化する特徴があります。そして、これらは、その3でも触れたストレンジ・シチュエーション法2)における、以下のタイプと関連しています。 1) 稀で特異な精神症候群ないし状態像、p80:中安信夫、星和書店、2004 2) 乳幼児のこころpp103-104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事米国ドラマ「24」【その2】なんで腰抜けや記憶喪失は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離症の起源スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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餅などによる気道閉塞、腹部突き上げ法と背部叩打法の有効性~MOCHI研究班

 お正月は餅を食べる機会が多く、餅による窒息の初期対処法をいま一度確認しておきたい。日本医科大学の五十嵐 豊氏らが、餅などの異物による気道閉塞患者に対して腹部突き上げ法もしくは背部叩打法による初期対応を実施する場合の有効性を介入なしの場合と比較したところ、いずれの方法も介入なしと比べて有意に良好な神経学的転帰と関連し、さらに背部叩打法は生存率改善とも関連していたことが示された。Resuscitation Plus誌2025年9月号に掲載。 本研究は、MOCHI(multi-center observational choking investigation:窒息に関する多施設共同観察研究)研究班による国内25病院で実施された前向き多施設観察研究で、2020年4月~2023年3月に異物による気道閉塞で救急外来を受診した18歳以上の患者が対象。主要評価項目は30日後の良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Category1または2)、副次的評価項目は30日生存率および閉塞解除の成功率とした。交絡因子を調整するため、治療の逆確率重み付け(IPTW)を用いた傾向スコア分析を実施し、ロジスティック回帰分析およびCox比例ハザードモデルで解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・407例(年齢中央値:81歳)のうち、腹部突き上げ法が24例、背部叩打法が76例、バイスタンダーによる介入なしが175例であった。・IPTW調整後、腹部突き上げ法群(38%vs.16%、差22%、95%信頼区間[CI]:14~31)および背部叩打法群(31%vs.16%、差15%、95%CI:8~23)は、介入なし群と比較して良好な神経学的転帰の頻度が有意に高かった。・背部叩打法は生存率改善と関連していた(調整後ハザード比[HR]:0.52、95%CI:0.35~0.78)が、腹部突き上げ法は関連していなかった(調整後HR:0.73、95%CI:0.40~1.35)。

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mRNAインフルエンザワクチンが「速い」「安い」「確実」を実現するかもしれない(解説:栗原宏氏)

革新性 不活化ワクチンの鶏卵由来のタイムラグと変異(卵馴化)を克服し、流行株に「ジャストフィット」させる可能性を示した。臨床的意義 A型流行下において既存ワクチンに勝る有効性を実証。1シーズン限定だが、mRNAのポテンシャルを証明した。普及の壁 不活化ワクチンより高い副反応(発熱など)の受容性。とくに「病気を防ぐためのワクチンで発熱する」ことへの心理的抵抗。今後の焦点 重症化リスクの高い高齢者・基礎疾患保有者でのデータ。およびB型株に対する改良。 不活化ワクチンの生産は、鶏卵への接種からワクチン原液の製造まで約6ヵ月を要し、従来のインフルエンザワクチンは次シーズンに流行する株を予測して生産するという、いわば「博打」のような状況である。それに加えて卵馴化による変異を起こすという不確定要素もある。実際に、過去10年をみると2014-15シーズンは予測したワクチン株と実際の流行株でミスマッチとなり、ワクチンの効果がかなり小さかったとされている。 一方、mRNAワクチンは遺伝子配列から化学合成が可能であり、約1ヵ月程度で製造が可能とされている。流行直前まで見極めることで、精度の高いワクチン生産が可能になると推測される。理論上のmRNAワクチンの有意点に対し、実際の調査においても1シーズンのみではあるが、既存の不活化ワクチンに対する非劣性、優位性を示した意義は大きいと思われる。 今後のmRNAワクチンの普及を考えるうえでは、軽症・中等症かつ一過性ながら既存のワクチンよりも副反応が多かった点が問題になるかもしれない。最も頻度の高い全身性イベントは倦怠感と頭痛とされ、発熱(≦40.0℃)に関してはmRNAワクチン群で5.6%、対照群で1.7%と4倍ほど多かった。