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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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第239回 女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会

<先週の動き> 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会日本肥満学会は4月17日、成人女性における低体重や低栄養を背景に多様な健康障害が生じる状態を「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」と定義し、新たな疾患概念として確立する提言を発表した。対象は18歳以上で閉経前までの女性とし、今後は診断基準や予防・治療指針の整備を進める。FUSに該当する症状としては、骨密度の低下や月経異常、貧血、筋力低下、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、低血圧、低血糖、摂食障害、さらには将来の不妊リスクや胎児の低出生体重といった次世代への影響まで多岐にわたる。2023年の国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の女性が20代で24.4%、30代で17.9%と報告されており、先進国の中でもわが国は突出して高い。背景にはSNSやメディアの影響による強い「痩せ志向」や、貧困など社会的・経済的要因も複雑に絡んでいるとされている。学会では「肥満対策と同様に、低体重のリスクにも体系的に対応すべき」として、FUSを社会構造・教育・医療・産業界全体で共有すべき課題と捉えるべきだと提起しているほか、GLP-1受容体作動薬の美容目的での使用拡大にも強い懸念を示している。また、症状が単発で現れることも多く、従来の医療では見逃されやすいことから、健康診断でのスクリーニングや医師・栄養士・心理職との多職種連携による早期介入体制の構築も求めている。今後はメタボリックシンドロームのようにFUSの診断基準を整備し、政策的介入へとつなげたいとしている。「まずは、よく食べて、運動して、眠る。そして不調があれば医療へ」と、学会は社会全体での健康意識の見直しを呼びかけている。 参考 1) 閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題-新たな症候群の確立について-(日本肥満学会) 2) 女性の「痩せ」学会警鐘 20代の2割、新症候群の確立提言(日経新聞) 3) 健康害する女性の低体重・低栄養は「疾患」、肥満学会が位置付け…基準定め治療や予防法を確立(読売新聞) 4) 日本肥満学会ワーキンググループが提唱「成人女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」が新たな疾患概念に(日経メディカル) 5) 「SNSやメディア、貧困など原因」「肥満と比べ軽視されてきた」女性の“低体重・低栄養”巡り、肥満学会が新疾患の枠組み提言(弁護士JPニュース) 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大帯状疱疹ワクチンに、認知症発症リスクの低減効果があることが、米スタンフォード大学などの研究チームによる28万人以上の高齢者を対象とした研究で明らかになった。この研究は、英国ウェールズにおけるワクチン接種開始時の制度を活用した「自然実験」の手法を取り、1933年9月2日以降に生まれた接種対象者と対象外の高齢者を比較したもの。7年間の追跡で、接種群の認知症発症率は非接種群より3.5%ポイント、相対的に20%低かった。この効果は教育歴や持病などの因子を考慮しても変わらず、とくに女性において顕著だった。認知症リスクの低下が、免疫機能の強化や帯状疱疹ウイルスの脳への影響防止による可能性があると示唆されているが、明確なメカニズムは未解明である。なお、従来の生ワクチン「Zostavax」での効果を示した今回の研究に対し、新型の不活化ワクチン「Shingrix」にも同様の効果があるかは今後の検証が必要とされている。専門家は「現行の薬理学的手段よりも有望」と評価し、ワクチン接種が認知症予防の新たな選択肢となる可能性が期待されている。 参考 1) Eyting M, et al. Nature. 2025 Apr 2.[Epub ahead of print] 2) 認知症の予防効果がある「身近なワクチン」とは?高齢者7年間の追跡調査で判明(ダイヤモンドオンライン) 3) 帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々(ナショナルジオグラフィック) 4) “認知症”リスクが20%減-「帯状疱疹ワクチン」接種が認知症発症に与える影響 28万人以上を調査(ITmedia) 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用促進を進めているが、利用率は依然として低迷している。とくに75歳以上の高齢者においては、昨年12月時点での利用率が24.57%に止まり、紛失への不安などから移行が進んでいない。このため厚生労働省は、75歳以上の全員に保険証の代替となる「資格確認書」を交付し、マイナ保険証への一本化を事実上2026年夏まで延期する方針を決定した。原因としては施設での管理の負担や利用者の混乱もあり、実際の運用が追いついていない現状がある。一方で、政府はマイナ保険証の価値を示す取り組みとして、今秋から全国で「マイナ救急」を導入する。救急隊が現場でマイナ保険証をカードリーダーで読み取ることで、患者の既往歴や薬剤情報を即座に把握し、適切な処置や搬送先の選定に役立てる仕組み。昨年度の実証では、意識が不明瞭な高齢者の適切な搬送に繋がる事例が報告されている。今年度は全国の5,334救急隊に拡大する予定で、端末の簡便化により、30秒~1分程度で情報閲覧が可能となる見込み。政府はこれを医療DX推進の鍵と位置付け、利用率向上のきっかけとしたい考え。さらに、スマートフォンでマイナ保険証機能を利用できる実証事業も6月に開始する予定で、順調なら9月にも全国展開される。診察券一体化システムへの補助も継続し、利便性の向上を図る。だが、制度変更の頻発や運用現場の負担には懸念の声も多く、高齢者層を中心とした受け入れの広がりには時間が必要とみられている。 参考 1) 利用率の低さ、状況変わるのか? マイナ保険証、75歳以上は一本化延期(中日新聞) 2) マイナ保険証の救急活用、秋に全国で 既往歴把握し搬送(日経新聞) 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省厚生労働省が、2024年度の医療機関の経常利益率を推計した結果、最頻値が病院運営医療法人で-1.0~0.0%、無床診療所運営法人で-3.0~-2.0%と、いずれも赤字圏内にあることが明らかになった。こうした厳しい経営状況は、福祉医療機構の2025年3月の病院経営動向調査でも裏付けられており、医業収支DIでは一般病院がわずかに改善したものの、精神科病院は-41と大幅に悪化していた。課題としては人件費増加や職員確保難が挙がっている。日本病院会も同日開催した研修会で、経営状況の悪化に警鐘を鳴らした。島 弘志副会長は「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」と述べ、2023年度には一般病院の黒字割合が前年度の79.4%から40.6%へ急落したことを紹介。これを受け、日本病院会など5団体は政府に対し、緊急的な財政支援や診療報酬体系の見直しなどを要望した。さらに、経営環境が予測困難で変動の激しい「VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)時代」への対応として、今後の病院経営には、利益と社会的価値の両立が求められると提言した。また、中小病院における経営改善には、業務の可視化・分析・改善に至る具体的なフローを実践し、データに基づいた行動変容を促す体制が必要とされた。現場では医療従事者の疲弊が進む中、迅速かつ柔軟な対応が地域医療の継続と再生の鍵を握る。行政・経営者・現場の連携と改革が急務となっている。 参考 1) 医療機関の経常利益率、「最頻値」がマイナスに 24年度、厚労省推計(MEDIFAX) 2) 医業収益DI、一般は改善も療養・精神は低下 WAM、3月調査(同) 3) 「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催(Gem Med) 4) 病院経営動向調査の概要(福祉医療機構) 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省厚生労働省は、全国の救命救急センターを対象とした2024年版の「充実段階評価」の結果を発表した。評価対象は2023年末までに運営を開始した全308施設で、最上位の「S」評価を獲得したのは102施設(33.1%)と、前年から1.2ポイント増加した。「A」評価は199施設(64.6%)で最多、「B」は7施設(2.3%)、最低評価の「C」は該当なしだった。評価は救急科専門医の配置、重篤患者の受け入れ数、トリアージ機能などを総合的に採点し、94点以上かつ是正項目がない場合に「S」が与えられる。とくに、日本医科大学付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院の3施設は満点の100点を獲得。神戸市立医療センター中央市民病院は11年連続での満点評価となった。コロナ禍の影響を受けた2020~23年の評価では一部項目が除外されたが、今回は全項目を対象とした従来型の評価が復活。なお、希望した17施設については、新型コロナの影響に関する個別ヒアリングを経た上で評価が決定された。本評価は、診療報酬上の「救急体制充実加算」の基準や、国からの運営補助金額にも影響を与える重要な指標であり、救命救急体制の質的向上や公平な支援配分に直結するものとして注目されている。 参考 1) 令和5年救命救急センターの評価結果(厚労省) 2) 救命救急センターの評価結果(令和5年)について(同) 3) 救急救命センターの充実段階評価、「S」評価が33% 100点満点は3施設 24年(CB news) 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)に勤務する麻酔科医の過重労働が明らかになったことを受け、高知県は外部有識者4人による第三者委員会を設置・調査を実施し、2025年3月に報告書を取りまとめ、公表した。これは2024年度に高知大学医学部から派遣された麻酔科医3人のうち2人が心身の不調を訴えたことが発端で、大学側は県に勤務状況の調査を依頼した。報告書によると、麻酔科医は一人で複数の患者の麻酔を同時に担い、集中治療室で重症患者への対応も行っていた。さらに、「宿日直許可」に基づく労働時間外の時間帯にも救急対応を強いられていた。これにより、同院は労働基準監督署から行政指導を受けている。報告書では、病院側に医師の働き方改革への理解不足、勤務実態の把握やメンタルケアの欠如を指摘し、「具体的な業務改善計画」の策定を求めた。高知大学は2025年度、派遣する麻酔科医を1人減らし2人とした。これにより、病院で行える手術数の減少が懸念されており、病院では非常勤医師の勤務日の増加や外科医による局所麻酔対応などで補おうとしている。年間約2,000件の手術のうち1,500件に麻酔科医が関与している現状で、人的資源の縮小は地域医療体制への影響が大きい。県は6月を目途に改善計画を策定し、高知大学への謝罪と説明を行う方針。同院の担当者は「医師の健康への配慮が不十分で申し訳ない」とコメント。高知大学は「地域医療の責務は認識している。改善が確認され次第、派遣増員を検討したい」としている。なお、第三者委員会の会議は非公開で行われた。 参考 1) 県立幡多けんみん病院における医師の勤務状況に関する第三者委員会について(高知県) 2) 県立幡多けんみん病院で過酷勤務 高知大派遣の麻酔科医が心身不調に 第三者委が改善要求(高知新聞) 3) 県立病院派遣の複数の麻酔科医不調訴え 業務改善求める報告書(NHK)

