6.
講師紹介<今回のPoint>有害事象の発生や重症度は、照射部位、照射法、照射野の大きさに依存する高齢者では、放射線治療による有害事象の発生頻度、重症度が高くなる可能性がある線量集中性の高い強度変調放射線治療(IMRT)や定位照射などの高精度放射線治療は、高齢者に対しても有用である放射線治療施行の絶対条件は、照射体位を15分以上保持できることである(照射法により異なる)放射線治療の目的および照射法放射線治療の目的は、根治から緩和まで多岐にわたります。一般的に緩和照射で必要となる線量は根治照射よりも低く、有害事象も軽微なことが多いです(図1)。(図1)放射線治療の目的画像を拡大する従来は、三次元のCT情報に基づき多方向から照射する「三次元原体照射(3DCRT、図2a)」が主に行われていました。しかし、一方向からのビームに強弱をつけられないため、病巣周囲の正常臓器に対する線量低減には限界がありました。一方、強度を変調した線束を用いて多方向から集光的に照射する「強度変調放射線治療(IMRT、図2b)」では、病巣への線量を担保しつつ正常臓器への線量を低減可能です。また「定位照射(図2c)」は、小さな領域に対し細いビームを用いてピンポイントに集中的な照射を行うため、高い局所制御率と低い有害事象頻度が得られます。IMRTや定位照射は「高精度放射線治療」に分類され臨床的な有用性が認められていますが、3DCRT(照射時間:約10~20分)と比較して厳密な位置精度が求められるため、照射時間が長くなる点に注意が必要です(IMRT:約20~30分、定位照射:約30分~1時間)。(図2)照射法画像を拡大する放射線治療を施行する上での絶対条件放射線治療室は漏洩防止のため、迷路構造(図3a)や厚い金属扉(図3b)で遮蔽されており、照射時には寝台が1.0~1.5mの高さまで上昇します(図3c)。そのため、モニターなどで患者の異変や危険を察知してからスタッフが駆け付けるまでに数十秒を要し、万が一の転落時には重症化リスクが高まります。したがって、放射線治療を安全に施行するための絶対条件は「寝台上で一定時間の安静を保持できること」です(基本的には安定性の高い仰臥位で照射しますが、有害事象対策や疼痛・呼吸苦などに配慮してほかの体位を選択することもあります)。(図3)放射線治療室の構造画像を拡大する高齢がん患者における放射線治療の適応標準治療は主に健常成人を対象に確立されています。これまでさまざまながん腫における(化学)放射線治療の有効性を検証した臨床試験のサブグループ解析では、「若年者と比べ高齢者で生存効果が劣る」とする報告1,2)と「同等である」とする報告3,4)があり、一貫した見解は得られていません。そのため、高齢患者に対して標準治療を選択すべきか否かは、個々の症例に応じた検討が必要です。放射線治療の有害事象は、照射部位・照射野の広さ・総線量に依存しますが、糖尿病や動脈硬化、感染症などの併存疾患が存在すると、発生頻度の上昇や重症化を招くおそれがあります5,6)。加えて高齢がん患者では、健常成人と比べ、有害事象の(1)発生頻度が高まる、(2)重症化しやすいという特徴があります。したがって、標準治療に伴うリスクを患者ごとに想定した上で、忍容性を判断しなければなりません。たとえば、直腸がんに対する術前化学放射線療法を検証した臨床試験において、70歳以上の高齢者では若年者と比較して、治療の中断率(4.2% vs.1.4%、p=0.03)およびGrade3~4の非血液毒性発生率(21.1% vs.13.6%、p=0.03)が有意に高く、手術施行率も有意に低い結果でした(95.8% vs.99.0%、p=0.008)7)。また、本邦の多施設試験においても、患者背景から治療強度の減弱を選択した症例の89%で併用化学療法の変更(減量・中止)がなされており、放射線治療の変更(照射野縮小や線量低減など)は少数であったものの、予定された放射線治療自体の完遂率は98%と良好でした8)。一般に放射線治療単独と比べ、化学放射線療法では有害事象が発生しやすくなるため、化学療法を併用することのベネフィットとリスクのバランスを見極めることが重要です。高齢がん患者に対する放射線治療の実際線量集中性に優れた定位照射や粒子線治療について、高齢がん患者に対する有効性を後方視的に検討した報告では、良好な成績が示されています。原発性肺・肝がんを有する高齢者への定位照射では、9割程度の局所制御率を得ながら、Grade3以上の有害事象は0~4.7%程度と報告されており、高い有効性と安全性が示されています9-11)。また転移性脳腫瘍患者を対象に「全脳照射+定位照射」と「定位照射単独」を比較した臨床試験では、全生存に有意差はないものの定位照射単独群のほうが照射3ヵ月後の認知機能低下が有意に少なく、年齢層別解析でも一貫した結果が得られました12)。同様に、高齢の肝細胞がん・食道がん・原発性肺がんに対する粒子線治療でも、低い有害事象頻度と高い局所制御率が報告されています13-15)。さらに後方視的解析ではありますが、高齢膀胱がんに対する根治的放射線治療において3DCRTとIMRTを比較した結果、照射法による全生存や局所再発に有意差はないもののIMRT群で急性期有害事象が有意に減少しました(22% vs.2%、p=0.02)16)。高齢がん患者において3DCRTとIMRTを直接比較したランダム化比較試験は限られているものの、「有害事象が発生しやすく重症化しやすい」という高齢者の特性を踏まえると、正常組織への影響を低減できる高精度放射線治療の有用性は若年者と同様に高いと考えられます。高齢がん患者の治療選択においては、照射時間中の安静保持を含めた忍容性や、選択する治療法の損益など、多角的な視点からアプローチを検討することが望まれます。最後に脆弱性を有する高齢がん患者において、重篤な有害事象の発生により、治療効果が打ち消される治療法の選択は回避しなければなりません。しかし、放射線治療の目的は緩和から根治までと幅が広く、患者への負担および有害事象の発生頻度や重症度は照射部位や照射法、総線量などに依存します。そのため、Frailな高齢がん患者に対して、根治的放射線治療の適応がない場合にも緩和照射を行うことは日常臨床において多く経験します。また、定位照射などを用いた根治照射を安全に施行できることもあります。「Frailだから放射線治療は無理」と考えてしまうと、本来受けるべき放射線治療による恩恵を逃してしまう可能性があります。日常臨床で治療選択に悩まれたら、ぜひ放射線治療医にご相談ください。1)Kish JA, et al. J Geritr Oncol. 2021;12:937-944.2)Stinchcombe TE, et al. Cancer. 2019;125:382-390. 3)Pignon T, et al. Eur J Cancer. 1996;32A:2075-2081.4)Schild SE, et al. J Clin Oncol. 2003;21:3201-3206.5)Darby SC, et al. N Eng J Med. 2013;368:987-998.6)Johnson S, et al. Rep Pract Oncol Radiother. 2026;31:175-185.7)François E, et al. Radiother Oncol. 2014;110:144-149. 8)Murofushi KN, et al. Clin Oncol. 2025;45:103894.9)Cassidy RJ, et al. Clin Lung Cancer. 2017;18:551-558.10)Tamura Y, et al. Cancers (Basel). 2026;18:1809. 11)Watanabe K, et al. Radiat Oncol. 2021;16:39. 12)Brown PD, et al. JAMA. 2016;316:401-409.13)Hata M, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2007;69:805-812.14)Ono T, et al. Thorac Cancer. 2020;11:2170-2177.15)Ohnishi K, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2020;106:82-89.16)Lutkenhaus LJ, et al. Radiat Oncol. 2016;11:45.