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1.

国が進める医療DX、診療や臨床研究の何を変える?~日本語医療特化型AI開発へ

 内閣府主導の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、分散したリアルワールドデータの統合とデータに基づく医療システムの制御を目指し、日本語医療LLM(大規模言語モデル)や臨床情報プラットフォームの構築、患者・医療機関支援ソリューションの開発などを行っており、一部はすでに社会実装が始まっている。2025年9月3日、メディア勉強会が開催され、同プログラム全体のディレクターを務める永井 良三氏(自治医科大学)のほか、疾患リスク予測サービスの開発および受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発を目指すグループの代表を務める鈴木 亨氏(東京大学医科学研究所)・佐藤 寿彦氏(株式会社プレシジョン)が講演した。厚労省主導の医療DXとの関係、プログラムの全体像 厚生労働省主導の医療DXが、診療行為に必要最低限の3文書(健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー)6情報(傷病名、感染症、薬剤アレルギーなど、その他アレルギーなど、検査、処方)に絞って広く全国規模で収集・利活用(全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX)を目指すものであるのに対し、本プログラムではデータ取得対象は限定されるものの電子カルテデータに加えPHR、介護データ、医療レセプトや予後データなど含めたデータを収集し、臨床情報プラットフォーム構築や医療機関支援ソリューションの開発などを行うことを目的としている。2つのプロジェクトは、将来的には相互に連携していくことが期待される。 具体的には、SIPでは大きく以下の5つの課題が設定されており、医療機関・大学・関連企業からそれぞれ研究開発責任者が選任されている1)。課題A:研究開発支援・知識発見ソリューションの開発(臨床情報プラットフォーム構築と拠点形成、PHRによる突然死防止・見守りサービス開発など)課題B:患者・医療機関支援ソリューションの開発(受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発、症例報告・病歴要約支援システム開発を通じた臨床現場支援など)課題C:地方自治体・医療介護政策支援ソリューションの開発課題D:先進的医療情報システム基盤の開発(ベンダーやシステムの垣根を超えた医療情報収集、僻地診療支援のためのクラウド型標準電子カルテサービスの開発など)課題E:大容量リアルタイム医療データ解析基盤技術の開発(大規模医療文書・画像の高精度解析基盤技術の開発) 同プログラムは2023年からの5年計画で進められており、可能なものから随時社会実装を進めつつ、今後は医療データプラットフォームの中核的病院への導入などを目指している。医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMを構築 さらに令和5年度補正予算により生成AIの活用プロジェクトが開始され、日本語医療LLMの開発が進み、上記の各プロジェクトにおける応用が始まっている。現在世界中で使われている主なLLMでは、たとえばOpenAIのGPT-3の学習に使われた言語として日本語は0.11%に過ぎず、これらのLLMをベースに医療LLMを構築・利用した場合、・診断を行うLLMにおいて、日本人の症例や日本の疫学ではなく、英語圏の症例や疫学がベースに出力される・治療法を推奨するLLMにおいて、日本の医療/保険制度や法律に合わない出力がされるといった問題が生じうる。また、データ主権の観点からも、現在各国で政府主導の自国語LLM開発が進んでいる背景がある。 国立情報学研究所の相澤 彰子氏らは、さまざまな実臨床での利用に展開するためのベースモデルとして、医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMのプレビュー版をすでに構築、医師国家試験で77~78%のスコア(注釈:尤度ベースと呼ばれる正解の算出方法に基づく)を達成した。開発したモデルは、推論時に利用するパラメータ数が220億と比較的軽量であるにも関わらず、700億クラスの海外モデルに匹敵する性能を示した。 この医療LLMはSIPの各プロジェクトへの組み入れが始まっており、診療現場の会話からカルテを下書きし鑑別疾患を提示するシステムや、感染症発生届の下書き支援システムなどの開発が行われている。また、計算機科学者と医師がタッグを組む形で、循環器用医療LLM、がん病変CT画像用医療LLM、健診支援医療LLMの開発がそれぞれ進められているという。電子カルテを活用した臨床情報プラットフォームや診断困難例サーチシステムがすでに始動 電子カルテには、診療録、検査データ、手術レポートなどの多くの情報が集積しているが、それらを匿名化・統合した状態で臨床研究に活用するには人的・時間的に大きな負担がかかっていた。SIPの課題A1として取り組まれている「臨床情報プラットフォーム構築による知識発見拠点形成」では、CLIDAS研究2)と称して多施設から複数のモダリティの診療データを標準化・収集するシステムを構築。国内11大学・2ナショナルセンターの電子カルテはすでに統一・連携されている。循環器領域では、PCI後のスタチン強度と予後の関係について3)など、CLIDASデータを用いた研究成果がすでに発表、論文化されているものもあり、今後も本データの臨床研究への活発な活用が期待される。 鈴木氏が責任者を務める課題A-3「臨床情報プラットフォームと連携したPHRによるライフレコードデジタルツイン開発」グループでは、NTTグループ約10万人の健診データ・約15年の追跡データを活用し、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータで疾患リスク予測モデルのアルゴリズム構築に着手。健診データを元に将来の疾患リスク(糖尿病・高血圧症・脂質異常症・心房細動)、検査や予防法の推奨などを提示する疾患リスク予測サービスの開発を行っている。将来的には、AIを用いた保健指導への展開も視野に開発中という。 佐藤氏が責任者を務める課題B-2「電子問診票とPHRを用いた受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発」グループでは、日本内科学会地方会のデータ化された症例報告(約2万5千例)を基に、鑑別診断の際に参考となる疾患や病態を検索できるシステム(診断困難例ケースサーチ J-CaseMap)をすでに社会実装済で、日本内科学会会員は無料で利用できる。そのほか、電子カルテと連携した知識支援チャットボット(富士通と連携)や、再診時電子問診票、医療特化AI音声認識システムが開発中となっている。

2.

肥満者の約半数は肥満の相談を医療機関にしたくないと回答/ノボ

 ノボノルディスクファーマは、2021年度より実施している日本人9,400人(20~75歳)を対象とした、「肥満」と「肥満症」に関する意識実態調査の2025年度版を発表した。その結果、肥満症の認知率は13.0%と大きく進展した一方で、自身の肥満について「(医療機関へ)相談したくない」と回答した人は50.5%と、医療機関への相談意向は高くないことが判明した。医療機関に「肥満」を相談した人は1割に満たず【調査概要】調査期間:2025年6月23~26日調査対象:日本全国のBMI25以上の20~75歳の男女調査人数:9,400人調査方法:インターネット調査集計方法:47都道府県男女100ss(サンプルサイズ)となるようにウェイトバック集計を実施【調査結果の主なポイント】・肥満症の認知率は、前年比で4.3ポイント増の13.0%と、今までの推移(2024年度8.7%、23年度8.3%)の中で最も大きく進展した。「肥満症疑いあり」層における認知率は2025年度で13.5%、2024年度で10.8%、2023年度で10.2%と比較的認知率が高い層だったが、本年度は「肥満症疑いなし」層で前年度比5.4ポイント増の12.6%の認知率を獲得したことが全体の認知率を高めた要因と考えられる。・肥満症の「認知」には至らないものの、肥満と肥満症の違いを「聞いたことがある」と回答した人は33.7%と、過去調査(24年度25.6%、23年度25.4%)の中で最も高いスコアと伸び率を記録。・自身の肥満について「医療機関で相談したい」と回答した人は15.2%、「相談したくない」と回答した人は50.5%と、自身の肥満に関して医療機関への相談意向は高くなかった。肥満度別の医療機関への相談意向では、肥満度が1~3度へ高まるほど「かなり相談したい」と回答した人の率が高くなる一方、肥満4度(BMI40以上)では「まったく相談したくない」が31.3%となり、肥満区分の中で最も高いことが判明した。肥満4度の人の傾向として、肥満1~3度の人よりも肥満症の認知率が低く、医療機関に相談をしたくない理由として、肥満1~3度の人と比較して「相談しても無駄だと思ったから」「医療機関に行くとお金がかかるから」を挙げた人が多くみられた。・医療機関への相談意向が高くない原因として、自己責任感や病状の軽視などの心理面に加え、情報不足が相談のバリアになっていると考えられる。医療機関へ自身の肥満に関して相談した経験がない理由として高いスコアを獲得した項目は、「肥満は自己責任だと思うから」が29.1%と最も多く、次いで「医療機関へ行くとお金がかかるから」が23.1%、「相談するほどの肥満だと思っていないから」が20.3%だった。・全体の中で「自身の肥満の悩みを医療機関へ相談したことがある」と回答した人は9.0%で、病院受診・医師への相談のきっかけになったことを聞いたところ、「健康診断で勧められたから」が最も多く45.8%、次いで「肥満に伴う健康障害が心配だったから」が39.3%、次に「専門家の意見を聞きたかったから」が23.5%だった。また、「肥満症を認知している」層に、肥満症治療について調べる際に信頼する情報源を聞いたところ、「かかりつけ医・主治医」が36.4%、「専門家や医療機関のウェブサイト」が22.1%、「身近で肥満症を治療した経験がある人」が11.4%と、治療に関しては医療機関や専門家、または経験者からのアドバイスが重視されていることが判明した。 同社では、今回の調査結果を受けて「肥満症の疾患としての認知をさらに高めるとともに、調査でも明らかになったように、『相談フェーズ』における支援を強化することが求められる。今後も肥満症に取り組む企業として、患者さんが孤立することなく、医療機関とつながりながら適切な支援を受けられる環境の整備を目指していきたい」と語っている。

3.