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食道がんリスクが平均赤血球容積でわかる?

 健康診断などでよく見る平均赤血球容積(MCV)は貧血の種類を判別する指標だが、食道がんの予測因子としても使えるようになるかもしれない。静岡県立総合病院消化器外科の佐藤真輔氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏らの研究によるもので、食道がんの発症リスクが高血圧の既往や生活習慣などとともにMCVでも予測できる可能性があるという。研究の詳細は「PLOS One」に2月11日掲載された。 食道がんは予後不良のがんであり、2020年には世界で54万人が食道がんで死亡している。症例の多くは扁平上皮がんであり、日本や中国を含む東アジアでの発症率が特に高くなっている。食道の扁平上皮がんのリスク因子は飲酒と喫煙であることが報告されている。 MCVの数値も、多量の飲酒や喫煙により増加することが報告されていることから、食道がん発症の潜在的なバイオマーカーであることは示唆されていた。しかし、これまでの報告は、症例対照研究または単施設研究であったため、研究グループは大規模な日本国内のデータベースを使用し、より信頼性の高い後ろ向きコホート研究を行うこととした。 本研究では、静岡県市町国保データベース(SKDB)を利用した。解析データセットには、2012年4月~2020年9月までのSKDBより、適格性を満たす58万2,342人が含まれた。食道がんの発生は1,562人(0.27%)であり、ICD-10コードのC15によって特定された。共変量については、年齢、性別、BMI、現在の喫煙状況、飲酒状況、併存疾患、血液検査値とした。 対象患者全体の主な特徴は平均年齢が67.9±11.3歳、男性が42%だった。一方、食道がんを発生した患者の平均年齢は71.4±8.13歳であり、男性が80%を占めた。 単変量および多変量のCox比例ハザード回帰分析を実施した結果、高血圧、喫煙、収縮期血圧、飲酒、アルコール使用障害、BMI、LDLコレステロール、MCVが食道がん発症のリスク因子となった。 MCVの値を四分位範囲別に分類し、食道がんの累積発生率をみたところ、MCVの値が高くなるにつれて、食道がんの累積発生率も高くなっていた。また、条件付き推論ツリー解析によって求められた食道がん発症予測のカットオフ値は104.086fLであった。 本研究について、研究グループは、「喫煙と飲酒状況が詳細に分かるのであれば、これらは食道がんの予測因子として非常に有用だろう。しかし、喫煙や飲酒に関する自己申告は必ずしも正確ではない。そのような状況ではMCVの値が有用な予測因子となる可能性がある。また、喫煙や飲酒がリスク因子であることが知られている食道以外のがんに関しても、MCVはがん発症の指標となるかもしれない」と総括した。 予想されるMCVの運用については、「MCVが104fLを超える場合に、内視鏡検査を実施するのが適切と考える。採血のみで簡便に判定できるMCVは、患者負担の観点からも有用な指標となりうる」と述べた。 なお、本研究の限界点については、特定の地域のデータに基づいているため結果は一般化できないこと、データに含まれる飲酒量や喫煙量は自己申告に基づくため、想起バイアス・社会的望ましさバイアスの影響は排除できないこと、などを挙げている。

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睡眠不足の看護師は感染症に罹患しやすい

 夜間勤務(以下、夜勤)の影響で睡眠不足を感じている看護師は、風邪やその他の感染症への罹患リスクの高いことが新たな研究で明らかになった。研究グループは、「シフト勤務が睡眠の質に与える影響が看護師の免疫系に打撃を与え、感染症にかかりやすくさせている可能性がある」と述べている。Haukeland大学病院(ノルウェー)睡眠障害コンピテンスセンターのSiri Waage氏らによるこの研究結果は、「Chronobiology International」に3月9日掲載された。 この研究は、ノルウェーの看護師1,335人(女性90.4%、平均年齢41.9歳)を対象に、睡眠時間、睡眠負債、およびシフト勤務の特徴と自己報告による感染症の罹患頻度との関連を検討したもの。これらの看護師は、過去3カ月間における睡眠時間、睡眠負債、シフト勤務、および感染症(風邪、肺炎/気管支炎、副鼻腔炎、消化器感染症、泌尿器感染症)の罹患頻度について報告していた。 その結果、睡眠負債(1〜120分、または2時間超)が多いほど感染症の罹患リスクは上昇することが明らかになった。睡眠負債がない人と比べた睡眠負債がある人での感染症罹患の調整オッズ比は、睡眠負債が1〜120分、2時間超の順に、風邪で1.33(95%信頼区間1.00〜1.78)と2.32(同1.30〜4.13)、肺炎/気管支炎で2.29(同1.07~4.90)と3.88(同1.44~10.47)、副鼻腔炎で2.08(同1.22~3.54)と2.58(同1.19~5.59)、消化器感染症で1.45(同1.00~2.11)と2.45(同1.39~4.31)であった。 また、夜勤の有無や頻度(0回の場合と比べて1〜20回の場合)は、風邪のリスク増加と関連していた。風邪の調整オッズ比は、夜勤がない場合と比べてある場合では1.28(95%信頼区間1.00〜1.64)、夜勤が0回の場合と比べて1〜20回の場合では1.49(同1.08〜2.06)であった。一方、睡眠時間やクイックリターン(休息間隔が11時間未満)と感染症罹患との間に関連は認められなかった。 Waage氏は、「睡眠負債や、夜勤を含む不規則なシフトパターンは、看護師の免疫力を弱めるだけでなく、質の高い患者ケアを提供する能力にも影響を及ぼす可能性がある」と「Chronobiology International」の発行元であるTaylor & Francis社のニュースリリースの中で指摘している。 研究グループは、病院や医療システムは看護師が十分な睡眠を取れるようにすることで、患者により良いケアを提供できる可能性があると述べている。論文の共著者であるHaukeland大学病院のStale Pallesen氏は、「夜勤の連続勤務を制限し、シフト間に十分な回復時間を確保するなど、シフトパターンを最適化することで、看護師は恩恵を受けることができる」とニュースリリースで話している。同氏はさらに、「免疫系が正常に機能するには睡眠が重要であることに対する医療従事者の認識を高めるとともに、定期的な健康診断とワクチン接種を奨励することも役立つ可能性がある」と付言している。