とくに健康な若年世代にとっては、ワクチン自体でインフルエンザのような症状が出て、日常生活に支障が出るとすればワクチンのメリットが感じにくいかもしれない。 本調査の対象は、年齢18~64歳の健康な成人であるため、実際に最も問題となる高齢者、基礎疾患を有する患者での調査結果が待たれる。インフルエンザBでは非劣性を示せていないが、B型ウイルス特有のタンパク質構造が、mRNAワクチンによる免疫誘導と相性が悪かったためと分析されており、今後の改良が期待される。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その3】なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」

今回のキーワード解離性同一症人格部分乳幼児期のトラウマ体験解離性フラッシュバックローカルスリープストレス脆弱性理論トラウマ・スペクトラム愛着タイプD[目次]1.多重人格の特徴とは?2.なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」3.なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル4.脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ心のなかに何人かの別の自分がいる…いわゆる多重人格は何とも不思議で魅惑的です。急に豹変するその様子には、人と接するのに馴れているはずのメンタルヘルスの関係者でも度肝を抜かれることがあります。そして、実は演技じゃないかと疑ってしまうこともあります。はたして、どうなんでしょうか? なぜ多重人格になるのでしょうか? どのようにしてなるのでしょうか?この謎を解き明かすために、今回、再びNHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、多重人格の特徴を説明します。そして脳科学の視点から、乳幼児の脳の特徴を踏まえて、ある仮説を提唱して、多重人格のメカニズムを解き明かします。なお、多重人格の現在の正式名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。また、このドラマについての以前の記事は、関連記事1をご覧ください。多重人格の特徴とは?時は、阪神淡路大震災の直後。精神科医の安(あん)先生は、避難所になっている小学校で診療を続けます。そんななか、安先生はある若い女性を診察するよう頼まれます。彼女の名前は片岡さん。片岡さんの言動から、多重人格の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)心の中に何人かの別の自分がいる―人格部分片岡さんは「これ(予診票の作成)で頭痛薬、いただけるんですか?」と弱々しく話します。しかし、その直後に気を失い倒れてしまい、安先生にベッドで寝かされます。そして、しばらく経って起き上がったら、今度は「にいちゃん、ここ酒あんのか?」「酒もないところで休めるかいな」と荒々しく言い放ちます。あまりの豹変ぶりに、安先生は唖然とします。さらに数日後の診察のあと、安先生は、彼女が小学校の玄関先でうずくまっているのを発見します。安先生が声をかけると、彼女は「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と幼児言葉で泣くのでした。しゃべり方から何から全然違い、まるで別人です。1つ目の特徴は、心の中に何人かの別の自分がいることです。精神医学的には、人格部分と呼ばれます。これは、覚えていること(記憶)をはじめ、気の持ち方(感情)、考え方(思考)、振る舞い方(意欲)、場合によっては感じ方(知覚)などの精神機能が特徴づける自分らしさ(人格)です。それが意図せずに切り替わってしまうのです。なお、意図して何人かの別の「自分」(役)を使い分けている場合は、もちろん演技と呼ばれます。(2)記憶の空白がある-健忘翌日に安先生が、小学校の玄関での出来事を片岡さんに伝えると、彼女は「覚えてません」とまた弱々しく言うだけなのでした。2つ目の特徴は、記憶の空白があることです。精神医学的には、健忘と呼ばれます。これは、それぞれの人格部分との記憶がつながっていないからです。なお、健忘がなく、心のなかに別の自分がいると認識している場合は、二重自我と呼ばれます。また、その別の自分から声が聞こえてくると訴える場合は、幻聴と呼ばれます。これらは、統合失調症の診断が当てはまります。(3)小さい時に虐待されている―乳幼児期のトラウマ体験片岡さんは、安先生に「 父はアパートの管理人をしてて、母は早くに死にました。あたしが小学校に上がる前。父はお酒を飲むと、なんか食えるもんないんかと怒鳴るんです」「いつも取りに(万引きしに)行っていましたと語ります。その後に幼児の人格部分が出てきた時は「ああ、痛い痛い痛い。