日本人男性のCVDリスク、最適な予測指標はBMIではなかった

 日本人男性の将来の心血管疾患(CVD)リスクの評価において、従来広く用いられてきたBMIよりも腹囲身長比(waist-to-height ratio)や体の丸み指数(body roundness index)のほうが有用で、欧米での報告と同様に日本人男性でも腹囲が身長の約半分に達するとCVD発症リスクが上昇することが、京都府立医科大学の市川 貴博氏らによって明らかになった。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2025年8月23日号掲載の報告。 肥満は世界的に重要な公衆衛生上の課題であり、とくに中心性肥満はさまざまな代謝疾患の発症に関連することが報告されている。日本では主にBMIを用いて肥満を判定しているが、BMIでは内臓脂肪の蓄積を正確に反映することができないという限界がある。そこで研究グループは、大規模な日本人集団のデータをもとに、5つの異なる体格指標が肥満の重大な合併症であるCVDの発症にどのように関連するのかを13年間にわたって比較・検証した。 対象は、2008~21年にパナソニック健康保険組合が実施した健康診断を受診した16万656人(男性11万9,510人、女性4万1,146人)であった。身体測定、血液検査、問診結果を縦断的に収集し、BMI、腹囲、体型指数(a body shape index)、体の丸み指数、腹囲身長比の5つの体格指標のCVD発症予測能を比較した。主要評価項目は、心血管死、非致死性冠動脈疾患、非致死性脳卒中の主要心血管イベント(MACE)の発症率であった。Cox比例ハザードモデルを用いて5つの体格指標とMACE発症リスクとの関連を性別ごとに評価し、time-dependent ROC解析により各指標の予測能を比較した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は44.5±8.3歳であった。13年間の追跡期間中、男性では4,027例(3.4%)、女性では372例(0.9%)がMACEを発症した。・多変量解析の結果、男性では5つすべての体格指標がMACE発症と関連していた。1SD増加ごとのハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -BMI HR:1.15(95%CI:1.11~1.18) -腹囲 HR:1.15(95%CI:1.12~1.19) -体型指数 HR:1.06(95%CI:1.02~1.09) -体の丸み指数 HR:1.16(95%CI:1.13~1.20) -腹囲身長比 HR:1.17(95%CI:1.13~1.21)・女性では、いずれの体格指標もMACE発症と有意な関連は認められなかった。・男性における各指標の予測精度を比較したところ、腹囲身長比と体の丸み指数のAUC値は他の3つの体格指標よりも高く、より高い予測能を持つことが明らかになった。 -BMI AUC値:0.586(95%CI:0.576~0.596) -腹囲 AUC値:0.598(95%CI:0.588~0.608) -体型指数 AUC値:0.563(95%CI:0.552~0.573) -体の丸み指数 AUC値:0.608(95%CI:0.598~0.618) -腹囲身長比 AUC値:0.608(95%CI:0.598~0.618)・CVD発症の予測のための最適なカットオフ値は、腹囲身長比が0.494、体の丸み指数が3.250であった。 これらの結果より、研究グループは「13年以上の追跡調査を受けた日本人男性において、体の丸み指数と腹囲身長比はBMI、腹囲、体型指数よりもCVD発症のより重要な予測因子であった。特定されたカットオフ値は、リスク層別化の改善とCVDリスク低減のための早期予防介入に役立つ可能性がある」とまとめた。

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20歳以降の体重10kg増加が脂肪肝リスクを2倍に/京都医療センター

 20歳以降に体重が10kg以上増えた人は、ベースライン時のBMIにかかわらず5年以内に脂肪肝を発症するリスクが約2倍に上昇し、体重変動を問う質問票は脂肪肝のリスクが高い人を即時に特定するための実用的かつ効果的なスクリーニング方法となり得る可能性があることを、京都医療センターの岩佐 真代氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年8月6日号掲載の報告。 脂肪性肝疾患は、心血管疾患や代謝性疾患、慢性腎臓病のリスク増大と関連しており、予防と管理のための効果的な戦略の開発が求められている。脂肪肝に関連する質問票項目を特定することで、脂肪性肝疾患の高リスク者の早期発見につながる可能性があることから、研究グループは一般集団の健康診断データベースから収集した生活習慣情報を縦断的に分析し、脂肪肝リスクの高い個人を特定する質問票の有用性を検討した。 対象は、2011~15年にかけて、武田病院健診センターの健康診断受診者のうち、ベースライン時には脂肪肝は認められず、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肝疾患などの既往歴もない20歳以上の1万5,063人であった。ベースライン時のBMIに基づいて、BMI値22未満群、22〜25未満群、25以上群の3つのグループに分類した。食習慣と生活習慣に関する質問票項目は、厚生労働省が特定健康診査事業のために提供している標準質問票に基づいて作成され、(1)食習慣・行動、(2)喫煙・飲酒習慣、(3)運動習慣、(4)体重変動、(5)睡眠の23項目で構成されていた。Cox比例ハザードモデルを用いて、ベースライン時の質問票データと5年間の追跡期間における脂肪肝発症率との関連性について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,063人のうち、女性は8,294人(55.1%)、平均年齢は47.1歳、平均BMIは21.4であった。・追跡期間中央値4.2年で、1,889例(12.5%)が脂肪肝を発症した。脂肪肝の発症率は、ベースライン時のBMI値が高いほど有意に高かった(傾向のp<0.001)。 -BMI値22未満群 551/9,270例(5.9%) -BMI値22〜25未満群 898/4,519例(19.9%) -BMI値25以上群 440/1,274例(34.5%)・年齢、性別、代謝性疾患および肝障害に関連する因子を調整した後、脂肪肝発症の最も強い危険因子は20歳以降の10kg以上の体重増加であり、とくにBMI値22未満群で顕著であった。 -全体集団 調整HR:2.11、95%CI:1.90~2.34、p<0.001 -BMI値22未満群 調整HR:2.33、95%CI:1.86~2.91、p<0.001 -BMI値22〜25未満群 調整HR:1.43、95%CI:1.25~1.63、p<0.001 -BMI値25以上群 調整HR:1.41、95%CI:1.12~1.77、p=0.003・すべてのBMI群に共通する脂肪肝リスクの低減に関連する質問票項目は特定されなかったが、22未満群では牛乳および乳製品の日常摂取(調整HR:0.75、p=0.001)、22〜25未満群では海藻およびきのこの日常摂取(調整HR:0.63、p=0.006)、25以上群では睡眠満足度(調整HR:0.80、p=0.039)がそれぞれ脂肪肝リスクの低減と最も強く関連していた。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、脂肪肝発症のリスクを同定し、低減させるための質問票の潜在的な有用性を強調するものである。質問票に基づいて健診当日にリスクを伝え、生活習慣改善につなげる即日フィードバックのアプローチは、脂肪肝発症のリスクを低減させ、脂肪性肝疾患の予防に貢献する可能性がある」とまとめた。

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白血球増多【日常診療アップグレード】第38回

白血球増多問題52歳男性。健康診断で白血球数14,000/μLと、白血球数の増加を認めたため二次健診で受診した。昨年度の健診では白血球数12,000/μLであった。症状はない。ヘモグロビンと血小板数には異常を認めない。既往歴に脂質異常症があり、アトルバスタチンを内服中である。20歳から20本/日の喫煙歴がある。バイタルサインと身体所見は正常である。白血球増多は喫煙のためと判断した。

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9月20日・21日、産業保健の最新動向を学ぶ!日本産業保健法学会【ご案内】

 2025年9月20日(土)~21日(日)、北里大学(東京・港区)を会場に、日本産業保健法学会第5回学術大会が行われる。全体テーマは、「AIと産業保健法:DX時代の多様化した産業保健と法」。AIのビジネスへの本格的な普及を鑑み、健康診断やストレスチェックシステムの一元化、健康情報の効率的管理・可視化等による業務効率向上などをテーマに、さまざまなシンポジウムが開催される。産業医、産業医志望者にとって、最新の事例や研究にふれるチャンスとなる。 開催概要は以下のとおり。【日時】現地開催日:2025年9月20日(土)・21日(日)オンデマンド配信:2025年10月1日(水)~31日(金)【会場】北里大学 白金キャンパス【開催形式】ハイブリッド開催(現地開催、ライブ配信、オンデマンド配信)(一部、オンライン配信[ライブ&オンデマンド]なしのプログラムあり)【主なプログラム】・メインシンポジウム/デジタルヘルスが産業保健にもたらすパラダイムシフトと法・シンポジウム1/高年齢労働者の安全・健康確保と法・シンポジウム3/職場におけるデジタルヘルスへの期待・課題と法 ~ウェアラブルデバイスの仮想事例から考察する~・シンポジウム4/生成AIは私たちの認知にどのようなインパクトを与えるか ~法政策への示唆を考える~・シンポジウム8/データ活用による健康経営推進と法的課題・模擬裁判/双極性障害からの総合職正社員としての復帰要求と一般職スタッフとしての復帰提案、賃金減額可否・事例検討/どうすればよかったのか? -自殺完遂事例に見る手続的理性と労働者保護のあり方を考える-【参加申し込み】10月27日(月)まで(事前登録制、当日受付なし)【参加登録費】会員:1万円(学生3,000円)非会員:1万2,000円詳細・申し込みはこちら

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第26回 夏の猛暑、実はあなたの老化を「喫煙レベル」で加速させていた!今すぐできる対策とは?