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お酒をやめるとLDL-Cが上昇?~日本人6万人のデータ

 飲酒による健康への悪影響が広く報告されているが、飲酒を始めたときや禁酒したときにコレステロール値がどう変化するかはわかっていない。今回、聖路加国際病院の鈴木 隆宏氏らが日本人約6万人のコホート研究で評価した結果、飲酒者が禁酒するとLDLコレステロール(LDL-C)値が上昇し、HDL-コレステロール(HDL-C)値が低下することが明らかになった。逆に、非飲酒者が飲酒を開始したときはLDL-C値の低下とHDL-C値の上昇がみられた。これらの変化はどちらも飲酒量が多いほど顕著だったという。JAMA Network Open誌2025年3月12日号に掲載。 このコホート研究は、2012年10月~2022年10月に東京の予防医学センターで毎年健康診断を受けている人(脂質低下薬投与中の人は除外)を対象とした。連続した2回の健康診断の間に、飲酒を開始した人と非飲酒を継続した人、および禁酒した人と同量の飲酒を継続した人のLDL-C値とHDL-C値の変化を比較した。なお、飲酒量は純エタノール10gを1杯とした。 主な結果は以下のとおり。・5万7,691人(平均年齢:46.8歳、女性:53.0%)の32万8,676回の受診を分析した。・禁酒を評価するコホート(2万5,144人、平均年齢:48.9歳、女性:49.1%、4万9,898回の受診)において、事前の平均(SD)LDL-C値とHDL-C値はそれぞれ114.7(28.4)mg/dLと65.5(16.4)mg/dLであった。・禁酒によるLDL-C値の変化は、禁酒前の飲酒量が1.5杯/日未満では1.10mg/dL(95%信頼区間:0.76~1.45)、1.5~3.0杯/日では3.71mg/dL(同:2.71~4.71)、3.0杯/日以上では6.53mg/dL(同:5.14~7.91)であった。禁酒によるHDL-C値の変化は、1.5杯/日未満では-1.25mg/dL(同:-1.41~-1.09)、1.5~3.0杯/日では-3.35mg/dL(同:-4.41~-2.29)、3.0杯/日以上では-5.65mg/dL(同:-6.28~-5.01)であった。・飲酒の開始を評価するコホート(2万9,042人、10万7,880回の受診)では、LDL-C値が低下、HDL-C値が上昇し、禁酒とは逆の用量反応関係が認められた。 このコホート研究では、飲酒の開始は緩やかなコレステロール改善と関連していたが、禁酒は好ましくない変化と関連していた。著者らは「禁酒後は、個人・集団の両方のレベルで心血管疾患リスク管理を最適化するために脂質プロファイルの変化を注意深く監視する必要がある」としている。

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第258回 献血は誰かを救うのみならず自身の健康も増進しうる

献血は誰かを救うのみならず自身の健康も増進しうる足しげく献血することはたくさんの誰かのためになるだけでなく、自身の血液も健康にするようです。私が足を運ぶ姫路の献血センターには、輸血を受けた患者さんやその近しい人からの手紙が掲示されています。よっぽど困難な状況にあるかあったであろう人たちからのそのような言葉の数々に触れると、血液検査目当てのおよそ健康診断のつもりの輸血もいくらかは役に立っていると感じることができて、なんだか前向きな気持ちになれます。献血する人は多かれ少なかれ似たような思いを経験されているかもしれません。血液学で最高峰のBlood誌に先週掲載された新たな観察試験結果1)によると、献血を頻繁にすることは自身にいくばくかの心の滋養になりうることのみならず、健康な血液細胞をより生み出せるようにする効果もあるようで、もしかすると血液がんを生じにくくする効果さえ担うかもしれません。英国のフランシスクリック研究所のチームは、ドイツの赤十字献血センターおよびドイツのがん研究所と協力し、生涯の献血回数が100回を超える頻回献血(frequent donor、以下「FD」)男性217人と献血回数がわずかな(10回未満)男性212人の血液検体を調べました。年齢はそろえられ、どちらもおよそ60歳代です。老化に伴って骨髄の造血幹細胞(HSC)に変異が蓄積することに伴い、遺伝配列が他とわずかに異なる血液細胞の一団が幅を利かせるようになるクローン性造血が生じるようになります。FD男性と非FD男性のクローン性造血の発生率に有意差はありませんでした。一方、クローン性造血との関連が知られるDNMT3A遺伝子の変化にはっきりとした差がありました。その差の意味を調べるべく、FD男性に多いDNMT3A遺伝子変化(FD変異)を導入したHSCがそうでないHSCとの共存の中でどう振る舞うかが検討されました。失血に応じて作られる造血ホルモンのエリスロポエチン(EPO)を与えることで献血に似せた環境にして培養したところ、FD変異細胞はそうでない細胞に比べてより早く増えました。その現象はEPOがあるときに限られ、EPOがないときの増える速さは似たりよったりでした。献血するたびに体内でEPOが突発することで、頻繁な献血者に多いDNMT3A変異細胞が増えるのに好都合になるようだ、と著者の1人Hector Huerga Encabo氏は言っています。研究はさらに続き、FD変異の取り柄が示唆されました。FD変異細胞と白血病を生じ易くする変異を有する細胞を一緒にしたところ、やはりEPOがある環境でFD変異細胞はより増え、赤血球をより生み出しました。すなわちFD変異はがん細胞の増殖を抑制する作用を担うかもしれません。今回の結果によると、献血はHSCの調子やその補充能力を向上するように仕向け、誰かの命を救うのみならず自身の血液系もより好調にするようです2)。とはいえ、検証がまだまだ必要です。たとえば、白血病を生じ易くする変異の発生を減らすと今回の結果をもって結論することは当然できず、異なる人種、女性、他の年齢層を含むより大人数でさらに検討しなければなりません2,3)。参考1)Karpova D, et al. Blood. 2025 Mar 11. [Epub ahead of print] 2)Giving blood frequently may make your blood cells healthier / NewScientist 3)Beneficial genetic changes observed in regular blood donors / Eurekalert

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日本人は35歳を過ぎると男女ともにBMIが増加傾向に/慶大

 年を重ね中高年になると、私たちの体型はどのように変化していくのであろう。この疑問に慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの植村 直紀氏らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の2015~20年度の加入者データから身長と体重、BMIの推移を解析した。その結果、男女ともにすべての年齢層でBMIが増加していたことが明らかになった。この結果は、International Journal of Obesity誌オンライン版2024年12月18日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。 研究グループは、2015~20年の協会けんぽの年次健康診断のデータを用い、35~69歳(1950~80年代生)の男性477万7,891人と女性337万8,003人を、性別と5年ごとの年齢区分に基づいて14のサブグループに層別化した。そして、線形混合効果モデルを用い、6時点(2015~20年)を独立変数とし、各アウトカムの値を推定した。・平均BMI変化はすべてのサブグループでプラスであり、BMIの増加傾向を示した(男性:0.02~0.14/年、女性:0.05~0.16/年)。・若いサブグループでは、変化は比較的大きく、体重の推移はBMIの推移を反映していた。・一方、高齢のサブグループでは体重の平均変化はマイナスだった(男性:-0.06kg/年、女性:-0.01kg/年)。・身長の減少はサブグループ全体で年齢とともに増加した(男性:-0.14~-0.03cm/年、女性:-0.18~-0.01cm/年)。 これらの結果から研究グループは、「日本人成人の全年齢群においてBMIは、男女とも年齢とともに増加する傾向があった。BMIの増加は、若年から中年にかけての体重増加に影響されているようであったが、高齢者では身長の減少がBMIの増加に影響していた」と結論付けている。