もうしません、ごめんなさい。許して、パパ」と泣きじゃくります。3つ目は、小さい時に虐待されていることです。精神医学的には、乳幼児期のトラウマ体験と呼ばれます。実際に、多重人格の患者の約90%に、乳幼児期からの繰り返す虐待が報告されています1)。なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」安先生は、片岡さんに「こんなふうに記憶がなくなって、よう困っとるんとちゃう?」「あなたの中にはいくつかの部分があるんやと思う。多重人格。たとえば、あまりにもつらい目に遭うた時、子供はこれは自分の身に起きたことやないと感じる。今苦しんでるのは別の子やと。その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれるんやね。そうやって苦痛をやり過ごした子は、そのあとも複数の人格を生み出しながら、生きていくことになってしまうんや」と説明します。多重人格の原因は、明らかに乳幼児期のトラウマ体験なのですが、それでは実際にはどのようにして人格部分は「生まれる」のでしょうか?脳科学の視点から、多重人格のメカニズムは、同じく解離症に分類される憑依(憑依トランス症)のメカニズムを発展させて解き明かすことができます。そこで、まず憑依のメカニズムを理解する必要があります。この詳細については、関連記事2をご覧ください。憑依のメカニズムは、「ニューラルネットワーク分離作動説」という仮説を提唱して、解き明かしました。ただし、この仮説は、意識から精神機能や身体機能が分離して独自に作動してしまう病態のメカニズムを説明することができますが、作動するだけでなくさらに成長発達までもするメカニズムを説明することはできません。それではさらに、このメカニズムをどう説明すればいいでしょうか?ここで、多重人格の原因となるトラウマ体験の時期は成人期ではなく乳幼児期であることから、子供の脳の特徴に着目します。そして、3つの段階に分けて、多重人格が生まれるメカニズムを解き明かしてみましょう。(1)そもそも小さい子供の記憶はばらばらである幼児は1歳以降でどんどん言葉を覚えていきますが、言葉をつなぎ合わせて出来事(エピソード)を話すようになるのは4歳以降です。また、同じ本の読み聞かせを何度もねだり、同じごっこ遊び(エピソードの演技)を繰り返すのですが、これが少なくとも就学前の6歳まで続きます。つまり、幼児は、エピソード記憶をはじめ脳の機能が未発達であることで、これまでの出来事にしても本の内容にしてもごっこ遊びにしても、大人のようにつながりのある全体的なエピソードとして結び付けたり関連付けることはできず、ばらばらな断片のシーンとしてしか覚えられないのです。だから、読み聞かせもごっこ遊びも何度やっても飽きないのです。1つ目は、そもそも小さい子供の記憶はばらばらである、つまり大人と比べて乳幼児の精神機能はまだ完成(統合)していないことです。ちょうど、前回(2025年11月号)でご紹介した分離脳で脳梁でのネットワークがつながっていないのと同じように、幼児の脳は、エピソード記憶とこれに派生する感情、思考、意欲、場合によっては知覚のニューラルネットワークの複合体の一つひとつがまだ十分につながっておらず、その瞬間を反射的に生きており、意識はその瞬間でころころ変わっていると言えます。また、記憶だけでなく、感情、思考、自己意識などの精神機能もまだ統合されておらず、恐怖を恐怖として感じることができなかったり、体験を過去のこととして俯瞰して自己認識することができないのです。(2)小さい子供はフラッシュバックを現実として認識するその1で地震の揺れ(身体感覚のフラッシュバック)を感じ続ける男の子について説明しましたが、彼は小学生ながらこのフラッシュバックの世界をあたかも現実として認識してしまいそうな危うさがありました。裏を返せば、だからこそ、彼は地震ごっこ(再演遊び)をついやってしまっていたのでした。もしも彼がもっと小さい幼児だったら、そのフラッシュバックを完全に現実として認識していたでしょう。2つ目は、小さい子供はフラッシュバックを現実として認識してしまう、つまり精神機能が未発達であることから自己認識ができず、そのトラウマ体験の記憶(フラッシュバック)の世界が前面に出てしまうことです。これは、解離性フラッシュバックと呼ばれます。大人でも見られることはありますが、圧倒的に子供に多いことが考えられます。このような解離性フラッシュバックは、乳幼児がトラウマ体験を受けた時にPTSDの症状として出てくる場合以外に、もう1つ考えられます。それは、解離性健忘になる場合です。この場合、その体験を含んだエピソード記憶のニューラルネットワークがしばらくローカルスリープになります。この点は、大人と同じです。しかし、その後にそのローカルスリープが再活性化したら、大人のようにその記憶を思い出して心理的なショックを受けたり、ただフラッシュバックが出てくるわけではなく、この解離性フラッシュバックが出てくることが考えられます。