うだるような暑さが続く日本の夏。「熱中症にだけ気を付ければいい」と考えていませんか? 台湾で行われた約2万5,000人を対象とした大規模な追跡調査から、私たちの常識を覆す衝撃的な事実が明らかになりました。Nature Climate Change誌に掲載された最新の研究1)によると、長期的に熱波にさらされ続けることは、私たちの体を細胞レベルで蝕み、「生物学的な老化」を著しく加速させているというのです。しかも、その影響は、健康に悪いと誰もが知っている「喫煙」や「飲酒」といった生活習慣に匹敵するレベルであることが示唆されました。これは、遠い未来の話や他人事ではありません。近年の危険な暑さが、気付かぬうちにあなたの体を内側からじわじわと老化させている可能性があるのです。この記事では、この重要な研究結果を紐解き、私たちが今日から実践できる具体的な防御策について解説していきます。見えない脅威「生物学的老化」とは? 猛暑が体に与える深刻なダメージまず、この研究が指摘する「生物学的な老化」とは何でしょうか。これは、私たちが普段使う「暦年齢(誕生日からの年齢)」とは異なります。生物学的年齢とは、肝臓や腎臓、肺の機能、血圧、炎症反応など、多数の臨床データに基づいて算出される「体の機能的な年齢」のことです。同じ40歳でも、体が若々しい人もいれば、機能が衰えている人もいる。その差を客観的に示す指標が生物学的年齢です。研究チームは、2008~22年の15年間にわたる2万4,922人の健康診断データを分析。参加者が住んでいる地域の過去2年間の熱波(この研究では、気温が上位7.5%を超える日が続く期間などと定義)への累積曝露量と、生物学的年齢の進み具合(BAA:生物学的老化加速)の関係を調査しました。その結果は驚くべきものでした。熱波への累積曝露が一定量増えるごとに、生物学的年齢が暦年齢よりも年間で0.023~0.031年、余分に進んでいたのです。「たったそれだけ?」と思うかもしれません。しかし、研究者たちはこの数値を「決して過小評価すべきではない」と警告しています。なぜなら、この老化の加速度は、喫煙、飲酒、運動不足といった、他の確立された健康リスク要因がもたらす影響と同程度だったからです。私たちは、夏の暑さをただ不快なものとして耐え忍んでいる間に、タバコを吸うのと同じくらいのペースで体を老化させていた可能性があるのです。この老化のメカニズムとして、体温の上昇が細胞のDNAを傷つけたり、細胞の寿命に関わる「テロメア」を短くしたりすることが考えられています。つまり、熱波は一時的な体調不良だけでなく、回復が難しい、不可逆的なダメージを体に与え続けているのです。あなたは大丈夫? とくに注意が必要な人と、最強の防御策この研究では、熱波による老化の加速が、すべての人に平等に起こるわけではないことも明らかにしました。とくにリスクが高い「脆弱な人」が存在したのです。それは、屋外で働く肉体労働者、地方の居住者、そしてエアコンの普及率が低い地域に住む人でした。たとえば、肉体労働者は、そうでない人と比べて老化の加速が約3倍も顕著でした。また、地方の居住者も都市部の居住者に比べて影響が大きいことが示されています。そして、この研究が私たちに示してくれた最も重要で、かつ実践的な希望。それは、最強の防御策の存在です。研究チームが参加者の住む地域を「エアコンの普及率」で二分して分析したところ、決定的な差が生まれました。エアコンの普及率が低い地域の人は、熱波による老化の加速が「0.045年」と明確にみられたのに対し、普及率が高い地域の人の老化加速は、統計上ほぼゼロ(0.000年)だったのです。この結果が意味することはきわめて明確です。エアコンを適切に使用することが、熱波による深刻な健康被害、すなわち「老化」から身を守るための最も効果的な手段である可能性が高い、ということです。「クーラーは体に悪い」「冷房病が心配」といった考えから、暑さを我慢してしまう人もいるかもしれません。しかし、この研究は、その「我慢」がもたらすリスクが、一時的な不調にとどまらない深刻なものであることを科学的に示しています。猛暑の中でエアコンを使わないという選択は、自ら老化を早める行為にほかならないのです。私たちの生活への落とし込みはシンプルです。1.躊躇なくエアコンを使うとくに熱波警報が出ているような日には、我慢せずにエアコンを使用しましょう。これは贅沢ではなく、長期的な健康を守るための「投資」です。2.とくにリスクの高い方は注意を屋外でのお仕事が多い方や、郊外・地方にお住まいの方は、より意識的に涼しい環境で体を休める時間を確保することが重要です。3.社会全体での対策も必要この研究は、エアコンへのアクセスが健康格差に直結することも示しています。公共施設や避難所の開放など、誰もが涼める環境を整備していく必要性を、私たち一人ひとりが認識することも大切です。気候変動により、猛暑はもはや「異常気象」ではなく「日常」となりつつあります。この「ニューノーマル」の中で、自分と大切な人の健康を守るために、科学的根拠に基づいた賢明な判断をしていきたいものです。参考文献・参考サイト1) Chen S, et al. Long-term impacts of heatwaves on accelerated ageing. Nat Clim Change. 2025 Aug 25. [Epub ahead of print]

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口の中の健康状態が生活習慣病リスクを高める可能性

 口の中の健康状態が良くないことと、高血糖や脂質異常症、腎機能低下など、さまざまな生活習慣病のリスクの高さとの関連性が報告された。藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座の吉田光由氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Oral Rehabilitation」に4月17日掲載され、7月10日に同大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。 この研究では、機能歯数(咀嚼に役立っている歯の数)や舌苔の付着レベルなどが、空腹時血糖値やHbA1c、血清脂質値などと関連していることが明らかになった。吉田氏はプレスリリースの中で、「われわれの研究結果は全体として、口腔機能の低下が生活習慣病のリスクとなり得ることを示唆している。よって良好な口腔の健康を維持することは、全身の健康を維持するための第一歩と考えられる」と述べている。 吉田氏らは、2021年と2023年に同大学病院で健診を受けた50歳以上の成人118人(男性80人、女性38人)のデータを解析に用いた。全身の健康状態については、空腹時血糖値、HbA1c、善玉コレステロール(HDL-C)、悪玉コレステロール(LDL-C)、尿素窒素(BUN)、推算糸球体濾過率(eGFR)で評価し、それぞれが基準値の範囲内か基準値を外れているかで2群に群分けした。一方、対象者の口腔の状態や機能については、機能歯数、最大舌圧、咀嚼機能、嚥下機能、舌苔指数、口腔乾燥度、および、口唇や舌の運動の滑らかさの指標である「口腔ダイアドコキネシス(OD)」という、計7種類の検査で把握した。なお、ODは、特定の音節を繰り返す速度と正確さを評価する。 解析の結果、全身の健康状態を表す検査値が基準値内か基準値外かで、口腔状態を表す検査の結果に、以下のような有意差が認められた。まず、糖代謝に異常がある(空腹時血糖値やHbA1cが高い)人は、機能歯数が少なくOD値が有意に低かった。また、脂質代謝に異常がある(HDL-Cが低い、LDL-Cが高い)人は、舌苔指数が有意に高くOD値が有意に低かった。さらに、腎機能が低下している(eGFRが低い、BUNが高い)人は、機能歯数が少なくて舌苔指数が高く、OD検査での「た」や「か」の発音の滑らかさが低下していた。 著者らは、「本研究は観察研究であるため、直接的な因果関係の解釈は制限される」とした上で、「認められた全身性疾患と口腔状態の関連性は、逆の方向性を表している可能性もある。つまり、全身の健康状態の悪化が口腔状態を悪化させるというよりも、口腔状態が良くないことが、全身性慢性疾患のリスクを高めるのではないか」と考察。そのメカニズムとして、「口腔ケアが十分でない場合、口の中で細菌が増殖したり、歯肉に炎症が生じたりする。それらが全身の健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる」と解説している。 研究チームでは、「口の中の健康と全身性慢性疾患の関係をさらに深く理解するために、より多くの人々を対象とした大規模な研究が必要」としながらも、「口腔検査そのものは、隠れた病気の兆候を見つけ出す機会となり得る。健康診断の際に口腔検査も並行して行うことが、人々の健康増進につながるのではないか」と述べている。