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50代の半数がフレイルに相当!早めの対策が重要/ツムラ

 2月1日は「フレイルの日」。ツムラはこの日に先立つ1月30日に「50歳からのフレイルアクション」プロジェクトの発足を発表し、フレイル対策の重要性を啓発するメディア発表会を開催した。セミナーでは東京都健康長寿医療センターの秋下 雅弘氏がフレイルの基本概念と対策の重要性について講演し、ツムラのコーポレート・コミュニケーション室長・北村 誠氏がプロジェクト概要を説明、そしてタレントの山口 もえ氏を交えてトークディスカッションを行った。秋下氏の講演「中年世代から大切なフレイル対策-ライフコースアプローチの観点から」の概要を紹介する。 平均寿命が延伸するとともに、日常生活に制限なく生活できる年齢である「健康寿命」や身体的・精神的・社会的に良好な状態を示す「ウェルビーイング」の重要性が高まっている。これを阻害する要因の1つである「フレイル」とは、歳とともに体力・気力が低下した、いわば健康と要介護の間の状態を指す。 フレイルの症状には、筋力が低下して転びやすくなるといった「身体的な問題」、もの忘れや気分の落ち込みが続くといった「心理・認知的な問題」、社会交流の減少や経済的な困窮といった「社会的な問題」という3つの要素がある。これらは別々に存在しているわけではなく、知恵の輪のように複雑に絡まり合っている。「加齢によるもの」と説明すると不可逆的なものと捉えられることが多いが、適切な対策を講じることで健康な状態に戻ることが可能という点が重要だ。 今回、ツムラは40~69歳の男女を対象に、厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」に基づいてアンケート調査を行った1)。結果としては、50代の回答者の半数以上がフレイル相当で、前段階のプレフレイル相当を合わせると該当者は約9割に上った。このチェックリストは高齢者を対象としたもので、該当者がそのままフレイルというわけではないが、対策をせずにそのまま年齢を重ねれば確実にフレイルとなる可能性が高い予備軍だ。実際、フレイル/プレフレイル該当者のうち、約9割が「対策を行っていない」と回答した。50代は働き盛りで「自分はまだまだ大丈夫」という意識があるうえ、ポストコロナでのリモート生活の影響で運動量が減っているという要因もありそうだ。 フレイル対策はシンプルだ。栄養、運動、社会参加が3つの基本となる。栄養は朝昼夜の食事をバランス良く食べ、とくにタンパク質とビタミンDを意識的に摂取し、口腔衛生を保つこと。運動はウォーキングのような有酸素運動と筋トレのようなレジスタンス運動を併用して継続すること。社会参加は休日の外出や趣味や習い事などで人とのつながりを持つことが重要だ。患者説明用スライド「フレイルの定義と対策」※ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘氏講演資料より 50代は筋力、筋肉量は減少してくるものの、通常はまだ生活に影響するほどではない。また、職場の健康診断もメタボリックシンドロームなどの生活習慣病による心血管病の予防と、がんの早期発見に重点が置かれ、フレイルなど高齢期の問題まで行き届いているとは言えない。しかし、50代という変化の大きな時期に何も対策を講じないでいると、60~70代でさらに筋肉は減少し、少しの動作や生活にも影響が出るようになり、また気分的にも行動変化に結び付けるのが難しい、まさに取り返しのつかない状況に陥るリスクがある。ライフコースアプローチの観点からも50代であればまだ十分に加齢変化を止め、あるいは回復までも期待できる。「まだ間に合う」という意味で、ぜひ50代からフレイル対策をはじめてほしい。 秋下氏は医師へのメッセージとしては、「体調不良を訴える中高年の診察時には、フレイルを気に留め、上記の栄養、運動、社会参加についてのアドバイスをしてほしい。また疲れやすさや気持ちの落ち込みといったよくある訴えの裏に、がんなどの疾患が潜んでいることもある。よくある主訴の背後にあるものを見逃さず、必要に応じて専門医につないでほしい」とした。フレイルのチェック方法患者説明用スライド「フレイルのチェックリスト」※ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘氏講演資料より1)基本チェックリスト/厚生労働省7項目25の質問からなるチェックリストで、介護支援事業者が高齢者を対象に生活機能評価を行うために作成されたもの。2)J-CHS基準のチェックリスト国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが、J-CHS基準を一部改訂したもの。3)5項目のフレイルチェックJ-CHS基準をもとに秋下氏が監修し、よりわかりやすい表現にしたフレイルチェックリスト。5項目のうち1つでも該当するとフレイルの可能性がある。4)ペットボトルチェック筋力低下を測る1つの目安が握力とされており、男性は28kg以下、女性は18kg以下だとフレイルの可能性があると言われている。女性の握力目安と同じ程度とされているのがペットボトルのふたを開ける動作で、身近にチェックできる方法の1つ。一般的な「側腹つまみ」で開けられなかったら要注意。

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産業医に求められる3つのビジネススキル【実践!産業医のしごと】

はじめに産業医を選任するうえで、企業は産業医にどのようなことを期待しているのでしょうか。過重労働面談やメンタルヘルス対応、職場巡視などの専門性が産業医の基盤であることは当然ですが、これだけでは企業の期待に応えられていない可能性があります。先日、いくつかの産業医の人材紹介会社と話をする機会がありましたが、共通していたのは「産業医の交代に関する案件」が年々増加していることです。その背景には、産業医に対して、医療以外のビジネススキルへの期待があるといいます。そこで本稿では、産業医に求められる3つのビジネススキルについて解説します。1. ビジネスコミュニケーション医療の場面では、医師は指示者となることが多いですが、産業医は企業内でさまざまな立場の人々と関わります。その中で求められるのは、特別なテクニックではなく、ビジネスパーソンとしてのコミュニケーション力です。基本的には、医学用語を避けた平易な言葉での説明を心掛け、対等な立場での会話を意識します。また、以下のように相手によってアプローチの工夫を検討しましょう。経営層とのコミュニケーション経営層に対しては、データや数値を用いた簡潔な説明が求められます。医学的に正しいことを提案しても、感情で訴えるだけでは受け入れられる確率は下がります。必ず根拠となるデータや費用対効果を明確に示すことが重要です。人事部門とのコミュニケーション人事部門に対しては、具体的な施策と実行可能な計画の提示が重要です。定期的な情報共有を通じて施策の進捗状況や課題を共有し、必要に応じて計画を調整していきます。従業員とのコミュニケーション従業員に対しては、丁寧な傾聴と相談しやすい雰囲気づくりをすることで、健康相談の敷居を下げることができます。独立的かつ中立的な関わり方を意識しましょう。2. 時間管理の徹底時間管理は、企業との信頼関係を築くうえで基礎となるスキルです。企業からよく聞く不満の1つが、産業医の時間管理に関するものです。勤務時間の突然の変更やメールの返信の遅さは、信頼関係を損なう大きな要因となります。スケジュール管理の重要性産業医活動を円滑に進めるためには、年間スケジュールを企業と事前に共有し、計画的に業務を進めることが重要です。遅刻などがないように出務するようにしましょう。また、やむを得ない事情で予定を変更する場合も、速やかな連絡と代替案の提示が必要です。迅速なレスポンス対応メールなどのコミュニケーションツールへの返信は、基本的に24時間以内を心掛けましょう。とくにメンタルヘルス不調者への対応など、緊急に相談したい案件については、時間を融通するなどの柔軟な対応が求められます。3. 課題解決思考の提案産業医には、健康管理における課題を特定し、実現可能な解決策を提案する力が求められます。この際には、企業の経営資源(予算、人員、時間)を考慮した現実的なアプローチが重要です。課題の把握と分析企業のニーズを正確に理解することから始めましょう。健康診断や休職者の分析や職場環境調査の実施、産業保健スタッフや人事部門からの情報収集を通じて、課題を客観的に把握します。データに基づく分析は、経営層への提案時にも説得力を持ちます。実効性のある解決策の提案解決策には、短期的な対応と中長期的な視点の両方が必要です。たとえば休職者を減らしたいとして、3年程度の長期の目標を立て、その後に1年単位の施策を計画します。その際には予算、人員、時間などを検討しながら、既存リソースを活用し、1年ごとに効果を確認しながら施策を展開していくことが重要です。ビジネススキルの確認リストまとめ産業医の活動には、医学的専門性に加えて、ビジネススキルが不可欠です。ビジネススキルといってもハードルが高いものではなく、産業医を長く経験すれば自然と身に付いていくものだと思います。私の産業医経験から感じることは、企業は私たちを「従業員の健康に関する課題を共に解決してくれるパートナーになりうるか」を見ているということです。これらのスキルは、信頼を得て、頼られる産業医になるために必要不可欠な要素といえるでしょう。

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家族に糖尿病患者がいるといない家族と比べ20倍の発症リスク/新潟大

 2型糖尿病の発症に家族歴が関係していることが知られているが、その発症や有病リスクはどのくらいになるのだろうか。この疑問に新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の池田 和泉氏らの研究グループは、健康診断データ約4万例を解析し、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率および発症率を解析した。その結果、糖尿病有病リスクは、家族に糖尿病がまったくいない人の約20倍という結果が示された。この結果は、Mayo Clinic Proceedings誌オンライン版2025年1月29日号に掲載された。家族歴は糖尿病、脂質異常症、高血圧の発症に関連 研究グループは、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の既往の家族歴(両親、兄弟姉妹、祖父母)と、同一集団におけるそれらの有病率および発症率との関連を検討するために1997年1月1日~2007年12月31日までに健康診断を受診した4万1,361例のデータを解析し、同一コホートにおけるロジスティック回帰分析およびCox回帰分析の結果を検討した。 主な結果は以下のとおり。・解析の結果、3疾患とも家族に既往者がいるほど有病率が増加し、とくに2型糖尿病は、罹患した親族の数が3人以上である場合のオッズ比(OR)が12.00(95%信頼区間[CI]:7.82~18.41)だった。・家族歴がない場合と比較し、3世代にわたる家族歴で既往がある場合のORは20.43(95%CI:11.0~37.8)だった。・家族歴を「両親、兄弟姉妹、祖父母」から「両親と兄弟姉妹」または「両親のみ」に再定義しても、各疾患のORに有意な変化はなかった。・家族歴で既往がありBMIが30以上の人では、家族歴がなくBMIが18.5~24.9の人と比較して、高血圧の有病率が19倍高かった。・縦断的研究において、家族歴は2型糖尿病(ハザード比[HR]:2.40、95%CI:1.93~2.98)、高血圧(HR:1.43、95%CI:1.26~1.62)、脂質異常症(HR:1.41、95%CI:1.08~1.83)の発症に強く影響した。 研究グループでは、以上の結果から「これらの疾患の家族歴の聴取は、高リスク群の同定に有用だった。また、2型糖尿病については、家族歴の既往の影響が最も強く、罹患家族の重複によってリスクが顕著に上昇した。家族歴が早期発見と予防に役立つことを示唆している」と述べている。