そして、多重人格の多くは、主パーソナリティが子供の頃の記憶をあまり思い出せないことから、解離性同一症では、まず解離性健忘になってそのあとに解離性フラッシュバックが出ている後者のパターンであることが考えられます。(3)小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界を生きる解離性フラッシュバックは意識の前面に出て占有していることから、この解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、憑依を引き起こすニューラルネットワークと同じように分離していると考えることができます。この2つの違いは、憑依は宗教儀式(暗示)などによって一時的にしか出現しないのに対して、解離性フラッシュバックは持続して出現することができる点です。よって、解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、その解離性フラッシュバックが出ている(ローカルスリープになっていない)時の新たな日常生活の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながっていき、逆にその解離性フラッシュバックが出ていない(ローカルスリープになっている)時の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながらずに、人格部分として独立して成長していくと仮定することができます。3つ目は、小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界をそのまま生きてしまう、つまり解離性フラッシュバックの記憶のニューラルネットワークが人格部分の土台となり、統合されずに独立してしまい、勝手に成長発達してしまうことです。この記事では、これを「ニューラルネットワーク分離発達説」と名付けます。そして、それぞれの解離性フラッシュバックの出現の時間や頻度によって新たな体験の記憶に差が出てきます。それを考慮すると、かなり成長すれば酒飲みの片岡さんのように成人した人格部分になり、ほとんど成長しなければ幼児言葉を話していた片岡さんのように幼児のままの人格部分になるわけです。よくよく考えると、片岡さんの幼児の人格部分は、成長していないので、当時のトラウマ体験そのままの解離性フラッシュバックであるとも言い換えられます。一方で、成人期に受けたトラウマ体験のフラッシュバックは、大人の脳がすでに完成されていることから、解離性フラッシュバックになったとしてもそもそも短時間(数秒~数分)であり、さらに恐怖で圧倒されて動けないことがほとんどであるため、その時の新たな体験をする間もなく、人格部分として独立して成長していくことはないわけです。だからこそ、成人期に受けたトラウマ体験によってPTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないのです。実際の画像研究では、大人の多重人格において、トラウマ体験の記憶のない主人格とトラウマ体験の記憶のある人格部分のそれぞれの出現時に、中立的な脚本とトラウマ的な脚本をそれぞれ聞かせたところ、主人格の出現時には脚本の違いによって脳の血流パターンに違いは認められませんでした。また、中立的な脚本を聞かせた人格部分との違いも認められませんでした。ところが、トラウマ的な脚本を聞かせた人格部分の脳の血流パターンに限り、違いが認められました2)。このことからも、もちろん多重人格は本人が意図した演技なのではなく、主人格と人格部分のそれぞれ違う脳のニューラルネットワークが交代でローカルスリープになっており、ローカルスリープになっていない(起きている)方が反応していることがわかります。また、ローカルスリープの極端な例として、イルカや渡り鳥は、大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとること(半球睡眠)ができます3)。これは、まさに分離脳と同じように、右脳と左脳のそれぞれの「人格部分」(ニューラルネットワーク)として分離しており、それらが交代制で独立して意思決定をして行動をしていることになります。つまり、イルカや渡り鳥は、多重人格の動物モデルと言えます。人間は、イルカや渡り鳥ほどローカルスリープを進化させてはいませんが、幼児期の重度ストレスは人間のローカルスリープを過剰発達させることができてしまうと言えます。なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル先ほど、虐待されると多重人格になるメカニズムを解き明かしました。一方で、虐待されても多重人格にならない人もいます。その違いは何でしょうか?これは、ストレス脆弱性モデルを使って説明することができます。この理論を簡単に言うと、ストレスが大きければ大きいほど、そしてそのストレスに脳が弱ければ弱いほど発症するということです。