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肥満症には社会全体で対応し、医療費を削減/PhRMA、リリー

 米国研究製薬工業協会(PhRMA)と日本イーライリリーは、「イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性:肥満症を例にして」をテーマにヘルスケア・イノベーションフォーラムを都内で共同開催した。 肥満症は、わが国でも患者数が増加し、健康障害と社会的スティグマ(偏見)を伴う、深刻な慢性疾患となっている。その一方で、肥満者の生活習慣のみがフォーカスされ、自己管理の問題と見なされる傾向がある。従来は、運動療法や食事療法など治療選択肢が少なかったこともあり、他の疾患と同じレベルの必要な治療が行われてこなかった。 しかし、近年では、治療薬という新たな治療選択肢が登場し、肥満症に関連する健康障害の改善のみならず、国民皆保険制度の持続可能性の向上にも寄与することが期待されている。 フォーラムでは、臨床、財務行政、厚生行政、製薬のパネリストが、肥満症をテーマに、医療政策の現状と課題、今後の医療イノベーションの役割について議論した。重篤な疾患の上流にある肥満症対策が医療費の軽減につながる はじめに日本イーライリリー 代表取締役社長のシモーネ・トムセン氏が、「肥満疾患の社会経済的負担は重大であり、数兆円規模で影響を与えている。早期介入を通じ、肥満関連健康障害を改善することは、財政的負担を軽減する大きな機会となる。このフォーラムを通じ、肥満症が適切に診療され、肥満症患者にとってより良い治療環境を実現するための第一歩を踏み出せることを願う」と挨拶した。 続いてシンポジウムでは、門脇 孝氏(虎の門病院院長)、岡本 薫明氏(元財務事務次官)、鈴木 康裕氏(国際医療福祉大学学長)、パトリック・ジョンソン氏(イーライリリーアンドカンパニー エグゼクティブ・バイスプレジデント)が登壇した。 シンポジウムでは、「なぜ今肥満症か?」、「日本の肥満症の課題と解決策」、そして「医療制度の持続性」について議論された。肥満症に焦点が当たっている理由として、肥満・肥満症が死に至る健康障害(心筋梗塞、脳卒中など)の上流に位置しており、気付かれにくいため健康障害を引き起こしやすいこと。そして、その健康障害が医療費などを圧迫することなどが挙げられた。 また、肥満症の課題としては、スティグマについて多くの意見が出され、ルッキズムもわが国では大きくなりつつあることが指摘された。肥満症を正しく理解し、患者の自己努力だけに委ねないよう、社会全体が取り組む必要があるという意見が出された。 そして、肥満症に関するエビデンスの創出についても、他の重篤な疾患の予防にもつながる本症への対策は、治療効果のエビデンスを研究することで健康のアウトカムだけでなく、経済的な効果も適切に検証する必要があるという提言が行われた。 また、エビデンスの観点では、患者など当事者の声が認識されていないことが大きな課題であり、これが社会的なスティグマにつながるとされ、今後は当事者の声を政策に反映していくことが、肥満症対策と政策推進の大きな鍵だとの提案がなされた。 医療制度の持続性については、医療にとどまらない予防、健康増進、健康診断が重要であり、社会・経済的に課題を抱えた肥満症の当事者も多く、こうした患者への切れ目のない支援が、社会全体で必要との意見が出された。とくに健康無関心層への啓発やメッセージ発信が必要との提言がされた。 最後にPhRMA日本代表のハンス・クリム氏が「政策決定者や医療界のリーダーは、バイオ医薬品イノベーションエコシステムが直面する課題に対処する必要がある。研究開発とイノベーションへの投資を促進し、患者が新規医薬品に迅速にアクセスできる政策が必要」と閉会の挨拶を述べ、フォーラムを終えた。

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眼圧と呼吸機能に有意な関連、日本の大規模データが示す新知見

 呼吸機能と眼圧、一見無関係に見えるこの2つに意外な関連があるかもしれない。国内の約30万人の健診データの解析から、呼吸機能が低い人は眼圧が低い傾向にあることが示された。眼疾患における適切な眼圧管理では、呼吸機能も考慮すべきという示唆が得られたという。研究は、東京慈恵会医科大学眼科学講座の寺内稜氏、東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏らによるもので、詳細は、「Scientific Reports」に7月1日掲載された。 緑内障は世界で2番目に多い失明原因であり、今後さらに患者数の増加が見込まれている。その発症と進行において眼圧は中心的な役割を果たしており、眼圧の上昇は唯一の修正可能なリスク因子とされている。眼圧は血圧や血糖、体格、年齢などの身体的因子によって影響を受けることが報告されているが、呼吸機能との関連については十分な検討がなされていない。過去に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の女性では眼圧が低下しているとの報告があるものの、再現性が不十分であり、その背景にある生理学的メカニズムも不明である。そこで本研究では、呼吸機能と眼圧の関連を検証する目的で、日本の大規模健診データを用いた横断研究を実施した。 本横断研究では、慈恵医大で作成されたJikeiデータセットおよび日本人間ドック・予防医療学会が作成したJapan Ningen Dock Study (JNDS)データセットを用いた。Jikeiデータセットには2015年1月1日~2018年12月31日までの間に東京慈恵会医科大学附属病院新橋健診センターで一連の健康診断を受けた者が含まれた。一方、JNDSデータセットは日本人間ドック・予防医療学会が主導した2014年度の大規模調査に基づくもので、全国129の医療機関が参加した。眼圧はノンコンタクトトノメーターで計測したが、JNDSにおいては施設間で使用機器が異なっていた。呼吸機能はスパイロメトリーを用いて、一秒率(FEV1%)、対標準一秒率(%FEV1)、対標準努力肺活量(%FVC)の各指標を計測した。呼吸機能指標と眼圧の関係は、右目の眼圧を従属変数とした多重線形回帰分析により検討した。 最終的にJikeiデータセットには1万361人(平均年齢50.3歳、女性33.9%)が含まれた。右眼の平均眼圧は12.7±2.8mmHgであり、FEV1%の低下に伴い眼圧が直線的に低下する傾向が認められた(β=0.020、95%信頼区間〔CI〕0.011~0.029、P<0.001)。また、FEV1%が70%未満の参加者では、健常とされる90~100%の群に比べて眼圧が0.641mmHg低く(95%CI -0.996~-0.286、P<0.001)、統計的に有意であった。 JNDSデータセットには28万3,199人(平均年齢51.7歳、女性37.7%)が含まれた。右眼の平均眼圧は13.3±2.9mmHgであり、FEV1%と眼圧との間に有意な正の相関が認められた(β=0.015、95%CI 0.013~0.016、P<0.001)。FEV1%が60%未満の参加者では、90~100%の群と比較して眼圧が0.888mmHg低く(95%CI -1.047~-0.729、P<0.001)、統計的に有意な差が確認された。 JikeiおよびJNDSの両データセットにおいて、眼圧とFEV1%の間には有意な正の相関が認められた。一方で、%FEV1および%FVCについては、いずれのデータセットでも眼圧との有意な関連はみられなかった。今回の調査で眼圧との関連が認められたFEV1%は、呼吸機能障害の中でも特に閉塞性換気障害を評価するために用いられる指標である。 本研究について著者らは、「本研究では閉塞性換気障害と眼圧の低下との関連が確認された。この関連は、2つの独立したデータセットにおいて一貫して認められた。今回の知見は、正確な眼圧管理において呼吸機能を考慮することの重要性を示唆している。なお、COPDによる眼循環の低下と、それに伴う房水産生の減少がこの結果の一因である可能性があるが、具体的な機序は不明であり、今後のさらなる研究が必要である」と述べている。

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8月10日「ハートの日」には循環器病の予防に支援を/日本心臓財団ほか