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医師による身体活動量の評価は慢性疾患の予防につながる

 医師が患者の身体活動量について尋ねることは、慢性疾患の予防に役立つ可能性があるようだ。米アイオワ大学ヘルスケア医療センターの患者を対象にした調査結果から、中強度から高強度の身体活動を週に150分以上というガイドラインの推奨を満たしていた人では、高血圧や心疾患、糖尿病など19種類の慢性疾患の発症リスクが有意に低いことが示された。論文の上席著者である、アイオワ大学健康・人間生理学分野のLucas Carr氏らによるこの研究結果は、「Preventing Chronic Disease」1月号に掲載された。 この研究でCarr氏らは、2017年11月1日から2022年12月1日の間にアイオワ大学ヘルスケア医療センターで健康診断を受けた患者を対象に、Exercise Vital Sign(EVS)質問票を用いた身体活動量のスクリーニングを受けた患者と受けていない患者の健康状態を比較した。また、スクリーニングで測定された身体活動量の違いに基づく健康状態の比較も行った。 EVS質問票は、「中強度から高強度の身体活動(早歩きなど)を週に平均何日程度行っていますか」と「中強度から高強度の身体活動を平均何分間行っていますか」の2つの質問で構成されている。Carr氏は、「この2つの質問には、通常は30秒もあれば回答できるので、患者の診察の妨げになることはない。それにもかかわらず、患者の全体的な健康状態について多くの情報を得ることができる」と述べている。 Carr氏らはまず、EVSの有効なデータがそろった患者7,261人と、スクリーニングを受けていない患者3万3,445人の比較を行った。その結果、身体活動量のスクリーニングを受けた患者は、受けていない患者に比べて、肥満(15%対18%)、うつ病(17%対19%)、高血圧(22%対28%)、合併症のない糖尿病(5.9%対8.5%)、合併症を伴う糖尿病(4.4%対7.3%)、貧血(4.6%対6.1%)、甲状腺機能低下症(9.3%対10.0%)、うっ血性心不全(1.1%対1.9%)、および中等度の腎不全(1.8%対2.5%)の発症率が有意に低いことが明らかになった。 次に、身体活動量のスクリーニングを受けた7,261人の患者を身体活動量に基づき、十分な身体活動量(4,382人、60%)、不十分な身体活動量(2,607人、36%)、身体活動を全く行わない(272人、4%)の3群に分けて健康状態を比較した。その結果、十分な身体活動量の群は、不十分な身体活動量の群や身体活動を全く行わない群に比べて、肥満、うつ病、合併症のない/合併症を伴う高血圧・糖尿病、弁膜症、うっ血性心不全など、身体活動不足に関連する19種類の併存疾患のリスクが低いことが示された。 こうした結果に基づき研究グループは、医師に対し、患者に身体活動量について質問し、活動量を増やす必要がある患者には活動量を増やすように促すことを推奨している。Carr氏は、「現在の医療環境では、患者の身体活動量を増やすために医師が支援を行っても、それに対する報酬を得ることは難しい。身体活動量の不足を報告している患者に対しては、身体活動の処方や地域の健康専門家などの支援サービスと簡単につながるための選択肢が必要だ」と述べている。 Carr氏は、「この研究は、たとえ短時間であっても、患者と身体活動習慣について話すことの大切さを強調している」との見方を示す。なお、2024年12月に「Journal of Physical Activity and Health」に発表した関連研究でCarr氏らは、医師が患者への身体活動のカウンセリングを行った場合、保険会社が医師に95%近くの確率で払い戻しを行っていることを明らかにしている。同氏は、「われわれの研究結果は、推奨されている身体活動に関する請求コードを医療従事者が申請すると、高確率で払い戻しが行われていることを示唆している。この結果は、身体活動量の評価とカウンセリングサービスを提供する取り組みの推進を支持するものだ」と結論付けている。

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85歳以上の日本人、高血圧は死亡リスクに影響する?しない?

 日本人高齢者の大規模コホート研究において、高血圧は65~74歳および75~84歳では全死亡リスクおよび心血管系死亡リスクを上昇させたが、85歳以上では上昇させなかったことを岡山大学/就実大学の赤木 晋介氏らが報告した。Geriatrics Gerontology International誌オンライン版2024年12月12日号に掲載。 本コホート研究は、2006年4月~2008年3月にベーシックな健康診断を受診した岡山市の65歳以上の5万4,760人を登録した。参加者は血圧によりC1からC6までの6つのカテゴリーに分けた(C1:SBP<120、DBP<80、C2:120≦SBP<130、80≦DBP<85、C3:130≦SBP<140、85≦DBP<90、C4:140≦SBP<160、90≦DBP<100、C5:160≦SBP<180、100≦DBP<110、C6:180≦SBP、110≦DBP)。血圧と全死亡および心血管疾患死亡との関連を評価するため、Cox比例ハザードモデルを用いて、C3を基準に各カテゴリーの全死亡のHRと95%信頼区間(CI)を計算した。心血管疾患死亡については、他の死亡を競合リスクと見なすFine and Grayモデルを使用し、部分分布HRと95%CIを推定した。さらに年齢層(65~74歳、75~84歳、85歳以上)ごとに解析した。 主な結果は以下のとおり。・全死亡の完全調整済みHRは、C5で1.11(95%CI:1.04~1.19)、C6で1.23(同:1.09~1.38)であった。・心血管死亡の完全調整済み部分分布HRは、C4で1.11(95%CI:1.01~1.21)、C5で1.19(同:1.05~1.34)、C6で1.36(同:1.09~1.70)であった。・年齢層別では、C4、C5、C6 の 全死亡の完全調整済みHRは、65~74 歳では1.14、1.26、1.75、75~84 歳では1.06、1.16、1.19、85 歳以上では 0.95、0.99、1.22であった。・高齢になるほど低血圧のリスクが増加し、C1のHRは85歳以上で1.28(95%CI:1.16~1.41)であった。

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心房細動の早期発見、早期介入で重症化を防ぐ/日本心臓財団

