進行卵巣がんにおけるカルボプラチン腹腔内投与の位置付け/日本婦人科腫瘍学会

提供元:ケアネット

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公開日:2026/07/29

 

 2025年12月に卵巣がんの1次化学療法としてカルボプラチンの腹腔内(IP)投与が保険収載された。本年(2026年)7月に開催された第68回日本婦人科腫瘍学会学術講演会では、同がんにおけるIPカルボプラチンの可能性について、岡山大学の長尾 昌二氏が最新の臨床知見を基に紹介した。

大規模試験が示した卵巣がんにおけるIP化学療法の可能性

 PARP阻害薬や抗体薬物複合体(ADC)の登場により急速に変化する卵巣がん治療においてIP化学療法はどのような役割を担えるのか。長尾氏が研究代表者を務めたiPocc試験は、カルボプラチン腹腔内投与の有効性を前向き無作為化比較試験で証明し、世界的にも高く評価されている。その成果はNEJM Evidence誌に掲載され、日本におけるIPカルボプラチンを保険収載に導いた。

 IP化学療法の目的は、腹腔内に播種したがん組織に対して高濃度の抗がん薬を直接曝露させることで、局所治療としての効果を最大化することである。先駆けとなったのはGynecologic Oncology Group(GOG)が実施した3つの大規模無作為化比較試験である。シスプラチンの静注(IV)とIPを比較したGOG104試験、パクリタキセルのIVとシスプラチンのIPを比較したGOG114試験、パクリタキセルのIVとIPを比較したGOG172試験。いずれの試験でもIP投与の生存メリットが示された。その後のメタアナリシスではIV療法に比べIP療法が死亡リスクを約20%低下(ハザード比[HR]:0.79)させるという結果を出している。

 これらの結果を受けて、米国国立がん研究所(NCI)は卵巣がんに対してIP化学療法を推奨するアナウンスメントを出した。しかし、IP療法は実臨床に広く普及することはなかった。試験デザイン上の問題、標準治療の変化、シスプラチンの毒性、カテーテルトラブルの頻度などが普及を阻んだ大きな要因だと長尾氏は指摘する。

IPカルボプラチンの有効性を立証した日本発のiPocc試験

 IP化学療法の課題を乗り越えるべく、使用薬剤とその薬理学的特性の再検討が世界的に行われた。その結果、IP投与は薬剤によってまったく異なる薬理学的傾向を持つことが明確になる。

 プラチナ製剤は分子量が比較的小さく水溶性であるため、IP投与後急速に吸収される。IP投与により腹腔内濃度は血漿中の20倍程度に達したのち、速やかに血中に移行し、IVと同等の血中濃度が維持される。一方、パクリタキセルは分子量が大きく脂溶性であるため、腹膜からの吸収は緩徐で腹腔内に長時間とどまる。そのため腹腔内のAUCは血漿中の1,000倍近くとなる。腹膜から吸収されやすいプラチナ製剤などによるIP投与は全身治療としての特性も有しているのではないかと長尾氏は述べる。

 こうした知見を背景に、IPカルボプラチンの有用性を検証する複数の国際試験が行われた。しかし、北米や欧州で行われた試験では良好な結果は出なかった。そのような状況のなかで、日本発のiPocc試験が注目を集める結果を示す。

 iPocc試験は、新たに診断されたFIGO StageII~IVの上皮性卵巣がんを対象として行われた。この試験では幅広い患者群に対し、dose dense TC(パクリタキセル+カルボプラチン)のIV投与(以下、ddTC IV)とカルボプラチンをIP投与としたdose dense TC(以下ddTC IP)を比較した。その結果、OSでは有差が得られなかったものの、PFSのHRは0.83(95%信頼区間[CI]:0.69〜0.99)とddTC IP群で有意な改善を示した(p=0.04)。

 サブグループ解析では残存腫瘍の大きさにかかわらず、ddTC IP群で良好な傾向が示されている。IP投与で懸念されていたカテーテル感染症および腹痛の発現は、9.5%と34.1%であった。

IPカルボプラチンの実臨床での活用方法──岡山大学のアルゴリズム

 PARP阻害薬やADCが標準化された現在の卵巣がん治療において、IP療法をどのように位置付けるかは、卵巣がん治療における重要な戦略的課題の1つと言える。

 岡山大学では独自の治療アルゴリズムによりIPカルボプラチンが運用されている。診察時腹腔鏡でプラチナ感受性が期待できる漿膜性や類内膜型の組織型を選択する。腹膜切除をせずに初回腫瘍縮小手術(PDS)でR0(肉眼的残存なし)切除が達成できた症例にはIPポートを留置し、ddTC IP療法を実施する。また、術前化学療法(NAC)から中間的腫瘍減量術(IDS)と進む症例では術前と術後にddTC IPを実施する。

 IPカルボプラチンは単なる薬剤投与方法の追加にとどまらず、進行卵巣がん全身治療の有望な選択肢として大きな意味を持つと考えられる。また、iPocc試験の検体を用いた、さらなる研究も行われており、IPカルボプラチンは卵巣がん治療において今後も選択の幅を広げていくと長尾氏は結んだ。

(ケアネット)