 日本心臓財団、日本循環器協会、日本循環器学会、日本AED財団の諸団体は共催で、8月10日の「健康ハートの日」を前に、都内で循環器病に関するシンポジウムを開催した。日本心臓財団が、循環器病予防と健康を呼びかける「健康ハートの日」の活動を開始し40周年の節目を迎え、「循環器病予防の40年:過去・現在・未来」をテーマに、循環器病予防活動を振り返り、将来の20年に向けた新たな展望を議論した。 シンポジウムでは、名誉総裁の高円宮妃殿下が登壇、40年の取り組みをねぎらうとともに「本日のシンポジウムの内容が今後各地域で十分に活用され、循環器病予防の取り組みがされることを心より願う」と祝辞を寄せた。 第1部では循環器病予防の過去と現在、大阪万博の自動体外式除細動器(AED)と緊急体制などが講演され、第2部のパネルディスカッションでは「次の20年の循環器予防」をテーマに活発な意見交換が行われた。AEDの活用、AIの活用と進化する循環器病予防の今 「健康ハートの日 40年の歩み」をテーマに和泉 徹氏(日本心臓財団 評議員)が、「健康ハートの日」の制定からこれまでの活動を振り返った。 健康ハートの日は、心臓病に対応するために国民の予防意識を向上させることを目的に1985年に制定された。 2003年からはAEDの啓発を開始し、特定健診も行われるようになった。また、この日を前後に全国で循環器専門医による健康相談をターミナル駅などで実施し、予防の啓発に努めている。わが国の心臓病患者の多くが傘寿者(80歳)であることから早期介入できるように循環器病対策推進基本計画の策定などの整備を目指していると説明した。 次に「循環器予防対策の半世紀」をテーマに岡村 智教氏(日本循環器病予防学会 理事長)が、生活習慣病への疾病変遷と特定健診制度の成立と現在の運営などを講演した。 過去に成人病と称していた疾病名を、1次予防として早期介入ができることを目的に生活習慣病に変更されたこと、老人保健法が制定され、全国民の健康診断制度が担保されて個別の健康教育や特定健診が始まったことを説明した。 健康増進法で定められた方針が「健康日本21」で定められ、健康寿命の延伸や健康格差の縮小を目的にさまざまな取り組みが行われている。とくに循環器病分野では、高血圧の改善に減塩への取り組みや全国のコホート研究によるアウトカムの把握などにより、危険因子対策と地域の健康格差解消の取り組みが行われていると説明した。 次に「大阪万博のAEDと緊急体制」をテーマに、石見 拓氏(日本AED財団 専務理事)が、イベントなどでのAEDの設置・使用状況などについて講演した。 わが国には約67万台のAEDが設置され、20年間で8,000人が救命されたという。イベントでのAEDの活用は、2005年に開催された「愛・地球博」からであり、約100台のAEDが設置され、5例の心停止事例が発生、うち4例でAEDが使用され、いずれも救命された。そして、今年(2025年)開催の「大阪万博」では、AEDに最短で行けるためにスマートフォン(スマホ)を用いてAEDの設置位置が把握できる仕組み「AED GO」を構築し、運用している。 課題としては、心停止の発生場所が「自宅」というケースも多く、「将来的にはウェアラブル機器などでの早期の循環器の異常把握とホームAEDの設置・活用などを今後考えなくてはいけない」と述べた。 次に「AIを用いた循環器病予防 現状と未来」をテーマに、笹野 哲郎氏(日本循環器学会 代議員)が、現在進行中、また将来のAIを用いた循環器病の予防について講演した。 とくに隠れ心房細動の患者について、その数は100万例以上と推定され、うち心臓発作時に自覚症状がない人は約40%とされ、治療を受けていないために循環器病だけでなく脳梗塞のリスクが高いと指摘した。 現在活用されているAIでは、心電図の自動診断からの有病予測や再発予測が行われている。12誘導心電図の深層学習のために全国の施設で2,700例のデータが集められ、解析が行われているという。 また、AIおよびリモートテクノロジーによる心房細動発見の地域医療プロジェクトを静岡市清水区で行い、362例の参加者から11例の隠れ心房細動の患者を見つけることができたと報告した。 ただAI予測での注意点としては、AI診断はまだ途上であり、従来からのリスク評価も重要であることを指摘した。 今後の課題としては、健診などを受けない隠れ心房細動患者をいかに発見するかであり、東京都と共同してこうした患者を見つける実証試験を、カプセルホテルなどの協力で行っていることを説明した。 最後に今後の取り組みとして、「AIによる疾病有病予測は、結果の解釈と指導までを考慮し行うことが望ましい」と講演を終えた。女性の循環器疾患を“Go red for women”で予防したい 第2部では「次の20年の循環器病予防」をテーマに、磯部 光章氏(日本心臓財団 常任理事)、木田 圭亮氏(日本循環器協会 幹事)、東條 美奈子氏(日本循環器病予防学会 理事)の3人のパネリストが、今後の循環器病予防への取り組み、「ハートの日」啓発活動の将来、“Go red for women Japan”の活動について説明した。 磯部氏は、東京都で行われている施策を中心に、医療従事者への講演・研修会の実施や調理や運動による循環器病予防事業を説明したほか、患者同士の交流会の取り組みなどを説明した。 木田氏は、「ハートの日」の啓発活動について漫画『キャプテン翼』(作・高橋 陽一氏)に登場する三杉 淳をアンバサダーにさまざまなメディアで啓発活動を展開し、全国の薬局での血圧計測活動の実施やプロサッカーチームとの協業、スポーツ選手のインタビュー動画の公開とともに多くの企業ともコラボレーションを行っていることを紹介した。 東條氏は、アメリカで行われている“Go red for women ”について説明を行った。アメリカでは、循環器病で亡くなる女性が多く、米国心臓協会(AHA)がこの活動を開始し、2月の最初の金曜日を“National Wear Red Day”と定め、女性の心臓病や脳卒中の予防・早期発見の啓発が行われているという。この活動をわが国でも行おうというものであり、日本の女性は更年期以降に循環器病が増加し、重症化しやすい傾向にあることを説明した。 今後は、早期かつ定期的な診療受診の働きかけや企業との連携などを行うと、その展望を語った。 ディスカッションでは、今後、サッカー以外のスポーツ、たとえばバスケットボールなどの競技を通じて広く啓発活動を行うことやハートの日だけでなく、年間を通じ循環器病予防の取り組みを行うこと、小児期から疾患啓発を行うことなどが議論された。 8月10日の「ハートの日」の前後には全国で循環器病予防の啓発や予防のイベントが開催されるほか、全国の名所で赤い色のライトアップが実施される。

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日本人の肥満基準、BMI 25以上は適切?

 現在の日本における肥満の定義はBMI 25kg/m2以上とされているが、これは約30年前の横断研究の結果に基づくものである。そのため、現在における妥当性については議論の余地がある。そこで、京都府立医科大学大学院の笠原 健矢氏らの研究グループは、大規模な長期コホート研究のデータを用いて、現在の日本人における最適な肥満の基準値を検討した。その結果、BMI 22kg/m2を対照とした場合、2型糖尿病や慢性腎臓病(CKD)はBMI 25kg/m2付近でハザード比(HR)が2を超える一方で、冠動脈疾患(CAD)や脳卒中などのHRが2を超えるのは、BMI 30kg/m2超であった。本研究結果は、Metabolism誌オンライン版2025年7月15日号に掲載された。 本研究は、2008~23年にかけてパナソニック社の健康診断を受けた40歳以上の16万2,136人を対象とした。ベースライン時のBMIと追跡期間中における疾患(2型糖尿病、CKD、高血圧症、CAD、脳卒中、脂質異常症)の発症との関連について、制限付き3次スプラインを用いた多変量Cox比例ハザードモデルにより評価した。BMI 22kg/m2を対照とした場合の各疾患のHRが2となるBMIを推定した。 主な結果は以下のとおり。・各評価疾患の平均追跡期間は6~8年であった。・BMI 22kg/m2を対照とした場合、それぞれの疾患のHRが2となるBMI(kg/m2)は、以下のとおりであった。 -糖尿病:24.6 -CKD:25.0 -高血圧症:26.8 -CAD:30.8 -脳卒中:32.0 -高トリグリセライド血症:32.3・これらの結果は、性別や年齢で層別化したサブグループ解析においても同様であった。

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産業医が「裁判例」を学ぶべき3つの理由【実践!産業医のしごと】