 日本心臓財団メディアワークショップは、都内で「心房細動の診療」をテーマにメディアワークショップを開催した。 心房細動(AF)は心臓内の心房が異常な動きをし、不整脈を引き起こす疾患である。AFでは、自覚症状を伴わないことが多く、気付かずに長期間放置すると心房内に生じた血栓が血流にのり、脳血管障害や心不全などを発症させる恐れがある。早期発見が重要であり、治療ではカテーテルアブレーションや薬物による治療が行われる。そして、早期発見では、日常の検脈や健康診断が重要となるが、近年では、テクノロジーの発達とデジタルデバイスの普及により、これまで見つかりにくかった無症候性や発作性タイプのAFの早期発見が可能になってきている。 セミナーでは、AFの病態やリスク、早期発見のための静岡市清水区でのAI診断の取り組みなどが解説された。AFの患者は100人に1人の時代 最初に「心房細動管理の最新トレンド」をテーマに清水 渉氏(日本医科大学大学院 医学研究科 循環器内科学分野 教授)が、最近のガイドラインからみたAFの病態や治療、カテーテルアブレーションについて解説した。 AFは、高齢の男性に多く、その有病率は増え続けている。患者数は100万人と推定され、100人に1人がAFと考えられる。2018年からは法律に基づき、「国民の健康寿命の延伸等を図るため」に脳卒中とならび国を挙げて対策を要する疾患となっている。 そして、AFを発症すると脳梗塞発症リスクが5倍、心不全で5倍、認知症で2倍という報告もあり、健康寿命、生命予後に大きく影響する。 現在、わが国にはAFに関係するガイドラインが4つある。『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』(編集:日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン/後述の3ガイドラインも同様)では、病態生理として「肥満」「高血圧」「糖尿病」「睡眠呼吸障害」などが伝導障害となり、電気的リモデリングを促進させ、AFのトリガーになることが示されている。 『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』では、4つの段階に分けてAFと生活習慣管理・包括管理を示している。第1段階では「急性期の管理」、第2段階では「増悪因子の管理」、第3段階では「脳梗塞の予防」、第4段階では「症状の改善」が記載されている。とくに第4段階の症状の改善について、リズムコントロール(洞調律維持)およびレートコントロール(適切な心拍数調節)が症状改善に行われるが、「動悸などの症状が強い」「AFの持続で心不全の発症・増悪が危惧される」「AF発症関連の併存疾患が比較的少ない」などの患者ではリズムコントロールが望ましいとガイドラインでは記されている。 次に症状の発見について触れ“Fukuoka Stroke Registry”から「急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者における、脳卒中発症前の心房細動の診断状況、抗凝固療法の実施状況」について、脳卒中発症前にAFの診断がなかった人が45.9%に上ることを紹介するとともに1)、AF患者において無症候性の割合について37.7%の報告もある2)と紹介し、AFの発見が難しいことを説明した。では、発見が難しいAFをどのように見つけるか? 日常生活で簡単にできる方法として身体診察の「検脈」の方法を紹介するとともに、『2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン』に触れ、ガイドラインの中に記載されているAFのスクリーニングと治療に用いられる各デバイスの特徴について説明を行った。最近では、ウェアラブルの測定機器が進歩しているが、その精度はまだ未知数であり、エビデンスも確立されていないために長時間心電図モニターや携帯心電図などの心電図記録によるデバイスで診断することになっている。進歩するAFの治療 『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』からAFの治療では、カテーテルアブレーションと抗凝固治療が行われる。 カテーテルアブレーションは、20221年のデータでわが国では約11万件施行されている。とくに心不全を合併したAFでは、カテーテルアブレーションは、全死亡・心不全入院を有意に減少させる報告があるので、予後を改善できる可能性が高い3)。 また、近年ではLVEF(左室駆出率)の低下した心不全(HFrEF)にも治療の適応が拡大されているほか、新しいカテーテル治療法として熱を伴わず特殊な電気ショックを利用して細胞のアポトーシスを誘導するパルスフィールドアブレーション(PFA)も登場し、安全に外科的治療が施行できるようになってきているという。 抗凝固療法に関しては、『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』で直接経口抗凝固薬(DOAC)4薬剤の用法・用量設定基準が明記され、すべてのDOACがCHADS2スコア1点以上で使用が推奨されている。また、腎機能障害、認知症、フレイルなどの高リスク高齢者についても積極的なDOACの使用を記していると説明し、レクチャーを終えた。AI診断で未診断のAFを発見 「『隠れ心房細動』を早期発見するための、AIとリモートテクノロジーを用いた取り組み-静岡市清水区における地域医療プロジェクトについて-」をテーマに笹野 哲郎氏(東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学分野 教授)が、静岡市清水区で行われている心電図のAI診断とデバイスによるリモートモニタリングによるAFの早期発見の取り組みについて説明した。  静岡市清水地区の高齢化率は約32%とわが国の平均よりやや進んだ高齢化率を示し、すでにAFと診断された人が2,036人、隠れAFの人が2,000人とほぼ同数であることから、この地区が選定されたという。この取り組みでは、地元の市立清水病院と清水医師会が共同事業者となり現地で健診などを実施、連携する東京科学大学がデータのAI解析を行い、解析結果をフィードバックするものである。 同地区で行われているAFの早期発見メソッドとしては、「12誘導心電図のAI診断」、「デバイスによるリモートモニタリング」が行われている。AFは、肺静脈からのトリガー興奮の後、左心房内で異常興奮が持続することで起るが、発作時でなくとも心房リモデリングの評価はできるとして、AIの深層学習により発作性AFの推定をさせている。 そして、AIによるAF発見は実現可能な段階にあり、2022年1月から開始されたプロジェクトでは、2023年7月までに検診を受けた362例のうち11例(3.04%)に未診断のAFを発見したという。 また、デバイスによるリモートモニタリングについて、スマートウォチやスマートリングなどの精度は向上途上であり、やはり現在医療機器で使用されているモニタリング機器での検査が行われる。 今後、早期発見のために装着されるウェアラブル機器による生体モニタリングなどについては、利用者が中途で止めてしまわないようにモニタリングの重要性を教育すること、一切操作不要でモニタリングできるシステムの開発と導入が望まれると展望を語り、講演を終えた4)。

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ダイナペニック肥満は心血管疾患のリスク因子―久山町24年間の縦断解析

 肥満でありながら筋力が低下した状態を指す「ダイナペニック肥満」が、心血管疾患(CVD)発症の独立したリスク因子であることが、久山町研究から明らかになった。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の瀬戸山優氏、本田貴紀氏、二宮利治氏らの研究によるもので、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に論文が10月8日掲載された。 筋肉量の多寡にかかわらず筋力が低下した状態を「ダイナペニア」といい、筋肉量と筋力がともに低下した状態である「サルコペニア」と並び、死亡リスク上昇を含む予後不良のハイリスク状態とされている。さらに、その状態に肥満が加わったサルコペニア肥満やダイナペニック肥満では、CVDのリスクも高まる可能性が示されている。しかしダイナペニック肥満に関してはCVDとの関連の知見がまだ少なく、海外からの報告がわずかにあるのみであり、かつ結果に一貫性がない。これを背景として本研究グループは、1961年に国内疫学研究の嚆矢として福岡県糟屋郡久山町でスタートし、現在も住民の約7割が参加している「久山町研究」のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、1988~2012年に毎年健康診断を受けていて、ベースライン時にCVD既往のなかった40~79歳の日本人2,490人(平均年齢57.7±10.6歳、男性42.5%)。握力が年齢・性別の第1三分位群(握力が弱い方から3分の1)に該当し、かつ肥満(BMI25以上)に該当する場合を「ダイナペニック肥満」と定義すると、全体の5.4%がこれに該当した。 中央値24年(四分位範囲15~24)の追跡で482人にCVDイベント(脳卒中324件、冠動脈性心疾患〔CHD〕209件)が発生した。交絡因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心電図異常など)を調整後に、握力の最高三分位群かつ普通体重(BMI18.5~24.9)の群(全体の23.9%)を基準として、ほかの群のCVDリスクを比較した。 その結果、ダイナペニック肥満群でのみ、CVD(ハザード比〔HR〕1.49〔95%信頼区間1.03~2.17〕)および脳卒中(HR1.65〔同1.06~2.57〕)の有意なリスク上昇が認められた。肥満でも握力低下のない群(第2~3三分位群)のCVDリスクは基準群と有意差がなく、また、やせ(BMI18.5未満)や普通体重の場合は握力にかかわらずCVDリスクに有意差がなかった。なお、CHDについてはダイナペニック肥満群のリスクも、基準群と有意差がなかった(HR1.19〔0.65~2.20〕)。 65歳未満/以上で層別化した解析では、65歳未満でダイナペニック肥満によるCVDリスクがより高いことが示された(HR1.66〔1.04~2.65〕)。一方、65歳以上では有意な関連を認めなかった(HR1.18〔0.61~2.27〕)。 続いて行った媒介分析からは、ダイナペニック肥満とCVDリスク上昇との関連の14.6%を炎症(高感度C反応性蛋白〔hs-CRP〕)、9.7%をインスリン抵抗性(HOMA-IR)で説明可能であり、特に65歳未満ではhs-CRPが13.8%、HOMA-IRが12.2%を説明していて、インスリン抵抗性の関与が強いことが示唆された。 著者らは、「握力とBMIで定義したダイナペニック肥満は、日本の地域住民におけるCVD発症のリスク因子であることが明らかになった。この関連性は、65歳未満でより顕著であり、炎症とインスリン抵抗性の上昇がこの関連性を部分的に媒介している」と総括。また、「われわれの研究結果は、CVD予防における中年期の筋力の低下抑止と、適切な体重管理の重要性を示唆するものと言える」と付け加えている。

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心房細動発症、尿酸上昇と体重増加が相互に作用~日本人での研究

 尿酸と肥満が関与する心房細動の新規発症機序から、心房細動発症に尿酸増加と体重増加が相互に作用している可能性がある。今回、京都府立医科大学の宗像 潤氏らが、「20歳以降に体重10kg以上増加」という体重変化の尺度を用いて調査したところ、ベースラインで尿酸値が正常範囲内であっても、その後の尿酸値の増加と体重増加が心房細動の新規発症に相互作用を及ぼすことがわかった。BMJ Open誌2024年11月27日号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、2013年4月2日~2022年4月30日に毎年健康診断を受けた従業員コホートのうち、心房細動を発症していない30歳以上の日本人1,644人を後ろ向きに解析した。血清尿酸と体重の経時的変化が心房細動新規発症に及ぼす影響について、ランドマーク生存解析を用いて評価した。体重増加は標準化自記式質問票における「20歳以降に体重10kg以上増加」と定義し、心房細動は心電図で心房細動が認められた場合または問診で心房細動が認められた場合とした。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値3.91年の間に69例が心房細動を新規発症した(発症割合:1.12/1,000人年)。・ベースラインの血清尿酸値は体重増加あり群で5.76(±1.37)mg/dL、体重増加なし群で4.87(±1.31)mg/dLであり、いずれも正常範囲内であった。・交互作用項を含む多変量ランドマーク生存分析では、心房細動の新規発症は、年齢、性別、ベースラインの収縮期血圧、ベースラインの尿酸値、尿酸値変化と体重増加の交互作用項と有意に関連していた。・体重増加と尿酸値変化との交互作用項によると、尿酸値1mg/dL増ごとのハザード比は、体重増加あり群で1.96(95%信頼区間[CI]:1.38〜2.77)、体重増加なし群で0.95(95%CI:0.61〜1.48)であった。

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COVID-19罹患で自己免疫・炎症性疾患の長期リスクが上昇