実際に、このモデルは多くの精神障害に当てはまります。(1)ストレスが大きければ大きいとまず、ストレスの大きさとしては、明らかに虐待なのですが、さらにそれが繰り返されることも挙げられます。すると、先ほど説明した解離性フラッシュバックがいくつも生まれてしまうわけですが、同時にその回数分だけ脳にダメージを与えるため、それらの解離性フラッシュバックが成長発達とともに統合されにくくなり、結果的に人格部分として残ってしまうと説明することができます。逆に言えば、虐待が繰り返されていない場合はダメージが減るので、解離性フラッシュバックは成長発達とともにやがて統合されて人格部分が残らないことも想定できます。たとえば、虐待が1回だけの場合、解離性フラッシュバックが1回だけ出てきて、人格部分が1つだけ独自に成長して「二重人格」になることはあまりないということです。これは、人格部分が少ない比較的に軽症の症例のほうが統計学的に考えれば多いはずなのに、実際には人格部分の平均人数は8、9人と多く、2、3人の少数の症例はあまり見かけない現象を説明することができます。(2)脳が弱ければ弱いと次に、脳の脆弱性としては、明らかに乳幼児の脳なのですが、とくに脆弱な乳児が挙げられます。実際に、乳児(1歳から1歳半)の愛着タイプを評価するストレンジ・シチュエーション法において、虐待歴のある乳児は、親がいない状況でしばらくして親が戻ってきたら、顔を背けながら近づこうとする特徴(愛着タイプD)が観察されています4)。これは、虐待する親への接近行動と回避行動が同時に現れる奇妙な病態です。このメカニズムは、親に接近しようとするニューラルネットワークと親を回避しようとするニューラルネットワークがまだ交代できず、同時に働いていることが考えられます。ちょうど、「エクソシスト」で紹介した分離脳によるエイリアンハンド症候群に重なります。ただし、このような現象は、年齢が上がると目立たなくなる点で、やはりとくに未発達な脳を持つ乳児特有の一時的な現象と考えられます。そして、この現象からも、幼児よりも乳児の脳はさらに統合されていないことを説明することができます。なお、交代するメカニズムも、それぞれのニューラルネットワーク同士のせめぎ合いの発達から説明することができます。同じように交代する例としては、目の前に伸ばした人差し指2本をつなげると、ソーセージのように見えるのですが、この時にどちらかの指に交互にくっ付くようにも見える視覚現象(両眼視野闘争)が有名です。ちなみに、ストレンジ・シチュエーション法の残りの愛着タイプA、B、Cの3つの詳細については、関連記事3をご覧ください。逆に、成長発達した大人の脳は、乳幼児と比べて脆弱ではないことから、先ほどにも触れたように、成人期に受けたトラウマ体験では、PTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないことを説明することができます。また、前回までに紹介した憑依と同じように、脆弱性(ニューラルネットワークの分離のしやすさ)には個人差があることが考えられます。多くは、人格部分ができたとしても大人になって治っていき(統合されていき)、明らかな人格部分は出てこなくなることが考えられます。ただ、その代わりに、フラッシュバックが残って感情のコントロールが難しくなる病態(複雑性PTSD)や、些細なことで人が変わったように急に怒ったり泣いたりする病態(ボーダーラインパーソナリティ症)になることがあります。これらは、まるで「人が変わった」(人格部分が出てきている)ように見える点では、やはり多重人格との連続性があると言えます。単に、本人が「人が変わった」程度をどれくらい自覚できるかどうかの違いです。なお、多重人格、記憶喪失、憑依現象だけでなく、PTSD(単純性PTSD)、複雑性PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症の診断基準にも解離症状が含まれており、これらはトラウマ体験(重度ストレス)を原因としている点では連続した病態(トラウマ・スペクトラム)であると言えそうです。脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ安先生が言ったように、従来の精神医学では、「その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれる」という多重人格のメカニズムの解釈がありました。これは、私たちの心に訴える文学的なセンスはあったのですが、残念ながら科学的な根拠はありませんでした。脳科学の視点から多重人格のメカニズムに迫ると、人格部分とは、もともと1つだった人格が部分に分かれたのではなく、もともとエピソード記憶のニューラルネットワークの1つ1つの部分が最終的に1つの大きなエピソード記憶のニューラルネットワーク(人格)につながらなかった(統合されなかった)、つまりこの記事で提唱する「ニューラルネットワーク分離発達説」として理解することができます。