産業医として働いている中で、労働者と企業の間で大きなトラブルになってしまった経験はありませんか? 産業医の業務には医学的な側面だけでなく、法律的な側面がたくさん絡んでおり、「この判断で大丈夫かな?」と不安になった経験のある方も多いのではないでしょうか。今回は、なぜ産業医が裁判例を学んだほうがいいのか、3つのポイントを踏まえてお話しします。1. 自分の責任範囲を知って、安心して判断できるようになる産業医の仕事は、医学を取り扱いながらも、法的な側面が深く関わる職務です。基本的に法的責任は事業者が負うものですが、産業医の意見や判断が企業の対応に大きな影響を与えます。健康診断の結果に基づく就業措置や職場復帰の意見など、日々の業務が法的な意味を持っています。裁判例を読むと、「産業医や企業はどのように対応すべきだったのか」の境界線が見えてきます。過去にどんな判断が問題になったのか、どんな対応が評価されたのかを知ることで、自信を持って判断ができるようになります。「なぜこの判断をしたのか」という明確な根拠を持って意見を述べられるようになることは、産業医にとって大きなメリットです。法的な裏付けがあることで、労働者にも企業にも説得力のある説明ができます。2. 企業により良いアドバイスができるようになる企業の担当者から「こう判断したいのですが、リスクはないでしょうか?」と相談されることがあります。法的な問題の最終判断は弁護士や社会保険労務士に委ねるべきですが、ある程度の裁判例の知識があると、単なる医学的アドバイスを超えた、より実践的な提案ができます。たとえば、「過重労働で裁判になった事例では、こんな点が問題視されました。御社でも○○の対策を検討してみてはいかがでしょうか」といった具合に、具体的で説得力のあるアドバイスができるようになります。企業としても、法的リスクを事前に教えてもらえるのはとてもありがたいことであり、産業医としてより頼りにされる存在になります。とくに最近は、メンタルヘルス不調による労災認定や安全配慮義務違反の訴訟が増加しており、企業のリスク管理における産業医の役割はますます重要になっています。3. 医学と法律のバランス感覚が身に付く産業医学は、ある意味で社会医学であり、純粋な臨床医学とは少し性質が異なります。その判断には、労働者個人の健康だけでなく、企業の事情や法的要件、さらには社会情勢も考慮しなければなりません。裁判例を学ぶと、「医学的な根拠だけでは説明が困難でも、社会情勢や業務の特殊性から業務上疾病として認められるケース」や「医学的には問題なくても、法的配慮が必要な場面」などを理解できるようになります。このバランス感覚は実務では本当に重要で、労働者の健康を守りながら、企業の合理的な運営にも配慮した、現実的な解決策を提案できる産業医になることができます。具体的にどこで・どうやって学ぶのか?「裁判例を学びたいけど、どこから手を付ければいいのかわからない」という方も多いと思います。実際に始めやすい方法をご紹介しましょう。学会活動を通じた最新情報の獲得日本産業保健法学会は、産業医にとってきわめて有用な学習機会を提供しています。年1回開催される学術大会では、産業保健と法に関するさまざまなテーマについて、各専門家が熱い議論を展開します。注目すべきは、「産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)」資格制度です。これは、メンタルヘルスを中心とする産業保健の法務と関連分野の知識を体系的に学び、現場問題解決力を身に付けた者に付与される学会認定資格です。本学会が実施する所定のカリキュラムに基づいた産業保健法務主任者研修 24単位以上(研修講座14単位以上、学術大会参加5単位以上)を修了した会員を申請に基づいて認定します。資格の有効期限は認定日より3年間です。専門書による基礎知識の構築裁判例の学習は、読みやすい専門書から始めることが重要です。以下の書籍は、法律の予備知識がなくても理解しやすく、実際の裁判例とその背景を丁寧に解説しています。『産業医入門 知っておきたい産業保健裁判例18の教訓』(林 剛司ほか著、日本医事新報社)『産業医が法廷に立つ日 判例分析からみた産業医の行為規範』(三柴 丈典 著、労働調査会)『産業医・産業保健スタッフ必携 産業保健の基礎-法令と実務-」(石井 義脩 著、新日本法規出版)『健康管理の法律実務 第3版』(石嵜 信憲 編著、中央経済社)まとめ産業医が裁判例を学ぶことで、法的責任の理解、企業への効果的なアドバイス、医学と法律のバランス感覚という3つの大きなメリットが得られます。最初は「法律なんて難しそう」と思うかもしれませんが、実際に読んでみると「あ、こういうことだったのか」と納得できることが多いんです。医学書と一緒に、裁判例集も手に取ってみてください。きっと、産業医としての視野が広がりますよ。

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難聴への早期介入には難聴者への啓発が重要/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、本年11月15~26日にわが国で初めてデフ(きこえない・きこえにくい)アスリートのための国際スポーツ大会「東京2025デフリンピック」が開催されることを記念し、都内でスポーツから難聴を考えるメディアセミナーを開催した。セミナーでは、難聴のアスリートである医師の軌跡、高齢者と聴力と健康、難聴への早期介入の重要性などが講演された。 東京2025デフリンピックは、上記12日間の日程で都内を中心に、約80ヵ国のアスリート3,000人を迎え、21競技で開催される。医師として働き、はじめてわかった難聴の課題 「難聴者・アスリートそして医師としての道のり」をテーマに、難聴を有するバレーボールのアスリートである狩野 拓也氏(十全総合病院耳鼻咽喉科)が、デフリンピックの概要の説明と障害を持つ医師としての苦労などを語った。 デフリンピックは、1924年から開催され、パラリンピックよりも歴史は古い。出場条件としては、「裸耳で良聴耳が55dB以上であること」、「先後天性など難聴の種類は問わない」、「競技中に補聴器を使用しない」が必要とされる。競技ルールは健聴者競技とほぼ同じであり、競技開始はランプの点灯などで行われる。狩野氏は、過去2回バレーボール選手として、デフリンピックに参加している。 狩野氏は、先天性両側重度感音難聴を患い、生後半年から補聴器とともに過ごしてきた。そして、医師として働く中でマスク着用により相手の読唇ができないこと、電話対応、雑音環境での聴力の低下などに悩まされたという。そこで、2020年に左耳に人工内耳埋め込み手術を受けた。その結果、静寂下での話音明瞭度は術前31.7%だったものが術後88.3%へ、雑音下では術前13.3%だったものが術後48.3%へ向上したという。 狩野氏は終わりに「難聴には先天性のほか、遺伝性、薬剤性などさまざまな原因があり、その対策として薬物療法、外科手術、補聴器などがあるので、耳鼻咽喉科で適切な診断と対策を行ってほしい」と述べた。「聴こえない」は運動能力に悪影響をもたらす 「高齢者における聞こえと健康長寿」をテーマに桜井 良太氏(東京都健康長寿医療センター研究所)が、難聴が運動機能に影響を与え、健康のリスクとなることを説明した。 カナダからの報告では、加齢性難聴者が抱える問題では、「俊敏性」と「移動能力」が多く、5人に3人が足腰の機能に不安を感じているという。また、加齢性難聴の進行に伴い、歩行機能が低下するという自験例を報告した1)。 足音も重要な感覚情報であり、聞こえ方で歩き方が変わる、足音が失われると普段の歩き方ではなくなるという報告もある。そのほか加齢性難聴と転倒の関連について、13の研究(2万5,961例)のメタ解析では、転倒リスクは2.39倍増加するという報告もある2)。 その機序は、聴覚情報遮断により回避行動にばらつきが増大することで、転倒リスクが増加すると推定されるという。桜井氏は、これらの研究報告などから「早期に補聴器などの装用による運動面の改善をすることは、転倒への不安を和らげる可能性があり、安全で質の高い生活を実現するために重要」と示唆し、講演を終えた。わが国の難聴者の医師への相談率や補聴器の普及率は低い 「難聴医療におけるPathwayの課題と難聴への早期介入の重要性」をテーマに和佐野 浩一郎氏(東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 主任教授)が、高齢者が抱える難聴の課題と聴こえに対する治療について説明した。 一般に加齢とともに難聴は進行し、70代では1/4が、80代では1/2が中等度以上の難聴となるという自験例を報告した3)。 加齢性難聴になると社会的孤立やうつなどの疾患や転倒のリスク、フレイルへの進展などが懸念される。また、難聴の放置は「認知症」の最大のリスクであり、難聴への早期介入により発症を予防するまたは発症を遅らせることができるとされている4)。 加齢性難聴対策は、社会的疾病負荷の軽減や患者の身体的影響など考慮すると積極的に取り組むべき課題であるが、わが国の難聴自覚者からの医師への相談率は先進国の中でも40%止まりとかなり低い。 実際に難聴を有する人はどのように考えているのかについて、コクレア社が2024年にわが国を含む4ヵ国の25歳以上の成人4,000人(うち日本人1,200人)にアンケート調査を行った。日本人では「難聴を感じたとき」に「医師の予約をとる」が40%で1番多かったが、「何もしない」(高齢だから当然と診療をしない)が16%もいた。 補聴器や人口内耳については、「治療費が高い」が30%、「相談先がわからない」が23%、「加齢で仕方がない」が21%の順で多かった。重症度別の割合では、実際の難聴割合と自覚率の間に大きな差があることが判明し、難聴の自覚がない難聴者ほど心身の機能が低い傾向あることがわかった5)。 課題として高齢者の健康診断では聴覚検査が含まれておらず、問診すらされていないケースもあると和佐野氏は指摘し、「耳鼻科における早期からの適切な診断を一般化していきたい」と抱負を述べた。 また、わが国の補聴器の普及率は10%に満たず、先進国の中でもとても低く、欧米とのその差は現在も拡大している。 こうした現状から同学会では、「難聴を感じても耳鼻科を受診しない市民」、「難聴患者に補聴器を提案しない医師」、「必要な助成が整備されていない社会環境」、「質の高い調整を提供できていない補聴器販売店」の4つの「ない」の改善に取り組むとしている。そのために、2024年には『聞き取りづらさを感じて受診した患者さんに対する診療マニュアル』を作成し、補聴器での聞き取りに問題があれば人工内耳の手術の検討を勧めているほか、現在『軽中等度難聴に対する診療ガイドライン』を作成しているという。 この人工内耳手術については、アメリカでは100万例に対し544件が施行されているが、わが国は100万例に対し122件とその施行数も少ない上に、そもそも人工内耳を知らない人も多いという。人工内耳装用で高齢者は、聴力の変化により社会参加が増加し、フレイルの予防対策が進めやすくなるほか、良好な医療経済効果も期待できるという。 和佐野氏は、進行する加齢性難聴の放置はさまざまな問題につながる可能性があること、「年齢のせい」と考えずにまずは耳鼻科医に相談してほしいということ、医師からのアドバイスに応じて補聴器や人工内耳を装用することで、健康寿命を延ばすことができる可能性があることを挙げ、適切な診断に基づいた適切な介入が重要であることを強調して講演を終えた。■参考文献東京2025デフリンピック1)Sakurai R, et al. Gait Posture. 2021;87:54-58.2)Tin-Lok Jiam N, et al. Laryngoscope. 2016;126:2587-2596.3)Wasano K, et al. Biomedicines. 2022;10:1431.4)Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.5)Sakurai R, et al. Arch Gerontol Geriatr. 2023;104:104821.