 COVID-19罹患は、さまざまな自己免疫疾患および自己炎症性疾患の長期リスクの上昇と関連していることが、韓国・延世大学校のYeon-Woo Heo氏らによる同国住民を対象とした後ろ向き研究において示された。これまでCOVID-19罹患と自己免疫疾患および自己炎症性疾患との関連を調べた研究はわずかで、これらのほとんどは観察期間が短いものであった。著者は「COVID-19罹患後のリスクを軽減するために、人口統計学的特性、重症度、ワクチン接種状況を考慮しながら、長期的なモニタリングと管理が重要であることが示された」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年11月6日号掲載の報告。 研究グループは、Korea Disease Control and Prevention Agency-COVID-19-National Health Insurance Service(K-COV-N)コホートを対象に、COVID-19罹患後の長期における自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクを調べた。対象は、2020年10月8日~2022年12月31日にCOVID-19罹患が確認された住民(COVID-19罹患群)、2018年に一般健康診断を受けた住民(対照群)とした。 主要アウトカムは、COVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患の発症率とリスクとした。逆確率重み付け法を用いて、人口統計学的特性、一般的な健康データ、社会経済的状況、併存疾患などの共変量を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・観察期間180日超のCOVID-19罹患者314万5,388例、対照376万7,039例の計691万2,427例(男性53.6%、平均年齢53.39[SD 20.13]歳)が解析に含まれた。・COVID-19罹患群でリスクが高かった疾患(調整ハザード比、95%信頼区間)は以下のとおりであった。 円形脱毛症(1.11、1.07~1.15) 全頭脱毛症(1.24、1.09~1.42) 尋常性白斑(1.11、1.04~1.19) ベーチェット病(1.45、1.20~1.74) クローン病(1.35、1.14~1.60) 潰瘍性大腸炎(1.15、1.04~1.28) 関節リウマチ(1.09、1.06~1.12) 全身性エリテマトーデス(1.14、1.01~1.28) シェーグレン症候群(1.13、1.03~1.25) 強直性脊椎炎(1.11、1.02~1.20) 水疱性類天疱瘡(1.62、1.07~2.45)・人口統計学的特性(男性/女性、40歳未満/以上)別のサブグループ解析では、COVID-19罹患による自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクは、性別や年齢によって異なることが示された。・とくに、ICU入室を要する重症COVID-19罹患、デルタ株優勢期の感染、ワクチン未接種はCOVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクが高かった。

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自覚症状に乏しい糖尿病性腎症に早く気付いて/バイエル

 バイエルは、11月14日の「糖尿病の日」に合わせ、糖尿病と合併症に関する啓発イベントを開催した。イベントでは、糖尿病専門医による糖尿病に関するプレスセミナーとお笑いコンビ「ガンバレルーヤ」をゲストに迎えての市民向けの疾患啓発が行われた。糖尿病の合併症の腎臓病では透析導入になりやすい 「糖尿病と合併症ってどんな病気? 患者さん中心の医療について考える」をテーマに坊内 良太郎氏(国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター/糖尿病内分泌代謝科)が、糖尿病の病態、診療、合併症を抑えるポイントを解説した。 わが国の糖尿病と疑われる人の数は約2,000万人にのぼり、国民の5~6人に1人は糖尿病の危険があるとされる国民病となっている。 糖尿病は「インスリンの作用不足により起こる血糖値が高い状態が続く疾患」であり、診断では空腹時血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上あれば糖尿病が強く疑われ、再度の検査で確定診断となる。また、健康診断などでよく話題になるHbA1cも6.5%以上は糖尿病が強く疑われる指標となる。 糖尿病にはI型、II型、妊娠、そのほか(薬剤性、肝臓疾患など)の4種類があり、その症状として「のどの渇き、水分の多飲」「日中・夜間の頻尿」「疲れやすい」「体重減少」などがある。そして、これらの症状は自覚症状に乏しく放置しがちであり、医療機関を受診しないことで合併症のリスクが高まる。 糖尿病合併症では、脳卒中、心筋梗塞、壊疽(神経障害)などの大血管障害と網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害がある。また、併存症として肺炎などの感染症、肝臓・膵臓などの悪性腫瘍、歯周病なども糖尿病患者では起こりやすく、重症化しやすい。 とくに糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な疾患であり、病期がかなり進行するまで自覚症状に乏しいために、診断がされたときには腎不全で透析導入になるケースが多い。実際、日本透析医学会の調査では、糖尿病性腎症は透析導入の約4割を占めていると報告されている。糖尿病合併症の抑制には血糖、血圧、脂質の厳格な管理が求められる 現在、日本糖尿病学会では、診療ガイドラインなどで糖尿病治療の目標として、「健康な人と変わらない寿命と生活の質(QOL)の達成」を示している。糖尿病の根治が難しい以上、合併症を抑えることが重要となる。 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法だが、これでも効果が不十分な場合に薬物療法が追加される。いずれも患者の自主的な取り組みなしには成功しない治療である。また、HbA1cを7%未満に抑えれば網膜症や腎症の悪化リスクを抑えことができるという研究報告1)のほか、血圧を130/80mmHg未満に抑えたり、LDLコレステロールを適切に管理したりすれば合併症のリスク低減が期待できるため、ガイドラインなどで推奨されている。そのほか、わが国のJ-DOIT3の研究結果から血糖、血圧、脂質の厳格な管理が糖尿病の合併症予防につながり、とくに脳血管合併症や腎症に効果があるとされている2)。 最後に坊内氏は、糖尿病やCKDの治療において大切なこととして、「医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションが重要である。共同意思決定(SDM)として治療のゴールを決めるために、患者さんが価値観や好みをきちんと医師などに伝えることで、患者さん個々に合った治療法の提案をすることができる」と語り、講演を終えた。 この後開催された疾患啓発イベント「体験型ボードゲームで学ぶ糖尿病と合併症 ~腎臓の声に耳を傾けよう~ in 丸の内」のオープニングイベントでは、先の講演者の坊内氏が糖尿病の3大合併症として、網膜症、腎症、神経障害を挙げたうえで、糖尿病性腎症はかなり進行するまで自覚症状に乏しいことに言及。「定期的な検査、とくに尿検査を行い、このイベントのタイトルにもなっている『腎臓の声』にしっかり耳を傾けよう」と呼びかけ、ゲストのガンバレルーヤの2人は「自覚症状が出にくいからときちんと病院に行って定期的に検査を受けることが大事なんですね」と早期発見の大切さに納得していた。また、会場では、特大サイズのボードゲームが人気で、多くの参加者が糖尿病とその合併症について学んでいた。

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酒で赤くなる人は睡眠満足度が低い?

 飲酒後に顔や首が赤くなる症状はアジアンフラッシュとして知られ、東アジア人の約36%がアジアンフラッシュの特徴を持っている。アジアンフラッシュに関連する遺伝的因子は睡眠時間と逆相関することが報告されているが、アジアンフラッシュと睡眠満足度との関連を報告した研究はない。今回、大阪健康安全基盤研究所の清水 悠路氏らがインターネット調査による横断研究で検討したところ、アルコール曝露に対する身体的反応の遺伝的特徴が睡眠の質にも影響を及ぼす可能性が示唆された。Medical Science誌2024年11月8日号に掲載。 本研究は、インターネット調査会社に登録している大阪府在住の一般モニターのうち20~64歳の日本人3,823人(男性1,907人、女性1,916人)を対象とし、2023年11月27~30日にインターネット調査を実施した。睡眠の満足度については、「満足」「少し不満」「かなり不満」「非常に不満またはまったく眠れなかった」のうち「満足」と回答した参加者を満足のいく睡眠をとっているとみなした。アジアンフラッシュについては、「飲酒し始めた年齢で、少量のアルコール摂取(ビールコップ1杯程度)ですぐに顔が赤くなりましたか?」という質問に「はい」と回答した参加者をアジアンフラッシュを経験していると分類した。飲酒したことのない参加者と過去に飲酒していた参加者を非飲酒者と定義した。 主な結果は以下のとおり。・アジアンフラッシュと睡眠満足度の間に有意な逆相関が認められた。潜在的交絡因子を補正した睡眠満足度のオッズ比(OR)は0.81(95%信頼区間[CI]:0.69~0.96)であった。・飲酒者と非飲酒者で基本的に同様の関連が認められた。補正後のORは、非飲酒者で0.81(95%CI:0.65~0.997)、飲酒者で0.80(同:0.61~1.05)であった。 著者らは、この結果が与える新たな臨床的意味合いとして「日常診療や毎年の健康診断に簡単に導入できる質問票が、睡眠不足の危険因子を特定するために役立つ可能性がある。また、飲酒しない人でもアジアンフラッシュは睡眠時間だけでなく睡眠満足度に関しても睡眠障害のリスクであることが明らかになった」としている。