つまり、人格部分とは、急にぽんと生まれたのではなく、最終的に1つにならなかっただけだったのでした。そう考えると、多重人格はそれほど不思議な現象でもないように思えてきます。今回、多重人格はどうやってなるかを解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか? 1) DSM-5-TR、p323、日本精神神経学会、医学書院、2023 2) 心の解離構造、p196:エリザベス・F・ハウエル、金剛出版、2020 3) <眠り>をめぐるミステリー、p188:櫻井武、NHK出版新書、2012 4) 乳幼児のこころp104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー映画「エクソシスト」【その1】どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」あなたには帰る家がある(後編)【なんで倦怠期は「ある」の?どうすればいいの?】スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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1週間のSNSデトックスで若者のメンタルヘルスが改善

 多くの若者にとって、SNSは、友情、ニュース、ストレスなど生活の全てが集まる場所だ。18~24歳の若者を対象にした新たな研究で、たった1週間でもSNSから離れることで、不安や抑うつ、睡眠問題が緩和される可能性のあることが示された。米ハーバード大学医学大学院精神医学准教授のJohn Torous氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に11月24日掲載された。 この研究は、18~24歳の若者を対象に、客観的に測定されたSNSの使用時間と問題のある使い方が若者のメンタルヘルスに与える影響を調べたもの。試験に登録された417人は、2週間の観察的ベースライン期間を経て、任意で1週間のSNSデトックス介入に参加した。 登録者のうち373人(平均年齢21.0歳)がベースラインの評価を受け、295人(79.1%)がデトックス介入に参加することに同意した。デトックスによる変化として評価したのは、抑うつ(Patient Health Questionnaire-9;PHQ-9で評価)、不安(Generalized Anxiety Disorder-7;GAD-7で評価)、不眠(Insomnia Severity Index;ISIで評価)、孤独感(UCLA Loneliness Scaleで評価)であった。 1日当たりのSNSの平均使用時間は、ベースラインで1.9時間であったのが、介入期間中には0.5時間にまで減少した。介入を受けた参加者では、平均して、不安症状が16.1%、抑うつ症状が24.8%、不眠症状が14.5%、それぞれ有意に軽減したことが示された。孤独感については、介入の前後で有意な差は認められなかった。 Torous氏は、「SNSの使用を控えることを、第一選択の治療法や唯一の治療法にすべきではない。ただ、すでにメンタルヘルス問題を抱えていて、それに対する治療を受けているのなら、SNSの使用を減らすことで気分が改善するか試してみる価値はあるだろう」とニューヨーク・タイムズ紙に対して述べている。同氏によると、SNSの使用を減らすことで改善を強く感じた人もいれば、ほとんど変化を感じなかった人もいるなど、効果には個人差があったという。 そのような結果になった一因として、専門家の1人で本研究には関与していない米ステットソン大学心理学教授のChristopher Ferguson氏は、本研究がランダム化比較試験ではなかった点を指摘し、「参加者は期待される行動を知っていたため、それに沿って回答を変えた可能性もある」との見方を示している。 一方で、この結果がSNSとメンタルヘルスの関係についての議論に有益な情報を提供したと評価する専門家もいる。米国心理学会(APA)のチーフサイエンスオフィサーを務めるMitch Prinstein氏は、SNSの一時的な使用休止を、「お金をかけずに試せ、短期間で改善が期待できる簡単な方法」と評価している。同氏は、「これは、親や若者自身が取り組める方法だ。SNSの使用時間を大幅に減らせば、若者の気分がかなり改善する可能性がある」とニューヨーク・タイムズ紙の報道で述べている。 ただし、過去の研究では結果が一貫していない点も指摘されている。一部の研究では、「デジタルデトックス」の効果は小さいかほとんどなかったとされており、効果が長続きするかどうかは、現時点では不明である。

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