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脂肪性肝疾患の診療のポイントと今後の展望/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年登場する糖尿病治療薬は、血糖降下、体重減少作用だけでなく、心臓、腎臓、そして、肝臓にも改善を促す効果が報告されているものがある。 そこで本稿では「シンポジウム2 糖尿病治療薬の潜在的なポテンシャル:MASLD」より「脂肪性肝疾患診療は薬物療法の時代に-糖尿病治療薬への期待-」(演者:芥田 憲夫氏[虎の門病院 肝臓内科])をお届けする。脂肪性肝疾患の新概念と診療でのポイント 芥田氏は、初めに脂肪性肝疾患の概念に触れ、肝疾患の診療はウイルス性肝疾患から脂肪性肝疾患(SLD)へとシフトしていること、また、SLDについても、近年、スティグマへの対応などで世界的に新しい分類、名称変更が行われていることを述べた。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれてきた疾患が、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)へ変わり、アルコールの量により代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated[alcohol-related] liver disease:ALD)に変更された。 MASLDの診断は、3つのステップからなり、初めに脂肪化の診断について画像検査や肝生検で行われる。次に心代謝機能の危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の有無(1つ以上)、そして、他の肝疾患を除外することで診断される。CMRFでは、BMIもしくは腹囲、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールの基準を1つ以上満たせば確定診断される。とくに腹囲基準の問題については議論があったが、腹囲はMASLD診断に大きく影響しないということで現在は原典に忠実に「男性>94cm、女性>80cm」とされている。 肝臓の診療で注意したいのは、肝臓だけに注目してはいけないことである。エタノール摂取量別に悪性腫瘍の発症率をみるとMASLDで0.05%、MetALDで0.11%、ALDで0.21%という結果だった。アルコール摂取量が増えれば発がん率も上がるという結果だが、数字としては大きくないという。現在は4人に1人が脂肪肝と言われる時代であり、いずれSLDが肝硬変の1番の原因となる日が来ると予想されている。 また、MASLDで実際に起きているイベントとしては、心血管系イベントが多いという。自院の統計では、MASLDの患者で心血管系イベントが年1%発生し、他臓器悪性疾患は0.8%、肝がんを含む肝疾患イベントが0.3%発生していた。以上から「肝臓以外も診る必要があることを覚えておいてほしい」と注意を促した。 その一方で、わが国では心血管系イベントで亡くなる人が少ないといわれており、その理由として健康診断、保険制度の充実により早期発見、早期介入が行われることで死亡リスクが低減されていると指摘されている。「肝臓に線維化が起こっていない段階では、心血管系リスクに注意をする必要があり、線維化が進行すれば肝疾患、肝硬変に注意する必要がある」と語った。 消化器専門医に紹介するポイントとして、FIB-4 indexが1.3以上であったら専門医へ紹介としているが、この指標により高齢者の紹介患者数が増加することが問題となっている。そこで欧州を参考にFIB-4 indexの指標を3つに分けてフォローとしようという動きがある。 たとえばFIB-4 indexが1.3を切ったら非専門医によるフォロー、2.67を超えたら専門医のフォロー、その中間は専門・非専門ともにフォローできるというものである。エコー、MRI、採血などでフォローするが、現実的にはわが国でこのような検査ができるのは専門医となる。 現在、ガイドライン作成委員会でフローチャートを作成しているところであり、大きなポイントは、いかにかかりつけ医から専門医にスムーズに紹介するかである。1次リスク評価は採血であり、各段階のリスク評価で専門性は上がっていき、最後に専門医への紹介となるが、検査をどこに設定するかを議論しているという。MASLDの薬物治療の可能性について 治療における進捗としては、MASLDの薬物治療薬について米国で初めて甲状腺ホルモン受容体β作動薬resmetirom(商品名:Rezdiffra)が承認された。近い将来、わが国での承認・使用も期待されている。 現在、わが国でできる治療としては、食事療法と運動療法が主流であり、食事療法についてBMI25以上の患者では体重5~7%の減少で、BMI25未満では体重3~5%の減少で脂肪化が改善できる。食事療法では地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)が勧められ、炭水化物と飽和脂肪酸控えめ、食物繊維と不飽和脂肪酸多めという内容である。米国も欧州も地中海食を推奨している。 自院の食事療法のプログラムについて、このプログラムは多職種連携で行われ、半年で肝機能の改善、体重も3~5%の減少がみられたことを報告した。すでに1,000人以上にこのプログラムを実施しているという。また、HbA1c、中性脂肪のいずれもが改善し、心血管系のイベント抑制効果が期待できるものであった。そして、運動療法については、中等度の運動で1日20分程度の運動が必要とされている。 基礎疾患の治療について、たとえば2型糖尿病を基礎疾患にもつ患者では、肝不全リスクが3.3倍あり、肝がんでは7.7倍のリスクがある。こうした基礎疾患を治療することで、これらのリスクは下げることができる。 そして、今注目されている糖尿病の治療薬ではGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、肝炎の活動性と肝臓の線維化の改善に効果があり、主要評価項目を改善していた。このためにMASLDの治療について、わが国で使われる可能性が高いと考えられている。 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、第II相試験でMASLDの治療について主要評価項目の肝炎活動性の改善があったと報告され、今後、次の試験に進んでいくと思われる。 SGLT2阻害薬について、自院では5年の長期使用の後に肝生検を実施。その結果、「肝臓の脂肪化ならびに線維化が改善されていた」と述べた。最大の効果は、5年の経過で3 point MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)がなかったことである。また、これからの検査は肝生検からエコーやMRIなどの画像検査に移行しつつあり、画像検査は肝組織をおおむね反映していたと報告した。 おわりに芥田氏は、「MASLDの診療では、肝疾患イベント抑制のみならず、心血管系のイベント抑制まで視野に入れた治療の時代を迎えようとしている」と述べ、講演を終えた。