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加齢性難聴予防に「聴こえ8030運動」を推進/耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 加齢性難聴は、日常のQOLを低下させるだけでなく、近年の研究から認知症のリスクとなることも知られている。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、都内で日本医学会連合TEAM事業の一環として「多領域の専門家が挑む加齢性難聴とその社会的課題」をテーマに、セミナーを開催した。本事業では「加齢性難聴の啓発に基づく健康寿命延伸事業」に取り組んでおり、主催した日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では「聴こえ8030運動」を推進している。当日は、加齢性難聴対策の概要や認知症との関係、学会の取り組みなどが講演された。聴こえが悪いと感じたら耳鼻科で聴力検査を 「加齢性難聴対策を介した共生社会の実現への取り組み」をテーマに和佐野 浩一郎氏(東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 准教授)が、現在の難聴対策の現状と問題点などについて講演を行った。 わが国は世界一の高齢化社会であり、加齢性難聴の放置は認知症の最大のリスクとなることが知られている1)。2024年の研究報告でも「難聴治療は老年期の認知症の予防に寄与する」という報告も出されている2)。こうした研究結果を踏まえ、日本医学会連合では2023年度よりさまざまな学会と連携し、難聴・聴覚補償機器に関する啓発活動を実施し、難聴への取り組みを行っている。 年代別の聴力レベルの変化について、高齢になればなるほど言葉の聞き取り力は有意に低下し、80代では半数が中等度の難聴となる3)。こうした加齢性難聴対策として「予防、受診、介入」を柱とした「聴こえ8030運動」が始められた。 難聴の原因には、加齢を筆頭に感染症、環境、薬剤など多彩な要因があり、最近では若年者の聴力は悪化傾向にあるという。こうした原因を啓発し、防止することが難聴予防につながると語る。また、わが国の耳鼻科への受診について、「聞こえに不自由を感じている人の受診率」が4割程度と先進国の中でもかなり低い割合であり、若年・中年期の難聴は健康診断などで発見されにくく、後期高齢者保健事業でも聴力検査が採り入れられていない課題があると指摘する。 おわりに和佐野氏は、「今後は適切な聴覚管理での早期介入のためにも、聞こえにくさを感じたら気軽に耳鼻科で聴力検査を受診できるよう、検査のハードルを下げる啓発活動を行っていきたい」と抱負を述べた。宮城県における加齢性難聴対策の取り組み 「言語聴覚士による加齢性難聴対策」をテーマに佐藤 剛史氏(東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学/日本言語聴覚士協会)が、言語聴覚士(ST)の立場から高齢者や行政の支援者などへの難聴啓発事業について説明した。 佐藤氏の所属する東北大学と宮城県、仙台市では三者が連携し「高齢者の難聴および誤嚥性肺炎の理解と対応に関する普及啓発モデル事業」を行っている。 本事業は、高齢者の通いの場を中心とした啓発事業であること、行政・大学・地域が役割分担をして運営すること、啓発事業の対象は高齢者だけでなく地域の支援センターの福祉担当者や保健師、職員なども参加すること、自身の「聞こえ」状態が体感できる参加型講習であることを特徴としている。 市町村の職員など支援者向けの研修会は2022年から開催され、過去3回で248人が参加し、研修では耳の解剖や聴力の仕組みなどの講演会が行われている。また、高齢者向けの啓発活動では、加齢性難聴の病態と治療、体験プログラムが行われている。2022~23年の実施状況として、全41会場で合計1,395人が受講した。受講した高齢者へのアンケートでは、965人(平均年齢76歳)から回答を得た。対象者の聞こえの状態では、約7割弱の人が聞こえの不自由さを感じており、補聴器の装着は約2割に止まっていた。受講後に耳鼻科受診について聞いたところ約5割の受講者が「受診をしたい」と回答した。 佐藤氏は、今後の課題としては、「受診につながる長期のフォローアップや『通いの場』に参加できない人への啓発、『聞こえチェック方法』の検討などが必要であり、STの役割としては住民・行政などへの啓発活動や地域作り、高齢者への地域での難聴への支援、健診活動や補聴器装用の専門支援などが考えられる」と提言を行った。加齢性難聴への補聴器装用は認知症予防に寄与 「加齢性難聴と認知症」をテーマに下畑 享良氏(岐阜大学脳神経内科学 教授/日本神経学会 理事)が、難聴と認知症の関連について講演した。 わが国の認知症高齢者は2040年に約580万人(約15%)と推定されている。認知症では、アルツハイマー型認知症が1番多く、同症はアミロイドβが脳に沈着することで発症する。近年の研究では、この沈着に影響する因子に関し「高血圧」「喫煙」「睡眠」など多数の因子が関連していることが指摘されている。そして、先述の研究でも2)難聴が最大の修正可能因子であり、認知症の発症ないし遅延ができる可能性がある。 南デンマーク・57万例を対象とした約9年間の研究では、難聴があって補聴器をしていない人の認知症発症のハザード比は1.20であった一方で、補聴器を装用している人のハザード比は1.06だった結果から補聴器は認知症発症リスクを減少させる可能性があると指摘する4)。 アメリカからも同様の研究報告があり、認知症予防に難聴の人では、補聴器の装用が有効である可能性が示唆されることから、「認知症予防のために今後啓発していく必要がある」とその重要性を下畑氏は語った。加齢性難聴の社会的認知に「聴こえ8030運動」の取り組み 「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が取り組む『聴こえ8030運動』」をテーマに羽藤 直人氏(愛媛大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 理事)が「聴こえの8030運動」について説明した。 この運動は、80歳で30dB(聞こえの閾値)の聴力を保つ国民啓発運動であり、全年代に加齢性難聴の周知、聴力検査などの耳鼻科への受診啓発、補聴器装用率の向上を目指すものである。加齢性難聴者数は1,437万人と推定され、60歳以上の3人に1人、70歳以上の約半数が該当するとされている。その一方で耳鼻科受診率は低く、加齢性難聴が疾病であるという認識が不足しているとされる。また、先進国と比較して補聴器装用率もわが国は約1/3、人工内耳普及率も約1/2と低い数字に止まっている。 そこで、日本歯科医師会推進の「8020運動(80歳で20本以上の歯の維持を目標)」にならい、良い聞こえで高齢者の健康寿命をサポートする目的で「聴こえ8030運動」を実施した経緯を説明した。運動の目標数字として、80歳で30dBの聞こえを維持している割合が現状30%から20年後には50%への伸長を謳っている。 加齢性難聴対策としては、「大音量で音楽などを聴かない」、「騒音の場所を避ける」、「騒音下の仕事では耳栓」、「静かな場所で耳を休ませる」などがあり、聞こえが悪くなったら補聴器の装用などが勧められる。 おわりに羽藤氏は、「こうした情報を手軽に入手できるように専用のウェブサイトを開設した。加齢性難聴という疾患の周知から聴力検査での耳鼻科受診、そして難聴カウンセリング、補聴器の適合診断を経て、適切な補聴器、人工内耳の普及へとつなげていくことで、認知症の抑制につなげていきたい」と展望を述べた。 講演後に「聴こえ8030運動が拓く加齢性難聴の未来」をテーマに、内田 育恵氏(愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 特任教授)の進行で総合討論が行われた。総合討論では、残置聴力と補聴器の相性や聴こえ8030運動での医師以外の医療従事者の役割と連携、補聴器装用とSTの役割、非専門医への啓発、耳鼻科への診断はいつ行うかなどを話題に活発な議論が行われた。

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事例010 外来・在宅ベースアップ評価料(I)の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説初診の患者に対して「O100 外来・在宅ベースアップ評価料(I)」(以下「同評価料(I)」を算定したところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)が適用されて査定になりました。「同評価料(I)1初診時」は、「主として医療に従事する職員の処遇改善を進める医療機関が、施設基準を満たしていると届出ている場合、初診を行った場合に算定ができる」と記載されています。健康診断後の精査にかかる初診であっても、初診を行った場合にあたると考えられるので算定は可能としていました。査定理由を調べるために、診療報酬点数表を読み返してみました。同評価料(I)1の留意事項(2)に、「A000初診料(中略)を算定した日に限り、1日につき1回算定できる」とあります。今回の事例は健診後の精査受診です。初診料の算定は認められません。初診料の算定が伴う同評価料(I)は算定できないことがわかります。「初診」と「初診料」の言葉の違いが明確に示された査定でした。同評価料(1)2再診時や、同評価料(1)3訪問診療時にも同様の留意事項が示されています。再診即時入院の場合は同評価料(1)2再診時が算定可能と通知が発出されています。同日に異なった診療科で関連の無い傷病を診察したときに認められる「A000 注5 2つ目初診料(複初)」の場合の通知はみつかりませんでした。これらの解釈を院内周知して査定対策としています。

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