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歯周病の進行が動脈硬化と相関か

 歯周病は40歳以上の成人における歯の喪失の主な原因と考えられているが、2000年代の初頭からは他の全身疾患との関連性も報告されるようになった。今回、アテローム性動脈硬化と歯周病の進行が相関しているとする研究結果が報告された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野の玉木直文氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に4月18日掲載された。 アテローム性動脈硬化は血管疾患の主な原因の一つであり、複数のメタ解析により歯周病との関連が報告されている。長崎大学は2014年に、離島における集団ベースの前向きオープンコホート研究である長崎諸島研究(Nagasaki Islands Study;NaIS)を開始した。このコホート研究でも以前、動脈硬化が歯周病の進行に影響を与えるという仮説を立て、横断研究によりその関連性を調査していた。しかし、両者の経時的な関連性を明らかにする縦断研究はこれまで実施されていなかった。そこで著者らは、追跡調査を行い、動脈硬化と歯周病の関連性を検討する3年間のコホート研究を実施した。 本研究は長崎県五島市で実施されたフィールド調査で口腔内検査を受けた40歳以上の成人597人のうち、ベースライン時の健康診断と3年後に実施された追跡健康診断の両方のデータ(潜在性動脈硬化症、潜在的交絡因子、口腔内検査)がそろっている222人を最終的な解析対象とした。潜在的なアテローム性動脈硬化の指標として、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上、足関節上腕血圧比(ABI)が1.0未満、心臓足首血管指数(CAVI)が8以上の者を、高リスク者と定義した。歯周病の進行は、歯肉辺縁から歯周ポケット底部までのプロービング ポケット デプス(PPD)と、セメントエナメル境から歯周ポケット底部までのクリニカル アタッチメント レベル(CAL)を測定することで評価した。 ベースライン時における参加者の平均年齢は64.5±10.3歳であり、歯周病が進行した対象者58人(26.1%)が含まれた(進行群)。歯周病進行群と非進行群のベースライン時点での比較では、性別が男性であること、年齢が高いこと、現存歯数が少ないこと、PPDとCALが深いこと、喫煙者、高血圧、cIMTの厚さ、cIMTが1mm以上の者の割合、およびCAVIの値に有意な差が認められた。 3年間の追跡調査におけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)の変化を調べたところ、CAVIの値は歯周病進行群(P<0.001)、非進行群(P=0.007)でともに有意に増加していたが、CAVIが8以上の者の割合は進行群でのみ62.1%から81.0%へ有意に増加していた(P=0.024)。 次に、年齢と性別を調整した上で、多重ロジスティック回帰分析を実施し、アテローム性動脈硬化(前述の通りcIMT、ABI、CAVIによって定義)に対する歯周病進行のオッズ比(OR)を算出した。その結果、cIMTが1mm以上であった群は歯周病進行のORが有意に高かった(OR2.35、95%信頼区間〔CI〕:1.18, 4.70、P<0.05)。この有意傾向は、喫煙状況や高血圧などの追加の共変量を調整した後も維持された。 また、多重線形回帰分析により、ベースラインにおけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)とPPDおよびCALの変化との相関を検証した。年齢および性別で調整した結果、CAVIはCALの変化と正の相関(β=0.046、95%CI:0.008, 0.083、P=0.017)を示し、ABIはPPDの変化と負の相関(β=-0.667、95%CI:-1.237, -0.097、P=0.022)を示した。この有意傾向は、すべての共変量を調整した後も維持された。 本研究の結果について著者らは、「本研究より、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示唆された。従って、潜在性のアテローム性動脈硬化を予防することで、歯周病の状態を改善できる可能性がある。」と述べている。

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血小板減少【日常診療アップグレード】第32回

血小板減少問題32歳男性。健康診断で血小板減少を指摘され、二次検査のため来院した。症状はない。既往歴に特記すべきことはない。内服薬やサプリメントの服用もない。バイタルサインを含む身体診察では異常を認めない。白血球数は正常で、貧血はない。血小板数は4万8,000/μLである。経過観察とした。

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日本人中年女性、歩数を増やしても心血管リスクは同じ?

 毎日の歩数と心血管イベントの関連の研究において、中年世代の男女別のデータは少ない。今回、金沢大学の竹治 泰明氏らが7万人以上のコホート研究で解析した結果、男性では歩数が最も多い群(1万歩/日以上)は最も少ない群(4,000歩/日未満)と比べて心血管疾患リスクが大幅に低かったが、女性では関連がみられなかった。この結果は中年男性の心血管疾患リスク軽減のためには毎日1万歩歩くべきという推奨を支持しているが、男女における最適な歩数目標を確立するには大規模な男女別のデータ分析が必要と述べている。Journal of the American Heart Association誌オンライン版2025年5月23日号に掲載。 本研究では、KenCoMヘルスケアデータベース(KenCoMスマートフォンアプリからの歩数データと、健康診断記録および日本の健康保険請求データを組み込んだもの)を用いて、毎日の歩数に関連する心血管イベントリスクの男女差を評価した。KenCoMアプリを用いて参加者を募集・登録し、2016年1月~2021年9月にデータベースに登録した。主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、狭心症、心不全、心房細動を含む複合心血管イベントの5年間の累積発生率とし、イベント発生率を歩数の五分位(第1群:4,000歩/日未満、第2群:4,000~5,999歩/日、第3群:6,000~7,999歩/日、第4群:8,000~9,999歩/日、第5群:10,000歩/日以上)で比較した。 主な結果は以下のとおり。・本研究には7万3,975人(男性5万5,612人、女性1万8,363人)が参加し、平均年齢は44.1±10.1歳であった。・全体では、5年心血管イベントの調整後リスクは第1群と比較して第5群で有意に低かった(調整後ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.77~0.98、p=0.02)。・男女別では、男性では第1群と比較して第5群で心血管イベントの調整後リスクが有意に低かった(調整後HR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)が、女性ではこの効果は認められなかった。 著者らは本試験の限界として、対象集団が健康アプリユーザーに限定されているため調査結果の一般化が制限される可能性があること、デバイスを携帯していないときの身体活動を過小評価する可能性があること、歩数データを必ずしも連日収集されたわけではないこと、運動中の身体活動強度データやスマートフォンの携帯時間はデータセットに収集されていなかったことを挙げている。

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疫学・自然経過―その2【脂肪肝のミカタ】第3回

疫学・自然経過―その2Q. 肝臓だけではない、イベント数の実態は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は肝臓だけの病気と考えるべきではない。肝硬変や肝がんを含む肝疾患イベントよりも、心血管系イベントや肝臓以外の悪性疾患患者のほうが多いとされる(図2)。(図2) 虎の門病院で組織学的にMASLDと診断された552例における各種イベント発生頻度画像を拡大する肝外悪性疾患では、男性で大腸がん、女性で乳がんのリスクが増加することが示されており、健康診断や人間ドック等による、年齢に応じた悪性疾患のスクリーニングの重要性も啓発していく必要がある1-4)。また、心血管系リスク症例の絞り込みも重要な課題である。動脈硬化性疾患予防ガイドラインで、動脈硬化性心血管疾患の発症予測モデルとして採用されているスコアなどの活用も検討されるべきである5)。MASLDは背景にメタボリックシンドロームが存在するため、肝臓の線維化の状態に寄らず、常に心血管系イベントや肝臓以外の悪性疾患にも注意を払う必要がある。とくに、肝臓の線維化が進行していない症例では、心血管や肝臓以外の悪性疾患のイベントのほうが目立ち、肝臓の線維化進行例では肝硬変や肝がんを含む肝疾患イベントのほうが目立つ6)。すなわち、イベントの頻度は相対的に考えるべきといえる(図3)。(図3)MASLDからの各種イベントの実態画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.4)Akuta N, et al. BMC Gastroenterol. 2021;21:434.5)日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022.6)Vuppalanchi R,et al. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2021;18:373-392.

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若年性認知症リスクとMetSとの関連

 若年性認知症は、社会および医療において大きな負担となっている。メタボリックシンドローム(MetS)は、晩年の認知症の一因であると考えられているが、若年性認知症への影響はよくわかっていない。韓国・Soonchunhyang University Seoul HospitalのJeong-Yoon Lee氏らは、MetSおよびその構成要素が、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症を含む若年性認知症リスクを上昇させるかを明らかにするため、本研究を実施した。Neurology誌2025年5月27日号の報告。 The Korean National Insurance Serviceのデータを用いて、全国規模の人口ベースコホート研究を実施した。2009年に国民健康診断を受けた40〜60歳を対象に、2020年12月31日または65歳までのいずれか早いほうまでフォローアップ調査を行った。MetSは、ウエスト周囲径、血圧、空腹時血糖値、トリグリセライド値、HDLコレステロールの測定値を含む、確立されたガイドラインに従って定義した。共変量には、年齢、性別、所得水準、喫煙状況、飲酒量および高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病などの併存疾患を含めた。主要アウトカムは、65歳未満での認知症診断で定義したすべての原因による若年性認知症の発症率とし、副次的アウトカムに若年性アルツハイマー病、若年性脳血管性認知症を含めた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者数は197万9,509人(平均年齢:49.0歳、男性の割合:51.3%、MetS罹患率:50.7%)。・平均フォローアップ期間7.75年の間に、若年性認知症を発症したのは8.921例(0.45%)であった。・MetSは、すべての原因による若年性認知症リスク24%上昇(調整HR:1.24、95%CI:1.19〜1.30)、若年性アルツハイマー病リスク12.4%上昇(HR:1.12、95%CI:1.03〜1.22)、若年性脳血管性認知症リスク20.9%上昇(HR:1.21、95%CI:1.08〜1.35)との関連が認められた。・有意な交互作用が認められた因子は、より若年(40〜49歳vs.50〜59歳)、女性、飲酒状況、肥満、うつ病であった。 著者らは「MetSおよびその構成要素は、若年性認知症リスク上昇と有意な関連を示した。これらの知見は、MetSに対する介入が、若年性認知症リスクの軽減につながることを示唆している。しかし、本研究は観察研究のため、明確な因果関係の推定は困難であり、請求データへの依存は、誤分類バイアスに影響する可能性がある。今後の縦断的研究や包括的なデータ収集により、これらの関連性を検証し、さらに発展させることが望まれる」と結論付けている。

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